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特表2022-531908制御された環境で光合成が可能な生物を成長させるための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-12
(54)【発明の名称】制御された環境で光合成が可能な生物を成長させるための方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 33/00 20060101AFI20220705BHJP
   C12N 1/12 20060101ALI20220705BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20220705BHJP
   A01G 31/00 20180101ALI20220705BHJP
   A01G 7/00 20060101ALI20220705BHJP
【FI】
A01G33/00
C12N1/12 A
C12M1/00 C
A01G31/00 612
A01G7/00 601A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021566214
(86)(22)【出願日】2020-05-08
(85)【翻訳文提出日】2021-12-21
(86)【国際出願番号】 NL2020050296
(87)【国際公開番号】W WO2020226500
(87)【国際公開日】2020-11-12
(31)【優先権主張番号】19173537.2
(32)【優先日】2019-05-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521485829
【氏名又は名称】オーアンドエヌ ベー. ヴェー.
【氏名又は名称原語表記】O&N B.V.
【住所又は居所原語表記】Gysbert Japicxlaan 26 8701 DV Bolsward (NL)
(74)【代理人】
【識別番号】100116850
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 隆行
(74)【代理人】
【識別番号】100165847
【弁理士】
【氏名又は名称】関 大祐
(72)【発明者】
【氏名】ジャガー フィリップ グスタフ ヘンドリック
(72)【発明者】
【氏名】ハルショフ ヘンドリック ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ヴァン ベルゼン ディック
(72)【発明者】
【氏名】ステル ヤルノ
【テーマコード(参考)】
2B022
2B026
2B314
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
2B022DA02
2B026AA05
2B026AB08
2B314MA38
4B029AA02
4B029BB04
4B029BB12
4B029CC01
4B029DF10
4B065AA83X
4B065AA88X
4B065AA89X
4B065BC50
4B065CA60
(57)【要約】
本発明は、制御された環境で光合成が可能な生物を成長させるための方法、および上記方法を行うためのシステムに関する。本発明は、制御された条件下で光合成が可能な生物を成長させるための方法およびシステムであって、低エネルギー入力を使用する方法およびシステムを提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御された水性環境内で光合成が可能な水生生物を成長させるための方法であって、
前記制御された環境内に複数の光源が配置され、前記制御された環境の内側が、前記制御された環境の外側の光源からの光が前記制御された環境に進入しないように構成され、
前記方法が、光パルスを放出するように前記光源を制御すること、
前記制御された環境内の前記生物を前記光パルスに曝露すること、および
光パルス間の同期した暗期に前記生物を曝露すること、を含み、
前記光源が、発光ダイオード(LED)であり、
前記同期した暗期が、ミリ秒オーダーの長さを有し、
前記光パルスの長さが、ナノ秒(1~999ns)オーダー以下である
方法。
【請求項2】
前記暗期が、少なくとも3ミリ秒の長さを有する
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記暗期が、少なくとも5ミリ秒の長さを有する
請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記複数のダイオードベースの光源が、それぞれが所定の波長およびパルス長で光を放出するように構成された異なるタイプのダイオードベースの光源を備える
請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記光パルスが、アバランシェパルサLEDドライバによって制御される
請求項1から4のいずれか一項に記載の生物を成長させるための方法。
【請求項6】
前記制御された環境がバイオリアクタであり、前記生物が、藻類、例えば、微細藻類である
請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
光合成が可能な水生生物を成長させるためのシステムであって、
制御された環境であって、前記制御された環境内に複数の光源が配置され、前記制御された環境の内側が、前記制御された環境の外側の光源からの光の進入を完全に防止することができるように構成されたものと、
前記制御された環境内の光パルス間の暗期が同期するように、光パルスを放出するように前記光源を制御するように構成された光源ドライバと、を備え、
前記光源が、発光ダイオード(LED)であり、
前記暗期が、ミリ秒オーダーの長さを有し、
前記光パルスの長さが、ナノ秒(1~999ns)オーダー以下である
システム。
【請求項8】
前記光源ドライバが、アバランシェパルサLEDドライバである
請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
前記複数の光源が、それぞれが所定の波長およびパルス長で光を放出するように構成された異なるタイプの光源を備え、前記光源ドライバが、所定の波長およびパルス長の光パルスを放出するように各タイプの光源を別個に制御するように構成される
請求項7または8に記載のシステム。
【請求項10】
前記制御された環境がバイオリアクタであり、前記生物が、藻類、例えば、微細藻類である
請求項7から9のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項11】
前記バイオリアクタが、複数の分散型LEDを備える複数の光バーを備え、前記バーが、前記バイオリアクタの内側に延在する
請求項10に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御された環境で光合成が可能な生物を成長させるための方法、および上記方法を行うためのシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
光合成が可能な生物は、二酸化炭素および水を最終生成物である酸素および炭水化物に変換することによって、光エネルギーを化学エネルギーに変換する。このプロセスは光によってエネルギーを与えられる。
【0003】
藻類はそのような生物の一例を形成し、バイオマスの効率的な生成者としてよく知られている。光合成中、藻類は、水の存在下で二酸化炭素および光を利用して酸素およびバイオマスを生成する。藻類は、様々な目的のために、例えば、ヒトもしくは動物の栄養、医薬品またはバイオ燃料の供給源として使用され得る脂質、植物油およびタンパク質を産生する。藻類は、根、茎および花を有しないため、食用バイオマスへの藻類の変換は極めて効率的である。藻類は、制御された条件下で最もよく成長する。例えば、藻類は、温度および光の条件、特にその変動に敏感である。温度、COレベル、光および栄養素などの成長パラメータを制御することによって、藻類の収量が改善され得る。
【0004】
同じことが、地上の作物、顕花植物および観賞植物などの陸上培養にも当てはまる。
【0005】
植物成長のための人工光の使用は、例えば、発光ダイオード(LED)を使用することによって知られている。
【0006】
本発明者らは、人工光を利用する現行の成長システムが、効率に関して、特に必要とされる高エネルギー入力に関して制限を有することを見出した。
【0007】
米国特許第2016/0014974号明細書は、陸上植物用の積層培養システムを開示しており、3ミリ秒の光とそれに続く3ミリ秒の暗闇の光サイクルに植物を曝露することについて述べている。米国特許第2016/0014974号明細書は、藻類培養などの水生培養のためのその開示の適用性を開示も示唆もしていない。
【0008】
欧州特許第0214271号明細書は、液体培養で藻類を培養するためのプラントを開示しており、好ましいように比較的長い暗期と交互になる比較的弱い人工照明を示唆している。欧州特許第0214271号明細書は、光源として蛍光灯を開示している。光フラッシュは、ミリ秒までの持続時間を有するように開示されている。欧州特許第0214271号明細書には、液体中の藻類が暗所に保たれる時間と照明される時間との比が10:1であることがさらに開示されている。
【0009】
中国特許第108192801号明細書は、自然光が培養槽を通過することを可能にする光透過材料の培養槽を有する動的光バイオリアクタと、動的光を使用して微細藻類を培養する方法とを開示しており、ここで、光の質、光の強度、および明暗の頻度は調整することができる。中国特許第108192801号明細書では、自然光を通過させる光透過材料の槽が使用されるため、微細藻類が槽内で曝露される暗期を完全に同期させることは不可能である。さらに、中国特許第108192801号明細書は、どのようにして光の質、光の強度、および明暗の頻度を調整することができるかを開示していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第2016/0014974号明細書
【特許文献2】欧州特許第0214271号明細書
【特許文献3】中国特許第108192801号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、制御された条件下で光合成が可能な生物を成長させるための方法およびシステムであって、低エネルギー入力を使用する方法およびシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
一態様では、本発明は、制御された水性環境内で光合成が可能な水生生物を成長させるための方法であって、上記制御された環境内に複数の光源が配置され、上記制御された環境の内側が、上記制御された環境の外側の光源からの光が上記制御された環境に進入しないように構成され、方法が、光パルスを放出するように上記光源を制御すること、上記制御された環境内の生物を上記光パルスに曝露すること、および光パルス間の同期した暗期に上記生物を曝露すること、を含み、上記光源が発光ダイオード(LED)であり、同期した暗期が、ミリ秒オーダーの長さを有し、光パルスの長さが、ナノ秒(1~999ns)オーダー以下である方法に関する。
【0013】
第2の態様では、本発明は、光合成が可能な水生生物を成長させるためのシステムであって、制御された環境と、ここで、上記制御された環境内に複数の光源が配置され、上記制御された環境の内側が、上記制御された環境の外側の光源からの光の進入を完全に防止することができるように構成され、上記制御された環境内の光パルス間の暗期が同期するように、光パルスを放出するように上記光源を制御するように構成された光源ドライバと、を備え、上記光源が発光ダイオード(LED)であり、暗期が、ミリ秒オーダーの長さを有し、光パルスの長さが、ナノ秒(1~999ns)オーダー以下であるシステムに関する。
【0014】
第1の態様による方法は、第2の態様によるシステムを用いて行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、光の期間が完全な暗闇の期間によって中断され、これにより、上記生物の成長に必要なエネルギー量を大幅に減少させるように制御された光パルスから唯一の光源が来る条件下で光合成が可能な生物を成長させるという知見に基づいている。
【0016】
光合成は、バイオマスを生成するために使用することができる化学エネルギーに光エネルギーを変換するための、光合成が可能な生物による光光子の捕捉に基づく。
【0017】
自然界では、太陽光が光合成のための唯一の光源であり、日中に継続的に存在する。ただし、照らされた生物に到達し、照らされた生物によって「捕捉された」太陽光のごく一部が化学エネルギーおよびバイオマスに変換される。実際、本発明者らは、太陽光に曝露された光合成生物が、その活性のために非常に限られた量のこの光を利用するに過ぎないことを観察した。生物が曝露される太陽光の13%未満が化学エネルギーおよびバイオマスに変換され得ると推定されている。この理由の1つは、特定の波長を有する光のみが光合成機構によって利用され得るという事実にある。もう1つの理由は、光合成機構の動態が、個々の光合成系によって捕捉される連続する光子間に一定の遅延時間またはダウンタイムを必要とすることである。これを説明するために、光合成機構の動態を以下の段落で要約する。
【0018】
光源から放出された光子は、集光性色素複合体である生物の表面付近のアンテナ状構造体によって吸収される。この吸収の第1の工程は、フェムト秒からピコ秒しかかからない。次に、励起エネルギー状態(いわゆる励起子)が、いわゆるタンパク質間ホッピング(inter-protein hopping)および磁気共鳴によって光化学系IIの反応中心(PSIIまたは反応中心IIまたはP680)に伝達され、電子の励起を引き起こす。これには300~500psかかる。それはまた、PSIIを一般にP680*と呼ばれる還元された、すなわち「閉」状態に変化させるために、2つのそのような電子が生成されることを必要とする。PSIIが「閉」状態になると、追加の過剰な光子エネルギーはPSIIに伝達または吸収され得ない。次いで、この冗長な光子エネルギーは、様々なエネルギー散逸機構を介して放出され、したがって光合成の点では失われる。このように、この過剰な光子エネルギーは、化学エネルギーおよびバイオマスに変換されない。
【0019】
光合成機構の動態を続けると、P680*の低い酸化還元状態は、3~8ps以内に一次電子受容体フェオフィチンを還元し、その結果、PSIIが酸化される(一般にP680+と呼ばれる状態)。次いで、フェオフィチンは電子をプラストキノールに渡し、シトクロムb6fによるプラストキノールの酸化を含む線状電子伝達鎖の下方への電子の流れを開始し、最終的にNADPHへのNADPの還元をもたらす。これにより、葉緑体膜を横切るプロトン勾配が形成され、プロトン勾配はATP合成酵素によってATPの合成に使用され得る。ATPは、生命体における多くのプロセスを駆動するためのエネルギー源として使用される。PSIIは、光分解と呼ばれるプロセス中に水分子が分裂した際に、プロセスの開始時に失われた電子を取り戻す。PSIIが電子を取り戻すと、それは「開状態」に戻り、その後の光子を再び捕捉して新しい励起子を生成することができる。
【0020】
線状電子伝達鎖では最も遅い(3~5ms)、したがって制限的な工程は、シトクロムb6fによるプラストキノールの酸化であるが、鎖中の他のプロセス工程はピコ秒オーダーの時間を必要とする。
【0021】
言い換えれば、励起子を生成し、したがって光合成カスケードをトリガするためには(本明細書では「励起時間」と呼ばれる)フェムト秒/ピコ秒スケールの持続時間を有する光フラッシュのみを要するが、後続の励起子捕捉が再び起こり得るように所与のPSIIが再び再開するまでには(本明細書では「遅延時間」と呼ばれる)ミリ秒オーダー(約3~5ms)かかる。このミリ秒の遅延時間の間、励起子を生成するために使用することができない継続的な光子流に含まれる過剰な光子エネルギーは、光反射、非光化学的消光および熱などのエネルギー散逸機構を介して放出され、したがって光合成の点では失われる。このように、この過剰な光子エネルギーは、化学エネルギーおよびバイオマスに変換されない。実際、同時に、光へのPSIIの過剰な曝露は、代わりにいわゆる光阻害をもたらし得る。光阻害は、PSIIの様々な活性を阻害し、光合成効率の測定可能な低下をもたらす一連の反応を含む。光阻害は、露光によるPSIIへの事実上の、潜在的に長期にわたる損傷によって引き起こされる。光阻害はあらゆる波長で起こる。PSIIが多くの光に曝露されるほど、多くの損傷が発生し、その結果、さらに多くの光合成効率が悪影響を受ける。
【0022】
本発明の方法およびシステムを提供することにより、パルス間に同期した暗期を設けることによって不要で使用不可能な光子エネルギーを回避しながら、短い光パルスによって光合成機構を励起することが可能になるため、光合成機構を依然として最適に使用しながら、はるかに少ない光子エネルギーを使用することが可能になる。励起時間(fs/ps範囲)と遅延時間(ms)との間に持続時間の差が与えられると、これは、必要な光エネルギーの数桁の潜在的減少をもたらす。
【0023】
生物の成長過程は、あらゆる色素が休止状態に戻る完全な暗闇の期間を確保するために、光パルスの期間の合間に同期した暗期を含むことが不可欠である。言い換えれば、同期した暗期の終了時に、生物の光合成機構の色素はいずれも、光の短いパルスが利用可能なPSII分子のすべてではないにしても最大量を活性化することができるように開状態にリセットされ、それにより、NADPHへのNADPの還元をもたらす新しい電子伝達鎖がトリガされ、これにより、今度はATPの合成が可能になる。同期した暗期が存在しない場合、PSII分子のそのような同期したリセットを達成することは不可能であり、光反射および/または熱などのプロセスを介して光子エネルギーの損失がもたらされる。さらに、上記の光阻害は、完全な暗闇がない任意の瞬間に起こり得る。そのような完全な暗闇を設けるために、微生物が培養される水性環境は、上記制御された環境の外側の光源からの光の進入を完全に防止することができるように構成される。言い換えれば、生物を照明するための唯一の光源はLEDである。
【0024】
上述のように、光合成機構、特にPSIIの遅延時間は約3~5msである。したがって、あらゆるPSII分子の完全なリセットを可能にして過剰な光子エネルギーの使用を回避し、その有害な影響を防ぐために、ミリ秒(1~999ms)オーダーの同期した暗期は、少なくとも3ms、さらに好ましくは少なくとも5msの持続時間を有することが好ましい。したがって、好ましい実施形態では、同期した暗期は、ミリ秒オーダーの長さを有する。さらに好ましくは、暗期は、少なくとも3ミリ秒の長さを有する。最も好ましくは、暗期は、少なくとも5ミリ秒の長さを有する。それに対して、光合成を停止させないために、暗期は長すぎないことが好ましい。したがって、暗期は、好ましくは3~10ミリ秒、さらになお好ましくは5~10ms、最も好ましくは約5msである。
【0025】
一方、光合成機構の励起時間、すなわち光子を捕捉するのにかかる時間は非常に短く、すなわちフェムト秒/ピコ秒オーダーである。このように、光パルスの長さは、技術的に可能な限り短く選択されるべきである。光の非常に短いパルスを放出するのに適した光源は、ダイオードベースの光源、または発光ダイオード(LED)である。
【0026】
LEDは、非常に短い光パルスを主にもたらすことができる。LEDは、使用が容易であり、特定の波長の光を放出するように設計することができ、比較的安価である。
【0027】
本発明によれば、光パルスの長さは、ナノ秒(1ns~999ns)オーダー以下、例えば、ナノ秒からピコ秒(1~999ps)オーダーである。例えば、光パルスは、10~100ピコ秒の長さを有し得る。
【0028】
本発明者らは、LEDを駆動するためのトランジスタアバランシェ効果を利用することによって、ナノ秒またはさらにはサブナノ秒のパルスを生成することができることを見出した。これにより、非常に短く、かつ制御された光パルスを生成することができる。
【0029】
アバランシェ効果は次のように作用する。光子の非常に短い(ピコ秒からナノ秒)パルスを生成するためには、電気の非常に速い放出機構を作り出すことが必要である。半導体中のP型材料とN型材料とが接触すると、PN接合部の周囲に空乏領域が形成される。順方向バイアス電圧の増加に伴って空乏領域の幅が減少するのに対して、逆方向バイアス条件では空乏領域が増加する。初期段階では、飽和電流は印加電圧に依存しない。電圧が特定の方法で増加すると、接合部が破壊されてPN接合部を通る電流の瞬間的な大きな流れをもたらす特定の点に達する。この現象は、電圧が増加するにつれて、少数電荷キャリアの運動エネルギーも増加するために生じる。これらの非常に高速で移動する電子は、他の原子と衝突して、それらからさらにいくつかの電子を叩き落としている。これらの新たに励起された電子は、共有結合を切断することによって原子からはるかに多くの電子をさらに放出し、これにより、非常に短い時間(アバランシェ)で接合部を通る電流の流れの大幅な増加がもたらされる。アバランシェパルサLEDドライバを使用することによって、LED内の光子の強力であるが短い放出を刺激して光パルスをもたらすために、非常に高速で高エネルギーの電流を作ることが可能である。
【0030】
したがって、光パルスはアバランシェパルサLEDドライバを使用して駆動されることが好ましい。そのようなドライバは、非常に短く、かつ制御された光パルスを生成するためにアバランシェパルス生成器を利用する。アバランシェパルス生成器は、時間領域測定および癌治療などのための光学または医療の技術分野で知られている。これらの生成器は、ナノ秒(1ns~999ns)オーダー以下、例えばナノ秒からピコ秒(1~999ps)オーダーの電気パルスを生成することができる。例えば、Veledar et al.,2005,Review and Development of Nanosecond Pulse Generation for Light Emitting Diodes,Corpus ID:45189079;またはDutta,S.et al,2017,The avalanche-mode superjunction LED.IEEE Transactions on Electron Devices,64(4),1612-1618を参照されたい。アバランシェパルス生成器は市販されており、バイオリアクタ内の光パルス間の暗期が同期するように光パルスを放出するように上記LEDを制御するために、好適なソフトウェアおよびハードウェアを用いてLEDパルスを駆動するために使用されるようにユーザが望むように構成することができる。
【0031】
本発明者らは、驚くべきことに、水生光合成生物の培養に使用されるパルサLEDドライバを作成するように、そのような生成器を構成することができることを見出した。
【0032】
一例として、本発明者らは、アバランシェパルス生成器とともにそのようなアバランシェパルサLEDドライバを使用することによって、148nsの光とそれに続く4msの暗のサイクルを有する光レジメンを適用することができる。この例では、液体中の藻類が暗所に保たれる時間と照明される時間との比は27000:1であるが、それでもなお最適な光合成を有する。
【0033】
このようにして、本発明は、LEDの(N側からの自由電子およびP側からの正孔が反対の電荷担体と再結合する場合の)P-Nジャンプ(P-N jump)を引き起こすための時間制限、および生物の光化学系の時間制限を考慮に入れた光レジメンを水生光合成生物に適用し、その結果、最適な光合成、ひいては光合成生物の最適な成長を得ながら、非常に低いエネルギー入力要件によって光レジメンが達成される。
【0034】
光合成生物は、光合成のために自然光スペクトルからの特定の波長画分のみを使用することができる。光合成が可能な生物によって使用されるスペクトルは、従来、光合成有効放射(PAR)と呼ばれている。PAR領域は400~700nmの波長を含み、これは可視スペクトルに密接に対応する。光合成は、PAR領域の400~500および600~700nmの範囲内でのみ起こるため、大量の光エネルギーはPAR領域外になり、したがって使用できないままである。正確な最適波長は、生物の種ごとに異なる。例えば、ほとんどの微細藻類では、光合成に使用可能な主な波長は、420~470nm(青色)および/または660~680nm(赤色)の範囲内である。波長およびパルス長の正確な選好は、種ごとに異なる。特に、LEDは、当技術分野で公知の方法に従って特定の波長を放出するように容易に設計することができる。したがって、上記複数の光源は、それぞれが所定の波長およびパルス長で、特に上述の値と同期して光を放出するように構成された異なるタイプの光源を備えることが好ましい。この場合、光源ドライバは、所定の波長およびパルス長の光パルスを放出するように各タイプの光源を別個に制御するように構成される。したがって、連続するパルス間に完全な暗闇の期間がある限り、複数のパルス長の光を放出するために複数の光源を使用することが可能である。そのような暗闇の期間は、例えば、特定の波長のパルスの終わりと別の波長のパルスの始まりとの間であり得る。特定の波長の特定の長さのパルスは、例えば、別の波長のさらに長い長さのパルス内に(時間的に)入り得る。後者の場合、完全な暗闇の期間は、さらに長い長さの連続するパルス間にある。また、特定の波長を放出する第1のLEDは、特定の間隔でパルスを放出するように構成され、別の特定の波長を放出する追加のLEDは、上記間隔のうちの1つまたは複数をスキップし、第1のLEDのパルスと一致するがそれよりも低い周波数のパルスを放出するように構成されることも可能である。
【0035】
本発明は水生生物に適用される。この場合、生物は水性媒体中で成長する。この場合、上記生物は、藻類、例えば、微細藻類であることが好ましい。水生生物の場合、制御された環境は、好ましくはバイオリアクタである。動作中、バイオリアクタは、生物、例えば藻類を含有する水性媒体によって満たされる。その場合、本発明のシステムは、水性媒体中で光合成が可能な生物を成長させるためのバイオリアクタであり、上記バイオリアクタ内に複数の光源が配置され、上記バイオリアクタの内側は、上記バイオリアクタの外側の光源からの光の進入を完全に防止することができるように構成され、およびバイオリアクタ内の光パルス間の暗期が同期するように、光パルスを放出するように上記光源を制御するように構成された光源ドライバ。好ましい実施形態では、そのようなバイオリアクタは、複数の分散型LEDを備える複数の光バーを備え、バーはバイオリアクタの内側に延在する。このようにして、可能な限り多くの藻類が放出された光に曝露され、これは光合成、ひいてはバイオマスの生成に有利である。
【手続補正書】
【提出日】2020-09-21
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御された水性環境内で光合成が可能な水生生物を成長させるための方法であって、
前記制御された環境内に複数の光源が配置され、前記制御された環境の内側が、前記制御された環境の外側の光源からの光が前記制御された環境に進入しないように構成され、
前記方法が、光パルスを放出するように前記光源を制御すること、
前記制御された環境内の前記生物を前記光パルスに曝露すること、および
光パルス間の同期した暗期に前記生物を曝露すること、を含み、
前記光源が、発光ダイオード(LED)であり、
前記同期した暗期が、ミリ秒オーダーの長さを有し、
前記光パルスの長さが、ナノ秒(1~999ns)オーダー以下である
方法。
【請求項2】
前記暗期が、少なくとも3ミリ秒の長さを有する
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記暗期が、少なくとも5ミリ秒の長さを有する
請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記複数のダイオードベースの光源が、それぞれが所定の波長およびパルス長で光を放出するように構成された異なるタイプのダイオードベースの光源を備える
請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記光パルスが、アバランシェパルサLEDドライバによって制御される
請求項1から4のいずれか一項に記載の生物を成長させるための方法。
【請求項6】
前記制御された環境がバイオリアクタであり、前記生物が、藻類、例えば、微細藻類である
請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
光合成が可能な水生生物を成長させるためのシステムであって、
制御された環境と、ここで、前記制御された環境内に複数の光源が配置され、前記制御された環境の内側が、前記制御された環境の外側の光源からの光の進入を完全に防止することができるように構成され、
前記制御された環境内の光パルス間の暗期が同期するように、光パルスを放出するように前記光源を制御するように構成され、前記暗期がミリ秒オーダーの長さを有し、前記光パルスの長さがナノ秒(1~999ns)オーダー以下であるように、光パルスを放出するように前記光源を制御するようにさらに構成された光源ドライバと、を備え、
前記光源が発光ダイオード(LED)であ
システム。
【請求項8】
前記光源ドライバが、アバランシェパルサLEDドライバである
請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
前記複数の光源が、それぞれが所定の波長およびパルス長で光を放出するように構成された異なるタイプの光源を備え、前記光源ドライバが、所定の波長およびパルス長の光パルスを放出するように各タイプの光源を別個に制御するように構成される
請求項7または8に記載のシステム。
【請求項10】
前記制御された環境がバイオリアクタであり、前記生物が、藻類、例えば、微細藻類である
請求項7から9のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項11】
前記バイオリアクタが、複数の分散型LEDを備える複数の光バーを備え、前記バーが、前記バイオリアクタの内側に延在する
請求項10に記載のシステム。
【国際調査報告】