IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ クオピオ・センター・フォー・ジーン・アンド・セル・セラピー・オイの特許一覧

特表2022-532138アデノウイルスポリペプチドIXはアデノウイルス遺伝子治療ベクターの生産力及び感染力を増加させる
<>
  • 特表-アデノウイルスポリペプチドIXはアデノウイルス遺伝子治療ベクターの生産力及び感染力を増加させる 図1
  • 特表-アデノウイルスポリペプチドIXはアデノウイルス遺伝子治療ベクターの生産力及び感染力を増加させる 図2
  • 特表-アデノウイルスポリペプチドIXはアデノウイルス遺伝子治療ベクターの生産力及び感染力を増加させる 図3
  • 特表-アデノウイルスポリペプチドIXはアデノウイルス遺伝子治療ベクターの生産力及び感染力を増加させる 図4
  • 特表-アデノウイルスポリペプチドIXはアデノウイルス遺伝子治療ベクターの生産力及び感染力を増加させる 図5
  • 特表-アデノウイルスポリペプチドIXはアデノウイルス遺伝子治療ベクターの生産力及び感染力を増加させる 図6
  • 特表-アデノウイルスポリペプチドIXはアデノウイルス遺伝子治療ベクターの生産力及び感染力を増加させる 図7
  • 特表-アデノウイルスポリペプチドIXはアデノウイルス遺伝子治療ベクターの生産力及び感染力を増加させる 図8
  • 特表-アデノウイルスポリペプチドIXはアデノウイルス遺伝子治療ベクターの生産力及び感染力を増加させる 図9
  • 特表-アデノウイルスポリペプチドIXはアデノウイルス遺伝子治療ベクターの生産力及び感染力を増加させる 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-13
(54)【発明の名称】アデノウイルスポリペプチドIXはアデノウイルス遺伝子治療ベクターの生産力及び感染力を増加させる
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/861 20060101AFI20220706BHJP
   C07K 14/01 20060101ALI20220706BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220706BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20220706BHJP
   A61K 35/761 20150101ALI20220706BHJP
   A61P 31/20 20060101ALI20220706BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20220706BHJP
【FI】
C12N15/861 Z ZNA
C07K14/01
C12N5/10
A61K48/00
A61K35/761
A61P31/20
A61P37/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021566275
(86)(22)【出願日】2020-05-01
(85)【翻訳文提出日】2021-12-21
(86)【国際出願番号】 US2020030924
(87)【国際公開番号】W WO2020227049
(87)【国際公開日】2020-11-12
(31)【優先権主張番号】62/844,175
(32)【優先日】2019-05-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】16/423,215
(32)【優先日】2019-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】16/569,742
(32)【優先日】2019-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521486572
【氏名又は名称】クオピオ・センター・フォー・ジーン・アンド・セル・セラピー・オイ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ヴェサ・トゥルッキ
(72)【発明者】
【氏名】サーナ・レポラ
(72)【発明者】
【氏名】ハンナ・レッシュ
(72)【発明者】
【氏名】セッポ・イラ-ヘルツアラ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AA95X
4B065AA95Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065AC20
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
4C084AA13
4C084NA14
4C084ZB091
4C084ZB092
4C084ZB331
4C084ZB332
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087NA14
4C087ZB09
4C087ZB33
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA01
4H045CA40
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
アデノウイルスポリペプチドIX又はそれの切り詰め型を発現又は過剰発現する産生細胞においてアデノウイルス遺伝子治療ベクターを産生することが、pIX欠失型アデノウイルスを浮遊細胞培養で産生することを可能にする。アデノウイルスポリペプチドIX又はそれの切り詰め型を発現又は過剰発現する産生細胞を用いることはまた、アデノウイルスベクターの収量を、そのアデノウイルスがpIX欠失しているかどうかに関わらず、増加させる。アデノウイルスポリペプチドIX又はそれの切り詰め型を発現又は過剰発現する産生細胞を用いることはまた、その結果生じたベクターの形質導入動態を向上させて、所定のレベルの形質導入/感染を達成するのに必要とされるpfu/標的細胞の数を低下させ、そのベクターが標的細胞に形質導入又は感染するのに必要とされる時間を短縮し、及び感染した標的細胞が子孫ウイルスを産生する時間を短縮する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アデノウイルスタンパク質IX及び発現可能な導入遺伝子を含むアデノウイルス遺伝子治療ベクターであって、アデノウイルスが感染していない又は形質導入されていない場合でさえもアデノウイルスタンパク質IXを発現するヒト細胞において産生される、アデノウイルス遺伝子治療ベクター。
【請求項2】
アデノウイルス遺伝子治療ベクター粒子あたり約12個のアデノウイルスタンパク質IX分子を含む、請求項1に記載のアデノウイルス遺伝子治療ベクター。
【請求項3】
ヒト細胞がアデノウイルスタンパク質IXを化学量論量より多い量で発現する、請求項1に記載のアデノウイルス遺伝子治療ベクター。
【請求項4】
ヒト細胞が、1の感染多重度で野生型アデノウイルスに感染している類似したヒト細胞が産生するより多い量のアデノウイルスタンパク質IXを産生する、請求項1に記載のアデノウイルス遺伝子治療ベクター。
【請求項5】
増殖制限型である、請求項1に記載のアデノウイルス遺伝子治療ベクター。
【請求項6】
発現可能な導入遺伝子がヒト患者において治療効果がある、請求項1に記載のアデノウイルス遺伝子治療ベクター。
【請求項7】
アデノウイルスに特有である核酸配列を含むゲノムを有する、請求項1に記載のアデノウイルス遺伝子治療ベクター。
【請求項8】
発現pix遺伝子を含有しないゲノムを有する、請求項1に記載のアデノウイルス遺伝子治療ベクター。
【請求項9】
cre/lox部位が隣接していないアデノウイルスパッケージングシグナルを含むゲノムを有する、請求項1に記載のアデノウイルス遺伝子治療ベクター。
【請求項10】
形質転換から48時間後に測定された場合、アデノウイルスタンパク質IXを発現しない類似した産生細胞において産生された同じベクターの少なくとも2倍の感染力である、請求項1に記載のアデノウイルス遺伝子治療ベクター。
【請求項11】
アデノウイルスタンパク質IXを発現しない類似した産生細胞において産生された同じアデノウイルス遺伝子治療ベクターが示すより少なくとも約25%速く、標的細胞への細胞変性効果を示す、請求項1に記載のアデノウイルス遺伝子治療ベクター。
【請求項12】
請求項1に記載のアデノウイルス遺伝子治療ベクターと非感染性アデノウイルスのウイルス様粒子(VLP)の混合物であって、感染力がプラーク形成アッセイによって測定される場合、遺伝子治療ベクターとVLPの比が1:100より大きい、混合物。
【請求項13】
35kbより大きいゲノムを有する、請求項1に記載のアデノウイルス遺伝子治療ベクター。
【請求項14】
ヒト細胞が、アデノウイルス遺伝子治療ベクターを産生する際、非接着性の浮遊培養で成長している、請求項1に記載のアデノウイルス遺伝子治療ベクター。
【請求項15】
産生細胞が、発現pix遺伝子を有するプラスミドを含む、請求項1に記載のアデノウイルス遺伝子治療ベクター。
【請求項16】
アデノウイルスによって感染していない又は形質導入されていない場合でさえもアデノウイルスタンパク質IXを発現する産生細胞において産生される、cre/lox部位が隣接していないアデノウイルスパッケージングシグナルを含むゲノムを有する、アデノウイルス遺伝子治療ベクター。
【請求項17】
アデノウイルス遺伝子治療ベクター粒子あたり約12個のアデノウイルスタンパク質IX分子を含む、請求項16に記載のアデノウイルス遺伝子治療ベクター。
【請求項18】
ヒト細胞がアデノウイルスタンパク質IXを化学量論量より多い量で発現する、請求項16に記載のアデノウイルス遺伝子治療ベクター。
【請求項19】
ヒト細胞が、1の感染多重度で野生型アデノウイルスに感染している類似したヒト細胞が産生するより多い量のアデノウイルスタンパク質IXを産生する、請求項16に記載のアデノウイルス遺伝子治療ベクター。
【請求項20】
増殖制限型である、請求項16に記載のアデノウイルス遺伝子治療ベクター。
【請求項21】
発現可能な導入遺伝子がヒト患者において治療効果がある、請求項16に記載のアデノウイルス遺伝子治療ベクター。
【請求項22】
アデノウイルスに特有である核酸配列を含むゲノムを有する、請求項16に記載のアデノウイルス遺伝子治療ベクター。
【請求項23】
発現pix遺伝子を含有しないゲノムを有する、請求項16に記載のアデノウイルス遺伝子治療ベクター。
【請求項24】
cre/lox部位が隣接していないアデノウイルスパッケージングシグナルを含むゲノムを有する、請求項16に記載のアデノウイルス遺伝子治療ベクター。
【請求項25】
形質転換から48時間後に測定された場合、アデノウイルスタンパク質IXを発現しない類似した産生細胞において産生された同じベクターの少なくとも2倍の感染力である、請求項16に記載のアデノウイルス遺伝子治療ベクター。
【請求項26】
アデノウイルスタンパク質IXを発現しない類似した産生細胞において産生された同じアデノウイルス遺伝子治療ベクターが示すより少なくとも約25%速く、標的細胞への細胞変性効果を示す、請求項16に記載のアデノウイルス遺伝子治療ベクター。
【請求項27】
請求項16に記載のアデノウイルス遺伝子治療ベクターと非感染性アデノウイルスのウイルス様粒子(VLP)の混合物であって、感染力がプラーク形成アッセイによって測定される場合、遺伝子治療ベクターとVLPの比が1:100より大きい、混合物。
【請求項28】
35kbより大きいゲノムを有する、請求項16に記載のアデノウイルス遺伝子治療ベクター。
【請求項29】
ヒト細胞が、アデノウイルス遺伝子治療ベクターを産生する際、非接着性の浮遊培養で成長している、請求項16に記載のアデノウイルス遺伝子治療ベクター。
【請求項30】
産生細胞が発現pix遺伝子を有するプラスミドを含む、請求項16に記載のアデノウイルス遺伝子治療ベクター。
【請求項31】
アデノウイルスタンパク質IX及び発現可能な導入遺伝子を含むアデノウイルス遺伝子治療ベクターであって、発現pix遺伝子を有しないゲノムを有する、アデノウイルス遺伝子治療ベクター。
【請求項32】
アデノウイルス遺伝子治療ベクター粒子あたり約12個のアデノウイルスタンパク質IX分子を含む、請求項31に記載のアデノウイルス遺伝子治療ベクター。
【請求項33】
アデノウイルスが感染していない又は形質導入されていない場合でさえもアデノウイルスタンパク質IXを発現するヒト細胞において産生される、請求項31に記載のアデノウイルス遺伝子治療ベクター。
【請求項34】
ヒト細胞がアデノウイルスタンパク質IXを化学量論量より多い量で発現する、請求項33に記載のアデノウイルス遺伝子治療ベクター。
【請求項35】
ヒト細胞が、1の感染多重度で野生型アデノウイルスに感染している類似したヒト細胞が産生するより多い量のアデノウイルスタンパク質IXを産生する、請求項33に記載のアデノウイルス遺伝子治療ベクター。
【請求項36】
増殖制限型である、請求項31に記載のアデノウイルス遺伝子治療ベクター。
【請求項37】
発現可能な導入遺伝子がヒト患者において治療効果がある、請求項31に記載のアデノウイルス遺伝子治療ベクター。
【請求項38】
アデノウイルスに特有である核酸配列を含むゲノムを有する、請求項31に記載のアデノウイルス遺伝子治療ベクター。
【請求項39】
cre/lox部位が隣接していないアデノウイルスパッケージングシグナルを含むゲノムを有する、請求項1に記載のアデノウイルス遺伝子治療ベクター。
【請求項40】
形質転換から48時間後に測定された場合、アデノウイルスタンパク質IXを発現しない類似した産生細胞において産生された同じベクターの少なくとも2倍の感染力である、請求項31に記載のアデノウイルス遺伝子治療ベクター。
【請求項41】
アデノウイルスタンパク質IXを発現しない類似した産生細胞において産生された同じアデノウイルス遺伝子治療ベクターが示すより少なくとも約25%速く、標的細胞への細胞変性効果を示す、請求項31に記載のアデノウイルス遺伝子治療ベクター。
【請求項42】
請求項1に記載のアデノウイルス遺伝子治療ベクターと非感染性アデノウイルスのウイルス様粒子(VLP)の混合物であって、感染力がプラーク形成アッセイによって測定される場合、遺伝子治療ベクターとVLPの比が1:100より大きい、混合物。
【請求項43】
35kbより大きいゲノムを有する、請求項31に記載のアデノウイルス遺伝子治療ベクター。
【請求項44】
ヒト細胞が、アデノウイルス遺伝子治療ベクターを産生する際、非接着性の浮遊培養で成長している、請求項33に記載のアデノウイルス遺伝子治療ベクター。
【請求項45】
産生細胞が発現pix遺伝子を有するプラスミドを含む、請求項33に記載のアデノウイルス遺伝子治療ベクター。
【請求項46】
アデノウイルスによって感染していない又は形質導入されていない場合でさえもアデノウイルスタンパク質IXを発現し、かつ1以下の感染多重度で野生型アデノウイルスに感染している類似した細胞が発現するより多い量でアデノウイルスタンパク質IXを発現する、細胞。
【請求項47】
ヒト細胞である、請求項46に記載の細胞。
【請求項48】
ヒト胎児腎細胞である、請求項47に記載の細胞。
【請求項49】
導入遺伝子を有するアデノウイルス遺伝子治療ベクターを更に産生する、請求項46に記載の細胞。
【請求項50】
アデノウイルス遺伝子治療ベクターがアデノウイルス遺伝子治療ベクター粒子あたり約12個のアデノウイルスタンパク質IX分子を含む、請求項49に記載の細胞。
【請求項51】
アデノウイルスタンパク質IXを化学量論量より多い量で発現する、請求項49に記載の細胞。
【請求項52】
アデノウイルス遺伝子治療ベクターが増殖制限型である、請求項49に記載の細胞。
【請求項53】
発現可能な導入遺伝子がヒト患者において治療効果がある、請求項49に記載の細胞。
【請求項54】
アデノウイルス遺伝子治療ベクターがアデノウイルスに特有である核酸配列を含むゲノムを有する、請求項49に記載の細胞。
【請求項55】
アデノウイルス遺伝子治療ベクターが発現pix遺伝子を含有しないゲノムを有する、請求項49に記載の細胞。
【請求項56】
アデノウイルス遺伝子治療ベクターが、cre/lox部位が隣接していないアデノウイルスパッケージングシグナルを含むゲノムを有する、請求項49に記載の細胞。
【請求項57】
アデノウイルス遺伝子治療ベクターが、形質転換から48時間後に測定された場合、アデノウイルスタンパク質IXを発現しない類似した産生細胞において産生された同じベクターの少なくとも2倍の感染力である、請求項49に記載の細胞。
【請求項58】
アデノウイルス遺伝子治療ベクターが、アデノウイルスタンパク質IXを発現しない類似した産生細胞において産生された同じアデノウイルス遺伝子治療ベクターが示すより少なくとも約25%速く、標的細胞への細胞変性効果を示す、請求項49に記載の細胞。
【請求項59】
非感染性アデノウイルスのウイルス様粒子(VLP)を更に産生し、感染力がプラーク形成アッセイによって測定される場合、遺伝子治療ベクターとVLPの比が1:100より大きい、請求項49に記載の細胞。
【請求項60】
ベクターが35kbより大きいゲノムを有する、請求項49に記載の細胞。
【請求項61】
非接着性の浮遊培養で成長している、請求項46に記載の細胞。
【請求項62】
アデノウイルス遺伝子治療ベクターを産生する際、非接着性の浮遊培養で成長している、請求項49に記載の細胞。
【請求項63】
発現pix遺伝子を有するプラスミドを含む、請求項46に記載の細胞。
【請求項64】
細胞あたり約3231個より多いウイルスゲノムを産生する、請求項49に記載の細胞。
【請求項65】
培地の1ミリリットルあたり少なくとも約4.7×109個のウイルスゲノムを産生する、請求項49に記載の細胞。
【請求項66】
アデノウイルスが感染していない又は形質導入されていない場合でさえもアデノウイルスタンパク質IXを発現する浮遊培養細胞。
【請求項67】
1以下の感染多重度で野生型アデノウイルスに感染している類似した細胞が発現するより多い量でアデノウイルスタンパク質IXを発現する、請求項66に記載の浮遊培養細胞。
【請求項68】
ヒトである、請求項66に記載の浮遊培養細胞。
【請求項69】
ヒト胎児腎細胞である、請求項69に記載の浮遊培養細胞。
【請求項70】
導入遺伝子を有するアデノウイルス遺伝子治療ベクターを更に産生する、請求項66に記載の浮遊培養細胞。
【請求項71】
アデノウイルス遺伝子治療ベクターがアデノウイルス遺伝子治療ベクター粒子あたり約12個のアデノウイルスタンパク質IX分子を含む、請求項70に記載の浮遊培養細胞。
【請求項72】
アデノウイルスタンパク質IXを化学量論量より多い量で発現する、請求項70に記載の浮遊培養細胞。
【請求項73】
アデノウイルス遺伝子治療ベクターが増殖制限型である、請求項49に記載の浮遊培養細胞。
【請求項74】
発現可能な導入遺伝子がヒト患者において治療効果がある、請求項70に記載の浮遊培養細胞。
【請求項75】
アデノウイルス遺伝子治療ベクターがアデノウイルスに特有である核酸配列を含むゲノムを有する、請求項70に記載の浮遊培養細胞。
【請求項76】
アデノウイルス遺伝子治療ベクターが発現pix遺伝子を含有しないゲノムを有する、請求項70に記載の浮遊培養細胞。
【請求項77】
アデノウイルス遺伝子治療ベクターが、cre/lox部位が隣接していないアデノウイルスパッケージングシグナルを含むゲノムを有する、請求項70に記載の浮遊培養細胞。
【請求項78】
アデノウイルス遺伝子治療ベクターが、形質転換から48時間後に測定された場合、アデノウイルスタンパク質IXを発現しない類似した産生細胞において産生された同じベクターの少なくとも2倍の感染力である、請求項70に記載の浮遊培養細胞。
【請求項79】
アデノウイルス遺伝子治療ベクターが、アデノウイルスタンパク質IXを発現しない類似した産生細胞において産生された同じアデノウイルス遺伝子治療ベクターが示すより少なくとも約25%速く、標的細胞への細胞変性効果を示す、請求項70に記載の浮遊培養細胞。
【請求項80】
非感染性アデノウイルスのウイルス様粒子(VLP)を更に産生し、感染力がプラーク形成アッセイによって測定される場合、遺伝子治療ベクターとVLPの比が1:100より大きい、請求項70に記載の浮遊培養細胞。
【請求項81】
アデノウイルス遺伝子治療ベクターが35kbより大きいゲノムを有する、請求項70に記載の浮遊培養細胞。
【請求項82】
発現pix遺伝子を有するプラスミドを含む、請求項70に記載の浮遊培養細胞。
【請求項83】
培地の1ミリリットルあたり少なくとも約4.7×109個のウイルスゲノムを産生する、請求項70に記載の細胞。
【請求項84】
浮遊細胞培養でpix欠失型アデノウイルス遺伝子治療ベクターを製造するための方法であって、アデノウイルスが感染していない又は形質導入されていない場合でさえもアデノウイルスタンパク質IXを発現する産生細胞を浮遊細胞培養で培養する工程、pix欠失型アデノウイルス遺伝子治療ベクターゲノムで前記細胞を形質転換する工程、前記細胞がpix欠失型アデノウイルス遺伝子治療ベクターを産生している間、前記細胞を浮遊状態で培養する工程、並びにその後、アデノウイルスタンパク質IX及び治療用導入遺伝子を含むアデノウイルス遺伝子治療ベクターを収集する工程を含む、方法。
【請求項85】
細胞が1ミリリットルあたり少なくとも約4.7×109個のウイルスゲノムを産生する、請求項1に記載の方法。
【請求項86】
ヒト細胞を得る工程、アデノウイルスをコードする発現可能な核酸、及びアデノウイルスタンパク質IXをコードする発現可能な核酸、及び導入遺伝子をコードする核酸を前記細胞に形質導入又はトランスフェクトする工程、並びにその後、前記細胞を浮遊培養で培養して、アデノウイルスタンパク質IX及び前記導入遺伝子を含むアデノウイルス遺伝子治療ベクターを産生する工程、並びにその後、アデノウイルスタンパク質IX及び前記導入遺伝子を含む前記アデノウイルス遺伝子治療ベクターを収集する工程を含む、アデノウイルス遺伝子治療ベクター製造方法。
【請求項87】
アデノウイルスタンパク質IXを発現するヒト産生細胞を得る工程、並びにその後、アデノウイルス遺伝子治療ベクターをコードする核酸を前記細胞に形質導入又はトランスフェクトする工程、並びにその後、前記細胞を浮遊培養で培養して、アデノウイルスタンパク質IX及び前記アデノウイルス遺伝子治療ベクターを産生する工程、並びにその後、アデノウイルスタンパク質IXを含むアデノウイルス遺伝子治療ベクターを収集する工程を含む、ウイルス製造方法。
【請求項88】
アデノウイルス遺伝子治療ベクターをコードする核酸が、pixネガティブである、請求項87に記載の製造方法。
【請求項89】
アデノウイルス遺伝子治療ベクターの収量を増加させるための製造方法であって、アデノウイルスが感染していない又は形質導入されていない場合でさえもアデノウイルスタンパク質IXを発現する産生細胞においてアデノウイルス遺伝子治療ベクターを製造する工程、及びその後、アデノウイルス遺伝子治療ベクターを収集する工程を含み、それにより、産生されたウイルスゲノムに対する産生された感染性アデノウイルス遺伝子治療ベクターの比が、アデノウイルスが感染していない又は形質導入されていない場合にアデノウイルスタンパク質IXを発現しない産生細胞において同じアデノウイルス遺伝子治療ベクターを産生する際に得られる比より少なくとも約20%高い、製造方法。
【請求項90】
請求項1に記載のアデノウイルス遺伝子治療ベクターをヒトに投与する工程を含む、ヒト治療方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
この出願は、Saana LEPOLAら、「The Effect of Protein IX Over Expression to Stability and Infectivity of Adenoviral Vectors」、2019年5月7日に出願された米国仮特許出願第62/844175号、Vesa TURKKIら、「The Effect of Protein IX Over Expression to Stability and Infectivity of Adenoviral Vectors」、2019年5月28日出願された米国実用特許出願第16/423215号、及びVesa TURKKIら、「The Effect of Protein IX Over Expression to Stability and Infectivity of Adenoviral Vectors」、2019年9月13日に出願された米国実用特許出願第16/569742号の一部継続であり、それらの優先権を主張し、それらの内容は参照により本明細書に組み入れられている。
【0002】
連邦支援の研究又は開発に関する言明
なし
【0003】
共同研究契約の関係者の名前
なし
【0004】
配列表
この明細書は、この出願に添付された電子配列表を含み、参照により組み入れている。
【0005】
本発明者らによる事前開示に関する言明
なし
【背景技術】
【0006】
アデノウイルス科(Adenoviridae)は、いくつかの属における多数のウイルスを含有する。それらは、広範な脊椎動物宿主を有する。ヒトアデノウイルスは、7つの種へ細分され、50個より多い異なるアデノウイルス血清型が記載されている。アデノウイルスは、様々な病気を引き起こし、大部分の血清型は呼吸器系の疾患に関連している。物理的には、アデノウイルスは、正二十面体ヌクレオカプシド立体構造を有する、中位の大きさ(90~100nm)のノンエンベロープウイルスである。それらの遺伝子材料は、約36キロベース(kb)の二本鎖DNAゲノムからなる。
【0007】
アデノウイルスは、その宿主細胞へエンドソームを通して侵入する。ビリオンは、宿主細胞の表面上の受容体を介しての宿主細胞へのウイルス付着を助ける、カプシドの各ペントンベースと付随した固有のスパイク又はファイバーを有する。
【0008】
アデノウイルスは、複製細胞と非複製細胞の両方を冒し、最大8.5kbまでの大きい導入遺伝子を収容する能力により、遺伝子治療用の評判の良いウイルスベクターである。アデノウイルスはその遺伝子材料を宿主細胞ゲノムへ組み込まないため、導入遺伝子発現は一過性である。より具体的には、アデノウイルスは、例えば、悪性神経膠腫又は膀胱癌を処置するために、組換えDNA、RNA、又はタンパク質の形をとって標的治療を施すための媒体として用いられる。
【0009】
アデノウイルスの正二十面体カプシドは、ウイルスにコードされたタンパク質で構成される。カプシド構造は、複合体として説明することができるが、それもまた十分、研究されている。アデノウイルスカプシドは、カプソマーと呼ばれる252個の小さい基本単位からなる。アデノウイルスの主要なコートタンパク質はヘキソンタンパク質であり、それゆえに、カプソマーの大部分(240個)は、ヘキソンカプソマーである。残りの12個のペントンカプソマーは、カプシドの5面の頂点に位置する。ヘキソンコートタンパク質はホモ三量体を形成し、そのホモ三量体は、ヘキソンカプソマーを構成する。ヘキソン三量体は、12個の三量体がカプシドの20個の面のそれぞれにあるように、組織化されている。ペントン周囲のペントン及びベースのペントン(ファイバーを所定の位置に保持する)により形成されるペントン複合体は、12個の頂点のそれぞれにある。
【0010】
タンパク質IXは、マストアデノウイルス属(Mastadenovirus)のメンバーにより発現した小さな多機能タンパク質である。野生型アデノウイルスにおいて、面における中心の9個のヘキソンは、タンパク質IX(pIX)の12個のコピーを含む。タンパク質IXは、ウイルス複製に必須ではない。したがって、当技術分野は、導入遺伝子能力を増加させ、又は複製可能なアデノウイルス(RCA)形成の可能性を低下させるために、遺伝子治療ベクターからそれを欠失させるように教示している。KOVESDI (2010)、PARKS (2003)参照。例えば、PARKS (2004)は、「遺伝子治療研究において、AdベクターバックボーンからのpIXの除去を用いて、E1欠失型Adベクターのクローニング能力を増加させた」と言及している。要約におけるPARKS (2004)を参照。PARKS (2004)はまた、「pIXを欠くAdカプシドが完全長ウイルスDNAをパッケージングすることができないと初期研究は示唆した」、更に「以前の報告とは対照的に、pIX欠損カプシドはゲノムサイズのDNAを収容することができる」と言及している。PARKS (2014)、22頁、2段落目(強調は筆者による)参照、SARGENT (2004)もまた参照。同様に、nadofaragene radenovec、インターフェロン導入遺伝子を有するアデノウイルス遺伝子治療ベクターは、pIX-ゲノム(すなわち、導入遺伝子のための場所を空け、及び/又は複製可能なアデノウイルスリスクを低下させるためにpIXが欠失しているゲノム)を有する。
【0011】
同様に、バクテリオファージラムダ欠失変異体は、野生型ファージより熱安定性が高いことが知られている。COLBY (1981)参照。したがって、当技術分野は、ポリペプチドIX遺伝子の5'部分を欠損するアデノウイルス欠失変異体(d1313)を教示する。同文献。Colbyは、ウイルス安定性を増加させるためにこの欠失変異体を作製したが、驚くべきことに、ポリペプチドIX遺伝子の5'部分を欠失させることが、その結果生じたウイルスを、野生型アデノウイルスより実質的に熱安定性を低くさせることを見出した。同文献; RUSSEL (2009)、ROSA-CALTRAVA (2001)、ROSA-CALATRAVA (2003)を参照のこと。
【0012】
アデノウイルスファイバータンパク質への特定の改変は、アデノウイルスをある特定の細胞型に対し標的化するために用いられている。MEULENBROEK (2004)は、pIXを用いて、緑色蛍光タンパク質をビリオンの表面上に貼り付け、インビボでウイルスを追跡するのを可能にしている。Meulenbroekは、pIXが、モノクローナル抗体又は細胞毒をアデノウイルス上に接着させて、標的療法剤を作り出すのを可能にすると推測している。ROELVINK (2004)は、天然pIXベース(カプシドに付着する)、及び表向きはウイルスを特定の細胞型に対し標的化する非天然末端ポリペプチドを含むキメラpIXを作製することを教示している。SALISCH (2017)は、pIXを分子接着剤として用いて、マラリア寄生虫抗原をアデノウイルス表面上に付着させることにより、マラリアワクチンを作製することを教示している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】PARKS (2014)、22頁、2段落目
【非特許文献2】GRAHAM (1977) 65~66頁
【非特許文献3】Gatc-biotech.com/lightrun
【非特許文献4】https://ghr.nlm.nih.gov/primer/basics/gene
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
当技術分野は、治療用導入遺伝子のための場所を空けるためにウイルスゲノムからE1タンパク質コードエリアを欠失させることによりアデノウイルスベクターを製造し、その後、その結果生じた遺伝子治療ベクターを、ゲノム内にこれらのE1タンパク質コードエリアを含有するヒトHEK293細胞において産生することを教示している。したがって、これらのE1欠失型アデノウイルスは、インビトロでのHEK293細胞において成長することができるが、インビボでの患者細胞において成長することができない。当技術分野はまた、ベクター導入遺伝子能力を増加させるためにウイルスゲノムからpIXコード領域を欠失させることを教示している。このように、いくつかの市販のアデノウイルス遺伝子治療ベクター(例えば、ADSTILADRIN(登録商標)ブランドnadofaragene radenovec)のゲノムは、pIXコード領域を含有しない。
【0015】
本発明者らは、長年かけて、組換えアデノウイルス(血清型5、すなわち、「Ad5」に特にエネルギーを集中させている)製造方法を開発している。Adを産生するための従来のスモールスケール方法は、接着性HEK293細胞及び細胞培養フラスコ/ボトルを用いる。これらは、学術研究には有用であるが、容易には商業的製造へ拡張可能ではない。本発明者らの目標は、アデノウイルスベクター、例えば、血清型5アデノウイルス(Ad5)のための拡張可能な製造方法を開発することであった。
【0016】
本発明者らの方法開発研究の過程において、本発明者らは、一連の注目すべき所見に偶然出くわした。おそらく最も重要なことには、本発明者らは、アデノウイルスポリペプチドIXを発現又は過剰発現する産生細胞においてアデノウイルス遺伝子治療ベクターを産生することが、浮遊細胞培養においてpIX欠失型アデノウイルスを、驚くほど高い収量で産生することを可能にすることを見出した。本発明者らはまた、アデノウイルスポリペプチドIXを発現又は過剰発現する産生細胞を用いることが、アデノウイルスベクターの収量を、そのアデノウイルスゲノムがpIX欠失しているかどうかに関わらず、増加させることを見出した。本発明者らはまた、アデノウイルスポリペプチドIXを発現又は過剰発現する産生細胞を用いることが、以下のように、その結果生じたアデノウイルスベクターの形質導入動態を向上させることを見出した:アデノウイルスは、所定のレベルの形質導入/感染を達成するために、より低いpfu/標的細胞を必要とすること、アデノウイルスは標的細胞に、より迅速に形質導入又は感染すること、及び感染した標的細胞がより迅速に子孫ウイルスを産生すること。本発明者らはまた、完全長pIXと、カルボキシ末端でかなり切り詰められているpIXの両方に関して、この利益を達成し得ることを見出した。したがって、本発明者らの所見は、アデノウイルス遺伝子治療ベクター製造を根本的に改善する手段を提供する。
【0017】
したがって、本発明者らの発明は、とりわけ、産生細胞においてpIXを発現することにより、アデノウイルス(及び特に、アデノウイルスベクター)の生産力、感染動態、及び感染力を増加させることに関する。
【0018】
特許又は出願ファイルは、カラーで製作された少なくとも1つの図面を含有する。カラー図面を含むこの特許又は特許出願刊行物のコピーは、請求及び必要な手数料の支払いにより、特許庁により提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】pix欠失型アデノウイルス(すなわち、pixが欠失しているゲノムを有するアデノウイルス)を形質導入されたHEK293細胞により示された質量分光光度計スペクトルの数を比較する図である。略語:SC=スペクトルカウント、タンパク質IX(「pIX」)に関連したMS2スペクトルの数。Ad A: pix欠失型アデノウイルス。Ad A 2:無血清条件下でのpix欠失型アデノウイルスの感染。Ad B: pixを含有するゲノムを有する対照アデノウイルスベクター。統計:vs Ad A 2 vs Ad B: pval_Ade = 1.392955e-24. cell vs media : pval_comp = 1.119278e-08. rep1 vs 2 vs 3 : pval_rep = 0.962930。
図2】幅広いMOI範囲(vg/細胞)における2つのアデノウイルス遺伝子治療ベクター(1つはpIXコード領域を含み、1つは含まない)のそれぞれの感染力を比較する図であり、各ベクターは、通常のHEK293細胞か又はHEK293-pIX(TF)産生細胞のいずれかにおいて産生された。x軸=MOI; y軸=感染した又は形質導入された標的細胞の%。
図3】通常の産生細胞において、及びpIXを一過性に発現するようにpIXコードプラスミドがトランスフェクトされた産生細胞において、産生された2つのアデノウイルス遺伝子治療ベクター(本明細書では、それらを「Ad A」及び「Ad B」と呼ぶ)のそれぞれの感染力を比較する図である。
図4】抗アデノウイルス抗体で染色された感染細胞からのフローサイトメトリー結果を示す図である。それは、完全な感染の後期において出現する細胞集団を示す。したがって、それは、図3の様々なアデノウイルス遺伝子治療ベクターで形質転換された標的細胞についての溶解までの時間を比較する。
図5】pIXを発現するために用いられたプラスミドの概略図である。
図6】染色されたトランスフェクション化産生細胞のカラー写真である。
図7】抗pIXモノクローナル抗体で染色された精製(CSCl+透析)アデノウイルスストックのPAGE分離を示す図である。トラック1:サイズマーカー。トラック2: pIX発現型HEK293産生細胞において産生されたAd A(pIXコード領域を欠損するアデノウイルス)。トラック3:通常(pIXネガティブ)のHEK293産生細胞において産生されたAd A。トラック4: pIX発現型HEK293産生細胞において産生されたAd B(pIXコード領域を有するアデノウイルス)。トラック5:通常(pIXネガティブ)のHEK293産生細胞において産生されたAd B。
図8】様々な型のHEK293産生細胞において産生された様々な型のアデノウイルスでの感染/形質導入から5日後の様々な型のHeLa細胞培養物の写真である。ARM=アデノウイルス参照材料。+pIX=ウイルスが、pIXを発現するHEK293産生細胞において産生された。HeLa+pIX=ウイルスが、pIXを発現するHeLa標的細胞に投与された。+pcDNA3.1=ウイルスが、「空」pcDNA3.1プラスミド、すなわち、pIX導入遺伝子を欠損するプラスミドがトランスフェクトされたHeLa標的細胞に投与された。
図9】様々な型のHEK293産生細胞において産生された様々な型のアデノウイルスでの感染/形質導入から5日後の様々な型のHeLa細胞培養物の写真である。ARM=アデノウイルス参照材料。+pIX=ウイルスが、pIXを発現するHEK293産生細胞において産生された。HeLa+pIX=ウイルスが、pIXを発現するHeLa標的細胞に投与された。+pcDNA3.1=ウイルスが、「空」pcDNA3.1プラスミド、すなわち、pIX導入遺伝子を欠損するプラスミドがトランスフェクトされたHeLa標的細胞に投与された。
図10】pIXを発現する、及び発現しない産生細胞を用いた、接着培養及び浮遊培養からの収量を比較する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
当技術分野は、治療用導入遺伝子の場所を空けるために野生型アデノウイルスゲノムからE1a及びE1bタンパク質コードエリアを欠失させることにより、アデノウイルス遺伝子治療ベクターを製造することを教示している。当技術分野は、同様に、ベクター導入遺伝子能力を増加させるためにウイルスゲノムからpIXコード領域を欠失させることを教示している。したがって、例えば、市販のアデノウイルス遺伝子治療ベクターである、ADSTILADRIN(登録商標)ブランドnadofaragene radenovecは、pIXコード領域を含有しないゲノムを有する。
【実施例1】
【0021】
HEK293細胞は補完を提供する
HEK293細胞株は、ヒト胎児腎(「HEK」)細胞を、剪断型アデノウイルス5型DNAで形質転換することにより、1973年に樹立された。4.5kb小片のアデノウイルスDNAがHEKゲノムの第19染色体へ統合されて、HEK293細胞株を生じた。HEK293ゲノムにおける4.5kB小片のアデノウイルスDNAは、アデノウイルス遺伝子e1a、e1b、及びixを含有する。それは、アデノウイルス血清型5ゲノムの遠い5'末端側の約11%に当たる。
【0022】
HEK293細胞は、アデノウイルス遺伝子e1a、e1b、及びixを含む。それゆえに、E1欠失型アデノウイルスは、HEK293細胞において成長することができるが、正常なヒト細胞(染色体DNAへ組み込まれたアデノウイルス遺伝子を有しない)において成長することができない。したがって、E1欠失型アデノウイルスは、感染性(複製可能な)ウイルスを形成するリスクを低下させる。当技術分野は、E1欠失型アデノウイルスを、「増殖制限型」と呼び、そのウイルスが、条件付きでのみ、すなわち、そのウイルスゲノムから欠けている必要とされる補完機能を提供する宿主細胞において、複製することができ、その必要とされる補完機能を提供しない細胞において複製することができないことを意味する。アデノウイルス遺伝子e1a、e1b、及びixをウイルスゲノムから欠失させることはまた、ベクターが適切にパッケージングすることができる導入遺伝子のサイズを増加させる。
【0023】
2つの異なるアデノウイルス遺伝子治療ベクター、「Ad A」又は「Ad B」のいずれかをHEK293細胞に形質導入した。Ad Aは、pixが欠失しているアデノウイルスゲノムを有する。Ad Bは、無傷の発現pix遺伝子を含むアデノウイルスゲノムを有する。
【0024】
3日後、形質導入細胞を培地から分離した。その細胞を溶解し、それらをゲル上にロードした;そのようなものとして、細胞を含まない培地がロードされた。
【0025】
図1は、血清含有培地中でAd Aを形質導入された(レーン「Ad A」)、無血清培地中でAd Aを形質導入された(レーン「Ad A 2」)、又はAd Bを形質導入されたHEK293細胞により産生されるpIXレベルを比較している。
【0026】
本発明者らのデータは、血清と共のAd Aが検出可能なpIX発現をもたらさないことを示している。これらのデータはまた、アデノウイルスpix遺伝子を有するにも関わらず、HEK293細胞がタンパク質IXを発現しないことを示している。したがって、初期領域を欠失し、かつHEK293細胞において産生されるアデノウイルスベクターは、それらのカプシド内にpIXを有しない。本発明者らの質量分析試験は、タンパク質IXが、HEK293細胞において観察できず、HEK293細胞において産生される、pixネガティブである(すなわち、pixが欠失しているゲノムを有する)アデノウイルスベクター中においても観察できないことを確認している。このように、本発明者らは、HEK293細胞がpixコード配列を含有するという事実にも関わらず、HEK293細胞が、実際、タンパク質IXを発現せず、検出可能なタンパク質IXがないことを見出した。文献検索後、本発明者らは、この観察が文献中においても報告されていることを見出した。
【0027】
培地から血清を除去する(細胞周期に同期させるために瞬間的に)ことはこれを変化させない。図1における列Ad A 2を参照。
【0028】
無傷の発現可能なpix遺伝子を含むウイルスを用いることは、測定可能なタンパク質IXを提供する。図1における列Ad B参照。
【0029】
別の質量分析試験を実施し(データ未呈示)、それは、精製されたAd Aビリオンが検出可能なpIXを有しないが、野生型アデノウイルスは有することを示した。
【実施例2】
【0030】
浮遊培養
本発明者らは、シングルユースバイオリアクターシステムを用いて大規模な方法開発研究を行っている。5年間に渡って、本発明者らは、シングルユースCultiBagRM(商標)バイオリアクターにおいて少なくとも46バッチのアデノウイルスを生成した。その方法は、ローラーボトル又は振盪フラスコにおける哺乳動物細胞株の培養、細胞のシングルユースバイオリアクターへの移動、バイオリアクターにおける浮遊培養適応化細胞の増殖、及び組換えアデノウイルスを産生するための細胞への感染を含んだ。ウイルス材料は、化学的溶解、続いて、宿主細胞DNAのエンドヌクレアーゼでの消化により、細胞から細胞内ウイルスを遊離させることにより収集されている。その後、生じたウイルスを、下流精製過程に供することができる。本発明者らは、ゲノムの初期領域の様々な部分が欠失しているアデノウイルスベクターを含む、いくつかの組換えアデノウイルスを作製している。平均して、浮遊培養における本発明者らのHEK293細胞は、約3.16×104±2.61×103個のウイルス粒子/細胞を産生している。
【実施例3】
【0031】
浮遊培養対接着培養
本発明者らは、ベクターを製造するための浮遊細胞培養系と接着細胞培養系の生産力を比較した。これを行うために、血清型5アデノウイルスを用いた。上記の実施例1のように、初期領域欠失型アデノウイルス、すなわち、Ahmedら(2001)により記載されているように、そのウイルスゲノムが野生型アデノウイルスゲノムの5'末端におけるE1a、E1b、及びpIX領域を欠失するように改変された、アデノウイルスを用いた。したがって、本発明者らのアデノウイルスは、E1aネガティブ、E1bネガティブ、及びpixネガティブのゲノムを有した。そのベクターは、標準DNA操作技術を用いて構築され、そのウイルスゲノムはまた、いくつかのアデノウイルス血清型2(「Ad2」)遺伝子配列も組み入れている。
【0032】
振盪フラスコにおける1~5Lのワーキングボリューム及びいくつかのスモールスケールのMOI変動試験を用いて、様々な浮遊培養系におけるこのベクターの製造を比較した。驚くべきことに、そして、腹立たしいことに、本発明者らは、収量及び生産力がこれらのバッチのそれぞれにおいて著しく低いことを見出した。最大生産力は6×103vp/細胞であった。これは、3.16×104vp/細胞の本発明者らの歴史的平均(実施例1参照)より1桁低かった。
【0033】
浮遊培養を接着培養に置き換えた。本発明者らは、10%FBSを含むDMEMを用いるTフラスコにおいて接着性HEK293細胞を用いて、これが、スモールスケールで顕著により高いベクター産生を達成することを見出した。ベクター産生は、浮遊培養よりむしろ接着培養を用いて、最高2桁高かった。
【0034】
接着培養条件を用いて最大の生産力(9.7×104vp/細胞)を達成した。表「浮遊/接着方法の比較」を参照されたい。本発明者らの結果は、接着培養が、浮遊培養より最大2桁大きい生産力があったことを示している。さらなる浮遊試験(データ未呈示)を行ったが、それらのどれも、接着培養と比較して、浮遊培養の著しく低い生産力を顕著に改善することはなかった。
【0035】
【表1】
【0036】
浮遊状態での低生産力の理由は知られていなかった。
【実施例4】
【0037】
pIXは感染力を向上させる
本発明者らは、異なるベクターゲノム用量を用いて、標的HEK293細胞に形質導入した。形質導入細胞の数を、形質導入から48時間後、カウントした(表「pIXは感染力を増加させる」を参照)。本発明者らのデータは、ウイルスゲノムあたりの感染力が、pIXを発現する産生細胞において産生されるベクターにおいて増加していることを示している。
【0038】
その後、2つのアデノウイルス遺伝子治療ベクター、Ad A(pix欠失型)及びAd B(pix含有型)(それぞれのウイルスは、通常(pixネガティブ)の産生細胞か又はpIXを発現するプラスミドがトランスフェクトされた産生細胞のいずれかにおいて産生される)のそれぞれの感染力を再び比較する、同様の実験を行った(実施例5における表「pIX発現型産生細胞において生成されたベクターはより感染力が高い」を参照)。本発明者らの以前の実験(MOIの範囲を比較する)とは対照的に、この試験において、単一のMOIのみを用いたが、結果のより高い統計的信頼性を達成するためにより多い数の複製を試験した。
【0039】
【表2】
【0040】
これらのデータは、pix欠失型アデノウイルスゲノムが、pixを発現する産生細胞において産生された場合には、より感染力が高いことを示している。例えば、表の行kと行pを比較されたい。通常細胞において産生されたAd Aは、2.9vg/細胞での感染で用いられた時、標的細胞のたった0.5%に感染する(行k)。pix発現型細胞において産生され、2.8vg/細胞での感染の場合、標的細胞の0.7%に感染する(行p)。すなわち、pix発現型細胞において産生されたならば、より少ないウイルスゲノムが40%多い標的細胞に感染する。
【0041】
同様に、表の行lと行qを比較されたい。通常細胞において産生された、14.5vg/細胞で感染するように用いられたAd Aは、標的細胞のたった2.1%に感染する(行l)。pix発現型細胞において産生され、14.1vg/細胞の感染の場合、標的細胞の4.3%に感染する(行q)。すなわち、pix発現型細胞において産生されたならば、わずかにより少ないウイルスゲノムがより多い標的細胞に感染する。結果はまた図2に示されている。
【0042】
本発明者らは、互いに矛盾しない、pIXの効果に関する異なる仮説を立てている。理論によって縛られるつもりはないが、本発明者らは以下と仮定している:
1. ウイルスがpix過剰発現型細胞において産生されており、かつそれがもう1ラウンドの感染に用いられる場合、それは、より多いpIXペイロードを有して、それの侵入後、標的細胞中へ放出する。このpIXは宿主細胞防御を解体し、したがって、pIXなしより、より多いウイルスがそれらの生活環を完了するのを可能にする。またウイルスが、pix発現型産生細胞に感染させるのに用いられる場合、1番目のラウンドで全ての産生細胞が感染するとは限らず、抗ウイルス機構が、少なくともいくつかの細胞において、2番目のラウンドの感染を減速/阻止する可能性が高い。pIXは、隣接する感染細胞により放出された抗ウイルスシグナルを遮断することにより役に立ち、したがって、産生細胞を次の感染ラウンドを受け入れる状態に保つ。
2. タンパク質IXを発現する産生細胞は、機能的な感染性ウイルスを生成するためにウイルスゲノムを適切にパッケージングすることにおいてより優れている。本発明者らは、産生細胞が、化学量論量より多い量のタンパク質IX、すなわち、ウイルスゲノムあたり12個より多いタンパク質IX分子を産生することにより、これを可能にすると考えている。本発明者らは、余剰のタンパク質IXが、ウイルスゲノムが効率的かつ適切にパッケージングされることを保証し、ゲノムあたりの感染性粒子の相対的収量を増加させると仮定している。
3. pixを欠損するアデノウイルス、特に本明細書で用いられるAd Aが、宿主細胞核へ侵入することができない可能性があることはあり得る。産生細胞におけるpIXの発現は、細胞内妨害物を除去することにより、ウイルスが増殖性感染を確立することを助ける。
【0043】
この反復実験についての本発明者らの結果は、図3に提供されている。これらのデータは、アデノウイルス遺伝子治療ベクターが、それが、pIXポリペプチドを発現する産生細胞において産生されたならば、おそらく250%高い感染力であることを確認している。
【実施例5】
【0044】
pIXは感染動態に影響する
ウイルスベクターをより大きい体積で生成する方法を研究することに加えて、本発明者らはまた、その結果生じたベクターを改善する方法を研究している。この目的を達成するために、本発明者らは、pIXの本発明者らのpix欠失型ベクターへの添加がどのようにウイルス安定性に影響するかを試験することに決定した。
【0045】
発現可能なpIX遺伝子を含有するプラスミドをHEK293細胞にトランスフェクトし、pIXを発現するHEK293-pIX細胞を作製した。pIXを安定的に発現するHEK293-pIX細胞(「HEK293-pIX(stbl)」)、及びpIXを一過性に発現するHEK293-pIX細胞(「HEK293-pIX(TF)」)を作製した。
【0046】
機能性pix遺伝子を欠損するアデノウイルス遺伝子治療ベクター(本明細書では「Ad A」)、及び機能性pix遺伝子を有するアデノウイルス遺伝子治療ベクター(本明細書では「Ad B」)を取得し、各ベクター及び野生型アデノウイルス(機能性pix遺伝子を含む)を、HEK293細胞及びHEK293-pIX細胞のそれぞれにおいて製造した。
【0047】
本発明者らは、文献及び本発明者らの研究に従って、pIXを発現しないHEK293細胞を得た。その後、発現可能なpIX遺伝子を含有するプラスミドをHEK293細胞にトランスフェクトし、一過性に(「HEK293-pIX(TF)」)か又は安定的に(「HEK293-pIX(stbl)」)かのいずれかで高レベルのpIXを発現するHEK293-pIX細胞を作製した。本発明者らはまた、機能性pIX遺伝子を欠損するアデノウイルス遺伝子治療ベクターゲノム(本明細書では「AdベクターA」)、及び機能性pIX遺伝子を有するアデノウイルス遺伝子治療ベクターゲノム(本明細書では「AdベクターB」)、及び野生型アデノウイルス5型を得て、各ベクター及びウイルスを、HEK293細胞とHEK293-pIX細胞の両方において製造した。
【0048】
まず、本発明者らの材料及び方法を記載し、その後、本発明者らの結果を要約する。
【0049】
材料及び方法
材料
この研究において、American Type Culture Collection、カタログ番号CRL-1573から入手できるHEK293細胞(ヒト胎児腎細胞)を用いた。これらのHEK293細胞は、pIXのコード配列を含有するが、pIXを発現しない。例えば、GRAHAM (1977) 65~66頁; SPECTOR (1980)参照。HEK293細胞は、安定的にpIXを発現するHEK293-pIX(stbl)株を生成するための出発材料として用いられた。
【0050】
本発明者らの研究に用いられるpIX挿入断片を、前述のHEK293細胞ゲノムからそれをポリメラーゼ連鎖反応で増幅することにより生成した。
【0051】
本発明者らは、2つのアデノウイルス5型ウイルスベクターを用いた。1つのベクター(「B」ベクター)は、完全なpIXコード領域を有するアデノウイルスベクターゲノムを含有した。2つ目のベクター(「A」ベクター)は、pIXコード領域が欠失しており、かつAd2配列の部分を含有するアデノウイルスベクターゲノムを含有した。これらに加えて、野生型(pIX含有)アデノウイルス5型を用いた。
【0052】
方法
プラスミド調製の概要
アデノウイルスタンパク質IX(pIX)配列を含有するトランスジェニックプラスミドを調製した。pIX配列を、HEK293細胞ゲノムからポリメラーゼ連鎖反応により増幅し、pcDNA3.1(商標)ベクターベース(Thermo Scientific社のAdgene部から市販されている)へクローニングした。pIX導入遺伝子を、XbaI+EcoRVにより開環されたpcDNA3.1プラスミドへ挿入した(図5参照)。図5に示されているように、pIXはCMVプロモーター下にあり、それの配向は、コードエリアがCMVの下流から開始するようにある。細胞にpIXコードプラスミドをトランスフェクトした後で、pIXを抗pIX抗体で染色することにより、細胞におけるpIX発現を確認した。このpIXポジティブシグナルに加えて、核におけるpIXの細胞内位置もまた、文献における高pIX発現の場合(感染した細胞核におけるpIXの斑点分布、Rosa-Calatravaら、2001)に見られているものと一致している。
【0053】
タンパク質IXコード配列の消化及び精製
PCRによる増幅後、pIX DNAコード領域を、XbaIエンドヌクレアーゼで消化した。消化を、60ユニットのXbaI(New England Biolabs社)及びヌクレアーゼフリーの分子生物学グレードの水(ThermoScientific社、Massachusetts、USA)を用いる、CutSmart(商標)バッファー(New England Biolabs社、Massachusetts、USA)中に懸濁されたPCR産物の50μlを用いて行った。インキュベーション及び不活性化を、表「プラスミドpcDNA3.1-pIXの調製に用いられた酵素」(下記)に従って実施した。
【0054】
制限酵素の不活性化後、試料を、SYBR safe(商標)DNAゲル染色(Invitrogen社、California、USA)及びサイズマーカーとして5μlのGeneruler(商標)DNAラダーミックス(Thermo Scientific社)を用いて、1%アガロースゲル(TopVision(商標)アガロース、Thermo Scientific社)上に流した。ゲルを、Horizon 11.14(商標)(Life Technologies社、California、USA)を用いて110Vで50分間、泳動した。ゲルを、ChemiDoc(商標)Touch画像化システム(Bio-Rad社、California、USA)を用いて写真撮影した。DNAを含有するバンドを切り取り、DNAを、Qiaquick(商標)ゲル抽出キット(Qiagen GmbH社、Hilden Germany)を用いて単離した。濃度を、NanoDrop(商標)ND-1000分光光度計(Thermo Fisher Scientific社)で測定した。
【0055】
【表3】
【0056】
その後、DNA試料を、ポリヌクレオチド5'-ヒドロキシルキナーゼ処理(PNK)に供して、挿入断片の5'末端にγ-ホスフェートを付加した。反応混合物は、バッファー(T4 DNAリガーゼバッファー+10mM ATP、New England Biolabs社)中の試料(56μl)、10ユニットのPNK(T4ポリヌクレオチドキナーゼ3'ホスファターゼ、BioLabs社、Massachusetts、USA)及び水からなった。反応物を、表「プラスミドpcDNA3.1-pIXの調製に用いられた酵素」に従ってインキュベートした。
【0057】
pcDNA 3.1(商標)の消化及び精製
プラスミド鋳型(7μg pcDNA3.1(商標))を消化するために、50ユニットのXbaI及び50ユニットのEcoRV-HF制限エンドヌクレアーゼ(New England Biolabs社)並びに水を含むCutSmart(商標)バッファーにおいて制限酵素反応を実施した。反応混合物を、表「プラスミドpcDNA3.1-pIXの調製に用いられた酵素」に従ってインキュベートした。インキュベーション後、DNA鎖末端からホスフェートを除去し、それにより自己ライゲーションを防ぐために、混合物を、40μlの水、上記のバッファー、及び5ユニットのエビアルカリホスファターゼ(SAP)で希釈した。試料(70μl)へ14μlのローディングカラーを加えた。その後、試料を2つのウェルの1%アガロースゲルにピペッティングした。加えて、6μlのマーカーをゲルにピペッティングした。ゲルを100Vで55分間、泳動した。消化されたプラスミドDNAを、QIAquick(商標)ゲル抽出キットの使用説明書に従ってゲルから単離した。濃度を、NanoDrop(商標)分光光度計で測定した。
【0058】
タンパク質IX配列のpcDNA3.1へのライゲーション
ライゲーション反応は、pcDNA3.1(商標)プラスミド(50ngゲル精製プラスミド)、バッファー(10MmのATPを含むT4 DNAリガーゼバッファー)、リガーゼ(400ユニットのT4 DNAリガーゼ、New England Biolabs社)、挿入断片(41.6ngゲル精製挿入断片)、及び水からなった。インキュベーション及び不活性化条件は、表「プラスミドpcDNA3.1-pIXの調製に用いられた酵素」によった。
【0059】
pcDNA3.1-pIXプラスミドを用いた細菌の形質転換
ライゲーション試料を、熱ショック方法を用いて、One Shot(商標)Omnimax(商標)ブランドのケミカルコンピテント大腸菌(E. coli)(Invitrogen社)へ形質転換した。細胞を氷上で解凍し、その後、2μlのライゲーション試料を40μlの細胞と混合した。1μlのPuc19 DNAプラスミド(Invitrogen社)を陽性対照として用いた。試料を氷上で30分間、放置した。その後、それらを+42℃で30秒間、加熱した。その後、試料を2分間、保持した。その後、250μlのSOC培地(Invitrogen社)を加え、チューブを37℃、225rpmで70分間、インキュベートした。細胞(100μl)をアンピシリンプレート、50μg/ml AMP(Sigma Chemical Co.社、Missouri、USA)上にプレーティングし、+37℃で16時間、インキュベートした。
【0060】
正しいpcDNA3.1-pIXクローンについてコロニーをスクリーニングするためのコロニーPCR
細菌コロニーからの試料を、プレートから96ウェルプレート上のウェルの50μlの培地(溶原性ブロス(+AMP)、Sigma-Aldrich社、Missouri、USA)中へ収集した。プレートを+37℃、225rpmで2時間45分間、インキュベートした。培養されたコロニーを、表「コロニーPCRに用いられた反応混合物」に従って、PCR反応に供した。用いられたプライマーは、表「プライマー」に示されている。
【0061】
【表4】
【0062】
【表5】
【0063】
PCRは、Peltier PTC-200(商標)サーマルサイクラー(Bio-Rad社)において、表「コロニーPCRに用いられたプログラム」によるプログラムで実行された。
【0064】
【表6】
【0065】
PCR産物を、1%アガロースゲル(10μlの産物/ウェル+2μlローディングバッファー)上で120V、40分間、分離させた。また、上記のようにマーカーを含めた。上記のようにゲルを写真撮影した。ゲルに基づいて、pcDNA3.1-pIXプラスミドを含有する細菌コロニーを選択して、培養した。選択されたコロニーを4mlのLB-AMP培地中に置き、その培養物を+37℃、170rpmで16時間、成長させた。
【0066】
Miniprep精製
正しいプラスミドを有するのではないかと疑われる細菌を増殖させるために、コロニーPCR後4ml LB-Amp中で成長したpcDNA3.1-pIXトランスフェクション化細菌についてminiprep DNA精製を実施した。Macherey-Nagel GmbH社、Germany製のminiprepキットを用いた。試料濃度を、NanoDrop(商標)分光光度計でチェックした。
【0067】
pcDNA3.1-pIX構造を確認するための制限エンドヌクレアーゼ反応
精製プラスミドを、用いられるべき正しい挿入断片を有するプラスミドプレップを同定するためにSmaI制限消化に供した。消化反応は、プラスミド(300ng/反応)、1×CutSmart(商標)(New England Biolabs社)、10ユニットのSmaI制限エンドヌクレアーゼ(New England Biolabs社)、及び水からなった。インキュベーション及び不活性化条件は表「プラスミドpcDNA3.1-pIXの調製に用いられた酵素」によった。消化された試料を、レーンあたり20μl試料及び4μlのローディングバッファーを用いて、上記のように1%アガロースゲル上で分離させた。加えて、5μlのマーカーを1つのレーンへピペッティングした。ゲルを、110Vで45分間、及び130Vで15分間、泳動した。ゲルを上記のように写真撮影した。正しいpcDNA3.1-pIXプラスミドを制限酵素消化により確認した後、それをシーケンシングした(Gatc-biotech.com/lightrun)。このシーケンシングに用いられたプライマーは、表「プライマー」に示されている。
【0068】
細胞培養
ウイルス産生のためと、生じたウイルスの感染力をアッセイするための両方にHEK293細胞を用いた。細胞培地として、本発明者らは、10%ウシ胎仔血清(FBS)、2mMグルタミン、及び1%ペニシリン/ストレプトマイシンを追加したダルベッコの改変イーグル培地(DMEM)(Gibco、New York、USA)を用いた。細胞を、Hera Cell 150(商標)インキュベーター(Heraeus社、Germany)において+37℃、5%CO2で成長させ、培養物を、週2回、分割した。細胞カウンティングについて、培地を除去し、細胞をリン酸緩衝食塩水(Gibco、New York、USA)で洗浄した。細胞を、TrypLE Select(商標)(Gibco)を用いて解離させ、新鮮な培地中に懸濁した。細胞を、0.2%の最終濃度でのトリパンブルー(Invitrogen社)を用いて染色し、室温で2分間、インキュベートした。Countess II(商標)細胞カウンター(Invitrogen社)を用いて細胞をカウントした。以下の式を用いて、得られた細胞の数に従って、感染に必要とされるウイルスの数を計算した:
ウイルス÷[ウェルあたりの培地mL]=[細胞あたりのウイルスゲノム数×ウェルあたりの細胞数]÷1mL培地あたりのウイルスゲノム数
【0069】
安定的にpIXを発現するHEK293-pIX(stbl)細胞株
HEK293細胞に、pcDNA3.1-pIXプラスミドを用いてトランスフェクトし、選択試薬(Geneticin、200~600μg/ml)の存在下で培養した。細胞バンクを製造し、pIXの発現をウェスタンブロットゲル上で確認した。
【0070】
ウイルス産生
ウイルス産生の目的は、新しいバッチのアデノウイルスベクター及びアデノウイルスを産生し、そのうちの一部は、pIXの発現又は過剰発現により特徴づけられる細胞内環境において産生されることであった。本発明者らは、ベクターにおける違い(もしあれば)が、制御されない製造変動に起因するものではなかったことを検証するためにいくつかの別々の製造実行を行った。
【0071】
アデノウイルスベクター及びウイルス産生
ベクター及びウイルスを、ウイルス感染前に細胞の一部にトランスフェクトすることを除いて、標準アデノウイルス産生技術を用いる接着細胞培養において産生した。トランスフェクションの当日、約70~90%コンフルエンスを与えるような密度で25、75、若しくは175cm2細胞培養フラスコ又は500cm2の3層フラスコ(Thermo Fisher Scientific社)上にHEK293細胞及びHEK293-pIX(stbl)細胞をプレーティングした。ウイルスあたり合計1~5個のフラスコにプレーティングした。フラスコのうちのいくつかに、ウイルス感染前にタンパク質IX発現プラスミドをトランスフェクトした。
【0072】
抗pIX抗体を用いて、精製(CsCl+透析)されたアデノウイルスストックにおけるpIXの存在又は非存在を確認した。図7は、これらのアッセイの結果を示している。染色により、pIXコード領域を含むアデノウイルス、及びpIXを発現する産生細胞において産生されたアデノウイルスにおいて、pIXの存在が明らかにされているが、pIXコード領域を欠損し、かつpIXを発現しない産生細胞において産生されているアデノウイルスにおいてはその存在が明らかにされていない。本発明者らのデータは、pIXをコードしないアデノウイルス、Ad Aが、ウイルス産生細胞にpcDNA3.1-pIXプラスミドがトランスフェクトされていない限り、pIXを含有しないことを確認している。
【0073】
トランスフェクション
トランスフェクションについて、トランスフェクションの当日、細胞培地を新鮮な培地に置き換えた。培地交換後の培地体積は、問題のフラスコについて推奨される標準培地体積の約50%であった。pIXコードエリアを有するプラスミド(100~200ng/cm2培養面積)を、新鮮な培地又はNaCl溶液(フラスコあたりおよそ3ml)中に懸濁した。PEIpro又はJetPEI(Polyplus(商標))ポリエチレンイミントランスフェクション試薬を同体積中に希釈した。PEIを、プラスミドに対して1~2×質量比で用いた。GFP又はmCherry含有プラスミドを、トランスフェクション成功の蛍光顕微鏡法確認のためのトランスフェクション対照として用いた。希釈されたPEIを希釈されたDNAへ加え、混合し、その溶液を15~25分間、インキュベートした。その後、トランスフェクション混合物を細胞へ加えた。4時間後、培地を、10%FBSを含有する新鮮な培地と交換した。
【0074】
pcDNA3.1-pIXプラスミドでのトランスフェクションがpIX発現をもたらすことを確認するために、HEK293細胞にトランスフェクトし、48時間のインキュベーション後、抗pIX抗体で染色した。図6は、本発明者らの典型的な結果を示している。抗pIX(二次染色された赤色)に加えて、核(青色)及び細胞チューブリン(緑色)も染色した。標準蛍光顕微鏡を用いて細胞を研究した。図6は、抗体がタンパク質を認識していることを示し、pIXについて報告されているのと同じように核局在化を示すことを示している。
【0075】
ベクター及びウイルス感染
トランスフェクトされたフラスコのうちのいくつかへ、AdベクターB(pIXコード領域を有する)を加えた。他のフラスコへ、AdベクターA(pIXコード領域を欠損する)又は野生型アデノウイルスを加えた。それぞれは、40~200個のウイルス粒子又はウイルスゲノム/細胞で加えられた。フラスコのうちのいくつかを対照(例えば、mCherry及びGFPレポーターフラスコ、並びにランダムpcDNA3.1-pIXがトランスフェクトされたフラスコ)として保持した。2時間後、各フラスコへ培地を推奨される培養体積まで加えた。その後、更に48~72時間、フラスコをインキュベートした。感染した細胞を、培地から剥離し、およそ1100×g、室温で10分間、培地を遠心分離して、細胞をペレット化した。ペレットを1~4ml PBS中に再懸濁し、その後、細胞を溶解し、-80℃で凍結し、その後、+20~37℃にし、それを3回繰り返すことによりベクター/ウイルスを遊離させた。遠心分離(500~2000×g、10~20分間、+4℃)により細胞断片を分離した。
【0076】
必要に応じて、その後、上清からウイルス及びベクター粒子を精製した。ウイルス精製について、限外濾過チューブ(Beckman社、California、USA)においてCsCl勾配(6mlの1.45g/ml CsCl及び14mlの1.33g/ml CsCl)を作製した。そのチューブに細胞可溶化液上清を満たし、CsCl勾配を、28,000rpmでSW28(商標)ローター(Beckman社)を有するOptima(商標)LE-80K超遠心機(Beckman Coulter社)を用いて、76,220×g、+21℃で19時間、超遠心した。針(例えば、Microlance(商標)23XG、Becton Dickinson社、New Jersey、USA)及びシリンジ(テルモ株式会社、日本)を用いて、超遠心チューブからウイルスバンドを収集した。
【0077】
その後、Slide-A-lyzer(商標)10,000 MWCO透析カートリッジ(Thermo Scientific社)へウイルスを注入し、そのカートリッジを2リットルの無菌PBS中に浸漬した。CsClをPBSへ交換するためにおよそ2リットルの体積において4時間から一晩まで、異なるバッチについて異なる持続時間の透析バッファー交換を実施した。透析カートリッジからウイルスを針で収集し、その後、ウイルスを-80℃で保存した。
【0078】
ddPCR力価アッセイを用いてウイルス材料についての力価を決定した。トランスフェクション効率を検討するためにOlympus IX81、LUCPlan FLN 40X/0.60 Pl2∞/0-2/FN22(オリンパス株式会社、日本)を用いる蛍光顕微鏡法によりトランスフェクション対照を調べた。
【0079】
本発明者らはまた、フローサイトメトリーによりトランスフェクション効率を決定した。これについて、細胞をPBSで洗浄し、TryPLE Select(商標)を用いて細胞を解離させ、PBS中に細胞を再懸濁した。その後、細胞を300×gで5分間、遠心分離し、ペレットを500μl PBS中に再懸濁した。その後、PBS中4%パラホルムアルデヒド(Sigma-Aldrich社)の500μlをチューブに加え、その後、+4℃で15分間、チューブをインキュベートした。500×gで5分間の遠心分離により細胞をペレット化し、その後、PBSで洗浄し、上記のように遠心分離した。ペレットを再び、PBS中に再懸濁し、フローサイトメトリーにより陽性細胞の量を測定した。
【0080】
ddPCRでのアデノウイルス力価の決定
試料を、DNアーゼ及びプロテイナーゼK処理に供した。反応混合物は、試料(10μl)、DNA(2U、Invitrogen社)、及びバッファー(0.05体積% Pluronic F-68 (Gibco)を含むDNアーゼバッファー)からなった。混合物を、+37℃で30分間、インキュベートし、その後、それを95℃で10分間、不活性化した。プロテイナーゼK(2U、Roche社、Switzerland)及びバッファーを加えた。その後、+50℃で30分間、インキュベートし、その後、+95℃で20分間、不活性化した。ddPCRについての反応混合物は、表「ddPCRに用いられた反応混合物」に示され、用いられたプライマーは表「プライマー」に示されている。
【0081】
【表7】
【0082】
反応を、製造会社の使用説明書(自動液滴発生器、C1000 Touchサーマルサイクラー、QX200液滴リーダー、Bio-Rad社)に従って実行した。プログラムは、下記の表「ddPCRに用いられたプログラム」に示されている。結果を、Quantasoft(商標)1.7.4.0917(Bio-Rad社)プログラムにおいて分析した。
【0083】
【表8】
【0084】
アデノウイルス試料についてのウェスタンブロット及びクーマシー染色
ウイルス及び/又は細胞に含有されるタンパク質を、ウェスタンブロット及び/又はクーマシー染色の両方を用いて調べた。場合によっては、分析前に試料を+60℃で60分間、濃縮した(Concentrator plus/vacufuge plus、Eppendorf社、Germany)。試料にローディングバッファー(Laemmli、Bio-Rad社)をロードし、それらを+96℃で10分間、加熱した。Mini-PROTEAN(商標)TGXプレキャストゲル、4~20%(Bio-Rad社)を用い、22μlの試料/ウェル、更に8μlのPrecision Plus(商標)タンパク質マーカー(Standard Dual Color、Bio-Rad社)をピペッティングした。ゲルを、ラウリル硫酸ナトリウムバッファー(Bio-Rad社)において、PowerPac(商標)ベーシック電力供給装置(Bio-Rad社)を用いて80Vで15分間、その後、180Vで30分間、泳動した。その後、Trans-Blot Turbo(商標)膜、0.2μm PVDF(Bio-Rad社)上にゲルをブロットした。膜をブロッティング溶液(5%粉ミルク(Valio社、Finland)及び0.05% Tween(商標)20(Merck社)を含むPBS)中で1時間、インキュベートした。ブロッティング溶液を、ブロッティング溶液中1:500に希釈された一次抗体抗pIX(α-pIXウサギ)血清(Washington University in St. Louis School of MedicineのDavid Curiel教授及びIgor Dmitriev教授により提供された)に交換した。その後、膜を、+4℃、100rpmで20時間、インキュベートした。膜をPBS(0.05% Tween(商標)20添加)で10分間、4回、洗浄し、その後、ブロッティング溶液中1:3000に希釈された二次抗体(ヤギ抗ウサギIgG(H+L)-HRPコンジュゲート、Bio-Rad社)を加えた。その後、膜を室温、100rpmで3時間、インキュベートした。その後、ChemiDoc(商標)Touch画像化システム(Bio-Rad社)におけるChemi/UV/stain-freeトレイを用いて、画像をデジタル化した。
【0085】
クーマシーブルー染色において、収量とHEK293陰性対照の両方のウイルスのゲルの試料を染色した。上記のようにゲルを泳動した。その後、エタノールと酢酸(40%~10%)の混合物中、100rpmで15分間、ゲルを固定した。その後、ゲルを、水で4回、各5分間、洗浄し、QCコロイドクーマシー染色(Bio-Rad社)で、+4℃、100rpmで20時間、染色した。その後、ゲルを水で4回、各10分間、洗浄し、その後、それらを、ChemiDoc(商標)Touch画像化システム(Bio-Rad社)のwhiteトレイを用いてデジタル化した。
【0086】
アデノウイルス試料についての感染力試験
HEK293細胞を、12ウェルプレート上に2.4×105個/ウェルでピペッティングした。各ウェルに、10%FBSを含む培地の1mlを加えた。プレートを+37℃、5%CO2で約24時間、インキュベートした。細胞を、以前記載されているように、1ウェル/プレートからカウントした。ウイルスを、望ましい量(40~200vg/細胞)でウェルへピペッティングした。更に、陰性対照として、ウイルスを加えなかった。ウイルスに加えて、無血清成長培地を各ウェルへ500μlの最終体積を生じるように加えた。プレートを5%CO2において+37℃でインキュベートした。2時間後、培地を、10%FBSを含む新鮮な培地の1mlと交換した。その後、細胞を5%CO2において+37℃で46時間、インキュベートした。
【0087】
培養溶液を吸引し、細胞を300μlのTryPLE Selectを用いて取り出した。900μlのPBSをTryPLE Selectに加え、細胞をEppendorfチューブに移した。その混合物に、2mM MgCl2及び50ユニットのベンゾナーゼ(Merck Millipore社、Denmark)を加えた。その混合物を+37℃で10分間、インキュベートした。細胞を、500×gで5分間、遠心分離した。その後、細胞を固定するために、PBS、及び1:1のアセトン(VWR Chemicals社、Pennsylvania、USA)とメタノール(Sigma-Aldrich社)の混合物の500μlを加えた。細胞を+4℃で45分間、固定させた。その後、1mlのPBSを加え、その混合物を+4℃で保存した。
【0088】
その後、細胞を500×gで5分間、遠心分離し、PBSで洗浄し、再び遠心分離した。上清を除去し、PBS中1%BSAの500μlをブロッキング溶液として加え、上記のように遠心分離した。チューブに50μlのブロッキング溶液を残し、25μlのAdeno DFA Reagent(商標)抗ヘキソンモノクローナル抗体(Millipore Corp社、Massachusetts)を加えた。その後、+4℃で20分間、インキュベートし、その後、925μl PBSを加え、前述のように遠心分離した。上清を除去し、ペレットを150μlのPBS中に再懸濁した。その後、試料を96ウェルプレート上にピペッティングし、CytoFlex S Ordiorflowサイトメーター(Beckman Coulter社)を用いて読み取り、その結果をCytExpert(商標)ソフトウェアを用いて解析した。
【0089】
pIX発現確認のための細胞染色及び蛍光顕微鏡法
HEK293細胞を、Ibidi μ-slide(商標)#80826 8ウェルプレート(ibiTreat GmbH社、Germany)上の200μlのDMEM 10%FBS中にプレーティングした。そのスライドを5%CO2において+37℃で一晩、インキュベートした。
【0090】
100μl培地中の0.2μgのプラスミド(pcDNA3.1-pIX)を追加した100μl培地中の0.28μlのPEIproのトランスフェクション混合物を作製した。その混合物を撹拌し、室温で20分間、インキュベートし、その後、それを細胞に加えた。4時間後、培地を新鮮な培地に交換し、その後、細胞を+37℃、5%CO2で48時間、インキュベートした。細胞をPBSで洗浄し、2%PFAで固定した。20分後、0.1% Triton(商標)X-100(Fluka社、Switzerland)を細胞に加え、室温で10分間、インキュベートした。その後、細胞を、PBS中1%ウシ血清アルブミンのブロッキング溶液中で洗浄した。一次抗体としてブロッキング溶液中に1:500希釈された抗pIXモノクローナル抗体を用いた。その後、+4℃で一晩、インキュベートした。細胞を、2回、洗浄し、その後、ブロッキング溶液中に1:500希釈された、1.98mg/mlのAlexa Fluor 647ロバ抗ウサギ抗体、カタログ#150075(Abcam Limited社、UK)で処理し、室温で1時間、インキュベートした。その後、細胞をブロッキング溶液で2回、洗浄した。
【0091】
その後、150μlのNucBlue(商標)(Invitrogen社)をウェルに、2滴/ml、加えた。ブロッキング溶液中1:250 DM1A、FITCコンジュゲート型α-チューブリン抗体、カタログ#Ab64503(Abcam Inc.社)も加え、1時間、インキュベートした。その後、細胞をブロッキング溶液及びPBSで洗浄した。試料を、油浸レンズ(60×/1.35 UplanSApo∞/0.17/FN26.5)を有するOlympus(商標)IX81蛍光顕微鏡を用いて写真撮影し、CellSens(商標)標準ソフトウェア(オリンパス株式会社)により分析した。
【0092】
結果
本研究の本来の目的ではないが、本発明者らは、驚くべきことに、産生細胞におけるpIXの過剰発現がベクター産生の速度と、その結果として生じたアデノウイルスベクターが標的細胞に形質導入する速度の両方を増加させることを見出した。本発明者らはまた、これらのアデノウイルスが、標的細胞に投与された時、通常(タンパク質IXを含まない)のHEK293細胞において産生されたそれらの対応物より早い感染を示すことを観察した。
【0093】
本発明者らはまた、驚くべきことであって、直観と相容れないことには、産生細胞におけるpIXの発現が、pix欠失型ウイルスを産生することについてだけでなく、野生型アデノウイルスを産生することを含むpix含有型ウイルスについても有益な効果を生じることを見出した。
【0094】
本発明者らは、驚くべきことに、産生細胞がタンパク質IXを有するならば、それらの産生細胞において産生されたウイルスは、タンパク質IXを欠損する産生細胞において産生されたウイルスが達成するよりも速く細胞変性効果(CPE、ウイルス感染の徴候)を達成することを見出した。より具体的には、低い感染多重度(「MOI」)後、ARMウイルスは、3日以内にpIX過剰発現型細胞においてCPEを示したが、通常のHEK細胞は4日以内にCPEを示した。
【0095】
本発明者らはまた、産生細胞がpIXを発現するならば、その産生細胞は、pIXを発現しない産生細胞が産生するよりずっと速くベクターを産生することを見出した。
【0096】
本発明者らはまた、驚くべきことに、pIX発現型細胞において産生されたベクターは、pIXを発現しない産生細胞において産生された類似したベクターが形質導入するよりも効率的に標的細胞に形質導入することを見出した。
【0097】
本発明者らは、pIXを含むアデノウイルス遺伝子治療ベクターが、pIXを含まないベクターより迅速に標的細胞に感染及び形質導入すると結論づける。驚いたことに、本発明者らはまた、pIX発現型細胞において産生されたベクターのウイルス感染力(感染力/ウイルス粒子)の増加も観察した。
【0098】
本発明者らの実験は、pIXポリペプチドなしで、及びまたpIXと共に(アデノウイルスゲノムの一部として発現する、例えば、野生型アデノウイルスゲノムにおいてのようにか、又は別個のプラスミドで発現するかのいずれかで)、アデノウイルス遺伝子治療ベクターを製造することを評価している。本発明者らの結果は、pIXポリペプチドの存在する環境で製造されるアデノウイルスベクターは、pIXポリペプチドなしの環境で産生されたものより感染力が高いアデノウイルスベクター粒子を産生することを示している。感染力を増加させることにより、必要数の標的細胞を形質転換するのに必要とされるベクター粒子の数を低下させることができる。感染力を増加させることはまた、遺伝子治療ベクターの治療用量を投与することと特定のレベルの導入遺伝子発現を達成することの間のラグタイムを低下させる。
【0099】
pIX発現型産生細胞において生成されたベクターはより感染力が高い
Ad A(pix欠失型)とAd B(pix含有型)の2つのアデノウイルス遺伝子治療ベクターをそれぞれ、通常のHEK293細胞(pIXを発現しない)か又はpIXを一過性に発現するようにトランスフェクトされたHEK293細胞のいずれかにおいて産生した。これらの4つのベクターをCsCl勾配遠心分離及び透析技術を用いて精製した。カプシドに封入されたベクターゲノムの濃度を調べるためにベクターを、ddPCR方法を用いて力価測定した。図3は、pIXの感染力への効果を示している。本発明者らのデータは、pix発現型産生細胞においてpix欠失型アデノウイルスを産生することが、その生じたベクターの感染力を2倍より高くすることを示している。驚くべきことに、本発明者らのデータはまた、pix発現型産生細胞においてpix含有型アデノウイルスを産生することもまた、その生じたベクターの感染力を2倍より高くすることを示している。この所見は、驚くべきことで、なぜなら、pix発現型産生細胞において、アデノウイルスゲノムにおけるpix遺伝子は重複しており、追加される利益を与えることはないと当業者は予期したであろうからである。
【0100】
【表9】
【実施例6】
【0101】
pIXは標的細胞形質導入を加速する
産生細胞におけるpIXの発現は、標的細胞をより迅速に形質導入することができるウイルスベクターを産生するように思われる。
【0102】
図4は、4つの異なるアデノウイルスベクターのそれぞれで形質転換された標的宿主細胞のフローサイトメトリー分析を示す。パネルAは、ゲノム内にpIXコード領域を含む(及び、したがって、産生された時、pIXポリペプチドを発現する)アデノウイルス遺伝子治療ベクターについての結果を示す。パネルBは、pIXポリペプチドを発現するプラスミドがトランスフェクトされた(及び、したがって、pIXポリペプチドを発現する)HEK293細胞において産生された、同じベクターについての結果を示す。パネルCは、pixを欠損するゲノムから作り出され、かつHEK293細胞において産生され、したがって、HEK293細胞において製造された時、pIXを欠損する、アデノウイルス遺伝子治療ベクターについての結果を示す。パネルDは、pIXポリペプチドを発現するプラスミドがランスフェクトされたHEK293細胞において産生された、同じベクターについての結果を示す;したがって、これらのウイルス粒子は、産生された時、pIXを有する。各散布図について、ウイルス産生の明らかな終了点が、散布図の下部におけるx軸の中央に向かっての色の濃いクラスターによって示されており、それは、溶解した瀕死細胞の集団を示す。
【0103】
製造された時、pIXを含む3つのベクターのそれぞれは、実験時間枠内で溶解又は瀕死細胞のプルームを生じる。pIXを完全に欠損した1つのベクター(pIXネガティブ産生細胞において産生されたpIXネガティブウイルス、パネルC)は、実験時間枠内でそのようなプルームを生じなかった。そのプルームが起こると予想されただろう場所は、その図において矢印で示されている。
【0104】
これらの結果は、アデノウイルス遺伝子治療ベクターが、その感染性遺伝子治療ビリオンがpIXを有するならば、標的細胞の集団をより迅速に形質導入し得ることを示している。
【実施例7】
【0105】
pIXは感染力を増加させる
pIXは、ウイルス感染力を増加させるためにいくつかの方法で用いることができる。pIXは、ウイルス産生細胞において発現又は過剰発現することができ、その結果生じたウイルスは、pIXを含まない産生細胞において産生されたウイルスと比較して、より効率的に又はより速く進行するように見える感染を生じて、所定の時間内により多くの感染細胞を生じる。他方、pIXを発現する細胞において産生されたウイルスもまた、標的細胞へ投与された時、より多くの細胞に感染するように見える。前のアッセイにおいて、本発明者らは、標的細胞あたり、限定された数のウイルスゲノムを用いた。これは、pIXが実際にゲノムあたりの感染力を増加させているのか、又はもしかすると、単に、未知の機構を通してゲノム力価効力に影響しているのかという疑問を生じる。
【0106】
ゲノム力価測定段階を不要にするために、以前に用いられた同一の設定及び同体積(3×凍結融解後の5μl及び1mlへの希釈)でpix含有型ウイルスを産生した。このウイルスを用いて、7×104個のHEK293細胞が2日早く播種されているウェルへ感染させた。感染時間は21~23分間であった。およそ2.8~4.8×104個の細胞を各ウェルから分析した。
【0107】
本発明者らのデータは、pIXが、たいていの場合、体積あたりに生じる感染単位を非常に大きい数に増加させることを示している。野生型Adについて、一過性にトランスフェクトされたHEK293は感染力の増加をもたらした。Ad B(ゲノム内にpixを含有するアデノウイルス)について、安定的にpIXを発現する細胞が、形質導入単位生産力を最も高く増加させた。
【0108】
本発明者らはまた、標準(pIXネガティブ)HEK293細胞と比較して、安定的にpIXを発現する細胞においてARM感染力の減少を観察した。この減少は、用いられたHEK293(stbl)の観察された最適以下の培養密度による可能性が高かった。顕微鏡観察は、これらの細胞におけるARM複製速度が、本発明者らの以前の試験(データ未呈示)に用いられた対照と比較してわずかに増加したことを示している。Ad A+pcDNA3.1は重要な対照であり、その発現プラスミドだけ(pIXなし)が、感染力の増加の理由ではないことを示している。
【0109】
【表10】
【実施例8】
【0110】
pIXはRCAを引き起こさない
これらのデータは、本発明者らが観察したベクター生産力の増加が、複製可能なアデノウイルス(「RCA」)、例えば、野生型ウイルスの形成を引き起こすpIX発現によるものであったかどうかという疑問を本発明者らに投げ掛けた。
【0111】
これを研究するために、HeLa細胞を用いた。上記で用いた様々な型のアデノウイルスはHeLa細胞において通常では複製することができず、HEK293細胞と違って、HeLa細胞は、必要なアデノウイルス補完配列を欠損するからである。しかしながら、野生型アデノウイルスは、HeLa細胞において複製することができ、野生型ウイルスはRCAであり、そのようなものとして、補完を必要としないからである。したがって、細胞に、匹敵する数のベクター又は野生型ウイルスを感染させ、感染から5日後、細胞を写真撮影した。本発明者らの写真は、ウイルス複製の徴候(視覚的に、丸みを帯びた浮遊する細胞のように見える)を示す細胞だけが、野生型アデノウイルスに感染したものであることを示している。対照的に、pIXがウイルスゲノムによりコードされようが組換えHeLa細胞において発現しようが、pIX自体はウイルス複製をもたらさなかった。これらの結果を図8及び図9に示している。加えて、様々なウェルからの培地を従前の感染力アッセイにおいて試験した時、RCAは、アデノウイルス参照材料(「ARM」、野生型アデノウイルス)を用いた場合のみ見出された(データ未呈示)。
【実施例9】
【0112】
pIXは浮遊培養収量を増加させる
上記の本発明者らの結果は、pIXを含有する環境で産生された場合には、アデノウイルスはより感染力が高く、感染動態の向上、すなわち、より速い標的細胞の形質導入、より少ない感染性粒子又はプラーク形成単位により達成される所定のレベルの形質導入、及びより速い子孫アデノウイルスの産生を示すことを示している。したがって、タンパク質IXは向上したアデノウイルスベクターを作り出す。
【0113】
産生細胞において発現したタンパク質IXはまた、もう一つの驚くべき利益を生じる。当技術分野は、2つの一般的な型の産生細胞培養:接着培養及び浮遊培養を教示している。その2つは、ウイルスを製造することができる細胞培養を提供するという共通の目的を共有する。しかしながら、その2つの細胞培養型は、本明細書において関連した2つの違いをもつ。
【0114】
第1に、浮遊細胞培養は、接着培養より著しく安価であり、したがって、それより好ましい。
【0115】
第2に、その2つの培養方法は、予測できないほど異なる収量を提供する:ある特定のアデノウイルスバリアントについて、接着培養は浮遊培養よりはるかに効率的である。上記の実施例2参照。いずれの細胞培養アプローチが最も効率的に特定のアデノウイルスバリアントを産生するかを見つけ出すことは、今まで、せいぜい試行錯誤するしかなく、当技術分野は、いずれの細胞培養アプローチが所定のアデノウイルスを産生するのに最も良いかを予測するための結果にとって重大な意味をもつパラメータを少しも同定していないからである。
【0116】
本発明者らは、何の気なしに、かつ驚くべきことに、結果にとって重大な意味をもつパラメータを発見した。浮遊培養中の産生細胞における安定的なpIX発現の効果を試験した。上記で論じられているように、CMVプロモーターの調節下でのpIXコードプラスミドでの一過性トランスフェクションが、高レベルのpIX発現を生じることを本発明者らは見出した。その後、これらのpIX発現型細胞を用いて、ゲノム内に発現pIX遺伝子を有するアデノウイルスを作製した。本発明者らは、産生細胞における高レベルのpIXが、生じたベクターについてウイルスゲノムあたりの形質導入単位の比(「TU:vg」比)を増加させることを見出した。これは、産生細胞によって発現したpIXが、産生されたウイルスゲノムが成功裏にパッケージングされる可能性を向上させたことを暗示する。しかしながら、ベクター生産力への全体的な効果はポジティブではなかった。
【0117】
本発明者らは、トランスフェクションが産生細胞にストレスを加えると推論した。また、「空」pcDNA3.1プラスミドトランスフェクション後の、実施例7におけるウイルス産生における低い数の感染単位は、ウイルス生産力が、トランスフェクションが原因で損失を被ることを示唆している(これは、本発明者らがこの現象を見た唯一の例ではない)。本発明者らは、異なるpIX濃度が異なる結果を示し得ると仮定した。本発明者らはまた、安定的にpIXを発現する細胞株が、一過性にトランスフェクトされた細胞より低いpIX発現を生じると予想されることを知った。したがって、本発明者らは、浮遊培養における低pIX発現の効果を試験することを始めた。安定的にpIXを発現するHEK293細胞(上記のように構築された)及び通常のHEK293細胞を、浮遊培養に適応させた。その後、これらの浮遊培養適応化細胞をCorning(登録商標)50mLミニバイオリアクターにおいて成長させた。両方の細胞株(HEK293及びHEK293+pIX)の2つのバイオリアクターに、機能性発現pIX遺伝子を含有するアデノウイルスか、又はpIX欠失型ゲノムを有するアデノウイルスかのいずれかを感染させた。3日後、浮遊細胞にアデノウイルスを感染させ、培地をサンプリングし、細胞を溶解して、それらの内部のいかなるウイルスも遊離させた。培地(これは、細胞外ウイルスゲノムの測定値を提供する)から、及びまた粗収集材料(これは、細胞内ウイルスゲノムの測定値を提供する)からのウイルスゲノム力価を測定した。その後、総生産力を細胞外+細胞内ウイルスとして計算した。
【0118】
浮遊培養のための材料及び方法
接着性に成長する細胞を、接着細胞を剥離し、遠心分離(209~400×g、5分間)を用いて細胞をペレット化することにより、浮遊培養に適応させた。上清(接着細胞培地)を除去し、細胞を浮遊培養培地(Sigma-Aldrich社製のEX-CELL(登録商標)293無血清培地)中へ懸濁した。細胞を再び、遠心分離し、上清を除去した。細胞を浮遊培養培地へ再懸濁し、カウントした。カウンティング後、細胞を、3~20ml体積において5e5~1e6個の細胞/mlへ希釈し、50mlミニバイオリアクターに入れ、その後、通常の細胞培養インキュベーター内において振盪機用プラットフォーム(180rpm振盪、45度の角度でのチューブ)上で成長させた。週2~3回、細胞をカウント及び/又は観察し、培養物を新しい培地で希釈し、又は培地を上記のように新しくした。感染について、細胞を、5ml体積において5×105個の細胞/mlで播種した。播種の翌日、細胞に50vg/細胞を用いて感染させ、その感染物を3日間、インキュベートした。4mlの細胞懸濁液を試験管へ採取し、細胞を20℃、209×gで5分間、遠心分離した。上清を取り出し、ddPCRのためにサンプリングした。細胞ペレットを3ml PBS中に懸濁し、-80℃で保存した。ddPCRを、前に記載されているように、3回の凍結融解サイクル後、実施した。
【0119】
本発明者らは、発現pIX遺伝子を含むウイルスが、浮遊培養産生細胞がpIXを発現するかどうかに関わらず、ほぼ同じ収量で産生されることを見出した;pIXプラスミドを産生細胞へ含めることは、収量をたった3%だけ、増加させる。対照的に、発現pIX遺伝子を含まないウイルスは、浮遊培養産生細胞がpIXを発現するかどうかに依存して大きく異なる量で産生されることを見出した;pIXプラスミドを産生細胞に含めることは、収量を約1,400%、増加させる。
【0120】
【表11】
【0121】
この収量の増加は意義があり、当業者が、接着細胞培養を用いて達成されるものと類似した収量で浮遊細胞培養においてpIX欠失型アデノウイルスを初めて生産することを可能にしているからである。
【0122】
pIXがウイルス産生中に発現していない場合、アデノウイルスは、より費用がかかりかつ面倒な接着細胞培養アプローチを用いて製造しなければならない可能性が高い。対照的に、pIXがウイルス産生中に発現している(例えば、ウイルスゲノムの発現部分として、又は産生細胞におけるプラスミド由来のpIX導入遺伝子として)場合、より経済的かつより単純な浮遊細胞培養を用いて類似したウイルス収量を達成することができる。
【実施例10】
【0123】
本発明者らは、pIXが、C末端で切り詰められているとしても、及びその切り詰めがかなりであるとしても、それの効果を保持することを見出した。
【0124】
野生型アデノウイルスタンパク質IXは、およそ140アミノ酸を含有するが、正確な長さは、血清型及び種によって異なる。ヒトアデノウイルス血清型1、2、及び5由来の野生型タンパク質IXは、140アミノ酸を含有する。配列番号9、10、及び11を参照。対照的に、ヒトマストアデノウイルス血清型E由来の野生型タンパク質IXは142アミノ酸を含有し、配列番号12を参照されたい。サルアデノウイルス血清型21由来の野生型タンパク質IXは138アミノ酸を含有し、配列番号13を参照されたい。C末端で切り詰められ、かつ111アミノ酸だけを含有するタンパク質IXのバリアントを試験した。配列番号14参照。本発明者らは、この切り詰め型が完全長野生型タンパク質IXと同じくらい良く、機能することを見出した。したがって、他の切り詰め型もまた同等に機能するだろうと推測する。配列番号15、16参照。
【0125】
したがって、添付の法的な特許請求の範囲において、本発明者らは、用語「アデノウイルスタンパク質IX」を、文字通り、完全長(野生型)タンパク質IXと、完全長pIXに関して観察された上記で論じられた利点を保持する野生型タンパク質の切り詰め型の両方を包含するように用いている。これは、例えば、野生型ポリペプチドの70%だけを残すように切り詰められた、又は野生型ポリペプチドの少なくとも75%、80%、若しくは90%を残すように切り詰められた型を包含する。それはまた、野生型配列又はその一部分と90%、95%、98%、及び99%相同的なアミノ酸配列を有するタンパク質IX変異体も包含する。法的な特許請求の範囲が特定のアミノ酸配列を必要とし、かつ機能的等価の切り詰め型又は変異体を排除する場合、特許請求の範囲は、その特定のアミノ酸配列についての配列番号を提示し、機能的等価の切り詰め型又は変異体を明確に排除する。
【0126】
要約
本明細書におけるAdベクターAのような、全てのアデノウイルス遺伝子治療ベクターは、pIXを含有しない。対照的に、本発明者らは、驚くべきことに、通常の量より多いpIXを含むアデノウイルス遺伝子治療ベクターが、標的細胞により迅速に感染し、形質導入し、及び複製することを見出した。したがって、本発明者らの発明は、アデノウイルス遺伝子治療ベクターの感染力を、超生理学的量のpIXをそのベクター上に含めることにより、増加させることに関する。
【0127】
疑いを避けるために、本発明者らの添付の法的な特許請求の範囲において、本発明者らは、用語「発現可能な遺伝子」を、機能性産物を直接的又は間接的に産生する核酸配列を包含するように用いる。その機能性産物はポリペプチドであってもよい。或いは、機能性産物は、アンチセンスRNA配列、siRNA配列、又は別の型の機能性RNAであってもよい。本発明者らの使用は、当技術分野におけるそれと一致している。例えば、Wikipediaは、「遺伝子は、機能を有する分子をコードする、DNA又はRNAにおけるヌクレオチドの配列である。遺伝子発現中、DNAはまず、RNAへコピーされる。RNAはそのままで機能的であり得、又は機能を実施するタンパク質についての中間鋳型であり得る。」と述べている。同様に、NIHのウェブサイトは、「いくつかの遺伝子は、タンパク質と呼ばれる分子を生成するための指令として働く。しかしながら、多くの遺伝子は、タンパク質をコードしない。」と述べている。https://ghr.nlm.nih.gov/primer/basics/gene参照。
【0128】
特定の実験結果が公開されたならば、当業者は、等価のバリアント又は改変を容易に作製することができる。例えば、本発明者らの特定の実験は接着性ヒト産生細胞においてアデノウイルスを作製するが、浮遊系又は昆虫細胞を用いて等価のアデノウイルスを作製することができる。同様に、本明細書における本発明者らの特定の実験は野生型pIXを用いたが、当業者は、本明細書における野生型タンパク質が達成するのと同じ結果を達成するように同じ様式で同じ機能を実施するpIX類似体、バリアント、及び変異体を容易に同定することができる。例えば、タンパク質IXのhisタグ付きバージョンは、本発明者らの研究所においてすでに構築されている。同様に、導入遺伝子について、当技術分野は、短い形の、VEGF-D3、エンドスタチン、アンジオスタチン、チミジンキナーゼ、ヒトインターフェロンアルファ-2b、ABCA4、ABCD-1、ミオシンVIIA、シクロオキシゲナーゼ-2、PGF2-アルファ受容体、ドーパミン、ヒトヘモグロビンサブユニットベータ、及び抗体サブユニットがアデノウイルスベクターにおける導入遺伝子としての使用に適していると教示している。したがって、本発明者らは、本発明者らの特許の法的範囲を、本発明者らの特定の例によるよりむしろ、本発明者らの法的な特許請求の範囲及びその等価物により定義されることを意図する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
2022532138000001.app
【国際調査報告】