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▶ エコール ポリテクニーク フェデラル デ ローザンヌ (イーピーエフエル)の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-14
(54)【発明の名称】FMRP及び癌治療
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/16 20060101AFI20220707BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20220707BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20220707BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20220707BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20220707BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220707BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20220707BHJP
   C12Q 1/6851 20180101ALI20220707BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220707BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20220707BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20220707BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20220707BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20220707BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220707BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20220707BHJP
   A61K 35/12 20150101ALI20220707BHJP
   C12N 15/113 20100101ALN20220707BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20220707BHJP
   C07K 16/18 20060101ALN20220707BHJP
【FI】
A61K38/16
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12Q1/02
C12Q1/6851 Z
A61P35/00
A61P35/04
A61K31/7088
A61K48/00
A61K45/00
A61P43/00 121
A61K39/00 H
A61K35/12
C12N15/113 Z ZNA
C12N15/13
C07K16/18
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021563161
(86)(22)【出願日】2020-05-06
(85)【翻訳文提出日】2021-12-17
(86)【国際出願番号】 EP2020062593
(87)【国際公開番号】W WO2020225309
(87)【国際公開日】2020-11-12
(31)【優先権主張番号】19172927.6
(32)【優先日】2019-05-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.プルロニック
(71)【出願人】
【識別番号】512008613
【氏名又は名称】エコール ポリテクニーク フェデラル デ ローザンヌ (イーピーエフエル)
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(72)【発明者】
【氏名】ゼン チーチュン
(72)【発明者】
【氏名】ハナハン ダグラス
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4C084
4C085
4C086
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ08
4B063QQ53
4B063QR08
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS25
4B063QX02
4B065AA01X
4B065AA57X
4B065AA72X
4B065AA88X
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA23
4B065CA25
4B065CA44
4C084AA01
4C084AA02
4C084AA13
4C084BA44
4C084NA14
4C084ZB072
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZC751
4C085AA03
4C085BB01
4C085EE03
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZB26
4C086ZC75
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB64
4C087BB65
4C087CA04
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZB26
4H045AA11
4H045AA30
4H045CA40
4H045DA75
4H045EA20
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
本発明は、必要とする対象における原発癌及び/若しくは癌転移の治療並びに/又は予防のための、i)FMRPタンパク質、ii)FMRPタンパク質をコードするmRNA、及び/若しくはiii)FMR1遺伝子の発現並びに/又は免疫抑制活性を下方調節する組成物及び方法を提供する。
【選択図】図1B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
必要とする対象における癌及び/若しくは癌転移の治療並びに/又は予防に使用するための、i)FMRPタンパク質、ii)FMRPをコードするmRNA及び/若しくはiii)FMR1遺伝子の発現並びに/又は活性を調節する、使用するための薬剤。
【請求項2】
前記FMRPタンパク質の発現及び/又は活性の調節が、前記FMRPタンパク質とそのmRNA標的及び/又は他のタンパク質との調節的な相互作用を含む請求項1に記載の薬剤。
【請求項3】
前記癌及び/又は癌転移が、免疫療法に対して本質的に抵抗性であるか、又は適応抵抗性を獲得している、請求項1又は請求項2に記載の使用するための薬剤。
【請求項4】
FMRPをコードするRNAの翻訳を阻害する請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の使用するための薬剤。
【請求項5】
FMRPをコードするFMR1遺伝子の転写を阻害する請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の使用するための薬剤。
【請求項6】
前記薬剤が前記FMRPの標的mRNA若しくはmiRNAへの結合を阻害又は障害する請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の使用するための薬剤。
【請求項7】
前記薬剤が、化合物、ペプチド若しくはその類似体、抗体若しくは前記抗体の抗原結合フラグメント、抗体模倣物、又は核酸である請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の使用するための薬剤。
【請求項8】
前記核酸が、miRNA、siRNA、piRNA、hnRNA、snRNA、sgRNA、CRISPRベースの機能喪失システム、esiRNA、shRNA、及びアンチセンスオリゴヌクレオチドをコードする核酸、又はこれらの組み合わせを含む群から選択される請求項7に記載の薬剤。
【請求項9】
請求項7に記載のmiRNA、siRNA、piRNA、hnRNA、snRNA、sgRNA、CRISPRベースの機能喪失システム、esiRNA、shRNA、及び/若しくはアンチセンスオリゴヌクレオチドをコードする1種以上の核酸を含むプラスミド又はベクター。
【請求項10】
請求項9に記載のプラスミド若しくはベクター、又は請求項8に記載のmiRNA、siRNA、piRNA、hnRNA、snRNA、sgRNA、CRISPRベースの機能喪失システム、esiRNA、shRNA、及び/若しくはアンチセンスオリゴヌクレオチドをコードする1種以上の核酸を含む宿主細胞。
【請求項11】
前記核酸が、前記ペプチド若しくはその類似体、抗体若しくは前記抗体の抗原結合フラグメント、又は抗体模倣物をコードする核酸を含む群から選択される請求項7に記載の薬剤。
【請求項12】
請求項11に記載のペプチド若しくはその類似体、抗体若しくは前記抗体の抗原結合フラグメント、又は抗体模倣物をコードする1種以上の核酸を含むプラスミド又はベクター。
【請求項13】
医薬組成物であって、
i)治療有効量の、FMRPタンパク質、FMRPをコードするmRNA及び/若しくはFMR1遺伝子の発現並びに/若しくは活性を調節する薬剤、又は
ii)請求項9若しくは請求項11に記載のプラスミド若しくはベクター、又は
iii)請求項10若しくは請求項12に記載の宿主細胞と、
薬学的に許容できる担体又は希釈剤と
を含む医薬組成物。
【請求項14】
必要とする対象における癌及び/若しくは癌転移の治療並びに/又は予防に使用するための請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
1種以上の抗癌療法をさらに含む請求項13又は請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記1種以上の抗癌療法が、治療有効量の免疫チェックポイント阻害剤を含む請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項17】
前記免疫チェックポイント阻害剤が、PD-1阻害剤、PD-L1阻害剤、及びCTLA-4阻害剤、又はこれらの組み合わせを含む群から選択される請求項15に記載の医薬組成物。
【請求項18】
FMRPに向けられた前記1種以上の抗癌療法が、治療有効量の、個別化されたネオアンチゲンカクテルを含む抗腫瘍ワクチン、又は抗腫瘍性免疫反応を強化する他の免疫刺激剤と組み合わせて含まれる請求項15から請求項17のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項19】
必要とする対象における癌及び/若しくは癌転移の治療方法並びに/又は予防方法であって、請求項13から請求項18のいずれか1項に記載の医薬組成物を前記対象に投与する工程を含む方法。
【請求項20】
i)FMRPタンパク質、ii)FMRPをコードするmRNA及び/若しくはiii)FMR1遺伝子の発現並びに/又は活性を調節する薬剤を特定する方法であって、FMRPをコードする遺伝子をインビボ又はインビトロのアッセイに採用して前記薬剤を特定する工程を含む方法。
【請求項21】
i)FMRPタンパク質、ii)mFMRPをコードするRNA及び/若しくはiii)FMR1遺伝子の発現並びに/又は活性を調節する薬剤を特定する方法であって、
(1)FMRPを発現する試料を提供する工程と、
(2)前記生体試料を試験剤と接触させる工程と、
(3)FMRPの発現及び/又は活性のレベルを決定する工程と、
(4)前記発現及び/又は活性のレベルを、前記試験剤を接触させていない対照試料と比較する工程と、
(5)前記FMRPの発現及び/又は活性のレベルを低下させる試験剤を選択する工程と
を含む方法。
【請求項22】
前記FMRPの発現及び/又は活性のレベルが、FMRPによるその標的mRNA、miRNA、又はタンパク質への結合を阻害する前記薬剤によって決定される請求項21に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、2019年5月7日に出願された欧州特許出願第19172927.6号の利益を主張するものであり、その内容は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明の分野
本発明は、必要とする対象における癌及び/若しくは癌転移の治療並びに/又は予防のために、i)FMRPタンパク質(以下、「FMRP」)、ii)FMRPをコードするmRNA、及び/若しくはiii)FMRPをコードするFMR1遺伝子の発現並びに/又は活性を調節するための組成物並びに方法を提供する。
【背景技術】
【0003】
免疫チェックポイント受容体の発見及びチェックポイントブロックに基づく免疫療法の開発は、一部の悪性腫瘍を治癒する可能性を高めたことから、癌の基礎研究及び臨床治療における最も注目すべき成功例の一つである。プログラム死-1(programmed death-1、PD-1)又はそのリガンド(PD-L1)、細胞傷害性Tリンパ球抗原4(CTLA-4)等のT細胞共抑制性免疫チェックポイントを標的とした免疫調整剤は、様々な種類の悪性腫瘍の治療に承認されている
【0004】
しかしながら、広範囲のヒトの癌の種類にわたって、様々な形態の癌を抱える患者全体では大きく変動する割合(40~90%)で、周知のPD-1又はCTLA-4のブロックに基づく免疫療法の効果がほとんどないか又はまったくなく、特に膵管腺癌(PDAC)の患者ではその傾向が顕著である3、4。こうして、さらなる免疫療法戦略が依然として緊急に必要とされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Hargadonら、International Immunopharmacology 62:29-39(2018)
【非特許文献2】Schoenfeld及びHellman、Cancer Cell 37:443-455(2020年4月13日)
【非特許文献3】Royal,R.E.ら、J.Immunother. 33、828-833(2010)
【非特許文献4】Brahmer,J.R.ら、New England Journal of Medicine 366、2455-2465(2012)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、必要とする対象における原発癌及び/若しくは癌転移の治療並びに/又は予防に使用するための、i)FMRPタンパク質、ii)FMRPタンパク質をコードするmRNA、及び/若しくはiii)FMRPをコードするFMR1遺伝子の発現並びに/又は免疫抑制活性を下方調節することができる薬剤(因子)を提供する。
【0007】
本発明のmiRNA、siRNA、piRNA、hnRNA、snRNA、esiRNA、shRNA、及び/又はアンチセンスオリゴヌクレオチドをコードする1種以上の核酸を含むプラスミド又はベクターも提供される。
【0008】
さらに、本発明のプラスミド若しくはベクター、又は本発明のmiRNA、siRNA、piRNA、hnRNA、snRNA、esiRNA、shRNA、及び/若しくはアンチセンスオリゴヌクレオチドをコードする1種以上の核酸を含む宿主細胞が提供される。
【0009】
本発明のペプチド若しくはその類似体、抗体若しくはその抗体の抗原結合フラグメント、又は抗体模倣物をコードする1種以上の核酸を含むプラスミド又はベクターも提供される。
【0010】
さらに、本発明のプラスミド若しくはベクター、又は本発明のペプチド若しくはその類似体、抗体若しくはその抗体の抗原結合フラグメント、若しくは抗体模倣物をコードする1種以上の核酸を含む宿主細胞が提供される。
【0011】
さらに、医薬組成物であって、
i)治療有効量の、FMRPタンパク質、FMRPをコードするmRNA及び/若しくはFMR1遺伝子の発現並びに/若しくは活性を調節することができる薬剤、又は
ii)本発明のプラスミド若しくはベクター、又は
iii)本発明の宿主細胞と、
薬学的に許容できる担体又は希釈剤と
を含む医薬組成物が提供される。
【0012】
さらに、本明細書に開示される薬剤を含む、選択的かつ効率的な分解のためにFMRPを標的とする医薬組成物であって、かかる薬剤がE3-ユビキチンリガーゼに化学的に結合されている医薬組成物が提供される。この薬剤は、FMRPに強固に結合してFMRP-薬剤複合体を形成し、一方、E3-ユビキチンリガーゼは、結合したタンパク質をプロテアソームに誘導して分解させる。
【0013】
必要とする対象における癌及び/若しくは癌転移の治療方法並びに/又は予防方法であって、本発明の薬剤をその対象に投与する工程を含む方法も提供される。
【0014】
必要とする対象における癌及び/若しくは癌転移の治療方法並びに/又は予防方法であって、本発明の医薬組成物をその対象に投与する工程を含む方法も提供される。
【0015】
特定の理論に拘束されることを望むものではないが、多くの腫瘍と同様のレベルのFMRPタンパク質を産生するようにFMR1遺伝子を(内因的に、若しくは遺伝子治療を介して)細胞若しくは組織において遺伝子操作的に上方制御すること、又はFMRPタンパク質若しくはFMR1 mRNAを送達することは、病理学的な影響を伴うCD8(細胞傷害性)T細胞の慢性的又はその他の不適切な浸潤がある1型糖尿病等の自己免疫疾患を改善する戦略となり得ると考えられる。同様に、幹細胞及び他の細胞の移植を伴う細胞治療の成功は、そのような細胞がFMRPを過剰に発現するように、安定的に(レンチウイルスの導入若しくはCRISPR/Cas9ゲノム編集を介して)、又はAAVを介して一過性に操作されていれば、強化される可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1A】マウスPDAC癌細胞におけるFMRPの欠失は、免疫不全ではなく免疫適格性であるマウスにおいて、全体的な生存期間を著しく延長し、腫瘍の成長及び転移を著しく障害する。マウスの正常膵臓、前悪性PanIN病変、及びFVBNバックグラウンドのP48-cre;LSL-KrasG12D;P53R172H/+ PDACマウスモデルのPDAC腫瘍組織におけるFMRP発現の代表的な画像及び定量。各群n=3マウス。スチューデント(Student)T検定を用いた。スケールバー、100μm。ヒトPDAC組織マイクロアレイの免疫染色(図示せず)は、マウスPDACにおける結果を裏付ける。
図1B】マウスPDAC癌細胞におけるFMRPの欠失は、免疫不全ではなく免疫適格性であるマウスにおいて、全体的な生存期間を著しく延長し、腫瘍の成長及び転移を著しく障害する。FMRPタンパク質の異なるエピトープを認識する2種類のFMRP抗体(Abcam(アブカム)、ab191411;Cell signaling(セル・シグナリング)、4317s)を用いたウエスタンブロッティングにより明らかにした、「野生型(WT)」マウスPDAC細胞株(4361.12)におけるFMRPの発現、及びFMRPをコードするマウスFMR1遺伝子を標的としたCas9/SgRNAベクターを一過性にトランスフェクションして作製した誘導体FMRP欠損細胞(「KO」)におけるFMRPの非発現。独立した3回の実験。
図1C】マウスPDAC癌細胞におけるFMRPの欠失は、免疫不全ではなく免疫適格性であるマウスにおいて、全体的な生存期間を著しく延長し、腫瘍の成長及び転移を著しく障害する。培養した4361.12 WT2細胞及びFMRP KO2細胞のコロニー形成。6ウェルプレートの1つのウェルに指示された数の癌細胞を播種した。10日後に細胞を固定し、クリスタルバイオレットで染色した。独立した3回の実験。
図1D】マウスPDAC癌細胞におけるFMRPの欠失は、免疫不全ではなく免疫適格性であるマウスにおいて、全体的な生存期間を著しく延長し、腫瘍の成長及び転移を著しく障害する。インビボ肺転移アッセイの模式図。手短に言えば、2×10個の細胞を、免疫適格性のFVBNマウス又は免疫不全SCID/Beigeマウスの尾静脈に注射した。これにより、肺に癌細胞を播種する。マウスは週に2回モニターし、獣医学的なエンドポイントに達した時点で犠牲にした。
図1E】マウスPDAC癌細胞におけるFMRPの欠失は、免疫不全ではなく免疫適格性であるマウスにおいて、全体的な生存期間を著しく延長し、腫瘍の成長及び転移を著しく障害する。マウスPDAC WT2細胞又はFMRP KO2細胞を注射したシンジェニックの免疫適格性のFVBnマウスの全体的な生存期間、各群n=5マウス、カプラン・マイヤー(Kaplan-Meier)テストを使用した。
図1F】マウスPDAC癌細胞におけるFMRPの欠失は、免疫不全ではなく免疫適格性であるマウスにおいて、全体的な生存期間を著しく延長し、腫瘍の成長及び転移を著しく障害する。マウスPDAC WT2細胞又はFMRP KO2細胞を注射したシンジェニックの免疫不全SCID/Beigeマウスの全体的な生存期間、各群n=5マウス、カプラン・マイヤーテストを使用した。
図1G】マウスPDAC癌細胞におけるFMRPの欠失は、免疫不全ではなく免疫適格性であるマウスにおいて、全体的な生存期間を著しく延長し、腫瘍の成長及び転移を著しく障害する。ウエスタンブロット法により明らかにした、マウスPDAC細胞株4361.12 WT細胞におけるFMRPの発現、及び同じくマウスFMR1遺伝子を標的としたCas9/SgRNAベクターを一過性にトランスフェクションして作製した第2のFMRP KO細胞株(KO8)におけるFMRPの非発現。独立した3回の実験。
図1H】マウスPDAC癌細胞におけるFMRPの欠失は、免疫不全ではなく免疫適格性であるマウスにおいて、全体的な生存期間を著しく延長し、腫瘍の成長及び転移を著しく障害する。インビボ皮下(s.c.)原発腫瘍成長モデルの模式図。手短に言えば、5×10個の細胞をFVBNマウス又はNSGマウスの皮下にs.c.注射した。腫瘍を持つマウスを週に2回モニターし(観察し)、注射後25日目にWTの腫瘍体積が1000mmに達した時点で犠牲にした。
図1I】マウスPDAC癌細胞におけるFMRPの欠失は、免疫不全ではなく免疫適格性であるマウスにおいて、全体的な生存期間を著しく延長し、腫瘍の成長及び転移を著しく障害する。マウスPDAC WT(2つの独立したクローンWT2及びWT3)又はFMRP KO(2つの独立したクローンKO2及びKO8)細胞を注射したFVBn(I)マウスの28日目の腫瘍重量、各群n=4~10マウス、対応のないT検定を用いた。
図1J】マウスPDAC癌細胞におけるFMRPの欠失は、免疫不全ではなく免疫適格性であるマウスにおいて、全体的な生存期間を著しく延長し、腫瘍の成長及び転移を著しく障害する。マウスPDAC WT(2つの独立したクローンWT2及びWT3)又はFMRP KO(2つの独立したクローンKO2及びKO8)細胞を注射した免疫不全NSGマウスの28日目の腫瘍重量、各群n=4~10マウス、対応のないT検定を用いた。
図2A】マウスPDAC癌細胞におけるFMRPの欠失は、浸潤したCD8+(細胞傷害性)Tリンパ球の形で強い抗腫瘍性免疫反応を誘発する。マウスPDAC WT細胞及びKO細胞によって形成された原発腫瘍におけるCD8+(細胞傷害性)Tリンパ球の免疫化学的染色及び定量、スケールバー、100μm、各群n=3マウス。
図2B】マウスPDAC癌細胞におけるFMRPの欠失は、浸潤したCD8+(細胞傷害性)Tリンパ球の形で強い抗腫瘍性免疫反応を誘発する。マウスPDAC WT2細胞及びKO2細胞によって形成された原発腫瘍におけるCD45+免疫細胞のIF染色及び定量、スケールバー、100μm、各群n=3マウス。
図2C】マウスPDAC癌細胞におけるFMRPの欠失は、浸潤したCD8+(細胞傷害性)Tリンパ球の形で強い抗腫瘍性免疫反応を誘発する。FACS分析を用いて、免疫適格性のマウスで成長したPDAC WT及びFMRP KO腫瘍におけるCD45+免疫細胞の頻度を測定した。各群n=4~5マウス、2回の独立した実験。対応のないT検定を用いた。
図2D】マウスPDAC癌細胞におけるFMRPの欠失は、浸潤したCD8+(細胞傷害性)Tリンパ球の形で強い抗腫瘍性免疫反応を誘発する。FACS分析を用いて、免疫適格性のマウスで成長したPDAC WT及びFMRP KO腫瘍におけるCD3+CD8+ T細胞、CD8 T細胞の頻度を測定した。各群n=4~5マウス、2回の独立した実験。対応のないT検定を用いた。
図2E】マウスPDAC癌細胞におけるFMRPの欠失は、浸潤したCD8+(細胞傷害性)Tリンパ球の形で強い抗腫瘍性免疫反応を誘発する。FACS分析を用いて、免疫適格性のマウスで成長したPDAC WT及びFMRP KO腫瘍における活性化GRZb+細胞の頻度を測定した。各群n=4~5マウス、2回の独立した実験。対応のないT検定を用いた。
図2F】マウスPDAC癌細胞におけるFMRPの欠失は、浸潤したCD8+(細胞傷害性)Tリンパ球の形で強い抗腫瘍性免疫反応を誘発する。FACS分析を用いて、免疫適格性のマウスで成長したPDAC WT及びFMRP KO腫瘍における活性化IFNγ+の頻度を測定した。各群n=4~5マウス、2回の独立した実験。対応のないT検定を用いた。
図2G】マウスPDAC癌細胞におけるFMRPの欠失は、浸潤したCD8+(細胞傷害性)Tリンパ球の形で強い抗腫瘍性免疫反応を誘発する。FACS分析を用いて、免疫適格性のマウスで成長したPDAC WT及びFMRP KO腫瘍における活性化TNFα+細胞の頻度を測定した。各群n=4~5マウス、2回の独立した実験。対応のないT検定を用いた。
図2H】マウスPDAC癌細胞におけるFMRPの欠失は、浸潤したCD8+(細胞傷害性)Tリンパ球の形で強い抗腫瘍性免疫反応を誘発する。FVBNバックグラウンドのP48-cre;LSL-KrasG12D;P53R172H/+ PDACマウスモデルのマウスPDAC組織の中心部及び端(辺縁部)におけるFMRP及びCD8の発現を示す代表的な二重免疫染色画像。n=8マウスPDAC試料。対応のあるT検定を用いた。スケールバー、100μm。このデータは、FMRPが、KO腫瘍で見られるCD8 T細胞の流入を防いでいるという解釈を支持する(パネルA)。ヒトPDACの組織マイクロアレイをCD8及びFMRPについて免疫染色したところ(図示せず)、浸潤するCD8 T細胞の密度とFMRPの発現との間に逆相関が示され、マウスPDACでの結果と一致した。
図3A】癌細胞におけるFMRP KOは、他の方法には抵抗性のPDAC腫瘍を抗PD1抗体治療を含む免疫療法に対して感作する。FMRPの欠失は、インビトロ又はインビボのマウスPDAC細胞におけるPD-L1の発現を抑制しない。マウスPDAC WT及びFMRP KO細胞におけるPD-L1発現のWB分析、独立した3回の実験。
図3B】癌細胞におけるFMRP KOは、他の方法には抵抗性のPDAC腫瘍を抗PD1抗体治療を含む免疫療法に対して感作する。FMRPの欠失は、インビトロ又はインビボのマウスPDAC細胞におけるPD-L1の発現を抑制しない。マウスPDAC WT及びFMRP KO細胞によって形成された腫瘍におけるPD-L1発現を検出するための免疫染色、スケールバー、100μm、各群n=3マウス。
図3C】癌細胞におけるFMRP KOは、他の方法には抵抗性のPDAC腫瘍を抗PD1抗体治療を含む免疫療法に対して感作する。抗PD-1抗体療法(I.P.、マウス1匹あたり200μg、週2回)を行わない場合と行った場合のPDAC WT2及びKO2腫瘍の成長曲線、いずれもFVBnマウスを使用。各群n=7~11マウス、対応のないT検定を用いた。この結果は、このマウスPDAC癌細胞株から発生したPDAC腫瘍が、抗PD-1治療に対して感受性が低いことを示す。
図3D】癌細胞におけるFMRP KOは、他の方法には抵抗性のPDAC腫瘍を抗PD1抗体治療を含む免疫療法に対して感作する。抗PD-1抗体療法(I.P.、マウス1匹あたり200μg、週2回)を行わない場合と行った場合のPDAC WT2及びKO2腫瘍の成長曲線、いずれもFVBnマウスを使用。各群n=7~11マウス、対応のないT検定を用いた。大きく対照的に、FMRP KOは、CD8 T細胞の流入増加と関連して、PDAC腫瘍の成長を著しく障害する(図1G図1I図2A、及び図4Dに示すように)。このことは、FMRP阻害剤が、抗PD1/PD-L1療法に抵抗性の腫瘍において治療効果を有する可能性を示唆する。
図4A】マウスPDACにおいて、FMRPをコードする遺伝子及びRNA A to I編集タンパク質ADAR1をコードする遺伝子を複合的に欠失させると、生存期間がさらに延長される。マウスPDAC 4361.12 WT2細胞での共免疫沈降実験で明らかになったように、FMRP及びADAR1はPDAC癌細胞で相互作用する。FMRP及びADAR1は、ウサギ抗FMRP抗体(Abcam、ab191411)による免疫沈降の前と後に、全細胞溶解物のウエスタンブロットで可視化した。正常なrIgG抗体を対照として用いた。3回の独立した3回の実験。
図4B】マウスPDACにおいて、FMRPをコードする遺伝子及びRNA A to I編集タンパク質ADAR1をコードする遺伝子を複合的に欠失させると、生存期間がさらに延長される。FMRP-ADAR1相互作用は、逆共免疫沈降実験によっても検証された。FMRP及びADAR1は、マウス抗ADAR1抗体(Santa Cruz(サンタクルーズ)、sc73408)で免疫沈降する前と後に、全細胞溶解物のウエスタンブロットを免疫染色することで明らかになった。正常なmIgG抗体を対照として用いた。独立した3回の実験。
図4C】マウスPDACにおいて、FMRPをコードする遺伝子及びRNA A to I編集タンパク質ADAR1をコードする遺伝子を複合的に欠失させると、生存期間がさらに延長される。WT2、FMRP KO、ADAR1 KO及びFMRP/ADAR1ダブルKO細胞におけるFMRP及びADAR1の発現をウエスタンブロット法で検証した。これらの細胞は、マウスのFMR1遺伝子及びADAR1遺伝子を標的としたCas9/SgRNAベクターを一過性にトランスフェクションして作製した。独立した3回の実験。
図4D】マウスPDACにおいて、FMRPをコードする遺伝子及びRNA A to I編集タンパク質ADAR1をコードする遺伝子を複合的に欠失させると、生存期間がさらに延長される。WT2、FMRP KO、ADAR1 KO、及びFMRP/ADAR1ダブルKO細胞を注射したFVBnマウスの全体的な生存期間;カプラン・マイヤーテストを使用した。手短に言えば、5×10個の細胞をFVBNマウスの脇腹にs.c.注射した。マウスは週に2回モニターし、腫瘍体積が1000mmに達した時点で犠牲にした。
図5A】第2の腫瘍型である結腸癌の癌細胞におけるFMRPの欠失は、免疫不全ではなく免疫適格性であるマウスで同様に腫瘍の成長を障害する。AKP(ApcΔ/ Δ;KrasG12D/+;Trp53Δ/ Δ;CDX2 Cre ERT2)又はAPC(ApcΔ/ Δ;CDX2 Cre ERT2)マウスモデルのマウスの正常結腸組織及び腺腫組織におけるFMRP発現の免疫組織化学染色の代表的な画像及び定量。各群n=3マウス。スチューデントT検定を用いた。スケールバー、100μm。ヒト結腸癌組織マイクロアレイの免疫染色(図示せず)は、マウスのデータを裏付ける。
図5B】第2の腫瘍型である結腸癌の癌細胞におけるFMRPの欠失は、免疫不全ではなく免疫適格性であるマウスで同様に腫瘍の成長を障害する。マウスFMR1遺伝子を標的としたCas9/SgRNAベクターを一過性にトランスフェクションして作製したCT26 WT及びFMRP KOサブクローンにおけるFMRPの発現をウエスタンブロット法で検証した。CT26細胞におけるFMRPの欠失は、FMRPタンパク質の異なるエピトープを認識する2種類の抗体(Abcam、ab191411;Cell Signaling Technology、CST、#4317)を用いて検証された。独立した3回の実験。
図5C】第2の腫瘍型である結腸癌の癌細胞におけるFMRPの欠失は、免疫不全ではなく免疫適格性であるマウスで同様に腫瘍の成長を障害する。CT26のWT17#及びKO12#細胞のコロニー形成アッセイ。6ウェルプレートの1つのウェルに1250個の癌細胞を播種した。10日後に細胞を固定し、クリスタルバイオレットを用いて染色した。独立した3回の実験。
図5D】第2の腫瘍型である結腸癌の癌細胞におけるFMRPの欠失は、免疫不全ではなく免疫適格性であるマウスで同様に腫瘍の成長を障害する。インビボ皮下(s.c.)原発腫瘍成長モデルの模式図。手短に言えば、5×10個の細胞を、免疫適格性のBalb/cマウス又は免疫不全のNSGマウスにs.c.注射した。マウスを週に2回モニターし、注射後25日目又は18日目にWTの腫瘍体積が1000mmに達した時点で犠牲にした。
図5E】第2の腫瘍型である結腸癌の癌細胞におけるFMRPの欠失は、免疫不全ではなく免疫適格性であるマウスで同様に腫瘍の成長を障害する。s.c.注射後25日目までのCT26 WT17#又はFMRP KO12#細胞を注射したBalb/cマウスの腫瘍成長曲線、各群n=10マウス、対応のないT検定を用いた。
図5F】第2の腫瘍型である結腸癌の癌細胞におけるFMRPの欠失は、免疫不全ではなく免疫適格性であるマウスで同様に腫瘍の成長を障害する。CT26 WT17#又はFMRP KO12#細胞を注射したBalb/cマウスの25日目の代表的な画像及び腫瘍重量、各群n=10マウス、対応のないT検定を用いた。
図5G】第2の腫瘍型である結腸癌の癌細胞におけるFMRPの欠失は、免疫不全ではなく免疫適格性であるマウスで同様に腫瘍の成長を障害する。CT26 WT17#又はFMRP KO12#細胞によって形成された原発腫瘍におけるCD8及びFMRPの免疫化学的染色、スケールバー、100μm、各群n=3マウス(左パネル);CT26 WT17#又はFMRP KO12#細胞によって形成された原発腫瘍におけるCD8+T細胞の定量(右パネル);各群n=3マウス。スチューデントT検定を用いた。スケールバー、100μm。
図5H】第2の腫瘍型である結腸癌の癌細胞におけるFMRPの欠失は、免疫不全ではなく免疫適格性であるマウスで同様に腫瘍の成長を障害する。CT26 WT12#又はFMRP KO12#細胞をs.c.注射したNSGマウスの注射後14日目までの腫瘍成長曲線、各群n=5マウス、対応のないT検定を用いた。
図5I】第2の腫瘍型である結腸癌の癌細胞におけるFMRPの欠失は、免疫不全ではなく免疫適格性であるマウスで同様に腫瘍の成長を障害する。CT26 WT17#又はFMRP KO12#細胞を注射したNSGマウスの14日目の代表的な画像及び腫瘍重量、各群n=5マウス、対応のないT検定を用いた。
図6A】マウスメラノーマ細胞におけるFMRPの欠失は、免疫適格性のマウスにおける腫瘍の成長を著しく障害する。FVBNバックグラウンドのiBIP2(誘導性BRAF INK/ARF PTEN)メラノーママウスモデルのマウス正常皮膚及びメラノーマ組織におけるFMRP発現の免疫組織化学染色の代表的な画像並びに定量。正常皮膚群はn=2マウス、iBIP2メラノーマ群はn=4マウス。スチューデントT検定を用いた。スケールバー、100μm。
図6B】マウスメラノーマ細胞におけるFMRPの欠失は、免疫適格性のマウスにおける腫瘍の成長を著しく障害する。マウスFMR1遺伝子を標的としたCas9/SgRNAベクターを一過性にトランスフェクションして作製したB16-OVA WT及びFMRP KOサブクローンにおけるFMRPの発現をウエスタンブロット法で検証した。独立した3回の実験。
図6C】マウスメラノーマ細胞におけるFMRPの欠失は、免疫適格性のマウスにおける腫瘍の成長を著しく障害する。B16-OVA WT及びFMRP KO細胞のコロニー形成アッセイ。6ウェルプレートの1つのウェルに1250個の癌細胞を播種した。10日後に細胞を固定し、クリスタルバイオレットを用いて染色した。独立した3回の実験。
図6D】マウスメラノーマ細胞におけるFMRPの欠失は、免疫適格性のマウスにおける腫瘍の成長を著しく障害する。B16-OVA WT又はFMRP KO細胞をs.c.注射したC57B/6マウスの注射後18日目までの腫瘍成長曲線、各群n=5~10マウス、対応のないT検定を用いた。手短に言えば、5×10個の細胞をC57B/6マウスの脇腹にs.c.注射した。マウスは週に2回モニターし、注射後18日目にWTの腫瘍体積が1000mmに達した時点で犠牲にした。
図6E】マウスメラノーマ細胞におけるFMRPの欠失は、免疫適格性のマウスにおける腫瘍の成長を著しく障害する。18日目に収集した、B16-OVA WT細胞又はFMRP KO細胞を注射した免疫適格性のマウスの代表的な画像及び腫瘍重量、各群n=5~10マウス。対応のないT検定を用いた。
図7A】多段階膵神経内分泌腫瘍形成(PanNET)の遺伝子操作されたRIP1-Tag2(RT2)マウスモデルにおいて、初期の癌細胞におけるFMRPの特異的な欠失は、生存期間を有意に延長する。マウスの正常膵臓、PanNET腫瘍、肝転移におけるFMRP発現の免疫組織化学的染色の代表的な画像。各群n=3マウス。スケールバー、100μm。
図7B】多段階膵神経内分泌腫瘍形成(PanNET)の遺伝子操作されたRIP1-Tag2(RT2)マウスモデルにおいて、初期の癌細胞におけるFMRPの特異的な欠失は、生存期間を有意に延長する。雄のRT2マウス及びFMRP KO RT2マウスの全体的な生存期間、カプラン・マイヤーテストを使用した。PanNETの腫瘍形成を促進する腫瘍遺伝子SV40を発現する膵島β細胞細胞においてFMRPをコードするFMR1遺伝子を特異的に欠失させた雄のFMRP KO RT2マウスを、FMR1 floxedマウスとRip1-Tag 2(RT2)及びRIP7-Creマウスを交配することにより作製した。FMRP KO RT2群はn=17、及びRT2群はn=12。すべてのマウスは週に2回モニターし、獣医学的なエンドポイントに達した時点で犠牲にした。
図8A】マウス乳癌組織におけるFMRP発現の上昇。マウスの正常な乳腺脂肪体(MFP)及び遺伝子操作されたMMTV-PymT乳癌マウスモデルのデノボ乳房腫瘍におけるFMRP発現の代表的な画像及び定量。各群n=3マウス。スチューデントT検定を用いた。スケールバー、100μm。
図8B】マウス乳癌組織におけるFMRP発現の上昇。マウスの正常な乳腺脂肪体(MFP)及び遺伝子操作されたC3Tagトリプルネガティブ乳癌(TNBC)マウスモデルのデノボ乳房腫瘍におけるFMRP発現の代表的な画像及び定量。正常MFP群はn=3マウス、及びC3Tag乳癌群はn=3マウス。スチューデントT検定を用いた。スケールバー、100μm。ヒトのトリプルネガティブ乳癌(TNBC)組織マイクロアレイの免疫染色(図示せず)は、マウス乳癌における結果を裏付ける。
図9A】マウスPDAC細胞におけるsiRNAによるFMRPの阻害。マウスPDAC 4361.12 WT2細胞及びFMRP KO2細胞の移動(遊走)アッセイ。手短に言えば、Boydenチャンバ(膜の細孔径、8μm)の上段のウェルに、無血清DMEM培地50μl中の5000個の細胞を播種し、下段のチャンバにはFBSを含むDMEM培地200μlを入れた。18時間後、70%EtOHを含ませた綿棒を用いて、ウェル内に残った癌細胞を除去した。8μmの孔を通ってメンブレンを移動した細胞を固定し、次いでクリスタルバイオレットで染色した。移動した細胞の数をカウントした。データは独立した3つのウェルから収集した。対応のないT検定を用いた。独立した3回の実験。
図9B】マウスPDAC細胞におけるsiRNAによるFMRPの阻害。対照siRNA(すなわち、siCtrl:UAAGG CUAUG AAGAG AUAC(配列番号9))、並びにFMRPを標的としたsiRNA(siFMRP#1:AUAAG AGACA ACUUG GUGC(配列番号10)、及びsiFMRP#2:UAACUUCGGAAUUAUGUAG(配列番号11))をトランスフェクトしたマウスPDAC 4361.12 WT2細胞におけるFMRPの発現をウエスタンブロット法で検証した。独立した3回の実験。
図9C】マウスPDAC細胞におけるsiRNAによるFMRPの阻害。対照siRNA、及びFMRPを標的とするsiRNAをトランスフェクトしたマウスPDAC 4361.12 WT2細胞の移動アッセイ;1ウェルあたり5000細胞、18時間。データは独立した3つのウェルから収集した。対応のないT検定を用いた。独立した3回の実験。
図10A】FRETに基づくFMRP阻害剤のハイスルースクリーニング(HTS)。FRETに基づくFMRP阻害剤のハイスルースクリーニング(HTS)の模式図。ヒトFMRPタンパク質は、ヒトHEK293細胞で産生され、精製され、蛍光レポーターであるフルオレセインで生化学的に標識される。2)sc1 RNA1をCy3又はBHQの蛍光消光剤分子で標識し、sc1がFMRPに結合したときにFITCの励起性蛍光発光が消光されるようにする。3)FMRPとsc1の相互作用を阻害する能力を検証するために、消光された蛍光の放出を誘発する化合物を、さらに特性評価にかける。
図10B】FRETに基づくFMRP阻害剤のハイスルースクリーニング(HTS)。哺乳類発現FMRP-Hisタンパク質の精製プロファイル。ヒトFMRPタンパク質は、ヒトHEK293細胞で産生され、精製され、検証される。左のパネルは、各レーンに2μgの総タンパク質を示すクーマシーブルー染色。右のパネルは、抗His Tag抗体を用いたFMRP-Hisタンパク質発現のウエスタンブロット。M.分子量マーカー。Me.培養培地。FT.フロースルー(素通り画分)。W.洗浄液。E.溶出した画分(フラクション)。溶出した画分をプールし、バッファを交換して濃縮した。
【0017】
図11は、ヒトの様々な種類の癌において、FMRPが広くかつ非常に多く発現していることを示している(The Human Protein Atlas;https://www.proteinatlas.org/ENSG00000102081-FMR1/pathologyより転載)。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本明細書に記載される方法及び材料と類似又は等価な方法及び材料を本発明の実施又は試験で使用することができるが、好適な方法及び材料が以下に記載されている。本明細書中で言及されるすべての公開公報、特許出願、特許、及び他の参考文献は、参照によりその全体を援用したものとする。本明細書で論じられる公開公報及び出願は、本願の出願日前のそれらの開示についてのみ提供される。本明細書中の記載には、本発明が、先行発明であるという理由からそのような刊行物に先行する権利がないということを認めるものと解釈されるものは何もない。加えて、それらの材料、方法及び例は、説明のためだけのものであり、限定することは意図されていない。
【0019】
矛盾する場合、定義を含めて本明細書が優先することになる。特段の記載がない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語及び科学用語は、本発明の主題が属する技術分野の当業者によって一般に理解される意味と同じ意味を有する。本明細書で使用する場合、本発明の理解を容易にするために、以下の定義が与えられる。
【0020】
用語「comprise/comprising(…を含む、備える)」は、include/including(…を含む、備える)の意味で一般に使用され、つまり1種以上の特徴又は構成要素の存在を許容する。
【0021】
本明細書及び請求項で使用される場合、単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈と明らかに矛盾する場合を除いて複数の指示対象を含む。
【0022】
本明細書で使用される場合、「少なくとも1つ(1種)」とは、「1つ(1種)以上」、「2つ(2種)以上」、「3つ(3種)以上」等を意味する。
【0023】
本明細書で使用する場合、用語「対象」/「必要とする対象」、又は「患者」/「必要とする患者」は当該技術分野で十分に認識されており、本明細書中では、イヌ、ネコ、ラット、マウス、サル、ウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、ブタ、ラクダ、最も好ましくはヒトを含む哺乳動物を指すために互換的に使用される。ある場合には、上記対象は、処置の必要がある対象又は疾患若しくは障害を抱える対象である。しかしながら、他の態様では、上記対象は、健康な対象であることができる。この用語は、特定の年齢も性別も表さない。従って、雄であろうと雌であろうと、成人及び新生の対象が包含されることが意図されている。好ましくは、対象はヒトである。最も好ましくは、癌及び/若しくは癌の転移に罹患しているヒト、又は癌及び/若しくは癌の転移に罹患するリスクのある可能性があるヒトである。
【0024】
用語「核酸」、「ポリヌクレオチド」及び「オリゴヌクレオチド」は、互換的に使用され、任意の種類のデオキシリボヌクレオチド(例えば、DNA、cDNA、...)若しくはリボヌクレオチド(例えば、RNA、mRNA、...)のポリマー、又はデオキシリボヌクレオチドポリマーとリボヌクレオチドポリマーとの組み合わせ(例えば、DNA/RNA)で、直鎖状若しくは環状の立体構造の、一本鎖若しくは二本鎖の形態のものを指す。これらの用語は、ポリマーの長さに関して限定的に解釈されるものではなく、天然ヌクレオチドの公知の類似体、並びに塩基、糖及び/又はリン酸部分が修飾されたヌクレオチド(例えば、ホスホロチオエート骨格)を包含することができる。一般に、特定のヌクレオチドの類似体は、同じ塩基対形成の特異性を持つ。すなわち、Aの類似体はTと塩基対形成する。
【0025】
用語「ベクター」は、本明細書で使用される場合、ウイルスベクター、又はプラスミド若しくは他のビヒクル等の核酸(DNA若しくはRNA)分子を指し、これらは本発明の1種以上の異種核酸配列を含有し、好ましくは、異なる宿主細胞間での移動(導入)のために設計される。用語「発現ベクター」、「遺伝子導入ベクター」及び「遺伝子治療ベクター」は、本発明の1種以上の核酸を、好ましくはプロモーターの制御下で細胞内に組み込んで発現させるのに有効な任意のベクターを指す。クローニングベクター又は発現ベクターは、プロモーターに加えて、例えば、調節要素及び/又は転写後調節要素等の追加要素を含んでいてもよい。
【0026】
用語「約」は、特に所定の量に関しては、±10%の偏差を包含することを意味する。
【0027】
本発明者らは、膵神経内分泌癌及び腺管癌の浸潤性発育を促進する際のFMRPの役割に注目していたが、意外にも、インビボでの抗腫瘍性免疫を抑制する際のFMRPの予想外かつ前例のない役割を発見した。
【0028】
脆弱X精神遅滞タンパク質(fragile X mental retardation protein、FMRP)は、脳に高発現しているRNA結合タンパク質であり、シナプス(及び他の)タンパク質の特定のmRNAのサブセットに結合し、神経細胞内でのそれらの翻訳を制御している。FMRPはシナプス機能に重要な役割を果たしているため、その発現が不足すると、遺伝性知的障害の最も一般的な形態であり、自閉症の主な原因の1つでもある脆弱X症候群(FXS)になる。この役割とは異なり、FMRPの他の研究では、いくつかの種類の癌で発現していることが明らかになっており8、9、癌細胞の生存、浸潤及び転移に関与しているとされている。本開示では、FMRPという用語は、FMRPアイソフォームも指す。
【0029】
本発明者らは、マウスの膵管腺癌細胞(PDAC)及び結腸癌細胞においてFMRPの発現を欠くと、全体的な生存期間が著しく延長され、シンジェニックの免疫適格性のマウスにおける腫瘍の成長が著しく障害されることを示した。
【0030】
本発明は、必要とする対象における癌及び/若しくは癌転移の治療並びに/又は予防に使用するための、i)FMRPタンパク質、ii)FMRPをコードするmRNA及び/若しくはiii)FMR1遺伝子の発現並びに/又は活性を調節することができる薬剤を提供する。
【0031】
好ましくは、FMRPタンパク質の発現及び/又は活性の調節は、FMRPタンパク質とそのmRNA及びmiRNA標的との(例えば、そのRNA結合ドメインを介した)調節的な相互作用、並びに/又は他のタンパク質との調節的な相互作用を含む。
【0032】
特定の実施形態では、調節は、FMRP mRNAレベルの低下である。特定の実施形態では、調節は、FMRPタンパク質のレベル及び/又は活性の低下である。特定の実施形態では、FMRP mRNA及びFMRPタンパク質の両方のレベルが低下する。そのような低下は、時間依存的又は用量依存的に生じてもよい。
【0033】
本明細書で使用される場合、「阻害」又は「低下」若しくは「低減」は、本発明の薬剤の不存在下での標的核酸レベル又は標的タンパク質レベルと比較した、本発明の薬剤の存在下での標的核酸レベル又は標的タンパク質レベルの低下を意味するために互換的に使用される。
【0034】
1つの態様では、本発明の薬剤は、FMRPをコードするRNAの翻訳を阻害する。
【0035】
別の態様では、本発明の薬剤は、FMRPをコードするDNAの転写を阻害する。
【0036】
さらなる態様では、当該薬剤は、FMRPの標的mRNAへの結合を阻害若しくは障害し、かつ/又は、当該薬剤は、FMRPがその免疫抑制活性を伝達するときに介する相互作用タンパク質若しくは他の分子への結合を阻害若しくは障害する。
【0037】
好ましくは、治療すべき癌及び/又は癌転移は、免疫療法に対して抵抗性であり、癌腫、芽腫、肉腫、メラノーマ、リンパ腫、及び白血病又はリンパ系悪性腫瘍を含む癌の非限定的な例から選択される。このような癌のより具体的な例としては、乳癌、結腸癌、直腸癌、結腸直腸癌、腎臓癌又は腎癌、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、肺の腺癌及び肺の扁平上皮癌を含む明細胞癌肺癌、扁平上皮細胞癌(例えば、上皮性扁平上皮細胞癌)、子宮頸癌、卵巣癌、前立腺癌、前立腺新生物、肝癌、膀胱癌、腹膜癌、肝細胞癌、胃腸癌を含む胃癌(gastric cancer)及び胃癌(stomach cancer)、消化管間質腫瘍、膵臓癌、頭頸部癌、神経膠芽腫、網膜芽細胞腫、星状細胞腫、莢膜細胞腫、男化腫瘍、ヘパトーマ、非ホジキンズリンパ腫(NHL)、多発性骨髄腫、骨髄異形成障害、骨髄増殖性障害、慢性骨髄性白血病、急性血液悪性腫瘍を含む血液悪性腫瘍、子宮内膜癌又は子宮体癌、子宮内膜症、子宮内膜間質肉腫、線維肉腫、絨毛癌、唾液腺癌、外陰部癌、甲状腺癌、食道癌、肝細胞腫、肛門癌、陰茎癌、鼻咽頭癌、喉頭癌、カポジ肉腫、肥満細胞肉腫、卵巣肉腫、子宮肉腫、メラノーマ(黒色腫)、悪性中皮腫、皮膚癌、シュワン腫、乏突起神経膠腫、神経芽細胞腫、神経外胚葉性腫瘍、横紋筋肉腫、骨原性肉腫、平滑筋肉腫、ユーイング肉腫、末梢性原始神経外胚葉性腫瘍、尿路系癌、甲状腺細胞癌、ウィルムス腫瘍、並びに母斑症に伴う血管の異常増殖、浮腫(脳腫瘍に伴う浮腫等)及びメイグス症候群等が挙げられる。
【0038】
通常、本発明の薬剤は、化合物、ペプチド若しくはその類似体、核酸、抗体、その抗体の抗原結合フラグメント又は抗体模倣物である。好ましくは、当該薬剤は、細胞質におけるFMRPの優勢な細胞内局在を考慮して、癌細胞の細胞内区画にアクセスすることができる。
【0039】
本明細書で使用する場合、「化学剤又は化合物」は、その化学組成並びに生体組織及び生物への影響によって変化をもたらす化合物である。化学剤は、低分子阻害剤(SMI)、核酸、例えばsiRNA、又はペプチドであってもよい。実施形態では、化合物は、好ましくは、非ペプチジル分子である。最も好ましくは、この非ペプチジル分子は、本発明の核酸配列によってコードされるペプチドの選択的な細胞内タンパク質分解を誘導する。選択的な細胞内タンパク質分解を誘導する化合物の例は、タンパク質分解誘導キメラ分子(PROTAC)タンパク質分解剤及びプロテアソームの上流又は上にある脱ユビキチン化酵素の低分子化学調節剤(因子)を含む。当該技術分野で公知のように、PROTAC(Active Degradersとしても知られている)は、特定の不要なタンパク質を除去することができる2つの活性ドメインとリンカーとからなるヘテロ二官能性小分子である。
【0040】
FMRPを阻害し、その結果、遺伝子ノックアウトによって明らかになった本発明を再現する物質の組成物は、当業者にとって公知である多くの技術及び方法論を用いて発見し、検証することができる。以下は、抗癌剤の治療的開発の可能性を持つFMRP阻害剤を特定するために使用できるアプローチのスペクトルの例示である。
【0041】
上記薬剤がペプチドである場合には、上記薬剤は、好ましくは、癌細胞におけるペプチドの蓄積を増加させる薬剤と結合される。このような薬剤は、例えば、治療薬と結合されたトランスフェリンの膜トランスフェリン受容体媒介エンドサイトーシス等の受容体媒介エンドサイトーシスを誘導する化合物(Qian Z.M.ら、「Targeted drug delivery via the transferrin receptor-mediated endocytosis pathway」、Pharmacological Reviews、54、561、2002)であることができ、又は、例えばデカン酸、ミリスチン酸及びステアリン酸等の脂肪酸の群から選択することができる細胞膜透過性担体であることができ、これらは、プロテインキナーゼC(Ioannides C.G.ら、「Inhibition of IL-2 receptor induction and IL-2 production in the human leukemic cell line Jurkat by a novel peptide inhibitor of protein kinase C」、Cell Immunol、131、242、1990)及びタンパク質チロシンホスファターゼ(Kole H.K.ら、「A peptide-based protein-tyrosine phosphatase inhibitor specifically enhances insulin receptor function in intact cells」、J.Biol.Chem.、271、14302、1996)のペプチド阻害剤の細胞内送達にすでに使用されており、若しくは、ペプチドの中から選択することができる細胞膜透過性担体であることができる。好ましくは、細胞膜透過性の担体が用いられる。より好ましくは、細胞膜透過性担体ペプチドが使用される。
【0042】
細胞膜透過性担体がペプチドである場合、それは、好ましくは、正電荷アミノ酸リッチペプチドである。
【0043】
好ましくは、そのような正電荷アミノ酸リッチペプチドは、アルギニンリッチペプチドである。Futakiら(Futaki S.ら、「Arginine-rich peptides. An abundant source of membran-permeable peptides having potential as carrier for intracellular protein delivery」、J.Biol.Chem.、276、5836、2001)において、細胞膜透過性担体ペプチド中のアルギニン残基の数は、内部移行(内在化)の方法に大きな影響を与え、内部移行のための最適なアルギニン残基の数があるようであり、好ましくは6個を超えるアルギニンを含み、より好ましくは9個のアルギニン(R9)を含むことが示されている。
【0044】
上記ペプチドは、スペーサー(例えば、2つのグリシン残基)によって細胞膜透過性担体に結合されていてもよい。細胞膜透過性担体は、当業者が判断して任意のものを用いることができる。この場合、細胞膜透過性担体は、好ましくはペプチドである。
【0045】
通常、アルギニンリッチペプチドは、HIV-TAT 48-57ペプチド(GRKKRRQRRR;配列番号14)、FHV-コート(coat) 35-49ペプチド(RRRRNRTRRNRRRVR;配列番号15)、HTLV-II Rex 4-16ペプチド(TRRQRTRRARRNR;配列番号16)及びBMV gag 7-25ペプチド(KMTRAQRRAAARRNRWTAR)(配列番号17)を含む非限定的な群から選択される。
【0046】
未変性の(ネイティブな)ペプチド(L体)の固有の問題は、天然のプロテアーゼによる分解であるため、本発明のペプチド、及び細胞膜透過性ペプチドは、ペプチドのD体及び/又は「レトロインベルソ異性体」を含むように調製されてもよい。この場合、本発明のペプチド並びに細胞膜透過性ペプチドのフラグメント及びバリアントのレトロインベルソ異性体が調製される。
【0047】
当該薬剤が核酸である場合、その薬剤は、miRNA、siRNA、piRNA、hnRNA、snRNA、sgRNA、esiRNA、shRNA、及びアンチセンスオリゴヌクレオチド(例えば、修飾されたASO)をコードする核酸、又はこれらの組み合わせを含む群から選択される。
【0048】
当該薬剤が核酸である場合、当該薬剤は、ホスホロアミダイト化学又はH-ホスホネート化学等の任意の適切な当該技術分野で認識された方法によって調製することができ、これは手動で又は自動合成機によって実施することができる。本発明の核酸ベースの薬剤は、その標的にハイブリダイズする能力を損なうことなく、多くの方法で修飾されてもよい(例えば、Agrawal及びGait、Advances in Nucleic Acid Therapeutics、(2019) https://doi.org/10.1039/9781788015714参照)。
【0049】
当該薬剤がmiRNA、siRNA、piRNA、hnRNA、snRNA、sgRNA、esiRNA、shRNA、又はアンチセンス化合物である実施形態では、当該薬剤はヒトFMRP核酸に標的化される。ヒトFMRPをコードするヌクレオチド配列としては、限定されないが、GENBANK受入番号NM_001185075.1(配列番号1として本明細書に組み込まれる)、GENBANK受入番号NM_001185076.1(配列番号2として本明細書に組み込まれる)、GENBANK受入番号NM_001185081.2(配列番号3として本明細書に組み込まれる)、GENBANK受入番号NM_001185082.2(配列番号4として本明細書に組み込まれる)、及びGENBANK受入番号NM_002024.6(配列番号5として本明細書に組み込まれる)が挙げられる。
【0050】
マウスFMRPをコードするヌクレオチド配列としては、限定されないが、GENBANK受入番号NM_001290424.1(配列番号6として本明細書に組み込まれる)、GENBANK受入番号NM_001374719.1(配列番号7として本明細書に組み込まれる)、及びGENBANK受入番号NM_008031.3(配列番号8として本明細書に組み込まれる)が挙げられる。
【0051】
用語「マイクロRNA」、「miRNA」及び「MiR」は互換性があり、遺伝子発現を制御することができる内因性又は人工の非コードRNAを指す。miRNAは、RNA干渉を介して機能すると考えられている。このようなマイクロRNAを設計することは、当業者の技術の範囲内である。
【0052】
用語「siRNA」及び「低分子干渉RNA」は互換性があり、RNA干渉を誘導することができる一本鎖又は二本鎖のRNA分子を指す。siRNA分子は通常、18~30塩基対の長さの二本鎖領域を持っている。このようなsiRNAの設計は、当業者の技術の範囲内である。
【0053】
用語「piRNA」及び「Piwi結合RNA」は互換性があり、遺伝子サイレンシングに関与する低分子RNAのクラスを指す。piRNA分子は、通常、26~31ヌクレオチドの長さである。このようなPiRNAを設計することは、当業者の技術の範囲内である。
【0054】
修飾されたアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)の例としては、GapmeRが挙げられる。本明細書で使用する場合、GapmeRは、RNase H切断を誘導するのに十分な長さのデオキシヌクレオチドモノマーの中央ブロックを含むキメラアンチセンスオリゴヌクレオチドである。通常、本発明のGapmeRは、FMRPをコードする1種以上のmRNA又は標的mRNAに対して向けられる。このようなGapmeRの設計は、当業者の技術の範囲内である。
【0055】
用語「sgRNA」及び「ガイドRNA」は互換性があり、関心のある標的DNA領域を認識し、編集のためにエンドヌクレアーゼをそこに導く特定のRNA配列を指す。gRNAは通常、標的DNAに相補的な17~20ヌクレオチドの配列であるcrisprRNA(crRNA)と、Casヌクレアーゼの結合スカフォールドとして機能するtracr RNAの2つの部分から構成されている。
【0056】
本発明の標的DNAを認識するのに有効である限り、任意の適切な操作されたsgRNA、又はcrRNA及びtracrRNAを採用することができる。このようなsgRNA、又はcrRNA及びtracrRNAの設計は、当業者の技術の範囲内である。sgRNAは、例えば、FMR1のDNAを認識するように導かれることができ、例えば、5’-GTGGAAGTGCGGGGCTCCAA-3’(配列番号12)及び5’-GAGCTGGTGGTGGAAGTGCG-3(配列番号13)、又はこれらの組み合わせを含む群から選択されるsgRNAであることができる。
【0057】
用語「snRNA」及び「小核RNA」は互換性があり、RNAスプライシング及び転写因子の制御を含む様々なプロセスに関与する低分子RNAのクラスを指す。核小体低分子RNA(snoRNA)のサブクラスも含まれる。この用語は、snRNAのアンチセンス誘導体等の人工的なsnRNAを含むことも意図されている。このようなsnRNAの設計は、当業者の技術の範囲内である。
【0058】
それゆえ、特に、本発明は、FMRPをコードするmRNA又は標的mRNAを標的とする、長さが約18~約30ヌクレオチドの短い二本鎖RNAを含む単離されたsiRNAを提供する。用語「単離され(た)」は、人為的な介入によって自然の状態から変更又は取り出されたことを意味する。例えば、生きている動物の中に自然に存在するsiRNAは「単離され」ていないが、合成siRNAや、自然状態の共存物質から部分的又は完全に分離されたsiRNAは「単離され」ている。単離されたsiRNAは、実質的に精製された形で存在することができ、又は、例えば、siRNAが送達された細胞のような非天然の環境で存在することができる。本発明のsiRNAは、部分的に精製されたRNA、実質的に純粋なRNA、合成RNA、又は組換え的に産生されたRNA、並びに1つ以上のヌクレオチドの追加、欠失、置換及び/又は変更によって天然に存在するRNAとは異なる改変されたRNAを含むことができる。このような改変には、siRNAの末端(一方若しくは両方)又はsiRNAの1つ以上の内部ヌクレオチド等への非ヌクレオチド物質の付加を含むことができ、これにはsiRNAをヌクレアーゼ消化に対して耐性を持たせる改変が含まれる。
【0059】
本発明のsiRNAの一方又は両方の鎖は、3’オーバーハングを含むこともできる。「3’オーバーハング」は、RNA鎖の3’末端から延びる少なくとも1つの対になっていないヌクレオチドを指す。従って、1つの態様では、本発明のsiRNAは、長さ1~約6ヌクレオチド(リボヌクレオチド又はデオキシヌクレオチドを含む)、好ましくは長さ1~約5ヌクレオチド、より好ましくは長さ1~約4ヌクレオチド、特に好ましくは長さ約1~約2ヌクレオチドの少なくとも1つの3’オーバーハングを含む。
【0060】
上記siRNA分子の両鎖が3’オーバーハングを含む場合、それらのオーバーハングの長さは各鎖で同じであってもよいし異なっていてもよい。最も好ましい実施形態では、3’オーバーハングは、siRNAの両鎖に存在し、長さが2ヌクレオチドである。本発明のsiRNAの安定性を高めるために、3’オーバーハングを分解に対して安定化させることもできる。1つの実施形態では、オーバーハングは、アデノシンヌクレオチド又はグアノシンヌクレオチド等のプリンヌクレオチドを含むことによって安定化される。
【0061】
あるいは、修飾類似体によるピリミジンヌクレオチドの置換、例えば、3’オーバーハングの中のウリジンヌクレオチドを2’-デオキシチミジンで置換することは許容され、RNAi分解の効率に影響を与えない。特に、2’-デオキシチミジンに2’の水酸基がないことで、組織培養培地中での3’オーバーハングのヌクレアーゼ耐性が著しく向上する。
【0062】
本発明のsiRNAは、標的mRNA配列(FMRPをコードするmRNAを含む)のいずれかにおいて、約18~30、好ましくは19~25の連続したヌクレオチドの任意のストレッチ(広がり、stretch)を標的とすることができる。siRNAの標的配列を選択する技術は、当該技術分野で周知である。従って、本発明のsiRNAのセンス鎖は、標的mRNA中の約18~約30ヌクレオチドの任意の連続したストレッチと同一のヌクレオチド配列を含む。
【0063】
本発明のsiRNAは、当業者にとって公知である多くの技術を用いて得ることができる。例えば、siRNAは、当該技術分野で公知の方法を用いて、化学的に合成できるし、又は組換え的に産生することができる。好ましくは、本発明のsiRNAは、適切に保護されたリボヌクレオシドホスホロアミダイト及び従来のDNA/RNA合成機を用いて化学的に合成される。siRNAは、2つの別々の相補的なRNA分子として、又は2つの相補的な領域を有する単一のRNA分子として合成することができる。合成RNA分子又は合成試薬の市販業者としては、Proligo(プロリゴ)(ハンブルグ、ドイツ)、Dharmacon Research(ダーマコン・リサーチ)(ラファイエット(Lafayette)、コロラド州、米国)、Pierce Chemical(ピアス・ケミカル)(Perbio Science(ペルビオ・サイエンス)の一部、ロックフォード(Rockford)、イリノイ州、米国)、Glen Research(グレン・リサーチ)(スターリング(Sterling)、バージニア州、米国)、ChemGenes(ケムジーンズ)(アッシュランド(Ashland)、マサチューセッツ州、米国)、Qiagen(キアゲン)(ヒルデン(Hilden)、ドイツ)、及びCruachem(クルアケム)(グラスゴー、英国)が挙げられる。
【0064】
あるいは、任意の適切なプロモーターを用いて、組換えの円形又は線形のDNAプラスミドからsiRNAを発現させることもできる。プラスミドから本発明のsiRNAを発現させるのに適したプロモーターとしては、例えば、U6又はH1 RNA pol IIIプロモーター配列及びサイトメガロウイルスプロモーターが挙げられる。他の適切なプロモーターの選択は、当業者の技術の範囲内である。本発明の組換えプラスミドは、特定の組織又は特定の細胞内環境でsiRNAを発現させるための誘導性又は調節性のプロモーターも含むことができる。組換えプラスミドから発現されるsiRNAは、標準的な技術によって培養細胞発現系から単離されるか、又は神経細胞で細胞内に発現させることができる。
【0065】
本発明のsiRNAは、組換えウイルスベクターから神経細胞内で発現させることもできる。この組換えウイルスベクターは、本発明のsiRNAをコードする配列と、siRNA配列を発現させるための任意の適切なプロモーターとを含む。適切なプロモーターとしては、例えば、U6又はH1 RNA pol IIIプロモーター配列及びサイトメガロウイルスプロモーターが挙げられる。他の適切なプロモーターの選択は、当業者の技術の範囲内である。本発明の組換えウイルスベクターは、脳内(例えば、海馬神経細胞)、前立腺等でsiRNAを発現させるための誘導性又は調節性のプロモーターも含むことができる。
【0066】
1つの実施形態では、本発明の1種以上のsiRNAは、Thermo Scientific(サーモ・サイエンティフィック)のヒトFMRP(S5317、S5316)を標的とするsiRNAを含む非限定的な群から選択される。
【0067】
1つの実施形態では、本発明の1種以上のsiRNAは、siFMRP#1:AUAAG AGACA ACUUG GUGC(配列番号10)及びsiFMRP#2:UAACUUCGGAAUUAUGUAG(配列番号11)からなる非限定的な群から選択される。
【0068】
本発明の薬剤は、抗体、その抗体の抗原結合フラグメント、又は抗体模倣物から選択されてもよい。好ましくは、当該薬剤が抗体、その抗体の抗原結合フラグメント、又は抗体模倣物である場合、当該薬剤が癌細胞内に送達されうるように、当該薬剤は、抗体、その抗体の抗原結合フラグメント、若しくは抗体模倣物をコードする1種以上の核酸を含むプラスミド又はベクターの形態にあり、その場合、FMRPは細胞質及び核に局在する。
【0069】
本明細書で使用する場合、「抗体」は、特定の抗原決定基又はエピトープと反応するタンパク質分子であり、構造的特性に基づいて1つ又は5つの異なるクラスに属する:IgA、IgD、IgE、IgG、IgM。抗体は、ポリクローナル抗体(例えば、ポリクローナル血清)又はモノクローナル抗体であってもよく、その例としては、限定はされないが、完全に組み立てられた抗体、一本鎖抗体、抗体フラグメント、及びキメラ抗体、ヒト化抗体が挙げられるが、ただし、これらの分子は依然として生物学的に活性であり、かつ依然として本発明の少なくとも1種のペプチドに結合する必要がある。好ましくは、抗体はモノクローナル抗体である。同じく好ましくは、モノクローナル抗体は、IgG1、IgG2、IgG2a、IgG2b、IgG3及びIgG4又はこれらの組み合わせを含む群から選択される。最も好ましくは、モノクローナル抗体は、IgG1、IgG2、IgG2a、及びIgG2b、又はこれらの組み合わせを含む群から選択される。
【0070】
典型的な抗体は、2本の免疫グロブリン(Ig)重鎖と2本のIg軽鎖から構成されている。いくつかの異なるタイプの重鎖が存在し、抗体のクラス又はアイソタイプを定めている。これらの重鎖のタイプは、異なる動物間で異なる。すべての重鎖は一連の免疫グロブリンドメインを含み、通常、抗原を結合するのに重要な1つの可変(VH)ドメインといくつかの定常(CH)ドメインを持つ。各軽鎖は、2つの連なった(タンデムな)免疫グロブリンドメイン、すなわち、1つの定常(CL)ドメインと、抗原結合に重要な1つの可変ドメイン(VL)から構成されている。
【0071】
抗体の産生のために、様々な宿主動物が、FMRP遺伝子産物、又はその一部(組換えタンパク質中のFMRP遺伝子産物の一部が挙げられるがこれに限定されない)を注入することによって免疫されてもよい。このような宿主動物としては、いくつかの例としてウサギ、マウス及びラットが挙げられてもよいが、これらに限定されない。免疫学的反応を高めるために、宿主種に応じて様々なアジュバントを使用してもよく、その例としては、フロイント(完全及び不完全)、水酸化アルミニウム等のミネラルゲル、リゾレシチン等の表面活性物質、プルロニックポリオール、ポリアニオン、ペプチド、オイルエマルション、キーホールリンペットヘモシアニン、ジニトロフェノール、並びにBCG(カルメット・ゲラン桿菌、bacille Calmette-Guerin)、及びコリネバクテリウム・パルバム(corynebacterium parvum)等の潜在的に有用なヒトアジュバントが挙げられるが、これらに限定されない。
【0072】
モノクローナル抗体は、培養中の連続した細胞株による抗体分子の産生を可能にする任意の技術を用いて調製されてよい。これらには、Kohler及びMilstein、1975、Nature、256:495-497によって最初に記載されたハイブリドーマ技術、ヒトB細胞ハイブリドーマ技術(Kosborら、1983、Immunology Today、4:72、Coteら、1983、Proc.Natl.Acad.Sci.、80:2026-2030)、並びにEBV-ハイブリドーマ法(Coleら、1985、Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy、Alan R.Liss,Inc.、77-96頁)が含まれるが、これらに限定されない。加えて、適切な抗原特異性を有するマウス抗体分子の遺伝子と適切な生物活性を有するヒト抗体分子の遺伝子をスプライシングすることによる、「キメラ抗体」の作製のために開発された技術(Morrisonら、1984、Proc.Natl.Acad.Sci.、81:6851-6855;Neubergerら、1984、Nature、312:604-608;Takedaら、1985、Nature、314:452-454)を使用することができる。あるいは、一本鎖抗体の製造について記載されている技術(米国特許第4,946,778号明細書)を、結合パートナーの1つに特異的な一本鎖抗体を製造するために適応させることができる。
【0073】
本発明の抗体の修飾語として使用されるときの用語「単離され(た)」は、抗体が人の手によって作られたものであるか、又は、完全に若しくは少なくとも部分的に、自然に発生するインビボ環境から分離されていることを意味する。一般に、単離された抗体は、自然界で通常会合する1種以上の材料、例えば1種以上のタンパク質を実質的に含まない。用語「単離された」は、抗体の代替的な物理的形態、例えば、マルチマー/オリゴマー、修飾(例えば、リン酸化、グリコシル化、脂質化)若しくは誘導体化された形態、又は人の手によって生産された宿主細胞で発現された形態を除外するものではない。
【0074】
「単離された」抗体は、自然界で通常会合する物質のほとんど又はすべてを含まないとき、「実質的に純粋な」又は「精製された」抗体でもあることができる。従って、実質的に純粋又は精製されてもいる単離された抗体は、数百万の他の配列の中に存在するポリペプチド又はポリヌクレオチド、例えば、抗体ライブラリの抗体又はゲノムライブラリ又はcDNAライブラリの核酸を含まない。
【0075】
特定のエピトープを認識する抗体フラグメントは、公知の技術によって生成されてもよい。「抗原結合フラグメント」は、完全長の抗体の一部を含む。抗原結合フラグメントの例としては、Fab、Fab’、F(ab’)2、及びFvフラグメント、ダイアボディ、ミノボディ、ナノボディ、線形抗体(Zapataら(1995) Protein Eng. 8(10):1057-1062)、一本鎖の抗体分子、並びに抗体フラグメントから形成された多特異性抗体が挙げられる。
【0076】
このようなフラグメントは、抗体分子のペプシン消化によって生成することができ、Fabフラグメントは、F(ab’)フラグメントのジスルフィド架橋を還元することによって生成することができる。あるいは、Fab発現ライブラリを構築して(Huseら、1989、Science、246:1275-1281)、所望の特異性を有するモノクローナルFabフラグメントを迅速かつ容易に特定することができる。
【0077】
好ましくは、上記抗体又は上記抗体の抗原結合フラグメントは、細胞内に浸透するように操作されているか、又は遺伝子治療スタイルのアプローチを用いて細胞内で直接発現される。後者は、細胞内で産生され、同じ細胞内で抗原(FMRPタンパク質、FMRをコードするmRNA等...)と結合する細胞内抗体であり、イントラボディ(細胞内発現抗体)とも呼ばれることがある。
【0078】
本発明はまた、好ましくはプラスミド又はベクターの形態の遺伝子導入ベクターであって、本発明のmiRNA、siRNA、piRNA、hnRNA、snRNA、sgRNA、esiRNA、shRNA、ペプチド又はその類似体、抗体若しくはその抗体の抗原結合フラグメント、又は類似の細胞内抗体模倣物、及び/又はアンチセンスオリゴヌクレオチドをコードする1種以上の核酸を含むベクターも企図している。本明細書で使用する場合、「ベクター」は、核酸配列を標的細胞に移すことができるものである(例えば、ウイルスベクター、非ウイルスベクター、粒子状担体、及びリポソーム)。
【0079】
適切なベクターとしては、SV40及び公知の細菌プラスミドの誘導体、例えば、大腸菌プラスミドcol El、pCRl、pBR322、pMB9及びそれらの誘導体、RP4等のプラスミド;ファージDNA、例えば、ファージXの多数の誘導体、例えば、NM989、並びに他のファージDNA、例えばMl 3及び糸状一本鎖ファージDNA等;2μプラスミド又はその誘導体等の酵母プラスミド;昆虫細胞又は哺乳類細胞に有用なベクター等の真核細胞に有用なベクター;ファージDNA又は他の発現制御配列を採用するように改変されたプラスミド等、プラスミドとファージDNAとの組み合わせに由来するベクター;等が挙げられる。
【0080】
インビトロ又はインビボで細胞に核酸を送達するために、様々なウイルスベクターが使用される。非限定的な例は、ヘルペスウイルス、ポックスウイルス、アデノ随伴ウイルス、レンチウイルス等をベースにしたベクターである。原則として、これらのすべてが、本発明のmiRNA、siRNA、piRNA、hnRNA、snRNA、sgRNA、esiRNA、shRNA、及びアンチセンスオリゴヌクレオチドをコードする発現可能な核酸分子を含む発現カセットを送達するのに適している。
【0081】
あるいは、本発明の遺伝子導入ベクター、好ましくはウイルスベクターは、i)FMR1遺伝子の制御配列又はFMRP mRNAをコードするゲノムDNA配列を標的とする少なくとも1種のsgRNA、又はcrRNA及びtracrRNA、並びにii)及びRNA誘導型エンドヌクレアーゼ等の構造誘導型エンドヌクレアーゼを含むCRISPRベースの機能喪失システムを送達するために与えられる。本発明の標的DNAを特異的に結合するのに有効である限り、任意の適切な天然由来、又は人工的なRNA誘導型エンドヌクレアーゼを採用することができ、それはCas9、Cpf1、及びFEN-1を含む非限定的な群から選択されてもよい。好ましくは、上記RNA誘導型エンドヌクレアーゼは、Cas9である。
【0082】
好ましい態様では、上記ウイルスベクターは、アデノウイルスベクター、好ましくはレンチウイルスベクター又はバキュロウイルスベクター、最も好ましくはアデノウイルス/アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターであるが、他の送達手段又はビヒクルが知られている(例えば、酵母系、マイクロベシクル、遺伝子銃/ベクターを金ナノ粒子に付着させる手段等)が提供されており、いくつかの態様では、ウイルスベクター又はプラスミドベクターの1種以上が、リポソーム、ナノ粒子、エクソソーム、マイクロベシクル、又は遺伝子銃を介して送達されてもよい。より好ましくは、ウイルスベクターは、アデノ随伴ウイルス(AAV)及びレンチウイルスを含む群から選択される。レンチウイルスは、第1世代、第2世代、第3世代のものがある。
【0083】
本発明では、本発明のプラスミド若しくはベクター、又は本発明のmiRNA、siRNA、piRNA、hnRNA、snRNA、sgRNA、esiRNA、shRNA、CRISPRベースの機能喪失システム及び/若しくはアンチセンスオリゴヌクレオチドをコードする1種以上の核酸を含む宿主細胞も企図されている。この宿主細胞は、任意の原核細胞又は真核細胞であることができ、好ましくは、宿主細胞は真核細胞であり、最も好ましくは、宿主細胞は哺乳類細胞である。本発明の宿主細胞は、例えばエクソソーム及びマイクロベシクル等、当業者にとって公知である多くの技術を用いて、本発明のプラスミド又はベクターを癌細胞(複数可)に送達することができる。
【0084】
本明細書では、医薬組成物であって、
i)治療有効量の、本明細書に記載されるFMRPタンパク質、FMRPをコードするmRNA及び/若しくはFMR1遺伝子の発現並びに/若しくは活性を調節する薬剤、又はii)本発明のプラスミド若しくはベクター、又はiii)本発明の宿主細胞と、
薬学的に許容できる担体又は希釈剤と
を含む医薬組成物も提供する。
【0085】
本発明の医薬組成物は、それ自体公知の方法で製造されてもよく、例えば、従来の混合、溶解、造粒、糖剤製造(dragee-making)、微粒子化(levigating)、乳化、カプセル化、封入、又は凍結乾燥のプロセスによって製造することができる。適切な製剤化は、選択した投与経路に依存する。本願の化合物の製剤化及び投与に関する技術は、「Remington’s Pharmaceutical Sciences」、Mack Publishing Co.、イーストン(Easton)、ペンシルベニア州、最新版で見出されてもよい。
【0086】
本発明の任意の薬剤は、それ自体で、又は適切な担体若しくは賦形剤(複数種可)と混合される医薬組成物で、FMRP活性が不十分、異常、若しくは過剰であることを特徴とする障害を含む様々な障害を治療又は改善するための治療上有効な用量で、ヒトの患者を含む動物に投与することができる。
【0087】
いくつかの実施形態では、本発明の医薬組成物は、必要とする対象における癌及び/若しくは癌転移の治療並びに/又は予防に有用である。
【0088】
本明細書で使用される用語「治療有効量」は、健全な医学的判断の範囲内で、治療すべき症状及び/又は状態を有意に良い方向に変更するのに十分な高さでありながら、重篤な副作用を回避するのに十分な低さである(合理的なリスク/効果比である)、FMRPタンパク質、FMRPをコードするmRNA及び/若しくはFMR1遺伝子の発現並びに/又は活性を調節する薬剤の量を意味する。
【0089】
FMRPタンパク質、FMRPをコードするmRNA及び/若しくはFMR1遺伝子の発現並びに/又は活性を調節する薬剤の治療有効量は、患者の種類、種、年齢、体重、性別及び病状、治療すべき症状の重症度、投与経路、患者の腎機能及び肝機能等の様々な要因に応じて選択される。当業者であれば、癌及び/又は癌の転移の進行を予防、対抗、又は阻止するために必要な当該薬剤の有効量を容易に決定し、処方することができる。
【0090】
「薬学的に許容できる担体又は希釈剤」は、一般に安全で、非毒性で、望ましい医薬組成物を調製するのに有用な担体又は希釈剤を意味し、ヒトの医薬用途に許容できる担体又は希釈剤が含まれる。
【0091】
このような薬学的に許容できる担体は、水及び油等の無菌の液体であることができ、これらの油には、ピーナッツ油、大豆油、鉱物油、ゴマ油等の石油、動物、植物又は合成由来のものが含まれる。水は、当該医薬組成物を静脈内に投与する場合に好ましい担体である。生理食塩水、並びにブドウ糖及びグリセロールの水溶液も、特に注射液の場合には、液体の担体として採用することができる。
【0092】
薬学的に許容できる賦形剤としては、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、タルク、塩化ナトリウム、乾燥スキムミルク、グリセロール、プロピレングリコール、水、エタノール等が挙げられる。
【0093】
当該医薬組成物は、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩、硫酸塩等の鉱酸塩;酢酸塩、プロピオン酸塩、マロン酸塩、安息香酸塩等の有機酸の塩等、1種以上の医薬的に許容できる塩をさらに含有していてもよい。加えて、湿潤剤又は乳化剤、pH緩衝剤、ゲル又はゲル化材料、香料、着色料、ミクロスフェア、ポリマー、懸濁剤等の補助物質も当該医薬組成物中に存在してもよい。加えて、とりわけ剤形が再構成可能な形態である場合には、防腐剤、湿潤剤、懸濁剤、界面活性剤、酸化防止剤、アンチケーキング剤、充填剤、キレート剤、コーティング剤、化学的安定剤等の1種以上の他の従来の医薬成分も存在してもよい。適当な例示的成分としては、大結晶セルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリソルベート80、フェニルエチルアルコール、クロロブタノール、ソルビン酸カリウム、ソルビン酸、二酸化硫黄、没食子酸プロピル、パラベン類、エチルバニリン、グリセリン、フェノール、パラクロロフェノール、ゼラチン、アルブミン及びこれらの組み合わせが挙げられる。薬学的に許容できる賦形剤の徹底的な議論は、参照により本明細書に組み込まれるREMINGTON’S PHARMACEUTICAL SCIENCES(Mack Pub.Co.、ニュージャージー州、1991)で入手可能である。
【0094】
いくつかの実施形態では、本発明は、FMRPをコードする核酸及びその相同体、類似体、及び欠失体、並びに化合物、ペプチド若しくはその類似体、抗体若しくはその抗体の抗原結合フラグメント、抗体模倣物、又は核酸を含むがこれらに限定されない、FMRP遺伝子発現又はFMRP遺伝子産物の活性を調節する薬剤の特定、製造、並びに使用、並びにそのような化合物の医薬製剤及び投与経路に関する。
【0095】
FMRPトランスフェクタントを用いたアッセイは、FMRP遺伝子の発現を調節する薬剤を成功裏に特定するために用いることができる。また、FMRP遺伝子産物の活性に関するアッセイも記載されている。
【0096】
本発明はまた、FMRP転写産物に特異的なアンチセンスオリゴヌクレオチド、遺伝子産物に対する抗体(フラグメント及び模倣物)、FMRPを安定的に発現するように操作された細胞株、ペプチド、ポリヌクレオチド、及び小有機分子を含む化合物をスクリーニングして、FMRP遺伝子産物の発現又は活性を阻害するものを特定するためのアッセイ、並びにそのような化合物を用いて、FMRP活性によって特徴づけられる疾患を治療する方法を含む。
【0097】
ヒトFMRPタンパク質は、ヒトFMRPの作用機序に関するインビトロの研究、特に薬物スクリーニングによって特定されるFMRPに選択的な阻害剤の作用機序に関する更なる研究、あるいは既存の薬剤の、又は他の手段で特定されてもよい阻害剤の作用機序の研究に有用であろう。精製されたヒトFMRPタンパク質は、X線結晶学に適した結晶の製造にも有用であろう。このような結晶は、分子構造に基づいて薬物を合理的に設計するために極めて有益であろう。
【0098】
本発明は、FMRPの安定性及び/又は活性を調節する薬剤をスクリーニングするためのインビトロシステムを提供する。アッセイは、生体内の特定の血清レベルの薬剤の影響をより近似する生きた哺乳類細胞に対して、又は培養細胞株から調製したミクロソーム抽出物に対して行うことができる。ミクロソーム抽出物を用いた研究では、直接的な相互作用をより厳密に決定できる可能性がある。
【0099】
従って、本発明は、FMRPを選択的に阻害する薬剤の相対的な阻害活性を評価する方法も提供する。このアッセイは、例えば、FMRPを発現するトランスジェニック(遺伝子導入の)細胞株又はそのミクロソーム抽出物を、適切な培養培地又は緩衝液中で予め選択された量の薬剤と接触させる工程と、混合物にアラキドン酸を添加する工程と、上記細胞株又は上記ミクロソーム抽出物による、FMRPの合成レベル又はFMRPタンパク質の活性のレベルを、上記薬剤の不存在下での対照細胞株又はミクロソーム抽出物の一部と比較して測定する工程とを含む。
【0100】
いくつかの実施形態では、本発明は、細胞におけるFMRP活性を阻害する薬剤の能力を決定する方法であって、
(1)第1の予め選択された量の上記薬剤を、培養培地中の細胞に添加する工程であって、この細胞はFMRPを発現するDNA配列を含む工程と、
(2)上記細胞によるFMRP活性のレベルを測定する工程と、
(3)上記レベルを、上記薬剤の不存在下での細胞株によるFMRP活性のレベルと比較する工程と
を含む方法を提供する。
【0101】
いくつかの実施形態では、上記細胞は、トランスジェニック細胞である。いくつかの実施形態では、細胞は、トランスジェニック細胞株である。いくつかの実施形態では、トランスジェニック細胞又はトランスジェニック細胞株は、FMRPを発現する、染色体に組み込まれた組換えDNA配列を含む細胞を含む。いくつかの実施形態では、細胞は、哺乳類細胞である。いくつかの実施形態では、細胞は、自己のFMRP活性を発現しない。
【0102】
いくつかの実施形態では、上記細胞は、腫瘍形成及び悪性進行の過程で、免疫攻撃に対する抵抗性を獲得するようにFMRPの発現を著しく上方制御(増加)させたヒト又はマウスの癌細胞である。
【0103】
いくつかの実施形態では、上記FMRPは、哺乳類FMRP、好ましくはヒトFMPRである。
【0104】
いくつかの実施形態では、FMRPの発現及び/又は活性のレベルは、FMRPによるその標的RNAへの結合を阻害する薬剤によって決定される。
【0105】
いくつかの実施形態では、本発明は、i)FMRPタンパク質、ii)FMRPをコードするmRNA、及び/若しくはiii)FMR1遺伝子の発現並びに/又は活性を調節する薬剤を特定する方法であって、
(1)FMRPを発現する試料を提供する工程と、
(2)上記生体試料を試験剤と接触させる工程と、
(3)FMRPの発現及び/又は活性のレベルを決定する工程と、
(4)上記発現及び/又は活性のレベルを、上記試験剤を接触させていない対照試料と比較する工程と、
(5)上記FMRPの発現及び/又は活性のレベルを低下させる試験剤を選択する工程と
を含む方法を提供する。
【0106】
いくつかの実施形態では、上記試料は、自然に高レベルの内因性FMRPを発現する細胞である。いくつかの実施形態では、試料は、FMRPを発現するように操作された細胞である。
【0107】
いくつかの実施形態では、上記細胞は、トランスジェニック細胞である。いくつかの実施形態では、細胞は、トランスジェニック細胞株である。いくつかの実施形態では、トランスジェニック細胞又はトランスジェニック細胞株は、FMRPを発現する、染色体に組み込まれた組換えDNA配列を含む細胞を含む。いくつかの実施形態では、細胞は、哺乳類細胞である。いくつかの実施形態では、細胞は、自己のFMRP活性を発現しない。
【0108】
いくつかの実施形態では、上記細胞は、腫瘍形成及び悪性進行の過程で、免疫攻撃に対する抵抗性を獲得するようにFMRPの発現を著しく上方制御させたヒト又はマウスの癌細胞である。
【0109】
いくつかの実施形態では、上記FMRPは、哺乳類FMRP、好ましくはヒトFMPRである。
【0110】
いくつかの実施形態では、FMRPの発現及び/又は活性のレベルは、FMRPによるその標的RNAへの結合を阻害する薬剤によって決定される。
【0111】
スクリーニングで特定された薬剤は、FMRPの発現及び/又は活性を選択的に調節する能力を示す。これらの薬剤には、FMRPをコードする核酸並びにその相同体、類似体及び欠失体、並びに化合物、ペプチド若しくはその類似体、抗体若しくはその抗体の抗原結合フラグメント、抗体模倣物、又は核酸が含まれるが、これらに限定されない。
【0112】
FMRP遺伝子をコードする本発明のDNA、又はその相同体、類似体、若しくはフラグメントは、本発明に従って、FMRPの遺伝子型又はFMRPの発現の表現型である病状を診断するために使用されてもよい。
【0113】
あるいは、本発明の医薬組成物は、抗癌療法の複数の成分のうちの1つをさらに含む。好ましくは、この抗癌療法は、治療有効量の免疫チェックポイント阻害剤を含む。好ましくは、この免疫チェックポイント阻害剤は、PD-1阻害剤、PD-L1阻害剤、及びCTLA-4阻害剤、又はこれらの組み合わせを含む群から選択される。代替的に、又は追加的に、この1種以上の抗癌療法は、本明細書に記載されているように、化学療法剤、又は複数の異なる化学療法剤のカクテルである。
【0114】
本明細書で使用する場合、「PD-1阻害剤」は、T細胞上のPD-1受容体と、腫瘍細胞上に存在するそのリガンドであるPD-L1及びPD-L2との結合を妨害又はブロックする任意の薬剤を意味する。PD-1阻害剤は、PD-1のそのリガンドへの結合を妨害、阻害、又はブロックする抗体又はそのフラグメントであってもよい。PD-1阻害剤は、低分子又はその他の薬剤であってもよい。PD-1阻害剤の非限定的な例は、ニボルマブ、ペムブロリズマブ、ピディリズマブ、BMS 936559、MPDL3280A、MSB0010718C BGB-108及びmDX-400及びMEDI4736を含む。
【0115】
PD-L1阻害剤の非限定的な例は、MEDI-0680、RG-7446、デュルバルマブ、KY-1003、KD-033、MSB-0010718C、TSR-042、ALN-PDL、STI-A1014及びBMS-936559を含む群から選択される。
【0116】
本明細書で使用される場合、「CTLA-4阻害剤」は、抗CTLA-4 mAb又はブロッカー、例えばイピリムマブ、トレメリムマブ及びアバタセプト等のCTLA-4を妨害又はブロックする任意の薬剤を意味する。
【0117】
別の態様では、上記FMRPに向けられた抗癌療法は、治療有効量の、個別化されたネオアンチゲンカクテルを含む抗腫瘍ワクチン、又は抗腫瘍性免疫反応を強化する他の免疫刺激剤と組み合わせて含まれる。
【0118】
本発明はさらに、必要とする対象における癌及び/若しくは癌転移の治療方法並びに/又は予防方法であって、本発明の医薬組成物を、単独で、又は1種以上の抗癌療法と組み合わせて、上記対象に投与する工程を含む方法を提供する。最も好ましくは、上記抗癌療法は、治療有効量の免疫チェックポイント阻害剤を含む。好ましくは、この免疫チェックポイント阻害剤は、PD-1阻害剤、PD-L1阻害剤、及びCTLA-4阻害剤、又はこれらの組み合わせを含む群から選択される。代替的に、又は追加的に、この抗癌療法は、本明細書に記載されている化学療法剤、又は複数の異なる化学療法剤のカクテルである。
【0119】
本発明の医薬組成物とPD-1/PD-L1/CTLA-4阻害剤との組み合わせは、任意の順序で、又は同時に投与されてもよいことが理解されるであろう。選択された態様では、当該医薬組成物及びPD-1/PD-L1/CTLA-4は、以前に他の抗癌剤による治療を受けた患者に投与される。特定の他の態様では、当該医薬組成物及びPD-1/PD-L1/CTLA-4阻害剤は、実質的に同時に又は同時に投与される。例えば、対象は、PD-1/PD-L1/CTLA-4阻害剤による治療過程を受けている間に、本発明の医薬組成物を与えられてもよい。加えて、対象は、他の形態の癌治療、例えば化学療法を既に受けているか、又は同時に受けている可能性があることが企図されている。特定の態様では、本発明の医薬組成物は、PD-1/PD-L1/CTLA-4阻害剤による治療の1年以内に投与される。特定の代替的な態様では、本発明の医薬組成物は、PD-1/PD-L1/CTLA-4阻害剤及び/又は追加の抗癌療法による任意の治療の10ヶ月、8ヶ月、6ヶ月、4ヶ月、又は2ヶ月以内に投与される。特定の他の態様では、本発明の医薬組成物は、PD-1/PD-L1/CTLA-4阻害剤及び/又は追加の抗癌剤若しくは抗癌療法による任意の治療の4週間、3週間、2週間、又は1週間以内に投与される。いくつかの態様では、本発明の医薬組成物は、PD-1/PD-L1/CTLA-4阻害剤及び/又は追加の抗癌療法若しくは抗癌剤を用いた任意の治療の5日、4日、3日、2日、又は1日以内に投与される。本発明の医薬組成物と、PD-1/PD-L1/CTLA-4阻害剤及び/又は追加の抗癌剤若しくは抗癌療法とが、数時間又は数分以内に(すなわち、実質的に同時に)対象に投与されてもよいことがさらに理解されるであろう。
【0120】
実施形態では、本発明の薬剤は、T細胞(及びNK細胞)の殺傷活性及び豊富さを持続させるか、又は、FMRPを阻害する効果を補完する限りにおいて骨髄系由来サプレッサー細胞(MDSC)及び免疫抑制性マクロファージ等の他の障壁を破壊する、他の免疫調節剤と組み合わせることができよう。
【0121】
いくつかの実施形態では、本発明の薬剤は、ADAR1阻害剤を組み合わせることができよう。免疫抑制性のRNA編集酵素であるADAR1のノックアウト(すなわち、遺伝的阻害)は、FMRPのノックアウトも有するダブルKO腫瘍における全体的な生存期間の延長において、組み合わせ的な利点を有する。
【0122】
本発明の医薬組成物及びPD-1/PD-L1/CTLA-4阻害と組み合わせて投与されてもよい抗癌剤には、化学療法剤が含まれる。従って、いくつかの態様では、上記方法又は治療は、本発明の医薬組成物及びPD-1/PD-L1/CTLA-4阻害剤と、化学療法剤又は複数の異なる化学療法剤のカクテルとの併用投与を含む。本発明の医薬組成物による治療は、これらの他の治療法の投与に先立って、それと同時に、又はそれ以降に行うことができる。本発明が企図する化学療法剤には、ゲムシタビン、イリノテカン、ドキソルビシン、5-フルオロウラシル、シトシンアラビノシド(「Ara-C」)、シクロホスファミド、チオテパ、ブスルファン、サイトキシン(cytoxin)、タキソール(TAXOL)、メトトレキサート、シスプラチン、メルファラン、ビンブラスチン及びカルボプラチン等、当該技術分野で知られており、市販されている化学物質又は薬物が含まれる。複合的な投与(併用投与)としては、単一の医薬処方物での同時投与若しくは別々の製剤での同時投与、又は連続投与を挙げることができ、この連続投与は、いずれの順序でもよいが、一般にはすべての活性剤が同時にその生物学的活性を発揮できるような時間内に投与される。このような化学療法剤の調製及び投与スケジュールは、製造者の指示に従って、又は当業者が経験的に決定して使用することができる。
【0123】
本発明で有用な化学療法剤としては、チオテパ及びシクロホスファミド(CYTOXAN)等のアルキル化剤;ブスルファン、インプレスルファン及びピポスルファン等のアルキルスルホネート;ベンゾドーパ、カルボコン、メツレドーパ(meturedopa)及びウレドーパ(uredopa)等のアジリジン類;アルトレタミン、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスホルアミド、トリエチレンチオホスホルアミド及びトリメチロールメラミン等のエチレンイミン類及びメチルメラミン類;クロラムブシル、クロルナファジン、コロホスファミド(cholophosphamide)、エストラムスチン、イホスファミド、メクロレタミン、メクロレタミンオキシド塩酸塩、メルファラン、ノボエンビキン(novembichin)、フェネステリン、プレドニムスチン、トロホスファミド、ウラシルマスタード等のナイトロジェンマスタード類;カルムスチン、クロロゾトシン、ホテムスチン、ロムスチン、ニムスチン、ラニムスチン等のニトロソウレア類;アクラシノマイシン(aclacinomysis)類、アクチノマイシン、オースラマイシン(アントラマイシン、authramycin)、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノマイシン、カリケアマイシン、カラビシン(carabicin)、カミノマイシン(caminomycin)、カルジノフィリン、クロモマイシン類、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、デトルビシン、6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシン、ドキソルビシン、エピルビシン、エゾルビシン、イダルビシン、マルセロマイシン、マイトマイシン類、ミコフェノール酸、ノガラマイシン、オリボマイシン類、ペプロマイシン、ポトフィロマイシン(potfiromycin)、ピューロマイシン、クエラマイシン(quelamycin)、ロドルビシン(rodorubicin)、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、ツベルシジン、ウベニメクス、ジノスタチン、ゾルビシン等の抗生物質;メトトレキサート及び5-フルオロウラシル(5-FU)等の代謝拮抗剤;デノプテリン、メトトレキサート、プテロプテリン、トリメトレキサート等の葉酸類似体;フルダラビン、6-メルカプトプリン、チアミプリン、チオグアニン等のプリン類似体;アンシタビン、アザシチジン、6-アザウリジン、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、エノシタビン、フロクスウリジン、5-FU等のピリミジン類似体;カルステロン、プロピオン酸ドロモスタノロン、エピチオスタノール、メピチオスタン、テストラクトン等のアンドロゲン;アミノグルテチミド、ミトタン、トリロスタン等の抗副腎ホルモン類(anti-adrenals);フロリン酸等の葉酸補充剤(folic acid replenisher);アセグラトン;アルドホスファミド配糖体;アミノレブリン酸;アムサクリン;ベストラブシル(bestrabucil);ビスアントレン;エダトラキサート(エダトレキサート、edatraxate);デフォファミン(defofamine);デメコルシン;ジアジコン;エルフォルニシン(elfornithine);酢酸エリプチニウム;エトグルシド;硝酸ガリウム;ヒドロキシウレア;レンチナン;ロニダミン;ミトグアゾン;ミトキサントロン;モピダモール;ニトラクリン;ペントスタチン;フェナメット;ピラルビシン;ポドフィリン酸;2-エチルヒドラジド;プロカルバジン;PSK;ラゾキサン;シゾフラン(シゾフィラン);スピロゲルマニウム;テヌアゾン酸;トリアジコン;2,2’,2”-トリクロロトリエチルアミン;ウレタン;ビンデシン;ダカルバジン;マンノムスチン;ミトブロニトール;ミトラクトール;ピポブロマン;ガシトシン(gacytosine);アラビノシド(「Ara-C」);シクロホスファミド;チオテパ;タキソイド類、例えば、パクリタキセル(TAXOL(タキソール)、Bristol-Myers Squibb Oncology(ブリストル・マイヤーズスクイブ・オンコロジー)、プリンストン(Princeton)、ニュージャージー州)及びドキセタキセル(TAXOTERE(タキソテール)、Rhone-Poulenc Rorer(ローヌ・プーラン・ローラー)、アントニー(Antony)、フランス);クロラムブシル;ゲムシタビン;6-チオグアニン;メルカプトプリン;メトトレキサート;シスプラチン及びカルボプラチン等の白金類似体;ビンブラスチン;白金;エトポシド(VP-16);イホスファミド;マイトマイシンC;ミトキサントロン;ビンクリスチン;ビノレルビン;ナベルビン;ノバントロン;テニポシド;ダウノマイシン;アミノプテリン;ゼローダ;イバンドロン酸;CPT11;トポイソメラーゼ阻害剤RFS2000;ジフルオロメチルオルニチン(OMFO);レチノイン酸;エスペラミシン;カペシタビン;並びに上記のいずれかの薬学的に許容できる塩、酸、又は誘導体も含まれるが、これらに限定されない。化学療法剤には、腫瘍に対するホルモン作用を調節又は阻害する作用を有する抗ホルモン剤も含まれ、例えば、タモキシフェン、ラロキシフェン、アロマターゼ阻害剤である4(5)-イミダゾール類、4-ヒドロキシタモキシフェン、トリオキシフェン(trioxifene)、ケオキシフェン(keoxifene)、LY117018、オナプリストン(onapristone)、トレミフェン(Fareston(ファレストン))等の抗エストロゲン剤、並びにフルタミド、ニルタミド、ビカルタミド、ロイプロリド及びゴセレリン等の抗アンドロゲン;並びに上記のいずれかの薬学的に許容できる塩、酸又は誘導体が挙げられる。
【0124】
特定の態様では、上記治療剤はキナーゼ阻害剤である。特定の態様では、このキナーゼ阻害剤は、マルチターゲットの受容体チロシンキナーゼ阻害剤である。キナーゼ阻害剤としては、スニチニブ、パゾパニブ、クリゾチニブ、ダサチニブが挙げられるが、これらに限定されない。特定の態様では、第2の抗癌剤はスニチニブである。
【0125】
特定の態様では、上記治療剤は、哺乳類のラパマイシン標的タンパク質(mTOR)の阻害剤である。mTOR阻害剤としては、テムシロリムス、シロリムス、デフォロリムス、エベロリムスが挙げられるが、これらに限定されない。特定の態様では、第2の抗癌剤はエベロリムスである。
【0126】
特定の態様では、上記治療剤はソマトスタチン類似体である。ソマトスタチン類似体は、ソマトスタチンに対する特異的で高親和性の膜受容体との相互作用を通じて作用する。ソマトスタチン類似体としては、オクトレオチド、ソマチュリン、及びRC160(オクタスタチン(octastatin))が挙げられるが、これらに限定されない。特定の態様では、第2の抗癌剤はオクトレオチドである。
【0127】
特定の態様では、上記化学療法剤は、トポイソメラーゼ阻害剤である。トポイソメラーゼ阻害剤は、トポイソメラーゼ酵素(例えば、トポイソメラーゼI又はII)の作用を妨害する化学療法剤である。トポイソメラーゼ阻害剤としては、塩酸ドキソルビシン、クエン酸ダウノルビシン、塩酸ミトキサントロン、アクチノマイシン0、エトポシド、塩酸トポテカン、テニポシド(VM-26)、及びイリノテカンが挙げられるが、これらに限定されない。特定の態様では、第2の抗癌剤はイリノテカンである。
【0128】
特定の態様では、上記化学療法剤はアルキル化剤である。特定の態様では、化学療法剤はテモゾロミドである。
【0129】
特定の態様では、上記化学療法剤は、代謝拮抗剤である。代謝拮抗剤は、正常な生化学反応に必要な代謝物と類似した構造を持ちながら、細胞分裂等の細胞の1つ以上の正常な機能を妨害するほど異なる構造を持つ化学物質である。代謝拮抗剤としては、ゲムシタビン、フルオロウラシル、カペシタビン、メトトレキサートナトリウム、ラリトレキセド(ラルチトレキセド、ralitrexed)、ペメトレキセド、テガフール、シトシンアラビノシド、THIOGUANINE(GlaxoSmithKline(グラクソ・スミスクライン))、5-アザシチジン、6-メルカプトプリン、アザチオプリン、6-チオグアニン、ペントスタチン、リン酸フルダラビン、及びクラドリビン、並びにこれらのいずれかのものの薬学的に許容できる塩、酸、又は誘導体が挙げられるが、これらに限定されない。特定の態様では、第2の抗癌剤はゲムシタビンである。特定の態様では、治療すべき腫瘍は膵神経内分泌腫瘍であり、第2の抗癌剤は代謝拮抗剤(例えば、ゲムシタビン)である。
【0130】
特定の態様では、上記化学療法剤は有糸分裂阻害剤であり、これにはチューブリンを結合する薬剤が含まれるが、これらに限定されない。非限定的な例として、この薬剤はタキサンを含む。特定の態様では、この薬剤は、パクリタキセル若しくはドセタキセル、又はパクリタキセル若しくはドセタキセルの薬学的に許容できる塩、酸、若しくは誘導体を含む。特定の態様では、この薬剤は、パクリタキセル(TAXOL)、ドセタキセル(TAXOTERE)、アルブミン結合パクリタキセル(例えば、ABRAXANE(アブラキサン))、DHA-パクリタキセル、又はPG-パクリタキセルである。特定の代替的な態様では、有糸分裂阻害剤は、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビノレルビン、若しくはビンデシン等のビンカアルカロイド、又はその薬学的に許容できる塩、酸、若しくは誘導体を含む。いくつかの態様では、上記有糸分裂阻害剤は、Eg5キネシンの阻害剤、又はAurora A若しくはPlk1等の分裂期キナーゼの阻害剤である。
【0131】
特定の態様では、当該治療は、本発明の医薬組成物と、本明細書に記載のPD-1/PD-L1/CTLA-4阻害剤と、放射線療法との併用投与を伴う。本発明の医薬組成物による治療は、放射線療法の投与に先立って、それと同時に、又はそれ以降に行うことができる。そのような放射線療法の任意の投与スケジュールは、当業者によって決定されるように使用することができる。
【0132】
本発明の他の態様では、本発明の医薬組成物は、徐放性製剤、又は徐放性デバイスを用いて投与される製剤である。そのようなデバイスは当該技術分野で周知であり、例えば、経皮パッチ、及び非徐放性医薬組成物で徐放効果を達成するために様々な用量で連続的な定常状態で経時的に薬物送達を提供することができる小型の埋め込み型のポンプが挙げられる。
【0133】
本発明の他の態様では、本発明の医薬組成物は、上記患者が放射線療法を受ける前、受ける間及び/又は受けた後に投与される。
【0134】
「放射線療法」は、腫瘍を縮小し、癌細胞を死滅させるための高エネルギー放射線の使用を指す。放射線療法の例としては、外部放射線療法及び内部放射線療法(ブラキセラピーとも呼ばれる)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0135】
外部放射線療法は最も一般的なもので、通常、直接又は間接的な電離放射線のビームを腫瘍又は癌の部位に向けることを伴う。放射線のビーム、光子、コバルト、又は粒子線による治療は、腫瘍又は癌の部位に集中して行われるが、正常で健康な組織の被爆を避けることはほぼ不可能である。外部放射線療法用のエネルギー源は、直接的又は間接的な電離放射線(例えば、X線、ガンマ線、粒子線又はこれらの組み合わせ)を含む群から選択されまる。
【0136】
内部放射線療法は、ビーズ、ワイヤー、ペレット、カプセル等の放射線放出源を、腫瘍部位又はその近傍の体内に埋め込むことを伴う。内部放射線療法用のエネルギー源は、ヨウ素(ヨウ素125又はヨウ素131)、ストロンチウム89、リン、パラジウム、セシウム、インジウム、リン酸塩又はコバルトの放射性同位体、及びこれらの組み合わせを含む放射性同位体の群から選択される。このようなインプラント(埋め込み物)は、治療後に取り外すこともできるし、体内に放置することもできる。内部放射線療法の種類としては、組織内及び洞内ブラキセラピー(高線量率、低線量率、パルス線量率)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0137】
現在、あまり一般的ではない形態の内部放射線療法は、放射性同位体の生物学なキャリアを伴う。例えば、放射性物質と結合した腫瘍特異的な抗体を患者に投与する放射線免疫療法がある。この抗体は腫瘍抗原と結合し、これにより放射線量を関連組織に効果的に投与する。
【0138】
放射線療法を行う方法は、当業者にとって周知である。
【0139】
本発明の医薬組成物は、経口で、非経口で、舌下に、経皮で、直腸に、経粘膜で、局所に、吸入により、口腔内投与により、胸腔内に、静脈内に、動脈内に、腹腔内に、皮下に、筋肉内に、鼻腔内に、腫瘍内に、髄腔内に、及び関節内に、又はこれらの組み合わせを含むがこれらに限定されない異なる経路で対象に投与されてもよい。ヒトでの使用の場合、当該組成物は、ヒトの通常の使用方法に従って、適切に許容できる製剤として投与されてもよい。当業者であれば、特定の患者に最も適した投与法や投与経路を容易に決定するであろう。本発明の組成物は、従来のシリンジ、ニードルレス注射装置、「微粒子衝撃遺伝子銃(microprojectile bombardment gone guns)」、又はエレクトロポレーション(「EP」)、「ハイドロダイナミック法」、若しくは超音波等の他の物理的方法によって投与されてもよい。
【0140】
本発明の医薬組成物はまた、インビボエレクトロポレーションを伴う及び伴わないDNA注入(DNAワクチン接種とも呼ばれる)、リポソーム媒介、ナノ粒子促進の組換えベクター、例えば本明細書に記載された組換えレンチウイルス、組換えアデノウイルス及び組換えアデノウイルス随伴ウイルスを含むいくつかの技術によって患者に送達されてもよい。当該組成物は、静脈内注射してもよいし、脳又は筋肉に局所的に注入してもよいし、例えば、筋肉、脳、肝臓、前立腺、乳房、腎臓(複数可)、造血系等の関心のある組織にエレクトロポレーションしてもよい。
【0141】
本発明の薬剤及び/又は医薬組成物は、i)FMRPタンパク質、ii)FMRPタンパク質をコードするmRNA、及び/若しくはiii)FMRPをコードするFMR1遺伝子の発現並びに/又は免疫抑制活性を調節することが有益である任意の方法で使用されてもよい。
【0142】
当業者であれば、本明細書に記載されている本発明は、具体的に記載されているもの以外の変形及び変更が可能であることを理解するであろう。本発明は、その精神又は本質的な特性から逸脱しない範囲で、そのようなすべての変形及び変更を含むことを理解されたい。また、本発明は、本明細書で言及又は示されているすべての工程、特徴、組成物及び化合物を、個別に又はまとめて、また、上記工程又は特徴の任意及びすべての組み合わせ又は任意の2つ以上を含む。それゆえ、本開示は、例示されたすべての態様において、制限的ではないと考えられ、本発明の範囲は、添付の請求項によって示され、趣旨及び均等の範囲内に入るすべての変更は、本発明に包含されることが意図される。本明細書中には様々な文献が引用されており、それらの各文献はその全体が参照により本明細書に組み込まれる。上述の説明は、以下の実施例を参照することにより、より完全に理解されるであろう。
【実施例
【0143】
実施例1
材料及び方法
Crisper編集腫瘍細胞株の作製
マウスPDAC 4361.12細胞を、10%FBSを含むDMEMで培養した。CRISPR/Cas9システムを用いて、FMR1遺伝子を細胞内でノックアウトした。2種類のCas9及びシングルガイドRNA(sgRNA)の発現プラスミドで細胞を一過性にトランスフェクトし、ブラストサイジンで5日間選択(セレクション)した。FMRPをノックアウトするためのこの一過性のCRISPR戦略は、Cas9/sgRNAのゲノムへの安定した統合によって媒介される潜在的な非特異的効果を防ぐ。FMR1に使用したガイド配列は、5’-GTGGAAGTGCGGGGCTCCAA-3’(配列番号12)又は5’-GAGCTGGTGGTGGAAGTGCG-3’(配列番号13)である。細胞はブラストサイジンを含まない96ウェルプレートに単細胞でプレーティングした。FMRPタンパク質の欠失について、免疫ブロット法によりノックアウトクローンを選択した。得られたFMRP KO細胞はブラストサイジンへの感受性を保ち、これは、CRISPR/Cas9システムがこれらの細胞で一過性にしか発現していないことを示した。2つの独立したKOクローンとWTクローン(Cas9ベクターと空のSgRNAベクターでトランスフェクトしたもの)を示したとおりに分析した。
【0144】
動物実験
動物を用いたすべての実験は、ヴォー州(Canton de Vaud)の地方動物実験委員会によって承認されたプロトコル(ライセンス番号3214)に従って行った。FVBn、Balb/c又はC57B/6、NSG又はSCID/beigeマウスを8週齢で使用した。肺転移アッセイでは、200μl PBSに懸濁した2×10個のマウスPDAC WT又はFMRP KO細胞を、マウスの側部尾静脈に注射した。原発腫瘍成長アッセイでは、100μlのPBSに懸濁した5×10個の細胞をマウスの皮下に注射した。
【0145】
フローサイトメトリーによる腫瘍浸潤リンパ球の解析
フローサイトメトリーは、BD LSRII Fortessaを用いて行い、結果はFlowJoソフトウェア(Treestar(ツリースター))を用いて解析した。初代腫瘍細胞懸濁液は、染色の前にマウスFcブロック(抗CD16/CD32;Biolegend(バイオレジェンド)、#101312)でブロックした。蛍光色素を結合した抗マウスCD45(クローン30F-11)、CD3e(クローン145-2C11)、CD8a(クローン53-6.7)、グランザイムB(クローンNGZB)、TNFa(MP6-XT22)及びIFNg(クローンXMG1.2)抗体を製造業者のプロトコルに従って使用した。死細胞の染色にはBlue UVを用いた。細胞内サイトカインの発現を解析するため、s.c.腫瘍を有するマウスは、犠牲にする6時間前に250μgのタンパク質輸送阻害剤ブレフェルジンA(BD biosciences(ビーディー・バイオサイエンシーズ))、#555029)をI.P.注射した。その後、Fixation/Permeabilization Solution Kit(Sigma(シグマ)、B6542-25MG)を用いて細胞内サイトカインの染色を行った。
【0146】
免疫組織化学染色及び免疫蛍光染色
採取したマウス組織は、4%パラホルムアルデヒドで一晩固定し、パラフィンに包埋した後、ミクロトーム(Leica(ライカ))で切片にした。抗原賦活化は、クエン酸緩衝液(pH=6.0)を用いて95℃の水浴中で20分間、又はトリス-EDTA緩衝液(pH=8.0)を用いて95℃の水浴中で10分間行った。一次抗体は4℃で一晩インキュベートした。免疫組織化学(IHC)染色では、二次抗体(ImmPRESS HRP試薬キット、抗ウサギMP-7401及び抗ラットMP-7444)を室温で45分間インキュベートし、最後にペルオキシダーゼ基質DAB(Sigma-Aldrich(シグマ・アルドリッチ)、D5637-1G)を用いて室温で同じ時間(最大10分間)、可視化した。染色した組織切片をマイヤーヘマトキシリンで対比染色した。免疫蛍光(IF)染色では、二次抗体(Alexa Fluor 488、568、647、Thermo Fisher Scientific(サーモフィッシャー・サイエンティフィック))を室温で45分間インキュベートした。画像は、Leica DM5500B及びZeiss LSM 700正立共焦点顕微鏡で取得し、Image Jで解析した。使用した抗体は以下の通りである:FMRP、Abcam(アブカム)、ab191411;マウスCD8、Thermo Fisher Scientific、14-0808-82。
【0147】
統計解析
統計解析にはPrism 7(GraphPad Software(グラフパッド・ソフトウェア))を用いて行った。特段の記載がない限り、対応のない(対になっていない、non-paired)実験ではスチューデントのt検定を用いた(両側検定)。ガウス分布に従わない対応のある(paired)実験にはウィルコクソン(Wilcoxon)の符号付順位和検定(両側)を行った。P<0.05を統計的に有意とした。値は平均±SEMである。
【0148】
結果
最近の研究で、FMRPがNMDARシグナル伝達の下流のエフェクターとして作用し、膵臓癌の浸潤性発育を促進することが明らかになった16。本発明者らはさらに、ヒト(データは示さず)及びマウスのPDAC組織でFMRPの発現が上昇していることを確認した(図1A)。
【0149】
腫瘍の進行におけるFMRPの役割をさらに調べるために、本発明者らはCrisper/Cas9システム10を用いて、FvBnバックグラウンドのP48-cre;LSL-KrasG12D;P53R172H/+PDACマウスモデルからの単細胞由来の細胞株である、マウスの膵臓腺癌(PDAC)細胞株4361.12でFMRPをノックアウトした(図1B)。重要なのは、Cas9/sgRNAを安定的にゲノムに組み込むことで生じる潜在的な非特異的影響や免疫原性を回避するために、FMRPをノックアウトするための一過性のCrisper戦略を実施したことである。
【0150】
インビトロの機能アッセイでは、WTとFMRP KOのPDAC細胞との間でコロニー形成能力に有意差はないことが示された(図1C)。転移におけるFMRPの役割の可能性を考慮して、本発明者らは、まず、WT及びFMRP KO細胞を免疫適格性のFVBnマウスの尾静脈に注射し、標準的なインビボ肺転移アッセイを行った(図1D)。驚くべきことに、FMRP-KO2細胞を注射した5匹のマウスのうち2匹は、注射後120日間生存したが、FMRP-WT細胞を注射した5匹のマウスは、注射後25日以前にすべて死亡した(図1E)。免疫不全SCID/beigeマウスで同様のインビボ肺転移アッセイを行ったところ、これら2つの群の間で全体的な生存期間にこれほど大きな差はなく(図1F)、FMRP-KO腫瘍を持つマウスで観察された生存の向上には適応免疫系が関与していることがわかった。次に、本発明者らは、癌細胞を皮下注射して形成した原発腫瘍モデルを使用することにした(図1H)。FMRP-KO細胞をFVBnマウスに皮下注射すると、FMRP-KO細胞の腫瘍成長は、FMRP-WT細胞に比べて著しく障害されたが、その細胞を免疫不全のNSGマウスに皮下注射すると、両群間で腫瘍重量に有意な変化は見られなかった(図1I及び図1J)ことから、インビボでの抗腫瘍性免疫の調節にFMRPが関与している可能性がさらに示唆された。
【0151】
重要なことは、WTの癌細胞及びFMRP-KOの癌細胞から形成された腫瘍をIHCで染色したところ、KOの腫瘍では多数のCD8+細胞傷害性T細胞が浸潤していることが明らかになったことである。非常に対照的に、WT腫瘍にはCD8+T細胞はほとんど存在していなかった(図2A)。FMRP KO腫瘍では、CD45+免疫細胞の数もWT腫瘍に比べて増加していた(図2B)。これと整合して、WT腫瘍及びFMRP-KO腫瘍からの初代培養細胞懸濁液のFACS分析により、WT腫瘍と比較してKO腫瘍ではCD45+免疫細胞、CD3+CD8+T細胞、及びGRZb+、IFNγ+、TNF+ T細胞の数が劇的に増加していることがさらに示され(図2C図2G)、インビボでの抗腫瘍性免疫の抑制におけるFMRPの役割をさらに裏付けた。さらに、マウスPDAC組織におけるFMRP及びCD8の二重IHC染色を行ったところ、CD8 T細胞はFMRPを発現している腫瘍の中心部でほとんど検出されないことが判明した(図2H)。ヒトのPDAC試料においても、FMRPの発現とCD8 T細胞の浸潤との間に有意な逆相関があることが判明した。
【0152】
癌細胞においてFMRPを欠失させることで、免疫チェックポイントタンパク質の発現が変化し、抗腫瘍性免疫反応が引き起こされるか否かを検討した。FMRPによって抑制された抗腫瘍性免疫が、確立されたT細胞共抑制性のPD-1又はおそらくは、CTLA-4シグナル伝達に依存しているのであれば、FMRP-KO腫瘍細胞において、PD-1リガンドであるPD-L1/CD274及びPD-L2/PDCD1LG2、又はCTLA-4リガンドであるB7/B7-1/CD80及びCD86の下方制御が予想された。しかしながら、WB分析及びIHC染色により、インビトロ及びインビボでWT細胞とFMRP KO細胞とを比較したところ、PD-L1の発現は変化しないことが示され(図3A図3B)、PDL2、CD86及びCD80はいずれもほとんど検出されなかった(データは示さず)。このことは、このPDAC癌細胞株におけるFMRPを介した免疫抵抗性の基本的なメカニズムには、PD-1やCTLA-4の免疫チェックポイントリガンドの抑制は関与していないことを示す。
【0153】
加えて、免疫適格性のFVBnマウスで形成されたWTの腫瘍に対して抗PD1抗体を用いた前臨床試験も行ったところ、WTのPDAC腫瘍は抗PD1療法に反応しないことが明らかになり、ヒトPDAC患者における抗PD1治療への無反応性を再現していることがわかった(図3C)。このように抗PD1チェックポイント免疫療法に対する治療抵抗性があるにもかかわらず、FMRPをKOした誘導体PDAC腫瘍細胞は、インビボでの腫瘍成長を顕著に障害し(図1)、これはCD8 T細胞の流入と関連している(図2)。この結果は、チェックポイント阻害剤が効かないPDAC及び他の腫瘍の治療において、FMRP阻害剤が新たな免疫療法戦略として利用できることを示唆している。興味深いことに、FMRPノックアウト腫瘍においてPD1抗体治療を行うと、腫瘍の成長がさらに抑制される。これは、抗PD1抗体とFMRPノックアウトを組み合わせることで、生存期間の延長に組み合わせ的な利益があることを示している(図3D)。
【0154】
最近の研究では、A-to-I RNA超編集(super-editing)を媒介するRNA結合タンパク質であるADAR1が、免疫チェックポニット遮断に対する抵抗性を促進することが示されている23。興味深いことに、別の研究では、FMRPも、ADAR1と物理的に相互作用することで、神経細胞におけるRNA超編集を制御することが示されている。マウスPDAC細胞におけるFMRPとADAR1との強い相互作用は、共免疫沈降法(co-IP)及び逆co-IPによって確認された(図4A図4B)。FMRP及びADAR1のダブルKOの組み合わせが、さらにより強力な抗腫瘍性免疫反応を誘発するか否かを調べるために、ADAR1シングルKO及びFMRP/ADAR1ダブルKOのPDAC細胞を、FMR1及びADAR1遺伝子を標的としたCas9/sgRNAベクターの一過性のトランスフェクションを用いて作製し(図4C)、シンジェニックマウスに注射した。興味深いことに、FMRP及びADAR1を組み合わせてKOすると、FMRP単独KO及びADAR1単独KOの群に比べて、全体的な生存期間が有意に延長した(図4D)。これは、癌免疫療法においてFMRP及びADAR1を組み合わせて標的とすることの臨床応用を支持する。
【0155】
他の種類の癌における抗腫瘍性免疫の抑制におけるFMRPの潜在的な役割をより広く探るために、マウスの結腸組織(図5A)、メラノーマ組織(図6A)、膵神経内分泌腫瘍(PNET)及び肝転移(図7A)、乳癌組織(図8A)において、対応する正常組織と比較して、劇的に増加したFMRPの発現を検出した。ヒトのデータは、マウスのデータと一致している(示さず)。同様に、マウスの結腸癌細胞(図6B)及びメラノーマ細胞(図7B)におけるFMRP KOは、インビトロでのコロニー形成(増殖能力及び生存能力を反映する)を大きく障害することはない。しかしながら、FMRP KOは、免疫不全マウスではないシンジェニックマウスにおいて結腸腫瘍の成長を著しく障害した(図6D図6I図7D図7E)。CD8 T細胞数の増加は、FMRP KOの結腸腫瘍でのみ見られ、WTの腫瘍では見られなかった(図6G)。FMRPは、RIP1-Tag2(RT2)PanNETマウスモデルで発生したPanNET腫瘍においても、RIP-7 creマウスとRT2マウス及びFMR1-floxedマウスとの交配によりノックアウトされた。重要なことに、FMRP KO RT2マウスは、WT RT2マウスに比べて生存期間が有意に延長しており、PNET腫瘍の進行の促進にFMRPが関与していることが強く裏付けられた。
【0156】
ヒトの腫瘍におけるFMRPの発現に関する追加の調査では、致死性の固形腫瘍の主要な形態のすべてを含む、幅広い種類の癌患者の30~100%において、有意な上方制御が明らかになった(例えば、図11を参照)。
【0157】
実施例2
FMRPのエフェクター機能に関与する相互作用を阻害するために、オリゴヌクレオチド及びペプチドを用いて、FMRPのRNA結合部位を直接標的とする
FMRPのRGG及びKH2 RNA結合ドメインは、複数の研究で(例えば、Vasilyev、2015;Darnell、2005)、FMRPの機能的な活性に関与していると示唆されており、これらの相互作用に関する構造的な知識に基づいて、豊富な競合分子を送達することによってFMRA-RNA相互作用を阻害することができる。当該方法の1つの変形例では、それぞれRGG/KH2ドメインに結合するsc1/kc RNAからのコア配列を表すDNA又はRNAオリゴヌクレオチドが合成されるであろう。いくつかの実施形態では、オリゴヌクレオチドの半減期とその結合親和性の両方を高めることを目的として、ロックされた核酸(ロックド核酸、LNA)技術が上記合成に含まれうる。第2の変形例では、FMRPのRGGドメイン及びKH2ドメインにまたがるポリペプチドが合成され、試験されるであろう。いくつかの実施形態では、このポリペプチドは、ポリペプチドリンカーによって結合される。いずれの変形例においても、候補は、FMRPを発現する培養癌細胞に送達することによって最初に試験されて、以前に記載され(Li及びHanahan、2013;Li、Zengら、2018)、図9に示されているBoydenチャンバアッセイで侵襲性が障害されているかどうかをスコアリングされるであろう。候補化合物は、本願に記載されているようなFMRPを発現する癌細胞で構成された腫瘍に接種され、FMRPの発現によって本来ならば排除されるCD8 T細胞の結果的な浸潤が評価されるであろう。この方法の変形例では、候補オリゴヌクレオチドの腫瘍への取り込みを増加させるためにトランスフェクションエンハンサーを用いることになろう。
【0158】
実施例3
siRNAによるFMRPの治療的抑制
ますますよく検証されている治療戦略には、疾患に関与するタンパク質の産生を抑制するために、mRNAに結合して、その組織へのmRNAの翻訳を不安定化又はブロックするsiRNAの送達が含まれる(Selvam、2017)。この方法では、siRNAは、FMR1 mRNA(FMRPをコードする)に結合して阻害するように設計され、CD8 T細胞を欠くFMRP腫瘍への送達によってアッセイされる。本願の他の箇所に記載されている遺伝子ノックアウト腫瘍をベンチマークとして、そのような細胞の浸潤がスコアリングされる。このようなインビボ試験の前に、候補siRNA(すなわち、siCtrl:UAAGG CUAUG AAGAG AUAC(配列番号9);siFMRP#1:AUAAG AGACA ACUUG GUGC(配列番号10);及びsiFMRP#2:UAACUUCGGAAUUAUGUAG(配列番号11))が癌細胞浸潤アッセイで試験され、その場合のFMR1 mRNAに対する原型siRNAの阻害能力を図9に図示する。いくつかの実施形態では、FMR1に対するsiRNAは、例えば、安定性及び活性を高めるための化学修飾(Hassler、2018)、並びに/又は腫瘍内の癌細胞への核酸の送達を高めるための「トランスフェクション」試薬の使用による追加の改良を含むことができよう。
【0159】
実施例4
FMRP上の重要な相互作用部位に結合する小分子を特定するための高スループットの生化学的スクリーニング方法の説明
FMRPの相互作用の1つのよく説明される様式は、FMRPタンパク質上のRGGと呼ばれるドメインに結合するG4構造モチーフを含む選択されたmRNAの組を制御することを伴う。このG4構造モチーフが結合すると、標的となるmRNAの翻訳が変化する。FMRPのRGDドメインにはsc1と呼ばれるRNAが強固に結合しており、FMRPが標的mRNAに結合する際のプロトタイプとして広く用いられている。そのため、sc1 RNAとFMRPとの結合を阻害する化合物は、a)FMRPのmRNAへの結合を伴う翻訳制御機構の阻害剤、及びb)新たに発見されたFMRPの免疫抑制活性にRGGドメイン以外のFMRPの他の作用機序が関与している場合には、必ずしもFMRPの全ての機能を阻害しないRGG部位への強固な結合剤、を意味すると考えられる。
【0160】
FMRPの第2の相互作用の様式は、KH2 RNA結合ドメインを介した高親和性RNA標的への結合を伴う(Darnellら、2005)。これまでの研究で、「キッシング複合体(kissing complex、kc)RNA」と呼ばれている、構造的で配列特異的な特徴を持つ一連のRNAが特定されている。例えば、kc2 RNAは、約100nMの最大半数濃度(half maximal concentration)でポリリボソームからFMRPを追い出すことができる。ヒトやマウスの研究では、KH2に単一のミスセンス変異があると、FMRPのポリソームへの結合が抑止され、脆弱X症候群の重篤な形態を引き起こすことが示されている。kcRNAのFMRPへの結合を阻害する化合物は、FMRPのポリソーム会合を阻害し、機能を無効にすることができよう。そのような化合物は、本明細書に開示されるような薬剤でありうる。いくつかの実施形態では、その薬剤は、kcRNAのFMRPへの結合を阻害する合成核酸である。いくつかの実施形態では、合成核酸は、FMRPの機能を阻害するように作用する他の種類の小分子阻害剤をスクリーニングして特定するためのベンチマークとして使用することができよう。
【0161】
RNA結合タンパク質の阻害剤を特定するために当該技術分野で知られている任意の適切なアッセイを使用して、FMRPとその特徴的な標的mRNAとの結合を妨害する小分子について化合物ライブラリをスクリーニングすることができる(例えば、Roosら、2016を参照)。読み出しには、結合時に、上記タンパク質に共有結合したフルオロフォアの蛍光消光を解除する化合物の特定が含まれ、そのフルオロフォアの発光は、解除されなければ、蛍光消光剤を運ぶように改変された結合した標的RNA分子によってブロックされている。FMRPに適用する場合、この方法は以下のように行われ、図10に模式的に示されている。
【0162】
例えば、1)ヒトFMRPタンパク質をヒトHEK293細胞で産生し、精製し、蛍光レポーターであるフルオレセインで生化学的に標識する。2)sc1 RNAを蛍光消光剤分子、例えばCy3又はBHQで標識し、sc1がFMRPに結合したときに、FITCの励起性蛍光発光が消光されるようにする。3)FITC-FMRP及びsc1-Cy3/BCGを合わせて384ウェルのマイクロウェルに分注した後、大規模な化合物ライブラリから化合物を各ウェルに添加する。このアッセイはHTPスクリーニング施設で行うのが最適であり、ロボットがタンパク質/RNAの複合体を含むマイクロウェルを準備し、コード化された化合物を各ウェルに添加し、蛍光発光を読み取る。4)消光された蛍光の解除を誘起した化合物は、さらに特性評価を行い、FMRPとsc1との相互作用を阻害する能力を検証する。5)次いで、そのような「リード」は、さらに特性評価を行い、マイクロスケール熱泳動(MST)測定及びバイオレイヤー干渉法(ForteBio(フォルテ・バイオ)-OctetのBLI)を用いて、結合親和性と速度論的パラメータを明らかにする。新たに特定された化合物は、さらに、生化学的な、構造的な、細胞ベースのアッセイ及び腫瘍モデルによって、その化合物がFMRPの機能を阻害し、かつ/又は機能阻害にかかわらずFMRPタンパク質に強固に結合するのかが確認される。強固な結合剤は、その化合物が機能阻害剤そのものであると証明されたか否かにかかわらず、FMRPタンパク質を選択的に分解するように設計されたタンパク質分解分子の構成要素となる可能性がある。
【0163】
実施例5
FMRP/FMR1の発現を阻害する化合物の特定
内因性FMRPタンパク質及びmRNAを高レベルで発現している癌細胞に、GFPを駆動するFMRPプロモーターと、RFPを駆動するユビキタスプロモーターを導入する。細胞ベースのHTPスクリーニングを実施し、緑色蛍光(FMRPの転写)を抑制し、赤色蛍光(細胞の生存率)を抑制しない化合物をスコアリングする。FMR1転写の真の阻害剤は、レポーター遺伝子だけでなく、FMR1自体も抑制するはずであるので、最初のヒット化合物は、内因的に発現したFMRPを免疫染色することでフィルタリングされる。変形例は、FMRPとGFPとから構成される融合遺伝子を駆動するFMRPプロモーターを持つ細胞株を操作することであり、それは、翻訳阻害剤及びタンパク質安定性阻害剤のスコアリングも行うことができる。転写阻害剤を特定するためのHTP細胞ベースのスクリーニングの方法論は、成功裏に適用されつつある(例えば、Zhang、2018;Vuong、2016を参照)。
【0164】
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図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図1G
図1H
図1I
図1J
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図2F
図2G
図2H
図3A
図3B
図3C
図3D
図4A
図4B
図4C
図4D
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図5F
図5G
図5H
図5I
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図7A
図7B
図8A
図8B
図9A
図9B
図9C
図10A
図10B
【配列表】
2022532303000001.app
【国際調査報告】