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特表2022-531777癌の診断および治療用DNAコンストラクト
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-11
(54)【発明の名称】癌の診断および治療用DNAコンストラクト
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/12 20060101AFI20220704BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20220704BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20220704BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20220704BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20220704BHJP
   A61K 35/74 20150101ALI20220704BHJP
   A61K 35/742 20150101ALI20220704BHJP
   A61K 35/745 20150101ALI20220704BHJP
   A61K 31/713 20060101ALI20220704BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20220704BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220704BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20220704BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20220704BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20220704BHJP
   A61K 9/16 20060101ALI20220704BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20220704BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20220704BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20220704BHJP
   A61K 31/65 20060101ALI20220704BHJP
   C12N 15/29 20060101ALN20220704BHJP
   C12N 15/31 20060101ALN20220704BHJP
   C12N 15/52 20060101ALN20220704BHJP
   C12N 15/113 20100101ALN20220704BHJP
【FI】
C12N15/12 ZNA
C12N15/11 Z
C12N15/63 Z
C12N1/21
C12Q1/02
A61K35/74 A
A61K35/742
A61K35/745
A61K31/713
A61K48/00
A61P35/00
A61P35/02
A61K9/20
A61K9/48
A61K9/16
A61K9/14
A61K9/08
A61K9/06
A61K31/65
C12N15/29
C12N15/31
C12N15/52 Z
C12N15/113 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021565714
(86)(22)【出願日】2020-05-11
(85)【翻訳文提出日】2021-11-01
(86)【国際出願番号】 KR2020006197
(87)【国際公開番号】W WO2020231137
(87)【国際公開日】2020-11-19
(31)【優先権主張番号】10-2019-0055063
(32)【優先日】2019-05-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2020-0056115
(32)【優先日】2020-05-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521479460
【氏名又は名称】シーエヌキュア バイオテック インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【弁理士】
【氏名又は名称】小菅 一弘
(72)【発明者】
【氏名】ミン ジュン ジュン
(72)【発明者】
【氏名】チェ ヒョン エル
(72)【発明者】
【氏名】ホン ヨン ジン
(72)【発明者】
【氏名】ユ スン ファン
(72)【発明者】
【氏名】ソン ミ リュン
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4C076
4C084
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA19
4B063QQ08
4B063QR48
4B063QR75
4B063QX01
4B065AA46X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065BA03
4B065CA24
4B065CA44
4B065CA46
4C076AA06
4C076AA11
4C076AA30
4C076AA31
4C076AA36
4C076AA53
4C076CC27
4C076FF01
4C076FF11
4C084AA13
4C084MA02
4C084MA17
4C084MA28
4C084MA35
4C084MA37
4C084MA41
4C084MA43
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZB26
4C084ZB27
4C086AA01
4C086AA02
4C086DA29
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA17
4C086MA28
4C086MA35
4C086MA37
4C086MA41
4C086MA43
4C086NA14
4C086ZB26
4C086ZB27
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC32
4C087BC34
4C087BC59
4C087BC68
4C087BC83
4C087CA12
4C087CA20
4C087MA17
4C087MA28
4C087MA35
4C087MA37
4C087MA41
4C087MA43
4C087NA14
4C087ZB26
4C087ZB27
(57)【要約】
本発明は、DNAコンストラクトおよび前記DNAコンストラクトを含む組換えベクターが導入された菌株に関し、本発明によるDNAコンストラクトは、宿主菌株または細胞内で第1プロモーターと第2プロモーターの下流に作動可能に連結された遺伝子の発現レベルが均衡をなすようにして、癌の治療と診断を同時に行うことができる。また、本発明の前記DNAコンストラクトは、ドキシサイクリンが不在の場合、前記抗癌タンパク質およびレポータータンパク質を全く発現させることができないため、ドキシサイクリンの処理の有無を調節することにより、適切な癌治療のための用量で抗癌タンパク質を発現させると同時に、レポータータンパク質の発現レベルによって癌の大きさをリアルタイムにモニタリングすることができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
調節タンパク質を暗号化する遺伝子;および
前記調節タンパク質によって誘導される第1プロモーターおよび第2プロモーターを含む、DNAコンストラクト。
【請求項2】
前記第1プロモーターは、tetAプロモーターであり、
前記第2プロモーターは、tetRプロモーターである、請求項1に記載のDNAコンストラクト。
【請求項3】
前記調節タンパク質は、TetRタンパク質である、請求項1に記載のDNAコンストラクト。
【請求項4】
シス-作用因子(cis-acting element)またはトランス-作用因子(trans-acting element)によって前記調節タンパク質の発現が調節される、請求項1に記載のDNAコンストラクト。
【請求項5】
前記シス-作用因子は、リボソーム結合部位(ribosome binding site;RBS)、5’-非翻訳領域(5’-Untranslated Region;5’-UTR)、転写因子結合部位(transcription factor binding site)および終結子(terminators)からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項4に記載のDNAコンストラクト。
【請求項6】
前記転写因子結合部位は、前記調節タンパク質を暗号化する遺伝子のプロモーター;エンハンサー(enhancer);およびサイレンサー(silencer);からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項5に記載のDNAコンストラクト。
【請求項7】
前記調節タンパク質を暗号化する遺伝子のプロモーターは、弱いプロモーター(weak promoter)である、請求項6に記載のDNAコンストラクト。
【請求項8】
前記弱いプロモーターは、前記プロモーターの下流に作動可能に連結された遺伝子から転写された転写体(Transcript)の発現レベルが1×10-2以下である、請求項7に記載のDNAコンストラクト。
【請求項9】
前記トランス-作用因子は、転写因子、アプタマー(aptamer)、sRNA、アンチセンスRNA(antisense RNA;asRNA)からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項4に記載のDNAコンストラクト。
【請求項10】
前記第1プロモーターおよび第2プロモーターの下流に抗癌タンパク質を暗号化する遺伝子;サイトカインを暗号化する遺伝子;ケモカインを暗号化する遺伝子;免疫調節子(Immune modulator)を暗号化する遺伝子;癌抗原に特異的なオリゴヌクレオチド;およびレポータータンパク質を暗号化する遺伝子からなる群より選択されるいずれか1つが作動可能に連結されたものである、請求項1に記載のDNAコンストラクト。
【請求項11】
前記抗癌タンパク質は、毒素タンパク質、癌抗原に特異的な抗体または前記抗体の断片、腫瘍抑制タンパク質(Tumor suppressor protein)、血管新生抑制剤、癌抗原、前駆薬物転換酵素(Prodrug-converting enzymes)、および全細胞死滅タンパク質(pro-apoptotic protein)から構成された群より選択される少なくとも1つである、請求項10に記載のDNAコンストラクト。
【請求項12】
前記毒素タンパク質は、リシン(Ricin)、サポリン(Saporin)、ゲロニン(Gelonin)、モモルジン(Momordin)、デブーガニン(Debouganin)、ジフテリア毒素、シュードモナス毒素(Pseudomonas toxin)、ヘモリシン(HlyA)、FASリガンド(FAS ligand;FASL)、腫瘍壊死因子-α(Tumour necrosis factor-α;TNF-α)、TNF-関連細胞死滅-誘発リガンド(TNF-related apoptosis-inducing ligand;TRAIL)およびサイトリシンA(Cytolysin A、ClyA)からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項11に記載のDNAコンストラクト。
【請求項13】
前記腫瘍抑制タンパク質は、RB(Retinoblastoma protein)タンパク質、p53タンパク質、APC(Adenomatous polyposis coli)タンパク質、PTEN(Phosphatase and tensin homologue)タンパク質およびCDKN2A(cyclin dependent kinase inhibitor 2A)タンパク質から構成された群より選択される少なくとも1つである、請求項11に記載のDNAコンストラクト。
【請求項14】
前記血管新生抑制剤は、アンギオスタチン(angiostatin)、エンドスタチン(endostatin)、トロンボスポンジン(Thrombospondin)および蛋白分解酵素抑制タンパク質から構成された群より選択される少なくとも1つである、請求項11に記載のDNAコンストラクト。
【請求項15】
前記癌抗原は、アルファ-フェトプロテイン(α-fetoprotein;AFP)、血管内皮成長因子受容体2(Vascular endothelial growth factor receptor2;VEGFR2)、サバイビン(Survivin)、レグマイン(Legumain)および前立腺癌特異的抗原(Prostate cancer specific antigen;PCSA)からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項11に記載のDNAコンストラクト。
【請求項16】
前記前駆薬物転換酵素は、チミジンキナーゼ(Thymidine kinase)、シトシンデアミナーゼ(cytosine deaminase)、ニトロレダクターゼ(nitroreductase)、プリンヌクレオシドホスホリラーゼ(purine nucleoside phosphorylase)、カルボキシペプチダーゼG2(carboxypeptidase G2)、クロメートレダクターゼYieF(chromate reductase YieF)、ヘルペスシンプレックスウイルスI型チミジンキナーゼ/ガンシクロビル(herpes simplex virus type I thymidine kinase/ganciclovir;HSV1-TK/GCV)およびβ-グルクロニダーゼ(β-glucuronidase)からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項11に記載のDNAコンストラクト。
【請求項17】
前記全細胞死滅タンパク質は、L-アスナーゼ(L-ASNase)またはRNA-結合モチーフタンパク質5(RNA-binding motif protein5;RBM5)である、請求項11に記載のDNAコンストラクト。
【請求項18】
前記癌抗原に特異的なオリゴヌクレオチドは、アンチセンスオリゴヌクレオチド、アプタマー(aptamer)、siRNAおよびshRNAからなる群より選択される少なくとも1つを暗号化する塩基配列である、請求項10に記載のDNAコンストラクト。
【請求項19】
前記レポータータンパク質は、蛍光タンパク質、ルシフェラーゼ(Luciferase)および核医学またはMRI映像撮影に使用されるタンパク質からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項10に記載のDNAコンストラクト。
【請求項20】
前記蛍光タンパク質は、緑色レポータータンパク質(Green Fluorescent Protein;GFP)、変形された緑色レポータータンパク質(Modified Green Fluorescent Protein;MGFP)、増強された緑色レポータータンパク質(Enhanced Green Fluorescent Protein;EGFP)、赤色レポータータンパク質(Red Fluorescent Protein;RFP)、増強された赤色レポータータンパク質(Enhanced Red Fluorescent Protein;ERFP)、青色レポータータンパク質(Blue Fluorescent Protein;BFP)、増強された青色レポータータンパク質(Enhanced Blue Fluorescent Protein;EBFP)、黄色レポータータンパク質(Yellow Fluorescent Protein;YFP)および増強された黄色レポータータンパク質(Enhanced Yellow Fluorescent Protein;EYFP)から構成された群より選択される少なくとも1つである、請求項19に記載のDNAコンストラクト。
【請求項21】
前記核医学またはMRI映像撮影に使用されるタンパク質は、単純ヘルペスウイルスのチミジンリン酸酵素(Herpes simplex virus thymidine kinsease) 、ドーパミン受容体(Dopamine receptor)、ソマトスタチン受容体(Somatostatin receptor)、ソジウム-ヨード輸送体(Sodium-iodide transporter)、鉄受容体、トランスフェリン受容体(Transferrin receptor)、フェリチン(Ferritin)および鉄輸送体(magA)からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項19に記載のDNAコンストラクト。
【請求項22】
請求項1~21のいずれか1項に記載のDNAコンストラクトを含む組換えベクター。
【請求項23】
請求項22に記載の組換えベクターが導入された菌株。
【請求項24】
前記菌株は、サルモネラ属菌株、クロストリジウム(Clostridium)属菌株、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属菌株および大腸菌属菌株からなる群より選択される少なくとも1つである、請求項23に記載の菌株。
【請求項25】
請求項23に記載の菌株を有効成分として含む癌の診断、予防または治療用薬学組成物。
【請求項26】
前記癌は、黒色腫、卵管癌、脳癌、小腸癌、食道癌、リンパ腺癌、胆嚢癌、血液癌、甲状腺癌、内分泌腺癌、口腔癌、肝癌、胆道癌、大腸癌、直腸癌、子宮頸癌、卵巣癌、腎臓癌、胃癌、十二支腸癌、前立腺癌、乳癌、脳腫瘍、肺癌、甲状腺未分化癌、子宮癌、結腸癌、膀胱癌、尿管癌、膵臓癌、骨/軟部組織肉腫、皮膚癌、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫、多発性骨髄腫、白血病、骨髄異形成症候群、急性リンパ芽球性白血病、急性骨髓性白血病、慢性リンパ球性白血病、慢性骨髓性白血病および孤立性骨髄腫から構成される群より選択される少なくとも1つである、請求項25に記載の薬学組成物。
【請求項27】
請求項23に記載の菌株を有効成分として含む癌の診断用組成物。
【請求項28】
目的とする個体から分離された生物学的試料に、請求項23に記載の菌株を処理するステップを含む癌の診断のための情報提供方法。
【請求項29】
前記菌株からレポータータンパク質が発現する場合、癌として診断するステップをさらに含む、請求項28に記載の癌の診断のための情報提供方法。
【請求項30】
請求項23に記載の菌株を薬学的有効量で個体に投与するステップを含む、癌の診断、予防または治療方法。
【請求項31】
前記癌は、黒色腫、卵管癌、脳癌、小腸癌、食道癌、リンパ腺癌、胆嚢癌、血液癌、甲状腺癌、内分泌腺癌、口腔癌、肝癌、胆道癌、大腸癌、直腸癌、子宮頸癌、卵巣癌、腎臓癌、胃癌、十二支腸癌、前立腺癌、乳癌、脳腫瘍、肺癌、甲状腺未分化癌、子宮癌、結腸癌、膀胱癌、尿管癌、膵臓癌、骨/軟部組織肉腫、皮膚癌、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫、多発性骨髄腫、白血病、骨髄異形成症候群、急性リンパ芽球性白血病、急性骨髓性白血病、慢性リンパ球性白血病、慢性骨髓性白血病および孤立性骨髄腫から構成される群より選択される少なくとも1つである、請求項30に記載の癌の診断、予防または治療方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌の診断および治療用DNAコンストラクトおよび前記DNAコンストラクトを含む組換えベクターが導入された菌株に関する。
【背景技術】
【0002】
今のところ、大部分の癌は外科的手術、放射線治療および化学療法に相当するそれぞれの個別的方法またはこれらの組み合わせによって治療されているのが現状である。癌組織を大部分除去する外科的手術は、特定部位、例えば、乳房、結腸および皮膚に位置した癌組織を除去するには非常に効果的であり得るが、脊椎のような一部区域にある癌組織を治療するには使用が困難である。また、乳癌、肺癌および精巣癌によく使用される全身性化学療法の場合、正常細胞の複製または代謝過程を崩壊させる副作用が誘発されることがあり、患者から発生する化学療法に使用される治療剤への耐性が発生しかねない。
【0003】
一方、個体で癌が発生する時、血管形成と細胞成長が体内で非常に速い速度で進行するため、癌組織の内部は血管形成が不完全で酸素の欠乏した環境が作られて、サルモネラ属菌株または大腸菌のような嫌気性バクテリアが増殖するのに非常に適合しうる。これにより、現在サルモネラ(Salmonella)属菌株とクロストリジウム(Clostridium)属菌株のような癌を標的できるバクテリアを用いた癌治療は、固形腫瘍を標的にし、腫瘍内で増殖できる特定バクテリアの機能に依存するが、腫瘍溶解タンパク質またはレポータータンパク質を前記バクテリアに導入し、このように形質転換されたバクテリアを個体に投与する場合、癌組織を特異的に確認するか、正常細胞に対して毒性を示す副作用を最小化して癌を治療することができる。
【0004】
自然界に存在する多様なバクテリア病原体から分泌される毒素によって人間に疾病が誘発される。このように疾病が誘発できるようにする多様なバクテリア病原体のうち、我々の食生活と密接な関係があるサルモネラエンテリカ(Salmonella enterica)などはヒトを含む霊長類の腸管内に生息する腸内細菌科として知られており、外毒素として知られたサイトリシン(cytolysin)を分泌する。このように分泌されるサイトリシンは、約34kDaの分子量を有する細胞毒性タンパク質であって、ヒトを含む霊長類の腸内で赤血球を破壊する溶血作用および正常細胞の膜に気孔を形成させて細胞の溶解を誘発させて深刻な血管炎症と局所組織の壊死によって死亡にまで至らせることが知られている。しかし、最近の研究結果では、サルモネラエンテリカから分離および精製されたサイトリシンが体内腸管に存在する癌組織に特異的に反応して癌組織の死滅を誘導し、次世代抗癌治療剤として注目されている。したがって、細胞毒性物質であるサイトリシンを分泌する遺伝子が形質転換されたバクテリアは、癌組織標的用抗癌治療剤としての活用の可能性が非常に高い。
【0005】
このようにバクテリアを用いた癌の診断または治療が可能であるにもかかわらず、診断および治療に適したタンパク質が癌組織で特異的に発現できるようにする発現ベクターに関する研究はほとんどなされているのが現状である。バクテリアが生体内に注入された後は、最初の3日間、肝および脾臓のような網状内皮系で掃除(Clearance)が行われ、以後一定期間の後に癌組織で急増するので、安定性の面から一定期間経過後に治療タンパク質が発現できるようにすることが要求される。そこで、治療タンパク質の発現のために誘導性プロモーター(Inducible promoter)の使用が薦められるが、現在実験段階で用いられるPBADプロモーターのような誘導性プロモーターは、人体使用が許容されないL-アラビノース(L-arabinose)が誘導物質として使用されなければならないため、臨床適用のハードルが高い。人体使用が許容された抗生剤であるドキシサイクリン(Doxycycline)を使用するPtetプロモーターは、相対的に臨床的に使用が容易であり、TetAプロモーターとTetRプロモーターを用いて2つの遺伝子の双方向転写が可能であるという利点があるが、TetAプロモーターとTetRプロモーターとの間のタンパク質の発現率が100:1以上の差を示し、この部分の均衡を合わせてこそ活用度を高められる。このように臨床適用が可能な形態の発現システムを有し、タンパク質の発現レベルが均衡をなし得るように形質転換されたバクテリアに対する新たな技術の開発が必要なのが現状である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の一つの目的は、DNAコンストラクトを提供することである。
【0007】
本発明の他の目的は、前記DNAコンストラクトを含む組換えベクターを提供することである。
【0008】
本発明のさらに他の目的は、前記組換えベクターが導入された菌株;およびこれを含む癌の診断用組成物を提供することである。
【0009】
本発明のさらに他の目的は、前記菌株を有効成分として含む癌の予防または治療用薬学組成物を提供することである。
【0010】
本発明のさらに他の目的は、前記菌株を処理するステップを含む癌の診断のための情報提供方法を提供することである。
【0011】
しかし、本発明がなそうとする技術的課題は以上に述べた課題に制限されず、述べていないさらに他の課題は以下の記載から当業界における通常の知識を有する者に明確に理解されるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一実施形態では、DNAコンストラクトを提供する。
【0013】
本発明の前記DNAコンストラクトは、調節タンパク質を暗号化する遺伝子;および前記調節タンパク質によって誘導される第1プロモーターおよび第2プロモーターを含む。
【0014】
本発明の前記第1プロモーターおよび第2プロモーターの下流に抗癌タンパク質を暗号化する遺伝子;サイトカイン(Cytokine)を暗号化する遺伝子;ケモカイン(Chemokine)を暗号化する遺伝子;免疫調節子(Immune modulator)を暗号化する遺伝子;癌抗原に特異的なオリゴヌクレオチド;およびレポータータンパク質を暗号化する遺伝子からなる群より選択されるいずれか1つが作動可能に連結される。
【0015】
本発明の前記第1プロモーターおよび第2プロモーターは、別のプロモーターによって発現する一つの調節タンパク質によって同時に誘導できるため、第2プロモーターの下流に調節タンパク質を暗号化する遺伝子が作動可能に連結された場合と比較して、宿主細胞;または宿主細胞内で第1プロモーターおよび第2プロモーターの下流に作動可能に連結された遺伝子によって暗号化されるタンパク質間の発現レベルが均衡をなすことができる。このように本発明によるDNAコンストラクトを用いる場合には、診断と治療が同時に行われる。
【0016】
本発明の前記「DNAコンストラクト」は、宿主菌株または細胞に形質転換により導入される場合、目的とするタンパク質などが発現できるようにする構造体であって、目的とするタンパク質を暗号化する遺伝子だけでなく、前記遺伝子が発現できるように作動可能に連結された必須な調節要素であるプロモーターに相当する塩基配列などを含むことを意味する。
【0017】
本発明の前記「プロモーター」とは、宿主菌株または細胞で作動可能に連結された遺伝子の上流領域に存在する塩基配列であって、転写が開始されるようにするためにRNAポリメラーゼ(RNA Polymerase)が結合できる前記DNAコンストラクトの特定部位の塩基配列を意味する。
【0018】
本発明の前記調節タンパク質の発現の調節は、シス-作用因子(cis-acting element、Cis-regulatory elements;CRE)またはトランス-作用因子(trans-acting element、Trans-regulatory elements;TRE)によることができる。
【0019】
本発明において、前記「調節」乃至「発現調節」は、特定遺伝子の転写および翻訳が活性化または抑制されることを意味することができる。
【0020】
本発明の前記シス-作用因子は、隣接遺伝子の転写を調節する非-コーディングDNAの領域で、遺伝子調節ネットワークの必須構成要素であり、遺伝子発現を制御する。前記シス-作用因子は、リボソーム結合部位(ribosome binding site;RBS)、5’-非翻訳領域(5’-Untranslated Region;5’-UTR)、転写因子結合部位(transcription factor binding site)および終結子(terminators)からなる群より選択される少なくとも1つであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0021】
本発明において、前記リボソーム結合部位(ribosome binding site;RBS)は、シャイン・ダルガノ配列(Shine-Dalgarno sequence;SD sequence)ともいい、DNAに組み込まれている遺伝情報がメッセンジャーRNA(mRNA)に転写された後、翻訳(translation)が起こるためには、このmRNAにリボソーム(ribosome)が結合しなければならないが、この時、リボソームが効果的に結合できるようにmRNA上に存在する短い配列を意味する。
【0022】
本発明において、前記5’-非翻訳領域(5’-Untranslated Region;5’-UTR)は、5’領域でmRNAのアミノ酸に翻訳される部分であるコーディング部分(coding region)の両側に位置する翻訳がされない部分で、進化過程で不要と捨てられる部分(junk)と考えられていたが、遺伝子発現の調節に大きな役割を果たすことが知られている。
【0023】
本発明において、前記転写因子結合部位(transcription factor binding site)は、近傍の特定遺伝子をオンオフする役割を果たすDNA部位である。前記転写因子結合部位は、前記調節タンパク質を暗号化する遺伝子のプロモーター、エンハンサー(enhancer)およびサイレンサー(silencer)からなる群より選択される少なくとも1つであってもよいが、これに限定されない。
【0024】
本発明の前記調節タンパク質を暗号化する遺伝子のプロモーターは、大部分の宿主菌株または細胞の環境条件および発達状態などで活性誘導できるプロモーターであればすべて含まれてもよく、好ましくは、弱いプロモーター(Weak promoter)であってもよい。
【0025】
本発明の前記「弱いプロモーター」とは、下流に作動可能に連結された遺伝子から転写された転写体(Transcript)の発現レベルが1×10-2以下、好ましくは1×10-3以下に発現するように誘導するプロモーターであって、このように転写体の発現レベルを1×10-3以下に発現させるプロモーターであればすべて含まれてもよく、例えば、E.coli σ70プロモーター;E.coli σSプロモーター;E.coli σ32プロモーター;B.subtilis σAプロモーター;B.subtilis σBプロモーター;サルモネラ由来プロモーターであるK112706またはK112707;バクテリオファージT7プロモーター;バクテリオファージSP6プロモーター;酵母(yeast)由来プロモーター;真核細胞由来プロモーターであるI712004またはK076017;OXB1プロモーターおよび植物由来プロモーターから構成された群より選択される少なくとも1つであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0026】
本発明の前記E.coli σ70プロモーターは、I14018、I14033、I14034、I732021、I742126、J01006、J23103、J23109、J23112、J23113、J23117、J23119、J23150、J23151、J44002、J48104、J56015、J64951、K088007、K119000、K119001、K1330002、K137029、K137030、K137031、K137032、K137085、K137086、K137087、K137088、K137089、K137090、K137091、K1585100、K1585101、K1585102、K1585103、K1585104、K1585105、K1585106、K1585110、K1585113、K1585115、K1585116、K1585117、K1585118、K1585119、K2486171、K256002、K256018、K256020、K256033、K292000、K823007、K823010、K823013、M13101、M13102、M13103、M13104、M13105、M13106、M13108、M13110、M31519、R1074、R1075およびS03331から構成された群より選択される少なくとも1つであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0027】
本発明の前記E.coli σSプロモーターは、J45992またはJ45993であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0028】
本発明の前記E.coli σ32プロモーターは、J45504、K1895002またはK1895003であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0029】
本発明の前記B.subtilis σAプロモーターは、K143012、K143013、K823000、K823002およびK823003から構成された群より選択される少なくとも1つであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0030】
本発明の前記B.subtilis σBプロモーターは、K143010、K143011またはK143013であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0031】
本発明の前記バクテリオファージT7プロモーターは、I719005、J34814、J64997、K113010、K113011、K113012、K1614000、R0085、R0180、R0181、R0182、R0183、Z0251、Z0252およびZ0253から構成された群より選択される少なくとも1つであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0032】
本発明の前記バクテリオファージSP6プロモーターは、J64998であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0033】
本発明の前記酵母由来プロモーターは、I766557、J63005、K105027、K105028、K105029、K105030、K105031、K122000、K124000、K124002、K319005、M31201、K2365040、K2365036、K2365041、K2365042、K2365032、K2365051、K2365514、K2365515およびK2365516から構成された群より選択される少なくとも1つであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0034】
本発明において、前記弱いプロモーターは、配列番号16で表されるOXB1プロモーターであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0035】
本発明の前記植物由来プロモーターは、PLPR0203、PLPR0210、PLPR0177、PLPR0193、PLPR0507、PLPR0422、PLPR0228、PLPR0226、PLPR0223、PLPR0040、PLPR0465、PLPR0232、PLPR0205、PLPR0247、PLPR0328、PLPR0525、AtREG383、AtREG415、AtREG416、OsREG438、OsREG443、OsREG501、PpREG186、PpREG194およびPpREG197から構成された群より選択される少なくとも1つであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0036】
本発明の目的上、前記弱いプロモーターの下流に調節タンパク質を暗号化する遺伝子が作動可能に連結される場合には、前記第1プロモーターまたは第2プロモーターの下流に作動可能に連結された場合と比較して、調節タンパク質を抑制する物質を投与した時にのみ特異的に前記第1および第2プロモーターの下流に存在する遺伝子の転写が起こるように調節することができる。
【0037】
本発明の前記調節タンパク質を暗号化する遺伝子のプロモーターは、調節タンパク質を暗号化する遺伝子を基準として、-35部位の塩基配列は配列番号8であり、-10部位の塩基配列は配列番号9であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0038】
本発明の前記エンハンサーは、原核および真核生物ともに発見される配列で、一般的に50~1500bpの領域を有し、前記近傍遺伝子の出発地から上流または下流に位置して前記転写因子の結合を誘導する。
【0039】
本発明の前記サイレンサーは、エンハンサーと同一のメカニズムを維持し、エンハンサーの拮抗作用をする。前記サイレンサーに結合する転写因子は、リプレッサー(repressor)である。前記エンハンサーと前記サイレンサーは、互いに近接した領域に存在するものであるか、同一領域に転写因子が異なる領域のものであってもよい。
【0040】
本発明の前記終結子(terminators)は、転写終結子(transcription terminator)ともいい、遺伝体で遺伝子またはオペロンの転写の終結を媒介し、原核生物では、Rho-依存的終結子とRho-非依存的終結子とがある。
【0041】
本発明の前記トランス-作用因子は、トランス活性化因子乃至トランス作用転写因子ともいい、遺伝子の転写をトランスに活性化する因子である。前記トランス-作用因子は、前記転写因子、アプタマー(aptamer)、sRNA、アンチセンスRNA(antisense RNA;asRNA)からなる群より選択される少なくとも1つであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0042】
本発明において、前記転写因子は、前記転写因子結合部位と結合して特定遺伝子をオンオフするのに役立つタンパク質である。
【0043】
本発明において、前記アプタマー(aptamer)は、リボスイッチ(riboswitch)の一部分で、特定標的分子に結合できるオリゴヌクレオチド(oligonucleotide)あるいはペプチド(Peptide)物質の通称で、前記アプタマーは、ペプチドアプタマーまたは核酸アプタマーであってもよい。前記リボスイッチは、遺伝子の発現を調節するmRNAの一種で、glmSリボスイッチ、FMNリボスイッチ、Cobalaminリボスイッチなどがあり得るが、これに限定されるものではない。
【0044】
本発明において、前記sRNA、アンチセンスRNA(antisense RNA;asRNA)は、特定RNAに相補的に結合できる一本鎖RNA(single-stranded RNA)を意味する。特定タンパク質を表現するメッセンジャーRNA(messenger RNA;mRNA)であるsense RNAに相補的に結合して、結局、当該タンパク質の発現を調節する。
【0045】
本発明の前記第1プロモーターおよび第2プロモーターは、前記調節タンパク質によって誘導される誘導性プロモーターであってもよい。
【0046】
本発明の前記「誘導性プロモーター」とは、特定の化学的または物理的条件下でのみ特異的に下流に連結された遺伝子が発現できるように転写するプロモーターであって、例えば、IPTG(isopropyl-β-D-1-thiogalactopyranoside)のようなガラクトースの存在下で発現するLacZ遺伝子のプロモーター、L-アラビノースの存在下でのみ発現するアラビノースオペロンaraBADプロモーター、テトラサイクリンによって発現調節されるtetプロモーターであってもよく、好ましくは、前記第1プロモーターおよび第2プロモーターはtetプロモーターであってもよく、さらに好ましくは、前記第1プロモーターはtetAプロモーター、前記第2プロモーターはtetRプロモーターであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0047】
本発明の前記調節タンパク質を暗号化する遺伝子は、第1プロモーターおよび第2プロモーターに結合してRNAポリメラーゼが結合できないように調節するタンパク質であって、本発明の目的上、前記第1プロモーターおよび第2プロモーターがtetプロモーターの場合、前記tetプロモーターの調節部位に結合してtetプロモーターの活性を抑制できるTetRタンパク質であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0048】
本発明の前記「作動可能に連結(Operably linked)」とは、目的とする1つの核酸断片が他の核酸断片と機能的に連結されることにより、目的とする1つの核酸断片の機能または発現が他の核酸断片によって影響を受けることを意味する。
【0049】
本発明の前記「レポータータンパク質」とは、視覚的に癌が診断できるようにする機能を行うタンパク質であって、例えば、蛍光タンパク質、ルシフェラーゼ(Luciferase)および核医学またはMRI映像撮影に使用されるタンパク質からなる群より選択される少なくとも1つであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0050】
本発明の前記「蛍光タンパク質」は、癌が視覚的に診断できるように自ら蛍光を呈するタンパク質であって、例えば、緑色蛍光タンパク質(Green Fluorescent Protein;GFP)、変形された緑色蛍光タンパク質(Modified Green Fluorescent Protein;MGFP)、増強された緑色蛍光タンパク質(Enhanced Green Fluorescent Protein;EGFP)、赤色蛍光タンパク質(Red Fluorescent Protein;RFP)、増強された赤色蛍光タンパク質(Enhanced Red Fluorescent Protein;ERFP)、青色蛍光タンパク質(Blue Fluorescent Protein;BFP)、増強された青色蛍光タンパク質(Enhanced Blue Fluorescent Protein;EBFP)、黄色蛍光タンパク質(Yellow Fluorescent Protein;YFP)および増強された黄色蛍光タンパク質(Enhanced Yellow Fluorescent Protein;EYFP)から構成された群より選択される少なくとも1つであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0051】
本発明の前記核医学またはMRI映像撮影に使用されるタンパク質は、例えば、単純ヘルペスウイルスのチミジンリン酸酵素(Herpes simplex virus thymidine kinsease) 、ドーパミン受容体(Dopamine receptor)、ソマトスタチン受容体(Somatostatin receptor)、ソジウム-ヨード輸送体(Sodium-iodide transporter)、鉄受容体、トランスフェリン受容体(Transferrin receptor)、フェリチン(Ferritin)および鉄輸送体(magA)からなる群より選択される少なくとも1つであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0052】
本発明の前記「サイトカイン」とは、免疫細胞が分泌されるタンパク質であって、本発明の前記サイトカインは、宿主免疫反応を調節して、疾患に関連する細胞、例えば、癌細胞の死滅を誘導できる癌免疫療法に使用できるものであればすべて含まれてもよく、好ましくは、IFN-α2、IL-2、IL-15、IL-21およびIL-12であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0053】
本発明の前記「ケモカイン」とは、組織間の細胞移動と組織内の細胞の位置および相互作用を調節する役割を果たすものであって、白血球を腫瘍微細環境に誘導して、疾患、例えば、癌に対する宿主反応を仲栽できるものであればすべて含まれてもよく、好ましくは、CXCR3、CCR5などであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0054】
本発明の前記「免疫調節子」とは、個体が有している固有の免疫体系を活用して多様な治療を可能にするものであって、免疫細胞を活性化させて、疾患に関連する細胞、例えば、癌細胞の死滅を誘導できるものであればすべて含まれてもよい。
【0055】
本発明の前記「抗癌タンパク質」とは、癌細胞の死滅を直間接的に誘導できる機能を有するペプチドであって、例えば、毒素タンパク質、癌抗原に特異的な抗体または前記抗体の断片、腫瘍抑制タンパク質(Tumor suppressor protein)、血管新生抑制剤、癌抗原、前駆薬物転換酵素(Prodrug-converting enzymes)および全細胞死滅タンパク質(pro-apoptotic protein)から構成された群より選択される少なくとも1つであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0056】
本発明の前記「毒素タンパク質」とは、癌細胞の死滅を直間接的に誘導できる機能を有するタンパク質であって、例えば、リシン(Ricin)、サポリン(Saporin)、ゲロニン(Gelonin)、モモルジン(Momordin)、デブーガニン(Debouganin)、ジフテリア毒素、シュードモナス毒素(Pseudomonas toxin)、ヘモリシン(HlyA)、FASリガンド(FAS ligand;FASL)、腫瘍壊死因子-α(Tumour necrosis factor-α;TNF-α)、TNF-関連細胞死滅-誘発リガンド(TNF-related apoptosis-inducing ligand;TRAIL)およびサイトリシンA(Cytolysin A、ClyA)からなる群より選択される少なくとも1つであってもよく、さらに好ましくは、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるサイトリシンAであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0057】
本発明の前記「腫瘍抑制タンパク質」とは、正常細胞に存在しながら機能を維持するが、その機能が失われた場合には、正常細胞が無分別な細胞の分裂および成長が誘導されて癌細胞に転換されるようにする機能をする遺伝子であって、例えば、RB(Retinoblastoma protein)タンパク質、p53タンパク質、APC(Adenomatous polyposis coli)タンパク質、PTEN(Phosphatase and tensin homologue)タンパク質、CDKN2A(cyclin dependent kinase inhibitor 2A)タンパク質などであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0058】
本発明の前記癌抗原に特異的な抗体または前記抗体の断片は、癌細胞の表面または細胞質に特異的に発現レベルの高いタンパク質である抗原に特異的に結合できる抗体であって、例えば、乳癌または胃癌細胞に特異的に発現レベルの高いHER2などに特異的な抗体といったものであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0059】
本発明の前記抗体は、タンパク質またはペプチド分子の抗原性部位に特異的に結合できるタンパク質分子を意味する。前記抗体の形態は特に限定されず、ポリクロナール抗体、モノクロナール抗体または抗原結合性を有するものであれば、抗体の一部の場合でも含まれてよく、すべての種類の免疫グロブリン抗体が含まれてもよい。また、ヒト化抗体などの特殊抗体が含まれてもよく、前記抗体は、2個の全長の軽鎖および2個の全長の重鎖を有する完全な形態だけでなく、抗体分子の機能的な断片を含む。抗体分子の機能的な断片とは、少なくとも抗原結合機能を保有している断片を意味し、Fab、F(ab’)、F(ab’)2、Fvなどになってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0060】
本発明の前記「抗体」とは、本発明の前記癌抗原を暗号化する遺伝子を通常の方法により発現ベクターにクローニングして前記遺伝子によって暗号化されるタンパク質を得た後に、通常の方法により製造できる。
【0061】
本発明の前記「血管新生抑制剤」とは、癌細胞の周辺で新しい血管が生成されることを抑制して癌細胞の死滅を直接または間接的に誘導できる機能を有するタンパク質または化合物を意味する。好ましくは、前記血管新生抑制剤は、アンギオスタチン(angiostatin)、エンドスタチン(endostatin)、トロンボスポンジン(Thrombospondin)、および蛋白分解酵素抑制タンパク質などであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0062】
本発明の前記「癌抗原」とは、癌細胞では発現するものの、正常細胞ではほとんど発現しないタンパク質を抗原とし、これを通して抗腫瘍免疫反応を誘導することで癌細胞の直接または間接的死滅を誘導できるタンパク質を意味する。本発明の前記癌抗原は、好ましくは、アルファ-フェトプロテイン(α-fetoprotein;AFP)、血管内皮成長因子受容体2(Vascular endothelial growth factor receptor2;VEGFR2)、サバイビン(Survivin)、レグマイン(Legumain)、前立腺癌特異的抗原(Prostate cancer specific antigen;PCSA)などであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0063】
本発明の前記「前駆薬物転換酵素」とは、不活性薬物を酵素反応による代謝を通して活性薬物に転換されるようにする機能を有するタンパク質であって、このような前駆薬物転換酵素を用いる場合、不活性薬物が代謝されて癌細胞の死滅を直接または間接的に誘導できる活性薬物に転換されるようにして、癌の予防または治療に非常に有用に使用可能である。本発明の前記前駆薬物転換酵素は、好ましくは、チミジンキナーゼ(Thymidine kinase)、シトシンデアミナーゼ(cytosine deaminase)、ニトロレダクターゼ(nitroreductase)、プリンヌクレオシドホスホリラーゼ(purine nucleoside phosphorylase)、カルボキシペプチダーゼG2(carboxypeptidase G2)、クロメートレダクターゼYieF(chromate reductase YieF)、ヘルペスシンプレックスウイルスI型チミジンキナーゼ/ガンシクロビル(herpes simplex virus type I thymidine kinase/ganciclovir;HSV1-TK/GCV)、β-グルクロニダーゼ(β-glucuronidase)などであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0064】
本発明の前記「全細胞死滅タンパク質」とは、癌細胞が成長または維持されるのに必須な因子(タンパク質、営養分、オリゴヌクレオチドなど)を欠乏させることで、癌細胞の直接または間接的な死滅を誘導するタンパク質を意味する。本発明の前記全細胞死滅タンパク質は、好ましくは、L-アスナーゼ(L-ASNase)、RNA-結合モチーフタンパク質5(RNA-binding motif protein5;RBM5)などであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0065】
本発明の前記癌抗原に特異的なオリゴヌクレオチドは、癌抗原の遺伝子またはmRNAに相補的に結合することで癌抗原の発現またはその機能を抑制できるヌクレオチドであって、アンチセンスオリゴヌクレオチド、アプタマー(aptamer)、siRNAおよびshRNAから構成された群より選択されるいずれか1つであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0066】
本発明の前記「アンチセンスオリゴヌクレオチド」とは、特定mRNAの配列に相補的な核酸配列を含んでいるDNA、RNAまたはこれらの誘導体を意味するものであって、mRNA内の相補的な配列に結合してmRNAのタンパク質への翻訳を阻害することができる。前記アンチセンスオリゴヌクレオチドは、例えば、RNAポリメラーゼIなどを用いる通常の方法を利用して試験管内で合成した後、生体内に投与するか、または、認識部位(MCS)の起源が反対方向にあるベクターを使用する方法などにより生体内で合成されるようにしてもよい。
【0067】
本発明の前記「アプタマー」とは、高い親和性でターゲット物質を特異的に認知できる小さい一本鎖オリゴ核酸を意味する。本発明の目的上、前記ターゲット物質は、癌抗原の遺伝子またはmRNAであってもよい。
【0068】
本発明の前記「siRNA」とは、特定mRNAの切断(cleavage)によりRNA干渉(RNA interference;RNAi)現象を誘導できる短い二本鎖RNAを意味する。標的遺伝子のmRNAと相同な配列を有するセンスRNA鎖とこれと相補的な配列を有するアンチセンスRNA鎖とから構成され、本発明の目的上、前記siRNAは、癌抗原を暗号化する遺伝子から転写されたmRNAに特異的に結合して、このような遺伝子の発現を効果的に抑制することができる。
【0069】
本発明の前記「shRNA」とは、短ヘアピンRNA(short hairpin RNA)であって、siRNAに比べて細胞形質感染率が高く、RNA干渉が長期間維持できるというメリットが存在し、RNA重合酵素IIIのプロモーターからアデノウイルス、レンチウイルスおよびプラスミド発現ベクターシステムなどを細胞内に形質転換した後、発現させる過程によりRNA干渉を誘導することができるが、これに限定されるものではない。本発明の目的上、前記shRNAは、癌抗原を暗号化する遺伝子から転写されたmRNAに特異的に結合して、このような遺伝子の発現を効果的に抑制することができる。
【0070】
本発明の他の実施形態では、本発明の前記DNAコンストラクトを含む組換えベクターを提供する。
【0071】
本発明の前記組換えベクターは、本発明の前記DNAコンストラクトを含み、調節タンパク質が別のプロモーターによって発現することにより、調節タンパク質を抑制する物質が外部から投与される時にのみ特異的に第1プロモーターおよび第2プロモーターの下流に作動可能に連結された遺伝子が均衡的に発現できるようにする。
【0072】
本発明の前記組換えベクターにおいて、前記DNAコンストラクト、抗癌タンパク質、サイトカイン、ケモカイン、免疫調節子、癌抗原に特異的なオリゴヌクレオチド、レポータータンパク質およびプロモーターなどに関する内容は、前記DNAコンストラクトに記載されたものと同一であるので、本明細書の過度の複雑性を避けるために省略する。
【0073】
本発明の前記組換えベクターは、細胞内に導入されてタンパク質を発現させるための手段であって、プラスミドベクター、コスミドベクター、バクテリオファージベクターなど公知の組換えベクターを使用することができ、前記組換えベクターは、DNA組換え技術を利用した任意の公知の方法により当業者によって容易に製造できる。
【0074】
本発明において、前記組換えベクターの具体的な例としては、商業的に広く使用されるpCDNAベクター、F、R1、RP1、Col、pBR322、ToL、Tiベクター、コスミド、ラムダ、ラムド状(lambdoid)、M13、Mu、p1 P22、Qμ、T-even、T2、T3、T7などのファージ、植物ウイルスからなる群より選択されてもよいが、これに限定されるものではない。本発明の目的上、宿主細胞の性質によって好適な組換えベクターを選択することができる。
【0075】
本発明のさらに他の実施形態では、本発明の前記DNAコンストラクトを含む組換えベクターが導入された宿主細胞;または菌株を提供する。
【0076】
本発明の前記宿主細胞としては、哺乳動物、植物、昆虫、菌類または細胞性起源の細胞が含まれ、例えば、大腸菌、ストレプトミセスまたはサルモネラ(Salmonella)属菌株などのバクテリア細胞、酵母細胞、ピキアパストリスなどの菌類細胞;ドロソフィラ、スポドプテラSf9細胞などの昆虫細胞、CHO(チャイニーズハムスター卵巣細胞、Chinese hamster ovary cells)、SP2/0(マウス骨髄腫)、ヒトリンパ芽球(Human lymphoblastoid)、COS、NSO(マウス骨髄腫)、293T細胞、ボウズメラノーマ細胞、HT-1080細胞、BHK細胞(ベビーハムスター腎臓細胞、Baby Hamster Kidney cells)、HEK細胞(ヒト胚腎臓細胞、Human Embryonic Kidney cells)またはPERC.6細胞(ヒト網膜細胞)のような動物細胞、および植物細胞から構成された群より選択される少なくとも1つであってもよいが、これに限定されるものではない。本発明の目的上、前記菌株は、嫌気性菌株、例えば、サルモネラ属菌株、クロストリジウム(Clostridium)属菌株、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属菌株および大腸菌属菌株から構成された群より選択される少なくとも1つであってもよく、好ましくは、サルモネラティフィムリウム(Salmonella typhimurium)、サルモネラコレラスイス(Salmonella choleraesuis)およびサルモネラエンテリティディス(Salmonella enteritidis)から構成された群より選択される少なくとも1つであってもよく、さらに好ましくは、サルモネラティフィムリウムであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0077】
本発明の前記菌株は、弱毒化されたものであってもよい。
【0078】
本発明の前記「弱毒化」は、微生物を患者に投与する場合、毒性および他の副作用などを減少させることができるように遺伝子などに変形を加えたことを意味する。本発明の目的上、前記菌株がサルモネラ属菌株の場合には、弱毒化のために、aroA、aroC、aroD、aroE、Rpur、htrA、ompR、ompF、ompC、galE、cya、crp、cyp、phoP、phoQ、rfaY、dksA、hupA、sipC、clpB、clpP、clpX、pab、nadA、pncB、pmi、rpsL、hemA、rfc、poxA、galU、cdt、pur、ssa、guaA、guaB、fliD、flgK、flgL、relAおよびspoAから構成された群より選択される少なくとも1つの遺伝子に変形を加えたものであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0079】
本発明の前記遺伝子に変形を加える方法は、当業界にて公知の多様な遺伝子の欠失または破壊する方法により行われ、例えば、前記欠失および破壊方法は、相同性組換え、化学的変異誘発、照射変異誘発またはトランスポゾン変異誘発などのような方法により行われる。
【0080】
本発明において、前記菌株は、嫌気性菌株が増殖するのに非常に適した血管形成が不完全で酸素の欠乏した環境である癌組織の内部を標的とするため、このような菌株内にリアルタイムにイメージング可能なレポータータンパク質と抗癌タンパク質が同時に均衡的に発現できる組換えベクターが導入されている場合、癌を非常に効果的に診断および同時に治療することができる。
【0081】
本発明の前記菌株において、前記DNAコンストラクト、抗癌タンパク質、サイトカイン、ケモカイン、免疫調節子、癌抗原に特異的なオリゴヌクレオチド、レポータータンパク質、プロモーターおよび組換えベクターなどに関する内容は、前記DNAコンストラクトおよび組換えベクターに記載されたものと同一であるので、本明細書の過度の複雑性を避けるために省略する。
【0082】
本発明の前記組換えベクターは、形質転換(または形質感染)により宿主細胞;または菌株内に導入できるが、本発明で使用される形質転換方法は、任意の形質転換方法が使用可能であり、当業界における通常の方法により容易に行われる。具体的には、通常使用できる前記サルモネラ属菌株のようなバクテリアの形質転換方法、CaCl沈殿法、CaCl方法に還元物質であるDMSO(Dimethyl sulfoxide)を使用することで効率を高めたHanahan方法、電気穿孔法(Electroporation)、リン酸カルシウム沈殿法、原形質融合法、シリコンカーバイド繊維を用いた撹拌法、アグロバクテリア媒介形質転換法、PEGを用いた形質転換法、デキストランスルフェート、リポフェクタミンおよび乾燥/抑制媒介形質転換方法などを利用して前記菌株に組換えベクターを導入することができるが、これに限定されるものではない。
【0083】
本発明のさらに他の実施形態では、癌の予防または治療用薬学組成物を提供する。
【0084】
本発明の前記薬学組成物は、本発明の前記菌株を有効成分として含む。
【0085】
本発明の前記菌株は、本発明による前記DNAコンストラクトが形質転換されて、個体内で癌を標的とした後に、調節タンパク質を抑制する物質が投与される場合、このような菌株内にリアルタイムにイメージング可能なレポータータンパク質と抗癌タンパク質が同時に均衡的に発現するため、癌を非常に効果的に予防または治療することができ、これと同時に、リアルタイムに癌を診断することができる。
【0086】
本発明の前記「癌」は、変種細胞の迅速かつ制御されない成長を特徴とする疾病であって、黒色腫、卵管癌、脳癌、小腸癌、食道癌、リンパ腺癌、胆嚢癌、血液癌、甲状腺癌、内分泌腺癌、口腔癌、肝癌、胆道癌、大腸癌、直腸癌、子宮頸癌、卵巣癌、腎臓癌、胃癌、十二支腸癌、前立腺癌、乳癌、脳腫瘍、肺癌、甲状腺未分化癌、子宮癌、結腸癌、膀胱癌、尿管癌、膵臓癌、骨/軟部組織肉腫、皮膚癌、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫、多発性骨髄腫、白血病、骨髄異形成症候群、急性リンパ芽球性白血病、急性骨髓性白血病、慢性リンパ球性白血病、慢性骨髓性白血病および孤立性骨髄腫から構成される群より選択される少なくとも1つであってもよく、好ましくは、肝癌、胆道癌、大腸癌、直腸癌、子宮頸癌、卵巣癌、腎臓癌、胃癌、十二支腸癌、前立腺癌、乳癌、脳腫瘍、肺癌、甲状腺未分化癌、子宮癌、結腸癌、膀胱癌、尿管癌、膵臓癌、骨/軟部組織肉腫および皮膚癌から構成される群より選択される少なくとも1つであってもよく、さらに好ましくは、結腸癌であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0087】
本発明の前記「予防」とは、本発明の前記有効成分を用いて癌によって発生した症状を遮断するか、その症状を抑制または遅延させる行為であれば制限なくすべて含まれてもよい。
【0088】
本発明の前記「治療」とは、本発明の前記有効成分を用いて癌によって発生した症状が好転するか、個体が有利になるすべての行為を意味し、臨床的結果を含む有用な結果または望ましい結果を得るための試みを意味する。有用なまたは望ましい臨床的結果は、検出可能であるか、可能でなくても、1つ以上の症状または状態の緩和または改善、疾病範囲の縮小、疾病状態の安定化、疾病発生の抑制、疾病拡散の抑制、疾病進行の遅延または先延ばし、疾病発病の遅延または先延ばし、疾病状態の改善または軽減、および減退(部分または全体)を含むことができ、必ずしもこれに限定されるものではない。また、「治療」は、治療の不在から予測されること以上に患者の生存が延長されることを意味することができる。さらに、「治療」は、疾病進行の抑制、一時的な疾病進行の先延ばしを意味することができ、さらに好ましくは、疾病の進行を永遠に停止させることと関係がある。当業者によって理解されているように、特定疾病の状態を向上させる間、治療が施された患者から反対の結果、すなわち治療によって影響を受けるすべての利点より大きい結果をもたらしたならば、結果は、有益でなかったり、望ましくないこともある。
【0089】
本発明の前記薬学組成物において、前記DNAコンストラクト、抗癌タンパク質、サイトカイン、ケモカイン、免疫調節子、癌抗原に特異的なオリゴヌクレオチド、レポータータンパク質、プロモーター組換えベクター、菌株および形質転換などに関する内容は、前記DNAコンストラクト、組換えベクターおよび菌株に記載したものと同一であるので、本明細書の過度の複雑性を避けるために省略する。
【0090】
本発明の前記薬学組成物は、カプセル、錠剤、顆粒、注射剤、軟膏剤、粉末または飲料形態であることを特徴とし、前記薬学組成物は、ヒトを対象にすることを特徴とすることができる。
【0091】
本発明の前記薬学組成物は、これらに限定されるものではないが、それぞれ通常の方法により散剤、顆粒剤、カプセル、錠剤、水性懸濁液などの経口型剤形、外用剤、坐剤および滅菌注射溶液の形態に剤形化されて使用できる。本発明の薬学組成物は、薬学的に許容可能な担体を含むことができる。薬学的に許容される担体は、経口投与時には、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、賦形剤、可溶化剤、分散剤、安定化剤、懸濁化剤、色素、香料などが使用可能であり、注射剤の場合には、緩衝剤、保存剤、無痛化剤、可溶化剤、等張剤、安定化剤などが混合されて使用可能であり、局所投与用の場合には、基剤、賦形剤、潤滑剤、保存剤などが使用可能である。本発明の薬学組成物の剤形は、上述のような薬剤学的に許容される担体と混合して多様に製造可能である。例えば、経口投与時には、錠剤、トローチ、カプセル、エリキシル(elixir)、サスペンション、シロップ、ウエハなどの形態に製造することができ、注射剤の場合には、単位投薬アンプルまたは複数回投薬形態に製造することができる。その他、溶液、懸濁液、錠剤、カプセル、徐放型製剤などに剤形化することができる。
【0092】
一方、製剤化に適した担体、賦形剤および希釈剤の例としては、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、デンプン、アカシアガム、アルギネート、ゼラチン、カルシウムホスフェート、カルシウムシリケート、セルロース、メチルセルロース、微晶質セルロース、ポリビニルピロリドン、水、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、タルク、マグネシウムステアレートまたは鉱物油などが使用できる。また、充填剤、抗凝集剤、潤滑剤、湿潤剤、香料、乳化剤、防腐剤などを追加的に含むことができる。
【0093】
本発明の前記薬学組成物の投与経路はこれらに限定されるものではないが、口腔、静脈内、筋肉内、動脈内、骨髓内、硬膜内、心臓内、経皮、皮下、腹腔内、鼻腔内、腸管、局所、舌下または直腸が含まれる。経口または非経口投下が好ましい。
【0094】
本発明の前記「非経口」とは、皮下、皮内、静脈内、筋肉内、関節内、滑液嚢内、胸骨内、硬膜内、病巣内および頭蓋骨内注射または注入技術を含む。本発明の薬学組成物はさらに、直腸投与のための坐剤の形態で投与される。
【0095】
本発明の前記薬学組成物は、使用された特定化合物の活性、年齢、体重、一般的な健康、性別、定式、投与時間、投与経路、排出率、薬物配合および予防または治療される特定疾患の重症を含む様々な要因によって多様に変化可能であり、前記薬学組成物の投与量は、患者の状態、体重、疾病の程度、薬物形態、投与経路および期間によって異なるが、当業者によって適宜選択可能であり、1日0.0001~50mg/kgまたは0.001~50mg/kgで投与することができる。投与は、1日に1回投与してもよく、数回分けて投与してもよい。前記投与量は、いかなる面でも本発明の範囲を限定するわけではない。本発明による医薬組成物は、丸剤、糖衣錠、カプセル、液剤、ゲル、シロップ、スラリー、懸濁剤に剤形化される。
【0096】
本発明のさらに他の実施形態では、癌の診断用組成物を提供する。
【0097】
本発明の前記診断用組成物は、本発明による前記菌株を有効成分として含む。
【0098】
本発明の前記菌株は、本発明による前記DNAコンストラクトが形質転換されて、個体内で癌細胞を標的とした後に、調節タンパク質を抑制する物質が投与される場合、このような菌株内にリアルタイムにイメージング可能なレポータータンパク質と抗癌タンパク質が同時に均衡的に発現するため、癌を非常に効果的に予防または治療することができ、これと同時に、リアルタイムに癌を診断することができる。
【0099】
本発明の前記「診断」とは、本発明の前記菌株が癌を標的として位置する時、前記菌株に導入されたDNAコンストラクトから発現したレポータータンパク質によってリアルタイムに癌の存在の有無をモニタリングできることを含む生体内癌組織を確認するすべての行為を意味する。
【0100】
本発明の前記診断用組成物において、前記DNAコンストラクト、抗癌タンパク質、レポータータンパク質、構成的プロモーター、誘導性プロモーター、組換えベクター、サルモネラ属菌株、形質転換、癌などに関する内容は、前記DNAコンストラクト、組換えベクター、菌株および薬学組成物に記載したものと同一であるので、本明細書の過度の複雑性を避けるために省略する。
【0101】
本発明のさらに他の実施形態では、癌の診断のための情報を提供する方法を提供する。
【0102】
本発明の前記方法は、目的とする個体から分離された生物学的試料に、本発明による前記組換えベクターが導入された菌株を処理するステップを含む。
【0103】
本発明の前記癌の診断のための情報を提供する方法は、前記菌株からレポータータンパク質が発現する場合、癌として診断するステップをさらに含むことができる。
【0104】
本発明の前記「生物学的試料」とは、個体から得られるか、個体に由来する任意の物質、組織または細胞を意味するもので、例えば、組織、細胞(cell)、または細胞抽出物(cell extract)を含むことができるが、これに限定されるものではない。
【0105】
本発明の前記診断のための情報提供方法において、前記DNAコンストラクト、抗癌タンパク質、サイトカイン、ケモカイン、免疫調節子、癌抗原に特異的なオリゴヌクレオチド、レポータータンパク質、プロモーター、組換えベクター、菌株、形質転換、癌、診断などに関する内容は、前記DNAコンストラクト、組換えベクター、菌株、薬学組成物および診断用組成物に記載したものと同一であるので、本明細書の過度の複雑性を避けるために省略する。
【0106】
本発明のさらに他の実施形態では、本発明による前記菌株を薬学的有効量で個体に投与するステップを含む、癌の診断、予防または治療方法に関する。
【0107】
本発明において、前記「個体」とは、癌の予防または治療が必要な個体であって、霊長類、例えば、ヒトだけでなく、ウシ、ウマ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ラクダ、レイヨウ、イヌ、ネコなどの哺乳動物をすべて含むことができるが、これに限定されるものではない。
【発明の効果】
【0108】
本発明によるDNAコンストラクトは、宿主菌株または細胞内で第1プロモーターと第2プロモーターの下流に作動可能に連結された遺伝子の発現レベルが均衡をなすようにして、癌の治療と診断を同時に行うことができる。
【0109】
また、本発明の前記DNAコンストラクトは、ドキシサイクリンが不在の場合、前記抗癌タンパク質およびレポータータンパク質を全く発現させることができないため、ドキシサイクリンの処理の有無を調節することにより、適切な癌治療のための用量で抗癌タンパク質を発現させると同時に、レポータータンパク質の発現レベルによって癌の大きさをリアルタイムにモニタリングすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0110】
図1】本発明の一実施例によるDNAコンストラクトの模式図を示したものである。
図2】本発明の一実施例によるDNAコンストラクトの模式図を示したものである。
図3】本発明の一実施例によるDNAコンストラクトで予測されたterR タンパク質のプロモーター-35部位および-10部位の塩基配列が表示された模式図を示したものである。
図4】本発明の一実施例によるレポータータンパク質のルシフェラーゼ(Luciferase)活性の分析結果を示したものである。
図5】本発明の一実施例によるレポータータンパク質のルシフェラーゼ(Luciferase)活性の分析結果を示したものである。
図6】本発明の一実施例によるレポータータンパク質のルシフェラーゼ(Luciferase)活性の分析結果を示したものである。
図7】本発明の一実施例によるレポータータンパク質のルシフェラーゼ活性の分析結果を示したものである。
図8】本発明の一実施例によるレポータータンパク質のルシフェラーゼ活性の分析結果を示したものである。
図9】本発明の一実施例によるレポータータンパク質のルシフェラーゼ活性の分析結果を示したものである。
図10】本発明の一実施例によるレポータータンパク質のルシフェラーゼ活性の分析結果を示したものである。
図11】本発明の一実施例によるウェスタンブロット分析およびクマシーブルー染色を行った結果であり、
図12】レポータータンパク質の発現程度をルシフェラーゼ活性の分析により確認した結果を示したものであり、
図13】菌株の血液寒天に対する溶血活性程度を確認した結果を示したものである。
図14】本発明の一実施例によるウェスタンブロット分析およびクマシーブルー染色を行った結果であり、
図15】レポータータンパク質の発現程度をルシフェラーゼ活性の分析により確認した結果を示したものである。
図16】レポータータンパク質の発現程度をルシフェラーゼ活性の分析により確認した結果を示したものである。
図17】本発明の一実施例によるルシフェラーゼ活性の分析により腫瘍動物モデルにおけるレポータータンパク質の発現程度を確認した結果を示したものであり、
図18】本発明の一実施例によるルシフェラーゼ活性の分析により腫瘍動物モデルにおけるレポータータンパク質の発現程度を確認した結果を示したものであり、
図19】ウェスタンブロット分析により腫瘍組織内のサイトリシンA(Cytolysin A、ClyA)タンパク質の発現程度を確認した結果を示したものである。
図20】本発明の一実施例による腫瘍の大きさを評価した結果であり、
図21】本発明による菌株が処理された腫瘍動物モデルにおける生存率を分析した結果を示したものである。
図22】本発明の一実施例によるpTetTac-RR、pTetJ23101-RRおよびpTetJ23119-RRプラスミドを菌株に導入した後、前記菌株間のルシフェラーゼ活性を測定してグラフで示したものである。
図23】本発明の一実施例によるpTetTac-RR、pTetJ23101-RRおよびpTetJ23119-RRプラスミドを菌株に導入した後、前記菌株間のルシフェラーゼ活性を測定した結果を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0111】
本発明の一実施形態では、DNAコンストラクトを提供する。
【実施例
【0112】
以下、実施例を通じて本発明をより詳細に説明する。これらの実施例は単に本発明をより具体的に説明するためのものであって、本発明の要旨により、本発明の範囲がこれらの実施例によって制限されないことは、当業界における通常の知識を有する者にとって自明であろう。
【0113】
実施例
[準備例1]ドキシサイクリン(Doxycycline)によって調節可能なDNAコンストラクトの作製
[1-1]OXB1プロモーターを含むDNAコンストラクトの作製
pJL39プラスミド(Mol Ther.、21(11)、p.1985-1995、(2013))を鋳型鎖として(図1)、制限酵素EcoRI部位を含むように作製された正方向プライマー(5’-CGGAATTCACCATGTCTAGATTAGATAAAAGTAAAGTGATTAACAG-3’;配列番号2)および制限酵素PvuII-XbaI部位を含むように作製された逆方向プライマー(5’-GCTCTAGACAGCTGTTAAGACCCACTTTCACATTTAAGTTGTTTTTCT-3’;配列番号3)を用いてtetR遺伝子を増幅した。以後、前記増幅産物に制限酵素EcoRIおよびXbaIを入れて切断し、これを精製して、tetR遺伝子増幅産物を得た後に、これをpBAD24(カタログ番号.ATCC○ 87399TM、ATCC、米国)プラスミドに導入する過程によりpBAD-TetRプラスミドを作製した。
【0114】
その後、前記pJL39プラスミドのPvuIIおよびHindIII断片により、多重クローニングサイトを含むダイバージェント(Divergent)プロモーター領域を前記pBAD-TetRプラスミドに導入してpTetR-BADプラスミドを作製した。NheIおよびPcil制限酵素を用いて前記pTetR-BADプラスミドからaraCおよびaraBADプロモーターを除去して、pTetIIプラスミドを作製した。
【0115】
pSF-OXB1(Oxford Genetics、England)を鋳型として、正方向プライマー(5’-CTACTCCGTCAAGCCGTCAAGCTGTTGTGACCGCTTGCT-3’;配列番号4)および逆方向プライマー(5’-TGAATTCCTCCTGCTAGCTAGTTGGTAACGAATCAGACGCCGGGTAATACCGGATAG-3’;配列番号5)で増幅された構成的プロモーターであるOXB1(配列番号16)を、ギブソンアセンブリ方式を用いて、前記pTetIIプラスミドに導入することにより、最終的にOXB1、tetAおよびtetRプロモーターを含むpJH18プラスミドを作製した。
【0116】
前記pJH18プラスミドをバックボーンとして、tetR、Rluc8およびサイトリシンA(Cytolysin A、ClyA)を暗号化する遺伝子を前記プロモーターの下流に下記表1のような組み合わせで導入する過程によりpJH18-RR、pJH18-ARおよびpJH18-CRプラスミドを作製した(図2)。
【0117】
【表1】
【0118】
[1-2]OXB11、13および20プロモーターを含むDNAコンストラクトの作製
前記準備例[1-1]と同様の方式により、pSF-OXB11、pSF-OXB13またはpSF-OXB20を鋳型として、正方向プライマー(5’-TGCTACTCCGTCAAGCCGTCAAGCTGTTGTGACCGCTTG-3’:配列番号6)および逆方向プライマー(5’-AGCTTGGTAACGAATCAGACGCCGGGTAATACCGGATAG-3’:配列番号7)で増幅された構成的プロモーターであるOXB11、OXB13およびOBX20を、ギブソンアセンブリ方式を用いて、前記準備例[1-1]で作製されたpJH18プラスミドに導入した(pTetOXB11-AR、pTetOXB11-RR、pTetOXB13-AR、pTetOXB13-RR、pTetOXB20-AR、pTetOXB20-RR)。ここで、前記プラスミドによるタンパク質の発現効率はOXB11、OXB13およびOXB20の順に高く、OXB1の場合、最も弱いタンパク質の発現効率を示す。
【0119】
[1-3]Tacプロモーターを含むDNAコンストラクトの作製
前記準備例[1-1]で作製されたpJH18プラスミドに構成的プロモーターであるTacを導入した。具体的には、Tac正方向プライマー(5’-CCCTATGCTACTCCGTCAAGCCGTCAATTGTTGACAATTAATCATCGGCTCGTATAATGTCTGATTCGTTACCAAGCT-3’:配列番号10)および逆方向プライマー(5’-AGCTTGGTAACGAATCAGACATTATACGAGCCGATGATTAATTGTCAACAATTGACGGCTTGACGGAGTAGCATAGGG-3’:配列番号11)で構成的プロモーターであるTacプロモーター配列を増幅した後、ギブソンアセンブリ方式を用いて、pJH18プラスミドにTacプロモーターを導入してpTetTac-RRプラスミドを作製した。
【0120】
[1-4]J23101プロモーターを含むDNAコンストラクトの作製
同様に、前記準備例[1-1]で作製されたpJH18プラスミドに構成的プロモーターであるJ23101を導入した。具体的には、J23101正方向プライマー(5’-TGCTACTCCGTCAAGCCGTCTTTACAGCTAGCTCAGTCCTAGGTATAATGCTAGCCAATTGTCTGATTCGTTACC-3’:配列番号12)および逆方向プライマー(5’-GGTAACGAATCAGACAATTGGCTAGCATTATACCTAGGACTGAGCTAGCTGTAAAGACGGCTTGACGGAGTAGCA-3’:配列番号13)で構成的プロモーターであるJ23101プロモーター配列を増幅した後、ギブソンアセンブリ方式を用いて、pJH18プラスミドにJ23101プロモーターを導入してpTetJ23101-RRプラスミドを作製した。
【0121】
[1-5]J23119プロモーターを含むDNAコンストラクトの作製
同様に、前記準備例[1-1]で作製されたpJH18プラスミドに構成的プロモーターであるJ23119を導入した。具体的には、J23119正方向プライマー(5’-TGCTACTCCGTCAAGCCGTCTTGACAGCTAGCTCAGTCCTAGGTATAATGCTAGCCAATTGTCTGATTCGTTACC-3’:配列番号14)および逆方向プライマー(5’-GGTAACGAATCAGACAATTGGCTAGCATTATACCTAGGACTGAGCTAGCTGTCAAGACGGCTTGACGGAGTAGCA-3’:配列番号15)で構成的プロモーターであるJ23119プロモーター配列を増幅した後、ギブソンアセンブリ方式を用いて、pJH18プラスミドにJ23119プロモーターを導入してpTetJ23119-RRプラスミドを作製した。
【0122】
[準備例2]癌細胞株および培養条件
CT26結腸癌細胞株であるCRL-2638およびHB-8064(ATCC、米国)とマウスの大腸腺癌腫細胞株であるMC38(Massachusetts General Hospital and Harvard Medical School、米国、および全南大学、韓国)を実験に使用した。
【0123】
10%ウシ胎児血清(Fetal bovine serum;FBS)および1%のペニシリン-ストレプトマイシンが含まれた高ブドウ糖DMEM(Dulbecco’s Modified Eagles Medium)培地(カタログ番号:#LM001-05、ウェルジン、韓国)を用いて、5%CO培養器で37℃の条件で前記細胞を培養した。
【0124】
[準備例3]プラスミドが導入されたサルモネラ菌株の作製
サルモネラ菌株はppGppの欠乏しているサルモネラティフィムリウム(Salmonella typhimurium;S.typhimurium)であるSHJ2037(relA::cat、spoT::kan)を使用した。
【0125】
サルモネラ菌株に、前記準備例1で作製したプラスミドを電気穿孔法(Electroporation)を用いて形質転換した後、100μg/mlのアンピシリン(Ampicillin)が含まれたLB培地を用いて、前記形質転換されたそれぞれの菌株を一晩培養した。その後、前記培養液をアンピシリンが含まれた新たなLB培地を用いて1:100の比率で希釈し、追加培養によりOD600値が0.5~0.7に到達した時、前記培養液に最終濃度が0、10、50、100、300、500ng/mlとなるようにエタノールで希釈したドキシサイクリンを添加し、200rpmおよび37℃の条件で振盪培養器で培養した。
【0126】
[準備例4]実験動物モデルの用意
20~30gの重量に相当する5~6週齢のC57BL/6およびBALB/Cマウス(オリエントカンパニー、韓国)を使用した。前記準備例2のMC38またはCT26を前記マウスの脇腹に皮下注射して、腫瘍動物モデルを構築した。
【0127】
前記腫瘍動物モデルの映像化および腫瘍の大きさの評価のために、痲酔のためには2%イソフルラン(Isoflurane)を使用し、手術時には200mg/kgのケタミン(Ketamine)および10mg/kgのキシラジン(Xylasine)を使用した。
【0128】
前記腫瘍の大きさ(mm)の評価は(長さ×高さ×幅)/2を用いて計算されるようにし、動物モデルの腫瘍の大きさが1500mm以上の場合には、動物モデルを安楽死させた。
【0129】
[実施例1]pTetIIプラスミドのtetRプロモーターの予測
前記準備例[1-1]で中間産物として作製されたpTetIIプラスミドで、tetRタンパク質の発現を調節できるプロモーターの配列をBPROM(Bacterial sigma 70 promoter prediction program)を用いて予測し、その結果を図3に示した。
【0130】
図3に示すように、pTetIIプラスミドのtetRタンパク質を基準として、-35部位に配列番号6の塩基配列が予測され、-10部位に配列番号7の塩基配列が予測された。
【0131】
前記結果を通して、本発明によるpTetIIプラスミドは、別のOXB1のようなプロモーターを含まない場合にも、-35および-10部位に配列番号6および7がそれぞれ位置できる場合には、tetRタンパク質が自然に発現できることが分かる。
【0132】
[実施例2]pJH18-RRおよびpJH18-ARプラスミドが導入された菌株におけるタンパク質の発現レベルおよびルシフェラーゼの活性程度の比較
[2-1]ウェスタンブロット分析およびクマシーブルー(Coomassie Blue)染色によるタンパク質の発現レベルの比較
前記準備例[1-1]で作製されたプラスミドで、tetAおよびtetRプロモーターの下流に導入された遺伝子間の発現レベルが均衡をなすか否かを確認するために、前記準備例[1-1]で作製されたプラスミドがそれぞれ導入されている前記準備例3の菌株から発現したRluc8タンパク質をクマシーブルー染色薬により染色するか、前記タンパク質に特異的な抗体を用いてウェスタンブロット分析を行った。
【0133】
具体的には、前記準備例3の菌株の培養液を4×10CFU/mlとなるようにPBSを用いて希釈し、13,000rpmで5分間遠心分離してペレットを収集した。前記ペレット分画をPBSを用いて洗浄し、0.2%β-メルカプトエタノール(β-mercaptoethanol)(カタログ番号:EBA-1052、ELPIS BIOTECH)が含まれたSDSサンプル緩衝液と混合して菌株溶解物を得た。その後、15%SDS-PAGEで前記菌株溶解物を電気泳動し、前記ゲルをクマシーブルー染色薬により染色するか、前記ゲルからニトロセルロース膜にタンパク質を移した後、5%脱脂乳を用いて常温でブロッキングした。以後、Rluc8抗体(カタログ番号:AB3256、ミリポア、米国)を用いてRluc8タンパク質の発現レベルを確認し、その結果を図4に示した。
【0134】
図4に示すように、tetAプロモーターからのRLuc8タンパク質の発現レベルは、tetRプロモーターから発現したタンパク質のレベルより2~6倍さらに高く、ドキシサイクリン(10ng/ml)の最低濃度でも飽和した誘導剤の濃度に非常に敏感に反応した。
【0135】
[2-2]ルシフェラーゼ活性の分析によるタンパク質の機能的発現レベルの比較
前記準備例[1-1]で作製されたプラスミドがそれぞれ導入されている前記準備例3の菌株におけるルシフェラーゼ活性の測定のために、前記菌株を1mlのPBSに再懸濁させた。その後、前記再懸濁された菌株に、基質であるエタノールで希釈した1μg/mlのコエレンテラジン(Coelenterazine)を添加した後、NightOWL II LB 983 In Vivo イメージングシステム(Berthold technologies、GmbH&Co.KG、ドイツ)またはバイオラッドイメージャーChemoDocTM XRS+システムを用いて、1秒露出時間の条件でルシフェラーゼ活性値を測定した。このように測定された値は、各菌株のCFUによる標準化を行い、Rluc8が含まれていない対照群プラスミドが含まれている値を用いて正規化された値である相対的発光ユニット(Relative luminescence units;RLU)で計算して、その結果を図5および6に示した。
【0136】
図5および6に示すように、ルシフェラーゼ活性値は、ドキシサイクリンが存在する場合にのみ確認され(図5)、tetAおよびtetRプロモーターによって調節されるタンパク質の活性レベルは、tetAプロモーターがtetRプロモーターに比べて3倍程度と高くなることを確認した(図6)。
【0137】
前記結果を通して、tetAプロモーターおよびtetRプロモーターを抑制できる調節タンパク質であるtetRタンパク質が別のプロモーターによって継続して発現する場合には、tetRタンパク質の抑制剤が存在する場合にのみ、tetAプロモーターおよびtetRプロモーターを同時に誘導できることが分かる。
【0138】
[2-3]pTetIIプラスミドとpJH18-CRプラスミドとの間のルシフェラーゼ活性の比較
前記準備例[1-1]で中間産物として作製されたpTetIIプラスミドとpJH18-CRプラスミドをそれぞれ前記準備例3と同様の方法で菌株に導入した後、前記菌株間のルシフェラーゼ活性を前記実施例[2-2]と同様の方法で測定し、その結果を図7および8に示した。
【0139】
図7および8に示すように、ルシフェラーゼ活性値は、OXB1プロモーターが存在する場合(pJH18-CR)でのみならず、-35部位および-10部位にそれぞれ配列番号8および配列番号9で表される塩基配列が位置する場合にも、同様にルシフェラーゼ活性濃度がドキシサイクリンの濃度に依存的に増加することを確認した。
【0140】
前記結果を通して、本発明によるDNAコンストラクトが含まれたプラスミドの場合、プラスミドに内在されている塩基配列がプロモーターとして作用して調節タンパク質の発現が誘導できるため、調節タンパク質の上流に別のプロモーターを人為的に導入しなくても、調節タンパク質を継続して発現させることができることが分かる。
【0141】
[2-4]OXB1とOXB11プロモーターが含まれたDNAコンストラクト間のルシフェラーゼ活性の比較
前記準備例[1-2]で作製されたpTetOXB11プラスミドとpJH18プラスミドをそれぞれ前記準備例3と同様の方法で菌株に導入した後、前記菌株間のルシフェラーゼ活性を前記実施例[2-2]と同様の方法で測定し、その結果を図9および10に示した。
【0142】
図9および10に示すように、OXB11プロモーターが存在する場合(pTetOXB11)より、弱いプロモーターであるOXB1プロモーターが存在する場合(pJH18)にてルシフェラーゼ活性がより高いことを確認した。
【0143】
前記結果を通して、中間プロモーターが含まれたプラスミドと比較して、弱いプロモーターが含まれたプラスミドの場合、そのプロモーターの下流に存在する調節タンパク質の発現を低いレベルに発現させることで、ドキシサイクリンの濃度に敏感に反応するようにして目的タンパク質の発現レベルを効果的に増加させ、究極的にtetAおよびtetRプロモーターの下流に存在する遺伝子の発現レベルが均衡をなすようにすることが分かる。
【0144】
[実施例3]pJH18-CRプラスミドが導入された菌株におけるタンパク質の発現および活性レベルの比較
[3-1]タンパク質の発現および活性レベルの比較
前記実施例[2-1]および[2-2]に記載のウェスタンブロット分析、クマシーブルー染色およびルシフェラーゼ活性の分析方法と同様の方法により、前記準備例[1-1]のpJH18-CR(POXB1::tetR、PtetA::ClyAおよびPtetR::Rluc8)が、準備例3に記載の方法により導入された菌株でタンパク質発現レベルの分析を行って、その結果を図11および12に示した。
【0145】
図11および12に示すように、pJH18-CRが導入された菌株にドキシサイクリンが処理された場合、サイトリシンAタンパク質の発現レベルとRluc8タンパク質の発現レベルがほぼ同等に均衡的に発現することを確認した。
【0146】
[3-2]溶血活性の確認
PBSで希釈した前記準備例[1-1]のpJH18-CRが、準備例3に記載の方法により導入された菌株を、0または20ng/mlのドキシサイクリンが含まれた血液寒天プレートに塗抹し、37℃で一晩培養した後、プレートの写真を撮影して、その結果を図13に示した。
【0147】
図13に示すように、菌株の血液寒天の溶血活性は、サイトリシンAを暗号化する遺伝子の上流に存在するプロモーターの種類に関係なくドキシサイクリンが含まれた場合(+)にのみ現れることを確認した。
【0148】
前記結果を通して、本発明によるプラスミドのtetAおよびtetRプロモーターがドキシサイクリンによってのみ活性誘導されることにより、同時にタンパク質の発現レベルを効果的に調節すできることが分かる。
【0149】
[実施例4]pJH87およびpJH18-CRプラスミドが導入された菌株におけるタンパク質の発現レベルの比較
前記実施例[2-1]および[2-2]に記載のウェスタンブロット分析、クマシーブルー染色およびルシフェラーゼ活性の分析方法と同様の方法により、前記pJH87(PtetA::ClyAおよびPtetR::TetR::Rluc8)およびpJH18-CR(POXB1::tetR、PtetA::ClyAおよびPtetR::Rluc8)が準備例3に記載の方法により導入された菌株でドキシサイクリンの濃度が20ng/ml以上投与されることにより、サイトリシンAタンパク質の発現レベルが飽和するように誘導した状態でタンパク質発現レベルの分析を行って、その結果を図14~16に示した。
【0150】
図14~16に示すように、pJH18-CRプラスミドが導入された菌株でサイトリシンAタンパク質の発現レベルが、pJH87プラスミドが導入された菌株に比べて5倍程度高く現れることを確認した。さらに、Rluc8タンパク質の活性レベルは、pJH87プラスミドが導入された菌株に比べて、pJH18-CRプラスミドが導入された菌株で約80倍程度より高くなることを確認した。
【0151】
前記結果を通して、tetRを暗号化する遺伝子がtetRプロモーターの下流に存在するように構成されたプラスミドに比べて、本発明のように、tetRを暗号化する遺伝子が別のプロモーター、特に弱いプロモーターによって調節できるようにする場合には、1つの調節因子によって活性誘導できるtetAおよびtetRプロモーターによって抗癌タンパク質およびレポーター遺伝子が同時に高いレベルに発現および活性誘導できるだけでなく、その発現および活性比率が比較的均衡をなし得ることが分かる。
【0152】
[実施例5]癌を発生させた腫瘍動物モデルにおける組換え菌株の腫瘍抑制能力および映像化分析
前記準備例3に記載の方式を利用して、pJH18-CRまたはpJH18が導入されたサルモネラ菌株を、前記準備例4で構築された腫瘍動物モデルの尾静脈に注入した。その後、前記実施例[2-1]および[2-2]に記載のルシフェラーゼ活性の分析方法およびウェスタンブロット分析方法により、腫瘍動物モデル内の菌株の映像化とサイトリシンAタンパク質発現レベルの分析を行って、その結果を図17~19に示した。
【0153】
また、前記腫瘍動物モデルにおいて、前記準備例4のように0~34日間腫瘍の大きさを測定し、50日間前記腫瘍動物モデルの生存率を測定して、その結果を図20および21に示した。ここで、対照群として前記腫瘍動物モデルの尾静脈にPBSのみを注入した。
【0154】
図17~18に示すように、対照群と比較して、pJH18-CRが導入されたサルモネラ菌株が注入された腫瘍動物モデルの腫瘍組織でのみルシフェラーゼ活性が測定されることを確認した。さらに、前記pJH18-CRが導入されたサルモネラ菌株が注入された腫瘍動物モデルの腫瘍組織を摘出した場合にも、ルシフェラーゼの活性が測定されることを確認した。また、図19に示すように、pJH18-CRが導入されたサルモネラ菌株の場合、ドキシサイクリンが存在する場合、(Dox+)にのみ特異的にサイトリシンAタンパク質が発現することを確認した。
【0155】
図20および21に示すように、PBSおよびpJH18が注入された場合と比較して、pJH18-CRが導入されたサルモネラ菌株からサイトリシンAタンパク質が発現した腫瘍動物モデルで腫瘍の大きさが著しく減少し、生存率が増加することを確認した。
【0156】
前記結果を通して、本発明によるpJH18-CRが導入されたサルモネラ菌株の場合、1つの調節因子によって映像化可能なタンパク質および抗癌タンパク質の発現を調節するプロモーターを活性化することにより、腫瘍が発生した個体で腫瘍の位置を正確に映像化できると同時に、腫瘍の成長を抑制して癌が発生した個体の生存率を著しく改善できることが分かる。
【0157】
[実施例6]プロモーターが含まれたDNAコンストラクト間のルシフェラーゼ活性の比較
前記準備例[1-3]~[1-5]で作製されたpTetTac-RR、pTetJ23101-RR、およびpTetJ23119-RRプラスミドをそれぞれ前記準備例3と同様の方法で菌株に導入した後、前記菌株間のルシフェラーゼ活性を前記実施例[2-2]と同様の方法で測定し、その結果を図22および23に示した。
【0158】
図22および23に示すように、Tac、J23101およびJ23119プロモーターが存在するプラスミドの場合(pTetTac-RR、pTetJ23101-RR、pTetJ23119-RR)より、OXB1プロモーターが存在するプラスミドの場合(pJH18)でドキシサイクリンに対する敏感性とルシフェラーゼ活性がより高いことを確認した。
【0159】
前記結果を通して、公開された構成的プロモーターが含まれたプラスミドと比較して、本発明の弱いプロモーターが含まれたプラスミドの場合、そのプロモーターの下流に存在する調節タンパク質の発現を低いレベルに発現させることにより、ドキシサイクリンの濃度に敏感に反応するようにして目的タンパク質の発現レベルを効果的に増加させ、究極的にtetAおよびtetRプロモーターの下流に存在する遺伝子の発現レベルが均衡をなすようにすることが分かる。
【0160】
以上、本発明の特定の部分を詳細に述べたが、当業界における通常の知識を有する者にとってこのような具体的な記述は単に好ましい実施形態に過ぎず、よって、本発明の範囲が制限されないことは明らかである。したがって、本発明の実質的な範囲は添付した請求項とその等価物によって定義される。
【産業上の利用可能性】
【0161】
本発明は、癌の診断および治療用DNAコンストラクトおよび前記DNAコンストラクトを含む組換えベクターが導入された菌株に関する。
【0162】
配列リストフリーテキスト
配列番号1: サイトリシンAのアミノ酸配列
10 20 30 40 50
MIMTGIFAEQ TVEVVKSAIE TADGALDLYN KYLDQVIPWK TFDETIKELS
60 70 80 90 100
RFKQEYSQEA SVLVGDIKVL LMDSQDKYFE ATQTVYEWCG VVTQLLSAYI
110 120 130 140 150
LLFDEYNEKK ASAQKDILIR ILDDGVKKLN EAQKSLLTSS QSFNNASGKL
160 170 180 190 200
LALDSQLTND FSEKSSYFQS QVDRIRKEAY AGAAAGIVAG PFGLIISYSI
210 220 230 240 250
AAGVIEGKLI PELNNRLKTV QNFFTSLSAT VKQANKDIDA AKLKLATEIA
260 270 280 290 300
AIGEIKTETE TTRFYVDYDD LMLSLLKGAA KKMINTCNEY QQRHGKKTLF
EVPDV
【0163】
配列番号2: Forward primer
5’-CGGAATTCACCATGTCTAGATTAGATAAAAGTAAAGTGATTAACAG-3’
【0164】
配列番号3: Reverse primer
5’-GCTCTAGACAGCTGTTAAGACCCACTTTCACATTTAAGTTGTTTTTCT-3’
【0165】
配列番号4: Forward primer
5’-CTACTCCGTCAAGCCGTCAAGCTGTTGTGACCGCTTGCT-3’
【0166】
配列番号5: Reverse primer
5’-TGAATTCCTCCTGCTAGCTAGTTGGTAACGAATCAGACGCCGGGTAATACCGGATAG-3’
【0167】
配列番号6: Forward primer
5’-TGCTACTCCGTCAAGCCGTCAAGCTGTTGTGACCGCTTG-3’
【0168】
配列番号7: Reverse primer
5’-AGCTTGGTAACGAATCAGACGCCGGGTAATACCGGATAG-3’
【0169】
配列番号8: -35 promoter
TTCGCG
【0170】
配列番号9: -10 promoter
ATGCATAAT
【0171】
配列番号10: Forward primer
5’-CCCTATGCTACTCCGTCAAGCCGTCAATTGTTGACAATTAATCATCGGCTCGTATAATGTCTGATTCGTTACCAAGCT-3’
【0172】
配列番号11: Reverse primer
5’-AGCTTGGTAACGAATCAGACATTATACGAGCCGATGATTAATTGTCAACAATTGACGGCTTGACGGAGTAGCATAGGG-3’
【0173】
配列番号12: Forward primer
5’-TGCTACTCCGTCAAGCCGTCTTTACAGCTAGCTCAGTCCTAGGTATAATGCTAGCCAATTGTCTGATTCGTTACC-3’
【0174】
配列番号13: Reverse primer
5’- GGTAACGAATCAGACAATTGGCTAGCATTATACCTAGGACTGAGCTAGCTGTAAAGACGGCTTGACGGAGTAGCA-3’
【0175】
配列番号14: Forward primer
5’- TGCTACTCCGTCAAGCCGTCTTGACAGCTAGCTCAGTCCTAGGTATAATGCTAGCCAATTGTCTGATTCGTTACC-3’
【0176】
配列番号15: Reverse primer
5’- GGTAACGAATCAGACAATTGGCTAGCATTATACCTAGGACTGAGCTAGCTGTCAAGACGGCTTGACGGAGTAGCA-3’
【0177】
配列番号16: OXB1 promoter
5’- AAGCTGTTGTGACCGCTTGCTCTAGCCAGCTATCGAGTTGTGAACCGATCCATCTAGCAATTGGTCTCGATCTAGCGATAGGCTTCGATCTAGCTATGTAGAAACGCCGTGTGCTCGATCGCCTGACGCTTTTTATCGCAACTCTCTACTGTTGCTTCAACAGAACATATTGACTATCCGGTATTACCCGGC-3’
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
【配列表】
2022531777000001.app
【国際調査報告】