(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-12
(54)【発明の名称】癌治療における寄生生物及び寄生生物から得られる細胞外小胞の使用
(51)【国際特許分類】
A61K 35/68 20060101AFI20220705BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220705BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20220705BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220705BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220705BHJP
C12N 1/10 20060101ALI20220705BHJP
C12N 1/11 20060101ALI20220705BHJP
【FI】
A61K35/68
A61P35/00
A61P35/02
A61P43/00 121
A61K45/00
C12N1/10
C12N1/11
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021566543
(86)(22)【出願日】2020-05-08
(85)【翻訳文提出日】2021-12-23
(86)【国際出願番号】 TR2020050406
(87)【国際公開番号】W WO2020231372
(87)【国際公開日】2020-11-19
(32)【優先日】2019-05-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】512081166
【氏名又は名称】イェディテペ・ウニヴェルシテシ
【氏名又は名称原語表記】YEDITEPE UNIVERSITESI
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【氏名又は名称】小菅 一弘
(72)【発明者】
【氏名】サヒン フィクレッティン
(72)【発明者】
【氏名】イスレク ゼイネプ
(72)【発明者】
【氏名】タスカン エズギ
(72)【発明者】
【氏名】タスリ パキゼ ネスリハン
(72)【発明者】
【氏名】ボズクルト バトゥハン トゥルハン
(72)【発明者】
【氏名】キルバス オグズ カアン
(72)【発明者】
【氏名】ウチシク メフメット ヒクメット
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA86X
4B065AB01
4B065BA01
4B065CA44
4B065CA60
4C084AA19
4C084MA52
4C084MA55
4C084NA05
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZB332
4C084ZB352
4C084ZB382
4C084ZC751
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB01
4C087CA03
4C087NA14
4C087ZB26
4C087ZB27
(57)【要約】
本発明は、寄生生物及び寄生生物から得られる細胞外小胞の癌治療への使用に関する。本発明は、癌の治療における寄生生物及び寄生生物から得られる細胞外小胞の使用を目的としており、エクソソームの薬物担持能力を利用して、エクソソームに活性物質を担持させ、従って、健常細胞に副作用を与えることなく特定の薬物を標的癌細胞に直接運び、これにより薬物のバイオアベイラビリティを高め、腫瘍特異的な標的領域で所望の効果を達成する。本発明の範囲内では、特にリーシュマニア・インファンタム寄生生物が細胞外小胞の供給源として使用される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
寄生生物又は寄生生物から得られる細胞外小胞であって、悪性腫瘍又は制御されない細胞増殖によって説明される生理的状態を指す新生物性疾患の治療に使用される寄生生物又は寄生生物から得られる細胞外小胞。
【請求項2】
アカントアメーバ種(カステラーニアメーバ)、エキノコックス種、赤痢アメーバ種、ブラジル鉤虫、アンシロストーマ・カニナム、アンシロストーマ・ケイラニクム、及び狭頭鉤虫、広東住血線虫、回虫属、ジアルジア属、リーシュマニア種(リーシュマニア・アラビカ、リーシュマニア・アーチボルド、リーシュマニア・アリステデシ、ブラジルリーシュマニア、シャーガスリーシュマニア、リーシュマニア・コロンビエンス、リーシュマニア・デアネイ、ドノバンリーシュマニア、リーシュマニア・エンリエティ、リーシュマニア・エクアトレンシス、リーシュマニア・フォラティニイ、リーシュマニア・ガルンハミ、リーシュマニア・ジャービル、ギアナリーシュマニア、リーシュマニア・ヘレリ、リーシュマニア・ヘルティギ、リーシュマニア・インファンタム、リーシュマニア・キリクキ、リーシュマニア・ラインソニ、森林型熱帯リーシュマニア、メキシコリーシュマニア、リーシュマニア・ナイフィ、リーシュマニア・パナメンシス、ペルーリーシュマニア、リーシュマニア・ピファノ、リーシュマニア・シャーウィ、リーシュマニア・タレントラエ、リーシュマニア・トロピカ、リーシュマニア・ツラニカ、ベネズエラリーシュマニア)、プラスモジウム属の種(熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、卵形マラリア原虫)、住血吸虫属の種、トキソプラズマ種(トキソプラズマ原虫)、ブルセイトリパノソーマ亜種を含む群から選択される少なくとも1種の寄生生物である請求項1に記載の寄生生物。
【請求項3】
アカントアメーバ種(カステラーニアメーバ)、エキノコックス種、赤痢アメーバ種、ブラジル鉤虫、アンシロストーマ・カニナム、アンシロストーマ・ケイラニクム、及び狭頭鉤虫.、広東住血線虫、回虫属、ジアルジア属、リーシュマニア種(リーシュマニア・アラビカ、リーシュマニア・アーチボルド、リーシュマニア・アリステデシ、ブラジルリーシュマニア、シャーガスリーシュマニア、リーシュマニア・コロンビエンス、リーシュマニア・デアネイ、ドノバンリーシュマニア、リーシュマニア・エンリエティ、リーシュマニア・エクアトレンシス、リーシュマニア・フォラティニイ、リーシュマニア・ガルンハミ、リーシュマニア・ジャービル、ギアナリーシュマニア、リーシュマニア・ヘレリ、リーシュマニア・ヘルティギ、リーシュマニア・インファンタム、リーシュマニア・キリクキ、リーシュマニア・ラインソニ、森林型熱帯リーシュマニア、メキシコリーシュマニア、リーシュマニア・ナイフィ、リーシュマニア・パナメンシス、ペルーリーシュマニア、リーシュマニア・ピファノ、リーシュマニア・シャーウィ、リーシュマニア・タレントラエ、リーシュマニア・トロピカ、リーシュマニア・ツラニカ、ベネズエラリーシュマニア)、プラスモジウム属の種(熱帯熱マラリア原虫、三日熱マラリア原虫、卵形マラリア原虫)、住血吸虫属の種、トキソプラズマ種(トキソプラズマ原虫)、ブルセイトリパノソーマ亜種を含む群から選択される少なくとも1種の寄生生物に由来する、請求項1又は請求項2に記載の寄生生物から得られる細胞外小胞。
【請求項4】
寄生生物抗原(熱不活化したもの又は直接抗原そのもの)、遺伝物質(mRNA、低分子RNA、ミトコンドリアDNA、DNA断片)、遺伝子導入及びトランスフェクション(プラスミド導入、レンチウイルス、SV40抗原によるエレクトロポレーション)が行われた寄生生物が、CRISPR(ヌクレオチド編集を含む方法)による癌治療に使用される、請求項1に記載の寄生生物又は寄生生物から得られる細胞外小胞。
【請求項5】
寄生生物抗原(熱不活化したもの又は直接抗原そのもの)、遺伝物質(mRNA、低分子RNA、ミトコンドリアDNA、DNA断片)、遺伝子導入及びトランスフェクション(プラスミド導入、レンチウイルス、SV40抗原によるエレクトロポレーション)が行われた寄生生物が、ナノ担体系に封入された上で、CRISPR(ヌクレオチド編集を含む方法)による癌治療に使用される、請求項1に記載の寄生生物。
【請求項6】
培養培地である請求項1に記載の寄生生物又は寄生生物から得られる細胞外小胞。
【請求項7】
前記寄生生物としてリーシュマニア・インファンタムが選択される請求項2に記載の寄生生物又は寄生生物から得られる細胞外小胞。
【請求項8】
前記寄生生物から得られる細胞外小胞を特徴づける際に、前記寄生生物としてリーシュマニア・インファンタムが使用される請求項3に記載の寄生生物又は寄生生物から得られる細胞外小胞。
【請求項9】
新生物性疾患としての、乳癌、前立腺癌、結直腸癌、皮膚癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、中皮腫、胃腸癌、膵臓癌、肉腫、芽腫、リンパ腫、神経膠芽腫、神経芽腫、外陰癌、子宮頸癌、子宮内膜癌、卵巣癌、肝臓癌、肝細胞癌、白血病、膀胱癌、腎臓癌、唾液腺癌、甲状腺癌及び各種頭頚部癌を含む群から選択される少なくとも1種の癌疾患のために使用される請求項1に記載の寄生生物又は寄生生物から得られる細胞外小胞。
【請求項10】
神経膠芽腫細胞株U87癌細胞を死滅させるための癌治療に使用される請求項9に記載の寄生生物又は寄生生物から得られる細胞外小胞。
【請求項11】
神経膠芽腫細胞株A172癌細胞を死滅させるための癌治療に使用される請求項9に記載の寄生生物又は寄生生物から得られる細胞外小胞。
【請求項12】
神経芽腫細胞株SHSY-5Y癌細胞を死滅させるための癌治療に使用される請求項9に記載の寄生生物又は寄生生物から得られる細胞外小胞。
【請求項13】
メラノーマ細胞株SH4癌細胞を死滅させるための癌治療に使用される請求項9に記載の寄生生物又は寄生生物から得られる細胞外小胞。
【請求項14】
前立腺細胞株22RV癌細胞を死滅させるための癌治療に使用される請求項9に記載の寄生生物又は寄生生物から得られる細胞外小胞。
【請求項15】
水性二相系(ATPS)による単離、累進的な遠心分離、超遠心分離、ショ糖勾配超遠心分離、高分子沈殿、限外濾過、クロマトグラフィー法による単離(アフィニティクロマトグラフィー(抗体及びペプチドアフィニティ)、サイズ分離クロマトグラフィー(サイズ排除クロマトグラフィー))、マイクロビーズによる単離、イオン電荷に応じた沈殿(電荷に基づく沈殿)、並びに塩析の単離方法のうち少なくとも1つを用いて単離されたものである請求項1から請求項14のいずれか1項に記載の寄生生物又は寄生生物から得られる細胞外小胞。
【請求項16】
前記細胞外小胞が単離されるもととなる前記寄生生物の培養培地を採取する工程と、
細胞残渣及び寄生生物等の望ましくない物質を前記培養培地から除去するために、2,000g~10,000gの速度で5~20分間遠心分離する工程と、
遠心分離後、220nm以上のサイズの粒子を濾過によって除去する工程と、
遠心分離によって得られた小胞-タンパク質混合物を、その分離のために、PEG相及びDEX相を含む二相液系に移す工程と、
前記タンパク質に対する前記PEG相の化学的傾向及びリン脂質構造膜に対する前記DEX相の化学的傾向を利用することにより、非小胞性タンパク質、細胞脂肪及び他の不純物を前記小胞から除去する工程と、
単離された小胞を得る工程と
を含む二相液系による単離方法を介して単離されたものである請求項15に記載の寄生生物又は寄生生物から得られる細胞外小胞。
【請求項17】
請求項1から請求項16のいずれか1項に記載の寄生生物又は寄生生物から得られる細胞外小胞を含む医薬組成物であって、細胞外小胞、エマルション系、生物学的及び化学的ナノ粒子(ポリマーナノ粒子、固体脂質ナノ粒子)、無機ナノ粒子(金属ナノ粒子)、脂質小胞系(リポソーム、ニオソーム及びエトソーム)、デンドリマー、ポリマー-薬物結合体、ミセル並びにカーボンナノチューブを含む群から選択されるナノ担体系を含む医薬組成物。
【請求項18】
さらなる活性物質として、抗寄生虫活性、抗菌活性、抗ウイルス活性、抗悪性腫瘍活性並びに及び/又は細胞毒性及び/若しくは抗転移活性を示す活性化合物、並びにこれらの二元及び三元の組み合わせを含む群から選択される少なくとも1種の活性化合物を含む請求項17に記載の医薬組成物。
【請求項19】
抗菌活性を示す活性化合物として、アミカシン、ゲンタマイシン、カナマイシン、ネオマイシン、ネチルマイシン、トブラマイシン、パロモマイシン、ストレプトマイシン、スペクチノマイシン、ゲルダナマイシン、ハービマイシン、リファキシミン、ロラカルベフ、エルタペネム、ドリペネム、イミペネム、メロペネム、セファドロキシル、セファゾリン、セファロチン、セファレキシン、セファクロル、セファマンドール、セフォキシチン、セフプロジル、セフロキシム、セフィキシム、セフジニル、セフジトレン、セフォペラゾン、セフォタキシム、セフポドキシム、セフタジジム、セフチブテン、セフチゾキシム、セフェピム、セフタロリンフォサミル、セフトビプロール、テイコプラニン、バンコマイシン、テラバンシン、ダルババンシン、オリタバンシン、クリンダマイシン、リンコマイシン、ダプトマイシン、アジスロマイシン、クラリスロマイシン、ジリスロマイシン、エリスロマイシン、ロキシスロマイシン、トロレアンドマイシン、テリスロマイシン、スピラマイシン、アズトレオナム、フラゾリドン、ニトロフラントイン、リネゾリド、ポシゾリド、ラデゾリド、トレゾリド、アモキシシリン、アンピシリン、アズロシリン、カルベニシリン、クロキサシリン、ジクロキサシリン、フルクロキサシリン、メズロシリン、メチシリン、ナフシリン、オキサシリン、ペニシリンG、ペニシリンV、ピペラシリン、テモシリン、チカルシリン、クラブラン酸塩、スルバクタム、タゾバクタム、バシトラシン、コリスチン、ポリミキシンB、シプロフロキサシン、エノキサシン、ガチフロキサシン、ゲミフロキサシン、レボフロキサシン、ロメフロキサシン、モキシフロキサシン、ナリジクス酸、ノルフロキサシン、オフロキサシン、トロバフロキサシン、グレパフロキサシン、スパルフロキサシン、テマフロキサシン、マフェニド、スルファセタミド、スルファジアジン、スルファジメトキシン、スルファメチゾール、スルファメトキサゾール、スルファニルアミド、スルファサラジン、スルフイソキサゾール、トリメトプリム、デメクロサイクリン、ドキシサイクリン、ミノサイクリン、オキシテトラサイクリン、テトラサイクリン、クロファジミン、ダプソン、カプレオマイシン、サイクロセリン、エタンブトール、イソニアジド、ピラジナミド、リファンピシン、リファブチン、リファペンチン、ストレプトマイシン、アルスフェナミン、クロラムフェニコール、ホスホマイシン、フシジン酸、メトロニダゾール、ムピロシン、プラテンシマイシン、キヌプリスチン、ダルホプリスチン、チアンフェニコール、チゲサイクリン、チニダゾール、トリメトプリム、並びにこれらの二元若しくは三元の組み合わせ及び/又は封入物を含む群から選択される少なくとも1種の薬剤を含む請求項18に記載の医薬組成物。
【請求項20】
抗ウイルス活性を示す活性化合物として、アバカビル、アシクロビル、アデホビル、アマンタジン、アンプレナビル、アンプリゲン、アルビドール、アタザナビル、アトリプラ、バラビル、シドフォビル、コンビビル、ドルテグラビル、ダルナビル、デラビルジン、ジダノシン、ドコサノール、エダクスジン、エファビレンツ、エムトリシタビン、エンフビルチド、エンテカビル、エコリバー、ファムシクロビル、ホミビルセン、ホスアンプレナビル、ホスカルネット、ホスホネット、ガンシクロビル、イバシタビン、イムノビル、ドクスウリジン、イミキモド、インジナビル、イノシン、1型インターフェロン、2型インターフェロン、3型インターフェロン、インターフェロン、ラミブジン、ロピナビル、ロビライド、マラビロク、モロキシジン、メチサゾン、ネルフィナビル、ネビラピン、ネキサビル、ニタゾキサニド、ノビル、オセルタミビル、ペグインターフェロンアルファ-2a、ペンシクロビル、ペラミビル、プレコナリル、ポドフィロトキシン、プロテアーゼ阻害剤、ヌクレオシド類似体、ラルテグラビル、リバビリン、リマンタジン、リトナビル、ピラミジン、サクイナビル、ソホスブビル、スタブジン、テラプレビル、テノホビル、チプラナビル、トリフルリジン、トリジビル、トロマンタジン、ツルバダ、バラシクロビル、バルガンシクロビル、ビダラビン、ビラミジン、ザルシタビン、ザナミビル、ジドブジン、並びにこれらの二元若しくは三元の組み合わせ及び/又は封入物を含む群から選択される少なくとも1種の薬剤を含む請求項18に記載の医薬組成物。
【請求項21】
抗寄生虫活性を示す活性化合物として、ニタゾキサニド、メラルソプロール、エフロルニチン、メトロニダゾール、チニダゾール、ミルテホシン、メベンダゾール、パモ酸ピランテル、チアベンダゾール、ジエチルカルバマジン、イベルメクチン、ニクロサミド、プラジカンテル、アルベンダゾール、リファンピン、アンホテリシンB、フマギリン、フラゾリドン、ニフルセミゾン、ニタゾキサニド、オルニダゾール、硫酸パロモマイシン、ペンタミジン、ピリメタミン、チニダゾール、アルベンダゾール、メベンダゾール、チアベンダゾール、フェンベンダゾール、トリクラベンダゾール、フルベンダゾール、アバメクチン、ジエチルカルバマジン、イベルメクチン、スラミン、パモ酸ピランテル、レバミソール、ニクロサミド、ニタゾキサニド、オキシクロザニド、モネパンテル、デルカンテル、アンホテリシンB、尿素スチバミン、スチボグルコン酸ナトリウム、アンチモン酸メグルミン、パロモマイシン、ミルテホシン、フルコナゾール、ペンタミジン、並びにこれらの二元若しくは三元の組み合わせ及び/又は封入物を含む群から選択される少なくとも1種の薬剤を含む請求項18に記載の医薬組成物。
【請求項22】
抗悪性腫瘍活性を示す活性化合物として、シクロホスファミド、イホスファミド、テモゾロミド、カペシタビン、5-フルオロウラシル、メトトレキサート、ゲムシタビン、ペメトレキセド、マイトマイシン、ブレオマイシン、エピルビシン、ドキソルビシン、エトポシド、パクリタキセル、イリノテカン、ドセタキセル、ビンクリスチン、カルボプラチン、シスプラチン、オキサリプラチン、ベバシズマブ、セツキシマブ、ゲフィチニブ、イマチニブ、トラスツズマブ、デノスマブ、リツキシマブ、スニチニブ、ゾレドロン酸、アビラテロン、アナストロゾール、ビカルタミド、エクセメスタン、ゴセレリン、メドロキシプロゲステロン、オクトレオチド、タモキシフェン、ベンダムスチン、カルムスチン、クロラムブシル、ロムスチン、メルファラン、プロカルバジン、ストレプトゾシン、フルダラビン、ラルチトレキセド、アクチノマイシンD、ダクチノマイシン、ドキソルビシン、ミトキサントロン、エリブリン、トポテカン、ビンブラスチン、ビノレルビン、アファチニブ、アフリベルセプト、クリゾチニブ、ダブラフェニブ、インターフェロン、イピリムマブ、ラパチニブ、ニボルマブ、パニツムマブ、ペムブロリズマブ、パーツズマブ、ソラフェニブ、トラスツズマブエムタンシン、テムシロリムス、ベムラフェニブ、イバンドロン酸、パミドロン酸、ベキサロテン、ブセレリン、シプロテロン、デガレリクス、フォリン酸、フルベストラント、ランレオチド、レナリドミド、レトロゾール、リュープロレリン、メゲストロール、メスナ、サリドマイド、ビンクリスチン、並びにこれらの二元若しくは三元の組み合わせ及び/又は封入物を含む群から選択される少なくとも1種の薬剤を、細胞外小胞及び/又はナノ担体系と組み合わせて含む請求項18に記載の医薬組成物。
【請求項23】
少なくとも1種の活性物質を含む請求項18から請求項22のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項24】
治療のための投与方法が、非経口、静脈内、皮内、皮下、腹腔内、局所的、髄腔内、鼻腔内、脳室内、眼内、膣内、尿道内、経皮、舌下、くも膜下、直腸、歯周、神経周囲、硬膜外、関節周囲、経口、鼓室内、腫瘍内、肺内、滑膜内、筋肉内、卵巣内、髄膜内、海綿体内、冠内、脳内、硬膜外、皮膚、口腔内、歯科を含む群から選択される少なくとも1つの投与方法を含む請求項18から請求項23のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項25】
癌治療のためのアジュバントとして使用される請求項1に記載の細胞外小胞。
【請求項26】
前記寄生生物から得られる細胞外小胞を、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、トコフェロール、3D-MPLを含むエマルション系、コレステロール、CGオリゴヌクレオチドのうちの少なくとも1つ、又はそれらの2つ以上の組み合わせに組み込むことにより形成される請求項18から請求項24のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌治療を目的とした寄生生物及び寄生生物から得られる細胞外小胞の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
癌は、現代の最も危険で一般的な病気の1つである。2012年には、世界で1,410万人の新規癌症例が発生したと推定されている[1]。癌の治療には、様々な化学的薬剤及び生物学的薬剤が試みられているが、開発された治療方法は、その効果の低さや副作用の多さから十分ではない。例えば、化学療法は、乳癌等の多くの種類の癌で最も頻繁に使用される治療方法であるが、骨髄、毛髪及び消化器系等の体内の多くの健康な組織に深刻な損傷を与える[2]。治療方法が不十分であるため、科学者たちは癌の分野で新しい方法を試す必要に迫られている。これらの試みの中で、エクソソームは効果的な結果にとって有望である。
【0003】
本願の範囲で使用される用語「新生物性疾患」は、癌等の、悪性腫瘍又は制御されない細胞増殖を特徴とする生理的状態を指す。この文脈では、「新生物性疾患」及び「癌」という用語は、互換的に使用することができる。癌の例としては、癌腫、リンパ腫、芽腫、肉腫及び白血病が挙げられるが、これらに限定されない。
【0004】
・癌腫は、本明細書で使用する場合、上皮細胞からなる癌の種類を指す。
・リンパ腫は、本明細書で使用する場合、リンパ球から発生する癌の種類を記述する。
・芽腫は、本明細書で使用する場合、芽細胞としても知られる前駆細胞から発生する癌の種類を記述する。
・肉腫は、本明細書で使用する場合、間葉系由来のトランスフォーム細胞から発生する癌の種類を記述する。
・白血病は、本明細書で使用する場合、骨髄で始まり、異常な白血球が大量に発生する種類の癌を記述する。
【0005】
癌の種類のより具体的な例としては、乳癌、前立腺癌、結直腸癌、皮膚癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、中皮腫、胃腸癌、膵臓癌、神経膠芽腫、外陰癌、子宮頸癌、子宮内膜癌、卵巣癌、肝臓癌、肝細胞癌、膀胱癌、腎臓癌、唾液腺癌、甲状腺癌、及び各種頭頸部癌が挙げられる。
【0006】
癌を治療するために、外科手術及び/又は化学療法が頻繁に行われる。外科手術が完全かつ効果的な結果をもたらす場合もあるが、通常は、長期的に生き残って癌化を引き起こす可能性のある癌細胞の存在の可能性を考慮して、手術後に化学療法剤が投与される。たいてい、化学療法は、癌細胞だけでなく健康な細胞にも損傷を与えることにより、多くの副作用を引き起こす。化学療法の影響を最も受けるのは、体内で増殖率の高い細胞であり、毛髪細胞、骨髄で作られる血液細胞、及び消化器系の細胞である。
【0007】
化学療法後に頻繁に見られる副作用は以下の通りである。
・疲労感:これは、血液細胞が影響を受けることによる貧血が主な原因である、原因が精神的なものである場合もある。
・吐き気及び嘔吐:これは、薬剤に対する過敏性に起因する場合もあるが、心理的な原因の場合もある。
・抜け毛:髪の毛が急激に成長することに起因する、化学療法で特に悪影響を受けやすい髪の毛の抜けは、患者が意気消沈する最も大きな理由の1つである。
・血球値の低下:化学療法により骨髄が侵されると、血球が著しく減少する。この減少の結果として組織に十分な量の酸素が供給されなくなるため、免疫力の低下や血液凝固障害等の多くの副作用が現れうる。
・口内炎:化学療法剤は、口の中に炎症性のただれを生じさせることがある。治療中、患者は、極端に熱い飲み物や冷たい飲み物を避け、口腔内の衛生状態に細心の注意を払う必要がある。
・下痢又は便秘:様々な化学療法剤に対する消化器系の細胞の反応の結果として、下痢又は便秘が認められることがある。このような状況は、ほとんどの場合、食事によってその影響を軽減することができるが、場合によっては重度の下痢となり、点滴による水分補給が必要になることがある。
・皮膚と爪の変化:化学療法剤には、皮膚の色が濃くなる、皮膚が剥がれる、赤くなる、皮膚が乾燥する等の副作用がある。爪が割れやすくなったり、爪の色が濃くなったりすることも見られる。皮膚の剥離については、免疫力の低い患者では開放創を引き起こすため、特に注意を払う必要がある。
・睡眠障害:睡眠障害は、通常は、心理的な理由で発生するが、特に化学療法の治療過程で体を休めることができないと、化学療法の効果が減退するだけでなく、さらに患者の精神的な健康も損なわれる。
【0008】
治療の成功率を高めるためには、化学療法を外科手術及び他の方法と組み合わせて使用する必要があること、並びに、患者ごとに異なる副作用の多さ及び予測不可能性から、科学者たちは新しい治療方法を模索している。
【0009】
Nautsら(1953)は、微生物が抗腫瘍反応を誘発できることを示した。彼らは、弱毒化したか、又は遺伝子組み換えした非病原性の生物を、抗腫瘍剤として使用できるのではないかと考えて研究した[3]。彼らは、トキソプラズマ原虫(トキソプラズマ・ゴンディ、Toxoplasma gondii)及びカステラーニアメーバ(アカントアメーバ・カステラーニ、Acanthamoeba castellanii)が抗腫瘍活性を示すことを見出した。これらの開発を踏まえて、腫瘍学において微生物を用いた新たな治療分野が登場し、1931年に初めて用いられた「バイオセラピー」という名称で研究開発が進められている。
【0010】
Bairdら(2013)は、B16F10マウスメラノーマの治療に弱毒化したトキソプラズマ原虫寄生生物を用い、トキソプラズマ原虫を与えたマウスにCD8+ T細胞による強い抗腫瘍反応が起こることを示した[9]。
【0011】
Boseら(2016)は、その研究において、熱で弱毒化したドノバンリーシュマニア(Leishmania donovani)が、活性酸素種(ROS)を媒介としたp53依存性ミトコンドリア経路を介してHepG2肝臓癌細胞のアポトーシスを誘導すると結論づけている[10]。
【0012】
Yangら(2017)は、マラリア原虫に感染したマウスから単離したエクソソームをルイス肺癌モデルで試験し、腫瘍の血管新生を阻害することを観察した[11]。
【0013】
エクソソームは、それが由来する細胞に特異的なカーゴコンテンツ(cargo content)を運ぶことで標的指向化に採用できるため、エクソソームは、現在の治療方法を改善し、副作用を軽減するために開始された研究で顕著になっている。
【0014】
細胞外小胞は、細胞間の物質輸送に関与する小さな袋(嚢)であり、細胞質液から少なくとも1つの脂質二重層で隔てられている。細胞外小胞の1つであるエクソソームは、高等な真核生物及び植物等多くの生物から放出される小胞であり、大きさの異なる脂質二重層膜を含んでいる。この小胞の重要性は、細胞の機能に影響を与えるために他の細胞に情報を伝達する能力にある。エクソソームを介したシグナル伝達は、タンパク質、脂質、核酸及び糖からなる多くの様々なカテゴリーの生体分子によって行われる[12]。エクソソームはそれを産生した細胞の表面タンパク質を保持しているため、エクソソームは、エクソソームが生体内のシステムで送達される細胞の種類を標的とする。このような特性から、エクソソームは、薬物療法、生理活性物質療法及び遺伝子治療のための核酸の運搬に適している。エクソソームの別の特徴的な態様は、エクソソームが運ぶシグナル及びカーゴが生成される細胞、並びにその細胞の現在の生理状態に特異的であるということである。異なる生物のエクソソーム、同一生物の異なる種類の細胞のエクソソーム、及び異なる条件の同一細胞のエクソソームは、異なる特性を示す。
【0015】
各細胞はそれぞれの目的のためにエクソソームを産生する。癌細胞は、その産生するエクソソームによって、体内に自身にとって好ましい環境を作り[13]、免疫系から逃れ[14、15]、転移のためにエクソソームを利用する[16]ことが見出されている。幹細胞のエクソソーム[17]、及びとりわけ免疫系細胞である樹状細胞のエクソソーム[18、19]は、癌に対する身体の反応において多くの活性を有する。成功した結果をもたらすエクソソームの別の供給源は、植物である。レモンから得られたエクソソームは、慢性骨髄性白血病モデルの治療目的で使用することに成功している[20]。
【0016】
真核生物である寄生生物を含めすべての真核細胞は、自身のエクソソームを産生する。リーシュマニア症は、リーシュマニア原虫である寄生生物に感染したメスのスナバエに刺されることで人に感染する一群の宿主媒介性疾患の慣用名である。世界保健機関(WHO)によると、リーシュマニア症は世界中の60を超える国々で、とりわけトルコを含む南欧、中東、北アフリカ諸国とその周辺地域で広く見られる。
【0017】
欧州特許出願公開第1687025号明細書は、当該技術分野で公知の出願であり、インターロイキン18とサポニンアジュバントを含むワクチン組成物を開示する。この発明の範囲内で開示された併用療法は、感染症、癌、自己免疫疾患及び関連疾患の治療又は予防に有用であると判断された。
【0018】
中国特許出願公開第102988417号明細書は、当該技術分野で公知の出願であり、疾患を予防及び制御するための蠕動性寄生生物製剤の使用を開示する。これらの寄生生物製剤は、制御性T細胞の機能に影響を与える。疾患は、寄生生物製剤の投与によって制御性T細胞の活性を変化させることによって治療される。この方法で治療される疾患の例は、Th1又はTh2関連の癌として示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】欧州特許出願公開第1687025号明細書
【特許文献2】中国特許出願公開第102988417号明細書
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】Ferlay,J.ら、International journal of cancer、2015. 136(5):E359-E386頁
【非特許文献2】Tao,J.J.、K. Visvanathan、及びA.C.Wolff、The Breast、2015. 24:S149-S153頁
【非特許文献3】Nauts HC、Fowler GA及びBogatko FH、Acta Med Scand Suppl 1953;276:1-103
【非特許文献4】Baird R.ら、J Immunol. 2013年1月1日;190(1):469-478. doi:10.4049/jimmunol.1201209
【非特許文献5】Bose D.ら、Cell Physiol Biochem 2016;38:1303-1318
【非特許文献6】Yang Y.ら、Nature Oncogenesis (2017) 6、e351;doi:10.1038/oncsis.2017.52
【非特許文献7】Thery,C.、L.Zitvogel、及びS.Amigorena、Nature Reviews Immunology、2002. 2(8):569頁
【非特許文献8】Kahlert,C.及びR.Kalluri、Journal of molecular medicine、2013. 91(4):431-437頁
【非特許文献9】Clayton,A.及びM.D.Mason、Current oncology、2009. 16(3):46頁
【非特許文献10】Clayton,A.ら、The Journal of Immunology、2011:1003884頁
【非特許文献11】Costa-Silva,B.ら、Nature cell biology、2015. 17(6):816頁
【非特許文献12】Lee,J.-K.ら、PloS one、2013. 8(12):e84256頁
【非特許文献13】Viaud,S.ら、Cancer research、2010:0008-5472頁. CAN-09-3276
【非特許文献14】Escudier,B.ら、Journal of translational medicine、2005. 3(1):10頁
【非特許文献15】Raimondo,S.ら、Oncotarget、2015. 6(23):19514頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明の目的は、癌の治療における寄生生物及び寄生生物から得られる細胞外小胞の使用である。寄生生物のエクソソームは、健康な細胞に副作用を与えることなく、癌細胞に直接反応を引き起こす。加えて、エクソソームの薬物担持能力を利用して、活性物質をエクソソームに担持させることができ、従って、特定の薬物を標的細胞に運び、それによってその薬物のバイオアベイラビリティを高めることで、腫瘍特異的な標的領域で所望の効果を得ることができる。本発明の範囲内では、特にリーシュマニア・インファンタム(小児リーシュマニア、Leishmania infantum)寄生生物が、細胞外小胞(エクソソーム)の供給源として使用される。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明の目的を達成するために開発された「癌の治療における寄生生物及び寄生生物から得られる細胞外小胞の使用」は、添付の図面に示されている。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、リーシュマニア・インファンタム寄生生物を2つの異なる用量でU87細胞とともにインキュベートした場合の、細胞に対するアポトーシス効果のグラフ表示である。
【
図2】
図2は、U87細胞を寄生生物とともに培養培地中でインキュベートしてから8時間後の寄生生物感染を示す光学顕微鏡写真の図である。
【
図3】
図3は、8つの異なる用量で24時間、48時間及び72時間投与されたU87細胞の細胞生存率に対するリーシュマニア・インファンタム寄生生物から得られたエクソソームの効果のグラフ表示である。
【
図4】
図4は、8つの異なる用量で24時間、48時間及び72時間投与されたA172細胞の細胞生存率に対するリーシュマニア・インファンタム寄生生物から得られたエクソソームの効果のグラフ表示である。
【
図5】
図5は、8つの異なる用量で24時間、48時間及び72時間投与されたSHSY5Y細胞の細胞生存率に対するリーシュマニア・インファンタム寄生生物から得られたエクソソームの効果のグラフ表示である。
【
図6】
図6は、8つの異なる用量で24時間、48時間及び72時間投与されたSH4細胞の細胞生存率に対するリーシュマニア・インファンタム寄生生物から得られたエクソソームの効果のグラフ表示である。
【
図7】
図7は、8つの異なる用量で24時間、48時間及び72時間投与された22RV細胞の細胞生存率に対するリーシュマニア・インファンタム寄生生物から得られたエクソソームの効果のグラフ表示である。
【
図8】
図8は、8つの異なる用量で24時間、48時間及び72時間投与されたHDF細胞の細胞生存率に対するリーシュマニア・インファンタム寄生生物から得られたエクソソームの効果のグラフ表示である。
【
図9】
図9は、8つの異なる用量で24時間、48時間及び72時間投与されたHaCaT細胞の細胞生存率に対するリーシュマニア・インファンタム寄生生物から得られたエクソソームの効果のグラフ表示である。
【
図10】
図10は、8つの異なる用量で24時間、48時間及び72時間投与されたアストロサイト細胞の細胞生存率に対するリーシュマニア・インファンタム寄生生物から得られたエクソソームの効果のグラフ表示である。
【
図11】
図11は、単回投与で48時間投与されたSHSY5Y神経芽腫細胞のBax遺伝子の発現に対するリーシュマニア・インファンタム寄生生物から得られたエクソソームの効果のグラフ表示である。
【
図12】
図12は、単回投与で48時間投与されたSHSY5Y神経芽腫細胞におけるBcl-2遺伝子の発現に対するリーシュマニア・インファンタム寄生生物から得られたエクソソームの効果のグラフ表示である。
【
図13】
図13は、単回投与で48時間投与されたSHSY5Y神経芽腫細胞におけるカスパーゼ-3遺伝子の発現に対するリーシュマニア・インファンタム寄生生物から得られたエクソソームの効果のグラフ表示である。
【
図14】
図14は、単回投与で48時間投与されたSHSY5Y神経芽腫細胞におけるp53遺伝子の発現に対するリーシュマニア・インファンタム寄生生物から得られたエクソソームの効果のグラフ表示である。
【
図15】
図15は、単回投与で3時間投与されたSHSY5Y神経芽腫細胞におけるp21遺伝子の発現に対するリーシュマニア・インファンタム寄生生物から得られたエクソソームの効果のグラフ表示である。
【
図16】
図16は、単回投与で3時間投与されたアストロサイト細胞におけるp21遺伝子の発現に対するリーシュマニア・インファンタム寄生生物から得られたエクソソームの効果のグラフ表示である。
【
図17】
図17は、単回投与で3時間投与されたSHSY5Y神経芽腫細胞におけるp53遺伝子の発現に対するリーシュマニア・インファンタム寄生生物から得られたエクソソームの効果のグラフ表示である。
【
図18】
図18は、単回投与で3時間投与されたアストロサイト細胞におけるp53遺伝子の発現に対するリーシュマニア・インファンタム寄生生物から得られたエクソソームの効果のグラフ表示である。
【
図19】
図19は、単回投与で3時間投与されたSHSY5Y神経芽腫細胞におけるカスパーゼ-3遺伝子の発現に対するリーシュマニア・インファンタム寄生生物から得られたエクソソームの効果のグラフ表示である。
【
図20】
図20は、単回投与で3時間投与されたアストロサイト細胞におけるカスパーゼ-3遺伝子の発現に対するリーシュマニア・インファンタム寄生生物から得られたエクソソームの効果のグラフ表示である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、新生物性疾患の治療における寄生生物(寄生虫)及び寄生生物から得られる細胞外小胞の使用である。用語「新生物性疾患」は、悪性腫瘍又は制御されない細胞増殖を特徴とする生理的状態をいい、癌を指す。本発明の範囲内では、用語「新生物性疾患」及び「癌」は、互換的に使用することができる。新生物性疾患は、乳癌、前立腺癌、結直腸癌、皮膚癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、中皮腫、胃腸癌、膵臓癌、肉腫、芽腫、リンパ腫、神経膠芽腫、神経芽腫、外陰癌、子宮頸癌、子宮内膜癌、卵巣癌、肝臓癌、肝細胞癌、白血病、膀胱癌、腎臓癌、唾液腺癌、甲状腺癌、各種頭頸部癌を含む群から選択される少なくとも1種の癌であることができる。本発明の範囲内では、癌治療は、神経膠芽腫細胞株であるU87癌細胞及びA172癌細胞、神経芽腫細胞株であるSHSY-5Y癌細胞、メラノーマ細胞株であるSH4癌細胞、並びに前立腺細胞株である22RV癌細胞を死滅させるという形で行われる。
【0025】
本発明は、リーシュマニア寄生生物及びその寄生生物から得られる細胞外小胞が、癌細胞を選択的に死滅させることから、そのリーシュマニア寄生生物及びその寄生生物から得られる細胞外小胞を癌の治療に使用することを目的としている。本発明を開発するにあたり、寄生生物及びその寄生生物から得られる細胞外小胞は、癌に対しては高い致死性を示すが、健康な細胞に対してはほとんど副作用がないことが確認されている。
【0026】
本発明の範囲内では、エクソソームの薬物担持能力を利用して、エクソソームに活性物質を担持させ、標的細胞に特異的な薬物を運ばせ、従って、その薬物のバイオアベイラビリティを高め、標的領域で所望の効果を達成することが可能となる。
【0027】
本発明の際立った特徴は、リーシュマニア寄生生物から単離されたエクソソームを癌の治療に使用することである。寄生生物は疾患を引き起こすため、背景技術の欄で述べた研究では、寄生生物を直接使用することは、治療における寄生生物の使用には重大な障害となる。本発明に関しては、寄生生物から単離されたエクソソームを使用することで、寄生生物を直接使用する際に起こりうる疾患のリスクは防がれる。
【0028】
本発明では、リーシュマニア・インファンタム寄生生物をはじめとする各種寄生生物、及びそれらの寄生生物から得られるエクソソームが癌治療に使用される。本発明の範囲内で、本発明で用いられる寄生生物は、以下の種を含む:アカントアメーバ種(カステラーニアメーバ)、エキノコックス(Echinocococcus)種(複数)、赤痢アメーバ(エンドアメーバ・ヒストリチカ、E.histolytica)種(複数)、ブラジル鉤虫(アンシロストーマ・ブラジリエンセ、Ancylostoma brazilens)、アンシロストーマ・カニナム(A.caninum)、アンシロストーマ・ケイラニクム(A.ceylanicum)、及び狭頭鉤虫(ウンシナリア・ステノセファラ、Uncinaria stenocephala)、広東住血線虫(アンギオストロンギルス・カントネンシス、Angiostrongylus cantonensis)、回虫属(アスカリス属、Ascaris)、ジアルジア属(Giardia)、リーシュマニア種(複数)(リーシュマニア・アラビカ(L.Arabica)、リーシュマニア・アーチボルド(L.archibaldi)、リーシュマニア・アリステデシ(L.aristedesi)、ブラジルリーシュマニア(L.braziliensis)、シャーガスリーシュマニア(リーシュマニア・シャガシ、L.chagasi)、リーシュマニア・コロンビエンス(L.colombiensis)、リーシュマニア・デアネイ(L.Deanei)、ドノバンリーシュマニア(L.donovani)、リーシュマニア・エンリエティ(L.enrietii)、リーシュマニア・エクアトレンシス(L.equatorensis)、リーシュマニア・フォラティニイ(L.forattinii)、リーシュマニア・ガルンハミ(L.garnhami)、リーシュマニア・ジャービル(L.gerbil)、ギアナリーシュマニア(L.guyanensis)、リーシュマニア・ヘレリ(L.herreri)、リーシュマニア・ヘルティギ(L.hertigi)、リーシュマニア・インファンタム(L.infantum)、リーシュマニア・キリクキ(L.killicki)、リーシュマニア・ラインソニ(L.lainsoni)、リーシュマニア・メジャー(森林型熱帯リーシュマニア、大形リーシュマニア、L.major)、メキシコリーシュマニア(リーシュマニア・メキシカーナ、L.Mexicana)、リーシュマニア・ナイフィ(L.naiffi)、リーシュマニア・パナメンシス(L.panamensis)、ペルーリーシュマニア(リーシュマニア・ペルビアナ、L.peruviana)、ピファノリーシュマニア(リーシュマニア・ピファノ、L.pifanoi)、リーシュマニア・シャーウィ(L.shawi)、リーシュマニア・タレントラエ(L.tarentolae)、リーシュマニア・トロピカ(L.tropica)、リーシュマニア・ツラニカ(L.turanica)、ベネズエラリーシュマニア(リーシュマニア・ベネズエレンシス、L.venezuelensis))、プラスモジウム属(Plasmadium)の種(複数)(熱帯熱マラリア原虫(プラスモジウム・ファルシパルム、P.falciparum)、三日熱マラリア原虫(プラスモディウム・ビバックス、P.vivax)、卵形マラリア原虫(プラスモディウム・オバレ、P.ovale))、住血吸虫属(シストソーマ属、Schistosoma)の種(複数)、トキソプラズマ(Toxoplasma)種(複数)(トキソプラズマ原虫(トキソプラズマ・ゴンディ、Toxoplasma gondii))、ブルセイトリパノソーマ(ブルーストリパノソーマ、トリパノソーマ・ブルセイ、Trypanosoma brucei)亜種。本発明の範囲は、これらの種の1つ以上から得られた細胞外小胞を別々に、又は組み合わせて使用することを伴い、組み合わせて使用する場合には、異なる寄生生物から得られたエクソソームが、癌治療において相互に効果を発揮することができる。
【0029】
本発明の範囲内では、寄生生物から得られる細胞外小胞を特徴づけるための寄生生物として、リーシュマニア・インファンタムが選択される。癌治療におけるその使用は、寄生生物の培養培地とすることができる。
【0030】
本発明の範囲内では、寄生生物又は寄生生物から得られる細胞外小胞、その寄生生物抗原(熱不活化したもの又は直接抗原そのもの)、遺伝物質(mRNA、低分子RNA、ミトコンドリアDNA、DNA断片)、遺伝子導入及びトランスフェクション(プラスミド導入、レンチウイルス、SV40抗原によるエレクトロポレーション)が行われた寄生生物が、CRISPR(ヌクレオチド編集を含む方法)による癌治療に使用される。これらは、ナノ担体系に封入された上で、癌治療に使用される。
【0031】
本発明の範囲内で、寄生生物及び寄生生物から得られる細胞外小胞の単離は、以下の単離方法のうち少なくとも1つを用いて行われる:水性二相系(ATPS)による単離、累進的な遠心分離、超遠心分離、ショ糖勾配超遠心分離、高分子沈殿、限外濾過、クロマトグラフィー法による単離(アフィニティクロマトグラフィー(抗体及びペプチドアフィニティ)、サイズ分離クロマトグラフィー(サイズ排除クロマトグラフィー))、マイクロビーズによる単離、イオン電荷に応じた沈殿(電荷に基づく沈殿)、並びに塩析。本発明の範囲内で好ましい二相液体単離法は、
細胞外小胞が単離されるもととなる寄生生物の培養培地を採取する工程と、
細胞残渣及び寄生生物等の望ましくない物質を培養培地から除去するために、2,000g~10,000gの速度で5~20分間遠心分離する工程と、
遠心分離後、220nm以上のサイズの粒子を濾過によって除去する工程と、
遠心分離によって得られた小胞-タンパク質混合物を、その分離のために、PEG相及びDEX相を含む二相液系に移す工程と、
上記タンパク質に対するPEG相の化学的傾向及びリン脂質構造膜に対するDEX相の化学的傾向を利用することにより、非小胞性タンパク質、細胞脂肪及び他の不純物を小胞から除去する工程と、
単離された小胞を得る工程と
を含む。
【0032】
本発明の範囲内で開発された、寄生生物又は寄生生物から得られる細胞外小胞を含有する製剤は、小胞、エマルション系、生物学的及び化学的ナノ粒子(ポリマーナノ粒子、固体脂質ナノ粒子)、無機ナノ粒子(金属ナノ粒子)、脂質小胞系(リポソーム、ニオソーム及びエトソーム)、デンドリマー、ポリマー-薬物結合体、ミセル並びにカーボンナノチューブを含む群から選択されるナノ担体系を含む。この製剤は、さらなる活性物質として、抗寄生虫活性、抗菌活性、抗ウイルス活性、抗悪性腫瘍活性並びに/又は細胞毒性(傷害性)及び/若しくは抗転移活性を示す活性化合物、並びにこれらの二元及び三元の組み合わせを含む群から選択される少なくとも1種の活性化合物を含む。この製剤は、抗菌活性を示す活性化合物として、アミカシン、ゲンタマイシン、カナマイシン、ネオマイシン、ネチルマイシン、トブラマイシン、パロモマイシン、ストレプトマイシン、スペクチノマイシン、ゲルダナマイシン、ハービマイシン、リファキシミン、ロラカルベフ、エルタペネム、ドリペネム、イミペネム、メロペネム、セファドロキシル(cephadroxyle)、セファゾリン、セファロチン、セファレキシン、セファクロル、セファマンドール、セフォキシチン、セフプロジル、セフロキシム、セフィキシム、セフジニル、セフジトレン、セフォペラゾン、セフォタキシム、セフポドキシム、セフタジジム、セフチブテン、セフチゾキシム、セフェピム、セフタロリンフォサミル、セフトビプロール、テイコプラニン、バンコマイシン、テラバンシン、ダルババンシン、オリタバンシン、クリンダマイシン、リンコマイシン、ダプトマイシン、アジスロマイシン、クラリスロマイシン、ジリスロマイシン、エリスロマイシン、ロキシスロマイシン、トロレアンドマイシン、テリスロマイシン、スピラマイシン、アズトレオナム、フラゾリドン、ニトロフラントイン、リネゾリド、ポシゾリド(posizolid)、ラデゾリド(radezolid)、トレゾリド、アモキシシリン、アンピシリン、アズロシリン、カルベニシリン、クロキサシリン、ジクロキサシリン、フルクロキサシリン、メズロシリン、メチシリン、ナフシリン、オキサシリン、ペニシリンG、ペニシリンV、ピペラシリン、テモシリン、チカルシリン、クラブラン酸塩、スルバクタム、タゾバクタム、バシトラシン、コリスチン、ポリミキシンB、シプロフロキサシン、エノキサシン、ガチフロキサシン、ゲミフロキサシン、レボフロキサシン、ロメフロキサシン、モキシフロキサシン、ナリジクス酸、ノルフロキサシン、オフロキサシン、トロバフロキサシン、グレパフロキサシン、スパルフロキサシン、テマフロキサシン、マフェニド、スルファセタミド、スルファジアジン、スルファジメトキシン、スルファメチゾール、スルファメトキサゾール、スルファニルアミド、スルファサラジン、スルフイソキサゾール、トリメトプリム、デメクロサイクリン、ドキシサイクリン、ミノサイクリン、オキシテトラサイクリン、テトラサイクリン、クロファジミン、ダプソン、カプレオマイシン、サイクロセリン、エタンブトール、イソニアジド、ピラジナミド、リファンピシン、リファブチン、リファペンチン、ストレプトマイシン、アルスフェナミン、クロラムフェニコール、ホスホマイシン、フシジン酸、メトロニダゾール、ムピロシン、プラテンシマイシン、キヌプリスチン、ダルホプリスチン、チアンフェニコール、チゲサイクリン、チニダゾール、トリメトプリム、並びにこれらの二元若しくは三元の組み合わせ及び/又は封入物(カプセル化物)を含む群から選択される少なくとも1種の薬剤を含む。この製剤は、抗ウイルス活性を示す活性化合物として、アバカビル、アシクロビル、アデホビル、アマンタジン、アンプレナビル、アンプリゲン(ampligen)、アルビドール(arbidol)、アタザナビル、アトリプラ(atripla)、バラビル(balavir)、シドフォビル、コンビビル(kombivir)、ドルテグラビル、ダルナビル(darunavir)、デラビルジン、ジダノシン、ドコサノール、エダクスジン(eduksudine)、エファビレンツ、エムトリシタビン、エンフビルチド、エンテカビル、エコリバー(ecoliver)、ファムシクロビル、ホミビルセン、ホスアンプレナビル、ホスカルネット、ホスホネット、ガンシクロビル、イバシタビン(ibasitabin)、イムノビル(imunovir)、ドクスウリジン、イミキモド、インジナビル、イノシン、1型インターフェロン、2型インターフェロン、3型インターフェロン、インターフェロン、ラミブジン、ロピナビル(lopinavir)、ロビライド、マラビロク、モロキシジン、メチサゾン、ネルフィナビル、ネビラピン、ネキサビル(nexavir)、ニタゾキサニド、ノビル(novir)、オセルタミビル、ペグインターフェロンアルファ-2a、ペンシクロビル、ペラミビル、プレコナリル、ポドフィロトキシン、プロテアーゼ阻害剤、ヌクレオシド類似体、ラルテグラビル、リバビリン、リマンタジン、リトナビル、ピラミジン(pyramidine)、サクイナビル(saquinavir)、ソホスブビル、スタブジン、テラプレビル、テノホビル、チプラナビル、トリフルリジン、トリジビル(trisivir)、トロマンタジン、ツルバダ(trovada)、バラシクロビル、バルガンシクロビル、ビダラビン、ビラミジン(viramidine)、ザルシタビン、ザナミビル、ジドブジン、並びにこれらの二元若しくは三元の組み合わせ及び/又は封入物を含む群から選択される少なくとも1種の薬剤を含む。この製剤は、抗寄生虫活性を示す活性化合物として、ニタゾキサニド、メラルソプロール、エフロルニチン、メトロニダゾール、チニダゾール、ミルテホシン、メベンダゾール、パモ酸ピランテル、チアベンダゾール、ジエチルカルバマジン、イベルメクチン、ニクロサミド、プラジカンテル、アルベンダゾール、リファンピン、アンホテリシンB、フマギリン、フラゾリドン、ニフルセミゾン、ニタゾキサニド、オルニダゾール、硫酸パロモマイシン、ペンタミジン、ピリメタミン、チニダゾール、アルベンダゾール、メベンダゾール、チアベンダゾール、フェンベンダゾール、トリクラベンダゾール、フルベンダゾール、アバメクチン、ジエチルカルバマジン、イベルメクチン、スラミン、パモ酸ピランテル、レバミソール、ニクロサミド、ニタゾキサニド、オキシクロザニド、モネパンテル、デルカンテル、アンホテリシンB、尿素スチバミン、スチボグルコン酸ナトリウム、アンチモン酸メグルミン、パロモマイシン、ミルテホシン、フルコナゾール、ペンタミジン、並びにこれらの二元若しくは三元の組み合わせ及び/又は封入物を含む群から選択される少なくとも1種の薬剤を含む。この製剤は、抗悪性腫瘍活性を示す活性化合物として、シクロホスファミド、イホスファミド、テモゾロミド、カペシタビン、5-フルオロウラシル、メトトレキサート、ゲムシタビン、ペメトレキセド、マイトマイシン、ブレオマイシン、エピルビシン、ドキソルビシン、エトポシド、パクリタキセル、イリノテカン、ドセタキセル、ビンクリスチン、カルボプラチン、シスプラチン、オキサリプラチン、ベバシズマブ、セツキシマブ、ゲフィチニブ、イマチニブ、トラスツズマブ、デノスマブ、リツキシマブ、スニチニブ、ゾレドロン酸、アビラテロン、アナストロゾール、ビカルタミド、エクセメスタン、ゴセレリン、メドロキシプロゲステロン、オクトレオチド、タモキシフェン、ベンダムスチン、カルムスチン、クロラムブシル、ロムスチン、メルファラン、プロカルバジン、ストレプトゾシン、フルダラビン、ラルチトレキセド、アクチノマイシンD、ダクチノマイシン、ドキソルビシン、ミトキサントロン、エリブリン、トポテカン、ビンブラスチン、ビノレルビン、アファチニブ、アフリベルセプト、クリゾチニブ、ダブラフェニブ、インターフェロン、イピリムマブ、ラパチニブ、ニボルマブ、パニツムマブ、ペムブロリズマブ、パーツズマブ、ソラフェニブ、トラスツズマブエムタンシン、テムシロリムス、ベムラフェニブ、イバンドロン酸、パミドロン酸、ベキサロテン(bexarotene)、ブセレリン、シプロテロン、デガレリクス、フォリン酸、フルベストラント、ランレオチド、レナリドミド、レトロゾール、リュープロレリン、メゲストロール、メスナ、サリドマイド、ビンクリスチン、並びにこれらの二元若しくは三元の組み合わせ及び/又は封入物を含む群から選択される少なくとも1種の薬剤を、細胞外小胞及び/又はナノ担体系と組み合わせて含む。さらには、この製剤は、少なくとも1種の活性物質を含む。この活性物質は、上で定義され列挙された物質を含む。
【0033】
治療のためのこの上述の医薬組成物の投与方法は、非経口、静脈内、皮内、皮下、腹腔内、局所的、髄腔内、鼻腔内、脳室内、眼内、膣内、尿道内、経皮、舌下、くも膜下、直腸、歯周、神経周囲、硬膜外、関節周囲、経口、鼓室内、腫瘍内、肺内、滑膜内、筋肉内、卵巣内、髄膜内(脳脊髄膜内)、海綿体内(intracorporus cavernosum)、冠内、脳内、硬膜外、皮膚、口腔内、歯科を含む群から選択される少なくとも1つの投与方法を含む。
【0034】
細胞外小胞は、本発明の範囲内で癌治療のためのアジュバント(佐剤)として使用される。本発明の範囲内で開示される医薬組成物は、寄生生物から得られる細胞外小胞を、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、トコフェロール、3D-MPLを含むエマルション系、コレステロール、CGオリゴヌクレオチドの少なくとも1つ、又はそれらの2つ以上の組み合わせに組み込むことにより形成することができる。
【0035】
本発明の目的のために癌治療に使用できる寄生生物及び寄生生物細胞外小胞の製造は、以下の工程を含む。
【0036】
1.寄生生物の培養
リーシュマニア・インファンタム(MHOM/MA/67/ITMA-P263)の前鞭毛体を、RPMI培地(熱不活化10%ウシ胎仔血清、2mM L-グルタミン、20mM HEPES、100U/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシンを含む)中で、27℃で培養する。対数期(106/ml)に達した寄生生物は感染性となる。
【0037】
2.神経膠芽腫癌による培養した寄生生物の処理、及びアネキシンVアッセイによるアポトーシス量の測定
調製した寄生生物を、培養培地中の神経膠芽腫U87細胞に添加する。2種類の用量(U87細胞の50倍及び100倍)で加えた寄生生物を8時間インキュベートし、その後、U87細胞上の寄生生物を除去する。翌日、アネキシンV溶液を添加した後、フローサイトメトリー装置で死亡率を測定する。
【0038】
3.寄生生物培地の採取
本発明の範囲内で、二相液系による単離、累進的な遠心分離、限外濾過、クロマトグラフィー法、ポリマーを用いた単離、及びマイクロビーズによる単離からなる群から選択される単離方法により、寄生生物の細胞外小胞を単離する。その中でも、最も純度の高い細胞外小胞の単離は、二相液系による単離によって実現され、それゆえ、本願の範囲内ではこの単離方法が好ましい。
【0039】
本発明の範囲内で使用される寄生生物の細胞外小胞の単離に使用される二相液系による単離方法は、以下の
細胞外小胞が単離されるもととなる寄生生物の培養培地を採取する工程と、
細胞残渣及び寄生生物等の望ましくない物質を上記培養培地から除去するために、2,000g~10,000gの速度で5~20分間遠心分離する工程と、
遠心分離後、220nm以上のサイズの粒子を濾過によって除去する工程と、
遠心分離によって得られた小胞-タンパク質混合物を、その分離のために、PEG相及びDEX相を含む二相液系に移す工程と、
上記タンパク質に対するPEG相の化学的傾向及びリン脂質構造膜に対するDEX相の化学的傾向を利用することにより、非小胞性タンパク質、細胞脂肪及び他の不純物を小胞から除去する工程と、
単離された小胞を得る工程と
を含む。
【0040】
4.MTS
96ウェル培養プレート(Corning Glasswork(コーニング・グラス・ワークス)、コーニング(Corning)、ニューヨーク州)に、10%ウシ胎仔血清(Invitrogen(インビトロジェン))及び1%PSA(Biological Industries(バイオロジカル・インダストリーズ)、ベイト・ヘメック(Beit Haemek)、イスラエル)を培養培地に含むダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)を用いて、5000細胞/ウェルで細胞を播種した後、1日目、2日目、3日目に細胞の生存率レベルを測定した。細胞生存率は、3-(4,5-ジ-メチル-チアゾール-2-イル)-5-(3-カルボキシ-メトキシ-フェニル)-2-(4-スルホ-フェニル)-2H-テトラゾリウム(MTS)法(CellTiter96 Aqueous One Solution;Promega(プロメガ)、サウサンプトン(Southampton)、英国)を用いて測定した。10μlのMTS溶液を100μlの増殖培地中の細胞に添加し、暗所で2時間インキュベートした。このインキュベーションプロセス後、ELISAプレートリーダー(Biotek(バイオテック)、ウィヌースキー(Winooski)、バーモント州)装置を用いて490nmの波長で吸光度測定を行い、細胞生存率を観察した。
【0041】
5.定量的リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)
96ウェル培養プレート(Corning Glasswork、コーニング、ニューヨーク州)に、10%ウシ胎仔血清(Invitrogen)及び1%PSA(Biological Industries、ベイト・ヘメック、イスラエル)を培養培地に含むダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)を用いて、150,000細胞/ウェルで細胞を播種した翌日、細胞を、様々な用量(10~40μg/ml)の寄生生物エクソソームとインキュベートし、インキュベート後3時間及び48時間後に、細胞内でp21、p53、カスパーゼ3、Bcl-2及びBaxの遺伝子の発現を観察した。つまり、Trizol(登録商標)を用いて細胞からRNAを単離し、NanoDrop分光光度測定で全RNA濃度を測定した後、cDNAキット(Roche(ロシュ))を用いてcDNA解析を行った。RT-PCRは、SYBR Green Kit(Thermofisher scientific(サーモフィッシャー・サイエンティフィック))を用いて、95℃で15分、続いて95℃で15秒、58℃で1分及び72℃で30秒のサイクルを39回繰り返して行った。ハウスキーピング遺伝子としてGAPDHを用いた。
【0042】
先行技術に対する本発明の違いの1つは、寄生生物及び寄生生物から単離されたエクソソームを使用することであり、これにより、それが単離された種の点でも、寄生生物のエクソソームを使用する点でも大きく異なる。これらのエクソソームは、細胞が細胞外に放出する化学物質の一部に過ぎない。本発明の範囲内で、癌細胞株及び健常細胞株の両方に対する寄生生物及びそのエクソソームの活性が示される。神経膠芽腫U-87細胞に寄生生物を50倍及び100倍の両方で加え、癌細胞のアポトーシス率、すなわち死亡率を評価したところ、8時間のインキュベーション終了時には、どちらの用量でも30%までの死亡が観察された(
図1)。同時に、アポトーシスを起こした、すなわち死亡した細胞へのリーシュマニア・インファンタム寄生生物の感染率は約68%である(
図2)。寄生生物だけでなく、これらの寄生生物から分泌され培地から単離されたエクソソームを一定濃度(0.78~50μg/ml)で特定の種の癌細胞及び健常細胞に加えてから3日間の細胞生存率を調べたところ、U87神経膠芽腫細胞(40%以上)、SHSY5Y神経芽腫細胞(90%以上)、A172神経膠芽腫細胞(45%以上)、SH4メラノーマ細胞(90%以上)、22RV前立腺細胞(90%以上)では、細胞生存率の低下とアポトーシスが観察されたが、健常細胞株であるHaCaT、HDF及びアストロサイト細胞では、生存率に影響は見られなかった(
図3~
図10)。
【0043】
SHSY-5Y神経芽腫細胞に10μg/ml用量のエクソソームを加え、48時間インキュベートした後、定量的リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)によりp53、カスパーゼ3、Bcl-2及びBaxの遺伝子の発現を測定した結果、SHSY-5Y神経芽腫細胞では、p53、カスパーゼ3及びBaxの遺伝子の発現が有意に増加し、Bcl-2遺伝子の発現が減少した(
図11~
図14)。SHSY-5Y神経芽腫細胞及びアストロサイト(NHA)細胞に40μg/ml用量のエクソソームを加え、3時間インキュベートした後、p21、p53及びカスパーゼ3の遺伝子の発現の変化を評価したところ、SHSY-5Y神経芽腫細胞ではp21及びカスパーゼ3の遺伝子の発現の有意な増加が観察され、一方、アストロサイト(NHA)細胞ではp21、p53及びカスパーゼ3の遺伝子の発現が減少したと結論付けた(
図15~
図20)。実験に照らして得られた結果から、本発明は、多量の癌細胞に死(アポトーシス)を引き起こす一方で、健常細胞には細胞毒性効果を及ぼさない製剤の開発に適していることが示される。
【0044】
本発明の利点は以下のように表現できる。
・本発明は、異なる種類の癌に対して24時間でほぼ完全な活性を示し、健常細胞には副作用がない。
・寄生生物、とりわけリーシュマニア種は、遺伝子組み換えに対して極めてオープンであり、寄生生物や寄生生物の細胞外小胞を必要に応じて遺伝子介入により改変することができるため、癌に対する活性及び寄生生物から得られる生産量の改善にも門戸が開かれている。
・エクソソームの薬物担持能力を利用して、活性物質をエクソソームに担持させることができ、従って、特定の薬物を標的細胞に運び、これによりその薬物のバイオアベイラビリティを高めることで、腫瘍特異的な標的領域において所望の効果が達成される。
【0045】
本発明で使用する細胞外小胞は、手頃な価格で大量に生産できる産物である。
【0046】
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【国際調査報告】