(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-15
(54)【発明の名称】高い比活性を有する精製された魚類プロテアーゼ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 9/64 20060101AFI20220708BHJP
C07K 1/20 20060101ALI20220708BHJP
C12N 9/76 20060101ALN20220708BHJP
【FI】
C12N9/64 Z
C07K1/20
C12N9/76
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021567995
(86)(22)【出願日】2020-04-27
(85)【翻訳文提出日】2022-01-11
(86)【国際出願番号】 EP2020061588
(87)【国際公開番号】W WO2020229145
(87)【国際公開日】2020-11-19
(32)【優先日】2019-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521495585
【氏名又は名称】バイオセウティカ・べー・フェー
【氏名又は名称原語表記】BIOSEUTICA B.V.
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】ユーシフ,アレックス・ノバー
(72)【発明者】
【氏名】ダッタ・パッセッカー,プリヤンカ
(72)【発明者】
【氏名】フェラーリ,ヴァレリオ・マリア
(72)【発明者】
【氏名】シッダールタ,ジェイ
【テーマコード(参考)】
4B050
4H045
【Fターム(参考)】
4B050CC07
4B050DD11
4B050FF05C
4B050FF09C
4B050FF18C
4B050LL01
4B050LL02
4B050LL10
4H045AA20
4H045BA10
4H045CA52
4H045DA89
4H045EA01
4H045EA20
4H045EA60
4H045GA10
4H045GA21
(57)【要約】
本発明は、魚類の内臓、好ましくはタラ(Gadus属)の内臓から魚類プロテアーゼを製造するための方法に関する。本発明に従って製造された魚類プロテアーゼは、高い比酵素活性を有し、食品用途、生物医学用途、組織学及び組織培養に有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚類の内臓から魚類プロテアーゼを精製する方法であって、
前記プロテアーゼは、240U/mg±40U/mg トリプシンの平均比酵素活性、4±2U/mg キモトリプシン活性、0.04±0.02U/mg コラゲナーゼ活性及び65±10U/mg プロテアーゼ活性を有し、
a)塩化カルシウムバッファー(pH7)を使用して、魚類の内臓から粗酵素を抽出し、ろ過し、限外ろ過することと、
b)限外ろ液を7.8~8.2のpH範囲で52~62mSの導電率を有するCaCl
2水溶液で抽出し、続けて、深層ろ過することと、
c)直鎖アルキルリガンド又はアリールリガンドを有するアガロースベースマトリックスを固定相として使用し、低塩含量のバッファーで溶出し、ついで、水混和性有機溶媒とポリオールとの水性混合物で溶出する疎水性相互作用クロマトグラフィーにより、ろ液を精製することと、
d)透析することと、
e)場合により、凍結乾燥させることとを含む、
方法。
【請求項2】
魚類の内臓が、タラの内臓である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
工程a)を4~25℃の温度で行う、請求項1記載の方法。
【請求項4】
工程a)のカルシウムイオンが、20mMの最終濃度での塩化カルシウムから得られる、請求項1記載の方法。
【請求項5】
工程a)の限外ろ過を、1kダルトンのカットオフを有する膜を使用して行う、請求項1記載の方法。
【請求項6】
工程c)で使用される固定相のアガロースベースマトリックスが、アリールリガンド及び50~100ミクロンの粒径分布を示す、請求項1記載の方法。
【請求項7】
工程c)における低塩含量のバッファーによるクロマトグラフィー溶出を、1.5M 酢酸ナトリウム水溶液を使用して行う、請求項1記載の方法。
【請求項8】
工程c)におけるクロマトグラフィー溶出に利用される水混和性有機溶媒が、イソプロパノールである、請求項1記載の方法。
【請求項9】
工程c)におけるクロマトグラフィー溶出の成分として利用されるポリオールが、グリセロールである、請求項1記載の方法。
【請求項10】
工程c)を4~25℃の温度で行う、請求項1記載の方法。
【請求項11】
工程e)を行わず、魚類プロテアーゼを、所望の最終濃度で工程d)から直接水溶液中に単離する、請求項1記載の方法。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項の方法により得られた、240U/mg±40U/mg トリプシンの平均比活性、4±2U/mg キモトリプシン活性、0.04±0.02U/mg コラゲナーゼ活性及び65±10U/mg プロテアーゼ活性を有する、
魚類プロテアーゼ。
【請求項13】
0.1~0.3g/L 塩化カリウム及びリン酸二水素カリウム、7~9g/L NaCl、1.0~1.3g/Lのリン酸一水素二ナトリウム、2.4mg/L フェノールレッド及び0.3~0.6mMの範囲の最終濃度でのエチレンジアミン四酢酸ナトリウムを含む、請求項12記載の魚類プロテアーゼ含む、
配合物。
【請求項14】
食品、生物医学用途、組織学及び組織培養のための、請求項12記載の魚類プロテアーゼの使用。
【請求項15】
組織学並びにPC12及びNPC細胞系統の組織培養における、請求項12記載の魚類プロテアーゼの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、魚類の内臓、好ましくはタラ(Gadus属)の内臓から魚類プロテアーゼを製造するための方法に関する。本発明に従って製造された魚類プロテアーゼは、高い比酵素活性を有し、食品用途、生物医学用途、組織学及び組織培養に有用である。
【0002】
背景
トリプシン(EC 3.4.21.4)のタンパク質分解活性は、1876年にW. Kuhneにより、膵臓分泌物において最初に記載された(「Ueber das Trypsin (Enzym des Pankreas)」, Verhandlungen des naturhistorisch-medicinischen Vereins zu Heidelberg, vol. 1, no. 3, pages 194-198)。
【0003】
この酵素は、塩基性加水分解より約100倍速く、リシン及びアルギニンのアミノ酸残基に対するC末端側ペプチド結合を特異的に加水分解する。トリプシンは、最初の発見以来、昆虫、魚類、ほ乳類を含むすべての動物において特定されてきた。各ソースからのトリプシンは、活性がわずかに異なるが、酵素についての天然基質は、リシン又はアルギニンを含有する任意のペプチドである。
【0004】
ヒトトリプシンは、アルギニン又はリシン残基の後のペプチド結合を加水分解し、その活性は、pH7.5~8.5かつカルシウムイオンの存在下で最適であり、さらに、ヒトトリプシンは、約37℃の最適動作温度を有する。
【0005】
魚類トリプシン、例えば、タイセイヨウダラ(Atlantic cod)から単離されたトリプシンは、異なる最適温度範囲を有する(魚類等の変温動物は、低体温で生存するため)。例えば、タラトリプシンは、4~65℃の最大温度活性範囲及び55℃での最大活性を有するトリプシンIと、2~30℃に含まれる活性範囲及び21℃での最大活性を有するトリプシンYとを含む(Gudmundsdottir A et al., 2005 Mar-Apr;7(2):77-88); Hindawi Publishing Corporation; BioMed Research International, Volume 2013, Article ID 749078)。ほ乳類トリプシンと魚類トリプシンとの間の別の関連する相違は、それらの熱安定性であり、例えば、魚類トリプシンは、低温殺菌プロセスにより完全に不活性化されるが、ほ乳類トリプシンは不活性化されない。タンパク質として、トリプシンは、ソースに依存して、種々の分子量を示す。例えば、23.3kDaの分子量が、ウシ及びブタソース由来のトリプシンについて報告されている。一方、タイセイヨウダラから単離された魚類トリプシンI、トリプシンX及びトリプシンYはそれぞれ、23.9kDa、23.9kDa及び25.1kDaの分子量を有する(Bjarki Stefansson et al., Characterization of cold-adapted Atlantic cod (Gadus morhua) trypsin I - Kinetic parameters, autolysis and thermal stability; Comparative Biochemistry and Physiology, Part B; (2010) 186-194)。トリプシンの商業的用途は、とりわけ、細胞及び組織培養プロトコールの開発(Soleimani M.; Nadri S. A, Nature protocols (2009), 4(1), 102-6)、ペプチド配列決定技術によるタンパク質特定(Schuchert-Shi et al., Analytical Biochemistry (2009), 387(2), 202-207)及び変形性関節症における関節軟骨の分解をモデル化するための医学分野(Wang S. et al., Connective tissue research (2010), 51(1), 36-47)におけるそれらの使用を含むことができる。特に、魚類トリプシン(タイセイヨウダラトリプシンI)は、ロブスター、エビ、カニ及び他のシーフードからの全て天然のシーフード風味の製造を含む、各種の工業的用途においてその有用性が既に証明されている(Bjarnason, J.B. et al., Psychrophilic proteinases from Atlantic cod ACS Symposium Series (1993), 516 (Biocatalyst Design for Stability and Specificity), 68-82)。さらに最近では、タラトリプシンは、天然タンパク質の分解に高い有効性を示し、HSV-1及びRSVに対するin vitroでの抗病原性有効性を示し、魚類プロテアーゼの新たな治療用途に新たな展望を開いた(BioMed Research International Volume 2013, Article ID 749078, http://dx.doi.org/10.1155/2013/749078)。プロテアーゼ及び海洋生物トリプシンの使用の重要な態様は、それらが自己分解を受けるため、それらの安定性である。この理由で、それらは、分解を防止するために、非常に低温度(-20~-80℃)で保存されるべきである。自己分解は、これらのプロテアーゼをpH3に保つことにより又は還元的メチル化により修飾されたプロテアーゼを使用することにより制御することができる。セリンプロテアーゼ(トリプシンも含まれるプロテアーゼのクラス)は、pHをp 8に戻すように調整した場合に活性の回復を示す(F.M. Pohl European J. Biochem. 7 (1968), 146-152;Aizawa, N.; Yokohama Medical Bulletin (1960), 11, 101-10)が、非常にアルカリ性の条件(pH10)下で作業した場合の活性の重大な損失が記載されている(B. K. Khangembam et al., International Aquatic Research, December 2012, 4:9)。甲殻類の腸から抽出され、CAS登録番号534583-22-7により特定される市販の海洋生物プロテアーゼ(商品名Accutase)も、温度感受性である:それらは、4℃で60日間安定であるが、37℃で保存されると、それらの酵素活性の75%がすぐに(90分で)失われる。
【0006】
これらの精製されたトリプシン及びプロテアーゼの特性の、安定性及び酵素活性に関する標準化は、それらの商業的使用の観点から重要である。それらを生産試薬としての(例えば、食品化学における)使用ならびに組織学及び組織培養における使用のために検証することができるためである。消化器官として機能するタイセイヨウダラの盲腸幽門部は、漁業の副産物であり、トリプシンを含む魚類プロテアーゼの単離のための安価な出発材料として利用することができる。この盲腸幽門部は、消化酵素、例えば、セリンプロテアーゼを大量に含んでいる(Asgeirsson B. et al., Eur J Biochem 180(1), 85-94)。
【0007】
タイセイヨウダラ由来のこれらのセリンプロテアーゼファミリーの最も公知のメンバーは、トリプシン、キモトリプシン、エラスターゼ、セリンコラゲナーゼ及びブラキウリンである(Halfon S, Craik CS (1998) 「Family S1 of trypsin (clan SA)」 In: Handbook of Proteolytic Enzymes, Barrett AJ, Rawlings ND, Woessner JF, eds. (San Diego, Calif.: Academic Press) pp 5-12)。より詳細には、トリプシンI、II及びIIIと呼ばれる3つのネイティブなトリプシンアイソザイムが、タイセイヨウダラの盲腸幽門部から単離された。トリプシンIは、最も豊富に存在し、最良に特徴付けられた形態であり、最も高い触媒効率も示す。この効率は、その中温性ウシ類似体の触媒効率より約20倍高い。しかしながら、魚類の内臓からプロテアーゼを精製する公知の方法(Comparative biochemistry and physiology. Part B, Biochemistry & molecular biology (1995), 110(4), 707-17;Journal of Agricultural and Food Chemistry, 39 (10), Pages 1738-42 (1991))は、非常に複雑であり、特に、(NH4)2SO4分画及び疎水性相互作用クロマトグラフィー、親和性クロマトグラフィー又はイオン交換クロマトグラフィーを含む複数のクロマトグラフィー精製を含む場合がある複数の精製工程を必要とする。文献に報告されているデータに基づいて、粗抽出物からのトリプシンの精製の全体的な収率は低く、得られる比酵素活性は、数単位/mgであることに留意されたい。
【0008】
さらに、Ca2+の存在下かつ低温で作業する、長い精製工程の間、自己溶解からトリプシンを安定化させる必要性は、工業的規模へのスケールアップのための高コストを意味する。したがって、より単純で効果的な精製方法が必要とされる。
【0009】
発明の説明
本発明は、魚類の内臓から魚類プロテアーゼを精製するための方法であって、
a)塩化カルシウムバッファー(pH7)を使用して、魚類の内臓から粗酵素を抽出し、ろ過し、限外ろ過することと、
b)限外ろ液を7.8~8.2のpH範囲で52~62mSの導電率を有するCaCl2水溶液で抽出し、続けて、深層ろ過することと、
c)直鎖アルキルリガンド又はアリールリガンドを有するアガロースベースマトリックスを固定相として使用し、低塩含量のバッファーで溶出し、ついで、水混和性有機溶媒とポリオールとの水性混合物で溶出する疎水性相互作用クロマトグラフィーにより、ろ液を精製することと、
d)透析することと、
e)場合により、凍結乾燥させることとを含む、方法を提供する。
【0010】
本発明の方法により得られたプロテアーゼは、240U/mg±40U/mg トリプシンの平均比酵素活性、4±2U/mg キモトリプシン活性、0.04±0.02U/mg コラゲナーゼ活性及び65±10U/mg プロテアーゼ活性を有する。
【0011】
該方法は、出発材料として使用されるタラの内臓の0.06~0.11重量%の固形分魚類プロテアーゼの総収率を提供する。
【0012】
魚類の内臓は、好ましくは、タラの内臓である。
【0013】
工程a)の抽出プロセスを4~25℃の温度で行う。
【0014】
pH塩化カルシウムバッファーは、好ましくは、20mMの最終濃度を有する。
【0015】
限外ろ過を好ましくは、1kダルトンのカットオフを有する膜を使用して行う。一方、工程c)で使用される固定相のアガロースベースマトリックスは、アリールリガンド及び50~100ミクロンの粒径分布を示す。
【0016】
工程c)における低塩含量のバッファーによるクロマトグラフィー溶出を、好ましくは、1.5M 酢酸ナトリウム水溶液を使用して行い、水混和性有機溶媒は、イソプロパノールであり、ポリオールは、グリセロールである。
【0017】
工程c)を好ましくは、4~25℃の温度で行う。
【0018】
詳細な説明:定義
表面からの足場依存性細胞の剥離及び解離について試験された細胞系統
PC12細胞(ラット副腎髄質の褐色細胞腫に由来する細胞系統)は、特異的なレセプターを有し、上皮成長因子(EGF)に応答すると考えられる(Huff and Guroff, 1979)。このようなレセプターの存在は、神経細胞の発達中のEGFのこれまで特定されていなかった役割を反映している場合があり、代替的には、PC12細胞の腫瘍性の性質と相関している場合がある。PC12細胞は、ニューロンの分化、神経伝達物質の合成、貯蔵及び放出、イオンチャネルの機能及びレギュレーション並びに化合物と膜結合レセプターとの相互作用に関連するプロセスの化学的破壊を研究するためのモデルを提供する。
【0019】
人工多能性幹細胞(iPSC)は、成体細胞から直接発生させることができる多能性幹細胞の一種である。これらの細胞は、肝系統に分化することができ、肝疾患、薬剤スクリーニング及び薬物毒性試験の正確なモデルを提供する(Curr Stem Cell Res Ther. 2015;10(3):208-15)。
【0020】
ニューロン始原細胞(NPC)は、ニューロン及びグリア細胞(オリゴデンドロサイト及びアストロサイト)に分化する能力を有する多能性幹細胞である。したがって、in vitroでのニューロン始原細胞増殖の成功は、細胞療法用途のための顕著な治療可能性を提供する。
【0021】
ヒト骨肉腫上皮細胞(U2OS)は、骨肉腫についてのin vivo転移モデルの必要性を満たす場合がある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】単離された酵素は、SDS-PAGE上に複数のバンドを示した。主要なものを
図1に矢印で示した。推定分子量は25,000であった。
【
図4】種々のpH値における酵素活性についての経時的安定性データである。
【
図5】特許請求された方法に従って調製された魚類プロテアーゼ、Accutase(登録商標)及びほ乳類トリプシンでの処理の前後でのPC12細胞の光学顕微鏡観察である。
【
図6】細胞を、培地を含有する12ウェル上に再度播種し、1週間後に光学顕微鏡により観察した。
【0023】
使用される酵素試験
トリプシン活性。酵素活性を米国薬局方41条に記載されている方法に従って分析した。
【0024】
キモトリプシン活性。酵素活性を米国薬局方41条に記載されている方法に従って分析した。
【0025】
I型コラゲナーゼ活性。酵素活性を文献(Mandl, I.J. Clin. Invest. 32, 1323. 1953、Moore, S. et al., J. Biol. Chem. 176, 367. 1948)に記載されているプロトコールに従って分析した。
【0026】
プロテアーゼ活性。酵素活性を米国薬局方41条に記載されている方法に従って分析した。
【0027】
特許請求される方法の一貫性を、出発材料として(1年のうちの異なる時点に捕獲された)異なるバッチのタラの内臓を使用して確認した。得られた魚類プロテアーゼは、バッチ間で限定された変動性を有することが証明された。この変動性は、得られた比酵素活性に関して±15%の範囲を超えない。
【0028】
本発明の方法に従って調製された精製魚類プロテアーゼは、特異的な酵素プロファイルを示す。一方、実際に、市販の海洋生物トリプシン(例えば、CAS登録番号534583-22-7により特定された海洋生物プロテアーゼ)は、総酵素活性の約26~49%がトリプシン活性を示し、約47~67%がI型コラゲナーゼ活性を示すが、本発明の方法に従って調製された魚類プロテアーゼは、総酵素活性の約89~66%がトリプシン活性を示し、わずか0.011~0.015%がコラゲナーゼ活性を示す。
【0029】
驚くべきことに、本発明の方法に従って調製された魚類プロテアーゼは、細胞剥離のための組織学において利用される場合、他の海洋生物プロテアーゼより細胞に対して有害ではなく、生存率の向上をもたらす。詳細には、NPC及びPC12細胞系統を本発明に従って得られた魚類プロテアーゼで処理した場合、生存率及び回収された細胞の数は、ほ乳類及び海洋生物起源の他のトリプシン/プロテアーゼより約5~10%高い。
【0030】
詳細な説明:方法
凍結(-20℃)させたタラの内臓を20~25℃で解凍し、ついで、塩化カルシウムバッファー 2Lに対して1kg 魚類の内臓の相対比で、20mM 塩化カルシウム二水和物抽出バッファーと合わせた。得られた混合物を、50%w/v 水酸化ナトリウム溶液を加え、4℃で8~12時間撹拌することにより、最終pH7に調整した。
【0031】
大きな内臓塊を、ネット(1mmカットオフ)でろ過することにより分離した。
【0032】
ろ過助剤を得られた混合物に、20~25℃で撹拌しながら加え、ついで、加圧ろ過した。
【0033】
適切なろ過助剤は、混合物の体積に対して3~7重量%を含む量で加えられた珪藻土、パーライト、セルロースである。好ましくは、珪藻土が、混合物に対して5%w/vの量で使用される。
【0034】
ろ過された抽出物を限外ろ過(1kDaカットオフ)により、初期容量の42%まで濃縮し、次の精製プロセスで直ちに使用しない場合には、4℃で保存した。濃縮魚類抽出物を20~25℃に温め、塩化カルシウム二水和物を加えて、1.0~1.8w/v、好ましくは、1.4%w/vに含まれる最終濃度に達した。酢酸ナトリウムを加えて、1.0~2.0M、好ましくは、1.5Mの最終濃度に達し、pHを、5M 水酸化ナトリウム水溶液を使用して、7.8~8.2、好ましくは、8.0の範囲に調整した。
【0035】
混合物の導電率が、54~62mS、好ましくは、56~60mSの範囲に含まれる場合、塩の正確な濃度が得られる。
【0036】
この混合物を20~25℃で1時間攪拌した後、ろ過助剤を加え、得られた懸濁液をろ過した。適切なろ過助剤は、混合物の体積に対して1~4重量%に含まれる量で加えられた珪藻土、パーライト、セルロースである。好ましくは、珪藻土が、混合物に対して2%w/vの量で使用される。
【0037】
ついで、得られた懸濁液を、適切なデプスフィルターを備えたフィルタープレスによりろ過する。このろ過に使用される操作圧力は、50~70psi、好ましくは、60psiを含み、利用される適切なデプスフィルターは、6~9ミクロンに含まれるカットオフを有するべきである。好ましいデプスフィルターは、セルロースフィルターシート又は多孔質金属、セラミックスもしくはプラスチック媒体を含有する硬質媒体フィルターである。好ましくは、XE-400フィルターシート(Carlson filtration)が使用される。
【0038】
ついで、得られたろ液を疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)により精製した。使用される固定相の体積に対する供給材料の体積の比は、4~8体積/体積、好ましくは6.7に含まれる。固定相の好ましい粒径は、50~100ミクロン、好ましくは、75ミクロンに含まれる。固定相は、種々の固定化リガンド、例えば、直鎖アルキルリガンド又はアリールリガンドを有するアガロースベースマトリックスを提供する。好ましいリガンドは、アリールリガンドである。使用前に、固定相を少なくとも3ベッド体積の0.1M 水酸化ナトリウム水溶液で洗浄し、ついで、3ベッド体積の蒸留水で洗浄する。ついで、カラムを、酢酸ナトリウム水溶液を1.0~2.0M、好ましくは、1.5Mに含まれる濃度で使用して、5M 水酸化ナトリウム溶液の添加により得られた7.8~8.2、好ましくは、8.0に含まれるpH値で調製された溶液を4BVで調整した。この溶液及び溶出液を、固定相の総容積に対する1/10ml/分の流速及び10~20psi、好ましくは、15psiに含まれる圧力で供給する。吸収後、結合した溶質を、低い塩含量を有するバッファー、ついで、水混和性有機溶媒とポリオールとの水性混合物で段階的又は勾配溶出により溶出する。適切な水混和性有機溶媒は、-0.31~+0.25に含まれるlog P(疎水性)を有し、例えば、n-プロパノール、イソプロパノール及びエタノール、好ましくは、イソプロパノールである。適切なポリオールは、グリセロール、エチレングリコール、エチレングリコール及びソルビトール、好ましくは、グリセロールである。
【0039】
溶出を、好ましくは、下記条件:2ベッド体積の1.5M 酢酸ナトリウム(pH8)、ついで、3ベッド体積の10%v/v セロール溶液及び5%v/v イソプロパノール溶液(蒸留水で希釈)下で行う。溶出液を、それぞれ約1ベッド体積の4つの画分に収集した。トリプシン活性を有する溶出画分を一緒にプールし、限外ろ過(1kDaのカットオフを有する限外ろ過膜を使用)により出発体積の1/10に濃縮した。ついで、濃縮溶液を20mM CaCl2水溶液(pH8)で攪拌しながら1/2.2に希釈し、透析して、元の体積に戻し、ついで、凍結乾燥させて、精製された魚類プロテアーゼを得た。240U/mg 平均トリプシン酵素活性、5U/mg キモトリプシン活性及び0.04U/mg コラゲナーゼ活性を有する33~60g 精製された魚類プロテアーゼをタラの内臓 52Kgから回収した。場合により、本発明の方法は、定義された酵素活性を有する酵素液体配合物の調製に有用な水溶液中に魚類プロテアーゼを得るために、透析工程後に停止することができる(すなわち、最後の凍結乾燥工程を回避する)。
【0040】
該方法の一貫性を、出発材料として1年のうちの異なる時点に捕獲された異なるバッチのタラの内臓を使用してチェックした。得られた魚類プロテアーゼは、バッチ間で限定された変動性を有することが確認された。この変動性は、得られた酵素活性に関して±15%の範囲を超えない。
【0041】
本発明を下記実施例においてより詳細に説明する。
【0042】
実施例1
粗酵素の抽出
52kg 魚類の内臓を室温で一晩解凍し、ついで、1kg 魚類の内臓:塩化カルシウムバッファー 2Lの相対比で、20mM 塩化カルシウム二水和物抽出バッファー 103Lと合わせた。得られた混合物(約150L)を50%w/v 水酸化ナトリウム水溶液の添加により、最終pH7の値に調整し、4℃で一晩撹拌した。
【0043】
大きな内臓塊をネットでのろ過により分離し、タンクに130Lを残した。得られた混合物に、室温で撹拌しながら、6.5kg 珪藻土(5%w/v)を加え、ついで、14枚のXE-400フィルターシート(7つのカセット)を通して加圧ろ過した。ろ過された抽出物(100L)を、1×1限外ろ過スパイラル膜(1kDaカットオフ)を使用して、42Lに濃縮した。膜を洗浄し、その後、0.1M 水酸化ナトリウム水溶液 100Lで濃縮し、続けて、水に対して逆浸透させた。
【0044】
濃縮された魚類エキス 2Lを凍結乾燥用に取り出し、残りの抽出物を精製まで4℃で保存した。
【0045】
実施例2
疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)精製
全ての精製工程を20~25℃で行った。濃縮された魚類抽出物を20~25℃に温め、58.82g 塩化カルシウム二水和物を加えた。4.93kg 酢酸ナトリウムを加えて、1.5M濃度を得た。pHを、5M 水酸化ナトリウム水溶液を使用して、8に調整した。
【0046】
導電率をチェックして、正しい濃度に到達したことを確認した(56~60mSに調整され、57.4mSであった)。1時間撹拌した後、0.8kg 珪藻土(2%w/v)を加え、得られた懸濁液を4枚のXE-400フィルターシート(1つのカセット)を通して加圧ろ過することにより清澄化した。供給材料 40Lを得た。
【0047】
Capto-phenl high subカラム樹脂 6Lを0.1M 水酸化ナトリウム水溶液 20L、続けて、逆浸透水 20Lで調整した。
【0048】
カラム圧を15psiで維持し、流速を417mL/分に維持した。1.5M 酢酸ナトリウム(pH8) 40Lを使用して、カラムを平衡化した。溶出液を導電率(予想値62mS)についてもチェックした。
【0049】
主な供給物をカラムに加え、平衡化バッファー 15Lで洗浄し、ついで、10%v/v グリセロールと5%v/v イソプロパノール(逆浸透水で希釈)との溶液 20Lで溶出した。溶出液をそれぞれ5Lの4つの画分に収集し、トリプシン活性を有する画分をプールした(15Lを収集した)。
【0050】
実施例3
溶出液濃縮、透析、凍結乾燥
濃縮及びダイアフィルトレーションを、1kDa膜を有する交差接線限外ろ過ユニット(Pall Filtron, USA)を使用して行った。選択された溶出液を最終容量1.7Lに濃縮した。この溶液に、20mM CaCl2水溶液(pH8) 1Lを攪拌しながら加えた。
【0051】
実施例3
溶出液濃縮、透析、凍結乾燥
濃縮及びダイアフィルトレーションを、1kDa膜を有するクロスタンジェンシャル限外ろ過ユニット(Pall Filtron, USA)を使用して行った。選択された溶出液を最終容量1.7Lに濃縮した。この溶液に、20mM CaCl2水溶液(pH8) 1Lを攪拌しながら加えた。
【0052】
得られた溶液は、4.3% 固形分を有した。さらに、CaCl
2溶液 1Lを加え、得られた溶液は、4.5% 固形分を示した。体積を透析により、1.75Lに減少させ、ついで、濃縮され、ダイアフィルトレーションされた溶出液を凍結乾燥させて、33g 粉末を与えた。この粉末の比酵素活性は、240U/mg トリプシン、5U/mg キモトリプシン及び0.04U/mg コラゲナーゼであった。単離された酵素は、SDS-PAGE上に複数のバンドを示した。主要なものを
図1に矢印で示した。推定分子量は25,000であった。
【0053】
場合により、魚類プロテアーゼの製造プロセスを、所望の濃度の水溶液中の魚類プロテアーゼを得るために、透析工程後に停止する(すなわち、最終凍結乾燥工程を回避する)ことができる。
【0054】
これらの溶液を、塩化カリウム、リン酸二水素カリウム、塩化ナトリウム、リン酸一水素二ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム及びフェノールレッドをpH値7.2~7.6で含有するリン酸緩衝生理食塩水溶液(PBS溶液)中の最終酵素配合物の調製に使用することができる。
【0055】
これらの酵素配合物は、0.1~0.3g/L 塩化カリウム及びリン酸二水素カリウム、7~9g/L NaCl、1.0~1.3g/L リン酸一水素二ナトリウム、2.4mg/L フェノールレッド及び0.3~0.6mMの範囲の最終濃度でのエチレンジアミン四酢酸ナトリウムを含有することができ、Dulbecco’sリン酸緩衝生理食塩水(Dulbecco, R et al. J. Exp. Med., 99, 167-182 (1954))を含む。
【0056】
実施例4
本発明に従って精製された魚類トリプシンの分析特性
本発明に従って単離された魚類トリプシンの特徴を下記表及び図に報告する。
【0057】
酵素活性に最適な温度範囲:表1及び
図2に、5~70℃の間に含まれる温度範囲における、調製された魚類プロテアーゼの酵素活性を示す。主なトリプシン活性を試験した。
【0058】
【0059】
酵素活性に最適なpH範囲:表2及び
図3に、3~12に含まれるpH範囲における、調製された魚類トリプシンの酵素活性を示す。主なトリプシン活性を試験した。
【0060】
【0061】
種々のpH値における酵素活性についての経時的安定性データ:表3及び
図4に、5℃の温度で3時間における3~10のpH範囲での、調製された魚類トリプシンの酵素活性を示す。表3の同じデータを、相対酵素活性(時間ゼロでの酵素活性を100%とする;
図4)としてグラフ形式で示す。主なトリプシン活性を試験した。
【0062】
【0063】
細胞培養:生物学的「in vivo」試験
PC12細胞、ヒト神経膠腫及びヒトアストロサイトにおける比較in vitro生物学的試験を、本発明の方法に従って調製された魚類プロテアーゼ、登録番号534583-22-7の化合物及び0.25w/v% トリプシン-1mM EDTA/4Na溶液(フェノールレッドを含む)(Wako, Japan 209-16941)中で約3000U/ml トリプシン活性を有するほ乳類トリプシンを使用して行った。本発明に従って調製された魚類プロテアーゼは、トリプシン及び登録番号534583-22-7の化合物より多くのPC12細胞を回収した(表4)。
図5に、特許請求された方法に従って調製された魚類プロテアーゼ、Accutase(登録商標)及びほ乳類トリプシンでの処理の前後でのPC12細胞の光学顕微鏡観察を示す。
【0064】
【0065】
特許請求された方法に従って調製された魚類プロテアーゼで得られた生存率は、細胞種に応じて、CAS登録番号534583-22-7の化合物及びトリプシンで得ることができる生存率に匹敵する。これらの魚類プロテアーゼについての最良の結果は、PC12細胞で得られた(表5)。
【0066】
【0067】
本発明の方法により得られた魚類プロテアーゼを、約500~600U/mlのトリプシン活性を有するほ乳類トリプシン(0.05% トリプシン/0.53mM EDTA 10X IN HBSS 1X、無菌(Wisent Bioproducts, Quebec, Canada)及びCAS登録番号534583-22-7の化合物と比較するために、更なる比較研究を、下記細胞系統:iPSC(人工多能性幹細胞)、NPC(ニューロン始原細胞)及びU2OS(ヒト骨肉腫上皮細胞)を使用して行った。特に、細胞付着及び生存能の特徴並びに最終的な細胞形態に注意を払った。
【0068】
この目的で、12ウェルプレート中の5,000個/ウェルを5日間培養し、70%コンフルエントに達した時点で、実験を開始し、ついで、培地を吸引し、PBSですすぎ、解離剤 0.5mLを加え、解離まで37℃で3分間インキュベーションした(解離を最適な時間が決定されるまで顕微鏡下でモニターした)。
【0069】
【0070】
DMEM(Dulbecco’s改変イーグル培地)を加えて、酵素反応を停止させ、ついで、細胞を1200rpmで3分間遠心分離することにより回収した。細胞を培養培地中に再懸濁させ、細胞数を、lunar自動細胞カウンターを使用することにより決定した(表7)。iPSC及びNPCに対する本発明の魚類プロテアーゼによる処理は、トリプシンで観察されたような細胞付着及び生存率に影響を及ぼさなかった。
【0071】
【0072】
細胞を、培地を含有する12ウェル上に再度播種し、1週間後に光学顕微鏡により観察した(
図6)。この観察に基づいて、本発明の魚類プロテアーゼで処理された細胞が、形態を変化させなかったことが確認され、正常に見えた。
【0073】
本発明の方法に従って調製された精製魚類プロテアーゼは、総酵素活性の約60~80%のトリプシン活性を特徴とする特異的な酵素プロファイルを表わす。コラゲナーゼ活性は実質的に無視することができる(表8)。
【0074】
【国際調査報告】