(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-11
(54)【発明の名称】ヒト多能性幹細胞からの侵害受容器の分化
(51)【国際特許分類】
C12N 5/0793 20100101AFI20220704BHJP
【FI】
C12N5/0793
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021563214
(86)(22)【出願日】2020-04-24
(85)【翻訳文提出日】2021-12-20
(86)【国際出願番号】 US2020029721
(87)【国際公開番号】W WO2020219811
(87)【国際公開日】2020-10-29
(32)【優先日】2019-04-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】521463148
【氏名又は名称】ザ ユナイテッド ステイツ オブ アメリカ アズ リプレゼンテッド バイ ザ セクレタリー オブ ザ デパートメント オブ ヘルス アンド ヒューマン サービシーズ
【氏名又は名称原語表記】THE UNITED STATES OF AMERICA AS REPRESENTED BY THE SECRETARY OF THE DEPARTMENT OF HEALTH AND HUMAN SERVICES
(74)【代理人】
【識別番号】100189131
【氏名又は名称】佐伯 拓郎
(74)【代理人】
【識別番号】100182486
【氏名又は名称】中村 正展
(74)【代理人】
【識別番号】100147289
【氏名又は名称】佐伯 裕子
(72)【発明者】
【氏名】シンジェク,イリヤス
(72)【発明者】
【氏名】デン,タオ
(72)【発明者】
【氏名】シメオノフ,アントン
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065CA44
(57)【要約】
神経堤様細胞および侵害受容器様細胞をヒト多能性幹細胞から作成するための方法を、関連組成物とともに提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脊椎動物の多能性幹細胞の付着単層培養物を、WNTシグナル伝達を活性化できる少なくとも1種類の第1の化合物を有効量または有効濃度で、およびTGF-ベータシグナル伝達を阻害できる少なくとも1種類の第2の化合物を有効量または有効濃度で含む第1の培地中でおよそ24~144時間インキュベートすること;
インキュベートされた前記細胞を解離すること;ならびに、
解離された前記細胞を、WNTシグナル伝達を活性化できる少なくとも1種類の第3の化合物を有効量または有効濃度で、TGF-ベータシグナル伝達を阻害できる少なくとも1種類の第4の化合物を有効量または有効濃度で、Notch経路を阻害できる少なくとも1種類の第5の化合物を有効量または有効濃度で、ならびにEGF、VEGFおよびMAPキナーゼシグナル伝達のうちの1つまたはそれより多くを阻害できる少なくとも1種類の第6の化合物を有効量または有効濃度で含む第2の培地中で168~432時間、培養し、それにより、侵害受容器様細胞に分化できる細胞を含む1つまたはそれより多くのノシスフェアを作成すること
を含む、侵害受容器様細胞に分化できる細胞を培養状態で作製する方法。
【請求項2】
侵害受容器様細胞に分化できる前記細胞が神経堤様細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
侵害受容器様細胞に分化できる前記細胞がSOX10を検出可能に発現する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記1つまたはそれより多くのノシスフェアが前記侵害受容器様細胞をさらに含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記侵害受容器様細胞がBRN3Aを検出可能に発現する、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記脊椎動物の多能性幹細胞が人工多能性幹細胞または胚性多能性幹細胞である、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記脊椎動物の多能性幹細胞がヒト多能性幹細胞である、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記第1の培地が規定培地であり、前記第2の培地が規定培地であり、前記第1の培地は前記第2の培地と同じであるか、または異なっている、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記第1の培地がE6、DMEM-F12またはKnockout-DMEM/F12である、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記第2の培地がE6、DMEM-F12またはKnockout-DMEM/F12である、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法
【請求項11】
前記第1の培地および/または前記第2の培地に、骨形成タンパク質(BMP)タンパク質経路を活性化または阻害する添加剤を補給しない、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記第1の培地および/または前記第2の培地に骨形成タンパク質4(BMP4)を補給しない、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記少なくとも1種類の第1の化合物がCHIR98014もしくはCHIR99021またはその組合せである、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記CHIR98014またはCHIR99021の有効濃度が20nM~20μMである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記少なくとも1種類の第2の化合物がA83-01もしくはSB431542またはその組合せである、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記A83-01の有効濃度が20nM~20μMであり、前記SB431542の有効濃度が20nM~40μMである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記少なくとも1種類の第3の化合物がCHIR98014もしくはCHIR99021またはその組合せである、請求項1~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記CHIR98014またはCHIR99021の有効濃度が20nM~20μMである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記少なくとも1種類の第4の化合物がA83-01もしくはSB431542またはその組合せである、請求項1~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記A83-01の有効濃度が20nM~20μMであり、前記SB431542の有効濃度が20nM~40μMである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記少なくとも1種類の第5の化合物がDBZ、DAPT、LY411575もしくはLY 3039478またはこれらの2種類以上の組合せである、請求項1~20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記DBZの有効濃度が20nM~20μMであり、前記DAPTの有効濃度が5nM~50μMであり、前記LY411575の有効濃度が2nM~20μMであり、前記LY3039478の有効濃度が2nM~20μMである、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記少なくとも1種類の第6の化合物がPD173074もしくはSU5402またはその組合せである、請求項1~22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記PD173074またはSU5402の有効濃度が2nM~20μMである、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記第2の培地が、CDK4/6阻害薬である少なくとも1種類の第7の化合物を有効量または有効濃度でさらに含む、請求項1~24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
前記CDK4/6阻害薬がPD0332991である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記PD0332991の有効濃度が2nM~20μMである、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
解離された前記細胞の前記培養が、前記第2の培地をおよそ12~36時間毎に交換することを含む、請求項1~27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記1つまたはそれより多くのノシスフェアを解離し、それにより、解離されたノシスフェア細胞を作成することをさらに含む、請求項1~28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
前記侵害受容器様細胞に分化できる前記細胞のうちの1つもしくはそれより多く、前記1つもしくはそれより多くのノシスフェアまたは解離された前記ノシスフェア細胞を凍結保存することをさらに含む、請求項1~29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
請求項29に記載の方法を行なうこと;
解離された前記ノシスフェア細胞を、前記侵害受容器様細胞の分化を促進させる条件下にて培養状態で増殖させること
を含む、侵害受容器様細胞を培養する方法。
【請求項32】
前記増殖が少なくともおよそ168時間または168~336時間実施される、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記条件がN2サプリメントおよびB27サプリメントの存在を含む、請求項31または32に記載の方法。
【請求項34】
前記条件が、BDNF、GDNF、NGFまたはNT-3のうちの1種類またはそれより多くの存在をさらに含む、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記条件が、有効量もしくは有効濃度の、Notch経路を阻害できる少なくとも1種類の第8の化合物、有効量もしくは有効濃度の、EGF、VEGFおよびMAPキナーゼシグナル伝達のうちの1つもしくはそれより多くを阻害できる少なくとも1種類の第9の化合物または有効量もしくは有効濃度の、CDK4/6阻害薬である少なくとも1種類の第9の化合物のうちの1種類またはそれより多くの存在をさらに含む、請求項33または34に記載の方法。
【請求項36】
前記少なくとも1種類の第8の化合物がDBZ、DAPT、LY411575もしくはLY 3039478またはこれらの2種類以上の組合せである、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記DBZの有効濃度が20nM~20μMであり、前記DAPTの有効濃度が5nM~50μMであり、前記LY411575の有効濃度が2nM~20μMであり、前記LY3039478の有効濃度が2nM~20μMである、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
前記少なくとも1種類の第6の化合物がPD173074またはSU5402またはその組合せである、請求項35に記載の方法。
【請求項39】
前記PD173074またはSU5402の有効濃度が2nM~20μMである、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記CDK4/6阻害薬がPD0332991である、請求項35に記載の方法。
【請求項41】
前記PD0332991の有効濃度が2nM~20μMである、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記条件が、骨形成タンパク質(BMP)タンパク質経路を活性化または阻害する添加剤の補給を含まない、請求項31~41のいずれか1項に記載の方法。
【請求項43】
前記条件が骨形成タンパク質4(BMP4)の補給を含まない、請求項31~41のいずれか1項に記載の方法。
【請求項44】
前記条件が、DMEM/F12培地、Neurobasal培地またはBrainPhys培地中で培養することを含む、請求項31~43のいずれか1項に記載の方法。
【請求項45】
前記侵害受容器様細胞が、TUJ1、ペリフェリン、ISL1、GGRP、TRPV1、NAV1.7、NAV1.8、NAV1.9、OPRM1、OPRMK1、OPRD1、OPRL1またはNF200のうちの1種類またはそれより多くを検出可能に発現する、請求項31~44のいずれか1項に記載の方法。
【請求項46】
前記侵害受容器様細胞が、NAV1.8、OPRM1、OPRMK1およびOPRD1を検出可能に発現する、請求項31~45のいずれか1項に記載の方法。
【請求項47】
前記侵害受容器様細胞は、MAP2を検出可能に発現する樹状突起が欠損している、請求項31~46のいずれか1項に記載の方法。
【請求項48】
解離された前記細胞を培養した後、前記1つまたはそれより多くのノシスフェアを凍結保存すること、および凍結保存された前記1つまたはそれより多くのノシスフェアを解凍することをさらに含む、請求項1~47のいずれか1項に記載の方法。
【請求項49】
前記1つまたはそれより多くのノシスフェアを解離した後、解離された前記ノシスフェア細胞を凍結保存すること、および解離された前記ノシスフェア細胞を解凍することをさらに含む、請求項1~47のいずれか1項に記載の方法。
【請求項50】
前記侵害受容器様細胞を凍結保存することをさらに含む、請求項31~49のいずれか1項に記載の方法。
【請求項51】
前記1つもしくはそれより多くのノシスフェアを凍結保存すること、解離された前記ノシスフェア細胞を凍結保存すること、または前記侵害受容器様細胞を凍結保存することのうちの1つまたはそれより多くが、クロマン1および/またはその誘導体、エムリカサンおよび/またはその誘導体、trans-ISRIBならびにプトレシン、スペルミンおよびスペルミジンを含むポリアミンを含む凍結保存培地中で実施される、請求項48~50のいずれか1項に記載の方法。
【請求項52】
クロマン1および/またはその誘導体が約4nM~約40μM、約10nM~約20μM、約20nM~約10μMまたは約30nM~約500nMの濃度であり、エムリカサンおよび/またはその誘導体が約100nM~約40μM、約200nM~約30μM、約300nM~約20μMの濃度、trans-ISRIBが約50nM~約6.25μM、約100nM~約6.25μMまたは約200nM~約6.25μMの濃度、プトレシン、スペルミンおよびスペルミジンが各々、約0.5μM~1mMの濃度である、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
1つまたはそれより多くの工程が自動化システムによって行なわれる、請求項1~52のいずれか1項に記載の方法。
【請求項54】
BRN3A、TUJ1、ペリフェリン、I1、GGRP、TRPV1、NAV1.7、NAV1.8、NAV1.9、OPRM1、OPRMK1、OPRD1、OPRL1またはNF200のうちの1種類またはそれより多くを検出可能に発現する少なくとも1個の培養された侵害受容器様細胞を含む組成物。
【請求項55】
前記少なくとも1個の培養された侵害受容器様細胞が、NAV1.8、OPRM1、OPRK1およびOPRD1を検出可能に発現する、請求項54に記載の組成物。
【請求項56】
前記少なくとも1個の培養された侵害受容器様細胞は、MAP2を検出可能に発現する樹状突起が欠損している、請求項54または55に記載の組成物。
【請求項57】
前記少なくとも1個の培養された侵害受容器様細胞が凍結保存されるか、あるいは凍結保存されている、請求項55~56のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項58】
前記少なくとも1個の培養された侵害受容器様細胞が、クロマン1および/またはその誘導体、エムリカサンおよび/またはその誘導体、trans-ISRIBならびにプトレシン、スペルミンおよびスペルミジンを含むポリアミンを含む凍結保存培地中で凍結保存されるか、あるいは過去に凍結保存されたものである、請求項57に記載の組成物。
【請求項59】
クロマン1および/またはその誘導体が約4nM~約40μM、約10nM~約20μM、約20nM~約10μMまたは約30nm~約500nMの濃度であり、エムリカサンおよび/またはその誘導体が約100nM~約40μM、約200nM~約30μM、約300nM~約20μMの濃度、trans-ISRIBが約50nM~約6.25μM、約100nM~約6.25μMまたは約200nM~約6.25μMの濃度、プトレシン、スペルミンおよびスペルミジンが各々、約0.5μM~1mMの濃度である、請求項58に記載の組成物。
【請求項60】
請求項55~56のいずれか1項に記載の組成物を含む細胞培養物。
【請求項61】
クロマン1および/またはその誘導体、エムリカサンおよび/またはその誘導体、trans-ISRIBならびにプトレシン、スペルミンおよびスペルミジンを含むポリアミンを含む培養培地をさらに含む、請求項60に記載の細胞培養物。
【請求項62】
クロマン1および/またはその誘導体が約4nM~約40μM、約10nM~約20μM、約20nM~約10μMまたは約30nM~約500nMの濃度であり、エムリカサンおよび/またはその誘導体が約100nM~約40μM、約200nM~約30μM、約300nM~約20μMの濃度、trans-ISRIBが約50nM~約6.25μM、約100nM~約6.25μMまたは約200nM~約6.25μMの濃度、プトレシン、スペルミンおよびスペルミジンが各々、約0.5μM~1mMの濃度である、請求項61に記載の細胞培養物。
【請求項63】
以前に凍結保存された細胞から増殖させる、請求項60~62のいずれか1項に記載の細胞培養物。
【請求項64】
以前に凍結保存された前記細胞が、クロマン1および/またはその誘導体、エムリカサンおよび/またはその誘導体、trans-ISRIBならびにプトレシン、スペルミンおよびスペルミジンを含むポリアミンを含む凍結保存培地中で凍結保存させたものである、請求項63に記載の細胞培養物。
【請求項65】
クロマン1および/またはその誘導体が約4nM~約40μM、約10nM~約20μM、約20nM~約10μMまたは約30nm~約500nMの濃度であり、エムリカサンおよび/またはその誘導体が約100nM~約40μM、約200nM~約30μM、約300nM~約20μMの濃度、trans-ISRIBが約50nM~約6.25μM、約100nM~約6.25μMまたは約200nM~約6.25μMの濃度、プトレシン、スペルミンおよびスペルミジンが各々、約0.5μM~1mMの濃度である、請求項64に記載の細胞培養物。
【請求項66】
少なくとも1個の培養された神経堤様細胞を含む組成物。
【請求項67】
前記少なくとも1個の培養された神経堤様細胞が少なくとも1個の侵害受容器様細胞に分化できる、請求項66に記載の組成物。
【請求項68】
前記少なくとも1個の培養された神経堤様細胞がSOX10を検出可能に発現する、請求項66または67に記載の組成物。
【請求項69】
BRN3A、TUJ1、ペリフェリン、I1、GGRP、TRPV1、NAV1.7、NAV1.8、NAV1.9、OPRM1、OPRMK1、OPRD1、OPRL1またはNF200のうちの1種類またはそれより多くを検出可能に発現する少なくとも1個の培養された侵害受容器様細胞をさらに含む、請求項66~68のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項70】
前記少なくとも1個の培養された侵害受容器様細胞が、NAV1.8、OPRM1、OPRK1およびOPRD1を検出可能に発現する、請求項69に記載の組成物。
【請求項71】
前記少なくとも1個の培養された侵害受容器様細胞は、MAP2を検出可能に発現する樹状突起が欠損している、請求項69または70に記載の組成物。
【請求項72】
1つまたはそれより多くのノシスフェアであるか、あるいは1つまたはそれより多くのノシスフェアを含む、請求項66~71のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項73】
解離されたノシスフェア細胞を含む、請求項66~72のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項74】
凍結保存されるか、あるいは過去に凍結保存されたものである、請求項66~73のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項75】
クロマン1および/またはその誘導体、エムリカサンおよび/またはその誘導体、trans-ISRIBならびにプトレシン、スペルミンおよびスペルミジンを含むポリアミンを含む凍結保存培地中で凍結保存されるか、あるいは過去に凍結保存されたものである、請求項74に記載の組成物。
【請求項76】
クロマン1および/またはその誘導体が約4nM~約40μM、約10nM~約20μM、約20nM~約10μMまたは約30nM~約500nMの濃度であり、エムリカサンおよび/またはその誘導体が約100nM~約40μM、約200nM~約30μM、約300nM~約20μMの濃度、trans-ISRIBが約50nM~約6.25μM、約100nM~約6.25μMまたは約200nM~約6.25μMの濃度、プトレシン、スペルミンおよびスペルミジンが各々、約0.5μM~1mMの濃度である、請求項75に記載の組成物。
【請求項77】
請求項66~73のいずれか1項に記載の組成物を含む細胞培養物。
【請求項78】
クロマン1および/またはその誘導体、エムリカサンおよび/またはその誘導体、trans-ISRIBならびにプトレシン、スペルミンおよびスペルミジンを含むポリアミンを含む培養培地をさらに含む、請求項77に記載の細胞培養物。
【請求項79】
クロマン1および/またはその誘導体が約4nM~約40μM、約10nM~約20μM、約20nM~約10μMまたは約30nm~約500nMの濃度であり、エムリカサンおよび/またはその誘導体が約100nM~約40μM、約200nM~約30μM、約300nM~約20μMの濃度、trans-ISRIBが約50nM~約6.25μM、約100nM~約6.25μMまたは約200nM~約6.25μMの濃度、プトレシン、スペルミンおよびスペルミジンが各々、約0.5μM~1mMの濃度である、請求項78に記載の細胞培養物。
【請求項80】
以前に凍結保存された細胞から増殖させている、請求項77~79のいずれか1項に記載の細胞培養物。
【請求項81】
以前に凍結保存された前記細胞が、クロマン1および/またはその誘導体、エムリカサンおよび/またはその誘導体、trans-ISRIBならびにプトレシン、スペルミンおよびスペルミジンを含むポリアミンを含む凍結保存培地中で凍結保存させたものである、請求項80に記載の細胞培養物。
【請求項82】
クロマン1および/またはその誘導体が約4nM~約40μM、約10nM~約20μM、約20nM~約10μMまたは約30nm~約500nMの濃度であり、エムリカサンおよび/またはその誘導体が約100nM~約40μM、約200nM~約30μM、約300nM~約20μMの濃度、trans-ISRIBが約50nM~約6.25μM、約100nM~約6.25μMまたは約200nM~約6.25μMの濃度、プトレシン、スペルミンおよびスペルミジンが各々、約0.5μM~1mMの濃度である、請求項81に記載の細胞培養物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
政府実施許諾用意
本発明は、米国立衛生研究所のNIH再生医療プログラム(Regenerative Medicine Program)(NIHコモンファンド)、国立先進トランスレーショナル科学センター(NCATS)の拠出による政府の補助を伴ってなされた。米国政府は、本発明において一定の権利を有する。
【0002】
関連先行出願
本出願は、2019年4月24日に出願された米国特許仮出願第62/837,891号の優先権を主張するものであり、この仮出願は引用によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0003】
分野
本発明は、生化学、細胞生物学、生体工学、医薬品開発および幹細胞生物学の分野ならびに関連分野におけるものであり、多能性幹細胞の培養および分化に有用な組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0004】
背景
多能性は、幹細胞からヒト身体の任意の細胞型への分化が可能である注目すべき細胞状態である。脊椎動物の多能性幹細胞、例えば胚性幹細胞(ESC)および人工多能性幹細胞(iPSC)は広範な自己再生を行ない、あらゆる体細胞型に分化する潜在能力を有する。多能性幹細胞から所望の細胞型が作成されることは、創薬、疾患モデリングおよび再生医療にとって大きな可能性をもつ。例えば、ヒトにおける使用のための、ならびに常習性の研究用の常習性のない新たな痛み用薬物の開発は、ヒト多能性幹細胞(hPSC)の神経系の該当する細胞、例えば侵害受容器(感覚ニューロンとしても知られる)への指向性分化の大きな恩恵を受けるであろう。残念ながら、脊椎動物の多能性幹細胞から侵害受容器を作製する既存の手順は非効率で不確定で長々しいものであり得る。また、示される再現性は不充分であり、高価なサプリメントが必要とされ、多くの場合、異なる細胞系統の雑然とした混合物が生じる。したがって、侵害受容器細胞の少なくとも一部の特徴を示す細胞を脊椎動物の多能性幹細胞から作成するための改善された方法の必要性が存在している。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
概要
脊椎動物の末梢感覚ニューロン、例えば侵害受容器細胞の少なくとも一部の特徴を示す分化した脊椎動物細胞の培養状態での作製および維持に有用な方法を記載し、本発明の諸実施形態に含める。また、神経堤細胞の少なくとも一部の特徴を示す脊椎動物細胞の培養状態での作製および維持に有用な方法を記載し、本発明の諸実施形態に含める。中でも、本文書に記載の方法は高効率であり、費用効果が高く、再現性があり、拡張可能であり、自動化に適している。本文書に記載の方法は中でも、例えば創薬および医薬品開発、例えば新たな痛み用投薬物の発見および開発において、侵害受容器関連の研究、例えば痛みおよび常習性の研究において、種々の用途についての化合物のハイスループットスクリーニング、例えば医薬品開発および毒性スクリーニングにおいて、疾患のモデリングおよび研究、例えば遺伝性および後天性の神経障害のモデリングおよび研究において、ならびに再生療法、例えば損傷した神経細胞の置換および細胞修復ならびに細胞工学および組織工学において有用である。
【0006】
本発明の組成物、キットおよび方法の利点を本文書の至る箇所において論考し、添付の図面に図示する。
【0007】
用語「invention(発明)」、「the invention(本発明)」、「this invention(本発明)」および「the present invention(本発明)」は、本文書で用いる場合、本特許出願および以下の特許請求の範囲の主題のすべてを広く示すことを意図する。これらの用語を含む記載は、本明細書に記載の主題を限定するものでない、または以下の本特許の特許請求の範囲の意味もしくは範囲を限定するものでないと理解されたい。カバーされる本発明の諸実施形態は特許請求の範囲によって規定され、本概要によって規定されない。本概要は、本発明の種々の態様の高水準の概論であり、本文書および添付の図面に記載し、図示する思想のいくつかを紹介するものである。本概要は、請求項に記載の主題の枢要な特色または必須の特色を特定することを意図するものではなく、請求項に記載の主題の範囲を決定するために独立して使用されることを意図するものでもない。本主題は、本明細書全体の適切な部分、いずれかの図またはすべての図および各請求項を参照することによって理解されるべきである。本文書に本発明の種々の実施形態を記載し、言及する。特定の実施形態によって本発明の範囲が規定されることを意図しない。そうではなく、本実施形態は、少なくとも本発明の範囲内に含まれる種々の方法、組成物、キット、系などの非限定的な例を示しているにすぎない。本発明の一部の実施形態を以下に要約するが、他の実施形態も本文書中の別の箇所に記載し、示している。
【0008】
本発明の例示的な実施形態は、侵害受容器様細胞に分化できる細胞を培養状態で作製する方法を含む。本発明の諸実施形態による侵害受容器様細胞に分化できる細胞を培養状態で作製する一部の方法は:脊椎動物の多能性幹細胞の付着単層培養物を、WNTシグナル伝達を活性化できる少なくとも1種類の第1の化合物を有効量または有効濃度で、およびTGF-ベータシグナル伝達を阻害できる少なくとも1種類の第2の化合物を有効濃度で含む第1の培地中でおよそ24~144時間インキュベートする工程;インキュベートされた該細胞を解離する工程;ならびに、解離された該細胞を、WNTシグナル伝達を活性化できる少なくとも1種類の第3の化合物を有効量または有効濃度で、TGF-ベータシグナル伝達を阻害できる少なくとも1種類の第4の化合物を有効量または有効濃度で、Notch経路を阻害できる少なくとも1種類の第5の化合物を有効量または有効濃度で、ならびにEGF、VEGFおよびMAPキナーゼシグナル伝達のうちの1つまたはそれより多くを阻害できる少なくとも1種類の第6の化合物を有効濃度で含む第2の培地中で168~432時間、培養し、それにより、侵害受容器様細胞に分化できる該細胞を含む1つまたはそれより多くのノシスフェア(nocisphere)を作成する工程を含む。一部の実施形態では、侵害受容器様細胞に分化できる細胞が神経堤様細胞である。一部の実施形態では、侵害受容器様細胞に分化できる細胞がSOX10を検出可能に発現する。一部の実施形態では、1つまたはそれより多くのノシスフェアが侵害受容器様細胞をさらに含む。一部の実施形態では、侵害受容器様細胞がBRN3Aを検出可能に発現する。該方法の一部の実施形態では、脊椎動物の多能性幹細胞が人工多能性幹細胞または胚性多能性幹細胞である。一部の実施形態では、脊椎動物の多能性幹細胞がヒト多能性幹細胞である。一部の実施形態では、第1の培地が規定培地であり、第2の培地が規定培地であり、第1の培地は第2の培地と同じであるか、または異なっている。第1の培地は、E6、DMEM-F12またはKnockout-DMEM/F12であり得る。第2の培地は、E6、DMEM-F12またはKnockout-DMEM/F12であり得る。一部の実施形態では、第1の培地および/または第2の培地に、骨形成タンパク質(BMP)タンパク質経路を活性化または阻害する添加剤を補給しない。一部の実施形態では、第1の培地および/または第2の培地に骨形成タンパク質4(BMP4)を補給しない。一部の実施形態では、該少なくとも1種類の第1の化合物がCHIR98014もしくはCHIR99021またはその組合せである。一部の実施形態では、CHIR98014またはCHIR99021の有効濃度が20nM~20μMである。一部の実施形態では、該少なくとも1種類の第2の化合物がA83-01もしくはSB431542またはその組合せである。一部の実施形態では、A83-01の有効濃度が20nM~20μMであり、SB431542の有効濃度が20nM~40μMである。一部の実施形態では、該少なくとも1種類の第3の化合物がCHIR98014もしくはCHIR99021またはその組合せである。一部の実施形態では、CHIR98014またはCHIR99021の有効濃度が20nM~20μMである。一部の実施形態では、該少なくとも1種類の第4の化合物がA83-01もしくはSB431542またはその組合せである。一部の実施形態では、A83-01の有効濃度が20nM~20μMであり、SB431542の有効濃度が20nM~40μMである。一部の実施形態では、該少なくとも1種類の第5の化合物がDBZ、DAPT、LY411575もしくはLY 3039478またはこれらの2種類以上の組合せである。一部の実施形態では、DBZの有効濃度が20nM~20μMであり、DAPTの有効濃度が5nM~50μMであり、LY411575の有効濃度が2nM~20μMであり、LY3039478の有効濃度が2nM~20μMである。一部の実施形態では、該少なくとも1種類の第6の化合物がPD173074またはSU5402またはその組合せである。一部の実施形態では、PD173074またはSU5402の有効濃度が2nM~20μMである。一部の実施形態では、第2の培地が、CDK4/6阻害薬である少なくとも1種類の第7の化合物を有効量または有効濃度でさらに含む。一部の実施形態では、CDK4/6阻害薬がPD0332991である。一部の実施形態では、PD0332991の有効濃度が2nM~20μMである。一部の実施形態では、解離された該細胞を培養する工程が、およそ12~36時間毎に交換する第2の培地の交換を含む。上記の方法の一部の実施形態は、該1つまたはそれより多くのノシスフェアを解離し、それにより、解離されたノシスフェア細胞を作成する工程をさらに含む。上記の方法の一部の実施形態は、侵害受容器様細胞に分化できる該細胞のうちの1つもしくはそれより多く、該1つもしくはそれより多くのノシスフェアまたは解離された該ノシスフェア細胞を凍結保存する工程をさらに含む。上記の方法の一部の実施形態では、該方法の1つまたはそれより多くの工程が自動化システムによって行なわれる。
【0009】
本発明の例示的な実施形態は:脊椎動物の多能性幹細胞の付着単層培養物を、WNTシグナル伝達を活性化できる少なくとも1種類の第1の化合物を有効量または有効濃度で、およびTGF-ベータシグナル伝達を阻害できる少なくとも1種類の第2の化合物を有効濃度で含む第1の培地中でおよそ24~144時間インキュベートする工程;インキュベートされた該細胞を解離する工程;解離された該細胞を、WNTシグナル伝達を活性化できる少なくとも1種類の第3の化合物を有効量または有効濃度で、TGF-ベータシグナル伝達を阻害できる少なくとも1種類の第4の化合物を有効量または有効濃度で、Notch経路を阻害できる少なくとも1種類の第5の化合物を有効量または有効濃度で、ならびにEGF、VEGFおよびMAPキナーゼシグナル伝達のうちの1つまたはそれより多くを阻害できる少なくとも1種類の第6の化合物を有効濃度で含む第2の培地中で168~432時間、培養し、それにより、侵害受容器様細胞に分化できる該細胞を含む1つまたはそれより多くのノシスフェアを作成する工程;該1つまたはそれより多くのノシスフェアを解離し、それにより、解離されたノシスフェア細胞を作成する工程、ならびに解離された該ノシスフェア細胞を、侵害受容器様細胞の分化を促進させる条件下にて培養状態で増殖させる工程を含む侵害受容器様細胞を培養する方法を含む。一部の実施形態では、侵害受容器様細胞に分化できる細胞が神経堤様細胞である。一部の実施形態では、侵害受容器様細胞に分化できる細胞がSOX10を検出可能に発現する。一部の実施形態では、1つまたはそれより多くのノシスフェアが侵害受容器様細胞をさらに含む。一部の実施形態では、侵害受容器様細胞がBRN3Aを検出可能に発現する。該方法の一部の実施形態では、脊椎動物の多能性幹細胞が人工多能性幹細胞または胚性多能性幹細胞である。一部の実施形態では、脊椎動物の多能性幹細胞がヒト多能性幹細胞である。一部の実施形態では、第1の培地が規定培地であり、第2の培地が規定培地であり、第1の培地は第2の培地と同じであるか、または異なっている。第1の培地は、E6、DMEM-F12またはKnockout-DMEM/F12であり得る。第2の培地は、E6、DMEM-F12またはKnockout-DMEM/F12であり得る。一部の実施形態では、第1の培地および/または第2の培地に、骨形成タンパク質(BMP)タンパク質経路を活性化または阻害する添加剤を補給しない。一部の実施形態では、第1の培地および/または第2の培地に骨形成タンパク質4(BMP4)を補給しない。一部の実施形態では、該少なくとも1種類の第1の化合物がCHIR98014もしくはCHIR99021またはその組合せである。一部の実施形態では、CHIR98014またはCHIR99021の有効濃度が20nM~20μMである。一部の実施形態では、該少なくとも1種類の第2の化合物がA83-01もしくはSB431542またはその組合せである。一部の実施形態では、A83-01の有効濃度が20nM~20μMであり、SB431542の有効濃度が20nM~40μMである。一部の実施形態では、該少なくとも1種類の第3の化合物がCHIR98014もしくはCHIR99021またはその組合せである。一部の実施形態では、CHIR98014またはCHIR99021の有効濃度が20nM~20μMである。一部の実施形態では、該少なくとも1種類の第4の化合物がA83-01もしくはSB431542またはその組合せである。一部の実施形態では、A83-01の有効濃度が20nM~20μMであり、SB431542の有効濃度が20nM~40μMである。一部の実施形態では、該少なくとも1種類の第5の化合物がDBZ、DAPT、LY411575もしくはLY 3039478またはこれらの2種類以上の組合せである。一部の実施形態では、DBZの有効濃度が20nM~20μMであり、DAPTの有効濃度が5nM~50μMであり、LY411575の有効濃度が2nM~20μMであり、LY3039478の有効濃度が2nM~20μMである。一部の実施形態では、該少なくとも1種類の第6の化合物がPD173074またはSU5402またはその組合せである。一部の実施形態では、PD173074またはSU5402の有効濃度が2nM~20μMである。一部の実施形態では、第2の培地が、CDK4/6阻害薬である少なくとも1種類の第7の化合物を有効量または有効濃度でさらに含む。一部の実施形態では、CDK4/6阻害薬がPD0332991である。一部の実施形態では、PD0332991の有効濃度が2nM~20μMである。一部の実施形態では、解離された該細胞を培養する工程が、第2の培地をおよそ12~36時間毎に交換することを含む。一部の実施形態では、解離された該ノシスフェア細胞を培養状態で増殖させる工程が少なくともおよそ168時間または168~336時間実施される。一部の実施形態では、侵害受容器様細胞の分化を促進させる条件が、N2サプリメントおよびB27サプリメントの存在を有することを含み、BDNF、GDNF、NGFまたはNT-3のうちの1種類またはそれより多くの存在を有することをさらに含み得る。一部の実施形態では、侵害受容器様細胞の分化を促進させる条件が、有効量もしくは有効濃度の、Notch経路を阻害できる少なくとも1種類の第8の化合物、有効量もしくは有効濃度の、EGF、VEGFおよびMAPキナーゼシグナル伝達のうちの1つもしくはそれより多くを阻害できる少なくとも1種類の第9の化合物または有効量もしくは有効濃度の、CDK4/6阻害薬である少なくとも1種類の第9の化合物のうちの1種類またはそれより多くの存在をさらに含み得る。一部の実施形態では、該少なくとも1種類の第8の化合物がDBZ、DAPT、LY411575もしくはLY 3039478またはこれらの2種類以上の組合せである。一部の実施形態では、DBZの有効濃度が20nM~20μMであり、DAPTの有効濃度が5nM~50μMであり、LY411575の有効濃度が2nM~20μMであり、LY3039478の有効濃度が2nM~20μMである。一部の実施形態では、該少なくとも1種類の第6の化合物がPD173074またはSU5402またはその組合せである。一部の実施形態では、PD173074またはSU5402の有効濃度が2nM~20μMである。一部の実施形態では、CDK4/6阻害薬がPD0332991である。一部の実施形態では、PD0332991の有効濃度が2nM~20μMである。上記の方法の一部の実施形態では、侵害受容器様細胞の分化を促進させる条件が、骨形成タンパク質(BMP)タンパク質経路を活性化または阻害する添加剤の補給を含まない。一部の実施形態では、該条件が、骨形成タンパク質4(BMP4)の補給を含まない。一部の実施形態では、侵害受容器様細胞の分化を促進させる条件が、DMEM/F12培地、Neurobasal培地またはBrainPhys培地中で培養することを含む。上記の方法の一部の実施形態では、侵害受容器様細胞が、TUJ1、ペリフェリン、ISL1、GGRP、TRPV1、NAV1.7、NAV1.8、NAV1.9、OPRM1、OPRMK1、OPRD1、OPRL1またはNF200のうちの1種類またはそれより多くを検出可能に発現する。例えば、侵害受容器様細胞は、NAV1.8、OPRM1、OPRMK1およびOPRD1を検出可能に発現し得る。一部の実施形態では、侵害受容器様細胞は、MAP2を検出可能に発現する樹状突起が欠損している。上記の方法の一部の実施形態は、侵害受容器様細胞に分化できる該細胞のうちの1つもしくはそれより多く、該1つもしくはそれより多くのノシスフェアまたは解離された該ノシスフェア細胞を凍結保存する工程をさらに含む。上記の方法の一部の実施形態は、該1つまたはそれより多くのノシスフェアを解離する工程の後、解離された該ノシスフェア細胞を凍結保存すること、および解離された該ノシスフェア細胞を解凍することを含む。上記の方法の一部の実施形態は、該侵害受容器様細胞を凍結保存する工程を含む。一部の実施形態では、該1つもしくはノシスフェアを凍結保存する工程、解離された該ノシスフェア細胞を凍結保存する工程または該侵害受容器様細胞を凍結保存する工程のうちの1つまたはそれより多くが、クロマン1および/またはその誘導体、エムリカサンおよび/またはその誘導体、trans-ISRIBならびにプトレシン、スペルミンおよびスペルミジンを含むポリアミンを含む凍結保存培地中で実施される。一部の実施形態では、凍結保存培地中において、クロマン1および/またはその誘導体が約4nM~約40μM、約10nM~約20μM、約20nM~約10μMまたは約30nM~約500nMの濃度であり、エムリカサンおよび/またはその誘導体が約100nM~約40μM、約200nM~約30μM、約300nm~約20μMの濃度、trans-ISRIBが約50nM~約6.25μM、約100nM~約6.25μMまたは約200nM~約6.25μMの濃度、プトレシン、スペルミンおよびスペルミジンが各々、約0.5μM~1mMの濃度である。上記の方法の一部の実施形態では、該方法の1つまたはそれより多くの工程が自動化システムによって行なわれる。
【0010】
本発明の例示的な実施形態は、BRN3A、TUJ1、ペリフェリン、I1、GGRP、TRPV1、NAV1.7、NAV1.8、NAV1.9、OPRM1、OPRMK1、OPRD1、OPRL1またはNF200のうちの1種類またはそれより多くを検出可能に発現する少なくとも1個の培養された侵害受容器様細胞を含む組成物を含む。一部の実施形態では、少なくとも1個の培養された侵害受容器様細胞が、NAV1.8、OPRM1、OPRK1およびOPRD1を検出可能に発現する。一部の実施形態では、該少なくとも1個の培養された侵害受容器様細胞は、MAP2を検出可能に発現する樹状突起が欠損している。一部の実施形態では、該少なくとも1個の培養された侵害受容器様細胞が凍結保存されるか、あるいは凍結保存されている。一部の実施形態では、該少なくとも1個の培養された侵害受容器様細胞が、クロマン1および/またはその誘導体、エムリカサンおよび/またはその誘導体、trans-ISRIBならびにプトレシン、スペルミンおよびスペルミジンを含むポリアミンを含む凍結保存培地中で凍結保存されるか、あるいは過去に凍結保存されたものである。一部の実施形態では、凍結保存培地中において、クロマン1および/またはその誘導体が約4nM~約40μM、約10nM~約20μM、約20nM~約10μMまたは約30nm~約500nMの濃度であり、エムリカサンおよび/またはその誘導体が約100nM~約40μM、約200nm~約30μM、約300nM~約20μMの濃度、trans-ISRIBが約50nM~約6.25μM、約100nM~約6.25μMまたは約200nM~約6.25μMの濃度、プトレシン、スペルミンおよびスペルミジンが各々、約0.5μM~1mMの濃度である。本発明の例示的な実施形態はまた、上記の組成物を含む細胞培養物も含む。本発明の諸実施形態による細胞培養物は、クロマン1および/またはその誘導体、エムリカサンおよび/またはその誘導体、trans-ISRIBならびにプトレシン、スペルミンおよびスペルミジンを含むポリアミンを含む培養培地をさらに含み得る。一部の実施形態では、培養培地中において、クロマン1および/またはその誘導体が約4nM~約40μM、約10nM~約20μM、約20nM~約10μMまたは約30nm~約500nMの濃度であり、エムリカサンおよび/またはその誘導体が約100nM~約40μM、約200nM~約30μM、約300nM~約20μMの濃度、trans-ISRIBが約50nM~約6.25μM、約100nM~約6.25μMまたは約200nM~約6.25μMの濃度、プトレシン、スペルミンおよびスペルミジンが各々、約0.5μM~1mMの濃度である。一部の実施形態では、細胞培養物を、以前に凍結保存された細胞から増殖させる。一部の実施形態では、以前に凍結保存された細胞が、クロマン1および/またはその誘導体、エムリカサンおよび/またはその誘導体、trans-ISRIBならびにプトレシン、スペルミンおよびスペルミジンを含むポリアミンを含む凍結保存培地中で凍結保存させたものである。一部の実施形態では、凍結保存培地が、約4nM~約40μM、約10nM~約20μM、約20nM~約10μMまたは約30nM~約500nMの濃度のクロマン1および/またはその誘導体、約100nM~約40μM、約200nM~約30μM、約300nM~約20μMの濃度のエムリカサンおよび/またはその誘導体、約50nM~約6.25μM、約100nM~約6.25μMまたは約200nM~約6.25μMの濃度のtrans-ISRIBを含み、プトレシン、スペルミンおよびスペルミジンが各々、約0.5μM~1mMの濃度である。
【0011】
本発明の例示的な実施形態は、少なくとも1個の培養された神経堤様細胞を含む組成物を含む。一部の実施形態では、該少なくとも1個の培養された神経堤様細胞が少なくとも1個の侵害受容器様細胞に分化できる。一部の実施形態では、該少なくとも1個の培養された神経堤様細胞がSOX10を検出可能に発現する。上記の組成物の一部の実施形態は、BRN3A、TUJ1、ペリフェリン、GGRP、TRPV1、NAV1.7、NAV1.8、NAV1.9、OPRM1、OPRMK1、OPRD1、OPRL1またはNF200のうちの1種類またはそれより多くを検出可能に発現する少なくとも1個の培養された侵害受容器様細胞をさらに含む。一部の実施形態では、該少なくとも1個の培養された侵害受容器様細胞が、NAV1.8、OPRM1、OPRK1およびOPRD1を検出可能に発現する。一部の実施形態では、該少なくとも1個の培養された侵害受容器様細胞は、MAP2を検出可能に発現する樹状突起が欠損している。一部の実施形態では、少なくとも1個の培養された神経堤様細胞を含む該組成物が1つまたはそれより多くのノシスフェアであるか、あるいは1つまたはそれより多くのノシスフェアを含む。一部の実施形態では、該組成物が、解離されたノシスフェア細胞を含む。一部の実施形態では、少なくとも1個の培養された神経堤様細胞を含む該組成物が凍結保存されるか、あるいは過去に凍結保存されたものである。一部の実施形態では、該組成物が、クロマン1および/またはその誘導体、エムリカサンおよび/またはその誘導体、trans-ISRIBならびにプトレシン、スペルミンおよびスペルミジンを含むポリアミンを含む凍結保存培地中で凍結保存されるか、あるいは過去に凍結保存されたものである。一部の実施形態では、凍結保存培地中において、クロマン1および/またはその誘導体が約4nM~約40μM、約10nM~約20μM、約20nM~約10μMまたは約30nM~約500nMの濃度であり、エムリカサンおよび/またはその誘導体が約100nM~約40μM、約200nM~約30μM、約300nM~約20μMの濃度、trans-ISRIBが約50nM~約6.25μM、約100nM~約6.25μMまたは約200nM~約6.25μMの濃度、プトレシン、スペルミンおよびスペルミジンが各々、約0.5μM~1mMの濃度である。本発明の例示的な実施形態はまた、少なくとも1個の培養された神経堤様細胞を含む該組成物を含む細胞培養物も含む。一部の実施形態では、該細胞培養物が、クロマン1および/またはその誘導体、エムリカサンおよび/またはその誘導体、trans-ISRIBならびにプトレシン、スペルミンおよびスペルミジンを含むポリアミンを含む培養培地をさらに含む。一部の実施形態では、培養培地中において、クロマン1および/またはその誘導体が約4nM~約40μM、約10nM~約20μM、約20nM~約10μMまたは約30nM~約500nMの濃度であり、エムリカサンおよび/またはその誘導体が約100nM~約40μM、約200nM~約30μM、約300nm~約20μMの濃度、trans-ISRIBが約50nM~約6.25μM、約100nM~約6.25μMまたは約200nM~約6.25μMの濃度、プトレシン、スペルミンおよびスペルミジンが各々、約0.5μM~1mMの濃度である。一部の実施形態では、細胞培養物を、以前に凍結保存された細胞から増殖させる。一部の実施形態では、以前に凍結保存された細胞が、クロマン1および/またはその誘導体、エムリカサンおよび/またはその誘導体、trans-ISRIBならびにプトレシン、スペルミンおよびスペルミジンを含むポリアミンを含む凍結保存培地中で凍結保存させたものである。一部の実施形態では、凍結保存培地中において、クロマン1および/またはその誘導体が約4nM~約40μM、約10nM~約20μM、約20nM~約10μMまたは約30nM~約500nMの濃度であり、エムリカサンおよび/またはその誘導体が約100nM~約40μM、約200nM~約30μM、約300nM~約20μMの濃度、trans-ISRIBが約50nM~約6.25μM、約100nM~約6.25μMまたは約200nM~約6.25μMの濃度、プトレシン、スペルミンおよびスペルミジンが各々、約0.5μM~1mMの濃度である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、侵害受容器様細胞を作製するための例示的な手順の略図である。
【0013】
【
図2】
図2は、本発明の一部の諸実施形態において使用される例示的な小分子の構造を示す。
【0014】
【
図3】
図3は、侵害受容器様細胞を作製するための例示的な手順による培養28日目に撮影された、プレーティングされた細胞の代表的な画像を示す。細胞は、以下のタンパク質:TUJ1(ベータ-IIIチューブリンとしても知られる,ニューロンマーカー);BRN3A(侵害受容器によって典型的に発現される転写因子);ペリフェリン(PRPH,末梢ニューロンのマーカー);ISL1(侵害受容器によって発現される転写因子);CGRP(カルシトニン遺伝子関連タンパク質,侵害受容器によって典型的に発現される神経ペプチド);TRPV1(バニロイド受容体1,侵害受容器によって典型的に発現される);NAV1.7(ナトリウムチャネル,侵害受容器によって典型的に発現される)に特異的な抗体の標示した組合せで免疫細胞化学的に染色した。標示「Ho」は、細胞核を標識するHoechst対比染色剤を示す。
【0015】
【
図4A】
図4Aは、侵害受容器様細胞を作製するための例示的な手順による培養28日目に撮影された、プレーティングされた細胞の代表的な画像を示す。細胞は、NF200(ニューロフィラメント200,軸索を可視化するための典型的なマーカー)および転写因子BRN3A(侵害受容器によって典型的に発現される転写因子)に対する特異的抗体で免疫細胞化学的に染色した。Hoechst色素を、細胞核を可視化するための対比染色剤として使用した。
図4Aの右下隅のマージした画像は、すべての染色を一緒に合わせたものを示す。
【0016】
【
図4B】
図4Bは、侵害受容器様細胞を作製するための例示的な手順による培養28日目に撮影された、プレーティングされた細胞の代表的な画像を示す。細胞は、TUJ1およびvGLUT1(小胞型グルタミン酸トランスポーター1,グルタミン酸作動性ニューロンのマーカー)に対する特異的抗体で免疫細胞化学的に染色し、侵害受容器様細胞の予測されたグルタミン酸作動性神経伝達物質表現型が確認された。Hoechst色素を、細胞核を可視化するための対比染色剤として使用した。
図4Bの右下隅のマージした画像は、すべての染色を一緒に合わせたものを示す。
【0017】
【
図4C】
図4Cは、侵害受容器様細胞を作製するための例示的な手順に従って培養した28日目の細胞の代表的な画像を示す。細胞は、MAP2(微小管結合タンパク質2,ニューロンの細胞体および樹状突起の典型的なマーカー,これは、インビボ対応物と同様に樹状突起がない偽単極性侵害受容器様細胞の細胞体のみを標識する)ならびに転写因子BRN3A(侵害受容器によって典型的に発現される転写因子)に対する特異的抗体で免疫細胞化学的に染色した。Hoechst色素を、細胞核を可視化するための対比染色剤として使用した。
図4Cの右下隅のマージした画像は、すべての染色を一緒に合わせたものを示す。
【0018】
【
図5】
図5は、侵害受容器様細胞を作製するための例示的な手順による培養の28日目のプレーティングされた細胞の定量的特性評価を示す棒グラフを示す。2つのhPSC株、hESCとiPSCを侵害受容器様細胞に分化させた。28日目、細胞をSOX10(神経堤幹細胞のマーカー)およびBRN3A(侵害受容器のマーカー)について染色し、染色を定量した。
【0019】
【
図6】
図6は、侵害受容器様細胞を作製するための例示的な手順に供したiPSCにおける0日目~28日目における遺伝子発現の時間的推移の系統的解析の結果を示す。
【0020】
【
図7】
図7は、侵害受容器様細胞を作製するための手順に従って分化させた細胞のRNA-seqによる経時的遺伝子発現プロファイリングの結果、およびこの結果とARCHS
4ヒト組織RNA-seqデータベースにおいて入手可能な結果との比較を示す。
【0021】
【
図8】
図8は、侵害受容器様細胞によって発現されたイオンチャネルおよび受容体のRNA-seqによる包括的解析の結果を示す。
【0022】
【
図9】
図9は、重要なナトリウムチャネルのRNA-seqによる経時的遺伝子発現プロファイリングの結果を示す折れ線グラフを示す。
【0023】
【
図10】
図10は、iPSCから分化させている培養物中のオピオイド受容体(OPRM1、OPRK1、OPRD1)およびオピオイド関連ノシセプチン受容体1(OPRL1)のRNA-seqによる経時的遺伝子発現プロファイリングの結果を示す折れ線グラフを示す。
【0024】
【
図11】
図11は、iPSC由来の侵害受容器様細胞がDMSO、10μMのα,β-me-ATP、5μMのカプサイシンおよび100μMのマスタードオイル(アリルイソチオシアネート)の適用によって刺激されたことを示す電気生理学実験(マルチ電極アレイ)の結果を示す。
【0025】
【
図12A】
図12Aは、iPSC由来の侵害受容器様細胞がオキサリプラチンおよびプロスタグランジンE2(PGE2)での処理に応答して感作されたことを示す電気生理学実験(マルチ電極アレイ)の結果を示す。
【0026】
【0027】
【
図13】
図13は、iPSC由来の侵害受容器様細胞が10μMのα,β-me-ATPの適用によって刺激されたことを示す電気生理学実験(マルチ電極アレイ)の結果を示す。また、プリン作動性受容体P2RX3の特異的阻害薬に対するiPSC由来の侵害受容器様細胞の応答の違いも試験し、RO-51が、10μMのα,β-me-ATPの効果をブロックする最も効力がある阻害薬であることが確認された。
【0028】
【
図14A】
図14Aは、侵害受容器様細胞を作製するための自動化された例示的な手順を行なうことために使用されるCompacT SelecT
(登録商標)システム(Sartorius)の写真を示す。
【0029】
【
図14B】
図14Bは、侵害受容器様細胞を作製するための例示的な自動化手順によって作製された侵害受容器様細胞の代表的な顕微鏡画像である。この代表的な画像は、分化手順の開始後21日目に取得した。
【発明を実施するための形態】
【0030】
説明
本発明の諸実施形態は、少なくとも一部において、以下に論考する知見に基づいて想定された。極めて重要な細胞シグナル伝達経路の規定の時点を、小分子阻害薬の使用によって操作することにより、本発明者らは、培養状態のヒト多能性幹細胞を、神経堤細胞に似たSOX10発現細胞に変換させるための手順を見い出した。SOX10発現細胞を分化手順に供すると、高度に再現性がある様式で、侵害受容器に似たBRN3A発現細胞の均一な集団が作製された。幅広い形態学的、分子的および電気生理学的特性評価実験により、得られる分化細胞の侵害受容器様特性、例えば典型的な侵害受容器マーカー、例えばニューロン内およびシナプス内のタンパク質、転写因子、神経ペプチドおよび150種類を超えるイオンチャネルの発現が確認された。痛みの研究および医薬品開発の用途のために特に重要なことに、本発明者らによって見い出された方法を用いて作成される侵害受容器様細胞は、天然に存在している侵害受容器、例えばNAV1.8、オピオイド受容体およびプリン作動性受容体、例えばP2RX3に存在することがわかっているイオンチャネル複合体および受容体分子を発現した。これまでに知られている幹細胞の分化方法では、上記の特性を有する細胞を作成することはできなかった。ロボット細胞培養システムを使用し、本発明者らは、ヒト多能性幹細胞から侵害受容器様細胞を作成するための手順を自動化した。上記の知見に基づき、本発明者らは、脊椎動物の侵害受容器細胞、例えばヒト侵害受容器細胞の少なくとも一部の特徴を示す細胞に分化できる細胞を示す細胞を培養状態で作製するためのプロセス(方法)、脊椎動物の神経堤細胞、例えばヒト侵害受容器細胞の少なくとも一部の特徴を示す細胞を培養状態で作製するプロセス(方法)ならびに上記のプロセスに関連する種々の組成物およびキットを着想した。また、本発明者らは、本発明者らのプロセス(方法)、組成物およびキットの種々の用途および使用、例えば高品質の大量数の標準化細胞が必要とされるハイスループットでの用途および使用も着想した。中でも、本文書に記載の本発明の種々の実施形態は、創薬および医薬品開発、毒性スクリーニング、疾患のモデリングおよび研究、細胞工学および組織工学、細胞置換療法ならびに再生医療において使用され得る。
【0031】
用語および思想
いくつかの用語および思想を以下に論考する。これらは、本文書のその他の部分および添付の図面と併せて本発明の種々の実施形態の理解を容易にすることを意図している。これらの用語および思想は、本発明の分野において認められている慣習ならびに本文書の至る箇所に示している説明および/または添付の図面に基づいてさらに明確化され、理解され得よう。他のいくつかの用語は、本文書の他のセクションおよび添付の図面において明示的または黙示的に定義され得、本発明の分野において認められている慣習、本文書の至る箇所に示している説明および/または添付の図面に基づいて使用され、理解され得よう。また、明示的に定義されていない用語も、本発明の分野において認められている慣習に基づいて定義され、理解され得、本文書および/または添付の図面との関連において解釈され得る。
【0032】
本明細書で用いる場合、用語「a」、「an」および「the」は、そうでないことを明確に注記していない限り、「1」、「1またはそれより多く」または「少なくとも1」を示し得る。
【0033】
用語「約」または「およそ」は、本明細書において、ある値が、その値を求めるために用いられるデバイス、方法の固有変動性の誤差または単に値の許容誤差を含むことを示すために用いている。例えば、用語「約」は、所定の値の±1%、±5%、±10%、±15%または±20%の変動を意味し得る。
【0034】
本明細書で用いる場合、用語「単離する」、「分離する」または「精製する」およびその関連用語は、必ずしも試料からの目的の成分以外のすべての物質の除去を示すために用いているのではない。そうではなく、一部の実施形態において、この用語は、1種類またはそれより多くの目的の成分の量を、試料中に存在する1種類またはそれより多くの他の成分と比べて多くする手順を示すために用いている。一部の実施形態、「単離」、「分離」または「精製」は、試料由来の1種類またはそれより多くの成分を除去するため、またはその量を減少させるために用いている場合もあり得る。例えば、「単離された細胞」という表現は、実質的に分離または精製されて細胞培養物または生物体の他の細胞から離れている細胞を示し得る。
【0035】
細胞または生体試料に言及している用語「由来する」およびその関連表現は、細胞または試料が記載の供給源からある時点で得られたものであることを示す。例えば、生物体に由来する細胞は、個体から直接得られた初代細胞であり得るか(すなわち、未改変)、または例えば組換えベクターの導入、特定の条件への曝露あるいは特定の条件下での培養もしくは不死化によって改変されたものであり得る。一部の場合において、所与の供給源に由来する細胞は細胞の分裂および/または分化を行ない、そのため元の細胞はもはや存在しないが、維持されているその細胞が同じ供給源に由来していることは理解されよう。用語「由来している(derive)」、「派生(derivation)」ならびにその関連用語および関連表現もまた本文書において、異なる出発集団もしくは出発細胞または異なる先代集団もしくは先代細胞からの細胞集団の作出を示すために使用され得る。例えば、本文書に記載の分化した侵害受容器様細胞の集団の場合、出発集団は神経堤様細胞および多能性幹細胞である。したがって、侵害受容器様細胞は神経堤様細胞および/または多能性幹細胞(1つもしくは複数)に由来すると記載され得る。別の例、本文書に記載の神経堤様細胞の集団では、出発集団は多能性幹細胞(1つまたは複数)である。したがって、神経堤様細胞は多能性幹細胞(1つまたは複数)に由来すると記載され得る。
【0036】
用語「comprising(~を含む)」およびその関連用語(「comprise(~を含む)」、「comprises(~を含む)」など)は、本文書において本発明の種々の実施形態を説明するために用いている場合、さらなる要素を排除しないことを意味するオープンエンドであり、用語「including(~を含む)」、「containing(~を含む)」または「having(~を有する)」と同義である。本発明の一実施形態が用語「comprising」を用いて説明されている場合、comprisingという用語が用語「consisting of(~からなる)」または「consisting essentially of(本質的に~からなる)」で置き換えられた実施形態を含むことを意図する。換言すると、用語「comprising」およびその関連用語を用いた本文書に記載の本発明の諸実施形態の説明は、「comprising」の代わりに「consisting of」または「consisting essentially of」が使用されている関連実施形態の説明もまた示している。用語「consisting of」は、本説明に明記されていない要素(工程、成分など)はいずれも排除する。用語「consisting essentially of」は、本説明に明記されていないが実施形態の基本的かつ新規な特徴に実質的に影響を与えない要素のみを除外することを意図する。
【0037】
用語「培養物」、「細胞培養物」および関連用語は、生物体の体外に存在している1個の細胞または細胞集団を示すために使用され得る。このような細胞は、幹細胞、生物体から単離されたか、または細胞バンク、動物もしくは血液バンクから得られた初代細胞、あるいはかかる供給源に由来する二次細胞であり得る。二次細胞を、永続細胞培養物となるように不死化してもよい。初代細胞は、卵細胞、精細胞および幹細胞を除く成体または胎児の生物体の任意の細胞を含む。有用な初代細胞の例としては、限定されないが、皮膚細胞、骨細胞、血液細胞、内臓の細胞および結合組織の細胞が挙げられる。二次細胞は初代細胞に由来し、永続インビトロ細胞培養物となるように不死化してもよい。
【0038】
用語「培養する」、「培養すること」、「増殖する(grow)」、「増殖させること(growing)」、「維持する」、「維持すること」、「拡大培養する」、「拡大培養すること」などは、細胞、組織もしくは器官の培養または培養のプロセスに言及している場合、1個の細胞または細胞群(この表現の範囲は、一群または複数の未分化細胞もしくは分化細胞、胚、胚様体、組織または器官を含む)が、体外(エクスビボおよび/またはインビトロ)で、生存、増殖、分化に適した条件下および/または老化が回避される条件下に維持されていることを意味するために互換的に用いている場合があり得る。換言すると、培養されている細胞または細胞群は生存が可能であり、培養により細胞の増殖、分化または分裂がもたらされ得る。これとの関連において、用語「growing(増殖させること)」と「culturing(培養すること)」は互換的に用いている場合があり得、培養状態の生細胞を、ある特定の条件下で維持することを示し得る。一部の細胞は自然に老化し得るため、上記の用語は、培養物中のすべての細胞が生存または増殖または分裂することを含意しているのではない。細胞は典型的には培地中で培養され、培地は培養過程で交換され得る。いわゆる二次元(2D)細胞培養物は、基質(例えば、ビトロネクチン、ラミニン521、マトリゲル、ゲルトレックス)でコートされ得る典型的にはプラスチック槽内の平坦表面上で増殖する。三次元(3D)培養物は、生体細胞が三次元全体において増殖すること、またはその周囲環境と相互作用することが許容される培養物である。3D培養物はさまざまな人工的環境内で、例えば限定されないが、プレート、フラスコ、バイオリアクターまたは細胞が回転楕円体、球体もしくはノシスフェアに増殖し得る小カプセルにおいて増殖され得る。3D培養としては、いわゆる足場フリーおよび足場ベースの技術が挙げられる。足場フリーの方法では、限定されないが、低接着プレート、ハンギングドロッププレート、マイクロパターン化表面ならびに回転式バイオリアクター、磁気浮上および磁気3Dバイオプリンティングの使用が用いられる。足場は、細胞の付着および一部の場合では分化のための構造的支持を提供する構造体または材質である。足場としては、固形の足場、スポンジ(例えば、セルローススポンジ)、タンパク質ベースの足場(例えば、コラーゲンまたはゼラチンベースの足場)、ハイドロゲル、ナノファイバーの足場、合成ポリマーの足場(例えば、ポリカプロラクトンまたはポリスチレンの足場)が挙げられる。一般に、培養環境は、細胞増殖、細胞密度および細胞接触のための基材、気相、培地ならびに温度などの要素の考慮を含む。培養状態の細胞は一般的に、細胞増殖に最適であることがわかっている条件下で維持される。かかる条件としては、例えばおよそ37℃の温度およびおよそ5%のCO2を含む加湿雰囲気が挙げられ得る。インキュベーションの持続期間は、所望される結果に応じて広く異なり得る。
【0039】
用語「培地」、「培養培地」、「培養液」、「増殖培地」ならびにその関連用語および関連表現は、細胞(単一の細胞および複数の細胞を含む)、組織、器官もしくはその一部または胚性構造体(例えば限定されないが、桑実胚、胞胚腔、胚盤胞もしくは胚)の生存および/または増殖を支える培地を示す。培地は典型的には等張性であり、液状物、コロイド液状物、ゲル、固形物および/または半固形物であり得る。培地は、細胞の接着もしくは支持のためのマトリックスが提供されるように構成され得るか、または別個の支持体(例えば、培養槽表面もしくは足場)が提供され得る。培地には、細胞(1つまたは複数)を培養するのに必要な栄養的、化学的および構造的支持のための成分が含まれ得る。既知組成培地(または「規定培地」)は、そのすべての化学成分の濃度が既知である培地である。対照的に、未規定(undefined)培地は、完全に規定される組成を有しない複雑な生体成分、例えば血清アルブミンまたは血清を含むものであり得る。条件培地は、以前に細胞の培養で使用した培地であると理解されたい。これは、かかる条件培地の後続の使用に有益であり得る代謝産物、増殖因子、および培養細胞によって培地中に分泌された細胞外マトリックスタンパク質を含む。培養培地は、使用前に調製される粉末化形態、使用前に希釈される濃縮形態、またはさらなる希釈なしで使用される形態で準備され得る。例えば、培養培地は、さらなる希釈なしで使用される「作業溶液」として供給される滅菌された液状物であり得、この場合、培養培地。培養培地の作業溶液には有効量または有効濃度の1種類またはそれより多くの添加剤が含有され得る。別の例では、培養培地は、有効量の1種類またはそれより多くの添加剤を含有しているゲルであり得る。培養培地がさらなる調製を必要とする形態、例えば粉末または濃縮物で準備される場合、培地を調製した後、1種類またはそれより多くが、有効量(1つまたは複数)となることを意図する量または濃度で含められ得る。例えば、2倍濃縮培地には、最終の「作業」形態の培地中に含まれていることが意図される有効量(1つまたは複数)の2倍の1種類またはそれより多くの添加剤が含有され得る。培養培地には典型的には、支持することが意図される細胞、例えば哺乳動物細胞、例えばヒト細胞の増殖および/または維持のための1種類またはそれより多くの適切な栄養供給源が含有される。培養培地では適切なpHおよび容量オスモル濃度が維持される。培養培地には天然成分、人工成分および/または合成成分が含有され得る。天然成分の例は生体液(例えば、血漿、血清、リンパ液または羊水)、組織抽出物(例えば、肝臓、脾臓、腫瘍、白血球、骨髄または動物胚の抽出物)である。人工成分で構成された培養培地(「人工培地」)の例はMEMおよびDMEMである。人工培養培地は、血清含有培養培地、無血清培養培地(これは、規定品質の精製された増殖因子、リポタンパク質および血清によってもたらされる他の成分を含有するものであり得る)、既知組成培養培地またはタンパク質フリー培養培地であり得る。培養培地には、バッファー、1種類またはそれより多くの無機塩、必須アミノ酸、1種類またはそれより多くの炭水化物、例えばグルコース、脂肪酸、脂質、ビタミン類および微量元素のうちの1種類またはそれより多くが含まれ得る。バッファーの一例は、気相のCO2と培養物のCO3
2-/HCO3-含有量とのバランスがとれているいわゆる天然の緩衝系である。別の例は化学的緩衝系、例えば両性イオン緩衝剤である4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンエタンスルホン酸(HEPES)が使用されたものである。培養培地に、細胞増殖中のpHモニタリングを可能にするpH指示薬、例えばフェノールレッドを含有させてもよい。培養培地中の無機塩(1種類または複数種)により、ナトリウムイオン、カリウムイオンおよびカルシウムイオンが供給され、浸透圧バランスがもたらされ、細胞膜電位の調節が補助される。細胞では合成され得ない必須アミノ酸が培養培地中に含められるが、非必須アミノ酸もまた、細胞の増殖およびバイアビリティを改善するために含められる場合もあり得る。炭水化物、例えばグルコース、ガラクトース、マルトースまたはフルクトースはエネルギー供給源として含められる。タンパク質およびペプチド、例えばアルブミン、トランスフェリンまたはフィブロネクチンもまた含められ得るとともに、脂肪酸および脂質も特に無血清培地中に含められ得る。また、細胞の成長および増殖に必須のビタミン類、例えばB群のビタミン類も含めてもよい。培養培地、特に無血清培地に添加される微量元素の例は銅、亜鉛およびセレンである。一例の培養培地は市販の培地、例えば限定されないが、Essential 8 Medium、CTS Essential 8 Medium、Essential 6 Medium、StemFlex Medium、CTS KnockOut SR Xeno-free Medium、KnockOut Serum Replacement、StemPro、mTeSR、mTeSRl、StemFit、Nutristem、L7 Medium、iPS-Brew、NeurobasalまたはBrainPhysである。
【0040】
細胞培養物との関連において、用語「解離すること」は、細胞を他の細胞から、または表面、例えば培養プレート表面から離すプロセスを示し得る。例えば、細胞は器官または組織から機械的または酵素的方法によって解離され得る。別の例では、インビトロで凝集する細胞が互いに解離され得る。また別の例では、接着細胞が、培養プレートまたは他の表面から解離される。解離は、細胞外マトリックス(ECM)および基材(例えば、培養表面)との細胞の相互作用の破壊または細胞間のECMの破壊を伴う場合があり得る。
【0041】
「幹細胞」は、有糸分裂での細胞分裂による自己再生能および組織または器官に分化する潜在能力を特徴とする細胞である。幹細胞の中でも、胚性幹細胞および体性幹細胞は区別され得る。例えば、哺乳動物の胚性幹細胞は胚盤胞に存在して胚性組織となり得るが、体性幹細胞は、組織の再生および修復の目的で成体組織に存在し得る。
【0042】
用語「細胞株」は典型的には、多細胞生物体の単一の細胞から生成させた細胞培養物を示す。細胞株の細胞は比較的一様な遺伝子構造を有する。一部の細胞株は起源が幹細胞である。一部の細胞株は起源が、制御不能な増殖に至る遺伝子改変(例えば、1つもしくはそれより多くの変異またはウイルス遺伝子の導入)を受けた天然に存在している癌性細胞である。一部の細胞株は起源が、種々の方法によって人工的に不死化されている細胞である。
【0043】
用語「幹細胞」ならびにその関連用語および関連表現は、本明細書において、長期間の分裂および自己再生を行なうことができ、特殊化されておらず、かつ特殊化細胞型となることができる動物細胞を示すために用いている。幹細胞は長期間の分裂/自己再生能を有する。例えば、通常、自己複製しない筋肉細胞、血液細胞または神経細胞とは異なり、幹細胞は、多数回、複製され得るか、または増殖し得る。得られる細胞が、親幹細胞のように継続的に特殊化されない場合、この細胞は長期自己再生できると言える。
【0044】
用語「自己再生」は、細胞に対する言及において用いる場合、分裂して、親細胞の自己再生の特徴を有する少なくとも1個の娘細胞を生成する能力を示すが、1つまたはそれより多くの他の娘細胞が特定の分化経路に拘束される場合もあり得る。例えば、自己再生性の造血幹細胞は、分裂して1個の娘幹細胞と、骨髄系またはリンパ系の経路での分化に拘束される別の娘細胞を形成し得る。非自己再生性の細胞は、依然として細胞分裂を行なって娘細胞をもたらすことができ、娘細胞はいずれも親細胞型の分化潜在能力を有していないが、その代わりに分化した娘細胞を生成させる。
【0045】
用語「多能性の」、「多能性」ならびにその関連用語および関連表現は、動物の細胞または細胞集団が、適切な条件下で、3つすべての胚葉(内胚葉、中胚葉および外胚葉)由来の細胞系統と関連している特徴を集合的に示す細胞型への分化を行なうことができる子孫を生じる能力を有することを示す。例えば、表現「多能性幹細胞の特徴」は、他の細胞由来の多能性幹細胞またはその集団と識別される細胞または細胞集団の特徴を示す。適切な条件下で、3つすべての胚葉(内胚葉、中胚葉および外胚葉)由来の細胞系統と関連している特徴を集合的に示す細胞型への分化を行なうことができる子孫を生じる能力は多能性幹細胞の特徴である。細胞の形態構造ならびに特定の組合せの分子マーカーの発現または無発現もまた多能性幹細胞の特徴である。多能性幹細胞(PSC)としては、胚性幹細胞(ESC)および人工多能性幹細胞(iPSC)が挙げられる。胚性幹細胞(ESC)は胚に由来し、適切な条件下では、培養状態で未分化の(特殊化されていない)ままであり得る。胚性幹細胞株は数ヶ月~数年間、分化せずに増殖が可能な条件下で培養されたESC株である。他の条件下では、例えば細胞が一体に塊となって胚様体を形成することが許容される場合、該細胞は自発的に分化し始める。
【0046】
「成体幹細胞」は、「体性幹細胞」と称される場合もあり得、これは、生物体において組織または器官の分化細胞にみられる幹細胞であり、分化して組織または器官の一部または全部の特殊化細胞時間をもたらし得る。体性幹細胞は培養状態で増殖し得る。特殊化細胞に分化した場合、これは典型的には「前駆体」または「前駆」細胞と称される中間細胞を生成する。体性幹細胞および前駆細胞は、その分化能の度合いに応じて「複能性」または「少能性」と記載され得る。体性幹細胞の一例は:すべての型の血液細胞(赤血球、Bリンパ球、Tリンパ球、ナチュラルキラー細胞、好中球、好塩基球、好酸球、単球およびマクロファージ)を生じる造血幹細胞;骨髄間質幹細胞および骨格幹細胞を含み、骨細胞(骨芽細胞および骨細胞)、軟骨の細胞(軟骨細胞)、脂肪の細胞(脂肪細胞)、および血液の形成をサポートする間質細胞を生じ得る間葉系幹細胞;神経細胞(ニューロン)、星状細胞および希突起膠細胞を生じ得る神経幹細胞;吸収細胞、杯細胞、パネート細胞および腸内分泌細胞を生じ得る、消化管内膜の上皮幹細胞;表皮の基底層に存在する(およびケラチノサイトを生じ得る)皮膚幹細胞ならびに毛包基部に存在する(および毛包と表皮の両方を生じ得る)皮膚幹細胞である。組織特異的前駆細胞は、自己再生潜在能力がなく、特定の器官または組織の細胞への分化に拘束される細胞である。一部の特定の体性幹細胞型は、体性幹細胞の起源から予測されるもの以外の器官または組織にみられる細胞型に分化し得る。この現象は「分化転換」と称される。
【0047】
用語「神経堤細胞(neural crest cells)」(単数形は「神経堤細胞(neural crest cell)」は、胚発生初期に一時的に存在する、神経板と非神経外胚葉の境界部の特定の細胞を示す。これは複能性幹細胞とみなされ得る。神経堤細胞は、侵害受容器などのほとんどの末梢神経系ならびに種々の非神経細胞型および組織、例えば平滑筋細胞、皮膚の色素細胞、頭蓋顔面骨、軟骨および結合組織を生じる。神経堤細胞は、発生中、体細胞のボディプランがまだ確立されていない時点において一時的に存在する。したがって、これは一般的には体性幹細胞とみなされない。
【0048】
表現「人工多能性幹細胞」(iPSC)は、非多能性細胞から人工的に誘導された多能性幹細胞を示す。例えば、ヒトiPSCは、ヒトの非多能性細胞から人工的に誘導されたものである。iPSCは、特定の多能性関連遺伝子セットの産物または「リプログラミング因子」を所与の細胞型に導入すること、および/または非多能性細胞を特定の条件に曝露することにより誘導され得る。
【0049】
用語「非多能性細胞」は、多能性細胞でない哺乳動物細胞を示す。かかる細胞の例としては、分化細胞、体性幹細胞ならびに前駆細胞が挙げられる。一部の非多能性細胞はある程度の分化能を維持しており、その一例は体性幹細胞および前駆細胞である。
【0050】
「細胞の分化能」は、細胞が他の細胞型に分化する能力を示す。細胞は、多能性細胞、複能性細胞(これは、すべてではないがいくつかの細胞型、例えば臍帯血幹細胞および間葉系幹細胞に分化し得る)または少能性細胞(少数の細胞型、例えばリンパ系細胞もしくは血管系細胞に分化する能力を有する)であると表示され得る。現在の理解では、分化能は連続的に存在する。したがって、分化能に基づく細胞分裂間の境目は流動的であり得、必ずしも限定されるものでない。
【0051】
用語「前駆細胞」または「前駆体細胞」は、本明細書で用いる場合、典型的に分化して1つまたはそれより多くの種類の細胞を形成し得る細胞を示す。「前駆体細胞」または「前駆細胞」は、より成熟した細胞に分化できる、細胞分化経路内の任意の細胞であり得る。前駆細胞は、生物体から採取された初代細胞、培養状態で増殖させた細胞または幹細胞に由来する細胞であり得る。前駆細胞は、初期の子孫または多能性幹細胞または多能性細胞自体であってもよい。また、前駆細胞は、一部分化した複能性細胞または可逆的に分化した細胞であってもよい。用語「前駆体細胞集団」は、より成熟した細胞型または分化した細胞型に発達できる細胞群を示す。前駆体細胞集団は、多能性である細胞、幹細胞系統限定性である細胞(発達できる系統がすべてに満たない細胞、または例えばニューロン系統の細胞のみに発達できる細胞)、および可逆的に幹細胞系統限定性である細胞を含み得る。したがって、用語「前駆細胞」または「前駆体細胞」は、「多能性細胞」または「複能性細胞」であり得る。
【0052】
「分化」は、特殊性の低い細胞がより特殊化された細胞型になるプロセスである。例えば、多細胞動物の発生初期は胚細胞の急速な増殖を特徴とし、次いでこれは分化し、多細胞動物の組織および器官を構成する多くの特殊化された型の細胞をもたらす。細胞が分化するにつれて、その増殖速度は通常、低下する。一部の型の分化細胞は絶対に再度分裂しないが、多くの分化細胞は、傷害または細胞死の結果、失われた細胞の代替が必要とされたときに増殖を再開することができる。一部の細胞は、成体の多細胞動物において一生を通して継続的に分裂し、高いターンオーバー速度を有する細胞と置き換わる。分化細胞の例としては、限定されないが、骨髄、皮膚、骨格筋、脂肪組織および末梢血から選択される組織由来の細胞が挙げられる。例示的な分化細胞型としては、限定されないが、線維芽細胞、肝細胞、筋芽細胞、ニューロン、骨芽細胞、破骨細胞およびリンパ球が挙げられる。
【0053】
表現「改変細胞」ならびにその関連用語および関連表現は、元の細胞または由来する細胞と比較したとき任意の方法によって人工的に改変されている細胞から誘導されているか、または誘導されるあらゆる細胞を包含する。改変細胞は、初代細胞、二次細胞、幹細胞、培養細胞および/または他の改変細胞から作製され得る。改変としては、限定されないが、遺伝子改変または遺伝子改変操作が挙げられ、この場合、改変細胞は「遺伝子改変されている」または「遺伝子操作されている」と称され得る。遺伝子改変は、改変対象の細胞内への外来核酸または異種核酸の組込みをもたらす種々の方法によって行なわれ得る。かかる方法の一例は、ウイルスもしくはウイルスベクターによる形質導入、または細胞膜の一時的の孔からの細胞内への単離核酸のトランスフェクションである。他の改変としては、供給源細胞を生物学的および非生物学的な分子もしくは因子または培養条件に曝露することが挙げられる。改変細胞の一例はiPSC、遺伝子改変細胞、例えば遺伝子治療のために使用されるものであり、一例は、遺伝子編集細胞、例えばCRISPR/Cas9、TALENまたはZFNを用いて改変されたものである。
【0054】
用語「槽」は、細胞、細胞群、組織または器官をエクスビボまたはインビトロで培養、維持または増殖させるために使用され得る容器、皿、プレート、フラスコ、ビン、細胞培養チューブ、バイオリアクターなどを示す。好適な槽としては、例えばマルチウェルプレート、マルチウェルプレートのウェル、皿、チューブ、フラスコ、ビンおよびリアクターが挙げられる。
【0055】
細胞に対する言及において用いる用語「安定化させる」ならびにその関連用語および関連表現(例えば、「細胞を安定化させる」)は、負の細胞応答、例えば細胞死または老化を低減させることを示す。例えば、幹細胞および他の細胞は、細胞の継代、解離、単離、凍結および/または解凍に応答して死滅する場合があり得る。換言すると、上記の条件は細胞のバイアビリティを低下させ得る。本明細書に記載の組成物、方法およびキットの諸実施形態は、細胞のバイアビリティの低下を緩和して細胞の生存を改善することができるものであり、これを細胞の安定化と記載している場合があり得る。
【0056】
本明細書で用いる用語「回転楕円体」、「球体」または「ノシスフェア」ならびにその関連用語および関連表現は、本文書において、未分化細胞および/または分化細胞の自己集合性浮遊細胞の凝集塊を示すために使用され得、これは、低付着性プレート、スピナーフラスコまたは他の槽内にて懸濁状態で増殖し得る。
【0057】
本明細書で用いる場合、「マーカー」は、観察または検出することができる任意の分子を示す。例えば、マーカーとしては、限定されないが、核酸、例えば特定の遺伝子の転写物、遺伝子のポリペプチド産物、非遺伝子産物であるポリペプチド、糖タンパク質、炭水化物、糖脂質、脂質、リポタンパク質または小分子(例えば、10,000AMU未満の分子量を有する分子)が挙げられ得る。
【0058】
細胞の発達または分化の観察可能なマーカーとの関連において、「発現」は、遺伝子産物(これは、核酸、例えばRNAまたはタンパク質であり得る)の産生ならびに遺伝子産物の産生レベルまたは産生量を示す。したがって、特定のマーカーの発現を調べることは、発現されるマーカーの相対量もしくは絶対量のいずれかを検出すること、または単にマーカーの有無を検出することを示す。本明細書に記載のほとんどのマーカーについて、示した記号は、欧州バイオインフォマティクス研究所のHUGOのヒトゲノム命名法委員会(Gene Nomenclature Committee)によって作成された、および/または認められたものである。
【0059】
用語「凍結保存」ならびに関連する用語および表現は、細胞、細胞群または細胞培養物が、氷点下の温度まで冷却することによって保存されるプロセス(1つまたは複数)ならびにかかるプロセス(1つまたは複数)の結果であることを示すために用いている。
【0060】
方法
種々の方法(プロセス)が想定され、本発明の諸実施形態に含まれる。中でも、本発明の諸実施形態による方法は、少なくともいくつかの規定の特徴を有する細胞または該細胞を含む細胞培養物の培養状態の細胞を作製する方法である。また、かかる方法は、「細胞の作製方法」、「細胞培養物の作製方法」、「作成する方法」、「培養する方法」、「分化させる方法」、「分化方法」、「分化プロセス」ならびに他の関連する用語および語句によって言及され得、これらは、細胞または細胞培養物を作製する方法に対する言及において互換的に使用され得る。かかる方法の一例は、さらには侵害受容器細胞の少なくとも一部の特徴を示す細胞に分化できる複能性細胞を作製または作成する方法である。かかる方法によって作製される複能性細胞は、神経堤細胞の少なくとも一部の特徴、例えばSOX10の発現を示す。したがって、かかる複能性細胞は、「神経堤細胞の少なくとも一部の特徴を示す細胞」、「神経堤様細胞」、「神経堤細胞に似た細胞」ならびに他の関連する用語および表現によって言及され得る。神経堤細胞の少なくとも一部の特徴を示す細胞を、当該特徴とともに本文書においてさらに論考する。本発明の諸実施形態による方法のもう1つの例は、侵害受容器細胞の少なくとも一部の特徴、例えば1種類またはそれより多くのイオンチャネル、受容体などの発現を示す細胞を作製または作成する方法である。本発明の方法の諸実施形態に従って作製される侵害受容器細胞の少なくとも一部の特徴を示す細胞もまた、「侵害受容器様細胞」、「侵害受容器に似た細胞」ならびに他の関連する用語および表現によって言及され得る。侵害受容器細胞の少なくとも一部の特徴を示す細胞を、当該特徴とともに本文書においてさらに論考する。細胞の作製に関連する本発明の上記の実施形態および他の実施形態による方法は培養状態で実施され、「培養する方法」または「培養する」と称される場合もあり得る。かかる方法は典型的には、出発物質または中間生成物として分化能が高い低分化細胞(例えば、多能性細胞、前駆細胞、複能性細胞または少能性細胞)から進行させ、中間生成物および/または最終生成物として分化能が低いより分化した細胞(例えば、複能性細胞、前駆細胞、少能性細胞または分化細胞)に進行させる。したがって、該方法は、最終生成物が、完全に分化していない細胞であるか、あるいは該細胞を含む場合であっても、「細胞を分化させる方法」と称され得る。
【0061】
一部の例示的な実施形態において、該方法では多能性幹細胞(PSC)が出発物質として使用される。かかるPSCは、脊椎動物PSC、例えば哺乳動物PSCまたはヒトPSC(hPSC)であり得る。本発明の諸実施形態による方法に使用されるPSCは天然供給源から単離されたものであってもよく、人工的に誘導されたPSC、例えば人工PSC(iPSC)であってもよい。したがって、該方法は、「PSCを分化させる方法」、例えばhPSCを分化させる方法、PSCを分化させる方法などと称され得る。PSCは、規定培地、例えば限定されないが、E8、E8 Flex、StemFlex、StemPro、mTeSR、mTeSRl、StemFit、Nutristem、L7 MediumまたはiPS-Brew中での培養状態で、例えば単層培養系または適切な3D培養系(例えば、マイクロキャリアを使用するもの)で維持され、拡大培養され得る。上記のPSCの維持および/または拡大培養は、本発明の諸実施形態による方法の一部として実施してもよく、かかる方法とは別に実施してもよい。換言すると、本発明の諸実施形態による細胞の作製方法は、さらなる工程に使用するPSCを得るために用いた工程またはプロセスによって制限されないことを明示的に記載していない限り、かかる制限を受けない。例えば、PSCが、さらなる制限なしに単に出発物質である、または「準備された」と記載されているならば、PSCを得るため、培養するため、拡大培養するため、または増殖させるために使用したプロセスが当該方法に組み込まれていることは意図されていない。PSCは、例えば、著明な核小体および/または高い核・細胞質比、コロニー状での細胞増殖、ならびに多能性関連マーカー、例えば限定されないが、OCT3/4、NANOG、SSEA-4、TRA-1-60、TRA-1-81および/またはアルカリホスファターゼの発現が挙げられ得る典型的なPSCの形態構造を示す単層培養物の形態で準備され得る。別の例では、PSCは、3D培養物の形態またはマイクロキャリアに付着した形態で準備され得る。
【0062】
本発明の諸実施形態による細胞の作製方法は、規定培地中で脊椎動物PSC(これはESCまたはiPSCであってもよい)、例えばヒトPSCをインキュベートする工程を含み得る。インキュベートされるPSCは、本発明の諸実施形態による細胞の作製方法の開始時におけるコンフルエンスが>90%で準備され得る接着単層培養物の形態であり得る。PSCをインキュベートするのに適した規定培地の非限定的な一例はE6、DMEM/F12およびDMEM/KnockOutである。規定培地は、有効量または有効濃度のWNTシグナル伝達を活性化できる少なくとも1種類の化合物(WNTアクチベータ)、例えば20nM~20μMもしくは100nM~10μM(一例では、1μM)のCHIR98014または20nM~20μMもしくは100nM~10μM(一例では、1μM)のCHIR99021、および有効量または有効濃度のTGF-ベータシグナル伝達を阻害できる少なくとも1種類の化合物、例えば20nM~20μMもしくは100nM~10μM(一例では、2μM)のA83-01または20nM~40μMもしくは100nM~40μM(一例では、2μM)のSB431542を含有している。WNTシグナル伝達を活性化できる化合物とTGF-ベータシグナル伝達を阻害できる化合物の一方または両方が、小分子またはペプチド分子もしくはタンパク質分子であり得る(これらはいずれも、天然供給源から抽出されたものであっても、化学的に作製されたものであっても、生化学的に作製されたものであっても、組換え産生されたものであってもよい;例えば、組換えタンパク質WNT3A、WNT5AなどがWNTシグナル伝達を活性化させるために使用され得る)ことは理解されよう。PSCの単層培養物をインキュベートするための期間はおよそ24~およそ144時間、およそ48~およそ112時間、およそ64~およそ80時間またはおよそ72時間(例えば、72時間±7.2時間)である。該方法の一部の実施形態では、骨形成タンパク質(BMP)タンパク質経路を活性化または阻害する添加剤、例えば骨形成タンパク質4(BMP4)を、PSCをインキュベートする培地中に使用しない。換言すると、PSCをインキュベートする培地は、外来的に補給される、骨形成タンパク質(BMP)タンパク質経路を活性化または阻害する添加剤、例えば骨形成タンパク質4(BMP4)、BMP2、BMP経路の小分子阻害薬、例えばドルソモルフィンまたはLDN193181などを無含有または実質的に無含有の状態である。
【0063】
上記のインキュベーション工程後、単層培養物の分化中のPSC(分化は進行中で完了していないため、この時点の細胞は分化中のPSCと記載するのが適切である)が例えば酵素的解離によって解離される。酵素的解離は、インキュベーション培地をプレートから除去し、プレートにバッファー、例えばPBSおよび酵素的解離試薬、例えば、Thermo Fisher Scientificから入手可能なAccutase、TrypLEまたはTrypsinを添加し、細胞をバッファーおよび解離試薬とともに適切な条件下でインキュベートし、得られた単一の細胞を遠心分離、沈降、濾過または他の適切な方法によって回収することにより行なわれ得る。解離された細胞は、同様または同等の非コートまたは超低付着性のセルまたはフラスコ内に、いわゆる「1:1トランスファー」手順を用いて移される。例えば、6ウェルプレートから解離された細胞は、同様の6ウェル超低付着性プレート内に移され得る。別の例では、コートフラスコ、例えばT75またはT175フラスコ(Corning)からの細胞は、同数の非コートまたは超低付着性のT75またはT175フラスコ内に移され得る。移された後、細胞は、ノシスフェアの形成に至る条件下で培養される。ノシスフェアは分化中の細胞の自己集合性浮遊細胞の凝集塊であり、その少なくとも一部は、本文書においてさらに記載する方法工程に供した場合に侵害受容器様細胞をもたらす神経堤様(本文書中の別の箇所で論考しているとおり)である。
【0064】
一例において、ノシスフェアの形成に至る培養条件としては、少なくとも以下のもの:有効量または有効濃度のWNTシグナル伝達を活性化できる少なくとも1種類の化合物(WNTアクチベータ)、例えば20nM~20μMもしくは100nM~10μM(一例では、1μM)のCHIR98014または20nM~20μMもしくは100nM~10μM(一例では、1μM)のCHIR99021;有効量または有効濃度のTGF-ベータシグナル伝達を阻害できる少なくとも1種類の化合物、例えば20nM~20μMもしくは100nM~10μM(一例では、2μM)のA83-01または20nM~40μMもしくは100nM~40μM(一例では、2μM)のSB431542;有効量または有効濃度のNotch-経路阻害薬である少なくとも1種類の化合物、例えば20nM~20μMもしくは100nM~10μM(一例では、1μM)のガンマ-セクレターゼ阻害薬DBZ、5nM~50μMもしくは100nM~50μM(一例では、1μM)のDAPT、2nM~20μMもしくは100nM~10μM(一例では、1μM)のLY411575または2nM~20μMもしくは100nM~10μM(一例では、1μM)のLY3039478、および有効量または有効濃度のFGFR/VEGFR/MAPキナーゼ経路阻害薬である少なくとも1種類の化合物、例えば2nM~20μMもしくは2nM~5μM(一例では、25nM)のPD173074または2nM~20μMもしくは2nM~10μM(一例では、25nM)のSU5402が補給された規定培地、例えば限定されないが、E6、DMEM/F12またはKnockout DMEM中でのインキュベーションが挙げられる。WNTシグナル伝達を活性化できる化合物、TGF-ベータシグナル伝達を阻害できる化合物、Notch-経路阻害薬である化合物またはFGFR/VEGFR/MAPキナーゼ経路阻害薬である化合物のうちの1種類またはそれより多くが、小分子またはペプチド分子もしくはタンパク質分子の任意の組合せであり得る(これらはいずれも、天然供給源から抽出されたものであっても、化学的に作製されたものであっても、生化学的に作製されたものであっても、組換え産生されたものであってもよい;例えば、組換えタンパク質WNT3A、WNT5AなどがWNTシグナル伝達を活性化させるために使用され得る)ことは理解されよう。一部の実施形態では、規定培地に、CDK4/6阻害薬であり、およそ2nM~およそ20μM、例えば1μMの濃度で使用されるPD0332991または任意の他の小分子、タンパク質もしくはペプチド(これらはいずれも、化学的に作製されたものであっても、生化学的に作製されたものであっても、組換え産生されたものであってもよい)であるCDK 4/6阻害薬がさらに補給され得る。該方法の一部の実施形態では、骨形成タンパク質(BMP)タンパク質経路を活性化または阻害する化合物、例えば骨形成タンパク質4(BMP4)またはBMPタンパク質経路の小分子阻害薬、例えばドルソモルフィンもしくはLDN193189を、ノシスフェアを形成するためにPSCを培養する培地に使用しない(または非存在)。ノシスフェアの形成中、添加剤を含有している培地は、およそ12~36時間毎、例えばおよそ24時間毎に交換され得る。ノシスフェアの形成に至る培養は、およそ168~およそ432時間、例えばおよそ168時間、およそ192時間、およそ216時間、およそ240時間、およそ264時間、およそ288時間、およそ312時間、およそ336時間、およそ360時間、およそ384時間、およそ408時間またはおよそ432時間実施される。一例では、培養は258~260時間実施される。ノシスフェアの形成のための上記の条件は例示的であり、バイアブルな浮遊ノシスフェアを作成および維持するのに他の条件を使用してもよいことは理解されよう。ノシスフェアは、さまざまな割合の神経堤様細胞(これはSOX10の発現を特徴とし得る)と侵害受容器様細胞(これはBRN3Aの発現を特徴とし得る)を含有するものであり得る。一例では、ノシスフェアは、およそ50%、およそ60%、およそ70%、およそ80%、およそ90%または90%を超える神経堤様細胞を含有するものであり得る。別の例では、ノシスフェアは、およそ50%、およそ40%、およそ30%、およそ20%、およそ10%または10%未満の侵害受容器様細胞を含有するものであり得る。
【0065】
ノシスフェアの形成工程後、ノシスフェアは、例えば酵素的解離によって解離される。解離されたノシスフェア細胞は次いで、単層培養物の状態で培養される。ノシスフェアを、解離の前または後および単層培養物の状態での培養の前に凍結保存してもよい。単層培養物の状態での培養は、数日間~数ヶ月間を包含する期間、実施され得る。例えば、細胞は、少なくともおよそ24時間(1日)、およそ24時間(1日)、少なくともおよそ48時間(2日間)、およそ48時間(2日間)、少なくともおよそ72時間(3日間)、およそ72時間(3日間)、少なくともおよそ96時間(4日間)、およそ96時間(4日間)、少なくともおよそ120時間(5日間)、120時間(5日間)、少なくともおよそ144時間(6日間)、144時間(6日間)、少なくともおよそ168時間(7日間)、168時間(7日間)、少なくともおよそ192時間(8日間)、192時間(8日間)、少なくともおよそ216時間(9日間)、216時間(9日間)、少なくともおよそ240時間(10日間)、240時間(10日間)、少なくともおよそ264時間(11日間)、264時間(11日間)、少なくともおよそ288時間(12日間)、288時間(12日間)、少なくともおよそ312時間(13日間)、312時間(13日間)、少なくともおよそ336時間(14日間)、336時間(14日間)などの間、培養され得る。単層培養物の状態での培養は、培養細胞を回収するときに終了され得る。培養細胞は凍結保存され得るか、本文書中の別の箇所に一例を記載した種々の用途に使用され得るか、またはさらなる培養に使用され得る。一例では、培養はおよそ168~336時間、実施される。例えば、解離された該ノシスフェア細胞は、適切なサプリメントまたはサプリメントの組合せが補給された適切な培地、例えばDMEM/F12中で培養され得る。一例では、N2サプリメントとB27サプリメントの組合せが使用され得る。別の例では、N2サプリメントとB27サプリメント(ビタミンAなし)の組合せの組合せが使用され得る。さらなる一例では、N2サプリメント、B27サプリメント(ビタミンAなし)の組合せが使用され得、BDNF、GDNF、NGFおよびNT-3が使用され得る。またさらなる一例では、上記のサプリメントの組合せのいずれかが、CDK4/6阻害薬であり、およそ2nM~およそ20μM、例えば1μMの濃度で使用されるPD0332991または任意の他の小分子、タンパク質もしくはペプチド(これらはいずれも、化学的に作製されたものであっても、生化学的に作製されたものであっても、組換え産生されたものであってもよい)であるCDK 4/6阻害薬との組合せで(in combination if)さらに使用され得る。一部の実施形態では、サプリメントが:有効量または有効濃度のNotch-経路阻害薬である少なくとも1種類の化合物、例えば20nM~20μMもしくは100nM~10μM(一例では、1μM)のガンマ-セクレターゼ阻害薬DBZ、5nM~50μMもしくは100nM~50μM(一例では、1μM)のDAPT、2nM~20μMもしくは100nM~10μM(一例では、1μM)のLY411575または2nM~20μMもしくは100nM~10μM(一例では、1μM)のLY3039478、および有効量または有効濃度のFGFR/VEGFR/MAPキナーゼ経路阻害薬である少なくとも1種類の化合物、例えば2nM~20μMもしくは2nM~5μM(一例では、25nM)のPD173074または2nM~20μMもしくは2nM~10μM(一例では、25nM)のSU5402、および有効濃度量のCDK4/6阻害薬である少なくとも1種類の化合物、例えば(such as if)およそ2nM~およそ20μM、例えば1μMの濃度で使用されるPD0332991のうちの1種類またはそれより多くを含む。Notch-経路阻害薬である化合物、FGFR/VEGFR/MAPキナーゼ経路阻害薬である化合物またはCDK4/6阻害薬である化合物より多くのうちの1つ(one of more of)が、小分子またはペプチド分子もしくはタンパク質分子の任意の組合せであり得る(これらはいずれも、天然供給源から抽出されたものであっても、化学的に作製されたものであっても、生化学的に作製されたものであっても、組換え産生されたものであってもよい)ことは理解されよう。解離されたノシスフェア細胞を単層培養物の状態で培養することにより、天然の神経堤細胞の少なくとも一部の特徴、例えばSOX10発現を示す神経堤様細胞と、天然に存在している侵害受容器の少なくとも一部の特徴、例えばBRN3A発現を示す侵害受容器様細胞の細胞を含有する培養物が生成する。換言すると、SOX10陽性神経堤様細胞とBRN3A陽性侵害受容器様細胞の両方が作成され、解離されたノシスフェア細胞の培養物中に共存し得る。例えば、解離されたノシスフェア細胞の培養の開始時、培養物は、SOX10発現細胞とBRN3A発現細胞の種々の割合の混合物を含有するものであり得、この割合は培養過程で変化し得る。一例では、培養物開始時のノシスフェアの解離された細胞の培養物は、およそ50%、およそ60%、およそ70%、およそ80%、およそ90%または90%を超えるSOX-10発現細胞を含有するものであり得る 別の例では、培養物開始時のノシスフェアの解離された細胞の培養物は、およそ50%、およそ40%、およそ30%、およそ20%、およそ10%または10%未満のBRN3A発現細胞を含有するものであり得るを含有するものであり得る。上記の割合は、神経堤様細胞の侵害受容器様細胞への分化が起こるため培養物が変化する過程で変化し得る。実例の1つとして、培養物開始時、ノシスフェアの解離された細胞の培養物はおよそ60%のSOX10発現細胞とおよそ40%のBRN3A発現細胞を含有するものであり得るが、14日後、同培養物は、およそ80%のSOX10発現細胞とおよそ20%のBRN3A発現細胞を含有するものとなり得る。
【0066】
侵害受容器細胞の該少なくとも一部の特徴を示す細胞(侵害受容器様細胞)に分化できる神経堤細胞の少なくとも一部の特徴を示す細胞(神経堤様細胞)ならびに神経堤様細胞と侵害受容器様細胞の混合物(例えば、ノシスフェアの形成工程で、または解離されたノシスフェア細胞の培養によって作製される)は、本発明の諸実施形態による方法のすべてではないがいくつかの方法の最終生成物であり得る。神経堤様細胞または神経堤様細胞と侵害受容器様細胞の混合物は、本発明の諸実施形態による一部の方法の中間体であり得、また、本発明の諸実施形態による他の一部の方法による出発物質でもあり得る。神経堤様細胞または神経堤様細胞と侵害受容器様細胞の混合物を凍結保存のために調製し、凍結保存してもよい。凍結保存に関連する方法工程を本発明の諸実施形態による細胞の作成方法に組み込んでもよい。凍結保存に関連する方法および組成物のいくつかを本出願書類の「凍結保存」のセクションにさらに記載しているが、該セクションに示した記載は限定するものではないこと、ならびに凍結保存に他の組成物および方法も使用され得ることは理解されよう。本発明による方法の一部の実施形態では、神経堤様細胞または神経堤様細胞と侵害受容器様細胞の混合物は、その数を増やすために培養され得る。例えば、凍結保存された細胞は解凍され、分裂促進因子、例えば線維芽細胞増殖因子2(FGF-2)および上皮成長因子(EGF)中で培養され得る。一例では、さらなる分化および成熟のため、神経堤様細胞または神経堤様細胞と侵害受容器様細胞の混合物は、コートプレート(例えばゲルトレックス、マトリゲルまたはラミニンでコートされたプレート)上で、N2サプリメント、B27サプリメント(ビタミンAなし)、BDNF、GDNF、NGF、NT-3および1μMのPD0332991が補給されたDMEM/F12を用いて培養され得る。
【0067】
神経堤細胞の少なくとも一部の特徴を示す細胞は、適切な条件下で、侵害受容器細胞の少なくとも一部の特徴を示す細胞に分化できる。侵害受容器細胞の少なくとも一部の特徴を示す細胞(侵害受容器様細胞)を培養状態で作製する方法は本発明の諸実施形態に含まれる。神経堤様細胞、またはかかる細胞を含む培養物は、かかる方法の出発物質または中間体であり得る。一例では、神経堤細胞の少なくとも一部の特徴を示す細胞(神経堤様細胞)を含む細胞は、侵害受容器細胞の該少なくとも一部の特徴を示す細胞(侵害受容器様細胞)への分化を誘導する条件下で培養される。したがって、上記の例をベースにした方法の一実施形態は、培養状態の神経堤様細胞を適切な培地中で適切な期間、増殖させる工程を含み得る。上記の増殖させる工程はまた、「成熟」、「分化」、「インキュベーション」または他の関連する用語および表現によって言及され得、これらは、明示的に記載していない限りさらなる制限を含意するものではない。インキュベーションは単層細胞培養の状態で実施され得るが、他の型の培養もまた使用され得、例えば3Dオルガノイドまたはバイオプリント組織を使用し、インビボ生体構造を模倣するための後根神経節を得ることもできる。本発明の諸実施形態による方法は、分化前の培養物を確立する工程、例えばインキュベーションのために神経堤様細胞をプレート上にプレーティングする工程を含み得る。単層細胞培養のために使用されるプレートは任意の適切な型のものであり得、一例は、コートされた細胞培養プレート、例えば限定されないが、ラミニン-コートプレート(Corning製BioCoat)またはCellBIND(Corning)である。インキュベーションのために使用される培地は任意の適切な型のものであり得、非限定的な一例はDMEM/F12、Neurobasal(Thermo Fisher Scientific)またはBrainPhys(Stem Cell Technologies)である。培地には、培養状態の細胞が神経細胞の特徴を示す細胞に分化することをサポートするのに有用な有効量または有効濃度の1種類またはそれより多くのサプリメントが補給され得る。かかるサプリメントの一例は:市販のサプリメント、例えばN2サプリメント(Thermo Fisher Scientificによって供給される100倍希釈する溶液)もしくはビタミンAなしのB27サプリメント(Thermo Fisher Scientificによって供給される50倍希釈する溶液);生体分子、例えば増殖因子、例えば脳由来神経栄養因子(BDNF)、グリア由来神経栄養因子(GDNF)、神経成長因子(NGF)、ニューロトロフィン-3(NT-3)、ミッドカインもしくはプレイオトロフィン;または小分子、例えばフォルスコリンおよび環状アデノシン一リン酸である。培養は、ある特定の条件下、例えばインビボ酸素含有量を模倣するための5%の低酸素条件下で行なわれ得る。
【0068】
神経堤様細胞の培養において種々の事象または展開が起こり得ることは理解されよう。例えば、神経堤様細胞は、侵害受容器様細胞または他の型の細胞に分化し得る。また、神経堤様細胞が、さらに分化せずに増殖し続けることもあり得る。かかる事象は、一部の神経堤様細胞が培養状態で分化しており、他の一部の神経堤様細胞がさらに分化せずに増殖し続けている、というように同時に起こっている場合もあり得る。種々の添加剤は、所望により、一部の該事象を促進させるため、および他の事象を抑止するために使用され得る。例えば、神経堤様細胞を、例えば凍結保存後、その数を増やすために培養する場合、神経堤様細胞の分化を抑止すること、および/または増殖を促進させることが望ましい。別の例では、神経堤様細胞を侵害受容器様細胞または他の細胞型に分化させるために培養する場合、分化を促進させること、および増殖を抑止することが望ましい。一部の実施形態では、神経堤様細胞の分化を促進させるために、種々の化合物が培地に分化工程中の種々の時点で添加され得る。かかる阻害薬は、種々の組合せで使用され得、その一例は:CDK4/6阻害薬、例えば2nM~20μMまたは100nM~10μM(一例では、1μM)のPD0332991が分化を促進させるために培地に添加され得る;FGF/VEGF/MAPキナーゼ経路阻害薬、例えば2nM~20μMもしくは2nM~5μM(一例では、25nM)のPD 173974または2nM~20μMもしくは2nM~10μM(一例では、500nM)のSU5402;Notch経路の阻害薬、例えば20nM~20μMもしくは100nM~10μM(一例では、1μM)のガンマ-セクレターゼ阻害薬DBZ、5nM~50μMもしくは100nM~50μM(一例では、1μM)のDAPT、2nM~20μMもしくは100nM~10μM(一例では、1μM)のLY411575または2nM~20μMもしくは100nM~10μM(一例では、1μM)のLY3039478である。一部の実施形態では、神経堤様細胞の優先的な増殖(自身の分化より)を達成するために、培地に分裂促進因子、例えば線維芽細胞増殖因子2(FGF-2)および上皮成長因子(EGF)が補給され得る。
【0069】
本記載の方法工程の効率は、限定されないが細胞増殖条件、添加剤濃度および諸工程のタイミングが挙げられる一部の特定のパラメータを修正することにより調整され得る。本明細書に記載の方法工程により、分化能が高い低分化細胞(例えば、多能性細胞、前駆細胞、複能性細胞または少能性細胞)の分化能が低いより分化した細胞(例えば、複能性細胞、前駆細胞、少能性細胞または分化細胞)への約5%、約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%または約95%より高い変換がもたらされ得る。上記の度合いの効率を特徴とし得る変換工程の例はPSCの神経堤様細胞への変換、神経堤様細胞の侵害受容器様細胞への変換、またはPSCの侵害受容器様細胞への変換である。一例では、100万個のPSCで開始すると、14日目に、200万~250万個のSOX10陽性神経堤様細胞とBRN3A陽性侵害受容器様細胞の混合物を得ることが可能である。28日目には、総細胞数が一定のままとなり得るが、増殖が抑止され、成熟が助長される場合、分化した侵害受容器様細胞の割合が高くなる。
【0070】
自動化
細胞培養の自動化された方法は本発明の諸実施形態に含まれる。また、本発明の自動化方法の諸実施形態を行なうため、またはその一部を行なうためのシステムも本発明の諸実施形態に含まれる。本発明の諸実施形態によるシステムは種々のステーションおよび/または構成要素を含み得、その一例を以下に記載する。本明細書で用いる場合、用語「ステーション」は広義に定義され、本発明の諸実施形態による方法を行なうのに適した任意の適切な装置または装置もしくは構成要素のアセンブリ、複合体もしくは集合体を包含する。ステーションは、互いになんら特定の様式で一体的に接続または設置される必要はない。本発明の諸実施形態によるシステムは、ステーション同士の任意の適切な配置を含み得る。例えば、ステーションは、同じ部屋にあることすら必要ない。しかしながら、一部の実施形態では、ステーションは統合ユニット内で互いに接続されている。
【0071】
本発明の諸実施形態による種々の方法を行なうことための自動化された細胞培養の方法およびシステムは、種々の方法工程の条件を最適化するため、および/またはならびに該方法によって作製される細胞、例えば神経堤様細胞および/または侵害受容器様細胞の作製の規模を拡大するために使用され得る。一般に、本発明の諸実施形態による自動化された方法およびシステムは、細胞培養物手順、例えば細胞の原料供給、継代(passing)または回収の際に必要とされるヒトの介入が最小限である。実験作業者の自由度が上がることに加えて、本開示の自動化された方法およびシステムにより、これらの手法が、信頼性があり再現性のある様式で行なわれることが可能になる。例えば、本発明の諸実施形態による種々の方法を行なうためのシステムは、ロボット式または自動化された細胞培養のためのステーションを含み得、その一例はCompacT SelecT(登録商標)(Sartorius,Wilmington,DE)システムである。自動細胞培養システムは、本発明の諸実施形態による方法を行なうことにより細胞を増殖、拡大培養および分化させることができる。自動細胞培養システムは、細胞の凍結保存に必要とされる1つまたはそれより多くの工程を行なうことも可能であり得る。自動細胞培養システムでは、1つまたはそれより多くの細胞培養プロセス、例えば限定されないが、細胞培養用フラスコまたはプレートへの播種、例えば細胞培養用フラスコまたはプレート内での細胞培養物の維持、細胞の回収、フラスコまたはプレートから回収された細胞のプール、プレーティング物の継代培養のための細胞の希釈、細胞計数の実施、細胞のバイアビリティのアッセイの実施などが行なわれ得る。自動細胞培養システムは、種々のステーション、例えば限定されないが:細胞をインキュベートするためのステーション、これは、制御された環境(例えば、制御された温度、制御されたガス組成および/または無菌環境の維持)を維持する自動フラスコインキュベータが例示される;フラスコおよび他の細胞培養器具、例えばピペットの取り扱いのためのステーション、これは、ロボットアームまたは他の型のロボット式ハンドラーが例示され得る);試薬分注のためのステーション、例えばロボット式低容量ディスペンサー;などを含み得る。
【0072】
自動細胞培養システムは、種々のコンピュータ構成要素を含み得る。自動細胞培養システムの実施形態または該システムの一部がコンピュータによって制御され得る。例えば、自動細胞培養システムは、レポートを作成するためのコンピュータベースのステーションを含み得る。自動細胞培養システムは、データ解析のためのコンピュータベースのステーションまたは構成要素を含み得る。自動細胞培養システムは、コンピュータ、プロセッサ、電子メモリ、ソフトウェア命令などを含み得る。自動細胞培養システムは:細胞培養用フラスコまたはプレートのシステムのオペレーション、ワークフローの最適化、監査および/または追跡などのうちの1つまたはそれより多くのためのソフトウェア命令を含み得る。例えば、自動細胞培養システムは、プログラミングされたプロトコルをロボット式液体ハンドリングシステムにおいて実行するためのアプリケーションソフトウェアプログラムを含み得る。ソフトウェアプログラムを、ロボット式液体ハンドリングシステムに内蔵された制御装置と通信状態の外部デバイス(例えば、ポータブルコンピュータ、例えばタブレットコンピュータまたはスマートフォン)で実行させてもよい;一部の実施形態におけるソフトウェアプログラムは、ロボット式液体ハンドリングシステムの制御と、存在する場合は外部ロボット式システムの制御もまた協調させて、本発明の諸実施形態による方法の少なくとも一部の工程を実行し得る。ソフトウェアプログラムは、フォールト/誤差または手順の終了のいずれかのため介入が必要とされる場合にユーザーに、例えば音、光、バイブレーション、eメールアラート、テキストアラートを用いてアラート通知されるようにプログラミングされ得る。
【0073】
コンピュータベースの計算およびツール
本文書に記載の方法はコンピュータベースの計算およびツールを伴い得る。ツールは好都合には、慣用的な設計の汎用コンピュータシステム(これは「ホストコンピュータ」と称される場合もあり得る)によって実行可能なコンピュータプログラムの形態で備えられ得る。ホストコンピュータは、多くの異なるハードウェア構成要素を有するように構成され得、多くの寸法および様式(例えば、デスクトップPC、ラップトップ、タブレットPC、ハンドヘルドコンピュータ、サーバー、ワークステーション、メインフレーム)で作製され得る。標準的な構成要素、例えばモニター、キーボード、ディスクドライブ、CDおよび/またはDVDドライブなどが含められ得る。ホストコンピュータをネットワークに取り付ける場合、接続は、任意の適切な伝送媒体(例えば、有線媒体、光媒体および/または無線媒体)ならびに任意の適切な通信プロトコル(例えば、TCP/IP)によってもたらされ得る;ホストコンピュータは、適切なネットワーキングハードウェア(例えば、モデム、イーサネットカード、WiFiカード)を含み得る。ホストコンピュータは、任意のさまざまなオペレーティングシステム、例えばUNIX(登録商標)、Linux(登録商標)、Microsoft Windows(登録商標)、MacOS(登録商標)または任意の他のオペレーティングシステムを実行し得る。
【0074】
本発明の諸態様を実行するためのコンピュータコードは、さまざまな言語で、例えばPERL、C、C++、Java、JavaScript、VBScript、AWK、あるいはホストコンピュータ上で実行可能であるか、またはホストコンピュータ上で実行されるようにコンパイル可能である任意の他のスクリプト言語もしくはプログラミング言語で書き込まれ得る。また、コードを、アセンブラ語またはマシン語などの低水準言語で書き込み、または分散処理してもよい。
【0075】
ホストコンピュータシステムは好都合には、ユーザーがツール操作を制御するインターフェースを提供するものである。本明細書に記載の実施例では、ソフトウェアツールがスクリプトとして実行され(例えば、PERLを使用する)、その実行はユーザーにより、オペレーティングシステム、例えばLinux(登録商標)またはUNIX(登録商標)の標準的なコマンドラインインターフェースにより開始され得る。コマンドを、適宜、オペレーティングシステムに適合させてもよい。他の実施形態では、グラフィカルユーザインタフェースを備えてもよく、ユーザーがポインティングデバイスを用いて操作を制御することが可能となり得る。したがって、本発明は、なんら特定のユーザーインターフェースに限定されない。
【0076】
本発明の種々の特色が組み込まれたスクリプトまたはプログラムは、記憶および/または伝送のための種々のコンピュータ可読媒体上にコーディングされ得る。好適な媒体の例としては、磁気ディスクもしくは磁気テープ、光学記憶媒体、例えばコンパクトディスク(CD)もしくはDVD(デジタル・バーサタイル・ディスク)、フラッシュメモリ、ならびにさまざまなプロトコル、例えばインターネットに合わせて有線ネットワーク、光ネットワークおよび/または無線ネットワークによる伝送に適合させたキャリア信号が挙げられる。
【0077】
添加剤
種々の添加剤が、本発明の諸実施形態による細胞の作製方法ならびに関連する組成物およびキットにおいて使用され得る。一部の添加剤および/または添加剤成分を明瞭性重視のために以下に論考する。以下に論考されていない場合であっても、他の添加剤および/または添加剤成分を使用してもよいことは理解されよう。本発明の諸実施形態との関連において、単独の成分または成分の組合せは各々、単数形または複数形の「添加剤」、「サプリメント」、「活性薬剤」または他の関連用語によって言及され得る。種々の配合の添加剤が想定される。例えば、添加剤は、培養培地に添加されたとき、有効濃度または有効量のそれぞれの活性薬剤(1種類または複数種)がもたらされるのに充分な量の該1種類またはそれより多くの活性薬剤を含むように配合され得る。本発明の諸実施形態との関連において、有効濃度または有効量は、それぞれ、該1種類またはそれより多くの活性薬剤が、該組成物に曝露された細胞に対して所望の効果、例えば限定されないが、生存(バイアビリティ)の改善、細胞の安定化、増殖の改善、細胞死の低減、老化の低減、増殖の改善、分化の改善などを誘起する濃度または量である。添加剤は典型的には、培養培地中に容易に組み込まれ得るように配合される。例えば、培養培地用の添加剤は、水性培養培地中に容易に溶解可能な粉末化形態で、錠剤として、またはカプセル剤として提供され得る。別の例では、添加剤は、培養培地に添加される濃縮液として、または懸濁剤として提供され得る。
【0078】
N-2サプリメントは、Bottenstein,J.E.Cell Culture in the Neurosciences、Bottenstein,J.E.and Harvey,A.L.編,p.3-43,Plenum Press:New York and London(1985)に基づいた既知組成の無血清サプリメントである。
【0079】
B-27サプリメントは、例えばBrewer et al.Journal of Neuroscience Research 35:567-76,1993に記載の最適化済みの無血清サプリメントである。
【0080】
脳由来神経栄養因子(BDNF)は、高親和性細胞表面受容体GP145/TrkBを介してシグナル伝達できることが知られている神経栄養因子である。ヒトBDNFは、247個のアミノ酸のポリペプチド前駆体のC末端部分として発現され、この前駆体はまた、18個のアミノ酸残基のシグナル配列と110個のアミノ酸残基のプロペプチドも含む。添加剤として使用される場合、BDNFは、例えば、強力な非共有結合性相互作用によって連結された2つの119個のアミノ酸サブユニットの27.0kDaのホモ二量体として作製される組換えヒトBDNFとして提供され得る。BDNFの有効濃度は1~100ng/mlであり得る。
【0081】
グリア由来神経栄養因子(GDNF)は、増殖因子のシステイン-ノットスーパーファミリーの構成員であり、約15kDaの分子量を有するグリコシル化されたジスルフィド結合型ホモ二量体タンパク質である。GDNFは、RETと4種類のGFRα(α1~α4)受容体のうちの1つとで構成された多成分受容体系を介してシグナル伝達することが知られている。添加剤として使用される場合、GDNFは組換えヒトGDNFとして提供され得る。GDNFの有効濃度は1~100ng/mlであり得る。
【0082】
神経成長因子(NGF)は、NFG-βとしても知られ、末梢神経系の交感神経のニューロンおよび一部の感覚ニューロンの発達に極めて重要な役割を果たす充分に特性評価された神経栄養性タンパク質である。添加剤として使用される場合、GDNFは組換えヒトNGFとして提供され得る。NGFの有効濃度は1~100ng/mlであり得る。
【0083】
ニューロトロフィン-3(NT-3)はニューロトロフィンファミリーの構成員である。NT-3 cDNAは、切断されて119個のアミノ酸残基の成熟NT-3をもたらすシグナルペプチドとプロタンパク質を有する257個のアミノ酸残基の前駆体タンパク質をコードしている。生物活性NT-3は、非共有結合型ホモ二量体であると考えられている。NT-3は、ヒト、マウスおよびブタにおいて完全な交差反応性を有する同一のアミノ酸配列を有する。NT-3は、ニューロン集団の発達と維持に重要である。NT-3の有効濃度は1~100ng/mlであり得る
【0084】
用語「クロマン1」は、(3S)-N-{2-[2-(ジメチルアミノ)エトキシ]-4-(1H-ピラゾル-4-イル)フェニル}-6-メトキシ-3,4-ジヒドロ-2H-1-ベンゾピラン-3-カルボキサミドを示し、その構造を
図1に示す。クロマン関連の化合物または誘導体は構造的に関連している化合物であり(クロマン部分含有ROCK阻害薬)、その一例はChen et al.“Chroman-3-amides as potent Rho kinase inhibitors”Bioorganic and Medicinal Chemistry Letters 18:6406-6409(2008)およびLoGrasso et al.“Rho Kinase(ROCK)Inhibitors and Their Application to Inflammatory Disorders”Current Topics in Medicinal Chemistry 9:704-723(2009)に記載されている。クロマン1、その誘導体または関連化合物は塩として、または溶液状態で供給され得る。クロマン1(またはその活性誘導体もしくは関連化合物)の有効濃度は、約4nM~約80μM、約10nM~約20μM、約20nM~約10μMまたは約30nm~約500nM、例えば約4nm、5nM、30nM、55nM、80nM、105nM、130nM、155nM、180nM、205nM、230nM、255nM、280nM、305nM、330nM、355nM、380nM、405nM、430nM、455nM、480nM、500nM.525nM、550nM、575nM、600nM、625nM、650nM、675nM、700nM、725nM、750nM、775nM、800nM、825nM、850nM、875nM、900nM、925nM、950nM、975nM、1μM、2μM、3μM、4μM、5μM、6μM、7μM、8μM、9μM、10μM、11μM、12μM、13μM、14μM、15μM、16μM、17μM、18μM、19μM、20μM、21μM、22μM、23μM、24μM、25μM、26μM、27μM、28μM、29μM、30μM、31μM、32μM、33μM、34μM、35μM、36μM、37μM、38μM、39μMまたは40μMであり得る。
【0085】
用語「エムリカサン」は、3-(2-(2-tert-ブチルフェニルアミノオキサリル)アミノプロピオニルアミノ)-4-オキソ-5-(2,3,5,6-テトラフルオロフェノキシ)ペンタン酸を示し、その構造を
図1に示す。エムリカサン関連化合物または誘導体は構造的に関連している化合物であり(例えば、Q-VD-OPh水和物)、その一例はLinton el al.“First-in-Class Pan Caspase Inhibitor Developed for the Treatment of Liver Disease”J Med.Chem.48:6779-6782,(2005)に記載されている。エムリカサン、その誘導体または関連化合物は塩として、または溶液状態で供給され得る。エムリカサン(またはその活性誘導体もしくは関連化合物)の有効濃度は、約5nM~約100μM、約200nM~約30μM、約300nM~約20μM、例えば約100nM、150nM、200nM、250nM、300nM、350nM、400nM、450nM、500nM、550nM、600nM、650nM、700nM、750nM、800nM、850nM、1μM、1.5μM、2μM、2.5μM、3μM、3.5μM、4μM、4.5μM、5μM、5.5μM、6μM、6.5μM、7μM、7.5μM、8μM、8.5μM、9μM、9.5μM、10μM、10.5μM、11μM、11.5μM、12μM、12.5μM、13μM、13.5μM、14μM、14.5μM、15μM、15.5μM、16μM、16.5μM、17μM、17.5μM、18μM、18.5μM、19μM、19.5μMまたは20μMであり得る。
【0086】
用語「trans-ISRIB」は、用語「ISRIB」または「ISRIB(trans-異性体)」と互換的に使用され得、構造を
図2に示すN,N’-((1r,4r)-シクロヘキサン-1,4-ジイル)ビス(2-(4-クロロフェノキシ)アセトアミド)を示す。Sidrauski el al.“Pharmacological brake-release of mRNA translation enhances cognitive memory”eLIFE 2:e00498(2013)に記載のように、trans-ISRIBは、cis-ISRIB(IC
50=600nM)より100倍高い効力があり(IC
50=5nM)、細胞標的との立体特異的相互作用が示唆される。trans-ISRIBは塩として、または溶液状態で供給され得る。trans-ISRIBの有効濃度は、約5nM~約50μM、約100nM~約6.25μMまたは約200nM~約6.25μM、例えば約50nM、100nM、150nM、200nM、250nM、300nM、350nM、400nM、450nM、500nM、550nM、600nM、650nM、700nM、750nM、800nM、850nM、1μM、1.25μM、1.5μM、1.75μM、2μM、2.25μM、2.5μM、2.75μM、3μM、3.25μM、3.5μM、3.75μM、4μM、4.25μM、4.5μM、4.75μM、5μM、5.25μM、5.5μM、5.75μM、6μMまたは6.25μMであり得る。
【0087】
用語「ポリアミン」は、本明細書で用いる場合、ポリカチオンであるプトレシン、スペルミジンおよびスペルミンのうちの1種類またはそれより多くを示し、負電荷を有する巨大分子、例えばDNA、RNAおよびタンパク質と相互作用することが知られている。スペルミンの有効濃度は、約0.5μM~1mM、例えば約0.5μM、20.5μM、40.5μM、60.5μM、80.5μM、100.5μM、120.5μM、140.5μM、160.5μM、180.5μM、200.5μM、220.5μM、240.5μM、260.5μM、280.5μM、300.5μM、320.5μM、340.5μM、360.5μM、380.5μM、400.5μM、420.5μM、440.5μM、460.5μM、480.5μM、500.5μM、520.5μM、540.5μM、560.5μM、580.5μM、600.5μM、620.5μM、640.5μM、660.5μM、680.5μM、700.5μM、720.5μM、740.5μM、760.5μM、780.5μM、800.5μM、820.5μM、840.5μM、860.5μM、880.5μM、900.5μM、920.5μM、940.5μM、960.5μM、980.5μMまたは1mMであり得る。スペルミジンの有効濃度は、約0.5μM~1mM、例えばおよそ0.5μM、20.5μM、40.5μM、60.5μM、80.5μM、100.5μM、120.5μM、140.5μM、160.5μM、180.5μM、200.5μM、220.5μM、240.5μM、260.5μM、280.5μM、300.5μM、320.5μM、340.5μM、360.5μM、380.5μM、400.5μM、420.5μM、440.5μM、460.5μM、480.5μM、500.5μM、520.5μM、540.5μM、560.5μM、580.5μM、600.5μM、620.5μM、640.5μM、660.5μM、680.5μM、700.5μM、720.5μM、740.5μM、760.5μM、780.5μM、800.5μM、820.5μM、840.5μM、860.5μM、880.5μM、900.5μM、920.5μM、940.5μM、960.5μM、980.5μMまたは1mMであり得る。プトレシンの有効濃度は約0.1μM~2mMであり得る。
【0088】
用語「CHIR98014」は、構造を
図2に示すN
6-[2-[[4-(2,4-ジクロロフェニル)-5-(1H-イミダゾル-1-イル)-2-ピリミジニル]アミノ]エチル]-3-ニトロ-2,6-ピリジンジアミンを示す。CHIR98014の有効濃度は約20nM~20μMであり得る。
【0089】
用語「CHIR99021」は、構造を
図2に示す6-[[2-[[4-(2,4-ジクロロフェニル)-5-(5-メチル-1H-イミダゾル-2-イル)-2-ピリミジニル]アミノ]エチル]アミノ]-3-ピリジンカルボニトリルを示す。CHIR98014の有効濃度は約20nM~20μMであり得る。
【0090】
用語「A83-01」は、構造を
図2に示す3-(6-メチル-2-ピリジニル)-N-フェニル-4-(4-キノリニル)-1H-ピラゾール-1-カルボチオアミドを示す。A83-01の有効濃度は約20nM~20μMであり得る。
【0091】
用語DBZは、N-[(1S)-2-[[(7S)-6,7-ジヒドロ-5-メチル-6-オキソ-5H-ジベンズ[b,d]アゼピン-7-イル]アミノ]-1-メチル-2-オキソエチル]-3,5-ジフルオロベンゼンアセトアミドを示し、ジベンザゼピンとしても知られており、その構造を
図2に示す。DBZの有効濃度は約2nM~20μMであり得る。
【0092】
用語DAPTは、(2,S)-N-[(3,5-ジフルオロフェニル)アセチル]-L-アラニル-2-フェニル]グリシン1,1-ジメチルエチルエステルを示し、その構造を
図2に示す。DAPTの有効濃度は約5nM~50μMであり得る。
【0093】
用語LY411575は、(S)-(+)-α-アミノ-4-カルボキシ-2-メチルベンゼン酢酸を示し、その構造を
図2に示す。LY411575の有効濃度は約2nM~20μMであり得る。
【0094】
用語LY3039478は、4,4,4-トリフルオロ-N-[(2S)-1-[[(7S)-5-(2-ヒドロキシエチル)-6-オキソ-7H-ピリド[2,3-d][3]ベンザゼピン-7-イル]アミノ]-1-オキソプロパン-2-イル]ブタンアミドを示し、その構造を
図2に示す。LY3039478の有効濃度は約2nM~20μMであり得る。
【0095】
用語PD173074は、構造を
図2に示すN-[2-[[4-(ジエチルアミノ)ブチル]アミノ-6-(3,5-ジメトキシフェニル)ピリド[2,3-d]ピリミジン-7-イル]-N’-(1,1-ジメチルエチル)尿素を示す。PD173074の有効濃度は約2nM~20μMであり得る。
【0096】
用語SU5402は、2-[(1,2-ジヒドロ-2-オキソ-3H-インドル-3-イリデン)メチル]-4-メチル-1H-ピロール-3-プロパン酸を示し、その構造を
図2に示す。SU5402の有効濃度は約2nM~20μMであり得る。
【0097】
用語PD0332991は、6-アセチル-8-シクロペンチル-5-メチル-2-[[5-(1-ピペラジニル)-2-ピリジニル]アミノ]ピリド[2,3-d]ピリミジン-7(8H)-オンイセチオン酸塩を示し、PD0332991イセチオン酸塩またはパルボシクリブとしても知られており、その構造を
図2に示す。PD0332991の有効濃度は約2nM~20μMであり得る。
【0098】
細胞、組成物およびキット
本文書に記載の細胞の作製方法の一部の実施形態は、出発物質または中間体として、多能性細胞もしくは前駆体細胞または多能性細胞もしくは前駆体細胞の集団または適切な条件下で培養した場合、特定の細胞系統に選択的に(および場合によっては可逆的に)発達できる細胞を伴う。本明細書で用いる場合、用語「集団」は、同じ識別的特徴を有する1つより多くの細胞の細胞培養物を示す。用語「細胞系統」は、最も初期の前駆体細胞から完全に成熟した細胞(特殊化細胞)までのすべての発達段階の細胞型を示す。本文書に記載の細胞の作製方法に関与し得る前駆体細胞集団の一例は多能性幹細胞(PSC)の培養物であり、これは培養胚性幹細胞(ESC)および人工多能性幹細胞(iPSC)であり得る。本文書に記載の細胞の作製方法の一部の実施形態は、神経堤様細胞および侵害受容器様細胞を誘導するための出発物質としてヒトPSC(hPSC)またはその集団を伴う。本文書に記載の細胞の作製方法の諸実施形態は、改変されたPSC、例えばhPSCを伴うものであってもよいことは理解されよう。本発明の諸実施形態による方法において使用され得るPSCの一例は種々のESC(例えば、WiCellのWA01、WA09、WA14)およびiPSC株(すべて米国立衛生研究所(USA)から入手可能なLiPSC-GR1.1、NCRM-1、NCRM-2、NCRM-5である。
【0099】
本文書に記載の細胞の作製方法に関与し得る前駆体細胞集団の別の例は神経堤様細胞の集団であり、これはPSCから本文書に記載の方法の一部の実施形態に従って作製され得る。神経堤様細胞は、本文書において論考しているように、脊椎動物の胚発生中に存在する神経堤細胞の少なくとも一部の特性を示す細胞である。脊椎動物の胚発生中、神経堤細胞は神経管の最も背側の領域に起源を有する。神経堤細胞は広範囲に遊走し、大量数の分化細胞型、例えば、感覚神経系、交感神経系および副交感神経系のニューロンおよびグリア細胞、副腎のエピネフリン産生(髄質)細胞、表皮ならびに頭部の骨格組織成分および結合組織成分の多くの色素含有細胞を生じる。現在理解されているように、神経堤細胞の運命は、これがどこに遊走して定着するかに大きく依存する。単一の神経堤細胞は、その胚内の場所に応じていくつかの任意の異なる細胞型に分化し得る。したがって、天然に存在している神経堤細胞は、集団として多能性または複能性であるとみなされるが、天然に存在している個々の神経堤細胞が神経堤を出た後も多能性であるか、または既にある特定の系統に限られているのかは現在、明らかでない。天然に存在している神経堤細胞は、Slug/Snail、FoxD3、Sox10、Sox9、AP-2およびc-Mycを含む遺伝子の集合体である、いわゆる「決定因子(specifier)」の発現を特徴とする。現在理解されているように、神経堤決定因子は、遊走および複能性を制御するエフェクター遺伝子の発現をオンにする。エフェクター遺伝子としては、Rho GTPアーゼ、カドヘリン、Mitf、P0、Cx32、TrpおよびcKitが挙げられる。本発明の一部の実施形態による神経堤様細胞は、天然に存在している神経堤細胞の少なくとも1種類のマーカーSOX10を発現する。本発明の一部の実施形態による神経堤様細胞は、天然に存在している神経堤細胞の1種類またはそれより多くの他のマーカー、例えばSOX10、PAX3、NEUROG1、TFAP2A、TFAP2Bを発現するものであり得る。神経堤様細胞は、適切な培養条件下で侵害受容器様細胞に分化する能力を有する。SOX10を発現しており、末梢感覚ニューロン様細胞、例えば侵害受容器様細胞に分化できる神経堤様細胞を含む組成物およびキットは本発明の諸実施形態に含まれる。
【0100】
本文書の至る箇所で論考しているように、本発明の方法の一部の実施形態では、侵害受容器様細胞またはその集団を作製する。侵害受容器様細胞は、本文書において論考しているように、天然に存在している侵害受容器細胞または痛みの感覚を起始する細胞終末を有する感覚ニューロンの一部の特性を示す細胞である。侵害受容器は、損傷性刺激(機械的、熱的、化学的)に応答して脊髄および脳に信号を送る末梢神経系の特殊化感覚ニューロンである。侵害受容器の細胞体は後根神経節内に位置し、分岐した軸索(末梢側の突起は自由神経終末となり、中枢側の突起は脊髄のニューロンとのグルタミン酸作動性シナプス接合部を形成する)のため、偽単極性ニューロンと記載される。本発明の諸実施形態による方法に関与する侵害受容器様細胞は、天然に存在している侵害受容器細胞の少なくとも1種類のマーカーBRN3Aを発現する。また、本発明の諸実施形態による方法に関与する侵害受容器様細胞は、天然に存在している侵害受容器によって発現される他のマーカーのうちの1種類もしくはそれより多く、例えばISL1、PRPH、DRGX、SLC17A6、または以下に論考するイオンチャネルおよび受容体も発現し得る。天然に存在している侵害受容器はグルタミン酸作動性ニューロンであり、小胞型グルタミン酸トランスポーター1(vGLUT1;
図4B)を発現する 本発明の諸実施形態による方法に関与する侵害受容器様細胞は、天然の侵害受容器にみられる1種類またはそれより多くの他のマーカー:NAV1.7、NAV1.8、NAV1.9、OPRM1(ミューオピオイド受容体)、OPRK1(カッパオピオイド受容体)、OPRD1(デルタオピオイド受容体)、OPRL1(オピオイド関連ノシセプチン受容体1)を発現し得るか、または該発現の上方調節を示し得る。天然に存在している侵害受容器は、末梢側と中枢側に突き出る分岐した軸索を有する偽単極性細胞である。多くの他のニューロンの細胞とは異なり、侵害受容器ではインビボで樹状突起が発達しない。したがって、本発明の諸実施形態による方法に関与する侵害受容器様細胞は、検出可能な樹状突起マーカーMAP2を発現する樹状突起の非存在および/または超微細構造解析(例えば、電子顕微鏡検査を使用)で侵害受容器様細胞は樹状突起が欠損していることが示されることもまた特徴とし得る。本文書におけるマーカーの存在(例えば、ISL1、PRPH、DRGX、SLC17A6、vGLUT1、NAV1.7、NAV1.8、NAV1.9、OPRM1、OPRK1、OPRD1もしくはOPRL1のうちの1種類もしくはそれより多くの存在)および/または非存在(例えば、MAP2陽性樹状突起の非存在)を特徴とする侵害受容器様細胞を含む組成物およびキットは本発明の諸実施形態に含まれる。マーカーの有無は、本発明の諸実施形態に適用される場合、かかるマーカーを検出するための適用可能な方法による検出時の該マーカーの検出可能な存在または非存在を意味し、かかるマーカーの一定程度検出可能または検出不可能なレベルを意味する場合もあり得る。換言すると、存在は、一定程度検出可能なレベルより上の存在を意味し得るが、非存在は、一定程度検出可能なレベルより下の非存在を意味し得、必ずしも検出可能なレベルがゼロを意味するのではない。また、侵害受容器様細胞は、一連のさまざまな細胞を含み得、一定程度検出可能なマーカーの有無のレベルはさまざまであることも理解されよう。
【0101】
本発明の諸実施形態による組成物は、少なくとも1個の神経堤様細胞または少なくとも1個の侵害受容器様細胞を含むインビトロまたはエクスビボ組成物を含む。かかる組成物に含められる細胞は、脊椎動物細胞(脊椎動物PSCに起源を有する細胞を意味する)、例えば哺乳動物細胞(哺乳動物PSCから生じる細胞を意味する)またはヒト細胞(哺乳動物PSCから生じる細胞を意味する)であり得る。かかる組成物に含められる細胞は改変細胞であってもよい。該組成物は、同じ型または異なる型の複数の細胞を含むものであってもよい。例えば、複数の細胞は、多能性幹細胞、複能性幹細胞、前駆細胞、分化細胞および改変細胞のうちの1種類またはそれより多くを含み得る。複数の哺乳動物細胞は、複数の細胞、細胞培養物、細胞凝集塊、回転楕円体または組織であり得る。少なくとも1個の細胞または複数の細胞を凍結保存してもよく、凍結保存後に解凍してもよい。本発明の諸実施形態による一部の組成物が、培養培地、1種類またはそれより多くの添加剤、培養培地が入っている槽、例えば培養フラスコ、培養皿、チューブまたはリアクターをさらに含んでいてもよく、また、細胞のための支持体または足場を含んでいてもよいことは理解されよう。
【0102】
本記載の方法を使用し、多能性幹細胞および他の複能性細胞または分化細胞の種々の混合物を含む組成物が作製され得る。かかる組成物は本発明の諸実施形態に含まれる。一部の実施形態では、約95個の多能性細胞に対して少なくとも約5個の複能性細胞または分化細胞を含む組成物が作製され得る。他の実施形態では、約5個の多能性細胞に対して少なくとも約95個の複能性細胞または分化細胞を含む組成物が作製され得る。さらに、多能性細胞に対して他の比率の複能性細胞または分化細胞を含む組成物が想定される。例えば、約1,000,000個の多能性細胞に対して少なくとも約1個の複能性細胞または分化細胞、約100,000個の多能性細胞に対して少なくとも約1個の複能性細胞または分化細胞、約10,000個の多能性細胞に対して少なくとも約1個の複能性細胞または分化細胞、約1000個の多能性細胞に対して少なくとも約1個の複能性細胞または分化細胞、約500個の多能性細胞に対して少なくとも約1個の複能性細胞または分化細胞、約100個の多能性細胞に対して少なくとも約1個の複能性細胞または分化細胞、約10個の多能性細胞に対して少なくとも約1個の複能性細胞または分化細胞、約5個の多能性細胞および約1個までの多能性細胞に対して少なくとも約1個の複能性細胞または分化細胞、ならびに約1個の多能性細胞に対して少なくとも約1,000,000個の複能性細胞または分化細胞を含む組成物が想定される。該組成物の一部の実施形態は、少なくとも約5%の複能性細胞または分化細胞~少なくとも約99%の複能性細胞または分化細胞を含む細胞培養物または細胞集団であり得る。一部の実施形態では、細胞培養物または細胞集団は哺乳動物細胞を含む。好ましい実施形態では、細胞培養物または細胞集団はヒト細胞を含む。例えば、一部の特定の具体的な実施形態は、ヒト細胞を含む細胞培養物であって、該ヒト細胞の少なくとも約5%~少なくとも約99%が複能性細胞または分化細胞である細胞培養物に関する。他の実施形態は、ヒト細胞を含む細胞培養物であって、該ヒト細胞の少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約98%、少なくとも約99%または99%より多くが複能性細胞または分化細胞である細胞培養物に関する。
【0103】
多能性細胞の複能性細胞へのさらに分化細胞への進行(例えば、PSCから神経堤様細胞への進行、または神経堤様細胞の侵害受容器様細胞への進行)は、具体的な細胞型に特徴的なマーカーを検出することによりモニタリングされ得る。また、本発明の諸実施形態に関連する細胞型の同定も、具体的な細胞型に特徴的なマーカーを検出することによって行なわれ得る。例えば、ある特定のマーカーの発現が検出され得る。ある特定のマーカーの発現は、細胞、細胞培養物または細胞集団内における該マーカーの有無を検出することにより調べることができる。また、ある特定のマーカーの発現は、該マーカーが細胞内、細胞培養物中または細胞集団内に存在するレベルを測定することによっても調べることができる。本発明の一部の実施形態では、神経堤様細胞に特徴的なマーカー、例えばSOX10の発現が調べられ得る。一部の実施形態では、侵害受容器様細胞に特徴的な1種類またはそれより多くのマーカー、例えばBRN3A、TUJ1(ベータ-III-チューブリン)、ペリフェリン、ISL1、GGRP、TRPV1、NAV1.7、NAV1.8、NAV1.9、OPRM1、OPRMK1、PRD1、OPRL1またはNF200の発現が調べられ得る。マーカー発現を測定するためには定量的、定性的または半定量的な手法が使用され得る。例えば、マーカー発現は、核酸を検出する手法、例えばPCRベースの検出もしくはRNA(例えば、リアルタイム逆転写酵素PCR)、RNAシーケンジング(RNA-seq)または核酸アレイベースの手法によるRNA検出の使用によって検出および/または定量され得る。別の例では、マーカータンパク質を検出および/またはする定量ために免疫化学検査が使用され得る。例えば、マーカー遺伝子産物の発現が、目的のマーカー遺伝子産物に特異的な抗体を用いて、ウエスタンブロッティング、免疫細胞化学的特性評価、フローサイトメトリー解析などを使用することにより検出され得る。細胞型を有効に正確に特性評価して同定するため、ならびに主題の細胞型内におけるかかるマーカーの量と相対割合の両方を調べるために種々のマーカー検出手法を併用して使用してもよい。ある特定のマーカーの発現は、該マーカーが細胞培養物または細胞集団の細胞内に存在するレベルを、標準化または正規化された対照マーカーと比較して測定することにより調べることができる。細胞、細胞培養物または細胞集団の同定および特性評価は、ある特定のマーカーの発現に基づいたものであってもよく、1種類より多くのマーカーの発現レベルおよび発現パターンの違い(例えば、1種類またはそれより多くの該マーカーの有無、高発現または低発現)に基づいたものであってもよい。また、ある特定のマーカーは、該マーカーが本文書に記載のプロセスの1つまたはそれより多くの段階の際に高発現を示し、他の段階(1つまたは複数)の際は低発現を示す場合、一過性発現を有するものであってもよい。
【0104】
細胞、組織または器官の培養のためのキットが本発明の諸実施形態に含まれる。キットは一組の構成要素であり、単一の細胞および細胞群が挙げられ得る細胞を培養するための少なくとも一部の成分を備えている。キットには、本文書の対応するセクションに論考している1種類またはそれより多くの添加剤が含められ得る。キットは、以下のもの:少なくとも1個の細胞をインビトロもしくはエクスビボ、あるいは1種類もしくはそれより多くの培養培地成分を支持するように構成された培養培地;培養培地を保持するための槽;培養槽、例えばフラスコ、皿、プレート(例えば、マルチウェルプレーター)もしくはリアクター;または細胞もしくは組織の培養のための支持体もしくは足場のうちの1種類またはそれより多くをさらに含むものであってもよい。キットは、1個またはそれより多くの哺乳動物細胞、例えばヒト細胞を含むものであり得る。キットに含められる細胞は:PSC(例えば、胚性幹細胞および/または人工多能性幹細胞)、神経堤様細胞あるいは侵害受容器様細胞のうちの1種類またはそれより多くであり得る。1個またはそれより多くの細胞は、凍結形態で提供されても非凍結形態(これは解凍された形態であってもよい)で提供されてもよい。
【0105】
凍結保存
凍結保存を伴う方法、組成物およびキット、例えば凍結保存、解凍および以前に凍結保存された細胞、細胞集団または細胞培養物の培養に関連するプロセス、ツールおよび/または組成物は本発明の諸実施形態に含まれる。該保存に関連する一部の組成物は、本文書に記載の細胞または細胞集団、例えば神経堤様細胞および侵害受容器様細胞の凍結保存のために使用される凍結保存培地を含み得る。一部の組成物は、凍結保存培地と本文書に記載の1個またはそれより多くの細胞を含み得る。例えば、一実施形態の組成物は1個またはそれより多くの神経堤様細胞と凍結保存培地を含み得る。別の例では、組成物は1個またはそれより多くの侵害受容器様細胞と凍結保存培地を含み得る。凍結保存培地は、細胞が凍結前および/または凍結中の状態でみられる液状培地であり得る。凍結保存培地の一例はPSC Cryopreservation Kit(Thermo Fisher Scientific)、FreezIS(Irving Scientifc)、NutriFreez(Biological Industries USA)、CryoStor、HypoThermosol、mFreSR、mFreSR-S、STEMdiff Neural Progenitor Freezing Medium(すべてStem Cell Technologies製)である。凍結保存培地には、細胞を凍結による損傷から保護する化合物を意味する凍結保護剤が1種類またはそれより多く含有され得る。凍結保護剤は透過性であっても非透過性であってもよい。細胞膜を透過することができる好適な透過性凍結保護剤の一例はジメチルスルホキシド(DMSO)である。適切な非透過性凍結保護剤の一例はスクロース、グリセロール、デキストラン、トレハロース、パーコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、血清アルブミン、フィコール、マルトースおよびポリビニルアルコール(PVA)である。凍結保存培地に、本文書の「添加剤」のセクションに記載の1種類またはそれより多くの添加剤をさらに含有させてもよい。例えば、凍結保存培地は、クロマン-1もしくはその誘導体、エムリカサンもしくはその誘導体、trans-ISRIBまたはポリアミンのうちの1種類またはそれより多くを、そのそれぞれの有効な組合せで含むものであり得る。上記の4種類すべての添加剤の組合せは「CEPT」と称され得る。
【0106】
細胞、細胞集団または細胞培養物の凍結保存を伴う方法は本発明の諸実施形態に含まれる。かかる方法は、もう1個の細胞、例えば神経堤様細胞または侵害受容器様細胞を凍結保存培地と接触させる工程を含み得る。これは、凍結保存培地を該1個もしくはそれより多くの細胞に添加すること、またはその逆、および該細胞を該培地と混合することを伴い得る。一部の実施形態では、100万細胞あたり0.5mL~5mL、例えば、100万細胞あたり約1mLの凍結保存培地が添加され得る。しかしながら、一部の特定の実施形態では、より多い量またはより少ない量の凍結保存培地が使用され得ることが想定される。一部の実施形態では、凍結保存培地は細胞に、漸増濃度で段階的に増量して添加され得、これにより一工程での添加に関連する細胞の浸透圧ショックのリスクが低減され得る。細胞に添加するときの凍結保存培地の温度は約15℃~約40℃の範囲であり得る。例えば、細胞に添加する凍結保存培地の温度は約37℃であり得る。本方法の接触工程により凍結保存培地中における細胞の懸濁がもたらされ得、これを「混合物」と称する場合があり得る。接触工程前の細胞または接触工程後の細胞懸濁液を容器または槽内に提供してもよい。容器は1mL~50mLの容積を有するものであり得、例えばこれは15mL容のチューブであり得る。
【0107】
細胞の凍結保存を伴う方法は、もう1個の細胞、例えば神経堤様細胞または侵害受容器様細胞と凍結保存培地を含む組成物を凍結させ、それにより、凍結または凍結保存された組成物を得る工程を含み得る。細胞と凍結保存培地の混合物は、該混合物を凍結させる前に平衡化され得る。平衡化中、水分が細胞から除去され、凍結保存培地とのインキュベーション後の該細胞内に進入する凍結保護剤を含む培地で置き換えられ得る。平衡化時間は、細胞に対する損傷が回避されるように制限される。例えば、混合物は10秒~5分、20秒~1.5分または30秒~1分の時間、平衡化され得る。凍結させる前に、混合物を凍結用の容器または槽に移してもよく、該混合物が既に存在している同じ容器内に入れたままにしてもよい。水分が細胞から除去され、凍結保存培地とのインキュベーション後の該細胞内に進入する凍結保護剤を含む培地で置き換えられ得る。凍結のために使用される容器は典型的には、チューブの積み重ねを提供し、フリーザー内に容器を入れることによって定速冷却が達成されることを確保できるものである。
【0108】
凍結により、極低温状態または凍結保存状態(これを単に「凍結されている」と記載している場合があり得る)の細胞がもたらされ、このとき、該細胞は、必要時に回復させるために数日間、数週間、数ヶ月間または数年間の期間、維持され得る。必要なときに、凍結保存された細胞を回復させ、解凍する。したがって、凍結保存を伴う方法は、凍結保存された組成物を、より特別には細胞のバイアビリティが維持される条件下で解凍する工程を含み得る。例えば、凍結保存された細胞が入った容器が、42℃以下、例えば10℃~40℃、例えば約37℃の温度の水浴中で解凍され得る。解凍後の細胞のバイアビリティを改善するため、約10℃~約40℃/分、例えば約20℃~約40℃/分、例えばおよそ30℃/分の解凍速度が使用され得る。
【0109】
本記載の方法および/または方法工程により、凍結保存された細胞の解凍後のバイアビリティは良好となり得る。本明細書で用いる場合、用語「バイアビリティ」は、DNAの存在とインタクトな細胞膜系に基づいた生細胞の数を示す。バイアビリティは、種々の試験、例えばトリパンブルー内在化試験によって、またはヨウ化プロピジウムの取込みを測定することにより測定され得る。凍結保存後に解凍された細胞、例えば解凍された神経堤様細胞または解凍された侵害受容器細胞のバイアビリティは、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%または少なくとも95%であり得る。該細胞が解凍後に示す壊死およびアポトーシスの量は限定的であり得る。特定の実施形態では、壊死および/またはアポトーシスは、25%未満の細胞、より特別には15%未満、最も特別には10%未満の細胞において観察される。本明細書に記載の方法では、神経堤様細胞が、侵害受容器様細胞に分化する自身の能力を維持していることがさらに確保され得る。凍結保存された細胞は、解凍後、さらなる培養、分化(神経堤様細胞の場合)、治療目的、例えば再生医療または他の使用のために使用され得る。
【0110】
以下の実施例は、本発明のさらなる実例を示す役割を果たすが、同時に、なんらの本発明の限定を構成するものではない。それどころか、本明細書における説明を読んだ後に当業者に対して本発明の趣旨から逸脱することなく示唆され得る種々の実施形態、その修正例および均等物に対する手段がわかり得ることは明白に理解されよう。
【実施例1】
【0111】
実施例1
ヒト多能性幹細胞の末梢感覚ニューロン様細胞、例えば侵害受容器様細胞への分化
ヒト多能性幹細胞(hPSC)、例えば胚性幹細胞(ESC)および人工多能性幹細胞(iPSC)をE8規定培地中で維持し、拡大培養した。ヒトESC株はWiCell(Madison,Wisconsin)から購入し、iPSCはNIHで作成された。hPSCは付着単層培養物として増殖させた。分化手順の開始時、E8規定培地を、2種類の小分子化合物:CHIR98014(Selleckchem)-WNTシグナル伝達を活性化できる化合物-を培地中1μMの終濃度で;およびA83-01(Tocris)-TGF-ベータシグナル伝達を阻害できる化合物,-を培地において2μMの終濃度で含有しているE6培地に交換した。最初の培地交換の日を「0日目」と称した。培地交換後3日(およそ72時間)目、ノシスフェアの形成を開始させるために細胞を酵素により解離させて超低付着性プレート内にプレーティングした。ノシスフェアの形成期の間、細胞を、1μMのCHIR98014と2μMのA83-01に加えて1μMのDBZ(ガンマ-セクレターゼ阻害薬,Tocris)および25nMのPD173074(FGFR/VEGFR阻害薬,Tocris)を含有しているE6培地中で培養した。上記のすべての化合物を含有しているE6培地を、ノシスフェアの形成期の間、およそ24時間毎に交換し、これを最初の培地交換後、14日目まで継続した。換言すると、ノシスフェアの増殖は、最初の培地交換の日(0日目)の後3日目~14日目の間に、すなわち11日間あるいはおおよそ244時間、行なった。最初の培地交換後14日目(または最初の培地交換後およそ336時間目)、形成されたノシスフェアを、以下のプロセスを用いて酵素により解離させた。ノシスフェアを培養プレートから、37μmリバーシブルセルストレーナー(Stem Cell Technologies)を使用し、遠心分離によって、または単に15mL容もしくは50mL容コニカルチューブ内で5分間沈降させることによって収集した。収集されたノシスフェアをリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄し、TrypLE試薬(Thermo Fisher Scientific)中で37℃にて10分間、300RPMでの定常振盪下でインキュベートすることによって解離した。解離後、細胞を300gで3分間の遠心分離によって収集し、TrypLE試薬を含む上清みを廃棄した。解離された細胞は凍結保存するか、またはプレーティングするかのずれかとした。解離された細胞は、10%のDMSO(ジメチルスルホキシド)を補給したDMEM/F12培地(Thermo Fisher Scientific)中に500万~1000万細胞/mL/チューブでCoolCell(登録商標)Cell Freezing Containers(Biocision)を用いて凍結保存するか、またはさらなる成熟のために、コートされた細胞培養プレート上にプレーティングした。例示的な凍結保存手順は実施例6に記載している。解離された該細胞のプレーティングのため、培地を、以下のサプリメント:N2サプリメント(100倍溶液,Thermo Fisher Scientific);B27サプリメント(ビタミンAなし)(50倍溶液,Thermo Fisher Scientific);各々、25ng/mLの以下の増殖因子-BDNF(脳由来神経栄養因子,R&D Systems)、GDNF(グリア由来神経栄養因子,R&D Systems)、NGF(神経成長因子,R&D Systems)、NT-3(ニューロトロフィン-3,R&D Systems);および1μMのPD0332991(CDK4/6阻害薬,Tocris)を補給したDMEM/F12培地(Thermo Fisher Scientific)に交換した。プレーティングした解離されたノシスフェア細胞を、2~3日毎に培地を交換しながら8週間まで培養した。上記の分化手順を
図1に模式的に図示し、使用した小分子化合物を
図2に図示する。
【実施例2】
【0112】
実施例2
hPSCに由来する侵害受容器様細胞の免疫細胞化学的特性評価
実施例1に記載の手順に従って作製した細胞は、以下に論考する図によって図示されたように、侵害受容器様細胞への高効率の分化を示した。
図3および4は、培養28日目に撮影された、プレーティングされた細胞の代表的な画像を示す。
図5は、培養の28日目のプレーティングされた細胞の定量的特性評価を示す。hPSCに由来する培養物の免疫細胞化学的特性評価により、典型的なニューロンマーカーを発現している侵害受容器様細胞へのhPSCの分化が確認された。
【0113】
図3に示す細胞を、以下のタンパク質:TUJ1(ニューロンマーカー);BRN3A(侵害受容器によって典型的に発現される転写因子);ペリフェリン(PRPH,末梢ニューロンのマーカー);ISL1(侵害受容器によって発現される転写因子);CGRP(カルシトニン遺伝子関連タンパク質,侵害受容器によって典型的に発現される神経ペプチド);TRPV1(バニロイド受容体1,侵害受容器によって典型的に発現される);NAV1.7(ナトリウムチャネル,侵害受容器によって典型的に発現される)に特異的な抗体(モノクローナルとポリクローナルの両方)の組合せで染色した。標示「Ho」は、染色された核の可視化のために一般的に使用される色素であるHoechst対比染色剤を示す。
図4に含めた画像は、NF200(緑)、BRN3A(赤)およびHoechst色素での染色(青)の個々の免疫染色を示す。
図4Aに示す細胞は、NF200(ニューロフィラメント200,ニューロンの細胞体および軸索を可視化するための典型的なマーカー)ならびに特異的転写因子BRN3Aに特異的なモノクローナル抗体およびポリクローナル抗体で染色した。Hoechst対比染色剤を用いて細胞核を可視化した。
図4Aの右下隅のマージした画像は、すべての免疫染色を一緒に合わせたものを示す。
図4Aに示す画像は、NF200とBRN3Aを共発現している侵害受容器様細胞の高度に純粋な培養物が、実施例1に記載の手順を用いて作成されたことを示す。
図4Bに示す細胞は、ニューロンマーカーTUJ1(緑)、グルタミン酸作動性侵害受容器によって典型的に発現される小胞型グルタミン酸トランスポーター1(vGLUT1;赤)およびHoechst(青)に特異的なモノクローナル抗体およびポリクローナル抗体で染色した。
図4Cに示す細胞は、MAP2(ニューロンの細胞体および樹状突起のマーカー;緑)、BRN3A(赤)およびHoechst色素(青)に特異的なモノクローナル抗体およびポリクローナル抗体で染色した。MAP2による神経突起の不充分な染色により樹状突起の非存在が示され、これは、他のニューロン(例えば、皮質ニューロンでは複雑な樹状突起樹が発達する)とは異なり、偽単極性ニューロンとしての侵害受容器の適切な生体構造が、末梢側と脊髄側に突き出ているが樹状突起は存在しない分岐した軸索を有することと整合した。
図5を作成するため、2つのhPSC株、ESCとiPSCを、実施例1に記載の手順に従って侵害受容器様細胞に分化させた。最初の培地交換後28日(およそ672時間)目、細胞をSOX10(神経堤幹細胞のマーカー)およびBRN3A(侵害受容器のマーカー)について染色した。染色を、ImageJソフトウェア(米国立衛生研究所)を用いて定量した。この定量により、上記のマーカーのレベルがSOX10発現神経堤様細胞とBRN3A陽性侵害受容器様細胞の存在と整合することが示された。また、上記に論考した染色の結果と定量の結果を合わせると、実施例1に記載の手順によって作成した培養物中には神経堤様細胞と侵害受容器様しか存在しないことも示された。
【実施例3】
【0114】
実施例3
経時的遺伝子発現プロファイリング
実施例1に記載の手順に従って作製した培養物は、以下に論考する図によって図示されるような、RNA-seq解析によって行なわれる経時的遺伝子発現プロファイリングを特徴とした。iPSCに由来する培養物の経時的RNA-Seq解析により、典型的なニューロンマーカー、例えば転写因子、神経ペプチドおよびイオンチャネルを発現している侵害受容器様細胞へのiPSCの分化が確認された。
図6は、神経の外胚葉様細胞、神経堤様細胞および侵害受容器様細胞へのiPSCの段階的で制御された分化が示された、実施例1に記載の手順の0日目~28日目における遺伝子発現の時間的推移の系統的解析の結果を示す。非神経細胞系統、例えば内胚葉および中胚葉を示す遺伝子は分化させた培養物に存在せず、したがって高効率の分化が示された。
図7は、侵害受容器への分化のRNA-seqによる経時的遺伝子発現プロファイリングの結果、およびこの結果と、オンラインでマウントサイナイのアイカーン医科大学マウントサイナイバイオインフォマティクスセンター(New York,New York,USA)から入手可能なARCHS
4ヒト組織RNA-seqデータベース(Lachmann et al.“Massive mining of publicly available RNA-seq data from human and mouse”Nature Communications 9:1366(2018))において入手可能な結果との比較を示す。遺伝子オントロジー解析のため、ウェブベースのツールEnrichR(オンラインでマウントサイナイのアイカーン医科大学から入手可能)を用いて、各試験時点の培養物において上方調節されていた上位200個の遺伝子を比較し、ARCHS
4にみられるデータと比較した。各時点における上位5つの濃縮されたカテゴリーをプロットした。
図8は、実施例1に記載の手順によって作成した侵害受容器様細胞によって発現されたイオンチャネルのRNA-seqによる包括的解析の結果を示す。注目すべきことに、NAV1.8およびオピオイド受容体を含む152種類のイオンチャネル遺伝子が侵害受容器様細胞によって、この手順の28日目に発現された。幹細胞由来の培養された侵害受容器様細胞によるかかる包括的イオンチャネル発現は、これまでは得られていなかった。
【0115】
図9および10は、実施例1に記載の手順によって作成した侵害受容器様細胞におけるRNA-seqによる経時的遺伝子発現プロファイリングの結果を示す。
図9および10に示す各折れ線グラフのX軸には、実施例1に記載のとおりの手順の何日目かをプロットしている。
図9および10に示す各折れ線グラフのY軸には、断片/キロベース転写物/100万マップリード数(FPKM)の値をプロットしている。FPKM値は、RNA-seq解析での転写物の相対発現レベルを示す。
図9は、実施例1に記載の手順によって作成した侵害受容器様細胞における重要なナトリウムチャネルのRNA-seqによる経時的遺伝子発現プロファイリングの結果を示す。このナトリウムチャネルのプロファイリングにより、細胞の分化中でのNAV1.7、NAV1.8およびNAV1.9遺伝子の上方調節が示された。幹細胞からの培養状態の侵害受容器様細胞の作製のためのこれまでの利用可能な手順では、上記の3種類の極めて重要なナトリウムチャネルの発現は得られなかった。
図10は、実施例1に記載の手順に従ってiPSCから分化させている培養物中のオピオイド受容体のRNA-seq解析による経時的遺伝子発現プロファイリングの結果を示す。オピオイド受容体のプロファイリングの結果により、重要なオピオイド受容体(OPRM1-ミューオピオイド受容体;OPRK1-カッパオピオイド受容体;OPRD1-デルタオピオイド受容体)およびオピオイド関連ノシセプチン受容体1(OPRL1)が、実施例1に記載の手順の過程で培養細胞において発現され、調節されることが示された。
【実施例4】
【0116】
実施例4
iPSCに由来する侵害受容器様細胞の機能分析
実施例1に記載の手順によるiPSCに由来する侵害受容器の機能分析を行なった。電気生理学特性評価実験のためにマルチ電極アレイを使用した。
図11は、iPSC由来の侵害受容器様細胞が特異的リガンドによって刺激されたことを示す電気生理学実験(Maestro Pro,Axion Biosystemsを用いたマルチ電極アレイ)の結果を示す。
図11に図示されるように、10μMのα,β-me-ATP、5μMのカプサイシン(侵害受容器末端上の熱感受性カチオンチャネルであるバニロイド受容体TRPV1の既知のアクチベータ)および100μMのマスタードオイル(アリルイソチオシアネート;一過性受容器電位(TRP)ファミリー受容体を活性化させ、痛み研究において痛みおよび炎症を誘発するために広く使用されている植物由来の刺激物)の適用により、活動電位発火の頻度が高まることによって特異的応答が誘起された。
【0117】
図12Aおよび12Bは、iPSC由来の侵害受容器様細胞がオキサリプラチンおよびプロスタグランジンE2(PGE2)での処理に応答して感作されたことを示す電気生理学実験(Maestro Pro,Axion Biosystemsを用いたマルチ電極アレイ)の結果を示す。オキサリプラチンは広く使用されている化学療法薬であるが、末梢神経系の感覚ニューロンを損傷させて末梢神経障害をもたらし得る。PGE2は、炎症性疼痛のモデル作製のために使用される。実施例1に記載の手順の28日目、iPSC由来の侵害受容器様細胞をベースライン記録のために37℃で10分間記録し、次いで0.1%のDMSO、50μMのオキサリプラチンまたは1μMのPGE2で37℃にて15分間、前処理した。次いで、細胞を刺激するために温度を40℃まで上昇させ、記録をさらに10分間、行なった。上記の実験により、iPSC由来の侵害受容器様細胞はオキサリプラチンおよびPGE2での処理に応答して感作されることが示され、iPSC由来の侵害受容器様細胞が、化学療法誘導性または炎症誘導性の痛みをもたらす病理学変化を研究するためのインビトロモデルとして有用であることが実証された。
【0118】
図13は、iPSC由来の侵害受容器様細胞が、P2RX3プリン作動性受容体の既知の作動薬であるα,β-me-ATPを10μMで適用することによって刺激されたことを示す電気生理学実験(Maestro Pro,Axion Biosystemsを用いたマルチ電極アレイ)の結果を示す。実施例1に記載の手順の28日目、iPSC由来の侵害受容器様細胞を、0.1%のDMSOまたはプリン作動性受容体P2RX3の各既知拮抗薬10μMで37℃にて30分間、前処理した。次いで細胞を10μMのα,β-me-ATPによって刺激し、マルチ電極を用いて記録を行なった。この記録により、RO-51がP2RX3受容体の最も効力がある阻害薬であることを示す応答の違いが示された。上記の結果により、iPSC由来の侵害受容器様細胞は創薬および薬物検査のためのインビトロモデルとして有用であることが示された。
【実施例5】
【0119】
実施例5
自動化手順
実施例1に記載の手順を、
図14Aに図示したCompacT SelecT
(登録商標)システム(Sartorius,Wilmington,USA)を使用することによる自動化手順のベースとして使用した。iPSCからの侵害受容器様細胞の非常に効率的な標準化された拡張可能な作製が、この自動化手順を用いてなされた。
図14Bは、自動分化によって作製された侵害受容器様細胞の、自動化手順の開始後21日目の代表的な顕微鏡画像を示す。
図14Bに示す画像は、高密度な神経突起ネットワークを形成している侵害受容器様細胞を示す。
【実施例6】
【0120】
実施例6
凍結保存
実施例1に記載の手順に従って作成されたノシスフェアを培養フラスコから14日目に、37μmリバーシブルセルストレーナー(Stem Cell Technologies)を用いて収集し、PBSで洗浄し、TrypLE試薬(Thermo Fisher Scientific)中で37℃にて10分間、300RPMでの定常振盪下でインキュベートすることによって解離する。解離された該細胞を300gで3分間の遠心分離によって収集した後(TrypLEを含む上清みは廃棄する)、収集された細胞を、10%のDMSOを補給したDMEM/F12培地(Thermo Fisher Scientific)中に500万~1000万細胞/mL/チューブで再懸濁させ、CoolCell(登録商標)Cell Freezing Containers(Biocision)または他の適切な凍結保存方法を用いて凍結保存する。凍結保存後の細胞の生存を改善するための小分子カクテルを凍結保存培地中に含めてもよい。小分子カクテルは、50nMのクロマン1、5μMのエムリカサン、ポリアミン(40ng/mLのプトレシン、4.5ng/mLのスペルミジン、8ng/mLのスペルミン)および0.7μMのTrans-ISRIBを含むものであり得る。示した濃度は凍結保存培地中における終濃度である。
【国際調査報告】