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▶ オブシュチェストボ・エス・オグラニチェノイ・オトベツトベノスティウ“オベディネナヤ・コンパニヤ・ルサール・インツェネルノ-テフノロギチェスキー・ツェントル”の特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-20
(54)【発明の名称】アルミニウム系合金
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/06 20060101AFI20220712BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20220712BHJP
   C22F 1/047 20060101ALN20220712BHJP
【FI】
C22C21/06
C22F1/00 603
C22F1/00 612
C22F1/00 621
C22F1/00 623
C22F1/00 624
C22F1/00 626
C22F1/00 630A
C22F1/00 630K
C22F1/00 640A
C22F1/00 641A
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 684C
C22F1/00 685Z
C22F1/00 686A
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 694A
C22F1/00 694B
C22F1/047
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021549158
(86)(22)【出願日】2019-12-27
(85)【翻訳文提出日】2021-10-05
(86)【国際出願番号】 RU2019001038
(87)【国際公開番号】W WO2021133200
(87)【国際公開日】2021-07-01
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521365037
【氏名又は名称】オブシュチェストボ・エス・オグラニチェノイ・オトベツトベノスティウ“オベディネナヤ・コンパニヤ・ルサール・インツェネルノ-テフノロギチェスキー・ツェントル”
【氏名又は名称原語表記】OBSHCHESTVO S OGRANICHENNOY OTVETSTVENNOST’YU OBEDINENNAYA KOMPANIYA RUSAL INZHENERNO-TEKHNOLOGICHESKIY TSENTR
【住所又は居所原語表記】UL.POGRANICHNIKOV,D.37,STR.1,G.KRASNOYARSK,660111,RUSSIA
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100219542
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 郁治
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】マン、ビクトル・フリスティアノビッチ
(72)【発明者】
【氏名】アラビン、アレクサンドル・ニコラエビッチ
(72)【発明者】
【氏名】フロモフ、アレクサンドル・ペトロビッチ
(72)【発明者】
【氏名】バルチュク、セルゲイ・ビクトロビッチ
(72)【発明者】
【氏名】クロヒン、アレクサンドル・ユーリエビッチ
(72)【発明者】
【氏名】フォーキン、ドミトリー・オレゴビッチ
(72)【発明者】
【氏名】バフロモフ、ローマン・オレゴビッチ
(72)【発明者】
【氏名】ユーリエフ、パーベル・オレゴビッチ
(57)【要約】
本発明はアルミニウム系材料の金属学分野に関し、高負荷状況、特に高温及び極低温での腐食性環境下で作動する製品の製造に使用できる。アルミニウム溶体、析出物及び共晶相からなる構造を有し、マグネシウム、マンガン、鉄、クロム、ジルコニウム、チタン及びバナジウムなどの元素によって形成された新規なアルミニウム合金が特許請求される。更に、当該合金はケイ素及びスカンジウムを更に含有し、ジルコニウム及びスカンジウムのそれぞれ少なくとも75%が、少なくとも0.18体積%及び粒径20nm以下のL1型格子を有する析出物を形成し、合金元素は指定の通りに再分配される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム溶体、析出物及び共晶相からなる構造を有し、マグネシウム、マンガン、鉄、クロム、ジルコニウム、チタン、バナジウムなどの元素によって形成されたアルミニウム合金であって、前記アルミニウム合金はケイ素及びスカンジウムを更に含有し、ジルコニウム及びスカンジウムのそれぞれ少なくとも75%が、少なくとも0.18体積%及び粒径20nm以下のL1型格子を有する析出物を形成し、合金元素(重量%)が以下のように再分配されることを特徴とする、アルミニウム合金:
マグネシウム:4.0~5.5
マンガン:0.3~1.0
鉄:0.08~0.25
クロム:0.08~0.18
ジルコニウム:0.06~0.16
チタン:0.02~0.15
バナジウム:0.01~0.06
スカンジウム:0.01~0.28
ケイ素:0.08~0.18
アルミニウム及び不可避不純物:残部。
【請求項2】
高負荷における腐食性環境下で作動する製品を製造するための、請求項1に記載のアルミニウム合金をベースとする材料。
【請求項3】
アニール後の機械的特性が高い、具体的には、極限引張強度が350MPa以上、降伏強度が250MPa以上、伸度が15%以上であることを特徴とする、請求項2に記載の材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアルミニウム系材料の金属学分野に関し、高負荷状況、特に高温及び極低温での腐食性環境(湿潤空気、清水、海水等)下で作動する製品(溶接構造物を含む)の製造に使用することができる。アルミニウム系材料は、圧延品、例えばスラブ、板材及び圧延シート、押出型材、パイプ、鍛造材、その他の形成半製品の他、粉末、フレーク、顆粒等として生産することができる。
【0002】
本発明の合金は主に、乗り物、例えば船体、船体部品、航空機、トラック及び鉄道タンクの被覆層並びにその他の積載部材における使用、特に化学的に活性な物質の輸送における使用の他、食品産業等での使用を目的としている。
【背景技術】
【0003】
高耐腐食性、高溶接性、高伸長、及び極低温下での作業性により、展伸用Al-Mg系(5xxx系)合金は腐食性環境下で作動する製品において幅広く使用され、特に(水上輸送やパイプライン等)河川水中及び海水中、並びに液化ガス及び化学的に活性な液体の輸送用タンクに用いられる。
【0004】
5xxx系合金の主な欠点としては、アニール状態の形成半製品の強度特性が低いことが挙げられる。例えば、アニール後の5083型合金の降伏強度は通常150MPa以下である。(Industrial aluminium alloys: Reference book. S.G. Aliev, M.B. Altman, S.M. Ambartsumyan et al. Moscow: Metallurgy, 1984)。
【0005】
アニール状態の5xxx系合金の強度特性を向上する方法の一つとして、遷移金属を添加することが挙げられるが、その中でもZrが最も幅広く使用され、Hf、V、Erなどの元素もZr程ではないが幅広く使用されている。この場合、このような合金の、既知のAl-Mg系(5083型)合金と異なる主な特徴は、分散質、特にL1型格子を有する分散質を形成する元素を含有していることである。この場合における強度特性向上の総合効果は、主にマグネシウムによるアルミニウム固溶体の固溶硬化、及び均質化(異質化)アニール時に形成された析出物の様々な二次相が構造中に存在することにより発揮される。
【0006】
そこで、Alcoaによって特許請求された合金(ロシア連邦特許第2431692号)が知られている。当該材料の成分(重量%)は、マグネシウム5.1~6.5%;マンガン0.4~1.2%;亜鉛0.45~1.5%;ジルコニウム0.2%以下;クロム0.3%以下;チタン0.2%以下;鉄0.5%以下;ケイ素0.4%以下;銅0.002~0.25%;カルシウム0.01%以下;ベリリウム0.01%以下;ホウ素及び炭素からなる群から選択される少なくとも1つの元素各0.06以下;ビスマス、鉛、スズ(各0.1%以下)、スカンジウム、銀、リチウム(各0.5%以下)、バナジウム、セリウム、イットリウム(各0.25%以下)からなる群から選択される少なくとも1つの元素;ニッケル及びコバルトからなる群から選択される少なくとも1つの元素各0.25以下であり、残りはアルミニウム及び不可避不純物であり、マグネシウム及び亜鉛の合計含有量は5.7~7.3重量%であり、鉄、コバルト及び/又はニッケルの合計含有量は0.7重量%以下であり、残りはアルミニウム及び不可避不純物である。当該合金の欠点のうち注目すべき欠点としては、相対的に低い全体強度特性、それによる合金用途の制限が挙げられる。少量に添加される元素の種類が多く、生産速度も低下するため、鋳造装置の生産性に悪影響を及ぼし、またマグネシウムの高含有量は加工性及び耐腐食性の低下につながる。
【0007】
5083型合金に比べて遥かに大きな強度特性の向上効果はスカンジウム及びジルコニウムの両方を含有することによって実現される。この場合、当該効果は、変形加工時の高温加熱及びその後の形成半製品のアニール処理に対して耐性を有する析出物(標準寸法5~20nm)が遥かに多く形成されることにより発揮され、より高い強度特性をもたらす。
【0008】
例えば、ジルコニウム及びスカンジウムが添加されたAl-Mg系材料が知られている。特に、構造材料中央研究所PROMETEYはロシア連邦特許第2268319号に記載した1575-1型合金として知られる材料を特許請求している。当該合金は5083型合金及び1565型合金よりも強度特性が高いことを特徴とする。特許請求された材料の成分(重量%)は、マグネシウム5.5~6.5%、スカンジウム0.10~0.20%、マンガン0.5~1.0%、クロム0.10~0.25%、ジルコニウム0.05~0.20%、チタン0.02~0.15%、亜鉛0.1~1.0%、ホウ素0.003~0.015%、ベリリウム0.0002~0.005%であり、残りはアルミニウムである。当該材料の欠点のうち注目すべき欠点としては、高マグネシウム含有量が変形加工時の加工性に悪影響を及ぼすことがあることに加えて、最終構造にβ-AlMg相が存在することによって耐腐食性が低下する場合があること挙げられる。
【0009】
Kaiser Aluminumの米国特許第6139653号において特許請求された材料も知られている。特許請求されたAl-Mg-Sc系合金は、Hf、Mn、Zr、Cu及びZnからなる群から選択される元素を更に含有しており、特に当該合金の成分(重量%)は、Mg1.0~8.0%、Sc0.05~0.6%の他、Hf0.05~0.20%及び/又はZr0.05~0.20%、Cu0.5~2.0%及び/又はZn0.5~2.0%である。特定のタイプにおいては、当該材料は更にMnを0.1~0.8重量%含有してもよい。この特許請求された材料の欠点のうち注目すべき欠点としては、マグネシウム含有量が下限値である場合は強度特性が相対的に低い一方、マグネシウム含有量が上限値である場合は耐腐食性及び変形加工時の加工性が低いことが挙げられる。また、高い特性の確保には、Sc、Hf、Mn及びZrのような元素をベースとする粒子の粒度比の調整が必要である。
【0010】
また、Aluminum Company of Americaによって特許請求された米国特許第5624632号に記載の材料が知られている。当該アルミニウム系合金の成分(重量%)は、マグネシウム3~7%、ジルコニウム0.05~0.2%、マンガン0.2~1.2%、ケイ素0.15%以下、並びに析出物を形成するSc、Er、Y、Cd、Ho及びHfの群から選択される元素約0.05~0.5%であり、残りはアルミニウム、異元素及び不純物である。当該合金の欠点のうち注目すべき欠点としては、より低い範囲内で合金元素を使用する際の強度特性が相対的に低いことが挙げられる。
【0011】
ロシア連邦特許第2683399(c1)号に記載されているRUSALの材料が知られている。当該アルミニウム系合金の成分(重量%)は、ジルコニウム0.10~0.50%、鉄0.10~0.30%、マンガン0.40~1.5%、クロム0.15~0.6%、スカンジウム0.09~0.25%、チタン0.02~0.10%、並びにケイ素0.10~0.50%、セリウム0.10~5.0%、カルシウム0.10~2.0%及び任意のマグネシウム2.0~5.2%からなる群から選択される少なくとも1つの元素である。
【0012】
NanoAl LLCによって特許請求された国際公開第2018/165012号に記載の材料が知られている。当該合金は、アルミニウム、マグネシウム、マンガン、ケイ素、ジルコニウム、及び平均粒度が約20nmであってL1構造を有するAlZrナノ粒子を20211/m以上含有する。更に、当該粒子は、スズ、ストロンチウム及び亜鉛の群から選択される1種以上の元素を含有する。当該アルミニウム合金は、加工硬化状態では室温での降伏強度が少なくとも約380MPa、極限引張強度が少なくとも約440MPa、及び伸度が少なくとも約5%であって、アニール状態では降伏強度が少なくとも約190MPa、極限引張強度が少なくとも約320MPa、及び伸度が少なくとも約18%である。当該合金の欠点のうち注目すべき欠点としては、アニール状態では強度が低いことが挙げられる。
【0013】
プロトタイプとしてはEADS Deutschland GmbHの米国特許第6531004号に記載されている発明で知られる技術的解決手段が挙げられる。特に、溶接可能で耐腐食性のAl-Zr-Sc三相材料の主な成分(重量%)は、マグネシウム5~6%;ジルコニウム0.05~0.15%;マンガン0.05~0.12%;チタン0.01~0.2%;スカンジウム、テルビウム並びにスカンジウム及びテルビウムが必須元素として所属する複数のランタノイド元素からなる群から選択された少なくとも1つの任意の追加元素計0.05~0.5%;銅0.1~0.2%及び亜鉛0.1~0.4%からなる群から選択される少なくとも1つの元素であり、残りはアルミニウム及び0.1%以下ケイ素の不可避不純物である。この材料の欠点のうち注目すべき点としては、高価な希少元素が存在していることが挙げられる。また、この材料は処理加熱時の高温加熱に対する耐久性が不十分である場合がある。
【発明の概要】
【0014】
本発明の目的は、低価並びに総合的に高い物理的特性、機械的特性、加工性及び耐腐食性、特にアニール後の高い機械的特性(一時抵抗350MPa以上、降伏強度250MPa以上及び伸度5%以上)並びに熱間及び冷間変形時の高い加工性を特徴とする新規の高強度アルミニウム合金の創生である。
【0015】
技術的な結果は、上記目的が達成されることであり、L1型結晶格子を有するZr含有相の析出物により当該合金の機械的特性を高めつつ、変形加工時の高い加工性を確実にすることである。
【0016】
上記目的及び上記明記される技術的な結果は、特許請求の範囲に記載された、アルミニウム溶体、析出物及び共晶液相からなる構造を有し、マグネシウム、マンガン、鉄、クロム、ジルコニウム、チタン及びバナジウムなどの元素によって形成された合金によって、確実に達成される。また、当該合金はケイ素及びスカンジウムを更に含有し、ジルコニウム及びスカンジウムのそれぞれ少なくとも75%が、少なくとも0.18体積%及び粒径20nm以下のL1型格子を有する析出物を形成し、合金元素(重量%)が以下のように再分配される:
マグネシウム:4.0~5.5
マンガン:0.3~1.0
鉄:0.08~0.25
クロム:0.08~0.18
ジルコニウム:0.06~0.16
チタン:0.02~0.15
バナジウム:0.02~0.06
スカンジウム:0.01~0.28
ケイ素:0.06~0.18
アルミニウム及び不可避不純物:残部。
【発明を実施するための形態】
【0017】
予期せぬことに、強度特性の上昇効果は、マグネシウムによるアルミニウム溶体の固溶硬化、並びに高温加熱に対して耐性を有するマンガン、クロム、ジルコニウム、スカンジウム及びバナジウムを含有する二次相の総合的な好作用により達成されることが確認された。また、合金へのケイ素及びバナジウムの添加により、ジルコニウム及びスカンジウムのアルミニウム溶体への溶解度が低下し、粒度20nm以下の析出物粒子の数の体積分率が上昇し、硬化効率も高まる。
【0018】
この場合、アルミニウム合金の構造は、混合元素が最小限のアルミニウム溶体及び析出物粒子、特に、粒度が200nm以下のAlMn相、粒度が50nm以下のAlCr相、並びに粒度が20nm以下のL1型格子を有するAlZr、Al(Zr,Sc)及び/又はAl(Zr,V)の粒子を含むべきである。
【0019】
上記合金の特定構造を確実に実現する合金成分の、特許請求の範囲に記載された量の根拠は以下のとおりである。
【0020】
固溶硬化による機械的特性の全体的な上昇のためには、4.0~5.5重量%のマグネシウムが必要である。マグネシウム含有量が当該含有量を超えると、この元素により金属加工時、例えばインゴット圧延時の加工性が低下し、変形時の歩留まりに大きな悪影響を及ぼす。含有量が4重量%未満の場合は最低限必要な強度特性が確保されない。
【0021】
関連元素の存在下でL1型結晶格子を有するAlZr相、Al(Zr,Sc)相及び/又はAl(Zr,V)相の析出物の形成を伴う分散硬化を確実にするためには、0.06~0.16重量%のジルコニウムが必要である。
【0022】
ジルコニウムを更に含有しL1型結晶格子を有する準安定相の析出物の形成を伴う分散硬化による必要な強度特性の確保には、それぞれ、0.01~0.28重量%及び0.01~0.06重量%のスカンジウム及びバナジウムが必要である。
【0023】
一般に、ジルコニウム、スカンジウム及びバナジウムは、アルミニウムマトリックス及びL1型格子を有するAlZr準安定相の析出物の間で再分配され、粒子数は分解温度におけるそれらの元素の溶解度によって決定される。
【0024】
合金中のジルコニウム濃度が0.16重量%を超える場合、溶融温度を上げる必要があるが、それはインゴットの半連続鋳造の条件下では技術的に実現不可能な場合がある。
【0025】
ジルコニウム含有量が0.16重量%を超える標準的な鋳造条件を使用する場合、一次結晶の構造においてD023型格子を有する相が形成され得るが、これは好ましくない。
【0026】
ジルコニウム、スカンジウム及びバナジウムの含有量が上記含有量未満の場合、L1型格子を有する二次相の析出物量が不十分なため、最低限必要な強度特性が確保されない。
【0027】
AlCrの二次相の形成を伴う分散硬化による機械的特性の全体的な向上のためには、0.08~0.18重量%のクロムが必要である。クロム含有量が上記含有量を超える場合、この元素により金属加工時、例えばインゴット圧延時の加工性が低下し、変形時の歩留まりに大きな悪影響を及ぼす。含有量が0.1重量%未満の場合は最低限必要な強度特性が確保されない。
【0028】
AlMnの二次相の形成を伴う分散硬化による機械的特性の全体的な向上のためには、0.4~1.0重量%のマンガンが必要である。マンガン含有量が上記含有量を超える場合、この元素による影響として、形成し得る一次結晶により金属加工時、例えばインゴット圧延時の加工性が低下し、変形時の歩留まりに大きな悪影響を及ぼす。含有量が0.3重量%未満の場合は最低限必要な強度特性が確保されない。含有量が1.0重量%を超えると、変形加工時の加工性を低下させるAlMn相の一次結晶が形成される。
【0029】
ケイ素は、ジルコニウム、スカンジウム及びバナジウムのアルミニウム溶体への溶解度を低下させるために必要であり、結果としてのこれらの元素への主な影響としては、ビレット鋳造時にアルミニウム溶体中のジルコニウム、スカンジウム及びバナジウムの過飽和が上昇し、その後の均質化アニール時に、より多くのL1格子を有する二次相分散質が確実に放出され、分散硬化の効果が高まる。更に、ケイ素の存在下では、特許請求の範囲に記載された合金元素の濃度範囲内で、合金に含まれるジルコニウム及びスカンジウムの75%未満が少なくとも0.18体積%のL1型格子を有する析出物を形成することが実験的に確立されている。ケイ素含有量が0.08重量%未満の場合、ジルコニウム及びスカンジウムのアルミニウム溶体への溶解度の低下に何ら影響をもたらさなかった。ケイ素含有量が0.18重量%を超える場合、熱間圧延時の加工性を低下させるMgSiの結晶化相が形成され悪影響を及ぼす。MgSi相は均質化アニール時に溶解しないので、MgSi相が存在することは非常に望ましくない。
【実施例
【0030】
8種の合金を実験室条件下で製造した。これらの合金の化学組成を表1に示す。
【0031】
これらの合金は実験室用誘導炉で製造し、各鋳造物の質量は少なくとも14kgであった。以下の材料を注入材料(重量%)として使用した:
アルミニウム A99(99.99% Al);
マグネシウム Mg90(99.90% Mg);
合金組成物:Al-10%Mn;Al-10%Fe;Al-10%Cr;Al-5%Zr;Al-5%Ti;Al-3%V;Al-2%Sc;Al-10%Si。
鋳造インゴットの断面は200×50mmであり、長さは約250mmであった。合金の凝固範囲における推定冷却速度は、2K/sを超えなかった。
【0032】
【表1】
【0033】
加熱保持の最高温度が425℃を超えない条件下で鋳造インゴットの均質化処理を行った。次いで、インゴットをシート化するための熱間及び冷間圧延を以下の条件で行った:熱間圧延温度450℃及び総変形度90%で厚さ5mmまで減少;熱間圧延されたビレットの400℃での中間アニーリング;総変形度30%で厚さ3.5mmまで減少させる冷間圧延。300℃で3時間アニールした後、シートの機械的特性を判定した。結果を表2に示す。機械的特性は、極限引張強度(UTS)、降伏強度(YS)及び伸度(EI)の判定結果に基づいて評価した。平坦な試験片の測定長さは50mmであり、試験速度は10mm/分であった。
【0034】
【表2】
【0035】
析出物の量は、計算法及び実験的方法、特に、Thermocalcソフトウェアパッケージを使用し、更に実験用組成物の均質化処理されたインゴット及びアニールされたシートの構造を分析することによって決定した。結果を表3に示す。
【0036】
【表3】
【0037】
上記結果は、合金2~7のみが強度特性の要件を満たすことを示す。合金8は、Al(Fe,Mn)相の一次結晶の存在により熱間変形加工時に破断した。
【0038】
従って、特許請求の範囲に記載された合金は、L1型結晶格子を有するZr含有相の析出物により当該合金の機械的特性を高めつつ、変形加工時の高い加工性をもたらすことが示された。
【0039】
特許請求の範囲は、以下に記載された構成要件によって明示される。
【0040】
1.アルミニウム溶体、析出物及び共晶相からなる構造を有し、マグネシウム、マンガン、鉄、クロム、ジルコニウム、チタン、バナジウムなどの元素によって形成されたアルミニウム合金であって、当該アルミニウム合金はケイ素及びスカンジウムを更に含有し、ジルコニウム及びスカンジウムのそれぞれ少なくとも75%が、少なくとも0.18体積%及び粒径20nm以下のL1型格子を有する析出物を形成し、合金元素(重量%)が以下のように再分配されることを特徴とする、アルミニウム合金:
マグネシウム:4.0~5.5
マンガン0.3~1.0
鉄0.08~0.25
クロム0.08~0.18
ジルコニウム0.06~0.16
チタン0.02~0.15
バナジウム0.01~0.06
スカンジウム0.01~0.28
ケイ素0.08~0.18
アルミニウム及び不可避不純物:残部。
【0041】
2.高負荷における腐食性環境下で作動する製品を製造するための、請求項1に記載のアルミニウム合金をベースとする材料。
【0042】
3.アニール後の機械的特性が高い、具体的には、極限引張強度が350MPa以上、降伏強度が250MPa以上、伸度が15%以上であることを特徴とする、請求項2に記載の材料。
【国際調査報告】