IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ブライトスペック,インコーポレイテッドの特許一覧

特表2022-531888高選択性クロマトグラフィー法-分子回転共鳴分光法システム及び方法
<>
  • 特表-高選択性クロマトグラフィー法-分子回転共鳴分光法システム及び方法 図1
  • 特表-高選択性クロマトグラフィー法-分子回転共鳴分光法システム及び方法 図2
  • 特表-高選択性クロマトグラフィー法-分子回転共鳴分光法システム及び方法 図3A
  • 特表-高選択性クロマトグラフィー法-分子回転共鳴分光法システム及び方法 図3B
  • 特表-高選択性クロマトグラフィー法-分子回転共鳴分光法システム及び方法 図3C
  • 特表-高選択性クロマトグラフィー法-分子回転共鳴分光法システム及び方法 図3D
  • 特表-高選択性クロマトグラフィー法-分子回転共鳴分光法システム及び方法 図4
  • 特表-高選択性クロマトグラフィー法-分子回転共鳴分光法システム及び方法 図5
  • 特表-高選択性クロマトグラフィー法-分子回転共鳴分光法システム及び方法 図6
  • 特表-高選択性クロマトグラフィー法-分子回転共鳴分光法システム及び方法 図7A
  • 特表-高選択性クロマトグラフィー法-分子回転共鳴分光法システム及び方法 図7B
  • 特表-高選択性クロマトグラフィー法-分子回転共鳴分光法システム及び方法 図7C
  • 特表-高選択性クロマトグラフィー法-分子回転共鳴分光法システム及び方法 図7D
  • 特表-高選択性クロマトグラフィー法-分子回転共鳴分光法システム及び方法 図8
  • 特表-高選択性クロマトグラフィー法-分子回転共鳴分光法システム及び方法 図9
  • 特表-高選択性クロマトグラフィー法-分子回転共鳴分光法システム及び方法 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-12
(54)【発明の名称】高選択性クロマトグラフィー法-分子回転共鳴分光法システム及び方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/74 20060101AFI20220705BHJP
   G01N 24/00 20060101ALI20220705BHJP
   G01N 24/08 20060101ALI20220705BHJP
   G01R 33/46 20060101ALI20220705BHJP
【FI】
G01N30/74 Z
G01N24/00 530J
G01N24/08 510P
G01R33/46
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021566096
(86)(22)【出願日】2020-05-07
(85)【翻訳文提出日】2021-12-28
(86)【国際出願番号】 US2020031890
(87)【国際公開番号】W WO2020227541
(87)【国際公開日】2020-11-12
(31)【優先権主張番号】62/977,846
(32)【優先日】2020-02-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/913,082
(32)【優先日】2019-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/844,280
(32)【優先日】2019-05-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518240613
【氏名又は名称】ブライトスペック,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100180231
【弁理士】
【氏名又は名称】水島 亜希子
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【弁理士】
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】ニール,ジャスティン・エル.
(72)【発明者】
【氏名】マックル,マット
(72)【発明者】
【氏名】ミコーニン,アレクサンダー・ヴィ.
(72)【発明者】
【氏名】コルスマン,ウォルター
(72)【発明者】
【氏名】アームストロング,ダニエル・ダブリュー.
(57)【要約】
ガス又は液体クロマトグラフィー-分子回転共鳴(GC/LC-MRR)機器の能力は、選択性、解析能、及び化合物特定の点で高解析能質量分析及び核磁気共鳴機器の能力を上回る。MRR検出は、特異性又は精度を損なうことなく共溶出ピーク及び異性体化合物を分離する能力を含む、選択的気相又は液相分離について高い選択性を提供する。MRRは、参照基準なしでGC又はLCによって分離された分析物成分の定性的特定及び絶対的定量の両方を実施できる。GC-MRRは化合物特異的同位体分析(CSIA)にとって理想的であり、エナンチオマ及びエナンチオマ過剰率を特定できる。GC-MRR測定は、生合成/分解および地球化学同位体化合物を研究するために特に有用である。
【選択図】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析物を複数の成分に分離するガスクロマトグラフであって、キャリアガス源と流体連通しているカラムを有し、前記キャリアガス源がキャリアガスを供給して前記カラムを介して前記複数の成分を押し出す、ガスクロマトグラフと、
前記複数の成分のクロマトグラムを測定するように構成された分子回転共鳴(MRR)分光計であって、
前記複数の成分を保持するための測定チャンバと、
前記複数の成分を前記測定チャンバ中に注入するために前記カラム及び前記測定チャンバと流体連通したノズルと、
前記測定チャンバと電磁連通しているとともに、約6GHz~約18GHzの周波数範囲内の少なくとも1つのスペクトル成分を有する励起パルスで測定中の前記複数の成分を励起するためのマイクロ波源と
を備える、MRR分光計と、
前記MRR分光計に動作可能に連結されているとともに、前記複数の成分の前記MRRスペクトルに基づいて前記分析物の前記複数の成分を解析するためのプロセッサと
を備える、クロマトグラフィー法-分光法統合システム。
【請求項2】
前記マイクロ波源が、異なる周波数の励起パルスで異なる成分を励起するように構成された、請求項1に記載のクロマトグラフィー法-分光法統合システム。
【請求項3】
前記プロセッサが、前記成分の前記MRRスペクトルに基づいて前記分析物の共溶出成分を解析するように構成されている、請求項1に記載のクロマトグラフィー法-分光法統合システム。
【請求項4】
前記キャリアガス源が第一キャリアガス源であり、前記キャリアガスが第一キャリアガスであり、
前記成分を前記測定チャンバに注入するための第二キャリアガスであって、前記成分を回転冷却する第二キャリアガスを供給するために、前記ノズルと流体連通した第二キャリア源をさらに備える、請求項1に記載のクロマトグラフィー法-分光法統合システム。
【請求項5】
前記成分を含む前記測定チャンバにキラルタグを注入するために前記ノズルと流体連通したキラルタグ源であって、前記キラルタグが少なくとも1つの前記成分の異なるエナンチオマに結合し、それによって前記MRR分光計によって解析可能な前記異なるエナンチオマのMRRスペクトルにおいてシフトを生じる、キラルタグ源をさらに備える、請求項1に記載のクロマトグラフィー法-分光法統合システム。
【請求項6】
前記カラムの出力中のピークを検出するために、前記カラム及び前記プロセッサに動作可能に連結された補助検出器をさらに備え、
前記プロセッサが、前記ピークに応答して前記MRRスペクトルの測定をトリガするように、及び/又は前記ピークに少なくとも一部は基づいて前記MRRスペクトルを処理するように構成されている、請求項1に記載のクロマトグラフィー法-分光法統合システム。
【請求項7】
前記カラムの出力におけるピークの複数のMRRスペクトルに対する関係を表示するために、前記プロセッサに動作可能に連結されたディスプレイをさらに備える、請求項1に記載のクロマトグラフィー法-分光法統合システム。
【請求項8】
分析物を複数の成分に分離するためのクロマトグラフと、
前記クロマトグラフと流体連通するとともに、前記複数の成分の少なくとも1つのMRRスペクトルを測定するための分子回転共鳴(MRR)分光計と
を備える、システム。
【請求項9】
前記クロマトグラフがガスクロマトグラフである、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
前記MRR分光計が膨張チャンバを有するマイクロ波MRR分光計であり、
当該システムが、前記ガスクロマトグラフ及び前記共振測定空洞に流体連通しているとともに、前記分析物を前記ガスクロマトグラフに通過させて、前記膨張チャンバに前記複数の成分の少なくとも1つを押し込むためのキャリアガス源をさらに備える、請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
前記膨張チャンバが共振空洞を備える、請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
前記MRR分光計が、前記ガスクロマトグラフから前記分析物の前記成分を受け取るためのフローセルを備える、請求項9に記載のシステム。
【請求項13】
前記クロマトグラフが液体クロマトグラフである、請求項8に記載のシステム。
【請求項14】
前記MRR分光計が、膨張チャンバを有するマイクロ波MRR分光計であり、当該システムが、
前記液体クロマトグラフと熱的に連通しているとともに、前記複数の成分の少なくとも1つを揮発させるための揮発界面と、
前記揮発界面と流体連通しているとともに、前記複数の成分の少なくとも1つを前記揮発界面から押し出し、前記膨張チャンバ中へ押し込むためのキャリアガス源と
をさらに備える、請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
前記MRR分光計が、前記クロマトグラフから出る少なくとも1つの溶出液の少なくとも50MHzのバンド幅を有するスペクトルを測定するように構成されている、請求項8に記載のシステム。
【請求項16】
前記MRR分光計に動作可能に連結されているとともに、前記複数の成分の前記MRRスペクトルに少なくとも一部は基づいて前記分析物の総分子クロマトグラムを形成するためのプロセッサをさらに備える、請求項8に記載のシステム。
【請求項17】
前記MRR分光計に動作可能に連結されているとともに、前記MRRスペクトルに少なくとも一部は基づいて、前記分析物の前記複数の成分のうちから、異性体、アイソトポログ、又はアイソトポマーのうちの少なくとも1つを解析するためのプロセッサをさらに備える、請求項8に記載のシステム。
【請求項18】
前記複数の成分が、前記クロマトグラフで分離できない共溶出成分を含み、
前記MRR分光計と動作可能に連結されているとともに、前記MRRスペクトルに少なくとも一部は基づいて、前記クロマトグラフから共溶出成分を解析するためのプロセッサをさらに備える、請求項8に記載のシステム。
【請求項19】
前記クロマトグラフに動作可能に連結されているとともに、前記クロマトグラフの出力のピークを検出するための補助検出器と、
前記MRR分光計及び前記検出器に動作可能に連結されているとともに、前記ピークに応答して前記MRRスペクトルの測定をトリガするための及び/又は前記ピークに少なくとも一部は基づいて前記MRRスペクトルを処理するためのプロセッサと
をさらに備える、請求項8に記載のシステム。
【請求項20】
前記クロマトグラフ及び前記MRR分光計と流体連通しているとともに、前記MRR分光計が前記MRRスペクトルを測定する前に、前記複数の成分の少なくとも1つの分子を回転冷却するためのノズルをさらに備える、請求項8に記載のシステム。
【請求項21】
分析物を分析する方法であって、
前記分析物をクロマトグラフで複数の成分に分離するステップと、
前記クロマトグラフと流体連通したMRR分光計で前記複数の成分の少なくとも1つの分子回転共鳴(MRR)スペクトルを測定するステップと
を含む、方法。
【請求項22】
前記分析物を複数の成分へ分離するステップが、前記分析物の連続流を前記クロマトグラフでサンプリングすることを含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記クロマトグラフの出力においてピークを検出するステップと、
前記ピークの検出に応答して、前記MRRスペクトルの測定をトリガするステップと
をさらに含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記複数の成分の少なくとも1つのMRRスペクトルを測定するステップが、前記クロマトグラフから出る溶出液のブロードバンドスペクトルを測定することを含む、請求項21に記載の方法。
【請求項25】
前記複数の成分の少なくとも1つのMRRスペクトルを測定するステップの前に、前記複数の成分の少なくとも1つの分子を回転冷却するステップをさらに含み、
前記MRRスペクトルを測定することが、マイクロ波励起シグナルで前記複数の成分の少なくとも1つを励起することを含む、請求項21に記載の方法。
【請求項26】
前記MRRスペクトルに少なくとも一部は基づいて、前記分析物の複数の成分のうちから、異性体、アイソトポログ、又はアイソトポマーのうちの少なくとも1つを解析するステップをさらに含む、請求項21に記載の方法。
【請求項27】
前記複数の成分が、前記クロマトグラフで分離できない共溶出成分を含み、
前記MRRスペクトルに少なくとも一部は基づいて、共溶出成分を前記クロマトグラフから解析するステップをさらに含む、請求項21に記載の方法。
【請求項28】
前記MRRスペクトルに少なくとも一部は基づいて前記分析物の少なくとも1つの未知の成分を特定するステップをさらに含む、請求項21に記載の方法。
【請求項29】
前記MRRスペクトルに少なくとも一部は基づいて前記成分の前記少なくとも1つを定量化するステップをさらに含む、請求項21に記載の方法。
【請求項30】
前記MRRスペクトルに少なくとも一部は基づいて前記分析物の総分子クロマトグラムを形成するステップをさらに含む、請求項21に記載の方法。
【請求項31】
前記クロマトグラフがガスクロマトグラフであり、前記MRR分光計が、膨張チャンバを有するマイクロ波MRR分光計であり、
前記ガスクロマトグラフに前記分析物を通過させ、前記複数の成分の少なくとも1つを前記キャリアガスで前記膨張チャンバ中に押し込むステップをさらに含む、請求項21に記載の方法。
【請求項32】
前記クロマトグラフが液体クロマトグラフであり、前記MRR分光計が膨張チャンバを有するマイクロ波MRR分光計であり、
前記複数の成分の少なくとも1つを揮発させるステップと、
キャリアガスを用いて前記複数の成分の少なくとも1つを前記揮発界面から押し出し、前記膨張チャンバへと押し込むステップをさらに含む、請求項21に記載の方法。
【請求項33】
前記MRRスペクトルを測定するステップの前に、前記複数の成分の少なくとも1つにキラルタグを取り付けるステップと、
前記MRRスペクトルに基づいて前記分析物の複数の成分のうちからエナンチオマを特定するステップ、及び/又は前記MRRスペクトルに基づいて前記分析物の複数の成分のエナンチオマ過剰率を測定するステップと
をさらに含む、請求項21に記載の方法。
【請求項34】
分析物を複数の成分に分離するガスクロマトグラフと、
前記ガスクロマトグラフと流体連通しているとともに、前記複数の成分のMRRスペクトルを測定するための分子回転共鳴(MRR)分光計と、
前記ガスクロマトグラフのカラム及び前記MRR分光計の真空チャンバと流体連通しているとともに、前記複数の成分を前記カラムから前記真空チャンバへと運ぶためのパルスジェット超音波膨張源と
を備える、システム。
【請求項35】
前記パルスジェット超音波膨張源が、前記MRR分光計によるMRR分析のために前記分析物の分子を回転冷却するように構成されている、請求項34に記載のシステム。
【請求項36】
前記パルスジェット超音波膨張源が、前記MRR分光計によるMRRスペクトル分析のために10Kより低い温度まで前記分析物の分子を回転冷却するように構成されている、請求項34に記載のシステム。
【請求項37】
前記MRR分光計が、150amuを越える分子量を有する分析物を分析するように構成されている、請求項34に記載のシステム。
【請求項38】
前記MRR分光計が、MRRスペクトル分析によって異性体化合物を解析するように構成されている、請求項34に記載のシステム。
【請求項39】
前記MRR分光計が、前記ガスクロマトグラフによって共溶出された成分を解析するように構成されている、請求項34に記載のシステム。
【請求項40】
前記分光システムが、参照基準なしで前記成分を特定及び定量化するように構成されている、請求項34に記載のシステム。
【請求項41】
クロマトグラフによって分離された分析物成分から一連の連続的時間領域自由誘導減衰(FID)トレースを得るステップと、
前記一連の連続的時間領域FIDトレースの各時間領域FIDトレースについては、
前記時間領域FIDトレースをフーリエ変換して分子回転共鳴(MRR)スペクトルを得るステップと、
前記MRRスペクトルの線を特定するステップと、
前記MRRスペクトルの前記線の振幅を合計して、前記時間領域FIDトレースの時間ビンに相当する振幅値を得るステップとを含み、
前記一連の連続的時間領域FIDトレースにおける前記時間領域FIDトレースの前記振幅値及び時間ビンに基づいて前記分析物成分のクロマトグラムを形成するステップと、
前記クロマトグラムのピークを特定するステップと、
前記クロマトグラムの前記ピークと関連する前記時間ビンに相当する前記時間領域FIDトレースを積分して、積分された時間領域FIDトレースを得るステップと、
前記積分された時間領域FIDトレースをフーリエ変換して、前記クロマトグラムの前記ピークと関連するMRRスペクトルを得るステップと
を含む、方法。
【請求項42】
前記クロマトグラム中の前記ピークと関連する前記MRRスペクトルに基づいて前記分析物成分の少なくとも1つを特定するステップをさらに含む、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記分析物成分の少なくとも1つを特定するステップが、前記クロマトグラム中の前記ピークと関連する前記MRRスペクトルを、MRRスペクトルのライブラリと比較することを含む、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記分析物成分の少なくとも1つを特定するステップが、前記クロマトグラム中の前記ピークと関連する前記MRRスペクトルを、理論的MRRスペクトルと比較することを含む、請求項42に記載の方法。
【請求項45】
前記クロマトグラム中の前記ピークと関連する前記MRRスペクトルに基づいて前記分析物成分の少なくとも1つを定量化するステップをさらに含む、請求項41に記載の方法。
【請求項46】
前記クロマトグラム中の前記ピークと関連する前記MRRスペクトルに基づいて前記分析物成分の少なくとも1つの異性体を解析するステップをさらに含む、請求項41に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本願は、米国特許法第119条(e)のもとで、「Molecular Rotational Resonance Spectrometer for Measurement of Gas Chromatography Effluents」という表題で、2020年2月18日に出願された米国出願第62/977,846号;「A Molecular Detection/Separations System of Singular Specificity」という表題で、2019年10月9日に出願された米国出願第62/913,082号;及び「Hyphenated MRR Spectroscopy:MRR Spectroscopy as a Chromatographic Detector」という表題で、2019年5月7日に出願された米国出願第62/844,280号の優先権の利益を主張する。これらの出願の各々は、そのそれぞれの全体が引用することにより本明細書の記載の一部をなすものとする。
【背景技術】
【0002】
化学混合物中の成分を決定および定量化するために、クロマトグラフ分離技術を通常使用する。クロマトグラフィーは、分取と分析の両方の目的で使用される。分取クロマトグラフィーでは、機器は、異なる化合物を物理的に分離し単離する。分析クロマトグラフィーでは、機器は、サンプル中の異なる成分を特定し定量化する。例えば、ガスクロマトグラフィー(GC)は、医薬品開発及び承認プロセスにおける小分子混合物を特徴づけたり、医薬品中の不純物を測定したりするために使用される。食品医薬品局(FDA)は、規制検証のためにガスクロマトグラフィーに大きく依存する。
【0003】
従来のクロマトグラフィー装置はカラムを備え、これは、異なる分析物を、それらの重量、極性、又は他の特性に基づいて、カラム中で異なる長さの時間で保持する固定相を備える。これにより、これらの成分を分離することができる。従来のクロマトグラフィー装置はまた、化学成分がカラムから溶出される際にシグナルを戻す検出器も備える。これらの検出器の中には化学情報を取得しないものがあり、例えば、分析物を燃焼することによってシグナルを戻すフレームイオン化検出器(FID)がある。他には、例えば質量分析(MS)は、化学物質に特異的な情報を取得する。しかしながら、すべての検出器について、成分を確実に定量化するために、カラムは混合物の個々の成分を完全に又はほぼ完全に分離しなければならない。複数の成分が同時にカラムから溶出する場合、ほとんどの検出器は、個々の成分を正確に解析し定量化することはできない。したがって、厄介な混合物をよりよく分離できる新規カラムを開発するために、また分析化学者が個々の成分を完全に分けることができる方法を開発するために、多大な努力がなされている。このような甚大な努力にもかかわらず、クロマトグラフによる分離が不可能であるか又は非常に困難な(高価なカラムや長い実施時間を必要とする)ある特定の重要な分析がある。
【0004】
分子回転分光法又はマイクロ波分光法としても知られる分子回転共鳴(MRR)分光法は、気相における化合物の純粋な回転角運動量転移により化合物を特徴づける。分子の回転エネルギーレベルは、その三次元質量分布によって規定されるように量子化され、その慣性モーメントIとして表される。これは、(一次元で)I=Σm として定義され、式中、mは分子中の原子iの質量であり、rは、分子の重心からの原子iの距離である。分子の回転スペクトルは、三本の空間軸におけるその慣性モーメントに正確に依存するハミルトニアンによって記載され、したがって、回転分光法を使用して、分子は、構造の差により明確に区別できる。その多くの非常に狭いスペクトル線(典型的には、スペクトルの解析能ν/Δv≒10-5)を考慮すると、高解析能回転スペクトルは、したがって、各分子構造にとって完全に独特である。
【0005】
例えば、図1に、それぞれについて明確に解析されたスペクトルパターンを観察できる、同じ質量のアイソトポマーである13CHCN及びCH 13CNのMRRスペクトルを示す。また、特に、各化合物のMRRスペクトルを高精度で計算できる。このように、MRRを使用して、参照サンプルなしで化合物を明確に特定することが可能である。
【発明の概要】
【0006】
ガスクロマトグラフィー(GC)又は液体クロマトグラフィー(LC)を分子回転共鳴(MRR)分光法と組み合わせた機器は、気相又は液相中の分析物に関する分子情報をかつてないレベルで提供する。結果として得られるGC-MRR又はLC-MRR分光システムは、GC-MRR又はLC-MRR機器とも呼ばれ、チャープパルスFT(CP-FT)技術を含むブロードバンドMRR測定技術を用いて、他のMRR又は回転分光システムよりも桁違いに高速にスペクトルを測定することができる。本発明のGC-MRR又はLC-MRR機器は、他のGC又はLC検出システム、特に質量分析(MS)よりも優れた少なくとも3つの利点を有する。(i)MRRは分子構造の差に非常に敏感であり、したがって、全てのタイプの異性体化合物を解析できる。(ii)MRRは、特異性又は精度を失うことなく、共溶出する化合物を解析し定量化できる。そして(iii)定性的特定と絶対的定量の両方を参照基準なしで達成できる。
【0007】
本発明の機器は、ガスクロマトグラフと、MRR分光計と、MRR分光計に動作可能に連結されたプロセッサとを備えるクロマトグラフィー法-分光法統合システムの形態をとり得る。動作中、ガスクロマトグラフはカラムで分析物を成分に分ける。カラムは、キャリアガスを供給して成分にカラムを通過させるキャリアガス源と流体連通している。MRRは成分のクロマトグラムを測定する。これは、測定チャンバとノズルとマイクロ波源とを備える。測定チャンバは、ガスクロマトグラフによって分離された分析物の成分を保持する。カラム及び測定チャンバと流体連通しているノズルは、成分を測定チャンバに注入する。そして、測定チャンバと電磁連通するマイクロ波源は、約6GHz~約18GHzの周波数範囲内で少なくとも1つのスペクトルの成分を有する励起パルスで測定において成分を励起する。プロセッサは成分のMRRスペクトルに基づいて分析物の成分を解析する。
【0008】
別の機器は、クロマトグラフと、クロマトグラフと流体連通するMRR分光計とを含む。クロマトグラフは分析物を成分に分離する。そして、MRR分光計は少なくとも1つの成分のMRRスペクトルを測定する。
【0009】
別の本発明の機器は、ガスクロマトグラフと、MRR分光計と、ガスクロマトグラフのカラム及びMRR分光計の真空チャンバと流体連通したパルスジェット膨張源とを備える。この場合も、ガスクロマトグラフは分析物を成分に分離し、MRRは成分のMRRスペクトルを測定する。パルスジェット超音波膨張源は成分をカラムから真空チャンバへと運ぶ。
【0010】
本発明の機器では、MRR分光計によって収集された生データは、クロマトグラフによって分離された分析物成分からの一連の連続的時間領域自由誘導減衰(FID)トレースである。これらの時間領域FIDトレースの各々をフーリエ変換して、プロセッサ(例えば、機器プロセッサ又は別のプロセッサ)を用いて対応する分子回転共鳴(MRR)スペクトルを得ることができる。プロセッサは、これらのMRRスペクトルの各々の線を特定し、各MRRスペクトルの線の振幅を合計して、時間領域FIDトレースの時間ビンに相当する振幅値を得る。これは、時間領域FIDトレースの振幅値及び時間ビンに基づいて分析物成分のクロマトグラムを形成する。これはまた、クロマトグラムのピークを特定し、クロマトグラムのピークと関連する時間ビンに対応する時間領域FIDトレースを合計、積分、又は平均して、積分された時間領域FIDトレースを得る。積分された時間領域FIDトレースをフーリエ変換することで、クロマトグラムのピークに関連するMRRスペクトルを得る。
【0011】
前述の概念と、以下でさらに詳細に議論するさらなる概念(そのような概念は相互に矛盾しないものとする)とのすべての組み合わせは、本明細書中で開示する発明の主題の一部であると考えられる。特に、本開示の最後に見られる請求する主題のすべての組み合わせは、本明細書中で開示する発明の主題の一部であると考えられる。本明細書中で明示的に用いられる専門用語であって、引用することにより本明細書の記載の一部をなすものとする任意の文献でもみられるものは、本明細書中で開示する特定の概念と最も一致した意味であるべきことも理解されたい。
【0012】
図面が主に例示的目的のためのものであり、本明細書中で記載する発明の主題の範囲を限定することを意図するものではないことを当業者は理解するであろう。図面は必ずしも縮尺どおりではない。場合によっては、本明細書中で開示する発明の主題の様々な態様は、異なる特徴の理解を容易にするために、図面において誇張又は拡大して示されている可能性がある。図中、同様の符号は、概して、同様の構成(例えば、機能的に類似及び/又は構造的に類似した要素)を指す。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、イソバリック化合物に対する選択性並びにMRRスペクトル線の非常に高い解析能を示す、アセトニトリルの2つのアイソトポマーの分子回転共鳴(MRR)スペクトルを示す。
図2図2Aは、ガスクロマトグラフィー(GC)によって分離されたことはないが、GC-MRR分光法によって分析することができる、塩素化ダイオキシン異性体を示す。 図2Bは、承認されたフッ素化薬物及びGC-MRR分光法によって分析できるその可能な脱F分解物を示す。 図2Cは、GC-MRR分光法で分析できる、共溶出するアセトニトリル同位体種のクロマトグラムを示す。
図3A図3AはGC-MRRシステムの概略図である。
図3B図3Bは、図3AのGC-MRRシステムでの使用に適したMRR分光計の写真である。
図3C図3C及び3Dは、図3AのGC-MRRシステム及び/又は図3BのMRR分光計を用いて得られたMRRスペクトルを示すのに適したグラフィカルユーザーインターフェースの図を示す。
図3D】同上。
図4図4は、GC-MRRシステムでの使用に適したパルスジェットノズルの一例を示す。
図5図5Aは、4つの異なる温度でのイソプレゴールのシミュレートされたMRRスペクトルを示し、回転温度が低下するにつれて感度が増加し、低周波数へシフトすることを示す。 図5Bは、周波数範囲6~18GHzの周波数範囲にわたって図5AのシミュレートされたMRRスペクトルのクローズアップを示す。室温で、この分子は、線強度が10-7単位の検出カットオフを下回るため、マイクロ波周波数で完全に検出できない。
図6図6は、300Kの温度で異なる分子量を有する分子のシミュレートされたMRRスペクトルを示す。
図7A図7Aは、統合クロマトグラフィー-MRRシステムによって収集された生の時間領域自由誘導減衰(FID)トレースから総分子クロマトグラム(TMC)及び抽出分子クロマトグラム(EMC)を算出するためのプロセスを示す。
図7B図7Bは、FIDトレースから算出されるTMC及びEMCの概略図である。
図7C図7Cは、GC-MRRシステムを用いて得られる5つの一般的な有機分子の24のアイソトポログのTMCである。
図7D図7Dは、図7AのTMCにおける24のアイソトポログのEMCを示す。
図8図8Aは、(a)ブロモエタン、(b)チオフェン、(c)2-クロロチオフェン、(d)3-クロロチオフェン、(e)3-クロロピリジン及び(f)2-クロロピリジンのTMCを示す。 図8Bは、図8Aの化合物の天然の同位体存在度をGC-MRR EMCにより容易に得る方法の2つの例を示す。これらの比率の誤差は±3%RSDである。
図9図9は、ハイブリッド液体クロマトグラフィー(LC)-MRR分光システムを示す。
図10図10Aは、キラルタグとエナンチオマとを組み合わせることにより、異なるスペクトルを有する異なるジアステレオマの気相形成であるキラルタギングを示す。 図10Bは、MRR分光法からのエナンチオマ過剰率分析を示す。測定は、キラルタグのラセミ又はさらには純粋なエナンチオマを用いて行った。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[GC-MRRによって解決できる分析上の問題]
GC、LC、及びMRR分光法は確立された技術であるが、MRR分光法は分析応用のための商業利用の点ではいまだ初期段階である。それでもなお、GC-MRR及びLC-MRR分光法は、他の技術や技術の組み合わせが現在対応できない問題を解決することができる。クロマトグラフ分離を伴わない直接MRR分光法は、最大約10の成分を含む混合物中の成分を特定することが示されている。しかしながら、生化学、環境、石油化学、並びにGC及びLCが用いられる他の応用分野における実際のサンプルは、様々な濃度の多くの分析物と共にマトリックスを有する。さらに、混合物のMRRスペクトルは非常に複雑であり、これは一つには各成分のパターンが互いにインターリーブしているからである。混合物中の未知の成分の特定は、典型的にはコンピュータを駆使したパターン認識によって行われるが、多くの種が存在する場合には非常に時間がかかり、最終的に分析者が複雑なデータを解釈する能力を制限する。したがって、GC-MRR又はLC-MRRハイフネーションはMRR分光法によってうまく分析できるサンプルの複雑さを大幅に拡大し、MRRクロマトグラムにおけるクロマトグラフのピークの面積を使用して混合物成分の正確な定量化を可能にする。
【0015】
同時に、MRR分光法は、検出器として用いられる場合、ガスクロマトグラフィー分析及び液体クロマトグラフィー分析に最新の能力をもたらす。特に、MRR分光法は、クロマトグラフ分離が不可能又は困難である場合、他のGC及びLC検出器よりも特に有利である。というのもMRR分光法はクロマトグラフにより分離できない個々の成分を容易に特定し定量化できるためである。
【0016】
ピークの共溶出又は部分的重複に関する課題は、分離科学では基本的である。ギディングは統計的重複理論を使用して、ピーク容量がnのクロマトグラフィーカラムを使用する場合、ピーク重複のために、n個の化合物の分離には「実際には希望は持てない」という厳しい予測を立てた。この理論上の課題は、単一のカラムでは、所与の条件下で複雑な混合物中の成分をすべて分離することはできないという、クロマトグラフィーの一般的な分解上の問題によって裏付けられる。この記述は、異性体成分を含む今日のはるかに複雑な分離について特に当てはまる。異性体のGC及びLC分離は驚くべき進歩を遂げ、ピーク容量を増加させるために二次元分離システム(例えば、GC×GC)も開発されているが、部分的又は完全に共溶出する化合物を特定し定量化するMRR分光法の能力は、分析化学にとって著しい進歩である。
【0017】
フーリエセルフデコンボリューション、ウェーブレット、多変数曲線解析、及び反復曲線適合などの、領域抽出で重複するピークを分離するための高度な数学的アプローチが存在する。しかしながら、これらの計量化学技術のほとんどは、(a)ピークが完全に重複する場合、又は(b)各成分の実験的に測定された基準スペクトルが存在しない場合に機能しない。これは、MRR分光法のような高選択性検出器が非常に有用な場合である:MRR分光法は共溶出を解決するために計量化学に依存しない。その代わりに、分析物に対して非常に特異的なシグナルを生成するため、他の分子はそれと一致しない。さらに、MRR分光法は、充分選択的であるので、同じ質量を有する2つの分子、例えば、アイソトポマー、ジアステレオマ及びエナンチオマを区別できる。これは、クロマトグラフィーにとって最良の質量分析検出器でさえもできないことである。
【0018】
図2A~2Cは、GC又はLC単独では解決できない分離科学における困難な課題にGC-MRR及びLC-MRRが対処できる数例を示す。図2Aは、残留性有機汚染物質及びヒト発がん物質である2つの異性体テトラクロロジベンゾダイオキシン(TCDD)を示す。今までのところ、1,2,3,8-TCDD及び1,2,3,7-TCDDを分離できるGCカラムはない。この分析的分離の問題は、現行のGC検出器がこれらの2つの分析物に対して区別できないシグネチャーを生じるという事実によって悪化する。しかしながら、MRR分光法はこれらの化合物に対して異なるスペクトルを生成することができる。
【0019】
第二の例として、フッ素は医薬品でますます重要性が増し、フッ素化化合物はそれらの脱フッ素化物からGCで解析するのが非常に困難である場合がある。しかしながら、これらの化合物を回転分光法によって区別することは簡単である。図2Bは、GC-MRRがフッ素化/脱フッ素化不純物を解析するのに非常に有利であり得る最近FDAで承認された薬物である、ビクテグラビルの構造を示す。
【0020】
別の例として、図2Cは、GC-MRR分光法の表示からのアセトニトリル(CHCN)の8つのアイソトポログの混合物のクロマトグラムを示す。化合物特異的同位体比分析は、代謝及び環境劣化研究をはじめとする多くの研究分野で重要である。クロマトグラフィー的には、完全に重水素化されたアセトニトリル(CDCN)だけをアイソトポログの混合物から分離できる。質量分光計を使用して、異なる質量を有するアイソトポログを区別することができるが、最高解析能の質量分光検出器でさえも2つの13C置換アイソトポマー、13CHCN対CH 13CNを区別することができない。
【0021】
GC-MRR代謝学研究(以下でさらに詳細に記載)により、地下水中の異なる細菌培養物が同じ有機化合物に対して非常に明確な同位体選択性を有し得ることが示されている。さらに、効果的な多変数曲線解析法を含む上述の計量化学法は、この場合では高度の重複のために機能しない。この研究は、GC-MRR分光法で実施できるが、他の方法では不可能な、生合成及び分解の調査の一例である。
【0022】
[GC-MRR分光法測定のタイプ及びバンド]
GC-MRR分光システムは、標的化測定、ブロードバンド測定(例えば、数スペクトル線及び/又は50MHz、100MHz、又はそれ以上のバンド幅にわたる測定)、又は両方を実施するように構成することができる。標的化測定は、質量分析における選択されたイオン測定に類似し、典型的には、特定の種又は種のセットのMRRスペクトルを良好な感度でとらえることに焦点を当てる。ブロードバンド測定は、質量分析における全イオンモニタリング測定に類似し、多くの場合、混合物又は未知の化合物を特徴づけるために実施される。MRR分光法では、ブロードバンド測定は、サンプルにチャープマイクロ波又はミリ波放射の一つ以上のパルスを照射し、チャープパルスに応答してサンプルから放出されるFIDシグナルを検出しフーリエ変換することを含む、チャープパルスフーリエ変換技術に基づき得る。ブロードバンド測定は、典型的には、一つ以上の未知の成分を含むサンプルに関して実施される。チャープパルスフーリエ変換MRR分光法に関するさらなる情報については、例えば、引用することにより本明細書の記載の一部をなすものとする以下の米国特許を参照のこと。「Chirped Pulsed Frequency-Domain Comb for Spectroscopy」という表題の米国特許第9,046,462号;「Apparatus and Techniques for Fourier Transform Millimeter-Wave Spectroscopy」という表題の米国特許第9,921,170号;及び「Frequency Hopping Spread Spectrum(FHSS)Fourier Transform Spectroscopy」という表題の米国特許第10,107,744号。ブロードバンド測定は、その全体が引用することにより本明細書の記載の一部をなすものとする、「Segmented Chirped-Pulse Fourier Transform Spectroscopy」という表題の米国特許第8,873,043号で開示されるように、データレートを低減するために、全バンドにわたって一度に又は全バンドのセグメント(例えば、6~18GHzバンドの2GHz又は4GHzセグメント)にわたって実施することができる。
【0023】
標的化MRR測定は、通常、サンプルが特定の化合物を含むか、又は化合物を含むかを判定することが目標である場合に実施する。サンプルにチャープパルスを照射する代わりに、MRR機器はサンプルに一つ以上のナローバンド(例えば、単一周波数)パルスを照射し、これらのパルスに応答してサンプルから放射されるFIDシグナル(複数可)を検出する。測定が標的化されているので、機器は、例えば、2Hz、3Hz、5,Hz、10Hz、又はそれ以上ずつでブロードバンド測定よりも迅速にデータを取得し、処理し、保存することができる。この測定レートは、データを取得するフィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)に直接フーリエ変換を実施することによって増加させることができる。
【0024】
励起周波数及び標的種が前もってわかっているので、標的化MRR機器は「種認識」機能なしで動作することができる。測定された強度は種の濃度に比例するので、標的化MRR測定は、典型的には、単一線の時間対強度を検討することを含む。標的種及びGC/LC分離パラメータが前もってわかっている場合、MRR分光計を前もってプログラムして、異なる種の異なるスペクトル線又はバンドを標的とすることができる。化合物A及びBの混合物の定量化を検討する。測定開始の10秒後に化合物Aがカラムから流出し、10GHzで強い共鳴を有する場合、MRR分光計は10秒の測定時間で10GHzにてサンプルを調べるようにプログラムされていてもよい。同様に、化合物Bが測定開始の15秒後にカラムから流出し、6.8GHzで強い共鳴を有する場合、MRR分光計は15秒の測定時間で6.8GHzにてサンプルを調べるようにプログラムされていてもよい。カラム出力に補助検出器がある場合、補助検出器は、ピーク/溶出液の順序に基づいて(例えば、第一溶出液を7GHzで測定し、第二溶出液を9GHzで測定するなど)、又は補助検出器によって行われる予備分析に基づいて(例えば、補助検出器が質量分光計、又は溶出液の組成についての情報を提供できる他の装置である場合)、標的化測定をトリガすることができる。
【0025】
標的化及びブロードバンド測定は、マイクロ波領域(例えば、6~18GHzのバンドにわたる)又はミリ波領域(例えば、75~110GHz、260~290GHz、若しくは520~580GHz)のバンドを含む様々な周波数領域で実施することができる。測定タイプ及び測定バンドは、分析物及び所望の情報によって変わる。
【0026】
加えて、マイクロ波MRRスペクトル測定は、測定条件の差によってミリ波MRRスペクトル測定よりも感度が高い可能性がある。ミリ波MRRスペクトル測定は、典型的には、測定チャンバとしてフローセルを使用して行われ、このため、分析物成分の分子量は約120amuに限定される。加えて、ガスがフローセルを通って移動するのに通常数秒かかり、典型的には成分を1秒未満で溶出させるGC出力の時間解析能が低下する。GCキャリアガスはまた、フローセル測定においてサンプルを希釈し、感度を低下させる。
【0027】
以下で説明するように、マイクロ波MRR測定は、超音波膨張ノズルによって供給される膨張チャンバを用いて行うことができる。これによって、以下で説明するように、GC出力の時間解析能を保存しつつ、より迅速な測定、及びより高分子量の分子の測定が可能になる。加えて、ガスクロマトグラフを通して分析物成分を押し出す同じキャリアガスを使用して、サンプルを膨張チャンバ中に押し込むことができ、したがって、キャリアガスはサンプルの余分な希釈を引き起こさず、または測定感度を低下させない。
【0028】
[GC-MRR分光システム]
図3A及び3Bは、一回の実施で厄介な、及び/又は複雑な混合物を分析できるハイフン式GC-MRR機器300を示す。他の方法では実施できない、同位体分別分析及び定量化を含む化合物特異的同位体分析(CSIA)を実施できる。例えば、GCだけの使用では分離できない異性体及び他の化合物を参照なしで特定できる。
【0029】
GC-MRR機器300は、温度調節されたフローインターフェース330を備えたMRR分光計320に連結されたガスクロマトグラフ310を含む。ガスクロマトグラフ310は、ヘリウム、水素、ネオン、又はアルゴンなどのキャリアガスを、カラム314を通して流すキャリアガス源312を有する。キャリアガスは、異性体、同位体、アイソトポマー、及びアイソトポログを含む多くの異なる化学成分を有し得る分析物を、カラム314を通してフローインターフェース330を介してMRR分光計320中へと押し出す。この分析物は、ガス又は液体の連続流(stream)又は流れ(flow)から(周期的に)吸い上げられ、適切な場合、蓄積され揮発させられ、そしてアナログ対デジタルコンバータ(ADC)がアナログシグナルをサンプリングするのと同様に、ガスクロマトグラフが連続流を効果的にサンプリングするように、カラム314に注入されてもよい。
【0030】
分析物の成分の一部又は全部は、異なる速度でカラム314を通って伝播し、したがって、異なる時点でカラム314の末端に出現する可能性がある。これらの時点が充分広く離れている場合は、成分をカラム314の出力で解析することができる。他の成分、例えば異性体が共溶出する可能性がある、すなわち、それらはカラム314の出力で同時又はほぼ同時に出現する可能性があり、したがって、GCだけの使用では解析することはできない。
【0031】
キャリアガスは、MRR分光計320が成分のMRRスペクトルを測定できるように、(少なくとも部分的に分離された)成分を、インターフェース330を介してMRR分光計の測定チャンバ324に押し込む。このインターフェース330は、GCカラム314を介するか又は直接MRR分光計320にサンプルを注入することを可能にする(例えば、GC分離が必要でない純粋な化合物又は単純な混合物の場合)。言い換えると、一部のサンプルはGC分離を必要とする可能性があるが、その一方で、他のものは必要としない可能性がある。GC分離を必要としないサンプルは、サンプルMRR分光計に直接注入できる(GCを介さずに)一方で、他のサンプルはGCを介して注入できる。
【0032】
例えば、測定チャンバ324は、気相成分及びキャリアガスが出入りするのを可能にする少なくとも一対の穴を有するフローセルであってもよい。あるいは、パルスジェット膨張ノズル、連続波ジェット、又は緩衝ガス冷却セルは、成分を測定チャンバ324に導入し、その一方で、以下でより詳細に説明するように、より良好な測定性能のために成分を同時に回転冷却してもよい。MRR分光計320は、各成分をマイクロ波及び/又はミリ波放射の一つ以上の励起パルスに供することによって、当該成分のMRRスペクトルを測定する。この励起パルスは、任意波形発生器、ダイレクトデジタルシンセサイザ、又はパルスパターン発生器などのシグナル発生器321によって生成され、任意の回路322を用いて、フィルタリング、周波数逓倍、及び/又はアップコンバートすることができる。源323は、励起パルスを測定チャンバ324中の分子に適用する。
【0033】
インターフェース330はまた、第二キャリアガス源352と(流体連通して)連結することもできる。第二キャリアガス源352は、分析物成分をMRR分光計の測定チャンバ324に押し込むか又は推進するために、第二キャリアガスをインターフェース330に流す。第一及び第二キャリアガスは異なっている可能性があり、例えば、第一キャリアガスはヘリウム又は水素であってよく、第二キャリアガスは、以下でより詳細に記載するように、ネオン又はアルゴンであってよい。
【0034】
インターフェース330はまた、(キラル)タグ源354と(流体連通して)連結することもできる。キラルタグ源354からのキラルタグをインターフェース330におけるリザーバ中の分析物成分と混合することで、キラルタグは、それら自体を異なる成分に付着させる。キラルタグは、分析物成分間の異なるエナンチオマの慣性モーメントを変更し、以下で記載するように、それらのMRRスペクトルからエナンチオマを解析し定量化することを可能にする。タグ源354は、MRRスペクトルを有さない無極性分子にタグ付けするための極性分子を含む他の種類のタグを保存し供給して、双極子モーメントを有し、したがってMRRによって検出できる複合体を生成することができる。
【0035】
励起された分子は、数マイクロ秒の自由誘導減衰(FID)によりそれらの特徴的な回転数での励起に応答してコヒーレント放射を放出する。レシーバ326は、ADC327によってデジタル化されたアナログFIDシグナルを検出する。プロセッサ340(例えば、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA))は、デジタル化されたFIDシグナルを時間領域内に記録し、周波数ドメインにフーリエ変換して、成分のMRRスペクトルを生成する。MRRスペクトルのライブラリを使用して、プロセッサ340は、MRRスペクトルに基づいて分析物の個々の成分を特定し、自動的に定量化することができる。MRRスペクトルにおける割り当てられていないピークは、関連する種の理論的予測を用いた特徴づけのためにさらに分析することができる。
【0036】
現行のMRR機器は、サンプル組成が時間と共に著しく変化しない揮散性液体を測定する。マイクロ波MRR機器のパルスジェット源は典型的には10Hzの反復率で動作するが、機器は、単一線を数秒~数分間シグナル平均して、スペクトルを記録する。一方、GC-MRR分光法の場合、ピーク形状ははるかに狭く(数秒又はさらには1秒未満)、したがって機器300は、所望のスループット率を達成することができるデジタイザ(ADC327)と、無駄時間なしでデータハンドリング操作を実施できるプロセッサ340とのお陰で、良好な時間解析能で(例えば、5~10Hzのサンプリングレートで)データを記録する。
【0037】
プロセッサ340は、溶出液がGCカラム314を出る際に、溶出液のMRRスペクトルを連続して測定し、記録することができる。ある場合には、プロセッサ340はMRRスペクトルのすべてを記録し処理する。他の場合では、プロセッサ340は、処理資源を節約し総処理時間を短縮するために、時間領域データのすべてを記録し、GCカラム314からの「興味深い」出力に対応するセグメントのみをフーリエ変換する。プロセッサ340は、未処理又は未検査の時間領域及び/又はフーリエドメインデータを廃棄し得る。
【0038】
あるいは、熱伝導率検出器(TCD)などの補助(ユニバーサル)検出器350は、GCカラム314の出力に基づいてMRR測定をトリガできる。この補助検出器350は、図3Aに示すように一列に並んでいる(同じガス流れ(stream)をサンプリングする)又は分割されている(分析物が破壊されるFID又はMS検出器など)のいずれかであり得る。補助検出器350は、GC出力でピークを検出すると、トリガシグナルをプロセッサ340に送り、プロセッサは次にシグナル発生器321による励起パルス(複数可)の放出をトリガし、結果として得られるFIDシグナルを測定し分析する。プロセッサ340はまた、上述のように、MRRデータのすべてを記録して、補助検出器350によって感知されたクロマトグラフピークにマッピングされないMRRデータを廃棄することができる。加えて、補助検出器データをMRRデータと組み合わせて、分析物のより完全な分析を提供することができ、例えば、補助検出器は、双極子モーメントなしで成分を感知することができ、その一方で、MRR分光計320からの同位体情報は、他の成分の特徴づけを完成することができる。
【0039】
MRR分光法測定のトリガの詳細については、例えば、その全体が引用することにより本明細書の記載の一部をなすものとする、「Methods and Apparatus for Direct Multiplication Fourier Transform Millimeter Wave Spectroscopy」という表題の、米国特許第10,620,138号を参照のこと。
【0040】
図3Bは、GC-MRR分光システム320における測定チャンバ324及びMRR分光計320のサンプルインスタンス化の写真である。このMRR分光計320は、標的化測定を行うように構成されたマイクロ波MRR分光計として描かれている。この画像では、サンプル入口332は測定チャンバ324の左側にある。二つの球面鏡328が左右のポートにあり、超音波膨張ノズル334が一方のポート中に取り付けられ、他方は、プロセッサ340によって制御される自動制御された並進ステージ344上の真空上に保持されている。鏡328は、測定空洞324を共振ファブリペロー空洞にする。並進ステージ344は、関心対象の標的共振の測定を可能にするために、共振空洞(したがって、空洞の共振周波数)の長さを調整する。標的共振を測定することで、測定感度が増大する。ブロードバンド測定の場合、マイクロ波ホーン(不図示)を鏡328の代わりに使用する。これらのホーンは、標的鏡328に対して直角に取り付けることができる。一方のホーンは、図6中でリーダに最も近いフランジ329に取り付けることができ、他方は、反対側に取り付けることができる(不図示)。並進ステージ及び励起周波数設定を含む測定パラメータ、並びに測定結果は、プロセッサ340に動作可能に連結されたディスプレイ342により表示することができる(図3A)。
【0041】
図3C及び3Dは、ディスプレイ342に表示できるユーザインターフェースの2つの図を示す。図3Cに示す図は、アセトニトリル(CHCN)の八つのアイソトポログの混合物のブロードバンドミリ波MRRスペクトルを表示するインターフェースを示す。それらの類似した構造のために、八つのアイソトポログ(CDCN)のうちの一つだけが、GCを使用して他のものから分離できる。残りの七種はGCカラムから同時に流出し(すなわち、他の七種は共溶出される)、GCだけを使用して解析することは不可能である。
【0042】
八つのアセトニトリルアイソトポログは異なるMRRスペクトルを有するので、MRR分光計は、それらがカラムから同時に流出する場合でも解析できる。各アイソトポログの抽出されたMRRクロマトグラムをプロットすることができ、ピークを積分して、種の各々の正確な濃度を提供することができる。この例では、8つのアイソトポログを等しい濃度で混合し、5nLのこの混合物を分析のためにMRR分光計に直接注入した。MRR分光計は、1秒未満で混合物のブロードバンドMRRスペクトルを測定し保存した。MRRスペクトルに記録される情報には、混合物中のすべてのアイソトポログの特定とガスセル内の各々の量との両方が含まれる。
【0043】
[GC/MRR分光計接続のための分子量及び回転冷却]
GC-MRR分光システムの課題の一つは、分析物の分子量の上限である。室温以上で動作するフローセルを備えたGC-MRR分光システムでは、分子量の上限は約150amuである場合があり、室温の分子のMRRスペクトルは150amu超で非常に弱くなる傾向があるので、100~150amuの分子量での感度は制限される可能性がある。しかしながら、パルスジェット超音波膨張源、連続波ジェット、又は緩衝ガス冷却セルを使用することで、分子を気相に保ちながらMRR分析のために分子を回転冷却する。パルスジェット膨張源、連続波ジェット、又は緩衝ガス冷却セルを備えたGC-MRR機器は、この回転冷却のお陰で、より高分子量(例えば、最大400amu又はそれ以上)を有する分子を分析できる。
【0044】
図4は、図3A及び3Bに示すものなどのGC-MRRシステムのMRR分光計の測定チャンバに分析物を注入するのに適したパルスジェット超音波ノズル400の拡大図を示す。超音波膨張ノズルに入るガス流れは3つある:GCカラムからの分析物成分用のGC流入口410;溶媒又は他の揮発性マトリックス成分を迅速に取り除くための通気弁入口430;及び(追加の)キャリアガス用のオプションの入口430。GC流入口410及び通気弁入口420は、1/16”チューブで作製することができ、少なくとも300℃に加熱して、その温度でのGCカラムの直接導入を可能にすることができる。図4では、これらのチューブはPEEKプラスチックであるが、代わりに接続部はより良好な熱的特性を有する金属(複数可)で作ることもできる。キャリアガス用の中央(1/4”)ガス接続部430はオプションであり、サンプルを迅速に清浄化するためのパージガスに使用できる。三つのガス流れすべてを、約500μL以下の容積を有し得るリザーバ440中で組み合わせる。リザーバ容積を減少させることで、カラム外の広がりを減少させることができる。
【0045】
組み合わせたガス流れを、直径約1mmのピンホールノズル450を通って稀少キャリアガスと共膨張させる。ピンホールノズル450は、テフロン(登録商標)ポペットで密封された電磁弁452によって迅速に開閉される。各ガスパルス(約1msの持続期間)に関して、分析物成分(複数可)はピンホール450を通って、高真空(約10-6Torr)に維持されたMRR分光計測定チャンバに移動する。ピンホール450を通過する途中で、分子はキャリアガスと多数回衝突する。このような衝突により分析物成分の回転温度は約1~2Kまで低下する。
【0046】
例えば、GCカラムによって分離された分析物成分を、パルスジェット超音波ノズルを備えたマイクロ波MRR測定チャンバに注入する場合、キャリアガス(例えば、ネオン)圧力は、約+2~約+5ポンド毎平方インチゲージ圧(psig)に設定することができる。ノズルは10Hzでパルスを発する。各パルス注入に際して、ノズルは約1nmolの分析物成分と1μmolのネオンとを測定チャンバに注入する。これは、GC-MRRシステムを通過する約10~15mL/min(STP)のキャリアガスに相当する。これは、広口径GCカラムの典型的な流量に匹敵する。ノズルでネオンキャリアガスを注入することで(例えば、図4におけるオプションのキャリアガス入口430を介して)、パルス化バルブ動作を増強することができる。ネオンキャリアガスがノズルに注入される場合、ネオンは分析物成分のマイクロ波MRR測定チャンバへの超音波パルス注入によって引き起こされた回転冷却を支配するので、GCカラムは水素又はヘリウムなどの異なるキャリアガスで動作することができる。両キャリアガスをMRR測定チャンバに注入できる。
【0047】
図5A及び5Bは、四つの分子温度:室温(300K;下)、100K(中央下側)、20K(中央上側)、及び2K(上)でのイソプレゴール(モノテルペン及びメントール中間体、質量154amu)のシミュレートされたMRRスペクトルを示す。図5Aは、0~600GHzのマイクロ波及びミリ波周波数にわたるスペクトルを示し、図5Bは、0~18GHzのマイクロ波バンドでのスペクトルを示す。これらのスペクトルは、低温で改善された測定性能を示し、これは、GC-MRR分光システムのMRR分光計の真空チャンバにGC出力を注入するためにパルスジェット超音波膨張源を使用することによって達成できる。理想的なキャリアガス(例えば、優れた冷却特性を有するネオン)でのパルスジェット超音波膨張は1K~2Kの回転温度を達成できる(超音波膨張源を使用することでの一つのトレードオフは、それらが膨張を可能にするためにより大きな真空チャンバを有することである。しかしながら、機器サイズはハイエンド質量分光計に匹敵する)。
【0048】
図5A及び5BのMRRスペクトルは、分子回転を冷却することによって生じるいくつかの効果を示す。まず、MRRスペクトルは劇的に簡素化する。すべての分子について、回転エネルギーレベルははるかに少なく、したがって遷移ははるかに少ない。これは、単一の混合物中でより多くの成分を解析できることも意味する。なぜなら、分子あたりの線が少ないためである。第二に、MRRスペクトルはけた違いに強くなり(図5A及び5Bのy軸からわかるように)、このことは、より高感度の、及び/又はより高いシグナル対ノズル比(SNR)の測定につながる可能性がある。特定の理論に拘束されないが、図5A及び5Bに示される強度の増加は、回転振動状態の数が少ないためである。第三に、MRRスペクトルはより低い周波数にシフトする。ミリ波領域(例えば、75GHz及びそれ以上)におけるよりもマイクロ波領域(特に18GHz未満、例えば、6~18GHz)のより安価な成分を用いて、より高い励起出力レベルを達成することが可能であるため、スペクトルのより低い周波数へのシフトも有利である。50amuよりも重いほぼすべての分子は、マイクロ波範囲(6~18GHz)にスペクトル強度ピークを有する。
【0049】
図6は、三つの異なるサイズの分子の室温でのシミュレートされたMRRスペクトルを示す。概して、分子サイズが大きくなるにつれ、回転状態と振動状態とが増えるため、MRRスペクトルはより複雑になる。パルスジェットでは、振動状態も冷却され、したがって、上記のように大きな分子のスペクトルはそれほど複雑ではなくなる。300amuまでの化合物のMRRスペクトルの測定はより簡単になり、それ以上も実施可能になる(主な制限は、化合物を気相に入れ、気相中に保持することになる)。
【0050】
[総分子クロマトグラム(TMC)及び拡張分子クロマトグラム(TMC)]
図7Aは、図3Aに示す統合GC-MRR機器300によって測定された生データを処理するための方法700を示す(この方法700は、LC-MRRデータを分析するためにも使用できる)。上述のように、GC-MRR機器300は、GCカラム314からの(少なくとも部分的に)分離された成分をMRR分光計の測定チャンバ324に注入し、次いで測定チャンバ324中の成分(複数可)をマイクロ波又はミリ波パルスで励起し、結果として得られる時間領域自由誘導減衰(FID)シグナル(複数可)を記録することによって、時間領域データを取得する(702)。経時的に、機器300は一連のこれらの時間領域FIDトレースを、例えば、5Hz又は10Hzずつ記録する。
【0051】
これらの生の時間領域FIDトレースの各々を変換すると、1セットのMRRスペクトルが得られ(704)、そのそれぞれは測定期間中の異なる時間ビンと関連付けられる。これらのMRRスペクトルの各々のスペクトル線(ピーク)の振幅の特定(706)及び合計(708)により、そのMRRスペクトルと関連づけられた時間ビンの振幅値が得られる。振幅値を時間の関数としてプロットすることで、総分子クロマトグラム(TMC)(710)が得られる。他のクロマトグラムと同様に、TMCは、時間の関数として、クロマトグラフのカラムから生じる成分の分離を表し、各ピークはその時間ビンでカラムから溶出する一つ以上の成分に対応する。
【0052】
TMCの各ピークは数時間ビンに及び得る。ピーク及び関連する時間ビンを特定すること(712)によって、対応する生時間領域FIDトレースを特定することが可能になり、これを合計又は平均することができ(714)、次にフーリエ変換して、ピークと関連するMRRスペクトルを得る(716)。このMRRスペクトルは、抽出分子クロマトグラム(EMC)と呼ばれ、分析物成分(718)を特定、解析、及び/又は定量化するために使用できる。例えば、成分がTMCから解析できない異性体である場合、それらはEMCにおけるそれらのMRRスペクトルの違いによって解析することができる。成分は、EMCと以前に測定されたEMCのライブラリ(MRRスペクトル)及び/又は理論的EMCとを比較することによって特定できる。
【0053】
図7Bは、FIDデータ、TMC、及びEMCの間の関係を示す。TMCを時系列としてプロットし、各点(振幅値)は、対応する時間ビンのMRRスペクトルにおけるスペクトル線の合計に対応する。MRRスペクトルは、各時間ビンのFIDトレースをフーリエ変換することによって算出される。場合によっては、複数の分析物成分が所与のピークに寄与し得る。図7Bでは、例えば、成分1及び2はどちらもTMCの左側のピークに寄与し、ピーク自体から解析することはできない。成分1は時間ビン1~8の振幅値に寄与し、成分2は時間ビン6~12の振幅値に寄与する。成分1及び2は、左側のピークのEMCから解析、特定、及び定量化することができる。このEMCは、時間ビン1~12のFIDトレースを積分又は平均し、次に積分又は平均されたFIDトレースをフーリエ変換することによって算出される。
【0054】
図7C及び7Dは、図7Aのプロセスを使用して得られるGC-MRR機器の実行可能性及び実用性を示す、5つの共通の有機分子の24の同位体種の単一GC-MRR分析を示す。図7Cは、観察された遷移のピーク強度が合計されたTMCを示す。TMCは、主なアセトン及びアセトニトリルピーク(それぞれ3.2分及び7.6分)の直前に5つの主なピークと2つの小さなショルダーを示す。これらの小さな部分的に解析されたショルダーは、完全に重水素化されたアセトン(アセトン-d6)及び三重水素化アセトニトリル(ACN-d-3)であり、それらの関連するアイソトポログ及びアイソトポマーからクロマトグラフィーにより分離されている。
【0055】
TMCの各点は、ブロードバンドMRRスペクトルを含み、様々な種の個々の寄与を分離できる。MRR分光法の並外れた選択性は、図7Dに示すようにTMCを、同位体的に異なる化合物ごとに一つのEMCで、24のEMCに解析することを可能にする。各EMCトレースでは、その同位体種の周波数のみでの遷移強度を合計する。同位体はそれらの慣性モーメントに基づいて直接決定できるので、同位体パターンマッチング/分析は分子的特定に必要ではない。同じ質量を有する分子(例えば、HC-(C=O)-13CH及びH 13C-(C=O)-CH又は13CHCHOH及びCH 13CHOH)は、それらの異なる慣性モーメントのために、MRRスペクトルから識別し特定することができる。
【0056】
図8Aは、ブロモエタンと5つの複素環式化合物についての、GC-MRR分光法及び図7Aのプロセスによって得られるTMCを示す。図8Bは、ブロモエタン及び2-クロロピリジンの自然な同位体存在度を示すアイソトポログ特異的EMCを示す。GC-MRRピーク面積の積分によって全ての種の定量的情報が得られる。図8AのTMC又は図8BのEMCでは使用されていないが、双極子モーメント及び回転定数の変化は、典型的には小さい。MRRピーク強度間の比率も同位体比の正確な決定として直接使用することができる。
【0057】
質量分析とは異なり、イソバリック化合物は問題を引き起こさない。さらに、ピーク(化合物)共溶出はシグナルの抑制又は増強を引き起こさない。これは、MRRスペクトルの検出が非常に高解析能であり、一つの化合物が別の化合物の異性体又はアイソトポログ若しくはアイソトポマーである場合であっても、その化合物に対して非常に特異的な線を多数もたらすという事実にかなりの部分で起因する。さらに、質量分析において存在するような抑制効果はない。
【0058】
GC-MRR分光法の能力が非常に有用である多くの用途がある。これらには、とりわけ、代謝学、天然産物スクリーニング、及び環境分析が含まれる。一例として、以下の環境劣化研究を検討する。
【0059】
同位体組成の変化の決定は、地上及び天然の水性系における有機飼料/汚染物質の生物及び非生物反応を評価するために使用される。ほぼすべての有機汚染物質が複数の安定な同位体種を含むと仮定すると、化合物特異的同位体分析(CSIA)及び位置特異的同位体分析(PSIA)は、複雑なマトリックスにおける化学反応を研究し、汚染物質の分解をよりよく理解するための広く適用可能なアプローチを提供する。この分解は、酵素経路を介するか、又は置換、脱離、若しくは電子移動からなる光化学若しくは有機反応によって起こり得る。
【0060】
CSIAは、所与のトレース汚染物質分子中の反応性原子を正確に狙うことにより、分解経路の詳細な洞察を提供する。現在、これらの問題は、炭素、水素、及び窒素の同位体比質量分析によって対処されているが、酸素、硫黄、及び塩素の同位体比質量分析測定は困難である。同様に、PSIAは分子内同位体変化を調べる。従来、PSIA(炭素の場合)は、官能基の二酸化炭素へのオフライン変換と、続いてGC-MS、又は部位特異的天然同位体分別-核磁気共鳴(SNIF-NMR)によって行われる。NMRは、時間がかかる低感度の技術である。したがって、トレース化合物の大幅な予備濃縮がNMR測定前に必要とされる。これに対して、GC-MRRは、ポストカラム変換又は精製なしでCSIA及びPSIAのこのような困難な場合に対処することができる。
【0061】
GC-MRRを使用して環境劣化を研究する一例には、ピリジンアイソトポログの低濃度サンプルの選択的な生物枯渇が含まれる。ピリジンや他の有機塩基の微生物代謝は広く研究されてきたが、我々の知る限りでは、同位体特有の研究は存在しない。表1は、三つの異なる微生物培養物/溶液中の14N及び15Nピリジン標準の生物枯渇についてのGC-MRRの結果を示す。両ピリジンアイソトポログはこれらの場合、時間と共に枯渇した。大腸菌培養物は、14Nピリジンアイソトポログの選択的枯渇を示すが、B.cepaciaと地下水は有意な差を示さない。動的同位体分別は、無機窒素源についてよく知られており、除草剤の生物的及び酵素加水分解に関する洞察を提供するために使用されてきた。
【0062】
表2は、二つの異なる細菌によるアセトニトリルの様々な同位体アイソトポログについての生物枯渇の明確に異なる動態を示す。データは、二つの異なる細菌によるアセトニトリルの様々なアイソトポログについての生物枯渇の異なる動態を示す。通常の種類のアセトニトリルは、大腸菌によって最高速度で枯渇し、三つの単一置換アイソトポログ間で検出可能な差はない。さらに興味深いのは、V.fischeriの場合、CH 13CNアイソトポログが選択的に枯渇するという事実である。他の分析法又は方法の組み合わせでは、これらの現象をこのように容易に特徴づけることはできない。位置特異的同位体分析に関するこの種の広範な研究は、生分解研究にとって非常に情報が豊富であり、好適な分析ツールがないため、現在はあまり調査されていない。GC-MRRはこのような欠如を解決する。
【表1】
【表2】
【0063】
[液体クロマトグラフィー(LC)-MRR分光法]
図9は、ブロードバンド及び/又は標的化測定のために構成されたマイクロ波又はミリ波MRR分光計などのMRR分光計920に連結された液体クロマトグラフ910を備えた液体クロマトグラフィー(LC)-MRR分光システム900を示す。液体クロマトグラフ910は、例えば、連続して流れるサンプル源から、入口916を介して液体分析物を受け取るカラム914を含む。溶媒源912から流れる溶媒は、カラム914を通して液体分析物を通過させ、カラムで分析物は少なくとも部分的にその構成成分に分離する。
【0064】
揮発界面930は少なくとも部分的に分離された分析物成分をMRR分光計920に連結する。これは分析物成分を揮発させる-例えば、分析物成分が蒸発するまで加熱することができる。キャリアガス源934からのネオン又はヘリウムなどのキャリアガスは、揮発した分析物を、揮発界面930を通して、揮発界面930に連結されたパルスジェット超音波ノズル932へと押し出す。ノズル932は、揮発した分析物成分(複数可)を、真空圧力(例えば、10-6torr)まで真空ポンプ925によって減圧された、MRR分光計の測定チャンバ924に注入する。図3Aのようなマイクロ波源(不図示)は、測定チャンバ中の分析物成分(複数可)に一つ以上の標的又はブロードバンド励起パルスを照射する。図3Aのようなレシーバ(不図示)は、励起パルス(複数可)に応答して揮発した分析物成分(複数可)によって放射されたFIDシグナルを検出する。電子機器(不図示)はFIDシグナルを検出し処理して、MRRスペクトルを生じる。MRRスペクトルは、例えば、補助検出器によって感知されたLCカラム出力のピークの検出に応答して、連続的又はオンデマンドで測定することができる。
【0065】
[GC-MRR分光法を用いたキラル分析]
キラル分析は、GC-MRRが重大な付加価値を有し得る分野であり、特に、キラルタギングと呼ばれる気相複合体体形成技術を用いてキラル分析のためにMRRでエナンチオマをジアステレオマに変換する。少数の小さな揮発性のキラル分子は、広範囲の化学分析物と効率的に複合体形成し、混合物内のこれらの化合物の正確なエナンチオマ過剰率決定を可能にすることが示されている。キラルタギングの詳細については、例えば、その全体が引用することにより本明細書の記載の一部をなすものとする、表題「Cavity-Enhanced Fourier Transform Spectroscopy for Chiral Analysis」の米国特許出願公開第2019/0302015号を参照のこと。
【0066】
図10A及び10Bはキラルタギングの背景にある考え方を示す。簡単に言うと、キラルタギングは、図10Aのベルベノン/ブチノール系などの既知の立体化学の小さなキラル分子で分析物を「タグ付け」することを含む。水素結合、ファンデルワールス、及びその他の力の組み合わせによって安定化された、弱く結合した複合体は、パルス化超音波膨張ノズルで効率的に形成できる。結果として得られたジアステレオマ複合体は異なる慣性モーメントを有し、上述のように、また図10Bに示すように、MRR分光法の能力によって解析できる。キラル分析は、医薬品、環境分析、及び代謝産物分析を含む広範囲の用途で重要である。
【0067】
より具体的には、図10Aは、ベルベノン(キラル分子の一例)のエナンチオマは、同じ慣性モーメントを有するので、同じMRRスペクトルを有することを示す。しかしながら、キラルタグ(この場合、(S)-3-ブチン-2-オール)が二つのエナンチオマと複合体形成すると、慣性モーメントの差が生じ、このため、慣性モーメントが異なり、したがってMRRスペクトルが異なる二つの種が生じる。二つの複合体は、ヘテロキラル(すなわち、(R,R)-ベルベノン+(S)-3-ブチン-2-オール)又はホモキラル(すなわち、(S,S)-ベルベノン+(S)-3-ブチン-2-オール)と呼ばれる。
【0068】
図10Bは、図10Aのヘテロキラル複合体とホモキラル複合体のそれぞれ一本ずつ、二本のスペクトル線を示す。ブチノールタグのラセミ混合物では、二つの複合体はほぼ同じ強度で見られる(それらは複合体双極子モーメント、形成比率、及びその他の因子のために異なる)。タグとして純粋な(S)-3-ブチン-2-オールを用いると、線は異なる強度でみられる。これらの線比率を使用して、サンプル中のベルベノンのエナンチオマ比率及び/又はエナンチオマ過剰率を算出できる。
【0069】
キラルモニタリングは、パルスジェットサンプリング源の前に、GC出口のインターフェースの追加のバルブによって気相キラルタグを導入するための付属システムを備えたGC-MRR機器に統合することができる。タグは、ポストカラムで溶出するサンプルと混合することができる。スペクトルライブラリは、基準のキラル分子(キラルタグ)のエントリーを含み得る。このキラルMRR法は、キラルGC分離の代わりに、又はキラルGC分離と組み合わせて、新しい分離及び特定の可能性の範囲を広げることができる。
【0070】
[結論]
様々な発明の実施形態を本明細書中で記載し図示してきたが、当業者は、機能を実施するため、並びに/又は結果及び/若しくは本明細書中で記載する一つ以上の利点を得るための様々な他の手段及び/又は構造を容易に想定し、またそのような変形及び/又は修飾の各々は、本明細書中で記載する発明の実施形態の範囲内に含まれると見なされる。より一般的には、本明細書中で記載するすべてのパラメータ、寸法、材料、及び構成が例示的であることを意味し、実際のパラメータ、寸法、材料、及び/又は構成が、本発明の教示が用いられる特定の用途に依存することを、当業者は容易に理解するであろう。当業者は、慣例的な実験のみを用いて、本明細書中で記載する発明の特定の実施形態の多くの均等物を認識するか、又は確認できるであろう。したがって、前述の実施形態は単なる例示として提示され、添付の特許請求の範囲及びその均等物の範囲内で、本発明の実施形態は、本明細書中で具体的に記載し請求する以外の方法で実施することができることを理解されたい。本開示の発明の実施形態は、本明細書中で記載する個々の特徴、システム、物品、材料、キット、及び/又は方法を対象とする。加えて、二つ以上のそのような特徴、システム、物品、材料、キット、及び/又は方法の任意の組み合わせは、そのような特徴、システム、物品、材料、キット、及び/又は方法が互いに矛盾しないならば、本開示の発明の範囲内に含まれる。
【0071】
また、様々な発明の概念は、一つ以上の方法として具体化することができ、その一例を提示した。方法の一部として実施される行為は、任意の好適な方法で順序付けることができる。したがって、行為が例示したのとは異なる順序で実施され、例示的実施形態で連続した行為として示されていても、一部の行為を同時に実施することを含み得る実施形態を構築することができる。
【0072】
本明細書中で定義し使用するすべての定義は、辞書の定義、引用することにより本明細書の記載の一部をなすものとする文献における定義、及び/又は定義された用語の通常の意味に優先すると理解されたい。
【0073】
本明細書及び特許請求の範囲で使用する不定冠詞「a」及び「an」は、明らかに別段の表示がない限り、「少なくとも一つ」を意味すると理解すべきである。
【0074】
本明細書及び特許請求の範囲で使用する「及び/又は」という表現は、そのように結合された要素、すなわち、ある場合では結合して存在し、他の場合では分離して存在する要素の「いずれか又は両方」を意味すると理解すべきである。「及び/又は」を用いて列挙された複数の要素は、同じように、すなわち、そのように結合された要素の「一つ以上」と解釈されるべきである。「及び/又は」節で具体的に特定された要素以外の他の要素が、具体的に特定された要素と関連するか関連しないかにかかわらず、任意選択的に存在してもよい。したがって、非限定的な例として、「A及び/又はB」についての言及は、「備える(comprising)」などのオープンエンドの言語と組み合わせて使用する場合、一実施形態では、Aのみ(任意選択的にB以外の要素を含んでもよい)を指す可能性があり;別の実施形態では、Bのみ(任意選択的にA以外の要素を含んでもよい)を指す可能性があり;さらに別の実施形態では、A及びBの両方(任意選択的に他の要素を含んでもよい)を指す可能性があるなど。
【0075】
本明細書及び特許請求の範囲で使用する場合、「又は」は、上記定義の「及び/又は」と同じ意味を有すると理解されるべきである。例えば、リスト中の項目を分離する場合、「又は」又は「及び/又は」は包括的であると解釈され、すなわち、少なくとも一つを含むが、多くの要素又は要素のリストの複数も含み、任意選択的にさらなる列挙されていない項目を含んでもよいと解釈されるべきである。「~の一つだけ」又は「~の正確に一つ」などの、明確に逆を示す用語のみ、又は特許請求の範囲で使用する場合は、「からなる(consisting of)」は、多くの要素又は要素のリストの正確に一つの要素を含むことを指す。概して、本明細書中で使用する「又は」という用語は、「いずれか」、「~の一つ」、「~の一つだけ」、又は「~の正確に一つ」などの排他性の用語が先行する場合、排他的な選択肢(すなわち、「一方又は他方であるが、両方ではない」)としか解釈されない。「本質的に~からなる」とは、特許請求の範囲で用いられる場合、特許法の分野で使用される通常の意味を有する。
【0076】
本明細書及び特許請求の範囲で使用する場合、一つ以上の要素のリストに関連した「少なくとも一つ」という表現は、要素のリスト中の要素のいずれか一つ以上から選択される少なくとも一つの要素を意味すると理解すべきであるが、要素のリスト内で具体的に列挙されたすべての要素の少なくとも一つを含む必要はなく、また要素のリスト中の要素の任意の組み合わせを排除しない。この定義はまた、具体的に特定されている要素に関連するか又は関連しないかにかかわらず、「少なくとも一つ」という表現が言及する要素のリスト内で具体的に特定される要素以外の要素が任意選択的に存在し得ることを許容する。したがって、非限定的な例として、「A及びBの少なくとも一つ」(又は同等に、「A又はBの少なくとも一つ」、又は同等に、「A及び/又はBの少なくとも一つ」)は、一実施形態では、Bが存在せず(そして任意選択的にB以外の要素を含んでもよい)、少なくとも一つであって、任意選択的には複数であってもよいA;別の実施形態では、Aが存在せず(そして任意選択的にA以外の要素を含んでもよい)、少なくとも一つ、任意選択的には複数であってよいB;さらに別の実施形態では、少なくとも一つ、任意選択的に複数であってよいAと、少なくとも一つ、任意選択的に複数であってよいB(そして任意選択的に他の要素を含んでもよい)、などを指す可能性がある。
【0077】
特許請求の範囲、並びに上記明細書では、「備える(comprising)」、「含む(including)」、「保有する(carrying)」、「有する(having)」、「含有する(containing)」、「含む(involving)」、「保持する(holding)」、「構成される(composed of)」などのすべての移行句は、オープンエンドである、すなわち、含むが、それに限定されるものではないことを意味すると理解すべきである。米国特許庁の特許審査便覧第2111.03項に記載されているように、移行句「からなる(consisting of)」及び「から本質的になる(consisting essentially of)」だけが、それぞれクローズド又はセミクローズドの移行句である。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図4
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図7D
図8
図9
図10
【国際調査報告】