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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-13
(54)【発明の名称】透明材料のレーザ加工方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/53 20140101AFI20220706BHJP
   B23K 26/064 20140101ALI20220706BHJP
   B23K 26/122 20140101ALI20220706BHJP
   C03B 33/09 20060101ALI20220706BHJP
   C03B 33/023 20060101ALI20220706BHJP
   C03C 15/00 20060101ALI20220706BHJP
【FI】
B23K26/53
B23K26/064 Z
B23K26/122
C03B33/09
C03B33/023
C03C15/00 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021568330
(86)(22)【出願日】2020-05-14
(85)【翻訳文提出日】2022-01-11
(86)【国際出願番号】 IB2020054549
(87)【国際公開番号】W WO2020230064
(87)【国際公開日】2020-11-19
(31)【優先権主張番号】2019028
(32)【優先日】2019-05-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】LT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515135882
【氏名又は名称】ユーエービー アルテクナ アールアンドディー
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ミクティス、ミンダウガス
(72)【発明者】
【氏名】ウルシナス、オレスタス
(72)【発明者】
【氏名】ゲルタス、ティタス
(72)【発明者】
【氏名】アーバス、アンタナス
【テーマコード(参考)】
4E168
4G015
4G059
【Fターム(参考)】
4E168AE01
4E168CB07
4E168EA11
4E168FB07
4E168JA14
4G015FA01
4G015FA06
4G015FB01
4G015FC10
4G059AA01
4G059AB11
4G059BB04
4G059BB12
4G059BB14
(57)【要約】
レーザ波長に対してほぼ透明な材料を加工する方法は、特定のゾーンに特有の規則に従ってパンチャラトナム・ベリー位相を変化させる複屈折構造の少なくとも2つのゾーンを含む光学素子によって非中心対称で非回折のビームを形成することを含む。エネルギー、位相及び偏光の分布は、この素子に接近する光のパラメータに依存する。パルスのエネルギーは、分布の主極大を用いて所望の方向に伸長する間隙を形成するように選択され、副極大は、隣接するパルスからのダメージ間の化学的性質の変化を形成する。間隙のダメージ及び化学変化のゾーンは所望の切断線を形成する。このように加工されたワークピースは化学的に強力な溶液中に配置され、レーザ光の影響を受けたゾーンは影響を受けていないゾーンよりもはるかに速く溶解される。これにより、最大で1/50のアスペクト比を有する切り込みを実現することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークピースの材料に切断面又は分割面を形成することによって透明な材料を加工する方法であって、2つの加工段階、即ち
ワークピースのパーツを互いに完全に分離することなく、レーザを用いて切断面又は分割面を形成するA段階であって、
A.1 TEM00モードのコヒーレントな超短パルスレーザ放射ビームをレーザによって生成するステップと、
A.2 前記レーザ放射ビームの設定された直径、全パルスエネルギー、及び光の偏光を形成する光学系に、生成された前記レーザ放射ビームを入射させるステップと、
A.3 入射した前記レーザ放射ビームを所定の規則に従って変換する光学素子に、前記ステップA2で形成された前記レーザ放射ビームを入射させるステップと、
A.4 形成された前記レーザ放射ビームを、前記レーザビーム放射に対してほぼ透明な材料である前記ワークピースに局在化させ、レーザ放射パルスの所定のパラメータは、加工される前記ワークピースの焦点領域において、レーザ放射エネルギー密度が前記ワークピース材料の特性を変化させるのに十分であることを確実にする、ステップと、
A.5 前記ワークピースにおける前記レーザ放射ビームの焦点がそれぞれ移動し、必要な数のダメージ領域を生成して所望の軌跡の切断面及び/又は分割面を形成するように、加工される前記ワークピースを前記レーザ放射ビームに対して制御可能に移動させるステップと、
を含むA段階と、
前記ワークピースを化学媒体の中に配置し、前記ダメージ領域において前記ワークピース材料をエッチングすることにより、前記A段階の際に形成された前記切断面及び/又は分割面の前記軌跡に基づいて前記ワークピースのパーツを互いから完全に分離する、B段階と、
を含み、
前記ステップA.3では、垂直な前記レーザ放射ビームのパンチャラトナム・ベリー位相(PBP)を滑らかに変化させる複屈折構造を備える光学素子(10)において、前記レーザ放射ビームの変換が前記所定の規則に従って行われ、PBP変換規則と、前記素子に接近する前記レーザ放射ビームに対する向きとが異なる前記構造の少なくとも2つの領域が前記光学素子(10)に形成されており、少なくとも2つの前記構造領域は少なくとも2つのサブビームをそれぞれ形成し、前記構造領域は、直線状、放射状あるいは方位角状のような偏光の種類、及び/又は前記素子における切り込みあるいは裂け目の前記軌跡の方向に対する直線状の偏光面の向きなど、前記光学素子(10)に接近する前記レーザ放射の前記パラメータに応じて、前記サブビームのエネルギー、位相及び偏光の分布を変える能力を有し、形成された前記サブビームは互いに干渉して、設定された前記エネルギー、位相、及び偏光の焦点線の偏心対称分布を有し、前記レーザ放射ビームの伝播方向に垂直な面においてより良い伸びを有する全非回折レーザ放射ビームを得、前記ステップA.2で形成された、前記光学素子(10)に接近する前記レーザ放射の前記パラメータを変更することによって前記分布の所望の形を得ることができ、前記非回折レーザ放射ビームの前記偏心対称分布は、光の伝播に垂直な前記面に、密度ρを有する前記パルスのエネルギーの大部分を含む長円形の主エネルギー極大と、エネルギー密度がρ/6とρ/3の間である、前記面において細長い形の副エネルギー極大とを有し、
得られた前記全レーザ放射ビームをワークピースにおいて局在化させ、各レーザ放射パルスは細長い一般的なダメージ領域を形成し、前記ダメージ領域は、前記主エネルギー極大の影響による空隙及び/又はクラックによって形成される物理的変化と、前記副エネルギー極大の影響によって前記ワークピース材料に生じる化学変化とからなり、前記ワークピースの前記一般的なダメージ領域は、前記素子(10)を軸を中心に回転させ、加工される前記ワークピースを制御された態様で移動させることによって前記切り込み及び/又は裂け目の軌跡に沿って方向づけられ、これにより、形成される細長い前記ダメージ領域が、加工される前記ワークピースの材料の物理的変化によって、前記切り込み及び/又は裂け目の軌跡に沿って間隙を伴って長手方向に次々と位置決めされ、
一方、前記ステップA.4及び前記ステップA.5では、前記ワークピース材料の化学変化によって生じる前記ダメージ領域が、ダメージの物理的変化によって生じた前記ダメージ領域を、前記切り込みの軌跡に沿って、隣接する共通のダメージ領域が隣り合うか又は部分的に重なる程度まで拡張させるように、前記レーザパルスのエネルギー及び出力、ならびに前記ワークピースの移動速度が選択され、前記B段階では、前記化学媒体は前記切り込みの軌跡全体にわたって前記ワークピース材料に同時に作用することを特徴とする、前記方法。
【請求項2】
形成される前記細長い共通のダメージ領域は楕円形の面にあり、前記楕円形の面は前記光の伝播方向に垂直でほぼ一定の大きさであり、前記方向に沿った平均値から+/-15%以下の範囲で変化することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記切断面又は分割面の前記軌跡は、1つより多くの非回折ビームを前記切断面又は分割面の前記軌跡に沿って前記ビームの横方向の寸法に匹敵する距離で広げることにより、前記細長い共通のダメージ領域から形成されることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ワークピースの物理的変化による前記細長いダメージは、前記ダメージの幅を少なくとも1.5倍超える段差を有して配置されることを特徴とする、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記ステップBにおいて、KOH、NaCO、HF、HClの溶液など、選択された化学的に活性ないくつかの液体に前記ワークピースを連続的に浸漬し、前記ワークピースの前記ダメージ領域に形成されて残っている先の化学反応の生成物を、前記ワークピースに影響を及ぼす別の溶液に移して溶解することを特徴とする、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
透明材料の加工装置であって、
レーザ放射ビームのパルスエネルギー、光の偏光、及び直径を変化させる光学系に入射されるTEM00モード(2)の超短パルスレーザ放射ビームを生成するレーザ(1)であって、これにより、前記光学系で形成された前記レーザ放射ビームは、入射ビームを所定の規則に従って変換するように意図された光学素子を介して、加工されるワークピース(19)に局在化され、前記ワークピース材料は前記レーザ放射ビームに対してほぼ透明であり、前記光学系で形成された、選択された前記レーザ放射ビームパルスのパラメータは、焦点領域において前記ワークピース材料の特性を変化させるのに十分なレーザ放射エネルギー密度を確実にする、レーザ(1)と、
前記ワークピースにおける前記レーザ放射ビームの焦点が移動するように、加工される前記ワークピースを前記レーザ放射ビームに対して移動させ、必要な数のダメージ領域を生成し、前記ワークピースに所望の軌跡の切断面及び/又は分割面を形成するように意図された制御可能な位置決め機構と、
前記ダメージ領域において前記ワークピース材料をエッチングする化学媒体を含む容器であって、前記ワークピースを中に配置し、形成された前記切断面及び/又は分割面の前記軌跡に従って前記ワークピースのパーツを互いから分離するように意図されている、容器と、
を含み、
前記レーザ放射ビームの経路にある前記光学系の外側に位置し、入射する前記レーザ放射ビームを前記所定の規則に従って変換するように意図された前記光学素子(10)は、垂直な前記レーザ放射ビームのパンチャラトナム・ベリー位相(PBP)を均一に変化させる複屈折構造を有し、これにより、PBP変換規則と、前記素子に接近する前記レーザ放射ビームに対する向きとが異なる前記複屈折構造の少なくとも2つの領域が前記ワークピースに配置され、前記構造領域は、少なくとも2つの干渉するサブビームを形成して、予め定義された前記エネルギー、位相、及び偏光の焦点線の偏心対称分布を有し、前記レーザ放射ビームの伝播方向に垂直な面においてより良い伸びを有し、主エネルギー極大及び副エネルギー極大を有する全非回折レーザ放射ビームを生成し、前記光学素子(10)は、軸を中心に回転して前記素子(10)の位置を変更し、中に形成された前記複屈折構造を変更する取付機構(12)に取り付けられており、前記素子(10)によって形成された前記全非回折レーザ放射ビームは、集束光学系(15、16、17)を介して前記ワークピースにおいて局在化され、前記機構(12)によって前記光学素子(10)を回転させることで、前記切断線の前記軌跡に沿った、形成された前記細長いダメージ領域の向きが変更され、前記ワークピース材料の物理的変化及び化学変化からなる、形成された前記細長い共通のダメージ領域が切り込み及び/又は裂け目の前記軌跡に沿って長手方向に次々と配置される態様で、前記制御可能な位置決め機構が前記ワークピースを移動させ、これにより、形成された前記細長いダメージ領域は、前記ワークピース材料の物理的変化により、切り込み及び/又は裂け目の前記軌跡に沿って間隙を伴って長手方向に次々と位置決めされ、前記ワークピース材料の化学変化によって生じる前記ダメージ領域が、前記切り込みの軌跡に沿って、隣接する共通のダメージ領域が隣り合うか又は部分的に重なる程度まで拡張する、前記装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレーザの分野に属し、透明媒体の加工に関するもので、超短パルスレーザ放射ビームを用いることにより、異なる種類のガラス、化学強化ガラス、サファイア、及び他の結晶材料を含む透明媒体の切断、分割、及び他の加工に使用することができる。
【背景技術】
【0002】
透明材料のワークピース(加工物)に非常に小さな寸法の穴をあけたり自由な形の切り込み(cut)を入れたりするために、レーザによる方法が用いられている。従来のレーザ微細加工(穴あけ、切断、溝形成など)の方法は一般に、対象となる領域(affected area)にレーザパルスのエネルギーを集中させることにより材料を除去するアブレーションに依存している。このためにフェムト秒レーザを使用すると穴や切り込みのエッジがきわめてきれいなものになり、このようなレーザによって加工できない材料は実質的にない。しかしながら、アブレーションには根本的な欠点がある。それは、非常に細い間隙や直径の小さい穴から材料を取り除くことができないことである。これは、切り込みの底部から取り除かれている材料が対象領域の上の壁に蓄積し、光を徐々に遮ってしまうという事実のためである。この欠点は、レーザパルスが所望の分割線に沿ってダメージ領域を生じる分割分離を使用することによって回避される。しかしながら、曲率の高い線に沿ってワークピースを分割する場合、そして特に穴をあける必要のある場合、この方法は非常に限定的である。ワークピースがガラスからなり、特にそのガラスが強化されている場合、この作業はより複雑になる。ガラスは、(半導体構造の基礎としての)半導体技術、微小電気機械システムの製造、及び微小流体デバイスの製造に使用される材料の中でも近年重要性が高まっている。これらの分野はいずれも、任意の形状の切り込み、穴又はチャンネルを形成する能力を必要とする。最近はレーザ法と化学エッチングの組み合わせが用いられており、この組み合わせによってこれらの方法の能力が大きく拡張されている。
【0003】
公知の類似物は、レーザの影響を受けた材料の酸又はアルカリによるエッチングを用いている。米国特許出願公開第20180029924号明細書は、紫外線レーザであけた穴をHF酸でエッチングする方法を記載しており、レーザの影響を受けた材料が影響を受けていない材料よりも速くエッチングされるという特性を利用している。このようにして得られた穴は加工物の厚みにわたって直径が異なり(通常は砂時計の形をしている)、穴はエッチングの際に全ての方向に均一に広がる。このことにより、切断線全体のエッチングの際に穴と穴の間のピッチとほぼ同じ幅の切り込みが生じる。
【0004】
米国特許出願公開第2018037489号明細書で提案されている方法も方向性を示さず、エッチングの際、レーザであけた穴は全ての方向に均等に広がる。この方法は切り込みや溝を作るためのものではなく、円形の穴のみを対象としたものである。
【0005】
米国特許第9517963号は、レーザであけた穴をエッチングによって均等に広げることを用いた方法を記載している。この方法では、中心対称である非回折ベッセルビームを用いてガラスに穴をあけるため、穴は円形で指向性がない。この方法は均等な切り込みをエッチングするという選択肢を提供せず、穴を結ぶ線に沿った加工物の分割を容易にするだけにすぎない。記載した方法を用いることにより、ワークピースの穴の入口と出口で大きな傾斜がついてしまう。即ち、穴の形状が円筒状から大きく外れてしまい、不規則な形の傾斜がついた切り込みが生じてしまう。また、レーザで穴をあけると、その周囲に予測できない形状のマイクロクラックが形成され、そこにガラスをエッチングする酸が広がると、穴が大きくなると同時に破断の滑らかさが損なわれてしまい、クラックのランダムな性質のために破断が分割線に沿った均等なものにならなくなってしまう。
【0006】
欧州特許第3102358号は、レーザであけた穴をエッチングを用いて大きくし、これらの穴を利用して穴から形成された輪郭に沿ってガラスを割ることを目的とした方法を記載している。エッチング処理の方向性が求められたり制御されたりすることはなく、穴はつながっていない。
【0007】
米国特許出願公開第20160152508号明細書は、レーザであけられ、エッチングで広げられた穴の線に沿ってガラスのワークピースを分離する方法を記載している。エッチング処理の方向性が求められたり制御されたりすることはなく、穴はつながっていない。
【0008】
上述のようなレーザ及び化学処理を組み合わせた方法を用いて、十分な厚みのガラス片にガラスの穴をあけることができ、これにより、ガラスの厚みと直径の比として20から30以上が得られる。これらの主な問題は、影響を受けたガラスをHF、BHF、HF+HNOなどの強力な酸やその混合物でエッチングした後、得られる穴の形状が円筒形から大きく外れ(例えば「砂時計」)、これらのエッジは直立しておらず、直径の5から10%の大きな傾斜がついていることである。これは、殆どの用途には受け入れがたい。影響を受けたガラスをNaOH又はKOHなどのアルカリでエッチングすると、穴の形状は酸を用いた場合よりもはるかに正確になるが、処理自体が非常に遅く、長さ数マイクロメートルの間隙のエッチングに数時間かかる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、透明材料を分割又は切断する際の透明材料の加工品質を向上させると同時に加工精度を高めることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記問題を解決するために、本発明の、ワークピースの材料に切断面又は分割面を形成することによる透明材料の加工方法が提案される。この方法は2つの加工段階を含み、即ち、
ワークピースのパーツを互いに完全に分離することなく、レーザを用いて切断面又は分割面を形成するA段階であって、
A.1 TEM00モードのコヒーレントな超短パルスレーザ放射ビームをレーザによって生成するステップと、
A.2 前記レーザ放射ビームの設定された直径、全パルスエネルギー、及び光の偏光を形成する光学系に、生成された前記レーザ放射ビームを入射させるステップと、
A.3 入射した前記レーザ放射ビームを所定の規則に従って変換する光学素子に、前記ステップA2で形成された前記レーザ放射ビームを入射させるステップと、
A.4 形成された前記レーザ放射ビームを、前記レーザビーム放射に対してほぼ透明な材料である前記ワークピースに局在化させ、レーザ放射パルスの所定のパラメータは、加工される前記ワークピースの焦点領域において、レーザ放射エネルギー密度が前記ワークピース材料の特性を変化させるのに十分であることを確実にする、ステップと、
A.5 前記ワークピースにおける前記レーザ放射ビームの焦点がそれぞれ移動し、必要な数のダメージ領域を生成して所望の軌跡の切断面及び/又は分割面を形成するように、加工される前記ワークピースを前記レーザ放射ビームに対して制御可能に移動させるステップと、
を含むA段階と、
前記ワークピースを化学媒体の中に配置し、前記ダメージ領域において前記ワークピース材料をエッチングすることにより、前記A段階の際に形成された前記切断面及び/又は分割面の前記軌跡に基づいて前記ワークピースのパーツを互いから完全に分離する、B段階と、
を含み、
前記ステップA.3では、垂直な前記レーザ放射ビームのパンチャラトナム・ベリー位相(PBP)を滑らかに変化させる複屈折構造を備える光学素子(10)において、前記レーザ放射ビームの変換が前記所定の規則に従って行われ、PBP変換規則と、前記素子に接近する前記レーザ放射ビームに対する向きとが異なる前記構造の少なくとも2つの領域が前記光学素子(10)に形成されており、少なくとも2つの前記構造領域は少なくとも2つのサブビームをそれぞれ形成し、前記構造領域は、直線状、放射状あるいは方位角状のような偏光の種類、及び/又は前記素子における切り込みあるいは裂け目の前記軌跡の方向に対する直線状の偏光面の向きなど、前記光学素子(10)に接近する前記レーザ放射の前記パラメータに応じて、前記サブビームのエネルギー、位相及び偏光の分布を変える能力を有し、形成された前記サブビームは互いに干渉して、設定された前記エネルギー、位相、及び偏光の焦点線の偏心対称分布を有し、前記レーザ放射ビームの伝播方向に垂直な面においてより良い伸びを有する全非回折レーザ放射ビームを得、前記ステップA.2で形成された、前記光学素子(10)に接近する前記レーザ放射の前記パラメータを変更することによって前記分布の所望の形を得ることができ、前記非回折レーザ放射ビームの前記偏心対称分布は、光の伝播に垂直な前記面に、密度ρを有する前記パルスのエネルギーの大部分を含む長円形の主エネルギー極大と、エネルギー密度がρ/6とρ/3の間である、前記面において細長い形の副エネルギー極大とを有し、
得られた前記全レーザ放射ビームをワークピースにおいて局在化させ、各レーザ放射パルスは細長い一般的なダメージ領域を形成し、前記ダメージ領域は、前記主エネルギー極大の影響による空隙及び/又はクラックによって形成される物理的変化と、前記副エネルギー極大の影響によって前記ワークピース材料に生じる化学変化とからなり、前記ワークピースの前記一般的なダメージ領域は、前記素子(10)を軸を中心に回転させ、加工される前記ワークピースを制御された態様で移動させることによって前記切り込み及び/又は裂け目の軌跡に沿って方向づけられ、これにより、形成される細長い前記ダメージ領域が、加工される前記ワークピースの材料の物理的変化によって、前記切り込み及び/又は裂け目の軌跡に沿って間隙を伴って長手方向に次々と位置決めされ、
一方、前記ステップA.4及び前記ステップA.5では、前記ワークピース材料の化学変化によって生じる前記ダメージ領域が、ダメージの物理的変化によって生じた前記ダメージ領域を、前記切り込みの軌跡に沿って、隣接する共通のダメージ領域が隣り合うか又は部分的に重なる程度まで拡張させるように、前記レーザパルスのエネルギー及び出力、ならびに前記ワークピースの移動速度が選択され、前記B段階では、前記化学媒体は前記切り込みの軌跡全体にわたって前記ワークピース材料に同時に作用する。
【0011】
形成される前記細長い共通のダメージ領域は楕円形の面にあり、前記楕円形の面は前記光の伝播方向に垂直でほぼ一定の大きさであり、前記方向に沿った平均値から+/-15%以下の範囲で変化する。
【0012】
前記切断面又は分割面の前記軌跡は、1つより多くの非回折ビームを前記切断面又は分割面の前記軌跡に沿って前記ビームの横方向の寸法に匹敵する距離で広げることにより、前記細長い共通のダメージ領域から形成される。
【0013】
前記ワークピースの物理的変化による前記細長いダメージは、前記ダメージの幅を少なくとも1.5倍超える段差を有して配置される。
【0014】
前記ステップBにおいて、KOH、NaCO、HF、HClの溶液など、選択された化学的に活性ないくつかの液体に前記ワークピースを連続的に浸漬し、前記ワークピースの前記ダメージ領域に形成されて残っている先の化学反応の生成物を、前記ワークピースに影響を及ぼす別の溶液に移して溶解する。
【0015】
本発明の別の実施形態に従って透明材料の加工装置が提案される。この装置は、
レーザ放射ビームのパルスエネルギー、光の偏光、及び直径を変化させる光学系に入射されるTEM00モード(2)の超短パルスレーザ放射ビームを生成するレーザであって、これにより、前記光学系で形成された前記レーザ放射ビームは、入射ビームを所定の規則に従って変換するように意図された光学素子を介して、加工されるワークピースに局在化され、前記ワークピース材料は前記レーザ放射ビームに対してほぼ透明であり、前記光学系で形成された、選択された前記レーザ放射ビームパルスのパラメータは、焦点領域において前記ワークピース材料の特性を変化させるのに十分なレーザ放射エネルギー密度を確実にする、レーザと、
前記ワークピースにおける前記レーザ放射ビームの焦点が移動するように、加工される前記ワークピースを前記レーザ放射ビームに対して移動させ、必要な数のダメージ領域を生成し、前記ワークピースに所望の軌跡の切断面及び/又は分割面を形成するように意図された制御可能な位置決め機構と、
前記ダメージ領域において前記ワークピース材料をエッチングする化学媒体を含む容器であって、前記ワークピースを中に配置し、形成された前記切断面及び/又は分割面の前記軌跡に従って前記ワークピースのパーツを互いから分離するように意図されている、容器と、
を含み、
前記レーザ放射ビームの経路にある前記光学系の外側に位置し、入射する前記レーザ放射ビームを前記所定の規則に従って変換するように意図された前記光学素子は、垂直な前記レーザ放射ビームのパンチャラトナム・ベリー位相(PBP)を均一に変化させる複屈折構造を有し、これにより、PBP変換規則と、前記素子に接近する前記レーザ放射ビームに対する向きとが異なる前記複屈折構造の少なくとも2つの領域が前記ワークピースに配置され、前記構造領域は、少なくとも2つの干渉するサブビームを形成して、予め定義された前記エネルギー、位相、及び偏光の焦点線の偏心対称分布を有し、前記レーザ放射ビームの伝播方向に垂直な面においてより良い伸びを有し、主エネルギー極大及び副エネルギー極大を有する全非回折レーザ放射ビームを生成し、前記光学素子は、軸を中心に回転して前記素子の位置を変更し、中に形成された前記複屈折構造を変更する取付機構に取り付けられており、前記素子によって形成された前記全非回折レーザ放射ビームは、集束光学系を介して前記ワークピースにおいて局在化され、前記機構によって前記光学素子を回転させることで、前記切断線の前記軌跡に沿った、形成された前記細長いダメージ領域の向きが変更され、前記ワークピース材料の物理的変化及び化学変化からなる、形成された前記細長い共通のダメージ領域が切り込み及び/又は裂け目の前記軌跡に沿って長手方向に次々と配置される態様で、前記制御可能な位置決め機構が前記ワークピースを移動させ、これにより、形成された前記細長いダメージ領域は、前記ワークピース材料の物理的変化により、切り込み及び/又は裂け目の前記軌跡に沿って間隙を伴って長手方向に次々と位置決めされ、前記ワークピース材料の化学変化によって生じる前記ダメージ領域が、前記切り込みの軌跡に沿って、隣接する共通のダメージ領域が隣り合うか又は部分的に重なる程度まで拡張する。
【発明の効果】
【0016】
提案されるワークピースのレーザ化学加工方法では、レーザ支援化学エッチング(LACE)又はレーザ誘起化学エッチング(LICE)といった既知の方法よりも10倍以上速い時間で精密な形状の切り込みや穴を得ることができる。
【0017】
提案される本発明により、物理的及び化学的に適応したダメージ領域のレーザ形成された細い接合線をエッチングすることが可能になる。本発明では、全体的なダメージは、穴の形成、自己配列構造、機械的応力、及び化学結合の再配列や自由結合の形成に関連する化学変化を含むワークピース材料の構造の変化によって生じる。
【0018】
提案される方法では、強度の最も高い点における長円形断面のビームが物理的なダメージ(穿孔に至る)を生じ、強度のより低い領域は切断線の方向に沿って広がり、材料の化学的性質を変化させる。これによって生じた全体的なダメージ領域は、垂直軸から2°を超えてずれることなく最大1:100の切り込みの幅対深さの比を達成し、切り込みの傾斜を0.1μm以下に保つことによって加工精度を高める。エッチングされた切り込みの表面の不規則性は2μmを超えてはならず、傾斜は0.1μmを超えてはならず、切り込みに重なりがあってはならない。従って、この方法を用いて作られた製品を、半導体デバイスのテストボード用ガイドスペーサのような高精度及び高垂直性を必要とする用途に使用して、その寿命を大幅に延ばすことができる。
【0019】
傾斜や重なりがないため、化学処理後に更なる研磨を行うことなく製品を平面架橋のために使用することができ、これによってマイクロ電子機械システム(MEMS)やマイクロ流体デバイスの生産が高速化される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
本発明は、本発明の範囲を限定しない以下の図面においてより詳細に説明される。
図1】提案される透明材料加工装置の概略ブロック図の一部を示しており、分布を形成する光学素子に入る前のレーザビームの形成を説明している。
図2】提案される透明材料加工装置の概略図の一部を示しており、所望の分布がどのように形成され、加工されるワークピース内にどのように配置されるかを示している。
図3】ビーム変換素子に形成された複屈折構造の座標を、極座標系及び直交座標系で示したものである。
図4】セクタ(扇形)に配置された素子におけるPBP変化の領域を示す。
図5】同心円状に配置された素子におけるPBP変化の領域を示す。
図6】素子におけるPBP変化ゾーンの最も一般的な配置を示しており、異なるセクタにおけるPBPの変動は、素子の中心からの複屈折構造の距離にも依存する。
図7】2つの180°セクタにおけるPBP変換が中心からの距離に対して異なる依存性を有する特定の場合を示す。
図8図7の素子によって生じた横方向エネルギー分布の測定結果を示す。
図9】光の伝播方向に沿った図8の分布のエネルギーの変化を示す。
図10】光線の軸を中心に素子を回転させることによって得られる、方向が制御されたダメージの線を示す。
図11】物理的ダメージ(穿孔)及び化学的ダメージ(結合転位)の範囲が識別される、この線のダメージを示す。
図12】最も一般的なアルカリ土類アルミノケイ酸塩ガラスの構造を示す。
図13】原子間力顕微鏡(AFM)によって測定された切り込みのエッジの分布図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
提案される透明材料の加工方法は、以下の一連の操作を含む。
【0022】
透明材料の加工方法は2つの加工段階を有する。
A段階では、ワークピースのパーツを完全に分離することなく、レーザを用いた切断面や分割面の形成が行われる。A段階は以下のステップを含む:A.1-TEM00モードのコヒーレントな超短パルスレーザ放射ビームをレーザによって生成する。A.2-レーザ放射ビームの設定された直径、全パルスエネルギー、及び光の偏光を形成する光学系に、生成されたレーザ放射ビームを入射させる。A.3-所定の規則に従ってレーザ放射ビームを変換する光学素子に、ステップA2で形成されたレーザ放射ビームを入射させる。この変換は、垂直に向けられたレーザビームのパンチャラトナム・ベリー位相(PBP)を均一に変化させる複屈折構造が形成された光学素子において生じる。この構造の領域のうち少なくとも2つの領域がこの光学素子に形成されており、これらの領域のPBPの変更規則と、垂直に向けられたレーザビームに対する向きは異なっている。この構造の少なくとも2つの前記領域はそれぞれ少なくとも2つのサブビームを形成しており、光学素子に向けられた光のパラメータ、例えば、偏光の種類(直線状、円形状、放射状、又は方位角状など)、及び/又は素子における切り込みや裂け目(split)の軌跡の方向に対する直線状の偏光面の向きに応じて、サブビームのエネルギー、位相、及び偏光の分布を変えることができる。形成されたサブビームは互いに干渉し、設定されたエネルギー、位相、及び偏光の焦点線の偏心(off-center)対称分布を有し、レーザ放射ビーム発散方向に垂直な面においてより良い伸びを有する全非回折レーザ放射ビームを得、この分布の所望の形は、ステップA.2で形成された、前記光学素子に向けられたレーザ放射のパラメータを変更することによって得ることが可能である。ステップA.4で得られた集積レーザ放射ビームはワークピースにおいて局在化され(localized)、レーザ放射の各パルスはワークピース材料の物理的変化及び化学変化からなる長円形状の全体的なダメージ領域を形成する。レーザ放射ビームが局在化されるワークピース材料はレーザ放射ビームに対してほぼ透明であり、レーザ放射パルスの設定されたパラメータは、加工されるワークピースの焦点領域において、レーザ放射エネルギー密度がワークピース材料の特性を変化させるのに十分であることを確実にする。ステップA5では、前記光学素子をその軸を中心に回転させることにより、加工されるワークピースは制御された態様で移動され、ワークピースの全体的なダメージ領域が切り込み及び/又は裂け目の軌跡に沿って方向づけられ、形成される細長いダメージ領域が切り込み及び/又は裂け目の軌跡に沿って間隙を伴って長手方向に次々と位置決めされる。ワークピース材料の化学変化によって形成されるダメージ領域が、ダメージの物理的変化によって生じたダメージ領域を、切り込みの軌跡に沿って、隣接する共通のダメージ領域が結合するか又は重なり合う程度にまで拡張させるように、レーザパルスのエネルギー及び出力、ならびにワークピースの移動速度が選択される。形成される細長い共通のダメージ領域は楕円形の面にあり、楕円形の面は光の伝播方向に垂直でほぼ一定の大きさであり、前述の方向に沿った平均値から+/-15%以下の範囲で変化することがより望ましい。切断面又は分割面の軌跡は、1つより多くの非回折ビームを切断面又は分割面の軌跡に沿ってビームの横方向の寸法に匹敵する距離で広げることにより、前記細長い共通のダメージ領域から形成される。ワークピースの物理的変化による細長いダメージは、ダメージの幅の少なくとも1.5倍を超える段差を有して配置される。
【0023】
次に、B段階では、A段階で形成された切断面及び/又は分割面の軌跡に基づいてワークピースのパーツが互いに完全に分離され、これは、化学媒体の中にワークピースを配置し、ダメージ領域においてワークピース材料をエッチングすることによって行われる。切り込みやスリットの軌跡に沿って形成された共通のダメージ領域が隣接していたり重なっていたりするため、化学媒体は切断面又は分割面の軌跡全体にわたってワークピースに同時に影響を与え、この軌跡において影響を受けたワークピース材料は、影響を受けていないワークピースの部分よりもはるかに速く溶解する。ワークピースを必要な時間の間溶液中に保った後、試薬は切断線に沿ってワークピース材料を溶解し、切断線に対してわずかに垂直方向に切断線を広げ、ワークピースのパーツを互いに分離する。A段階のレーザ放射ビームによる処理の後にワークピースが配置される化学媒体はKOHの溶液でもよいが、KOH、NaCO、HF、及びHCIなどの化学的に活性な液体のいくつかの溶液中にワークピースを連続して配置することがより好ましい。1つの化学媒体溶液からワークピースを取り除いた後、ワークピースを別の化学媒体の溶液中に配置することで、ワークピースのダメージ領域に形成されて残っている先の化学反応の生成物が溶解される。このように、ワークピースのパーツが横方向のクラックを生じずに互いから非常に正確に分離するまで、ワークピースは異なる化学媒体の溶液中に配置される。
【0024】
透明材料を提案された方法で分割するためにレーザ(1)が使用され、(図1)TEM00モードの超短(持続時間100fsから10ps)光パルスが生じ、これらはガウスの式によって表される断面のエネルギー分布(2)を有する。
【0025】
【数1】
【0026】
式中、I(r)はビーム軸から距離rを有するビーム上の点における光強度であり、I(0)はビーム軸における光強度であり、ωは軸からI(r)=1(0)/eである点までの距離である。
【0027】
ビームの光強度は波長可変減衰器(3)によって制御され、波長可変減衰器(3)は、1/2波長板(4)と、偏光面が、レーザから来る光を光路に板(4)がない状態で全て通過させるように構成された偏光子(5)とからなる。レーザ光の偏光面に対して板の遅軸の方向を回転させることにより、板を通過した光の偏光の方向もそれに応じて回転され、レーザから発せられる光の偏光に平行な光成分のみを偏光子(5)が通過させるため、レーザからの光の0%から100%を板(3)の回転角に応じて通過させることができる。
【0028】
減衰器を通過した光ビームの直径は、一組の負(7)レンズと正(8)レンズからなる調節可能なエクステンダー(6)によって設定される。これらのレンズ間の距離を調整することにより、エクステンダーを出るビームの必要な直径が得られる。
【0029】
光ビームに楕円形の偏光を与える必要がある場合、1/4波長板(9)がその経路に配置され、その遅軸と板に向けられる光の偏光面との角度が、楕円度及び円偏光の回転方向(左又は右)を設定する。
【0030】
平板状で透明な材料のワークピースからなり、光のパンチャラトナム・ベリー位相(PBP)を変化させる構造が形成された光学素子(10)が、レーザ光ビームの経路に配置される。
【0031】
レーザビームの直径は、ビームがビーム形成素子の作業領域を完全に満たすように選択される。つまり、ビーム軸からの距離Rにおける光強度はI(R)≦I(0)/e以下でなければならず、換言すれば、素子の半径は式[1]のガウスビーム半径の2倍以上でなければならない。即ち、
【0032】
【数2】
【0033】
断面によって異なるPBPを有するビーム形成素子(10)をレーザビーム(11)内に配置することにより、偏光面は素子内の異なる位置で所定の規則に従って回転され、必要な位相遅延が導入される。この素子は回転機構(12)に取り付けられており、これにより、この素子に向けられた偏光面に対して、素子と、同時にその上に記録された構造の位置を変更することが可能になる。素子の様々な部分から発せられる光ビーム(13)は建設的かつ破壊的な方法で互いに干渉し合い、エネルギー、位相、及び偏光の所望の分布(14)を形成することができる。形状を有して形成された分布(18)は、集束光学系(15、16、17)を通ってワークピース(19)に伝達される。集束光学系の少なくとも一部は4fスキームを形成しており、4fスキームは、必要な分布を焦線に形成する一方で不要な振幅スペクトル要素をフィルタリングして除去するなど、追加の振幅関数をフーリエ面(16)に加えるために使用される。軸Zにおける焦点領域の位置は高さ調節機構(20)によって決定され、ワークピース自体は位置決め機構(21)によってX-Y平面内で移動させることができる。
【0034】
素子(10)では1つ以上のゾーンが形成されており、その各々において、パンチャラトナム・ベリー位相(PBP)は、そのゾーンに対して設定された規則に従って円滑に変化する。
【0035】
断面の各点において、PBP値はワークピース本体に形成されたナノ板状周期構造(23)によって設定され(図3)、素子内のその向きは、直交座標における依存性によって表される。
【0036】
【数3】
【0037】
式中、θは、関数fによって表されるi番目のゾーンの座標軸に対する周期構造の回転角である。
【0038】
あるいは、極座標における依存性によって表される。
【0039】
【数4】
【0040】
ここで、
及びφは、素子の断面におけるその周期構造の極座標である。
【0041】
軸対称(円形又は楕円形)の分布を得るために、これらのゾーンを双方のセクタに配置することができる(図4)。
【数5】
【0042】
式中、REは素子の半径であり、φmin,i,φmax,iは極座標におけるセクタの開始及び終了の角度である。
【0043】
双方の同心リング(図5
【数6】
【0044】
(式中、γmin,i、γmax,iはリングの開始半径と終了半径の値である)と、セクタに分割されたリング(図6
【数7】
【0045】
個々の特定の場合において、0<φ1≦π及びπ≦φ≦2πのセクタを有する2つのゾーンが素子内に形成され、PBPの変化がリングによって各セクタ内に形成される。各ゾーンにおいて、PBPの変化はそのリングに特有の関数によって表される(図7)。
【数8】
【0046】
式中、θij,φn はn番目のセクタとリングi又はjにおけるPBFの配向角であり、i及びjはそれぞれ1番目又は2番目のセクタにおけるリングの数である(図7)。
【0047】
関数が次のように選択された場合、PBP素子は非回折ビームを形成する。
【数9】

及び
【数10】
【0048】
式中、reは素子の半径であり、aはサブビームの収束角を決定する係数である。
【0049】
関数[9]及び[10]によって表される素子(10)をレーザ光ビーム内に配置することにより、光の伝播方向に1つ以上の極大値を有する(図9)楕円形の対称分布が素子の後ろに形成される(図8)。極大値間の強度分布は、素子に向けられる光の偏光の性質(直線状、円形、又は楕円形)によって決定される。主極大(24)が分布に形成されており、ビームエネルギーの殆どがそこに集中し、楕円形の副極大(25)もその周りに形成されている。分布の楕円の縦軸(26)の方向(図8)は、光の伝播の方向に垂直な面における素子のセクタの向きに依存する。
【0050】
素子によって生成された分布をガラスに集中させることにより、パルス出力密度がガラスの組成に依存する限界値ρribを超えた後に中空のダメージ領域がガラス本体に形成される。これらの領域の形状は、焦点領域の強度分布を模したものである。例えば、アルカリ土類元素の含有量が高い(6%から10%まで)ホウケイ酸塩ガラスのガラスではρrib≒1×1015Wcm-3であり、アルカリ土類元素を含まないガラスでは、この限界値はρrib≒5×1014Wcm-3である。エネルギー分布は、主極大(24)においてのみρribを超えるように形成される。
【0051】
ガラスのワークピース(19)を光の伝播方向に垂直なX-Y平面内で移動させると同時に回転機構(12)によって分布楕円の縦軸の位置を変えることにより、楕円形のダメージ領域(27)が所望の切断線(28)に沿って配置される。隣接するパルスと重なり合う副極大(25)の出力密度ρが、その特定のガラスに特徴的な裂け目発生閾値ρsk=ρrib/6÷ρrib/3を超えると、これによって生じる化学変化(29)(図10)が物理的ストレスも発生させ、物理的なダメージ領域を結合する。
【0052】
ガラスの物理化学的特性が変化した領域が、ダメージ領域の周りに形成される(30、図11)。ガラスは、アルカリ及び/又はアルカリ土類金属のカチオンが混ざった酸化物構造体のネットワークである。個々のケースにおいて、Al/Si含有量が1/3以上のアルミノケイ酸塩ガラス(図12)は、ケイ素(31)又はアルミニウム(32)の原子を中心に有する酸素原子の四面体からなる。これらの四面体のいくつかの頂部は架橋酸素(BO)のブリッジによって結合されており、これらのブリッジは、結合の種類によってSi-O-Si四面体を接合するBO1(33)とSi-O-Al四面体を接合するBO2(34)とに分類される。角にある遊離酸素原子は非架橋酸素(NBO)(35)と呼ばれる。これらの比較的規則的な構造体の間には、アルカリ金属(AM、36)及びアルカリ土類金属(EM、37)のカチオンが比較的自由に介在しており、これらのカチオンの存在は酸素ブリッジの形成及びBO1/BO2のブリッジ量の比に影響を及ぼす。原子量AM/Al≒1の場合、異なる種類のブリッジ量の比はBO2/BO1≒3、NBO/BO2=0であるのに対し、AM/Al≒0.2のガラスのワークピースでは、この比はBO2/BO1≒0.3であることが知られており、また、NBO/(BO1+BO2)≒0.1の非架橋酸素結合もみられる。
【0053】
レーザパルスがこのようなガラスのワークピースに影響を及ぼすとBO/NBO比に大きな変化がみられる。殆どのガラスでは、レーザパルスのエネルギー密度が2×10J/cmを超えると比はBO/NBO≒0.3に達し、即ち、BOブリッジの量はレーザの影響を受けていないガラスに比べて3倍よりも多く減少することが判明している。ガラスがレーザ光の影響を受けるとBO型ブリッジが破壊し、過剰のケイ素≡Si-Si≡あるいはアルミニウム≡Al-Al≡を有する酸素欠乏型欠陥(Oxygen Deficiency Centers、ODC)(ODC I)、又は遊離結合=Siir=Alを有する酸素欠乏型欠陥(ODC II)が形成される。また、≡Si-O°又は≡Al-O°などの非架橋酸素ホール中心(Non Bridging Oxygen Deficiency Centers、NBOHC)が構造体に形成される。これらの欠陥はいずれも、レーザの影響を受けていないガラスよりも化学的活性が著しく高いため、影響を受けたワークピースがアルカリ溶液中に配置されるとヒドロキシルアニオンは開放された結合と反応し、以下のような可溶性の生成物を形成する。
(数11)
[-Si-O-Si-]+OH→[-SiO]+[-Si-OH] [11]
(数12)
[-Al-O-Al-]+OH→[-AlO]+[-Al-OH] [12]
【0054】
金属が遊離した酸素と結合すると形成される網目修飾アルカリ土類金属(Ca、Mg、Ba、Zn)の酸化物は、アルカリと直接は反応しないがそれらに溶解できる。一方、アルカリ金属(Li、Na、K)は水酸化物の形で溶液中に入る。
【0055】
以上の処理により、パルスの副極大の影響を受けたガラスの領域は、影響を受けていない領域よりも最大で1000倍の速さでアルカリに溶解する。つまり、遊離酸素又は活性ケイ素とアルミニウムの結合の含有量が多い領域を所望の切り込みの線に形成することにより、アルカリはワークピース材料に触れることなく切り込みの領域のみを本質的に溶解することになり、ワークピース材料を除去する必要はない。これにより、精度の極めて高い切り込みが得られる。図13から分かるように、切り込みのエッジには0.05μmから0.1μm(50nmから100nm)の傾斜のみが形成されている。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
【国際調査報告】