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特表2022-532411ヒト多能性幹細胞から眼野前駆細胞を得るための方法
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  • 特表-ヒト多能性幹細胞から眼野前駆細胞を得るための方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-14
(54)【発明の名称】ヒト多能性幹細胞から眼野前駆細胞を得るための方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20220707BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20220707BHJP
【FI】
C12N5/071 ZNA
C12N15/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021568355
(86)(22)【出願日】2020-05-14
(85)【翻訳文提出日】2021-11-15
(86)【国際出願番号】 EP2020063531
(87)【国際公開番号】W WO2020229628
(87)【国際公開日】2020-11-19
(31)【優先権主張番号】19174780.7
(32)【優先日】2019-05-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】509091848
【氏名又は名称】ノヴォ ノルディスク アー/エス
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ファン・カルロス・ビジャエスクサ・ラミレス
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス・ヴロナ
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065BD39
4B065CA44
(57)【要約】
本発明は、hPSCから眼野前駆細胞を得るための方法に関し、その眼野前駆細胞は、例えば、網膜色素上皮細胞および/または神経網膜細胞へのさらなる分化に適している。プロトコルは、対象となる細胞の収率が高い単純な方法を提供し、GMP準拠への変換を促進する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト多能性幹細胞から眼野前駆細胞を得るための方法であって、
-前記ヒト多能性幹細胞を培養して、分化細胞を得るステップと、
-前記分化細胞をBMP5(配列番号1)と接触させるステップであって、前記分化細胞が、前記眼野前駆細胞に分化することが可能になる、ステップと、を含む、方法。
【請求項2】
前記眼野前駆細胞が、RPE前駆細胞およびNR前駆細胞などの眼杯前駆細胞、水晶体前駆細胞、ならびに角膜前駆細胞を含むがこれらに限定されない、眼の異なる細胞系統の複数の前駆細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ヒト多能性幹細胞から眼野前駆細胞を得るための方法であって、
-前記ヒト多能性幹細胞を、マトリックスでコーティングされた基質上に播種するステップと、
-細胞培養培地中で前記ヒト多能性幹細胞を培養して、分化細胞を得るステップと、
-前記分化細胞を、Small Mothers Against Decapentaplegic(SMAD)タンパク質シグナル伝達の阻害剤と接触させるステップと、
-前記分化細胞をBMP5(配列番号1)と接触させるステップと、を含み、
前記分化細胞が、前記眼野前駆細胞に分化することが可能になる、方法。
【請求項4】
前記分化細胞を、BMP5(配列番号1)と接触させる、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
BMP5の濃度が、約0.1ng/ml~約2500ng/ml、好ましくは約100ng/ml~約500ng/ml、より好ましくは約150ng/ml~約450ng/ml、さらにより好ましくは約200ng/ml~約400ng/mlである、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記分化細胞を、GW788388、LDN-193189、LY2157299、LY364947、NOGGIN、RepSOX、SB431542、およびTEW-7197からなる群から選択されるSmall Mothers Against Decapentaplegic(SMAD)タンパク質シグナル伝達の阻害剤と接触させる、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記Small Mothers Against Decapentaplegic(SMAD)タンパク質シグナル伝達の阻害剤が、GW788388および/またはRepSOXである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記マトリックスが、ラミニン-511、ラミニン-521、およびラミニン-332、またはそれらの組み合わせからなる群から選択されるラミニンまたはその断片である、請求項2~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記分化細胞を、約5日目~約15日目、好ましくは約6日目~約12日目、より好ましくは約6日目~約8日目、さらにより好ましくは約7日目から、BMP5(配列番号1)と接触させる、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記分化細胞を、約0日目~約15日目、好ましくは約14日目まで、より好ましくは約13日目まで、さらにより好ましくは約12日目までにSmall Mothers Against Decapentaplegic(SMAD)タンパク質シグナル伝達の阻害剤と接触させる、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記眼野前駆細胞が、RPE前駆細胞であり、前記方法が、
-前記分化細胞をGSK3の阻害剤と接触させるステップをさらに含む、請求項2~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記分化細胞を、約7日目~約15日目、好ましくは約12日目から前記GSK3の阻害剤と接触させる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記GSK3の阻害剤が、CHIR99021である、請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
眼野前駆細胞のインビトロ細胞集団であって、前記眼野前駆細胞の少なくとも40%が、PAX6およびOTX2、ならびにVSX2および/またはMITFのうちの少なくとも1つを共発現する、眼野前駆細胞のインビトロ細胞集団。
【請求項15】
前記眼野前駆細胞の少なくとも50%、60%、70%、80%、または90%が、PAX6およびOTX2を共発現し、前記眼野前駆細胞の少なくとも10%、20%、30%、40%、50%が、VSX2および/またはMITFのうちの少なくとも1つをさらに共発現する、請求項14に記載の眼野前駆細胞のインビトロ細胞集団。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト多能性幹細胞(hPSC)から眼野前駆細胞(eye field progenitor cell)を効率的に得るための方法に関し、該眼野前駆細胞は、眼の状態の治療のための分化した細胞をさらに提供するのに有用である。本発明はまた、眼野前駆細胞のインビトロ細胞集団、および眼の状態の治療におけるそれらの使用に関する。このプロトコルは、単純かつ効率的な方法を提供すると同時に、good manufacturing practice(GMP)準拠への変換も促進する。
【0002】
配列表の参照による組み込み
本出願は、電子形式の配列表とともに提出される。配列表の内容全体が、参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
世界保健機関によると、世界中で3億1,400万人の人々が視力障害を有し、そのうち2億6,900万人が低視力を有し、4,500万人が失明していると推定される(Resnikoff S.,2008)。これらの眼科学的障害の一部は、白内障、加齢黄斑変性(AMD)、緑内障、角膜失明、および網膜色素変性(RP)である。
【0004】
AMDは、網膜の黄斑部に影響を及ぼし、進行性の中心視力の低下を引き起こす疾患である。AMDの正確な病因は完全には解明されていないかもしれないが、網膜色素上皮の萎縮が起こり、その後に神経網膜細胞などの必須の網膜構造の変性が続き、それによって重度の視力障害を引き起こすことは、十分に確立されているように思われる。現在、利用可能な治療法は限られており、それらの治療法のうち、失われた網膜細胞を再生し、視力を修復するものはない。
【0005】
例えば、置換療法のための健康な網膜色素上皮および神経網膜細胞の細胞移植は、例えば、網膜変性を遅延または抑制し、変性網膜を再生し、網膜機能を強化することによって失明を予防し、さらに不完全な視力を回復するためのAMDの治療の実行可能な方法であると考えられる。
【0006】
幹細胞は、そのような細胞移植のための有用な細胞療法を提供する有望な候補である。多能性幹細胞の可塑性は、AMDおよびRPが挙げられるがこれらに限定されない、異なるタイプの網膜症に適用するために、ヒトの眼の発達および再生を研究するための新たな可能性を提供する。しかしながら、置換療法のための網膜色素上皮(RPE)細胞および神経網膜(NR)細胞などの細胞を得ることは、依然として課題のままである。ここ数年にわたって、hPSCの分化のための多くのプロトコルが開発されており、これらは、完全な眼杯形態形成を反復するか、または特定の網膜細胞サブタイプの生成の最大化を目的とする。RPE細胞を含む異なる細胞サブタイプ、ならびに光受容体(PR)および網膜神経節細胞(RGC)などの特定のNR細胞サブタイプに対するプロトコルについて述べられてきた。後期眼前駆細胞に向かう発達は一般的であり、分化における中間細胞型は、眼杯前駆細胞と称され得る。利用可能なプロトコルのほとんどは、長い分化期間を必要とし、これは部分的には、眼杯前駆細胞に到達することになる。より広範な前駆細胞は、本明細書において初期眼野前駆細胞と称され、これは、PRおよびRGCなどのNR細胞、RPE細胞、水晶体細胞、ならびに角膜輪部幹細胞などの角膜細胞が挙げられるがこれらに限定されない、異なるタイプの眼細胞を生成する能力を有する細胞を含む。多くの場合、分化プロトコルはまた、成長因子などの複数の構成要素に依存しており、これは高価であり、かつ/またはGMPに準拠させることが困難である場合がある。さらに、プロトコルの多くは、限られた細胞仕様および再現性に悩まされる。
【0007】
本発明の目的は、これらの課題のいくつかを克服すること、特に、様々な後期のより成熟した眼前駆細胞へとさらに分化する能力を伴い、二次元設定で初期眼野前駆細胞を得るためのより短く、より効率的で、かつ堅牢なプロトコルを提供することである。本発明の別の目的は、GMP準拠への変換を促進し得る単純なプロトコルを提供することである。
【発明の概要】
【0008】
前述の目的は、本発明の態様によって達成される。さらに、本発明はまた、例示的な実施形態の開示から明らかになるさらなる問題も解決し得る。
【0009】
本発明の態様は、hPSCから眼野前駆細胞を得るための改善された方法に関し、方法は、hPSCを培養するステップと、hPSCを、マトリックスでコーティングされた基質上に播種するステップと、細胞培養培地中でhPSCを培養して、分化細胞を得るステップと、分化細胞を、Small Mothers Against Decapentaplegic(SMAD)タンパク質シグナル伝達経路の阻害剤と接触させるステップと、分化細胞をBMP5と接触させるステップとを含み、分化細胞は、眼野前駆細胞に分化することが可能になる。
【0010】
この改善された方法は、後期眼前駆細胞へのさらなる分化に適した多数の細胞を促進する。したがって、本発明の別の態様は、眼野前駆細胞のインビトロ細胞集団に関し、高い割合の眼野前駆細胞が、本発明の方法に従って得ることが可能なPAX6およびOTX2、ならびにVSX2およびMITFからなる群のうちの少なくとも1つを共発現する。
【0011】
本発明者らは、幹細胞における骨形成タンパク質(BMP)シグナル伝達経路を活性化することが、様々なより成熟した眼前駆細胞へとさらに分化する可能性を伴い、分化細胞を初期眼野前駆細胞へと効果的に成熟させることを示している。特に、本発明者らは、BMP5でBMPシグナル伝達経路を活性化することが、細胞を分化するのに非常に有効であることを発見した。眼野前駆細胞がより成熟した細胞へとさらに分化され得る、こうした眼野前駆細胞の例としては、RPE、PRおよびRGCなどのNR細胞、水晶体細胞、ならびに角膜輪部幹細胞(LSC)などの角膜細胞が挙げられるが、これらに限定されない。
【0012】
本発明の一態様では、眼野前駆細胞は、RPE前駆細胞である。したがって、本発明の態様はまた、hPSCからRPE前駆細胞を得るための改善された方法に関し、方法は、hPSCを培養するステップと、hPSCを、マトリックスでコーティングされた基質上に播種するステップと、細胞培養培地中でhPSCを培養して、分化細胞を得るステップと、分化細胞をSMADタンパク質シグナル伝達の阻害剤と接触させるステップと、分化細胞をBMP5と接触させるステップと、分化細胞をGSK3の阻害剤と接触させるステップとを含み、分化細胞は、RPE前駆細胞に分化することが可能になる。
【0013】
本発明の一態様では、眼野前駆細胞は、神経網膜(NR)前駆細胞である。したがって、本発明の態様はまた、hPSCからNR前駆細胞を得るための改善された方法に関し、方法は、hPSCを培養するステップと、hPSCを、マトリックスでコーティングされた基質上に播種するステップと、細胞培養培地中でhPSCを培養して、分化細胞を得るステップと、分化細胞をSMADタンパク質シグナル伝達の阻害剤と接触させるステップと、分化細胞をBMP5と接触させるステップとを含み、分化細胞は、RPE前駆細胞に分化することが可能になる。
【0014】
発明者らはさらに、本発明によるプロトコルが、二次元設定において短期間で初期眼野前駆細胞を得るための堅牢かつ効率的な方法を提供することを示している。プロトコルは、高収率の対象となる細胞を提供し、方法は、GMP準拠への変換を促進する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、12時間後のヒト胚性幹細胞(hESC)の初期付着に対する異なるラミニンの効果を示す。明視野写真は、LN-521上で成長し維持されたhESCが、LN-111とは対照的に、LN-332への優れた付着をどのように示すかを示す。LN-332ラミニンは、単一細胞播種後のhESC付着に対するプラスの効果を示す。LN-332は、さらなる分化に使用され得る。
図2A図2Aおよび2Bは、VSX2およびMITF陽性細胞へのhESCの分化に対する、ヒトBMP5およびアクチビンAの効果を示す。BMP5またはアクチビンAを含まず、MITFまたはVSX2のレベルが低い条件1および2を示す免疫蛍光。対照的に、12日目からのBMP5の添加(条件3および4)は、MITFおよびVSX2に対して陽性の細胞数を増加させる。BMP5と組み合わせた、15日目からのアクチビンAの添加は、明確なさらなる効果を有しない。対照的に、12日目からのアクチビンAの単独の使用、または15日目からのBMP5との組み合わせ(条件5および6)は、MITFおよびVSX2に対して陽性のより少ない数の細胞を生成する。要約すると、BMP5のみが、MITF/VSX2陽性細胞を生成する強力なプラスの効果を示す。IHH(インディアンヘッジホッグ)およびDKK2(Dickkopf WNTシグナル伝達経路阻害剤2)の組み合わせは、MITF/VSX2陽性細胞の生成に役立ち得る。
図2B図2A参照。
図3図3は、BMP5が二重PAX6/OTX2陽性細胞の生成を誘導することを示す。小分子GW788388、NOGGIN、およびEndo IWR1を用いた12日間の初期治療、続くBMP5、IHH、およびDKK2を用いた治療は、免疫蛍光によってアドレス指定される多数のPAX6/OTX2二重陽性細胞を生成する。DAPIは、すべての細胞の核染色に使用される。
図4図4は、BMP5、およびGSK3阻害剤とのBMP5の組み合わせを示す。BMP5の使用は、免疫蛍光によってアドレス指定されるMITFおよびVSX2陽性細胞の生成(2段目)を誘導し、神経網膜前駆細胞の生成を示す。対照的に、GSK3阻害剤CHIR99021の添加(下段)は、VSX2の発現を劇的に遮断し、MITFの発現および敷石状形態を有するMITF陽性細胞の生成を強化する。これは、RPE前駆細胞を示す。1段目、BMP5なしの対照。DAPIは、すべての細胞の核染色に使用される。
図5図5は、RNA発現分析を示す。グラフは、リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(PCR)からのサイクル閾値(CT)の値を示す。BMP5を有する分化した細胞は、21日目に採取され、RNAが抽出され、cDNAに変換され、RNA発現分析が実施される。hESCは、比較として使用され、CT値は、mRNAレベルに反比例する。MITF、PAX6、およびVSX2の発現は、hESCと比較してBMP5分化した細胞で上方制御される。
図6図6は、BMP5分化した細胞とBMP5/CHIR99021との間の細胞核の比較を示す。BMP5/CHIR99021処置細胞の異なる核組織化に注目し、上皮形態、およびRPE前駆細胞を示す典型的な敷石状形態を示す。DAPIは、すべての細胞の核染色に使用される。
図7図7は、BMP5/CHIR99021の組み合わせが、多数のMITF陽性細胞を生成することを示す。この図は、BMP5およびCHIR99021の両方が組み合わせて使用される場合の、多数のMITF陽性細胞および高純度(80%超、免疫蛍光)を示す。左側には、RPE前駆細胞を示す敷石状形態を有するMITF陽性細胞の高純度および均質性が示される。
図8図8は、NOGGINと組み合わせてSMAD阻害剤RepSOXを使用し、その後にBMP5およびCHIR99021を用いて処置して、我々のBMP5ベースのプロトコルが、RPE前駆細胞同一性を有する眼野前駆細胞を生成することを示す。これは、OTX2およびPAX6陽性細胞の免疫蛍光とともに、PAX6、SIX3、およびMITFの遺伝子発現の増加によって示される。
図9図9は、フローサイトメトリーによる、GW788388、CHIR99021、およびBMP5で誘導されたhESC由来RPE前駆細胞のタンパク質発現の分析を示す。細胞の40%超が、マーカーPAX6/MITFの共発現を示す。
図10図10は、フローサイトメトリーによる、GW788388およびBMP5で誘導されたhESC由来神経網膜前駆細胞のタンパク質発現の分析を示す。細胞の50%超が、マーカーPAX6/VSX2の共発現を示す。
図11図11は、単一細胞RNAシークエンシングによって分析された、示されたマーカー遺伝子を発現するRPE前駆細胞同一性を有するhESC由来眼野前駆細胞の割合(表)を示す。この表には、RPEおよび眼杯を示す遺伝子の導入が見られるが、細胞は、他の胚葉(内胚葉および中胚葉)のマーカーを発現しない。各ベン図は、RPE前駆細胞、PAX6/MITF/PMELおよびPAX6/PMEL/SERPINF1遺伝子に特徴的な遺伝子を共発現する細胞の発現パターンを示す。
図12図12は、角膜およびLSCのマーカーを発現する細胞数を有するベン図を示す。TP63/TFAP2B/S100A14の三重陽性細胞の割合は、0.8%である。
図13図13は、12~21日目のCHIR99021とともに、分化の7~21日目のBMP5処置の異なる濃度(0、0.1、200、および1000ng/ml)の効果を示す。RPE前駆細胞関連遺伝子のRNA発現を定量化した。200ng/mlおよび1000ng/mlのBMP5処置が、RPE前駆遺伝子の発現を促進することに留意されたい。
図14図14は、7~21日目のBMP5処置の異なる濃度(0、0.1、200、および1000ng/ml)の効果を示す。神経網膜前駆遺伝子のRNA発現を定量化した。200ng/mlおよび1000ng/mlのBMP5処置は、神経網膜前駆細胞遺伝子の発現を促進する。
図15図15は、RPE前駆細胞遺伝子発現上の異なるBMPアイソフォームの比較を示す。BMP5の効果は、BMP4、BMP7、およびBMP4/7ヘテロ二量体の効果と比較される。BMP5は、棒グラフに示されるRPE前駆遺伝子を誘導することが他のBMPよりも優れている。
【発明を実施するための形態】
【0016】
別段の記載がない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。本発明の実践は、別段の指示がない限り、当業者に既知の従来の化学、生化学、生物物理学、分子生物学、細胞生物学、遺伝学、免疫学、および薬理学の方法を用いる。
【0017】
すべての見出しおよび小見出しが、本明細書では便宜上使用されているだけであり、決して本発明を限定するものとして解釈されるべきではないことに留意されたい。
【0018】
本明細書に提供されるありとあらゆる例および例示的な用語(例えば、「など(such as)」)の使用は、単に本発明をより良く理解するよう意図されており、特許請求の範囲に別途記載されない限り、本発明の範囲に制限を課さない。本明細書中のいずれの語句も、特許の範囲にない任意の要素が本発明の実施に必須であることを示すと解釈すべきではない。
【0019】
本出願全体を通して、細胞を分化するためのプロセスを指す場合の「方法」および「プロトコル」という用語は、互換的に使用される。
【0020】
本明細書で使用される場合、「a」または「an」または「the」は、1つ、または2つ以上を意味し得る。本明細書に別段示されない限り、単数形で提示される用語は、複数の状況も含む。
【0021】
また、本明細書で使用される場合、「および/または」は、関連する列挙された項目のうちの1つ以上のうちのいずれかおよびすべての可能な組み合わせ、ならびに代替(「または」)で解釈される場合の組み合わせの欠如を指し、かつそれらを包含する。さらに、本発明はまた、本発明のいくつかの実施形態では、本明細書に記載される任意の特徴または特徴の組み合わせが除外または省略され得ることも企図する。
【0022】
本発明の細胞、化合物、または薬剤の量、用量、温度などの測定可能な値を指す場合に本明細書で使用される場合、「約」という用語は、指定された量の5%、1%、0.5%、またはさらには0.1%の変動を包含するよう意図される。
【0023】
本明細書で使用される場合、プロトコルに関する「日」という用語は、ある特定のステップを実施するための特定の時間を指す。概して、かつ別段の記載がない限り、「0日目」は、プロトコルの開始を指し、これは例えば、幹細胞をプレーティングすること、または幹細胞をインキュベーターに移すこと、または幹細胞の移植前に、現在の細胞培養培地中の幹細胞を化合物と接触させることよるが、これらに限定されない。典型的には、プロトコルの開始は、未分化幹細胞を異なる細胞培養培地および/または容器に移すことにより、例えば、限定されないが、播種もしくはインキュベートすること、および/または未分化幹細胞を、分化プロセスが開始されるような方法で未分化幹細胞に影響を及ぼす化合物と最初に接触させることによる。
【0024】
1日目、2日目などの「X日目」に言及する場合、これは、0日目のプロトコル開始に関連するものである。当業者は、別段の指定がない限り、ステップを実施するための正確な時刻が変動し得ることを認識するであろう。したがって、「X日目」は、±10時間、±8時間、±6時間、±4時間、±2時間、または±1時間などの時間範囲を包含するよう意図される。
【0025】
本明細書で使用される場合、「約X日目~約Y日目」という語句は、事象が開始する日を指す。この語句は、その事象が開始し得る日の間隔を提供する。例えば、「細胞が約3日目~約5日目に分化因子と接触する」場合、これは、すべての選択肢:「細胞が約3日目から分化因子と接触する」、「細胞が約4日目から分化因子と接触する」、および「細胞が約5日目から分化因子と接触する」を包含するものとして解釈される。したがって、この語句は、3日目~5日目の間にのみ起こる事象として解釈されるべきではない。これは、「約X日目~約Y日目」という語句に準用する。
【0026】
以下、本発明による方法は、非限定的な実施形態および実施例によってより詳細に記載される。眼野前駆細胞を得るための方法が提供され、得られた細胞は、成熟RPE細胞、NR細胞、水晶体細胞、および角膜細胞などの細胞へのさらなる分化において、hPSCからの中間体とみなされ、これはまた、白内障、AMD、角膜失明、緑内障、およびRPなどの眼の状態の治療の提供に有用であると考えられている。
【0027】
本発明によると、方法は、幹細胞の使用において相殺する。
【0028】
幹細胞
「幹細胞」は、分化能および増殖能(特に自己再生能力)を有するが、分化能を維持する未分化細胞として理解されるべきである。幹細胞は、分化能に従って、全能性幹細胞、多能性幹細胞、多分化能性幹細胞、単能性幹細胞などの亜集団を含む。幹細胞は、発生能によって次に分類される:(1)全能性(すべての胚および胚体外細胞型を生じさせることができることを意味する)、(2)多能性(すべての胚細胞型を生じさせることができることを意味する)、(3)多分化能性(細胞系統のサブセットを生じさせることができるが、すべて特定の組織、臓器、または生理系内であることを意味する(例えば、造血幹細胞(HSC)は、HSC(自己複製)、血液細胞制限少能性前駆細胞、ならびに血液の正常な構成成分であるすべての細胞型および要素(例えば、血小板)を含む子孫を産生することができる))、(4)少能性(多分化能性幹細胞よりも細胞系統のより制限されたサブセットを生じさせることができることを意味する)、ならびに(5)単能性(単一細胞系統を生じさせることができることを意味する(例えば、精子形成幹細胞))。多能性幹細胞は、受精卵、クローン胚、生殖幹細胞、組織中の幹細胞、体細胞などから誘導され得る。多能性幹細胞の例としては、胚性幹細胞(ES細胞)、EG細胞(胚性生殖細胞)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)などが挙げられる。文献中、「胚盤胞由来幹細胞」は、胚性幹細胞、より具体的には、ヒト胚性幹細胞(hESC)と称されることが多い。したがって、本発明で使用される多能性幹細胞は、例えば、WO03/055992およびWO2007/042225に記載されているように、胚盤胞から調製される胚性幹細胞、または市販の細胞もしくは細胞株であり得る。ES細胞株はまた、子宮外胚を破壊することなく、かつ臨床転帰に影響を及ぼすことなく、単一割球から得られ得る(Chung et al.(2006)およびKlimanskaya et al.(2006))。しかしながら、例えば、Yu,et al.(2007)、Takahashi et al.(2007)、およびYu et al.(2009)に開示されるようなOCT4、SOX2、NANOG、およびLIN28などであるがこれらに限定されない、ある特定の転写因子で成体細胞を処置することによって、多能性細胞に再プログラム化される分化成体細胞を含む、任意のhPSCが本発明で使用され得ることがさらに想定される。
【0029】
間葉系幹細胞(MSC)から得られるミューズ細胞(多系統分化ストレス耐性細胞)、および生殖細胞(例えば、精巣)から生成されるGS細胞も、多能性幹細胞に包含される。誘導多能性幹細胞(iPS細胞またはiPSCとしても既知)は、成体細胞から直接生成され得る多能性幹細胞の一種である。多能性関連遺伝子の特定のセットの産物の導入によって、成体細胞は、多能性幹細胞に変換され得る。胚性幹細胞は、胚の破壊なしに得られる内部細胞塊を培養することによって生成され得る。胚性幹細胞は、所与の組織から入手可能であり、市販もされている。
【0030】
本発明の最も一般的な態様では、hPSCから眼野前駆細胞を得るための方法が提供され、方法は、hPSCを培養して、分化細胞を得るステップと、分化細胞をBMP5と接触させるステップとを含み、分化細胞は、眼野前駆細胞に分化することが可能になる。より具体的な態様は、hPSCから眼野前駆細胞を得るための方法に関し、方法は、hPSCを培養するステップと、hPSCを、マトリックスでコーティングされた基質上に播種するステップと、細胞培養培地中でhPSCを培養して、分化細胞を得るステップと、分化細胞をSMADタンパク質シグナル伝達の阻害剤と接触させるステップと、分化細胞をBMP5と接触させるステップとを含み、分化細胞は、眼野前駆細胞に分化することが可能になる。
【0031】
本発明者らは、この態様による方法によって得られる細胞の品質および収率が高いこと、ならびにプロトコルが、GMP準拠に容易に変換する化合物に基づき得ることを発見した。
【0032】
分化
本明細書で使用される場合、「分化する」または「分化」または「分化すること」は、細胞が未分化状態から分化状態に、未成熟状態からあまり未成熟ではない状態に、または未成熟状態から成熟状態に進行するプロセスを指す。
【0033】
眼野前駆細胞
後期眼前駆細胞に向かう発生は一般的であり、分化における中間細胞型は、眼野前駆細胞と称され得る。本明細書で使用される場合、「眼野前駆細胞」という一般用語は、発生初期の前駆細胞の中間および一時的な群を指し、これは、以下が挙げられるがこれらに限定されない、眼の異なる細胞系統の複数の前駆細胞を含む。
【0034】
a)RPE前駆細胞およびNR前駆細胞を含む眼杯前駆細胞、
b)水晶体前駆細胞、ならびに
c)角膜輪部幹細胞(LSC)を含む角膜前駆細胞
眼野前駆細胞は、RPE細胞、NRのすべての異なる細胞型、水晶体のすべての異なる細胞型、および角膜のすべての異なる細胞型が挙げられるがこれらに限定されない、複数の眼細胞に分化する可能性を有する。眼野前駆細胞は、各細胞系統により特異的な他のマーカーとともに、OTX2およびPAX6の時間的発現によって定義される。
【0035】
本明細書で使用される場合、「眼杯前駆細胞」は、NR細胞およびRPEにさらに分化するように指定される前駆細胞を指す。
【0036】
本明細書で使用される場合、「角膜前駆細胞」は、3つの細胞層(上皮、間質、および内皮)ならびにLSCにさらに分化するように指定される前駆細胞を指す。
【0037】
本明細書で使用される場合、「水晶体前駆細胞」は、ヒト水晶体を形成する任意の細胞型にさらに分化するように指定される前駆細胞を指す。
【0038】
本明細書で使用される場合、「角膜輪部幹細胞(LSC)」は、角膜上皮全体を再生する能力を有する幹細胞を指す。LSCは、角膜上皮幹細胞としても知られている。
【0039】
本明細書で使用される場合、「神経網膜前駆細胞」は、OTX2、PAX6、ならびにVSX2およびMITFの時間的発現によって定義される。NR前駆細胞におけるMITFの発現は、分化プロセスの非常に初期の段階に限定される。
【0040】
本明細書で使用される場合、「網膜色素上皮(RPE)前駆細胞」は、OTX2、PAX6、およびMITFの時間的発現、敷石状形態、ならびにVSX2の非存在によって定義される。
【0041】
本明細書で使用される場合、「OTX2」は、オルソデンティクルホメオボックス2遺伝子、転写物、またはタンパク質を指し、これは、眼野前駆細胞を含む胚発生中の前脳構造のマーカーである。
【0042】
本明細書で使用される場合、「PAX6」は、「ペアードボックス6」遺伝子、転写物、またはタンパク質を指し、これは、眼野前駆細胞を含む胚発生中の前脳構造のマーカーである。
【0043】
本明細書で使用される場合、「SIX3」は、「SIXホメオボックス3」遺伝子、転写物、またはタンパク質を指し、これは、眼野前駆細胞のマーカーである。
【0044】
本明細書で使用される場合、「SIX6」は、「SIXホメオボックス6」遺伝子、転写物、またはタンパク質を指し、これは、眼野前駆細胞のマーカーである。
【0045】
本明細書で使用される場合、「MITF」は、「メラノサイト誘導転写因子」遺伝子、転写物、またはタンパク質を指し、これは、RPE前駆細胞のマーカーである。
【0046】
本明細書で使用される場合、「PMEL17」または「PMEL」は、「プレメラノソームタンパク質」遺伝子、転写物、またはタンパク質を指し、これは、RPE前駆細胞およびRPE成熟細胞のマーカーである。
【0047】
本明細書で使用される場合、「SERPINF1」は、「セルピンファミリーFメンバー1」遺伝子、転写物、またはタンパク質を指し、これは、RPE前駆細胞およびRPE成熟細胞のマーカーである。
【0048】
本明細書で使用される場合、「TYR」は、「チロシナーゼ」遺伝子、転写物、またはタンパク質を指し、これは、RPE前駆細胞およびRPE成熟細胞のマーカーである。
【0049】
本明細書で使用される場合、「VSX2」は、CHX10としても既知の「ビジュアルシステムホメオボックス2」遺伝子、転写物、またはタンパク質を指し、これは、神経網膜前駆細胞のマーカーである。
【0050】
本明細書で使用される場合、「TP63」は、「腫瘍タンパク質63」遺伝子、転写物、またはタンパク質を指し、これは、LSCのマーカーである。
【0051】
本明細書で使用される場合、「S100A14」は、「S100カルシウム結合タンパク質A14」遺伝子、転写物、またはタンパク質を指し、これは、LSCのマーカーである。
【0052】
本明細書で使用される場合、「TFAP2B」は、「転写因子AP-2ベータ」遺伝子、転写物、またはタンパク質を指し、これは、LSCのマーカーである。
【0053】
本明細書で使用される場合、「ABCG2」は、「ATP結合カセットサブファミリーGメンバー2」遺伝子、転写物、またはタンパク質を指し、これは、LSCのマーカーである。
【0054】
本明細書で使用される場合、「NANOG」は、「Nanogホメオボックス」遺伝子、転写物、またはタンパク質を指し、これは、多能性細胞のマーカーである。
【0055】
本明細書で使用される場合、「POU5F1」は、「POUクラス5ホメオボックス1」遺伝子、転写物、またはタンパク質を指し、これは、多能性細胞のマーカーである。
【0056】
本明細書で使用される場合、「ZSCAN10」は、「ジンクフィンガーおよびSCANドメイン含有10」遺伝子、転写物、またはタンパク質を指し、これは、多能性細胞のマーカーである。
【0057】
本明細書で使用される場合、「EOMES」は、「エオメソダーミン」遺伝子、転写物、またはタンパク質を指し、これは、中胚葉系統のマーカーである。
【0058】
本明細書で使用される場合、「SOX17」は、「SRYボックス転写因子17」遺伝子、転写物、またはタンパク質を指し、これは、内胚葉系統のマーカーである。
【0059】
当業者は、細胞がこれらのマーカーのうちの1つ以上をさらに分化するにつれて、例えば、上方制御または下方制御されることなどであるがこれに限定されず、変化し得ることを認識するであろう。当業者はまた、対象となっている細胞が、前述のマーカーのみの発現に限定されず、眼野前駆細胞に共通する他のマーカーも発現し得ることを認識するであろう。
【0060】
一実施形態では、本発明は、眼野前駆細胞を得るための方法に関し、眼野前駆細胞の少なくとも80%が、PAX6を発現する。
【0061】
一実施形態では、本発明は、眼野前駆細胞を得るための方法に関し、眼野前駆細胞の約90%が、PAX6を発現する。
【0062】
一実施形態では、本発明は、眼野前駆細胞を得るための方法に関し、眼野前駆細胞の約95%が、PAX6を発現する。
【0063】
一実施形態では、本発明は、眼野前駆細胞を得るための方法に関し、眼野前駆細胞の少なくとも40%が、PAX6およびOTX2を共発現する。
【0064】
一実施形態では、本発明は、眼野前駆細胞を得るための方法に関し、眼野前駆細胞の少なくとも40%が、PAX6およびOTX2、ならびにVSX2および/またはMITFのうちの少なくとも1つを共発現する。
【0065】
一実施形態では、本発明は、眼野前駆細胞を得るための方法に関し、眼野前駆細胞の少なくとも50%、60%、70%、80%、または90%が、PAX6およびOTX2を共発現し、眼野前駆細胞の少なくとも10%、20%、30%、40%、50%が、VSX2および/またはMITFをさらに共発現する。
【0066】
一実施形態では、本発明は、眼野前駆細胞を得るための方法に関し、眼野前駆細胞の少なくとも50%が、PAX6およびVSX2を共発現する。
【0067】
一実施形態では、本発明は、眼野前駆細胞を得るための方法に関し、眼野前駆細胞の少なくとも50%が、PAX6およびOTX2を共発現し、眼野前駆細胞の少なくとも20%が、VSX2および/またはMITFをさらに共発現する。
【0068】
一実施形態では、本発明は、眼野前駆細胞を得るための方法に関し、眼野前駆細胞の少なくとも56%が、PAX6、OTX2、およびSIX3を共発現する。
【0069】
一実施形態では、本発明は、眼野前駆細胞を得るための方法に関し、眼野前駆細胞の少なくとも29%が、MITF、PMEL、およびSERPINFを共発現する。
【0070】
一実施形態では、本発明は、眼野前駆細胞を得るための方法に関し、眼野前駆細胞の約69%が、PMELおよびSERPINFを共発現する。
【0071】
一実施形態では、本発明は、眼野前駆細胞を得るための方法に関し、眼野前駆細胞の約73%が、PMELを発現する。
【0072】
一実施形態では、本発明は、眼野前駆細胞を得るための方法に関し、眼野前駆細胞の約69%が、SERPINFを発現する。
【0073】
一実施形態では、本発明は、眼野前駆細胞を得るための方法に関し、該眼野前駆細胞の少なくとも0,8%が、TP63、S100A14、およびTFAP2Bを共発現する。
【0074】
一実施形態では、本発明は、眼野前駆細胞のインビトロ細胞集団に関し、眼野前駆細胞の少なくとも80%が、PAX6を発現する。
【0075】
一実施形態では、本発明は、眼野前駆細胞のインビトロ細胞集団に関し、眼野前駆細胞の約90%が、PAX6を発現する。
【0076】
一実施形態では、本発明は、眼野前駆細胞のインビトロ細胞集団に関し、眼野前駆細胞の約95%が、PAX6を発現する。
【0077】
一実施形態では、本発明は、眼野前駆細胞のインビトロ細胞集団に関し、眼野前駆細胞の少なくとも40%が、PAX6およびOTX2を共発現する。
【0078】
一実施形態では、本発明は、眼野前駆細胞のインビトロ細胞集団に関し、眼野前駆細胞の少なくとも40%が、PAX6およびOTX2、ならびにVSX2および/またはMITFのうちの少なくとも1つを共発現する。
【0079】
一実施形態では、本発明は、眼野前駆細胞のインビトロ細胞集団に関し、眼野前駆細胞の少なくとも50%、60%、70%、80%、または90%が、PAX6およびOTX2を共発現し、眼野前駆細胞の少なくとも10%、20%、30%、40%、50%が、VSX2および/またはMITFをさらに共発現する。
【0080】
一実施形態では、本発明は、眼野前駆細胞のインビトロ細胞集団に関し、眼野前駆細胞の少なくとも50%が、PAX6およびVSX2を共発現する。
【0081】
一実施形態では、本発明は、眼野前駆細胞のインビトロ細胞集団に関し、眼野前駆細胞の少なくとも50%が、PAX6およびOTX2を共発現し、眼野前駆細胞の少なくとも20%が、VSX2および/またはMITFをさらに共発現する。
【0082】
一実施形態では、本発明は、眼野前駆細胞のインビトロ細胞集団に関し、眼野前駆細胞の少なくとも56%が、SIX3を発現する。
【0083】
一実施形態では、本発明は、眼野前駆細胞のインビトロ細胞集団に関し、眼野前駆細胞の約73%が、PMELを発現する。
【0084】
一実施形態では、本発明は、眼野前駆細胞のインビトロ細胞集団に関し、眼野前駆細胞の約69%が、SERPINFを発現する。
【0085】
一実施形態では、本発明は、眼野前駆細胞のインビトロ細胞集団に関し、該眼野前駆細胞の少なくとも0.8%が、TP63、S100A14、およびTFAP2Bを共発現する。
【0086】
一実施形態では、本発明は、眼野前駆細胞を得るための方法に関し、該細胞は、RPE前駆細胞、NR細胞、または角膜細胞である。
【0087】
一実施形態では、本発明は、眼野前駆細胞を得るための方法に関し、該細胞は、RPE前駆細胞である。
【0088】
一実施形態では、本発明は、眼野前駆細胞を得るための方法に関し、該細胞は、神経網膜細胞である。
【0089】
一実施形態では、本発明は、眼野前駆細胞を得るための方法に関し、該細胞は、角膜細胞である。
【0090】
本明細書で使用される「遺伝子の時間的発現」という用語は、発生または分化中の特定の時点における特定の組織または細胞内の遺伝子の活性化を指す。
【0091】
方法は、一連のステップによって定義される。本明細書で使用される場合、方法に関する「ステップ」という用語は、何かが取り組んでいる、および/または動作が実施される段階として理解されるべきである。実施されるステップおよび/または取り組んでいるステップが、同時および/または順次および/または連続的である場合が、当業者によって理解されるであろう。
【0092】
hESCを培養するステップにおいて、細胞は、上記で言及された任意の好適な供給源から得られてもよい。方法に従ってマトリックスでコーティングされた基質上にhPSCを播種するステップは、提供されたhPSCを移すことを伴う。「播種」という用語は、好適な槽に分布されているhPSCとして理解されるべきである。「プレーティング」という用語は、基質を有する好適な槽上に細胞を分布させることを意味する。当業者は、未分化細胞を基質上に移すための適切な技術を知っているであろう。本発明の一実施形態では、hPSCは、cm当たり約10,000個の細胞~cm当たり約100,000個の細胞、好ましくはcm当たり約20,000個の細胞~cm当たり約80,000個の細胞、より好ましくはcm当たり約30,000個の細胞~cm当たり約50,000個の細胞、さらにより好ましくはcm当たり約40,000個の細胞の濃度でプレーティングされる。
【0093】
基質
本明細書で使用される場合、「基質」という用語は、コーティングが提供され得る表面として理解されるべきである。これは、ウェルプレートおよびビーズであってもよいが、これらに限定されない。典型的な基質としては、細胞培養処理済みマルチウェルプレート、例えば、Scientific(商標)Nunc(商標)細胞培養処理済みマルチウェルプレートが挙げられるが、これらに限定されない。当業者は、細胞を培養するための好適な基質を容易に認識するであろう。本発明によると、提供されるhPSCは、マトリックスでコーティングされた基質上にプレーティングされる。
【0094】
「マトリックス」という用語は、細胞表面受容体との相互作用に関与する細胞外分子を意味し、したがって、接着、増殖、遊走、および分化などの細胞挙動を調節するか、または機械的支持の機能を果たす。一実施形態では、コーティングされたプレート上のコーティングは、ラミニンおよび/またはフィブロネクチンおよび/またはビトロネクチンおよび/またはコラーゲンを含む。
【0095】
本明細書で使用される場合、プレート上のコーティングに関する「ラミニン」または「LN」という用語は、アルファ鎖、ベータ鎖、およびガンマ鎖と呼ばれる3つのサブユニットからなるヘテロ三量体分子を指す。本明細書では、ヒトラミニンへの言及が行われる。5種類の鎖(アルファ1~アルファ5)、3種類のベータ鎖(ベータ1~ベータ3)、および3種類のガンマ鎖(ガンマ1~ガンマ3)が既知であり、これらの鎖の様々な組み合わせは、少なくとも12種類のラミニンアイソフォームを生じさせる。例えば、「ラミニンアルファ5ベータ1ガンマ1」は、本明細書において「ラミニン-511」または「LN-511」と称される。同じことが他のアイソフォームにも適用される。ラミニンを指す場合の「その断片」は、無傷のラミニンの一部を意味する。例えば、ラミニン-511のE8断片は、ヒト胚性幹細胞に強く接着することがわかっている。ラミニンおよびその断片は、Biolamina ABまたはNippi Inc.などの企業から市販されている。ラミニンの非限定的な例としては、LN-111、LN-423、LN-523、LN-511、LN-521、およびLN-332、またはそれらの断片が挙げられる。
【0096】
一実施形態では、本発明の方法で使用されるマトリックスは、LN-111、LN-423、LN-523、LN-511、LN-521、およびLN-332からなる群から選択されるラミニンまたはその断片である。
【0097】
一実施形態では、本発明の方法で使用されるマトリックスは、LN-423またはその断片である。
【0098】
一実施形態では、本発明の方法で使用されるマトリックスは、LN-511またはその断片である。
【0099】
一実施形態では、本発明の方法で使用されるマトリックスは、LN-521またはその断片である。
【0100】
一実施形態では、本発明の方法で使用されるマトリックスは、LN-332またはその断片である。
【0101】
本明細書で使用される場合、プレート上のコーティングに関する「フィブロネクチン」という用語は、インテグリンと呼ばれる膜貫通受容体タンパク質に結合する細胞外マトリックスの高分子量(約440kDa)糖タンパク質を指す。インテグリンと同様に、フィブロネクチンは、コラーゲン、フィブリン、およびヘパラン硫酸プロテオグリカン(例えば、シンデカン)などの細胞外マトリックス構成成分に結合する。本明細書で使用される場合、プレート上のコーティングに関する「ビトロネクチン」という用語は、血清、細胞外マトリックス、および骨に豊富に見られるヘモペキシンファミリーの糖タンパク質を指す。本明細書で使用される場合、プレート上のコーティングに関する「コラーゲン」という用語は、動物体の様々な結合組織内の細胞外空間における構造タンパク質を指す。結合組織の主要構成成分として、これは、哺乳動物において最も豊富なタンパク質であり、全身タンパク質含量の25%~35%を占める。コラーゲンは、一緒に巻かれて三重らせんを形成して、細長いフィブリルを形成するアミノ酸からなる。
【0102】
好ましい実施形態では、基質上にコーティングされたマトリックスは、ラミニンまたはその断片を含み、好ましくは、ラミニン-511およびラミニン-332からなる群から選択される。
【0103】
別の実施形態では、ラミニンまたはその断片は、ラミニン-511およびラミニン-332の組み合わせである。
【0104】
一実施形態では、マトリックスは、ラミニン-511および/またはラミニン-332、ならびに1つ以上のさらなるラミニンを含む。
【0105】
別の実施形態では、ラミニンまたはその断片は、ラミニン-332である。一実施形態では、ラミニンは、無傷のラミニンタンパク質である。
【0106】
別の実施形態では、ラミニンは、無傷のラミニンタンパク質の断片である。さらなる実施形態では、ラミニンの濃度は、約0.01μg/cm~約50μg/cm、好ましくは約0.1μg/cm~約25μg/cm、より好ましくは約0.1μg/cm~10μg/cm、より好ましくは約0.1μg/cm~約5、より好ましくは約0.25μg/cm~約1μg/cm、さらにより好ましくは約0.5μg/cmである。
【0107】
培養ステップは、幹細胞が、制御された条件下で、概して、その自然環境外で成長するプロセスとして理解されるべきである。「培養」という用語は、連続的手順として理解されるべきであり、これは、細胞の様々な段階での生存率を維持するために、方法全体を通して用いられる。対象となる細胞が、例えば、限定されないが、生体組織または胚から単離された後、それらは続いて、注意深く制御された条件下で維持される。これらの条件は、各細胞型によって異なるが、概して、必須栄養素(アミノ酸、炭水化物、ビタミン、ミネラル)、成長因子、ホルモン、およびガス(CO、O)を供給し、物理化学的環境(pH緩衝液、浸透圧、温度)を調節する基質または培地を有する適切な槽からなる。
【0108】
一実施形態では、播種および培養のステップは同時に起こり、すなわち、hPSCは、細胞培養培地を含む基質上にプレーティングされる。一実施形態では、分化プロセスは、播種および培養で直ちに開始される。培養ステップ単独が、分化細胞を培養するステップとして解釈されるものではないが、単に幹細胞を培養することは、分化細胞を得るためのさらなるステップの前提条件である。それにもかかわらず、培養されたhPSCは、ここで分化細胞と呼ばれる。本明細書で使用される場合、「分化細胞」という用語は、細胞が、1つの細胞型(例えば、多分化能性、全能性、または多能性の分化可能な細胞)から、標的分化した細胞などの別の細胞型に分化するプロセスを受けるか、または受けている細胞を指し、これは、本発明によると、眼野前駆細胞である。細胞が分類され得る細胞型に発達した可能性があっても、「分化細胞」という用語は、依然として使用され得る。
【0109】
一実施形態では、培養ステップにおける細胞培養培地は、第1の細胞培養培地であり、細胞培養培地の少なくとも一部は、その後、第2の細胞培養培地で置き換えられる。したがって、一実施形態では、0日目の細胞培養培地は、第1の細胞培養培地であり、細胞培養培地の少なくとも一部は、約1日目から第2の細胞培養培地で置き換えられる。好ましい実施形態では、0日目の播種ステップにおける細胞培養培地は、第1の細胞培養培地であり、第1の細胞培養培地は、約1日目から第2の細胞培養培地で実質的に置き換えられる。
【0110】
ROCK阻害剤
Rho関連コイル状コイル含有キナーゼ(ROCK)は、RhoA小GTPaseのエフェクターであり、セリン/スレオニンキナーゼのAGCファミリーに属する。ROCKキナーゼは、細胞の収縮、遊走、アポトーシス、生存、および増殖を含む多くの機能を有する。IRho関連、コイル状コイル含有プロテインキナーゼROCK阻害剤は、rhoキナーゼを標的とし阻害する一連の化合物である。本明細書で使用される場合、「Y-27632」は、CAS番号129830-38-2を有するトランス-4-(1-アミノエチル)-N-(4-ピリジル)シクロヘキサンカルボキサミド二塩酸塩を指す。
【0111】
一実施形態では、第1の細胞培養培地は、ROCK阻害剤を含む。一実施形態では、ROCK阻害剤は、Y-27632またはTigerである。
【0112】
一実施形態では、第1の細胞培養培地は、0.1~30μMの濃度範囲の該Rock阻害剤を含む。
【0113】
一実施形態では、第1の細胞培養培地は、1~20μMの濃度範囲の該Rock阻害剤を含む。
【0114】
一実施形態では、第1の細胞培養培地は、約10μMの濃度の該Rock阻害剤を含む。
【0115】
培養培地
典型的には、幹細胞は、その現在の発生状態での生存能力に適した細胞培養培地で提供される。培養のための幹細胞を提供することは、典型的には、幹細胞を、新しい基質上に播種すること、またはインキュベーター中に懸濁することなどによって、異なる環境へと移すことを暗示する。当業者は、幹細胞がそのような移動に対して脆弱であり、手順が注意を必要とすること、および幹細胞を元の細胞培養培地中で維持することが、細胞培養培地を分化プロセスにより適した別の細胞培養培地で置き換える前に、細胞のより持続可能な移動を促進し得ることを認識するであろう。方法の一実施形態では、0日目の播種ステップにおける細胞培養培地は、第1の細胞培養培地であり、細胞培養培地の少なくとも一部は、1日目から第2の細胞培養培地で置き換えられる。本明細書で使用される場合、細胞培養培地、第1の細胞培養培地、および第2の細胞培養培地に関する「置き換え」という用語は、手順を意味し、細胞培養培地の量は、好適な手段によって取り出され、任意選択で、実質的に等しい量の細胞培養培地は、細胞培養培地の全体積が実質的に同じままであるように添加される。「第1の細胞培養培地を除去すること」とは、第1の除去および第2の細胞培養培地の添加の後として理解され、次いで、任意の後続の置き換えは、第1および第2の細胞培養培地の混合物の置き換えであり、混合物は、除去および添加される量に対応する比率である。したがって、順次除去では、第1の細胞培養培地は、第2の細胞培養培地によって連続的に希釈され、この手順を繰り返すことによって、細胞培養培地は最終的に、第1の細胞培養培地を実質的に含まないことになる。好ましい実施形態では、第1の細胞培養培地は、約1日目に第2の細胞培養培地で実質的に置き換えられる。
【0116】
さらなる実施形態では、第1の細胞培養培地は、化学的に定義され、かつ異種由来成分を含まない。本明細書で使用される場合、細胞培養培地に関する「化学的に定義される」という用語は、化学構成成分のすべてが既知であるヒトまたは動物細胞のインビトロ細胞培養に適した成長培地を意味する。化学的に定義された培地は、構成成分のすべてが特定され、それらの正確な濃度が既知でなければならないことを必要とする。本明細書で使用される場合、「異種由来成分を含まない」および「動物由来成分を含まない」という用語は、互換的に、かつ本発明に従って使用されてもよく、任意の動物由来の構成成分を好ましくは完全に欠いていることを意味する。好ましい実施形態では、細胞培養培地はまた、フィーダーを含まない。「フィーダーを含まない」および「フィーダー細胞を含まない」という用語は、互換的に使用されてもよく、そうでなければ培養された幹細胞に栄養を与える目的で存在し得るヒトおよび動物細胞を欠いている培養系を指し、すなわち、フィーダー細胞は、それらが支持する幹細胞に代謝物を供給するが、成長または分裂を意図する細胞ではない。
【0117】
本発明者らは、化学的に定義された「異種由来成分を含まない」および「フィーダー細胞を含まない」細胞培養環境を好むが、規制機関は、そのような基準に完全に準拠することなく、本発明による方法に基づいた医薬品および治療を承認し得る。本発明者らは、GMPおよび適good tissue practices(GTP)の最高基準を順守するよう努める。しかしながら、本発明は、そのような基準に限定されるものとして解釈されるべきではない。当業者は、本発明がそのような高い基準を順守することなく実施され得ることを容易に認識するであろう。
【0118】
一実施形態では、第1の細胞培養培地は、基質への移動時に幹細胞の生存能力を支持する任意の好適な細胞培養培地であってもよい。そのような細胞培養培地は市販されており、例えば、iPSおよびES幹細胞用のNutristem(登録商標)hPSC XF培地などのNutristem(登録商標)であり得る。したがって、一実施形態では、iPSおよびES幹細胞用のNutristem(登録商標)hPSC XF培地などのNutristem(登録商標)。
【0119】
一実施形態では、第2の細胞培養培地は、化学的に定義され、かつ異種由来成分を含まない。さらなる実施形態では、第2の細胞培養培地はまた、フィーダーを含まない。一実施形態では、第2の細胞培養培地は、GMEM(グラスゴー改変必須培地)またはDMEM/F12(ダルベッコ改変イーグル培地/ハムF-12培地)を含む。類似の培地は、同等に良好に機能し、容易に購入可能である。さらなる実施形態では、GMEMまたはDMEM/F12は、N2および/またはB27で補充される。一実施形態では、B27の濃度は、約0.1%(v/v)~約5%(v/v)、好ましくは約0.5%(v/v)~約2.5%(v/v)、さらにより好ましくは約2%(v/v)である。一実施形態では、N2の濃度は、約0.1%(v/v)~約5%(v/v)、好ましくは約0.5%(v/v)~約2.5%(v/v)、さらにより好ましくは約1%(v/v)である。
【0120】
一実施形態では、分化細胞は、SMADタンパク質シグナル伝達の阻害剤と接触する。
【0121】
本明細書で使用される場合、細胞を培養することに関する「接触」という用語は、特定の化合物を、それが細胞に触れて「接触した」細胞を生成することを可能にする場所に配置することによって、細胞を、例えば、特定の化合物に曝露することを意味する。接触は、任意の好適な手段を使用して達成され得る。接触の非限定的な例は、化合物を細胞の細胞培養培地に添加することによる。細胞の接触は、細胞および特定の化合物が近接している限り、例えば、化合物が細胞培養培地中に好適な濃度で存在する限り、起こるものと想定される。
【0122】
本明細書で使用される場合、シグナル伝達標的またはシグナル伝達標的経路の阻害に関する「阻害剤」という用語は、処置された細胞または組織を阻害しない化合物で処置された細胞と比較して、結果として生じる標的分子または標的化合物または標的プロセス、例えば、特定の分化結果に干渉する(すなわち、低減または排除または抑制する)(例えば、デフォルト細胞型分化を促進する活性シグナル伝達経路を抑制し、それによって非デフォルトの細胞型への分化を誘導する)化合物を指す。
【0123】
Small Mothers Against Decapentaplegic(SMAD)タンパク質シグナル伝達経路の阻害剤
本明細書で使用される場合、「Small Mothers Against Decapentaplegic(SMAD)タンパク質シグナル伝達経路の阻害剤」は、Small Mothers Against Decapentaplegic(SMAD)タンパク質シグナル伝達経路を特異的に阻害する化合物を指す。Small Mothers Against Decapentaplegic(SMAD)タンパク質シグナル伝達の阻害剤の例は、GW788388、LDN-193189、LY2157299、LY364947、NOGGIN、RepSOX、SB431542、およびTEW-7197を含む群から選択されてもよい。
【0124】
本明細書で使用される場合、「GW788388」は、小分子化学名N-(オキサン-4-イル)-4-[4-(5-ピリジン-2-イル-1H-ピラゾール-4-イル)ピリジン-2-イル]ベンズアミド、およびCAS番号452342-67-5を示す。
【0125】
本明細書で使用される場合、「LDN-193189」は、IUPAC名4-(6-(4-(ピペラジン-1-イル)フェニル)ピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-3-イル)キノリン、およびCAS番号1062368-24-4を有する化合物を示す。
【0126】
本明細書で使用される場合、「LY2157299」は、小分子を示し、これは、代替名ガルニセルチブ、および化学名4-[2-(6-メチルピリジン-2-イル)-5,6-ジヒドロ-4H-ピロロ[1,2-b]ピラゾール-3-イル]キノリン-6-カルボキサミド、ならびにCAS番号700874-72-2を有する強力なTGFβ受容体I(TGFβRI)阻害剤である小分子を示す。
【0127】
本明細書で使用される場合、「LY364947」は、IUPAC名4-[3-(2-ピリジニル)-1H-ピラゾール-4-イル]-キノリン、およびCAS番号396129-53-6を有する化合物を示す。
【0128】
本明細書で使用される場合、「NOGGIN」は、骨形成タンパク質-4(B MP 4)などのシグナル伝達タンパク質の形質転換成長因子-ベータ(TGF-β)スーパーファミリーのメンバーに結合し、それを不活性化する、分泌されたホモ二量体糖タンパク質を示す。NOGGINは典型的には、グリコシル化、ジスルフィド結合二量体としてヒト細胞内で発現される65kDaのタンパク質である。
【0129】
本明細書で使用される場合、「RepSOX」は、代替名E-616452、SJN 2511、ALK5阻害剤II、および化学名2-(3-(6-メチルピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-4-イル)-1,5-ナフチリジン、ならびにCAS番号446859-33-2を有するTGF-βRIの強力かつ選択的な阻害剤である小分子である。
【0130】
本明細書で使用される場合、「SB431542」は、化学名4-[4-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-5-(2-ピリジニル)-1H-イミダゾール-2-イル]ベンズアミド、およびCAS番号301836-41-9を有する化合物を示す。
【0131】
本明細書で使用される場合、「TEW-7197」は、代替名バクトセルチブおよび化学名2-フルオロ-N-[[5-(6-メチルピリジン-2-イル)-4-([1,2,4]トリアゾロ[1,5-a]ピリジン-6-イル)-1H-イミダゾール-2-イル]メチル]アニリン、ならびにCAS番号1352608-82-2を有する小分子を示す。
【0132】
一実施形態では、本発明は、眼野前駆細胞を得るための方法に関し、該方法は、少なくとも1つのSMAD阻害剤を含む。
【0133】
一実施形態では、本発明は、眼野前駆細胞を得るための方法に関し、該方法は、2つのSMAD阻害剤を含む。
【0134】
一実施形態では、本発明は、眼野前駆細胞を得るための方法に関し、該方法は、単一のSMAD阻害剤を含む。
【0135】
一実施形態では、分化細胞は、GW788388、LDN-193189、LY2157299、LY364947、NOGGIN、RepSOX、SB431542、およびTEW-7197からなる群から選択されるSmall Mothers Against Decapentaplegic(SMAD)タンパク質シグナル伝達の阻害剤と接触する。
【0136】
別の実施形態では、分化細胞は、GW788388および/またはRepSOXからなる群から選択されるSMADタンパク質シグナル伝達の阻害剤と接触する。
【0137】
一実施形態では、本発明は、眼野前駆細胞を得るための方法に関し、該方法は、GW788388および/またはRepSOXを含む。
【0138】
一実施形態では、本発明は、眼野前駆細胞を得るための方法に関し、該方法は、GW788388を含む。
【0139】
一実施形態では、本発明は、眼野前駆細胞を得るための方法に関し、該方法は、RepSOXを含む。
【0140】
本発明者らは、SMADタンパク質シグナル伝達のこれらの阻害剤を、眼野前駆細胞への分化の有効かつ堅牢な開始を提供するものとして特定した。小分子はさらに、GMP準拠への変換を促進する。
【0141】
一実施形態では、SMADタンパク質シグナル伝達の阻害剤は、GW788388である。
【0142】
そのさらなる実施形態では、SMADタンパク質シグナル伝達の阻害剤は、約0.1ng/ml~約1,000ng/mL、好ましくは約5ng/mL~約1,000ng/mL、より好ましくは約5ng/mL~約500ng/mL、より好ましくは約5ng/mL~約250ng/mL、より好ましくは約5ng/mL~約100ng/mL、より好ましくは5ng/mL~約50ng/mLの濃度のGW788388である。一実施形態では、濃度は、約5ng/ml~約20ng/mL、例えば、約10ng/mLである。
【0143】
一実施形態では、SMADタンパク質シグナル伝達の阻害剤は、RepSOXである。
【0144】
別の実施形態では、SMADタンパク質シグナル伝達の阻害剤は、約0.25μM~約200μM、好ましくは約10μM~約150μM、より好ましくは約15μM~約100μM、さらにより好ましくは約20μM~約75μMの濃度のRepSOXである。
【0145】
一実施形態では、分化細胞は、0日目からSMADタンパク質シグナル伝達の阻害剤と接触する。その結果、そのような実施形態では、SMADタンパク質シグナル伝達経路の阻害剤は、第1の細胞培養培地に添加されることになる。
【0146】
好ましい実施形態では、分化細胞は、0日目~15日目、14日目、13日目、12日目、11日目、または10日目、好ましくは0日目~12日目にSMADタンパク質シグナル伝達の阻害剤と接触する。その結果、そのような実施形態では、SMADタンパク質シグナル伝達経路の阻害剤は、第2の細胞培養培地にも添加されることになる。
【0147】
一実施形態では、SMADタンパク質シグナル伝達の阻害剤は、1つの化合物のみを含む。
【0148】
一実施形態では、SMADタンパク質シグナル伝達の阻害剤は、前述のSMADタンパク質シグナル伝達の阻害剤の組み合わせなどであるがこれに限定されない、2つ以上の化合物を含む。当業者は、SMADタンパク質シグナル伝達の個々の阻害剤の濃度が、個々の阻害剤と類似の効果を得るためにそれに応じて調節される必要があり得ることを認識するであろう。
【0149】
本発明者らは、hPSCが、細胞をSMADタンパク質シグナル伝達の1つの阻害剤のみに曝露するプロトコルを用いて、眼野前駆細胞に分化され得ることを発見した。
【0150】
一実施形態では、分化細胞は、SMADタンパク質シグナル伝達の1つの阻害剤のみと接触する。これは、分化プロトコルを単純化し、コストを削減し、GMP準拠への変換をさらに促進する。
【0151】
分化細胞は、BMP5またはその類似体と接触する。本明細書で使用される場合、「類似体」および「バリアント」という用語は、互換的に使用されてもよく、1つ以上のアミノ酸変化によって天然または参照のペプチドまたはタンパク質とは異なるペプチドまたはタンパク質を定義するために使用される。
【0152】
BMP5
本明細書で使用される場合、「BMP5」は、ヒト骨形成タンパク質5またはその類似体を指す。BMP5は、BMPシグナル伝達経路の活性化因子であり、ヒトにおいてBMP5遺伝子によってコードされ、TGFβスーパーファミリーのメンバーであるタンパク質である。ヒトBMP5(骨形成タンパク質5)アイソフォーム1のプレプロタンパク質は、配列番号1によって特定される。当業者は、この配列のバリアントが、例えば、限定されないが、タンパク質合成および成熟の様々な段階で存在し得ること、ならびにまたそのようなバリアントが、配列番号1によって特定されるBMP5と同等に良好に機能し得ることを容易に認識するであろう。
【0153】
一実施形態では、BMP5は、配列番号1によって特定される。
【0154】
一実施形態では、分化細胞は、BMP5(配列番号1)またはその類似体と接触し、その類似体は、骨形成タンパク質(BMP)シグナル伝達経路の有効な活性化因子である。本発明者らは、BMP5が、眼野前駆細胞への迅速かつ有効な分化を可能にする、骨形成タンパク質(BMP)シグナル伝達経路の有効な活性化因子であることを発見した。
【0155】
一実施形態では、分化細胞は、BMP5(配列番号1)またはその類似体と接触し、類似体は、配列番号1によって特定されるBMP5と少なくとも50%の同一性を有する。
【0156】
一実施形態では、BMP5の類似体は、配列番号1によって特定されるBMP5と少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を有する。
【0157】
好ましい実施形態では、分化細胞は、有効量のBMP5(配列番号1)またはその類似体と接触する。「有効量」という用語は、分化細胞をある濃度のBMP5またはその類似体と接触させることを意味し、BMP5またはその類似体の活性は、分化細胞の眼野前駆細胞運命に向かうさらなる分化を促進するのに十分高い。当業者は、BMP5およびその類似体の活性が変化し得ることを認識するであろう。これは、異なるベンダーによって提供される一見したところ同一の製品についてさえ事実であり得る。したがって、一実施形態では、BMP5の活性(ED50)は、約0.1μg/ml~約2μg/mL、好ましくは約0.15μg/mL~約1.5μg/mL、より好ましくは約0.2μg/mL~約1.3μg/mL、さらにより好ましくは約0.21μg/mL~約1.2μg/mLである。一実施形態では、この活性は、BMP5の濃度と相関し得る。言及される活性は、“Activity Measured by its ability to induce alkaline phosphatase production by ATDC5 mouse chondrogenic cells”,Nakamura,K.et al.(1999)Exp.Cell Res.250:351に記載されるように測定され得る。
【0158】
一実施形態では、BMP5の濃度は、少なくとも約0,1、1、5、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、300、400、500、1000、2000、または2500ng/ml、好ましくは少なくとも約150ng/ml、より好ましくは少なくとも約180ng/mlである。
【0159】
一実施形態では、BMP5の濃度は、約1000、900、800、700、600、または500ng/ml未満、好ましくは約450ng/ml未満である。
【0160】
一実施形態では、BMP5の濃度は、約0,1ng/ml~約2000ng/mlの範囲内である。
【0161】
一実施形態では、BMP5の濃度は、約0,1ng/ml~約1000ng/mlの範囲内である。
【0162】
一実施形態では、BMP5の濃度は、約10ng/ml~約300ng/mlの範囲内である。
【0163】
一実施形態では、BMP5の濃度は、約100ng/ml~約300ng/mlの範囲内である。
【0164】
一実施形態では、BMP5の濃度は、約150ng/ml~約250ng/mlの範囲内である。
【0165】
一実施形態では、BMP5の濃度は、約200ng/mlである。
【0166】
一実施形態では、BMP5の濃度は、約1000ng/mlである。
【0167】
一実施形態では、BMP5の濃度は、約200ng/ml~約1000ng/mlの範囲内である。
【0168】
一実施形態では、BMP5の濃度は、約150ng/ml~約1100ng/mlの範囲内である。
【0169】
一実施形態では、BMP5の濃度は、約150ng/ml~約500ng/mlの範囲内である。
【0170】
一実施形態では、BMP5の濃度は、約150ng/ml~約250ng/mlの範囲内である。
【0171】
一実施形態では、分化細胞をBMP5と接触させるステップにおいて、BMP5の濃度は、約100ng/ml~約600ng/ml、好ましくは約150ng/ml~約550ng/ml、より好ましくは約200ng/ml~約500ng/ml、より好ましくは約200ng/ml~約400ng/mlである。
【0172】
さらなる実施形態では、BMP5の濃度は、350ng/ml~約450ng/ml、好ましくは約360ng/ml~約440ng/ml、より好ましくは約370ng/ml~約430ng/ml、より好ましくは約380ng/ml~約420ng/ml、より好ましくは約390ng/ml~約410ng/ml、さらにより好ましくは約400ng/mlである。
【0173】
一実施形態では、分化細胞は、約5日目~約14日目、好ましくは約6日目~約13日目、より好ましくは約6日目~約12日目、より好ましくは約6日目~約11日目、より好ましくは約6日目~約10日目、より好ましくは約6日目~約9日目、より好ましくは約6日目~約8日目、さらにより好ましくは約7日目にBMP5と接触する。
【0174】
一実施形態では、分化細胞は、BMP5と接触し、分化細胞は、約30、29、28、27、26、25、24、23、22、21、20、または19日目まで、好ましくは約20日目~22日目まで、さらにより好ましくは約21日目までに眼野前駆細胞に分化することが可能になる。
【0175】
一実施形態では、分化細胞は、約5日目~約30日目、約5日目~約29日目、約5日目~約28日目、約5日目~約27日目、好ましくは約6日目~約26日目、より好ましくは約6日目~約25日目、より好ましくは約6日目~約24日目、より好ましくは約6日目~約23日目、より好ましくは約6日目~約22日目、より好ましくは約6日目~約21日目、さらにより好ましくは約7日目~約21日目にBMP5と接触する。
【0176】
分化細胞が分化することを可能にすることは、実施される別個の最終ステップとして解釈されるべきではない。当業者は、本明細書で使用される場合、「分化する」および「分化」という用語が、細胞が未分化状態から分化状態に、未成熟状態からあまり未成熟ではない状態に、または未成熟状態から成熟状態に進行するプロセス(方法が実施される際に連続的に起こる)を指すことを容易に理解するであろう。これは、例えば、眼野前駆細胞に分化するhPSCであるがこれに限定されない。細胞相互作用および成熟における変化は、細胞が未分化細胞のマーカーを失うまたは分化した細胞のマーカーを得るときに生じる。単一マーカーの損失または獲得は、細胞が「成熟または完全に分化」されたことを示し得る。
【0177】
当業者は、分化細胞がいつ特定のマーカーに基づいて眼野前駆細胞に成熟したかを決定することができる。したがって、いくつかの実施形態では、分化細胞は、0日目から開始して約17日間~40日間、好ましくは約18日間~30日間、より好ましくは約19日間~25日間、より好ましくは約19日間~23日間、より好ましくは約20日間~22日間、さらにより好ましくは約21日間、眼野前駆細胞に分化することが可能になる。
【0178】
一実施形態では、分化細胞は、約0日目~約12日目にSMADタンパク質シグナル伝達の阻害剤と接触し、分化細胞は、約7日目からBMP5と接触し、分化細胞は、約21日目までに眼野前駆細胞に分化することが可能になる。
【0179】
分化細胞は、眼野前駆細胞に完全に分化されたものとみなされ得るが、さらなる分化は、RPE細胞およびNR細胞などであるがこれらに限定されない、さらなる特定の、または成熟した前駆細胞に向かって進行してもよく、追加の因子および/または条件が用いられてもよい。特に、例えば、眼の状態の治療で使用するための、より成熟した前駆細胞または完全に成熟した細胞にさらに分化され得る細胞を提供することが、本発明の目的である。
【0180】
hPSCは、眼野前駆細胞に分化することが可能になる。一実施形態では、眼野前駆細胞の少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%が、PAX6およびOTX2、ならびにVSX2およびMITFのうちの1つ以上を共発現する。さらなる実施形態では、眼野前駆細胞の少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%が、PAX6およびOTX2を共発現し、眼野前駆細胞の少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%が、VSX2およびMITFのうちの1つ以上をさらに共発現する。
【0181】
一実施形態では、方法は、分化細胞がWNT/β-カテニン経路の阻害剤と接触する、さらなるステップを含む。本明細書で使用される場合、「WNT/βカテニン経路」という用語は、細胞表面受容体を通してシグナルを細胞内に入れるタンパク質で始まるシグナル伝達経路の群を指す。Wntは、「Wingless/Integrated」を表す遺伝子学の分野での頭字語である。
【0182】
一実施形態では、分化細胞は、約2日目~約15日目、好ましくは約3日目~約14日目、より好ましくは約3日目~約13日目、さらにより好ましくは約3日目~約12日目に、WNT/β-カテニン経路の阻害剤と接触する。一実施形態では、WNT/β-カテニン経路の阻害剤は、Endo IWR 1である。さらなる実施形態では、Endo IWR 1の濃度は、約0.1μM~約10μM、好ましくは約0.5μM~約5μM、さらにより好ましくは約1μM~約3μMである。本明細書で使用される場合、「Endo IWR1」は、化学名[(3aR*,4S*,7R*,7aS)-1,3,3a,4,7,7a-ヘキサヒドロ-1,3-ジオキソ-4,7-メタノ-2H-イソインドール-2-イル]-N-8-キノリニルベンズアミド、およびCAS番号1127442-82-3を有する小分子を示す。
【0183】
本発明のさらなる態様は、眼野前駆細胞のインビトロ細胞集団に関し、眼野前駆細胞の少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%が、PAX6およびOTX2、ならびにVSX2およびMITFのうちの1つ以上を共発現する。その結果、特定の実施形態では、眼野前駆細胞のインビトロ細胞集団は、本発明の第1の態様による方法によって得られることになる。「インビトロ細胞集団」は、例えば、好適な槽に含有されるなど、ヒト身体の外の細胞集団を意味する。特定の実施形態では、眼野前駆細胞は、非天然である。「非天然」という用語は、ヒトまたは動物の体など、自然界では存在しない細胞として理解されるべきである。一般に、ヒトの体内の細胞と同一または同一に近い細胞に到達することが幹細胞療法の目的であるが、細胞を分化し成熟させるための現在の方法は、これらと完全に同一である細胞産物を提供しない。
【0184】
一実施形態では、眼野前駆細胞は、神経網膜前駆細胞に分化される。したがって、本発明の別の態様は、hPSCから神経網膜前駆細胞を得るための方法に関する。この態様による方法は、眼野前駆細胞を得るためのプロトコルに直接関連する。したがって、眼野前駆細胞を得るための方法に関連する実施形態は、この態様に等しく適用され得る。この態様の一実施形態は、神経網膜前駆細胞を得るための方法に関し、方法は、hPSCを培養するステップと、hPSCを、マトリックスでコーティングされた基質上に播種するステップと、細胞培養培地中でhPSCを培養して、分化細胞を得るステップと、分化細胞をSMADタンパク質シグナル伝達の阻害剤と接触させるステップと、分化細胞をBMP5と接触させるステップとを含み、分化細胞は、神経網膜前駆細胞に分化することが可能になる。
【0185】
別の実施形態では、眼野前駆細胞は、RPE前駆細胞に分化される。
【0186】
したがって、本発明の別の態様は、RPE細胞を得るための方法にも関連する。この態様による方法は、眼野前駆細胞を得るためのプロトコルに直接関連する。したがって、眼野前駆細胞を得るための方法に関連する実施形態は、この態様に等しく適用され得る。この態様の一実施形態は、hPSCからRPE前駆細胞を得るための方法に関し、方法は、hPSCを培養して、分化細胞を得るステップと、分化細胞をBMP5と接触させるステップと、分化細胞をGSK3の阻害剤と接触させるステップを含み、分化細胞は、RPE前駆細胞に分化することが可能になる。より具体的な実施形態では、hPSCからRPE前駆細胞を得るための方法は、hPSCを培養するステップと、hPSCを、マトリックスでコーティングされた基質上に播種するステップと、細胞培養培地中でhPSCを培養して、分化細胞を得るステップと、分化細胞をSMADタンパク質シグナル伝達の阻害剤と接触させるステップと、分化細胞をBMP5と接触させるステップと、分化細胞をGSK3の阻害剤と接触させるステップとを含み、分化細胞は、RPE前駆細胞に分化することが可能になる。
【0187】
GSK3
本明細書で使用される場合、「GSK3」は、グリコーゲン合成酵素キナーゼ3を意味する。GSK3は、胚性脳発生中の神経前駆細胞の増殖および細胞極性などの細胞機能を制御する多くのシグナル伝達経路に関与するセリンスレオニンキナーゼである。GSK3は、WNTへの細胞応答、成長因子、インスリン、受容体チロシンキナーゼ(RTK)、ヘッジホッグ経路、およびGタンパク質共役受容体(GPCR)を含む、多数のシグナル伝達経路の下流制御スイッチとして作用する。GSK3阻害剤の非限定的な例は、CHIR99021またはCHIR、SB216763、SB415286、CHIR98014、ARA014418、1-アザケンパウロン、およびビス-7-インドリルマレイミドである。
【0188】
本明細書で使用される場合、「CHIR99021」および「CT99021」は、互換的に使用されてもよく、CAS番号252917-06-9を有する6-[[2-[[4-(2,4-ジクロロフェニル)-5-(5-メチル-1H-イミダゾール-2-イル)-2-ピリミジニル]アミノ]エチル]アミノ]-3-ピリジンカルボニトリルを指す。
【0189】
一実施形態では、GSK3の阻害剤は、CHIR99021である。
【0190】
一実施形態では、分化細胞は、約5日目~約40日目、好ましくは約5日目~約25日目、より好ましくは約6日目~約26日目、より好ましくは約6日目~約25日目、より好ましくは約6日目~約24日目、より好ましくは約6日目~約23日目、より好ましくは約6日目~約22日目、より好ましくは約6日目~約21日目、さらにより好ましくは約7日目~約21日目にGSK3の阻害剤と接触する。
【0191】
一実施形態では、分化細胞は、分化細胞をBMP5またはその類似体と接触させた約2日後、好ましくは3日後、より好ましくは4日後、さらにより好ましくは5日後から、GSK3の阻害剤と接触する。
【0192】
一実施形態では、分化細胞は、約0.25μM~約5μM、好ましくは約1μM~約4μM、より好ましくは約2μM~約3μMの濃度で、GSK3の阻害剤と接触する。
【0193】
本発明者らは、GSK3の阻害剤が、RPE細胞に向かう分化の有効かつ堅牢な開始をもたらすことを特定した。小分子CHIR99021はさらに、GMP準拠への変換を促進する。
【0194】
本発明者らは、GSK3阻害剤を使用する代替手段として、WNT1、WNT2、WNT2B、WNT3、WNT3A、WNT4、WNT5A、WNT5B、WNT6、WNT7A、WNT7B、WNT8A、WNT8B、WNT9A、WNT9B、WNT10A、WNT10B、WNT11、およびWNT16などのWNTリガンドが使用され得ることを企図する。一実施形態では、WNTリガンドは、WNT3Aである。
【0195】
本明細書で使用される場合、WNT1、WNT2、WNT2B、WNT3、WNT3A、WNT4、WNT5A、WNT5B、WNT6、WNT7A、WNT7B、WNT8A、WNT8B、WNT9A、WNT9B、WNT10A、WNT10B、WNT11、およびWNT16は、350~400個のアミノ酸長である分泌脂質修飾シグナル伝達糖タンパク質の多様なファミリーに含まれる。これらのタンパク質上で起こる脂質修飾のタイプは、セリン残基の保存されたパターンにおけるセリンのパルミトレオイル化である。パルミトレオイル化は、それが分泌のためにWntタンパク質の原形質膜への標的化を開始し、脂肪酸の共有結合によりWntタンパク質がその受容体を結合することを可能にするため、必要である。Wntタンパク質はまた、適切な分泌を確保するために炭水化物に付着するグリコシル化も受ける。Wntシグナル伝達では、これらのタンパク質は、リガンドとして作用して、パラクリン経路およびオートクリン経路を介して異なるWnt経路を活性化する。
【0196】
本発明の別の態様は、本発明の第1の実施形態による方法によって得られる、眼野前駆細胞のインビトロ細胞集団に関する。
【0197】
一実施形態では、本発明の眼野前駆細胞は、非天然である。
【0198】
一実施形態では、RPE前駆細胞、眼杯前駆細胞、角膜前駆細胞、およびNR前駆細胞を含む眼野前駆細胞は、非天然である。
【0199】
本発明の別の態様は、NR前駆細胞、初期眼前駆細胞、および/またはRPE細胞を得るための眼野前駆細胞のインビトロ細胞集団の使用に関する。
【0200】
本発明の別の態様は、RPE前駆細胞のインビトロ細胞集団に関し、RPE前駆細胞の少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%が、PAX6、OTX2、およびMITFを共発現する。
【0201】
本発明の別の態様は、神経網膜前駆細胞のインビトロ細胞集団に関し、神経網膜前駆細胞の少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%が、PAX6、OTX2、およびVSX2を共発現する。
【0202】
特定の実施形態
本発明の態様がここで、以下の非限定的な実施形態によってさらに説明される。
1.hPSCから眼野前駆細胞を得るための方法であって、
-hPSCを培養して、分化細胞を得るステップと、
-分化細胞をBMP5と接触させるステップと、を含み、
分化細胞が、眼野前駆細胞に分化することが可能になる、方法。
2.hPSCから眼野前駆細胞を得るための方法であって、
-hPSCを培養するステップと、
-細胞培養培地中でhPSCを培養して、分化細胞を得るステップと、
-分化細胞をBMP5と接触させるステップと、を含み、
分化細胞が、眼野前駆細胞に分化することが可能になる、方法。
3.hPSCから眼野前駆細胞を得るための方法であって、
-hPSCを培養するステップと、
-細胞培養培地中でhPSCを培養して、分化細胞を得るステップと、
-分化細胞をSMADタンパク質シグナル伝達の阻害剤と接触させるステップと、
-分化細胞をBMP5と接触させるステップと、を含み、
分化細胞が、眼野前駆細胞に分化することが可能になる、方法。
4.hPSCから眼野前駆細胞を得るための方法であって、
-hPSCを培養するステップと、
-hPSCを、マトリックスでコーティングされた基質上に播種するステップと、
-細胞培養培地中でhPSCを培養して、分化細胞を得るステップと、
-分化細胞をSMADタンパク質シグナル伝達の阻害剤と接触させるステップと、
-分化細胞をBMP5と接触させるステップと、を含み、
分化細胞が、眼野前駆細胞に分化することが可能になる、方法。
5.分化細胞が、BMP5またはその類似体と接触し、その類似体が、骨形成タンパク質(BMP)シグナル伝達経路の有効な活性化因子である、実施形態4に記載の方法。
6.分化細胞が、BMP5(配列番号1)と接触し、類似体が、配列番号1によって特定されるBMP5と少なくとも50%、60%、70%、80%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%の同一性を有し、類似体が、骨形成タンパク質(BMP)シグナル伝達経路の有効な活性化因子である、実施形態1~5のいずれか1つに記載の方法。
7.分化細胞が、有効量のBMP5またはその類似体と接触する、実施形態1~6のいずれか1つに記載の方法。
8.分化細胞が、BMP5(配列番号1)と接触する、実施形態1~7のいずれか1つに記載の方法。
9.BMP5の濃度が、少なくとも約10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、または200ng/ml、好ましくは少なくとも約150ng/ml、より好ましくは少なくとも約180ng/mlである、実施形態1~8のいずれか1つに記載の方法。
10.BMP5の濃度が、約1000、900、800、700、600、または500ng/ml未満、好ましくは約450ng/ml未満である、実施形態1~9のいずれか1つに記載の方法。
11.BMP5の濃度が、約100ng/ml~約600ng/ml、好ましくは約150ng/ml~約550ng/ml、より好ましくは約200ng/ml~約500ng/ml、より好ましくは約200ng/ml~約400ng/mlである、実施形態1~10のいずれか1つに記載の方法。
12.BMP5の濃度が、約350ng/ml~約450ng/ml、好ましくは約360ng/ml~約440ng/ml、より好ましくは約370ng/ml~約430ng/ml、より好ましくは約380ng/ml~約420ng/ml、より好ましくは約390ng/ml~約410ng/ml、さらにより好ましくは約400ng/mlである、実施形態1~11のいずれか1つに記載の方法。
13.BMP5の活性(ED50)が、約0.1μg/ml~約2μg/ml、好ましくは約0.15μg/ml~約1,5μg/ml、より好ましくは約0.2μg/ml~約1.3μg/ml、さらにより好ましくは約0.21μg/ml~約1.2μg/mlである、実施形態1~12のいずれか1つに記載の方法。
14.分化細胞が、約5日目~約14日目、好ましくは約6日目~約13日目、より好ましくは約6日目~約12日目、より好ましくは約6日目~約11日目、より好ましくは約6日目~約10日目、より好ましくは約6日目~約9日目、より好ましくは約6日目~約8日目、さらにより好ましくは約7日目からBMP5と接触する、実施形態1~13のいずれか1つに記載の方法。
15.分化細胞が、BMP5またはその類似体と接触し、分化細胞が、約30、29、28、27、26、25、24、23、22、21、20、または19日目まで、好ましくは約20日目~22日目まで、さらにより好ましくは約21日目までに眼野前駆細胞に分化することが可能になる、実施形態1~14のいずれか1つに記載の方法。
16.分化細胞が、約5日目~約30日目、約5日目~約29日目、約5日目~約28日目、約5日目~約27日目、好ましくは約6日目~約26日目、より好ましくは約6日目~約25日目、より好ましくは約6日目~約24日目、より好ましくは約6日目~約23日目、より好ましくは約6日目~約22日目、より好ましくは約6日目~約21日目、さらにより好ましくは約7日目~約21日目にBMP5と接触する、実施形態1~15のいずれか1つに記載の方法。
17.分化細胞が、0日目から開始して約15日間~40日間、好ましくは約17日間~25日間、好ましくは約18日間~24日間、より好ましくは約19日間~23日間、より好ましくは約19日間~23日間、より好ましくは約20日間~22日間、さらにより好ましくは約21日間、眼野前駆細胞に分化することが可能になる、実施形態1~16のいずれか1つに記載の方法。
18.
-分化細胞をWNT/β-カテニン経路と接触させるステップをさらに含む、実施形態1~17のいずれか1つに記載の方法。
19.細胞が、約2日目~約15日目、好ましくは約3日目~約14日目、より好ましくは約3日目~約13日目、さらにより好ましくは約3日目~約12日目に、WNT/β-カテニン経路の阻害剤と接触する、実施形態18に記載の方法。
20.WNT/β-カテニン経路の阻害剤が、Endo IWR 1である、実施形態18または19に記載の方法。
21.Endo IWR 1の濃度が、約0.1μM~約10μM、好ましくは約0.5μM~約5μM、さらにより好ましくは約1μM~約3μMである、実施形態20に記載の方法。
22.マトリックスが、ラミニンまたはその断片を含む、実施形態4~21のいずれか1つに記載の方法。
23.ラミニンまたはその断片が、ラミニン-511およびラミニン-332からなる群から選択される、実施形態22に記載の方法。
24.ラミニンまたはその断片が、ラミニン-511およびラミニン-332の組み合わせである、実施形態22に記載の方法。
25.ラミニンまたはその断片が、ラミニン-332である、実施形態23に記載の方法。
26.ラミニンが、無傷のラミニンタンパク質である、実施形態22~25のいずれか1つに記載の方法。
27.ラミニンが、無傷のラミニンタンパク質の断片である、実施形態22~25のいずれか1つに記載の方法。
28.ラミニンの濃度が、約0.01μg/cm~約50μg/cm、好ましくは約0.1μg/cm~約25μg/cm、より好ましくは約0.1μg/cm~10μg/cm2、より好ましくは約0.1μg/cm~約5、より好ましくは約0.25μg/cm~約1μg/cm、さらにより好ましくは約0.5μg/cmである、実施形態22~27のいずれか1つに記載の方法。
29.分化細胞が、GW788388、LDN-193189、LY2157299、LY364947、NOGGIN、RepSOX、SB431542、およびTEW-7197からなる群から選択されるSMADタンパク質シグナル伝達の阻害剤と接触する、実施形態3~28のいずれか1つに記載の方法。
30.分化細胞が、SMADタンパク質シグナル伝達の阻害剤の組み合わせと接触し、SMADタンパク質シグナル伝達の阻害剤のうちの少なくとも1つが、GW788388、LDN-193189、LY2157299、LY364947、NOGGIN、RepSOX、SB431542、およびTEW-7197からなる群から選択される、実施形態29に記載の方法。
31.分化細胞が、GW788388および/またはRepSOXからなる群から選択されるSMADタンパク質シグナル伝達の阻害剤と接触する、実施形態3~30のいずれか1つに記載の方法。
32.SMADタンパク質シグナル伝達の阻害剤が、GW788388である、実施形態29または31に記載の方法。
33.SMADタンパク質シグナル伝達の阻害剤が、0.1ng/ml~1000ng/ml、好ましくは約5ng/ml~約1000ng/ml、より好ましくは約10ng/ml~約500ng/mlの濃度のGW788388である、実施形態32に記載の方法。
34.SMADタンパク質シグナル伝達の阻害剤が、RepSOXである、実施形態29または31に記載の方法。
35.SMADタンパク質シグナル伝達の阻害剤が、0.25μM~200μM、好ましくは約10μM~約150μM、より好ましくは約15μM~約100μM、さらにより好ましくは約20μM~約75μMの濃度のRepSOXである、実施形態34に記載の方法。
36.分化細胞が、SMADタンパク質シグナル伝達の1つの阻害剤のみと接触する、実施形態3~35のいずれか1つに記載の方法。
37.分化細胞が、約0日目からSMADタンパク質シグナル伝達と接触する、実施形態3~36のいずれか1つに記載の方法。
38.分化細胞が、BMP5またはその類似体と接触し、分化細胞が、約40日目またはそれ以上まで、39、38、37、36、35、34、33、32、31、30、29、28、27、26、25、24、23、22、21、20、または19日目まで、好ましくは約20日目~22日目まで、さらにより好ましくは約21日目までに眼野前駆細胞に分化することが可能になる、実施形態1~37のいずれか1つに記載の方法。
39.分化細胞が、約0日目~約15日目、好ましくは約14日目まで、より好ましくは約13日目まで、さらにより好ましくは約12日目までにSMADタンパク質シグナル伝達の阻害剤と接触する、実施形態3~38のいずれか1つに記載の方法。
40.分化細胞が、約0日目~約12日目にSMADタンパク質シグナル伝達の阻害剤と接触し、分化細胞が、約7日目からBMP5と接触し、分化細胞が、約21日目までに眼野前駆細胞に分化することが可能になる、実施形態3~39のいずれか1つに記載の方法。
41.眼野前駆細胞の少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%が、PAX6およびOTX2、ならびにVSX2およびMITFのうちの1つ以上を共発現する、実施形態1~40のいずれか1つに記載の方法。
42.眼野前駆細胞の少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%が、PAX6およびOTX2を共発現し、眼野前駆細胞の少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%が、VSX2およびMITFのうちの1つ以上をさらに共発現する、実施形態1~41のいずれか1つに記載の方法。
43.細胞培養培地が、化学的に定義され、かつ異種由来成分を含まない、実施形態2~42のいずれか1つに記載の方法。
44.細胞培養培地が、フィーダー細胞を含まない、実施形態2~43のいずれか1つに記載の方法。
45.hPSCが、cm当たり約10,000個の細胞~cm当たり約100,000個の細胞、好ましくはcm当たり約20,000個の細胞~cm当たり約80,000個の細胞、より好ましくはcm当たり約30,000個の細胞~cm当たり約50,000個の細胞、さらにより好ましくはcm当たり約40,000個の細胞の濃度でプレーティングされる、実施形態2~44のいずれか1つに記載の方法。
46.0日目の細胞培養培地が、第1の細胞培養培地であり、細胞培養培地の少なくとも一部が、約1日目から第2の細胞培養培地で置き換えられる、実施形態2~45のいずれか1つに記載の方法。
47.0日目の細胞培養培地が、第1の細胞培養培地であり、第1の細胞培養培地が、約1日目から第2の細胞培養培地で実質的に置き換えられる、実施形態2~46のいずれか1つに記載の方法。
48.第1の細胞培養培地が、iPSおよびES幹細胞用のNutristem(登録商標)hPSC XF培地などのNutristem(登録商標)である、実施形態46または47に記載の方法。
49.第1の細胞培養培地が、ROCK阻害剤をさらに含み、好ましくは、ROCK阻害剤が、Y-27632である、実施形態46~48のいずれか1つに記載の方法。
50.第2の細胞培養培地が、N2およびB27で補充されたGMEMまたはDMEM/F12を含む、実施形態46~49のいずれか1つに記載の方法。
51.眼野前駆細胞が、NR細胞にさらに分化される、実施形態1~50のいずれか1つに記載の方法。
52.眼野前駆細胞が、RPE細胞に分化される、実施形態1~51のいずれか1つに記載の方法。
53.眼野前駆細胞が、RPE前駆細胞であり、該方法が、分化細胞をGSK3の阻害剤と接触させるステップをさらに含む、実施形態1~52のいずれか1つに記載の方法。
54.GSK3の阻害剤が、CHIR99021である、実施形態53に記載の方法。
55.CHIR99021の濃度が、約0.25μM~約5μM、好ましくは約1μM~約4μM、より好ましくは約2μM~約3μMである、実施形態54に記載の方法。
56.分化細胞が、約5日目~約40日目、好ましくは約5日目~約25日目、より好ましくは約6日目~約26日目、より好ましくは約6日目~約25日目、より好ましくは約6日目~約24日目、より好ましくは約6日目~約23日目、より好ましくは約6日目~約22日目、より好ましくは約6日目~約21日目、さらにより好ましくは約7日目~約21日目にGSK3の阻害剤と接触する、実施形態53~55のいずれか1つに記載の方法。
57.分化細胞が、約7日目~約15日目、好ましくは約12日目からGSK3の阻害剤と接触する、実施形態53~56のいずれか1つに記載の方法。
58.分化細胞が、分化細胞をBMP5と接触させた約2日後、好ましくは3日後、より好ましくは4日後、さらにより好ましくは5日後から、GSK3の阻害剤と接触する、実施形態53~57のいずれか1つに記載の方法。
59.眼野前駆細胞のインビトロ細胞集団であって、眼野前駆細胞の少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%が、PAX6およびOTX2、ならびにVSX2およびMITFのうちの1つ以上を共発現する、眼野前駆細胞のインビトロ細胞集団。
60.眼野前駆細胞が、非天然である、実施形態59に記載の眼野前駆細胞のインビトロ細胞集団。
61.眼野前駆細胞が、RPE前駆細胞である、実施形態59または60に記載のインビトロ細胞集団。
62.眼野前駆細胞が、NR前駆細胞である、実施形態59または60に記載のインビトロ細胞集団。
63.実施形態1~58のいずれか1つに記載の方法によって得られる、眼野前駆細胞のインビトロ細胞集団。
64.NR前駆細胞、初期眼前駆細胞、および/またはRPE前駆細胞を得るための、実施形態59~63のいずれか1つに記載の眼野前駆細胞のインビトロ細胞集団の使用。
65.加齢黄斑変性、白内障、角膜失明、緑内障,およびRPなどの眼の状態の治療のための、実施形態64に記載の使用。
66.hPSCからRPE前駆細胞を得るための方法であって、
-hPSCを培養するステップと、
-hPSCを、マトリックスでコーティングされた基質上に播種するステップと、
-細胞培養培地中でhPSCを培養して、分化細胞を得るステップと、
-分化細胞をSMADタンパク質シグナル伝達の阻害剤と接触させるステップと、
-分化細胞をBMP5またはその類似体と接触させるステップと、
-分化細胞をGSK3の阻害剤と接触させるステップとを含み、
分化細胞が、RPE前駆細胞に分化することが可能になる、方法。
67.RPE前駆細胞のインビトロ細胞集団であって、RPE前駆細胞の少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%が、PAX6、OTX2、およびMITFを共発現する、RPE前駆細胞のインビトロ細胞集団。
68.RPE前駆細胞が、非天然である、実施形態67に記載のRPE前駆細胞のインビトロ細胞集団。
69.hPSCから神経網膜前駆細胞を得るための方法であって、
-hPSCを培養するステップと、
-hPSCを、マトリックスでコーティングされた基質上に播種するステップと、
-細胞培養培地中でhPSCを培養して、分化細胞を得るステップと、
-分化細胞をSMADタンパク質シグナル伝達の阻害剤と接触させるステップと、
-分化細胞をBMP5と接触させるステップと、を含み、
分化細胞が、神経網膜前駆細胞に分化することが可能になる、方法。
70.神経網膜前駆細胞のインビトロ細胞集団であって、神経網膜前駆細胞の少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、または少なくとも90%が、PAX6、OTX2、およびVSX2を共発現する、神経網膜前駆細胞のインビトロ細胞集団。
71.神経網膜前駆細胞が、非天然である、実施形態70に記載の神経網膜前駆細胞のインビトロ細胞集団。
【実施例
【0203】
以下は、本発明を実施するためのプロトコルの非限定的な例である。
【0204】
[一般的な調製方法]
[hESCの培養]
内部で生成されたhESC株を、5%COインキュベーターにおいて37℃で、NutriStem hPSC XF培地(Biological Industries)中のヒト組換えラミニン(hrLN)コーティングプレート(Biolaminin 521 LN、Biolamina)上に維持し、3~5日毎に1:10~1:20の比率で酵素的に継代した。継代のために、コンフルエント培養物を、カルシウムおよびマグネシウムイオンを含まないリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で1回洗浄し、TrypLE Select(GIBCO、Thermo Fisher Scientific)を用いて5分間、37℃でインキュベートした。次いで、酵素を慎重に除去し、細胞を、穏やかにピペットで移すことによって新鮮なNutriStem hPSC XF培地中に採取して、単一細胞懸濁液を得て、必要な体積を新鮮なhrLN-521コーティングされた皿上にプレーティングした。継代後、培地を、新鮮な予熱したNutriStem hPSC XF培地で置き換え、毎日交換した。
【0205】
[hESCの眼野前駆細胞への分化]
hESC-RPE単層分化 hESCを、NutriStem hPSC XF培地を使用して、10μg/mlでhrLN-332ラミニンがコーティングされた皿(Biolaminin 332 LN、Biolamina)上に、5.5×10細胞/cm2の細胞密度でプレーティングした。10μMの濃度のRho-キナーゼ阻害剤(Y-27632、Millipore)を最初の24時間の間に添加する一方で、細胞を37℃、5% COで維持した。24時間後、培養培地を、実施例に従って分化培地で置き換えた。以下の実施例における分化培地「GMEM」は常に、ペニシリン-ストレプトマイシン溶液(20単位/ml;Thermo Fisher)、ベータ-メルカプトエタノール(0.5mM;Thermo Fisher)、ピルビン酸ナトリウム(1mM;Thermo Fisher)、非必須アミノ酸(1X;Thermo Fisher)で補充される。
【0206】
濃度
表1に提示される以下の濃度は、実施例1~11に提供されるプロトコルで使用され得る。これらの濃度を、図1~15で実施および参照される実験でも使用した。
【表1】
【0207】
[実施例1]
[BMP5と組み合わせた二重SMAD阻害およびWNT阻害を使用して、眼野前駆細胞を得るためのプロトコル]
hESCを眼前駆細胞に分化するために、発生合図を模倣する小分子および組換えタンパク質と組み合わせた異なる条件下で、BMP5の効果を試験した。我々の分化プロトコルについて、眼の発生に関連し、BMP5によるBMP経路の活性化と組み合わせた、共通の発生経路の順次活性化および/または抑制に依存した。細胞解離後、LN-521上で増殖したhESC株を単一細胞に解離させ、分化のためにLN-332上に播種した。これらの細胞は、このラミニンによく適合した。LN-521、LN-111、およびLN-332の間の12時間後の細胞接着の比較が、図1に示される。
【0208】
ここで、図2に示される分化について試験した異なる6つの条件を要約する。
【0209】
条件1:BMP5を含まない二重SMAD阻害、WNT阻害を使用した対照条件
0日目:100% Nutristem+NOGGIN+GW788388+Y-27632
1日目:50% Nutristem+50%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+NOGGIN+GW788388
2日目:75% Nutristem+25%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+NOGGIN+GW788388
3~11日目:100%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+NOGGIN+GW788388+Endo IWR1
12~21日目:100%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)
条件2:BMP5を含まない二重SMAD阻害、順次WNT阻害を使用した条件
0日目:100% Nutristem+NOGGIN+GW788388+Y-27632
1日目:50% Nutristem+50%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+NOGGIN+GW788388
2日目:75% Nutristem+25%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+NOGGIN+GW788388
3~11日目:100%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+NOGGIN+GW788388+Endo IWR1
12~21日目:100%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+IHH+DKK2
条件3:BMP5を含む二重SMAD阻害、順次WNT阻害を使用した条件
0日目:100% Nutristem+NOGGIN+GW788388+Y-27632
1日目:50% Nutristem+50%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+NOGGIN+GW788388
2日目:75% Nutristem+25%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+NOGGIN+GW788388
3~11日目:100%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+NOGGIN+GW788388+Endo IWR1
12~21日目:100%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+IHH+DKK2+BMP5
条件4:BMP5およびアクチビンAを含む二重SMAD阻害、順次WNT阻害を使用した条件
0日目:100% Nutristem+NOGGIN+GW788388+Y-27632
1日目:50% Nutristem+50%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+NOGGIN+GW788388
2日目:75% Nutristem+25%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+NOGGIN+GW788388
3~11日目:100%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+NOGGIN+GW788388+Endo IWR1
12~14日目:100%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+IHH+DKK2+BMP5
15~21日目:100%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+IHH+DKK2+BMP5+アクチビンA
条件5:アクチビンAを含み、BMP5を含まない二重SMAD阻害、順次WNT阻害を使用した条件
0日目:100% Nutristem+NOGGIN+GW788388+Y-27632
1日目:50% Nutristem+50%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+NOGGIN+GW788388
2日目:75% Nutristem+25%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+NOGGIN+GW788388
3~11日目:100%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+NOGGIN+GW788388+Endo IWR1
12~21日目:100%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+IHH+DKK2+アクチビンA
条件6:BMP5を含まない二重SMAD阻害、順次WNT阻害を使用した対称条件
0日目:100% Nutristem+NOGGIN+GW788388+Y-27632
1日目:50% Nutristem+50%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+NOGGIN+GW788388
2日目:75% Nutristem+25%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+NOGGIN+GW788388
3~11日目:100%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+NOGGIN+GW788388+Endo IWR1
12~14日目:100%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+IHH+DKK2
15~21日目:100%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+IHH+DKK2+アクチビンA
【0210】
図2AおよびBに示されるように、条件3におけるBMP5の使用は、MITFおよびVSX2陽性細胞を生成した。IHHによるヘッジホッグ経路の刺激およびWNT阻害剤DKK2の使用は、対照(条件1)と類似のパターンを示す条件2に示されるように、MITFまたはVSX2陽性細胞を生成するには不十分であった。アクチビンAをBMP5と併用した処置は、条件4に示されるように、MITFまたはVSX2のレベルを高めなかった。対照的に、アクチビンAによるBMP5の置き換え、またはアクチビンAによる初期処置後のBMP5を用いた処置は、条件5および6に示されるように、MITFおよびVSX2陽性細胞の生成にマイナスの影響を与えた。図3に示されるように、これらの細胞は、前脳同一性を示し、PAX6マーカーおよびOTX2マーカーに対して陽性であり、眼野前駆細胞同一性に適合する。
【0211】
これらの結果は、BMP5が、RPE前駆細胞マーカーMITFおよびNR前駆細胞マーカーVSX2に対して陽性の眼野前駆細胞を強力に生成することを示す。IHH、DKK2、およびアクチビンAの添加は、これらのマーカーの発現に対するBMP5を用いた処置へのいかなる相加効果も示さなかった(図2AおよびB)。
【0212】
[実施例2]
[BMP5およびCHIR99021と組み合わせた二重SMAD阻害を使用して、眼野前駆細胞を得るためのプロトコル]
GSK3阻害が、標準(ベータ-カテニン依存性)WNTシグナル伝達を活性化する可能性があるため、BMP5と組み合わせた小分子CHIR99021を用いたGSK3阻害を調査し、WNT阻害剤Endo IWR1をプロトコルから除去することを決定した。BMP5が、MITFおよびVSX2陽性細胞の生成にプラスの効果を示したため、7日目に開始してBMP5処置のより早い時点を試験した。
【0213】
ここで、試験され図4に示され、かつ図5、6、および7で捕捉される、異なる3つの条件を要約する。
【0214】
条件2:BMP5を含まない二重SMAD阻害を使用した対照条件
0日目:100% Nutristem+NOGGIN+GW788388+Y-27632
1日目:50% Nutristem+50%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+NOGGIN+GW788388
2日目:75% Nutristem+25%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+NOGGIN+GW788388
3~11日目:100%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+NOGGIN+GW788388
12~21日目:100%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)
条件2:BMP5を含む二重SMAD阻害を使用した条件
0日目:100% Nutristem+NOGGIN+GW788388+Y-27632
1日目:50% Nutristem+50%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+NOGGIN+GW788388
2日目:75% Nutristem+25%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+NOGGIN+GW788388
3~6日目:100%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+NOGGIN+GW788388
7~11日目:100%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+NOGGIN+GW788388+BMP5
12~21日目:100%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+BMP5
条件3:BMP5およびCHIR99021を含む二重SMAD阻害を使用した条件
0日目:100% Nutristem+NOGGIN+GW788388+Y-27632
1日目:50% Nutristem+50%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+NOGGIN+GW788388
2日目:75% Nutristem+25%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+NOGGIN+GW788388
3~6日目:100%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+NOGGIN+GW788388
7~11日目:100%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+NOGGIN+GW788388+BMP5
12~21日目:100%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+BMP5+CHIR99021
【0215】
図4、条件2に示されるように、BMP5は、MITFおよびVSX2陽性細胞を強力に生成した。MITF、PAX6、およびVSX2のmRNAレベルも、CT値が有意に減少するにつれて、hESCと比較して増加した(図5)。BMP5をCHIR99021と組み合わせたとき、VSX2陽性細胞の数が劇的に低減した(条件3、図4)。驚くべきことに、BMP5/CHIR99021処置を受けるMITF陽性細胞は、BMP5のみの条件と比較して、RPE前駆細胞に特徴的なよく組織化された敷石状形態を採用した(図6)。
【0216】
BMP5およびCHIR99021の組み合わせは、図7に示されるように、21日後にMITF陽性細胞の非常に均質な細胞集団を生成した。
【0217】
要約すると、我々の順次のBMP5ベースのプロトコルは、hESCを眼野前駆細胞(MITF/VSX2)に分化し、CHIR99021の添加は、これらの細胞をさらなるRPE前駆細胞同一性に向け直し、敷石状形態を有してMITFに対して陽性、かつVSX2に対して陰性である。
【0218】
[実施例3]
[BMP5およびCHIR99021を含む二重SMAD阻害剤としてRepSOXおよびNOGGINを使用して、眼前駆細胞を得るためのプロトコル]
NOGGINと組み合わせた別のSMAD阻害剤、RepSOXの効果を調査し、BMP5およびCHIR99021と組み合わせて、MITFに対して陽性RPE前駆細胞を得ることを決定した。これは、異なるSMAD阻害剤を、我々のBMP5ベースのプロトコルで使用することができたかを示す。
【0219】
ここで、図8に示されるように試験した条件を要約する。
【0220】
条件RepSOX:BMP5およびCHIR99021を含む二重SMAD阻害
0日目:100% Nutristem+RepSOX+NOGGIN+Y-27632
1日目:50% Nutristem+50%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+RepSOX+NOGGIN
2日目:75% Nutristem+25%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+RepSOX+NOGGIN
3~6日目:100%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+NOGGIN+GW788388
7~11日目:100%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+RepSOX+NOGGIN+BMP5
12~21日目:100%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+BMP5+CHIR99021
【0221】
図8に示されるように、21日後のPAX6、SIX3、およびMITF遺伝子発現の明らかな誘導があり、RPE前駆細胞同一性を有する眼野前駆細胞の生成を示す。タンパク質レベルでは、BMP5およびCHIR99021と組み合わせたRepSOXはまた、眼野前駆細胞のマーカーである、免疫染色によって評価されたOTX2およびPAX6陽性細胞を生成した。
【0222】
結論として、これらの結果は、異なるSMAD阻害剤が、眼野前駆細胞を生成するために、我々のBMP5ベースのプロトコルで使用され得ることを示す。
【0223】
[実施例4]
[単一SMAD阻害およびBMP5またはCHIR99021を含むBMP5を使用して、眼野前駆細胞を得るためのプロトコル]
我々のBMP5ベースのプロトコルを用いて生成された細胞の定量的データを提供するために、フローサイトメトリーによって、NR前駆細胞についてはBMP5、またはRPE前駆細胞についてはBMP5およびCHIR99021での処置を受けて生成された眼野前駆細胞を分析した。さらに、NOGGINをプロトコルから除去することによって、単一SMAD阻害を試験した。
【0224】
ここで、試験され、図9および10に示される2つの異なる条件を要約する。
【0225】
RPEの条件(図9):BMP5およびCHIR99021を含む単一SMAD阻害
0日目:100% Nutristem+GW788388+Y-27632
1日目:50% Nutristem+50%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+GW788388
2日目:75% Nutristem+25%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+GW788388
3~6日目:100%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+GW788388
7~11日目:100%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+GW788388+BMP5
12~21日目:100%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+BMP5+CHIR99021
NRの条件(図10):単一SMAD阻害およびBMP5
0日目:100% Nutristem+GW788388+Y-27632
1日目:50% Nutristem+50%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+GW788388
2日目:75% Nutristem+25%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+GW788388
3~6日目:100%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+GW788388
7~11日目:100%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+GW788388+BMP5
12~21日目:100%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+BMP5
【0226】
図9に示されるように、PAX6陽性細胞は、分化した細胞の90%超を表し、細胞がBMP5およびCHIR99021に曝露された21日後、PAX6/MITFの両方に対して40%超が陽性である。これは、眼野前駆細胞が、単一のSMAD阻害剤(GW788388)に曝露され、その後にBMP5およびCHIR99021で処置された後、RPE前駆細胞同一性を採用したことを示す。細胞がBMP5単独に曝露された場合、図10に示されるように、PAX6陽性細胞の数は、95%超であり、二重陽性細胞PAX6/VSX2は、50%超であった。これは、BMP5と組み合わせた単一SMAD阻害が、PAX6およびVSX2に対して陽性である、NR前駆細胞同一性を有する眼野前駆細胞を生成したことを示す。
【0227】
結論として、我々のBMP5ベースのプロトコルにおける単一SMAD阻害は、NR前駆細胞同一性(PAX6/VSX2)を有する眼野前駆細胞の50%超を生成し、CHIR99021の添加は、これらの細胞をRPE前駆細胞(MITF)同一性に向け直すことができる。驚くべきことに、我々のBMP5ベースのプロトコルにおける単一のSMAD阻害剤(GW788388)の使用は、二重SMAD阻害の使用に取って代わることができる。
【0228】
[実施例5]
[BMP5およびCHIR99021を含む単一SMAD阻害を使用して、RPE前駆細胞同一性を有する眼野前駆細胞を得るためのプロトコルに対する、単一細胞RNAシーケンシング分析]
トランスクリプトームレベルでRPE前駆細胞同一性を有する眼野前駆細胞の生成のためのCHIR99021と組み合わせた、我々のBMP5ベースのプロトコルにおける単一SMAD阻害の効果を評価するために、以下のプロトコルで生成された細胞に対して、21日目に単一細胞RNAシーケンシング(scRNAseq)を実施した。
【0229】
ここで、図11および12の試験した条件を要約する。
【0230】
条件:単一SMAD阻害およびBMP5+CHIR99021処置:
0日目:100% Nutristem+GW788388+Y-27632
1日目:50% Nutristem+50%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+GW788388
2日目:75% Nutristem+25%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+GW788388
3~6日目:100%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+GW788388
7~11日目:100%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+GW788388+BMP5
12~21日目:100%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+BMP5+CHIR99021
【0231】
図11の表は、scRNAseqによって分析された、示された遺伝子を発現するhESC由来の眼野前駆細胞の割合を示す。表に示されるように、多能性(NANOG、POU5F1、およびZSCAN10)のマーカーは、21日間の分化後の細胞の1%未満を表し、三重NANOG/POU5F1/ZSCAN10陽性細胞は検出されず、多能性細胞が存在しないことを示す。RPE前駆細胞の特異的マーカーに対して陽性の細胞が検出され、MITFは29%、PMELは73%、SERPINF1は69%を表した。PAX6、OTX2、およびSIX3などの眼杯マーカーに対して陽性の細胞も検出された(それぞれ、86%、64%、および56%)。注目すべきことに、中胚葉系統および内胚葉系統などの他の生殖細胞系統に対して陽性の細胞は検出されなかった。各ベン図は、RPE前駆細胞、PAX6/MITF/PMELおよびPAX6/PMEL/SERPINF1遺伝子に特徴的な遺伝子を共発現する細胞の発現パターンを示す。
【0232】
驚くべきことに、TP63(8%)、S100A14(4%)、TFAP2B(4%)、およびABCG2(1%)などのLSC(角膜幹細胞としても既知)マーカーに対して陽性の細胞の小さいクラスターを特定した。図12中、細胞の0.8%を表す、LSC(TP63/TFAP2B/S100A14)に対する三重陽性細胞を示すベン図を示す。
【0233】
結論として、CHIR99021および単一SMAD阻害と組み合わせた我々のBMP5ベースのプロトコルは、RPE前駆細胞同一性(MITF/PMEL/SERPINF1)を有する眼野前駆細胞を生成した。中胚葉系統または内胚葉系統からの未分化細胞(複数可)は、存在しなかった。驚くべきことに、我々のBMP5ベースのプロトコルはまた、LSC(角膜幹細胞としても既知)同一性を有する眼野前駆細胞を生成することができる。
【0234】
[実施例6]
[異なる濃度のBMP5を使用して、眼野前駆細胞を得るためのプロトコル]
眼野前駆細胞を生成するために、BMP5のどの濃度範囲が最も有効であるかを判定するために、3つの異なる濃度(0.1、200、および1000ng/ml)を試験し、BMP5を含まない対照条件と比較した。以下のプロトコルを用いて生成された細胞に対して、21日目の遺伝子発現を分析した。
【0235】
ここで、図13および14の試験した条件を要約する。
【0236】
条件:単一SMAD阻害およびBMP5+CHIR99021処置(図13
0日目:100% Nutristem+GW788388+Y-27632
1日目:50% Nutristem+50%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+GW788388
2日目:75% Nutristem+25%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+GW788388
3~6日目:100%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+GW788388
7~11日目:100%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+GW788388+BMP5
12~21日目:100%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+BMP5+CHIR99021
条件:単一SMAD阻害およびBMP5処置(図14
0日目:100% Nutristem+GW788388+Y-27632
1日目:50% Nutristem+50%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+GW788388
2日目:75% Nutristem+25%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+GW788388
3~6日目:100%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+GW788388
7~11日目:100%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+GW788388+BMP5
12~21日目:100%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+BMP5
【0237】
図13に示されるように、RPE前駆細胞同一性を有する眼野前駆細胞を誘導する最良の条件は、200ng/mlであった。図14に示されるように、NR前駆細胞同一性を有する眼野前駆細胞を生成するための最良の条件は、VSX2(CHX10としても既知)遺伝子発現の誘導から明らかなように、NR前駆細胞についても200ng/mlであった。
【0238】
結論として、試験した濃度のうち、200ng/mlが、眼野前駆細胞を生成するのに最良のBMP5濃度であるように思われ、1000ng/mlも、プラスではあるがより軽度の効果を示した。
【0239】
[実施例7]
[異なるBMPを比較する眼野前駆細胞を得るためのプロトコル]
BMP5が、眼野前駆細胞を生成するBMPファミリーの他のメンバーと比較して優れた効果を有するかを調査するために、RPE前駆細胞同一性を有する眼野前駆細胞を生成するためにCHIR99021と組み合わせて、BMP5をBMP4、BMP7、およびBMP4-BMP7によって形成されるBMPヘテロ二量体と比較した。
【0240】
ここで、図15の試験した条件を要約する。
【0241】
条件:CHIR99021を含む単一SMAD阻害および異なるBMP
0日目:100% Nutristem+GW788388+Y-27632
1日目:50% Nutristem+50%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+GW788388
2日目:75% Nutristem+25%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+GW788388
3~6日目:100%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+GW788388
7~11日目:100%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+GW788388+BMP
12~21日目:100%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+BMP+CHIR99021
【0242】
図15に示されるように、BMP5は、RPE前駆細胞同一性を有する眼野前駆細胞のマーカーの遺伝子発現を誘導する優れた効果を有した。BMP4は、これらのマーカーを誘導する最小の能力を示し、BMP7およびヘテロ二量体BMP4-BMP7は、BMP4よりも良好であったが、BMP5の効果は、ここに示されるすべてのマーカーに対して優れていた。
【0243】
結論として、BMP5は、BMP4、BMP7、およびヘテロ二量体BMP4-BMP7などの他のBMPファミリーメンバーと比較して、眼野前駆細胞の生成に対して優れた効果を有する。
【0244】
[実施例8:二重SMAD阻害およびWNT経路の初期阻害を使用して、網膜色素上皮(RPE)前駆細胞を得るためのプロトコル]
0日目:100% Nutristem+NOGGIN+GW788388+Y-27632
1日目:50% Nutristem+50%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+NOGGIN+GW788388
2日目:75% Nutristem+25%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+NOGGIN+GW788388
3~6日目:100%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+NOGGIN+GW788388+Endo IWR1
7~11日目:100%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+NOGGIN+GW788388+Endo IWR1+BMP5
12~21日目:100%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+BMP5+CHIR99021
【0245】
[実施例9:単一SMAD阻害を使用し、WNT経路の初期阻害を用いて、網膜色素上皮(RPE)前駆細胞を得るためのプロトコル]
0日目:100% Nutristem+GW788388+Y-27632
1日目:50% Nutristem+50%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+GW788388
2日目:75% Nutristem+25%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+GW788388
3~6日目:100%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+GW788388+Endo IWR1
7~11日目:100%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+GW788388+Endo IWR1+BMP5
12~21日目:100%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+BMP5+CHIR99021
【0246】
[実施例10:二重SMAD阻害およびWNT経路の初期阻害を使用して、神経網膜前駆細胞を得るためのプロトコル]
0日目:100% Nutristem+NOGGIN+GW788388+Y-27632
1日目:50% Nutristem+50%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+NOGGIN+GW788388
2日目:75% Nutristem+25%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+NOGGIN+GW788388
3~6日目:100%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+NOGGIN+GW788388+Endo IWR1
7~11日目:100%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+NOGGIN+GW788388+Endo IWR1+BMP5
12~21日目:100%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+BMP5
【0247】
[実施例11:単一SMAD阻害を使用し、WNT経路の初期阻害を用いて、神経網膜前駆細胞を得るためのプロトコル]
0日目:100% Nutristem+GW788388+Y-27632
1日目:50% Nutristem+50%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+GW788388
2日目:75% Nutristem+25%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+GW788388
3~6日目:100%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+GW788388+Endo IWR1
7~11日目:100%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+GW788388+Endo IWR1+BMP5
12~21日目:100%(GMEM+1%(v/v)N2+2%(v/v)B27)+BMP5
【0248】
本発明のある特定の特徴が本明細書に例示および記載されているが、ここで、多くの修正、置換、変更、および同等物が当業者に想到されるであろう。したがって、添付の特許請求の範囲が、本発明の真の趣旨の範囲内にあるこうしたすべての修正および変更を網羅することを意図していることが理解されるべきである。
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
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図12
図13
図14
図15
【配列表】
2022532411000001.app
【国際調査報告】