(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-19
(54)【発明の名称】季節性インフルエンザワクチン及びアデノウイルス系呼吸器合胞体ウイルスワクチンの共投与
(51)【国際特許分類】
A61K 39/145 20060101AFI20220711BHJP
A61P 31/16 20060101ALI20220711BHJP
A61P 31/20 20060101ALI20220711BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20220711BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20220711BHJP
A61K 39/235 20060101ALI20220711BHJP
A61K 35/761 20150101ALI20220711BHJP
C12N 15/861 20060101ALN20220711BHJP
C12N 15/45 20060101ALN20220711BHJP
C12N 15/44 20060101ALN20220711BHJP
【FI】
A61K39/145
A61P31/16
A61P31/20
A61P37/04
A61K39/00 G
A61K39/235
A61K35/761
C12N15/861 Z ZNA
C12N15/45
C12N15/44
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021567987
(86)(22)【出願日】2020-05-14
(85)【翻訳文提出日】2021-11-19
(86)【国際出願番号】 EP2020063406
(87)【国際公開番号】W WO2020229577
(87)【国際公開日】2020-11-19
(32)【優先日】2019-05-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516257833
【氏名又は名称】ヤンセン ファッシンズ アンド プリベンション ベーフェー
【氏名又は名称原語表記】JANSSEN VACCINES & PREVENTION B.V.
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100093676
【氏名又は名称】小林 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100135943
【氏名又は名称】三橋 規樹
(72)【発明者】
【氏名】カレンドレット,ブノワ,クリストフ,ステファン
(72)【発明者】
【氏名】サドフ,ジェラルド,シー.
(72)【発明者】
【氏名】デ ペップ,エルス
【テーマコード(参考)】
4C085
4C087
【Fターム(参考)】
4C085AA03
4C085BA55
4C085BA77
4C085CC08
4C085EE03
4C085GG03
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087CA12
4C087MA02
4C087MA66
4C087NA13
4C087NA20
4C087ZB09
4C087ZB33
(57)【要約】
ヒト対象において、重篤な有害事象を誘導することなく、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)に対する防御免疫応答及びインフルエンザウイルスに対する防御免疫応答を誘導する方法について記載されている。方法は、対象に、融合前コンフォメーションで安定化されている組換えRSV Fポリペプチドをコードする有効量のアデノウイルスベクターを、有効量のインフルエンザワクチンと共に投与することを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それを必要とするヒト対象において、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)感染に対する防御免疫応答及びインフルエンザウイルス感染に対する防御免疫応答の両方を誘導する方法であって、前記対象に:
(a)融合前コンフォメーションで安定化されているRSV Fポリペプチドをコードする核酸を含むアデノウイルスベクターを含む有効量の医薬組成物、好ましくはワクチンであって、前記アデノウイルスベクターのウイルス粒子を1用量当たり約1×10
10~約1×10
12個含む、前記有効量の前記医薬組成物と、
(b)有効量のインフルエンザワクチン、好ましくは季節性インフルエンザワクチンとを筋肉内投与することを含み、
(a)及び(b)が共投与される、方法。
【請求項2】
前記(a)の医薬組成物及び前記(b)のワクチンが、同時に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アデノウイルスベクターが複製能を持たず、前記アデノウイルスの初期領域1(E1領域)及び初期領域3(E3領域)の少なくとも1つに欠失を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記アデノウイルスベクターが、前記E1領域及び前記E3領域の欠失を有する、複製能を持たないAd26アデノウイルスベクターである、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記アデノウイルスベクターが、前記E1領域及び前記E3領域の欠失を有する、複製能を持たないAd35アデノウイルスベクターである、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記アデノウイルスベクターによってコードされる前記組換えRSV Fポリペプチドが、配列番号4又は配列番号5のアミノ酸配列を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記RSV Fポリペプチドをコードする前記核酸が、配列番号6又は配列番号7のポリヌクレオチド配列を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記有効量の前記医薬組成物が、前記アデノウイルスベクターのウイルス粒子を1用量当たり約1×10
11個含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記対象が前記RSV感染症に感染しやすい、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記対象が前記インフルエンザウイルス感染症に感染しやすい、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記防御免疫応答が、RSVへの曝露時に前記対象のRSV臨床症状がないか又はRSV臨床症状が減少することを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記防御免疫応答が、インフルエンザウイルスへの曝露時に前記対象のインフルエンザウイルス臨床症状がないか又はインフルエンザウイルス臨床症状が減少することを特徴とする、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記防御免疫応答が、RSVに対する中和抗体及び/又はRSVに対する防御免疫の存在によって特徴付けられ、好ましくは、前記医薬組成物及び前記ワクチンの投与から8~35日後に検出可能である、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記防御免疫応答が、インフルエンザウイルスに対する中和抗体及び/又はインフルエンザウイルスに対する防御免疫の存在によって特徴付けられ、好ましくは、前記医薬組成物及び前記ワクチンの投与から8~35日後に検出可能である、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記投与が、重篤な有害事象を誘導しない、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
(a)融合前コンフォメーションで安定化されている呼吸器合胞体ウイルス(RSV)Fポリペプチドをコードする核酸を含むアデノウイルスベクターを含む有効量の医薬組成物、好ましくはワクチンであって、前記アデノウイルスベクターのウイルス粒子を1用量当たり約1×10
10~約1×10
12個含む、前記有効量の前記医薬組成物と、
(b)有効量のインフルエンザワクチン、好ましくは季節性インフルエンザワクチンとを含む組み合わせ物であって、
それを必要とするヒト対象に筋肉内投与し、前記ヒト対象において、RSV感染に対する防御免疫応答及びインフルエンザウイルス感染に対する防御免疫応答の両方を誘導するためのものであり、(a)及び(b)が共投与される、組み合わせ物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬の分野に属する。特に、本発明の実施形態は、アデノウイルス系ワクチン並びに呼吸器合胞体ウイルス(RSV)及びインフルエンザウイルス感染の予防的処置のためのインフルエンザワクチンと組み合わせたその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
呼吸器合胞体ウイルス(RSV)は、5歳未満の乳児及び小児における重篤な急性呼吸器疾患の最も重要な原因と考えられる(Hall,et al.,N Engl J Med.2009:360;588-598;Shay et al.,JAMA.1999:282;1440-1446;Stockman et al.,Pediatr Infect Dis J.2012:31;5-9)。世界的に、RSVは、毎年、推定340万人の入院の原因となっている。米国では、5歳未満の小児におけるRSV感染は、毎年57,000~175,000人が入院し、500,000人が救急処置室を訪れ、およそ500人が死亡する原因となっている(Paramore et al.,Pharmacoeconomics.2004:22;275-284;Shay et al.,JAMA.1999:282;1440-1446;Stockman et al.,Pediatr Infect Dis J.2012:31;5-9)。米国では、乳児の60%はRSVへの最初の曝露で感染し(Glezen et al.,Am J Dis Child.1986:140;543-546)、ほぼ全ての小児が2~3歳までにウイルスに感染しているであろう。RSVに対する免疫は一過性であり、生涯にわたって繰り返し感染が発生する(Hall et al.,J Infect Dis.1991:163;693-698)。1歳未満の小児において、RSVは、気管支炎の最も重要な原因であり、RSVによる入院は、月齢6ヶ月未満の小児の中で最も高い(Centers for Disease Control and Prevention(CDC)。呼吸器合胞体ウイルス(RSV)感染-感染及び発症。以下で入手可能:http://www.cdc.gov/rsv/about/infection.html (last accessed 02 June 2016);Hall,et al.,N Engl J Med.2009:360;588-598)。5歳未満の小児におけるRSV関連の死亡のほとんど全て(99%)は、発展途上国で発生している(Nair et al.,Lancet.2010:375;1545-1555)。それにも関わらず、先進国におけるRSVによる疾病負荷は大きく、小児期のRSV感染は、喘鳴、気道過敏症、及び喘息の発症につながる(Peebles et al.,J Allergy Clin Immunol.2004:113;S15-18;Regnier and Huels,Pediatr Infect Dis J.2013:32;820-826;Sigurs et al.,Am J Respir Crit Care Med.2005:171;137-141;Simoes et al.,J Allergy Clin Immunol.2010:126;256-262;Simoes et al.,J Pediatr.2007:151;34-42,42 e31)。
【0003】
小児に加えて、高齢者、免疫不全者、及び慢性心肺状態にある人において、RSVは、呼吸器感染の重要な原因である(Falsey et al.,N Engl J Med.2005:352;1749-1759)。長期間の看護施設において、RSVは、毎年5~10%の居住者に感染し、かなりの割合の肺炎率(10~20%)及び死亡率(2~5%)を伴うと推定される(Falsey et al.,Clin Microbiol Rev.2000:13;371-384)。RSV負荷に関する疫学研究において、米国では、毎年RSVで11,000人の高齢者が死亡していると推定された(Thompson et al.,JAMA.2003:289;179-186)。これらのデータは、特定の成人集団に効果的なワクチンを開発することの重要性を裏付けている。
【0004】
RSV融合(F)糖タンパク質に対する中和モノクローナル抗体(Synagis(登録商標)[パリビズマブ])による受動免疫による予防が利用可能であるが、未熟児(在胎週数29週未満)、重度の心肺疾患のある子供、又は免疫不全が重篤な子供にのみ適応される(米国小児科学会感染症委員会(American Academy of Pediatrics Committee on Infectious Diseases)、米国小児科学会細気管支炎ガイドライン委員会(American Academy of Pediatrics Bronchiolitis Guidelines Committee.) 呼吸器合胞体ウイルス感染による入院のリスクが高い乳児及び幼児におけるパリビズマブ予防のための最新のガイダンス(Updated guidance for palivizumab prophylaxis among infants and young children at increased risk of hospitalization for respiratory syncytial virus infection.)Pediatrics.2014:134;415-420)。Synagisは入院のリスクを55%減少させることが示されている(予防(Prevention.)呼吸器合胞体ウイルス感染の予防(Prevention of respiratory syncytial virus infections):パリビズマブの使用に関する適応症及びRSV-IGIVの使用に関する最新情報(indications for the use of palivizumab and update on the use of RSV-IGIV.)米国小児科学会感染症委員会及び胎児及び新生児委員会(American Academy of Pediatrics Committee on Infectious Diseases and Committee of Fetus and Newborn.)Pediatrics.1998:102;1211-1216)。
【0005】
RSVワクチン開発への高い疾病負荷及び強い関心にも関わらず、RSVに対する認可されたワクチンがない。1960年代後半において、ミョウバンでアジュバント添加されたホルマリン不活化RSV(FI-RSV)ワクチンを評価するために一連の研究が開始され、これらの研究の結果はRSVワクチン分野に大きな影響を及ぼした。筋肉内注射によって送達されたFI-RSVワクチンを用いて、異なる年齢群の小児を対象に4つの研究が並行して実施された(Chin et al.,Am J Epidemiol.1969:89;449-463;Fulginiti et al.,Am J Epidemiol.1969:89;435-448;Kapikian et al.,Am J Epidemiol.1969:89;405-421;Kim et al.,Am J Epidemiol.1969:89;422-434)。RSVに感染したFI-RSVレシピエントの80%が入院を必要とし、次の冬季に2人の子供が死亡した(Chin et al.,Am J Epidemiol.1969:89;449-463)。RSVに感染したコントロール群の子供のうち入院が必要だったのはわずか5%であった。再感染時にFI-RSVレシピエントで観察された呼吸器疾患増強(ERD)のメカニズムが調査されており、その年齢群に存在する小さな気管支との関連における異常な免疫応答の結果であると考えられている。患者サンプル及び動物モデルの分析から得られたデータは、FI-RSV ERDが、低中和抗体価、気道における免疫複合体沈着を促進する低い結合活性の非中和抗体の存在、ウイルスクリアランスに重要であることが示されている細胞傷害性CD8+T細胞プライム化の減少、及び好酸球増加症の証拠を伴う強化されたCD4+Tヘルパー2型(Th2)-歪んだ応答を特徴とすることを示唆している(Beeler et al.,Microb Pathog.2013:55;9-15;Connors et al.,J Virol.1992:66;7444-7451;De Swart et al.,J Virol.2002:76;11561-11569;Graham et al.,J Immunol.1993:151;2032-2040;Kim et al.,Pediatr Res.1976:10;75-78;Murphy et al.,J Clin Microbiol.1986:24;197-202;Murphy et al.,J Clin Microbiol.1988:26;1595-1597;Polack et al.,J Exp Med.2002:196;859-865)。ホルマリンとRSVタンパク質抗原の化学的相互作用は、FI-RSVワクチンがその後のRSV感染時にERDを促進するメカニズムの1つである可能性があると考えられている(Moghaddam et al.,Nat Med.2006:12;905-907)。このような理由によって、ホルマリンはRSVワクチンの開発には使用されなくなった。
【0006】
FI-RSVワクチンに加えて、いくつかの弱毒生RSVワクチン及びサブユニットRSVワクチンが動物モデル及びヒトの研究で試験されてきたが、多くは、安全性と免疫原性/有効性の適切なバランスを達成できないことによって阻害されてきた。弱毒生ワクチンは、とりわけ、乳児において、過剰な弱毒化及び不十分な弱毒化に関連する困難により、免疫性試験が行われてきた(Belshe et al.,J Infect Dis.2004:190;2096-2103;Karron et al.,J Infect Dis.2005:191;1093-1104;Luongo et al.,Vaccine.2009:27;5667-5676)。サブユニットワクチンに関して、どちらも膜タンパク質であるRSV融合(F)タンパク質及び糖タンパク質(G)タンパク質は、中和抗体を誘導する唯一のRSVタンパク質である(Shay et al.,JAMA.1999:282;1440-1446)。RSV Gタンパク質とは異なり、Fタンパク質はRSV株間で保存されている。既知の優れた免疫原性、防御免疫、及びRSV株間のFタンパク質の高度な保存に基づいて、様々なRSV Fサブユニットワクチンが開発されている(Graham,Immunol Rev.2011:239;149-166)。現在利用可能な抗Fタンパク質中和モノクローナル抗体予防によって提供される概念実証は、高レベルの長期中和抗体を誘導するワクチンがRSV疾患を予防する可能性があるという考えを支持する(Feltes et al.,Pediatr Res.2011:70;186-191;Groothuis et al.,J Infect Dis.1998:177;467-469;Groothuis et al.,N Engl J Med.1993:329;1524-1530)。いくつかの研究は、高齢者におけるRSVに対する保護の低下は、末梢血単核細胞(PBMC)によるインターフェロンガンマ(IFNγ)産生の加齢に伴う低下、CD8+のCD4+T細胞に対する比率の低下、及び循環するRSV特異的CD8+メモリーT細胞の数の減少に起因する可能性があることを示唆している(De Bree et al.,J Infect Dis.2005:191;1710-1718;Lee et al.,Mech Ageing Dev.2005:126;1223-1229;Looney et al.,J Infect Dis.2002:185;682-685)。高レベルの血清中和抗体は、高齢者における重症度の低い感染症に関連する(Walsh and Falsey,J Infect Dis.2004:190;373-378)。成人においてRSV感染後、血清抗体価は急速に上昇するが、16~20か月後には感染前のレベルにゆっくりと戻ることも実証されている(Falsey et al.,J Med Virol.2006:78;1493-1497)。1960年代のFI-RSVワクチン研究で以前に観察されたERDを考慮すると、将来のワクチンは強力な抗原特異的CD8+T細胞応答を促進し、歪んだTh2型CD4+T細胞反応を回避するはずである(Graham,Immunol Rev.2011:239;149-166)。
【0007】
RSV Fタンパク質は、不可逆性タンパク質が不安定な融合前コンフォメーションから安定した融合後コンフォメーションにリフォールディングすることにより、ウイルスと宿主細胞膜とを融合する。両コンフォメーションの構造がRSV F(McLellan et al.,Science 2013:342,592-598;McLellan et al.,Nat Struct Mol Biol 2010:17,248-250;McLellan et al.,Science 340,2013:1113-1117;Swanson et al.,Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 2011:108,9619-9624)、並びに関連するパラミクソウイルスの融合タンパク質について決定されており、それらはこの複雑な融合装置のメカニズムに洞察を加えている。他のI型融合タンパク質のように、不活性な前駆体、RSV F0は、フーリン様プロテアーゼによって細胞内成熟中に切断される必要がある。RSV F0は、2つのフーリン部位(例えば、GenBankアクセッション番号ACO83301のGenBankアクセッション番号ACO83301のアミノ酸残基109/110と136/137の間)を含み、これが3つのポリペプチド:F2、p27、及びF1につながっており、F1はそのN末端に疎水性融合ペプチド(FP)を含む。融合前コンフォメーションから融合後コンフォメーションにリフォールディングするために、(例えばFP及びヘプタッドリピートA(HRA)を含む残基137~216の)リフォールディング領域1(RR1)は、へリックス、ループ、及びストランドのアセンブリから長い連続へリックスに変形する必要がある。RR1のN末端セグメントに位置するFPは、その後、ウイルス膜から伸びて標的細胞の近位膜に入ることができる。次に、融合前FスパイクにおいてC末端ステムを形成し、且つヘプタッドリピートB(HRB)を含むリフォールディング領域2(RR2)が、RSV Fヘッドの他方の側に位置を変え、HRAコイルドコイルトリマーをHRBドメインと結合させて、6へリックスバンドルを形成する。6へリックスバンドルを完成するためのRR1コイルドコイルの形成及びRR2の移動は、リフォールディングの過程で起こる最も劇的な構造変化である。
【0008】
ヒトの血清中の大半の中和抗体は、融合前コンフォメーションに対するものであるが、不安定さに起因して、融合前コンフォメーションは、溶液中及びビリオン表面上の両方で融合後コンフォメーションに早期にリフォールディングする傾向がある。融合前コンフォメーションで安定化されているRSV Fポリペプチドについて記載されている。例えば、国際公開第2014/174018号パンフレット、同第2014/202570号パンフレット、及び同第2017/174564号パンフレットを参照されたい。しかしながら、ヒトにおけるそのようなポリペプチドの安全性、有効性/免疫原性に関する報告はない。
【0009】
インフルエンザウイルスは、主要なヒト病原体であり、無症状感染から死亡をもたらし得る原発性ウイルス肺炎まで重症度に幅がある呼吸器疾患(一般に「インフルエンザ(influenza)」又は「インフルエンザ(the flu)」と称される)を引き起こす。感染の臨床効果は、インフルエンザ株の病原性並びに宿主の曝露、既往歴、年齢、及び免疫状態により変動する。毎年、世界中で約10億人の人々がインフルエンザウイルスによる感染を受け、3~5百万症例の重病及び推定300,000から500,000のインフルエンザ関連死をもたらすことが推定されている。
【0010】
ヒト及び動物に感染症状を引き起こす3つの属のインフルエンザウイルス(A型、B型、及びC型)が存在する。A型及びB型ウイルスは、ヒトで観察されるインフルエンザの季節的な流行(A型及びB型)及び大流行(A型)を引き起こす病原体である。
【0011】
インフルエンザAウイルスは、表面糖タンパク質であり、それぞれウイルスの付着と細胞の放出に必要であるヘマグルチニン(HA)及びノイラミニダーゼ(NA)をコードする2つの遺伝子の抗原領域の変化に基づいてインフルエンザウイルス亜型に分類できる。現在、インフルエンザAウイルスでは、16のHA(H1~H16)と9つのNA(N1~N9)の亜型の抗原バリアントが知られている。一部のインフルエンザA亜型(すなわち、H1N1、H1N2、及びH3N2)のみが人々の間で流行しているが、16のHA亜型と9のNA亜型の全ての組み合わせが、動物、特に鳥類で確認されている。
【0012】
インフルエンザB型ウイルス株は、厳密にはヒトである。インフルエンザB型ウイルス株内のHA中の抗原変異は、A型株内で観察されるものよりも小さい。ヒトでは、B/Yamagata/16/88系統(B/Yamagata系統とも称される)及びB/Victoria/2/87(B/Victoria)系統によって表されるとおりの、2つの遺伝的及び抗原的に異なる系統のインフルエンザBウイルスが循環している(Ferguson et al.,Nature.2003 Mar 27;422(6930):428-33.)。インフルエンザBウイルスにより引き起こされる疾患の範囲は、インフルエンザAウイルスにより引き起こされるものよりも一般に軽度であるが、インフルエンザB感染について入院を要する重病が依然として頻繁に観察される。
【0013】
インフルエンザ抗原は非常に多様で変化しやすい性質があるため、ワクチンの開発は困難であることが証明されている。しかしながら、ワクチン接種は、疾患及びその深刻な合併症から保護するための最も証明された方法である。ワクチンは、インフルエンザの季節ごとに集団に蔓延すると予測されるウイルスの血清型を見越して、毎年再処方及び再投与しなければならないため、「季節性」ワクチンと見なされる。典型的には、最も一般的なヒトワクチンは、A(H1N1)、A(H3N2)、及びBなど、1977年以降の世界的なインフルエンザの毎年の発生の主な原因である主要なウイルス型の各々からの1つの代表的な株の組み合わせである。インフルエンザワクチンには、3価の不活化ワクチン(TIV)を含む2つの部類があり、6か月齢以上の個人に筋肉内(IM)注射で投与され、2~49歳の健康な非妊娠者に鼻腔内投与される弱毒化インフルエンザウイルスワクチン(LAIV)の生菌である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
RSV感染症に感染しやすい集団は、インフルエンザウイルス感染症にも感染しやすいことが多い。したがって、RSVに対するワクチン及びインフルエンザウイルスに対するワクチンを、それを必要とする対象に共投与するための安全で効果的な方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
一般的な一態様では、本出願は、それを必要とするヒト対象において、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)感染に対する防御免疫応答及びインフルエンザウイルス感染に対する防御免疫応答の両方を誘導する方法であって、対象に:(a)融合前コンフォメーションで安定化されているRSV Fポリペプチドをコードする核酸を含むアデノウイルスベクターを含む有効量の医薬組成物、好ましくはワクチンであって、アデノウイルスベクターのウイルス粒子を1用量当たり約1×1010~約1×1012個含む、有効量の医薬組成物と、(b)有効量のインフルエンザワクチンとを筋肉内投与することを含み、(a)及び(b)が共投与される、方法について記載する。
【0016】
特定の実施形態では、(a)の医薬組成物及び(b)のワクチンは、同時に投与される。
【0017】
特定の実施形態では、アデノウイルスベクターは複製能を持たず、アデノウイルスの初期領域1(E1領域)及び初期領域3(E3領域)の少なくとも1つに欠失を有する。
【0018】
特定の実施形態において、アデノウイルスベクターは、E1領域及びE3領域の欠失を有する、複製能を持たないAd26アデノウイルスベクターである。
【0019】
特定の実施形態において、アデノウイルスベクターは、E1領域及びE3領域の欠失を有する、複製能を持たないAd35アデノウイルスベクターである。
【0020】
特定の実施形態では、アデノウイルスベクターによってコードされる組換えRSV Fポリペプチドは、配列番号4又は配列番号5のアミノ酸配列を有する。
【0021】
特定の実施形態では、RSV Fポリペプチドをコードする核酸は、配列番号6又は配列番号7のポリヌクレオチド配列を含む。
【0022】
特定の実施形態では、有効量の医薬組成物は、アデノウイルスベクターのウイルス粒子を1用量当たり約1×1011個含む。
【0023】
特定の実施形態では、インフルエンザワクチンは、季節性インフルエンザワクチンである。
【0024】
特定の実施形態では、対象はRSV感染症に感染しやすい。
【0025】
特定の実施形態では、対象はインフルエンザウイルス感染症に感染しやすい。
【0026】
特定の実施形態では、防御免疫応答は、RSVへの曝露時に対象のRSV臨床症状がないか又はRSV臨床症状が減少することを特徴とする。
【0027】
特定の実施形態では、防御免疫応答は、インフルエンザウイルスへの曝露時に対象のインフルエンザウイルス臨床症状がないか又はインフルエンザウイルス臨床症状が減少することを特徴とする。
【0028】
特定の実施形態では、防御免疫応答は、RSVに対する中和抗体及び/又はRSVに対する防御免疫を特徴とする。
【0029】
特定の実施形態では、防御免疫応答は、インフルエンザウイルスに対する中和抗体及び/又はインフルエンザウイルスに対する防御免疫を特徴とする。
【0030】
特定の実施形態では、投与は、重篤な有害事象を誘導しない。
【0031】
一般的な一態様では、本出願は、(a)融合前コンフォメーションで安定化されているRSV Fポリペプチドをコードする核酸を含むアデノウイルスベクターを含む有効量の医薬組成物、好ましくはワクチンであって、アデノウイルスベクターのウイルス粒子を1用量当たり約1×1010~約1×1012個含む、有効量の医薬組成物と、(b)インフルエンザワクチン、好ましくは季節性インフルエンザワクチンとを含む、キットなどの組み合わせ物を記載する。組み合わせ物は、それを必要とするヒト対象において、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)感染に対する防御免疫応答及びインフルエンザウイルス感染に対する防御免疫応答の両方を誘導するために使用することができる。
【0032】
上述の概要及び下記の本願の好ましい実施形態の詳細な説明は、添付した図面と共に読む場合により十分に理解されることになる。しかしながら、本願は、図面に示される明確な実施形態に限定されないことを理解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】
図1は、プロトコルごとのインフルエンザ免疫原性集団についてのワクチン接種から28日後の血球凝集阻害(HI)抗体応答(HAI)の幾何平均比のフォレストプロットを示す。
【
図2】
図2は、プロトコルごとのインフルエンザ免疫原性集団についてのHI抗体応答(HAI)の経時的な平均(95%CI)実際値のプロットを示す。
【
図3】
図3は、プロトコルごとのインフルエンザ免疫原性集団についてのワクチン接種から28日後のHI抗体応答(HAI)についてのセロコンバージョンの差のフォレストプロットを示す。
【
図4】
図4は、プロトコルごとのインフルエンザ免疫原性集団についてのワクチン接種から28日後のHI抗体応答(HAI)についてのセロプロテクションの差のフォレストプロットを示す。
【
図5】
図5は、プロトコルごとのRSV免疫原性集団の経時的なRSV A2株に対する中和抗体の力価のプロットを示しており、図には、95%CIの幾何平均が示されており、N=ベースラインのデータを有する対象の数である。
【
図6】
図6は、プロトコルごとのRSV免疫原性集団の経時的なELISAで測定した場合のRSV融合前タンパク質による抗体応答のプロットを示しており、図には、95%CIの幾何平均が示されており、N=ベースラインのデータを有する対象の数である。
【
図7】
図7は、プロトコルごとのRSV免疫原性集団の経時的なELISAで測定した場合のRSV融合後タンパク質による抗体応答のプロットを示しており、図には、95%CIの幾何平均が示されており、N=ベースラインのデータを有する対象の数である。
【
図8】
図8は、プロトコルごとのRSV免疫原性集団の経時的なIFN-γ ELISpotアッセイで測定した場合のRSV-F特異的T細胞応答のボックスプロットを示す。
【発明を実施するための形態】
【0034】
背景技術の項で、及び本明細書全体を通して、様々な刊行物、論文及び特許が引用又は記載されているが、これらの参考文献はそれぞれ、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。本明細書に含まれる文献、行為、材料、装置、物品等の議論は、本発明の文脈を提供することを目的とする。そのような議論は、これらの内容のいずれか又は全てが、開示されている、又は特許請求されているあらゆる発明に関する先行技術の一部を形成することを認めるものではない。
【0035】
特に定義しない限り、本明細書で使用する全ての技術用語及び科学用語は、本発明が関係する分野の当業者に一般に理解されている意味と同じ意味を有する。さもなければ、本明細書で使用される特定の用語は、本明細書で規定されている意味を有する。
【0036】
本明細書で使用する場合及び添付した特許請求の範囲においては、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」及び「その(the)」は、別途文脈が明白に規定していない限り、複数の言及を含むことに留意しなければならない。
【0037】
特に明記しない限り、本明細書に記載される濃度又は濃度範囲等の数値は、全ての場合において、用語「約」によって修飾されていると理解されるべきである。したがって、数値は、通常、列挙された値の±10%を含む。例えば、1mg/mLの濃度は、0.9mg/mL~1.1mg/mLを含む。同様に、1%(w/v)~10%(w/v)の濃度範囲は、0.9%(w/v)~11%(w/v)を含む。本明細書で使用する場合、数値範囲の使用は、全ての可能な部分的範囲、その範囲内の全ての個々の数値を明示的に含み、文脈に明らかに別段の指示がない限り、そのような範囲内の整数及び値の分数を含む。
【0038】
他に特に指示されない限り、一連の要素に先行する用語「少なくとも」は、一連の各要素に関すると理解すべきである。当業者は、通例の実験だけを使用して、本明細書に記載される本発明の特定の実施形態に対する多数の等価物を認識することになるか、又は確認することができるであろう。このような等価物は、本発明に包含されるものとする。
【0039】
本明細書で使用する場合、用語「~を含む(comprises)」、「~を含む(comprising)」、「~を含む(includes)」、「~を含む(including)」、「~を有する(has)」、「~を有する(having)」、「~を含有する(contains)」、若しくは「~を含有する(containing)」、又はそれらの任意の他の変形は、記載された整数又は整数群を包含することを意味するものと理解されるが、任意の他の整数又は整数群の排除を意味するものではなく、非排他的又はオープンエンドであることが意図されている。例えば、構成要素の一覧を含む組成物、混合物、プロセス、方法、物品又は装置は必ずしもそれらの構成要素のみに限定されるものではなく、明示的に列挙されていない、又はそのような組成物、混合物、プロセス、方法、物品若しくは装置が本来具備している他の構成要素を含むことができる。更に、明確に反対のことを述べない限り、「又は」は包括的又はを意味し、排他的又はを意味しない。例えば、条件A又はBは、以下のいずれか1つによって満たされる:Aが真であり(又は、存在し)且つBが偽である(又は、存在しない)、Aが偽であり(又は、存在しない)且つBが真である(又は、存在する)、並びにA及びBの両方が真である(又は、存在する)。
【0040】
また、本明細書で好ましい発明の構成要素の寸法又は特性に言及するときに使用される「約」、「略」、「一般に」、「実質的に」等の用語は、当業者には理解されているであろうように、記載された寸法/特性が厳密な境界又はパラメーターではなく、機能的に同じか又は類似している、そこからの僅かな変形は排除しないことを示すことは理解されたい。少なくとも、そのような数値パラメーターを含む言及は、当技術分野で受容されている数学的及び工業的原理(例えば、四捨五入、測定又はその他の系統的誤差、製造上の公差など)を使用して、最下位桁を変化させない変動を含むであろう。
【0041】
本発明は、それを必要とするヒト対象において、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)感染に対する防御免疫応答及びインフルエンザウイルスに対する防御免疫応答の両方を誘導する方法であって、対象に:(a)融合前コンフォメーションで安定化されているRSV Fポリペプチドをコードする核酸を含むアデノウイルスベクターを含む有効量の医薬組成物、好ましくはワクチンと、(b)有効量のインフルエンザワクチンとを筋肉内投与することを含む、方法を提供する。
【0042】
本明細書で使用する場合、用語「RSV融合タンパク質」、「RSV Fタンパク質」、「RSV融合ポリペプチド」、又は「RSV Fポリペプチド」は、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)の任意の群、亜群、分離株、型、又は株の融合(F)タンパク質を指す。RSVは、2つの抗原亜群である、A及びBを有する単一の血清型として存在する。RSV Fタンパク質の例としては、RSV AからのRSV F(例えば、RSV A1 Fタンパク質及びRSV A2 Fタンパク質)、及びRSV BからのRSV F(例えば、RSV B1 Fタンパク質及びRSV B2 Fタンパク質)が挙げられるが、これらに限定されない。本明細書で使用する場合、用語「RSV Fタンパク質」は、変異、例えば、全長野生型RSV Fタンパク質の点変異、断片、挿入、欠失及びスプライスバリアントを含むタンパク質を含む。
【0043】
特定の実施形態によれば、融合前コンフォメーションで安定化されているRSV Fタンパク質は、RSV A株に由来する。特定の実施形態では、RSV Fポリペプチドは、RSV A2株に由来する。本発明で有用な融合前コンフォメーションで安定化されているRSV Fポリペプチドは、野生型RSV Fタンパク質と比較して、特に、配列番号1のアミノ酸配列を有するRSV Fタンパク質と比較して、少なくとも1つの変異を有するRSV Fタンパク質である。特定の実施形態によれば、本発明で有用な融合前コンフォメーションで安定化されているRSV Fポリペプチドは、K66E、N67I、I76V、S215P、K394R、S398L、D486N、D489N、及びD489Yからなる群から選択される少なくとも1つの変異を含む。
【0044】
特定の実施形態によれば、融合前コンフォメーションで安定化されているRSV Fポリペプチドは、融合前に特異的なモノクローナル抗体、例えばCR9501によって認識される少なくとも1つのエピトープを含む。CR9501は、融合前コンフォメーションのRSV Fタンパク質に特異的に結合し、融合後コンフォメーションには結合しない58C5(国際公開第2011/020079号パンフレット及び同第2012/006596号パンフレット記載されている)と称される抗体の結合領域を含む。
【0045】
特定の実施形態では、RSV Fポリペプチドは、国際公開第2014/174018号パンフレット及び同第2014/202570号パンフレットに記載の、短縮されたF1ドメインに連結した異種三量化ドメインを更に含む。本明細書で使用される場合、「短縮された」F1ドメインは、完全長F1ドメインではないF1ドメイン(即ち、N末端又はC末端で1つ又は複数のアミノ酸残基が欠失しているF1ドメイン)を指す。特定に実施形態によれば、少なくとも膜貫通ドメイン及び細胞質側末端は、可溶性細胞外ドメインとしての発現を可能にするために欠失している。特定の実施形態では、三量化ドメインは、配列番号2を含み、RSV F1ドメインのアミノ酸残基513に直接又はリンカーを介して連結している。特定の実施形態では、リンカーはアミノ酸配列SAIG(配列番号3)を含む。
【0046】
融合前コンフォメーションで安定化されているRSV Fタンパク質の例としては、参照によりその内容が本明細書に組み込まれる国際公開第2014/174018号パンフレット、同第2014/202570号パンフレット、及び同第2017/174564号パンフレットに記載されるものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0047】
特定の実施形態によれば、RSV Fタンパク質は、配列番号4若しくは配列番号5のアミノ酸配列を含むか、又は配列番号4若しくは配列番号5のアミノ酸配列と少なくとも75%、80%、95%、90%、若しくは95%同一なアミノ酸配列を含む。
【0048】
融合前コンフォメーションで安定化されているRSV Fタンパク質をコードする核酸の例としては、配列番号6及び配列番号7が挙げられる。多数の異なる核酸分子が、遺伝子コードの縮重の結果として、同じポリペプチドをコードし得ることは、当業者に理解されている。また、当業者がルーチンの手法を用いて、そこに記載されるポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチド配列に影響を及ぼさないヌクレオチド置換を行って、ポリペプチドが発現する任意の特定の宿主生物のコドン使用を反映し得ることも理解されている。したがって、別段の記載がない限り、「アミノ酸配列をコードする核酸配列」には、互いの縮重型であり、且つ同じアミノ酸配列をコードする全てのヌクレオチド配列が含まれる。タンパク質をコードするヌクレオチド配列、及びRNAは、イントロンを含み得る。本明細書の配列は、当該技術分野の慣例どおり、5’から3’の方向で提供される。
【0049】
インフルエンザウイルスは、インフルエンザウイルス型:A、B、及びC属に分類される。本明細書で使用する場合、用語「インフルエンザウイルス」は、インフルエンザウイルスの型A、B、又はC、及びその中の任意の亜型を指す。インフルエンザAウイルスは、ヘマグルチニン(H)及びノイラミニダーゼ(N)ウイルス表面タンパク質の組み合わせによって更に亜型に特徴付けられる。本明細書で使用する場合、ヒトインフルエンザウイルス株又は分離株についての命名法としては、ウイルスの型(属)、すなわち、A、B、又はC、及び最初の分離の地理的場所、例えば、A/ミシガン、A/ホンコン、B/ブリスベン、B/プーケットが挙げられる。
【0050】
本明細書で使用する場合、「ワクチン」という用語は、特定の病原体又は疾患に対して被験体にある程度の免疫を誘導するのに効果的な活性成分を含有する薬剤又は組成物を指し、これにより、病原体による感染に関連した症状若しくは疾患の重症度、期間、又は他の徴候が少なくとも低減し、最大で完全に消失する。本発明では、ワクチンは、融合前コンフォメーションで安定化されているRSV Fポリペプチドをコードする核酸を含むアデノウイルスを含む。本出願の実施形態によれば、ワクチンを使用して、入院が必要となる重篤な下気道疾患を予防し、対象のRSV感染及び複製による肺炎及び細気管支炎などの合併症の頻度を低減することができる。特定の実施形態では、ワクチンは、例えばRSVの他のタンパク質及び/又は他の感染病原体に対する防御免疫応答を誘導する他の成分を更に含む組み合わせワクチンであり得る。更なる活性成分の投与は、例えば、別個の投与により行われてもよいし、又は本発明のワクチンと更なる活性成分との組み合わせ製品を投与することにより行われ得る。
【0051】
特定の実施形態では、インフルエンザワクチンは、季節性インフルエンザワクチンであり、これは、インフルエンザの季節に発生する季節性インフルエンザウイルスに対するワクチンとして定義される。季節性インフルエンザワクチンの例としては、三価のA/H1N1-A/H3N2 Bワクチンが挙げられるが、これらに限定されない。特定の実施形態では、季節性インフルエンザワクチンは、任意の市販の季節性インフルエンザワクチンであり得る。市販されている季節性インフルエンザワクチンの例としては、例えば、スプリットワクチンであるBEGRIVAC(商標)(Wyath)、FLUARIX(商標)
(GSK)、FLUZONE(商標)(Sanofi)、及びFLUSHIELD(商標)(Jamieson);サブユニットワクチンであるFLUVIRIN(商標)(Seqirus)、AGRIPPAL(商標)
(Novartis)、及びINFLUVAC(商標)(Abbott)、並びに弱毒生インフルエンザウイルスワクチンであるFlumist(商標)(Medimmune Inc.)が挙げられる。
【0052】
本明細書で使用する場合、用語「防御免疫」又は「防御免疫応答」は、ワクチン接種された対象が、このワクチン接種を行った対象の病原性因子による感染を防除できることを意味する。通常、「防御免疫応答」が発現された対象は、軽度から中等度の臨床症状を発現するにすぎないか、又は症状を全く発現しない。通常、特定の因子に対する「防御免疫応答」又は「防御免疫」を有する対象は、上記因子による感染の結果として死亡しない。
【0053】
本明細書で使用する場合、用語「誘導する」及びその変形形態は、細胞活動の任意の測定可能な増加を指す。防御免疫応答の誘導は、例えば、免疫細胞集団の活性化、増殖、若しくは成熟、サイトカインの産生の増加、及び/又は免疫機能の増加の別の指標を挙げることができる。特定の実施形態では、免疫応答の誘導は、B細胞の増殖の増加、抗原特異的抗体の産生、抗原特異的T細胞の増殖の増加、樹状細胞抗原提示の改善、並びに/又は特定のサイトカイン、ケモカイン、及び共刺激マーカーの発現の増加を挙げることができる。
【0054】
RSV Fタンパク質及び/又はインフルエンザウイルスに対する防御免疫応答を誘導する能力を、当該技術分野で標準的である様々なアッセイを使用して、in vitro又はin vivoのいずれかで評価することできる。免疫応答の発現及び活性化を評価するのに利用することができる技法の概要に関して、例えばColigan et al.(1992 and 1994,Current Protocols in Immunology;ed.J Wiley & Sons Inc,National Institute of Health)を参照されたい。当該技術分野で容易に知られている方法、例えば、CD4+T細胞及びCD8+T細胞に由来するもの等の活性化されたエフェクタ細胞により分泌されるサイトカインプロファイルの測定(例えば、ELISPOTによるIL-4又はIFNガンマ産生細胞の定量化)により、PBMC増殖を測定することにより、NK細胞活性を測定することにより、免疫エフェクタ細胞の活性化状態を測定(例えば、典型的な[3H]チミジン取り込みによるT細胞増殖アッセイ)することにより、感作対象の抗原特異的Tリンパ球をアッセイ(例えば、細胞毒性アッセイにおけるペプチド特異的溶解など)することにより、細胞性免疫の測定を実施することができる。更に、腸、肺、鼻の組織への輸送を示すことができる局所部位のホーミングマーカーを備えたIgG及びIgA抗体分泌細胞は、局所免疫の指標として、免疫後の様々な時点にて血液中で測定することができ、鼻汁中のIgG及びIgA抗体を測定することができる;抗体のFc機能、及びPMN、マクロファージ、NK細胞などの細胞、又は補体系との抗体相互作用の測定を特徴付けることができ;単一細胞RNAシーケンス分析は、B細胞及びT細胞のレパートリーを分析するために使用することができる。
【0055】
RSV Fタンパク質及び/又はインフルエンザウイルスに対する防御免疫応答を誘導する能力は、抗体、例えば、組成物中に投与されたRSV Fタンパク質に対するIgG又はIgM抗体、例えば、RSV A2(VNA A2)、VNA RSV Aメンフィス37b、RSV B、pre-F抗体、post-F抗体、RSV Ga抗体、RSV Gb抗体に対するウイルス中和抗体(例えば、Harlow,1989,Antibodies,Cold Spring Harbor Pressを参照されたい)、又は例えば、インフルエンザウイルスワクチンで投与されるインフルエンザウイルスタンパク質に対するIgG又はIgM抗体、例えば、血球凝集阻害(HI)、又は微小中和(MN)抗体などの抗体の存在についての対象からの生物学的サンプル(例えば、鼻洗浄液、血液、血漿、血清、PBMC、尿、唾液、糞便、脳脊髄液、気管支肺胞洗浄液、又はリンパ液)を試験することによって決定することができる。例えば、免疫原を提供する組成物の投与に応答して産生される抗体の力価は、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、他のELISA系アッセイ(例えば、MSD-Meso Scale Discovery)、ドットブロット、SDS-PAGEゲル、ELISPOT、補体増強の有無にかかわらず、補体、PMN、マクロファージ及びNK細胞とのFc相互作用の測定、又は抗体依存性細胞貪食(ADCP)アッセイによって測定することができる。例示的な方法は、実施例1に記載されている。特定の実施形態によれば、誘導される免疫応答は、RSVに対する中和抗体及び/又はRSVに対する防御免疫を特徴とする。特定の実施形態によれば、誘導された免疫応答は、インフルエンザウイルスに対する中和抗体及び/又はインフルエンザウイルスに対する防御免疫を特徴とする。
【0056】
特定の実施形態によれば、防御免疫応答は、RSVに対する中和抗体及び/又はRSVに対する防御免疫の存在によって特徴付けられ、好ましくは、医薬組成物の投与から8~35日後、例えば、医薬組成物の投与から8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、又は35日後などに検出可能である。更に好ましくは、RSVに対する中和抗体は、免疫成分の投与から約6カ月~5年後、例えば免疫成分の投与から6カ月、1年、2年、3年、4年、又は5年後に検出される。
【0057】
特定の実施形態によれば、防御免疫応答は、インフルエンザウイルスに対する中和抗体及び/又はインフルエンザウイルスに対する防御免疫の存在によって特徴付けられ、好ましくは、医薬組成物の投与から8~35日後、例えば、医薬組成物の投与から8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、又は35日後などに検出可能である。更に好ましくは、インフルエンザに対する中和抗体は、免疫成分の投与から約6カ月~5年後、例えば免疫成分の投与から6カ月、1年、2年、3年、4年、又は5年後に検出される。
【0058】
特定の実施形態によれば、(a)及び(b)の共投与でRSVに対して誘導される防御免疫応答は、(a)のみの投与でRSVに対して誘導される防御免疫応答に対して非劣性であることを特徴とする。特定の実施形態によれば、(a)及び(b)の共投与でインフルエンザウイルスに対して誘導される防御免疫応答は、(b)のみの投与でインフルエンザウイルスに対して誘導される防御免疫応答に対して非劣性であることを特徴とする。本明細書で使用する場合、非劣性は、RSV特異的抗体又はインフルエンザウイルス特異的抗体の幾何平均力価(GMT)のマージン2を使用して決定される。例示的な方法は、実施例1に記載されている。
【0059】
特定の実施形態によれば、防御免疫応答は、RSVへの曝露時に対象のRSV臨床症状がないか又はRSV臨床症状が減少することを特徴とする。特定の実施形態によれば、防御免疫応答は、インフルエンザウイルスへの曝露時に対象のインフルエンザウイルス臨床症状がないか又はインフルエンザウイルス臨床症状が減少することを特徴とする。RSV及びインフルエンザの臨床症状としては、例えば、鼻水、鼻づまり、くしゃみ、喉の痛み、耳痛を含む上気道症状;例えば、咳、息切れ、胸部圧迫感、喘鳴、痰の生成などを含む下気道症状;並びに例えば、倦怠感、頭痛、筋肉、及び/又は関節の痛み、肌寒さ/発熱などを含む全身症状が挙げられる。
【0060】
本明細書で使用する場合、用語「有害事象」(AE)は、医薬品を投与された患者における任意の有害な医学的出来事を指し、必ずしも治療と因果関係があるとは限らない。本発明の実施形態によれば、AEは、次の定義を使用して、重症度が高くなる4段階で評価される。軽度(グレード1):活動への支障なし;中程度(グレード2):活動へのいくつかの支障あり、医学的介入の必要なし;重度(グレード3):日常の活動に支障あり、医学的介入が必要;生命を脅かす可能性あり(グレード4):基本的なセルフケア機能を実行できない原因となる症状、又は永続的な障害、持続的な障害を防ぐためになされる医学的若しくは手術的介入。「重篤な有害事象」、「重篤なAE」、「SAE」は、以下の結果のいずれかをもたらす任意の用量で発生する任意のAEであり得る:死(死は結果であり、事象ではない);生命を脅かすもの(事象時に患者が死亡するリスクがある事象を指す);それは、より重篤であったならば、仮想的に死を引き起こしたかもしれない事象を指さない;入院患者の入院、すなわち、計画外の夜間入院、又は既存の入院の延長;通常の生活機能を実行することが持続的にできないか又は実行する能力が実質的に混乱;先天性異常/先天性欠損症;患者を危険にさらす可能性がある、又は上記の他の結果の1つを防ぐために医学的若しくは外科的介入を必要とする可能性のある重要な医療事象(研究者が判断した場合)(例えば、入院に至らないアレルギー性気管支痙攣又は血液の悪液質又は痙攣のための緊急治療室又は自宅での集中治療)。入院とは、病院への正式な入院のことである。入院又は入院の延長は、AEが重篤であるための基準を構成する;ただし、それ自体はSAEとは見なされない。AEがない場合、入院又は入院の延長はSAEとは見なされない。これは、次の状況に当てはまる可能性がある:プロトコルにより要求される手順には、入院若しくは入院の延長を必要とする;又は入院若しくは入院の延長は、センターが従う日常的な手順の一部である(例えば、手術後のステント除去)。研究中に悪化しなかった既存の病態の選択的治療のための入院は、AEとは見なされない。入院中に発生する合併症はAEである。合併症が入院を長引かせるか、又は他のSAE基準のいずれかを満たしている場合、その事象はSAEである。
【0061】
本明細書で使用する場合、用語「有効量」は、対象における所望の生物学的応答又は医学的応答を誘導する有効成分又は構成成分の量を指す。特定の有効用量の選択は、治療又は予防されることになる疾患、関連する症状、患者の体重、患者の免疫状態及び当業者によって知られる他の因子を含むいくつかの因子の検討に基づいて、当業者によって(例えば、臨床試験により)決定され得る。製剤中に用いられる正確な用量はまた、投与方法、投与経路、標的部位、患者の生理学的状態、投与される他の薬剤、及び疾患の重症度に依存する。例えば、有効量の医薬組成物はまた、アジュバントも投与されるかどうかに依存し、アジュバントの非存在下ではより高い投与量が必要とされる。
【0062】
本出願の実施形態によれば、有効量の医薬組成物は、重篤な有害事象を誘導することなくRSV Fタンパク質に対する防御免疫応答を誘導するのに十分な量の医薬組成物を含む。特定の実施形態では、有効量の医薬組成物は、融合前コンフォメーションで安定化されているRSV Fポリペプチドをコードする核酸を含むアデノウイルスベクターのウイルス粒子を1用量当たり約1×1010~約1×1012個、好ましくは、ウイルス粒子を1用量当たり約1×1011個含む。
【0063】
本出願の実施形態によれば、有効量の医薬組成物は、融合前コンフォメーションで安定化されているRSV Fポリペプチドをコードする核酸を含むアデノウイルスベクターのウイルス粒子を1用量当たり約1×1010~約1×1012個、例えばウイルス粒子を1用量当たり約1×1010個、ウイルス粒子を1用量当たり約2×1010個、ウイルス粒子を1用量当たり約3×1010個、ウイルス粒子を1用量当たり約4×1010個、ウイルス粒子を1用量当たり約5×1010個、ウイルス粒子を1用量当たり約6×1010個、ウイルス粒子を1用量当たり約7×1010個、ウイルス粒子を1用量当たり約8×1010個、ウイルス粒子を1用量当たり約9×1010個、ウイルス粒子を1用量当たり約1×1011個、ウイルス粒子を1用量当たり約2×1011個、ウイルス粒子を1用量当たり約3×1011個、ウイルス粒子を1用量当たり約4×1011個、ウイルス粒子を1用量当たり約5×1011個、ウイルス粒子を1用量当たり約6×1011個、ウイルス粒子を1用量当たり約7×1011個、ウイルス粒子を1用量当たり約8×1011個、ウイルス粒子を1用量当たり約9×1011個、又はウイルス粒子を1用量当たり約1×1012個含む。好ましくは、組換えRSV Fポリペプチドは、配列番号4又は配列番号5のアミノ酸配列を有し、アデノウイルスベクターは、血清型26、例えば組換えAd26のものである。
【0064】
本出願の実施形態によれば、有効量のインフルエンザウイルスワクチンは、重篤な有害事象を誘導することなくインフルエンザウイルスに対する防御免疫応答を誘導するのに十分な量のインフルエンザウイルスワクチンを含む。特定の実施形態では、有効量のインフルエンザウイルスワクチンは、単回投与の市販の季節性インフルエンザウイルスワクチンを含む。
【0065】
特定の実施形態によれば、ヒト対象はRSV感染症に感染しやすい。特定の実施形態では、RSV感染症に感染しやすいヒト対象としては、高齢のヒト対象、例えば、50歳以上、60歳以上、好ましくは65歳以上のヒト対象;若年
のヒト対象、例えば、5歳以下、1歳以下のヒト対象;及び/又は入院している対象、若しくは抗ウイルス化合物で治療されているが不十分な抗ウイルス反応を示しているヒト対象が挙げられるが、これらに限定されない。
【0066】
特定の実施形態によれば、ヒト対象はインフルエンザウイルス感染症に感染しやすい。特定の実施形態では、インフルエンザウイルス感染症に感染しやすいヒト対象としては、高齢のヒト対象、例えば、50歳以上、60歳以上、好ましくは65歳以上のヒト対象;若年のヒト対象、例えば、5歳以下、1歳以下のヒト対象;及び/又は入院している対象、若しくは抗ウイルス化合物で治療されているが不十分な抗ウイルス反応を示しているヒト対象が挙げられるが、これらに限定されない。特定の実施形態では、RSV感染症に感染しやすいヒト対象としては、慢性心臓病、慢性肺疾患、及び/又は免疫不全のある対象が挙げられるが、これらに限定されない。
【0067】
特定の実施形態によれば、それを必要とするヒト対象は、融合前コンフォメーションで安定化されているRSV Fポリペプチドをコードする核酸分子を含むアデノウイルスを含む医薬組成物と、インフルエンザワクチンとが投与される。
【0068】
特定の実施形態では、アデノウイルスは、組換えアデノウイルスベクターとも呼ばれるヒト組換えアデノウイルスである。組換えアデノウイルスベクターの調製法は、当該技術分野で周知である。アデノウイルスに対する用語「組換え」は、本明細書で使用する場合、人為的に改変されていることを意味し、例えば、その中に能動的にクローン化された改変末端を有し、及び/又は、異種遺伝子を含み、即ち、天然に存在する野生型アデノウイルスではない。
【0069】
特定の実施形態では、本発明によるアデノウイルスベクターは、E1領域の少なくとも1つの必須遺伝子機能、例えば、ウイルス複製に必要なアデノウイルスゲノムのE1a領域及び/又はE1b領域が欠損している。特定の実施形態では、本発明によるアデノウイルスベクターは、非必須なE3領域の少なくとも一部が欠損している。特定の実施形態では、このベクターは、E1領域の少なくとも1つの必須遺伝子機能及び非必須なE3領域の少なくとも一部が欠損している。アデノウイルスベクターは、「多重欠損」であり得、これは、アデノウイルスベクターがアデノウイルスゲノムの2つ以上の領域のそれぞれに1つ以上の必須遺伝子機能が欠損していることを意味する。例えば、前述のE1欠損又はE1、E3欠損のアデノウイルスベクターは、E4領域の少なくとも1つの必須遺伝子及び/又はE2領域(例えば、E2A領域及び/又はE2B領域)の少なくとも1つの必須遺伝子が更に欠損していることがある。
【0070】
アデノウイルスベクター、その構築方法及びその増殖方法は、当該技術分野で周知であり、例えば、米国特許第5,559,099号明細書、同第5,837,511号明細書、同第5,846,782号明細書、同第5,851,806号明細書、同第5,994,106号明細書、同第5,994,128号明細書、同第5,965,541号明細書、同第5,981,225号明細書、同第6,040,174号明細書、同第6,020,191号明細書、及び同第6,113,913号明細書、それぞれVirology,B.N.Fields et al.,eds.,3d ed.,Raven Press,Ltd.,New York(1996)の67及び68章に収録のThomas Shenk,「Adenoviridae and their Replication」及びM.S.Horwitz,「Adenoviruses」、並びに本明細書で言及している他の参考文献に記載されている。一般的には、アデノウイルスベクターの構築は、例えば、Sambrook et al.,Molecular Cloning,a Laboratory Manual,2d ed.,Cold Spring Harbor Press,Cold Spring Harbor,N.Y.(1989)、Watson et al.,Recombinant DN A,2d ed.,Scientific American Books(1992),及びAusubel et al.,Current Protocols in Molecular Biology,Wiley Interscience Publishers,NY(1995)、並びに本明細書で言及している他の参考文献に記載されているものなどの、標準的な分子生物学的手法の使用を含む。
【0071】
特定の実施形態では、アデノウイルスは血清型26又は35のヒトアデノウイルスである。
【0072】
rAd26ベクターの調製は、例えば、国際公開第2007/104792号パンフレット及びAbbink et al.,Virol.2007:81(9):4654-63に記載されている。Ad26の例示的なゲノム配列は、GenBank受入番号EF153474及び国際公開第2007/104792号パンフレットの配列番号1に見出される。rAd35ベクターの調製については、例えば、米国特許第7,270,811号明細書、国際公開第00/70071号パンフレット、及びVogels et al,J Virol.2003:77(15):8263-71に記載されている。Ad35の例示的なゲノム配列は、GenBankアクセッション番号AC000019及び国際公開第00/70071号パンフレットの
図6に見出される。
【0073】
本発明による組換えアデノウイルスは、複製能があっても、複製能が欠損していてもよい。特定の実施形態では、アデノウイルスは、複製欠損であり、例えば、これは、このアデノウイルスがゲノムのE1領域に欠失を含むためである。当業者には公知であるように、アデノウイルスゲノムから必須領域が欠失している場合には、これらの領域によってコードされる機能は、トランスで、好ましくはプロデューサー細胞により提供されなければならない、すなわち、E1、E2、及び/又はE4領域の一部又は全部がアデノウイルスから欠失している場合には、それらはプロデューサー細胞中に、例えば、そのゲノムに組み込まれて、又はいわゆるヘルパーアデノウイルス若しくはヘルパープラスミドの形態で存在しなければならない。アデノウイルスはまた、E3領域中に欠失を有する可能性があるが、この領域は複製に必ずしも必要ではなく、したがって、このような欠失は補完する必要がない。
【0074】
特定の実施形態では、アデノウイルスは複製能を持たないアデノウイルスである。特定の実施形態によれば、アデノウイルスは、複製能を持たないAd26アデノウイルスである。特定の実施形態によれば、アデノウイルスは、複製能を持たないAd35アデノウイルスである。
【0075】
使用可能なプロデューサー細胞(当該技術分野及び本明細書では、「パッケージング細胞」又は「補完細胞」又は「宿主細胞」と称される場合がある)は、所望のアデノウイルスを増殖させることができる任意のプロデューサー細胞であり得る。例えば、組換えアデノウイルスベクターの増殖は、アデノウイルス中の欠損を補完するプロデューサー細胞中で行われる。このようなプロデューサー細胞は、好ましくは、そのゲノム中に少なくともアデノウイルスE1配列を有しており、それによってE1領域に欠失を有する組換えアデノウイルスを補完することができる。E1を補完する任意のプロデューサー細胞、例えば、E1により不死化されたヒト網膜細胞、例えば911細胞又はPER.C6細胞(米国特許第5,994,128号明細書を参照)、E1で形質転換された羊膜細胞(欧州特許第1230354号明細書を参照)、E1で形質転換されたA549細胞(例えば、国際公開第98/39411号パンフレット、米国特許第5,891,690号明細書を参照)、GH329:HeLa(Gao et al.,Human Gene Therapy 2000:11:213-219)、293などを使用することができる。特定の実施形態では、プロデューサー細胞は、例えば、HEK293細胞、又はPER.C6細胞、又は911細胞、又はIT293SF細胞などである。
【0076】
Ad35(亜群B)又はAd26(亜群D)など、亜群CでないE1欠損アデノウイルスについては、これらの亜群CでないアデノウイルスのE4-orf6コード配列を、Ad5などの亜群CのアデノウイルスのE4-orf6と交換することが好ましい。これにより、例えば、293細胞又はPER.C6細胞などの、Ad5のE1遺伝子を発現する、よく知られた補完細胞株内で、そうしたアデノウイルスの増殖が可能になる(例えば、Havenga et al.,J.Gen.Virol.2006:87:2135-2143;国際公開第03/104467号パンフレット(これらは参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)を参照)。特定の実施形態では、使用することができるアデノウイルスは、RSV Fタンパク質抗原をコードする核酸がクローニングされている、E1領域中に欠失を有し、且つAd5のE4 orf6領域を有する、血清型35のヒトアデノウイルスである。特定の実施形態では、本発明のワクチン組成物中のアデノウイルスは、RSV Fタンパク質抗原をコードする核酸がクローニングされている、E1領域中に欠失を有し、且つAd5のE4 orf6領域を有する、血清型26のヒトアデノウイルスである。
【0077】
代替の実施形態では、アデノウイルスベクター中に異種E4orf6領域(例えば、Ad5の)を配置する必要はないが、代わりに、E1欠失の亜群CでないベクターをE1及び両立可能なE4orf6の両者を発現する細胞株、例えば、Ad5からE1及びE4orf6の両方を発現する293-ORF6細胞株中で増殖させる(例えば、293-ORF6細胞の生成について記載があるBrough et al,J Virol.1996:70:6497-501;そのような細胞株を用いて、E1欠失の亜群Cでないアデノウイルスベクターの生成についてそれぞれ記載があるAbrahamsen et al、J Virol.1997:71:8946-51及びNan et al,Gene Therapy 2003:10:326-36を参照されたい)。
【0078】
或いは、増殖させることになる血清型に由来するE1を発現する補完細胞を使用することができる(例えば、国際公開第00/70071号パンフレット、国際公開第02/40665号パンフレットを参照のこと)。
【0079】
E1領域に欠失を有するAd35などの亜群Bアデノウイルスでは、例えば、pIX開始コドンのすぐ上流の243bp断片(Ad35ゲノム中のBsu36l制限部位によって5’末端で標識される)などの、pIXオープンリーディングフレームのすぐ上流の166bp又はこれを含む断片など、アデノウイルスのE1B 55Kオープンリーディングフレームの3’末端を保持することが好ましいが、これはpIX遺伝子のプロモーターがこの領域に部分的に存在することから、アデノウイルスの安定性を高めるためである(例えば、Havenga et al,2006,J.Gen.Virol.87:2135-2143;国際公開第2004/001032号パンフレット(これらは参照により本明細書に組み込まれる)を参照)。
【0080】
組換えアデノウイルスは、周知の方法に従って、調製し宿主細胞中で増殖させることができるが、これにはアデノウイルスを感染させた宿主細胞の細胞培養が必要となる。細胞培養は、任意のタイプの細胞培養(例えば、付着細胞培養、例えば培養容器の表面又はマイクロキャリアに付着した細胞、及び懸濁培養)であり得る。
【0081】
特定の実施形態によれば、本発明に有用な医薬組成物は、薬学的に許容される担体又は賦形剤を更に含む。本明細書で使用する場合、「薬学的に許容される」という用語は、担体若しくは賦形剤が、使用される投与量及び濃度で、それらを投与する対象に如何なる望ましくないか、又は有害な効果も引き起こさないことを意味する。このような薬学的に許容される担体及び賦形剤は、当該技術分野において周知である(Remington’s Pharmaceutical Science(15th ed.),Mack Publishing Company,Easton,Pa.,1980を参照されたい)。医薬組成物の好ましい処方は、意図される投与様式及び治療用途に依存する。組成物は、動物又はヒト投与用の医薬組成物を処方するために一般的に使用されるビヒクルとして定義される、薬学的に許容される非毒性の担体又は希釈剤を含むことができる。希釈剤は、組み合わせ物の生物学的活性に影響を与えないように選択される。このような希釈剤の例は、蒸留水、生理的リン酸緩衝生理食塩水、リンゲル液、デキストロース溶液、及びハンク液である。加えて、医薬組成物又は製剤は、他の担体、アジュバント、又は非毒性、非治療的、非免疫原性安定剤なども含んでよい。担体、賦形剤、又は希釈剤の特性決定が特定用途の投与経路に依存するであろうことは、理解されるであろう。
【0082】
いくつかの実施形態では、薬学的に許容される担体は、1つ以上の塩、例えば塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウムなど、1つ以上のアミノ酸、例えばアルギニン、グリシン、ヒスチジン、及び/又はメチオニンなど、1つ以上の炭水化物、例えばラクトース、マルトース、スクロースなど、1つ以上の界面活性剤、例えばポリソルベート20、ポリソルベート80など、1つ以上のキレート化剤、例えばエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、及びエチレンジアミン-N,N’-ジコハク酸(EDDS)など、並びに1つ以上のアルコール、例えばエタノール及びメタノールなどを含む。好ましくは、医薬組成物は、5~8のpH、例えば、5.0、5.1、5.2、5.3、5.4、5.5、5.6、5.7、5.8、5.9、6.0、6.1、6.2、6.3、6.4、6.5、6.6、6.7、6.8、6.9、7.0、7.1、7.2、7.3、7.4、7.5、7.6、7.7、7.8、7.9、8.0など、又はそれらの間の任意の値のpHを有する。
【0083】
いくつかの実施形態では、本発明中で使用するための医薬組成物は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、及び/又は塩化マグネシウムを、1mM~100mM、25mM~100mM、50mM~100mM、又は75mM~100mMの濃度で含む。例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、及び/又は塩化マグネシウムの濃度は、1mM、5mM、10mM、15mM、20mM、25mM、30mM、35mM、40mM、45mM、50mM、55mM、60mM、65mM、70mM、75mM、80mM、85mM、90mM、95mM、100mM、又はそれらの間の任意の濃度であり得る。
【0084】
いくつかの実施形態では、本発明中で使用するための医薬組成物は、ヒスチジン、アルギニン、及び/又はグリシンを、1mM~50mM、5mM~50mM、5mM~30mM、5mM~20mM、又は10mM~20mMの濃度で含む。例えば、ヒスチジン、アルギニン、及び/又はグリシンの濃度は、1mM、2mM、3mM、4mM、5mM、6mM、7mM、8mM、9mM、10mM、11mM、12mM、13mM、14mM、15mM、16mM、17mM、18mM、19mM、20mM、21mM、22mM、23mM、24mM、25mM、26mM、27mM、28mM、29mM、30mM、31mM、32mM、33mM、34mM、35mM、36mM、37mM、38mM、39mM、40mM、41mM、42mM、43mM、44mM、45mM、46mM、47mM、48mM、49mM、若しくは50mM、又はそれらの間の任意の濃度であり得る。
【0085】
いくつかの実施形態では、本発明中で使用するための医薬組成物は、スクロース、ラクトース、及び/又はマルトースを、1%~10%重量/体積(w/v)又は5%~10%(w/v)の濃度で含む。例えば、スクロース、ラクトース、及び/又はマルトースの濃度は、1%(w/v)、1.5%(w/v)、2%(w/v)、2.5%(w/v)、3%(w/v)、3.5%(w/v)、4%(w/v)、4.5%(w/v)、5%(w/v)、5.5%(w/v)、6%(w/v)、6.5%(w/v)、7%(w/v)、7.5%(w/v)、8%(w/v)、8.5%(w/v)、9%(w/v)、9.5%(w/v)、若しくは10%(w/v)、又はそれらの間の任意の濃度であり得る。
【0086】
いくつかの実施形態では、本発明中で使用するための医薬組成物は、ポリソルベート20(PS20)及び/又はポリソルベート80(PS80)を、0.01%(w/v)~0.1%(w/v)、0.01%(w/v)~0.08%(w/v)、又は0.02%(w/v)~0.05%(w/v)の濃度で含む。例えば、ポリソルベート20及び/又はポリソルベート80の濃度は、0.01%、0.02%、0.03%、0.04%、0.05%、0.06%、0.07%、0.08%、0.09%、若しくは0.1%(w/v)、又はそれらの間の任意の濃度であり得る。
【0087】
いくつかの実施形態では、本発明中で使用するための医薬組成物は、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)及び/又エチレンジアミン-N,N’-ジコハク酸(EDDS)を、0.1mM~5mM、0.1mM~2.5mM、又は0.1~1mMの濃度で含む。例えば、EDTA及び/又はEDDSの濃度は、0.1mM、0.2mM、0.3mM、0.4mM、0.5mM、0.6mM、0.7mM、0.8mM、0.9mM、1mM、1.5mM、2mM、2.5mM、3mM、3.5mM、4mM、4.5mM、若しくは5mM、又はそれらの間の任意の濃度であり得る。
【0088】
いくつかの実施形態では、本発明中で使用するための医薬組成物は、エタノール及び/又はメタノールを、0.1%~5%重量/体積(w/v)又は0.5%~5%(w/v)の濃度で含む。例えば、エタノール及び/又はメタノールの濃度は、0.1%(w/v)、0.2%(w/v)、0.3%(w/v)、0.4%(w/v)、0.5%(w/v)、0.6%(w/v)、0.7%(w/v)、0.8%(w/v)、0.9%(w/v)、1%(w/v)、1.5%(w/v)、2%(w/v)、2.5%(w/v)、3%(w/v)、3.5%(w/v)、4%(w/v)、4.5%(w/v)、若しくは5%(w/v)、又はそれらの間の任意の濃度であり得る。
【0089】
本発明中で使用するための融合前コンフォメーションで安定化されているRSV Fポリペプチドをコードする核酸分子を含むアデノウイルスを含む医薬組成物は、本開示を考慮して当該技術分野で既知の任意の方法によって調製され得る。例えば、融合前コンフォメーションで安定化されているRSV Fポリペプチドをコードする核酸分子を含むアデノウイルスは、1つ以上の薬学的に許容される担体と混合して、溶液を得ることができる。溶液は、対象に投与されるまで、適切なバイアルに-55℃±10℃から-85℃±10℃の範囲の制御された温度で凍結液体として保存することができる。
【0090】
特定の実施形態では、本発明による医薬組成物は、1つ以上のアジュバントを更に含む。適用される抗原決定基に対する免疫応答を更に高めるアジュバントは、当該技術分野で既知である。「アジュバント」及び「免疫刺激剤」という用語は、本明細書では同義的に使用され、免疫系の刺激を引き起こす1つ以上の物質と定義される。これに関連して、アジュバントは、本発明の医薬組成物のRSV Fポリペプチドに対する防御免疫応答を増強するために使用される。好適なアジュバントの例としては:アルミニウム塩、例えば、水酸化アルミニウム及び/又はリン酸アルミニウム;油-エマルション組成物(又は水中油型組成物)、例えば、MF59等のスクアレン-水エマルション(例えば、国際公開第90/14837号パンフレットを参照されたい);サポニン製剤、例えば、QS21及び免疫刺激複合体(ISCOMS)(例えば、米国特許第5,057,540号明細書;国際公開第90/03184号パンフレット、同第96/11711号パンフレット、同第2004/004762号パンフレット、同第2005/002620号パンフレットを参照されたい);細菌又は微生物の派生物(これらの例は、モノホスホリルリピドA(MPL)、3-O-脱アシル化MPL(3dMPL)、CpG-モチーフ含有オリゴヌクレオチド、ADP-リボシル化細菌毒素又はその変異体、例えば大腸菌(E.coli)易熱性エンテロトキシンLT、コレラ毒素CT、及び同類のものである);真核生物のタンパク質(例えば、抗体又はその断片(例えば、抗原自体又はCD1a、CD3、CD7、CD80に対するもの)、並びに受容体へのリガンド(例えば、CD40L、GMCSF、GCSF等)(これらは、受容細胞と相互作用すると、免疫応答を刺激する))が挙げられる。特定の実施形態では、本発明の医薬組成物は、アジュバントとして、アルミニウムを、例えば、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、リン酸カリウムアルミニウム、又はこれらの組み合わせの形態で、1回の用量当たり0.05~5mg(例えば0.075~1.0mg)のアルミニウム含有量の濃度で含む。
【0091】
特定の実施形態によれば、融合前コンフォメーションで安定化されているRSV Fポリペプチドをコードする核酸を含むアデノウイルスベクターを含む医薬組成物は、季節性インフルエンザワクチンなどのインフルエンザワクチンと組み合わせて使用される。好ましくは、医薬組成物及びインフルエンザワクチンは、共投与される。
【0092】
本明細書で使用する場合、対象への2つ以上の治療の投与の文脈における「組み合わせて」という用語は、2つ以上の治療の使用を指す。用語「組み合わせて」の使用は、治療が対象に投与される順序を制限しない。例えば、第1の治療(例えば、本明細書に記載される医薬組成物)は、第2の治療が対象に投与される前に(例えば、1分前、2分前、3分前、4分前、5分前、10分前、15分前、30分前、45分前、1時間前、2時間前、4時間前、6時間前、12時間前、16時間前、24時間前、48時間前、72時間前、96時間前、1週前、2週前、3週前、4週前、5週前、6週前、8週前、又は12週前)、第2の治療が対象に投与されると同時に、又は第2の治療が対象に投与された後(例えば、1分後、2分後、3分後、4分後、5分後、10分後、15分後、30分後、45分後、1時間後、2時間後、4時間後、6時間後、12時間後、16時間後、24時間後、48時間後、72時間後、96時間後、1週後、2週後、3週後、4週後、5週後、6週後、8週後、又は12週後)に投与することができる。
【0093】
本明細書で使用する場合、対象への2つ以上の治療の投与の文脈における「共投与される」という用語は、2つ以上の治療を組み合わせて使用することを指し、2つ以上の治療は、24時間以内に対象に投与される。特定の実施形態では、「共投与される」治療は、事前に混合され、同時に対象に一緒に投与される。他の実施形態では、「共投与される」治療は、24時間以内、例えば12時間、10時間、8時間、6時間、4時間、2時間、1時間又はそれより短い時間内に、別々の組成物で対象に投与される。好ましくは、「共投与される」治療は、60分以内、例えば30分、20分、10分、5分又はそれより短い時間内に、別々の組成物で対象に投与される。「共投与される」治療は、同時に、別々の組成物で対象に投与される。
【0094】
投与のタイミングは、1日1回、1年に1回、10年に1回と大きく異なる。典型的なレジメンは、免疫化とそれに続く1~24週間隔などの時間間隔での追加免疫注射からなる。別のレジメンは、免疫化とそれに続く、1、2、4、6、8、10、及び12カ月後の追加免疫注射からなる。別のレジメンでは、生涯2か月ごとに注射を行う。別のレジメンでは、毎年、又は2、3、4、若しくは5年ごとに注射を行う。或いは、免疫応答のモニタリングによって示されるように、追加免疫注射は不規則に行われる可能性がある。
【0095】
プライム化及び追加免疫投与のレジメンは、投与後に測定された免疫応答に基づいて調整できることが当業者には容易に理解される。例えば、追加免疫組成物は、一般的には、プライム化組成物の投与の数週後又は数カ月後、例えば、プライム化組成物の投与の約1週後、又は2~3週後、又は4週後、又は8週後、又は16週後、又は20週後、又は24週後、又は28週後、又は32週後、又は36週後、又は40週後、又は44週後、又は48週後、又は52週後、又は56週後、又は60週後、又は64週後、又は68週後、又は72週後、又は76週後、又は1~2年後に投与される。
【0096】
特定の態様によれば、1つ以上の追加免疫組成物を投与することができる。それぞれのプライム化及び追加免疫組成物中の抗原は、しかしながら多くの追加免疫組成物が使用され、同一である必要はないが、抗原決定基を共有するか、又は互いに実質的に類似しているべきである。
【0097】
本発明の医薬組成物は、本開示を考慮して、当該技術分野において既知の方法に従って処方することができる。
【0098】
医薬組成物は、予防的及び/又は治療的処置のための好適な手段によって投与することができる。非限定的な実施形態としては、非経口投与(例えば、皮内、筋肉内、皮下、経皮)、又は粘膜投与(例えば、鼻腔内、口腔内)、及び同類のものが挙げられる。一実施形態では、組成物を、筋肉内注射により投与する。当業者は、医薬組成物中の抗原に対する免疫応答を誘導するために、医薬組成物を投与する様々な可能性を認識している。特定の実施形態では、本発明の組成物を、筋肉内投与する。
【0099】
本発明はまた、それを必要とするヒト対象において、重篤な有害事象を誘導することなく、RSV感染及びインフルエンザウイルス感染の両方に対して対象にワクチン接種するための方法を提供する。特定の実施形態では、方法は、対象に:(a)融合前コンフォメーションで安定化されているRSV Fポリペプチドをコードする核酸を含むアデノウイルスベクターを含む有効量の医薬組成物、好ましくはワクチンと、(b)有効量のインフルエンザワクチンとを投与することを含む。
【0100】
本出願の実施形態によれば、有効量の医薬組成物は、重篤な有害事象を誘導することなくRSV感染に対して対象にワクチン接種するのに十分な量の医薬組成物を含む。特定の実施形態では、有効量の医薬組成物は、融合前コンフォメーションで安定化されているRSV Fポリペプチドをコードする核酸を含むアデノウイルスベクターのウイルス粒子を1用量当たり約1×1010~約1×1012個、好ましくは、ウイルス粒子を1用量当たり約1×1011個含む。
【0101】
本出願の実施形態によれば、有効量の医薬組成物は、融合前コンフォメーションで安定化されているRSV Fポリペプチドをコードする核酸を含むアデノウイルスベクターのウイルス粒子を1用量当たり約1×1010~約1×1012個、例えばウイルス粒子を1用量当たり約1×1010個、ウイルス粒子を1用量当たり約2×1010個、ウイルス粒子を1用量当たり約3×1010個、ウイルス粒子を1用量当たり約4×1010個、ウイルス粒子を1用量当たり約5×1010個、ウイルス粒子を1用量当たり約6×1010個、ウイルス粒子を1用量当たり約7×1010個、ウイルス粒子を1用量当たり約8×1010個、ウイルス粒子を1用量当たり約9×1010個、ウイルス粒子を1用量当たり約1×1011個、ウイルス粒子を1用量当たり約2×1011個、ウイルス粒子を1用量当たり約3×1011個、ウイルス粒子を1用量当たり約4×1011個、ウイルス粒子を1用量当たり約5×1011個、ウイルス粒子を1用量当たり約6×1011個、ウイルス粒子を1用量当たり約7×1011個、ウイルス粒子を1用量当たり約8×1011個、ウイルス粒子を1用量当たり約9×1011個、又はウイルス粒子を1用量当たり約1×1012個含む。好ましくは、組換えRSV Fポリペプチドは、配列番号4又は配列番号5のアミノ酸配列を有し、アデノウイルスベクターは、血清型26、例えば組換えAd26のものである。
【0102】
本出願の実施形態によれば、有効量のインフルエンザウイルスワクチンは、重篤な有害事象を誘導することなくインフルエンザウイルスに対する防御免疫応答を誘導するのに十分な量のインフルエンザウイルスワクチンを含む。特定の実施形態では、有効量のインフルエンザウイルスワクチンは、単回投与の市販の季節性インフルエンザウイルスワクチンを含む。
【実施例】
【0103】
本発明の下記の実施例により、本発明の性質を更に説明する。下記の実施例は本発明を限定せず、本発明の範囲は添付した特許請求の範囲によって決定されるものであることを理解しなければならない。
【0104】
実施例1:第II相ヒト試験
60歳以上の健康な成人において、共投与の有無にかかわらず、季節性インフルエンザワクチン及びAd26.RSV.preF(RSV A2株の融合前コンフォメーション安定化Fタンパク質(pre-F)についてコードするDNA導入遺伝子を含む複製能を持たないAd26)の安全性及び免疫原性を評価するために第II相ランダム化二重盲検プラセボコントロール試験を実施した。
【0105】
試験設計/概要-
次の2つの群の一方に1:1の比率で並行してランダム化された、安定した健康状態にある60歳以上の成人男性及び女性約180人を対象に、シングルセンターランダム化二重盲検プラセボコントロール第II相試験を実施した。
-群1(共投与された(「CoAd」))は、1日目に市販の季節性インフルエンザワクチン(fluarix)と同時に投与されたAd26.RSV.preFのウイルス粒子(vp)を1×1011個受け取り、29日目にプラセボを受け取った。
-群2(コントロール)は、1日目に市販の季節性インフルエンザワクチン(fluarix)と同時に投与されたプラセボを受け取り、29日目にAd26.RSV.preFのvpを1×1011個受け取った。
【0106】
全ての試験ワクチンは筋肉内投与され、試験設計及び群の概要を以下の表1に示す。
【0107】
【0108】
ワクチン接種スケジュール/試験期間:試験期間は参加者1人当たり約30週間で、試験は1日目と29日目のワクチン接種、各ワクチン接種後28日間の経過観察期間、及び2回目のワクチン接種後6カ月後までの経過観察で構成された。非自発的な(Solicited)有害事象(AE)は、各ワクチン接種の7日後に記録した。自発的な(Unsolicited)AEは、各ワクチン接種後28日目までインフォームドコンセントフォームから収集され、試験全体を通してSAEを評価した。免疫応答は、1日目、29日目、57日目に評価した。
【0109】
主要な有効性評価項目:この試験の主要な目的は、(1)Ad26.RSV.preF及び季節性インフルエンザワクチンの同時投与の季節性インフルエンザワクチン単独投与に対する非劣性を、GMT比(コントロール群/共投与群)について2の非劣性マージンを使用して、インフルエンザワクチン投与から28日後の4つのインフルエンザワクチン株全てに対する、血球凝集阻害(HI)抗体の幾何学的平均力価(GMT)で表される体液性免疫応答の観点から評価することと、(2)60歳以上の対象に季節性インフルエンザワクチンとは別に又は同時に筋肉内投与されたvpが1×1011個のAd26.RSV.preFの単回投与の安全性及び認容性を評価することであった。
【0110】
統計的方法:主要な免疫原性の目的は、従属変数として28日目の力価、共変数としてレジメンを使用した分散分析(ANOVA)モデルを使用して、コントロール(群2)群とCoAd(群1)群の間の4つの季節性インフルエンザワクチン株の各々の対数変換HI抗体価の差についての95%片側信頼限界を計算することによって評価した。信頼限界は、レジメンごとの個別の分散の推定を可能にするために、ウェルチ-サタスウェイトt間隔法を使用して計算した。信頼限界は(冪乗によって)GMT比に逆変換され、非劣性限界の2と比較した。
【0111】
結果-
合計180人の対象がランダム化され、ワクチン接種された。一群当たり90人の対象であった。CoAd群(群1)の2人の対象は、2回目の投与を受ける前に試験を中止した(理由:それ以上の試験治療を拒否(1対象)、AE(耳の感染症)による中止(1対象))。加えて、更に2人の対象(各群に1人)が両方の投与を受けた後に試験を中止した(理由:経過観察不能)。
【0112】
主要な分析は、全ての対象が57日目(すなわち、2回目の投与から28日後)に安全性及び免疫原性の評価を完了した後に実施した。57日目までの全てのデータが分析に含まれた。
【0113】
1.主要な免疫原性分析:
免疫原性分析は、免疫原性の結果に影響を与えると予想される主要なプロトコルの逸脱を伴う対象を除き、免疫原性データが利用可能な、ランダム化されて最初のワクチン接種を受けた全ての対象として定義されるプロトコルごとのインフルエンザ免疫原性(PPII)集団に基づいた。自然インフルエンザ感染後に採取されたサンプルは、季節性インフルエンザワクチンの免疫原性の評価には含まれなかった。
【0114】
Fluarixのワクチン接種から28日後の幾何平均血球凝集阻害(HI)抗体価(GMT)、共投与群(Fluarix+Ad26.RSV.preF)に対するコントロール群(Fluarix+プラセボ)の幾何平均比(GMR)、及び4つのインフルエンザ株の各々に対応するCIを、表2及び
図1に示す。4つ全てのGMR(コントロール群/CoAd群)の信頼上限は、非劣性マージンの2を下回った。したがって、Ad26.RSV.preF+Fluarixの共投与が、コントロール群(Fluarix+プラセボ)よりも非劣性であることが結論付けられた。
【0115】
【0116】
上記の非劣性分析の感度分析は、1回は上記のモデルのベースラインHIレベルを調整し、もう1回はFAセットでモデルを実行することによって実施した。感度分析の結果は上記の結果と一致していた。
【0117】
図2は、プロトコルごとのインフルエンザ免疫原性集団のHI抗体応答(HAI)の経時的な平均(95%CI)実際値のプロットを示す。
【0118】
図3は、プロトコルごとのインフルエンザ免疫原性集団についてのワクチン接種から28日後のHI抗体応答(HAI)についての抗体陽転の違いのフォレストプロットを示す。4つのインフルエンザワクチン株に対するセロコンバージョン率は、ワクチン接種前の力価が1:10未満の対象ではワクチン接種後の力価が1:40以上、又はワクチン接種前の力価が1:10以上の対象では力価が4倍以上増加するとして定義された。群の間のセロコンバージョンした対象の比率の差(コントロールからCoAdを差し引いたもの)と90%の両側CIは、ウィルソンスコア法に基づいて計算した。
【0119】
図4は、プロトコルごとのインフルエンザ免疫原性集団についてのワクチン接種から28日後のHI抗体応答(HAI)についてのセロプロテクション率の違いのフォレストプロットを示す。4つのインフルエンザワクチン株に対するセロプロテクション率は、ワクチン接種後の力価が1:40以上を有する対象のパーセンテージとして定義された。群の間のセロプロテクションした対象の比率の差(コントロールからCoAdを差し引いたもの)と90%の両側CIは、ウィルソンスコア法に基づいて計算した。
【0120】
2.副次的免疫原性分析:
上腕骨免疫原性分析は、免疫原性の結果に影響を与えると予想される主要なプロトコルの逸脱を伴う対象を除き、免疫原性データが利用可能な、全てランダム化されて完全にワクチン接種された対象(3つのワクチン接種全て、すなわち季節性インフルエンザ、Ad26.RSV.preF、及びプラセボ)として定義されるプロトコルごとのRSV免疫原性(PPRI)集団に基づいた。自然RSV感染後に採取されたサンプルは、Ad26.RSV.preFの免疫原性の評価には含まれなかった。
【0121】
Ad26.RSV.preFのFluarixとの共投与が、RSV A2(VNA A2)レベルに対するウイルス中和抗体に及ぼす影響を評価するために、Ad26.RSV.preFのみの投与対共投与の28日後のVNA A2レベルのGMT比が計算された。対応する90%CIでのこの比率は1.2(1.00;1.45)であった。Ad26.RSV.preFのワクチン接種から28日後の幾何平均VNA A2力価(GMT)、共投与群(Fluarix+Ad26.RSV.preF)に対するコントロール群(Ad26.RSV.preF)の幾何平均比(GMR)、及び対応するCIを、表3に示す。
【0122】
【0123】
図5は、プロトコルごとのRSV免疫原性集団の経時的なRSV A2株に対する中和抗体の力価のプロットを示す。VNA A2の上昇倍率及び95%CIの幾何平均は、Fluarix+Ad26.RSV.preF群及びAd26.RSV.preF単独群でそれぞれ2.8(2.5;3.2)及び3.1(2.7;3.6)であった。
【0124】
図6は、プロトコルごとのRSV免疫原性集団の経時的なELISAで測定した場合のRSV preFタンパク質による抗体応答のプロットを示しており、図には、95%CIの幾何平均が示されており、N=ベースラインのデータを有する対象の数である。pre-F ELISAの上昇倍率及び95%CIの幾何平均は、Fluarix+Ad26.RSV.preF群及びAd26.RSV.preF単独群でそれぞれ2.3(2.1;2.7)及び2.6(2.3;3.0)であった。
【0125】
図7は、プロトコルごとのRSV免疫原性集団の経時的なELISAで測定した場合のRSV post-Fタンパク質による抗体応答のプロットを示しており、図には、95%CIの幾何平均が示されており、N=ベースラインのデータを有する対象の数である。post-F ELISAの上昇倍率及び95%CIの幾何平均は、Fluarix+Ad26.RSV.preF群及びAd26.RSV.preF単独群でそれぞれ2.0(1.8;2.2)及び2.1(1.9;2.3)であった。
【0126】
図8は、プロトコルごとのRSV免疫原性集団の経時的なIFN-γ ELISpotアッセイで測定した場合のRSV-F特異的T細胞応答のボックスプロットを示す。2人の対象については、調整/マージの問題のため、29日目のELISpotサンプルが省略されていることに注意されたい。
【0127】
3.安全性:
安全性分析は、プロトコルの逸脱やワクチンの種類に関係なく、ランダム化され、少なくとも1回の試験ワクチンを投与された全ての対象として定義される完全分析(FA)集団に基づいた。
【0128】
群1(CoAd)の1人の対象(1.1%)は、プラセボ投与後に3つのSAEを報告した。SAEは、グレード4の高血圧緊急症、グレード4の徐脈、及びグレード3の腎障害であった。これらのAEはワクチン接種とは関係がないと考えられた。他のSAEは報告されなかった。致命的な結果をもたらすAEはなかった。
【0129】
群1(CoAd)の1人の対象(1.1%)は、Fluarix+Ad26.RSV.preF投与後に中止につながるAEを経験した。このAEはグレード2の耳の感染症であり、ワクチン接種とは関係がないと考えられた。
【0130】
最も頻繁に報告された非自発的な局所事象は痛み/圧痛であり、それぞれ、Fluarixの同時投与の有無にかかわらず、Ad26.RSV.preF投与後、対象の78.9%又は76.7%でAd26.RSV.preF群で報告された。Fluarix群では、これは、それぞれ、Ad26.RSV.preFの同時投与の有無にかかわらず、Fluarix投与後、対象の46.7%及び38.9%で報告された。プラセボ群では、痛み/圧痛は20%未満で報告された。痛み/圧痛の発症までの期間の中央値は1日であり、持続期間の中央値はFluarixとの共投与の有無にかかわらずAd26.RSV.preF群で2日又は4日、プラセボ又はFluarix群の期間の中央値は1日又は2日であった。
【0131】
Fluarixの共投与の有無にかかわらず、Ad26.RSV.preF投与後に対象の30%超で報告された非自発的な全身性AEは、関節痛、悪寒、倦怠感、頭痛、及び筋肉痛であった。これらのAEは、Fluarix単独投与又はプラセボ投与後の対象の20%未満で報告された。Ad26.RSV.preFワクチン接種(Fluarixの有無にかかわらず)を行ったグループでは、発症までの期間の中央値は典型的には1~2日であり、期間の中央値は一般的に1~2日であった。
【0132】
投与後に5%超の対象で報告された自発的なAEは、気道感染症及び血圧の上昇であった。気道感染症は、Fluarix+プラセボ投与後の対象の12.2%、Fluarix+Ad26.RSV.preF共投与後の対象の11.1%、Ad26.RSV.preF単独投与後の対象の5.6%、及びプラセボ投与後の対象の8.0%で報告された。
【0133】
上記の実施形態に対して、この広い発明概念から逸脱することなく変更を加えることができることが当業者には理解されるであろう。したがって、本発明は、開示されている特定の実施形態に限定されるのではなく、添付の特許請求の範囲によって規定される本発明の趣旨及び範囲に含まれる変形例を包含すると意図されていることが理解されよう。
【0134】
配列
配列番号1:(RSV Fタンパク質A2全長配列)
【化1】
【0135】
配列番号2(三量化ドメイン)
GYIPEAPRDGQAYVRKDGEWVLLSTFL
【0136】
配列番号3(リンカー)
SAIG
【0137】
【0138】
【0139】
配列番号6(RSV F pre-F2.1)
【化4】
【0140】
配列番号7(RSV F pre-F2.2)
【化5】
【配列表】
【国際調査報告】