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特表2022-533096ブドウ球菌(Staphylococcus)プロテインA(SpA)変種を含む方法および組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-21
(54)【発明の名称】ブドウ球菌(Staphylococcus)プロテインA(SpA)変種を含む方法および組成物
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/31 20060101AFI20220713BHJP
   A61K 39/085 20060101ALI20220713BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20220713BHJP
   C12N 15/31 20060101ALN20220713BHJP
【FI】
C07K14/31 ZNA
A61K39/085
A61P31/04
C12N15/31
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021567950
(86)(22)【出願日】2020-05-13
(85)【翻訳文提出日】2022-01-05
(86)【国際出願番号】 US2020070048
(87)【国際公開番号】W WO2020232471
(87)【国際公開日】2020-11-19
(31)【優先権主張番号】62/847,832
(32)【優先日】2019-05-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.TWEEN
3.プルロニック
(71)【出願人】
【識別番号】399019892
【氏名又は名称】ザ・ユニバーシティ・オブ・シカゴ
【氏名又は名称原語表記】THE UNIVERSITY OF CHICAGO
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】シュニーウィンド オラーフ
(72)【発明者】
【氏名】ミッシアカス ドミニク
(72)【発明者】
【氏名】サン ヤン
(72)【発明者】
【氏名】キム ファン コイン
(72)【発明者】
【氏名】シ ミャオミャオ
(72)【発明者】
【氏名】チェン シンハイ
【テーマコード(参考)】
4C085
4H045
【Fターム(参考)】
4C085AA03
4C085BA13
4C085BB11
4C085CC07
4C085CC21
4C085DD62
4C085FF02
4C085GG02
4C085GG03
4C085GG04
4C085GG08
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045BA52
4H045BA72
4H045CA11
4H045EA20
4H045EA29
4H045FA72
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
態様は、細菌感染、特にブドウ球菌による感染を予防または処置するための方法および組成物に関する。態様は、改良された毒素非産生性プロテインA(SpA)変種に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)ドメインDにおける9位および10位に対応するドメインA~Eのそれぞれにおけるグルタミン残基のリジン置換と(ii)ドメインDにおける33位に対応するドメインA~Eのそれぞれにおけるグルタミン酸置換とを有する変種プロテインA(SpA)を含む、単離されたポリペプチドであって、該ポリペプチドが、陰性対照に比べて、血液中でIgGおよびIgEと検出可能に架橋しないか、または好塩基球もマスト細胞も活性化しない、前記単離されたポリペプチド。
【請求項2】
ヒトIgG由来のVH3に対するKA結合親和性が、ドメインDにおける9位および10位に対応するドメインA~Eのそれぞれにおけるグルタミン残基のリジン置換とドメインDの36位および37位に対応するドメインA~Eにおけるアスパラギン酸のアラニン置換とからなるSpA変種(SpAKKAA)と比較して低下している、請求項1記載の単離されたポリペプチド。
【請求項3】
SpAKKAAと比較して少なくとも2倍減少している、ヒトIgG由来のVH3に対するKA結合親和性を有する、請求項1または2記載の単離されたポリペプチド。
【請求項4】
1×105 M-1未満である、ヒトIgG由来のVH3に対するKA結合親和性を有する、請求項1~3のいずれか一項記載の単離されたポリペプチド。
【請求項5】
SpA変種が、ドメインDにおける36位および37位に対応するドメインA~Eのいずれにおいても置換を有さない、請求項1~4のいずれか一項記載の単離されたポリペプチド。
【請求項6】
SpA変種中の唯一の置換が(i)および(ii)である、請求項1~5のいずれか一項記載の単離されたポリペプチド。
【請求項7】
SpA変種からなる、請求項1~6のいずれか一項記載の単離されたポリペプチド。
【請求項8】
単離されたポリペプチド以外に、総タンパク質量の1重量%未満のタンパク質を含む、請求項1~7のいずれか一項記載の単離されたポリペプチドを含む組成物。
【請求項9】
アジュバントをさらに含む、請求項8記載の組成物。
【請求項10】
単離されたポリペプチドがアジュバントにカップリングされる、請求項9記載の組成物。
【請求項11】
アジュバントがミョウバンを含む、請求項9または10記載の組成物。
【請求項12】
薬学的に許容される賦形剤をさらに含む、請求項8~11のいずれか一項記載の組成物。
【請求項13】
(i)ドメインDにおける9位および10位に対応するドメインA~Eのそれぞれにおけるグルタミン残基のリジン置換と(ii)ドメインDにおける33位に対応するドメインA~Eのそれぞれにおけるスレオニン置換とを有する変種プロテインA(SpA)を含む、単離されたポリペプチドであって、該ポリペプチドが、陰性対照に比べて、血液中でIgGおよびIgEと検出可能に架橋しないか、または好塩基球もマスト細胞も活性化しない、前記単離されたポリペプチド。
【請求項14】
ヒトIgG由来のVH3に対するKA結合親和性が、ドメインDにおける9位および10位に対応するドメインA~Eのそれぞれにおけるグルタミン残基のリジン置換とドメインDの36位および37位に対応するドメインA~Eにおけるアスパラギン酸のアラニン置換とからなるSpA変種(SpAKKAA)と比較して低下している、請求項13記載の単離されたポリペプチド。
【請求項15】
SpAKKAAと比較して少なくとも2倍減少している、ヒトIgG由来のVH3に対するKA結合親和性を有する、請求項13または14記載の単離されたポリペプチド。
【請求項16】
1×105 M-1未満である、ヒトIgG由来のVH3に対するKA結合親和性を有する、請求項13~15のいずれか一項記載の単離されたポリペプチド。
【請求項17】
SpA変種が、ドメインDにおける36位および37位に対応するドメインA~Eのいずれにおいても置換を有さない、請求項13~16のいずれか一項記載の単離されたポリペプチド。
【請求項18】
SpA変種中の唯一の置換が(i)および(ii)である、請求項13~17のいずれか一項記載の単離されたポリペプチド。
【請求項19】
SpA変種からなる、請求項13~18のいずれか一項記載の単離されたポリペプチド。
【請求項20】
単離されたポリペプチド以外に、総タンパク質量の1重量%未満のタンパク質を含む、請求項13~19のいずれか一項記載の単離されたポリペプチドを含む組成物。
【請求項21】
アジュバントをさらに含む、請求項20記載の組成物。
【請求項22】
単離されたポリペプチドがアジュバントにカップリングされる、請求項21記載の組成物。
【請求項23】
アジュバントがミョウバンを含む、請求項21または22記載の組成物。
【請求項24】
薬学的に許容される賦形剤をさらに含む、請求項20~23のいずれか一項記載の組成物。
【請求項25】
請求項8~12または20~24のいずれか一項記載の組成物の有効量をヒト患者に投与する段階を含む、ヒト患者においてブドウ球菌に対する安全な免疫反応を誘発するための方法。
【請求項26】
ブドウ球菌が、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)のWU1株またはJSNZ株を含む、請求項25記載の方法。
【請求項27】
ブドウ球菌が、ST88型分離株または現在動物に適合している任意の他のヒトブドウ球菌を含む、請求項25または26記載の方法。
【請求項28】
ヒト患者が小児患者である、請求項25~27のいずれか一項記載の方法。
【請求項29】
小児患者が2歳以下である、請求項28記載の方法。
【請求項30】
ヒト患者が65歳以上である、請求項25~27のいずれか一項記載の方法。
【請求項31】
ヒト患者が医療従事者である、請求項25~27または30のいずれか一項記載の方法。
【請求項32】
組成物の単離されたポリペプチドが4回用量で投与され、かつ用量間の間隔が少なくとも4週間である、請求項25~31のいずれか一項記載の方法。
【請求項33】
ブドウ球菌に対する安全な免疫反応を誘発するための、ヒト患者におけるブドウ球菌の処置のための請求項8~12または20~24のいずれか一項記載の組成物の使用。
【請求項34】
ブドウ球菌が、黄色ブドウ球菌のWU1株またはJSNZ株を含む、請求項33記載の使用。
【請求項35】
ブドウ球菌が、ST88型分離株または現在動物に適合している任意の他のヒトブドウ球菌を含む、請求項33または34記載の使用。
【請求項36】
ヒト患者が小児患者である、請求項33~35のいずれか一項記載の使用。
【請求項37】
小児患者が2歳以下である、請求項36記載の使用。
【請求項38】
ヒト患者が65歳以上である、請求項33~35のいずれか一項記載の使用。
【請求項39】
ヒト患者が医療従事者である、請求項33~35または38のいずれか一項記載の使用。
【請求項40】
単離されたポリペプチドまたは組成物が4回用量で投与され、かつ用量間の間隔が少なくとも4週間である、請求項33~39のいずれか一項記載の使用。
【請求項41】
(i)ドメインA~Eのそれぞれにおいて9位および10位に対応するグルタミン残基のリジン置換と(ii)ドメインA~EのそれぞれにおいてSEQ ID NO:2における29位および/または33位に対応する少なくとも一つの他のアミノ酸置換とを有する変種プロテインA(SpA)を含む、単離されたポリペプチドであって、SpA変種が、1.0×10-4 Mを上回るヒトIgG由来のVH3に対するKD結合親和性、および/または1.0×10-6 Mを上回るヒトIgE由来のVH3に対するKD結合親和性を有する、前記単離されたポリペプチド。
【請求項42】
変種SpAが、ドメインA~EのそれぞれにおいてSEQ ID NO:2における29位に対応するアミノ酸置換を含む、請求項41記載の単離されたポリペプチド。
【請求項43】
変種SpAが、ドメインA~EのそれぞれにおいてSEQ ID NO:2における33位に対応するアミノ酸置換を含む、請求項41記載の単離されたポリペプチド。
【請求項44】
変種SpAが、ドメインA~EのそれぞれにおいてSEQ ID NO:2における29位および33位に対応するアミノ酸置換を含む、請求項42記載の単離されたポリペプチド。
【請求項45】
変種SpAが、ドメインA~EのそれぞれにおいてSEQ ID NO:2における36位および37位の一方または両方に対応するアミノ酸置換を含む、請求項41~44のいずれか一項記載の単離されたポリペプチド。
【請求項46】
変種SpAが、ドメインA~EのそれぞれにおいてSEQ ID NO:2の36位および37位の両方に対応するアミノ酸置換を含む、請求項45記載の単離されたポリペプチド。
【請求項47】
36位および37位に対応するアミノ酸置換が、アスパラギン酸残基に対するアラニン残基である、請求項44または45記載の単離されたポリペプチド。
【請求項48】
変種SpAが、SEQ ID NO:2のアミノ酸配列に対して少なくとも70%の同一性を有する変種A~Eドメインを含む、請求項41~46のいずれか一項記載の単離されたポリペプチド。
【請求項49】
変種SpAが、SEQ ID NO:2のアミノ酸配列に対して少なくとも80%の同一性を有する変種A~Eドメインを含む、請求項48記載の単離されたポリペプチド。
【請求項50】
変種SpAが、SEQ ID NO:2のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の同一性を有する変種A~Eドメインを含む、請求項49記載の単離されたポリペプチド。
【請求項51】
変種SpAが、対応する9位、10位、29位、33位、36位、および/または37位を除いてSEQ ID NO:2におけるいかなるアミノ酸置換も含まない変種A~Eドメインを含む、請求項50記載の単離されたポリペプチド。
【請求項52】
変種SpAが、SEQ ID NO:2における9位、10位、および29位に対応するアミノ酸置換のみからなる変種A~Eドメインを含む、請求項51記載の単離されたポリペプチド。
【請求項53】
変種SpAが、SEQ ID NO:2における9位、10位、および33位に対応するアミノ酸置換のみからなる変種A~Eドメインを含む、請求項51記載の単離されたポリペプチド。
【請求項54】
変種SpAが、SEQ ID NO:2における9位、10位、29位、および33位に対応するアミノ酸置換のみからなる変種A~Eドメインを含む、請求項51記載の単離されたポリペプチド。
【請求項55】
変種SpAが、SEQ ID NO:2における9位、10位、29位、36位、および37位に対応するアミノ酸置換のみからなる変種A~Eドメインを含む、請求項51記載の単離されたポリペプチド。
【請求項56】
変種SpAが、SEQ ID NO:2における9位、10位、33位、36位、および37位に対応するアミノ酸置換のみからなる変種A~Eドメインを含む、請求項51記載の単離されたポリペプチド。
【請求項57】
変種SpAが、SEQ ID NO:2における9位、10位、29位、33位、36位、および37位に対応するアミノ酸置換のみからなる変種A~Eドメインを含む、請求項51記載の単離されたポリペプチド。
【請求項58】
29位に対応するアミノ酸置換が、アラニン、ロイシン、プロリン、フェニルアラニン、グルタミン酸、アルギニン、リジン、セリン、スレオニン、またはグルタミンである、請求項42~57のいずれか一項記載の単離されたポリペプチド。
【請求項59】
29位に対応するアミノ酸置換が、アラニン、フェニルアラニン、またはアルギニンである、請求項58記載の単離されたポリペプチド。
【請求項60】
33位に対応するアミノ酸置換が、アラニン、フェニルアラニン、グルタミン酸、リジン、またはグルタミンである、請求項43~57のいずれか一項記載の単離されたポリペプチド。
【請求項61】
33位に対応するアミノ酸置換が、フェニルアラニン、グルタミン酸、またはグルタミンである、請求項42~57のいずれか一項記載の単離されたポリペプチド。
【請求項62】
SpA変種が、1.0×10-2 Mを上回るVH3に対するKD結合親和性を有する、請求項41~61のいずれか一項記載の単離されたポリペプチド。
【請求項63】
非プロテインAセグメントをさらに含む、請求項41~62のいずれか一項記載の単離されたポリペプチド。
【請求項64】
非プロテインAセグメントが第2の抗原セグメントである、請求項63記載の単離されたポリペプチド。
【請求項65】
第2の抗原セグメントがブドウ球菌抗原セグメントである、請求項64記載の単離されたポリペプチド。
【請求項66】
ブドウ球菌抗原セグメントが、Emp、EsxA、EsxB、EsaC、Eap、Ebh、EsaB、Coa、vWbp、vWh、Hla、SdrC、SdrD、SdrE、IsdA、IsdB、IsdC、ClfA、ClfB、および/またはSasFセグメントである、請求項65記載の単離されたポリペプチド。
【請求項67】
その必要がある対象において免疫反応を刺激することができる、請求項41~66のいずれか一項記載の単離されたポリペプチドを含む組成物。
【請求項68】
単離されたポリペプチド以外に、総タンパク質量の1重量%未満のタンパク質を含む、請求項67記載の組成物。
【請求項69】
アジュバントをさらに含む、請求項67または68記載の組成物。
【請求項70】
単離されたポリペプチドがアジュバントにカップリングされる、請求項69記載の組成物。
【請求項71】
アジュバントがミョウバンを含む、請求項70記載の組成物。
【請求項72】
薬学的に許容される賦形剤をさらに含む、請求項67~71のいずれか一項記載の組成物。
【請求項73】
請求項41~66のいずれか一項記載の単離されたポリペプチドまたは請求項67~72のいずれか一項記載の組成物をその必要がある患者に投与する段階を含む、ブドウ球菌感染を予防または処置する方法。
【請求項74】
ブドウ球菌が、黄色ブドウ球菌のWU1株またはJSNZ株を含む、請求項73記載の方法。
【請求項75】
ブドウ球菌が、ST88型分離株または現在動物に適合している任意の他のヒトブドウ球菌を含む、請求項73または74記載の方法。
【請求項76】
ヒト患者が小児患者である、請求項73~75のいずれか一項記載の方法。
【請求項77】
小児患者が2歳以下である、請求項76記載の方法。
【請求項78】
ヒト患者が65歳以上である、請求項73~75のいずれか一項記載の方法。
【請求項79】
ヒト患者が医療従事者である、請求項73~75または78のいずれか一項記載の方法。
【請求項80】
単離されたポリペプチドまたは組成物が4回用量で投与され、かつ用量間の間隔が少なくとも4週間である、請求項73~79のいずれか一項記載の方法。
【請求項81】
ブドウ球菌感染の処置または予防のためのワクチンの製造における、請求項41~66のいずれか一項記載の単離されたポリペプチドまたは請求項67~72のいずれか一項記載の組成物の使用。
【請求項82】
ブドウ球菌が、黄色ブドウ球菌のWU1株またはJSNZ株を含む、請求項81記載の使用。
【請求項83】
ブドウ球菌が、ST88型分離株または現在動物に適合している任意の他のヒトブドウ球菌を含む、請求項81または82記載の使用。
【請求項84】
ヒト患者が小児患者である、請求項81~83のいずれか一項記載の使用。
【請求項85】
小児患者が2歳以下である、請求項84記載の使用。
【請求項86】
ヒト患者が65歳以上である、請求項81~83のいずれか一項記載の使用。
【請求項87】
ヒト患者が医療従事者である、請求項81~83または86のいずれか一項記載の使用。
【請求項88】
単離されたポリペプチドまたは組成物が4回用量で投与され、かつ用量間の間隔が少なくとも4週間である、請求項81~87のいずれか一項記載の使用。
【請求項89】
請求項41~66のいずれか一項記載の単離されたポリペプチドまたは請求項67~72のいずれか一項記載の組成物の有効量を対象に提供する段階を含む、対象においてブドウ球菌に対する免疫反応を誘発するための方法。
【請求項90】
対象がアジュバントも投与される、請求項89記載の方法。
【請求項91】
組成物がアジュバントを含む、請求項89または90記載の方法。
【請求項92】
SpA変種がアジュバントにカップリングされる、請求項91記載の方法。
【請求項93】
アジュバントがミョウバンを含む、請求項92記載の方法。
【請求項94】
組成物が、薬学的に許容される組成物に処方される、請求項89~93のいずれか一項記載の方法。
【請求項95】
ブドウ球菌が、黄色ブドウ球菌である、請求項89~94のいずれか一項記載の方法。
【請求項96】
ブドウ球菌が一種または複数種の処置に対して耐性を有する、請求項95記載の方法。
【請求項97】
細菌がメチシリン耐性である、請求項96記載の方法。
【請求項98】
単離されたポリペプチドまたは組成物を2回以上対象に投与する段階をさらに含む、請求項89~97のいずれか一項記載の方法。
【請求項99】
組成物が、経口的に、非経口的に、皮下に、筋肉内に、または静脈内に投与される、請求項89~98のいずれか一項記載の方法。
【請求項100】
第2のブドウ球菌抗原を含む組成物を対象に投与する段階をさらに含む、請求項89~99のいずれか一項記載の方法。
【請求項101】
第2のブドウ球菌抗原が、Emp、EsxA、EsxB、EsaC、Eap、Ebh、EsaB、Coa、vWbp、vWh、Hla、SdrC、SdrD、SdrE、IsdA、IsdB、IsdC、ClfA、ClfB、およびSasFのうちの一つまたは複数である、請求項100記載の方法。
【請求項102】
対象が哺乳動物である、請求項89~101のいずれか一項記載の方法。
【請求項103】
対象がヒトである、請求項102記載の方法。
【請求項104】
免疫反応が防御免疫反応である、請求項89~103のいずれか一項記載の方法。
【請求項105】
対象が、単離されたポリペプチドまたは組成物由来の毒性のいかなる徴候も示さない、請求項89~103のいずれか一項記載の方法。
【請求項106】
対象が、単離されたポリペプチドまたは組成物由来のアナフィラキシーショックのいかなる徴候も示さない、請求項105記載の方法。
【請求項107】
ブドウ球菌が、黄色ブドウ球菌のWU1株またはJSN4Z株を含む、請求項89~106のいずれか一項記載の方法。
【請求項108】
ブドウ球菌が、ST88型分離株または現在動物に適合している任意の他のヒトブドウ球菌を含む、請求項89~107のいずれか一項記載の方法。
【請求項109】
ヒト患者が小児患者である、請求項103~108のいずれか一項記載の方法。
【請求項110】
小児患者が2歳以下である、請求項109記載の方法。
【請求項111】
ヒト患者が65歳以上である、請求項103~108のいずれか一項記載の方法。
【請求項112】
ヒト患者が医療従事者である、請求項103~108または111のいずれか一項記載の方法。
【請求項113】
単離されたポリペプチドまたは組成物が4回用量で投与され、かつ用量間の間隔が少なくとも4週間である、請求項89~112のいずれか一項記載の方法。
【請求項114】
ブドウ球菌感染を有する、ブドウ球菌感染を有することが疑われる、またはブドウ球菌感染を発症するリスクがある対象に、(i)ドメインA~Eのそれぞれにおいて9位および10位に対応するグルタミン残基のリジン置換と(ii)ドメインA~EのそれぞれにおいてSEQ ID NO:2における29位および/または33位に対応する少なくとも一つの他のアミノ酸置換とを有する変種プロテインA(SpA)を含む単離されたポリペプチドを含む組成物の有効量を提供する段階
を含む、対象においてブドウ球菌感染を処置するための方法であって、SpA変種が、1.0×10-5 Mを上回るIgGに対するKD結合親和性を有する、前記方法。
【請求項115】
変種SpAが、ドメインA~EのそれぞれにおいてSEQ ID NO:2における29位に対応するアミノ酸置換を含む、請求項114記載の方法。
【請求項116】
変種SpAが、ドメインA~EのそれぞれにおいてSEQ ID NO:2における33位に対応するアミノ酸置換を含む、請求項114記載の方法。
【請求項117】
変種SpAが、ドメインA~EのそれぞれにおいてSEQ ID NO:2における29位および33位に対応するアミノ酸置換を含む、請求項114記載の方法。
【請求項118】
変種SpAが、ドメインA~EのそれぞれにおいてSEQ ID NO:2における36位および37位の一方または両方に対応するアミノ酸置換を含む、請求項114~117のいずれか一項記載の方法。
【請求項119】
変種SpAが、ドメインA~EのそれぞれにおいてSEQ ID NO:2の36位および37位の両方に対応するアミノ酸置換を含む、請求項118記載の方法。
【請求項120】
36位および37位に対応するアミノ酸置換が、アスパラギン酸残基に対するアラニン残基である、請求項117または118記載の方法。
【請求項121】
変種SpAが、SEQ ID NO:2のアミノ酸配列に対して少なくとも70%の同一性を有する変種A~Eドメインを含む、請求項114~119のいずれか一項記載の方法。
【請求項122】
変種SpAが、SEQ ID NO:2のアミノ酸配列に対して少なくとも80%の同一性を有する変種A~Eドメインを含む、請求項121記載の方法。
【請求項123】
変種SpAが、SEQ ID NO:2のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の同一性を有する変種A~Eドメインを含む、請求項122記載の方法。
【請求項124】
変種SpAが、対応する9位、10位、29位、33位、36位、および/または37位を除いてSEQ ID NO:2におけるいかなるアミノ酸置換も含まない変種A~Eドメインを含む、請求項123記載の方法。
【請求項125】
変種SpAが、SEQ ID NO:2における9位、10位、および29位に対応するアミノ酸置換のみからなる変種A~Eドメインを含む、請求項124記載の方法。
【請求項126】
変種SpAが、SEQ ID NO:2における9位、10位、および33位に対応するアミノ酸置換のみからなる変種A~Eドメインを含む、請求項124記載の方法。
【請求項127】
変種SpAが、SEQ ID NO:2における9位、10位、29位、および33位に対応するアミノ酸置換のみからなる変種A~Eドメインを含む、請求項124記載の方法。
【請求項128】
変種SpAが、SEQ ID NO:2における9位、10位、29位、36位、および37位に対応するアミノ酸置換のみからなる変種A~Eドメインを含む、請求項124記載の方法。
【請求項129】
変種SpAが、SEQ ID NO:2における9位、10位、33位、36位、および37位に対応するアミノ酸置換のみからなる変種A~Eドメインを含む、請求項124記載の方法。
【請求項130】
変種SpAが、SEQ ID NO:2における9位、10位、29位、33位、36位、および37位に対応するアミノ酸置換のみからなる変種A~Eドメインを含む、請求項124記載の方法。
【請求項131】
29位に対応するアミノ酸置換が、アラニン、ロイシン、プロリン、フェニルアラニン、グルタミン酸、アルギニン、リジン、セリン、スレオニン、またはグルタミンである、請求項115~130のいずれか一項記載の方法。
【請求項132】
29位に対応するアミノ酸置換が、アラニン、フェニルアラニン、またはアルギニンである、請求項131記載の方法。
【請求項133】
33位に対応するアミノ酸置換が、アラニン、フェニルアラニン、グルタミン酸、リジン、またはグルタミンである、請求項116~130のいずれか一項記載の方法。
【請求項134】
33位に対応するアミノ酸置換が、フェニルアラニン、グルタミン酸、またはグルタミンである、請求項115~130のいずれか一項記載の方法。
【請求項135】
SpA変種が、1.0×10-2 Mを上回るVH3に対するKD結合親和性を有する、請求項114~134のいずれか一項記載の方法。
【請求項136】
非プロテインAセグメントをさらに含む、請求項114~135のいずれか一項記載の方法。
【請求項137】
非プロテインAセグメントが第2の抗原セグメントである、請求項136記載の方法。
【請求項138】
第2の抗原セグメントがブドウ球菌抗原セグメントである、請求項137記載の方法。
【請求項139】
ブドウ球菌抗原セグメントが、Emp、EsxA、EsxB、EsaC、Eap、Ebh、EsaB、Coa、vWbp、vWh、Hla、SdrC、SdrD、SdrE、IsdA、IsdB、IsdC、ClfA、ClfB、および/またはSasFセグメントである、請求項138記載の方法。
【請求項140】
対象が持続性ブドウ球菌感染と診断される、請求項114~139のいずれか一項記載の方法。
【請求項141】
SpA変種が、対象においてプロテインAに結合する抗体の産生を誘発する、請求項114~140のいずれか一項記載の方法。
【請求項142】
単離されたポリペプチドがアジュバントと共に投与される、請求項114~141のいずれか一項記載の方法。
【請求項143】
単離されたポリペプチドがアジュバントにカップリングされる、請求項142記載の方法。
【請求項144】
単離されたポリペプチドが、薬学的に許容される組成物に処方される、請求項114~143のいずれか一項記載の方法。
【請求項145】
第2のブドウ球菌抗原を投与する段階をさらに含む、請求項114~144のいずれか一項記載の方法。
【請求項146】
第2のブドウ球菌抗原が、単離されたポリペプチドと同時に投与される、請求項145記載の方法。
【請求項147】
第2のブドウ球菌抗原および単離されたポリペプチドが、同一組成物で投与される、請求項146記載の方法。
【請求項148】
第2のブドウ球菌抗原がSpA変種と融合される、請求項147記載の方法。
【請求項149】
第2のブドウ球菌抗原が、Emp、EsxA、EsxB、EsaC、Eap、Ebh、EsaB、Coa、vWbp、vWh、Hla、SdrC、SdrD、SdrE、IsdA、IsdB、IsdC、ClfA、ClfB、およびSasFペプチドのうちの一つまたは複数である、請求項145~148のいずれか一項記載の方法。
【請求項150】
ブドウ球菌感染が黄色ブドウ球菌感染である、請求項114~149のいずれか一項記載の方法。
【請求項151】
ペプチドが、経口的に、非経口的に、経皮的に、経粘膜的に、皮下に、筋肉内に、または吸入によって、投与される、請求項114~150のいずれか一項記載の方法。
【請求項152】
単離されたポリペプチドを2回以上対象に投与する段階をさらに含む、請求項114~151のいずれか一項記載の方法。
【請求項153】
対象が哺乳動物である、請求項114~152のいずれか一項記載の方法。
【請求項154】
対象がヒトである、請求項153記載の方法。
【請求項155】
対象が、単離されたポリペプチドまたは組成物由来の毒性のいかなる徴候も示さない、請求項114~152のいずれか一項記載の方法。
【請求項156】
対象が、単離されたポリペプチドまたは組成物由来のアナフィラキシーショックのいかなる徴候も示さない、請求項155記載の方法。
【請求項157】
ブドウ球菌が、黄色ブドウ球菌のWU1株またはJSN4Z株を含む、請求項114~156のいずれか一項記載の方法。
【請求項158】
ブドウ球菌が、ST88型分離株または現在動物に適合されている任意の他のヒトブドウ球菌を含む、請求項106~157のいずれか一項記載の方法。
【請求項159】
ヒト患者が小児患者である、請求項154~158のいずれか一項記載の方法。
【請求項160】
小児患者が2歳以下である、請求項159記載の方法。
【請求項161】
ヒト患者が65歳以上である、請求項154~158のいずれか一項記載の方法。
【請求項162】
ヒト患者が医療従事者である、請求項154~158または161のいずれか一項記載の方法。
【請求項163】
単離されたポリペプチドまたは組成物が4回用量で投与され、かつ用量間の間隔が少なくとも4週間である、請求項114~162のいずれか一項記載の方法。
【請求項164】
請求項41~66のいずれか一項記載の単離されたポリペプチドまたは請求項67~72のいずれか一項記載の組成物の有効量を対象に投与する段階を含む、対象におけるブドウ球菌の脱コロニー化(decolonization)のためまたはコロニー形成もしくは再コロニー形成を予防するための方法。
【請求項165】
(i)ドメインDにおける9位および10位に対応するドメインA~Eのそれぞれにおけるグルタミン残基のリジン置換と(ii)ドメインDにおける33位に対応するドメインA~Eのそれぞれにおけるグルタミン酸置換とを有する変種プロテインA(SpA)を含む、単離されたポリペプチドであって、該ポリペプチドが、陰性対照に比べて、血液中でIgGおよびIgEと検出可能に架橋しないか、または好塩基球もマスト細胞も活性化せず;SpA変種が、ドメインDにおける36位および37位に対応するドメインA~Eのいずれにおいても置換を有さない、前記単離されたポリペプチド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との相互参照
本出願は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる、2019年5月14日付で出願された米国特許仮出願第62/847,832号の優先権の恩典を主張する。
【0002】
本発明は、米国立衛生研究所により与えられた助成金交付番号AI038897およびAI052474の下での政府支援によって行われた。米国政府は本発明において一定の権利を有する。
【0003】
I. 発明の分野
本発明は広くは、免疫学、微生物学、および病理学の分野に関する。より具体的には、本発明は、細菌に対する免疫反応を引き出すために使用できる細菌プロテインA変種が関与する方法および組成物に関する。
【背景技術】
【0004】
II. 背景
市中獲得型および病院獲得型の両感染の数は、血管内装置の使用増加とともにここ数年増えている。病院獲得型の(院内)感染は罹病率および死亡率の主な原因であり、より具体的には、米国では、病院獲得型の感染は毎年200万人超の患者に影響を与えている。最も頻度が高い感染は、尿管感染(感染の33%)であり、次いで肺炎(15.5%)、外科手術部位感染(14.8%)および主要血流感染(13%)が続く(Emorl and Gaynes, 1993)。
【0005】
主な院内病原菌には黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、血液凝固酵素陰性ブドウ球菌(ほとんどが表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis))、腸球菌(enterococcus spp.)、大腸菌(Escherichia coli)および緑濃菌(Pseudomonas aeruginosa)が含まれる。これらの病原菌はほぼ同数の感染を引き起こすが、これらが生み出しうる障害の重症度と、抗生物質耐性分離菌の頻度を考え合わせると、黄色ブドウ球菌および表皮ブドウ球菌を最も重要な院内病原菌とする順位になる。
【0006】
ブドウ球菌は、毒素産生または侵入のいずれかを通じてヒトおよび他の動物で多種多様な疾患を引き起こしうる。ブドウ球菌の毒素は、この細菌が不適切に貯蔵された食品のなかで増殖しうるので、食中毒の一般的な原因でもある。
【0007】
表皮ブドウ球菌は、通常の皮膚共生生物であり、これは、正常に機能しない医療機器の感染および手術部位での感染に関わる重要な日和見病原菌でもある。表皮ブドウ球菌が感染する医療機器には、心臓ペースメーカー、髄液シャント、持続携帯式腹膜透析カテーテル、整形外科用機器および人工心臓弁が含まれる。
【0008】
黄色ブドウ球菌は、有意な罹病率および死亡率を有する院内感染の最も一般的な原因である。これは骨髄炎、心内膜炎、敗血性関節炎、肺炎、膿瘍および毒素性ショック症候群のいくつかの症例の原因である。黄色ブドウ球菌は、乾いた表面上で生き延び、感染の機会を高めることができる。いずれの黄色ブドウ球菌感染もブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群、つまり血流に吸収された外毒素に対する皮膚反応を引き起こすことがある。これは、命にかかわりうる膿血症と呼ばれる敗血症の一種を引き起こすこともある。問題となるのは、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が病院獲得型の感染の主な原因になっていることである。
【0009】
黄色ブドウ球菌および表皮ブドウ球菌感染は典型的には、抗生物質で処置され、ペニシリンが選択薬であるが、メチシリン耐性分離株にはバンコマイシンが使用される。抗生物質に対して幅広い耐性を示すブドウ球菌株の割合は、ますます広まっており、有効な抗菌療法にとって脅威となっている。さらに、バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌株が最近出現したことが、いかなる有効な治療も利用できないMRSA株が出現し蔓延しているという恐怖心をかき立てている。
【0010】
ブドウ球菌抗原に対して作製された抗体を用いる、ブドウ球菌感染のための抗生物質による処置に代わる方法が研究中である。この治療では、ポリクローナル抗血清の投与(WO00/15238、WO00/12132)またはリポタイコ酸に対するモノクローナル抗体での処置(WO98/57994)を伴う。
【0011】
代替的な手法は、ブドウ球菌に対する免疫反応を生じさせるための能動ワクチン接種の使用であろう。黄色ブドウ球菌のゲノムが配列決定され、コード配列の多くが特定されており(WO02/094868、EP0786519)、これによって潜在的な抗原の特定に至る可能性がある。同じことが表皮ブドウ球菌(WO01/34809)にも当てはまる。この手法の精緻化として、他者らは、ブドウ球菌感染に罹患した患者由来の過免疫血清によって認識されるタンパク質を特定している(WO01/98499、WO02/059148)。
【0012】
黄色ブドウ球菌は多量の病毒性因子を細胞外環境中に分泌する(Archer, 1998; Dinges et al., 2000; Foster, 2005; Shaw et al., 2004; Sibbald et al., 2006)。大部分の分泌タンパク質と同様に、これらの病毒性因子はSec機構により原形質膜の内外に移動される。Sec機構により分泌されるタンパク質は、このプレタンパク質がSecトランスロコンに結合されると、リーダーペプチダーゼにより除去されるN末端リーダーペプチドを持つ(Dalbey and Wickner, 1985; van Wely et al., 2001)。最近のゲノム分析から、放線菌門(Actinobacteria)およびフィルミクテス門(Firmicutes)の成員は、Sec非依存的にタンパク質のサブセットを認識するさらなる分泌系をコードすることが示唆されている(Pallen, 2002)。結核菌(Mycobacterium tuberculosis)のESAT-6 (初期分泌抗原標的(early secreted antigen target) 6 kDa)およびCFP-10 (培養ろ液抗原(culture filtrate antigen) 10 kDa)は、結核菌においてESX-1またはSnmと名付けられたこの新規の分泌系の最初の基質に相当する(Andersen et al., 1995; Hsu et al., 2003; Pym et al., 2003; Stanley et al., 2003)。黄色ブドウ球菌では、EsxAおよびEsxBと命名された二つのESAT-6様因子がEss経路(ESAT-6分泌系(ESAT-6 secretion system))によって分泌される(Burts et al., 2005)。
【0013】
黄色ブドウ球菌を標的とするまたは黄色ブドウ球菌が産生する細胞外タンパク質(exoprotein)を標的とする第一世代のワクチンでは大した成果がなかった(Lee, 1996)。ブドウ球菌感染に対する有効なワクチンを開発する必要性が依然として存在する。ブドウ球菌感染を処置するためのさらなる組成物も必要とされている。
【0014】
本出願全体にわたって、「約」という用語は、細胞および分子生物学の分野においてその平易かつ通常の意味にしたがって用いられ、値にはその値を決定するために利用されたデバイスまたは方法についての誤差の標準偏差が含まれることを示す。
【0015】
「一つの(a)」および「一つの(an)」という語の使用は、「含む(comprising)」という用語と共に用いられる場合、「一つ(one)」を意味し得るが、「一つまたは複数」、「少なくとも一つ」、および「一つまたは一つより多く」の意味とも一致する。
【0016】
本明細書において用いられる場合、「または」および「および/または」という用語は、組み合わせでのまたは相互排他的な複数の構成要素を説明するために用いられる。例えば、「x、y、および/またはz」は、「x」単独、「y」単独、「z」単独、「x、y、およびz」、「(xおよびy)またはz」、「xまたは(yおよびz)」、または「xまたはyまたはz」を指す可能性がある。x、y、またはzが態様から特に除外され得ることが特に企図される。
【0017】
「含む(comprising)」(および含むの任意の形態、例えば、「含む(comprise)」および「含む(comprises)」)、「有する(having)」(および有するの任意の形態、例えば、「有する(have)」および「有する(has)」)、「含む(including)」(および含むの任意の形態、例えば、「含む(includes)」および「含む(include)」)、「によって特徴づけられる」(および含むの任意の形態、例えば「として特徴づけられる」)、または「含む(containing)」(および含むの任意の形態、例えば、「含む(contains)」および「含む(contain)」)という語は、包括的または非限定的(open-ended)であり、追加の記載されていない要素または方法の段階を排除しない。
【0018】
その使用のための組成物および方法は、明細書全体を通じて開示される成分または段階のいずれかを「含む」、いずれか「から本質的になる」、またはいずれか「からなる」ことができる。「からなる」という語句は、明記されていない任意の要素、段階、または成分を排除する。「本質的にからなる」という語句は、記載される対象の範囲を明記された物質または段階およびその基本的かつ新規な特徴に実質的に影響を及ぼさないものに限定する。「含む」という用語の文脈において記載される態様はまた、「からなる」または「本質的にからなる」という用語の文脈においても実行され得ることが企図される。
【0019】
本発明の一つの態様に関して論じられた任意の限定は、本発明の任意の他の態様に適用されてもよいことが特に企図される。さらに、本発明の任意の組成物は、本発明の任意の方法において用いられてもよく、本発明の任意の方法は、本発明の任意の組成物を生成または利用するために用いられてもよい。実施例において記載される態様の局面は、異なる実施例における他の部分または本願における他の部分、例えば、発明の概要、発明の詳細な説明、特許請求の範囲、図面の簡単な説明において論じられる態様の文脈において企図され得る態様でもある。
【0020】
本発明の他の目標、特徴および利点は、以下の詳細な説明から明らかとなるであろう。しかしながら、詳細な説明および具体的な例は、本発明の特定の態様を示しているが、この詳細な説明から当業者には本発明の精神および範囲内で種々の変更および修正が明らかになることから、単なる例示として与えられることが理解されるべきである。
【発明の概要】
【0021】
それらの毒素産生能を低下させ、さらにブドウ球菌疾患を防御する液性免疫反応を刺激する、免疫グロブリンのVH3への低下した結合を有する改良されたプロテインA変種のための組成物および方法が提供される。ある特定の態様において、改良されたプロテインA変種は、(i)コロニー形成を妨げかつ(ii)能動的にコロニー形成された個体の脱コロニー化(decolonization)を引き起こすことができる液性免疫反応を刺激する。
【0022】
いくつかの態様において、組成物および方法は、(i)ドメインDにおける9位および10位に対応するドメインA~Eのそれぞれにおけるグルタミン残基のリジン置換と(ii)ドメインDにおける33位に対応するドメインA~Eのそれぞれにおけるグルタミン酸置換とを有する変種プロテインA(SpA)を含む、単離されたポリペプチドであって、該ポリペプチドが、陰性対照に比べて、血液中でIgGおよびIgEと検出可能に架橋しないか、または好塩基球もマスト細胞も活性化しない、単離されたポリペプチドを伴う。変種SpA領域は、いくつかの態様において、血中でIgGおよび/もしくはIgEを架橋するかかつ/または好塩基球を活性化し、重大な安全性もしくは毒性の問題をヒト患者にもたらすかまたはヒト患者においてアナフィラキシーショックの重大なリスクをもたらさないように企図される。いくつかの態様において、ヒトIgG由来のVH3に対するKA結合親和性は、ドメインDにおける9位および10位に対応するドメインA~Eのそれぞれにおけるグルタミン残基のリジン置換とドメインDの36位および37位に対応するドメインA~Eにおけるアスパラギン酸のアラニン置換とからなるSpA変種(SpAKKAA)と比較して低下している。いくつかの態様において、SpA変種は、SpAKKAAと比較して少なくとも2倍減少している、ヒトIgG由来のVH3に対するKA結合親和性を有する。いくつかの態様において、KA結合親和性は、本明細書において開示される任意の方法によって測定され得る。いくつかの態様において、SpA変種は、SpAKKAAと比較して少なくとも1.2倍、1.3倍、1.4倍、1.5倍、1.6倍、1.7倍、1.8倍、1.9倍、2倍、2.1倍、2.2倍、2.3倍、2.4倍、2.5倍、2.6倍、2.7倍、2.8倍、2.9倍、3倍またはそれを上回る倍率で(またはその中で導き出せる任意の範囲で)減少している、ヒトIgG由来のVH3に対するKA結合親和性を有する。いくつかの態様において、SpA変種は、SpAKKAAと比較して少なくとも10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290、300%またはそれを上回るパーセンテージで(またはその中で導き出せる任意の範囲で)減少している、ヒトIgG由来のVH3に対するKA結合親和性を有する。もちろん、比較は、同じまたは同等のアッセイを用いて行われることが理解される。いくつかの態様において、SpA変種は、約1×105 M-1未満である、ヒトIgG由来のVH3に対するKA結合親和性を有する。いくつかの態様において、SpA変種は、約3、2.9、2.8、2.7、2.6、2.5、2.4、2.3、2.2、2.1、2.0、1.9、1.8、1.7、1.6、1.5、1.4、1.3、1.2、1.1、1.0、0.9、0.8、0.70.6、0.5、0.4、0.3、0.2、0.1×105 M-1未満(またはその中で導き出せる任意のアレンジ)である、ヒトIgG VH3に対するKA結合親和性を有する。いくつかの態様において、SpA変種を含む単離されたポリペプチドは、ドメインDにおける36位および37位に対応するドメインA~Eのいずれにおいても置換を有さない。いくつかの態様において、SpA変種中の唯一の置換は、(i)ドメインDにおける9位および10位に対応するドメインA~Eのそれぞれにおけるグルタミン残基のリジン置換と(ii)ドメインDにおける33位に対応するドメインA~Eのそれぞれにおけるグルタミン酸置換とである(SpAQ9,10K/S33Eと呼ばれる)。いくつかの態様において、単離されたポリペプチドはSpA変種からなる。いくつかの態様において、単離されたポリペプチドはSpAQ9,10K/S33Eからなる。
【0023】
いくつかの態様において、(i)ドメインDにおける9位および10位に対応するドメインA~Eのそれぞれにおけるグルタミン残基のリジン置換と(ii)ドメインDにおける33位に対応するドメインA~Eのそれぞれにおけるスレオニン置換とを有する変種プロテインA(SpA)を含む単離されたポリペプチドであって、該ポリペプチドが、陰性対照に比べて、血液中でIgGおよびIgEと検出可能に架橋しないか、または好塩基球もマスト細胞も活性化しない、単離されたポリペプチドが存在する。変種SpA領域は、いくつかの態様において、血中でIgGおよび/もしくはIgEを架橋するかまたは好塩基球を活性化し、重大な安全性もしくは毒性の問題をヒト患者にもたらすかまたはヒト患者においてアナフィラキシーショックの重大なリスクをもたらさないように企図される。いくつかの態様において、ヒトIgG由来のVH3に対するKA結合親和性は、ドメインDにおける9位および10位に対応するドメインA~Eのそれぞれにおけるグルタミン残基のリジン置換とドメインDの36位および37位に対応するドメインA~Eにおけるアスパラギン酸のアラニン置換とからなるSpA変種(SpAKKAA)と比較して低下している。いくつかの態様において、SpA変種は、SpAKKAAと比較して少なくとも2倍減少している、ヒトIgG由来のVH3に対するKA結合親和性を有する。いくつかの態様において、KA結合親和性は、本明細書において開示される任意の方法によって測定され得る。いくつかの態様において、SpA変種は、SpAKKAAと比較して少なくとも1.2倍、1.3倍、1.4倍、1.5倍、1.6倍、1.7倍、1.8倍、1.9倍、2倍、2.1倍、2.2倍、2.3倍、2.4倍、2.5倍、2.6倍、2.7倍、2.8倍、2.9倍、3倍またはそれを上回る倍率で(またはその中で導き出せる任意の範囲で)減少している、ヒトIgG由来のVH3に対するKA結合親和性を有する。いくつかの態様において、SpA変種は、SpAKKAAと比較して少なくとも10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290、300%またはそれを上回るパーセンテージで(またはその中で導き出せる任意の範囲で)減少している、ヒトIgG由来のVH3に対するKA結合親和性を有する。もちろん、比較は、同じまたは同等のアッセイを用いて行われることが理解される。いくつかの態様において、SpA変種は、約1×105 M-1未満である、ヒトIgG由来のVH3に対するKA結合親和性を有する。いくつかの態様において、SpA変種は、約3、2.9、2.8、2.7、2.6、2.5、2.4、2.3、2.2、2.1、2.0、1.9、1.8、1.7、1.6、1.5、1.4、1.3、1.2、1.1、1.0、0.9、0.8、0.70.6、0.5、0.4、0.3、0.2、0.1×105 M-1未満(またはその中で導き出せる任意のアレンジ)である、ヒトIgG VH3に対するKA結合親和性を有する。いくつかの態様において、SpA変種を含む単離されたポリペプチドは、ドメインDにおける36位および37位に対応するドメインA~Eのいずれにおいても置換を有さない。いくつかの態様において、SpA変種中の唯一の置換は、(i)ドメインDにおける9位および10位に対応するドメインA~Eのそれぞれにおけるグルタミン残基のリジン置換ならびに(ii)ドメインDにおける33位に対応するドメインA~Eのそれぞれにおけるスレオニン置換である(SpAQ9,10K/S33Tと呼ばれる)。いくつかの態様において、単離されたポリペプチドはSpA変種からなる。いくつかの態様において、単離されたポリペプチドはSpAQ9,10K/S33Tからなる。
【0024】
いくつかの態様において、組成物および方法はSpAQ9,10K/S33Eを伴う。SpA変種の文脈において以下に論じられる任意の態様は、特にSpAQ9,10K/S33Eを用いて実行することができ、毒性および/またはアナフィラキシーショックに関連する活性を低下させるという重大な利点を有する。いくつかの態様において、SpAQ9,10K/S33Eを含む組成物の有効量をヒト患者に投与する段階を含む、ヒト患者においてブドウ球菌に対する安全な免疫反応を誘発するための方法が存在する。いくつかの態様において、SpAQ9,10K/S33Eを含む組成物の有効量を対象に投与する段階を含む、対象においてブドウ球菌に対する安全な免疫反応を誘発するための方法が存在する。対象は、実験動物、または産業動物、例えば、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、もしくは食用として育てられる任意の他の動物であってもよく、乳腺炎などのブドウ球菌感染を患っていてもよい。
【0025】
いくつかの態様において、組成物および方法はSpAQ9,10K/S33Eを伴う。SpA変種の文脈において以下に論じられる任意の態様は、特にSpAQ9,10K/S33Tを用いて実行することができ、毒性および/またはアナフィラキシーショックに関連する活性を低下させるという重大な利点を有する。いくつかの態様において、SpAQ9,10K/S33Tを含む組成物の有効量をヒト患者に投与する段階を含む、ヒト患者においてブドウ球菌に対する安全な免疫反応を誘発するための方法が存在する。
【0026】
いくつかの態様において、組成物および方法は、(i)ドメインA~Eのそれぞれにおいて9位および10位に対応するグルタミン残基のリジン置換と(ii)ドメインA~EのそれぞれにおいてSEQ ID NO:2における29位および/または33位に対応する少なくとも一つの他のアミノ酸置換とを有する変種プロテインA(SpA)を含む単離されたポリペプチドであって、SpA変種が、1.0×10-4 Mを上回るヒトIgG由来のVH3に対するKD結合親和性を有する、単離されたポリペプチドを伴う。同じまたは追加的態様において、SpA変種は、1.0×10-6 Mを上回るヒトIgE由来のVH3に対するKD結合親和性を有する。
【0027】
態様には、血管漏出およびアナフィラキシー反応を引き起こすヒスタミンなどの免疫メディエータを放出することができない、ヒトでの使用にとって安全であるプロテインA変種、特に、免疫細胞の表面上のFc受容体に結合しているVH3イディオタイプIgGおよびIgE分子のバリアント(variant)重鎖を架橋するように結合することができない変種の作製が含まれる。
【0028】
アミノ酸置換は、変種SpAのドメインA、B、C、D、およびE(ドメインA~E)のそれぞれにおいて行われ、SEQ ID NO:2であるドメインDにおいて番号づけられる場合に9位および10位にあるグルタミン残基に対応するアミノ酸が置換され;同じアミノ酸置換が、ドメイン A、B、C、およびEにおける対応するアミノ酸に対して行われることを意味する。態様は、ドメインA~Eのそれぞれにおいて、ドメインDにおける9位および10位に対応するグルタミン酸残基に対して、リジン残基が置換されている、SpAに関する。
【0029】
ある特定の態様において、SpA変種は、約1.0×10-4 M、5.0×10-4 M、1.0×10-3 M、5.0×10-3 M、1.0×10-2 M、5.0×10-2 M、1.0×10-1 M、5.0×10-1 M(またはその中で導き出せる任意の範囲)を上回るヒトIgG由来のVH3に対するKD結合親和性を有する。いくつかの態様において、ヒトIgG由来のVH3に対する結合親和性は、約1.0×10-2 Mまたは5.0×10-2 Mを上回る。同じまたは追加的態様において、SpA変種は、約1.0×10-6 M、5.0×10-6 M、1.0×10-5 M、5.0×10-5 M、1.0×10-4 M、5.0×10-4 M、1.0×10-3 M、5.0×10-3 M、1.0×10-2 M、5.0×10-2 M、1.0×10-1 M、または5.0×10-1 M(またはその中で導き出せる任意の範囲)を上回るヒトIgE由来のVH3に対するKD結合親和性を有する。SpAおよびその変種のIgGに対する親和性は、(プールされた血清から)精製されたヒトIgGおよび精製ヒトモノクローナル抗体(トラスツズマブヒトIgG1 VH3クローン抗体およびIgEトラスツズマブ)を用いて測定されてもよい。用いられるアッセイはELISAおよび/または表面プラズモン共鳴であってもよい。
【0030】
特定の態様において、変種SpAは、ドメインA~EのそれぞれにおいてSEQ ID NO:2における29位に対応するアミノ酸置換を含む。いくつかの場合では、29位に対応するアミノ酸置換は、アラニン、ロイシン、プロリン、フェニルアラニン、グルタミン酸、アルギニン、リジン、セリン、スレオニン、またはグルタミンである。いくつかの態様において、変種SpAは、アラニン、フェニルアラニン、またはアルギニンである29位に対応するアミノ酸置換を含む。他の態様において、置換は、以下:ロイシン、プロリン、グルタミン酸、リジン、セリン、スレオニン、またはグルタミンの一つによらない。いくつかの態様において、変種SpAは、ドメインA~EのそれぞれにおいてSEQ ID NO:2における33位に対応するアミノ酸置換を含む。特定の態様において、33位に対応するアミノ酸置換は、アラニン、フェニルアラニン、グルタミン酸、リジン、またはグルタミンによる。特定の場合では、置換は、フェニルアラニン、グルタミン酸、またはグルタミンによる。他の態様において、置換はアラニンまたはリジンによらない。いくつかのSpA変種では、ドメインA~EのそれぞれにおいてSEQ ID NO:2における29位および33位に対応する本明細書に記載される置換が存在する。これらは、ドメインA~EのそれぞれにおけるSEQ ID NO:2における36位および37位の一方または両方に対応するアミノ酸置換と組み合わせてもよく、そうしなくてもよい。いくつかの場合では、36位および37位の両方に置換が存在する。いくつかの場合では、36位および37位に対応するアミノ酸置換は、アスパラギン酸残基に対するアラニン残基である。
【0031】
いくつかの態様において、変種SpAポリペプチドは、変種A~Eドメインを含み(変種ドメインA、変種ドメインB、変種ドメインC、変種ドメインD、および変種ドメインEを有するポリペプチドを意味する)、かつ変種ドメインは各々、プロテインAのドメインDポリペプチド(SEQ ID NO:2)、ドメインE(SEQ ID NO:3)、ドメインA(SEQ ID NO:4)、ドメインC(SEQ ID NO:5)、ドメインB(SEQ ID NO:6)に対して少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、または96%の同一性を有する。あるいは、変種SpAポリペプチドは、変種A~Eドメインを含み(変種ドメインA、変種ドメインB、変種ドメインC、変種ドメインD、および変種ドメインEを有するポリペプチドを意味する)、かつ変種ドメインは各々、アミノ酸置換を有するとして特に明確化されているもの以外のアミノ酸に関してプロテインAのドメインDポリペプチド(SEQ ID NO:2)、ドメインE(SEQ ID NO:3)、ドメインA(SEQ ID NO:4)、ドメインC(SEQ ID NO:5)、ドメインB(SEQ ID NO:6)に対して少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の同一性を有する。換言すると、9位、10位、および29位に置換を有するSpA変種は、非変種配列に対して置換以外では 100%の同一性を有するドメインA~Eを有し得る。いくつかの態様において、例えば、変種SpaAは、対応する9位、10位、29位、33位、36位、および/または37位を除いてSEQ ID NO:2におけるいかなるアミノ酸置換も含まない変種A~Eドメインを含む。
【0032】
特定の態様において、変種SpaAは、SEQ ID NO:2における9位、10位、および29位に対応するアミノ酸置換のみからなる変種A~Eドメインを含む。ある特定の他の態様において、変種SpaAは、SEQ ID NO:2における9位、10位、および33位に対応するアミノ酸置換のみからなる変種A~Eドメインを含む。追加の態様において、変種SpaAは、SEQ ID NO:2における9位、10位、29位、および33位に対応するアミノ酸置換のみからなる変種A~Eドメインを含む。加えて、他の態様は、SEQ ID NO:2における9位、10位、29位、36位、および37位に対応するアミノ酸置換のみからなる変種A~Eドメインを含む変種SpaAに関する。さらなる態様において、変種SpaAは、SEQ ID NO:2における9位、10位、33位、36位、および37位に対応するアミノ酸置換のみからなる変種A~Eドメインを含む。他の態様において、変種SpaAは、SEQ ID NO:2における9位、10位、29位、33位、36位、および37位に対応するアミノ酸置換のみからなる変種A~Eドメインを含む。
【0033】
追加の他の態様において、変種SpAは、単離されたポリペプチドの一部である。単離されたポリペプチドは、プロテインA由来の領域を含んでも、含まなくてもよい。いくつかの場合では、非プロテインAセグメントは、第2の抗原セグメントであり、ブドウ球菌抗原セグメントであっても、そうでなくてもよい。いくつかの態様において、セグメントは、Emp、EsxA、EsxB、EsaC、Eap、Ebh、EsaB、Coa、vWbp、vWh、Hla、SdrC、SdrD、SdrE、IsdA、IsdB、IsdC、ClfA、ClfB、および/またはSasFセグメントを含んでもよい。
【0034】
態様には、細菌感染および/またはブドウ球菌感染の処置のための方法および組成物における、プロテインA変種の使用が含まれる。本出願はまた、プロテインA変種またはその免疫原性断片を含む免疫原性組成物も提供する。ある特定の局面において、免疫原性断片はプロテインAドメインDセグメントである。さらに、本発明は、細菌感染を処置する(例えば、対象においてブドウ球菌性膿瘍形成および/または持続を制限する)またはそれを予防するために用いることができる方法および組成物を提供する。いくつかの場合では、免疫反応を刺激するための方法は、プロテインA変種ポリペプチドまたは抗原、およびある特定の局面では他の細菌タンパク質の全部または一部を含むかまたはコードする組成物の有効量を対象に投与する段階を伴う。他の細菌タンパク質には、これらに限定されないが、(i)分泌病毒性因子および/または細胞表面タンパク質もしくはペプチド、または(ii)分泌病毒性因子および/または細胞表面タンパク質もしくはペプチドをコードする組換え核酸分子が含まれる。
【0035】
いくつかの態様において、SpA変種を伴う方法が存在する。方法には、対象においてブドウ球菌感染を処置する、対象においてブドウ球菌に対する免疫反応を誘発する、対象においてブドウ球菌感染を予防する、対象においてブドウ球菌のコロニー形成もしくは再コロニー形成を妨げる、対象においてブドウ球菌のコロニー形成もしくは再コロニー形成を低下させる、対象においてブドウ球菌感染を重大な毒性なしに処置する、および/または対象においてブドウ球菌の殺傷を誘導するための方法が含まれる。段階には、SpA変種またはSpA変種を含む組成物の有効量を対象に投与する段階が含まれ得る。対象は、既存の感染または感染のリスクのために処置または予防を必要としている場合がある。
【0036】
いくつかの態様において、対象は、単離されたポリペプチドまたは組成物からの毒性のいかなる徴候も示さない。さらなる態様において、対象は、単離されたポリペプチドまたは組成物からのアナフィラキシーショックのいかなる徴候も示さない。いくつかの態様において、対象は、アナフィラキシーショックの徴候を含む可能性がある、毒性の徴候について評価される。
【0037】
ポリペプチドは、薬学的に許容される組成物に処方することができる。組成物は、少なくともまたは最大で1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、または19種の追加のブドウ球菌抗原またはその免疫原性断片(例えば、Eap、Ebh、Emp、EsaB、EsaC、EsxA、EsxB、SdrC、SdrD、SdrE、IsdA、IsdB、ClfA、ClfB、Coa、Hla(例えば、H35変異体)、IsdC、SasF、vWbp、またはvWh)のうちの一つまたは複数をさらに含むことができる。プロテインA変種との組み合わせで用いることができる追加のブドウ球菌抗原には、これらに限定されないが、52 kDaのビトロネクチン結合タンパク質(WO 01/60852)、Aaa(GenBank CAC80837)、Aap(GenBankアクセッションAJ249487)、Ant(GenBankアクセッションNP_372518)、自己溶菌酵素グルコサミニダーゼ、自己溶菌酵素アミダーゼ、Cna、コラーゲン結合タンパク質(US6288214)、EFB(FIB)、エラスチン結合タンパク質(EbpS)、EPB、FbpA、フィブリノゲン結合タンパク質(US6008341)、フィブロネクチン結合タンパク質(US5840846)、FnbA、FnbB、GehD(US 2002/0169288)、HarA、HBP、免疫優性ABC輸送体、IsaA/PisA、ラミニン受容体、リパーゼGehD、MAP、Mg2+輸送体、MHC II類似体(US5648240)、MRPII、Npase、RNA III活性化タンパク質(RAP)、SasA、SasB、SasC、SasD、SasK、SBI、SdrF(WO 00/12689)、SdrG/Fig(WO 00/12689)、SdrH(WO 00/12689)、SEA外毒素(WO 00/02523)、SEB外毒素(WO 00/02523)、SitCおよびNi ABC輸送体、SitC/MntC/唾液結合タンパク質(US5,801,234)、SsaA、SSP-1、SSP-2、ならびに/またはビトロネクチン結合タンパク質(PCT公報W02007/113222、W02007/113223、W02006/032472、W02006/032475、W02006/032500を参照、これらの各々はその全体が参照により本明細書に組み入れられる)が含まれる。ブドウ球菌抗原または免疫原性断片は、プロテインA変種と同時に投与することができる。ブドウ球菌抗原または免疫原性断片とプロテインA変種とは、同一組成物で投与することができる。プロテインA変種はまた、プロテインA変種をコードする組換え核酸分子であり得る。組換え核酸分子は、プロテインA変種と少なくとも一つのブドウ球菌抗原またはその免疫原性断片とをコードすることができる。本明細書において用いられる場合、「修飾する」または「修飾」という用語は「増強する」または「阻害する」という単語の意味を包含する。活性の「修飾」は活性の増加または減少のどちらであってもよい。本明細書において用いられる場合、「修飾因子」という用語は、タンパク質、核酸、遺伝子、または生物などの上方制御、誘導、刺激、増強、阻害、下方制御、または抑制を含む、部分の機能をもたらす化合物を指す。
【0038】
ある特定の態様において、方法および組成物は、プロテインA変種または抗原の全てまたは一部を使用するかまたは含むかまたはコードする。他の局面において、プロテインA変種は、これらに限定されないが、単離されたEap、Ebh、Emp、EsaB、EsaC、EsxA、EsxB、SdrC、SdrD、SdrE、IsdA、IsdB、ClfA、ClfB、Coa、Hla、IsdC、SasF、vWbp、もしくはvWhポリペプチド、またはその免疫原性セグメントのうちの一つまたは複数を含む、分泌因子または表面抗原との組み合わせで用いられてもよい。プロテインA変種との組み合わせで用いることができる追加のブドウ球菌抗原には、これらに限定されないが、52 kDaのビトロネクチン結合タンパク質(WO 01/60852)、Aaa、Aap、Ant、自己溶菌酵素グルコサミニダーゼ、自己溶菌酵素アミダーゼ、Cna、コラーゲン結合タンパク質(US6288214)、EFB(FIB)、エラスチン結合タンパク質(EbpS)、EPB、FbpA、フィブリノゲン結合タンパク質(US6008341)、フィブロネクチン結合タンパク質(US5840846)、FnbA、FnbB、GehD(US 2002/0169288)、HarA、HBP、免疫優性ABC輸送体、IsaA/PisA、ラミニン受容体、リパーゼGehD、MAP、Mg2+輸送体、MHC II類似体(US5648240)、MRPII、Npase、RNA III活性化タンパク質(RAP)、SasA、SasB、SasC、SasD、SasK、SBI、SdrF(WO 00/12689)、SdrG/Fig(WO 00/12689)、SdrH(WO 00/12689)、SEA外毒素(WO 00/02523)、SEB外毒素(WO 00/02523)、SitCおよびNi ABC輸送体、SitC/MntC/唾液結合タンパク質(US5,801,234)、SsaA、SSP-1、SSP-2、ならびに/またはビトロネクチン結合タンパク質が含まれる。ある特定の態様において、Eap、Ebh、Emp、EsaB、EsaC、EsxA、EsxB、SdrC、SdrD、SdrE、IsdA、IsdB、ClfA、ClfB、Coa、Hla、IsdC、SasF、vWbp、vWh、52 kDaのビトロネクチン結合タンパク質(WO 01/60852)、Aaa、Aap、Ant、自己溶菌酵素グルコサミニダーゼ、自己溶菌酵素アミダーゼ、Cna、コラーゲン結合タンパク質(US6288214)、EFB(FIB)、エラスチン結合タンパク質(EbpS)、EPB、FbpA、フィブリノゲン結合タンパク質(US6008341)、フィブロネクチン結合タンパク質(US5840846)、FnbA、FnbB、GehD(US 2002/0169288)、HarA、HBP、免疫優性ABC輸送体、IsaA/PisA、ラミニン受容体、リパーゼGehD、MAP、Mg2+輸送体、MHC II類似体(US5648240)、MRPII、Npase、RNA III活性化タンパク質(RAP)、SasA、SasB、SasC、SasD、SasK、SBI、SdrF(WO 00/12689)、SdrG/Fig(WO 00/12689)、SdrH(WO 00/12689)、SEA外毒素(WO 00/02523)、SEB外毒素(WO 00/02523)、SitCおよびNi ABC輸送体、SitC/MntC/唾液結合タンパク質(US5,801,234)、SsaA、SSP-1、SSP-2、ならびに/またはビトロネクチン結合タンパク質のうちの1、2、3、4、5、6、7、8、9、10種またはそれ以上が、製剤から特に除外され得る。
【0039】
いっそうさらなる局面において、単離されたプロテインA変種は、多量体化される、例えば、二量体化されるか、または2つ以上のポリペプチドもしくはペプチドセグメントの直鎖状融合体である。本発明のある特定の局面において、組成物は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20種またはそれ以上の単離された細胞表面タンパク質またはそのセグメントの多量体または鎖状体を含む。鎖状体は、一つまたは複数の反復ペプチド単位を有する直鎖状ポリペプチドである。SpAポリペプチドまたは断片は、連続的であっても、またはスペーサーまたは他のペプチド配列、例えば、一つもしくは複数のさらなる細菌ペプチドによって分離されてもよい。さらなる局面において、多量体または鎖状体に含まれる他のポリペプチドまたはペプチドには、これらに限定されないが、Eap、Ebh、Emp、EsaB、EsaC、EsxA、EsxB、SdrC、SdrD、SdrE、IsdA、IsdB、ClfA、ClfB、Coa、Hla、IsdC、SasF、vWbp、vWh、またはその免疫原性断片のうちの1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19種が含まれ得る。プロテインA変種との組み合わせで用いることができる追加のブドウ球菌抗原には、これらに限定されないが、52 kDaのビトロネクチン結合タンパク質(WO 01/60852)、Aaa、Aap、Ant、自己溶菌酵素グルコサミニダーゼ、自己溶菌酵素アミダーゼ、Cna、コラーゲン結合タンパク質(US6288214)、EFB(FIB)、エラスチン結合タンパク質(EbpS)、EPB、FbpA、フィブリノゲン結合タンパク質(US6008341)、フィブロネクチン結合タンパク質(US5840846)、FnbA、FnbB、GehD(US 2002/0169288)、HarA、HBP、免疫優性ABC輸送体、IsaA/PisA、ラミニン受容体、リパーゼGehD、MAP、Mg2+輸送体、MHC II類似体(US5648240)、MRPII、Npase、RNA III活性化タンパク質(RAP)、SasA、SasB、SasC、SasD、SasK、SBI、SdrF(WO 00/12689)、SdrG/Fig(WO 00/12689)、SdrH(WO 00/12689)、SEA外毒素(WO 00/02523)、SEB外毒素(WO 00/02523)、SitCおよびNi ABC輸送体、SitC/MntC/唾液結合タンパク質(US5,801,234)、SsaA、SSP-1、SSP-2、ならびに/またはビトロネクチン結合タンパク質が含まれる。
【0040】
用語「プロテインA変種」または「SpA変種」は、FcおよびVH3への結合を妨害する2つ以上のアミノ酸置換を有する SpA IgGドメインを含むポリペプチドを指す。ある特定の局面において、SpA変種には、変種ドメインDペプチド、ならびに毒素非産生性でありかつブドウ球菌プロテインAおよび/またはそれを発現する細菌に対する免疫反応を刺激するSpAポリペプチドの変種およびそのセグメントが含まれる。
【0041】
態様にはまた、プロテインA変種またはそのセグメントの有効量を対象に提供する段階を含む、対象においてブドウ球菌に対する免疫反応を誘発するための方法も含まれる。ある特定の局面において、対象においてブドウ球菌に対する免疫反応を誘発するための方法は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19種またはそれ以上の分泌タンパク質および/もしくは細胞表面タンパク質またはそのセグメント/断片の有効量を対象に提供する段階を含む。分泌タンパク質または細胞表面タンパク質には、これらに限定されないが、Eap、Ebh、Emp、EsaB、EsaC、EsxA、EsxB、SdrC、SdrD、SdrE、IsdA、IsdB、ClfA、ClfB、Coa、Hla、IsdC、SasF、vWbp、および/またはvWhタンパク質、ならびにその免疫原性断片が含まれる。プロテインA変種との組み合わせで用いることができる追加のブドウ球菌抗原には、これらに限定されないが、52 kDaのビトロネクチン結合タンパク質(WO 01/60852)、Aaa、Aap、Ant、自己溶菌酵素グルコサミニダーゼ、自己溶菌酵素アミダーゼ、Cna、コラーゲン結合タンパク質(US6288214)、EFB(FIB)、エラスチン結合タンパク質(EbpS)、EPB、FbpA、フィブリノゲン結合タンパク質(US6008341)、フィブロネクチン結合タンパク質(US5840846)、FnbA、FnbB、GehD(US 2002/0169288)、HarA、HBP、免疫優性ABC輸送体、IsaA/PisA、ラミニン受容体、リパーゼGehD、MAP、Mg2+輸送体、MHC II類似体(US5648240)、MRPII、Npase、RNA III活性化タンパク質(RAP)、SasA、SasB、SasC、SasD、SasK、SBI、SdrF(WO 00/12689)、SdrG/Fig(WO 00/12689)、SdrH(WO 00/12689)、SEA外毒素(WO 00/02523)、SEB外毒素(WO 00/02523)、SitCおよびNi ABC輸送体、SitC/MntC/唾液結合タンパク質(US5,801,234)、SsaA、SSP-1、SSP-2、ならびに/またはビトロネクチン結合タンパク質が含まれる。
【0042】
方法、組成物、およびポリペプチドの態様を含む態様には、ブドウ球菌が黄色ブドウ球菌のWU1株またはJSNZ株を含んでいる特定の態様が含まれる。いくつかの態様において、ブドウ球菌は、ST88型分離株を含む。
【0043】
いくつかの態様において、本明細書において記載される対象または患者、例えばヒト患者は、小児患者である。小児患者は、18歳未満として定義される患者である。いくつかの態様において、患者は、少なくともまたは最大で1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、45、50、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、85、または90歳(またはその中で導き出せる任意の範囲)である。いくつかの態様において、小児患者は2歳以下である。いくつかの態様において、小児患者は1歳未満である。いくつかの態様において、小児患者は生後6ヶ月未満である。いくつかの態様において、小児患者は生後2ヶ月以下である。いくつかの態様において、ヒト患者は65歳以上である。いくつかの態様において、ヒト患者は医療従事者である。いくつかの態様において、患者は、外科手術を受ける予定の患者である。
【0044】
いくつかの態様において、患者、組成物の単離されたポリペプチドは、4回用量で投与され、用量間の間隔は少なくとも4週である。いくつかの態様において、単離されたポリペプチドは、4回用量でまたは厳密に4回用量で与えられる。いくつかの態様において、単離されたポリペプチドまたは組成物は、少なくとも、最大で、または厳密に1、2、3、4、5、6、7、または8回用量で与えられる。いくつかの態様において、初回用量は生後6~8週で投与される。いくつかの態様において、全4回用量は、2歳でまたは2歳前に投与される。いくつかの態様において、ポリペプチドまたは組成物は、生後2、4、6、および12~15ヶ月での4回用量を一組として投与されるべきである。1回目の用量は、早ければ生後6週に与えられてもよい。投与間の間隔は、約4~8週間であってもよい。いくつかの態様において、4回目の用量は、生後およそ12~15ヶ月、かつ3回目の用量の少なくとも2ヶ月後に投与される。
【0045】
態様には、プロテインAに対して70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%のまたは少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%の同一性もしくは類似性を有する、ポリペプチド、ペプチド、またはタンパク質、あるいは分泌細菌タンパク質または細菌細胞表面タンパク質である第2のタンパク質またはペプチドを含む組成物が含まれる。さらなる態様において、組成物は、プロテインAのドメインDポリペプチド(SEQ ID NO: 2)、ドメイン E(SEQ ID NO:3)、ドメイン A(SEQ ID NO:4)、ドメイン C(SEQ ID NO:5)、ドメイン B(SEQ ID NO: 6)に対して70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%のまたは少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、もしくは99%の同一性または類似性を有するポリペプチド、ペプチド、もしくはタンパク質、あるいはプロテインAのドメインD、ドメイン E、ドメイン A、ドメイン C、もしくはドメイン Bポリペプチドをコードする核酸配列を含んでもよい。ある特定の局面において、プロテインAポリペプチドセグメントは、SEQ ID NO:8のアミノ酸配列を有する。類似性または同一性は、同一性が好ましく、当技術分野において公知であり、いくつかの異なるプログラムを用いて、タンパク質(または核酸)が公知の配列に対して配列同一性または類似性を有するかどうかを特定することができる。配列同一性および/または類似性は、これらに限定されないが、Smith & Waterman(1981)の局所配列同一性アルゴリズムを含む当技術分野において公知の標準的な技術を用いて、Needleman & Wunsch(1970)の配列同一性アライメントアルゴリズムによって、Pearson & Lipman(1988)の類似性検索法によって、これらのアルゴリズム(Wisconsin Genetics Software Package中のGAP、BESTFIT、FASTA、およびTFASTA、Genetics Computer Group, 575 Science Drive, Madison, Wis.)のコンピュータでの実行によって、Devereux et al.(1984)により記載されるBest Fit配列プログラムによって、好ましくは初期設定を用いて、または目視検査によって判定される。好ましくは、パーセント同一性は、当業者に公知かつ容易に確認可能なアライメントツールを用いることによって計算される。パーセント同一性は、本質的には、比較したアミノ酸の総数で割った同一のアミノ酸の数の100倍である。
【0046】
いっそうさらなる態様には、(i)SpA変種、例えば、変種SpAドメインA~Eポリペプチドもしくはそのペプチド; または、(ii)そのようなSpA変種ポリペプチドもしくはそのペプチドをコードする核酸分子を含む組成物の有効量を対象に投与する段階、または(iii)本明細書に記載された細菌タンパク質との任意の組み合わせまたは順列でSpA変種ドメインDポリペプチドを投与する段階を含む、ブドウ球菌に対する防御的または治療的免疫反応を対象において刺激するための方法が含まれる。好ましい態様において、組成物はブドウ球菌ではない。ある特定の局面において、対象は、ヒトまたはウシまたはブタまたはヒツジまたはヤギまたは食用として育てられる任意の他の動物であり、かつ乳腺炎などのブドウ球菌感染を患っていてもよい。さらなる局面において、組成物は、薬学的に許容される製剤に処方される。ブドウ球菌は黄色ブドウ球菌であってもよい。
【0047】
なおいっそうさらなる態様には、単離されたSpA変種ポリペプチド、または本明細書に記載されるタンパク質またはペプチドの任意のその他の組み合わせもしくは順列を有する薬学的に許容される組成物を含むワクチンであって、該組成物が、ブドウ球菌に対する免疫反応を刺激することができる、ワクチンが含まれる。ワクチンは、単離されたSpA変種ポリペプチド、または記載されるタンパク質もしくはペプチドの任意のその他の組み合わせもしくは順列を含んでもよい。本発明のある特定の局面において、単離されたSpA変種ポリペプチド、または記載されるタンパク質もしくはペプチドの任意のその他の組み合わせもしくは順列は、多量体化される、例えば、二量体化されるか、または鎖状体化される。さらなる局面において、ワクチン組成物には、約10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、0.5、0.25、0.05%(またはその中で導き出せる任意の範囲)未満の他のブドウ球菌タンパク質が混入している。組成物は、単離された非SpAポリペプチドをさらに含んでもよい。典型的には、ワクチンはアジュバントを含む。ある特定の局面において、本発明のタンパク質またはペプチドは、アジュバントに(共有結合的にまたは非共有結合的に)連結され、好ましくは、アジュバントはタンパク質に化学的にコンジュゲートされる。いくつかの態様において、アジュバントはミョウバンを含む。いくつかの態様において、アジュバントは本明細書に記載されるアジュバントを含む。
【0048】
なおいっそうさらなる態様において、ワクチン組成物は、SpA変種ポリペプチド、または本明細書に記載されるタンパク質もしくはペプチドの任意のその他の組み合わせもしくは順列の全てもしくは一部をコードする組換え核酸を有する薬学的に許容される組成物であり、該組成物は、ブドウ球菌に対する免疫反応を刺激することができる。ワクチン組成物は、SpA変種ポリペプチド、または本明細書に記載されるタンパク質もしくはペプチドの任意のその他の組み合わせもしくは順列の全てもしくは一部をコードする組換え核酸を含んでもよい。ある特定の態様において、組換え核酸は異種プロモーターを含む。好ましくは、組換え核酸はベクターである。より好ましくは、ベクターはプラスミドまたはウイルスベクターである。いくつかの局面において、ワクチンには、該核酸を含む組換え非ブドウ球菌が含まれる。組換え非ブドウ球菌は、サルモネラ菌(Salmonella)または別のグラム陽性細菌であってもよい。ワクチンは、薬学的に許容される賦形剤、より好ましくはアジュバントを含んでもよい。いくつかの態様において、アジュバントは、ミョウバンまたは本明細書に記載されるアジュバントを含む。
【0049】
いっそうさらなる態様には、SpA変種ポリペプチドまたはそのセグメント/断片の組成物であって、Eap、Ebh、Emp、EsaB、EsaC、EsxA、EsxB、SdrC、SdrD、SdrE、IsdA、IsdB、ClfA、ClfB、Coa、Hla、IsdC、SasF、vWbp、もしくはvWhタンパク質、またはそのペプチドのうちの一つまたは複数をさらに含む組成物の有効量を対象に投与する段階を含む、ブドウ球菌に対する防御的または治療的免疫反応を対象において刺激するための方法が含まれる。好ましい態様において、組成物は非ブドウ球菌を含む。さらなる局面において、組成物は、薬学的に許容される製剤に処方される。対象が処置されているブドウ球菌は、黄色ブドウ球菌であってもよい。本発明の方法には、さまざまな組み合わせでの1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19種またはそれ以上の分泌病毒性因子および/または 細胞表面タンパク質、例えば、Eap、Ebh、Emp、EsaC、EsxA、EsxB、SdrC、SdrD、SdrE、IsdA、IsdB、ClfA、ClfB、Coa、Hla、IsdC、SasF、vWbp、またはvWhを含む、SpA変種組成物も含まれる。ある特定の局面において、ワクチン製剤には、Eap、Ebh、Emp、EsaC、EsxA、EsxB、SdrC、SdrD、SdrE、IsdA、IsdB、ClfA、ClfB、Coa、Hla、IsdC、SasF、vWbp、およびvWhが含まれる。ある特定の局面において、抗原の組み合わせには、(1)SpA変種およびIsdA;(2)SpA変種およびClfB;(3)SpA変種およびSdrD;(4)SpA変種およびHlaまたはHla変種;(5)SpA変種およびClfB、SdrD、およびHlaまたはHla変種;(6)SpA変種、IsdA、SdrD、およびHlaまたはHla変種;(7)SpA変種、IsdA、ClfB、およびHlaまたはHla変種;(8)SpA変種、IsdA、ClfB、およびSdrD;(9)SpA変種、IsdA、ClfB、SdrD、およびHlaまたはHla変種;(10)SpA変種、IsdA、ClfB、およびSdrD;(11)SpA変種、IsdA、SdrD、およびHlaまたはHla変種;(12)SpA変種、IsdA、およびHlaまたはHla変種;(13)SpA変種、IsdA、ClfB、およびHlaまたはHla変種;(14)SpA変種、ClfB、およびSdrD;(15)SpA変種、ClfB、およびHlaまたはHla変種;または(16)SpA変種、SdrD、およびHlaまたはHla変種が含まれ得る。
【0050】
ある特定の局面において、本発明の組成物を送達する細菌は、長期的もしくは持続的な増殖または膿瘍形成に関して制限または弱毒化される。なおさらなる局面において、SpA変種は、弱毒化された細菌において過剰発現され、免疫反応またはワクチン製剤をさらに増強または追加することができる。
【0051】
「EsxAタンパク質」という用語は、ブドウ球菌由来の単離された野生型EsxAポリペプチドおよびそのセグメントを含むタンパク質、ならびにブドウ球菌EsxAタンパク質に対する免疫反応を刺激する変種をいう。
【0052】
「EsxBタンパク質」という用語は、ブドウ球菌由来の単離された野生型EsxBポリペプチドおよびそのセグメントを含むタンパク質、ならびにブドウ球菌EsxBタンパク質に対する免疫反応を刺激する変種をいう。
【0053】
「SdrDタンパク質」という用語は、ブドウ球菌由来の単離された野生型SdrDポリペプチドおよびそのセグメントを含むタンパク質、ならびにブドウ球菌SdrDタンパク質に対する免疫反応を刺激する変種をいう。
【0054】
「SdrEタンパク質」という用語は、ブドウ球菌由来の単離された野生型SdrEポリペプチドおよびそのセグメントを含むタンパク質、ならびにブドウ球菌SdrEタンパク質に対する免疫反応を刺激する変種をいう。
【0055】
「IsdAタンパク質」という用語は、ブドウ球菌由来の単離された野生型IsdAポリペプチドおよびそのセグメントを含むタンパク質、ならびにブドウ球菌IsdAタンパク質に対する免疫反応を刺激する変種をいう。
【0056】
「IsdBタンパク質」という用語は、ブドウ球菌由来の単離された野生型IsdBポリペプチドおよびそのセグメントを含むタンパク質、ならびにブドウ球菌IsdBタンパク質に対する免疫反応を刺激する変種をいう。
【0057】
「Eapタンパク質」という用語は、ブドウ球菌由来の単離された野生型Eapポリペプチドおよびそのセグメントを含むタンパク質、ならびにブドウ球菌Eapタンパク質に対する免疫反応を刺激する変種をいう。
【0058】
「Ebhタンパク質」という用語は、ブドウ球菌由来の単離された野生型Ebhポリペプチドおよびそのセグメントを含むタンパク質、ならびにブドウ球菌Ebhタンパク質に対する免疫反応を刺激する変種をいう。
【0059】
「Empタンパク質」という用語は、ブドウ球菌由来の単離された野生型Empポリペプチドおよびそのセグメントを含むタンパク質、ならびにブドウ球菌Empタンパク質に対する免疫反応を刺激する変種をいう。
【0060】
「EsaBタンパク質」という用語は、ブドウ球菌由来の単離された野生型EsaBポリペプチドおよびそのセグメントを含むタンパク質、ならびにブドウ球菌EsaBタンパク質に対する免疫反応を刺激する変種をいう。
【0061】
「EsaCタンパク質」という用語は、ブドウ球菌由来の単離された野生型EsaCポリペプチドおよびそのセグメントを含むタンパク質、ならびにブドウ球菌EsaCタンパク質に対する免疫反応を刺激する変種をいう。
【0062】
「SdrCタンパク質」という用語は、ブドウ球菌由来の単離された野生型SdrCポリペプチドおよびそのセグメントを含むタンパク質、ならびにブドウ球菌SdrCタンパク質に対する免疫反応を刺激する変種をいう。
【0063】
「ClfAタンパク質」という用語は、ブドウ球菌由来の単離された野生型ClfAポリペプチドおよびそのセグメントを含むタンパク質、ならびにブドウ球菌ClfAタンパク質に対する免疫反応を刺激する変種をいう。
【0064】
「ClfBタンパク質」という用語は、ブドウ球菌由来の単離された野生型ClfBポリペプチドおよびそのセグメントを含むタンパク質、ならびにブドウ球菌ClfBタンパク質に対する免疫反応を刺激する変種をいう。
【0065】
「Coaタンパク質」という用語は、ブドウ球菌由来の単離された野生型Coaポリペプチドおよびそのセグメントを含むタンパク質、ならびにブドウ球菌Coaタンパク質に対する免疫反応を刺激する変種をいう。
【0066】
「Hlaタンパク質」という用語は、ブドウ球菌由来の単離された野生型Hlaポリペプチドおよびそのセグメントを含むタンパク質、ならびにブドウ球菌Hlaタンパク質に対する免疫反応を刺激する変種をいう。
【0067】
「IsdCタンパク質」という用語は、ブドウ球菌由来の単離された野生型IsdCポリペプチドおよびそのセグメントを含むタンパク質、ならびにブドウ球菌IsdCタンパク質に対する免疫反応を刺激する変種をいう。
【0068】
「SasFタンパク質」という用語は、ブドウ球菌由来の単離された野生型SasFポリペプチドおよびそのセグメントを含むタンパク質、ならびにブドウ球菌SasFタンパク質に対する免疫反応を刺激する変種をいう。
【0069】
「vWbpタンパク質」という用語は、ブドウ球菌由来の単離された野生型vWbp (フォンウィルブランド因子結合タンパク質)ポリペプチドおよびそのセグメントを含むタンパク質、ならびにブドウ球菌vWbpタンパク質に対する免疫反応を刺激する変種をいう。
【0070】
「vWhタンパク質」という用語は、ブドウ球菌由来の単離された野生型vWh (フォンウィルブランド因子結合タンパク質相同体)ポリペプチドおよびそのセグメントを含むタンパク質、ならびにブドウ球菌vWhタンパク質に対する免疫反応を刺激する変種をいう。
【0071】
免疫反応は、生物における体液性反応、細胞性反応、または体液性および細胞性反応の両方をいう。免疫反応は、タンパク質もしくは細胞表面タンパク質を特異的に認識する抗体の存在もしくは量を測定するアッセイ法、T細胞活性化もしくは増殖を測定するアッセイ法、および/または一つもしくは複数のサイトカインの活性もしくは発現に関しての修飾を測定するアッセイ法を含むが、これらに限定されないアッセイ法によって測定することができる。
【0072】
ある特定の局面において、ポリペプチドまたはセグメント/断片は、参照ポリペプチドのアミノ酸配列に対して少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%またはそれ以上同一である配列を有することができる。「類似性」という用語は、参照ポリペプチドと同一であるか、または参照ポリペプチドと保存的置換を構成するかのいずれかの、アミノ酸の一定の割合を有する配列を持ったポリペプチドをいう。
【0073】
本明細書に記載されたポリペプチドは、SEQ ID NO: 1~6の位置1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100、101、102、103、104、105、106、107、108、109、110、111、112、113、114、115、116、117、118、119、120、121、122、123、124、125、126、127、128、129、130、131、132、133、134、135、136、137、138、139、140、141、142、143、144、145、146、147、148、149、150、151、152、153、154、155、156、157、158、159、160、161、162、163、164、165、166、167、168、169、170、171、172、173、174、175、176、177、178、179、180、181、182、183、184、185、186、187、188、189、190、191、192、193、194、195、196、197、198、199、200、201、202、203、204、205、206、207、208、209、210、211、212、213、214、215、216、217、218、219、220、221、222、223、224、225、226、227、228、229、230、231、232、233、234、235、236、237、238、239、240、241、242、243、244、245、246、247、248、249、250、300、400、500、550、1000におけるアミノ酸もしくはそれ以上の連続アミノ酸、またはその中で導出される任意の範囲を含んでもよく、除外してもよい。
【0074】
本明細書に記載されたポリペプチドセグメントは、SEQ ID NO:1~6の3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100、101、102、103、104、105、106、107、108、109、110、111、112、113、114、115、116、117、118、119、120、121、122、123、124、125、126、127、128、129、130、131、132、133、134、135、136、137、138、139、140、141、142、143、144、145、146、147、148、149、150、151、152、153、154、155、156、157、158、159、160、161、162、163、164、165、166、167、168、169、170、171、172、173、174、175、176、177、178、179、180、181、182、183、184、185、186、187、188、189、190、191、192、193、194、195、196、197、198、199、200、201、202、203、204、205、206、207、208、209、210、211、212、213、214、215、216、217、218、219、220、221、222、223、224、225、226、227、228、229、230、231、232、233、234、235、236、237、238、239、240、241、242、243、244、245、246、247、248、249、250、300、400、500、550、1000個もしくはそれ以上の連続アミノ酸、またはその中で導出される任意の範囲を含みうる。
【0075】
組成物は薬学的に許容される組成物に処方されうる。本発明のある特定の局面において、ブドウ球菌は黄色ブドウ球菌である。
【0076】
さらなる局面において、組成物は、2回以上対象に投与されてもよく、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20回またはそれ以上の回数で投与されてもよい。組成物の投与は、吸入または吸引を含む、経口投与、非経口投与、皮下投与、筋肉内投与、静脈内投与、またはその各種組み合わせを含むが、これらに限定されることはない。
【0077】
またさらなる態様において、組成物は、本明細書に記載されたポリペプチドまたはそのセグメント/断片をコードする組み換え核酸分子を含む。典型的には、本明細書に記載されたポリペプチドをコードする組み換え核酸分子は異種プロモーターを含む。ある特定の局面において、本発明の組み換え核酸分子はベクターであり、他の局面においてベクターはプラスミドである。ある特定の態様において、ベクターはウイルスベクターである。ある特定の局面において、組成物は、本明細書に記載されたポリペプチドを含有するまたは発現する組み換え非ブドウ球菌を含む。特定の局面において、組み換え非ブドウ球菌はサルモネラ菌または別のグラム陽性細菌である。組成物は、典型的には、ヒト対象のような、哺乳類に投与されるが、免疫反応を誘発できる他の動物への投与が企図される。さらなる局面において、該ポリペプチドを含有するまたは発現するブドウ球菌は黄色ブドウ球菌である。さらなる態様において、免疫反応は防御免疫反応である。
【0078】
さらなる態様において、組成物は、Eap、Ebh、Emp、EsaB、EsaC、EsxA、EsxB、SdrC、SdrD、SdrE、IsdA、IsdB、ClfA、ClfB、Coa、Hla、IsdC、SasF、SpA、vWbpもしくはvWhタンパク質もしくはペプチドまたはその変種のうちの一つまたは複数の全てまたは一部をコードする組み換え核酸分子を含む。本明細書に記載されたポリペプチドと組み合わせて使用できるさらなるブドウ球菌抗原には、52 kDaのビトロネクチン結合タンパク質(WO 01/60852)、Aaa、Aap、Ant、自己溶菌酵素グルコサミニダーゼ、自己溶菌酵素アミダーゼ、Cna、コラーゲン結合タンパク質(US6288214)、EFB (FIB)、エラスチン結合タンパク質(EbpS)、EPB、FbpA、フィブリノゲン結合タンパク質(US6008341)、フィブロネクチン結合タンパク質(US5840846)、FnbA、FnbB、GehD (US 2002/0169288)、HarA、HBP、免疫優性ABC輸送体、IsaA/PisA、ラミニン受容体、リパーゼGehD、MAP、Mg2+輸送体、MHC II類似体(US5648240)、MRPII、Npase、RNA III活性化タンパク質(RAP)、SasA、SasB、SasC、SasD、SasK、SBI、SdrF(WO 00/12689)、SdrG / Fig (WO 00/12689)、SdrH (WO 00/12689)、SEA外毒素(WO 00/02523)、SEB外毒素(WO 00/02523)、SitCおよびNi ABC輸送体、SitC/MntC/唾液結合タンパク質(US5,801,234)、SsaA、SSP-1、SSP-2、および/またはビトロネクチン結合タンパク質が含まれるが、これらに限定されることはない。特定の局面において、細菌はサルモネラ菌または他のグラム陽性細菌のような、組み換え非ブドウ球菌である。
【0079】
本発明の組成物は、典型的には、ヒト対象に投与されるが、ブドウ球菌に対する免疫反応を誘発できる他の動物、特にウシ、ウマ、ヤギ、ヒツジおよび他の家畜、すなわち、哺乳類への投与が企図される。
【0080】
ある特定の局面において、ブドウ球菌は黄色ブドウ球菌である。さらなる態様において、免疫反応は防御免疫反応である。さらなる局面において、本発明の方法および組成物は、組織または腺、例えば、乳腺の感染、特に乳腺炎および他の感染を予防する、改善する、軽減するまたは処置するために用いることができる。他の方法は、感染の兆候を呈していない対象、特に標的細菌に侵されていると疑われるまたは標的細菌に侵されるリスクのある対象、例えば、入院、処置および/または回復の間に感染のリスクまたは影響のあるまたはありうる患者における細菌負荷の予防的軽減を含むが、これに限定されることはない。
【0081】
本発明の一つの局面に関して論じられているいずれの態様も、同様に本発明の他の局面に当てはまる。具体的には、SpA変種ポリペプチドまたはペプチドまたは核酸との関連で論じられているいずれの態様も、Eap、Ebh、Emp、EsaC、EsxA、EsxB、SdrC、SdrD、SdrE、IsdA、IsdB、ClfA、ClfB、Coa、Hla、IsdC、SasF、vWbp、vWh、52 kDaのビトロネクチン結合タンパク質(WO 01/60852)、Aaa、Aap、Ant、自己溶菌酵素グルコサミニダーゼ、自己溶菌酵素アミダーゼ、Cna、コラーゲン結合タンパク質(US6288214)、EFB (FIB)、エラスチン結合タンパク質(EbpS)、EPB、FbpA、フィブリノゲン結合タンパク質(US6008341)、フィブロネクチン結合タンパク質(US5840846)、FnbA、FnbB、GehD (US 2002/0169288)、HarA、HBP、免疫優性ABC輸送体、IsaA/PisA、ラミニン受容体、リパーゼGehD、MAP、Mg2+輸送体、MHC II類似体(US5648240)、MRPII、Npase、RNA III活性化タンパク質(RAP)、SasA、SasB、SasC、SasD、SasK、SBI、SdrF(WO 00/12689)、SdrG / Fig (WO 00/12689)、SdrH (WO 00/12689)、SEA外毒素(WO 00/02523)、SEB外毒素(WO 00/02523)、SitCおよびNi ABC輸送体、SitC/MntC/唾液結合タンパク質(US5,801,234)、SsaA、SSP-1、SSP-2、および/またはビトロネクチン結合タンパク質(または核酸)のような、他の抗原に関して実施することが可能であり、逆の場合も同じである。Eap、Ebh、Emp、EsaC、EsxA、EsxB、SdrC、SdrD、SdrE、IsdA、IsdB、ClfA、ClfB、Coa、Hla、IsdC、SasF、vWbp、vWh、52 kDaのビトロネクチン結合タンパク質(WO 01/60852)、Aaa、Aap、Ant、自己溶菌酵素グルコサミニダーゼ、自己溶菌酵素アミダーゼ、Cna、コラーゲン結合タンパク質(US6288214)、EFB (FIB)、エラスチン結合タンパク質(EbpS)、EPB、FbpA、フィブリノゲン結合タンパク質(US6008341)、フィブロネクチン結合タンパク質(US5840846)、FnbA、FnbB、GehD (US 2002/0169288)、HarA、HBP、免疫優性ABC輸送体、IsaA/PisA、ラミニン受容体、リパーゼGehD、MAP、Mg2+輸送体、MHC II類似体(US5648240)、MRPII、Npase、RNA III活性化タンパク質(RAP)、SasA、SasB、SasC、SasD、SasK、SBI、SdrF(WO 00/12689)、SdrG / Fig (WO 00/12689)、SdrH (WO 00/12689)、SEA外毒素(WO 00/02523)、SEB外毒素(WO 00/02523)、SitCおよびNi ABC輸送体、SitC/MntC/唾液結合タンパク質(US5,801,234)、SsaA、SSP-1、SSP-2、および/またはビトロネクチン結合タンパク質のうちのいずれか一つまたは複数を、主張される組成物から明確に除外できることも理解されたい。
【0082】
本発明の態様は、細菌を含有するまたは含有しない組成物を含む。組成物は、弱毒化されたまたは生存可能なまたはインタクトなブドウ球菌を含んでもまたは含まなくてもよい。ある特定の局面において、組成物は、ブドウ球菌ではない細菌を含むか、またはブドウ球菌を含有しない。ある特定の態様において、細菌組成物は、単離されたもしくは組み換え発現されたブドウ球菌プロテインA変種またはそれをコードするヌクレオチドを含む。組成物は、分泌病毒性因子または細胞表面タンパク質に関して細菌を特異的に変化させることを含むようなやり方で変化されている、組み換えによって遺伝子操作されたブドウ球菌であってもまたはそれを含んでもよい。例えば、細菌は、未修飾ならば発現すると考えられるよりも多くの病毒性因子または細胞表面タンパク質を発現するように組み換えによって修飾されてもよい。
【0083】
「単離される」という用語は、その起源の細胞物質、細菌物質、ウイルス物質もしくは培地(組み換えDNA技術により産生される場合)、または化学的前駆物質もしくは他の化学物質(化学的に合成される場合)を実質的に含んでいない核酸またはポリペプチドをいうことができる。さらに、単離化合物とは、単離された化合物として対象に投与できるものをいい、換言すれば、化合物は、カラムに付着されているなら、またはアガロースゲルに埋め込まれているなら単純に「単離されている」と考えられない。さらに、「単離核酸断片」または「単離ペプチド」とは、断片として天然には存在していない、および/または典型的には機能的な状態にない、核酸またはタンパク質断片である。
【0084】
ポリペプチド、ペプチド、抗原または免疫原などの本発明の部分をアジュバント、タンパク質、ペプチド、支持体、蛍光部分または標識などの、他の部分に共有結合的または非共有結合的に抱合または連結させることができる。「抱合体」または「免疫抱合体」という用語は、一つの部分と他の薬剤との機能的結合を定義するように広く用いられており、任意のタイプの機能的結合を単にいうようには意図されておらず、化学的「抱合」に特に限定されることはない。組み換え融合タンパク質が特に企図される。本発明の組成物はアジュバントまたは薬学的に許容される賦形剤をさらに含んでもよい。いくつかの態様において、アジュバントは、本明細書に記載された、ミョウバンまたはアジュバントを含む。アジュバントは本発明のポリペプチドまたはペプチドに共有結合的または非共有結合的にカップリングされてもよい。ある特定の局面において、アジュバントはタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドに化学的に抱合される。
【0085】
「提供する」という用語は、その通常の意味にしたがって「使用のために供給するまたは与えること」を示すように用いられる。いくつかの態様では、タンパク質を投与することによってタンパク質は直接的に提供されるが、他の態様では、タンパク質をコードする核酸を投与することによってタンパク質は効果的に提供される。ある特定の局面において、本発明は、さまざまな組み合わせの核酸、抗原、ペプチドおよび/またはエピトープを含む組成物を企図する。
【0086】
対象は、ブドウ球菌感染を有する(例えば、ブドウ球菌感染と診断されている)、ブドウ球菌感染を有することが疑われる、またはブドウ球菌感染を発症するリスクがあるであろう。本発明の組成物には、意図した目的を達成するのに有効な量で抗原またはエピトープが含有されている免疫原性組成物が含まれる。より具体的には、有効量とは、免疫反応を刺激するもしくは誘発するのに、または感染に対する耐性、感染の改善もしくは感染の緩和をもたらすのに必要な活性成分の量を意味する。より具体的な局面において、有効量は、疾患もしくは感染の症状を阻止する、軽減するもしくは改善する、または処置される対象の生存を引き延ばす。有効量の判定は十分に、とりわけ本明細書において提供される詳細な開示に照らして、当業者の能力の範囲内である。本発明の方法において用いられるどの調製物についても、有効な量または用量は、インビトロ研究、細胞培養および/または動物モデルアッセイ法から最初に推定することができる。例えば、所望の免疫反応または循環血中抗体の濃度もしくは力価を達成するため、動物モデルにおいて用量を処方することができる。そのような情報を用いて、ヒトにおいて有用な用量をさらに正確に判定することができる。
【0087】
いくつかの態様において、本開示のポリペプチド(SpA変種)は、好塩基球ヒスタミン放出アッセイにおいて20、19.5、19、18.5、18、17.5、17、16.5、16、15.5、15、14.5、14、13.5、13、12.5、12、11.5、11、10.5、10、9.5、9、8.5、8、7.5、7、6.5、6、5.5、5、4.5、4、3.5、3、2.5、2、1.5、1、0.5、0.4、0.3、0.2、0.1、または0%以下(またはその中で導き出せる任意の範囲)のヒスタミン放出をもたらす。
【0088】
実施例の項における態様は、本発明の全ての局面に適用可能な本発明の態様であると理解される。
【0089】
添付の特許請求の範囲における「または」という用語の使用は、代替物だけを指すと明記されていない限りまたは代替物が相互排他的でない限り「および/または」を意味するように用いられているが、本開示は、代替物のみ、および「および/または」を指す定義を支持するものである。「または」という用語を用いて記載されているどんなものでも明確に除外できることも企図される。
【0090】
本出願の全体を通じて、「約」という用語は、値にはその値を決定するために利用される装置または方法に対しての誤差の標準偏差が含まれることを示すために用いられる。
【0091】
長年にわたる特許法にしたがって、「一つの(a)」および「一つの(an)」という単語は、添付の特許請求の範囲または明細書において「含む(comprising)」という単語とともに用いられる場合、特に断りのない限り、一つまたは複数を意味する。
【0092】
本発明の他の目標、特徴および利点は、以下の詳細な説明から明らかとなるであろう。しかしながら、詳細な説明および具体的な例は、本発明の特定の態様を示しているが、この詳細な説明から当業者には本発明の趣旨および範囲のなかで種々の変更および修正が明らかになると考えられるので、単なる例示として与えられるものと理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0093】
本発明の上記の特徴、利点および目標、ならびにこれ以外に明らかになるものに到達し、それらを詳細に理解できるように、上記に簡単に要約した本発明の、より具体的な説明およびある特定の態様を添付図面に示す。これらの図面は明細書の一部をなす。しかしながら、添付図面は本発明のある特定の態様を示すものであり、それゆえ、その範囲を限定するものと見なされるべきではないことに留意されたい。
図1図1A~E。黄色ブドウ球菌 ST88分離株 WU1、マウス病原菌。(A)ヒト臨床分離株である黄色ブドウ球菌WU1および黄色ブドウ球菌Newman由来のvwb遺伝子産物のドメイン構造および配列相同性。そのシグナルペプチド(S)、D1およびD2ドメイン(宿主プロトロンビンの結合および活性化を担う)、リンカー(白四角)、ならびにC末端フィブリノゲン結合ドメイン(C)についてvWbpのパーセントアミノ酸(a.a.)同一性を提示する。(B)株Newmanの黄色ブドウ球菌全培養試料(WT、野生型)、ならびにそのΔcoa、Δvwb、Δcoa-vwb、およびΔclfA変種、株WU1、JSNZ、USA300 LAC、およびそのΔvwb変種を、ポリクローナルウサギ抗体を用いてvWbp(αvWbp)、Coa(αCoa)、Hla(αHla)、およびClfA(aClfA)の産生について分析した。(C)vWbp-Cドメインに対するポリクローナル抗体は、株JSNZおよびWU1由来のvWbp対立遺伝子変種ならびに株USA300 LAC由来のvWbpを特定する。(D~E)ヒト(D)またはマウス(E)血漿におけるSyto-9染色黄色ブドウ球菌株の凝集を、鏡下の12視野における凝集した細菌の手段により平均サイズおよび標準誤差として測定し、統計的有意差を、Sidak多重比較検定による二元配置ANOVAを用いるWTとの対比較で評価した。****、p<0.0001。
図2図2A~B。黄色ブドウ球菌WU1はC57BL/6マウスの上咽頭に持続的にコロニー形成する。C57BL/6マウス(n=10)マウスのコホートに、1×108 CFUの表示した黄色ブドウ球菌WU1またはPBS対照を鼻腔内接種し、毎週咽頭でぬぐい液を採取し、細菌負荷を計数した。各ドットはマウス1匹当たりのCFUの数を示す。特定の日での各群の動物の中央値および標準偏差を、横線およびエラーバーによって表示する。
図3図3A~B。ブドウ球菌プロテインA(SpA)の黄色ブドウ球菌WU1発現は、C57BL/6マウスの持続的コロニー形成に必要とされる。(A)株USA300 LAC、Newman、WU1、spa発現(pspa)のためのプラスミドなしおよびありでのWU1のΔspa変種に由来する黄色ブドウ球菌溶解物の免疫ブロットを、SpA特異的抗体(αSpA)およびソルターゼA特異的抗体(αSrtA)でプローブした。(B)C57BL/6マウスのコホート(n=10)に1×108 CFUの黄色ブドウ球菌WU1またはそのΔspa変種を鼻腔内接種し、動物の中咽頭から1週間間隔でぬぐい液を採取し、細菌負荷を計数した。各ドットは、マウス1匹当たりのCFUの数を示す。特定の日での各群の動物の中央値および標準偏差を、横線およびエラーバーによって表示する。細菌コロニー形成データセットを、二元配置ANOVAおよびSidak 多重比較検定で分析し;動物の2つの群間の統計的有意差(***p=0.0003;**** p<0.0001)をアスタリスクによって表示する。
図4】SpAKKAAによるC57BL/6マウスの免疫は、黄色ブドウ球菌WU1の脱コロニー化を促進する。C57BL/6マウスを、50 μg のCFAで乳化された精製組換えSpAKKAAまたはCFAでのPBSモックで免疫し、11日後に50 μgのIFAで乳化した組換えSpAKKAAまたはIFAでのPBSモックで追加免疫した。コロニー形成実験の0日目に、C57BL/6マウス(n=10)マウスのコホートに、1×108 CFUの黄色ブドウ球菌WU1を鼻腔内接種した。動物の中咽頭から1週間間隔でぬぐい液を採取し、細菌負荷を計数した。各ドットは、マウス1匹当たりのCFUの数を示す。特定の日での各群の動物の中央値および標準偏差を、横線およびエラーバーによって表示する。細菌コロニー形成データセットを、二元配置ANOVAおよびSidak 多重比較検定で分析し; 動物の2つの群間の統計的有意差(*p<0.05;**p<0.01)をアスタリスクによって表示する。
図5】SpAKKAAによるBALB/cマウスの免疫は、黄色ブドウ球菌WU1の脱コロニー化を促進する。BALB/cマウスを、50 μgのCFAで乳化した精製組換えSpAKKAAまたはCFAでのPBSモックで免疫し、11日後に50 μgのIFAで乳化した組換えSpAKKAAまたはIFAでのPBSモックで追加免疫した。コロニー形成実験の0日目に、BALB/cマウスのコホート(n=10)マウスに、1×108 CFUの黄色ブドウ球菌WU1を鼻腔内接種した。動物の中咽頭から1週間間隔でぬぐい液を採取し、細菌負荷を計数した。各ドットは、マウス1匹当たりのCFUの数を示す。特定の日での各群の動物の中央値および標準偏差を、横線およびエラーバーによって表示する。細菌コロニー形成データセットを、二元配置ANOVAおよびSidak 多重比較検定で分析し; 動物の群間の統計的有意差(*p<0.05;**p<0.01;****p<0.0001)をアスタリスクによって表示する。
図6】SpAKKAAによるBALB/cマウスの免疫は、上咽頭からの黄色ブドウ球菌JSNZの排除を促進する。BALB/cマウスを、50 μgのCFAで乳化した精製組換えSpAKKAAまたはCFAでのPBSモックで免疫し、11日後に50 μgのIFAで乳化した組換えSpAKKAAまたはIFAでのPBSモックで追加免疫した。コロニー形成実験の0日目に、BALB/cマウスのコホート(n=10)マウスに、1×108 CFUの黄色ブドウ球菌JSNZを鼻腔内接種した。動物の中咽頭から1週間間隔でぬぐい液を採取し、細菌負荷を計数した。各ドットは、マウス1匹当たりのCFUの数を示す。特定の日での各群の動物の中央値および標準偏差を、横線およびエラーバーによって表示する。細菌コロニー形成データセットをSidak多重比較検定による二元配置ANOVAで分析し;動物の2つの群間の統計的有意差(*p<0.05;**p<0.01)をアスタリスクによって表示する。
図7図7A~C。改良されたSpAワクチン。A:SpAKKAA、SpAKKAA/A、およびSpAKKAA/F変種の図示。B:ヒトIgGに対する変種の結合親和性。C:ヒトIgEに対する変種の結合親和性。
図8A】結合アッセイ。SpA変種のウエスタンブロット。
図8B】結合アッセイ。表示した分子に対する変種のELISA。
図9図9A~B。プロテインAは、マウスの黄色ブドウ球菌持続的鼻腔内コロニー形成に必要とされる。
図10】プロテインAアミノ酸配列アライメント。濃い灰色:ヒトFcγ断片と相互作用するアミノ酸;薄い灰色:ヒトFab断片と相互作用するアミノ酸;アスタリスクは、ヒトFcγ断片およびFab断片の両方と相互作用するアミノ酸を表す。赤色:ヒトFcγ断片と相互作用するアミノ酸。
図11】Zドメイン(SpA BドメインにG29A)がF(ab)2断片に結合しないことを示す表面プラズモン共鳴(SPR)分析。
図12A】G29を標的とする新規SpA*変種。
図12B】G29を標的とする新規SpA*変種。
図13】G29を標的とする新規SpA*変種。
図14】G29を標的とする新規SpA*変種。
図15】G29を標的とする新規SpA*変種。
図16】実施例2においてさらに説明されるバジル(basil)ヒスタミン放出アッセイの図。
図17図17A~B ブドウ球菌プロテインA(SpA)。(A)SpA前駆体(シグナルペプチダーゼによって切断されるN末端シグナルペプチド、5つの免疫グロブリン結合ドメイン(IgBD-E、D、A、B、C と命名)、領域Xrと命名された細胞壁横断ドメイン、ペプチドグリカン結合のためのLysMドメイン、およびソルターゼAによって切断されるC末端LPXTG選別シグナルを有する)、細菌表面上に提示される細胞壁SpA、および細胞壁エンベロープから遊離されかつ宿主組織内に放出される放出型SpA分子の一次構造を図解する略図。(B)SpAの分泌およびソルターゼA媒介性細胞膜固定、ならびに黄色ブドウ球菌によるペプチドグリカン連結型SpAの放出。
図18図18A~B ヒトIgGのFcγドメインへのSpAの結合は、抗体のエフェクター機能(Fc受容体と補体受容体との会合)および貪食細胞による黄色ブドウ球菌のオプソニン化による殺傷を阻止する。ブドウ球菌プロテインAの免疫回避特性。(A)黄色ブドウ球菌の表面上の細胞壁固定SpAは、ヒトIgG(IgG1、IgG2、およびIgG4)のFcγに結合し、細菌のオプソニン作用による殺傷を引き起こす抗体のエフェクター機能を阻止する。(B)ヒトIgG、その抗原結合パラトープ(紫色)エフェクター(C1q、FcγRs、FcRn)、およびSpA結合部位の一次構造を図解する略図。
図19図19A~B ブドウ球菌プロテインAの免疫回避特性。(A)黄色ブドウ球菌感染時のSpAの免疫回避機能。黄色ブドウ球菌の表面上の細胞壁固定SpAは、ヒトIgGのFcγに結合し、細菌のオプソニン作用による殺傷を引き起こす抗体のエフェクター機能を阻止する。放出型SpAは、ヒトIgGおよびIgM(B細胞受容体)のVH3イディオタイプバリアント重鎖と架橋し、B細胞増殖、クラススイッチ、体細胞超変異、およびSpAによって架橋できるが黄色ブドウ球菌抗原を認識しないVH3イディオタイプ抗体の分泌を活性化し、それによって、黄色ブドウ球菌に対する適応免疫反応の発生および防御免疫の確立を阻止する。(B)VH3イディオタイプB細胞受容体(IgM)に対するSpA結合およびその架橋ならびにCD79ABシグナル伝達の活性化を図解する略図。
図20図20A~B 組換えSpA、SpAKKAA、SpAAA、およびSpAKKAAの免疫グロブリン結合ドメイン(IgBD)。(A)大腸菌の細胞質からのNi-NTAでのアフィニティークロマトグラフィーを介する精製のためのN末端ポリヒスチジンタグを有する組換えSpAのIgBDの一次構造を図解する略図。IgBD-Eドメインのアミノ酸配列を下に示す。各IgBDでの3つのα-ヘリックスの位置(H1、H2、およびH3)を表示する。SpAKKおよびSpAKKAAはQ9,10K(Gln9,10Lys)でのアミノ酸置換を保有する。SpAKKおよびSpAKKAAは、D36,37A(Asp36,37Lys)でのアミノ酸置換を保有する。番号付けは、B-IgBDにおけるアミノ酸の位置を指す。(B)SpAの5つのIgBDのアミノ酸配列アライメント。保存アミノ酸をピリオド(.)によって表示する。アライメント中のギャップをダッシュ(-)によって表示する。非保存アミノ酸を一文字コードで列記する。Graille et al. (138)によって報告されたように、IgG Fcγ結合に関与するSpA残基を赤色で強調する。VH3重鎖結合を担うSpA残基は緑色で強調する。ピンク色の残基(Q32)は、FcγおよびVH3結合の両方に寄与する。
図21図21A~B SpA関連VH3架橋活性およびアナフィラキシー。(A)ヒト活性化FcγおよびFcε受容体ならびにそれらのVH3イディオタイプIgGおよびIgEリガンドの構造を図解する略図。(B)好塩基球またはマスト細胞上でそれぞれFcγRおよびFcεR受容体に結合するVH3イディオタイプIgGまたはIgEのSpA架橋は、アナフィラキシー反応、血管拡張、およびショックを促進する、ヒスタミン、炎症性メディエータ、およびサイトカインの放出を引き起こす。(B)で図示していないが、マスト細胞および好塩基球はどちらも、FcγRおよびFcεR受容体を発現し、ヒスタミン、炎症促進性メディエータ、およびサイトカインによるFcγRに結合しているVH3イディオタイプIgGのSpA架橋またはFcεR受容体に結合しているVH3イディオタイプIgEのSpA架橋に反応する。
図22】マウスにおけるSpAワクチン候補のアナフィラキシー活性。μMTマウス(n=5)を耳での皮内注入によりVH3 IgGで感作した。候補ワクチン抗原またはPBS対照を24時間後に静脈内注入し、その後続いてエバンスブルーを注入した。30分後の耳組織からの抽出後に、620 nmでの分光光度的測定によって、色素の血管外漏出を定量化した。3つの独立した実験からデータを得た。データの統計分析のために、Bonferroniの多重比較検定による一元配置ANOVAを実施した。記号:ns、有意差なし;*、P<0.05;**、P<O.01;***、P<0.001;****、p<0.0001。
図23図23A~B マスト細胞の脱顆粒。培養したヒトマスト細胞(LAD2)をVH3 IgEで一晩感作し、洗浄し、未処置のまま(PBS)にしたか、または陽性対象としてSpAまたは試験物品SpAKKAA、SpAQ9,10K/S33E、SpAQ9,10K/S33T、もしくはSpA-KRに1時間曝露した。β-ヘキソサミニダーゼおよびヒスタミンレベルを細胞ペレットならびに上清で測定した。β-ヘキソサミニダーゼ放出のパーセンテージ(A)およびヒスタミン放出の量(B)を示す。データの統計分析のために、Bonferroniの多重比較検定による一元配置ANOVAを実施した。記号:ns、有意差なし;*、P<0.05;**、P<O.01;***、P<0.001;****、P<0.0001。
図24A図24A~E SpAKKAAまたはSpAQ9,10K/S33EまたはSpAQ9,10K/S33Tでの免疫は、漸進的な脱コロニー化を促進する。C57BL/6マウスのコホート(n=10)に1×108 CFUの黄色ブドウ球菌WU1を鼻腔内接種した。(A、B、D)マウスから週に1回、咽頭においてぬぐい液を採取し、細菌負荷を計数した。(C、E)糞便試料を接種後週に1回収集し、細菌負荷を計数した。パネル(A)では、動物をアジュバント-PBSまたは-SpAKKAAで免疫した。パネル(B~C)では、動物をアジュバント- SpAKKAAまたは-SpAQ9,10K/S33Eで免疫し;同じコホートの動物を咽頭試料(B)および糞便試料(C)における細菌負荷についてモニターした。パネル(D~E)では、動物をアジュバント-PBSまたは-SpAKKAAまたは-SpAQ9,10K/S33Eまたは-SpAQ9,10K/S33Tで免疫し;同じコホートの動物を咽頭試料(D)および糞便試料(E)における細菌負荷についてモニターした。各四角は、咽頭ぬぐい液1ミリリットル当たりまたは糞便1グラム当たりのCFUの数を示す。特定の日での動物の各群の中央値および標準偏差を横線およびエラーバーによって表示する。Sidak多重比較検定による二元配置分散分析によって、データを調べた(*、p<0.05)。パネル(D~E)では、各群のデータ(1~8の各々)はそれぞれ、モック、SpAKKAA、SpAQ9,10K/S33E、またはSpAQ9,10K/S33Tからのデータを表す。パネルBおよびCにおける2群間で統計的有意差は示されなかった。
図24B図24Aの説明を参照されたい。
図24C図24Aの説明を参照されたい。
図24D図24Aの説明を参照されたい。
図24E図24Aの説明を参照されたい。
図25図25A~C 血流感染のマウスモデルにおけるSpAワクチン候補の防御活性。3週齢のBALB/cマウス(n=15)をSpAKKAAまたはSpAQ9,10K/S33EまたはSpAQ9,10K/S33TまたはPBS対照で免疫した。モックまたはブースター免疫を11日目に行った。20日目に、マウスを出血させ、y軸上にSpA*と表記される、ワクチン候補に対する血清最大半量抗体力価を評価した。各群の3つのバーは、左から右にかけて、SpAKKAA、SpAQ9,10K/S33E、およびSpaAQ9,10K/S33Tを表す。(A)21日目に、マウスを右目の眼窩周囲静脈洞内への5×106 CFUの黄色ブドウ球菌 USA300(LAC)により抗原投与した。抗原投与の15日後、動物を安楽死させ、腎臓(B)におけるブドウ球菌負荷を計数し、かつ膿瘍病変(C)を計数した。データの統計分析のために、Bonferroniの多重比較検定による一元配置ANOVAを実施した。記号:ns、有意差なし;*、P<0.05;**、P<O.01;***、P<0.001;****、P<0.0001。
図26図26A~C SpAワクチン候補とSpA中和モノクローナル抗体3F6との間の相互作用。3F6抗体、HEK293 F細胞に由来する組換えrMAb 3F6(A、rMAb 3F6)またはマウスハイブリドーマモノクローナル抗体(B、hMAb 3F6)を、SpAKKAAまたはSpAQ9,10K/S33EまたはSpAQ9,10K/S33Tまたは PBS対照のいずれかでコーティングされた酵素結合免疫吸着アッセイプレート全体にわたって連続的に希釈した。(C)GraphPad Prismソフトウェアを用いて、会合定数を計算した。
【発明を実施するための形態】
【0094】
詳細な説明
黄色ブドウ球菌は、ヒト皮膚および鼻孔の片利共生細菌であり、かつ血流、皮膚、および軟組織の感染の主な原因である(Klevens et al., 2007)。近年のブドウ球菌疾患の死亡率の劇的な増加は、抗生物質に対して感受性を有さないことが多いメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)株の拡大に起因する(Kennedy et al., 2008)。大規模な後ろ向き研究では、MRSA感染の発生率は、米国において全入院の4.6%であった(Klevens et al., 2007)。米国における94,300名のMRSAに感染した個人に対する年間医療費は、24億ドルを上回る(Klevens et al., 2007)。現在のMRSAの蔓延は、予防ワクチンの開発によって取り組む必要がある公衆衛生上の危機を引き起こしている(Boucher and Corey, 2008)。今日まで、黄色ブドウ球菌疾患を予防するFDA認可済みのワクチンは、利用可能ではない。
【0095】
発明者らは、本明細書において、サブユニットワクチンとして機能し得る変種の作製のための、ブドウ球菌の細胞壁固定表面タンパク質であるプロテインAの使用を記載する。ブドウ球菌感染の病態形成は、外傷、手術創、または医療デバイスを介して細菌が皮膚または血流に侵入する際に始まる(Lowy, 1998)。侵入した病原体は貪食され殺傷され得るが、ブドウ球菌はまた、自然免疫防御および器官組織における種感染(seed infection)を回避し、マクロファージ、好中球、および他の貪食細胞を誘引する炎症反応を誘導することもできる(Lowy, 1998)。感染部位への免疫細胞の応答性浸潤は、宿主がブドウ球菌拡大を阻止し、壊死性組織デブリの除去を可能にしようとするので、液化壊死を伴う(Lam et al., 1963)。そのような病変は、顕微鏡によって、壊死組織、白血病、および細菌の中心病巣を含む細胞過多領域として観察することができる(Lam et al., 1963)。ブドウ球菌性膿瘍が外科的に排出され、抗生物質で処置されない限り、播種性感染および敗血症が致死的な転帰をもたらす(Sheagren, 1984)。
【0096】
II. ブドウ球菌抗原
A. ブドウ球菌プロテインA(SpA)
ブドウ球菌プロテインA(SpA)は免疫グロブリンに結合し、それによって、宿主免疫反応からの黄色ブドウ球菌の回避を可能にする。Fcγに結合するSpAは、IgG抗体のエフェクター機能および免疫細胞によるブドウ球菌のオプソニン作用による殺傷を阻止する。VH3イディオタイプIgMのバリアント重鎖のSpA架橋は、B細胞増殖、および黄色ブドウ球菌の抗原決定因子に結合できないVH3クローン抗体の分泌を引き起こす。さらに、マスト細胞および好塩基球上でのVH3イディオタイプIgGおよびIgEのSpA架橋は、ヒスタミン放出およびアナフィラキシーを促進する。以前の研究は、Fcγおよびバリアント重鎖結合の欠如を伴うSpAKKAAを開発した。前臨床試験でワクチンとして試験すると、SpAKKAAは、SpA中和抗体を誘発し、黄色ブドウ球菌コロニー形成および侵襲性疾患に対して動物を保護する。以下の実施例は、SpAKKAAがVH3イディオタイプIgGおよびIgEに対する架橋活性を保持し、アナフィラキシーを引き起こすことを示し、それがヒトにおける使用で安全ではないことを示唆する。発明者らは、VH3重鎖架橋およびアナフィラキシー活性を欠くSpA変種がSpA中和抗体を誘発し、黄色ブドウ球菌コロニー形成および血流感染から動物を保護することを実証する。したがって、VH3イディオタイプ免疫グロブリンを架橋できないSpA変種は、ヒトにおいて黄色ブドウ球菌コロニー形成および侵襲性疾患を妨げるために用いることができる。
【0097】
B. 黄色ブドウ球菌によって引き起こされるコロニー形成および疾患
黄色ブドウ球菌は、ヒト上咽頭および胃腸管にコロニー形成し、ヒト集団のおよそ3分の1で持続性の生着菌として認められる(14)。ヒト集団の残りは、黄色ブドウ球菌によって断続的にコロニー形成される(14)。実質的に全てのヒトが、小児期に黄色ブドウ球菌の分子決定因子の一部に対する抗体を発生する(99)。しかしながら、これらの免疫反応は、黄色ブドウ球菌コロニー形成に影響を与えないか、または侵襲性疾患から保護しない(99)。コロニー形成は、軟組織、創傷、肺、骨格、血流、および手術部位の感染を含む、黄色ブドウ球菌の市中侵襲性疾患または院内侵襲性疾患の重要なリスク因子である(14、100、58、6)。米国では、340万例の黄色ブドウ球菌市中感染(CAI)および340,000例の院内感染(HAI)が、抗生物質および/または外科的療法を必要とする(49~51)。MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)と名付けられた抗生物質耐性黄色ブドウ球菌株による感染は、CAIの7%およびHAIの22%で発生し、処置の失敗および死亡を含む疾患アウトカム不良を伴う(85)。全ての黄色ブドウ球菌疾患の特徴は、その再発率(すなわち、5例のうち4例において、再発感染が同じ株によって引き起こされる)、および感染宿主が防御免疫を確立できないことである(16)。コロニー形成を阻害し、侵襲性疾患を予防できるブドウ球菌ワクチンの開発は、緊急かつ未だ対処されていない臨床上のニーズである。複数のワクチン候補が臨床的有効性試験に供されているが、製品はそれらの臨床エンドポイントを達成することができなかった(59~60、101)。
【0098】
C. ブドウ球菌プロテインA(SpA)は重要な免疫回避決定因子である
ソルターゼA固定表面タンパク質であるブドウ球菌プロテインA(SpA)は、黄色ブドウ球菌のコロニー形成および感染時に防御免疫の発生を妨げる重要な免疫回避決定因子として機能する(75、33、102、48)。全ての黄色ブドウ球菌臨床分離株は、N末端 YSIRK/GxxSシグナルペプチド、それに続く4~5個の免疫グロブリン結合ドメイン、領域Xリピート(Xr)、LysMドメイン、およびLPXTG選別シグナルで構成される前駆体産物を生じるブドウ球菌プロテインA(spa)の遺伝子を保有する(29、32、103)(図17A)。SpA前駆体は、細菌細胞質に存在し、そのN末端YSIRK/GxxSシグナルペプチドを介して中隔膜で分泌経路に進入する(68、104)。中隔膜に移動すると、C末端LPXTG選別シグナルはソルターゼAによって切断され、その活性部位システイン残基とLPXTGモチーフ中のスレオニン(T)のカルボキシルとの間にチオエステル中間体を形成する(105~108)(図17B)。チオエステル中間体は、リピドII[C55-(PO4)2-MurNAc(L-Ala-D-iGlu-L-Lys(NH2-Gly5)-D-Ala-D-Ala)-GlcNAc]におけるアミノ基(NH2-)の求核攻撃によって分離され、C末端スレオニンとペンタグリシン架橋との間にアミド結合を生じる(107、109)。次いで、SpA-リピドII中間体は、横断壁ペプチドグリカンに取り込まれ、細菌表面上に提示される(108、70)。
【0099】
細菌表面上の細胞壁固定SpAは、IgGのFcγドメインに結合し、抗体のエフェクター機能を不能にし、それによって、宿主免疫細胞によるオプソニン作用による殺傷(OPK)からブドウ球菌を保護する(48、76)(図18)。複製時、ブドウ球菌は、中隔膜の近傍における横断壁を分解する壁分解酵素(muralytic enzyme)活性のために、そのペプチドグリカンの一部およびペプチドグリカン連結SpA(本明細書において放出型プロテインA または放出型SpAと名付けられる)を宿主環境内に放出する(110、111)(図17B)。放出型SpAは、構造L-Ala-D-iGln-L-Lys(SpA-LPET-Gly5)-D-Ala-Gly4によって細胞壁ペプチドにつなぎとめられる(46)。放出型SpAは、VH3イディオタイプ B細胞受容体(BCRまたはIgM)を活性化し、それによって、B細胞増殖ならびに活性化形質芽細胞の発生を介するVH3イディオタイプIgG、IgA、IgD、IgE、およびIgMの分泌を促進する(75、33)(図19)。
【0100】
D. SpAの免疫グロブリン結合および毒性の特性
SpAのN末端免疫グロブリン結合ドメイン(IgBD)(E、D、A、B、およびCと名付けられた134~137、72アミノ酸残基の三重らせんフォールド)は各々、ヒトIgG1、IgG2、およびIgG4のFcγドメインに結合する(112~116、71)(図20)。SpAは、ヒトIgG3のFcγドメインに結合せず、このIgGサブクラスのみが短い血漿半減期を有する(113、117)。5つのIgBDの各々は、IgM(BCR)、IgG、IgE、IgD、およびIgA を含む、VH3クローンヒト免疫グロブリンのバリアント重鎖にも結合する(75、48、76、118~135、43)(図19)。IgBDの結合部位は重複しておらず、各SpAモジュールは抗体のFcγおよびVH3重鎖に同時に結合可能である(48)(図20)。SpAの重大な特性は、免疫細胞によるOPKで必要とされる、Fcγ受容体(FcγR)およびC1qの結合部位を含む、抗体のエフェクター機能(Fcγ)と相互作用できるその能力である(71、72、136、137)(図18B)。ヒト免疫系では、IgM(Fcγを欠く)の54%および末梢血B細胞がSpAと相互作用する(75、73、74)。SpA結合は、以下のより少ない遺伝子を有する他の主要なおよびマイナーなVH遺伝子:VH1 [11遺伝子]、VH2 [2遺伝子]、VH4 [11遺伝子]、VH5 [2遺伝子]、VH6 [1遺伝子]、およびVH7 [1遺伝子]と比較して、22遺伝子を含むVH3遺伝子ファミリーのバリアント重鎖産物に限定される(138)。コロニー形成および侵襲性疾患時、放出型SpAは、VH3クローンB細胞受容体を架橋し、バリアント重鎖のSpAへの改善された結合のために体細胞超変異を介して適合されるが、抗原としてブドウ球菌決定因子を認識することができない抗体(IgG、IgA、IgD、およびIgE)の分泌を引き起こす(15)(図19)。このB細胞スーパー抗原活性(BCSA、すなわち、放出型SpAのVH3結合活性)は、コロニー形成または侵襲性疾患時の黄色ブドウ球菌に対する防御免疫の発生の妨害を担う(102、48、139)(図19)。
【0101】
SpAの免疫グロブリン結合特性はまた、精製タンパク質をヒトまたは動物に注入するときの毒性にも関連する。例えば、モルモットIgMの20~30%は、それらのバリアント重鎖(VH3イディオタイプ)を介してSpAと相互作用し(76);モルモットの血流内への精製SpA(500 μg)の注入は、不穏状態、呼吸促迫、および死亡を含む、アナフィラキシーショックを生じる(140)。0.01 μgの用量ですら、SpAはモルモットにおいて血管漏出を引き起こす(140)。マウスでは、IgMの5~10%のみが、それらのバリアント重鎖(VH3イディオタイプ)を介してSpAと相互作用する(76)。マウスは、SpA誘導性アナフィラキシーに対して抵抗性を有するが、これらの動物は、ヒトIgGの静脈内注入で処置されると、変質し、活性化された好塩基球およびマスト細胞からのヒスタミン放出によってSpA注入に屈し得る(141、142)(図21)。SpA誘導性アナフィラキシーショックは、H1受容体ヒスタミンアンタゴニストであるメピラミンによる動物の前処置によって予防される(140)。ヒトへの精製SpAの静脈内注入(0.3~0.45 μg/kg)は、頭痛、悪心、筋肉痛、胸痛、発熱、急性リンパ球減少症、および白血球減少症などの重篤な有害事象を伴う(143)。したがって、精製SpAは細菌毒素であり、ヒトでの使用に安全とはみなされない(143、144)。SpAの毒性活性は、好塩基球およびマスト細胞上のその同族受容体に結合しているヒトIgGおよびIgEに対するそのVH3架橋活性と関係していて、それによって、ヒスタミンおよびサイトカイン放出、血管拡張、血管漏出、およびショックを引き起こす(140、142、144、145)(図21)。
【0102】
E. SpAKKAA
水酸化アルミニウムまたはフロイントのアジュバントで免疫賦活し、マウスまたはモルモットに注入した場合、精製SpAは、その5つのIgBDに対して向けられる動物における抗体反応を誘発しない(76、43)。同様に、黄色ブドウ球菌コロニー形成または侵襲性疾患は、マウス、モルモット、またはヒトにおいてSpA IgBD特異的抗体の発生を付随しない(75、102、48、43)。以前の研究は、最初にSpAのD免疫グロブリン結合ドメインを分析することによって、組換えSpA変種を開発した。Kimと共同研究者らは、グルタミン(QまたはGln)9および10をリジン(KまたはLys)と、ならびにアスパラギン酸(DまたはAsp) 36および37をアラニン(AまたはAla)と置換し、SpA-Dと免疫グロブリンとの会合を妨害した(43)。置換Q9K、Q10K、D36A、およびD37Aを組換えポリヒスチジンタグ付きSpA-Dに導入し、SpA-DKKAAを作製した。ニッケル-ニトリロ三酢酸-アガロース(Ni-NTA)上に精製および保持されているSpA-DまたはSpA-DKKAAがヒトIgGまたはIgMに結合しその後共溶出される能力は最終的に、ELISAによって分析された。予想通りに、SpA-DはNi-NTA上でヒトIgGおよびヒトIgMを保持した。SpA-Dと比較して、SpA-DKKAAは、ヒトIgGの5.6(±0.6)%(P<0.0001)およびヒトIgMの75.6(±4.6)%(P=0.008)を捕捉した(括弧内の数値は平均値の標準誤差であり;統計的有意差を独立スチューデントt検定によって計算した)(43)。組換えポリヒスチジンタグ付き SpA(全長SpA前駆体のシグナルペプチド、Xr、LysM、およびLPXTG選別シグナルを欠いている)の5つのIgBDの各々にQ9K、Q10K、D36A、およびD37Aを導入して、SpAKKAAを作製した(図19)(42)。ポリヒスチジンタグ付き組換えSpAとの比較で分析すると、SpAKKAAは、Ni-NTAカラムでヒトIgGの2.3(±0.1)%(P=0.0001)、ヒトIgGのFcγ断片の2.2(±0.1)%(Fcγ結合活性、P<0.0001)、ヒトIgGのF(ab)断片の4.4(±1.0)%(VH3結合活性、P<0.0001)、およびヒトIgMの4.2(±0.1)%(VH3結合活性、P<0.0001)を捕捉した(43)。したがって、SpAKKAAは、SpAのヒト免疫グロブリンとの2つの結合活性、すなわち、IgG(IgG1、IgG2、およびIgG4)のFcγドメインおよびVH3イディオタイプ免疫グロブリンのバリアント重鎖とのその会合、の欠如を示す。
【0103】
F. ワクチン抗原としてのSpAKKAA
ポリヒスチジンタグ付け組換えSpAおよびSpAKKAAを、Ni-NTA上で固定化金属アフィニティークロマトグラフィー(IMAC)によって精製した(43)。溶出液をPBSで透析し、Triton X-114抽出してエンドトキシンを除去し、透析し、タンパク質濃度を決定し(BCAアッセイ)、クーマシー染色SDS-PAGEおよびHPLCにより純度(>90%)を確認した(43)。SpAならびにSpAKKAAは、水酸化アルミニウムに吸着された[SpAKKAA Al(OH)3]か、または完全[SpAKKAA CFA]もしくは不完全[SpAKKAA IFA]いずれかのフロイントのアジュバントで乳化された(43)。50 μg SpAKKAA CFA/IFAによるC57BL/6およびBALB/cマウスのプライムブースター(11日間隔)免疫は、SpAKKAA抗原に対する高力価血清IgG抗体 [9.2 μg /ml(±1.1); 1:6,000 ELISA 最大半量の力価]を誘発する(43)。50 μg SpAKKAA Al(OH)3によるC57BL/6およびBALB/cマウスのプライムブースター免疫は、低力価抗体[1 :500、最大半量の力価]を生じ;より高力価のIgGが、SpAKKAA Al(OH)3で免疫したCD1マウスにおいて観察された[1:4,000 最大半量の力価](76)。プライム-2ブースターレジメン(14日間隔)および100 μg SpAKKAA Al(OH)3によるモルモットの免疫は、SpAKKAAに対する高力価の血清IgG[1:50,000 最大半量の力価]をもたらす(76)。SpAKKAA特異的マウスおよびモルモットIgGは、SpAの5つのIgBDのそれぞれに結合し、FcγまたはVH3イディオタイプ重鎖を介してマウス、モルモット、またはヒトIgGに結合するその能力を中和する(76)。さらに、SpAKKAA特異的マウスおよびモルモットIgGは、細菌表面上の免疫グロブリンへのSpA結合を中和し、抗凝固処理したマウス、モルモット、およびヒト血液において黄色ブドウ球菌NewmanおよびMRSA USA300 LACのOPKを促進する(48、76、43)。SpAKKAAによるマウスおよびモルモットの免疫は、黄色ブドウ球菌血流感染から動物を保護する(76、43)。SpA IgBDに対して向けられた精製されたポリクローナルまたはモノクローナル抗体(マウスモノクローナル抗体 3F6)の腹腔内または静脈内投与は、黄色ブドウ球菌血流感染からの保護(生存率の増加、器官組織中の細菌負荷の低下、および膿瘍形成の低下)に十分であることから、保護はSpA-中和抗体に基づく(76、84、146、147)。さらに、SpAのBCSA(VH3架橋活性)を中和することによって、SpA-IgBD特異的抗体は、黄色ブドウ球菌血流感染時に分泌抗原に対するマウスおよびモルモットのIgG反応をブーストし、SpAKKAA免疫動物が回避する細菌(bacterial evader)を排除し再発疾患に対する防御免疫を確立するのを可能にする(48、76、43、147)。これに対して、未処置動物またはSpA免疫動物は黄色ブドウ球菌に対する防御免疫を確立することができない(48、43)。
【0104】
G. 黄色ブドウ球菌コロニー形成時のSpAの役割
以前の研究は、ヒトの剥離した鼻粘膜上皮細胞に対する細菌付着およびマウスのインビボコロニー形成を測定して、コロニー形成に寄与する黄色ブドウ球菌因子を特定しようとした(17、18、20)。これらには、鼻粘膜上皮のF型スカベンジャー受容体(SREC-I)に結合する細胞壁タイコ酸(WTA)のD-AlaおよびGlcNAc改変が含まれる(18、27、28)。さらに、クランピング因子B(ClfB)は、鼻粘膜上皮においてロリクリンおよびサイトケラチン-10に対するブドウ球菌付着を促進する(21)。野生型黄色ブドウ球菌と比較して、同質遺伝子clfB変異体は、ヒトボランティアの鼻粘膜上皮に対する付着の減少を示した(7)。鉄調節型表面決定因子A(Iron-regulated surface determinant A)(IsdA)は、宿主ヘムタンパク質からの鉄除去に寄与し、ラクトフェリンに結合し、鼻汁中のラクトフェリンの抗ブドウ球菌活性を阻害する(23、24)。黄色ブドウ球菌表面プロテインG(SasG)は、鼻組織上でのバイオフィルム形成時に細菌細胞間の亜鉛依存性接着を媒介する(25、26)。このように、複数の因子が、上咽頭組織へのブドウ球菌付着、バイオフィルム形成、およびコロニー形成に必要とされる(78)。重要なことに、ヒト臨床分離株によるマウスの鼻コロニー形成は、常在細菌叢を枯渇させ、抗生物質耐性黄色ブドウ球菌の選択をもたらすために、動物の事前の抗生物質処置を必要とする(19)。したがって、マウスは、ヒト臨床黄色ブドウ球菌分離株によって持続的にコロニー形成されない(20)。黄色ブドウ球菌の鼻コロニー形成時のブドウ球菌プロテインA(SpA)の役割は謎である(29)。Oxfordshire(UK)で6,110名の個人について分析すると、コロニー形成した黄色ブドウ球菌株は全て、spaを発現する(32、31)。spa遺伝子のタンデムリピート構造は、高頻度の組換えを促進し、ヒトコロニー形成は、その産物が5つIgBDを維持しているspa対立遺伝子を選択し、ブドウ球菌に強力なBCSAを授ける(33、32)。ムピロシン処置を介して鼻腔内保菌が除去されているヒトボランティアを分析すると、黄色ブドウ球菌spa発現は、ヒト鼻組織に対する細菌付着に必要とされなかった(34)。
【0105】
多座配列ST88型クレードのメンバーである黄色ブドウ球菌WU1は、雄のC57BL/6マウス内での包皮腺膿瘍の大発生から単離された(102)。ヒト臨床分離株とは異なり、黄色ブドウ球菌WU1は、抗生物質選択なしにC57BL/6およびBALB/cマウスの上咽頭に持続的にコロニー形成し、雌親から受け継がれ、それらの子孫に持続的にコロニー形成する(102)。野生型黄色ブドウ球菌WU1と比較して、ΔsrtA変異体は、表面タンパク質のいずれも細菌エンベロープに固定できず、C57BL/6マウスの上咽頭にコロニー形成できない(102)(未発表の観察)。これに対して、Δspa変異体は、マウスの初期コロニー形成において欠陥を示さない(102)。それにもかかわらず、Δspa変異体は維持できず、初期コロニー形成の最初の3週間後に上咽頭から除去される(102)。脱コロニー化は、ClfB、IsdA、SasG、および他のブドウ球菌表面タンパク質に対する血清IgGの増加に関連する(102)。精製SpAKKAAによるマウスの免疫は、病原体特異的IgG(抗ClfB、抗IsdA、抗SasG、抗FnbA、抗FnbB、抗Coaを含む)を増加させるSpA中和抗体を生じ、それによって、黄色ブドウ球菌WU1の脱コロニー化を促進する(102)。同様に、SpA-IgBD中和マウスモノクローナル抗体3F6の腹腔内投与は、IgGおよび分泌IgAの病原体特異的な増加ならびに上咽頭および胃腸管からの黄色ブドウ球菌の除去を促進する(146)。まとめると、これらのデータは、黄色ブドウ球菌コロニー形成が宿主組織内へのSpAの放出およびB細胞反応の迂回路(diversion)に関連し、それによって、粘膜表面上での病原体の持続が可能になることを示唆する(102)。SpAKKAAワクチン誘導性抗SpA抗体は、一緒に黄色ブドウ球菌コロニー形成を減少させる、多数の異なる分泌ブドウ球菌抗原に対するIgG反応を促進することによって、このメカニズムを邪魔する(102)。
【0106】
H. 免疫グロブリンおよびモノクローナル抗体(MAb)のアフィニティークロマトグラフィーのための操作SpA
組換えSpA、全長または個別のドメイン(E、D、A、B、C)は、モノクローナル抗体(MAb)のアフィニティークロマトグラフィー精製のためのリガンドとして広く用いられている(147、148)。臨床用途で開発される多数のヒトMAbが、VH3イディオタイプIgG1のクラスに属する。組換えSpAは、VH3バリアントフレームワークおよびFcγの両方を介してそのような抗体に結合でき(図18および19)、それによって、SpAアフィニティー樹脂(例えば、5つ全てのIgBD E、D、A、B、Cを包含するMab Select(商標))からのMAb溶出で低pH(pH 3.1)を必要とする。MAb溶出での低pHの使用は、抗体のアンフォールディングおよび凝集を伴う(149)。さらに、組換え野生型SpAは、Asn-Gly残基でアルカリ切断に対して感受性であり、混入したタンパク質および脂質を取り除きかつ混入した微生物を殺傷する、アルカリ(≧0.1 M NaOH)を用いる定置洗浄(cleaning-in-place)プロトコール時のSpAアフィニティーカラムの有用性を制限する(147、149)。Zドメインは、2つのアミノ酸置換Ala1ValおよびGly29Alaを保有する合成の操作された(SpAの5つのIgBD全てに由来する理想化配列)Bドメインである(148、150、151)。後者のアミノ酸置換は、アルカリ感受性Asn28-Gly29ペプチド結合を取り除く(151、152)。2個(ZZ)、5個(ZV)、および10個(ZX)のZドメインのタンデムリピートが、抗体に結合することが示されており、MAbの精製で用いられている(130、150)。Gly29Ala置換はまた、IgG1抗体のVH3フレームワークに対するZ、ZZ、およびZZZZ(MabSelectSure(商標))の結合も減少させ、それによって、IgG1溶出に必要とされるpH(pH 3.7)を低下させる(148、151、152)。アルカリ感受性Asn28-Gly29結合は、IgBD-Cドメイン(Thr28-Gly29)中には存在せず、アルカリに対して本質的に耐性である(151)。フォールディングしたネイティブなIgBD-C対フォールディングしていないIgBD-C変種(Ser33位またはAsp36位に8つのアミノ酸置換のうち一つを有する)の遊離エネルギー変化(ΔG)のコンピュータ分析は、熱安定性の変化と相関すると仮定したが、この推測は実験的に検証されていない(149)。インシリコで低下したΔGはさらに、VH3バリアント重鎖に対する低下した結合を特定すると仮定された;この推測もまた実験的に検証されていない(149)。さらに、インシリコでの予測は最弱の結合および最大の安定性を有するアミノ酸置換を特定できるという仮定もまた検証できなかった(149)。それにもかかわらず、それぞれ単一アミノ酸置換Gly29Ala、Ser33Glu、およびAsp36Argを有する5つのIgBD-Cドメインのタンデムリピートを作製し、それによってC-G29A.5d、C-S33A.5d、およびC-D36A.5dを得ることによって、ΔGの中間変化を有する一つの変異体、それぞれSer33GluおよびAsp36Argが、実験的試験のために選択された(149)。3種類のタンパク質C-G29A.5d、C-S33E.5d、およびC-D36A.5dは全て、3~5×108 M-1の会合定数KaでヒトIgGに結合した(149)。ヒトIgGに対する野生型プロテインAの会合定数は、Ka 1.4×108 M-1である(153)。VH3イディオタイプIgGに対する結合を測定するために、Yoshida et al.は、パパイン処理を用いて、一部の乳がん細胞上のHer2に結合するチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞で作製したVH3イディオタイプIgG1 MAbであるトラスツズマブからFab断片を作製した(149)。トラスツズマブFabに対するC-G29A.5dの親和性はKa 4.4×105 M-1を測定し;C-S33E.5dおよびC-D36A.5dは、非特異的結合と一致する値である、親和性のほぼ100倍の低下(Ka 5×103 M-1)を示した(149)。
【0107】
本明細書において、発明者らは、特にそのVH3架橋活性を除去することによって、将来の臨床試験でのSpAKKAAワクチン安全性を改善しようと努めた。SpA IgBD残基Gly29、Ser33、およびAsp36は、ヒト免疫グロブリン重鎖上のVH3フレームワーク残基と接触して重要な結合を確立し、それによってVH3イディオタイプB細胞受容体を架橋する、ヘリックス2の縁に沿って位置する(138、154)。これまでの研究は、SpAKKAAワクチン抗原を開発すると同時に、Asp36,37Alaアミノ酸置換を既に調べている(43、154)。そのため、発明者らは、SpAの5つのIgBDのそれぞれにおいてGly29位およびSer33位のアミノ酸の系統的な分析に着目し、FcγへのSpA結合を低下させることが公知のアミノ酸置換であるGln9LysおよびGln10Lysの状況におけるヒト免疫グロブリンへの結合へのそれらの寄与を試験した(48、43)。そのようなSpAワクチン構築物がSpA特異的抗体を誘発しかつ黄色ブドウ球菌コロニー形成および侵襲性疾患に対する保護を生じる能力について調査した。安全性を評価するために、発明者らは、ヒトVH3イディオタイプIgGの存在下でアナフィラキシーを刺激するそれらの効力についてのインビトロおよびインビボ前臨床モデルでSpAワクチン候補を分析した。
【0108】
I. ブドウ球菌コアグラーゼ
コアグラーゼはブドウ球菌によって産生される酵素であり、フィブリノゲンをフィブリンに変換する。CoaおよびvWhは、タンパク質分解なしでプロトロンビンを活性化する(Friedrich et al., 2003)。コアグラーゼ・プロトロンビン複合体はフィブリノゲンを特異的基質として認識し、フィブリノゲンを直接的にフィブリンへ変換する。活性複合体の結晶構造によって、D1およびD2ドメインのプロトロンビンとの結合ならびにそのIle1-Val2 N末端のIle16ポケットへの挿入、その結果、立体構造変化を通じた酵素前駆体における機能的な活性部位の誘導が明らかとなった(Friedrich et al., 2003)。α-トロンビンのエキソサイトI、フィブリノゲン認識部位、およびプロトロンビン上のプロエキソサイトIはCoaのD2によって遮断される(Friedrich et al., 2003)。それにもかかわらず、四量体(Coa・プロトロンビン)2複合体の結合により、高い親和性で新しい部位にてフィブリノゲンを結合する(Panizzi et al., 2006)。このモデルから、コアグラーゼによる凝固性および効率的なフィブリノゲン変換が説明される(Panizzi et al., 2006)。
【0109】
フィブリノゲンは、「三量体の二量体」を形成するように共有結合的に連結されたAα-鎖、Bβ-鎖およびγ-鎖の3つの対によって形成される大きな糖タンパク質(Mrおよそ340,000)であり、ここでAおよびBは、トロンビン切断によって放出されるフィブリノペプチドを指し示す(Panizzi et al., 2006)。この伸長分子は3つの別個のドメイン、つまり全6本の鎖のN末端を含む中央の断片EならびにBβ-鎖およびγ-鎖のC末端によって主に形成される2つの隣接断片Dに折り重なる。これらの球状ドメインは長い三重らせん構造によってつながれる。ヒトフィブリノゲンを自己重合性のフィブリンに変換するコアグラーゼ・プロトロンビン複合体は、循環血中トロンビン阻害剤によって標的化されない(Panizzi et al., 2006)。かくして、ブドウ球菌コアグラーゼは生理学的な血液凝固経路を迂回する。
【0110】
全ての黄色ブドウ球菌株はコアグラーゼおよびvWbpを分泌する(Bjerketorp et al., 2004; Field and Smith, 1945)。以前の取り組みによって、ブドウ球菌感染の発病に対してのコアグラーゼの重要な寄与が報告された(Ekstedt and Yotis, 1960; Smith et al., 1947)が、分子遺伝学のツールを用いたもっと最近の研究ではマウスの心内膜炎、皮膚膿瘍および乳腺炎モデルで病毒性の表現型がないことを認めることにより、この考えに異議が唱えられている(Moreillon et al., 1995; Phonimdaeng et al., 1990)。十分に病毒性の臨床分離株である黄色ブドウ球菌Newmanの同質遺伝子変種の作製(Duthie et al., 1952)により、coa変異体が実際に、マウスの致死的菌血症および腎膿瘍モデルにおいて病毒性の欠損を呈することが本明細書において記述される。本発明者らの経験では、黄色ブドウ球菌8325-4は十分に病毒性ではなく、この菌株における変異病変がインビボで病毒性の欠損を明らかにできないかもしれないと推測される。さらに、CoaまたはvWbpに対して作製された抗体は、遺伝子欠失の影響を反映する程度にまで黄色ブドウ球菌Newman感染の発病を撹乱する。CoaおよびvWbpはブドウ球菌膿瘍形成および致死的菌血症に寄与し、サブユニットワクチンにおける感染防御抗原として機能することもできる。
【0111】
生化学的研究によってCoaおよびvWbpに対する抗体の生物学的価値が立証される。抗原との結合および凝固因子とのその結合の遮断によって、抗体はCoa・プロトロンビンおよびvWbp・プロトロンビン複合体の形成を阻止する。受動移入研究から、CoaおよびvWbp抗体による、ブドウ球菌性の膿瘍形成および致死的攻撃からの、実験動物の防御が明らかになった。かくして、CoaおよびvWbp中和抗体はブドウ球菌疾患に対する免疫防御を生み出す。
【0112】
以前の研究によって、血中での食作用に耐えるのにコアグラーゼが要求されることが明らかとなり(Smith et al., 1947)、本発明者らは、レピルジン処理マウス血液にてΔcoa変異体に対して類似の表現型を認めた(以下の実施例3を参照のこと)。vWbpはヒトプロトロンビンに対しマウス対応物よりも高い親和性を示すので、同じことがヒト血液中でのΔvWbp変種にも当てはまりうるのではないかと疑われる。さらに、膿瘍病変部におけるCoaおよびvWbpの発現、ならびにブドウ球菌膿瘍群集(SAC)周囲の好酸球性の偽被膜または末梢フィブリン壁におけるその顕著な分布から、分泌されたコアグラーゼがこれらの病変部の樹立に寄与することが示唆される。この仮説について試験したところ、実際に、Δcoa変異体は膿瘍の樹立において不完全であった。特異的抗体でCoa機能を遮断する、対応した試験によって同じ効果が生み出された。その結果として、予防ワクチンの開発のために標的化されうるブドウ球菌膿瘍の樹立においてはフィブリンの凝固が極めて重要な事象であるものと提案される。CoaもvWbpもともに、ヒトプロトロンビンに対するその重複機能から、ワクチン開発のための優れた候補であるものと考えられる。
【0113】
J. 他のブドウ球菌抗原
過去数十年の間にわたる研究から、重要な病毒性因子として黄色ブドウ球菌外毒素、表面タンパク質および調節分子が特定された(Foster, 2005; Mazmanian et al., 2001; Novick, 2003)。これらの遺伝子の調節に関して相当な進歩が達成された。例えば、ブドウ球菌は、同族受容体に閾値濃度で結合し、それによってリン酸リレイ反応の活性化および外毒素遺伝子の多くの転写活性化を行う自己誘導性ペプチドの分泌を介して細菌個体数の調査を行う(Novick, 2003)。ブドウ球菌感染の発病はこれらの病毒性因子(分泌された外毒素、エキソ多糖類および表面付着因子)に依る。ブドウ球菌ワクチンの開発は、ブドウ球菌浸潤機構の多面性によって妨げられる。弱毒化生微生物は極めて効果的なワクチンであることが十分に確立されている。このようなワクチンによって誘発される免疫反応は多くの場合、複製しない免疫原によってもたらされる免疫反応よりも大きなものであり、長い作用時間のものである。これに対する一つの説明は、弱毒化生菌株が宿主において限定的な感染を樹立し、自然感染の初期段階を模倣するということでありうる。本発明の態様は、変種SpAポリペプチドおよびペプチド、ならびに感染に対しての軽減または免疫で用いるグラム陽性細菌の他の免疫原性細胞外タンパク質、ポリペプチドおよびペプチド(分泌タンパク質またはペプチドも細胞表面タンパク質またはペプチドもともに含む)を含む、組成物および方法に関する。特定の態様において、細菌はブドウ球菌細菌である。細胞外タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドには、標的細菌の分泌タンパク質および細胞表面タンパク質が含まれるが、これらに限定されることはない。
【0114】
ヒト病原菌である黄色ブドウ球菌は細菌外被を越えて、EsxAおよびEsxB、二つのESAT-6様タンパク質を分泌する(参照により本明細書に組み入れられるBurts et al., 2005)。ブドウ球菌esxAおよびesxBは転写の順に6種の他の遺伝子: esxA esaA essA esaB essB essC esaC esxBとクラスタ形成される。頭文字esa、essおよびesxは、コードされるタンパク質が分泌に関して補助的(esa)もしくは直接的(ess)な役割を果たすか、または細胞外環境中に分泌される(esx)かどうかに依って、それぞれ、ESAT-6分泌の補助、系および細胞外を表す。8種の遺伝子のクラスタ全体は本明細書においてEssクラスタといわれる。EsxA、esxB、essA、essBおよびessCは全て、EsxAおよびEsxBの合成または分泌に必要とされる。EsxA、EsxBおよびEssCを産生できない変異体は、黄色ブドウ球菌によるネズミ膿瘍の発病の欠損を示し、この特化された分泌系がヒト細菌性病因の全般的戦略となりうることを示唆している。ESX-1経路による非WXG100基質の分泌が、EspA、EspB、Rv3483cおよびRv3615cを含むいくつかの抗原について報告されている(Fortune et al., 2005; MacGurn et al., 2005; McLaughlin et al., 2007; Xu et al., 2007)。代替的なESX-5経路も病原性ミコバクテリアにおいてWXG100タンパク質と非WXG100タンパク質の両方を分泌することが示されている(Abdallah et al., 2007; Abdallah et al., 2006)。
【0115】
黄色ブドウ球菌Ess経路は、特殊化した運搬成分(Ess)、補助因子(Esa)および同族分泌基質(Esx)を備えた分泌モジュールと見なすことができる。EssA、EssBおよびEssCはEsxAおよびEsxBの分泌に必要とされる。EssA、EssBおよびEssCは膜貫通タンパク質であると予測されるので、これらのタンパク質は分泌装置を形成するものと考えられる。ess遺伝子クラスタにおけるタンパク質のなかには分泌基質を(モーターとして働き)能動的に運搬するものもあるが、運搬を調節するもの(調節因子)もある。調節は分泌ポリペプチドに対する転写機構もしくは翻訳後機構、特異的基質の規定部位(例えば、細胞外培地もしくは宿主細胞)への選別、または感染中の分泌事象のタイミングによって達成されうるが、これらに限定される必要はない。現時点では、分泌Esxタンパク質の全てが毒素として機能するか、または発病に間接的に寄与するかどうかは不明である。
【0116】
ブドウ球菌は免疫防御からの回避に向けた戦略として表面タンパク質を介した宿主細胞への接着または組織浸潤に依っている。さらに、黄色ブドウ球菌は感染中に表面タンパク質を利用して、宿主から鉄を隔離する。ブドウ球菌発病に関わる表面タンパク質の大部分はC末端局在化シグナルを保有しており、すなわち、それらはソルターゼによって細胞壁外膜に共有結合的に連結される。さらに、表面タンパク質の固定に必要な遺伝子、すなわち、ソルターゼAおよびBを欠くブドウ球菌株は、いくつかの異なる疾患マウスモデルにおいて病毒性の劇的な欠損を示す。このように、表面タンパク質抗原は、その対応遺伝子がブドウ球菌疾患の発現に不可欠であり、本発明のさまざまな態様において利用可能であるため、有効なワクチン標的になる。ソルターゼ酵素スーパーファミリーは、表面タンパク質病毒性因子をペプチドグリカン細胞壁層に固定するのに関わるグラム陽性トランスペプチダーゼである。黄色ブドウ球菌において2つのソルターゼアイソフォームSrtAおよびSrtBが同定されている。これらの酵素は基質タンパク質中のLPXTGモチーフを認識することが示されている。SrtBアイソフォームはヘム鉄獲得および鉄恒常性において重要であるように思えるが、SrtAアイソフォームは細胞壁ペプチドグリカンへの付着因子および他のタンパク質の共有結合的固定を介して細菌が宿主組織に付着する能力を修飾することによりグラム陽性細菌の発病において重要な役割を果たす。ある特定の態様において、本明細書に記載されたSpA変種を、Coa、Eap、Ebh、Emp、EsaC、EsaB、EsxA、EsxB、Hla、SdrC、SdrD、SdrE、IsdA、IsdB、ClfA、ClfB、IsdC、SasF、vWbpおよび/またはvWhタンパク質のような他のブドウ球菌タンパク質と組み合わせて用いることができる。
【0117】
本発明のある特定の局面では、SpA変種、および他のブドウ球菌抗原、例えばEss経路によって運搬される他のタンパク質、またはソルターゼ基質をコードするポリペプチド、ペプチド、または核酸を含むタンパク質性組成物に関する方法および組成物を含む。これらのタンパク質は欠失、挿入および/または置換によって修飾されてもよい。
【0118】
Esxポリペプチドはブドウ球菌属における細菌由来のEsxタンパク質のアミノ酸配列を含む。Esx配列は黄色ブドウ球菌などの、特定のブドウ球菌種由来であってよく、Newmanなどの、特定の菌株由来であってよい。ある特定の態様において、EsxA配列は菌株Mu50由来のSAV0282 (これはNewmanの場合と同じアミノ酸配列である)であり、参照により本明細書に組み入れられるGenbankアクセッション番号Q99WU4 (gi|68565539)を用いてアクセスすることができる。他の態様において、EsxB配列は菌株Mu50由来のSAV0290 (これはNewmanの場合と同じアミノ酸配列である)であり、参照により本明細書に組み入れられるGenbankアクセッション番号Q99WT7 (gi|68565532)を用いてアクセスすることができる。さらなる態様において、Ess経路により運搬される他のポリペプチドを用いることができ、当業者はデータベースおよびインターネットアクセス可能な情報源を用いてその配列を同定することができる。
【0119】
ソルターゼ基質ポリペプチドはブドウ球菌属における細菌由来のSdrC、SdrD、SdrE、IsdA、IsdB、ClfA、ClfB、IsdCまたはSasFタンパク質のアミノ酸配列を含むが、これらに限定されることはない。ソルターゼ基質ポリペプチド配列は黄色ブドウ球菌などの、特定のブドウ球菌種由来であってよく、Newmanなどの、特定の菌株由来であってよい。ある特定の態様において、SdrD配列は菌株N315由来であり、参照により組み入れられるGenBankアクセッション番号NP_373773.1 (gi|15926240)を用いてアクセスすることができる。他の態様において、SdrE配列は菌株N315由来であり、参照により組み入れられるGenBankアクセッション番号NP_373774.1 (gi|15926241)を用いてアクセスすることができる。他の態様において、IsdA配列は菌株Mu50由来のSAV1130 (これはNewmanの場合と同じアミノ酸配列である)であり、参照により組み入れられるGenBankアクセッション番号NP_371654.1 (gi|15924120)を用いてアクセスすることができる。他の態様において、IsdB配列は菌株Mu50由来のSAV1129 (これはNewmanの場合と同じアミノ酸配列である)であり、参照により組み入れられるGenBankアクセッション番号NP_371653.1 (gi|15924119)を用いてアクセスすることができる。さらなる態様において、Ess経路により運搬されまたはソルターゼによりプロセッシングされる他のポリペプチドを用いることができ、当業者はデータベースおよびインターネットアクセス可能な情報源を用いてその配列を同定することができる。
【0120】
本発明の関連において使用できるさまざまなタンパク質の例は、各々が参照により組み入れられるアクセッション番号NC_002951 (GI:57650036およびGenBank CP000046)、NC_002758 (GI:57634611およびGenBank BA000017)、NC_002745 (GI:29165615およびGenBank BA000018)、NC_003923 (GI:21281729およびGenBank BA000033)、NC_002952 (GI:49482253およびGenBank BX571856)、NC_002953 (GI:49484912およびGenBank BX571857)、NC_007793 (GI:87125858およびGenBank CP000255)、NC_007795 (GI:87201381およびGenBank CP000253)を含むが、これらに限定されない細菌ゲノムのデータベース寄託物の分析によって同定することができる。
【0121】
本明細書において用いられる場合「タンパク質」または「ポリペプチド」とは、少なくとも10個のアミノ酸残基を含む分子をいう。いくつかの態様において、タンパク質またはポリペプチドの野生型が利用されるが、しかし、本発明の多くの態様において、免疫反応を生じさせるために修飾されたタンパク質またはポリペプチドが利用される。上記の用語は互換的に用いることができる。「修飾タンパク質」もしくは「修飾ポリペプチド」または「変種」とは、その化学構造、特にそのアミノ酸配列が野生型のタンパク質またはポリペプチドに対して改変されているタンパク質またはポリペプチドをいう。いくつかの態様において、修飾/変種タンパク質またはポリペプチドは少なくとも一つの修飾された活性または機能を有する(タンパク質またはポリペプチドが複数の活性または機能を持ちうることを認識して)。具体的には、修飾/変種タンパク質またはポリペプチドは一つの活性または機能に関して改変されうるが、それでも免疫原性のような、その他の点では野生型の活性または機能を保持しているものと考えられる。
【0122】
ある特定の態様において、(野生型または修飾)タンパク質またはポリペプチドのサイズは、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、275、300、325、350、375、400、425、450、475、500、525、550、575、600、625、650、675、700、725、750、775、800、825、850、875、900、925、950、975、1000、1100、1200、1300、1400、1500、1750、2000、2250、2500もしくはそれ以上の、およびその中で導き出せる任意の範囲のアミノ分子、または本明細書に記載されたもしくは参照される対応アミノ配列の派生体を含むことができるが、これらに限定されることはない。ポリペプチドを切断によって突然変異させ、それらを、対応するその野生型よりも短くさせてもよいが、それらを(例えば、標的化または局在化のために、免疫原性の増強のために、精製目的のために、など)特定の機能を有する異種タンパク質配列に融合または結合させることによって変化させることもできると考えられる。
【0123】
本明細書において用いられる場合、「アミノ分子」とは、当技術分野において公知の任意のアミノ酸、アミノ酸誘導体またはアミノ酸模倣体をいう。ある特定の態様において、タンパク質性分子の残基は逐次的であり、アミノ分子残基の配列を中断するいかなる非アミノ分子も含まれない。他の態様において、その配列は一つまたは複数の非アミノ分子部分を含むことができる。特定の態様において、タンパク質性分子の残基の配列は一つまたは複数の非アミノ分子部分によって中断されることができる。
【0124】
したがって、「タンパク質性組成物」という用語は、天然に合成されたタンパク質における20種の共通アミノ酸の少なくとも一つ、または少なくとも一つの修飾もしくは異常アミノ酸を含むアミノ分子配列を包含する。
【0125】
タンパク質性組成物は、(i) 標準的な分子生物学的技術を通じたタンパク質、ポリペプチドもしくはペプチドの発現、(ii) 天然源からのタンパク質性化合物の単離、または(iii) タンパク質性物質の化学的合成を含む、当業者に公知の任意の技術により作製することができる。さまざまな遺伝子に対するヌクレオチドならびにタンパク質、ポリペプチドおよびペプチド配列がこれまでに開示されており、公認のコンピュータ化されたデータベースにおいて見出される可能性がある。そのようなデータベースの一つが全米バイオテクノロジー情報センターのGenbankおよびGenPeptデータベース(www.ncbi.nlm.nih.gov/の)である。これらの遺伝子に対するコード領域は、本明細書において開示される技術を用いてまたは当業者に周知であるように、増幅されおよび/または発現されうる。
【0126】
本発明のSpA、コアグラーゼ、および他のポリペプチドのアミノ酸配列変種は置換変種、挿入変種または欠失変種でありうる。本発明のポリペプチドの変化は野生型と比べて、ポリペプチドの1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50個またはそれ以上の非連続または連続アミノ酸に影響を与えうる。変種は、本明細書において提供または参照される任意の配列、例えば、SEQ ID NO:2~8またはSEQ ID NO:11~30に対して、以下の間の全ての値および範囲を含め、少なくとも50%、60%、70%、80%または90%同一であるアミノ酸配列を含みうる。変種は2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20個またはそれ以上の置換アミノ酸を含みうる。本明細書に記載された組成物および方法で用いるために、Ess経路によってプロセッシングもしくは分泌されるポリペプチドまたは他の表面タンパク質(表1参照)あるいはいずれかのブドウ球菌種および株由来のソルターゼ基質が企図される。
【0127】
欠失変種は、典型的には、天然または野生型タンパク質の一つまたは複数の残基を欠損している。個々の残基を欠失させてもよく、またはいくつかの隣接アミノ酸を欠失させてもよい。終止コドンを(置換または挿入により)コード化核酸配列に導入して、切断型タンパク質を作製することができる。挿入変異体は、典型的には、ポリペプチドにおける非末端点での物質の付加を伴う。これには一つまたは複数の残基の挿入を含めることができる。融合タンパク質と呼ばれる、末端付加体を作製することもできる。これらの融合タンパク質は、本明細書において記載されたまたは参照された一つまたは複数のペプチドまたはポリペプチドの多量体または鎖状体を含む。
【0128】
置換変種は、典型的には、タンパク質内の一つまたは複数の部位での一つのアミノ酸と別のアミノ酸との交換を含み、他の機能または特性を失うかまたは失うことなく、ポリペプチドの一つまたは複数の特性を修飾するようにデザインされてもよい。置換は保存的であってもよく、すなわち、一つのアミノ酸が類似の形状および電荷のアミノ酸に置換されてもよい。保存的置換は当技術分野において周知であり、これには、例えば、アラニンのセリンへの、アルギニンのリジンへの、アスパラギンのグルタミンまたはヒスチジンへの、アスパラギン酸塩のグルタミン酸塩への、システインのセリンへの、グルタミンのアスパラギンへの、グルタミン酸塩のアスパラギン酸塩への、グリシンのプロリンへの、ヒスチジンのアスパラギンまたはグルタミンへの、イソロイシンのロイシンまたはバリンへの、ロイシンのバリンまたはイソロイシンへの、リジンのアルギニンへの、メチオニンのロイシンまたはイソロイシンへの、フェニルアラニンのチロシン、ロイシンまたはメチオニンへの、セリンのトレオニンへの、トレオニンのセリンへの、トリプトファンのチロシンへの、チロシンのトリプトファンまたはフェニルアラニンへの、およびバリンのイソロイシンまたはロイシンへの変化が含まれる。あるいは、置換はポリペプチドの機能または活性が影響を受けるように非保存的であってもよい。非保存的変化は、典型的には、非極性または非荷電アミノ酸の代わりに極性または荷電アミノ酸を用いるような、およびその逆のような、一つの残基を化学的に異なる残基に置換することを伴う。
【0129】
(表10)黄色ブドウ球菌株の例示的な表面タンパク質
【0130】
本発明のタンパク質は組み換えであっても、またはインビトロで合成されてもよい。あるいは、非組み換えまたは組み換えタンパク質を細菌から単離してもよい。そのような変種を含有する細菌を、本発明の組成物および方法のなかで実践できることも考えられる。結果的に、タンパク質は単離されなくてもよい。
【0131】
「機能的に同等なコドン」という用語は、アルギニンまたはセリンに対する6種のコドンのような、同じアミノ酸をコードするコドンをいうように本明細書において用いられ、同様に、生物学的に同等のアミノ酸をコードするコドンもいう(以下の表11を参照のこと)。
【0132】
(表11)コドン表
【0133】
アミノ酸および核酸配列は、タンパク質の発現が関与している生物学的タンパク質活性(例えば、免疫原性)の維持を含めて、上記の基準を満たす限り、それぞれ、さらなるN末端もしくはC末端アミノ酸、または5'もしくは3'配列のような、さらなる残基を含むこともあり、それでも本質的には、本明細書において開示されている配列の一つに記載の通りでありうることも理解されよう。末端配列の付加は核酸配列に特に当てはまり、例えば、コード領域の5'または3'部分のどちらかに隣接する種々の非コード配列を含むことができる。
【0134】
以下は、変種ポリペプチドまたはペプチドを作製するためにタンパク質のアミノ酸を変化させることに基づく考察である。例えば、ある特定のアミノ酸を、例えば、抗体の抗原結合領域または基質分子上の結合部位のような構造との相互作用結合能をかなり失うようにまたはさほど失わないようにタンパク質構造中の他のアミノ酸の代わりに用いることができる。タンパク質の機能活性を規定するのはタンパク質の相互作用能および性質であることから、タンパク質配列の中に、およびその基礎となるDNAコード配列の中にある特定のアミノ酸置換を施し、それでも、所望の特性を有するタンパク質を産生させることができる。このように、遺伝子のDNA配列において種々の変化を施すことができるものと本発明者らは企図している。
【0135】
本発明の組成物においては、1 mlあたり約0.001 mg~約10 mgの総ポリペプチド、ペプチド、および/またはタンパク質が存在することが企図される。組成物中のタンパク質の濃度は約0.001、0.010、0.050、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5、9.0、9.5、10.0 mg/mlもしくはそれ以上(またはその中で導き出せる任意の範囲)、少なくとも約0.001、0.010、0.050、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5、9.0、9.5、10.0 mg/mlもしくはそれ以上(またはその中で導き出せる任意の範囲)、または最大で約0.001、0.010、0.050、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.5、2.0、2.5、3.0、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、8.5、9.0、9.5、10.0 mg/mlもしくはそれ以上(またはその中で導き出せる任意の範囲)でありうる。このうち、約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100%、少なくとも約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100%、または最大で約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、100%がSpA変種またはコアグラーゼであってよく、他の細菌ペプチドおよび/または抗原のような、他のペプチドまたはポリペプチドと組み合わせて用いられてもよい。
【0136】
本発明は、ブドウ球菌病原菌による感染と関連する疾患または状態の発症に対する予防的治療または治療効果に影響を与えるための変種SpAポリペプチドまたはペプチドの投与を企図する。
【0137】
ある特定の局面において、ブドウ球菌感染の処置または予防に有効である免疫原性組成物の作製においてブドウ球菌抗原の組み合わせが用いられる。ブドウ球菌感染はいくつかの異なる段階を経て進行する。例えば、ブドウ球菌の生活環には、片利共生定着、隣接する組織もしくは血流に接近することによる感染の開始、および/または血液中での嫌気的増殖が含まれる。黄色ブドウ球菌病原性決定因子と宿主防御機構との間の相互作用は、心内膜炎、転移性膿瘍形成および敗血症候群のような合併症を誘発しうる。細菌表面上の異なる分子が感染サイクルの異なる段階に関与する。ある特定の抗原の組み合わせによって、多段のブドウ球菌感染を防御する免疫反応が引き起こされる可能性がある。免疫反応の有効性は動物モデルアッセイ法においておよび/またはオプソニン作用アッセイ法を用いて測定することができる。
【0138】
K. ポリペプチドおよびポリペプチド産生
本発明は、本発明のさまざまな態様で用いるためのポリペプチド、ペプチドおよびタンパク質ならびにそれらの免疫原性断片について記述する。例えば、特定のポリペプチドを、免疫反応を誘発するかアッセイし、または免疫反応を誘発するために用いる。特定の態様において、本発明のタンパク質の全てまたは一部を、従来の技術にしたがって溶液中でまたは固体支持体上で合成することもできる。各種の自動合成機が市販されており、それらを公知のプロトコルにしたがって用いることができる。例えば、Stewart and Young, (1984); Tarn et al., (1983); Merrifield, (1986); およびBarany and Merrifield (1979)を参照されたく、これらの各々が参照により本明細書に組み入れられる。
【0139】
あるいは、本発明のペプチドをコードするヌクレオチド配列を発現ベクターに挿入し、これを適切な宿主細胞に形質転換または形質移入し、これを発現に適した条件の下で培養する組み換えDNA技術を利用することもできる。
【0140】
本発明の一つの態様では、ポリペプチドまたはペプチドの産生および/または提示のための、微生物を含む、細胞への遺伝子移入の使用を含む。関心対象のポリペプチドまたはペプチドに対する遺伝子を適切な宿主細胞に移入し、引き続いて適切な条件下での細胞の培養を行うことができる。組み換え発現ベクターの作製、およびそのベクターに含まれる要素は、当技術分野において周知であり、本明細書において手短に論じられている。あるいは、産生されるタンパク質は、単離かつ精製される細胞によって通常合成される内因性タンパク質であってもよい。
【0141】
本発明の別の態様では、免疫原産物、より具体的には、免疫原性活性を有するタンパク質を発現するウイルスベクターにより形質移入された、自己Bリンパ球細胞株を用いる。哺乳類宿主細胞株の他の例としては、VeroおよびHeLa細胞、CEM、721.221、H9、Jurkat、Rajiなどの、他のB-およびT-細胞株、ならびにチャイニーズハムスター卵巣細胞株、W138、BHK、COS-7、293、HepG2、3T3、RINおよびMDCK細胞が挙げられるが、これらに限定されることはない。さらに、挿入された配列の発現を調節する、または所望とされる様式で遺伝子産物を修飾およびプロセッシングする宿主細胞株を選択することもできる。タンパク質産物のそのような修飾(例えば、グリコシル化)およびプロセッシング(例えば、切断)は、タンパク質の機能にとって重要でありうる。異なる宿主細胞は、タンパク質の翻訳後プロセッシングおよび修飾の特徴的かつ特異的な機構を有する。発現される外来タンパク質の的確な修飾およびプロセッシングを確実とするために、適切な細胞株または宿主系を選択することができる。
【0142】
tk-、hgprt-またはaprt-細胞での、それぞれ、HSVチミジンキナーゼ、ヒポキサンチン-グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼおよびアデニンホスホリボシルトランスフェラーゼ遺伝子を含むが、これらに限定されない、いくつかの選択系を用いることができる。同様に、選択の基礎として抗代謝物耐性: トリメトプリムおよびメトトレキサートに対する耐性を付与するdhfr; ミコフェノール酸に対する耐性を付与するgpt; アミノグリコシドG418に対する耐性を付与するneo; ならびにハイグロマイシンに対する耐性を付与するhygroを用いることもできる。
【0143】
動物細胞はインビトロにおいて二つの様式で、つまり培養の大半を通じて浮遊状態で増殖する非足場依存性細胞として、または増殖のためには固体基材への付着を要する足場依存性細胞として増殖させることができる(すなわち、単層型の細胞増殖)。
【0144】
連続樹立細胞株由来の非足場依存性培養または浮遊培養は、細胞および細胞産物の、最も広く使われている大規模産生手段である。しかしながら、浮遊培養細胞には、腫瘍形成能および接着細胞よりも低いタンパク質産生のような制限がある。
【0145】
タンパク質を本明細書において具体的に述べる場合、それは、好ましくは、天然もしくは組み換えタンパク質、または場合により任意のシグナル配列が除去されたタンパク質への言及である。タンパク質は、ブドウ球菌株から直接単離されてもよく、または組み換えDNA技術によって産生されてもよい。タンパク質の免疫原性断片を本発明の免疫原性組成物に含めてもよい。これらは、タンパク質のアミノ酸配列から連続的に取り出される、少なくとも10アミノ酸、20アミノ酸、30アミノ酸、40アミノ酸、50アミノ酸、または100アミノ酸を、その間の全ての値および範囲を含めて、含む断片である。さらに、そのような免疫原性断片は、ブドウ球菌タンパク質に対して作製された抗体と免疫学的に反応性であり、またはブドウ球菌による哺乳類宿主の感染によって作製された抗体と免疫学的に反応性である。免疫原性断片はまた、有効量で(単独でまたは担体に結合されたハプテンとしてのいずれかで)投与される場合に、ブドウ球菌感染に対する防御的または治療的免疫反応を誘発する断片も含み、ある特定の局面において、それは黄色ブドウ球菌および/または表皮ブドウ球菌感染を防ぐ。そのような免疫原性断片は、例えば、N末端リーダー配列、ならびに/あるいは膜貫通ドメインおよび/またはC末端アンカードメインを欠損するタンパク質を含むことができる。好ましい局面において、本発明による免疫原性断片は、本明細書において記載または参照されたポリペプチドの配列選択セグメントに対し、少なくとも80%の同一性、少なくとも85%の同一性、少なくとも90%の同一性、少なくとも95%の同一性、または少なくとも97~99%の同一性を、その間の全ての値および範囲を含めて、有するタンパク質の細胞外ドメインの実質的に全てを含む。
【0146】
本発明の免疫原性組成物の中に同様に含まれるのは、一つもしくは複数のブドウ球菌タンパク質、またはブドウ球菌タンパク質の免疫原性断片から構成される融合タンパク質である。そのような融合タンパク質は、組み換えによって作製することができ、少なくとも1、2、3、4、5または6種のブドウ球菌タンパク質またはセグメントの一部分を含むことができる。あるいは、融合タンパク質は、少なくとも1、2、3、4または5種のブドウ球菌タンパク質の複数部分を含むこともできる。これらは、異なるブドウ球菌タンパク質および/または同一のタンパク質もしくはタンパク質断片の複数のもの、あるいは同一タンパク質における免疫原性断片を組み合わせ(多量体または鎖状体を形成させ)ることができる。あるいは、本発明はまた、T細胞エピトープまたは精製タグの供与体のような異種配列、例えばβガラクトシダーゼ、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)、エピトープタグ、例えばFLAG、mycタグ、ポリヒスチジン、またはウイルス表面タンパク質、例えばインフルエンザウイルス赤血球凝集素、または細菌タンパク質、例えば破傷風トキソイド、ジフテリアトキソイドもしくはCRM197との融合タンパク質としての、ブドウ球菌タンパク質またはその免疫原性断片の個々の融合タンパク質も含む。
【0147】
II. 核酸
ある特定の態様において、本発明は、本発明のタンパク質、ポリペプチド、ペプチドをコードする組み換えポリヌクレオチドに関する。SpA、コアグラーゼ、および他の細菌タンパク質に対する核酸配列が含まれ、これらの全てが参照により組み入れられ、これらを用いてペプチドまたはポリペプチドを調製することができる。
【0148】
本出願において用いられる場合、「ポリヌクレオチド」という用語は、組み換えであるか、全ゲノム核酸がない状態で単離されているかのどちらかの核酸分子をいう。「ポリヌクレオチド」という用語のなかに含まれるのは、オリゴヌクレオチド(長さが100残基またはそれ未満の核酸)、例えば、プラスミド、コスミド、ファージ、ウイルスなどを含む、組み換えベクターである。ポリヌクレオチドは、ある特定の局面において、天然の遺伝子またはタンパク質コード配列から実質的に単離されている、調節配列を含む。ポリヌクレオチドは、一本鎖(コーディングもしくはアンチセンス)または二本鎖であってよく、RNA、DNA (ゲノム、cDNAもしくは合成)、その類似体、またはその組み合わせであってよい。ポリヌクレオチドのなかにさらなるコーディングまたは非コーディング配列が存在してもよいが、存在しなくてもよい。
【0149】
この点において、「遺伝子」、「ポリヌクレオチド」または「核酸」という用語は、タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドをコードする核酸(適切な転写、翻訳後修飾または局在化に必要とされる任意の配列を含む)をいうように用いられる。当業者に理解されるように、この用語はゲノム配列、発現カセット、cDNA配列、ならびにタンパク質、ポリペプチド、ドメイン、ペプチド、融合タンパク質および変異体を発現するまたは発現するように適合されうる、遺伝子操作されたもっと小さな核酸セグメントを包含する。ポリペプチドの全てまたは一部をコードする核酸は、本明細書において記載または参照された一つまたは複数のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドの、以下の間の全ての値および範囲を含む、10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290、300、310、320、330、340、350、360、370、380、390、400、410、420、430、440、441、450、460、470、480、490、500、510、520、530、540、550、560、570、580、590、600、610、620、630、640、650、660、670、680、690、700、710、720、730、740、750、760、770、780、790、800、810、820、830、840、850、860、870、880、890、900、910、920、930、940、950、960、970、980、990、1000、1010、1020、1030、1040、1050、1060、1070、1080、1090、1095、1100、1500、2000、2500、3000、3500、4000、4500、5000、5500、6000、6500、7000、7500、8000、9000、10000またはそれ以上のヌクレオチド、ヌクレオシドまたは塩基対の連続核酸配列を含むことができる。また、特定のポリペプチドは、わずかに異なる核酸配列を有するが、それでも、同じまたは実質的に類似のタンパク質をコードする、変種を含む核酸によってコードされうることも考えられる(上記の表11を参照のこと)。
【0150】
特定の態様において、本発明は、変種SpAまたはコアグラーゼをコードする核酸配列を組み入れた、単離核酸セグメントおよび組み換えベクターに関する。「組み換え」という用語は、ポリヌクレオチドまたはポリペプチドとともに用いることができ、これは一般に、インビトロにおいて産生および/もしくは操作されているポリペプチドもしくはポリヌクレオチド、またはこのような分子の複製産物であるポリペプチドもしくはポリヌクレオチドをいう。
【0151】
他の態様において、本発明は、対象において免疫反応を生じさせるために変種SpAまたはコアグラーゼのポリペプチドまたはペプチドをコードする核酸配列を組み入れた、単離核酸セグメントおよび組み換えベクターに関する。さまざまな態様において、本発明の核酸は遺伝子ワクチンに用いることができる。
【0152】
本発明において用いられる核酸セグメントは、プロモーター、ポリアデニル化シグナル、付加的な制限酵素部位、マルチクローニング部位、他のコードセグメントなどのような、他の核酸配列と組み合わせることができ、したがってその全長はかなり変化することがある。それゆえ、ほぼすべての長さの核酸断片を利用することができ、その全長は精製の容易さおよび意図した組み換え核酸プロトコルでの用途によって制限されることが好ましいものと考えられる。場合によっては、核酸配列は、例えば、ポリペプチドの精製、輸送、分泌、翻訳後修飾を可能にするための、または標的化もしくは効力のような治療的有用性を可能にするための、さらなる異種コード配列を有するポリペプチド配列をコードすることができる。先に論じられるように、タグまたは他の異種ポリペプチドを、修飾されたポリペプチドをコードする配列に付加することができ、ここで「異種」とは、修飾されたポリペプチドと同じものではないポリペプチドをいう。
【0153】
ある特定の他の態様において、本発明は、SEQ ID NO: 2(SpAドメインD)もしくはSEQ ID NO: 4(SpA)に由来する連続した核酸配列、またはコアグラーゼもしくは他の分泌病毒性因子および/もしくは表面タンパク質、例えば、Ess経路により運搬され、ソルターゼによりプロセッシングされるタンパク質、もしくは参照により本明細書に組み入れられるタンパク質などをコードするその他任意の核酸配列をそれ自体の配列内に含む、単離核酸セグメントおよび組み換えベクターに関する。
【0154】
ある特定の態様において、本発明は、本明細書において開示される配列に対して実質的同一性を有するポリヌクレオチド変種、つまり本明細書に記載された方法(例えば、標準パラメータによるBLAST解析)を用い本発明のポリヌクレオチド配列と比べて、少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%もしくは99%またはそれ以上の配列同一性を、その間の全ての値および範囲を含めて、含むものを提供する。
【0155】
本発明はまた、上述した全てのポリヌクレオチドに相補的なポリヌクレオチドの使用を企図する。
【0156】
A. ベクター
本発明のポリペプチドは、ベクター中に含まれる核酸分子によってコードされてもよい。「ベクター」という用語は、異種核酸配列を、複製され発現されうる細胞へ導入するために、挿入できる担体核酸分子をいうように用いられる。核酸配列は「異種」であってよく、これは文脈中で、ベクターが導入されている細胞にとって、または核酸配列が組み入れられる核酸にとって核酸配列が異質であることを意味し、これには、細胞または核酸中の配列と同種であるが、しかし通常は見られない、宿主細胞または核酸内の位置にある配列が含まれる。ベクターにはDNA、RNA、プラスミド、コスミド、ウイルス(バクテリオファージ、動物ウイルスおよび植物ウイルス)、ならびに人工染色体(例えば、YAC)が含まれる。当業者は、標準的な組み換え技術(例えば、ともに参照により本明細書に組み入れられるSambrook et al., 2001; Ausubel et al., 1996)を通じてベクターを構築するのに必要なものを十分に持っているであろう。変種SpAポリペプチドをコードすることに加えて、ベクターは一つまたは複数の他の細菌ペプチド、タグまたは免疫原性増強ペプチドのような他のポリペプチド配列をコードしてもよい。そのような融合タンパク質をコードする有用なベクターには、pINベクター(Inouye et al., 1985)、一続きのヒスチジンをコードするベクター、ならびに後の精製および分離または切断に向けたグルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)可溶性融合タンパク質の作製で用いるpGEXベクターが含まれる。
【0157】
「発現ベクター」という用語は、転写されうる遺伝子産物の少なくとも一部をコードする核酸配列を含むベクターをいう。場合によっては、次にRNA分子をタンパク質、ポリペプチド、またはペプチドに翻訳する。発現ベクターは、特定の宿主生物において機能的に連結されたコード配列の転写およびおそらく翻訳にとって必要な核酸配列をいう種々の「制御配列」を含みうる。転写および翻訳を支配する制御配列に加えて、ベクターおよび発現ベクターは、他の機能も果たす、かつ本明細書に記載された核酸配列を含んでもよい。
【0158】
1. プロモーターおよびエンハンサー
「プロモーター」は制御配列である。プロモーターは、典型的には、転写の開始および速度が制御される核酸配列の領域である。これには、RNAポリメラーゼおよび他の転写因子のような、調節タンパク質および分子が結合しうる遺伝要素を含めてもよい。「機能的に配置された」、「機能的に連結された」、「制御下」および「転写制御下」という語句は、プロモーターが核酸配列との関連で、その配列の転写開始および発現を制御するのに正しい機能的位置および/または方向にあることを意味する。プロモーターは、核酸配列の転写活性化に関わるシス作用調節配列をいう「エンハンサー」とともに用いられても用いられなくてもよい。
【0159】
当然、発現用に選択された細胞種または生物においてDNAセグメントの発現を効率的に指令するプロモーターおよび/またはエンハンサーを利用することが重要でありうる。分子生物学の当業者は、タンパク質を発現させるためにプロモーター、エンハンサー、および細胞種の組み合わせを用いることを一般的に承知している(参照により本明細書に組み入れられるSambrook et al., 2001を参照のこと)。利用されるプロモーターは構成的、組織特異的または誘導的であってよく、ある特定の態様において、組み換えタンパク質またはペプチドの大規模産生などの特定条件の下で、導入されたDNAセグメントの高レベル発現を指令しうる。
【0160】
遺伝子の発現を調節するために本発明との関連で種々の要素/プロモーターが用いられてもよい。特定の刺激に反応して活性化されうる核酸配列の領域である、そのような誘導性要素の例としては、免疫グロブリン重鎖(Banerji et al., 1983; Gilles et al., 1983; Grosschedl et al., 1985; Atchinson et al., 1986, 1987; Imler et al., 1987; Weinberger et al., 1984; Kiledjian et al., 1988; Porton et al.; 1990)、免疫グロブリン軽鎖(Queen et al., 1983; Picard et al., 1984)、T細胞受容体(Luria et al., 1987; Winoto et al., 1989; Redondo et al.; 1990)、HLA DQαおよび/またはDQβ(Sullivan et al., 1987)、βインターフェロン(Goodbourn et al., 1986; Fujita et al., 1987; Goodbourn et al., 1988)、インターロイキン-2 (Greene et al., 1989)、インターロイキン-2受容体(Greene et al., 1989; Lin et al., 1990)、MHCクラスII 5 (Koch et al., 1989)、MHCクラスII HLA-DRα(Sherman et al., 1989)、β-アクチン(Kawamoto et al., 1988; Ng et al.; 1989)、筋クレアチニンキナーゼ(MCK) (Jaynes et al., 1988; Horlick et al., 1989; Johnson et al., 1989)、プレアルブミン(トランスチレチン) (Costa et al., 1988)、エラスターゼI (Ornitz et al., 1987)、メタロチオネイン(MTII) (Karin et al., 1987; Culotta et al., 1989)、コラゲナーゼ(Pinkert et al., 1987; Angel et al., 1987)、アルブミン(Pinkert et al., 1987; Tronche et al., 1989, 1990); α-フェトプロテイン(Godbout et al., 1988; Campere et al., 1989)、γ-グロビン(Bodine et al., 1987; Perez-Stable et al., 1990)、β-グロビン(Trudel et al., 1987)、c-fos (Cohen et al., 1987)、c-Ha-Ras (Triesman, 1986; Deschamps et al., 1985)、インスリン(Edlund et al., 1985)、神経細胞接着分子(NCAM) (Hirsh et al., 1990); α1-アンチトリペイン(Latimer et al., 1990); H2B (TH2B)ヒストン(Hwang et al., 1990); マウスおよび/またはI型コラーゲン(Ripe et al., 1989)、グルコース調節タンパク質(GRP94およびGRP78) (Chang et al., 1989)、ラット成長ホルモン(Larsen et al., 1986)、ヒト血清アミロイドA (SAA) (Edbrooke et al., 1989)、トロポニンI (TN I) (Yutzey et al., 1989)、血小板由来増殖因子(PDGF) (Pech et al., 1989)、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(Klamut et al., 1990)、SV40 (Banerji et al., 1981; Moreau et al., 1981; Sleigh et al., 1985; Firak et al., 1986; Herr et al., 1986; Imbra et al., 1986; Kadesch et al., 1986; Wang et al., 1986; Ondek et al., 1987; Kuhl et al., 1987; Schaffner et al., 1988)、ポリオーマ(Swartzendruber et al., 1975; Vasseur et al., 1980; Katinka et al., 1980, 1981; Tyndell et al., 1981; Dandolo et al., 1983; de Villiers et al., 1984; Hen et al., 1986; Satake et al., 1988; Campbell et al., 1988)、レトロウイルス(Kriegler et al., 1982, 1983; Levinson et al., 1982; Kriegler et al., 1983, 1984a, b, 1988; Bosze et al., 1986; Miksicek et al., 1986; Celander et al., 1987; Thiesen et al., 1988; Celander et al., 1988; Choi et al., 1988; Reisman et al., 1989)、乳頭腫ウイルス(Campo et al., 1983; Lusky et al., 1983; Spandidos and Wilkie, 1983; Spalholz et al., 1985; Lusky et al., 1986; Cripe et al., 1987; Gloss et al., 1987; Hirochika et al., 1987; Stephens et al., 1987)、B型肝炎ウイルス(Bulla et al., 1986; Jameel et al., 1986; Shaul et al., 1987; Spandau et al., 1988; Vannice et al., 1988)、ヒト免疫不全ウイルス(Muesing et al., 1987; Hauber et al., 1988; Jakobovits et al., 1988; Feng et al., 1988; Takebe et al., 1988; Rosen et al., 1988; Berkhout et al., 1989; Laspia et al., 1989; Sharp et al., 1989; Braddock et al., 1989)、サイトメガロウイルス(CMV) IE (Weber et al., 1984; Boshart et al., 1985; Foecking et al., 1986)、テナガザル白血病ウイルス(Holbrook et al., 1987; Quinn et al., 1989)が挙げられるが、これらに限定されることはない。
【0161】
誘導性要素にはMT II-ホルボルエステル(TFA)/重金属(Palmiter et al., 1982; Haslinger et al., 1985; Searle et al., 1985; Stuart et al., 1985; Imagawa et al., 1987, Karin et al., 1987; Angel et al., 1987b; McNeall et al., 1989); MMTV (マウス乳腺腫瘍ウイルス)-グルココルチコイド(Huang et al., 1981; Lee et al., 1981; Majors et al., 1983; Chandler et al., 1983; Lee et al., 1984; Ponta et al., 1985; Sakai et al., 1988); β-インターフェロン-ポリ(rI)x/ポリ(rc) (Tavernier et al., 1983); アデノウイルス5 E2-E1A (Imperiale et al., 1984); コラゲナーゼ-ホルボルエステル(TPA) (Angel et al., 1987a); ストロメリシン-ホルボルエステル(TPA) (Angel et al., 1987b); SV40-ホルボルエステル(TPA) (Angel et al., 1987b); ネズミMX遺伝子-インターフェロン、ニューカッスル病ウイルス(Hug et al., 1988); GRP78遺伝子-A23187 (Resendez et al., 1988); α-2-マクログロブリン-IL-6 (Kunz et al., 1989); ビメンチン-血清(Rittling et al., 1989); MHCクラスI遺伝子H-2κb-インターフェロン(Blanar et al., 1989); HSP70-E1A/SV40ラージT抗原(Taylor et al., 1989, 1990a, 1990b); プロリフェリン-ホルボルエステル/TPA (Mordacq et al., 1989); 腫瘍壊死因子-PMA (Hensel et al., 1989); および甲状腺刺激ホルモンα遺伝子-甲状腺ホルモン(Chatterjee et al., 1989)が含まれるが、これらに限定されることはない。
【0162】
本発明のペプチドまたはタンパク質をコードするポリヌクレオチドの発現を制御するために利用される特定のプロモーターは、標的細胞、好ましくは細菌細胞においてポリヌクレオチドを発現できる限り、決定的に重要であるものとは考えられない。ヒト細胞が標的化される場合、ポリヌクレオチドコード領域を、ヒト細胞において発現されうるプロモーターの近傍かつ制御下に位置付けることが好ましい。一般的に言えば、そのようなプロモーターは細菌プロモーター、ヒトプロモーターまたはウイルスプロモーターのいずれかを含みうる。
【0163】
タンパク質の発現のため対象にベクターが投与される態様において、ベクターとともに用いるのに望ましいプロモーターは、サイトカインによって下方制御されないもの、またはたとえ下方制御されても、免疫反応を誘発するのに有効な量の変種SpAを産生するのに十分に強力なものであることが企図される。これらの非限定的な例はCMV IEおよびRSV LTRである。とりわけ、発現が樹状細胞またはマクロファージのような、抗原の発現が望ましい細胞におけるなら、組織特異的プロモーターを用いることができる。哺乳類MHC IおよびMHC IIプロモーターは、そのような組織特異的プロモーターの例である。
【0164】
2. 開始シグナルおよび内部リボソーム結合部位(IRES)
特異的開始シグナルもコード配列の効率的な翻訳に必要とされうる。これらのシグナルには、ATG開始コドンまたは隣接配列が含まれる。ATG開始コドンを含む外因性の翻訳制御シグナルを提供する必要がありうる。当業者は容易にこれを決定して、必要なシグナルを提供することができるであろう。
【0165】
本発明のある特定の態様では、内部リボソーム進入部位(IRES)要素を用いて、多重遺伝子の、または多シストロン性の伝達暗号を作製する。IRES要素は、5'メチル化Cap依存的翻訳のリボソーム走査モデルを迂回して、内部部位で翻訳を開始することができる(Pelletier and Sonenberg, 1988; Macejak and Sarnow, 1991)。IRES要素は異種の読み取り枠に連結させることができる。IRESによって各々が隔てられた多数の読み取り枠をともに転写し、多シストロン性の伝達暗号を作製することができる。単一のプロモーター/エンハンサーを用いて多数の遺伝子を効率的に発現させ、単一の伝達暗号を転写させることができる(参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第5,925,565号および同第5,935,819号を参照のこと)。
【0166】
3. 選択可能およびスクリーニング可能なマーカー
本発明のある特定の態様において、本発明の核酸構築体を含む細胞は、発現ベクターの中にスクリーニング可能または選択可能なマーカーをコードすることによってインビトロまたはインビボで同定することができる。転写され翻訳される場合、マーカーは同定可能な変化を細胞に付与し、発現ベクターを含む細胞の容易な同定を可能にする。一般的に、選択可能なマーカーは、選択を可能にする特性を付与するものである。陽性選択可能なマーカーは、マーカーが存在することでその選択が可能になるものであるのに対し、陰性選択可能なマーカーは、マーカーが存在することでその選択が妨害されるものである。陽性選択可能なマーカーの例は、薬物耐性マーカーである。
【0167】
B. 宿主細胞
本明細書において用いられる場合、「細胞」、「細胞株」および「細胞培養物」という用語は互換的に用いることができる。これらの用語の全てが、任意のおよび全ての次世代の、その子孫も含む。故意または偶然の変異により全ての子孫が同一ではないことがあると理解されよう。異種核酸配列を発現するという文脈において、「宿主細胞」とは、原核細胞または真核細胞をいい、これには、ベクターを複製できるまたはベクターによってコードされる異種遺伝子を発現できる、任意の形質転換可能な生物が含まれる。宿主細胞はベクターまたはウイルスのレシピエントとして、使用されることができ、使用されている。宿主細胞は「形質移入」または「形質転換」されてもよく、それらは組み換えタンパク質をコードする配列などの、外因性の核酸が宿主細胞に移入または導入される過程をいう。形質転換細胞には、初代被験細胞およびその子孫が含まれる。
【0168】
ベクターの複製または核酸配列の一部もしくは全ての発現のための細菌、酵母細胞、昆虫細胞および哺乳類細胞を含め、宿主細胞は原核生物または真核生物に由来することができる。多数の細胞株および培養物が宿主細胞用として利用可能であり、それらは、生きている培養物および遺伝物質のための保管庫としての機能を果たす機構であるアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC) (www.atcc.org)を通じて入手することができる。
【0169】
C. 発現系
先に論じた組成物の少なくとも一部または全てを含む多数の発現系が存在する。原核生物および/または真核生物に基づく系を本発明で用いるために利用して、核酸配列、またはその同源のポリペプチド、タンパク質およびペプチドを産生することができる。そのような多くの系が市販されており、広く利用可能である。
【0170】
昆虫細胞/バキュロウイルス系は、ともに参照により本明細書に組み入れられる、米国特許第5,871,986号、同第4,879,236号に記述されているように、異種核酸セグメントの高レベルのタンパク質発現をもたらすことができ、例えば、INVITROGEN(登録商標)からMAXBAC(登録商標) 2.0の名称で、およびCLONTECH(登録商標)からBACPACK(商標) BACULOVIRUS EXPRESSION SYSTEMの名称で購入することができる。
【0171】
本発明の開示の発現系に加え、発現系の他の例としては、合成エクダイソン誘導性受容体またはそのpET発現系、つまり大腸菌発現系を伴う、STRATAGENE(登録商標)のCOMPLETE CONTROL(商標) Inducible Mammalian Expression Systemが挙げられる。誘導性発現系の別例はINVITROGEN(登録商標)から入手可能で、T-REX (商標) (テトラサイクリン調節発現)系、つまり全長CMVプロモーターを用いた誘導性の哺乳類発現系を有するものである。INVITROGEN(登録商標)は、メチロトローフ酵母ピチアメタノリカ(Pichia methanolica)における組み換えタンパク質の高レベル産生のためにデザインされた、Pichia methanolica Expression Systemと呼ばれる酵母発現系も提供している。当業者なら、発現構築体のようなベクターを発現させる方法、核酸配列またはその同源のポリペプチド、タンパク質もしくはペプチドを産生する方法を承知しているであろう。
【0172】
III. 多糖類
本発明の免疫原性組成物は、PIA (PNAGとしても公知)の一つもしくは複数を含む莢膜多糖類、ならびに/または黄色ブドウ球菌V型および/もしくはVIII型莢膜多糖類、ならびに/または表皮ブドウ球菌I型および/もしくはII型および/もしくはIII型莢膜多糖類をさらに含むことができる。
【0173】
A. PIA (PNAG)
現在では、PS/A、PIAおよびSAAとして同定されたブドウ球菌表面多糖類の各種形態は同じ化学的実体、つまりPNAGであることが明らかである(Maira-Litran et al., 2004)。それゆえ、PIAまたはPNAGという用語は、これらの全ての多糖類またはそれらに由来するオリゴ糖を包含する。
【0174】
PIAは多糖類細胞間付着因子であり、N-アセチルおよびO-スクシニル構成要素で置換されたβ-(1→6)結合グルコサミンの重合体から構成される。この多糖類は黄色ブドウ球菌にも表皮ブドウ球菌にもともに存在し、どちらの供給源からも単離することができる(Joyce et al., 2003; Maira-Litran et al., 2002)。例えば、PNAGは黄色ブドウ球菌株MN8mから単離することができる(WO04/43407)。表皮ブドウ球菌から単離されるPIAは、生物膜の複合的構成要素である。それは細胞間接着の媒介に関与しており、おそらく、成長中のコロニーを宿主の免疫反応から守る働きもする。ポリ-N-スクシニル-β-(1→6)-グルコサミン(PNSG)として既知の多糖類は、最近になって、N-スクシニル化の同定が間違いであったため、予想された構造を有するものではないことが示された(Maira-Litran et al., 2002)。それゆえ、正式にはPNSGとして公知の、かつ現在では、PNAGであることが分かっている多糖類もPIAという用語に包含される。
【0175】
PIA (またはPNAG)は、400 kDaを超えるものから、75~400 kDaまで、10~75 kDaまで、最大で30までの(N-アセチルおよびO-スクシニル構成要素で置換されたβ-(1→6)結合グルコサミンの)反復単位から構成されるオリゴ糖まで、さまざまなサイズのものでありうる。任意のサイズのPIA多糖類またはオリゴ糖を本発明の免疫原性組成物に用いることができるが、一つの局面において多糖類は40 kDa超である。サイジングは、当技術分野において公知の任意の方法により、例えばマイクロ流動化、超音波照射または化学的切断により行うことができる(WO 03/53462、EP497524、EP497525)。ある特定の局面において、PIA (PNAG)は少なくともまたは最大で40~400 kDa、40~300 kDa、50~350 kDa、60~300 kDa、50~250 kDaおよび60~200 kDaである。
【0176】
PIA (PNAG)は酢酸塩によるアミノ基上の置換によって異なるアセチル化度を持ちうる。インビトロで産生されるPIAは、アミノ基上でほぼ完全に(95~100%)置換されている。あるいは、60%、50%、40%、30%、20%、10%未満のアセチル化を有する脱アセチル化PIA (PNAG)を用いることができる。PNAGの非アセチル化エピトープはオプソニンによるグラム陽性細菌、好ましくは黄色ブドウ球菌および/または表皮ブドウ球菌の殺傷の媒介で効率的であるため、脱アセチル化PIA (PNAG)の使用が好ましい。ある特定の局面において、PIA (PNAG)は、40 kDa~300 kDaのサイズを有し、60%、50%、40%、30%または20%未満のアミノ基がアセチル化されているように脱アセチル化される。
【0177】
脱アセチル化PNAG (dPNAG)という用語は、60%、50%、40%、30%、20%または10%未満のアミノ酸基(amino agroups)がアセチル化されているPNAG多糖類またはオリゴ糖をいう。ある特定の局面において、天然の多糖類を化学的に処理することにより、PNAGを脱アセチル化してdPNAGを形成する。例えば、天然PNAGを、pHが10超まで上昇するように塩基性溶液で処理する。例えば、PNAGを0.1~5 M、0.2~4 M、0.3~3 M、0.5~2 M、0.75~1.5 Mまたは1 MのNaOH、KOHまたはNH4OHで処理する。処理は、20~100℃、25~80℃、30~60℃もしくは30~50℃または35~45℃の温度で少なくとも10~30分間、または1、2、3、4、5、10、15もしくは20時間である。dPNAGはWO 04/43405に記述されているように調製することができる。
【0178】
多糖類は担体タンパク質に結合されてもまたは結合されなくてもよい。
【0179】
B. 黄色ブドウ球菌由来の5型および8型多糖類
ヒトでの感染を引き起こす黄色ブドウ球菌の大部分の菌株が5型または8型多糖類のいずれかを含む。およそ60%のヒト菌株が8型であり、およそ30%が5型である。5型および8型莢膜多糖類抗原の構造はMoreauら(1990)およびFournierら(1984)に記述されている。どちらもその反復単位の中にFucNAcpと、スルフヒドリル基を導入するのに使用できるManNAcAとを有する。それらの構造は:
5型
→4)-β-D-ManNAcA(3OAc)-(1→4)-α-L-FucNAc(1→3)-β-D-FucNAc-(1→
8型
→3)-β-D-ManNAcA(4OAc)-(1→3)-α-L-FucNAc(1→3)-β-D-FucNAc-(1→
であり、最近(Jones, 2005)では、NMR分光法によってそれらの構造は、
5型
→4)-β-D-ManNAcA-(1→4)-α-L-FucNAc(3OAc)-(1→3)-β-D-FucNAc-(1→
8型
→3)-β-D-ManNAcA(4OAc)-(1→3)-α-L-FucNAc(1→3)-α-D-FucNAc(1→
に訂正されている。
【0180】
多糖類は当業者に周知の方法を用いて適切な黄色ブドウ球菌株から抽出することができ、米国特許第6,294,177号を参照されたい。例えば、ATCC 12902は5型黄色ブドウ球菌株であり、ATCC 12605は8型黄色ブドウ球菌株である。
【0181】
多糖類は天然のサイズのものであり、あるいは、例えばマイクロ流動化、超音波照射または化学的処理によってサイジングされてもよい。本発明はまた、黄色ブドウ球菌の5型および8型多糖類に由来するオリゴ糖を網羅する。本発明の免疫原性組成物に含まれる5型および8型多糖類は、好ましくは、下記のように担体タンパク質と結合され、あるいは非結合とされる。本発明の免疫原性組成物は、あるいは、5型または8型多糖類のどちらかを含む。
【0182】
C. 黄色ブドウ球菌336抗原
一つの態様において、本発明の免疫原性組成物は、米国特許第6,294,177号に記述されている黄色ブドウ球菌336抗原を含む。336抗原は、β結合ヘキソサミンを含み、O-アセチル基を含まず、ATCC 55804の下で寄託された黄色ブドウ球菌336型に対する抗体と特異的に結合する。一つの態様において、336抗原は多糖類であり、これは天然のサイズのものであり、あるいは、例えばマイクロ流動化、超音波照射または化学的処理によってサイジングされてもよい。本発明はまた、336抗原に由来するオリゴ糖を網羅する。336抗原は担体タンパク質に結合されなくてもまたは結合されてもよい。
【0183】
D. 表皮ブドウ球菌由来のI型、II型およびIII型多糖類
ワクチン接種に多糖類を用いることに付随する問題の中には、多糖類それ自体が不十分な免疫原であるという事実がある。本発明において利用される多糖類を、傍観T細胞の助けをもたらすタンパク質担体に連結させて、免疫原性を改善することが好ましい。多糖類免疫原と結合されうるそのような担体の例としては、ジフテリアおよび破傷風トキソイド(それぞれDT、DT CRM 197およびTT)、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)、ならびにツベルクリン精製タンパク質誘導体(PPD)、緑膿菌エキソプロテインA (rEPA)、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)由来のプロテインD、肺炎球菌溶血素またはこれらのうちのいずれかの断片が挙げられる。用いるのに適した断片には、Tヘルパーエピトープを包含する断片が含まれる。特に、インフルエンザ菌由来のプロテインD断片は、そのタンパク質のN末端側の3分の1を含むことが好ましいであろう。プロテインDは、インフルエンザ菌由来のIgD結合タンパク質であり(EP 0 594 610 B1)、潜在的な免疫原である。さらに、ブドウ球菌タンパク質を本発明の多糖類結合体における担体タンパク質として用いることができる。
【0184】
ブドウ球菌ワクチンに関して用いるのに特に有利であるものと考えられる担体タンパク質は、ブドウ球菌αトキソイドである。結合の過程で毒性が低減するので、この天然形態を多糖類と結合させてもよい。残留毒性がより低いことから、His35LeuまたはHis35Arg変種のような、遺伝学的に解毒されたα毒素が担体として用いられることが好ましい。あるいは、架橋試薬ホルムアルデヒドまたはグルタルアルデヒドでの処理によって、α毒素を化学的に解毒する。遺伝学的に解毒されたα毒素を、好ましくは架橋試薬、ホルムアルデヒドまたはグルタルアルデヒドでの処理により任意で化学的に解毒して、毒性をさらに低減してもよい。
【0185】
多糖類は、いずれかの公知の方法(例えば、米国特許第4,372,945号、同第4,474,757号および同第4,356,170号に記述されている方法)によって担体タンパク質に連結させることができる。CDAP結合化学反応が行われることが好ましい(WO95/08348参照)。CDAPでは、シアニル化試薬1-シアノ-ジメチルアミノピリジニウムテトラフルオロボレート(CDAP)が多糖類-タンパク質結合体の合成に用いられることが好ましい。シアニル化反応は、アルカリ感受性多糖類の加水分解を回避するような比較的穏やかな条件の下で行うことができる。この合成により、担体タンパク質への直接的なカップリングが可能である。
【0186】
結合には担体タンパク質と多糖類との間の直接的な連結の作製が含まれることが好ましい。任意で、スペーサー(アジピン酸ジヒドリド(adipic dihydride; ADH)など)が担体タンパク質と多糖類との間に導入されてもよい。
【0187】
IV. 免疫反応およびアッセイ法
上記のように、本発明は、対象において変種SpAまたはコアグラーゼペプチドに対する免疫反応を惹起または誘導することに関係する。一つの態様において、免疫反応は、感染または関連する疾患、とりわけブドウ球菌に関連する疾患を有する、有することが疑われる、または発症するリスクがある対象を防御または処置することができる。本発明の免疫原性組成物の使い方の一つは、病院または感染のリスク増大を伴う他の環境において医療手当を受ける前に対象を予防接種することによって院内感染を予防することである。
【0188】
A. 免疫アッセイ法
本発明は、本発明の組成物により免疫反応が誘導または惹起されるかどうか、およびどの程度まで誘導または惹起されるかを評価するための血清学的アッセイ法の実施を含む。実施されうる多くのタイプの免疫アッセイ法が存在する。本発明により包含される免疫アッセイ法には、米国特許第4,367,110号に記述されているもの(二重モノクローナル抗体サンドイッチアッセイ法)および米国特許第4,452,901号に記述されているもの(ウエスタンブロット)が含まれるが、これらに限定されることはない。他のアッセイ法には、インビトロおよびインビボの両方での、標識リガンドの免疫沈降および免疫細胞化学が含まれる。
【0189】
免疫アッセイ法は一般に、結合アッセイ法である。ある特定の好ましい免疫アッセイ法は、当技術分野において公知のさまざまなタイプの酵素結合免疫吸着アッセイ法(ELISA)および放射免疫アッセイ法(RIA)である。組織切片を用いる免疫組織化学的検出もまた特に有用である。一例を挙げれば、抗体または抗原をポリスチレンマイクロタイタープレート中のウェル、ディップスティック、またはカラム支持体などの、選択した表面に固定化する。次いで、臨床サンプルなどの、所望の抗原または抗体を含有すると疑われる試験組成物をウェルに加える。結合および非特異的に結合した免疫複合体を除去するための洗浄の後、結合した抗原または抗体を検出することができる。検出は一般に、検出可能な標識に連結されている、所望の抗原または抗体に特異的な、別の抗体の添加によって達成される。このタイプのELISAは「サンドイッチELISA」として公知である。検出は、所望の抗原に特異的な二次抗体の添加の後、該二次抗体に対して結合親和性を有する三次抗体であって、検出可能な標識に連結されている該三次抗体の添加によって達成することもできる。
【0190】
試験サンプルが既知量の標識抗原または抗体と結合で競合する、競合ELISAも実行の可能性がある。未知サンプル中の反応性種の量は、コーティングされたウェルとのインキュベーションの前または間に、該サンプルと既知の標識種とを混合することによって測定される。サンプル中の反応性種の存在は、ウェルへの結合に利用可能な標識された種の量を低下させるように作用し、したがって最終的なシグナルを減少させる。利用される形式に関係なく、ELISAはコーティング、インキュベーションまたは結合、非特異的に結合された種を除去するための洗浄、および結合された免疫複合体の検出などの、ある特定の特徴を共通して有する。
【0191】
抗原または抗体はプレート、ビーズ、ディップスティック、膜またはカラム基材の形態でのような、固体支持体に連結されてもよく、分析されるサンプルが、固定化された抗原または抗体に適用される。プレートを抗原または抗体のいずれかでコーティングする際に、一般的に、プレートのウェルは、一晩または特定の期間の間、抗原または抗体の溶液とともにインキュベートされる。次にプレートのウェルを洗浄して、不完全に吸着された物質を除去する。次いで、ウェルに残存している任意の利用可能表面を、試験抗血清に関して抗原的に中性である非特異的タンパク質で「コーティング」する。これらには、ウシ血清アルブミン(BSA)、カゼインおよび粉乳の溶液が含まれる。コーティングは、固定性表面上での非特異的吸着部位のブロッキングを可能にし、したがって、該表面上への抗血清の非特異的結合によって引き起こされるバックグラウンドを低減する。
【0192】
B. 細菌感染の診断
上記の感染を処置または予防するためのタンパク質、ポリペプチドおよび/またはペプチド、ならびにこれらのポリペプチド、タンパク質および/またはペプチドに結合する抗体の使用に加え、本発明は、患者内であれ医療機器上であれ、同様に感染しうる感染症を診断するためのブドウ球菌の存在の検出を含む、種々の様式でのこれらのポリペプチド、タンパク質、ペプチドおよび/または抗体の使用を企図する。本発明によれば、感染の存在を検出する好ましい方法は、個体から、例えば、個体の血液、唾液、組織、骨、筋肉、軟骨または皮膚から採取されたサンプルのような、一種または複数種のブドウ球菌種または菌株に感染していることが疑われるサンプルを得る段階を含む。サンプルの単離に続き、本発明のポリペプチド、タンパク質、ペプチドおよび/または抗体を利用する診断アッセイ法を行ってブドウ球菌の存在を検出することができ、サンプル中でのそのような存在を判定するためのそのようなアッセイ技術は当業者に周知であり、放射免疫アッセイ法、ウエスタンブロット分析およびELISAアッセイ法などの方法を含む。概して、本発明によれば、ブドウ球菌に感染していることが疑われるサンプルを本発明によるポリペプチド、タンパク質、ペプチド、抗体またはモノクローナル抗体に加え、サンプル中の、ポリペプチド、タンパク質および/もしくはペプチドに結合する抗体、または抗体に結合するポリペプチド、タンパク質および/もしくはペプチドによってブドウ球菌が示される、感染を診断する方法が企図される。
【0193】
したがって、本発明による抗体は、ブドウ球菌の感染の予防(すなわち、受動免疫)のために、進行中の感染の処置のために、または研究ツール用として用いることができる。本明細書において用いられる「抗体」という用語は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体、二重特異性抗体、サル化抗体およびヒト化抗体または霊長類化抗体、ならびにFab免疫グロブリン発現ライブラリの産物を含め、抗体の結合特異性を維持している断片のような、Fab断片を含む。したがって、本発明は、抗体の可変重鎖および軽鎖のような一本鎖の使用を企図する。これらのタイプのいずれの抗体または抗体断片の作製も当業者に周知である。細菌タンパク質に対する抗体の作製の具体例は、参照により全体が本明細書に組み入れられる米国特許出願公開第20030153022号のなかで見出すことができる。
【0194】
上記のポリペプチド、タンパク質、ペプチドおよび/または抗体のいずれも、ブドウ球菌の同定および定量のために、検出可能な標識で直接的に標識することができる。免疫アッセイ法で用いるための標識は一般に、当業者に公知であり、コロイド金またはラテックスビーズのような着色粒子を含めて、酵素、放射性同位体、ならびに蛍光物質、発光物質および発色物質を含む。適当な免疫アッセイ法は酵素結合免疫吸着アッセイ法(ELISA)を含む。
【0195】
C. 防御免疫
本発明のいくつかの態様において、タンパク質性組成物は対象に防御免疫を付与する。防御免疫とは、免疫反応が起こる作用因子を伴った特定の疾患または状態を対象が発症することを防ぐ特異的な免疫反応を開始する身体の能力をいう。免疫原性上有効な量は、対象に防御免疫を付与することができる。
【0196】
本明細書においておよび添付の特許請求の範囲において用いられる場合、ポリペプチドまたはペプチドという用語は、ペプチド結合を介して共有結合的に連結された一続きのアミノ酸をいう。異なるポリペプチドは、本発明による異なる機能性を有する。一つの局面によれば、ポリペプチドは、レシピエントにおいて能動免疫反応を誘導するようにデザインされた免疫原に由来するが、本発明の別の局面によれば、ポリペプチドは、例えば動物での、能動免疫反応の誘発後に生じる、かつレシピエントにおいて受動免疫反応を誘導する働きのできる、抗体に由来する。しかしながら、どちらの場合も、ポリペプチドは、任意の可能なコドン使用頻度にしたがってポリヌクレオチドによりコードされる。
【0197】
本明細書において用いられる場合、「免疫反応」またはその等価語「免疫学的反応」という語句は、レシピエント患者での本発明のタンパク質、ペプチド、炭水化物またはポリペプチドに向けられた体液性(抗体を介した)反応、細胞性(抗原特異的T細胞もしくはその分泌産物によって媒介される)反応、または体液性反応と細胞性反応の両方の発生をいう。そのような反応は、免疫原の投与によって誘導された能動反応または抗体、抗体を含有する材料もしくは初回抗原刺激を受けたT細胞の投与によって誘導された受動反応でありうる。細胞性免疫反応はクラスIまたはクラスII MHC分子と結び付いたポリペプチドエピトープの提示により誘発されて、抗原特異的なCD4 (+) Tヘルパー細胞および/またはCD8 (+)細胞傷害性T細胞を活性化する。反応には単球、マクロファージ、NK細胞、好塩基球、樹状細胞、星状細胞、小膠細胞、好酸球または先天性免疫の他の成分も伴われうる。本明細書において用いられる場合、「能動免疫」とは、抗原の投与によって対象に付与される任意の免疫をいう。
【0198】
本明細書において用いられる場合、「受動免疫」とは、対象への抗原の投与なしで対象に付与される任意の免疫をいう。「受動免疫」はそれゆえ、免疫反応の細胞メディエータまたはタンパク質メディエータ(例えば、モノクローナルおよび/またはポリクローナル抗体)を含めた活性化免疫エフェクタの投与を含むが、これらに限定されることはない。モノクローナルまたはポリクローナル抗体組成物は、抗体によって認識される抗原を持った生物による感染の予防または処置のための受動免疫付与に用いることができる。抗体組成物は、さまざまな生物と関連しうる種々の抗原に結合する抗体を含むことができる。抗体成分はポリクローナル抗血清であることができる。ある特定の局面において、抗体は動物または抗原を接種された第二の対象からアフィニティー精製される。あるいは、ブドウ球菌を含むがこれに限定されない、グラム陽性菌、グラム陰性菌などの、同一の、関連の、または別の微生物または生物に存在する抗原に対するモノクローナルおよび/またはポリクローナル抗体の混合物である、抗体混合物を用いることもできる。
【0199】
受動免疫は、免疫グロブリン(Ig)、および/またはドナーもしくは周囲の免疫反応性を有する他の非患者供給源から得られる他の免疫因子を患者に投与することによって、患者または対象に与えることができる。他の局面において、本発明の抗原組成物は、ブドウ球菌または他の生物に対して作製された抗体を含む、抗原組成物への曝露に反応して産生されるグロブリン(「過免疫グロブリン」)の供給源もしくはドナーとしての役割を果たす対象に、投与することができる。このように処置された対象は、過免疫グロブリンを、従来の血漿分画法により得て、ブドウ球菌感染に対する耐性を与えるためにまたはブドウ球菌感染を処置するために別の対象に投与できる、血漿を提供することができる。本発明による過免疫グロブリンは、免疫不全の個体に、侵襲的処置を受けている個体に、または個体がワクチン接種に反応して自身の抗体を産生できる時間のない個体にとりわけ有用である。受動免疫に関連した例示的な方法および組成物は、米国特許第6,936,258号、同第6,770,278号、同第6,756,361号、同第5,548,066号、同第5,512,282号、同第4,338,298号、および同第4,748,018号を参照されたく、これらはそれぞれ、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0200】
本明細書および添付の特許請求の範囲のために「エピトープ」および「抗原決定基」という用語は、Bおよび/またはT細胞が反応するまたは認識する抗原上の部位をいうように互換的に用いられる。B細胞エピトープは、タンパク質の三次元の折り畳みが並置した隣接アミノ酸からも非隣接アミノ酸からも形成されることができる。隣接アミノ酸から形成されたエピトープは、通常、変性溶媒に曝されても保持されるのに対し、三次元の折り畳みによって形成されたエピトープは、通常、変性溶媒を用いた処理によって失われる。エピトープは、通常、固有の空間的構造の中に少なくとも3個、より通常には、少なくとも5個または8~10個のアミノ酸を含む。エピトープの空間的構造を決定する方法は、例えば、x線結晶学および2次元核磁気共鳴を含む。例えば、Epitope Mapping Protocols (1996)を参照されたい。同じエピトープを認識する抗体は、ある抗体が標的抗原への別の抗体の結合を遮断する能力を示す、単純な免疫アッセイ法において特定することができる。T細胞はCD8細胞の場合およそ9アミノ酸の、またはCD4細胞の場合およそ13~15アミノ酸の連続エピトープを認識する。エピトープを認識するT細胞は、エピトープに反応して、初回抗原刺激を受けたT細胞がする3H-チミジンの取り込み(Burke et al., 1994)により、抗原依存的な死滅化(細胞傷害性Tリンパ球アッセイ法, Tigges et al., 1996)により、またはサイトカイン分泌により決定されるように、抗原依存的な増殖を測定するインビトロでのアッセイ法により特定することができる。
【0201】
細胞を介した免疫学的反応の存在は、増殖アッセイ法(CD4 (+) T細胞)またはCTL (細胞傷害性Tリンパ球)アッセイ法により決定することができる。免疫原の防御効果または治療効果に対する体液性および細胞性反応の相対的寄与は、免疫した同系動物からIgGおよびT細胞を個別に単離し、第二の対象において防御効果または治療効果を測定することにより、識別することができる。
【0202】
本明細書においておよび添付の特許請求の範囲において用いられる場合、「抗体」または「免疫グロブリン」という用語は、互換的に用いられ、動物またはレシピエントの免疫反応の一部として機能する構造的に関連したタンパク質のいくつかのクラスのいずれかをいい、それらのタンパク質にはIgG、IgD、IgE、IgA、IgMおよび関連タンパク質が含まれる。
【0203】
正常な生理学的条件の下で、抗体は、血漿および他の体液中にならびにある特定の細胞の膜中に見られ、B細胞と表示されるタイプのリンパ球またはその機能的同等物によって産生される。IgGクラスの抗体は、ジスルフィド結合によってともに連結された四本のポリペプチド鎖で構成されている。インタクトなIgG分子の四本の鎖は、H鎖といわれる二本の同一の重鎖およびL鎖といわれる二本の同一の軽鎖である。
【0204】
ポリクローナル抗体を産生するために、ウサギまたはヤギなどの宿主を、一般的にアジュバントとともにおよび、必要なら、担体にカップリングされた、抗原または抗原断片で免疫する。その後、抗原に対する抗体を宿主の血清から回収する。ポリクローナル抗体を単一特異性にする抗原に対して、ポリクローナル抗体を親和性精製することができる。
【0205】
モノクローナル抗体は、抗原での適切なドナーの過免疫により、または脾細胞の初代培養物もしくは脾臓に由来する細胞株の使用によりエクスビボで産生することができる(Anavi, 1998; Huston et al., 1991; Johnson et al., 1991; Mernaugh et al., 1995)。
【0206】
本明細書においておよび添付の特許請求の範囲において用いられる場合、「抗体の免疫学的部分」という語句は、抗体のFab断片、抗体のFv断片、抗体の重鎖、抗体の軽鎖、抗体の重鎖および軽鎖からなるヘテロ二量体、抗体の軽鎖の可変断片、抗体の重鎖の可変断片、ならびにscFvとしても公知の、抗体の一本鎖変種を含む。さらに、この用語は、種の一つがヒトでありうる異なる種に由来する融合遺伝子の発現産物であるキメラ免疫グロブリンも含み、その場合、キメラ免疫グロブリンはヒト化されているといわれる。典型的には、抗体の免疫学的部分は、それを得たインタクトな抗体と、抗原への特異的結合で競合する。
【0207】
任意で、抗体または好ましくは抗体の免疫学的部分は、他のタンパク質との融合タンパク質に化学的に抱合されても、またはその融合タンパク質として発現されてもよい。本明細書および添付の特許請求の範囲のために、そのような全ての融合タンパク質は、抗体または抗体の免疫学的部分の定義のなかに含まれる。
【0208】
本明細書において用いられる場合、「免疫原性作用物質」または「免疫原」または「抗原」という用語は、アジュバントとともに、単独で、またはディスプレイ媒体上に提示された状態で、レシピエントに投与することにより、それ自体に対する免疫学的反応を誘導できる分子を記述するよう互換的に用いられる。
【0209】
D. 処置方法
本発明の方法は、ブドウ球菌病原菌によって引き起こされる疾患または状態の処置を含む。本発明の免疫原性ポリペプチドは、ブドウ球菌に罹患している者またはブドウ球菌に曝されていると疑われる者において免疫反応を誘導するために与えることができる。ブドウ球菌への曝露で陽性と判定された個体、または曝露の可能性に基づいて感染のリスクがあると思われる個体について、それらの方法を利用することができる。
【0210】
具体的には、本発明は、ブドウ球菌感染、特に病院獲得型の院内感染の処置の方法を包含する。本発明の免疫原性組成物およびワクチンは、待期的手術の場合に用いるのに特に好都合である。そのような患者は、前もって手術日を承知しており、前もって予防接種することができよう。本発明の免疫原性組成物およびワクチンはまた、医療従事者を予防接種するために用いるのに好都合である。
【0211】
いくつかの態様において、処置は、アジュバントもしくは担体または他のブドウ球菌抗原の存在下で投与される。さらに、いくつかの例において、処置は、一つまたは複数の抗生物質などの、細菌感染に対してよく使われる他の薬剤の投与を含む。
【0212】
ワクチン接種のためにペプチドを用いるには、B型肝炎表面抗原、キーホールリンペットヘモシアニン、またはウシ血清アルブミンなどの、免疫原担体タンパク質とのペプチドの抱合が必要になりうるが、必ず必要になるわけではない。この抱合を行うための方法は、当技術分野において周知である。
【0213】
V. ワクチンおよび他の薬学的組成物ならびに投与
A. ワクチン
本発明は、ブドウ球菌感染、特に病院獲得型の院内感染を予防または改善するための方法を含む。したがって、本発明は、能動免疫と受動免疫の両方の態様で用いるためのワクチンを企図する。ワクチンとして用いるのに適当であると提唱されている免疫原性組成物は、免疫原性SpAポリペプチド、例えばSpAドメインD変種、または免疫原性コアグラーゼから調製することができる。他の態様において、SpAまたはコアグラーゼを他の分泌病毒性タンパク質、表面タンパク質またはその免疫原性断片と組み合わせて用いることができる。ある特定の局面において、抗原材料は、望ましくない低分子量分子を除去するために十分に透析され、および/または所望の媒体へのより容易な処方のために凍結乾燥される。
【0214】
タンパク質/ペプチドに基づくワクチンのための他の選択肢は、DNAワクチンとしての、抗原をコードする核酸の導入を伴う。この点で、最近の報告によれば、隣接する10個の最小のCTLエピトープ(Thomson, 1996)、またはいくつかの微生物由来のB細胞、細胞傷害性Tリンパ球(CTL)およびT-ヘルパー(Th)エピトープの組み合わせ(An, 1997)を発現する組み換えワクシニアウイルスの構築、ならびに防御免疫反応に抗原刺激を与えるためにそのような構築体を用いてマウスを免疫することの成功について記述されている。このように、文献の中には、防御免疫反応の効率的なインビボ抗原刺激のためにペプチド、ペプチドパルス抗原提示細胞(APC)、およびペプチドをコードする構築体を利用することの成功に関する十分な証拠が存在している。ワクチンとしての核酸配列の使用は、米国特許第5,958,895号および同第5,620,896号に例示されている。
【0215】
活性成分としてポリペプチドまたはペプチド配列を含むワクチンの調製は一般的に、米国特許第4,608,251号、同第4,601,903号、同第4,599,231号、同第4,599,230号、同第4,596,792号、および同第4,578,770号によって例示されるように、当技術分野において十分に理解されており、それらの特許の全てが参照により本明細書に組み入れられる。典型的には、そのようなワクチンは、液体溶液または液体懸濁液のいずれかとして注射用剤として調製される: 注射前の液体溶液または液体懸濁液に適した固体剤形を調製することもできる。調製物は乳化されてもよい。活性な免疫原性成分は、薬学的に許容されるかつ活性成分と適合性である、賦形剤と混合されることが多い。適当な賦形剤は、例えば、水、生理食塩液、デキストロース、グリセロール、エタノールなどおよびその組み合わせである。さらに、必要に応じて、ワクチンは、湿潤剤もしくは乳化剤、pH緩衝剤、またはワクチンの有効性を増強するアジュバントのような補助物質の量を含んでもよい。特定の態様において、ワクチンは、米国特許第6,793,923号および同第6,733,754号に記述されるように、物質の組み合わせを用いて処方され、それらの特許は参照により本明細書に組み入れられる。
【0216】
ワクチンは、通常、非経口的に、注射により、例えば、皮下または筋肉内のいずれかにより投与されうる。他の投与方法に適したさらなる処方物は、坐剤および、場合により、経口処方物を含む。坐剤の場合、従来の結合剤および担体は、例えば、ポリアルカレングリコールまたはトリグリセリドを含むことができ; そのような坐剤は、活性成分を約0.5%~約10%、好ましくは約1%~約2%の範囲内で含有する混合物から形成されることができる。経口処方物は、例えば、薬学的等級のマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムなどのような通常利用される賦形剤を含む。これらの組成物は、溶液、懸濁液、錠剤、丸剤、カプセル、徐放性処方物または粉末の形態をとり、約10%~約95%の、好ましくは約25%~約70%の活性成分を含有する。
【0217】
ポリペプチドおよびポリペプチドをコードするDNA構築体は、中性型または塩型としてワクチンに処方することができる。薬学的に許容される塩は、酸付加塩(ペプチドの遊離アミノ基と形成される)および、例えば、塩酸もしくはリン酸のような無機酸、または酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸などのような有機酸と形成されるものを含む。
【0218】
典型的には、ワクチンは、投与処方物に適合する様式で、および治療的に有効かつ免疫原性であるような量で投与される。投与される量は、個体の免疫系の抗体合成能および望ましい防御の程度を含め、処置される対象に依る。投与されるのに必要な活性成分の厳密な量は、医師の判断に依る。しかしながら、適切な投与量範囲は、ワクチン接種1回あたり数百マイクログラムの活性成分の次数のものである。初回投与および追加免疫の接種に適したレジメも同様に多様であるが、初回投与後にその後の接種または他の投与を行うことが典型的である。
【0219】
適用の様式は広く異なってもよい。ワクチンの投与のための従来の方法のいずれも適用可能である。これらには、固体の生理学的に許容される基剤内でのまたは生理学的に許容される分散液中での経口適用、非経口的に、注射により、などが含まれると考えられる。ワクチンの投与量は投与経路に依るであろうし、対象の大きさおよび健康状態によって異なるであろう。
【0220】
場合によっては、ワクチンの複数回の投与、例えば、2、3、4、5、6回またはそれ以上の投与が有ることが望ましいであろう。ワクチン接種は、次の間の全ての範囲を含む、1、2、3、4、5、6、7、8~5、6、7、8、9、10、11、12、12週間の間隔であってもよい。抗体の防御レベルを維持するには、1~5年の間隔での定期的な追加免疫が望ましいであろう。米国特許第3,791,932号; 同第4,174,384号および同第3,949,064号に記述されているように、免疫過程の後に、抗原に対する抗体のアッセイを行ってもよい。
【0221】
1. 担体
所与の組成物はその免疫原性が異なる場合がある。それゆえ、宿主免疫系を追加免疫することが必要になることが多く、これはペプチドまたはポリペプチドを担体にカップリングさせることにより達成することもできる。例示的なかつ好ましい担体はキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)およびウシ血清アルブミン(BSA)である。卵白アルブミン、マウス血清アルブミンまたはウサギ血清アルブミンなどの他のアルブミンを担体として用いることもできる。ポリペプチドを担体タンパク質に抱合させるための手段は、当技術分野において周知であり、グルタルアルデヒド、m-マレイミドベンゾイル(maleimidobencoyl)-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、カルボジイミドおよびビスジアゾ化(bis-biazotized)ベンジジンを含む。
【0222】
2. アジュバント
ポリペプチドまたはペプチド組成物の免疫原性は、アジュバントとして公知の、免疫反応の非特異的刺激物質を用いることによって増強することができる。適当なアジュバントはサイトカイン、毒素または合成組成物などの、許容される全ての免疫刺激性化合物を含む。変種SpAポリペプチドもしくはコアグラーゼ、または本明細書において企図されるその他任意の細菌タンパク質もしくは組み合わせに対する抗体反応を増強するために、いくつかのアジュバントを用いることができる。アジュバントは、(1) 抗原を体内に捕捉して持続放出を引き起こすこと; (2) 免疫反応に関わる細胞を投与部位に引き付けること; (3) 免疫系細胞の増殖もしくは活性化を誘導すること; または(4) 対象の体全体に抗原を広げるのを改善することができる。
【0223】
アジュバントは、水中油型乳濁液、油中水型乳濁液、無機塩類、ポリヌクレオチド、および天然物質を含むが、これらに限定されることはない。使用できる具体的なアジュバントはIL-1、IL-2、IL-4、IL-7、IL-12、γ-インターフェロン、GMCSP、BCG、水酸化アルミニウムまたは他のアルミニウム化合物などのアルミニウム塩、thur-MDPおよびnor-MDPなどのMDP化合物、CGP (MTP-PE)、脂質A、ならびにモノホスホリル脂質A (MPL)を含む。細菌から抽出された三種の成分、つまりMPL、トレハロースジマイコレート(TDM)および細胞壁骨格(CWS)を2%スクアレン/Tween 80乳濁液中に含有する、RIBI。MHC抗原をさらに使用することができる。他のアジュバントまたは方法は、各々が参照により本明細書に組み入れられる米国特許第6,814,971号、同第5,084,269号、同第6,656,462号に例示されている。
【0224】
いくつかの態様において、アジュバントは免疫賦活剤を含む。そのような免疫賦活剤には、これらに限定されないが、パターン認識受容体、例えば、Toll様受容体、RIG-1およびNOD様受容体(NLR)の賦活剤、無機塩類、例えば、ミョウバン、ミョウバンと腸内細菌(Enterobacteria)、例えば、大腸菌、サルモネラ・ミネソタ(Salmonella minnesota)、サルモネラ・チフィリウム(Salmonella typhimurium)、もしくはシゲラ・フレックスネリ(Shigella flexneri)のモノホスホリルリピド(MPL)Aとの、特にMPL.RTM. (ASO4)との組み合わせ、上述の細菌の個別のMPL A、サポニン、例えばQS-21、Quil-A、ISCOM、ISCOMATRIX、エマルジョン、例えば、MF59、Montanide、ISA 51およびISA 720、AS02(QS21+スクアレン+MPL.)、リポソームおよびリポソーム製剤、例えばAS01、合成されたまたは特別に調整されたマイクロ粒子およびマイクロキャリア、例えば、淋菌(N. gonorrheae)およびクラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)等の細菌由来外膜小胞(OMV)、またはキトサン粒子、デポ形成剤、例えばプルロニックブロックコポリマー、特別に改変されたまたは調製されたペプチド、例えばムラミルジペプチド、アミノアルキルグルコサミニド4リン酸、例えばRC529、またはタンパク質、例えば細菌毒素もしくは毒素断片の免疫賦活剤が含まれ得る。
【0225】
ワクチンのアジュバント作用を達成するさまざまな方法には、それぞれ、一般的に約0.05~約0.1%のリン酸緩衝生理食塩水溶液として用いられる水酸化アルミニウムまたはリン酸アルミニウム(ミョウバン)のような作用物質を用いること、約0.25%の溶液として用いられる合成糖重合体(Carbopol(登録商標))とともに混合すること、約70℃~約101℃の範囲の温度で30秒~2分間の熱処理によってワクチンにおけるタンパク質を凝集させることが含まれる。アルブミンに対するペプシン処理抗体(Fab)での再活性化による凝集、細菌細胞(例えば、C.パルブム(C. parvum))、グラム陰性菌の内毒素もしくはリポ多糖類成分との混合物、生理学的に許容される油性媒体中の乳濁液(例えば、マンニドモノ-オレエート(Aracel A)); またはブロック代用物として用いられる20%のペルフルオロカーボン溶液との乳濁液(Fluosol-DA(登録商標))を利用して、アジュバント作用をもたらすこともできる。
【0226】
アジュバントの例かつ多くの場合に好ましいアジュバントには、フロイントの完全アジュバント(結核菌(Mycobacterium tuberculosis)死菌を含む免疫反応の非特異的な刺激物質)、フロイントの不完全アジュバント、および水酸化アルミニウムが含まれる。
【0227】
いくつかの局面において、Th1またはTh2型の反応のいずれかの選択的誘発物質となるようにアジュバントを選択することが好ましい。高レベルのTh1型サイトカインは、所与の抗原に対する細胞性免疫反応の誘導に有利に働く傾向があるのに対し、高レベルのTh2型サイトカインは、抗原に対する体液性免疫反応の誘導に有利に働く傾向がある。
【0228】
Th1およびTh2型免疫反応の区別は絶対的ではない。実際には、個体は、主にTh1または主にTh2とされている免疫反応を支持する。しかし、多くの場合、MosmannおよびCoffman (Mosmann, and Coffman, 1989)によりネズミCD4+ T細胞クローンにおいて記述されているものに関してサイトカインのファミリーを考えることが好都合である。伝統的には、Th1型反応は、Tリンパ球によるINF-γおよびIL-2サイトカインの産生と関連している。IL-12のような、Th1型免疫反応の誘導に直接関連することが多いその他のサイトカインは、T細胞によって産生されない。対照的に、Th2型反応は、IL-4、IL-5、IL-6、IL-10の分泌に関連する。
【0229】
アジュバントの他に、生体反応修飾物質(BRM)を同時投与して、免疫反応を増強することが望ましいかもしれない。BRMは、T細胞免疫を上方制御するまたはサプレッサー細胞活性を下方制御することが示されている。そのようなBRMは、シメチジン(CIM; 1200 mg/d) (Smith/Kline, PA); または低用量シクロホスファミド(CYP; 300 mg/m2) (Johnson/Mead, NJ)およびγインターフェロン、IL-2もしくはIL-12のようなサイトカイン、またはB-7のような、免疫ヘルパー機能に関与するタンパク質をコードする遺伝子を含むが、これらに限定されることはない。
【0230】
B. 脂質成分および部分
ある特定の態様において、本発明は、核酸またはポリペプチド/ペプチドと結び付いた一つまたは複数の脂質を含む組成物に関する。脂質は水に不溶な、かつ有機溶媒で抽出可能な物質である。本明細書において具体的に記述するもの以外の化合物は、当業者により脂質と理解され、本発明の組成物および方法によって包含される。脂質成分および非脂質は、共有結合的または非共有結合的に、互いに付着されてもよい。
【0231】
脂質は天然の脂質または合成脂質であってもよい。しかしながら、脂質は、通常、生物学的物質である。生物学的脂質は、当技術分野において周知であり、例えば、中性脂肪、リン脂質、ホスホグリセリド、ステロイド、テルペン、リゾ脂質、スフィンゴ糖脂質、糖脂質、スルファチド、エーテルかつエステル結合した脂肪酸を有する脂質および重合可能な脂質、ならびにその組み合わせを含む。
【0232】
脂質と結合した、核酸分子またはポリペプチド/ペプチドを、脂質を含有する溶液に分散させ、脂質によって溶解させ、脂質によって乳化させ、脂質と混合させ、脂質と組み合わせ、脂質に共有結合させ、脂質中の懸濁液として含有させ、または他の方法で脂質と結合させてもよい。本発明の脂質または脂質-ポックスウイルス-結合組成物は、任意の特定の構造に限定されない。例えば、それらを単純に溶液中に散在させ、おそらくサイズまたは形状のどちらかが均一ではない凝集体を形成させてもよい。別の例において、それらは二層構造で、ミセルとして、または「崩壊した」構造で存在してもよい。別の非制限的な例において、リポフェクトアミン(Gibco BRL)-ポックスウイルスまたはSuperfect (Qiagen)-ポックスウイルス複合体も企図される。
【0233】
ある特定の態様において、組成物は約1%、約2%、約3%、約4%、約5%、約6%、約7%、約8%、約9%、約10%、約11%、約12%、約13%、約14%、約15%、約16%、約17%、約18%、約19%、約20%、約21%、約22%、約23%、約24%、約25%、約26%、約27%、約28%、約29%、約30%、約31%、約32%、約33%、約34%、約35%、約36%、約37%、約38%、約39%、約40%、約41%、約42%、約43%、約44%、約45%、約46%、約47%、約48%、約49%、約50%、約51%、約52%、約53%、約54%、約55%、約56%、約57%、約58%、約59%、約60%、約61%、約62%、約63%、約64%、約65%、約66%、約67%、約68%、約69%、約70%、約71%、約72%、約73%、約74%、約75%、約76%、約77%、約78%、約79%、約80%、約81%、約82%、約83%、約84%、約85%、約86%、約87%、約88%、約89%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、またはその間の任意の範囲の、特定の脂質、脂質型、あるいはアジュバント、抗原、ペプチド、ポリペプチド、糖、核酸または本明細書に開示されるもしくは当業者に公知であるような他の材料などの非脂質成分を含むことができる。非限定的な例において、組成物は約10%~約20%の中性脂質、および約33%~約34%のセレブロシド、および約1%のコレステロールを含むことができる。別の非限定的な例において、リポソームは、ミセルの約1%が特にリコペンであって、リポソームの約3%~約11%が他のテルペンを含んだままの、約4%~約12%のテルペン、ならびに約10%~約35%のホスファチジルコリン、および約1%の非脂質成分を含むことができる。このように、本発明の組成物は、任意の組み合わせまたは百分率の範囲で脂質、脂質型または他の成分のいずれを含んでもよいと企図される。
【0234】
C. 併用療法
本発明の組成物および関連する方法、特に、変種SpAポリペプチドまたはペプチドを含む、分泌病毒性因子もしくは表面タンパク質、および/または他の細菌ペプチドもしくはタンパク質の患者/対象への投与を、従来の治療の施行と併せて用いることもできる。これらには、ストレプトマイシン、シプロフロキサシン、ドキシサイクリン、ゲンタマイシン、クロラムフェニコール、トリメトプリム、スルファメトキサゾール、アンピシリン、テトラサイクリン、または抗生物質の各種組み合わせなどの抗生物質の投与が含まれるが、これらに限定されることはない。
【0235】
一つの局面において、ポリペプチドワクチンおよび/または治療を、抗細菌処置とともに用いることが企図される。あるいは、治療は数分から数週間に及ぶ間隔だけ、他剤での処置に先行するまたは続くこともできる。他の薬剤および/またはタンパク質もしくはポリヌクレオチドが別々に投与される態様において、薬剤および抗原組成物が依然として、有利に組み合わさった効果を対象に及ぼすことができるように、一般に、各送達時と送達時との間でかなりの時間が経ってしまわないことを確実にする。そのような場合、双方の様式を互いに約12~24時間以内にまたは互いに約6~12時間以内に施すことができると企図される。場合によっては、投与の期間をかなり延ばすことが望ましい場合もあり、その場合には各投与の間隔は数日(2、3、4、5、6または7日)から数週間(1、2、3、4、5、6、7または8週間)である。
【0236】
例えば抗生物質治療を「A」とし、抗原などの、免疫治療レジメの一部として投与される免疫原性分子を「B」とし、種々の組み合わせを利用することができる。
【0237】
患者/対象への本発明の免疫原性組成物の投与は、SpA組成物、または本明細書に記載された他の組成物の、もしあれば、毒性を考慮に入れながらも、そのような化合物の投与に関する一般的なプロトコルに従う。処置周期は必要に応じて繰り返されるものと期待される。同様に、水和などの、種々の標準的な治療を記述の治療と併せて適用できるものと企図される。
【0238】
D. 一般的な薬学的組成物
いくつかの態様において、薬学的組成物が対象に投与される。本発明の種々の局面では、対象に組成物の有効量を投与することを伴う。本発明のいくつかの態様において、ブドウ球菌抗原、Ess経路の成員、例えばEsaもしくはEsxクラスのポリペプチドもしくはペプチドなど、および/またはソルターゼ基質の成員を患者に投与して、一種または複数種のブドウ球菌病原菌を防御することができる。あるいは、一つまたは複数のそのようなポリペプチドまたはペプチドをコードする発現ベクターを、予防的処置として患者に与えることもできる。さらに、そのような化合物を抗生物質または抗菌薬と併せて投与することもできる。そのような組成物は一般に、薬学的に許容される担体または水媒体中に溶解または分散される。
【0239】
静脈内注射または筋肉内注射のためのものなどの、非経口投与のために処方される化合物に加えて、他の薬学的に許容される形態には、例えば、錠剤または経口投与のための他の固形物; 徐放カプセル; およびクリーム、ローション、洗口液、吸入薬などを含む、現在用いられているその他任意の形態が含まれる。
【0240】
本発明の活性化合物は、非経口投与のために処方することができ、例えば、静脈内経路、筋肉内経路、皮下経路、またはさらに腹腔内経路による注射のために処方することができる。MHCクラスI分子の発現を増大する化合物を含む水性組成物の調製は、本開示に照らして当業者に公知であろう。典型的には、そのような組成物は、液体溶液または液体懸濁液のいずれかとして注射用剤として調製することができ: 注射前に液体を加えることで溶液または懸濁液を調製するために用いるのに適した固体剤形を調製することもでき; および調製物を乳化することもできる。
【0241】
遊離塩基または薬理学的に許容される塩としての活性化合物の溶液をヒドロキシプロピルセルロースなどの、界面活性剤と適当に混合された水の中で調製することができる。分散液を同様に、グリセロール、液体ポリエチレングリコール、およびその混合物の中でならびに油中で調製することができる。保存および使用の通常の状況下では、これらの調製物は微生物の増殖を防ぐよう保存剤を含む。
【0242】
注射可能な用途に適した薬学的形態は、無菌の水溶液または分散液; ごま油、落花生油または水性プロピレングリコールを含む処方物; および無菌の注射可能な溶液または分散液の即時調製用の無菌の粉末を含む。いかなる場合でも、この形態は無菌でなければならず、容易に注射可能となる程度に流動性でなければならない。それは製造および保存の条件下で安定でなければならず、細菌および真菌などの、微生物の汚染作用に対して保護されなければならない。
【0243】
タンパク質性組成物は、中性型または塩型で処方されてもよい。薬学的に許容される塩は、酸付加塩(タンパク質の遊離アミノ基と形成される)および、例えば、塩酸もしくはリン酸のような無機酸、または酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸などのような有機酸と形成されるものを含む。また、遊離カルボキシル基と形成される塩は、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウム、もしくは水酸化第二鉄のような無機塩基、およびイソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジン、プロカインなどのような有機塩基に由来することができる。
【0244】
また、担体は、例えば、水、エタノール、多価アルコール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)、適当なそれらの混合物、ならびに植物油を含有する溶媒または分散媒とすることができる。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティングの使用により、分散液の場合には必要とされる粒径の維持によりおよび界面活性剤の使用により維持することができる。微生物の作用の予防はさまざまな抗菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどによってもたらすことができる。多くの場合、等張剤、例えば、糖または塩化ナトリウムを含めることが好ましいであろう。注射可能な組成物の持続的吸収は、吸収を遅延させる薬剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンの組成物中での使用によってもたらすことができる。
【0245】
無菌の注射可能な溶液は、必要な量の活性化合物を適切な溶媒の中に、必要に応じて、上に列挙した種々の他の成分とともに組み入れ、その後ろ過滅菌することによって調製される。一般に、分散媒はさまざまな滅菌活性成分を、基礎の分散媒および上に列挙したものより必要とされるその他の成分を含む無菌の媒体の中に組み入れることによって調製される。無菌の注射可能な溶液の調製用の無菌粉末の場合、好ましい調製方法は、活性成分に加え任意の付加的な望ましい成分の粉末を、予めろ過滅菌されたその溶液から得る真空乾燥および凍結乾燥技術である。
【0246】
本発明による組成物の投与は、典型的には、任意の共通の経路によるであろう。これには、経口投与、鼻腔投与または口腔投与が含まれるが、これらに限定されることはない。あるいは、投与は同所性の、皮内の、皮下の、筋肉内の、腹腔内の、鼻腔内の、または静脈内の注射によるものであってもよい。ある特定の態様において、ワクチン組成物は吸入することができる(例えば、参照により具体的に組み入れられる米国特許第6,651,655号)。そのような組成物は、通常、薬理学的に許容される担体、緩衝液または他の賦形剤を含む薬学的に許容される組成物として投与される。本明細書において用いられる場合、「薬学的に許容される」という用語は、正しい医学的判断の範囲内にあり、妥当な損益比に応じて過度の毒性、刺激、アレルギー反応、またはその他の問題もしくは合併症なしにヒトおよび動物の組織と接触させて用いるのに適した化合物、材料、組成物、および/または剤形をいう。「薬学的に許容される担体」という用語は、化学剤の運搬または輸送に関わる、液体もしくは固体の増量剤、希釈剤、賦形剤、溶媒または封入材料のような、薬学的に許容される材料、組成物または媒体を意味する。
【0247】
水溶液での非経口投与の場合、例えば、溶液を、必要ならば、適当に緩衝化し、液体希釈剤を最初に、十分な生理食塩水またはグルコースを用いて等張にしなければならない。これらの特定の水溶液は、静脈内、筋肉内、皮下および腹腔内投与のために特に適している。これに関連して、利用できる無菌水性媒体は、本開示に照らして当業者に公知であろう。例えば、一投与量を等張NaCl溶液に溶解し、皮下注入液に加えるか、または提案される注入部位に注射してもよい(例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, 1990を参照のこと)。若干の投与量のばらつきは対象の状態に応じて必然的に生じると考えられる。いずれにしても、投与責任者が個々の対象に適した用量を判定すると考えられる。
【0248】
治療用または予防用組成物の有効量は、意図する目的に基づいて判定される。「単位用量」または「投与量」という用語は、対象での使用に適した物理的に異なる単位をいうが、各単位はその投与、すなわち、適切な経路および投与計画に関連する上記の所望の反応を生じるように算出された所定の量の組成物を含有する。処置回数および単位用量の両方によって投与される量は、望まれる防御に依る。
【0249】
また、組成物の厳密な量は医師の判断に依り、各個体に特有のものである。用量に影響する要因には、対象の身体的および臨床的状態、投与経路、意図する処置の目的(症状の緩和対治癒)、ならびに特定の組成物の効力、安定性および毒性が含まれる。
【0250】
処方の際、溶液は、投与量処方物と適合する様式でおよび治療的にまたは予防的に有効であるような量で投与される。処方物は上記の注射可能な溶液のタイプなどの、種々の投与量形態で容易に投与される。
【0251】
E. インビトロ、エクスビボまたはインビボ投与
本明細書において用いられる場合、インビトロ投与という用語は、培養細胞を含むが、これに限定されない、対象から取り出されたまたは対象の体外の細胞に対して行われる操作をいう。エクスビボ投与という用語は、インビトロにおいて操作されており、その後で、対象に投与される細胞をいう。インビボ投与という用語は、対象の体内で行われる全ての操作を含む。
【0252】
本発明のある特定の局面において、組成物はインビトロで、エクスビボで、またはインビボで投与することができる。ある特定のインビトロの態様において、自己Bリンパ球細胞株を、本発明のウイルスベクターと24~48時間インキュベートするか、変種SpAおよび/もしくはコアグラーゼならびに/または本明細書に記載されたその他任意の組成物と2時間インキュベートする。次いで形質導入細胞を、インビトロでの分析に、あるいはエクスビボ投与に用いることができる。ともに参照により本明細書に組み入れられる米国特許第4,690,915号および同第5,199,942号には、治療用途で用いるための血中単核細胞および骨髄細胞のエクスビボ操作のための方法が開示されている。
【0253】
F. 抗体および受動免疫
本発明の別の局面は、レシピエントまたはドナーを本発明のワクチンで免疫する段階およびレシピエントまたはドナーから免疫グロブリンを単離する段階を含む、ブドウ球菌感染の予防または処置で用いる免疫グロブリンを調製する方法である。この方法によって調製される免疫グロブリンは、本発明のさらなる局面である。本発明の免疫グロブリンおよび薬学的に許容される担体を含む薬学的組成物は、ブドウ球菌疾患の処置または予防のための薬物の製造において使用できる本発明のさらなる局面である。本発明の薬学的調製物の有効量を患者に投与する段階を含むブドウ球菌感染の処置または予防のための方法は、本発明のさらなる局面である。
【0254】
ポリクローナル抗体の産生のための接種材料は、典型的には、抗原組成物を、生理食塩水またはヒトへの使用に適した他のアジュバントなどの生理学的に許容される希釈剤に分散させて、水性組成物を形成することにより調製される。免疫刺激量の接種材料を哺乳類に投与し、接種を受けた哺乳類をその後、抗原組成物が防御抗体を誘導するのに十分な時間維持する。
【0255】
この抗体を親和性クロマトグラフィーなどの周知の技術によって所望とされる程度まで単離することができる(Harlow and Lane, 1988)。抗体には、種々の一般に用いられる動物、例えば、ヤギ、霊長類、ロバ、ブタ、ウマ、モルモット、ラット、またはヒト由来の抗血清調製物を含めることができる。
【0256】
本発明によって産生される免疫グロブリンは、全抗体、抗体断片または抗体小断片を含むことができる。抗体は、いずれかのクラス(例えば、IgG、IgM、IgA、IgDまたはIgE)の全免疫グロブリン、キメラ抗体または本発明の二種もしくはそれ以上の抗原に対して二重特異性を有するハイブリッド抗体であることができる。それらはハイブリッド断片を含む断片(例えば、F(ab')2、Fab'、Fab、Fvなど)であってもよい。免疫グロブリンはまた、特異的な抗原と結合して複合体を形成することにより抗体のように作用する、天然タンパク質、合成タンパク質または遺伝子操作されたタンパク質も含む。
【0257】
本発明のワクチンをレシピエントに投与することができ、このレシピエントが、特定のワクチンによる曝露に応じて産生される免疫グロブリンの供給源として働く。このようにして処置された対象は、従来の血漿分画法によって過免疫グロブリンが得られうる血漿を提供するであろう。過免疫グロブリンは、ブドウ球菌感染に対する耐性を与えるためにまたはブドウ球菌感染を処置するために別の対象に投与されよう。本発明の過免疫グロブリンは、幼児、免疫不全個体におけるブドウ球菌疾患の処置もしくは予防に特に有用であり、または処置が必要とされ、かつワクチン接種に応じて抗体を産生する時間が個体にない場合に特に有用である。
【0258】
本発明のさらなる局面は、グラム陽性細菌、好ましくはブドウ球菌、より好ましくは黄色ブドウ球菌または表皮ブドウ球菌による感染を処置または予防するために使用できる、本発明の免疫原性組成物の少なくとも二つの構成要素に対して反応性の二種またはそれ以上のモノクローナル抗体(またはその断片; 好ましくはヒトまたはヒト化モノクローナル抗体)を含む薬学的組成物である。このような薬学的組成物は、本発明の二種またはそれ以上の抗原に対して特異性を有するいずれかのクラスの全免疫グロブリン、キメラ抗体またはハイブリッド抗体でありうるモノクローナル抗体を含む。それらはハイブリッド断片を含む断片(例えば、F(ab')2、Fab'、Fab、Fvなど)であってもよい。
【0259】
モノクローナル抗体を作製する方法は、当技術分野において周知であり、脾細胞と骨髄腫細胞との融合を含むことができる(Kohler and Milstein, 1975; Harlow and Lane, 1988)。あるいは、適当なファージディスプレイライブラリをスクリーニングすることによってモノクローナルFv断片を得ることもできる(Vaughan et al., 1998)。モノクローナル抗体は、公知の方法によってヒト化され、または部分的にヒト化されてもよい。
【実施例
【0260】
VI. 実施例
以下の実施例は、本発明のさまざまな態様を例証する目的で与えられており、いかなる形においても本発明を限定することを意図するものではない。本発明は本明細書の中にある目標、目的および利点のほかに、言及されている、目標を実行するために、かつ目的および利点を得るために十分に適していることを当業者は容易に理解するであろう。本実施例は、本明細書において記述される方法とともに、目下、好ましい態様を代表するものであり、例示するものであり、本発明の範囲に対する限定と意図するものではない。その変更および特許請求の範囲によって定義される本発明の趣旨のなかに包含されるその他の用途が、当業者には思い浮かぶであろう。
【0261】
実施例1 ブドウ球菌プロテインAは、黄色ブドウ球菌によるマウスの持続的コロニー形成に寄与する
黄色ブドウ球菌は、ヒト集団の約3分の1の上咽頭に持続的にコロニー形成し、それによって市中感染および院内感染を促進する。抗生物質が、感染のリスクが増加している個人の脱コロニー化のために現在使用される。しかしながら、抗生物質の有効性は、薬物耐性株での再コロニー形成および選択によって制限される。鼻のコロニー形成は、ブドウ球菌表面抗原に対するIgG反応を引き起こすが、これらの抗体は、その後のコロニー形成または疾患を妨げることができない。本実施例は、マウスの上咽頭に持続的にコロニー形成する黄色ブドウ球菌WU1、多座配列タイプST88分離株について記載する。本実施例において、ブドウ球菌プロテインA(SpA)が上咽頭における黄色ブドウ球菌WU1の持続に必要とされることが報告される。野生型黄色ブドウ球菌によってコロニー形成された動物と比較して、Δspa変種によってコロニー形成されたマウスは、ブドウ球菌コロニー形成決定因子に対するIgG反応が増加する。B細胞受容体を架橋して抗体反応を迂回することのできない毒素非生産性 SpA変種によるマウスの免疫は、黄色ブドウ球菌コロニー形成に対するIgG反応を促進して病原体持続性を減少させるプロテインA中和抗体を誘発する。
【0262】
A. 結果
1. 黄色ブドウ球菌WU1
雄のC57BL/6マウスの包皮腺感染の大発生が、動物飼育コロニーで観察された。試料を雄および雌のC75BL/6Jマウスの包皮腺腺炎(PGA)および上咽頭から収集し、マンニット食塩寒天培地(MSA)およびベアードパーカー寒天培地(BPA)上での増殖によって分析した。多座配列タイピングおよびspa遺伝子型判定によって、動物が、雄のマウスではPGAも担う黄色ブドウ球菌 ST88 spa遺伝子型t186によりコロニー形成されていたことが明らかになった。spa遺伝子型t186を有する黄色ブドウ球菌CC88は以前に、米国において実験マウス由来の安定的にコロニー形成する分離株として報告されている(37)。他のspa遺伝子型には、t325、t448、t690、t755、t786、t2085、t2815、t5562、t11285、およびt12341が含まれる(37)。New Zealand JSNZ分離株は異なるspa遺伝子型t729を保有する(37)。それにもかかわらず、黄色ブドウ球菌JSNZおよびWU1はどちらも、タイプ8莢膜多糖遺伝子を共有し、かつmecA遺伝子ならびに可動遺伝子要素(MGE)でコードされるT細胞スーパー抗原を欠いている(37)。さらに、ヒト特異的免疫回避クラスター 1(IEC1)遺伝子sak(スタフィロキナーゼ)、chp(CHIPS、黄色ブドウ球菌の走化性阻害タンパク質)、およびscn(SCIN-A、ブドウ球菌補体阻害因子A)を発現するhlb変換ファージは、インタクトなα-溶血素コード遺伝子(hlb)をもたらすWU1のゲノムでは存在しない(38)。注目すべきは、WU1でコードされるIEC2は、hla(α-溶血素)およびssl12-14(ブドウ球菌スーパー抗原様12-14)と共にscn相同体scb/scc(SCIN-B/-C)を保有する(39)。マウスに安定的にコロニー形成する他のCC88分離株(37)とは異なり、WU1のゲノムはblaZ遺伝子を保有する。ソルターゼ固定表面タンパク質をコードする遺伝子について分析したところ、黄色ブドウ球菌WU1が、ClfB、IsdA、SdrC、SdrD、およびSasGを含む、鼻のコロニー形成と前もって関連付けられた決定因子の遺伝子を保有することが観察された(表1)。
【0263】
(表1)黄色ブドウ球菌WU1、JSNZおよびNewmanのゲノム中の選択オープンリーディングフレームのタンパク質産物の保存
a. 黄色ブドウ球菌04-02981株との比較
b. 黄色ブドウ球菌USA300株との比較
【0264】
黄色ブドウ球菌膿瘍形成は、フィブリンによる細菌凝集の決定基と関連している(40、41)。凝集は、宿主のプロトロンビンを活性化してフィブリノゲンをフィブリンに変換する2種類の黄色ブドウ球菌分泌産物:コアグラーゼ(Coa)およびフォンウィルブランド因子結合タンパク質(vWbp)を必要とする(40)。クランピング因子A(ClfA)は、フィブリノゲンに結合し、コアグラーゼ産生フィブリンフィブリルによってブドウ球菌を被覆し、それによって、宿主貪食細胞による黄色ブドウ球菌取り込みおよび殺傷を妨害殺傷する(41、42)。clfA遺伝子は、黄色ブドウ球菌WU1およびJSNZでは同一だが、マウスによる実験室抗原投与実験で日常的に用いられるCC8ヒト臨床分離株である黄色ブドウ球菌Newman由来のclfAとは対立遺伝子特異的な差異を示す(表1)(43)。一方で、clfAで観察された差異は、ヒト宿主またはネズミ宿主のいずれかから単離されたCC88株で認められ得ることから、これらの差異はクレード特異的である(データを示さず)。黄色ブドウ球菌WU1、JSNZ 、およびNewmanのcoa遺伝子産物は実質的に同一であった(表1)。これに対して、黄色ブドウ球菌WU1およびJSNZのvwb遺伝子の産物は、プロトロンビン結合D1およびD2ドメインにおいて最大の配列多様性で黄色ブドウ球菌Newmanと有意に相違しており(図1A)、Newman vWbpに対して作製されたポリクローナル抗体により認識されなかった(図1B)。2つのCC88株からの分泌vWbpは、株USA300からのvWbpの保存C末端ドメインに対して作られた血清によって認識できた(図1C)。多量のCoaを分泌しかつヒトおよびマウス血漿を急速に凝集させる黄色ブドウ球菌Newmanとは対照的に、黄色ブドウ球菌WU1およびJSNZは、株Newmanと比較して、より少ないCoaを分泌し、ヒト血漿より急速にマウス血漿を凝集させる(図1B、D、E)。黄色ブドウ球菌Newmanのコアグラーゼ活性は、対応するΔcoa、Δvwb、およびΔcoaΔvwb変異体がマウスおよびヒト血漿において凝集の欠如を示したことから、coaおよびvwb発現に依存している(図1D、E)。まとめると、これらのデータは、黄色ブドウ球菌WU1およびJSNZにおけるvwb遺伝子のST88対立遺伝子が、マウス血漿における効率的なプロトロンビン媒介性凝固およびフィブリン凝集を促進する可能性があり、PGAなどの侵襲性疾患の病態形成を支持する可能性があることを示唆する。
【0265】
2. 黄色ブドウ球菌WU1は、マウスの上咽頭に持続的にコロニー形成する
マウスにコロニー形成するその能力について黄色ブドウ球菌WU1を分析するために、雌のC57BL/6動物のコホート(n=10)を、BPA上に咽頭ぬぐい液および糞便物質を広げることにより分析した。BPA上での細菌増殖を欠いているナイーブなマウスに麻酔をかけ、右の鼻孔内にリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中の1×108 CFU 黄色ブドウ球菌WU1の10 μl懸濁液をピペッティングすることによって接種した。1週間間隔で、すなわち、接種の7、14、21、28、35、および42日後に中咽頭からぬぐい液を採取することによって、動物をコロニー形成について分析した。ぬぐい液をBPA上に広げ、コロニー形成のためにインキュベートし、計数した(図2A)。事前の抗生物質処置または抗生物質選択なしでも、黄色ブドウ球菌WU1は、42日にわたってぬぐい液当たり1.2~2.9 log10 CFUの範囲の負荷で実験動物にコロニー形成した(図2A)。黄色ブドウ球菌WU1による持続的なコロニー形成を評価するために、42日後に入手したコロニーをMLSTおよびspa遺伝子型判定によって分析した。データは、マウスが依然としてST88 spa t186によってコロニー形成されたことを示し、黄色ブドウ球菌WU1がC57BL/6マウスの上咽頭に持続的にコロニー形成することを示唆した。対照として、黄色ブドウ球菌WU1コロニー形成動物と同じ動物施設室および同じケージラックで維持された別個のケージ中のC57BL/6J動物のコホートのモックPBS接種は、上咽頭のブドウ球菌コロニー形成をもたらさなかった(図2A)。マウスからの42日目の糞便試料をPBSでホモジナイズし、CFU計数のためにマンニット食塩寒天培地(MSA)上にプレーティングした(図2B)。黄色ブドウ球菌WU1コロニー形成マウスの糞便試料は、5.1~7.3 log1O CFU g-1糞便を保有し、胃腸(GI)管もまた黄色ブドウ球菌WU1株でコロニー形成されることを示唆した。対照として、モック(PBS)接種マウスは、その糞便試料中に黄色ブドウ球菌を保有しなかった(図2B)。
【0266】
黄色ブドウ球菌WU1コロニー形成は、マウスにおいて血清IgG反応を引き起こす。以前の研究は、25種の保存分泌タンパク質で構成される黄色ブドウ球菌抗原マトリクスを作製した。25種の組換えアフィニティータグ付きタンパク質の各々を精製し、膜フィルター上に固定した(44)。コロニー形成時の宿主免疫反応を測定するために、ナイーブなまたは黄色ブドウ球菌WU1コロニー形成した動物から接種の15日後に採血し、黄色ブドウ球菌抗原マトリクスとのインキュベーションによって血清IgG反応を分析した。IgG結合をIRDye 680とコンジュゲートしたヤギ抗マウスIgG(LI-COR)で検出し、赤外線イメージングにより定量化した。この実験は、黄色ブドウ球菌WU1コロニー形成が、ソルターゼ固定表面タンパク質ClfA、ClfB、IsdA、およびIsdBに対して、ならびに巨大な細胞外マトリクス結合タンパク質(Ebh)、黄色ブドウ球菌の細胞サイズおよびペプチドグリカン合成決定因子に対して向けられた血清IgGの増加をもたらしたことを明らかにした(45)(表2)。
【0267】
(表2)黄色ブドウ球菌WU1またはそのΔspa変種によりコロニー形成されたC57BL/6Jマウスにおける血清IgG反応
a. C57BL/6Jマウスのコホートに、108 CFUの表示した黄色ブドウ球菌株を鼻腔内接種した。接種の15日後に、動物から採血し、血清試料をブドウ球菌抗原に対する抗体反応について分析した。
b. 接種マウス群の平均シグナル強度をナイーブなマウス群の平均シグナル強度で割ることによって、倍数変化を計算した。データを平均値±標準偏差で提示する。
c. Tukey多重比較検定による二元配置ANOVAを用いてp値を計算した。n.s.=有意差なし。
【0268】
3. 黄色ブドウ球菌WU1は持続的コロニー形成のためにブドウ球菌プロテインAを必要とする。
黄色ブドウ球菌Newman SpAと同様に、黄色ブドウ球菌WU1のspa遺伝子産物は、5つのIgBDで構成され、278残基ドメイン内にたった1つのアミノ酸置換を保有する。免疫ブロッティング実験によって、黄色ブドウ球菌株NewmanおよびWU1が同等の量のSpAを生成したことが明らかになった(図3A)。対立遺伝子組換えを用いて、本発明者らは、黄色ブドウ球菌WU1のΔspa変異体を作製した。免疫ブロッティングにより測定されるように、SpA産生はΔspa変異体で喪失し、この喪失は野生型spaのプラスミド由来の発現(pSpA)によって回復した(図3A)。ソルターゼA(SrtA)に対する抗体による免疫ブロッティングをローディング対照として用いた(図3A)。マウスの右鼻孔内に導入し、7日目に中咽頭ぬぐい液によってコロニー形成について分析したところ、Δspa変異体は初期には、野生型株WU1と同じようにC57BL/6J動物にコロニー形成した(図3B)。しかしながら、その後の時点、特に35日目および42日目には、Δspa変異体は、野生型株WU1より少ない動物にコロニー形成した(図3B)。細菌増殖時に、黄色ブドウ球菌は、ペプチドグリカン断片に連結したSpAを周囲環境に放出する(46)。静脈内黄色ブドウ球菌抗原投与のマウスモデルでは、放出されたSpAは、B細胞増殖を活性化し、VH3イディオタイプIgMおよびIgG分子の分泌を増強した(33)。しかしながら、拡大されたVH3イディオタイプIgGは、ブドウ球菌抗原を認識しない(33)。このB細胞スーパー抗原活性の分子的機序は、CD4 Tヘルパー細胞およびRIPK2キナーゼ依存的にB細胞増殖を誘発する、VH3イディオタイプ B細胞受容体のSpA媒介性架橋に基づく(33、47)。Δspa変異体ブドウ球菌に感染した動物は、VH3イディオタイプ免疫グロブリンの拡大を欠き、病原体特異的IgGの存在量の増加を示し、それによって、その後の黄色ブドウ球菌感染に対して防御的である免疫反応を引き起こす(48)。次に、WU1のΔspa変異体によるコロニー形成が変化した血清IgG反応に関連したかどうかを疑った。15日間コロニー形成していた動物からの血清を、黄色ブドウ球菌抗原マトリクスの構成成分に対するIgG結合について分析した(表2)。この実験によって、その後に脱コロニー化した動物ではClfB、IsdAおよびSasGに対する抗体が増加したが、Δspa変異体によりコロニー形成したままの動物ではそうではないことが明らかになった(表2)。まとめると、これらのデータは、Δspa変異体ブドウ球菌によるC57BL/6マウスの上咽頭コロニー形成は、上咽頭からのΔspa変異体黄色ブドウ球菌の除去を促進するように見える、重要なコロニー形成決定因子に対するIgG反応の増加と関連することを示唆する。
【0269】
4. プロテインA中和抗体は、黄色ブドウ球菌による持続的なコロニー形成に影響を及ぼす
野生型プロテインAによるマウスの免疫は、その5つのIgBDに結合して、その5つのIgBDがIgG分子のFcγドメインまたはVH3イディオタイプ免疫グロブリンのバリアント重鎖のいずれかに結合する能力を中和するIgG血清抗体を誘発しない(44)。SpAKKAAは、Fcγ結合を消失させかつVH3イディオタイプ免疫グロブリンとの会合も減少させる、SpAの5つのIgBD全体にわたって20個のアミノ酸置換を有する変種である(44)。その一方で、SpAKKAAは、プロテインAの全体的なα-ヘリックス含量および抗原構造を保持する。結果として、アジュバント化SpAKKAAによるマウスの免疫は、高力価のプロテインA中和IgGを誘発する(44)。これらの抗体は、黄色ブドウ球菌感染時のプロテインAの抗オプソニン活性およびB細胞スーパー抗原を遮断し、ブドウ球菌抗原に対するIgG反応を広く増強し、防御免疫の発生を促進する(44)。プロテインA中和抗体が黄色ブドウ球菌コロニー形成に影響を及ぼすか否かを試験するために、C57BL/6マウスをアジュバント化SpAKKAAまたはアジュバント単独で免疫した。モック免疫化動物と比較して、SpAKKAA処置動物は高力価のプロテインA 中和抗体を誘発した(表3)。黄色ブドウ球菌WU1を接種したところ、中咽頭ぬぐい液は、接種後7日目および14日目に有意差のない平均コロニー形成負荷を明らかにしたことから、モックおよびSpAKKAA免疫した動物はどちらも、初期には同じようにコロニー形成した(図4)。しかしながら、21日目から始まって、SpAKKAA免疫マウスは、モック免疫動物より高い頻度で脱コロニー化した(図4)。血清IgG反応について試験し、ナイーブなマウスと比較したところ、モック処置した動物における黄色ブドウ球菌WU1コロニー形成は、ClfB、IsdA、IsdB、SasD、およびSasFに対する抗体反応をもたらした(表3)。黄色ブドウ球菌WU1コロニー形成を維持した動物では、SpAKKAA免疫は、ClfA、Coa、vWBP、およびHlaに対する抗体反応をもたらした(表3)。SpAKKAAワクチン接種したC57BL/6Jマウスと比較して、その後脱コロニー化した動物は、ClfA、ClfB、フィブロネクチン結合タンパク質A(FnBPA)およびB(FnBPB)、IsdB、Coa、ならびにSasGに対する血清IgGの上昇を示した(表3)。まとめると、これらのデータは、SpAKKAAワクチン接種が、黄色ブドウ球菌でコロニー形成されていたマウスにおいて血清IgG反応の増強を誘発ことを示唆する。さらに、SpAKKAAワクチンは、公知のコロニー形成因子(ClfB、IsdA、およびSasG)を含む、多数のさまざまなブドウ球菌抗原に対する抗体を誘導した。まとめると、コロニー形成ブドウ球菌に対するこれらのSpAKKAAワクチンによる誘導性IgG反応は、上咽頭の脱コロニー化を促進するように見える。
【0270】
(表3)黄色ブドウ球菌WU1コロニー形成C57BL/6マウスにおける血清IgG反応に対するSpAKKAA免疫の影響
a. C57BL/6Jマウスのコホートを、CFAで乳化した50 μgの組換えSpAKKAAまたはCFAでのPBSモックで免疫し、11日目にIFAで乳化した50 μgの組換えSpAKKAAまたはIFAでのPBSモックで追加免疫した。24日目に、マウスに108CFUの表示した黄色ブドウ球菌株を鼻腔内に接種し、咽頭で毎週ぬぐい液を採取し、細菌負荷を計数した。接種の15日後に、動物から採血し、血清試料をブドウ球菌抗原に対する抗体反応について分析した。
b. SpAKKAA免疫群の平均シグナル強度をPBSモック免疫化群の平均シグナル強度で割ることによって、倍数変化を計算した。データを平均値±標準偏差で提示した。
【0271】
BALB/cマウスの黄色ブドウ球菌WU1コロニー形成。黄色ブドウ球菌WU1コロニー形成がC57BL/6マウスに限定されるかどうかを試験するために、本発明者らは、ナイーブBALB/cマウスのコホート(n=20)に1×108 CFU黄色ブドウ球菌WU1を右鼻腔内に接種し、ぬぐい液培養により上咽頭コロニー形成を測定した。C57BL/6マウスと同様に、黄色ブドウ球菌WU1はBALB/cマウスに持続的にコロニー形成した(図5)。SpAKKAAによるBALB/cマウスの免疫は、黄色ブドウ球菌WU1による初期コロニー形成には影響を及ぼさなかった。しかしながら、モック免疫動物と比較すると、SpAKKAAによるワクチン接種は、BALB/cマウスの脱コロニー化を促進した(図5)。
【0272】
5. SpAKKAAワクチンは、黄色ブドウ球菌JSNZによるマウスコロニー形成に影響を及ぼす
次に、プロテインA中和抗体が黄色ブドウ球菌JSNZによるマウスコロニー形成にも影響を及ぼすか否かを疑った。株NewmanおよびWU1とは異なり、黄色ブドウ球菌JSNZのspa遺伝子産物は、4つのIgBDのみを含む(37)。以前の研究によって、4つのIgBDを有するSpA変種は、ヒト上咽頭の黄色ブドウ球菌コロニー形成と一般に関連する5つのIgBDと比較して、B細胞スーパー抗原活性の減少に関連していることが実証されている(33)。麻酔下のマウスの右鼻孔内に接種したところ、黄色ブドウ球菌JSNZは、42日にわたってBALB/cマウスの上咽頭に効果的にコロニー形成した(図6)。SpAKKAAワクチン接種は、黄色ブドウ球菌JSNZによる初期コロニー形成に影響を及ぼさなかった。しかしながら、モック免疫化マウスと比較して、血清中和プロテインA抗体を有するBALB/cマウスは、21日目から始まりより高い頻度で黄色ブドウ球菌JSNZを脱コロニー化した(図6)。まとめると、これらのデータは、黄色ブドウ球菌JSNZもまた、マウスの持続的コロニー形成についてプロテインA媒介性B細胞スーパー抗原活性を必要とすることを示唆する。
【0273】
B. 材料および方法
1. 培地および細菌増殖条件
黄色ブドウ球菌株をトリプシンソイブロス(tryptic soy broth)(TSB)またはトリプシンソイ寒天培地(tryptic soy agar)(TSA)中で37℃にて増殖させた。マウス鼻咽頭コロニー形成を調査する実験では、咽頭ぬぐい液試料をベアードパーカー(Baird-Parker)寒天培地上で表示されたように37℃にて増殖させた。黄色ブドウ球菌GI管コロニー形成を調査する実験では、糞便試料をマンニット食塩寒天培地上で表示されたように37℃にて増殖させた。大腸菌株DH5αおよびBL21(DE3)をルリア培地(Luria broth)(LB)または寒天培地で37℃にて増殖させた。アンピシリン(大腸菌に対して100 μg/ml)およびクロラムフェニコール(黄色ブドウ球菌に対して10 μg/ml)をプラスミド選択のために用いた。
【0274】
2. 黄色ブドウ球菌遺伝子型判定
黄色ブドウ球菌分離株 WU1を、本発明者らの動物施設においてマウスの上咽頭および包皮腺の膿瘍病変から入手した。マウス 黄色ブドウ球菌株JSNZはDr. Siouxsie Wilesによって提供された(36)。ブドウ球菌ゲノムDNAは、Wizard Genomic DNA Purificationキット(Promega)を用いて単離された。Spa遺伝子型判定および多座配列タイピング(MLST)は、以前に記載されているように実施した(85)。簡単に説明すると、spaタイピングでは、黄色ブドウ球菌株WU1のゲノムDNAを、プライマー
によりPCR増幅した(86)。PCR産物をNucleospin GelおよびPCR Clean-upキットを用いて精製し、プライマー1095Fおよび1517Rを用いて配列決定し、Ridomソフトウェアを用いて分析した。MLSTタイピングでは、黄色ブドウ球菌株WU1のゲノムDNAを、プライマー
を用いてPCR増幅した(例えば:saureus.mlst.net/misc/info.aspを参照)。PCR産物をNucleospin GelおよびPCR Clean-upキットを用いて精製し、PCR増幅し、オンラインソフトウェアを用いて配列決定および分析した(例えば:saures.mlst.net/を参照)。黄色ブドウ球菌株JSNZの全体ゲノム配列ファイルは、Dr. Silva Holtfreterによって提供された。Truseq DNA-seqライブラリー調製Illumina MiSeq配列決定を、Argonne National LaboratoryでのEnvironmental Sample Preparation and Sequencing Facilityによって黄色ブドウ球菌WU1のゲノムDNAを用いて実施した。Geneiousソフトウェアを用いて、配列を分析した。
【0275】
3. 黄色ブドウ球菌変異体
プラスミドpKOR1による対立遺伝子組換えを用いて、黄色ブドウ球菌WU1のspa遺伝子を欠失させた(87)。Δspa変異体を構築するために、spa遺伝子の上流および下流の2つの1-kb DNA断片を、プライマー
を用いて黄色ブドウ球菌WU1の染色体から増幅した。この2つ隣接領域を後続のPCRで互いに融合させ、最終PCR産物を、BP Clonase IIキット(Invitrogen)を用いてpKOR1内にクローニングした。結果として生じるプラスミドを大腸菌DH5α、黄色ブドウ球菌株RN4220、および最終的に黄色ブドウ球菌株WU1に連続して移入し、温度を40℃に変化させ、プラスミドの複製を阻止し、それらの染色体への挿入を促進した(87)。30℃での増殖を用いて、対立遺伝子置換を促進した。spa遺伝子における変異をPCR増幅産物のDNA配列決定によって検証した。
【0276】
4. 凝集アッセイ
凝集アッセイを以前に記載されているように実施した(88)。簡単に説明すると、黄色ブドウ球菌株の終夜培養の培養物を新鮮なTSBで1:100に希釈し、37℃にて6時間増殖させた。1 ml培養物(OD600 4.0に正規化)からの細菌をSYTO 9(1:500)(Invitrogen)と共に15分間インキュベートし、1 ml PBSで2回洗浄し、1 ml PBSで懸濁した。細菌をガラス顕微鏡スライド上でクエン酸処理したヒト血漿またはマウス血漿と1:1で混合し、30分間インキュベートした。試料を観察し、画像を20×対物レンズ(Olympus)を用いるIX81生細胞全反射照明蛍光顕微鏡で取り込んだ。各サンプル毎に少なくとも10画像を取得した。各画像における凝集複合体の面積を測定し、ImageJソフトウェアを用いて定量化した。
【0277】
5. 免疫ブロッティング
黄色ブドウ球菌株の終夜培養の培養物を新鮮なTSB(プラスミドの存在下でクロラムフェニコールを有する)内で1:100に希釈し、37℃でOD600 0.5~1.0に増殖させた。1 ml培養物からの細胞を遠心分離し、PBSで懸濁し、20 μg/mlリゾスタフィン(AMBI)と共に37℃にて1時間インキュベートした。全細胞可溶化物中のタンパク質を10%トリクロロ酢酸および10 μgデオキシコール酸で沈殿させ、氷冷したアセトンで洗浄し、風乾し、100μlの0.5M Tris HCl(pH 6.8)および100 μlのSDS-PAGEサンプル緩衝液[100 mM Tris HCl(pH 6.8)、4%SDS、0.2%ブロモフェノールブルー、200 mMジチオスレイトール]で懸濁し、10分間煮沸した。タンパク質を12%SDS-PAGEで分離し、PVDF膜に電気泳動で転写した。PVDF膜を、Tween-20を含むTris緩衝生理食塩水(TBST) [20 mM Tris HCl(pH 7.6)、137 mM NaCl、0.1% Tween-20]中の5%ミルクでブロッキングした。マウス抗ClfA 2A12.12モノクローナル抗体(1:2,000希釈)および西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)コンジュゲート抗マウスIgG(Cell Signaling、1:10,000希釈)を用いてClfAを検出した。ウサギ抗Coaポリクローナル抗体(1:1,000希釈)およびHRPコンジュゲート抗ウサギIgG(1:10,000希釈)を用いてCoaを検出した。それぞれ黄色ブドウ球菌Newman由来の全長vWbpまたはvWbpのC末端ドメインを認識する2種の異なるウサギ抗vWbpポリクローナル抗体(1:1,000希釈)、およびHRPコンジュゲート抗ウサギIgG(1:10,000希釈)を用いてvWbpを検出した。TBST中のHRPコンジュゲートヒトIgM(1:10,000希釈)を用いてSpAを検出した。ウサギ抗SrtAポリクローナル抗体(1:10,000希釈)およびHRPコンジュゲート抗ウサギIgG(1:10,000希釈)を用いてSrtAを検出した。抗体で染色した膜をTBSTで洗浄し、SuperSignal West Pico Chemiluminescent Substrate(Thermo Scientific)と共にインキュベートし、Amersham Hyperfilm ECL高性能化学発光フィルム(GE Healthcare)上で発色させた。
【0278】
6. 組換えタンパク質の精製
Hisタグ付SpAKKAA、ならびに24種のブドウ球菌抗原(ClfA、ClfB、FnBPA、FnBPB、IsdA、IsdB、SasA、SasB、SasD、SasF、SasG、SasI、SasK、SdrC、SdrD、SdrE、EsxA、EsxB、SCIN、Eap、Efb、Hla、Coa、vWbp、およびEbh)の発現のためのpET15b+プラスミドを保有する大腸菌 BL21(DE3)を一晩増殖させ、新鮮な培地で1:100希釈し、37℃にて約0.5のOD600まで増殖させた。培養物を1 mMイソプロピル-β-d-チオガラクトピラノシドで誘導し、さらに3時間増殖させた。細胞をペレット化し、カラム緩衝液(50 mM Tris-HCl [pH 7.5]、150 mM NaCl)で再懸濁し、14,000 lb/in2でのフレンチプレッシャーセル(French pressure cell)を用いて破壊した。40,000×gでの超遠心によって、可溶化物から膜および不溶成分を除去した。除去した可溶化物をNi-NTAアフィニティークロマトグラフィーに供し、タンパク質を連続的により高い濃度のイミダゾール(100~500 mM)を含むカラム緩衝液で溶出した。溶出液をPBSで透析し、タンパク質純度をクーマシー染色SDS-PAGEにより確認した。タンパク質濃度をビシンコニン酸アッセイ(Thermo Scientific)により決定した。
【0279】
7. マウス上咽頭コロニー形成
黄色ブドウ球菌株WU1およびそのΔspa変異体の終夜培養の培養物を新鮮なTSB内で1:100希釈し、37℃にて2時間増殖させた。細胞を遠心分離し、洗浄し、PBSで懸濁した。7週齢の雌のBALB/cマウス、C57BL/6Jマウス、またはB6.129S2-IghmtmlCgn/Jマウス(The Jackson Laboratory)を、体重1キログラム当たり100 mg/mlケタミンおよび20 mg/mlキシラジンによる腹腔内注入によって麻酔した。1×108 CFUの黄色ブドウ球菌(10 μl体積で)を各マウスの右の鼻孔内にピペッティングした。接種後7、14、21、28、35、および42日目に、マウスの中咽頭からぬぐい液を採取し、ぬぐい液試料をベアードパーカー寒天培地上に広げ、細菌計数のためにインキュベートした。接種後15日目に、マウスから眼窩周囲静脈穿刺によって採血し、ブドウ球菌抗原マトリクスを用いる抗体反応分析用の血清を得た。接種後42日目に、糞便試料を収集し、PBSでホモジナイズした。ホモジネートをマンニット食塩寒天培地上にプレーティングし、細菌計数のためにインキュベートした。全てのマウス実験は、University of ChicagoでのInstitutional Biosafety Committee(IBC)およびInstitutional Animal Care and Use Committee(IACUC)による施設ガイドラインにしたがった実験プロトコールの審査および承認により実施された。動物実験を少なくとも1回繰り返し、データの再現性を確実にした。
【0280】
8. 能動免疫
4週齢のマウスを、フロイントの完全アジュバント(CFA; Difco)で乳化した50 μgのSpAKKAAによる皮下注入によって免疫し、初回免疫の11日後にフロイントの不完全アジュバント(IFA)で乳化した50 μgの同じ抗原で追加免疫した。21日目に、免疫マウスから眼窩周囲静脈穿刺によって採血し、ELISAのための血清を得た。24日目に、マウスに1×108 CFUの黄色ブドウ球菌株WU1またはJSNZを鼻腔内接種し、上咽頭コロニー形成をモニターした。
【0281】
9.ブドウ球菌抗原マトリクス
ニトロセルロース膜に2 μgのアフィニティー精製ブドウ球菌抗原をブロットした。膜を5%脱顆粒ミルクでブロッキングし、希釈したマウス血清(1:10,000希釈)およびIRDye 680コンジュゲートヤギ抗マウスIgG(LI-COR)と共にインキュベートした。Odyssey赤外線イメージングシステム(LI-COR)を用いて、シグナル強度を定量化した。
【0282】
10. 統計解析
Sidak多重比較検定(GraphPad Software)による二元配置ANOVAを実施し、上咽頭コロニー形成、ELISA、および抗原マトリクスデータの統計的有意性を分析した。
【0283】
実施例2 ブドウ球菌プロテインA変種
以下のアッセイを用いて、本明細書に記載のSpA変種を本開示の方法および組成物におけるそれらの有効性について評価することができる。
【0284】
A. アッセイ
ネズミ膿瘍、ネズミ致死的感染、およびネズミ肺炎モデルにおけるワクチン防御。3種の動物モデルが、黄色ブドウ球菌感染性疾患の試験のために確立されている。これらのモデルを本明細書において用いて、プロテインA特異的抗体の発生を介してもたらされる防御免疫のレベルを試験することができる。
【0285】
ネズミ膿瘍-BALB/cマウス(24日齢雌、1群当たり8~10匹のマウス、Charles River Laboratories, Wilmington, MA)は、精製タンパク質で後肢内への筋肉内注入によって免疫され得る(Chang et al., 2003; Schneewind el al., 1992)。精製されたSpAおよび/またはSpA変種は、0日目(フロイントの完全アジュバントにより1:1で乳化)および11日目(フロイントの不完全アジュバントにより1:1で乳化)に投与され得る。血液試料は、0日目、11日目および20日目に後眼窩採血によって採取され得る。血清は、変種の特異的結合活性でのIgG力価についてELISAによって試験され得る。免疫動物は21日目に、100 μlの黄色ブドウ球菌Newmanまたは黄色ブドウ球菌USA300懸濁物(1×107 cfu)の後眼窩注入によって抗原投与され得る。このために、黄色ブドウ球菌Newmanの終夜培養の培養物は、新鮮なトリプシンソイブロス内で1:100に希釈され、37℃にて3時間増殖され得る。ブドウ球菌は遠心分離され、2回洗浄され、0.4のA600を得るようにPBSで希釈され得る(1 ml当たり1×108 cfu)。希釈は、寒天培地へのプレーティングおよびコロニー形成によって実験的に確認され得る。マウスは、体重1キログラム当たり80~120 mgのケタミンおよび3~6 mgのキシラジンの腹腔内注入によって麻酔され、後眼窩注入によって感染され得る。抗原投与後5日目または15日目に、マウスは、圧縮CO2吸入によって安楽死され得る。腎臓は取り除かれ、1% Triton X-100でホモジナイズされ得る。cfuの三連での決定のために、アリコートは希釈され、寒天培地上にプレーティングされ得る。組織学的検査のために、腎臓組織は、室温にて10%ホルマリン中で24時間インキュベートされ得る。組織は、パラフィン中に包埋され、薄切片にされ、ヘマトキシリンエオジンで染色され、顕微鏡によって検査され得る。
【0286】
ネズミ致死的感染-BALB/cマウス(24日齢雌、1群当たり8~10匹のマウス、Charles River Laboratories, Wilmington, MA)は、精製されたSpAまたはSpA変種による後肢内への筋肉内注入によって免疫され得る。ワクチンは、0日目(フロイントの完全アジュバントにより1:1で乳化)および11日目(フロイントの不完全アジュバントにより1:1で乳化)に投与され得る。血液試料は、0日目、11日目および20日目に後眼窩採血によって採取され得る。血清は、変種の特異的結合活性でのIgG力価についてELISAによって試験される。免疫動物は21日目に、100 μlの黄色ブドウ球菌Newmanまたは黄色ブドウ球菌USA300懸濁物(15×107 cfu)の後眼窩注入によって抗原投与され得る。このために、黄色ブドウ球菌Newmanの終夜培養の培養物は、新鮮なトリプシンソイブロス内で1:100に希釈され、37℃にて3時間増殖され得る。ブドウ球菌は遠心分離され、2回洗浄され、0.4のA600を得るようにPBSで希釈され(1 ml当たり1×108 cfu)、濃縮され得る。希釈は、寒天培地へのプレーティングおよびコロニー形成によって実験的に確認され得る。マウスは、体重1キログラム当たり80~120 mgのケタミンおよび3~6 mgのキシラジンの腹腔内注入によって麻酔され得る。免疫動物は21日目に、2×1010 cfuの黄色ブドウ球菌Newmanまたは3~10×109 cfuの臨床黄色ブドウ球菌分離株による腹腔内注入によって抗原投与され得る。動物は14日間モニターされ、致死的疾患が記録され得る。
【0287】
ネズミ肺炎モデル-黄色ブドウ球菌株NewmanまたはUSA300(LAC)は、OD660 0.5までトリプシンソイブロス/寒天培地中で37℃にて増殖され得る。50-ml培養物アリコートは、遠心分離され、PBSで洗浄され、死亡率試験では750 μl PBS(3~4×108 CFU/30-μl体積)、または細菌負荷および病理組織学的実験では1,250 μl PBS(2×108 CFU/30-μl体積)で懸濁され得る。肺感染では、7週齢C57BL/6Jマウス(The Jackson Laboratory)は、左鼻孔内への30 μlの黄色ブドウ球菌懸濁液の接種前に麻酔され得る。動物は、回復のために仰臥位でケージ内に置かれ、14日間観察され得る。能動免疫では、4週齢マウスは、i.m.経路を介して0日目にCFA中の20 μg SpA変種を受け、その後、10日目にフロイントの不完全アジュバント(IFA)中の20 μgの変種で追加免疫され得る。動物は、21日目に黄色ブドウ球菌で抗原投与され得る。血清は、免疫前および20日目に収集され、特異的抗体産生を評価され得る。受動免疫試験では、7週齢マウスは、抗原投与の24時間前に100 μlのNRS(正常ウサギ血清)またはSpA変種特異的ウサギ抗血清のいずれかをi.p.を介して受け得る。肺炎の病理学的相関を評価するために、感染動物は、両方の肺の除去前に強制CO2吸入を介して殺傷され得る。右肺は、肺細菌負荷の計数のためにホモジナイズされ得る。左肺は、1%ホルマリン中に配置され、パラフィン包埋され、薄切片にされ、ヘマトキシリン・エオシンで染色され、顕微鏡によって分析され得る。
【0288】
ウサギ抗体-精製SpA変種は、ウサギ抗血清の産生のための免疫原として用いられ得る。タンパク質は、0日目に注入のためにCFAで乳化され、続いて、21日目および42日目にIFAで乳化されたタンパク質により追加免疫注入され得る。ウサギ抗体力価はELISAによって決定され得る。精製抗体は、SpA変種セファロースでのウサギ血清のアフィニティークロマトグラフィーによって得られ得る。溶出抗体の濃度は、A280での吸光度によって測定され得、特異的抗体力価はELISAによって決定され得る。
【0289】
SpA変種による能動免疫。-ワクチン有効性を決定するために、動物は、精製SpA変種で能動的に免疫され得る。対照として、動物はアジュバント単独で免疫され得る。プロテインA調製物に対する抗体力価は、抗原としてSpA変種を用いて決定され得る。上記の感染性疾患モデルを用いて、細菌負荷(ネズミ膿瘍および肺炎)の任意の低下、ブドウ球菌疾患の病理組織学的証拠(ネズミ膿瘍および肺炎)、および致死的疾患からの防御(ネズミ致死的抗原投与および肺炎)を測定することができる。
【0290】
SpA変種に対して作製したアフィニティー精製ウサギポリクローナル抗体による受動免疫。プロテインA特異的ウサギ抗体の防御免疫を決定するために、マウスを精製SpA変種由来ウサギ抗体で受動的に免疫する。これらの抗体調製物のどちらも、固定化SpA変種を用いるアフィニティークロマトグラフィーによって精製する。対照として、動物をrV10抗体(ブドウ球菌感染の転帰に対して影響を有さないペスト防御抗原)で受動的に免疫する。全てのプロテインA調製物に対する抗体力価を、抗原としてSpA変種を用いて決定する。上記の感染性疾患モデルを用いて、細菌負荷の低下(ネズミ膿瘍および肺炎)、ブドウ球菌疾患の病理組織学的証拠(ネズミ膿瘍および肺炎)、および致死的疾患からの防御(ネズミ致死的抗原投与および肺炎)を測定することができる。
【0291】
細菌株および増殖。黄色ブドウ球菌株NewmanおよびUSA300は、トリプシンソイブロス(TSB)中で37℃にて増殖され得る。大腸菌株DH5αおよびBL21(DE3)は、100 μg ml-1アンピシリンを有するLuria-Bertani(LB)ブロス中で37℃にて増殖され得る。
【0292】
ウサギ抗体。SpA変種は、標準的な組換え技術または合成プロトコールにしたがって作製され得、精製された抗原は、HiTrap NHS活性化HPカラム(GE Healthcare)に共有結合され得る。抗原マトリクスは、4℃での10~20 mlのウサギ血清のアフィニティークロマトグラフィーのために用いられ得る。チャージしたマトリクスは、50カラム量のPBSで洗浄され、抗体は、溶出緩衝液(1 Mグリシン、pH 2.5、0.5 M NaCl)で溶出され、1 M Tris-HCl、pH 8.5で直ちに中和され得る。精製された抗体はPBSに対して4℃にて一晩透析され得る。
【0293】
F(ab)2断片。アフィニティー精製された抗体は、3 mgのペプシンと37℃にて30分間混合され得る。反応液は、1 M Tris-HCl、pH 8.5でクエンチされ、F(ab)2断片は、特異的抗原をコンジュゲートしたHiTrap NHS活性化HPカラムでアフィニティー精製されうる。精製された抗体は、PBSに対して4℃にて一晩透析され、SDS-PAGEゲル上に負荷され、クーマシーブルー染色で可視化され得る。
【0294】
能動および受動免疫。BALB/cマウス(3週齢、雌、Charles River Laboratories)は、筋肉内注入によりフロイントの完全アジュバント(Difco)で乳化された50 μgタンパク質によって免疫され得る。追加免疫のため、タンパク質は、フロイントの不完全アジュバントで乳化され、初回免疫の11日後に注入され得る。免疫後20日目に、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)による特異的抗体力価のための血清を得るために、5匹のマウスが採血され得る。
【0295】
PBS中のアフィニティー精製された抗体は、黄色ブドウ球菌による抗原投与の24時間前に、5 mg/kg-1実験動物体重の濃度でBALB/cマウス(6週齢、雌、Charles River Laboratories)の腹腔内に注入され得る。動物血液は、眼窩周囲静脈穿刺を介して収集され得る。血液細胞は、ヘパリン処理したマイクロヘマトクリット毛細管(Fisher)で除去され、Zゲル血清分離マイクロ管(Sarstedt)が、ELISAによって抗原特異的抗体力価を収集および測定するために用いられ得る。
【0296】
マウス腎膿瘍。黄色ブドウ球菌NewmanまたはUSA300(LAC)の終夜培養の培養物は、新鮮なTSB内で1:100に希釈され、37℃にて2時間増殖され得る。ブドウ球菌は、沈降され、洗浄され、0.4のOD600(約1×108 CFU ml-1)でPBSに懸濁され得る。接種菌液は、TSA上に試料アリコートを広げ、形成されたコロニーを計数することによって定量化され得る。BALB/cマウス(6週齢、雌、Charles River Laboratories)は、体重1キログラム当たり100 mg ml-ケタミンおよび20 mg ml-1キシラジンによる腹腔内注入を介して麻酔され得る。マウスは、1×107 CFUの黄色ブドウ球菌Newmanまたは5×106 CFUの黄色ブドウ球菌USA300による後眼窩注入によって感染され得る。抗原投与後4日目に、マウスはCO2吸入によって殺傷され得る。両方の腎臓は除去され得、一方の器官におけるブドウ球菌負荷は、PBS、1% Triton X-100で腎組織をホモジナイズすることによって分析され得る。ホモジネートの連続希釈物をTSA上に広げ、コロニー形成のためにインキュベートした。残りの器官は、病理組織学的検査によって調べられ得る。簡単に説明すると、腎臓は、室温にて24時間10%ホルマリン中で固定され得る。組織は、パラフィン中に包埋され、薄切片にされ、ヘマトキシリン・エオシンで染色され、膿瘍病変を計数するために光学顕微鏡によって検査され得る。全てのマウス実験は、University of ChicagoのInstitutional Biosafety Committee(IBC)およびInstitutional Animal Care and Use Committee(IACUC)による施設内ガイドラインに従う実験プロトコールの審査および承認によって実施され得る。
【0297】
プロテインA結合。ヒトIgG結合では、Ni-NTAアフィニティーカラムは、カラム緩衝液中の200 μgの精製されたタンパク質(SpA変種)によって予め充填され得る。洗浄後、200 μgのヒトIgG(Sigma)は、カラムの上にロードされ得る。タンパク質試料は、洗浄液および溶出液から収集され、SDS-PAGEゲル電気泳動、引き続きクーマシーブルー染色に供され得る。精製されたタンパク質(SpA変種)は、0.1 M炭酸緩衝液(pH 9.5)中1 μg ml-1の濃度で4℃にて一晩MaxiSorp ELISAプレート(NUNC)の上にコーティングされ得る。次に、プレートは、5%全乳でブロッキングされ、その後続いて、ペルオキシダーゼコンジュゲートヒトIgG、FcまたはF(ab)2断片の連続希釈物と共に1時間インキュベートされ得る。プレートは洗浄され、OptEIA ELISA試薬(BD)を用いて発色され得る。反応は1 Mリン酸でクエンチすることができ、A450読み取り値を用いて最大半量の力価およびパーセント結合を計算した。
【0298】
フォンウィルブランド因子(vWF)結合アッセイ。精製されたタンパク質(SpA変種)は、上記に記載されるようにコーティングおよびブロッキングされ得る。プレートは、1 μg ml-1濃度でのヒトvWFと2時間インキュベートされ、次いで、洗浄され、さらに1時間ヒトIgGでブロッキングされ得る。洗浄後、プレートは、ヒトvWFに対して向けられたペルオキシダーゼコンジュゲート抗体の連続希釈物と共に1時間インキュベートされ得る。プレートは洗浄され、OptEIA ELISA試薬(BD)を用いて発色され得る。反応は1 Mリン酸でクエンチされ得、A450読み取り値は、最大半量の力価およびパーセント結合を計算するために用いられ得る。阻害アッセイでは、プレートは、リガンド結合アッセイの前に、10 μg ml-1濃度での、SpA変種に特異的なアフィニティー精製F(ab)2断片と共に1時間インキュベートされ得る。
【0299】
脾細胞アポトーシス。アフィニティー精製されたタンパク質(150 μgのSpA変種)は、BALB/cマウス(6週齢、雌、Charles River Laboratories)の腹腔内に注入され得る。注入の4時間後、動物をCO2吸入によって殺傷した。それらの脾臓は取り出され、ホモジナイズされ得る。細胞デブリは細胞ろ過器を用いて除去され得、懸濁細胞は、赤血球を溶解するためにACK溶解緩衝液(0.15 M NH4Cl、10 mM KHCO3、0.1 mM EDTA)に移入され得る。白血球は、遠心分離によって沈降され、PBSで懸濁され、1:250希釈R-PEコンジュゲート抗CD19モノクローナル抗体(Invitrogen)で氷上かつ暗所中にて1時間染色され得る。細胞は、1%FBSで洗浄され、4%ホルマリンで4℃にて一晩固定され得る。翌日、細胞は、PBSで希釈され、フローサイトメトリーによって分析され得る。残った器官は、病理組織学的検査で検査され得る。簡単に説明すると、脾臓は、10%ホルマリン中で室温にて24時間固定され得る。組織は、パラフィン中に包埋され、薄切片にされ、Apoptosis検出キット(Millipore)で染色され、光学顕微鏡によって検査され得る。
【0300】
抗体定量化。血清は、黄色ブドウ球菌NewmanまたはUSA300のいずれかに30日間感染していたか、または上記に記載されるようなSpA変種で免疫されていた、健常ヒトボランティアまたはBALB/cマウスから収集され得る。ヒト/マウスIgG(Jackson Immunology Laboratory)、SpA変種、およびCRM197は、ニトロセルロース膜の上にブロットされ得る。膜は、5%全乳でブロッキングされ、続いてヒトまたはマウス血清のいずれかと共にインキュベートされ得る。IRDye 700DXコンジュゲートアフィニティー精製抗ヒト/マウスIgG(Rockland)は、Odyssey(商標) 赤外線イメージングシステム(Li-cor)を用いてシグナル強度を定量化するために用いられ得る。ヒトボランティア由来の血液による実験は、University of ChicagoのInstitutional Review Board(IRB)の規制監督下で審査、承認、および実施されたプロトコールを伴った。
【0301】
統計解析。両側スチューデントt検定は、腎膿瘍、ELISA、およびB細胞スーパー抗原データの統計的有意性を分析するために実施され得る。
【0302】
これらのアッセイを用いて、本明細書に記載される変種(例えば、図12~15に示されるもの)が試験され得る。さらなるアッセイ、例えばSPR分析が、SpA、SpA/KKAAならびにSpA/KKAA/F(SpA*31)対照と比較した、新規SpA変種とヒトVH3-IgGおよびヒトVH3-IgEとの結合親和性を決定するために実施され得る。製造可能性(精製SpA*変種/大腸菌ペーストのグラムの収量)もまた試験され得る。CD分光法は、SpAおよびSpA/KKAAと比較したα-ヘリックス含量を試験するために実施され得る。さまざまな温度での精製および保存(4℃、25℃および37℃で1~7日間)時のタンパク質安定性もまた、決定され得る。
【0303】
薬物安全性および有効性を試験するために、バジル(basil)ヒスタミン放出アッセイが実施されてもよい(図16)。この試験は当技術分野において公知である(例えば、Kowal, K. et al, 2005. Allergy and Asthma Proc. Vol. 26, No. 6を参照)。簡単に説明すると、ヒト血清および/または好塩基球は37℃にて60分間インキュベートされ得る。ヒスタミン放出は、刺激されている(SpA変種の添加により)細胞および刺激されていない細胞から測定され得、結果は、総ヒスタミン含量のパーセンテージでヒスタミン放出として表され得る。いくつかの局面において、ヒスタミン放出>16.5%は、小児患者および成人患者の両方で陽性試験結果である。
【0304】
実施例3 安全性が改善されているSpAワクチン変種
B. 結果
1. SpAワクチン候補のGly29でのアミノ酸置換
本発明者らは、SpAと Fcγとの間の相互作用を妨害する、ヒトIgGとSpAKKとの間の親和性の最大の低下をもたらすSpA-IgBD、すなわち、アミノ酸置換Gln9,10Lysも保有する5つのIgBD(EDABC)のGly29位でのアミノ酸置換を実験的に特定しようとした(48)。この目標に向けて、本発明者らは、Xが遺伝子コードによって提供される19種の天然アミノ酸(グリシン以外)のいずれか1つである、N末端にポリヒスチジンタグが付いているSpAQ9,10K/G29Xをコードする19種の異なるプラスミドを構築した。SpAQ9,10K/G29Xタンパク質をNi-NTA樹脂上でのアフィニティークロマトグラフィーを介して精製し、溶出し、透析し、BCAアッセイを介して濃度を決定し、同じ濃度(250 nM)でBio-Rad ProteOn HTGチップに結合させた。各チップを、ヒトIgGまたはPBS対照の連続希釈液との表面プラズモン共鳴試験に供した。ヒトIgGとチップ上にロードしたSpAワクチン候補との会合を記録し、データを変換して各タンパク質について会合定数を導き出した(表4)。対照として、本発明者らは、ヒトIgGに対する野生型SpA(KA 1.081×108 M-1)およびSpAKKAA(KA 5.022×105 M-1)の会合定数を定量化した。SpAQ9,10K/G29Xタンパク質では、Gly29での4つのアミノ酸置換が会合定数の有意な増加をもたらし:Gly29Ser(KA 9.398×105 M-1)、Gly29Lys(Ka 9.738×105 M-1)、Gly29Ile(KA 10.070×105 M-1)、およびGly29Ala(KA 11.310×105 M-1)、これらの変種はSpAKKAAよりヒトIgGのVH3バリアント重鎖により強固に結合していることを示唆した(表4)。SpAQ9,10K/G29Aでの観察は本発明者らには驚くものであった。市販の抗体精製(MabSelectSure(商標))でのZZZZ構築物におけるGly29Ala置換は、VH3-IgGに対する結合を減少させる(150)のに対して、SpA-IgBD内でGln9,10Lysの状況でのGly29Alaは、VH3-IgGに対する親和性の中程度の増加を促進し得る。SpAKKAAと比較して、Gly29での10種のアミノ酸置換は、Gly29Thr、Gly29Leu、Gly29Glu、Gly29Pro、Gly29Phe、Gly29Met、Gly29Val、Gly29Trp、Gly29Asp、Gly29Arg、Gly29Asn、およびGly29Tyrとの会合定数に有意差をもたらさなかった(表4)。Gly29での別の3種のアミノ酸置換は、SpAKKAAと比較してヒトIgGに対する会合定数を低下させた:Gly29His(Ka 1.435×105 M-1)、Gly29Cys(Ka 1.743×105 M-1)、およびGly29Gln(Ka 2.057×105 M-1)(表4)。このように、Gly29でのアミノ酸置換は、ヒトIgGへのSpA-IgBDの結合に対して普遍的な作用を奏さない。Gly29での一部のアミノ酸置換は、ヒトIgGとSpAQ9,10K/G29Xとの間の親和性を増加させるのに対して、その他は中立である(有意な作用を奏さない)か、または親和性を低下させる。
【0305】
2. SpAワクチン候補のSer33でのアミノ酸置換
ヒトIgGとSpAKKとの間の親和性を最大の低下をもたらすSpA-IgBDのSer33位でのアミノ酸置換を特定するために、本発明者らは、Xが遺伝子コードによって提供される19種の天然(セリンを除く)のいずれか1つである、N末端にポリヒスチジンタグが付いているSpAQ9,10K/S33Xをコードする19種の異なるプラスミドを構築した。SpAQ9,10K/S33Xタンパク質をNi-NTA樹脂上でのアフィニティークロマトグラフィーを介して精製し、溶出し、透析し、BCAアッセイを介して濃度を決定し、同じ濃度(250 nM)でBio-Rad ProteOn HTGチップに結合させた。各チップを、ヒトIgGおよびPBS対照の連続希釈液との表面プラズモン共鳴試験に供した。ヒトIgGとチップ上にロードしたSpAワクチン候補との会合を記録し、データを変換して各タンパク質について会合定数を導き出した(表5)。Ser33での2種のアミノ酸置換は、ヒトIgGに対する親和性の増加をもたらし: Ser33Gly(KA 11.180×105 M-1)およびSer33 Ala(KA 10.540×105 M-1)、これらの変種がSpAKKAAより優れたヒトIgGに対する親和性を示す(おそらく、VH3バリアント重鎖に対する親和性の増加により)ことを示した(表5)。Ser33での14種のアミノ酸置換は、会合定数の有意差をもたらさなかった:Ser33Tyr、Ser33Leu、Ser33Trp、Ser33Val、Ser33His、Ser33Asn、Ser33Met、Ser33Arg、Ser33 Asp、Ser33Phe、Ser33Gln、Ser33Pro、Ser33Cys、およびSer33Lys(表5)。Ser33での3種のアミノ酸置換は、ヒトIgGとSpAQ9,10K/S33Xとの親和性を低下させた:Ser33Thr(KA 0.386×105 M-1)、Ser33Glu(KA 0.496×105 M-1)、およびSer33Ile(KA 1.840×105 M-1)(表5)。このように、Ser33での一部のアミノ酸置換はヒトIgGとSpAQ9,10K/S33Xとの間の親和性を増加させるのに対して、その他は中立である(有意な作用を奏さない)か、またはヒトIgGとの会合を減少させる。親和性を低下させる。ヒトIgGとの間の親和性を低下さえるもののうち、Ser33GluおよびSer33Thrが、会合定数の最大の低下を示す(表5)。
【0306】
3. SpAワクチン候補におけるGly29、Ser33、およびAsp36,37での組み合わせアミノ酸置換
Ser33での単一アミノ酸置換と比較して、IgBDのGly29位、Ser33位、またはAsp36,37位でのアミノ酸置換の組み合わせは、ヒトIgGに対するさらなる親和性の低下をもたらすか?または複数置換は、2つのタンパク質間の親和性を増加させることもできるという逆説的作用も奏するか?この疑問に対処するために、本発明者らは、Ser33にアミノ酸置換を有する3種のタンパク質:SpAQ9,10K/S33E(親和性の減少)、SpAQ9,10K/S33F(親和性に影響なし)、およびSpAQ9,10K/S33Q(親和性に影響なし)の会合定数を、Gly29 および/またはAsp36,37に追加のアミノ酸置換を保有するタンパク質と比較した(表6)。SpAQ9,10K/S33E(KA 0.496×105 M-1)では、置換 Gly29 Ala(KA 1.265×105 M-1)、Gly29Phe(KA 1.575×105 M-1)、Asp36,37Ala(KA 0.568×105 M-1)、Gly29Ala/Asp36,37Ala(KA 1.892×105 M-1)、またはGly29Arg(KA 4.840×105 M-1)の追加によって、追加の作用は観察されなかった。しかしながら、Asp36,37AlaとGly29Phe(KA 14.850×105 M-1)またはGly29Arg(KA 10.240×105 M-1)いずれかとの組み合わせは、ヒトIgGに対するSpAQ9,10K/S33Eの親和性を増加させた(表6)。その会合定数がSpAKKAAのものと有意差を有さない SpAQ9,10K/S33F(KA 3.902×105 M-1)について分析したところ、本発明者らは同様の作用を観察した。Asp36,37AlaをヒトIgGに対する親ワクチンの親和性を本明細書において再び増加させたいずれかのGly29Pheと組み合わせた場合(SpAQ9,10K/S33Q/D36,37A/Gly29F KA 12.470×105 M-1)を除いて、置換のいずれも、ヒトIgGに対するSpAQ9,10K/S33Fの親和性を変化させなかった(表6)。このように、SpA-IgBDのGly29、Ser33およびAsp36,37でのアミノ酸置換の組み合わせは、ヒトIgGに対する親和性を予想通りには低下させない。それぞれの場合において、組換えSpAワクチン候補の親和性は、実験的に決定されることを必要とする。
【0307】
SpA-KRは、IgBDのEドメイン中に2つの追加のアミノ酸置換を有するSpAKKAAの変種であり、アミノ酸配列ADAQQNを有する6残基のN末端伸長を保有する(国際特許出願WO 2015/144653 AI)。この発明者ら-Fabio Bagnoli、Luigi Fiaschi、およびMaria Scarselli(Glaxo-SmithKline INC.)-は、これらの残基が免疫グロブリン、すなわち、FcγまたはVH3重鎖に結合する可能性がある場所を特定するか、またはそのような結合について実験的証拠を提供することなしに、SpAKKAAのEドメインのヘキサペプチド伸長における2個グルタミン(QQ)残基が、ヒトIgGに対するさらなる結合を構成し得ると推定した。ヒトIgGに対するその親和性について分析したところ、SpA-KRの会合定数(KA 5.464×105 M-1)は、SpAKKAAのものと有意に相違せず、SpA-KRもまたVH3-IgGに対する架橋活性を示す可能性があることを示唆した(表6)。SpARRVVは、特許出願EP3101027A1(OLYMVAX INC.)に記載されるSpAワクチン変種である。SpAKKAAと同様に、SpARRVVは、置換によってGln9,10がアルギニン(ArgまたはR)におよびAsp36,37がバリン(ValまたはV)に置き換わっている、SpAの5つのIgBDの各々のGln9,10およびAsp36,37にアミノ酸置換を保有する。ヒトIgGに対するその親和性について分析したところ、SpARRVVの会合定数(KA 5.609×105 M-1)は、SpAKKAAのものと同様であり、SpARRVVもまたVH3-IgGに対する架橋活性を示す可能性があることを示唆した(表6)。
【0308】
4. ヒトIgGのVH3イディオタイプおよびFab断片に対するSpAワクチン変種の架橋活性
SpAワクチンの臨床開発で重要な安全性の課題は、好塩基球およびマスト細胞の表面上でのVH3イディオタイプIgEおよびIgGによる架橋活性の欠如していることであり、そうでない場合には、ヒスタミン放出およびアナフィラキシーが引き起こされる(140、142、145)。SpAワクチン候補のVH3架橋活性を定量化するために、本発明者らは、パパインで切断している精製ヒトIgG(54% VH3イディオタイプバリアント重鎖)およびSpAKKに対するアフィニティークロマトグラフィーを用いて精製したVH3クローンFab断片を用いた(75)(表7)。SpAおよびその変種との親和性測定のために表面プラズモン共鳴(SPR)を用いて試験したところ、野生型プロテインA(SpA)のIgBDは、強力な架橋活性(KA 1.44×107 M-1、表7)を示した。VH3-Fabに対する親和性は、SpAKKAA(KA 8.27×104 M-1)、およびSpA-KR(KA 6.42×104 M-1)で減少したが、両方の変種ともに、SpAQ9,10K/S33E(KA 41.24 M-1)およびSpAQ9,10K/S33T(KA 43.55 M-1)と比較して有意な架橋活性を保持していた(表7)。SpAQ9,10K/S33EおよびSpAQ9,10K/S33Tは、PBS対照と同様の結合特性(すなわち、リガンドを添加せずに得られた値)を示した。このように、アミノ酸置換Ser33GluおよびSer33Thrは、ワクチン候補SpAQ9,10K/S33EおよびSpAQ9,10K/S33Tにおいてそれぞれ、VH3-IgE およびVH3-IgG架橋活性を除去する。
【0309】
5. SpAワクチン変種のFcγ結合活性
Deisenhoferは、ヒトFcγに結合しているSpA Bドメイン(IgBD-B)の結晶構造を解析し、2つの分子間の相互作用を特定した(154)。4つの水素結合が、SpA(Bドメインでのナンバリング、図20B)とFcγとの間の相互作用を促進する: Gln9(IgG Ser254)、Gln10(IgG Gln311)、Asn11(IgG Asn434)、およびTyr14(IgG Leu432)(54)。これらのBドメイン残基は、5つのIgBDの全てで保存され(図20)、Fcγ結合の普遍的メカニズムを暗示する(43)。これまでの研究によって、SpAのIgBD-Dまたは5つのIgBDの全てにおけるGln9,10Lysの置換が、ヒト、マウス、およびモルモットのIgG Fcγに対するSpAKK(SpAQ9,10K)結合を減少させることが示された(76、43)。新たに設計したSpAワクチン変種、SpAQ9,10K/S33EおよびSpAQ9,10K/S33Tは、それらの5つのIgBDにおいてGln9,10Lysアミノ酸置換を保持することから、本発明者らは、これらの変種はヒトFcγに対する結合においても有意な欠如を示すはずだと推測した。この推測を検証するために、本発明者らは、パパインで切断されている精製ヒトIgGおよび結果として生じる精製されたFcγ断片を用いた(表8)。SpAおよびその変種との親和性測定のためにバイオレイヤー干渉法(BLI)を用いて試験したところ、野生型プロテインAのIgBDは、Fcγに対して高い親和性を示した(KA 5.17×107 M-1)。Fcγ結合活性は、SpAKKAA(KA 32.68 M-1)、SpA-KR(KA 39.12 M-1)、SpAQ9,10K/S33E(KA 32.68 M-1)、およびSpAQ9,10K/S33T(KA 39.91 M-1)でそれぞれ消失した。このように、Ser33GluおよびSer33Thr置換は、SpAQ9,10K/S33EおよびSpAQ9,10K/S33Tのヘリックス1におけるFcγ結合に対するGln9,10Lysの作用をかく乱しない(表8)。
【0310】
6. SpAワクチン候補のアナフィラキシー活性のためのマウスモデル
臨床試験および実験的試験は、血管透過性亢進がアナフィラキシーの特徴であることを示している(155、156)。活性化マスト細胞または好塩基球は、ヒスタミンおよび血小板活性化因子を含む血管作動性メディエータを放出し、血管拡張および内皮バリアーの破壊を引き起こすことによって血管透過性亢進のアナフィラキシー反応を誘導する(156)。これらの事象は、2 μgヒトVH3イディオタイプIgGの皮内注入を介して24時間前にプライミングされた試験部位(耳組織)での静脈内に投与された色素、エバンスブルーの血管外漏出として、アナフィラキシー性血管透過性亢進のマウスモデルにおいて測定され得る(157)。耳組織内へのエバンスブルーの血管漏出は続いて、5匹の動物のコホートにおいて定量化され(ng色素/mg組織)、平均値および標準偏差(SD)が計算され、統計的有意差についてデータ分析される。野生型C57BL/6マウスの血漿は、わずか5~10%のVH3イディオタイプバリアント重鎖を有する免疫グロブリンを含む(48)。この理由のために、マウスは、モルモット(20~30%VH3イディオタイプバリアント重鎖)とは異なり、SpA誘導性アナフィラキシーショックに対して耐性を有する(140)。このため、本発明者らはそれらの試験ではμMTを選択し;これらの動物は、機能的なIgM B細胞受容体を欠き、プレB細胞段階でのB細胞発生を停止し、かつ血漿IgGを生成することができない(158)。μMTマウスを、耳組織内への2 μgヒトVH3イディオタイプIgGの皮内注入でのレシピエントとして用いた。24時間後、200 μgのSpA、SpAワクチン変種、または緩衝液対照(PBS)をマウスに静脈内注入した。SpA処置の5分後、2%エバンスブルー溶液をマウスに静脈内注入し、耳組織における血管透過性を評価した。30分後、動物を安楽死させ、乾燥させ、耳組織を切除し、色素の分光光度的定量化のためにホルムアミドで抽出した。PBS対照[34.73(±)8.474 ngエバンスブルー/mg耳組織]と比較して、SpA処置は、124.9 ng/mg(±26.54 ng/mg)エバンスブルーを放出する、アナフィラキシー性血管透過性亢進を引き起こした(PBS対SpA、P<0.0001)(図22)。ヒトVH3-IgGによる皮内注入によって前処置された動物コホートでは、SpAKKAAの静脈内投与は、野生型SpAより低いレベル(SpA対SpAKKAA、P<0.0001)だが、血管透過性亢進 [70.31 ng/mg(±23.04 ng/mg);PBS対SpAKKAA、P<0.01]も引き起こした(図22)。これに対して、200 μgのSpAQ9,10K/S33E [38.57 ng/mg(±15.07 ng/mg);SpAQ9,10K/S33E対PBS、有意差なし]またはSpAQ9,10K/S33T [41.43 ng/mg(±13.15 ng/mg);SpAQ9,10K/S33T対PBS、有意差なし]の静脈内投与は、μMTマウスにおけるVH3イディオタイプヒトIgGで処置した部位で血管透過性亢進を誘発しなかった(図22)。比較として、SpA-KRワクチン候補は、SpAKKAAのものと類似のアナフィラキシー性血管透過性亢進を誘発した(図22)。このように、マスト細胞および好塩基球上の活性化FcεRIまたは他のエフェクター細胞上の活性化FcγRに結合しているVH3イディオタイプIgGを架橋することによって血管透過性亢進を引き起こすSpAおよびSpAKKAAとは異なり、SpAQ9,10K/S33EおよびSpAQ9,10K/S33Tは、VH3イディオタイプIgGを架橋して、VH3イディオタイプヒトIgGで前処置した部位でμMTマウスにおけるアナフィラキシー反応を促進することはできない。
【0311】
7. VH3-IgEのSpAワクチン候補架橋
好塩基球およびマスト細胞は、アナフィラキシー反応の2つの主要なエフェクター細胞であり、それらのFcεRI表面受容体上でのIgEの抗原媒介性架橋によって炎症促進性メディエータを分泌する。SpAを大量に発現する黄色ブドウ球菌 Cowan I株または可溶性精製SpAは、好塩基球を活性化し、ヒスタミン放出を誘導することができる。この刺激作用は、プロテインAのFab結合活性に依存する(145)。SpAワクチン候補と循環IgEまたは好塩基球の表面に結合されているIgGとの潜在的な架橋作用を試験するために、PBSで精製したワクチン変種を、EDTAで抗凝固した新鮮に採血したヒト血液に30分間添加した。野生型SpAを陽性対照として用いた。PBSを陰性対照として用いた。細胞を抗CD123、抗CD203c、抗HLA-DR(樹状細胞および単球の除去)、および抗CD63で染色した。SSClowCD203c+/CD123+/HLA-DR-細胞についてのゲーティングによって、好塩基球を特定した。CD123好塩基球活性化をCD63の割合として表し、陰性対照および陽性対照について補正した。PBS対照(4.39%活性化好塩基球)と比較して、SpAまたはSpAKKAA処置はそれぞれ、CD63+活性化好塩基球集団の有意な増加、32.05%(PBS対SpA、P<0.0001)および10.66%(PBS対SpAKKAA、P<0.01)をもたらした(表9)。SpAKKAAとは対照的に、SpAQ9,10K/S33E [5.38%; SpAQ9,10K/S33T対SpAKKAA、P<0.05]またはSpAQ9,10K/S33T [4.57%; SpAQ9,10K/S33T対SpAKKAA、P<0.01]は、好塩基球を活性化できず、PBS対照と同様に挙動した(表9)。このアッセイでは、SpA-KR [8.15%]およびSpARRVV [10.16%]ワクチン候補は、SpAKKAAと同様の好塩基球活性化を示した。このように、SpAQ9,10K/S33EおよびSpAQ9,10K/S33Tは、血液中の循環IgEを架橋できず、高親和性受容体FcεRIと結合することによって好塩基球を感作することができない。SpAQ9,10K/S33EおよびSpAQ9,10K/S33とは異なり、SpAKKAA、SpA-KR、およびSpARRVVワクチン候補は、望ましくない全身性のアナフィラキシー反応を開始する、IgE架橋の有意な活性を保持する。
【0312】
マスト細胞の機能的反応を、抗原によって誘導されたβ-ヘキソサミニダーゼおよびヒスタミン放出によって測定した。ヒトマスト細胞株LAD2をこのアッセイで用いた。マスト細胞(2×105細胞/ml)を、SpAワクチン変種(10 μg)での30分間の刺激前に、一晩のインキュベーション後に100 ng/ml VH3 IgEで感作し、β-ヘキソサミニダーゼ(図23A)またはヒスタミン放出(図23B)を測定した。野生型SpAとのインキュベーションは、約35%のβ-ヘキソサミニダーゼ放出を誘導した。SpAKKAAおよびSpA-KRワクチンはそれぞれ、10.32%および9.87%のβ-ヘキソサミニダーゼ放出を引き起こし、有意差はなかった(SpA-KR対SpAKKAA、有意差なし)。これらの低下は、SpA野生型と比較すると有意である(SpA対SpAKKAA、P<0.0001;SpA対SpA-KR、P<0.0001)。しかしながら、SpAKKAAおよびSpA-KRワクチンは、陰性対照レベルを上回るβ-ヘキソサミニダーゼ放出活性を保持する(SpAKKAA対PBS、P<0.0001; SpA-KR対PBS、P<0.0001)(図23 A)。比較すると、SpAQ9,10K/S33E [6.46%;SpAQ9,10K/S33E対SpAKKAA、P<0.01]およびSpAQ9,10K/S33T [4.43%;SpAQ9,10K/S33T対SpAKKAA、P<0.0001]は、SpAKKAAと比較して、有意に低下したβ-ヘキソサミニダーゼ放出をもたらした。SpAQ9,10K/S33EおよびSpAQ9,10K/S33Tは、PBS対照と同様のβ-ヘキソサミニダーゼ放出を示した(図23A)。
【0313】
同様の結果は、ヒスタミン放出を評価したときにも得られた(図23B)。SpAは最高レベルのヒスタミン放出を刺激し;SpAKKAAおよびSpA-KRワクチンはPBS対照レベルを上回るヒスタミン放出活性を保持し、SpAQ9,10K/S33E およびSpAQ9,10K/S33Tはどちらも、陰性対照PBSと同じように挙動した[SpA対PBS、またはSpAKKAA、またはSpA-KR、またはSpAQ9,10K/S33E、またはSpAQ9,10K/S33T、P<0.0001;SpAKKAA対SpA-KRまたはSpAQ9,10K/S33E、有意差なし;SpAKKAA対SpAQ9,10K/S33TまたはPBS、P<0.05;SpAQ9,10K/S33T対SpA-KR、P<0.01]。
【0314】
結論として、SpAQ9,10K/S33EおよびSpAQ9,10K/S33Tは、VH3イディオタイプIgEで感作されたマスト細胞を活性化する能力を失っており、ヒト臨床試験に適切な安全性プロファイルを有するワクチン候補である。
【0315】
8. 黄色ブドウ球菌コロニー形成モデルにおけるSpAワクチン候補の免疫原性および有効性
アジュバント単独(モック)で免疫したC57BL/6マウスのコホートと比較して、SpAKKAAまたはSpAQ9,10K/S33EまたはSpAQ9,10K/S33Tでの免疫は、SpA中和抗体を生じた(図25A)。予想通りに、SpAKKAA免疫は、鼻腔内コロニー形成の最初の21日後にC57BL/6マウスの上咽頭および胃腸管からの黄色ブドウ球菌WU1の脱コロニー化を誘導した(図24AB~C)。さらに、脱コロニー化したマウスでは、SpAKKAA免疫は、黄色ブドウ球菌脱コロニー化と関連する病原体特異的IgG(抗ClfB、抗IsdA、抗IsdB、抗SasGを含む)抗体の増加も付随した[(102)およびデータは示さず]。同じような結果が、SpAQ9,10K/S33EによるC57BL/6マウスの免疫後に観察された。モック対照と比較して、SpAQ9,10K/S33Eワクチン接種は、SpAKKAAワクチン接種と同様にC57BL/6マウスの上咽頭および胃腸管からの黄色ブドウ球菌WU1脱コロニー化を促進した(図24BC)。脱コロニー化したマウスでは、SpAQ9,10K/S33Eワクチン接種は、病原体特異的IgG(抗ClfB、抗IsdA、抗IsdB、抗SasGを含む;データは示さず)の増加も伴った。SpAKKAA免疫動物と比較して、SpAQ9,10K/S33Eワクチン接種は、同様のレベルの黄色ブドウ球菌脱コロニー化を誘発し、2つのワクチンがマウスコロニー形成モデルにおいて同じような防御的有効性を示すことを示唆した。SpAQ9,10K/S33Tワクチン接種は、SpAKKAAおよびSpAQ9,10K/S33Eワクチン接種と同様のレベルの黄色ブドウ球菌脱コロニー化を誘発した(データは示さず)。動物のコホートを同じ日にSpAKKAAまたはSpAQ9,10K/S33EまたはSpAQ9,10K/S33Tで免疫したところ、およそ50%の動物が上咽頭および胃腸管において脱コロニー化状態となり、アジュバント単独(モック)を受けた動物は全て、コロニー形成状態のままであった(図24DE)。このデータはさらに、3つの候補ワクチンの全てが黄色ブドウ球菌のコロニー形成モデルにおいて同様に実施されることも実証する。
【0316】
9. 黄色ブドウ球菌血流感染のマウスモデルにおけるSpAワクチン候補の有効性
以前の研究は、SpAKKAAによるBALB/Cマウスの免疫は、静脈内MRSA USA300 LAC血流抗原投与および腎組織におけるその後の膿瘍病変の形成から動物を保護する、SpA特異的抗体を誘発したことを実証している(43)。モック(アジュバント単独)免疫マウスと比較して、SpAKKAA、SpAQ9,10K/S33E、またはSpAQ9,10K/S33Tによる免疫は、SpAKKAAに対して、SpAQ9,10K/S33Eに対して、またはSpAQ9,10K/S33Tに対して有意に高い力価の抗体を誘発した(図25A)。BALB/cマウスにおいてSpAKKAA免疫によって誘導されたSpA特異的抗体力価は、SpAQ9,10K/S33EまたはSpAQ9,10K/S33Tについて分析したものよりSpAKKAAついてELISAによって分析した場合に有意に高かった(SpAKKAA対SpAQ9,10K/S33E、P<0.0001;SpAKKAA対SpAQ9,10K/S33T、P<0.0001)。同様に、BALB/cマウスにおいてSpAQ9,10K/S33E免疫によって誘導されたSpA特異的抗体力価は、SpAKKAAまたはSpAQ9,10K/S33Tについて分析したものよりSpAQ9,10K/S33EついてELISAによって分析した場合に有意に高く(SpAKKAA対SpAQ9,10K/S33E、P<0.001;SpAQ9,10K/S33E対SpAQ9,10K S33T、P<0.05)、BALB/cマウスにおいてSpAQ9,10K/S33T免疫によって誘導されたSpA特異的抗体力価は、SpAKKAAまたはSpAQ9,10K/S33Eについて分析したものよりSpAQ9,10K/S33TについてELISAによって分析した場合に有意に高かった(SpAKKAA対SpAQ9,10K/S33T、P<0.05;SpAQ9,10K/S33E対SpAQ9,10K/S33T、P<0.05)(図25 A)。これらの結果は、BALB/cマウスにおけるSpAQ9,10K/S33EおよびSpAQ9,10K/S33Tワクチン接種によって生成された抗体のエピトープの全てではないが一部は、SpAKKAAワクチン接種によって生成されたものと異なっており、逆もまた同様であることを示唆する。以前に報告されたように(43)、モック免疫マウスと比較して、SpAKKAAワクチン接種は、BALB/cマウスにおいてMRSA USA300 LACの細菌負荷および膿瘍病変の数を低下させた(図25B;P<0.0001)。SpAQ9,10K/S33EおよびSpAQ9,10K/S33Tワクチン接種は、SpAKKAAワクチン接種と比較してMRSA USA300 LAC血流感染に対する同様の保護を生じた。モック免疫動物と比較して、SpAQ9,10K/S33EおよびSpAQ9,10K/S33T免疫は、BALB/cマウスにおける細菌負荷および膿瘍病変の数を低下させた(図25C;P<0.0001)。このように、SpAQ9,10K/S33EおよびSpAQ9,10K/S33Tワクチン接種は、SpAKKAAワクチン候補で以前に報告されている(43)ようなマウスにおけるMRSA USA300 LAC血流感染および付随する膿瘍形成に対して同様の保護を誘発する。
【0317】
10. SpAワクチン候補のSpA中和モノクローナル抗体 3F6に対する結合
マウスハイブリドーマモノクローナル抗体(hMAb)3F6(IgG2a)を、SpAKKAA免疫 BALB/cマウスからの脾細胞を用いて作製した(84)。hMAb 3F6の遺伝子を配列決定し、HEK293 F細胞からの組換えrMAb 3F6の精製用の発現ベクターにクローニングした(146)。hMAb3F6およびrMAb 3F6のどちらも、5つのSpA IgBD(E、D、A、B、およびC)の各々の三重ヘリックスフォールドに結合し、それらのヒトIgGまたはIgMに結合する能力を中和する(84、146)。5 mg/kgの用量でのhMAb 3F6またはrMAb 3F6の静脈内投与は、黄色ブドウ球菌血流感染に付随する腎膿瘍形成および細菌複製(細菌負荷)からBALB/cマウスを保護する(84、146)。さらに、C57BL/6マウスへのrMAb 3F6(5 mg/kg)の静脈内投与は、予めコロニー形成させた動物の上咽頭および胃腸管からの黄色ブドウ球菌WU1脱コロニー化を誘導する(146)。本明細書において、本発明者らは、rMAb 3F6が、該モノクローナル抗体が由来している同族抗原であるSpAKKAAと同様の親和性でSpAQ9,10K/S33EまたはSpAQ9,10K/S33Tに結合するかどうかを問うた(84)。固定濃度のリガンドおよびrMAb 3F6の連続希釈物を用いてELISAにより測定したところ、本発明者らは、SpAワクチン候補への結合についてSpAKKAA(Ka 1.51×1010 M-1)、SpAQ9,10K/S33E(Ka 1.42×1010 M-1)、およびSpAQ9,10K/S33T(Ka 1.34×1010 M-1)の親和性定数を導き出した(図26)。これらのデータは、アミノ酸置換Ser33GluおよびSer33ThrがSpA中和rMAb 3F6の結合に影響を及ぼさないことを示唆する。さらに、アミノ酸置換Ser33GluおよびSer33Thrは、rMAb 3F6の結合によって定義されるような防御的SpA-エピトープを破壊しない。
【0318】
C. 考察
本発明者らは本明細書において、黄色ブドウ球菌ワクチン候補 - SpAKKAA、およびSpA-KRは、リガンドとしてヒトIgGのF(ab)2断片を用いる場合にVH3イディオタイプ免疫グロブリンに対する有意な結合を保持する。VH3-IgGで覆われたヒトマスト細胞(LAD2細胞)により分析したところ、SpAKKAAおよびSpA-KRは、β-ヘキソサミニダーゼおよびヒスタミンの放出によって測定される、VH3-Ig架橋を誘発する(145)。アナフィラキシー性血管透過性亢進のマウスモデルでは、そのようなヒスタミン放出の生物学的作用は、μMTマウスにおけるVH3-IgG投与の解剖学的部位でのエバンスブルー色素の血管外漏出として測定可能であった。まとめると、これらの観察は、ヒトにおけるアナフィラキシー反応の潜在的活性化因子としてのSpAワクチン候補の安全性について懸念を生じさせる。
【0319】
SpAワクチンに対する懸念に対応するために、本発明者らは、安全性プロファイルが改善されている、2つの新たな抗原、SpAQ9,10K/S33EおよびSpAQ9,10K/S33Tを設計した。SpAQ9,10K/S33EおよびSpAQ9,10K/S33Tは、VH3イディオタイプ免疫グロブリンに対する親和性を欠き、VH3-IgEで覆われたヒトマスト細胞からのヒスタミン放出に対して低下した活性を示すかまたは活性を示さず、μMTマウスにおけるVH3-IgG注入に応答してのエバンスブルー色素の血管外漏出を促進しない。SpAQ9,10K/S33EおよびSpAQ9,10K/S33TによるBALB/cマウスの免疫は、SpAKKAAと同様のレベルのSpA特異的IgG反応を誘発した。マウスモデルにおけるワクチン有効性について分析したところ、SpAQ9,10K/S33EまたはSpAQ9,10K/S33Tによるワクチン接種は、SpAKKAAワクチンと同様のレベルの、黄色ブドウ球菌コロニー形成または侵襲性血流感染からの保護を提供した(43)。さらに、アミノ酸置換Ser33GluおよびSer33Thrは、黄色ブドウ球菌コロニー形成-および侵襲性疾患-防御モノクローナル抗体3F6により定義される防御的IgBDエピトープをかく乱しない(84、146)。これらの観察に基づき、本発明者らは、黄色ブドウ球菌ワクチン候補SpAQ9,10K/S33EおよびSpAQ9,10K/S33Tは、黄色ブドウ球菌コロニー形成および侵襲性疾患に対する臨床安全性および有効性試験について臨床グレードのワクチンとしての開発に適している可能性があると仮定する。
【0320】
D. 材料および方法
細菌株および増殖条件。黄色ブドウ球菌株USA300(LAC)および WU1をトリプシンソイブロス(TSB)またはトリプシンソイ寒天培地(TSA)で37℃にて増殖させた。組換えタンパク質の産生のために、大腸菌株DH5αおよびBL21(DE3)を100 μg/mlアンピシリンおよび1 mMイソプロピルβ-d-1-チオガラクトピラノシド(IPTG)を有する溶原(LB)培地で37℃にて増殖させた。
【0321】
SpA変種の構築。SpA変種のコード配列は、Integrated DNA Technologies, Incによって合成された。該配列およびプラスミドpET15b+をそれぞれ、NdeIおよびBamHIによって消化した。次いで、2つの消化産物をライゲーションし、大腸菌DH5α内で形質転換し、N末端ヘキサヒスチチジン(His6)タグ付き組換えタンパク質を発現するクローンを作製した。候補クローンをDNA配列決定によって検証した。SpA変種候補の精製のために、正しいプラスミドを大腸菌BL21(DE3)内で形質転換した。
【0322】
タンパク質の精製。アンピシリンおよびIPTGを補充したLBで2.0の600 nmでの吸光度(A600)まで増殖させた大腸菌の培養物(2リットル)を遠心分離した(10,000×g 10分間)。沈降した細胞をBuffer A(50 mM Tris-HCl [pH 7.5]、150 mM NaCl)で懸濁し、結果として生じる懸濁物を14,000 lb/in2でのフレンチプレスで溶解した(Thermo Spectronic, Rochester, NY)。破壊されなかった細胞を遠心分離(5,000×g 15分間)によって除去し、粗溶解物を超遠心(100,000×g 4℃にて1時間)に供した。可溶性組換えタンパク質を、Buffer Aで予め平衡化した1 mlの充填容積のNi-NTAアガロース(QIAGEN)でのクロマトグラフィーに自然流下により供した。カラムを、10 mMイミダゾールを含む20 ベッド容量のBuffer Aで洗浄し、500 mMイミダゾールを含む6 mlのBuffer Aで溶出した。溶出した画分のアリコートを当量のサンプル緩衝液と混合し、15%ドデシル硫酸ナトリウム・ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)ゲルで分離した。組換えタンパク質をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に対して透析し、ビシンコニン酸アッセイ(Pierce)によりそれらの濃度を決定した。動物における免疫試験および細胞株とのインキュベーションのために、組換えタンパク質調製物をEndotoxin Removal Spinカラム(Pierce)に供して、混入LPSを除去した。試料純度をToxinSensor(商標)Chromogenic LAL Endotoxin Assayキット(Genscript)で試験した。
【0323】
抗体の精製。VH3 IgGを精製するために、ヒト全血を用いて調製したヒト血漿(20 ml)をプロテインG樹脂(Genscript)に対するアフィニティークロマトグラフィーに供し、ヒトIgM、IgD、およびIgAを除去した。プロテインG樹脂から溶出した免疫グロブリンを第2のアフィニティークロマトグラフィー、SpAKKカップリング樹脂に供し、VH3 IgGについて濃縮した[SpAKKはIgGのFcγドメインに結合できない(48)]。プロテインG樹脂およびSpAKKカップリング樹脂を20カラム量のPBSで洗浄し、結合タンパク質を0.1 Mグリシン pH 3.0で溶出し、1 M Tris-HCl、pH 8.5で中和し、PBSに対して一晩透析した。VH3 IgE精製では、pVITRO1-トラスツズマブ-IgE-κの一過性発現のために、ヒト細胞株 HEK 293Fを用いた。細胞を、10% FCS、2 mMグルタミン、ペニシリン(5,000 U/ml)、およびストレプトマイシン(100 μg/ml)を有するDMEM/HIGH GLUCOSE培地で増殖させた。PEIを用いてpVITRO1-トラスツズマブ-IgE-κで形質転換した細胞を、5%CO2雰囲気中で37℃にてインキュベートした。IgEの安定的な発現のために、細胞をFreestyle 293培地で7日間培養し、12000×gで20分間収集した。上清を、2 mlを上回るプロテインL樹脂(Genscript)で精製した。樹脂を20カラム量のPBSで洗浄し、結合VH3 IgEを0.1Mグリシン pH 3.0で溶出し、1 M Tris-HCl、pH 8.5で中和し、PBSに対して一晩透析した。
【0324】
表面プラズモン共鳴(SPR)。表4、5、6、8に示すSPR実験を、ProteOn HTGチップによるProteOn(商標) XPR36で実施した。ランニングバッファーは、0.05% Tween-20を有するPBSであった。センサーチップ表面をそれぞれ、2 mM硫酸ニッケルで活性化し、300 mM EDTAで再生した。500 nMの試験物品(SpA野生型または変種)を25 μl/分の流速で固定化した。野生型SpAとの相互作用を測定するために、リガンド(精製免疫グロブリン)を500、400、300、200、および100 nMの濃度で用いた。SpA変種との相互作用を測定するために、リガンドを4、3、2、1、および0.5 μMの濃度で用いた。会合および解離速度を30 μl/分の連続した流速で測定し、2状態反応モデル(two-state reaction model)を用いて分析した。会合定数を3つの独立した実験から決定された。
【0325】
バイオレイヤー干渉法(BLI)。表8に示すBLI実験を、BLItzバイオレイヤー干渉法を用いて実施した。試験候補(25~50 nM)をNi-NTAセンサーの上に120秒間固定した。センサーをPBSで80秒間平衡化し、20、15、10、および0 μMの濃度でリガンドを含む溶液中に120秒間浸漬し(会合フェーズ)、続いてPBSに120秒間浸漬した(解離フェーズ)。データは、BLIデータ取得ソフトウェア 9.0(ForteBIO)を用いて取得され、データ分析ソフトウェア 9.0.0.14(ForteBIO)を用いて分析された。報告された会合値は、曲線適合モデルから計算された。
【0326】
酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)。マイクロタイタープレート(NUNC MaxiSorp)を、0.1 M炭酸緩衝液(pH 9.5)中に1 μg/ml(試験血清中の抗体力価を測定する)でのまたは0.5 μg/ml(3F6抗体との相互作用を測定する)での精製抗原により4℃にて一晩コーティングした。ウェルをブロッキングし、試験血清または3F6抗体とインキュベートした後に、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)コンジュゲートマウスまたはヒトIgG(1 μg/ml、Jackson ImmunoResearch)とインキュベートした。全てのプレートをマウス HRPコンジュゲート二次抗体特異的(Fisher Scientific)とインキュベートし、OptEIA試薬(BD Biosciences)を用いて発色させた。最大半量の力価をGraphPad Prismソフトウェアによって計算した。会合定数をGraphPad Prismソフトウェアにおける非線形回帰(カーブフィット)モデルから計算した。全ての実験を三連で行い、平均値および平均値の標準誤差を計算し、再現性のために繰り返した。
【0327】
μMTマウスにおけるアナフィラキシー反応。μMT変異を有するマウスをJackson Laboratoryから購入し、University of Chicagoで飼育した。1群当たり5匹の6週齢雌マウスのコホートを、VH3 IgG(20 μlのPBS中に2 μg)による耳での皮内注入によって感作し、24時間後に、ケタミン-キシラジン(100 mg~20 mg/kg)による麻酔下で、右眼の眼窩周囲静脈洞内にPBS、SpA、またはその変種(100 μlのPBS中に200 μg)のいずれかを静脈内注入した。試験物品による5分間の刺激後、動物に100 μlの2% エバンスブルーを左眼の眼窩周囲静脈洞内に静脈注入した。動物を殺傷し、耳を解剖し、乾燥させ、ホルムアミド中で65℃にて24時間抽出した。耳組織におけるエバンスブルー血管外漏出(血管透過性)を、620 nmで吸光度を測定することによって定量化した。
【0328】
ヒト好塩基球活性化実験。血液(10 ml)を健常ドナーから入手し、直ちに1 ml EDTA 0.1 M、pH7.5と混合した。SpA野生型もしくはワクチン候補変種(1 μg)またはPBSを1-ml EDTA血液アリコートに添加し、試料を回転させながら37℃にて1時間インキュベートした。試料アリコートをRBC溶解緩衝液(Biolegend)で処理し、遠心分離し(350×g)、上清を廃棄した。抗CD 123-FITC、抗HLA-DA-PerCP、抗CD63-PE、および抗CD203c-APC(Biolegend)による暗中室温での10分間の染色のために、ペレット中の細胞を冷却PBSで洗浄し、5%FBSを有するPBSで再懸濁した。全ての染色試料を、BD LSRII 3-8(BD Biosciences)を用いて分析した。総好塩基球数を、SSClow/CD203c+/CD123+/HLA-DR-細胞からゲーティングによって得た、活性化好塩基球をCD63+CD203c+プールから選択した。実験は三連で実施され、異なる健常ドナーを用いて少なくとも3回繰り返された。
【0329】
マスト細胞脱顆粒。ヒトマスト細胞(LAD2)[NIAIDのDr. Kirshenbaumによって親切にも提供された]を、2×105細胞を100 ng VH3 IgEと5%CO2雰囲気中で37℃にて一晩インキュベートすることによって感作した。細胞を収集し、0.04%ウシ胎仔血清アルブミン(BSA)を含むHEPES緩衝液で2回洗浄し、遊離IgEを除去した。細胞を2×105細胞/mlの濃度で同じ緩衝液で懸濁し、SpAまたは試験物品で30分間刺激し、その後、β-ヘキソサミニダーゼおよびヒスタミン放出についてアッセイした。細胞を沈降させ、使用済みの培地を新たなチューブに移し、ペレット中の細胞を0.1% Triton X-100で溶解した。使用済み培地およびTriton X-100で溶解した細胞におけるβ-ヘキソサミニダーゼ活性を、比色基質pNAG(Sigmaから入手したp-ニトロフェニル-N-アセチル-β-D-グルコサミニド;pH 4.5で最終濃度3.5 mg/ml)を90分間添加することによって測定した。反応を0.4 Mグリシン pH 10.7の添加によってクエンチし、λ=405 nmでの吸光度を記録した。結果を、全体のβ-ヘキソサミニダーゼ(使用済み培地+Triton X-100で溶解した細胞)に対する使用済み培地中に放出されたβ-ヘキソサミニダーゼのパーセンテージとして表した。実験は三連で実施され、少なくとも3回繰り返された。ヒスタミンを、Enzyme Immunoassay(SpiBio Bertin Pharma)を用いて測定した。簡単に説明すると、マイクロタイタープレートのウェルをマウス抗ヒスタミン抗体でコーティングし、トレーサー(ヒスタミンに連結させえたアセチルコリンエステラーゼ)と共に24時間インキュベートし、実験抽出物と混合した。プレートを洗浄し、エルマン試薬(アセチルコリンエステラーゼ基質)をウェルに添加した。生成物形成を、412 nmでの吸光度を記録することによって検出した。412 nmでの吸光度は、ウェルに結合しているトレーサーの量に比例しており、実験抽出物中に存在するヒスタミンの量に反比例する。全ての試料を二連で実施した。
【0330】
マウスの能動免疫。動物BALB/cまたはC57BL/6J(3週齢、雌マウス、1群当たり15匹の動物)を、PBS、または5:2:3 の抗原:CFA:IFA で乳化した50 μgのエンドトキシンを含まない精製したタンパク質SpAKKAAもしくはSpAQ9,10K/S33EもしくはSpAQ9,10K/S33Tで免疫し、初回免疫の11日後に1:1の抗原:IFAで乳化した50 μgタンパク質で追加免疫した。20日目に、マウスから採血し、血清を収集し、ELISAによってワクチン候補に対する抗体力価を評価した。21日目に、マウスを上咽頭コロニー形成のために接種するか、または細菌の静脈内注入によって感染させた。
【0331】
マウス上咽頭コロニー形成。黄色ブドウ球菌株WU1の終夜培養の培養物を新鮮なTSBで1:100に希釈し、記載されている(102)ように37℃にて2時間増殖させた。細胞を遠心分離し、洗浄し、PBSで懸濁した。1群当たり10匹の免疫した雌のC57BL/6Jマウス(Jackson Laboratory)を、ケタミン-キシラジン(100 mg~20 mg/kg)による腹腔内注入によって麻酔し、1×108 CFUの黄色ブドウ球菌(10-μl体積で)を各マウスの右鼻孔内にピペッティングした。接種後1週間間隔で、マウスの中咽頭からぬぐい液を採取し、糞便試料を収集してPBSでホモジナイズした。細菌計数のために、ぬぐい液試料および糞便試料のホモジネートをマンニット食塩寒天培地(MSA)上に広げた。実験の最後に、記載されている(43)ようなブドウ球菌抗原マトリクスを用いる抗体反応分析のために、眼窩周囲静脈穿刺を介してマウスから採血し血清を得た。簡単に説明すると、ニトロセルロース膜に2 μgのアフィニティー精製ブドウ球菌抗原をブロットした。膜を5%脱顆粒ミルクでブロッキングし、希釈したマウス血清(1:10,000希釈)およびIRDye 680コンジュゲートヤギ 抗マウスIgG(Li-Cor)と共にインキュベートした。Odyssey赤外線イメージングシステム(Li-Cor)を用いて、シグナル強度を定量化した。全ての動物実験を二連で実施した。Sidak多重比較検定による二元配置分散分析(ANOVA)(GraphPad Software)を実施し、上咽頭および糞便コロニー形成、ELISA、ならびに抗原マトリクスデータの統計的有意性を分析した。
【0332】
マウス腎膿瘍モデル。黄色ブドウ球菌USA300(LAC)の終夜培養の培養物を新鮮なTSB内で1:100に希釈し、37℃にて2時間増殖させた。ブドウ球菌を沈降させ、洗浄し、PBSで懸濁した。試料アリコートをTSA上に広げ、インキュベーション時に形成されたコロニーを計数することによって、接種を定量化した。PBSで調製したエンドトキシンを含まないタンパク質SpAKKAAもしくはSpAQ9,10K/S33EもしくはSpAQ9,10K/S33Tで免疫したまたはモック免疫した(PBS対照)15匹のBALB/cマウスの群を麻酔し、右眼の眼窩周囲静脈洞内に5×106 CFUの黄色ブドウ球菌USA300(LAC)を接種した。抗原投与後15日目に、マウスをCO2吸入によって殺傷した。両方の腎臓を取り出し、一方の器官でのブドウ球菌負荷を、PBS、0.1% Triton X-100で腎組織をホモジナイズすることによって分析した。ホモジナイズの連続希釈物をTSA上に広げ、コロニー形成のためにインキュベートした。残りの器官を病理組織学的検査によって調べた。簡単に説明すると、腎臓を10%ホルマリン中で室温にて24時間固定した。組織をパラフィン中に包埋し、薄切片にし、ヘマトキシリン・エオシンで染色し、光学顕微鏡によって検査し、膿瘍病変を計数した。全ての動物実験は二連で実施し、統計分析をGraphpad Prismのt検定(およびノンパラメトリック検定)で計算した。
【0333】
倫理規定。ヒトボランティア由来の血液による実験は、University of ChicagoのInstitutional Review Board(IRB)により審査、承認、および監督されたプロトコールにより実施された。全てのマウス実験は、University of ChicagoのInstitutional Biosafety Committee(IBC)およびInstitutional Animal Care and Use Committee(IACUC)による施設内ガイドラインに従う実験プロトコールの審査および承認によって実施された。
【0334】
統計解析。図22、23、25、および表4~9では、検定(BonferroniまたはDunnettの多重比較検定)後一元配置ANOVAを用いて、複数の群の平均値間の統計的有意性を導き出した。図24では、Sidak多重比較検定による二元配置分散分析(ANOVA)(GraphPad Software)を実施して、マウスコロニー形成およびブドウ球菌抗原マトリクスデータの統計的有意性を分析した。全てのデータをPrism(GraphPad Software, Inc.)によって分析し、0.05未満のP値を有意であるとみなした。
【0335】
E. 表
(表4)野生型SpA、SpAKKAA、およびSpAQ9,10K/G29Xワクチン候補ならびにヒトIgGによる親和性測定。
a試験物品をBio-Rad ProteOn HTG Chip上に固定化し、漸増濃度のヒトIgGによる表面プラズモン共鳴測定に供し、チップの各チャネル上を通過させた。データを3つの独立した実験的決定から分析した。
b各試験物品についてデータを用いて会合定数(KA)を導き出した。
c各試験物品についてデータを用いて標準偏差(SD)を導き出した。
d各試験物品とSpAKKAAとの間のDunnettの多重比較検定による一元配置ANOVAによりデータを分析した。記号:ns、有意差なし;*、P<0.05;**、P<O.01;***、P<0.001;****、P<0.0001。
【0336】
(表5)野生型SpA、SpAKKAA、およびSpAQ9,10K/S33Xワクチン候補ならびにヒトIgGによる親和性測定。
a試験物品をBio-Rad ProteOn HTG Chip上に固定化し、漸増濃度のヒトIgGによる表面プラズモン共鳴測定に供し、チップの各チャネル上を通過させた。データを3つの独立した実験的決定から分析した。
b各試験物品についてデータを用いて会合定数(KA)を導き出した。
c各試験物品についてデータを用いて標準偏差(SD)を導き出した。
d各試験物品とSpAKKAAとの間のDunnettの多重比較検定による一元配置ANOVAによりデータを分析した。記号:ns、有意差なし;*、P<0.05;**、P<O.01;***、P<0.001;****、P<0.0001。
【0337】
(表6)他のアミノ酸置換#との組み合わせでのSpA変種Q9,10K/S33XまたはQ9,10K/G29XのヒトIgGに対する結合についての会合定数
a試験物品をBio-Rad ProteOn HTG Chip上に固定化し、漸増濃度のヒトIgGによる表面プラズモン共鳴測定に供し、チップの各チャネル上を通過させた。データを3つの独立した実験的決定から分析した。
b各試験物品についてデータを用いて会合定数(KA)を導き出した。
c各試験物品についてデータを用いて標準偏差(SD)を導き出した。
d,e試験物品とSpAKKAAとの間dおよび試験物品(カラム5)と親ワクチン(カラム1)との間eのDunnettの多重比較検定による一元配置ANOVAによりデータを分析した。記号:ns、有意差なし;*、P<0.05;**、P<O.01;***、P<0.001;****、p<0.0001。
【0338】
(表7)ヒトIgGのF(ab)2断片に対する各組み合わせ変異の結合の会合定数。
a試験物品をBio-Rad ProteOn HTGセンサー上に固定化し、漸増濃度のヒトIgGのF(ab)2断片による表面プラズモン共鳴(SPR)に供した。データを3つの独立した実験的決定から分析した。
b各試験物品についてデータを用いて会合定数(KA)を導き出した。
c各試験物品についてデータを用いて標準偏差(SD)を導き出した。
d試験物品とSpAKKAAとの間のDunnettの多重比較検定による一元配置ANOVAによりデータを分析した。記号:ns、有意差なし;*、P<0.05;**、P<O.01;***、P<0.001;****、P<0.0001。
【0339】
(表8)ヒトIgGのFcγ断片に対する各組み合わせ変異の結合の会合定数
a試験物品をNi-NTAセンサー上に固定化し、漸増濃度のヒトIgGのFc断片によるバイオレイヤー干渉法(BLI)に供した。データを3つの独立した実験的決定から分析した。
b各試験物品についてデータを用いて会合定数(KA)を導き出した。
c各試験物品についてデータを用いて標準偏差(SD)を導き出した。
d試験物品とSpAKKAAとの間のDunnettの多重比較検定による一元配置ANOVAによりデータを分析した。記号:ns、有意差なし;*、P<0.05;**、P<O.01;***、P<0.001;****、P<0.0001。
【0340】
(表9)SpAおよびワクチン候補変種によるヒト好塩基球の活性化
a試験物品をヒト好塩基球と共にインキュベートし、データを総好塩基球集団(100%)の活性化好塩基球のパーセンテージとして表示した。
b,c Bonferroniの多重比較検定による一元配置ANOVAを、試験物品とPBS bまたは試験物品とSpAKKAA cを比較する統計分析のために実施した。記号:ns、有意差なし;*、P<0.05;**、P<O.01;***、P<0.001;****、P<0.0001。
【0341】
参考文献
以下の参考文献は、本明細書に記載のものを補完する例示的な手順またはその他の詳細を提供する程度に、参照により本明細書に特に組み入れられる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10
図11
図12A
図12B
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24A
図24B
図24C
図24D
図24E
図25
図26
【配列表】
2022533096000001.app
【国際調査報告】