(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-13
(54)【発明の名称】表面にパターン化されたエバネッセント場を形成する装置およびその方法
(51)【国際特許分類】
G02B 21/06 20060101AFI20220706BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20220706BHJP
G01N 21/17 20060101ALI20220706BHJP
【FI】
G02B21/06
G01N21/64 E
G01N21/17 N
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021568495
(86)(22)【出願日】2020-05-13
(85)【翻訳文提出日】2021-11-29
(86)【国際出願番号】 IB2020054529
(87)【国際公開番号】W WO2020230051
(87)【国際公開日】2020-11-19
(32)【優先日】2019-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517017399
【氏名又は名称】ウニヴェルシテ・グルノーブル・アルプ
(71)【出願人】
【識別番号】500366613
【氏名又は名称】セーエヌエールエス(サントル・ナショナル・ドゥ・ラ・ルシェルシェ・シャンティフィク)
【氏名又は名称原語表記】CNRS(CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE)
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】グリシーヌ、アレクセイ
(72)【発明者】
【氏名】デスタイン、オリビエ
【テーマコード(参考)】
2G043
2G059
2H052
【Fターム(参考)】
2G043AA04
2G043BA16
2G043CA04
2G043DA02
2G043EA01
2G043FA02
2G043HA01
2G043HA02
2G043KA09
2G043NA01
2G059AA05
2G059BB12
2G059CC16
2G059DD13
2G059EE07
2G059FF03
2G059GG01
2G059JJ11
2G059JJ18
2H052AA09
2H052AC06
2H052AC09
2H052AC18
2H052AC27
2H052AC28
(57)【要約】
本発明は、ディオプトリの表面(S)が配置される像側焦点面にある対物レンズ(O)と、コリメートされた光ビーム(B)を放出する光放出素子(2)と、素子(2)と対物レンズ(O)との間にあり、対物レンズ(O)の物体面が素子(2)の像側焦点面と光学的に共役な光学アセンブリ(4)とを含む、ディオプトリの表面(S)にパターン化されたエバネッセント場を形成する装置(1)に関するものであり、光学アセンブリ(4)は、素子(2)からのコリメートされた光ビーム(B)が対物レンズ(O)に向かって放射され、ディオプトリの臨界角以上の入射角でディオプトリの表面(S)に向かって反射されるように構成され、パターンを形成するための光学装置(FS1)が素子(2)の物体面にあり、素子(2)の物体面の光ビームに透過光でパターンを形成するための光学装置によって形成されたパターンがディオプトリの表面に見られるようになっている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれの屈折率n1とn2の2つの媒体を分離するディオプトリの表面(S)にパターン化されたエバネッセント場を形成する装置(1、10、20)であって、
前記ディオプトリの表面(S)が配置された像側焦点面にある対物レンズ(O)と、
直径(d)のコリメートされた光ビーム(B)を放出する光放出素子(2;12;22)と、
前記光放出素子(2;12;22)と前記対物レンズ(O)との間の光学アセンブリ(4;14;24)であって、前記対物レンズ(O)の物体面が前記光放出素子(2;12;22)の前記像側焦点面と光学的に共役であり、前記光学アセンブリ(4;14;24)が前記光放出素子(2;12;22)からの前記コリメートされた光ビーム(B)が対物レンズ(O)に向かって放出された後に臨界角θc以上の最小入射角θminで前記ディオプトリの表面(S)に向かって反射されるように構成され、前記光ビーム(B)が前記ディオプトリの表面(S)で全反射を起こして前記ディオプトリの表面(S)にエバネッセント波を生成するように構成される、前記光学アセンブリ(4;14;24)と、
前記光放出素子(2;12;22)の前記物体面にパターンを形成するための光学装置(FS1;BS)であって、前記対物レンズ(O)の光軸に対して軸外に取り付けられており、前記光放出素子(2;12;22)の前記物体面の前記光ビームに透過光で前記パターンを形成するための前記光学装置によって形成された前記パターンが、前記ディオプトリの表面で検出され、前記ディオプトリの表面(S)で反射された前記光ビーム(B)は、前記対物レンズ(O)に向かって反射されて、前記対物レンズ(O)の後側焦点面(BFP)に集束される、前記光学装置(FS1;BS)と、
を備えることを特徴とする装置。
【請求項2】
前記光入射素子(2;12;22)の前記物体面と前記光学アセンブリとの間に少なくとも1つの光学素子(AS)を備え、当該少なくとも1つの光学素子(AS)は、形成された前記パターンの解像度の向上の調整と、前記ディオプトリにおける前記光ビーム(B)の入射角のフィルタリングの調整とのいずれかをすることができることを特徴とする、請求項1に記載の装置(1;10;20)。
【請求項3】
前記少なくとも1つの光学素子が、空間ダイアフラム、フィルタのいずれかであることを特徴とする、請求項1および2のいずれかに記載の装置(1;10;20)。
【請求項4】
前記パターンを形成する前記光学装置が、ダイアフラム、振幅マスク、空間光変調器、マイクロミラーアレイのうちの少なくとも1つであることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の装置(1;10;20)。
【請求項5】
前記光入射素子に入射される前記コリメートされた光ビームを生成するためのレーザー光源をさらに備えることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の装置(1;10;20)。
【請求項6】
前記光学アセンブリは、第1の中間レンズによって構成されており、前記第1の中間レンズの物体面が前記光放出素子の前記像側焦点面と光学的に共役であり、前記第1の中間レンズの像側焦点面が前記対物レンズ(O)の前記物体面と光学的に共役であることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の装置(1;10;20)。
【請求項7】
前記第1の中間レンズは、第2の中間レンズによって、前記光放出素子と光学的に共役し、前記第2の中間レンズの物体面が前記光放出素子の前記像側焦点面に対応し、前記第2の中間レンズの像側焦点面が前記第1の中間レンズの前記物体面に対応することを特徴とする、請求項6に記載の装置(1)。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の装置(1;10;20)であって、前記装置は全反射蛍光顕微鏡であり、試料は前記ディオプトリに対応すると共に当該全反射蛍光顕微鏡の前記対物レンズの前記像側焦点面に配置され、前記光学アセンブリは顕微鏡光学系に対応し、前記光放出素子は前記顕微鏡光学系の上流に配置されるか前記顕微鏡光学系に組み込まれ、パターンを形成するための前記光学装置は光源と前記光放出素子のと間に配置されるか前記顕微鏡光学系に組み込まれることを特徴とする、装置。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の装置(1;10;20)を用いて、表面にパターン化されたエバネッセント場を形成する方法であって、
前記対物レンズ(O)の前記像側焦点面上に前記表面(S)を配置するステップと、
前記パターンを形成するための前記光学装置(FS1、BS)を用いて、前記光放出素子(2;12;22)の前記物体面に所望の前記透過光の振幅パターンを形成するステップと、
前記コリメートされた光ビームを前記光入射素子(2;12;22)に入射させるステップと、
を含むことを特徴とする、方法。
【請求項10】
生物学的試料(E)の特定の表面領域を光活性化によって選択的に励起するために、表面エバネッセント場を前記生物学的試料(E)上に作成することを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
光刺激に応答して活性化・不活性化、オリゴマー化状態の変化、特定の細胞パートナーとの結合・解離、局所的な変性などが可能な光受容蛋白質が何世代にもわたって開発されていることを背景に、光生物学は急速に成長している研究分野である。これらの多目的ツールは、ほぼすべての細胞タンパク質と融合して発現させることができ、時空間的な活性化・不活性化を介した個々の分子プレーヤーの詳細な機能研究や、特定の波長の光ビームを用いた生きた細胞や生物全体での光操作を可能にする。
【背景技術】
【0002】
現在、培養細胞の局所的な活性化には、顕微鏡用ガルバノスキャナー、空間光変調器(SLM:Spatial Light Modulators)、その他のデジタルマイクロミラー装置(DMD:Digital Micro-mirror Devices)を用いた光のパターニングが用いられている。基板の表面に直交する限られた光のビームを、目的の細胞領域に向けて照射する。しかし、このような光は細胞の厚み全体を横断するため、細胞膜の上下や、その間に存在する細胞質や核の構造物にある受容体を活性化する可能性がある。また、Cry2などの細胞質の光受容蛋白質が急速に拡散することで、フォーカルボリューム内で発生した信号が周囲の細胞質に広がり、時空間分解能が数マイクロメートル、数秒にまで低下してしまう。また、励起体積が大きいと、光の生体細胞への影響として、光の不安定性、光毒性、熱影響などの好ましくない影響が大きくなる。
【0003】
細胞シグナルやメカノトランスダクションの研究では、基底細胞膜でのみ特定の光受容体を活性化する必要がある(例:接着構造の構成素子、EGF受容体、イオンチャンネル...)。この場合、確立された技術であるTIRF(Total Internal Reflection Fluorescence)顕微鏡を用いて、光活性化の光を基底膜の近傍にエバネッセント場として導入することができる。また、この同じ手法を用いれば、非常に高いS/N比で蛍光体の分布を観察することができ、1分子の検出まで可能となる。驚くべきことに、TIRF顕微鏡と光遺伝学的アプリケーションを別々に扱った論文が増え続けているにもかかわらず、この2つの技術を組み合わせた論文は“Optogenetic interrogation of integrin αVβ3 function in endothelial cells”、 Liao、 Z.、 Kasirer-Friede、 A. & Shattil、 S. J.、 J. Cell Sci. 130、 3532-3541 (2017)しかない。
【0004】
これは、現在のTIRF顕微鏡装置が空間的な柔軟性に欠けていることを示している。実際、細胞膜付近では軸方向の光の励起を効果的に抑えることができるが、現在のTIRF顕微鏡は視野全体を励起しており、TIRF励起で関心領域(ROIs:Regions of interest)を作るための横方向の光制御ツールがない。
【0005】
しかし、細胞内シグナル伝達や時空間パターニングに関する研究では、細胞内寸法の領域に局所的に活性化することが必要である。本発明の目的は、TIRFとオプトジェネティック技術の両方の利点を組み合わせ、細胞膜上に関心のあるTIRF光活性化領域を作成することで、3次元的に光の励起を減らすことができるエバネッセント場パターンを作成する方法を説明することである。
【0006】
エバネッセント光による蛍光励起は、TIRF顕微鏡では、蛍光色素で標識された基底膜や生細胞内の近傍の細胞骨格構造を特異的に可視化するために、STORM(stochastic optical reconstruction microscopy)やPALM(Photo-Activated Localization Microscopy)などの超解像顕微鏡技術では、蛍光溶液や薄膜をガラス基板に近づけてサンプリングするために、広く用いられている。
【0007】
TIRF顕微鏡の原理は、臨界角θc(約61°)以上の入射角でガラス/水の界面で全反射するコリメートされた光の励起光に基づいている。
【0008】
固着した細胞など、ガラス上に高屈折率の構造物がある場合、θcは数度高くなることがある。一般的な「レンズ越し」のTIRF光学系では、大口径の対物レンズを使用することで、臨界値をはるかに超える80°近い入射角を実現することができる。
【0009】
結果として得られるエバネッセント波の水性媒体や細胞への特性浸透深さは約100nm、対物レンズの開口数(NA:Numerical Aperture)で決まる横方向の分解能は250nm近くになる。このように、最小の試料量は10アトリットル以下(1アトリットルは10-18リットル)であるが、エバネッセント波の全励起量は、視野全体がすぐに励起されることから、10フェムトリットル以上(1フェムトリットルは10-15リットル)と大きくなる。
【0010】
エバネッセント場を形成するために、励起光は対物レンズの後側焦点面(BFP:Back Focal Plane)(瞳孔面とも呼ばれる)の周辺部に集光される。このときの光錐は非常に小さい開口数(例えば、FEIミュンヘン社製のiMIC顕微鏡では0.04以下)で、焦点の半径方向の位置はガルバノスキャナーやプリズムで調整することができる。これにより、マルチモーダルなレーザービームプロファイルや干渉縞の影響を受けることもあるが、高度に傾いた平行光による全視野のエバネッセント波の励起が可能になる。多点BFP集光(TILL、FEI Munich GmbH社製)や方位角回転ビーム構成(Roper Scientific equipment、現GATACA社製)により、より均一な照明を実現することができる。最近の市販のTIRF顕微鏡の多くは、典型的な付着細胞の表面全体を覆う直径100マイクロメートル以上の均一なエバネッセント場を生成する。しかし、顕微鏡の一部の光学素子、特に共役場面の光学素子は、部分的な遠方光の励起につながる非エバネッセントな伝播光の発生源であることが確認されていることに留意する必要がある。この影響を抑制するために、超臨界角蛍光(SAF:Supercritical Angle Fluorescence)イメージング技術が開発されました。この技術は、BFPまたはBFP相当レベルで放出される光の空間フィルタリングに基づいている。そのため、励起光路の共役場面で光を遮る素子は、実際には画質にとって有害であると考えられ、回避される。
【0011】
エバネッセント光による横方向のパターニングの作成例はほとんど報告されていない。米国特許出願公開2017/276922A1号には、交差する相互にコヒーレントな一対のTIRFレーザービームが、エバネッセント強度に非常に間隔の狭いバンドを有する干渉縞パターンを生成することができるという事実を利用した構造化照明顕微鏡技術(TIRF-SIM、Nikkon社製)が記載されている。しかし、これらの周期的なバンドは視野全体にわたっており、局所的な光活性化を行うというよりは、解像度を2倍に向上させた顕微鏡像を計算するのに有効である。また、レーザー干渉の考え方を無限のビームに拡張したり、対物レンズBFPでリング照明を行うことで、非常に小さな(超解像の)エバネッセント波の照射スポットを作るという理論的な方法も提案されている(「Evanescent excitation and emission in fluorescence microscopy」、 Axelrod、 D.、 Biophys.J. 104、 1401-9 (2013)).残念ながら、結果として得られる中心スポットは、振幅が減少するとはいえ、円形の干渉縞に囲まれてしまう可能性があり、また、BFPにおけるライトリングの必要な偏光条件は、既存のTIRF光源とはまだ互換性がない。
【0012】
米国特許出願公開第2016/131885号には、多方向の回折格子、またはそのような回折格子を形成する空間光変調器(SLM:Spatial Light Modulator)である装置が記載されている。これは、コヒーレントな照明下で+1オーダーと-1オーダーの回折光を生成するための周期的なパターンを形成することができる。
【0013】
米国特許出願公開第2012/0319007A1号には、線状のパターンを生成する装置が記載されており、このパターンはサンプルに「発散」して投影される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許出願公開第2017/276922A1号
【特許文献2】米国特許出願公開第2016/131885号
【特許文献3】米国特許出願公開第2012/0319007A1号
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Evanescent excitation and emission in fluorescence microscopy、 Axelrod、 D.、 Biophys.J. 104、 1401-9 (2013)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、従来の技術の欠点を克服することを目的としており、それぞれの屈折率n1とn2の2つの媒体を分離するディオプトリの表面にパターン化されたエバネッセント場を形成する装置であって、
ディオプトリの表面が配置された像の側焦点面にある対物レンズと、
所定の径の平行光を放出する光放出素子と、
前記光放出素子と前記対物レンズとの間に設けられた光学アセンブリであって、前記対物レンズの物体面が前記光放出素子の像側焦点面と光学的に共役な光学アセンブリであって、前記光学アセンブリは、前記光入射素子からの平行光が前記対物レンズに向かって出射され、前記双眼鏡の臨界角θc以上の最小入射角θminで前記双眼鏡の表面に向かって反射され、前記双眼鏡の表面で全反射を起こして前記双眼鏡の表面にエバネッセント波を発生させるように構成されている、光学アセンブリと、
対物レンズの光軸に対して軸外に設置された、光放出素子の物体面にパターンを形成するための光学装置であって、光放出素子の物体面の光ビームに透過光でパターンを形成するための光学装置で形成されたパターンがディオプトリの表面に見られるようにするための光学装置と、
を備えることを特徴とする装置に関する。
【0017】
ディオプトリの臨界角は、θc=sin-1(n1/n2)で定義される。
【0018】
このように、本発明では、パターンが上流で形成され非常に正確に定義することができるため、従来の技術では不可能であったパターン形成の自由度が高いエバネッセント波を形成することが可能である。
【0019】
コリメートされた光ビームは、対物レンズの周縁部に入射されるため、対物レンズの光軸に対して軸外になることになる。一実施形態によれば、本装置は、形成されたパターンの解像度の向上および光ビームの入射角のフィルタリングのいずれかをディオプトリ上で調整するために、光放出素子の物体面と光学アセンブリとの間に少なくとも1つの光学素子をさらに備える。
【0020】
これにより、エバネッセント波によってディオプトリの表面に形成されることが望まれるパターンが改善される。なお、本発明は、光放出素子と光学アセンブリとの間に追加できる光学素子の数に限定されるものではない。したがって、例えば、それは、形成されたパターンの解像度を向上させるための素子と、光ビームの入射角をフィルタリングするための素子とを有することができる。
【0021】
一実施形態によれば、少なくとも1つの光学素子は、空間ダイアフラム、フィルタのいずれかである。
【0022】
一実施形態によれば、パターンを形成するための光学装置は、ダイアフラム、振幅マスク、空間光変調器、マイクロミラーアレイのうちの少なくとも1つである。特に、振幅マスクは、スリットやホールなど、使用する光の波長よりも大きい寸法のパターンであればよい。
【0023】
一実施形態によれば、本発明の装置は、光入射素子に入射されるコリメートされた光ビームを生成するためのレーザー光源をさらに備える。したがって、本発明によれば、コリメートされた光は、好ましくは、必ずしもそうではないが、コヒーレントな光ビーム、特にレーザー光である。
【0024】
一実施形態によれば、光学アセンブリは、物体面が光放出素子の像側焦点面と光学的に共役であり、像側焦点面が対物レンズの物体面と光学的に共役である第1の中間レンズで構成されている。
【0025】
好ましくは、第1の中間レンズは、物体面が光放出素子の像側焦点面に対応すると共に像側焦点面が第1の中間レンズの物体面に対応する第2の中間レンズによって、光放出素子と光学的に共役することができる。
【0026】
本発明による装置は、特に、全反射蛍光顕微鏡であることができ、試料は、ディオプトリに対応すると共に顕微鏡対物レンズの像側焦点面に配置され、光学アセンブリは、顕微鏡光学系に対応し、光放出素子は、顕微鏡光学系の上流に配置されるか、または顕微鏡光学系に組み込まれ、パターンを形成するための光学装置は、光源と光放出素子との間に配置されるか、または顕微鏡光学系に組み込まれている。
【0027】
パターンを形成するための光学装置は、回折格子ではなく、共役場平面内に任意の形状の1つまたは複数の局所的な関心領域(ROI)を形成する振幅SLMである。その位置を対物レンズの光軸に対して軸外にずらすことで、エバネッセント波を励起することができる。このROIのフーリエ像は、対物レンズの瞳孔面に焦点を当てており、TIRF対物レンズで利用可能な超臨界バンドの幅によってのみ制限される、非点の空間的広がりを持っている。
【0028】
光放出素子の物体面と光学アセンブリの間にある少なくとも1つの光学素子は、「超臨界」角のみを透過するように制限しつつ、ROIエッジによって回折される光の空間周波数帯域を選択することができる。
【0029】
対物レンズの瞳孔面に投影されるROI像は、点ではなく、TIRF対物レンズの超臨界フリンジで利用可能なスペースによってサイズが制限された光スポットである。
【0030】
このスポットにより、パターンの空間周波数が確実に伝達される。これは、表面Sで構成されるディオプトリ上に局所化されたパターンの像を再構築するのに十分な情報である。
【0031】
このようにして、本発明の装置は、3次元的に横方向および軸方向に制限されたエバネッセント波を用いた局所的、細胞内、光遺伝的な光刺激を、光操作を可能にする。
【0032】
また、本発明は、先に定義したような装置を用いて、表面にパターン化されたエバネッセント場を形成する方法であって、
レンズの像側焦点面上に面を配置するステップと、
前記パターン形成装置を用いて、前記光放出素子の物体面に透過光の所望の振幅パターンを形成するステップと、
コリメートされた光ビームを光入射素子に入射させるステップとを含む方法に関する。
【0033】
一実施形態によれば、表面エバネッセント場を生体試料上に形成し、形成されたエバネッセント場に応じた光活性化によって生体試料の特定の表面領域を選択的に励起する。
【0034】
本発明は、例えば、ディオプトリの表面に置かれたタンパク質を選択されたパターンで選択的に活性化するなど、特に生物学に応用することができるが、エバネッセント波を利用した薄膜フォトリソグラフィーやその他の表面光化学法、顕微鏡法やナノ粒子の領域特異的な光刺激、ディオプトリを形成する液相間のナノフィルムやナノオブジェクトの作成、感光性表面上のバーコード、グリッド、その他のマイクロメトリックパターンのエッチングなどにも応用することができる。表面プラズモン共鳴技術の領域別進化、エバネッセント波センサーの領域別活性化の開発、エバネッセント波発生の領域化、フォトニック結晶による光の閉じ込めと操作、シリコンチップ上のフォトニックパターンの組み込み、新しい光学機能を実現する人工複合材料の開発、オプトエレクトロニクスなど、より一般的には、所定のパターンを持つ表面上にエバネッセント波を形成する必要があるあらゆる用途に対応している。
【0035】
したがって、本発明は、上述したような装置または方法を、上述した用途、特に、ディオプトリの表面に適切な構造体を配置することによって、3次元で横方向および軸方向に制限されたエバネッセント波を用いて、光操作、局所的な光刺激、細胞内の光刺激を行うことも目的としている。
【0036】
本発明の目的をよりよく説明するために、限定ではなく例示として、添付の図面を参照しながら、特定の実施形態を以下に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】
図1は、本発明の第1の実施形態による装置の概略図である。
【
図2】
図2は、本発明の第2の実施形態の第1の変形例による装置の概略図である。
【
図3】
図3は、本発明の第2の実施形態の第2の変形例による装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
図1を参照すると、表面Sにパターン化されたエバネッセント場を形成するための装置1が示されていることがわかる。
【0039】
表面Sは、屈折率n1とn2の異なる2つの媒体を隔てるディオプトリである。
【0040】
図示した非限定的な実施形態では、試料Eが表面S上に置かれており、試料Eは、表面S上のエバネッセント波形成によって活性化されることが望まれる表面タンパク質を有する細胞である。
【0041】
本発明による装置1のこの第1の実施形態では、コリメートされた、好ましくはコヒーレントな光ビームを生成する光源3と、焦点距離f1のレンズL1とによって構成される光放出素子2が、それぞれの焦点距離f2およびf3のレンズL2およびL3のダブレットによって構成される光学アセンブリ4に向けて、コリメートされた光ビームBを作成しており、ここで、レンズL2の像側焦点面はレンズL3の物体面に対応している。また、光放出素子2の像側焦点面は、レンズL2の物体面に対応している。
【0042】
この光ビームBは、光学アセンブリ4の出力で、焦点距離f0の対物レンズOに向けて照射され、ここで、対物レンズOの物体側焦点面はレンズL3の像側焦点面に対応している。
【0043】
コリメートされた光ビームBは、光学アセンブリ4の光軸に対して軸外から光学アセンブリ4に入射される。
【0044】
表面Sは、対物レンズOの像側焦点面に配置されている。
【0045】
さらに、光学アセンブリ4と対物レンズOは、光学アセンブリ4から対物レンズOに向けて出射された光ビームBが、全反射を起こして試料E内でエバネッセント波を発生させるために、表面Sで構成されるディオプトリの臨界角θc=sin-1(n1/n2)よりも大きな角度で表面Sに入射するように構成されている。光ビームBを光学アセンブリ4の光軸に対して軸外方向に入射させることで、光学アセンブリ4の出力において、対物レンズOの周辺部に光ビームBを入射させることができる。表面Sによって反射された光ビームBは、対物レンズOに反射されて、発散した非平行なビームとして対物レンズOの後側焦点面BFPに集束されており、ここで、後側焦点面BFPの周辺部に形成されたパターンのフーリエ像のサイズは、正確ではないが、利用可能な超臨界マージンの厚さによって制限されている。このように、光学アセンブリ4からの光ビームBは、その光軸に沿って対物レンズOに入射するのではなく、その周縁部で対物レンズOに入射し、臨界角θcよりも大きな角度で表面Sでの反射を可能にする。したがって、対物レンズOに投影され、表面Sで反射されるものは、形成しようとしているパターンをそのまま表しており、光ビームB内に既に形成されているものである。
【0046】
従来の技術の状態とは異なり、表面Sに形成されるパターンは、対物レンズの上流に形成されるものであり、1つ以上の入射ビームによって対物レンズに形成される光干渉に起因するものではない。
【0047】
パターンを形成するための素子FS1は、レンズL1の物体側焦点面に配置されて、光源3からの光から、パターンを有するコリメートされた光ビームBを形成するために使用され、ここで、当該パターンは光ビーム内に形成されており、更に当該パターンは、光学アセンブリ4および対物レンズを介して、表面S上にパターン化されたエバネッセント波を発生させるために形成されたものである。パターンを形成するための素子FS1は、特にフィールドダイアフラムであってもよいが、本発明の範囲から逸脱することなく、ダイアフラム、振幅マスク、空間光変調器、マイクロミラーアレイであってもよい。
【0048】
L1レンズの像側焦点面にある開口ダイアフラムASは、フィールドダイアフラムFS1のエッジからの反射光をフィルタリングして、光が臨界角θc以上の角度で表面Sに到達するようにして、遠方界励起を起こさないようにする役割を果たしている。また、開口ダイアフラムASの開口数が小さくなると、試料Eの平面上でのパターンエッジの鋭さが低下するとしても、光ビームBの波長の5から10倍の寸法の領域(515nmでの励起では3から5μmの寸法の領域)を含む、光ビームの波長よりも大きな寸法の領域に対してパターンを形成することができることが実験的に判明した。
【0049】
この第1実施形態では、光学アセンブリと対物レンズは、例えば、既存の顕微鏡に組み込まれていてもよい。そして、本発明では、既存の顕微鏡から、顕微鏡の光学系に触れることなく、顕微鏡の外側だけから、表面Sにパターンを形成することができる。本実施形態では、光路の閉塞を避けることができるため、顕微鏡の開口部、感度、解像度を維持することができる。これにより、検出チャネルの減少を回避することができる。
【0050】
図2を参照すると、本発明の第2の実施形態の第1の変形例による装置10が示されていることがわかる。
【0051】
この第1の変形例では、光源13がミラーMに向けてコリメートされた光ビームを照射し、ミラーMがその光をフィールドダイアフラムFSに向けて反射する。この変形例では、光放出素子はミラーMによって構成されている。光は顕微鏡スタンド内の光ファイバの出力で直接コリメートされたり、他の適切な光学的手段によって導入されてコリメートされたりすることも可能であることに留意すべきである。
【0052】
光学アセンブリ14を構成する焦点距離f’のレンズL’を介して、フィールドダイアフラムFSから来る光ビームBは、表面S上に全反射とその中のエバネッセント波を発生させるための臨界角θcよりも大きい入射角θで常に表面Sに到達するように、対物レンズOに向かって送られ、表面Sで対物レンズOに向かって反射したビームは、対物レンズOの後側焦点面BFPに集束される。第1の実施形態と同様に、開口ダイアフラムASにより、フィールドダイアフラムFSのエッジから反射された光をフィルタリングして、臨界角θcよりも入射角が大きい光線のみを通過させることができる。また、第1の実施形態と同様に、光ビームは、対物レンズOの光軸に対して軸外にあり、対物レンズOの周縁部に入射し、臨界角θc以上の角度で表面Sで反射されるようになっている。このアセンブリは、例えば、新しいタイプの顕微鏡に直接組み込むことができる。
【0053】
図3は、第2の実施形態の第2の変形例による装置20である
図2の変形例であり、同じ参照符号が付されたところについては説明を省略する。前述の例との違いは、光学アセンブリ14の上流でパターンを形成する手段であり、ここでは、パターンは、光源23からのコリメートされた光をデジタルマイクロミラーDMDに反射させて形成され、当該デジタルマイクロミラーDMDは、
図2を参照して説明したのと同様に、パターンを受けた光の一部のみをデジタルマイクロミラーDMDに反射させて、レンズL’に入射させるパターンを形成するための装置BSに光を反射させる。また、第1の実施形態と同様に、光ビームは、対物レンズOの光軸に対して軸外にあり、対物レンズOの周縁部に入射し、臨界角θc以上の角度で表面Sで反射するようになっている。
【0054】
そのため、本発明は、例えば第1の実施形態のように既存の顕微鏡で実施することもできるし、第2の実施形態のように顕微鏡に組み込むこともできる。
【0055】
本発明は、フォトリソグラフィー、表面光化学、顕微鏡、ナノ粒子の領域特異的な光刺激、ディオプトリを形成する液相間のナノフィルムやナノオブジェクトの生成、感光性表面上のバーコード、グリッド、その他のマイクロメトリックパターンのエッチング、表面プラズモン共鳴技術の領域特異的な進化、エバネッセント波センサーにおける領域特異的な活性化の開発、エバネッセント波生成の領域化、フォトニック結晶による光の閉じ込めと操作、シリコンチップ上のフォトニックパターンの組み込み、新しい光学機能を実現する人工複合材料の開発、オプトエレクトロニクスに適用することができる。
【0056】
本発明は、生物学においても興味深い応用が可能であり、例えば、細胞周囲の構造やその形成(フォーカルアドヒージョン、ポドゾーム、ラメリポッド、エンド/エクソサイトーシス小胞、細胞骨格アンカーなど)を光遺伝学的に制御したり、細胞の形状、極性、動きを局所的に細かく制御したり、細胞膜の受容体(EGFR、IGFR、...)や転写因子(Stat3、5、...)を核の状態を変えずに局所的に活性化したりすることができる(例えば、蛍光相関分光法(FCS)による分析では必須)などである。また、細胞膜の受容体(EGFR、IGFR...)や転写因子(Stat3、5...)を局所的に活性化させ、核の状態を変化させることなく(例えば、蛍光相関分光法(FCS:Fluorescence Correlation Spectroscopy)による分析には不可欠)、分離した膜構造間の細胞内シグナル伝達速度を定量化したり、フォトリソグラフィープロセスによって細胞基質をマイクロメートルの横方向とナノメートルの軸方向の解像度で構造化したりすることができる。
【国際調査報告】