(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-21
(54)【発明の名称】細胞表現型を調節するための系および方法
(51)【国際特許分類】
C12N 5/02 20060101AFI20220713BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20220713BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20220713BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220713BHJP
C12N 5/0786 20100101ALN20220713BHJP
C12N 5/0783 20100101ALN20220713BHJP
C07K 14/54 20060101ALN20220713BHJP
C07K 14/525 20060101ALN20220713BHJP
C07K 14/57 20060101ALN20220713BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20220713BHJP
C12M 1/04 20060101ALN20220713BHJP
C12P 21/00 20060101ALN20220713BHJP
【FI】
C12N5/02 ZNA
A61K35/17 Z
A61P37/04
A61P35/00
C12N5/0786
C12N5/0783
C07K14/54
C07K14/525
C07K14/57
C12N15/12
C12M1/04
C12P21/00 F
C12P21/00 K
C12P21/00 L
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021564306
(86)(22)【出願日】2020-04-30
(85)【翻訳文提出日】2021-12-27
(86)【国際出願番号】 US2020030706
(87)【国際公開番号】W WO2020223479
(87)【国際公開日】2020-11-05
(32)【優先日】2019-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515162361
【氏名又は名称】エックスセル・バイオサイエンシズ・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100202267
【氏名又は名称】森山 正浩
(74)【代理人】
【識別番号】100182132
【氏名又は名称】河野 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】リム,ジェームズ
(72)【発明者】
【氏名】ルー,クイン・アン・トゥク
(72)【発明者】
【氏名】リー,ユンミン
(72)【発明者】
【氏名】フェート,ブライアン
【テーマコード(参考)】
4B029
4B064
4B065
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029BB11
4B029CC01
4B029DF04
4B029DF10
4B064AG03
4B064AG07
4B064AG12
4B064CA10
4B064DA01
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4B064DA20
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AC14
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4B065BD50
4B065CA44
4B065CA46
4B065CA60
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB64
4C087CA04
4C087DA31
4C087NA05
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4C087ZB05
4C087ZB09
4C087ZB26
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA09
4H045CA40
4H045DA02
4H045DA14
4H045DA18
4H045EA20
4H045EA34
4H045EA50
(57)【要約】
本開示は、所望の表現型を推定するために細胞のソース集団の表現型を調節する方法に関する。該方法は、酸素レベルおよび全大気圧レベルの可変性大気パラメーターを調節するように構成されたインキュベーター内でソース細胞集団を培養することを含む。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
約1%~約15%の酸素および大気圧より最大約2PSI高い圧力の条件下で細胞を培養することを含む、細胞傷害性の増強のために細胞を培養する方法であって、ここで、培養を、少なくとも、約18%の酸素および大気圧より0PSI高い圧力の培養条件でのサイトカインの発現と比較してサイトカインの発現が変化するまで行い、細胞が末梢血単核細胞(PBMC)、汎T細胞、制御性T細胞(Treg)またはナチュラルキラー(NK)細胞である、方法。
【請求項2】
酸素が約15%である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
圧力条件が大気圧より少なくとも約1PSI高い、請求項1記載の方法。
【請求項4】
サイトカインの発現が、約18%の酸素および大気圧より0PSI高い圧力の培養条件でのサイトカインの発現と比較して増強する、請求項1記載の方法。
【請求項5】
サイトカインの発現が、約18%の酸素および大気圧より0PSI高い圧力の培養条件でのサイトカインの発現と比較して低減する、請求項1記載の方法。
【請求項6】
細胞がPBMCである、請求項1記載の方法。
【請求項7】
サイトカインがIL-10であり、IL-10の発現が低減する、請求項6記載の方法。
【請求項8】
サイトカインがTNF-αであり、TNF-αの発現が増強する、請求項6記載の方法。
【請求項9】
サイトカインがIL-6であり、IL-6の発現が低減する、請求項6記載の方法。
【請求項10】
サイトカインがIFN-γであり、IFN-γの発現が増強する、請求項6記載の方法。
【請求項11】
サイトカインがTGF-β1であり、TGF-β1の発現が増強する、請求項6記載の方法。
【請求項12】
PBMCの細胞傷害性が、18%の酸素および大気圧より0PSI高い圧力の対照培養条件でのPMBCの細胞傷害性と比較して、少なくとも約20%増強する、請求項6記載の方法。
【請求項13】
細胞が汎T細胞である、請求項1記載の方法。
【請求項14】
サイトカインがIL-6であり、IL-6の発現が増強する、請求項13記載の方法。
【請求項15】
サイトカインがIFN-γであり、IFN-γの発現が増強する、請求項13記載の方法。
【請求項16】
汎T細胞の細胞傷害性が、18%の酸素および大気圧より0PSI高い圧力の対照培養条件での汎T細胞の細胞傷害性と比較して、少なくとも約20%増強する、請求項13記載の方法。
【請求項17】
細胞傷害性遺伝子の発現が、18%の酸素および大気圧より0PSI高い圧力の対照培養条件での細胞傷害性遺伝子の発現と比較して変化する、請求項13記載の方法。
【請求項18】
細胞傷害性遺伝子の発現が、約18%の酸素および大気圧より0PSI高い圧力の培養条件での細胞傷害性遺伝子の発現と比較して増強する、請求項17記載の方法。
【請求項19】
細胞傷害性遺伝子がGZMBである、請求項18記載の方法。
【請求項20】
細胞傷害性遺伝子がパーフォリンである、請求項18記載の方法。
【請求項21】
チェックポイント遺伝子の発現が、18%の酸素および大気圧より0PSI高い圧力の対照培養条件でのチェックポイント遺伝子の発現と比較して変化する、請求項13記載の方法。
【請求項22】
チェックポイント遺伝子の発現が、約18%の酸素および大気圧より0PSI高い圧力の培養条件におけるチェックポイント遺伝子の発現と比較して増強する、請求項21記載の方法。
【請求項23】
チェックポイント遺伝子がPD1である、請求項22記載の方法。
【請求項24】
腫瘍の治療を要する対象における腫瘍の治療方法であって、該方法が、約1%~約15%の酸素および大気圧より最大約2PSI高い圧力の条件下で細胞を培養し、ここで、培養を、少なくとも、約18%の酸素および大気圧より0PSI高い圧力の培養条件でのサイトカインの発現と比較してサイトカインの発現が変化するまで行い、培養の後、細胞を対象に投与することを含み、ここで、細胞が末梢血単核細胞(PBMC)、汎T細胞、制御性T細胞(Treg)またはナチュラルキラー(NK)細胞である、方法。
【請求項25】
酸素が約15%である、請求項24記載の方法。
【請求項26】
圧力条件が大気圧より少なくとも約1PSI高い、請求項24記載の方法。
【請求項27】
サイトカインの発現が、約18%の酸素および大気圧より0PSI高い圧力の培養条件でのサイトカインの発現と比較して増強する、請求項24記載の方法。
【請求項28】
サイトカインの発現が、約18%の酸素および大気圧より0PSI高い圧力の培養条件でのサイトカインの発現と比較して低減する、請求項24記載の方法。
【請求項29】
細胞がPBMCである、請求項24記載の方法。
【請求項30】
サイトカインがIL-10であり、IL-10の発現が低減する、請求項29記載の方法。
【請求項31】
サイトカインがTNF-αであり、TNF-αの発現が増強する、請求項29記載の方法。
【請求項32】
サイトカインがIL-6であり、IL-6の発現が低減する、請求項29記載の方法。
【請求項33】
サイトカインがIFN-γであり、IFN-γの発現が増強する、請求項29記載の方法。
【請求項34】
サイトカインがTGF-β1であり、TGF-β1の発現が増強する、請求項29記載の方法。
【請求項35】
細胞が汎T細胞である、請求項24記載の方法。
【請求項36】
サイトカインがIL-6であり、IL-6の発現が増強する、請求項35記載の方法。
【請求項37】
サイトカインがIFN-γであり、IFN-γの発現が増強する、請求項35記載の方法。
【請求項38】
細胞の細胞傷害性が、18%の酸素および大気圧より0PSI高い圧力の対照培養条件での細胞の細胞傷害性と比較して、少なくとも約20%増強する、請求項24記載の方法。
【請求項39】
細胞傷害性遺伝子の発現が、18%の酸素および大気圧より0PSI高い圧力の対照培養条件での細胞傷害性遺伝子の発現と比較して変化する、請求項35記載の方法。
【請求項40】
細胞傷害性遺伝子の発現が、約18%の酸素および大気圧より0PSI高い圧力の培養条件での細胞傷害性遺伝子の発現と比較して増強する、請求項39記載の方法。
【請求項41】
細胞傷害性遺伝子がGZMBである、請求項39記載の方法。
【請求項42】
細胞傷害性遺伝子がパーフォリンである、請求項39記載の方法。
【請求項43】
チェックポイント遺伝子の発現が、18%の酸素および大気圧より0PSI高い圧力の対照培養条件でのチェックポイント遺伝子の発現と比較して変化する、請求項35記載の方法。
【請求項44】
チェックポイント遺伝子の発現が、約18%の酸素および大気圧より0PSI高い圧力の培養条件におけるチェックポイント遺伝子の発現と比較して増強する、請求項43記載の方法。
【請求項45】
チェックポイント遺伝子がPD1である、請求項44記載の方法。
【請求項46】
細胞を抗癌剤と共に対象に共投与する、請求項24記載の方法。
【請求項47】
細胞がPBMCである、請求項46記載の方法。
【請求項48】
抗癌剤がPD1インヒビターである、請求項47記載の方法。
【請求項49】
抗癌剤がペンブロリズマブである、請求項47記載の方法。
【請求項50】
抗癌剤がニボルマブである、請求項47記載の方法。
【請求項51】
腫瘍が前立腺癌細胞を含む、請求項47記載の方法。
【請求項52】
抗癌剤の有効性を決定するための方法であって、該方法が、
(a)約1%~約15%の酸素および大気圧より最大約2PSI高い圧力の条件下、末梢血単核細胞(PBMC)、汎T細胞、制御性T細胞(Treg)またはナチュラルキラー(NK)細胞からなる群から選択される細胞を培養し、ここで、培養を、少なくとも、約18%の酸素および大気圧より0PSI高い圧力の培養条件でのサイトカインの発現と比較してサイトカインの発現が変化するまで行い、培養の後、
(b)腫瘍細胞を該細胞および抗癌剤と接触させ、
(c)少なくとも約5日後に腫瘍細胞に対する細胞傷害性(細胞毒性)を測定し、それにより腫瘍細胞に対する抗癌剤の有効性を決定することを含む、方法。
【請求項53】
酸素が約15%である、請求項52記載の方法。
【請求項54】
圧力条件が大気圧より少なくとも約1PSI高い、請求項52記載の方法。
【請求項55】
サイトカインの発現が、約18%の酸素および大気圧より0PSI高い圧力の培養条件でのサイトカインの発現と比較して増強する、請求項52記載の方法。
【請求項56】
サイトカインの発現が、約18%の酸素および大気圧より0PSI高い圧力の培養条件でのサイトカインの発現と比較して低減する、請求項52記載の方法。
【請求項57】
細胞がPBMCである、請求項52記載の方法。
【請求項58】
サイトカインがIL-10であり、IL-10の発現が低減する、請求項57記載の方法。
【請求項59】
サイトカインがTNF-αであり、TNF-αの発現が増強する、請求項57記載の方法。
【請求項60】
サイトカインがIL-6であり、IL-6の発現が低減する、請求項57記載の方法。
【請求項61】
サイトカインがIFN-γであり、IFN-γの発現が増強する、請求項57記載の方法。
【請求項62】
サイトカインがTGF-β1であり、TGF-β1の発現が増強する、請求項57記載の方法。
【請求項63】
抗癌剤がPD1インヒビターである、請求項52記載の方法。
【請求項64】
抗癌剤がペンブロリズマブである、請求項52記載の方法。
【請求項65】
抗癌剤がニボルマブである、請求項52記載の方法。
【請求項66】
腫瘍細胞が前立腺癌細胞である、請求項52記載の方法。
【請求項67】
汎T細胞のソース集団から細胞亜集団を富化する方法であって、該方法が、約1%~約15%の酸素および大気圧より最大約2PSI高い圧力の条件下、該ソース集団を培養することを含み、ここで、細胞亜集団がCD8+ 細胞またはCD4+ 細胞を含む、方法。
【請求項68】
細胞亜集団がCD8+ 細胞を含む、請求項67記載の方法。
【請求項69】
酸素が約15%であり、圧力条件が大気圧より約2PSI高い、請求項68記載の方法。
【請求項70】
細胞亜集団がCD4+ 細胞を含む、請求項67記載の方法。
【請求項71】
酸素が約1%であり、圧力条件が大気圧より約2PSI高い、請求項70記載の方法。
【請求項72】
腫瘍の治療を要する対象における腫瘍の治療方法であって、該方法が、約1%~約15%の酸素および大気圧より最大約2PSI高い圧力の条件下で細胞を培養し、ここで、培養を、少なくとも、約18%の酸素および大気圧より0PSI高い圧力の培養条件でのIL-6およびIFN-γの発現と比較してIL-6およびIFN-γの発現が増強するまで行い、培養の後、細胞を対象に投与することを含み、ここで、細胞が汎T細胞である、方法。
【請求項73】
細胞のソース集団の少なくともサブセットの表現型を調節する方法であって、該方法が、それぞれの周囲大気条件に無関係にインキュベーターにおける少なくとも2つの可変性大気条件パラメーターを調節しうるように構成された細胞培養インキュベーター内でソース細胞集団を培養すること(ここで、可変性大気条件パラメーターの2つは酸素レベルおよび全大気圧レベルである)、インキュベーター内の酸素レベルおよび全大気圧レベルの少なくとも1つを調節して、酸素レベルまたは全大気圧レベルの少なくとも1つがそれぞれの周囲レベルと異なるようにすること、ならびに、可変性大気条件パラメーターの調節の結果として、インキュベーション期間にわたって、ソース集団の表現型パラメーターの発現を第1表現型から第2表現型へと導くこと(ここで、サブセット細胞集団の第1表現型は、インキュベーター内の可変性大気条件パラメーターが周囲大気条件と実質的に同じである大気条件下で発現されるものであり、サブセット細胞集団の第2表現型は、インキュベーターにより調節された可変性大気条件への曝露の結果として発現される)を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞表現型を調節(モジュレーション)するための系および方法に関する。
【0002】
相互参照
本出願は、2019年4月30日付出願の米国仮特許出願第62/840,782号(その全体を参照により本明細書に組み入れることとする)に基づく優先権を主張するものである。
【背景技術】
【0003】
研究、診断、薬物スクリーニングまたは治療目的のための、細胞、例えば免疫系細胞、腫瘍細胞および幹細胞の使用は、関心のある領域であり、したがって、これらの目的に好適な細胞集団を単離し増殖させるための方法は種々の生物学的用途に有用でありうる。場合によっては、特定の型の細胞は、発生もしくは分化の状態によって、または幾つもの環境要因の影響によって、複数の表現型をとりうる。
【発明の概要】
【0004】
発明の概括
幾つかの実施形態においては、本発明は、本発明は、約1%~約15%の酸素および大気圧より最大約2PSI高い圧力の条件下で細胞を培養することを含む、細胞傷害性の増強のために細胞を培養する方法を提供し、ここで、培養を、少なくとも、約18%の酸素および大気圧より0PSI高い圧力の培養条件でのサイトカインの発現と比較してサイトカインの発現が変化するまで行い、細胞は末梢血単核細胞(PBMC)、汎T細胞、制御性T細胞(Treg)またはナチュラルキラー(NK)細胞である。
【0005】
幾つかの実施形態においては、本発明は、腫瘍の治療を要する対象における腫瘍の治療方法を提供し、該方法は、約1%~約15%の酸素および大気圧より最大約2PSI高い圧力の条件下で細胞を培養し、ここで、培養を、少なくとも、約18%の酸素および大気圧より0PSI高い圧力の培養条件でのサイトカインの発現と比較してサイトカインの発現が変化するまで行い、培養の後、細胞を対象に投与することを含み、ここで、細胞は末梢血単核細胞(PBMC)、汎T細胞、制御性T細胞(Treg)またはナチュラルキラー(NK)細胞である。
【0006】
幾つかの実施形態においては、本発明は、抗がん剤(以下、がんは癌と表記される)の有効性を決定するための方法を提供し、該方法は、(a)約1%~約15%の酸素および大気圧より最大約2PSI高い圧力の条件下、末梢血単核細胞(PBMC)、汎T細胞、制御性T細胞(Treg)またはナチュラルキラー(NK)細胞からなる群から選択される細胞を培養し、ここで、培養を、少なくとも、約18%の酸素および大気圧より0PSI高い圧力の培養条件でのサイトカインの発現と比較してサイトカインの発現が変化するまで行い、培養の後、(b)腫瘍細胞を該細胞および抗癌剤と接触させ、(c)少なくとも約5日後に腫瘍細胞に対する細胞傷害性を測定し、それにより腫瘍細胞に対する抗癌剤の有効性を決定することを含む。
【0007】
幾つかの実施形態においては、本発明は、汎T細胞のソース(供給源)集団から細胞亜集団を富化(濃縮)する方法を提供し、該方法は、約1%~約15%の酸素および大気圧より最大約2PSI高い圧力の条件下、該ソース集団を培養することを含み、ここで、細胞亜集団はCD8+ 細胞またはCD4+ 細胞を含む。
【0008】
幾つかの実施形態においては、本発明は、腫瘍の治療を要する対象における腫瘍の治療方法を提供し、該方法は、約1%~約15%の酸素および大気圧より最大約2PSI高い圧力の条件下で細胞を培養し、ここで、培養を、少なくとも、約18%の酸素および大気圧より0PSI高い圧力の培養条件でのIL-6およびIFN-γの発現と比較してIL-6およびIFN-γの発現が増強するまで行い、培養の後、細胞を対象に投与することを含み、ここで、細胞は汎T細胞である。
【0009】
幾つかの実施形態においては、本発明は、細胞のソース集団の少なくともサブセットの表現型を調節する方法を提供し、該方法は、それぞれの周囲大気条件に無関係にインキュベーターにおける少なくとも2つの可変性大気条件パラメーターを調節しうるように構成された細胞培養インキュベーター内の液体培養においてソース細胞集団を培養すること(ここで、可変性大気条件パラメーターの2つは酸素レベルおよび全大気圧レベルである)、インキュベーター内の酸素レベルおよび全大気圧レベルの少なくとも1つを調節して、酸素レベルまたは全大気圧レベルの少なくとも1つがそれぞれの周囲レベルと異なるようにすること、ならびに、可変性大気条件パラメーターの調節の結果として、インキュベーション期間にわたって、ソース集団の表現型パラメーターの発現を第1表現型から第2表現型へと導くこと(ここで、サブセット細胞集団の第1表現型は、インキュベーター内の可変性大気条件パラメーターが周囲大気条件と実質的に同じである大気条件下で発現されるものであり、サブセット細胞集団の第2表現型は、インキュベーターにより調節された可変性大気条件への曝露の結果として発現される)を含む。
【0010】
参照による援用
本明細書中に言及されている全ての刊行物、特許および特許出願を、各個の刊行物、特許または特許出願が参照により組み入れられると具体的かつ個別に示されている場合と同様に、参照により本明細書に組み入れることとする。
【0011】
図面の簡潔な説明
本発明の新規特徴は添付の特許請求の範囲に詳細に記載されている。本発明の特徴および利点のより深い理解は、本発明の原理を用いる例示的な実施形態を記載している後記の詳細な説明および以下の添付図面を参照することにより得られるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1Aは、標準的培養条件(STD)、大気圧より2PSI高い圧力における15% O
2(15% O
2 + 2PSI)、ならびに大気圧における15% O
2(15% O
2 + 0PSI)における、サイトカインの発現を示す。
図1Bは、
図1Aに結果が示されている同じ研究からのデータの棒グラフを示し、該棒グラフは、標準的培養条件(STD)、大気圧より2PSI高い圧力における15% O
2(15% O
2 + 2PSI)、ならびに大気圧における15% O
2(15% O
2 + 0PSI)における、IFN-ガンマ、IL-6、IL-10、TGF-ベータ-1およびTNF-アルファの発現を示す。
【
図2】
図2は、ニボルマブ(Nivo)またはペンブロリズマブ(Pembro)で処置されたPBMCの腫瘍細胞殺傷効果に対する、標準的条件(STD)下、または周囲圧力より2PSI高い圧力における1% O
2における、培養の効果を示す。
【
図3】
図3Aは酸素および圧力の種々の条件下での初代T細胞の増殖曲線を示す。示されている条件は、大気圧における20% O
2の標準的条件、大気圧における15% O
2(15% O
2 + 0PSI)、大気圧より2PSI高い圧力における15% O
2(15% O
2 + 2PSI)、大気圧における5% O
2(5% O
2 + 0PSI)、大気圧より2PSI高い圧力における5% O
2(5% O
2 + 2PSI)、大気圧における1% O
2(1% O
2 + 0PSI)および大気圧より2PSI高い圧力における1% O
2(1% O
2 + 2PSI)である。
図3Bは、
図3Aの増殖曲線ごとの、第14日における初代T細胞の総倍加を示す。
図3Cは
図3Aおよび3Bの増殖倍数データを要約したものである。
【
図4】
図4Aは、標準的条件(STD)、大気圧における15% O
2(15% O
2)、大気圧における5% O
2(5% O
2)、大気圧における1% O
2(1% O
2)、大気圧より2PSI高い圧力における15% O
2(15% O
2 + 2PSI)、大気圧より2PSI高い圧力における5% O
2(5% O
2 + 2PSI)および大気圧より2PSI高い圧力における1% O
2(1% O
2 + 2PSI)における、T細胞におけるCD8およびCD4発現の代表的なフローサイトメータープロットを示す。
図4Bは、酸素および圧力の種々の条件下の(
図4Aのデータごとの)第14日におけるCD8+ 細胞の相対的存在を示す。
図4Cは酸素および圧力の種々の条件下の(
図4Aのデータごとの)第14日におけるCD4+ 細胞の相対的存在を示す。
図4Dは酸素および圧力の種々の条件下の(
図4Bのデータごとの)第14日におけるC8+ 細胞の相対的存在を要約したものである。
図4Eは酸素および圧力の種々の条件下の(
図4Bのデータごとの)第14日におけるC4+ 細胞の相対的存在を要約したものである。
【
図5】
図5Aは、標準的条件と比較した場合の、酸素および圧力の種々の条件下のT細胞におけるIL-10発現のレベルを示す。
図5Bは、標準的条件と比較した場合の、酸素および圧力の種々の条件下のT細胞におけるIL-6発現のレベルを示す。
【
図6】
図6Aは酸素および圧力の種々の条件下のT細胞におけるグランザイムB(GZMB)の発現を示す。
図6Bは酸素および圧力の種々の条件下のT細胞におけるパーフォリンの発現を示す。
【
図7】
図7は酸素および圧力の種々の条件下のT細胞のサイズ(細胞体積)を示す。
【
図8】
図8Aは酸素および圧力の種々の条件下のPD1発現を示す。
図8Bは酸素および圧力の種々の条件下のCTLA4発現を示す。
【
図9】
図9Aは酸素および圧力の種々の条件下のIFN-ガンマ発現を示す。
図9Bは酸素および圧力の種々の条件下のIL-6発現を示す。
図9Cは酸素および圧力の種々の条件下のIL-10発現を示す。
【
図10】
図10Aは、標準的培養条件と比較した場合の、低酸素および高圧条件下で培養された細胞集団内のFOXP3+ Treg細胞の相対頻度を示す。
図10Bは、標準的培養条件と比較した場合の、低酸素および高圧条件下で培養された集団内のFOXP3+ Treg細胞の相対的分布のフローサイトメーター分析を示す。
図10Cは、標準的培養条件下で培養されたTreg細胞のFOXP3+に対する側方散乱領域(SSC-A)のフローサイトメトリー分析を示す。
図10Dは、高圧および低酸素条件下(大気圧より2PSI高い圧力における5% O
2)で培養されたTreg細胞のFOXP3+に対する側方散乱領域(SSC-A)のフローサイトメトリー分析を示す。
図10Eは、標準的培養条件と比較した場合の、低酸素および高圧条件におけるFOXP3+ 細胞の相対百分率を示す。
【
図11】
図11は細胞培養インキュベーターにおける気体条件に関する酸素レベルパラメーター(X軸)および圧力レベルパラメーター(Y軸)のXYグラフィック表現を示し、2つの特定の酸素-圧力(O-P)条件、すなわち、O-P条件1およびO-P条件2を示す。
【
図12】
図12は、細胞培養インキュベーターにおける気体条件に関する酸素レベルパラメーター(X軸)、圧力レベルパラメーター(Y軸)および時間(Z軸)のXYZグラフィック表現を示し、時点1に示されているO-P条件1および時点2に示されいるO-P条件2は時点1から時点2までの期間中に変化している。
【
図13】
図13Aは細胞培養パラメータの測定値に対する細胞の2相性頻度分布プロファイルを示し、ここで、1つのピークから別のピークへの集団の移動または再形成が大気条件により促進または駆動される。
図13Bは細胞培養パラメータの測定値に対する細胞の頻度分布プロファイルを示し、ここで、細胞集団は、大気条件の調節の結果として、より均質になっている。
図13Cは細胞培養パラメータの測定値に対する細胞の頻度分布プロファイルを示し、ここで、集団は、中央領域から1つの方向および/または別の方向に移動(ドリフト)する明らかな傾向を有し、そのような表現型ドリフトは大気条件の最適な調節により妨げられる。
図13Dは、目的のまたは所望の表現型を支持する最適な大気条件を決定するために設計された2因子(酸素レベルおよび圧力レベル)実験を示す。
図13Eは、生物活性物質の効果を測定する能力に関して細胞集団の表現型発現を最適化する大気条件を最適化するために設計された多因子実験(酸素レベル、圧力レベル、生物活性物質)の分析を示す。
図13Fは、最大産物収量のために最適化された2段階製造プロセスの概要図を示す。
【
図14】
図14は、細胞のソース集団の表現型を調節する方法を示す、方法の流れ図を示す。
【
図15】
図15は、細胞集団内の表現型の均質性を増加させる方法を示す、方法の流れ図を示す。
【
図16】
図16は、細胞の集団の表現型を安定化させる方法を示す、方法の流れ図を示す。
【
図17】
図17は、所望の表現型の発現に有利な大気パラメータ値を決定する方法を示す、方法の流れ図を示す。
【
図18】
図18は、免疫細胞に対する生物活性物質を評価するための免疫細胞ベースの細胞培養アッセイを最適化する方法を示す、方法の流れ図を示す。
【
図19】
図19は、製造状況において目的表現型を得るために細胞培養集団の表現型発現を調節する方法を示す、方法の流れ図を示す。
【
図20】
図20は、最適な製造プロセス効率を得るために細胞培養集団の表現型発現を調節する方法を示す、方法の流れ図を示す。
【
図21】
図21は、細胞集団の表現型を調節することにより製造される産物を示す、方法の流れ図を示す。
【
図22】
図22は、患者由来の癌細胞に対する抗癌薬の有効性をインビトロで試験する方法を示す、方法の流れ図を示す。
【
図23】
図23は、本明細書に記載されている方法に基づいて細胞を単離および分析するためのプロセスを示す。
【0013】
発明の詳細な説明
本明細書に開示されている方法は、例えば、実験、薬物スクリーニングおよび患者の治療の実施が、インビボ条件をシミュレーションする条件で行われることを可能にしうる。創薬中の初期段階の試験は、インビボの状況をほとんど反映しない条件下、ある期間、場合によっては長年にわたって維持および増殖されうる細胞系において行われうる。細胞系を収容する通常の細胞培養インキュベーターは、しばしば、細胞の本来の状態を完全には再現できず、場合によっては、小さな環境変化でさえも細胞内の遺伝子およびタンパク質の発現を変化させうる。場合によっては、細胞培養条件により誘発される遺伝子およびタンパク質の発現シグネチャにおけるこれらの差異は薬物感受性の変化に寄与しうる。
【0014】
本明細書は、生理学的条件下で細胞を培養するための方法を記載する。そのような方法は、通常の技術および系を使用した場合に可能であるものよりも生理学的に妥当なデータの生成を可能にすることにより、創薬を支援しうる。場合によっては、そのような方法により生成されたデータを使用して、最良の薬物候補を特定し、臨床試験に進めることが可能である。本明細書に記載されている方法は、カスタマイズされた条件下で細胞を培養することを可能にし、ついでそれを患者に導入して、例えば、同時投与される薬物の有効性を増強し、または患者における腫瘍細胞に対する該細胞の細胞傷害性を増強することが可能である。
【0015】
本発明において提供される方法は、生理学的な酸素および圧力の条件下で細胞を培養することを含みうる。低酸素および圧力のような重要な生物学的特性は、生理学的状態を反映させる際に不可欠でありうる。これらの条件は、細胞型または有用性に基づいてカスタマイズされうる。幾つかの実施形態においては、そのようなアプローチは、細胞の本来の微小環境をより厳密に模倣することが可能であり、細胞がインビボで機能のと同様にそれらを機能させることが可能である。幾つかの実施形態においては、本発明において提供される方法を使用して培養された細胞に対して化合物を試験することは、発見および開発のプロセスをより効率的かつ有効にすることを可能にしうる。
【0016】
例えば、T細胞のような免疫細胞は、本発明において提供される方法を使用して培養されうる。例えば、そのようなT細胞の活性は、通常の方法を使用して培養されたT細胞の活性を上回る可能性があり、このことは、患者由来のT細胞のごく一部のみが、患者に注入された際に、癌細胞を殺すように働きうることを示唆している。例えば、T細胞の活性が通常のインキュベーター内の生物的製造中に低下して、T細胞の有効性が低下しうる。本発明において提供される方法を使用してそのような細胞を培養することにより、該方法はT細胞の最適な適合性を維持することが可能であり、これにより、該細胞は、患者に再導入された際に、癌細胞をより有効に殺傷することが可能である。
【0017】
図23は、本明細書に開示されている方法を示す。
図23は、本明細書に開示されている実施形態による、標的細胞亜集団を捕捉し富化するためのプロセス100を示す。プロセス100は、対象105からサンプル110を得ること;サンプル115の、1以上の成分を分離して、不均一細胞集団を得ること;該不均一細胞集団を基体120と接触させること(例えば、不均一細胞集団を基体上にプレーティングすること);標的細胞亜集団の増殖を可能にするのに十分な条件下、該不均一細胞集団をインキュベートすること(ここで、標的細胞亜集団の増殖を可能にするのに十分な条件は、装置130において富化培地125と共にインキュベートすることを含みうる);時間135にわたってサンプルをインキュベートすること(ここで、時間135は、細胞分裂が生じるのに十分な時間である)をを含みうる。細胞は、イメージング系140(例えば、顕微鏡)を使用してモニターされうる。イメージング系によるモニタリングからのデータは、分析ソフトウェア145を使用して処理されうる。分析ソフトウェア145は結果150の出力を生成しうる。細胞および/または結果150は、病態155の診断、予後もしくはモニタリング、対象160の治療レジメンの決定、および/または研究もしくはいずれかの他の適切な目的、例えば治療、診断もしくは治療レジメン決定165に使用されうる。
【0018】
気体または大気条件、および液体培地中の溶存気体レベルは、培養細胞の表現型の変化の制御において重要でありうる。種々の大気条件は表現型変化を導き、または特定の表現型を安定化させうる。
【0019】
幹細胞および幹細胞の治療可能性に関しては、細胞系譜分化能状態の進行は、例えば、幹細胞の多能性またはほぼ多能性の状態から、中程度に分化したまたは完全に分化した状態へと、あるいは、分化状態から多能性状態へと導くように影響を受けうる。多数のリプログラミング因子、誘導因子、増殖因子およびサイトカインのいずれかの存在のようなインビトロ条件は、分化を増強する方向または分化能レベルを(逆に)増加させる方向のいずれかへの細胞系譜表現型の移動を促進させうる。
【0020】
本明細書に開示されている方法により影響を受けうる細胞表現型には、例えば、細胞形態、寸法、接着特性、電気的特性、代謝活性または遊走挙動が含まれうる。場合によっては、分化細胞状態間の表現型の差異は分化能レベルの差異に関連づけられることが可能であり、これは細胞ゲノムのメッセンジャーRNA発現または発現RNAからのタンパク質転写の速度における差異として示されうる。
【0021】
基質または3D足場配置の利用可能性のような物理的要因は細胞表現型発現に重要な影響を及ぼしうる。幾つかの実施形態においては、そのような物理的要因は形態または機能の差異として示されうる。
【0022】
また、体内の細胞の環境は通常の細胞培養インキュベーター内の条件とは異なりうる。通常の細胞培養インキュベーターにおいては、酸素レベルおよび全ガス圧(全気圧)レベルが周囲条件(例えば、体外の条件)と実質的に類似している。対照的に、体内の局所的な解剖学的区画または微小環境(例えば、腫瘍微小環境)は低酸素状態(酸素レベルが周囲レベルより低い)または高圧状態(全大気圧が周囲レベルより高い)でありうる。低酸素状態は、低酸素誘導因子によりもたらされる、特定の細胞型に多数の影響を及ぼす影響性大気因子でありうる。細胞に対する全大気圧の影響は、場合によっては、低酸素状態の影響ほどにはよく理解されていない。なぜなら、少なくとも部分的には、インビトロ環境において、異なる酸素レベルを生成させることは比較的容易であるが、内部大気圧を制御可能に変化させうる利用可能なインキュベーターの選択肢がほとんどないからである。
【0023】
細胞培養方法
本発明は細胞培養方法を提供する。細胞は、体内(例えば、インビボ)の類似細胞の条件を反映しうる酸素レベルおよび全ガス圧で(例えば、インビトロで)培養されうる。幾つかの実施形態においては、酸素レベルまたは全ガス圧は、特定の組織または器官のもの、疾患状態のもの、または健常状態のものでありうる。幾つかの実施形態においては、細胞が培養されうる酸素レベルまたは全ガス圧は、血液、腫瘍、または体内の別の区画、組織もしくは器官のものでありうる。
【0024】
細胞培養方法は、大気条件制御インキュベータープログラムを作動させるように構成されうる細胞培養インキュベーター内でソース細胞集団をインキュベートすることを含みうる。幾つかの実施形態においては、該プログラムは、目的の表現型の発現を最適化しうる大気条件を制御しうる。そのようなプログラムは(1)酸素レベルおよび(2)全ガス圧レベルの設定点範囲を含むことが可能であり、大気条件設定点範囲に従いインキュベーター内の酸素レベルおよび全ガス圧を調節しうる。細胞集団を該大気条件設定点範囲に従い培養して、所望の表現型を発現する細胞の増殖集団を得ることが可能である。幾つかの実施形態においては、培養細胞は治療的または細胞傷害性的な特性を有しうる。
【0025】
また、本発明は、例えば細胞傷害性の増強のために、末梢血単核細胞(PBMC)を培養するための方法を提供する。幾つかの実施形態においては、該方法は、ドナー器官から単離されたPMBCを培養することを含むことが可能であり、ここで、該培養は、少なくとも、PBMCの対照培養条件でのサイトカインの発現と比較してサイトカインの発現が変化するまで行う。
【0026】
PBMC細胞は、対象(例えば、ヒト、患者または動物対象)からのPBMC集団のような免疫細胞のソース集団のものでありうる。PBMCは、球状の核を有する末梢血細胞でありうる。幾つかの実施形態においては、PBMCは、リンパ球(例えば、T細胞、B細胞またはNK細胞)、単球または樹状細胞でありうる。幾つかの実施形態においては、培養後、PBMCはサイトカイン発現の増加または減少を示しうる。幾つかの実施形態においては、培養後、PBMCは、標的細胞(例えば、癌細胞)を検出し、それに結合し、またはそれを殺す能力の増強を示しうる。幾つかの実施形態においては、標的細胞を検出し、それに結合し、またはそれを殺すそのような増強した能力は治療用物質により増強され、または治療用物質と組合せて観察されうる。
【0027】
幾つかの実施形態においては、培養中の酸素レベルは、周囲酸素レベルに対して低酸素レベルに調節されうる。幾つかの実施形態においては、全大気圧は、周囲大気圧に対して高圧レベルに調節されうる。該方法の幾つかの実施形態においては、酸素レベルは、周囲酸素レベルに対して低酸素レベルに調節されることが可能であり、全大気圧は、周囲大気圧に対して高圧レベルに調節される。幾つかの実施形態においては、全体的に高圧の条件にもかかわらず低酸素レベルが優先されるように、大気圧および酸素レベルは互いに独立して調節される。
【0028】
幾つかの実施形態においては、PBMCは、約1%、約2%、約3%、約4%、約5%、約6%、約7%、約8%、約9%、約10%、約11%、約12%、約13%、約14%、約15%、約16%、約17%、約18%、約19%、約20%または前記の任意の2つの値の間の範囲の酸素レベルで培養されうる。幾つかの実施形態においては、PMBCは約1%~約15%の酸素において培養されうる。
【0029】
幾つかの実施形態においては、PBMCは、大気圧より約0ポンド/平方インチ(PSI)高い、大気圧より約0.5PSI高い、大気圧より約1PSI高い、大気圧より約1.5PSI高い、大気圧より約2PSI高い、大気圧より約2.5PSI高い、もしくは大気圧より約3PSI高い、または前記の任意の2つの値の間の範囲の圧力条件において培養されうる。幾つかの実施形態においては、PMBCは、大気圧より最大約0.5PSI高い、大気圧より最大約1PSI高い、大気圧より最大約1.5PSI高い、大気圧より最大約2PSI高い、大気圧より最大約2.5PSI高い、または大気圧より最大約3PSI高い圧力条件において培養されうる。幾つかの実施形態においては、PMBCは、大気圧より少なくとも約0.5PSI高い、大気圧より少なくとも約1PSI高い、大気圧より少なくとも約1.5PSI高い、大気圧より少なくとも約2PSI高い、大気圧より少なくとも約2.5PSI高い、または大気圧より少なくとも約3PSI高い圧力条件において培養されうる。幾つかの実施形態においては、例えば、PBMCは、大気圧より最大約2PSI高い圧力条件において培養されうる。幾つかの実施形態においては、PBMCは、大気圧より少なくとも約1PSI高い圧力条件において培養されうる。
【0030】
幾つかの実施形態においては、PBMCは所与酸素レベルおよび所与圧力条件、例えば、前記に示されている酸素レベルおよび圧力条件において培養されうる。幾つかの実施形態においては、例えば、PBMCは約1%~約15%の酸素において培養可能であり、圧力条件は大気圧より最大約2PSI高いことが可能である。幾つかの実施形態においては、PBMCは約15%の酸素および大気圧より最大2PSI高い圧力条件において培養されうる。幾つかの実施形態においては、PBMCは約1%~約15%の酸素および大気圧より少なくとも約1PSI高い圧力条件において培養されうる。幾つかの実施形態においては、PBMCは約15%の酸素および大気圧より約1PSI高い圧力条件において培養されうる。
【0031】
対照培養条件は標準的培養条件を含みうる。幾つかの実施形態においては、対照培養条件は周囲(例えば、室内または大気)の酸素レベルまたは圧力条件を含みうる。
【0032】
対照培養条件は約15%、約16%、約17%、約18%、約19%もしくは約20%または前記の任意の2つの値の間の範囲の酸素レベルを含みうる。幾つかの実施形態においては、対照培養条件は少なくとも約15%、少なくとも約16%、少なくとも約17%、少なくとも約18%、少なくとも約19%または少なくとも約20%の酸素レベルを含みうる。
【0033】
対照培養条件は、大気圧より約0PSI高い、大気圧より約0.5PSI高い、大気圧より約1PSI高い、または前記の任意の2つの値の間の範囲の圧力条件を含みうる。幾つかの実施形態においては、例えば、対照培養条件は、大気圧より約0PSI高い圧力条件を含みうる。幾つかの実施形態においては、対照培養条件は、大気圧より最大0.5PSI高い、または大気圧より最大1PSI高い圧力条件を含みうる。
【0034】
幾つかの実施形態においては、対照培養条件は所与酸素レベルと所与圧力条件との組合せ、例えば、前記に示されている対照培養条件の酸素レベルと圧力条件との組合せを含みうる。例えば、幾つかの実施形態においては、対照培養条件は約18%の酸素および大気圧より0PSI高い圧力条件を含みうる。
【0035】
PBMCは、少なくとも、PBMCの対照培養条件におけるサイトカインの発現と比較してPBMCにおけるサイトカインの発現が変化するまで、培養されうる。サイトカインは、細胞シグナル伝達において或る役割を果たしうる小さなタンパク質でありうる。幾つかの実施形態においては、サイトカインは自己分泌、傍分泌または内分泌シグナル伝達経路に関与しうる。幾つかの実施形態においては、サイトカインは免疫調節物質でありうる。サイトカインには、ケモカイン、インターフェロン、インターロイキン、リンホカインまたは腫瘍壊死因子が含まれうる。サイトカインの例には、例えば、IL-2、IL-4、IL-6、IL-7、IL-10、IL-12、IL-15、IL-17、IL-21、CD40L(CD154)、リンホトキシン(LT、TNFβ)、インターフェロン-α、インターフェロン-β、インターフェロン-γ、C-CSF、GM-CSFまたはM-CSFが含まれうる。幾つかの実施形態においては、他のサイトカインは発現の変化を示しうる。幾つかの実施形態においては、サイトカインは未分化細胞のマーカーでありうる。幾つかの実施形態においては、サイトカインは分化細胞のマーカーでありうる。
【0036】
サイトカインの発現の変化は発現の増強または低減を含みうる。幾つかの実施形態においては、サイトカインの発現は、対照培養条件において培養された細胞における同じサイトカインの発現と比較して、培養PBMCにおいて、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約100%、少なくとも約200%、少なくとも約300%、少なくとも約400%、少なくとも約500%または少なくとも約1000%増強しうる。幾つかの実施形態においては、サイトカインの発現は、対照培養条件において培養された細胞における同じサイトカインの発現と比較して、培養PBMCにおいて、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約100%、少なくとも約200%、少なくとも約300%、少なくとも約400%、少なくとも約500%または少なくとも約1000%低減しうる。
【0037】
幾つかの実施形態においては、サイトカインの発現の変化は、サイトカインをコードするmRNAの発現の増強または低減のような遺伝子発現の変化を含みうる。mRNAの発現の変化は、例えば、DNAからmRNAへの転写の増強または低減を含みうる。場合によっては、mRNAの発現の変化は、サイトカインをコードするmRNAの分解の増加または減少を含みうる。
【0038】
遺伝子発現は任意の許容可能な方法により測定されうる。例えば、遺伝子発現は、ISH、FISH、ノーザンブロット、PCR、RT-PCR、q-PCR、p-RT-PCRまたは別の方法を使用して測定されうる。RNA発現は絶対的発現(例えば、細胞当たりのmRNA転写産物の数)または相対的発現(例えば、同じ細胞におけるハウスキーピング遺伝子のmRNA転写産物の数と比較したmRNA転写産物の数、または対照条件下で培養された細胞の同じmRNA転写産物の数と比較したmRNA転写産物の数)として測定されうる。
【0039】
幾つかの実施形態においては、サイトカインの発現の変化は、産生または検出されたサイトカインの増加または減少のような、タンパク質発現の変化を含みうる。タンパク質発現の変化は、例えば、mRNAからタンパク質への翻訳の増加または減少を含みうる。場合によっては、タンパク質発現の変化はタンパク質の分解または不活性化の増強または低減を含みうる。
【0040】
タンパク質発現は任意の許容可能な方法により測定されうる。例えば、タンパク質発現はイムノアッセイ(例えば、ELISA)、ウエスタンブロット、ドットブロット、クロマトグラフィー、分光光度法または別の方法により測定されうる。タンパク質発現は絶対的発現(例えば、細胞当たりのタンパク質分子の数)または相対的発現(例えば、同じ細胞におけるハウスキーピングタンパク質のタンパク質分子の数と比較したタンパク質分子の数、または対照条件下で培養された細胞の同じタンパク質分子の数と比較したタンパク質分子の数)として測定されうる。
【0041】
幾つかの実施形態においては、サイトカインはIL-10でありうる。幾つかのそのような実施形態においては、IL-10の発現は低減しうる。幾つかの実施形態においては、サイトカインはTNF-αでありうる。幾つかのそのような実施形態においては、TNF-αの発現は増強しうる。幾つかの実施形態においては、サイトカインはIL-6でありうる。幾つかのそのような実施形態においては、IL-6の発現は低減しうる。幾つかの実施形態においては、サイトカインはIFN-γを含みうる。幾つかのそのような実施形態においては、IFN-γの発現は低減しうる。幾つかの実施形態においては、サイトカインはTGF-β1であることが可能であり、TGF-β1の発現は増強しうる。
【0042】
幾つかの実施形態においては、PBMCの細胞傷害性は、例えば、前記に示されている対照条件のような対照条件下で培養されたPBMCと比較して増強しうる。幾つかの実施形態においては、PBMCの細胞傷害性は、標的細胞を認識し、それに結合し、それを中和し、またはそれを殺すPBMCの能力を含みうる。PBMCの細胞傷害性は、腫瘍細胞、転移性細胞、癌細胞、細菌細胞または別のタイプの細胞を認識し、それに結合し、それを中和し、またはそれを殺すPBMCの能力を意味しうる。例えば、PBMCは癌腫細胞、肉腫細胞、黒色腫細胞、リンパ腫細胞または白血病細胞に対する細胞傷害性を示しうる。
【0043】
幾つかの実施形態においては、PBMCの細胞傷害性は少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%または前記の任意の2つの値の間の範囲の割合で増強しうる。例えば、幾つかの実施形態においては、PBMCの細胞傷害性は、PBMCの対照培養条件と比較して約20%増強しうる。
【0044】
PBMCの細胞傷害性は、細胞傷害性アッセイを使用して測定されうる。幾つかの実施形態においては、細胞傷害性アッセイはインビトロで実施されうる。細胞傷害性アッセイは、本明細書に記載されているとおりに培養されたPBMCに細胞または複数の細胞を曝露し、曝露後、細胞が生存しているか死んでいるかを検出することを含みうる。幾つかの実施形態においては、死細胞の検出は、膜を横切って細胞に出入りする分子の移動を測定することにより達成されうる。幾つかの実施形態においては、死細胞の膜は漏出性である可能性があり、修復不可能である。例えば、細胞を包囲する培地における細胞質マーカーの検出は膜の完全性の喪失、したがって死細胞を示しうる。そのようなマーカーは、酵素のような天然に存在するマーカーであることが可能であり、あるいは、PBMCへの曝露前に細胞内にローディングされる放射性または蛍光マーカーのように、人工的に導入されうる。
【0045】
幾つかの実施形態においては、細胞傷害性はインビボで測定されうる。例えば、細胞傷害性は、ヒト対象または動物対象(例えば、マウス、ハムスター、ラット、モルモット、サル、ネコ、イヌ、ウサギまたは他の動物)のような腫瘍を有する対象へのPBMCの注射により測定されうる。幾つかのそのような場合には、細胞傷害性は、腫瘍量の減少、腫瘍細胞の減少または転移細胞の減少を測定することにより決定されうる。
【0046】
腫瘍の治療方法
また、本発明は対象における腫瘍の治療方法を提供する。方法は、前記の条件下、PBMCまたは本明細書に開示されている任意の他の細胞を培養することを含みうる。例えば、方法は、少なくともPBMCの対照培養条件でのサイトカインの発現と比較してサイトカインの発現が変化するまで、約1%~約15%の酸素レベルおよび最大約2PSIの圧力条件下、単離されたPBMCを培養することを含みうる。幾つかの実施形態においては、該方法は、PBMCを対象に投与することを更に含みうる。
【0047】
幾つかの実施形態においては、PBMCは約1%、約2%、約3%、約4%、約5%、約6%、約7%、約8%、約9%、約10%、約11%、約12%、約13%、約14%、約15%、約16%、約17%、約18%、約19%、約20%または前記の任意の2つの値の間の範囲の酸素レベルにおいて培養されうる。幾つかの実施形態においては、PMBCは約1%~約15%の酸素において培養されうる。
【0048】
幾つかの実施形態においては、PBMCは、大気圧より約0ポンド/平方インチ(PSI)高い、大気圧より約0.5PSI高い、大気圧より約1PSI高い、大気圧より約1.5PSI高い、大気圧より約2PSI高い、大気圧より約2.5PSI高いまたは大気圧より約3PSI高い、または前記の任意の2つの値の間の範囲の圧力条件において培養されうる。幾つかの実施形態においては、PMBCは、大気圧より最大約0.5PSI高い、大気圧より最大約1PSI高い、大気圧より最大約1.5PSI高い、大気圧より最大約2PSI高い、大気圧より最大約2.5PSI高い、または大気圧より最大約3PSI高い圧力条件において培養されうる。幾つかの実施形態においては、PMBCは、大気圧より少なくとも約0.5PSI高い、大気圧より少なくとも約1PSI高い、大気圧より少なくとも約1.5PSI高い、大気圧より少なくとも約2PSI高い、大気圧より少なくとも約2.5PSI高い、または大気圧より少なくとも約3PSI高い圧力条件において培養されうる。幾つかの実施形態においては、例えば、PBMCは、大気圧より最大約2PSI高い圧力条件において培養されうる。幾つかの実施形態においては、PBMCは、大気圧より少なくとも約1PSI高い圧力条件において培養されうる。
【0049】
幾つかの実施形態においては、PBMCは所与酸素レベルおよび所与圧力条件、例えば、前記に示されている酸素レベルおよび圧力条件において培養されうる。幾つかの実施形態においては、例えば、PBMCは約1%~約15%の酸素において培養可能であり、圧力条件は大気圧より最大約2PSI高いことが可能である。幾つかの実施形態においては、PBMCは約15%の酸素および大気圧より最大2PSI高い圧力条件において培養されうる。幾つかの実施形態においては、PBMCは約1%~約15%の酸素および大気圧より少なくとも約1PSI高い圧力条件において培養されうる。幾つかの実施形態においては、PBMCは約15%の酸素および大気圧より約1PSI高い圧力条件において培養されうる。
【0050】
対照培養条件は標準的培養条件を含みうる。幾つかの実施形態においては、対照培養条件は周囲(例えば、室内または大気)の酸素レベルまたは圧力条件を含みうる。
【0051】
対照培養条件は約15%、約16%、約17%、約18%、約19%もしくは約20%または前記の任意の2つの値の間の範囲の酸素レベルを含みうる。幾つかの実施形態においては、対照培養条件は少なくとも約15%、少なくとも約16%、少なくとも約17%、少なくとも約18%、少なくとも約19%または少なくとも約20%の酸素レベルを含みうる。
【0052】
対照培養条件は、大気圧より約0PSI高い、大気圧より約0.5PSI高い、大気圧より約1PSI高い、または前記の任意の2つの値の間の範囲の圧力条件を含みうる。幾つかの実施形態においては、例えば、対照培養条件は、大気圧より約0PSI高い圧力条件を含みうる。幾つかの実施形態においては、対照培養条件は、大気圧より最大0.5PSI高い、または大気圧より最大1PSI高い圧力条件を含みうる。
【0053】
幾つかの実施形態においては、対照培養条件は所与酸素レベルと所与圧力条件との組合せ、例えば、前記に示されている対照培養条件の酸素レベルと圧力条件との組合せを含みうる。例えば、幾つかの実施形態においては、対照培養条件は約18%の酸素および大気圧より0PSI高い圧力条件を含みうる。
【0054】
PBMCは、少なくとも、PBMCの対照培養条件におけるサイトカインの発現と比較してPBMCにおけるサイトカインの発現が変化するまで、培養されうる。サイトカインは、細胞シグナル伝達において或る役割を果たしうる小さなタンパク質でありうる。幾つかの実施形態においては、サイトカインは自己分泌、傍分泌または内分泌シグナル伝達経路に関与しうる。幾つかの実施形態においては、サイトカインは免疫調節物質でありうる。サイトカインには、ケモカイン、インターフェロン、インターロイキン、リンホカインまたは腫瘍壊死因子が含まれうる。サイトカインの例には、例えば、IL-2、IL-4、IL-6、IL-7、IL-10、IL-12、IL-15、IL-17、IL-21、CD40L(CD154)、リンホトキシン(LT、TNFβ)、インターフェロン-α、インターフェロン-β、インターフェロン-γ、C-CSF、GM-CSFまたはM-CSFが含まれうる。幾つかの実施形態においては、他のサイトカインは発現の変化を示しうる。幾つかの実施形態においては、サイトカインは未分化細胞のマーカーでありうる。幾つかの実施形態においては、サイトカインは分化細胞のマーカーでありうる。幾つかの実施形態においては、サイトカインの変化はPBMCの細胞傷害性の増強に寄与しうる。
【0055】
サイトカインの発現の変化は発現の増強または低減を含みうる。幾つかの実施形態においては、サイトカインの発現は、対照培養条件において培養された細胞における同じサイトカインの発現と比較して、培養PBMCにおいて、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約100%、少なくとも約200%、少なくとも約300%、少なくとも約400%、少なくとも約500%または少なくとも約1000%増強しうる。幾つかの実施形態においては、サイトカインの発現は、対照培養条件において培養された細胞における同じサイトカインの発現と比較して、培養PBMCにおいて、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約100%、少なくとも約200%、少なくとも約300%、少なくとも約400%、少なくとも約500%または少なくとも約1000%低減しうる。
【0056】
幾つかの実施形態においては、サイトカインの発現の変化は、サイトカインをコードするmRNAの発現の増強または低減のような遺伝子発現の変化を含みうる。mRNAの発現の変化は、例えば、DNAからmRNAへの転写の増強または低減を含みうる。場合によっては、mRNAの発現の変化は、サイトカインをコードするmRNAの分解の増加または減少を含みうる。
【0057】
遺伝子発現は任意の許容可能な方法により測定されうる。例えば、遺伝子発現は、ISH、FISH、ノーザンブロット、PCR、RT-PCR、q-PCR、p-RT-PCRまたは別の方法を使用して測定されうる。RNA発現は絶対的発現(例えば、細胞当たりのmRNA転写産物の数)または相対的発現(例えば、同じ細胞におけるハウスキーピング遺伝子のmRNA転写産物の数と比較したmRNA転写産物の数、または対照条件下で培養された細胞の同じmRNA転写産物の数と比較したmRNA転写産物の数)として測定されうる。
【0058】
幾つかの実施形態においては、サイトカインの発現の変化は、産生または検出されたサイトカインの増加または減少のような、タンパク質発現の変化を含みうる。タンパク質発現の変化は、例えば、mRNAからタンパク質への翻訳の増加または減少を含みうる。場合によっては、タンパク質発現の変化はタンパク質の分解または不活性化の増強または低減を含みうる。
【0059】
タンパク質発現は任意の許容可能な方法により測定されうる。例えば、タンパク質発現はイムノアッセイ(例えば、ELISA)、ウエスタンブロット、ドットブロット、クロマトグラフィー、分光光度法または別の方法により測定されうる。タンパク質発現は絶対的発現(例えば、細胞当たりのタンパク質分子の数)または相対的発現(例えば、同じ細胞におけるハウスキーピングタンパク質のタンパク質分子の数と比較したタンパク質分子の数、または対照条件下で培養された細胞の同じタンパク質分子の数と比較したタンパク質分子の数)として測定されうる。
【0060】
幾つかの実施形態においては、サイトカインはIL-10でありうる。幾つかのそのような実施形態においては、IL-10の発現は低減しうる。幾つかの実施形態においては、サイトカインはTNF-αでありうる。幾つかのそのような実施形態においては、TNF-αの発現は増強しうる。幾つかの実施形態においては、サイトカインはIL-6でありうる。幾つかのそのような実施形態においては、IL-6の発現は低減しうる。幾つかの実施形態においては、サイトカインはIFN-γを含みうる。幾つかのそのような実施形態においては、IFN-γの発現は低減しうる。幾つかの実施形態においては、サイトカインはTGF-β1であることが可能であり、TGF-β1の発現は増強しうる。
【0061】
対象は、腫瘍の治療を要する対象、例えば、腫瘍を有する対象でありうる。幾つかの実施形態においては、対象はヒト、マウス、ハムスター、モルモット、ラット、ウサギ、ネコまたはイヌでありうる。幾つかの実施形態においては、対象は単一の腫瘍を有しうる。幾つかの実施形態においては、対象は転移をも有しうる。
【0062】
投与は、1以上の組成物(例えば、PBMCを含む組成物またはPBMC組成物)を、該組成物が患者の体内に存在することをもたらす様態で、対象に供与することを含みうる。投与は、限定的なものではないが局所、局部または全身を含む任意の経路により行われうる。投与は皮下、皮内、静脈内、動脈内、腹腔内または筋肉内でありうる。
【0063】
幾つかの実施形態は、本明細書に記載されている状態、疾患または障害を治療するための医薬の製造のための、本明細書に記載されているPBMCの使用を含みうる。医薬は、治療を要する対象の身体的特徴に基づいて製剤化(処方)されることが可能であり、腫瘍の病期に基づいて単一または複数の製剤として製剤化されうる。医薬は、病院およびクリニックへの流通のための適切なラベルを伴う適切なパッケージ内にパッケージングされることが可能であり、ここで、ラベルは、本明細書に記載されている疾患を有する対象の治療を示すためのものである。医薬は単一または複数の単位としてパッケージングされうる。組成物の投与量および投与に関する説明が、以下に記載されているとおりにパッケージと共に含まれうる。
【0064】
幾つかの実施形態においては、PBMCは対象に抗癌剤と共投与されうる。幾つかの実施形態においては、抗癌剤は、腫瘍量の減少、転移の予防もしくは排除、腫瘍細胞の殺滅(殺傷)または腫瘍細胞の増殖の予防において臨床的に有効でありうる薬物を含みうる。幾つかの実施形態においては、抗癌剤はPD1インヒビターでありうる。PD1インヒビターの例には、例えばペムブロリズマブまたはニボルマブが含まれうる。
【0065】
幾つかの実施形態においては、抗癌剤はPBMC組成物と同じ経路により共投与されうる。投与は、限定的なものではないが局所、局部または全身を含む任意の経路により行われうる。投与は皮下、皮内、静脈内、動脈内、腹腔内または筋肉内でありうる。
【0066】
幾つかの実施形態においては、抗癌剤はPBMC組成物と同時に共投与されうる。幾つかのそのような実施形態においては、抗癌剤はPBMC組成物に含まれうる。
【0067】
抗癌剤はPBMC組成物の投与前に共投与されうる。幾つかの実施形態においては、抗癌剤はPBMC組成物の投与の直前に投与されうる。幾つかの実施形態においては、抗癌剤は、PBMC組成物の約1分前、PBMC組成物の約5分前、PBMC組成物の約15分前、PBMC組成物の約30分前、PBMCの約1時間前、PBMC組成物の約6時間前、PBMC組成物の約12時間前または前記の任意の2つの値の間の範囲に投与されうる。
【0068】
幾つかの実施形態においては、抗癌剤はPBMC組成物の投与後に共投与されうる。幾つかの実施形態においては、抗癌剤はPBMC組成物の投与の直後に投与されうる。幾つかの実施形態においては、抗癌剤は、PBMC組成物の約1分後、PBMC組成物の約5分後、PBMC組成物の約15分後、PBMC組成物の約30分後、PBMCの約1時間後、PBMC組成物の約6時間後、PBMC組成物の約12時間後または前記の任意の2つの値の間の範囲に投与されうる。
【0069】
抗癌剤の有効性を決定するための方法
また、本発明は、抗癌剤の有効性を決定するための方法を提供する。幾つかの実施形態においては、抗癌剤の有効性を決定するための方法は、PBMCの対照培養条件でのサイトカインの発現と比較してサイトカインの発現が変化するまで、末梢血単核細胞を培養することを含みうる。
【0070】
幾つかの実施形態においては、培養中の酸素レベルは、周囲酸素レベルに対して低酸素レベルに調節されうる。幾つかの実施形態においては、全大気圧は、周囲大気圧に対して高圧レベルに調節されうる。該方法の幾つかの実施形態においては、酸素レベルは、周囲酸素レベルに対して低酸素レベルに調節されることが可能であり、全大気圧は、周囲大気圧に対して高圧レベルに調節される。幾つかの実施形態においては、全体的に高圧の条件にもかかわらず低酸素レベルが優先されるように、大気圧および酸素レベルは互いに独立して調節される。
【0071】
幾つかの実施形態においては、PBMCは、約1%、約2%、約3%、約4%、約5%、約6%、約7%、約8%、約9%、約10%、約11%、約12%、約13%、約14%、約15%、約16%、約17%、約18%、約19%、約20%または前記の任意の2つの値の間の範囲の酸素レベルで培養されうる。幾つかの実施形態においては、PMBCは約1%~約15%の酸素において培養されうる。
【0072】
幾つかの実施形態においては、PBMCは、大気圧より約0ポンド/平方インチ(PSI)高い、大気圧より約0.5PSI高い、大気圧より約1PSI高い、大気圧より約1.5PSI高い、大気圧より約2PSI高い、大気圧より約2.5PSI高い、もしくは大気圧より約3PSI高い、または前記の任意の2つの値の間の範囲の圧力条件において培養されうる。幾つかの実施形態においては、PMBCは、大気圧より最大約0.5PSI高い、大気圧より最大約1PSI高い、大気圧より最大約1.5PSI高い、大気圧より最大約2PSI高い、大気圧より最大約2.5PSI高い、または大気圧より最大約3PSI高い圧力条件において培養されうる。幾つかの実施形態においては、PMBCは、大気圧より少なくとも約0.5PSI高い、大気圧より少なくとも約1PSI高い、大気圧より少なくとも約1.5PSI高い、大気圧より少なくとも約2PSI高い、大気圧より少なくとも約2.5PSI高い、または大気圧より少なくとも約3PSI高い圧力条件において培養されうる。幾つかの実施形態においては、例えば、PBMCは、大気圧より最大約2PSI高い圧力条件において培養されうる。幾つかの実施形態においては、PBMCは、大気圧より少なくとも約1PSI高い圧力条件において培養されうる。
【0073】
幾つかの実施形態においては、PBMCは所与酸素レベルおよび所与圧力条件、例えば、前記に示されている酸素レベルおよび圧力条件において培養されうる。幾つかの実施形態においては、例えば、PBMCは約1%~約15%の酸素において培養可能であり、圧力条件は大気圧より最大約2PSI高いことが可能である。幾つかの実施形態においては、PBMCは約15%の酸素および大気圧より最大2PSI高い圧力条件において培養されうる。幾つかの実施形態においては、PBMCは約1%~約15%の酸素および大気圧より少なくとも約1PSI高い圧力条件において培養されうる。幾つかの実施形態においては、PBMCは約15%の酸素および大気圧より約1PSI高い圧力条件において培養されうる。
【0074】
対照培養条件は標準的培養条件を含みうる。幾つかの実施形態においては、対照培養条件は周囲(例えば、室内または大気)の酸素レベルまたは圧力条件を含みうる。
【0075】
対照培養条件は約15%、約16%、約17%、約18%、約19%もしくは約20%または前記の任意の2つの値の間の範囲の酸素レベルを含みうる。幾つかの実施形態においては、対照培養条件は少なくとも約15%、少なくとも約16%、少なくとも約17%、少なくとも約18%、少なくとも約19%または少なくとも約20%の酸素レベルを含みうる。
【0076】
対照培養条件は、大気圧より約0PSI高い、大気圧より約0.5PSI高い、大気圧より約1PSI高い、または前記の任意の2つの値の間の範囲の圧力条件を含みうる。幾つかの実施形態においては、例えば、対照培養条件は、大気圧より約0PSI高い圧力条件を含みうる。幾つかの実施形態においては、対照培養条件は、大気圧より最大0.5PSI高い、または大気圧より最大1PSI高い圧力条件を含みうる。
【0077】
幾つかの実施形態においては、対照培養条件は所与酸素レベルと所与圧力条件との組合せ、例えば、前記に示されている対照培養条件の酸素レベルと圧力条件との組合せを含みうる。例えば、幾つかの実施形態においては、対照培養条件は約18%の酸素および大気圧より0PSI高い圧力条件を含みうる。
【0078】
PBMCは、少なくとも、PBMCの対照培養条件におけるサイトカインの発現と比較してPBMCにおけるサイトカインの発現が変化するまで、培養されうる。サイトカインは、細胞シグナル伝達において或る役割を果たしうる小さなタンパク質でありうる。幾つかの実施形態においては、サイトカインは自己分泌、傍分泌または内分泌シグナル伝達経路に関与しうる。幾つかの実施形態においては、サイトカインは免疫調節物質でありうる。サイトカインには、ケモカイン、インターフェロン、インターロイキン、リンホカインまたは腫瘍壊死因子が含まれうる。サイトカインの例には、例えば、IL-2、IL-4、IL-6、IL-7、IL-10、IL-12、IL-15、IL-17、IL-21、CD40L(CD154)、リンホトキシン(LT、TNFβ)、インターフェロン-α、インターフェロン-β、インターフェロン-γ、C-CSF、GM-CSFまたはM-CSFが含まれうる。幾つかの実施形態においては、他のサイトカインは発現の変化を示しうる。幾つかの実施形態においては、サイトカインは未分化細胞のマーカーでありうる。幾つかの実施形態においては、サイトカインは分化細胞のマーカーでありうる。
【0079】
サイトカインの発現の変化は発現の増強または低減を含みうる。幾つかの実施形態においては、サイトカインの発現は、対照培養条件において培養された細胞における同じサイトカインの発現と比較して、培養PBMCにおいて、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約100%、少なくとも約200%、少なくとも約300%、少なくとも約400%、少なくとも約500%または少なくとも約1000%増強しうる。幾つかの実施形態においては、サイトカインの発現は、対照培養条件において培養された細胞における同じサイトカインの発現と比較して、培養PBMCにおいて、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約100%、少なくとも約200%、少なくとも約300%、少なくとも約400%、少なくとも約500%または少なくとも約1000%低減しうる。
【0080】
幾つかの実施形態においては、サイトカインの発現の変化は、サイトカインをコードするmRNAの発現の増強または低減のような遺伝子発現の変化を含みうる。mRNAの発現の変化は、例えば、DNAからmRNAへの転写の増強または低減を含みうる。場合によっては、mRNAの発現の変化は、サイトカインをコードするmRNAの分解の増加または減少を含みうる。
【0081】
遺伝子発現は任意の許容可能な方法により測定されうる。例えば、遺伝子発現は、ISH、FISH、ノーザンブロット、PCR、RT-PCR、q-PCR、p-RT-PCRまたは別の方法を使用して測定されうる。RNA発現は絶対的発現(例えば、細胞当たりのmRNA転写産物の数)または相対的発現(例えば、同じ細胞におけるハウスキーピング遺伝子のmRNA転写産物の数と比較したmRNA転写産物の数、または対照条件下で培養された細胞の同じmRNA転写産物の数と比較したmRNA転写産物の数)として測定されうる。
【0082】
幾つかの実施形態においては、サイトカインの発現の変化は、産生または検出されたサイトカインの増加または減少のような、タンパク質発現の変化を含みうる。タンパク質発現の変化は、例えば、mRNAからタンパク質への翻訳の増加または減少を含みうる。場合によっては、タンパク質発現の変化はタンパク質の分解または不活性化の増強または低減を含みうる。
【0083】
タンパク質発現は任意の許容可能な方法により測定されうる。例えば、タンパク質発現はイムノアッセイ(例えば、ELISA)、ウエスタンブロット、ドットブロット、クロマトグラフィー、分光光度法または別の方法により測定されうる。タンパク質発現は絶対的発現(例えば、細胞当たりのタンパク質分子の数)または相対的発現(例えば、同じ細胞におけるハウスキーピングタンパク質のタンパク質分子の数と比較したタンパク質分子の数、または対照条件下で培養された細胞の同じタンパク質分子の数と比較したタンパク質分子の数)として測定されうる。
【0084】
幾つかの実施形態においては、サイトカインはIL-10でありうる。幾つかのそのような実施形態においては、IL-10の発現は低減しうる。幾つかの実施形態においては、サイトカインはTNF-αでありうる。幾つかのそのような実施形態においては、TNF-αの発現は増強しうる。幾つかの実施形態においては、サイトカインはIL-6でありうる。幾つかのそのような実施形態においては、IL-6の発現は低減しうる。幾つかの実施形態においては、サイトカインはIFN-γを含みうる。幾つかのそのような実施形態においては、IFN-γの発現は低減しうる。幾つかの実施形態においては、サイトカインはTGF-β1であることが可能であり、TGF-β1の発現は増強しうる。
【0085】
抗癌剤の有効性を決定するための方法は、腫瘍細胞をPBMCおよび抗癌剤と接触させることを更に含みうる。
【0086】
抗癌剤は、悪性または癌性疾患の治療に有効でありうる、治療薬のような物質でありうる。幾つかの実施形態においては、抗癌剤は、腫瘍の治療、例えば、腫瘍細胞の増殖の抑制または腫瘍細胞の殺滅に有効でありうる。抗癌剤の例には、アルキル化剤、代謝拮抗剤、天然物、ホルモンまたは他の物質が含まれうる。幾つかの実施形態においては、抗癌剤は化学療法薬または化学療法薬の組合せでありうる。幾つかの実施形態においては、抗癌剤は、腫瘍量の減少、転移の予防もしくは排除、腫瘍細胞の殺滅または腫瘍細胞の増殖の予防において臨床的に有効でありうる薬物を含みうる。幾つかの実施形態においては、抗癌剤はPD1インヒビターでありうる。PD1インヒビターの例には、例えばペムブロリズマブまたはニボルマブが含まれうる。
【0087】
幾つかの実施形態においては、腫瘍細胞とPBMCおよび抗癌剤との接触はインビトロで行われうる。幾つかのそのような実施形態においては、例えば、腫瘍細胞は培地内でPBMCおよび抗癌剤と共にインキュベートされうる。抗癌剤は、抗癌剤が単独で適用される場合に治療的である濃度で、または抗癌剤が単独で適用される場合に治療量以下である濃度で含有されうる。
【0088】
PBMCおよび抗癌剤は同時または連続的に適用されうる。幾つかの実施形態においては、腫瘍細胞は抗癌剤より前にPBMCと接触されうる。幾つかの実施形態においては、腫瘍細胞はPBMCより前に抗癌剤と接触されうる。
【0089】
腫瘍細胞はPBMCおよび抗癌剤と共に或る期間にわたってインキュベートされうる。幾つかの実施形態においては、腫瘍細胞は、PBMCと共に、少なくとも約1分間、少なくとも約5分間、少なくとも約15分間、少なくとも約30分間、少なくとも約1時間、少なくとも約2時間、少なくとも約3時間、少なくとも約6時間または少なくとも約12時間、少なくとも約1日間、少なくとも約2日間、少なくとも約3日間、少なくとも約4日間、少なくとも約5日間、少なくとも約6日間、少なくとも約7日間、少なくとも約8日間、少なくとも約9日間または少なくとも約10日間インキュベートされうる。幾つかの実施形態においては、腫瘍細胞は、PBMCおよび抗癌剤と共に、最大約1分間、最大約5分間、最大約15分間、最大約30分間、最大約1時間、最大約2時間、最大約3時間、最大約6時間、最大約12時間、最大約1日間、最大約2日間、最大約3日間、最大約4日間、最大約5日間、最大約6日間、最大約7日間、最大約8日間、最大約9日間または最大約10日間インキュベートされうる。幾つかの実施形態においては、腫瘍細胞は、PBMCおよび抗癌剤と共に、約1分間、約5分間、約15分間、約30分間、約1時間、約2時間、約3時間、約6時間、約12時間、約1日間、約2日間、約3日間、約4日間、約5日間、約6日間、約7日間、約8日間、約9日間、約10日間または前記の任意の2つの値の間の範囲にわたってインキュベートされうる。
【0090】
対照として、追加的な腫瘍細胞が、抗癌剤の非存在下でPBMCと共に、PBMCの非存在下で抗癌剤と共に、またはPBMCの非存在下かつ抗癌剤の非存在下でインキュベートされうる。
【0091】
細胞傷害性を測定するために、腫瘍細胞または腫瘍細胞の環境が分析されうる。幾つかの実施形態においては、例えば、前記のとおり、膜の完全性の喪失、したがって死細胞を示しうる細胞質マーカーの存在を決定するために、細胞培養培地が分析されうる。幾つかの実施形態においては、細胞質マーカーは酵素のような天然に存在するマーカーであることが可能であり、あるいは、PBMCおよび/または抗癌剤への曝露前に細胞内にローディングされる放射性または蛍光マーカーのように、人工的に導入されうる。
【0092】
幾つかの実施形態においては、腫瘍細胞とPBMCおよび抗癌剤との接触はインビボで行われうる。幾つかのそのような実施形態においては、PBMCおよび抗癌剤は、腫瘍細胞を有する対象、例えば腫瘍を有する対象または転移を有する対象に投与されうる。対象はヒト対象または実験動物(例えば、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、イヌまたはネコ)でありうる。対象へのPBMCおよび抗癌剤の投与は前記のとおりに行われうる。
【0093】
抗癌剤の有効性を決定するための方法は更に、腫瘍細胞に対する細胞傷害性を測定し、それにより、腫瘍細胞に対する抗癌剤の有効性を決定することを含みうる。幾つかの実施形態においては、細胞傷害性は、前記のとおりに、インキュベーション時間の後に測定されうる。例えば、細胞傷害性は少なくとも約5日後に測定されうる。
【0094】
幾つかの実施形態においては、抗癌剤の細胞傷害性(細胞毒性)は、投与後の対象の腫瘍量を評価することにより測定されうる。幾つかの実施形態においては、対象は、抗癌剤およびPBMCの投与の後、より小さな腫瘍、増加した腫瘍細胞死またはより少数の腫瘍細胞を有しうる。
【0095】
幾つかの実施形態においては、PBMCの存在下の抗癌剤の細胞傷害性は、対照条件中で抗癌剤を腫瘍細胞と接触させた場合の腫瘍細胞に対する抗癌剤の細胞傷害性と比較して増強しうる。対照条件はインビトロ条件(例えば、培養条件)またはインビトロ条件(例えば、対象におけるもの)でありうる。幾つかの実施形態においては、細胞傷害性は、対照培養条件において抗癌剤を腫瘍細胞と接触させた場合の腫瘍細胞に対する抗癌剤の細胞傷害性と比較して、少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%または少なくとも約50%増強しうる。
【0096】
細胞亜集団を富化するための方法
また、本発明は、細胞のソース集団から細胞亜集団を富化するための方法を提供する。幾つかの実施形態においては、細胞亜集団を富化する方法は、前記の条件下で汎T細胞を培養することを含むことが可能であり、ここで、細胞亜集団はCD8+ 細胞を含む。
【0097】
また、本発明は、細胞のソース集団から細胞亜集団を富化するための方法を提供する。幾つかの実施形態においては、細胞亜集団を富化する方法は、前記の条件下で汎T細胞を培養することを含むことが可能であり、ここで、細胞亜集団はCD4+ 細胞を含む。
【0098】
幾つかの実施形態においては、細胞亜集団は、例えば、約1%~約15%の酸素および大気圧より最大約2PSI高い圧力条件において培養されうる。幾つかのそのような実施形態においては、酸素レベルは15%であることが可能であり、圧力条件は大気圧より2PSI高いことが可能である。
【0099】
細胞体積を増加させるための方法
また、本発明は、免疫細胞の細胞体積を増加させるための方法を提供する。免疫細胞の細胞体積を増加させるための方法は、免疫細胞を培養することを含むことが可能であり、ここで、免疫細胞の細胞体積は、対照条件下で培養された免疫細胞と比較して増加する。
【0100】
幾つかの実施形態においては、培養中の酸素レベルは、周囲酸素レベルに対して低酸素レベルに調節されうる。幾つかの実施形態においては、全大気圧は、周囲大気圧に対して高圧レベルに調節されうる。該方法の幾つかの実施形態においては、酸素レベルは、周囲酸素レベルに対して低酸素レベルに調節されることが可能であり、全大気圧は、周囲大気圧に対して高圧レベルに調節される。幾つかの実施形態においては、全体的に高圧の条件にもかかわらず低酸素レベルが優先されるように、大気圧および酸素レベルは互いに独立して調節される。
【0101】
幾つかの実施形態においては、免疫細胞は例えば約1%~約15%の酸素および大気圧より最大約2PSI高い圧力条件において培養されうる。幾つかのそのような実施形態においては、酸素レベルは15%であることが可能であり、圧力条件は大気圧より2PSI高いことが可能である。
【0102】
幾つかの実施形態においては、酸素レベルは約1%、約2%、約3%、約4%、約5%または前記の任意の2つの値の間の範囲でありうる。幾つかの実施形態においては、酸素レベルは1%~約5%の酸素でありうる。
【0103】
幾つかの実施形態においては、免疫細胞はT細胞でありうる。幾つかの実施形態においては、免疫細胞はB細胞でありうる。幾つかの実施形態においては、免疫細胞は別のタイプの細胞でありうる。
【0104】
対照培養条件は標準的培養条件を含みうる。幾つかの実施形態においては、対照培養条件は周囲(例えば、室内または大気)の酸素レベルまたは圧力条件を含みうる。
【0105】
対照培養条件は約15%、約16%、約17%、約18%、約19%もしくは約20%または前記の任意の2つの値の間の範囲の酸素レベルを含みうる。幾つかの実施形態においては、対照培養条件は少なくとも約15%、少なくとも約16%、少なくとも約17%、少なくとも約18%、少なくとも約19%または少なくとも約20%の酸素レベルを含みうる。
【0106】
対照培養条件は、大気圧より約0PSI高い、大気圧より約0.5PSI高い、大気圧より約1PSI高い、または前記の任意の2つの値の間の範囲の圧力条件を含みうる。幾つかの実施形態においては、例えば、対照培養条件は、大気圧より約0PSI高い圧力条件を含みうる。幾つかの実施形態においては、対照培養条件は、大気圧より最大0.5PSI高い、または大気圧より最大1PSI高い圧力条件を含みうる。
【0107】
幾つかの実施形態においては、対照培養条件は所与酸素レベルと所与圧力条件との組合せ、例えば、前記に示されている対照培養条件の酸素レベルと圧力条件との組合せを含みうる。例えば、幾つかの実施形態においては、対照培養条件は約18%の酸素および大気圧より0PSI高い圧力条件を含みうる。
【0108】
幾つかの実施形態においては、細胞体積は、少なくとも10立方ミクロン(μ3)、少なくとも50μ3、少なくとも100μ3、少なくとも150μ3もしくは少なくとも200μ3または前記の任意の2つの値の間の範囲の体積分増加しうる。幾つかの実施形態においては、細胞体積は少なくとも100μ3増加しうる。
【0109】
細胞集団
ソース細胞集団には、例えば、免疫細胞、腫瘍細胞、非癌細胞および幹細胞が含まれうる。免疫細胞集団には、例えば、単球、マクロファージ、抗原提示細胞、樹状細胞、単球、マクロファージ、汎T細胞、T細胞、腫瘍浸潤性T細胞、制御性T細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、好中球およびB細胞が含まれうる。幹細胞には、例えば、天然に存在する幹細胞または誘導された幹細胞が含まれうる。幹細胞集団には、間葉系幹細胞が含まれることが可能であり、これらの幹細胞集団には、前駆細胞亜群、未成熟亜群および成熟亜群のいずれかが含まれる。
【0110】
培養条件
本明細書に記載されている酸素レベルは濃度%値として示され、すなわち、存在する全気体の合計大気圧に無関係に、所与体積内に存在する全気体に対する存在酸素の相対量として示されうる。
【0111】
酸素および全ガス圧のレベルを調節することに加えて、大気手段により表現型を調節する方法の幾つかの実施形態は、温度を調節すること、およびpHを調節することを含みうる。重炭酸塩緩衝系での細胞培養培地内のpHの調節は、典型的には、内部雰囲気中の二酸化炭素の濃度を調節することにより行われる。細胞培養培地内のpHの調節は、他の緩衝系を使用することによっても行われうる。
【0112】
本明細書中で用いる「PSI」は、周囲大気圧を超える圧力(ポンド/平方インチ)を示す。
【0113】
両方の変数を含む語であるO-P条件は、2つの可変性大気パラメータ(酸素レベルおよび全ガス圧)の組合せにより定められる条件を意味する。それぞれ各パラメータを定める任意の語が、O-P条件を特定するために用いられうる。例えば、酸素レベルは濃度(全ガスに対する相対%)または分圧(単位体積当たりの酸素の絶対的レベル)として定められうる。具体例として、O-P条件は「3%酸素-3PSI」として表されうる。
【0114】
多能性レベルの表現型は全能性から最終分化細胞までの範囲の表現型スペクトルを意味しうる。他の細胞多能性レベルの表現型には、例えば、多能性、多分化能、寡能性および単能性が含まれる。
【0115】
細胞分化に関連した用途
幾つかの実施形態においては、本開示は、最小の分化ドリフト(drift)で赤血球分化状態を或る期間にわたって維持するための大気条件パラメータ設定(例えば、酸素レベルおよび全大気圧レベル)を特定するための方法を提供する。幾つかの実施形態においては、酸素レベルは約1%~約15%でありうる。幾つかの実施形態においては、圧力条件は最大約2PSIでありうる。赤血球は、例えば、造血幹細胞の分化に由来しうる。ついで分化造血幹細胞は、共通の骨髄前駆細胞段階を経て、巨核球-赤血球前駆細胞段階に、そして最終的に赤血球段階に進みうる。
【0116】
幾つかの実施形態においては、本開示は、(M2分極マクロファージとは対照的に)M1分極マクロファージへの単球の分化に有利な大気条件パラメーター(例えば、酸素レベルおよび全大気圧レベル)を特定するための方法を提供する。幾つかの実施形態においては、本開示は、M1分極マクロファージ集団への単球の分化に有利な大気条件パラメーターを特定するための方法を提供する。幾つかの実施形態においては、酸素レベルは約1%~約15%でありうる。幾つかの実施形態においては、圧力条件は最大約2PSIでありうる。
【0117】
マクロファージのM1分極は細菌リポ多糖、およびサイトカイン、例えばGM-CSFまたはインターフェロンによって生じうる。マクロファージのM1活性化は表現型変化、例えば炎症性サイトカイン、活性酸素種および窒素ラジカルの放出を引き起こす可能性があり、M1活性化は標的細菌への攻撃レベルを高めうる。
【0118】
マクロファージは造血幹細胞の分化により誘導可能であり、共通の骨髄前駆細胞段階へ、ついで顆粒球-マクロファージ前駆細胞状態へ、ついで単球段階へ、そして最終的にマクロファージ段階へと進みうる。
【0119】
該方法の幾つかの実施形態においては、酸素は低酸素レベルであり、全大気圧は高圧である。
【0120】
幾つかの実施形態においては、本開示は、周囲大気条件と比較して、最適な大気条件下、前脂肪細胞からマウス成熟脂肪細胞への分化の速度を増加させる方法を提供する。幾つかの実施形態においては、酸素は低酸素レベルであり、全大気圧は高圧である。幾つかの実施形態においては、本開示は、標準的または周囲大気条件と比較して、最適な大気条件下、iPSCからニューロンへの分化の速度を増加させる方法を提供する。幾つかの実施形態においては、酸素は低酸素レベルであり、全大気圧は高圧である。
【0121】
幾つかの実施形態においては、本開示は、iPSCから造血幹細胞(HSC)集団へ、そしてついで巨核細胞集団への分化を導くのに最適な大気条件パラメーター(例えば、酸素レベルおよび全大気圧レベル)を特定するための方法を提供する。種々の表現型の存在は、例えば、FACS分析により決定されうる。
【0122】
幾つかの実施形態においては、本開示は、標準的または周囲条件下の培養と比較して、最適な大気条件下、iSPCから心筋細胞への成長および分化を増強するための方法を提供する。
【0123】
幾つかの実施形態においては、本開示は、前立腺癌細胞系PC-3における低酸素誘導因子-1(HIF-1)の誘導に最適な大気条件パラメーター(例えば、酸素レベルおよび全大気圧レベル)を特定するための方法を提供する。幾つかの実施形態においては、本開示は、例えば前立腺癌細胞系におけるHIF-1の誘導のための大気圧の増加を伴う又は伴わない誘導の時間経過を決定するための方法を提供する。周囲大気圧条件下の誘導の時間経過は約24時間の時点でピークに達することが可能であり、周囲圧力を超える2PSIの存在下ではHIF1は6時間の時点でピークに達することが可能である。
【0124】
幾つかの実施形態においては、本開示は、標準的または周囲条件下の培養と比較して、最適大気条件下の生検からの膵臓癌細胞オルガノイドの発生を改善するための方法を提供する。
【0125】
幾つかの実施形態においては、本開示は、卵巣癌クラスター(腫瘍オルガノイド)を生成させるのに最適な大気条件パラメーター(例えば、酸素レベルおよび全大気圧レベル)を特定するための方法を提供する。ついで、これらの腫瘍オルガノイドは、例えば、化学療法薬の有効性を試験するための基体として使用されうる。
【0126】
幾つかの実施形態においては、本開示は、腫瘍の生検サンプルを培養するための大気条件パラメータ(例えば、酸素レベルおよび全大気圧レベル)を特定するための方法を提供する。ついで、得られた細胞集団は、抗癌剤または候補薬を試験するための基体として使用されうる。例えば、細胞系からの結腸直腸癌細胞はスフェロイドとして増殖可能であり、ついで結腸直腸癌細胞スフェロイドの殺滅がT細胞またはNK細胞により活性化可能であり、該殺滅は、最適な大気条件下で観察されうる。もう1つの例においては、B16黒色腫細胞系がスフェロイドとして増殖可能であり、CD8-脾細胞媒介性殺滅が観察されうる。
【0127】
幾つかの実施形態においては、本開示は、生検サンプルに由来する非小細胞肺癌細胞(NSCLC)のインビトロ増殖速度を調節する大気条件パラメーター(例えば、酸素レベルおよび全大気圧レベル)を特定するための方法を提供する。
【0128】
幾つかの実施形態においては、酸素は低酸素レベルであり、全大気圧は、周囲条件と比較して高圧である。
【0129】
幾つかの実施形態においては、本開示は、凍結バイアルからの細胞を解凍するための最適な大気条件を決定するための方法を提供する。幾つかの実施形態においては、最適な大気条件下での骨髄性白血病(AML)癌細胞の解凍およびその後の生存率は、標準的または周囲条件下で解凍された細胞と比較して生存率の増加を示しうる。
【0130】
Treg細胞は、免疫応答を抑制するように広範に作用することにより恒常性および自己寛容を維持するT細胞の特殊な亜集団である。より詳細には、TregはエフェクターT細胞増殖およびサイトカイン産生を抑制し、自己免疫反応性の可能性を低下させる役割を果たしうる。T細胞は、造血幹細胞に由来する分化経路に由来し、リンパ系共通前駆細胞を経て、最終的にT細胞の段階に進む。
【0131】
Treg細胞に対する低酸素および高圧条件の他の表現型効果が観察されうる。幾つかの実施形態においては、本開示は、制御性T細胞(Treg)が標準的なインキュベーター条件下で培養された場合より速い速度でのTregの増殖を支持する大気条件パラメーター(例えば、酸素レベルおよび全大気圧レベル)を特定するための方法を提供する。幾つかの実施形態においては、本開示は、腎炎症を有する患者からの制御性T細胞における成熟マーカーを種々の大気条件下で培養して、治療薬候補を試験するための基体としてのこれらの細胞の使用に向けた、および/または炎症性疾患の過程中にこれらの細胞において生じる変化を理解する方法を提供する。
【0132】
Treg細胞は、免疫療法のためのCAR-T細胞(胸腺由来リンパ球を意味するT細胞であるキメラ抗原受容体T細胞)の開発に含まれる。Treg細胞のウイルス形質導入はこれらの細胞のキメラ抗原受容体状態の付与の一部である。幾つかの実施形態においては、遺伝子トランスフェクションおよびウイルス形質導入は、低酸素および/または高圧条件下で、より効率的でありうる。
【0133】
Treg細胞は、それらの成熟中に、ナイーブ状態から、より特異的な抗原標的化状態へと進行する。キメラ抗原を備えたTreg細胞になるための形質導入過程のための原料または基体としては、(既に抗原が特定されている細胞ではなく)ナイーブ細胞が有利でありうる。本明細書に記載されている培養条件はナイーブ状態のTreg細胞の発生状態または成熟状態を安定化しうる。表現型のそのような安定化は
図13Cに図示されている。
【0134】
幾つかの実施形態においては、本開示は、T細胞機能を維持するのに最適である大気条件パラメーター(例えば、酸素レベルおよび全大気圧レベル)を特定するための方法を提供する。T細胞機能はT細胞の枯渇(exhaustion)により損なわれうる。T細胞枯渇は、慢性感染または癌の長期的存在中に体内で生じうる細胞の長期的抗原刺激によるエフェクター機能の進行的喪失を含む多数の機能障害を伴う。正常なサイトカインプロファイルの不均衡のような、環境における他の要因も、枯渇に寄与しうる。T細胞枯渇は、CAR-T細胞の作製のような臨床的製造プロセスにおける使用のために患者から採取された細胞に影響を及ぼす可能性があり、T細胞枯渇は製造プロセス中に継続または発生しうる。したがって、酸素レベルおよび全ガス圧レベルのような大気変数を含む十分に制御された一貫したインビトロ環境は、枯渇していない又は枯渇から回復した頑強(ロバスト)なT細胞集団の発生に寄与しうる。幾つかの実施形態においては、酸素は低酸素レベルであり、全大気圧は、周囲条件と比較して高圧である。
【0135】
幾つかの実施形態においては、本開示は、ナチュラルキラー細胞による癌細胞の殺滅に最適な大気条件パラメーター(例えば、酸素レベルおよび全大気圧レベル)を特定するための方法を提供する。NK92は、非ホジキンリンパ腫を有するヒト患者に由来するナチュラルキラー細胞系であり、構成的に活性化され、阻害性受容体を欠いているため、NK92は既製の細胞治療の候補となりうる。
【0136】
幾つかの実施形態においては、本開示は、標準的または周囲条件下の培養と比較して、最適な大気条件下で培養中の腫瘍浸潤リンパ球(TIL)表現型の長期的維持を改善するための方法を提供する。
【0137】
幾つかの実施形態においては、本開示は、キメラ抗原受容体-T細胞(CAR-T)をインビトロで増殖させるのに最適な大気条件パラメーター(例えば、酸素レベルおよび全大気圧レベル)を特定するための方法を提供する。CAR-T細胞のキメラ細胞受容体は遺伝的に操作されていて、癌細胞の表面上で発現される抗原のような特定の抗原に結合し、該抗原を発現する癌細胞に該T細胞が遭遇すると該T細胞は活性化される。そのようなCAR-T細胞の有効性の評価に関する変数には、標的抗原を認識する際の操作受容体の有効性、およびT細胞の活性化の有効性が含まれる。したがって、これらの受容体およびそれらの有効性をスクリーニングするには、頑強で一貫した品質のT細胞が大量に必要である。
【0138】
幾つかの実施形態においては、酸素は低酸素レベルであり、全大気圧は周囲条件と比較して高圧である。
【0139】
医薬組成物および投与
本明細書中で用いる「薬学的に許容される担体」または「薬学的に許容される賦形剤」は、有効成分と組合された場合に、該成分が生物活性を保持することを可能にし、対象の免疫系に対して無反応性である任意の物質を含む。例示には、標準的な医薬担体、例えばリン酸緩衝生理食塩水、水、エマルション、例えば油/水エマルション、および種々のタイプの湿潤剤のいずれかが含まれるが、これらに限定されるものではない。エアロゾルまたは非経口投与に好ましい希釈剤としては、リン酸緩衝生理食塩水または正常(0.9%)生理食塩水が挙げられる。そのような担体を含む組成物は、よく知られた通常の方法により製剤化(処方)される(例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences,18th edition,A.Gennaro編,Mack Publishing Co.,Easton,Pa.,1990;およびRemington,The Science and Practice of Pharmacy 20th Ed.Mack Publishing,2000を参照されたい)。
【0140】
許容される担体、賦形剤または安定剤は、使用される投与量および濃度において被投与者に対して無毒性であり、以下のものを含みうる:バッファー、例えばホスファート、シトラートおよび他の有機酸;塩、例えば塩化ナトリウム;抗酸化剤、例えばアスコルビン酸およびメチオニン;保存料(例えば、オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド;ヘキサメトニウムクロリド;ベンザルコニウムクロリド、ベンゼトニウムクロリド;フェノール、ブチルまたはベンジルアルコール;アルキルパラベン、例えばメチルまたはプロピルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;およびm-クレゾール);低分子量(約10残基未満)のポリペプチド;タンパク質、例えば血清アルブミン、ゼラチンまたは免疫グロブリン;親水性ポリマー、例えばポリビニルピロリドン;アミノ酸、例えばグリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニンまたはリジン;単糖類、二糖類、および他の炭水化物、例えばグルコース、マンノースまたはデキストリン;キレート剤、例えばEDTA;糖、例えばスクロース、マンニトール、トレハロースまたはソルビトール;塩形成対イオン、例えばナトリウム;金属錯体(例えば、Zn-タンパク質複合体);および/または非イオン性界面活性剤、例えばTWEEN(商標)、PLURONICS(商標)またはポリエチレングリコール(PEG)。
【0141】
インビボ投与に使用される製剤は滅菌されうる。これは、例えば、滅菌濾過膜による濾過、または当技術分野で認められている他の滅菌方法により達成されうる。PBMC組成物は、一般に、滅菌アクセスポートを有する容器、例えば、皮下注射針により穿刺可能なストッパーを有する静脈内溶液バッグまたはバイアルに入れられる。滅菌および濾過のための他の方法は当技術分野で公知であり、本発明で想定される。
【0142】
幾つかの実施形態においては、組成物は、対象への投与に許容されるように、発熱物質を含有しないように製剤化されうる。発熱物質に関する組成物の試験および発熱物質を含有しない医薬組成物の製造は当業者によく理解されている。
【0143】
本発明の組成物は単位剤形、例えば、静脈内、経口、非経口もしくは直腸投与または吸入もしくは吹送による投与のための溶液もしくは懸濁液、錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤または坐剤などでありうる。
【0144】
「薬学的に許容される」なる語は、生理学的に許容可能であり、対象に投与された場合にアレルギーまたは同様の有害な反応、例えば急性胃蠕動、眩暈などを典型的には引き起こさない分子実体および組成物を意味する。
【0145】
治療用組成物または医薬組成物に関して用いられる場合の「単位用量」は、ヒトに対する単位用量として適切な物理的に個別の単位を意味し、各単位は、必要な希釈剤、すなわち、担体またはビヒクルと組合されて所望の治療効果をもたらすように計算された所定量の活性物質を含有する。
【0146】
組成物は、剤形に適合した方法で、治療的有効量で投与されうる。投与される量は、治療される対象、対象の免疫系が有効成分を利用する能力および所望の結合能の程度に左右される。投与を要する有効成分の厳密な量は実施者の判断に左右され、各個人に特有のものである。また、血中濃度を維持するのに十分な連続的静脈内注入が想定される。
【0147】
「最大」、「未満」または「以下」なる語が一連の2以上の数値の最初または最後の数値に付いている場合はいつでも、「最大」、「未満」または「以下」なる語はその一連の数値における各数値に適用される。例えば、3、2または1以下は、3以下、2以下または1以下と同等である。
【0148】
本明細書中で用いる「約」なる語は、一般に、個々の用例の文脈内で示されている数値より2%、5%、10%、15%大きい又は小さい(±)範囲を指す。例えば、「約10」は8.5~11.5の範囲を含むであろう。本明細書中で用いる「約」および「およそ」なる語は、数値または数値範囲を修飾するために用いられている場合、該値または範囲を上回る又は下回る最大約0.2%、約0.5%、約1%、約2%、約5%、約7.5%または約10%(または約1%と10%との間の任意の整数)の偏差が、依然として、列挙値または範囲の意図された意味の範囲内であることを示す。
【0149】
方法1400(
図14)の実施形態は、それぞれの周囲大気条件に無関係にインキュベーターにおける少なくとも2つの可変性大気条件パラメーターを調節しうる細胞培養インキュベーター内の培地においてソース細胞集団を培養すること(ここで、可変性大気条件パラメーターの2つは酸素レベルおよび全大気圧レベルである)(1401);インキュベーター内の酸素レベルおよび全大気圧レベルの少なくとも1つを調節して、酸素レベルまたは全大気圧レベルの少なくとも1つがそれぞれの周囲レベルと異なるようにすること(ここで、酸素レベルは、それぞれの周囲レベルと異なる場合には、低酸素レベルに調節され、全大気圧は、それぞれの周囲レベルと異なる場合には、高圧レベルに調節される)(1402);ならびに、可変性大気条件パラメーターの調節の結果として、インキュベーション期間にわたって、ソース集団の表現型パラメーターの発現を第1表現型から第2表現型へと導くこと(ここで、サブセット細胞集団の第1表現型は、インキュベーター内の可変性大気条件パラメーターが周囲大気条件と実質的に同じである大気条件下で発現されるものであり、サブセット細胞集団の第2表現型は、インキュベーターにより調節された可変性大気条件への曝露の結果として発現される)(1403)を含む。
【0150】
方法1500(
図15)の実施形態は、いずれのそれぞれの周囲大気条件にも無関係にインキュベーター内の大気条件の2以上の可変性パラメーターを調節するように構成された細胞培養インキュベーター内の液体培地においてソース細胞集団を培養すること(ここで、ソース集団の表現型は、最初に、細胞培養性能の1以上のパラメーターに関する変動性の初期レベルを含む)(1501);インキュベーター内の大気条件の2以上の可変性パラメーターを調節して、該可変性パラメーターの少なくとも1つがそれぞれの可変性パラメーターの周囲レベルと異なるようにすること(1502);ならびに、調節された大気条件下のソース細胞集団の培養の結果として、細胞培養性能の1以上のパラメーターに関する変動性のレベルを減少させて、細胞のソース集団のものより大きな表現型均質性のレベルを有する細胞の後続集団を得ること(1503)を含む。
【0151】
方法1600(
図16)の実施形態は、インキュベーター内の大気パラメーターを調節するように構成された細胞培養インキュベーター内の液体培地においてソース細胞集団を培養すること(ここで、大気パラメーターは酸素レベルおよび全ガス圧レベルを含むこと)(1601);インキュベーター内の大気パラメーターを調節して、大気パラメーターの少なくとも1つがその周囲レベルと異なるようにすること(1602);ならびに、大気パラメーターの調節の結果として、第1表現型としての細胞集団を安定化すること(ここで、第2表現型は、インキュベーター内の可変性大気パラメーターが周囲条件と実質的に一致している大気条件下で細胞集団がドリフトする方向のものである)(1603)を含む。
【0152】
方法1700(
図17)の実施形態は、細胞のソース集団を、少なくとも第1コホート培養および第2コホート培養を含むコホート培養に分割すること(1701);コホート細胞培養を、酸素濃度および全ガス圧のいずれかにおける変動に関してのみ異なる大気条件下で並行して培養すること(1702);コホート培養のそれぞれにおける所望の表現型を示す細胞培養性能パラメーターを測定すること(1703);ならびに、コホート培養における細胞培養性能パラメーターの結果に基づいて、どの酸素レベルおよびどの全ガス圧レベルが、所望の表現型を有する細胞集団の増殖に最適であるかを決定すること(1704)を含む。
【0153】
方法1800(
図18)の実施形態は、細胞の免疫細胞集団を複数のコホート細胞培養に分割すること(1801);ならびにコホート細胞培養を、酸素レベルまたは全ガス圧のいずれかにおける変動に関してのみ異なる大気条件下で並行して培養すること(1802);ならびに各コホート培養において、免疫細胞指向性生物活性物質に応答性である細胞培養性能パラメータを測定すること(1803);ならびに、コホート培養における細胞培養性能パラメーターの測定に基づいて、酸素レベルおよび全ガス圧レベルのどれが、生物活性物質に対するコホート免疫細胞培養における最大の応答性を支持するかを決定すること(1804)を含む。
【0154】
方法1900(
図19)の実施形態は、患者の腫瘍に由来する細胞集団を、該患者のもののような腫瘍からの細胞の増殖を支持することが知られている重層(overlaying)大気条件下、液体培地内で増殖させること(ここで、大気条件は低酸素レベルの酸素および高圧レベルの全ガス圧を含み、細胞集団の増殖は、複数のコホート培養を播種するのに十分なレベルへの増殖を含む)(1901);増殖した細胞集団を複数のコホート細胞培養に分割すること(1902);1以上の抗癌剤の存在以外は同一である条件下、かつ、抗癌剤の有効性を試験するのに最適な細胞表現型の発現を支持することが知られている又は推定される大気条件下、コホート細胞培養を並行して培養すること(ここで、大気条件は低酸素レベルの酸素および高圧レベルの全ガス圧を含む)(1903);各コホート培養において、該抗癌剤による影響を受ける細胞培養性能パラメーターを測定すること(1904);ならびに、コホート培養における細胞培養性能パラメーターの測定に基づいて、患者の腫瘍の治療における1以上の抗癌剤の有効性を予測すること(1905)を含む。
【0155】
方法2000(
図20)の実施形態は、大気条件制御インキュベータープログラムを作動させるように構成された細胞培養インキュベーター内でソース細胞集団をインキュベートすること[ここで、該プログラムは、目的の表現型の発現を最適化する大気条件を導き、該プログラムは(1)酸素レベルおよび(2)全ガス圧レベルに関する設定点範囲を含む](2001);大気条件設定点範囲に従いインキュベーター内の酸素レベルおよび全ガス圧を調節すること(2002);ならびに、目的の表現型を発現する細胞の増殖集団を得るために十分な培養期間にわたって、細胞集団を該大気条件設定点範囲に従い培養すること(ここで、増殖した細胞集団はヒト治療用物質としての潜在的用途を含む)(2003)を含む。
【0156】
方法2100(
図21)の実施形態は、第1大気条件制御プログラムおよび第2大気条件制御プログラムを作動させるように構成された細胞培養インキュベーター内の液体培地内でソース細胞集団を培養すること(ここで、各プログラムは酸素レベルおよび全ガス圧レベルに関する設定点範囲を含み、第1大気条件プログラムと第2大気条件プログラムとは互いに異なる)(2101);ならびに、細胞培養実施の経過にわたって、第1段階および第2段階において、インキュベーター内の酸素レベルおよび全ガス圧を調節すること(ここで、第1段階は、目的の表現型を発現する可能性を含む細胞集団の増殖を支持するように最適化された大気条件制御プログラムに従い実施され、第2段階は、目的の表現型の発現を支持するように最適化された第2大気条件制御プログラムに従い実施される)(2102)を含む。
【0157】
方法2200(
図22)の実施形態は、いずれのそれぞれの周囲大気条件にも無関係に、インキュベーター内の大気条件の少なくとも2つの可変性パラメーターを調節しうる細胞培養インキュベーター内でソース細胞集団を培養すること(ここで、該パラメーターは酸素レベルおよび全ガス圧レベルを含む)(2201);インキュベーター内の大気条件の可変性パラメーターを調節して、それらの少なくとも1つがそれぞれの可変性パラメーターの周囲レベルと異なるようにすること(2202);ならびに、大気条件の調節の結果として、サブセット集団を第1表現型から第2表現型へと導くこと(ここで、サブセット細胞集団の第1表現型は、インキュベーター内の可変性大気パラメーターが周囲条件と実質的に同じである大気条件下で発現されるものであり、サブセット細胞集団の第2表現型は、インキュベーター内で調節された大気条件への曝露の結果として発現される)(2203);ならびに産物を収集すること(ここで、産物は、第2表現型の細胞集団、または第2表現型の細胞集団により製造された産物のいずれかである)(2204)を含む。
【0158】
実施例
実施例1:サイトカイン分泌に対する低酸素および高圧培養条件の効果
末梢血単核細胞(PBMC)を健常ボランティアから単離し、種々の低酸素および高圧条件下で培養した。通常の大気条件(周囲条件)、低酸素および高圧条件(周囲条件より2PSI高い、15% O
2)および低酸素条件(周囲圧力、15% O
2)でPBMCを培養した。全てのPBMCを、IL-2(10ng/mL)を含有するImmunocult-XF T細胞増殖培地内で培養し、培養期間の最初に抗CD3/CD28ヒトT-アクチベーター・ダイナビーズ(Human T-Activator Dynabeads)で活性化した。細胞培養上清を収集し、ヒトサイトカイン抗体アレイ(Abcam,カタログ番号ab133997)を使用して分析した。表1および2は、使用した抗体アレイのマップを示し、表1はアレイの行A~Fのサイトカインの種類を示し、表2は行G~Lを示す。メンブレン上のシグナルをECL検出試薬(GE Healthcare)を使用して現像し、MyECL Imager系(Thermo Scientific)でイメージングした。
図1Aは、3つの異なる低酸素および高圧条件のサイトカインアレイのイメージを示し、
図1Bは、
図1Aのアレイから選択されたサイトカインの要約を示す(標準的大気条件に対する変化倍数として表されている)。
【0159】
図1Aおよび1Bにおいて認められるとおり、分泌IL-10のレベルは低酸素および高圧条件では減少したが、低酸素条件のみによっては影響を受けなかった。TNF-αの分泌レベルは低酸素および高圧条件では影響を受けなかったが、低酸素条件では増加した。分泌IFN-γおよびIL-6のレベルは種々の条件下で最小限の変化を示し、分泌TNF-αのレベルは低酸素条件と、低酸素および高圧条件との両方において増加した。
【表1】
【表2】
【0160】
実施例2:PBMCの腫瘍殺傷活性に対する低酸素および高圧培養条件の効果および免疫療法の有効性
PBMCを21名の健常ボランティアから単離した。PBMCを、標的腫瘍細胞(PC-3、前立腺癌細胞系)と共に、20:1のエフェクター対標的比で培養した。全ての細胞を、10% ウシ胎児血清で補足されたRPMI1640培地内で5日間培養した。PBMCはIL-2で活性化されなかった。5日間の終了時に、CellTiter Glo Assay(Promega)により、3回または4回の技術的重複実験により、細胞生存率を測定した。標的細胞および21個のPBMC単離体のそれぞれを、周囲条件または低酸素および高圧条件(1% O
2、周囲圧力より2PSI高い)のいずれかにおいて、抗PD-1抗体の存在下または非存在下で培養した。使用した抗PD-1抗体はニボルマブおよびペムブロリズマブ(10μg/ml)であった。21個の異なるPBMC単離体にわたる平均的結果を、平均の標準誤差を表すエラーバーと共に
図2に示す。p値は、対応スチューデントt検定を用いて計算した。
【0161】
図2に示されているとおり、低酸素および高圧条件はニボルマブ治療の有効性に顕著な効果を及ぼさなかった、ペンブロリズマブ治療は、腫瘍細胞を殺傷するためのPBMCの活性化において、低酸素および高圧条件下で、より効率的であった(0.0037のp値)。
【0162】
薬物治療を行わない場合には、低酸素および高圧条件は、腫瘍細胞殺傷の有効性を増加させる傾向を示した。しかし、該結果は、おそらくドナー間のばらつきゆえに、統計的有意性に達しなかった。
【0163】
実施例3:T細胞増殖に対する低酸素および高圧培養条件の効果
PBMCを4名のボランティアから単離した。T細胞を、ヒト汎T細胞単離キット(Miltenyi Biotec)を使用してPBMCから単離し、10ng/mL IL-2で補足されたImmunocult-XF T細胞増殖培地内で種々の酸素および圧力条件下で培養した。細胞を抗CD3/CD28ヒトT-アクチベーター・ダイナビーズで活性化した。細胞を第3日、第7日、第10日および第4日に計数した。
図3Aは、標準的大気条件(大気圧における20% O
2)、大気圧における15% O
2、大気圧より2PSI高い圧力における15% O
2、大気圧における5% O
2、大気圧より2PSI高い圧力における5% O
2、大気圧における1% O
2、および大気圧より2PSI高い圧力における1% O
2において増殖した場合のT細胞の増殖曲線を示す。
図3Bは第14日における種々の条件下のT細胞の増殖倍数の棒グラフを示し、
図3Cは表と同じデータを示す。
図3A~3Cにおいて認められるとおり、大気圧より2PSI高い圧力において15% O
2で培養された細胞は最も速く増殖し、ほぼ97倍の増殖に達し、一方、標準的条件下で増殖したT細胞は約71倍の増殖を示した。種々の各O
2濃度において、高圧条件下で培養された細胞はより大きな増殖倍数を示した。
【0164】
実施例4:CD4およびCD8バイオマーカーの発現に対する低酸素および高圧培養条件の効果
T細胞表現型に対する低酸素および高圧培養条件の効果を評価するために、汎T細胞を種々の条件下で14日間培養し、CD4およびCD8に関する蛍光支援細胞選別(FACS)により評価した。標準的大気条件、大気圧における15% O
2、大気圧より2PSI高い圧力における15% O
2、大気圧における5% O
2、大気圧より2PSI高い圧力における5% O
2、大気圧における1% O
2、および大気圧より2PSI高い圧力における1% O
2において細胞を培養した。
図4Aは細胞選別実験の代表的プロットを示し、CD8発現が縦軸に示されており、CD4発現が横軸に示されている。CD4- CD8-、CD4+ CD8-、CD4- CD8+、およびCD4+ CD8+である細胞の百分率が、分析された汎T細胞(CD3+ 細胞)の総数に対する百分率として示されている。
図4Aに示されているとおり、CD8+ 細胞の百分率は大気圧より2PSI高い圧力で15% O
2における培養の後に増加したが、大気圧で5% O
2および両方の圧力で1% O
2における培養の後では減少した。CD4+ 細胞の百分率は15%および5% O
2条件での高圧条件により減少したが、1% O
2での高圧条件により増加した。
【0165】
図4BはCD3+ 汎T細胞の総数に対するCD8+ 細胞の百分率を示す。このデータは
図4Dにも要約されている。
図4CはCD3+ 汎T細胞の総数に対するCD4+ 細胞の百分率を示す。このデータは
図4Eにも要約されている。
図4A、4Bおよび4Dに示されているとおり、CD8+ 細胞の百分率は大気圧より2PSI高い圧力で15% O
2における培養の後で増加したが、大気圧で5% O
2および両方の圧力で1% O
2における培養の後で減少した。
図4A、4Cおよび4Eにおいて認められるとおり、CD4+ 細胞の百分率は15%および5% O
2条件での高圧条件により減少したが、1% O
2での高圧条件により増加した。
【0166】
実施例5:サイトカインおよび細胞傷害性遺伝子の発現に対する低酸素および高圧培養条件の効果
汎T細胞を、ヒト汎T細胞単離キット(Miltenyi Biotec)を使用して健常ドナーPBMCから単離し、IL-2(10ng/ml)を含有するImmunocult-XF T細胞増殖培地内で培養した。抗CD3/CD28ヒトT-アクチベーター・ダイナビーズを使用して汎T細胞を活性化した。該細胞を種々の条件下で3日間培養した。細胞を第3日に収集し、Qiagen RNeasy plus Miniキットを使用して全RNAを単離し、サイトカインおよび細胞傷害性遺伝子の発現をRT-qPCRにより分析した。IL-10の発現は15% O
2および高圧条件下、ならびに大気および高圧の両方の条件下の5% O
2において抑制された(
図5A)。IL-10の発現は大気および高圧の両方の条件における1% O
2条件下でアップレギュレーションされた(
図5A)。IL-6の発現は大気および高圧の両方の条件における1% O
2低酸素条件下でアップレギュレーションされた(
図5B)。IL-6の発現は大気圧における15% O
2または5% O
2においては有意に増加しなかったが、高圧条件下の両方のO
2レベルでは増加した(
図5B)。
【0167】
細胞傷害性遺伝子グランザイムBおよびパーフォリンの発現は5% O
2における高圧条件により、ならびに大気圧および高圧の両方における1% O
2においてアップレギュレーションされた。
図6Aおよび6Bを参照されたい。
【0168】
実施例6:細胞サイズに対する低酸素および高圧培養条件の効果
ヒト汎T細胞単離キット(Miltenyi Biotec)を使用して、健常ドナーPBMCから汎T細胞を単離した。汎T細胞を、IL-2(10ng/mL)を含有するImmunocult-XF培地内で培養し、低酸素および高圧培養条件下、抗CD3/CD28ヒトT-アクチベーター・ダイナビーズを使用して活性化した。7日間の培養の後、CountessFL細胞計数器により細胞サイズをそっくていした。5% O
2および1% O
2の低酸素条件下で増殖したT細胞の細胞体積は、標準的O
2レベルまたは15% O
2レベルにおいて培養された細胞より大きかった(
図7、n=6 ユニークドナー)。
【0169】
実施例7:チェックポイント遺伝子発現に対する低酸素および高圧培養条件の効果
3名のユニークドナーからの汎T細胞を、10ng/mL IL-2を含有するImmunocult-XF培地内で増殖させ、種々の低酸素および高圧培養条件下、抗CD3/CD28ヒトT-アクチベーター・ダイナビーズを使用して活性化した。RNA単離のために、第3日に細胞を収集した。チェックポイント遺伝子PD1およびCTLA4の発現をRT-qPCRにより分析した。
図8Aにおいて認められるとおり、PD1の発現は大気圧および高圧の両方における5% O
2および1% O
2で増加した。
図8Bに示されているとおり、CTLA4の発現は15% O
2および高圧においては有意にアップレギュレーションされ、高圧における5% O
2および1% O
2においてはダウンレギュレーションされた。
【0170】
実施例8:サイトカイン発現に対する低酸素および高圧培養条件の効果
汎T細胞を単離し、種々の低酸素および高圧条件下で7日間培養した。上清を収集し、IFN-ガンマ、IL-6およびIL-10の分泌を、サイトメトリービーズアレイ(CBA)ヒトTh1/Th2/Th17サイトカインキット(BD Biosciences)を使用して評価した。
図9Aにおいて認められるとおり、IFN-ガンマの発現は15% O
2および高圧下で減少し、5% O
2および高圧下で増加し、大気圧および高圧の両方における1% O
2下で増加した。
図9Bにおいて認められるとおり、IL-6の発現は大気圧および高圧の両方における5% O
2および1% O
2において増加した。IL-10の発現は大気圧および高圧の両方における1% O
2において増加した(
図9C)。
【0171】
実施例9:FOXP3のTreg細胞発現に対する低酸素および高圧培養条件の効果
Treg細胞を磁気ビーズにより富化し、標準的条件(STD)下または低酸素および高圧条件下で14日間培養した。FOXP3+ Treg細胞の割合をフローサイトメトリーにより分析した。
図10Aおよび10Bにおいて認められるとおり、低酸素および高圧条件(大気圧より2PSI高い圧力における5% O
2)下で培養された場合、より高い割合のTreg細胞がFOXP3を発現した。
図10Cおよび10Dは、それぞれ、標準的条件下ならびに低酸素および高圧条件下で増殖した細胞の代表的な散布図を示す。
【0172】
低酸素および高圧培養条件の効果を更に評価するために、Treg細胞を磁気ビーズにより富化し、標準的条件および低酸素および高圧条件(大気圧より2PSI高い圧力における15% O
2および大気圧より2PSI高い圧力における5% O
2)下で12日間培養した。第12日に細胞を2つの部分に均等に分割し、一方の部分を元の条件下で培養し、もう一方の部分を大気圧より2PSI高い圧力における1% O
2下で更に2日間培養した。第14日に、FOXP3+ 陽性Treg細胞をフローサイトメトリーにより分析した。
図10Eにおいて認められるとおり、低酸素および高圧条件は、標準的条件と比較して多数のFOXP3+ Treg細胞を産生し、増強した低酸素の条件下での2日間の培養は、元の条件と比較して、FOXP3+ Treg細胞の割合を更に増加させた。
【0173】
本明細書には本発明の好ましい実施形態が示され記載されているが、そのような実施形態は単なる例示として記載されていることが当業者に明らかであろう。本発明から逸脱することなく、多数の変形、変化および置換が当業者において今や見出されるであろう。本明細書に記載されている本発明の実施形態に対する種々の代替が本発明の実施の際に使用されうると理解されるべきである。後記の特許請求の範囲は本発明の範囲を定め、これらの特許請求の範囲の範囲内の方法および構造ならびにそれらの均等物が本発明に含まれると意図される。
【0174】
実施形態
実施形態1:細胞のソース集団の少なくともサブセットの表現型を調節する方法であって、該方法が、それぞれの周囲大気条件に無関係にインキュベーターにおける少なくとも2つの可変性大気条件パラメーターを調節しうるように構成された細胞培養インキュベーター内の液体培地においてソース細胞集団を培養すること(ここで、可変性大気条件パラメーターの2つは酸素レベルおよび全大気圧レベルである)、インキュベーター内の酸素レベルおよび全大気圧レベルの少なくとも1つを調節して、酸素レベルまたは全大気圧レベルの少なくとも1つがそれぞれの周囲レベルと異なるようにすること、ならびに、可変性大気条件パラメーターの調節の結果として、インキュベーション期間にわたって、ソース集団の表現型パラメーターの発現を第1表現型から第2表現型へと導くこと(ここで、サブセット細胞集団の第1表現型は、インキュベーター内の可変性大気条件パラメーターが周囲大気条件と実質的に同じである大気条件下で発現されるものであり、サブセット細胞集団の第2表現型は、インキュベーターにより調節された可変性大気条件への曝露の結果として発現される)を含む、方法。
【0175】
実施形態2:第1表現型および第2表現型が、インビトロにおける細胞培養性能の、1以上の観察可能なパラメータの指標を含む、実施形態1記載の方法。
【0176】
実施形態3:細胞培養パラメーターの1以上のパラメーターが、増殖速度、細胞死速度、達成可能な細胞密度、細胞産物(天然物またはトランスフェクションに基づくもの)の産生の速度、細胞形態、細胞寸法、細胞接着特性、細胞電気特性、細胞代謝活性、細胞遊走挙動、細胞活性化状態、細胞分化状態、バイオマーカー表示、トランスフェクションに対する適合性または抵抗性、感染に対する感受性または抵抗性、ウイルス形質導入に対する適合性または抵抗性、生物活性物質に対する応答性または抵抗性、あるいは細胞表現型または機能の任意の他の観察可能な態様からなる群から選択される、実施形態1~2のいずれか1項記載の方法。
【0177】
実施形態4:第2表現型がヒトの治療用途に適しており、該用途が、患者の治療、薬物開発アッセイにおける薬物スクリーニング、および候補薬物に対する患者特異的感受性の試験からなる群から選択可能である、実施形態1~3のいずれか1項記載の方法。
【0178】
実施形態5:インキュベーター内の酸素レベルを周囲酸素レベルに対して低酸素レベルに調節する、実施形態1~4のいずれか1項記載の方法。
【0179】
実施形態6:全大気圧を周囲大気圧に対して高圧レベルに調節する、実施形態1~5のいずれか1項記載の方法。
【0180】
実施形態7:酸素レベルを周囲酸素レベルに対して低酸素レベルに調節し、全大気圧を周囲大気圧に対して高圧レベルに調節する、実施形態1~6のいずれか1項記載の方法。
【0181】
実施形態8:全大気圧を高圧レベルに調節し、酸素レベルを低酸素レベルに調節し、全体的に高圧の条件にもかかわらず低酸素レベルが優先されるように、大気圧および酸素レベルを独立して調節する、実施形態1~7のいずれか1項記載の方法。
【0182】
実施形態9:酸素のレベルが約0.1%~約20%の範囲である、実施形態1~8のいずれか1項記載の方法。
【0183】
実施形態10:酸素のレベルが約1%~約15%の範囲である、実施形態1~9のいずれか1項記載の方法。
【0184】
実施形態11:酸素のレベルが約2%~約10%の範囲である、実施形態1~10のいずれか1項記載の方法。
【0185】
実施形態12:全大気圧が周囲大気圧のものよりも約0.1PSI~約10PSIの範囲の値だけ大きい、実施形態1~11のいずれか1項記載の方法。
【0186】
実施形態13:全大気圧が周囲大気圧の圧力よりも約1PSI~約6PSIの範囲の値だけ大きい、実施形態1~12のいずれか1項記載の方法。
【0187】
実施形態14:全大気圧が周囲大気圧の圧力よりも約2PSI~約5PSIの範囲の値だけ大きい、実施形態1~13のいずれか1項記載の方法。
【0188】
実施形態15:大気条件の第3可変性パラメーターが二酸化炭素レベルまたは温度を含む、実施形態1~14のいずれか1項記載の方法。
【0189】
実施形態16:温度が約33℃~約40℃の範囲である、実施形態15記載の方法。
【0190】
実施形態17:大気中の二酸化炭素のレベルが液体培地のpHに影響を及ぼし、pHが、サブセット集団を第2表現型へと導くことに寄与しうるもう1つの可変性パラメーターを構成する、実施形態15記載の方法。表現型。
【0191】
実施形態18:第1表現型のサブセット集団が、2以上の可変性大気パラメータの組合せに応答性である表現型可塑性を含み、該可塑性が、第1表現型を第2表現型へと導くことを支持する、実施形態1~17のいずれか1項記載の方法。
【0192】
実施形態19:サブセット集団を第1表現型から第2表現型へと導くことが、同時に行われるトランスフェクション法の非存在下で生じる、実施形態1~18のいずれか1項記載の方法。
【0193】
実施形態20:サブセット集団を第1表現型から第2表現型へと導くことが、同時に行われるトランスフェクション法と共に生じる、実施形態1~18のいずれか1項記載の方法。
【0194】
実施形態21:第2表現型の相対的増殖速度が、第1表現型のものより大きい、または第2表現型のものと実質的に同等である、または第1表現型のものより小さい、のいずれかでありうる、実施形態1~20のいずれか1項記載の方法。
【0195】
実施形態22:ソース集団の少なくともサブセット集団の表現型を調節することが、ソース集団内のサブセット集団の相対的存在を変化させることを含む、実施形態1~21のいずれか1項記載の方法。
【0196】
実施形態23:ソース集団内のサブセット集団の相対的存在を変化させることが、ソース細胞集団内の他のサブセット集団と比較して該サブセット集団の正味の増殖速度を増加させることを含む、実施形態22記載の方法。
【0197】
実施形態24:ソース集団内のサブセット集団の相対的存在を変化させることが、個々の細胞を第1表現型から第2表現型へと変換することを含む、実施形態22記載の方法。
【0198】
実施形態25:ソース集団の少なくともサブセット集団の表現型を調節することが、インキュベーター内の大気条件の2以上の変数の調節の非存在下では生じない表現型の変化を導くことを含む、実施形態1~24のいずれか1項記載の方法。
【0199】
実施形態26:ソース集団の少なくともサブセット集団の表現型を調節することが、インキュベーター内の大気条件の2以上の変数の調節の非存在下で生じうる表現型の変化を加速することを含む、実施形態1~24のいずれか1項記載の方法。
【0200】
実施形態27:大気条件の2以上の可変性パラメーターが酸素レベルおよび全ガス圧を含み、細胞培養インキュベーター内で細胞を培養することが、酸素レベルおよび全ガス圧の両方が実質的に一定である培養実施のための培養を含む、実施形態1~26のいずれか1項記載の方法。
【0201】
実施形態28:大気条件の2以上の可変性パラメーターが酸素レベルおよび全ガス圧を含み、細胞培養インキュベーター内で細胞を培養することが、培養実施にわたって酸素レベルまたは全ガス圧の少なくとも1つを変化させることを含む、実施形態1~27のいずれか1項記載の方法。
【0202】
実施形態29:培養期間中に少なくとも1つの個々のガスおよび全ガス圧の少なくとも1つを変化させることが、培養期間中に少なくとも1つの個々のガスの濃度および全ガス圧のいずれか1以上を増加または減少させることのいずれかを含む、実施形態28記載の方法。
【0203】
実施形態30:少なくとも1つの個々のガスの濃度および全ガス圧のいずれか1以上を変化させることが、ランプ関数(ramping function)として変化させることを含む、実施形態28記載の方法。
【0204】
実施形態31:少なくとも1つの個々のガスの濃度および全ガス圧のいずれか1以上を変化させることが、階段関数(step function)として変化させることを含む、実施形態28記載の方法。
【0205】
実施形態32:液体細胞培養培地内の溶存ガスレベルが、該培地がさらされる大気条件と平衡状態になるのに十分な経過時間にわたって、階段関数が生じる、実施形態31記載の方法。
【0206】
実施形態33:少なくとも1つの個々のガスの濃度および全ガス圧のいずれか1以上を変化させることが、第1セットのガス条件下で培養すること、および少なくとも第2セットのガス条件下で培養することを含む、実施形態28記載の方法。
【0207】
実施形態34:第1ガス条件下で培養すること、および少なくとも第2ガス条件下で培養することが、第1条件から少なくとも第2条件へ移行させること、および第1条件に1回以上戻すことを含む、実施形態33記載の方法。
【0208】
実施形態35:少なくとも1つの個々のガスおよび全ガス圧のいずれか1以上を変化させることが、(a)全ガス圧、および(b)少なくとも1つのガスの濃度を同期的に変化させることを含む、実施形態28記載の方法。
【0209】
実施形態36:少なくとも1つの個々のガスおよび全ガス圧のいずれか1以上を変化させることが、(a)全ガス圧、および(b)少なくとも1つのガスの濃度を非同期的に変化させることを含む、実施形態28記載の方法。
【0210】
実施形態37:液体媒体が1以上の生物活性物質を含む、実施形態1~36のいずれか1項記載の方法。
【0211】
実施形態38:生物活性物質が核酸、ペプチド、タンパク質または脂質のいずれかを含む、実施形態37記載の方法。
【0212】
実施形態39:生物活性物質が転写因子、サイトカインまたは増殖因子のいずれかを含む、実施形態37記載の方法。
【0213】
実施形態40:大気条件の2以上の可変性パラメーターを調節することが、気相ヘッドスペース内の1以上の個々のガスと、液体培地に溶解している前記の1以上のガスとの間の平衡を確立させ、または該平衡に接近させることを含む、実施形態1~39のいずれか1項記載の方法。
【0214】
実施形態41:ソース集団が、免疫細胞集団、腫瘍細胞集団および幹細胞集団からなる群から選択される細胞集団を含む、実施形態1~40のいずれか1項記載の方法。
【0215】
実施形態42:ソース集団が免疫細胞集団であり、第1表現型から第2表現型への表現型シフトが低酸素大気条件への曝露により調節され、低酸素条件が約1%~約15%の酸素レベル範囲を含む、実施形態41記載の方法。
【0216】
実施形態43:ソース集団が免疫細胞集団であり、第1表現型から第2表現型への表現型シフトが高圧大気条件への曝露により調節され、高圧条件が、周囲大気圧レベルより約2PSI高い大気圧範囲を含む、実施形態41記載の方法。
【0217】
実施形態44:細胞集団が、遺伝的に操作されずに誘導された細胞集団を含む、実施形態41記載の方法。
【0218】
実施形態45:細胞集団が、遺伝的に操作されて誘導された細胞集団を含む、実施形態41記載の方法。
【0219】
実施形態46:細胞集団が、ソース細胞集団に関連する疾患またはその病歴を有する患者または健常ドナー個体のいずれかに由来する細胞集団を含む、実施形態41記載の方法。
【0220】
実施形態47:ソース集団がヒトドナーからのリンパ球集団を含む、実施形態41記載の方法。
【0221】
実施形態48:免疫細胞集団がヒト免疫細胞集団を含む、実施形態41記載の方法。
【0222】
実施形態49:表現型パラメーターの発現を導くことが、免疫系内の免疫細胞の免疫学的機能を免疫調節することを含む、実施形態48記載の方法。
【0223】
実施形態50:免疫細胞機能を免疫調節することが免疫細胞機能の活性化を含む、実施形態49記載の方法。
【0224】
実施形態51:免疫細胞機能を免疫調節することが免疫細胞機能の抑制を含む、実施形態49記載の方法。
【0225】
実施形態52:免疫細胞のソース集団がヒトドナーからの末梢血単核細胞(PBMC)集団を含む、実施形態41記載の方法。
【0226】
実施形態53:PBMC集団を第2表現型へと導く可変性大気パラメーターが、約15%の酸素レベル、および周囲レベルより約0PST~約2PSI高い全大気圧を含む、実施形態52記載の方法。
【0227】
実施形態54:PBMC集団の第2表現型が、第1表現型の場合と比較して、IL-10分泌のレベルの減少を示す、実施形態52記載の方法。
【0228】
実施形態55:PBMC集団を第2表現型へと導く可変性大気パラメーターが、約15%の酸素レベル、および周囲レベルより約2PSI高い全大気圧を含む、実施形態54記載の方法。
【0229】
実施例56:PBMC集団の第2表現型が、第1表現型の場合と比較して、TNFα分泌のレベルの増加を示す、実施形態52記載の方法。
【0230】
実施形態57:PBMC集団を第2表現型へと導く可変性大気パラメーターが、約15%の酸素レベル、および周囲レベルより約0PSI高い全大気圧を含む、実施形態56記載の方法。
【0231】
実施形態58:PBMC集団の第2表現型が、第1表現型の場合と比較して、ノボルマブで前立腺癌細胞を殺滅する能力の増強を示す、実施形態52記載の方法。
【0232】
実施形態59:PBMC集団を第2表現型へと導く可変性大気パラメーターが、約1%の酸素レベル、および周囲レベルより約2PSI高い全大気圧を含む、実施形態58記載の方法。
【0233】
実施形態60:PBMC集団の第2表現型が、第1表現型の場合と比較して、ペンブロ(Pembro)で前立腺癌細胞を殺滅する能力の増強を示す、実施形態52記載の方法。
【0234】
実施形態61:PBMC集団を第2表現型へと導く可変性大気パラメーターが、約1%の酸素レベル、および周囲レベルより約2PSI高い全大気圧を含む、実施形態60記載の方法。
【0235】
実施形態62:免疫細胞のソース集団がヒトドナーからの汎T細胞集団を含む、実施形態41記載の方法。
【0236】
実施形態63:汎T細胞集団を第2表現型へと導く可変性大気パラメーターが、約1%~約15%の酸素レベル、および周囲レベルより約0PSI~約2PSI高い全大気圧を含む、実施形態62記載の方法。
【0237】
実施形態64:汎T細胞集団の第2表現型が、第1表現型の場合と比較して、増殖速度の増加を示す、実施形態62記載の方法。
【0238】
実施形態65:汎T細胞集団を第2表現型へと導く可変性大気パラメーターが、約15%の酸素レベル、および周囲レベルより約2PSI高い全大気圧を含む、実施形態64記載の方法。
【0239】
実施形態66:汎T細胞集団の第2表現型が、第1表現型の場合と比較して、最終細胞密度の増加を示す、実施形態62記載の方法。
【0240】
実施形態67:汎T細胞集団を第2表現型へと導く可変性大気パラメーターが、約15%の酸素レベル、および周囲レベルより約2PSI高い全大気圧を含む、実施形態66記載の方法。
【0241】
実施形態68:汎T細胞集団の第2表現型が、第1表現型の場合と比較して、CD8+ 細胞からCD4+ 細胞への相対的存在におけるシフトを示す、実施形態62記載の方法。
【0242】
実施形態69:汎T細胞集団を第2表現型へと導く可変性大気パラメーターが、約1%の酸素レベル、および周囲レベルより約2PSI高い全大気圧を含む、実施形態68記載の方法。
【0243】
実施形態70:汎T細胞集団の第2表現型が、第1表現型の場合と比較して、サイトカインIL-6の発現の増強を示す、実施形態62記載の方法。
【0244】
実施形態71:汎T細胞集団を第2表現型へと導く可変性大気パラメーターが、約1%の酸素レベル、および周囲レベルより約2PSI高い全大気圧を含む、実施形態70記載の方法。
【0245】
実施形態72:汎T細胞集団の第2表現型が、第1表現型の場合と比較して、サイトカインIL-10の発現の増強を示す、実施形態62記載の方法。
【0246】
実施形態73:汎T細胞集団を第2表現型へと導く可変性大気パラメーターが、約1%の酸素レベル、および周囲レベルより約2PSI高い全大気圧を含む、実施形態72記載の方法。
【0247】
実施形態74:汎T細胞集団の第2表現型が、第1表現型の場合と比較して、細胞傷害性遺伝子GZMBの発現の増強を示す。実施形態62記載の方法。
【0248】
実施形態75:汎T細胞集団を第2表現型へと導く可変性大気パラメーターが、約1%の酸素レベル、および周囲レベルより約2PSI高い全大気圧を含む、実施形態75記載の方法。
【0249】
実施形態76:汎T細胞集団の第2表現型が、第1表現型の場合と比較して、細胞傷害性遺伝子パーフォリンの発現の増強を示す、実施形態62記載の方法。
【0250】
実施形態77:汎T細胞集団を第2表現型へと導く可変性大気パラメーターが、約1%の酸素レベル、および周囲レベルより約2PSI高い全大気圧を含む、実施形態76記載の方法。
【0251】
実施形態78:汎T細胞集団の第2表現型が、第1表現型の場合と比較して、細胞体積の増加が増加していることを示す、実施形態62記載の方法。
【0252】
実施形態79:汎T細胞集団を第2表現型へと導く可変性大気パラメーターが、約1%の酸素レベル、および周囲レベルより約2PSI高い全大気圧を含む、実施形態78記載の方法。
【0253】
実施形態80:汎T細胞集団の第2表現型が、第1表現型の場合と比較して、チェックポイント遺伝子PD1の発現の増強を示す、実施形態62記載の方法。
【0254】
実施形態81:汎T細胞集団を第2表現型へと導く可変性大気パラメーターが、約1%の酸素レベル、および周囲レベルより約0PSI高い全大気圧を含む、実施形態80記載の方法。
【0255】
実施形態82:汎T細胞集団の第2表現型が、第1表現型の場合と比較して、チェックポイント遺伝子CTLA4の発現の増強を示す、実施形態62記載の方法。
【0256】
実施形態83:汎T細胞集団を第2表現型へと導く可変性大気パラメーターが、約15%の酸素レベル、および周囲レベルより約2PSI高い全大気圧を含む、実施形態82記載の方法。
【0257】
実施形態84:汎T細胞集団の第2表現型が、第1表現型の場合と比較して、IFNガンマ分泌のレベルの増加を示す、実施形態62記載の方法。
【0258】
実施形態85:汎T細胞集団を第2表現型へと導く可変性大気パラメーターが、約1%の酸素レベル、および周囲レベルより約2PSI高い全大気圧を含む、実施形態84記載の方法。
【0259】
実施形態86:汎T細胞集団の第2表現型が、第1表現型の場合と比較して、IL-6分泌のレベルの増加を示す、実施形態62記載の方法。
【0260】
実施形態87:汎T細胞集団を第2表現型へと導く可変性大気パラメーターが、約1%の酸素レベル、および周囲レベルより約2PSI高い全大気圧を含む、実施形態86記載の方法。
【0261】
実施形態88:免疫細胞のソース集団がヒトドナーからのTreg細胞集団を含む、実施形態41記載の方法。
【0262】
実施形態89:Treg細胞集団の第2表現型が、第1表現型の場合と比較して、FOXP3の発現速度の増加を示す、実施形態88記載の方法。
【0263】
実施形態90:Treg細胞集団を第2表現型へと導く可変性大気パラメーターが、約1%~約5%の酸素レベル、および周囲レベルより約2PSI高い全大気圧を含む、実施形態89記載の方法。
【0264】
実施形態91:免疫細胞集団が造血幹細胞集団および子孫系統集団を含む、実施形態41記載の方法。
【0265】
実施形態92:子孫免疫細胞系統集団が、リンパ系共通前駆細胞の集団および骨髄系共通前駆細胞の集団からなる群から選択される、実施形態91記載の方法。
【0266】
実施形態93:リンパ系共通前駆細胞集団が、B細胞集団、ナチュラルキラー(NK)細胞集団、T細胞集団および樹状細胞集団からなる群から選択される、実施形態92記載の方法。
【0267】
実施形態94:骨髄系共通前駆細胞集団が、顆粒球マクロファージ前駆細胞集団および巨核球赤芽球前駆細胞集団からなる群から選択される、実施形態92記載の方法。
【0268】
実施形態95:顆粒球マクロファージ前駆細胞集団が、単球集団および骨髄芽球集団からなる群から選択される、実施形態94記載の方法。
【0269】
実施形態96:単球集団が、単球由来樹状細胞およびマクロファージからなる群から選択される、実施形態95記載の方法。
【0270】
実施形態97:骨髄芽球集団が、好中球集団、好酸球集団および好塩基球集団からなる群から選択される、実施形態95記載の方法。
【0271】
実施形態98:巨核球赤血球前駆細胞集団が、赤血球集団および巨核球集団からなる群から選択される、実施形態94記載の方法。
【0272】
実施形態99:腫瘍細胞集団が、卵巣癌、急性骨髄性白血病、膵臓癌、非小細胞肺癌(NSCLC)、結腸直腸腫瘍、前立腺癌、肝癌、中皮腫および黒色腫からなる群から選択される癌に由来する、実施形態41記載の方法。
【0273】
実施形態100:幹細胞集団が間葉系幹細胞を含み、該幹細胞が前駆体亜群、未成熟亜群および成熟亜群を含む、実施形態41記載の方法。
【0274】
実施形態101:第2表現型の細胞集団が該方法の目的産物であり、大気条件の2以上の可変性パラメーターを調節することが、目的産物の発現に有利である2以上の可変性パラメーターの値を選択することを含む、実施形態1~100のいずれか1項記載の方法。
【0275】
実施形態102:条件の選択が、該方法の実施において使用されているソース集団と同一または類似のタイプの細胞集団の以前の例からの実験データに基づく、実施形態101記載の方法。
【0276】
実施形態103:第2表現型が示すいずれか1以上の細胞培養性能パラメーターゆえに第2表現型が望ましく、該パラメーターが、細胞増殖速度、細胞死速度、達成可能な細胞密度、細胞産物(天然物またはトランスフェクションに基づくもの)の産生の速度、細胞形態、細胞寸法、細胞接着特性、細胞電気特性、細胞代謝活性、細胞遊走挙動、細胞活性化状態、細胞分化状態、バイオマーカー表示、トランスフェクションに対する適合性または抵抗性、感染に対する感受性または抵抗性、ウイルス形質導入に対する適合性または抵抗性、生物活性物質に対する応答性または抵抗性、あるいは細胞表現型または機能の任意の他の観察可能な態様からなる群から選択される、実施形態101記載の方法。
【0277】
実施形態104:細胞活性化状態が免疫細胞活性化状態を含み、表現型パラメーターの発現を導くことが、比較的高い免疫学的細胞機能状態に導くこと、または比較的抑制された免疫学的細胞機能状態に導くことのいずれかを含む、実施形態103記載の方法。
【0278】
実施形態105:第2表現型の細胞の集団を、それを更に培養することにより増殖させることを更に含む、実施形態1~104のいずれか1項記載の方法。
【0279】
実施形態106:特定の第2表現型が望ましく、所望の第2表現型の発現に有利な大気条件の2以上の独立して調節されるパラメーターのセットが決定されており、該方法が、第2表現型の細胞を、それらの2以上の独立して調節される大気条件下で培養することにより、第2表現型を発現する細胞の培養サブセットを増殖させることを更に含む、実施形態1~105のいずれか1項記載の方法。
【0280】
実施形態107:該方法が、所望の第2表現型の発現に有利な大気条件の2以上の独立して調節されるパラメーターの値を決定することを更に含み、該方法が、細胞のソース集団を、少なくとも第1コホート培養および第2コホート培養を含むコホート培養に分割すること;コホート培養のそれぞれにおける所望の表現型を示す細胞培養性能パラメーターを測定すること;ならびに、コホート培養における細胞培養性能パラメーターの結果に基づいて、大気条件における変動のどれが、所望の表現型を有する細胞集団の増殖に最適であるかを決定することを含む、実施形態106記載の方法。
【0281】
実施形態108:第2表現型のサブセット細胞集団が、薬物または薬物候補試験フォーマットにおける更なる培養に向けられる、実施形態1~107のいずれか1項記載の方法。
【0282】
実施形態109:細胞の初期ソース集団に由来する細胞集団の表現型の表現型均質性を増加させる方法であって、該方法が、いずれかのそれぞれの周囲大気条件に無関係にインキュベーター内の大気条件の2以上の可変性パラメーターを調節するように構成された細胞培養インキュベーター内の液体培地においてソース細胞集団を培養すること(ここで、ソース集団の表現型は、最初に、細胞培養性能の1以上のパラメーターに関する変動性の初期レベルを含む)、インキュベーター内の大気条件の2以上の可変性パラメーターを調節して、該可変性パラメーターの少なくとも1つがそれぞれの可変性パラメーターの周囲レベルと異なるようにすること、ならびに、調節された大気条件下のソース細胞集団の培養の結果として、細胞培養性能の1以上のパラメーターに関する変動性のレベルを減少させて、細胞のソース集団のものより大きな表現型均質性のレベルを有する細胞の後続集団を得ることを含む、方法。
【0283】
実施形態110:細胞の後続集団を、薬物または薬物候補の有効性を試験するための基体として適用することを更に含む、実施形態109記載の方法。
【0284】
実施形態111:薬物または薬物候補が細胞の後続集団に対しておそらく細胞毒性であるとみなされる、実施形態110記載の方法。
【0285】
実施形態112:薬物または薬物候補が細胞の後続集団をおそらく支持するとみなされる、実施形態1110記載の方法。
【0286】
実施形態113:細胞のソース集団の少なくともサブセット集団の表現型を安定化する方法であって、該方法が、インキュベーター内の大気パラメーターを調節するように構成された細胞培養インキュベーター内の液体培地においてソース細胞集団を培養すること(ここで、大気パラメーターは酸素レベルおよび全ガス圧レベルを含む)、インキュベーター内の大気パラメーターを調節して、大気パラメーターの少なくとも1つがその周囲レベルと異なるようにすること、ならびに、大気パラメーターの調節の結果として、第1表現型としての細胞集団を安定化すること(ここで、第2表現型は、インキュベーター内の可変性大気パラメーターが周囲条件と実質的に一致している大気条件下で細胞集団がドリフトする方向のものである)を含む、方法。
【0287】
実施形態114:ソース集団が、免疫細胞、腫瘍細胞および幹細胞からなる群から選択される細胞集団を含む、実施形態113記載の方法。
【0288】
実施形態115:第1表現型が、細胞培養実施の期間にわたって、インキュベーター内で調節された大気条件への曝露の結果として発現され続け、第2表現型が、インキュベーター内の可変性大気パラメーターが周囲条件と実質的に一致している場合には発現される、実施形態113記載の方法。
【0289】
実施形態116:培地内で培養されている細胞のソース集団の所望の表現型の発現に全体的に有利である、液体細胞培地を重層(overlay)する大気(雰囲気)中の酸素レベル値および全ガス圧値の値を決定する方法であって、該方法が、細胞のソース集団を、少なくとも第1コホート培養および第2コホート培養を含むコホート培養に分割すること、コホート細胞培養を、酸素濃度および全ガス圧のいずれかにおける変動に関してのみ異なる大気条件下で並行して培養すること、コホート培養のそれぞれにおける所望の表現型を示す細胞培養性能パラメーターを測定すること、ならびに、コホート培養における細胞培養性能パラメーターの結果に基づいて、どの酸素レベルおよびどの全ガス圧レベルが、所望の表現型を有する細胞集団の増殖に最適であるかを決定することを含む、方法。
【0290】
実施形態117:該方法を開始する前に、細胞培養性能の1以上のパラメータにおいて反映される所望の表現型の特徴を決定することを更に含む、実施形態116記載の方法。
【0291】
実施形態118:細胞培養性能パラメーターが、増殖速度、細胞死速度、達成可能な細胞密度、細胞産物(天然物またはトランスフェクションに基づくもの)の産生の速度、細胞形態、細胞寸法、細胞接着特性、細胞電気特性、細胞代謝活性、細胞遊走挙動、細胞活性化状態、細胞分化状態、バイオマーカー表示、トランスフェクションに対する適合性または抵抗性、感染に対する感受性または抵抗性、ウイルス形質導入に対する適合性または抵抗性、生物活性物質に対する応答性または抵抗性、あるいは細胞表現型または機能の任意の他の観察可能な態様からなる群から選択される、実施形態116記載の方法。
【0292】
実施形態119:ソース集団が、免疫細胞、腫瘍細胞および幹細胞からなる群から選択される細胞集団を含む、実施形態116記載の方法。
【0293】
実施形態120:生物活性物質の存在に最適に応答する免疫細胞集団表現型の発現に有利な細胞培養インキュベーター内の酸素レベルおよび全ガス圧のレベルを決定する方法であって、該方法が、免疫細胞集団を複数のコホート細胞培養に分割すること、コホート細胞培養を、酸素レベルまたは全ガス圧のいずれかにおける変動に関してのみ異なる大気条件下で並行して培養すること、各コホート培養において、免疫細胞指向性生物活性物質に応答性である細胞培養性能パラメータを測定すること、ならびに、コホート培養における細胞培養性能パラメーターの測定に基づいて、酸素レベルおよび全ガス圧レベルのどれが、生物活性物質に対するコホート免疫細胞培養における最大の応答性を支持するかを決定することを含む、方法。
【0294】
実施形態121:細胞培養性能パラメーターが、増殖速度、細胞死速度、達成可能な細胞密度、細胞産物(天然物またはトランスフェクションに基づくもの)の産生の速度、細胞形態、細胞寸法、細胞接着特性、細胞電気特性、細胞代謝活性、細胞遊走挙動、細胞活性化状態、細胞分化状態、バイオマーカー表示、トランスフェクションに対する適合性または抵抗性、感染に対する感受性または抵抗性、ウイルス形質導入に対する適合性または抵抗性、生物活性物質に対する応答性または抵抗性、あるいは細胞表現型または機能の任意の他の観察可能な態様のいずれか1以上を含む、実施形態120記載の方法。
【0295】
実施形態122:生物活性物質の効果が、細胞培養性能パラメータ応答の大きさを増加させる、実施形態121記載の方法。
【0296】
実施形態123:生物活性物質の効果が細胞培養性能パラメータ応答の大きさを減少させる、実施形態121記載の方法。
【0297】
実施形態124:患者由来の癌細胞に対する抗癌剤の有効性を試験する方法であって、患者の腫瘍に由来する細胞集団を、該患者のもののような腫瘍からの細胞の増殖を支持することが知られている又は推定される重層(overlaying)大気条件下、液体培地内で増殖させること(ここで、大気条件は低酸素レベルの酸素および高圧レベルの全ガス圧を含み、細胞集団の増殖は、複数のコホート培養を播種するのに十分なレベルへの増殖を含む)、増殖した細胞集団を複数のコホート細胞培養に分割すること、1以上の抗癌剤の存在以外は同一である条件下、かつ、抗癌剤の有効性を試験するのに最適な細胞表現型の発現を支持することが知られている又は推定される大気条件下、コホート細胞培養を並行して培養すること(ここで、大気条件は低酸素レベルの酸素および高圧レベルの全ガス圧を含む)、各コホート培養において、該抗癌剤による影響を受ける細胞培養性能パラメーターを測定すること、ならびに、コホート培養における細胞培養性能パラメーターの測定に基づいて、患者の腫瘍の治療における1以上の抗癌剤の有効性を予測することを含む方法。
【0298】
実施形態125:抗癌剤が臨床的使用のための製剤中に含まれる、実施形態124記載の方法。
【0299】
実施形態126:製剤が1以上の他の抗癌剤を含む、実施形態125記載の方法。
【0300】
実施形態127:目的の表現型を得るために細胞培養集団の表現型発現を調節する方法であって、該方法が、大気条件制御インキュベータープログラムを作動させるように構成された細胞培養インキュベーター内でソース細胞集団をインキュベートすること[ここで、該プログラムは、目的の表現型の発現を最適化する大気条件を導き、該プログラムは(1)酸素レベルおよび(2)全ガス圧レベルに関する設定点範囲を含む]、大気条件設定点範囲に従いインキュベーター内の酸素レベルおよび全ガス圧を調節すること、ならびに、目的の表現型を発現する細胞の増殖集団を得るために十分な培養期間にわたって、細胞集団を該大気条件設定点範囲に従い培養すること(ここで、増殖した細胞集団はヒト治療用物質としての潜在的用途を含む)を含む、方法。
【0301】
実施形態128:増殖した細胞集団が、研究モデル、薬物もしくは候補薬物開発で使用するための薬物スクリーニングモデル、または薬物もしくは候補薬物の有効性を試験するための患者特異的モデルからなる群におけるいずれか1以上の適用における潜在的用途を更に含む、実施形態127記載の方法。
【0302】
実施形態129:目的の表現型に有利な大気条件モジュールに従いインキュベーター内の酸素レベルおよび全ガス圧を調節する前に、該方法が、目的の表現型に有利な酸素レベルおよび全ガス圧条件を実験的に決定することを更に含む、実施形態127記載の方法。
【0303】
実施形態130:目的の表現型に有利な酸素レベルおよび全ガス圧条件が、ソース集団と同じタイプの細胞の集団の以前の例からの実験データまたはソース集団のもの類似した細胞の集団の以前の例からのデータのいずれかに基づく、実施形態129記載の方法。
【0304】
実施形態131:ソース細胞集団を培養することが、臨床的製造条件下での培養を含む、実施形態127記載の方法。
【0305】
実施形態132:目的の表現型を発現する細胞の増殖した集団を、臨床的使用に適したパッケージングにパッケージ化することを更に含む、実施形態127記載の方法。
【0306】
実施形態133:最適な製造プロセス効率を達成するために細胞培養集団の表現型発現を調節する方法であって、該方法が、第1大気条件制御モジュールおよび第2大気条件制御モジュールを作動させるように構成された細胞培養インキュベーター内の液体培地内でソース細胞集団を培養すること(ここで、各モジュールは酸素レベルおよび全ガス圧レベルに関する設定点範囲を含み、第1大気条件モジュールと第2大気条件モジュールとは互いに異なる)、ならびに、細胞培養実施の経過にわたって、第1段階および第2段階において、インキュベーター内の酸素レベルおよび全ガス圧を調節すること(ここで、第1段階は、目的の表現型を発現する可能性を含む細胞集団の増殖を支持するように最適化された大気条件制御モジュールに従い実施され、第2段階は、目的の表現型の発現を支持するように最適化された第2大気条件制御モジュールに従い実施される)を含む、方法。
【0307】
実施形態134:細胞培養実施の第1段階における酸素レベルの設定点範囲が細胞培養実施の第2段階における酸素レベルより高い、実施形態133記載の細胞培養集団の表現型発現を調節する方法。
【0308】
実施形態135:該方法の産物が細胞集団を含み、該集団がヒト治療用物質としての潜在的用途を含む、実施形態133記載の細胞培養集団の表現型発現を調節する方法。
【0309】
実施形態136:該方法の産物、細胞に基づく産物を含み、産物がヒト治療用物質としての潜在的用途を含む、実施形態133記載の細胞培養集団の表現型発現を調節する方法。
【0310】
実施形態137:細胞のソース集団の少なくともサブセット集団の表現型を調節する方法により製造される産物であって、該方法が、いずれのそれぞれの周囲大気条件にも無関係に、インキュベーター内の大気条件の少なくとも2つの可変性パラメーターを調節しうる細胞培養インキュベーター内でソース細胞集団を培養すること(ここで、該パラメーターは酸素レベルおよび全ガス圧レベルを含む)、インキュベーター内の大気条件の可変性パラメーターを調節して、それらの少なくとも1つがそれぞれの可変性パラメーターの周囲レベルと異なるようにすること、ならびに、大気条件の調節の結果として、サブセット集団を第1表現型から第2表現型へと導くこと(ここで、サブセット細胞集団の第1表現型は、インキュベーター内の可変性大気パラメーターが周囲条件と実質的に同じである大気条件下で発現されるものであり、サブセット細胞集団の第2表現型は、インキュベーター内で調節された大気条件への曝露の結果として発現される)、ならびに産物を収集すること(ここで、産物は、第2表現型の細胞集団、または第2表現型の細胞集団により製造された産物のいずれかである)を含む、産物。
【0311】
実施形態138:産物が第2表現型産物の細胞のサブセット集団を含み、臨床的治療における使用に適している、実施形態137記載の産物。
【0312】
実施形態139:産物が、第2表現型の細胞のサブセット集団により製造される生化学的産物を含み、生化学的産物が臨床的治療における使用に適している、実施形態137記載の産物。
【0313】
幾つかの実施形態においては、本発明は、約1%~約15%の酸素および大気圧より最大約2PSI高い圧力の条件下で細胞を培養することを含む、細胞傷害性の増強のために細胞を培養する方法を提供し、ここで、培養を、少なくとも、約18%の酸素および大気圧より0PSI高い圧力の培養条件でのサイトカインの発現と比較してサイトカインの発現が変化するまで行い、細胞は末梢血単核細胞(PBMC)、汎T細胞、制御性T細胞(Treg)またはナチュラルキラー(NK)細胞である。幾つかの実施形態においては、酸素は約15%である。幾つかの実施形態においては、圧力条件は大気圧より少なくとも約1PSI高い。幾つかの実施形態においては、サイトカインの発現は、約18%の酸素および大気圧より0PSI高い圧力の培養条件でのサイトカインの発現と比較して増強する。幾つかの実施形態においては、サイトカインの発現は、約18%の酸素および大気圧より0PSI高い圧力の培養条件でのサイトカインの発現と比較して低減する。幾つかの実施形態においては、細胞はPBMCである。幾つかの実施形態においては、サイトカインはIL-10であり、IL-10の発現は低減する。幾つかの実施形態においては、サイトカインはTNF-αであり、TNF-αの発現は増強する。幾つかの実施形態においては、サイトカインはIL-6であり、IL-6の発現は低減する。幾つかの実施形態においては、サイトカインはIFN-γであり、IFN-γの発現は増強する。幾つかの実施形態においては、サイトカインはTGF-β1であり、TGF-β1の発現は増強する。幾つかの実施形態においては、PBMCの細胞傷害性は、18%の酸素および大気圧より0PSI高い圧力の対照培養条件でのPMBCの細胞傷害性と比較して、少なくとも約20%増強する。幾つかの実施形態においては、細胞は汎T細胞である。幾つかの実施形態においては、サイトカインはIL-6であり、IL-6の発現は増強する。幾つかの実施形態においては、サイトカインはIFN-γであり、IFN-γの発現は増強する。幾つかの実施形態においては、汎T細胞の細胞傷害性は、18%の酸素および大気圧より0PSI高い圧力の対照培養条件での汎T細胞の細胞傷害性と比較して、少なくとも約20%増強する。幾つかの実施形態においては、細胞傷害性遺伝子の発現は、18%の酸素および大気圧より0PSI高い圧力の対照培養条件での細胞傷害性遺伝子の発現と比較して変化する。幾つかの実施形態においては、細胞傷害性遺伝子の発現は、約18%の酸素および大気圧より0PSI高い圧力の培養条件での細胞傷害性遺伝子の発現と比較して増強する。幾つかの実施形態においては、細胞傷害性遺伝子はGZMBである。幾つかの実施形態においては、細胞傷害性遺伝子はパーフォリンである。幾つかの実施形態においては、チェックポイント遺伝子の発現は、18%の酸素および大気圧より0PSI高い圧力の対照培養条件でのチェックポイント遺伝子の発現と比較して変化する。幾つかの実施形態においては、チェックポイント遺伝子の発現は、約18%の酸素および大気圧より0PSI高い圧力の培養条件におけるチェックポイント遺伝子の発現と比較して増強する。幾つかの実施形態においては、チェックポイント遺伝子はPD1である。
【0314】
幾つかの実施形態においては、本発明は、腫瘍の治療を要する対象における腫瘍の治療方法を提供し、該方法は、約1%~約15%の酸素および大気圧より最大約2PSI高い圧力の条件下で細胞を培養し、ここで、培養を、少なくとも、約18%の酸素および大気圧より0PSI高い圧力の培養条件でのサイトカインの発現と比較してサイトカインの発現が変化するまで行い、培養の後、細胞を対象に投与することを含み、ここで、細胞は末梢血単核細胞(PBMC)、汎T細胞、制御性T細胞(Treg)またはナチュラルキラー(NK)細胞である。幾つかの実施形態においては、酸素は約15%である。幾つかの実施形態においては、圧力条件は大気圧より少なくとも約1PSI高い。幾つかの実施形態においては、サイトカインの発現は、約18%の酸素および大気圧より0PSI高い圧力の培養条件でのサイトカインの発現と比較して増強する。幾つかの実施形態においては、サイトカインの発現は、約18%の酸素および大気圧より0PSI高い圧力の培養条件でのサイトカインの発現と比較して低減する。幾つかの実施形態においては、細胞はPBMCである。幾つかの実施形態においては、サイトカインはIL-10であり、IL-10の発現は低減する。幾つかの実施形態においては、サイトカインはTNF-αであり、TNF-αの発現は増強する。幾つかの実施形態においては、サイトカインはIL-6であり、IL-6の発現は低減する。幾つかの実施形態においては、サイトカインはIFN-γであり、IFN-γの発現は増強する。幾つかの実施形態においては、サイトカインはTGF-β1であり、TGF-β1の発現は増強する。幾つかの実施形態においては、細胞は汎T細胞である。幾つかの実施形態においては、サイトカインはIL-6であり、IL-6の発現は増強する。幾つかの実施形態においては、サイトカインはIFN-γであり、IFN-γの発現は増強する。幾つかの実施形態においては、細胞の細胞傷害性は、18%の酸素および大気圧より0PSI高い圧力の対照培養条件での細胞の細胞傷害性と比較して、少なくとも約20%増強する。幾つかの実施形態においては、細胞傷害性遺伝子の発現は、18%の酸素および大気圧より0PSI高い圧力の対照培養条件での細胞傷害性遺伝子の発現と比較して変化する。幾つかの実施形態においては、細胞傷害性遺伝子の発現は、約18%の酸素および大気圧より0PSI高い圧力の培養条件での細胞傷害性遺伝子の発現と比較して増強する。幾つかの実施形態においては、細胞傷害性遺伝子はGZMBである。幾つかの実施形態においては、細胞傷害性遺伝子はパーフォリンである。幾つかの実施形態においては、チェックポイント遺伝子の発現は、18%の酸素および大気圧より0PSI高い圧力の対照培養条件でのチェックポイント遺伝子の発現と比較して変化する。幾つかの実施形態においては、チェックポイント遺伝子の発現は、約18%の酸素および大気圧より0PSI高い圧力の培養条件におけるチェックポイント遺伝子の発現と比較して増強する。幾つかの実施形態においては、チェックポイント遺伝子はPD1である。幾つかの実施形態においては、細胞を抗癌剤と共に対象に共投与する。幾つかの実施形態においては、細胞はPBMCである。幾つかの実施形態においては、抗癌剤はPD1インヒビターである。幾つかの実施形態においては、抗癌剤はペンブロリズマブである。幾つかの実施形態においては、抗癌剤はニボルマブである。幾つかの実施形態においては、腫瘍は前立腺癌細胞を含む。
【0315】
幾つかの実施形態においては、本発明は、抗癌剤の有効性を決定するための方法を提供し、該方法は、(a)約1%~約15%の酸素および大気圧より最大約2PSI高い圧力の条件下、末梢血単核細胞(PBMC)、汎T細胞、制御性T細胞(Treg)またはナチュラルキラー(NK)細胞からなる群から選択される細胞を培養し、ここで、培養を、少なくとも、約18%の酸素および大気圧より0PSI高い圧力の培養条件でのサイトカインの発現と比較してサイトカインの発現が変化するまで行い、培養の後、(b)腫瘍細胞を該細胞および抗癌剤と接触させ、(c)少なくとも約5日後に腫瘍細胞に対する細胞傷害性(細胞毒性)を測定し、それにより腫瘍細胞に対する抗癌剤の有効性を決定することを含む。幾つかの実施形態においては、酸素は約15%である。幾つかの実施形態においては、圧力条件は大気圧より少なくとも約1PSI高い。幾つかの実施形態においては、サイトカインの発現は、約18%の酸素および大気圧より0PSI高い圧力の培養条件でのサイトカインの発現と比較して増強する。幾つかの実施形態においては、サイトカインの発現は、約18%の酸素および大気圧より0PSI高い圧力の培養条件でのサイトカインの発現と比較して低減する。幾つかの実施形態においては、細胞はPBMCである。幾つかの実施形態においては、サイトカインはIL-10であり、IL-10の発現は低減する。幾つかの実施形態においては、サイトカインはTNF-αであり、TNF-αの発現は増強する。幾つかの実施形態においては、サイトカインはIL-6であり、IL-6の発現は低減する。幾つかの実施形態においては、サイトカインはIFN-γであり、IFN-γの発現は増強する。幾つかの実施形態においては、サイトカインはTGF-β1であり、TGF-β1の発現は増強する。幾つかの実施形態においては、抗癌剤はPD1インヒビターである。幾つかの実施形態においては、抗癌剤はペンブロリズマブである。幾つかの実施形態においては、抗癌剤はニボルマブである。幾つかの実施形態においては、腫瘍細胞は前立腺癌細胞である。
【0316】
幾つかの実施形態においては、本発明は、汎T細胞のソース(供給源)集団から細胞亜集団を富化(濃縮)する方法を提供し、該方法は、約1%~約15%の酸素および大気圧より最大約2PSI高い圧力の条件下、該ソース集団を培養することを含み、ここで、細胞亜集団はCD8+ 細胞またはCD4+ 細胞を含む。幾つかの実施形態においては、細胞亜集団はCD8+ 細胞を含む。幾つかの実施形態においては、酸素は約15%であり、圧力条件は大気圧より約2PSI高い。幾つかの実施形態においては、細胞亜集団はCD4+ 細胞を含む。幾つかの実施形態においては、酸素は約1%であり、圧力条件は大気圧より約2PSI高い。
【0317】
幾つかの実施形態においては、本発明は、腫瘍の治療を要する対象における腫瘍の治療方法を提供し、該方法は、約1%~約15%の酸素および大気圧より最大約2PSI高い圧力の条件下で細胞を培養し、ここで、培養を、少なくとも、約18%の酸素および大気圧より0PSI高い圧力の培養条件でのIL-6およびIFN-γの発現と比較してIL-6およびIFN-γの発現が増強するまで行い、培養の後、細胞を対象に投与することを含み、ここで、細胞は汎T細胞である。
【国際調査報告】