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特表2022-531868ハイエントロピー希土類高靭性タンタル酸塩セラミックス及びその製造方法
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  • 特表-ハイエントロピー希土類高靭性タンタル酸塩セラミックス及びその製造方法 図1
  • 特表-ハイエントロピー希土類高靭性タンタル酸塩セラミックス及びその製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-12
(54)【発明の名称】ハイエントロピー希土類高靭性タンタル酸塩セラミックス及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/495 20060101AFI20220705BHJP
【FI】
C04B35/495
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021565818
(86)(22)【出願日】2019-11-12
(85)【翻訳文提出日】2021-11-04
(86)【国際出願番号】 CN2019117281
(87)【国際公開番号】W WO2020253040
(87)【国際公開日】2020-12-24
(31)【優先権主張番号】201910526981.6
(32)【優先日】2019-06-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521285805
【氏名又は名称】昆明理工大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】特許業務法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】馮晶
(72)【発明者】
【氏名】周雲軒
(72)【発明者】
【氏名】種暁宇
(72)【発明者】
【氏名】呉鵬
(72)【発明者】
【氏名】陳琳
(72)【発明者】
【氏名】汪俊
(57)【要約】
ハイエントロピーセラミックス技術分野であって、具体的には、ハイエントロピー希土類高靭性タンタル酸塩セラミックスを開示する。セラミックスはTa粉体とx種の異なるRE粉体とが焼結されてなり、4≦x≦9であり、各RE粉体のモル比は1である。RE:Taのモル比が1:1のRE粉末及びTa粉末を秤量し、溶剤に加えて混合し、ボールミルでボールミリングして、混合粉末Mを得、粉末Mを乾燥温度650~850℃、乾燥時間1.5~2hで乾燥処理し、乾燥した粉末を得、粉末をふるい分け処理し、粉末Nを得、粉末Nを成形型に配置して1回目のプレス成形を行い、素地を得、その後、素地に2回目のプレス成形を行い、緻密な素地を得、緻密な素地を焼結してハイエントロピー希土類高靭性タンタル酸塩セラミックスを得る。当該ハイエントロピーセラミックスは高い硬度及び靭性を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ta粉体とx種の異なるRE粉体とが焼結されてなり、4≦x≦9であり、各RE粉体のモル比は1に等しいことを特徴とするハイエントロピー希土類高靭性タンタル酸塩セラミックス。
【請求項2】
REはY、Pm、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm又はLuの中から選択されることを特徴とする請求項1に記載のハイエントロピー希土類高靭性タンタル酸塩セラミックス。
【請求項3】
RE:Taのモル比が1:1のRE粉末及びTa粉末を秤量し、溶剤に加えて混合した後、ボールミリングして、混合粉末Mを得るステップ1と、
ステップ1で得られた粉末Mを乾燥温度650~850℃、乾燥時間1.5~2hで乾燥処理し、乾燥した粉末を得るステップ2と、
ステップ2で得られた粉末をふるい分け処理し、粉末Nを得、粉末Nをプレス成形し、緻密な素地を得るステップ3と、
ステップ3中の緻密な素地を焼結温度1600~1750℃、焼結時間10~15hで焼結してハイエントロピー希土類高靭性タンタル酸塩セラミックスを得るステップ4とを含むことを特徴とする請求項2に記載のハイエントロピー希土類高靭性タンタル酸塩セラミックスの製造方法。
【請求項4】
前記ステップ1において、ボールミルの回転速度は400~500r/min、ボールミリング時間は180~240minであることを特徴とする請求項3に記載のハイエントロピー希土類高靭性タンタル酸塩セラミックスの製造方法。
【請求項5】
前記ステップ3において、ふるい分け用の篩は300~400メッシュであることを特徴とする請求項3に記載のハイエントロピー希土類高靭性タンタル酸塩セラミックスの製造方法。
【請求項6】
前記ステップ3において、1回目のプレス成形における圧力は6~10MPa、プレス成形時間は6~10minであることを特徴とする請求項3に記載のハイエントロピー希土類高靭性タンタル酸塩セラミックスの製造方法。
【請求項7】
前記ステップ3において、2回目のプレス成形における圧力は350~450MPa、プレス成形時間は10~30minであることを特徴とする請求項3に記載のハイエントロピー希土類高靭性タンタル酸塩セラミックスの製造方法。
【請求項8】
前記ステップ1において、RE粉末及びTa粉末の純度は99.99%以上であることを特徴とする請求項3~7のいずれか1項に記載のハイエントロピー希土類高靭性タンタル酸塩セラミックスの製造方法。
【請求項9】
前記ステップ1における溶剤はエタノール又は蒸留水であることを特徴とする請求項8に記載のハイエントロピー希土類高靭性タンタル酸塩セラミックスの製造方法。
【請求項10】
前記ステップ1におけるRE粉末及びTa粉末の和と溶剤のモル比は(3:1)~(5:1)であることを特徴とする請求項9に記載のハイエントロピー希土類高靭性タンタル酸塩セラミックスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はハイエントロピーセラミックス技術分野に関し、特に、ハイエントロピー希土類高靭性タンタル酸塩セラミックス及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイエントロピーセラミックスは最近現れた新型セラミックスであり、この種のセラミックスが現れたことでセラミックス体系が豊富になった。20世紀の90年代末、中国台湾清華大学の葉均蔚教授によってハイエントロピーの概念が打ち出され、元素種類≧5、中心的元素はなく、且つ、全ての元素の含有量が5%~35%の間と定義された。ハイエントロピーセラミックス粉体は焼結を経ると安定した固溶相を得ることができる。現在までのところ、ハイエントロピーに関する研究は主に合金分野に集中しており、ハイエントロピーセラミックスについての研究は少ない。また、ハイエントロピーセラミックスは、高熱伝導性、高融点、優れた耐食性、良好な生体適合性、良好な電気化学性能等を有しており、超高温、生物医学、エネルギー等の分野において大きな発展潜在力を備えている。
【0003】
ハイエントロピーセラミックスの研究は少ないため、ハイエントロピーセラミックスに関する製造方法は依然として模索段階にある。現在、ハイエントロピーセラミックスを製造する方法は、ボールミリング法と熱処理を組み合わせたもの、噴霧造粒による方法、高エネルギーボールミリング法と放電プラズマを組み合わせた方法、マグネトロンスパッタリングによる方法等がある。しかし、上述の方法で製造されたセラミックスは一般的に充填率が不十分であることから、セラミックス材料が力を受けたときに亀裂が生じやすい。また、材料の硬度と靭性は性能が矛盾する関係であるため、硬度が高い材料は一般的に靭性が低く、これとは逆に、靭性が高い材料は硬度が低い。このため、発明者は、このような矛盾をどのように克服するかという点に基づいて、ハイエントロピー希土類高靭性タンタル酸塩セラミックス材料を研究開発した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、硬度及び靭性がいずれも改善されたハイエントロピー希土類高靭性タンタル酸塩セラミックス及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述の目的を実現するために、本発明は以下の基礎的方案を提供する。
【0006】
ハイエントロピー希土類高靭性タンタル酸塩セラミックスであって、該セラミックスはTa粉体とx種の異なるRE粉体とが焼結されてなり、4≦x≦9であり、各RE粉体のモル比は1に等しい。
【発明の効果】
【0007】
本基礎的方案の技術原理及び効果は以下の通りである。
【0008】
1、本技術方案は異なる種類の希土類酸化物粉体を用い、且つ、各希土類酸化物粉体のモル比は1に等しく、酸化タンタルと焼結してハイエントロピー希土類タンタル酸塩を得る。当該希土類タンタル酸塩は硬度が高いだけでなく、単一希土類のタンタル酸塩と比べると靭性が大幅に向上し、高硬度と高靭性との間の矛盾を克服する。
【0009】
2、発明者は、本技術方案を用いて得られるハイエントロピー希土類タンタル酸塩は一定の強弾性を有するため、ハイエントロピー希土類タンタル酸塩の靭性が改善されることを、研究を通じて見出した。わかりやすく述べると、強弾性があることによって、このような材料は外力作用下にあるとき、ドメインウォール(隣接する2つの強弾性ドメイン間の過渡層)に偏向が発生し、一定の歪みエネルギーを吸収する。これにより、ミクロクラックの拡大を緩やかにし、材料の靭性性能を高める。
【0010】
更に、REはY、Pm、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm又はLuの中から選択される。
【0011】
有益な効果としては、用いる希土類酸化物を上述の複数種の中から選択して作製したハイエントロピー希土類タンタル酸塩セラミックスは、硬度及び靭性が大幅に向上することが、発明者の実験によって証明された。
【0012】
更に、ハイエントロピー希土類高靭性タンタル酸塩セラミックスの製造方法は、以下のステップを含む。
【0013】
ステップ1において、RE:Taのモル比が1:1のRE粉末及びTa粉末を秤量し、溶剤に加えて混合した後、ボールミリングして、混合粉末Mを得る。
【0014】
ステップ2において、ステップ1で得られた粉末Mを乾燥処理し、乾燥した粉末を得る。乾燥温度は650~850℃、乾燥時間は1.5~2hである。
【0015】
ステップ3において、ステップ2で得られた粉末をふるい分け処理し、粉末Nを得、粉末Nをプレス成形し、緻密な素地を得る。
【0016】
ステップ4において、ステップ3中の緻密な素地を焼結してハイエントロピー希土類高靭性タンタル酸塩セラミックスを得る。焼結温度は1600~1750℃、焼結時間は10~15hである。
【0017】
有益な効果としては、ステップ1~ステップ4のプロセスで製造してハイエントロピー希土類高靭性タンタル酸塩セラミックスを得ると、内部気孔率が低くなる。実験・検査によると、当該セラミックスの硬度は5.61~6.56GPa、靭性は2.73~3.54MPa・m1/2である。単一希土類のタンタル酸塩セラミックスと比較すると、例えば、希土類タンタル酸イットリウムの場合、硬度は5.15GPa、靭性は2.37MPa・m1/2であり、本方案を用いて製造するハイエントロピー希土類タンタル酸塩セラミックスの硬度及び靭性は大幅に改善されることが明らかである。
【0018】
ステップ1の目的は、RE粉末とTa粉末とを均一に機械混合することである。更に、溶剤に加えるのはRE粉末及びTa粉末の界面活性を低下させ、粉末間の接着性を低下させるためである。
【0019】
ステップ2の目的は、一方では、粉末M中の溶剤を除去することであり、他方では、粉末内の一部の内部エネルギーを消耗させ、粉末Mの焼結活性を低下させることである。粉末Mの反応温度を引き上げ、低温度下で反応して第二相が形成されるのを防ぎ、更に、最後の高温焼結中に不純物が生じるのも防ぐ。なお、乾燥時は反応温度に達していないため、化学反応は発生していない。
【0020】
ステップ3において粉末をプレス成形することにより、粉末内部の気体が十分に排出され、焼結時における粉体内部の気体を減少させることができる。これにより、気孔欠陥の発
生数を減少させ、最終的に焼結されたセラミックスの緻密性を向上させる。
【0021】
ステップ4で得られたハイエントロピー希土類タンタル酸塩セラミックス材料は、ステップ2において、650~850℃で1.5~2h乾燥して活性化を低下させたことにより、焼結温度が引き上げられている。このようにすることで、高温下において、酸化タンタルと複数の希土類酸化物が純粋な単相を形成することができる。注意すべき点として、高温焼結の昇温過程において、単一希土類タンタル酸塩相が発生する可能性がある。しかし、当該相は、すぐ後の高温焼結過程において希土類原子が再び固溶する。これにより、単相のハイエントロピー希土類タンタル酸塩セラミックスが形成される。
【0022】
更に、前記ステップ1において、ボールミルの回転速度は400~500r/min、ボールミリング時間は180~240minである。
【0023】
有益な効果としては、本方案におけるボールミリングの回転速度及び時間を用いることで、RE粉末とTa粉末を十分均一に混合することができる。
【0024】
更に、前記ステップ3において、ふるい分け用の篩は400~500メッシュである。
【0025】
有益な効果としては、本方案におけるメッシュを用いてふるい分けを行うことで、最終的に得られる粉末Nの粒度が適当になり、且つ、粒度分布が均一になる。これにより、粉末の焼結における緻密性を向上させることができる。
【0026】
更に、ステップ3において、1回目のプレス成形における圧力は6~10MPa、プレス成形時間は6~10minである。
【0027】
有益な効果としては、このようにすることで、粉末Nを予備的にブロック形成し、後に続く圧力を増加したプレス成形を便利にする。
【0028】
更に、ステップ3において、2回目のプレス成形における圧力は350~450MPa、プレス成形時間は10~30minである。
【0029】
有益な効果としては、上述のプレス成形における圧力及びプレス成形時間を用いて緻密な素地を得ることで、焼結時、粉体内部の気体が少なくなる。
【0030】
更に、前記ステップ1において、RE粉末及びTa粉末の純度は99.99%以上である。
【0031】
有益な効果としては、純度が高い粉体原料を用いることで、中に入る不純物元素の含有量を減らすことができる。不純物元素が結晶中に入って微小クラックを形成し、最終的な焼結ブロックの緻密性を低下させることを回避する。
【0032】
更に、前記ステップ1における溶剤はエタノール又は蒸留水である。
【0033】
有益な効果としては、エタノールと蒸留水はRE粉末及びTa粉末に対する分散性が優れているため、RE粉末及びTa粉末をより十分に混合することができる。
【0034】
更に、前記ステップ1におけるRE粉末及びTa粉末と溶剤のモル比は(3:1)~(5:1)である。
【0035】
有益な効果としては、RE粉末及びTa粉末と溶剤の比率が当該範囲であると得られる粉末Aが最も十分に混合されることが、発明者の実験によって検証されている。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1図1は実施例1で調製した(Y1/4Gd1/4Dy1/4Er1/4)TaOハイエントロピー希土類高靭性タンタル酸塩セラミックスのX線回折図(XRDパターン)である。
図2図2は実施例6で調製した(Y1/9Gd1/9Dy1/9Er1/9Lu1/9Tm1/9Ho1/9Tb1/9Pm1/9)TaOハイエントロピー希土類高靭性タンタル酸塩セラミックスの靭性を検査した図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、具体的な実施形態を通じて更に詳細に説明する。
【0038】
ハイエントロピー希土類高靭性タンタル酸塩セラミックスであって、該セラミックスはTa粉体とx種の異なるRE粉体とが焼結されてなり、4≦x≦9であり、各RE粉体のモル比は1である。また、RE粉体はY、Pm、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm又はLuの中から選択される。
【0039】
上述のハイエントロピー希土類高靭性タンタル酸塩セラミックスの製造方法は、以下の複数のステップを含む。
【0040】
ステップ1において、RE:Taのモル比が1:1のRE粉末及びTa粉末を秤量し、蒸留水又はエタノール溶剤を加えて混合する。RE粉末及びTa粉末の和と溶剤のモル比は(3:1)~(5:1)である。次いで、ボールミルでボールミリングして、粉末Mを得る。ボールミルは周波数変換型遊星ボールミルを採用し、型番はXQMである。ボールミルの回転速度は400~500r/min、ボールミリング時間は180~240minであり、且つ、原料であるRE粉末及びTa粉末の純度は99.9%以上である。
【0041】
ステップ2において、ステップ1で得られた粉末Mを乾燥処理し、乾燥した粉末を得る。乾燥温度は650~850℃、乾燥時間は1.5~2hである。
【0042】
ステップ3において、ステップ2で得られた粉末をふるい分け処理し、粉末Nを得る。ふるい分け用の篩は300~400メッシュである。その後、粉末Nを成形型に配置して1回目のプレス成形を行い、素地を得る。その後、冷間静水圧プレス機(型番21955-2)を用いて、素地に2回目のプレス成形を行い、緻密な素地を得る。1回目のプレス成形における圧力は6~10MPa、プレス成形時間は6~10minであり、2回目のプレス成形における圧力は350~450MPa、プレス成形時間は10~30minである。
【0043】
ステップ4において、ステップ3中の緻密な素地を焼結してハイエントロピー希土類高靭性タンタル酸塩セラミックスを得る。焼結温度は1600~1750℃、焼結時間は10~15hである。高温焼結するとき、昇温速度については、まず、5℃/minで700℃まで昇温し、30min保温する。その後、4℃/minで1200℃まで昇温し、30min保温する。更に、1~3℃/minで1600~1750℃まで昇温する。
【0044】
上述の方法を用いて、硬度が5.61~6.56GPa、靭性が2.73~3.54MP
a・m1/2のハイエントロピー希土類高靭性タンタル酸塩セラミックスを得た。上述の方法を用いて調製されたハイエントロピー希土類タンタル酸塩セラミックスの高硬度及び高靭性を十分に説明するために、ここではその中の6組の実施例を用いて説明を行う。
【0045】
表1は、本発明における実施例1~6の具体的なパラメータである(表中の斜線はその成分が含有されていないことを示す)。
【表1】
【0046】
3組の比較例を挙げて、実施例1~6で得られたハイエントロピー希土類高靭性タンタル酸塩セラミックスと比較実験を行った。
【0047】
比較例1において、実施例1との違いは、上述のステップ2の操作を行っていないことで
ある。
【0048】
比較例2において、実施例1との違いは、ステップ5中の焼結温度が1100~1300℃、焼結時間が3~5hということである。
【0049】
比較例3において、実施例1との違いは、希土類酸化物はYのみを加え、YTaOセラミックスを得たことである。
【0050】
ここでは実施例1~6及び比較例1~3で得られたセラミックスについて検査を行った。
【0051】
1、XRDによるキャラクタリゼーション
X線回折装置を用いて実施例1~6及び比較例1~3で得られたセラミックス材料について検査を行った。実施例1で得られた(Y1/4Gd1/4Dy1/4Er1/4)TaOハイエントロピーセラミックスを例として、XRDパターンを図1に示す。図1では、(Y1/4Gd1/4Dy1/4Er1/4)TaOセラミックス試料のXRD測定結果における回折ピークは基準PDFカードJCPDS:No.24-1415の基準ピークと一つ一つ対応しており、第二相の回折ピークは存在していない。これは、調製して得られたセラミックス材料の結晶構造は単相であり、不純物相が生じていないことを示している。
【0052】
また、比較例1~2では、XRD回折実験によって、いずれも不純物相が一部存在することがわかった。比較例1は事前乾燥ステップを行っていないため、一方では、粉末M中に一定の溶剤又は水分が存在したままとなり、他方では、粉末に対して活性化を低下させる事前処理が行われていないことで、粉末Mの界面活性化エネルギーが高くなり、反応温度が低下する。即ち、低温下において、酸化タンタルと単一種類の希土類酸化物との反応が生じ、多量の第二相が形成される。また、比較例2において、焼結温度と焼結時間がいずれも低下しているため、ハイエントロピーセラミックス単相が生じる反応温度に達しておらず、これにより、第二相を主とする不純物相が形成される。
【0053】
2、硬度及び靭性検査
ビッカース硬度計を用いて実施例1~6及び比較例1~3で作製したセラミックスの硬度を測定した。その後、圧痕の対角線長さ及び四隅のクラック長さに基づいて材料の破壊靭性を計算した。検査結果を下の表2に示す。実施例6で得られた(Y1/9Gd1/9Dy1/9Er1/9Lu1/9Tm1/9Ho1/9Tb1/9Pm1/9)TaOハイエントロピーセラミックスを例として、靭性に係る図を図2に示す。
関係する公式は、次の通りである。ビッカース硬度:
(単位GPa)、HVはハイエントロピーセラミックスのビッカース硬度を示し、Fとdは試験で加える荷重と圧痕の対角線長さをそれぞれ指す。破壊靭性:KIC=0.0725(P/a3/2)(単位MPa・m1/2)、Pは試験で加える荷重を表し、aは平均クラック長さを表す。
【0054】
表2は、実施例1~6及び比較例1~3における硬度及び靭性の検査結果である。
【表2】
【0055】
上の表2の実験結果によれば、
(1)加える希土類酸化物の種類が多いほど、得られる希土類高靭性セラミックス材料の硬度及び靭性がいずれも高くなる。本実施例において、加える希土類酸化物の種類が9種(x=9)であるとき、セラミックス材料の硬度は6.56GPaに達し、靭性は3.54MPa・m1/2に達している。
【0056】
(2)本願における技術方案を用いて作製したハイエントロピー希土類タンタル酸塩は、一般的な希土類タンタル酸塩と比較すると、硬度及び靭性が大幅に向上する。実施例6で得られた(Y1/9Gd1/9Dy1/9Er1/9Lu1/9Tm1/9Ho1/9Tb1/9Pm1/9)TaOセラミックスを例とすると、硬度は6.56GPa、靭性は3.54MPa・m1/2であるが、比較例3においてYTaOセラミックスの硬度は5.15GPa、靭性は2.37MPa・m1/2であり、実施例6で得られたハイエントロピーセラミックスの硬度は単一希土類タンタル酸塩セラミックス(比較例3のYTaOセラミックス)と比較して27.4%向上し、靭性は49%向上したことがわかる。
【0057】
以上に述べたことは本発明の実施例にすぎず、方案において開示した具体的な構造及び特性等の一般的知識は、ここでは多く説明していない。当業者であれば本発明構造を逸脱することなく若干の変形や改良を行うこともできるが、これらもまた本発明による保護の範囲とみなすべきであり、いずれも本発明により実施される効果及び特許の実用性に影響しない。本願が請求する保護範囲は請求項の内容を基準とすべきであり、明細書における具体的な実施形態等の記載は請求項の内容を解釈するために用いることができる。
図1
図2
【国際調査報告】