(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-21
(54)【発明の名称】胃がんを診断するためのmiRNAマーカーの組み合わせ物、およびキット
(51)【国際特許分類】
C12N 15/11 20060101AFI20220713BHJP
C12Q 1/6886 20180101ALI20220713BHJP
C12Q 1/6851 20180101ALI20220713BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20220713BHJP
【FI】
C12N15/11 Z ZNA
C12Q1/6886 Z
C12Q1/6851 Z
C12Q1/686 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021564879
(86)(22)【出願日】2020-04-14
(85)【翻訳文提出日】2021-12-28
(86)【国際出願番号】 CN2020084687
(87)【国際公開番号】W WO2020220994
(87)【国際公開日】2020-11-05
(31)【優先権主張番号】201910392316.2
(32)【優先日】2019-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521476805
【氏名又は名称】ミレックサス ラボ プライヴェート リミテッド
【氏名又は名称原語表記】MIRXES LAB PTE.LTD.
【住所又は居所原語表記】Unit 16, 1st Floor, Building 4, No.2 Science Park Road, Baiyang Street, Qiantang New District, Hangzhou, Zhejiang 310018, China
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(72)【発明者】
【氏名】ゾウ、ルイヤン
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA13
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS34
4B063QS36
4B063QX02
(57)【要約】
本発明は、分子生物学の分野に関する。胃がんを診断するためのmiRNAマーカーの組み合わせ物およびキットが開示される。当該胃がんを診断するためのmiRNAマーカーの組み合わせ物には、hsa-miR-29c-3p、hsa-miR-424-5p、hsa-miR-103a-3p、hsa-miR-93-5p、hsa-miR-181a-5p、hsa-miR-21-5p、hsa-miR-140-5p、hsa-miR-30e-5p、hsa-miR-142-5p、hsa-miR-126-3p、hsa-miR-183-5p、およびhsa-miR-340-5pから選択される、少なくとも4つのマーカーが含まれる。胃がんを診断するためのマーカーの組み合わせ物は、胃がん患者の血清と健康なヒトの血清とを区別するために用いることができる。本発明の診断キットは、胃がんを容易に、効果的に、そして非侵襲的に診断することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
hsa-miR-29c-3p、hsa-miR-424-5p、hsa-miR-103a-3p、hsa-miR-93-5p、hsa-miR-181a-5p、hsa-miR-21-5p、hsa-miR-140-5p、hsa-miR-30e-5p、hsa-miR-142-5p、hsa-miR-126-3p、hsa-miR-183-5p、およびhsa-miR-340-5p、から選択される、少なくとも5つのmiRNAマーカーを含むことを特徴とする、胃がんを診断するための末梢血miRNAマーカーの組み合わせ物。
【請求項2】
hsa-miR-29c-3p、hsa-miR-424-5p、hsa-miR-103a-3p、hsa-miR-93-5p、hsa-miR-181a-5p、hsa-miR-21-5p、hsa-miR-140-5p、hsa-miR-30e-5p、hsa-miR-142-5p、hsa-miR-126-3p、hsa-miR-183-5p、およびhsa-miR-340-5pから成ることを特徴とする、請求項1に記載のmiRNAマーカーの組み合わせ物。
【請求項3】
hsa-miR-29c-3p、hsa-miR-424-5p、hsa-miR-103a-3p、hsa-miR-93-5p、hsa-miR-181a-5p、hsa-miR-21-5p、hsa-miR-140-5p、hsa-miR-30e-5p、hsa-miR-126-3p、hsa-miR-183-5p、およびhsa-miR-340-5pから成ることを特徴とする、請求項1に記載のmiRNAマーカーの組み合わせ物。
【請求項4】
hsa-miR-424-5p、hsa-miR-103a-3p、hsa-miR-93-5p、hsa-miR-181a-5p、hsa-miR-21-5p、hsa-miR-140-5p、hsa-miR-30e-5p、hsa-miR-126-3p、hsa-miR-183-5p、およびhsa-miR-340-5pから成ることを特徴とする、請求項1に記載のmiRNAマーカーの組み合わせ物。
【請求項5】
hsa-miR-424-5p、hsa-miR-103a-3p、hsa-miR-181a-5p、hsa-miR-21-5p、hsa-miR-140-5p、hsa-miR-30e-5p、hsa-miR-126-3p、hsa-miR-183-5p、およびhsa-miR-340-5pから成ることを特徴とする、請求項1に記載のmiRNAマーカーの組み合わせ物。
【請求項6】
hsa-miR-424-5p、hsa-miR-103a-3p、hsa-miR-181a-5p、hsa-miR-21-5p、hsa-miR-140-5p、hsa-miR-30e-5p、hsa-miR-126-3p、およびhsa-miR-340-5pから成ることを特徴とする、請求項1に記載のmiRNAマーカーの組み合わせ物。
【請求項7】
hsa-miR-424-5p、hsa-miR-103a-3p、hsa-miR-181a-5p、hsa-miR-21-5p、hsa-miR-140-5p、hsa-miR-30e-5p、およびhsa-miR-340-5pから成ることを特徴とする、請求項1に記載のmiRNAマーカーの組み合わせ物。
【請求項8】
hsa-miR-424-5p、hsa-miR-103a-3p、hsa-miR-181a-5p、hsa-miR-21-5p、hsa-miR-140-5p、およびhsa-miR-340-5pから成ることを特徴とする、請求項1に記載のmiRNAマーカーの組み合わせ物。
【請求項9】
hsa-miR-103a-3p、hsa-miR-181a-5p、hsa-miR-21-5p、hsa-miR-140-5p、およびhsa-miR-340-5pから成ることを特徴とする、請求項1に記載のmiRNAマーカーの組み合わせ物。
【請求項10】
a. 被験者の末梢血サンプルにおいて、請求項1に記載のmiRNAマーカーの組み合わせ物の発現レベルを検出すること、
b. 非がんコントロールサンプルを基準として、前記被験者のリスクスコアを算出し、補正すること、および
c. 前記リスクスコアに基づいて、被験者が胃がんに罹患する可能性を決定すること、を含む、
胃がんに罹患しているリスクのある被験者を特定するための方法。
【請求項11】
線形回帰モデルが、前記リスクスコアを算出するために用いられることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記線形回帰モデルが以下:
【数1】
(式中、miRNA1、miRNA2、miRNA3...が請求項1に記載のmiRNAマーカーから選択され;CtがqPCRによって検出される各miRNAの相対的な発現レベルであり;かつKが各miRNAマーカーの前記係数である)
のように算出されることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記方法が、miRNAマーカーを検出するためのqPCR法、chip法、またはシークエンシング方法を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
請求項1に記載のmiRNAマーカーの組み合わせ物を特異的に検出するための試薬を含むことを特徴とする、胃がんの診断用キット。
【請求項15】
、前記試薬が少なくとも一つのオリゴヌクレオチドを含むことを特徴とし、前記オリゴヌクレオチドの少なくとも一部分が請求項1に記載のmiRNAマーカーに特異的に結合する、請求項14に記載のキット。
【請求項16】
前記キットが、請求項1に記載のmiRNAマーカーを増幅するための、ステムループ逆転写プライマーおよび/またはセミネステッド qPCRプライマーを含む、請求項15に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2019年4月30日に中国特許庁に出願され、「胃がんを診断するためのmiRNAマーカーの組み合わせ物、およびキット」と題された出願番号201910392316.2の中国特許出願の優先権を主張し、その全内容は、参照することにより本出願に組み込まれる。
【0002】
技術分野
本発明は、分子生物学の分野にあり、特に、胃がんを診断するための、miRNAマーカーの組み合わせ物およびキットに関する。
【背景技術】
【0003】
背景
胃がんは世界でもっとも一般的な悪性腫瘍の一つであり、死亡率が最も高い悪性腫瘍の一つである。胃がん患者の大部分は、診断を受けるときには、診断や治療に最適なタイミングを見逃しており、結果として疾患の進行、腫瘍の転移、そして末期段階への進行にすら至る。胃がんのTMN分類の観点から、胃がんの5年生存率は、ステージIの初期で97.6%、ステージIの後期で94.9%、ステージIIで70.49%、ステージIIIの初期で56.7%、ステージIIIの後期で31.9%、そしてステージIVで6.5%である。早期胃がんの診断が必要であることが理解できる。
【0004】
内視鏡(胃鏡)は、現在、胃がんを診断するための最も有益なツールである。早期の胃がんの内視鏡的兆候としては、異常な粘膜の色、粘膜表面における血管の消失、粘膜層における隆起の陥没または肥厚、不規則な結節、および潰瘍の周りの異常な粘膜のひだが挙げられる。必要に応じて、生検のために組織の一部は切除されうる。血液中のタンパク質マーカーの検出は、胃がんの診断の基準として使用されうる。胃がんに対して一般的に使用される腫瘍タンパク質マーカーとしては、例えば、がん胎児性抗原(CEA)、炭水化物抗原19-9(CA19-9)、炭水化物抗原72-4(CA72-4)および炭水化物抗原50(CA50)ならびに胃のプロテアーゼ等が挙げられる。
【0005】
内視鏡検査後の生検は、胃がん検出のためのゴールドスタンダードである。しかしながら、この方法は侵襲的であり、患者に不快感や恐怖心を引き起こしうる。加えて、無症状の患者は通常、内視鏡検査を受けない。従来の腫瘍タンパク質マーカーは、消化器がんの検出によく使用されるが、感度および/または特異性が不足しているため、胃がんの診断には推奨されない。
【0006】
現在、組織、血清または血漿中におけるmiRNA腫瘍マーカーの検出は、胃がんの診断の基準として用いられる。miRNAは、長さが約19~24ntの、一種の小さなノンコーディング一本鎖RNA分子である。大部分のmiRNAは、標的遺伝子の3’UTR領域との相補的結合により、標的遺伝子のタンパク質への翻訳を阻害し得、それにより、細胞、組織、または個体レベルにおける生物の成長と発達に影響を与え、様々な疾患の進行に関与する。miRNAの発現プロファイルには明らかな組織特異性があり、さまざまな腫瘍において特異的な発現パターンを有する。これらの特徴は、miRNAが腫瘍の診断のための新しい生物学的マーカーおよび治療標的となることを可能とする。qPCRは、既知のmiRNAの発現を検出するために最も一般的に使用される方法であり、早く、簡易であり、かつ再現性を有し、非常に高感度で正確な方法でmiRNAの発現を定量的に分析でき、臨床応用において最も重要な方法である。これは、循環miRNAに対して、腫瘍に対する非侵襲的な診断マーカーとしての確かな技術的保証を提供する。
【0007】
既存の研究においては、胃がんの早期診断に対する多くの有望な血清miRNAが見出されているが、これらの結果は一貫しておらず、相互に検証することができない。その理由は、さまざまな研究間において、サンプルの選択、採取、および保存の工程に一貫性がないことにある。異なる方法を用いて分離され、保存された末梢血サンプル中におけるバイオマーカーの含有量は異なる。個人間の体液環境、遺伝的特徴、およびその他の非がん性因子が、miRNAの発現に影響を及ぼし、この影響を排除するためには多数の集団サンプルが必要である。加えて、miRNAの検出はある程度の困難性を有する。したがって、最終的に胃がんの検診に用いることができる血清miRNAバイオマーカーとバイオマーカーとの組み合わせ物は、まだ正確には決定されていない。
【発明の概要】
【0008】
要旨
このことを鑑みて、本発明の目的は、胃がん患者の血清を健康なヒトの血清と区別し、さらに胃がん患者の血清を胃炎患者の血清から区別することで、胃がんを簡単に、効果的にそして非侵襲的に検出することができる、早期胃がんを診断するためのマーカーの組み合わせ物とキットを提供することである。
本発明の目的を達成するために、本発明は、以下の技術的解決策を採用する。
【0009】
本出願人は、胃がんを検出するためのバイオマーカーおよび組み合わせ物として、RT-qPCR技術を用いて、12のmiRNA、具体的には hsa-miR-29c-3p、hsa-miR-424-5p、hsa-miR-103a-3p、hsa- miR-93-5p、hsa-miR-181a-5p、hsa-miR-21-5p、hsa-miR-140-5p、hsa-miR-30e-5p、hsa-miR-142-5p、hsa-miR- 126-3p、hsa-miR-183-5p、およびhsa-miR-340-5pをスクリーニングおよび取得する。本発明に係るmiRNAマーカーの組み合わせ物は、4566人の被験者を試験するために用いられる。その結果は、ヘリコバクターピロリ検査およびペプシノーゲン検査と比較され、内視鏡検査の臨床的なゴールドスタンダード(AUCが0.84)とよく一致しており、かつペプシノーゲンI/II比およびヘリコバクターピロリ検査の、2つの既存のバイオマーカー(AUCが0.62と0.64)の各々よりも有意に優れている。
【0010】
胃がんを診断するためのmiRNAマーカーの組み合わせ物は、hsa-miR-29c-3p、hsa-miR-424-5p、hsa-miR-103a-3p、hsa-miR-93-5p、hsa-miR-181a-5p、hsa-miR-21-5p、hsa-miR-140-5p、hsa-miR-30e-5p、hsa-miR-142-5p、hsa-miR-126-3p、hsa-miR-183-5p、およびhsa-miR-340-5p、から選択される少なくとも4つのmiRNAマーカーを含む。
【0011】
いくつかの実施形態において、前記miRNAマーカーの組み合わせ物は、hsa-miR-29c-3p、hsa-miR-424-5p、hsa-miR-103a-3p、hsa-miR-93-5p、hsa-miR-181a-5p、hsa-miR-21-5p、hsa-miR-140-5p、hsa-miR-30e-5p、hsa-miR-142-5p、hsa-miR-126-3p、hsa-miR-183-5p、およびhsa-miR-340-5p、から選択される少なくとも5つのmiRNAマーカーを含む。
【0012】
いくつかの実施形態において、前記miRNAマーカーの組み合わせ物は、hsa-miR-29c-3p、hsa-miR-424-5p、hsa-miR-103a-3p、hsa-miR-93-5p、hsa-miR-181a-5p、hsa-miR-21-5p、hsa-miR-140-5p、hsa-miR-30e-5p、hsa-miR-142-5p、hsa-miR-126-3p、hsa-miR-183-5pおよびhsa-miR-340-5p、から選択される少なくとも6つのmiRNAマーカーを含む。
【0013】
いくつかの実施形態において、前記miRNAマーカーの組み合わせ物は、hsa-miR-29c-3p、hsa-miR-424-5p、hsa-miR-103a-3p、hsa-miR-93-5p、hsa-miR-181a-5p、hsa-miR-21-5p、hsa-miR-140-5p、hsa-miR-30e-5p、hsa-miR-142-5p、hsa-miR-126-3p、hsa-miR-183-5p、およびhsa-miR-340-5p、から選択される少なくとも7つのmiRNAマーカーを含む。
【0014】
いくつかの実施形態において、前記miRNAマーカーの組み合わせ物は、hsa-miR-29c-3p、hsa-miR-424-5p、hsa-miR-103a-3p、hsa-miR-93-5p、hsa-miR-181a-5p、hsa-miR-21-5p、hsa-miR-140-5p、hsa-miR-30e-5p、hsa-miR-142-5p、hsa-miR-126-3p、hsa-miR-183-5p、およびhsa-miR-340-5p、から選択される少なくとも8つのmiRNAマーカーを含む。
【0015】
いくつかの実施形態において、前記miRNAマーカーの組み合わせ物は、hsa-miR-29c-3p、hsa-miR-424-5p、hsa-miR-103a-3p、hsa-miR-93-5p、hsa-miR-181a-5p、hsa-miR-21-5p、hsa-miR-140-5p、hsa-miR-30e-5p、hsa-miR-142-5p、hsa-miR-126-3p、hsa-miR-183-5p、およびhsa-miR-340-5p、から選択される少なくとも9つのmiRNAマーカーを含む。
【0016】
いくつかの実施形態において、前記miRNAマーカーの組み合わせ物は、hsa-miR-29c-3p、hsa-miR-424-5p、hsa-miR-103a-3p、hsa-miR-93-5p、hsa-miR-181a-5p、hsa-miR-21-5p、hsa-miR-140-5p、hsa-miR-30e-5p、hsa-miR-142-5p、hsa-miR-126-3p、hsa-miR-183-5p、およびhsa-miR-340-5p、から選択される少なくとも10個のmiRNAマーカーを含む。
【0017】
いくつかの実施形態において、前記miRNAマーカーの組み合わせ物は、hsa-miR-29c-3p、hsa-miR-424-5p、hsa-miR-103a-3p、hsa-miR-93-5p、hsa-miR-181a-5p、hsa-miR-21-5p、hsa-miR-140-5p、hsa-miR-30e-5p、hsa-miR-142-5p、hsa-miR-126-3p、hsa-miR-183-5p、およびhsa-miR-340-5p、から選択される少なくとも11個のmiRNAマーカーを含む。
【0018】
いくつかの実施形態において、前記胃がんの診断用の、末梢血サンプル中のmiRNAマーカーの組み合わせ物は、hsa-miR-29c-3p、hsa-miR-424-5p、hsa-miR-103a-3p、hsa-miR-93-5p、hsa-miR-181a-5p、hsa-miR-21-5p、hsa-miR-140-5p、hsa-miR-30e-5p、hsa-miR-142-5p、hsa-miR-126-3p、hsa-miR-183-5p、およびhsa-miR-340-5p、を含む。
【0019】
いくつかの実施形態において、前記miRNAマーカーの組み合わせ物は、12個のmiRNAマーカー:hsa-miR-29c-3p、hsa-miR-424-5p、hsa-miR-103a-3p、hsa-miR-93-5p、hsa-miR-181a-5p、hsa-miR-21-5p、hsa-miR-140-5p、hsa-miR-30e-5p、hsa-miR-142-5p、hsa-miR-126-3p、hsa-miR-183-5p、およびhsa-miR-340-5pから成る。
【0020】
いくつかの実施形態において、前記miRNAマーカーの組み合わせ物は、11個のmiRNAマーカー:hsa-miR-29c-3p、hsa-miR-424-5p、hsa-miR-103a-3p、hsa-miR-93-5p、hsa-miR-181a-5p、hsa-miR-21-5p、hsa-miR-140-5p、hsa-miR-30e-5p、hsa-miR-126-3p、hsa-miR-183-5pおよびhsa-miR-340-5pから成る。
【0021】
いくつかの実施形態において、前記miRNAマーカーの組み合わせ物は、10個のmiRNAマーカー:hsa-miR-424-5p、hsa-miR-103a-3p、hsa-miR-93-5p、hsa-miR-181a-5p、hsa-miR-21-5p、hsa-miR-140-5p、hsa-miR-30e-5p、hsa-miR-126-3p、hsa-miR-183-5p、およびhsa-miR-340-5pから成る。
【0022】
いくつかの実施形態において、前記miRNAマーカーの組み合わせ物は、9個のmiRNAマーカー:hsa-miR-424-5p、hsa-miR-103a-3p、hsa-miR-181a-5p、hsa-miR-21-5p、hsa-miR-140-5p、hsa-miR-30e-5p、hsa-miR-126-3p、hsa-miR-183-5p、およびhsa-miR-340-5pから成る。
【0023】
いくつかの実施形態において、前記miRNAマーカーの組み合わせ物は、8個のmiRNAマーカー:hsa-miR-424-5p、hsa-miR-103a-3p、hsa-miR-181a-5p、hsa-miR-21-5p、hsa-miR-140-5p、hsa-miR-30e-5p、hsa-miR-126-3p、およびhsa-miR-340-5pから成る。
【0024】
いくつかの実施形態において、前記miRNAマーカーの組み合わせ物は、7個のmiRNAマーカー:hsa-miR-424-5p、hsa-miR-103a-3p、hsa-miR-181a-5p、hsa-miR-21-5p、hsa-miR-140-5p、hsa-miR-30e-5p、およびhsa-miR-340-5pから成る。
【0025】
いくつかの実施形態において、前記miRNAマーカーの組み合わせ物は、6個のmiRNAマーカー:hsa-miR-424-5p、hsa-miR-103a-3p、hsa-miR-181a-5p、hsa-miR-21-5p、hsa-miR-140-5p、およびhsa-miR-340-5pから成る。
【0026】
いくつかの実施形態において、前記miRNAマーカーの組み合わせ物は、5個のmiRNAマーカー:hsa-miR-103a-3p、hsa-miR-181a-5p、hsa-miR-21-5p、hsa-miR-140-5p、およびhsa-miR-340-5pから成る。
【0027】
いくつかの実施形態において、前記miRNAマーカーの組み合わせ物は、4個のmiRNAマーカー:hsa-miR-103a-3p、hsa-miR-181a-5p、hsa-miR-21-5p、およびhsa-miR-340-5pから成る。
【0028】
本発明は、胃がんに罹患しているリスクのある被験者を特定するための方法であって:
a.hsa-miR-29c-3p、hsa-miR-424-5p、hsa-miR-103a-3p、hsa-miR-93-5p、hsa-miR-181a-5p、hsa-miR-21-5p、hsa-miR-140-5p、hsa-miR-30e-5p、hsa-miR-142-5p、hsa-miR-126-3p、hsa-miR-183-5p、およびhsa-miR-340-5pから選択される、被験者の末梢血サンプル中の少なくとも4つのmiRNAマーカーの発現レベルを検出すること、
b. 非がんコントロールサンプルを基準として、被験者のリスクスコアを算出し、補正すること、および
c.前記リスクスコアに基づいて、被験者が胃がんに罹患する可能性を決定すること
を含む、方法も提供する。
【0029】
いくつかの実施形態において、miRNAの発現レベルを決定するための方法は、(たとえば、SYBR-GreenまたはTagmanをベースとした化学的方法を用いた)定量的RT-PCR、chip、またはシークエンシングの使用が含まれる。他の実施形態においては、前記バイオマーカーは、ノーザンブロット、ドロップレットデジタルPCR、質量分析、電気化学発光、または当該技術分野で知られている他の方法によって検出できる。
【0030】
前記方法の、いくつかの実施形態においては、リスクスコアを算出するために、線形回帰モデルが用いられる。
前記方法の、いくつかの実施形態においては、用いられる前記線形回帰モデルはロジスティック回帰である。
前記方法の、いくつかの実施形態においては、前記線形回帰モデルは以下:
【0031】
【0032】
(式中、miRNA1、miRNA2、miRNA3...はhsa-miR-29c-3p、hsa-miR-424-5p、hsa-miR-103a-3p、hsa-miR-93-5p、hsa-miR-181a-5p、hsa-miR-21-5p、hsa-miR-140-5p、hsa-miR-30e-5p、hsa-miR-142-5p、hsa-miR-126-3p、hsa-miR-183-5p、およびhsa-miR-340-5pから選択され;
CTはqPCRによって検出された各miRNAの相対的な発現レベルであり;および
Kは各miRNAマーカーの係数である)
のとおりである。
【0033】
本発明は、前記miRNAマーカーの組み合わせ物を特異的に検出するための試薬を含む、胃がんの診断用キットも提供する。
【0034】
いくつかの実施形態において、本発明に係るキット中の試薬は、qPCR法のための検出試薬、chip法のための検出試薬、またはシークエンス法のための検出試薬である。
【0035】
いくつかの実施形態において、miRNAマーカーの組み合わせ物を特異的に検出するための前記キット中の試薬は、少なくとも1つのオリゴヌクレオチドを含み、前記オリゴヌクレオチドの少なくとも一部は、胃がんを診断するための、上述した末梢血miRNAマーカーの組み合わせ物中のmiRNAマーカーに特異的に結合する。
【0036】
いくつかの実施形態において、本発明によるキット中におけるmiRNAマーカーの組み合わせ物を特異的に検出するための試薬は、qPCR法のための検出試薬である。
【0037】
さらに、いくつかの実施形態において、本発明によるキット中の、前記qPCR法のための検出試薬は、miRNAマーカーの組み合わせ物の、逆転写プライマーおよび/またはqPCR増幅プライマー、を含む。
【0038】
さらに、いくつかの実施形態において、前記キットは、胃がんの診断のための上述した末梢血miRNAマーカーの組み合わせ物の中のmiRNAマーカーを増幅させるための、ステムループ逆転写プライマーおよび/またはセミネステッド qPCRプライマー、を含む。
【0039】
いくつかの実施形態において、本発明によるキット中の、qPCR法のための検出試薬は、12個のmiRNAマーカー:hsa-miR-29c-3p、hsa-miR-424-5p、hsa-miR-103a-3p、hsa-miR-93-5p、hsa-miR-181a-5p、hsa-miR-21-5p、hsa-miR-140-5p、hsa-miR-30e-5p、hsa-miR-142-5p、hsa-miR-126-3p、hsa-miR-183-5p、およびhsa-miR-340-5pから成るmiRNAマーカーの組み合わせ物中の各miRNAの逆転写プライマーおよび/またはqPCR増幅プライマーを含む。
【0040】
いくつかの実施形態において、本発明によるキット中の、qPCR法のための検出試薬は、11個のmiRNAマーカー:hsa-miR-29c-3p、hsa-miR-424-5p、hsa-miR-103a-3p、hsa-miR-93-5p、hsa-miR-181a-5p、hsa-miR-21-5p、hsa-miR-140-5p、hsa-miR-30e-5p、hsa-miR-126-3p、hsa-miR-183-5p、およびhsa-miR-340-5pから成るmiRNAマーカーの組み合わせ物中の各miRNAの逆転写プライマーおよび/またはqPCR増幅プライマーを含む。
【0041】
いくつかの実施形態において、本発明によるキット中の、qPCR法のための検出試薬は、10個のmiRNAマーカー:hsa-miR-424-5p、hsa-miR-103a-3p、hsa-miR-93-5p、hsa-miR-181a-5p、hsa-miR-21-5p、hsa-miR-140-5p、hsa-miR-30e-5p、hsa-miR-126-3p、hsa-miR-183-5p、およびhsa-miR-340-5pから成るmiRNAマーカーの組み合わせ物中の各miRNAの逆転写プライマーおよび/またはqPCR増幅プライマーを含む。
【0042】
いくつかの実施形態において、本発明によるキット中の、qPCR法のための検出試薬は、9つのmiRNAマーカー:hsa-miR-424-5p、hsa-miR-103a-3p、hsa-miR-181a-5p、hsa-miR-21-5p、hsa-miR-140-5p、hsa-miR-30e-5p、hsa-miR-126-3p、hsa-miR-183-5p、およびhsa-miR-340-5pから成るmiRNAマーカーの組み合わせ物中の各miRNAの逆転写プライマーおよび/またはqPCR増幅プライマーを含む。
【0043】
いくつかの実施形態において、本発明によるキット中の、qPCR法のための検出試薬は、8つのmiRNAマーカー:hsa-miR-424-5p、hsa-miR-103a-3p、hsa-miR-181a-5p、hsa-miR-21-5p、hsa-miR-140-5p、hsa-miR-30e-5p、hsa-miR-126-3p、およびhsa-miR-340-5pから成るmiRNAマーカーの組み合わせ物中の各miRNAの逆転写プライマーおよび/またはqPCR増幅プライマーを含む。
【0044】
いくつかの実施形態において、本発明によるキット中の、qPCR法のための検出試薬は、7つのmiRNAマーカー:hsa-miR-424-5p、hsa-miR-103a-3p、hsa-miR-181a-5p、hsa-miR-21-5p、hsa-miR-140-5p、hsa-miR-30e-5p、およびhsa-miR-340-5pから成るmiRNAマーカーの組み合わせ物中の各miRNAの逆転写プライマーおよび/またはqPCR増幅プライマーを含む。
【0045】
いくつかの実施形態において、本発明によるキット中の、qPCR法のための検出試薬は、6つのmiRNAマーカー:hsa-miR-424-5p、hsa-miR-103a-3p、hsa-miR-181a-5p、hsa-miR-21-5p、hsa-miR-140-5p、およびhsa-miR-340-5pから成るmiRNAマーカーの組み合わせ物中の各miRNAの逆転写プライマーおよび/またはqPCR増幅プライマーを含む。
【0046】
いくつかの実施形態において、本発明によるキット中の、qPCR法のための検出試薬は、5つのmiRNAマーカー:hsa-miR-103a-3p、hsa-miR-181a-5p、hsa-miR-21-5p、hsa-miR-140-5p、およびhsa-miR-340-5pから成るmiRNAマーカーの組み合わせ物中の各miRNAの逆転写プライマーおよび/またはqPCR増幅プライマーを含む。
【0047】
いくつかの実施形態において、本発明によるキット中の、qPCR法のための検出試薬は、4つのmiRNAマーカー:hsa-miR-103a-3p、hsa-miR-181a-5p、hsa-miR-21-5p、およびhsa-miR-340-5pから成るmiRNAマーカーの組み合わせ物中の各miRNAの逆転写プライマーおよび/またはqPCR増幅プライマーを含む。
【0048】
さらに、いくつかの実施形態において、本発明によるキット中の、qPCR法のための検出試薬は、ポジティブクオリティーコントロール品、ネガティブクオリティーコントロール品、逆転写酵素、dNTP、逆転写バッファー、ヌクレアーゼフリーの水、qPCRバッファー、塩化マグネシウム、DNAポリメラーゼ、SYBR Green蛍光色素の、少なくとも1つをさらに含む。
【0049】
本発明はまた、以下の方法によって、被験者が胃がんを発症する、または胃がんに罹患している、可能性を予測するための胃がん診断試薬の調製におけるmiRNAマーカーの組み合わせ物の使用を提供し、前記方法は:
被験者から取得した末梢血サンプルにおけるmiRNAの存在を検出すること;
前記末梢血サンプルにおけるmiRNAマーカーの組み合わせ物における少なくとも1つのmiRNAの発現レベルを測定すること;および
前もって測定されたmiRNAの発現レベルに基づいたスコアを用いて被験者が胃がんを発症する、または胃がんに罹患している可能性を予測すること
を含む。
【0050】
前記末梢血は血清または血漿である。
前記miRNAの発現レベルは、線形回帰アルゴリズムを用いて、簡単な線形回帰モデルを構築することによってスコア化する。線形回帰モデルはリスクスコアを算出するために用いられる。ロジスティック回帰は、この目的のために用いることのできる線形回帰法の一例である。しかしながら、当業者は、スコアを算出し、取得するために他の形式の線形回帰演算が用いられうることを理解する。リスクスコアの臨界値は、臨床ニーズに基づいて決定され、2つの臨界値が、集団を、高リスク集団、低リスク集団、および未確定集団として判定するために用いられる。
【0051】
被験者には、中国人、マレーシア人、およびインド人が含まれるが、これらに限定されない。
上記の技術的解決策から、本発明は、胃がんを診断するための、マーカーの組み合わせ物およびキットを提供することが分かり得る。本発明による、胃がんを診断するためのmiRNAマーカーの組み合わせ物は、hsa-miR-29c-3p、hsa-miR-424-5p、hsa-miR-103a-3p、hsa-miR-93-5p、hsa-miR-181a-5p、hsa-miR-21-5p、hsa-miR-140-5p、hsa-miR-30e-5p、hsa-miR-142-5p、hsa-miR-126-3p、hsa-miR-183-5p、およびhsa-miR-340-5pから選択される少なくとも4つのmiRNAマーカーを含む。被験者における、胃がんを診断するためのマーカーの組み合わせ物を使用する血清の検出は、胃がん患者の血清と健康なヒトの血清とを、また胃がん患者の血清と胃炎患者の血清とを識別することができる。上述した、本発明によるmiRNAマーカーの組み合わせ物は、被験者を検査するために用いられる。結果は、ヘリコバクターピロリ検査およびペプシノーゲン検査と比較され、内視鏡検査の臨床的なゴールドスタンダードとよく一致しており、かつペプシノーゲンI/II比とヘリコバクターピロリ検査の2つの既存のバイオマーカーの各々よりも有意に優れている。本発明による、胃がんを診断するためのキットは、単純な組成物を有し、胃がんを簡単に、効果的に、そして非侵襲的に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
図面の簡単な説明
本発明の実施形態または先行技術における技術的解決策をさらに明確に説明するため、以下は、実施形態または先行技術の説明において用いられる必要がある図面を簡単に紹介する。
【
図1】
図1は、胃がんにおける血清miRNAの臨床評価のためのロードマップを示す;
【
図2】
図2は、さまざまな血液マーカーのROC特性を示す図表である;
【
図3】
図3は、男性および女性のROC特性を示す図表である;
【
図4】
図4は、さまざまな人種の被験者の、本キットにおけるROC特性を示す図表である;
【
図5】
図5は、早期胃がんの被験者および末期胃がんの被験者の、本キットにおけるROC特性を示す図表である;
【
図6】
図6は、線形回帰アルゴリズムの下、異なるmiRNA数の組み合わせ物におけるROC特性を示す図表である;
【発明を実施するための形態】
【0053】
詳細な説明
本発明は、miRNAマーカーの組み合わせ物および胃がんの診断用キットを開示する。当業者は、本文の内容から学習し、本発明を達成するためのプロセスパラメータを適切に改良することができる。特に、すべての類似の置換および改変は当業者にとって明らかであり、それらはすべて本発明に含まれるものとみなされることが指摘されるべきである。本発明の方法およびものは、好ましい実施形態によって記載されている。本発明の技術を実現および適用するために、当業者が、本発明の内容、趣旨および範囲から逸脱することなく、本明細書に記載された方法に変更または適切な変更や組み合わせを行いうることは明らかである。
【0054】
本発明をさらに理解するために、本発明の実施例における技術的解決策は、本発明の実施例とあわせて、以下に明確かつ完全に説明する。あきらかに、記載された実施例は本発明の実例の全てというよりも一部の例にすぎない。本発明の実施例に基づき、当業者により取得された、すべての他の創造的取組みのない実例は本発明の保護範囲に属する。
【0055】
特に明記しない限り、本発明の実施例に関する試薬はすべて市販の製品であり、それらはすべて、市販の経路を通じて購入することができる。本発明によるmiRNAの逆転写プライマーおよびRT-qPCRプライマーの設計方法は、米国特許公報No.US9850527B2およびWan G, Lim Q’, Too H P. High-performance quantification of mature microRNAs by real-time RT -PCR using deoxyuridine-incorporated oligonucleotides and hemi-nested primers [J] Rna-a Publication of the Rna Society, 2010, 16(7):1436-45に記載されている方法にしたがって行われる。本発明で開示されたすべてのmiRNA配列は、miRBaseデータベース(http://www.mirbase.org/)に保存されている。
【実施例】
【0056】
実施例 1
開発段階においては、RT-qPCR技術を用いて、236人の胃がん患者および236人の非がんコントロール被験者の血清miRNAを検出した。191個のmiRNA
【0057】
【0058】
が、被験者の90%超で検出できた。191個のmiRNAのうち75個は、コントロール群とがん患者の間において、発現が異なっていた(FDR P値<0.01)。異なって発現された75個のmiRNAのうち、51個は胃がん患者においてアップレギュレーションされ、24個がダウンレギュレーションされた。
【0059】
検証段階では、RT-qPCR技術を用いて、94人の胃がん患者および116人の非がんコントロール被験者の血清miRNAを検出した。開発段階と検証段階の間における、miRNA発現の倍率変化には良好な相関関係があった。最終的に、12個のmiRNA、特にhsa-miR-29c-3p、hsa-miR-424-5p、hsa-miR-103a-3p、hsa-miR-93-5p、hsa-miR-181a-5p、hsa-miR-21-5p、hsa-miR-140-5p、hsa-miR-30e-5p、hsa-miR-142-5p、hsa-miR-126-3p、hsa-miR-183-5p、およびhsa-miR-340-5p、が、胃がんを検出するためのバイオマーカーおよび組み合わせ物としてさらに選択された。各miRNA配列とmiRBaseデータベースの登録番号を表1に示す。
【0060】
【0061】
2~12個のmiRNAのバイオマーカーの組み合わせ物の性能を試験するために、スクリーニングから得られた12個のmiRNAバイオマーカーとノンパラメトリック因子との組み合わせ物に対して200回の二重交差検定を行った。AUCが単純な線形回帰モデルを構築するための最適化インデックスとして用いられた。線形回帰モデルがリスクスコアを算出するために用いられた。この実施例においては、ロジスティック回帰モデルが用いられた。当該リスクスコアの臨界値は臨床的必要性に基づいて決定され、2つの臨界値が、集団を高リスク集団、低リスク集団、および未確定集団と定義するために用いられた。胃がん集団のロジスティックスコアは健常者集団のロジスティックスコアよりも有意に高かった。
線形回帰モデルの計算式は以下である:
【0062】
【0063】
式中、Kは各miRNAマーカーの係数であり、各マーカーの係数はマーカーの組み合わせによって異なり、そのあり得るインプリメンテーション(implementation)は表に示される。
【0064】
CTは各miRNAマーカーの相対的な発現レベル、つまりqPCRによって取得されたCt値である。
【0065】
【0066】
実施例 2
1)試験サンプルの調製:血液の採取および血清の分離;
全量20mlの空腹時の血液サンプルが2本の一般的な血清用試験管に採取された。当該血清用試験管は、3000rpmで10分間、20°Cで遠心分離された。遠心分離および血清の回収は血液の採取後4時間以内に行われた。血清サンプルはただちに-80°Cで保管された。
【0067】
2)RNAの抽出;
トータルRNAは、血清200μlから、miRNeasy serum/plasma miRNA extraction kit(Qiagen GmbH、ドイツ)を用いて単離された。RNAの抽出前に、三セットの人工的に合成されたmiRNAコントロール(高濃度、中濃度、低濃度で混合)が、本工程における技法上のばらつきをチェックして標準化するために、サンプルリシスバッファーに添加された。
【0068】
3)逆転写リアルタイム定量的PCR(RT-qPCR)
逆転写バッファー、逆転写酵素、および逆転写用プライマーが、特定の反応条件および温度下におけるmiRNAの逆転写に用いられた。
逆転写産物(cDNA)は、qPCRバッファー、DNAポリメラーゼ、およびmiRNA配列特異的プライマーを含有するqPCR用プレートを用いて、特定の反応条件および温度下において、qPCRによって増幅された。各miRNAのCt値は閾値を設定することにより取得された。
【0069】
RT-qPCRの前に、一式の人工的に合成されたmiRNA(3)コントロールが、本工程における技法上のばらつきをチェックして標準化するために、各サンプルに添加された。RT-qPCRの間、各miRNAに、6つの、対数希釈された、人工的に合成されたテンプレート、ネガティブコントロール、混合ヒト血清RNA基準物質を添加し、それぞれの分離した血清RNAサンプルを逆転写してqPCRで定量した。これらの品質管理措置は、RT、cDNAの増幅、およびqPCRの間におけるピペッティングおよび測定効率の技法上のばらつきをチェックして標準化するのに役立つ。
【0070】
4)検証段階における12-miRNAの検出のためのプロトコール(実施例3)
血清サンプルはフェノール/グアニジンで溶解し、血清サンプルのトータルRNAをシリカ精製カラムで分離した。逆転写ステップにおいては、各サンプル中の12個のmiRNAをcDNAに逆転写するために、miRNA逆転写用の対応するステムループプライマーを用いた。続いて、配列特異的なフォワードPCRプライマーと、セミネステッドな配列特異的リバースPCRプライマーとを使用してqPCRを行い、SYBR Green I色素を検出に使用した。
【0071】
5)統計分析を行い、胃がんに罹患するリスク値を取得するために、Ct値が、実施例1で記載した線形回帰モデルにインポートされた。
【0072】
実施例3
シンガポールの国立大学病院とシンガポールのタントックセン病院から5282人の被験者が臨床試験のために選択された。具体的な検証ルートを
図1に示す。合計5282人の被験者が臨床検証に参加した。実施例2に記載の方法にしたがって、すべての被験者に対して、実施例1に記載された12個のmiRNAバイオマーカーが、miRNA試験、ヘリコバクターピロリ試験およびペプシノーゲン試験ならびに胃内視鏡検査および病理学試験のために選択された。当該12-miRNA qPCRアッセイは、ISO 13485 医療機器品質マネジメントシステムにしたがって、開発および製造された。前記12-miR qPCRアッセイは、ISO 13485 医療機器品質マネジメントシステムに従って開発および製造された。内視鏡検査および組織病理学的検査の結果がない場合、miRNA試験はCAP/ISO認定を受けた研究室で行われた。ウエスタンブロットアッセイを用いて、血清サンプル中のヘリコバクターピロリ抗体を測定した。ペプシノーゲンIおよびIIのレベルは、ラテックス凝集免疫比濁法キットにより測定された。両測定は、臨床結果が不明なときに行われた。検診後、最終的に4566人の被験者がデータ分析に用いられ、125人の被験者が胃がんと診断され、4441人の被験者ががんのない健康な人間と確認された。表3に、4566人の被験者の臨床所見データの解析結果を示す。
【0073】
【0074】
本発明による、miRNAマーカーの組み合わせの試験、ヘリコバクターピロリ試験、およびペプシノーゲン試験を比較し、その結果は
図2および表4に示される。
【0075】
【0076】
4566人の被験者の結果から、本発明によるmiRNAマーカーの組み合わせ試験方法は、内視鏡検査の臨床におけるゴールドスタンダード(AUCは0.84)とよく一致し、ペプシノーゲンI/II比とヘリコバクターピロリ試験の2つの既存のバイオマーカー(AUCは0.62と0.64)の各々よりも有意に優れていることが理解できる。4566人の被験者のAUC(0.84)は、アルゴリズム開発コホートのAUC(0.89)に近く、このことは本発明によるmiRNAマーカーの組み合わせ物のための開発コホートと、盲検のための臨床検証コホートとの間の実験結果の一貫性を示した。
【0077】
臨床検証データにおける性差についてさらに分析を行った。本発明によるmiRNAマーカーの組み合わせ試験は、男性および女性の被験者において一貫したAUCを示した(
図3および表5)。
【0078】
【0079】
臨床検証データをさらに分析して、異なる人種の集団において、本発明によるmiRNAマーカーの組み合わせ試験の性能が異なるかどうかを分析した。概してシンガポールの人口統計データと一致し、本臨床試験に参加している被験者のほとんどは中国系(76.43%)であり、マレー系、インド系、その他の民族グループがそれぞれ約8%を占めている(表3)。その結果、中国系の被験者のAUCが、他の人種の被験者AUCよりも高いことが示された(
図4、表6)。
【0080】
【0081】
本発明によるmiRNAマーカーの組み合わせ試験の性能は、がんのステージ分類によってさらに評価された。本発明によるmiRNAマーカーの組み合わせ試験において、早期がん(ステージ0、I、およびII)のAUC、ならびに進行したがん(ステージIIIおよびIV)のAUCは、それぞれ0.83および0.85であることが示された(
図5、表7)。
【0082】
【0083】
さらに、肺がん、乳がん、結腸直腸がん、肝臓がん、食道がん、前立腺がん、および膀胱がんを含む、他の7種の一般的ながんに対するmiRNA検出の臨床的特異性を証明した。このアッセイは、消化器がんを含む他の一般的ながんとの交差反応性がほとんどなかった(表8)。
【0084】
【0085】
実施例 4
実施例2に記載の方法に従って、実施例1に記載の、12個、11個、10個、9個、8個、7個、6個、5個、および4個のmiRNAの組み合わせ物を、miRNAの重要な順にしたがって順次選択し、ROC特性を示す図表を取得するために、実施例3に記載のがん被験者およびコントロール被験者のサンプルを用いて試験した(
図6、表9)。
【0086】
【0087】
異なるスコアが、がんと非がんとの境界線として使用される場合においては、ロジスティックアルゴリズムは異なる診断性能を示し、異なる診断方法に適していることに留意する必要がある(表8)。たとえば、40ポイントの境界線が使用された場合、つまりスコアが40以上の患者をがん患者と定義した場合、その感度は50ポイントの境界線よりも有意に高く、特異度および正確度は50ポイントの境界線よりも有意に低い。したがって、低いロジスティック境界線は集団における胃がんの検診に適しており、高いロジスティック境界線は補助診断に適していた。
【0088】
考察
miRNAが、がんやその他の疾患を診断するためのマーカーとして用いられうることを示す多くの文献が存在しているが、特定の疾患のための具体的なmiRNA発現プロファイルに関する統一見解はない。診断や予後のマーカーとしてのmiRNAの使用は、いくらかの課題に直面する可能性がある(Tiberio et al, 2015)。たとえ同一の疾患であっても、異なる研究においてスクリーニングされたmiRNAマーカーは非常に多様であり得る(Leidner et al, 2013)。既存の文献における、研究対象の選択、サンプル採取、処理ステップ、および検出方法に一貫性がないため、診断や予後のためのmiRNAバイオマーカーの選択が次善のものとなる可能性がある。また、これらの文献における研究結果のほとんどは、大規模な研究コホートでは検証されていない。
【0089】
被験者の健康状態および治療状態、ならびに環境的要因および遺伝的要因のすべてがmiRNAの発現プロファイルに影響を与えている可能性がある。miRNAの分析が、単一の研究コホートまたは同一の場所からのサンプルのみに基づいている場合においては、その結果に偏りが生じる可能性がある。したがって、大規模な集団に適用できるmiRNAマーカーをスクリーニングするためには、十分大きな集団からサンプルを採取し、適切な設計の制御可能なデータ分析ワークフローを設計する必要がある。本発明は、現在選択されている12個のmiRNAバイオマーカーを完全に検証したものであり、これらの検証は、異なる研究所在地からの異なる患者コホートにおいて行われる。初期の開発段階から始まり、miRNAバイオマーカーは様々なコホートにおいてスクリーニングおよび検証が行われる。選択された12個のmiRNAは、その後、5282人の被験者を対象とした、より大規模な前向き臨床試験でさらに検証される。複数の独立した研究コホートからの多数の被験者において、12個の、スクリーニングされ、検証されたmiRNAは、バイオマーカーとしてのロバスト性を保証し、胃がんのリスクを有する被験者を特定するために幅広い集団に適用することができる。
【0090】
miRNAプロファイルは、サンプル採取、処理ステップ、およびサンプル中のmiRNA発現レベルを検出するための方法等の、技術的側面においても影響を受け得る。miRNA発現における変化を検出するための感度と特異性は、検出方法が異なるために大幅に異なることがある。ほとんどの公開された研究においては、サンプル採取および処理方法が完全に異なっている可能性がある。加えて、それらの研究において用いられる試薬および方法には差異がある。セミネステッドプライマーは、本発明においてはWan et al, 2010の原理に基づいて設計されており、感度と特異性の高いRT-qPCR法および最適化されたmiRNA発現プロファイルおよびデータ分析ワークフローが採用されており、内部基準が、miRNA抽出、逆転写、qPCR、およびその他の工程における効率の違いをチェックし、調節するために用いられている。加えて、5282人の被験者の臨床検証研究は、医療診断試験の臨床検証よりも、さらに厳しい方法を採用している(Wilson et al、2008; Mattocks et al、2010)。前記試験キットは、臨床研究では一般的ではない厳格な品質管理要件の下で製造され、実施される。本発明による技術的方法が、胃がんのリスクを特定するために用いられる12個のmiRNAマーカーの有効性およびロバスト性をさらに保証する。
【0091】
5282人の被験者が参加した、12個のmiRNAバイオマーカーを検証するための前向き研究では、これらの被験者は、ヘリコバクターピロリ、ペプシノーゲンI/II試験、および胃内視鏡検査など、胃がんに関連する他のリスク因子についても試験されている。その結果は、12個のmiRNAの組み合わせの検出が、胃がんの患者を特定するという点で、ヘリコバクターピロリやペプシノーゲンI/IIなどの胃がんの高リスク因子に対する、いくつかの従来の臨床試験よりも大幅に優れていることを示している。4-miRNA群は、ペプシノーゲン1/2試験(AUC=0.62)およびヘリコバクターピロリ(AUC=0.64)と比較して、より類似したAUCを有する。5つ以上のmiRNAを有するmiRNAの組み合わせは、胃がんの診断に優れたAUCを有する(5-miRNA群のAUCは0.8029、12-miRNA群のAUCは0.8423)。5つ以上のmiRNAで構成されるmiRNA検出のAUCは、現在の胃がん診断のゴールドスタンダードである胃内視鏡検査のAUC(AUCは0.84)と非常に近似している。
【0092】
胃がんのリスクがあると判断される被験者は、例えば、胃内視鏡検査、生検、または磁気共鳴画像法(MRI)やコンピューター断層撮影法(CT)などの画像診断検査等の、さらなる検査が必要になりうる。胃がんと診断された患者は適切な治療を受ける。胃がんの治療は一般的に以下:手術、放射線療法、化学療法もしくは免疫療法、またはトラスツズマブやラムシルマブなどの標的療法の使用、の1以上の介入が挙げられる。胃がん治療に対する薬剤候補としては、小分子、抗体、ワクチン、またはペプチドが挙げられる。胃がん治療のための化学療法薬としては、5-フルオロウラシル、カペシタビン、カルボプラチン、シスプラチン、ドセタキセル、エピルビシン、イリノテカン、オキサリプラチン、パクリタキセル、トリフルリジン、およびチピラシルが挙げられる。胃がん治療のための免疫療法薬としては、ペムブロリズマブなどの免疫チェックポイント阻害剤が挙げられる。早期の胃がんのための治療の選択肢は、通常、手術である。早期に検出されるがんについては、内視鏡的切除も可能である。通常、早期の胃がん患者における治療効果は、進行した胃がんの患者における治療効果よりも有意に優れていると考えられている(Lello et al、2007)。したがって、信頼性が高く使いやすい検出方法は、胃がん患者の早期診断にとって非常に重要である。
【0093】
したがって、本発明は、12個のmiRNAバイオマーカーの組み合わせ物に関する大規模な臨床研究の検証データを詳細に提供する。胃がんのリスクを評価するための従来の検出方法と比較して、本miRNAマーカーの組み合わせ物は、胃がんの診断のための胃内視鏡検査と同等のAUCを提供しうるが、胃内視鏡検査の侵襲性およびそれと関連する合併症のリスクは有さない。集団がん検診の重要な原則は、がんの早期検出を促進するための定期的な検診にこだわることである。この点において、より侵襲的な検査と比較して、1回の採血のみを必要とし、信頼できる結論を提供する血液ベースの検査は、より有望性のある開発の方向性でありえる。
【国際調査報告】