(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-13
(54)【発明の名称】装用者に適合する眼用累進多焦点レンズ
(51)【国際特許分類】
G02C 7/04 20060101AFI20220706BHJP
G02C 7/06 20060101ALI20220706BHJP
【FI】
G02C7/04
G02C7/06
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021559685
(86)(22)【出願日】2020-05-10
(85)【翻訳文提出日】2021-10-07
(86)【国際出願番号】 EP2020062956
(87)【国際公開番号】W WO2020225449
(87)【国際公開日】2020-11-12
(32)【優先日】2019-05-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518007555
【氏名又は名称】エシロール・アンテルナシオナル
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】シルヴァン・メルシエ
(72)【発明者】
【氏名】シリル・ギユー
(72)【発明者】
【氏名】メラニー・エスルイ
【テーマコード(参考)】
2H006
【Fターム(参考)】
2H006BC03
2H006BD03
(57)【要約】
処方加入度Addを有する装用者に適合する眼用累進多焦点レンズであって、特定の装用状態において、前記累進眼用レンズは、
- 3°以上のインセットを有する経線と、
- フィッティングクロスFC(αFC,βFC)と、
- 少なくとも装用者の眼の回旋点とレンズとを結ぶ注視方向(α,β)の領域にわたって、前記特定の装用状態において前記経線に対して対称な光学関数であって、αは度単位の下降角度であり、βは度単位の方位角であり、注視方向の領域は36°以上の半径の円であり、α=8°及びβ=0°を中心とする、光学関数と、を有し、
フィッティングクロスに対応する注視方向の屈折力は、処方加入度の5%以上である、眼用累進多焦点レンズ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
処方加入度Addを有する装用者に適合する眼用累進多焦点レンズであって、特定の装用状態において、
- 3°以上のインセットを有する経線と、
- フィッティングクロスFC(α
FC,β
FC)と、
- 少なくとも前記装用者の眼の回旋点と前記眼用累進多焦点レンズとを結ぶ注視方向(α,β)の領域にわたって、前記特定の装用状態において前記経線に対して対称な光学関数であって、αは度単位の下降角度であり、βは度単位の方位角であり、前記注視方向の領域は36°以上の半径の円であり、α=8°及びβ=0°を中心とする、光学関数と、
を有し、
前記フィッティングクロスFC(α
FC,β
FC)に対応する前記注視方向の屈折力は、前記処方加入度の5%以上である、眼用累進多焦点レンズ。
【請求項2】
MaxSymPpoは、0.12×Add以下であり、
【数1】
GapPpo
iは2つの注視方向A
i及びB
iに対して定義され、それぞれ、同じ下降角α
iを有し且つ異なる方位角β
iを有する前記注視方向(α,β)の領域において定義される座標の対を定義し、A
i及びB
iの前記異なる角度β
iは前記経線に対して等しい方位角距離β
iを有し、A
i及びB
iは前記経線の両側にGapPpo
i=ABS(Ppo(A
i)-Ppo(B
i))として位置し、Ppoは前記特定の装用状態における各注視方向での前記屈折力であり、nは前記注視方向の領域にわたって考慮される注視方向の対の数であり、nは100以上であり、前記注視方向の対(A
i,B
i)は前記注視方向の領域にわたって均等に分布する、請求項1に記載の眼用累進多焦点レンズ。
【請求項3】
MaxSymAsrは、0.12×Add以下であり、
【数2】
GapAsr
iは2つの注視方向A
i及びB
iに対して定義され、それぞれ、同じ下降角α
iを有し且つ異なる方位角β
iを有する前記注視方向(α,β)の領域において定義される座標の対を定義し、A
i及びB
iの前記異なる角度β
iは前記経線に対して等しい方位角距離β
iを有し、A
i及びB
iは前記経線の両側にGapAsr
i=ABS(Asr(A
i)-Asr(B
i))として位置し、Asrは前記特定の装用状態における各注視方向での望ましくない非点収差であり、nは前記注視方向の領域にわたって考慮される注視方向の対の数であり、nは100以上であり、前記注視方向の対(A
i,B
i)は前記注視方向の領域にわたって均等に分布する、請求項1又は2に記載の眼用累進多焦点レンズ。
【請求項4】
RMSSymPpoは、0.06×Add以下であり、
【数3】
GapPpo
iは2つの注視方向A
i及びB
iに対して定義され、それぞれ、同じ下降角α
iを有し且つ異なる方位角β
iを有する前記注視方向(α,β)の領域において定義される座標の対を定義し、A
i及びB
iの前記異なる角度β
iは前記経線に対して等しい方位角距離β
iを有し、A
i及びB
iは前記経線の両側にGapPpo
i=ABS(Ppo(A
i)-Ppo(B
i))として位置し、Ppoは前記特定の装用状態における各注視方向での前記屈折力であり、nは前記注視方向の領域にわたって考慮される注視方向の対の数であり、nは100以上であり、前記注視方向の対(A
i,B
i)は前記注視方向の領域にわたって均等に分布する、請求項1~3のいずれか一項に記載の眼用累進多焦点レンズ。
【請求項5】
RMSSymAsrは、0.06×Add以下であり、
【数4】
GapAsr
iは2つの注視方向A
i及びB
iに対して定義され、それぞれ、同じ下降角α
iを有し且つ異なる方位角β
iを有する座標系(α,β)において定義される座標の対を定義し、A
i及びB
iの前記異なる角度β
iは前記経線に対して等しい方位角距離β
iを有し、A
i及びB
iは前記経線の両側にGapAsr
i=ABS(Asr(A
i)-Asr(B
i))として位置し、Asrは前記特定の装用状態における各注視方向での前記望ましくない非点収差であり、nは前記注視方向の領域にわたって考慮される注視方向の対の数であり、nは100以上であり、前記注視方向の対(A
i,B
i)は前記注視方向の領域にわたって均等に分布する、請求項1~4のいずれか一項に記載の眼用累進多焦点レンズ。
【請求項6】
前記特定の装用状態における前記望ましくない非点収差のモジュールは、少なくとも前記注視方向(α,β)の領域にわたって前記装用者の前記処方加入度以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載の眼用累進多焦点レンズ。
【請求項7】
前記特定の装用状態において、前記フィッティングクロスFCと前記処方加入度Addの85%に対応する屈折力を有する前記経線の点との間の下降角度αの差は30°以下である、請求項1~6のいずれか一項に記載の眼用累進多焦点レンズ。
【請求項8】
前記特定の装用状態は標準装用状態である、請求項1~7のいずれか一項に記載の眼用累進多焦点レンズ。
【請求項9】
前記処方加入度は0.5ジオプタ以上且つ5ジオプタ以下である、請求項1~8のいずれか一項に記載の眼用累進多焦点レンズ。
【請求項10】
例えば、コンピュータ手段によって実装される、処方加入度Addを有する装用者に適合する眼用累進多焦点レンズの光学関数を特定するための方法であって、
- インセット値を取得することと、
- 特定の装用状態において、
前記取得されたインセット値に対応し、且つ少なくとも前記装用者の眼の回旋点と前記眼用累進多焦点レンズとを結ぶ注視方向(α,β)の領域にわたって前記特定の装用状態において経線に対して対称である、インセットを有する経線であって、αは度単位の下降角度であり、βは度単位の方位角であり、前記注視方向の領域は36°以上の半径の円であり、α=8°及びβ=0°を中心とする、経線と、
前記処方加入度の5%以上であるフィッティングクロスFCに対応する前記注視方向の屈折力と、
を有する前記光学関数を特定することと、を含む方法。
【請求項11】
前記光学関数は、前記特定の装用状態における望ましくない非点収差のモジュールが、少なくとも前記注視方向(α,β)の領域にわたって前記装用者の前記処方加入度以下であるように特定される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記光学関数は、前記フィッティングクロスFCと、前記処方加入度Addの85%に対応する屈折力を有する前記経線の点との間の下降角度αの差が30°以下、好ましくは28°以下である前記特定の装用状態となるように特定される、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
処方加入度Addを有する装用者に適合する眼用累進多焦点レンズを得る方法であって、請求項10~12のいずれか一項に記載の方法のステップを含み、更に、前記特定する光学関数を有する眼用レンズを製造することを含む、方法。
【請求項14】
プロセッサにとってアクセスでき、且つ、前記プロセッサによって実行される場合に、前記プロセッサに発明による方法の少なくとも1つのステップを実行させる1つ以上の格納される命令のシーケンスを備える、コンピュータプログラム製品。
【請求項15】
発明によるコンピュータプログラム製品の1つ以上の命令のシーケンスを実行するコンピュータ読取可能媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明は、処方加入度を有する装用者に適合する眼用累進多焦点レンズに関する。発明は、更に、処方加入度を有する装用者に適合する眼用累進多焦点レンズの光学関数を特定するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、装用者に適合した眼用レンズを特定する場合、処方データが考慮される。眼用レンズ、特に累進多焦点眼用レンズは、眼用レンズの光学設計から生じる望ましくない非点収差等の光学収差を備えている可能性がある。レンズ設計者は、望ましくない非点収差等の光学収差を低減させようと試みるように光学設計を修正してもよいが、場合によっては、かかる光学収差を完全に回避することはできない。幾つか他の場合において、望ましくない非点収差を低減することは、眼用レンズの光学性能を低下させることを必要とする。
【0003】
かかる場合において、レンズの光学設計は、光学設計を装用者に適合させるように光学収差の分布を変更するよう適合させてもよい。
【0004】
更に、大多数の眼用レンズは、一方が右眼用であり、他方が左眼用である、対で提供されることが意図されている。光学設計は、装用者に良好な両眼視を提供するよう適合させるべきである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、処方される加入度を有し、向上した両眼性能を提供する、装用者に適合する眼用累進多焦点レンズに対するニーズが存在している。
【0006】
本発明の1つの目的は、かかる眼用累進多焦点レンズを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的のために、発明は、処方加入度Addを有する装用者に適合する眼用累進多焦点レンズであって、特定の装用状態において、
- 3°以上のインセットを有する経線と、
- フィッティングクロスFC(αFC,βFC)と、
- 少なくとも装用者の眼の回旋点とレンズとを結ぶ注視方向(α,β)の領域にわたって、前記特定の装用状態において前記経線に対して対称な光学関数であって、αは度単位の下降角度であり、βは度単位の方位角であり、注視方向の領域は36°以上の半径の円であり、α=8°及びβ=0°を中心とする、光学関数と、を有し、
フィッティングクロスに対応する注視方向の屈折力は、処方加入度の5%以上である、眼用累進多焦点レンズを提案している。
【0008】
有利なことに、累進多焦点レンズを装用する場合に装用者によって主に用いられる注視方向の領域に少なくともわたって経線に対して対称な光学関数を有することは、装用者の両眼視を大幅に改善する。
【0009】
更に、フィッティングクロスにおいて処方加入度の5%以上の屈折力を有することは、経線に沿った屈折力のより緩やかな推移を可能にし、装用者の視覚快適性を向上させる。
【0010】
単独又は組み合わせて考慮することができる更なる実施形態によれば、
MaxSymPpoは、0.12×Add以下であり、
【数1】
GapPpo
iは2つの注視方向A
i及びB
iに対して定義され、それぞれ、同じ下降角α
iを有し且つ異なる方位角β
iを有する注視方向(α,β)の領域において定義される座標の対を定義し、A
i及びB
iの異なる角度β
iは経線に対して等しい方位角距離β
iを有し、A
i及びB
iは経線の両側にGapPpo
i=ABS(Ppo(A
i)-Ppo(B
i))として位置し、Ppoは特定の装用状態における各注視方向での屈折力であり、nは注視方向の領域にわたって考慮される注視方向の対の数であり、nは100以上であり、注視方向の対(A
i,B
i)は注視方向の領域にわたって均等に分布し、及び/又は、
眼用累進多焦点レンズは遠視装用者に適しており、及び/又は、
眼用累進多焦点レンズは正視装用者に適しており、MaxSymPpoは0.09×Add以下であり、及び/又は、
眼用累進多焦点レンズは近視装用者に適しており、MaxSymPpoは0.09×Add以下であり、及び/又は、
MaxSymAsrは、0.12×Add以下であり、
【数2】
GapAsr
iは2つの注視方向A
i及びB
iに対して定義され、それぞれ、同じ下降角α
iを有し且つ異なる方位角β
iを有する注視方向(α,β)の領域において定義される座標の対を定義し、A
i及びB
iの異なる角度β
iは経線に対して等しい方位角距離β
iを有し、A
i及びB
iは経線の両側にGapAsr
i=ABS(Asr(A
i)-Asr(B
i))として位置し、Asrは特定の装用状態における各注視方向での望ましくない非点収差であり、nは注視方向の領域にわたって考慮される注視方向の対の数であり、nは100以上であり、注視方向の対(A
i,B
i)は注視方向の領域にわたって均等に分布し、及び/又は、
眼用累進多焦点レンズは遠視装用者に適しており、及び/又は、
眼用累進多焦点レンズは正視装用者に適しており、MaxSymAsrは0.09×Add以下であり、及び/又は、
眼用累進多焦点レンズは近視装用者に適しており、MaxSymAsrは0.09×Add以下であり、及び/又は、
RMSSymPpoは、0.06×Add以下であり、
【数3】
GapPpo
iは2つの注視方向A
i及びB
iに対して定義され、それぞれ、同じ下降角α
iを有し且つ異なる方位角β
iを有する注視方向(α,β)の領域において定義される座標の対を定義し、A
i及びB
iの異なる角度β
iは経線に対して等しい方位角距離β
iを有し、A
i及びB
iは経線の両側にGapPpo
i=ABS(Ppo(A
i)-Ppo(B
i))として位置し、Ppoは特定の装用状態における各注視方向での屈折力であり、nは注視方向の領域にわたって考慮される注視方向の対の数であり、nは100以上であり、注視方向の対(A
i,B
i)は注視方向の領域にわたって均等に分布し、及び/又は、
眼用累進多焦点レンズは遠視装用者に適しており、及び/又は、
眼用累進多焦点レンズは正視装用者に適しており、RMSSymPpoは0.04×Add以下であり、及び/又は、
眼用累進多焦点レンズは近視装用者に適しており、RMSSymPpoは0.04×Add以下であり、及び/又は、
RMSSymAsrは、0.06×Add以下であり、
【数4】
GapAsr
iは2つの注視方向A
i及びB
iに対して定義され、それぞれ、同じ下降角α
iを有し且つ異なる方位角β
iを有する注視方向(α,β)の領域において定義される座標の対を定義し、A
i及びB
iの異なる角度β
iは経線に対して等しい方位角距離β
iを有し、A
i及びB
iは経線の両側にGapAsr
i=ABS(Asr(A
i)-Asr(B
i))として位置し、Asrは特定の装用状態における各注視方向での望ましくない非点収差であり、nは注視方向の領域にわたって考慮される注視方向の対の数であり、nは100以上であり、注視方向の対(A
i,B
i)は注視方向の領域にわたって均等に分布し、及び/又は、
眼用累進多焦点レンズは遠視装用者に適しており、及び/又は、
眼用累進多焦点レンズは正視装用者に適しており、RMSSymAsrは0.04×Add以下であり、及び/又は、
眼用累進多焦点レンズは近視装用者に適しており、RMSSymAsrは0.04×Add以下であり、及び/又は、
特定の装用状態における望ましくない非点収差のモジュールは、少なくとも前記注視方向(α,β)の領域にわたって装用者の処方加入度以下であり、及び/又は、
特定の装用状態において、フィッティングクロスFCと処方加入度Addの85%に対応する屈折力を有する経線の点との間の下降角度αの差は、30°以下、好ましくは28°以下であり、及び/又は、
特定の装用状態は標準装用状態であり、及び/又は、
特定の装用状態はカスタマイズされる装用状態であり、及び/又は、
処方加入度は、0.50ジオプタ以上、5ジオプタ以下、例えば4ジオプタ以下である。
【0011】
本発明はまた、一対の眼用累進多焦点レンズにも関し、各眼用累進多焦点レンズは発明によるものである。
【0012】
更なる態様によれば、発明は、例えば、コンピュータ手段によって実装される、処方加入度Addを有する装用者に適合する眼用累進多焦点レンズの光学関数を特定するための方法であって、
- インセット値を取得することと、
- 特定の装用状態において、
取得されたインセット値に対応し、且つ少なくとも装用者の眼の回旋点とレンズとを結ぶ注視方向(α,β)の領域にわたって前記特定の装用状態において前記経線に対して対称である、インセットを有する経線であって、αは度単位の下降角度であり、βは度単位の方位角であり、注視方向の領域は36°以上の半径の円であり、α=8°及びβ=0°を中心とする、経線と、
処方加入度の5%以上であるフィッティングクロスに対応する注視方向の屈折力と、を有する光学関数を特定することと、を含む、
方法に関する。
【0013】
発明の方法の一実施形態によれば、光学関数は、特定の装用状態における望ましくない非点収差のモジュールが、少なくとも前記注視方向(α,β)の領域にわたって装用者の処方加入度以下であるように特定される。
【0014】
発明の方法の更なる実施形態によれば、光学関数は、更に、フィッティングクロスFC(αFC,βFC)を備え、特定の装用状態において、フィッティングクロスFCと処方加入度Addの85%に対応する屈折力を有する経線の点との間の下降角度αの差が30°以下、好ましくは28°以下であるように特定される。
【0015】
発明は、また、処方加入度Addを有する装用者に適合する眼用累進多焦点レンズを得る方法であって、発明による眼用累進多焦点レンズの光学関数を特定する方法のステップを含み、更に、特定した光学関数を有する眼用レンズを製造することを含む方法に関する。
【0016】
発明は、更に、プロセッサにとってアクセスでき、且つ、プロセッサによって実行される場合に、プロセッサに発明による方法のステップを実行させる1つ以上の格納された命令のシーケンスを備えるコンピュータプログラム製品に関する。
【0017】
発明は、また、それらに記録されるプログラムを有するコンピュータ読取可能ストレージ媒体にも関し、ここで、プログラムはコンピュータに発明の方法を実行させる。
【0018】
発明は、更に、1つ以上の命令のシーケンスを格納し、発明による方法の少なくとも1つのステップを実行するよう適合するプロセッサを備えるデバイスに関する。
【0019】
以下の検討により明らかなように、特に明記のない限り、明細書を通じて、「コンピューティング」、「計算」等の用語を用いる検討は、コンピューティングシステムのレジスタ及び/又はメモリ内部の電子的等の物理的数量として表されるデータを、コンピューティングシステムのメモリ、レジスタ、又は他のかかる情報ストレージ、転送、或いは表示デバイス内部の物理的数量として同様に表される他のデータに操作及び/又は変換するコンピュータ又はコンピューティングシステム、又は同様の電子コンピューティングデバイスの動作及び/又は処理を指すことは正しく理解される。
【0020】
本発明の実施形態は本明細書中の操作を実行するための装置を含んでいてもよい。これらの装置は、特に、所望の目的のために構築されてもよいか、又は、コンピュータ内に格納されるコンピュータプログラムによって選択的に起動されるか又は再設定される汎用コンピュータ又はデジタル信号プロセッサ(「DSP」)を備えていてもよい。かかるコンピュータプログラムは、フロッピーディスク、光ディスク、CD-ROM、光磁気ディスク、読出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、電気的プログラム可能読出し専用メモリ(EPROM)、電気的消去可能及びプログラム可能読出し専用メモリ(EEPROM)、磁気又は光カードを含む任意の種類のディスク、又は電子的命令を格納するために適しており且つコンピュータシステムバスに結合することが可能なその他の種類の媒体等であるが、これらに限定されないコンピュータ読取可能ストレージ媒体内に格納されてもよい。
【0021】
本明細書中に提示する処理及び表示は、本質的に、いずれか特定のコンピュータ又は他の装置に関係しない。様々な汎用システムが本明細書中の教示に従うプログラムと共に用いられてもよいか、或いは、所望の方法を実行するようより専用の装置を構築するために便利であることを実証してもよい。様々なこれらのシステムに対する所望の構造は以下の説明から出現する。加えて、本発明の実施形態は任意の特定のプログラミング言語を参照して説明しない。様々なプログラミング言語が本明細書中で説明するような発明の教示を実装するために用いられてもよいことは、正しく理解されるであろう。
【0022】
本発明の複数の実施形態について、専ら例示目的で以下の図面を参照しながらここで説明する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】眼及びレンズの光学システムと、眼の回旋点からのレイトレーシングとの図である。
【
図2】眼及びレンズの光学システムと、眼の回旋点からのレイトレーシングとの図である。
【
図4a】発明による眼用累進多焦点レンズの光学関数の例を示す。
【
図4b】発明による眼用累進多焦点レンズの光学関数の例を示す図である。
【
図4c】発明による眼用累進多焦点レンズの光学関数の例を示す図である。
【
図5a】発明による眼用累進多焦点レンズの光学関数の例を示す図である。
【
図5b】発明による眼用累進多焦点レンズの光学関数の例を示す図である。
【
図5c】発明による眼用累進多焦点レンズの光学関数の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
定義
以下の定義は、本発明の枠組みの中において用いる表現を定義するように提供される。
【0025】
「処方データ」とも称する表現「装用者の処方」は、当該技術において公知である。処方データとは、装用者について得られる1つ以上のデータを指し、少なくとも1つの眼について、好ましくは各眼について、装用者のために各眼の屈折異常を矯正することに適した処方球面SPHp、及び/又は処方乱視値CYLp及び処方軸AXISp、並びに彼の各眼の老視を矯正することに適した処方加入度Addを示している。処方加入度は、彼/彼女がレンズをレンズ製造業者に注文する場合にECPによって伝えられる。レンズ製造業者処方加入度は、通常、納入されるレンズの紙パッケージ上に処方加入度に関する情報を記載している。処方加入度は、また、レンズ上に位置し、レンズに縁が付けられた後、装用者によって選択された前記眼鏡フレームに取り付けられる場合に依然として見える刻印から特定されてもよい。
【0026】
「累進眼用多焦点レンズ」は、当該技術において公知である。発明によれば、レンズは標準型レンズであってもよいが、インフォメーショングラス用のレンズであってもよく、ここでレンズは眼の前に情報を表示するための手段を備えている。レンズは、また、サングラスに適したものであっても、そうでなくてもよい。発明の全ての眼用レンズは、一対のレンズ(左眼LE、右眼RE)を形成するように対であってもよい。
【0027】
表現「光学設計」は、眼用レンズの屈折関数を定義することを可能にするパラメータのセットを指定するよう眼科分野の当業者から公知の広く用いられる表現であり、各眼用レンズ設計者は、特に累進眼用レンズに対してその独自の設計を有している。一例として、累進眼用レンズの「設計」は、老眼の人があらゆる距離を明瞭に見る能力を回復するだけでなく、中心窩視、中心窩外視、両眼視、動体視等のあらゆる生理学的視覚機能を最適に尊重し、望ましくない非点収差を最小限に抑えるように、累進面の最適化の結果として生じる。例えば、累進レンズ設計は、
-日常生活の活動中にレンズ装用者によって用いられる主注視方向(経線)に沿った屈折力プロファイル、
-レンズの側面上の、即ち、主注視方向から離れた屈折力(平均屈折力、非点収差、...)の分布、を備える。
【0028】
これらの光学特性は、眼用レンズ設計者によって定義され、計算される「設計」の一部であり、累進レンズによって提供される。
【0029】
「注視方向」は、2つの角度値(α、β)によって識別され、ここで前記角度値は、一般に「CRE」と称する眼の回旋点を中心とする基準軸に関して測定される。より正確には、
図1は、注視方向を定義するために用いられるパラメータα及びβを示すかかるシステムの斜視図を表している。
【0030】
図2は、パラメータβが0に等しい場合に、装用者の頭部の前後軸に平行であり、眼の回旋点を通過する垂直面における図である。眼の回旋点をCREと記す。
図2に一点鎖線で示す軸CRE-F’は、眼の回旋点を通り、装用者の前方に延在する水平軸であり、即ち、軸CRE-F’は一次注視方向に対応している。レンズは、軸CRE-F’が、眼鏡士によってフレーム内にレンズを位置決めすることを可能にするよう一般にレンズ上に存在するフィッティングクロスと呼ばれる点でレンズの前面をカットするように、眼の前方に配置され、中央に位置決めされている。フィッティングクロスは、装用者の眼の前にレンズを位置決めするための基準点として用いられるよう製造業者によって指定されるようなレンズ上の点である。フィッティングクロスは、規格ISO8980-2、Ophthalmic Opticsによって定義されている。レンズの後面と軸CRE-F’との交点は点Oである。中心が眼の回旋点CREであり、半径q’=O-CREを有する頂点球は、水平軸の点においてレンズの後面と交差する。半径q’の値25.5mmは通常の値に対応し、レンズを装用する場合に満足のいく結果を提供する。他の値の半径q’を選択してもよい。
図1の実線によって表される特定の注視方向は、CREを中心として回転する眼の位置及び頂点球の点J(
図2を参照)に対応する。
【0031】
角度βは、軸CRE-F’と、軸CRE-F’を含む水平面上の直線CRE-Jの投影との間に形成される角度であり、この角度は
図1の略図に示されている。
【0032】
角度αは、軸CRE-Jと、軸CRE-F’を含む水平面上の直線CRE-Jの投影との間に形成される角度であり、この角度は
図1及び2の略図に示されている。
【0033】
特定の注視視野は、従って、頂点球の点J又は対(α、β)に対応する。下降注視角度の値が正であればあるほど、視線は下降し、値が負であればあるほど、視線は上昇する。特定の注視方向において、特定の物体距離に位置する物体空間内の点Mの像は、サジタル及び接線局所焦点距離である極小及び極大距離JS及びJTに対応する2つの点SとTとの間に形成される。無限遠の物体空間内の点の像は点F’に形成される。距離Dはレンズの後部前面に対応する。
【0034】
各注視方向(α,β)について、平均屈折力PPO(α,β)、非点収差のモジュールASR(α,β)及びこの非点収差の軸AXE(α,β)、並びに結果として生じる(残留又は不要とも呼ばれる)非点収差のモジュールASR(α,β)が定義される。
【0035】
「非点収差」とは、レンズによって生成される非点収差、又は処方非点収差(装用者非点収差)とレンズが生成する非点収差との間の差に対応する残留非点収差(結果として生じる非点収差)を指し、いずれの場合も、振幅又は振幅及び軸の両方に関している。
【0036】
発明の意味において、「光学関数」は、各注視方向に対して、光学レンズを通過する光線に対する光学レンズの効果を提供する関数に対応する。
【0037】
光学関数は、屈折関数、光吸収、偏光能力、コントラスト能力の強化、等を備えていてもよい。
【0038】
屈折関数は、注視方向の関数として、光学レンズの屈折力(平均屈折力、非点収差、等)に対応する。
【0039】
「エルゴラマ」は、各注視方向に物点の通常距離を関連付ける関数である。通常、一次注視方向に従う遠見視力において、物点は無限遠にある。近見視力において、鼻側に向かって絶対値で35°程度の角度α及び5°程度の角度βに本質的に対応する注視方向に従って、物体距離は30~50cm程度である。エルゴラマの可能性のある定義に関する詳細については、米国特許第6,318,859号明細書を検討してもよい。この文献は、エルゴラマ、その定義、及びそのモデリング方法を説明している。
【0040】
発明の目的のために、点は無限にあっても、なくてもよい。エルゴラマは、装用者の屈折異常の関数であってもよい。これらの構成要素を用いて、各注視方向における装用者の屈折力及び非点収差を定義することができる。エルゴラマによって与えられる物体距離における物点Mは、注視方向(α、β)に対して考慮される。物体近接度ProxOは、物体空間内の対応する光線上の点Mに対して、点Mと頂点球の点Jとの間の距離MJの逆数として定義される。ProxO=1/MJ
【0041】
これにより、エルゴラマの特定のために用いられる頂点球の全ての点に対して薄レンズ近似内の物体近接度を計算することが可能になる。実際のレンズに対して、物体近接度は、対応する光線上の物点とレンズの前面との間の距離の逆数と見なすことができる。
【0042】
同じ注視方向(α、β)に対して、特定の物体近接度を有する点Mの像は、(サジタル及び接線焦点距離であろう)極小及び極大焦点距離にそれぞれ対応する2つの点SとTとの間に形成される。量Proxlは点Mの像近接度と呼ばれる。
【数5】
【0043】
薄いレンズの場合との相似によって、従って、特定の注視方向及び特定の物体近接度、即ち、対応する光線上の物体空間の点に対して、屈折力PPOを像近接度及び物体近接度の合計として定義することができる。
PPO=ProxO+Proxl
【0044】
光学屈折力は屈折力とも呼ばれる。
【0045】
同じ表記法により、非点収差ASTは、全ての注視方向及び特定の物体近接度に対して以下のように定義される。
【数6】
【0046】
この定義は、レンズによって生成される光線ビームの非点収差に対応する。結果として生じる非点収差ASRは、レンズを通した全ての注視方向に対して、この注視方向に対する実際の非点収差値ASTと処方される非点収差との間の差として定義される。残留非点収差(結果として生じる非点収差)ASRは、より正確には、実際のデータ(AST、AXE)と処方データ(CYLp、AXISp)との間のベクトル差のモジュールに対応する。
【0047】
レンズの特性が光学的なものである場合、それは上で説明したエルゴラマ-眼-レンズシステムを指す。簡単にするために、用語「レンズ」を説明において用いるが、「エルゴラマ-眼-レンズシステム」として理解しなければならない。光学用語における値は、注視方向に対して表現することができる。エルゴラマ-眼-レンズシステムの特定に適する状況は、本発明の枠組みにおいて「特定の装用状態」と呼ばれる。
【0048】
特定の装用状態は、装用者の眼に対するレンズ要素の位置であって、例えば、装用時前傾角、角膜からレンズまでの距離、瞳孔と角膜の距離、眼の回旋点から瞳孔までの距離、眼の回旋点からレンズまでの距離、及び巻き角によって定義されるものとして理解されたい。
【0049】
説明の残りの部分において、「上」、「下」、「水平」、「垂直」、「上方」、「下方」等の用語、又は相対位置を示す他の言葉を用いる可能性がある。これらの用語は、眼用レンズの装用状態において理解するべきである。特に、レンズの「上側」部分は負の下降角度α<0°に対応し、レンズの「下側」部分は正の下降角度α>0°に対応する。
【0050】
FVGDと称する「遠方視注視方向」は、遠方視(遠見)基準点に対応する視覚注視方向としてレンズに対して定義され、従って(CIFV,FV)であり、ここで平均屈折力は遠方視における平均処方屈折力に略等しく、平均処方屈折力はSPHp+(CYLp/2)に等しい。本開示では、遠方視は遠見とも称する。発明の意味において、遠方視は、4メートル以上の距離での視力と理解するべきである。
【0051】
NVGDと称する「近方視注視方向」は、近方視(読書)基準点に対応する視覚注視方向としてレンズに対して定義され、従って(αNV,βNV)であり、ここで屈折力は遠方視における処方屈折力に処方加入度Addを加えたものに略等しい。発明の意味において、近方視は、50cm以下の距離での視力と理解するべきである。ここで、「略等しい」とは、「15%未満の公差で等しい」ことを意味する。
【0052】
FCGDと称する「フィッティングクロス注視方向」は、フィッティングクロス差基準点及び(αFC,βFC)に対応する視覚注視方向としてレンズに対して定義される。
【0053】
累進多焦点レンズのML(α,β)と称する「経線」は、レンズの頂部から底部まで画成され、フィッティングクロスを通過する線であり、ここで人は物点を明確に見ることができる。前記経線は、(α,β)領域にわたって、結果として生じる非点収差のモジュールASRの再分割に基づいて定義され、値が0.5ジオプタに等しい結果として生じる非点収差値の2つの中央アイソモジュールの中心に略対応する。より詳細に、本発明によれば、経線は以下の方法によって計算される。
- フィッティングクロス(α
FC,β
FC)に対応する注視方向FCGDを定義する。
- 近方視注視方向に対応する下降角度α
NVを計算する。
- α
FCとα
NVとの間に備えられる各下降角度αに対して、0.5ジオプタに等しい値である結果として生じる非点収差値の2つの中央アイソモジュール間の中間方向に対応する方位角βを計算し、前記計算された方向を(α
i,β
i)と称する。
- 経線は、以下の点を通る曲線として定義される。
【数7】
【0054】
「アライメント基準マーキング」とも呼ばれる「マイクロマーキング」は、整合規格ISO13666:2012(「Alignment reference marking: permanent markings provided by the manufacturer to establish the horizontal alignment of the lens or lens blank, or to re-establish other reference points」)及びISO8980-2(「Permanent marking: the lens has to provide at least following permanent markings: alignment reference markings comprising two markings distant from 34mm one of each other, equidistant from a vertical plane passing through the fitting cross or the prism reference point」)によって、累進レンズに関して義務付けられている。同じ方法で画成されるマイクロマーキングはまた、通常、プログレッシブ又はリグレッシブ前面を備える前面を有するレンズの前面等の複雑な表面上に作成される。
【0055】
「一時マーキング」はまた、レンズの2つの表面のうちの少なくとも1つに施されてもよく、例えば、遠方視のための制御点、近方視のための制御点、プリズム基準点、及びフィッティングクロス等のレンズ上の制御点(基準点)の位置を示す。プリズム基準点PRPは、ここでは、マイクロマーキングを結ぶ直線セグメントの中間点と考えられる。一時マーキングが存在しないか又は消去されている場合、当業者にとって、取付チャート及び永久マイクロマーキングを用いることによって、レンズ上に制御点を位置決めすることが常に可能である。同様に、半製品レンズブランクにおいて、規格ISO10322-2は、マイクロマーキングが施されることを求めている。半製品レンズブランクの非球面の中心は、従って、上で説明したように基準と同様に特定することができる。
【0056】
図3は、眼用累進多焦点レンズ30の視野領域を示しており、ここで前記レンズは、レンズの上部に位置する遠方視(遠見)領域32と、レンズの下部に位置する近方視領域36と、遠方視領域32と近方視領域36との間に位置する中間領域34とを備えている。経線を38として表している。
【0057】
図3に示すように、累進多焦点レンズにおいて、レンズが装用状態にある場合、近方視点を、遠方視点を通過する垂直線に対して水平方向にシフトすることができる。レンズの鼻側の方向であるこのシフトは、通常「インセット」と称し、その値は|β
NV-β
FV|と表されてもよい。
【0058】
装用状態は、装用者の眼に関して眼用レンズの位置として理解するべきであり、例えば、装用時前傾角、角膜からレンズまでの距離、瞳孔角膜距離、CREから瞳孔までの距離、CREからレンズまでの距離、及びラップ角度によって定義される。
【0059】
角膜からレンズまでの距離は、第一眼位における眼の視軸(通常は水平に取られる)に沿った角膜とレンズの裏面との間の距離であり、例えば12mmに等しい。
【0060】
瞳孔角膜距離は、眼の視軸に沿った瞳孔と角膜との間の距離であり、通常は2mmに等しい。
【0061】
CREから瞳孔までの距離は、眼の視軸に沿ったその回旋点(CRE)と角膜との間の距離であり、例えば11.5mmに等しい。
【0062】
CREからレンズまでの距離は、第一眼位における眼の視軸(通常は水平に取られる)に沿った眼のCREとレンズの裏面との間の距離であり、例えば25.5mmに等しい。
【0063】
装用時前傾角は、レンズの裏面と第一眼位における眼の視軸(通常は水平に取られる)との間と、レンズの裏面に対する法線と第一眼位における眼の視軸との間との交線における垂直面内の角度であり、例えば-8°に等しい。
【0064】
ラップ角度は、レンズの裏面と第一眼位における眼の視軸(通常は水平に取られる)との間と、レンズの裏面に対する法線と第一眼位における眼の視軸との間との交点における水平面内の角度であり、例えば0°に等しい。
【0065】
標準的な装用者の状態の一例は、装用時前傾角-8°、角膜からレンズまでの距離12mm、瞳孔角膜距離2mm、CREから瞳孔までの距離11.5mm、CREからレンズまでの距離25.5mm、及びラップ角度0°によって定義されてもよい。
【0066】
他の装用状態が用いられてもよい。装用状態は、特定のレンズについて、光線追跡プログラムから計算されてもよい。
【0067】
発明は、処方加入度Addを有する装用者に適合する眼用累進多焦点レンズに関する。処方加入度Addは、0.5ジオプタ以上、5ジオプタ以下、例えば4ジオプタ以下であることが好ましい。
【0068】
発明による眼用累進多焦点レンズは、特定の装用状態において、少なくとも、
- 経線と、
- フィッティングクロスFC(αFC,βFC)と、
- 前記経線に対して対称な光学関数と、を有している。
【0069】
発明の好ましい実施形態によれば、発明による眼用累進多焦点レンズは、更に、遠方視(遠見)基準点と近方視(遠見)基準点とを備える。
【0070】
発明による眼用レンズの経線は、3°以上、例えば4°以上のインセットを有する。
【0071】
一致する眼用累進多焦点レンズは、特定の装用状態において、フィッティングクロスに対応する注視方向の屈折力が、処方加入度の5%以上であり、処方加入度の10%以下であるように配置される。
【0072】
発明による眼用累進多焦点レンズの光学関数は、少なくとも装用者の眼の回旋点とレンズとを結ぶ注視方向(α,β)の領域にわたって経線に対して対称であり、ここでαは度単位の下降角度であり、βは度単位の方位角であり、注視方向の領域は36°以上の半径の円であり、α=8°及びβ=0°を中心としている。
【0073】
注視方向の領域にわたる経線に対する光学設計の対称性のレベルは、経線の両側における屈折力の差に基づいて特徴付けられてもよい。
【0074】
例えば、発明による眼用累進多焦点レンズの光学関数は、以下を有するMaxSymPpoによって特徴付けられてもよく、
【数8】
ここで、GapPpo
iは2つの注視方向A
i及びB
iに対して定義され、それぞれ、同じ下降角α
iを有し且つ異なる方位角β
iを有する注視方向(α,β)の座標を定義する領域の対を定義し、A
i及びB
iの異なる角度β
iは経線に対して等しい方位角距離β
iを有し、A
i及びB
iは経線の両側にGapPpo
i=ABS(Ppo(A
i)-Ppo(B
i))として位置し、Ppoは特定の装用状態における各注視方向での屈折力であり、nは注視方向の領域にわたって考慮される注視方向の対の数であり、nは100以上であり、注視方向の対(A
i,B
i)は注視方向の領域にわたって均等に分布する。
【0075】
一般に、MaxSymPpoは0.12×Add以下であるのが好ましい。
【0076】
特に、発明による眼用累進多焦点レンズは、遠視装用者に適していてもよい。遠視装用者は、0.75ジオプタよりも大きい遠方視距離に対する平均屈折力を有する装用者である。遠視装用者に適した眼用累進多焦点レンズの場合、MaxSymPpoは、0.12×Add以下であるのが好ましい。
【0077】
代替として、発明による眼用累進多焦点レンズは、正視装用者に適していてもよい。正視装用者は、-0.75ジオプタより大きく且つ0.75ジオプタより小さい遠方視距離に対する平均屈折力を有する装用者である。正視装用者に適した眼用累進多焦点レンズの場合、MaxSymPpoは、0.09×Add以下であるのが好ましい。
【0078】
代替として、発明による眼用累進多焦点レンズは、近視装用者に適していてもよい。近視装用者は、-0.75ジオプタよりも小さい遠方視距離に対する平均屈折力を有する装用者である。近視装用者に適した眼用累進多焦点レンズの場合、MaxSymPpoは、0.09×Add以下であるのが好ましい。
【0079】
発明による眼用累進多焦点レンズの光学関数は、以下を有するRMSSymPpoによって特徴付けられてもよく、
【数9】
ここで、GapPpo
iは2つの注視方向A
i及びB
iに対して定義され、それぞれ、同じ下降角α
iを有し且つ異なる方位角β
iを有する注視方向(α,β)の領域において定義される座標の対を定義し、A
i及びB
iの異なる角度β
iは経線に対して等しい方位角距離β
iを有し、A
i及びB
iは経線の両側にGapPpo
i=ABS(Ppo(A
i)-Ppo(B
i))として位置し、Ppoは特定の装用状態における各注視方向での屈折力であり、nは注視方向の領域にわたって考慮される注視方向の対の数であり、nは100以上であり、注視方向の対(A
i,B
i)は注視方向の領域にわたって均等に分布する。
【0080】
例えば、n対の注視方向(Ai,Bi)は、注視方向の領域を一定の角度ステップでサンプリングすることによって取得されてもよい。角度ステップは、少なくとも100対の注視方向を有するように特定される。例えば、角度ステップは、注視方向の領域をオーバーサンプリングし、少なくとも100対の注視方向を選択することであってもよい。
【0081】
発明の意味において、n対の注視方向(Ai,Bi)は、注視方向の前記領域に含まれ且つ半径r/4の円に対応する注視方向の各サブ領域にわたって、注視方向の密度が注視方向の領域にわたる密度の90%以上であり、注視方向の領域にわたる密度の110%以下である場合、半径rの注視方向の領域にわたって均等に分布していると考えられる。
【0082】
一般に、RMSSymPpoは0.06×Add以下であるのが好ましい。
【0083】
特に、発明による眼用累進多焦点レンズは、遠視装用者に適していてもよい。遠視装用者に適した眼用累進多焦点レンズの場合、RMSSymPpoは、0.06×Add以下であるのが好ましい。
【0084】
代替として、発明による眼用累進多焦点レンズは、正視装用者に適していてもよい。正視装用者に適した眼用累進多焦点レンズの場合、RMSSymPpoは、0.04×Add以下であるのが好ましい。
【0085】
代替として、発明による眼用累進多焦点レンズは、近視装用者に適していてもよい。近視装用者に適した眼用累進多焦点レンズの場合、MaxSymPpoは、0.04×Add以下であるのが好ましい。
【0086】
注視方向の領域にわたる経線に対する光学設計の対称性のレベルは、経線の両側における望ましくない非点収差の差に基づいて特徴付けられてもよい。
【0087】
例えば、発明による眼用累進多焦点レンズの光学関数は、以下を有するMaxSymAsrによって特徴付けられてもよく、
【数10】
ここで、GapAsr
iは2つの注視方向A
i及びB
iに対して定義され、それぞれ、同じ下降角α
i及び異なる方位角β
iを有する注視方向(α,β)の領域において定義される座標の対を定義し、A
i及びB
iの異なる角度β
iは経線に対して等しい方位角距離β
iを有し、A
i及びB
iは経線の両側にGapAsr
i=ABS(Asr(A
i)-Asr(B
i))として位置し、Asrは特定の装用状態における各注視方向での望ましくない非点収差であり、nは注視方向の領域にわたって考慮される注視方向の対の数であり、nは100以上であり、注視方向の対(A
i,B
i)は注視方向の領域にわたって均等に分布する。
【0088】
一般に、MaxSymAsrは、特に、発明による眼用累進多焦点レンズが遠視装用者に適している場合に、0.12×Add以下である。
【0089】
発明による眼用累進多焦点レンズが正視装用者に適している場合、MaxSymAsrは0.09×Add以下であるのが好ましい。
【0090】
発明による眼用累進多焦点レンズが近視装用者に適している場合、MaxSymAsrは0.09×Add以下であることが好ましい。
【0091】
発明による眼用累進多焦点レンズの光学関数は、以下を有するRMSSymAsrによって特徴付けられてもよく、
【数11】
ここで、GapAsr
iは2つの注視方向A
i及びB
iに対して定義され、それぞれ、同じ下降角α
iを有し且つ異なる方位角β
iを有する注視方向(α,β)の領域において定義される座標の対を定義し、A
i及びB
iの異なる角度β
iは経線に対して等しい方位角距離β
iを有し、A
i及びB
iは経線の両側にGapAsr
i=ABS(Asr(A
i)-Asr(B
i))として位置し、Asrは特定の装用状態における各注視方向での望ましくない非点収差であり、nは注視方向の領域にわたって考慮される注視方向の対の数であり、nは100以上であり、注視方向の対(A
i,B
i)は注視方向の領域にわたって均等に分布する。
【0092】
一般に、RMSSymAsrは0.06×Add以下であるのが好ましい。
【0093】
特に、発明による眼用累進多焦点レンズは、遠視装用者に適していてもよい。遠視装用者に適した眼用累進多焦点レンズの場合、RMSSymAsrは、0.06×Add以下であるのが好ましい。
【0094】
代替として、発明による眼用累進多焦点レンズは、正視装用者に適していてもよい。正視装用者に適した眼用累進多焦点レンズの場合、RMSSymAsrは、0.04×Add以下であるのが好ましい。
【0095】
代替として、発明による眼用累進多焦点レンズは、近視装用者に適していてもよい。近視装用者に適した眼用累進多焦点レンズの場合、RMSSymAsrは、0.04×Add以下であるのが好ましい。
【0096】
発明による左右の眼用累進多焦点レンズ間の潜在的な差を低減するために、注視方向の領域にわたる望ましくない非点収差のモジュールは、装用者の処方加入度以下である。
【0097】
近方視度数への容易なアクセス及び快適な近用を維持するために、発明による眼用累進多焦点レンズの光学関数の全体的なプログレッション長を減少させることが好ましい。従って、発明の一実施形態によれば、特定の装用状態において、フィッティングクロスFCと処方加入度Addの85%に対応する屈折力を有する経線の点との間の下降角度αの差は、30°以下、好ましくは28°以下、例えば26°以下である。
【0098】
図4a~
図4cは、標準的な装用状態における発明による眼用累進多焦点レンズの光学的特徴を示している。眼用累進多焦点レンズは、2.5ジオプタの加入度を有する平面処方を有する装用者に適している。
【0099】
図4aは、経線に沿った屈折力を示している。x軸はジオプタ単位で目盛りが付けられており、y軸は角度αを度単位で表している。
【0100】
図4bは、同じ軸を使用して、望ましくない非点収差の等しいモジュールの線を示している。2つの線間の望ましくない非点収差屈折力のモジュールのステップは、0.25ジオプタである。
【0101】
図4cは、等しい屈折力の線、即ち、屈折力が同一の値を有する点によって形成される線を示している。x軸及びy軸はそれぞれ、角度α及びβを度単位で表している。2つの線間の屈折力のステップは、0.25ジオプタである。
【0102】
図5a~
図5cは、標準的な装用状態における発明による眼用累進多焦点レンズの光学的特徴を示している。眼用累進多焦点レンズは、2.0ジオプタの加入度を有する平面処方を有する装用者に適している。
【0103】
図5aは、経線に沿った屈折力を示している。x軸はジオプタ単位で目盛りが付けられており、y軸は角度αを度単位で表している。
【0104】
図5bは、等しい屈折力の線、即ち、屈折力が同一の値を有する点によって形成される線を示している。x軸及びy軸はそれぞれ、角度α及びβを度単位で表している。2つの線間の屈折力のステップは、0.25ジオプタである。
【0105】
図5cは、同じ軸を使用して、望ましくない非点収差の等しいモジュールの線を示している。2つの線間の望ましくない非点収差屈折力のモジュールのステップは、0.25ジオプタである。
【0106】
発明は、更に、例えば、コンピュータ手段によって実装される、処方加入度Addを有する装用者に適合する眼用累進多焦点レンズの光学関数を特定するための方法に関する。
【0107】
光学関数を特定するための方法は、少なくとも、
- インセット値を取得することと、
- 特定の装用状態において光学関数を特定することと、を含む。
【0108】
発明の意味において、インセット値は、離れたエンティティに対して受信され、データベースから検索され、装用者に関して直接測定され、例えば処方及びレイトレーシング計算アルゴリズムに従って計算されるか、又は当業者によって公知のその他の手段により取得されてもよい。
【0109】
特定される光学関数は、
取得されたインセット値に対応し、且つ少なくとも装用者の眼の回旋点とレンズとを結ぶ注視方向(α,β)の領域にわたって前記特定の装用状態において前記経線に対して対称である、インセットを有する経線であって、ここでαは度単位の下降角度であり、βは度単位の方位角であり、注視方向の領域は36°以上の半径の円であり、α=8°及びβ=0°を中心とする、経線と、
及び、処方加入度の5%以上であるフィッティングクロスに対応する注視方向の屈折力と、を有している。
【0110】
光学レンズの光学関数は、MaxSymPpoが、正視装用者については0.12×Add以下又は0.09×Add以下であり、近視装用者については0.09×Add以下であるように特定されてもよい。
【0111】
光学レンズの光学関数は、MaxSymAsrが、正視装用者については0.12×Add以下又は0.09×Add以下であり、近視装用者については0.09×Add以下であるように特定されてもよい。
【0112】
光学レンズの光学関数は、RMSSymPpoが、正視装用者については0.06×Add以下又は0.03×Add以下であり、近視装用者については0.04×Add以下であるように特定されてもよい。
【0113】
光学レンズの光学関数は、RMSSymAsrが、正視装用者については0.06×Add以下又は0.03×Add以下であり、近視装用者については0.04×Add以下であるように特定されてもよい。
【0114】
発明の方法の一実施形態によれば、光学関数は、特定の装用状態において、フィッティングクロスFCと処方加入度Addの85%に対応する屈折力を有する経線の点との間の下降角度αの差が30°以下、好ましくは28°以下であるように特定される。
【0115】
発明は、更に、処方加入度Addを有する装用者に適合する眼用累進多焦点レンズを得る方法であって、発明による光学関数を特定する方法のステップを含み、更に、特定した光学関数を有する眼用レンズを製造することを含む方法に関する。
【0116】
製造は、機械加工、研磨、成形、積層製造等の任意の公知の製造技術を含んでいてもよい。
【0117】
発明を、発明の全般的な概念を限定することなく、複数の実施形態を参照しながら上で述べてきた。
【0118】
当業者は、例示的に示すに過ぎず、且つ添付の請求項によってのみ規定される本発明の範囲を限定することを意図していない上述の例示的な実施形態を参照したならば多くの更なる変更及び変形に想到しよう。
【0119】
請求項において、単語「含んでいる」は他の要素又はステップを除外せず、不定冠詞「a」又は「an」は複数性を除外しない。互いに異なる従属請求項において異なる特徴に言及している事実だけで、これらの特徴の組み合わせが有利に使用できないことにはならない。請求項におけるいかなる参照符号も本発明の範囲を限定するものと解釈してはならない。
【符号の説明】
【0120】
30 眼用累進多焦点レンズ
32 遠方視(遠見)領域
32 遠方視領域
34 中間領域
36 近方視領域
【国際調査報告】