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特表2022-532874白質ジストロフィーの治療のための組成物および方法、ならびに白質ジストロフィーの治療のための有効な薬剤を同定するための動物全体および細胞モデル
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-20
(54)【発明の名称】白質ジストロフィーの治療のための組成物および方法、ならびに白質ジストロフィーの治療のための有効な薬剤を同定するための動物全体および細胞モデル
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/113 20100101AFI20220712BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20220712BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20220712BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20220712BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALI20220712BHJP
   A61K 31/713 20060101ALI20220712BHJP
   A61K 31/711 20060101ALI20220712BHJP
   A61K 9/127 20060101ALI20220712BHJP
   A61K 9/51 20060101ALI20220712BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20220712BHJP
   A01K 67/027 20060101ALI20220712BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20220712BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20220712BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20220712BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20220712BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20220712BHJP
   A61K 38/17 20060101ALN20220712BHJP
   C12N 5/10 20060101ALN20220712BHJP
【FI】
C12N15/113 Z
A61K48/00 ZNA
A61P25/00
A61K31/7088
A61K31/7105
A61K31/713
A61K31/711
A61K9/127
A61K9/51
A61K35/76
A01K67/027
C12N15/12
C12Q1/02
C12N15/09 100
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
A61K38/17
C12N5/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021566128
(86)(22)【出願日】2020-05-11
(85)【翻訳文提出日】2022-01-06
(86)【国際出願番号】 US2020032364
(87)【国際公開番号】W WO2020227713
(87)【国際公開日】2020-11-12
(31)【優先権主張番号】62/924,910
(32)【優先日】2019-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/845,637
(32)【優先日】2019-05-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
2.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】301040958
【氏名又は名称】ザ・チルドレンズ・ホスピタル・オブ・フィラデルフィア
【氏名又は名称原語表記】THE CHILDREN’S HOSPITAL OF PHILADELPHIA
(74)【代理人】
【識別番号】100104411
【弁理士】
【氏名又は名称】矢口 太郎
(72)【発明者】
【氏名】アルマッド、アクシャタ
(72)【発明者】
【氏名】ヴァンダーバー、アデリーナ、エル.
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
4B065
4C076
4C084
4C086
4C087
【Fターム(参考)】
2G045AA40
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ02
4B063QQ08
4B063QQ13
4B063QR31
4B063QR51
4B063QS38
4B063QX01
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AA91X
4B065AA93Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA01
4B065CA24
4B065CA46
4C076AA19
4C076AA65
4C076AA95
4C076BB11
4C076CC01
4C084AA13
4C084DC50
4C084MA24
4C084MA38
4C084MA66
4C084NA13
4C084NA14
4C084ZA02
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA24
4C086MA38
4C086MA66
4C086NA13
4C086NA14
4C086ZA02
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087CA12
4C087MA24
4C087MA38
4C087MA66
4C087NA13
4C087NA14
4C087ZA02
(57)【要約】
白質ジストロフィー、特にH-ABCの治療のための組成物および方法が開示されている。
【選択図】図1C
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト変異型Tubb4-aタンパク質をコードする核酸と作動可能に連結された、マウス細胞での発現を駆動するのに有効なプロモーターを有するゲノムを有するトランスジェニックマウスであって、前記ヒト変異型Tubb4-タンパク質が前記マウスのニューロンおよび/またはオリゴデンドロサイトで発現し、白質ジストロフィー表現型をもたらす、トランスジェニックマウス。
【請求項2】
請求項1記載のトランスジェニックマウスにおいて、前記Tubb4-タンパク質は、表1に記載の核酸によってコードされるものである、トランスジェニックマウス。
【請求項3】
請求項1記載のトランスジェニックマウスにおいて、Tubb4-タンパク質は、Tubb4aD249N変異体である、トランスジェニックマウス。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1つに記載のトランスジェニックマウスにおける白質ジストロフィーの存在を評価する方法であって、前記方法は、運動機能障害、歩行異常、運動失調、および生存率低下のうち1つ以上から選択される白質ジストロフィー症状を測定する工程を有し、TUBB4A導入遺伝子を欠く対照マウスと比較した前記症状の存在は、前記マウスが白質ジストロフィーを有することを示す、方法。
【請求項5】
白質ジストロフィーの治療のための候補化合物を同定する方法であって、前記方法は、
請求項1または請求項2記載のトランスジェニックマウス、または、請求項1または請求項2記載のトランスジェニックマウスのニューロンからの細胞、組織、または器官を、試験化合物と接触させる工程と、
前記試験化合物の存在下および非存在下での動物、細胞、組織、または器官の白質ジストロフィーに関連する物理的パラメータのレベルを測定する工程と、および、これらのパラメータの1つ以上を変化させる試験化合物を候補化合物として同定する工程と、
を有する、方法。
【請求項6】
請求項5記載の方法において、前記白質ジストロフィーに関連する物理的パラメータは、オリゴデンドロサイト数の減少、低髄鞘形成、小脳顆粒ニューロン喪失、線条体ニューロン喪失、髄鞘形成不全、髄鞘形成遅延、異常増加、運動失調、およびニューロン生存率の低下のうちの1つ以上から選択される、方法。
【請求項7】
低髄鞘形成および大脳基底核の萎縮(H-ABC)を治療するための治療候補化合物を同定する方法であって、前記方法は、H-ABCのモデルマウスである請求項1~3のいずれか1つに記載のトランスジェニックマウスを試験化合物に曝す工程と、前記試験化合物の存在下および非存在下で、前記マウスにおける白質ジストロフィーの1つ以上のパラメータを測定する工程と、前記1つ以上のパラメータを改善する試験化合物を治療候補化合物として同定する工程とを有する、方法。
【請求項8】
請求項7記載の方法において、前記1つ以上のパラメータは、オリゴデンドロサイト数の減少、低髄鞘形成、小脳顆粒ニューロン喪失、線条体ニューロン喪失、髄鞘形成不全、髄鞘形成遅延、異常増加、運動失調、およびニューロン生存率の低下のうちの1つ以上から選択される、方法。
【請求項9】
低髄鞘形成および大脳基底核の萎縮(H-ABC)を治療するための治療候補化合物を同定する方法であって、前記方法は、
a)i)TUBB-4A突然変異を有する対象と
ii)TUBB4-Aの突然変異を欠く対照対象
からPBMCを得る工程と、
b)工程a)の単球を再プログラムして、人工多能性幹細胞(iPSC)を生成する工程と、
c)iPSCを線条体有棘ニューロンの運命に向けて分化させる工程であって、前記細胞は、DARPP32、CTIP2、GABAおよびFoxP1から選択される1つ以上のマーカーを発現する、分化させる工程と、
d)前記細胞を前記化合物と接触させて、前記化合物が、前記突然変異を欠く対照細胞と比較して、白質ジストロフィーの表現型に関連するパラメータを変化させるかどうかを評価する工程と、
を有する、方法。
【請求項10】
請求項9記載の方法において、前記細胞は、デュアルSMAD阻害プロトコルを適用することによって分化させる、方法。
【請求項11】
請求項9記載の方法において、分化した細胞は、DARPP32、CTIP2、GABAおよびFoxP1を発現する、方法。
【請求項12】
請求項9記載の方法において、前記パラメータは、細胞生存率の低下、有棘ニューロンマーカー発現の変化、および細胞形態またはシグナル伝達の変化のうち1つ以上から選択される、方法。
【請求項13】
請求項9記載の方法において、前記TUBB-4A突然変異は表1に記載されているものである、方法。
【請求項14】
請求項9記載の方法において、前記TUBB-4A突然変異はTubb4aD249Nである、方法。
【請求項15】
請求項9記載の方法において、前記薬剤は、TUBB-4Aの発現を低下させる、方法。
【請求項16】
請求項9記載の方法において、前記薬剤は、野生型TUBB-4Aの発現を増加させる、方法。
【請求項17】
野生型および変異型のTUBB4-Aの両方の発現をダウンモジュレートする化合物を有効量投与することにより、H-ABCの症状を改善する工程を有する、低髄鞘形成および大脳基底核の萎縮(H-ABC)白質ジストロフィーの治療または予防のための方法。
【請求項18】
請求項17記載の方法において、前記化合物は、短鎖ヘアピンRNA(shRNA)、短鎖干渉RNA(siRNA)、アンチセンスRNA、アンチセンスDNA、キメラアンチセンスDNA/RNA、マイクロRNA、およびTUBB4Aをコードする遺伝子またはmRNAのいずれかに十分に相補的であるリボザイムから選択される、方法。
【請求項19】
請求項18記載の方法において、前記化合物はsiRNAである、方法。
【請求項20】
請求項19記載の方法において、前記化合物はアンチセンスRNA、または、アンチセンス核酸である、方法。
【請求項21】
請求項20記載の方法において、前記アンチセンス核酸は、配列ID番号:1および配列ID番号:2から選択される、方法。
【請求項22】
TUBB4A遺伝子の発現をダウンモジュレートするアンチセンス核酸を、薬学的に許容される担体に有する医薬組成物。
【請求項23】
請求項22記載の医薬組成物において、前記アンチセンス核酸は配列ID番号:1である、医薬組成物。
【請求項24】
請求項22記載の医薬組成物において、前記アンチセンス核酸は配列ID番号:2である、医薬組成物。
【請求項25】
請求項22記載の医薬組成物において、前記アンチセンスオリゴヌクレオチドは、ナノ粒子に複合化される、医薬組成物。
【請求項26】
請求項22記載の医薬組成物において、前記アンチセンスオリゴヌクレオチドはリポソームに存在する、医薬組成物。
【請求項27】
薬学的に許容される担体において、目的の細胞におけるTUBB4Aの発現を増加させるためのTUBB4A野生型タンパク質をコードする核酸を有する、医薬組成物。
【請求項28】
請求項27記載の医薬組成物において、前記TUBB4Aをコードする核酸はコドン最適化されている、医薬組成物。
【請求項29】
請求項27または28記載の医薬組成物において、前記核酸は、UniProt,accession no.P04350-TBB4A_humanにおいて提供されるアミノ酸配列をコードする核酸、またはその機能的フラグメントをコードする核酸である、医薬組成物。
【請求項30】
請求項29記載の医薬組成物において、前記核酸は、発現ベクターまたはウイルスベクターに存在する、医薬組成物。
【請求項31】
請求項29記載の医薬組成物において、前記核酸またはベクターは、ナノ粒子に複合化される、医薬組成物。
【請求項32】
請求項29記載の医薬組成物において、前記核酸またはベクターは、リポソームに存在する、医薬組成物。
【請求項33】
TUBB4Aをコードする核酸のゲノム編集のための方法であって、前記方法は、
(a)対象にベクターを投与する工程であって、前記対象はヒトであり、前記ベクターは、CRISPR媒介塩基エディター3(BE3)システムの核酸成分およびガイドRNA(gRNA)を有し、前記gRNAは、TUBB4A遺伝子の突然変異を標的とする、投与する工程と、
(b)治療用遺伝子を塩基編集することにより、前記治療用遺伝子に修正コドンを導入する工程であって、前記塩基編集はベクターにより行われる、導入する工程と、
を有する、方法。
【請求項34】
請求項33記載の方法において、疾患の発症前に前記塩基編集が行われ、前記疾患が前記TUBB4A遺伝子の突然変異に起因する表現型である、方法。
【請求項35】
請求項33記載の方法において、前記修正コドンは、表1に記載の突然変異で導入される、方法。
【請求項36】
変異型Tubb4A遺伝子を保有する対象における低髄鞘形成および大脳基底核の萎縮(H-ABC)白質ジストロフィーの治療または予防のための方法であって、前記方法は、野生型TUBB4-Aタンパク質の発現を増加させ、それによってH-ABCの症状を改善する有効量の請求項29記載の組成物を投与する工程を有する、方法。
【請求項37】
請求項35記載の方法において、前記組成物は、野生型Tubb4-aタンパク質またはその機能的フラグメントをコードするベクターである、方法。
【請求項38】
Tubb4aを発現する核酸の発現をダウンモジュレートするsiRNA。
【請求項39】
Tubb4aの発現をダウンモジュレートするアンチセンス核酸。
【請求項40】
前述の請求項のいずれかに記載の方法を実施するためのキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2019年5月9日に出願された米国仮出願第62/845,637号、および2019年10月23日に出願された米国仮出願第62/924,910号の優先権を主張するものであり、前述の各出願の開示内容は、完全に記載されているかのように参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
電子形式で提出された資料の参照による組み込み
本明細書に参照により全体が組み込まれているのは、EFS-Webを介して提出されたSequenceListing.txtという名前のテキストファイルで、2020年5月7日に作成され、1,167バイトのサイズを持つ配列表である。
【0003】
発明の分野
本発明は、白質ジストロフィーの分野およびこの障害の症状を改善するための改善された治療法に関する。本発明はまた、白質ジストロフィー、特にH-ABCの治療または予防に有用な薬剤を同定するための動物全体のモデルを提供する。
【背景技術】
【0004】
発明の背景
本発明が関連する技術の状況を説明するために、本明細書全体を通していくつかの刊行物および特許文書が引用されている。これらの引用のそれぞれは、完全に記載されているかのように、参照により本明細書に組み込まれる。
【0005】
大脳基底核および小脳の萎縮を伴う低髄鞘症(H-ABC)は、散発的な、典型的にはTUBB4A遺伝子のヘテロ接合の突然変異によって引き起こされる白質ジストロフィーである(Simons et al., 2013a)。この遺伝子は、βチューブリン4aタンパク質をコードしており、αチューブリンとヘテロ二量体化して微小管に集合する。TUBB4Aの一重変異は、早期に発症する白質脳症から成人になってから発症する4型ジストニア(DYT4;嗄声発声障害)に至るまで、様々な神経疾患を引き起こす。H-ABCの影響を受けた個人は、このスペクトラムに含まれ、幼児期に、通常はジストニア(Hersheson et al., 2013)、進行性の歩行障害、言語障害、認知障害を示す。また、TUBB4Aの変異を持つ他の患者との違いは、神経画像上の特徴であり、尾状体と後頭葉の低髄化と萎縮、小脳の萎縮が見られる(van der Knaap et al., 2007)。
【0006】
病理標本では、背側線条体領域と小脳の顆粒層で、軸索の膨らみとミエリンのびまん性減少を伴う神経細胞の喪失が見られる (Simons et al., 2013a; Curiel et al., 2017b)。H-ABCに特徴的な症状を持つ個人は、発表された症例の約65%を占めており(Blumkin et al., 2014; Ferreira et al., 2014; Miyatake et al., 2014; Pizzino et al., 2014; Purnell et al., 2014)、共通の変異であるp.Asp249Asnの影響を受けている可能性が高い(166人のコホートにおける全変異の24.1%、以下、TUBB4AD249Nと呼ぶ)。H-ABCは現在のところ、重篤な乳児期早期変異型と若年成人期の軽度変異型の中間的な表現型と考えられている (Nahhas N, 2016)。
【0007】
TUBB4Aは、中枢神経系(CNS)、特に小脳と脳の白質路で高発現しており、線条体ではより緩やかな発現となっている(Hersheson et al., 2013)。細胞レベルでは、TUBB4Aは主に神経細胞とオリゴデンドロサイト(OL)系統のニューロンと細胞に局在し、成熟した髄鞘形成OLで最も高い発現を示す(Zhang et al., 2014)。TUBB4Aの発現パターンと関連する疾患の表現型は、神経細胞とオリゴデンドロサイトの両方でベータチューブリン4aタンパク質が機能的役割を果たしていることを示唆しているが、TUBB4Aの突然変異の病理学的メカニズムについてはほとんど知られていない。我々のグループは、OL細胞株およびマウス小脳神経細胞での過剰発現試験を用いて、より広範なTUBB4A変異の影響を報告した。OL細胞株でTubb4a変異D249Nを過剰発現させたところ、ミエリン遺伝子の発現が低下し、Tubb4aWT発現に比べて突起の少ない未熟なOLが形成された(Curiel et al., 2017b)。同様に、Tubb4aWTの発現と比較して、H-ABCの原因となるTubb4aD249N変異を用いて、軸索が短く、樹状突起が少なく、樹状突起の分岐が少ない異常な神経細胞の表現型を調べた(Curiel et al., 2017b)。他のTUBB4A変異は、特にニューロンおよび/またはOL細胞株でのみ表現型の異常を強調し、さまざまな臨床表現型に対応する変異特異的効果を示唆している。Tubb4aのホモ接合体であるp.Ala302Thr Tubb4a変異を有する自然発生ラットモデルであるtaiepラットは、脳、視神経および脊髄の一部の領域で低髄液圧表現型を示すことが報告されている。この特定の突然変異は、これまでヒトでは見られなかったものである。Taiepで観察された興味深い特徴は、微小管の蓄積であり、特にその後の脱髄を伴うOLでの蓄積であった(Duncan et al., 2017b)。現在のところ、H-ABCに特異的に関連するp.Asp249Asn変異の動物モデルは存在しない。
【0008】
このようなモデルや、衰弱性障害を治療するための新しい治療アプローチが必要であることは明らかである。
【発明の概要】
【0009】
本発明によれば、H-ABCのトランスジェニックマウスモデルが提供される。一態様では、マウスは、ヒトの変異型Tubb4-aタンパク質をコードする核酸に作動可能に連結されたマウス細胞での発現を駆動するのに有効なプロモーターを有するゲノムを有し、前記ヒト変異型Tubb4-タンパク質は、マウスのニューロンおよび/またはオリゴデンドロサイトで発現され、白質ジストロフィーの表現型を生成する。表1は、本明細書に記載されている動物モデル、細胞モデル、組成物および方法で使用することができる、変異型Tubb4をコードする核酸のリストを提供する。特定の実施形態では、変異型Tubb4-aタンパク質は、Tubb4aD249N変異体である。
【0010】
また、本発明は、上記トランスジェニックマウスにおける白質ジストロフィーの存在を評価する方法も提供し、前記方法は、トランスジェニックマウスにおいて、運動機能障害、歩行異常、運動失調、および生存率低下のうち1つ以上から選択される白質ジストロフィー症状を測定する工程を有し、変異型TUBB4A導入遺伝子を欠く対照マウスと比較した前記症状の存在は、当該マウスが白質ジストロフィーを有することを示す。
【0011】
別の実施形態では、白質ジストロフィーの治療のための候補化合物を同定する方法が提供される。例示的な方法は、トランスジェニックマウス、またはトランスジェニックマウスの神経細胞からの細胞、組織、または器官を試験化合物と接触させる工程と、前記試験化合物の存在下および非存在下で、動物、細胞、組織、または器官における白質ジストロフィーに関連する物理的パラメータのレベルを測定する工程と、これらのパラメータの1つまたは複数を変化させる試験化合物を候補化合物として同定する工程を有する。特定の実施形態では、白質ジストロフィーに関連する物理的パラメータは、オリゴデンドロサイト数の減少、低髄鞘形成、小脳顆粒ニューロン喪失、線条体ニューロン喪失、髄鞘形成不全、髄鞘形成遅延、異常増加、運動失調、およびニューロン生存率の低下のうちの1つ以上から選択される。
【0012】
別の態様では、低髄鞘形成および大脳基底核の萎縮(H-ABC)の治療のための治療候補化合物を同定する方法が開示される。例示的な方法は、H-ABCのトランスジェニックマウスモデルを試験化合物に曝す工程と、前記試験化合物の存在下および非存在下でマウスの白質ジストロフィーの1つまたは複数のパラメータを測定する工程と、1つまたは複数のパラメータを改善する試験化合物を治療候補化合物として同定する工程とを有する。
【0013】
さらに別の態様では、本発明は、低髄鞘形成および大脳基底核の萎縮(H-ABC)の治療のための治療候補化合物を同定する方法であって、前記方法は、TUBB-4A変異を有する対象およびTUBB-4A変異を有さない対照対象からPBMCを得る工程と、工程a)からの単球を再プログラムして人工多能性幹細胞(iPSC)を生成する工程と、デュアルSMAD阻害プロトコルを適用して、iPSCを線条体有棘ニューロンの運命に向けて分化させる工程であって、前記細胞は、DARPP32、CTIP2、GABAおよびFoxP1から選択される1つ以上のマーカーを発現する、分化させる工程と、前記細胞を前記化合物と接触させて、前記化合物が、前記変異を持たない対照細胞と比較して、白質ジストロフィーの表現型に関連するパラメータを変化させるかどうかを評価する工程とを有する。いくつかの実施形態では、パラメータは、細胞生存の低下、有棘ニューロンマーカー発現の変化、および細胞形態またはシグナル伝達の変化のうちの1つまたは複数から選択される。細胞は、表1に記載されるTUBB-4A変異のいずれかを保有する患者から得ることができる。
【0014】
H-ABCを治療するための別のアプローチは、TUBB4-Aの全体的な発現をダウンモジュレートし、それによってH-ABCの症状を改善する有効量の化合物の投与を伴う。特定の態様では、化合物は、短鎖ヘアピンRNA(shRNA)、短鎖干渉RNA(siRNA)、アンチセンスRNA、アンチセンスDNA、キメラアンチセンスDNA/RNA、マイクロRNA、および変異型Tubb4Aをコードする遺伝子またはmRNAのいずれかに十分に相補的であるリボザイムから選択される。
【0015】
治療のための別のアプローチでは、TUBB4Aをコードする核酸をゲノム編集する方法が開示される。例示的な方法は、対象者にベクターを投与する工程を有し、前記対象はヒトであり、前記ベクターは、CRISPR媒介塩基エディター3(BE3)システムの核酸成分およびガイドRNA(gRNA)を有し、前記gRNAは、TUBB4A遺伝子の変異を標的とする。治療用遺伝子を塩基編集することで、治療用遺伝子に修正コドンが導入され、前記塩基編集は前記ベクターによって行われる。
【0016】
変異型Tubb4A遺伝子を有する対象における低髄鞘形成および大脳基底核の萎縮(H-ABC)白質ジストロフィーの治療または予防のための別の方法は、野生型TUBB4-Aタンパク質の発現を増加させる化合物の有効量を投与することを含み、それによってH-ABCの症状を改善する。特定の実施形態では、発現の増加は、発現またはウイルスベクター、または核酸をコードする野生型TUBB4-Aを有するナノ粒子の導入を介した野生型TUBB4-Aの過剰発現によって達成される。
【0017】
最後に、本発明は、前述の請求項のいずれかに記載の方法を実施するためのキットを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1A-1M:Tubb4aD249N/D249Nマウスは生存率の低下、歩行異常、進行性の運動機能障害を示す(図1A)マウスのTubb4a遺伝子を示す模式図と、WT、Tubb4aD249N、およびTubb4aD249N/D249Nマウスのシークエンスチャート。赤い矢印はエクソン4の745ヌクレオチドの位置を示しており、WTはGの1つのピーク、Tubb4aD249Nマウスは「G」と「A」のそれぞれに1つのピーク、Tubb4aD249N/D249NマウスはTが2つのピークを示す。(図1B)WTと比較して重度のジストニアと運動失調を伴う末期(ES)のTubb4aD249N/D249Nマウス(~P35-P40)の代表的な画像。(図1C)WT同腹子と比較したTubb4aD249N/D249NおよびTubb4aD249Nマウスのカプランマイヤー生存曲線(ゲーハン・ブレスロウ・ウィルコクソン検定、n=28)。(図1D)行動テストの時間経過を表示する模式図。(図1E)はい歩きと歩行の様子を示す図:歩行測定では、はい歩きと歩行を採点した(表3参照)。はい歩きでは、後肢全体が地面につく(#)、尾が低い、または、地面につく(赤い矢印で示す)。はい歩きから歩行に移行する際には、頭が上がり始める。歩行は後肢のつま先が地面につき、踵が上がった状態でのみ見られ、[##]で示される。(図1F)Tubb4aD249N/D249NマウスのP7、P10、P14における歩行障害。二元配置分散分析とそれに続くテューキー事後分析による統計分析、n=10。(図1G)WT同腹子と比較したTubb4aD249NおよびTubb4aD249N/D249NのP7、P21、P35における歩行角度の代表的な画像。(図1H)P7、P14、P21、P28、P35におけるWT同腹子と比較したTubb4aD249NとTubb4aD249N/D249Nの歩行角度の測定。二元配置分散分析とそれに続くテューキー事後分析による統計分析、n=14。(図1I)ぶら下がり握力測定の図解。(図1J)Tubb4aD249NおよびTubb4aD249N/D249Nマウスの倒立角度で測定した握力をWTと比較した結果。一元配置分散分析とそれに続くテューキー事後分析による統計的検定、n=10。(図1K)WTと比較したTubb4aD249NおよびTubb4aD249N/D249NマウスのP21、P28、P35における落下までの待ち時間(秒)を示すローターロッドテスト、n=14。(図1L)P7からのTubb4aD249N、Tubb4aD249N/D249NおよびWTの体重測定のグラフ、n=10。(図1M)Tubb4aD249N、Tubb4aD249N/D249N、WTマウスの立ち直り反射の変化、n=14。統計的検定は、反復測定による二元配置分散分析を行い、テューキーの事後分析を行った。データは平均値とSEMで示した。p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。
図2図2A-2D:Tubb4aD249Nマウスは1年後に低髄鞘形成を示す(図2A)WTと比較したTubb4aD249Nマウスのカプランマイヤー生存曲線(ゲーハン・ブレスロウ・ウィルコクソンテスト、n=10)。(図2B)WTと比較したTubb4aD249Nマウスの9ヶ月齢および1歳におけるローターロッドテストのパフォーマンス(n=7~8)。(図2C)統計的検定は一元配置分散分析とテューキー事後検定で行った。(図2D)WTおよびTubb4aD249NマウスのESにおけるPLP(緑)。
図3図3A-3Z:Tubb4aD249N/D249Nマウスは髄鞘形成に重度の発達遅延を示す(図3A)免疫組織化学的アッセイの時間経過を示す模式図。(図3B)脳梁(CC)と小脳(Cb)の分析を示す模式図。(図3C-3D)脳梁におけるWT、Tubb4aD249N、Tubb4aD249N/D249Nのエリオクロムシアニン(Eri-C)染色(ミエリン[青])の代表的な末期画像(ES)(図3C)および定量化(図3D)。スケールバー=250μm(「$$$」はP21とESの間の有意差を示す)。(図3E-3F)小脳におけるWT、Tubb4aD249N、Tubb4aD249N/D249NのEri-C染色の代表的なES画像(図3E)と定量化(図3F)。スケールバー=1mm(「$$$$」はP21とESの間の有意差を示す)。(図3G-3J)1歳のTubb4aD249N/D249Nマウスに見られるCCでのEri-C染色の消失(図3Gおよび図3H)とMBP免疫染色の消失(図3Iおよび図3J)の代表画像と定量化。(図3K-3L)WT、Tubb4aD249N、Tubb4aD249N/D249Nマウスの脳梁におけるP14、P21、ESでのPLP(緑色)の代表的な末期画像(図3K)と定量化(図3L)。スケールバー=250μm。(図3M-3N)WT、Tubb4aD249N、Tubb4aD249N/D249Nマウスの前脳におけるP21およびESでの正規化されたPLPタンパク質レベルの代表的なウェスタンブロット画像(図3M)と定量化(図3N)。(図3O-3P)WT、Tubb4aD249N、Tubb4aD249N/D249Nマウスの小脳におけるP14、P21、ESでのPLP(緑色)の代表的な末期画像(図3O)と定量化(図3P)。スケールバー=1mm。(図3Q-3R)WT、Tubb4aD249N、Tubb4aD249N/D249Nマウスの小脳におけるP21およびESでの正規化したPLPタンパク質レベルの代表的なウェスタンブロット画像(図3Q)と定量化(図3R)。(図3S-3T)WT、Tubb4aD249N、Tubb4aD249N/D249Nマウスの小脳におけるP14、P21、ESでのMBP(赤)の代表的なES画像(図3S)と定量化(図3T)。スケールバー=250μm。(図3U-3V)WT、Tubb4aD249N、Tubb4aD249N/D249Nマウスの前脳におけるP21およびESでの正規化したMBPタンパク質レベルの代表的なウェスタンブロット画像(図3U)と定量化(図3V)。(図3W-3X)WT、Tubb4aD249N、Tubb4aD249N/D249Nマウスの小脳におけるP14、P21、ESでのMBP(赤)の代表的なES画像(図3W)と定量化(図3X)。(図3Y-3Z)WT、Tubb4aD249N、Tubb4aD249N/D249Nマウスの前脳におけるP21およびESでの正規化したMBPタンパク質レベルの代表的なウェスタンブロット画像(図3Y)と定量化(図3Z)。統計的検定は、二元配置分散分析を行い、テューキーの事後検定を行った。代表的なデータは、P14(P14時点でのTubb4aD249Nのn=3を除く)およびP21ではn=4マウス/グループ、ESではn=3マウス/グループである。データは平均値とSEMで示した。p<0.05および***および$$$p<0.001。
図4図4A-4F:脊髄の電子顕微鏡分析は、Tubb4aD249NおよびTubb4aD249/D249Nマウスが低髄鞘形成および髄鞘形成不全を示す。(図4A-F)WT、Tubb4aD249NおよびTubb4aD249/D249Nマウスの末期における腹側脊髄の代表的な電子顕微鏡(EM)画像。スケールバー=1μm(図4A-F)脊髄の高倍率画像は、WT、Tubb4aD249NおよびTubb4aD249/D249N組織における軸索(青いアスタリスク)のマクロファージ(M)媒介食作用を伴うTubb4aD249/D249N動物におけるミエリン鞘の厚さを示す。スケールバー=800nm。
図5図5A-5J:視神経の電子顕微鏡検査は、Tubb4aD249NおよびTubb4aD249/D249Nマウスが低髄鞘形成および髄鞘形成不全を示すことを示している(図5A-5Cおよび図5H-5J)。WT、Tubb4aD249NおよびTubb4aD249/D249Nマウスの末期における視神経の代表的な電子顕微鏡(EM)画像。スケールバー=800nm(図5A-5Cおよび図5H-5J)。WT、Tubb4aD249N、Tubb4aD249/D249Nの各動物におけるミエリン鞘の厚さを示す視神経の高倍率画像。赤いアスタリスク=無髄の軸索、黒いアスタリスク=薄く有髄の軸索である。スケールバー=400nm。(図5D)Tubb4aD249/D249N組織における軸索(青いアスタリスク)のマクロファージ(M)媒介食作用。スケールバー=2μm。(図5E)WT、Tubb4aD249N、Tubb4aD249/D249N組織の視神経におけるG比の測定。(図5F)WT、Tubb4aD249N、Tubb4aD249/D249N組織の軸索直径に対するG比の散布図。(図5G)軸索の直径をすべてのグループについてプロットした。各グループn=3動物で、動物あたり50本の軸索をカウントし、データは平均値とSEMで示した。データは平均値とSEMで示した。一元配置分散分析を行い、テューキー事後検定を行った。p<0.05、***p<0.001。
図6図6A-6G:Tubb4aD249/D249NマウスはP21で低髄鞘形成を示す。(図6A)免疫組織化学的アッセイの時間経過を表示する模式図。(図6B)WT、Tubb4aD249N、Tubb4aD249N/D249Nの脳梁におけるエリオクロムシアニン(Eri-C)染色(ミエリン[青])のP21代表的な画像。スケールバー=1mm(図6C)WT、Tubb4aD249N、Tubb4aD249N/D249Nマウスの脳梁におけるPLP(緑)の代表的なP21画像。スケールバー=250μm(図6D)WT、Tubb4aD249、Tubb4aD249N/D249Nマウスの脳梁におけるMBP(赤)の代表的なP21画像。スケールバー=250μm(図6E)小脳におけるWT、Tubb4aD249N、およびTubb4aD249N/D249N末期のエリオクロムシアニン(Eri-C)染色(ミエリン[青])の代表的なP21画像。スケールバー=1mm(図6F)WT、Tubb4aD249N、Tubb4aD249N/D249Nマウスの小脳におけるPLP(緑)の代表的なP21画像。スケールバー=1mm(図6G)WT、Tubb4aD249N、Tubb4aD249N/D249Nマウスの小脳におけるMBP(赤)の代表的なP21画像。スケールバー=250μm。
図7図7A-7J:Tubb4aD249N/D249Nマウスはオリゴデンドロサイト(OL)の数が減少している(図7A)免疫組織化学的アッセイの時間経過を示す模式図。(図7B)カウントを実行するために使用される脳梁の領域を示す模式図。(図7C)末期(ES)にあるWT、Tubb4aD249N、Tubb4aD249N/D249NマウスのASPA陽性OLの代表的な画像。スケールバー=50μmおよび25μm。(図7D)WT、Tubb4aD249N、Tubb4aD249N/D249NマウスのP14、P21、およびESにおけるASPA陽性OL数/mmの定量化。(図7E)ESでのWT、Tubb4aD249N、Tubb4aD249N/D249Nマウスにおける二重陽性NG2+Olig2+の代表的な画像。スケールバー=50μmおよび25μm。(図7F)WT、Tubb4aD249N、Tubb4aD249N/D249NマウスのP14、P21、ESにおける二重陽性NG2+Olig2+数/mmの定量化。(図7G)P14およびP21におけるn=4マウス/グループ(P14時点でのTubb4aD249Nのn=3を除く)、ESにおけるn=3マウス/グループとした2つの独立した実験の代表的なデータ。(図7H)WT、Tubb4aD249N/+、およびES Tubb4aD249N/D249NマウスのP14、P21、および~P35-P40における二重陽性NG2+カスパーゼ細胞/mm2の定量化。(図7I)ESでのWT、Tubb4aD249N/+、およびTubb4aD249N/D249Nマウスの二重陽性NG2+Ki-67細胞の代表的な画像。(図7J)WT、Tubb4aD249N/+、およびES Tubb4aD249N/D249NマウスのP14、P21、および~P35-P40における二重陽性NG2+Ki-67細胞/mm2の定量化。統計的検定は、二元配置分散分析を行い、テューキー事後検定を行った。データは平均値とSEMで示した。p<0.05および***p<0.001。
図8図8A-8G:Tubb4aD249/D249NマウスはP14で低髄鞘形成を示す(図8A)免疫組織化学的アッセイの時間経過を表示する模式図。(図8B)WT、Tubb4aD249N、Tubb4aD249N/D249Nの脳梁におけるエリオクロムシアニン(Eri-C)染色(ミエリン[青])の代表的なP14画像。スケールバー=1mm。(図8C)WT、Tubb4aD249N、Tubb4aD249N/D249Nマウスの脳梁におけるPLP(緑)の代表的なP14画像。スケールバー=250μm。(図8D)WT、Tubb4aD249N、Tubb4aD249N/D249Nマウスの脳梁におけるMBP(赤)の代表的なP14画像。スケールバー=250μm(図8E)小脳におけるWT、Tubb4aD249N、Tubb4aD249N/D249Nの末期のエリオクロムシアニン(Eri-C)染色(ミエリン[青])の代表的なP14画像。スケールバー=1mm(図8F)小脳におけるWT、Tubb4aD249N、Tubb4aD249N/D249NマウスのPLP(緑)の代表的なP14画像。スケールバー=1mm(図8G)小脳におけるWT、Tubb4aD249N、Tubb4aD249N/D249NマウスのMBP(赤)の代表的なP14画像。スケールバー=250μm
図9図9A-9J:Tubb4aD249N/D249Nマウスは、重度の小脳顆粒ニューロンの損失と、著しい線条体ニューロン喪失を示す(図9A)免疫組織化学的アッセイの時間経過を表示する模式図。(図9B)P40におけるWT、Tubb4aD249N、Tubb4aD249N/D249Nマウスの全脳マウントを示す模式図。(図9C)WTおよびTubb4aD249N/D249NマウスのP21およびP40における小脳のニッスル染色像。スケールバー=1mm(図9D)WTおよびTubb4aD249N/D249NマウスのP21および末期(ES)における小脳の顆粒状ニューロンを示すNeuN(緑)の代表的な画像。スケールバー=1mm。(図9E)P14、P21、およびESにおける小脳顆粒状ニューロン数/mmの定量化。(図9F)WTおよびTubb4aD249N/D249NマウスのP21およびESにおける、NeuN(緑)と切断型カスパーゼ3(赤)で染色した二重免疫陽性の小脳顆粒ニューロンの代表的な画像(白矢印で示した)。スケールバー=25μm(図9H)ニューロン数の定量化に使用した領域(破線枠)を示す線条体の模式図。スケールバー=1mm(図9I)WT、Tubb4aD249N、Tubb4aD249N/D249NマウスのESでNeuN(緑)で染色した線条体ニューロンの代表的な画像。スケールバー=100μm(図9J)WT、Tubb4aD249N、Tubb4aD249N/D249NマウスのP14、P21、およびESにおける線条体ニューロン数/mmの定量化。統計的検定は、二元配置分散分析を行い、テューキー事後検定を行う。P14およびP21におけるn=4マウス/グループ(P14時点でのTubb4aD249Nのn=3を除く)、ESにおけるn=3マウス/グループとした2つの独立した実験の代表的なデータ。データは平均値とSEMで示した。p<0.05および***p<0.001。
図10図10A-10C:Tubb4aD249/D249Nマウスは低髄鞘形成を示す。P14(図10A)、P21(図10B)、およびES(図10C)(スケールバー=1mm)におけるWTおよびTubb4aD249N/D249Nの矢状断面の代表的なEri-C(ミエリン)染色像。
図11図11A-11K:Tubb4aD249NおよびTubb4aD249/D249Nマウスのオリゴデンドロサイトおよびニューロンは、枝分かれや突起の低下を示す(図11A-C)WT、Tubb4aD249NおよびTubb4aD249/D249Nマウスから分離したPLP標識オリゴデンドロサイト(OL)の代表的な画像。スケールバー=50μm(図11D)WT、Tubb4aD249N、およびTubb4aD249/D249NマウスのカバースリップでOlig2標識細胞の数をカウントし、WT動物のOlig2+細胞の割合としてプロットした。(図11E)WT、Tubb4aD249N、Tubb4aD249/D249NマウスのPLP+細胞の総数を、WT動物におけるPLP+細胞の割合としてプロットした。(図11F)全Olig2+細胞からの成熟PLP+細胞の数を、WT動物の割合としてプロットした。実験は少なくとも3回、独立して繰り返された。(図11G)Tuj1(軸索マーカー)とMAP2(樹状突起マーカー)で染色したWTマウスの皮質ニューロンの代表的な画像。(図11H)Tubb4aD249/D249Nマウスの皮質ニューロンをTuj1とMAP2で染色した画像。スケールバー=75μm(図11I)プレーティング後1週間で生存しているニューロン数を定量化し、WTニューロンの割合としてプロットした。(図11J)軸索長はNeurite tracerプラグインを用いて測定し、全グループでプロットした(図11K)樹状突起長はNeurite tracerプラグインを用いて測定し、全グループでプロットした。データは平均値とSEMで示した。データセットに対して一元配置分散分析を行い、テューキー事後検定を行った。p<0.05、***p<0.001
図12図12A-12E:Tubb4aD249/D249NマウスはP14およびP21でオリゴデンドロサイトの数の減少を示す(図12A-B)P14(図12A)およびP21(図12B)におけるWT、Tubb4aD249N、Tubb4aD249N/D249NマウスのASPA陽性OLの代表的な画像。スケールバー=50μmと25μm(図12C-12D)P14(図12C)およびP21(図12D)におけるWT、Tubb4aD249N、Tubb4aD249N/D249Nマウスの二重陽性NG+Olig2+の代表的な画像。スケールバー=50μmおよび25μm(図12E)P14、P21、およびESにおけるOlig2+細胞のカウントの定量化。統計的検定は、二元配置分散分析を行い、テューキー事後検定を行った。データは平均値とSEMで示した。
図13図13A-13F:Tubb4aD249NおよびTubb4aD249/D249Nマウスでは微小管の重合が阻害されている(図13A)。WT、Tubb4aD249NおよびTubb4aD249/D249Nの皮質ニューロンからEB3トラッキングに基づいて作成したカイモグラフの例(図13B)。100μmあたりのEB3コメットの数を10分間追跡したグラフがプロットされている(図13C)。EB3の追跡に基づいて、WT、Tubb4aD249N、Tubb4aD249/D249Nの微小管重合についてプロットされた速度(図13D-E)。WT、Tubb4aD249NおよびTubb4aD249/D249NEB3コメットについて、総実行時間(図13D)および実行時間のヒストグラム(図13E)をプロットした。(図13F)WT、Tubb4aD249N、Tubb4aD249/D249NEB3コメットについてプロットされた総走行距離。データは平均値とSEMで示した。データセットに対して一元配置分散分析を行い、その後テューキー事後検定を行った。p<0.05、**p<0.001、***p<0.001。
図14図14A-14E:Tubb4aD249/D249Nマウスは同等のプルキンエニューロン数を示す(図14A)WT、Tubb4aD249N、Tubb4aD249N/D249NマウスのP14における小脳顆粒ニューロンとカスパーゼ染色の代表的な画像。スケールバー=1mmおよび50μm(図14B)WT、Tubb4aD249N、Tubb4aD249N/D249NマウスのP14とP21における線条体ニューロンの代表的な画像。スケールバー=100μm(図14C)WTおよびTubb4aD249N/D249NマウスのP14におけるニッスル染色。スケールバー=1mm(図14D)WT、Tubb4aD249N、Tubb4aD249N/D249NマウスのP21および末期にカルビンジンで染色したプルキンエニューロンの代表的な画像。スケールバー=100μm(図14E)WT、Tubb4aD249N、Tubb4aD249N/D249NマウスのP21および末期におけるプルキンエニューロン数/mmの定量化。統計的検定は、二元配置分散分析を行い、その後テューキー事後検定を行う。データは平均とSEMで示した。
図15図15A-15B:Tubb4aD249/D249NマウスはP14およびP21でOL細胞死を示す(図15A)P14におけるWT、Tubb4aD249N、Tubb4aD249N/D249Nマウスの二重陽性Olig2+カスパーゼの代表的な画像。(図15B)P21におけるWT、Tubb4aD249N、Tubb4aD249N/D249Nのマウスにおける二重陽性Olig2+カスパーゼの代表的な画像。スケールバー=50μmおよび25μm
図16図16A-16D:野生型(図16A)とTubb4aD249/D249N図16B)細胞のMap2およびDapi染色。TUBB4AD249NiPSC由来ニューロンからの全ニューロン(図16C)および線条体ニューロン(図16D、CTIP2+ニューロン)は、対照iPSC由来ニューロンと比較して生存率が低下し、(図16E)TUBB4AD249Nはアポトーシスおよび神経病理学を増加させた。(図16F-G)対照患者株におけるCRISPRを介したTUBB4Aの欠失は、ニューロンの発達/形成には影響がない。p<0.05、**p<0.01、***p<0.001
図17図17A-17B:TUBB4Aの欠失はTUBB4AD249NMSNsにおいて神経保護的である。総ニューロン(図17A)および中有棘ニューロン(図17B)TUBB4AD249N MSNの定量化。
図18図18A-18C:(図18A)ASO電気穿孔の図(図18B)ASOの動作原理の図(図18C)ASOライブラリのスクリーニング後、2つの有望なASOの選択。***p<0.0001。
図19図19:H-ABCの生体内全動物モデルと治療プロトコルの模式図。
図20図20A-20C:確立されたTubb4aD249N/D249NマウスモデルにおけるTUBB4Aのダウンレギュレーションの治療効果。確立されたマウスモデルをTubb4aノックアウト(KO)マウスと交配したが、これらのマウスは生存しており、正常に見える。(図20A)Tubb4aトランスジェニックマウスの交配の図。(図20B)得られたTubb4aD249N/KOマウスは、Tubb4aD249N/D249Nマウスと比較して、運動機能の改善と生存率の向上を示し、Tubb4aD249N/KO(~P108)の生存率は、Tubb4aD249N/D249Nマウス(~P35-P40)と比較して延長された。(図20C)。Tubb4aD249N/KOとTubb4aD249N/D249Nとの比較による運動機能の改善(n=2-3、***p<0.0001)。
図21図21A-21D:実行可能な治療標的としてのASOの評価。マウスのOli-neu細胞を用いてASOのライブラリをスクリーニングした。2つの強力なASO(ASO 1316および1851)が最大のTubb4aノックダウンを示した。(図21A)Oli-Neu細胞でqRT-PCRを用いて生体外でASOライブラリをスクリーニングした後、2つの有望なASOの選択。***p<0.0001。可変ASO用量25、10、5、2、1、0.5μg/gの用量)での単回脳室内(ICV)ボーラス注射の投与により、用量反応が確立された。最も毒性の低い最も強力なASO1316が選択された(データは示さず)。(図21B)P1 Tubb4aD249N/D249Nマウスに2μg/gの用量で単回ICV注射したところ、対照マウス(PBS、スクランブルASO)と比較して治療を受けたマウスの生存率が上昇した。(図21C)Tubb4a ASOで治療したTubb4aD249N/D249Nマウスも、対照マウス(PBS、スクランブルASO)と比較して、P34-P37にからの発作の減少を示した。(図21D)さらに、これらのマウスは、P28およびP35において、ローターロッドで測定した運動機能の有意な改善を示した(NC5-スクランブルASO;p<0.01、**p<0.001、***p<0.0001)。
図22図22:培養Oli-Neu細胞でのGFP-WT-Tubb4aの過剰発現は、qRT-PCRで見られるようにMBP、PLP、およびCNP mRNAレベルの増加をもたらした(n=4-6、***p<0.05)。(モック-ビヒクル対照)
【発明を実施するための形態】
【0019】
大脳基底核および小脳の髄鞘形成不全と萎縮(H-ABC)は、チューブリン アルファ4(TUBB4A)の原因となる変異に関連するまれな髄鞘形成不全白質ジストロフィーであり、p.Asp249Asn(D249N)は、影響を受けた個人の大多数で発生する再発性の変異である。また、TUBB4Aの単一対立遺伝子変異は、早期発症型脳症から成人発症のジストニア4型(嗄声発声障害)に至るまで、より広い範囲の神経障害を引き起こす可能性がある。H-ABCは、このスペクトラムに含まれ、通常、幼少期に発症し、ジストニア、運動失調、歩行障害、進行性の運動機能障害を特徴とし、人生の最初の10年が経過する前に歩行ができなくなる。現在のところ、この進行性で身体障害を伴う小児疾患に対する治療アプローチはない。TUBB4A変異がどのようにH-ABCを引き起こすかを理解し、治療戦略の開発と前臨床試験を促進するために、我々のグループは、CRISPR-Cas9アプローチを用いて、ヘテロ接合(Tubb4aD249N)またはホモ接合(Tubb4aD249N/D249N)Tubb4a変異を持つノックインマウスモデルを開発した。
【0020】
Tubb4aマウスD249N/D249Nは、生存率が低く、振戦、異常歩行、運動失調を伴う進行性の運動機能障害を示し、この疾患の表現型を再現している。Tubb4aD249N/D249Nマウスの神経病理学的評価では、生後14日目、21日目、40日目に免疫標識法とウェスタンブロット法を用いて、初期の髄鞘形成の遅れとそれに続く最終的な脱髄を示した。ミエリンタンパク質は時間とともに減少し、ASPA陽性のオリゴデンドロサイト(CNSの髄鞘形成細胞)は劇的に減少している。電子顕微鏡による脳の超薄切片では、これらのマウスの脊髄および視神経において、低髄鞘形成とミエリンの継続的な喪失がさらに確認された。さらに、Tubb4aD249N/D249Nマウスから培養したオリゴデンドロサイトの生体外研究では、成熟度の低下とミエリンマーカーの減少が確認された。同様に、神経病理学的にも線条体や小脳顆粒細胞で深刻な神経細胞の減少が見られた。さらに、培養した神経細胞にも影響があり、Tubb4aD249N/D249Nマウスの細胞では、神経細胞の生存率が低下し、微小管の動きが不安定になっていることがわかった。Tubb4aD249N/D249Nマウスは、H-ABCの新しいモデルマウスであり、この疾患における細胞生理学の複雑さを示している。また、TUBB4A変異によって微小管が不安定になり、オリゴデンドロサイト、線条体ニューロン、小脳顆粒細胞に細胞自律的な影響を与え、深刻な神経発達の表現型をもたらす可能性がある。
【0021】
追加の研究において、H-ABC患者から採取した末梢血サンプルから、再プログラムされ、誘導された、多能性幹細胞株を提供する。これらの細胞株の使用は、変異型Tubb-4aをコードする核酸を、この配列を標的とする核酸を用いてダウンモジュレーションすることにより、白質ジストロフィーの新たな治療パラダイムを発見した。別のアプローチでは、野生型のTubb-4aを目的の部位で過剰発現させるベクターが提供される。Tubb-4aの過剰発現は、MBP、PLP、およびCNP mRNAレベルの増加と関連しており、そのような治療を必要とする対象のH-ABC症状を緩和するはずである。
【0022】
また、TUBB4A発現を効果的にダウンモジュレートする新たな治療用アンチセンスオリゴヌクレオチドを開発し、それによって白質ジストロフィーの治療に新たなアプローチを提供する。
【0023】
定義
本主題は、本開示の一部を構成する以下の詳細な説明を参照することにより、より容易に理解することができる。本発明は、本明細書に記載および/または示された特定の製品、方法、条件またはパラメータに限定されるものではなく、また、本明細書で使用される用語は、例示として特定の実施形態を説明するためのものであり、請求された発明を限定することを意図したものではないことを理解されたい。
【0024】
本明細書で特に定義されていない限り、本願に関連して使用される科学技術用語は、当業者に共通して理解される意味を有するものとする。さらに、文脈上特に必要とされない限り、単数形の用語は複数形を含み、複数形の用語は単数形を含むものとする。
【0025】
上記および本開示全体で採用されているように、以下の用語および略語は、特に明記されていない限り、以下の意味を持つと理解されるものとする。
【0026】
本開示では、単数形の「a」、「an」、および「the」は、複数形の参照を含み、特定の数値への参照は、文脈が明らかに他を示さない限り、少なくともその特定の値を含む。したがって、例えば、「化合物」への言及は、当業者に知られているそのような化合物およびその等価物の1つまたは複数への言及である、など。本明細書で使用される用語「複数」は、2つ以上を意味する。値の範囲が表現される場合、別の実施形態には、1つの特定の値および/または他の特定の値が含まれる。同様に、値が近似値として表現される場合、先行詞「約」の使用により、特定の値が別の実施形態を形成することが理解される。すべての範囲は、包括的で組み合わせ可能である。
【0027】
本明細書で使用される用語「成分」、「組成物」、「化合物の組成物」、「化合物」、「薬剤」、「薬理学的に活性な薬剤」、「活性剤」、「治療的な」、「療法」、「治療」、または「医薬品」は、本明細書において互換的に使用され、対象(ヒトまたは動物)に投与されたときに、局所的および/または全身的作用によって所望の薬理学的および/または生理学的効果を誘発する化合物または複数の化合物、または物質の組成物を指すものとする。用語「薬剤」および「試験化合物」は、化学化合物、化学化合物の混合物、生物学的高分子、またはバクテリア、植物、菌類、または動物(特に哺乳類)の細胞や組織などの生物学的材料から作られた抽出物を意味する。生物学的高分子には、siRNA、shRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド、ペプチド、ペプチド/DNA複合体、および本明細書に記載のTUBB4A含有核酸またはそれらのコードされたタンパク質の活性を調節する能力を示す任意の核酸ベースの分子が含まれる。
【0028】
本明細書で使用される用語「TUBB4A」とは、ベータチューブリンファミリーのメンバーをコードする遺伝子を意味する。ベータチューブリンは、ヘテロ二量体化して集合し、微小管を形成する2つのコアタンパク質ファミリー(アルファおよびベータチューブリン)の1つである。この遺伝子の変異は、髄鞘形成不全の白質ジストロフィー-6および常染色体優性捻転ジストニア-4およびH-ABCを引き起こし、現在ではより一般的にTUBB4A関連白質脳症と呼ばれている。TUBB4Aの参照配列としては、GenBankに掲載されているNM_001289123.1、NM_001289127.1、NM_001289129.1などがある。選択的スプライシングにより、異なるアイソフォームをコードする複数の転写変異体が生じる。野生型のTubb4aタンパク質の配列は、UniProtのAccession No.P04350-TBB4A_humanにある。ヒトの疾患に関連することが知られているいくつかのTUBB4A変異体が同定されており、下記の表1に記載されている。本発明では、D249N変異体に焦点を当てているが、その知見は他の既存のTUBB4A突然変異にも一般化できる。
【表1】
【0029】
表2は、さまざまな形態のTUBB4A関連白質脳症に関連する特定のアミノ酸の変化の一覧である。
【表2】
【0030】
本明細書で使用される場合、用語「治療」または「療法」(およびその異なる形態)には、病気を防ぐあるいは予防に寄与する(例えば、予防的)、治癒的または緩和的な治療が含まれる。本明細書では、「治療する」という用語には、状態、疾患または障害の少なくとも1つの有害または負の効果または症状を緩和または軽減することが含まれる。
【0031】
本明細書では、用語「対象」、「個人」、および「患者」という用語は互換的に使用され、予防的治療を含む本発明による医薬組成物による治療が提供される動物、例えばヒトを指す。本明細書で使用される用語「対象」は、ヒトおよび非ヒト動物を指す。「非ヒト動物」および「非ヒト哺乳類」という用語は、本明細書において互換的に使用され、すべての脊椎動物、例えば、非ヒト霊長類、(特に高等霊長類)、ヒツジ、イヌ、げっ歯類、(例えば、マウスまたはラット)、モルモット、ヤギ、ブタ、ネコ、ウサギ、ウシ、ウマなどの哺乳類、および爬虫類、両生類、ニワトリおよび七面鳥などの非哺乳類を含む。
【0032】
用語「ポリヌクレオチド」、「ヌクレオチド」、「ヌクレオチド配列」、「核酸」および「オリゴヌクレオチド」は、互換的に使用される。これらは、任意の長さのヌクレオチド、デオキシリボヌクレオチドもしくはリボヌクレオチド、またはそれらの類似体のポリマー形態を指す。ポリヌクレオチドは、メチル化ヌクレオチドやヌクレオチド類似体など、1つまたは複数の修飾ヌクレオチドを含み得る。存在する場合、ヌクレオチド構造への修飾は、ポリマーの組み立ての前または後に付与されてもよい。ヌクレオチドの配列は、非ヌクレオチド成分によって中断される可能性がある。ポリヌクレオチドは、標識成分との結合などにより、重合後にさらに修飾され得る。
【0033】
本明細書で使用される用語「野生型」は、当業者が理解する技術用語であり、変異体または変異型形態とは区別される、自然界に存在する生物、株、遺伝子または特性の典型的な形態を意味する。本明細書では、「変異型」という用語は、野生型から逸脱したパターンを持つ性質の発現、または非天然由来の成分からなる性質の発現を意味すると考えられるべきである。
【0034】
用語「自然に発生しない」または「設計された」は、互換的に使用され、人の手が関与していることを示す。用語は、核酸分子またはポリペプチドに言及するときの用語は、核酸分子またはポリペプチドが、自然界で見られるような、それらが自然に関連している少なくとも1つの他の成分を少なくとも実質的に含まないことを意味する。
【0035】
「有効量」または「治療有効量」という用語は、有益または所望の結果をもたらすのに十分な薬剤の量を意味する。治療有効量は、治療を受ける対象および疾患の状態、対象の体重および年齢、疾患の状態の重症度、投与方法などの1つまたは複数に応じて変化する可能性があり、当業者であれば容易に決定することができる。この用語は、本明細書に記載されているイメージング方法のいずれか1つによる検出のための画像を提供する用量にも適用される。特定の用量は、選択された特定の薬剤、従うべき投与計画、他の化合物と組み合わせて投与するかどうか、投与のタイミング、画像化される組織、およびそれが運ばれる物理的な送達システムのうちの1つまたは複数に応じて変化し得る。
【0036】
本発明の実施には、他に示されない限り、当技術分野の技術の範囲内である、免疫学、生化学、化学、分子生物学、微生物学、細胞生物学、ゲノミクス、および組換えDNAの従来の技術を使用する。Sambrook, Fritsch and Maniatis, MOLECULAR CLONING: A LABORATORY MANUAL, 2nd edition (1989); CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY (F. M. Ausubel, et al. eds., (1987)); series METHODS IN ENZYMOLOGY (Academic Press, Inc.):PCR 2:A PRACTICAL APPROACH(M. J. MacPherson, B. D. Hames and G. R. Taylor eds.(1995))、Harlow and Lane, eds.(1988)「ANTIBODIES, A LABORATORY MANUAL」、「ANIMAL CELL CULTURE」(R. I. Freshney, ed.(1987))を参照されたい。
【0037】
本発明のいくつかの態様は、1つまたは複数のベクター、またはそのようなベクターを有するベクターシステムに関するものである。ベクターは、原核細胞または真核細胞におけるCRISPR転写物(例えば、核酸転写物、タンパク質、または酵素)の発現のために設計することができる。例えば、CRISPR転写物は、大腸菌などの細菌細胞、昆虫細胞(バキュロウイルス発現ベクターを使用)、酵母細胞、または哺乳類細胞で発現させることができる。適切な宿主細胞については、Goeddel, GENE EXPRESSION TECHNOLOGY: METHODS IN ENZYMOLOGY 185, Academic Press.San Diego, Calif.(1990)でさらに説明される。あるいは、組換え発現ベクターは、例えば、T7プロモーター制御配列およびT7ポリメラーゼを用いて、生体外で転写および翻訳することができる。
【0038】
いくつかの実施形態では、ベクターは、哺乳類発現ベクターを使用して、哺乳類細胞で1つ以上の配列の発現を駆動することができる。哺乳類発現ベクターの例としては、pCDM8(Seed, 1987. Nature 329: 840)およびpMT2PC(Kaufman, et al., 1987. EMBO J. 6: 187-195)が挙げられる。哺乳類細胞で使用される場合、発現ベクターの制御機能は、典型的には1つ以上の制御要素によって提供される。例えば、一般的に使用されるプロモーターは、ポリマ、アデノウイルス2、サイトメガロウイルス、シミアンウイルス40、および本明細書に開示され、当技術分野で知られている他のものに由来する。原核細胞および真核細胞の両方のための他の適切な発現系については、例えば、Sambrookらの16章および17章、MOLECULAR CLONING: A LABORATORY MANUAL.2nd ed., Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., 1989を参照されたい。
【0039】
いくつかの実施形態では、組換え哺乳類発現ベクターは、特定の細胞型で優先的に核酸の発現を指示することができる(例えば、組織特異的制御要素を用いて核酸を発現させる)。組織特異的調節要素は当技術分野で知られている。適切な組織特異的プロモーターの非限定的な例としては、アルブミンプロモーター(肝臓特異的;Pinkert, et al., 1987. Genes Dev. 1: 268-277)、リンパ系特異的プロモーター(Calame and Eaton, 1988. Adv. Immunol. 43: 235-275)、特にT細胞受容体のプロモーター(Winoto and Baltimore, 1989. EMBO J. 8: 729-733)および免疫グロブリン(Baneiji, et al., 1983.Cell 33: 729-740; Queen and Baltimore, 1983.Cell 33: 741-748)、ニューロン特異的プロモーター(例えば、ニューロフィラメントプロモーター;Byrne and Ruddle, 1989. Proc. Natl. Acad.Sci. USA 86: 5473-5477)、膵臓特異的プロモーター(Edlund, et al., 1985. Science 230: 912-916)、および乳腺特異的プロモーター(例えば、ミルクホエイプロモーター、米国特許第4,873,316号および欧州出願公開第264,166号)がある。発生的に制御されるプロモーターもまた包含され、例えば、マウスhoxプロモーター(Kessel and Gruss, 1990.Science 249:374-379)およびα-フェトプロテインプロモーター(Campes and Tilghman, 1989, Genes Dev.3:537-546)が挙げられる。高レベルの発現を得るために、Tubb4-Aをコードする核酸をコドン最適化することができる。
【0040】
一般に、「CRISPRシステム」とは、CRISPR関連(「Cas」)遺伝子の発現または活性の指示に関与する転写産物およびその他の要素を総称して指し、Cas遺伝子をコードする配列、tracr(トランス活性化型CRISPR)配列(例えば、tracrRNAまたは活性部分tracrRNA)、tracrメイト配列(内在性CRISPRシステムの文脈において、「直接反復」およびtracrRNA処理部分直接反復を包含する)、ガイド配列(内在性CRISPRシステムの文脈では「スペーサー」とも呼ばれる)、またはCRISPR遺伝子座からの他の配列および転写物をコードする配列を含む。いくつかの実施形態では、CRISPRシステムの1つまたは複数の要素は、I型、II型、またはIII型のCRISPRシステムに由来する。いくつかの実施形態では、CRISPRシステムの1つまたは複数の要素は、化膿レンサ球菌などの内因性CRISPRシステムを構成する特定の生物に由来する。一般に、CRISPRシステムは、標的配列(内在性CRISPRシステムの文脈ではプロトスペーサーとも呼ばれる)の部位でCRISPR複合体の形成を促進する要素を特徴とする。CRISPR複合体の形成という文脈では、「標的配列」とは、ガイド配列が相補性を持つように設計された配列を指し、標的配列とガイド配列の間のハイブリダイゼーションがCRISPR複合体の形成を促進する。完全な相補性は必ずしも必要ではなく、ハイブリダイゼーションを起こしてCRISPR複合体の形成を促進するのに十分な相補性があればよい。標的配列は、DNAまたはRNAポリヌクレオチドなど、任意のポリヌクレオチドから構成されてもよい。いくつかの実施形態では、標的配列は、細胞の核または細胞質に位置する。いくつかの実施形態では、標的配列は、真核細胞の細胞小器官、例えば、ミトコンドリアまたは葉緑体内にあってもよい。標的配列を構成する標的遺伝子座への組換えに使用され得る配列またはテンプレートは、「編集テンプレート」または「編集ポリヌクレオチド」または「編集配列」と呼ばれる。本発明の態様において、外因性テンプレートポリヌクレオチドは、編集テンプレートと呼ばれることがある。本発明の一態様では、組換えは相同組換えである。
【0041】
いくつかの実施形態では、CRISPRシステムの1つまたは複数の要素の発現を駆動する1つまたは複数のベクターが、CRISPRシステムの要素の発現が1つまたは複数の標的部位でのCRISPR複合体の形成を指示するように、宿主細胞に導入される。例えば、Cas酵素、tracrメイト配列に連結されたガイド配列、およびtracr配列はそれぞれ、別々のベクター上の別々の制御要素に動作可能に連結され得る。あるいは、同じまたは異なる調節要素から発現される2つまたはそれ以上の要素が、単一のベクターに組み合わされ、1つまたは複数の追加のベクターが、第1のベクターに含まれないCRISPRシステムの任意の構成要素を提供してもよい。単一のベクターに組み合わされるCRISPRシステム要素は、1つの要素が第2の要素に対して(「上流」の)5’または(「下流」の)3’に位置するなど、任意の適切な向きに配置されてもよい。1つの要素のコード化配列は、2つ目の要素のコード化配列の同じまたは反対側の鎖に位置し、同じまたは反対の方向に配向していてもよい。いくつかの実施形態では、単一のプロモーターが、CRISPR酵素と、ガイド配列、tracrメイト配列(任意でガイド配列に動作可能に連結されている)、および1つ以上のイントロン配列(例えば、それぞれが異なるイントロンにある、2つまたはそれ以上が少なくとも1つのイントロンにある、またはすべてが1つのイントロンにある)内に埋め込まれたtracr配列のうちの1つ以上をコードする転写物の発現を駆動する。いくつかの実施形態では、CRISPR酵素、ガイド配列、tracrメイト配列、およびtracr配列は、同じプロモーターに動作可能に連結され、同じプロモーターから発現される。
【0042】
いくつかの実施形態では、ベクターは、制限エンドヌクレアーゼ認識配列(「クローニングサイト」とも呼ばれる)などの1つまたは複数の挿入部位を備える。いくつかの実施形態では、1つまたは複数の挿入部位(例えば、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、またはそれ以上の挿入部位)が、1つまたは複数のベクターの1つまたは複数の配列要素の上流および/または下流に位置する。いくつかの実施形態では、ベクターは、挿入部位にガイド配列を挿入した後、発現時にガイド配列が真核細胞内の標的配列へのCRISPR複合体の配列特異的結合を指示するように、tracrメイト配列の上流に、任意にtracrメイト配列に動作可能に連結された調節要素の下流に、挿入部位を備える。いくつかの実施形態では、ベクターは、2つ以上の挿入部位を含み、各挿入部位は、各部位にガイド配列を挿入することができるように、2つのトレーサーメイト配列の間に配置されている。このような配置では、2つ以上のガイド配列は、単一のガイド配列の2つ以上のコピー、2つ以上の異なるガイド配列、またはこれらの組み合わせで構成されていてもよい。複数の異なるガイド配列が使用される場合、単一の発現構築物を使用して、細胞内の複数の異なる対応する標的配列にCRISPR活性を標的化することができる。例えば、単一のベクターは、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、またはそれ以上のガイド配列を含んでいてもよい。いくつかの実施形態では、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、またはそれ以上のそのようなガイド配列含有ベクターが提供され得、任意に細胞に送達され得る。代替の実施形態では、CRISPR媒介の塩基エディターは、BE3ではなく、塩基エディター4(BE4)である。注目すべきは、塩基編集は、表1に記載された変異核酸のいずれかを変更するために採用され得ることである。
【0043】
いくつかの実施形態では、本方法は、別の塩基への変化についてウィンドウ内のC塩基を評価する工程をさらに有する。実施形態では、BE3 PAM配列(NGG)が、標的シトシン塩基(複数可)から13~17ヌクレオチド離れている場合に、gRNAが選択される。特定の実施形態では、変化はセンス鎖上のCからTを介しており、修正コドンはナンセンスコドンに変更される。追加の実施形態では、変化はアンチセンス鎖上のGからAを経由しており、修正コドンはナンセンスコドンに変更される。さらなる実施形態では、変化はセンス鎖上のCからTを介しており、変化はミスセンス変異体である。さらなる実施形態では、変化はアンチセンス鎖上のGからAを介しており、変化はミスセンス変異体である。疾患が治療用遺伝子の変異に起因する表現型である場合、塩基編集は、疾患の発症前に行われてもよい。特定の実施形態では、塩基編集は、疾患を発症するリスクを減少させる。
【0044】
用語「ベクター」は、細胞に感染、遺伝子導入、または形質転換することができ、宿主細胞ゲノム内で独立してまたは複製することができる一本鎖または二本鎖の環状核酸分子に関する。円形の二本鎖核酸分子は、制限酵素で処理することにより切断され、線状化することができる。ベクター、制限酵素、および制限酵素が標的とするヌクレオチド配列の知識は、当業者が容易に入手可能であり、プラスミド、コスミド、バクミド、ファージまたはウイルスなどの任意のレプリコンであって、付着した配列または要素の複製をもたらすように別の遺伝的配列または要素(DNAまたはRNAのいずれか)を付着させることができるものを含む。本発明の核酸分子は、制限酵素でベクターを切断し、2つのフラグメントを一緒に連結することにより、ベクターに挿入することができる。
【0045】
いくつかの態様では、本発明は、1つ以上のポリヌクレオチド(例えば、CRISPRシステム、アンチセンスオリゴヌクレオチド、siRNA、shRNA、三重核酸など)、例えば、または本明細書に記載の1つ以上のベクター、その1つ以上の転写物、および/またはそれから転写された1つまたはタンパク質を宿主細胞に送達することを含む方法を提供する。いくつかの態様では、本発明はさらに、そのような方法によって産生された細胞、およびそのような細胞を含んでいるか、またはそのような細胞から産生された生物(動物、植物、または菌類など)を提供する。いくつかの実施形態では、ガイド配列と組み合わせた(任意に複合化された)CRISPR酵素が細胞に送達される。哺乳類細胞または標的組織に核酸を導入するために、従来のウイルスおよび非ウイルスベースの遺伝子導入法を使用することができる。このような方法は、CRISPRシステムの構成要素をコードする核酸を、培養中の細胞、または宿主生物に投与するために用いることができる。非ウイルス性ベクター送達システムには、DNAプラスミド、RNA(例えば、本明細書に記載のベクターの転写物)、ネイキッド核酸、およびリポソームなどの送達ビヒクルと複合化した核酸が含まれる。ウイルスベクター送達システムには、DNAおよびRNAウイルスが含まれ、これらは、細胞への送達後にエピソームまたは統合されたゲノムのいずれかを有する。遺伝子治療手順のレビューについては、Anderson, Science 256:808-813 (1992); Nabel & Felgner, TIBTECH 11:211-217 (1993); Mitani & Caskey, TIBTECH 11:162-166 (1993); Dillon, TIBTECH 11:167-175 (1993); Miller, Nature 357:455-460 (1992); Van Brunt, Biotechnology 6(10):1149-1154 (1988); Vigne, Restorative Neurology and Neuroscience 8:35-36 (1995); Kremer & Perricaudet, British Medical Bulletin 51(1):31-44 (1995); Haddada et al., in Current Topics in Microbiology and Immunology Doerfler and Bihm (eds) (1995); and Yu et al., Gene Therapy 1:13-26 (1994) を参照。
【0046】
核酸の非ウイルス性送達方法には、リポフェクション、ヌクレオフェクション、マイクロインジェクション、バイオリスティック、ヴィロソーム、リポソーム、免疫リポソーム、ポリカチオンまたは脂質:核酸コンジュゲート、裸のDNA、人工ビリオン、および薬剤増強DNAの取り込みが含まれる。リポフェクションは、例えば、米国特許第5,049,386号、第4,946,787号、および第4,897,355号に記載されており、リポフェクション試薬(例えば、Transfectam(商標)、Lipofectin(商標))も市販されている。ポリヌクレオチドの効率的な受容体認識リポフェクションに適したカチオン性および中性の脂質には、Feigner、WO91/17424;WO91/16024のものが含まれる。送達は、細胞(例えば、試験管内または生体外の投与)または標的組織(例えば、生体内の投与)に行うことができる。
【0047】
免疫脂質複合体などの標的リポソームを含む脂質:核酸複合体の調製は、当業者にはよく知られている(例えば、Crystal, Science 270:404-410 (1995); Blaese et al, Cancer Gene Ther.2:291-297(1995); Behr et al, Bioconjugate Chem.5:382-389 (1994); Remy et al., Bioconjugate Chem.5:647-654(1994);Gao et al、Gene Therapy 2:710-722(1995);Ahmad et al., Cancer Res.52:4817-4820(1992);米国特許第4,186,183号、第4,217,344号、第4,235,871号、第4,261,975号、第4,485,054号、第4,501,728号、第4,774,085号、第4,837,028号、および第4,946,787号を参照)。
【0048】
核酸の送達のためのRNAまたはDNAウイルスベースのシステムの使用は、ウイルスを体内の特定の細胞に標的化し、ウイルスのペイロードを核に輸送するという高度に進化したプロセスを利用する。ウイルスベクターは、患者に直接投与することもできるし(生体内)、生体外で細胞を処理し、その処理した細胞を患者に投与することも可能である(生体外)。従来のウイルスベースのシステムには、遺伝子導入のためのレトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、単純ヘルペスウイルスベクターなどが含まれ得る。宿主ゲノムへの統合は、レトロウイルス、レンチウイルス、およびアデノ随伴ウイルスの遺伝子導入法で可能であり、挿入された導入遺伝子の長期発現が得られることが多い。さらに、多くの異なる細胞型および標的組織で高い形質導入効率が観察されている。
【0049】
レトロウイルスのトロピズムは、外来のエンベロープタンパク質を組み込むことで変化し、標的細胞の潜在的な標的集団を拡大することができる。レンチウイルスベクターは、非分裂細胞を形質転換または感染させることができるレトロウイルスベクターであり、一般的に高いウイルス力価を生成する。したがって、レトロウイルス遺伝子導入システムの選択は、標的組織に依存することになる。レトロウイルスベクターは、シス作用を持つ長末端反復構造からなり、最大6~10kbの外来配列をパッケージングすることができる。ベクターの複製とパッケージングには最小のシス作用LTRで十分であり、これを用いて治療用遺伝子を標的細胞に組み込み、導入遺伝子を永続的に発現させることができる。広く使用されているレトロウイルスベクターには、マウス白血病ウイルス(MuLV)、テナガザル白血病ウイルス(GaLV)、シミアン免疫不全ウイルス(SIV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、およびこれらの組み合わせをベースにしたものが含まれる(例えば、Buchscher et al., J. Virol. 66:2731-2739 (1992); Johann et al., J. Virol. 66:1635-1640 (1992); Sommnerfelt et al., Virol. 176:58-59 (1990); Wilson et al., J. Virol. 63:2374-2378 (1989); Miller et al., J. Virol. 65:2220-2224 (1991); PCT/US94/05700を参照)。
【0050】
一過性の発現が望ましい用途では、アデノウイルスベースのシステムを使用することができる。アデノウイルスベースのベクターは、多くの細胞型で非常に高い導入効率を示すことができ、細胞分裂を必要としない。このようなベクターでは、高い力価とレベルの発現が得られている。このベクターは、比較的簡単なシステムで大量に生成することができる。
【0051】
アデノ随伴ウイルス(「AAV」)ベクターはまた、標的核酸を細胞に導入するために、例えば、核酸およびペプチドの試験管内生産において、ならびに生体内および生体外の遺伝子治療手順のために使用することができる(例えば、West et al., Virology 160:38-47 (1987); U.S. Pat. No. 4,797,368; WO 93/24641; Kotin, Human Gene Therapy 5:793-801 (1994); Muzyczka, J. Clin. Invest. 94:1351 (1994)を参照。組換えAAVベクターの構築は、U.S. Pat. No. 5,173,414; Tratschin et al., Mol. Cell. Biol. 5:3251-3260 (1985); Tratschin, et al., Mol. Cell. Biol. 4:2072-2081 (1984); Hermonat & Muzyczka, PNAS 81:6466-6470 (1984); and Samulski et al., J. Virol. 63:03822-3828 (1989)を含む多くの出版物に記載されている)。
【0052】
パッケージング細胞は、典型的には、宿主細胞に感染することができるウイルス粒子を形成するために使用される。そのような細胞としては、アデノウイルスをパッケージングする293細胞、およびレトロウイルスをパッケージングするψ2細胞またはPA317細胞が挙げられる。遺伝子治療に用いられるウイルスベクターは、通常、核酸ベクターをウイルス粒子にパッケージする細胞株を製造することによって生成される。ベクターには、パッケージ化とその後の宿主への組み込みに必要な最小限のウイルス配列が含まれており、その他のウイルス配列は、発現すべきポリヌクレオチドの発現カセットで置き換えられる。不足しているウイルスの機能は、典型的にはパッケージング細胞株によってトランス状態で供給される。例えば、遺伝子治療に用いられるAAVベクターは、パッケージ化と宿主ゲノムへの組み込みに必要なAAVゲノムのITR配列のみを有している。ウイルスDNAは、他のAAV遺伝子、すなわちrepおよびcapをコードするが、ITR配列を欠くヘルパープラスミドを含む細胞株でパッケージ化される。この細胞株には、ヘルパーとしてアデノウイルスが感染している場合もある。ヘルパーウイルスは、AAVベクターの複製とヘルパープラスミドからのAAV遺伝子の発現を促進する。ヘルパープラスミドは、ITR配列がないため、有意な量ではパッケージされない。アデノウイルスによる汚染は、例えば、アデノウイルスがAAVよりも感受性が高い熱処理によって低減することができる。
【0053】
いくつかの実施形態では、宿主細胞は、本明細書に記載の1つまたは複数のベクターで一過性または非一過性に遺伝子導入される。いくつかの実施形態では、細胞は、対象において自然に発生するように遺伝子導入される。いくつかの実施形態では、遺伝子導入される細胞は、対象から採取される。いくつかの実施形態では、細胞は、細胞株など、対象から採取された細胞に由来する。
【0054】
一態様では、本発明は、生体内、生体外または試験管内であってもよい真核細胞において標的ポリヌクレオチドを改変する方法を提供する。いくつかの実施形態では、本方法は、ヒトまたは非ヒトの動物から細胞または細胞の集団をサンプリングする工程と、細胞または細胞(複数)を改変する工程とを有する。培養は、生体外のどの段階で行ってもよい。細胞または細胞(複数)は、ヒトまたは非ヒト動物に再導入されてもよい。
【0055】
一態様では、本発明は、真核細胞において標的ポリヌクレオチドを改変する方法を提供する。いくつかの実施形態において、本方法は、CRISPR複合体を標的ポリヌクレオチドに結合させて、前記標的ポリヌクレオチドの切断をもたらし、それによって標的ポリヌクレオチドを改変する工程を有し、前記CRISPR複合体は、前記標的ポリヌクレオチド内の標的配列にハイブリダイズしたガイド配列と複合体を形成したCRISPR酵素を含み、前記ガイド配列は、次にtracr配列にハイブリダイズするtracrメイト配列に連結されている。
【0056】
一態様では、本発明は、上記の方法および組成物に開示された要素のいずれか1つまたは複数を含むキットを提供する。いくつかの実施形態では、前記キットは、上述のような代替送達システムのためのベクターシステムまたは構成要素、およびキットの使用説明書を有する。いくつかの実施形態では、前記ベクターまたは送達システムは、(a)tracrメイト配列に作動可能に連結された第1の制御要素と、tracrメイト配列の上流にガイド配列を挿入するための1つまたは複数の挿入部位とを有し、発現すると前記ガイド配列が、真核細胞内の標的配列へのCRISPR複合体の配列特異的結合を指示し、前記CRISPR複合体が、(1)前記標的配列にハイブリダイズしたガイド配列、および(2)前記tracr配列にハイブリダイズした前記tracrメイト配列と複合体を形成したCRISPR酵素を有し、および/または、(b)核局在化配列を有する前記CRISPR酵素をコードする酵素コード化配列に作動可能に連結された第2の制御要素を有する。要素は、個別にまたは組み合わせて提供されてもよく、バイアル、ボトル、またはチューブなどの任意の適切な容器で提供されてもよい。いくつかの実施形態では、キットは、1つまたは複数の言語、例えば2つ以上の言語による説明書を含む。
【0057】
いくつかの実施形態では、キットは、本明細書に記載された1つまたは複数の要素を利用するプロセスで使用するための1つまたは複数の試薬を含む。試薬は、任意の適切な容器で提供されてもよい。例えば、キットは、1つまたは複数の反応または保存バッファーを提供してもよい。試薬は、特定のアッセイに使用可能な形態、または使用前に1つまたは複数の他の成分を加える必要がある形態(例えば、濃縮または凍結乾燥形態)で提供されてもよい。バッファーは、炭酸ナトリウムバッファー、炭酸水素ナトリウムバッファー、ホウ酸塩バッファー、トリスバッファー、MOPSバッファー、HEPESバッファー、およびこれらの組み合わせを含むが、これらに限定されない任意のバッファーであることができる。いくつかの実施形態では、バッファーはアルカリ性である。いくつかの実施形態では、バッファーは、約7~約10のpHを有する。いくつかの実施形態では、キットは、ガイド配列と調節要素を作動可能に連結するようにベクターに挿入するためのガイド配列に対応する1つ以上のオリゴヌクレオチドを有する。いくつかの実施形態では、キットは、相同組換えテンプレートポリヌクレオチドを有する。
【0058】
ダウンモジュレーションまたは阻害性核酸は、アンチセンス分子、アプタマー、リボザイム、トリプレックス形成分子、RNA干渉(RNAi)、CRISPR(クラスター化された規則的に間隔を空けた短いパリンドロームリピート)RNA(crRNA)、外部ガイド配列を含むが、これらに限定されるものではない。これらの核酸分子は、標的分子が有する特定の活性の影響因子、阻害因子、調節因子、および刺激因子として作用することができ、また、機能性核酸分子は、他の分子に依存しないデノボ活性を有することができる。特定の実施形態では、阻害性核酸が採用される。
【0059】
アンチセンス分子は、正規または非正規の塩基対を介して標的核酸分子と相互作用するように設計されている。アンチセンス分子と標的分子の相互作用は、例えばRNase Hを介したRNA-DNAハイブリッドの分解などにより、標的分子の破壊を促進するように設計されている。あるいは、アンチセンス分子は、転写や複製など、標的分子で通常行われる処理機能を阻害するように設計されている。アンチセンス分子は、標的分子の配列に基づいて設計することができる。標的分子の最もアクセスしやすい領域を見つけてアンチセンスの効率を最適化する方法は数多く存在する。例示的な方法としては、試験管内の選択実験や、DMSやDEPCを用いたDNA修飾研究が挙げられる。アンチセンス分子は、10-6、10-8、10-10、10-12以下の解離定数(K)で標的分子と結合することが好ましい。アンチセンス分子の設計と使用に役立つ方法と技術の代表的な例は、米国特許第5,135,917号、第5,294,533号、第5,627,158号、第5,641,754号、第5,691,317号、第5,780,607号、第5,786,138号、第5,849,903号、第5,856,103号、第5,919,772号、第5,955,590号、第5,990,088号、第5,994,320号、第5,998,602号、第6,005,095号、第6,007,995号、第6,013,522号、第6,017,898号、第6,018,042号、第6,025,198号、第6,033,910号、第6,040,296号、第6,046,004号、第6,046,319号、および第6,057,437号に記載されている。
【0060】
トリプレックス形成機能性核酸分子は、二本鎖または一本鎖の核酸と相互作用することができる分子である。トリプレックス分子が標的領域と相互作用すると、ワトソン・クリック塩基対とフーグスティーン塩基対の両方に依存した複合体を形成する3本のDNAが存在する、トリプレックスと呼ばれる構造が形成される。トリプレックス分子は、高い親和性と特異性をもって標的領域と結合できるので好ましい。三重鎖形成分子は、10-6、10-8、10-10、または10-12以下のKで標的分子と結合することが好ましい。トリプレックス形成分子を用いて様々な異なる標的分子を結合させる方法の代表的な例は、米国特許第5,176,996号、第5,176,996号、第5,645,985号、第5,650,316号、第5,683,874号、第5,693,773号、第5,834,185号、第5,869,246号、第5,874,566号、および第5,962,426号に記載されている。また、RNA干渉(RNAi)により、遺伝子の発現を極めて特異的に抑制することができる。このサイレンシングは、もともと二本鎖RNA(dsRNA)の添加によって観察された(Fire, A., et al., Nature, 391:806-11 (1998); Napoli, C., et al., Plant Cell, 2:279-89 (1990); Hannon, G. J., Nature, 418:244-51 (2002))。dsRNAが細胞内に入ると、RNaseIII様酵素であるダイサーによって切断され、3’末端に2ヌクレオチドのオーバーハングを含む長さ21~23ヌクレオチドの二本鎖低分子干渉RNA(siRNA)になる(Elbashir, S. M., et al., Genes Dev., 15:188-200 (2001); Bernstein, E., et al., Nature, 409:363-6 (2001); Hammond, S. M., et al., Nature, 404:293-6 (2000))。ATP依存の工程において、siRNAは、一般にRNAi誘導サイレンシング複合体(RISC)として知られるマルチサブユニットタンパク質複合体に統合され、siRNAを標的RNA配列に導く(Nykanen, A., et al., Cell, 107:309-21 (2001))。ある時点でsiRNA二重鎖は巻き戻され、アンチセンス鎖はRISCに結合したまま、エンドヌクレアーゼとエキソヌクレアーゼの組み合わせによる相補的なmRNA配列の分解を指示するようである(Martinez, J., et al., Cell, 110:563-74 (2002))。しかし、RNAiやsiRNAの効果やその利用は、どのようなメカニズムにも限定されない。
【0061】
低分子干渉RNA(siRNA)は、配列特異的な転写後の遺伝子サイレンシングを誘導し、それによって遺伝子発現を減少させるか、あるいは阻害することができる二本鎖RNAである。ある例では、siRNAは、siRNAとターゲットRNAの両方の間の配列同一性の領域内で、mRNAなどの相同性のあるRNA分子の特異的な分解を誘発する。例えば、WO02/44321には、3’オーバーハングエンドと塩基対向したときに標的mRNAの配列特異的分解が可能なsiRNAが開示されており、これらのsiRNAの製造方法については参照により本明細書に組み込まれる。配列特異的な遺伝子サイレンシングは、酵素ダイサーによって産生されるsiRNAを模倣した合成の短い二本鎖RNAを用いて哺乳類細胞で達成することができる(Elbashir, S. M., et al., Nature, 411:494 498(2001); Ui-Tei, K., et al., FEBS Lett, 479:79-82 (2000))。siRNAは、化学的または生体外で合成されることもあれば、短い二本鎖のヘアピン様RNA(shRNA)が細胞内でsiRNAに加工されたものであることもある。合成siRNAは通常、アルゴリズムと従来のDNA/RNA合成機を用いて設計される。サプライヤーには、Ambion(テキサス州オースチン)、ChemGenes(マサチューセッツ州アシュランド)、Dharmacon(コロラド州ラファイエット)、Glen Research(バージニア州スターリング)、MWB Biotech(ドイツ・エスバースバーグ)、Proligo(コロラド州ボルダー)、Qiagen(オランダ・ヴェント)が含まれる。siRNAはAmbionのSILENCER.RTM. siRNA Construction Kitなどのキットを使用して試験管内で合成することもできる。
【0062】
RNAiと同様に、CRISPR(クラスター化された規則的に間隔を空けた短いパリンドロームリピート)干渉は、選択的なDNA切断を介して、内因性に発現するタンパク質の遺伝子発現を低下させる強力なアプローチである。CRISPRは、ユニークなスペーサーで区切られた直接反復を含む遺伝子要素で、その多くはファージやその他の外来遺伝子要素に見られる配列と同一である。最近の研究では、適応免疫におけるCRISPRの役割が明らかにされ、CRISPRから派生した低分子RNA(crRNA)が、外来DNAの標的干渉のためのホーミングオリゴヌクレオチドとして実装されていることが示された(Jinek et al., Science, 337:816-821 (2012))。crRNAは、遺伝子レベルでDNAを選択的に切断するために使用される。
【0063】
shRNAとは、短いヘアピンRNAのことで、タイトなヘアピンターンを形成するRNA構造であり、RNA干渉による遺伝子発現のサイレンシングにも利用される。shRNAのヘアピン構造は、細胞内の機械によって切断されて低分子干渉RNA(siRNA)となり、この低分子干渉RNAがRNA誘導性サイレンシング複合体(RISC)に結合する。この複合体は、それに結合しているsiRNAと一致するmRNAに結合して切断する。
【0064】
本明細書では、宿主細胞でのタンパク質の産生に言及する際の用語「過剰発現」は、そのタンパク質が、自然に存在する環境で産生される量よりも多く産生されることを意味する。
【0065】
本明細書で使用される用語「遺伝子改変」は、1つまたは複数の核酸分子の野生型または参照配列からの変化を意味する。遺伝的変化には、既知の配列の核酸分子からの少なくとも1つのヌクレオチドの塩基対置換、付加、および欠失が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0066】
本明細書で使用される用語「固体マトリックス」は、ビーズ、微粒子、マイクロアレイ、微量滴定ウェルまたは試験管の表面、ディップスティックまたはフィルターなどの任意の形式を指す。マトリックスの材料は、ポリスチレン、セルロース、ラテックス、ニトロセルロース、ナイロン、ポリアクリルアミド、デキストラン、またはアガロースであり得る。
【0067】
特定のヌクレオチドまたはアミノ酸を参照する際の「本質的にからなる」という句は、所定の配列ID番号の特性を有する配列を意味する。例えば、アミノ酸配列に言及して使用される場合、この句は、配列自体および配列の機能的および新規の特性に影響を与えないであろう分子修飾を含む。
【0068】
本明細書で使用される「標的核酸」は、複合核酸混合物中に存在する核酸の以前に定義された領域を指し、定義された野生型領域は、白質ジストロフィーに関連する少なくとも1つの既知のヌクレオチド変異を含む。核酸分子は、cDNAクローニングまたはサブトラクティブハイブリダイゼーションによって天然源から単離されてもよいし、手動で合成されてもよい。核酸分子は、トリエステル合成法により手動で合成してもよいし、自動DNA合成機を用いて合成してもよい。
【0069】
用語「相補的」は、互いに複数の有利な相互作用を形成することができる2つのヌクレオチドを表す。例えば、アデニンはチミンと相補的で、2つの水素結合を形成することができる。同様に、グアニンとシトシンは3つの水素結合を形成することができるので、相補的である。したがって、ある核酸配列が、チミン、アデニン、グアニン、シトシンという塩基配列を含んでいる場合、この核酸分子の「補体」は、チミンの代わりにアデニンを、アデニンの代わりにチミンを、グアニンの代わりにシトシンを、シトシンの代わりにグアニンを含む分子となる。補体は、親核酸分子と最適な相互作用を形成する核酸配列を含むことができるため、そのような補体は親分子に高い親和性で結合することができる。
【0070】
用語「プロモーター要素」は、適切な細胞内に入ると、転写因子および/またはポリメラーゼが結合、ならびにその後のベクターDNAの一部のmRNAへの転写を促進することができる、ベクターに組み込まれるヌクレオチド配列を説明する。一実施形態では、本発明のプロモーター要素は、白質ジストロフィー特異的マーカー核酸分子の5’末端に先行し、後者がmRNAに転写されるようにする。その後、宿主細胞の機構がmRNAをポリペプチドに翻訳する。
【0071】
当業者は、核酸ベクターが、プロモーター要素および白質ジストロフィー特異的マーカー遺伝子核酸分子以外の核酸要素を含むことができることを認識するであろう。これらの他の核酸要素には、複製の起源、リボソーム結合部位、薬剤耐性酵素またはアミノ酸代謝酵素をコードする核酸配列、および分泌シグナル、局在化シグナル、またはポリペプチドの精製に有用なシグナルをコードする核酸配列が含まれるが、これらに限定されない。
【0072】
「レプリコン」とは、例えば、プラスミド、コスミド、バクミド、プラスチド、ファージ、ウイルスなど、大部分が自己の制御下で複製可能な任意の遺伝的要素をいう。レプリコンは、RNAまたはDNAのいずれかであり、一本鎖または二本鎖である。
【0073】
「発現オペロン」とは、プロモーター、エンハンサー、翻訳開始シグナル(例えば、ATGまたはAUGコドン)、ポリアデニル化シグナル、ターミネーターなどの転写および翻訳制御配列を有し得、宿主細胞または生物におけるポリペプチドコード化配列の発現を促進することができる核酸セグメントをいう。
【0074】
本明細書では、「レポーター」、「レポーターシステム」、「レポーター遺伝子」、または「レポーター遺伝子産物」という用語は、核酸が、発現すると、例えば、生物学的アッセイ、イムノアッセイ、ラジオイムノアッセイ、または比色法、蛍光法、化学発光法などの方法で容易に測定可能なレポーターシグナルを生成する産物をコードする遺伝子を含んでいる作動可能な遺伝システムを意味するものとする。核酸は、RNAまたはDNA、直鎖または環状、一本鎖または二本鎖、アンチセンス極性またはセンス極性のいずれかであり、レポーター遺伝子産物の発現に必要な制御要素と作動可能に連結されている。必要な制御要素は、レポーターシステムの性質や、レポーター遺伝子がDNAの形態であるかRNAの形態であるかによって異なるが、プロモーター、エンハンサー、翻訳制御配列、ポリA付加シグナル、転写終結シグナルなどの要素が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0075】
上述したように、導入された核酸は、レシピエント細胞または生物の核酸に組み込まれる(共有結合される)場合もあれば、組み込まれない場合もある。例えば、細菌、酵母、植物、哺乳類の細胞では、導入された核酸は、エピソーム要素やプラスミドなどの独立したレプリコンとして維持されていてもよい。あるいは、導入された核酸は、レシピエント細胞または生物の核酸に組み込まれ、その細胞または生物において安定的に維持され、さらにレシピエント細胞または生物の子孫の細胞または生物に受け継がれるか、または継承されてもよい。最後に、導入された核酸は、レシピエント細胞または宿主生物に一過性にのみ存在し得る。
【0076】
用語「作動可能に連結された」は、コード化配列の発現に必要な調節配列が、コード化配列に対して適切な位置にDNA分子内に配置されており、コード化配列の発現をもたらすことを意味する。この同じ定義は、発現ベクターにおける転写ユニットおよび他の転写制御要素(例えばエンハンサー)の配置にも適用されることがある。
【0077】
「修飾されたバックボーン連結」という句は、これに限定されないが、ホスホロチオエート連結、メチルホスホネート連結、エチルホスホネート連結、ボラノホスフェート連結、スルホンアミド、カルボニルアミド、ホスホロジアミデート、正に帯電した側基を有するホスホロジアミデート連結、ホスホロジチオエート、アミノエチルグリシン、ホスホトリエステル、アミノアルキルホスホトリエステル、3’-アルキレンホスホネート、5’-アルキレンホスホネート、キラルホスホネート、ホスフィネート、3’-アミノホスホルアミデート、アミノアルキルホスホルアミデート、チオノホスホルアミデート、チオノアルキルホスホネート、チオノアルキルホスホトリエステル、セレノホスフェート、2-5’連結ボラノホスホネート類似体、反転した極性を有する連結、脱塩基連結、短鎖アルキル連結、シクロアルキルインターヌクレオシド連結、混合ヘテロ原子とアルキルまたはシクロアルキルインターヌクレオシド連結、シロキサンバックボーンとの短鎖ヘテロ原子または複素環式インターヌクレオシド連結、スルフィド、スルホキシド、スルホン、ホルムアセチル連結、チオホルムアセチル連結、メチレンホルムアセチル連結、チオホルムアセチル連結、リボアセチル連結、アルケン連結、スルファメートバックボーン、メチレンイミノ連結、メチレンヒドラジノ連結、スルホネート連結、およびアミド結合を含む。
【0078】
「修飾糖」という句は、2’フルオロ、2’フルオロ置換リボース、2’-フルオロ-D-アラビノ核酸(FANA)、2’-0-メトキシエチルリボース、2’-0-メトキシエチルデオキシリボース、2’-O-メチル置換リボース、モルホリノ、ピペラジン、およびロックド核酸(LNA)を含むが、これらに限定されるものではない。
【0079】
「特異的結合対」とは、互いに特定の特異性を有し、通常の状態では他の分子よりも優先的に結合する特異的結合メンバー(sbm)および結合パートナー(bp)を有する。特異的結合対の例は、抗原と抗体、リガンドと受容体、および相補的ヌクレオチド配列が挙げられる。当業者であれば、他にも多くの例を知っている。さらに、用語「特異的結合対」は、特異的結合メンバーおよび結合パートナーのいずれかまたは両方が大きな分子の一部を有する場合にも適用される。特異的結合対が核酸配列を有する実施形態では、それらはアッセイの条件下で互いにハイブリダイズする長さであり、好ましくは10ヌクレオチド長より長く、より好ましくは15または20ヌクレオチド長より長い。
【0080】
「サンプル」または「患者サンプル」または「生物学的サンプル」は、一般に、特定の分子、好ましくは、以下の表に示されるマーカーなどの白質ジストロフィー特異的マーカー分子について試験され得るサンプルを指す。サンプルには、細胞、血液、血清、血漿、尿、唾液、脳脊髄液、涙、胸水などの体液が含まれ得るが、これらに限定されない。
【0081】
キットおよび製造品
前述の製品のいずれも、TUBB-4A誘導性ダウンモジュレーション核酸を薬学的に許容される担体中に含むキットに組み込むことができる。核酸は、哺乳類細胞を形質導入することができるベクターに配置されていてもいなくてもよい。他の態様では、キットは、目的の標的細胞において同じものを過剰発現させるための、ヒト野生型TUBB-4Aおよび/または変異型TUBB-4Aをコードする核酸を発現するベクターを含む。キットには、核酸の細胞内への送達を容易にするナノ粒子またはリポソーム製剤を任意に含めることができる。また、キットには、使用説明書、容器、投与用の容器、アッセイ用の基質、またはそれらの任意の組み合わせが含まれていてもよい。
【0082】
治療薬の開発とスクリーニングの方法
本明細書で同定されたTUBB4-Aの遺伝子変化は、H-ABCの病因と関連しているので、変異した遺伝子およびそのコード化された産物の活性を調節する薬剤を同定する方法は、白質ジストロフィー、特にH-ABCの治療のための有効な治療剤の生成をもたらすはずである。
【0083】
分子モデリングにより、機能に必要な構造または主要なアミノ酸残基に基づいて、変化したTUBB4-Aタンパク質の活性部位に結合する能力を持つ特定の有機分子の同定が容易になるはずである。コンビナトリアルケミストリーの手法を用いて最大の活性を有する分子を同定し、その後、これらの分子の反復が、スクリーニングのさらなるサイクルのために開発される。
【0084】
薬物スクリーニングアッセイに使用されるポリペプチドまたはフラグメントは、溶液中で遊離しているか、固体支持体に固定されているか、または細胞内にあるかのいずれかである。薬物スクリーニングの1つの方法は、ポリペプチドまたはフラグメントを発現する組換えポリヌクレオチドで安定的に形質転換された真核または原核の宿主細胞を利用するもので、好ましくは競合的な結合アッセイを行う。このような細胞は、生存中または固定された形態のいずれかで、標準的な結合アッセイに使用することができる。例えば、ポリペプチドまたはフラグメントと試験される薬剤との間の複合体の形成を決定するか、またはポリペプチドまたはフラグメントと既知の基質との間の複合体の形成が、試験される薬剤によって妨害される程度を調べることができる。
【0085】
薬剤スクリーニングのための別の技術は、コードされたポリペプチドに対して適切な結合親和性を有する化合物のハイスループットスクリーニングを提供し、1984年9月13日に公開されたGeysenのPCT公開出願WO84/035564に詳細に記載されている。簡単に述べると、上述のような多数の異なる小さなペプチド試験化合物を、プラスチックピンまたは他の何らかの表面などの固体基板上で合成する。このペプチド試験化合物を標的ポリペプチドと反応させ、洗浄する。結合したポリペプチドは、当業界でよく知られた方法で検出される。
【0086】
薬物スクリーニングのためのさらなる技術は、非機能的または改変されたTUBB4-A関連遺伝子を有する宿主の真核細胞株または細胞(上述のようなもの)を使用することを含む。これらの宿主細胞株または細胞は、ポリペプチドレベルで欠損している。この宿主細胞株または細胞は、薬物化合物の存在下で増殖する。宿主細胞の細胞代謝の速度を測定し、化合物が欠陥のある細胞の細胞代謝を調節することができるかどうかを決定する。DNA分子を導入する方法も、上述したように当業者にはよく知られている。
【0087】
本発明のH-ABC関連核酸またはその機能的フラグメントを発現する宿主細胞は、潜在的な化合物または薬剤を、白質ジストロフィーの発生を調節する能力についてスクリーニングするシステムを提供する。したがって、一実施形態では、本発明の核酸分子を使用して、神経細胞のシグナル伝達および神経細胞のコミュニケーションと構造に関連する細胞代謝の側面を調節する薬剤を同定するためのアッセイで使用する組換え細胞株を作成することができる。また、本明細書では、TUBB4-A含有核酸によってコードされるタンパク質の機能を調節することができる化合物をスクリーニングする方法も提供される。
【0088】
別のアプローチでは、改変されたTUBB4-A核酸によってコードされるポリペプチドのフラグメントをファージ表面に発現するように設計されたファージディスプレイライブラリを使用する。そのようなライブラリは、次に、発現したペプチドと化学ライブラリの成分との間の結合親和性が検出され得る条件下で、コンビナトリアル化学ライブラリと接触される。米国特許第6,057,098号および第5,965,456号には、このようなアッセイを行うための方法および装置が記載されている。このような化合物ライブラリは、Maybridge Chemical Co,(英国、トレビレット、コーンウォール)、Comgenex(ニュージャージー州プリンストン)、Microsour(コネチカット州ニューミルフォード)、Aldrich(ウィスコンシン州ミルウォーキー)、Akos Consulting and Solutions GmbH(スイス、バーゼル)、Ambinter(フランス、パリ)、Asinex(ロシア、モスクワ)、Aurora(オーストリア、グラーツ)、BioFocus DPI(スイス)、Bionet(英国、キャメルフォード)、Chembridge(カリフォルニア州サンディエゴ)、Chem Div(カリフォルニア州サンディエゴ)を含むがこれらに限定されない多くの企業から商業的に入手可能である。当業者であれば、他の入手先を知っており、容易に購入することができる。本明細書に記載されたスクリーニングアッセイで治療上有効な化合物が同定されたら、それらを医薬組成物に配合し、H-ABCの治療に利用することができる。
【0089】
合理的薬物設計の目的は、例えば、ポリペプチドのより活性なまたは安定な形態であるか、または例えば、生体内でポリペプチドの機能を増強または妨害する薬物を作るために、興味のある生物学的に活性なポリペプチドまたはそれらが相互作用する小分子(例えば、アゴニスト、アンタゴニスト、インヒビター)の構造的類似体を作り出すことである。例えば、Hodgson, (1991) Bio/Technology 9:19-21を参照のこと。上述した1つのアプローチでは、関心のあるタンパク質または例えばタンパク質-基質複合体の三次元構造は、X線結晶学によって、核磁気共鳴によって、コンピュータモデリングによって、または最も典型的には、アプローチの組み合わせによって解決される。ポリペプチドの構造に関する有用な情報は、相同性のあるタンパク質の構造に基づいてモデリングすることで得られることが少ない。合理的な薬物設計の例として、HIVプロテアーゼ阻害剤の開発が挙げられる(Erickson et al., (1990) Science 249:527-533)。さらに、ペプチドは、アラニンスキャンによって分析することができる(Wells, (1991) Meth. Enzym. 202:390-411)。この技術では、アミノ酸残基をAlaで置換し、ペプチドの活性に対するその効果を決定する。このようにして、ペプチドの各アミノ酸残基を分析し、ペプチドの重要な領域を決定する。
【0090】
また、機能アッセイによって選択された標的特異的抗体を単離し、その結晶構造を解明することも可能である。原理的には、このアプローチは、ファーマコアを得て、それをもとに薬物設計を行うことができる。
【0091】
また、機能的で薬理学的に活性な抗体に対する抗イディオタイプ抗体(抗ID)を作製することで、タンパク質の結晶構造解析を完全に回避することもできる。鏡像の鏡像として、抗IDの結合部位は元の分子の類似体であることが予想される。そして、抗IDは、化学的または生物学的に生成されたペプチドのバンクからペプチドを特定し、分離するために使用される。そして、選択されたペプチドは、ファーマコアとして機能する。
【0092】
別の実施形態では、改変されたTUBB-4A核酸の利用可能性により、本発明の白質ジストロフィー関連TUBB4-A核酸を有する実験用マウスの系統の生産が可能になる。本発明の白質ジストロフィー関連核酸を発現するトランスジェニックマウスは、白質ジストロフィーの発症および進行におけるg核酸がコードする変異Tubb4-aタンパク質の役割を検討するモデルシステムを提供するものである。実験用マウスに導入遺伝子を導入する方法は、当業者に知られており、以下に記載する。3つの一般的な方法は、1.目的の外来遺伝子をコードするレトロウイルスベクターの初期胚への組み込み、2.新たに受精した卵の前核へのDNAの注入、3.遺伝的に操作された胚性幹細胞の初期胚への組み込み、を含む。上記のようなトランスジェニックマウスを作製することで、標的タンパク質が様々な細胞の代謝や神経系で果たす役割を分子レベルで解明することができる。このようなマウスは、全動物モデルで推定治療薬を研究するための生体内スクリーニングツールを提供し、本発明に包含される。
【0093】
用語「動物」は、本明細書において、ヒトを除くすべての脊椎動物を含むように使用される。また、胚期および胎児期を含む、すべての発達段階にある個々の動物を含む。「トランスジェニック動物」とは、標的組換えや微量注入、組換えウイルスの感染など、細胞以下のレベルでの意図的な遺伝子操作により、直接的または間接的に変更されたまたは受け取られた遺伝情報を有する1つ以上の細胞を含む動物をいう。用語「トランスジェニック動物」は、古典的な異種交配や体外受精を包含するものではなく、むしろ、1つ以上の細胞が組換えDNA分子によって変化しているか、または組換えDNA分子を受け取っている動物を包含するものであると考えられる。この分子は、特定の遺伝子座を標的としたものであっても、染色体にランダムに組み込まれたものであっても、あるいは染色体外で複製されたDNAであってもよい。用語「生殖細胞系トランスジェニック動物」とは、遺伝子改変または遺伝情報が生殖細胞系細胞に導入され、それによって遺伝情報を子孫に伝える能力が付与されたトランスジェニック動物を指す。その子孫が実際にその改変や遺伝情報の一部または全てを有する場合、その子孫もトランスジェニック動物であると言える。
【0094】
標的遺伝子を改変するために使用されるDNAは、ゲノム源からの単離、単離されたmRNAテンプレートからのcDNAの調製、直接合成、またはそれらの組み合わせを含むがこれらに限定されない多様な技術によって得ることができる。
【0095】
導入遺伝子を導入するための好ましいタイプの標的細胞は、胚性幹細胞(ES)である。ES細胞は、試験管内で培養した着床前の胚から得ることができる(Evans et al., (1981) Nature 292:154-156; Bradley et al., (1984) Nature 309:255-258; Gossler et al., (1986) Proc. Natl. Acad. Sci. 83:9065-9069)に記載されている。導入遺伝子は、DNA遺伝子導入、またはレトロウイルスを介した導入などの標準的な技術によって、ES細胞に効率的に導入することができる。得られた形質転換ES細胞は、その後、非ヒト動物の胚盤胞と組み合わせることができる。導入されたES細胞は、その後、胚をコロニー化し、得られたキメラ動物の生殖系列に寄与する。
【0096】
望む変異に任意の遺伝子領域を不活性化または改変する技術が利用可能である。本明細書において、ノックイン動物とは、例えば、内在性マウス遺伝子が本発明のヒト白質ジストロフィー関連TUBB4-A遺伝子で置換された動物である。このようなノックイン動物は、白質ジストロフィーの発症を研究するための理想的なモデルシステムを提供する。ノックアウト動物も作成可能である。
【0097】
本明細書で使用されるように、白質ジストロフィー関連核酸、そのフラグメントの発現は、白質ジストロフィー関連核酸の全部または一部をコードする核酸配列が、コードされたタンパク質の発現を特定の組織または細胞型で指示する調節配列(例えば、プロモーターおよび/またはエンハンサー)に作動可能に連結されたベクターを使用して、「組織特異的な方法」または「細胞型特異的な方法」で標的化することができる。このような調節要素は、生体外および生体内の両方の用途に有利に使用することができる。組織特異的なタンパク質を指示するためのプロモーターは、当技術分野でよく知られており、本明細書に記載されている。
【0098】
本発明のトランスジェニックマウスの使用方法も本明細書に記載されている。白質ジストロフィー関連TUBB4-Aまたはそのコード化されたタンパク質を含む核酸が導入されたトランスジェニックマウスは、例えば、白質ジストロフィーの発症を調節することができるものを特定するために治療薬をスクリーニングするためのスクリーニング方法を開発するのに有用である。
【0099】
医薬品とペプチド治療薬
本明細書に記載された白質ジストロフィー関連CNV/SNPが神経細胞のシグナル伝達や脳の構造において果たす役割が解明されたことにより、白質ジストロフィーの治療や診断に有用な医薬組成物の開発が促進される。これらの組成物は、上記の物質の1つに加えて、薬学的に許容される賦形剤、担体、緩衝剤、安定剤、または当業者によく知られている他の材料を含んでいてもよい。このような材料は、非毒性であるべきであり、活性成分の効力を妨げてはならない。担体やその他の材料の正確な性質は、経口、静脈内、皮膚または皮下、鼻腔内、筋肉内、腹腔内などの投与経路によって異なる。
【0100】
医薬組成物
機能性核酸誘導体などの治療薬、予防薬、診断薬の誘導体を含む医薬組成物は、そのような治療を必要とする対象に非経口的に投与することができる。非経口投与は、注射器、任意にペン型注射器を用いて、皮下、筋肉内、または静脈内に注射することによって行うことができる。また、非経口投与は、輸液ポンプを用いて行うこともできる。さらなる選択肢は、治療薬、予防薬、または診断薬を鼻または肺に、好ましくはその目的のために特別に設計された組成物、粉末または液体で投与することである。
【0101】
治療薬、予防薬、または診断薬の誘導体の注射用組成物は、目的の最終製品を得るために必要に応じて成分を溶解および混合することを含む製薬業界の従来の技術を用いて調製することができる。したがって、1つの手順によれば、治療薬、予防薬、診断薬の誘導体を、調製する組成物の最終容量よりもやや少ない量の水に溶解することができる。必要に応じて、等張化剤、防腐剤およびバッファーを添加することができ、必要に応じて塩酸などの酸や水酸化ナトリウム水溶液などの塩基を用いて溶液のpH値を調整する。最後に、水で溶液の量を調整して、成分の所望の濃度を得ることができる。
【0102】
いくつかの実施形態では、バッファーは、酢酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、クエン酸塩、グリシルグリシン、ヒスチジン、グリシン、リジン、アルギニン、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸ナトリウム、およびトリス(ヒドロキシメチル)-アミノメタン、ビシン、トリシン、リンゴ酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、アスパラギン酸、またはそれらの混合物からなる群から選択され得る。これらの特定のバッファーのそれぞれおよびその組み合わせが、代替の実施形態を構成する。
【0103】
本発明の実施を容易にするために、以下の材料と方法が提供される。
【0104】
モデルマウスの作成
ヘテロ接合性Tubb4aD249Nマウスは、(クラスター化された規則的に間隔を空けた短いパリンドロームリピート(CRISPR)-Cas-9技術を用いて、Tubb4a遺伝子のエクソン4にp.Asp249Asn(c.745G>A)変異を挿入して作製された。マウスのTubb4a遺伝子は、4つのエクソンを有する17番染色体上に位置する。Cas9 mRNA、gRNA、オリゴヌクレオチド(ターゲティング配列を持ち、両側に120bpの相同体が隣接している)を接合体に同時注入した。得られたCRISPRノックインマウスモデルは、Tubb4a遺伝子(Tubb4aD249N)の1つの対立遺伝子にc.745G>Aのヘテロ接合性点変異を有する。これらのヘテロ接合マウスを繁殖させ、ヘテロ接合Tubb4aD249N動物に加えて、taeipラットモデルで見られるホモ接合の変異(Li et al., 2003)と同じように、ホモ接合のTubb4aD249N/D249Nマウスを作製した。野生型(WT)、Tubb4aマウスD249N、Tubb4aD249N/D249Nマウスをすべての分析に含めた。動物はすべての実験段階で遺伝子型を決定した。マウスは清潔な施設で12時間明期:12時間暗期のサイクルで飼育し、餌と水を自由に摂取できるようにした。実験方法および研究プロトコルは、フィラデルフィア小児病院の施設内動物管理使用委員会によって完全に承認され、改訂された国立衛生研究所の実験動物福祉方針に準拠していた。
【0105】
行動分析
歩行角、歩行力、ぶら下がり握力、立ち直り反射(Feather-Schussler and Ferguson, 2016)およびローターロッド(Shiotsuki et al., 2010)を定義された発育間隔で評価した(図1)。行動試験には、各条件につき少なくとも10匹のコホートが含まれた。
【0106】
組織処理
マウスは体重に応じて90~150mg/kgのケタミンと7.5~16mg/kgのキシラジンの混合物で深く麻酔され、1X PBSで最初に洗浄した後、1Xリン酸緩衝生理食塩水(PBS)(Thermo fisher Scientific,米国)中の4%パラホルムアルデヒド(PFA)で経心的に灌流された。脳を回収し、1X PBS中4% PFAで一晩後に固定した後、組織を1X PBS中30%スクロースで脱水した。脳を最適切断温度化合物(O.C.T. Compound,SAKURA,4583,米国)に埋め込み、クライオスタットミクロトーム(CM 3050 S,Leica biosystems,米国)を用いて冠状切片または矢状切片(50μm)にスライスした。
【0107】
免疫組織化学と画像取得
ミエリンの定量化とニューロフィラメントの染色は、以前に発表されたプロトコルに従ってエリオクロムシアニン(Eri-C)染色で行った(Sahinkaya et al., 2014)。
【0108】
ニッスル染色は、凍結切片を0.1%クレシルバイオレットで15分間染色した後、PBSで洗浄し、段階的なアルコール(70~100%)で脱水し、続いてキシレン処理を行い、パーマウントでマウントした。免疫蛍光染色のために、自由浮遊切片を2%ウシ血清アルブミン(BSA)および0.1%トリトン(Tx)-100で室温で1時間ブロックした後、一次抗体を4℃で一晩、蛍光二次抗体を室温で1時間、順次培養した。一次抗体は、ラット抗プロテオリピッドタンパク質(PLP)(IDDRC hybridoma,Judith Grinspan博士提供)、ウサギ抗ミエリン塩基性タンパク質(MBP)(1:250,Abcam,Cat:ab40389)、ウサギ抗NG2(1:250,US biological,Cat:C5067-70D)、マウス抗Olig2(1:100,Millipore,MABN50)、マウス抗ニューロン核(NeuN)(1:1000,Millipore,Cat:MAB377)、ウサギ抗アスパルトアシラーゼ(ASPA)(1:1000,Millipore,Cat:GTX110699)、ウサギ抗切断カスパーゼ(1:200,細胞シグナル伝達;Cat:#9579)、ウサギ抗カルビンジン(1:250,Swant,Cat:CB38)を含む。使用した二次抗体はウサギ、マウス、ラットに対するAlexaFluor-488-またはAlexaFluor-647-コンジュゲート二次抗体(1:1000、Invitrogen)。核はDAPIで対比染色された。
【0109】
免疫ブロット法
P14、P21、末期の小脳および前脳における主要なミエリンタンパク質、PLPおよびMBPのタンパク質レベルを測定するために、それぞれの脳組織をプロテアーゼおよびホスファターゼ阻害剤(Sigma-Aldrich,米国)の存在下、RIPAバッファー(Thermo Fischer Scientific,米国)で溶解した。サンプルをLaemmliバッファーで煮沸し、SDS-PAGEゲル(4~15% ミニプロティアンプレキャストゲル,Biorad,米国)で還元条件で電気泳動した。タンパク質はエレクトロブロッティングによりニトロセルロース膜(Trans-blot Turbo transfer system,Biorad,米国)に転写された。膜は、トリス緩衝生理食塩水(TBST)に0.05% tween20を加えて調製したブロッキングバッファー(1%脱脂乳、Biorad)でブロックし、続いてブロッキングバッファーで希釈したラット抗PLP(1:1000、IDDRC hybridoma、Judith Grinspan博士提供)およびウサギ抗MBP(1:2000、Abcam、Cat:ab40389)に対する一次抗体を用いて4℃で一晩培養した。膜をTBSTで5回洗浄し、二次HRP結合ヤギ抗ウサギ抗体(1:5000、Santa Cruz、カタログ番号#sc2357)またはヤギ抗ラット抗体(1:5000、ThermoFisher Scientific、カタログ番号#31470)をブロッキングバッファーで1時間培養し、TBSTで洗浄し、製造者の指示に従って標準ECLプロトコルを用いて現像した(Pierce ECL、ThermoFisher Scientific)。画像は、Image Jソフトウェアでスキャンおよび分析した。ローディング管理との正規化のために、製造者の指示(One minute Western Blot Stripping buffer,GM Biosciences)に従ってストリッピングを行った後、マウス抗アクチン(Company、1:4000)およびマウス抗ビンキュリン(Company、1:2000)を使用した。
【0110】
電子顕微鏡
髄鞘形成は、電子顕微鏡(EM)を用いた構造解析のための超薄切片でさらに評価した。マウスの別のコホートを生理食塩水で経心的に灌流し、続いて末期(~35日目)に、0.1M PB(PB;pH7.4)中の2%PFAおよび2%グルタルアルデヒドで灌流した(n=3/グループ)(Lancaster et al., 2018)。各マウスを解剖し、視神経、頸髄、小脳(虫部)を分離した。組織を24時間後固定し、0.1M PBでリンスし、0.1M PB中の2% OsOに1時間移した後、エポンに埋め込むための処理を行った(Lancaster et al., 2018)。半薄切片を切り取り、アルカリ性トルイジンブルーで染色し、光学顕微鏡(Lecia DMR)インタラクティブソフトウェア(Leica Application Suite)を用いて可視化した。超薄切片(70nm)を切り取り、クエン酸鉛と酢酸ウラニルで染色し、Jeol-1010透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて画像化した。視神経から100倍で撮影されたEM切片からの画像をImage Jソフトウェアを用いて評価し、g-比分析のために内側と外側の軸索面積を測定し、1匹あたり50軸索、1グループあたりn=3で、既報の通り定量化した (Lancaster et al., 2018)。
【0111】
オリゴデンドロサイトの培養
変異による細胞の自律効果は、WT、Tubb4aD249N、Tubb4aD249N/D249Nマウスからオリゴデンドロサイトを培養して分離することで評価した。一次オリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)は、補足的な方法に記載されているように、Miltenyl抗-O4マイクロビーズを用いて、出生後P4~P7の間に大脳皮質から分離した。O4+細胞を、24ウェルプレートの1ウェルあたり20,000個のOPCの密度でプレーティングした。この細胞を5~7日間増殖させた後、PDGFおよびbFGFを含まない培地およびチロキシン T4(20g/ml;Sigma T0397)を含む培地でさらに5日間分化させた。その後、細胞を4%PFAで固定し、標準的な免疫化学プロトコルで染色した。カバースリップを1X PBSで2回洗浄し、0.2% Tx-100で透過処理した後、10% 正常ヤギ血清(NGS)溶液で1時間ブロッキングした。一次抗体は5%NGSで調製し、4℃で一晩培養した。使用した一次抗体は、オリゴデンドロサイトマーカーウサギOlig2(1:800;EMD Millipore AB9610)、成熟ミエリンマーカーのラットPLP(1:1)およびラットMBP(1:1)(IDDRC hybridoma,Judith Grinspan博士提供)、翌日PBSで3回洗浄し、適切な二次蛍光抗体(1:500;抗-ラットIgG Alexa Fluor 488、抗-ウサギIgG Alexa Fluor 647)で培養した。その後、Prolong gold褐色防止剤(Thermo Fisher Scientific)を用いて細胞をマウントし、Nikon顕微鏡を用いて20倍または40倍の対物レンズで画像を撮影し、細胞数を分析した。
【0112】
大脳皮質ニューロン培養
変異の細胞自律的影響は、培養中のWT、Tubb4aD249N、Tubb4aD249N/D249Nマウスからニューロンを分離することで評価した。一次皮質ニューロンは、前述のようにE15.5胚から分離した(Guedes-Dias et al., 2019)。簡単に説明すると、各胚から皮質を取り出し、HBSSで洗浄した後、各サンプルに2.5%のトリプシンを加え、37℃で7分間培養した。トリプシンを除去し、新たに温めたHBSSで4回洗浄した後、付着培地(MEM培地、1%ピルビン酸ナトリウム、1%馬血清、グルコース、塩化ナトリウム)に再懸濁した。均質な単一細胞溶液になるまで、ピペットを用いて細胞を粉砕した。細胞をカウントし、PLLコーティングされたMaTeKプレート(中央部のみ)に150,000個/プレート、100,000個/ウェルの密度で24ウェルプレートにプレーティングした。培地は4時間後にあらかじめ平衡化された維持培地(神経基底培地、1% glutamax、1% ペニシリン/ストレプトマイシン、グルコース、塩化ナトリウムおよび2%B27溶液)に交換した。3日後、培地の20~30%を除去し、有糸分裂阻害剤AraCを添加した新鮮な培地を補充し、その後ニューロンを培養した。24ウェルプレートにプレーティングしたニューロンは、細胞生存分析、軸索および樹状突起の長さの測定で評価した。神経細胞をMAP2(1:200)とTuJ1(1:200)で染色し、樹状突起と細胞体/軸をそれぞれ標識し、20倍または40倍の対物レンズで撮影して細胞数を数え、軸索と樹状突起の長さを測定した。軸索と樹状突起の長さは、FiJiソフトウェアのNeurite tracerプラグインを用いて測定した。
【0113】
EB3ダイナミクスのライブイメージング
エンドバインディングタンパク3(EB3)が微小管の成長するプラス端をタグ付けするEB3-mCherryのライブセルイメージングにより、微小管ダイナミクスを評価した。大脳皮質ニューロンは、Lipofectamine 2000(Invitrogen)を用いてEB3-mCherryをトランスフェクトした。遺伝子導入から20~24時間後、維持培地を、2%のB27と2mMのGlutaMAXを添加した低蛍光のHibernate Eイメージング培地(BrainBits)に交換した。神経細胞は、パーキンエルマー製UltraView Vox Spinning Disk Confocalシステムとニコン製Eclipse Ti倒立顕微鏡を用いて、Plan Apochromat 60倍 1.40NA油浸対物レンズを使用し、37℃の環境チャンバー内でイメージングした。画像は、Volocityソフトウェア(PerkinElmer)によって駆動される浜松のEMCCD C9100-50カメラを用いて、1フレーム2秒のフレームレートで600秒かけて取得した。EB3ダイナミクスの定量化は、前述の方法で行った(Guedes-Dias et al., 2019)。カイモグラフの作成にはImageJのマクロツールセットKymoClearを使用した(Mangeol et al., 2016)。KymoClearツールセットは、元のカイモグラフにフーリエフィルターをかけることで、前向性、逆向性、または静的コンポーネントの自動識別を可能にし、データの定量的分析に影響を与えることなく、EB3コメットのS/N比を向上させる。個々のEB3コメットの軌跡は、カスタムMATLAB GUI(Kymograph Suite)を用いて手動でトレースし、各コメットの走行距離、走行時間、速度を測定した。研究者は、画像取得とキモグラフ解析の両方において、ニューロンの遺伝子型については盲検化した。
【0114】
統計解析
すべてのグラフデータは、平均±標準誤差平均(SEM)で示した。本文中の「n」は、特に明記されていない限り、実験ごとに使用されたマウスの数を表す。歩行異常、立ち直り反射、ローターロッド、および体重評価については、反復測定法を用いた二元配置分散分析に続いて、事後テューキー検定を用いて分析した。握力と歩行については、一元配置分散分析とテューキー事後検定を行った。生存率はカプランマイヤー法で分析し、グループ間の差はゲーハン・ブレスロウ・ウィルコクソン検定で推定した。ミエリン定量化、NeuN、ASPA、NG2、Olig2、切断型カスパーゼ3の数と蛍光強度の比較は、通常の二元配置分散分析で分析し、多重比較の事後テューキー検定を行った。ニューロンの生存、軸索と樹状突起の長さ、および試験管内で調べたOLマーカーの評価を、一元配置分散分析を用いて、テューキー事後分析テストで比較した。ニューロンにおけるEB3ダイナミクスは、反復測定を伴う一元配置分散分析または二元配置分散分析を用いて分析した。すべての統計解析は、Prism 7.0(GraphPad Software)を用いて行い、p<0.05を統計的に有意とした。
【0115】
マウスのジェノタイピング
尾部からのDNA抽出は、既報の通りHotSHOT法を用いて行った (Truett et al., 2000)。フォワードプライマー5’CCGAGAGGAGTTTCCAGACAGACAGGATC3’(配列ID番号:3)とリバースプライマー5’GCTCTGCACACTTAACATCTGCTCG3’(配列ID番号:4)を用いて、PCR産物の541bpをtaq-takaraシステムで増幅した。増幅産物を配列決定して、マウスの遺伝子型を同定した。
【0116】
行動テスト
歩行角度:歩行異常は、歩行/後肢の足の角度を測定することで決定された。歩行角度はいくつかの修正を加えて実施した(Feather-Schussler and Ferguson, 2016)。歩行角度は、P7、P14、P21、P28、およびP35で毎週測定された。仔マウスが両足を地面につけて直線的に完全な歩行を行っている場合にのみ、データを使用して3つの測定を実行した。
【0117】
歩行:歩行障害は、いくつかの修正を加えた前記の方法で検出した(Feather-Schussler and Ferguson, 2016)。歩行行動は、P7、10、14で評価した。はい歩きと歩行のこれらの戦略に基づいて、トランスジェニックマウスがWT同腹子よりも遅くはい歩き/歩行スキルを獲得するかどうかを調べた。マウスは1回の試行で、はい歩き、歩行の対称性、直進時の手足の動きを採点した(図1および表3)。
【表3】
【0118】
図1Eに示すように、はい歩き中は後肢全体が(#)で示すように地面に触れ、尾は低いか地面に触れている。はい歩きから歩行に移行すると、頭が上がり始める。歩行は、[##]で示されるように、後肢のつま先が地面につき、かかとが上がった状態で初めて見られる(Feather-Schussler and Ferguson, 2016)。対照的な四肢の動きとは、一歩ごとに後肢と前肢が重なり、一歩ごとに次の一歩へとスムーズに移行することをいう。非対称な四肢の動きを示すマウスは、前足の置き方が一定せず、一歩から次の一歩への移行がスムーズではない。
【0119】
ぶら下がり握力:前肢と後足の把持力は、ぶら下がり握力を測定することで決定された。ぶら下がり握力は、Feather-Schussler and Ferguson, 2016に記載した方法で行った。試行は3回繰り返され、平均角度を算出した。13"×9.5"の金属スクリーン金網を用いて、P14のぶら下がり握力を行った。分度器を金網と平行に設置し,仔マウスが落下する角度を測定した。マウスをスクリーン上に置き、この新しい環境に約10秒間適応させた。スクリーンをゆっくりと180度反転させ、仔マウスが落ちたときのスクリーンのおおよその角度を記録した。この試行を3回繰り返し、平均角度を算出した。
【0120】
立ち直り反射:立ち直り反射は、マウスの体幹の制御と運動協調をテストする。立ち直り反射は、上記Feather-Schussler and Ferguson, 2016に記載されている通りに行った。立ち直り反射試験は、P7、P14、P21、P28、P35から1週間ごとに行い、その後、Tubb4aD249N/D249Nマウスが運動障害を示したときに毎日実施された。3回の試行が行われ、必要に応じて、各試行に合計1分間が与えられた。立ち直り反射試験は、P7、14、21、28、35から1週間ごとに行い、その後、Tubb4aD249N/D249Nマウスが運動障害を示したときに毎日実施された。マウスをベンチパッド上に仰向けに置き、5秒間その位置を保持した。マウスを放し、平らな位置に戻るまでの時間を記録した。3回の試行を行い、必要に応じて各試行に合計1分間が与えられた。
【0121】
ローターロッド:運動協調性、強度、バランスは、ローターロッド(UGO BASILE S.R.L,Gemonio,イタリア)を使用して評価された。トレーニング期間(P21)後の3回のテストトライアルにおいて、ローターロッドから落下するまでの待ち時間を各トライアルで記録し、その平均を分析に用いた。進行性の運動喪失を評価するために,P28およびP35にローターロッド試験を行い、マウスの年齢間の落下の潜時の平均を統計分析に用いた。装置に適応させるために、1日目は5rpmの一定速度で回転する円筒形の棒の上にマウスを100秒間置いた。翌日は、5~30rpmの加速速度で300秒間、約20分の間隔をおいて3回の試験を行った。3日目に、5~30rpmの加速速度で300秒間、3回の試験を行った。
【0122】
免疫組織化学、画像解析、定量化
ミエリンの定量化とニューロフィラメント染色:
浮遊切片をメタノール中の10%過酸化水素で20分間処理し、ブロッキングバッファー(4%ウシ血清アルブミン(BSA)、1×PBS、0.1%Triton-x(Tx)-100)で1時間ブロッキングした後、同じブロッキングバッファーで1:500のニワトリ抗NF(1:500、Aves、cat:NFH)を4℃で一晩培養した。一次抗体の培養後、切片をビオチン化抗ニワトリ二次抗体(1:1000、Aves、cat:B-1005)と1時間培養し、Elite Avidin Biotin Conjugate(Vector)で現像し、DAB基質で視覚化した。スライドを水道水ですすぎ、アセトンで処理し、水道水ですすぎ、エリオクロムシアニン(Eri-C)溶液に30分浸した。切片を5%鉄ミョウバンで微粒化し、水道水ですすいだ後、フェリシアン化ホウ砂で微粒化した。切片は脱水、クリア、パーマウント(Fischer Scientific、米国)でマウントし、カバースリップを施した。脳梁および小脳におけるミエリンの定量化のために(1匹のマウスにつき3~4個の切片、PND14、P21および末期にはn=少なくとも3)、Keyence BZ-X-700デジタル顕微鏡の明視野モードで画像を撮影した。10倍の倍率で捕捉された画像は、Keyence BZ-Xソフトウェアで並べて表示された。染色された領域は、Image Jソフトウェアで測定され、白質全体と関連付けられた。
【0123】
NeuNおよびカスパーゼの数:線条体および小脳の切片(マウス1匹につき3~4個の切片、P14、P21および末期ではn=3~4)について、Leica DM6000B蛍光顕微鏡を用いて、1~2μm間隔でZ-optical切片を用いて、それぞれ20倍および63倍で画像を捕捉した。Image Jソフトウェアを用いてDAPIを含むNeuN+細胞をカウントした。解析はブラインドで行い、カウントはプロファイル/mmとして報告した。
【0124】
ASPAおよびOlig2/NG2の数:プロトコルは、いくつかの変更を加えて、以前に出版されたものに従って行った(Lee et al., 1985)。ASPAとNG2+/Olig2+を標識し、DAPIで対比染色した切片を用いて、脳梁のASPAおよびNG2+/Olig2+細胞の総数を定量化した。すべての画像は、オリンパスのレーザー走査型共焦点顕微鏡の40倍の油浸レンズで、0.5~1μmの光学間隔でzスタックを用いて撮影した。Image Jソフトウェアを使用し、標準化されたサンプルボックス(0.01mm)を関心領域に配置した。陽性に標識された細胞は、ASPA+またはNG2+/OLG2+またはOLG2+細胞として同定され、DAPI核と重ね合わせた。最終的なカウントはプロファイル/mmとして報告される。
【0125】
蛍光密度と面積の定量化:蛍光陽性領域と密度を定量化するために、Leica DM6000B蛍光顕微鏡を用いて10倍の倍率で画像を捕捉した。Image Jソフトウェアを使用し、関心のある領域を選択し、統合された領域密度とグレー値を計算した。蛍光の算出には以下の式を用いた。
補正された総蛍光量=総密度-(選択されたセルの面積×バックグラウンド読み取り値の平均蛍光量)。
【0126】
オリゴデンドロサイトの分離:
簡単に説明すると、皮質は各マウスの脳から顕微解剖して分離し、培養物を汚染しないように髄膜を除去した。皮質をより小さなフラグメントに切断し、Neural Dissociation kit(Miltenyl Biotec(P),130-092-628)を用いて解離させ、プロトコルに従って、各サンプルを酵素ミックス1(酵素PおよびバッファーX)とともに37℃で15分間培養した。次に、酵素ミックス2を加え、火で磨いたパスツールピペットを用いて組織を機械的に分離し、37℃で10分間培養した。このプロセスをさらに2回繰り返して単一細胞の溶液を得て、これを70μmストレーナーに塗布し、300xgで10分間遠心分離した。細胞ペレットを、0.5%のウシ血清アルブミンを含む90μlのPBSバッファー(pH7.2)に再懸濁した。10μlの抗-O4マイクロビーズを細胞ペレットに加えて混合し、冷蔵庫で15分間培養した。その後、細胞を1~2mlのバッファーで洗浄し、300xgで10分間遠心分離した。上清を吸引し、細胞を500μlのバッファーに再懸濁した。MS MACSカラムを磁場に置き、500μlのバッファーでリンスした後、細胞懸濁液を磁気カラムにかけた。標識されていない細胞を含む通過画分を回収し、カラムを500μlのバッファーで3回すすいだ。その後、カラムをセパレーターから取り出し、適切な収集チューブの上に置き、そこに適量の培地を適用し、プランジャーをカラムに押し込むことで直ちにフラッシュした。この画分は、O4細胞を、2%B27、1%ペニシリン・ストレプトマイシン、1%グルタミンおよび成長因子であるヒトbFGF(100g/ml;R&D 233-FB/CF)、ヒトPDGF-AA(100g/ml;Peprotech 100-13A)およびヒトNT3(100μg/ml;Peprotech 450-03)を含むニューロバサル培地に懸濁したものである。
【0127】
アンチセンスオリゴヌクレオチド合成
Integrated DNA Technologiesにより11種類のASOが合成された。これらのASOの試験管内スクリーニングを行い、最適なASOデザインを特定した。マウスOli-neu細胞を、NEPA21電気穿孔システム(NEPA GENE、米国)を用いて、100μLの培地にASO濃度1μM、5μM、10μMを150Vで、100,000細胞/ウェルで電気穿孔した。電気穿孔後、細胞をポリ-L-オルニチンを塗布したプレートに移し、インキュベーターに入れた。処置から48時間後、細胞をPBSで洗浄した後、PureLink(商標)RNA Mini Kit(ThermoFisher Scientific,Cat:12183018A)を用いて、製造者の指示に従ってRNA抽出を行った。DNAアーゼ(Invitrogen)で処理した後、200ngのRNAをSuperScript(商標)IV First-Strand Synthesis System(ThermoFisher Scientific,Cat:18091200)を用いてcDNAに使用した。Applied Biosystems Quanta Flex 7(ThermoFisher Scientific、米国)を用いたリアルタイムPCR分析(Taqman chemistry)により、Tubb4a、および、参照としてスプライシング因子、アルギニン/セリン-リッチ9(sfrs9)をコードする内因性ハウスキーピング遺伝子のmRNA発現レベルを定量した。結果は、ΔΔCT法を用いて分析した。
【0128】
以下の実施例は、本発明の特定の実施形態を説明するために提供される。それらは、本発明をいかなる形でも限定することを意図していない。
【0129】
実施例
実施例I
H-ABC疾患のマウスモデル
本実施例では、ジストニア、運動機能の喪失、歩行異常などのヒト疾患の特徴を再現したH-ABCのモデルとして、Tubb4aD249N/D249N変異を有するノックインマウスを作製したことを述べている。このモデルマウスの病理組織学的特徴は、患者の組織で観察されたように、線条体と小脳のニューロンの喪失、脳と脊髄の髄鞘形成不全の両方を含んでいる(Curiel et al., 2017b)。また、Tubb4aD249N/D249Nマウスを用いて、変異チューブリンの微小管重合に対する機能的影響や、Tubb4a変異のニューロンおよびオリゴデンドロサイトにおける細胞自律的役割についても検討した。この研究は、最も頻繁に発生する突然変異を使用して、この壊滅的な病気の根底にあるメカニズムを理解し、治療法を開発する上で重要な、H-ABCの有望な最初のモデルを提供するものである。
【0130】
Tubb4aD249NCRISPRノックインマウスの作製
p.Asp249Asn(p.745G>A)変異を持つ古典的なH-ABCの分子メカニズムと疾患経過を理解するために、CRISPRを用いてノックインマウスモデルTubb4aD249Nを作製した。さらに、これらのTubb4aD249Nマウスを繁殖させて、ホモ接合のTubb4aD249N/D249Nマウスのコロニーを得た(図1A)。ホモ接合性マウスをTubb4aD249Nマウスと並行して研究した。これは、H-ABCの罹患者にヘテロ接合性の変異があるにもかかわらず、Tubb4a変異のげっ歯類モデルで表現型の早期発現にホモ接合性の発現が必要とされていることと同様である(13)。
【0131】
Tubb4aD249N/D249Nマウスは早期に病気を発症し、生存率が低下する
Tubb4aD249NとTubb4aD249N/D249Nマウスの表現型を決定するために、マウスは生まれた後、毎日のように検査された。出生から生後8日目までは、WT、Tubb4aD249N、Tubb4aD249N/D249Nの各マウスは、その発育に関して同様に見えた。しかし、P9までにTubb4aD249N/D249Nマウスは震えたような行動をとるようになる。この表現型は年齢とともに徐々に悪化し、時間の経過とともに重度の運動失調やジストニーになっていく。P35~P40になると、マウスは自力で食事をとることができなくなり、右足の動きも鈍くなり、この時点を「末期」(コンパッショネート末期)と表現する(p<0.001、図1Bおよび1C)。さらに、体重を測定したところ、Tubb4aD249N/D249NマウスはP35から徐々に体重が減少し始め、P37(15.02±0.67)ではTubb4aマウスD249N(18.57±0.38)およびWTマウス(17.44±0.43)に比べて有意に減少した(p<0.001、図1L)。
【0132】
Tubb4aD249Nマウスは正常に見え、明らかな行動上の表現型は見られない。Tubb4aD249Nマウスの生存率はWTマウスと同程度であり、主に高齢のために死亡する(カプランマイヤー生存曲線、図2A)。
【0133】
Tubb4aD249N/D249Nマウスの歩行異常を示す
H-ABCに罹患した個体は、歩行の遅れ、運動失調、歩行異常、進行性の運動機能障害を示すことから、我々はTubb4aD249NおよびTubb4aD249N/D249Nマウスで包括的な行動分析を行い、マウスがH-ABCの行動表現型を同様に再現するかどうかを確認することにした(図1D)(1,10,20)。
【0134】
Tubb4aD249NおよびTubb4aD249N/D249Nマウスが歩行の異常を示すかどうかを調べるために、歩行角または後肢足部の角度を測定した。P14から開始したところ、Tubb4aD249N/D249NマウスはWT同腹子と比較して有意に広い歩行角度を示す一方で、Tubb4aD249Nマウスは歩行角度の欠損を伴わずに歩行した(p<0.001、図1Gおよび1H;P14-71.82±4.26vs43.16±2.46、P21-84.00±7.56vs61.96±2.93、P35-81.03±5.37vs52.66±1.87)。Tubb4aD249N/D249Nマウスの広い歩行角度は、これらの年齢で見られる歩行の不安定さと一致している。仔マウスと大人のマウスは、歩行を安定させ、バランスと筋肉の動きの協調を支えるために、後肢の角度を大きくする必要があるためである(14)。
【0135】
WT、Tubb4aD249NおよびTubb4aD249N/D249Nマウスでは、マウスがはい歩きから歩行に移行する早い時期に歩行を評価した(歩行スコアについては表3参照)。P7では、Tubb4aD249NおよびTubb4aD249N/D249Nマウスは、WT対照マウスと同様に非対称な這い歩きを示した(図1E)。P10までに、Tubb4aD249N/D249Nマウスは若い仔に見られるようなはい歩き歩行で非対称な肢の動きを示し、さらにWT同腹子対照マウスに比べて震えを示した(P10-1.20±0.13vs2.20±0.25)(p<0.05、図1Eおよび1F)。一方、Tubb4aD249Nははい歩き/歩行足取りでより対称的な肢の動きを示した。Tubb4aD249N/D249Nマウスを含むすべてのマウスがP14までに歩行能力を獲得したが、ホモ接合のTubb4aD249N/D249Nマウスは依然として震えを示している。
【0136】
Tubb4aD249N/D249Nマウスは進行性の運動機能障害を示す
Tubb4aD249NおよびTubb4aD249N/D249Nマウスが運動発達にさらなる障害を示すかどうかを評価するために、P14においてぶら下がり握力を行うことで、その把持能力を測定した。マウスが凹凸のある場所を登ったり走ったりするためには、4本の足すべてでつかむことが不可欠であり(14)、握力のパフォーマンス低下は、マウスの運動能力が低下していることを意味する。Tubb4aD249Nマウスは、WT同腹子と比較して同程度の握力を示したが、Tubb4aD249N/D249Nマウスの落下角度はWTよりも有意に小さかった(86.40±2.51vs103.9±1.84;p<0.001,図1Iおよび1J)。
【0137】
疾患が進行性であるかどうか、また、幼若マウスのTubb4aの変異が協調性やバランスに影響を与えるかどうかを評価するために、P21、P28、P35において、これらのマウスのローターロッドでのパフォーマンスを評価した。その結果、ヘテロ接合体のTubb4aD249Nマウスのパフォーマンス(転倒までの時間(秒)で測定)は、WT同腹子と比較して有意な差は見られなかったが、ホモ接合体のTubb4aD249N/D249Nマウスは、P21(107.1±7.58vs213.8±15.16秒)、P28(101.0±10.30vs239.0±10.76秒)、P35(20.69±6.71vs257.9±11.40秒)において、加速式のローターロッドでの落下までの時間が短くなり、時間の経過とともに徐々に悪化した(p<0.001、図1K)。
【0138】
Tubb4aD249Nマウスが後の段階で行動障害を起こすかどうかを調べるために、生後9か月と1年の時点でローターロッドテストを行ったが、WTマウスに比べて変化は見られなかった(図2B)。
【0139】
最後に、P7からP35までは毎週、続いてP35からTubb4aD249N/D249Nマウスの末期までは毎日、立ち直り反射を評価した。表面立ち直り能力テストでは、マウスの体幹制御と協調能力をテストする(14)。また、自己ケアや摂食のために必要な能力であるため、本研究では倫理的なエンドポイントとして使用される(21,22)。P14までに、すべてのマウスがすぐに身を起こすことができたが、38日目以降、Tubb4aD249N/D249NマウスはWT同腹子に比べて有意に身を起こす能力が低下していた(p<0.001、図1L)。
【0140】
Tubb4aD249N/D249Nマウスは髄鞘形成の重度の発達遅延を示し、Tubb4aマウスD249NマウスもTubb4aD249N/D249マウスも最終的には髄鞘形成の消失を示す
Tubb4aD249NおよびTubb4aD249N/D249Nマウスは、H-ABCに罹患した人に典型的に見られるミエリンの異常を再現している(3,10)を再現し、Tubb4aD249N/D249Nマウスは発達性または変性性のミエリン消失を示す。マウスの髄鞘形成は、出生時に脊髄で始まり、P21までにほぼ成体のパターンを示す(23)。Tubb4aD249N/D249Nマウスは、WT同腹子と比較して、P14およびP21の脳梁および小脳において、免疫組織化学(Eri-C)で測定した典型的なミエリンの発達が著しく欠如している。Tubb4aD249N/D249Nマウスでは、髄鞘形成の初期遅延(P14-p<0.001、P21-p<0.001、図6B)が見られ、終盤には以前に達成された髄鞘形成が失われる(脳梁では0.053±0.004vs0.948±0.009、小脳では0.037±0.001vs0.854±0.033)(p<0.001,図3C-3F)。Tubb4aD249Nマウスにおけるミエリン表現型のより遅い発症を評価するために、1歳時にEri-C染色を行ったところ、ミエリン染色の減少が見られた(p<0.001、図3Gおよび3H)。
【0141】
さらに、Tubb4aD249N/D249Nマウスでは、免疫染色により主要なミエリンタンパク質が存在しないことが確認された。Tubb4aD249N/D249Nマウスでは、MBPおよびPLPの発現は、脳梁および小脳でP14では変化していないが(図6C~6G)、P21(p<0.001、図8C~8G)および末期までに、脳梁(p<0.001、図3K~3Lおよび図3S~3T;PLP-27.99±3.02vs113.46±16.18、およびMBP-25.73±3.42vs92.40±5.76)および小脳(p<0.001、図3O~3Pおよび図3W~3X;PLP-11.11±1.17vs58.90±8.19、およびMBP-12.65±2.98vs69.79±1.20)で有意に減少した。Tubb4aD249Nマウスは、Tubb4aD249N/D249NマウスのP21および末期において、脳梁および小脳でWTと同等のMBPおよびPLPの発現を示した。しかし、1年後には、Tubb4aD249Nマウスは、WTと比較してPLP(p<0.05、図2C~2D)とMBP(p<0.05、図3I~3J)のレベルの低下を示す。
【0142】
Tubb4aD249N/D249Nマウスにおける、PLPとMBPのレベルの同様の低下は、P21(p<0.05)および末期(p<0.001)で前脳(PLP-0.286±0.08vs1.101±0.01、図3M~3N、MBP-0.605±0.06vs2.615±0.09、図3U~3V)および小脳(PLP-0.123±0.03vs0.860±0.12、図3Q~3RおよびMBP-1.307±0.178vs2.306±0.14、図3Y~3Z)におけるウェスタンブロットを使用して検出される。
【0143】
Tubb4aD249N/D249Nマウスはオリゴデンドロサイトの著しい減少を示す
Tubb4aD249NおよびTubb4aD249N/D249Nにおけるミエリン形成の発達および変性の両方の異常を考慮して、オリゴデンドロサイト(OL)およびオリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)の数を評価した(23)。P14、P21、末期の脳梁において、OLのマーカーであるASPAを用いた免疫染色により、OLの数を調べた。
【0144】
P14、P21、および末期(図7C~D)において、Tubb4aD249N/D249Nマウスでは、脳梁においてASPA陽性OLの数がWT同腹子と比べて大幅に減少していた(p<0.001、166±32.34vs681±38.45)。OPCの数に変化があるかどうかを評価するために、脳梁で二重陽性のNG2+Olig2+(pan OL系統マーカー)細胞を数えた。NG2+Olig2+細胞の数は、Tubb4aD249N/D249NマウスのP14、P21(図12A~B)および末期(図7E~F)において変化しなかった。さらに、Olig2+細胞の数は、Tubb4aD249N/D249NマウスのP14、P21および末期(図12C~E)において同等であり、すべてのOL系統細胞の数に変化がないことが示唆された。
【0145】
OL系統細胞が細胞アポトーシスを起こしているかどうかを調べるために、細胞アポトーシスマーカーであるカスパーゼとOL系統マーカーであるOlig2の二重免疫染色を行った。その結果、Tubb4AD249N/D249Nマウスでは、P14、P21(図15A~D)、末期(p<0.001、図7G~H)の脳梁において、カスパーゼとOL(ASPA)の二重陽性細胞の数が有意かつ漸増していることがわかった。Tubb4aD249N/D249Nマウスでは、OPCやOlig2細胞の数が保たれていることから、Tubb4aの変異が成熟OLに毒性を及ぼし、成熟OLが失われている可能性が高いと推測される。
【0146】
超微細構造解析により、Tubb4aD249NおよびTubb4aD249N/D249Nマウスの髄鞘形成障害が裏付けられる
視神経切片を電子顕微鏡で観察したところ、Tubb4aD249N/D249Nマウスでは、WTコントロールマウスと比較して、P21から無髄および低髄の軸索が認められ(データは示されていない)、末期には悪化していた(図5A~3Cおよび5H~5J)。また、末期のTubb4aD249N/D249N組織では、マクロファージに取り込まれて空洞化し、変性した軸索(青いアスタリスク)が観察される(図5D)。興味深いことに、軸索のミエリン厚を測定するg-ratioは、Tubb4aD249N/D249Nマウス(p<0.001;0.914±0.004)だけでなく、Tubb4aD249N視神経(p<0.001;0.859±0.006)でもWTマウス(図5E、0.802±0.005)に比べて有意に異なっていた。g-比を軸索の直径の関数としてプロットすることによって測定されたミエリンの厚さの定量化(図5F)は、Tubb4aD249NおよびTubb4aD249N/D249Nマウスでミエリン鞘の発達が停止していることを示している。さらに、コントロールマウス(0.945±0.024)と比較して、Tubb4aマウスのD249N/D249N視神経組織では軸索の口径が有意に減少しており(図5G、p<0.05;0.87±0.034)、Tubb4aD249N/D249Nマウスでは最終段階で太い軸索が失われていることが示された。脊髄のTEM断面図でも、Tubb4aD249N/D249Nマウスでは腹側白質でミエリンが劇的に失われており(図4A~4F)、マクロファージによる軸索の巻き込みが進行していた(図4F)。しかし、異なるグループ間の脊髄の前角では、大型運動ニューロンの消失は調べられなかった(データは示されていない)。
【0147】
Tubb4aD249N/D249Nマウスは末期になると線条体や小脳でニューロンが失われる。
H-ABCに罹患した個体の病理標本では、基底核と小脳の顆粒細胞層でニューロンの消失が見られる(4,10)。Tubb4aD249NおよびTubb4aD249N/D249Nマウスでは、P14(図14A)、P21、末期(図9C)において、NeuNおよびニッスル染色による免疫染色により、線条体および小脳でのニューロンの消失が見られた。
【0148】
P14およびP21の時点で(図14D)、Tubb4aD249NおよびTubb4aD249N/D249Nの線条体におけるNeuN数はWT対照と同等であるが、Tubb4aD249N/D249Nマウスは末期に著しい線条体ニューロンの喪失を示した(p<0.01、図9J;183±8.44vs246±28.51)。Tubb4aD249N/D249Nマウスの小脳切片をニッスル染色したところ、P21から末期にかけて顆粒状ニューロン層の重度の進行性喪失と、小脳体積の顕著な減少を明らかにした(図9C)。Tubb4aD249N/D249Nマウスは、P14ではWTマウスと同等の顆粒状ニューロン数を示していたが(図14B)、P21(212±6.71vs312±4.30)および末期(p<0.001、図9D~E;57±4.7vs262±14.85)には劇的かつ進行性の顆粒状ニューロンの消失が観察された。また、NeuNと共局在するカスパーゼ3陽性細胞の数は、P21(11±3.99vs0.3±0.16)および末期(13.5±0.38vs0.75±0.38)で有意に増加しており、細胞のアポトーシスを示唆している(p<0.001、図9F~G)。さらに、小脳で他のニューロン集団の消失があるかどうかを評価するため、カルビンジン免疫染色によりプルキンエニューロンを評価したが、Tubb4aD249N/D249NとWTマウス(図14C、14D)は同様であった。
【0149】
オリゴデンドロサイトにおけるTubb4aD249NおよびTubb4aD249N/D249N変異の細胞自律的効果
我々は、WT対照、Tubb4aD249N、Tubb4aD249N/D249Nマウス由来の試験管内培養を用いて、OLにおけるTubb4a変異の細胞自律効果を研究した。O4+(ミエリン形成前マーカー)OPCをこれらのマウスから分離し、OLの運命に向けて分化させた。この細胞は、pan OL系統マーカーであるOlig2と共局在する成熟OLのマーカーとしてのPLPについて調べられた。Tubb4aD249Nマウス(p<0.05、72.12%±8.99)およびTubb4aD249N/D249Nマウス(p<0.01、55.23%±4.97)では、WTマウス由来の成熟OL(図11E)と比較して、成熟PLP+OLの数が有意に減少していることが確認された(図11A~C)。しかし、Olig2+細胞の総数はすべてのグループで同程度であり(図11D)、その結果、WTマウス(p<0.05、90.5%±14.18)に比べて、Tubb4aD249Nマウス(p<0.05、55.34%±6.83)とTubb4aD249N/D249Nマウス(p<0.05、56.04%±5.39)のOL系統に関与する全細胞(PLP+/Olig2細胞、図11F)に占める成熟OLの割合は、有意に減少した。これらの結果は、マウス組織で生体内において見られたのと同様の変化を全体的に反映しており、OL系統細胞の発達におけるTubb4aD249N変異の細胞自律的寄与を裏付けている。
【0150】
ニューロンにおけるTubb4aD249N/D249N変異の細胞自律的効果
また、WT対照、Tubb4aD249N、およびTubb4aD249N/D249Nマウス由来の試験管内培養を用いて、皮質ニューロンにおけるTubb4a変異の細胞自律性効果を調べた。生存分析のために、プレーティング後1週間でTuj1およびMAP2染色で標識されたニューロンの数を分析し、Tubb4aD249N/D249NニューロンがWTニューロンと比較して生存の有意な減少を示すことを観察した(図11G、6H、6I、p<0.01、69.53%±4.8)。Tubb4aD249Nニューロンは、WTニューロンと比較してニューロンの生存に差は見られなかった。次に、チューブリン変異が軸索の伸長と樹状突起の分岐に影響を与えることで、ニューロンの健康状態および形態が変化するかどうかを評価した。Tubb4aD249Nマウスのニューロンの軸索長は、WTのニューロンと比較して短く(図11J、155.8±24.42μm対187.5±23.29μm)、Tubb4aD249N/D249Nマウスのニューロンの軸索長はWTの神経突起の長さに比べて有意に短かった(p<0.05、117.7±10.18μm)。同様に、ニューロンの樹状突起の分岐を調べたところ(図11K)、Tubb4aD249N/D249Nニューロンの全樹状突起の長さは、WTニューロンに比べて有意に短く(p<0.001、27.43±1.53μm対41.26±4.01μm)、Tubb4aD249Nニューロンでは有意な変化は見られなかった(31.31±3.81μm)。これらの形態学的研究は、H-ABCに結合したTubb4aD249N/D249Nがニューロンの構造と形成に影響を与えていることを示している。
【0151】
Tubb4aD249NおよびTubb4aD249N/D249Nは、ニューロンの不安定な微小管ダイナミクスを導く
形態学的な研究に加えて、Tubb4aの変異が、WT、Tubb4aD249N、Tubb4aD249N/D249Nマウス由来の皮質ニューロンの微小管(MT)ダイナミクスに影響を与えるかどうかを評価するための機能的な研究を行った。ニューロンにMTプラス末端結合タンパク質EB3-mCherryをトランスフェクトし、プレーティング後1週間のMTの成長端を画像化した。タイムラプスビデオからカイモグラフを作成し、遠位軸索におけるEB3コメットを評価した(図13A)。EB3コメットの数は、WT、Tubb4aD249N、Tubb4aD249N/D249Nマウスのニューロンで有意な差はなかったが(図13B)、興味深いことに、Tubb4aD249N/D249Nマウスのニューロンでは、EB3コメットの発現数が多いものと少ないものとで、異なる集団が見られた(図13C)。また、ニューロンにおけるEB3コメットの全体的な速度は、異なるグループ間でほぼ同様であり(図13D;WT-0.25±0.049μm/s、Tubb4aD249N-0.241±0.055μm/s、Tubb4aD249N/D249N-0.254±0.066μm/s)、重合速度が同様であることを示している。
【0152】
Tubb4aD249N/D249NニューロンにおけるこれらのEB3コメットの平均実行時間(図13E)は、WTニューロン(29.67±0.79秒)およびTubb4aD249Nニューロン(28.55±0.58秒)に比べて、有意に短い(p<0.001、24.86±0.59秒)。同様に、Tubb4aD249N/D249NニューロンのEB3コメットの平均滑走距離(6.0±0.146μm)とTubb4aD249NニューロンのEB3コメットの平均ランレングス(6.7±0.14μm)は、WTニューロン(7.20±0.19μm、p<0.001、図13F)に比べて有意に短かった。このように、Tubb4aD249N/D249NニューロンではMTダイナミクスは大きく、かつ有意に変化しており、Tubb4a遺伝子の変異の存在によるニューロンにおける機能的な細胞自律効果が確認された。
【0153】
議論:
ここで説明するマウスモデルは、H-ABCの行動表現型の特徴を再現しており、運動機能および歩行の欠陥を示す。さらに、ミエリンの発達的喪失、重度の小脳萎縮、線条体ニューロンの喪失など、H-ABCの特徴的な病理を含むこのモデルの組織学的表現型を検証した。
【0154】
2013年にTUBB4A遺伝子の変異がH-ABCと関連していることが判明して以来(24)、TUBB4A遺伝子の他にも多数の変異が同定されている(10,20)。TUBB4Aのp.Asp249Asn(D249N)変異は、H-ABCの古典的な機能と密接に関連しており、他の変異に関連するより広範な表現型を備えている。残念ながら、現在のところ、利用可能な治療アプローチはない。taeipラットモデルには、Tubb4aの変異(ホモ接合のp.Ala302Thr)が存在することが報告されているが、このモデルでは小脳と線条体の萎縮が見られない(13,25)。本研究では、古典的な突然変異(Tubb4aD249N)のCrispr-Cas9トランスジェニックモデルを開発することで、H-ABCの完全なモデル化を試みた。特に、このアプローチは、表1にリストされている変異Tubb4aをコードする核酸のいずれにも適用可能である。早期発症の表現型を示すためには、taeipラットのようにホモ接合のマウスが必要であるが、ヒトに見られるようなヘテロ接合の突然変異では、後期発症の疾患も見られる。種の違いを説明する1つの可能性として、用量感受性があり、その結果、表現型の浸透性が異なることが挙げられる。これはtaiepラットモデルで報告されている(13);さらに、GATA3(26)、TBX1(27)、GLI3(28)のように、ヒトではヘテロ接合の変異が存在するが、ホモ接合のマウスではヒトの疾患と同様の表現型を示す遺伝子もいくつか報告されている。
【0155】
Tubb4aD249N/D249Nマウスは、~P9から振戦行動を示し、H-ABC罹患者に見られるような小脳失調症および振戦と同様に、小脳性運動失調および振戦と一致する運動発達スキルおよび歩行の欠陥を示す。時間の経過とともに、ジストニアの発症と一致する運動機能の深刻な低下が見られる。Tubb4aD249N/D249Nマウスは、重度のジストニアと痙性運動失調のために自給自足できないため、約P37で体重と生存率の大幅な低下を示す。ヘテロ接合型Tubb4aD249Nマウスは、ホモ接合型のマウスに見られる重篤な行動および神経病理学的表現型の初期の証拠を示さないが、1年後には識別可能な行動表現型を伴わないミエリン消失が見られる。
【0156】
神経病理学では、Tubb4aD249N/D249Nマウスはミエリンの減少と進行性の発達喪失を示し、経時的に髄鞘形成不全と低髄鞘の混合と一致し、これがShiverer(29)、Shimild(30)、Jimpyマウス(31)に見られるような早期発症の振戦の原因となっている可能性がある。Tubb4aD249N/D249Nマウスは、P14で深刻なオリゴデンドロサイト(OL)の喪失を示す。ミエリンの喪失は、組織学的に基づくOLの数の減少によって証明されるように、OLの死に起因する可能性がある。さらに、OLにおけるTubb4aの高発現(11)とカスパーゼの染色に基づいて、Tubb4aの突然変異がOLの死に寄与していると考えられる。Tubb4aD249N/D249Nマウスでは、OPCの数が維持されていることから、Tubb4aの変異がOLのOPCからの分化にも影響を与える可能性があることを示唆している。これらのメカニズムが相まって、このモデルで見られる髄鞘形成不全と異髄の複合的な症状につながっていると考えられる。Tubb4aD249N/D249Nマウスでは、P21での小脳顆粒ニューロンが著しく喪失と、~P37後の有意な線条体ニューロンの変性の証拠も示す。これは、H-ABCに罹患した患者で報告されている病理学的特徴と一致する(9,32)。しかし、プルキンエニューロンは完全に無傷であった。このモデルマウスや患者に見られる進行性の歩行異常、運動失調、運動機能障害は、時間をかけた小脳の劇的な変化が根底にあると考えられる。線条体ニューロンの障害がやや軽度であるのは、Tubb4aの発現が線条体よりも小脳で相対的に高いという、Tubb4aの可変的な発現に関連している可能性がある(2)。TUBB4Aの変異の数の増加が報告されているため(9,33,34)、線条体、有髄細胞、および小脳の独立した関与を伴う変異特異的な細胞作用が、この疾患に見られる幅広い表現型の変動の原因である可能性があることが認識されつつある(4,9)。
【0157】
Tubb4aD249N/D249Nマウスは、H-ABCで影響を受ける関連する細胞サブタイプの分子解剖を完全に可能にする初めてのモデルを提供する。ここで、ニューロンとOLで観察される細胞効果は、独立して生じている可能性もあれば、相加的な非細胞自律効果である可能性もある。各細胞集団の脆弱性を調べることは、H-ABC患者に対する効果的な治療オプションを開発する上で重要である。
【0158】
これを解明するために、還元型細胞培養モデルを用いて、ニューロンとOLの細胞自律効果を調べた。Tubb4aD249NマウスおよびTubb4aD249N/D249Nマウスから分離したOPCは、WT対照マウスと比較してOLへの分化効率が低く、OLにおけるTubb4aD249Nの細胞自律効果が確認され、生体内で観察される低髄鞘形成や髄鞘形成不全にも反映されている。また、Tubb4aD249NマウスとTubb4aD249N/D249Nマウスでは、Olig2標識細胞の総数は同程度であるが、成熟OLの数が減少していることから、Tubb4a変異によりOPCの成熟OL運命への分化が阻害されていると考えられる。Tubb4aの変異による非細胞自律効果をさらに詳しく調べるには、条件付きトランスジェニックマウスモデルを用いた十分な遺伝子調査が必要である。
【0159】
TUBB4A突然変異による微小管(MT)の機能障害および関連するOLの成熟のいくつかの証拠は、taeipラットモデルで行われた研究から得られている。taeipラットでは、OLに微小管の蓄積を示し、PLP、MAG、およびMBPミエリン遺伝子のRNAが核周辺に局在することが確認されており、これはさらにOLにおけるMBP輸送のためのモータータンパク質ダイニンの活性が増加したことによると考えられている(35)。これらの主要なミエリンタンパク質は、ミエリン合成のために、OL細胞体からMTに沿って周辺部に輸送される必要がある。OLのプロセスとミエリン鞘の発達が複雑であることを考えると、MTに沿ったカーゴの輸送が非効率的であることが、Tubb4aD249N/D249NOLの成熟度と複雑性の低下に寄与していることが予測される。
【0160】
ニューロンの細胞自律的効果を解析するため、Tubb4aD249NおよびTubb4aD249N/D249Nマウスから培養した皮質ニューロンを同様に研究したところ、生存率の低下と、軸索および樹状突起の分岐の阻害を示した。機能的な研究では、Tubb4aD249NおよびTubb4aD249N/D249N変異を持つニューロンでは、MTプラス末端の重合距離および時間が短く、MTのダイナミクスが不安定であることが明らかになった。MTはニューロンの発達と機能に不可欠であり、ニューロンの構造、極性、成長円錐のダイナミクス、細胞内輸送(36)に寄与し、変異型Tubb4aタンパク質は、これらの重要な機能に影響を及ぼす可能性がある。α-チューブリンおよびβ-チューブリンの多くの変異は、ニューロンの移動、分化、および軸索誘導の障害を特徴とする一連の神経障害の原因とされている(37-39)。我々の研究と同様に、マウスの皮質ニューロンや酵母におけるTubb3の変異は、MTダイナミクスの変化と、MTとキネシンモーターとの相互作用の破壊を示した(40)。パーキンソン病(41)やALS(42)の研究では、MTダイナミクスが変化すると、能動的な輸送に不可欠な軸索の輸送が阻害されることが示されており、Tubb4aがD249N/D249Nは非効率的なMTダイナミクスをもたらし、軸索伸長と樹状突起の分岐に必要なカーゴの輸送が阻害される可能性が考えられる。これらの研究はTubb4aD249N/D249Nマウスの皮質ニューロンで実施されたが、線条体または小脳の顆粒状ニューロンでも同様の、あるいはより劇的な効果が期待される。
【0161】
MTの表面にある特定の残基は、多くのタンパク質の相互作用を制御しており、これらの残基の変化がその機能に影響を与え、さまざまな神経疾患を引き起こす(39)。MTのダイナミクスは、チロシン化、アセチル化、ポリアミノ化、グルタミン化、グリシル化、グルタチオン化などの翻訳後修飾(PTM)によって変化する可能性があり(43)、MTの安定性を高めている。TUBB4Aの機能ドメインにおけるp.Asp249Asn変異の位置は、組み立てられた微小管の安定性に影響を与えると考えられていることから(4)、PTMの変化がTubb4aD249Nを介したMT異常の要因となる可能性がある。PTMは、キネシン、ダイニンなどのモータータンパク質、および、細胞小器官や分子レベルでのカーゴ輸送に重要なタウやダブルコルチンなどのMT関連タンパク質(MAP)の結合をさらに変化させる可能性がある(36)。しかし、Tubb4a変異が微小管の機能にどのような影響を与えるのか、その正確なメカニズムはまだ解明されておらず、今後の研究が必要である。
【0162】
TUBB4Aのヘテロ接合変異は、さまざまな脳の奇形を引き起こすことから、Tubb4aがニューロンおよびグリア機能に重要な役割を果たしている可能性が示唆されている。しかし、Tubb4aノックアウト(KO)マウスモデルは、Tubb4aが脳機能に冗長である可能性を示唆している。LacZ発現を伴うTubb4a KOマウス(44)は、ワールドワイドウェブの.mousephenotype.org/data/genes/MGI:10784#section-associationsの部分的な表現型データとともに、KOMPリポジトリで入手できる。ホモ接合のTubb4a KOマウスは、正常な胚発生を示し、WTと比較して正常な体重で正常に成長する。表現型のlac Zの発現データによると、神経系は正常に見え、識別可能な小脳ニューロンの喪失がないことを示している。現在のデータは、TUBB4Aが脳の発達と機能に必須ではない可能性があることを示唆しており、TUBB4A変異がニューロンやオリゴデンドロサイトに及ぼす有害な機能獲得効果を示唆している。さらに、これまでに行ってきた試験管内の細胞研究(45)および人工多能性幹細胞由来ニューロンの最近の研究(46)は、D249Nの突然変異がチューブリンの重合速度の変化を引き起こし、H-ABC病の病因における優勢な機能獲得効果を裏付けることを報告している。
【0163】
H-ABCは、利用可能な治療戦略がない、壊滅的で進行性の障害のある小児疾患である。Tubb4aD249/D249NNマウスは、古典的なH-ABC病の分子的、行動的、神経変性的特徴を最初に開発したものである。マウスは、ニューロンとオリゴデンドログリア細胞の両方に欠陥が見られた。これらのデータは、微小管の変化が病気の発症の重要な要因であるというモデルを裏付けるものである。これらのマウスは、ニューロンとグリアが関与するこの複雑な疾患の分子メカニズムを解明し、治療戦略の有効性を検証するための重要なツールを提供する。
【0164】
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【0165】
以下の材料と方法は、実施例IIの実施を容易にするために提供される。
【0166】
iPS培養の方法:
TUBB4A変異のある個体と影響のない個体(対照)から分離した末梢血単球(PBMC)を、人工多能性幹細胞(iPSC)に再プログラムした。すべてのiPSC株は、フローサイトメトリーおよびDNAフィンガープリンティングを用いて多能性マーカーを確認し、iPSCクローンの遺伝的完全性を確認した(Maguire et.al 2019)。iPSCクローンは、連続継代を通じて正常な核型を示し、実施したマイコプラズマ検査はすべての株で陰性であった。
【0167】
iPSCのニューロン分化
線条体中型有棘ニューロン(MSN)の運命に向けた神経誘導は、以前に発表されたデュアルSMAD阻害プロトコルを使用して実施された(Telezhkin 2016)。簡単に説明すると、iPSCをTGF-βとbFGFを含むEssential 8培地で70%の培養密度になるまで培養した。細胞をPBSで洗浄し、レチノイン酸(RA)を含まないニューロバサル培地に10μM SB431542、1.5μM LDN 193189、1.5μM IWR1を含む神経誘導SLI培地を加えた。4日目、コンフルエントになった培養を1:2の割合でマトリゲルでコーティングした新しいプレートに継代した。8日目に1:2の割合で継代し、200nM LDN193189、1.5μM IWR1を含むニューロバサル培地のRAなしのL1培地で培養し、培地は毎日交換した。D16 iPSC由来の神経前駆細胞(NPCS)は、そのままニューロンの分化に使用するか、後の分化のために凍結した。NPCに対してフローサイトメトリーを行い、SOX2、Pax6、FOXG1、Nestinなどの分化の初期マーカーを調べた。
【0168】
ニューロンを分化させるために、アキュターゼを用いてNPCを解離させ、マトリゲルと100μg/mlのポリ-L-リジン(PLL)を塗布した24ウェルプレートに、1ウェルあたり100,000個の細胞でプレーティングした。d16 NPCは、Advanced DMEMF12、2μM PD0332991、10μM DAPT、0.6mM CaCl、200μM アスコルビン酸、10μM フォルスコリン、3μM CHIR99021、300μM GABAを含むSCM1培地で最初の7日間培養した。
【0169】
NPCの8日目(または合計23日目)のプレーティング後、RA、2μM PD0332991、3μM CHIR99021、0.3mM CaCl、200μM アスコルビン酸、10ng/ml BDNFを含む、1:1 Advanced DMEM/F-12:ニューロバサル Aを含むSCM2培地でNPCを培養した。培地は38日目になるまで3日ごとに交換し、その後、細胞は実験の準備が整った。
【0170】
神経細胞の生存と分析:
カバースリップ上で成長したニューロンを4%PFAで20分間固定し、Tuj1(ニューロンマーカー)、MAP2(樹状突起マーカー)、およびDARPP32、CTIP2、GABA、FOXP1などのMSNの特異的マーカーを染色した。成熟後の異なる時点(38日目、45日目、52日目)で細胞を固定し、ライカ顕微鏡でカバースリップを染色して画像化することにより、生存分析および神経病理学を実施した。データは盲検下で解析し、統計解析にはグラフパッド・プリズムを用いた。すべての分析は、一元配置分散分析または二元配置分散分析に続いてテューキーの事後検定を用いて行った。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.01。
【0171】
実施例II
TUBB4A ヒトiPS細胞
前述の例で述べたように、大脳基底核および小脳の萎縮を伴う低髄鞘症(H-ABC)は希少な白質ジストロフィーであり、TUBB4A遺伝子の散発的なde novoヘテロ接合変異によって引き起こされることが私たちのグループによって特定された(Simons et al. 2013)。TUBB4A遺伝子の単対立遺伝子変異は、早期発症型脳症から成人発症型ジストニア4型(嗄声発声障害)まで、さまざまな神経疾患を引き起こす可能性がある。H-ABCの影響を受けた個人は、このスペクトラムに含まれ、幼児期にジストニア(Hersheson et al. 2013)、進行性の歩行障害、言語障害、および認知障害を典型的に示す。また、TUBB4Aの変異を持つ他の患者との違いは、神経画像上の特徴であり、小脳萎縮を伴う尾状核および被殻の髄鞘形成不全および萎縮が見られる(van der Knaap et al. 2007)。病理学的標本では、背側線条体領域および小脳の顆粒層で、軸索の膨らみとミエリンの減少を伴うニューロンの損失が見られる(Curiel et al. 2017; Simons et al. 2013)。H-ABC患者は、公表されているTUBB4Aの変異の約65%を占めており、1つの共通した変異であるp.Asp249Asn(以下、D249Nと称する)の影響を受けている可能性が高い。
【0172】
本実施例では、CHOP幹細胞コアにおいて、H-ABCおよびその他のTUBB4A変異を有する個体から分離した末梢血単球(PBMC)から再プログラムした人工多能性幹細胞(iPSC)株について説明する(表1参照)。H-ABCに関連して、3系統のTUBB4AD249N系統を線条体中型有棘ニューロンに分化させるために特別にプログラムし直し、その病理を調べた。これまでに得られたデータによると、TUBB4AD249NiPSCから分化した中有棘ニューロン(赤棒)では、対照患者由来のニューロン(黒棒)と比較して、生存率が低下し(図16A~D、**p<0.01、***p<0.001)、明らかな神経病理が認められた(図16E、*p<0.05)。TUBB4Aに関連する病状が機能の喪失によるものか、それとも機能の獲得によるものかを検証するために、対照患者のiPSC株でCRISPRを用いてTUBB4Aを欠失させ、ノックアウト(TUBB4A KO)株が発生学的に正常であり、線条体ニューロンに効率よく分化するかどうかをテストした。実際、対照と対照のTUBB4A KO iPSCの分化は同等であることが観察され(図16F、G)、TUBB4Aが線条体ニューロンの生成に発達上の役割を果たしていないことが示された。
【0173】
TUBB4Aを欠損させても機能が失われないことから、次に、TUBB4AD249N患者のiPSCでTUBB4Aを欠損させることで、病態やニューロン死(図16に見られる)が救済されるかどうかを、患者のiPSCでTUBB4AKO(TUBB4AD249NKO)を作製して検証した。さらに、TUBB4AD249NKOのiPSCをニューロンに分化させたところ、TUBB4AのD249Nニューロンと比較して、TUBB4AD249NKOではニューロンの総数(図17;*p<0.05、67.10±4.76対41.55±5.82)およびCTIP2+MSN(図16B;**p<0.01、43.14±3.38対17.38±2.01)が有意に減少したことが確認された。
【0174】
これらの知見は、変異型TUBB4Aの発現を抑制したり、野生型TUBB4Aを増加させたりすることで、H-ABCや関連するTUBB4A関連白質ジストロフィーを治療できる可能性を示すものである。この方法を用いた治療アプローチには、アンチセンスオリゴヌクレオチド、RNAサイレンシングアプローチ、または野生型TUBB4Aの過剰発現による変異型TUBB4Aとの競合が含まれる。
【0175】
実施例III
標的TUBB4A遺伝子のダウンモジュレーションのためのアンチセンス分子
本発明者らは、TUBB4A遺伝子発現の全体的なレベルをダウンモジュレートするのに有効な一連のアンチセンスオリゴヌクレオチドを開発した。以下に説明するアプローチにより、目的の標的細胞における野生型および変異型のTUBB4-Aの発現をダウンモジュレートすることができる。
【0176】
Integrated DNA Technologiesにより11種類のASOが合成された。これらのASOの試験管内スクリーニングを行い、最適なASOデザインを特定した。マウスOli-neu細胞を、NEPA21電気穿孔システム(NEPA GENE、米国)を用いて、100μLの培地にASO濃度1μM、5μM、10μMを150Vで、100,000細胞/ウェルで電気穿孔した。電気穿孔後、細胞をポリ-L-オルニチンを塗布したプレートに移し、インキュベーターに入れた。処置から48時間後、細胞をPBSで洗浄した後、PureLink(商標)RNA Mini Kit(ThermoFisher Scientific,Cat:12183018A)を用いて、製造者の指示に従ってRNA抽出を行った。DNAアーゼ(Invitrogen)で処理した後、200ngのRNAをSuperScript(商標)IV First-Strand Synthesis System(ThermoFisher Scientific,Cat:18091200)を用いてcDNAに使用した。Applied Biosystems Quanta Flex 7(ThermoFisher Scientific、米国)を用いたリアルタイムPCR分析(Taqman chemistry)により、Tubb4a、および、参照としてスプライシング因子、アルギニン/セリン-リッチ9(sfrs9)をコードする内因性ハウスキーピング遺伝子のmRNA発現レベルを定量した。結果は、ΔΔCT法を用いて分析した。
【0177】
アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)の配列:電気穿孔後、以下のASO配列は10μMでTubb4aの最大のダウンレギュレーションを示した。図18および図21Aを参照。
ASO 1316:配列:5’+A*+C*+A*T*A*C*G*G*C*T*G*T*C*+T*+T*+G3’
(配列ID番号:1)
ASO 1851:配列:5’+G*+A*+T*C*T*A*A*G*A*A*G*G*T*+G*+G*+A3’
(配列ID番号:2)
*融解TmはMg2+やdNTPの濃度を使用して評価してはならない
+LNA修飾
【0178】
上記の各配列は、1つ以上の修飾された骨格結合および/または修飾された糖を任意に含むことができる。これらのASOは、Tubb4Aのダウンレギュレーションのための実行可能な治療標的である。(図21)これらのASOは、0.5μM、1μM、2μM、5μM、10μM、25μMで、最小限の毒性でTubb4aを効果的にダウンレギュレーションすることが示されている。(図21A)実際、ASOで治療した場合、対象は生存率が上昇し(図21B)、発作が減少し(図21C)、運動機能が大幅に改善した(図21D)ことが示された。
【0179】
図19は、本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドを用いた生体内全動物治療の模式図である。
【0180】
図20は、確立されたTubb4aD249N/D249Nマウスモデルにおいて、TUBB4Aを生存可能で正常に見えるTubb4aノックアウト(KO)マウスと交配することで、TUBB4Aをダウンレギュレーションすることの治療効果を示したものである。結果として得られたTubb4aD249N/KOマウスは、運動機能の改善、生存の向上と延長(図20B)、運動機能の改善(図20C)を示した。
【0181】
実施例IV
WT TUBB4Aの過剰発現
上記の情報は、野生型チューブリンの過剰発現によるチューブリン変異に伴う表現型の救済に適用することができる。
【0182】
α-チューブリンとβ-チューブリンは二量体を形成し、異なるチューブリンアイソフォームと交差二量体化する。チューブリン変異は発達上の脳の欠陥を引き起こす可能性があるが、野生型(WT)チューブリンの過剰発現は変異しβ-チューブリンを凌駕し、ショウジョウバエや線虫では関連する表現型を回復させる。
【0183】
好ましい実施形態では、我々は、WT TUBB4Aを過剰発現させることにより、OL細胞株においてミエリン遺伝子の発現が増加することを示す(図22)。このように、発現ベクター(例えば、アデノ随伴ウイルス(AAV))を用いてWT TUBB4Aの過剰発現は、Tubb4aD249N/D249Nマウスにおける機能獲得型TUBB4A変異の毒性を克服し、表現型を救済することができる。AAV送達は、目的の核酸を細胞に送達するための1つの手段にすぎない。送達に必要ないくつかの追加のアプローチおよび試薬は上に記載されている。
【0184】
WTチューブリンの過剰発現は、変異型チューブリンモデルを救済することができる。したがって、影響を受けた細胞でWT対変異型Tubb4Aを増やしてチューブリンの化学量論を変えると、H-ABCの神経変性を阻止できるだろう。好ましい実施形態では、独自のカプシドは、霊長類モデルにおいて、対象となる細胞を効果的に標的とする。別の実施形態では、新規のウイルスベクターは、SN、CGCおよび/またはOLを標的にしてWT TUBB4Aを過剰発現させ、試験管内で表現型を救済するであろう。これらのベクターを標的とすることで、関係する細胞型(OL、線条体ニューロン、小脳顆粒ニューロン)を標的とした治療アプローチが改善されるだろう。
【0185】
本明細書では、本発明の特定の特徴を説明してきたが、多くの修正、置換、変更、および等価物が、当業者には生じるであろう。したがって、添付の特許請求の範囲は、本発明の真の精神の範囲内にあるすべてのそのような修正および変更を網羅することが意図されていることを理解されたい。
図1-1】
図1-2】
図1-3】
図1-4】
図1-5】
図1-6】
図2-1】
図2-2】
図3-1】
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図3-3】
図3-4】
図3-5】
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図3-7】
図3-8】
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図5-2】
図5-3】
図6-1】
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図7-1】
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図7-4】
図8-1】
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図9-1】
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図10
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図14-1】
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図16-1】
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図16-4】
図17
図18
図19
図20
図21
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【配列表】
2022532874000001.app
【国際調査報告】