(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-11
(54)【発明の名称】1,2-ジクロロエタンから塩化ビニルを製造するための方法およびプラント
(51)【国際特許分類】
C07C 17/25 20060101AFI20220704BHJP
C07C 21/06 20060101ALI20220704BHJP
【FI】
C07C17/25
C07C21/06
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021564858
(86)(22)【出願日】2020-04-22
(85)【翻訳文提出日】2021-12-09
(86)【国際出願番号】 EP2020061203
(87)【国際公開番号】W WO2020221640
(87)【国際公開日】2020-11-05
(31)【優先権主張番号】102019206154.0
(32)【優先日】2019-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501186597
【氏名又は名称】ティッセンクルップ アクチェンゲゼルシャフト
【住所又は居所原語表記】ThyssenKrupp Allee 1 45143 Essen Germany
(71)【出願人】
【識別番号】504043934
【氏名又は名称】ティッセンクルップ インダストリアル ソリューションズ アクチェンゲゼルシャフト
(71)【出願人】
【識別番号】521476355
【氏名又は名称】ヴィンノリット ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンジットゲセルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】特許業務法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ポッペ,アレクサンダー
(72)【発明者】
【氏名】カマーホーファー,ペーター
(72)【発明者】
【氏名】クレイチ,クラウス
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AA04
4H006AC13
4H006BC10
4H006BD81
4H006EA03
(57)【要約】
本発明は、1,2-ジクロロエタンの接触熱分解により塩化ビニルを製造する方法で、熱分解に必要な熱が、液状または凝縮熱伝達媒体を介して供給される方法において、熱伝達媒体(4)が、化学プラントからの液体および/またはガス状残留物を燃焼させるためのプラントからの廃熱によって少なくとも部分的に加熱される。本発明の対象はさらに、1,2-ジクロロエタンの接触熱分解により塩化ビニルを製造するためのプラントであって、熱分解が起こる少なくとも1つの反応器(1)と、熱伝達媒体によって反応媒体が反応器(1)内で加熱される少なくとも1つの第一加熱装置(6)とを含み、当該プラントはさらに、反応媒体を加熱するための廃熱によって作動される少なくとも1つの第二加熱装置(7)を含む。これにより、安価な廃熱から、熱分解に必要な熱を少なくとも一時的に利用できる可能性が生じる。例えば、廃熱により作動される第二加熱装置(7)によってだけで、熱伝達媒体を一時的に加熱することができ、廃熱は、例えば、塩化ビニルを製造するためのプラントからの廃熱であってもよい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,2-ジクロロエタンの接触熱分解により塩化ビニルを製造する方法で、当該接触熱分解に必要な熱が、液状または凝縮熱伝達媒体を介して供給される方法において、前記熱伝達媒体(4)が、化学プラントからの液体および/またはガス状残留物を燃焼させるためのプラントからの廃熱によって少なくとも一時的に、および/または、少なくとも部分的または完全に加熱されることを特徴とする、塩化ビニルの製造方法。
【請求項2】
前記1,2-ジクロロエタンが、前記熱伝達媒体(4)によって予熱および/または蒸発および/または過熱されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記熱伝達媒体が、少なくとも一種の燃料を燃焼させることにより少なくとも一時的、少なくとも部分的に、および、廃熱を用いた加熱によって部分的に、加熱されることを特徴とする、請求項1または2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項4】
前記の液状熱伝達媒体を加熱するために、少なくとも一種の燃料の燃焼により作動される少なくとも一つの第一加熱装置(6)と、さらに、廃熱により作動される少なくとも一つの第二加熱装置(7)が使用されることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記熱伝達媒体(4)が循環路内を運ばれ、少なくとも一つの前記第一加熱装置(6)と、廃熱により作動される少なくとも一つの前記第二加熱装置(7)が、前記循環路内に組み込まれていることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
少なくとも一つの前記第一加熱装置(6)と、廃熱により作動される少なくとも一つの前記第二加熱装置(7)が、前記循環路内に直列に接続されていることを特徴とする、請求項4または5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記熱伝達媒体(4)が、反応器(1)が組み込まれた循環路内を流れ、当該反応器内にて1,2-ジクロロエタンの接触熱分解が行われ、前記反応器(1)の反応媒体と前記熱伝達媒体との間で熱交換が起こることを特徴とする、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記熱伝達媒体(4)が、前記反応器(1)を通る前記反応媒体の流動とは逆の流れで前記循環路内を運ばれることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
廃熱により作動される前記第二加熱装置(7)が、塩化ビニルの製造のためのプラントの廃熱から得られたエネルギーによって少なくとも一時的に作動されることを特徴とする、請求項6~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記1,2-ジクロロエタンの熱分解が、200℃~400℃の温度範囲にて行われることを特徴とする、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
1,2-ジクロロエタンの接触熱分解により塩化ビニルを製造するためのプラントで、予熱、蒸発および過熱、並びに1,2-ジクロロエタンの熱分解に必要な熱が、液状または凝縮熱伝達媒体を介して供給され、前記熱分解が起こる少なくとも一つの反応器(1)と、当該反応器内の反応媒体が熱伝達媒体(4)によって加熱される少なくとも一つの第一加熱装置(6)を含むものにおいて、前記プラントがさらに、化学プラントの液体および/またはガス状残留物を燃焼させるためのプラントからの廃熱によって作動される、前記反応媒体を加熱するための少なくとも一つの第二加熱装置(7)を含むことを特徴とする、塩化ビニルの製造用プラント。
【請求項12】
前記反応器が、前記熱伝達媒体(4)の循環路内に組み込まれており、廃熱によって作動される少なくとも前記第二加熱装置(7)がさらに、前記循環路内に組み込まれていることを特徴とする、請求項11に記載のプラント。
【請求項13】
燃料により作動される少なくとも一つの第一加熱装置(6)と、さらに、廃熱により作動される少なくとも一つの第二加熱装置(7)が、前記熱伝達媒体(4)の循環路内に組み込まれていることを特徴とする、請求項12に記載のプラント。
【請求項14】
前記熱伝達媒体(4)の前記循環路が、配管システム内に組み込まれたポンプ(5)、燃料により作動される少なくとも一つの第一加熱装置(6)、廃熱により作動される少なくとも一つの第二加熱装置(7)および前記反応器(1)を含み、前記反応器(1)を通って流れる反応媒体に前記熱伝達媒体(4)からの熱を伝達するための手段が設けられていることを特徴とする、請求項12または13のいずれか1項に記載のプラント。
【請求項15】
燃料により作動される前記第一加熱装置(6)と、廃熱により作動される前記第二加熱装置(7)が、前記熱伝達媒体(4)の循環路内に直列または並列で配置されていることを特徴とする、請求項12~14のいずれか1項に記載のプラント。
【請求項16】
前記反応器(1)が、管束熱交換器を含み、当該熱交換器においては、管に触媒が充填されており、前記熱伝達媒体が、好ましくは、循環路内にて前記反応器(1)のジャケット空間を通って流れることを特徴とする、請求項11~15のいずれか1項に記載のプラント。
【請求項17】
1,2-ジクロロエタンの予熱および/または蒸発および/または過熱のための少なくとも一つの装置が、前記熱伝達媒体の循環路内に組み込まれていることを特徴とする、請求項11~16のいずれか1項に記載のプラント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1,2-ジクロロエタンの接触熱分解(catalytic thermal cleavage)によって塩化ビニルを製造するための方法に関するものであり、当該方法においては、熱分解に必要な熱が、液状または凝縮熱伝達媒体を介して供給される。本発明の対象はさらに、1,2-ジクロロエタンの接触熱分解によって塩化ビニルを製造するためのプラントであって、熱分解に必要な熱が液状または凝縮熱伝達媒体を介して供給され、熱分解が起こる少なくとも一つの反応器と、少なくとも一つの第一加熱装置とを含み、それによって、反応媒体が、熱伝達媒体によって反応器内で加熱されるプラントである。
【0002】
特にポリ塩化ビニルを製造するために必要とされる塩化ビニルを製造するための1,2-ジクロロエタンの熱分解は、以下に示す反応式(1)に従う:
C2H4Cl2 → C2H3Cl+ HCl
【0003】
これは吸熱反応であり、上記の熱分解は1~3MPaの高圧下、450~600℃の温度で気相中にて触媒なしで、あるいは、熱分解がより低い温度で起こることを可能にする触媒法のいずれかで実施することができる。
【従来の技術】
【0004】
例えば、1,2-ジクロロエタンの熱分解によって塩化ビニルを製造する方法は、EP 264 065 A1に記載されており、この方法では、1,2-ジクロロエタンが第一の容器内で加熱され、次いで、第二の容器に移され、そこでは第一の容器内よりも低い圧力下でさらに加熱することなく、塩化ビニルと塩化水素への分解が起こる分解炉内に、気体の1,2-ジクロロエタンが供給される。1,2-ジクロロエタンの温度は第二の容器を出るとき、220℃~280℃である。この分解炉では、1,2-ジクロロエタンが熱分解されるパイプが、化石燃料により加熱される。ガス状の1,2-ジクロロエタンは、分解炉の放熱ゾーンにて525℃または533℃に加熱される。
【0005】
また、EP 264 065 A1には、液体である新鮮な1,2-ジクロロエタンを予熱するために、温度制御媒体が使用できることが述べられており、この温度制御媒体は、分解炉を加熱するバーナーによって生成された煙道ガスと共に、分解炉の対流ゾーンにて順次加熱される。鉱油、シリコーン油または溶融ジフェニルなどの加熱された高沸点液体が、温度制御媒体として適している。しかしながら、このようにして150~220℃の温度までの予備加熱だけが起こり、一方では、上記の熱分解は530℃付近の温度で起こる。それゆえ、このような公知の方法においては、300~400℃の範囲の温度で実施される上記の熱分解や、液状の熱伝達媒体の助けを借りて実施される必要なすべての熱供給についての規定は全く存在していない。
【0006】
通常、塩化ビニルを製造するためのプラント複合体は、
‐エテンと塩素から1,2-ジクロロエタンを製造するためのプラント(「直接塩素化」)、または
‐エテン、塩化水素および酸素から1,2-ジクロロエタンを製造するためのプラント(「オキシ塩素化」)、
‐蒸留による1,2-ジクロロエタンの精製のためのプラント、
‐蒸留によって精製された1,2-ジクロロエタンの、塩化ビニルおよび塩化水素への熱分解のためのプラント、および
‐塩化水素および未反応の1,2-ジクロロエタンの蒸留分離および塩化ビニルの精製のためのプラント
からなる。
【0007】
1,2-ジクロロエタンの熱分解によって得られた塩化水素は、オキシ塩素化プラントに戻すことができ、そこでエテンおよび酸素と再び反応させて1,2-クロロエタンを生成することができる。
【0008】
さらに、上記のプラント複合体は、液体および/または気体の塩素化炭化水素の燃焼のためのプラントを含むことができる。後者は、塩化ビニルの製造方法において副生成物として生じ、蒸留による精製において主に1,2-ジクロロエタンから分離される。これらの物質の燃焼中に生成された塩化水素は、水性の塩酸として他の製造プロセスに放出されるか、またはオキシ塩素化プラントに戻される。既存の方法では、燃焼からの廃熱を利用して蒸気を発生させている。
【0009】
塩化ビニルおよび塩化水素への1,2-ジクロロエタンの分解についてのDE 102 52 891 A1に記載された方法では、吸熱分解の間に運転温度を低下させることを可能にする触媒が使用される。しかしながら、この方法においても、管状反応器は、油またはガスのような一次エネルギー源で熱せられ、この際、炉は放熱ゾーンと対流ゾーンに分けられる。放熱ゾーンでは、熱分解に必要な熱が、バーナーによって加熱される炉壁からの放熱によって主に反応管に伝達される。対流ゾーンでは、放熱ゾーンから出てくる高温煙道ガスのエネルギー含有量が対流熱伝達によって使用され、それによって、熱分解反応の出発材料としての1,2-ジクロロエタンが予熱され、蒸発され、または過熱され得る。
【0010】
1,2-ジクロロエタンを製造するためのプラントにおけるエネルギーおよび/または熱回収を節約するための種々の方法が、先行技術から公知である。このような対策は運転コストの大幅な削減をもたらし、これによって、プラントの収益性およびプラントのCO2排出量の削減に大幅に寄与する。これらは、例えば、プロセス中のヒートシンク(heat sink)を加熱するために、発熱反応工程からの反応熱を使用する方法である。WO 2014/108159 A1には、塩化ビニルを製造するためのプラントにおける熱回収のための様々な公知の方法が列挙されており、対応する参考文献が挙げられている。
【0011】
EP 0 225 617 A1には、1,2-ジクロロエタンの熱分解によって塩化ビニルを製造する方法が記載されており、この方法を実施する場合には、場合によっては分解炉加熱の煙道ガスからの廃熱の回収が、水蒸気の発生と共にもたらされることが記載されている。しかしながら、このような方法は、煙道ガス温度が比較的低いために、あまり経済的ではない。この方法では、1,2-ジクロロエタンの熱分解も比較的高い温度で起こる。最初に、出発材料を約243℃に予熱し、次いで緩和によって部分的に蒸発させ、そして水蒸気を部分的に適用することによって部分的に蒸発させ、次いで触媒を使用せずに435~497℃の温度にて分解炉中で熱的に分解させる。熱伝達油による加熱は行われず、これらの温度での加熱はできない。
【0012】
EP 0 002 021 A1には、1,2-ジクロロエタンの塩化ビニルへの触媒脱ハロゲン化水素のための方法が記載されており、この方法では、ルイス酸で処理されたゼオライト触媒が使用される。このような触媒を使用する場合、200℃~400℃の範囲の高圧および高温で反応を実施することができ、これにより、1,2-ジクロロエタンの従来の熱分解よりもかなり低い温度で実施できる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、運転コストの低減が達成される、1,2-ジクロロエタンの熱分解による塩化ビニルの改良された製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題についての解決は、請求項1の特徴を有する、上記タイプの1,2-ジクロロエタンの接触熱分解による塩化ビニルの製造方法によって提供される。
【0015】
本発明によれば、液状または凝縮熱伝達媒体は、化学プラントの液体および/またはガス状残留物を燃焼するためのプラントからの廃熱によって、少なくとも一時的におよび/または少なくとも部分的にまたは完全に加熱される。これにより、少なくとも一時的に、安価な廃熱から熱分解に必要な熱を利用可能にする可能性が生じる。1,2-ジクロロエタンの熱分解のための触媒の使用は、反応が起こる温度範囲をより低い温度、特に約200℃~約400℃の範囲にシフトさせることができ、その結果、反応器を、以前の場合のように化石燃料による直接加熱の代わりに、熱伝達媒体によって加熱することができる。分解管状炉(cracking tube furnace)の代わりに、例えば、管束(tube bundle)熱交換器を反応器として使用することができ、この熱交換器では、複数の管が触媒で充填され、熱伝達媒体が、好ましくは循環路で、ジャケット空間を通って運ばれる。
【0016】
本発明による方法の好ましいさらなる発展形態によれば、反応に必要な熱は、化学プラントからの廃熱によって熱伝達媒体を加熱することによって、少なくとも一時的におよび/または少なくとも部分的に利用可能となる。この方法のこのような好ましい変形例は、反応に必要な熱が一般に、化石燃料によって加熱することができる第一加熱装置を介して利用可能にされるが、例えば、少なくとも一時的に使用できる廃熱によって作動される第二加熱装置が存在することを提供する。これらの場合には、第一加熱装置は、流動を絞ることができ、または、ある期間完全に停止させることができ、または流量に関して第一加熱装置をバイパスするように熱伝達媒体を誘導することができる。
【0017】
本発明による方法の好ましいさらなる発展形態によれば、反応に必要な熱は、塩化ビニルを製造するためのプラントにおいて副生成物として得られるもののような液体および/または気体の塩素化炭化水素の燃焼のためのプラントからの廃熱によって少なくとも一時的に利用可能にされる。
【0018】
本発明による方法の好ましいさらなる発展形態によれば、液状または凝縮熱伝達媒体は、少なくとも部分的には少なくとも一種の燃料の燃焼によって、部分的には化学プラントからの廃熱を使用して加熱することによって、少なくとも一時的に加熱される。1,2-ジクロロエタンの熱分解分解に必要とされる反応熱の全てを提供するための液状または凝縮熱伝達媒体の使用は、適した触媒の存在下で反応を実施することによって可能になり、これは、触媒を用いない従来の方法と比較して、反応温度を著しく低下させることができる。このような触媒を使用する場合、反応は例えば、約430℃~約530℃のオーダーの従来の方法にて通常の温度から、特に約200℃~400℃の範囲の温度まで低下させることができる。この範囲の温度に加熱することは、例えば、熱伝達油または、できれば溶融塩を使用する場合に可能である。上記のEP 0 002 021 A1に記載されているような物質が、触媒として考えられる。
【0019】
純粋に熱的(熱分解炉で触媒化されていない)または熱触媒的EDC分解(触媒を使用する場合には熱の供給を伴う)のための方法は、通常、以下のサブステップ(sub-step)からなる:
‐液体の1,2-ジクロロエタンを所定の圧力で蒸発温度まで予熱
‐予熱した1,2-ジクロロエタンの蒸発
‐必要であれば、蒸気状の1,2-ジクロロエタンを反応温度の範囲まで過熱(反応温度の範囲で、先の蒸発が起こらなかった場合)
‐熱の供給を伴う(純粋に熱的または触媒を用いた熱的)分解反応。
【0020】
本発明の対象は、液状または凝縮熱伝達媒体による接触‐熱分解反応の加熱に加えて、このような熱伝達媒体によって加熱される1,2-ジクロロエタンの上流予熱、蒸発または過熱を可能にする方法でもある。これらのステップの全てが、熱伝達媒体によって加熱される必要はない。本発明による方法は、上述のサブステップの少なくとも一つから任意の組合せまでの加熱を含み、個々のサブステップは、順次(装置に関して)個々のステップに細分されることが可能である。
【0021】
本発明による方法の文脈における「加熱」とは、熱伝達媒体による出発物質である1,2-ジクロロエタンおよび/または反応混合物への熱の伝達を意味する。出発物質である1,2-ジクロロエタンは、加熱、蒸発、または過熱することができる。反応器中の反応混合物は、一定の温度レベルで熱が供給できる(等温反応手順)。また、反応混合物はさらに加熱することもでき、この際、加熱によって供給される熱は、部分的に反応のために必要な熱をカバーし、部分的に反応混合物をさらに加熱するために使用される。最後に、反応混合物への熱供給は、加熱によって調節することができ、その結果、反応混合物の顕熱(sensible heat)含量が、反応熱要求をカバーするために少なくとも部分的に使用され、反応混合物は、反応器入口温度と比較して反応器内で冷却される。加熱および出発材料である1,2-ジクロロエタンへの熱の伝達は、熱伝達媒体を冷却、またはその顕熱含量を減少させながら液状熱伝達媒体によって、および/または、加熱装置によって予め蒸発させた凝縮熱伝達媒体によって行われる。
【0022】
本発明による方法の文脈における熱伝達媒体のための加熱装置は、一方では加熱油または好ましくは天然ガスなどの化石燃料によって加熱することができる装置(ヒータおよび/または蒸発器、またはヒータと蒸発器機能が組み合わされた装置)である。他方、これらは、化学プラントの副産物の燃焼のためのプラント、好ましくは塩化ビニルを製造するためのプラント複合体の副産物の燃焼のためのプラントからの廃熱によって加熱される熱伝達装置(ヒータおよび/または蒸発器または、ヒータと蒸発器機能が組み合わされた装置)である。このような装置は、当業者に知られている。
【0023】
本発明による方法の好ましいさらなる発展形態によれば、少なくとも一種の燃料の燃焼によって作動される少なくとも一つの第一加熱装置と、さらに、化学プラントの副産物の燃焼のためのプラントからの廃熱により作動される少なくとも一つの第二加熱装置とが、液状または凝縮熱伝達媒体を加熱するために使用される。
【0024】
1,2-ジクロロエタンの接触熱分解のためのプラントの熱需要は、通常、塩化ビニルを製造するためのプラント複合体の副生成物の燃焼によって部分的にしかカバーすることができない。従って、好ましい運転モードでは、副産物の燃焼からの廃熱によって熱伝達媒体が最初に加熱され、必要とされる残りの量の熱は、第二の加熱システムにおける化石燃料の燃焼によって供給される。
【0025】
本発明による方法の好ましいさらなる発展形態によれば、液状または凝縮熱伝達媒体は循環路内で運ばれ、化石燃料の燃焼によって作動される少なくとも一つの第一加熱装置と、廃熱により作動される少なくとも一つの第二加熱装置とが、この循環路内に組み込まれる。
【0026】
本発明による方法の好ましいさらなる発展形態によれば、少なくとも一つの第一加熱装置と、廃熱を用いて作動される少なくとも一つの第二加熱装置とが、循環路内に直列に接続される。そして、熱伝達媒体は、廃熱によって作動される第二加熱装置を通って最初にライン循環路内を流れ、次いで、この第一加熱装置の下流に流れるが、これら2つの加熱装置は逆の順序で流れる。これに代わるものとして、2つの加熱装置を並列に配置することも可能であり、すなわち、加熱装置が組み込まれたライン循環路が接続され、対応するラインが、例えばバルブによって遮断でき、その結果、熱伝達媒体は第一加熱装置を流れずに第二加熱装置を流れることができ、また場合によってはその逆も可能である。
【0027】
本発明による方法の好ましいさらなる発展形態によれば、熱伝達媒体は、反応器が組み込まれた循環路内を運ばれ、この反応器内で1,2-ジクロロエタンの接触熱分解が行われ、反応器の反応媒体と熱伝達媒体との間で熱交換が起こる。
【0028】
本発明による方法の好ましいさらなる発展形態によれば、熱伝達媒体は、反応器を通る反応媒体の流れに対して逆流で循環路内を流動する。このような変形例は、効果的な熱伝達のために有利である。しかしながら、これに代えて、反応媒体の流れと並流の熱伝達媒体の流動も可能である。
【0029】
本発明による方法の好ましいさらなる発展形態によれば、廃熱によって作動される第二加熱装置は、塩化ビニル製造プラントの副産物を燃焼するためのプラントからの廃熱によって少なくとも一時的に作動される。このような変形例は、廃熱がいわば、同じプラント複合体のプラントの一部から使用され、これにより、本発明の方法のエネルギーバランスを改善するという利点を有している。
【0030】
本発明による方法の好ましいさらなる発展形態によれば、廃熱によって作動される第二加熱装置は、全負荷で永久的に作動される。熱分解に必要なエネルギーの残りは、化石燃料によって加熱される加熱プラントによって熱伝達媒体に供給することができる。本発明の方法のこのような変形例では、廃熱によって作動される第二加熱装置が、好ましくは不変に運転温度であることが提供される。
【0031】
本発明による方法の好ましいさらなる発展形態によれば、1,2-ジクロロエタンの熱分解は、200℃~400℃の温度範囲で実施される。これは、液状熱伝達媒体、例えば熱伝達油を使用して容易に実施することができる好ましい温度範囲である。
【0032】
本発明の対象はさらに、1,2-ジクロロエタンの接触熱分解によって塩化ビニルを製造するためのプラントで、好ましくは予熱、蒸発および過熱のために、ならびに1,2-ジクロロエタンの熱分解のために必要とされる熱が、液状または凝縮熱伝達媒体を介して供給され、熱分解が起こる少なくとも一つの反応器と、反応器内の反応媒体が液状熱伝達媒体を用いて加熱される少なくとも一つの第一加熱装置とを含み、本発明によるプラントは、反応媒体を加熱するための廃熱によって作動される少なくとも一つの第二加熱装置も含む。この場合において、熱伝達媒体は、廃熱を利用して作動される第二加熱装置を通って最初に流れることが好ましい。1,2-ジクロロエタンを分解するためだけでなく、蒸発および/または過熱させるための予熱のために必要な熱の残りは、化石燃料によって加熱される加熱システムによって供給することができる。
【0033】
本発明の好ましい発展形態は、反応器が熱伝達媒体の循環路に組み込まれることを提供し、この際、廃熱により作動される第二加熱装置も少なくとも循環路に組み込まれる。
【0034】
本発明の好ましい変形例によれば、燃料により作動される少なくとも一つの第一加熱装置と、廃熱により作動される少なくとも一つの第二加熱装置とが、熱伝達媒体の循環路に組み込まれる。この場合、流動の順序は、好ましくは流動が最初に第二加熱装置を通るような順序である。従って、本明細書で使用される「第一の」または「第二の」加熱装置という用語は、機能的に異なるタイプの加熱装置を示すだけであり、熱伝達媒体が運ばれる順序を指定するものではない。
【0035】
本発明の好ましい変形例によれば、熱伝達媒体の循環路は、配管システム(line system)に組み込まれたポンプと、燃料により作動される少なくとも一つの第一加熱装置と、廃熱により作動される少なくとも一つの第二加熱装置と、反応器とを備え、熱伝達媒体から反応器を通って運ばれる反応媒体への熱を伝達するための手段または、反応器内に位置する反応媒体に熱を伝達するための手段が設けられる。
【0036】
本発明の好ましい更なる発展形態は、燃料により作動される第一加熱装置と、廃熱により作動される第二加熱装置が、熱伝達媒体の循環路内に直列にまたは、その代わりに並列に配置されることを提供する。
【0037】
本発明の好ましいさらなる発展形態は、反応器が、管束熱交換器を含み、この熱交換器の管が触媒で充填されており、好ましくは熱伝達媒体が循環路内を運ばれるジャケット空間を有することを提供する。
【0038】
以下、添付の図面を参照しながら例示的な具体例を用いて、本発明をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】1,2-ジクロロエタンから接触熱分解により塩化ビニルを製造するための本発明のプラントの簡略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
図1には、1,2-ジクロロエタンから接触熱分解により塩化ビニルを製造するための本発明のプラントの概略的に簡略化されたプラント構成図が示されている。
【0041】
以下、
図1を参照して、本発明による方法の例示的な実施形態の変形例を、これに基づいてより詳細に説明する。
図1に示されたものは、概略的に非常に簡略化されており、本発明の文脈において重要なプラント構成要素のみが示されている。このプラントは、反応器1を備え、この反応器には1,2-ジクロロエタンの反応器流入が例えば、少なくとも一つのライン2を介して供給され、1,2-ジクロロエタンは、熱の作用により反応器1内で熱分解され、モノマー塩化ビニル(VCM)を生成し、塩化ビニルの他に、塩化水素が生成される。本発明の方法の上記生成物は、反応器流出3にて反応器1を出る。
【0042】
反応器1は、液状熱伝達媒体、例えば熱伝達油を介して熱が反応器に供給されるようにして、液状熱伝達媒体の循環流4に組み込まれており、液状熱伝達媒体は、反応器1内で1,2-ジクロロエタンの塩化ビニルへの接触熱分解が起こる、例えば300℃~400℃の温度にまで、反応器を通って運ばれる反応媒体を加熱するために、好ましくは反応媒体と逆流して流れる。
【0043】
熱伝達媒体の循環流4を、以下に詳細に説明する。熱伝達媒体のライン循環流4は、循環路内の熱伝達媒体を搬送するためのポンプ5を備え、この際、これは最初にポンプ5の下流の第一加熱装置6を通って流れ、この第一加熱装置は例えば、熱伝達媒体を加熱するために、化石燃料を用いて熱せられる。その後、熱伝達媒体4は、第二加熱装置7を通って流れ、第二加熱装置7が作動していれば、この熱伝達媒体は、化学プラントからの、例えば塩化ビニルを製造するプラントからの廃熱から熱エネルギーを利用して加熱することができる。
【0044】
上記の実施形態において、第一加熱装置6と第二加熱装置7は、熱伝達媒体循環路流4の配管システムにおいて流動方向が一方が他方の後方に配置されるように、すなわち、直列に接続されている。しかしながら、これに代わるものとして、両方の加熱装置を互いに並列に接続することもでき、すなわち、
図1に示すものとは異なってもよく、2つの加熱装置は、熱伝達媒体が2つの加熱装置のうち少なくとも一つのみを通って運ばれ、それぞれの他の加熱装置をバイパスすることができるように、配管システムに組み込まれてもよい。
【0045】
両方の加熱装置が直列に配置された
図1に示される変形例においても、並列接続が図示されていない変形例においても、加熱装置をオン/オフに切り替えるため、またはライン循環路4の適当な点でラインを遮断するために、
図1に示されていないバルブを設けることができる。さらに、反応器1内の反応媒体を加熱する必要に応じて、第一および/または第二加熱装置によって供給されるそれぞれの熱出力を調節するために、一つまたは複数の調節装置を設けることができる(
図1には図示されていない)。
【0046】
図1に示されていないさらなる変形例では、反応器流入3が、流動4の熱量によって予熱、気化、過熱できる装置を含み、これらの選択肢は必ずしも実施される必要はなく、任意の組合せで実施することができる。
【符号の説明】
【0047】
1 反応器
2 反応器流入
3 反応器流出
4 熱伝達媒体循環流
5 循環ポンプ
6 第一加熱装置
7 廃熱により作動される第二加熱装置
【国際調査報告】