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特表2022-532396乳酸脱水素酵素Bおよびペルオキシソーム増殖因子-活性化受容体γ活性化因子1-αが含有された免疫寛容化された細胞外小胞の製造方法およびこれを利用した抗癌用組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-14
(54)【発明の名称】乳酸脱水素酵素Bおよびペルオキシソーム増殖因子-活性化受容体γ活性化因子1-αが含有された免疫寛容化された細胞外小胞の製造方法およびこれを利用した抗癌用組成物
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/073 20100101AFI20220707BHJP
   C12N 5/0775 20100101ALI20220707BHJP
   A61K 35/12 20150101ALI20220707BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20220707BHJP
【FI】
C12N5/073
C12N5/0775
A61K35/12
A61P35/04
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021568275
(86)(22)【出願日】2019-08-29
(85)【翻訳文提出日】2021-12-21
(86)【国際出願番号】 KR2019011044
(87)【国際公開番号】W WO2020230954
(87)【国際公開日】2020-11-19
(31)【優先権主張番号】10-2019-0056537
(32)【優先日】2019-05-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】517347609
【氏名又は名称】ステムメディケア・カンパニー・リミテッド
(71)【出願人】
【識別番号】519299876
【氏名又は名称】イ,ジャン ホ
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】イ,ジャン ホ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AC20
4B065BC46
4B065BC50
4B065BD15
4B065BD18
4B065CA19
4B065CA24
4B065CA28
4B065CA29
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB58
4C087CA04
4C087NA14
4C087ZB26
(57)【要約】
本発明は抗癌用細胞外小胞、その製造方法、およびこれを含む抗癌用組成物に関するもので、本発明のLDHBおよびPGC-1αを含有する免疫寛容化された細胞外小胞は、癌細胞の免疫回避、増殖、転移および浸潤に有利な腫瘍微小環境を形成する乳酸および水素イオンが生成される癌細胞特異的な好気性解糖作用エネルギー代謝経路を正常細胞化することにより患者の免疫系によって効果的に腫瘍が除去されることができる抗癌治療および癌転移抑制そして癌予防治療技術を提供する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)乳酸脱水素酵素B(lactate dehydrogenase、LDHB)、(ii)ペルオキシソーム増殖因子-活性化受容体γ活性化因子1-α(Peroxisome proliferator-activated receptor gamma coactivator 1-alpha、PGC-1α)、および(iii)カルシウムカルモジュリン活性化キナーゼ1B(Calcium-calmodulin activated kinases type1B、CaMK1B)、カルシウムカルモジュリン活性化キナーゼ2B(Calcium-calmodulin activated kinases type2B、CaMK2B)、カルシウムカルモジュリン活性化キナーゼ5(Calcium-calmodulin activated kinases type5、CaMK5)、筋細胞特異エンハンサー因子2B(Myocyte specific enhancer2B、MEF2B)、筋細胞特異エンハンサー因子2C(Myocyte specific enhancer2C、MEF2C)、および環状アデノシン一リン酸(Cyclin adenosine monophosphate、cAMP)を含有する細胞外小胞。
【請求項2】
前記細胞外小胞は、(iv)HLA-G1およびHLA-G5タンパク質、および(v)ヒト絨毛性ゴナドトロピン(human Chorionic Gonadotropin、hCG)および胎盤成長因子(Plancental Growth Factor、PlGF)がさらに含有されたものである、請求項1に記載の細胞外小胞。
【請求項3】
請求項1または2に記載の細胞外小胞を含む、癌転移抑制、予防または治療用薬学組成物。
【請求項4】
(a)ヒト羊膜および羊水由来間葉系幹細胞の共培養を通じて獲得された細胞外小胞およびポリ乳酸を含有した体外培養用マトリックスゲルにヒト間葉系幹細胞を接種するステップと、
(b)前記間葉系幹細胞を、HLA-Gを分泌発現する免疫寛容特性を有する栄養膜細胞由来細胞外小胞およびヒト間葉系幹細胞から肝細胞分化時に分泌される細胞外小胞を含有する無血清培地で継代培養するステップと、
(c)前記継代培養された間葉系幹細胞を培養プレートに接種し、無血清培地で培養して、培養上清液を獲得するステップと、
(d)前記獲得された培養上清液を遠心分離、濾過および分離するステップとを含む、請求項1または2の細胞外小胞の製造方法。
【請求項5】
前記(a)ステップのヒト羊膜および羊水由来間葉系幹細胞の共培養を通じて獲得された細胞外小胞は、
(a-1)ヒト羊膜および羊水由来間葉系幹細胞を、ヒト間葉系幹細胞由来細胞外小胞を5~50%(v/v)含有する凍結保存用組成物で凍結保管するステップと、
(a-2)前記凍結保管されたヒト羊膜および羊水由来間葉系幹細胞を共培養用プレートの下端および上端に接種するステップと、
(a-3)無血清培地で共培養して培養上清液を獲得するステップと、
(a-4)前記獲得された培養上清液を遠心分離および濾過するステップとを含んで製造されるものである、請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記(a)ステップのヒト羊膜および羊水由来間葉系幹細胞の共培養を通じて獲得された細胞外小胞は、
栄養膜細胞でHLA-Gタンパク質のmRNA発現を促進させるプロゲステロンを活性化させるヒト絨毛性ゴナドトロピン(human Chorionic Gonadotropin、hCG)および胎盤成長因子(Plancental Growth Factor、PlGF)、栄養膜細胞でHLA-Gタンパク質の自己分泌を促進させるインターロイキン-1β(Interleukin 1 beta、IL-1β)、インターロイキン-6(Interleukin 6、IL-6)、インターロイキン-10(Interleukin 10、IL-10)、トランスフォーミング増殖因子-β(Transforming Growth Factor beta、TGF-β)、インターフェロン-γ(Interferon gamma、IFN-γ)および腫瘍壊死因子-α(Tumor Necrosis Factor alpha、TNF-α)を含有するものである、請求項4に記載の製造方法。
【請求項7】
前記(b)ステップの栄養膜細胞由来細胞外小胞は、
(b-1)ヒト羊膜および羊水由来間葉系幹細胞の無血清培地内の共培養から獲得された細胞外小胞およびヒアルロン酸を含有した体外培養用マトリックスゲルに栄養膜細胞を接種するステップと、
(b-2)前記栄養膜細胞を無血清培地で継代培養するステップと、
(b-3)前記継代培養された栄養膜細胞を培養プレートに接種し、無血清培地で培養して培養上清液を獲得するステップと、
(b-4)前記獲得された培養上清液を遠心分離、濾過および分離するステップとを含んで製造されるものである、請求項4に記載の製造方法。
【請求項8】
前記(b)ステップの栄養膜細胞由来細胞外小胞は、
免疫寛容を誘導するHLA-G1およびHLA-G5タンパク質、HLA-Gタンパク質のmRNA発現を促進させるプロゲステロン、栄養膜細胞でプロゲステロン分泌を活性化させるヒト絨毛性ゴナドトロピンおよび胎盤成長因子を含有するものである、請求項4に記載の製造方法。
【請求項9】
前記(b)ステップの栄養膜細胞は、
(b-1)ヒト羊膜および羊水由来間葉系幹細胞の無血清培地内の共培養から獲得された細胞外小胞およびヒアルロン酸を含有した体外培養用マトリックスゲルに栄養膜細胞を接種するステップと、
(b-2)前記栄養膜細胞を無血清培地で継代培養するステップとを含んで製造されるものである、請求項4に記載の製造方法。
【請求項10】
前記(b)ステップの栄養膜細胞は、
HLA-G1およびHLA-G5タンパク質を含有する細胞外小胞を分泌発現するものである、請求項4に記載の製造方法。
【請求項11】
前記(b)ステップの肝細胞分化時に分泌される細胞外小胞は、
(b-1)ヒト骨髓、脂肪、臍帯血、胎盤、羊膜上皮、絨毛膜、臍帯および羊水由来間葉系幹細胞から選択される1種以上の間葉系幹細胞を上皮細胞成長因子(Epidermal growth factor、EGF)、塩基性繊維芽細胞成長因子(basic Fibroblast growth factor、bFGF)および骨形成タンパク質-4(Bone morphogenetic protein 4、BMP-4)が含有された肝細胞分化開始培地に接種するステップと、
(b-2)前記培養された間葉系幹細胞を肝細胞成長因子(Hepatocyte growth factor、HGF)および塩基性繊維芽細胞成長因子(basic Fibroblast growth factor、bFGF)が含有された肝細胞分化培地で無血清培養して培養上清液を獲得するステップと、
(b-3)前記獲得された培養上清液を遠心分離、濾過および分離するステップとを含んで製造されるものである、請求項4に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗癌用細胞外小胞、その製造方法、およびこれを含む抗癌用組成物に関するもので、より詳しくは、(i)乳酸脱水素酵素B(lactate dehydrogenase、LDHB)、(ii)ペルオキシソーム増殖因子-活性化受容体γ活性化因子1-α(Peroxisome proliferator-activated receptor gamma coactivator 1-alpha、PGC-1α)、および(iii)カルシウムカルモジュリン活性化キナーゼ1B(Calcium-calmodulin activated kinases type1B、CaMK1B)、カルシウムカルモジュリン活性化キナーゼ2B(Calcium-calmodulin activated kinases type2B、CaMK2B)、カルシウムカルモジュリン活性化キナーゼ5(Calcium-calmodulin activated kinases type5、CaMK5)、筋細胞特異エンハンサー因子2B(Myocyte specific enhancer2B、MEF2B)、筋細胞特異エンハンサー因子2C(Myocyte specific enhancer2C、MEF2C)、および環状アデノシン一リン酸(Cyclin adenosine monophosphate、cAMP)を含有する細胞外小胞、その製造方法、およびこれを含む抗癌用組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
癌細胞の免疫回避、増殖、転移および正常組職への浸潤が発生される腫瘍微小環境(Tumor Microenvironment)の共通された主な特徴は高い乳酸塩(Lactate)濃度および低いpH環境に要約することができる。これは癌細胞特有のエネルギー代謝による結果で、特に固形癌の場合、血管から癌細胞代謝に必須な葡萄糖および酸素を供給されにくい環境で生存するために「ワールブルク効果( Warburg Effect)」として知られた方式でエネルギー代謝を行う。「ワールブルク効果」とは、1920年代に発表された理論で、高い酸素濃度にもかかわらず癌細胞は正常細胞からなるミトコンドリアでの酸化的リン酸化(Oxidative phosphorylation、OXPHOS)によるアデノシン三リン酸(Adenosine Triphosphate、ATP)生成よりはピルビン酸の好気性解糖作用(aerobic glycolysis)による乳酸塩およびATPの生成メカニズムを選好するという事実が明らかになった。発表初期にはミトコンドリアの機能異常による代謝現象と知られたが、後続研究を通じてATP生成の面においては非効率的な好気性解糖作用を癌細胞が活用するいくつの理由が明らかになったが、(1)酸素濃度に非依存的な代謝作用を通じた低酸素条件での生存、(2)好気性解糖作用の中間代謝産物-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(Nicotinamide Adenine Dinucleotide Phosphate、NADPH)およびグルタミン(Glutamine)などを活用して抗酸化防御メカニズムおよび代替エネルギー源である脂肪酸合成などの癌細胞の持続的な増殖に関する多様なシグナル伝達系を持続的に活性化させるとともに、癌細胞老化および死滅を抑制する方向に作用するようにする。また、好気性解糖作用の代謝産物で生成された乳酸および水素イオンはそのものでも癌細胞の生存に脅威的な物質であるので、多様な膜輸送タンパク質によって癌細胞外部に分泌されて癌の浸潤性や免疫回避のような腫瘍微小環境を構成する重要な要素として作用する。一例として、細胞外部に分泌された乳酸は血管内皮細胞成長因子(Vascular Endothelial Growth Factor、VEGF)発現を促進させて営養分および酸素を供給するための新生血管生成促進および癌細胞移動と転移を促進させることができ、低いpH環境誘導を通じてT細胞の活性および細胞毒性減少、炎症性サイトカイン分泌減少、単核球細胞移動減少などの兔疫細胞の活性低下に寄与して免疫系から癌細胞を保護する役割を果たす。
【0003】
より具体的には、細胞毒性T細胞と補助T細胞が癌微小環境で活性化されると、癌細胞と類似する方式で好気性解糖過程を通じて急激に増殖するようになる。この代謝過程で発生される乳酸および水素イオンがT細胞外部に分泌される必要があるが、既に癌微小環境に存在する高い乳酸および水素イオン濃度によって正常に排出されなくて、T細胞の自然死滅が誘導される事があり、ナチュラルキラー(Natural Killer、NK)細胞も低いpHとグルコース(glucose)欠乏および低酸素条件で癌細胞を直接溶解させるグランザイム(granzyme)、パーフォリン(perforin)などの顆粒とインターフェロン-γ分泌が顕著に減少され、癌細胞内に過發現された低酸素誘導因子-1α(Hypoxia Inducible Factor、HIF-1α)によって活性化された乳酸脱水素酵素A(LDHA)によって合成されたLHD5タンパク質(4つのLDHA subunitで構成される)がNK細胞のナチュラルキラーグループ2D(Natural Killer Group 2D(NKG2D))受容体の発現を抑制させることによりNK細胞による免疫監視機能が低下されるようになる。
【0004】
樹状細胞(Dendritic Cell、DC)も低いpHおよび高い乳酸濃度が維持される腫瘍微小環境で腫瘍関連樹状細胞(Tumor associated dendritic cells、TADC)表現型に転換されてCD80、CD86およびCD40のような補助刺激分子の発現が減少され、炎症性サイトカインであるIL-12分泌は減少する一方、抗炎症性サイトカイン(IL-10、IL-6、TGF-β)、ケモカイン(CCL-2、CXCL1、CXCL5)、VEGF、GM-CSF(Granulocyte-macrophage colony stimulating factor)およびプロスタグランジン(PGE2)などを分泌して免疫寛容環境を誘発する調節樹状細胞、調節T細胞への分化を誘導する一方、これらからさらに免疫抑制因子の分泌を促進させることで腫瘍微小環境構築に大きな役割を果たすようになり、樹状細胞も成熟および活性化される過程でT細胞のように好気性解糖作用を実行し、この代謝産物として生成される乳酸および水素イオンも腫瘍微小環境では樹状細胞外部にまともに分泌されなくて代謝異常を誘発させる。
【0005】
また、低いpHおよび高い乳酸濃度下の腫瘍微小環境では骨髓細胞(Myeloid cells)がT細胞およびNK細胞の細胞毒性および活性を抑制させる骨髓由来免疫抑制細胞(Myeloid-Derived Suppressor Cells、MDSC)への分化が促進される。特に大食細胞(macrophage)も免疫寛容サイトカイン-TNF、IL-6、IFN-γ、IL-1β-を分泌するM2型腫瘍関連大食細胞(Tumor-associated macrophage、TAM)表現型への分化が促進され、この過程で癌細胞と類似する好気性解糖過程を通じて腫瘍微小環境で続いて生存および蓄積されながら低いpHおよび高い乳酸濃度環境を維持するのに寄与する。
【0006】
一方、多様な固形癌治療において、最近注目されているモノクローナル抗体(monoclonal antibody)は腫瘍または兔疫細胞で特異的に発現される標的抗原とFc受容体(FcR)との結合を通じて抗体のFc序列を認識して食菌作用(Phagocytosys)、補体依存性細胞毒性および抗体依存性細胞毒性を通じて免疫系から除去されて治療効果を表すが、低いpHでは酸化およびFc凝集によって抗体が分解されて抗原に対する抗体の結合活性が減少され、生体分子の間の相互作用部位のヒスチジン残基が低いpH条件でプロトン化されて解離が増加されることによってFc-FcR間の結合親和力が低下するようになって治療効果が減少するようになる。これは最近注目されている細胞毒性Tリンパ球関連タンパク質4(Cytotoxic T-lymphocyte associated protein 4、CTLA-4)またはPD-L1(Programmed death ligand1)に対する免疫チェックポイント阻害剤(Immune Checkpoint Inhibitor、ICI)の抗腫瘍反応が腫瘍酸度を中和する時に増加されるという事実を通じても確認することができる。
【0007】
上述したように、癌細胞特異的な好気性解糖作用の代謝産物である乳酸と水素イオンが癌細胞外部に分泌されて形成された腫瘍微小環境での低い細胞外pHおよびそれによる腫瘍細胞膜内外のpH勾配、高い乳酸濃度および低い酸素張力は固形癌に対するたくさんの化学治療剤、CTLA-4またはPD-L1のように細胞毒性Tリンパ球の補助刺激分子をターゲットとする免疫チェックポイント阻害剤および特定腫瘍表面抗原を標的化したT細胞受容体(T cell receptor、TCR)を遺伝的に操作したキメラ抗原受容体T細胞(Chimeric Antigen Receptor T cell、CAR-T cell)を含めた免疫抗癌治療剤、モノクローナル抗体治療剤などの有効成分伝達および効能に対する障壁で作用するので、一部癌に対する極めて制限的な効果のみあるだけである。また、癌特異的なエネルギー代謝に対しては癌細胞でピルビン酸を乳酸に転換させるLDHA酵素または癌細胞で生成された乳酸および水素イオンを癌細胞外部に分泌するモノカルボン酸トランスポーター(Monocarboxylate transporter、MCT)などをターゲットとした研究が行われたが、正常細胞の代謝撹乱などの副作用のおそれがあり、今までは腫瘍微小環境全体を正常化して癌を治療しようとする研究は行われていない。
【0008】
したがって、本発明者らは腫瘍微小環境の構築に核心的役割を果たす水素イオンおよび乳酸を分泌する癌細胞特異的な好気性解糖作用を正常化させれば、癌細胞で水素イオンおよび乳酸の分泌を抑制することにより、腫瘍微小環境による障壁が崩れるようになって、初めて腫瘍微小環境で乳酸および低いpHによって撹乱された免疫シグナルが正常化されて患者自身の兔疫細胞によって効果的に腫瘍および癌細胞が除去できるという治療メカニズムを考案することになり、これを具現するために、「ワールブルク効果」によって癌細胞で過度に生成される乳酸をピルビン酸に即刻還元させるLDHBおよび細胞内でLDHAの発現は抑制し、LDHBを活性化することにより細胞内乳酸の恒常性を維持させる役割を果たすPGC-1αを含む細胞外小胞を有効成分とする、謂わば「逆ワールブルク効果」を作用メカニズムとする癌治療用薬学組成物を開発するようになった。ただ、細胞外小胞を生産するための自家或いは他家由来の細胞を体外培養の時、異種抗原および撹乱された免疫シグナルによって有害な免疫反応を起こす免疫原性を有するようになるので、これを根本的に解消するために免疫寛容化された細胞外小胞生産方法が必ず伴う必要がある。
【0009】
ヒト免疫系は生体の内部環境が外来性または内因性異物(抗原ともする)によって混乱が生ずることを防止して常に一定状態を維持するために、体内の多様な兔疫細胞はこれら抗原を除去するための多様な免疫反応を起こすようになる。特に自家または同種由来の細胞や組職/臓器移植の場合、ドナーとレシピエントとの間の主要組織適合複合体(Major Histocompatibility Complex、MHC)抗原の不一致によって移植された細胞や組職/臓器が免疫原性として作用してレシピエントの免疫系から免疫反応を起こすようになる。細胞で分泌される細胞外小胞もその起源細胞の細胞膜と同一の二重リン脂質膜に存在する起源細胞の抗原提示分子(MHC Class IまたはClass II分子)によって移植された細胞や組職/臓器のように免疫原性として作用して免疫反応を起こすことがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明者らは本発明の癌治療用組成物の主成分である細胞外小胞がその自体で免疫原性による免疫反応を発生させないで腫瘍微小環境に近付いて癌細胞と結合して抗癌効能を表すためには、姙娠過程で妊婦の免疫系から胎児を完壁に保護する免疫寛容環境を構築するHLA-Gタンパク質による免疫寛容化された細胞外小胞を製造することが非常に重要であることと判断した。このために、まず姙娠過程で妊婦-胎児境界面で持続的にHLA-Gタンパク質を分泌する栄養膜細胞の培養特性および体内環境を模擬した体外培養条件を確立し、これを通じて癌治療用細胞外小胞を生産するための標的細胞で免疫寛容特性を誘導した。これから分泌される免疫寛容化された細胞外小胞はそれ自体の免疫原性による免疫拒否反応を起こさないとともに、直接乳酸をピルビン酸に転換させるLDHBおよび乳酸の恒常性を維持させるPGC-1αを含有した癌治療用細胞外小胞が患者の免疫系から完全に保護されて腫瘍微小環境を通過して癌細胞に伝達されて癌細胞のエネルギー代謝を正常化して癌治療効果を表すことを確認することにより、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一つの目的は、(i)乳酸脱水素酵素B(lactate dehydrogenase、LDHB)、(ii)ペルオキシソーム増殖因子-活性化受容体γ活性化因子1-α(Peroxisome proliferator-activated receptor gamma coactivator 1-alpha、PGC-1α)、および(iii)カルシウムカルモジュリン活性化キナーゼ1B(Calcium-calmodulin activated kinases type1B、CaMK1B)、カルシウムカルモジュリン活性化キナーゼ2B(Calcium-calmodulin activated kinases type2B、CaMK2B)、カルシウムカルモジュリン活性化キナーゼ5(Calcium-calmodulin activated kinases type5、CaMK5)、筋細胞特異エンハンサー因子2B(Myocyte specific enhancer2B、MEF2B)、筋細胞特異エンハンサー因子2C(Myocyte specific enhancer2C、MEF2C)、および環状アデノシン一リン酸(Cyclin adenosine monophosphate、cAMP)を含む細胞外小胞を提供することである。
【0012】
本発明の他の目的は、前記細胞外小胞を含む癌転移抑制、予防または治療用薬学組成物を提供することである。
【0013】
本発明のまた他の目的は、前記細胞外小胞の製造方法を提供することである。
【発明の効果】
【0014】
本発明のLDHBおよびPGC-1αを含有する免疫寛容化された細胞外小胞は癌細胞の免疫回避、増殖、転移および浸潤に有利な腫瘍微小環境を形成する乳酸および水素イオンが生成される癌細胞特異的な好気性解糖作用エネルギー代謝経路を正常細胞化することにより、患者の免疫系によって効果的に腫瘍が除去されることができる抗癌治療および癌転移抑制そして癌予防治療技術を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】HLA-Gタンパク質を常時発現する免疫寛容特性を有する栄養膜細胞を確立するために姙娠中の妊婦-胎児境界面での環境を模擬した体外培養条件を構成する仮定を図式化したのである。
図2】LDHB、PGC-1αおよびPGC-1α mRNA発現を促進させる転写促進因子を全部含む免疫寛容化された細胞外小胞による癌治療メカニズムを図式化したのである。
図3】HLA-Gタンパク質を常時発現する免疫寛容特性を有する栄養膜細胞を確立するために製造された体外培養用マトリックスゲルで栄養膜細胞培養時の細胞増殖率を示すグラフである。
図4】HLA-Gタンパク質を常時発現する免疫寛容特性を有する栄養膜細胞を確立するために製造された体外培養用マトリックスゲルで培養された栄養膜細胞の培養上清液に存在するHLA-G5タンパク質の濃度を示すグラフである。
図5】免疫寛容特性を有する細胞外小胞をマウスモデルに処理して細胞外小胞の癌成長抑制効果を腫瘍の大きさ変化を通じて表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
前記課題を解決するための本発明の一つの様態は、(i)乳酸脱水素酵素B(lactate dehydrogenase、LDHB)、(ii)ペルオキシソーム増殖因子-活性化受容体γ活性化因子1-α(Peroxisome proliferator-activated receptor gamma coactivator 1-alpha、PGC-1α)、および(iii)カルシウムカルモジュリン活性化キナーゼ1B(Calcium-calmodulin activated kinases type1B、CaMK1B)、カルシウムカルモジュリン活性化キナーゼ2B(Calcium-calmodulin activated kinases type2B、CaMK2B)、カルシウムカルモジュリン活性化キナーゼ5(Calcium-calmodulin activated kinases type5、CaMK5)、筋細胞特異エンハンサー因子2B(Myocyte specific enhancer2B、MEF2B)、筋細胞特異エンハンサー因子2C(Myocyte specific enhancer2C、MEF2C)、および環状アデノシン一リン酸(Cyclin adenosine monophosphate、cAMP)を含有する細胞外小胞を提供することである。
【0017】
また、前記細胞外小胞は、(iv)HLA-G1およびHLA-G5タンパク質、および(v)ヒト絨毛性ゴナドトロピン(human Chorionic Gonadotropin、hCG)および胎盤成長因子(Plancental Growth Factor、PlGF)がさらに含有されたものであり得る。
【0018】
本発明の具体的な一実施例では、免疫寛容特性誘導のために、ヒト羊膜および羊水由来間葉系幹細胞をウシ胎児血清を代替した栄養膜細胞の体外培養用マトリックスゲルを製造して持続的な栄養膜細胞の成長を確認し(図3)、継代培養時に獲得した培養上清液を測定して持続的なsHLA-Gタンパク質分泌を確認し(図4)、標的細胞への免疫寛容特性転写のための栄養膜細胞由来細胞外小胞を製造し(表2)、癌治療および予防の有効成分であるLDHB、PGC-1α、PGC-1α mRNA転写促進因子を含有する免疫寛容化された抗癌用細胞外小胞を製造し(表3)、製造した抗癌用細胞外小胞が癌細胞に吸収されるか否かを確認するために乳癌細胞株への吸収率を測定し(表4)、マウス癌モデルを通じて製造された前記細胞外小胞が腫瘍の大きさを減少させる効能があることを確認した(図5)。
【0019】
本発明の用語「細胞外小胞」は細胞で生成されて細胞外に分泌される小胞体として、エクソソーム(exosome)、微小小胞体(microvesicle)、微小粒子(microparticle)などを含むが、これに限定されるのではない。
【0020】
本発明において、前記細胞外小胞は患者の免疫系および腫瘍微小環境に存在する多様な兔疫細胞による免疫反応を避けて癌細胞に有効成分を完全に伝達されることができるようにするためのもので、抗癌活性を有するために各種因子を含むことができる。具体的には、本発明の細胞外小胞は癌細胞内の乳酸をピルビン酸に直接転換させる乳酸脱水素酵素B(actate Dehydrogenase B、LDHB)、癌細胞内の乳酸の恒常性を維持させるペルオキシソーム増殖因子-活性化受容体γ活性化因子1-α(Peroxisome proliferator-activated receptor gamma coactivator 1-alpha、PGC-1α)、PGC-1α mRNA発現を促進させる転写因子であるカルシウムカルモジュリン活性化キナーゼ1B(Calcium-calmodulin activated kinases type1B、CaMK1B)、カルシウムカルモジュリン活性化キナーゼ2B(Calcium-calmodulin activated kinases type2B、CaMK2B)、カルシウムカルモジュリン活性化キナーゼ5(Calcium-calmodulin activated kinases type5、CaMK5)、筋細胞特異エンハンサー因子2B(Myocyte specific enhancer2B、MEF2B)、筋細胞特異エンハンサー因子2C(Myocyte specific enhancer2C、MEF2C)、環状アデノシン一リン酸(Cyclin adenosine monophosphate、cAMP)が全部含有されたものであり得る。
【0021】
本発明の用語「乳酸脱水素酵素(Lactate Dehydrogenase、LDH)」は細胞内で葡萄糖の解糖過程によって分解されたピルビン酸と乳酸の相互転換反応に関与する酵素で、LDHAおよびLDHBの二つのサブユニットが存在する。LDHA酵素はピルビン酸を乳酸に転換させる反応に関与する。LDHB酵素は反対に乳酸をピルビン酸に転換させる反応に関与する。特に、癌細胞のような場合には LDHA酵素が過發現されている一方、LDHBは発現が抑制されていてピルビン酸の乳酸への転換が非常に活発に起きるようになる。一方、LDHB酵素は肝や腎臓で発現されてグルコース新生合成(gluconeogenesis)、つまり乳酸をピルビン酸に転換してさらにグルコースを合成する代謝作用に重要な役割を果たし、また心臓組職やニューロンで発現されて乳酸をピルビン酸に転換して酸化的代謝作用の栄養源として乳酸を活用する役割を果たす。
【0022】
本発明において、前記LDHBは癌細胞免疫回避および周辺微小環境の特徴である高い乳酸濃度と低いpHを正常化するためのものである。
【0023】
本発明の用語「ペルオキシソーム増殖因子-活性化受容体γ活性化因子1-α(PGC-1α)」は細胞内非常に重要な多様な代謝作用に関与する共活性化因子(coactivator)で、多様な核受容体と結合してミトコンドリア生合成促進および関連遺伝子発現増加、グルコースエネルギー代謝促進、脂肪酸の酸化および抗酸化酵素発現増加などの代謝作用に共活性化因子として作用すると同時にシグナル循環経路(Signal Cyclical Pathway)を通じてPGC-1α mRNA発現も急激に促進するようになる。特に、乳酸に関するエネルギー代謝作用では、より具体的には、PGC-1αがエストロゲン-関連受容体-α(Estrogen-related receptors alpha、ERRα)と結合すれば、細胞内のLDHB mRNA発現が増加される一方、レチノイド-X受容体(Retinoid X Receptor、RXR)と結合すれば、LDHA mRNA発現を抑制させることで細胞内の乳酸の恒常性を維持する役割を果たすようになり、また核呼吸因子(Nuclear Respiratory Factors、NRFs)と結合すれば、ミトコンドリアによる酸化的代謝作用(OXPHOS)が活性化された。本発明において、前記PGC-1αはLDHBの発現を向上させるためのものである。
【0024】
したがって、本発明者らは乳酸をピルビン酸に直接転換させる反応に関与するLDHBだけでなく、細胞内で乳酸の恒常性維持機能をするPGC-1αおよびこのmRNA発現を増加させる多様な因子が含まれた細胞外小胞を癌細胞に適用すれば、癌細胞内のLDHB発現増加およびLDHA発現抑制によってピルビン酸の乳酸への転換が減少され、同時に乳酸のピルビン酸への転換が促進されて乳酸および水素イオンの生成および分泌が減少されることによって、腫瘍微小環境で兔疫細胞の機能が正常化されることにより、効果的に癌細胞および腫瘍が除去されることができ、同時に多様な転写因子によってmRNA発現が活性化されたPGC-1α発現促進によって癌細胞内のエネルギー代謝も好気性解糖作用でミトコンドリアでの酸化的代謝作用に転換されることで正常細胞化されて治療されることができることと仮定した。本発明者らが提案するLDHBおよびPGC-1α、そしてPGC-1α mRNA転写促進因子を含む細胞外小胞による癌治療メカニズムは図2の通りである。
【0025】
本発明の具体的な一実施例では、主に筋肉細胞で細胞内乳酸濃度増加および運動刺激によってPGC-1αの発現が促進されるという仮定から、PGC-1αおよびこのmRNA発現を促進させる転写因子が含有された癌治療用細胞外小胞を製造するために、ポリ乳酸が含有された体外培養用マトリックスゲル上で持続的な振動条件で標的細胞の培養を行い、その結果、標的細胞の無血清培養を通じて獲得した細胞外小胞にPGC-1αおよびこのmRNA発現を促進させる転写因子が含有されていることを確認した(表3)。
【0026】
この時、PGC-1α mRNA発現を促進させる転写因子は、具体的には、甲状腺ホルモン(Thyroid hormone、TH)、一窒素酸化物合成酵素(Nitric Oxide Synthase、NOS)、p38分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ(p38 mitogen-activated protein kinase、p38MARK)、サーチュイン(Sirtuines、SIRTs)、カルシニューリン(Calcineurin)、カルシウムカルモジュリン活性化キナーゼ(Calcium-calmodulin activated kinases、CaMKs)、アデノシン1リン酸活性化キナーゼ(Adenosine monophosphate activated kinase、AMPK)、サイクリン依存性キナーゼ(Cyclin dependent kinases、CDKs)、筋細胞特異エンハンサー因子2(Myocyte specific enhancer2、MEF2)およびβアドレナリン性刺激(beta adrenergic stimulation、β/cAMP)であり得るが、細胞内でPGC-1α発現を促進させるタンパク質である限り、これに限定されない。
【0027】
具体的には、カルシウムカルモジュリン活性化キナーゼ1B(Calcium-calmodulin activated kinases type1B、CaMK1B)、カルシウムカルモジュリン活性化キナーゼ2B(Calcium-calmodulin activated kinases type2B、CaMK2B)、カルシウムカルモジュリン活性化キナーゼ5(Calcium-calmodulin activated kinases type5、CaMK5)、筋細胞特異エンハンサー因子2B(Myocyte specific enhancer2B、MEF2B)、筋細胞特異エンハンサー因子2C(Myocyte specific enhancer2C、MEF2C)、および環状アデノシン一リン酸(Cyclin adenosine monophosphate、cAMP)はPGC-1α mRNAの発現および転写を促進させる役割を果たす。
【0028】
本発明で前記細胞外小胞は免疫寛容化されたものであり得る。具体的には、本発明の用語「免疫寛容」は免疫学的寛容ともいい、特定抗原に対して免疫反応を表さない状態を意味する。本発明の免疫寛容はHLA-G処理によって得ることができるが、これに限定されるのではない。
【0029】
本発明の用語「栄養膜細胞(trophoblast)」は胎盤を形成する細胞の一種で、発生初期内部細胞塊(inner cell mass)に胚芽発生に係るシグナル伝達および栄養物質を提供し、着床初期には妊婦の免疫系から受精された胚芽を保護する免疫寛容を起こして成功的な着床を誘導し、その後には胎盤を形成して持続的にプロゲステロンホルモンを分泌することにより姙娠の維持および胎児の発達に重要な役割を果たす細胞である。このような栄養膜細胞の役割はHLA-Gタンパク質の分泌発現によることと知られている。
【0030】
本発明の用語「HLA-Gタンパク質」は、ヒト白血球抗原G(human leukocyte antigen G)またはHLA-G組織的合成抗原クラス、Gなどと呼ばれるタンパク質を意味する。姙娠中には妊婦-胎児境界面に存在する絨毛外性栄養膜細胞(Extravillous Trophoblast、EVT)で最初に発見され、HLA-G mRNAの選択的な接合によって細胞膜のみで発現される異型体(membrane-bound HLA-GでHLA-G1、G2、G3およびG4が存在する)および単一分子形態で細胞外部に分泌されることができる可溶性形態(soluble HLA-GでHLA-G5、G6およびG7が存在する)で存在する。
【0031】
本発明において、前記HLA-Gタンパク質は、低い多形成、兔疫細胞に作用する特異性によって兔疫細胞の毒性を低めて調節T細胞の分化を促進することにより、特に姙娠過程で妊婦の免疫系から半同種移植片である胎児を保護する免疫寛容環境の構築に必須な役割を果たす。
【0032】
具体的には、membrane-bound HLA-G分子はナチュラルキラー(NK)細胞、T細胞、B細胞、樹状細胞(DC)、単球および大食細胞に発現される免疫グロブリン様転写(ILT)2受容体と結合して細胞毒性、兔疫細胞増殖および抗体形成を抑制させ、骨髓細胞、単核細胞およびDC上のILT4受容体と結合して抗原提示および炎症性サイトカイン分泌を減少させ、NK細胞およびT細胞に存在するキラー-細胞免疫グロブリン様受容体(KIR2DL4)およびCD8受容体と結合して兔疫細胞毒性減少および死滅を誘導する反応を通じて短期間の免疫寛容を誘導する役割を果たし、特に、姙娠中に栄養膜細胞で分泌される可溶性HLA-G5分子は免疫寛容特性を有する調節T細胞および寛容型樹状細胞(Tolerogenic DC)への分化を促進して正常な姙娠が維持されることができるように長期間の免疫寛容環境を誘導するようになる。現在まで健康な条件で栄養膜細胞に制限されたHLA-G発現メカニズムはまだ完全に明かされていなかったが、HLA-G5`遺伝子の調節領域にはISRE(インターフェロン-刺激反応要素)、HSE(熱衝撃要素素)、HRE(低酸素反応要素)、および特に他のHLAクラスIとは区別されるPRE(プロゲステロン反応要素)などの調節塩基序列が存在することと知られている。そのうち、ISRE、HSEおよびHREは炎症および低酸素条件のようなストレス状況で活性化される領域で、癌や感染のような病理学的状態およびインターフェロン-γによって刺激された骨髓由来間葉系幹細胞でHLA-Gが発現されることができると言えるので、本発明者らは非-ストレス環境でHLA-GのmRNA発現を促進させることができる要因として着床および姙娠過程で主に分泌されるホルモンであるプロゲステロンが重要な役割を果たすことと仮定した。
【0033】
本発明の用語「プロゲステロン」は女性ホルモンの一種で、卵胞刺激ホルモン(FSH)、黄体形成ホルモン(LH)およびエストロゲンとともに女性の生殖周期を調節し、初期には黄体で分泌されて受精卵が正常に着床されることができるように子宮内膜を厚く維持させ、着床以後には胎盤で分泌されて子宮壁の厚さを維持して正常な姙娠が 維持される役割を果たす。
【0034】
本発明において、前記プロゲステロンは栄養膜細胞でHLA-Gタンパク質mRNA発現を促進するためのもので、また黄体でプロゲステロンの分泌は胚芽外部で生成される栄養膜細胞で分泌されるヒト絨毛性ゴナドトロピン(human Chorionic Gonadotropin、hCG)によって促進され、胎盤でのプロゲステロン分泌はhCGおよび胎盤成長因子(Plancental Growth Factor、PlGF)によって刺激される。
【0035】
具体的には、妊婦-胎児境界面で妊婦の脱落膜組職で持続的な浸潤をする過程でhCGおよびプロゲステロンによって活発な増殖および分化を持続しながらHLA-Gタンパク質を分泌する栄養膜細胞のHLA-G分泌特性およびこのような過程で栄養膜細胞の好気性代謝作用によって生成される乳酸および水素イオンが細胞外部に分泌されながら細胞周りのpHが他の細胞に比べて顕著に低くなる栄養膜細胞の増殖特性を見出した。
【0036】
その他にも妊婦-胎児境界面で栄養膜細胞が持続的にHLA-Gタンパク質を分泌発現するためには、栄養膜細胞と脱落膜に存在する多様な兔疫細胞との相互作用で分泌されるインターロイキン-1β(Interleukin 1 beta、IL-1β)、インターロイキン-6(Interleukin 6、IL-6)、インターロイキン-10(Interleukin 10、IL-10)、トランスフォーミング増殖因子-β(Transforming Growth Factor beta、TGF-β)、インターフェロン-γ(Interferon gamma、IFN-γ)および腫瘍壊死因子-α(Tumor Necrosis Factor alpha、TNF-α)のようなサイトカインが非常に重要な役割を果たせると仮定した。また、姙娠中の胎児は羊膜(amniotic membrane)で囲まれた羊水(amniotic fluid)内に存在し、胎児膜(fetal membrane)は羊膜(amnion)および栄養膜細胞が存在する絨毛膜(chorion)で構成され、胎盤(Placenta)は胎児由来の絨毛膜および母体由来の脱落膜(decidual)で構成される。本発明者らは姙娠中の胎児膜構造を体外で模擬するために、ヒト羊水および羊膜幹細胞由来細胞外小胞を含む栄養膜細胞の体外培養用マトリックスゲルを考案するようになった。このように栄養膜細胞で持続的なHLA-Gタンパク質の分泌発現特性を誘導するための体外培養条件に対する仮定を整理すれば図1の通りである。
【0037】
そこで、本発明の細胞外小胞は、免疫寛容を誘導するHLA-G1およびHLA-G5タンパク質、HLA-Gタンパク質のmRNA発現を促進させるプロゲステロンを活性化させるヒト絨毛性ゴナドトロピン(human Chorionic Gonadotropin、hCG)および胎盤増殖因子(Plancental Growth Factor、PlGF)を追加に含むことができる。
【0038】
他の一つの様態として、本発明は前記細胞外小胞を含む、癌転移抑制、予防または治療用薬学組成物を提供する。
【0039】
また、他の一つの様態として、本発明は癌転移を抑制するための、前記細胞外小胞の用途を提供する。
【0040】
前記細胞外小胞に対しては上記で説明した通りであり、より具体的には、本発明による抗癌用細胞外小胞は、癌細胞内乳酸をピルビン酸に即刻転換させて正常細胞のエネルギー代謝方式に還元させる酵素であるLDHB酵素を含み、また、癌細胞内の乳酸の恒常性を維持させるPGC-1αおよびPGC-1α mRNA発現を促進させる多様な転写促進因子を含有し、細胞外小胞体自体の免疫原性による免疫反応を誘導しないながら腫瘍微小環境を通じて癌細胞に直接結合することができる免疫寛容特性を有するHLA-G1およびHLA-G5タンパク質を発現するので、上述したように、癌細胞の増殖、転移および浸潤に有利な条件を提供する腫瘍微小環境を形成する高い乳酸濃度および低いpH環境を正常化することで患者の免疫系から効果的に腫瘍が除去されることができるという抗癌効果を表すことができる。
【0041】
本発明で用語「癌」とは、体組職の自律的な異常成長によって非正常的に大きくなった腫瘍、または腫瘍を形成する病気を意味する。
【0042】
具体的には、前記癌は、肺癌(例えば、非小細胞肺癌、小細胞肺癌、悪性中皮腫)、中皮腫、膵臓癌(例えば、膵管癌、膵臓内分泌腫瘍)、咽頭癌、喉頭癌、食道癌、胃癌(例えば、乳頭腺癌、粘液性腺癌、腺扁平上皮癌)、十二支腸癌、小腸癌、大腸癌(例えば、結腸癌、直腸癌、肛門癌、家族性大腸癌、遺伝性非ポリポーシス大腸癌、消化管間質腫瘍)、乳癌(例えば、浸潤性乳管癌、非浸潤性乳管癌、炎症性乳癌)、卵巣癌(例えば、上皮性卵巣癌腫、精巣外胚細胞腫瘍、卵巣低悪性度腫瘍、卵巣性胚細胞腫瘍)、精巣腫瘍、前立腺癌(例えば、ホルモン-依存性前立腺癌、ホルモン-非依存性前立腺癌)、肝臓癌(例えば、肝細胞癌、原発性肝癌、肝外胆管癌)、甲状腺癌(例えば、甲状腺髄様癌)、腎臓癌(例えば、腎細胞癌、腎盂と尿管の移行上皮癌腫)、子宮癌(例えば、子宮頸癌、子宮体癌、子宮肉腫)、脳腫瘍(例えば、髄芽腫、神経膠腫、松果体性細胞腫瘍、毛様細胞性星状細胞種、びまん性星状細胞腫 、退行性性星状細胞種、脳下垂体腺腫)、網膜芽細胞腫、皮膚癌(例えば、基底細胞癌、悪性黒色腫)、肉腫(例えば、横紋筋肉腫、平滑筋肉腫、軟部組織肉腫)、悪性骨腫瘍、膀胱癌、血液癌(例えば、多発性骨髓腫、白血病、悪性リンパ腫、ホジキンリンパ腫、慢性骨髓増殖疾患)、原発不明癌などであり得、より具体的には、乳癌および大腸癌であり得るが、これに限定されるのではない。
【0043】
本発明の用語「予防」は、本発明による結合体によって腫瘍の生長および転移を抑制させたり遅延させる全ての行為を意味する。
【0044】
本発明の用語「治療」は、前記結合体によって腫瘍の生長および転移の症状が好転されたり有利に変更される全ての行為を意味する。
【0045】
本発明において、前記組成物はヒトに用いることが好ましいが、炎症疾患または癌が発生されて、本発明の組成物を投与することによって癌が抑制または減少されることができる牛、馬、羊、豚、山羊、駱駝、羚羊、犬または猫などの家畜にも使われることができる。
【0046】
本発明の癌の予防用または治療用薬学組成物で、前記組成物を投与する投与経路および投与方式は特に制限されず、目的とする対応部位に前記組成物が到逹することができる限り、任意の投与経路および投与方式に従うことができる。具体的には、前記組成物は経口または非経口の多様な経路を通じて投与されることができ、その投与経路の非制限的な例としては、眼球、口腔、直腸、局所、静脈内、腹腔内、筋肉内、動脈内、経皮、鼻腔内または吸入などを通じて投与されることを挙げることができる。また、前記組成物は活性物質が標的細胞に移動することができる任意の装置によって投与されることができる。
【0047】
本発明において、前記癌予防用または治療用薬学組成物は、薬学組成物の製造に通常的に用いる薬学的に許容可能な担体、賦形剤または希釈剤を追加的に含むことができ、前記担体は非自然的担体(non-naturally occuring carrier)を含んでもよい。
【0048】
本発明において、前記用語「薬学的に許容可能な」は前記組成物に露出される細胞やヒトに毒性のない特性を表すことを意味する。
【0049】
より具体的には、前記薬学組成物は、それぞれ通常の方法によって散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁液、エマルジョン、シロップ、エアロゾルなどの経口型剤形、外用剤、坐剤および滅菌注射溶液の形態に剤形化して用いられることができるが、当業界で癌の予防または治療のために用いられる剤形であれば、それに限定されない。
【0050】
前記薬学組成物に含まれることができる担体、賦形剤および希釈剤としては、具体的な例として、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、澱粉、アカシアゴム、アルジネート、ゼラチン、リン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、セルロース、メチルセルロース、微結晶性セルロース、ポリビニルピロリドン、水、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ポリカプロラクトン(PCL;polycaprolactone)、ポリ乳酸(PLA;Poly Lactic Acid)、ポリL-乳酸(PLLA;poly-L-lactic acid)、鉱物油などを挙げることができる。
【0051】
製剤化する場合には、普段用いる充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、界面活性剤などの希釈剤または賦形剤を用いて調剤されることができる。
【0052】
経口投与のための固形製剤には、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤などが含まれ、このような固形製剤は前記抽出物とこの分画物に少なくとも一つ以上の賦形剤、例えば、澱粉、炭酸カルシウム(calcium carbonate)、スクロース(sucrose)またはラクトース(lactose)、ゼラチンなどを交ぜて調剤されることができる。また、単純な賦形剤以外にステアリン酸マグネシウム、タルクのような潤滑剤も用いられることができる。
【0053】
経口投与のための液状製剤としては、懸濁剤、内容液剤、乳剤、シロップ剤などが対応するが、一般的に用いられる単純希釈剤である水、リキッドパラフィン以外に各種賦形剤、例えば湿潤剤、甘味剤、芳香剤、保存剤などが含まれることができる。非経口投与のための製剤には、滅菌された水溶液、非水性溶剤、懸濁液剤、乳剤、凍結乾燥製剤、坐剤などが含まれることができる。非水性溶剤、懸濁液剤としては、プロピレングリコール(propylene glycol)、ポリエチレングリコール、オリーブオイルのような植物性油、オレイン酸エチルのような注射可能なエステルなどが用いられることができる。坐剤基剤としては、ウイテプゾール(witepsol)、マクロゴ-ル、ツイン(tween)61、カカオ脂、ラウリン脂、グリセロゼラチンなどが用いられることができる。
【0054】
また他の一つの様態として、本発明は、本発明による前記細胞外小胞の製造方法を提供する。具体的には、(a)細胞外小胞およびポリ乳酸を含有した体外培養用マトリックスゲルにヒト間葉系幹細胞を接種するステップと、(b)前記間葉系幹細胞を、HLA-Gを分泌発現する免疫寛容特性を有する栄養膜細胞由来細胞外小胞およびヒト間葉系幹細胞から肝細胞分化時に分泌される細胞外小胞を含有する無血清培地で継代培養するステップと、(c)前記継代培養された間葉系幹細胞を培養プレートに接種し、無血清培地で培養して、培養上清液を獲得するステップと、(d)培養上清液を遠心分離、濾過および分離するステップとを含む、本発明による細胞外小胞の製造方法を提供することができる。
【0055】
前記(a)ステップで細胞外小胞およびポリ乳酸は1:1~1:20重量比で混合して体外培養用マトリックスゲルを製造することができる。また、前記(a)ステップで前記ヒト間葉系幹細胞は5000~15000細胞/cmの密度で接種されることであり得る。
【0056】
前記(a)ステップの細胞外小胞は、これに限定されないが、(a-1)ヒト羊膜および羊水由来間葉系幹細胞を、ヒト間葉系幹細胞由来細胞外小胞を5~50%(v/v)含有する凍結保存用組成物で凍結保管するステップと、(a-2)前記凍結保管されたヒト羊膜および羊水由来間葉系幹細胞を共培養用プレートの下端および上端に接種するステップと、(a-3)無血清培地で共培養して培養上清液を獲得するステップと、(a-4)培養上清液を遠心分離および濾過するステップとを含んで製造されるものであり得る。
【0057】
ここで、前記(a-1)ステップのヒト間葉系幹細胞の凍結保管は異種抗原を排除するためのことであり得、-80℃の超低温冷凍庫で凍結保管することであり得る。また、前記(a-2)ステップの接種はそれぞれ18000~22000細胞/cmの密度で接種することであり得る。また、前記(a-3)ステップの共培養は114~126時間行うことであり得る。また、前記(a-4)ステップで培養上清液は遠心分離および0.45umフィルタリングを2回実施して分離することであり得る。
【0058】
前記(a)ステップの細胞外小胞は、栄養膜細胞でHLA-Gタンパク質のmRNA発現を促進させるプロゲステロンを活性化させるヒト絨毛性ゴナドトロピン(human Chorionic Gonadotropin、hCG)および胎盤成長因子(Plancental Growth Factor、PlGF)、栄養膜細胞でHLA-Gタンパク質の自己分泌を促進させるインターロイキン-1β(Interleukin 1 beta、IL-1β)、インターロイキン-6(Interleukin 6、IL-6)、インターロイキン-10(Interleukin 10、IL-10)、トランスフォーミング増殖因子-β(Transforming Growth Factor beta、TGF-β)、インターフェロン-γ(Interferon gamma、IFN-γ)および腫瘍壊死因子-α(Tumor Necrosis Factor alpha、TNF-α)を含むものであり得る。
【0059】
前記(b)ステップの栄養膜細胞由来細胞外小胞は、これに限定されないが、(b-1)ヒト羊膜および羊水由来間葉系幹細胞の無血清培地内の共培養から得られた細胞外小胞およびヒアルロン酸を含有した体外培養用マトリックスゲルに栄養膜細胞を接種するステップと、(b-2)前記栄養膜細胞を無血清培地で継代培養するステップと、(b-3)前記継代培養された栄養膜細胞を培養プレートに接種し、無血清培地で培養して培養上清液を獲得するステップと、(b-4)培養上清液を遠心分離、濾過および分離するステップとを含んで製造されるものであり得る。
【0060】
ここで、前記(b-1)ステップの細胞外小胞およびヒアルロン酸は1:1~1:20重量比で混合して体外培養用マトリックスゲルを製造することができる。また、(b-1)ステップで栄養膜細胞は5000~15000細胞/cmの密度で接種されるものであり得る。また、(b-3)ステップで継代培養された栄養膜細胞は、洗浄後、一般培養プレートに10000~20000細胞/cmの密度で接種後、無血清培養90~100時間経過後、培養上清液を獲得するものであり得る。また、前記(b-4)ステップで培養上清液は遠心分離および0.45umフィルタリングを2回実施して分離するものであり得る。
【0061】
前記(b)ステップの栄養膜細胞由来細胞外小胞は、免疫寛容を誘導するHLA-G1およびHLA-G5タンパク質、HLA-Gタンパク質のmRNA発現を促進させるプロゲステロン、栄養膜細胞でプロゲステロン分泌を活性化させるヒト絨毛性ゴナドトロピンおよび胎盤成長因子を含むものであり得る。
【0062】
また、前記(b)ステップの栄養膜細胞は、これに限定されないが、(b-1)ヒト羊膜および羊水由来間葉系幹細胞の無血清培地内の共培養から獲得された細胞外小胞およびヒアルロン酸を含有した体外培養用マトリックスゲルに栄養膜細胞を接種するステップと、(b-2)前記栄養膜細胞を無血清培地で継代培養するステップとを含んで製造されるものであり得る。
【0063】
ここで、前記(b-1)ステップの細胞外小胞およびヒアルロン酸は1:1~1:20重量比で混合して体外培養用マトリックスゲルを製造することができる。また、(b-1)ステップで栄養膜細胞は5000~15000細胞/cmの密度で接種されるものであり得る。
【0064】
前記(b)ステップの栄養膜細胞は、HLA-G1およびHLA-G5タンパク質を含有する細胞外小胞を分泌発現するものであり得る。具体的には、前記HLA-G1およびHLA-G5タンパク質を全部含む細胞外小胞を持続的に分泌発現するものであり得る。
【0065】
前記(b)ステップの肝細胞分化の時に分泌される細胞外小胞は、これに限定されないが、(b-1)ヒト骨髓、脂肪、臍帯血、胎盤、羊膜上皮、絨毛膜、臍帯および羊水由来間葉系幹細胞から選択される1種以上の間葉系幹細胞を培地に接種するステップと、(b-2)前記間葉系幹細胞を肝細胞分化培地で無血清培養して培養上清液を獲得するステップと、(b-3)培養上清液を遠心分離、濾過および分離するステップとを含んで製造されるものであり得る。
【0066】
ここで、前記(b-1)ステップの間葉系幹細胞は5×10細胞/cm密度で接種されるものであり得る。また、前記(b-3)ステップで培養上清液は遠心分離および0.45umフィルタリングを2回実施して分離するものであり得る。
【0067】
実施形態
以下、実施例を通じて本発明の構成および効果についてより詳しく説明する。これら実施例は本発明を例示するためのものであって、本発明の範囲がこれら実施例によって限定されるのではない。
【0068】
実施例1:免疫寛容特性誘導のための栄養膜細胞の体外培養用マトリックスゲルの製造
【0069】
免疫寛容特性を誘導することができる栄養膜細胞の体外培養のためにマトリックスゲルを製造した。
【0070】
より具体的には、細胞外小胞に含有されることができる異種抗原を排除するために、ヒト羊膜および羊水由来間葉系幹細胞をウシ胎児血清(Fetal Bovine Serum、FBS)を代替してヒト間葉系幹細胞由来細胞外小胞を含有した凍結保存組成物で-80℃の超低温冷凍庫で3週間保管した。保管された幹細胞をそれぞれ解凍した後、共培養のために、マルチディッシュ(multi dish)(ThermoFisher Scientific Inc.,Rockford、IL USA、Cat.#140663)の下段プレートには羊膜由来幹細胞、上段インサートには羊水由来幹細胞を無血清DMEM/F12培地にそれぞれ20000細胞/cm密度でそれぞれ分注して37℃の温度、5%COインキュベーターで120時間共培養をした後収去した培養上清液を遠心分離および0.45umフィルタリングを2回実施して分離したヒト羊水および羊膜由来幹細胞共培養細胞外小胞を獲得した。そして、獲得した細胞外小胞に本発明者らが栄養膜細胞で持続的なHLA-G分泌発現に必要であることと仮定したタンパク質の含有有無をそれぞれのELISAキットを利用して分析した結果、栄養膜細胞でHLA-Gタンパク質mRNA発現促進に直接関与するプロゲステロンの分泌発現を促進させるhCG、PlGF および栄養膜細胞と脱落膜兔疫細胞間の相互作用で分泌されるIL-1β、IL-6、IL-10、TGF-β、IFN-γおよびTNF-αのようなサイトカインが全部含有されていることを確認することができた(表1)。
【0071】
【表1】
【0072】
上記のような方法に収去されたヒト羊水および羊膜由来幹細胞共培養細胞外小胞溶液にpHが6.6~6.8になるようにヒアルロン酸粉末を追加してボルテックスでよく混合して製造された体外培養用マトリックスゲルを培養プレートに分注した後、バイブレーター(vibrator)の上で振って均一に分散されるようにした後、栄養膜細胞を分注し、次に無血清DMEM/F12K培地で5~7日の間隔で継代培養をしながら栄養膜細胞の増殖率および培養上清液に含有されたHLA-Gタンパク質の濃度を測定した。
【0073】
その結果、図3に示したように、同じ細胞密度で体外培養用マトリックスゲルが塗布された培養プレートに分注して無血清DMEM/F12K培地で培養された栄養膜細胞の増殖率は、一般培養プレートに分注してFBS10%含有したDMEM/F12K培地で培養された対照群に比べて、継代培養が行われるほどさらに増加して5パッセージまで継代培養が行われる場合、対照群に比べて約5倍以上細胞増殖率がより優れるという点を確認することができた。
【0074】
これを通じて、本発明の体外培養用マトリックスゲルが栄養膜細胞の増殖においてウシ胎児血清(FBS)を上手く代替できたことを確認した(図3)。
【0075】
また、体外培養用マトリックスゲル上で培養された栄養膜細胞が標的タンパク質を持続的に分泌することができるかを確認するために、継代培養をしながらそれぞれの継代培養時に獲得された培養上清液の可溶性HLA-G(sHLA-G)タンパク質の濃度を測定した。
【0076】
より具体的には、sHLA-Gタンパク質の濃度はHLA-G1およびHLA-G5タンパク質に共通で存在する「β2m(β2-マイクログロブリン)」部分に結合するMEMG/9抗体が用いられたHLA-G ELISAキット(LS Bio、LS-F22591)を用いて栄養膜細胞の継代培養中に獲得した培養上清液でsHLA-Gタンパク質の濃度を測定した。
【0077】
その結果、図4に示したように、体外培養用マトリックスゲルで培養された栄養膜細胞の培養上清液のsHLA-Gタンパク質の濃度は継代培養を行うほどますます増加することを確認した。一般培養プレートで培養した栄養膜細胞では継代培養を行うほど培養上清液に含有されたsHLA-G濃度がますます減少することを確認した(図4)。
【0078】
これを通じて、本発明の体外培養用マトリックスゲル培養が一般培養プレート培養よりも免疫寛容特性タンパク質であるHLA-Gタンパク質の持続的な分泌誘導においてより優れることを確認した。
【0079】
実施例2:標的細胞への免疫寛容特性の転写のための免疫寛容化された栄養膜細胞由来細胞外小胞の製造
【0080】
前記実施例1で獲得した細胞外小胞を標的細胞で転写することができるようにして、HLA-Gタンパク質による免疫寛容特性を有することができる培養方法を考案した。
【0081】
具体的には、上記実施例1で製造された体外培養用マトリックスゲルで培養された栄養膜細胞を無血清DMEM/F-12K培地に15000細胞/cm密度で分注して37℃の温度、5%COインキュベーターで96時間培養した後収去した培養上清液を遠心分離および0.45umフィルタリングを2回実施して分離することにより、HLA-Gタンパク質による免疫寛容特性を有する栄養膜細胞由来細胞外小胞を獲得した。そして、獲得した細胞外小胞に本発明者らが標的細胞でも持続的なHLA-G分泌発現されることができるように免疫寛容特性の転写に必要であると予想したプロゲステロン、hCG、PlGFおよびHLA-G5タンパク質の含有有無をそれぞれのELISAキットを利用して分析した。より具体的には、HLA-G5濃度はHLA-G5タンパク質のみに存在する「Intron 4」部分に結合する「5A6G7」抗体が用いられたELISAキット(MyBiosource、MBS267094)を利用して測定した。
【0082】
【表2】
【0083】
その結果、表2に示したように、前記体外培養用マトリックスゲルで獲得した栄養膜細胞由来細胞外小胞にはHLA-G5、プロゲステロン、hCGおよびPlGFタンパク質が全部含有された一方、一般培養プレートで獲得した細胞外小胞では全く検出されなかったことを確認した(表2)。
【0084】
これを通じて、本発明の体外培養用マトリックスゲル培養が一般培養プレート培養よりも免疫寛容特性の転写効果誘導において優れることを確認した。
【0085】
実施例3:LDHBおよびPGC-1αを含有する抗癌用細胞外小胞の製造方法
【0086】
本発明の抗癌用細胞外小胞を製造する。
【0087】
より具体的には、標的細胞でLDHBが含有された細胞外小胞の分泌誘導のために、ヒト骨髓、脂肪、臍帯血、胎盤、羊膜上皮、絨毛膜、臍帯および羊水由来間葉系幹細胞の中で選択される1種の間葉系幹細胞を60%DMEM LG(Gibco、11885)培地に40%MCDB201(Signa、M6770)、20ng/ml EGF、10ng/ml bFGF、10ng/ml BMP-4および1%ペニシリン/ストレプトマイシンが含有された肝細胞分化開始培地に5×10細胞/cm密度で接種し、37℃の温度、5%CO環境のインキュベーターで培養した。その後、前記間葉系幹細胞に肝細胞分化培地(60%DMEM LG(Gibco、11885)に40%MCDB201(Signa、M6770)、20ng/ml HGF、10ng/ml bFGFおよび1%ペニシリン/ストレプトマイシンが含有された分化培地)で7日或いは14日間分化を誘導しながら収去した培養上清液を遠心分離および0.45umフィルタリングを2回実施して分離したヒト間葉系幹細胞の肝細胞分化時に分泌される細胞外小胞を獲得した。
【0088】
また、標的細胞でLDHB、PGC-1αおよびPGC-1α mRNA転写促進因子を含有する免疫寛容化された細胞外小胞を製造するために、実施例1で製造された体外培養用マトリックスゲルに対して乳酸刺激によるPGC-1α分泌誘導のためにヒアルロン酸の代りにポリ乳酸を添加した体外培養用マトリックスゲルを製造した。ポリ乳酸含有体外培養用マトリックスゲルが分注された培養プレートにヒト羊水由来間葉系幹細胞(hAF-MSCs)を1.5×10細胞/cm密度で接種し、実施例2のHLA-Gタンパク質を常時分泌発現する免疫寛容特性が誘導された栄養膜細胞由来細胞外小胞および実施例3のヒト間葉系幹細胞の肝細胞分化時に分泌される細胞外小胞をそれぞれ10%v/v含有した無血清DMEM/F-12培地で培養し、標的細胞でPGC-1αの発現をさらに促進させるための運動刺激を与えるために、プレートシェーカー(plate shaker)を37℃の温度、5%CO環境のインキュベーターに設置して培養した。
【0089】
3パッセージまで継代培養を行った後、培養されたhAF-MSCを洗浄した後マトリックスゲルのない一般プレートに2.0×10細胞/cm密度で接種し、無血清DMEM/F-12培地で37℃の温度、5%COインキュベーターで120時間培養した。収去された培養上清液を遠心分離および0.45umフィルタリングを2回実施して分離した免疫寛容特性が誘導された癌治療用細胞外小胞を獲得してELISAキットを利用してタンパク質を測定した。
【0090】
その結果、表3に示したように、免疫寛容特性を有するようにするHLA-G5タンパク質および標的細胞で持続的なHLA-Gタンパク質の分泌誘導に必須なhCGおよびPlGFタンパク質、そして癌細胞内で乳酸をピルビン酸に転換させる酵素であるLDHBおよびこの発現を促進させるPGC-1α、そして標的細胞および癌細胞でPGC-1α mRNA発現および転写を促進させるCaMKおよびMEF2タンパク質などが全部含有されていることを確認した(表3)。
【0091】
【表3】
【0092】
これを通じて、前記培養を通じて獲得した細胞外小胞は抗癌有効成分を含んでいるので、癌治療用薬学組成物として用いられることができることを予想することができた。
【0093】
実施例4:LDHBおよびPGC-1αを含有する抗癌用細胞外小胞の体外(in vitro)抗癌効能検証
【0094】
前記細胞外小胞の抗癌効能を検証するために、乳癌細胞株に細胞外小胞吸収実験を実施した。
【0095】
より具体的には、前記細胞外小胞が癌細胞に吸収されるか否かを確認するために、2種類の乳癌細胞株に対する細胞外小胞吸収実験を実施した。前記細胞外小胞をPKH24(Sigma)蛍光染料でラベリングした後、MDA-MB231およびMCF7ヒト乳癌細胞株に処理して24時間培養した後、柔細胞分析を通じて本発明の抗癌用細胞外小胞が吸収された乳癌細胞株を確認した。
【0096】
【表4】
【0097】
その結果、表4に示したように、95%以上の乳癌細胞株で本発明の抗癌用細胞外小胞が吸収されていることを確認することができた。
【0098】
また、前記細胞外小胞の抗癌効能を検証するために、乳癌細胞株の培養上清液内の乳酸塩(Lactate)およびpH変化を測定した。
【0099】
その結果、表4に示したように、培養上清液で乳酸塩(Lactate)およびpHを測定した結果、細胞外小胞を処理しない対照群対比乳酸濃度はよほど低く、pHは7.0以上を維持していることを確認した。
【0100】
これを通じて、本発明の細胞外小胞が癌細胞株に効果的に吸収され、細胞外小胞に含有されたLDHB酵素およびLDHB酵素の発現を向上させるPGC-1α、そしてPGC-1αの細胞内転写を促進させるCaMK、MEF2およびcAMPが癌細胞に伝達されて、癌細胞免疫回避および周辺微小環境の特徴である高い乳酸濃度と低いpHの効率的な阻害を通じて癌細胞のエネルギー代謝を正常化する効果を有していることを確認した。
【0101】
実施例5:LDHBおよびPGC-1αを含有する抗癌用細胞外小胞の体内(in vivo)抗癌効能検証
【0102】
前記細胞外小胞の抗癌効能を検証するために、マウス癌モデルで細胞外小胞を注入した後の腫瘍大きさ減少実験を実施した。
【0103】
より具体的には、3月齢BALB/c系統のマウスをそれぞれ5匹ずつ対照群および実験群に分離した後、実験群マウスの左側または右側の一方のわき腹皮下に培養された大腸癌細胞株(CT-26 cells、musculus colon carcinoma)2×10細胞/RPMI1640培地100ulを注入した。腫瘍細胞株注入4週後、対照群はPBS 200ul/匹を腹腔内3日の間隔で注入し、実験群は本発明の抗癌用細胞外小胞200ul/匹を腹腔内3日の間隔で注入して、10日の間隔で腫瘍体積を測定した。
【0104】
その結果、図5に示したように、抗癌用細胞外小胞を注入した処理群は対照群に比べて腫瘍体積増加率が顕著に減少したことを確認した。
【0105】
これを通じて、本発明の細胞外小胞が腫瘍成長を抑制する抗癌効能があることを確認することができた。
【0106】
以上の説明から、本発明が属する技術分野における通常の技術者は本発明がその技術的思想や必須特徴を変更することなく他の具体的な形態に実施され得ることが理解できると思われる。これに関して、以上で記述した実施例は全ての面で例示的なもので、限定的でないことを理解すべきである。本発明の範囲は上記詳細な説明よりは特許請求範囲の意味および範囲そしてその同等概念から導出される全ての変更または変形された形態が本発明の範囲に含まれることと解釈されるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】