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特表2022-532759防曇コーティングのプラズマ堆積方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-19
(54)【発明の名称】防曇コーティングのプラズマ堆積方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/42 20060101AFI20220711BHJP
【FI】
C23C16/42
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021568501
(86)(22)【出願日】2020-05-13
(85)【翻訳文提出日】2022-01-13
(86)【国際出願番号】 CA2020050646
(87)【国際公開番号】W WO2020227828
(87)【国際公開日】2020-11-19
(31)【優先権主張番号】62/847,474
(32)【優先日】2019-05-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519098730
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ ラヴァル
(71)【出願人】
【識別番号】510139564
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ ポール サバティエ トゥールーズ トロワ
(71)【出願人】
【識別番号】305023584
【氏名又は名称】サントル・ナシオナル・ド・ラ・ルシェルシュ・シアンティフィック
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
【住所又は居所原語表記】3 rue Michel Ange, 75794 PARIS CEDEX 16, France
(71)【出願人】
【識別番号】521498830
【氏名又は名称】ユニベルシテ ドゥ モントリオール
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ラロッシュ, ガエタン
(72)【発明者】
【氏名】ロドリゲス デュラン, イヴァン
(72)【発明者】
【氏名】スタッフォード, リュック
(72)【発明者】
【氏名】バラード, ジュリアン
(72)【発明者】
【氏名】デュロシェル-ジャン, アントワーヌ
(72)【発明者】
【氏名】プロフィリ, ヤコポ
(72)【発明者】
【氏名】ゲラルディ, ニコラ
(72)【発明者】
【氏名】コッツォリーノ, ラファエル
【テーマコード(参考)】
4K030
【Fターム(参考)】
4K030AA18
4K030BA29
4K030BA36
4K030BA38
4K030BA42
4K030CA01
4K030CA05
4K030CA06
4K030FA01
(57)【要約】
【課題】本開示は、防曇コーティング、防曇コーティングを含む被覆基板、及び、そのようなコーティングの調製方法に関する。
【解決手段】上記方法は、被覆される表面をプラズマに曝す工程を含み、上記プラズマは、大気圧下でタウンゼントモードの誘電体バリア放電(DBD)下で、酸化剤(例えば、N/O、N/O、又は空気)とアルキルシクロシロキサン(例えば、テトラメチルシクロテトラシロキサン)を含むキャリアガスを曝露することによって生成される。
【選択図】 なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
防曇コーティングを製造するための方法であって、
前記方法は、
i)コーティング可能な基板表面を提供する工程、
ii)大気圧下でタウンゼントモードの誘電体バリア放電(DBD)下でキャリアガスを曝露してプラズマを生成する工程、及び、
iii)前記表面を前記プラズマに曝す工程を含み、
前記キャリアガスは、酸化剤及び環状シロキサンを更に含み、
前記環状シロキサンは、下記の式:
【化1】
(式中、各R1は、独立して、直鎖状のC1-C3アルキル、又は、分岐状若しくは環状のC3アルキルであり、nは、1又は2の整数である。)
で表される、
防曇コーティングの製造方法。
【請求項2】
前記放電は、少なくとも約0.1Wcm-2の散逸電力を有する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記放電は、約0.3~約0.7Wcm-2の散逸電力を有する、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記環状シロキサン中の各R1は、独立して、直鎖状のC1-C3アルキルから選択される、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記環状シロキサン中の各R1は、メチルである、請求項1~4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記環状シロキサン中のnが1の整数である、請求項1~5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
前記環状シロキサンがテトラメチルシクロテトラシロキサン(TMCTS)である、請求項1~6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
前記キャリアガス及び酸化剤ガスが、大気圧下でタウンゼントモードで均質な(又は拡散した)誘電体バリア放電を提供する混合物である、請求項1~7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記キャリアガスが窒素(N)である、請求項1~8のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記酸化剤が亜酸化窒素(NO)である、請求項1~9のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項11】
前記キャリアガス及び化剤ガスが、N/O、N/NO、及び空気から選択される混合物である、請求項1~8のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項12】
前記酸化剤/環状シロキサン(例えば、[NO]/[TMCTS])の濃度比が、約10以上である、請求項1~11のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項13】
前記基板が、ポリマー、ガラス、セラミック、複合材料、及びそれらの組み合わせを含む、請求項1~12のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項14】
前記基板がガラスである、請求項1~12のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項15】
前記基板が、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ(エチレンテレフタレート)、又は、ポリ(メチルメタクリレート)を含むポリマー基板である、請求項1~12のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項16】
部分的に炭素質であり、窒素化及び過酸化されたシリカ様組成物を含む防曇コーティング。
【請求項17】
前記部分的に炭素質であり、窒素化及び過酸化されたシリカ様組成物が、式:Si:H(式中、y/x>2、好ましくは<3であり、z/x>0であり、及びw/x>0である)で示される、請求項16に記載の防曇コーティング。
【請求項18】
前記部分的に炭素質であり、窒素化され、過酸化されたシリカ様組成物が、式:Si:H(式中、y/xが2~2.7の範囲内であり、z/xが0.1~0.6の範囲内であり、w/xが0.002~0.03未満の範囲内である)で示される、請求項16又は17に記載の防曇コーティング。
【請求項19】
原子間力顕微鏡(AFM)下で約2~約20nmの二乗平均平方根(Rrms)粗さを有する、請求項16~18のいずれか1項に記載の防曇コーティング。
【請求項20】
基板及び前記基板上の防曇コーティングを含む被覆基板であって、
前記防曇コーティングが、請求項1~15のいずれか1項に記載の製造方法によって調製されるか、又は、請求項16~19のいずれか1項に定義されるものである、被覆基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の分野
本開示は、防曇コーティング及びそのようなコーティングの調製方法に関する。
【0002】
本開示の背景
革新的な透明防曇コーティングの設計は、光透過機能を必要とする用途において視認性を向上させる必要性と密接に関連する市場要求を満たすことを目的としている。
【0003】
フォギング(fogging)は、温度が露点以下になると発生するガラス表面での一般的な現象である。基板の表面で水分が凝縮すると、光散乱の原因となる小さくて個別の液滴が形成される。この望ましくない挙動は、典型的なガラス表面の「共通の状態」を表す。
【0004】
フォギングを防ぐためには、防曇フィルムを基板に供する方法がある。化学修飾を利用した戦略も数多くある。しかし、化学試薬や合成プロセスは、環境的に安全ではなく、長期的に耐久性のある膜を提供するのに適していない場合がある。
【0005】
そのため、革新的なプロセスとコーティングを提供する必要がある。
【0006】
概要
一態様において、以下の工程を含む防曇コーティングを製造するための方法を提供する。
i)コーティング可能な基板表面を提供する工程、
ii)大気圧下でタウンゼントモードの誘電体バリア放電(DBD)下でキャリアガスを曝露してプラズマを生成する工程、
iii)上記表面を上記プラズマに曝す工程であって、
上記キャリアガスは、酸化剤及び環状シロキサンを更に含み、
上記環状シロキサンは、以下の式である。
【0007】
【化1】
(式中、各Rは、独立して、直鎖状のC1-C3アルキル、又は、分岐状若しくは環状のC3アルキルであり、nは、1又は2の整数である。)
【0008】
更なる態様において、部分的に炭素質であり、窒素化され、過酸化されたシリカ様組成物を含む防曇コーティングが提供される。
【0009】
更なる態様において、基板とその上に防曇コーティングを含む被覆基板が提供され、上記防曇コーティングは、本明細書で定義されるものであるか、又は、本明細書で定義される方法によって調製されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1(a)は、シロキサンコーティングの堆積に使用されるDBD装置の画像であり、(b)は、TMCTS/NO/N放電のI-V特性である。
図2図2(a)、(b)、(c)は、フォギング評価に使用した装置の画像を表したものである。
図3図3は、(a)液体前駆体と(b)プラズマ堆積コーティングの、4000~500cm-1領域のATR-FTIRスペクトル。(c)1300~700cm-1及び(d)3800~2600cm-1領域の主なIRスペクトルの特徴(ν=伸縮、δ=屈曲、ρ=揺動(rocking)、a=非対称、s=対称)の詳細を示す。
図4図4(a)~(d)は、コーティングされたガラスの熱処理後の光透過率の変化を示す。
図5図5(a)~(d)は、コーティングされたガラスの熱処理後の光透過率の変化を示す。
図6図6は、プラズマ処理されたPET及びLDPEサンプルのATR-FTIRスペクトル(図X)である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
詳細な開示
放電方式に関して本明細書で意図されているのは、キャリアガス中に提供される酸化剤及び環状シロキサンから防曇コーティングを提供するのに適した2つの平行電極間の放電の発生である。
【0012】
当業者は、大気圧下でのタウンゼントモードの誘電体バリア放電(DBD)が、印加された代替電圧の半サイクルあたりのマイクロ秒の持続時間の単一の電流ピークによって特徴づけられることを知っている。放電における散逸電力(dissipated power)は0.1~0.7Wcm-2の範囲であり、印加電圧の周波数は3~6kHzの範囲である。電流のピークは、プラズマの点火を示す。プラズマは、印加電圧が放電を維持するのに必要なある閾値(すなわち、ブレークダウン電圧)を下回ると、消滅し、次の半サイクルで再点火される。本発明による適切なプラズマは、均質(拡散ともいう)であり、すなわち、時間と空間にランダムに分布するフィラメント又はアークを生成しない。
【0013】
一実施形態では、上記放電における散逸電力は、少なくとも約0.1Wcm-2、好ましくは少なくとも約0.1Wcm-2、好ましくは少なくとも約0.2Wcm-2、好ましくは少なくとも約0.3Wcm-2、好ましくは少なくとも約0.4Wcm-2、好ましくは少なくとも約0.5Wcm-2、好ましくは少なくとも約0.6Wcm-2、 好ましくは約0.7Wcm-2、又は約0.3~約0.7Wcm-2である。
【0014】
一実施形態では、上記放電における散逸電力は、静的基板モードで、少なくとも約0.2Wcm-2である。
【0015】
一実施形態では、上記放電における散逸電力は、非静的基板モードで、少なくとも約0.5Wcm-2である。
【0016】
上記キャリアガス及び酸化剤ガスは、大気圧でのタウンゼントモードで均質な(又は拡散した)誘電体バリア放電を引き起こす混合物である。このような組み合わせの例としては、N/O、N/NO、及び空気が挙げられる。
【0017】
一実施形態では、上記キャリアガスは窒素(N)である。
【0018】
一実施形態では、上記酸化剤は亜酸化窒素(NO)である。
【0019】
一実施形態では、上記キャリアガスはNであり、上記酸化剤はNOである。
【0020】
一実施形態では、上記環状シロキサン中の各R1は、独立して、直鎖状のC1~C3アルキルから選択される。
【0021】
一実施形態では、上記環状シロキサン中の各R1は、メチルである。
【0022】
一実施形態では、上記環状シロキサン中のnは、1の整数である。
【0023】
一実施形態では、上記環状シロキサンは、式[H(CH)SiO]に相当するテトラメチルシクロテトラシロキサン(TMCTS)である。
【0024】
一実施形態では、上記キャリアガスはNであり、上記酸化剤はNOであり、上記環状シロキサンはテトラメチルシクロテトラシロキサン(TMCTS)である。
【0025】
一実施形態では、[NO]/[TMCTS]の比は、式[H(CH)SiO]+20NO→40N+4CO+8HO+4SiOに対応する化学量論比の約50%以上である。
【0026】
一実施形態では、上記酸化剤の濃度/環状シロキサンの濃度(例えば、[NO]/[TMCTS])の比(特に非静的基板モードにおいて)は、約10以上であり、好ましくは約20以上であり、好ましくは約30以上であり、好ましくは約40以上であり、好ましくは約50以上である。
【0027】
一実施形態では、[NO]/[TMCTS]の比(特に非静的基板モード)は、約30以上であり、好ましくは約40以上であり、好ましくは約50以上であり、上記放電における散逸電力は、少なくも約0.5Wcm-2である。
【0028】
本明細書における方法は、大気圧下での平面間誘電体バリア放電で行われる。DBD設計及び動作条件は、上述のように均質なタウンゼントモードが得られる限り、変更することができる。典型的なセットアップは、ガスギャップで分離された2つの金属電極を含み、少なくとも一方の電極は誘電材料で覆われている。ガスギャップに配置された基板は、一般に非導電性である。
【0029】
上記基板は特に限定されるものではなく、本明細書に記載された方法によって有害な影響を受けずに、防曇特性を提供することから利益を得るであろうものを含む。上記基板は、ポリマー、ガラス、セラミック、複合材料、及び、それらの組み合わせを含むことができる。プラスチックの非限定的な例としては、CR39(アリルジグリコールカーボネート)、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリアミド、及び、ポリエステルが挙げられる。ガラスの非限定的な例としては、窓、及び、光学素子が挙げられる。セラミックの非限定的な例としては、透明な装甲が挙げられる。
【0030】
一実施形態では、上記基板はガラスである。
【0031】
一実施形態では、上記基板は、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ(エチレンテレフタレート)、及びプレキシグラス(PMMA)を含むが、これらに限定されないポリマー基板であってもよい。例えば、ポリマー基板は、熱可塑性ポリマー基板であってもよい。
【0032】
本開示の方法に従って得られた被覆基板は、コーティング組成物を適用することができる物品の一部であってもよいし、又は、物品であってもよく、特に限定されず、保護用眼鏡(ゴーグル、フェイスシールド、バイザーなど)、眼科用レンズ、自動車のフロントガラス、窓等の光学的に透明な物品を含む。
【0033】
本方法の一実施形態では、上記基板は、プラズマに対して静的な位置にある。
【0034】
本方法の一実施形態では、上記基板は、プラズマに対して非静的(又は、可動)である。
【0035】
更なる実施形態では、上記防曇コーティングは、部分的に炭素質であり、窒素化され、及び過酸化されたシリカ様組成物を含む。
【0036】
一実施形態では、上記防曇コーティング(好ましくは本明細書で定義される基板上の)は、部分的に炭素質であり、窒素化され、及び過酸化されたシリカ様組成物を含むコーティングであり、好ましくは式Si:H(式中、y/x>2、好ましくは<3であり、より好ましくは2~2.7の範囲内であり、z/x>0、好ましくは0.1~0.6であり、w/x>0、好ましくは0.002~0.03未満である。)で表される。
【0037】
更なる実施形態では、上記防曇コーティングは、部分的に炭素質であり、過酸化されたシリカ様組成物を含み、上記コーティングは、原子間力顕微鏡(AFM)下で二乗平均平方根(Rrms)粗さ>15を有する。
【0038】
更なる実施形態では、上記防曇コーティングは、部分的に炭素質であり、窒素化され、過酸化されたシリカ様組成物を含み、上記コーティングは、原子間力顕微鏡(AFM)下で約2~約20nmの二乗平均平方根(Rrms)粗さを有する。
【0039】
更なる実施形態では、上記防曇コーティングは、好ましくは、原子間力顕微鏡(AFM)下で約2~約20nmの二乗平均平方根(Rrms)粗さを有する。
【0040】
更なる実施形態では、上記防曇コーティングは、約55度未満、好ましくは約5~10度のWCAを有する。
【0041】
更なる実施形態では、上記防曇コーティングは、約5度から約55度のWCAを有し、好ましくは約5度から約10度の間のWCAを有する。
【0042】
更なる実施形態では、上記防曇コーティングは、部分的に炭素質であり、過酸化されたシリカ様組成物を含むコーティング(好ましくは本明細書で定義される基板上のコーティング)であり、好ましくは式Si:H(式中、y/x>2、好ましくは<3、より好ましくは2~2.7の範囲内であり、z/x>0、好ましくは0.1~0.5である。)で表され;
上記コーティングは、原子間力顕微鏡(AFM)下での二乗平均平方根(Rrms)粗さ>15であり;
上記コーティングは、標準ASTM659-06標準プロトコルに記載されているように、湿潤雰囲気に曝された状態で、光透過率の要件(特に、30秒後に少なくとも80%の光透過率)を満たす。
【0043】
一実施形態では、上記防曇コーティング(好ましくは本明細書で定義される基板上のコーティング)は、部分的に炭素質であり、窒素化され、過酸化されたシリカ様組成物を含むコーティングであり、好ましくは式Si:H(式中、y/x>2、好ましくは<3、より好ましくは2~2.7の範囲内であり、z/x>0、好ましくは0.1~0.6であり、w/x>0、好ましくは0.002から0.03未満である。)で表され;
上記コーティングは、好ましくは、原子間力顕微鏡(AFM)下で約2~約20nmの二乗平均平方根(Rrms)粗さを有し;
上記防曇コーティングは、好ましくは約55度未満、好ましくは約5から約10度のWCAを有し;
前記コーティングは、標準ASTM659-06標準プロトコルに記載されているように、湿潤雰囲気に曝された状態で、光透過率の要件(特に、30秒後に少なくとも80%の光透過率)を満たす。
【0044】
一実施形態では、y/x比は、前駆体式[H(CH)SiO](y/x=1)に相当するもの、及び、熱シリカ式SiO(y/x=2)のものよりも大きい。一実施形態では、y/x>2である。
【0045】
一実施形態では、z/x比は、前駆体式[H(CH)SiO](z/x=1)に相当するものよりも低く、熱シリカ式SiO(z/x=0)のものよりも高い。一実施形態では、z/x>0である。
【実施例
【0046】
実施例
材料及びサンプルの調製
堆積プロセスを、真空チャンバー内に設置したカスタムメイドの平行板DBDで行った。DBDは、1mm間隔で配置された2つの電極で構成される。上部電極は、導電性塗料(銀系)で覆われた誘電体板(厚さ640μmのアルミナ)(3.5cm×3cm)であり、下部電極は、導電性板(ステンレス)の可動式プラットフォーム(13cm×9cm)であり、堆積前にガラスサンプルを置いた(図1a)。大気圧DBDを、印加電圧振幅が約16.5kVpeak-to-peakで、周波数が6kHzのタウンゼント方式で行った(図1b)。
【0047】
電極に印加される電圧Vappを高電圧プローブ(Tektronix P6015A)で測定し、電気回路を流れる電流Imeasをパッシブオシロスコーププローブ(Tektronix P2200)で測定した。また、接地電極に直列に接続した50Ωの抵抗器の電圧降下により、電流を測定した。すべての波形は,数値オシロスコープ(DPO2000,Tektronix Inc.,Beaverton,OR,USA)を用いて記録した。単位面積当たりの平均電力(Wcm-2)は,以下のように計算した。
【0048】
【数1】
【0049】
式中、Tは周期(s)、Sはプラズマと接触しているガラスサンプルの表面(cm)、Vappは印加電圧(V)、Imeasは測定電流(A)である。典型的な平均電力は0.25~0.7Wcm-2の範囲であった。この条件では、堆積プロセス中にガラスサンプルを室温近くに保つことが可能である。
【0050】
ガス導入口は放電の入り口付近にあり,N(プラズマガス)用とNO(酸化剤ガス)用の2つの独立したラインで構成され、この構成により、堆積プロセスの間、ガス雰囲気を連続的に更新することができた。両ガスの流量はマスフローコントローラー(BronkhorstTM, Ruurlo,Holland)で計測、制御した。第3のラインにより、ネブライザ(Mira Mist CETM,Burgener Research Inc, Mississauga,ON,Canada)が結合したシリンジポンプ(FisherbrandTM, Thermo Fisher Scientific, Runcorn, Cheshire,UK)を使ってシロキサン前駆体を注入することを可能にした。前駆体は、キャリアガス(エアロゾル)としてNを用いて、堆積域に運ばれる。
【0051】
シロキサン前駆体、すなわち、1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン(TMCTS)、オクタメチルシクロテトラシロキサン(OMCTS)、1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン(TMDSO)、及び、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)は、Sigma-Aldrich社から購入し(NMRグレード純度≧99.5vol.%)、更に精製することなくそのまま使用した。メタノールとアセトンは、それぞれ市販のアルコールを、オンタリオ、ON、カナダとLaboratories MAT(ケベック,QC,カナダ)から購入した。窒素(N,グレード4.8)及び亜酸化窒素(NO,99.998%)は、Linde社(ケベック,QC,カナダ)から提供された。13cm×5cm×2mmのガラスサンプルは、Multiver Ltd(ケベック,QC,カナダ)から提供された。ポリエチレンテレフタレート(PET)及び低密度ポリエチレン(LDPE)のサンプル(50cm×15cm×0.1mm)は、GoodFellow社(リール、フランス)から提供された。
【0052】
堆積プロセスの前に、ガラスサンプルをアセトン中で10分間超音波洗浄し、その後、メタノールと脱イオン水で洗浄して、残留有機物を除去した。次いで、脱イオン水で10分間超音波洗浄した後、綿布(Amplitude KappaTM,Contect Inc,Spartanburg,SC,USA)で水分を拭き取った。その後、ガラスサンプルをピラニア溶液(HSO:H,3:1 v/v%)に10分間浸漬して、表面に反応性のSi-OHを生成させ(表面活性化)、多量の脱イオン水で洗浄し、乾燥エアジェットで乾燥させた。ポリエチレンテレフタレート(PET)と低密度ポリエチレン(LDPE)については、表面前処理を行わなかった。
【0053】
コーティングされたガラスの化学的表面組成を、高真空(<10-6Pa)下で動作するPHI 5600-ci分光計(Physical Electronics,Chanhassen,MN,USA)を用いたX線光電子分光法(XPS)によって測定した。300Wの標準的なAl X線源(Kα,hν=1486.6eV)を用いて、サーベイスペクトル(0-1400eV)を記録し、300Wの標準的なMg X線源(Kα,hν=1253.6eV)を用いて、高分解能スペクトル(HRXPS)を記録した。光電子検出は、取り出し角(take-off angle)45°で行い、C-C/C-H脂肪族炭素結合エネルギーのピークを285.0eVに設定することで、表面帯電効果を補償した。分析面積は、すべてのサンプルで約0.005cmであった。C1sとSi2pの特徴のカーブフィッティングは、Shirley型バックグラウンド減算を行った後、ガウス・ローレンツ関数を用いて、最小二乗法で行った(PHI MultiPakTM software v 9.3)。コーティングされたガラスの化学的均質性を評価するため,1サンプルあたり9回の分析を行い、平均値とそれに対応する標準偏差を求めた。
【0054】
IRスペクトルを、45度入射のATRアクセサリ(有効サンプル面積1.5mm、Si結晶、1000cm-1での侵入深さ0.81μm、nsample=1.5)を用いて、DLaTGS検出器、GeコートされたKBrビームスプリッター(Harrick Scientific Products,Pleasantville,NY,USA)、及びSplit-Peaアクセサリ(Harrick Scientific Products,Pleasantville,NY,USA)を備えたFTIR分光光度計(Cary 660 FTIR,Agilent Technologies,Victoria,Australia)で、400-4000cm-1の範囲(mid-IR)で取得した。スペクトルは、室温で4cm-1の分解能で128回スキャンして記録した。各コーティングについて、ガスの入口側から排気側まで、等間隔の9点を分析した。Originソフトウェア(Origin Lab Corp.v8.5)を用いて,ベースライン補正を行った後、非対称のSi-O-Si伸縮振動バンドである、νSi-O-Si(1000-1200cm-1)に関してスペクトル特性を正規化した。
【0055】
コーティングされたガラスのナノスケールのトポグラフィーを、原子間力顕微鏡(Dimension 3100,Veeco Digital Instruments by Bruker,Santa Barbara,CA,USA)を用いて、周囲条件下で、タッピングモードで操作して調べた。曲率半径<10nmで、アスペクト比が約1.6/1のシリコンチップ(OTESPAプローブ,Bruker Nano Surface Division,Santa Barbara,CA,USA)を使用して、表面をスキャンした(スキャン角度90)。AFM画像を、スキャンレート0.5Hz、線解像度256×256で記録し、一次線を用いて平坦化した(Bruker社製NanoScope Analysis software v 1.5)。表面粗さを、5×5(tip velocity=5μms-1)及び50×50μm(tip velocity=50μms-1)の領域で評価し、2つの粗さパラメータ、すなわち二乗平均平方根粗さ(Rrms)及び平均粗さ(R)で示した。
【0056】
標準試験法ASTM F659-06の修正版(図2(a))を用いて,コーティングされたガラスの耐フォギング性を評価した(図2(b))。図2(b)に、構成を示す:(1)発光ダイオード(LED,590nm)、(2)絞り、(3)ビームスプリッター、(4)ミラー、(5)図2(a)に示したウォーターバス内のミラー、(6)収束レンズ、(7)光検出器。簡単に言えば、コーティングされたガラスをまず23℃で1時間蒸留水中に浸漬し、次いで、室温で少なくとも12時間空気乾燥させた。その後、コーティングされたガラスを50℃の水を含む浴上に置き、波長590nmの光を照射して、光の透過率を最大1200秒間、時間の関数として記録した。防曇性の表面とするには、F659-06規格は、50℃の水蒸気に30秒間曝露した後、サンプルを透過する光の割合が80%以上でなければならないと述べている。防曇性能は、80℃の水を入れた三角フラスコの上にコーティングされたガラスを15秒間置くことによって、より積極的なフォギング条件下でも試験した。
【0057】
コーティングの濡れ性を、接触角測定、特に液適法によって評価した。簡単に言うと、3μLの超純水を1cmの高さから落下させ(接触角測定の一貫性を確保するため)、高解像度のCCDカメラを備えたVideo Contact Angle System(VCA-2500 XETM,AST products Inc.,Billerica,MA,USA)を用いて、三相接触(TPC)線(すなわち、気相、液相、固相が合流する場所)を固定した後の水接触角(WCA)を測定した。10個の水滴をコーティング表面の異なる位置に配置して、18個の接触角(水滴の両側の2つのWCA)を測定し、対応する標準偏差とともに平均WCA値を得た。
【0058】
実施例1)様々なTMCTS前駆体濃度割合、及び、様々な酸化剤対前駆体比のプラズマ堆積
【0059】
様々なTMCTS前駆体濃度割合、及び、酸化剤対前駆体比を用いて、第一の一連の測定を行った。ここでは、Nの総流量を7.5Lmin-1に設定し、TMCTS濃度を3~18ppmとした。[NO]/[TMCTS]比は、上述の化学量論的式に従って、10(準化学量論的比)及び30(過剰化学量論的比)を選択した。すべての条件を表1にまとめた。放電は14kVpeak-to-peak、周波数3kHzで行い、これは単位面積当たりの平均電力0.245Wcm-2に相当する。コーティングを、静的モード(基板の変位なし)で20分間堆積させた。
【0060】
表1.堆積パラメータ(ppm:100万分の1、R=[NO]/[TMCTS]、S=[NO]+[TMCTS])
【表1】
【0061】
表1に示すサンプルの防曇性能を定量化するために,標準ASTM659-06標準プロトコルに記載されているように、湿潤雰囲気に曝しながら、時間に対する光透過率をモニターした。すべてのサンプルが、核となる水滴の光散乱による最初の数秒間の光透過率の顕著な減衰を特徴とする、同じ全体的傾向を示した。この減衰は、指数関数的な数学的関数を当てはめて定量化することができ、低い減衰値(一定減衰、k)はより優れた防曇特性に相当する。時間が経過すると,光応答は緩やかに回復を示し、これは合体による水滴の成長と、表面での水層の形成によるためと考えられる。
【0062】
表2.位置に対するプラズマ堆積コーティングの表面組成
【表2】
【0063】
表3は、特徴的な防曇パラメータを要約する。表から分かるように、コーティングA(R=10)とB(R=30)は,O/Si比が2.2と2.7の両方で防曇効果を発揮している。
【0064】
表3.フォギング試験におけるコーティングされたガラスの光透過パラメータと水接触角(WCA)
【表3】
【0065】
表3に示すように,最も防曇性能が悪かったのは裸ガラスサンプルで、30秒後の光透過率が61.4%しか残っていなかった。一方、最も防曇性能が良かったのは、サンプルB及びCで、30秒後の光透過率が93%であった。この試験により、TMCTSを用いたコーティングによって、ガラスサンプルに防曇性能が付与されることが明らかになった。
【0066】
実施例2)様々な有機ケイ素前駆体のプラズマ堆積
【0067】
以下の実施例では、OMCTS、TMDSO、及び、HMDSOをTMCTSに対する比較例として使用する。ここでは、Nの総流量を4L/分とし、前駆体濃度を10ppmとした。すべての実験において,放電中の[NO]/[前駆体]比は、化学量論的比よりも50%大きかった(表4)。化学量論的[NO]/[前駆体]比は、シロキサン前駆体と放電中のNOとの間に以下のような反応があると仮定して計算した。
【数2】
【0068】
表4.放電時に注入した酸化剤と前駆体の量。[X]はXの濃度を示す。
【表4】
【0069】
放電は、16.5kVpeak-to-peak、周波数6kHzで駆動し、これは放電電力0.7Wcm-2に相当した。堆積時間は10分とした。ガラスサンプルのスクロール速度は35cm/分に維持し、下部電極を50回往復させた。
【0070】
表5は,XPS調査分析によって決定された、Si、C、O、Nの原子%(%)、及び、O/Si及びC/Siの原子比に関するコーティングの化学組成を示す。[NO]/[前駆体]比が過剰化学量論的な条件でプラズマ堆積を行った結果、シロキサン前駆体の理論組成と比較して、炭素が大幅に少なく、酸素が多いコーティングが得られた。TMCTSでは,2.4に近い値で高い酸素対シリコン比を示し、0.18に近い値で最も低い炭素対シリコン比を示した。
【0071】
表5. コーティングの表面組成。シロキサン前駆体の化学組成。
【表5】
【0072】
O/Si比に関しては、常に2以上の値を示しており、熱シリカ(SiO)から予想される値よりも高いことが注目に値する。この結果は、以下に示すFTIR分析で明らかになったように、コーティング中のシラノール基の存在と一致する。
【0073】
図3は、液体前駆体とそれに関連するプラズマ堆積コーティングのIRスペクトルを示す。TMCTS、OMCTS、TMDSO、HMDSOの主な吸収特性を表6に示す。
【0074】
/NO大気圧タウンゼント放電を用いてガラス基板上に成膜されたコーティングは、プラズマで堆積されたシリカコーティングの典型的な特徴である1150cm-1付近のショルダーを伴う幅広いIR Si-O-Si吸収(1000~1200cm-1)を示した(図3c)。いくつかの研究では、1150cm-1付近のピークが、コーティング中のケージ様物質の存在を示唆している。これに関して、1000~1200cm-1の広域帯で観測された薄膜の無機シグナルは、3成分(A.Grill,et al.,J.Appl.Phys.94(2003)3427;A.Grill,J.Appl.Phys. 93(2003)1785;A.Grill,et al.,J.Appl.Phys.94(2003)6697)、又は、4成分(D.D.Burkey,et al,J.Vac.Sci.Technol.A Vacuum,Surfaces,Film.22(2004)61-70;C.Y.Wang,et al,Appl.Spectrosc. 55(2001)1347-1351;C.Y.Wang,et al,Appl.Spectrosc.54(2000)209-213)と適合させることができる。メチル基のC-H結合に関係するIR特性は、堆積薄膜上でみることができた。これは、酸化剤種(NO等)が存在しても、コーティングから炭素含有官能基の全てが完全には除去されないことを意味する。
【0075】
このように、1255~1259cm-1にあるSi-(CHの変角振動は、すべての有機ケイ素コーティングでみることができた。プラズマ堆積膜は顕著な有機性を示さなかったが、vSi-O-Siのピーク位置(1043-1057cm-1)とその半値幅(FWHM≒250cm-1)の両方から、化学量論的SiO(ASM at 1075-1080cm-1、及び、FWHM≒70cm-1(P.Gonzalez,et al, Appl.Surf.Sci.54(1992)108-111.))とはかなり異なるコーティング構造が明らかになった。さらに、TMCTS及びTMDSOベースのコーティングの場合、2130~2170cm-1の範囲に吸収がないことは、コーティングにはSi-H結合がないことを示す(図3b)。更なるIR特性が930~935cm-1に観察された(シラノール基のSi-Oの変角振動モードに典型的に割り当てられる)。また、3000~3700cm-1の小さなブロードバンドは、OH基に関連するものである(P.F.McMillan,et al,Am.Mineral.71(1986) 772-778;R.McDonald,J.Phys.Chem.62(1958)1168-1178)。これらの親水性官能基は、高品質のSiOコーティングを必要とする用途では望ましくないが、ガラスサンプルに防曇機能を付与する鍵となる。また、1550~1750cm-1の範囲のわずかな吸収は、これはC=O結合の伸縮によるものと考えられ、カルボキシル基(COOH),エステル基(COOR),アミド基(CONH)等の、コーティング中のカルボニル含有官能基の存在を示唆している(R.Reuter,et al,Appl.Phys.101(2012)194104)。しかし,C=N結合の伸縮も同じ周波数範囲に含まれていることから、CN関連の吸収を除外することはできない(R. Reuter 同上)。
【0076】
表6.本研究で使用したシロキサン前駆体の主な赤外吸収バンド。ν=伸縮、δ=変角、ρ=揺動、a=非対称、及び、s=非対称。
【表6】
【0077】
TMCTS、TMDSO、OMCTS、HMDSOの存在下で大気圧のN/NOプラズマを用いて堆積したコーティングの原子間力顕微鏡による分析結果を得た。一般的に、コーティングは極めて均質で、ピンホールやクラックなどの大きな表面欠陥の痕跡は見られなかった。これは、本研究で採用したタウンゼント放電の均質な性質と一致する。それにもかかわらず、表面特性及び粗さ(Rrms及びR)の形態におけるいくつかの違いが観察された(表7)。OMCTS、TMDSO、及び、HMDSOベースのコーティングは、マイクロスケールでは非常に平滑で、5×5及び50×50μmの両方の領域でのRrms値(1.3-7nm)が小さいことを考慮すると、TMCTSを用いたコーティングで観察された高アスペクト比の島状の特徴により、Rrmsは19nm増加した。いずれの場合も,プラズマ堆積されたコーティングはガラス基板よりもかなり粗く,0.5-1.5nmの範囲の表面特徴を示した。
【0078】
表7. 5×5及び50×50μmの面積にプラズマ堆積したコーティングの二乗平均粗さ(Rrms)、平均粗さ(R)、及び、堆積率(DR)(VP:蒸気圧)。
【表7】
【0079】
膜厚を堆積時間で割って推定した堆積速度は、以下のように減少することが示された:TMCTS(23nm/分)>TMDSO(6.8nm/分)>HMDSO(4nm/分)>OMCTS(1.6nm/分)。TMCTS、OMCTS、TMDSO、HMDSOのプラズマ中への注入量を10ppmとしたことから、成長速度の違いは放電中の前駆体濃度の変化によるものではないと推定するのが妥当である。
【0080】
興味深いことに、コーティングの表面粗さは、その堆積速度に関連しているようだ。実際、OMCTS、TMDSO、及び、HMDSOベースのコーティングに比べて、TMCTSベースのコーティングの粗さが向上した要因としては、堆積速度が比較的速いことが考えられる。構造中にSi-H結合を含むシロキサン前駆体(例:TMCTS、及び、TMDSO)は、堆積速度を向上させたコーティングの調製を可能にした。これは、Si-H結合の不安定な性質(ΔHdissociation Si-H<Si-C<Si-O)により、OMCTSよりもTMCTSの方が反応性が高く、堆積速度の向上を正当化していると考えられる。Si-H結合の高い反応性に加えて、TMCTSの分子内にある4員環のシロキサン環が、より高い堆積速度の一因であると考えられる。Si-H結合は、プラズマ中の活性酸素種との衝突によって優先的に切断され、「活性化された」シロキサン環が形成される。その後、形成されたものが互いに反応して、高い表面吸着率を持つ多環構造が生成される。コーティングの表面形態を考慮すると、これらの多重構造は、プラズマ中のOMCTS、TMDSO、HMDSOの存在下で生成された種とは異なり、分子レベルでは効率的にパッキングされないと考えられる。
【0081】
表7に示すように、同じケイ素原子数の前駆体であれば、蒸気圧が大きいものの方が、より高い堆積速度で堆積することができる。以前、シロキサン前駆体中のケイ素原子の数が多いほど堆積速度が向上すると報告されていたが(例:TMCTSとTEOSの比較)、出発前駆体中のケイ素原子の数が多くても堆積速度は向上しなかったため、ここでは有効ではないようだ(OMCTSとTMDSO、HMDSOの比較)。
【0082】
耐フォギング性は,実験室の常温環境に戻した直後にサンプルの写真を撮り,目視で評価した。コーティングされたガラスを通した視認性の程度によって、防曇性能が良い、普通、悪いと簡単に述べて、耐フォギング性を定義することができる。表8は、80℃の水に曝した後のコーティングガラスの目視によるホットフォグ(Hot-fog)試験の結果をまとめたものである。
【0083】
表8.ホットフォグ試験結果
【表8】
【0084】
TMCTSベースのコーティングで被覆されたガラスサンプルは、80℃の水を入れた三角フラスコの上に置かれた時に、透明性を保つことが観察された。更に、TMCTSでコーティングされたガラスは、その後ろにある文字を容易に読み取ることができ、周囲の環境にさらされても光学的に透明なままであった。比較例のOMCTS、TMDSO、HMDSOでコーティングされたガラスは,同じ条件ではぼやけた視界であった。ホットフォッグ試験では、2つの重要な事実が明らかになった。1つ目は、ガラスに防曇機能を持たせるためには,TMCTSのようなSi-H基を持つ環状シロキサンを使用する必要があること、2つ目は、OMCTSのような完全メチル化された環状シロキサン、あるいはTMDSOやHMDSOのような非環状シロキサンをコーティングされたガラスは、室温に戻しても防曇効果が得られないことである。
【0085】
結論として、実験では、TMCTSベースのコーティング剤がガラスに防曇特性を与えることが明確に示された。さらに、この結果は、いくつかの特性を組み合わせることで、防曇機能を備えたコーティングが得られることを示している。
【0086】
実施例3)防曇コーティングの安定性
【0087】
以下の例では、TMCTSをシロキサン前駆体として使用する。この例では、Nの総流量を4L/分に設定し、前駆体濃度を10ppmに設定した。すべての実験において、放電中の[NO]/[前駆体]比は、化学量論的なものよりも50%大きかった(表9)。化学量論的な[NO]/[前駆体]比は、放電中のシロキサン前駆体とNOとの間に以下のような反応があると仮定して計算した。
【数3】
【0088】
表9. 放電中に注入された酸化剤と前駆体の量。[X]はXの濃度を示す。
【表9】
【0089】
放電は、16kVpp、周波数6kHzで駆動し、これは放電電力0.7W/cmに相当した。堆積時間は10分とした。ガラスサンプルの変位速度は35cm/分に維持、すなわち下部電極を50回往復させた。
【0090】
TMCTSコーティングガラスには、機械的な堅牢性を高め,より優れた接着性のコーティング/基板を与えるために、制御された雰囲気下でいくつかの熱処理を施した。温度(100℃及び500℃)、処理時間(1時間及び5時間)、及び、ガス雰囲気(Ar及びAr/O,2%vol/vol)が、熱処理の前後で防曇性能に及ぼす影響を評価した。
【0091】
熱処理したTMCTSコーティングガラスの耐フォギング性も洗浄処理後に調べた。この目的のために、サンプルを小型の移動カートに載せ、8m/分の速度で洗濯機に入れた。洗浄プロセスには、次の基本ステップが含まれた:(1)コーティングされたガラスの上下に50-55℃のウォータージェットを噴射(予備洗浄)、(2)ウォータージェット噴射(50-55℃)による2回目の洗浄、続いて4本の回転ブラシによる洗浄(うち2本はコーティングの上に、残り2本はコーティングされたガラスの下に配置)、(3)50-55℃のウォータージェットによるリンス、続いて2本の回転ブラシによる洗浄(うち1本はコーティングの上に、残り1本はコーティングされたガラスの下に配置)、(4)室温でのファン乾燥(高速ファン)。1700rpm(毎分回転数)で回転するブラシは、コーティング面に接触するかしないかに応じて、それぞれ直径0.15mm又は0.3mmのナイロン繊維を使用した。
【0092】
コーティングされたガラスの耐フォギング性の評価を、熱処理(TT)の前と後に行った。さらに、熱処理されたTMCTSコーティングガラスは、50℃の水蒸気に曝されたときのコーティングの耐久性と防曇性能を評価するために、上述の洗浄プロトコルにも供された(ASTM F 659-06)。
図4は、(a)100℃で1時間、(b)100℃で5時間、(c)500℃で1時間、(d)500℃で5時間処理したTMCTSコーティングガラスの光透過率を時間に対して示したものである(実線:非コーティングガラス、破線:TT前のコーティングガラス、点線:TT後のコーティングガラス、一点鎖線:15日後に熱処理したコーティングガラス、二点鎖線:3回の洗浄処理後に熱処理したコーティングガラス)。
【0093】
TMCTSコーティングされたガラスは、30秒以上の透過率が80%を大きく上回り、熱処理前に優れた防曇性能を示した。同様に,室温で2週間放置した後,熱処理したガラスも優れた防曇性能を示した。これらの知見に基づけば、熱処理の時間と温度は、コーティングガラスの防曇性能にほとんど影響を与えないと結論できる(一点鎖線、破線、点線の比較)。興味深いことに、両方のパラメータ(熱処理の温度と時間)を別々に、又は組み合わせて増加させると,工業的洗浄を受けた熱処理ガラスの防曇性能にプラスの影響を与えた(図4aと4b、4aと4c、4aと4dの二点鎖線の比較)。さらに、洗浄しても防曇性能(60%<透過率<80%)は大きく損なわれないことがわかった。ただし、図4aに示したコーティングガラスでは、50℃の水蒸気に30秒間曝された後、透過率の値が15~30%になった。
【0094】
一度洗浄した後、より長く続く防曇性能を持つコーティングを得るために、少量のO(2% v/v)の存在下で制御したAr雰囲気下で熱処理を行った。
【0095】
ASTM F659-06のプロトコルは、コーティングされたガラスは、処理前、2週間の(制御されていない)室内環境への暴露後、及び、熱処理後(透過率80%)に優れた防曇性能を示した(一点鎖線、破線、及び、点線を比較)。前述のケースと同様に、熱処理の時間と温度は、TMCTSコーティングガラスの防曇性能にほとんど影響を与えない(点線、破線、点線の比較)。しかし、純粋なAr中のTTとは異なり,温度と処理時間の両方を組み合わせて増加させても、洗浄処理後のコーティングガラスの防曇性能が向上することはなかった(図5aと5dを比較)。同様に、熱処理時間の延長は、防曇性能の向上とは相関しなかった(図5aと5bを比較)。このケースでは、500℃で1時間処理したガラスが最も優れた防曇性能を示した。このような防曇性能が得られた理由としては,酸化剤雰囲気下で500℃の熱処理を行うことで、コーティングが基板に最もよく接着し、機械的に強固になったことが考えられる。これを確認するには更なる分析が必要であるが、積極的な洗浄処理にもかかわらず、熱処理を施したサンプルの防曇性能が損なわれなかった理由を説明することができる。
【0096】
図5は、(a)100℃で1時間、(b)100℃で5時間、(c)500℃で1時間、(d)500℃で5時間処理したTMCTSコーティングガラスの光透過率を時間に対して示したものである(実線:コーティングしていないガラス、破線:TT前のコーティングガラス、点線:TT後のコーティングガラス、一点鎖線:15日後に熱処理したコーティングガラス、二点鎖線:3回の洗浄処理後に熱処理したコーティングガラス)。
【0097】
実施例4)様々な条件でのプラズマ堆積
ネブライザ(Mira Mist CETM,Burgener Research Inc.,Mississauga,ON,Canada)が連結したシリンジポンプ(FisherbrandTM,Thermo Fisher Scientific,Runcorn,Cheshire,UK)を使用して、TMCTS微小液滴を、エアロゾル送出ラインを介して、1L/分のNフローに浮遊させて反応器チャンバーに注入した。TMCTSの噴霧化を補助するために、エアロゾル供給ラインを40℃に加熱した。同様に、NO(酸化性ガス)も、第2のガス供給ラインから3L/分のNフローによって反応室に運んだ。N及びNOの流量を、マスフローメーター(EL-FLOWTM,BronkhorstTM,Ruurlo,Netherlands)を用いて測定した。堆積時間は10分とした。コーティング堆積中、ガラスサンプルが前後に移動する速度(すなわち、サンプルスクロール速度)は、17.5~52.5cm/分の範囲であった。
【0098】
下記の表10は、それぞれ低い及び高い[NO]/[TMCTS]比を持つ中間のスクロール速度(エントリ3-4)でも、最低及び最高のサンプルスクロール速度(エントリ1-2)でも、防曇特性が得られたことを示している。また、処理速度が17.5cm/分であっても52.5cm/分であっても,消費電力を0.5Wcm-2に低減することで,防曇効果が得られた(エントリ5-6)。
【0099】
表10 プラズマコーティングの作製に用いた堆積パラメータとコーティングガラスの防曇性
【表10】
【0100】
上述のXPS手法を用いて,散逸電力0.5Wcm-2、[NO]/[TMCTS]比、及びサンプルのスクロール速度を変化させた条件で、コーティングされたガラスの化学的表面組成を評価した。分析結果は表11にまとめられており,コーティングはケイ素、酸素、炭素、窒素で構成されていることがわかる。O/Si比が2超(SiOのO/Si比)であることから,プラズマ相から酸素が取り込まれていることがわかり、コーティング中にSi-OH基が存在することと一致している。
【0101】
表11 コーティングの表面組成。(R=[NO]/[TMCTS]、TMCTSの原子パーセント)。
【表11】
【0102】
実施例5)プラスチック基板への防曇コーティングのプラズマ堆積
以下の例では、シロキサン前駆体としてTMCTSを使用した。PET及びLDPEのサンプルに堆積させた。すべての実験において,[NO]/[TMCTS]比は化学量論的比よりも50%大きかった(表9)。放電は28kVpp、周波数6kHzで行い、放電電力は0.5W/cmであった。プラズマ堆積されたコーティングの厚さは約50nmであった。
【0103】
プラズマ処理されたPET及びLDPEサンプルのATR-FTIRスペクトル(図X)から、プラズマ処理されたガラスサンプルで得られたものと同様のIR特徴を持つ有機ケイ素コーティングの堆積が確認された(図3及び表6参照)。
【0104】
プラズマコーティングされたPET及びLDPEサンプルの耐フォギング性の評価を、プラズマ処理の前と後に実施した。ホットフォッグ試験は、80℃の水に浸した後のサンプルを目視で確認した。また、加熱した水槽の上に置いた金属板にサンプルを並べて固定し、処理面と未処理面の両方に同時にフォギングを発生させた。その結果、プラズマ処理前のPETやLDPEでは顕著なフォギングが見られたが、プラズマ処理後のTMCTSコーティングサンプルでは優れた防曇性が確認された。
図1a
図1b
図2a
図2b
図2c
図3a
図3b
図3c
図3d
図4a
図4b
図4c
図4d
図5a
図5b
図5c
図5d
図6
【国際調査報告】