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特表2022-532022トップダウン抗体解析における背景低減
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-13
(54)【発明の名称】トップダウン抗体解析における背景低減
(51)【国際特許分類】
   H01J 49/00 20060101AFI20220706BHJP
   H01J 49/42 20060101ALI20220706BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20220706BHJP
【FI】
H01J49/00 540
H01J49/42 150
H01J49/42 700
G01N27/62 E
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021557838
(86)(22)【出願日】2020-05-13
(85)【翻訳文提出日】2021-09-28
(86)【国際出願番号】 IB2020054543
(87)【国際公開番号】W WO2020230063
(87)【国際公開日】2020-11-19
(31)【優先権主張番号】62/847,130
(32)【優先日】2019-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510075457
【氏名又は名称】ディーエイチ テクノロジーズ デベロップメント プライベート リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】馬場 崇
(72)【発明者】
【氏名】リューミン, パヴェル
【テーマコード(参考)】
2G041
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041DA02
2G041DA05
2G041DA09
2G041GA03
2G041GA08
2G041GA09
(57)【要約】
複数のイオンを少なくとも1つのインタクト抗体を含有するサンプルから発生させるためのイオン源を利用することを伴う、抗体のトップダウン解析を実施するための方法およびデバイスが、説明される。さらに、RF信号をそこに印加しながら、分解DC電圧の不在下、優先的に、約1,500m/zの低質量カットオフ値を上回るm/z値を有する、前駆体イオンを、四重極ロッドセットからECDセルに伝送するように、該複数のイオンを四重極ロッドセットを通して伝送する。本方法およびデバイスはまた、ECD反応をECDセル内において該前駆体イオン上に実施し、また、反応生成物をECD反応から検出することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗体のトップダウン解析を実施するための方法であって、
イオン源を利用し、複数のイオンを少なくとも1つのインタクト抗体を含有するサンプルから発生させることと、
約1,500m/zの低質量カットオフ値を上回るm/z値を有する前駆体イオンを、四重極ロッドセットからECDセルに優先的に伝送するように、分解DC電圧の不在下で、RF信号を前記四重極ロッドセットに印加しながら、前記複数のイオンを前記四重極ロッドセットを通して伝送することと、
ECD反応を前記ECDセル内において前記前駆体イオンに実施することと、
反応生成物を前記ECD反応から検出することと
を含む、方法。
【請求項2】
前記四重極ロッドセットは、Q1を三連四重極内に備える、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記低質量カットオフ値が約1,700m/zであるように、前記RF信号の振幅および周波数のうちの少なくとも1つを調節することをさらに含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記低質量カットオフ値が約2,000m/zであるように、前記RF信号の振幅および周波数のうちの少なくとも1つを調節することをさらに含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
前記低質量カットオフ値は、約1,700m/zである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
前記低質量カットオフ値は、約2,000m/zである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項7】
前記反応生成物の少なくとも一部は、前記低質量カットオフ値を下回るm/zを有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
ECD反応を実施することは、前記前駆体イオンを前記ECDセルを通して伝送しながら、電子を前記ECDセルの中に導入することを含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記前駆体イオンは、複数の電荷状態にある前記抗体のイオンを含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
複数の電荷状態にある前記抗体の前記イオンは、約2,000~約4,000の範囲内の少なくとも2つのm/zを呈する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
質量分析計システムであって、
複数のイオンをインタクト抗体を含有するサンプルから発生させるためのイオン源と、
中心長手方向軸に沿って延在する四重極ロッドセットであって、前記四重極ロッドセットは、前記複数のイオンを前記イオン源から入口端を通して受け取り、前記イオンの少なくとも一部を出口端を通して伝送するように構成され、前記四重極ロッドセットは、前記中心長手方向軸の周囲に、かつ前記中心長手方向軸と平行に配置される第1の対の伸長ロッドおよび第2の対の伸長ロッドを備える、四重極ロッドセットと、
前記四重極ロッドセットから伝送されるイオンを受け取るためのECDセルであって、前記ECDセルの中で、前記四重極ロッドセットから受け取られた前記イオンが、電子と反応させられ、生成イオンを前記ECDセルから発生させる、ECDセルと、
前記生成イオンを検出するための検出器と、
前記四重極ロッドセットに電気的に結合される電力システムであって、前記電力システムは、約1,500m/zの低質量カットオフ値未満のm/z値を有するイオンが、前記四重極ロッドセットから前記ECDセルに伝送されることを実質的に防止するように、分解DC電圧の不在下で、RF信号を前記四重極ロッドセットに提供するように構成される、電力システムと
を備える、システム。
【請求項12】
前記四重極ロッドセットは、Q1を備える、請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
前記四重極ロッドセットは、約1×10-4Torr未満の圧力に維持されるチャンバ内に格納される、請求項11または12に記載のシステム。
【請求項14】
前記電力システムは、分解DC電圧の不在下で、RF信号を前記四重極ロッドセットに提供し、約1,700m/zの低質量カットオフ値未満のm/z値を有するイオンが、前記四重極ロッドセットから前記ECDセルに伝送されることを実質的に防止するように構成される、請求項11~13のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項15】
前記電力システムは、分解DC電圧の不在下で、RF信号を前記四重極ロッドセットに提供し、約2,000m/zの低質量カットオフ値未満のm/z値を有するイオンが、前記四重極ロッドセットから前記ECDセルに伝送されることを実質的に防止するように構成される、請求項11~13のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項16】
前記RF信号の振幅を増加させ、前記低質量カットオフ値を増加させるように構成されるコントローラをさらに備える、請求項11~15のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項17】
前記生成イオンの少なくとも一部は、前記低質量カットオフ値を下回るm/zを有する、請求項11~16のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項18】
前記インタクト抗体は、約2,000~約4,000の範囲内のm/zを有する、請求項11~17のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項19】
電子を前記ECDセルの中に導入するための電子源をさらに備える、請求項11~18のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項20】
前記RF信号の振幅は、約0.1kVp-p~約10kVp-pの範囲内である、請求項11~19のいずれか1項に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2019年5月13日に出願された米国仮出願第62/847,130号の優先権の利益を主張し、その内容全体が、参照することによって本明細書に援用される。
【0002】
本発明は、インタクト抗体の質量の質量分析解析において電子捕捉解離(ECD)を利用する方法および装置に関する。
【背景技術】
【0003】
質量分析法(MS)は、定量的および定質的用途の両方を有する試験物質の元素組成を決定するための解析技法である。例えば、MSは、未知の化合物を同定するために、および/またはその断片化を観察することによって特定の化合物の構造を決定するために使用されることができる。最近、MSは、ペプチドおよびタンパク質を特性評価および同定することにおけるMS方略の速度、特異性、および感度に起因して、プロテオミクスにおいてますます重要な役割を果たしている。
【0004】
MSベースのプロテオミクスにおいてタンパク質を特性評価することにおける1つの方略は、ペプチド断片をMS解析(MS)またはタンデムMS/MS解析(MS)に曝すことに先立って、着目タンパク質が(例えば、トリプシン、LysC等を介した)酵素消化および1回以上の分離(例えば、多次元LC)を被る「ボトムアップ」アプローチである。「ボトムアップ」MSワークフローでは、衝突誘発解離(CID)が、従来、第1のMS段階において選択された前駆体ペプチド断片を生成イオン断片にさらに解離させるために利用されている。前駆体ペプチドイオンのアミノ酸配列が、次いで、生成イオン断片の質量から推測されることができる。CIDでは、イオン化された前駆体イオンと不活性中性ガスおよび/または窒素分子との間のエネルギー衝突が、バックボーンアミド結合を振動させ、最終的に、それを解離(開裂)させ、それによって、b型(N末端)およびy型(C末端)生成イオンをもたらす。(例えば、タンパク質中の既知の配列またはゲノムデータベースを参照することによって)生成イオンペプチドのうちのいくつかを同定することによって、元のタンパク質が、決定されることができる。しかしながら、CID反応は、概して、最弱ペプチドアミド結合においてのみ生じるため、ペプチドバックボーンに沿った不完全な断片化は、ペプチド配列の完全な再構成を困難にし得る。プロテオミクスにおけるCIDの使用に対する別の重要な限界は、解離の間の翻訳後修飾(PTM)の損失である。多くの場合ペプチドバックボーンに弱く結合のみされるPTM(例えば、リン酸化官能基または硫酸化官能基)は、断片化の間、ペプチドから剥奪され、それによって、MSスペクトルにおけるPTMの検出および特性評価を妨げる。
【0005】
上記に説明される「ボトムアップ」アプローチとは対照的に、代替のMSベースのプロテオミクス方略は、代わりにインタクトタンパク質が例えばイオン間相互作用を利用して質量分析計内で解離を受ける「トップダウン」解析を利用する。従来のCIDは、概して、解離させる部位が少なすぎて、完全な情報を提供し、インタクトタンパク質のアミノ酸配列全体を特性評価することができないが、イオン間相互作用は、ペプチドバックボーンのより完全な断片化に起因して、インタクトタンパク質の「トップダウン」配列決定のために効果的であり得る。しかしながら、「トップダウン」アプローチの1つのあり得る障害物は、イオン化に続く種々の多価前駆体の質量の広い分布、およびMSスペクトルの複雑性である。さらに、実世界の用途は、複雑な未知のサンプルを伴い、これは、MSスペクトルの解析におけるさらなる曖昧性を追加し得る。
【0006】
故に、トップダウンアプローチを利用する抗体の質量分析解析のための改良された方法および装置に対するニーズが依然として存在する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本教示の種々の側面によると、抗体のトップダウンMSベースの解析を実施するための方法およびシステムが、本明細書において提供される。ある側面では、方法は、イオン源を利用し、複数のイオンを少なくとも1つのインタクト抗体を含有するサンプルから発生させることと、約1,500m/zの低質量カットオフ値を上回るm/z値を有する前駆体イオンを、四重極ロッドセットからECDセルに優先的に伝送するように、分解DC電圧の不在下で、RF信号を四重極ロッドセットに印加しながら、複数のイオンを四重極ロッドセットを通して伝送することとを含む。ECD反応が、次いで、ECDセル内で前駆体イオンに実施され、ECD反応からの反応生成物が、検出される。種々の実装では、四重極ロッドセットは、Q1を三連四重極内に備える。ある側面では、RF信号の振幅および/または周波数は、低質量カットオフ値が約1,700m/zであるように調節される。代替として、RF信号の振幅および/または周波数が、低質量カットオフ値が約2,000m/zであるように調節される。いくつかの側面では、反応生成物の少なくとも一部は、低質量カットオフ値を下回るm/zを有する。
【0008】
いくつかの実装では、ECD反応を実施することは、前駆体イオンをECDセルを通して伝送しながら、電子をECDセルの中に導入することを含む。
【0009】
ある側面では、複数の前駆体抗体イオンは、複数の電荷状態を備える。例えば、ある側面では、複数の前駆体抗体イオンは、抗体の同一種の抗体であるが、約2,000~約4,000の範囲内の少なくとも2つの異なるm/zを呈する抗体を備え得る。
【0010】
本教示の種々の側面では、質量分析計システムが提供され、システムは、複数のイオンをインタクト抗体を含有するサンプルから発生させるためのイオン源と、中心長手方向軸に沿って延在する四重極ロッドセットであって、四重極ロッドセットは、複数のイオンをイオン源から入口端を通して受け取り、イオンの少なくとも一部を出口端を通して伝送するように構成され、四重極ロッドセットは、中心長手方向軸の周囲に、かつ中心長手方向軸と平行に配置される第1の対の伸長ロッドおよび第2の対の伸長ロッドを備える、四重極ロッドセットと、四重極ロッドセットから伝送されるイオンを受け取るためのECDセルであって、ECDセルの中で、四重極ロッドセットから受け取られたイオンが、電子と反応させられ、生成イオンをECDセルから発生させる、ECDセルと、生成イオンを検出するための検出器とを備える。四重極ロッドセットに電気的に結合される電力システムは、約1,500m/zの低質量カットオフ値未満のm/z値を有するイオンが、四重極ロッドセットからECDセルに伝送されることを実質的に防止するように、分解DC電圧の不在下で、RF信号を四重極ロッドセットに提供するように構成される。いくつかの実装では、低質量カットオフ値は、1,500m/zより高いことがある。例えば、いくつかの実装では、電力システムは、分解DC電圧の不在下で、RF信号を四重極ロッドセットに提供し、約1,700m/zの低質量カットオフ値未満のm/z値を有するイオンが、四重極ロッドセットからECDセルに伝送されることを実質的に防止するように構成される。他の実装では、電力システムは、分解DC電圧の不在下で、RF信号を四重極ロッドセットに提供し、約2,000m/zの低質量カットオフ値未満のm/z値を有するイオンが、四重極ロッドセットからECDセルに伝送されることを実質的に防止するように構成される。加えて、システムは、低質量カットオフ値を調節するためのコントローラを備えることができる。例えば、コントローラは、いくつかの実施形態では、RF信号の振幅を増加させ、低質量カットオフ値を増加させるように構成される。種々の実装では、RF信号の振幅は、約0.1kVp-p~約10kVp-pの範囲内である。
【0011】
いくつかの実装では、四重極ロッドセットは、Q1を備える。加えて、いくつかの側面では、四重極ロッドセットは、約1×10-4Torr未満の圧力に維持されるチャンバ内に格納される。電子源が、電子をECDセルの中に導入するためのシステム内に含まれる。
【0012】
種々の側面では、インタクト抗体は、約2,000~約4,000の範囲内のm/zを有し得る。加えて、生成イオンの少なくとも一部は、いくつかの実装では、低質量カットオフ値を下回るm/zを有する。
【0013】
上記に説明される特徴の各々が、説明される具体的実施形態に対して種々の方法で対合および/もしくは組み合わせられ、ならびに/または除去され、本教示の範囲内であると見なされるべきである代替実施形態をもたらし得る。
【0014】
本出願人の教示のこれらおよび他の特徴が、本明細書に記載される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
本発明の前述および他の目的および利点は、付随の図面を参照して、以下のさらなる説明からより完全に理解されるであろう。当業者は、下記に説明される図面が例証目的のためだけのものであることを理解するであろう。図面は、本出願人の教示の範囲をいかようにも限定することを意図するものではない。
【0016】
図1図1は、本出願人の教示の種々の側面による例示的ECD質量分析計システムを図式的に描写する。
【0017】
図2図2は、本教示の種々の側面による図1のシステムにおける使用のために好適なある例示的四重極を図式的に描写する。
【0018】
図3図3は、本教示の種々の側面によるRF専用モードで動作する図2の例示的四重極を図式的に描写する。
【0019】
図4図4は、本教示の種々の側面による抗体のECDベースのトップダウン解析を実施するためのある例示的方法のフローチャートを描写する。
【0020】
図5図5A-Cは、本教示に従って解析されるべき抗体を含有するサンプルの例示的質量スペクトルを描写する。
【発明を実施するための形態】
【0021】
明確にするために、以下の議論は、省略することが便宜的または適切である場合は常に、ある具体的詳細を省略しながら、本出願人の教示の実施形態の種々の側面を詳述することを理解されたい。例えば、代替実施形態における同様または類似の特徴の議論は、幾分、簡約され得る。周知の考えまたは概念もまた、簡潔にするために、さらにより詳細に議論されない場合がある。当業者は、本出願人の教示のいくつかの実施形態が全ての実装において実施形態の完全な理解を提供するためだけに本明細書に記載される具体的に説明される詳細のある部分を要求しない場合があることを認識するであろう。同様に、説明される実施形態は本開示の範囲から逸脱することなく共通の一般的知識に従って改変または変動を被り得ることが明白であろう。実施形態の以下の詳細な説明は、いかようにも、本出願人の教示の範囲を限定するものと見なされるべきではない。本明細書で使用される場合、用語「約」および「実質的に等しい」は、例えば、実世界における測定または取扱手順を通して、これらの手順における不注意による過誤を通して、組成または試薬の製造、源または純度における差異を通して、および同等物を通して生じ得る数量の変動を指す。典型的には、本明細書で使用される場合、用語「約」および「実質的に」は、述べられる値の1/10、例えば、±10%、述べられる値のより大きいまたはより小さい値または範囲を意味する。例えば、約30%または30%に実質的に等しい濃度値は、27%~33%の濃度を意味することができる。用語はまた、変動が先行技術によって実践される公知の値を包含しない限り、均等物であると当業者によって認識されるそのような変動を指す。
【0022】
種々の側面では、インタクト抗体のECDベースのトップダウン解析を可能にするようにイオンを解析するための方法およびシステムが、本明細書に提供される。MSベースのプロテオミクスの従来の方法は、干渉種および異なる電荷状態の多価前駆体イオンの存在に起因して、繁雑なおよび/または不正確なデータをもたらし得るが、本教示は、ECDの高解離効率を利用して、抗体イオンに関する完全な配列を発生させながら、あまり繁雑ではない質量スペクトルをもたらし得る。下記に詳細に議論されるように、本明細書に開示される方法およびシステムの種々の側面は、選択的に、低質量カットオフ値(LMCO)を下回るm/zを呈するイオンがECDセルに進入することを防止し、その電荷状態に関係なく、インタクト抗体から形成されるイオンの伝送を可能にする。
【0023】
本明細書に説明されるシステム、デバイス、および方法は、描写されるものより少ない、より多い、または異なる構成要素を伴う多くの異なる質量分析計システムと併用され得るが、本教示に従った使用のためのある例示的質量分析計システム100が、図1に図式的に図示される。図1に描写される例示的実施形態に示されるように、質量分析計システム100は、概して、複数の前駆体イオンをそこから発生させるように、1つ以上の着目抗体を含有するかまたは含有すると疑われるサンプルをイオン化するためのサンプルイオン源102と、イオン源102から発生させられたイオンを受け取り、次いで発生させられたイオンの一部をECD反応セル110に伝送するための四重極ロッドセット104とを備える。ECDセル110は、相互作用領域を含み、その中で、前駆体カチオンが、前駆体イオンを検出器140によって検出される複数の生成イオンに解離させるように、電子源106によって発生させられた電子と相互作用する。図1に示されるように、例示的質量分析計システム100は、加えて、RF、AC、および/またはDC成分を有する電位を種々の構成要素の電極に印加し、協調方で、および/または種々の異なる動作モードのために、質量分析計システム100の要素を構成するように、コントローラ108によって制御される1つ以上の電力供給源(例えば、DC電力供給源105およびRF電力供給源107)を含む。下記に詳細に議論されるように、本教示の例示的実装では、四重極ロッドセット104に印加される電気信号は、好ましくは、LMCOを上回るm/z値(例えば、約1,500m/z)を有するそれらの前駆体イオンをECDセル110に伝送するように、設定および/または調節される。特定の実装では、ある振幅および周波数を呈するRF信号が、四重極ロッドセットの種々のロッドに、これらのロッドへのDC分解電圧の不在下で印加され、振幅および周波数は、LMCOを下回るm/z値を有するイオンが下流要素の中に伝送されることを実質的に防止し、それによって、ECDセル110内の抗体前駆体イオンの反応に続く生成イオンの検出によって発生させられたMSスペクトルの後続の解析および/または解釈にこれらの低m/zイオンが干渉することを排除するように選択される。
【0024】
イオン源102は、種々の構成を有し得るが、概して、サンプル中に含有される抗体からイオン(例えば、カチオン)を発生させるように構成される。ある実装では、本教示に従った使用のための好適なサンプル源は、サンプル(例えば、着目抗体を含有するかまたは含有すると疑われる溶液)を含有し、かつ/または1つ以上の導管、チャネル、管類、パイプ、キャピラリー管等を通して液体サンプルをイオン源102に伝送するように、例えば、流体結合を介して、サンプルをイオン源102に導入するように構成される。非限定的な例として、サンプル源は、解析されるべきサンプルのリザーバ、またはサンプルが注入される入力ポートを備える。いくつかの側面では、例えば、サンプル源は、サンプルをイオン源102の中に持続的に流動させるための注入ポンプ(例えば、シリンジポンプ)を備える。代替として、また、非限定的な例として、解析されるべき液体サンプルは、オンライン液体クロマトグラフカラムからの溶離液の形態にあるが、いくつかの側面では、1つ以上のサンプル調製ステップ(例えば、多次元LC分離、電気泳動、ジスルフィド結合還元等)は、オフラインで実施され得る。
【0025】
本教示のいくつかの例示的側面では、イオン源102は、サンプル源と直接または間接的に流体連通する導管を含み、導管は、少なくとも部分的にイオン化チャンバの中に延在する出口端で終端する。液体サンプルが出口端からイオン化チャンバの中に(例えば、複数の微小液滴として)放出されると、微小液滴中に含有される抗体(および他の干渉検体)は、イオン源102によってイオン化される(すなわち、荷電させられる)。液滴中の液体(例えば、溶媒)が蒸発すると、イオンは、解放され、四重極ロッドセット104およびECDセル110への伝送のための開口に向かって、かつそれを通って引き込まれる。当技術分野において公知であり、かつ本明細書の教示に従って修正されるいくつかの異なるデバイスが、イオン源102として利用され得ることを理解されたい。非限定的な例として、イオン源102は、エレクトロスプレーイオン化デバイス、ネブライザ支援エレクトロスプレーデバイス、化学イオン化デバイス、ネブライザ支援粉末化デバイス、光イオン化デバイス、レーザイオン化デバイス、サーモスプレーイオン化デバイス、超音波スプレーイオン化デバイスであり得る。
【0026】
図1の実装に示されるように、システム100は、ECDセル110を含み、その中で、四重極ロッドセット104によって伝送された前駆体イオンは、ECD反応を受け得る。ECD反応は、通常、多価プロトン化分子Mが自由電子と相互作用して奇数の電子を有するラジカル種を形成することを伴う
[M+nH]n++e→[M+nH](n-1)+・→ECD断片
電子を前駆体抗体カチオンの不完全な分子軌道に添加することは、結合エネルギーを解放し、これは、当技術分野において公知のように、解離閾値を超えるほど十分である場合、電子受容体イオンの断片化を引き起こす。前駆体イオンがECDセル110内で反応させられると、断片または生成イオンは、検出器110によるECD生成イオンの検出に先立って、さらなる解析のために1つ以上の質量解析器に輸送され得る。例として、ECDセル110と検出器140との間に配置される質量解析器は、任意の好適な質量分析計モジュールを備えることができ、質量分析計モジュールは、例えばそこからの生成イオンを走査するために、限定ではないが、飛行時間(TOF)質量分析法モジュール、四重極質量分析法モジュール、線形イオントラップ(LIT)モジュール、および同等物を含む。非限定的な例として、ECD反応は、「Inline Ion Reaction Device Cell and Method of Operation」と題されたPCT公開第WO2014191821号に説明されるECDデバイス内で実施され得、その教示は、参照することによってその全体として援用される。ECD反応のために電子をECDセル110に提供する必要性と一貫して、システム100は、加えて、電子源106を含む。当業者は、イオン間反応のために電子を提供するための質量分析計システムにおける使用のために好適であり、かつ本教示に従って修正される任意の電子源が、システム100において利用され得ることを理解するであろう。非限定的な例として、電子は、フィラメント(例えば、タングステン、トリウム入タングステン、およびその他)、またはYカソード等の別の電子エミッタによって発生させられ得る。ある例示的動作では、1~3Aの電流が、電子源を加熱するために印加されることができ、これは、電子を発生させるように、1~10Wの熱電力を生成する。電子源106は、いくつかの側面では、加えて、磁場発生器(例えば、示されない永久ネオジム磁石または電磁石)と関連付けられ、ECDセル110内の電子の経路および冷却機構(例えば、ヒートシンク、能動冷却)を制御し、磁石が存在する場合、磁石の温度を、永久磁石の磁化が喪失されるそのキューリー温度を下回るように維持し得ることを理解されたい。磁石を冷却する他の公知の方法もまた、利用され得る。
【0027】
示されるように、システム100は、ECDセル110から伝送される前駆体および/または生成イオンを検出するために有効な検出器140(例えば、飛行時間質量解析器、イオントラップ質量解析器、Faradayカップ、または他のイオン電流測定デバイス)を含む。検出されたイオンデータは、メモリ内に記憶され、コンピュータまたはコンピュータソフトウェアによって解析され得る。
【0028】
当業者によって理解されるように、システム100は、加えて、さらなるイオン処理、操作、および/または質量解析のために、四重極ロッドセット104およびECDセル110の上流または下流に配置される任意の数の付加的質量解析器要素またはイオン光学要素を含み得る。例として、イオンは、1つ以上の付加的差動圧送真空段階(例えば、約2.3Torrの圧力に維持される第1の段階、約6mTorrの圧力に維持される第2の段階、および約10-5Torrの圧力に維持される第3の段階であって、第3のセルは、検出器140を含有し、2つ以上の四重極質量解析器は、その間に位置するECDセル110を有する)を通して移送され得る。例えば、一実施形態では、四重極ロッドセット104は、Q1(約1×10-4Torr未満の圧力に維持される)を表し、ECDセル110は、Q-q-Q三連四重極質量分析計内のQ2を表す、またはそれに取って代わる(例えば、Baba et al.の「Electron Capture Dissociation in a Radio Frequency Ion Trap」(Anal.Chem.2004,Aug.1;76(15):4263-6)、および「Inline Ion Reaction Device Cell and Method of Operation」と題されたPCT公開第WO2014191821号参照(ECDデバイスを説明するこれらの例示的参考文献の各々の教示は、参照することによってその全体として援用される))。
【0029】
示されるように、描写されるシステム100は、加えて、システム100の動作を制御するようにシステム100の要素のうちの1つ以上のものに動作可能に結合されるコントローラ108を含む。例として、コントローラ108は、情報を処理するためのプロセッサと、質量スペクトルデータを記憶するためのデータ記憶装置と、実行されるべき命令とを含み得る。下記に詳細に議論されるように、概して当技術分野において公知であり、かつ本教示に従って修正されるように、コントローラ108は、例として、サンプルイオン源102によるイオンの発生および電子源106による電子の発生を制御し、かつ/または、四重極ロッドセット104およびECDセル110の中へのイオンの移動およびそれらを通したイオンの移動をそれらの電極への1つ以上のRF/DC電圧の印加を介して制御し得る。コントローラ108が単一構成要素として描写されるが、(ローカルまたは遠隔かどうかにかかわらず)1つ以上のコントローラが本明細書に説明される方法のいずれかに従って質量分析計システム100を動作させるように構成され得ることを理解されたい。加えて、いくつかの実装では、コントローラ108は、ディスプレイ(例えば、情報をコンピュータユーザに表示するための陰極線管(CRT)または液晶ディスプレイ(LCD))等の出力デバイス、ならびに/または、情報およびコマンド選択物をプロセッサに通信するための英数字キーおよび他のキーおよび/またはカーソル制御を含む入力デバイスと動作可能に関連付けられ得る。本教示のある実装と一貫して、コントローラ108は、1つ以上の命令の1つ以上のシーケンスを実行し、1つ以上の命令は、例えば、データ記憶装置内に含有されるか、または記憶デバイス(例えば、ディスク)等の別のコンピュータ可読媒体からメモリの中に読み取られる。1つ以上のコントローラ(単数または複数)は、ハードウェアまたはソフトウェアの形態をとり得、例えば、コントローラ108は、質量分析計システム100を本明細書に説明される別のものとして動作させるように実行される、コンピュータ内に記憶されたコンピュータプログラムを有する好適にプログラムされたコンピュータの形態をとり得るが、本教示の実装は、ハードウェア回路とソフトウェアとの任意の具体的組み合わせに限定されない。例えば、コントローラ108と関連付けられる種々のソフトウェアモジュールが、プログラマブル命令を実行し、図4を参照して下記に説明される例示的方法を実施し得る。
【0030】
上記留意されるように、例示的質量分析計システム100は、1つ以上の電力供給源を含み、1つ以上の電力供給源は、RF、AC、および/またはDC成分を有する電位を種々の構成要素の電極に印加して、協調方式で、かつ/または本明細書で別様に議論されるような種々の異なる動作モードのために、質量分析計システム100の要素を構成するように、コントローラ108によって制御される。ここで図2を参照すると、例示的四重極ロッドセット104は、入口端(例えば、イオン源側)から出口端(例えば、ECDセル側)まで延在する中心長手方向軸(Z)の周囲においてそれと平行に配置される4つのロッド104a-dを含む。ロッド104a-dは、中心軸(Z)から等距離に配置される円筒形形状(すなわち、図2に示されるように、半径rの円形断面)を有するロッドを備え、ロッド104a-dの各々は、相互にサイズおよび形状が均等である。ロッド104a-dの各々と中心軸(Z)との間の最小距離は、各一次ロッド104a-dの最内表面が、2rの最小距離だけ中心長手方向軸(Z)を横断してそのロッド対内の他のロッドの最内表面から分離されるような距離rによって定義される。いくつかの例示的実装では、ロッドセット104のrは、約3mm~約10mmの範囲内である。ロッド104a-dは円筒形として描写されるが、ロッド104a-dの断面形状、サイズ、および/または相対的間隔は当技術分野において公知のように変動させられ得ることを理解されたい。例えば、いくつかの側面では、ロッド104a-dは、方程式x-y=r (式中、r(場半径)は、四重極場を発生させるための電極間の内接円の半径である)に従った半径方向内部双曲線面を呈し得る。
【0031】
ロッド104a-dは、1つ以上の電気信号が単独でまたは組み合わせて各ロッド104a-dに印加されることができるように、導電性(すなわち、それらは、金属または合金等の任意の伝導性材料から作製されることができる)であって、(図1の1つ以上の電力供給源105、107を備える)電力システムに結合されることができる。特に、ロッド104a-dは、概して、2つの対のロッド(例えば、ロッド104aおよび104cを備える第1の対と、ロッド104bおよび104dを備える第2の対)を備え、各対のロッドは、中心軸(Z)の対向する側に配置され、それらに対して同じ電気信号が印加され得る。例えば、図2に図示されるようないくつかの側面では、電力システムは、同じ電位を第1の対のロッド104a、cに印加するように第1の対のロッド104a、cに電気的に結合される電力供給源106aと、異なる電気信号を第2の対のロッド104b、dに印加するために第2の対のロッド104b、dに電気的に結合される電力供給源106bとを備えることができる。図2に示されるように、いくつかの実装では、例示的電力システムは、[U-VcosΩt]の電位を第1の対のロッド104a、cに印加することができ、式中、Uは、DC電気信号の大きさであり、Vは、ACまたはRF信号のゼロからピークまでの振幅であり、Ωは、ACまたはRF信号の周波数であり、tは、時間である)。同様に、例示的電力システムは、-[U-VcosΩt]の電位を第2の対のロッド104b、dに印加することができる。この例示的構成では、第1の対のロッド104a、cおよび第2の対のロッド104b、dに印加される電気信号は、DC信号の極性(すなわち、Uの符号)が異なる一方、電気信号のRF部分は、相互に180°位相がずれ得る。したがって、いくつかの側面では、四重極ロッドセット104が、DC/RF比の好適な選択肢によって選択されたm/z範囲のイオンを選択的に伝送し得る四重極質量フィルタと見なされ得ることが、当業者によって理解されるであろう。例えば、4つの一次ロッド104a-dに印加されるDC電気信号のみ(すなわち、±U)を検討すると、図2に示されるような四重極ロッドセット104の中に注入されるカチオンは、第1の対の電極104a、cへの正のDC電圧の印加に基づいて、X-Z平面における(中心軸Zに向かう)安定化力を被り得る一方、カチオンは、第2の対の電極104b、dへの負のDC電圧の印加に基づいて、Y-Z平面における不安定化力を被り得る。RF信号の効果のみを検討すると、カチオンは、ロッド対に印加されるRF信号が経時的に変化するにつれて、連続して種々のロッド対104a、cおよび104b、dによって誘引および反発され得る。低m/zのカチオンは、場の交流成分により容易に追従することが可能であるため、低m/zカチオンは、それらがロッド104a-dのうちの1つに遭遇し、放出されるまで、よりRF信号と同相に留まり、エネルギーを場から得て、ますます大きい振幅で発振する傾向にあり得る。ここで、組み合わせられたDCとRF信号の効果を検討すると、X-Z平面における場は、高m/zのイオンのみが第1の対の電極104a、cに衝打せずに四重極の他端に伝送される点で、ハイパス質量フィルタとして機能し得ることを理解されたい。他方では、Y-Z平面において、高m/zのカチオンは、負のDC電圧の発散/誘引効果のため、不安定となるが、より低いm/zの一部のイオンは、カチオンの逸脱が増加するときは常にRF成分の振幅が軌道を補正するように設定される場合、RF成分によって安定化され得る。したがって、Y-Z平面における場は、より低いm/zのイオンのみが第2の対のロッド104b、dに衝打せずに四重極ロッドセット104の他端に伝送される点で、ローパス質量フィルタとして機能すると言え得る。
【0032】
四重極ロッドセット104に印加される電気信号のRF/DC比の好適な選択肢によって、X-Z平面およびY-Z平面における上記に説明される2つの効果はともに、以下のパラメータの例示的差込図のMathieu安定化図に描写されるように、個々の原子質量を分解することが可能な質量フィルタを提供する。
【数1】

【数2】

式中、eは、電子上の電荷であり、Uは、DC電圧の振幅であり、Vは、印加されるゼロからピークまでのRF電圧であり、mは、イオンの質量であり、rは、ロッド104a-d間の有効半径であり、Ωは、印加されるRF周波数である。パラメータaは、DC電圧Uに比例し、パラメータqは、RF電圧Vに比例し、Mathieu安定化図中の安定境界においてq=0.908であることに留意されたい。
【0033】
上記に留意されるように、例示的質量分析計システム100は、1つ以上の電力供給源を含み、電力供給源は、RF、AC、および/またはDC成分を有する電位を種々の構成要素の電極に印加し、協調方式で、かつ/または本明細書に別様に議論されるような種々の異なる動作モードのために、質量分析計システム100の要素を構成するように、コントローラ108によって制御される。図2は、DC信号(すなわち、±U)およびRF信号(すなわち、±[U-VcosΩt])の両方が、質量フィルタ実装の間、(例えば、UおよびVを勾配させることによって)四重極ロッドセット104のロッド104a-dに印加されることを描写するが、本教示は、LMCOを確立する周期およびLMCOm/zを上回るイオンの優先的伝送の間、電気信号がDC分解電圧を伴わずに四重極ロッドセット104の種々のロッドに印加されるシステムおよび方法を提供する。ここで図3を参照すると、四重極ロッドセット104は、LMCOを上回るm/zを有するそれらのイオンが本明細書に別様に議論されるようなさらなる処理のためにECDセル110に優先的に伝送されるようなRF専用構成で示される。すなわち、図3に描写されるように、DC信号(U)は、方程式(1)からのパラメータがゼロになるように、0Vに設定される。ピーク間振幅(V)および周波数(Ω)を呈するRF専用信号が種々のロッド104a-dに印加されるこれらの条件下では、質量走査線は、qmax=0.908以下において安定する四重極ロッドセット104に進入するイオンが、ECD110に選択的に伝送されるように、図3の差込図のMathieu安定化図に示されるように水平になる。換言すると、上記の方程式(2)を並べ替え、0.908をqに代入することによって、以下の公式に従うm/eLMCOは、四重極ロッドセット104によって伝送されるイオンの最低質量/電荷比を表す。
【数3】
【0034】
本教示の種々の側面による四重極ロッドセット104に印加されるRF振幅(V)および周波数(Ω)の好適な選択肢によって、LMCOは、低m/zイオンが下流要素の中に伝送されることを実質的に防止し、それによって、ECDセル110内のより高いm/z抗体前駆体イオンの反応に続く生成イオンの検出によって発生させられるスペクトルの後続解析および/または解釈への干渉を排除するように設定および/または調節されることができる。いくつかの側面では、例えば、RF信号の振幅および周波数は、1,500を上回るか、1,700を上回るか、または2,000を上回るm/zを呈するイオンが四重極ロッドセット104によって選択的に伝送され得るように設定され得る。VとΩの例示的組み合わせは、約0.1kVp-p~約10kVp-pの範囲内のRF振幅、および/または約0.8MHz~約3MHzの範囲内のRF周波数を含み、値は、例えば、例として、上記の方程式(3)に従って、四重極の有効場半径および所望のLMCOに基づいて選択される。約1,500m/zに等しいLMCOを取得するための1つの例示的実装では、場半径(r)は、0.4mmであり得、RF振幅は、6.4kVであり得、RF周波数は、約1.2MHzであり得る。本教示によるRF振幅のためのそのような値は、四重極イオントラップが、従来的に、(例えば、図2に示されるような)狭帯域通過の質量フィルタモードで動作するものを実質的に上回り得ることが、当業者によって理解されるであろう。
【0035】
ここで図4を参照すると、本教示の種々の側面による図1の質量分析計システムを動作させるための例示的方法400が、描写される。ステップ401に示されるように、方法400は、抗体を含有するサンプルをイオン源104に送達し、それによって、サンプル中の分子がイオン化されることから開始し得る。(抗体を含む)サンプル中の分子がイオン化されると、これらのイオンは、ステップ402に示されるように、例えば、1つ以上のイオンレンズ、質量解析器、および/または差動圧送真空段階(例えば、QまたはQjet)を通して四重極ロッドセット104に伝送される。イオンが四重極ロッドセット104の中に、およびそれを通って伝送されるにつれて、種々のロッド104a-dは、図3に示されるようにRF信号がそこに印加され、それによって、RF振幅(V)と周波数(Ω)の組み合わせが、このRF信号と関連付けられるLMCOを下回るイオンを不安定化および放出させる一方、(比較的高いm/z抗体イオンを含む)LMCOを上回るそれらのイオンがECDセルの中に伝送されることを可能にする(ステップ403)。本教示によると、四重極ロッドセット104をこのRF専用モードで動作させることは、抗体イオンが異なる電荷状態を呈する場合であっても(例えば、一方の分子が単一荷電され他方が二重荷電される同一種の抗体)、ECDセル110への着目抗体のイオンの伝送を可能にし得ることを理解されたい。ステップ404では、ECDセル110に伝送されるこれらの前駆体抗体イオンは、次いで、(例えば、ステップ405において、ECDセル110内で捕獲されまたはそれを通して伝送される電子との相互作用を介して)ECD反応を受け、それによって、生成イオンの形成をもたらす。ステップ406では、ECD生成イオンは、次いで、ECD生成イオンスペクトルを発生させるように、検出器110によって検出され、これは、当技術分野において公知のもののように解析され、「トップダウン」解析において抗体構造を再構築することができる。
【0036】
本出願人の教示は、本教示を実証するために提供されるが本教示を限定しない以下の実施例および図5A-Cに提示されるデータを参照して、さらにより完全に理解され得る。本明細書の下記に説明されるように、開示される方法およびシステムは、低質量カットオフ値(LMCO)を下回るm/zを呈するイオンが下流ECDセルに伝送されることを選択的に防止する。
【実施例
【0037】
NISTから取得されたヒト化モノクローナルIgG抗体(NIST-mAb)を含むサンプルが、調製された。サンプルは、脱塩、および脱塩LCカラム(水)を利用したLC分離、次いで、「Electron Capture Dissociation in a Branched Radio-Frequency Ion Trap」(Anal.Chem.87(1)において発行:785-792)と題された論文(参照することによってその全体として援用される)に説明されるように、ECDセルを含むように修正された研究グレード四重極TOFシステム(SCIEX)を使用して、エレクトロスプレーイオン化および質量分析法に曝された。ECDセルは、質量分析計システムのQ1とQ2との間に配設された。典型的電子ビーム照射時間は、10msであり、電子ビーム強度は、適切な解離効率を取得するように調整された。TOF-MSの質量分解能は、35,000~47,000であり、これは、断片の同位体パターンを最大Z~30+まで分解した。図5Aは、イオン化されたサンプルから発生させられたスペクトルを描写し、RF振幅は、400Vp-pにおいて、実質的に全てのイオンがそれを通して伝送されることを可能にするように選択されている。図5Aのスペクトルは、500未満のm/zを呈するイオンに関する有意な信号、および約m/z1,520におけるいくつかの有意なピークを含む。ここで図5Bを参照すると、四重極ロッドセットに印加されるRF信号の振幅が、5kVp-pまで増加され(分解DC電圧が0Vに設定され)、Q1によって伝送されたイオンが、再び検出された(ECD反応は、実施されなかった)。図5Aおよび図5Bを比較することによって観察されるように、RF信号の振幅を増加させることによって、Q1は、約1,700未満のm/zを呈するそれらのイオンの伝送を防止した。図7は、図5Bの条件下でQ1から伝送された前駆体イオンにおいてECDを実施するときに検出されたイオンを描写する。約2,000未満のm/zを呈する低強度ピークは、ECDに続く生成イオン断片を表す。図5Aおよび5Cを比較すると、それらの図5Cにおいて観察される生成イオンピークの多くが、低m/zイオンが本教示に従って除去されていない場合、不明瞭にされ、それによって、抗体のトップダウン解析をより困難にするであろうことが理解されるであろう。
【0038】
当業者は、本明細書に説明される実施形態および実践の多くの均等物を把握するか、またはルーチンにすぎない実験を使用してそれを確認することが可能であろう。例として、種々の構成要素の寸法および種々の構成要素に印加される特定の電気信号に関する明示的値(例えば、振幅、周波数等)は、単に例示であり、本教示の範囲を限定することを意図するものではない。故に、本発明は、本明細書に開示される実施形態に限定されず、法律下で許容されるものと同程度に広義に解釈されるべきである以下の請求項から理解されるべきであることを理解されたい。
【0039】
本明細書で使用される見出しは、編成目的のみのためのものであって、限定として解釈されるべきではない。本出願人の教示は、種々の実施形態に関連して説明されるが、本出願人の教示がそのような実施形態に限定されることを意図するものではない。対照的に、本出願人の教示は、当業者によって理解されるように、種々の代替、修正、および均等物を包含する。
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】