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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-13
(54)【発明の名称】印刷装置および方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/112 20170101AFI20220706BHJP
   B29C 64/209 20170101ALI20220706BHJP
   B29C 64/245 20170101ALI20220706BHJP
   B29C 64/364 20170101ALI20220706BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20220706BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20220706BHJP
【FI】
B29C64/112
B29C64/209
B29C64/245
B29C64/364
B33Y10/00
B33Y30/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021566270
(86)(22)【出願日】2020-05-05
(85)【翻訳文提出日】2021-12-17
(86)【国際出願番号】 EP2020062454
(87)【国際公開番号】W WO2020225261
(87)【国際公開日】2020-11-12
(31)【優先権主張番号】19382349.9
(32)【優先日】2019-05-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521486561
【氏名又は名称】ウニベルシタット・ロビラ・イ・ビルヒリ
(71)【出願人】
【識別番号】313013955
【氏名又は名称】インスティテュシオ・カタラナ・デ・レセルカ・イ・エスチュディス・アヴァンカス
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】エフヘニー・リアシェンコ
(72)【発明者】
【氏名】アンドリュ・カボット・コディナ
(72)【発明者】
【氏名】ホアン・ローゼル・リョンパルト
【テーマコード(参考)】
4F213
【Fターム(参考)】
4F213WA25
4F213WB01
4F213WL02
4F213WL32
4F213WL35
4F213WL52
4F213WL67
4F213WL74
4F213WL87
(57)【要約】
インク滴(3)を形成するノズル(2)の出口にインクを供給するインクリザーバ(1)を備え、かつインクジェット(4)を発生させる静電場を作り出す電源も備え、前記インクジェット(4)が、正味静電荷を運び、連続ファイバを用いて3次元物品(5)を印刷するために基板(7)上に堆積される、印刷装置であって、各ジェット偏向電極(15、16)に印加される電圧を変更することを通じて断続的に制御された方式で前記インクジェット(4)をデフォルト軌道から偏向させる1つまたは複数の電極(15、16)も備えることを特徴とする。印刷方法は、1つまたは複数の電極(15、16)によってインクジェット(4)周辺に発生される静電場を断続的に変更することによって前記インクジェット(4)をデフォルト軌道から偏向させるステップを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インク滴(3)を形成するノズル(2)の出口にインクを供給するインクリザーバ(1)を備え、かつインクジェット(4)を発生させる静電場を作り出す電源も備え、前記インクジェット(4)が、正味静電荷を運び、連続ファイバを用いて3次元物品(5)を印刷するために基板(7)上に堆積される、印刷装置であって、各ジェット偏向電極(15、16)に印加される電圧を変更することを通じて断続的に制御された方式で前記インクジェット(4)をデフォルト軌道から偏向させる1つまたは複数の電極(15、16)も備えることを特徴とする、印刷装置。
【請求項2】
前記印刷装置が、ガターであって、前記インクジェットを前記ガターに向けて偏向させることによって前記基板(7)上の前記インクジェット(4)の前記堆積を中断するための、ガターを備える、請求項1に記載の印刷装置。
【請求項3】
2つのジェット偏向電極(15、16)が、前記インクジェット(4)を前記デフォルト軌道から、前記デフォルトジェット軌道に垂直な平面内の任意の方向に偏向させる、請求項1に記載の印刷装置。
【請求項4】
4つのジェット偏向電極(15、16、17、18)が、前記インクジェット(4)を前記デフォルト軌道から、前記デフォルトジェット軌道に垂直な平面内の2つの異なる方向に偏向させ、2つのジェット偏向電極が1つの方向に偏向させ、2つのジェット偏向電極が別の方向に偏向させる、請求項1に記載の印刷装置。
【請求項5】
前記基板(7)または前記ノズル(2)が、前記デフォルトジェット軌道に垂直な平面で移動可能である、請求項1に記載の印刷装置。
【請求項6】
前記インクジェット(4)の前記偏向ならびに/または前記基板(7)および/もしくは前記ノズル(2)の移動を制御する制御手段(11)を備える、請求項1から5のいずれか一項に記載の印刷装置。
【請求項7】
前記ノズルの開口が前記インクジェット(4)の幅より広い、請求項1に記載の印刷装置。
【請求項8】
印刷方法であって、
- ノズル(2)にインクを供給するステップと、
- 前記ノズル(2)の出口にインク滴(3)を形成するステップと、
- 正味静電荷を保持するインクジェット(4)を発生させるステップと、
- 基板(7)上に前記インクジェット(4)を収集することによって既定のデザインを印刷して、連続ファイバを用いて印刷物品(5)を形成するステップとを含み、前記印刷方法が、1つまたは複数の電極(15、16)によって前記インクジェット(4)周辺に発生される静電場を断続的に変更することによって前記インクジェット(4)をデフォルト軌道から偏向させるステップも含むことを特徴とする、印刷方法。
【請求項9】
前記インクジェット(4)を、前記デフォルト軌道から、前記デフォルトジェット軌道に垂直な平面内の2つの異なる方向に偏向させる、請求項8に記載の印刷方法。
【請求項10】
前記インクジェット(4)の前記発生が静電場によるものである、請求項8に記載の印刷方法。
【請求項11】
前記インクジェット(4)を、前記物品(5)を印刷する間、前記基板(7)および前記ノズル(2)が互いに対して定位置にある間に偏向させる、請求項8に記載の印刷方法。
【請求項12】
前記印刷物品(5)が監視され、印刷プロセスからのデータが取得されて、前記印刷プロセスを制御するために使用される、請求項8に記載の印刷方法。
【請求項13】
前記印刷物品(5)が分析され、後に前記物品(5)を印刷するようにジェット偏向電極信号が調整される、請求項8に記載の印刷方法。
【請求項14】
前記インクジェット(4)を、500,000m/s2まで達する加速度でかつ6m/sまで達する速度で偏向させる、請求項8に記載の印刷方法。
【請求項15】
ファイバを順次積み重ねることによって物品(5)が印刷される、請求項8に記載の印刷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細いファイバを用いて基板上に物品の拡張かつ高速印刷を可能にする印刷装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気流体力学(EHD)ジェット印刷は、時にeジェット印刷と称されており、既定のデザインを印刷するために静電場によってインクジェットが駆動される高解像度印刷技術である。EHDジェッティングは、基板上の既定の場所にジェットを位置決めするために基板またはノズルの機械的並進と共に使用され、したがって既定のデザインから立体物品(構造、パターン、物体等)の印刷を可能にしている。EHDジェット印刷を、連続的であり液滴へ分裂しないEHDジェットを使用することによるそのような物品の作成として言及することにする。そして、EHDジェット偏向印刷(本発明)を、計画的に変動される静電場への曝露により、ジェットが制御可能に偏向し、したがって予め設定された場所に材料を堆積させる事例として言及する。
【0003】
EHDジェッティング現象は、高速移動する微細なインクジェットを発生させ、EHDジェット印刷においては、これが基板上に収集される。インクは小開口を通して流路から流れ出る。この小開口を持つ流路をノズルと称する。収集されたジェットをファイバと称する。事実上いずれの液体もEHDジェッティングのために使用され得るが、これをインクと称することにする。このインクは、典型的に、溶媒、ポリマー、無機前駆体、粒子および生細胞の任意の適切な組合せを含み得る。ジェット径は、典型的に、数十ナノメートルから数マイクロメートルの範囲に及ぶ。ジェットは全体的に連続的であるが、それが収集される前に液片(液滴)へ自発的に分裂してもよく、しかしながら、本発明はこのシナリオには関与しない。
【0004】
マテリアルジェッティング技術の最大の現在の課題の1つが、材料を高速で微小2D(2次元)および3D(3次元)物品として制御可能に堆積させることである。現在、EHDジェッティングは、基板上にパターンを印刷するために、基板またはノズルの機械的並進と組み合わされる。この方法によって適切な精度で予め設定されたデザインを印刷するためには、ジェットが基板上に適切に位置決めされるより速く発生されると、それは無制御に基板上に蓄積するので、基板に接近する際のEHDジェット速度およびステージ並進の速度は一致されなければならない。EHDジェットは、0.5と5000mm/sとの間の範囲の速度で移動するように発生させることができるが、現在のシステムではこの範囲全体は活用できない。最善のシステムでさえ、一貫した印刷の速度を可能にするために十分な加速度を提供しておらず、そして運動の方向の変化を十分に速くすることができず、2Dおよび3D印刷両方の速度および解像度を制限している。適切な機械的並進ステージによって非常に正確な印刷を行うことができるが、並進ステージを使用する正確な小物品の堆積の速度は遅すぎて産業的には妥当でない。並進ステージの動特性、特にそれらの最大速度および加速度は、ジェット発生速度が先に述べた速度範囲の上端にあるときは精密な印刷を可能にするには不十分である。
【0005】
一部のエレクトロスピニング装置は、高スループットで整列ファイバを収集するためにパッシブ静電制御に基づく。しかしながら、そのような手法は、それらが基板上方のジェット位置決めの計画的な制御を欠くので基板上に既定の複雑な物品を作成できない。
【0006】
他方では、ドロップオンデマンド(DoD)EHD印刷技術は、液滴を1つずつ印刷することに基づいており、これらは、EHDインクジェットを分裂させることによってまたは滴下領域下でシステムを動作させることによって生成される。この技術が基板上に直ちに収集される帯電マイクロ液滴またはナノ液滴さえ再現的に作成できるのに対して、液滴の生成を安定化できるインク流量は非常に低く、かつそれは、液滴サイズが減少される(したがって印刷解像度を増加させる)につれて減少する。それ故、DoD技術が顕著な印刷解像度および位置決め制御を実証したとはいえ、その固有の遅い印刷速度により、それは産業応用には実際的でなくなる。
【0007】
連続ジェットが連続的に発生されなければならないのに対して、多数の液滴を、放出機構に応じて連続的にまたは間欠的に(「オンデマンドで」)発生させることができる。
【0008】
液体中間相にエネルギーのバーストを印加し、表面張力を克服し、したがって液体インクの一部分を放出して、それを液体中間相から離れて推進させることによって、間欠液滴発生(「ドロップオンデマンド」)を始動させることができる。
【0009】
そのような間欠または「オンデマンド」液滴形成は、表面張力を克服するおよび液体中間相からインクの一部分を分離するのに十分に強い圧力波を作成することに基づく。そのような圧力波をトリガするために、圧電、熱的、音響等などの多現象を使用でき、そしてそれらが広範囲に研究されてインクジェット印刷に応用された。
【0010】
ジェットベースの液滴発生は、最初にインクの連続ジェットを形成することによって達成され、これが後にプラトー-レイリー不安定性を受けて、表面張力によりやがて成長するジェット上の膨張を発達させ、最終的に別々のインク部分または液滴へ分裂する。そのようなジェット分裂は自発的であるが、ジェットに音波を送ることによって制御/トリガすることもできる。
【0011】
液体分裂は表面張力(表面積を最小化することに向けて働く)の作用によって起こり、かつ粘弾性力の作用によって抵抗および遅延される。これらの力の相対的重要度、したがってジェット分裂挙動は、インク組成に強く依存する。高分子融液などの一部のインクに関しては、高分子の融液の高粘性によりジェット分裂は生じない。
【0012】
更には、印刷ラインの等解像度または幅では、インク部分を放出する間にジェットを効果的に中断させる(オンオフされて、パルシング期間の大部分の間材料が放出されない)、液滴の間欠噴射と比較してより多くのインク量を運ぶことができるので、連続噴射が有利である。
【0013】
追加的に、連続液滴発生は、液滴径がジェット径より常に大きいという不利点を有しており、これは印刷解像度に不利益である、または同じ印刷解像度のためには連続ファイバ堆積に基づく印刷より小さなジェットを必要とする。この状況は、液滴が印刷基板上に衝突して跳ねるときに一層悪くなり、接触面積を増加させて印刷解像度を更に低下させる。他方では、十分に硬いファイバは、典型的に、堆積されるとその形状を保ち、結果として、微視的3D印刷にとって不可欠である、より小さなボクセルサイズにも非常に高いアスペクト比にもなる。
【0014】
連続ファイバ堆積は、多重ファイバ層の積重ねによって得られる線および壁などの、連続フィーチャの3D印刷のための更に別の利点を有する。そのような連続フィーチャは、例えば、伝導経路/電極、および組織工学のための足場を作成するために、エレクトロニクスなどの応用に有用である。
【0015】
他方では、液滴の印刷によってそのようなフィーチャを得るために、多重液滴が互いの隣に慎重に位置決めされなければならず、これは、印刷パターンが複雑になるにつれて(例えば、壁が高くなるにつれて)より持続的になるだけである不利点である。これは、2つの壁の交差部などの場所に帯電液滴を引き寄せ、結果としてそれらの交差部上に位置する柱などの印刷欠陥になる「自己集束効果」による。そのような印刷構造の忠実度の課題は、連続ファイバで印刷することによって克服できる。
【0016】
ファイバ対液滴印刷の追加的な利益は、ファイバ長に沿ってファイバ組成を変更する(印刷材料を切り替える)ことによってか、ノズルを通して多材料を同時に送って複合ジェットを形成することによって多材料ファイバ(コアシェルまたは空のチューブなど)を作成することによって、多材料からファイバを製作する可能性である。
【0017】
ファイバ印刷の更に別の利益は、十分に硬いファイバを3次元に2つの接触点間に張架できるということであり、これは液滴ベースの印刷によってはほとんど達成できない。
【0018】
液滴を使用する印刷に勝る連続ファイバでの印刷の多利益は、特に連続フィーチャを3D印刷するときの高印字速度、高解像度、インク配合の高自由度、および良好な3D印刷忠実度である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
それ故、本発明は、連続EHDジェットのアクティブ静電制御を用いて、それが基板に達する前に、これらの手法の制限を回避することを目指す。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明に係る装置および方法により、前記制限を解決して、下記される他の利点を提供することが可能である。
【0021】
本発明に係る印刷装置は請求項1に定められており、装置は、ノズルにインクを供給するリザーバを備え、前記ノズルがインクジェットを発生させるインク滴を形成し、前記インクジェットが物品を印刷するために基板上に堆積され、ここで印刷装置は、1つまたは複数の、ジェット偏向電極と呼ばれる電極であり、前記インクジェットをそのデフォルト軌道(すなわち、ジェット偏向電極が存在しなければジェットがたどるであろう軌道)から偏向させ、したがって基板とのジェットの接触点を制御する、電極も備える。ジェットは、ジェット偏向電極に周期的繰返し信号を印加することによって周期的に偏向される。結果的に、並進ステージが移動していないときには、繰返しモチーフが、印刷3D物品を生成するファイバの層の積重ねを生成することになり、一方、並進ステージが印刷の間、連続的に移動するときには、印刷物品はバンド内に含まれる繰返しモチーフである。
【0022】
インクジェットの偏向は、電圧が同期されるジェット偏向電極によって発生されるジェット周辺の静電場を連続的に変更することによって制御される。
【0023】
EHDジェットを偏向させるために単一のジェット偏向電極を使用できる。しかしながら、1つのジェット偏向電極ではデフォルトジェット軌道に垂直な1つの方向にだけジェットを偏向させることができる一方、我々の発明は、デフォルトジェット軌道に垂直な任意の方向にジェットの制御された偏向を可能にする。
【0024】
有利には、印刷装置は、EHDジェットを発生させるための静電場を作り出す電源も備える。
【0025】
第1の実施形態によれば、2つのジェット偏向電極が前記インクジェットをデフォルトジェット軌道から2つの異なる方向に偏向させる。2つのジェット偏向電極によって引き起こされる偏向を組み合わせることによって、デフォルトジェット軌道に垂直な平面内の任意の方向に向けてジェットを偏向させることが可能である。第2の実施形態によれば、4つのジェット偏向電極が、2つの電極で1つの方向におよび2つの電極で別の方向に、前記インクジェットをデフォルトジェット軌道から偏向させ、2つの方向は、典型的にであり必ずしもそうではないが、互いに直交しておりかつ共にデフォルトジェット軌道に直交している。1つ、3つまたは5つ以上のジェット偏向電極ならびに各種のジェット偏向電極形状および局在化が可能である他の実施形態が使用される。
【0026】
更には、本発明に係る印刷装置において、基板およびノズルは、任意の方向に独立して移動可能であることができる。並進ステージとノズルとの間の相対運動は、基板かノズルかを並進させることによって印刷装置において達成できる。
【0027】
事実上、十分な電気伝導率を有するいずれの固体も基板として使用できる。基板は、幾つかの材料を組み込んでよく、任意の寸法を有してよく、平坦/平面表面など以外の幾何形状でよく、かつ可撓性、変形可能、多孔質等でさえあってよい。印刷装置は、印刷プロセスを監視するためのカメラも備えることができる。
【0028】
印刷装置は、有利には、ジェット偏向電極に提供される信号を発生させる発生器も備え、ここでジェット偏向電極は、好ましくは、発生器から発生される信号を増幅するための増幅器に接続される。
【0029】
更には、本発明に係る印刷装置は、ジェットの偏向および基板またはノズルの移動を制御するための手段、典型的にソフトウェアを伴うコンピュータまたは等価な制御手段も備える。ジェット偏向の制御はアクティブ静電制御であり、ソフトウェアがそのパラメータ(例えばモチーフ形状、モチーフサイズ、層単位の重ね刷り回数、印刷3D物品を作成するために堆積される層数等)を通じて印刷プロセスを制御することを意味する。
【0030】
第2の態様によれば、本発明に係る印刷方法が請求項8に定められており、方法は、
- リザーバからノズルにインクを供給するステップと、
- 前記ノズルの出口にインク滴を形成するステップと、
- インクジェットを発生させるステップと、
- 基板上に既定のデザインを印刷して印刷物品を生成するステップとを含み、
ここで印刷方法は、1つまたは複数のジェット偏向電極によって発生される静電場によって前記インクジェットを偏向させる一方、印刷の間または印刷の前後に基板またはノズルを移動させることができるステップも含む。
【0031】
好ましくは、ジェット偏向電極の電圧は、前記静電場を発生させるために同期される。
【0032】
有利には、インクジェットは、そのデフォルト軌道から任意の方向に偏向させることができる。
【0033】
更には、ジェットは、好ましくはインク滴に対する静電場の作用によって発生され、かつインクは、好ましくは実質的に連続的にリザーバからノズルに供給される。
【0034】
本発明によれば、ジェット偏向のために使用される静電場をソフトウェアによって連続的にかつ計画的に変化させ、結果として帯電EHDジェットの静電偏向になり、したがって3D空間におけるその軌道を制御し、かつしたがって基板上に既定のモチーフを連続的に描画する。その本質により、静電位置制御は、現在の最新技術の並進ステージによって典型的に達成可能なものを多桁凌ぐ動特性(すなわち速度および加速度)を直ちに提供する。これは、2Dおよび3D物品の高解像度印刷を可能にする。
【発明の効果】
【0035】
本発明に係る装置および方法は少なくとも以下の利点を提供する。
【0036】
EHDジェット軌道の静電制御は、それが非常に高い加速度(例えば一部の機械的並進ステージによって達成可能な確実な20m/s2に比べて、静電制御によって500,000m/s2まで達する)および変位速度(例えば機械的並進による0.2m/sに比べて、静電制御によって6m/sを超える)を提供するので、基板またはノズルの機械的並進に比べて有利である。
【0037】
EHDジェットによって高解像度および印刷速度で複雑な物品を印刷するのに優れた加速が必要である。優れた加速は、それが(a)印刷の間ジェット発生速度に厳密に合わせ、したがってほぼ一定の印字速度を可能にすること、および(b)印刷物品上の鋭い角(典型的に、1ミクロンまで)を作成するために必要とされるジェット軌道の高速変化を可能にするので、有利である。
【0038】
本発明において、連続印刷イベント間か連続印刷イベント中に基板またはノズルを変位させるために基板またはノズルの機械的並進を使用できる。しばしば、この動きは、典型的に厳しい動特性および精度を必要としない。したがって、この手法の追加的な利点は、並進ステージ(例えばロールツーロール基板並進)の不使用にまたは低解像度および動特性の並進ステージの使用に伴うコスト削減である。
【0039】
更には、本発明は、要求に応じて複雑な物品を発生させるために高精度および時間分解能で印刷ゾーン内でEHDジェットを誘導するアクティブ静電制御を使用する。アクティブ静電制御は、EHDジェッティングの先行技術におけるいずれのアクティブ静電制御手法にも勝る実質的な改善である。そのような手法は、それがジェット偏向電極に印加される電圧の手動切替え、および、正弦または鋸歯状周期波動関数など、発電機に利用可能な単純な波動関数に制限されたときには、既定のデザインの印刷が可能ではなかった。
【0040】
その上、追加的な利点は、ソフトウェアを、印刷プロセス中に印刷モチーフ形状およびサイズを迅速に変化させるようにプログラムできるということである。これは、同じまたは異なるモチーフ形状を有する印刷層の組立てによって3D物品を作成することを可能にする。したがって、2.5D物品(印刷モチーフ形状が各層に対して一定であるとき)に比べて形状の制御が3つの方向の3D物品を作成できる。
【0041】
本発明は、デフォルトジェット軌道に垂直な2つの異なる方向にジェットを偏向させる2つのジェット偏向電極だけを使用することによって基板の印刷ゾーン内のEHDジェット位置決めのアクティブ静電制御も可能である。2つのジェット偏向電極だけを有することは(より多くに比べて)、2つの制御信号だけが計算、発生および増幅されればよいので、有利である。制御信号発生および増幅のための独立チャネルが少ないことが、電力消費を削減し、印刷装置を単純化し、かつそれをより安価にする。
【0042】
追加的な利点は、ノズル周辺に2つのジェット偏向電極を有することが、必要なときに材料堆積を中断するためのガター電極などの追加要素を設けるための、ノズル周辺の自由空間を多く残すということである。したがって、2ジェット偏向電極構成は拡張機能性を可能にし、かつ印刷装置の実用のためにより便利である。
【0043】
要約すれば、本発明に係る印刷方法および装置は、マテリアルジェッティングに基づく市場の他の現在の付加製造技術に比べて非常に高い印刷速度および位置決め精度を提供して、その産業可能性を現す。更には、本発明の材料汎用性は、エネルギー貯蔵、マイクロエレクトロニクス、センサ、生体組織工学のための足場等などの応用範囲のための微視的物品および微視的デバイスを製造することを可能にする。
【0044】
本発明において、連続ジェット/ファイバは3D構造の印刷のために使用され、ここで解像度および印刷の速度は既知の方法に勝る本質的な利点である。印刷基板上に堆積される固体材料のスループットを増加させるために、固体成分の含有量が高いインクが好まれる。
【0045】
有利には、そのようなインクは非常に粘性である傾向にあり(ジェット分裂から形成される液滴を使用する印刷のために使用されるインクに比べて桁違いに多い)、したがってプラトー-レイリー不安定性によるジェット分裂を効果的に妨げる。
【0046】
更には、高分子量または分岐分子鎖を有するポリマーなど、或るインク成分は、インク粘度を著しく増加させ(低濃度で添加されても)、したがって液滴形成を妨げるか、最小濃度で存在しなければならず、これは印刷速度を大幅に減少させる不利点を有する。
【0047】
上記説明のより良好な理解のためにかつ例を提供する唯一の目的のために、実際的な実施形態を概略的に描く一部の非限定的な図面が含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
図1】2つのジェット偏向電極を含む第1の実施形態に係る、本発明の印刷装置の図解式斜視図である。
図2】4つのジェット偏向電極を含む第2の実施形態に係る、本発明の印刷装置の図解式斜視図である。
図3】静止基板により印刷物品(5)として円筒を印刷する間に使用される2ジェット偏向電極実施形態を表す概略図(a)、ならびに印刷物品(5)および到達ジェット(4)を示す拡大図(b)である。
図4】従来の様態に係るおよび本発明に係る、考え得る印刷様態およびそれらの結果的な印刷物品への影響を示す図である。
図5】同じ長さのファイバおよび同じ基板並進速度に対して、基板並進の方向に対するジェット偏向角を変化させることによるファイバ整列およびファイババンド幅の制御の概略平面図である。
図6】同じ長さのファイバおよび同じ基板並進速度に対して、ジェット偏向周波数を変化させることによるファイバ整列およびファイババンド幅の制御の概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
図1は、本発明に係る印刷装置の第1の実施形態を図示しており、以下の要素を備え、その動作は以下に記載されることになる。
1:インクリザーバ
2:リザーバからインクを受けるノズル
3:ノズルの出口におけるインク滴
4:インク滴から発生されるインクジェット
5:印刷物品
6:印刷ゾーン
7:基板
8:コンピュータおよびソフトウェアによって制御される並進ステージ
9:ノズルと電気接続される電源
10:印刷プロセスを監視するためのカメラ
11:印刷プロセスを制御するためのソフトウェアを含むコンピュータ
12:ジェット偏向信号の発生器
13、14:発生器からの信号の増幅器
15、16:それぞれYおよびX方向にジェットを偏向させるための電極
【0050】
図2に第2の実施形態が図示される。簡略化のため、同じ要素を示すために同じ参照数字が使用される。
【0051】
両実施形態間の唯一の違いは、第2の実施形態が4つのジェット偏向電極15、16、17、18および4つの対応する増幅器13、14、19、20を含むということである。
【0052】
本説明において、我々はジェット4に言及し、そして前記ジェット4が基板上に収集されると、それはファイバと呼ばれる。
【0053】
印刷パラメータは2つの群、すなわち1)ジェット発生パラメータ、すなわち、帯電インクジェットの発生と関連したパラメータ、および2)ジェット偏向パラメータであり、ジェットを囲む静電場を変更することによってジェット飛翔軌道を制御するためのパラメータを含む、パラメータに分割される。ジェット発生と独立して静電場を変更するために一組のジェット偏向電極が使用される。図1および図2に図示されるXYZ座標系によれば、ジェットのデフォルト軌道(ジェット偏向電極による偏向なし)はZ軸と平行である。ジェット偏向は、任意の所与の瞬間でのXY平面におけるジェット位置のアクティブ制御の他に、基板上のジェット収集の速度(ファイバ収集速度とも称される)を制御することを可能にする。以下、印刷プロセスを制御するために使用されるまたは印刷結果に影響し得る関連パラメータについて述べる。
【0054】
1)ジェット発生パラメータ
インク流量は、リザーバ1からノズルの出口に液体インクが供給される体積量である。インクが融液(室温固体から、例えば融解高分子)である場合には、インクを融液状態に維持するためにリザーバ1およびノズル2に加熱システムが組み込まれてよい。ノズル2は、導電または絶縁材料から作ることができる細いチューブであり、典型的に滴3の端で四角く切断される(鈍端)。垂滴3は、ノズル2の出口に蓄積されるインクによって形成される。電源9と液体インクの垂滴3との間の電気接触が必要である。これは、典型的に、一端が前記電源にかつ他端がインクに接続されるワイヤによってか、ノズル2が、金属、典型的にステンレス鋼またはプラチナなどの導電性材料により作られるまたは覆われるときには、一端が前記電源に、かつノズル2に接続されるワイヤによってなされる。図1および図2はこの第2の電気接触手段を図示する。
【0055】
ノズル2の出口端の開口の直径は、垂滴3の周辺の静電場に影響する別のパラメータである。
【0056】
垂滴3のサイズはインク/気体界面の表面積に影響し、したがって垂滴3からのインクに存在するいずれの揮発性溶媒の蒸発速度も定める。液滴を囲む空間は真空にあるまたは気体で満たすことができ、これは典型的に空気であるが、垂滴からの溶媒蒸発の速度を制限するために、合成空気、窒素、二酸化炭素、または一部が低濃度の溶媒蒸気のこれらのいずれかなど、別の気体であることができる。
【0057】
蒸発速度は、垂滴の温度、周囲気体温度、気相の溶媒蒸気濃度(相対湿度、溶媒が水であるとき)によって、およびインク組成によって影響される。
【0058】
溶媒蒸発の速度を制御する(増加させるまたは低下させるまたは抑制する)ために、制御された量の溶媒蒸気を含有する気流をジェットの周辺に(同軸上に)または付近に導くことができる。加えて、環境水分からインクを保護するために、ノズルの出口に垂滴に同軸上に気流を導くことができる。これは、環境水分が、その溶質の1つの析出または異なる相への分離などの不要な反応を引き起こす場合に、それがインクによって吸収されることを防止するのに有用である。他方では、そのような析出または分離が所望の効果であり得る。
【0059】
気体組成も、放電を防止するのに重要であり得る。高表面張力インク(例えば、水性懸濁液など)を使用する場合、ノズルと基板との間のインクの付近に強い十分な静電場を作り出すときに気体放電が時に起こり得る。そのような放電は、二酸化炭素(CO2)または六フッ化硫黄(SF6)などの高破壊電圧ガスを使用することによって阻止(防止)できる。
【0060】
連続ジェット発生のために、インク組成がレオロジー要件、すなわち、インクは、片または液滴へのジェットの分裂を防止するのに十分に粘弾性であるべきであること、およびインクは、我々がファイバと称する、実質的に固体(十分な堅固さおよび安定性のガラス状のジェットまたはゴム状のジェット)として堆積されるために、その飛翔の間に十分に速く乾燥するべきであるということを充足する必要がある。堆積されたジェットが実質的に液体である(粘弾性的性質を欠きかつ堆積後にまだ流れることができる)とき、ジェットは典型的に蓄積して、基板7上に大液滴などの望ましくない堆積物を形成することになる。
【0061】
垂滴3からジェットを発生させるために、帯電ノズル2と電気接地基板7との間に静電場が確立される。ジェットは、ノズル2と基板7との間に設定される静電場によって基板7に向けてZ方向に発生および加速される。代替的に、ノズル2を電気接地しかつ基板7に電圧を印加することによって同じ効果に達することができる。別の可能性は、ノズル2と、垂滴3の近くに配置され得る環状引出し電極との間に電圧を印加することである。
【0062】
ノズル対基板間隔(Z方向)は、ジェットが基板7上に堆積される前にその十分な凝固を可能にするのに十分に大きくあるべきであるが、それはジェットホイッピング(いわゆるキンク不安定性、曲げ不安定性としても知られている、により空中で動揺すること)を防止するのに十分に小さくあるべきである。典型的に、ノズル対基板間隔はEHDジェット印刷において10mm未満である。
【0063】
電源9がノズル/垂滴2、3に電圧を印加する。電圧が十分に高ければ、垂滴3は尖端(例えば円錐であるが、必ずしも円錐ではない)に変形され、そこから単一のジェット4が基板7に向けて放出される。ジェットは垂滴3上のジェット放出点から基板7に飛翔する。ジェットが電気的応力による引張りにより加速されるにつれて、その横断面積は典型的に減少する。インクが揮発性成分を含有する液体溶液であるとき、ジェット4が基板7に向けて移動するにつれて、揮発性成分(例えば溶媒)はそれから蒸発し得る。
【0064】
ジェット4の特性パラメータはその直径であり、これは一定であることができるが、より典型的にジェット長に沿って変動する。収集されたジェットの直径(すなわちファイバ径)は様々な要因によって、最も重要なのはインク組成、その揮発性成分の蒸発速度、および電気的応力によって引き起こされる伸び率によって影響される。溶液ベースおよび融液ベースのEHDジェット印刷は異なる範囲のファイバ径を有する。高分子融液から形成されるファイバ径は0.5μmと200μmとの間の範囲に及び、より典型的に1μmと30μmとの間の範囲にある。溶媒ベースのインクから形成されるファイバ径は0.010μmと10μmとの間の範囲に及び、より典型的に0.05μmと2μmとの間の範囲にある。
【0065】
基板7に達する際のジェット4の速度はファイバ収集速度またはファイバの収集速度と称されることになる。ファイバ収集速度は、毎秒基板7に達するジェットの長さとして計算される。ファイバ収集速度は幾つかのパラメータ、すなわちインク組成およびレオロジー的性質、インク流量、蒸発速度(または融液の場合には凝固速度)、静電場の強さならびにノズル対基板間隔に依存する。
【0066】
所期印刷速度は、既定のデザイン(例えばモチーフ)が生成されて印刷物品を形成すると意図される予め設定された速度である。
【0067】
先行技術において、既定のデザインを印刷するために、ノズルが固定されている間に典型的に基板が機械的並進ステージを使用してXY平面において並進され、そしてインク滴3と基板7との間に設定される静電力によってジェットがZ方向に加速される。この場合、最大許容印刷速度(したがって最大許容所期速度)は、並進ステージによってもたらされる、XY平面における基板並進の実速度に等しい。
【0068】
本発明において、基板またはノズルの並進はジェット偏向と組み合わせることができる。ジェット偏向は、高時間分解能でジェットの位置を制御することによって物品を印刷するために使用され、一方、ステージは、連続印刷間に基板7もしくはノズル2を並進させるために並進させることができ、またはそれは印刷イベント中に並進させることができる。
【0069】
本発明による高品質印刷を保証するために、所期印刷速度は、ファイバ収集速度に十分に一致する必要がある。所期印刷速度がファイバ収集速度より大きければ、ファイバの伸びおよび分裂さえ起こり得る。所期印刷速度がファイバ収集速度より低ければ、望ましくないファイバ蓄積または座屈が起こり得る。所期印刷速度およびファイバ収集速度を一致させる要件は、機械的並進ステージを使用する従来のEHDジェット印刷によっては、それらの不十分な加速のため充足できない。
【0070】
2)ジェット偏向パラメータ。
「ジェット偏向」は、ここでジェットを囲む静電場を変更することによってそれの軌道を制御する方法を指す。ジェット偏向は、XY平面におけるジェット4の位置のアクティブ制御を可能にする。それは、本発明において基板上にファイバで繰返しモチーフを作成するために使用できる。本発明は、ジェット偏向および、任意選択で、基板またはノズルの並進を使用する。ジェット偏向は、高時間分解能でジェットの位置を制御することによって既定のモチーフを反復して印刷するために使用できる。基板7かノズル2が並進されると、モチーフの繰返しシーケンスが印刷されてバンド(図5および図6に図示されるようなファイババンド)を形成する。
【0071】
基板7に向かうジェットの加速および基板7に向かうその飛翔におけるその偏向は静電力または応力によって駆動される。そのような力はジェット上への静電場の作用によって引き起こされる。そのような静電場は、幾つかのジェット偏向電極15、16およびノズル2または垂滴3に印加される電位を通じて作り出されおよび制御される。そのような静電場は2つの静電場の重ね合わせとして見ることができ、1つが基板に向かうEHDジェットの発生および輸送を担い(ジェット発生場)、ならびに別の1つ(ジェット偏向場)がジェットをそのデフォルト軌道からそのような軌道に垂直の方向に変位させることを担う。ジェット偏向場はジェット偏向電極15および16(または15、16、17および18)によって作り出され、これらは、対応してYおよびX方向に沿ってジェット4を引きつけるまたは反発させる。
【0072】
簡略化のため、以下の説明は、基板が電気接地されていると仮定する。しかしながら、これは本発明の1つの実施形態であり、一方、電極間の電位の同じまたは同様の差が維持され、そして別の電極、例えばノズル2が電気接地される、他の実施形態が可能である。
【0073】
装置の周囲も印刷領域における静電場に、典型的に小さいが、ゼロでない電気的影響を及ぼすので、様々な状況は厳密には等価でない。それらの周囲は典型的にアースグランドと同じ電位であり、しかしながら、近くの物体が静電場を変化させて、ジェットの軌道を歪め得る。加えて、本明細書に記載される最も単純な実施形態が記載される電極だけを前提とするが、追加電極が使用されてよい。例えば、エレクトロスピニングおよびエレクトロスプレイ実施において、ノズルの背後に時に「背面電極」が配置され、そしてノズルのすぐ前方に時に「引出し電極」が配置されて、ノズルの外側に形成される滴周辺の静電場をより良好に制御する。
【0074】
静電ジェット偏向パラメータの値は、典型的にコンピュータ11において実行されるソフトウェアに予め設定され、そしてこれらは、電圧発生器12および増幅器13、14によって発生および増幅され、そしてジェット偏向電極15、16に印加されるXおよびY偏向電位を計算するために使用される。信号は、関数発生器またはAC電源によって印加することもできる。
【0075】
ジェット偏向電極形状および位置(垂滴3に対する高さ(Z軸と平行)およびデフォルトジェット軌道からの距離(XおよびY軸に沿った))は全て重要なパラメータである。
【0076】
基板7からのジェット偏向電極15、16の高さ(Z方向に沿った)は0mmと10mmとの間の範囲に、より典型的に1mmと4mmとの間の範囲にある。デフォルトジェット軌道からのジェット偏向電極距離(XおよびY方向に沿って)は0.1mmと2cmとの間の範囲に、より典型的に2mmと10mmとの間の範囲にある。
【0077】
EHDジェットの近くに位置決めされるジェット偏向電極はジェット周辺の静電場に影響を及ぼして、その軌道または速度を乱す。ジェットを乱さないために、ジェット偏向電極が存在しなければそれらの場所に存在するであろう電圧に等しいまたは近い電圧バイアスをジェット偏向電極に印加できる。言い換えれば、電圧バイアスは、ジェット偏向電極をEHDジェット4に静電的に見えなくする。
【0078】
本発明において、ファイバの第1の層を印刷し、次いでファイバの追加の層を、前に堆積された層の上部に1つずつ置くことによって、3D物品を印刷できる。それ故、この印刷方法は、ファイバの層を重畳することによって物品を順次印刷することを伴う。
【0079】
この方法では、主な印刷パラメータは、ジェット偏向電極に印加される信号の振幅および周波数である。振幅はXおよびY次元で印刷物品5の幅を定め、そして周波数はモチーフが毎秒何回印刷されるかを予め設定する。モチーフを繰り返し印刷する間に基板が並進されないとき、層の蓄積によって3D物品が印刷される。そのような印刷物品の層数は印刷周波数および時間の積である。
【0080】
既定のモチーフ形状、モチーフサイズおよび印刷周波数の任意の一組の印刷パラメータは、結果として対応する所期印刷速度(印刷モチーフの長さ*周波数=所期印刷速度)になる。
【0081】
以下の提案された戦略は、座標とジェット偏向信号の電圧との間の単純変換を可能にする1つの例として使用され、しかしながら等価な機能性を提供する他の戦略を使用できる。
【0082】
ジェット偏向電極に印加される信号は、典型的にコンピュータ11におけるソフトウェアによって計算される。モチーフ形状は、XY平面における座標の多数の点として描かれることができ、最初および最後の点が同じ座標を有している。ジェット偏向信号に関して、1つのモチーフは、X方向にもY方向にもジェット偏向信号の1周期を描く。周期長さは信号の周波数の逆数(モチーフ形状と独立して制御される)、すなわちモチーフ繰返し率である。
【0083】
独立デジタル信号は、コンピュータ11におけるソフトウェアによって計算され、そして信号発生器12への入力として印加される。デジタル信号はXおよびY波形を表現しており、それらは好ましくは同期される。波形は典型的に一連の「中間点」として定義され、これは波形に沿って特定の時間に出現する特定の電圧目標である。
【0084】
信号発生器12はデジタル信号をアナログ信号へ変換する。所望のモチーフに沿ってジェット偏向のために必要とされる連続アナログ信号を発生させるために、デジタル入力信号は高時間分解能を有しなければならない。例えば、1000Hzの印刷周波数に関しては、波形は、0.001秒の単一周期内で所望の印刷モチーフを表現するために、高い十分なサンプリングレート(1周期あたり100~1000サンプル)を有するべきである。
【0085】
ジェット偏向信号のそのような時間分解能は、サンプルレート(サンプル毎秒)および、増幅器が入力電圧の急激変化に反応できる最大比率であるスルーレート(ボルト毎秒)に関して、信号発生器12および増幅器13、14に要件を設定する。
【0086】
堆積ジェットによって各層に運ばれる電荷は、その上部に次の層が集まるのを可能にするために基板上への堆積時に十分に放電しなければならない。さもなければ、本発明による高解像度3D物品の印刷は、ジェットと運ばれた電荷を保持している印刷層との間の電荷反発により見込みがなくなるであろう、そしてランダムまたは不正確に位置決めされたファイバが収集されることになる。
【0087】
電荷は、典型的に、電気接続される基板を通じてかつ典型的にアースに消失される。堆積されたファイバによって保持される電荷は、基板と逆符号の電荷を運ぶ到達画像電荷によって徐々に消失される。更には、堆積されたファイバが完全に放電された後に、より多くの画像電荷が帯電ノズルに向けて引き寄せられる。それらの画像電荷は最も高いファイバ層(ノズルに最も近い)に蓄積して、基板周辺の静電場を乱す。最上層のそのような逆帯電のため、到来ジェットは、逆帯電されていれば、前に堆積されたファイバに静電的に引き寄せられることになる。この引力は、層へのファイバの正確な堆積を促進して3D物品を形成できる。
【0088】
ファイバ放電の要件は最大印刷周波数(1秒あたりの層数)におよび1つの3D物品あたりの総層数に制限を課すが、これらの制限は、高電気伝導率のインクを使用することによって、または電荷消失率を増加させることができる任意の方法によって拡張できる。
【0089】
本発明は、使用されるジェット偏向電極の数に応じて異なる実施形態で使用できる。第1の実施形態において、1軸あたり1電極構成で、2つの独立してアドレス指定可能なジェット偏向電極15、16が使用される。第2の実施形態においては、4つの独立してアドレス指定可能なジェット偏向電極15、16、17、18が1軸あたり2電極構成で使用され、本明細書においてデフォルトジェット軌道(Z軸と平行)に関して対称(形状も位置も)であると仮定される。
【0090】
1つ、3つまたは5つ以上のジェット偏向電極が使用される他の実施形態を使用できる。全てのそのような実施形態は、印刷の間ジェット位置決めを制御することが可能である同じ機能性を有する。
【0091】
予め設定された波形と共に使用される2電極構成は、結果として既定のデザインに比べて変形された印刷モチーフになり得る。これは、XY平面に非対称静電場を発生させる、ジェット偏向電極配置の非対称のために起こる。
【0092】
4電極構成は、2電極構成に関してより対称的な静電場を提供できるが、XY平面においてまだ径方向に均一でないものである。
【0093】
モチーフ変形を修正するために、コンピュータ11におけるソフトウェアへ組み込まれる数学的アルゴリズムを使用できる。このアルゴリズムは、信号発生器12に変更された信号を印加し、これらは次いで増幅器13、14において増幅されてジェット偏向電極15、16に印加される。この方法は、変形を予防的に除去することを可能にして、変形のない既定のデザインを印刷することを可能にする。
【0094】
前記数学的アルゴリズムを展開するために、非対称静電場のために生じる変形を理論的にモデル化できる。より実用的な手法は、しかしながら、最初にテストモチーフを印刷し、そして予め設定されたデザインに対して結果として生じた変形を観察することによって変形を経験的に修正することである。次いで、予め設定されたデザインの座標の関数として、結果として生じたモチーフの座標を表す数学関数が決定される。変形を予防的に修正するために、この数学関数の逆関数がソフトウェア11において使用される。この戦略は、ソフトウェアによる変形修正の1つの例を提供する一方、同様の機能性を提供する他の戦略が可能である。
【0095】
以下の表は、本発明に係る装置および方法に使用されるパラメータの値を示す。
【0096】
「優良値」は、現在最も有用と思われるパラメータ値の範囲を表す。「発明値」は、ジェット偏向印刷のために理論的に使用され得るパラメータ値の範囲を想定する。
【0097】
【表1】
【0098】
[実施例1]
EHDジェット偏向印刷によって製造された3D微視的物品。円筒状3D物品(図3に概略的に表される)が毎秒100層(100Hz)の周波数で印刷されたが、並進ステージは0.5秒間静止したままであり、結果として50層物品になった。ステージは、次いで新たな同一の印刷イベントのための新たな位置に移動した。この実施例では、インクは、脱イオン水に10重量%のPEO(ポリエチレンオキシド、300,000ダルトンの平均分子量)から構成された。
【0099】
[実施例2]
互いの上部にファイバを組み立てることによって構築された直線の自立ナノウォール。ジェットを周波数50Hzで1D(縦方向)に振動させ、1振動周期あたり2層を堆積させた。XY並進ステージは横方向に移動され、印刷のために停止して、その結果100μm毎にウォールが印刷された。1.5s、1sおよび0.5sの停止が、結果として、それぞれ150層、100層および50層から構成される、可変高さのナノウォールになった。この実施例で使用されたインクは、脱イオン水およびエチレングリコール(重量で4:1)の混合物に8重量%のPEO(ポリエチレンオキシド、300,000ダルトンの平均分子量)から構成された。
【0100】
【表2】
【0101】
図4は、様々な考え得る印刷様態およびそれらの結果的な印刷物品への影響を概略的に図示する。本発明のケース(ラベル1'、2'、3'の様態)に加えて、図には従来のEHDジェット印刷のケース(ラベル1、2、3の様態)も図示する。
【0102】
印刷様態1および1'は、ファイバ収集速度が所期印刷速度より高い状況に対応する。実質的に固体ジェット(液体のたまりへ収集することができない)の場合、ジェットと基板との間の機械的相互作用のためにジェット座屈(またはコイリング)が起こり得(図に図示される)、結果として不規則なファイバ堆積になる。実質的に液体ジェット(粘弾性を欠くので、堆積後にまだ流れることができる)の場合、ジェットは基板上に液体のたまりを形成し得る(図に図示せず)。様態1および1'は、ジェット座屈のために結果として低XY解像度の印刷物品になる。
【0103】
印刷様態2および2'は、ファイバ収集速度が所期印刷速度に等しい状況に対応する。予め設定された印刷デザインに従って直線が印刷され、高XY解像度の2D物品を印刷することを可能にする。従来のEHDジェット印刷と本発明の方法との間の差は、本発明によって非常に高い所期印刷速度および加速度が可能であるということである。
【0104】
印刷様態3および3'は、ファイバ収集速度が所期印刷速度より低い状況に対応する。これは、結果として所期デザインを印刷するのに利用可能なファイバ長の不足になる。様態3(従来のEHDジェット印刷)では、既に基板上に付着したファイバが、その基板との接点においてジェットに追加の伸張力を及ぼす。そのような伸張力はジェットを伸ばし(図4に図示される)、結果としてその分裂になり得る(図示せず)。たとえ伸びたジェットが基板並進からの機械的引張り下で分裂しないとしても、収集されたファイバの長さは所期長(並進ステージによって並進される)より常に小さいことになり、結果として予め設定されたデザインに比べて角を「切断」しかつ物品形状を劣化させることになる。
【0105】
ジェット偏向(様態3')の場合、ジェット伸びおよび分裂もあり得る。ジェットが基板上へのその堆積時に実質的に流体であれば、インクは基板上に予測不可能に蓄積し得る。そのようなインクの蓄積はジェットと基板との間の接触点を堅固に固定し得る一方、ノズルと基板との間の空間におけるジェットは静電場の作用下で偏向し続けることになる。
【0106】
上記した印刷様態は、ファイバ収集速度Vfiber_collectionも所期印刷速度Vprint_intendedも一定である(時間から独立している)という仮定に基づく。しかしながら、本発明はこの状況に限定されない。
【0107】
図4に描かれる1D印刷からの概念は2Dおよび3D印刷に拡張できる。2D層が積み重ねられると3D印刷が可能になり、体積または3D物品に適合する(図3に図示される例にあるように)。
【0108】
並進ステージと組み合わせて、本発明は、印刷プロセスの間、基板7またはノズル2の並進を介して複数のジェット偏向電極15~16によって定められる印刷ゾーン6より大きな物品を印刷することを可能にする。基板またはノズルの並進をジェット偏向と組み合わせて、印刷ファイバの整列またはテクスチャが制御されたファイババンドを生成し、したがって潜在的に有利な異方特性を提供することが可能である。同時に、既定の幅のファイババンドを生成することが可能である。この例は、基板またはノズルの並進と独立して基板上のファイバ配向を制御する能力を実証する。この戦略は、設定された量のファイバを種々のフォームファクタ(すなわち既定の幅、モチーフ形状、ファイバ整列等の種々のファイババンド)へ入れることを可能にする。印刷ファイバの配向および収集されたファイババンドの幅を制御するそのような能力(図5および図6に図示される例にあるように)は、以下を含むがこれらに限定されない応用範囲に対して望ましい場合がある:
・エネルギー貯蔵応用のための微小電極を印刷する:デバイスの単位面積あたりのエネルギー貯蔵を増加させることになるより細いバンド(より小さなフットプリント)へファイバを収集することが可能になる。
・透明電極(アンテナ)を印刷する:印刷物品の透明度を最大化するために印刷材料を基板上に正確に分布させることができる(より広いファイババンド)。同様に、印刷物品の電気伝導率を増加させるために最大電気輸送の指示に沿って導電材料を配向できる。
・ファイバ整列が制御された生体足場を印刷することで、細胞成長を誘導して所望の性質を持つ機能的組織を形成することを可能にする。
【0109】
有利には、印刷装置は、印刷ファイババンドを監視する手段を組み込むことができ、そして取得した情報は、印刷パラメータを閉ループでオンライン制御するために使用できる。例えば、印刷ファイババンドの幅を検出するためにマシンビジョンカメラを使用でき、そしてこの情報は、印刷パラメータを調整するためのフィードバックとして使用できる。別の例として、印刷ファイババンドの構造を監視するためにラマン分光光度計を使用できる。
【0110】
本発明の具体的な実施形態が参照されたとしても、本明細書に記載される装置および方法が多数の変形および変更の余地があること、ならびに記載の詳細の全てを、添付の特許請求の範囲によって定められる保護の範囲から逸脱することなく他の技術的に等価なものと置換できることが当業者にとって明らかである。
【符号の説明】
【0111】
1 インクリザーバ
2 ノズル、帯電ノズル
3 インク滴、垂滴
4 インクジェット
5 印刷物品
6 印刷ゾーン
7 基板、電気接地基板
8 並進ステージ
9 電源
10 カメラ
11 コンピュータ、ソフトウェア
12 電圧発生器、信号発生器
13 増幅器
14 増幅器
15 電極、ジェット偏向電極
16 電極、ジェット偏向電極
17 ジェット偏向電極
18 ジェット偏向電極
19 増幅器
20 増幅器
図1
図2
図3(a)】
図3(b)】
図4
図5
図6
【国際調査報告】