IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ヨーロピアン モレキュラー バイオロジー ラボラトリーの特許一覧

特表2022-531892遺伝子治療のための改変型アデノ随伴ウイルス (AAV) 粒子
<>
  • 特表-遺伝子治療のための改変型アデノ随伴ウイルス  (AAV)  粒子 図1
  • 特表-遺伝子治療のための改変型アデノ随伴ウイルス  (AAV)  粒子 図2
  • 特表-遺伝子治療のための改変型アデノ随伴ウイルス  (AAV)  粒子 図3
  • 特表-遺伝子治療のための改変型アデノ随伴ウイルス  (AAV)  粒子 図4
  • 特表-遺伝子治療のための改変型アデノ随伴ウイルス  (AAV)  粒子 図5
  • 特表-遺伝子治療のための改変型アデノ随伴ウイルス  (AAV)  粒子 図6
  • 特表-遺伝子治療のための改変型アデノ随伴ウイルス  (AAV)  粒子 図7
  • 特表-遺伝子治療のための改変型アデノ随伴ウイルス  (AAV)  粒子 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-12
(54)【発明の名称】遺伝子治療のための改変型アデノ随伴ウイルス (AAV) 粒子
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/864 20060101AFI20220705BHJP
   C12N 15/35 20060101ALI20220705BHJP
   C07K 14/015 20060101ALI20220705BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20220705BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20220705BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220705BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220705BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20220705BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20220705BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20220705BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20220705BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20220705BHJP
   A61K 8/99 20170101ALI20220705BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20220705BHJP
【FI】
C12N15/864 100Z
C12N15/35
C07K14/015
C12N7/01
A61K35/76
A61P43/00 105
A61P35/00
A61P17/00
A61P31/00
A61P3/10
A61P17/02
A61K48/00
A61K8/99
A61Q19/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021566142
(86)(22)【出願日】2020-05-07
(85)【翻訳文提出日】2021-12-03
(86)【国際出願番号】 EP2020062713
(87)【国際公開番号】W WO2020225363
(87)【国際公開日】2020-11-12
(31)【優先権主張番号】19173365.8
(32)【優先日】2019-05-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】314012353
【氏名又は名称】ヨーロピアン モレキュラー バイオロジー ラボラトリー
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ヘッペンスタール ポール
(72)【発明者】
【氏名】マッフェイ マリアーノ
(72)【発明者】
【氏名】デ カストロ レイス フェルナンダ
(72)【発明者】
【氏名】パウー カニン モリス
【テーマコード(参考)】
4B065
4C083
4C084
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA95X
4B065AA95Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
4B065CA46
4C083AA031
4C083BB21
4C083CC01
4C083EE12
4C083EE13
4C084AA13
4C084MA41
4C084NA14
4C084ZA891
4C084ZA892
4C084ZB211
4C084ZB212
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZB311
4C084ZB312
4C084ZC351
4C084ZC352
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BC83
4C087MA41
4C087NA14
4C087ZA89
4C087ZB21
4C087ZB26
4C087ZB31
4C087ZC35
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA01
4H045DA86
4H045EA20
4H045EA50
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、遺伝子送達および遺伝子治療のための改良型アデノ随伴ウイルス (AAV) 粒子に関する。改変型カプシドを含むアデノ随伴ウイルス (AAV) 粒子が提供される。本発明はさらに、アデノ随伴ウイルス (AAV) カプシド中の天然結合部位を除去し、リガンド結合部位を該カプシドに導入して、関心対象の特定の細胞のみに形質導入するAAVを提供することにより、本発明の改良型AAV粒子を生成する方法に関する。本発明の付加的な局面は、疾患の処置において使用するための改変型AAV粒子、および疾患を処置するための方法であって、改変型AAV粒子を、それを必要とする対象に投与する段階を含む方法に関する。さらに本発明のさらなる局面は、例えば基礎研究における遺伝子送達ツールとしての、細胞のトランスフェクションのための本発明のAAV粒子に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
改変型カプシドを含むアデノ随伴ウイルス (AAV) 粒子であって、該改変型カプシドが、該カプシド中の天然結合部位の除去およびリガンド結合部位の該カプシドへの導入より選択される少なくとも1つの改変を含む、AAV粒子。
【請求項2】
AAVが、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、およびAAV12より選択される、請求項1に記載のAAV粒子。
【請求項3】
カプシド中の少なくとも1つのタンパク質が改変され、好ましくは、該少なくとも1つのタンパク質がVP1、VP2、および/またはVP3である、請求項1または2に記載のAAV粒子。
【請求項4】
カプシドの改変が、少なくとも1つの天然結合部位の除去、および少なくとも1つのリガンド結合部位の導入を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のAAV粒子。
【請求項5】
天然結合部位が、ヘパラン硫酸プロテオグリカンへの結合を可能にする天然結合部位であり、好ましくは、VP1のアルギニン585およびアルギニン588、ならびに/またはVP2もしくはVP3の類似のアルギニンのうちの少なくとも1つを、アラニンなどの異なるアミノ酸で置換することによって除去される、請求項1~4のいずれか一項に記載のAAV粒子。
【請求項6】
リガンド結合部位が、リガンドの共有結合に適したリガンド結合部位であり、好ましくは、ベンジルグアニン基、ベンジルシトシン基、クロロアルカン基、アジド基、ジベンゾシクロオクチン基、ホスフィン、またはそれらの組み合わせより選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載のAAV粒子。
【請求項7】
前記ベンジルグアニン基、前記ベンジルシトシン基、前記クロロアルカン基、前記アジド基、前記ジベンゾシクロオクチン基、および/または前記ホスフィンに結合しているリガンド、特にHaloTag(商標)、SNAP-tag(商標)、もしくはCLIP-tag(商標)、アジド、ジベンゾシクロオクチン基、またはホスフィンをさらに含む、請求項6に記載のAAV粒子。
【請求項8】
リガンドが、タンパク質リガンド、毒素サブユニット、レクチン、接着因子、抗体、ペプチド、および遺伝子編集ヌクレアーゼより選択される、請求項6または7に記載のAAV粒子。
【請求項9】
改良型アデノ随伴ウイルス (AAV) 粒子を生成する方法であって、該カプシド中の天然結合部位が除去され、および/または少なくとも1つのリガンド結合部位が該カプシドに導入される、少なくとも1つの改変を該AAVのカプシドに導入する段階を含む、前記方法。
【請求項10】
天然結合部位が、ヘパラン硫酸プロテオグリカンへの結合を可能にする天然結合部位であり、好ましくは、VP1のアルギニン585およびアルギニン588、ならびに/またはVP2もしくはVP3の類似のアルギニンのうちの少なくとも1つを、アラニンなどの異なるアミノ酸で置換することによって除去される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
リガンド結合部位が、リガンドの共有結合に適したリガンド結合部位であり、好ましくは、ベンジルグアニン基、ベンジルシトシン基、クロロアルカン基、アジド基、ジベンゾシクロオクチン基、ホスフィン、またはそれらの組み合わせより選択される、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
少なくとも1つの薬学的に許容される担体および/または希釈剤と一緒に、請求項1~8のいずれか一項に記載のAAV粒子を含む薬学的組成物。
【請求項13】
疾患が、好ましくは、遺伝子治療によって処置され得る疾患、例えば、がん、遺伝性単一遺伝子疾患、遺伝性皮膚疾患、感染症、I型糖尿病、および創傷治癒などである、疾患の処置において使用するための、請求項1~8のいずれか一項に記載のAAV粒子、または請求項12に記載の薬学的組成物。
【請求項14】
請求項1~8のいずれか一項に記載のAAV粒子、または請求項12に記載の薬学的組成物を、それを必要とする対象に投与する段階を含む、遺伝子治療によって処置され得る疾患を処置するための方法であって、該疾患が、好ましくは、遺伝子治療によって処置され得る疾患、例えば、がん、遺伝性単一遺伝子疾患、遺伝性皮膚疾患、感染症、I型糖尿病、および創傷治癒などである、前記方法。
【請求項15】
例えば遺伝子送達ツールとしての、細胞のトランスフェクションのための請求項1~8のいずれか一項に記載のAAV粒子の使用。
【請求項16】
美容目的のための、請求項15に記載のAAV粒子の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遺伝子送達および遺伝子治療のための改良型アデノ随伴ウイルス (AAV) 粒子に関する。改変型カプシドを含むアデノ随伴ウイルス (AAV) 粒子が提供される。本発明はさらに、アデノ随伴ウイルス (AAV) カプシド中の天然結合部位を除去し、リガンド結合部位を該カプシドに導入して、関心対象の特定の細胞のみに形質導入するAAVを提供することにより、本発明の改良型AAV粒子を生成する方法に関する。本発明の付加的な局面は、疾患の処置において使用するための改変型AAV粒子、および疾患を処置するための方法であって、改変型AAV粒子をそれを必要とする対象に投与する段階を含む方法に関する。さらに本発明のさらなる局面は、例えば基礎研究における遺伝子送達ツールとしての、細胞のトランスフェクションのための本発明のAAV粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
遺伝情報を保有する分子を細胞に導入することは、現代医学において、および基礎研究において有用な手段である。好ましい方法には、アデノウイルス、レトロウイルス、ワクシナ (vaccina) ウイルス、およびアデノ随伴ウイルスを含むウイルスに由来する遺伝子送達媒体の使用が含まれる。これらの中でも、アデノ随伴ウイルス (AAV) は、遺伝子治療法に好ましいウイルスである。野生型AAVは、比較的小さなサイズのDNAウイルスであり、それが感染した細胞のゲノムに安定的かつ部位特異的な様式で組み込まれる。重要なことには、これまで、AAV感染に関連するヒトの疾患は見出されていない。したがって、アデノ随伴ウイルス (AAV) は、病原性がないために、遺伝子治療のベクターとして選択されている。興味深いことに、AAVに基づくベクターを用いた100件超の臨床試験が進行中であり、重要なことには、最近、遺伝性網膜疾患の処置のための初のAAV遺伝子治療法、すなわちボレチジーンネパルボベック (Voretigene neparvovec) がFDAに承認された。
【0003】
アデノ随伴ウイルスは、エンベロープをもたない正二十面体カプシドを含む、パルボウイルス科のディペンドウイルス属のメンバーである。AAVゲノムは、およそ4.7キロベース長であり、直鎖状の一本鎖デオキシリボ核酸 (ssDNA) から構成され、これはプラスセンスまたはマイナスセンスのいずれかであってよい。ゲノムは、DNA鎖の両末端における逆位末端反復 (ITR)、ならびに2つのオープンリーディングフレーム (ORF):repおよびcapを含む。repフレームは、AAV生活環に必要な非構造的複製 (Rep) タンパク質をコードする4つの重複遺伝子からできている。capフレームは、構造的VPカプシドタンパク質:VP1、VP2、およびVP3の重複ヌクレオチド配列を含み、これらは一緒に相互作用して、正二十面体対称性のカプシドを形成する。末端の145 ntは自己相補的であり、T字型ヘアピンを形成するエネルギー的に安定した分子内二重鎖が形成され得るように組織化される。このようなヘアピン構造は、ウイルスのDNA複製のための起点として機能し、細胞のDNAポリメラーゼ複合体のプライマーとして働く。哺乳動物細胞におけるAAV感染後、rep遺伝子(すなわち、Rep78およびRep52)がそれぞれP5プロモーターおよびP19プロモーターから発現され、両Repタンパク質はウイルスゲノムの複製において機能を有する。rep ORFにおけるスプライシング事象により、4つのRepタンパク質(すなわち、Rep78、Rep68、Rep52、およびRep40)の発現が生じる。
【0004】
一般的に、ウイルスは、形質膜での直接的な膜融合/透過反応を介するか、またはエンドサイトーシスを経た後に、初期エンドソームにおいて同様に細胞膜を破るかのいずれかの、種々の方法で細胞に侵入し得る。ウイルスの内部移行の最も一般的な形態は、クラスリン媒介性エンドサイトーシスを介するものである。この過程は、以下を含むいくつかの段階に分けることができる:(1) クラスリン被覆ピットの核形成、(2) 被覆ピットへのカーゴの捕捉、(3) 湾曲の誘導および膜の陥入;ならびに (4) 小胞の切断および脱被覆。小胞は、そのウイルス内容物を初期エンドソームに送達する。興味深いことに、エンドサイトーシスの全過程は、インビボで数秒のオーダーで行われる。クラスリン媒介性エンドサイトーシスによって取り込まれるウイルスの例は、アデノウイルス科、アデノウイルス2型、アデノウイルス5型、アデノウイルス8型、アデノウイルス37型、イヌアデノウイルス2型 (CAV-2)、アデノ随伴ウイルス2、およびアデノ随伴ウイルス5(ディペンドウイルス)などのdsDNAウイルスである。
【0005】
ウイルスはまた、形質膜の50~70 nmのフラスコ状陥入を形成する特殊な脂質ラフトであるカベオラを介して取り込まれ得る。カベオリンがカベオラの構造的骨格を形成する。カベオラを介した内部移行は、構成的な過程ではなく、細胞の刺激時にのみ起こる。それらの宿主細胞の受容体に結合して取り込まれたウイルスは、初期エンドソームに送達される。カベオラは、低容量であるが、高度に制御された経路である。さらに、いくつかのウイルスは、クラスリンまたはカベオリン被覆を使用せず、場合によっては細菌およびウイルスに乗っ取られて宿主細胞に到達する、いくつかの経路を用いて取り込まれる。これらの経路は、コレステロール、DNM2/ダイナミン2、または低分子GTPアーゼもしくはチロシンキナーゼなどの様々な分子へのそれらの依存性によって、さらに定義され得る。
【0006】
AAVベクターは、感染細胞のゲノムに安定的かつ部位特異的に組み込まれ、および病原性がないために、標的遺伝子治療の媒体として検討されている。
【0007】
Kernら(Identification of a Heparin-Binding Motif on Adeno-Associated Vims Type 2 Capsids, Journal of Virology Sep 2003, 77 (20) 11072-11081(非特許文献1)における)は、アデノ随伴ウイルス (AAV) 2型 (AAV-2) による細胞の感染が、ヘパラン硫酸プロテオグリカンへの結合によって媒介され、ヘパリンによって競合され得ることを開示している。AAV-2カプシドタンパク質の変異解析により、塩基性アミノ酸の一群(アルギニン484、487、585、および588、ならびにリジン532)が、ヘパリンとHeLa細胞の結合に寄与していることが示された。これらのアミノ酸は、AAV-2カプシドの3部分スパイク領域において3つのクラスターに配置されている。R484およびR585に変異を加えた組換えAAV-2のマウスにおける組織分布により、野生型組換えAAVによる感染と比較して、肝臓の感染は顕著に減少したが、心臓の感染は継続したことが示された。彼らは、ヘパリン結合はAAV-2の感染性に影響を与えるが、必須ではないと考えられることを示唆した。
【0008】
US 5,756,283(特許文献1)は、調節配列の制御下にある、選択された導入遺伝子を含む組換えAAVベクターを開示している。感染細胞を、一本鎖組換えウイルスのその二本鎖型への変換を容易にする作用物質と接触させ、それによって組換えAAVの標的細胞への形質導入効率を高める。
【0009】
EP 1664314 B1(特許文献2)は、ヘパリン結合に関与するカプシドタンパク質ドメインおよび対応するアミノ酸残基の同定に基づいて、ヘパリン結合機能の低下または除去をもたらすカプシドタンパク質改変を保有する組換えAAVベクターを記載している。
【0010】
WO 2017/143100 A1(特許文献3)は、非変種の親カプシドポリペプチドと比較して、中和プロファイルの増強、ヒト肝臓組織または肝細胞における形質導入および/または指向性の増加を示すように、AAVカプシドポリペプチドを改変する方法を記載している。
【0011】
ヒトの遺伝子治療の安全性および有効性は、依然として大きな議論の対象となっている。現在のベクターの問題には、ある特定の組織の意図されない形質導入、および有害な免疫反応が含まれる。遺伝子送達にAAV粒子を使用する現在のアプローチは、効率的な形質導入の欠如のせいで問題があり、すなわち、効果的にするためには、非常に高い力価のAAVベクターが通常必要である。現在のアプローチのもう一つの限界は、多くのAAVベクターが、いくつかの特定の細胞型に形質導入するのに効果的ではなく、AAVベクターが、不適切な細胞型への形質導入によるオフターゲット効果を有し得ることである。
【0012】
上記の限界を考慮して、遺伝子送達のための改良型アデノ随伴ウイルス (AAV) 粒子を提供することが、本発明の根本的な課題である。上記のことは、関心対象の特定の細胞に形質導入する、および/またはより低い力価で送達されてもなお効果的であり得るアデノ随伴ウイルス (AAV) カプシドを操作することによって達成される。上記の問題は、リガンド結合を受容するようにウイルスカプシドを改変し、関心対象のリガンドを該カプシドに結合させることによって解決される。任意に、リガンドを受容するようにウイルスを改変する前に、AAVカプシド中の天然結合部位を除去することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】US 5,756,283
【特許文献2】EP 1664314 B1
【特許文献3】WO 2017/143100 A1
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Identification of a Heparin-Binding Motif on Adeno-Associated Vims Type 2 Capsids, Journal of Virology Sep 2003, 77 (20) 11072-11081
【発明の概要】
【0015】
本発明の第1の局面によれば、上記の目的は、改変型カプシドを含むアデノ随伴ウイルス (AAV) 粒子であって、該改変型カプシドが、該カプシド中の天然結合部位の除去およびリガンド結合部位の該カプシドへの導入より選択される少なくとも1つの改変を含む、アデノ随伴ウイルス (AAV) 粒子を提供することによって解決される。
【0016】
「アデノ随伴ウイルスベクター」、「AAVベクター」、「アデノ随伴ウイルス」、「AAVウイルス」、「AAVビリオン」、「AAVウイルス粒子」、および「AAV粒子」は、本明細書において互換的に使用されるものとし、少なくとも1つのAAVカプシドタンパク質およびカプシドに封入された組換えウイルスゲノムから構成されるウイルス粒子を指す。AAV逆位末端反復が隣接している、哺乳動物細胞に送達しようとする異種ポリヌクレオチド、およびプロモーターを含む転写調節領域を有する組換えウイルスゲノムを含むAAV粒子は、典型的には「AAVベクター粒子」または「AAVベクター」と称される。
【0017】
1つの好ましい態様において、本発明のアデノ随伴ウイルス (AAV) 粒子は、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、およびAAV12より選択される。今日までに最も一般的に使用されている遺伝子導入システムは、ウイルス、例えばアデノ随伴ウイルス2型 (AAV-2) の誘導体である。AAV-2および/またはAAV-9が好ましい。
【0018】
現在、100種類を超えるAAV血清型が同定されており、これらは特定の細胞表面受容体に対するカプシドタンパク質の結合能が異なり、異なる細胞型に形質導入することができる。AAV2は、細菌プラスミドにクローニングされた最初の血清型であり、それ以来、他の血清型を同定するための比較として使用されている。12種類の血清型(AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、およびAAV12)は、特定の細胞型に形質導入する能力について徹底的に試験され、細胞付着のために特定の細胞表面受容体と結合するカプシドタンパク質モチーフの間で区別されている。本発明との関連において、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12より選択されるAAV粒子が好ましい。しかしながら、本発明との関連において、任意の他のAAV粒子を使用できることが理解されるべきである。
【0019】
AAVのカプシドは、特有のVP1 N末端、VP1/VP2共通部分、ならびにVP1、VP2およびVP3に共通する部分を含む、3つの重複するカプシドタンパク質(VP1、VP2、VP3)から構成される。
【0020】
AAV粒子のカプシド中の少なくとも1つのタンパク質が改変され、好ましくは、少なくとも1つのタンパク質がVP1、VP2、および/またはVP3である、本発明のアデノ随伴ウイルス (AAV) 粒子がさらに好ましい。あるいは、該カプシド中のタンパク質VP1、VP2、および/もしくはVP3のうちの2つが改変されるか、または該カプシド中のタンパク質VP1、VP2、およびVP3の3つすべてが改変される。好ましくは、該カプシド中の改変対象のタンパク質のうちの少なくとも1つの少なくとも1つの部分、例えば1個のアミノ酸が改変される。しかしながら、該カプシド中のタンパク質VP1、VP2、およびVP3の複数の部分、例えば複数のアミノ酸、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、または任意の他の数の部分またはアミノ酸を改変することもまた可能である。好ましくは、VP1のアルギニン484、487、585、および588、ならびにリジン532、ならびに/またはVP2もしくはVP3の類似のアルギニンのうちの少なくとも1つが、それらをアラニンなどの異なるアミノ酸で置換することによって除去される。
【0021】
カプシド改変が、少なくとも1つの天然結合部位の除去、および少なくとも1つのリガンド結合部位の導入の両方を含むことが、さらに好ましい。あるいは、前記AAVの少なくとも1つの天然結合部位は変更されなくても、すなわち除去されなくてもよいが、少なくとも1つのリガンド結合部位が導入される。
【0022】
前記カプシド中の前記天然結合部位が存在しかつ除去されず、少なくとも1つの付加的なリガンド結合部位が改変によって該カプシドに導入される場合、本発明のAAV粒子は、使用されるウイルス粒子のより低い力価でより高い感染率を有する。反対に、改変によって少なくとも1つの付加的なリガンド結合部位を該カプシドに導入する前に、該カプシド中の該天然結合部位が除去される場合、本発明のAAV粒子の指向性が改変される。
【0023】
前記天然結合部位が、ヘパラン硫酸プロテオグリカンへの結合を可能にする結合部位であり、好ましくは、VP1のアルギニン585もしくはアルギニン588、および/またはVP2もしくはVP3の類似のアルギニンのうちの少なくとも1つを、アラニンなどの異なるアミノ酸で置換することによって除去される、本発明のアデノ随伴ウイルス (AAV) が好ましい。
【0024】
前記リガンド結合部位が、リガンドの共有結合を可能にする結合部位である、本発明のアデノ随伴ウイルス (AAV) がさらに好ましい。前記リガンド結合部位が、ベンジルグアニン基、ベンジルシトシン基、クロロアルカン基、ジベンゾシクロオクチン基、アジド基、ホスフィン、またはそれらの組み合わせを含むことが、さらに好ましい。あるいは、任意のハロアルカン基を用いることもできる。ベンジルグアニンまたはその他の基が、利用可能なリジン残基に結合していることが、さらに好ましい。導入される該リガンド結合部位は、好ましくは、該利用可能なリジン残基のε-アミノ基または1級アミンに結合している。
【0025】
前記ベンジルグアニン基、前記ベンジルシトシン基、前記クロロアルカン基、前記ジベンゾシクロオクチン基、前記アジド基、および/または前記ホスフィンに結合しているリガンド、特にHaloTag(商標)、SNAP-tag(商標)、もしくはCLIP-tag(商標)、またはホスフィンもしくはアジドもしくはジベンゾシクロオクチン基をさらに含む、本発明のアデノ随伴ウイルス (AAV) 粒子がさらに好ましい。本発明は、好ましくは、SNAP-tag、CLIP-tag、Halo Tag、Lumio Tag、およびその他などの、高親和性でその特異的リガンドに結合し得るタグを利用する。
【0026】
ベンジルグアニン、ベンジルシトシン、およびクロロアルカンは、SNAPなどの「自殺」酵素によって認識される。本発明との関連において、ベンジルグアニンまたはベンジルシトシン誘導体をさらに使用することができる。ベンジルグアニン誘導体またはベンジルシトシン誘導体は、修飾されているが、それにもかかわらず自殺酵素によって認識されるベンジルグアニンまたはベンジルシトシン基を意味すると理解される。
【0027】
タグ分子は、さらなる分子に特異的に結合することができる任意の分子または生体分子であってよい。例には、SNAP-tag、CLIP-tag、Lumio-tag、またはHalo-tagが含まれ得る。例えば、アフィニティタグは、アルキルグアニン-DNAアルキルトランスフェラーゼの変異体であるSNAP-tagであってよい。重要なことには、SNAP-tagの基質の1つはベンジルグアニンである。本発明に有用な市販製品には、例えば、PromegaからのHaloTag、Life TechnologiesからのLumio Tag、およびNEBからのSNAP/CLIP Tagが含まれる。
【0028】
当業者は、抗タグ抗体、ストレプトアビジン-ビオチン、または化学的架橋などの、リガンドをカプシドに結合させるためのさらなる方法を十分に認識している。公知の方法のいずれも、本発明との関連において使用することができる。例えば、非天然アミノ酸をカプシドにもリガンドにも組み込むことができる。続いて、生体直交型架橋剤などの架橋剤を使用して、リガンドをカプシドに共有結合させることができる。さらなる例では、ホスフィンまたはジベンゾシクロオクチン基をカプシドに組み込み、かつアジドをリガンドに組み込むことができ、またはその逆も同様である。次いで、シュタウディンガー反応または歪み促進型クリック反応により、リガンドをカプシドに共有結合させることができる。
【0029】
任意の種類のリガンドを、前記リガンド結合部位に結合させることができる。好ましくは、結合対象のリガンドは、増殖因子またはサイトカインなどのタンパク質リガンド;コレラ毒素Bサブユニットなどの毒素サブユニット;イソレクチンB4またはコムギ胚芽凝集素などのレクチン;ラクトアドヘリンなどの接着因子;抗CD-34抗体などの抗体;デルトルフィンオピオイド受容体リガンドなどのペプチド;およびCas9などの遺伝子編集ヌクレアーゼより選択される。
【0030】
本発明のアデノ随伴ウイルス (AAV) 粒子の内部にパッケージングされる核酸分子は、任意の種類の核酸分子であってよい。好ましくは、該核酸分子は、細胞内抗体(例えば、細胞内のある特定のタンパク質を中和するため)をコードする核酸分子、ペプチド毒素(例えば、疼痛経路におけるイオンチャネルを遮断するため)をコードする核酸分子、光遺伝学的アクチュエータ(例えば、光を用いてニューロン活動をオンまたはオフにするため)をコードする核酸分子、薬理遺伝学的ツール(例えば、干渉する薬理作用を持たない化学的リガンドを使用してニューロンシグナル伝達をオンまたはオフにするため)をコードする核酸分子、精密な遺伝子編集のためのCRISPRベースのエディターをコードする核酸分子、遺伝子発現を調節するためのCRISPR-エピジェニティックツールをコードする核酸分子、および/または、細胞死を誘導するための自殺遺伝子をコードする核酸分子である。
【0031】
好ましくは、リガンドがCas9などの遺伝子編集ヌクレアーゼである場合、本発明のアデノ随伴ウイルス (AAV) 粒子は、宿主ゲノムに挿入しようとするgRNAおよび/または特異的DNAなどの核酸分子をカーゴとしてさらに保有する。
【0032】
当業者は、Cpfl、TALEN、ZFN、またはホーミングエンドヌクレアーゼなどの、Cas9とは別の他の遺伝子編集ヌクレアーゼを認識している。さらに、DNAガイドアルゴノート干渉システム (DAIS) を用いて操作することが簡便であり得る。基本的に、該アルゴノート (Ago) タンパク質は、予め選択された遺伝子座に対する切断の特異性を該Agoタンパク質に提供する少なくとも1つの外因性オリゴヌクレオチド(DNAガイド)の存在下で、前記細胞に導入されたポリヌクレオチドから異種的に発現される。TALENおよびCas9システムは、それぞれWO 2013/176915およびWO 2014/191128に記載されている。ジンクフィンガーヌクレアーゼ (ZFN) は、Kim, YG; Cha, J.; Chandrasegaran, S.(「Hybrid restriction enzymes: zinc finger fusions to Fok I cleavage domain」(1996). Proc Natl Acad Sci USA 93 (3): 1156-60) に初めて記載されている。Cpf1は、Zhangら(Cpf1 is a single RNA-guided Endonuclease of a Class 2 CRIPR-Cas System. (2015). Cell;163:759-771)によって記載されているクラス2 CRISPR Casシステムである。アルゴノート (AGO) 遺伝子ファミリーは、Guo S, Kemphues KJ. (Par-1, a gene required for establishing polarity in C. elegans embryos, encodes a putative Ser/Thr kinase that is asymmetrically distributed. (1995). Cell;81(4):611-20) に初めて記載された。
【0033】
次いで、本発明の別の局面は、疾患の処置において使用するための本発明によるAAV粒子に関する。
【0034】
本発明に従って使用するためのAAV粒子によって、任意の種類の疾患を処置または予防することができる。好ましくは、本発明に従って使用するためのAAV粒子によって処置または予防しようとする疾患は、遺伝子治療によって処置され得る疾患、例えば、がん、遺伝性網膜疾患などの遺伝性単一遺伝子疾患、オルムステッド症候群もしくは家族性原発性限局性皮膚アミロイドーシスなどの遺伝性皮膚疾患、感染症、副腎白質ジストロフィー、α-1アンチトリプシン欠乏症、芳香族L-アミノ酸欠損症、バッテン病、ベッカー型筋ジストロフィー、βサラセミア、カナバン病、慢性肉芽腫性疾患、クリグラー・ナジャー症候群、嚢胞性線維症、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、ファブリー病、家族性大腸腺腫症、家族性高コレステロール血症、家族性レシチン・コレステロールアシルトランスフェラーゼ欠損症、ファンコニ貧血、ガラクトシアリドーシス、ゴーシェ病、脳回転状萎縮症、血友病A、血友病B、ハーラー症候群(ムコ多糖症I型)、ハンター症候群(ムコ多糖症II型)、ハンチントン舞踏病、接合部型表皮水疱症、遅発性小児神経セロイドリポフスチン症、白血球接着不全症、肢帯型筋ジストロフィー、リポタンパク質リパーゼ欠損症、異染性白質ジストロフィー、スライ症候群(ムコ多糖症VII型)、ネザートン症候群、オルニチントランスカルバミラーゼ欠損症、ポンペ病、プリンヌクレオシドホスホリラーゼ欠損症、劣性栄養障害性表皮水疱症、サンフィリポA(ムコ多糖症IIIA型)、サンフィリポB(ムコ多糖症IIIB型)、鎌状赤血球症、重症複合免疫不全症、脊髄性筋萎縮症、テイ・サックス病、ウィスコット・アルドリッチ症候群、フォン・ギールケ病(糖原病Ia型)、X連鎖性筋細管ミオパチー、末期腎不全の貧血、狭心症(安定、不安定、難治性)、冠動脈狭窄症、重症虚血肢、心不全、間欠性跛行、心筋虚血、末梢血管疾患、肺高血圧症、静脈性潰瘍、アデノウイルス感染症、サイトメガロウイルス感染症、エプスタイン・バーウイルス感染症、B型肝炎感染症、C型肝炎感染症、HIV/AIDS、インフルエンザ、日本脳炎、マラリア、小児呼吸器疾患、呼吸器合胞体ウイルス、破傷風、結核、婦人科がん、乳がん、卵巣がん、子宮頸がん、外陰がん、神経系がん、神経膠芽腫、軟髄膜癌腫症、神経膠腫、星状細胞腫、神経芽細胞腫、網膜芽細胞腫、消化器がん、結腸がん、結腸直腸がん、肝転移、肝炎後肝がん、膵臓がん、胆嚢がん、肝細胞がん、泌尿生殖器がん、前立腺がん、腎がん、膀胱がん、肛門生殖器新生物、皮膚がん、メラノーマ(悪性/転移性)、頭頸部がん、上咽頭がん、扁平上皮がん、食道がん、肺がん、腺がん、小細胞がん/非小細胞がん、中皮腫、血液がん、白血病、リンパ腫、多発性骨髄腫、肉腫、胚細胞がん、リ・フラウメニ症候群、甲状腺がん、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、手根管症候群、慢性外傷性脳損傷、肘部管症候群、糖尿病性神経障害、てんかん、巨大軸索ニューロパチー、遅発性小児神経セロイドリポフスチン症、多発性硬化症、重症筋無力症、疼痛、パーキンソン病、末梢神経障害、脊髄性筋萎縮症2型、色覚異常、加齢黄斑変性症、コロイデレミア、糖尿病黄斑浮腫、緑内障、レーバー先天性黒内障、黄斑部毛細血管拡張症2型、網膜色素変性症、点状角膜混濁、X連鎖性網膜分離症、関節炎(リウマチ性、炎症性、変性性)、変性関節疾患、重症炎症性直腸疾患、潰瘍性大腸炎、慢性腎疾患、糖尿病性潰瘍/足部潰瘍、排尿筋過活動、勃起不全、骨折、難聴、遺伝性封入体ミオパチー、移植片対宿主病/移植患者、口腔粘膜炎、耳下腺唾液腺機能低下症、全身性強皮症 (scleoderma)、I型糖尿病、ならびに/または創傷治癒などである。
【0035】
本明細書で用いられる「予防すること、および/または阻害すること」という用語は、既存の疾患を処置することを含むものとする。処置、予防、および/または阻害は、例えば、疾患進行を処置する、遅らせる、もしく緩和すること、疾患もしくは状態の症状を軽減すること、または疾患もしくは状態を治癒することを含むことが意図される。「有効量」とは、上に挙げた疾患のいずれかなどの、処置しようとする疾患に見られる症状を緩和する、本発明のAAV粒子の量である。緩和することは、例えば、疾患または状態を予防する、処置する、その症状を軽減する、または治癒することを含むことが意図される。本発明はまた、疾患の発生および/または進行のリスクがある対象を処置するための方法であって、この発明の本発明のAAV粒子の治療有効量が患者に投与される方法を含む。疾患のリスクがあることは、例えば、疾患の素因となる表現型症状に起因し得る。本明細書で用いられる場合、対象との関連において用いられる場合の「予防」または「予防すること」という用語は、疾患、特に疾患に関連する症状の発生または発症を止める、妨げる、および/または遅らせることを指す。
【0036】
本発明のさらに別の態様は、疾患の処置において使用するための上記のAAV粒子に関係し、この場合、該AAVは、液体、乾燥、または半固体形態で、例えば、錠剤、コーティング錠、発泡錠、カプセル剤、散剤、顆粒剤、糖衣錠、トローチ剤、丸剤、アンプル、ドロップ剤、坐剤、乳剤、軟膏剤、ゲル剤、チンキ、ペースト、クリーム、湿布、うがい液、植物汁液、鼻腔剤、吸入混合物、エアロゾル、口腔洗浄液、口腔スプレー、鼻用スプレー、またはルームスプレーの形態などで、対象に投与される。
【0037】
次いで、本発明の別の局面は、改良型アデノ随伴ウイルス (AAV) 粒子を生成する方法であって、少なくとも1つの改変を該AAVのカプシドに導入する段階を含む方法に関し、好ましくは、この場合、該改変は、少なくとも1つのリガンド結合部位を該カプシドに導入することを含み、任意に、該カプシド中の天然の結合部位は除去され、例えば前もって除去される。
【0038】
上述したように、前記カプシド中の前記天然結合部位が存在し、除去されず、少なくとも1つの付加的なリガンド結合部位が改変によって該カプシドに導入される場合、本発明のアデノ随伴ウイルス (AAV) 粒子は、使用されるウイルス粒子のより低い力価より高い感染率を有する。反対に、改変によって少なくとも1つの付加的なリガンド結合部位を該カプシドに導入する前に、該カプシド中の該天然結合部位が除去される場合、本発明のアデノ随伴ウイルス (AAV) 粒子の指向性が改変される。
【0039】
上記の方法によって生成されるアデノ随伴ウイルス (AAV) 粒子は、好ましくは、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、およびそれらの混合物より選択される。
【0040】
上記の方法によって生成しようとするアデノ随伴ウイルス (AAV) 粒子のタンパク質のいずれかを、改変することができる。好ましくは、上記の方法において、前記カプシド中のタンパク質VP1、VP2、またはVP3のうちの少なくとも1つが改変される。あるいは、該カプシド中のタンパク質VP1、VP2および/もしくはVP3のうちの2つが改変されるか、または該カプシド中のタンパク質VP1、VP2、およびVP3の3つすべてが改変される。好ましくは、該カプシド中の改変対象のタンパク質のうちの少なくとも1つの少なくとも1つの部分、例えば1個のアミノ酸が改変される。しかしながら、該カプシド中のタンパク質VP1、VP2、およびVP3の複数の部分、例えば複数のアミノ酸、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、または任意の他の数の部分またはアミノ酸を改変することもまた可能である。好ましくは、VP1のアルギニン484、487、585、および588、ならびにリジン532、ならびに/またはVP2もしくはVP3の類似のアルギニンのうちの少なくとも1つが、それらをアラニンなどの異なるアミノ酸で置換することによって除去される。
【0041】
VP1、VP2、またはVP3などのタンパク質は、特定のアミノ酸を反応させることによって化学的に修飾することができる。そのような修飾の例は、当技術分野で周知であり、例えば、参照により本明細書に組み入れられる、R. Lundblad, Chemical Reagents for Protein Modification, 3rd edition, CRC Press, 2005に要約されている。アミノ酸の化学修飾には、これらに限定されないが、アシル化、アミジン化、リジンのピリドキシル化、還元的アルキル化、2,4,6-トリニトロベンゼンスルホン酸 (TNBS) によるアミノ基のトリニトロベンジル化、カルボキシル基のアミド修飾、およびシステインのシステイン酸への過ギ酸酸化によるスルフィドリル修飾、水銀誘導体の形成、他のチオール化合物との混合ジスルフィドの形成、マレイミドとの反応、ヨード酢酸またはヨードアセトアミドによるカルボキシメチル化、ならびにアルカリ性pHでのシアン酸によるカルバモイル化による修飾が含まれるが、これらに限定されない。この点において、当業者は、タンパク質の化学修飾に関するより広範囲の方法論について、Current Protocols In Protein Science, Eds. Coligan et al. (John Wiley & Sons NY 1995-2000) の15章を参照されたい。
【0042】
前記カプシド改変が、天然結合部位の除去およびリガンド結合部位の導入の両方を含む、改良型アデノ随伴ウイルス (AAV) 粒子を生成するための上記方法が好ましい。あるいは、該AAVの天然結合部位は変化しない、すなわち除去されなくてもよいが、少なくとも1つのリガンド結合部位が導入される。
【0043】
好ましい態様において、前記天然結合部位は、改良型アデノ随伴ウイルス (AAV) 粒子を生成するための上記方法によって除去され、この場合、該天然結合部位は、ヘパラン硫酸プロテオグリカンへの結合を可能にする天然結合部位であり、好ましくは、VP1のアルギニン585および588、ならびに/またはVP2もしくはVP3の類似のアルギニンのうちの少なくとも1つを、アラニンなどの異なるアミノ酸で置換することによって除去される。
【0044】
導入されるリガンド結合部位が、リガンドの共有結合を可能にするものであり、好ましくは、利用可能なリジン残基に結合しているベンジルグアニン基より選択され、より好ましくは、前記カプシドをベンジルグアニンN-ヒドロキシスクシンイミド (BG-NHS) および/またはベンジルシトシンN-ヒドロキシスクシンイミド (BC-NHS) と反応させることによることが、より好ましい。
【0045】
本発明は、好ましくは、SNAP-tag、CLIP-tag、Halo-Tag、Lumio-Tag、およびその他などの、高親和性でその特異的リガンドに結合し得るタグを利用する。上記の方法において導入されるタグ分子は、さらなる分子に特異的に結合することができる任意の分子または生体分子であってよい。例には、SNAP-tag、CLIP-tag、Lumio-tag、またはHalo-tagが含まれ得る。例えば、アフィニティタグは、アルキルグアニン-DNAアルキルトランスフェラーゼの変異体であるSNAP-tagであってよい。重要なことには、SNAP-tagの基質の1つはベンジルグアニンである。本発明に有用な市販製品には、例えば、PromegaからのHaloTag、Life TechnologiesからのLumio Tag、およびNEBからのSNAP/CLIP Tagが含まれる。導入される前記リガンド結合部位は、好ましくは、前記の利用可能なリジン残基のε-アミノ基または1級アミンに結合している。
【0046】
したがって、前記ベンジルグアニンおよび/または前記ベンジルシトシン基にリガンド、特にHaloTag(商標)、SNAP-tag(商標)、またはCLIP-tag(商標)を結合させる段階をさらに含む、改良型アデノ随伴ウイルス (AAV) 粒子を生成するための上記方法が、さらに好ましい。
【0047】
結合対象の前記リガンドは、任意の種類のリガンドであってよいが、好ましくは、増殖因子またはサイトカインなどのタンパク質リガンド;コレラ毒素Bサブユニットなどの毒素サブユニット;イソレクチンB4またはコムギ胚芽凝集素などのレクチン;ラクトアドヘリンなどの接着因子;抗CD-34抗体などの抗体;デルトルフィンオピオイド受容体リガンドなどのペプチド;およびCas9などの遺伝子編集ヌクレアーゼより選択される。
【0048】
次いで、本発明のさらなる局面は、本発明によるAAV粒子をそれを必要とする対象に投与する段階を含む、遺伝子治療によって処置され得る疾患を処置するための方法に関する。
【0049】
本発明との関連において、ある特定の態様において用いられる場合の「対象」という用語は、好ましくは、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、サル、または好ましくはヒトなどの哺乳動物を指す。「患者」という用語は、好ましくは、診断、予後診断、または治療が望まれる、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ウマ、畜牛、乳牛、ネコ、イヌ、サル、または好ましくはヒトなどの哺乳動物、例えばヒト患者を指す。本発明の対象は、細菌感染症、ウイルス感染症、真菌感染症、または寄生虫感染症などの疾患に罹患する危険性があり得る。本発明の観点から関連性のある医学的適応症のより詳細な説明は、本明細書の他所に提供される。
【0050】
本発明のAAV粒子で処置される細胞および/または対象は、好ましくは、ヒト起源などの哺乳動物起源のものである。それにもかかわらず、本発明は、細胞への侵入機構の類似性に応じて、獣医学、細胞培養手順において、またはさらには植物細胞疾患においても有利に使用することができる。好ましくは、処置される該細胞は、哺乳動物細胞、原核生物細胞、または植物細胞である。最も好ましくは、処置される該細胞はヒト細胞である。
【0051】
本発明のさらに別の態様は、本発明によるAAV粒子をそれを必要とする対象に投与する段階を含む、疾患を処置するための上記の方法に関係し、この場合、該AAV粒子は、液体、乾燥、または半固体形態で、例えば、錠剤、コーティング錠、発泡錠、カプセル剤、散剤、顆粒剤、糖衣錠、トローチ剤、丸剤、アンプル、ドロップ剤、坐剤、乳剤、軟膏剤、ゲル剤、チンキ、ペースト、クリーム、湿布、うがい液、植物汁液、鼻腔剤、吸入混合物、エアロゾル、口腔洗浄液、口腔スプレー、鼻用スプレー、またはルームスプレーの形態などで、対象に投与される。
【0052】
AAV粒子を対象に投与する段階を含む、疾患を処置するための上記の方法によって処置される疾患は、好ましくは、がん、遺伝性網膜疾患などの遺伝性単一遺伝子疾患、オルムステッド症候群もしくは家族性原発性限局性皮膚アミロイドーシスなどの遺伝性皮膚疾患、感染症、副腎白質ジストロフィー、α-1アンチトリプシン欠乏症、芳香族L-アミノ酸欠損症、バッテン病、ベッカー型筋ジストロフィー、βサラセミア、カナバン病、慢性肉芽腫性疾患、クリグラー・ナジャー症候群、嚢胞性線維症、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、ファブリー病、家族性大腸腺腫症、家族性高コレステロール血症、家族性レシチン・コレステロールアシルトランスフェラーゼ欠損症、ファンコニ貧血、ガラクトシアリドーシス、ゴーシェ病、脳回転状萎縮症、血友病AおよびB、ハーラー症候群(ムコ多糖症I型)、ハンター症候群(ムコ多糖症II型)、ハンチントン舞踏病、接合部型表皮水疱症、遅発性小児神経セロイドリポフスチン症、白血球接着不全症、肢帯型筋ジストロフィー、リポタンパク質リパーゼ欠損症、異染性白質ジストロフィー、スライ症候群(ムコ多糖症VII型)、ネザートン症候群、オルニチントランスカルバミラーゼ欠損症、ポンペ病、プリンヌクレオシドホスホリラーゼ欠損症、劣性栄養障害性表皮水疱症、サンフィリポA(ムコ多糖症IIIA型)、サンフィリポB(ムコ多糖症IIIB型)、鎌状赤血球症、重症複合免疫不全症、脊髄性筋萎縮症、テイ・サックス病、ウィスコット・アルドリッチ症候群、フォン・ギールケ病(糖原病Ia型)、X連鎖性筋細管ミオパチー、末期腎不全の貧血、狭心症(安定、不安定、難治性)、冠動脈狭窄症、重症虚血肢、心不全、間欠性跛行、心筋虚血、末梢血管疾患、肺高血圧症、静脈性潰瘍、アデノウイルス感染症、サイトメガロウイルス感染症、エプスタイン・バーウイルス感染症、B型肝炎感染症、C型肝炎感染症、HIV/AIDS、インフルエンザ、日本脳炎、マラリア、小児呼吸器疾患、呼吸器合胞体ウイルス、破傷風、結核、婦人科がん、乳がん、卵巣がん、子宮頸がん、外陰がん、神経系がん、神経膠芽腫、軟髄膜癌腫症、神経膠腫、星状細胞腫、神経芽細胞腫、網膜芽細胞腫、消化器がん、結腸がん、結腸直腸がん、肝転移、肝炎後肝がん、膵臓がん、胆嚢がん、肝細胞がん、泌尿生殖器がん、前立腺がん、腎がん、膀胱がん、肛門生殖器新生物、皮膚がん、メラノーマ(悪性/転移性)、頭頸部がん、上咽頭がん、扁平上皮がん、食道がん、肺がん、腺がん、小細胞がん/非小細胞がん、中皮腫、血液がん、白血病、リンパ腫、多発性骨髄腫、肉腫、胚細胞がん、リ・フラウメニ症候群、甲状腺がん、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、手根管症候群、慢性外傷性脳損傷、肘部管症候群、糖尿病性神経障害、てんかん、巨大軸索ニューロパチー、遅発性小児神経セロイドリポフスチン症、多発性硬化症、重症筋無力症、疼痛、パーキンソン病、末梢神経障害、脊髄性筋萎縮症2型、色覚異常、加齢黄斑変性症、コロイデレミア、糖尿病黄斑浮腫、緑内障、レーバー先天性黒内障、黄斑部毛細血管拡張症2型、網膜色素変性症、点状角膜混濁、X連鎖性網膜分離症、関節炎(リウマチ性、炎症性、変性性)、変性関節疾患、重症炎症性直腸疾患、潰瘍性大腸炎、慢性腎疾患、糖尿病性潰瘍/足部潰瘍、排尿筋過活動、勃起不全、骨折、難聴、遺伝性封入体ミオパチー、移植片対宿主病/移植患者、口腔粘膜炎、耳下腺唾液腺機能低下症、全身性強皮症、I型糖尿病、ならびに創傷治癒、またはそれらの組み合わせより選択される疾患である。
【0053】
本発明によるAAV粒子をそれを必要とする対象に投与する段階を含む、疾患を処置するための方法がさらに好ましく、この場合、該AAV粒子は、例えば、薬学的に許容される添加剤、担体、希釈剤、溶媒、フィルター、潤滑剤、賦形剤、結合剤、または安定剤と組み合わせた薬学的組成物の形態で、該対象または細胞に投与される。好ましくは、該組成物は、スプレー、コーティング、フォーム、ローション、ゲル、口腔洗浄液、経口製剤、または注射剤の形態で、該対象に投与される。該組成物は、全身的に、経口的に、または臨床的/医学的に許容される任意の他の方法により、該対象に投与することができる。
【0054】
次いで、本発明のさらなる局面は、本発明によるAAV粒子を、少なくとも1つの薬学的に許容される担体および/または希釈剤と一緒に、すなわち、薬学的に許容される添加剤、担体、希釈剤、溶媒、フィルター、潤滑剤、賦形剤、結合剤、または安定剤と組み合わせて含む薬学的組成物に関する。好ましくは、該組成物は、スプレー、コーティング、フォーム、ローション、ゲル、口腔洗浄液、経口製剤、または注射剤の形態で、該対象に投与される。該組成物は、全身的に、経口的に、または臨床的/医学的に許容される任意の他の方法により、該対象に投与することができる。
【0055】
次いで、本発明のさらなる局面は、以下を含むキットに関する:
a) 本発明に従って開示された、および/もしくは使用するためのAAV粒子、または本発明に従って開示されたAAV粒子を含む薬学的組成物、
b) 該AAV粒子または該薬学的組成物を前記標的に適用するための書面による説明書;ならびに
任意に、使用するためのAAV粒子または組成物および書面による説明書を保持する容器。
【0056】
本発明の別の局面は、前記処置を必要とする対象におけるウイルス感染症を予防する、処置する、および/または阻害するための上記キットの使用に関する。
【0057】
本発明のさらに別の局面は、例えば研究における遺伝子送達ツールとして、細胞のトランスフェクションにおいて使用するための、本発明によるAAV粒子に関する。該使用はまた美容目的であってもよく、本発明は、本明細書において開示される医学的処置と類似の美容処置のための方法を含む。このために、本発明によるAAV粒子を対象または細胞に投与することはまた、例えば、化粧品的に安全でかつ許容される添加剤、担体、希釈剤、溶媒、フィルター、潤滑剤、賦形剤、結合剤、または安定剤と組み合わせた化粧品組成物の形態で、達成することができる。好ましくは、該組成物は、スプレー、コーティング、フォーム、ローション、ゲル、口腔洗浄液、経口製剤、または注射剤の形態で、該対象に投与される。該組成物は、全身的に、経口的に、または臨床的/化粧品的に許容される任意の他の方法により、該対象に投与することができる。
【0058】
当業者は、WO 93/09239、US4797368、US5139941、およびEP 488 528に記載されているもののような、インビトロおよびインビボで遺伝子を導入するためのAAV由来のベクターを使用する方法を認識している。
【0059】
本発明の付加的な局面は、以下を含むキットに関する:
a) 細胞のトランスフェクション用のAAV粒子、
b) 細胞のトランスフェクション用のAAV粒子を使用するための書面による説明書;および
任意に、AAV粒子および書面による説明書を保持する容器。
【0060】
本発明の各局面の好ましい特徴は、必要な変更を加えて、他の局面のそれぞれにも当てはまる。本明細書において言及される先行技術文献は、法により許容される最大限の範囲で組み入れられる。本発明およびその利点を詳細に説明してきたが、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の精神および範囲から逸脱することなく、本明細書において様々な変更、置換、および改変を行うことができることが理解されるべきである。
【0061】
本発明を、以下の実施例および図面においてさらに例証するが、これらは例示目的でのみ提供され、決して本発明を限定することは意図されない。本発明の目的のために、引用された文献はすべて、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
図1】BG修飾ウイルスを伴ったSNAP tag付きリガンドの模式図を示す。
図2】本発明によるΔHSPGウイルス粒子が、感染活性をもはや有さないことを示す(暗い写真);この構築物は、蛍光レポーターマウスモデルの感覚ニューロンで試験した。挿入図は、細胞の位相差顕微鏡像を示す。
図3図2と同様に蛍光レポーターマウスモデルの感覚ニューロンで試験した場合に、コムギ胚芽凝集素(WGA)融合体によって、ウイルスの形質導入効率が100%まで完全に戻ったことを示す(蛍光細胞)。
図4】神経栄養因子NGF (A)、NT3 (B)、およびBDNF (C) が、ウイルスを異なるニューロン集団に送達することを示す。挿入図は細胞の顕微鏡像を示し、この構築物は、図2と同様に蛍光レポーターマウスモデルの感覚ニューロンで試験した。
図5】皮膚に注射された場合に、コレラ毒素Bサブユニットが、ウイルスを逆行性にニューロン細胞体に輸送したことを示す。挿入図は細胞の顕微鏡像を示し、この構築物は、図2と同様に蛍光レポーターマウスモデルの感覚ニューロンで試験した。
図6】TrkA(NGFの受容体)に対する抗体で染色した (B)、本発明によるNGFリガンドIVを有するウイルスを注射してから3週間後の三叉神経節の感覚ニューロン組織 (A) を示す。少なくとも80%の重複が見られ得る (C)。
図7】主に他のニューロン(それぞれ機械受容器(緑色/灰色)および非ペプチド作動性侵害受容器(青色/濃灰色))を標識するNF200およびIB4に対する抗体による、図6からの切片の染色を示す。赤色(薄灰色)の感染細胞は、大部分は緑色および青色の細胞とは異なる。
図8】リガンド結合ウイルスを用いた場合に、遺伝子送達がより効率的であることを示す。WGA修飾構築物では、送達が強く増加した (B)。A) 通常のAAV9変種PHP.S;B) WGAで修飾されたA) のPHP.S変種。
【発明を実施するための形態】
【実施例
【0063】
本発明との関連で行われた実験の目的は、ウイルスが関心対象の細胞のみに形質導入するように、アデノ随伴ウイルス (AAV) カプシドを操作することであった。これは、天然AAVカプシドタンパク質中の、細胞に対する天然結合部位を除去することによって達成された。次いで、改変されたウイルスを、選択的な制御されたリガンド結合を受容するように、適切に(特に化学的に)修飾する。次いで、このような所望のリガンドをウイルスに共有結合させ、インビトロでは細胞で、およびインビボではマウスで試験する。AAV2が用いられるが、これらの実施例は他のAAVカプシドにも同様に容易に適用することができる。
【0064】
1. AAV2における天然結合部位の除去
AAV2は、アルギニン585および588を介してヘパラン硫酸プロテオグリカンに結合する。これらの位置をアラニンに変異させて、欠失ΔHSPGを作製した。
【0065】
プラスミドpTAV2-0は、pBluescript IIのBamHI部位にクローニングされた、両方の逆位末端反復を含む、pAV-2からのAAV-2ゲノム全体を含む。AAV-2の適切な断片を含むサブプラスミドを作製し、部位特異的変異誘発反応の鋳型として使用した。変異誘発は、製造業者のプロトコールに従って、Stratagene (Amsterdam, The Netherlands) QuikChange部位特異的変異誘発キットを用いて行った。各変異体について、変異のそれぞれの側に15~20個の相補的塩基対が隣接している、置換の配列を含むように、2つの相補的PCRプライマーを設計した。変異プラスミドを、DNA配列決定により同定した。次いで、適切な変異を含む断片を、タンパク質の残りの部分を含むプラスミド骨格(例えば、pTAV2-0)にサブクローニングし、完全な断片を配列決定して、付加的なPCR変異について調べた。
【0066】
2. リガンドを受容するためのΔHSPGの化学修飾
典型的に、リガンドのタンパク質への選択的結合、例えばタンパク質の標識は、生体直交型の基をタンパク質に組み込んだ後に、化学選択的な修飾を行うことにより達成される。このアプローチはまた、「タグおよび修飾」とも称される。種々の生体直交型反応が開発されており、それらは、(1) カルボニルを介した縮合反応、(2) アジドを介した「クリック」反応、(3) 逆電子要請型ディールズ・アルダー環化付加 (DAINV) およびその他の環化付加反応、(4) 遷移金属触媒によるカップリングおよびデケージング反応、ならびに (5) システイン残基における標識反応に分類され得る。
【0067】
続いて、ウイルスをベンジルグアニンNHSエステル(SNAP tag基質つまりBG--NHS)と反応させることにより、露出したリジンにベンジルグアニン (BG) を結合させた。このために、乾燥SNAP tagリガンドBG-NHSを含むバイアルに、針を用いて非水性DMSOを室温で所望の最終濃度(例えば、20 mM)になるように添加した。アミン官能化対象のタンパク質を、溶媒 (PBS) で所望の最終濃度に希釈した。2つの調製物を混合し、室温で180分間インキュベートした後、遠心100Kda MWCOフィルターユニットを用いて未反応成分を除去した。
【0068】
3. リガンドの共有結合
このシステムを使用するための2つの段階が存在する:関心対象のタンパク質のSNAP-tag(登録商標)融合体としてのクローニングおよび発現、ならびに選択されたSNAP-tag基質による融合体の標識。SNAP-tagは、DNA修復タンパク質であるヒトO6-アルキルグアニン-DNA-アルキルトランスフェラーゼ (hAGT) に基づく低分子タンパク質である。この場合のSNAP-tag基質は、ベンジルリンカーに結合したグアニン離脱基である。標識反応では、基質の置換ベンジル基がSNAP-tagに共有結合する。
【0069】
SNAP-tagタンパク質標識システムにより、事実上あらゆる分子を関心対象のタンパク質に特異的に共有結合させることが可能になる(本発明については、以下の4.を参照されたい)。
【0070】
C末端SNAP tagを有する組換えリガンドは、大腸菌 (E. coli) または哺乳動物細胞において懸濁培養で生成した。共有結合のために、次いで、飽和濃度のリガンドを添加し、室温で一晩インキュベートすることにより、SNAP tag付きリガンドをBG修飾ウイルスに結合させた(図1を参照されたい)。過剰な非反応性リガンドは、遠心100Kda MWCOフィルターユニットに反応物を通すことにより除去した。
【0071】
本発明のために、関心対象の遺伝子をクローニングするための制限部位が隣接したSNAP-tag(登録商標)をコードする哺乳動物発現プラスミド (pSNAPf) を含むSNAP-Cell(登録商標)スターターキット (NEB) の説明書に従い、本目的のために変更を加えて、実験を行った。
【0072】
4. インビトロおよびインビボ試験
本発明との関連において、上記の戦略を、複数のクラスのリガンド、すなわち、増殖因子、サイトカイン等のようなタンパク質リガンド;コレラ毒素Bサブユニットのような毒素サブユニット;イソレクチンB4またはコムギ胚芽凝集素などのレクチン;ラクトアドヘリンのような接着因子;抗CD-34(幹細胞のマーカー)などの抗体;およびデルトルフィンオピオイド受容体リガンドなどのペプチドを用いて試験した。
【0073】
最初に、本発明によるΔHSPGウイルス粒子は、蛍光レポーターマウスモデルの感覚ニューロンで試験して、感染活性をもはや有さないことが示された(図2)。同じ蛍光レポーターマウスモデルの感覚ニューロンで試験した場合に、コムギ胚芽凝集素(WGA、レクチン)融合体によって、ウイルスの形質導入効率は100%まで完全に戻った(図3)。
【0074】
次いで、いくつかの因子を試験したところ、神経栄養因子NGF、NT3、およびBDNF(タンパク質リガンド)は、蛍光レポーターマウスモデルにおいて、使用された因子に応じて、ウイルスを異なる特定のニューロン集団に送達した(図4)。コレラ毒素Bサブユニット(毒素)は、ウイルスを逆行性にニューロン細胞体に特異的に誘導した(すなわち、細胞区画/部分に特異的)(図5)。同様の試験において、ラクトアドヘリン(接着因子)は、ホスファチジルセリンを露出しているマクロファージおよびニューロンにウイルスを特異的に誘導し、ならびにデルトルフィン(ペプチド)は、μおよびδオピオイド受容体を発現しているニューロンにウイルスを特異的に誘導した。
【0075】
図6に示される実験では、NGFリガンドIVを有するウイルスを三叉神経節に注射し、次いで3週間後に感覚ニューロン組織を採取して解析した。切片化した組織を、TrkA(NGFの受容体)に対する抗体で染色したところ、非常に良好な重複が見出された。TrkA抗体は完全ではないため、80%の重複は極めて関連性がある。
【0076】
図7に示される実験では、図6からの切片を、他のニューロン(それぞれ機械受容器および非ペプチド作動性侵害受容器)を標識するNF200およびIB4に対する抗体で染色した。この場合も同様に、これらのマーカーは完全ではないが、緑色および青色の細胞が赤色の感染細胞とは異なることが見られ得る。
【0077】
陰性対照として、IL31受容体ノックアウトマウスにIL31リガンドをウイルスで導入しても、感染は起こらない。
【0078】
要約すると、すべてのリガンド標識ウイルスは、インビトロで培養細胞に適用した場合、およびインビボでマウスに注射した場合の両方で、それぞれの受容体を発現している細胞のみに成功裏にかつ特異的に形質導入し、すなわち、全身または局所に注射し、異なる細胞集団を選択的に標的とすることができる。
【0079】
リガンド結合AAを用いた付加的なインビボ試験
A) TrkA+侵害受容器の標的化
本実施例では、末梢神経系のTrkA+侵害受容器をリガンド結合AAVで標的化した。TrkAに結合するがTrkAを活性化しないNGFR121Wリガンドを、tdTomatoカーゴを有する上記のΔHSPG-AAV2にコンジュゲートした。この構築物を、マウスの皮下、神経内、後眼窩、または腹腔内に注射した。3週間後、TrkA抗体を用いて蛍光を検出し、定量化した。
【0080】
後眼窩適用について、TrkA+細胞の80%がNGF-AAVによって感染したことが判明した。NGF-AAV感染細胞の83%がTrkA+であった。異なる投与経路は、それらの非常に効果的な結果に有意な差がないこともまた判明した。
【0081】
B) IL31RA+かゆみ受容体の標的化
本実施例では、IL31RAをリガンド結合AAVで標的化した。IL31RAに結合するがIL31RAを活性化しないIL31K134Aリガンドを、tdTomatoカーゴを有する上記のΔHSPG-AAV2にコンジュゲートした。この構築物を、野生型マウスおよびIL31RAノックアウトマウスに注射した。3週間後、ケラチン14抗体を用いて蛍光を検出した。標的化された細胞は、基本的にK14について完全に陽性であることが判明した。重要なことには、IL31RAノックアウトマウスでは、蛍光は検出されなかった。
【0082】
C) イソレクチンB4を伴うAAVを用いた標的化
本実施例では、イソレクチンB4 (IB4) を、tdTomatoカーゴを有する上記のΔHSPG-AAV2にコンジュゲートした。IB4は、血管系、非ペプチド作動性侵害受容器、および/またはミクログリアのマーカーとして用いることができる。この構築物を、皮下、神経内、または脊髄内に注射した。3週間後、蛍光を検出した。標的化された細胞は、投与経路に関わらず、基本的に完全に陽性であることが判明した。
【0083】
D) コムギ胚芽凝集素を伴うAAVを用いた標的化
本実施例では、コムギ胚芽凝集素 (WGA) を、tdTomatoカーゴを有する上記のΔHSPG-AAV2にコンジュゲートした。WGAは、N-アセチルグルコサミンおよび大部分のニューロンの膜に結合し、(経シナプス)トレーサーとして用いられる。この構築物を、P1新生仔マウスのi.v.に、または成体マウスの皮質内に注射した。3週間後、蛍光を検出した。
【0084】
リガンド結合ウイルスを用いた場合に、遺伝子送達がより効率的であることが判明した(図8を参照されたい)。培養DRGニューロンにAAV9変種PHP.S (1E+9 VG) を感染させたところ、上記のWGA修飾構築物では、送達が強く増加することが判明した(図8Bを参照されたい)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【国際調査報告】