(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-20
(54)【発明の名称】ホットフラッシュの非ホルモン治療
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20220712BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20220712BHJP
A61P 15/12 20060101ALI20220712BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220712BHJP
A61K 45/06 20060101ALI20220712BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20220712BHJP
A61K 9/72 20060101ALI20220712BHJP
A61K 9/70 20060101ALI20220712BHJP
A61K 9/12 20060101ALI20220712BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20220712BHJP
A61K 31/4045 20060101ALI20220712BHJP
A61K 31/381 20060101ALI20220712BHJP
A61K 31/428 20060101ALI20220712BHJP
A61K 31/506 20060101ALI20220712BHJP
A61K 31/4525 20060101ALI20220712BHJP
A61K 31/433 20060101ALI20220712BHJP
A61K 31/4168 20060101ALI20220712BHJP
A61K 31/137 20060101ALI20220712BHJP
A61K 31/195 20060101ALI20220712BHJP
A61K 31/197 20060101ALI20220712BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P25/00
A61P15/12
A61P43/00 121
A61P43/00 111
A61K45/06
A61K9/08
A61K9/72
A61K9/70
A61K9/12
A61K9/20
A61K31/4045
A61K31/381
A61K31/428
A61K31/506
A61K31/4525
A61K31/433
A61K31/4168
A61K31/137
A61K31/195
A61K31/197
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021563312
(86)(22)【出願日】2020-04-08
(85)【翻訳文提出日】2021-12-14
(86)【国際出願番号】 US2020027238
(87)【国際公開番号】W WO2020219270
(87)【国際公開日】2020-10-29
(32)【優先日】2019-04-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521464352
【氏名又は名称】クノブラー、ロバート エル
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】クノブラー、ロバート エル
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA11
4C076AA24
4C076AA36
4C076AA72
4C076AA93
4C076BB01
4C076BB13
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4C076CC01
4C076CC17
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4C086NA14
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4C086ZC75
4C206AA01
4C206AA02
4C206FA01
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4C206NA14
4C206ZA01
4C206ZA81
4C206ZC41
4C206ZC75
(57)【要約】
本発明は女性の自然な加齢により又は男女両性におけるHPS軸の内科的/外科的介入により生じるホットフラッシュの治療のためのドーパミンD2、D3又はD4受容体(D2ファミリー)に対して親和性を有するドーパミン作動薬の使用を記載する。D2ドーパミン受容体ファミリーはD2作動薬分子に最も高い反応性を有するが、本経路を利用する他の複数の分子にも直接的又は間接的に反応する。アルファ2アドレナリン作動薬は相乗的に作用し、ホットフラッシュの頻度及び重症度をさらに軽減し、投薬の有効性の持続期間が長くなる。D2ファミリードーパミン作動薬とアルファ2アドレナリン作動薬との組合せはヘテロ二量体の形成を介してD2受容体ファミリー経路を利用できる他の分子と同様に男女両性でホットフラッシュの治療に様々な効能を有する多数の分子を可能にする。日常生活を乱すホットフラッシュを治療するための既存の非ホルモン選択肢を拡張する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホットフラッシュの治療方法であって、
前記方法は、
D
2、D
3又はD
4ドーパミン受容体に結合することができるドーパミン作動薬である化学組成物の有効量をホットフラッシュを経験している人に投与するステップと、
前記組成物の投与の効果を評価するステップとを含む、方法。
【請求項2】
前記化学組成物の投与の方法は、錠剤中での前記組成物の投与、液体形態での前記組成物の経口投与、液体形態での前記組成物の静脈内投与、経皮パッチを使用する前記組成物の投与、及び、吸入による前記組成物の投与からなる群から選択される、請求項1に記載のホットフラッシュの治療方法。
【請求項3】
ホットフラッシュの治療方法であって、
前記方法は、
D
2、D
3又はD
4ドーパミン受容体に結合することができるドーパミン作動薬である化学組成物の有効量をホットフラッシュを経験している人に投与するステップと、
アルファ2アドレナリン受容体に結合することができるアルファ2アドレナリン作動薬である化学組成物の有効量を前記人に投与するステップと、
前記の両組成物の投与の効果を評価するステップとを含む、方法。
【請求項4】
ドーパミン作動薬である前記化学組成物の投与の方法は、錠剤中での前記組成物の投与、液体形態での前記組成物の経口投与、液体形態での前記組成物の静脈内投与、経皮パッチを使用する前記組成物の投与、及び、吸入による前記組成物の投与からなる群から選択され、並びに、
アルファ2アドレナリン作動薬である前記化学組成物の投与の方法は、錠剤中での前記組成物の投与、液体形態での前記組成物の経口投与、液体形態での前記組成物の静脈内投与、経皮パッチを使用する前記組成物の投与、及び、吸入による前記組成物の投与からなる群から選択される、請求項3に記載のホットフラッシュの治療方法。
【請求項5】
ホットフラッシュの治療のための組成物であって、
D
2、D
3又はD
4ドーパミン受容体に結合することができるドーパミン作動薬である物質と、
アルファ2アドレナリン作動薬である物質とを含む、組成物。
【請求項6】
錠剤として個体に投与することができる形態を構成する、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記組成物は、錠剤として個体に投与することができる形態を構成し、
前記ドーパミン作動薬及び前記アルファ2アドレナリン作動薬は、前記錠剤内に別々に配置される、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物は、錠剤として個体に投与することができる形態を構成し、
前記ドーパミン作動薬及び前記アルファ2アドレナリン作動薬は、前記錠剤内に組み合わせられる、請求項6に記載の組成物。
【請求項9】
液体として個体に経口投与することができる形態を構成する、請求項5に記載の組成物。
【請求項10】
液体として個体に静脈内投与することができる形態を構成する、請求項5に記載の組成物。
【請求項11】
吸入により個体に投与することができる形態を構成する、請求項5に記載の組成物。
【請求項12】
D
2、D
3又はD
4ドーパミン受容体に結合することができるドーパミン作動薬である前記物質は、ロピニロール、ロチゴチン、プラミペキソール、ピリベジル、ベンラファキシン、パロキセチン、ガバペンチン、及び、プレガバリンからなる群より選択され、並びに、
アルファ2アドレナリン作動薬である前記物質は、チザニジン及びクロニジンからなる群より選択される、請求項5に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、2012年3月5日に出願された米国特許出願第13/411,660号、2014年4月4日に出願された米国特許出願第14/245,509号、2017年3月2日に出願された米国特許出願第15/447,675号、及び2019年4月22日に出願された米国特許出願第16/390,276号の一部継続出願であり、それらの優先権を主張する。これらの先の出願は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、ホットフラッシュの治療及び治療方法に関する。ホットフラッシュは、閉経により引き起こされることがあり、また、一般的な生化学的経路である視床下部-垂体-性腺(HPG)軸を共有する疾患及び症状の各種治療方法により引き起こされることがある。本発明は、HPG神経化学的経路をホットフラッシュの非ホルモン治療に用いる。HPG軸経路は、女性と男性の両方に存在し、治療は、自然分泌される神経伝達物質を模倣して、男性と女性の両方でホットフラッシュを制御する。
【背景技術】
【0003】
正常な状態では、脳からのシグナルは、視床下部を介して、性腺刺激ホルモン放出ホルモン(GnRH)を放出する。これにより、続いて、男女両性の生殖腺に直接作用するホルモンが放出される。これらは、黄体形成ホルモン(LH)と卵胞刺激ホルモン(FSH)である。LHは、女性の卵巣でのエストロゲンの産生と、男性の精巣でのテストステロンの産生を引き起こす。これらの分子の放出の頻度には、男女それぞれの性に特徴的な相違点がある。女性では、LHの放出は拍動性で月経周期を通じて変動するが、男性では、放出は強壮性である。FSH、卵胞刺激ホルモンは、男女どちらの性に対しても同様に作用する。FSHは卵胞を成熟させ、妊娠が成立するかどうかにより影響を受ける、女性のプロゲステロン産生にも寄与する。男性では、FSHは、精子の形成を促進する。卵巣又は精巣内で産生されたホルモンは、その後、視床下部に作用して、HPG軸回路を終了し、フィードバックループに作用して、生殖期にわたり、予測可能な範囲内でホルモンレベルを調節する。女性では、閉経の開始とともに、エストロゲンの産生が減少し、これらの影響はHPG軸の他の段階に及ぶ。この局面では、GnRH、LH及びFSHが増加する(
図1及び
図2を参照)。これは、ホットフラッシュの開始を伴う。
【0004】
ホットフラッシュは、原因に関わらず、血管運動神経症状のバーストを特徴とし、その頻度及び強さは様々である。閉経期の女性では、ホットフラッシュは、正常な加齢に関連するエストロゲンの減少を反映している。これは、正常に同期した月経周期が崩れることにつながる。この変化は、HPG軸内の活性の調節不全パルスを伴う。ホットフラッシュはしばしば、睡眠障害や他の症候を伴う。ホルモン補充療法(HRT)がかねてより提唱され利用されており、治療的に有効である。残念ながら、HRTは、血管疾患及び悪性疾患のリスクを増大させることが明らかになっている。このジレンマを解消するために、ホットフラッシュを軽減する効果的な非ホルモン療法が長く求められてきた。
【0005】
ホルモン療法と非ホルモン療法の両方が存在し、これらは、HPG軸の一体性に影響し、ホットフラッシュに影響を及ぼす。ホットフラッシュの正確なメカニズムは立証されていないが、最も典型的には、GnRH、LH及びFSHの放出に影響を及ぼすHPG軸における調節シグナルの低下の後に起きることが経験的に確認されている。
【0006】
ホットフラッシュは、罹患者に不快感や苦痛を与える重大な要因となっている。女性では、ホットフラッシュは、正常な加齢(閉経)との関連において最も一般的に起こる、利用可能なエストロゲンの減少を表す。この状況は、毎年何百万人もの女性に影響を及ぼしている。
【0007】
ホットフラッシュはまた、他の事情においても、男性又は女性の両方において起こり得る。これには卵巣の外科的除去が含まれ、エストロゲンの主要な供給源が突如、除去されることになる。他の事情としては、例えば、性ホルモン感受性悪性疾患の治療で用いられる補助ホルモン療法でも、内因性の性ホルモン活性が失われる。後者のグループには、女性の乳がん及び男性の前立腺がんが含まれ、それぞれ毎年相当数の人に影響を及ぼしている。この形態の補助療法の結果としてのホットフラッシュは、治療の遵守を妨げる可能性があり、このような患者は原疾患によるリスクが高まることになる。
【0008】
例えば、女性において、ホットフラッシュはしばしば、タモキシフェン等の選択的エストロゲン受容体調節剤(SERM)の治療的投与と関連する。この治療は、ホルモン依存性乳がん、卵巣がん又は子宮がんを有する閉経前の女性に利用される。これは循環エストロゲンの効能を制限し、ホットフラッシュにつながるエストロゲン欠乏状態を実質的に生じさせる。ホットフラッシュはまた、エストロゲンの合成に不可欠な酵素(アロマターゼ)を阻害するための薬剤の使用の後に生じることがある。複数のアロマターゼ阻害薬(アナストロゾール、エキセメスタン、レトロゾール等)が存在し、これらはホルモン依存性乳がん、卵巣がん又は子宮がんを有する閉経前の女性に使用される。これらの分子は、不妊症、思春期早発症、子宮内膜症、女性化乳房、子宮筋腫、思春期早発症その他の症状の治療にも考慮される。これらの例において、ホットフラッシュは、血液循環で測定されるエストロゲンの産生減少の直接的な結果である。
【0009】
男性では、前立腺がんの治療のように、アンドロゲン(テストステロン)の産生を阻害するためのホルモン改変治療を受けている際にホットフラッシュが起きる。これには、性腺摘除(精巣摘除)などの根治療法、又は、GnRH受容体を脱感作させることによりホルモン産生を低下させることが含まれ得る。前立腺がんの治療において、テストステロンの産生又は作用を阻害するために用いられる薬剤が多く存在する。これには、例えば、リュープロリド、ゴセレリン及びトリプトレリン等のGnRH作動薬又はその類似体;テストステロン放出を阻害するためのGnRHブロック剤(デガレリクス);前立腺がん細胞に対するテストステロンの作用を遮断する抗アンドロゲン(ビカルタミド、フルタミド、ニルタミド);アンドロゲンの合成を遮断するためのアビラテロン;及び、アンドロゲン受容体シグナル伝達を遮断するためのエンザルタミドが含まれる。これらの分子を用いた治療の結果、テストステロンが減少し、それがホットフラッシュの増加につながる。
【0010】
過去には、ホットフラッシュを治療するために様々な方法が用いられてきたが、これらの治療方法は、有効性に欠ける又は治療の副作用に関連する危険性のために、適切ではないことが証明されている。ホルモン補充療法(HRT)は、体内で自然に分泌されるホルモンを補う、一治療形態である。HRT治療は、エストロゲンとプロゲスチンのレベルを補うことで、LHとFSHのレベルを低下させ、それにより閉経期の症状を軽減することを目的とする。しかし、HRTは、がん、心臓発作、脳卒中等の他の多くの健康リスクを伴う。
【0011】
ホットフラッシュは、セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)でも治療されている。SSRIは、シナプス前細胞への再取り込みを阻害することによってセロトニンレベルを上昇させる。理論的には、脳内のセロトニンレベルを上昇させることにより得られるとされる抗うつ剤としてのベネフィット、すなわち、気分の改善と睡眠の促進は、ホットフラッシュの緩和にも役立つ。しかし、SSRIの効能には議論がある。
【0012】
選択的エストロゲン受容体調節剤(SERM)は、ホットフラッシュの治療にこれまで使用されてきた別のカテゴリーの薬剤である。これらの薬剤は、全身のエストロゲン受容体に対する作動薬又は拮抗薬として作用する。しかしながら、ほとんどのSERMは実際にはホットフラッシュを増加させることが報告されている。
【0013】
抗けいれん薬(すなわち、ガバペンチン)、血圧の薬(すなわち、クロニジン)等などの他の薬剤も、ホットフラッシュの治療に使用されてきた。これらの物質の作用メカニズムはあまり理解されておらず、これらの治療の有効性には議論がある。したがって、ホットフラッシュの発生頻度を低下させるための効果的かつ安全な治療方法が依然として必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、ホットフラッシュの制御において安全かつ効果的な治療戦略のための非ホルモン療法を提供する。GnRHを調節するHPG軸を構成するステップは、男女両性で同一であるため、この方法は女性及び男性の両方に等しく適用可能である。本発明は、ホルモン活性を模倣し、HPG軸と選択的に相互作用して、様々な状況下でホットフラッシュを調節する非ホルモン分子を利用する。その結果として、本発明は、補助化学療法の遵守を容易にするというベネフィットにより従来技術の限界を克服する、安全で効果的な方法を提供する。
【0015】
本発明は、ホットフラッシュを制御するためにHPG軸を通して作用する非ホルモン治療を利用する、一般的な作用メカニズムに基づく。この治療は、所望の治療標的として、ドーパミン受容体のD2ファミリーを利用する。D2受容体ファミリーは、D2、D3及びD4受容体を含む。D2受容体は、D2short(D2S)とD2long(D2L)の2つのアイソフォームで存在する。D2Sは視床下部に多く発現する。D2受容体ファミリーメンバーは、特異的ドーパミン作動薬を利用して、これらの受容体のいずれか1つのみに作用する関連分子との相互作用を通して、この能力において有効であり得る。この相互作用の有効性は、選択的アルファ2作動薬の添加による相乗効果を通して増強され得る。
【0016】
本発明は、D2受容体ファミリーと無差別に相互作用する分子の能力を利用して、新しい実体であるヘテロ二量体を形成する。ヘテロ二量体の形成を通して、D1、5HT1B、アルファ2Aアドレナリン受容体等のD2受容体ファミリーメンバー以外の受容体に結合するリガンドは、新規な態様で相互作用することができ、相互作用する。具体的には、D1受容体により一部を、D2受容体により一部を構成されるヘテロ二量体受容体、D1-D2ヘテロ二量体が一例である。
【発明の効果】
【0017】
形成されるヘテロ二量体は、その特性に依存して、さもなければ相互作用しない又はD2受容体ファミリーメンバーに影響を及ぼすとは予測されないリガンドの結合を可能にし、治療反応を生じさせる。これは、ホットフラッシュを減少させることが知られている分子の有効性の範囲を理解すること、及び、新しい有効なリガンドの設計において広範な意味合いを有する。
【0018】
これらの多様な組成を有する分子は、それでも、加齢(閉経)、卵巣の外科的切除又は補助ホルモン療法の結果のいずれの自然事象によって引き起こされるかに関わらず、男性と女性の両方で、ホットフラッシュの緩和において幅広い用途を有する。これらの後者の状況は、閉経の血管運動神経症状の範囲を超えているが、それでもなお、特異的にD2受容体ファミリーを通じてHPG軸を標的化することによって効果的に治療されるホットフラッシュの症状に寄与する。本発明は、非常に一般的な問題への対処を求める長年の要望を満たし、また、患者が、女性の乳がん又は男性の前立腺がん等のホルモン駆動悪性腫瘍の治療のための補助治療を耐える助けとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、女性の視床下部-垂体-性腺軸のホルモンフィードバック経路を示すフローチャートである。
【
図2】
図2は、男性の視床下部-垂体-性腺軸のホルモンフィードバック経路のフローチャートである。
【
図3】
図3は、様々なシナプス前ニューロンからの種々の神経伝達物質の、標的ニューロンの種々の受容体における相互作用を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、HPG軸を介して作用してホットフラッシュを制御するための非ホルモン治療を利用する一般的な作用メカニズムに基づく。この治療は、所望の治療標的として、ドーパミン受容体のD2ファミリーを利用する。D2受容体ファミリーは、D2、D3及びD4受容体を含む。D2受容体は、D2short(D2S)とD2long(D2L)の2つのアイソフォームで存在する。D2sは、視床下部に多く発現する。D2受容体ファミリーメンバーは、特異的ドーパミン作動薬を利用して、これらの受容体のいずれか1つのみに作用する関連分子との相互作用を通して、この能力において有効であり得る。この相互作用の有効性は、選択的アルファ2作動薬の添加による相乗効果を通して増強され得る。
【0021】
本発明は、D
2受容体ファミリーと無差別に相互作用する分子の能力を利用して、新しい実体であるヘテロ二量体を形成する。予測されるように、この方法は、段階的な反応を生じさせる。ヘテロ二量体の形成を通して、D
1、5HT1
B、アルファ2Aアドレナリン受容体等のD
2受容体ファミリーメンバー以外の受容体に結合するリガンドは、新規な態様で相互作用することができ、相互作用する。具体的には、D
1受容体により一部を、D
2受容体により一部を構成されるヘテロ二量体受容体、D
1-D
2ヘテロ二量体が一例として挙げられる。
図3は、分子が2以上の受容体と相互作用し、ヘテロ二量体として機能する様子を示す。シナプス前ニューロンは、標的ニューロンの受容体を活性化又は阻害するシグナルとして作用する神経伝達物質又はホルモンを放出する。ホルモンシグナルは、標的ニューロンの特異的受容体に結合して、ニューロン応答を引き起こし得る。しかし、ホルモンシグナルは、種々の受容体型と相互作用し得て、そして、異なる受容体ファミリー、例えば、互いの間でヘテロ二量体を形成するD
1受容体及びD
2受容体と相互作用し得る。このように、典型的にはD
2受容体と相互作用しない神経伝達物質分子が、ヘテロ二量体としてのD
2受容体と相互作用することを介して、ニューロン応答に影響し得る。D
2受容体ファミリーに最大の影響を及ぼす神経伝達物質分子は、HPG軸に最大の効果を及ぼすことになり、ホットフラッシュを減少させる。
【0022】
先行技術は、ホットフラッシュを減少させるための、単独での又はヘテロ二量体として他の受容体との組合わせにおける2受容体ファミリーの分子刺激の効果に対処していない。本分析では、ホットフラッシュの頻度及び強さの減少という肯定的な反応が段階的なものであり、評価されたリガンドに依存することを実証する。このような相違は、利用される有効な分子の幅広さ、及び、影響を受ける神経調節回路についての認識に基づくものである。本発明は、作用部位及びHPG軸に基づき、かつ、特定の化合物に限定されずに、多数の臨床条件においてホットフラッシュを調節するための新規な非ホルモン療法を提供する。
【0023】
形成されるヘテロ二量体は、その特性に依存して、さもなければ相互作用しない又はD2受容体ファミリーメンバーに影響を及ぼすとは予測されないリガンドの結合を可能にする。このようにして、さもなければD2受容体ファミリーに影響を及ぼすと予測されない分子が結合し、治療反応を生じさせる。これは、ホットフラッシュを減少させることが知られている分子の有効性の範囲を理解すること、及び、新しい有効なリガンドの設計において広範な意味合いを有する。
【0024】
上述のように、ホットフラッシュは、女性において自然に発生し得る。これは、エストロゲンレベルが低下してホットフラッシュを引き起こす加齢の過程を通じてそうである。しかしながら、ホットフラッシュは例えば、ホルモン依存性がんの治療等、ホルモン依存性である他の疾患又は症状の治療によっても、男性及び女性において引き起こされ得る。本発明は、特にD2受容体ファミリーを介してHPG軸を標的とすることにより、ホットフラッシュの影響を減少させることを目的とする。したがって、D2受容体ファミリーに関連する特定の活性を有する分子は、ホットフラッシュを減少させるのに活性であり有効である。さらに、分子はまた、D2受容体ファミリーを用いたヘテロ二量体の形成に基づいて、段階的な反応で、有効である。D2受容体ファミリー特性の無差別な性質により、可能な組合せは多数ある。特異的なリガンド分子と形成される一意のヘテロ二量体の親和性は、ホットフラッシュの調節において起こる反応の程度を決定する。
【0025】
プラミペキソール(ミラペックス)は、閉経期の血管運動神経症状を含むホットフラッシュの阻止における、D2ファミリー受容体作動薬(D2、D3又はD4受容体に結合する)の一例として挙げられる。アルファ2作動薬(例えば、チザニジン又はクロニジン)との組合わせにおけるプラミペキソール(ミラペックス)は、閉経期の血管運動神経症状を含むホットフラッシュを阻止する活性が増強され、D2受容体ファミリー作動薬とアルファ2作動薬との組合せの有益な効果が増強され、それらが相乗的に機能してホットフラッシュの頻度及び強さを軽減させることが臨床的に証明されている。これらの組み合わされた物質により、効果の持続時間は長くなる。
【0026】
試験されたすべてのD2(D2、D3又はD4受容体に結合する)ファミリーメンバー、すなわち、ロピニロール、プラミペキソール、ロチゴチン及びピリベジルの、閉経期の血管運動神経症状を含む現在までのホットフラッシュの制御において観察された一意の活性に基づき、現在又は将来のD2ファミリー(D2、D3又はD4受容体に結合する)作動薬はいずれも、単独で又は相乗的なアルファ2作動薬との組合せにおいて、閉経期の血管運動神経症状を含むホットフラッシュの制御に有効であることをエビデンスは証明する。
【0027】
最後に、観察に基づいて、特異的D
2受容体ファミリー(例えば、パロキセチン、ベンラファキシン等)に関連しないリガンド分子は、ヘテロ二量体形成を介するD
2受容体ファミリー(D
2、D
3又はD
4)での間接的な活性と矛盾せず、閉経の血管運動症状を含むホットフラッシュの軽減における使用に段階的に有効である(
図3)。
【0028】
これらの多様な組成を有するリガンド分子は、それでもなお、加齢(閉経)、卵巣の外科的切除又は補助ホルモン療法の結果のいずれの自然事象によって引き起こされるかに関わらず、男性と女性の両方で、ホットフラッシュの緩和において幅広い用途を有する。これらの後者の状況は、閉経の血管運動神経症状の範囲を超えているが、それでも、特異的にD2受容体ファミリーを介してHPG軸を標的化することによって効果的に治療されるホットフラッシュの症状に寄与する。本発明は、非常に一般的な問題への長年の要望を満たし、また、女性の乳がん又は男性の前立腺がん等のホルモン駆動悪性腫瘍の治療のための補助治療を患者が耐える助けとなるであろう。
【実施例】
【0029】
臨床研究
女性の閉経期症状を治療するとき、D2受容体ファミリー活性を有する種々の分子(D2、D3、又はD4ドーパミン作動薬)は、とりわけアルファ2アドレナリン作動薬と組み合わされるとき、ホットフラッシュを含む閉経期症状を非常によく制御することが、臨床研究によって明らかに示されている。ロピニロール(D2受容体ファミリードーパミン作動薬)とチザニジン(アルファ2アドレナリン作動薬)を用いて4人の女性を治療することにより、これらの女性の症例研究を行った。D2作動薬単独でのホットフラッシュの治療の有効性が、本研究を通して実証された。ホットフラッシュの軽減は、アルファ2アドレナリン作動薬を用いた追加治療を通じて、さらに増強された。この組合せにより、長期にわたる臨床的ベネフィットが得られた。
【0030】
ロピニロールを4mgまで増量して患者を治療し、ホットフラッシュに影響を及ぼす中枢神経系内のドーパミン作動性調節経路の仮説を検証した。ドーパミン作動薬ロピニロールを、初回投与量0.25mgから就寝時の最終投与量4mgまで漸増させたが、副作用を伴うことはなく、以前は耐え難かった閉経期のホットフラッシュの発生を劇的に止めた。
【0031】
第1の女性JKは、58歳の女性で、不眠症の症状を経験し始め、最初に低用量ホルモン補充療法(HRT)を受けたが、睡眠サイクルにベネフィットは生じなかった。HRTの服用量と処方の2つを変更したにもかかわらず、睡眠サイクルにおける有意なベネフィットは得られなかった。ゾルピデム、ザレプロン、テマゼパム又はクロナゼパム等の標準的な鎮静睡眠薬を用いた睡眠問題の治療もなされなかった。その後、ホットフラッシュが始まり、その頻度と強さは激しくなっていった。これらは、顔及び上胸部の激しい紅潮と大量の発汗を特徴とした。1回のホットフラッシュは、典型的には30~90秒続き、激しい熱感を伴った。その後、正常な生理機能である汗の蒸発を反映する冷えていく感覚を伴いながら、ホットフラッシュは急速におさまった。日中と夜間の両方で、次のホットフラッシュが起こるまでの時間は、10~90分であった。ホットフラッシュは、1日に20~30回の頻度で起きることが多く、ピーク時には40回もの頻度であったが、毎回同じ強さではなかった。
【0032】
治療は、まず睡眠を補助する目的で、非選択的アルファ2アドレナリン作動薬、チザニジンで開始した。チザニジンは、割れ目のついた4mgの錠剤として入手可能であり、容易に1mgずつに4分割できる。したがって、初回投与量は、就寝時に1mgとし、必要に応じて4日ごとに増量し、必要であれば、通常は就寝時の最大8mgまで増量した。ただし、就寝時に最大量の8mgを服用しなかった場合、夜間に目を覚まし寝付けないと思った場合には、患者は、チザニジンの残量を飲み切ることが許可されたが、一晩に合計8mgを超えないこととされた。これは必ずしも必要ではなく、彼女は一旦入眠すると朝まで眠ることができ、稀に目を覚ましたとしてもすぐに睡眠に戻ることができた。
【0033】
安全監視には、肝臓機能、低血圧又はこれが達成されたときの異常な夢の問題がないことを確認することが含まれた。チザニジンは、必要な場合、4時間の睡眠ウィンドウ(sleep window)があれば、翌朝への「持ち越し」効果を引き起こすことなく、夜間に再投与することができた。
【0034】
この女性はホルモン受容体陽性乳がんと診断されていたため、HRTはホットフラッシュ制御のための選択肢ではなかった。彼女は乳がんの既往があるため、ホットフラッシュの潜在的治療にさらなる課題を抱えていた。末梢神経障害の原因となる化学療法を受けたことがあったことが、その一因であった。その結果、圧倒的な体温上昇の感覚が、両足に常に感じる神経障害の凍えるような冷感と正反対であったため、彼女が経験したホットフラッシュはさらに強く知覚された。さらに、彼女は、エストロゲンとプロゲステロンの産生を遮断する薬剤であるアロマターゼ阻害剤(アナストロゾール、1mg/日)を投与されており、事実上、抗HRTであった。これは、ホットフラッシュを、この種の薬剤の副作用として知られる「スーパー」ホットフラッシュへとさらに悪化させた。彼女の場合、「スーパー」ホットフラッシュは、以前に経験したことのある閉経期のホットフラッシュの強さをはるかに超えるものであった。このようなホットフラッシュは壊滅的な影響を与えた。このようなホットフラッシュは、彼女が正常に機能するのを妨げ、彼女は下着や衣服の着替えを持って職場に行くことが必要となり、彼女の睡眠を妨げ、彼女の日常生活の正常な活動において機能する能力を妨げた。このようなホットフラッシュは、効率的に車の運転をし、職務を正確に遂行する能力の点で、彼女自身と他者の安全にも影響を与えた。
【0035】
ホットフラッシュの頻度及び重症度を50%低下させることに部分的に成功した、医学文献に報告されている他の代替薬を、報告されている用量まで漸増することにより評価し、少なくとも2週間の試験の間、その用量で維持した。これには、最大0.4mgのクロニジン、最大1800mgのガバペンチン、及び、最大300mgのベンフラキサミンが含まれた。しかしながら、これらは、この個体においてホットフラッシュを25%を超えて減少させるのに満足のいくものではなかった。したがって、これらの薬剤を用いた試験が不成功に終わった後、焦点をドーパミン作動薬である新規な薬剤、ロピニロールを用いた試験に切り替えた。
【0036】
ロピニロールでは、目標は、視床下部内のD2及びD3受容体に対する作用を介して、GnRHを調節すること、及び、閉経に特有の抑制されていないLHパルスを制御することとされてきた。この目的のために使用されてきた従来のドーパミン作動薬は効果がなく、D1及びD5受容体に働きかけるため、D2及びD3受容体の分子に対して逆の作用を有していた。D1及びD5受容体とD2、D3及びD4受容体の反応は、正反対である。
【0037】
ロピニロールの漸増は、就寝時の0.25mgから開始され、そして、忍容性があれば、ホットフラッシュの頻度及び重症度の両方が低下するまで、4日ごとに0.25mgずつ最大1mgまで用量を漸増させて行われた(すなわち、0.25mg、0.50mg、0.75mg、1mg)。さらに高用量が必要な場合は、4日ごとに0.25mg刻みの漸増を継続しながら、最大4mgに達するまで、1mgを服用してその後に2mgの両方、及び、1mgと2mgの両方のロピニロール錠剤を使用した。この女性のホットフラッシュの臨床抑制を達成するためにさらに高用量のロピニロールを投与する必要はなく、悪心、幻覚又はイライラ感などの副作用が生じる可能性が高かったため、試験は実施されなかった。
【0038】
このプロトコールでは、この患者が、寝付くまで2時間も何度も寝返りを打つのではなく、15~20分以内に入眠できるよう補助することができた。さらに、この患者はこの治療で、朝まで7~8時間の睡眠をとることができたが、治療なしでは、一旦入眠すると、1時間当たり2~3回の範囲で目を覚ました。
【0039】
ロピニロールとチザニジンの組合せは、この患者が治療前に経験していたホットフラッシュの頻度及び重症度を翌夕の次回投与まで完全に解消することにより、入眠、睡眠の維持、有意なさらなる緩和を助ける新たな組合せであった。これは、従来の利用可能な選択肢と比較して、非常に有意かつ劇的に顕著な改善であった。ロピニロールは、D2、D3及びD4受容体に対するドーパミン作動薬としてホットフラッシュを減少させることが証明された。ロピニロールとチザニジンの新たな組合せはまた、最も強い血管運動神経性を有する、最も重症なタイプのホットフラッシュを完全に解消するのにも有効であった。この新たな組合せは、これらの症状の頻度及び強さを完全に停止させた。ロピニロールの投与を除外すると、症状は再発した。ロピニロール4mgを再投与すると、ホットフラッシュは再び治まった。ロピニロールとチザニジンの組合せによる緩和の持続期間は、1日1回の投与を可能とした。
【0040】
2番目の女性JMは、26年間にわたり多発性硬化症(MS)を有する52歳の女性である。彼女は、視力低下、脊髄症状による歩行不能、失禁を伴う重度の神経性膀胱障害、倦怠感、終日何度も発生し、激しい発汗を引き起こすホットフラッシュ、及び、身体を打ち負かすような熱感を経験していた。皮肉なことに、熱感と共に、圧倒的な脱力感及び倦怠感があった。これはおそらく、MSにおける「偽増悪」現象として知られるものを反映していた。すでに物理的に損傷を受けているが、いくらか生理学的に補償されている中枢神経系(CNS)神経線維が、体温が上昇するにつれ補償能力を失うことがある。これらの神経線維の機能は、体温が下がるにつれて、再び向上し得る。
【0041】
患者JMは極めて温度に敏感であり、冷えた状態でいられるようにという、まさにこの目的のためにクーリングベストを着用している。ホットフラッシュ調節のためのロピニロールによる治療の前、JMは、1日15~20回の範囲のホットフラッシュを経験しており、顔と胸部の重度の紅潮と関連する脱力感を伴っていた。彼女は、手持ち式のバッテリー作動ファンを用いて、そして、氷のように冷たい飲料を飲むことによって、自分自身を冷やそうとしていた。このような努力は、脱力感を伴うホットフラッシュの持続時間を短縮することにより、症状にある程度の改善が得られたが、再発エピソードを予防することはなかった。ホルモン補充療法(HRT)は、MSによる麻痺に起因する不動及び喫煙歴を理由とする、深部静脈血栓症(DVT)の高リスクプロファイルのため、この女性にとって容認できる選択肢ではなかった。
【0042】
彼女は、痙縮の治療のためにチザニジンを使用しており、その用量は、睡眠を促進するために就寝時の8mgに調整されており、その効果を奏していた。さらに、彼女は、ロピニロールの用量を就寝時の1日4mgまで漸増され、これは副作用なしに、血管運動神経性(ホットフラッシュ)を完全に排除した。ロピニロールとチザニジンの組合せは、長い持続期間というベネフィットをもたらして、1日1回の投与を可能にした。さらに、MSの偽増悪現象の解消も認められた。これら2剤の組合せは、不動及び喫煙による血管合併症の高リスク(DVT)のためにHRTが禁忌である状況下において、入眠及び睡眠の維持を補助し、閉経によるホットフラッシュを完全に排除する新しい薬を生み出した。
【0043】
3番目の女性DHは、多発性末梢神経損傷と糖尿病を有するの53歳女性である。この女性は2年前に閉経期に入り、ホットフラッシュという閉経期症状を発症した。ホットフラッシュは、1日に15~20回の頻度であり、1回の持続期間は15~30秒間であった。これらのホットフラッシュの間、顔及び胸部の紅潮及び発赤と、関連する玉のような汗が生じて、彼女の朝までぐっすりと正常な睡眠をとる能力を妨げていた。ホットフラッシュ発症前でも、この女性は、鎮静睡眠薬であるテマゼパムを使用して入眠できていた。
【0044】
ホットフラッシュの発症後、夜中にホットフラッシュに関連して大量の汗をかき、発汗後、非常に寒さを感じるために、夜通し眠ることが難しいと感じるようになった。HRTは、彼女の糖尿病のコントロールに伴う代謝の問題のため、容認できる治療方法ではなかった。その後、彼女は、他の患者と同様に、8mgまで漸増された就寝時のチザニジンと、4mgまで漸増された就寝時のロピニロールの両方の組合わせを投与された。彼女の睡眠は改善し、ホットフラッシュはロピニロール(4mg)とチザニジン(8mg)の両方を1日1回就寝時に服用することで完全に解消し、好ましくない副作用はなかった。
【0045】
ホットフラッシュの停止は、中断されることのない睡眠と相まって、就業日をより生産的なものにするだけでなく、注意力が不可欠な自動車の運転等の活動に関して、より安全な一日をもたらす。彼女の糖尿病は、非常によくコントロールされた状態であった。
【0046】
第4の女性であるPWは、慢性神経障害性疼痛障害を有する48歳の女性で、大多数の人より若年で閉経期に入ったが、大多数の人のように、有意な症状として大量の寝汗を伴うホットフラッシュを発症した。ホットフラッシュは、顔の潮紅と胸部の紅潮を伴った。これらのエピソードは、それぞれ15~30秒続き、1日当たり10~15回発生した。患者はすでに神経障害性疼痛と関連する抑鬱に対してクロニジン、ガバペンチン及びベンフラキサミンによる治療を受けており、これらの薬剤にもかかわらず、そのようなホットフラッシュの症状を発症した。ホルモン補充療法(HRT)は、彼女の抑鬱を悪化させる可能性があるため禁忌であった。チザニジン4mgは、睡眠のために就寝時の8mgまで漸増され、ロピニロールによる治療が開始されて、就寝時の4mgまで漸増された。彼女は、就寝時にそのロピニロール4mgで睡眠し、好ましくない副作用なしに、ホットフラッシュの頻度と重症度が完全に解消された。彼女はそれまで過敏性及び集中力の欠如の症状が現れていたが、ホットフラッシュが軽減し、睡眠が改善するにつれて、その症状も改善したと思われた。
【0047】
これらの2つの薬剤(ロピニロール及びチザニジン)の組合せは、医学文献に潜在的に有益であると記載されている他の薬物に対して抵抗性であったホットフラッシュの頻度及び重症度を完全に排除することによって、入眠、睡眠の維持及び有意な軽減を助ける新しい組合せである。この組合せを利用するベネフィットの持続時間は、1日1回の投薬を可能にする。HRTは、疼痛障害に関連して既に変容している彼女の心的状態にマイナスの影響を及ぼす可能性があるため、この患者にとって容認できる代替法ではなかったであろう。この新しい薬は、彼女の強い血管運動神経症状(ホットフラッシュ)を完全に排除し、睡眠能力を向上させるのに有効であった。
【0048】
閉経期の最も耐えがたい症状のうちの2つが、ホットフラッシュと正常な睡眠パターンが崩れることである。これらの症状のそれぞれに個別に対処する試みは数多く行われてきたが、これまでの治療方法では症状を十分に解消することはできず、多くはさらなる健康リスクを生み出している。さらに、これらの症状の両方に対処した薬は存在しない。本発明は、女性の閉経期の症状、特にホットフラッシュを軽減し制御するためのD2受容体ファミリードーパミン作動薬の新規な使用を説明する。ドーパミン作動薬として、ロピニロールは、D2、D3、又はD4受容体、特にD3部位に結合すると考えられている。この親和性は、下垂体でのLH及びFSHの産生を減少させるGnRHの産生を阻害する。LH及びFSHは血管拡張因子であり、LH及びFSHの拍動レベルが低くなると、ホットフラッシュの発生率が低下する。
【0049】
別の臨床研究では、非常に重い血管運動神経性ホットフラッシュ及び睡眠障害を有する女性、計6例を対象に、ロピニロール(4mg)(D2、D3又はD4ドーパミン作動薬)、チザニジン(4mg)(アルファ2アドレナリン作動薬)、クロニジン(0.1mg)(アルファ2アドレナリン作動薬)、ロチゴチン(1mg)(D2、D3又はD4ドーパミン作動薬)、プラミペキソール(1.5mg)(D2、D3又はD4ドーパミン作動薬)、又は、鎮静薬として使用されているD2拮抗薬クロルプロマジン(25mg)又はハロペリドール(1mg)のいずれかを用いて評価及び治療した。患者には、最大4週間、引用された用量でレジメンが作成された。
【0050】
症状は、0から4までの尺度で評価した。血管運動神経症状の頻度、重症度、発汗、入眠及び夜間覚醒のいずれかの発現を、0は影響なし、1は軽度、2は中等度、3は重度、4は非常に重度として、各患者について、治療期間の終了時に評価した。報告される知見は、研究の対象となった6人の女性の報告された症状の平均に基づいている。
【0051】
具体的には、ホットフラッシュの頻度については、1日当たりのホットフラッシュの回数に基づいて評価した。ホットフラッシュの頻度は、0~4の尺度で等級付けされた。0は検出なし、1は1~4回/日(軽度)、2は5~8回/日(中等度)、3は9~12回/日(重度)、及び、4は12回超/日(非常に重度)であった。
【0052】
ホットフラッシュの持続時間を反映するホットフラッシュの重症度もまた、0~4の尺度で等級付けされた。0は検出なし、1は軽度(1分未満)、2は中等度(1~2分)、3は重度(2~3分)、及び、4は非常に重度(4分超)であった。この評価は、個体により等級を判断された持続時間及び強度を反映する。
【0053】
発汗応答も同様に、0~4の尺度で等級付けされた。0は検出なし、1は軽度(最小限に湿った皮膚)、2は中程度(皮膚の水分)、3は重度(顕著な発汗、毛髪、耳、首、胸部)、及び、4は非常に重度(大量発汗)であった。
【0054】
入眠もまた、0~4の尺度で等級付けされた。0は問題なし(15分未満)、1は軽度(15~20分)、2は中等度(20~40分)、3は重度(40~60分)、及び、4は非常に重度(60分超)であった。
【0055】
覚醒も同様に、0~4の尺度で等級付けされた。0は検出なし、1は軽度(1~5回/夜)、2は中等度(5~10回/夜)、3は重度(10~15回/夜)、及び、4は非常に重度(15回超/夜)であった。
【0056】
D2受容体ファミリー(D2、D3又はD4)作動薬、ロピニロール、ロチゴチン及びプラミペキソールを調べ、D2受容体ファミリー拮抗薬、クロルプロマジン又はハロペリドールと比較した。ロピニロール及びプラミペキソールは、単独で、及び、アルファ2アドレナリン作動薬、チザニジン又はクロニジンのいずれかとの組合せで評価した。
【0057】
さらに、ベンラファキシン、パロキセチン、ガバペンチン及びプレガバリンは、D2受容体と相互作用してこれに作用し、D2作動薬としての効果を生み出す。ベンラファキシン及びパロキセチンは、D2受容体とヘテロ二量体を形成し、D2作動薬に類似した反応を生じさせる。さらに、ガバペンチン及びプレガバリンと、D2受容体ファミリーとの間にも多くの相互作用が存在する。これは、ドーパミンの放出を引き起こし、N型カルシウムチャネル受容体への作用を含む。ベンラファキシン、パロキセチン、ガバペンチン及びプレガバリンも、チザニジンとの比較において評価した。
【0058】
【0059】
6例全例が、治療なしでは、非常に重い症状を経験していた。ロピニロール、ロチゴチン又はプラミペキソール単独では、血管運動神経症状の頻度及び重症度の顕著な低下、並びに、発汗の減少が認められた。睡眠への影響は限定的であった。チザニジン又はクロニジンのいずれか単独では、血管運動神経症状の軽減はわずかであったが、睡眠においては著しい効果が認められた。ロピニロール又はプラミペキソールと、チザニジン又はクロニジンのいずれかとの組合せは相乗的であり、より高い効果が得られた。さらに、D2受容体ファミリー作動薬とアルファ2作動薬との組合せでは、D2作動薬の単独使用の場合よりも効果の持続期間が長かったため、1日1回の投薬が可能であった。ベンラファキシン(75mg)、パロキセチン(20mg)、ガバペンチン(300mg)及びプレガバリン(50mg)も、未治療例よりホットフラッシュの症状を減少させた。チザニジン(4mg)をベンラファキシン、パロキセチン、ガバペンチン及びプレガバリンと共に投与したとき、この組合せは相乗的で、ホットフラッシュ症状や他の血管運動神経症状の軽減において、より高い効果が得られた。
【0060】
これとは対照的に、D2受容体ファミリー拮抗薬、クロルプロマジン又はハロペリドールは、閉経期症状を悪化させ、これらの症状の発現におけるD2受容体ファミリーの重要な役割を裏付けた。
【0061】
別の臨床研究では、D2、D3又はD4ドーパミン作動薬と、アルファ2アドレナリン作動薬との組合せによる治療の結果は、これらの化合物を単独で用いた治療の累積効果よりも有益であることがわかった。これにより、D2、D3又はD4ドーパミン作動薬と、アルファ2アドレナリン作動薬とが相乗的に作用することが示された。この研究では、閉経期の血管運動神経症状と睡眠障害を有する女性、計8例を対象に、ロピニロール(4mg)(D2、D3又はD4ドーパミン作動薬)、チザニジン(4mg)(アルファ2アドレナリン作動薬)、ラメルテオン(8mg)(鎮静薬として分類されていないが鎮静作用を有する物質)、ロピニロール(4mg)/チザニジン(4mg)又は、ロピニロール(4mg)/ラメルテオン(8mg)のいずれかを就寝時に用いて評価及び治療した。患者には、最大4週間、引用された用量でレジメンが作成された。
【0062】
症状は、1から4までの尺度で評価した。血管運動神経症状の頻度、重症度、発汗、入眠及び夜間覚醒のいずれかの発現を、1は軽度、2は中等度、3は重度、4は非常に重度として、各患者について、治療期間の終了時に評価した。知見は、研究対象となった8人の女性の報告された症状の平均に基づいている。
【0063】
具体的には、ホットフラッシュの頻度については、1日当たりのホットフラッシュの回数に基づいて評価した。ホットフラッシュの頻度は、1~4の尺度で等級付けされた。1は1~4回/日(軽度)、2は5~8回/日(中等度)、3は9~12回/日(重度)、及び、4は12回超/日(非常に重度)であった。
【0064】
ホットフラッシュの重症度は、1~4の尺度で等級付けされた。1は軽度(1分未満)、2は中等度(1~2分)、3は重度(2~3分)、及び、4は非常に重度(4分超)であった。この評価は、個体により等級を判断された持続時間及び強度を反映する。
【0065】
発汗応答は、1~4の尺度で等級付けされた。1は軽度(最小限に湿った皮膚)、2は中程度(皮膚の水分)、3は重度(顕著な発汗、毛髪、耳、首、胸部)、及び、4は非常に重度(大量発汗)であった。
【0066】
入眠は、1~4の尺度で等級付けされた。1は軽度(15~20分)、2は中等度(20~40分)、3は重度(40~60分)、及び、4は非常に重度(60分超)であった。
【0067】
覚醒は、1~4の尺度で等級付けされた。1は軽度(1~5回/夜)、2は中等度(5~10回/夜)、3は重度(10~15回/夜)、及び、4は非常に重度(15回超/夜)であった。
【0068】
【0069】
8例全例が、治療なしでは、非常に重い症状を経験していた。ロピニロール単独では、血管運動神経症状の頻度及び重症度に顕著であるが不完全な低下、並びに、発汗の減少が認められた。睡眠への影響は限定的であった。チザニジン単独では、血管運動神経症状の軽減はわずかであったが、睡眠においてはより著しい効果が認められた。睡眠薬、ラメルテオンは、血管運動神経症状には何ら影響を及ぼさず、この閉経期の患者集団においては、睡眠に限定的な影響を及すのみであった。ロピニロールとチザニジンとの組合せは相乗的であり、各薬剤を単独で使用した場合に示される効果よりも、血管運動神経症状及び睡眠に対する効果がさらに顕著であった。血管運動神経症状は完全に解消され、入眠までの時間は有意に改善し、覚醒も有意に減少した。D2受容体ファミリー作動薬とアルファ2作動薬との組合せでは、D2作動薬単独よりも効果の持続期間が長かったため、1日1回の投薬が可能であった。これとは対照的に、ロピニロールとラメルテオンとの組合せでは、各薬剤の単独使用の場合と差はなかった。
【0070】
本発明は、本発明の全ての目的を果たし、従来技術の限界を克服する好ましい実施形態の形で上記のように開示された。本発明の教示からの様々な変更、修正及び変更は、本発明の意図された精神及び範囲から逸脱することなく、当業者によって企図され得る。本発明は、添付の特許請求の範囲の記載によってのみ限定されることが意図される。
【手続補正書】
【提出日】2022-03-10
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホットフラッシュの治療
のための医薬の調製における、
D
2、D
3又はD
4ドーパミン受容体に結合することができるドーパミン
受容体作動薬
の使用。
【請求項2】
前記
ドーパミン受容体作動薬が、錠剤中
で、液体形態
で経口
的に、液体形態
で静脈内
に、経皮パッチを使用
して、
又は吸入によ
って投与
される、請求項1に記載の
使用。
【請求項3】
ホットフラッシュの治療
のための医薬の調製における、
D
2、D
3又はD
4ドーパミン受容体に結合することができるドーパミン受容体作動薬、
及びアルファ2アドレナリン受容体に結合することができるアルファ2アドレナリン
受容体作動薬
の使用。
【請求項4】
前記ドーパミン
受容体作動薬
が、錠剤中
で、液体形態
で経口
的に、液体形態
で静脈内
に、経皮パッチを使用
して、
又は吸入によ
って投与
され、並びに、
アルファ2アドレナリン
受容体作動薬
が、錠剤中
で、液体形態
で経口
的に、液体形態
で静脈内
に、経皮パッチを使用
して、
又は吸入によ
って投与
される、請求項3に記載の
使用。
【請求項5】
ホットフラッシュの治療のための組成物であって、
D
2、D
3又はD
4ドーパミン受容体に結合することができるドーパミン作動薬である物質と、
アルファ2アドレナリン作動薬である物質とを含む、組成物。
【請求項6】
錠剤として個体に投与することができる形態を構成する、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記組成物は、錠剤として個体に投与することができる形態を構成し、
前記ドーパミン作動薬及び前記アルファ2アドレナリン作動薬は、前記錠剤内に別々に配置される、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物は、錠剤として個体に投与することができる形態を構成し、
前記ドーパミン作動薬及び前記アルファ2アドレナリン作動薬は、前記錠剤内に組み合わせられる、請求項6に記載の組成物。
【請求項9】
液体として個体に経口投与することができる形態を構成する、請求項5に記載の組成物。
【請求項10】
液体として個体に静脈内投与することができる形態を構成する、請求項5に記載の組成物。
【請求項11】
吸入により個体に投与することができる形態を構成する、請求項5に記載の組成物。
【請求項12】
D
2、D
3又はD
4ドーパミン受容体に結合することができるドーパミン作動薬である前記物質は、ロピニロール、ロチゴチン、プラミペキソール、ピリベジル、ベンラファキシン、パロキセチン、ガバペンチン、及び、プレガバリンからなる群より選択され、並びに、
アルファ2アドレナリン作動薬である前記物質は、チザニジン及びクロニジンからなる群より選択される、請求項5に記載の組成物。
【国際調査報告】