(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-19
(54)【発明の名称】カンジダ・アウリス(Candida auris)脱コロニー化のための抗真菌剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/58 20060101AFI20220711BHJP
A61P 31/10 20060101ALI20220711BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20220711BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20220711BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20220711BHJP
A61P 13/02 20060101ALI20220711BHJP
【FI】
A61K31/58
A61P31/10
A61P17/00 101
A61P11/00
A61P1/00
A61P13/02 105
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021568113
(86)(22)【出願日】2020-05-12
(85)【翻訳文提出日】2021-12-27
(86)【国際出願番号】 US2020032547
(87)【国際公開番号】W WO2020232037
(87)【国際公開日】2020-11-19
(32)【優先日】2019-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519363018
【氏名又は名称】サイネクシス,インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100202267
【氏名又は名称】森山 正浩
(74)【代理人】
【識別番号】100182132
【氏名又は名称】河野 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100172683
【氏名又は名称】綾 聡平
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】アングロ・ゴンザレス,デイビット・エー
(72)【発明者】
【氏名】バラ,ステファン・アンドリュ
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086DA12
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA35
4C086MA52
4C086MA65
4C086ZA59
4C086ZA66
4C086ZA82
4C086ZA90
4C086ZB35
(57)【要約】
エンフマフンギン誘導体トリテルペノイド抗真菌化合物を用いて、真菌によってコロニー形成された対象者の解剖学的領域から真菌を脱コロニー化するために使用する。エンフマフンギン誘導体トリテルペノイド(又はそれの薬学的に許容される塩若しくは水和物)は、(1,3)-β-グルカン合成の阻害剤であり、皮膚や粘膜などの身体部位からカンジダ・アウリス(Candida auris)を脱コロニー化することができる。そのような脱コロニー化の恩恵を受けると考えられる対象者には、以前にカンジダ・アウリス(Candida auris)感染を患ったことがあり、再発しやすく、及び/又は感受性であり得る他の個体にその真菌を伝染させる可能性があるカンジダ・アウリス(Candida auris)によってコロニー形成された個体などがある。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カンジダ・アウリス(Candida auris)によってコロニー形成された対象者の解剖学的領域からカンジダ・アウリス(Candida auris)を脱コロニー化する方法であって、下記式(I)の化合物又は該化合物の薬学的に許容される塩若しくは水和物を当該対象者に投与することを含む方法。
【化1】
[式中、
XはO又はH、Hであり;
R
eは、C(O)NR
fR
g又は1個若しくは2個の窒素原子を含む6員環ヘテロアリール基であり、前記ヘテロアリール基は、環炭素上でフルオロ又はクロロにより、又は環窒素上で酸素によりモノ置換されていても良く;
R
f、R
g、R
6、及びR
7は、それぞれ独立に水素又はC
1-C
3アルキルであり;
R
8はC
1-C
4アルキル、C
3-C
4シクロアルキル又はC
4-C
5シクロアルキル-アルキルであり;
R
9はメチル又はエチルであり;
R
8とR
9が一緒になって、1個の酸素原子を含む6員飽和環を形成していても良い。]
【請求項2】
前記解剖学的領域が皮膚である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記解剖学的領域が粘膜組織である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記粘膜組織が、呼吸器、消化管又は尿路の粘膜組織である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記対象者がヒト対象者である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記式(I)の化合物又はそれの薬学的に許容される塩若しくは水和物を経口投与する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記式(I)の化合物又はそれの薬学的に許容される塩若しくは水和物が静脈内投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
カンジダ・アウリス(Candida auris)によってコロニー形成された対象者の解剖学的領域からカンジダ・アウリス(Candida auris)を脱コロニー化する方法であって、(1S,4aR,6aS,7R,8R,10aR,10bR,12aR,14R,15R)-15-[[2-アミノ-2,3,3-トリメチルブチル]オキシ]-8-[(1R)-1,2-ジメチルプロピル]-14-[5-(4-ピリジニル)-1H-1,2,4-トリアゾール-1-イル]-1,6,6a,7,8,9,10,10a,10b,11,12,12a-ドデカヒドロ-1,6a,8,10a-テトラメチル-4H-1,4a-プロパン-2H-フェナントロ[1,2-c]ピラン-7-カルボン酸である下記式(II)の化合物又は該化合物の薬学的に許容される塩若しくは水和物を対象者に投与することを含む方法。
【化2】
【請求項9】
前記解剖学的領域が皮膚である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記解剖学的領域が粘膜組織である、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記粘膜組織が、呼吸器、消化管又は尿路の粘膜組織である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記対象者がヒト対象者である、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
前記式(II)の化合物又はそれの薬学的に許容される塩若しくは水和物を経口投与する、請求項8に記載の方法。
【請求項14】
式(II)の化合物又はその薬学的に許容される塩又は水和物が静脈投与される、請求項8に記載の方法。
【請求項15】
カンジダ・アウリス(Candida auris)によってコロニー形成された対象者の解剖学的領域からカンジダ・アウリス(Candida auris)を脱コロニー化する方法であって、(1S,4aR,6aS,7R,8R,10aR,10bR,12aR,14R,15R)-15-[[(2R)-2-アミノ-2,3,3-トリメチルブチル]オキシ]-8-[(1R)-1,2-ジメチルプロピル]-14-[5-(4-ピリジニル)-1H-1,2,4-トリアゾール-1-イル]-1,6,6a,7,8,10,10a,10b,11,12,12a-ドデカヒドロ-1,6a,8,10a-テトラメチル-4H-1,4a-プロパン-2H-フェナントロ[1,2-c]ピラン-7-カルボン酸である下記式(IIa)の化合物又は該化合物の薬学的に許容される塩若しくは水和物を前記対象者に投与することを含む方法。
【化3】
【請求項16】
前記解剖学的領域が皮膚である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記解剖学的領域が粘膜組織である、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記粘膜組織が、呼吸器、消化管又は尿路の粘膜組織である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記対象者がヒト対象者である、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
前記式(IIa)の化合物又はそれの薬学的に許容される塩若しくは水和物を経口投与する、請求項15に記載の方法。
【請求項21】
前記式(IIa)の化合物又はそれの薬学的に許容される塩若しくは水和物を静脈投与する、請求項15に記載の方法。
【請求項22】
カンジダ・アウリス(Candida auris)によってコロニー形成されたヒト対象者の解剖学的領域からカンジダ・アウリス(Candida auris)を脱コロニー化する方法であって、(1S,4aR,6aS,7R,8R,10aR,10bR,12aR,14R,15R)-15-[[(2R)-2-アミノ-2,3,3-トリメチルブチル]オキシ]-8-[(1R)-1,2-ジメチルプロピル]-14-[5-(4-ピリジニル)-1H-1,2,4-トリアゾール-1-イル]-1,6,6a,7,8,9,10,10a,10b,11,12,12a-ドデカヒドロ-1,6a、8,10a-テトラメチル-4H-1,4a-プロパン-2H-フェナントロ[1,2-c]ピラン-7-カルボン酸である下記式(IIa)の化合物をヒト対象者に投与することを含む方法。
【化4】
【請求項23】
前記解剖学的領域が皮膚である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記解剖学的領域が粘膜組織である、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
前記粘膜組織が、呼吸器、消化管又は尿路の粘膜組織である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
カンジダ・アウリス(Candida auris)によってコロニー形成されたヒト対象者の解剖学的領域からカンジダ・アウリス(Candida auris)を脱コロニー化する方法であって、下記式(IIa)の化合物の薬学的に許容される塩を前記ヒト対象者に投与することを含む方法。
【化5】
[当該化合物は、(1S,4aR,6aS,7R,8R,10aR,10bR,12aR,14R,15R)-15-[[(2R)-2-アミノ-2,3,3-トリメチルブチル]オキシ]-8-[(1R)-1,2-ジメチルプロピル]-14-[5-(4-ピリジニル)-1H-1,2,4-トリアゾール-1-イル]-1,6,6a,7,8,9,10,10a,10b,11,12,12a-ドデカヒドロ-1,6a,8,10a-テトラメチル-4H-1,4a-プロパン-2H-フェナントロ[1,2-c]ピラン-7-カルボン酸である。]
【請求項27】
前記解剖学的領域が皮膚である、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記解剖学的領域が粘膜組織である、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
前記粘膜組織が、呼吸器、消化管又は尿路の粘膜組織である、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
カンジダ・アウリス(Candida auris)によってコロニー形成されたヒト対象者の解剖学的領域からカンジダ・アウリス(Candida auris)を脱コロニー化する方法であって、下記式(IIa)の化合物の薬学的に許容される塩をヒト対象者に経口投与することを含む方法。
【化6】
[当該化合物は(1S,4aR,6aS,7R,8R,10aR,10bR,12aR,14R,15R)-15-[[(2R)-2-アミノ-2,3,3-トリメチルブチル]オキシ]-8-[(1R)-1,2-ジメチルプロピル]-14-[5-(4-ピリジニル)-1H-1,2,4-トリアゾール-1-イル]-1,6,6a,7,8,9,10,10a,10b,11,12,12a-ドデカヒドロ-1,6a,8,10a-テトラメチル-4H-1,4a-プロパン-2H-フェナントロ[1,2-c]ピラン-7-カルボン酸であり、
前記解剖学的領域は皮膚又は粘膜組織である。]
【請求項31】
前記式(IIa)の化合物のクエン酸塩を投与する、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記式(IIa)の化合物の薬学的に許容される塩を錠剤で投与する、請求項30に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感受性真菌によってコロニー形成された対象者を脱コロニー化するためのエンフマフンギン誘導体トリテルペノイド抗真菌化合物の使用に関する。詳細には、本発明は、(1,3)-β-D-グルカン合成の阻害剤であるエンフマフンギン誘導体トリテルペノイド(又はその薬学的に許容される塩又は水和物)を使用して、そのような戦略が有益である可能性がある対象者においてカンジダ・アウリス(Candida auris)から身体部位を脱コロニー化することに関する。カンジダ・アウリス(Candida auris)は、たとえば、以前に感染したことがある人の皮膚に残る可能性のある真菌である。本明細書に記載の本発明のエンフマフンギン誘導体トリテルペノイド抗真菌化合物の使用には、以前にカンジダ・アウリス(Candida auris)(Candida auris)感染を患い、再発しやすく、及び/又は感染しやすい可能性がある他の個人にその真菌を伝染させ得るカンジダ・アウリス(Candida auris)がコロニー形成した患者における皮膚又は粘膜の脱コロニー化などがあるが、それに限定されるものではない。それ自体は無生物対象(例えば、床、家具、器具)の脱コロニー化とは関係はないが、本発明は、接触によって脱コロニー化しなければカンジダ・アウリス(Candida auris)が広まると考えられる対象者を脱コロニー化することによって、そのような対象者のコロニー化を減らすことができ、その低減は、病院、ホスピス、養護施設などの設定で特に有益である。
【背景技術】
【0002】
真菌感染は主要なヘルスケアの問題であり、最も一般的には侵襲性又は全身性真菌疾患(例えば、カンジダ血症、侵襲性アスペルギルス症)、限局性真菌感染(例えば、膿胸及び腹部、脳、肺などに限局した膿瘍)、及び粘膜皮膚感染(例えば、口腔、食道、及び外陰膣カンジダ症)として現れる。感染の種類と範囲は、真菌病原体の病原性因子、宿主の防御、及び関与する解剖学的領域によって決まる。
【0003】
重度の全身性又は侵襲性真菌感染は、悪性腫瘍を治療するための化学療法を受けている患者、又は慢性炎症状態を治療するための免疫調節剤投与を受けている患者、又は後天性若しくは遺伝性疾患による免疫不全を患っている患者など、免疫力低下した患者でより一般的である。現在利用可能な抗真菌療法にもかかわらず、全身性真菌感染は、病原体及び患者の基礎状態に応じて、最大50%以上の死亡率に関連している。
【0004】
限局性及び全身性真菌感染は、通常、コロニー形成する局所領域から通常は無菌である領域(例えば、腸穿孔又は手術後の腹腔内膿瘍)への真菌の播種を介して、又は特定の臓器(肺、肝臓、脾臓など)に到達し、真菌血症若しくは深部感染症に発展する血液又はリンパ系に侵入する真菌から生じることが多い。本願に関する真菌のコロニー形成とは、真菌の存在によって引き起こされる臨床的に識別可能な宿主の炎症反応がない解剖学的領域に真菌が存在することを意味する(すなわち、真菌は感染又は感染の症状を引き起こさない)。感受性の高い個体における真菌のコロニー形成は、コロニー形成病原体による感染の確立を促進し得るものであり、他の個体への病原体の拡散を促進し得る。これは、治療が容易ではなく、抗真菌剤に対する耐性が発達している真菌、及び/又は高い死亡率につながる真菌を扱う場合に特に問題になる可能性がある。
【0005】
カンジダ・アウリス(Candida auris)は、多剤耐性のヘルスケア関連真菌病原体であり、世界的に課題として浮上している。最近の報告は、生物の誤認、高率の抗真菌薬耐性、及びかなり高い患者死亡率による問題が現在継続していることを強調している。おそらく皮膚のコロニー形成と環境の持続性を促進する病原性因子によって促進される、医療施設内及び医療施設間での伝染をカンジダ・アウリス(Candida auris)が好むことは、カンジダ種の中では独特のものである。
【0006】
カンジダ・アウリス(Candida auris)は、非常に多くの場合、患者の皮膚の長期のコロニー形成と周囲の環境の汚染を引き起こし、病院や長期介護施設で院内感染を引き起こす。臨床医、感染予防及び管理の専門家、及び公衆衛生当局者は、現在、この病原体によってもたらされる脅威をどのように軽減するかのに取り組んでいる。一般的に、症候性疾患の患者は直ちに抗真菌剤で治療すべきであるが、カンジダ・アウリス(Candida auris)がコロニーを作った患者の最適な管理はまだ十分に規定されていない。しかしながら、カンジダ・アウリス(Candida auris)がコロニー形成した患者は、症候性感染症を発症するリスクが高い可能性があり、他の感受性の高い個人への病原体の伝染に重要な役割を果たし得ることが認識されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
米国疾病対策センター(CDC)は、カンジダ・アウリス(Candida auris)が深刻な世界的な健康上の脅威をもたらすと考えている。CDCは、多くの理由から、カンジダ・アウリス(Candida auris)を懸念している。その病原体は多剤耐性であることが多く、これは、カンジダ感染症の治療に一般的に使用される複数の抗真菌薬に対して耐性であることを意味する。さらに、それは、標準的な臨床検査法で識別することが困難であり、特定の技術のない臨床検査室では誤認される可能性があり、誤認は不適切な管理につながる可能性がある。さらに、当該病原体は医療現場で大発生を引き起こしており、入院患者においてカンジダ・アウリス(Candida auris)を迅速に識別して、医療施設がその蔓延を防ぐために特別な予防措置を講じることができるようにすることが重要である。CDCは、そのWebページhttps://www.cdc.gov/fungal/candida-auris/fact-sheets/c-auris-colonization.htmlで、カンジダ・アウリス(Candida auris)のコロニー形成によってもたらされる特定の課題に対処し、病院や養護施設で病原体が一人の患者から別の人に広がる可能性があると述べている。患者は、まだ発症させていない真菌を有する体のどこかでカンジダ・アウリス(Candida auris)を運搬し得る。病院や養護施設にいる個人がコロニー形成されると、カンジダ・アウリス(Candida auris)は彼らから近くの他の人々、又は近くの物体、そしてその後に他の人々に簡単に広がり得る。ある人において真菌がコロニー形成しているか否かを確認するのに簡単な試験を行うことができるが、体のどこかにカンジダ・アウリス(Candida auris)を有する人は、感染や感染症の症状がない可能性があり、他人にリスクをもたらし、他人にカンジダ・アウリス(Candida auris)を広める可能性があることに気づいてさえいないということがあり得る。さらに、カンジダ・アウリス(Candida auris)がコロニー形成した人は、後で真菌自体から病気を得る可能性があるため、医療提供者は感染を防ぐために追加の措置を講じることを検討する必要がある。CDCは、カンジダ・アウリス(Candida auris)によってコロニー形成された患者を、接触に用心しながら隔離して配置することを勧めており、それによって医療システムにおけるこれらの症例の管理コストが増加する。
【0008】
2013年5月から2016年8月の間に発生した、米国で確認されたカンジダ・アウリス(Candida auris)感染の最初の7例の調査では、最初の感染から数週間から数か月後に、皮膚やその他の身体部位でカンジダ・アウリス(Candida auris)がコロニー形成し、それが医療環境の汚染につながり、継続的な感染のリスクをもたらすと考えられることが示された(Vallabhaneni S, Kallen A, Tsay S, et al., Investigation of the first seven reported cases of Candida auris, a globally emerging invasive, multidrug-resistant fungus-United States, May 2013-August 2016. Morb Mortal Wkly Rep 2016; 65:1234-1237. DOI:http://dx.doi.org/10.15585/mmwr.mm6544e1.)。エキノカンディンなどのカンジダ・アウリス(Candida auris)感染症に対して現在推奨されている治療オプションは、患者において、特に皮膚で、真菌によるコロニー形成が残ることを防止するものではなかった。そして、カンジダ・アウリス(Candida auris)がアゾール類やポリエン類などの他の抗真菌剤に耐性であることが多いことを考えると、これらの他薬剤も脱コロニー化のための好適な代替手段を提供するものではない。たとえば、アゾール類は、組織内で高濃度を達成する能力があるにもかかわらず、真菌がコロニーを形成した解剖学的領域からカンジダ・アウリス(Candida auris)を脱コロニー化しない。現在、CDCは、感染の証拠がない場合、非侵襲的部位(例えば、気道、尿、皮膚コロニー形成)から特定されたカンジダ・アウリス(Candida auris)の抗真菌剤治療を推奨していない(https://www.cdc.gov/fungal/candida-auris/c-auris-treatment.html.)。
【0009】
発生を報告している病院で、局所用2%クロルヘキシジン水性ワイプによる脱コロニー化戦略が試みられた(Ruiz-Gaitan A et al., An outbreak due to Candida auris with prolonged colonization and candidaemia in a tertiary care European hospital, Mycoses 61:498-505 (2018). https://onlinelibrary.wiley.com/doi/epdf/10.1111/myc.12781.)。局所消毒薬の重要な制限は、すべての皮膚及び粘膜表面に効率的に又は全く到達できないという点である。さらに、1日最大で数回、局所消毒剤を塗布する必要があることが面倒な場合がある。
【0010】
エンフマフンギンは、ジュニペルス・コムニス(Juniperus communis)の生存葉に関連するホルモネマ(Hormonema)属の発酵で生成されるヘミアセタールトリテルペングリコシドである(米国特許第5,756,472号;Pelaez et al., Systematic and Applied Microbiology, 23:333-343(2000);Schwartz et al., JACS, 122:4882-4886(2000);Schwartz, R.E., Expert Opinion on Therapeutic Patents, 11(11): 1761-1772 (2001))。エンフマフンギンは、イン・ビトロで抗真菌活性を持ついくつかのトリテルペングリコシドの一つである。エンフマフンギン及び他の抗真菌性トリテルペノイドグリコシドの抗真菌作用の機序は、(1,3)-β-D-グルカンシンターゼに対するそれらの特異的作用による真菌細胞壁グルカン合成の阻害であることが確認された(Onishi et al., Antimicrobial Agents and Chemotherapy, 44: 368-377 (2000);Pelaez et al., (2000))。1,3-β-D-グルカンシンターゼは、多くの病原性真菌に存在することから、幅広い抗真菌スペクトルを提供するため、抗真菌薬作用の魅力的な標的であり続けている。さらに、(1,3)-β-D-グルカンシンターゼに対して哺乳動物において対応するものがないことから、本明細書に記載のエンフマフンギン誘導体は、機序に基づく毒性をほとんど又はまったく持たない。本発明に従って使用されるエンフマフンギンのトリテルペノイド化合物誘導体は、アゾール類その他のグルカンシンターゼ阻害剤(例えば、エキノカンジンなどのリポペプチド剤)に耐性である分離株を含む、カンジダ属の真菌分離株に対して活性を示しており、エンフマフンギン誘導体の生物的及び分子的標的が、他のグルカンシンターゼ阻害剤の標的とは異なることを示している。
【0011】
各種のエンフマフンギン誘導体が、例えば、国際特許公開番号WO2007/126900及びWO2007/127012に開示されている。これらのエンフマフンギン誘導体のある種の代表的なものは、経口投与することができ、カンジダ属種に対して抗真菌活性を示しており、皮膚などの組織への十分な分布を示している。
【0012】
イブレクサファンゲルプ(SCY-078とも称される)は、カンジダ・アウリス(Candida auris)に対してイン・ビトロ活性を示している。カンジダ・アウリス(Candida auris)の100の分離株の集合に対するSCY-078のイン・ビトロ感受性がBerkowらによって報告された。この研究には、インド、パキスタン、コロンビア、南アフリカ、米国など、世界中の国々に由来のカンジダ・アウリス(Candida auris)の四つの既知クレードのそれぞれからの分離株が含まれた。すべての分離株について、臨床検査標準協会の基準方法M27-A3の標準に従ってブロス微量希釈を行った。SCY-078のMIC値の分布は、0.0625マイクログラム/mL~2マイクログラム/mLの範囲であった。全体的なモードは1マイクログラム/mLで、MIC50とMIC90はそれぞれ0.5マイクログラム/mLと1マイクログラム/mLであった(Berkow EL, Angulo D, Lockhart SR, In vitro activity of a novel glucan synthase inhibitor, SCY-078, against clinical isolates of Candida auris, Antimicrob Agents Chemother 61:e00435-17 (2017) https://doi.org/10.1128/AAC.00435-17.)。
【0013】
カンジダ・アウリス(Candida auris)による持続的な皮膚コロニー形成が、現在利用可能な全身性抗真菌剤による治療後に報告されており、この現象は、カンジダ・アウリス(Candida auris)による感染症を発症するリスク上昇と、大発生を促進する可能性のある病原体の伝染のリスク上昇に関連している。当技術分野では、対象者の解剖学的領域、特に皮膚又は粘膜からカンジダ・アウリス(Candida auris)を脱コロニー化して、対象者における疾患の再発リスクを低下させ、真菌及び大発生の可能性を防ぐのを助けることができるようにする必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、以前にカンジダ・アウリス(Candida auris)感染を患い、再発しやすく、及び/又は感染しやすい他の個体に真菌を感染させる可能性があるカンジダ・アウリス(Candida auris)によってコロニー形成された患者における、特に皮膚又は粘膜の脱コロニー化の必要性に取り組む。このような状況では、強力かつ効果的な抗真菌性脱コロニー化が特に必要である。
【0015】
本明細書に記載のエンフマフンギン誘導体は、予想外に、経口投与後の皮膚におけるカンジダ・アウリス(Candida auris)負荷を大幅に減少させることができ、感染を予防し、カンジダ・アウリス(Candida auris)の発生のリスクを制限するための有用な戦略になると考えられる。本明細書に記載のエンフマフンギン誘導体は、皮膚での高濃度(好ましくはラットC14試験で実証された血漿濃度の>10倍以上)、カンジダ・アウリス(Candida auris)皮膚真菌負荷の低減(好ましくは少なくとも1対数の低下)、カンジダ・アウリス(Candida auris)(エキノカンジン耐性株を含む)に対する強力な抗真菌活性、及び経口バイオアベイラビリティ(これらは、それら誘導体をして、対象者の解剖学的領域からカンジダ・アウリス(Candida auris)を脱コロニー化する薬剤についての当業界のニーズに対する至適な解決法とするものである。)などの、属性の組み合わせを示すグルカンシンターゼ阻害剤である。予想外に、これらの属性は、同様の作用機序を有するが、血漿より高い皮膚での濃度を達成しない(Felton T et al., Tissue Penetration of Antifungal Agents, Clin. Microbiol. Rev. 2014, 27(1):68)、経口バイオアベイラビリティがなく、初回静脈エキノカンジン治療から3ヶ月以上にわたり鼻孔、鼠径部、腋窩及び直腸などの複数の身体部位でカンジダ・アウリス(Candida auris)のコロニー形成が検出されている(Jeffery-Smith A et al., Candida auris:a Review of the Literature, Clin Microbiol Rev. 2017 Nov 15;31(1). pii:e00029-17. doi:10.1128/CMR.00029-17. Print 2018 Jan. Review)グルカンシンターゼ阻害剤であるエキノカンジン類の属性とは対照的である。
【0016】
本発明の用途には、皮膚又は粘膜のカンジダ・アウリス(Candida auris)コロニー形成を有する対象者を脱コロニー化する能力などがあるが、それに限定されるものではない。本発明から利益を得る可能性のあるコロニー形成された対象者には、次の者:カンジダ・アウリス(Candida auris)全身感染を患ったことがあって生存したが、コロニー形成されたままであり、全身感染再発のリスクがある(例えば、免疫無防備状態である)対象者;感染した個人と接触することによってコロニー形成され、全身性カンジダ・アウリス(Candida auris)感染を発症するリスクがあり得る被験者;特別な病室で接触予防策を講じて隔離下に管理されているコロニー形成された被験者(脱コロニー化は、そのような特別で費用のかかる管理及び予防策の必要性を低下させるものである。);他の個人との接触が一般的であり(例えば、介護施設)、他の感受性の個人に病原体を広める可能性がある場所に住むコロニー形成された被験者;病原体を他の感受性の高い個人に広める可能性のあるコロニー形成された医療従事者;及び好ましくは手術などの医療手当の前に脱コロニー化されるべきであるコロニー形成された被験者などがあるが、これらに限定されるものではない。
【0017】
本発明は、カンジダ・アウリス(Candida auris)がコロニー形成した被験者の解剖学的領域からカンジダ・アウリス(Candida auris)を脱コロニー化するための、式(I)の化合物、又はそれの薬学的に許容される塩若しくは水和物の使用を提供する。
【化1】
【0018】
式中、
XはO又はH、Hであり;
Reは、C(O)NRfRg又は1個若しくは2個の窒素原子を含む6員環ヘテロアリール基であり、ヘテロアリール基は、環炭素上でフルオロ又はクロロにより、又は環窒素上で酸素によりモノ置換されていても良く;
Rf、Rg、R6、及びR7は、それぞれ独立に水素又はC1-C3アルキルであり;
R8はC1-C4アルキル、C3-C4シクロアルキル又はC4-C5シクロアルキル-アルキルであり;
R9はメチル又はエチルであり;
R8とR9が一緒になって、1個の酸素原子を含む6員飽和環を形成していても良い。カンジダ・アウリス(Candida auris)の脱コロニー化が可能な対象者の解剖学的領域には、皮膚及び粘膜などがあるが、これらに限定されるものではない。イブレクサファンゲルプ(SCY-078)が、式(I)の好ましい化合物である。
【0019】
本発明はまた、式(I)の化合物又はそれの薬学的に許容される塩若しくは水和物を対象者に投与することにより、カンジダ・アウリス(Candida auris)によってコロニー形成された対象者の解剖学的領域からカンジダ・アウリス(Candida auris)を脱コロニー化する方法を提供する。好ましい方法では、カンジダ・アウリス(Candida auris)は、ヒト対象者の皮膚から脱コロニー化される。好ましい方法において、式(I)の化合物としてのイブレクサファンゲルプを、ヒト対象者に経口投与する。さらに、本発明は、カンジダ・アウリス(Candida auris)がコロニー形成した対象者の解剖学的領域からカンジダ・アウリス(Candida auris)を脱コロニー化するための医薬品の製造における式(I)の化合物又はそれの薬学的に許容される塩若しくは水和物の使用を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
約60%の死亡率に関連していたカンジダ・アウリス(Candida auris)の場合のように、コロニー形成性の病原体が生命を脅かす感染症を引き起こす可能性がある場合;及び/又は現在利用可能な抗真菌剤に対して抵抗性であると報告されることが多いカンジダ・アウリス(Candida auris)の場合のように、病原体が抗菌剤に抵抗性である場合;及び/又はやはりカンジダ・アウリス(Candida auris)の場合である、病原体が人から人へと伝染し、大発生を引き起こす可能性がある場合、脱コロニー化戦略は特に重要である。
【0021】
カンジダ・アウリス(Candida auris)がコロニー形成した被験者での脱コロニー化戦略として、消毒剤の局所適用が試みられてきたが、このアプローチには、カンジダ・アウリス(Candida auris)蓄積部位として作用し得る全ての身体領域(例えば、粘膜、外耳道)に達しないこと;ならびに、そのような消毒剤が広い抗菌特性を有するため、皮膚の正常な細菌のマイクロバイオームに影響すること、腸内毒素症のリスクを高めることなどの制限がある。エキノカンジン類などの全身性抗真菌剤は、全身性カンジダ・アウリス(Candida auris)病(例えば、血液中)の治療に有効であると報告されているが、患者は、治療後、特に皮膚や粘膜でコロニー形成されたままであると報告されており、そのことは、エキノカンジン類がコロニー形成された個人の脱コロニー化を達成する上で有効ではない可能性があることを示している。さらに、エキノカンジン類は、静注でのみ利用可能であり、病院にいない被験者(家庭や介護施設にいる被験者など)の脱コロニー化でのそれらの使用は実用的ではないものと考えられる。
【0022】
最適な脱コロニー化剤は、脱コロニー化すべき病原体に対する活性を有し;正常なマイクロバイオームの一部である他の生着菌に最小限の混乱しか引き起こさず;所期の組織において十分な濃度を達成し;実際の投与(例えば、BID、QD、2日に1回、3日ごとに1回など)を可能にする期間にわたり、それらの組織で活性なままであるべきであり、特に皮膚の脱コロニー化の場合、薬剤がそれの抗真菌活性を発揮するために利用可能となるのを妨げる可能性のあるケラチンへの強い結合を有するものであってはならない。
【0023】
エンフマフンギン由来のトリテルペノイドイブレクサファンゲルプ(SCY-078)(本明細書に記載のエンフマフンギン誘導体の代表的な化合物)は、驚くべきことに、ヒト対象者の身体部位(例えば、皮膚)での有効なカンジダ・アウリス(Candida auris)脱コロニー化を生じさせると考えられる特有の特性を示すことが認められている。イブレクサファンゲルプは、皮膚での高濃度、カンジダ・アウリス(Candida auris)の皮膚真菌負荷の減少、カンジダ・アウリス(Candida auris)(エキノカンジン耐性株を含む)に対する強力な抗真菌活性、及び経口バイオアベイラビリティを示し、これらの属性は、エキノカンジンの属性とは対照的である。エキノカンジンは、同様の作用機序を有するが、血漿より高い濃度を皮膚で達成するものではなく、経口で生物学的利用能がなく、初期静脈エキノカンジン治療から3ヶ月以上にわたり鼻孔、鼠径部、腋窩及び直腸などの複数の身体部位でカンジダ・アウリス(Candida auris)によるコロニー形成が検出されているグルカンシンターゼ阻害剤である。抗真菌剤であるイブレクサファンゲルプを経口投与して、例えば皮膚からカンジダ・アウリス(Candida auris)を脱コロニー化することで、その個体が疾患を再発するリスクを減らし、真菌のさらなる蔓延と大発生の可能性を防止するのに役立てることができる。この戦略は、たとえば、病院の状況での適切な感染制御とともに、病気の伝染、管理コスト、そして最終的には関連する死亡率の制限することに大きな影響を与える可能性がある。
【0024】
イブレクサファンゲルプは驚くべきことに、カンジダ・アウリス(Candida auris)皮膚感染の動物モデルでのカンジダ・アウリス(Candida auris)負荷を軽減するかなりの活性を示しており、これはヒト対象者でのカンジダ・アウリス(Candida auris)皮膚脱コロニー化に有効な全身性抗真菌剤としてのこの薬剤の使用を支持するものである。さらに、イブレクサファンゲルプは、良好な経口バイオアベイラビリティ(例えば、ヒトにおいて>20%と推算される)及びマウス及びラットでの経口投与後の広範な組織分布を示しており、血漿中の曝露(測定値)の12~18倍高い皮膚での曝露(曲線下面積として測定される)を達成した(Wring S, Borroto-Esoda K, Solon E, and Angulo D, SCY-078, a Novel Fungicidal Agent, Demonstrates Distribution to Tissues Associated with Fungal Infections during Mass Balance Studies with Intravenous and Oral [14C]SCY-078 in Albino and Pigmented Rats, Antimicrob Agents Chemother, 2019 Jan 29;63(2). pii: e02119-18. doi: 10.1128/AAC.02119-18. Print 2019 Feb. PMID: 30478166)。このような特徴は、真菌感染症の治療と予防、及びカンジダ・アウリス(Candida auris)などの感受性真菌病原体の脱コロニー化を達成する上で重要である。
【0025】
イブレクサファンゲルプはグルカンシンターゼ阻害剤であり、作用機序はエキノカンジンと同様であるが、化学構造が異なり、分布容積が大きい。理論に拘束されることを意図するものではないが、そのような特性により、経口投与後、イブレクサファンゲルプが皮膚や粘膜などの関連組織で適切な濃度を達成することができ、カンジダ・アウリス(Candida auris)の増殖を阻害し、好ましくは、血漿で観察される曝露の少なくとも1倍の曝露、より好ましくは、血漿で観察される曝露の>2倍又は>5倍又は>10倍をもたらすと考えられている。さらに、まだ完全には解明されていない当該化合物の他の特性は、皮膚や粘膜などの組織での活性型の化合物の保持に有利に働き、これらの組織での抗真菌効果に寄与する可能性があり、カンジダ・アウリス(Candida auris)のような多剤耐性病原体に対する脱コロニー化戦略にイブレクサファンゲルプを特に関連させるものである。イブレクサファンゲルプは、臨床的に関連する抗菌特性を持たず、皮膚や粘膜の正常な細菌性マイクロバイオームに有害な影響を生じさせるとは予想されないものと考えられる。
【0026】
本発明は、カンジダ・アウリス(Candida auris)がコロニーを形成した、ヒト対象者などの対象者の解剖学的領域からカンジダ・アウリス(Candida auris)を脱コロニー化するための、下記式(I)の化合物、又はそれの薬学的に許容される塩若しくは水和物の使用を提供する。
【化2】
【0027】
式中、
XはO又はH、Hであり;
Reは、C(O)NRfRg又は1個若しくは2個の窒素原子を含む6員環ヘテロアリール基であり、ヘテロアリール基は、環炭素上でフルオロ又はクロロにより、又は環窒素上で酸素によりモノ置換されていても良く;
Rf、Rg、R6、及びR7は、それぞれ独立に水素又はC1-C3アルキルであり;
R8はC1-C4アルキル、C3-C4シクロアルキル又はC4-C5シクロアルキル-アルキルであり;
R9はメチル又はエチルであり;
R8とR9が一緒になって、1個の酸素原子を含む6員飽和環を形成していても良い。カンジダ・アウリス(Candida auris)の脱コロニー化が可能な対象者の解剖学的領域には、皮膚及び粘膜などがあるが、これらに限定されない。イブレクサファンゲルプ(SCY-078)が、式(I)の好ましい化合物である。
【0028】
本発明はまた、カンジダ・アウリス(Candida auris)がコロニーを形成した、ヒト対象者などの対象者の解剖学的領域からカンジダ・アウリス(Candida auris)を脱コロニー化するための、下記式(Ia)の化合物、又はそれの薬学的に許容される塩若しくは水和物の使用を提供する。
【化3】
【0029】
実施形態1において、XはH、Hであり、他の置換基は式(I)で提供される通りである。
【0030】
実施形態2において、Reは、環炭素上でフルオロ又はクロロにより、又は環窒素上で酸素によりモノ置換されていても良いピリジル又はピリミジニルのいずれかであり、他の置換基は、実施形態1又は式(I)で提供される通りである。
【0031】
実施形態3において、Reは4-ピリジルであり、他の置換基は、実施形態1又は式(I)で提供される通りである。
【0032】
実施形態4において、ReはC(O)NH2又はC(O)NH(C1-C3アルキル)であり、他の置換基は実施形態1又は式(I)で提供される通りである。
【0033】
実施形態5において、R8はC1-C4アルキルであり、R9はメチルであり、他の置換基は、実施形態1、2、3若しくは4、又は式(I)で提供される通りである。
【0034】
実施形態6において:R8はt-ブチルであり、R9はメチルであり、他の置換基は、実施形態1、2、3若しくは4、又は式(I)で提供される通りである。
【0035】
実施形態7において:R6及びR7は、それぞれ独立に水素又はメチルであり、他の置換基は、実施形態1、2、3、4、5若しくは6、又は式(I)で提供される通りである。
【0036】
実施形態1′において、XはH、Hであり、他の置換基は式(Ia)で提供される通りである。
【0037】
実施形態2′において、Reは、環炭素上でフルオロ又はクロロにより、又は環窒素上で酸素によりモノ置換されていても良いピリジル又はピリミジニルのいずれかであり、他の置換基は、実施形態1′又は式(Ia)で提供される通りである。
【0038】
実施形態3′において、Reは4-ピリジルであり、他の置換基は、実施形態1′又は式(Ia)で提供される通りである。
【0039】
実施形態4′において、ReはC(O)NH2又はC(O)NH(C1-C3アルキル)であり、他の置換基は実施形態1′又は式(Ia)で提供される通りである。
【0040】
実施形態5′において、R8はC1-C4アルキルであり、R9はメチルであり、他の置換基は、実施形態1′、2′、3′若しくは4′、又は式(Ia)で提供される通りである。
【0041】
実施形態6′において、R8はt-ブチルであり、R9はメチルであり、他の置換基は、実施形態1′、2′、3′若しくは4′、又は式(Ia)で提供される通りである。
【0042】
実施形態7′において、R6及びR7はそれぞれ独立して水素又はメチルであり、他の置換基は実施形態1′、2′、3′、4′、5′若しくは6′、又は式(Ia)で提供される通りである。
【0043】
好ましい実施形態において、本発明は、カンジダ・アウリス(Candida auris)がコロニーを形成した、ヒト対象者などの対象者の解剖学的領域からカンジダ・アウリス(Candida auris)を脱コロニー化するための、式(II)の化合物又はそれの薬学的に許容される塩又は水和物の使用を提供する。
【化4】
【0044】
当該化合物は、(1S,4aR,6aS,7R,8R,10aR,10bR,12aR,14R,15R)-15-[[2-アミノ-2,3,3-トリメチルブチル]オキシ]-8-[(1R)-1,2-ジメチルプロピル]-14-[5-(4-ピリジニル)-1H-1,2,4-トリアゾール-1-イル]-1,6,6a、7,8,9,10,10a,10b,11,12,12a-ドデカヒドロ-1,6a,8,10a-テトラメチル-4H-1,4a-プロパン-2H-フェナントロ[1,2-c]ピラン-7-カルボン酸である。
【0045】
他の好ましい実施形態において、本発明は、カンジダ・アウリス(Candida auris)がコロニーを形成した、ヒト対象者などの対象者の解剖学的領域からカンジダ・アウリス(Candida auris)を脱コロニー化するための、下記式(IIa)の化合物(本明細書ではイブレクサファンゲルプ又はSCY-078と称される)又はそれの薬学的に許容される塩又は水和物の使用を提供する。
【化5】
【0046】
当該化合物は、(1S,4aR,6aS,7R,8R,10aR,10bR,12aR,14R,15R)-15-[[(2R)-2-アミノ-2,3,3-トリメチルブチル]オキシ]-8-[(1R)-1,2-ジメチルプロピル]-14-[5-(4-ピリジニル)-1H-1,2,4-トリアゾール-1-イル]-1,6,6a、7,8,9,10,10a,10b,11,12,12a-ドデカヒドロ-1,6a,8,10a-テトラメチル-4H-1,4a-プロパン-2H-フェナントロ[1,2-c]ピラン-7-カルボン酸である。
【0047】
好ましい実施形態において、式(I)、(Ia)、(II)、又は(IIa)の化合物のリン酸塩は、本明細書に記載のように使用又は投与される。
【0048】
好ましい実施形態において、式(I)、(Ia)、(II)、又は(IIa)の化合物のクエン酸塩は、本明細書に記載のように使用又は投与される。
【0049】
本発明はまた、カンジダ・アウリス(Candida auris)がコロニーを形成した、ヒト対象者などの対象者の解剖学的領域からカンジダ・アウリス(Candida auris)を脱コロニー化するための、式(I)、(Ia)、(II)若しくは(IIa)の化合物又はそれらの薬学的に許容される塩又は水和物、及び薬学的に許容される担体、アジュバント又は媒体を含む医薬組成物の使用を提供する。
【0050】
本発明はさらに、式(I)、(Ia)、(II)若しくは(IIa)の化合物、又はそれの薬学的に許容される塩若しくは水和物を対象者に投与することにより、カンジダ・アウリス(Candida auris)がコロニーを形成した、ヒト対象者などの対象者の解剖学的領域からカンジダ・アウリス(Candida auris)を脱コロニー化する方法を提供する。本発明は、式(I)、(Ia)、(II)若しくは(IIa)の化合物又はそれの薬学的に許容される塩若しくは水和物、及び薬学的に許容される担体、アジュバント若しくは媒体を含む医薬組成物を投与することによる、カンジダ・アウリス(Candida auris)がコロニーを形成した、ヒト対象者などの対象者の解剖学的領域からカンジダ・アウリス(Candida auris)を脱コロニー化する方法を提供する。好ましい方法では、カンジダ・アウリス(Candida auris)は、ヒト対象者の皮膚から脱コロニー化される。好ましい方法において、イブレクサファンゲルプは、ヒト対象者に経口投与される。さらに、本発明は、カンジダ・アウリス(Candida auris)がコロニーを形成した、ヒト対象者などの対象者の解剖学的領域からカンジダ・アウリス(Candida auris)を脱コロニー化するための医薬品の製造における、式(I)、(Ia)、(II)若しくは(IIa)の化合物、又はそれらの薬学的に許容される塩若しくは水和物の使用を提供する。
【0051】
上記の実施形態における化合物の説明において、示された置換は、その置換基が定義と一致する安定な化合物を提供する範囲でのみ含まれる。
【0052】
式(I)、(Ia)、(II)及び(IIa)の化合物、ならびにそれらの薬学的に許容される塩及び/又は水和物形態は、カンジダ・アウリス(Candida auris)及び他の真菌に対して抗菌(例えば、抗真菌)活性を有する。
【0053】
抗真菌活性を考慮すると、式(I)、(Ia)、(II)及び(IIa)の化合物、ならびにそれらの薬学的に許容される塩及び/又は水和物形態は、カンジダ・アウリス(Candida auris)がコロニーを形成した対象者の解剖学的部分又は領域からカンジダ・アウリス(Candida auris)を脱コロニー化するのに有用であると考えられる。カンジダ・アウリス(Candida auris)のコロニー形成は、より一般的には、皮膚、及び呼吸器、消化管、及び尿路の粘膜で報告される。本発明が有用であり得るコロニー形成された対象者には、カンジダ・アウリス(Candida auris)全身感染を患ったことがあり生存したが、コロニー形成されたままであり、全身感染の再発リスクがある(例えば、免疫無防備状態である)対象者;感染した個人と接触することによってコロニー形成されたことがあり、全身性カンジダ・アウリス(Candida auris)感染を発症するリスクがあり得る対象者;特別な病室で接触予防策を講じて隔離下に管理されているコロニー形成された対象者(脱コロニー化は、そのような特別で費用のかかる管理と予防策の必要性を軽減するものである。);他の個人との接触が一般的であり(例えば、養護施設)、他の感受性の個人に病原体を広める可能性がある場所に住むコロニー形成された対象者;病原体を他の感受性の高い個人に広める可能性のあるコロニー形成された医療従事者;及びそのような手術などの術の前に好ましくは脱コロニー化されるべきコロニー形成された対象者などがあるが、これらに限定されるものではない。
【0054】
ヒト対象者からカンジダ・アウリス(Candida auris)を脱コロニー化するための式(I)、(Ia)、(II)及び(IIa)の化合物、ならびにそれらの薬学的に許容される塩及び/又は水和物形態が関与する使用及び方法を通じて、カンジダ・アウリス(Candida auris)の伝染を低減及び防止することができ、カンジダ・アウリス(Candida auris)の大発生をより良好に管理及び防止することができる。
【0055】
式(I)、(Ia)、(II)及び(IIa)の化合物ならびにそれらの薬学的に許容される塩及び/又は水和物形態を、他の環境汚染除去戦略と組み合わせて、本明細書に記載の使用及び方法で用いて、カンジダ・アウリス(Candida auris)の伝染を防ぎ、コロニーを形成した対象者による隔離予防策の必要性を軽減することができる。
【0056】
式(I)、(Ia)、(II)及び(IIa)の化合物ならびにそれらの薬学的に許容される塩及び/又は水和物形態は、以前にカンジダ・アウリス(Candida auris)感染を患ったことがあり、そのような感染の再発リスクがあるヒト対象者からカンジダ・アウリス(Candida auris)を脱コロニー化するための、本明細書に記載の使用及び方法で用いることができる。
【0057】
本明細書に記載の使用及び方法は、カンジダ・アウリス(Candida auris)がコロニー形成した身体部位において、式(I)、(Ia)、(II)若しくは(IIa)の化合物(又はそれらの薬学的に許容される塩及び/又は水和物形態)を、その部位をカンジダ・アウリス(Candida auris)から脱コロニー化するのに有効な濃度を達成するのに十分な用量で提供することができる。特にイブレクサファンゲルプは、カンジダ・アウリス(Candida auris)の血液感染の臨床効力が報告されており(Deven Juneja, Omender Singh, Bansidhar Tarai, and David Angulo Gonzalez, Successful Treatment of Two Patients with Candida auris Candidemia with the Investigational Agent, Oral Ibrexafungerp (formerly SCY-078) from the CARES Study, 13 April 2019, ECCMID 2019, Amsterdam, The Netherlands, Abstract publication)、そして血漿で達成させるものより高い皮膚での曝露をそれが達成可能であることから、ヒト対象者での皮膚からのカンジダ・アウリス(Candida auris)の脱コロニー化に非常に効果的であると考えられる。
【0058】
対処しなければ接触によってカンジダ・アウリス(Candida auris)を広めると考えられるヒト対象者が、カンジダ・アウリス(Candida auris)の脱コロニー化を行うことができる本明細書に記載の使用及び方法を通じて、無生物対象(例えば、床、家具、器具)のコロニー形成を間接的に減らすことができ、その低減は、特に病院、ホスピス、及び養護施設などの状況で有用であり得る。
【0059】
式(I)、(Ia)、(II)及び(IIa)の化合物、ならびにそれらの薬学的に許容される塩及び/又は水和物形態は、米国特許第8,188,085号(その内容は、参照により全体が本明細書に組み込まれる。)に開示されている合成方法に従って製造することができる。
【0060】
本明細書で使用される場合、「アルキル」という用語は、指定範囲内の数の炭素原子を有する任意の直鎖又は分枝鎖のアルキル基を示している。従って、例えば、「C1-6アルキル」(又は、「C1-C6アルキル」)は、ヘキシルアルキル及びペンチルアルキルの全ての異性体、並びに、n-、イソ-、sec-及びt-ブチル、n-及びイソプロピル、エチル及びメチルを表す。別の例として、「C1-4アルキル」は、n-、イソ-、sec-及びt-ブチル、n-及びイソプロピル、エチル及びメチルを表す。
【0061】
「シクロアルキル」という用語は、指定範囲内の数の炭素原子を有するアルカンの任意の環式環を示している。従って、例えば、「C3-4シクロアルキル」(又は、「C3-C4シクロアルキル」)は、シクロプロピル及びシクロブチルを表す。
【0062】
本明細書で使用される場合、「シクロアルキル-アルキル」(又は、同義的に、「アルキル-シクロアルキル」)という用語は、上記で記載したアルキル部分を含んでおり、かつ上記で記載したシクロアルキル部分も含んでいる系を示している。「シクロアルキル-アルキル」(又は、「アルキル-シクロアルキル」)への結合は、シクロアルキル部分又はアルキル部分のいずれかを介することができる。「シクロアルキル-アルキル」系において指定されている炭素原子の数は、アルキル部分及びシクロアルキル部分の両方における炭素原子の総数を示している。C4-C5シクロアルキル-アルキルの例としては、メチルシクロプロピル、ジメチルシクロプロピル、メチルシクロブチル、エチルシクロプロピル、シクロプロピルメチル、シクロプロピルエチル及びシクロブチルメチルなどがあるが、これらに限定されるものではない。
【0063】
「ハロゲン」(又は、「ハロ」)という用語は、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素を表す(別の表現として、フルオロ、クロロ、ブロモ及びヨードとも称される)。
【0064】
本明細書で使用される場合、「又は」という用語は、適切な場合には組合せてもよい代替形態を意味する。
【0065】
反することが明瞭に記載されていない限り、本明細書に記載される全ての範囲は包括的である。例えば、「1~4個のヘテロ原子」を含有すると記載されたヘテロ環式環は、その環が、1個、2個、3個又は4個のヘテロ原子を含有し得ることを意味する。本明細書中に記載される任意の範囲が、その範囲内に、その範囲内の全ての下位範囲を包含することも理解されるべきである。従って、例えば、「1~4個のヘテロ原子」を含有すると記載されているヘテロ環式環は、その態様として、2~4個のヘテロ原子、3個又は4個のヘテロ原子、1~3個のヘテロ原子、2個又は3個のヘテロ原子、1個又は2個のヘテロ原子、1個のヘテロ原子、2個のヘテロ原子などを含有するヘテロ環式環を包含することが意図されている。
【0066】
本明細書中において定義されているさまざまなシクロアルキル並びにヘテロ環式環/ヘテロアリール環及びヘテロ環式環系/ヘテロアリール環系は、いずれも、結果として安定な化合物が得られるという条件の下で、当該化合物の残部に任意の環原子(即ち、任意の炭素原子又は任意のヘテロ原子)で結合することができる。適切な5員又は6員のヘテロ芳香族環としては、ピリジル、ピラジニル、ピリミジニル、ピリダジニル及びトリアゾリルなどがあるが、これらに限定されるものではない。
【0067】
「安定な」化合物は、製造及び単離することが可能で、かつ、その構造及び特性が本明細書中に記載されている目的(例えば、対象者への治療的又は予防的な投与)のために該化合物を使用するのに充分な時間にわたり本質的に未変化のままであるか、未変化のままでいるようにさせることが可能な化合物である。ある化合物について言及されている場合、それは、その化合物の安定な錯体(例えば、安定な水和物)も包含する。
【0068】
置換基及び置換パターンの選択の結果として、式(I)、式(Ia)、式(II)及び式(IIa)の化合物の特定のものは、不斉中心を有することができ、そして、立体異性体の混合物として、又は、個々のジアステレオマー若しくはエナンチオマーとして存在することができる。別断の断りがない限り、これらの化合物の全ての異性体形態(ならびに、それらの薬学的に許容される塩及び/又は水和物形態)は、単離されたものか混合物の状態であるかにかかわらず、本発明の範囲内にある。また、示されている該化合物の互変異性体形態(並びに、それらの薬学的に許容される塩及び/又は水和物形態)も、本発明の範囲内に包含される。
【0069】
任意の構成要素の中に、又は、式(I)、式(Ia)、式(II)若しくは式(IIa)の中に、任意の可変部分が2回以上出現する場合、各出現におけるその定義は、他の全ての出現におけるその定義から独立している。また、置換基及び/又は可変部分の組合せは、そのような組合せが結果として安定な化合物を生じる場合にのみ許容される。
【0070】
「置換されている」という用語は、そのような一置換及び多置換(同一部位における複数の置換を包含する)が化学的に可能である範囲内において、指定された置換基による一置換及び多置換を包含する。反することが明瞭に記載されていない限り、指定された置換基による置換は、環(例えば、アリール、シクロアルキル、ヘテロアリール又は複素環)の中の任意の原子上で可能であるが、但し、そのような環置換が化学的に可能であり且つ結果として安定な化合物を生じることを条件とする。
【0071】
波線で終わっている結合は、本明細書中では、置換基又は部分構造の結合点を示すために使用されている。この使用は、以下の例によって例示される。
【化6】
【0072】
式(I)、式(Ia)、式(II)及び式(IIa)の化合物並びにそれらの薬学的に許容される塩及び/又は水和物は、さらに、抗真菌薬化合物の製造及び抗真菌薬化合物用のスクリーニングアッセイの実施においても有用である。例えば、該化合物は、さらなる抗真菌薬化合物を確認するための優れたスクリーニング手段である突然変異体を単離するのに有用である。
【0073】
式(I)、式(Ia)、式(II)及び式(IIa)の化合物は、適宜に、「薬学的に許容される塩」又は水和物の形態で投与することができる。しかしながら、別の塩が、該化合物又はそれらの薬学的に許容される塩の製造において有用であり得る。例えば、該化合物が塩基性アミン基を含んでいる場合、それらは、好都合には、トリフルオロ酢酸塩として単離することができる(例えば、HPLC精製により)。そのトリフルオロ酢酸塩を別の塩(これは、薬学的に許容される塩を包含する)に変換することは、当技術分野において既知の多くの標準的な方法で達成することができる。例えば、適切なイオン交換樹脂を使用して、所望の塩を生成させることができる。あるいは、トリフルオロ酢酸塩を親化合物遊離アミンに変換することは、当技術分野において既知の標準的な方法(例えば、NaHCO3などの適切な無機塩基で中和すること)によって達成することができる。次いで、その遊離塩基を適切な有機酸又は無機酸と反応させることにより、別の所望のアミン塩を慣習的な方法で製造することができる。代表的な薬学的に許容される四級アンモニウム塩には、次のもの:塩酸塩、硫酸塩、リン酸塩、炭酸塩、酢酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、リンゴ酸塩、コハク酸塩、乳酸塩、ステアリン酸塩、フマル酸塩、ヒプル酸塩、マレイン酸塩、グルコン酸塩、アスコルビン酸塩、アジピン酸塩、グルセプト酸塩、グルタミン酸塩、グルクロン酸塩(glucoronate)、プロピオン酸塩、安息香酸塩、メシル酸塩、トシル酸塩、オレイン酸塩、ラクトビオ酸塩、ラウリル硫酸塩、ベシル酸塩、カプリル酸塩、イセチオン酸塩、ゲンチジン酸塩、マロン酸塩、ナプシル酸塩、エジシル酸塩、パモ酸塩、キシナホ酸塩、ナパジシル酸塩、臭化水素酸塩、硝酸塩、シュウ酸塩、ケイ皮酸塩、マンデル酸塩、ウンデシレン酸塩、及び、カンシル酸塩などがある。式(I)、式(Ia)、式(II)及び式(IIa)の化合物の多くは、酸性のカルボン酸部分を有しており、この場合、それの好適な薬学的に許容される塩には、アルカリ金属塩、例えば、ナトリウム塩又はカリウム塩;アルカリ土類金属塩、例えば、カルシウム塩又はマグネシウム塩;及び、適切な有機配位子を用いて形成された塩、例えば、四級アンモニウム塩などがあり得る。
【0074】
本発明は、その範囲内に、式(I)、式(Ia)、式(II)及び式(IIa)のプロドラッグの使用を包含する。一般に、そのようなプロドラッグは、該化合物の機能的誘導体であり、それは、必要とされる化合物にイン・ビボで容易に変換される。従って、本発明の治療方法において、「投与すること」という用語は、記載されている各種状態を、特定的に開示されている化合物で治療すること、又は、患者への投与後に特定されている化合物にイン・ビボで変換する化合物で治療することを包含する。適切なプロドラッグ誘導体の選択及び製造に関する慣習的な手順は、例えば、″Design of Prodrugs,″ ed. H. Bundgaard, Elsevier, 1985に記載されており、これは、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。式(I)、式(Ia)、式(II)及び式(IIa)の化合物の代謝産物は、該化合物を生物環境中に導入したときに産生される活性化学種を含む。
【0075】
「投与」という用語及びその変形形態(例えば、化合物を「投与すること」)は、治療を必要とする対象者に、ある化合物(任意に、それの塩若しくは水和物の形態で)又はその化合物のプロドラッグを提供することを意味する。式(I)、式(Ia)、式(II)及び式(IIa)の化合物又はその薬学的に許容される塩又はその水和物若しくはプロドラッグを第2の活性剤(例えば、真菌/細菌感染症を治療するのに有用な他の抗真菌/抗細菌薬)と組み合わせて提供する場合、「投与」及びその変形形態は、それぞれ、該化合物(又は、それの塩、水和物若しくはプロドラッグ)と前記別の活性剤を同時及び順次に提供することを包含するものと理解される。
【0076】
本明細書中で使用される場合、「組成物」という用語は、特定された成分を含んでいる製造物、及び、特定された成分を合わせることで直接又は間接的に生じる任意の製造物を包含することを意図している。
【0077】
「薬学的に許容される」は、医薬組成物の成分が、互いに適合性でなければならないこと及びそれの投与を受ける者に対して有害であってはならないことを意味する。
【0078】
「対象者」(別の表現で、本明細書中では、「患者」とも称される)という語は、本明細書で使用される場合、治療、観察又は実験の対象となった、動物、好ましくは哺乳動物、最も好ましくはヒトを指す。
【0079】
本願に関しての「コロニー形成」という用語は、微生物の存在によって引き起こされる臨床的に識別可能な宿主炎症反応がない解剖学的領域における真菌などの微生物の存在を意味する(すなわち、微生物は感染や感染の症状を引き起こしていない)。コロニー形成は、好ましくは培養によって識別され得るが、当技術分野で使用される他の方法もまた、コロニー形成を定義するのに許容される。そのような他の方法には、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術、分子配列決定、MALDI-TOF、顕微鏡法又は電子顕微鏡法、及び磁気共鳴法などがあるが、これらに限定されるものではない。
【0080】
「脱コロニー化」という用語は、実施形態では、特定の身体部位(例えば、皮膚)における特定の病原体(例えば、カンジダ・アウリス(Candida auris))の負荷を、一般的な培養技術ではもはや病原体を特定ができないほどの規模で低下させることを指す。他の実施形態では、「脱コロニー化」は、所望の利益(例えば、病原体伝染の制限、又は感染再発リスクの低減)が達成されるのに十分な規模での特定の病原体負荷の低下を指す。
【0081】
「有効量」という用語は、本明細書で使用される場合、研究者、獣医、医師又は別の臨床家が追求している組織、系、動物又はヒトにおける生物学的又は医学的な応答を誘発する有効成分又は医薬の量を意味する。1実施形態では、「有効量」は、治療対象の疾患又は状態の症状を緩和する「治療上有効な量」であり得る。別の実施形態では、「有効量」は、予防対象の疾患若しくは状態の症状を予防するため又は発症の可能性を低下させるための「予防上有効な量」であり得る。この用語は、さらにまた、(1,3)-β-D-グルカンシンターゼを阻害することで、求められている応答を誘発するだけの阻害有効量の当該エンフマフンギン誘導体も意味し得る。
【0082】
「治療する」、「治療すること」、「治療」及びそれらの変形形態への言及は、一般に、投与された後で真菌感染症に関連する1以上の徴候若しくは症状の解消若しくは改善をもたらす治療、又は、感染症の原因となる真菌の根絶をもたらす又はこれらの結果の任意の組み合わせをもたらす治療を意味する。
【0083】
脱コロニー化に関して、式(I)、式(Ia)、式(II)又は式(IIa)の化合物(任意に、塩又は水和物の形態で)は、医薬品と組み合わせて使用するのに利用可能な慣習的な方法で投与することができる。
【0084】
脱コロニー化に関して、式(I)、式(Ia)、式(II)又は式(IIa)の化合物(任意に、塩又は水和物の形態で)は、個々の治療薬として単独で投与することができるか、治療剤の組み合わせとして1以上の他の抗真菌薬と一緒に(順次又は同時に)投与することができる。
【0085】
脱コロニー化に関して、式(I)、式(Ia)、式(II)又は式(IIa)の化合物(任意に、塩又は水和物の形態で)は、選択された投与経路及び標準的な薬務に基づいて選択された医薬担体とともに投与することができる。
【0086】
例えば、式(I)、式(Ia)、式(II)及び式(IIa)の化合物並びにそれらの薬学的に許容される塩及び/又は水和物形態は、次の経路:有効量の該化合物並びに従来の無毒性で薬学的に許容される担体、アジュバント及び媒体を含む医薬組成物の単位投与量の形態で、経口投与、非経口投与(これは、皮下注射、静脈、筋肉、病変内注射又は注入技術を包含する)、吸入投与(例えば、鼻又は口腔内の吸入スプレー、定量吸入器からのエアロゾル及び乾燥粉末吸入器)、噴霧器投与、眼球投与、局所投与、経皮投与又は経直腸投与の1以上によって投与することができる。経口投与に適した液体調製物(例えば、懸濁液、シロップ及びエリキシル剤など)は、当技術分野で既知の技術に従って調製することが可能であり、そして、水、グリコール類、オイル類及びアルコール類などの通常の媒体を使用することができる。経口投与に適した固形調製物(例えば、散剤、丸剤、カプセル剤及び錠剤)は、当技術分野で既知の技術に従って調製することが可能であり、そして、デンプン類、糖類、カオリン、滑沢剤、結合剤及び崩壊剤などの固形賦形剤を使用することができる。非経口組成物は、当技術分野で既知の技術に従って調製することが可能であり、そして、代表的には、担体として滅菌水を使用し、任意に、溶解性補助剤のような別の成分を使用する。注射溶液は、当技術分野で既知の方法に従って調製することが可能であり、その際、当該担体は、生理食塩水、グルコース溶液又は生理食塩水とグルコースの混合物を含有する溶液を含む。
【0087】
医薬組成物の調製において使用するのに適した方法及びそのような組成物で使用するのに適した成分についてのさらなる説明は、Remington’s Pharmaceutical Sciences, 20th edition, edited by A. R. Gennaro, Mack Publishing Co., 2000に記載されている。
【0088】
式(I)、式(Ia)、式(II)及び式(IIa)の化合物並びにそれらの薬学的に許容される塩及び/又は水和物形態は、例えば、1日当たり、哺乳動物(例えば、ヒト)の体重1kg当たり、0.001~1000mgの投与量範囲で、単一用量又は分割用量で、例えば、経口投与又は静脈投与することができる。投与量範囲の一例は、単一用量又は分割用量で、経口投与又は静脈投与で、1日当たり、体重1kg当たり、0.01~500mgである。投与量範囲の別の例は、単一用量又は分割用量で、経口投与又は静脈投与で、1日当たり、体重1kg当たり0.1~50mgである。経口投与に関しては、該組成物は、治療対象の患者に対して投与量を対症的に調節するために、例えば、有効成分1.0~1000ミリグラム、特に、有効成分1、5、10、15、20、25、50、75、100、150、200、250、300、400、500、600、750及び1000ミリグラムを含有する錠剤又はカプセル剤の形態で提供することができる。特定の患者に対する特定の用量レベル及び投与回数は変えることができ、そして、それらは、使用する特定の化合物の活性、その化合物の代謝安定性及び作用の長さ、年齢、体重、全身の健康状態、性別、食事、投与の形態及び時間、排泄速度、併用薬剤、特定の状態の重度並びに治療を受けている宿主などの各種要因によって決まる。例えば、実施形態において、式(IIa)の化合物の薬学的に許容される塩は、式(IIa)の化合物の150~750mgの総1日用量を提供するように対象者に投与される。特定の実施形態において、式(IIa)の化合物150mgの総1日用量、300mgの総1日用量、又は500mgの総1日用量、又は600mgの総1日用量、又は750mgの総1日用量を投与する。総1日用量は、1日1回で投与することができるか、それをBID(1日2回)投与又はTID(1日3回)投与、2日に1回投与、又は3日に1回投与などに分割することもできる。
【0089】
化合物の抗真菌活性は、当技術分野で既知の各種アッセイによって、例えば、酵母菌に対するそれらの最小阻害濃度(MIC)及びブロス微量希釈アッセイにおける糸状カビ及び皮膚糸状菌に対する最小有効濃度(MEC)によって、又は、マウス、ウサギ若しくはモルモットモデルにおける抗カンジダ活性のイン・ビボでの評価によって実証することができる。米国特許第8,188,085号の実施例に記載されている式(I)の化合物は、<0.03-32μg/mLの範囲でカンジダ属種(Candida spp.)の増殖を阻害することが認められている。具体的にカンジダ・アウリス(Candida auris)の場合、イブレクサファンゲルプのMIC値の分布は0.0625μg/mL~2μg/mLの範囲であり、全体のモードは1μg/mLであり、MIC50とMIC90はそれぞれ0.5マイクログラム/mL及び1マイクログラム/mLであった(Berkow EL, Angulo D, Lockhart SR, In vitro activity of a novel glucan synthase inhibitor, SCY-078, against clinical isolates of Candida auris, Antimicrob Agents Chemother 61:e00435-17(2017) https://doi.org/10.1128/AAC.00435-17.)。
【実施例】
【0090】
以下の実施例は、本発明及びその実施を説明するためにのみ役立つものである。実施例は、本発明の範囲又は精神に対する制限として解釈されるべきではない。
【0091】
実施例1
モルモットモデルにおけるカンジダ・アウリス(Candida auris)の皮膚負荷の軽減におけるイブレクサファンゲルプ(SCY-078)の評価
本試験の目的は、経口投与されたイブレクサファンゲルプが、感染した皮膚のカンジダ・アウリス(Candida auris)の負荷を軽減できるか否かを評価することにあった。
【0092】
材料及び方法
モルモット(群当たりn=5)を無作為化して、強制経口投与又は媒体対照により、10又は20又は30mg/kgのイブレクサファンゲルプを1日2回(BID)投与されるようにした。動物には、感染の1日前と1日後及び3日後に、30mg/kgプレドニゾロン単回投与を行って、動物の免疫不全を起こりやすくし、カンジダ・アウリス(Candida auris)皮膚感染の発症を促進した。カンジダ・アウリス(Candida auris)の芽胞子108個を含む細胞懸濁液100μLを、動物の背中の擦過傷領域に塗布した。第7日に、組織生検を組織学検査し、組織真菌負荷を皮膚サンプルからのコロニー数によって分析した。イブレクサファンゲルプ血漿濃度のPKバイオアナリシスを、最終投与後(第7日)に実施した。
【0093】
結果
カンジダ・アウリス(Candida auris)の組織負荷は、媒体対照群と比較してすべての治療群で低かった。未処置対照群の動物からのサンプルとは対照的に、イブレクサファンゲルプで処置した動物からの生検サンプルでは真菌要素は全く観察されなかった。活性剤処置群間では、臨床スコア(痂皮形成、炎症)に有意差はなかった。10、20若しくは30mg/kgBIDのイブレクサファンゲルプを投与された動物の血漿曝露量(AUC0-24)は、2.8、5.6、及び15μ*hr/mLであった。
【0094】
結論
この実験モデルの結果は、イブレクサファンゲルプによる治療が、未処置対照と比較して、カンジダ・アウリス(Candida auris)に感染した皮膚での真菌負荷を軽減したことを示していることから、それは皮膚からのカンジダ・アウリス(Candida auris)の脱コロニー化におけるイブレクサファンゲルプの役割を裏付けるものである。
【0095】
さらに、全身性カンジダ属種(Candida spp.)感染の以前の動物モデルでは、有効性を達成するために必要な曝露量は約11.2μg*hr/mLであった(Wring SA et al., Preclinical Pharmacokinetics and Pharmacodynamic Target of SCY-078, a First-in-Class Orally Active Antifungal Glucan Synthesis Inhibitor, in Murine Models of Disseminated Candidiasis, Antimicrob Agents Chemother, 2017 Mar 24;61(4). pii: e02068-16. doi: 10.1128/AAC.02068-16. Print 2017 Apr.)。本試験では、強力な抗真菌活性が、以前に全身効果を達成するのに必要であると報告された量を下回る血漿曝露をもたらす用量で皮膚において観察され、それはイブレクサファンゲルプが特有の属性を有しており、皮膚で強力な抗真菌活性を示し、皮膚のカンジダ・アウリス(Candida auris)コロニー形成の問題に対処するのに使用できることを示している。
【0096】
実施例2
イブレクサファンゲルプの低いMIC50値は、ニューヨークでの発生からの102個のカンジダ・アウリス(Candida auris)臨床及び調査分離株で認められた。その分離株には、抗真菌薬に対する耐性が変動するC.アウリス(C. auris)(1種類又は2種類のクラスの抗真菌薬のうちの一つの薬剤に対する耐性)、多剤耐性分離株(2種類の抗真菌薬間の2以上の薬剤に対する耐性)、及び汎耐性分離株(2以上のアゾール類、すべての調べたエキノカンジン類、及びアンホテリシンBに対する耐性)が含まれていた。他の試験された抗真菌薬(フルコナゾール、ボリコナゾール、イトラコナゾール、イザブコナゾール、ポサコナゾール、アニデュラファンギン、カスポファンギン、ミカファンギン、アムホテリシンB、及びフルシトシンなど)に対する可変耐性又は多剤耐性を有していた97の分離株では、イブレクサファンゲルプMIC50の範囲は0.06~0.5μg/mLであり;イブレクサファンゲルプMIC50の中央値及びモードはそれぞれ0.5μg/mLであった。五つの汎耐性C.アウリス(C. auris)分離株があり、これらはすべて、0.12~1μg/mLの低MIC50範囲でイブレクサファンゲルプに対して感受性であった。
【0097】
以上、本発明の好ましい実施形態を参照することで、本発明について詳細に明示及び説明したが、当業者による本開示を考慮すると、添付の特許請求の範囲に包含される発明の範囲から逸脱しない限りにおいて、形態及び詳細における各種変更を行うことが可能であることは理解されよう。
【国際調査報告】