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特表2022-532420神経周囲浸潤及び疼痛を軽減するための組成物及び方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-14
(54)【発明の名称】神経周囲浸潤及び疼痛を軽減するための組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7088 20060101AFI20220707BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220707BHJP
   A61P 25/02 20060101ALI20220707BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20220707BHJP
   A61K 47/30 20060101ALI20220707BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20220707BHJP
   A61K 31/713 20060101ALI20220707BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALI20220707BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20220707BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20220707BHJP
   C12N 5/09 20100101ALN20220707BHJP
【FI】
A61K31/7088
A61P35/00
A61P25/02
A61P29/00
A61K47/30
A61K47/34
A61K31/713
A61K31/7105
A61K48/00
C12N15/113 110Z
C12N5/09 ZNA
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021568521
(86)(22)【出願日】2020-05-17
(85)【翻訳文提出日】2022-01-07
(86)【国際出願番号】 IL2020050537
(87)【国際公開番号】W WO2020234868
(87)【国際公開日】2020-11-26
(31)【優先権主張番号】62/849,166
(32)【優先日】2019-05-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】511000843
【氏名又は名称】サイレンシード リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100149032
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 敏明
(74)【代理人】
【識別番号】100181906
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 一乃
(72)【発明者】
【氏名】シェミ,アモツ
(72)【発明者】
【氏名】ロトコフ,シャイ
(72)【発明者】
【氏名】マルカ ガバイ,レイチェル
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AB01
4B065BA05
4C076AA51
4C076AA95
4C076BB32
4C076CC27
4C076EE01
4C076EE24
4C076FF31
4C084AA13
4C084MA34
4C084MA67
4C084NA12
4C084NA13
4C084NA14
4C084ZA08
4C084ZA20
4C084ZB26
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA34
4C086MA67
4C086NA12
4C086NA13
4C086NA14
4C086ZA08
4C086ZA20
4C086ZB26
(57)【要約】
本明細書において、対象における局所神経周囲浸潤及び疼痛を軽減するための組成物が提供される。局所神経周囲浸潤及び関連する疼痛を軽減する方法もまた記載される。
【選択図】図3C
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の固形腫瘍に関連する局所神経周囲浸潤又は疼痛の抑制に使用するための、KRAS G12D、KRAS G12C、KRAS G12V、KRAS G12R、KRAS G12S、及びKRAS G12Aからなる群から選択される少なくとも1つのKRAS変異対立遺伝子を標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチド剤を含む組成物。
【請求項2】
前記固形腫瘍は、膵臓がん、肺がん、及び大腸がんからなる群から選択されるがんの固形腫瘍である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記アンチセンスオリゴヌクレオチド剤は、RNA干渉(RNAi)剤である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記RNAi剤は、二本鎖RNAi剤である、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記RNAi剤は、本配列表で配列番号10として記載されるセンス鎖、及び本配列表で配列番号11として記載されるアンチセンス鎖を有するsiRNAを含む、請求項3に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物は、生体高分子薬物送達デバイスにて対象に提供される、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記生体高分子薬物送達デバイスは、局所薬物溶出手段(local drug eluter)(LODER)である、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物は、前記固形腫瘍に関連する神経周囲浸潤を抑制する、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
固形腫瘍による局所神経周囲浸潤を軽減するための方法であって、
KRAS G12D、KRAS G12C、KRAS G12V、KRAS G12R、KRAS G12S、及びKRAS G12Aからなる群から選択される少なくとも1つのKRAS変異対立遺伝子を標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチド剤を含む組成物の治療有効量を対象に投与することを含む、前記方法。
【請求項10】
前記固形腫瘍は、膵臓がん、肺がん、及び大腸がんからなる群から選択されるがんの固形腫瘍である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記アンチセンスオリゴヌクレオチド剤は、RNA干渉(RNAi)剤である、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
前記RNAi剤は、二本鎖RNAi剤である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記RNAi剤は、本配列表で配列番号10として記載されるセンス鎖、及び本配列表で配列番号11として記載されるアンチセンス鎖を有するsiRNAを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記組成物は、生体高分子薬物送達デバイスにて対象に投与される、請求項9~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記生体高分子薬物送達デバイスは、局所薬物溶出手段(local drug eluter)(LODER)である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
固形腫瘍の局所神経周囲浸潤に関連する疼痛を軽減するための方法であって、
KRAS G12D、KRAS G12C、KRAS G12V、KRAS G12R、KRAS G12S、及びKRAS G12Aからなる群から選択される少なくとも1つのKRAS変異対立遺伝子を標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチド剤を含む組成物の治療有効量を対象に投与することを含む、前記方法。
【請求項17】
対象の固形腫瘍に関連する局所神経周囲浸潤又は疼痛を抑制するための薬剤の調製に使用するための、KRAS G12D、KRAS G12C、KRAS G12V、KRAS G12R、KRAS G12S、及びKRAS G12Aからなる群から選択される少なくとも1つのKRAS変異対立遺伝子を標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチド剤を含む組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
2019年5月17日に出願された米国仮特許出願第62/849,166号に対し利益が主張され、その内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、対象における神経周囲浸潤及び疼痛を軽減するための組成物に関する。神経周囲浸潤及び関連する疼痛を軽減する方法もまた記載される。
【背景技術】
【0003】
固形腫瘍の転移はがんの進行の特徴であり、患者の腫瘍の元の場所から比較的離れた場所へのがんの広がりは、患者の予後不良の兆候であることが多い。神経周囲浸潤(PNI:Perineural invasion)は、神経線維の上膜、神経周囲、及び内膜層に関連して、それに沿って、及びその中での腫瘍起源細胞の局所移動を伴う腫瘍転移の区別可能な形態である(Gaspariniら,Cancers 11:893,2019)。PNIは、膵臓がんなどのがんの初期段階で、かつより遠隔転移が現れる前に検出されることが多いが、腫瘍の再発、疼痛、及び生存の全体的な予後不良と関連していることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第9,080,173号
【特許文献2】米国特許公開第2014/0314854号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Gaspariniら,Cancers 11:893,2019
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
KRASは、RASタンパク質のファミリーに属するKirstenラット肉腫2ウイルス性癌遺伝子ホモログ癌遺伝子によってコードされるGTPaseタンパク質である。KRASの変異は、複数の種類のがん、特に膵臓がんに十分に関連している。KRAS変異対立遺伝子G12Dが固形腫瘍の治療及び細胞移動の抑制を標的とすることは以前から知られている(米国特許第9,080,173号及び米国特許公開第2014/0314854号を参照)。そこに記載されているRNA干渉(RNAi)組成物は、腫瘍サイズの縮小及び腫瘍増殖及び細胞移動の抑制を示した。ただし、変異型KRAS RNAi剤による、がん転移の区別可能な非先天性の形態であるPNIの特異的抑制は示されておらず、今まで示唆されていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書では、対象の固形腫瘍による局所神経周囲浸潤又はそのような神経周囲浸潤に関連する疼痛の抑制又は予防に使用するための、KRAS G12D、KRAS G12C、KRAS G12V、KRAS G12R、KRAS G12S、及びKRAS G12Aから選択される少なくとも1つのKRAS変異対立遺伝子を標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチド剤を含む組成物が提供される。そのような局所神経周囲浸潤又は疼痛を抑制又は予防するための薬剤の調製におけるそのような組成物の使用もまた記載される。
【0008】
また、KRAS G12D、KRAS G12C、KRAS G12V、KRAS G12R、KRAS G12S、及びKRAS G12Aからなる群から選択される少なくとも1つのKRAS変異対立遺伝子を標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチド剤を含む組成物の治療有効量を、それを必要とする対象(すなわち、固形腫瘍を有すると診断されるか、又は固形腫瘍を有する疑いがあるか、又は固形腫瘍を有する素因がある対象)に投与することにより、固形腫瘍による局所神経周囲浸潤を軽減するための方法も本明細書に記載される。固形腫瘍による神経周囲浸潤に由来する疼痛を軽減するための同様の方法もまた記載される。
【0009】
前述及びその他の目的、特徴、及び利点は、添付の図を参照して進める以下の詳細な説明からより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1ABCD図1A図1Dは、siRNAの導入の後のKRAS RNA転写レベルの減少を示している。MIA PaCa-2細胞に、siG12D(G12D)、siG12C(G12C)、抗ルシフェラーゼsiRNA(LUC)、スクランブルsiRNA(SCR)(最後の2つはネガティブコントロール)のいずれかをトランスフェクションするか、あるいはモックトランスフェクションした。KRAS mRNAレベルはReal-Time PCRを用いて測定した。結果は、相対mRNAレベル(3サンプルの平均)±標準偏差として示した。P値は、スチューデントのt検定を使用して計算した。図1A及び図1Bは、siG12Dの効果を示す。図1C及び図1Dは、siG12Cの効果を示す。
図2ABCD図2A図2Dは、siRNAをトランスフェクションした後のKRASタンパク質レベルの減少を示す。MIA PaCa-2細胞には、siG12C(G12C)又はスクランブルsiRNA(SCR)(ネガティブコントロールとして)でトランスフェクトした。図2A及び図2C:48時間後及び72時間後に、ウエスタンブロットを用いてKRASタンパク質レベルを測定した。ローディングコントロールとして抗βアクチン抗体を用いた。図2B及び図2D:A及びCに示されている結果の定量化を示す。結果は、バンドピクセル面積(3サンプルの平均)±標準偏差として表す。P値は、スチューデントのt検定を使用して計算した。
図3A図3A~3Cは、MIA PaCa-2-DRGの共培養アッセイを示す。MIA PaCa-2コロニーは、siG12D、siG12C、又はスクランブルsiRNA(ネガティブコントロールとして)のいずれかでトランスフェクションしてから48時間後に、新たに単離したマウスDRGの近くにプレーティングした。共培養により、MIA PaCa-2細胞のDRGへの移動についてモニターした。図3A:4つのMIA PaCa-2コロニーに囲まれたDRGを示す低倍率の画像である。
図3B図3B:共培養の13日目における、記載のとおり、異なる治療の代表的な画像である。
図3C図3C:siG12D、siG12C、又はスクランブルsiRNAのいずれかでトランスフェクションした後のMIA PaCa-2細胞のPNIを比較する、共培養アッセイの定量的な概要である。
図4図4は、ネガティブコントロールのスクランブルsiRNAによるトランスフェクション後の20日間のインキュベーションでの、記載されているMIA PaCa-2-DRGの共培養アッセイの代表的な画像を示す。下部パネルは、上部パネルのボックスで示される部分の拡大である。
図5図5は、KRAS G12Cを標的とするsiRNAでトランスフェクションした後の20日間のインキュベーションでの記載されるMIA PaCa-2-DRGの共培養アッセイの代表的な画像を示す。下部パネルは、上部パネルのボックスで示される部分の拡大である。
図6図6は、KRAS G12Dを標的とするsiRNAでトランスフェクションした後の20日間のインキュベーションでの記載されるMIA PaCa-2-DRG共培養アッセイの代表的な画像を示す。下部パネルは、上部パネルのボックスで示される部分の拡大である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
記載の配列の簡単な説明
本明細書で提供する核酸配列及び/又はアミノ酸配列は、37C.F.R.1.822で規定されるとおり、ヌクレオチド塩基については標準文字の略語、アミノ酸については3文字コードを用いて示す。各核酸配列の片方の鎖のみが表示されているが、相補鎖はこの表示された鎖の任意の参照によって含まれる鎖と理解される。配列一覧は、2142 12 2_ST25という名前のASCIIテキストファイルとして提出され、2020年5月16日に作成され、約9KBであり、これは参照により本明細書に組み込まれる。配列一覧において:
配列番号1は、野生型KRASタンパク質のDNAコード配列である。
配列番号2は、KRAS G12Dタンパク質のDNAコード配列である。
配列番号3は、KRAS G12Cタンパク質のDNAコード配列である。
配列番号4は、KRAS G12Vタンパク質のDNAコード配列である。
配列番号5は、KRAS G12Rタンパク質のDNAコード配列である。
配列番号6は、KRAS G12Sタンパク質のDNAコード配列である。
配列番号7は、KRAS G12Aタンパク質のDNAコード配列である。
配列番号8は、野生型KRASを標的とするように設計されたsiRNAのセンス鎖である。
配列番号9は、野生型KRASを標的とするように設計されたsiRNAのアンチセンス鎖である。
配列番号10は、KRAS G12Dを標的とするように設計されたsiRNAのセンス鎖である。
配列番号11は、KRAS G12Dを標的とするように設計されたsiRNAのアンチセンス鎖である。
配列番号12は、KRAS G12Cを標的とするように設計されたsiRNAのセンス鎖である。
配列番号13は、KRAS G12Cを標的とするように設計されたsiRNAのアンチセンス鎖である。
配列番号14は、HIV-1 Tat細胞貫通ペプチドのアミノ酸配列である。
配列番号15は、MPG細胞貫通ペプチドのアミノ酸配列である。
配列番号16は、Pep-1細胞貫通ペプチドのアミノ酸配列である。
配列番号17及び18は、KRAS転写産物のフォワードPCRプライマー及びリバースPCRプライマーである。
配列番号19及び20は、βアクチンのフォワードPCRプライマー及びリバースPCRプライマーである。
【0012】
詳細な説明
I.用語
特に説明がない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語及び科学用語は、この開示が属する技術分野の当業者が一般的に理解するものと同じ意味を有する。単数形の用語「a」、「an」、「the」は、文脈上明らかにそうでない場合を除き、複数形の指示対象を含む。同様に、「or(又は)」という言葉は、文脈上明らかにそうでない場合を除き、「and(及び)」を含むことを意図している。「comprise(含む)」は、「include(含む)」を意味する。略語の「e.g.(例えば)」はラテン語の「exempli gratia」に由来し、本明細書では非限定的な例を示すために使用されている。したがって、「e.g.(例えば)」という略語は、「for example(例えば)」という用語と同義である。矛盾する場合は、用語の説明を含む本明細書が優先される。また、すべての材料、方法及び実施例は例示であり、限定を意図したものではない。
【0013】
投与:選択した経路による対象への組成物の導入。活性化合物又は組成物の投与は、当業者に知られている任意の経路によって行うことが可能である。投与は、局所的又は全身的に行うことが可能である。局所投与の例には、局所投与、腫瘍内投与、皮下投与、筋肉内投与、髄腔内投与、眼内投与、局所眼科投与、又は吸入投与による鼻粘膜又は肺への投与が含まれるが、これらに限定されない。さらに、局所投与には、例えば、特定の臓器のために動脈供給に対する血管内投与を目的とすることによる通常全身投与に使用される投与経路が含まれる。したがって、特定の実施形態では、そのような投与が特定の器官を供給する血管系を対象とする場合、局所投与には動脈内投与及び静脈内投与が含まれる。局所投与にはまた、活性化合物及び薬剤を埋め込み可能なデバイス又はコンストラクト(本明細書に記載の薬物送達デバイスなど)に組み込むことも含まれ、これらは持続的な治療効果のために活性薬剤及び化合物を長時間にわたり放出する。埋め込み可能なデバイスは、所定の治療領域である組織又は組織環境に挿入する技術分野で知られている任意の手段によって「埋め込み」が行われる。
【0014】
全身投与には、活性化合物又は組成物を循環系を介して全身に広く分布させるように設計されたあらゆる投与経路が含まれる。したがって、全身投与には、動脈内投与及び静脈内投与が含まれるが、これらに限定されない。全身投与には、循環系による全身への吸収及び分布を目的とする場合は、これらに限定されないが、局所投与、皮下投与、筋肉内投与、又は吸入による投与も含まれる。
【0015】
変更された発現:対象又は対象由来の生体サンプルにおける同じ生体分子がこの分子に関連する生物学的状態に対して正常又は変更されていない特性を有する場合の発現から逸脱する対象又は対象由来の生体サンプルにおける生体分子(例えば、RNA(mRNA、miRNAなど)又はタンパク質)の発現である。正常な発現は、コントロール、集団の標準、及び他の同様の発現のベースライン測定値で見出すことができる。生体分子の変更された発現は、がんなどの疾患に関連している可能性がある。「関連している」という用語には、病気自体だけでなく、病気を発症するリスクの増加が含まれる。発現は、増加又は減少するような様式に変更することができる。RNA又はタンパク質の発現における直接的な変更は、病的状態に関連している分子への直接的な効果、又はそのような分子への間接的な効果から生じる治療上の利益に関連することができる(例えば、変更された発現が病理学関連分子に影響を与える下流の発現の変化をもたらす)。
【0016】
アンチセンス抑制剤:ハイブリダイズする標的核酸分子の領域と少なくとも部分的に相補的であるオリゴマー化合物を指す。本明細書で使用されるとおり、標的核酸分子に「特異的」であるアンチセンス抑制剤又はアンチセンスオリゴヌクレオチド(「アンチセンス化合物」とも呼ばれる)は、この標的核酸分子と特異的にハイブリダイズし、かつその発現を調節するものである。本明細書で使用されるとおり、「標的」核酸とは、アンチセンス化合物が特異的にハイブリダイズし、かつ発現を調節するように設計されている核酸分子である。アンチセンスオリゴヌクレオチドの非限定的な例としては、プライマー、プローブ、アンチセンスモルホリノ、小(又は短)干渉RNA(siRNA)、マイクロRNA(miRNA)、小(又は短)ヘアピンRNA(shRNA)などのRNA干渉剤、及びリボザイムが挙げられる。このように、これらの化合物は、一本鎖、二本鎖、環状、分岐、又はヘアピン化合物として導入することができ、内部又は末端の隆起(バルジ(bulge))又はループなどの構造要素を含むことが可能である。二本鎖アンチセンス化合物は、二本鎖がハイブリダイズして二本鎖化合物を形成するものでも、十分な自己相補性を有する一本鎖が、ハイブリダイズして完全又は部分的に二本鎖化合物を形成するものでもよい。
【0017】
がん:新生組織形成の産物は、過剰な細胞分裂に起因する組織の異常な成長である新生物(腫瘍又はがん)である。新生組織形成は、増殖性疾患の一例である。「がん細胞」は、腫瘍性である細胞、例えば、腫瘍から単離された細胞又は細胞株である。
【0018】
肉腫及び癌腫などの固形腫瘍の例には、線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨形成性肉腫、及び他の肉腫、滑膜腫、中皮腫、ユーイング腫瘍、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、結腸癌腫、リンパ系悪性腫瘍、膵臓がん、乳がん、肺がん(小細胞肺癌及び非小細胞肺癌など)、卵巣がん、前立腺がん、肝細胞癌、扁平上皮癌、基底細胞癌、腺癌、汗腺癌、髄質甲状腺癌、甲状腺乳頭癌、褐色細胞腫脂腺癌、乳頭状癌、乳頭状腺癌、髄質癌、気管支原性癌、腎細胞癌、肝細胞腫、胆管癌、脈絡膜癌、ウィルムス腫瘍、頸部がん、精巣腫瘍、セミノーマ、膀胱癌、黒色腫、及びCNS腫瘍(神経膠腫、星状細胞腫、髄芽腫、頭蓋咽頭腫、上衣腫、松果体腫瘍、血管芽細胞腫、聴神経腫、乏突起膠腫、髄膜腫、神経芽細胞腫、及び網膜芽細胞腫など)を含む。特定の実施形態では、記載された組成物及び方法による治療のための対象とされるがんは、原発性(発生)腫瘍ではない固形腫瘍転移を含む転移性である。転移という用語は、原発腫瘍から広がったすべてのがんに一般的に使用されることが多いが、明確な生物学的シグナルによって駆動され、かつそれに応答するがんの移動の明確な形態が存在することに留意されたい。このような明確な移動の一例として、局所神経周囲浸潤があり、これは、通常、腫瘍細胞が血流に漏出した結果として原発腫瘍から遠く離れて発生し、かつ循環系を経由して広がる遠隔転移とは区別されるものである。
【0019】
血液腫瘍の例には白血病を含み、急性白血病(急性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病(acute myelocytic leukemia)、急性骨髄性白血病(acute myelogenous leukemia)及び骨髄芽球性白血病、前骨髄球性白血病、骨髄単球性白血病、単球性白血病及び赤白血病など)、慢性白血病(慢性骨髄性(顆粒球性)白血病(chronic myelocytic (granulocytic) leukemia)、慢性骨髄性白血病(chronic myelogenous leukemia)、及び慢性リンパ性白血病)、真性赤血球増加症、リンパ腫、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫(無痛性及び高悪性度)、多発性骨髄腫、ワルデンシュトレームマクログロブリン血症、重鎖疾患、骨髄異形成症候群、毛状細胞白血病及び骨髄異形成を含む。
【0020】
化学療法剤:異常な細胞増殖又は過形成を特徴とする疾患の治療に治療的有用性を有する抗がん剤。このような疾患には、がん、自己免疫疾患、及び乾癬などの過形成性増殖を特徴とする疾患が含まれる。当業者であれば、化学療法剤を容易に同定することができる(例えば、Slapak及びKufe,Principles of Cancer Therapy,Chapter86 Harrison’s Principles of Internal Medicine,第14編;Perryら,Chemotherapy,Ch.17 Abeloff,Clinical Oncology第2編,(著作権)2000 Churchill Livingstone,Inc;Baltzer L,Berkery R(編):Oncology Pocket Guide to Chemotherapy,第2編,St.Louis,Mosby-Year Book,1995;Fischer DS,Knobf MF,Durivage HJ(編):The Cancer Chemotherapy Handbook,第4編,St.Louis,Mosby-Year Book,1993)。化学療法剤の非限定的な例としては、メルファラン(Alkeran(商標))、シクロホスファミド(Cytoxan(商標))、シスプラチン(Platinol(商標))及びブスルファン(Busilvex(商標)、Myleran(商標))などのICL誘導剤が含まれる。化学療法剤には、低分子、核酸、ペプチド、及び抗体ベースの治療的薬剤を含み、いずれも当業界では既知の例である。免疫調節剤は、固形腫瘍を含む腫瘍などの異物に対する対象の免疫系の活性を高めるものであり、化学療法剤の他の例である。
【0021】
薬物送達デバイス(DDD:Drug Delivery Device):アンチセンス抑制剤又は化学療法剤などの治療剤を対象に提供するデバイス。DDDの非限定的な例としては、薬剤溶出性インプラント及びステントが含まれる。LODERインプラントは、RNAi剤を伴う使用についての本明細書の特定の例で説明されており、かつ例示的なDDDである。
【0022】
化合物の有効量:治療される対象において所望の効果を達成するのに十分な化合物の量。化合物の有効量は、治療の過程で、単回投与で、又は数回の投与で、例えば毎日投与することが可能である。しかしながら、化合物の有効量は、適用される化合物、治療される対象、苦痛の重症度及び種類、ならびに化合物の投与方法によるであろう。
【0023】
注射可能な組成物:例えば、RNAi剤、ペプチド、又は抗体を含む核酸などの少なくとも1つの有効成分を含む薬学的に許容される流体組成物。有効成分は通常、生理学的に許容される担体に溶解又は懸濁され、組成物は、乳化剤、防腐剤、pH緩衝剤などの少量の1つ又は複数の非毒性補助物質をさらに含むことができる。本開示の組成物とともに使用するのに有用であるそのような注射可能な組成物は従来のものであり、適切な製剤は当技術分野でよく知られている。
【0024】
Local Drug EluteR(LODER):所定の薬物が組み込まれたポリマーで構成されるミリメートル単位の薬物送達の挿入可能なデバイス(DDD)又はインプラント。これらに限定されないが、RNAi剤、小分子、ペプチド、又は抗体などの薬物は、LODER組成物に応じて変化するであろう周囲の環境にある期間にわたり放出される。例えば、特定の実施形態では、LODERは、数時間、数日、数週間、さらには数ヶ月の期間にわたって薬物を放出することができる。ポリマー及び薬物に加えて、LODERは、LODERの製造及び/又はインビボの内部環境に関連する疎水性及び/又はpHを変更(改変)する薬剤を含有することができる。特定のLODER製剤の例は、本明細書でさらに説明されている。
【0025】
マイクロRNA(miRNA):通常18~24ヌクレオチドの長さの短い一本鎖RNA分子。転写された非コードDNAの長い前駆体分子から細胞内で内因的に産生されるmiRNAは、翻訳を抑制したり、又は標的核酸と相補的又はほぼ相補的なハイブリダイゼーションによって標的mRNAの切断を誘導したりすることができる(Boyd,Lab Invest.,88:569-578,2008)。本明細書で使用されるとおり、「マイクロRNA配列」には、成熟miRNA配列及び前駆体配列の両方が含まれる。本明細書で使用されるとおり、マイクロRNAの「シード配列」は、標的核酸と完全に相補的な短い配列、一般に約7ヌクレオチド長である。
【0026】
新生組織形成、悪性腫瘍、がん、及び腫瘍:新生物は、過剰な細胞分裂に起因する組織又は細胞の異常な成長である。新生物性増殖は腫瘍を生成することが可能である。個体の腫瘍の量は、腫瘍の数、体積、又は重量として測定できる「腫瘍量(tumor burden)」である。転移しない腫瘍は「良性」と呼ばれる。周囲の組織に浸潤し、及び/又は転移できる腫瘍は、「悪性」と呼ばれる。悪性腫瘍は、「がん」とも呼ばれる。
【0027】
神経周囲浸潤(PNI:perineural invasion):本明細書では「局所神経周囲浸潤(Regional Perineural Invasion)」とも呼ばれる。神経に関連しており、かつ神経の層(神経上膜、神経周膜、及び神経内膜)の周囲及び/又は内部の空間へのがん細胞の移動。神経組織との密接な関連は、原発腫瘍から体内でより遠くに発生する転移及びがん細胞の転移のより一般的な定義とPNIを区別する要因の1つである。PNI(すなわち、局所PNI)は、膵臓がん(例えば膵管腺癌)、胃癌、大腸がん、胆道腫瘍、前立腺がん、子宮頸がん、及び頭頸部がんの固形腫瘍に最も頻繁に関連している。多くの場合、がんの初期段階での患者におけるその発生は、予後不良の徴候であることが多く、かつがん誘導性の疼痛と関連していることが多い。
【0028】
薬学的薬剤:対象又は細胞に適切に投与された場合に、所望の治療効果又は予防効果を誘導することができる化学化合物又は組成物。インキュベーションには、薬剤が細胞と相互作用するのに十分な時間、標的を薬剤に曝露することが含まれる。接触には、固体又は液体の形態の薬剤を細胞とインキュベーションすることを含み、例えば、腫瘍を、懸濁状態、又は薬物送達デバイスに組み込まれた状態の記載のsiRNAと接触させることを含む。
【0029】
病気の予防又は治療:疾患の予防とは、疾患の発症を抑制することを指し、例えば、冠状動脈疾患を患う人の心筋梗塞の発症を抑制すること、又は新生物を有する対象の腫瘍の進行又は転移を抑制することを指す。治療とは、病気又は病的状態が発症し始めた後、その兆候又は症状を改善する治療的介入を指す。特定の例において、がんの治療は、疾患の進行の抑制及び/又は再発の予防を含み得る。別の例では、治療は、腫瘍を免疫調節療法などの追加の治療に感作又は増感することを含み得る。
【0030】
RNA干渉(RNAサイレンシング;RNAi):二本鎖RNA(dsRNA)などの特異的な分子が相同mRNA(標的RNAとも呼ばれる)の分解を引き起こす遺伝子サイレンシングメカニズム。二本鎖RNAは、RNA誘導サイレンシング複合体(RISC:RNA-induced silencing complex)の相同mRNAを切断するためのガイドとして機能する、小さい(又は短い)干渉RNA(siRNA)へプロセスされることが可能か、又はプロセスされる。標的RNAの残りもまた、次いでsiRNAとして機能することができ、したがって、カスケード効果が得られる。RNAi剤には、siRNAとして直接機能するか、siRNAへプロセスされるか、又はsiRNAを生成することができる任意の核酸が含まれ、例えば、転写されてRNAを生成し、次にsiRNAへプロセスされるDNAが含まれる。
【0031】
センス/アンチセンス鎖:RNA転写配列(5’から3’方向に読み取られる)を含むdsDNAの鎖は、センス鎖であり、「フォワード」鎖としても知られている。細胞のRNAポリメラーゼのテンプレートとして使用される反対の逆相補鎖は、アンチセンス鎖であり、「リバース」鎖としても知られている。同様に、dsRNA分子では、「センス」鎖は標的遺伝子のコード配列に対応し、アンチセンス鎖ではその逆相補体に対応する。
【0032】
小干渉RNA:無脊椎動物及び脊椎動物種における発現の遺伝子特異的抑制を誘導することができる合成的又は天然に生成された小さい二本鎖RNA(dsRNA:double stranded RNA)。これらのRNAは、標的遺伝子の発現の干渉又は抑制に適しており、0~約5ヌクレオチド長を有する各鎖上に3’及び/又は5’オーバーハングを含む約15~約40ヌクレオチドの二本鎖RNAを含み、二本鎖RNAの配列は、発現の干渉又は抑制が望まれる標的遺伝子のコード領域の一部と本質的に同一である。二本鎖RNAは、相補的なssRNAから、又はヘアピンを形成する一本鎖RNAから、又はDNAベクターからの発現から形成することができる。
【0033】
対象:脊椎動物を含む生多細胞生物であり、ヒト及び非ヒトの哺乳類の両方を含むカテゴリー。
【0034】
疾患又は症状に感受性のある対象:疾患又は症状を発症する可能性があるか、傾向があるか、又は素因がある対象。疾患又は状態の症状をすでに有しているか又は示している対象は、それをすでに発症しているので、「感受性(susceptible)」であると見なされることが理解される。
【0035】
標的配列:標的配列は、ssDNA、dsDNA、又はRNAの一部であり、これは、治療上有効なオリゴヌクレオチドにハイブリダイゼーションする場合に、標的の発現が抑制される結果となる。
【0036】
治療的有効量:治療される対象において所望の効果を達成するのに十分な化合物の量。化合物の有効量は、治療の過程で、単回投与で、又は数回の投与で、例えば毎日投与することが可能である。しかしながら、有効量は、適用される化合物、治療される対象、苦痛の重症度及び種類、ならびに化合物の投与方法によるであろう。
【0037】
腫瘍床:固形腫瘍の周囲にある組織。
【0038】
II.いくつかの実施形態の概要
本明細書では、対象の固形腫瘍による局所神経周囲浸潤又は神経周囲浸潤(PNI)に関連する疼痛を抑制することに使用するための、KRAS G12D、KRAS G12C、KRAS G12V、KRAS G12R、KRAS G12S、及びKRAS G12Aから選択される少なくとも1つのKRAS変異対立遺伝子を標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチド剤を含む組成物が記載される。
【0039】
特定の実施形態では、固形腫瘍は、膵臓がん、肺がん、及び大腸がんから選択されるがんの固形腫瘍である。
【0040】
いくつかの実施形態では、アンチセンスオリゴヌクレオチド剤は、RNA干渉(RNAi)剤であり、特定の実施形態では、これは、二本鎖RNAi剤である。
【0041】
さらに特定の実施形態では、アンチセンスオリゴヌクレオチド剤は、本明細書で配列番号10として記載されるセンス鎖、及び本明細書で配列番号11として記載されるアンチセンス鎖を有するsiRNA、又は本明細書に配列番号8として記載されるセンス鎖、及び本明細書に配列番号9として記載されているアンチセンス鎖を有するsiRNA、又は本明細書に配列番号12として記載されるセンス鎖、及び本明細書に配列番号13として記載されるアンチセンス鎖を有するsiRNAから選択されるsiRNAであるRNAi剤である。
【0042】
いくつかの実施形態では、組成物は、本明細書に記載の任意のLODERの実施形態の1つ又は複数における局所薬物溶出手段(local drug eluter)(LODER)として本明細書に記載される薬物送達デバイス(DDD)などの生体高分子薬物送達デバイス(DDD)にて、対象に提供される。
【0043】
また、本明細書には、KRAS G12D、KRAS G12C、KRAS G12V、KRAS G12R、KRAS G12S、及びKRAS G12Aからなる群から選択される少なくとも1つのKRAS変異対立遺伝子を標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチド剤を含む組成物の治療的有効量を、必要とする対象(すなわち、固形腫瘍を有すると診断された、又は固形腫瘍を有する疑いがある、又は固形腫瘍を有する素因がある対象)に投与することにより、固形腫瘍による局所神経周囲浸潤を軽減するための方法が記載されている。
【0044】
記載される方法の特定の実施形態では、固形腫瘍は、膵臓がん、肺がん、及び大腸がんから選択されるがんの固形腫瘍である。
【0045】
記載される方法の特定の実施形態では、アンチセンスオリゴヌクレオチド剤は、二本鎖RNAi剤などのRNA干渉(RNAi)剤である。
【0046】
記載される方法のさらに特定の実施形態では、アンチセンスオリゴヌクレオチド剤は、本明細書で配列番号10として記載されるセンス鎖、及び本明細書で配列番号11として記載されるアンチセンス鎖を有するsiRNA、又は本明細書に配列番号8として記載されるセンス鎖、及び本明細書に配列番号9として記載されるアンチセンス鎖を有するsiRNA、又は本明細書に配列番号12として記載されるセンス鎖、及び本明細書に配列番号13として記載されるアンチセンス鎖を有するsiRNAから選択されるsiRNAであるRNAi剤である。
【0047】
記載される方法の特定の実施形態では、組成物は、本明細書に記載の任意のLODERの実施形態の1つ又は複数における局所薬物溶出手段(LODER)として本明細書に記載される薬物送達デバイス(DDD)などの生体高分子薬物送達デバイス(DDD)にて、対象に投与される。
【0048】
追加の実施形態では、本明細書に記載される方法はまた、KRAS G12D、KRAS G12C、KRAS G12V、KRAS G12R、KRAS G12S、及びKRAS G12Aからなる群から選択される少なくとも1つのKRAS変異対立遺伝子を標的とするアンチセンスオリゴヌクレオチド剤を含む組成物の治療有効量を、それを必要とする対象に投与することによって、固形腫瘍の局所神経周囲浸潤に関連する疼痛を軽減するためにも使用することができる。
【0049】
最後に、本明細書に記載される組成物は、対象の固形腫瘍に関連する局所神経周囲浸潤又は疼痛を抑制するための医薬品の調製に使用することができる。
【0050】
III.神経周囲浸潤を軽減するための組成物及び方法
本明細書では、KRAS G12D又はKRAS G12Cを特異的に標的とするように設計されたRNAi剤が、例示のがん細胞株(KRAS G12C変異を有する膵臓がん細胞株MIA PaCa-2)において、神経周囲浸潤(PNI)を有意に抑制することができるという観察結果が開示される。また、変異型KRAS対立遺伝子G12Dの発現を特異的に標的とし、かつノックダウンするように設計されるsiRNAはまた、KRAS変異対立遺伝子KRAS G12C、KRAS G12V、KRAS G12R、KRAS G12S、及びKRAS G12Aの発現を有意にノックダウンすることができるという観察も開示される。
【0051】
したがって、本明細書では、記載のKRAS G12X対立遺伝子:KRAS G12D、KRAS G12C、KRAS G12V、KRAS G12R、KRAS G12S、及びKRAS G12Aの1つ又は複数の発現を抑制する、RNAi剤などのアンチセンスオリゴヌクレオチド剤を使用することによって、局所PNIを抑制及び/又は予防するための組成物及び方法が記載されている。このような薬剤は、特定の変異対立遺伝子配列を特異的に標的とするように設計されていなくても、記載の対立遺伝子を「標的」とすることを理解することができる。例えば、前述のとおり、KRAS G12Dを特異的に標的とするように設計されたsiRNAはまた、いくつかのG12X変異対立遺伝子の発現を有意にノックダウンし、よって標的とすることもできる。
【0052】
特定の実施形態では、アンチセンスオリゴヌクレオチド剤は、KRAS G12D(配列番号2);KRAS G12C(配列番号3);KRAS G12V(配列番号4);KRAS G12R(配列番号5);KRAS G12S(配列番号6);及び/又はKRAS G12A(配列番号7)の変異対立遺伝子を保有するKRAS配列を標的とする。
【0053】
さらなる特定の実施形態では、アンチセンスオリゴヌクレオチド剤は、KRAS野生型(WT:wildtype)配列(配列番号1)を標的とするように設計されている。
【0054】
特定の実施形態では、アンチセンスオリゴヌクレオチド剤は、KRAS WT配列を標的とするように設計されたsiRNA剤であり、センス配列は本明細書で配列番号8として記載されており、アンチセンス配列は本明細書で配列番号9として記載されている。他の特定の実施形態では、アンチセンスオリゴヌクレオチド剤は、KRAS G12D配列を標的とするように設計されたsiRNA剤であり、センス配列は、本明細書で配列番号10として記載され、アンチセンス配列は、本明細書で配列番号11として記載されている。さらに他の実施形態では、アンチセンスオリゴヌクレオチド剤は、KRAS G12C配列を標的とするように設計されたsiRNA剤であり、センス配列は本明細書で配列番号12として記載され、アンチセンス配列は本明細書で配列番号13として記載されている。
【0055】
本明細書に記載される組成物及び方法は、RNAi剤などのアンチセンスオリゴヌクレオチド剤を使用することにより、対象の局所神経周囲浸潤(PNI)及び/又は疼痛を抑制及び/又は予防するために使用される。特定の実施形態では、記載される方法及び組成物で使用するためのRNAi剤は、短い(又は小さい)干渉RNA(siRNA)、短いヘアピンRNA(shRNA)、又はマイクロRNAである。他の実施形態では、記載される組成物及び方法で使用するためのRNAi剤は、siRNAを得るために細胞内でプロセスされるより長いポリヌクレオチド分子を含む。特定の例には、RNase IIIクラスのエンドリボヌクレアーゼダイサーによって2-塩基3’-オーバーハングを有する21~23塩基の二重鎖に切断されるDsiRNA;アンロックド核酸塩基アナログ(UNA)と呼ばれる非ヌクレオチド非環式モノマーで修飾された二重siRNAであるUsiRNA(リボースの2つの隣接する炭素原子間の結合が除去され、ダイサー酵素を介してRNAi経路に、又は直接RISCに入るように設計することができる);RXi Therapeutics社のrxRNA(登録商標)などの自己送達RNA(sdRNA:self-delivering RNA)、及びU1アダプター(Integrated DNA Technologies(IDT)Inc)などのポリAテール付加のプレmRNA成熟ステップを抑制する薬剤を含む。
【0056】
特定の実施形態では、RNAi剤は、25~30の間のヌクレオチド(nt:nucleotide)長であり、例えば25~27nt及び19~25ntなどである。他の実施形態では、RNAi剤は19nt長である。他の実施形態において、センス鎖及び/又はアンチセンス鎖は、1~6ntの3’-オーバーハングをさらに含む。特定の実施形態では、RNAi剤は、その標的配列に対して100%相補的である。他の実施形態では、RNAi剤は部分的にのみ相補的であり、その標的配列とはヌクレオチドが1、2、3又はそれ以上異なる。他の実施形態では、2塩基の3’オーバーハングが存在する。より特定の実施形態では、センス鎖及びアンチセンス鎖はそれぞれ2ntの3’オーバーハングをさらに含む。なおさらなる実施形態では、3’オーバーハングは、連続するデオキシチミン(dT:deoxythymine)ヌクレオチドから形成され、その結果、2ヌクレオチドの3’オーバーハングは、dTdTである(例えば、本明細書で配列番号8~13として規定されるsiRNA配列において)。他の実施形態では、記載される方法及び組成物で使用されるsiRNAは、19+2のオーバーハング設計を有し、すなわち、センス及びアンチセンスは、各鎖の3’末端に19塩基対ヌクレオチド及び2つの不対ヌクレオチドを有する。特定の実施形態では、本明細書で例示されるとおり、オーバーハングはそれぞれdTdTである。
【0057】
他の実施形態では、記載されたRNAi剤の1つ又は複数のヌクレオチドは、2’-OMe又は2’-Fによって修飾されている。特定の実施形態では、そのような修飾は、記載されたsiRNAの一方又は両方の鎖で行われる。記載される修飾配列は、(dsRNA RNAi剤の場合)各鎖の3’末端にオーバーハングがある場合、ない場合(他の実施形態)に使用することができる。特定の実施形態では、オーバーハングはそれぞれ、2つの不対ヌクレオチドからなる。より特定の実施形態では、本明細書に例示されるとおり、オーバーハングはそれぞれdTdT(2つのデオキシチミジン残基)である。
【0058】
他の実施形態では、記載のRNAi剤は、上述の修飾とは別に、又はそれに加えて、化学的に修飾することができる。特定の実施形態では、修飾は、骨格又は結合の修飾である。別の実施形態では、修飾は、ヌクレオシド塩基の修飾である。さらなる実施形態では、修飾は糖の修飾である。より特定の実施形態では、上述のヌクレオチド修飾を含む修飾は、以下の表1に表される修飾から選択される。他の実施形態では、修飾は、ロックド核酸(LNA)及び/又はペプチド核酸(PNA)の骨格から選択される。その他の修飾は、米国特許出願第2011/0195123号に記載されている。
【0059】
【表1】
【0060】
他の実施形態において、記載のRNAi剤は、コレステロール、細胞貫通ペプチド、又はアルファ-トコフェロール-ビタミンEに結合され得る。RNAi剤が二本鎖である特定の実施形態では、コレステロールは、センス鎖の3’末端に結合され得る。他の実施形態において、コレステロールは、センス鎖の5’末端に結合され得る。特定の実施形態では、ヘアピン形状の分子の場合、コレステロールは、このループに結合され得る。結合分子のこれら及びさらなる例は、米国特許出願公開第2011/0195123号に記載されている。
【0061】
特定の実施形態では、RNAi剤は、共有結合を介して、又は非共有結合的複合体を介して、タンパク質伝達ドメイン(PTD:protein transduction domain)とも呼ばれる細胞貫通ペプチド(CPP:cell-penetrating peptide)と結合しており、これにより、細胞の細胞質への分子カーゴの送達を促進することができる。CPPの非限定的な例には、HIV-1 Tat(NCBI遺伝子ID:155871)又は配列YGRKKRRQRRR(配列番号14)を含むその断片;pAntp(貫通性)(NCBI遺伝子ID:40835);Isl-1(NCBI遺伝子ID:3670);トランスポータン(Transportan)、Poogaら)、MPG(GALFLGFLGAAGSTMGA;配列番号15);及びPep-1(KETWWETWWTEW;配列番号16)を含む。これらのCPP及び他のCPPの配列及び用途は、当業者に知られている。
【0062】
他の実施形態では、記載されるRNAi剤は、DOTAP(N-[1-(2,3-ジオレオイルオキシ)プロピル]-N,N,N-トリメチルアンモニウム)、DOPE(1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジルエタノールアミン)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DOPC)、1,2-ジ-O-オクタデセニル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTMA)、スペルミン、PEI(ポリエチレンイミン)、PEI-PLAポリマー、又はN-アセチルガラクトサミン(GalNAc)などのカチオン性分子と複合体を形成することができる。
【0063】
特定の実施形態では、RNAi剤は全身送達用に製剤化され、他の実施形態では、RNAi剤は、固形腫瘍の腫瘍床内及びその周辺などの治療領域への局所送達用に製剤化される。医薬品の全身的及び局所的送達のための一般的な方法及び製剤化は、上記で言及され、かつ当技術分野でよく知られている。
【0064】
記載される方法の特定の実施形態では、記載されるRNAi剤などのアンチセンスオリゴヌクレオチド剤は、生体高分子組成物において対象に提供される。アンチセンスオリゴヌクレオチドの局所送達に使用するためのそのような生体高分子組成物の1つには、アンチセンスオリゴヌクレオチド剤を含む生分解性薬物送達デバイス(DDD、又はLODER)がある。そのようなDDDは、そのアンチセンスの搭載量が腫瘍又は周囲の領域に放出されるように、固形腫瘍又は周囲の腫瘍床に埋め込まれる。他の特定の実施形態では、記載されるアンチセンスオリゴヌクレオチド剤を送達するDDDは、例えば標的器官に影響を及ぼし、局所効果を提供するという条件で、腫瘍又は腫瘍床の外側に埋め込まれ得る。
【0065】
記載される組成物の、及び記載される方法で使用するためのDDDは、一般に、生分解性ポリマーマトリックス;及びRNAi剤などの少なくとも1つのオリゴヌクレオチド剤から構成され、前記RNAi剤は、生分解性ポリマーマトリックス内に組み込まれる。
【0066】
記載のDDDは、埋め込みに適した円柱、球、又は他の任意の形状(すなわち、対象に埋め込むことができる)であり得る。特定の実施形態では、DDDは「ミリメートルスケール」である。つまり、最小直径が少なくとも0.3mmのデバイスである。特定の実施形態では、各寸法(球又は円柱の場合は直径;及び円柱、箱状構造、立方体、又は平らな壁を有する他の形状の場合は高さ及び/又は幅又は長さ)は、0.3~10mmの範囲(両端を含む)である。他の実施形態では、各寸法は、0.5~8mmの間(両端を含む)である。さらに他の実施形態では、各寸法は、0.8~5.2mmの間(両端を含む)であり、1~4mmの間、1~3.5mmの間、1~3mmの間、又は1~2.5mmの間(両端を含む)である。
【0067】
特定の実施形態では、デバイスは、直径が0.8mmの円柱である。他の好ましい実施形態では、円柱は、5.5mmの長さを有する。他の実施形態では、円柱は、約0.8mmの直径と、5.5mmの長さとを有する。他の実施形態では、記載される方法及び組成物のDDDは、18ゲージの針の直径を有する。
【0068】
他の実施形態では、デバイスの体積は、0.1mm~1000mmの間、0.2mm~500mmの間、0.5mm~300mmの間、0.8mm~250mmの間、1mm~200mmの間、2mm~150mmの間、3mm~100mmの間、又は5mm~50mmの間である。
【0069】
特定の実施形態では、DDDは直径0.8mm、長さ5.5mmで、25%w/wのsiRNA、すなわち約650μgのsiRNAを含有する。
【0070】
他の実施形態では、w/wの薬剤:ポリマーの含量比が1:100を超える。より好ましい実施形態では、前記含量は1:20を超える。より好ましい実施形態では、前記含量は1:9を超える。さらに好ましい実施形態では、前記含量は1:3を超える。
【0071】
DDDは、ポリマーで構成され、siRNAなどのオリゴヌクレオチド剤の放出メカニズムは、ポリマーのバルク侵食及びオリゴヌクレオチド剤の拡散の両方を含み;又は、いくつかの実施形態では、非分解性、又はゆっくりと分解されるポリマーが使用され、主な放出メカニズムは拡散であり、DDDは表面侵食及び/又はバルク侵食を含み、そしていくつかの実施形態では、DDDの外側部分は膜として機能し、かつその内側部分は薬物リザーバーとして機能し、これは実質的に分離されており、長期間(例えば、約1週間~約数か月)周囲の影響を受けないようになっている。異なる放出メカニズムを伴う異なるポリマーといくつかの賦形剤の組み合わせもまた任意に使用し得る。表面の濃度勾配は、好ましくは、全薬物放出期間のかなりの期間にわたって一定であり、したがって、拡散速度は実質的に一定である(「ゼロモード」拡散と呼ばれる)。「一定」という用語は、治療効果の下限閾値を超えて維持されるが、それでもなお任意に初期バースト及び/又は変動、例えば、ある程度までの増加及び減少を特徴とすることができる拡散速度を指す。他の実施形態では、無視できるとされる薬物の総量の10%未満の初期バーストが存在する。他の実施形態では、薬物の総量の約20%の初期バーストが存在する。他の実施形態では、設計により、薬物の総量の30%以上の初期の強いバーストを可能にする。拡散速度は、好ましくはそのように長期間維持され、治療的に有効な期間、例えば有効なサイレンシング期間を最適化するために、特定のレベルまで一定であると考えられる。
【0072】
特定の実施形態では、DDDは、RNAiなどの記載されたオリゴヌクレオチド剤を制御された様式で放出し、これは、これらに限定されないが、DDDの構成ポリマー、添加剤、及び表面積対体積比を含む要因に応じて変化する。例えば、表面積対体積比を下げると、RNAi剤の放出時間が長くなる。
【0073】
本明細書に記載されているDDDは、特定の薬物放出プロファイルを用いて設計される。関連パラメータの1つは、95%の活性剤(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド剤)が放出された時点である。いくつかの実施形態において、DDDは、例えば、ヒト前立腺腫瘍又は膵臓腫瘍において、3~24ヶ月の間を含む期間、例えば、3、4、5、6、8、10、12、14、16、18、20、22、又は24か月、及び例えば3~12、2~24、2~15、又は3~10か月間(両端を含む)である任意の期間にわたり、インビボで活性剤の95%を放出する。別の関連パラメータは、活性剤の90%が放出された時点であり、これは、前述のいずれかの時間枠であり得る。
【0074】
別の関連パラメータは、ある時点で放出されるオリゴヌクレオチド剤の割合である。例えば、DDDがRNAi剤を放出するようないくつかの実施形態では、埋め込み後3ヶ月でRNAi剤の80~99%(両端を含む)が放出される。他の実施形態では、活性剤の80~99%が埋め込み後2、4、6、9、12、又は24ヶ月間放出される。代替的又は追加的に、いくつかの実施形態では、埋め込み後の最初の3週間にDDDから30~50%以下のRNAi剤が放出される。特定の実施形態では、埋め込みから1ヶ月の期間にDDDから5%未満のRNAi剤が放出される。他の実施形態では、埋め込みから1ヶ月の期間にDDDから10%未満のRNAi剤が放出される。
【0075】
遅延放出DDDは、記載されたオリゴヌクレオチド剤を用いて利用される。本明細書で使用されるとおり「遅延放出」とは、最初の2ヶ月以内に薬剤の10%を超えて放出しないDDDを指す(時として発生する最大20%の初期バーストを割り引く)。他の実施形態では、DDDは、最初の3ヶ月以内にその薬物含量の10%を超えて放出しない。特定の実施形態では、1%トレハロースを含有するDDDは、遅延放出を示す。
【0076】
他の実施形態では、DDDは、薬物を含有しないゆっくりと分解されるポリマーで(浸漬、噴霧、又は当業者に知られている他の任意の方法によって)コーティングされる。ゆっくりと分解されるポリマーのさまざまな実施形態が本明細書に記載されており、それらのそれぞれは、遅延放出DDDを作成するために利用することができる。いくつかの実施形態では、コーティングは、直鎖の単糖;二糖;環状の単糖、環状の二糖を含む。他の実施形態では、コーティングは、ラクトース、スクロース、デキストラン、及びヒドロキシエチルスターチから選択される添加剤を含む。さらに他の実施形態では、コーティングはマンニトールを含む。あるいは、コーティングはトレハロースを含んでもよい。さらに他の実施形態では、コーティングは糖を含まない。
【0077】
DDDは、オリゴヌクレオチド(RNAiなど)剤が組み込まれた生分解性高分子マトリックスを含有する。特定の実施形態では、マトリックスは、ポリ(乳酸)(PLA)から構成される。他の実施形態では、生分解性マトリックスは、ポリ(グリコール酸)(PGA)から構成される。さらに他の実施形態では、生分解性マトリックスは、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)(PLGA)として知られるPLA及びPGAのコポリマーを含む。
【0078】
PLA:PGAのさまざまな比率のPLGAマトリックスはよく知られており、市販されている。同様に、RNAi剤を組み込んだそのようなマトリックスを作製するための方法は、当技術分野でよく知られている。例示的な方法(LODERを含む例示的な方法を含む)は、米国特許出願公開第2011/0195123号に記載されている。特定の実施形態では、PLGAコポリマー中のPLA:PGA比は、95:5~5:95の間であり、より特に、25:75~75:25の間である。他の実施形態では、前記比率は50:50~75:25の間であり、これは、DDD中のコポリマーの量が、50~75%の間のPLA及び25~50%の間のPGAを含むことを意味する。他の実施形態では、PLA:PGA比は、25:75~50:50の間、35:65~75:25の間、45:55~75:25の間、55:45~75:25の間、65:35~75:25の間、75:25~35:65の間、75:25~45:55の間、75:25~55:45の間、又は75:25~65:25の間である。他の実施形態では、PLA:PGA比は、80:20~90:10の間(両端を含む)である。他の実施形態では、PLA/PGA比は75:25よりも大きく、75:25~85:15の間、又は75:25~95:5の間である。あるいは、前記比率は25:75よりも小さく、25:75~15:85の間、又は25:75~5:95の間である。いくつかの実施形態では、コポリマーは、PLA:PGA比が80:20~90:10の間(両端を含む)を有し、例えば、80:20、82:18、84:16、86:14、88:12、又は90:10である。他の実施形態では、コポリマーは、75:25より大きいPLA:PGA比を有し、例えば、76:24、78:22、80:20、82:18、84:16、86:14、88:12、90:10、92:8、94:6、96:4、又は98:2を有する。さらに他の実施形態では、コポリマーは、25:75(両端を含む)よりも小さいPLA:PGA比を有し、例えば、24:76、22:78、20:80、18:82、16:84、又は14:86、12:88、10:90、8:92、6:94、4:96、又は2:98を有する。
【0079】
他の実施形態では、生分解性ポリマーマトリックスは、PEG(ポリ(エチレングリコール))で構成され、これは、DDDの大部分であるか、又は本明細書に記載の任意の他のポリマーと組み合わせて使用することができる。
【0080】
記載のDDDで使用することができる他のポリマーは、トリブロックPLA-PCL-PLAを含み、ここで、PCLは、ポリカプロラクトン;ポリ(D,L-ラクチド)(DL-PLA)、ポリ(D,L-グリコリド);又はポリ(D,L-ラクチド-co-グリコリド)を示す。特定の放出プロファイルを有するPLA、PGA、PEG、及び/又はPCLを含有する生分解性制御薬物送達担体の設計は、とりわけMakadia and Siegel,2011に記載されている。
【0081】
いくつかの実施形態では、記載されるDDDで使用されるポリマーは、5キロダルトン(kDa)よりも大きい分子量(MW)を有する。他の実施形態では、MWは50kDaよりも大きい。他の実施形態では、MWは、7kDa、10kDa、15kDa、20kDa、30kDa、70kDa、100kDa、150kDa、又は200kDaよりも大きい。他の実施形態では、MWは、5~100kDaの間、7~80kDaの間、10~60kDaの間、20~50kDaの間、又は25~50kDaの間である。拡張される特定の例では、徐放(約6ヶ月)は、90:10などの高いPLA:PGA比、及び50KDaより高いMW(分子量)を有するPLGAコポリマーを含有するDDDで達成することができる。PLAを使っても同様の効果を達成することが可能である。
【0082】
他の実施形態では、生分解性マトリックスは、親水性-疎水性相互作用の調節、薬物分散の可能化、凝集の排除、高温又は低温での保管における薬物の保存、及びマトリックスからの薬物拡散に影響を与えるインプラント内の空洞の作成の促進を含むさまざまな目的のための1つ又は複数の添加剤をさらに含む。
【0083】
親水性-疎水性相互作用は、疎水性ポリマー内に組み込まれたsiRNAなどの親水性活性物質の場合では、活性物質の凝集を引き起こし得、製造中又はその後のデバイスが対象の体内に埋め込まれ、例えば加水分解される場合に凝集する結果となる。そのような相互作用を低減するためのそのような添加剤の非限定的な例には、マンニトールなどの開環単糖類;トレハロースなどの二糖類;ソルビトール;及びグルコース、フルクトース、ガラクトースなどの他の環状単糖類、及びスクロース又は他の任意の凍結防止剤などの二糖類が挙げられる。これらの添加剤はまた、いくつかの実施形態では、水分子が移動する際に生体分子と水素結合を形成することで、生体材料が本来の生理的な構造及び機能を維持することができるようにも機能する。上記の添加剤は、キラルである場合、D-エナンチオマー、L-エナンチオマー、又はラセミ混合物の形態であることが可能である。そのような添加物のさらなる非限定的な例には、ラクトース、スクロース、デキストラン、及びヒドロキシエチルスターチが挙げられる。
【0084】
特定の実施形態では、DDDは、1%~15%の間のマンニトールを有し、例えば、1%、1.5%、2%、2.5%、5%、7.5%、10%、又は12.5%、及び15%、又はその間の任意の量のマンニトールを有する。
【0085】
他の特定の実施形態では、DDDは5%未満のトレハロースを有し、例えば異なる実施形態では0.5%、1%、1.5%、2%、2.5%、3%、3.5%、4%、又は4.5%であり、これらのRNAi剤の放出に対する効果を容易に試験することができる。
【0086】
他の実施形態では、生分解性マトリックスは、埋め込み後の低pHに対してRNAi剤などの薬剤を保護するための添加剤を含む。DDD埋め込み内部の微小環境は、酸性になる傾向がある。RNAi剤を送達する場合、好ましくはpHを閾値より高く維持する必要がある。例えば、PLGAを含むポリマー及びRNAi薬物を含むオリゴヌクレオチドは、pH<3で分解する可能性がある。したがって、DDDが固形腫瘍又は腫瘍床にRNAi剤を提供する場合などのより特定の実施形態では、そのようなpH調節(すなわち、pH変化)添加剤は、例えば重炭酸ナトリウム、炭酸ナトリウム及び水酸化マグネシウムなどの重炭酸塩及び炭酸塩から選択され得る。特定の例では、重炭酸ナトリウムは、0.05%~約5%の間の濃度で含まれ、例えば約1%などである。他の例では、重炭酸ナトリウム(又は他のpH調節剤)は、0.9%、0.8%、0.7%、0.6%、0.4%、及び0.2%、又はそれ未満を含む1%未満で含まれている。さらに他の例では、重炭酸ナトリウム(又は他のpH調節剤)は、2%、3%、4%、5%、又は1%~5%の間の任意の増分で含まれている。
【0087】
記載のDDDは、siRNAなどのRNAi剤を少なくとも10μgで含むことができる。他の実施形態では、その量は、1デバイスあたり10~2000μgの間のsiRNAであり、これは1デバイスあたり300~1700μgの間のsiRNA、1デバイスあたり300~1100μgの間のsiRNA、又は1デバイスあたり400~900μgの間のsiRNAを含む。特定の実施形態では、本明細書に記載されているRNAi剤に加えて、又はそれに代わるものとして、他の治療剤を記載のDDDに組み込み、それによって送達することができる。このような薬剤の非限定的な例としては、他のがん関連遺伝子を標的とするさらなるRNAi薬剤、低分子化学療法剤、及びこれらに限定されないが免疫調節サイトカイン及びモノクローナル抗体などの他の生物学的免疫療法剤が含まれる。
【0088】
所与の治療において複数のDDDを埋め込むことができることを理解できる。バッチ(1回の投与)として投与されるすべてのDDD中のRNAi剤の量は、少なくとも4μg、例えば少なくとも5μg、少なくとも6μg、少なくとも7μg、少なくとも8μg、少なくとも10μg、少なくとも12μg、又は少なくとも15μgとすることができる。さらに他の実施形態では、1回の投与で存在するRNAi剤の量は、2~10μg(両端を含む)であり、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10μgである。
【0089】
さらに他の実施形態では、バッチとして投与されるすべてのDDDは、0.008~0.065mg/kg/月(両端を含む)の用量、例えば、0.008mg/kg/月、0.01mg/kg/月、0.015mg/kg/月、0.02mg/kg/月、0.03mg/kg/月、0.05mg/kg/月、又は0.065mg/kg/月の用量を送達する。
【0090】
特定の実施形態では、記載のDDDの薬剤の割合は少なくとも20%である。別の実施形態では、薬物の割合は少なくとも30%、例えば30%、35%、40%、45%、50%、55%、又は60%である。別の実施形態では、薬物の割合は、8~30%の間(両端を含む)であり、例えば、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、22%、24%、26%、28%、又は30%である。
【0091】
記載のとおり、さまざまな量のポリマー、RNAi剤、及び任意の添加物をとることで、多種多様なDDDを検討することができる。そのようなDDDの特定の非限定的な例を以下に示す。
【0092】
特定の実施形態では、DDD(LODER)は、64~76%のPLGA(PLA:PGAの比率は90:10);16~27%のRNAi剤;及び5~12%のマンニトールを含有し、0.05%~1.5%の炭酸水素ナトリウムを含むか、又は含まない。他の特定の実施形態では、DDDは、80~85%のPLGA(PLA:PGAの比率は85:15);10~12%のsiRNA;7.5~10%のマンニトール、及び0.1~0.3%の炭酸水素ナトリウムであることが可能である。
【0093】
さらに他の実施形態では、記載のDDDはトレハロースを含み、マンニトールは含まない。さらに他の実施形態では、DDDはトレハロースとマンニトールの両方を含む。より特定の実施形態では、DDDは、70~91.2%のPLGA;8~30%のsiRNA;0.6~1.5%のトレハロース;及び0.1~0.4%の炭酸水素ナトリウムを含有することができる。他の実施形態では、DDDは、75~91.2%のPLGA;8~25%のsiRNA;0.6~1.5%のトレハロース;及び0.1~0.4%の炭酸水素ナトリウムを含有することができる。さらに他の実施形態では、DDDは、80~91.2%のPLGA;8~20%のsiRNA;0.6~1.5%のトレハロース;及び0.1~0.4%の炭酸水素ナトリウムを含有することができる。さらに他の実施形態では、DDDは、85~91.2%のPLGA;8~15%のsiRNA;0.6~1.5%のトレハロース;及び0.1~0.4%の炭酸水素ナトリウムを含有することができる。追加の実施形態では、DDDは、88~91.2%のPLGA;8~12%のsiRNA;0.6~1.5%のトレハロース;及び0.1~0.4%の炭酸水素ナトリウムを含有することができる。さらに他の実施形態では、DDDは、89~91%のPLGA;8~10%のsiRNA;0.6~1.5%のトレハロース;及び0.1~0.4%の炭酸水素ナトリウムを含有することができる。さらに他の実施形態では、DDDは、約90%のPLGA 85:15、約9%のsiG12D、約1%のトレハロース、及び約0.2%のNaHCOを含有することができる。上記のDDD製剤のいずれにおいて、siRNAは、代替核酸などの代替オリゴヌクレオチド剤で置き換えることができる。
【0094】
他の実施形態では、記載のDDDをコーティングすることができる。コーティングは、放出速度の調整又は長期保存時のタンパク質の粘着の防止など、さまざまな特性を考慮して設計することができる。いくつかの実施形態におけるコーティングは、マトリックスを形成するのに使用されたものと同じ材料、例えば、添加剤含有又は非含有の、又は異なる比率の添加剤を含有するがオリゴヌクレオチド剤(例えばRNAi剤)を含有しないPLGAコポリマーマトリックスを含む。他の実施形態では、コーティングは、RNAi剤を含まないだけで、マトリックスを形成するために使用されたものと同様の材料(例えば、異なる比率で同じビルディングブロックを含有するか、又は同じポリマーを含有するが異なるMWを有するもの)を含む。他の実施形態では、コーティングは、マトリックスを形成するために使用されたものと同じ材料を、PEGなどの少なくとも1つの他のポリマー材料とともに含む。他の実施形態では、コーティングはPLAを含む。さらに他の実施形態では、コーティングは、PLGAコポリマーを含み、PLA:PGAは、少なくとも80:20、例えば、80:20、82:18、84:16、85:15、86:14、88:12、90:10、92:8、94:6、96:4、98:2、及び99:1の比率であり、MWは、50KDaを超え、例えば60KDa、70KDa、80KDa、100KDa、120KDa、1500KDa、又は200KDaである。
【0095】
特定の実施形態では、記載のDDDはまた、DDDの生分解性ポリマーマトリックス内に分布するオリゴヌクレオチド剤複合体化小粒子を含有する。小粒子には、「マイクロ粒子」及び「ナノ粒子」が含まれ、マイクロ粒子には、800nm~5μmの範囲内のサイズの粒子(ミクロスフェアとも呼ばれる)が含まれる。ナノ粒子には、4nm~800nmの範囲のサイズの粒子が含まれる。(約4nmの小さいサイズは、本明細書で記載するより小さな粒子の典型であり、これは、一般的な実施形態では球体ではなく分子複合体であり、例えば、ポリマーと複合体を形成するか、又はさらなる分子(複数可)と結合するsiRNA分子などの薬物分子である)。
【0096】
特定の実施形態では、該粒子は、本明細書に記載されるとおりポリマー材料を含み、これは、マトリックスのものとは異なるか、又は同一であることができる。
【0097】
「異なる」とは、マトリックスのものとは異なるビルディングブロックから作られたポリマー、あるいはマトリックスのポリマーと少なくとも1つのビルディングブロックを共有していても異なる組成を持つポリマーを指す。例えば、該粒子はPLAで構成され得るが、DDDの周囲のマトリックスはPLGAで構成されることが可能である。別の例では、粒子内のポリマーとDDDマトリックス内のポリマーとの違いには、特定のビルディングブロックのラセミ混合物(L-PLAとDL-PLA)とは対照的に、特定のエナンチオマーを含有するポリマーを含み、ポリマーは、異なる比率の同じビルディングブロックを含有するか(同じ又は異なる分子量(MW)のいずれかを持つ)、又は同じビルディングブロックを含むが異なるMWを持つ(同じ又は異なる比率のいずれかを持つ)。「同一」とは、同じビルディングブロック、同じ比率、同じMWのポリマーを指す。
【0098】
DDDマトリックスの構成ポリマーと「同一」であるポリマーから構成される粒子は、マトリックスとは異なる追加の材料を含有することができることが理解されよう。特定の実施形態では、粒子中のポリマーは、マトリックス中のポリマーと同一ではない。
【0099】
さらに他の実施形態では、小粒子は高分子マトリックスを含まない。例えば、粒子はリポソームであり得る。他の例には、上記と同様に、DOTAP又はPEI、あるいはRNAi剤と複合体を形成した別のカチオン性分子を含む粒子が含まれる。
【0100】
薬剤複合体化小粒子を含むDDDの特定の実施形態では、粒子複合体、例えば、siRNA-DOTAP複合体は、クロロホルムに溶解され、より大きなPLA粒子内に組み込まれる。次に、そのような粒子を酢酸エチルに懸濁し、PLGAと混合してマトリックスを形成する。
【0101】
特定の例では、DDDマトリックスと小粒子の両方がRNAi剤と複合体を形成している。他の例では、DDDマトリックスはRNAi剤と複合体を形成していないが、懸濁粒子はRNAi剤と複合体を形成している。DDDマトリックス及び粒子の両方がRNAi剤と複合体を形成するこれらの実施形態において、RNAi剤は、マトリックス及び粒子において同じであってもよく、又はマトリックス及び粒子において異なってもよい。
【0102】
構成成分、製造方法などを含む、小粒子を含有するDDDのさらなる例は、米国特許公開第2013/0122096号に見出すことができ、その内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0103】
本明細書に記載の方法及び組成物は、がん(例えば、固形腫瘍)による局所性PNI及び関連する疼痛を抑制及び/又は予防するために使用される。特定の実施形態では、がんは前立腺癌である。他の非限定的な実施形態において、前記がんは、膵臓腫瘍、結腸腫瘍、肺腫瘍、脳がん、肝臓がん、腎臓がん、メラノーマ、子宮内膜癌、胃癌、腎癌、胆管癌、頸部癌、頭頸部がん、及び膀胱癌から選択されるがんなどの別のがんである。より特定の実施形態では、前記がんは、膵臓癌、膵管腺癌、小細胞肺癌、及び大腸がんから選択される。
【0104】
特定の実施形態では、遅延放出DDD及び非遅延放出DDDの混合物が対象に埋め込まれる。いくつかの実施形態における遅延放出DDD及び非遅延放出DDDの組み合わせを提供することにより、反復的な治療的介入を必要とせずに、有意な化学療法剤(例えば、siRNA)放出のより長い時間経過を可能にする。
【0105】
いくつかの実施形態では、記載のDDDは腫瘍内に埋め込まれる。他の実施形態では、DDDは腫瘍の近くに埋め込まれる。より特定の実施形態では、十分に輪郭が明確な固形腫瘍の場合、いくつかのデバイスが腫瘍体積内に間隔を置いて配置される。さらに他の実施形態では、いくつかのデバイスは、腫瘍内の針腔に沿って埋め込まれる。さらに他の実施形態では、1つ又は複数のデバイスは、それらが腫瘍の周囲と直接接触しないように埋め込まれる。あるいは、輪郭が明確でない固形腫瘍の場合、デバイスは腫瘍細胞を含有すると考えられる領域に挿入される。
【0106】
以下の実施例は、特定の機能及び/又は実施形態を説明するために提供されている。これらの実施例は、この開示を記載される特定の特徴又は実施形態に限定するように解釈されるべきではない。
【実施例
【0107】
実施例1:siG12Dは後根神経節モデルにおける膵臓がん細胞による神経浸潤を抑制する
一般的な固形腫瘍転移、特に膵臓がんの特徴の1つは、膵臓がん患者などのがん患者が経験する疼痛の発生に寄与する神経周囲浸潤(PNI)の発生率が高いことである。この実施例では、KRAS G12D及びG12Cの変異を標的とするsiRNA(siG12D及びsiG12C)が、膵臓がん細胞のニューロンへの移動に及ぼす効果を試験する。
【0108】
方法
ex-vivo共培養モデルを使用して、KRAS G12C又はKRAS G12Dのいずれかを標的とするsiRNAによるMIA PaCa-2細胞のトランスフェクションが、マウスDRG(dorsal root ganglia:後根神経節)への移動を減少させるかどうかを決定した。
【0109】
KRAS G12C及びKRAS G12DのsiRNAによるトランスフェクション後のKRAS mRNAレベルの分析
KRAS G12D又はKRAS G12Cを標的とするsiRNAのトランスフェクションが両方とも、転写レベルでKRASの発現をダウンレギュレートすることを確立するために、MIA PaCa-2細胞を70%のコンフルエンシーで12ウェルプレートに2回ずつプレーティングした。翌日、製造元の指示に従って、lipofectamine3000(Invitrogen)を使用して、指示された濃度のKRAS G12D又はKRAS G12Cに特異的なsiRNA(それぞれ、siG12D又はsiG12C)を細胞にトランスフェクトした。siG12Dトランスフェクションでは、抗ルシフェラーゼsiRNAをネガティブコントロールとして使用した。siG12Cでのトランスフェクションには、Origene社の非標的siRNAを使用した。KRAS G12Dを標的とするsiRNAは、本明細書で配列番号10(5’-GUUGGAGCUGAUGGCGUAGdTdT-3’)として記載されるセンス鎖、及び本明細書で配列番号11(5’-CUACGCCAUCAGCUCCAACdTdT-3’)として記載されるアンチセンス鎖を有する。KRAS G12Cを標的とするsiRNAは、本明細書で配列番号12(5-’GUUGGAGCUUGUGGCGUAGdTdT-3’)として記載されるセンス鎖、及び本明細書で配列番号13(5’-CUACGCCACAAGCUCCAACdTdT-3’)として記載されるアンチセンス鎖を有する。トランスフェクションから24時間後に細胞を回収し、製造元の指示に従ってNucleoSpin RNA Plusキット(MACHEREY-NAGEL)を用いてRNAを精製した。400ngのRNAを、qScript cDNA合成キット(Quantabio)を用いて、製造元の指示に従ってcDNAに変換した。その後、リアルタイムPCRを行い、siRNAでトランスフェクトした細胞におけるKRAS転写産物の相対量をデルタ・デルタCt法で評価した。KRAS転写産物の増幅には、以下のプライマーを使用した:フォワード:5’-GAGGCCTGCTGAAAATGACTG-3’(配列番号17)リバース:5’-TTACTACTTGCTTCCTGTAGG-3’(配列番号18)。ベータアクチンは、ハウスキーピング遺伝子の内部コントロールとして使用した:フォワードプライマー:5’-AAATCTGGCACCACACCTTC-3’(配列番号19)、リバースプライマー:5’-GGGGTGTTGAAGGTCTCAAA-3’(配列番号20)
【0110】
KRASタンパク質レベルの解析
KRAS G12Cに対するsiRNA又はスクランブルコントロールsiRNAをトランスフェクションした細胞から細胞抽出液を調製し、トランスフェクションから48及び72時間後に回収した。KRASタンパク質レベルを、抗KRAS抗体(Cell Signaling Technology Ras(27H5)Rabbit mAB、カタログ番号:S3339)を使用する標準的なウエスタンブロット分析によって評価した。タンパク質抽出液を、RIPAバッファーを使用して調製した。タンパク質濃度をブラッドフォードアッセイで定量し、等量を12%SDS-PAGEゲルにロードしてから、PVDFメンブレンに転写した。ECLを使用してKRASタンパク質を検出した。ローディングコントロールとして、ハウスキーピング遺伝子のベータアクチンを使用した。
【0111】
神経とがん細胞との相互作用を評価するための神経浸潤ex vivoモデル
ex vivoアッセイ技術は、Na’araら;In Vitro Modeling of Cancerous Neural Invasionに詳細に記載されている:The Dorsal Root Ganglion Model.J Vis Exp.(110):e52990;2016。簡潔には、CO安楽死を使用してマウス(C57BL/6J 2~4週齢)を殺処分し、成長因子低減基底膜マトリックス(Cultrex)において、切除したDRGをMIA PaCa-2細胞のコロニーに約500μm隣接して埋め込んだ。MIA PaCa-2細胞は、共培養プレートに移される48時間前に指示されたsiRNAでトランスフェクトした。培養物は、37℃及び5%COのインキュベーション条件において、で10%FCSを含有するRPMI-1640で培養した。培養物を毎日顕微鏡下で検査し、神経浸潤について評価した。移植後13日目に、DRGへの侵入を示した各治療からのコロニーの割合を評価した。別の実験では、PNIの程度を移植後20日で定性的に観察した。
【0112】
結果
実験用の細胞株の選択
第1に、ヒト膵臓がん細胞株MIA PaCa-2で以前に観察したように、自社のKPC細胞株K989がDRG ex vivoシステムでDRGに向かって移動できるかどうかを調査した。K989のKRAS遺伝子は、G12D変異をもたず、siG12D-LODERのsiG12DsiRNAにより良好に適した標的である。MIA PaCa-2細胞のKRAS遺伝子にはG12Cの置換がない。本発明者らの実験システムではK989細胞のDRGへの移動を検出できなかったため、ここで説明する残りの実験にはMIA PaCa-2を選択した。以下及び実施例2で記載されるとおり、siG12D siRNAはKRAS G12Cの発現を効果的にノックダウンし、これはMIA PaCa-2細胞における特定の変異型KRAS標的剤としての使用を支持している。
【0113】
siRNAトランスフェクション後のKRAS RNA転写レベルの低下
KRAS G12D遺伝子(siG12D)(配列番号10及び11)に対するsiRNAを用いてMIA PaCa-2細胞に3回トランスフェクトした。3つの異なる濃度を試した;1,100及び400nM。KRAS転写レベルの最大の低下は、1nM siRNAの濃度で達成されたことがわかった。この濃度では、モックトランスフェクション細胞の約60%という穏やかな減少が見られた。別の実験では、10nMのsiG12D siRNAをトランスフェクトし、1nMのオリゴで観察された効果と同様に、転写レベルがモックトランスフェクト細胞の約60%に減少することを観察した(図1A及び1B)。
【0114】
KRAS G12C変異(siG12C)用に設計されたsiRNA(配列番号12及び13)を使用した場合、KRAS転写レベルがモックトランスフェクション及びスクランブルsiRNAと比較してそれぞれ91%及び85%減少することがわかった(図1C及び1D)。
【0115】
siRNAトランスフェクション後のKRASタンパク質レベルの低下
KRAS G12Cに対するsiRNA(siG12C)又はスクランブルコントロールsiRNAで3回トランスフェクトしたMIA PaCa-2細胞の抽出物中のKRASタンパク質レベルをウエスタンブロットで分析した。β-アクチンはローディングコントロールとして機能した。図2A及び2Cは、トランスフェクションの48時間後及び72時間後の細胞抽出物の膜を、それぞれKRAS抗体及びベータアクチン抗体でプローブしたものを示す。図2B及び2Dは、トランスフェクションの48時間後及び72時間後のベータアクチンレベルの正規化後のKRASシグナル強度を示す。正規化されたKRASタンパク質のピクセル密度は、トランスフェクションの48時間後(P<0.005)及びトランスフェクションの72時間後(P<0.05)に、スクランブルsiRNAでトランスフェクトされた細胞と比較してKRAS G12C siRNAでトランスフェクトされた細胞の細胞抽出物では約半分であった。
【0116】
KRASサイレンシングは神経とがん細胞の相互作用を抑制する
新たに単離した後根神経節(DRG:dorsal root ganglion)をペトリ皿の中央に置き、同じ治療からの4つのMIA PaCa-2コロニーを、DRGに対して12、3、6、及び9時にプレーティングした(図3A)。細胞を培地で覆い、主要コロニーからDRGへのがん細胞の移動を毎日モニターした。プレーティング後13日での代表的な画像を図3Bに示す。最初の神経とがん細胞の相互作用は、7日目にスクランブルsiRNAトランスフェクト細胞で観察した。9日目までに、KRAS G12C siRNAでトランスフェクトした細胞において神経突起とがん細胞との相互作用を確認することもできた。KRAS G12D siRNAの場合、12日目の最初の相互作用を観察できた。全体として、実験の最終日である14日目に測定したとおり各治療の総配向についての相互作用の比率は、スクランブルsiRNAで治療した細胞で80%、KRAS G12C siRNAで治療した細胞で40%、及びKRAS G12D siRNAで治療した細胞で17%であった。これらの結果を図3Cに示す。
【0117】
別の実験では、形質転換されたMIA PaCa-2細胞を上記のとおりプレーティングし、20日間共培養した。図4~6は、この期間の終わりに撮影された代表的な画像を示す。図4では、膵臓がん細胞コロニーからDRGまでのPNIが、低い倍率(上のパネル)と高い倍率(下のパネル)の両方ではっきりと見ることができる。対照的に、図5及び図6に示すとおり、KRAS G12C及びG12Dをそれぞれ標的とするsiRNAはPNIを有意に抑制する。低倍率(図5図6の両方の上部パネル)では、MIA PaCa-2コロニーを接続する移動細胞は見られない。より高い倍率(下のパネル)では、主要なMIA PaCa-2コロニーを除いて、わずかな散乱細胞しか観察できない。
【0118】
siRNAトランスフェクションの48時間後に細胞生存率を試験し、siG12C及びsiG12DによるPNIの抑制がMIA PaCa-2細胞死の結果ではないことを確認した(データは示さず)。
【0119】
議論
この実施例では、変異型KRAS(MIA PaCa-2のKRAS G12C、試験細胞株)のサイレンシングがin vitroでDRGへの細胞移動に影響を与えるかどうかを決定することを試みた。2種のsiRNAオリゴを使用した:1つ(siG12D)は、siG12D-LODERの製剤と同一であり、膵管腺癌(PDAC:pancreatic ductal adenocarcinoma)患者に最も豊富なKRAS G12D変異を標的とするsiRNAを含有する。もう1つ(siG12C)は、本発明者らの実験細胞株であるMIA PaCa-2、KRAS G12Cに存在する変異を特異的に標的とする。予想通り、KRAS G12Cオリゴでより良いサイレンシングを観察した。DRG移動アッセイは、神経とがん細胞との相互作用を評価するために使用されることが多い3次元のex-vivoアッセイである。実験の結果は、相互作用の時間及びDRGに向かって移動することができたコロニーの速度の両方の遅延を観察したため、変異したKRASのサイレンシングがニューロンとがん細胞との相互作用及び神経浸潤を抑制できることを示唆している。
【0120】
実施例2:siG12Dは複数のKRAS G12X変異対立遺伝子を標的とする
前の実施例は、KRAS G12Dを標的とするsiRNA(siG12D)も、KRAS G12C変異を持つmRNAの発現を有意にノックダウンできることを示した。この実験は、この観察結果を複製及び拡張し、siG12Dが複数の変異対立遺伝子の発現をノックダウンする能力を示している。野生型(WT:wildtype)KRASを標的とするsiRNAが、いくつかの変異型KRAS対立遺伝子の発現を同様にノックダウンする能力も示されている。
【0121】
方法
目的のKRAS対立遺伝子配列は、NCBI(National Center for Biotechnology Information:米・国立生物工学情報センター)データベースに寄託されたKRASヌクレオチド配列(開始から停止コドンまでの128aaをコードする567ntの長さ)をベースにした。
【0122】
KRAS WT、G12D、G12C、G12V、G12R、G12S、及びG12Aのヌクレオチド配列は、本明細書において、それぞれ、配列番号1~7として記載されている。KRAS G12Dを標的とするsiRNAは、実施例1に一覧されているとおりである。KRAS WTを標的とするsiRNAは、本明細書で配列番号8(5-’GUUGGAGCUGGUGGCGUAGdTdT-3’)として記載されるセンス鎖、及び本明細書で配列番号9(5’-CUACGCCACCAGCUCCAACdTdT-3’)として記載されるアンチセンス鎖を有する。
【0123】
Hepa1~6細胞は、1%Pen/Strep(ATCC CRL-1830、10%FCSを含有するように補充されたATCC配合のダルベッコ改変イーグル培地)を含む適切な培地を使用して培養した。この研究で使用されたすべての種類の細胞は、加湿されたインキュベーター内で5%COの雰囲気で37°Cで培養した。
【0124】
マウスHepa1~6細胞を、白い壁の96ウェル組織培養プレートに20.000細胞/ウェルの密度で播種した後、7種の異なるDual-Gloレポータープラスミドのうちの1種とともに目的のsiRNAで細胞のコトランスフェクトを行った。コンストラクトは、R-Lucの3’-UTRの状況において(つまり、KRAS WT、G12D、G12V、G12A、G12S、G12C、及びG12Rのレポーターコンストラクト)、KRAS(及び誘導)配列を含有するPromega社のpsiCHECK-2ベクターをベースにした。Lipofectamine2000(Invitrogen/Life Technologies)を製造元の指示に従って使用して、siRNA及びDual-Gloレポーターコンストラクトによる細胞のコトランスフェクションを実施した。用量反応実験は、10、2.5、0.625、0.156、0.039、0.0098、0.0024、0.0006、0.00015、及び0.000038nMのsiRNA濃度で行った。適切なポジティブコントロール及びネガティブコントロールを使用した。各siRNA及びコントロールについて、少なくとも4つのウェルを並行してトランスフェクトし、各ウェルから個々のデータポイントを収集した。
【0125】
Dual-Gloルシフェラーゼアッセイは、製造元の指示に従って実行した。暗所で基質の存在下でインキュベートした後、1420発光カウンター(WALLAC VICTORライト、Perkin Elmer、ロートガウ-ユゲスハイム、ドイツ)を使用して発光を読み取った。KRAS siRNA治療細胞を含む各ウェルについて、モック又はネガティブコントロールのsiRNA治療細胞の平均R-Luc/F-Luc活性に対して、R-Luc活性をF-Luc活性に正規化した。言い換えれば、いずれのsiRNAの活性は、コントロールのウェル全体の平均R-Luc活性(F-Luc活性に正規化)に対する、治療細胞におけるパーセントR-Luc活性(F-Luc活性に正規化)として表した。
【0126】
結果
Hepa1~6細胞に、目的の3種のsiRNA(KRAS WT、KRAS G12D、及びF-Lucを標的とする)を、用量反応セットアップのすべてのDual-Gloレポータープラスミドとともにトランスフェクトした。siRNAの最終濃度は10nMで、4倍希釈の9段階で3.8E-05nMに低下した。すべてのデータは4組で生成され、トランスフェクション後24時間細胞を再度インキュベートした後、Dual-Gloルシフェラーゼアッセイを行った。これらのアッセイの結果の概要を表2に示す。表に示されているとおり、siG12Dは、63.8%(G12S)~95.8%(G12D)までのさまざまな程度で、アッセイされたKRAS変異対立遺伝子の発現を効果的に標的とすることができる。有意ではあるが、G12C対立遺伝子に対するsiG12Dのノックダウン活性は比較的穏やかであった(発現の65%減少)。しかしながら、実施例1に示されるとおり、この標的化活性は、G12C保有MIA PaCa-2細胞コロニーのPNIを効果的に抑制することができた。
【0127】
試験したすべての変異対立遺伝子に対するsiG12Dのノックダウン効果に加えて、表2はまた、WT KRASを標的とするsiRNAが変異対立遺伝子の発現を効果的にノックダウンできたことも示している。
【0128】
【表2】
【0129】
開示された発明の原理が適用され得る多くの可能な実施形態を考慮し、示された実施形態は、本発明の好ましい例にすぎず、本発明の範囲を限定するものと見なされるべきではないことを認識すべきである。むしろ、本発明の範囲は、以下の特許請求の範囲によって定義される。したがって、本発明者らは、これらの特許請求の範囲及び精神内にあるすべてのものを本発明者らの発明として主張する。
図1ABCD
図2ABCD
図3A
図3B
図3C
図4
図5
図6
【配列表】
2022532420000001.app
【国際調査報告】