(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-21
(54)【発明の名称】ガウスボソンサンプリングの装置及び方法
(51)【国際特許分類】
G06E 3/00 20060101AFI20220713BHJP
G06F 7/38 20060101ALI20220713BHJP
【FI】
G06E3/00
G06F7/38 510
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021566944
(86)(22)【出願日】2020-05-20
(85)【翻訳文提出日】2022-01-06
(86)【国際出願番号】 CA2020050675
(87)【国際公開番号】W WO2020232546
(87)【国際公開日】2020-11-26
(32)【優先日】2019-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521489584
【氏名又は名称】ザナドゥ クアンタム テクノロジーズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】ブラドラー,カミル
(72)【発明者】
【氏名】スー,ダイキン
(72)【発明者】
【氏名】キローラン,ネイサン
(72)【発明者】
【氏名】シュルド,マリア
(72)【発明者】
【氏名】バーノン, ザカリー
(72)【発明者】
【氏名】ヘルト,ルーカス
(72)【発明者】
【氏名】モリソン,ブレア
(72)【発明者】
【氏名】マーラー,ディラン
(57)【要約】
装置は、スクイズド状態の複数の入力光学モードを提供する光源を含む。装置は、複数の入力光学モードのユニタリ変換を実行して、複数の出力光学モードを生成するように構成された、相互接続された再構成可能ビームスプリッタ(RBS)のネットワークも含む。光子計数検出器のアレイが、相互接続されたRBSのネットワークと光学通信し、ユニタリ変換後、複数の出力光学モードの各モードでの光子数を測定するように構成される。装置は、光源及び相互接続されたRBSのネットワークに動作可能に結合されたコントローラも含む。コントローラは、スクイズド状態光のスクイズ係数、ユニタリ変換の角度、又はユニタリ変換の位相の少なくとも1つを制御するように構成される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクイズド状態光で複数の入力光学モードを提供するように構成された光源と、
前記光源と光学通信する相互接続された再構成可能ビームスプリッタ(RBS)のネットワークであって、前記複数の入力光学モードのユニタリ変換を実行して、複数の出力光学モードを生成するように構成された、相互接続されたRBSのネットワークと、
前記相互接続されたRBSのネットワークと光学通信する光子計数検出器のアレイであって、前記ユニタリ変換後、前記複数の出力光学モードの各出力光学モードでの光子数を測定するように構成された光子計数検出器のアレイと、
前記光源及び前記相互接続されたRBSのネットワークに動作可能に結合されたコントローラであって、前記スクイズド状態光のスクイズ係数、前記ユニタリ変換の角度、又は前記ユニタリ変換の位相の少なくとも1つを制御するように構成されたコントローラと、
を備える装置。
【請求項2】
前記光源は、変位スクイズド状態の複数の光学モードを提供するように構成される、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記光源は、
入力光学ビームを受け取り、前記入力光学ビームを2N個の配電モジュール(PDM)ビームに分割する配電モジュール(PDM)であって、Nは正の整数である、PDMと、
前記PDMと光学通信して、前記2N個のPDMビームを受け取り、N個のスクイズド光ビームを有する前記複数の入力光学モードを生成するスクイザ-ディスプレーサモジュール(SDM)と、
を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記相互接続されたRBSのネットワークは、前記複数の入力光学モードを前記相互接続されたRBSのネットワークに案内する入力ポートのアレイと、前記複数の出力光学モードを前記光子計数検出器のアレイに送る出力ポートのアレイとを含む、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記光子計数検出器のアレイは、超伝導転移端検出器のアレイを含む、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
シリコン、酸化シリコン、又は窒化シリコンの少なくとも1つを含む基板を更に含み、前記光源及び前記相互接続されたRBSのネットワークは前記基板に作製される、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記光源は、グラフの隣接行列を表す前記複数の入力光学モードを提供するように構成され、前記複数の入力光学モードにおける各入力光学モードは、前記グラフの頂点を表す、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記光源は、グラフの隣接行列を表す前記複数の入力光学モードを提供するように構成され、前記複数の入力光学モードにおける各入力光学モードは、前記グラフの頂点を表し、前記装置は、
前記光子計数検出器のアレイに動作可能に結合され、前記ユニタリ変換後、前記複数の出力光学モードの各出力光学モードにおける光子数に基づいて前記グラフ内の密サブグラフを見つけるように構成されたプロセッサを更に備える、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記光源は、グラフの隣接行列を表す前記複数の入力光学モードを提供するように構成され、前記複数の入力光学モードにおける各入力光学モードは、前記グラフの頂点を表し、前記装置は、
前記光子計数検出器のアレイに動作可能に結合され、前記ユニタリ変換後、前記複数の出力光学モードの各出力光学モードにおける光子数に基づいて、グラフ同型性を決めるグラフ不変量及びグラフ同型性のGBS多項式を計算するように構成されたプロセッサを更に備える、請求項1に記載の装置。
【請求項10】
前記光源は、グラフの隣接行列を表す前記複数の入力光学モードを提供するように構成され、前記複数の入力光学モードにおける各入力光学モードは、前記グラフの頂点を表し、前記装置は、
前記光子計数検出器のアレイに動作可能に結合され、前記ユニタリ変換後、前記複数の出力光学モードの各出力光学モードにおける光子数に基づいてグラフ同型性を評価するように構成されたプロセッサを更に備える、請求項1に記載の装置。
【請求項11】
前記光源及び前記相互接続されたRBSのネットワークに動作可能に結合され、ユーザによって提供される分子構造についての情報を受信するように構成されたユーザインターフェースと、
前記ユーザインターフェースに動作可能に結合されて、前記分子構造についての前記情報に基づいて制御信号を生成するインタプリタであって、前記コントローラは、前記制御信号に応答して前記光源に前記複数の入力光学モードを生成させるように構成される、インタプリタと、
を更に備える、請求項1に記載の装置。
【請求項12】
前記光子計数検出器のアレイに動作可能に結合され、前記光子計数検出器のアレイによって取得された検出信号のアレイを分子振電スペクトル表現に変換するように構成された復号化ユニットを更に備える、請求項1に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
[1001] 本願は、2019年5月22日付けで出願された「Apparatus and Methods for Gaussian Boson Sampling」という名称の米国仮特許出願第62/851,312号の利益及び優先権を主張するものであり、この仮特許出願の内容全体は参照により本明細書に援用される。
分野
【0002】
[1002] 1つ又は複数の実施形態は、ガウスボソンサンプリングに関する。
【背景技術】
【0003】
背景
[1003] 汎用量子計算を利用したアルゴリズムは、多くの場合、従来の対応物と比較してはるかに高速の計算速度を約束している。しかしながら、現在までのところ、大規模問題でこれらのアルゴリズムを実行可能な、ましてやフォールトトレランスなハードウェアは知られていない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
概要
[1004] 本明細書に記載の幾つかの実施形態は、一般的にはガウスボソンサンプリングに関し、特にフォトニックプラットフォームでのガウスボソンサンプリング実行に関する。幾つかの実施形態では、装置は、スクイズド状態光の複数の入力光学モードを提供するように構成された光源を含む。本装置は、光源と光学通信する相互接続された再構成可能ビームスプリッタ(RBS)のネットワークも含む。相互接続されたRBSのネットワークは、複数の入力光学モードのユニタリ変換を実行して、複数の出力光学モードを生成するように構成される。光子計数検出器のアレイが、相互接続されたRBSのネットワークと光学通信し、ユニタリ変換後、複数の出力光学モードの各モードでの光子数を測定するように構成される。本装置は、光源及び相互接続されたRBSのネットワークに動作可能に結合されたコントローラも含む。コントローラは、スクイズド状態光のスクイズ係数、ユニタリ変換の角度、又はユニタリ変換の位相の少なくとも1つを制御するように構成される。
【0005】
図面の簡単な説明
[1005] 図面は主に例示を目的とし、本明細書に記載の趣旨の範囲の限定を意図しない。図面は必ずしも一定の縮尺ではなく、幾つかの場合、本明細書に開示される開示の趣旨の種々の態様は、異なる特徴の理解を促進するために図面において誇張又は拡大されて示されることがある。図面中、同様の参照文字は一般に同様の特徴(例えば、機能的に同様及び/又は構造的に同様の要素)を指す。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】[1006]一実施形態によるガウスボソンサンプリング(GBS)の装置の概略を示す。
【
図2】[1007]一実施形態による空間符号化を使用するGBSシステムの概略を示す。
【
図3】[1008]一実施形態による、GBSを実行するフォトニック集積回路に実装される量子処理ユニット(QPU)の概略を示す。
【
図4A】[1009]一実施形態による、
図3に示すQPUで使用することができる配電モジュールの概略を示す。
【
図4B】[1009]一実施形態による、
図3に示すQPUで使用することができる配電モジュールの概略を示す。
【
図5】[1010]一実施形態による、GBSの変位スクイズド光を生成するのに使用することができる変位モジュールの概略を示す。
【
図6】[1011]一実施形態による、GBSデバイスを動作させる方法を示すブロック図を示す。
【
図7】[1012]一実施形態による、量子ハードウェアの設定へのユーザアクセスを提供するGBSシステムの概略を示す。
【
図8】[1013]一実施形態による、GBSデバイスを使用してグラフ問題を解く方法を示すブロック図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0007】
詳細な説明
[1014] 汎用量子計算実現の問題に鑑みて、代替の非汎用量子計算モデルが現在、活発に研究されている。そのような一モデルはガウスボソンサンプリング(GBS)である。GBSシステムは、Mモードで1組の量子調波発振器(例えば光場モード)の入力スクイズド真空又はスクイズドコヒーレント状態を準備し、それらをNモード線形光学干渉計に入力し、干渉計のN個の出力モードのそれぞれでの光子数を検出する。換言すれば、GBSシステムは、光子数に基づいて出力の確率分布からサンプリングする。
【0008】
[1015]
図1は、一実施形態によるGBSの装置100の概略を示す。装置100は、所望の入力状態の光(光学モード)を準備する入力状態生成器110と、それに続く、入力状態生成器110から受け取った光の入力状態に対してユニタリ変換を実行する線形干渉計120とを含む。検出器130が、線形干渉計120の出力(例えば、変換光学モードとも呼ばれる出力光学モード)の測定に利用される。入力状態生成器110と線形干渉計120との組み合わせは、量子処理ユニット(QPU)150とも呼ばれ、破線内の構成要素は量子ハードウェア(QH)160とも呼ばれる。
【0009】
[1016] QH160に加えて、装置100は、入力状態生成器110の動作を制御する入力コントローラ115、線形干渉計120の動作を制御する干渉計コントローラ125、及び検出器130の動作を制御する検出コントローラ135も含む。更に、マスタコントローラ140が、3つのコントローラ115、125、及び135の動作の調整及び/又は制御に利用される。コントローラ115、125、及び135は、1つ又は複数のフィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、特定用途向け集積回路(ASIC)、グラフィックス処理ユニット(GPU)、及び/又は中央演算処理装置(CPU)を含むことができる。FPGA、ASIC、GPU、及び/又はCPUの使用は、カスタマイズされた集積回路と比較して動作速度、信頼性、及び柔軟性を増大させるとともに、金銭的コストを下げることができる。
【0010】
[1017] 幾つかの実施形態では、コントローラ115、125、及び135は、制御論理を実行し、種々のサブシステムハードウェア要素を作動させるドライバを実行する小型コンピュータを含むことができる。マスタコントローラ140は、サブコントローラ115、125、及び135の制御論理を調整するコンピュータを含むことができる。例えば、マスタコントローラ140は、ユーザから命令を受信し、次に受信した命令を1つ又は複数の特定のサブコントローラに送信するように構成することができる。
【0011】
[1018] 幾つかの実施形態では、入力状態生成器110は、光学ビーム又は光学パルス(例えばスクイズド光)として入力状態を生成するように構成される。これらの実施形態では、入力状態生成器110は光源110とも呼ばれる。例えば、入力状態生成器110は、レーザ光を変換し、非線形光学要素を介して総数Mのスクイズド状態及び/又は変位スクイズド状態の光を作成し、これは、
【数1】
によって表すことができ、式中、
【数2】
及び
【数3】
iはモード数であり、r
iはスクイズ係数であり、a
iは消滅演算子である。幾つかの実施形態では、各モードでのスクイズ係数及び変位は、装置100への異なる適用を符号化するように独立して調整することができる。幾つかの実施形態では、変位変数αも各モードで異なることができ、すなわち、各モードiは上記式中で対応する変位α
iを有する。
【0012】
[1019] 線形干渉計120は、N個までの入力モードに対してユニタリ演算を実行するように構成され、したがって、
【数4】
によって表されるモードiにおける光子を有する入力モード演算子
【数5】
を出力モード演算子
【数6】
に変換し、ここで、Uはユニタリ演算子である。装置100でのQH160の各実行で異なるユニタリ演算子U
ijを線形干渉計120にプログラムすることができる。
【0013】
[1020] 装置100内の検出器130は光子計数機能を有し、すなわち、検出器130は、線形干渉計120の各出力モードでの光子数を測定するように構成される。いかなる特定の理論又は動作モードによっても拘束されずに、線形干渉計120の各出力モードは、射影値測定要素
【数7】
によって表すことができる。
【0014】
[1021] 入力状態生成器110(すなわち、状態符号化)によって生成されるモードiは、任意の適切な組の量子調波発振器モードに対応することができる。本明細書では、光場モードが説明のための例として使用される。一般に、光場モードは周波数/時間、偏光、及び空間分布を特徴とすることができる。したがって、GBSを実行するように装置100の適切な光場モードを準備するのに種々の符号化方式を利用することができる。
【0015】
[1022] 幾つかの実施形態では、入力状態生成器110は、空間符号化を使用して光学モードを生成するように構成することができる。これらの実施形態では、異なる光学モードは、空間において重複しない横場分布を特徴とする。例えば、異なる光学モードは、自由空間又は別個の光学導波路で伝播することができる別個の光ビームを含むことができる。
【0016】
[1023] 幾つかの実施形態では、装置100は、空間符号化で光学モードを伝播する複数の導波路を含むことができる。例えば、線形干渉計120は、M個の入力光学モードを受信するM個の入力ポートを含むことができ、各ポートは、別個の入力光学モードを伝播する入力導波路に結合することができる。加えて、線形干渉計120の出力モードもまた、導波路を介して検出器130に送信することができる。この場合、検出器130は光子計数検出器のアレイを含むことができ、各光子計数検出器は線形干渉計120の対応する出力ポートに結合されて、出力ポートから送られる出力光学モードでの光子数を測定する。
【0017】
[1024] 幾つかの実施形態では、入力状態生成器110は、時間符号化を使用して光学モードを生成するように構成することができる。これらの実施形態では、異なる光学モードは、空間において重複しない縦分布を特徴とする。例えば、各光学モードは、1つの縦パスに明確に画定された光学パルスを含むことができる。
【0018】
[1025] 幾つかの実施形態では、入力状態生成器110は、周波数符号化を使用して光学モードを生成するように構成することができる。これらの実施形態では、異なる光学モードは、周波数において重複しない周波数分布を特徴とし、すなわち、各光学モードは別個の周波数又は波長を有する。幾つかの実施形態では、入力状態生成器110は、2つ以上の符号化方式を利用し、すなわち、ハイブリッド方式を使用して入力光学モードを準備することができる。
【0019】
[1026]
図2は、一実施形態による、空間符号化を使用するGBSシステム200の概略を示す。システム200は、システムをユーザ端末201にネットワーク接続するサーバ210を含む。ユーザ端末201は、システム200にアクセスする任意のユーザハードウェアを含むことができる。アクセスは、ローカルに又はインターネット接続によって実現することができる。システム200は、システム200を制御し、ユーザ命令を受信し、及び/又はステータス情報及び計算結果をユーザに供給するマスタユニット240も含む。
【0020】
[1027] システム200では、QPU250がGBSの実行に使用される。QPU250は、
図1に示し、上述した(例えば、入力状態生成器及び線形干渉計を含む)QPU150と略同様であることができる。幾つかの実施形態では、QPU250は、フォトニックチップとして構成することができる(
図3及び
図4を参照したより詳細な後述を参照)。QPUドライバ252はQPU250に動作可能に結合されて、QPU250の要素の構成、プログラミング、及び動作を行う。例えば、QPUドライバ252は、QPU250に含まれるオンチップ電気要素(例えば位相シフタ)の適切な電圧/電流ドライバを含むことができる。加えて、ロックループコントローラ254が、共振デバイスのロックループ等のQPU250に関連付けられた任意の能動フィードバックシステムに利用される。QPUドライバ252及び/又はロックループコントローラ254は、1つ又は複数のFPGA、ASIC、GPU、及び/又はCPUを含むことができる。
【0021】
[1028] QPU250はQPU環境コントローラ255にも動作可能に結合され、QPU環境コントローラ255は、QPU250の機械的環境、熱環境、及び/又は光学環境を制御するように構成される。例えば、QPU環境コントローラ255は、QPU250が安定した環境(例えば、低レベルの温度変動等)内で動作していることを保証するように構成することができる。QPU環境コントローラ255は、1つ又は複数のFPGA、ASIC、GPU、及び/又はCPUを含むことができる。1つ又は複数のモニタフォトダイオード260がQPU250及びQPU環境コントローラ255に動作可能に結合されて、QPU要素の安定性を査定する。モニタフォトダイオード260は、QPU250の動作パラメータ(例えば光学出力)を測定し、QPU環境コントローラ255に測定を提供して、QPU環境コントローラ255が適切な制御信号を生成できるようにするよう構成することができる。
【0022】
[1029] システム200は、適切な入力状態を生成するためにポンプ光ビームをQPU250内の入力状態生成器に提供するポンプ源220も含む。ポンプコントローラ225がポンプ源220に動作可能に結合されて、ポンプ源220の動作を制御する。ポンプコントローラ225は、1つ又は複数のFPGA、ASIC、GPU、及び/又はCPUを含むことができる。幾つかの実施形態では、ポンプ源220はレーザを含むことができる。
【0023】
[1030] QPU250の出力は検出器アレイ230によって監視され、検出器アレイ230は、光子数分解転移端センサ、超伝導ナノワイヤ光子計数検出器、及び/又はアバランシェフォトダイオード等の1組の光子計数検出器を含む。検出器アレイ230は検出コントローラ235によって制御される。例えば、検出コントローラ235は、検出効率を改善するように検出器アレイ230のバイアス電圧を調整することができる。検出コントローラ235は、1つ又は複数のFPGA、ASIC、GPU、及び/又はCPUを含むことができる。幾つかの実施形態では、任意選択的な低温コントローラ234を利用して、検出器アレイ230の動作をサポートする低温システム(
図2に示されず)を制御することができる。データ取得システム(DAQ)232が検出器アレイ230に動作可能に結合されて、検出器アレイ230の出力信号を、光子数読み出しを表す一連の整数に翻訳し、これは次にユーザに報告することができる(例えばユーザ端末201を介して)。
【0024】
[1031]
図3は、一実施形態による、GBSを実行するフォトニック集積回路に実装される量子処理ユニット(QPU)300の概略を示す。QPU300は、基板305(プラットフォーム305とも呼ばれる)に作製された入力状態生成器310及び干渉計320を含む。基板は、シリコン、酸化シリコン(例えば二酸化シリコン)、窒化シリコン等の1つ又は複数を含むことができる。入力状態生成器310は、配電モジュール(PDM)312、スクイザ314、フィルタ316、及び任意選択的な変位モジュール318(変位スクイザ光を生成する)を含む。干渉計320は、入力ポート322、ユニタリ変換を実行するRBSのネットワーク325、及び出力ポート328を含む。
【0025】
[1032] QPU300は、PDM312、スクイザ314、フィルタ316、変位モジュール318、及びRBSのネットワーク325に動作可能に結合されて、それらの動作を制御するQPUドライバ340も含む。加えて、上記要素の各々は、その要素の光学ステータス出力を監視する対応するモニタ(例えば、光検出器及び電子回路)を有する。より具体的には、PDM312はPDMモニタ313に結合され、スクイザ314はスクイザモニタ315に結合され、フィルタ316はフィルタモニタ317に結合され、変位モジュール318は変位モニタ319に結合され、RBSのネットワーク325は干渉計モニタ324に結合される。モニタ313、315、317、319、及び324は全て、QPUドライバ340にも動作可能に結合される。
図3では、細線(例えば、各モニタとその対応する要素との間の)は光学信号を示し、矢印を有する太線(例えば、QPUドライバ340と入力状態生成器310及び干渉計320内の構成要素との間の)は電気信号を示す。
【0026】
[1033] プラットフォーム305は、低光学損失及び光学モードの高閉じ込めの高インデックスコントラストに向けて選択することができる。したがって、その結果としての構築ブロック(例えば導波路)を使用して、光学モードが長距離を伝播することができる大深度光学回路又は回路素子(例えば、PDM312、スクイザ314、変位モジュール318、又はこれらの要素間の接続等)を構築することができる。幾つかの実施形態では、プラットフォーム305は、光学導波路構造及びフォトニック集積構成要素をサポートするシリコンオンインシュレータウェハを含む。
【0027】
[1034] 良好な受動性能に加えて、導波路材料は高い二次又は三次非線形光学応答も保有して、効率的なパラメトリック蛍光を誘導することができ、これはスクイザ光を生成するのに入力状態生成器310によって利用することができる。幾つかの実施形態では、導波路材料は、特に窒化シリコン、シリコンナノワイヤ、ニオブ酸リチウム、及び窒化アルミニウムを含むことができる。
【0028】
[1035] 幾つかの実施形態では、QPU300は、複数の導波層を含む作製プラットフォームを使用して作製することができ、設計に柔軟性の強化を提供することができる。例えば、非線形光学構成要素(例えばスクイザ314)は窒化シリコン導波路層上に作製することができ、干渉計320はシリコン層上に実装することができる。これらの実施形態では、層間カプラを利用して、異なる層間の光の転送を可能にすることができる。
【0029】
[1036] 幾つかの実施形態では、QPU300の幾つかの能動構成要素(例えば干渉計320)に調整可能性及びプログラム可能性を有することが有利であることができる。調整可能性及びプログラム可能性は、QPUドライバ340からの電気入力を介して達成することができる。幾つかの実施形態では、熱光学、電子光学位相シフタ、又は任意の適切なタイプの位相シフタを光学導波路構造と共に集積して、調整可能性及びプログラム可能性を実現することができる。
【0030】
[1037] QPU300では、入力状態生成器310は、線形光学干渉計320に入力するスクイザ光及び/又は変位スクイザ状態の光を作成するように構成される。入力として、状態生成器310は、コヒーレントレーザ光を変換して、スクイズを生成し、コヒーレント変位を実行する非線形光学プロセスを駆動する。一般に、スクイザ及びディスプレーサ(例えば314及び318)は相互コヒーレントビームによって励起され、PDM312を利用して、1つ又は複数の相互コヒーレントレーザ入力ビームをとり、複数の位相ロックされた相互にコヒーレントな出力レーザビームを生成して、スクイザ及びディスプレーサを駆動する。次に、PDM312の出力はスクイザ314及び変位モジュール318に向けられる。
【0031】
[1038] 幾つかの実施形態では、変位モジュール318は任意選択的であることができ、すなわち、干渉計320への入力光学モードは変位を含まない。これらの実施形態では、PDM312は、高電力レーザビームのアレイを提供してスクイザ314を励起するように構成することができる。幾つかの実施形態では、干渉計320への入力光学モードは変位スクイザ光を含む。
【0032】
[1039] これらの実施形態では、PDM312は、コヒーレント変位ビームとして使用するために低電力の少なくとも1つの追加の出力を提供するように構成される。一般に、非線形プロセスを駆動して、スクイザ光を作成するポンプ光ビームの波長(すなわち、ポンプ波長)は、その結果生成されるスクイザ光の波長(すなわちスクイザ光波長)と異なる。したがって、変位ビームの波長(すなわち変位波長)もポンプ波長と異なる。加えて、多くのモードシステム(すなわち、大規模Mシステム、ここでMは光学モードの数である)では、高光学電力需要により、1つのチャネルで所要量全体のポンプ光電力を受け取ることは難しくなり得る。
【0033】
[1040] 幾つかの実施形態では、QPU300は、ポンプビームを複数の別個のポンプビーム(例えば、M個のポンプビーム)に分割するビームスプリッタを含むことができ、それらを監視して、1組の分割された入力ポンプビーム間の相対位相についての情報を提供することができる。次に、位相情報はQPUドライバ340で使用され、関連する入力ポンプについてフィードバックし、それらの相対位相をロックする。本明細書で使用するとき、ビームスプリッタ(BS)は、例えば、指向性カプラ又はマルチモード干渉計を介して2つの入力モードからの電力を2つの出力モードに転送する構成要素を指す。
【0034】
[1041] 幾つかの実施形態では、使用されるビームスプリッタは、調整可能な電力分割比を有する再構成可能ビームスプリッタ(RBS)を含むことができる。例えば、RBSは、2つの後続するビームスプリッタから形成されるマッハツェンダ干渉計を含むことができ、1つの中間アーム内の調整可能位相シフタ(TPS)が4つのポート間に制御可能な透過率を提供する。本明細書で使用するとき、TPSは、制御可能な光学位相遅延を提供する導波路のパスに隣接して又はパス内に配置される要素である。TPSは熱光学的又は電気光学的(又は任意の他の適切なメカニズム)により動作することができる。一般に、TPSは、TPSを含むフォトニックチップ上の電気接点に印加される入力電圧によって調整することができる。
【0035】
[1042] 幾つかの実施形態では、位相情報は、PDM312に入る際、オンチップビームスプリッタ(例えば指向性カプラ)を用いて各入力ポンプビームの小部分をタップオフすることによって取得することができる。タップされた各部分は、別のビームスプリッタを介して近傍タップ部分と干渉することができ、そのビームスプリッタの結果としての光学出力は光検出器に提供される。これらの光検出器に入射した信号からの情報は、フィードバック及び相対ポンプ入力位相のロックにQPUドライバ340によって使用することができる。幾つかの実施形態では、フィードバックは、ポンプビームがQPU300に入る前、作動する。幾つかの実施形態では、フィードバックは、QPUドライバ340からの電気信号を介してPDM312に統合されたTPSユニットによって作動される。
【0036】
[1043] 変位ビーム(
図3では「変位入力」と記される)がポンプビームに対して位相安定化されることも有利である。したがって、PDM312は、この相対位相を検査するようにモニタを含むことができる。変位波長は普通、ポンプ波長と異なるため、ポンプビームとの変位ビームの干渉は、相対位相情報の抽出に有効ではないことがある。この問題に対処するために、ポンプビーム及び変位ビームと同じ光学チャネルで搬送される別個の制御ビームを使用して、変位ビーム及びポンプビームの相対位相を調べることができる。制御ビームの波長は、使用されるいかなる他の波長(ポンプビームの波長、変位ビームの波長、及びその結果生成されるスクイズド光の波長を含む)とも異なる。加えて、制御ビームの波長とスクイズド光の波長との間の差は、光子計数検出器による量子光の検出前、制御ビームの高消光濾波を促進するのに十分に大きいことができる。位相情報は、異なるチャネル内の制御ビームを互いと干渉させ、干渉後、その結果生成された制御ビームの振幅を測定することによって抽出される。
【0037】
[1044] PDM312のこの位相ロック層に続き、入力ポンプビームは分割されて、スクイザ314を駆動する平衡出力ポンプビーム(例えば、M個の出力ポンプビーム)を生成する。幾つかの実施形態では、分割は1組のビームスプリッタツリーによって実現することができる。幾つかの実施形態では、分割は、干渉計ネットワークによって実現することができる。ポンプビームがスクイザ314に向けられる前、各出力ポンプビームの光学電力を独立制御する(例えば、RBSを使用して)ことも有利である。
【0038】
[1045] スクイザ314の性質に応じて、出力ポンプ光ビーム(すなわち、スクイザ314を駆動する光ビーム)は、連続、パルス、単色、又は異なる波長の1つ若しくは複数の連続入力及び1つ若しくは複数のパルス入力の組み合わせであり得る。例えば、スクイザ314は、強い連続駆動ビーム及び別の波長の弱いパルスビームを使用して、スクイズド光を生成し得る。スクイズド光を生成するこの方式の詳細は、その全体が本明細書に援用される、2020年5月12日付けで出願された「INTEGRATED DEVICES FOR SQUEEZED LIGHT GENERATION」という名称の米国特許第10,649,307号に見いだすことができる。この場合、PDM312は、スクイザ314の動作に基づいて二色入力を適宜ルーティングできるようにする。QPU前、ポンプビームの2つの別個の波長成分が別個のチャネルで搬送される場合、同様の位相安定化メカニズムを組み込んで、必要な相対位相についての情報を提供することができる。
【0039】
[1046] 幾つかの実施形態では、PDM312は、複数の入力に分割された二色ポンプ並びに各入力における別個の変位ビーム及び制御ビームを用いて動作するように構成される。これらの実施形態では、PDM312は以下のように動作する。まず、PDM312は別個のチャネルにおいて、(i)第1の波長の1つ又は複数のポンプ入力(連続又はパルス)、(ii)第2の波長の1つ又は複数のポンプ入力(連続又はパルス)、(iii)コヒーレント変位に適したモードでの第3の波長の1つの入力を受け取る。位相変位を調べる制御ビームは、伝播ビームが他と実質的に異なる波長を有する任意の入力チャネルを共伝播する。
【0040】
[1047] 次に、PDM312は、入力の相対位相についての情報を取得する。この情報は、光検出モニタ(例えば313)を介して外部ドライバ(例えば340)に提供することができる。次に、外部ドライバは位相シフタ(例えば、PDM312内又はPDM312の前)を変調して、位相シフトを作動させて、種々の入力間の位相ドリフトを補正し、位相ロックポンプビームを生成する。次に、PDM312は、可変電力を有する適切な数の出力に位相ロックポンプを分割し、それらをスクイザ314に向ける。PDM312はまた、位相ロック変位ビームを変位モジュール318に向ける。
【0041】
[1048]
図4Aは、一実施形態による、
図3に示すQPU300で使用することができるPDM400の概略を示す。PDM400は、入力信号401を2N個の出力チャネルに任意に分割することができる(すなわち、
図4Aに示すようなP
1~P
2N)。PDM400は2N個のRBSユニット410(1)~410(2N)を含み、各RBSユニット410は、入力信号を受信する入力ポートと、2つの出力信号を送る2つの出力ポートとを含む。各RBS410では、第1の出力ポートは第1の出力信号を集積遅延線(IDL)ユニットに送り、これは、第1の出力信号の位相を所望量だけ遅延させることができる。これらの遅延は、PDM400の出力のアレイを同期することができる。各RBSの第2の出力ポート(例えば410(N))は、第2の出力信号を次のRBS(例えば410(N+1))の入力ポートに送り、すなわち、第2の出力信号は、次のRBSの入力信号として機能する。最後のRBS(すなわちRBS
2N)では、第2の出力信号は較正のテストチャネルとして使用することができる。
【0042】
[1049] 各RBSの透過率(すなわち、T
1、T
2、・・・、T
2N)は、各RBS内の対応する位相シフタ(例えば、RBSの一アームに配置されたTPS)によって制御することができる。これらのRBSユニットは、PDM400の構成によって決定することができる所望の出力電力を各チャネルに提供するように構成される。例えば、奇数の出力チャネルはスクイザ(例えば、
図3の314)を駆動するポンプ光を搬送することができ、偶数の出力チャネルは、変位(例えば、
図3の318)を実行する光を搬送することができる。すなわち、j=1、2、3、・・・、Nである第(2j-1)の出力は、第jのスクイザディスプレーサのスクイザ要素のポンプ光を搬送するチャネルに対応し、一方、第(2j)の出力は、第jのスクイザディスプレーサのディスプレーサ入力に対応する。
【0043】
[1050] 所定のシーケンスの出力電力部分を生成するRBS設定は、以下のように決定することができる。電力Piが出力チャネルiにあると考える。すると、PDMへの入力電力Pin(損失を無視する)は、
Pin=ΣiPi (1)
として書くことができる。
【0044】
[1051] 第iのRBSの出力から出る総電力の部分α
iはα
i=P
i/P
0であり、したがって、第1のRBSの出力チャネル電力透過率はT
1=α
1であり、第iのRBS(i>1)の出力チャネル電力透過率は
【数8】
によって与えられる。
【0045】
[1052] 幾つかの場合、これらの比率(αi)は伝播損失を考慮するように調整することができる。例えば、比率(αi)の調整はPDM400の較正中に決定することができる。代替的には、比率(αi)の調整は、例えば、温度等の環境パラメータの変化に応答してPDM400の動作中に実行することができる。
【0046】
[1053] パルス動作では、IDLユニットは、各チャネルの出力ポート前に配置されて、各チャネルの光路長を平衡する、適切な時間遅延を提供することができる。このようにして、1つの入力パルスが、1組の時間的に同期した出力パルスとして出現することができる。
【0047】
[1054] 本明細書に記載のPDM400は、有向バイナリツリーのサブセットとして理解することができ、各RBSはツリーのノードに対応し、介在する導波路は、ノードをつなぐ枝に対応する。
【0048】
[1055] 代替的には、PDMはフルバイナリツリーによって実現することができる。この場合、PDMはRBS層のカスケードを含むことができる。
図4Bは、フルバイナリツリー構造に基づくPDM420の概略を示す。第1の層はRBS430(1)を含み、第2の層はRBS430(2)及び430(3)を含む。例示を目的として2つの層を
図4Bに示す。RBSの各層は、所望数の出力モードが実現されるまで、2つのチャネルに分割することができる。この手法はより少数のRBSユニットを使用することができる(Nが大きい場合、概ね二分の一)が、水平寸法ではより大きな深さを有し得る。フットプリント制約に応じて、PDMはそのようなフルツリーシステムで置換し得る。
【0049】
[1056] PDM400及び420を構築する上記両手法は、所望の各出力設定にグローバル再構成を使用する。一般に、各RBSは、任意のチャネル内の出力電力を変えるように調整することができる。この方式は複雑性を制御システムに追加するが、全ての入力電力が使用されるため、エネルギー効率という顕著な利点を有する。したがって、これらの手法は電力効率方式とも呼ばれる。
【0050】
[1057] 代替的には、PDMの別の方式は、各RBSに一定の分割比率を使用することができ、その後、減衰器が出力を制御し、すなわち、等分割方式である。この手法はより単純な制御システムを有し得るが、入力電力の幾らかは、動作中に失われ得る(例えば減衰器において)。
【0051】
[1058] 幾つかの係数は、どの方式を使用すべきかについての決定に影響し得る。例えば、大きなスクイズレベル、現実的なシミュレーションでの多数のモード(例えば、5~10のモード)及びPDMからの大きな出力電力が関わるシミュレーションでは、電力効率方式が有利である。別の例では、制御システムの簡易化が望まれる場合、可変減衰が続く等分割方式を使用することもできる。
【0052】
[1059] 再び
図3を参照すると、スクイザ314は、調整可能なスクイズを用いてスクイズド光を生成するように構成される。幾つかの実施形態では、スクイザ314の出力は、周波数縮退する単一モードスクイズド状態を含む。幾つかの実施形態では、スクイザ314の出力は、複数の周波数、偏光、又は時間ビンを利用することによって2モード又はマルチモードスクイズド状態を含む。
【0053】
[1060] スクイザ314によるスクイズド光の生成に、種々の手法を使用することができる。通常、スクイザ314は、二次又は三次非線形光学媒体でのパラメトリック相互作用を利用して、スクイズド光を生成し、すなわち、自発的パラメトリック下方変換又は自発的四波混合を使用する。幾つかの実施形態では、スクイザ314はデュアルポンプ方式を採用して、マイクロリング共振器等の共振構造での自発的四波混合を介してスクイズド光を生成する。幾つかの実施形態では、スクイザ314はシングルポンプ方式を利用して、共振構造での自発的四波混合を介してスクイズド光を生成する。幾つかの実施形態では、自発的四波混合は長い導波路セグメントで行うことができる(例えば、デュアルポンプ又はシングルポンプ方式の何れかを使用して)。
【0054】
[1061] 幾つかの実施形態では、スクイザ314は、共振構造において自発的パラメトリック下方変換を使用してスクイズド光を生成することができる(例えば、マイクロリング共振器又は結合されたマイクロリング共振器のシステム)。幾つかの実施形態では、自発的パラメトリック下方変換は、位相整合導波路セグメント又は準位相整合周期分極導波路セグメントで行うことができる。
【0055】
[1062] 幾つかの実施形態では、本明細書に記載のスクイズド光生成の各手法において、補助構造をスクイザ314に含めて、生成されるスクイズド光の属性を強化することができる。例えば、共振構造(例えばマイクロリング)において、生成されたスクイズド光に適合する共振が高い逃げ効率(すなわち、生成されたスクイズド光が共振構造から出て結合する効率)を有することが有利である。これは、例えば、対応する共振モードを共振構造と強く過結合することによって達成することができる。
【0056】
[1063] スクイザ314の出力のスクイズ係数は、QPUドライバ340によって調整することができる(例えば、ユーザにより手動で又は特定のプロトコルに従って自動的に)。幾つかの実施形態では、入力ポンプ力は、可変量の光学ポンプ電力を各スクイザ314に送るように制御することができる(例えば、PDM312の設定を介して)。幾つかの実施形態では、共振スクイザの場合、共振器での共振モードから離れたポンプビームの離調は、スクイズ係数を変えるように調整することができる。幾つかの実施形態では、QPUドライバ340からの信号を利用して、オンチップ調整可能位相シフタを作動させ、次にオンチップ調整可能位相シフタが上記調整を実施する。
【0057】
[1064] 幾つかの実施形態では、スクイザ314はまた、安定化のために監視及び能動的フィードバックも含む(特に共振スクイザ構造の場合)。これらの実施形態では、各スクイザ314のステータスについての情報を提供する光学信号が、QPUドライバ340と通信する1組の監視光検出器(例えば315)に供給される。次に、電気フィードバック信号がQPUドライバ340からチップ(すなわち、基板305に作製された構成要素)に搬送されて、安定化変更を作動させ、それによりフィードバックループを実現する。幾つかの実施形態では、監視用の光学信号は、スクイザ314から直接取得することができる。この手法は、例えば、ポンプ光が生成されたスクイズド光とは別個の光学チャネルでスクイザ314に搬送されスクイザ314から抽出される共振システムをスクイザ314が含む場合、使用することができる。幾つかの実施態様では、光学信号は、後述のように、フィルタ316の出力ポートから取得することができる。
【0058】
[1065] 幾つかの実施形態では、スクイザ314の光学ポンプ電力の幾らか又は全ては、スクイズド光と同じ光学チャネルを介して運び出される。これらの実施形態では、干渉計320に先立ち、ポンプ光の可能な限り大部分(例えば、約99%以上)を迂回させることが有用であることができる。そのような迂回には少なくとも2つの利点がある。第1に、迂回は、監視及びロックのためにスクイザ後ポンプ光を介してスクイザステータスについての光学情報を提供することができる。第2に、迂回は、自発的ラマン散乱又は四波混合等のポンプ光によって駆動される不要な線形効果からスクイザ314後に生成されるノイズを低減又はなくすことができる。
【0059】
[1066] QPU300では、スクイザ314へのポンプ光の迂回はフィルタ316によって達成される。種々のタイプの濾波メカニズムを利用して、フィルタ316を構築することができる。幾つかの実施形態では、フィルタ316は、スクイズド光を透過しながら、ポンプ光ビームを分離するように構成された1つ又は複数の分合波リングフィルタを含む。幾つかの実施形態では、フィルタ316は非対称マッハツェンダ干渉計(AMZI)を含む。幾つかの実施形態では、フィルタ316はラティスフィルタ(カスケードAMZIとも呼ばれる)を含む。幾つかの実施形態では、フィルタ316はブラッググレーティング構造を含む。幾つかの実施形態では、フィルタ316は結合リング構造を含む。幾つかの実施形態では、TPSユニットを利用して、フィルタ316のバイアスを適用することができる。
【0060】
[1067]
図5は、一実施形態による、GBSの変位スクイズド光の生成に使用することができる変位モジュール500の概略を示す。変位モジュール500は、
図3に示すQPU300内の変位モジュール318として使用することもできる。変位モジュール500は、RBS530(1)~530(N)のアレイを含む。各RBS530(j)は、対応するスクイザ510(j)から第1の入力ビームを受け取るとともに、第2の入力ビーム(すなわち、変位ビーム)520(j)を受け取り、ここで、j=1,2,・・・,Nである。スクイザ510(1)~510(N)は集合的に
図3のスクイザ314を形成することができる。
【0061】
[1068]
図5に示すように、変位は、PDM(例えば、
図3のPDM312)によって提供される変位光ビームをスクイザ314によって提供される(例えばフィルタ316後)スクイズド光と混合することによって達成することができる。混合は、スクイズド光を100%近く透過するようにバイアスされたRBSで実行することができる。これは、QPUドライバによって設定される各RBSの透過率に従って可変変位を行えるようにしながら、大きな損失をスクイズド光路に追加するのを回避することができる。変位ビーム520の位相は、RBS530に先立ち変位ビーム520を伝播する入力導波路セグメント上のTPS要素によって制御することができる。
【0062】
[1069] 各RBS530は2つの出力ポートを有する。一方のポートは、変位スクイズド光を干渉計(例えば
図3の320)に向けて送るように構成される。他方のポートは、ステータス監視、フィードバック、及び安定化のためにフォトダイオードを監視する信号を提供するように構成することができる。
【0063】
[1070] 再び
図3を参照すると、干渉計320はビームスプリッタ及び位相シフタ(例えばRBS)のネットワークによって実施することができる。干渉計320はN個の入力ポート322及びN個の出力ポート328を含むことができ、それにより、N個の光学モードに対して一般変換U(N)を実行する。幾つかの実施形態では、レック方式を介してN
*(N-1)/2個のRBS及びN個の位相シフタを相互接続して、干渉計320を構築することができる。この方式では、N
*(N-1)/2個のRBSはSU(2)変換を実行することができ、N個の位相シフタはU(1)変換を実行することができる。RBSを使用して干渉計320を構築することにより、低損失且つ小さな物理的フットプリントが可能になる。
【0064】
[1071] QPU300は検出器(
図3に示されず)も含む。幾つかの実施形態では、検出器は同じプラットフォーム305に作製することもできる。幾つかの実施形態では、検出器は、別個のプラットフォームに作製することができ、プラットフォーム305から着脱可能であることができる(例えば、ファイバ結合を介して)。
【0065】
[1072] QPU300内の検出器は、干渉計320によって提供される別個の各光学モードの光子数の読み出しを実行するように構成される。換言すれば、QPU300内の検出器は光子数分解を有する。幾つかの実施形態では、検出器はセンサのアレイを含むことができ、各センサは干渉計320の出力ポート328に結合され、対応する出力ポート328において検出された光子数に対応するデータを生成する。
【0066】
[1073] 幾つかの実施形態では、検出器は転移端センサ(TES)検出器を含む。TES検出器は、GBS用途に有利であることができるごくわずかな暗計数且つ高い量子効率で正確な光子数分解を提供することができる。TES検出器は普通、低温、例えばmK範囲で動作する。したがって、TES検出器は、光ファイバを介して干渉計320に結合することができる(TES検出器をプラットフォーム305に作製する代わりに)。TES検出器のデータ取得は、検出器から出た電圧パルスをデジタル化し、適切な計算分析を実行して、各パルス及びチャネルでの光子数を分解することによって達成することができる。このデータ取得は、QPU制御システム又は入力ポンプサブシステムによって提供される適切なタイミングパルスによってトリガーし得る。
【0067】
[1074] 幾つかの実施形態では、検出器は、任意の他の適切なタイプの光子計数検出器、例えば、超伝導ナノワイヤ単一光子計数検出器又は単一光子感度アバランシェフォトダイオード等の単一光子計数検出器を含むことができる。幾つかのそのような実施形態では、適切な多重化方式(例えば、空間、時間、又はモーダル多重化)を使用して、2つ以上の光子が任意の単一検出器素子に入射する確率が低いことを保証することができる。そのような多重化戦略には、何らかの複数L個の検出器が関わることができ、LはNの倍数であり、且つ検出器当たりのマルチ光子計数イベントを抑圧するためには十分に大きい。検出器が所望の光子のみを検出することを保証するために、検出器に接続された光ファイバは複数の段階のフィルタリングを含むことができる。
【0068】
[1075]
図1~
図5を参照して本明細書で上述したGBS装置は、出力サンプル(すなわち、出力における各光学モードでの光子数の統計)が有用情報を含むように構成することができる。入力スクイズ及び/又はNモード線形干渉計設定を変えることにより、広範囲の問題をGBSに符号化することができる。これらの問題は、グラフベース又は組み合わせ最適化ベースであることができ、ソーシャルネットワーク最適化及び化学を含む幾つかの実際用途を有する。次に、適宜プログラムされたGBSデバイスからの出力サンプルを使用して、符号化問題への解決策候補を提供することができる。これらのサンプルは、古典-量子ハイブリッドアルゴリズムの一環等を含め、古典コンピュータによって処理し得る。結果は更に、連続アルゴリズムの一環としてGBSデバイスの再構成/更新に繋がることができる。
【0069】
[1076]
図6は、一実施形態による、GBSデバイスを動作させる方法600を示すブロック図を示す。方法100は、アプリケーション610をGBSシステム620(例えば、
図1~
図5を参照して示し及び/又は記載した任意のGBSデバイス)に組み込むことを含む。例えば、スクイズ係数及び/又はGBSシステム内の干渉計の位相設定は、特定の問題(例えば、後述するグラフ又は振電スペクトル)を解くように構成することができる。次に、GBSシステム620の出力630は、事後処理(例えば、各光学モードでの光子分布の分析)のために古典コンピュータ640(又は単にプロセッサ)に送信されて、GBSシステム620に組み込まれた特定の問題の解650を検索する。加えて、古典コンピュータ640からの処理された情報はアプリケーション610に送信されて、組み込み(例えば、入力光学モードの調整又は干渉計の位相設定)を改善することができる。GBSシステム620に組み込むことができる例示的なアプリケーションには、ソーシャルネットワークでの高度に繋がったインフルエンサーの識別、太陽電池の効率改善、又は顧客がオンライン注文を出して受け取るまでの時間の短縮がある。
【0070】
[1077] 本明細書に記載のGBS装置はまた、状態生成及び線形光学干渉計構成要素の設定パラメータ等のユーザとの対話を可能にすることもできる。このために、GBSベースのアプリケーションを実行するハードウェアはプログラム可能であることができ、すなわち、スクイズパラメータ、コヒーレント変位設定(該当する場合)、及び干渉計マトリックス(interferometer matrix)はそれに従って指定され及び作動することができる。
【0071】
[1078]
図7は、一実施形態による、量子ハードウェアの設定へのユーザアクセスを提供するGBSシステム700の概略を示す。GBSシステム700では、入力状態準備、干渉計変換、及び出力状態検出を担当するハードウェア要素は以下、量子ハードウェア(QH)750(例えば、
図1のQH160と同様)と呼ばれる。QHのパラメータ設定は、1組の古典コンピュータ及び関連付けられた通信インターフェースを用いて達成することができる。より具体的には、マスタユニット730は、1組の制御システム740を介したQH750の実行、監視、及びQH750からの結果受信に捧げられる。クライアントは、ユーザインターフェース710を介してマスタユニット730(ひいてはQH750)にアクセスすることができる。幾つかの実施形態では、ユーザインターフェース710はマスタユニット730にローカルに接続される。幾つかの実施形態では、クライアントは、インターネットを介してマスタユニット730にアクセスすることができる(すなわち、ユーザインターフェース710はネットワークインターフェースを含む)。何れの場合でも、命令はアプリケーションプログラムインターフェース(API)を介してハードウェアに渡すことができる。インターネットアクセスモデル(クラウドアクセスモデルとも呼ばれる)では、クライアントは、セキュアウェブリンクを介してサーバ720と通信することができ、次にサーバ720はマスタユニット730と通信する。
【0072】
[1079] 本明細書に記載のように、
図1~
図7に示すGBS装置及びシステムは、広範囲の問題を解くために使用することができる。2つの例:グラフ問題及び振電スペクトルについて、例示的を目的として更に詳細に後述する。
【0073】
[1080] グラフで問題を解くことは、コンピュータビジョン、ソーシャルネットワーク、及び金融でのその用途に起因して、理論的関心及び実際的関心の両方を有する。例えば、グラフ問題のアルゴリズムは、ソーシャルネットワークでの高度に繋がったインフルエンサーの識別、太陽電池の効率改善、及び顧客がオンライン注文を出してから受け取るまでの時間の短縮に役立つことができる。グラフ問題はグラフの隣接行列を通して指定し得、これは、入力スクイズ及びNモード線形干渉計設定を変えることによって符号化することができる。この符号化では、グラフの各頂点は、GBSにおけるデバイス/システムのモードに対応する。より詳細は、例えば、Kamil Bradler、Pierre-Luc Dallaire-Demers、Patrick Rebentrost、Daiqin Su、及びChristian Weedbrook著、Gaussian boson sampling for perfect matchings of arbitrary graphs, Phys. Rev. A. vol. 98, page 032310, Sep 2018に見いだすことができ、これは本明細書にその全体が援用される。
【0074】
[1081]
図8は、一実施形態による、本明細書に記載のGBSデバイスを使用してグラフ問題を解く方法800を示すブロック図を示す。方法800では、グラフ問題810はアルゴリズム及びヒューリスティック820を使用して解かれて解830に達し、GBSシステム850は、解の改善に使用することができる。より具体的には、グラフ問題810はまずGBSシステムに符号化することができる(840において)。次に、サンプルがGBSシステム850(例えば、
図1~
図7に示され
図1~
図7を参照して説明された任意のGBSシステム)からとられ、アルゴリズム及びヒューリスティック820内で処理されて、グラフ問題を解くのを助ける。幾つかの実施形態では、処理は、その出力に基づいてGBSデバイスを繰り返し更新することを含む。計算のGBSモデルは、密サブグラフを見つけ、グラフマッチング、グラフ同型性、及びグラフ類似性を計算するようにアルゴリズム内で適合することができ、これらについてより詳細に後述する。
【0075】
[1082] 高い結びつきを有するサブグラフを識別することは、生物情報学、薬剤設計、データマイニング、金融、及びソーシャルネットワークでのコミュニティ検出における関連のある問題である。不都合なことに、これらのサブグラフを見つけるために必要な計算リソースは、グラフのサイズに伴って急速に増大する。GBSを利用して、高確率で高度に結びついたサブグラフをランダムに生成することができる。この特徴により、GBSは、可能なサブグラフの空間にわたるランダムサーチに頼る既存の従来のアルゴリズムを改善することができる。
【0076】
[1083] 古典アルゴリズムは多くの場合、問題空間の大域的探査と局所構造を利用した解候補の局所的サーチとの混合を進める。探査及び局所サーチは両方とも確率的要素を含むことができる。例えば、開始点としてランダムサブグラフを選ぶこと又はより大きなクリークを構築するための局所サーチ。改善された解候補を見つけるという目的で、これらの確率的要素は多くの場合、高度に結びついたサブグラフの選択に向けてバイアスされる。次に、適宜符号化されたGBSシステムを、高度に結びついたサブグラフを選択する確率源として使用することができる。
【0077】
[1084] グラフ同型問題は、頂点の単なるリラベリングによる、2つの等スペクトルグラフ(すなわち、同じ固有スペクトルを有するグラフ)が同型であるか否か、すなわち、互いに関連するか否かに関する決定問題である。主な未解決の問題は、2つのグラフが同型であるか否かを判断することができる多項式時間アルゴリズムが存在するか否かである。実際には、グラフ同型性は、NP中間計算問題のクラスに属する可能性が高い。更なる一般化された問題は、2つの非同型グラフ(異なる数の頂点でのグラフを含む)が互いにいかに関連するか、すなわち、グラフ類似性問題に関わる。グラフ同型性、しかし主にグラフ類似性は、コンピュータビジョン、金融取引ネットワークでの異常活動(例えば、不正出金)の検出、及び合成の必要のない分子ファミリの属性の特定(例えば、医薬、遺伝、又は生化学での)等の異なる問題への解を提供する。
【0078】
[1085] GBSを利用して、グラフ不変量の完全な集合をもたらすことができ、2つのグラフは、これらのグラフの不変量が等しい場合のみ、同型である。このために、グラフ同型性とGBSとの間のリンクについてまず説明する。GBSからの光子イベントの巡回置換を考慮することによって理解することができる。有用な一概念は軌道代表(orbit representative)であり、これは、軌道を形成する全ての置換同等イベントを記述するシードイベントとして機能する。例えば、軌道(0,0,1,2)は、可能なイベント(0,1,2,0)、(2,1,0,0)等を記述する。これらのイベントは、GBSデバイスからの出力サンプル(クリックパターンとも呼ばれる)と関連付けることができ、各軌道は対応するGBS確率を有する。軌道確率は、2つの別個のグラフについて見つけられ、比較することができる。軌道確率が異なる場合、2つのグラフは同型ではないと結論付けるのに十分である。
【0079】
[1086] この方式の実施は、上述したようにGBSデバイスで2つのグラフを符号化し、GBSデバイスから複数のサンプルをとることによって所与の軌道の確率を評価することで進めることができる。幾つかの実施形態では、グラフはGBSデバイスに順次符号化することができ、すなわち、あるグラフの軌道確率を評価し、次に別のグラフの軌道確率を評価する。幾つかの実施形態では、グラフはGBSデバイスに交互に符号化することができ、すなわち、あるグラフからサンプルをとり、次に他のグラフからサンプルをとり、軌道確率を連続して更新する。実験不確実性も考慮される場合、軌道確率が重複しないような十分なサンプルがとることができる。これは、2つのグラフが非同型であると結論付けるのに有用であることができる。
【0080】
[1087] グラフ類似性問題へのGBSの適用を説明するために、GBS軌道をグラフ理論での2つの概念とリンクすることも有用である:kマッチング及びマッチング多項式。2M頂点での単純な(すなわち、無向且つループなし)グラフでのkマッチングは、グラフのk独立(互いに疎な)エッジの数である。定義により、1≦k≦Mである。kマッチングはグラフマッチング多項式の係数である。マッチング多項式の計算は、Mが十分に大きい場合、従来のコンピュータでは手に負えなくなる難しい計算問題であることができる。実際に、グラフの特定の特殊なクラスを除き、マッチング多項式を近似する既知の効率的な従来のアルゴリズムさえない。
【0081】
[1088] GBSデバイスは、GBS多項式の使用を介してマッチング多項式を推定するのに使用することができる。GBS多項式は、マッチング多項式と同じ次数であり、その係数は、グラフのkマッチングに関連するが同一ではない。GBS多項式の項(係数とも呼ばれる)の幾つかは、GBSデバイスを使用して効率的に推測することができ、更に、GBS多項式は、グラフのマッチング多項式から得ることができる情報を使用するよりもグラフ同型又は類似性問題に適する。
【0082】
[1089] GBS多項式は、以下のようにGBSデバイス出力から抽出することができる。GBSデバイスの出力クリックパターンは、多くとも1つの光子が各出力モードで検出される場合、無衝突(collision-free)と呼ばれる。グラフがGBSデバイスで符号化される場合、2k光子を有する無衝突軌道を観測する確率が、GBS多項式のk番目の係数に等しいことを示すことができる。2k光子を用いて軌道をサンプリングすることの重要な態様は、これが何らかのkについて扱いやすいことである。これは、無衝突軌道の数が、単に符号化グラフサイズ2Mに伴って多項式的に増大するためである。軌道確率はグラフ不変量であるため、2つのグラフが同型であるか否かをGBSが判断する効率的な方法を提供する。
【0083】
[1090] グラフ類似性への拡張は、一定の光子総数を用いて与えられる可能な軌道の全範囲を考慮することによって与えられる。これは、無衝突レジームから問題を取り出し、したがって、それに対応してGBS多項式洞察を一般化する必要がある。より高次の確率分布は、異なる軌道確率の組み合わせを含む。これらの粒度の粗い確率分布は、自己ループを有する完全なグラフを用いた元グラフのテンソル化によって得られる拡張グラフに対応する別のGBS多項式の係数である。
【0084】
[1091] 上記プロセスには3つの態様がある。第1に、確率分布の粒度が粗いほど、GBSデバイスを使用してそこからサンプリングするのが容易である。第2に、テンソル化手順は2つのグラフ間の差を増幅することができる。グラフ類似性問題に適したものにするのは、拡張GBS多項式係数の比較である。光子数のより多い粒度の粗い軌道をとることで、2つのグラフ間の差についてのより精密な情報を得ることができる。最後に、これらの洞察は、マッチング多項式(まるでそれへのアクセスを有するかのような)とGBS多項式との比較に繋がり、全ての場合で、GBS多項式が、検出光子がより少ない場合で2つのグラフの非類似性を明らかにすることが分かる。この最後のポイントは、GBS多項式がこのタイプの問題についてマッチング多項式よりも強力であることができ、これがアルゴリズムの実験的実施の結果を有することを示唆する。
【0085】
[1092] グラフ類似性問題に更に適することができるGBS方式は、グラフを符号化する線形干渉計に入る初期均等変位スクイズド状態を含む。考慮されるレジームは、衝突含有(collision-containing)又は無衝突の両方であることができる。検出されたクリックパターンとそれらの粒度の粗いバージョンとの比較は、符号化されたグラフの類似性の測定に繋がる。一般に、変位あり又はなしで、GBSを通して軌道分布を評価することにより、ユーザは、符号化されたグラフを軌道の確率で埋められた特徴ベクトルと関連付けることができる。この関連付けは、グラフカーネルの公式化に使用することができる、GBSを使用した実空間へのグラフの組み込みとして理解することができる。グラフカーネル及び特徴ベクトルは、分類及び再帰等の機械学習の範囲内で使用することができる。この概念は、サポートベクターマシン及びk平均クラスタリング等の方法を使用してグラフの分類又はクラスタリングの一形態に拡張することができる。
【0086】
[1093] 上記の説明に基づいて、グラフ問題(例えば、グラフ同型又は類似性問題)へのGBSベース解は、以下のように実行することができる。まず、グラフをガウス共分散行列に変換することによってグラフをGBS符号化可能にする。ガウス共分散行列を使用して、スクイズパラメータ並びにGBSデバイス内の線形干渉計のユニタリ角及び位相値を見つける。セットアップの変位ベース版に最適化された真空変位値が見つけられる。次に、クリックパターンの統計が、GBSデバイス内の検出器から集められる。次に、古典的な事後処理によって粒度の粗い統計が得られる。軌道確率が衝突又は無衝突レジームにおいて推定される。軌道確率は、グラフのGBS多項式の係数又はそのテンソル拡張として解釈される。
【0087】
[1094] 次に、グラフ同型問題では、推定GBS多項式係数での差を使用して、2つのグラフが同型ではないこと結論付ける。グラフ類似性問題では、関連する推定GBS多項式係数は特徴ベクトルと関連付けられ、機械学習層で処理されて、2つのグラフの類似度を見つける。例えば、特徴ベクトルは、特に、ニューラルネットワーク又はカーネルマシン等の機械学習アルゴリズムを実行中の古典コンピュータによって処理される。最後に、決定問題又は類似性測定をユーザに報告することができる。
【0088】
[1095] 分子振電スペクトルの効率的なモデリングは、学術的研究及び産業目的の両方で化学反応の理解及びエンジニアリングに有用である。分子振電スペクトルの構造の正確な予測は、計算集約的タスクであることができ、普通、標的とする分子のサイズ及び複雑性が上がるにつれて、法外に大きな計算リソースが関わり得る。したがって、これらの計算を効率的に実行する戦略は、化学シミュレーションにとって重要な一歩前進を表す。
【0089】
[1096] GBSシステムは、振電モードのダイナミクスと量子光学系のダイナミクスとの間の結びつきを利用することによってそのような戦略を可能にする。n個の振動モードを有する分子の場合、GBS戦略は、n個の変位スクイズド状態、n×n線形光学干渉計、及び出力モードでの光子数分解検出の準備を含む。全ての上記事例で、関連するGBSアルゴリズムは、計算リソース及び/又は計算ステップ数においていかなる既知の古典アルゴリズムよりも、問題のサイズに伴って上手くスケーリングする。
【0090】
[1097] 振電スペクトル問題を解くGBSベースの手法(例えば、
図7に示すシステム)では、クライアントはまず、適切なグラフィカル又はコマンドラインユーザインターフェース又はカスタムアプリケーションプログラムインターフェース(API)を使用してセキュアウェブリンクを介してサーバと通信することができる。クライアントによってサーバに送信される情報は、シミュレートすべき分子構造を記述する。これらの分子構造は、インタプリタによって物理パラメータ(例えば、光学電力、ビームスプリッタ比率、及び位相)として符号化され、インタプリタは、従来のコンピュータで実行中のソフトウェアを含むことができる。インタプリタはこれらの物理パラメータを制御システムに渡し、制御システムは、量子ハードウェアと直接通信する補助ドライバを含む。量子ハードウェアは、光学チップ及び光子計数検出器を含む。これらの検出器からの出力はデコーダで実行中のソフトウェアに供給され、デコーダで実行中のソフトウェアは、光子計数分布をパースして、振電スペクトルの使用可能な表現にする。この情報はサーバに渡され、サーバは計算結果をクライアントに返信する。
【0091】
[1098] 幾つかの実施形態では、
図7に示すクライアントアクセスモデルは、参照により本明細書にその全体が援用される、Huhら、Boson sampling for molecular vibronic spectra, Nature Photonics 9, 615(2015)に記載の分子コード方式を使用することができる。インタプリタはこの符号化方式を使用して、ビームスプリッタ比率及び干渉計の位相、スクイズ係数、及びスクイザ/ディスプレーサによって実施すべき変位を含む1組のパラメータにシミュレートされるように振電遷移を変換する。本明細書に記載のシステムでは、これらのパラメータは、各モジュールでの位相によってオンチップで制御することができる。したがって、インタプリタは最終的に、各モジュールにどの位相を設定するかを制御システムに指示する。制御システムは、位相シフタに適用される1組の電圧にこれを変換する。
【0092】
[1099] 復号化の場合、検出器によって測定された光子計数は、振電スペクトルの再構築に使用することができる1組のフランク-コンドン(FC)因子を構成する確率分布を精密に形成することができる。したがって、検出器はこの光子計数分布をとり、それを1組のFC因子に編纂し、サーバを介して結果をクライアントに報告することができる。
【0093】
[1100] グラフ問題を解き、振電スペクトルをモデリングすることに加えて、本明細書に記載のGBSシステムは点過程として使用することもできる。いかなる特定の理論又は動作モードによっても拘束されずに、点過程は、自然、技術、及び人事に出現し得るランダム点パターンを生成し解釈する統計モデルである。行列関数点過程は、特定の点パターンを観測する確率が行列式及びパーマネント等の行列関数に依存する点過程の一クラスである。行列式点過程は、テキスト要約、人間姿勢推定、及びニューススレッディングを含む機械学習での種々の問題に適用することができる。しかしながら、パーマネント又はハフニアンに依存する点過程は、古典コンピュータでのこれらの行列関数の計算に関連する計算の難しさに起因して広く使用されてこなかった。
【0094】
[1101] GBS機は、特定の光学モードでの光子の形態のランダム点パターンを生成する点過程として見なすことができる。GBSによって生成されるパターンの確率は、GBS設定を指定する行列のハフニアンに比例する。したがって、GBS機は、ハフニアン及びパーマネント点過程の典型的なパターンを継承する点パターンを生成するようにプログラムすることができる。その結果、GBSは古典コンピュータでハフニアン及びパーマネント点過程の適用に関連する困難さを解消する。特に、GBS点過程の2つの例を以下に提供する。
【0095】
[1102] GBS点過程の一特徴は、局所的にクラスタリングされる点パターンの確率がより高いことである。GBSのこの固有のクラスタリング性は、ポートフォリオ最適化及び機械学習とのタスクに使用することができる。ポートフォリオ最適化の一態様は、1つのポートフォリオに高度に相関するストックを有することを回避するために、資産を多様化させることである。GBS機には、市場価格等のストックプロパティの時間相関に基づいて得られるストック共分散行列をプログラムすることができる。このGBS点過程は、高度に相関するストックを検出することが可能であり、したがって、上手く多様化され安定したポートフォリオの提供に役立つ。GBS点過程は古典アルゴリズムと組み合わせられて、古典的な機械学習クラスタリング法の効率を上げることもできる。特に、GBS点過程を使用して、k平均等の古典的なクラスタリングアルゴリズムの開始に使用されるより現実的なクラスタ中心を提供することができる。
【0096】
[1103] 種々の実施形態を本明細書に記載し説明してきたが、機能を実行し、及び/又は本明細書に記載の結果及び/又は利点の1つ又は複数を得る多種多様な他の手段及び/又は構造並びにそのような変形及び/又は変更の各々が可能である。より一般的には、本明細書に記載の全てのパラメータ、寸法、材料、及び構成は、例であり、実際のパラメータ、寸法、材料、及び/又は構成が、歩開示が使用される1つ又は複数の特定の用途に依存することが意図される。上記実施形態が単に例として提示され、特に記載され特許請求の範囲に記される以外の他の実施形態を実施することも可能なことを理解されたい。本開示の実施形態は、本明細書に記載の個々の特徴、システム、品目、材料、キット、及び/又は方法の各々に関する。加えて、2つ以上のそのような特徴、システム、品目、材料、キット、及び/又は方法の任意の組み合わせは、そのような特徴、システム、品目、材料、キット、及び/又は方法が相互に矛盾しない場合、本開示の発明的範囲内に含まれる。
【0097】
[1104] また、種々の概念は1つ又は複数の方法として実施され得、その例が提供されている。方法の一環として実行される行為は任意の適切な方法で順序付け得る。したがって、例示的な実施形態では順次行為として示される場合であっても、幾つかの行為を同時に実行することを含み得る、行為が示されるものと異なる順序で実行される実施形態を構築することもできる。
【0098】
[1105] 本明細書で定義され使用される全ての定義は、辞書の定義、参照により援用した文献での定義、及び/又は定義された用語の通常の意味よりも優先されることを理解されたい。
【0099】
[1106] 本明細書で使用されるとき、「モジュール」は、例えば、特定の機能の実行に関連付けられた任意の組立体及び/又は動作可能に結合された電気構成要素のセットであることができ、例えば、メモリ、プロセッサ、電気トレース、光学コネクタ、ソフトウェア(ハードウェアに記憶されハードウェアで実行される)等を含むことができる。
【0100】
[1107] 本明細書及び特許請求の範囲で使用される不定冠詞「a」及び「an」は、明らかに逆のことが示される場合を除き、「少なくとも1つ」を意味するものと理解されたい。
【0101】
[1108] 「及び/又は」という句は、本明細書及び特許請求の範囲で使用されるとき、そうして接合される要素の「何れか1つ又は両方」、すなわち、接続語的に存在することもあれば、離接語的に存在することもある要素を意味するものと理解されたい。「及び/又は」を用いて列記された複数の要素も同じように、すなわち、そのようにして結合された要素の「1つ又は複数」として理解されるべきである。「及び/又は」節によって具体的に識別される要素以外の他の要素も、具体的に識別された要素に関連するか否かに関係なく、任意選択的に存在し得る。したがって、非限定的な例として、「A及び/又はB」への言及は、「含む」等のオープンエンド語と併用される場合、一実施形態ではAのみ(任意選択的にB以外の要素を含む);別の実施形態ではBのみ(任意選択的にA以外の要素を含む);更に別の実施形態ではA及びBの両方(任意選択的に他の要素を含む)等を指すことができる。
【0102】
[1109] 本明細書及び特許請求の範囲において使用されるとき、「又は」は、上記定義した「及び/又は」と同じ意味を有すると理解されるべきである。例えば、列記中の項目を分ける場合、「又は」又は「及び/又は」は、包括的である、すなわち、幾つかの要素又は要素の列記の少なくとも1つを包含するが、2つ以上及び任意選択的に追加の非列記項目も含むと解釈されるものとする。「~の1つのみ」若しくは「~の厳密に1つ」等の逆を明確に示す用語のみ又は特許請求の範囲で使用される場合、「からなる」が、幾つかの要素又は要素の列記のうち厳密に1つの要素の包含を指す。一般に、用語「又は」は、本明細書で使用される場合、「何れか1つ」、「~の1つ」、「~の1つのみ」、又は「~の厳密に1つ」等の排他性の用語と併用されるときのみ、排他的代替(すなわち、「一方又は他方であるが、両方ではない」)を示すものと解釈されるものとする。「基本的に~からなる」は、特許請求の範囲で使用されるとき、特許法の分野で使用される通常の意味を有するものとする。
【0103】
[1110] 本明細書及び特許請求の範囲で使用されるとき、1つ又は複数の要素の列記を参照した「少なくとも1つ」という句は、要素の列記中の任意の1つ又は複数の要素から選択される少なくとも1つの要素を意味すると理解されるべきであるが、必ずしも要素の列記中に具体的に列記されたありとあらゆる要素の少なくとも1つを含むわけではなく、要素の列記中の要素の任意の組み合わせを除外しない。またこの定義によれば、句「少なくとも1つ」が参照する要素の列記内で具体的に識別された要素以外の要素が、具体的に識別された要素に関連するか否かに関係なく、任意選択的に存在し得ることが可能である。したがって、非限定的な例として、「A及びBの少なくとも1つ」(又は同等に「A又はBの少なくとも1つ」又は同等に「A及び/又はBの少なくとも1つ」)は、一実施形態では、任意選択的に2つ以上を含む少なくとも1つのAであって、Bは存在しない(任意選択的にB以外の要素を含む);別の実施形態では、任意選択的に2つ以上を含む少なくとも1つのBであって、Aは存在しない(任意選択的にA以外の要素を含む);更に別の実施形態では、任意選択的に2つ以上を含む少なくとも1つのA及び任意選択的に2つ以上を含む少なくとも1つのB(任意選択的に他の要素を含む)等を指すことができる。
【0104】
[1111] 特許請求の範囲でも、上記明細書と同様に、「備える」、「含む」、「持つ」、「有する」、「含む」、「関わる」、「保持する」、「構成される」等の全ての移行句は、オープンエンドである、すなわち、含むがそれに限定されるものではないことを意味すると理解されるべきである。米国特許庁特許審査基準の節2111.03に記載のように、「からなる」及び「基本的に~からなる」という移行句のみが、各々、クローズドの又はセミクローズドの移行句であるものとする。
【国際調査報告】