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特表2022-532369スグリ、イチゴ、ラズベリーおよびワイン産業の絞り滓からの芳香物質のバイオテクノロジー的製造
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-14
(54)【発明の名称】スグリ、イチゴ、ラズベリーおよびワイン産業の絞り滓からの芳香物質のバイオテクノロジー的製造
(51)【国際特許分類】
   C12P 1/02 20060101AFI20220707BHJP
   C12P 7/04 20060101ALI20220707BHJP
   C12P 7/26 20060101ALI20220707BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20220707BHJP
   A61K 8/35 20060101ALI20220707BHJP
   A61K 8/33 20060101ALI20220707BHJP
   A61K 8/34 20060101ALI20220707BHJP
   A61K 8/44 20060101ALI20220707BHJP
   A61Q 13/00 20060101ALI20220707BHJP
   A61K 8/9728 20170101ALI20220707BHJP
   A61K 8/9783 20170101ALI20220707BHJP
   C11B 9/00 20060101ALI20220707BHJP
   C11B 9/02 20060101ALI20220707BHJP
【FI】
C12P1/02 Z
C12P7/04
C12P7/26
A23L33/105
A61K8/35
A61K8/33
A61K8/34
A61K8/44
A61Q13/00 101
A61K8/9728
A61K8/9783
C11B9/00 L
C11B9/00 G
C11B9/00 K
C11B9/00 C
C11B9/00 V
C11B9/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021568070
(86)(22)【出願日】2020-05-15
(85)【翻訳文提出日】2022-01-12
(86)【国際出願番号】 EP2020063621
(87)【国際公開番号】W WO2020229663
(87)【国際公開日】2020-11-19
(31)【優先権主張番号】19174737.7
(32)【優先日】2019-05-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521397201
【氏名又は名称】シムライズ・アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ホルガー・ゾルン
(72)【発明者】
【氏名】スヴェンヤ・ゾマー
(72)【発明者】
【氏名】ナディーネ・セラ
(72)【発明者】
【氏名】クリスティーネ・シュレリング
(72)【発明者】
【氏名】マルティン・リュール
(72)【発明者】
【氏名】マルコ・フラーツ
(72)【発明者】
【氏名】ジュリア・ビュットナー
(72)【発明者】
【氏名】トビアス・トラップ
(72)【発明者】
【氏名】ゲルハルト・クラマー
(72)【発明者】
【氏名】トルステン・ガイスラー
【テーマコード(参考)】
4B018
4B064
4C083
4H059
【Fターム(参考)】
4B018MD52
4B018MD80
4B018ME12
4B018ME14
4B018MF13
4B064AC01
4B064AC23
4B064AC26
4B064AC31
4B064CA05
4B064CC10
4B064CC15
4B064DA10
4C083AA031
4C083AA032
4C083AA111
4C083AA112
4C083AC091
4C083AC092
4C083AC211
4C083AC212
4C083AC551
4C083AC552
4C083AD531
4C083AD532
4C083BB41
4C083KK02
4H059BA12
4H059BA15
4H059BA20
4H059BA22
4H059BA30
4H059BA43
(57)【要約】
本発明は、芳香物質または芳香物質の混合物を製造するためのバイオ触媒プロセスであって、
セイヨウスグリ科、バラ科および/またはブドウ科の植物構成要素を含む変換培地を提供するステップと;
変換培地を変換培地上で芳香物質または芳香物質の混合物を形成することができる起立子(stander)真菌の門からの少なくとも1種類の真菌と接触させるステップと;
真菌の助けを借りて植物構成要素を芳香物質または芳香物質の混合物に変換するステップと;任意選択として
芳香物質または芳香物質の混合物を回収するステップと、
を含み、
芳香物質または芳香物質の混合物は、好ましくは、2-オクタノン、2-ノナノン、2-ウンデカノン、リナロールオキシド、ベンズアルデヒド、ゲラニオール、2-オクタノール、メチルアントラニレート、2-アミノベンズアルデヒドおよびリナロールからなる群から選ばれた少なくとも1種類の化合物を含む、
プロセスに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1.芳香物質または芳香物質の混合物を製造するための方法であって、
セイヨウスグリ科、バラ科および/またはブドウ科の植物構成要素を含む変換培地を提供するステップと;
前記変換培地を前記変換培地上で芳香物質または芳香物質の混合物を形成することができる少なくとも1種類の起立子(stander)真菌の門からの真菌と接触させるステップと;
前記真菌の助けを借りて前記植物構成要素を前記芳香物質または芳香物質の混合物に変換するステップと;任意選択として
前記芳香物質または芳香物質の混合物を回収するステップと
を含み、
前記芳香物質または芳香物質の混合物は、好ましくは、2-オクタノン、2-ノナノン、2-ウンデカノン、リナロールオキシド、ベンズアルデヒド、ゲラニオール、2-オクタノール、メチルアントラニレート、2-アミノベンズアルデヒドおよびリナロールからなる群から選ばれた少なくとも1種類の化合物を含む、
方法。
【請求項2】
a)前記セイヨウスグリ科は、アカスグリ、セイヨウスグリおよびそれらのハイブリッドの種の群から選択され、前記セイヨウスグリ科は、好ましくは、白または赤のセイヨウスグリ、赤、白、黒または漆黒のスグリならびにそれらのハイブリッドおよび変種の種の群から選択され、
b)前記バラ科は、イチゴ、ラズベリーおよびそれらの栽培品種およびハイブリッドの種の群から選択され、および/または
c)前記ブドウ科は、ブドウおよびそれらのハイブリッドの種の群から選択され、前記ブドウ科は、好ましくはノーブルヴァインならびにそれらのハイブリッドおよび変種の種の群から選択される、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記植物構成要素は、葉、芽、葉芽、花芽およびベリー果実、好ましくは葉およびベリー果実、さらに好ましくは熟したベリー果実、ならびにそれぞれの場合にそれらの部分構成要素、抽出物および絞り滓からなる群から選ばれる、請求項1または2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1種類の起立子真菌の門からの真菌は、A.campestris(ハラタケ),A.aegerita(ヤナギマツタケ),A.melea(ナラタケ),B.adusta(ヤケイロタケ),C.comatus(ササクレヒトヨタケ),C.limbatus,F.velutipes(エノキタケ),G.odoratum(ニオイアミタケ),H.fasciculare(ニガクリタケ),I.consors(ニクウスバタケ),L.sulphureus(アイカワタケ),L.edodes(シイタケ),L.nuda(ムラサキシメジ),L.pyriforme(タヌキノチャブクロ),M.cohortalis,M.pseudocorticola,M.scorodonius(ニオイヒメホウライタケ),P.serotinus(ムキタケ),P.chrysosporium,P.flabellatus,P.sapidus,S.crispa(ハナビラタケ),S.hirsutum(キウロコタケ),T.suaveolens,T.chioneus(オシロイタケ)およびW.cocos(マツホド)からなる群から選ばれる、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記真菌は、W.cocosまたはG.odoratumである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記芳香物または芳香物の混合物は、2-オクタノン、2-ノナノン、2-ウンデカノン、リナロールオキシド、ベンズアルデヒド、ゲラニオール、2-オクタノール、アントラニル酸メチル、2-アミノベンズアルデヒドおよびリナロールからなる群から選ばれた少なくとも1種類の化合物を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記芳香物質の混合物は、リナロール、ベンズアルデヒドおよびアントラニル酸メチルからなる群から選ばれた少なくとも2種類、特に3種類すべての化合物を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記提供された変換培地は、アスパラギン酸源を含み、前記アスパラギン酸源の含有量は、好ましくは前記変換培地の総重量を基準として0.1%~20.0%である、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記変換時の前記変換培地のpHは、pH2~pH7、好ましくはpH4~pH6、特にpH4.2~pH5.5の範囲内にある、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記変換は、浮上培養、固定床培養または液中培養、好ましくは浮上培養で行われる、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
セイヨウスグリ科、バラ科および/またはブドウ科の植物構成要素を含む変換培地の使用および/または芳香物質または芳香物質の混合物の製造のための起立子真菌の門からの真菌の使用であって、前記芳香物質または前記芳香物質の混合物は、好ましくは、2-オクタノン、2-ノナノン、2-ウンデカノン、リナロールオキシド、ベンズアルデヒド、ゲラニオール、2-オクタノール、メチルアントラニレート、2-アミノベンズアルデヒドおよびリナロールからなる群から選ばれた少なくとも1種類の化合物を含有する使用。
【請求項12】
好ましくは請求項1~10のいずれか1項に記載の方法によって調製される組成物であって、リナロール、ベンズアルデヒドおよびアントラニル酸メチルからなる群から選ばれる2種類の化合物、特に3種類の化合物すべてを、好ましくは100:1~4:1の間のベンズアルデヒドに対するリナロールの体積重量比、
および/または50:1~2:1の間のアントラニル酸メチルに対するリナロールの体積重量比、
および/または3:1~1:10の間のアントラニル酸メチルに対するベンズアルデヒドの体積重量比で含む組成物。
【請求項13】
2-オクタノン、2-ノナノン、2-ウンデカノン、リナロールオキシド、ベンズアルデヒド、ゲラニオール、2-オクタノール、アントラニル酸メチル、2-アミノベンズアルデヒドおよびリナロールからなる群から選ばれた少なくとも1種類の他の化合物をさらに含む、請求項12の組成物。
【請求項14】
請求項12または13のいずれか1項に記載の組成物を含むかまたはからなる栄養用、化粧用、衛生用または食用調製物。
【請求項15】
栄養用、化粧用、衛生用または食用調製物、好ましくは芳香物混合物としてのあるいは芳香物混合物における、請求項12または13のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香物質の分野に関する。より詳しくは、本発明は、本明細書に記載される芳香物質または芳香物質の混合物を調製する方法に関する。本発明は、さらに、芳香物質または芳香物質の混合物を製造するための、本明細書に記載されるセイヨウスグリ科、バラ科またはブドウ科の植物部位に基づく原料および/または本明細書に記載されるバイオ触媒を含む変換培地の使用に関する。さらに、本発明は、本明細書に記載される化合物を含む組成物と、本明細書に記載される栄養用、化粧用、衛生用または食用調製物におけるその使用と、に関する。
【背景技術】
【0002】
天然芳香物質は、古典的には植物からの抽出によって得られる。ここでは例としてリナロールが言及され得る。リナロールは、テルペンの群に属する1価アルコールである。この化合物は、無色、可燃であり、明確な芳香を有する。リナロールの周知かつ豊富な原料は、バジル、セイバリー、コリアンダー、オレガノおよびタイムなどのハーブである。リナロールは、さまざまな用途に用いることができる。例えば、その賦香および/または脱臭機能のため、この化合物は、着香料として、芳香油中で、または香水産業においてベルガモットの代わりとして用いられる。さらに、ワイン中の芳香物としてこの化合物を見いだすことができる。
【0003】
強くかつ着実に成長するリナロールの需要を満たすために、今や市場供給のうちの無視できない割合が化学的に合成されている。化学合成は、大量の香味物質を製造する可能性を提供するが、多くの合成は、あまり環境的に適合しない。特に、標準状態で大部分は無視できる程度の反応速度は、許容される収率が高温および高圧などの厳しい合成条件を適用することによってしか実現できないことを意味する。さらに、化学合成は、往々にして、使用が周知の不利をはらむ重金属触媒、可燃性気体および有機溶媒を使用する。この理由で、公知の方法の不利を少なくとも部分的に克服するリナロールだけでなく他の芳香活性化合物の代替製造プロセスがますます求められている。
【0004】
このことは、微生物またはそれらの酵素を用いる天然前駆体から所望の芳香物質へのバイオ変換に基づくバイオテクノロジープロセス(非特許文献1)によって改善することができるだろう。あるものは潜在的な芳香物前駆体としての食物繊維および二次代謝産物が豊富である農業副産物には、リナロールおよび他の芳香物質のバイオテクノロジー的製造への大きな潜在能力があり得るだろう。
【0005】
従って、上記の不利を修復し、リナロールなどの芳香物質の調製のためのプロセスを提供することが本発明の主目的であった。特に、公知の化学合成より環境友好的なプロセスを提供することが重要であった。
【0006】
特許文献1は、飲料または飲料基材を製造する方法であって、培地が少なくとも1つの好気的発酵プロセスにおいて発酵し、培地は、少なくとも1種類の担子菌からの菌糸体によって発酵する方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2013/034613号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Berger、R.G.著「Flavors and Fragrances:Chemistry,Bioprocessing and Sustainability」Berlin Heidelberg,Springer Verlag、2007年
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、この主目的は、芳香物質または芳香物質の混合物を製造するための方法であって、
セイヨウスグリ科(Grossulariaceae)、バラ科(Rosaceae)またはブドウ科(Vitaceae)の植物部位に基づく原料を含む変換培地(本明細書において一部で培養培地または基質とも呼ばれる)を提供するステップと;変換培地をバイオ触媒と接触させるステップと;バイオ触媒を用いる芳香物質または芳香物質の混合物を形成する、セイヨウスグリ科、バラ科またはブドウ科の植物部位に基づく原料の変換ステップと;任意選択として、
芳香物質または芳香物質の混合物を回収するステップと、
を含む方法によって解決される。
【0010】
本発明のさらなる目的、側面および好ましい実施形態は、以下の説明、添付の実施例、図およびとりわけ添付の特許請求の範囲から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】真菌W.cocosの実施例を用いる、本発明による培養培地(変換培地)と標準的な培養培地との上の変換の比較。種々の培養培地上の11日(d)後のW.cocosの浮上(emersed)培養の写真が示される。A:麦芽エキス寒天(MEA)、B:MEA+0.624%L-アスパラギン酸一ナトリウム、C:3%絞り滓、D:3%絞り滓+0.624%L-アスパラギン酸一ナトリウム。
図2】真菌W.cocosの実施例を用いる、本発明による培地と標準的な培地との上の変換の比較。4種類の異なる培地MEA(□);MEA+Asp(△);3TT(×);3TT+Asp(○)上のW.cocosの浮上培養の成長曲線が示される。用いられる短縮形は3TT:チタニア(Titania)変種の3%絞り滓、Asp:0.624%L-アスパラギン酸一ナトリウム。
図3】真菌W.cocosの実施例を用いる、本発明による培地と標準的な培地との上の変換の比較。MEA(□);MEA+Asp(△);3TT(×);3TT+Asp(○)上のW.cocosの浮上培養時の培地のpH値の経過が示される。用いられる短縮形は前記の通り。
図4】MEA上のW.cocosの発酵の実施例を用いる、本発明によらない培養培地上の変換のGC-MSクロマトグラム(スプリットなし測定)。8日間の培養後に採取された試料のクロマトグラムが提案物質名とともに示される。
図5】3%アカスグリ絞り滓、0.624%L-アスパラギン酸一ナトリウム、3%寒天-寒天上のW.cocosの浮上発酵の実施例を用いる、本発明による培養培地上の変換のGC-MSクロマトグラム。11日間の培養後に取り出された試料のクロマトグラムが示される。上:50:1のスプリットでの測定、下 スプリットなし、13.5分~13.7分の間で(灰色背景)MS検出器のスイッチが切られた。
図6】3%アカスグリ絞り滓および0.624%L-アスパラギン酸一ナトリウム上のW.cocosの浮上発酵の実施例を用いる、本発明による培地上の変換のODPトレースおよび提案物質名付きGCクロマトグラム。10日間の培養後に取り出された試料のクロマトグラムが示される。13.2分~13.7分の間でMS検出器は動作停止された(灰色の背景)。数字付きの黒い棒は、典型的には以下の概要により予測される匂いを示す。
【表1】
図7】種々の培地上のW.cocosの培養時の選ばれた芳香のヒートマップ。14日間の培養時の相対変化。m/z(ベンズアルデヒド)=106、m/z(リナロール)=93、m/z(リナロールオキシドI、II)=111、m/z(2-ウンデカノン)=71、m/z(2-ノナノン)=58、m/z(ゲラニオール)=69、m/z(アントラニル酸メチル)=119におけるEICのピーク面積が基準として使用された。選ばれたフラグメントのそれぞれの飽和レベルの割り当ては、それぞれの時点(1~14日)における選ばれたフラグメントのEICの相対ピーク面積(0%~100%)に基づいて下記に示す方式により行われた。
図8】W.cocosの発酵の実施例を用いる、標準的な培養培地上の対応する変換と比較した本発明による培養培地上の変換時のリナロールおよびベンズアルデヒドの芳香プロフィールの進行。MEAの上のリナロールの発生(□)、3TT+Asp上のリナロールの発生(○);MEA上のベンズアルデヒドの発生(△);3TT+Asp上のベンズアルデヒドの発生(×)。EICの調製について、リナロールのためにm/z=93、ベンズアルデヒドのためにm/z=106のフラグメントが選ばれた。用いられる短縮形は前述の通り。
図9】W.cocosの発酵の実施例を用いる、標準的な培養培地上の対応する変換と比較した本発明による培養培地上の変換時のアントラニル酸メチル(m/z=119)の芳香プロフィールの進行。MEA上のアントラニル酸メチルの発生(×);3TT+Asp上のアントラニル酸メチルの発生(○)。
図10A】3%絞り滓および0.624%L-アスパラギン酸一ナトリウムの上のW.cocosの発酵の実施例を用いる、本発明による培養培地上の変換後の選ばれた芳香物質の濃度(○)の半定量的な推定。ここで、培養物のヘッドスペースが10日後に分析され、標準物質を用いて決定された較正シリーズ(×)と比較された。A.リナロール;B:ベンズアルデヒド;C:アントラニル酸メチル。プレートあたりμgで推定量がプロットされた。
図10B】3%絞り滓および0.624%L-アスパラギン酸一ナトリウムの上のW.cocosの発酵の実施例を用いる、本発明による培養培地上の変換後の選ばれた芳香物質の濃度(○)の半定量的な推定。ここで、培養物のヘッドスペースが10日後に分析され、標準物質を用いて決定された較正シリーズ(×)と比較された。A.リナロール;B:ベンズアルデヒド;C:アントラニル酸メチル。プレートあたりμgで推定量がプロットされた。
図10C】3%絞り滓および0.624%L-アスパラギン酸一ナトリウムの上のW.cocosの発酵の実施例を用いる、本発明による培養培地上の変換後の選ばれた芳香物質の濃度(○)の半定量的な推定。ここで、培養物のヘッドスペースが10日後に分析され、標準物質を用いて決定された較正シリーズ(×)と比較された。A.リナロール;B:ベンズアルデヒド;C:アントラニル酸メチル。プレートあたりμgで推定量がプロットされた。
図11】3%アカスグリ絞り滓上のW.cocosの浮上発酵の実施例を用いる、本発明による培養培地上の変換物の官能評価。訓練を受けた4名の人員による0~5の尺度での所定の属性の評価。用いられる短縮形:JhB:スグリ絞り滓、Asp:0.624%L-アスパラギン酸一ナトリウム、d0:非培養参照培地、d10:W.cocosを用いる10日間の培養。
図12】Mueller-Thurgau変種の3%グレープ絞り滓上のW.cocosの浮上発酵の実施例を用いる、本発明による培養培地上の変換物の官能評価。訓練を受けた4名の人員による0~5の尺度での所定の属性の評価。用いられる短縮形:Wine:グレープ絞り滓、Asp:0.624%L-アスパラギン酸一ナトリウム、d0:非培養参照培地、d10:W.cocosを用いる10日間の培養。
図13】Muscaris変種の3%グレープ絞り滓、0.6%L-アスパラギン酸一ナトリウム、1.5%寒天-寒天上のW.cocosの浮上発酵の実施例を用いる、本発明による培養培地上の変換物のGC-MSクロマトグラム。10日間の培養後に採取された試料の3:1のスプリットでの測定のクロマトグラムが示される。
図14】3%イチゴピューレ残留物、0.6%L-アスパラギン酸一ナトリウム、1.5%寒天-寒天上のW.cocosの浮上発酵の実施例を用いる、本発明による培地上の変換物のGC-MSクロマトグラム。8日間の培養後に採取された試料の3:1のスプリットでの測定のクロマトグラムが示される。
図15】3%ラズベリーピューレ残留物、0.6%L-アスパラギン酸一ナトリウム、1.5%寒天-寒天上のW.cocosの浮上発酵の実施例を用いる、本発明による培地上の変換物のGC-MSクロマトグラム。8日間の培養後に採取された試料の3:1のスプリットでの測定によるクロマトグラムが示される。
図16】種々の培養培地および種々の培養時間でのW.cocosの培養時の選ばれた芳香のヒートマップ。m/z(ベンズアルデヒド)=106、m/z(リナロール)=93、m/z(リナロールオキシドI、II)=111、m/z(2-ウンデカノン)=71、m/z(2-ノナノン)=58、m/z(ゲラニオール)=69、m/z(アントラニル酸メチル)=119におけるEICのピーク面積が基準として使用された。選ばれたフラグメントのそれぞれの飽和レベルの割り当ては、選択されたフラグメントのEICの相対ピーク面積(0%~100%)に基づいて下記に示す方式に基づいた。用いられた浮上培養培地:M1:3%絞り滓、M2:3%絞り滓および0.4%グルコース、M3:3%絞り滓および0.8%グルコース。培養時間:0d:非培養参照培地、8d:8日、10d:10日。用いられる短縮形:ER:非単品種イチゴピューレ残留物、HR:非単品種ラズベリーピューレ残留物、MuT:Muscaris変種ワイン絞り滓、Asp:0.6%L-アスパラギン酸一ナトリウム。
図17】イチゴピューレ残留物上のW.cocosの固定床培養の実施例を用いる、本発明による培養培地上の変換のGC-MSクロマトグラム。28日間の培養後に採取された試料のスプリットなしモードでのSPME-GC-MSによる測定のクロマトグラムが示される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、セイヨウスグリ科、バラ科またはブドウ科の植物部位に基づく原料を提供された変換培地が、バイオ触媒的に芳香物質に変換することができる極めて興味深い芳香物前駆体を含有するという知見に実質的に基づいている。用語芳香物質は、本明細書において、芳香活性な量において、知覚可能な味または匂いを付与する化合物を記載するために用いられる。この文脈において、用語「芳香活性な」は、化合物を含有する調製物が用いられるとき嗅覚および/または味覚受容体において感覚効果を引き出すのに十分な化合物の量を指す。そのような効果は、不快な味および/または匂い系の官能知覚を低下させるかまたはマスクすることによって姿を表わすこともある。
【0013】
本発明による方法は、化学合成の場合にはほとんど避けることができない過酷な製造条件、有機溶媒または重金属触媒の必要を避ける。本発明は、従って、リナロールなどの芳香物質への増大しつつある需要をなお一層満たす環境友好的な、化学合成に対する代案を提供する。
【0014】
さらに、本発明による方法は、セイヨウスグリ科、バラ科またはブドウ科の葉または絞り滓などの農業廃棄物の流れを高品質芳香物質の原料として用い、従って収益をあげて農業生産の価値連鎖(バリューチェーン)に組み込まれる潜在性を提供するという事実を特徴とする。この理由で、セイヨウスグリ科、バラ科またはブドウ科の植物部位に基づく原料が葉および/または絞り滓および/またはそれらの抽出物の形で提供される本明細書に記載されるプロセスが特に好ましい。本明細書に記載されるセイヨウスグリの絞り滓および特にクロスグリの絞り滓の使用がとりわけ非常に好ましい。本明細書に記載される発明による方法におけるセイヨウスグリ科、バラ科またはブドウ科の植物の部位に基づく原料の割合は、一般に、変換培地の総重量を基準として0.2重量%~100重量%の範囲であってよい。培養が浮上培養または液中培養として行われる場合、本明細書に記載される発明による方法におけるセイヨウスグリ科、バラ科またはブドウ科の植物の部位に基づく原料の割合は、変換培地の総重量を基準として好ましくは0.2重量%~20重量%、好ましくは0.5重量%~10重量%、さらに好ましくは1重量%~5重量%、最も好ましくは2重量%~4重量%である。培養が固定床培養の形で行われる場合、本明細書に記載される発明によるプロセスにおけるセイヨウスグリ科、バラ科またはブドウ科の植物の部位に基づく原料の割合は、変換培地の総重量を基準として好ましくは10重量%~100重量%、好ましくは30重量%~90重量%、さらに好ましくは50重量%~80重量%、最も好ましくは60重量%~70重量%である。
【0015】
用語「セイヨウスグリ科」は、スグリ(Grossulariaceae)科の植物を指す。本発明によれば、ソフトフルーツ製造に適した種および変種、特にスグリ(currant)、セイヨウスグリの種およびジョスタなどのそれらの交雑種の植物部位を用いる方法が好ましい。白または赤のセイヨウスグリ、赤、白、黒または漆黒のスグリならびにそれらの交雑物および変種の種の植物部位を用いる方法がさらに好ましい。最も好ましくは、本発明による方法は、クロスグリ(Ribes nigrum)ならびにそれらの変種および栽培種の植物部位を用いる。
【0016】
用語「バラ科」はRosaceae科の植物を指す。本発明によれば、ソフトフルーツ製造に適した種および変種、特にイチゴおよびラズベリーならびにそれらの交雑種および変種の植物部位を用いる方法が好ましい。
【0017】
用語「ブドウ科」は、Vitaceae科の植物を指す。本発明によれば、ソフトフルーツおよびワイン製造に適した種および変種、特にブドウの種ならびにそれらの交雑種および変種の植物部位を用いる方法が好ましい。ノーブルヴァイン(Vitis vinifera)の種ならびにそれらの変種の植物部位を用いる方法がさらに好ましい。
【0018】
詳しくは、植物構成要素は、地上の栄養組織または生殖組織、好ましくは葉、芽、葉芽および/または花芽、ベリー果実ならびに穀粒、皮およびパルプなどのそれらの部分構成要素を含む。好ましくは、植物部位は、葉および/またはベリー果実であり、さらに好ましくは全体としての熟したベリー果実である。
【0019】
植物部位に基づく原料とは、本件においては問題の植物の部位から得られる原料を意味する。この文脈において、本発明による方法において用いられる原料は、必ずしも自然界において同一の方法で発生する必要はない。むしろ、問題の植物の原料は、天然原料をさらに加工することによっても得られることがある。好ましいさらなる加工手段は、(部分的)乾燥、(部分的)発酵および/または(部分的)圧搾を含む。好ましくは、植物は、それぞれの植物または少なくともそれらの部位を原材料として用いる他の産業からの廃棄物製品である。特に好ましくは、植物部位は、ベリー果実(全体としての)またはジュース抽出からの残留物(いわゆる絞り滓)である。
【0020】
快いと知覚される味および/または匂いの印象が本発明にとって特に重要である。味および/または匂いの印象が快またはむしろ不快と考えられるかどうかの評価は、訓練を受けたパネルによる官能分析による負(快)と正(不快)との間の官能印象の評価に基づいて行うことができる。より正確な分類のために非常に負、中立、非常に正などのさらなるレベルを提供することができる。さらなる化合物の混合物、おそらくさらなる芳香物質中に存在する評価されるべき芳香物質のノートの決定は、例えばガスクロマトグラフィー-嗅覚検査によって行うことができる。本件の場合、単数または複数の芳香物質は、特に、快い嗅覚印象を付与し、従って香りの良い物質とも呼ぶことができる。
【0021】
快い味および/または匂いの印象を有する芳香物質の調製の状況において、クロスグリの植物部位、好ましくはクロスグリ(Ribes nigrum)の植物部位、特にチタニア変種のクロスグリの植物部位に基づく原料を含有する変換培地が抜きん出ている。この原料は、明らかに、極めて快いと知覚される芳香物質をバイオ触媒変換によって産生することができる芳香物前駆体を含有する。従って、本発明による方法において提供される変換培地は、好ましくは、スグリであって、好ましくはクロスグリ、さらに好ましくはチタニア変種のクロスグリであるスグリの植物部位に基づく原料を含有する。それによって適当なバイオ触媒により製造することができる芳香物質は、フローラル、フレッシュ、フルーティなノートまたは野生ベリーまたはシトラスを思い出させるノートを有する。麦芽エキスに基づく標準的な培地上で適切に変換されるとこれらの芳香は知覚可能でない。それどころか、嗅覚印象はここで、真菌のような、酸のような、およびトロピカルフルーツの匂いがすると記載された。下記の手段の結果としてさらなる利点が得られる。
【0022】
好ましくは、芳香物質または芳香物質の混合物を回収するステップは、製造された芳香物質または芳香物質の混合物のうちの少なくとも1種類の芳香物質をバイオ触媒から少なくとも部分的に分離することを含む。好ましくは、実質的に完全なバイオ触媒からの分離が行われる。さらに、回収するステップは、製造された芳香物質または芳香物質の混合物のうちの少なくとも1種類の芳香物質を富化、濃縮および/または単離することを含むことがある。本明細書に用いられる用語「少なくとも1種類の芳香物質」は、任意選択として、1、2、3、4、5、6、7、8、9または10種類の芳香物質を意味する。
【0023】
本発明の目的にとって、全細胞系のバイオ触媒が同時にまたは順次に触媒変換反応を再現する能力に起因して特に有用であることが証明されている。従って、変換するステップは、バイオ触媒を「増殖する」または複製するという意味において培養を含むことがある。しかし、全細胞を用いる変換は最終的には1種類以上の触媒反応に依拠することが当業者に広く知られており、そのため、本発明も、芳香物質または芳香物質の混合物を製造するために用いられるバイオ触媒も芳香物質または芳香物質の混合物を製造するために用いられる全細胞系バイオ触媒のうち触媒的に適切な単位だけを含む方法を含む。
【0024】
バイオ触媒は、好ましくは、真菌、その真菌細胞または少なくともその触媒的に適切な単位である。触媒的に適切な単位とは、ここでは変換のために必要な高分子、例えば酵素またはリボザイム、および任意選択として補因子および補助基質を指す。好ましくは、それはリグノセルロース上で増殖することができる真菌(または対応するその真菌細胞)であり、および/または食用真菌の群から選択される。従って、リグノセルロース上で増殖する能力は有利であり、そういうものとして真菌は、本明細書に記載されるセイヨウスグリに基づく原料上の培養に特に良好に適している。さらに、リグノセルロースの分解からの結果としてベンズアルデヒドなどの芳香物質を直接得ることができるだろう。食用真菌は、産生される芳香物質または芳香物質の混合物の使用における安全性の点で有利である。この好ましい要件プロフィールは、起立子(stander)真菌の部門(門(phylum))(担子菌門(Basidiomycota))からの多くの真菌にあてはまる。さらに、起立子真菌の部門からの真菌を用いると、特にセイヨウスグリが本明細書に記載されるクロスグリである場合、特に良好な匂いの印象を得ることができる。
【0025】
起立子真菌に属する種を用いる変換が全体的印象において快いと知覚される匂いに至るという発見は特に注目に値する。このことは、典型的な菌のような芳香として知られている菌のような(マッシュルームのような)ノート、酸っぱいノートおよびトロピカルフルーツのような匂いノートは形成されないかまたはほとんど形成されないことを意味する。よって、真菌が起立子真菌の部門から選ばれ、および/またはセイヨウスグリ科の植物部位がスグリの植物部位、好ましくはクロスグリのもの、さらに好ましくはチタニア変種のクロスグリのもの、の群から選ばれる方法が好ましい。
【0026】
特に、本明細書に記載される方法であって、起立子真菌の部門の真菌がA.campestris(ハラタケ)、A.aegerita(ヤナギマツタケ)、A.melea(ナラタケ)、B.adusta(ヤケイロタケ)、C.comatus(ササクレヒトヨタケ)、C.limbatus、F.velutipes(エノキタケ)、G.odoratum(ニオイアミタケ)、H.fasciculare(ニガクリタケ)、I.consors(ニクウスバタケ)、L.sulphureus(アイカワタケ)、L.edodes(シイタケ)、L.nuda(ムラサキシメジ)、L.pyriforme(タヌキノチャブクロ)、M.cohortalis、M.pseudocorticola、M.scorodonius(ニオイヒメホウライタケ)、P.serotinus(ムキタケ)、P.chrysosporium、P.flabellatus、P.sapidus、S.crispa(ハナビラタケ)、S.hirsutum(キウロコタケ)、T.suaveolens、T.chioneus(オシロイタケ)およびW.cocos(マツホド)からなる群から選ばれる方法が好ましい。これらの種は、快い匂いの印象を有する芳香物質を形成するそれらの能力の点で、試験され、本明細書においては特定されない多数の他の真菌または真菌-変換培地の組み合わせより明確に優れている。
【0027】
本明細書に記載される方法であって、真菌がA.campestris、A.aegerita、C.comatus、G.odoratum、H.fasciculare、I.consors、L.sulphureus、L.edodes、L.pyriforme、M.cohortalis、M.pseudocorticola、M.scorodonius、P.serotinus、P.chrysosporium、P.flabellatus、P.sapidus、S.crispa、T.suaveolens、T.chioneusおよびW.cocosからなる群から選ばれる方法がさらに好ましい。この選択は、可能な少なくとも1つの培養形において特に快い芳香に至る。
【0028】
本明細書に記載される方法であって、真菌がA.aegerita、C.comatus、G.odoratum、H.fasciculare、L.sulphureus、M.pseudocorticola、M.scorodonius、P.flabellatus、P.sapidus、S.crispa、T.suaveolensおよびW.cocosからなる群から選ばれる方法がさらに好ましい。上記選択は、可能な少なくとも2つの培養形において特に快い芳香に至る。
【0029】
本明細書に記載される方法であって、真菌がW.cocosおよびG.odoratumからなる群から選ばれる方法がさらに好ましい。真菌G.odoratumおよびW.cocosは、試験されたすべての培養形において試験されたすべての物質上で非常に強い匂いの印象を示す。G.doratumはここではシトラスのような芳香を産生し、W.cocosの芳香は、フローラル、フルーティかつ野イチゴを思い出させる。従って、この選択は、可能な培養形に関わらず特に快い芳香に至る。
【0030】
上記のように、好ましいバイオ触媒は、上記の好ましい真菌およびさらに好ましい真菌の単一の細胞または触媒的に活性な単位を含む。
【0031】
さらに、本発明によれば、提供される変換培地がアスパラギン酸源、好ましくはL-アスパラギン酸源、さらに好ましくはL-アスパラギン酸ナトリウム塩、最も好ましくはL-アスパラギン酸一ナトリウムを含む方法が好ましい。すなわち、行われた実験の経過において、L-アスパラギン酸一ナトリウムの添加は、添加しない場合に観測されるpHの低下を打ち消し、最終的に特に強い野イチゴの匂いに至ることが見いだされた。約10日間の培養後、フローラルなノートおよび野イチゴを思い出させる強いフルーティな芳香を有する匂いが強くなる。芳香の信号強度は、本明細書に記載されるアスパラギン酸を補助された変換培地上で培養されたとき、麦芽エキスに基づく標準的な培地上で培養されたときより顕著に高い。培養物のフローラルな匂いと良好に相関するリナロールの強度が特に高い。好ましくは本明細書に記載される絞り滓の形で提供されるアスパラギン酸含有変換培地上でいくつかの芳香活性物質、例えばベンズアルデヒド、リナロール、リナロールオキシドI、IIおよび2-ウンデカノンが特に良好に形成される。アスパラギン酸源の含有量は、一般に、変換培地の総重量を基準として0.1%~20.0%の範囲とすることができる。培養が浮上培養または液中培養の形である場合、本明細書に記載される発明による方法におけるアスパラギン酸源の含有量は、変換培地の総重量を基準として好ましくは0.1重量%~5重量%、より好ましくは0.2重量%~3重量%、さらに好ましくは0.3重量%~2重量%、最も好ましくは0.4重量%~1重量%である。培養が固定床培養の形である場合、本明細書に記載される発明による方法におけるアスパラギン酸源の含有量は、変換培地の総重量を基準として好ましくは0.1重量%~20重量%、より好ましくは2.5重量%~17.5重量%、さらに好ましくは5重量%~15重量%、最も好ましくは7.5重量%~12.5重量%である。
【0032】
あるいは、pH低下は、他の緩衝物質で打ち消すことができる。好ましくは、変換時の変換培地のpHは、pH2~pH7、好ましくはpH4~pH6、特にpH4.2~pH5.5の範囲内である。数日間続く変換の場合、このことは、期間全体にわたってこのpH範囲が少なくとも実質的に維持されることを意味する。
【0033】
芳香プロフィールおよび強度を最適化するために追加の栄養源が変換培地に加えられることがある。本明細書に記載されるアスパラギン酸源に加えて、これらは、特にグルコースと、Mg2+、Zn2+、Fe3+、Mn2+、Cu2+、K、Cl、SO 2-およびPO 3-からなる群から選ばれる微量元素と、他のアミノ酸とを含む。
【0034】
本発明の状況においては、形成される芳香物質に対して特定の形が影響を及ぼすことはあるが基本的にすべての形の培養が想定される。例えば、特に、本明細書に記載されるセイヨウスグリ科に基づくそれぞれバイオ触媒および原料としてW.cocosおよび/または絞り滓が用いられるとき、浮上培養を用いる変換によって特に良好な結果が得られる。本明細書に記載される使用真菌の種と本明細書に記載されるセイヨウスグリ科、バラ科またはブドウ科に基づく特定の原料の形とに応じて液中培養および固定床培養も非常に快い芳香に至る。
【0035】
本明細書に記載されるアスパラギン酸源を加えた本明細書に記載されるスグリの植物部位を含有する変換培地の、本明細書に記載される起立子真菌を用いる変換が産生可能な芳香物質の点で特に有利であることが見いだされた。この変換の継続期間にわたってpHを本明細書に記載されるpH範囲内に維持するために、本明細書における上記の変換培地にアスパラギン酸源の代わりにpH緩衝成分が加えられることもある。特に、チタニア変種のスグリ絞り滓上のW.cocosの培養は、フローラルおよび野イチゴを思い出させるフルーティな匂いを提供する。W.cocosは、伝統的な漢方薬中にも用いられる食用真菌である。多数の少量成分の他に、重要な芳香成分としてリナロール、ベンズアルデヒドおよびアントラニル酸メチルが形成される。
【0036】
本発明による方法は、2-オクタノン、2-ノナノン、2-ウンデカノン、リナロールオキシド、ベンズアルデヒド、ゲラニオール、2-オクタノール、メチルアントラニレート、リナロールおよび2-アミノベンズアルデヒドから選択される少なくとも1種類、好ましくは2もしくは3種類、より好ましくは4もしくは5種類、最も好ましくは6、7、8、9もしくは10種類の化合物を含む芳香物質または芳香物質の混合物の製造に特に適している。リナロール、ベンズアルデヒドおよびアントラニル酸メチルのうち少なくとも1種類の化合物、好ましくは2種類、さらに好ましくはすべての化合物の製造を取り扱う方法が特に好ましい。これらの化合物は、本明細書に記載される変換培地で産生可能な芳香物質の混合物に特に特徴的である。特に、アントラニル酸メチルは、強くフルーティな野生イチゴの匂いを示す。
【0037】
産生される芳香物質のタイプおよび強度が正確な組成(本明細書において芳香物組成とも呼ばれる)は、それによって、芳香物質または芳香物質の混合物を回収する時機を変えることによって影響を及ぼされ得る。この状況では、芳香物質または芳香物質の混合物の抽出が接触開始の3~14日後、好ましくは5~14日後、特に9~13日後に行われる、本発明による方法における収穫時機が有用であることが証明された。このこととは別に、芳香物質または芳香物質の混合物の抽出の時機を予め定められた芳香物組成の関数として決定することも想定される。こうすれば、とりわけ、特に快い芳香物質の混合物が存在する時機および/または形成されるおそらくさらなる芳香物質に対して特に快い芳香物質が明らかに優勢である時機に収穫することが可能になる。
【0038】
さらに、本発明は、本明細書に記載されるセイヨウスグリ科の植物部位に基づく原料含む変換培地の使用および/または本明細書に記載される芳香物質または芳香物質の混合物を製造するための本明細書に記載されるバイオ触媒に関する。特に、セイヨウスグリ科の植物部位に基づく原料は、クロスグリの植物部位、例えば本明細書に記載されるその葉または絞り滓に基づく原料である。特に、バイオ触媒は、本明細書に記載される起立子真菌の門からの真菌である。
【0039】
さらに、本発明は、リナロール、ベンズアルデヒドおよびアントラニル酸メチルからなる群から選ばれた2種類、より具体的にはすべての化合物を含む、特に本明細書に記載される方法によって調製された(調製可能な)組成物に関する。100:1~4:1の間のベンズアルデヒドに対するリナロールの容積重量比および/または50:1~2:1の間のアントラニル酸メチルに対するリナロールの容積重量比および/または3:1~1:10の間のアントラニル酸メチルに対するベンズアルデヒドの容積重量比を有する本発明による組成物が好ましい。本発明による組成物は、さらに好ましくは2-オクタノン、2-ノナノン、2-ウンデカノン、リナロールオキシド、ベンズアルデヒド、ゲラニオール、2-オクタノール、メチルアントラニレート、2-アミノベンズアルデヒドおよびリナロールからなる群から選ばれた少なくとも1種類の他の化合物、好ましくは2または3種類、より好ましくは4または5種類、最も好ましくは6、7、8、9または10種類の化合物を含む。
【0040】
さらに、本発明は、本明細書に記載される発明による組成物の、栄養用、化粧用、衛生用もしくは食用調製物としてのまたは食用調製物における使用、特に芳香物質の混合物としての(好ましくは本明細書に記載される目的での)使用に関する。よって、本発明は、本明細書に記載される発明による組成物を含むかまたはからなる栄養用、化粧用、衛生用または食用調製物にも関する。
【0041】
本発明は、以下の実施例を参照して下記でさらに詳細に説明される。
【実施例
【0042】
1.実験の部
1.1 材料および化学物質
使用したスグリ産業およびワイン産業の副生物は、ドイツのガイゼンハイム(Geisenheim)大学によって提供された。新鮮な市販の非単品種ベリー果実でピューレを作り、渡すことによってラズベリーまたはイチゴピューレ残留物を調製した。残っているピューレ残留物を培地成分として用いた。担子菌門の部門からの使用した真菌の起源を表1に示す。
【0043】
【表2】
【0044】
1.2 菌株維持
調べる真菌(表1)を菌株維持のために麦芽エキス寒天プレート(MEA)または標準栄養溶液(SNL)寒天プレート上で培養した。すべての培地を121℃で20分間蒸気殺菌した。培地は、以下の組成であった。
MEA:脱塩水中20g・L-1麦芽エキス(ME)、15g・L-1寒天-寒天。
SNL:脱塩水中、pH6.0に調節した30g・L-1グルコース一水和物、15g・L-1寒天-寒天、4.5g・L-1アスパラギン一水和物、3g・L-1酵母エキス、1.5g・L-1リン酸二水素カリウム、0.5g・L-1硫酸マグネシウム水和物、400μg・L-1EDTA、90μg・L-1硫酸亜鉛(II)七水和物、80μg・L-1塩化第二鉄六水和物、30μg・L-1硫酸マンガン(II)一水和物、5μg・L-1硫酸銅(II)五水和物。
【0045】
培養のために、寒天プレート上で80%まで増殖したものからの大体0.5cmの菌糸片を新しい寒天プレート上に置き、プレートをパラフィルム(登録商標)で封止し、暗所中24℃でインキュベートした。
【0046】
1.3 クロスグリ残留副生物上のスクリーニング
クロスグリの残留副生物の葉および絞り滓上での担子菌門の真菌の培養を液中培養、浮上培養および固定床培養で行った。最初に、試験する26種類の真菌のための唯一の栄養源として残留副生物を用いた。
【0047】
浮上培養における真菌の培養のために、種々の濃度の基質を有する寒天プレートを調製した。基質に応じて種々の濃度の寒天が必要であった。これらに、選ばれた26種類の真菌(表1)を菌株維持と同じようにして接種した。真菌の増殖に応じて4~7日後に初めてプレートの官能特性を調べた。その後の実験のためのスグリ絞り滓、ワイン絞り滓、イチゴピューレ残留物またはラズベリーピューレ残留物上のW.cocosの浮上培養に、3%絞り滓を30%の脱塩水に加え、70%脱塩水中の1.5%または3%の寒天をオートクレーブ処理し、混合した後に注いだ。各プレートは、大体16mLの培地を含んだ。
【0048】
液中培養での真菌の培養のために、最初に2%ME培地中で前培養物(100mL)を調製した。これを、菌糸体を上で増殖した寒天の大体約1cmの片を菌株維持プレートからME培地を含有する三角に移すことによって行い、そこで分散装置(ウルトラターラックス(Ultratarrax)、10,000rpm、30秒)を用いてホモジナイズした。前培養物を150rpmで光を遮断し、24℃で8日間インキュベートした。本培養の接種のために、前培養物をホモジナイズし(ウルトラターラックス、10,000rpm、30秒)、遠心分離し(3,000g、10分)、上清液をデカンテーションした。菌糸体を滅菌水で2回洗浄し、次に100mLの滅菌水中に懸濁した。この懸濁液のうち4mLを40mLの主培養培地に加えた。主培養培地は、脱塩水中15g・L-1または30g・L-1の基質からなっていた。光を遮断してこれらの培養物を150rpm、24℃で増殖させた。培養の3日目からフラスコ上で直接匂いを嗅ぐことによって官能分析を行った。比較のために、ME培地中の本培養ならびに非接種本培養培地をブランク値として含めた。
【0049】
固定床培養物中の真菌の培養のために、前述の方法で前培養物を培養し、ホモジナイズした。この懸濁液から、2mLを固定床培養培地に加えた。固定床培養培地を調製するために、20gの絞り滓、10gの水および2gのL-アスパラギン酸一ナトリウム(Asp)をフラスコ中でホモジナイズし、オートクレーブ処理した。接種した固定床培養培地を暗所において150rpm、24℃で静止培養した。比較のために、培養していない固定床培養培地をブランクとして含めた。
【0050】
1.4 クロスグリ残留副生物上の培養の最適化
芳香プロフィールおよび強度を最適化するために、他の栄養素源を基質に加えた。pHを調節する以外に、グルコース、微量元素(Mg2+、Zn2+、Fe3+、Mn2+、Cu2+、K、Cl、SO 2-、PO 3-)、L-アスパラギン酸一ナトリウムおよび他のアミノ酸を補った。さらに、スグリ副生物の基質濃度を変化させた。
【0051】
1.5 官能分析
真菌-基質組み合わせを予め選択するために、訓練を受けたパネル(n=4)によって官能分析を行った。この目的で、いくつかの培養日数における全体的な印象の評価を用いる「単純記述試験」において培養物を調べた。全体的な印象の評価のための尺度は、非常に負(0)から非常に正(5)の6つのレベルを含んだ。芳香物の特定は、GC-MS-Oによって行った。
【0052】
1.6 菌糸増殖の定量
培養時に、増殖した区域を寒天プレートの裏に描き、直径を決定することによって真菌の増殖を毎日記録した。このものから、上に増殖した菌糸面積を計算した。
【0053】
1.7 pH値の決定
液中培養のpH値の経過を決定するために、一定分量(2mL)を採取し、pH計を用いてpHを決定した。浮上培養の場合、ウルトラターラックス(10,000rpm、10秒)を用いて15mLの脱塩水の添加後の1つのプレートの寒天をホモジナイズし、次に遠心分離(10分、4,000g)し、pH計を用いて上清液中のpHを測定することによって培養物のpHを決定した。
【0054】
1.8 GC-MS-O分析
スグリ絞り滓上の浮上培養の芳香物を24℃で60分間の撹拌棒収着抽出(SBSE:stir bar sorptive extraction)によって抽出した。この目的で、0.5mmのPDMS(ポリジメチルシロキサン)コーティングを有する10mmの磁気撹拌棒(ツイスター(Twister)、GERSTEL、ミュールハイムアンデアルール(Muelheim an der Ruhr)、ドイツ)をマグネットで培養槽のヘッドスペース中に固定した。インキュベーション後、磁気撹拌バーを磁性ロッドで取り出し、脱塩水ですすぎ、糸屑の出ない布で乾燥し、調整した熱脱着装置(TDU:Thermal Desorption Unit)ライナー(GERSTEL)中に置いた。スプリットなしでTDU脱離を行った。低温注入システム(CIS:Cold Injection System)4(GERSTEL)中のシラン化したガラス充填物(GERSTEL)を有するガラス蒸発器管を用いて検体を低温濃縮した。5977B MSD(アジレントテクノロジーズ(Agilent Technologies)、バルトボロン(Waldboronn)、ドイツ)および嗅覚検査検出器ポート(ODP)(GERSTEL)と結合した7890B GC(アジレントテクノロジーズ)からなるGC-MS-Oを用いてガスクロマトグラフィー分析を行った。アジレントJ&W VFーWAXms(30m×0.25mmID×0.25μm)を極性カラムとして用い、アジレントJ&W DB-5ms(30m×0.25mmID×0.25μm)を非極性分離相として用いた。キャリアガスとしてヘリウムを1.56mL・分-1の一定流速で用いた。ガスの流れを1:1スプリットでMSおよびODPに誘導した。さらなる設定値を下記に挙げる。セプタムパージフロー3mL・分-1、走査モード全イオン電流(TIC)、走査範囲m/z 33~300、イオン化エネルギー 70eV、EI源温度 230℃、四重極子温度 150℃、MSトランスファーライン温度 250℃、Heクエンチガス 2.25mL・分-1、N衝突ガス 1.5mL・分-1、ODP 3トランスファーライン温度 250℃、ODP混合チャンバー温度 150℃、ODPメークアップガス N
【0055】
芳香の相対強度の変化を検討するためおよびVF-WAXmsを用いる同定のためにオーブン温度を3分後に10℃・分-1で40℃~150℃、次に20℃・分-1で240℃まで上昇させ、この温度を7分間維持した。TDU昇温プログラムは、360℃・分-1で40℃(0.5分)から250℃(10分)まで加熱した。CISにおいて、0.5分の恒温時間後、温度を12℃・秒-1で-20℃から250℃へ加熱し、5分間保持した。CISスプリット比をスプリットなしと50:1との間で変化させた。
【0056】
DB-5msを用いる半定量的保持指数の推定および決定のために、3分後にオーブンを5℃・分-1で40℃~320℃に加熱し、この温度を7分間維持した。別の場合に、TDUを120℃・分-1で250℃に加熱した。別に100℃においてCASによる低温濃縮を行った。CISにおけるスプリット比をスプリットなしと50:1との間で変化させた。
【0057】
前に言及した方法でヘッドスペースSBSEを用いてワイン絞り滓、イチゴピューレ残留物またはラズベリーピューレ残留物上のW.cocosの浮上培養の芳香物の抽出を行った。5977B MSD(アジレントテクノロジーズ)および水素炎イオン化検出器と結合した8890GC(アジレントテクノロジーズ)からなるGC-MS FIDを用いて後続のガスクロマトグラフィー分析を行った。使用したカラムは、アジレントVF-WAXms(30m×0.25mmID×0.25μm)であった。オーブン温度を3℃・分-1で40℃から230℃へ上昇させ、30分間保持した。TDU昇温プログラムは、60℃・分-1で30℃から150℃まで加熱し、10分間保持した。0.1分の保持時間の後、CISを12℃・秒-1で-20℃から250℃まで加熱し、この温度を10分間保持した。使用したCISスプリット比は、3:1であった。キャリアガスとして2.4mL・分-1の一定流速のヘリウムを用いた。ガスの流れを4:1のスプリットでMSおよびFIDに誘導した。前に言及したシステムと異なる、他の設定値を下記に挙げる。走査範囲m/z 25~370、MSトランスファーライン温度 280℃、FID H流量 35mL・分-1、FIDメークアップガス N
【0058】
固定床培養物の分析のために、菌糸体を増殖させた3gの固定床培養培地を20mlヘッドスペースバイアルに秤取し、ヘッドスペース中の固相微量抽出(SPME:solid phase microextraction)によって分析した。この目的で、試料を250rpm、45℃で20分間インキュベートし、ポリジメチルシロキサン/ジビニルベンゼンファイバーで5分間抽出した。CIS 4においてスプリットなし、230℃で60秒間脱着を行った。5977B MSDと結合した7890B GCからなるGC-MSを用いてガスクロマトグラフィー分析を行った。カラムとしてアジレントDB-FFAP(60m×0.25mmID×0.25μm)を用いた。オーブン温度を40℃において5分後に10℃・分-1で230℃まで上昇させ、この温度を10分間維持した。キャリアガスとして1.5mL・分-1の一定流速のヘリウムを用いた。ガスの流れを10:1のスプリットでMSおよびFIDに誘導した。他の同じではない設定値を下記に挙げる。掃引範囲m/z 25~550、MSトランスファーライン温度250℃、FID H流量 30mL・分-1、FIDメークアップガス N
【0059】
1.9 芳香物質の同定
物質の同定のために10~30mgの参照物質を溶解度に応じて50~1000μLのDMSO(カールロート(Carl Roth)、カールスルーエ、ドイツ)と混合し、必要なら脱塩水で1mLにする。分析のために以下の芳香物質を用いた。2-アミノベンズアルデヒド≧98%(シグマアルドリッチ(Sigma Aldrich)、2-ノナノン≧99%(アクロスオーガニックス(Acros Organics)、ゲール(Geel)、ベルギー)、リナロール97%(アクロスオーガニックス)、アントラニル酸メチル99%(アクロスオーガニックス)、(+)-2-オクタノール98%(アルファイーザー(Alfa Aesar)、ヘイバーヒル(Haverhill)、米国)、ゲラニオール97%(アルファイーザー)、2-オクタノン98%(シグマアルドリッチ、セントルイス、米国)、リナロールオキシド異性体混合物(シグマアルドリッチ)、2-ウンデカノン純品(ハネウェルフルカ(Honeywell Fluka)、ブカレスト、ルーマニア)、ベンズアルデヒド純品(アプリケム(AppliChem)、ダルムシュタット、ドイツ)。これらのものから、水を用いて1:200および1:1000希釈物を調製し、0.5mLの溶液を寒天(脱塩水中1.5%の寒天)上に沈着した。1時間後、ツイスター(登録商標)をマグネットでヘッドスペースに取り付け、前のポイント1.8に記載した方法を用いてGC-MSにより分析した。バンデンドール(van den Dool)およびクラッツ(Kratz)(van Den Dool、H.;Dec.Kratz、P.,Journal of Chromatography A、1963年、11巻、463頁)に従って保持指数を計算した。
【0060】
1.10 アントラニル酸メチル、リナロールおよびベンズアルデヒドの濃度の半定量的推定
半定量的推定のために、リナロール、アントラニル酸メチルおよびベンズアルデヒドを脱塩水に溶解した。ベンズアルデヒドではそれぞれ3、4、8、12および16mg・L-1;アントラニル酸メチルでは9、14、19、41、80mg・L-1;リナロールでは120、241、361および722mg・L-1の濃度で標準液をそれぞれ調製した。これらのもののそれぞれ0.5mLを寒天プレート(Φ10cm、16mLの脱塩水中1.5%寒天)上に沈着した。1時間後、マグネットを用いてツイスター(登録商標)をヘッドスペースに取り付け、試料と同様に分析した。物質に特異的なフラグメントの抽出イオンクロマトグラム(EIC)によって計算したピーク面積を決定することによって、試料において検出した強度を標準物質の強度と比較し、従って試料を濃度範囲に割り当てた。
【0061】
2.結果
天然芳香物の合成のためのクロスグリ副生成物のバイオ変換を検討するために、合計26種類の担子菌門の真菌を試験した。
【0062】
表2は、浮上培養および液中培養において試験した真菌-基質の組み合わせの匂いの印象の評価の概要を示す。
【0063】
【表3】
【0064】
官能分析に基づいていくつかの興味深い真菌-基質の組み合わせを特定した。真菌G.odoratumおよびW.cocosは、すべての被験培養タイプのすべての被験基質で非常に強い匂いの印象を示した。G.odoratumはここでシトラスのような芳香を発生させ、W.cocosの芳香は、フローラルかつ野イチゴを思い出させるフルーティであった。
【0065】
W.cocosの増殖挙動のより詳細な分析のためにこの真菌を種々の培地上で培養した。絞り滓に加えて、この菌の増殖用の完全培地として好適である麦芽エキス寒天を選択した。L-アスパラギン酸一ナトリウムの添加は、絞り滓上で培養すると特に強い芳香を生む結果となった。匂いに加えて、培養物は、見た目とそれらの増殖との両方で異なった(図1参照)。
【0066】
Asparatatの添加によって、菌糸体と栄養培地との両方が褐変した。さらに、増殖は、参照培地と比較して減少した(図2参照)。形成されたバイオマスは少なくなり、非常に平らな菌糸体が形成された。
【0067】
0.624%のL-アスパラギン酸一ナトリウムを加えるとpH値の低下はアスパラギン酸塩のない培養より少なかった(図3参照)。絞り滓上とMEA培地上との両方の発酵においてpH値は培養の経過で約2.5に低下した。対照的に、アスパラギン酸塩を加えた絞り滓からの培地においてpHの低下は観測されなかった。これらの培養物中で野イチゴの香りは特に強かった。
【0068】
芳香組成物の分析のために、GC-MS-Oと組み合わせたSBSE分析を行った。0.624%L-アスパラギン酸一ナトリウムを加えたクロスグリ絞り滓上のW.cocosの発酵物を特に興味深いものとして特定した。検出した芳香は、アスパラギン酸塩を加えないMEAもしくはスグリ絞り滓またはスグリ葉上の発酵物において検出したものと顕著に異なった。
【0069】
特に、3-オクタノン、1-オクテン-3-オール、1-オクタノールおよび(E)-2-オクテン-1-オールなどのC8芳香物をMEA培地中で検出した(図4参照)。これらは、典型的な真菌芳香物として記載されている(Hofrichter、M.編、Industrial Applications、2011年、ベルリン、ハイデルベルク、スプリンガーベルリンハイデルベルク(Springer Berlin Heidelberg)。これは、真菌のような、酸のようなトロピカルフルーツの香りと記述される嗅覚印象と良好に相関した。
【0070】
比較すると、アスパラギン酸塩を有するスグリ絞り滓上でW.cocosを培養すると、芳香は、顕著に異なった。培養物は、わずか2、3日後にフローラルかつフレッシュな香りを発し始めた。さらに、真菌を思い出させる芳香は知覚可能でなかった。約10日間の培養後、香りは、フローラルなノートおよび野イチゴを思い出させる強いフルーティな芳香とともに強まった。
【0071】
これらの芳香の信号強度は、アスパラギン酸塩を補ったクロスグリ絞り滓上で培養したときの方がMEA上で培養したときより顕著に高かった(図5参照)。リナロールの強度は特に高く、これは、培養物のフローラルな匂いと良好に相関した。
【0072】
リナロールに加えて、GC-MS-O検討によってこの真菌-基質の組み合わせの芳香の特性としてさらなる化合物を特定した。特に、アントラニル酸メチルが強くフルーティな生イチゴの匂いを示した。
【0073】
嗅覚特定化合物によってこの芳香組成物の複雑さも強調された。この目的で、特に強力な芳香を検出するために、GC-MS-Oによって定められた培養日数におけるW.cocosの浮上培養を検討した(図6参照)。
【0074】
こうして行った培養物の嗅覚評価において、物質リナロールおよびアントラニル酸メチルは、非常に強く知覚可能であった。ベンズアルデヒドも、その特徴的な苦いアーモンドの匂いでODPによって知覚された。これらの重要な芳香物質に加えて、物質分類がいまだに進行中である多数の他の匂いが知覚可能であった。
【0075】
表3は、試料中に含まれる選ばれた物質の提案ならびにファンデンドール(van den Dool)およびクラッツ(Kratz)によるそれらの保持指数(RI)および匂いを標準物質の保持指数および文献中に記載されている匂いと比較して示す。関連する質量スペクトル(表示せず)は、3%絞り滓+0.624%L-アスパラギン酸一ナトリウム上のW.cocosの浮上培養からの試料を用いるNISTデータベースからの対応する比較スペクトルとの比較によって2-オクタノン、2-ノナノン、リナロールオキシド、ベンズアルデヒド、ゲラニオール、2-オクタノール、2-アミノベンズアルデヒド、アントラニル酸メチルおよびリナロールの生成を確認した。
【0076】
【表4】
【0077】
試料と標準物質との保持指数ならびに質量スペクトルおよび匂いは良好に一致した。
【0078】
ヘッドスペースSBSEを用いて、主な芳香物の形成反応速度を24時間間隔で14日間にわたって記録した(図7参照)。
【0079】
いくつかの芳香活性化合物、例えばベンズアルデヒド、リナロール、リナロールオキシドI、IIおよび2-ウンデカノンは、ほとんど絞り滓とアスパラギン酸塩との培地(3TT+ASP)上だけで生成した。絞り滓およびアスパラギン酸塩の培地上とMEAおよびアスパラギン酸塩との培地(MEA+ASP)上との両方で他の化合物、例えば2-ノナノン、ゲラニオールおよびアントラニル酸メチルが生成した。
【0080】
芳香分析データ(図8および9参照)は、特徴的な匂いは培養の10日目に最も強いと記載された官能分析のものと良好に相関した。
【0081】
リナロール、アントラニル酸メチルおよびベンズアルデヒドが芳香に特に特徴的と知覚された。この理由で、アスパラギン酸塩を加えた絞り滓上でW.cocosを培養したとき10日後の芳香物濃度の半定量的推定を行った(図10参照)。
【0082】
較正シリーズに基づいて、リナロールではプレートあたり95~135μg、ベンズアルデヒドでは約5μg、アントラニル酸メチルでは5~20μgの値を推定することができた。約16mLのプレート体積を考慮すると、これは、約7,000±1,500μg・L-1リナロール、350±50μg・L-1ベンズアルデヒド、700±350μg・L-1メチルアントラニレートに対応した。
【0083】
訓練を受けたパネルによって、アスパラギン酸塩を加えた、および加えなかったクロスグリ絞り滓に基づく変換培地上のW.cocosの培養物の官能検査を行った。アスパラギン酸塩を加えた浮上培養物は、属性「フルーティ」、「花のような」および「野生ベリー」の点で顕著に強くなると評価された(図11参照)。
【0084】
ブドウ科またはバラ科の植物部位に基づく原料を有する変換培地中でW.cocosを培養することによって、非常に興味深い芳香プロフィールを発生させることもできた。すなわち、変種ミュラー-トゥルゴー(Mueller-Thurgau)、ゲビュルツトラミナー(Gewuerztraminer)またはムスカリス(Muscaris)のワイン絞り滓からなる培地上のW.cocosの培養は、培養の継続時間に応じてフルーティなノートおよび野イチゴを思い出させるフローラルなノートを有する芳香プロフィールを生む結果となった(表4参照)。
【0085】
【表5】
【0086】
アスパラギン酸塩を加えたミュラー-トゥルゴー変種のブドウ絞り滓に基づく変換培地上のW.cocosの半液中培養の官能評価は、アカスグリ絞り滓に基づく浮上培養との類似点を示した(図12参照)。
【0087】
ガスクロマトグラフィー分析によって、バラ科またはブドウ科の原料を含有する培地上のW.cocosの培養物中に芳香活性化合物2-オクタノン、2-ノナノン、2-ウンデカノン、リナロールオキシド、ベンズアルデヒド、ゲラニオール、アントラニル酸メチルおよびリナロールを検出した。それぞれ0.6%L-アスパラギン酸一ナトリウムを加えたMuscarisワイン絞り滓、イチゴピューレ残留物またはラズベリーピューレ残留物上のW.cocosの浮上培養のクロマトグラム例を図13、14および15に示す。
【0088】
さらにグルコース含有量を変化させたバラ科またはブドウ科の原料を含有する培地上、浮上形でW.cocosを増殖させたとき形成された芳香活性化合物の量の比較を図16に示す。示した芳香活性化合物は、グルコースを加えなかった(M1(0日))非培養参照培地中では検出することができなかったかまたは顕著に低い量でしか検出することができなかった。さらに0.4%および0.8%グルコース(それぞれM2およびM3)を含有するイチゴおよびラズベリーピューレ残留物に基づく培地上の培養は、提示した芳香活性化合物の形成量が培地M1と比較して低くなるという結果となった(図16参照)。従って、提示した芳香活性化合物の形成は、主として、培地中に存在する植物原料のバイオテクノロジー的変換の結果である。
【0089】
使用した培養方法は、培養物の芳香の定量的組成に対して顕著な影響を及ぼした。すなわち、W.cocosの浮上培養の芳香に特徴的である芳香活性化合物は、同じではない量で真菌の液中培養または固定床培養によっても検出された。イチゴピューレ残留物およびアスパラギン酸塩を有する培地上のW.cocosの固定床培養のクロマトグラム例を図17に示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
図10C
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
【国際調査報告】