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特表2022-532680高強度鋼および超高強度鋼用の改良された冷間成形工具の製造方法および冷間成形工具
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-15
(54)【発明の名称】高強度鋼および超高強度鋼用の改良された冷間成形工具の製造方法および冷間成形工具
(51)【国際特許分類】
   B21D 37/20 20060101AFI20220708BHJP
   C23C 28/04 20060101ALI20220708BHJP
【FI】
B21D37/20 A
C23C28/04
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021568751
(86)(22)【出願日】2020-05-15
(85)【翻訳文提出日】2022-01-17
(86)【国際出願番号】 EP2020063702
(87)【国際公開番号】W WO2020234186
(87)【国際公開日】2020-11-26
(31)【優先権主張番号】102019113117.0
(32)【優先日】2019-05-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521502964
【氏名又は名称】フェストアルピネ・アイフェラー・ヴァコテック・ゲー・エム・ベー・ハー
【氏名又は名称原語表記】VOESTALPINE EIFELER VACOTEC GMBH
【住所又は居所原語表記】HANSAALLEE 321, 40549 DUESSELDORF, BUNDESREPUBLIK DEUTSCHLAND
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】ナヒフ,ファルワー
(72)【発明者】
【氏名】ファルキンガム,マーク
【テーマコード(参考)】
4E050
4K044
【Fターム(参考)】
4E050JA01
4E050JB09
4E050JC02
4E050JD03
4K044AA02
4K044AB10
4K044BA18
4K044BB06
4K044CA13
4K044CA14
(57)【要約】
本発明は、特に超高強度鋼を冷間成形するための冷間成形工具の製造方法であって、冷間成形工具が、成形工具組の上側工具および/または下側工具であり、冷間成形工具が、金属材料から作られ、成形された金属板が部品の所望の最終輪郭を有するように設計された成形表面を有する方法において、物理気相成長によって成形工具の成形表面に硬質材料層が蒸着され、硬質材料層は、窒化チタン接着剤層と、窒化チタン接着剤層に蒸着された、窒化チタンアルミニウム層および窒化クロムアルミニウム層の交互の層とからなり、窒化チタン最上層または代替の炭窒化チタン最上層が、成形対象の被加工物の方に向けられる最も外側の外表面を最終層として蒸着されることを特徴とする方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
特に超高強度鋼を冷間成形するための冷間成形工具の製造方法であって、
前記冷間成形工具が、成形工具組の上側工具および/または下側工具であり、前記冷間成形工具が、金属材料(1)から作られ、成形された金属板が部品の所望の最終輪郭を有するように設計された成形表面(6)を有し、
物理気相成長によって前記成形工具の前記成形表面(6)に硬質材料層が蒸着され、当該硬質材料層は、窒化チタン接着剤層(2)と、当該窒化チタン接着剤層(2)に蒸着された、窒化チタンアルミニウム層(3)および窒化クロムアルミニウム層(4)の交互の層とからなり、窒化チタン最上層(5)または炭窒化チタン最上層が、成形対象の被加工物の方に向けられる最も外側の外表面を、最終層として蒸着されることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記交互の蒸着層の最初の層として、まず窒化チタンアルミニウム層(3)が前記窒化チタン接着剤層(2)に蒸着されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
最終的な窒化チタン最上層(5)または炭窒化チタン最上層が蒸着される前に、前記窒化チタン接着剤層(2)に5から20の交互層が蒸着されることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記窒化チタン接着剤層(2)は、0.2マイクロメートルから0.9マイクロメートル、好ましくは0.4マイクロメートルから0.7マイクロメートルの厚みを有することを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記窒化チタンアルミニウム層(3)は、0.1マイクロメートルから0.5マイクロメートル、好ましくは0.2マイクロメートルから0.3マイクロメートルの厚みを有することを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記窒化クロムアルミニウム層(4)は、0.1マイクロメートルから0.5マイクロメートル、好ましくは0.2マイクロメートルから0.3マイクロメートルの厚みを有することを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
最終の前記窒化チタン最上層(5)または炭窒化チタン最上層は、0.2マイクロメートルから0.5マイクロメートル、好ましくは0.2マイクロメートルから0.3マイクロメートルの厚みを有することを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
各層の化学組成は次の通り、すなわち、接着剤層および最上層のTi1-zにおいて、z=0.4から0.6、代替的な最上層としてのTi1-(x+y)において、x=44から50、y=20から23、かつ残部が窒素、AlCr1-(a+b)において、a=30から40、b=10から20、かつ残部が窒素、AlTi1-(c+d)において、c=8から14、d=30から40、かつ残部が窒素であることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
特に請求項1~8のいずれか一項に記載の方法を用いて蒸着された硬質材料コーティングを有する冷間成形工具。
【請求項10】
前記硬質材料の層は、窒化チタンアルミニウム層(3)および窒化クロムアルミニウム層(4)の交互の層と、最終の窒化チタン最上層(5)または炭窒化チタン最上層とから構成されることを特徴とする、請求項9に記載の冷間成形工具。
【請求項11】
工具上の最初の層として窒化チタン接着剤層(2)が存在し、前記窒化チタンアルミニウム層(3)および窒化クロムアルミニウム層(4)と、最終の前記窒化チタン最上層(5)または炭窒化チタン最上層とが続くことを特徴とする、請求項9または10に記載の冷間成形工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に超高強度鋼を冷間成形するための冷間成形工具の製造方法、および超高強度鋼を冷間成形するための冷間成形工具に関する。
【背景技術】
【0002】
特に自動車工学には、車体をより一層軽量にするためのたゆまぬ努力が存在している。ここ数年間で、この分野における取り組みが、例えばプレスハードニング法を用いた高強度鋼部品の製造につながっており、当該高強度鋼部品は、その高い強度により、比較的薄い材料厚み、したがって比較的低い材料重量が求められる。現在、特に環境保護および燃料消費の低減を理由に、軽量構造が自動車メーカーにとっての最優先事項である。特に、いわゆる高強度鋼材、超高強度鋼材、および極超高強度鋼材が使用されている(UHSS―極超高強度鋼、AHSS―先進高強度鋼)。本出願では、「高強度鋼」という用語は、350MPaよりも大きい、特に600MPaよりも大きい引張強度を有する鋼材を指す。これらの材料は、特に、バンパー補強材、サイドインパクトバー、シートフレームおよびシート機構などの部品ならびにシャーシ部品を製造するために使用される。
【0003】
この種類の材料により、従来の部品と比べて最大40%軽量化することができる。コストを削減し、製造効率を上げることも可能である。
【0004】
金属の成形には二つの主要な工程、すなわち、熱間成形および冷間成形がある。
「熱間成形」とは、金属の再結晶化温度を超えて行われる成形ステップの全てを指す。一般に、熱間成形にはより低い成形力が求められ、さらに、当該成形中は被加工物の冷間加工硬化は生じない。
【0005】
これに関連して、熱間成形工具にはAl系溶液が使用されることが多く、Al系溶液は、その酸化物成分により、熱間成形の高温印加のためのコーティング全体の高温硬さおよび耐酸化性を高める。しかしながら、これらの酸化物層は硬く脆い。通例、熱間成形工具上のコーティングの目的は、当該コーティングが熱応力に耐え得るようにし、拡散バリアとしても機能し得るようにすることである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、こうした状況における一つの課題が、上記のような超高強度鋼の冷間成形である。
その特性により、これらの材料は、従来の車体鋼の場合よりも大幅に高い力で成形工具に抵抗する。
【0007】
超高強度鋼の冷間成形時に被加工物と工具の間に生じる高い接触圧力により、特に工具上のトライボロジー応力が非常に高い。このため、冷間成形ではPVD層が用いられており、PVD層は、工具における熱疲労を軽減するためにより高い高温硬さを有する酸化物層に―熱間成形の場合のように―頼るのではなく、機械的荷重容量を高め、摩耗を増大し、亀裂伝播を低減することに焦点を置いている。経済的な製造では、より長い耐用年数を有する工具が求められるので、法線方向の極めて高い接触応力による摩耗が低減することを確実にする必要がある。冷間成形に関して、こうした状況における一つのアプローチが、被加工物を予め処理し、特に、高濃度の添加剤を含有する潤滑剤も添加することである。
【0008】
潤滑剤を使用すると、潤滑剤の放出物が作業所で作業者の呼吸する空気に入る可能性および作業者の肌に付く可能性があるので、潤滑剤の添加は、作業者に悪影響を及ぼす可能性がある。さらに、これは、機械の周囲領域に低温潤滑剤が広がってしまい、全工程のライフサイクルアセスメントをさらに低下させる可能性がある。
【0009】
本発明の目的は、摩耗傾向の低下を示し、それによって工具耐用年数を大幅に延ばすことが可能である冷間成形工具を製造するために使用することができる方法を案出することである。本発明の別の目的は、特に超高強度鋼の成形工程における潤滑費用を削減することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的は、請求項1の特徴を有する方法で達成される。
請求項1に従属する従属請求項には、有利な変形例を開示する。
【0011】
別の目的は、対応する冷間成形工具を案出することである。
この目的は、請求項9の特徴を有する冷間成形工具で達成される。
請求項9に従属する従属請求項には、有利な変形例を開示する。
【0012】
本発明は、高い成形力による冷間成形工程における、特に超高強度鋼の冷間成形における特定の要求に関する。これらの要求を満たすために、本発明に係る冷間成形工具は、施された窒化チタン接着剤層と、当該窒化チタン接着剤層に蒸着された窒化チタンアルミニウム層および窒化クロムアルミニウム層とから構成される多層硬質材料層を備える。この特定の多層構造によって、超高強度金属板の冷間成形の適用に必要なコーティング全体の強度および耐荷重容量を得ることが可能である。
【0013】
さらに、超高強度金属板の冷間成形において高いひずみ力とともに観察される亀裂成長は、窒化チタンアルミニウムと窒化クロムアルミニウムとの交互の層によりコーティング全体によって止めることができるが、これは、当該亀裂が、当該個別の層間の変わり目でそれらの異なる微細構造により止められるからである。始動トルクを低減させるため、最上層として、窒化チタンまたは代替の炭窒化チタンの最上層が設けられる。
【0014】
元の独語の明細書では、「Schicht」、「Layer」および「Lage」という用語を同義的に用いて、多層複合コーティングの単層を指している。
【0015】
本発明の焦点は、冷間成形の適用によりコーティング全体および個別の層の高温硬さおよび耐酸化性を無視することができる冷間成形の機械的およびトライボロジー的な要求である。酸化物層は極めて硬く脆い。冷間成形では、工具上の主な応力が、発生する大きな成形力と、冷間加工硬化とによって生じる結果、その利点が耐熱性にある酸化物層の使用はあまり一般的ではなく、亀裂成長を阻害し、機械的荷重容量を増大する耐摩耗性の窒化物系多層コーティングにもっと焦点が置かれている。また、冷間成形部門での酸化物層の使用は、例えばこの適用分野のためのAl層の合成がα‐Al相の生成を必要とし、α‐Al相は従来のPVD/CVD法で蒸着温度>1000℃でしか得ることができないので、一定限度までしかできない。当該高い蒸着温度ならびに付随する工具の反りおよび硬さ低減により、かつニアネットシェイプ要求により、これらの工程は、冷間成形工具のコーティングには一定限度までしか用いることができない。温度<800℃でのγ‐Al相のコーティングも、その他の窒化物PVD装置によって得られる機械的特性および耐摩耗性と同等の機械的特性および耐摩耗性を生じないので、冷間成形での使用は一定限度までしかできない。
【0016】
本発明によれば、特に超高強度鋼を成形するための冷間成形工具の表面は、摩擦係数を低減した硬質材料層が当該表面に施されているという点で変化させている。基礎にある思想は、当該工具表面に特性勾配を生じることによって局所応力に対するより良好な抵抗性を与えることである。この場合の表面は、例えば、工具基材が所要の靭性を確保する一方で、より高い硬さを備える。
【0017】
特に、本発明によれば、PVD硬質材料層が、対応する工具に蒸着される。
PVDコーティングの生成(物理蒸着)は長く知られており、とりわけ工具に、特に切断工具に用いられている。
【0018】
このような硬質材料層に通例用いられる一つの方法が陰極アーク蒸着であり、アークPVDまたはアーク蒸着とも呼ばれる。この方法は、物理気相成長(PVD)法の部類に属し、より正確に言えば、蒸着法である。
【0019】
この方法で、陰極または被蒸着材料に負電位を印加し、真空チャンバのチャンバ壁(対応するようにアノードとして機能する)と陰極表面の間でアークを発生させる。陰極は、例えば被加工物に、この場合は工具に引き続き蒸着される材料を含有しており、チャンバ内の対応する雰囲気によって、例えば、プラズマ相中の陰極材料も、対応する層を生成するために対応するガス(反応ガス)と反応することができる。
【0020】
この陰極アーク蒸着では、蒸着した材料の大部分がイオン化し、その間、見通せる工程では、材料が陰極表面から放射状に拡散する。さらに、イオン化した金属蒸気が基材に向かって加速されるように、基材に負電位が印加される。蒸気は基材表面で凝縮し、高いイオン化割合および基材における負のバイアス電圧の結果、高い運動エネルギーが成長層に導入されることができる。これによって、とりわけ、蒸着層の層接着性、密度、組成、および微細構造などの特性に影響を及ぼすことができる。
【0021】
しかしながら、通常、窒化クロムアルミニウム(AlCrN)層および窒化チタンアルミニウム(AlTiN)層は、成長層中に高い割合のマクロ粒子含有物(いわゆる「ドロップレット」)を伴わずに施すことができないこと、および、アルミニウムクロム陰極の蒸着では、マクロ粒子の強力な形成が観察されることが知られている。これは、成長薄層中にいわゆるドロップレット/マクロ粒子含有物という形で現れ、それに対応して層粗さが高くなる。これらのドロップレットは、窒化クロムアルミニウム層と窒化チタンアルミニウム層の一体的形態の中にも生じる。窒化クロムアルミニウム層および窒化チタンアルミニウム層は、実使用時には比較的高い層硬さおよびより高い摩擦係数も有する。しかしながら、表面に近い領域におけるより高い層粗さおよびより高い摩擦係数は、例えば超高強度亜鉛めっき鋼板の成形時に悪影響がある可能性、および溶接盛りの発生につながる可能性があり、溶接盛りは工具耐用年数を縮める可能性がある。溶接盛りは、より硬い工具上におけるより軟らかい成形材料から構成される接着性材料残留物である。
【0022】
したがって、本発明によれば、さらなる薄い窒化チタン最上層(TiN)が最終層として施され、当該最上層は、そのドロップレット含有物が少ないため、より均一でより滑らかな層表面を生じる。窒化チタン最上層の別の特性は、下層の摩擦係数よりも低いその摩擦係数である。これにより、溶接盛りのおそれが低減し、したがって、下方のより硬い窒化チタンアルミニウム層および窒化クロムアルミニウム層と比べて当該層の侵入挙動が改善する。侵入挙動は、有利なことに窒化チタン最上層によって改善するが、それは、その良好な滑り特性とその低い始動トルク(静摩擦に打ち勝つのに必要であり、滑り摩擦への移行を開始する力)によるものである。驚くべきことに、窒化チタン最上層は、その下の硬い窒化クロムアルミニウム層および窒化チタンアルミニウム層よりも良好な弾性を有しているため、窒化チタン最上層は、各ストロークで多少の力を吸収する。0.1μmよりも薄いTiN最上層では、侵入挙動は改善しない。厚過ぎる(0.5μmよりも厚い)TiN最上層では、下方の多層構造が、より緩やかな亀裂成長などのその有利な特性を発揮できなくなる。0.2μmと0.3μmの間の厚みを有するTiN最上層が特に有利である可能性がある。これは、良好な侵入特性と、例えば亀裂成長の阻害による工具損傷の遅延との最適なバランスを示す。
【0023】
窒化チタン最上層(TiN)の代わりに、代替的に炭窒化チタン最上層(TiCN)を設けることも可能である。窒化チタン最上層(TiN)は、炭窒化チタン最上層(TiCN)と比べて硬さが低いことにより摩擦が低減し、したがって工具上における極超高強度金属板のコーティング(例えば、電気化学的に亜鉛でめっきされている)上の溶接盛りの可能性が低下するので、窒化チタン最上層(TiN)の使用は、例えば、コーティングされた極超高強度金属板の冷間成形に好ましい。その上、TiN最上層は金色をしており、TiCN最上層は灰色がかった青色をしているため、要望があれば、二つの最上層のうちいずれかを選択することにより、ユーザは色の多様化が可能になる。
【0024】
さらに、有利には、窒化チタン接着剤層(TiN)をコーティング対象の工具に蒸着させることができる。
【0025】
この接着剤層により、コーティングの後続の多数の層を良好に結合することができる。TiN接着剤層は、有利には、0.2μmから0.9μmの厚みを有する。0.9μmよりも厚い層では、当該層中に、当該層の接着性が損なわれるほど高い内部応力が発生する可能性がある。0.4μm厚から0.7μm厚の窒化チタン接着剤層が特に有利であることが分かっており、これは、最良の層接着性を得ることを可能にする。上限は、0.9μm厚、0.8μm厚、0.7μm厚、または0.6μm厚に選択することもできる。下限は、0.2μm厚、0.3μm厚、0.4μm厚、または0.45μm厚に選択することもできる。
【0026】
多層コーティングの個別の層を施すことに関して、好ましくは、窒化チタンアルミニウム層または窒化クロムアルミニウム層(AlTiN‐AlCrN多層組織)を蒸着するために、反応ガスとして窒素が使用されるとともに、アルミニウムクロム陰極、アルミニウムチタン陰極、およびチタン陰極が使用される。これらの窒化物硬質材料層は、その機械的および熱的な特性により、法線方向の先端の接触応力に対して摩耗を最小限にする効果および局所的な熱効果を生じることができる。任意のTiN接着剤層にまず窒化チタンアルミニウム層を蒸着すると有利であることが分かった。このようにして、後続の多数の層の結合を向上させることができる。
【0027】
異なる機械的および熱的な特性を有する層同士の相互作用は、とりわけ、亀裂伝播を低減するのに有利である。これに関連して、本発明者らは、それぞれ5層のAlCrNおよびAlTiN(すなわち、合計で10層)であれば、亀裂伝播を効果的に低減することができることを発見した。しかしながら、層が多過ぎると、層厚の増大に伴い、施された層中の内部応力が、層接着性の問題が起きかねないほど高くなる可能性があるという不利益がある。有利なことに、このために、交互層の数は20(すなわち、合計で40、あるいはTiN接着剤層とTiN最上層または代替的にTiCN最上層とを合わせて42)を超えるべきではないことが分かった。交互層の上限は、20層、18層、16層、14層、または12層のAlCrNおよびAlTiNに選択することもできる。交互層の下限は、5層、6層、7層、8層、9層、または10層のAlCrNおよびAlTiNに選択することもできる。
【0028】
個別の窒化チタンアルミニウム層は、有利には、それぞれ0.1μm厚から0.5μm厚とすることができる。0.1μmよりも薄い層では、硬質材料層の所望の特性(AlCrNよりもやや弾性的である)が得られない場合がある。より厚い層、特に0.5μm厚を超える層は、層接着性が悪化するほど高い内部応力を有する可能性がある。0.2μmと0.3μmの間の層厚は、過度に高い内部応力を導入することなく既に機能的効果を得ることができるので、特に有利になり得る。上限は、0.50μm厚、0.40μm厚、0.35μm厚、または0.30μm厚に選択することもできる。下限は、0.10μm厚、0.15μm厚、または0.20μm厚に選択することもできる。
【0029】
個別の窒化クロムアルミニウム層は、有利には、それぞれ0.1μm厚から0.5μm厚とすることができる。0.1μmよりも薄い層では、硬質材料層の所望の特性(アブレシブ摩耗に強い、非常に硬い、AlTiNよりも高靭性である、高い高温硬さ―最大約900℃の温度安定性)が得られない場合がある。より厚い層、特に、0.5μm厚を超える層は、層接着性が悪化するほど高い内部応力を有する可能性がある。0.2μmと0.3μmの間の層厚は、過度に高い内部応力を導入することなく既に機能的効果を得ることができるため、特に有利になり得る。上限は、0.50μm厚、0.40μm厚、0.35μm厚、または0.30μm厚に選択することもできる。下限は、0.10μm厚、0.15μm厚、または0.20μm厚に選択することもできる。
特に有利な一実施形態では、窒化クロムアルミニウム層と窒化チタンアルミニウム層のそれぞれについて0.2μmから0.3μmの層厚の組み合わせが選択される。弾性がやや高い方の層と靭性がやや高い方の層の相互作用を通して、例えば、亀裂成長を緩やかにすることができ、したがって工具のより長い耐用年数を確保することができる。
【0030】
全体的な層厚は、1.5μmと21μmの間とすることができる。好ましくは、全体的な層厚は、10μmから11μmである。好ましくは、AlTiN‐AlCrN多層組織の厚みが5μmよりも大きければ亀裂成長が緩やかになるので、AlTiN‐AlCrN多層組織の厚みは5μmよりも大きい。
【0031】
層の化学組成は、窒化チタン(接着剤層および最上層)では40at%から50at%のチタンおよび50at%から60at%の窒素であり、炭窒化チタン(代替的な最上層)では20at%から23at%の炭素、30at%から33at%の窒素、および44at%から50at%のチタンであり、窒化クロムアルミニウムでは、30at%から40at%のアルミニウム、10at%から20at%のクロム、および45at%から55at%の窒素であり、窒化チタンアルミニウムでは8at%から14at%のアルミニウム、30at%から40at%のチタン、および40at%から50at%の窒素である。言い換えれば、Ti1-zにおいて、z=0.4から0.6であり、Ti1-(x+y)において、x=44から50、y=20から23、かつ残部は窒素であり、AlCr1-(a+b)において、a=30から40、b=10から20、かつ残部は窒素であり、AlTi1-(c+d)において、c=8から14、d=30から40、かつ残部は窒素である。
【0032】
冷間成形工具上の本発明に係る層構造は、複式法(in‐situプラズマ窒化およびその後のPVDコーティング)で蒸着させることができる。好ましい基材としては、プラズマ窒化することができる全ての材料、特に金属材料、とりわけHSS(高速度鋼)および超硬金属が挙げられる。本開示においては、コーティング対象の金属材料を基材と呼ぶ。本出願人は、このためにalpha400Pコーティング装置およびalpha900Pコーティング装置を製造した。複式法では、二つの作業ステップ(プラズマ窒化およびPVDコーティング)は、一回の工程で次々に行われ、ステップ間に装置を換気しなくてよい。プラズマ窒化では、窒素が境界域に拡散し、工具材料の表面硬さを増大する。この場合、望ましくない化合物層の形成が抑制される。このようにして、後続の硬く脆いPVDコーティングのために被加工物を最適に準備すること(良好な支持効果)が可能である。
【0033】
したがって、本発明は、特に超高強度鋼を冷間成形するための冷間成形工具の製造方法であって、前記冷間成形工具が、成形工具組の上側工具および/または下側工具であり、前記冷間成形工具が、金属材料から作られ、成形された金属板が部品の所望の最終輪郭を有するように設計された成形表面を有する方法において、物理気相成長によって前記成形工具の前記成形表面に硬質材料層が蒸着され、当該硬質材料層は、窒化チタン接着剤層と、該窒化チタン接着剤層に蒸着された、窒化チタンアルミニウム層および窒化クロムアルミニウム層の交互の層とからなり、窒化チタン最上層または炭窒化チタン最上層が、成形対象の被加工物の方に向けられる最も外側の外表面を、最終層として蒸着されることを特徴とする方法に関する。
【0034】
別の有利な実施形態によれば、前記交互の蒸着層の最初の層として、まず窒化チタンアルミニウム層が前記窒化チタン接着剤層に蒸着される。
【0035】
別の有利な実施形態では、最終的な窒化チタン最上層または炭窒化チタン最上層が蒸着される前に、前記窒化チタン接着剤層に5から20の交互層が蒸着される。
【0036】
前記窒化チタン接着剤層(2)は、0.2マイクロメートルから0.9マイクロメートル、好ましくは0.4マイクロメートルから0.7マイクロメートルの厚みを有すると有利である。
【0037】
同様に、前記窒化チタンアルミニウム層(3)は、0.1マイクロメートルから0.5マイクロメートル、好ましくは0.2マイクロメートルから0.3マイクロメートルの厚みを有すると有利である。
【0038】
前記窒化クロムアルミニウム層(4)は、有利には、0.1マイクロメートルから0.5マイクロメートル、好ましくは0.2マイクロメートルから0.3マイクロメートルの厚みを有する。
【0039】
別の実施形態では、前記最終的な窒化チタン最上層(5)または炭窒化チタン最上層は、0.2マイクロメートルから0.5マイクロメートル、好ましくは0.2マイクロメートルから0.3マイクロメートルの厚みを有する。
【0040】
別の有利な実施形態では、各層の化学組成は次の通り、すなわち、接着剤層および最上層Ti1-zにおいて、z=0.4から0.6、代替的な最上層として、Ti1-(x+y)において、x=44から50、y=20から23、かつ残部が窒素、AlCr1-(a+b)において、a=30から40、b=10から20、かつ残部が窒素、AlTi1-(c+d)において、c=8から14、d=30から40、かつ残部が窒素である。
【0041】
本発明は、上記方法にしたがって蒸着された硬質材料コーティングを有する冷間成形工具にも関する。
【0042】
有利な一実施形態によれば、前記硬質材料の層は、窒化チタンアルミニウム層(3)および窒化クロムアルミニウム層(4)の交互の層と、最終の窒化チタン最上層(5)または炭窒化チタン最上層とから構成される。
【0043】
別の有利な実施形態では、工具上の最初の層として窒化チタン接着剤層(2)が存在し、前記窒化チタンアルミニウム層(3)および窒化クロムアルミニウム層(4)と、最終の前記窒化チタン最上層(5)または炭窒化チタン最上層とが続く。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】第一の実施形態において、基材1上に窒化チタン接着剤層2を有し、交互になった窒化チタンアルミニウム層3と窒化クロムアルミニウム層4をそれぞれ十五層ずつと、窒化チタン最上層5とを含有するサンプル層構造を示す。
図2】概念的なカロット研削、すなわち、個別の層が見える平面図を示す。
図3】二つの異なる装置を用いて標本に蒸着された、カロット研削によるサンプル層の金属組織的な比較を示す。
【発明を実施するための形態】
【0045】
本発明を図面に基づいて例示的に説明する。
図1は、第一の実施形態において、基材1上に窒化チタン接着剤層2を有し、交互になった窒化チタンアルミニウム層3と窒化クロムアルミニウム層4をそれぞれ十五層ずつと、窒化チタン最上層5とを含有するサンプル層構造を示し、窒化チタン接着剤層2の直後には窒化チタンアルミニウム層3が続いている。
【0046】
図2は、概念的なカロット研削を示す。当該カロット研削では、ボールが表面にカロット(球冠)を削り出す。多層構造が基材まで削られると、基材が最も内側の円の中に見える。サンプル層構造が見える。まず、基材1は窒化チタン接着剤層2が施されており、当該窒化チタン接着剤層2は、後続の層と基材1の間の接着性を向上させる。窒化チタン接着剤層2の直後には、有利には、窒化チタンアルミニウム層3が続く。次いで、交互になった窒化チタンアルミニウム層3と窒化クロムアルミニウム層4が来るが、これらの層はそれぞれ十五回ずつ蒸着され、最後に窒化チタン最上層5が蒸着される。
【0047】
図3は、対応する鋼材から構成された円柱形の試験片に蒸着された二つのサンプル層構造の金属組織的なカロット研削を示す。当該層構造は、図2におけるものと同じである。左側のコーティング組織は、本出願人が製造したalpha400Pコーティング装置を用いて施し、右側のコーティング組織は、出願人が製造したalpha900Pコーティング装置を用いて施した。
図面には、窒化チタン最上層の代わりの炭窒化チタン最上層のサンプル使用は示していない。
【0048】
本発明を具体例に基づいて以下に説明する。
本例における層の化学組成は、窒化チタンにおける約45at%のチタンおよび約55at%の窒素、窒化クロムアルミニウムにおける約35at%のアルミニウム、約15at%のクロム、および約50at%の窒素からなるのに対し、窒化チタンアルミニウムには、約11at%のアルミニウム、35at%のチタン、および45at%の窒素が含有されている。
【0049】
冷間成形工具用のコーティングは、多層硬質材料コーティングの形で生成され、当該コーティングは、基材1(工具母材、金属材料)から始まり、PVDアーク技術を用いて、一連のTiN接着剤層2、AlTiN‐AlCrN多層組織(十五個の個別の層)、およびTiN最上層5として蒸着され、冷間成形工具の耐用年数を向上させることができる。工具耐用年数の最適化は、PVDアークに基づくAlTiN‐AlCrN多層組織が、その機械的および熱的な特性により、成形時の法線方向の先端の接触応力に対して摩耗を最小限にする効果および局所的な熱効果を生じるという点で実現する。さらなる薄いTiN最上層5は、層の侵入挙動に有益であり、下方のより硬いAlTiN‐AlCrN多層構造と比べて摩擦を低減する。
【0050】
0.5μm厚のTiN接着剤層2は、1.2×10-2mbarで反応ガスNを利用して、400℃から450℃への上昇基材温度傾斜、600Vから220Vへの下降基材バイアス電圧、および60Aの蒸着器電流で蒸着される。TiN接着剤層2の組成は次の通り、測定の不確かさの範囲内で、45at%のTiおよび55at%のAlである。
【0051】
AlTiN‐AlCrN多層組織の0.2μm厚から0.3μm厚のAlTiN層3は、高いTi濃度を有するAlTiN層から始まり、AlTiN層は、2×10-2mbarの反応ガスNを利用して、55AでのAlTi陰極と60AでのTi陰極の同時蒸着により、450℃の基材温度および200Vの基材バイアス電圧で蒸着される。AlTiNの個別の層の組成は次の通り、測定の不確かさの範囲内で、11at%のAl、35at%のTi、および54at%のNである。
【0052】
AlTiN‐AlCrN多層組織の上方の0.2μm厚から0.3μm厚のAlCrN層4は、2×10-2mbarの反応ガスNを利用して、450℃の基材温度、80Vの基材バイアス電圧、105AのAlCr陰極電流で蒸着される。AlCrNの個別の層4の組成は次の通り、測定の不確かさの範囲内で、35at%のAl、15at%のTi、および50at%のNである。
【0053】
個別のAlTiN層3およびAlCrN層4は次々に15回施され、上述のAlTiN‐AlCrN多層組織を生成する。
【0054】
0.2μm厚のTiN最上層5は、2×10-2mbarの反応ガスNを利用して、450℃の上昇基材温度、80Vの基材バイアス電圧、および60AのTi陰極電流で蒸着される。TiN最上層5の組成は次の通り、測定の不確かさの範囲内で、45at%のTiおよび55at%のAlである。
【0055】
層複合体全体の層厚みは、本例では5μmから7μmである。成形表面6は、被加工物の方に向けられる工具表面である。
【0056】
スタンピング試験および当該試験に関連付けられたパラメータが成形試験よりも良好に規定されているので、工具耐用年数に関する層特性をスタンピング工具上で決定した。スタンピング試験は全て偏心プレス(四本柱の偏心プレス、15,000kg)上で行った。冷間加工鋼(0.7wt%の炭素、5wt%のクロム、2.3wt%のMo、0.5wt%のバナジウム、および0.5wt%のマンガン、0.2wt%のSiを含有し、硬さが60HRcから61HRcであった)で作られたそれぞれのスタンピング工具をコーティングした。当該工具を使用して、潤滑剤を添加せずに、1400MPaの引張強度を有する超高強度鋼から構成された1.5mm厚の板をスタンピングした。
【0057】
スタンピングパラメータ
ストローク速度:160~170ストローク/分
送り速度(1.5mm厚鋼板):8m/分
圧力:72,500~74,000N
【0058】
耐用年数は、窒化チタンアルミニウム系基準層と比べて測定し、工具故障またはスタンピングした被加工物/部品上のバリ高さを中止基準として用いた。言い換えれば、工具故障が生じれば、工具の縁領域における摩耗が、被加工物/鋼板上では臨界バリ高さに達するほど高くなっている。この場合では、窒化チタンアルミニウム系基準層は、65,000ストロークで臨界バリ高さに達し、本発明にしたがってコーティングされた工具は、365,000ストローク後に初めて臨界バリ高さに達した。これは、耐用年数を5倍延ばすことに相当する。
【0059】
TiN最上層の代わりに、TiCN最上層を使用することも可能である。0.2μm厚のTiCN最上層は、1.2×10-2mbarで反応ガスNおよびCHを利用して、450℃の上昇基材温度、150Vから50Vへの下降基材バイアス電圧、および60Aから42Aへの下降Ti陰極電流で蒸着させることができる。TiCN最上層の組成は次の通り、測定の不確かさの範囲内で、20at%から23at%のC、30原子パーセントから33原子パーセントのN、および44at%から50at%のTiである。
【0060】
本発明により、有利なことに、本発明に係る多層構造を有する工具の耐用年数を大幅に増大することが可能である。
【符号の説明】
【0061】
1 金属材料、基材(コーティング対象の工具)
2 窒化チタン接着剤層(TiN接着剤層)
3 窒化チタンアルミニウム層(AlTiN層)
4 窒化クロムアルミニウム層(AlCrN層)
5 窒化チタン最上層(TiN最上層)
6 成形表面
図1
図2
図3
【国際調査報告】