IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ユーシービー バイオファルマ エスピーアールエルの特許一覧

<>
  • 特表-乾燥微粒子 図1
  • 特表-乾燥微粒子 図2
  • 特表-乾燥微粒子 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-21
(54)【発明の名称】乾燥微粒子
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/14 20060101AFI20220713BHJP
   A61K 9/19 20060101ALI20220713BHJP
   A61K 9/107 20060101ALI20220713BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20220713BHJP
   A61K 47/40 20060101ALI20220713BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20220713BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20220713BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20220713BHJP
   A61K 47/18 20060101ALI20220713BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20220713BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20220713BHJP
【FI】
A61K9/14
A61K9/19
A61K9/107
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K47/40
A61K47/34
A61K47/12
A61K47/02
A61K47/18
A61K47/24
A61K47/22
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021565947
(86)(22)【出願日】2020-05-13
(85)【翻訳文提出日】2021-11-05
(86)【国際出願番号】 EP2020063326
(87)【国際公開番号】W WO2020229536
(87)【国際公開日】2020-11-19
(31)【優先権主張番号】1906835.2
(32)【優先日】2019-05-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】514232085
【氏名又は名称】ユーシービー バイオファルマ エスアールエル
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アリギ、オードリー フランソワーズ
(72)【発明者】
【氏名】ゴール、ジョナサン エリューテル モーリス
(72)【発明者】
【氏名】マルケット、サラ
【テーマコード(参考)】
4C076
4C085
【Fターム(参考)】
4C076AA17
4C076AA30
4C076BB11
4C076BB15
4C076BB16
4C076BB25
4C076CC06
4C076CC07
4C076DD09
4C076DD23
4C076DD26Z
4C076DD38
4C076DD41Z
4C076DD44
4C076DD50Z
4C076DD51Z
4C076DD60Z
4C076EE23
4C076EE24
4C076EE39
4C076FF02
4C076FF16
4C076FF31
4C076FF36
4C076GG06
4C076GG09
4C085AA13
4C085AA14
4C085DD13
4C085DD84
4C085EE01
4C085EE07
4C085GG01
4C085GG03
4C085GG04
(57)【要約】
本発明は、医薬組成物、特に抗体分子ロード高分子マイクロスフェアを乾燥微粒子の形態で含む遅延放出医薬組成物を対象とする。乾燥微粒子、及び前記乾燥微粒子を含む医薬組成物は、製造中及び貯蔵の際に安定であり、興味深い遅延放出特性が実証される。更に本発明は、前記乾燥微粒子を調製するための方法に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗体分子、ポリマー、及びシクロデキストリンを含む乾燥微粒子。
【請求項2】
抗体分子、ポリマー、及びシクロデキストリンを含む水性抗体分子含有エマルション。
【請求項3】
シクロデキストリンがβ-シクロデキストリンファミリーのメンバーであり、HPβCD及びSBEβCDからなる群から好ましくは選択されるか、又はα-シクロデキストリンファミリーのメンバーである、請求項1に記載の乾燥微粒子又は請求項2に記載の水性抗体分子含有エマルション。
【請求項4】
抗体分子が、完全長重鎖及び軽鎖を有する完全抗体分子、又は、その抗原結合フラグメント―――例えば、Fab、改変Fab、Fab’、改変Fab’、F(ab’)2、Fv、Fab-Fv、Fab-dsFv、Fab-Fv-Fv、scFv、ビス-scFvフラグメント、1つ若しくは2つのscFv若しくはdsscFvに連結されたFab、例えばBYbe(登録商標)若しくはTRYbe(登録商標)、ダイアボディ、トリボディ、トリアボディ、テトラボディ、ミニボディ、単一ドメイン抗体、ラクダ抗体、Nanobody(商標)又はVNARフラグメントを含む群から選択される―――である、請求項1若しくは3に記載の乾燥微粒子又は請求項2若しくは3に記載の水性抗体分子含有エマルション。
【請求項5】
抗体分子/シクロデキストリン比(w/w)が12:1から7:6である、請求項1、3若しくは4のいずれか一項に記載の乾燥微粒子又は請求項2から4のいずれか一項に記載の水性抗体分子含有エマルション。
【請求項6】
ポリマーが、PLGA、PLA、PEG-PLGA又はPCLからなる群から選択される、請求項1若しくは3から5のいずれか一項に記載の乾燥微粒子又は請求項2から5のいずれか一項に記載の水性抗体分子含有エマルション。
【請求項7】
緩衝剤を更に含む、請求項1若しくは3から6のいずれか一項に記載の乾燥微粒子又は請求項2から6のいずれか一項に記載の水性抗体分子含有エマルション。
【請求項8】
緩衝剤が、ホスファート、アセタート、シトラート、アルギニン、トリス、及びヒスチジンからなる群から選択される、請求項7に記載の乾燥微粒子又は水性抗体分子含有エマルション。
【請求項9】
界面活性剤を更に含む、請求項1若しくは3から8のいずれか一項に記載の乾燥微粒子又は請求項2から8のいずれか一項に記載の水性抗体分子含有エマルション。
【請求項10】
界面活性剤がポロキサマー407である、請求項9に記載の乾燥微粒子又は水性抗体分子含有エマルション。
【請求項11】
約10から30%重量(w)/wの抗体分子、約50から80%w/wのポリマー、12:1又は約12:1から7.6又は約7:6の抗体分子/シクロデキストリン比(w/w)のシクロデキストリン、並びに任意選択で、約0.2から4%w/wの緩衝剤及び/又は約0.05から4.0%w/wの界面活性剤を含む、請求項1又は3から10のいずれか一項に記載の乾燥微粒子。
【請求項12】
請求項2から10のいずれか一項に記載の水性抗体分子含有エマルションを噴霧乾燥することによって、又は噴霧乾燥して次いで凍結乾燥することによって得られる乾燥微粒子。
【請求項13】
請求項1及び3から11のいずれか一項に記載の乾燥微粒子を製造するための方法であって、
a)シクロデキストリンを水性抗体分子含有溶液に添加して水性相を得るステップと、
b)溶媒中にポリマーを可溶化して有機相を得るステップと、
c)ステップa)の水性相をステップb)の有機相に添加して水性抗体分子含有エマルションを得るステップと、次いで、
d)得られた水性抗体分子含有エマルションを噴霧乾燥して任意選択で更に凍結乾燥して、乾燥微粒子を得るステップと
を含む方法。
【請求項14】
乾燥微粒子中で抗体分子を安定化するための方法であって、シクロデキストリン及び可溶化ポリマーを水性抗体分子含有溶液に添加して水性抗体分子含有エマルションを得るステップと、次いで、得られた水性抗体分子含有エマルションを噴霧乾燥するステップと、任意選択で、それを更に凍結乾燥して前記乾燥微粒子中の安定化された抗体分子を得るステップと、を含む方法。
【請求項15】
請求項1又は3から11のいずれか一項に記載の乾燥微粒子を得るための方法であって、
a.シクロデキストリンを水性抗体分子含有溶液に添加して第1の組成物を得るステップと、
b.ステップa.の第1の組成物とポリマーとを合わせるステップであって、前記ポリマーが可溶化されて、第2の組成物を得るステップと、
c.ステップb.の第2の組成物をホモジネートして油中水エマルションを得るステップと、
d.ステップc.の油中水エマルションを噴霧乾燥して前記乾燥微粒子を得るステップと、
e.任意選択で、ステップd.の乾燥微粒子を凍結乾燥して最終的な乾燥微粒子を得るステップと
を含む方法。
【請求項16】
乾燥微粒子の抗体分子持続放出性能を改善するための方法であって、シクロデキストリン及び可溶化ポリマーを水性抗体分子含有溶液に添加して水性抗体分子含有エマルションを得るステップと、次いで、得られた水性抗体分子含有エマルションを噴霧乾燥するステップと、任意選択で、それを更に凍結乾燥して、強化された抗体分子持続放出性能を有する前記乾燥微粒子を得るステップと、を含む方法。
【請求項17】
請求項1又は3から12のいずれか一項に記載の乾燥微粒子のうちの1つ又は複数を含む医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬組成物、特に抗体分子ロード高分子マイクロスフェアを乾燥微粒子の形態で含む遅延放出医薬組成物を対象とする。乾燥微粒子、及び前記乾燥微粒子を含む医薬組成物は、製造中及び貯蔵の際に安定であり、興味深い遅延放出特性が実証される。更に本発明は、前記乾燥微粒子を調製するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
典型的には、治療用タンパク質、例えば抗体は、皮下又は静脈内で投与される。それにもかかわらず患者及び医師は、これらの侵襲的な経路によってこれらを繰返し投与する場合、疼痛を生じ、また不便であるためにこれらの薬物を進んで使用しない場合がある。残念ながら、市販の治療用タンパク質の大部分は頻繁な投与を必要とする。
【0003】
所与の薬物に関する投薬レジメンを改善し得る1つの製剤フォーマットは、持続放出(遅延放出としても知られる)フォーマットであり、これは、高分子マトリックス中に通常カプセル化された薬物の遅延放出を場合により数カ月にわたって可能にする。そのような遅延放出製剤では、大量の薬物が初期に放出されてから安定な放出プロファイルに到達することが非常に多く、これはバースト放出と称される。バースト放出は、初期の高薬物送達、場合により有害な副作用につながる。
【0004】
利用可能なさまざまな持続放出製剤フォーマットのうち、乾燥粉末組成物、例えば乾燥微粒子組成物は十分に確立されている。しかしそれらを、治療用タンパク質を投与するために使用する場合、いくつかの欠陥が存在する。実際、タンパク質は凝集し、抽出率が低くなりがちであることが多く、乾燥微粒子組成物の効率性を大幅に低下させる。これは乾燥微粒子として製剤化された治療用タンパク質が抗体分子である場合、特に当てはまる。
【0005】
治療用タンパク質を含む比較的安定な乾燥微粒子を調製するための1つの方法は、噴霧乾燥である。それは、液体製剤を液滴で高温乾燥媒体、典型的には空気又は窒素中に霧化することによって、液体ベースの製剤を乾燥粉末に変換するプロセスである。このプロセスによって、粒子サイズ、サイズ分布、粒子形状、密度、純度及び構造の制御が強化されるようになる。噴霧乾燥されることになる組成物は、ポリオールを一般的に含む。それにもかかわらず、この技術は、噴霧乾燥装置の内壁に粒子が付着することに起因して生じるいくつかの欠点、例えば凝集問題及び収率の低下を有する。
【0006】
噴霧乾燥するための出発材料は、典型的にはエマルションである。ダブルエマルション技術(例えば、水中油中水(WOW)、水中油中固体(SOW))は、持続放出特性を有するタンパク質ロードポリ(ラクチド-コ-グリコシド)酸(PLGA)微粒子を製造するために通常使用される。しかし、相当量のタンパク質が外部水性相へ失われる場合があり、薬物ロード(DL)を顕著に低下させる(Wang J.ら、2004年)。油中水(w/o)エマルションの噴霧乾燥は、タンパク質ロード微粒子を製造するための好適な代替方法であると思われる。実際、噴霧乾燥は再現性があり、スケーラブルが容易なワンステッププロセスである。更にダブルエマルション技術と比較して、w/oエマルションを噴霧乾燥すると、DLが高い微粒子の製造につながり得る外部水性相の存在が回避される(Giunchediら、2001年)。このアプローチは、抗体モデルとしてポリクローナル免疫グロブリンGを使用した持続放出特性を有する高タンパク質ロード微粒子を製造するためにうまく使用されている。それにもかかわらず、このプロセスをモノクローナル抗体(mAb)に適用した場合、カプセル化プロセス中に高分子量種(HMWS)が形成されることによる安定性の問題が観察された。表面誘発性凝集(mAbと有機相との接触)がmAb不安定性の主な原因として仮定された。これらのHMWSは、免疫原性を誘導する場合があり、したがって製品の安全性及び有効性に影響を与えるために回避するべきである(Moussaら、2016年)。
【0007】
いずれの種類の製剤(液体、凍結乾燥剤、噴霧乾燥剤など)に関しても、非イオン性界面活性剤、例えば、ポリソルベート20、ポリソルベート80、ポロキサマー188が、表面誘発性凝集に対してmAbを安定化するために通常使用される。しかし、このタイプの界面活性剤、より詳細にはポリオキシエチレン系界面活性剤は、いくつかの欠点、例えば、タンパク質との混合ミセルの形成に起因する長期貯蔵中の安定性の問題を示す。これに関連して、例えば、シクロデキストリンがこの目的のための代替の賦形剤として浮上している(Paiら、2009年;Sernoら、2010年;US5997856)。それにもかかわらず、シクロデキストリンは噴霧乾燥製剤で使用した場合、タンパク質に対して期待される性能も期待される安定性効果も有していなかった(Johansenら、1998年)。更にいくつかのデメリット、例えばその吸水作用を有している。
【0008】
遅延放出組成物で考慮するべき他の側面は、カプセル化効率、薬物ロード、及び初期の「バースト放出」に対するその効果である(Hanら、2016年)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
その結果、持続放出特性を有し、抗体の安定性が改善された(例えば、油中水エマルションを噴霧乾燥することによる抗体ロード高分子マイクロスフェアの製造中の抗体の分解が制限された)抗体ロード高分子マイクロスフェア(乾燥微粒子として提供される)を含み、同時に良好な粉末性能(例えば、高薬物ロードでの高カプセル化効率、高抽出効率、及び許容される初期のバースト放出)を提供するさらなる医薬組成物が依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、抗体分子、ポリマー及びシクロデキストリンを含み、任意選択で緩衝剤及び/又は界面活性剤を更に含む乾燥抗体分子ロード高分子マイクロスフェア(或いは乾燥微粒子と称される)を提供することによって上記必要性に取り組む。好ましくは、シクロデキストリンは、β-シクロデキストリンファミリーのメンバーであり、HPβCD及びSBEβCDからなる群から更により好ましくは選択される。或いは、それはまた、α-シクロデキストリンファミリーのメンバーであってもよい。本発明による乾燥微粒子(又はその複数形態での乾燥微粒子)は、再懸濁してからそれを必要とする患者に投与してもよい。
【0011】
抗体分子、ポリマー及びシクロデキストリンを含み、任意選択で、緩衝剤及び/又は界面活性剤を含む水性抗体分子含有エマルションも提供される。好ましくは、シクロデキストリンはβ-シクロデキストリンファミリーのメンバーであり、HPβCD及びSBEβCDからなる群から更により好ましくは選択される。或いは、それはα-シクロデキストリンファミリーのメンバーであってもよい。前記水性抗体分子含有エマルションは、噴霧乾燥することによって乾燥微粒子を製造するために使用することができる。
【0012】
本発明による乾燥微粒子(単数又は複数)を含む医薬組成物も包含される。
【0013】
本発明全体の文脈において、抗体分子は、完全長重鎖及び軽鎖を有する完全抗体分子、又は、その抗原結合フラグメント―――例えば(これらに限定されないが)、Fab、改変Fab、Fab’、改変Fab’、F(ab’)2、Fv、Fab-Fv、Fab-dsFv、Fab-Fv-Fv、scFv、ビス-scFvフラグメント、1つ若しくは2つのscFv若しくはdsscFvに連結されたFab、例えば、BYbe(登録商標)若しくはTRYbe(登録商標)、ダイアボディ、トリボディ、トリアボディ、テトラボディ、ミニボディ、単一ドメイン抗体、ラクダ抗体、Nanobody(商標)又はVNARフラグメントからなる群から選択される―――からなる群から選択される。
【0014】
1つの態様において、本明細書では、抗体分子、ポリマー、及びシクロデキストリンを含む水性抗体分子含有エマルション及び乾燥微粒子であって、抗体分子/シクロデキストリン比(w/w)が12:1から7:6である水性抗体分子含有エマルション及び乾燥微粒子が提供される。
【0015】
本発明による乾燥微粒子を製造するための方法、並びに前記乾燥微粒子を得るための方法、前記乾燥微粒子中で抗体分子を安定化するための方法、及び前記乾燥微粒子の持続放出性能を改善するための方法も提供される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
・「溶媒」という用語は、本明細書において使用する場合、水性又は非水性のいずれかの液体溶媒を指す。
【0017】
薬物化合物を再懸濁するために溶媒を使用する場合、溶媒の選択は、前記溶媒に対する薬物化合物の溶解度、及び投与様式に特に依存する。タンパク質、例えば抗体を含む微粒子を再懸濁するために、水性溶媒が好ましい。水性溶媒は水のみで構成されていても、水及び1つ又は複数の混和性溶媒で構成されていても、溶解溶質、例えば、緩衝液、塩又は他の賦形剤を含んでいてもよい。本発明によれば、患者に投与する前に、1つ又は複数の微粒子を再懸濁するために好ましい溶媒は、水性溶媒、例えば、水又は生理食塩水溶媒である。
【0018】
抗体ロードマイクロスフェアを形成するのに必要とされるポリマーを可溶化するために溶媒が使用される場合、それは、アセトニトリル、酢酸エチル、アセトン、テトラヒドロフラン及び塩素系溶媒(例えばジクロロメタン)からなる群から典型的には選択される。
【0019】
・「乾燥微粒子」(その複数形態での乾燥微粒子)という用語は、非常に小さいサイズ(典型的には、約20μm又はそれ未満のサイズ)の乾燥「粒子」(或いは「微粒子」又は「マイクロスフェア」とも称される)を指す。好ましくは、乾燥微粒子は、乾燥粒子の重量の約10%未満、通常5%未満、又は更に3%未満の水を含む。前記乾燥微粒子は、本発明の文脈において、乾燥抗体ロードマイクロスフェア(或いはマイクロスフェア又はMSと称する)に相当する。乾燥微粒子は、水溶液又は水性エマルションを噴霧乾燥及び/又は凍結乾燥することによって典型的には得てもよい。或いは、乾燥粉末という用語を使用してもよい。
【0020】
・「水性抗体分子含有エマルション」という用語は、水中油中水又は油中水エマルションを指し、本明細書で更に定義される。本発明の文脈において、油中水エマルションが好ましい。
【0021】
・「凍結乾燥(freeze-drying)」という用語は「凍結乾燥(lyophilization)」としても知られ、少なくとも3つの主なステップ:1)凍結乾燥されることになる製品の温度を凝固点未満に低下させるステップ(典型的には、-40から-80℃の間;凍結ステップ)と、2)高圧真空を行うステップ(典型的には、30から300mTorrの間;第1の乾燥ステップ)と、3)温度を上昇させるステップ(典型的には、20から40℃の間;第2の乾燥ステップ)とからなる乾燥微粒子を得るための方法を指す。
【0022】
・「スプレードライ」という用語は、少なくとも2つの主なステップ:1)供給液を微細液滴に霧化するステップと、2)高温乾燥ガスを用いて溶媒又は水を蒸発させるステップとからなる、乾燥微粒子を得るための方法を指す。
【0023】
・「遅延放出」(或いは、本明細書において「持続放出」と称される)という用語は、数日、数週、数カ月又は更に数年にわたる活性成分(例えば、抗体又はその抗原結合フラグメント)の送達を指す。タンパク質ロードPLGA微粒子に関する典型的な遅延放出プロファイルは3相性であり、(i)初期のバースト放出(すなわち、初期の大量の活性成分の放出)、(ii)延滞期(すなわち、その間非常に少量の製品が放出されるか又は製品が放出されない相)及び(iii)放出期(すなわち、その間は放出速度が安定している相)からなる(Diwanら、2001年及びWhiteら、2013年)。活性成分の総量の好ましくは約50%以下の初期のバースト放出が許容されるとみなされるであろう。40%以下のいずれの初期のバースト放出も「制限されたバースト放出」と称されるであろう。抗体分子の放出も可能な限り完全なまま(すなわち、カプセル化された抗体の100%に可能な限り近い総放出)であるべきであり、好ましくは少なくとも90%を超えるべきである。そのような遅延放出組成物の利点のうちの1つは、組成物を患者に頻繁に投与することが少なくなるであろう点である。
【0024】
・「安定性」という用語は、本明細書において使用する場合、本発明による組成物中の抗体分子の物理的、化学的、及び立体配座的安定性を指す(生物学的潜在力の維持を含む)。抗体分子製剤の不安定性は、抗体分子が化学的に分解又は凝集して、例えば、高次ポリマーを形成すること、脱グリコシル化すること、グリコシル化を改変すること、酸化すること、又は製剤化された抗体分子の生物学的活性を低下させるその他の構造的な改変によって引き起こされる場合がある。
【0025】
・(例えば「安定乾燥微粒子」における)「安定」という用語は、目的の抗体分子が、製造中及び貯蔵時にその物理的、化学的及び/又は生物学的特性を実質的に保持する微粒子又は医薬組成物を指す。製剤中の抗体分子の安定性を測定するためのさまざまな分析法は熟練者の知識の十分な範囲内である(例の項におけるいくつかの例を参照のこと)。さまざまなパラメーターを測定して安定性、例えば(これらに限定されるものではないが)、1)抗体のモノマー形態の変化が10%以下であること、又は2)高分子量種(HMW又はHMWS;本明細書において凝集体とも称される)における増加が5%以下であることを(初期のデータと比較して)判定してもよい。
【0026】
・「緩衝液」又は「緩衝剤」という用語は、本明細書において使用する場合、医薬用途のための製剤において安全であることが既知であり、製剤に関して所望されるpH範囲内で製剤のpHを維持又は制御する効果を有する化合物の溶液を指す。pHを中程度の酸性pHから中程度の塩基性pHで制御するための許容される緩衝液としては、これらに限定されるものではないが、ホスファート、アセタート、シトラート、アルギニン、トリス(2-アミノ-2-ヒドロキシメチル-1,3、-プロパンジオール)、ヒスチジン緩衝液及び任意の薬理学的に許容されるこれらの塩がある。
【0027】
・「界面活性剤」という用語は、本明細書において使用する場合、疎水性、油性物質の水溶性を高めるか、そうでなければ異なる疎水性を有する2つの物質の混和性を増加させるために特に使用することができる溶解性の化合物を指す。界面活性剤は、特に薬物の吸収又はその標的組織への送達を改変するために製剤において通常使用される。周知の界面活性剤としては、ポリソルベート(ポリオキシエチレン誘導体;Tween)並びにポロキサマー(すなわち、エチレンオキシド及びプロピレンオキシドがベースのコポリマー、Pluronics(登録商標)としても知られる)がある。本発明によれば、好ましい界面活性剤は、ポロキサマー界面活性剤であり、更により好ましくは、ポロキサマー407(プルロニック(登録商標)F127としても知られる)である。
【0028】
・「安定化剤(stabilizing agent)」、「安定化剤(stabilizer)」又は「等張性薬剤」という用語は、本明細書において使用する場合、生理学的に耐容性を示し、製剤に好適な安定性/張度を与える化合物である。凍結乾燥プロセス又はスプレードライプロセスの間、安定化剤は保護剤としても効果的である。化合物、例えばグリセリンはそのような目的で通常使用される。他の好適な安定化剤としては、これらに限定されるものではないが、アミノ酸又はタンパク質(例えば、グリシン又はアルブミン)、塩(例えば、塩化ナトリウム)、及び糖(例えば、デキストロース、マンニトール、スクロース、トレハロース及びラクトース)がある。本発明によれば、好ましい安定化剤はシクロデキストリンである。
【0029】
・「シクロデキストリン」という用語(又はその複数形態)は、環を形成するように配置された、いくつか(6から8個)のグルコースサブユニットからなる化合物である。シクロデキストリンは、ヒトにおいて非経口で使用するための液体組成物において広範囲に許容される。本発明によるシクロデキストリンの好ましい形態は、β-シクロデキストリンファミリー(7個のグルコースサブユニット)、例えば(これらに限定されないが)、ヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン(HPβCD)及びスルホブチルエーテルβ-シクロデキストリン(SBEβCD)に属する。或いは、α-シクロデキストリンファミリーのメンバー(6個のグルコースサブユニット)を使用してもよいが、好ましくはγ-シクロデキストリン(8-グルコースサブユニット)は使用することができない。
【0030】
・「ポリマー」という用語は、単純な化学的単位の繰返しによって構築された高分子量の高分子化合物又は巨大分子を指す。ポリマーは、天然に存在する生物学的ポリマー(例えば、タンパク質、炭水化物、核酸)であっても、合成的に製造されたポリマー(例えば、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン)であってもよい。ポリマーという用語は、コポリマーも含む。生分解性及び生体適合性ポリマーが本発明の文脈において好ましい。そのようなポリマー(又は共重合体)の例は、ポリ乳酸(PLA)、PLAとグリコール酸とのコポリマー(PLGA)、ペグ化PLGA、又は更にポリカプロラクトンPCLである。
【0031】
・「バイアル」又は「容器」という用語は、本明細書において使用する場合、本発明の医薬組成物を乾燥微粒子のまま保持するのに好適なリザーバーを広範に指す。同様に、再懸濁するための溶媒を必要に応じて保持することになる。本発明において使用することができるバイアルの例としては(これらに限定されないが)、シリンジ(例えば、予め充填されたシリンジ)、アンプル、カートリッジ、チューブ、ボトル又は貯蔵及び/若しくは患者への医薬組成物の送達に好適な他のそのようなリザーバーがある。バイアルは、本発明による医薬組成物を含む1つ又は複数の容器と、送達デバイス、例えばシリンジ、予め充填されたシリンジ、自己注射器、無針デバイス、埋込体若しくはパッチ、又は非経口投与のための他のデバイスと、使用取扱説明書とを含むキットオブパーツの一部であってもよい。
【0032】
・「抗体分子」という用語は、完全長重鎖及び軽鎖を有する完全抗体分子、又はその抗原結合フラグメントを意味する。抗原結合フラグメントは、例えば(これらに限定されないが)、Fab、改変Fab、Fab’、改変Fab’、F(ab’)2、Fv、Fab-Fv、Fab-dsFv、Fab-Fv-Fv、scFv及びビス-scFvフラグメントを含むか又はこれらからなる群から選択してもよい。前記フラグメントはまた、ダイアボディ、トリボディ、トリアボディ、テトラボディ、ミニボディ、単一ドメイン抗体(dAb)、例えば、sdAb、VL、VH、VHH又はラクダ抗体(例えば、ラクダ又はラマからのもの、例えばNanobody(商標))及びVNARフラグメントであってもよい。本発明による抗原結合フラグメントは、1つ又は2つのscFv又はdsscFvに連結されたFabも含んでいてもよく、各scFv又はdsscFvは、同じ又は異なる標的に結合する(例えば、一方のscFv又はdsscFvは治療標的に結合し、もう一方のscFv又はdsscFvは、例えば、アルブミンに結合することによって半減期を延長させる)。そのような抗体フラグメントの例示的なものは、FabdsscFv(BYbe(登録商標)とも称される)又はFab-(dsscFv)(TrYbe(登録商標)とも称される、例えばWO2015/197772を参照のこと)である。本発明による抗体分子は、抗体又は抗体フラグメントから形成された1、2、3又は4価の、二重特異性、三重特異性、四重特異性又は多重特異性抗体分子であってもよい。その用語は、任意の種、特に2つの実質的に完全な重鎖及び2つの実質的に完全な軽鎖を有する哺乳動物種の抗体分子、IgA1、IgA2、IgD、IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3、IgG4、IgE及びIgM、並びに改変されたこれらのバリアントを含む任意のアイソタイプのヒト抗体、例えば、チンパンジー、ヒヒ、アカゲザル又はカニクイザルからの非ヒト霊長類抗体、例えば、マウス、ラット又はウサギからの齧歯動物抗体;ヤギ若しくはウマ抗体、及びこれらの誘導体、又は鳥類種のもの、例えばニワトリ抗体、又は魚類種のもの、例えばサメ抗体を含む。前記抗体分子は、任意のタイプ、例えば、モノクローナル、キメラ、ヒト化、完全ヒトのものであってもよい。必要に応じて、抗体分子は、1つ又は複数のエフェクター分子にコンジュゲートさせてもよい。上記で定義した抗体分子、並びにこれらの抗体又は抗体フラグメントを作成、製造するための方法は当技術分野において周知である(Vermaら、1998年)。
【0033】
抗体又はその抗原結合フラグメントは、組換え抗体又は組換え抗体フラグメント(単数又は複数)をコードする1つ又は複数の発現ベクターでトランスフェクトされた原核生物又は真核生物の宿主細胞を培養することによって得てもよい。真核生物宿主細胞は、好ましくは哺乳動物細胞であり、より好ましくはチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞である。原核生物の宿主細胞は、好ましくはグラム陰性細菌であり、より好ましくは、宿主細胞は大腸菌(E. coli)細胞である。宿主細胞は、組換えタンパク質の成長及び発現を支持することになる任意の培地中で培養してもよい。各宿主細胞にとって最良の条件は、当業者であれば既知であろう。
【0034】
細胞培養物の上澄み又は封入体のいずれかから回収したら、製造に使用する宿主細胞に応じて、抗体又はその抗原結合フラグメントを精製してもよい。精製方法は当業者に周知である。これらは、典型的には、さまざまなクロマトグラフィー及びろ過ステップの組合せからなる。完全なプロセスは、水性条件で行われる。プロセスの終わりに回収した溶液を製剤にしてもよい。前記溶液は、本明細書において「水性抗体分子含有溶液」と称されることになる。それは、本発明のエマルション、次いで乾燥微粒子(単数又は複数)が形成される溶液を指す。
【0035】
・「高濃度」抗体分子という用語は、抗体分子の濃度が少なくとも50mg/mLであることを意味する。
【0036】
・「治療有効量」という用語は、本明細書において使用する場合、標的の疾患、障害若しくは状態を処置、改善若しくは予防するのに又は検出可能な治療的、薬理学的若しくは予防的効果を示すのに必要とされる抗体分子の量を指す。いずれの抗体分子に関しても、治療有効量は、最初に細胞培養アッセイ又は動物モデルのいずれかで評価してもよく、通常、齧歯動物、ウサギ、イヌ、ブタ又は霊長目で評価してもよい。動物モデルを使用して、適切な濃度範囲及び投与の経路も判定してもよい。次いで、そのような情報を使用して、ヒトにおける投与に有用な用量及び経路を判定してもよい。
【0037】
本発明の全ての実施形態において、「組成物」は、「製剤」と称される場合があり、一切区別されない。
【0038】
乾燥微粒子の形態での医薬組成物のいくつかの特性が、シクロデキストリンの存在下で、より具体的には、β-シクロデキストリンファミリーのいくつかのメンバー、例えば、HPβCD及びSBEβCDの存在下で大幅に改善されたことは本発明者らの驚くべき発見である。これらの効果は、高濃度の抗体分子を含む水溶液から得られた乾燥微粒子(又は複数の乾燥微粒子)(a dry microparticle (or dry microparticles))で、スプレードライステップを行った場合はエマルションで特に観察された。本発明による乾燥微粒子(単数又は複数)は持続放出特性を有し、抗体の安定性が改善されており、同時に良好な粉末性能(例えば、高薬物ロードでの高カプセル化効率、高抽出効率及び許容される初期のバースト放出)を提供することは、実際に驚くべき発見である。
【0039】
本発明の文脈において、乾燥微粒子は、90%を超えるカプセル化効率、20%を超える薬物ロード及び80%を超える抽出効率を示す場合、良好な粉末性能を有すると考えられることになる。放出されるmAbの総量の少なくとも約10%の増加は、粉末性能からの改善であると考えられることになる。シクロデキストリン不含製剤と比較してHMWSの少なくとも10%の低下は、安定性の観点からの改善であると考えられることになる。
【0040】
本発明の主な目的は、抗体分子、ポリマー、及びシクロデキストリンを含むか又はこれらからなる乾燥微粒子である。任意選択で、前記乾燥微粒子は、緩衝剤及び/又は界面活性剤を更に含む。例として、約10から30%重量(w)/wの抗体分子、約50から80%(w/w)のポリマー、12:1又は約12:1から7.6又は約7:6の抗体分子/シクロデキストリン比(w/w)のシクロデキストリン、並びに任意選択で約0.2から4%(w/w)の緩衝剤、及び/又は約0.05から4.0%(w/w)の界面活性剤を含むか又はこれらからなる乾燥微粒子が本明細書において提供される。さらなる例として、約10から30%(w/w)の抗体分子、約0.2から4%(w/w)の緩衝剤、約50から80%(w/w)のポリマー、12:1又は約12:1から7.6又は約7:6の抗体分子/シクロデキストリン比(w/w)のシクロデキストリン、及び任意選択で約0.05から4.0%(w/w)の界面活性剤を含むか又はこれらからなる乾燥微粒子が本明細書において提供される。前記微粒子は安定である。いずれの場合も、全ての構成要素の百分率の合計は100%に達することを理解されたい。
【0041】
本発明の別の目的は、抗体分子、ポリマー、及びシクロデキストリンを含むか又はこれらからなる水性抗体分子含有エマルションである。任意選択で、前記水性抗体分子含有エマルションは、緩衝剤及び/又は界面活性剤を更に含む。例として、a)約5から約30%w/v(重量/体積)(すなわち約50から約300mg/mL)の抗体分子、12:1又は約12:1から7.6又は約7:6の抗体分子/シクロデキストリン比(w/w)のシクロデキストリン、並びに任意選択で約5から100mMの緩衝剤、及び約0.05から約1.5%w/vの界面活性剤を含むか又はこれらからなる水性相と、b)約0.5から約10.0%w/vのポリマーを含む有機相とを含むか又はこれらからなる水性抗体分子含有エマルションが本明細書において提供される。w/wで示される本明細書において提供される水性抗体分子含有エマルションは、約10から30%(w/w)の抗体分子、約50から80%(w/w)のポリマー、12:1又は約12:1から7.6又は約7:6の抗体分子/シクロデキストリン比(w/w)のシクロデキストリン、並びに任意選択で約0.2から4%(w/w)の緩衝剤、及び/又は約0.05から4.0%(w/w)の界面活性剤を含むか又はこれらからなる。さらなる例として、約10から30%(w/w)の抗体分子、約0.2から4%(w/w)の緩衝剤、約50から80%(w/w)のポリマー、12:1又は約12:1から7.6又は約7:6の抗体分子/シクロデキストリン比(w/w)のシクロデキストリン、及び任意選択で約0.05から4.0%(w/w)の界面活性剤を含むか又はこれらからなる水性抗体分子含有エマルションが本明細書において提供される。前記水性抗体分子含有エマルションは、任意の既知の手段によって乾燥微粒子を得るための中間体として使用することができる。好ましくは、前記水性抗体分子含有エマルションを噴霧乾燥して乾燥微粒子を得てもよい。或いは、最初に噴霧乾燥し、次いで凍結乾燥して乾燥微粒子を得てもよい。
【0042】
本発明の別の目的は、水性抗体分子含有エマルションを噴霧乾燥することによって得られる乾燥微粒子である。前記エマルションは、水性相及び有機相をホモジネートすることによって得られ、ポリマー(有機相によって提供される)、並びに抗体分子、シクロデキストリン、並びに任意選択で緩衝剤及び/又は界面活性剤(水性相によって提供される)を含むか又はこれらからなる。例として、水性抗体分子含有エマルションを噴霧乾燥することによって得られる乾燥微粒子であって、前記水性抗体分子含有エマルションが、a)約5から約30%w/v(すなわち約50から約300mg/mL)の抗体分子、12:1又は約12:1から7.6又は約7:6の抗体分子/シクロデキストリン比(w/w)のシクロデキストリン、並びに任意選択で約5から100mMの緩衝剤、及び約0.05から約1.5%w/vの界面活性剤を含むか又はこれらからなる水性相と、b)約0.5から約10.0%w/vのポリマーを含む有機相とを含むか又はこれらからなる乾燥微粒子が本明細書において提供される。さらなる例として、水性抗体分子含有エマルションを噴霧乾燥することによって得られる乾燥微粒子であって、前記水性抗体分子含有エマルションが、a)約5から約30%w/v(すなわち約50から約300mg/mL)の抗体分子、約5から100mMの緩衝剤、12:1又は約12:1から7.6又は約7:6の抗体分子/シクロデキストリン比(w/w)のシクロデキストリン、及び任意選択で約0.05から約1.5%w/vの界面活性剤を含むか又はこれらからなる水性相と、b)約0.5から約10.0%w/vのポリマーを含む有機相とを含むか又はこれらからなる乾燥微粒子が本明細書において提供される。噴霧乾燥ステップ後、乾燥微粒子は、任意選択で更に凍結乾燥してもよい。前記微粒子は安定である。
【0043】
本開示のさらなる目的は、抗体分子、ポリマー、シクロデキストリン、並びに任意選択で緩衝剤及び/又は界面活性剤を含むか又はこれらからなる乾燥微粒子を製造するための方法であって、
a)シクロデキストリンを水性抗体分子含有溶液に添加して水性相を得るステップと、
b)ポリマーを溶媒中に可溶化して有機相を得るステップと、
c)ステップa)の水性相をステップb)の有機相に添加して水性抗体分子含有エマルションを得る(ホモジネート後に)ステップと、次いで
d)水性抗体分子含有エマルションを噴霧乾燥して乾燥微粒子を得るステップと、
e)任意選択で、ステップd)の乾燥微粒子を更に凍結乾燥して最終的な乾燥微粒子を得るステップと
を含み、
ステップa)及びb)は任意の順序で行ってもよい方法を記載することである。
【0044】
微粒子が緩衝剤及び/又は界面活性剤を含む場合、前記緩衝剤及び/又は界面活性剤は、(ステップaの)水性抗体分子含有溶液に好ましくは存在する。例として、本明細書では、抗体分子、ポリマー、シクロデキストリン、並びに任意選択で緩衝液及び/又は界面活性剤を含むか又はこれらからなる乾燥微粒子を製造するための方法であって、
a)12:1又は約12:1から7.6又は約7:6の抗体分子/シクロデキストリン比(w/w)のシクロデキストリンを、水性抗体分子含有溶液(約5から約30%w/v(すなわち約50から約300mg/mL)の抗体分子を含む)に添加して水性相を得るステップと、
b)ポリマーを溶媒中に可溶化して有機相を得るステップと、
c)ステップa)の水性相を、約0.5から約10.0%w/vのポリマーを含むステップb)の有機相に添加して水性抗体分子含有エマルションを得る(ホモジネート後に)ステップと、次いで、
d)ステップc)の水性抗体分子含有エマルションを噴霧乾燥して乾燥微粒子を得るステップと、
e)任意選択で、ステップd)の乾燥微粒子を更に凍結乾燥して最終的な乾燥微粒子を得るステップと
を含み、
ステップa)及びb)は任意の順序で行ってもよい方法を開示する。
【0045】
微粒子が緩衝剤を含む場合、前記緩衝剤は、約5から100mMの緩衝剤の量で、(ステップaの)水性抗体分子含有溶液に好ましくは存在する。微粒子が界面活性剤を含む場合、前記界面活性剤は、(ステップa)の間又はステップa)の前に)水性抗体分子含有溶液中に約0.05から約1.5%w/vで好ましくは添加される。さらなる例として、抗体分子、ポリマー、シクロデキストリン、緩衝剤及び任意選択で界面活性剤を含むか又はこれらからなる乾燥微粒子を製造するための方法であって、
a)12:1又は約12:1から7.6又は約7:6(w/w)の抗体分子/シクロデキストリン比のシクロデキストリンを、約5から約30%w/v(すなわち約50から約300mg/mL)の抗体分子及び約5から100mMの緩衝剤を含む抗体分子含有溶液に添加して水性相を得るステップと、
b)ポリマーを溶媒中に可溶化して有機相を得るステップと、
c)ステップa)の水性相を、約0.5から約10.0%w/vのポリマーを含むステップb)の有機相に添加して水性抗体分子含有エマルションを得る(ホモジネート後に)ステップと、次いで
d)ステップc)の水性抗体分子含有エマルションを噴霧乾燥して乾燥微粒子を得るステップと、
e)任意選択で、ステップd)の乾燥微粒子を更に凍結乾燥して最終的な乾燥微粒子を得るステップと
を含み、
ステップa)及びb)は任意の順序で行ってもよい方法が本明細書において開示される。
【0046】
微粒子が界面活性剤を含む場合、前記界面活性剤は、(ステップa)の間又はステップa)の前に)水性抗体分子含有溶液中に約0.05から約1.5%w/vで好ましくは添加される。
【0047】
本発明の別の態様は、乾燥微粒子中で抗体分子を安定化するための方法であって、a)シクロデキストリン、次いで可溶化ポリマーを、水性抗体分子含有溶液に添加して水性抗体分子含有エマルションを得る(ホモジネート後に)ステップと、次いで、b)得られた水性抗体分子含有エマルションを噴霧乾燥して抗体分子が安定な乾燥微粒子を得るステップと、を含む方法を提供する。微粒子が緩衝剤を含む場合、前記緩衝剤は、水性抗体分子含有溶液(ステップa)に好ましくは存在する。例として、乾燥微粒子中で抗体分子を安定化するための方法であって、a)12:1又は約12:1から7.6又は約7:6の抗体分子/シクロデキストリン比(w/w)のシクロデキストリン、次いで約0.5から約10.0%w/vの可溶化ポリマーを、水性抗体分子含有溶液(約5から約30%w/v(すなわち約50から約300mg/mL)の抗体分子を含む)に添加して水性抗体分子含有エマルションを得る(ホモジネート後に)ステップと、次いで、b)得られた水性抗体分子含有エマルションを噴霧乾燥して抗体分子が安定な乾燥微粒子を得るステップと、を含む方法が本明細書において提供される。別の例において、乾燥微粒子中で抗体分子を安定化するための方法であって、a)12:1又は約12:1から7.6又は約7:6の抗体分子/シクロデキストリン比(w/w)のシクロデキストリン、次いで約0.5から約10.0%w/vの可溶化ポリマーを、水性抗体分子含有溶液(約5から約30%w/v(すなわち約50から約300mg/mL)の抗体分子及び約5から100mMの緩衝剤を含む)に添加して水性抗体分子含有エマルションを得る(ホモジネート後に)ステップと、次いで、b)得られた水性抗体分子含有エマルションを噴霧乾燥して抗体分子が安定な乾燥微粒子を得るステップと、を含む方法が本明細書において提供される。微粒子が界面活性剤を含む場合、前記界面活性剤は、(ステップa)の間又はステップa)の前に)水性抗体分子含有溶液中に約0.05から約1.5%w/vで好ましくは添加されることに留意されたい。噴霧乾燥ステップ後、乾燥微粒子は、凍結乾燥のステップを更に行ってもよいことに更に留意されたい。
【0048】
抗体分子、ポリマー、シクロデキストリン、並びに任意選択で緩衝液及び/又は界面活性剤を含む乾燥微粒子を得るための方法であって、
a.シクロデキストリンを水性抗体分子含有溶液に添加して第1の組成物(これは水性相である)を得るステップと、
b.ステップa.の第1の組成物とポリマーとを合わせるステップであって、前記ポリマーが可溶化されて、第2の組成物(これは有機相である)を得るステップと、
c.ステップb.の第2の組成物をホモジネートして油中水エマルションを得るステップと、
d.ステップc.の油中水エマルションを噴霧乾燥して前記乾燥微粒子を得るステップと、
e.任意選択で、ステップd.の乾燥微粒子を凍結乾燥して最終的な乾燥微粒子を得るステップと
を含む方法も記載される。
【0049】
微粒子が緩衝剤及び/又は界面活性剤を含む場合、前記緩衝剤及び/又は界面活性剤は、水性相(ステップa)に好ましくは存在する。例として、抗体分子、ポリマー、シクロデキストリン、並びに任意選択で緩衝液及び/又は界面活性剤を含む乾燥微粒子を得るための方法であって、
a.12:1又は約12:1から7.6又は約7:6の抗体分子/シクロデキストリン比(w/w)のシクロデキストリンを、水性抗体分子含有溶液(約5から約30%w/v(すなわち約50から約300mg/mL)の抗体分子を含む)に添加して第1の組成物(これは水性相である)を得るステップと、
b.ステップa.の第1の組成物と約0.5から約10.0%w/vのポリマーとを合わせるステップであって、(有機相として)前記ポリマーが可溶化されて、第2の組成物を得るステップと、
c.ステップb.の第2の組成物をホモジネートして油中水エマルションを得るステップと、
d.ステップc.の油中水エマルションを噴霧乾燥して前記乾燥微粒子を得るステップと、
e.任意選択で、ステップd.の乾燥微粒子を凍結乾燥して最終的な乾燥微粒子を得るステップと
を含む方法が本明細書において開示される。
【0050】
微粒子が緩衝剤を含む場合、前記緩衝剤は、好ましくは約5から100mMの量で、水性相(ステップa)に好ましくは存在する。微粒子が界面活性剤を含む場合、前記界面活性剤はまた、(ステップa)の間又はステップa)の前に)水性相中に約0.05から約1.5%w/vで好ましくは添加される。
【0051】
或いは、抗体分子、ポリマー、シクロデキストリン、並びに任意選択で緩衝液及び/又は界面活性剤を含む乾燥微粒子を得るための方法であって、
a.シクロデキストリン、次いで可溶化されたポリマーを、水性抗体分子含有溶液に添加して第1の組成物を得るステップと、
b.ステップa.の第1の組成物をホモジネートして油中水エマルションを得るステップと、
c.ステップb.の油中水エマルションを噴霧乾燥して前記乾燥微粒子を得るステップと、
d.任意選択で、ステップc.の乾燥微粒子を凍結乾燥して最終的な乾燥微粒子を得るステップと
を含む方法が本明細書において記載される。
【0052】
微粒子が緩衝剤及び/又は界面活性剤を含む場合、前記緩衝剤及び/又は界面活性剤は、ステップaの水性抗体分子含有溶液に好ましくは存在する。例として、抗体、ポリマー、シクロデキストリン、及び任意選択で界面活性剤を含む乾燥微粒子を得るための方法であって、
a.シクロデキストリン(12:1又は約12:1から7.6又は約7:6の抗体分子/シクロデキストリン比(w/w))、次いで可溶化されたポリマー(約0.5から約10.0%w/v)を、水性抗体分子含有溶液(約5から約30%w/v(すなわち約50から約300mg/mL)の抗体分子を含む)に添加して第1の組成物を得るステップと、
b.ステップa.の第1の組成物をホモジネートして油中水エマルションを得るステップと、
c.ステップb.の油中水エマルションを噴霧乾燥して前記乾燥微粒子を得るステップと、
d.任意選択で、ステップd.の乾燥微粒子を凍結乾燥して最終的な乾燥微粒子を得るステップと
を含む方法を本明細書において記載する。
【0053】
微粒子が緩衝剤を含む場合、前記緩衝剤は、約5から100mMの緩衝剤の量で、ステップaの水性抗体分子含有溶液に好ましくは存在する。微粒子が界面活性剤を含む場合、前記界面活性剤はまた、(ステップa)の間又はステップa)の前に)ステップaの水性抗体分子含有溶液中に約0.05から約1.5%w/vで好ましくは添加される。
【0054】
本発明の別の目的は、乾燥微粒子の抗体分子持続放出性能を改善し、例えば、注射時のバースト放出の制限及び/又は抗体分子の良好な総放出を提示するための方法であって、a)シクロデキストリン、次いで可溶化ポリマーを、水性抗体分子含有溶液に添加して水性抗体分子含有エマルションを得るステップと、次いで2)得られた水性抗体分子含有エマルションを噴霧乾燥して、強化された抗体分子持続放出性能を有する前記乾燥微粒子を得るステップと、を含む方法である。微粒子が緩衝剤及び/又は界面活性剤を含む場合、前記緩衝剤及び/又は界面活性剤は、水性抗体分子含有溶液中に好ましくは添加される。例として、乾燥微粒子の抗体分子持続放出性能を強化し、注射時のバースト放出の制限及び/又は抗体分子の良好な総放出を提示するための方法であって、a)12:1又は約12:1から7.6又は約7:6の抗体分子/シクロデキストリン比(w/w)のシクロデキストリン、次いで約0.5から約10.0%w/vの可溶化ポリマーを、水性抗体分子含有溶液(約5から約30%w/v(すなわち約50から約300mg/mL)の抗体分子を含む)に添加して水性抗体分子含有エマルションを得るステップと、次いでb)得られた水性抗体分子含有エマルションを噴霧乾燥して、強化された抗体分子持続放出性能を有する前記乾燥微粒子を得るステップと、を含む方法が本明細書において提供される。さらなる例として、乾燥微粒子の抗体分子持続放出性能を強化し、注射時のバースト放出の制限及び/又は抗体分子の良好な総放出を提示するための方法であって、a)12:1又は約12:1から7.6又は約7:6の抗体分子/シクロデキストリン比(w/w)のシクロデキストリン、次いで約0.5から約10.0%w/vのポリマーを、水性抗体分子含有溶液(約5から約30%w/v(すなわち約50から約300mg/mL)の抗体分子及び約5から100mMの緩衝剤を含む)に添加して水性抗体分子含有エマルションを得るステップと、次いでb)得られた水性抗体分子含有エマルションを噴霧乾燥して、強化された抗体分子持続放出性能を有する前記乾燥微粒子を得るステップと、を含む方法が本明細書において提供される。微粒子が界面活性剤を含む場合、前記界面活性剤は、(ステップa)の間又はステップa)の前に)水性抗体分子含有溶液中に約0.05から約1.5%w/vで好ましくは添加されることに留意されたい。噴霧乾燥ステップ後、乾燥微粒子は、凍結乾燥のステップを更に行ってもよいことに更に留意されたい。
【0055】
本開示全体の文脈において、抗体分子は、完全長重鎖及び軽鎖を有する完全抗体分子、又は、その抗原結合フラグメント―――例えば(これらに限定されないが)、Fab、改変Fab、Fab’、改変Fab’、F(ab’)2、Fv、Fab-Fv、Fab-dsFv、Fab-Fv-Fv、scFv、ビス-scFvフラグメント、1つ若しくは2つのscFv若しくはdsscFvに連結されたFab、例えばBYbe(登録商標)若しくはTRYbe(登録商標)、ダイアボディ、トリボディ、トリアボディ、テトラボディ、ミニボディ、単一ドメイン抗体、ラクダ抗体、Nanobody(商標)又はVNARフラグメントを含むか若しくはこれらからなる群から選択される―――である。本発明による抗体分子は、抗体又は抗体フラグメントから形成された1、2、3又は4価、二重特異性、三重特異性、四重特異性又は多重特異性抗体分子であってもよい。前記抗体分子は、約10から約30%、好ましくは約15から約30%、更により好ましくは約20から約30%、例えば、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29又は30%の範囲で乾燥微粒子中に存在していてもよい。乾燥する前に、抗体分子は、50mg/mL又は約50mg/mLから300mg/mL又は約300mg/mL、好ましくは50mg/mL又は約50mg/mLから200mg/mL又は約200mg/mLの濃度で、又は更に好ましくは50mg/mL又は約50mg/mLから160mg/mL又は約160mg/mL、例えば、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150又は160mg/mLの濃度で水溶液中に又はエマルション中に好ましくは存在する。或いは、乾燥する前に、抗体分子は、5又は約5から30%w/v又は約30%w/vの濃度で、又は好ましくは5又は約5から20%w/v又は約20%w/vの濃度で、又は更に好ましくは5又は約5から16%w/v又は約16%w/v、例えば、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15又は16%w/vの濃度で水溶液中又はエマルション中に存在する。
【0056】
本開示全体の文脈において、シクロデキストリンは、β-シクロデキストリンファミリーのメンバー、例えばHPβCD及びSBEβCDである。或いは、それはα-シクロデキストリンファミリーのメンバーであってもよい。安定性、カプセル化、抽出及びバースト放出の観点から最良の乾燥微粒子を得るために、特定の範囲の抗体分子/シクロデキストリン比(w/w)が必要とされたことが本発明者によって示されている。本発明全体の文脈において、抗体分子/シクロデキストリン比(w/w)は、好ましくは12:1又は約12:1から7.6又は約7:6である。更に好ましくは、抗体分子/シクロデキストリン比(w/w)は、10:1又は約10:1から7.6又は約7:6、例えば(約)10:1、9:1、8:1、7:1、6:1、5:1、4:1、3:1、2:1、3:2、4:3、5:4、6:5又は7:6である。
【0057】
本開示全体の文脈において、ポリマーは、典型的には、好ましくは乳酸又はカプロラクトンがベースの生分解性ポリマーである。本発明に従って使用することができるポリマーの例示的なものは、PLGA、PLA、PEG-PLGA又はPCLである。ポリマーは、約0.5から約10.0%w/v、更に好ましくは約1.0から約5.0%w/v、例えば、約1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、4.5及び5.0%w/vの濃度で水性抗体分子含有溶液中に添加される。したがって、前記ポリマーは、約50から約80%、例えば、50、55、60、65、70、75又は80%w/wの範囲で乾燥微粒子に存在することになる。
【0058】
本発明全体によれば、緩衝剤が存在する場合、前記緩衝剤は(これらに限定されないが)、ホスファート、アセタート、シトラート、アルギニン、トリスアミノメタン(トリス)、及びヒスチジンを含むか又はこれらからなる群から選択してもよい。前記緩衝剤は、水性抗体分子含有溶液に好ましくは存在する。緩衝剤は、約5mMから約100mMの緩衝剤の量で、更に好ましくは約10mMから約50mM、例えば、約10、15、20、25、30、35、40、45又は50mMの量で好ましくは存在する。したがって、前記緩衝剤は、約0.2から約4.0%w/w、例えば、0.2、0.3、0.4、0.5、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5又は4.0%w/wの範囲で乾燥微粒子に存在することになる。
【0059】
本開示全体の文脈において、界面活性剤が存在していてもよい。前記界面活性剤は、好ましくはポロキサマー、例えば、ポロキサマー407である。界面活性剤は、0.05%若しくは約0.05%から2.0%若しくは約2.0%(w/v)、より好ましくは0.05%若しくは約0.05%から1.5%若しくは約1.5%(w/v)、又は更に好ましくは0.1%若しくは約0.1%から1.0%若しくは約1.0%(w/v)、例えば、約0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9又は1.0%(w/v)の濃度で水性抗体分子含有溶液中に好ましくは添加される。したがって、前記ポリマーは、存在する場合、約0.05から約4%w/w、例えば、0.05、0.1、0.5、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5又は4.0%w/wの範囲で乾燥微粒子に存在することになる。
【0060】
油中水エマルションにおいて、水性相の最大体積は総体積(すなわち有機相体積+水性相体積)の40%であることは一般的に理解されている。これは、水性相:有機相比(v/v)が6.7:10以下であることに匹敵する。本開示全体の文脈において、水性相:有機相比(v/v)は、1/20から7/20、例えば、1/20、1/10、3/20、2/10、5/20、3/10又は7/20の範囲である。
【0061】
好ましくは、本発明による水性抗体分子含有エマルション又は乾燥微粒子は、総じて糖化合物を一切含まない(例えば、単糖、二糖又はその他のポリサッカライド、例えば、デキストラン又はデキストラン由来化合物を含まない)。
【0062】
本発明の別の目的は、総じて本発明による乾燥微粒子のうちの1つ又は複数を含む医薬組成物である。
【0063】
本発明はまた、医薬用途のための製造品であって、上述の乾燥微粒子のうちのいずれか1つ又は複数を含むバイアルを含み、前記微粒子が抗体分子、ポリマー、シクロデキストリン並びに任意選択で緩衝剤及び/又は界面活性剤を含むか又はこれらからなる製造品を提供する。
【0064】
或いは、医薬用途のための製造品であって、1)上述の乾燥微粒子のうちのいずれか1つ又は複数を含む第1のバイアルであって、前記微粒子が、抗体分子、ポリマー、シクロデキストリン、並びに任意選択で緩衝剤及び/又は界面活性剤を含むか又はこれらからなるバイアルと、2)再懸濁を必要とする場合、再懸濁するための溶媒を含む第2のバイアルとを含む製造品が本明細書において記載される。
【0065】
本発明はまた、本発明による乾燥微粒子(単数又は複数)、取扱説明書及び任意選択で希釈剤(乾燥微粒子(単数又は複数)を再懸濁してから使用する場合)を含むキットを提供する。
【0066】
本発明による乾燥微粒子(単数又は複数)は、少なくとも約12カ月から約36カ月間貯蔵してもよい。最初に使用する前に、前記微粒子は好ましい貯蔵条件下で、明るい光を避け(好ましくは暗所で)、好ましくは約2から約25℃の温度で維持する。
【0067】
本発明の乾燥微粒子(単数又は複数)を再懸濁してから使用する場合、再懸濁は、溶媒、例えば、水又は生理食塩水溶液(例えば、注射用0.9%w/v塩化ナトリウム)を用いて無菌状態下で好ましくは行ってから使用、すなわち投与する。再懸濁された抗体組成物は、再懸濁してから好ましくは1時間以内に投与するべきである。
【0068】
本発明による乾燥微粒子(単数又は複数)又は本発明による再懸濁された抗体組成物は、治療法又は診断に使用するためのものである。
【0069】
本発明による乾燥微粒子(単数又は複数)又は再懸濁された抗体組成物(単数又は複数)は、治療有効量で投与される。ヒト対象に関する正確な治療有効量は、病態の重症度、対象の一般的な健康、対象の年齢、体重及び性別、食事、投薬時間及び頻度、薬物の組合せ(単数又は複数)、反応感受性、並びに治療法に対する耐容性/応答に依存する場合がある。この量は、所定の実験によって判定してもよく、臨床医の判断の範囲内である。一般的に、抗体分子の治療有効量は0.01mg/kgから500mg/kg、例えば、0.1mg/kgから200mg/kg又は1mg/kgから100mg/kgであろう。
【0070】
適切な投薬量は、例えば、用いられることになる特定の抗体分子、処置される対象、投与様式、並びに処置される状態の特質及び重症度に応じて変化することになる。
【0071】
本発明による乾燥微粒子(単数又は複数)は、皮下、筋肉内、関節内又は鼻腔内経路を介して好ましくは投与される。或いは、本発明による再懸濁された抗体組成物(単数又は複数)は、吸入によって投与される。
【0072】
以下の例は、本発明の医薬組成物、例えば乾燥微粒子の調製を更に例示するために提供される。本発明の範囲は、以下の例からなるにすぎないと解釈されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0073】
図1】本発明によるAbロード微粒子の製造を示す図である。
図2】67:33のmAb1/HPβCDを含む製剤に関する経時的な放出プロファイルを示す図である。
図3】SC、SOW及びSD群に関して、血漿における経時的な平均mAb1濃度の比較を示す図である。
【実施例
【0074】
1.材料
【表1】
【0075】
2.方法
2.1抗体含有溶液の調製:
抗体(Ab)含有溶液を、以下を含む最初の製剤溶液から調製した:
・30mMヒスチジン、200mMソルビトール、60mM塩化ナトリウムを含むpH5.6の水溶液中の160mg/mL mAb1又は
・50mMヒスチジン、125mM塩化ナトリウム、pH6.0を含む水溶液中の50mg/mL fAb2。
【0076】
製剤溶液を、適切な遠心フィルターデバイス、例えば、Amicon 15 30KDa Mw Coメンブラン(Millipore、USA)若しくはVIVASPIN(登録商標)20 30 KDaメンブラン(Sartorius、Germany)を使用した緩衝液交換によって、又はVIVAFLOW(登録商標)50又は200カセット(Sartorious、Germany)を使用することによって調製した。最初の溶液を連続希釈し、4000gの遠心分離により濃縮することによって、又は異なる溶液がカセットに通過するのを介して生じる漸進的な緩衝液交換によって適切な製剤溶液に変化させた。最終的な抗体含有溶液を、STERITOP(商標)又はSTERIFLIP(登録商標)フィルターユニット(Millipore、USA)を使用して0.22μmメンブランでろ過してから、更に処理した。最終的な抗体濃度は、mAb1とfAb2の両方に関して0.5%w/vのポロキサマー407の存在下、mAb1に関しては15mM L-ヒスチジンpH5.6で、fAb2に関しては50mM L-ヒスチジンpH6.0で80mg/mL(すなわち8%)であった。賦形剤、例えば、シクロデキストリン又はトレハロース(100:0から20:80w/wの抗体:シクロデキストリン又はトレハロース比)を添加してから、乳化した。
【0077】
2.2カプセル化プロセス(図1
第1のステップは、油中水(w/o)エマルションの調製であった。w/oエマルション(例えば1:10の水/油比)を製造するために、PLGAを酢酸エチル中に最初に溶解した(2.5%w/vのPLGA濃度)。w/oエマルションを、S25N-8G分散ツールを備えたT25デジタルULTRA-TURRAX(登録商標)高速ホモジナイザー(IKA、Germany)を使用して、抗体含有溶液を有機相中に13,500rpmの設定で1分間高速撹拌下で注ぎ入れることによって得た。乳化ステップは室温で行った。
【0078】
第2のステップはエマルションの噴霧乾燥であった。この方法は、水性又は有機溶液、エマルション、分散液及び懸濁液を、微粒子(或いは、マイクロスフェアと称される)を含む乾燥粉末に変換するために広範囲に適用される。噴霧乾燥は、供給液を微細液滴に霧化し、高温乾燥ガスを用いて溶媒又は水を蒸発させる。プロセスパラメーター、例えば、入口温度、出口温度、霧化圧力、流量及びアスピレーションは、プロセス中、制御された。第1のステップから得たw/oエマルションを、直径値が0.7mmの2流体ノズルを備えたミニ噴霧乾燥B-290(登録商標)(Buchi、Switzerland)を使用して、一定撹拌下で噴霧乾燥し、乾燥マイクロスフェア(MS)(すなわち乾燥微粒子)を得た。各組成物に関しては、次のパラメーター、ガス噴霧流量600~800L/時間、アスピレーション速度34m/時間、及び流量3.0mL/分を一定に維持した。
【0079】
2.3.タンパク質濃度-A280:
「総Ab」アッセイを、UV分光光度法を使用して、SpectraMax M5マイクロプレートリーダー(Molecular Devices、USA)で280nmにおいて行った。
【0080】
2.4.BCA(ビシンコニン酸)比色アッセイによる総タンパク質アッセイ:
MS内部にカプセル化されたAbの評価を、BCA方法を使用した総タンパク質アッセイによって行った。Pierceのプロトコールである「マイクロプレート手順」に従った。MS内部のAbを投薬する前に、それをMSから抽出することが必要であった。この目的のために、既知の量のMS(10~20mg)を、0.1N NaOH溶液1mLと接触させて、ポリマー及びタンパク質を溶解した。作業用試薬を、50部のBCA試薬A(0.1N水酸化ナトリウム中に、炭酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、ビシンコニン酸及び酒石酸ナトリウムを含む溶液)と1部のBCA試薬B(4%硫酸第二銅を含む溶液)とを混合することによって調製した。標準又は未知のサンプル25μLをマイクロプレートウェルに入れた。作業用試薬200μLを各ウェルに添加した。プレートシェーカーで30秒混合後、プレートにカバーをかけ、37℃で30分間インキュベートした。吸光度を、SpectraMax M5マイクロプレートリーダー(Molecular Devices、USA)で562nmにおいて測定した。標準曲線を、各標準(ガンマグロブリン又はAb自体)に関する平均562nmにおける測定値対その濃度をμg/mLでプロットすることによって調製した。この標準曲線を使用して、各未知のサンプルのAb濃度を判定した。DL(薬物ロード)は、Abの量をAb及び賦形剤の総量で割ったものとして定義し、EE(カプセル化効率)を、得られたDLと理論上のものとの間の比率として計算した。
【0081】
2.5.サイズ排除クロマトグラフィー(SEC):
SECは、HMWS(高分子量種)とLMWS(低分子量種)の両方を検出及び定量するために最も通常使用される分析法のうちの1つである。不溶性凝集体は、SECのためのカラムによるろ過を介した又はサンプル調製による潜在的な除去に起因して、SECによって測定可能であるとは考えられない。
【0082】
mAb1に関して:SECを、TSKgel G3000SWXL 7.8mm×30.0cmカラム(Tosoh Bioscience、Germany)及び280nmにおけるUV-検出を備えたHewlett Packard Agilent 1200高性能液体クロマトグラフィー(Agilent Technologies、Germany)で行った。流量は1mL/分に設定し、注入容積は50μLであった。移動相は0.2Mリン酸緩衝液(PBS)、pH7.0であった。
【0083】
fAb2に関して:SECを、Acquity UPLC BEH200 4.6mm×300mmカラムとAcquity UPLC BEH200 ガードカラムを組み合わせたもの及びUV-検出280nmを備えたUPLC H class bioで行った。流量は0.3mL/分に設定し、注入容積は5μLであった。移動相は0.1MNaClを含む0.1Mリン酸緩衝液(PBS)、pH7.0であった。
【0084】
2.6.抽出効率
抽出効率(ExE)は、MSから抽出されたAbの量とBCAによって判定されたカプセル化されたAbの量との間で比較した百分率比を指す(上記項2.4を参照のこと)。MSからAbを抽出するために、微粒子10mgをジクロロメタン(DCM)又はアセトン(ACE)500μLに溶解し、0.2μmの多孔率を有するNANOSEP(登録商標)(Pall、Belgium)遠心デバイス中におよそ2時間入れた。サンプルを12,000rpmで5分間遠心分離した。有機相を除去し、同体積の新しいDCM又はACEで置き換えた。サンプルを12,000rpmで5分間再び遠心分離した。このステップを2回行った。得られた沈殿物を真空下で少なくとも1時間乾燥させ、次いで200mMリン酸緩衝液pH7.0 500μl中に可溶化した。次いで、得られたサンプルをSECによって分析して、カプセル化後のAb安定性を評価した。HMWS増加は、カプセル化プロセスの前、緩衝液交換後に得られたAb溶液であるAb参照と比較して計算した。ExEが高いほど、抽出することができるカプセル化されたAbの量は多く、Abが、抽出し再溶解するのに依然として十分安定であることを示す。それに加えて、ExEが100%に近い場合、それは、判定されたHMWS増加が、カプセル化された全てのAbの状態の非常に典型的なものであることを意味する。
【0085】
2.7.溶解研究:
AbロードPLGA MSからのAbの溶解プロファイルを、緩衝剤でpH7.0に処理したPBS 1mLを2mLチューブ中のMS40mgに添加することによって評価した。チューブを37℃でインキュベートし、THERMOMIXER COMFORT(登録商標)マイクロチューブ混合機(Eppendorf AG、Germany)を使用して600rpmで撹拌した。所定の時間に、サンプルを3000gで15分間遠心分離し、上澄み(1mL)を収集し、0.45μmナイロンACRODISC(登録商標)フィルター(Pall、France)でろ過した。MSを、新しいPBS溶液1mL中に再び懸濁して更に溶解した。バースト放出を、24時間後に放出されたAbの百分率として計算した。バースト放出は、毒性レベル付近又はそれを超える薬物濃度又は有効性の欠如などの問題を回避するために可能な限り低く維持するべきである(Huang及びBrazel、2001年)。
【0086】
(例1)
この実験では、HPβCDを安定化剤として異なる重量比で使用して、マイクロスフェア特性に与えるその影響とHMWS形成を制限するためのその使用の利益とを評価した。mAb1をこの例では使用した。結果を表2で報告する。
【0087】
標的とするEE(90%を超える)が全ての製剤に関して得られた。標的とするDL(20%を超える)が50:50及び20:80のAb/CD比を除く全ての比に関して得られたが、許容できないExE(80%未満)が94:6のAb/CD比に及びCDを一切含まない製剤に関して得られた。更に、組成物中のHPβCDの百分率が増加すると(すなわちmAb1/安定化剤比が減少すると)、バースト放出の増加につながった。50:50のmAb1/HPβCD比及びそれより低い比(50:50及び20:80で示される)から、高すぎるバースト放出が得られた。安定化剤を一切含まないと、HMWSの許容できない増加が観察された(13%を超えた)。mAb1/HPβCD比もmAb1安定性に影響を与えたことが示された。実際に、mAb1分解の有意な制限が、80:20のmAb1/HPβCD比及びそれより低い比(80:20、67:33、50:50及び20:80の比に関しては以下に示す)から観察することができた。最後に、80:20のmAb1/HPβCD比及びそれより低い比から、最小でも89.4%のmAb1を抽出することができ、これは、これらの比において得られたHMWS増加が、カプセル化されたほぼ全てのmAb1の典型的なものであったことを示す。更に、80:20のmAb1/HPβCD比及びそれより低い比から、溶解試験の終わりに、最小で90.8%のmAb1が放出され、カプセル化された90%を超えるmAbの総量が放出されたことが根底にある。
【表2】
【0088】
直径が5~10μm(Dv(0.5)の場合)及び20~50μm(Dv(0.9)の場合)の粒子サイズを得た(Dv(0.5)=サンプル体積の50%を下回る直径及びDv(0.9)=サンプル体積の90%を下回る直径)。
【0089】
タンパク質ロードPLGA微粒子に関する典型的な3相性放出プロファイルが観察され(すなわち、(i)初期のバースト、(ii)延滞期、及び(iii)放出期;Diwanら、2001年及びWhiteら、2013年)、本発明による製剤に関する予想外の挙動は明確に示されなかった。図2は、67:33のmAb1/HPβCDを含む製剤に関する完全放出プロファイルを示す。
【0090】
結論として、最も適切なAb/HPβCD(67:33)比率でHPβCDを添加すると、HMWS増加の制限(<1%)、高いDL(>20%)、標的とするEE(≧90%)、及び許容されるバースト放出(38%)が得られた。抗体/HPβCD(80:20)比率も、許容される結果、すなわちHMWS増加の制限(<5%)、高いDL(>20%)、標的とするEE((≧90%)及び許容されるバースト放出(38%)が得られた。
【0091】
(例2)
ヒトにおいて非経口で使用するのに許容される2つの他のシクロデキストリン(すなわちSBEβCD及びγCD)も、Ab安定化に好適かどうかを理解すること、そうであれば、各シクロデキストリンに必要な比率、及びバースト効果に対するマイクロスフェアへのその取り込み効果を比較することは興味深かった。したがって、カプセル化研究をこれらの2つのシクロデキストリンで行った。
【0092】
γCDを使用した場合、可溶化問題が観察された。これは、溶液中のポロキサマー407の存在に起因していた。実際に、mAb1及びγCDのみが存在する場合、可溶化の問題は観察されなかった。したがって、γCDを使用した場合、ポロキサマー407を使用せずにカプセル化プロセス行うことが必要であった。それにもかかわらず、以前の実験では、ポロキサマー407を水溶液から除去すると、エマルション安定性(データは示していない)に関して、したがってmAb1放出に関して有害な結果につながった(mAb1放出が通常95~100%であるのに対して、研究の終わりでは80%にすぎなかった)ことが示された。これを考慮して、γCDに関しては67:33w/wのmAb1/CD比のみを評価することにした。
【0093】
研究した全ての比率において、全てのシクロデキストリンに関して、許容されるHMWS増加(5%未満)が観察されたことを認めることができた(表3)。しかし、67:33w/wのmAb1/CD比において、γCDは、他のシクロデキストリンと比較してHMWS形成が高かった。SBEβCD及びγCDを用いた全ての比に関してExEは低く、観察されたHMWS増加はHPβCDの使用と比較して、カプセル化されたmAb1の典型ではなかったことが明確に示された。
【表3】
【0094】
γCDで観察された問題及びAb安定性に関して得られた結果を考慮して、他のパラメーターに関してはSBEβCD及びHPβCDのみを評価することにした。
【0095】
mAb1/CD比の研究した比率にかかわらず、標的とするEE(85%を超える)が両方のシクロデキストリンに関して得られた(表4)。溶解試験の終わりに放出された総mAbの百分率は、両方のシクロデキストリンに関して試験した全ての比で90%を超えた。DL及びEEにおいて使用したシクロデキストリンのタイプに有意な影響はなかった。バースト放出の違いを、80:20のmAb1/CD比を除いて、使用したシクロデキストリンのタイプにしたがって観察することができた。最後に、mAb1安定性(67:33のmAb1/CD)に関する最も興味深い比率において、HPβCDがバースト放出の観点から最も好適であった。
【表4】
【0096】
結論として、γCDの使用はこの実験の目的に好適ではなかった。SBEβCD及びHPβCDは、DL及びEEに関して興味深い結果を示した。更に、SBEβCDとHPβCDの両方がHMWS増加の制限を可能にした。バースト放出を考慮すると、67:33w/wのAb/CD比でのHPβCDの使用が最も好適であった。例1のように、80:20w/wのAb/CD比でのHPβCDの使用も許容される結果が得られた。或いは、80:20w/wのAb/CD比でのSBEβCDでも非常に良好な結果が得られた。SBEβCDでのバースト放出が増加したにもかかわらず、67:33w/wのAb/CD比もまた、両方のシクロデキストリンに有望である。
【0097】
(例3)
この実験では、HPβCDの使用とAbを安定化するために通常使用される賦形剤であるトレハロースの使用との間で比較を行った。最初に、同じAb/賦形剤のw/w比における2つの賦形剤の比較を行った。次いで、同じAb/賦形剤のモル濃度/モル濃度比に基づいて2つの賦形剤を比較することも決定した。したがって、製剤F1及びF2は、Abに関して賦形剤が同じ重量比であり、同時にF1及びF3は、Abに関して賦形剤が同じモル濃度比である。
【0098】
同じ重量比では、HPβCDは、トレハロースよりもHMWS形成に対してmAb1を保護するのに効果的であったことが認められた(表5)。しかし、HMWS増加に関して得られた値は、2つの安定化剤に関して大きな違いはなかった(HPβCDでは0.5%、トレハロースでは0.9%)。
【0099】
それにもかかわらず、同じモル比では、mAb1安定性は、使用した安定化剤によって大きな影響を受けた。したがって、トレハロースは、カプセル化プロセス中にHMWS形成を十分に阻止することができなかった。更に、製剤F3に関して得られたExE値は他の製剤よりも低く、この製剤はmAb1のさらなる分解につながることが確認された。
【表5】
【0100】
標的とするEE(90%を超える)が全ての製剤に関して得られた(表5)。使用した安定化剤のタイプのDL及びEEに対する有意な影響はなかった。同様のバースト放出が全ての製剤に関して得られた(データは示していない)。以前にHPβCDで観察されたもの(例1を参照のこと)とは対照的に、トレハロースの量の減少はバースト放出を減少させなかったことを認めることができた(データは示していない)。
【0101】
結論として、Ab安定化のために通常使用される賦形剤であるトレハロースよりも安定化剤としてHPβCDを使用することの利益が本研究において実証された。特に、トレハロースよりも低い(表5を基準として1/4の)モル濃度量のHPβCDがHMWS形成に対するAb保護を得るために必要であった。
【0102】
(例4)
この実験は以下のために、カプセル化プロセス、より詳細にはmAb用に開発された安定化戦略をfAbに適用することを目的としている:
・カプセル化プロセス及び異なるフォーマットの製剤化戦略の抗体への使用の可能性を評価すること、
・マイクロスフェア特性に対する抗体特徴(サイズ、分解経路)の影響を評価すること。
【0103】
この目的のために、fAb分子(fAb2と称する)を使用した。fAb2は、例1から3で使用したmAb1とは対照的にHMWS形成の傾向が少ない。研究の結果を表6及び7に報告する。
【0104】
安定化剤なしではHMWSの増加が観察されたが、mAb1で観察されたものより制限されていた(実験1を参照のこと)。fAb/HPβCD比はfAb安定性に対して影響を与えた。HMWSの形成は、80:20のfAb/HPβCD比からほぼ完全に抑制された。80:20のfAb/HPβCD比に関しては、fAbのほぼ90%を抽出することができ、これは得られたHMWS増加が、カプセル化されたほぼ全てのfAbの典型であったことを示す。少量のHPβCD(80:20のfAb/CD)は、mAbを研究した場合(67:33のfAb/CD)と比較して、HMWS形成を減少させるのに十分であった。HMWS形成の減少に関しても、67:33のfAb/CD比において非常に良好な結果が得られた。
【0105】
標的とするEE(85%を超える)が全ての製剤に関して得られた。製剤中のHPβCDの百分率を増加させると、バースト放出の増加につながった。溶解試験の終わりに放出された総mAbの百分率は、試験した全ての比に関して95%か又はそれを上回った。最後に、mAbを使用して得られたものよりも高いバースト放出が観察され、バースト放出に対するAbのサイズ(fAb2:50kDa対mAb1:150kDa)の影響が明確に示された。
【表6】

【表7】
【0106】
結論として、カプセル化プロセス及び安定化戦略は、fAbにうまく適用することができた。50%を超えるバースト放出がfAbで得られたが、全体的な予備結果は非常に有望である。抗体特性(サイズ、分解メカニズム)に従って、Ab/HPβCD比の最適化は行われるべきである。当業者であれば、本説明に基づいて製剤を最適化することができるであろう。
【0107】
(例5)
DLの役割
Abの安定化、MSへのその取り込み、及びバースト効果に対するDLの影響を理解するために、カプセル化研究を2つの追加の標的DLを用いて:25%及び30%において行った。以下の表8において明確に示されているように、EE及びAb安定性に対して興味深い結果が提供されているが、高いDLは、初期のバースト放出に関しては助けにならなかった。これらの結果は有望であるが、バースト放出を改善するためにいくつかの微調整が必要になる場合がある。
【表8】
【0108】
(例6)
この実験は、動物の片側側腹部を介して投与した場合の本発明による乾燥微粒子の効果を、「水中油中固体」(SOW)から得られた典型的な乾燥微粒子又は液体皮下(SC)製剤(対照として)と比較して、in vivoで分析することを目的としている。雄Sprague-Dawleyラットで実験を行った。
【0109】
動物を、8匹の個体からなる以下の3つの群に分割した:
・1群(8匹のラット;「SC」群;液体製剤;即時放出)は、30mg/kgのmAb1が皮下で与えられた。製剤は、30mMLヒスチジン、200mMソルビトール及び60mM塩化ナトリウムから構成される水溶液中に50mg/mLのmAbを含んでいた。
・2群(6匹のラット;「SOW」群;0.9%w/v NaCl溶液中に再懸濁された乾燥微粒子;持続放出製剤)。mAb1の標的とする用量は90mg/kgであった。製剤は、約73.5%w PLGA(RG505)、17.1%w mAb1、6.8%wトレハロース、1.7%wグリセロール、0.8%wヒスチジン(緩衝剤として)及び0.02%wポリソルベート20を含んでいた。
・3群(8匹のラット;「SD」群;0.9%w/v NaCl溶液中に再懸濁された本発明による乾燥微粒子;持続放出製剤)。mAb1の標的とする用量は90mg/kgであった。製剤は、約66.3%w PLGA(RG505)、21.2%w mAb1、10.6%w HPβCD、1.3%wポロキサマー407及び0.6%wヒスチジン(緩衝剤として)を含んでいた。
【0110】
3つの群に関しては、各ラットに一方の側腹部を介してmAb1製剤を投与し、もう一方の側腹部を介してプラセボ製剤を投与した。SC群に関するプラセボ製剤は液体溶液であり、一方、SOW及びSD群に関するプラセボ製剤はプラセボマイクロスフェア懸濁液であった。
【0111】
各群に関しては、サンプルを次のように採取した:6時間、24時間、48時間、3日目、7日目、10日目、14日目、及びmAb1が血漿サンプル中に検出されなくなるまで週1回。
【0112】
効果的に投与された用量は以下のとおりであった:
・SOW群:42.1~43.3mg/kg(SC群と比較して1.4倍の増加)、
・SD群:77.4~81.1mg/kg(SC群と比較して2.7倍の増加)。
【0113】
血漿中の経時的なmAb濃度をELISAによって判定した。
【0114】
全ての製剤に関する結果を図3に示す。
・SC群:SC投与に関する典型的なプロファイルが、この群に属する全ての動物に関して観察された。mAb1が血漿中に更に最大50+日まで検出された。1匹の動物に関しては免疫原性が疑われた。
・SOW群:mAb1が、この群において血漿中に最大40+日まで検出された。しかし、プロファイルは、特に投与から10日後で非常に異なっていた。大部分の動物に関して免疫原性が疑われた。
・SD群:他の群に反して、mAb1は100日間を超えて血漿中に検出された。プロファイルは大部分の動物で非常に類似していた。各群間の用量の違いのために完全に比較できないが、本発明による乾燥微粒子は非常に長い送達時間を明らかに可能にし、SOW群と比較して放出時間は2倍である。
【0115】
PKパラメーター(AUCINF_D_obs、Cmax、t1/2及びtmax)も評価した(表9)。免疫原性によって影響を受けたと思われるポイントを削除して、これらのパラメーターを計算した。更にデータを、効果的に投与された用量に対して正規化した。
【表9】
【0116】
表9から観察することができるように、最良の値は、SCと比較してSD群で得られた。以下のことに留意されたい:
・用量増加を伴うCmaxの有意な増加はない。
・バイオアベイラビリティは、SOW群に関するものよりもSD群に関するものがはるかに高く、T1/2は2倍を超える。
・tmaxの増加はSOW群とSD群の両方で観察された。
【0117】
総体的結論:
例1から5において得られた結果を考慮して、本発明者らは、シクロデキストリン、特にHPβCD、狭い範囲のSBEβCDをうまく使用して、抗体フォーマット(例えばmAb又はfAb)及びそのpIにかかわらず、噴霧乾燥製剤中の抗体を安定化することができることを実証した。特に、12:1から7:6の間の全ての抗体/安定化剤比は、スプレードライされた製剤の性能を改善することが示された。トレハロース(標準的な安定化剤)よりも低いモル濃度量(1/4から1/7)のシクロデキストリン(例えばHPβCD)が、HMWS形成に対する抗体保護を得るために必要とされたことも示された。例6は、例1から5の有望な結果を確認し、本発明の乾燥微粒子は、標準的なSOW製剤と比較してバイオアベイラビリティを大幅に改善するだけではなく、抗体含有乾燥微粒子の遅延放出プロファイルも改善することが効果的に可能であることが実証された。
【0118】
参考文献
図1
図2
図3
【国際調査報告】