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特表2022-531769抗微生物活性が持続するヒアルロン酸ヒドロゲル
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-11
(54)【発明の名称】抗微生物活性が持続するヒアルロン酸ヒドロゲル
(51)【国際特許分類】
   A61L 15/28 20060101AFI20220704BHJP
   A61L 15/32 20060101ALI20220704BHJP
   A61L 15/46 20060101ALI20220704BHJP
   A61L 27/20 20060101ALI20220704BHJP
   A61L 27/22 20060101ALI20220704BHJP
   A61L 27/52 20060101ALI20220704BHJP
   A61L 27/54 20060101ALI20220704BHJP
   A61L 29/06 20060101ALI20220704BHJP
   A61L 29/14 20060101ALI20220704BHJP
   A61L 29/16 20060101ALI20220704BHJP
   A61L 31/06 20060101ALI20220704BHJP
   A61L 31/04 20060101ALI20220704BHJP
   A61L 29/04 20060101ALI20220704BHJP
   A61L 31/14 20060101ALI20220704BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20220704BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20220704BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20220704BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20220704BHJP
   A61K 38/00 20060101ALI20220704BHJP
【FI】
A61L15/28
A61L15/32
A61L15/46 100
A61L27/20
A61L27/22
A61L27/52
A61L27/54
A61L29/06
A61L29/14 300
A61L29/16
A61L31/06
A61L31/04
A61L29/04
A61L31/14 300
A61K9/70
A61K9/06
A61K47/36
A61P31/04
A61K38/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021564802
(86)(22)【出願日】2020-04-30
(85)【翻訳文提出日】2021-12-27
(86)【国際出願番号】 EP2020062137
(87)【国際公開番号】W WO2020221896
(87)【国際公開日】2020-11-05
(31)【優先権主張番号】19305562.1
(32)【優先日】2019-05-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】507241492
【氏名又は名称】アンスティトゥート・ナシオナル・ドゥ・ラ・サンテ・エ・ドゥ・ラ・ルシャルシュ・メディカル・(インセルム)
(71)【出願人】
【識別番号】509228260
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・ドゥ・ストラスブール
(71)【出願人】
【識別番号】518388465
【氏名又は名称】プロティップ・メディカル
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ・ラヴァル
(72)【発明者】
【氏名】シンシア・カリガロ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァルヴァラ・グリボヴァ
(72)【発明者】
【氏名】ロレーヌ・タレ
(72)【発明者】
【氏名】ニハール・エンゲン・ヴラナ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C081
4C084
【Fターム(参考)】
4C076AA09
4C076AA71
4C076BB31
4C076BB32
4C076CC31
4C076EE37A
4C076FF02
4C081AA03
4C081AA07
4C081AA14
4C081AC08
4C081BA14
4C081CC05
4C081CD08
4C081CD11
4C081DA12
4C081EA05
4C084AA03
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA14
4C084BA15
4C084BA16
4C084BA17
4C084BA18
4C084BA19
4C084BA20
4C084BA21
4C084BA22
4C084BA23
4C084CA62
4C084DA42
4C084MA05
4C084MA27
4C084MA63
4C084MA67
4C084NA10
4C084ZB352
(57)【要約】
本発明は、ヒアルロン酸(HA)又はその誘導体を含み、少なくとも1種の正に帯電した抗微生物ペプチドが充填されたヒドロゲルであって、HA又はその誘導体は、その水酸基部分のレベルで架橋剤により架橋されており、一方、HA又はその誘導体のカルボキシル部分は遊離したままであり、HA又はその誘導体は負に帯電したままである、ヒドロゲル、並びに充填されたヒドロゲルを調製するための方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒアルロン酸(HA)又はその誘導体を含み、少なくとも1種の正に帯電した抗微生物ペプチドが充填されたヒドロゲルであって、前記HA又はその誘導体は、その水酸基部分のレベルで架橋剤により架橋されており、一方、HA又はその誘導体のカルボキシル部分は遊離したままであり、前記HA又はその誘導体は負に帯電したままである、ヒドロゲル。
【請求項2】
前記正に帯電した抗微生物ペプチドは、ポリアルギニン、ポリオルニチン及びポリリジンからなる群より選択される、請求項1に記載のヒドロゲル。
【請求項3】
前記正に帯電した抗微生物ペプチドは、ポリアルギニンである、請求項1又は2に記載のヒドロゲル。
【請求項4】
前記ポリアルギニンは、以下の式(1)
【化1】
(式中、nは2から250の間に含まれる整数である)
のものである、請求項3に記載のヒドロゲル。
【請求項5】
前記ポリアルギニンは、以下の式(1)
【化2】
(式中、nは30である)
のものである、請求項4に記載のヒドロゲル。
【請求項6】
前記ヒアルロン酸は、800kDaから850kDaの間の分子量を有するヒアルロン酸である、請求項1から5のいずれか一項に記載のヒドロゲル。
【請求項7】
前記架橋剤は、ブタンジオールジグリシジルエーテル(BDDE)である、請求項1から6のいずれか一項に記載のヒドロゲル。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載のヒドロゲルを調製するための方法であって、
(a)塩基性条件下で、ヒアルロン酸(HA)又はその誘導体と、その水酸基部分のレベルでHAを架橋し、一方、HA又はその誘導体のカルボキシル部分を遊離したままにし、前記HA又はその誘導体を負に帯電したままにする架橋剤とを混合する工程と、
(b)混合物を支持体上に沈着させ、それを室温で48時間から72時間インキュベートして、ヒドロゲルを得る工程と、
(c)工程(b)で形成されたヒドロゲルを回収する工程と、
(d)架橋剤残留物の除去及びヒドロゲルの膨張を可能にする条件下で、水性緩衝液中で前記ヒドロゲルをインキュベートする工程と、
(e)工程(d)で得られたヒドロゲルに少なくとも1種の正に帯電した抗微生物ペプチドを充填する工程と、
(f)工程(e)で得られた充填されたヒドロゲルを回収する工程と、
を含む方法。
【請求項9】
工程(a)の混合物は、2%(w/v)から3%のHA又はその誘導体、及び少なくとも10%(v/v)の架橋剤、特に少なくとも20%(v/v)の架橋剤を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記架橋剤は、ブタンジオールジグリシジルエーテル(BDDE)である、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
前記正に帯電した抗微生物ペプチドは、ポリアルギニンである、請求項8から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記正に帯電した抗微生物ペプチドは、工程(e)で0.05mg/mlから1mg/mlの濃度で充填される、請求項8から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
請求項8から12のいずれか一項に記載の調製の方法によって得られる可能性が高い、請求項1に記載のヒドロゲル。
【請求項14】
請求項1から7又は13のいずれか一項に記載のヒドロゲルを含む医療デバイス。
【請求項15】
前記医療デバイスは、創傷被覆材又はメッシュ補綴材である、請求項14に記載の医療デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗微生物活性を有するヒドロゲルに関する。
【背景技術】
【0002】
生物医学装置の移植には、細菌、酵母、真菌による感染症だけでなく、移植物に対する過剰な免疫応答がしばしば続く。炎症や感染は、移植物の機能に深刻な影響を及ぼし、更にはそれらの失敗につながる可能性さえある。
【0003】
したがって、生物医学装置の移植後に、そのような感染症を回避するための解決策に対する重大な需要は存在する。
【0004】
ヒドロゲルは、組織の細胞外マトリックスとの類似性、細胞の増殖と移動の支援、薬物又は成長因子の制御放出、周囲の組織への最小限の機械的刺激、並びに細胞の生存率と増殖を支援する栄養素の拡散を含む、いくつかのユニークな特徴を持っている。結果的に、ヒドロゲルは組織工学の分野で有望な材料である。
【0005】
ヒアルロン酸は、再生し易く手頃な価格の生体材料を生み出すため、組織工学用の生体材料の調製に広く使用されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Biomed ResInt.2016; 2016:2475067
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、HAヒドロゲルそれ自体は、起こりうる感染症に対して何の活性もない。更に、組織工学におけるHAの使用は、半減期が短い、代謝回転が速い等、組織工学における使用の利益に影響を与える多くの欠点と関連している。
【0008】
したがって、生物医学装置の移植又は組織工学に有用な新しい材料の重大な需要があり、この材料は医師が容易に操作でき、代謝回転が速すぎず、抗微生物活性がありながら、一方、患者の治療には安全である。
【0009】
本発明はこの需要を満たす。
【0010】
本発明は、発明者らによる予期せぬ発見から生じた。この発見は、ポリアルギニンを充填したHAヒドロゲルを開発することが可能であること、このHAヒドロゲルは、長期的な抗微生物効果を提供し、感染を防ぐために創傷被覆材やメッシュ補綴材に簡単に沈着させることができること、したがって、このHAヒドロゲルは、組織再生の改善及び/又は移植物の統合を改善すること、である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
したがって、本発明は、ヒアルロン酸(HA)又はその誘導体を含み、少なくとも1種の正に帯電した抗微生物ペプチドが充填されたヒドロゲルであって、HA又はその誘導体は、その水酸基部分のレベルで架橋剤により架橋されており、一方、HA又はその誘導体のカルボキシル部分は遊離したままであり、HA又はその誘導体は負に帯電したままである、ヒドロゲルに関する。
【0012】
本発明の別の目的は、本発明によるヒドロゲルを調製するための方法であって、
(a)塩基性条件下で、ヒアルロン酸(HA)又はその誘導体と、その水酸基部分のレベルでHAを架橋し、一方、HA又はその誘導体のカルボキシル部分を遊離したままにし、HA又はその誘導体を負に帯電したままにする架橋剤とを混合する工程と、
(b)混合物を支持体上に沈着させ、それを室温で48時間から72時間インキュベートして、ヒドロゲルを得る工程と、
(c)工程(b)で形成されたヒドロゲルを回収する工程と、
(d)架橋剤残留物の除去及びヒドロゲルの膨張を可能にする条件下で、水性緩衝液中でヒドロゲルをインキュベートする工程と、
(e)工程(d)で得られたヒドロゲルに少なくとも1種の正に帯電した抗微生物ペプチドを充填する工程と、
(f)工程(e)で得られた充填されたヒドロゲルを回収する工程と、
を含む方法に関する。
【0013】
本発明の更に別の目的は、本発明の調製の方法によって得られる可能性が高い、本発明によるヒドロゲルに関する。
【0014】
本発明は更に、本発明によるヒドロゲルを含む医療装置に関する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】ヒドロゲルの調製工程の概略図である。
図2】パラフィルムとスライドガラスとの間での構築を示す図である。
図3】PARが事前に充填されたHAフィルム及び事後に充填されたHAフィルムにおける細菌の増殖を示すグラフである。細菌の増殖は、620nmにおける光学濃度(OD)測定により24時間後に評価した。PAR0はPARなしのHAフィルムに対応する。架橋後のHA 2.5%+BDDE 20%フィルムに、1mg/mL PARを添加した(=事後充填フィルム)。
図4】自立型HAヒドロゲルの製造を示す図である。異なる大きさのHAヒドロゲルディスク(B)を得るためのヒドロゲルディスク調製の概略手順(A)を示す。
図5】PARのHAヒドロゲルディスクへの充填を示す図である。(A)PAR-FITC充填の概略図である。(B)得られたヒドロゲルディスク(0.5mg/mL PAR30-FITCを充填した)のCLSM画像である:3D再構成(左)とZ軸での横切り図(右)である。
図6】異なる濃度のPAR30-FITCをHAヒドロゲルディスクに3時間と24時間充填した結果を示す図である。(A)CLSM画像と、(B)ディスクの中心におけるPAR濃度を定量化したグラフである。
図7】PAR-FITCのHAヒドロゲルディスクへの充填を示す図である。0.5mg/mLの3つのFITC標識PARを充填したHAヒドロゲルディスクのCSLM画像(左側)と、得られたディスクの蛍光プロファイル(右側)を示すグラフである。
図8】HAヒドロゲル内のPAR移動度を示す図である。0.5mg/mLの3つの異なるFITC結合PARをHAディスクに24時間充填して、すすいだ。その後、FRAP実験を実施した。(A)3つのPARの蛍光回復の比較を示すグラフである。(B)3つのPARの拡散係数Dと可動分子の割合pの決定を示すグラフである。
図9】反復培養における、PAR10、PAR30、PAR200を充填したHAヒドロゲルの抗菌活性を示す図である。反復培養は、細菌培養の24時間後、試料をすすぎ、新鮮な細菌を接種して行った。
図10】反復培養における、PAR10を充填したHAヒドロゲルの抗菌活性を示すグラフである。細菌培養の24時間後、試料をすすぎ、新鮮な細菌を接種した。グラフは、異なる濃度のPAR10を充填されたヒドロゲルディスクの存在下での細菌の増殖を示す。
図11】反復培養における、PAR30を充填したHAヒドロゲルの抗菌活性を示すグラフである。細菌培養の24時間後、試料をすすぎ、新鮮な細菌を接種した。グラフは、異なる濃度のPAR30を充填されたヒドロゲルディスクの存在下での細菌の増殖を示す。
図12】反復培養における、PAR200を充填したHAヒドロゲルの抗菌活性を示すグラフである。細菌培養の24時間後、試料をすすぎ、新鮮な細菌を接種した。グラフは、異なる濃度のPAR200を充填されたヒドロゲルディスクの存在下での細菌の増殖を示す。
図13】PAR10を充填したHAヒドロゲル及びPAR30を充填したHAヒドロゲルの細胞毒性アッセイを示す図である。(A)24時間後のBalb/3T3細胞は、HA+PAR10及びHA+PAR30ディスク(0.05mg/mLで充填された)の下側で剥離/変形を示し、一方、ディスクの周囲は良好な状態を保つ。(B)MTT試験により、良好な細胞生存率が確認された。(C)ISO10993によれば、このような反応性(2等級)は、細胞毒性効果のない軽度の反応性であると考慮される。
図14】MTT試験による細胞生存率の評価を示す図である。Balb/3T3細胞を24ウェルプレートに接種し、PARを充填した又は充填していないHAヒドロゲルディスクと24時間接触させた。HAディスクはPARなしのBDDE架橋HAヒドロゲルディスクに相当し、HA+PARは異なるPAR濃度(mg/mL)を充填したHAヒドロゲルに相当する。(A)直接インビトロ細胞毒性試験の24時間後の細胞画像写真を示す。(B)MTT試験によって測定された細胞生存率を示すグラフである。破線は70%の生存率(細胞毒性限界)に相当する。
図15】反復培養における、PAR10、PAR30、PAR200を充填したHAヒドロゲルの抗菌活性を示すグラフである。細菌培養の24時間ごとに、試料に新鮮な細菌を接種した。グラフは、PAR10、PAR30、及びPAR200を充填されたヒドロゲルディスクの存在下での細菌の増殖を示している(充填濃度は示されている)。
図16】HAヒドロゲルディスク及びPARを充填されたヒドロゲル被覆メッシュの抗菌活性を示すグラフである。グラフは、0.05mg/mLのPAR10又はPAR30を充填されたヒドロゲルディスク又はヒドロゲル被覆メッシュの存在下での細菌の増殖を示している(充填濃度はmg/mLで示されている)。細菌を材料とともに37℃で6日間インキュベートした後、光学濃度を測定して細菌の増殖を評価した。
図17】加圧滅菌後のHAヒドロゲルの抗菌活性を示すグラフである。グラフは、0.05mg/mL及び0.1mg/mLのPAR30を充填し、加圧滅菌により滅菌したヒドロゲル被覆ポリプロピレン(PP)メッシュの存在下での細菌の増殖を、加圧滅菌処理していない試料と比較して示す。細菌を材料とともに37℃で24時間インキュベートした後、光学濃度を測定して細菌の増殖を評価した。
図18】異なる%のBDDEで架橋されたHAヒドロゲルの抗菌活性を示すグラフである。グラフは、0.05及び0.1mg/mLのPAR30を充填し、加圧滅菌により滅菌したHAヒドロゲルディスクの存在下での細菌の増殖を、加圧滅菌処理していない試料と比較して示す。細菌を材料とともに37℃で24時間インキュベートした後、光学濃度を測定して細菌の増殖を評価した。
図19】正に帯電した抗菌性ポリペプチドを充填したHAヒドロゲルの抗菌活性を示すグラフである。グラフは、0.05mg/mL及び0.1mg/mLのポリアルギニンPAR30、ポリオルニチンPLO30、及びポリリジンPLL30を充填したHAヒドロゲルディスクの存在下での細菌の増殖を示す。細菌を材料とともに37℃で24時間インキュベートした後、光学濃度を測定して細菌の増殖を評価した。
図20】共焦点顕微鏡観察、及び72時間後に残っているPARの割合を示す図である。なお、HAディスクを、0.5mg.mL-1の3つの異なるFITC結合PARとともに24時間インキュベートした。ディスクをすすぎ、次にNaCl 1Mで72時間インキュベートした。
図21】NaCl 1Mにおける72時間後のPAR放出の分光蛍光光度法による定量化を示すグラフである。グラフは3つの独立した実験の平均を表し、エラーバーは標準偏差を表す。なお、HAディスクを、0.5mg.mL-1の3つの異なるFITC結合PARとともに24時間インキュベートした。ディスクをすすぎ、次にNaCl 1Mで72時間インキュベートした。
図22】MH及びDMEMとのインキュベーション前後における、PARの放出を示す、ディスクの共焦点顕微鏡画像である。なお、HAディスクを、0.5mg.mL-1の3つの異なるFITC結合PARとともに24時間インキュベートした。ディスクをすすぎ、次にMH又はDMEMで72時間インキュベートした。
図23】MHで放出されたPARの割合を示すグラフである。100%はTris/NaClでのディスクの蛍光強度を表す。なお、HAディスクを、0.5mg.mL-1の3つの異なるFITC結合PARとともに24時間インキュベートした。ディスクをすすぎ、次にMHで72時間インキュベートした。
図24】DMEMで放出されたPARの割合を示すグラフである。100%はTris/NaClでのディスクの蛍光強度を表す。なお、HAディスクを、0.5mg.mL-1の3つの異なるFITC結合PARとともに24時間インキュベートした。ディスクをすすぎ、次にDMEMで72時間インキュベートした。
【発明を実施するための形態】
【0016】
ヒアルロン酸ヒドロゲル
本明細書で使用される場合、「ヒドロゲル」という用語は、水を保持する化学的に架橋されたヒドロゲルを指す。
【0017】
本発明のヒドロゲルは、ヒアルロン酸(HA)又はその誘導体を含む。
【0018】
本明細書で使用される場合、ヒアルロナンとしても知られる「ヒアルロン酸(HA)」という用語は、直鎖状(非分岐)多糖又は非硫酸化グリコサミノグリカンであり、N-アセチルグルコサミンとグルクロン酸の繰り返し二糖単位で構成されている(β1-3及びβ1-4グリコシド結合によって結合されている)。
【0019】
HAは通常、次の式(3)
【0020】
【化1】
【0021】
(式中、pは2から25,000の間に含まれる整数である)
のものである。
【0022】
したがって、ヒアルロン酸(HA)は、負に帯電したポリマー(ポリアニオンとも呼ばれる)である。したがって、負に帯電したポリマーは、塩の形で対イオンと一緒に存在する。ヒアルロン酸ナトリウムの場合、対イオンはナトリウムである。ヒアルロン酸はヒアルロニダーゼによって分解される。ヒアルロナンの分子量(Mw)は、母集団内のすべての分子の平均を表し、したがって分子質量平均(分子重量平均)を表す。ヒアルロン酸(HA)は、幅広い分子量で入手できる。
【0023】
したがって、「ヒアルロン酸の一種」は、特定の分子量を有する特定のヒアルロン酸を指す。
【0024】
特定の実施形態では、ヒアルロン酸は、150kDaから3000kDaの間、特に160kDaから2900kDaの間、170kDaから2800kDaの間、180kDaから2700kDaの間、190kDaから2670kDaの間、200kDaから2600kDaの間、300kDaから2500kDaの間、400kDaから2400kDaの間、500kDaから2300kDaの間、600kDaから2200kDaの間、700kDaから2100kDaの間、750kDaから2000kDaの間、760kDaから1900kDaの間、770kDaから1800kDaの間、780kDaから1700kDa、790kDaから1600kDaの間、800kDaから1500kDaの間、805kDaから1400kDaの間、810kDaから1300kDaの間、815kDaから1200kDaの間、820kDaから1100kDaの間、821kDaから1000kDaの間、822kDaから900kDaの間、823kDaから850kDaの間の分子量を有するヒアルロン酸である。
【0025】
一例では、ヒアルロン酸は、150kDaの分子量を有し、米国のLifecore Biomed社からヒアルロン酸ナトリウムの形でもたらされる。
【0026】
好ましい実施形態では、ヒアルロン酸は、800から850kDaの間の分子量を有するヒアルロン酸である。
【0027】
好ましい例では、ヒアルロン酸は823kDaの分子量を有する(HA800と呼ばれる)。
【0028】
別の例では、ヒアルロン酸は2670kDaの分子量を有する(HA2700と呼ばれる)。
【0029】
特定の実施形態では、ヒドロゲルは、1つより多いタイプのヒアルロン酸を含む。結果的に、いくつかの実施形態では、ヒアルロン酸は、少なくとも2つのタイプのヒアルロン酸を含み、少なくとも2つのタイプのヒアルロン酸のうちの一方は、800から850kDaの間の分子量を有し、少なくとも2つのタイプのヒアルロン酸のうちの他方は、100から2000kDaの間の分子量、特に150kDaの分子量を有する。
【0030】
本明細書で使用される場合、本明細書での「ヒアルロン酸の誘導体」という用語は、化学的に修飾されたヒアルロン酸を指す。より具体的には、ヒアルロン酸の誘導体は、化学基を導入するために、又はHAを化合物と結合させるために化学的に修飾されたヒアルロン酸を指すことができる。これは、好ましくは、HAと別の化合物又は別のHA化合物又はその誘導体、特にアミン基を有する化合物との架橋を可能にする。
【0031】
いくつかの実施形態では、ヒアルロン酸の誘導体には、アルデヒド基で修飾されたHA(HA-CHO又はHA-Aldと呼ばれる)、アミン修飾ヒアルロン酸(HA-NH2と呼ばれる)、光反応性のビニルベンジル基を含むHA(HA-VBと呼ばれる)、メタクリレート基で修飾されたHA(メタクリル化HAと呼ばれる)、チラミンに結合したHA(HA-チラミンと呼ばれる)、及びカテコールに結合したHA(HA-カテコールと呼ばれる)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0032】
本発明のヒドロゲルにおいて、HA又はその誘導体は、その水酸基部分のレベルで架橋剤により架橋され、一方、HA又はその誘導体のカルボキシル部分は遊離したままであり、及びHA又はその誘導体は負に帯電したままである。
【0033】
「架橋剤」とは、本明細書では、2つのポリマー、すなわち2つのHA分子間の共有結合又はイオン結合の形成を可能にする試薬を意味する。
【0034】
本発明の文脈において、架橋剤は、HAの水酸基部分のレベルでHAを架橋し、一方、HAのカルボキシル部分は遊離したままであり、HAは負に帯電したままである。
【0035】
「遊離したままであるカルボキシル部分」とは、本明細書では、架橋剤が、HAのカルボキシル部分のレベルで結合の形成を誘発せず、したがって、架橋する前の状態と比較して未修飾のままであることを意味する。
【0036】
水酸基を標的とする架橋剤の例は当業者からよく知られており、ブタンジオールジグリシジルエーテル(BDDE)、ジビニルスルホン(DVS)及び臭化シアン、オクテニルコハク酸無水物が挙げられる。
【0037】
当業者が理解するように、架橋剤が特定の部分で形成を誘発するかどうかは、反応条件、特に酸性又は塩基性条件下での反応に依存する可能性がある。
【0038】
「HAが負に帯電したままである」とは、本明細書では、架橋後のHAの全体的な電荷が負であることを意味する。特定の実施形態では、すべてのHA分子は、架橋後も負に帯電したままである。
【0039】
特定の実施形態では、架橋剤は、ブタンジオールジグリシジルエーテル(BDDE)である。
【0040】
BDDEで架橋されたHAは、通常、次の式(4)である。
【0041】
【化2】
【0042】
本発明のヒドロゲルは、通常、高い架橋レベルを有する。
【0043】
正に帯電した抗微生物ペプチド
本発明のHAヒドロゲルには、少なくとも1種の正に帯電した抗微生物ペプチドが充填されている。
【0044】
「充填された」とは、本明細書では、HAヒドロゲルが、少なくとも1種の正に帯電した抗微生物ペプチドを、ヒドロゲルに共有結合することなく、含侵、含有、及び/又は負担することを意味する。したがって、ペプチドは、時間の経過とともに、ヒドロゲルから自然に放出され得る。
【0045】
「抗微生物ペプチド」とは、本明細書では、消毒、抗生物質、抗菌、抗ウイルス、抗真菌、抗原虫、及び/又は抗寄生虫活性を示すペプチドを意味する。
【0046】
好ましくは、抗微生物ペプチドは抗菌ペプチドである。
【0047】
本明細書で使用される場合、「抗菌活性」という用語は、静菌及び/又は殺菌活性を包含する。
【0048】
一実施形態では、抗菌活性及び/又は静菌活性は、少なくとも1種の細菌に対して向けられる。
【0049】
本明細書で使用される場合、「殺菌活性」は、細菌、特に少なくとも1種のタイプの細菌を殺すことを指す。
【0050】
本明細書で使用される場合、本明細書での「静菌活性」は、必ずしもそれらを殺すわけではないが、細菌の繁殖を阻止することを指し、言い換えれば、本明細書での静菌活性は、細菌の増殖を阻害することを指す。結果的に、静菌活性は、例えば、少なくとも1種の細菌の増殖阻害の%で表せる。
【0051】
本発明の文脈における「少なくとも1種の細菌の増殖阻害」は、70%を超え、例えば、75%を超え、80%を超え、通常、82%、84%、86%、88%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%を超えてよい。
【0052】
結果的には、一実施形態では、本発明の文脈で使用される抗微生物ペプチドは、少なくとも1種の細菌の70%を超える増殖阻害を有し、より具体的には、少なくとも1種の細菌の75%を超える、80%を超える、通常は82%、84%、86%、88%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%を超える増殖阻害を有する。
【0053】
本明細書における「少なくとも1種の細菌」は、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10又はそれ以上の種の細菌の細菌を指す。
【0054】
一実施形態では、少なくとも1種の細菌は、ESKAPE病原体である。
【0055】
「ESKAPE病原体」は、世界中の院内感染症の主な原因であり、例えば、Biomed Res Int. 2016; 2016:2475067に記載されている。一実施形態では、「ESKAPE病原体」という用語は、エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium)、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)、クレブシエラ・ニューモニアエ(Klebsiella pneumoniae)、アシネトバクター・バウマンニ(Acinetobacter baumannii)、シュードモナス・エルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)、及びエンテロバクター種(Enterobacter species)からなる群より選択される細菌を指す。
【0056】
一実施形態では、少なくとも1種の細菌は、グラム陽性菌又はグラム陰性菌であり、好ましくはグラム陽性菌である。
【0057】
一実施形態では、グラム陰性菌は、シュードモナス・エルギノーサ、アシネトバクター・バウマンニ、ステノトロホモナス・マルトフィリア(Stenotrophomonas maltophilia)、エシェリキア・コリ(Escherichia coli)、クレブシエラ・ニューモニアエ、エンテロバクター種又はレジオネラ細菌(Legionella bacterium)であり、好ましくはエシェリキア・コリ又はシュードモナス・エルギノーサである。
【0058】
一実施形態では、グラム陽性菌は、スタフィロコッカス、ミクロコッカス(Micrococcus)、又はエンテロコッカス菌である。
【0059】
「スタフィロコッカス」属の細菌は、静止した、胞子を形成しない、カタラーゼ陽性、オキシダーゼ陰性、葡萄房状にグループ化されたグラム陽性球菌である。1879年にパスツールによってフルンクル膿で観察されたスタフィロコッカス(staphylococci)は、急性慢性膿瘍でそれらを分離したOgsten(1881)にちなんで名付けられた。「スタフィロコッカス」属の細菌、例えば、スタフィロコッカス・アウレウス、スタフィロコッカス・エピデルミデス(S.epidermidis)、スタフィロコッカス・キャピティス(S.capitis)、スタフィロコッカス・カプラエ(S.caprae)、スタフィロコッカス・ヘモリティクス(S.haemolyticus)、スタフィロコッカス・ルグドゥネンシス(S.lugdunensis)、スタフィロコッカス・シュライフェリ(S.schleiferi)、スタフィロコッカス・シムランス(S.simulans)、及びスタフィロコッカス・ワルネリ(S.warneri)は異物感染、例えば人工関節感染症の主な病原体である。
【0060】
結果的に、一実施形態では、スタフィロコッカス属は、スタフィロコッカス・アウレウス、スタフィロコッカス・エピデルミデス、スタフィロコッカス・キャピティス、スタフィロコッカス・カプラエ、スタフィロコッカス・ヘモリティクス、スタフィロコッカス・ルグドゥネンシス、スタフィロコッカス・シュライフェリ、スタフィロコッカス・シムランス及びスタフィロコッカス・ワルネリから選択され、好ましくは、スタフィロコッカス・アウレウス、スタフィロコッカス・エピデルミデスであり、更に好ましくは、スタフィロコッカス・アウレウスである。
【0061】
「ミクロコッカス(Micrococcus)」属の細菌は、一般に腐生性又は共生生物であると考えられているが、特にHIV患者等、免疫システムが低下している宿主では日和見病原体になる可能性がある。ミクロコッカスは通常、皮膚のミクロフローラに存在し、この属が病気に関連することはめったにない。しかし、まれに、ミクロコッカスによって引き起こされた肺感染症によって免疫不全患者が死亡している。ミクロコッカスは、特に免疫抑制患者において、再発性菌血症、敗血症性ショック、敗血症性関節炎、心内膜炎、髄膜炎、及び空洞形成性肺炎を含む他の感染症に関与している可能性がある。
【0062】
一実施形態では、ミクロコッカスは、ミクロコッカス・ルテウス(M.luteus)菌である。
【0063】
「エンテロコッカス」属の細菌は、尿路感染症、菌血症、細菌性心内膜炎、憩室炎、髄膜炎等の重大な臨床感染症の原因である。
【0064】
一実施形態では、エンテロコッカスは、エンテロコッカス・フェカリス(E.faecalis)又はエンテロコッカス・フェシウム等のバンコマイシン耐性エンテロコッカスである。
【0065】
静菌活性又は増殖阻害の%は、例えば、本明細書の以下の「方法」の部分に記載されている本明細書の抗菌アッセイにより実証できる。そのような抗菌アッセイで使用できる菌株は、例えば、ミクロコッカス・ルテウス又はスタフィロコッカス・アウレウスであってよい。
【0066】
本発明の文脈において使用される抗微生物ペプチドは、正に帯電したペプチドである。
【0067】
「正に帯電した」とは、本明細書では、ペプチドの全体的な電荷が正であることを意味する。
【0068】
正に帯電したアミノ酸は当業者によく知られており、リジン、アルギニン、ヒスチジン及びオルニチンが挙げられる。
【0069】
任意の正に帯電した抗微生物ペプチドは、本発明の文脈で使用できる。
【0070】
特定の実施形態では、正に帯電した抗微生物ペプチドは、以下の式(2)
【0071】
【化3】
【0072】
(式中、
- nは、2から250、特に2から200の間に含まれる整数であり、
- Rは、-NH2、-CH2-NH2及び-NH-C(NH)-NH2から選択される)
のペプチドである。
【0073】
式(2)のペプチドは、n個の反復単位からなり、反復単位は同一又は異なる。本発明によれば、式(2)のペプチドの反復単位は、式-NH-CH(CH2-CH2CH2-R)-C(=O)-を有する。特定の反復単位の場合、Rは上記定義されているとおりであり、したがって単位ごとに異なっていてもよい。
【0074】
1つの好ましい実施形態によれば、式(2)のペプチドは、n個の反復単位からなり、すべてのR基は同一である。
【0075】
更なる実施形態によれば、式(2)のペプチドは、n個の反復単位からなり、R基は異なっていてもよい。
【0076】
n単位のうち、ペプチドは、式-NH-CH(CH2-CH2-CH2-NH2)-C(=O)-のi個の単位、式-NH-CH(CH2-CH2-CH2-CH2-NH2)-C(=O)-のj個の単位、及び式-NH-CH(CH2-CH2-CH2-NH-C(NH)-NH2)-C(=O)-のk個の単位を含んでよく、各i、j、及びkは、0とnの間に含まれ、i+j+k=nであり、単位のランダムな分布又はブロックとしての分布を有する。
【0077】
一実施形態では、式(2)を有するn個の反復単位の「n」は、Rが-NH2、-CH2-NH2及び-NH-C(NH)-NH2から選択される場合、11から200の間に含まれる整数である。
【0078】
更なる実施形態では、Rが-NH2、-CH2-NH2及び-NH-C(NH)-NH2から選択される場合、好ましくはRが-CH2-NH2及び-NH-C(NH)-NH2から選択される場合、より好ましくは、Rが-NH-C(NH)-NH2である場合、nは、11から99の間に含まれる整数であり、例えば、nは、11から95の間、15から95の間、15から90の間、15から85の間、15から80の間、15から75の間、20から95の間、20から90の間、20から85の間、20から80の間、20から75の間、25から95の間、25から90の間、25から85の間、25から80の間、25から75の間、28から74の間、28から72の間、30から70の間に含まれる整数であり、例えば、30、50及び70である。
【0079】
更なる実施形態では、Rが-NH2、-CH2-NH2及び-NH-C(NH)-NH2から選択される場合、好ましくは、Rが-CH2-NH2及び-NH-C(NH)-NH2から選択される場合、より好ましくは、Rが-NH-C(NH)-NH2である場合、nは11から49の間に含まれる整数であり、例えば、nは11から45の間、15から45の間、20から40の間、21から39の間、22から38の間、23から37の間、24から36の間、25から35の間、26から34の間、27から33の間、28から32の間、29から31の間に含まれる整数である。
【0080】
1つの特定の実施形態では、Rが-NH2、-CH2-NH2及び-NH-C(NH)-NH2から選択される場合、好ましくは、RがCH2-NH2及び-NH-C(NH)-NH2から選択される場合、より好ましくは、Rが-NH-C(NH)-NH2である場合、nは、11、15、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、45、47、50、52、54、56、58、60、62、64、66、68、70、72、74、76、78、80、82、84、86、88、90、92、94、96、98からなる群より選択される整数であり、好ましくは、nは30、50又は70である。
【0081】
1つの特定の実施形態では、Rが-NH2、-CH2-NH2及び-NH-C(NH)-NH2から選択される場合、好ましくは、Rが-CH2-NH2及び-NH-C(NH)-NH2から選択される場合、より好ましくは、Rが-NH-C(NH)-NH2である場合、nは、11、15、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、45及び49からなる群より選択される整数であり、好ましくは、nは30である。
【0082】
式(2)の「反復単位」は「構造単位」とも呼ばれることがあり、本明細書ではアミノ酸又はアミノ酸残基を指し、アミノ酸は、Rが-NH2場合はオルニチンであり、Rが-CH2-NH2の場合はリジンであり、又はRが-HC(NH)-NH2の場合はアルギニンである。したがって、「式(2)のn個の反復単位」は、「式(2)のn個のアミノ酸残基」とも呼ばれてよく、より正確には、Rが-NH2場合はn個のオルニチン残基、Rが-CH2-NH2の場合はn個のリジン残基、又はRが-HC(NH)-NH2の場合はn個のアルギニン残基と呼ばれてよい。
【0083】
上記によると、いくつかの実施形態では、「式(2)を有するn個の反復単位」は、Rが-NH2である場合は「n個のオルニチン残基を有するポリオルニチン」と、Rが-CH2-NH2である場合は「n個のリジン残基を有するポリリジン」と、又はRが-HC(NH)-NH2である場合は「n個のアルギニン残基を有するポリアルギニン」と呼ばれてよい。
【0084】
「オルニチン」は、尿素回路で役割を果たす非タンパク構成アミノ酸である。ポリオルニチンは、構造単位がオルニチンのポリマーを指す。ポリオルニチンは、ポリ-L-、ポリ-D-、又はポリ-LD-オルニチンを指す。本発明の文脈において、ポリオルニチンは、特にポリ-L-オルニチン(PLO)を指す。
【0085】
「アルギニン」及び「リジン」は、タンパク質の生合成に使用されるα-アミノ酸である。ポリアルギニン及びポリリジンは、それぞれ構造単位がアルギニンのポリマー又は構造単位がリジンのポリマーを指す。ポリアルギニン又はポリリジンとは、ポリ-L-、ポリ-D-又はポリ-LD-アルギニン又は-リジンを指す。本発明の文脈において、ポリアルギニン又はポリリジンは、特に、それぞれ、ポリ-L-アルギニン(PAR)及びポリ-L-リジン(PLL)を指す。
【0086】
特定の実施形態では、正に帯電した抗微生物ペプチドは、ポリアルギニン、ポリオルニチン、及びポリリジンからなる群より選択される。
【0087】
「ポリ-L-オルニチン」、「ポリ-L-リジン」及び「ポリ-L-アルギニン」は、正に帯電した合成ポリマーであり、対イオンを含む塩の形で生成される。対イオンは、塩酸塩、臭化水素酸塩、又はトリフルオロ酢酸塩から選択できるが、これらに限定されない。
【0088】
一例では、ポリアルギニンは、CAS#26982-20-7のポリ-L-アルギニン塩酸塩である。
【0089】
一例では、ポリオルニチンは、CAS#27378-49-0のポリ-L-オルニチン臭化水素酸塩又はCAS#26982-21-8のポリ-L-オルニチン塩酸塩である。
【0090】
一例では、ポリリジンは、ポリ-L-リジントリフルオロ酢酸、CAS#25988-63-0のポリ-L-リジン臭化水素酸塩、又はCAS#26124-78-7のポリ-L-リジン塩酸塩である。
【0091】
定義された数のアミノ酸残基を有するポリ-L-オルニチン、ポリ-L-リジン及びポリ-L-アルギニンは、例えば、米国のAlamanda Polymers社を介して商業的に入手できる。
【0092】
一例では、PAR10(10アルギニン(R)、Mw=2.1kDa、PDI=1);PAR30(30R、Mw=6.4kDa、PDI=1.01);PAR50(50アルギニン(R)、Mw=9.6kDa、PDI=1.03);PAR70(70アルギニン(R)、Mw=13.4kDa、PDI=1.01)、PAR100(100R、Mw=20.6kDa、PDI=1.05)、及びPAR200(200R、Mw=40.8kDa、PDI=1.06)等のポリ-L-アルギニン(PAR)は、米国のAlamanda Polymers社から購入した。
【0093】
別の例では、PLO30(30R、Mw=5.9kDa、PDI=1.03)、PLO100(100R、Mw=18.5kDa、PDI=1.03)、及びPLO250(250R、Mw=44.7kDa、PDI=1.02)等のポリ-L-オルニチン(PLO)は、米国のAlamanda Polymers社から購入した。
【0094】
更なる例では、PLL10(10R、Mw=1.6kDa)、PLL30(30R、Mw=5.4kDa、PDI=1.02)、PLL100(100R、Mw=17.3kDa、PDI=1.07)、及びPLL250(250R、Mw=39.5kDa、PDI=1.08)等のポリ-L-リジン(PLL)は、米国のAlamanda Polymers社から購入した。
【0095】
例えばn=30を有するポリアルギニン、ポリリジン、又はポリオルニチン等のn個の反復単位を有するポリペプチドを得る方法は、当業者に知られており、α-アミノ酸N-カルボキシ無水物(NCAs)の開環重合とそれに続く精製を含む。通常、ポリペプチドは、水中での沈殿による、又は例えば、有機非溶媒中での沈殿による重合後、及びアミノ酸側鎖の脱保護後、透析によって精製する。すべての水溶性ポリマーは最終的に凍結乾燥する。
【0096】
特に好ましい実施形態では、正に帯電した抗微生物ペプチドはポリアルギニンである。
【0097】
より特に好ましい実施形態では、ポリアルギニンは、以下の式(1)
【0098】
【化4】
【0099】
(式中、nは、2から100の間に含まれる整数である)
のものである。
【0100】
更なる実施形態では、式(1)において、nは、11から99の間に含まれる整数であり、例えば、nは、11から95の間、15から95の間、15から90の間、15から85の間、15から80の間、15から75の間、20から95の間、20から90の間、20から85の間、20から80の間、20から75の間、25から95の間、25から90の間、25から85の間、25から80の間、25から75の間、28から74の間、28から72の間、30から70の間に含まれる整数であり、例えば30、50及び70である。
【0101】
更なる実施形態では、式(1)のnは、11から49の間に含まれる整数であり、例えば、nは、11から45の間、15から45の間、20から40の間、21から39の間、22から38の間、23から37の間、24から36の間、25から35の間、26から34の間、27から33の間、28から32の間、29から31の間に含まれる整数である。
【0102】
1つの特定の実施形態では、式(1)のnは、11、15、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、45、47、50、52、54、56、58、60、62、64、66、68、70、72、74、76、78、80、82、84、86、88、90、92、94、96、98からなる群より選択される整数であり、好ましくは、nは30、50又は70である。
【0103】
1つの特定の実施形態では、式(1)のnは、11、15、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、45及び49からなる群より選択される整数であり、好ましくは、nは30である。
【0104】
特に好ましい実施形態では、ポリアルギニンは、以下の式(1)
【0105】
【化5】
【0106】
(式中、nは30である)
のものである。
【0107】
特定の実施形態では、ヒドロゲルは、nが2から100の間に含まれる整数であるn1である、上記定義された式(2)の正に帯電した抗微生物ペプチド、及び少なくとも1種の、nがn2であり、2から100の間に含まれる整数ではあるが、n1とは異なる、上記定義された式(2)の正に帯電した抗微生物ペプチドが充填されている。
【0108】
言い換えれば、特定の実施形態では、ヒドロゲルは、式(2)の少なくとも2種の正に帯電した抗微生物ペプチドが充填され、ペプチドは大きさが異なる。
【0109】
特定の実施形態では、ヒドロゲルには、以下の式(1)
【0110】
【化6】
【0111】
(式中、nはn1であり、2から250の間、特に2から200の間に含まれる整数である)
及び次の式(1)
【0112】
【化7】
【0113】
(式中、nはn2であり、2から250の間、特に2から200の間に含まれる整数であり、n2は、n1と異なっている)
のポリアルギニンが充填されている。
【0114】
より特定の実施形態では、ヒドロゲルには、異なる大きさの式(1)のポリアルギニンが充填されている。
【0115】
別の実施形態では、抗微生物ペプチドは、カテスタチン、カテスリチン、ポリオルニチン、ポリリジン及びそれらのD異性体又はL異性体、ナイシン、ディフェンシン、メリチン及びマガイニンから選択される。
【0116】
特定の実施形態では、本発明のヒドロゲルは、例えば、PAR10とPAR200の混合物又はPAR30とPAR200の混合物として、上記定義されたように、異なる正に帯電した抗微生物ペプチドを充填される。
【0117】
追加の化合物
本発明のヒドロゲルは、追加の化合物を更に含むことができる。特に、本発明のヒドロゲルは、医薬品活性薬物を更に含むことができる。
【0118】
本発明の文脈において、「医薬品活性薬物」という用語は、生物学的事象を変更し、阻害し、活性化し、又は生物学的事象にその他の方法により影響を与える化合物又は実体を指す。この薬物には、例えば、抗癌物質、抗炎症剤、免疫抑制剤、細胞増殖阻害剤を含む細胞-細胞外マトリックス相互作用の修飾因子、抗凝固剤、抗血栓剤、酵素阻害剤、鎮痛剤、抗増殖剤、抗真菌物質、細胞分裂阻害物質、成長因子、ホルモン、ステロイド、非ステロイド性物質、及び抗ヒスタミン剤が挙げられるが、これらに限定されない。症状群の例は、鎮痛剤、抗増殖剤、抗血栓剤、抗炎症剤、抗真菌剤、抗生物質、細胞分裂阻害物質、免疫抑制物質、及び成長因子、ホルモン、グルココルチコイド、ステロイド、非ステロイド性物質、サイレンシング及びトランスフェクションのために遺伝的又は代謝的に活性な物質、抗体、ペプチド、受容体、リガンド、及びそれらの任意の薬学的に許容される誘導体であるが、これらに限定されない。上記群の具体例は、パクリタキセル、エストラジオール、シロリムス、エリスロマイシン、クラリスロマイシン、ドキソルビシン、イリノテカン、ゲンタマイシン、ジクロキサシリン、キニーネ、モルフィン、ヘパリン、ナプロキセン、プレドニゾン、デキサメタゾン、サイトカイン、IL-4、IL-10、VEGF、ファンギゾン、カテスタチン又はカテスリチンである。
【0119】
調製の方法
本発明はまた、上記定義されたヒドロゲルを調製するための方法であって、
(a)塩基性条件において、上記「ヒアルロン酸ヒドロゲル」の部分で定義されている、ヒアルロン酸(HA)又はその誘導体と、その水酸基部分のレベルでHAを架橋し、一方、HA又はその誘導体のカルボキシル部分を遊離したままにし、HA又はその誘導体を負に帯電したままにする、「ヒアルロン酸ヒドロゲル」の部分で定義されている、架橋剤とを混合する工程と、
(b)混合物を支持体上に沈着させ、それを室温で48時間から72時間インキュベートして、ヒドロゲルを得る工程と、
(c)工程(b)で形成されたヒドロゲルを回収する工程と、
(d)架橋剤残留物の除去及びヒドロゲルの膨張を可能にする条件下で、水性緩衝液中でヒドロゲルをインキュベートする工程と、
(e)工程(d)で得られたヒドロゲルに、上記「正に帯電した抗微生物ペプチド」の部分で定義されている、少なくとも1種の正に帯電した抗微生物ペプチドを充填する工程と、
(f)工程(e)で得られた充填されたヒドロゲルを回収する工程と、
を含む方法に関する。
【0120】
混合工程(a)
本発明の方法の混合工程(a)は、塩基性条件において、上記「ヒアルロン酸ヒドロゲル」の部分で定義されている、ヒアルロン酸(HA)又はその誘導体と、HAをその水酸基部分のレベルで架橋し、一方、HA又はその誘導体のカルボキシル部分を遊離したままにし、HA又はその誘導体を負に帯電したままにする、上記「ヒアルロン酸ヒドロゲル」の部分で定義されている、架橋剤とを混合することからなる。
【0121】
特定の実施形態では、HAは、800kDaから850kDaの間の分子量を有し、特に823kDaの分子量を有するヒアルロン酸である。
【0122】
特定の実施形態では、工程(a)の混合物は、1%(w/v)から10%(w/v)の上記定義されたHA又はその誘導体を含み、より好ましくは2%(w/v)から3%(w/v)の上記定義されたHA又はその誘導体を含み、最も好ましくは、2.5%(w/v)の上記定義されたHA又はその誘導体を含む。
【0123】
特定の実施形態では、架橋剤は、ブタンジオールジグリシジルエーテル(BDDE)である。
【0124】
特定の実施形態では、工程(a)の混合物は、少なくとも10%(v/v)の上記定義された架橋剤、特にBDDEを含み、より好ましくは少なくとも20%(v/v)の架橋剤、特にBDDEを含む。特定の実施形態では、工程(a)の混合物は、10%(v/v)から30%(v/v)の上記定義された架橋剤、特にBDDEを含む。
【0125】
特定の実施形態では、工程(a)の混合物は、2%(w/v)から3%(w/v)のHA又はその誘導体、及び少なくとも10%(v/v)の架橋剤、特にBDDE、特に、少なくとも20%(v/v)の架橋剤、特にBDDEを含む。
【0126】
「塩基性条件」とは、本明細書では、pHが7を超える反応条件を意味する。通常、HA及び架橋剤は、NaOH溶液、特に0.1Mから0.3MのNaOH溶液、より具体的には0.25MのNaOH溶液中で混合される。
【0127】
沈着工程(b)
本発明の方法の沈着工程(b)は、工程(a)で得られた混合物を支持体上に沈着させ、それを室温で48時間から72時間インキュベートして、上記定義のヒドロゲルを得ることからなる。
【0128】
ペトリ皿、スライドガラス、ウェルプレート、パラフィルム、医療用圧定布、メッシュ、又は医療用補綴材(ポリマー、金属)等の任意の適切な支持体が使用され得る。
【0129】
支持体は、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリプロピレン、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、ガラス、テフロン又は金属等の任意の適切な材料であってよい。特定の実施形態では、支持体は、高いpHを維持できる材料である。
【0130】
支持体は、混合物の沈着前に前処理できる。例えば、支持体を、例えばHellmanex(登録商標)(陰イオン洗剤)溶液及び/又はHCl溶液及び/又は70%アルコール溶液及び/又はアセトンで洗浄し、及び/又は接着性を改善するために、例えば、ポリエチレンイミン(PEI)の沈着により処理できる。
【0131】
混合物は、液滴沈着、注入、ピペット操作、押し出し、スピン回転塗布、浸漬、又は3Dプリント等の当業者にはよく知られている任意の技術によって、支持体上に沈着させることができる。
【0132】
支持体上に一旦沈着した混合物を、室温で、48時間から72時間、好ましくは72時間インキュベートして、上記定義したヒドロゲルを得る。
【0133】
回収工程(c)
次に、工程(b)で形成されたヒドロゲルを回収する。
【0134】
回収工程(c)は、当業者によく知られている任意の技術によって実装できる。例えば、通常はサークルカッター、メス、精密切削工具(物理的又はレーザーベース)、及び必要な大きさに応じた特定のプレスカッターを使用して、ヒドロゲルの断片を切断することによって実装できる。
【0135】
インキュベーション工程(d)
本発明の方法のインキュベーション工程(d)は、架橋剤残留物の除去及びヒドロゲルの膨張を可能にする条件下で、水性緩衝液中でヒドロゲルをインキュベートすることからなる。
【0136】
「水性緩衝液」とは、本明細書では、弱酸とその共役塩基の混合物からなる水溶液、又はその逆を意味する。水性緩衝液の例には、Tris/NaCl緩衝液(例えば、Tris 10mM、NaCl 0.15M、pH7.4緩衝液)、PBS又はHEPESが挙げられる。
【0137】
本明細書で使用される場合、水性緩衝液は、蒸留水等の水からなる溶液を更に包含する。
【0138】
「架橋剤残留物の除去」とは、本明細書では、結合に関与しない架橋剤分子がヒドロゲルから排除され、その結果、好ましくは、インキュベーション工程の後に、ヒドロゲル中に0.01%以下の遊離架橋剤分子が存在することを意味する。
【0139】
「ヒドロゲルの膨張」とは、本明細書では、好ましくはヒドロゲルの大きさが少なくとも1.5倍に増加するレベルまで、インキュベートされている水性緩衝液から、ヒドロゲルが水分を捕捉することを意味する。
【0140】
インキュベーション工程は、通常、1~5分から1時間実行される。インキュベーション工程は、特に、異なる又は同じ緩衝液中でのいくつかのインキュベーション、通常、1~5分間の第1のインキュベーション及び1時間の第2のインキュベーションを含むことができる。
【0141】
ヒドロゲルは通常、インキュベーション工程の後、充填工程を実行する前に、4℃で保存できる。
【0142】
充填工程(e)
本発明の方法の充填工程(e)は、上記「正に帯電した抗微生物ペプチド」の部分で定義された、少なくとも1種の正に帯電した抗微生物ペプチドを、工程(d)で得られたヒドロゲルに充填することからなる。
【0143】
特定の実施形態では、正に帯電した抗微生物ペプチドは、上記「正に帯電した抗微生物ペプチド」の部分で定義されているポリアルギニン、特にPAR30である。
【0144】
特定の実施形態では、正に帯電した抗微生物ペプチドは、工程(e)で0.05mg/mlから5mg/ml、より具体的には0.05mg/mlから1mg/mlの濃度で充填される。
【0145】
充填は、好ましくは室温で実施される。
【0146】
正に帯電した抗微生物ペプチドの充填は、2時間から48時間、特に3時間から24時間、好ましくは24時間行われてよい。
【0147】
充填工程(e)の後に洗浄工程(e')を続けることができる。ここで、充填されたヒドロゲルは、上記定義された水性緩衝液、特にTris/NaCl緩衝液で洗浄される。
【0148】
本発明の方法によって調製された充填されたヒドロゲルは、上記「追加の化合物」の部分で定義された追加の化合物を更に含んでもよい。そのような追加の化合物は、ヒドロゲルの形成中又はヒドロゲルの充填中に追加できる。特に、追加の化合物は、架橋剤の添加前にHAと混合でき、HAと架橋剤の混合物と混合でき、又は架橋反応の後に充填でき、抗微生物ペプチドを充填する前又は後に充填できる。
【0149】
本発明は更に、上記定義された調製の方法によって得られる可能性が高いヒドロゲルに関する。
【0150】
上記開示された調製の方法から当業者には明白に明らかであるように、上記定義された調製の方法によって得られる可能性が高いヒドロゲルは、高い架橋レベルを有する。
【0151】
医療デバイス
本発明は更に、上記定義されたヒドロゲルを含む医療デバイスに関する。
【0152】
「医療デバイス」とは、本明細書では、カテーテル、ステント、気管内チューブ、ハイポチューブ、塞栓保護用等のフィルター、手術器具等の品目を意味する。本発明では、通常、医療分野で被覆されている任意のデバイスを使用できる。更に、本発明の範囲内で、この用語は、哺乳動物に挿入される天然又は人工の任意の材料を指す。本発明のヒドロゲルの適用に特に適した特定の医療デバイスには、末梢挿入可能な中心静脈カテーテル、透析カテーテル、長期トンネル中心静脈カテーテル、長期非トンネル中心静脈カテーテル、末梢静脈カテーテル、短期中心静脈カテーテル、動脈カテーテル、肺動脈スワンガンツカテーテル、尿カテーテル、人工尿括約筋、長期尿デバイス、尿拡張器、尿ステント、その他の尿器具、組織結合尿デバイス、人工陰茎、血管移植片、血管カテーテルポート、血管拡張器、血管外拡張器、血管ステント、血管外ステント、創傷ドレーンチューブ、水頭症用シャント、心室カテーテル、腹膜カテーテル、ペースメーカーシステム、小型又は一時的な関節置換、心臓弁、心臓補助デバイス等及び人工骨、人工関節及び歯科補綴物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0153】
本明細書で使用される「医療デバイス」という用語は、創傷被覆材及びメッシュ補綴材を更に包含する。
【0154】
「創傷被覆材」という用語は、以下のような任意の薬学的に許容される創傷被覆材を指す。
a)ポリウレタン共重合体、アクリルアミド、アクリレート、パラフィン、多糖類、セロハン及びラノリン等の半透性又は半閉塞性の物を含む、フィルム
b)カルボキシメチルセルロース、ゼラチンのタンパク質成分、ペクチン、及びアカシアガム、グアーガム、カラヤガムを含む複雑な多糖類を含む親水コロイド。これは、柔軟な発泡体の形で利用でき、代わりに、ポリウレタンを処方又は、更なる代わりに、ポリイソブチレン等の接着剤を処方することができる。
c)パインメッシュガーゼ、パラフィン及びラノリンコーティングガーゼ、ポリエチレングリコール被覆ガーゼ、ニットビスコース、レーヨン、及びポリエステルを含む含浸材
d)アルギン酸カルシウムを含む、アルギン酸塩等のセルロース様多糖類。これらは繊維の不織布複合材として処方してもよく、紡糸して織物複合材としてもよい。
【0155】
特定の実施形態では、創傷被覆材は、担体材料として、不織布又はニット布を含み、ニット布又は不織布は天然繊維又は合成繊維で作られる。
【0156】
「メッシュ補綴材」とは、本明細書では、外科手術中の臓器及び他の組織の恒久的又は一時的な支持体として使用される、緩く織られたシートを意味する。メッシュ補綴材は通常、ポリプロピレンメッシュ、ポリエチレンテレフタレートメッシュ、ポリテトラフルオロエチレンメッシュ、又はフッ化ポリビニリデンメッシュであってよい。
【0157】
特定の実施形態では、医療デバイスは、創傷被覆材又はメッシュ補綴材である。
【0158】
特定の実施形態では、医療デバイスは、本発明のヒドロゲルで被覆及び/又は含浸されている。
【0159】
特に、医療デバイスが創傷被覆材である場合、創傷被覆材の担体材料は、好ましくは、1つ又は複数の側面がヒドロゲルで被覆又は含浸される。
【0160】
ヒドロゲルは、当業者によく知られている任意の方法によって、医療デバイスに適用及び/又は含まれてよい。
【0161】
通常、非架橋HAと架橋剤との混合物の材料上への液滴沈着によって、又は非架橋HAと架橋剤との混合物に吸収性材料を浸漬することによって、又は専用の機器又は押し出し印刷でヒドロゲルを被覆することによって、ヒドロゲルは、医療デバイスに適用及び/又は含まれてよい。
【0162】
本発明の特定の実施形態では、本発明によるヒドロゲルが容器に配置されることも示される。ヒドロゲルが無菌包装されていることが特に示される。このような場合、スクリューキャップ付きの容器、再密閉可能なチューブ、又は例えば安全キャップ付きのチューブ等の消耗品容器等の容器が、使用できる。しかしながら、ヒドロゲルが原包装として使用される注射器に配置されることもまた示されてよい。注射器内のヒドロゲルが無菌であることが特に示される。特に好ましい実施形態では、このヒドロゲルは、すぐに使用できるキットとして無菌の原包装に含まれ、薬物担体又は被覆材料、及び場合によってはさらなる医療扶助と一緒に利用可能である。原包装のヒドロゲルと薬物担体又は被覆材料との両方が、キットパッケージの無菌の原包装で利用可能であることも示されてよい。
【0163】
上記実施形態の任意の組み合わせは、本発明の一部となる。
【0164】
本出願を通して、「含む」という用語は、具体的に言及されたすべての特徴、及び任意の、追加の、特定されていない特徴を包含すると解釈されるべきである。本明細書で使用される場合、「含む」という用語の使用は、具体的に言及された特徴以外の特徴が存在しない(すなわち、「からなる」)実施形態も開示する。更に、不定冠詞「a」又は「an」は複数を除外しない。特定の手段が相互に異なる従属請求項に記載されているという単なる事実は、これらの手段の組み合わせを有利に使用できないことを示すものではない。
【0165】
次に、以下の実施例を参照して、本発明をより詳細に説明する。本明細書で引用されたすべての文献及び特許文書は、参照により本明細書に組み込まれる。本発明は、前述の説明において詳細に説明及び記載されてきたが、実施例は、説明的又は例示的であり、限定的ではないと見なされるべきである。
【実施例
【0166】
(実施例1)
HA架橋とヒドロゲル沈着
HAヒドロゲル開発の第1の工程として、本発明者らはいくつかの基板及び沈着技術を評価した。目標は、厚さ10~100μmの均質なHA層を取得することであった。
【0167】
フィルムを架橋するために、本発明者らは、市場を先導するHAヒドロゲルの大部分で使用されている、ブタンジオールジグリシジルエーテル(BDDE)を選択した。
【0168】
BDDEによるHA架橋
予備実験は、ガラス瓶内の5%(v/v)及び10%(v/v)BDDEと、一晩撹拌することにより0.1M NaOHに溶解した、823kDaのHA 2.5%(w/v)とを混合して架橋することによって行った。溶液粘度の増加が観察されなくなるまで、反応を48時間実施した。架橋の前後にHA溶液を観察した。
【0169】
架橋する前は、3つの溶液はすべて液体であった。24時間後、10%BDDEを含むHA溶液のゲル化が観察され、48時間後、5%及び10%BDDE含有溶液のどちらも架橋され、一方、BDDEを含まないHAは液体のままであった。
【0170】
液滴沈着によって製造されたHAヒドロゲル、BDDEと事前に混合されたHA
本発明者らは、他のHAよりも多くのPAR30-ローダミンを吸収すると思われるHA 823kDaを選択した。
【0171】
本発明者らは、5%HA 823kDaをNaOH0.25Mに溶解することと、それをBDDE 10%又は20%と事前に混合することからなる方法を試験した。
【0172】
沈着は、直径12mmのスライドガラスで試験した。
【0173】
スライドガラスを最初にHellmanex 2%溶液で洗浄し、次にHCl 1Mで洗浄し(両方の工程に続いて脱塩水ですすいだ)、次にエタノール70%ですすぎ、乾燥させた。HA接着を改善するために、スライドガラスを水中の0.5mg/ml ポリエチレンイミン(PEI)溶液に30分間浸漬することにより、PEIの層を沈着させた。
【0174】
混合物を準備したスライドガラスに沈着させ、スライドを含むプレートを密封してフィルムの乾燥を防いだ(図1)。架橋反応を48時間実施した。
【0175】
HAをNaOHに溶解すると、溶液の粘度が高くなりすぎずに、HA濃度を最大5%まで上げることができる。BDDEとHAを事前に混合することで、より少量の架橋剤の使用で済む。
【0176】
25μLのHA 5%、BDDE 10%の沈着によって得られた層は、約800μmの厚さで均質であった。10μLのHA 5%-BDDE 10%をスライド上に沈着させて広げると、膜厚は約250μmに減少した。最後に、5μLのHA 5%BDDE 20%を2枚のスライドガラスの間に沈着させると、50μmの膜厚が得られた。
【0177】
したがって、BDDEと事前に混合されたHAの沈着により、沈着された体積及び沈着方法に応じて、異なる厚さのフィルムを得ることができる。
【0178】
最後に、発明者らは、HA 2.5%+20% BDDE(事前混合)、パラフィルムとスライドガラスの間の10μLの沈着を選択したところ(図2)、約100μmの均質なフィルムを得た。
【0179】
PARの充填前対充填後
次に、本発明者らは、抗菌活性について、PARを帯電させたHAヒドロゲルを試験した。本発明者らは、PARを充填した後について評価した(架橋HAフィルム上にPARの1mg/mL溶液を追加)。充填したPARは10残基、30残基、150残基及び200残基の4つの異なる長さがあった。これらは、更にPAR10、PAR30、PAR150及びPAR200と呼ばれる。また、我々は、充填したフィルムからの24時間後のPARの放出を調べた。
【0180】
抗菌活性は、スタフィロコッカス・アウレウスの培養物を使用して試験した(HAを含む又はHAで覆われていない、PARで帯電されている又はスライドガラスではない、24ウェルプレートのウェルあたりの初期光学濃度OD=0.001の細菌懸濁液400μL)。24時間後、620nmでのODを測定し、BacLightレドックスセンサーCTCバイタリティーキット(Molecular Probes社)を蛍光マーカーとして使用して、表面の細菌生存率を評価した。
【0181】
結果は、PAR(すべての長さ)を充填後のフィルム上で細菌の増殖の阻害を示した。
【0182】
本発明者らは、PARを後で充填する方法が最も効率的であると特定した。
【0183】
(実施例2)
自立型HAヒドロゲルの製造と特性評価
最初に、NaOH 0.25M中で823kDa HA 2.5%(w/v)及び1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル(BDDE)20%(v/v)を混合し、その溶液をパラフィルムと直径12mmのスライドガラスの間に沈着することによって、薄いヒドロゲルフィルムを製造する手順を、本発明者らは確立した。
【0184】
この手法では約100μmの薄膜が得られたが、温度に敏感でヒドロゲル形成に影響を与える可能性がある、パラフィルムを使用する必要があった。再現性の欠如を回避するために、本発明者らは、異なる大きさの、耐性がある、操作が容易な自立型ヒドロゲルを製造することを可能にする新しい手法を開発した。
【0185】
自立型HAヒドロゲルの構築
このようなヒドロゲルを調製するために、NaOH 0.25M中に2.5% HAと20% BDDEとを含む1.5mLのよく混合した溶液を、直径35mmのペトリ皿に注ぎ、室温で72時間架橋させた。
【0186】
サークルカッターを使用して、ヒドロゲルを必要な大きさのディスクに更に切断した。例えば、24ウェルプレートでの実験では、直径4mmのディスクを使用した。
【0187】
ヒドロゲルディスクをTris10mM/NaCl 0.15M緩衝液(pH=7.4)で更にすすぎ、4℃で数週間保存することができた。
【0188】
ヒドロゲルディスク調製の概略手順と、結果として得られる、異なる大きさのディスクを図4に示す。得られたヒドロゲルは、ペンチ又はヘラで簡単に操作できる。
【0189】
(実施例3)
PARの充填と放出の特性評価
HAヒドロゲルディスクへのPARの充填
PARをヒドロゲルに充填するために、ディスクをPAR溶液に浸し、室温でインキュベートした。24ウェルプレート中の4mmディスクには、0.5mLのPAR溶液を使用した。次に、ディスクをTris/NaCl緩衝液で2回すすいだ:1回は短くすすぎ、もう1回は長く(少なくとも1時間)すすいだ。
【0190】
手順、及び結果として得られるPAR30-FITC(30個のアルギニン残基を有するとともに、FITCに結合したPAR)を充填したディスクの例を図5に示す。
【0191】
本発明者らは、3時間対24時間のPAR30の充填を比較した。その結果は、24時間後、PAR30がディスクの中心に更に拡散することを示した(図6)。したがって、24時間の充填がさらなる実験のために選択された。
【0192】
次に、本発明者らは、3つの異なるPAR、すなわち、10個のアルギニン残基を持つ鎖に相当するPAR10、30個のアルギニン残基を有する鎖に相当するPAR30、及び200個のアルギニン残基を有する鎖に相当するPAR200の充填を研究した。
【0193】
ヒドロゲル内のPARの充填と拡散を視覚化するために、本発明者らは再び蛍光標識されたPAR(PAR10-FITC、PAR30-FITC、PAR200-FITC)を使用した。
【0194】
蛍光プロファイルは、PAR10とPAR30についてより均一な分布を示した(図7)。
【0195】
次に、本発明者らは、FRAP(光退色後の蛍光回復)技術を使用して、ヒドロゲル内のPAR移動度(図8)を研究した。定性的には、PAR10が最も移動性が高く、PAR200が最も移動性が低かった(図8A)。拡散係数等の定量的パラメータも決定した(図8B)。
【0196】
Tris/NaCl緩衝液におけるPAR充填ヒドロゲルの安定性
3つの異なるPAR(10個のアルギニン残基を有する鎖に相当するPAR10、30個のアルギニン残基を有する鎖に相当するPAR30、及び200個のアルギニン残基を有する鎖に相当するPAR200)を充填したHAディスクを室温又は37℃で48時間インキュベートした。結果は、どの条件下でもPAR-FITCの放出がないことを示しており、抗菌HA-PARディスクは、高温でもTris/NaCl緩衝液中で安定しており、ディスクの操作や輸送に適していることを示唆している。
【0197】
より具体的には、ヒドロゲルに含まれるPARの総量は、PAR放出を促進するために、濃縮NaCl中で、蛍光標識されたPARを充填されたヒドロゲルのインキュベーションによって推定した。共焦点顕微鏡画像(図20)によると、NaCl 1M中37℃で72時間後、PAR10の放出はほぼ完了し、PAR30とPAR200の放出は80%近くになった。72時間のインキュベーション後にヒドロゲルディスクに残っているPARの割合を画像処理で測定した。100%は放出前の蛍光強度に相当する。次に、NaCl 1Mインキュベーション後に残っているPARの割合を測定して、放出されたPARの値を決定した。PAR10、PAR30、及びPAR200でそれぞれ約97%、78%、及び78%であった。PAR30及びPAR200の不完全な放出は、FRAP実験によって示された低い移動度と相関している。次に、分光蛍光光度法によって上清の蛍光強度を測定し、検量線を参照することによって、放出されたPAR-FITCの量を定量化した。
【0198】
その結果、0.5mg.mL-1 PAR溶液でインキュベートしたディスクが、NaCl 1M中で72時間後に、約212μgのPAR10-FITC、157μgのPAR30-FITC、及び91μgのPAR200-FITCを放出した(図21)。放出量を100%に補正すると、それぞれ218μg、201μg、117μgのPAR10-FITC、PAR30-FITC、PAR200-FITCを充填したことになる。ディスクの容量は約30μLであるため、ディスクにはそれぞれ約7.3mg.mL-1のPAR10、6.7mg.mL-1のPAR30、及び3.9mg.mL-1のPAR200が含まれている。
【0199】
細菌及び細胞培養培地におけるPARの放出
10単位、30単位及び200単位のFITC標識PARを使用して、本発明者らは、2つの異なる培地中における37℃でのHAヒドロゲルからの放出を評価した。
【0200】
本発明者らは、MH(ミューラーヒントン培地、細菌培養培地)中及びDMEM(ダルベッコ改変イーグル培地+10%FBS+抗生物質、細胞培養培地)中、37℃で24時間インキュベーションした後、ディスクイメージングを実行した。その結果、PARの放出パターンがMHとDMEM/FBSでわずかに異なっていた。後者では、PAR30とPAR200の放出はMHよりも高かった。
【0201】
より具体的には、ヒドロゲルからのPAR放出を、微生物学的増殖培地(MH)又は細胞培養培地(DMEM)中で72時間調べた。PAR-FITCを充填されたヒドロゲルをこれらの培地に入れ、37℃でインキュベートし、共焦点顕微鏡でPARの放出を観察した(図22)。MHにおけるPAR10の放出は、よりゆっくりと放出されたPAR30及びPAR200と比較して、より速かった(図23)。DMEMでは、3つのPARすべてにほぼ同様の放出プロファイルがあり、48時間後に完全に放出された(図24)。
【0202】
(実施例4)
抗菌効果対インビトロでの細胞毒性
予備実験において、本発明者らは、1mg/mLでHAヒドロゲルに充填されたPAR10、PAR30及びPAR200の抗菌活性を実証した。
【0203】
PARを充填されたヒドロゲルの抗菌特性をより詳細に研究するために、本発明者らは、異なる濃度のPAR10、PAR30、及びPAR200を充填されたヒドロゲルディスクを使用して、細菌の反復培養(図9)を実行した。
【0204】
PAR30は最も長期の抗菌効果を示し、8日間の反復培養後も0.5及び1mg/mL(充填)で有効であった。PAR10は1mg/mLで8日間有効であり、PAR200は1mg/mLで7日間有効であった(図10図12)。
【0205】
細胞毒性試験
直接的なインビトロ細胞毒性試験は、材料を細胞と24時間接触させ、MTT試験を実施して細胞生存率を評価することからなる。ISO10993によると、試験された材料は細胞層表面の約1/10を覆う必要がある。これは、24ウェルプレートのウェルあたり約5mmのヒドロゲルディスクに相当する。
【0206】
本発明者らは、Tris-NaCl緩衝液に入れられたときに膨潤して直径約6mmになった直径4mmのディスクを使用した。
【0207】
37℃で24時間後、ヒドロゲルディスクを取り出して、細胞生存率を推定するのに役立つことが多く、細胞代謝活性を測定するためのMTT試験を実行した。黄色の水溶性MTT(3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド)は、生細胞において代謝的に還元されて青紫色の不溶性ホルマザンになる。生細胞の数は、ホルマザンをアルコールに溶解した後の光度測定によって決定された色の強度と相関している(ISO10993から)。
【0208】
そのため、PARが充填されているかどうかに関係なく、ディスクを滅菌し、Balb/3T3細胞の約80%コンフルエントな層の上に配置した。MTTアッセイでは、0.2mg/mLのMTTを含有する細胞培養培地で細胞を2時間インキュベートした。次に培地を除去し、ホルマザンをDMSOに溶解した。分光光度計使用して、得られた溶液の吸光度を570nmで測定するとともに、細胞の形態を評価するためにディスクの周囲及び下側で画像を撮影した。
【0209】
第1の実験では、0.05mg/mLのPAR10及びPAR30(抗菌効果を示す最低の充填濃度)を充填されたヒドロゲルは、定量的MTT試験の結果(良好な生存率)及び定性的反応性グラデーション(反応性は標本の下側の領域に限定)によると、ISO10993基準により非細胞毒性であるように見えた。(図13)。
【0210】
本発明者らは、これらの結果を確認し、加えて、PAR10及びPAR30 0.1mg/mLを充填されたヒドロゲルに対して細胞毒性アッセイを実行したが、これも非細胞毒性であるように見えた(図14)。以前のように、反応性領域はディスクの下側の領域に限定され(データは示さず)、細胞生存率は良好であった(図20B)。しかし、PAR200を充填されたヒドロゲルは細胞毒性として分類された。
【0211】
注目すべきことに、0.1mg/mLのPAR10及びPAR30を充填されたヒドロゲルは、反復培養(=新鮮な細菌を毎日追加)において、2日間及び4日間、抗菌効果を示した。追加の試験(図15)では、これらの数値は更に高かった(3日間と5日間)。
【0212】
(実施例5)
メッシュ材料へのHAヒドロゲルの沈着
自立型ヒドロゲルディスク製造の手順を確立することに加えて、本発明者らは、臨床用途に使用される2つの材料、すなわち高吸収力を備えた創傷消毒に使用される不織布(Medicomp(登録商標))及びヘルニア修復のためのポリプロピレンメッシュへの、ヒドロゲルの沈着を試みた。
【0213】
HA-BDDE溶液(50μL又は100μL)を、直径12mmの布又はメッシュ片に沈着させ、架橋させた。Medicomp(登録商標)は100μLのヒドロゲル溶液を吸収して保持し、一方、50μLの量は吸収性のないポリプロピレンメッシュにより適していた。しかし、どちらの材料も、架橋後にヒドロゲルを保持でき、操作は簡単であった。
【0214】
Medicomp(登録商標)布及びポリプロピレンメッシュ上に沈着され、PAR30-ローダミンを充填したHAヒドロゲルの共焦点画像が得られた。これらの画像では、布又はメッシュの繊維がPAR30-ローダミン標識ヒドロゲルに囲まれている。一部のPAR30-ローダミンも繊維に吸収される。
【0215】
抗菌活性に関しては、ヒドロゲルで覆われたメッシュ材料をヒドロゲルディスクと比較したところ、6日間低濃度(図16)で同様の細菌増殖阻害を示した。
【0216】
(実施例6)
保存と滅菌
ヒドロゲル(自立型及びメッシュ材料上に沈着)は、抗菌活性を失うことなく、4℃で数日間維持し、乾燥し、凍結し、加圧滅菌(図17)によって滅菌できる。
【0217】
(実施例7)
架橋率
PAR30を充填した架橋度が低い又は高い(10%及び30%BDDE v/v)ヒドロゲルは、20% BDDEと比較して、24時間後に同様の抗菌活性を示した(図18)。しかし、それらは取り扱いがより困難であった。10% BDDEヒドロゲルは非常に柔らかく弾力性があり、一方、30% BDDEヒドロゲルは脆く簡単に壊れた。
【0218】
(実施例8)
他の正に帯電した抗菌ポリペプチドの使用
24時間後、0.05mg/mL及び0.1mg/mLのポリオルニチンPLO30及びポリリジンPLL30を充填したHAヒドロゲルは、PAR30を充填されたヒドロゲルと比較して、同様の抗菌活性を示した(図19)。
【0219】
(実施例9)
インビボ生体適合性
この研究には、認定された繁殖センター(Charles River社、フランス)から提供された、10匹の8週齢のオスのウィスターラット(体重300g~400g)を使用した。
【0220】
動物は、CREFRE(US006/CREFRE-Inserm/UPS/ENVT)動物供給業者(2015年12月17日発行のNo.A31555010)において受領した。動物実験を実施するための欧州指令(DE86/609/CEE;修正DE2003/65/CE)に従って承認を得て、手順がCREFRE倫理委員会に提出された。1週間の順化が順守された。動物は、2倍のレベルの換気されたケージに収容された(ヨーロッパ規格に従って、ケージごとに2匹の動物)。動物を注意深く監視し(行動と摂餌量)、実験中毎週体重を測定した。10匹のラットは、各2つの丸い移植物(直径1cm)、すなわち左側に1つの移植物、及び右側に1つの移植物を受け入れた。合計で、以下の条件のそれぞれについて、メッシュ材料上に沈着され乾燥及び高圧滅菌処理されたヒドロゲルの5回の移植があった。条件は、i)HAのみのヒドロゲル、ii)0.1mg.mL-1のPAR10を充填したHAヒドロゲル、iii)0.05mg.mL-1のPAR30を充填したHAヒドロゲル、iv)0.1mg.mL-1のPAR30を充填したHAヒドロゲルであった。
【0221】
ラットはイソフルラン4%によって誘導され、2%で維持された。各ラットは、加熱されたパッド上でうつ伏せとなるように置かれた。毛剃りとベタジンでのこすり洗いの後、胸腰部に2つの20mm背側切開を、1つは右側に、もう1つは左側に行った。1つの足場が両側で皮下ポケットに挿入された。すべての切開はVicryl(登録商標)3-0で閉じられた。すべてのラットは、ブプレノルフィン(0.6mg/kg)を1日2回5日間皮下注射された。すべての動物は、有害な影響なしに研究期間中生き残った。14日後に安楽死を行った。動物は、最初にイソフルラン装置とマスクで麻酔され、次に腹腔内経路でペントバルビタール(150mg/kg)の過剰摂取量をゆっくりと注射された。動物の死亡が終了した後、周囲の組織を含む移植物を外植し、組織学を実行するために収集した。
【0222】
組織学的分析のために、試料を4%ホルマリンで固定した。肉眼で見える切片をパラフィンに包埋した。厚さ5μmの切片をヘマトキシリン-エオシン-サフラン(HES)で染色した。各試料について、以下の基準でスライドスキャン(NanoZoomer、浜松ホトニクス株式会社)を行った後、ソフトウェアNDP.view2(浜松ホトニクス株式会社、マシー、フランス)を使用して、顕微鏡光学分析を実現した。急性炎症、慢性炎症、線維芽細胞反応、浮腫、線維症、血管新生及び補綴物周囲の組織球性反応の半定量的評価を実現した。
【0223】
結果
予備的なインビボ実験をラット(10匹の動物)で実施した。各ラットは、ヒドロゲルで覆われたメッシュ(d=1cm)の2つの移植物、すなわち左側に1つの移植物、右側に1つの移植物を受け入れた。すべての動物は、有害作用なしに研究期間中生き残り、すべての動物は通常の方法で体重が増加した。
【0224】
14日後、周囲の組織を含む移植物を外植し、組織学的分析を行うために収集した。分析の結果、移植物周囲の組織に炎症が存在した。しかし、HAのみのヒドロゲルとHA-PARヒドロゲルの間に差異はなく、これはPARの添加が炎症反応を促進又は増加させないことを示唆している。
【0225】
結論
要約すると、本発明者らは、ポリアルギニン(PAR)を充填でき、長期にわたる抗菌効果を提供できるヒアルロン酸(HA)ヒドロゲルを開発した。この効果は、充填したPARの濃度と長さに依存する。PAR30は、長期に渡る抗菌効果を提供するのに最も効率的であると特定され、抗菌効果はPAR濃度とともに増加した。
【0226】
抗菌性ヒドロゲルは、創傷被覆材及びメッシュ補綴材上に沈着させることができ、感染を防ぐのに役立つ可能性があり、したがって組織の再生及び/又は移植物の統合を改善する。
図1
図2
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図13AB
図13C
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【手続補正書】
【提出日】2022-01-05
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒアルロン酸(HA)又はその誘導体を含み、少なくとも1種の正に帯電した抗微生物ペプチドが充填されたヒドロゲルであって、前記HA又はその誘導体は、その水酸基部分のレベルで架橋剤により架橋されており、一方、HA又はその誘導体のカルボキシル部分は遊離したままであり、前記HA又はその誘導体は負に帯電したままである、ヒドロゲル。
【請求項2】
前記正に帯電した抗微生物ペプチドは、ポリアルギニン、ポリオルニチン及びポリリジンからなる群より選択される、請求項1に記載のヒドロゲル。
【請求項3】
前記正に帯電した抗微生物ペプチドは、ポリアルギニンである、請求項1又は2に記載のヒドロゲル。
【請求項4】
前記ポリアルギニンは、以下の式(1)
【化1】
(式中、nは2から250の間に含まれる整数である)
のものである、請求項3に記載のヒドロゲル。
【請求項5】
前記ポリアルギニンは、以下の式(1)
【化2】
(式中、nは30である)
のものである、請求項4に記載のヒドロゲル。
【請求項6】
前記ヒアルロン酸は、800kDaから850kDaの間の分子量を有するヒアルロン酸である、請求項1から5のいずれか一項に記載のヒドロゲル。
【請求項7】
前記架橋剤は、ブタンジオールジグリシジルエーテル(BDDE)である、請求項1から6のいずれか一項に記載のヒドロゲル。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載のヒドロゲルを調製するための方法であって、
(a)塩基性条件下で、ヒアルロン酸(HA)又はその誘導体と、その水酸基部分のレベルでHAを架橋し、一方、HA又はその誘導体のカルボキシル部分を遊離したままにし、前記HA又はその誘導体を負に帯電したままにする架橋剤とを混合する工程と、
(b)混合物を支持体上に沈着させ、それを室温で48時間から72時間インキュベートして、ヒドロゲルを得る工程と、
(c)工程(b)で形成されたヒドロゲルを回収する工程と、
(d)架橋剤残留物の除去及びヒドロゲルの膨張を可能にする条件下で、水性緩衝液中で前記ヒドロゲルをインキュベートする工程と、
(e)工程(d)で得られたヒドロゲルに少なくとも1種の正に帯電した抗微生物ペプチドを充填する工程と、
(f)工程(e)で得られた充填されたヒドロゲルを回収する工程と、
を含む方法。
【請求項9】
工程(a)の混合物は、2%(w/v)から3%のHA又はその誘導体、及び少なくとも10%(v/v)の架橋剤を含む、請求
項8に記載の方法。
【請求項10】
前記架橋剤は、ブタンジオールジグリシジルエーテル(BDDE)である、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
前記正に帯電した抗微生物ペプチドは、ポリアルギニンである、請求項8から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記正に帯電した抗微生物ペプチドは、工程(e)で0.05mg/mlから1mg/mlの濃度で充填される、請求項8から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
請求項8から12のいずれか一項に記載の調製の方法によって得られる可能性が高い、請求項1に記載のヒドロゲル。
【請求項14】
請求項1から7又は13のいずれか一項に記載のヒドロゲルを含む医療デバイス。
【請求項15】
前記医療デバイスは、創傷被覆材又はメッシュ補綴材である、請求項14に記載の医療デバイス。
【国際調査報告】