(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-13
(54)【発明の名称】試料のための保持デバイス、およびかかる保持デバイスを使用して試料を加熱するためのシステム
(51)【国際特許分類】
G01N 1/44 20060101AFI20220706BHJP
G01N 23/2273 20180101ALI20220706BHJP
G01N 23/2204 20180101ALI20220706BHJP
G01N 23/2202 20180101ALI20220706BHJP
G01N 1/28 20060101ALI20220706BHJP
【FI】
G01N1/44
G01N23/2273
G01N23/2204
G01N23/2202
G01N1/28 W
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021565784
(86)(22)【出願日】2020-05-04
(85)【翻訳文提出日】2021-12-24
(86)【国際出願番号】 SE2020050446
(87)【国際公開番号】W WO2020226552
(87)【国際公開日】2020-11-12
(32)【優先日】2019-05-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514141754
【氏名又は名称】シエンタ・オミクロン・アーベー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ペーテル・アマン
(72)【発明者】
【氏名】アンデシュ・ニルソン
【テーマコード(参考)】
2G001
2G052
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA08
2G001CA03
2G001QA02
2G001RA03
2G052AD12
2G052AD32
2G052AD52
2G052DA21
2G052DA26
2G052DA33
2G052EB11
2G052GA18
2G052GA19
2G052JA08
2G052JA11
2G052JA27
(57)【要約】
試料表面(Ss)および背部表面(Bs)を有する試料(1)のための保持デバイス(2)と、この保持デバイスを備える加熱システムとが説明される。保持デバイス(2)は、加熱システム(100)のために構成され、内部チャンバ(11)を有する容器(10)と、容器(10)の上に配置された試料ホルダ(12)とを備える。また、保持デバイス(2)は、加熱エリア(13)と、光ファイバ(4)を装着するための容器(10)上のファイバ装着手段(6)とを備える。保持デバイス(2)は、ファイバ装着手段(6)に装着された光ファイバ(4)からの光が内部チャンバ(11)を通って加熱エリア(13)へ伝送されるように構成される。保持デバイス(2)は、リフレクタ(19)を備える。加熱エリア(13)から反射された光の大半が、リフレクタ(19)に向かって反射される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料表面(Ss)および背部表面(Bs)を有する、試料(1)のための保持デバイス(2)であって、
内部チャンバ(11)を有する容器(10)と、
前記容器(10)の上に配置された試料ホルダ(12)であって、前記試料(1)の装着に適した試料ホルダ(12)と、
試料(1)が前記試料ホルダ(12)に装着された場合に前記試料表面(Ss)に熱的に連結される加熱エリア(13)と、
光ファイバ(4)を装着するための、前記容器(10)上のファイバ装着手段(6)と、
を備えており、
前記ファイバ装着手段(6)に装着された光ファイバ(4)からの光が前記内部チャンバ(11)を通って前記加熱エリア(13)へ伝送されるように構成される保持デバイス(2)において、
前記保持デバイス(2)は、反射表面(45)を有するリフレクタ(19)を備え、前記リフレクタ(19)は、前記内部チャンバ(11)内に配置され、
前記保持デバイス(2)、前記ファイバ装着手段(6)、および前記リフレクタ(19)は、光が前記光ファイバ(4)から発せられ、試料(1)が前記試料ホルダ(12)に装着された場合に、前記加熱エリア(13)から反射された前記光の大半が前記リフレクタ(19)の前記反射表面(45)に向かって反射されるように配置され、
前記保持デバイス(2)は、前記試料(1)が前記試料ホルダ(12)内に配置された場合に、前記試料表面(Ss)が前記容器(10)の外部に向かって配向されるように構成される
ことを特徴とする、保持デバイス(2)。
【請求項2】
前記加熱エリアから見た前記反射表面(45)の立体角が、0.04ステラジアンよりも大きく、好ましくは0.5ステラジアンよりも大きく、より好ましくは1ステラジアンよりも大きく、最も好ましくはπステラジアンよりも大きい、請求項1に記載の保持デバイス(2)。
【請求項3】
前記内部チャンバ(11)へ通ずる試料アパーチャ(14)を備え、前記試料アパーチャ(14)は、前記試料(1)によって、光を通さないように覆われ、前記加熱エリア(13)は、前記試料アパーチャ(14)により画定される、請求項1または2に記載の保持デバイス(2)。
【請求項4】
試料(1)が前記試料アパーチャ(14)を、光を通さないように覆うか否かを検出するように構成されたインターロックシステム(9)を備える、請求項3に記載の保持デバイス(2)。
【請求項5】
前記容器(10)に、光を通さないように装着された熱伝導要素(28)であって、
前記内部チャンバ(11)に向かって配向され前記加熱エリア(13)を画定する第1の表面(29)と、
前記試料ホルダ(12)内に配置された試料(1)と接触状態になるように構成された第2の表面(30)と
を備える熱伝導要素(28)を備える、請求項1または2に記載の保持デバイス(2)。
【請求項6】
断熱領域(31)が、前記熱伝導要素(28)と前記容器(10)との間に配置される、請求項5に記載の保持デバイス(2)。
【請求項7】
断熱領域(31)が、金属酸化物から作製される、請求項6に記載の保持デバイス(2)。
【請求項8】
前記熱伝導要素(28)の前記第1の表面(29)は、二酸化チタンまたは雲母などの高い光吸収率を有する材料により覆われる、請求項5から7のいずれか一項に記載の保持デバイス(2)。
【請求項9】
光が前記ファイバ装着手段(6)に装着された光ファイバから発せられた場合に、前記加熱エリア(13)の実質的に全体が照射されるように構成された、請求項1から8のいずれか一項に記載の保持デバイス(2)。
【請求項10】
前記ファイバ装着手段(6)は、前記光ファイバ(4)からの光が前記加熱エリア(13)に向かって直接的に送られるように、前記加熱エリア(13)に対向して配置される、請求項1から9のいずれか一項に記載の保持デバイス(2)。
【請求項11】
前記ファイバ装着手段(6)は、前記加熱エリア(13)から反射された前記光ファイバ(4)からの光が前記光ファイバ(4)の側部に衝突するように、前記加熱エリア(13)に対して若干角度を付けて配置される、請求項10に記載の保持デバイス(2)。
【請求項12】
リフレクタ(38)および/またはレンズ(39)などの光学素子が、前記ファイバ装着手段(6)と前記試料ホルダ(12)との間において前記内部チャンバ(11)内に配置される、請求項1から11のいずれか一項に記載の保持デバイス(2)。
【請求項13】
前記容器(10)の少なくとも一部が、タンタル、モリブデン、チタン、または銅から作製される、請求項1から12のいずれか一項に記載の保持デバイス(2)。
【請求項14】
前記容器(10)は、長軸(33)と、前記保持デバイス(2)を装着するための機械装着手段(34)とを備え、前記ファイバ装着手段(6)は、前記試料ホルダ(12)から前記長軸(33)に沿ってある距離をおいて配置され、前記機械装着手段(34)は、前記試料ホルダ(12)から第1の距離(x)の範囲内に配置され、前記第1の距離(x)は、前記試料ホルダ(12)から前記ファイバ装着手段(6)までの第2の距離(L)の10%未満であり、好ましくは5%未満である、請求項1から13のいずれか一項に記載の保持デバイス(2)。
【請求項15】
前記容器(10)は主要表面(26)を備え、前記主要表面(26)の上に前記試料(1)が配置されることとなり、前記機械装着手段(34)は、前記主要表面(26)上に配置される、請求項14に記載の保持デバイス(2)。
【請求項16】
前記試料ホルダ(12)および前記機械装着手段(34)は、一体的に作製される、および/または単体材料片で構成される、請求項14または15に記載の保持デバイス(2)。
【請求項17】
前記リフレクタはリフレクタベース(46)を備え、前記リフレクタベース(46)の上に、前記反射表面(45)が構成される、請求項1から16のいずれか一項に記載の保持デバイス(2)。
【請求項18】
前記リフレクタベース(46)は、金属シートから作製される、請求項17に記載の保持デバイス(2)。
【請求項19】
前記リフレクタベース(46)は、前記リフレクタベース(46)と前記容器(10)との間に間隙を有して構成される、請求項17または18に記載の保持デバイス(2)。
【請求項20】
前記リフレクタベース(46)は、前記リフレクタベース(46)の前記金属シートのプレスによりタブ(24)を形成することによって作製された穿孔を備え、前記タブ(24)は、前記リフレクタ(19)から延在し、前記リフレクタベース(46)と前記容器(10)との間に前記間隙(47)を形成する、請求項18を引用する請求項19に記載の保持デバイス(2)。
【請求項21】
試料(1)を加熱するための加熱システム(100)であって、
請求項1から20のいずれか一項に記載の保持デバイス(2)と、
レーザ(3)と、
一方の端部(5)で前記ファイバ装着手段(6)に装着され、他方の端部(7)で前記レーザ(3)に装着された光ファイバ(4)と
を備える、加熱システム(100)。
【請求項22】
試料表面(Ss)および背部表面(Bs)を有する試料(1)のための保持デバイス(2)であって、
内部チャンバ(11)を有する容器(10)と、
前記容器(10)の上に配置された試料ホルダ(12)であって、前記試料(1)の装着に適した試料ホルダ(12)と、
試料(1)が前記試料ホルダ(12)に装着された場合に前記試料表面(Ss)に対して熱的に連結される加熱エリア(13)と、
光ファイバ(4)を装着するための前記容器(10)上のファイバ装着手段(6)と、
を備えており、
前記ファイバ装着手段(6)に装着された光ファイバ(4)からの光が前記内部チャンバ(11)を通って前記加熱エリア(13)へ伝送されるように構成される保持デバイス(2)において、
前記保持デバイス(2)は、前記内部チャンバ(11)内に配置されたリフレクタ(19)を備え、
前記保持デバイス(2)、前記ファイバ装着手段(6)、および前記リフレクタ(19)は、光が前記光ファイバ(4)から発せられ、試料(1)が前記試料ホルダ(12)に装着された場合に、前記加熱エリア(13)から反射された前記光の大半が前記リフレクタ(19)の反射表面(45)に向かって反射されるように配置される
ことを特徴とする、保持デバイス(2)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電子分光機器を用いて表面が検査される試料を保持および加熱するためのデバイスに関する。このデバイスは、光電子分光法(photoelectron spectroscopy)を利用して試料を検査する前に試料を調製するために使用され得る。代替的には、このデバイスは、光電子分光法の実施の最中に試料を保持するために使用され得る。
【背景技術】
【0002】
試料の加熱は、例えば試料の調製などの多数の用途にとって重要な方法である。試料の調製には、試料表面の調製/洗浄と、所望の結晶構造の実現とが含まれる。試料の加熱が重要となるもう1つの分野は、いわゆるオージェプロセスによる光電子または電子の発生を目的として試料が照射される光電子分光法(photoemission spectroscopy)(PES)である。これらの光電子は、例えば計測領域への入口へと電子を集中させる磁気レンズ系または静電レンズ系などに集められる。
【0003】
多くの計測において、試料の材料が使用される環境を模倣するために試料を加熱することが必要となる。その一例は、自動車の触媒コンバータの活性表面である。この活性表面は、使用中に高温および高圧を伴う環境下におかれる。
【0004】
先行技術の試料ヒータでは、試料は、例えばボタンヒータまたはレーザヒータなどを使用して加熱されてきた。ボタンヒータの問題は、ボタンヒータが加熱対象の試料よりも高温でなければならない点である。これにより、試料の周囲の設備に望ましくない加熱を引き起こしてしまうという問題が生じ得る。また、超高真空(UHV)用途において高温を発生させることは、プロセス要件とこれらの温度およびプロセス条件にとって適した使用可能な熱源との間の妥協を常に伴う。例えばボタンヒータなどの従来のヒータの場合には、ヒータの構成要素材料の個々の蒸気圧が合算され、実現可能なUHV条件を制限しプロセスクオリティを損なう恐れのある分圧を生じさせる。さらに、この問題は、温度およびヒータ材料の耐酸化性要件と共に大きくなる。さらに、ヒータアセンブリの熱容量は、加熱/冷却速度を限定する。また、ボタンヒータは、電界または磁界の擾乱を発生させる可能性がある。
【0005】
ボタンヒータの一代替物はレーザヒータである。レーザ光を使用した加熱は、高出力レーザを必要とする。先行技術によるレーザヒータの問題は、所要の高さの加熱レーザ出力によりその光がユーザ、特にユーザの目にとって有害なものとなる恐れがあるため、デバイスの操作者が強力なレーザ光に曝露されることがないように光を遮蔽する必要がある点である。代替的には、レーザヒータの操作者が保護眼鏡を使用する場合がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の1つの目的は、試料を保持するためのデバイスであって、レーザの使用により試料を加熱することを可能にし、先行技術の保持デバイスの欠点の中の少なくとも1つを少なくとも緩和するデバイスを提供することである。
【0007】
本発明のもう1つの目的は、試料を保持するためのデバイスであって、レーザの使用により試料を加熱することを可能にし、レーザを使用した加熱の際中における保護眼鏡の必要性を解消するデバイスを提供することである。
【0008】
本発明のさらなる目的は、試料を保持するためのデバイスであって、レーザの使用により試料を加熱することを可能にし、試料が高温まで加熱される場合でも高真空用チャンバ内での使用により優れた適性を有するデバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
これらの目的の中の少なくとも1つが、独立請求項による保持デバイスで達成される。
【0010】
さらなる利点は、従属請求項の特徴により実現される。
【0011】
本発明の第1の態様によれば、試料表面および背部表面を有する試料のための保持デバイスが提供される。保持デバイスは、内部チャンバを有する容器と、この容器の上に配置された試料ホルダとを備える。試料ホルダは、試料の装着に適している。また、保持デバイスは、試料が試料ホルダに装着された場合に試料表面に熱的に連結される加熱エリアと、光ファイバを装着するための容器上のファイバ装着手段とを備える。保持デバイスは、ファイバ装着手段に装着された光ファイバからの光が内部チャンバを通って加熱エリアへ伝送されるように構成される。保持デバイスは、保持デバイスが反射表面を有するリフレクタを備え、リフレクタが内部チャンバ内に配置されることを特徴とする。保持デバイス、ファイバ装着手段、およびリフレクタは、光が光ファイバから発せられ、試料が試料ホルダに装着された場合に、加熱エリアから反射された光の大半がリフレクタの反射表面に向かって反射されるように配置される。保持デバイスは、試料が試料ホルダ内に配置された場合に、試料表面が容器の外部に向かって配向されるように構成される。
【0012】
第1の態様による保持デバイスは、例えば試料が加熱される場合などの多数の異なる用途にとって好ましい。保持デバイスは、加熱システム用に構成されてもよい。一例は、保持デバイスが試料調製用の加熱システムに対して使用される場合である。この試料調製は、試料の表面を調製/洗浄することと、所望の結晶構造を実現することとを含み得る。試料調製の最中における望ましくない汚染を回避するために、真空内において試料の加熱を実施することが望ましい。試料の加熱中に保持デバイスが加熱されると、保持デバイスからの汚染物質が気化するリスクがある。保持デバイスからの気化によるかかる汚染物質を最小限に抑えるために、保持デバイスの温度を可能な限り低く抑えることが望ましい。これは、リフレクタを用いることにより実現される。光ファイバからの光のほとんどが試料の背部表面において吸収される場合でも、一部は依然として反射されることになる。本発明によれば、加熱エリアから反射された光のほとんどが、リフレクタに向かうように反射され、この光のほとんどが、最終的に試料の背部表面へと反射されることになる。したがって、本発明による保持デバイスは、容器に衝突する光の量を最小限に抑制する。したがって、容器および保持デバイスの加熱が最小限に抑えられることになる。第1の態様による保持デバイスの別の利点は、この保持デバイスが遮光性になされ得る点である。このようにすることで、この保持デバイスを備えるレーザ加熱システムのオペレータは、保護眼鏡を用いずに済ますことが可能となり得る。
【0013】
第1の態様の一般化によれば、試料表面および背部表面を有する試料のための保持デバイスが提供される。保持デバイスは、内部チャンバを有する容器と、この容器の上に配置された試料ホルダとを備える。試料ホルダは、試料の装着に適している。また、保持デバイスは、試料が試料ホルダに装着された場合に試料表面に熱的に連結される加熱エリアと、光ファイバを装着するための容器上のファイバ装着手段とを備える。保持デバイスは、ファイバ装着手段に装着された光ファイバからの光が内部チャンバを通って加熱エリアへ伝送されるように構成される。保持デバイスは、内部チャンバ内に配置されたリフレクタを備えることを特徴とする。保持デバイス、ファイバ装着手段、およびリフレクタは、光が光ファイバから発せられ、試料が試料ホルダに装着された場合に、加熱エリアから反射された光の大半がリフレクタの反射表面に向かって反射されるように配置される。
【0014】
光ファイバからの光の立体角は、光ファイバの開口数(NA)により規定される。市販の光ファイバに関する開口数NAの一例は0.22であり、これは約12.6度の放出角をもたらす。かかる光ファイバがその端部が加熱エリアから20~30mm離れた状態で位置決めされる場合には、4~6mm直径のエリアを照射することが可能となる。リフレクタは、加熱エリアと光ファイバの端部との間の20~30mmの距離内に配置されることとなる。加熱エリアが平滑ミラー状表面により占められる場合には、光は、加熱エリアに入射するレーザからの光の立体角に対応する立体角で反射されることになる。完全なミラーの場合には、最小反射角度は、上記の例では12.6度であるNAにより規定される。これは、0.0386ステラジアンに相当する。これは、予期される最小放出角となる。
【0015】
試料が試料ホルダに装着され、光が光ファイバから発せられると、光が加熱エリアから反射されることになる。この光は、常に2πステラジアンで反射されると考えられ得る。しかし、この角度強度分布は、材料表面に強く依存する。加熱エリア中がミラー状表面である極端な例では、角度分布は非常に狭くなり、反射光のほとんどが入射光と同一角度で反射される。例えばナノ構造表面などの粗状表面または炭素被覆表面である他の極端な例では、反射強度の角度分布は広くなる。
【0016】
加熱エリアから反射された光の大半がリフレクタに向かって反射されるようにするために、加熱エリアから見た反射表面の立体角は、加熱エリアにミラー状表面を有する場合に対応するために少なくとも0.04ステラジアンであってもよい。かかる小さな反射表面が機能するためには、この反射表面は、加熱エリアからの後方反射の位置に非常に正確に配置されなければならず、これはあまり実用的ではない。反射表面の位置決めを容易にするために、加熱エリアから見た反射表面の立体角は、少なくとも0.5ステラジアンまたは好ましくは少なくとも1ステラジアンであってもよい。かかる反射表面のサイズにより、反射表面の位置決めが容易になる。吸収率を最大限に高めるために使用され得る例えばナノ構造表面などの粗状表面または炭素被覆表面である他の極端な例では、反射光は、2πステラジアンにわたり均一な分布を有する。加熱エリアから見た反射表面の立体角は、加熱エリアから反射された光がより均一な分布で半球状にすなわち2πステラジアンで発せられると仮定した場合には、πステラジアンよりも大きくなり得る。加熱エリアから見た反射表面の立体角が、加熱エリアの種々の点ごとに異なり得るため、この規定角度は、加熱エリアのそれぞれ異なる点から見た平均立体角として考えるべきである。リフレクタは、加熱のために使用される光の量を上昇させるため、レーザからの所要出力を低減させるのに役立つ。
【0017】
理論上は、加熱エリアに入射するすべての光が吸収されることが有利となる。しかし、これは実現不可能である。したがって、一部の光が常に反射されることになるため、本発明の1つの目的は、保持デバイスの加熱を最小限に抑えることである。
【0018】
リフレクタの形状は、可能な限り多量の光が試料表面へと反射されて戻るように最適化され得る。好ましい一形状は、再帰反射器としてリフレクタを有することである。
【0019】
保持デバイスは、内部チャンバへ通ずる試料アパーチャを備えてもよく、この試料アパーチャは、試料によって、光を通さないように覆われ、加熱エリアは、試料アパーチャにより画定される。試料が試料アパーチャを、光を通さないように覆うことにより、動作中に保護眼鏡を使用することは不要となる。かかる試料アパーチャを有することにより、ファイバ装着手段に装着された光放出光ファイバからの光は、試料の背部表面上に直接的に衝突する。これにより、加熱効果が最大限に高まる。試料が試料アパーチャを、光を通さないように覆うということは、光が試料アパーチャを透過できないことを意味する。試料が試料アパーチャを、光を通さないように覆うことにより、動作中に光が保持デバイスから漏れることが回避される。この場合に、加熱エリアは試料アパーチャである。試料が試料ホルダ内に配置されると、試料の背部表面は加熱エリア内に位置する。試料アパーチャがある場合に、試料が試料ホルダ内に配置されない場合には、加熱エリアはこのアパーチャにより構成される。試料が試料ホルダ内に配置されると、加熱エリアは、試料の背部表面により覆われる。
【0020】
加熱エリアは、加熱が実現されるエリアである。加熱は、例えばファイバからの光が衝突し得る試料の背部表面などの表面がない場合には起こらない。
【0021】
保持デバイスが試料アパーチャを備える場合に、保持デバイスは、試料が試料アパーチャを、光を通さないように覆うか否かを、すなわち光が試料アパーチャを透過することができないように試料が試料アパーチャを覆うことを検出するように構成されたインターロックシステムを備えることが有利となる。かかるインターロックシステムを有することにより、試料が試料アパーチャを、光を通さないように覆わない場合にレーザの動作が無効になされるように、レーザを備える加熱システムを構成することが可能となる。したがって、このシステムは、オペレータが試料ホルダ内の定位置に試料を配置し忘れた場合でも、本システムのオペレータにとってリスクを伴わずに安全に動作することが可能となる。
【0022】
波長に対する試料の背部表面の吸収率とレーザからの光の波長とによっては、レーザからの光を周波数倍増することが有利となる場合がある。背部表面における吸収率が周波数倍増された光に対してより高い場合には、周波数倍増を行うことが好ましい。周波数倍増は、リフレクタと加熱エリアとの間に周波数倍増結晶を配置することにより実現され得る。一例として、周波数倍増結晶は、試料アパーチャ内に配置され得る。その場合には、レーザからの光の一部が、周波数倍増結晶中で周波数倍増される。周波数倍増はピーク出力に依存するため、周波数倍増が実施されることとなる場合にはパルスレーザを使用することが有利となる。
【0023】
保持デバイスは、容器に、光を通さないように装着された熱伝導要素を備えてもよい。かかる熱伝導要素は、内部チャンバに向かって配向され加熱エリアを画定する第1の表面と、試料ホルダ内に配置された試料と接触状態になるように構成された第2の表面とを備える。かかる熱伝導要素を有することにより、試料が定位置に存在するか否かにかかわらず保持デバイスが安全に動作することになるため、インターロックシステムは不要となる。加熱の効率は、熱伝導要素が定位置に位置する場合には若干より低くなる。第2の表面が試料と接触状態になるように構成されても、第2の表面と試料との間に小さな間隙を有する状態で熱伝導はやはり機能する。
【0024】
試料に関して、保持デバイスが試料アパーチャを備える場合には、試料は固体材料から作製されなければならない。しかし、保持デバイスが熱伝導要素を備える場合には、試料は液体であってもよく、熱伝導要素の第2の表面上のフィルムとして構成されてもよい。
【0025】
保持デバイスが熱伝導要素を備える場合に、断熱領域が、熱伝導要素と容器との間に配置されてもよい。かかる断熱領域を有することにより、熱伝導要素から容器への熱伝導が最小限に抑えられ得る。
【0026】
断熱領域は、良好な断熱材である例えば酸化アルミニウムなどの金属酸化物から作製され得る。
【0027】
上述のように、試料により吸収される光の量を最大限に高めることが望ましい。熱伝導要素を備える保持デバイスの場合に、これは、熱伝導要素により吸収された光の量を最大限に高め、熱伝導要素から試料に伝送されたエネルギー量を最大限に高めることと均等である。熱伝導要素の光吸収は、良好な光吸収性を有する適切な材料で熱伝導要素の第1の表面を覆うことにより改善され得る。二酸化チタンまたは雲母などの材料で熱伝導要素の第1の表面を覆うことにより、光吸収性は高くなる。二酸化チタンもまた耐熱性を有する。
【0028】
光吸収材量の代替としてまたはそれに加えて、第1の表面は、周波数倍増材料により覆われてもよい。これは、特にレーザが、第1の表面では効率的に吸収されない赤外線波長で光を発する場合には有効である。
【0029】
保持デバイスは、光がファイバ装着手段に装着された光ファイバから発せられた場合に、加熱エリアの実質的に全体が照射されるように構成され得る。かかる構成は、試料の均一な加熱およびより均一な熱分布をもたらすことになるため好ましい。
【0030】
ファイバ装着手段は、光ファイバからの光が加熱エリアに向かって直接的に送られるように、加熱エリアに対向して配置され得る。これにより、保持デバイスの単純な設計が可能となる。保持デバイスは、レンズなどのいかなる中間光学素子を用いなくても光ファイバからの光が加熱エリア全体を照明することが可能となるような、光ファイバから試料までの距離になるように構成され得る。したがって、この距離は、加熱エリアのサイズおよび光ファイバの開口数に適合している。
【0031】
ファイバ装着手段は、加熱エリアから反射された光ファイバからの光が光ファイバの側部に衝突するように、加熱エリアに対して若干角度を付けて配置され得る。実際には、これは、光が光の放出円錐により規定される角度よりも大きな角度で加熱エリアに衝突することを意味する。これは、試料からの光が光ファイバ中へと反射されて戻るリスクを最小限に抑えるために好ましい場合がある。光ファイバ中へと反射されて戻るかかる光は、レーザに損傷を与え得る。これは、表面が平滑かつ反射性を有する場合に主に問題となる。したがって、表面がマット仕上げである場合には、光は種々の角度で反射され、場合によっては2πステラジアンの立体角で反射されることになる。光が2πステラジアンの立体角で反射される場合には、上記の問題は課題とはならない。
【0032】
リフレクタおよび/またはレンズなどの光学素子が、ファイバ装着手段と試料ホルダとの間において内部チャンバ内に配置される。保持デバイス内にかかる光学素子を備えることにより、保持デバイスの設計がより自由になり得る。
【0033】
容器の少なくとも一部が、タンタル、モリブデン、チタン、または銅から作製され得る。これらの材料は、例えば光電子分光機器または低エネルギー電子回折機器などの機器の正面に試料が存在する状態で保持デバイスが配置される場合には特に適する。これらの材料は、これらの材料が非磁性であるような用途において適する。
【0034】
容器は、長軸と、保持デバイスを装着するための機械装着手段とを備えてもよく、ファイバ装着手段は、試料ホルダから長軸に沿ってある距離をおいて配置され、機械装着手段は、試料ホルダから第1の距離の範囲内に配置され、この第1の距離は、試料ホルダからファイバ装着手段までの第2の距離の10%未満であり、好ましくは5%未満である。上述のように、容器は、リフレクタにかかわらず幾分か加熱される場合がある。この容器の加熱は、容器の幾分かの熱膨張をもたらす。しかし、機械装着手段の上述の位置により、試料表面の位置は、この熱膨張により少量のみ影響されることになる。これは、例えば分析機器などの近くに試料が位置する保持デバイス2の用途にとっては重要となる。かかる用途の一例は、保持デバイスがAPPES用の加熱システムにおいて使用される場合である。APPESでは、試料表面は、分析装置のアパーチャの非常に近くに配置される。したがって、試料の加熱中に試料表面があまり移動しないことが重要となる。
【0035】
容器は、主要表面を備えてもよく、主要表面の上に試料が配置されることとなり、機械装着手段は、主要表面上に配置される。かかる構成により、試料表面と機械装着手段との間の距離を小さくすることが可能となる。
【0036】
試料ホルダおよび機械装着手段は、一体的に作製され得る、および/または単体材料片で構成され得る。これは、試料表面と機械装着手段との間の距離を小さくすることが可能となるため好ましい。
【0037】
リフレクタは、リフレクタベースを備え得、リフレクタベースの上に反射表面が構成される。反射表面は、表面を研磨することによりまたはリフレクタベース上に反射層を設けることによりリフレクタベースの表面が反射性を有するように構成されることによって実現され得る。反射層は、例えば金層、アルミニウム層、またはレーザ光の波長と良好に適合する別の材料などであってもよい。容器とは別個の要素としてリフレクタベースを有することにより、反射表面から容器への熱伝導が最小限に抑えられ得る。
【0038】
リフレクタベースは、金属シートから作製され得る。金属シートは、所望の形状への形成が容易となり得る点で有利である。リフレクタベースは、複数の金属シート片から形成されてもよい。
【0039】
リフレクタベースは、リフレクタベースと容器との間に間隙を有して構成され得る。この間隙は、多数の方法で形成され得る。リフレクタベースは、リフレクタベースの金属シートのプレスによりタブを形成することによって作製された穿孔を備えてもよく、これらのタブは、リフレクタから延在し、動作時にはリフレクタベースと容器との間に間隙を形成することにより、リフレクタから容器への熱伝導を最小限に抑える。これは、リフレクタと容器との間に間隙を形成する簡単な方法である。この場合には、リフレクタは、1つの反射表面を有する金属シートプレートの形態である。タブは、平坦な金属シートプレート中への打ち抜きにより形成され得る。次いで、金属シートプレートは、内側に反射表面がくる状態で巻かれ得る。この巻かれた金属シートプレートの両側部上にエンドピースが追加されてもよい。これらのエンドピースは、好ましくはやはり金属シートから作製される。
【0040】
本発明の第2の態様によれば、試料を加熱するための加熱システムが提供される。この加熱システムは、第1の態様による保持デバイス備え、本発明の第1の態様に関連して述べられた特徴のいずれかを備えてもよい。また、加熱システムは、レーザと、一方の端部でファイバ装着手段に装着され、他方の端部でレーザに装着された光ファイバとを備える。
【0041】
かかる加熱システムは、レーザが試料からある距離をおいて配置され、先行技術のボタンヒータよりも低い度合いで保持デバイスを加熱するという点で有利である。
【0042】
以降では、本発明の好ましい実施形態を添付の図面を参照として説明する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】試料を保持するための本発明の一実施形態による保持デバイスを備える、試料を加熱するための加熱システムの概略図である。
【
図2】試料のための保持デバイスであって、
図1に示すものなどの加熱システム用に構成された保持デバイスの斜視図である。
【
図4】代替的な一実施形態による
図2の保持デバイスの断面図である。
【
図5】
図1のインターロックシステムの概略図である。
【
図6】別の実施形態による保持デバイスの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
本発明の以下の詳細な説明において、同一の参照数字が、異なる図面内における同一の特徴に対して使用される。図は縮尺通りではない。
【0045】
図1は、試料1を保持するための本発明の一実施形態による保持デバイス2を備える、試料1を加熱するための加熱システム100を概略的に示す。試料1を加熱するための加熱システムである。この加熱システムは、試料1が上に保持される保持デバイスを備える。システム100は、レーザ3および光ファイバ4をさらに備え、光ファイバ4は、保持デバイス2上のファイバ装着手段6に対して一方の端部5で装着され、レーザ3に対して他方の端部7で装着される。ファイバ装着手段6は、光ファイバ4の遮光性連結を可能にする。レーザ3は、駆動ユニット8により制御される。また、システム100は、駆動ユニット8に対して連結されたインターロックデバイス9を備える。試料1が定位置に置かれると、インターロックデバイス9は、作動され、駆動ユニット8によるレーザ3の操作を有効にする。試料が除去されると、インターロックデバイス9は、作動停止され、駆動ユニット8によるレーザ3の操作を無効にする。レーザは、高い継続的な出力をもたらすように選択される。ダイオード励起ND:YAGレーザが、レーザ3についての適切な選択肢となり得る。レーザは加熱のためにのみ使用されるため、光の品質は重要性が低い。レーザは、シングルモードレーザまたはマルチモードレーザであることが可能であり、連続または非連続のものが可能である。レーザの唯一重要な特徴は、試料により良好に吸収される波長での出力である。したがって、レーザ3の波長は、加熱エリア13における吸収を最大化するように選択され得る。
【0046】
光ファイバ4の過度な加熱を回避するために、光ファイバ4は、例えば液体窒素源LNからの液体窒素により冷却されることが好ましい。
【0047】
図2は、試料表面Ssおよび背部表面Bs(
図3)を有する試料1のための保持デバイス2を斜視図において示す。保持デバイスは、
図1に示すものなどの加熱システム用に構成される。
図3は、
図2の保持デバイス2を断面図で示す。保持デバイス2は、内部チャンバ11を有する容器10を備える。試料ホルダ12が、容器10の上に配置される。試料ホルダ12は、試料1の装着に適している。保持デバイスは、加熱エリア13を備え、この加熱エリア13は、試料1が試料ホルダ12に装着された場合に試料表面Ssに対して熱的に連結される。
図3では、保持デバイス2は、内部チャンバへ通ずる試料アパーチャを備える。この試料アパーチャは、アパーチャエッジ14により画定される。試料アパーチャは、試料1によって、光を通さないように覆われることとなる。加熱エリアは、試料アパーチャ14により、すなわちアパーチャエッジ14により画定される。したがって、試料1が試料ホルダ12内に配置されると、加熱エリア13は、試料1の背部表面Bsにより覆われる。また、保持デバイスは、光ファイバ4の装着のためにコンテナ上にファイバ装着手段6を備える。
図3では、光ファイバの第1の端部5が、端部装着手段48に装着される。光ファイバ4が装着手段6に装着される場合に、これは、ファイバ装着手段6に対して端部装着手段48を装着することにより実現される。
図3に示す実施形態では、端部装着手段48は、光ファイバ4が接着される中央ピース15と、ファイバ装着手段6に対して螺着されるように構成されたナット16とを備える。ナット16がファイバ装着手段6に対して螺着される場合に、この中央ピース15は、ファイバ装着手段6上のフランジ17に対して圧迫される。光ファイバ4の端部表面18は、試料1上の背部表面Bsに向かって配向される。したがって、ファイバ装着手段6に装着された光ファイバからの光は、内部チャンバ11を通過し加熱エリア13まで伝送される。
【0048】
図3の実施形態では、保持デバイス2は、周方向対称チューブパーツ22および背部パーツ23から作製される。通気チャネル25が、背部パーツ23とチューブパーツ22との間に設けられる。試料1が上に配置されることとなる主要表面26が、保持デバイスの端部に位置する。主要表面26は、中に試料1が配置されることとなる凹部27を備える。
【0049】
保持デバイス2は、内部チャンバ11内に配置された、反射表面45を有するリフレクタ19を備える。保持デバイス、ファイバ装着手段、およびリフレクタは、光がレーザ3から発せられ(
図1を参照)試料1が試料ホルダ12に装着された場合に、加熱エリア13すなわち試料1の背部表面Bsから反射された光の大半がリフレクタ19の反射表面45に向かって反射されるように配置される。光は、試料1の背部表面Bsの構造に依拠する立体角で反射される。背部表面がマット仕上げである場合には、光は2πの立体角で反射される。この場合に、反射表面は、加熱エリアから見てπステラジアンの立体角を有する。しかし、背部表面がさほどマット仕上げではなく平滑である場合には、光は2πステラジアンよりも小さい立体角で反射されることになる。この場合に、リフレクタは、加熱エリアから見た場合に2πステラジアンよりも小さい立体角を有する可能性がある。表面が研磨表面などのミラー状である場合には、光は、入射光の立体角と同一の立体角で反射されることになる。リフレクタ19は、光をリフレクタ19に進入させ得る入口アパーチャ20と、光をリフレクタから退出させ得る出口アパーチャ21とを備える。反射表面45は、リフレクタの内側に位置し、好ましくはリフレクタ19の内側全体を覆う。入口アパーチャ20および出口アパーチャは、レーザの動作中に光ファイバからの光の大半が加熱エリア13に到達するように配置される。好ましくは、光ファイバからの光の少なくとも99%および最も好ましくは少なくとも99.9%が、入口アパーチャ20および出口アパーチャ21を通過する。
図3の実施形態でこれを実現するために、入口アパーチャ20のサイズ、光ファイバの端部表面18と入口アパーチャ20との間の距離、出口アパーチャ21のサイズ、および出口アパーチャ21と背部表面Bsとの間の距離が、光ファイバ4の開口数に適合している。また、加熱エリア13の実質的に全体が光ファイバ4からの光により照射されるように、光ファイバ4の端部表面18とBsとの間の距離および加熱エリア13のサイズが、光ファイバの開口数に適合している。
【0050】
リフレクタ19の反射表面45に向かって反射される光のほとんどが、次いでリフレクタ19から反射され、最終的に加熱エリア13に再び衝突することになる。試料1の背部表面Bsにおけるレーザ光の吸収率が高いことが望ましい。これは、試料1の背部表面Bs上に、例えば二酸化チタンなどの高吸収性および高耐熱性の材料の層を施すことにより実現されてもよい。しかし、試料1の背部表面Bs上に高吸収性材料の層を有する場合でも、光の一部は、背部表面から反射されリフレクタ19の反射表面45に再び衝突することになる。反射光の中の低い割合が、入口アパーチャ20に向かって反射される場合がある。背部表面Bsからの反射光が光ファイバの端部表面18に直接的に衝突するのを回避するために、光ファイバの端部表面18と背部表面Bsの背部表面との間に小さな角度を有することが有利となる。リフレクタ19の反射表面45が非常に高い反射率を有して作製された場合でも、光の一部は、リフレクタ19により吸収されることになる。保持デバイスの加熱を回避するために、リフレクタ19は、チューブパーツ22からある距離をおいて配置される。
図3で分かるように、リフレクタベース46は、リフレクタベース46と容器10との間に間隙47を有して構成される。これにより、リフレクタベース46から容器までの熱伝導が最小限に抑えられる。リフレクタベース46は、金属シートから作製され得る。間隙47は、
図3の部分拡大図に示されるようにリフレクタ19の打抜きによりタブ24を形成することによって実現され得る。
図3に示すように、リフレクタベース46は、リフレクタベース46の金属シートのプレスによりタブ24を形成することによって作製された穿孔を備える。タブ24は、リフレクタ19から延在し、リフレクタベース46と容器10との間に間隙47を形成する。タブ24は、約1ミリメートルにわたり延在し、リフレクタ19とチューブパーツ22との間に小さな間隙を与える。容器10内の材料は、タンタル、モリブデン、チタン、または銅から選択される。これらの材料は、非磁性であるという点を共有しており、これは軟X線XPSにとって重要となる。硬X線用途の場合には、容器10内の非磁性材料についての要件を緩和することができる。
図3の部分拡大図では、タブ24およびこれらのタブ24により形成された間隙47がより明確に示される。
【0051】
図4は、本発明の代替的な一実施形態による保持デバイス2を示す。
図4の保持デバイスと
図3の保持デバイスとの間の相違点のみについて説明する。保持デバイス2は、容器に、光を通さないように装着された熱伝導要素28を備える。この熱伝導要素28は、内部チャンバ11に向かって配向され加熱エリア13を画定する第1の表面29と、試料1が試料ホルダ12内に配置される場合に試料1と接触状態になる第2の表面30とを備える。断熱領域31が、熱伝導要素28と容器10との間に構成される。熱伝導要素28は、試料1が試料ホルダ12内において定位置にない場合であっても、容器を閉じた状態にする。熱伝導要素28内の材料は、高い熱伝導率を有し、可能な限り多くの光を吸収し、吸収した光を試料側へと伝送する。適切な材料に関する例は、タンタル、モリブデン、およびチタンである。また、高い融点を有する他の金属が、熱伝導要素28のための材料として使用されることも可能である。他方において、この断熱領域は、低い熱伝導率を有するべきである。断熱領域は、例えば酸化アルミニウムまたは雲母などの金属酸化物から作製することが可能である。
図3の実施形態と同じように、高吸収率の加熱エリア13を設けることが重要である。
図4の実施形態では、加熱エリアは、熱伝導要素28の第1の表面29上に位置する。熱伝導要素28の第1の表面29の高い熱吸収率を実現するために、この第1の表面29は、二酸化チタンにより覆われる。
【0052】
以下の特徴は、
図3の実施形態にも存在するが、参照数字の個数を適度に抑えるために
図3では記載されない。保持デバイス2は、主要表面26上に配置されたばねアーム32を備え、このばねアーム32は、試料1を定位置に保持する。容器10は、長軸33と機械装着手段34とを備える。ファイバ装着手段6は、試料ホルダ12からこの長軸33に沿ってある距離をおいて配置され、機械装着手段34は、試料ホルダ12から第1の距離x内に配置され、この第1の距離xは、試料ホルダからファイバ装着手段6までの第2の距離Lの10%未満、好ましくは5%未満である。第1の距離xがゼロに等しいことが最適となる。
図4では、機械装着手段34は、主要表面26中のねじ穴34である。
図2において最も明確にわかるホルダ35が、保持デバイス2に装着される。
図2では、ホルダ35がブロック36に対してどのように装着され、またブロック36が移動デバイス37に対してどのように装着されるかがさらに示される。上述のように、容器は、リフレクタ19にかかわらず幾分か加熱される場合がある。容器の加熱により、容器10は幾分か熱膨張することになる。しかし、機械装着手段34のこの位置により、熱膨張の大半は、
図3では機械装着手段34の左側の容器10の部分におけるものとなる。したがって、試料表面Ssの位置は、この熱膨張により少量のみ影響されることになる。これは、例えば分析機器などの近くに試料が位置する保持デバイス2の用途にとっては重要となる。かかる用途の一例は、保持デバイスがAPPES用の加熱システム100において使用される場合である。APPESでは、試料表面Ssは、分析装置のアパーチャの非常に近くに配置される。したがって、試料の加熱中に試料表面Ssがあまり移動しないことが重要となる。
【0053】
主に
図1を参照すると、動作中にレーザ3からの光は、光ファイバ4を通って容器10の内部チャンバ11内へと伝送される。光は加熱エリア13において吸収され(
図3を参照)、試料1は加熱されることになる。温度を制御するために、熱電対(図示せず)が試料1の温度を計測するように配置されてもよい。熱電対からの温度信号が、駆動ユニット8に接続されてもよく、駆動ユニット8は、例えば比例-積分-微分コントローラ(PIDコントローラ)などを使用してレーザ3の出力を制御し得る。
【0054】
図5は、
図1のインターロックシステム9を概略的に示す。
図5は、試料アパーチャ14の上方の試料ホルダデバイス40内に、光を通さないように配置された試料1を示す。試料ホルダデバイス40は、金属から作製される。電気接触子41が、試料ホルダ12内の凹部27内に配置される。試料ホルダデバイス40が定位置にある場合に、電気接触子41は短絡する。これがトリガとなり、駆動ユニット8がレーザ3を始動させ得る。ホルダデバイス40内に周波数倍増結晶44が配置される。周波数倍増結晶44は、レーザ3からの光の一部の周波数を倍増する。これにより、周波数倍増された光が試料1の背部表面Bsにおいてより強力に吸収される場合には、試料における吸収性が改善される場合がある。周波数倍増を最大化するためには、パルスレーザ3を有することが有利である。周波数倍増結晶44は、当然ながら、代替的には、試料アパーチャ14内に配置されてもよい。
【0055】
上述の電気インターロックの代替として、完全に機械的なインターロックを有することもまた当然ながら可能である。試料ホルダデバイス40は、定位置において摺動するときに機械ブロック(図示せず)を押し離すように配置されてもよい。したがって、試料ホルダデバイスが定位置に位置しないときには、すべてのレーザ光が機械ブロックに衝突する。
【0056】
この解決策の欠点は、多くのレーザエネルギーが機械ブロックにおいて給されなければならない点である。
【0057】
図6は、別の実施形態による保持デバイス2を概略的に示す。保持デバイス2は、光ファイバ4が装着されるファイバ装着手段6を有する容器10を備える。試料1が、試料ホルダ12内に装着される。ミラー42およびレンズ43の形態の光学素子が、ファイバ装着手段6と試料ホルダ12との間に配置される。光ファイバ4からの光は、試料1へとある角度で発せられ、ミラー42において反射され、試料1の背部表面Bs上の加熱エリア13に衝突する前にレンズで合焦される。この実施形態は、例えば容器の長軸33に沿った空間が限定される場合などのいくつかの場合では好ましい場合がある。
【0058】
図6では、背部表面Bsから反射された光が反射表面45に向かってどのように反射されるかがさらに示される。破線49は、背部表面Bsの中心から反射されて出口アパーチャ21を通って進入する光についての周辺光線を示す。破線50は、背部表面Bsの中心から反射されて入口アパーチャ20を通過しようとする光についての周辺光線を示す。破線49と破線50との間の立体角は、背部表面Bsの中心から見た反射表面45の立体角を画定する。反射表面45のこの立体角の平均を決定することが可能である。この背部表面のあらゆる点が均一分布で反射を行うと仮定した場合に、この平均は、反射表面に衝突する反射光の大半についてπステラジアンよりも大きいべきである。
【0059】
本発明は、上述した実施形態には限定されず、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される本発明の範囲から逸脱することなく多くの方法により補正され得る。
【符号の説明】
【0060】
1 試料
2 保持デバイス
3 レーザ、パルスレーザ
4 光ファイバ
5 端部
6 ファイバ装着手段
7 端部
8 駆動ユニット
9 インターロックデバイス、インターロックシステム
10 容器
11 内部チャンバ
12 試料ホルダ
13 加熱エリア
14 アパーチャエッジ、試料アパーチャ
15 中央ピース
16 ナット
17 フランジ
18 端部表面
19 リフレクタ
20 入口アパーチャ
21 出口アパーチャ
22 周方向対称チューブパーツ
23 背部パーツ
24 タブ
25 通気チャネル
26 主要表面
27 凹部
28 熱伝導要素
29 第1の表面
30 第2の表面
31 断熱領域
32 アーム
33 長軸
34 機械装着手段、ねじ穴
35 ホルダ
36 ブロック
37 移動デバイス
40 試料ホルダデバイス
41 電気接触子
42 ミラー
43 レンズ
44 周波数倍増結晶
45 反射表面
46 リフレクタベース
47 間隙
48 端部装着手段
49 破線
50 破線
100 加熱システム
【国際調査報告】