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特表2022-532910バイオエアロゾルを捕集するシステム及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-20
(54)【発明の名称】バイオエアロゾルを捕集するシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/02 20060101AFI20220712BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20220712BHJP
   C12M 1/26 20060101ALI20220712BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20220712BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALI20220712BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALI20220712BHJP
   C12Q 1/6844 20180101ALI20220712BHJP
   C12Q 1/6869 20180101ALI20220712BHJP
【FI】
G01N1/02 D
C12N1/00 Z
C12M1/26
C12M1/34 B
C12M1/34 Z
C12Q1/04
C12Q1/68
C12Q1/6844 Z
C12Q1/6869 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021568629
(86)(22)【出願日】2019-12-23
(85)【翻訳文提出日】2022-01-07
(86)【国際出願番号】 CA2019051901
(87)【国際公開番号】W WO2020227807
(87)【国際公開日】2020-11-19
(31)【優先権主張番号】62/848,441
(32)【優先日】2019-05-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521500018
【氏名又は名称】スポルネード インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 博子
(74)【代理人】
【識別番号】100162824
【弁理士】
【氏名又は名称】石崎 亮
(72)【発明者】
【氏名】サレー マイケル
(72)【発明者】
【氏名】ホワイト クリスティン
(72)【発明者】
【氏名】スコット ジェイムズ
【テーマコード(参考)】
2G052
4B029
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
2G052AA01
2G052AA36
2G052AA37
2G052AB16
2G052AB22
2G052AB27
2G052AC02
2G052AD02
2G052AD22
2G052AD42
2G052BA03
2G052BA22
2G052BA24
2G052EA03
2G052EA04
2G052EA13
2G052ED04
2G052ED05
2G052GA09
2G052GA28
2G052GA29
2G052JA02
2G052JA03
2G052JA04
2G052JA08
2G052JA16
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4B029AA09
4B029AA23
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(57)【要約】
バイオエアロゾルを捕集するための装置が提供され、この装置は、バイオエアロゾルを捕集するために捕集表面を露出させるように、捕集媒体を延伸位置において支持する一対の嵌合部材の間にピンと張った状態で保持された、静電的に帯電した繊維で作られたメッシュを含むカセットを有する。このカセットは、バイオエアロゾルを捕集するために当該カセットの捕集表面に気流を導く風向計に交換可能に挿入される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオエアロゾルを捕集するためのカセットであって、
静電的に帯電した繊維を含む捕集媒体と、
前記バイオエアロゾルを捕集するための捕集表面を露出させるように、前記捕集媒体を延伸位置にて支持する支持フレームと、
を有する、ことを特徴とするカセット。
【請求項2】
前記捕集媒体は、ポリマーメッシュを有する、請求項1に記載のカセット。
【請求項3】
前記ポリマーメッシュは、織りモノフィラメント繊維で構成される、請求項2に記載のカセット。
【請求項4】
前記ポリマーメッシュは、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンテトラフルオロエチレン、ポリエーテルエーテルケトン、又はそれらの組み合わせで構成される、請求項2又は3に記載のカセット。
【請求項5】
前記ポリマーメッシュは、ポリアミドで構成される、請求項4に記載のカセット。
【請求項6】
前記ポリマーメッシュは、1μm~200μmのメッシュサイズを有する、請求項2~5のいずれか一項に記載のカセット。
【請求項7】
前記支持フレームは、静電的に帯電したスチレンである、請求項1~6のいずれか一項に記載のカセット。
【請求項8】
前記支持フレームは、一対の嵌合部材を有し、前記一対の嵌合部材は、当該一対の嵌合部材が互いに連結されたときにそれらの間に前記捕集媒体を固定するように構成されている、請求項1~7のいずれか一項に記載のカセット。
【請求項9】
前記支持フレームは、一対の嵌合リングを有する、請求項8に記載のカセット。
【請求項10】
前記捕集媒体は、前記一対の嵌合部材によって画定される開口領域全体に亘っている、請求項9に記載のカセット。
【請求項11】
植物病原体を捕集するための請求項1~10のいずれか一項に記載のカセット。
【請求項12】
前記植物病原体は胞子を含む、請求項11に記載のカセット。
【請求項13】
バイオエアロゾル捕集システムであって、
請求項1~12のいずれか一項に記載の前記カセットと、
前記カセットを受け入れるレセプタクルと、空気の流れを前記カセットの前記捕集表面に導くファンネルと、を含む風装置と、
を有する、ことを特徴とするシステム。
【請求項14】
前記レセプタクルは、前記カセットを挿入するために前記ファンネルのネック部において開口部を有する、請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
前記カセットの前記捕集表面は、前記ファンネルの前記ネック部分の断面を少なくとも部分的に横切って延びている、請求項14に記載のシステム。
【請求項16】
前記風装置は、風向きに基づいて前記ファンネルを方向付けるための羽根を有する、請求項13~15のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項17】
杭を有し、前記風装置は、前記杭に回転可能に取り付けられている、請求項13~16のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項18】
作物をモニタリングする方法であって、
対象病原体を特定することと、
空気の流れを前記カセットの前記捕集表面に導くために、請求項1~12のいずれか一項に記載の前記カセットを前記風装置内に配置することと、
前記カセットを回収することと、
前記対象病原体の存在について前記カセットを分析することと、
を有する、ことを特徴とする方法。
【請求項19】
前記カセットを所定時間後に交換し、複数のカセットを回収して分析する、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記カセットを分析することは、リアルタイムPCR、コンベンショナルPCR、定量PCR、マルチプレックスPCR、ネステッドPCR、コミュニティシーケンシング、ハイスループットシーケンシング、レコンビナーゼポリメラーゼ増幅(RPA)、ループ媒介等温増幅(LAMP)、抗体/抗原アッセイ、比色アッセイ、及び/又はELISAによって、前記カセットにより捕集された微粒子を分子分析することを含む、請求項18又は19に記載の方法。
【請求項21】
前記対象病原体の存在に基づく決定を提供することを有する、請求項18~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記決定は、前記対象病原体の存在が検出されたときの散布決定を含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記決定は、前記対象病原体の存在がない場合の散布決定を含む、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記決定は、更に気象データに基づいている、請求項21~23のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、概略的には、バイオエアロゾル(bioaerosols)を捕集及び分析するためのシステム及び方法を含む農業調査の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
植物の病気は、作物の損失を引き起こす主な原因の1つであり、経済的損失、食料不足、将来の繁殖のための生存可能な作物の損失につながる。病原体(病原菌)は、作物の病気の3つの要因の1つであり、他の2つは宿主の感受性と環境条件である。
【0003】
病原体による植物の病気に対抗するために、農薬が作物に塗布される。しかし、農薬の塗布は、典型的には、生産者の経験に加えて、利用可能であれば、気象などの環境要因を基にした地域のモデル予測の検討に基づいている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、農薬の使用決定を行うための病原体情報を収集するシステム、装置、方法の改良が依然として必要である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一態様では、病原体や胞子(芽胞)などのバイオエアロゾルを、電動ポンプを使用せずに、受動的に捕集するための受動的微粒子捕集装置及びシステムが提供される。
【0006】
一態様では、研究者だけでなく、農家や生産者にとっても使いやすい改良型の受動的捕集装置が提供される。この改良型の受動的捕集装置は、製造コストが安価であり、それにより、農家や生産者は、個々の農地に装置を設置し、局所的なデータを取得することができる。
【0007】
別の態様では、バイオエアロゾルを捕集するための交換可能なカセットが提供される。
【0008】
別の態様では、カセット及び風向計(wind vane apparatus)を有する病原体捕集システムが提供される。
【0009】
別の態様では、ここに記載されるカセット及び捕集システムを用いて病原体を捕集し、病原体を含む対象バイオエアロゾルの存在及び/又は不在を検出することによって、作物をモニタリングする方法が提供される。
【0010】
本明細書に記載された実施形態に関する多くの更なる特徴及びその組み合わせは、本開示を読んだ後、当業者には明らかになるであろう。
【0011】
この点に関して、少なくとも1つの実施形態を詳細に説明する前に、実施形態は、以下の説明又は図面に示された構造の詳細及び構成要素の配置への適用に限定されないことを理解すべきである。また、ここで使用される言い回し及び用語は、説明のためのものであり、限定的なものとみなしてはならないことを理解すべきである。
【0012】
デバイス、装置、及び方法の実施形態は、図面を参照しながら全体的に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】バイオエアロゾルを捕集するためのカセットの斜視図である。
図2図1のカセットの側面図である。
図3図2のカセットの正面図である。
図4】風向計(風見計)の斜視図である。矢印は気流の方向(風向き)を示す。
図5】カセットを装着した風向計の第1の斜視図である。
図6図5の第2の斜視図である。
図7】農薬散布決定の提供に関わるステップを示すフロー図である。
【0014】
潜在的病原体を含むバイオエアロゾルを捕集するための受動的捕集装置を用いて空気流から微粒子の受動的に捕集することは、機械的ポンプを用いて媒体上に積極的に空気を吸引する現在の既存の装置(容積式捕集装置と呼ばれる)よりも多くの利点を有する。容積式胞子トラップ捕集は、疫学的、健康、安全設定のための広い範囲の用途で使用されているが、商業的に利用可能な技術はコストが高く、使いにくいため、農業、主に研究ベースで限られた規模でしか使用されていない。しかしながら、容積式捕集装置は高価であり、定期的なメンテナンスだけでなく、発電機などの電力供給も必要であり、これは、容積式捕集装置が農地に設置された場合に面倒であり、天候に弱い。
【0015】
受動的捕集装置は、高価な部品を必要とせず、電源が不要なため農業全体に容易に設置することができる。同時に、受動的捕集装置は、機械式ポンプによって駆動されるものよりも少ない空気を吸い込むため、病原体などの粒子状物質の通過が少ない。そのため、受動的捕集装置を最適化するためには、改良された病原体捕集装置と高感度の試料分析法が必要である。
【0016】
[バイオエアロゾル捕集]
1つの既存のシステムは、室内空気サンプラーとカセットを使用し、顕微鏡で識別するためのスライドを含む。それは、胞子が空気中に存在しない可能性がある、わずか5~15分間、試料を捕集する短期間の「スナップショット」を提供する。(カナダ特許第2969282号を参照。その全内容は参照により本明細書に組み込まれる)。現在、このシステムは顕微鏡によるIDを使用しているが、これは感度がかなり低く、サンプリングを行う分析者の訓練とスキルに依存している。このシステムはまた、ロバスト性に欠けており、他のバイオエアロゾル用には設計されていない。
【0017】
他の既存の捕集装置は、ロッドに粘着性の接着剤を有し、汚く、使いにくく、ロバスト性に欠けるRoto(登録商標)ロッドや、非常に高価で使いにくい装置であるBurkhard(登録商標)を含む。
【0018】
本発明者らは、メッシュ素材を使用することで、作物の病原体を含むバイオエアロゾルを最適に捕集可能であると共に、最小限の試料調製で気流及び分子を分析可能であることを発見した。幾つかの実施形様では、バイオエアロゾル捕集のためのメッシュ素材を含むカセットが、数日間(典型的には3~7日間)、農地内に放置され、長期間の捕集を提供する。長期間の捕集は、スナップショット手法と比較して、より総合的なデータを提供する。空気中の胞子は、様々な要因(例えば、風速、雨などの気象条件、時刻、時期)に依存する。スナップショット手法は当たり外れがあるが、総合的な長期捕集は、様々な条件で捕集する機会を有し、対象を捕集する確率を増加させる。そのため、長期間の捕集のためにカセットが提供される。1つの実施形態では、繊維、好ましくは静電的に帯電した繊維を有する病原体捕集装置が提供される。
【0019】
本明細書中で使用する場合、「バイオエアロゾル(bioaerosols)」とは、生物学的なエアロゾルを指し、これは自然界において生物学的な性質を有する小さな空中浮遊粒子である。バイオエアロゾルは、生物(室内ペットのふけや樹木の花粉など)に由来するか、又は、生物そのもの(細菌やウイルスなど)である。本明細書で使用される場合、「病原体(pathogen)」は、疾患を引き起こし得るあらゆる物質を指す。空気中に存在する病原体には、植物病原体が含まれる。1つの実施形態では、病原体捕集装置は、胞子、胞子の断片、及び/又は菌糸を捕集する。
【0020】
バイオエアロゾル又は病原体を捕集するための装置の幾つかの実施態様において、バイオエアロゾル又は病原体は、うどん粉病(powdery mildew)、べと病(downy mildew)、ボチトリス(botytris)、フザリウム(fusarium)、夏疫病(early blight)、リンゴさび(apple scab)を含む。
【0021】
胞子を捕集するための装置の幾つかの実施形態において、胞子は、植物の病原体である「Phytophthora(フィトフトラ、ファイトフトラ、又は疫病菌)」からのものである。本明細書中で使用される場合、用語「Phytophthora」は、Phytophthora属の全ての種を含む。捕集されるPhytophthoraの種は、「Phytophthora taxon Agathis」、「Phytophthora alni」、「Phytophthora boehmeriae」、「Phytophthora botryose」、「ibrassicae」、「Phytophthora cactorum」、「Phytophthora cajani」、「Phytophthora cambivora」、「Phytophthora capsici」、「Phytophthora cinnamomi」、「Phytophthora citricola」、「Phytophthora citrophthora」、「Phytophthora clandestine」、「Phytophthora colocasiae」、「Phytophthora cryptogea」、「Phytophthora drechsleri」、「Phytophthora diwan ackerman」、「Phytophthora erythroseptica」、「Phytophthora fragariae」、「Phytophthora fragariae var. rubi」、「Phytophthora Gemini」、「Phytophthora glovera」、「Phytophthora gonapodyides」、「Phytophthora heveae」、「Phytophthora hibemalis」、「Phytophthora humicola」、「Phytophthora hydropathical」、「Phytophthora irrigate」、「Phytophthora idaei」、「Phytophthora ilicis」、「Phytophthora infestans」、「Phytophthora inflate」、「Phytophthora ipomoeae」、「Phytophthora iranica」、「Phytophthora katsurae」、「Phytophthora kemoviae」、「Phytophthora lateralis」、「Phytophthora medicaginis」、「Phytophthora megakarya」、「Phytophthora megasperma」、「Phytophthora melonis」、「Phytophthora mirabilis」、「Phytophthora multivesiculata」、「Phytophthora nemorosa」、「Phytophthora nicotianae」、「Phytophthora PaniaKara」、「Phytophthora palmivora」、「Phytophthora phaseoli」、「Phytophthora pini」、「Phytophthora porri」、「Phytophthora plurivora」、「Phytophthora primulae」、「Phytophthora pseudosyringae」、「Phytophthora pseudotsugae」、「Phytophthora quercina」、「Phytophthora ramorum」、「Phytophthora sinensis」、「Phytophthora sojae」、「Phytophthora syringae」、「Phytophthora tentaculata」、「Phytophthora trifolii」、「Phytophthora vignae」、のいずれかを含む。
【0022】
1つの実施形態において、本装置は、植物の病原体である「Sclerotinia(スクレロチニア又は菌核(病)菌)」から胞子を捕集する。本明細書で使用される場合、用語「Sclerotinia」は、Sclerotinia属の全ての種を含む。捕集されるSclerotiniaの種は、「Sclerotinia borealis」、「Sclerotinia bulborum」、「Sclerotinia homoeocarpa」、「Sclerotinia minor」、「Sclerotinia ricini」、「Sclerotinia sclerotiorum」、「Sclerotinia spermophila」、「Sclerotinia sulcata」、「Sclerotinia trifoliorum」、「Sclerotinia veratri」、のいずれかを含む。
【0023】
幾つかの実施形態では、本装置は、表1に記載されたものの1つ以上に由来する病原体を捕集する。
【0024】
【表1】


【0025】
図1及び図3を参照すると、病原体捕集装置の一実施形態をカセット100の形態で示す。カセットは、空気中の病原体を受動的に捕集するための捕集媒体110と、支持フレーム120とを有する。支持フレーム120は、捕集媒体110を支持してピンと張った状態を維持し、それによって、捕集媒体表面130を気流にさらす。捕集媒体表面130は、空気を流しながら、空気中の病原体を捕集する。
【0026】
1つの実施形態では、捕集媒体は、静電的に帯電した繊維で構成される。好ましくは、捕集媒体は、静電的に帯電した繊維で構成されたポリマーメッシュである。幾つかの実施形態では、ポリマーメッシュは、モノフィラメント繊維から織られている。他の実施形態では、ポリマーメッシュは、マルチフィラメント繊維から織られている。
【0027】
幾つかの実施態様では、ポリマーメッシュは、ポリエステル材料で構成される。1つの実施形態では、ポリマーメッシュは、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンテトラフルオロエチレン、又はポリエーテルエーテルケトン繊維、又はこれらの繊維の組み合わせで構成される。1つの実施形態では、ポリマーメッシュは、ポリアミドで構成される。
【0028】
幾つかの実施形態では、ポリマーメッシュは、1μm~200μm、好ましくは10μm~150μmのメッシュサイズを有する。1つの実施形態では、メッシュサイズは、10μm、15μm、20μm、25μm、30μm、50μm、100μm、又は150μmである。幾つかの実施形態において、メッシュサイズは、対象(target)病原体に基づいて選択される。
【0029】
図2を参照すると、支持フレーム120は、圧縮によって互いに嵌合する一対の嵌合部材130a、130bを備え、その間に捕集媒体110を挟み、捕集媒体表面120をピンと張った状態に維持し、一対の嵌合部材によって囲まれた全領域に亘っている。1つの実施形態では、一対の嵌合部材は、0.5~3インチ、好ましくは1~2インチ、より好ましくは約1.5インチの内径を有する2つの連結リング(インターロックリング)である。他の実施形態では、一対の嵌合部材は、正方形、多角形、又は他の形状である。
【0030】
幾つかの実施形態では、支持フレームも静電的に帯電される。1つの実施形態では、支持フレームは、プラスチック、例えばスチレン又はポリスチレンプラスチックで構成される。
【0031】
カセット100は使い捨てである。病原体は、奪取、拡散、衝突、静電引力、及び/又は沈降によって、カセットに捕集される。多少の濾過効果が生じるが、これは粒子/病原体の捕集の主な原因とはならない。また、カセット100の捕集媒体110は、一対の嵌合部材130a、130bのロックを解除することによって、カセットから容易に取り外すことができる。そして、捕集媒体110は、分子分析を用いて更に解析されて、捕集された病原体が特定される。
【0032】
幾つかの実施態様では、捕集媒体110は、メッシュであり、カセットから取り出され、DNA抽出のためにバイアルに直接入れられる。静的引力によってほとんどメッシュに結合している胞子などのバイオエアロゾルは、液体溶液が適用されるとメッシュから容易に放出される。したがって、バイオエアロゾルは、何らかの粘着質によりメッシュに結合していないため、PCRの阻害剤として作用することはない。また、メッシュは、標準的なPCR分析手順に適合している。
【0033】
[病原体の捕集及び分析]
使用時には、カセットは、空気をカセットに導くように、回転可能な風向計(wind vane apparatus)200に交換可能に挿入される。図4に示すように、風向計200は、ファンネル210と、羽根(vane)220と、ポストアダプタ230とを有する。ファンネル210は、流入する空気を集中させ、羽根220は、風向きに基づいてファンネルを方向付ける。ポストアダプタ230は、風向計200を杭(post)の先端に取り付けることを可能にする。取り付けられると、風向計200は、風向きに基づいて杭の周りを回転する。
【0034】
幾つかの実施形態では、風装置(wind apparatus)は、羽根を有しておらず、ファンネルは、所望の方向に基づいて位置決めされる。幾つかの実施態様では、風装置は、ファンネルを有さず、羽根を有する。他の実施形態では、風装置は、羽根又はファンネルを有していない。
【0035】
幾つかの実施形態では、風装置はドローンである。他の実施形態では、カセットは、ドローン、又はトラクターやトラックなどの農業で使用される他の車両に配置される。
【0036】
幾つかの実施形態では、風装置は、羽根を有し、杭の周りで回転可能である。例えば、風向計は、1/2インチのMIP継手又は一体型ねじ管の標準的な配管ねじに取り付けられる。これにより、エンドユーザは、所望の配置のための所望の長さのパイプを得られる。
【0037】
幾つかの実施形態では、風向計は、カセットを受け入れるためのレセプタクル(receptacle)を有し、ファンネルは、空気の流れをカセットの捕集表面に導く。1つの実施形態では、カセットは、ファンネルに隣接し、ファンネルのネック部214の下流に配置される。本明細書で使用される場合、用語「上流」及び「下流」は、空気の流れの方向に関連する。1つの実施形態では、カセットは、ファンネルの上流端近傍、ファンネルの中央、又はファンネルの下流端近傍など、ファンネルの内部に配置されて、空気がファンネルを流れるときに微粒子及び病原体を捕集する。1つの実施形態では、図4に示すように、ファンネル210のネック部214は、カセットを受け入れるような大きさの開口部212を有する。
【0038】
図5及び図6は、カセット100が内部に挿入された風向計200を有する病原体捕集システム300を示す。カセットは、開口部212を通して、ファンネル210のネック部214に挿入される。1つの実施形態では、捕集媒体表面120が、気流の方向に垂直に、ネック部の全円形断面に実質的に広がるように、カセットの直径は、ネック部の内径に対応している。他の実施形態では、カセットの直径は、ネック部の内径よりも小さく、捕集媒体表面120は、気流の方向に垂直に、ネック部の円形断面に部分的に広がっている。
【0039】
カセットは、1日ごと、2日ごと、3日ごと、又はそれ以上の日で交換される。使用後、カセットは、分子分析のために回収される。本明細書で使用される場合、「分子分析(molecular analysis)」は、リアルタイムPCR(real-time PCR)、コンベンショナルPCR(conventional PCR)、定量PCR(quantitative PCR)、マルチプレックスPCR(multiplex PCR)、ネステッドPCR(nested PCR)、コミュニティシーケンシング(community sequencing)、ハイスループットシーケンシング(hi-throughput sequencing)、レコンビナーゼポリメラーゼ増幅(RPA)、ループ媒介等温増幅(LAMP)、抗体/抗原アッセイ、比色アッセイ、ELISAなどの分析手法を指すが、これらに限定はされない。分子分析は、カセット上の病原体を含むバイオエアロゾルの存在又は不在を判定するために使用される。分子分析は、カセット上の病原体を含むバイオエアロゾルを定量化するために使用される。
【0040】
病原体捕集システムは、特定の種類の病原体又は病原性粒子(胞子、胞子/菌糸の断片)に限定されず、風で分散するあらゆる病原性粒子を受動的に捕集できる。また、本システムは、複数種の胞子を同時に捕集することができ、標準PCRサイクルをマルチプレックスPCRサイクルに変更することで、複数種の胞子に対する分子試験が可能である。
【0041】
[散布決定]
現在、農薬散布の決定は、栽培者及び農業専門家によって、宿主の感受性及び環境因子に基づいて、予防策として行われることが多い。病気の原因となる病原体に関する情報は、多くの場合、栽培者の農地の目視検査か、近隣の農地や地域において同じ対策から広められた情報によって、感染後に入手可能なだけである。
【0042】
また、本開示は、感染前に病原体情報を収集して栽培者及び農業専門家に利用できるようにする監視システム及び方法を提供する。病原性粒子は、感染を引き起こす前に空気中で検出できる。これにより、いつ散布するか、何を散布するか、散布するかを決定するときに、より多くの情報を考慮することができる。
【0043】
図7を参照すると、監視システム及び方法は、まず作物及び対象病原体701を特定することを含む。本明細書に記載の風向計は、作物及びバイオエアロゾル/病原体に応じて、しばしば農地の樹冠、林冠の高さに応じて、様々な高さに設置及び配置される。風向計は、作物に応じて、生育期間(栽培期間)の全体又は一部において、農地に設置したままにされる。各作物は、種々の病原体に対する感受性の窓(window of susceptibility)を有し、好ましくは、本明細書に記載の病原体捕集システムは、この感受性の窓の間に少なくとも部分的に設置される。
【0044】
空気中の病原体の捕集が望まれるときに、本明細書に記載されたようなカセットが風向計に装着される(702)。単一又は複数のカセットが、病原体を捕集するために使用される。例えば、カセットは、病原体の捕集を最大化するために、所定の期間後に任意に交換することができる(703)。異なる場所で病原体を捕集するために、複数の風向計を農地に配置することができる。
【0045】
病原体の捕集後、カセットは、分子分析のために回収される(704)。任意で、病原体捕集が行われた時期に関連する気象データ(weather data)を取得する(706)。
【0046】
カセットによって捕集された対象胞子は、複数の方法によって区別又は特定され(707)、当該方法は、対象生物の存在を決定して値を出す。例えば、この値は、数的、明確に定量的、明確に定性的、又は半定量的、又は半定性的なものである。
【0047】
次に、この値は、散布決定を判断するために使用される。散布決定の判断には、生物の存在に基づいて散布すること、生物の存在に基づいて散布しないこと、生物の不在に基づいて散布しないこと、又は、生物の不在に基づいて散布すること、を含む。
【0048】
ここに記載された実施例の理解を提供するために、多数の詳細が記載される。実施例は、それらの詳細なしに実施することができる。この説明は、ここで述べる実施例の範囲に限定されると見なされるべきではない。
【実施例
【0049】
実施例1:Phytophthora infestans
ジャガイモ畑での、Phytophthora infestans(ジャガイモの疫病(Late blight of Potato))の探索。ジャガイモは、ライフサイクルのどの時点でもこの病気にかかりやすい。したがって、上記の病原体捕集システムは、全生育期間にわたって農地に設置したままにすることができる。
カセットは、3~4日ごとに交換され、分析のために研究室に送られる。
【0050】
実施例2:Sclerotinia sclerotiorum
キャノーラ畑での、Sclerotinia sclerotiomm(キャノーラの茎腐病(Stem rot of Canola))の探索。キャノーラは、開花期にのみこの病気にかかりやすい。したがって、上記の病原体捕集システムは、この期間に農地に設置し、開花後に撤去することができる。
カセットは、開花時のみ2日ごとに交換され、分析のために研究室に送られる。
【0051】
実施形態について詳細に説明したが、本明細書では様々な変更、置換、改変が可能であることを理解すべきである。また、本願の範囲は、本明細書に記載された特定の実施形態又は実施例に限定されることを意図するものではない。理解され得るように、上述及び図示された例は、例示的なものであることのみを意図している。
【0052】
例えば、本発明は、本明細書に記載される実施形態のいずれかに示された特徴のいずれかを、本明細書に記載された他の実施形態のいずれかに示された特徴のいずれかと組み込むことができ、依然として本発明の範囲内にあることを意図している。
【符号の説明】
【0053】
100 カセット
110 捕集媒体
120 支持フレーム
130 捕集媒体表面
130a、130b 嵌合部材
200 風向計
210 ファンネル
220 羽根
230 ポストアダプタ
300 病原体捕集システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【国際調査報告】