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特表2022-532381VCAM-1及びカルプロテクチンのための分析検出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-14
(54)【発明の名称】VCAM-1及びカルプロテクチンのための分析検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/542 20060101AFI20220707BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20220707BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20220707BHJP
   G01N 21/78 20060101ALI20220707BHJP
【FI】
G01N33/542 A
G01N33/53 D
G01N21/64 F
G01N21/78 C
G01N21/64 B
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021568125
(86)(22)【出願日】2020-05-14
(85)【翻訳文提出日】2021-11-12
(86)【国際出願番号】 US2020032919
(87)【国際公開番号】W WO2020232262
(87)【国際公開日】2020-11-19
(31)【優先権主張番号】62/848,723
(32)【優先日】2019-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/851,981
(32)【優先日】2019-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521201757
【氏名又は名称】プロサイセデクス インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(72)【発明者】
【氏名】ラリー ミムズ
(72)【発明者】
【氏名】リーミン リョウ
(72)【発明者】
【氏名】ホンユイ チェン
(72)【発明者】
【氏名】ステファン ウェスティン
(72)【発明者】
【氏名】チンヤオ チョウ
(72)【発明者】
【氏名】マイケル ヘイル
【テーマコード(参考)】
2G043
2G054
【Fターム(参考)】
2G043AA03
2G043BA16
2G043EA01
2G043FA03
2G043KA02
2G043KA03
2G054AA06
2G054AA07
2G054CE02
2G054GA04
2G054GB02
(57)【要約】
蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)を用いる試料中のVCAM-1の存在又は量を検出することのためのアッセイ方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中のVCAM-1の存在又は量を検出することのためのアッセイ方法であって、前記方法は:
前記試料とVCAM-1への第一の結合エピトープを有する第一の抗VCAM-1抗体とを接触させることであって、ここで前記第一の抗VCAM-1抗体が第一のドナーフルオロフォアにより標識されること;
前記試料とVCAM-1への第二の結合エピトープを有する第二の抗VCAM-1抗体とを接触させることであって、ここで前記第二の抗VCAM-1抗体がアクセプターフルオロフォアにより標識されること;
二重標識したVCAM-1を得るために十分な時間前記試料をインキュベートすること;そして
光源を用いて二重標識したVCAM-1を有する前記試料を励起し、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)と関連される蛍光発光シグナルを検出することを含むアッセイ方法。
【請求項2】
前記FRET発光シグナルが時間分解FRET発光シグナルである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記試料が生物学的な試料である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記生物学的な試料が全血、尿、ふん便検体、血漿、及び血清からなる群より選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記生物学的な試料が全血である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記FRETエネルギードナー化合物がテルビウムクリプテートである、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記アクセプターフルオロフォアが、フルオレセイン様(緑色光域)、Cy5、DY-647、Alexa Fluor488、Alexa Fluor546、アロフィコシアニン(APC)、フィコエトリエン(PE)、及びAlexa Fluor647からなる群より選択される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記アクセプター化合物がAlexa Fluor647である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記励起波長が約300nm~約400nmの間である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記発光波長が約450nm~約700nmである、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
血中のVCAM-1の濃度が約100ng/mL~約1500ng/mLである、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
血中のVCAM-1の通常の濃度が約100ng/mL~約500ng/mLである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
血中のVCAM-1の上昇した濃度が少なくとも約550ng/mLを上回る、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
血中のVCAM-1の上昇した濃度が少なくとも約650ng/mLを上回る、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
試料中のカルプロテクチンの濃度又はレベルを検出すること又は定量化することのための方法であって、前記方法は:
前記試料とカルプロテクチンへ特異的な第一の結合エピトープを有する第一の抗体とを接触させることであって、ここで前記第一の抗体はドナーフルオロフォアにより標識されること;
前記試料とカルプロテクチンへ特異的な第二の結合エピトープを有する第二の抗体とを接触させることであって、ここで前記第二の抗体がアクセプターフルオロフォアにより標識されること;
二重標識したカルプロテクチンを得るために十分な時間前記試料をインキュベートすること;そして
光源を用いて前記二重標識したカルプロテクチンを有する前記試料を励起し、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)と関連される蛍光発光シグナルを検出することを含む方法。
【請求項16】
前記FRET発光シグナルが時間分解FRET発光シグナルである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記試料が生物学的な試料である、請求項15~16に記載の方法。
【請求項18】
前記生物学的な試料が全血、尿、ふん便検体、血漿、及び血清からなる群より選択されるメンバーである、請求項15~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記生物学的な試料がふん便検体である、請求項15~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記FRETエネルギードナー化合物がテルビウムクリプテートである、請求項15~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記アクセプター化合物が、フルオレセイン様(緑色光域)分子、Cy5、DY-647、Alexa Fluor488、Alexa Fluor546、アロフィコシアニン(APC)、フィコエトリエン(PE)、及びAlexa Fluor647からなる群より選択されるメンバーである、請求項15~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記アクセプター化合物が、Alexa Fluor647である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記励起波長が約300nm~約400nmの間である、請求項15~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記発光波長が約450nm~約700nmである、請求項15~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
カルプロテクチンの濃度量が約10μg/g~約800μg/gの範囲内である、請求項15~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記カルプロテクチンの濃度量が約10μg/g~約100μg/gの範囲内である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記カルプロテクチンの濃度量が約100μg/g~約800μg/gの範囲内である、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
消化管の炎症を検出する方法であって、前記方法は:
試料とカルプロテクチンに特異的な第一の結合エピトープを有する第一の抗体とを接触させることであって、ここで前記第一の抗体はドナーフルオロフォアにより標識されること;
前記試料とカルプロテクチンに特異的な第二の結合エピトープを有する第二の抗体とを接触させることであって、ここで前記第二の抗体はアクセプターフルオロフォアにより標識されること;
二重標識したカルプロテクチンを入手するために十分な時間前記試料をインキュベートすること;そして
光源を用いて前記二重標識したカルプロテクチンを有する前記試料を励起し、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)と関連される蛍光発光シグナルを検出すること。
【請求項29】
前記方法を炎症性大腸炎(IBD)を決定する又は診断するために用いる、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記方法を過敏性腸症候群(IBS)を決定する又は診断するために用いる、請求項28に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願への相互参照]
本出願は、2019年5月16日に出願された米国仮出願第62/848,723号、及び2019年5月23日に出願された第62/851,981号の優先権を主張するものであり、その開示は、全ての目的についてそれらの全体において参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
ある生物学的なアッセイは、二つのフルオロフォアを用いる時間分解蛍光共鳴エネルギー移動(TR-FRET)のメカニズムに依存する。生物学的な材料は典型的に自己蛍光する傾向があり、それらは時間分解FRETを利用することによって最小限に抑えられうる。TR-FRETは希土類元素、例えばランタニド系元素(例えば、ユウロピウム及びテルビウム)を利用し、それらは並外れた長い蛍光発光半減期を有する。これらのアッセイにおいて、二つのフルオロフォアがお互いに近接している場合に、エネルギーはドナーフルオロフォアとアクセプターフルオロフォアとの間で移動される。エネルギー源(例えばUV光)によるドナー(例えばクリプテート)の励起は、二つのフルオロフォアが近接を示す際にアクセプターへのエネルギー移動を生み出す。次に、そのアクセプターはその特定の波長で発光する。TR-FRETを生じさせるために、ドナー分子の蛍光発光スペクトルはアクセプター発色団の吸収又は励起スペクトルと重複しなければならない。さらに、ドナー分子の蛍光寿命は、TR-FRETを生じることが可能な十分な期間でなければならない。
【0003】
クリプテートは様々なバイオアッセイの型に用いられうる。クリプテートはテルビウム又はユーロピウムのようなランタニド系元素がしっかりと埋め込まれる、又はキレートされる大環状分子を含む複合体である。このケージ様構造は、照射エネルギーを収集すること及びその収集したエネルギーをランタニドイオンに移動することについて有用である。そのランタニドイオンは特定の蛍光によりエネルギーを放出しうる。
【0004】
米国特許番号第6,406,209号は「Salicylamid-lanthanid complexes for use as luminescent markers.」とタイトルを付けられた。この特許は、ランタニド系列の金属イオン及びサリチルアミジル基を含む錯化剤を含んでいる発光性のランタニド金属キレートに向けられる。この特許は参照によって本明細書に組み込まれる。
【0005】
米国特許番号第6,515,113号は、「Pathalamide lanthanide complexes for use as luminescent markers.」とタイトルを付けられた。この特許は、ランタニド系列の金属イオン及びフタルアミジル基を含む錯化剤を含んでいる発光性のランタニド金属キレートに向けられる。この特許は参照によって本明細書に組み込まれる。
【0006】
WO2015157057は「大環状分子」とタイトルを付けられ、化合物及び治療的及び診断的な適用において用いられうる複合体に関する。この出願は、生体分子を標識するために有用なクリプテート分子を含む。この公開は、参照によって本明細書に組み込まれる。
【0007】
WO2018130988は、優れた蛍光特性を有するクリプテート誘導体及びそのコンジュゲートを開示した。そのクリプテートは生物学的なアッセイ及び様々な分析物の検出及び同定に有用である。
【0008】
また、血管細胞接着分子1(VCAM-1)、又は分化抗原群106(CD106)として既知の血管細胞接着タンパク質1は、VCAM-1遺伝子によりコードされているヒトにおけるタンパク質である。VCAM-1は細胞接着分子として機能する。VCAM-1の存在及び濃度レベルは、典型的に酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)によって測定される。
【0009】
VCAM-1固相サンドイッチELISAは抗体ペアの間に結合される分析物の存在又は量を測定することを意図される。サンドイッチELISAにおいて、試料を固定化した捕捉抗体に加える。二次(ディテクター)抗体を加えた後、基質溶液を用いて、酵素-抗体-標的複合体と反応させ、測定可能なシグナルを産生する。このシグナルの強度は試験試料中に存在する標的の濃度と比例する。
【0010】
カルプロテクチンは、カルシウム及び亜鉛結合タンパク質であり、かつ好中球特異的であると考えられる。胃腸(GI)管及び腸において炎症がある場合に、好中球はカルプロテクチンを放出し、それは、ふん便中のカルプロテクチンの増加した濃度をもたらす。増加したレベルのカルプロテクチンは、それゆえ、炎症の重篤性に直接的に関連する増加したレベルのカルプロテクチンによる、有用な診断支持薬として用いられうる。
【0011】
ふん便のカルプロテクチンは、IBD(炎症性大腸炎)とIBS(過敏性腸症候群)との間を区別することにおいて有用である。典型的に、IBD(例えば、クローン病(CD)又は潰瘍性結腸炎(UC))は、炎症を伴うことを有し、一方でIBSは炎症を有しない。腹部の又は胃腸(GI)の弱い症状が存在する場合に、ふん便のカルプロテクチン試験を用いて、炎症性の腸症状及びその原因があるかどうか同定される。
【0012】
前述のことを考慮して、当該分野で必要とされるものは、より高いスループットに加えて、柔軟性、信頼性、及び感度における増加を提供する均質なVCAM-1アッセイである。加えて、生物学的な試料中のカルプロテクチンの量を測定するかつ決定する新たな方法について当該分野においてニーズがある。本開示はこれ及び他のニーズを提供する。
【発明の概要】
【0013】
一の態様において、本開示は、試料中のVCAM-1の存在又は量を検出することのためのアッセイ方法を提供し、その方法は:
その試料とVCAM-1への第一のエピトープを有する第一の抗VCAM-1抗体とを接触させることであって、ここでその第一の抗VCAM-1抗体はドナーフルオロフォアによって標識されること;
その試料とVCAM-1への第二のエピトープを有する第二の抗VCAM-1抗体とを接触させることであって、ここでその第二の抗VCAM-1抗体はアクセプターフルオロフォアによって標識されること;
その第一の抗体及び第二の抗体をVCAM-1に結合し、二重標識したVCAM-1を得るために十分な時間その試料をインキュベートすること;そして
光源を用いて二重標識したVCAM-1を有するその試料を励起し、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)と関連される蛍光発光シグナルを検出することを含む。
【0014】
別の態様において、本開示は、試料中のカルプロテクチンの濃度又はレベルを検出すること又は定量化することのための方法を提供し:
その試料とカルプロテクチンへ特異的な第一の結合エピトープを有する第一の抗体とを接触させることであって、ここでその第一の抗体がドナーフルオロフォアによって標識されること;
その試料とカルプロテクチンへ特異的な第二の結合エピトープを有する第二の抗体とを接触させることであって、ここでその第二の抗体はアクセプターフルオロフォアによって標識されること;
二重標識したカルプロテクチンを得るために十分な時間その試料をインキュベートすること;そして
光源を用いてその二重標識したカルプロテクチンを有するその試料を励起し、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)に関連した蛍光発光シグナルを検出することを含む。
【0015】
別の態様において、本開示は、腸の炎症を決定することのための方法を提供し:
その試料とカルプロテクチンに特異的な第一の結合エピトープを有する第一の抗体とを接触させることであって、ここでその第一の抗体は、ドナーフルオロフォアによって標識されること;
その試料とカルプロテクチンに特異的な第二の結合エピトープを有する第二の抗体とを接触させることであって、ここでその第二の抗体は、アクセプターフルオロフォアによって標識されること;
二重標識したカルプロテクチンを得るために十分な時間その試料をインキュベートすること;そして
光源を用いて二重標識したカルプロテクチンを有するその試料を励起し、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)に関連される蛍光発光シグナルを検出することを含む。
【0016】
これらの及び他の側面、目的並びに態様は、以下の詳細な記載及び図によって書かれるものより明らかになるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】二重標識した分析物を有する本開示の一の態様を例示する。
【0018】
図2】本開示の方法を用いて標準曲線を示す。
【0019】
図3A-B】本開示の方法を用いて標準曲線を示す。
【0020】
図4A-B】本開示の一の態様を示す。
【0021】
図5】本開示の方法を用いて作成する標準曲線を示す。
【0022】
図6】本開示の方法を用いて作成する標準曲線を示す。
【0023】
図7】商用利用可能な方法による本開示の方法の比較を示す。
【0024】
図8】本開示のドナーの一の態様を示す。
【0025】
図9】本開示の一の態様のドナー及びアクセプター波長を示す。
【0026】
図10】本開示のアクセプターの一の態様を例示する。
【発明を実施するための形態】
【0027】
I.定義
【0028】
本明細書で用いられるように、「a」、「an」、又は「the」という用語は、一の要素による側面を含むのみであり、一以上の側面を含まない。
【0029】
数値的な値を修飾するために本明細書で用いられるように「約」という用語は、その値の周辺の決定される範囲を示す。「X」が値の場合に、「約X」は、0.9X~1.1X、及びより好ましくは、0.95X~1.05Xの値を示すと考えられる。「約X」への任意の参照は、少なくとも値X、0.95X、0.96X、0.97X、0.98X、0.99X、1,01X、1.02X、1.03X、1.04X、及び1.05Xを示す。それゆえ、「約X」は、例えば、「0.98X」の請求の範囲の限界について書かれる記載の支援を教示し、かつ提供することを意図される。
【0030】
修飾語句「約」は、数的な範囲の開始を記載することを適用し、範囲の両端を適用する。それゆえ、「約500~850nm」は、「約500nm~約850nm」と同等である。「約」が一セットの値の第一の値を記載することを適用する場合に、それはそのセットにおける、全ての値を適用する。すなわち、「約580、700、又は850nm」は、「約580nm、約700nm、又は約850nm」と等しい。
【0031】
本明細書で用いられるように「活性化したアシル」は、-C(O)-LG基を含む。「脱離基」又は「LG」は、求核性アシル置換によって置換されやすい基である(すなわち、-C(O)-LGのカルボニルへの求核付加後の脱離基の排除)。代表的な脱離基は、ハロ、シアノ、アジド、カルボン酸誘導体、例えばt-ブチルカルボキシ、及び炭酸塩誘導体例えばi-BuOC(O)O-を含む。また、活性化したアシル基は、本明細書で定義されるような活性化したエステル又は、無水物(好ましくは環状)若しくは混合した無水物-OC(O)Ra若しくは-OC(NRa)NHRb(好ましくは環状)を形成するためにカルボジイミドにより活性化したカルボキシル酸でありうる(式中、Ra及びRbはC1-C6ペルフルオロアルキル、C1-C6アルコキシ、シクロヘキシル、3-ジメチルアミノプロピル、又はN-モルホリノエチルからなる基より独立して選択されるメンバーである)。
【0032】
本明細書で用いられるように「活性化したエステル」は、エチルエステル基よりも求核付加による置換及び排除されやすいカルボキシル基の誘導体(例えば、NHSエステル、スルホ-NHSエステル、PAMエステル、又はハロフェニルエステル)を含む。活性化したエステルの代表的なカルボニル置換基は、スクシンイミジルオキシ(succinimidyloxy)(-OC44NO2)、スルホスクシンイミジルオキシ(sulfosuccinimidyloxy)(-OC43NO2SO3H)、-1-オキシベンゾトリアゾリル(-OC643);4-スルホ-2,3,5,6-テトラフルオロフェニル;又は電子吸引置換基、例えばニトロ、フルオロ、クロロ、シアノ、トリフルオロメチル、又はそれらの組み合わせ(例えば、ペンタフルオロフェニルオキシ、又は2,3,5,6-テトラフルオロフェニルオキシ)によって一以上の回数任意に置換されるアリールオキシ基を含む。好ましい活性化したエステルは、スクシンイミジルオキシ(succinimidyloxy)、スルホスクシンイミジルオキシ(sulfosuccinimidyloxy)、及び2,3,5,6-テトラフルオロフェニルオキシエステルを含む。
【0033】
「FRETパートナー」は、クリプテートのようなドナー蛍光化合物、及びAlexa647のようなアクセプター化合物からなるフルオロフォアのパートナーを意味し、それらはお互いに近接し、そしてそれらがドナー蛍光化合物の励起波長で励起される場合に、これらの化合物はFRETシグナルを発行する。二つの蛍光化合物がFRETパートナーであるために、そのドナー蛍光化合物の発光スペクトルは、アクセプター化合物の励起波長に部分的に重複しなければならないことが既知である。その好ましいFRETパートナー対は、R0値(フェルスター距離、エネルギー移動が50%効率である距離)が30Å以上であるそれらである。
【0034】
「蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)」又は「フェルスター共鳴エネルギー移動(FRET)」は、それらがお互いに近接される場合に、かつそれらがドナー蛍光化合物の励起波長で励起される場合に、クリプテートのようなドナー化合物とAlexa 647のようなアクセプター化合物との間のエネルギー移動を述べているメカニズムを意味する。ドナー化合物は、第一に電子的に励起される状態において、無放射の双極子間カップリングを通じるアクセプターフルオロフォアへエネルギーを移動しうる。このエネルギー移動は、ドナーとアクセプターとの距離の6乗に反比例し、FRETのわずかな距離の変化への極度な感受性をもたらす。
【0035】
「FRETシグナル」は、ドナーフルオロフォア化合物とアクセプター化合物との間のFRETの代表的な任意の測定可能なシグナルを意味する。FRETシグナルはそれゆえ、ドナー蛍光化合物又は(アクセプター化合物が蛍光性である場合に)アクセプター化合物の発光の強度の又は寿命の変動でありうる。
【0036】
VCAM-1(血管細胞接着タンパク質1、CD106、INCAM-110)は、サイトカイン活性化した内皮により発現した細胞表面のシアロ糖タンパク質を意味する。VCAM-1は、白血球移動、白血球-内皮細胞接着及びシグナル伝達の制御を含む、いくつかの機能を有し、そして、いくつかの炎症性疾患に関与する。VCAM-1は非白血球性及び白血球性細胞にわたり分布される。VCAM-1は、接着分子のIgスーパーファミリーのメンバーであり、サイトカイン刺激した血管内皮細胞において高レベルで発現され、そして刺激されない内皮細胞で最小のレベルで発現される。また、VCAM-1はリンパ節の濾胞及び濾胞内樹状細胞、筋芽細胞、及びいくつかのマクロファージに存在する。受入番号P19320の、VCAM-1_HUMANはSEQ ID NO:1である。VCAM-1は739アミノ酸及び81,276Daの分子量を有する。このアイソフォームは「標準的な」配列として選択されている。
【0037】
カルプロテクチンは、カルシウム及び亜鉛結合タンパク質であり、かつ好中球特異的であると考えられている。胃腸(GI)管及び腸において炎症がある場合に、好中球はカルプロテクチンを放出し、ふん便中の増加したレベルのカルプロテクチンをもたらす。
【0038】
II.態様
本出願は、均質な液相時間分解FRETアッセイ(TR-FRET)を提供し、全血のような生物学的な試料中のVCAM-1の存在又はレベルを検出する。他のマーカーレベルと共に、VCAM-1は肝臓疾患における繊維症、例えばNASH、C型肝炎及びB型肝炎の決定における助けとして用いられうる。フェルスター共鳴エネルギー移動又は蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)は励起した状態におけるドナー分子が、二つの分子が近接される、典型的に10nm未満、例えば<9nm、<8nm、<7nm、<6nm、<5nm、<4nm、<3nm、<2nm、又は<1nm未満の場合に、その励起エネルギーをアクセプターフルオロフォアへの双極子-双極子カップリングを通じて移動するプロセスである。特定の波長での励起で、ドナーにより吸収されるエネルギーはアクセプターへと移動され、順番に(例えば、光の形態において)エネルギーを発光する。アクセプターフルオロフォアから発光される光のレベルはドナーアクセプター複合体形成の度合いに比例する。
【0039】
生物学的な材料は、典型的に自己蛍光する傾向があり、それらは時間分解蛍光測定(TRF)を利用することによって最小化されうる。TRFは、希土類元素、例えばランタニド系元素(例えば、ユウロピウム及びテルビウム)を利用し、それらは並外れて長い蛍光発光半減期を有する。時間分解FRET(TR-FRET)はTRF及びFRETの特性を併せ持ち、それらは特に生物学的な試料を分析する際に都合が良い。一の抗VCAM-1抗体はドナーフルオロフォアにより標識され、そして第二の抗VCAM-1抗体はアクセプターフルオロフォアにより標識され、TR-FRETは、VCAM-1抗原の存在下において生じうる(図1)。
【0040】
生物学的なプロセスを研究することのためのFRET現象の使用は、FRETパートナーの対の各メンバーがお互いに相互作用しうる化合物と結合されうること意味し、そしてそれゆえFRETパートナーをお互いに近接させる。光への曝露で、FRETパートナーはFRETシグナルを産生するだろう。本開示に従う方法において、エネルギードナー及びエネルギーアクセプターは、それぞれ異なる抗体AB-1及びAB-2に結合される。二つのFRETパートナー間のエネルギー移動は、二重標識した分析物(二重標識したVCAM-1)を作製するために分析物にそれぞれの結合することに依存する。フェルスター又は蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)は、その励起状態におけるドナーフルオロフォアが非放射的にその励起エネルギーを近傍のアクセプターフルオロフォアへと移動する物理学的な現象であり、それによってそのアクセプターに特定の蛍光を発光させる。
【0041】
そのように、ある態様において、本開示は、試料中のVCAM-1の存在及び/又は量を検出するためのアッセイ方法を提供し、その方法は:
その試料とVCAM-1への第一の結合エピトープを有する第一の抗VCAM-1抗体とを接触させることであって、ここでその第一の抗VCAM-1抗体が第一のドナーフルオロフォアによって標識化されること;
その試料とVCAM-1への第二の結合エピトープを有する第二の抗VCAM-1抗体とを接触させることであって、ここでその第二の抗VCAM-1抗体が第一のアクセプターフルオロフォアによって標識化されること;
二重標識したVCAM-1を得るために十分な時間その試料をインキュベートすること;そして
光源を用いて二重標識したVCAM-1を有する試料を励起し、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)に関連した蛍光発光シグナルを検出することを含む。
【0042】
カルプロテクチンは、好中性顆粒球及びマクロファージにおける主要なタンパク質であり、かつこれらの細胞のサイトゾル画分中のタンパク質の多くを構成する。試料中のカルプロテクチンの量は、潜在する炎症において関与する好中球の量及び数を反映する。本開示は、カルプロテクチンの量及びレベル並びにそれゆえ腸内の炎症の量の迅速な決定を可能にする。
【0043】
ある態様において、本開示は、試料中のカルプロテクチンの濃度又はレベルを検出すること又は定量化することのための方法を提供し:
その試料とカルプロテクチンに特異的な第一の結合エピトープを有する第一の抗体とを接触させることであって、ここでその第一の抗体がドナーフルオロフォアによって標識されること;
その試料とカルプロテクチンに特異的な第二の結合エピトープを有する第二の抗体とを接触させることであって、ここでその第二の抗体がアクセプターフルオロフォアによって標識されること;
二重標識したカルプロテクチンを得るために十分な時間その試料をインキュベートすること;そして
光源を用いて二重標識したカルプロテクチンを有するその試料を励起し、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)に関連した蛍光発光シグナルを検出することを含む。
【0044】
ある側面において、その試料は、ヒトのような個体から得られる。
【0045】
ある側面において、その試料は、生物学的な試料である。適当な生物学的な試料は、これらに限定されないが、全血、尿、ふん便検体、血漿又は血清を含む。好ましい側面において、その生物学的な試料は、VCAM-1決定のための全血である。ある側面において、その生物学的な試料はカルプロテクチン決定のためのふん便検体である。
【0046】
ある側面において、FRETアッセイは時間分解FRETアッセイである。その蛍光発光シグナル又は測定されるFRETシグナルは研究される生物学的な現象と直接的に相関される。実際に、ドナー蛍光化合物とアクセプター蛍光化合物との間のエネルギー移動のレベルは、これらの化合物間の距離の逆数の6乗に比例する。当業者により一般的に用いられるドナー/アクセプター対について、その(50%の移動効率に対応する)距離Roは、1、5、10、20又は30ナノメートルのオーダーである。
【0047】
ある側面において、そのFRETエネルギードナー化合物は、クリプテート、例えばランタニドクリプテートである。
【0048】
ある側面において、そのクリプテートは、約300nm~約400nm、例えば約325nm~約375nmの間の吸光波長を有する。ある側面において、図9に示されるように、クリプテート染色剤は約490nm、約548nm、約587nm、及び621nmの4つの蛍光発光ピークを有する。それゆえ、ドナーとして、そのクリプテートは、フルオレセイン様(緑色光域)分子、Cy5、又はDY-647様(赤色広域)のアクセプター(例えば、図5における緑色のアクセプター、NIRアクセプター、又はオレンジ色のアクセプター)に適合して、TR-FRET試験を実施する。
【0049】
ある側面において、アクセプター発光波長でのフラッシュ励起と蛍光の測定との間の時間遅延の導入は、短寿命の蛍光から長寿命の蛍光を区別し、シグナル対ノイズ比を高めることを可能にする。
【0050】
1.血管細胞接着タンパク質1(VCAM-1)
一の側面において、アッセイは、二つの抗体AB-1及びAB-2を含む。ある側面において、AB-2と比較して、AB-1は異なるエピトープ部位でVCAM-1に結合し、すなわちVCAM-1へのAB-1の結合エピトープは、VCAM-1へのAB-2の結合エピトープと異なる。一の側面において、R&D systemsからのヒトVCAM-1/CD106抗体をAB-1に使用することができ(カタログ番号BBA5、モノクローナルマウスIgG1クローン#BBIG-V1由来、ヒトVCAM-1/CD106に特異的であることが示されている)、かつ第2の、異なるヒトVCAM-1/CD106抗体を(カタログ番号BBA19、Polyclonal Goat Serum,Detects VCAM-1/CD106由来、又は代替として、ヒトVCAM-1と反応するabeamからの抗VCAMl抗体[EPR5047](ab 134047))をAB-2に使用することができる。
【0051】
VCAM-1は、リンパ球、単球、好酸球、及び好塩基球の血管内皮への接着を促進する膜貫通型細胞接着タンパク質である。サイトカインによる血管内皮細胞におけるVCAM-1のアップレギュレーションは、(例えば腫瘍壊死因子-α(TNFα)及びインターロイキン-1(IL-1)への反応において、)増加した遺伝子転写の結果として生じる。VCAM-1は血管細胞接着分子1遺伝子(VCAM-1;Entrez GeneID:7412)によりコードされ、そして転写の選択的スプライシング後に産生され(Genebank受入番号NM_001078(バリアント1)又はNM_080682(バリアント2))、そして前駆ポリペプチドスプライスアイソフォーム(Genbank受入番号NP 001069(アイソフォームa)又はNP_542413(アイソフォームb))を処理する。
【0052】
ヒトVCAM-1ポリペプチド配列はGenbank受入番号NP_001069に記述されている。ヒトVCAM-1 mRNA(コード)配列は、例えばGenbank受入番号NM_001078に記載されている。当業者は、VCAM-1がVCAM-1、V-CAM1、INCAM-100、CD抗原106、分化抗原群106、及びCD106として既知であることを理解するだろう。
【0053】
ある側面において、本明細書に記載される方法は、VCAM-1を測定するかつ/又は検出するために用いられる。ある側面において、VCAM-1の濃度又はレベルは測定される。ある側面において、VCAM-1が測定される生物学的試料は、全血である。
【0054】
ある側面において、VCAM-1の通常のコントロール濃度又は参照値は、約100~約500ng/mLである。ある側面において、VCAM-1の量は、約100ng/mL、110ng/mL、120ng/mL、130ng/mL、140ng/mL、150ng/mL、160ng/mL、170ng/mL、180ng/mL、190ng/mL、200ng/mL、210ng/mL、220ng/mL、230ng/mL、240ng/mL、250ng/mL、260ng/mL、270ng/mL、280ng/mL、290ng/mL、300ng/mL、310ng/mL、320ng/mL、330ng/mL、340ng/mL、350ng/mL、360ng/mL、370ng/mL、380ng/mL、390ng/mL、400ng/mL、410ng/mL、420ng/mL、430ng/mL、440ng/mL、450ng/mL、460ng/mL、470ng/mL、480ng/mL、490ng/mL、及び500ng/mLである。
【0055】
ある側面において、生物学的な試料におけるVCAM-1の濃度は、通常のコントロール濃度のVCAM-1よりも少なくとも10%~約60%高い場合に上昇されたとみなされる。ある側面において、生物学的な試料のVCAM-1の濃度は、通常のコントロール濃度のVCAM-1よりも少なくとも約10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、及び/又は60%高い場合に上昇されたとみなされる。ある側面において、生物学的な試料におけるVCAM-1の濃度は、少なくとも550ng/mLである場合に上昇されたとみなされる。ある態様において、その生物学的な試料におけるVCAM-1濃度は、少なくとも650ng/mLである場合に上昇されたとみなされる。ある態様において、生物学的な試料におけるVCAM-1の濃度は、それが650ng/mL~1500ng/mLである場合に上昇したとみなされる。
【0056】
ある側面において、本明細書の方法は、対象から回収した血液中に含まれるVCAM-1の量を測定すること;及びその対象がVCAM-1の量が上昇されるか又は参照値よりも高い場合にNASHにより影響を受けるか又は影響を受ける可能性があることを決定することによって、非アルコール性脂肪肝(NAFL)と非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)との間を区別するために用いられる。
【0057】
ある側面において、本明細書の方法は、対象から収集した血液中に含まれるVCAM-1の量を測定すること;及び対照がVCAM-1の量が上昇されるか又は参照値よりも高い場合に、肝繊維症の症状を有する又は有しうることを決定することによって、肝繊維症のような繊維症の存在を決定するために用いられうる。
【0058】
ある側面において、本明細書の方法は、VCAM-1の量が参照値よりも高い場合に対象から収集した血液中に含まれるVCAM-1の量を測定することによって、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の症状の進行の程度を決定するために用いられうる。
【0059】
ある側面において、本明細書の方法は、NAFLD、NAFL又はNASHの存在又は症状の進行の程度を決定するために用いられうる。VCAM-1の値が高くなれば、続いて、対象がNAFLD、NAFL又はNASHの症状の進行の程度がより高くなる可能性を有することを決定される。また、一方で、治療薬の適用後の値が適用前の指標値よりも低い場合において効果的でありうると決定されうる。
【0060】
また、本態様の方法は、肝疾患の症状の進展の程度を決定することのための方法として用いられうる。今までのところ肝生検による病理学的な発見に基づいている肝疾患の症状の進行の度合いは、非侵襲的な方法によって決定されうる。肝疾患の例は、NAFLD、アルコール性肝障害、慢性肝炎、及び薬剤誘発性の肝障害を含む。肝疾患の症状の進行の程度の例は、肝繊維症の進行の程度、肝炎の進行の程度、肝細胞の空胞変性の進行の程度、NAFLD活性及び肝細胞壊死の進行の程度を含む。感繊維症は、例えば、NAFLD、アルコール性肝障害、慢性肝炎及び薬剤誘発性肝障害において見られる症状である。その肝炎、特に肝小葉内の炎症は、例えばNAFLD、アルコール性肝障害、慢性炎症及び薬剤誘発性肝障害において見られる。肝細胞の空胞変性は、例えば、NAFLD、アルコール性肝障害、及び慢性肝炎において見られる症状である。その肝細胞壊死は、例えば、NAFLD、アルコール性肝障害、慢性肝炎及び薬剤誘発性肝障害において見られる。
【0061】
2.カルプロテクチン
【0062】
本開示の内容に従って用いられるカルプロテクチンは、タンパク質ヘテロダイマー、例えばS100A8ポリペプチド、及びS100A9ポリペプチドである。
【0063】
S100A8ポリペプチドは、H.sapiens S100A8(受入番号:NM-002964,NP-002955;5.NM_002964.5→NP_002955.2 protein S100-A8 isoform d)を含む。S100A8ポリペプチドは、SEQ ID NO:2を含む。
【0064】
S100A9ポリペプチドは、例えば、H.sapiens S100A9(受入番号: NM-002965,NP-002956;NM_002965.4→NP_002956.1 protein S100-A9)を含む。S100A9ポリペプチドは、SEQ ID NO:3を含む。
【0065】
S100A8及びS100A9は、好中球及び単球サイトゾルにおいて高発現される小さなカルシウム結合タンパク質であり、かつ炎症状態時に細胞外環境において高レベルで見られる。タンパク質S100A8及びS100A9は、カルプロテクチンと呼ばれるヘテロダイマーを形成する。S100カルシウム結合タンパク質A8(S100A8)はヒトにおいてS100A8遺伝子によってコードされるタンパク質である。また、それはカルグラニュリンAとして既知である。また、遊走阻害因子関連タンパク質14(MRP14)又はカルグラニュリンBとして既知のS100カルシウム結合タンパク質A9(S1009A)は、S100A9遺伝子によりコードされるヒトにおけるタンパク質である。
【0066】
ある態様において、本開示は、腸又は胃腸間の炎症を決定することのための方法を提供し:
その試料とカルプロテクチンに特異的な第一結合エピトープを有する第一の抗体とを接触させることであって、ここでその第一の抗体はドナーフルオロフォアによって標識されること;
その試料とカルプロテクチンに特異的な第二結合エピトープを有する第二の抗体とを接触させることであって、ここでその第二の抗体はアクセプターフルオロフォアによって標識されること;
二重標識したカルプロテクチンを得るために十分な時間その試料をインキュベートすること;そして
光源を用いてその二重標識したカルプロテクチンを有するその試料を励起し、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)に関連される蛍光発光シグナルを検出することを含む。
【0067】
ふん便のカルプロテクチンはIBD(炎症性大腸炎)とIBS(過敏性腸症候群)の間を区別することに有用である。典型的にIBD(例えば、クローン病(CD)又は潰瘍性結腸炎(UC))は、炎症を伴うことを有し、一方でIBSは、炎症を有しない。通常より高いレベルのカルプロテクチンは、炎症を示し、そしてそれゆえ、IBDとIBSとの間を区別するために用いられうる。
【0068】
ある側面において、カルプロテクチンの濃度量は、約10μg/g~約800μg/gの範囲内である。ある側面において、その範囲は、約10μg/g~約60μg/g、例えば約0、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55及び/又は60μg/gである。ある側面において、約10μg/g~約60μg/gの範囲は、通常又は健康であると考えられる。
【0069】
他の例において、カルプロテクチンの濃度量は約10μg/g~約100μg/gの範囲内であり、例えば10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、及び/又は100であり、それは、通常又は健康であると考えられる。
【0070】
ある例において、約60μg/g又は約100μg/gという数は、上昇し、そして異常であると考えられる。約100μg/g~約800μg/gの範囲内でカルプロテクチンの濃度は、例えば、100、105、110、115、120、125、130、135、140、145、150、155、160、165、170、175、180、185、190、195、200、205、210、215、220、225、230、235、240、245、250、255、260、265、270、275、280、285、290、295、300、305、310、315、320、325、330、335、340、345、350、355、360、365、370、375、380、385、390、395、400、405、410、415、420、425、430、435、440、445、450、455、460、465、470、475、480、485、490、495、500、505、510、515、520、525、530、535、540、545、550、555、560、565、570、575、580、585、590、595、600、605、610、615、620、625、630、635、640、645、650、655、660、665、670、675、680、685、690、695、700、705、710、715、720、725、730、735、740、745、750、755、760、765、770、775、780、785、790、795、及び/又は800は異常だと考えられる。
【0071】
3.FRETドナーとしてのクリプテート
ある側面において、Cisbio bioassaysにより市販されている、ルミフォール(Lumiphore)からのテルビウムクリプテート分子「Lumi4-Tb」は、クリプテートドナーとして用いられる。以下の式を有するテルビウムクリプテート「Lumi4-Tb」は、この場合、例えばNHSエステル:
【化1】
において、反応基により抗体と結合されうる。
活性化したエステル(NHSエステル)は、抗体上の一級アミンと反応することができ、安定的なアミド結合を作る。クリプテート上のマレイミド及び抗体上のチオールは、共に反応し、そしてチオエーテルを作る。ハロゲン化アルキルは、アミン及びチオールと反応し、アルキルアミン及びチオエーテルをそれぞれ作る。抗体に結合されうる反応基を提供する任意の誘導体は、本明細書で利用されうる。
【0072】
ある他の側面において、「大員環」とタイトルを付けられた「WO2015157057」において開示されるクリプテートは、本開示における使用のために適当である。本出願は、生体分子を標識することに有用なクリプテート分子を含む。本明細書で開示されるように、あるクリプテートは構造を有する:
【化2】
【0073】
ある他の側面において、本開示において有用なテルビウムクリプテートは以下に示される:
【化3】
【0074】
ある側面において、本発明に有用であるクリプテートは、2018年7月19日に発行されたWO2018/130988において開示されている。その明細書で開示されるように、式Iの化合物は、本開示のFRETドナーとして有用である:
【化4】
(式中、破線がある場合に、R及びR1は、水素、ハロゲン、ヒドロキシ、一以上のハロゲン原子によって任意に置換されるアルキル、カルボキシル、アルコキシカルボニル、アミド、スルホナト、アルコキシカルボニルアルキル、若しくはアルキルカルボニルアルコキシからなる群よりそれぞれ独立して選択されるか又は、一方でR及びR1は破線が無い場合に、任意に置換されるシクロプロピル基を形成するために結合する;
2及びR3は、水素、ハロゲン、SO3H、-SO2-Xからなる群よりそれぞれ独立して選択されるメンバーであり、式中Xはハロゲン、任意に置換したアルキル、任意に置換したアリール、任意に置換したアルケニル、任意に置換したアルキニル、任意に置換したシクロアルキル、又は生体分子に結合されうる活性化した基であり、式中、その活性化した基は、ハロゲン、活性化したエステル、活性化したアシル、任意に置換したアルキルスルホネートエステル、任意に置換したアリールスルホネートエステル、アミノ、ホルミル、グリシジル、ハロ、ハロアセトアミジル、ハロアルキル、ヒドラジニル、イミドエステル、イソシアナート、イソチオアナト、マレイミジル、メルカプト、アルキニル、ヒドロキシ、アルコキシ、アミノ、シアノ、カルボキシ、アルコキシカルボニル、アミド、スルホナト、アルコキシカルボニルアルキル、環状無水物、アルコキシアルキル、水可溶化基、又はLからなる群より選択されるメンバーである;
4は、それぞれ独立して水素、C1-C6アルキルであるか又は、一方でR4基の3がなく、そしてその結果の酸化物がランタニドカチオンとキレートされる;かつ
1~Q4はそれぞれ独立して、炭素又は窒素の群から選択されるメンバーである)。
【0075】
4.FRETアクセプター
FRETシグナルを検出するために、FRETアクセプターを必要とされる。そのFRETアクセプターは、FRETドナーの発光波長と重なる励起波長を有する。アクセプターのFRETシグナルは、既知の量キャリブレータ―、すなわち標準曲線(図2)から補間されるように、試料中例えば患者の血液試料に存在するVCAM-1の濃度レベルに比例する。クリプテートドナーは、第一の抗体AB-1を標識するために用いられうる(図8)。Lumi4は、490、550及び620nmの3つのスペクトル的に異なるピークを有し、それらはエネルギー移動のために用いられうる(図9)。アクセプターを、第二の抗体AB-2を標識するために用いうる。用いられうるアクセプター分子は、これらに限定されないが、フルオレセイン様(緑色光域)アクセプター、Cy5、DY-647、Alexa Fluor 488、Alexa Fluor546、アロフィコシアニン(APC)、及びフィコエリスリン(PE)及びAlexa Fluor647(図10)を含む。ドナー及びアクセプターフルオロフォアは、抗体上の一級アミノを用いて結合されうる。
【0076】
本態様のある側面において、本アッセイは、クリプテート内に結合されるテルビウムからなるドナーフルオロフォアを用いる。テルビウムクリプテートは、365nm UV LEDにより励起されうる。テルビウムクリプテートは可視領域において4つ(4)波長で発光する。ある側面において、本アッセイは、本アッセイにおけるドナーシグナルとして最も低いドナー発光エネルギーピークである620nmを用いる。ある側面において、そのアクセプターフルオロフォアが、非常に近接する場合に、最もエネルギーの高いテルビウムクリプテートの発光ピークである490nmにより励起され、520nmでの発光をもたらす。620nm及び520nmの両方の発光波長は、装置又は機器において独立して測定され、そして結果はRFU620/520比として報告されうる。
【0077】
他のアクセプターは、これらに限定されないが、シアニン誘導体、D2、CY5、フルオレセイン、クマリン、ローダミン、カルボピロニン(carbopyronine)、オキサジン及びそのアナログ、Alexa Fluor フルオロフォア、クリスタル・バイオレット、ペリレンビスイミドフルオロフォア(perylene bisimide fluorophore)、スクアラインフルオロフォア、ボロンジピロメテン誘導体(boron dipyrromethene derivatives)、NBD(ニトロベンゾオキサジアゾール(nitrobenzozadiazole))及びその誘導体、DABCYL(4,((4-(ジメチルアミノ)フェノール)アゾ)安息香酸)を含む。
【0078】
ある側面において、蛍光は、波長、強度、寿命及び偏光又はそれらの組み合わせにより特徴づけられうる。
【0079】
5.抗体
一の側面において、R&D systemsからのヒトVCAM-1/CD106抗体をAB-1(カタログ#BBA5、モノクローナルマウスIgG1 Clone#BBIG-V1由来、ヒトVCAM-1/CD106に特異的であることが示されている)及びAB-2について異なるヒトVCAM-1/CD106抗体(カタログ# BBA19、ポリクローナルヤギ血清由来、ヒトと反応するabcamからのVCAM-1/CD106又は抗VCAM1抗体[EPR5047](ab134037)を検出する)、又はその反対を用いうる。本開示における使用のための適当な他の抗体は、当業者に既知である。
【0080】
ある側面において、ドナー又はアクセプターの活性化したエステル(NHSエステル)は、抗体上の一級アミンと反応することができ、適当なアミド結合を作る。例えば、クリプテート上のマレイミド又は抗体上のアクセプター(例えばAlexa647)及びチオールは、共に反応でき、チオエーテルを作る。ハロゲン化アルキルは、アミン及びチオールと反応し、アルキルアミン及びチオエーテルをそれぞれ作る。抗体に結合されうる反応基を提供する任意の誘導体を、本明細書で利用することができ、VCAM-1について特異的なドナーフルオロフォアによって標識される第一の抗体、及びVCAM-1についてアクセプターフルオロフォアによって標識される第二の抗体を作製する。
【0081】
VCAM-1の存在又はレベルを検出することのための本明細書の方法は、組織試料、血液、生検、血清、血漿、唾液、尿、又はふん便検体を含む、様々な試料を用いうる。
【0082】
6.抗体の産生
抗体の産生
まだ商用利用されていない抗体の産生及び分泌は、いくつかの方法において達成されうる。例えば、一の方法は当該分野で既知のタンパク質発現及び精製方法を用いて関心のあるポリペプチド(すなわち抗原)を発現する及び/又は精製することであり、一方で別の方法は、当該分野で既知の固相ペプチド合成法を用いて関心のあるポリペプチドを合成することである。例えば、Guide to Protein Purification, Murray P. Deutcher, ed., Meth. Enzymol., Vol. 182 (1990); Solid Phase Peptide Synthesis, Greg B. Fields, ed., Meth. Enzymol., Vol. 289 (1997); Kiso et al., Chern. Pharm. Bull., 38:1192-99 (1990); Mostafavi et al., Biomed. Pept. Proteins Nucleic Acids, 1:255-60, (1995); and Fujiwara et al., Chern. Pharm. Bull., 44:1326-31 (1996)参照。その精製した又は合成したポリペプチドは、続いて例えば、マウス又はウサギに注射することができ、ポリクローナル又はモノクローナル抗体を産生する。当業者は、例えば、Antibodies,A Laboratory Manual,Harlow and Lane, Eds, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, N.Y.(1988)に記載されるように、多くの手順が抗体の産生に利用可能であることを認識するだろう。また、当業者は、抗体を真似る結合フラグメント又はFabフラグメントが様々な手順により遺伝情報から調製されうることを理解するだろう(例えば、Antibody Engineering: A Practical Approach, Borrebaeck, Ed., Oxford University Press, Oxford (1995); and Huse et al., J. Immunol., 149:3914-3920 (1992)参照)。
【0083】
加えて、多数の出版物は、選択される標的抗原へ結合することのためのポリペプチドのライブラリーの産生及びスクリーンするファージディスプレイ技術の使用を報告している(例えば、Cwirla et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 87:6378-6382 (1990); Devlin et al., Science, 249:404-406 (1990); Scott etal., Science, 249:386-388 (1990);及びLadner etal.,米国特許番号第5,571,698号参照)。ファージディスプレイ法の基本概念は、ファージDNAによりコードされるポリペプチドと標的抗原との間の物理的結合の定着である。この物理的結合は、ファージ粒子によって提供され、それはポリペプチドをコードするファージゲノムを包含するカプシドの一部としてのポリペプチドを示す。ポリペプチドとそれらの遺伝的な材料との間の物理的結合の定着は、異なるポリペプチドを支持する極めて多くのファージの同時に行うマススクリーニングを可能にする。標的抗原への親和性を有するポリペプチドを提示するファージは、標的抗原に結合し、そしてこれらのファージは標的抗原をスクリーニングする親和性に富んでいる。これらのファージから提示されるポリペプチドの同定は、それらのそれぞれのゲノムから決定されうる。これらの方法を用いて、所望される標的抗原のための結合親和性を有するものとして同定されるポリペプチドは、続いて慣習の手法によりバルク中で合成されうる(例えば米国特許番号第6,057,098号参照)。
【0084】
これらの方法により産生される抗体は、続いて関心のある精製されるポリペプチド抗原によって親和性及び特異性について第一のスクリーニングにより、必要があれば結合することから除外されることが所望される他のポリペプチド抗原によって抗体の親和性及び特異性への結果と比較することによって、選択される。このスクリーニング手順は、マイクロタイタープレートの別々のウェル内の精製したポリペプチド抗原の固定化を含みうる。潜在的な抗体又は抗体の群を含んでいる溶液は、続いて、対応のマイクロタイターウェル内に加えられ、そして約30分間~2時間インキュベートされる。そのマイクロタイターウェルを続いて洗浄し、そして標識した二次抗体(例えば、採取した抗体がマウス抗体である場合に、アルカリホスファターゼに結合した抗マウス抗体)はウェルに添加され、約30分間インキュベートされ、そして続いて洗浄される。基質をウェルに添加すると、固定化したポリペプチド抗原が存在する場合に、呈色反応が現れるだろう。
【0085】
そのように同定される抗体は、続いてさらに親和性及び特異性について分析されうる。標的タンパク質(VCAM-1)のためのイムノアッセイの開発において、その精製した標的タンパク質は、選択されている抗体を用いるそのイムノアッセイの感度及び特異度を判断するためのスタンダードとして働く。様々な抗体の結合親和性が異なりうる。例えば、抗体の組み合わせはお互いに立体的に干渉しうる。交代のアッセイ性能はその抗体の絶対的な親和性及び特異性より重要な測定でありうる。
【0086】
当業者は、多くの手法が抗体を産生すること又はフラグメントを結合すること、並びに関心のある様々なポリペプチドについて親和性及び特性についてスクリーニング及び選択することにおいて取られうることを認識するが、これらの手法が本発明の請求の範囲内を変えないことを認識するだろう。
【0087】
A.ポリクローナル抗体
ポリクローナル抗体は、関心のあるポリペプチド及びアジュバントの多数回の皮下の(sc)又は、腹腔内の(ip)注射によって動物に発現させることが好ましい。関心のあるポリペプチドを、キーホールリンペットヘモシアニン、血清アルブミン、ウシサイクログロブリン、又は大豆トリプシンインヒビターのような、免疫化する種において免疫原性のあるタンパク質担体に、二官能性物質又は誘導体化剤を用いて結合させるために有用でありうる。二官能性物質又は誘導体化剤の限定されない例は、マレイミドベンゾイルスルホスクシンイミドエステル(システイン残基を介する結合)、N-ヒドロキシスクシンイミド(リシン残基を介する結合)、グルタルアルデヒド、無水コハク酸、SOCl2、及びR1N=C=NRを含む(式中、R及びR1は異なるアルキル基である)。
【0088】
例えば、(ウサギについて)100μg又は(マウスについて)5μgの抗原又はコンジュゲートと3倍容量のフロイント完全アジュバントとの組み合わせること及び複数箇所で皮内に溶液を注射することによって関心のあるポリペプチド又は免疫原性コンジュゲート又はその誘導体に対して動物を免疫化する。1ヵ月後、フロイント不完全アジュバント中のポリペプチド又はコンジュゲートを元々の量の約1/5~1/10を、複数箇所で皮内注射によりブーストをかける。7~14日後、その動物を出血させ、そしてその血清を抗体タイターについてアッセイした。動物は典型的に、タイターがプラトーになるまでブーストされた。好ましくは、その動物は同じポリペプチドのコンジュゲートによってブーストされるが、異なる免疫原性のタンパク質への結合及び/又は異なる架橋試薬が用いられうる。また、コンジュゲートは、融合タンパク質として組換え細胞培養において作製されうる。場合によっては、凝集剤、例えば硫酸アルミニウムを用いることができ、免疫反応を促進する。
【0089】
B.モノクローナル抗体
モノクローナル抗体は一般的に実質的に同種の抗体の集団から入手され、すなわち、少量において存在しうるありうる天然に生じる変異を除いて、その集団を含んでいる個々の抗体が同一である。それゆえ、「モノクローナル」という修飾語句は、別々の抗体の混合物でない抗体の性質を示す。例えば、モノクローナル抗体は、Kohler et al.,Nature,256:495(1975)により、又は当業者に既知の任意の組換えDNA法(米国特許番号第4,816,567号参照)により記載されるハイブリドーマ法を用いて作製されうる。
【0090】
ハイブリドーマ法において、マウス又は他の適当な宿主動物(例えばハムスター)は上記のように免疫化され、免疫化のために用いられる関心のあるポリペプチドに特異的に結合する抗体を産生する又は産生することが可能であるリンパ球を生じる。一方で、リンパ球はin vitroで免疫化される。その免疫化したリンパ球は続いて適当な融剤、例えばポリエチレングリコールを用いて骨髄腫細胞と融合され、ハイブリドーマ細胞を形成する(例えば、Goding, Monoclonal Antibodies:Principles and Practice, Academic Press, pp.59-103(1986)参照)。それゆえ調製されるハイブリドーマ細胞は、融合していない、親の骨髄腫細胞の成長又は生存を阻害する好ましくは一以上の基質を含む適当な培養培地に播種され、成長される。例えば、その親の骨髄腫細胞が酵素ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HGPRT)を欠失している場合に、そのハイブリドーマ細胞の培養培地は、典型的にヒポキサンチン、アミノプテリン、及びチミジン(HAT培地)を含み、それはHGPRT欠失細胞の増殖を阻害する。
【0091】
好ましい骨髄腫細胞は、選択される抗体産生細胞により、効率的に融合し、抗体の安定的な高いレベルの産生を支持し、かつ/又はHAT培地のような培地に感受性があるそれらである。ヒトモノクローナル抗体の産生のためのそのような好ましい骨髄腫細胞株の例は、これらに限定されないが、マウス骨髄腫株、例えばMOPC-21及びMPC-11マウス腫瘍(Salk Institute Cell Distribution Center,San Diego,CA)、SP-2又はX63-Ag8-653細胞(American Type Culture Collection; Rockville,MDより利用可能)、並びにヒト骨髄腫細胞、又はマウス-ヒトヘテロ骨髄腫細胞株(例えばKozbor,J.Immunol.,133:3001(1984);及びBrodeur et al.,Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications,Marcel Dekker, Inc.,New York, pp.51-63(1987)参照)より由来したそれらを含む。
【0092】
ハイブリドーマ細胞が増殖する培養培地は関心のあるポリペプチドに対して向けられるモノクローナル抗体の産生のためにアッセイされうる。好ましくは、ハイブリドーマ細胞により産生されるモノクローナル抗体の結合特異性は、免疫沈降により又はin vitro結合アッセイ、例えば、放射免疫測定(RIA)又は酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)により決定される。モノクローナル抗体の結合親和性は、例えば、Manson et al., Anal.Biochem., 107:220(1980)のスキャッチャードプロットを用いて決定されうる。
【0093】
所望される特異性、親和性、及び/又は活性の抗体を産生するハイブリドーマ細胞が同定された後に、そのクローンは限界希釈法によってサブクローン化することができ、そして標準的な方法により増殖する(例えば、Goding,Monoclonal Antibodies:Principles and Practice,Academic Press,pp.59-103(1986)参照)。この目的のための適当な培養培地は、例えば、D-MEM又はRPMI-1640培地である。加えて、そのハイブリドーマ細胞は、動物において腹水腫瘍としてin vivoで増殖されうる。そのサブクローンにより分泌されるモノクローナル抗体は、慣習の抗体産生手順、例えば、プロテインA-セファロース、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、又は親和性クロマトグラフィーにより、培養培地、腹水腫瘍、又は血清から分離されうる。
【0094】
モノクローナル抗体をコードするDNAを容易に単離することができ、慣習の手順(例えば、マウス抗体の重鎖及び軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合することができるオリゴヌクレオチドプローブを用いることによって)を用いてシークエンシングされる。そのハイブリドーマ細胞は、そのようなDNAの好ましいソースとして寄与する。一旦単離されると、そのDNAを発現ベクター内に組み込むことができ、それらは続いて、他に抗体を産生しない、宿主細胞内、例えばE.Coli細胞、simian COS細胞、チャイニーズハムスター卵巣由来(CHO)細胞、又は骨髄腫細胞にトランスフェクションされ、組換え宿主細胞においてモノクローナル抗体の合成を誘導する。例えば、Skerra et al.,Curr.Opin.ImmunoL,5:256-262(1993);and Pluckthun,Immunol Rev.,130:151-188(1992)参照。また、そのDNAは、例えばヒト重鎖及び軽鎖定常ドメインについてのコード配列を、同種のマウス配列に置換することによって(米国特許番号第4,816,567号;及びMorrison et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,81:6851(1984))又は非免疫グロブリンポリペプチドのコード配列の全部又は一部を免疫グロブリンコード配列に共有結合させることによって修飾される。
【0095】
さらなる態様において、モノクローナル抗体又は抗体フラグメントは、例えば、McCafferty et al.,Nature,248:552-554(1990);Clackson et al.,Nature,352:624-628(1991);及びMarks et al.,J. Mol.Biol.,222:581-597(1991)において記載される技術を用いて産生される抗体ファージライブラリーより単離されうる。チェーンシャッフリング(Chain shuffling)による(nM範囲の)高親和性のヒトモノクローナル抗体の産生は、Marks et al.,BioTechnology,10:779-783(1992)において記載されている。とても大きなファージライブラリーを構築するための戦略としてコンビナトリアル感染(combinatorial infection)の使用及びin vivo組換えは、Waterhouse et al.,Nuc.Acids Res.,21:2265-2266(1993)において記載されている。それゆえ、これらの技術は、モノクローナル抗体の産生のための伝統的なモノクローナル抗体ハイブリドーマ法の実行可能な代替案である。
【0096】
ヒト化への代替として、ヒト抗体を産生しうる。ある態様において、免疫化で、内因性の免疫グロブリン産生の存在なしにヒト抗体の全レパートリーを産生することができるトランスジェニック動物(例えばマウス)を作製しうる。例えば、キメラにおける重鎖結合領域(JH)遺伝子の抗体のホモ接合性の欠失及びgerm-line変異マウスが、内因性の抗体産生の完全な阻害をもたらすことを記載している。そのようなgerm-line変異マウスにおけるヒトgerm-line免疫グロブリン遺伝子配列の移動は、抗原チャレンジで、ヒト抗体の産生をもたらすだろう。例えば、Jakobovits et al.,Proc.Natl.Acad.Set.USA,90:2551(1993);Jakobovits et al.,Nature,362:255-258(1993);Bruggermann et al.,Year in Immun.,7:33(1993);並びに米国特許番号第5,591,669号,第5,589,369号及び第5,545,807号参照。
【0097】
一方で、ファージディスプレイ技術(例えば、McCafferty et al.,Nature,348:552-553(1990))を、免疫化していないドナーからの免疫グロブリン可変(V)ドメイン遺伝子レパートリーを用いて、in vitroでヒト抗体及び抗体フラグメントを産生するために用いうる。本技術に従って、抗体Vドメイン遺伝子は、M13又はfdのような、繊維状ファージのメジャー又はマイナーコートタンパク質遺伝子内にインフレームでクローン化し、そしてファージ粒子の表面上の機能的な抗体フラグメントとして提示した。繊維状粒子がファージゲノムの一本鎖DNAコピーを含むので、また、抗体の機能的な性質に基づく選択は、それらの特性を示す抗体をコードする遺伝子の選択をもたらす。それゆえ、そのファージはB細胞のいくつかの特性をまねる。ファージディスプレイは、例えば、Johnson et al.,Curr.Opin.Struct.Biol.,3:564-571(1993)において記載されるように、様々な型において実施されうる。V遺伝子セグメントのいくつかのソースはファージディスプレイのために用いられうる。例えば、Clackson et al.,Nature,352:624-628(1991)参照。免疫化してないヒトドナーからのV遺伝子のレパートリーを構築することができ、そしてMarks et al.,J.Mol.Biol.,222:581-597(1991);Griffith et al.,EMBO J,12:725-734(1993);及び、米国特許番号第5,565,332号及び第5,573,905号において記載される技術に本質的に従い、(自己抗体を含む)多様な配列の抗原への抗体を単離しうる。
【0098】
場合によっては、ヒト抗体を、例えば米国特許番号第5,567,610号及び第5,229,275号において記載されるように、in vitroの活性化したB細胞によって産生しうる。
【0099】
C.抗体フラグメント
抗体フラグメントの産生のための様々な技術が開発されている。伝統的に、これらのフラグメントは未処理の抗体のタンパク分解を介して由来された(例えば、Morimoto et al.,J.Biochem.Biophys.Meth.,24:107-117(1992);及びBrennan et al.,Science,229:81(1985))。しかしながら、これらのフラグメントは、現在組換え宿主細胞を用いて直接的に産生されうる。例えば、その抗体フラグメントは、上記の抗体ファージライブラリーから分離されうる。一方で、Fab’-SHフラグメントはE.Coli細胞から直接的に回収することができ、化学的に結合し、F(ab’)2フラグメントを形成した(例えば、Carter et al.,BioTechnology,10:163-167(1992)参照)。別のアプローチに従って、F(ab’)2フラグメントを組換え宿主細胞培養から直接的に単離しうる。抗体フラグメントの産生のための他の技術は、当業者に明らかであるだろう。他の態様において、選択した抗体は、一本鎖Fvフラグメント(scFv)である。例えばPCT Publciation No.WO 93/16185;及び米国特許番号第5,571,894号及び5,587,458号参照。また、その抗体フラグメントは、例えば米国特許番号第5,641,870号に記載されるように線状抗体(linear antibody)でありうる。そのような線状抗体(linear antibody)フラグメントは、単一特異的な又は二重特異的でありうる。
【0100】
D.二重特異性抗体
二重特異性抗体は、少なくとも2つの異なるエピトープについて結合特異性を有する抗体である。例示的な二重特異性抗体は、同じ関心のあるポリペプチドの二つの異なるエピトープに結合しうる。他の二重特異性抗体は、一以上の追加の抗原の結合部位と関心のあるポリペプチドの結合部とを組み合わせうる。二重特異性抗体は全長の抗体又は抗体フラグメント(例えば、F(ab’)2二重標識抗体)として調製されうる。
【0101】
二重特異性抗体を作製することのための方法は、当該分野で既知である。全長の二重標識抗体の伝統的な産生は、二つの免疫グロブリン重鎖-軽鎖対の共発現に基づき、ここでその二つの鎖は異なる特異性を有する(例えば、Millstein et al.,Nature,305:537-539(1983)参照)。免疫グロブリン重鎖及び軽鎖の任意組み合わせのために、これらのハイブリドーマ(クアドローマ)は、ただ一つが正しい二重特異性構造を有する10の異なる抗体分子の潜在的な混合物を産生する。正しい分子の精製はアフィニティークロマトグラフィーを用いて実施される。同様の手順はPCT Publication No.WO93/08829及びTraunecker et al.,EMBO J.,10:3655-3659(1991)に記載されている。
【0102】
異なるアプローチに従い、所望される結合特異性(抗体-抗原結合部)を有する抗体可変ドメインは、免疫グロブリン定常ドメイン配列に融合される。その融合物は好ましくは免疫グロブリン重鎖定常ドメイン内であり、ヒンジ、CH2、及びCH3領域の少なくとも1つの部分を含んでいる。少なくとも1つの融合物内に存在する軽鎖結合のために必要とされる部位を含む第一の重鎖定常領域(CH1)を有することが好ましい。免疫グロブリン重鎖融合物をコードするDNA及び、所望されれば、その免疫グロブリン軽鎖は、別々の発現ベクター内に挿入され、そして適当な宿主組織内でコトランスフェクトされる。これは、構造内で同じでない比率の3つのポリペプチド鎖が用いられる場合に、3つのポリペプチドフラグメントのお互いの位置を調製することにおける大きな柔軟性を提供し、最適な収率を提供する。しかしながら、等しい比率における2つ又は3つ全てのポリペプチド鎖の発現が高い収率をもたらす場合に、又はその比率が特に重要でない場合に、一の発現ベクター内に2又は3つ全てのポリペプチド鎖のコード配列を挿入することが可能である。
【0103】
このアプローチの好ましい態様において、二重特異性抗体は、一つのアーム内に第一の結合特異性を有するハイブリッド免疫グロブリン重鎖、及び他のアーム内に(第二の結合特異性を提供する)ハイブリッド免疫グロブリン重鎖-軽鎖対を含む。この非対称構造は、所望しない免疫グロブリン鎖結合から、所望される二重特異性化合物の分離を促進し、二重特異性分子の半分の免疫グロブリン軽鎖のみの存在が、分離の容易な方法について提供する。例えば、PCT Publication No.WO94/04690及びSuresh et al.,Meth.Enzymol.,121:210(1986)参照。
【0104】
米国特許番号第5,731,168号において記載される別のアプローチに従い、対の抗体分子間の界面を操作することができ、組換え細胞培養物から回収されるヘテロダイマーの割合を最大化した。その好ましい界面は、抗体定常ドメインのCH3ドメインの少なくとも一つの部分を含む。この方法において、第一の抗体分子の界面からの一以上の小さなアミノ酸側鎖はより大きな側鎖によって置換される(例えば、チロシン、又はトリプトファン)。より大きな側鎖への同一又は同様のサイズの代わりの「空洞」が、より大きなアミノ酸側鎖をより小さなもの(例えばアラニン又はスレオニン)に置き換えることによって、第二の抗体分子の界面に作られる。これは、他の所望されない最終産物、例えばホモダイマーよりもヘテロダイマーの収率を増加させることについて提供する。
【0105】
二重特異性抗体は、架橋した又は「ヘテロコンジュゲート」抗体を含む。例えば、ヘテロコンジュゲートにおける抗体の一つは、アビジンに、他のものはビオチンに結合されうる。ヘテロコンジュゲート抗体は任意の慣習の架橋方法を用いて作製されうる。適当な架橋剤及び技術は当該分野で周知であり、そして例えば、米国特許番号第4,676,980号において開示されている。
【0106】
また、抗体フラグメントから二重特異性抗体を産生することのための適当な技術は当該技術分野で既知である。例えば、二重特異性抗体は化学結合を用いて調製されうる。場合によっては、二重特異性抗体は、未処理の抗体をタンパク質分解活性的に開裂し、F(ab’)2フラグメントを産生する手順によって産生されうる(例えば、Brennan et al.,Science,229:81(1985))。これらのフラグメントは、ジチオール錯化剤である、亜ヒ酸ナトリウムの存在下において還元され、周辺のジチオールを安定させ、そして分子間のジスルフィド形成を防ぐ。産生されるFab’フラグメントは続いて、チオニトロ安息香酸(TNB)誘導体に変換される。Fab’-TNB誘導体の一つは、続いて、Fab’-チオールへとメルカプトエチルアミンによる還元によって再変換され、そして他のFab’-TNB誘導体の等モル量によって混合され、二重特異性抗体を形成する。
【0107】
ある態様において、Fab’-SHフラグメントは、E.Coliより直接的に回収され、化学的に結合し、二重特異性抗体を形成する。例えば、十分にヒト化した二重特異性抗体F(ab’)2分子は、Shalaby et al.,J.Exp.Med.,175:217-225(1992)において記載される方法によって産生されうる。各Fab’sフラグメントを、E.Coliより別々に分泌し、そしてin vitroで方向性のある化学結合(directed chemical coupling)にかけられ、二重特異性抗体を形成する。
【0108】
また、組換え細胞培養物からの直接的な二重特異性抗体フラグメントを作製する及び単離するための様々な技術が記載されている。例えば、二重特異性抗体は、ロイシンジッパーを用いて作製されている。例えば、Kostelny et al.,J.Immunol.,148:1547-1553(1992)参照。Fos及びJunタンパク質からのロイシンジッパーペプチドを、遺伝子融合により二つの異なる抗体のFab’s部位に連結した。その抗体ホモダイマーをヒンジ領域で還元し、モノマーを形成させ、そして続いて再酸化し、抗体ヘテロダイマーを形成させた。また、この方法は、抗体ホモダイマーの産生のために利用されうる。Hollinger et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90:6444-6448(1993)により記載された「ダイアボディ」技術は、二重特異性抗体フラグメントを作製することのための代わりのメカニズムを提供した。そのフラグメントは、短すぎるために同じ鎖上の二つのドメイン間の対形成ができないリンカーによって軽鎖可変ドメイン(VL)に結合される重鎖可変ドメイン(VH)を含む。従って、一つのフラグメントのVH及びVLドメインは、別のフラグメントの相補的なVL及びVHドメインによってペアを強制され、それによって二つの抗原結合部位を形成する。一本鎖Fv(sFv)ダイマーの使用による二重特異性抗体フラグメントを作製するための別の戦略は、Gruber et al.,J.Immunol.,152:5368(1994)に記載されている。
【0109】
また、二以上の結合値を有する抗体が考えられる。例えば、三重特異性抗体を調製しうる。例えば、Tutt et al,,J.Immunol.,147:60(1991)参照。
【0110】
E.抗体精製
組換え技術を用いる場合に、抗体は、単離した宿主細胞内、宿主細胞の細胞周辺腔で産生され、又は直接的に宿主細胞から培地内に分泌されうる。抗体が細胞内に産生される場合に、その微粒子のデブリは、例えば、遠心分離又は限外ろ過により、第一に除去される。Carter et al.,BioTech.,10:163-167(1992)は、E.Coliの細胞周辺腔内に分泌される抗体を単離することのための手順を記載している。簡潔に、細胞ペーストは酢酸ナトリウム(pH3.5)、EDTA、及びフッ化フェニルメチルスルホニル(PMSF)内で約30分間解凍した。細胞デブリを遠心分離によって除去した。抗体が培地内に分泌される場合に、そのような発現システムからの上清は、商用利用可能なタンパク質濃縮フィルター、例えば、Amicon又はMillipore Pellicon ultrafiltration unitを用いて、一般的に濃縮される。いずれの上述のステップにおいてもPMSFのようなプロテアーゼ阻害薬を、タンパク分解を阻害するために含むことができ、そして、偶発的な混入物質の増殖を阻害するために抗生物質が含まれうる。
【0111】
細胞から調製される抗体組成物は、例えば、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、及び親和性クロマトグラフィーを用いて精製されうる。アフィニティリガンドとしてのプロテインAの適合性は、任意の抗体内に存在する任意の免疫グロブリンFcドメインの種類及びアイソタイプに依存する。プロテインAは、ヒトγ1、γ2、又はγ4重鎖に基づく抗体を精製するために用いられうる(例えば、Lindmark et al.,J.Immunol.Meth.,62:1-13(1983)参照)。プロテインGは全てのマウスのアイソタイプ及びヒトγ3のために推奨される(例えば、Guss et al.,EMBO J.,5:1567-1575(1986))。アフィニティリガンドが結合されるマトリックスはほとんどの場合は、アガロースであるが、他のマトリックスは利用可能である。機械的に安定なマトリックス、例えば多孔性ガラス粉体(controlled pore glass)又はポリ(スチレンジビニル)ベンゼンは、アガロースによってもたらされうるよりもより早い流速及びより短い処理時間を可能にする。その抗体がCH3ドメインを含む場合に、そのBakerbond ABX(商標)樹脂(J.T.Baker;Phillipsburg,N.J.)は精製のために有用である。また、タンパク質精製のための他の技術、例えばイオン交換カラムの分画、エタノール沈殿、シリカの逆相HPLCクロマトグラフィー、ヘパリンSEPHAROSE(商標)のクロマトグラフィー、アニオン又はカチオン交換樹脂のクロマトグラフィー(例えば、ポリアスパラギン酸カラム)、クロマト分画、SDS-PAGE、及び硫酸アンモニウム沈殿は、回収される抗体に依存して利用可能である。
【0112】
任意の前精製ステップ後に、関心のある抗体及び混入物質を含む混合物は、約2.5~4.5の間のpHで溶出バッファーを用いて、低pHの疎水性相互作用クロマトグラフィーにかけられ、好ましくは低塩濃度で実施されうる(例えば約0~0.25Mの塩)。
【0113】
III.装置
様々な計器及び装置は本開示における使用のために適当である。多くの分光光度計は蛍光を測定する可能性を有する。蛍光は、ある波長での光エネルギーの分子吸収であり、そのほぼ瞬時に別の、より長い波長で再発光する。いくつかの分子蛍光は天然的に、かつ他のものは、蛍光を発するために修飾されうる。
【0114】
蛍光分光光度計又は蛍光光度計(Fluorometer)、蛍光光度計(Fluorospectrometer)、又は蛍光分光計は、キセノン閃光電球のような光源による照明後、異なる波長で試料から発光される蛍光を測定する。蛍光光度計(Fluorometer)は、(それらの波長がことなる)異なる有色の蛍光シグナル、例えば、緑色及び青色、又は紫外及び青色のチャネルを測定するための異なるチャネルを有しうる。ある側面において、適当な装置は、時間分解蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)試験を実施するための能力を含む。
【0115】
適当な蛍光光度計(Fluorometer)は、キュベット、キャピラリ、ペトリ皿、及びマイクロプレートを含む、異なる方法において試料を保ちうる。本明細書で記載されるアッセイは、任意のこれらの型の装置で実施されうる。ある側面において、その装置は、任意にマイクロプレートリーダーを有し、最大384ウェルプレートにおいて発光のスキャンを可能にしている。試料を保つ使用のために適当な他のモデルは、適所に表面張力を有する。
【0116】
時間分解蛍光(TRF)測定は、蛍光強度測定と類似している。しかしながら、一つの違いは、励起/測定プロセスのタイミングである。蛍光強度を測定する場合に、その励起及び発光プロセスは、同時である:試料によって発光される光は、励起が行われている間に測定される。発光システムは検出器に到達する前に励起光を除くことで非常に効率的であるにもかかわらず、発光の量と比較して励起光の量は、蛍光強度測定が上昇したバックグラウンドシグナルを示すようである。本開示は、この問題点への解決を提供する。時間分解FRETは、最も標準的な蛍光染色剤(例えばフルオレセイン)が、励起後数ナノ秒において発光するのに対して、励起後(数ミリ秒において測定される)長期間にわたって発光する性質を有する特定の蛍光分子の使用に依存する。結果として、パルス光源(例えばキセノン閃光電球又はパルスレーザー)を用いてランタニドクリプテートを励起し、そして励起パルス後に測定することが可能である。
【0117】
抗体1及び2に結合したドナー及びアクセプター蛍光化合物が、共に近づくと、エネルギー移動がドナー化合物からアクセプター化合物へともたらされ、逆に、ドナー化合物により発光される蛍光シグナルの減少及びアクセプター化合物により発光されるシグナルの増加をもたらす。異なるパートナーとの間の相互作用を含む生物学的な現象の大部分を、それゆえ、問題になっている生物学的な現象に依存して、より長い、又はより短い距離である化合物と結合した2つの蛍光化合物間のFRETにおける変化を測定することによって研究することができるだろう。
【0118】
FRETシグナルは、異なる方法において測定されうる:ドナー単独により、アクセプター単独により、若しくはドナー及びアクセプターにより発光される蛍光の測定、又はFRETの結果としてのアクセプターによる培地中の発光される偏光における変動の測定。また、一つは、ドナーの寿命の変動を観察することによってFRETの測定を含むことができ、それは、(特にプレートリーダのような単純な機器上で)希土類元素複合物のように長い蛍光寿命を有するドナーを用いることによって促進される。さらに、そのFRETシグナルは、正確な瞬間で、又は通常の間隔で測定することができ、その変化を時間にわたって研究することができ、そしてそれによって、研究される生物学的なプロセスの反応速度論を調査しうる。
【0119】
ある側面において、2019年2月14日に出願されたPCT/IB2019/051213において開示される装置を用いた。それは、参照によって本明細書に取り込まれる。その出願におけるその開示は、最小限の使用者の操作若しくは関与又は全くない使用者の操作若しくは関与により試料の吸光及び蛍光を測定するために診療現場(POC)において使用されうる分析装置に一般的に関する。例えば、診断分析にかけられる血液試料の蛍光及び吸光の両方を定量化するために便利でありうる。ある分析的なワークフローにおいて、血液試料のヘマトクリット値は、吸光アッセイにより定量化されうる。一方でFRETアッセイにおけるそのシグナル強度は、血液試料の他の成分に関係する情報を提供しうる。
【0120】
PCT/IB2019/051213において開示される一の装置は、試料からの発光、及び試料による透過照明光の吸光度を検出するために有用であり、励起波長を有する発光を発光するために調節される第一の光源を含む。その装置はさらに、透過照射光により試料を透過照射するための第二の光源を含む。その装置はさらに、励起光を検出するために調節された第一の光検出器、及び発光及び透過照射光を検出するために調節された第二の光検出器を含む。その装置は、さらに(1)少なくとも一部の励起光を反射することによってその試料を落射照射するために、(2)第一の光検出器に少なくとも一部の励起光を送るために、(3)第二の光検出器に少なくとも一部の発光を送るために、(4)少なくとも一部の透過照射光を第二の光検出器へと送るために調節されたダイクロイックミラーを含む。
【0121】
本開示における使用のための一の適当なキュベットは、2019年2月14日に出願される、PCT/IB2019/051215に開示されている。提供されるキュベットの一つは、開いたチャンバー上部を有する内部チャンバーが含まれる中空体を含む。そのキュベットは、内壁、外壁、開いた上ぶた、及び開いた下ぶたを有する下段の蓋をさらに含む。少なくとも、下段の蓋の部分は開いたチャンバー上部に近接した内部チャンバー内に適合するために調節される。下段の蓋は、内壁に連結される一以上の(例えば二以上の)容器を含み、ここで、その容器のそれぞれは開いた容器の上面を有する。ある側面において、その下段の蓋は、二以上のそのような容器を含む。その下段の蓋は中空体に結合される安全な方法をさらに含む。そのキュベットは、さらに少なくとも一部の上段の蓋が開いた上蓋に近接する下段の蓋内に適合するために調節される上段の蓋を含む。
【実施例
【0122】
IV.実施例
実施例1は、trFRETアッセイにおけるVCAM-1の存在及び量を検出する本開示の方法を示す。図1に示されるように、VCAM-1は、ドナーフルオロフォアによって標識される抗VCAM-1抗体(MAB-1)及びアクセプターフルオロフォアによって標識される第二の抗体(MAB-2)に結合し、二重標識したVCAM-1を産生する。そのVCAM-1分析物は、患者の試料(例えば全血試料)内にあり、そしてそれは、FRETシグナルをもたらすサンドイッチ法において両方の抗VCAM-1抗体に同時に結合する。
【0123】
一の抗VCAM-1抗体が、ドナーフルオロフォアによって標識され、かつ第二の抗VCAM-1抗体はアクセプターフルオロフォアによって標識される場合に、TR-FRETは、VCAM-1抗原の存在をもたらしうる(図1)。アクセプターのFRETシグナルの増加は、既知の量のVCAM-1キャリブレータから補間されるように患者の血液内に存在する(図2)。ドナー及びアクセプターフルオロフォアは、抗体上の一級アミンを用いて結合される。
【0124】
デルタF(シグナル-バックグラウンド/バックグラウンド%)を同じアッセイの日々の実行又は異なるユーザーによるアッセイの実行の比較のために用いた。それは、アッセイのバックグラウンドへのシグナルを反映する。陰性コントロールは内部アッセイコントロールの役割を果たす。そのΔF%データ点は、以下に示されている。図3Aは、全血を用いるアッセイの結果を示す。
【0125】
【表1】
【0126】
合成血清(synthetic serum)のデルタF(シグナル-バックグラウンド/バックグラウンド%)は、図3Bにおいて示され、かつ以下に示されている。
【0127】
【表2】
【0128】
実施例2は、ふん便の収集及びふん便抽出物の調製及びカルプロテクチンの標準曲線を示す。
【0129】
ふん便をプラスチック容器に収集し、そしてすぐに-20℃未満で凍結した。抽出物を調製するために、そのふん便を解凍し、そして、5グラム分を収集し、10mLのふん便抽出緩衝液によって懸濁し、そして氷上で1分間、機械のホモジナイザーを用いて20000rpmでホモジナイズした。この手順中に温度を20℃~33℃で維持した。そのホモジネートを45000gで20分間4℃で遠心分離し、そして上清の上半分を取り、そして用いうる。
【0130】
本実施例は、trFRETアッセイのカルプロテクチンの存在及び量を検出する本開示の方法を示す。図4A-Bにおいて示されるように、カルプロテクチンは、ドナーフルオロフォアにより標識される抗カルプロテクチン抗体(MAB-1)及びアクセプターフルオロフォアによって標識される第二の抗体(MAB-2)に結合する。そのカルプロテクチン分析物は、患者からの試料中(すなわち、上記で調製されるようにふん便試料)であり、そして、それは二重標識したカルプロテクチンをもたらす両方の抗カルプロテクチン抗体に同時に結合する。光励起後、FRETシグナルが生じ、そして検出される。
【0131】
一の抗カルプロテクチン抗体がドナーフルオロフォアにより標識され、かつ第二の抗カルプロテクチン抗体がアクセプターフルオロフォアにより標識される場合に、TR-FRETはカルプロテクチン抗原(分析物)の存在下で生じる(図4A又は4B)。アクセプターのFRETシグナルの増加は、既知の量のカルプロテクチンキャリブレータから補間されるように、患者の試料中(例えば、ふん便(stool)又はふん便(fecal)試料)に存在するカルプロテクチンのレベルに比例する(図5又は図6)。
【0132】
実施例3は、本方法(本発明)及び商用利用可能なキット(比較基準)との間の直接比較を示す。その試料を、比較基準のキットにおいて測定し、続いて本発明を用いる測定結果と比較した。本発明の方法を用いた測定結果を二重で実施した。本結果を図7に示した。R2が1であれば、その回帰予測がデータに完全に適合することを示す。本明細書で、そのR2は、比較基準による本発明の方法と極めて高い相関を示す0.9962に等しい。
【0133】
実施例4は、染色剤の構造及び光学的な特徴を示す。
【0134】
ドナーH22TRENIA-5LIO-NHDは、一の抗体を標識するために用いられうる(図8)。Lumi4は、約490nm、約545nm、約580nm、および約620nmで4つの光学的に異なるピークを有し、それらをエネルギー移動のために用いうる(図9)。用いうるアクセプター分子は、これらに限定されないが、Alexa488、Alexa546、及びAlexa647(図10)を含む。ドナー及びアクセプターフルオロフォアは、抗体上の一級アミンを用いて結合する。
【0135】
理解の明確化の目的のために前述の本発明を図示及び例示によるいくつかの詳細において記載したが、当業者は、ある変更及び修飾が添付の請求の範囲内で実施されうることを理解するだろう。加えて、本明細書で提供される各参考文献は、各参照文献が参照によって個別に取りこまれる場合と同程度にその全体において参照によって取り込まれる。
【0136】
SEQ ID NO:1:
MPGKMWILGASNILWIMFAASQAFKIETTPESRYLAQIGDSVSLTCSTTGCESPFFSWRTQIDSPLNGKVTNEGTTSTLTMNPVSFGNEHSYLCTATCESRKLEKGIQVEIYSFPKDPEIHLSGPLEAGKPITVKCSVADVYPFDRLEIDLLKGDHLMKSQEFLEDADRKSLETKSLEVTFTPVIEDIGKVLVCRAKLHIDEMDSVPTVRQAVKELQVYISPKNTVISVNPSTKLQEGGSVTMTCSSEGLPAPEIFWSKKLDNGNLQHLSGNATLTLIAMRMEDSGIYVCEGVNLIGKNRKEVELIVQEKPFTVEISPGPRIAAQIGDSVMLTCSVMGCESPSFSWRTQIDSPLSGKVRSEGTNSTLTLSPVSFENEHSYLCTVTCGHKKLEKGIQVELYSFPRDPEIEMSGGLVNGSSVTVSCKVPSVYPLDRLEIELLKGETILENIEFLEDTDMKSLENKSLEMTFIPTIEDTGKALVCQAKLHIDDMEFEPKQRQSTQTLYVNVAPRDTTVLVSPSSILEEGSSVNMTCLSQGFPAPKILWSRQLPNGELQPLSENATLTLISTKMEDSGVYLCEGINQAGRSRKEVELIIQVFPKDIKLTAFPSESVKEGDTVIISCTCGNVPETWIILKKKAETGDTVLKSIDGAYTIRKAQLKDAGVYECESKNKVGSQLRSLTLDVQGRENNKDYFSPELLVLYFASSLIIPAIGMIIYFARKANMKGSYSLVEAQKSKV
【0137】
SEQ ID NO:2:
MLTELEKALNSIIDVYHKYSLIKGNFHAVYRDDLKKLLETECPQYIRKKGADVWFKELDINTDGAVNFQEFLILVIKMGVAAHKKSHEESHKE
【0138】
SEQ ID NO:3:
MTCKMSQLERNIETIINTFHQYSVKLGHPDTLNQGEFKELVRKDLQNFLKKENKNEKVIEHIMEDLDTNADKQLSFEEFIMLMARLTWASHEKMHEGDEGPGHHHKPGLGEGTP
図1
図2
図3A-B】
図4A-B】
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
2022532381000001.app
【国際調査報告】