IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ フロニウス・インテルナツィオナール・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツングの特許一覧

特表2022-533197金属のワークの表面を走査する方法及び溶接工程を実行する方法
<>
  • 特表-金属のワークの表面を走査する方法及び溶接工程を実行する方法 図1
  • 特表-金属のワークの表面を走査する方法及び溶接工程を実行する方法 図2
  • 特表-金属のワークの表面を走査する方法及び溶接工程を実行する方法 図3
  • 特表-金属のワークの表面を走査する方法及び溶接工程を実行する方法 図4
  • 特表-金属のワークの表面を走査する方法及び溶接工程を実行する方法 図5
  • 特表-金属のワークの表面を走査する方法及び溶接工程を実行する方法 図6
  • 特表-金属のワークの表面を走査する方法及び溶接工程を実行する方法 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-21
(54)【発明の名称】金属のワークの表面を走査する方法及び溶接工程を実行する方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/127 20060101AFI20220713BHJP
   B23K 9/12 20060101ALI20220713BHJP
   B25J 13/08 20060101ALI20220713BHJP
【FI】
B23K9/127 501B
B23K9/12 331F
B25J13/08 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021568778
(86)(22)【出願日】2020-11-17
(85)【翻訳文提出日】2021-11-17
(86)【国際出願番号】 EP2020082318
(87)【国際公開番号】W WO2021099286
(87)【国際公開日】2021-05-27
(31)【優先権主張番号】19209707.9
(32)【優先日】2019-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】504380611
【氏名又は名称】フロニウス・インテルナツィオナール・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】FRONIUS INTERNATIONAL GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100189555
【弁理士】
【氏名又は名称】徳山 英浩
(72)【発明者】
【氏名】マイヤー,マヌエル
(72)【発明者】
【氏名】ヴァルトヘア,アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】ビンダー,マヌエル
【テーマコード(参考)】
3C707
【Fターム(参考)】
3C707AS11
3C707KS31
3C707LS06
3C707LS11
(57)【要約】
金属のワークWの表面Oを走査する方法である。溶接トーチ1は、溶融可能な溶接ワイヤ2を備え、溶接工程が実行される前の走査工程中に、ワークの表面の上方を移動する。溶接ワイヤは、予め決められた時刻tに、溶接ワイヤと1つのワークとの接触が検出されるまで、ワークの表面に向かって移動する。各時刻におけるワークの表面の位置Pは、測定されて、溶接電源4に記憶される。最新の位置Pが、記憶された以前の位置Pi-nのうちの少なくとも1つに対して予め決められたしきい値Sを超えたときに、縁Kが判定される。計算量の削減及び処理速度の向上のために、最新の位置Pが記憶された以前の位置Pi-nのうち少なくとも1つに対して同じままであるときに、縁の終わりが判定される。縁が判定されると、縁検出パラメータKPが設定され、最新の位置値Pと共に出力され、マニピュレータ3に転送される。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属のワーク(W)の表面(O)を走査する方法であって、
溶接トーチ(1)は、溶融可能な溶接ワイヤ(2)を備え、溶接工程が実行される前の走査工程中に、前記ワーク(W)の表面(O)の上方を、マニピュレータ(3)によって、予め決められた経路(X)に沿って指定された速度(V)で移動し、
前記溶接ワイヤ(2)は、予め決められた時刻(t)に、前記溶接ワイヤ(2)と1つの前記ワーク(W)との接触が溶接電源(4)によって検出されるまで、前記ワーク(W)の前記表面(O)に向かって初めの進行速度(VSV)で移動し、
前記溶接ワイヤ(2)は、前記ワーク(W)から再び離れるように初めの逆行速度(VSR)で移動し、
各時刻(t)における前記ワーク(W)の前記表面(O)の位置(P)は、測定されて前記溶接電源(4)に記憶され、
最新の前記ワーク(W)の前記表面(O)の位置(P)が、記憶された以前の前記ワーク(W)の前記表面(O)の位置(Pi-n)のうちの少なくとも1つに対して予め決められたしきい値(S)を超えたときに、縁(K)が判定され、
最新の前記ワーク(W)の前記表面(O)の位置(P)が、記憶された以前の位置(Pi-n)のうち少なくとも1つに対して同じままであるときに、前記縁(K)の終わりが判定され、
前記縁(K)が判定されたときに、縁検出パラメータ(KP)が設定され、最新の位置値(P)と共に出力され、前記マニピュレータ(3)に転送される、方法。
【請求項2】
最新の前記ワーク(W)の前記表面(O)の位置(P)が、複数の記憶された以前の前記ワーク(W)の前記表面(O)の位置(P1-n)の平均値、好ましくは、2個~100個の記憶された以前の前記ワーク(W)の前記表面(O)の位置(P1-n)の平均値に対して予め決められた前記しきい値(S)を超えたときに、前記縁(K)が判定される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ワーク(W)の前記表面(O)に対する垂直方向、又は、前記溶接ワイヤ(2)の長手延長方向における、判定された前記縁(K)の終わりにおける前記ワーク(W)の前記表面(O)の位置(P)と、前記縁(K)の検出前に最後に記憶された位置(P)との間の差は、前記縁の高さ(h)の値として測定されて出力される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記縁の傾き(α)は、判定された前記縁(K)の終わりと前記縁(K)の検出後に記憶された位置(P)との間の、記憶された前記ワーク(W)の前記表面(O)の位置(P)から測定されて出力される、請求項1~3のいずれか1つに記載の方法。
【請求項5】
前記縁(K)の半径(R)は、判定された前記縁(K)の終わりと前記縁(K)の検出後に記憶された位置(P)との間の、記憶された前記ワーク(W)の前記表面(O)の位置(P)から測定されて出力される、請求項1~4のいずれか1つに記載の方法。
【請求項6】
前記縁の高さ(h)、前記縁の傾き(α)、及び/又は前記縁(K)の半径(R)は、前記マニピュレータ(3)に転送される、請求項3~5のいずれか1つに記載の方法。
【請求項7】
前記溶接ワイヤ(2)は、前記ワーク(W)の前記表面(O)に向かって5ms~50ms、好ましくは、10msの時間間隔(Δt)で移動する、請求項1~6のいずれか1つに記載の方法。
【請求項8】
前記時間間隔(Δt)は、前記溶接トーチ(1)が前記走査工程中に前記ワーク(W)の前記表面(O)の上方を移動する速度(V)に合わせて調整される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記溶接トーチ(1)は、前記溶接ワイヤ(2)が前記ワーク(W)の前記表面(O)に対して60°~90°の角度(β)で、前記ワーク(W)の前記表面(O)に向かって移動し、前記ワーク(W)の前記表面(O)から離れるように移動するように、前記ワーク(W)の前記表面(O)に対して60°~90°の前記角度(β)に向けられる、請求項1~8のいずれか1つに記載の方法。
【請求項10】
前記溶接ワイヤ(2)は、前記溶接ワイヤ(2)と前記ワーク(W)との間で長い短絡が検出されたときに、前記ワーク(W)の前記表面(O)から離れるように、前記初めの逆行速度(VSR)よりも速い逆行速度(VSR`)で移動する、請求項1~9のいずれか1つに記載の方法。
【請求項11】
前記溶接ワイヤ(2)は、前記溶接ワイヤ(2)が前記ワーク(W)の前記表面(O)から離れるように前記初めの逆行速度(VSR)よりも速い逆行速度(VSR`)で移動し、短絡が検出されない後に、前記ワーク(W)の前記表面(O)に向かって、前記初めの進行速度(VSV)よりも速い進行速度(VSV`)で移動する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記溶接トーチ(1)は、前記ワークの前記表面(O)の上方において、少なくとも3箇所で予期される前記縁(K)に対して垂直に移動する、請求項1~11のいずれか1つに記載の方法。
【請求項13】
溶融可能な溶接ワイヤ(2)を備えた溶接トーチ(1)を用いて、ワーク(W)に溶接工程を実行する方法であって、
溶接パラメータは、請求項1~12のいずれか1つに記載の方法の間に判定された縁(K)、及び、必要ならば、前記縁の高さ(h)、前記縁の傾き(α)、前記縁の半径(R)等の測定された縁パラメータに応じて、前記溶接工程中に自動で制御される、方法。
【請求項14】
溶接電流(I)及び/又は溶接電圧(U)及び/又は前記溶接ワイヤ(2)の搬送速度(V)は、前記走査工程中に判定された前記縁(K)、及び、必要ならば、前記縁の高さ(h)、前記縁の傾き(α)、前記縁の半径(R)等の測定された前記縁パラメータに依存して、前記溶接工程中に制御される、請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属のワークの表面を走査する方法に関する。溶接工程が実行される前の走査工程中に、溶融可能な溶接ワイヤを備えた溶接トーチは、マニピュレータによって、ワークの表面の上方を、予め決められた経路に沿って指定された速度で移動する。溶接ワイヤは、予め決められた時刻に、溶接ワイヤと1つのワークとの接触が溶接電源によって検出されるまで、ワークの表面に向かって初めの進行速度で移動する。その後、溶接ワイヤは、ワークから再び離れるように初めの逆行速度で移動する。各時刻におけるワークの表面の位置は、測定されて、溶接電源に記憶される。最新のワークの表面の位置が、記憶された以前のワークの表面の位置のうちの少なくとも1つに対して予め決められたしきい値を超えたときに、縁が判定される。
【0002】
さらに、本発明は、溶融可能な溶接ワイヤを備えた溶接トーチを用いて、ワークに溶接工程を実行する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
溶接装置の溶接ワイヤは、溶接工程の前に、溶接ワイヤをセンサとして使用して、指定されたときにワークに向かってワークに接触するまで移動させることにより、加工されるワークの表面を走査するために使用され得る。その後、溶接ワイヤは、再びワークから離れるように移動する。溶接ワイヤの移動は、搬送装置の駆動ローラにあるロータリエンコーダによって検出される。溶接ワイヤの移動は、当該溶接ワイヤがワークに接触したときの当該溶接ワイヤの位置に遡ることに使用され得る。このことにより、ワークの表面の位置が測定される。
【0004】
例えば、国際公開第2019/002141号には、溶接トーチの溶接ワイヤを使用して金属のワークの表面を走査する方法及び装置が記載されている。この解決策では、位置値は、走査工程中に、金属のワークと溶接ワイヤとの短絡毎に測定され、記憶又は出力される。当該位置値は、縁又は指定された位置を検出するために、マニピュレータによって使用され得る。このことを実現するのに必要なアルゴリズムは、マニピュレータの全ての製造者によって、マニピュレータのコントローラに実装される必要がある。このことは、ソフトウェアの労力(effort)が非常に大きくなることを意味する。このような評価(analysis)には、既存のロボットコントローラ及びインターフェースでは、通常、非常に長い時間がかかる。そのため、十分な精度を得るためには、走査工程中に、溶接トーチの非常に遅い速度しか選択することができない。
【0005】
特開2013-056353号公報には、重なり合う2つのワークにおいて重なり合うシームの縁の位置を検出する方法が開示されている。この開示では、溶接ワイヤは、上のワークの表面を走査する。ある接触点から次の接触点までの垂直距離が指定されたしきい値と等しいか、又は当該しきい値よりも大きければ、縁が存在すると判定される。その後、走査工程は停止する。
【0006】
特開平07-308780号公報には、2つのワークの間の隙間の幅を検出する方法が記載されている。ここで、溶接ワイヤは、ワークの表面に沿って、隙間の始まりである縁が検出されるまで移動する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、可能な限り迅速に実行でき、マニピュレータに評価のための特別な計算能力が必要とされない、前記の走査方法及び溶接方法を創作することにある。既知の走査方法の欠点は、回避されるか、又は少なくとも低減される。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る目的は、前記において特定された方法によって達成される。当該方法では、最新のワークの表面の位置が、記憶された以前の位置のうち少なくとも1つに対して一定のまま、又は本質的に一定のままであるときに、縁の終わりが検出される。縁が判定されると、縁検出パラメータが設定され、最新の位置値と共に出力されて、マニピュレータに転送される。
【0009】
本方法によれば、走査工程中に縁及び縁の終わりが検出される。縁を検出するためのデータは、電源及び/又は溶接装置で処理される。多数の位置データの代わりに、ただ1つの縁検出パラメータが設定され、最新の位置値と共に出力されて、マニピュレータに転送される。このことは、従来はマニピュレータ又は溶接ロボットが実行していた評価を更に迅速に実行することができ、結果として、走査工程を更に迅速に実行することもできることを意味する。溶接装置又は電源が走査工程中に走査を実行するので、対応する計算能力をマニピュレータに設ける必要はない。
【0010】
新しい方法によれば、指定されたしきい値を溶接ワイヤの長手方向に対応する方向に超えたときにのみ、縁の存在を示す縁検出パラメータが設定される。縁検出パラメータが設定された場合、最新の位置値が記憶又は出力される。本発明に係る方法では、一連の位置値がマニピュレータに転送されるのとは対照的に、最新の位置値と共にマニピュレータに転送される必要があるのは、縁検出パラメータのみである。このことにより、当該方法を非常に迅速且つ単純に実行することができる。マニピュレータは、以前ほど多くのデータを評価する必要がない。このことは、マニピュレータが迅速に動作できること、又は、もはやマニピュレータに大きな計算能力が必要とされないので、当該マニピュレータを単純且つ更に安価に実現することができることを意味する。マニピュレータは、特にロボットで形成されることができるが、自動溶接装置、直線運動装置、又は類似の装置等の他の装置で形成されることもできる。
【0011】
溶接装置又は電源のプロセスコントローラにおいて評価を直接行うことにより、走査方法を、工程に同期した方式に、より柔軟にフィルタリング(filtered)することができる。このことにより、平坦でない表面、傾いた表面、又は湾曲した表面でも、ワークの縁を検出することができる。本評価方法では、マニピュレータは、縁検出パラメータを問い合わせることのみを必要とする。当該縁検出パラメータは、最も単純な場合、1ビットのみを有する。そのため、精度を低下させることなく、処理速度を著しく向上させることができる。
【0012】
有利には、最新のワークの表面の位置が、複数の記憶された以前のワークの表面の位置の平均値、好ましくは、2個~100個の記憶された以前のワークの表面の位置の平均値に対して予め決められたしきい値を超えるときに、縁が判定される。このことは、平均値を形成することにより干渉に対してあまり影響されることのない適切な方法の選択肢を表す。適切な平均化により、緩やかに連続して上昇する表面の場合、縁が検出されること、及び、縁検出パラメータが設定されること又は最新の位置値と共に出力されることのいずれもない。
【0013】
本発明の他の特徴によれば、ワークの表面に対する垂直方向、又は、溶接ワイヤの長手延長方向における、判定された縁の終わりにおけるワークの表面の位置と、縁の検出前に最後に記憶された位置との差は、縁の高さの値として測定されて出力される。本発明に係る方法では、ワークの表面が溶接ワイヤによって走査される、予め決められた時間に応じて、縁の高さを極めて正確に測定し、設定値と比較することができる。当該縁の高さの値は、前記した縁検出パラメータに加えて、対応する精度(例えば、16ビット値)で出力されることもでき、例えば、縁が判定された後に、マニピュレータに転送されることもできる。
【0014】
さらに、判定された縁の終わりと縁の検出後に記憶された位置との間の、記憶されたワークの表面の位置から、縁の傾きを測定して出力することができる。走査工程中に縁の傾きも測定される場合、後の溶接工程において、当該縁の傾きも考慮することができる。実際の縁の傾きが設定値からずれている場合、最適な溶接品質を実現するために溶接パラメータの調整を行うことができ、縁の傾きの予め決められたある値を超えた場合には、縁がもはや存在しないので縁の検出を停止することもできる。
【0015】
最後に、縁の終わりと縁の検出後に記憶された位置との間の、記憶されたワークの表面の位置から、縁の半径を測定して出力することができる。縁の半径は、前記した縁パラメータに加えて走査工程中に検出され得る他のパラメータを表す。そのため、当該縁の半径を溶接工程中に考慮することができる。不良品を回避して溶接方法の経済効率を向上させるために、縁の半径と望ましい値とのずれがある場合、それに応じて溶接工程中に溶接パラメータを調整することができる。
【0016】
縁の高さ、縁の傾き、及び/又は縁の半径がマニピュレータに転送されるとき、これらのパラメータのうち少なくとも1つを、マニピュレータにおいて考慮することができる。例えば、設定値と異なる縁の高さが検出されたときには、マニピュレータの速度を低下させることができる。縁の全ての特性が転送されるとしても、データの転送は、全ての位置値がマニピュレータに転送される従来の方法と比較して著しく低減される。このことは、本方法をより迅速に実行することができること、又は、マニピュレータにおいて要求される計算能力が少ないことを意味する。したがって、生の位置データをマニピュレータにおいて複雑に処理することは、もはや必要とされない。
【0017】
例えば、縁を判定するためのしきい値としては、ワークの表面に対する垂直方向又は溶接ワイヤの長手延長方向における距離又は位置値を、0.1mm~20mmの範囲で指定することができる。これらの値は、走査工程中に縁をより確実に検出するのに特に適する。0.1mmの限界よりも低いしきい値を指定することは、装置の精度限界による誤判断及び縁の誤検出を招くので、実用的ではない。
【0018】
溶接ワイヤは、20Hz~200Hzの走査周波数に対応して、5ms~50msの時間間隔、好ましくは、10msの時間間隔で、ワークの表面に向かって移動できる。このことは、検出の正確さと可能な限り高速な実行との合理的な折衷を表す。
【0019】
溶接ワイヤを用いてワークの表面を走査する時間間隔は、溶接トーチが走査工程中にワークの表面の上方を移動する速度に合わせて調整することができる。したがって、溶接トーチが走査工程中にワークの表面の上方を低速で移動するときには、溶接トーチがワークの表面の上方を高速で移動するときよりも、走査点の間で長い時間間隔が選択される。2つの走査点の間における時間間隔の下限は、溶接ワイヤをワークに向かって移動させ、再びワークから離れるように移動させる搬送装置の速度によって決定される。例えば、時間間隔及び走査パラメータは、ワークの材料、使用される溶接ワイヤの材料及び直径、溶接トーチの寸法(チューブの屈曲部の曲率)等に適するように調整され得る。
【0020】
溶接トーチは、ワークの表面に対して60°~90°の角度に向けられることが好ましい。このことにより、溶接ワイヤは、このような60°~90°の角度で、ワークの表面に向かって移動し、ワークの表面から離れるように移動できる。これらの値は走査方法に特に適することが示されている。浅すぎる角度は、溶接ワイヤの横方向の撓み、又は、溶接ワイヤの屈曲によって不正確さが生じ得るので、走査工程には適さない。
【0021】
本発明の他の特徴によれば、溶接ワイヤは、走査工程中に、溶接ワイヤとワークとの間で長い短絡が検出されたときに、ワークの表面から離れるように、初めの逆行速度よりも速い逆行速度で移動する。溶接ワイヤとワークとの間の長く続く短絡は、溶接ワイヤが逆行しているにも拘らず短絡が長く持続することから、縁が存在することを示す。この方法では、ワークの表面の変化が考慮される。溶接ワイヤの逆行速度が初めの逆行速度よりも速いので、走査工程は速くなる。特に、溶接トーチが走査工程中に縁に到達したとき、溶接ワイヤは、縁の結果として、より迅速にワークの表面のより高い位置に至る。短絡の持続時間は、対応する経験的な値から突き止められて指定され得る。当該短絡の持続時間を超えるとき、初めの逆行速度よりも速い逆行速度が適用される。
【0022】
また、溶接ワイヤは、当該溶接ワイヤがワークの表面から離れるように初めの逆行速度よりも速い逆行速度で移動し、短絡が検出されない後に、初めの進行速度よりも速い進行速度でワークの表面に向かって移動できる。この方法は、走査工程の迅速な実行にも寄与する。検出された縁の終わりは、更に正確に表され得る。
【0023】
十分な精度での縁の検出をより確実に行うために、溶接トーチは、ワークの表面の上方で、少なくとも3箇所において予期される縁に対して垂直に移動する。このことは、始点、終点、及び縁の道筋が一意に決められるので、2つのワークの間で特によく見られる直線状の縁に対する十分な精度の検出を表す。
【0024】
有利には、溶接パラメータは、溶接工程を実行する方法の間に、前記した走査工程中に判定された縁、及び、必要ならば、縁の高さ、縁の傾き、縁の半径等の測定された縁パラメータに応じて、自動的に制御される。前記したように、縁の高さ、縁の傾き、縁の半径等の縁パラメータの測定された実際の値を、後の溶接工程で考慮することができる。更に良い溶接品質を実現するために、又は、不良率を低減するために、溶接パラメータを当該測定された実際の値に適合させることができる。例えば、アーク長、スティックアウト長さ、ワイヤの搬送速度、又はトーチ速度を適宜調整することができる。または、ある条件下では、工程を変更することさえ可能である。
【0025】
例えば、溶接電流及び/又は溶接電圧及び/又は溶接ワイヤの搬送速度は、判定された縁、及び、必要ならば、縁の高さ、縁の傾き、縁の半径等の測定された縁パラメータに応じて、溶接工程中に制御され得る。
【図面の簡単な説明】
【0026】
本発明は、添付図面を参照しながら更に詳細に説明される。
【0027】
図1図1は、溶接工程及び走査工程を実行する溶接装置の概略図である。
図2図2は、走査工程における金属のワークの表面に沿った溶接トーチの取る得る経路を示す図である。
図3図3は、縁を検出する目的で金属のワークの表面を走査する本方法を説明するための概略図である。
図4図4は、ワークの表面の位置値から縁の高さを測定することを説明するための概略図である。
図5図5は、ワークの表面の位置値から縁の傾きを測定することを説明するための概略図である。
図6図6は、ワークの表面の位置値から縁の半径を測定することを説明するための概略図である。
図7図7は、本発明に係る走査方法の変形例を示す図であり、当該変形例では溶接ワイヤの搬送速度がワークの表面の位置値に応じて異なる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1は、溶接工程及び走査工程を実行する溶接装置の概略図である。溶接トーチ1は、溶接ワイヤ2を備え、対応するマニピュレータ3、例えば、溶接ロボットに接続されている。溶接電源4は、溶接トーチ1又は溶接ワイヤ2に溶接電流I及び溶接電圧Uを供給する。溶接ワイヤ2は、ワイヤロール6から搬送装置5を介して溶接トーチ1に搬送速度Vで搬送される。溶接ワイヤ2を備えた溶接トーチ1は、走査工程中に、マニピュレータ3によって、ワークWの表面Oを横切るように予め決められた経路Xに沿って、予め決められた速度Vで移動する。溶接ワイヤ2は、指定された時刻tに、当該溶接ワイヤ2と1つのワークWとの接触が溶接電源4によって検出されるまで、ワークWの表面Oに向かって初めの進行速度VSVで移動する。当該検出は、溶接ワイヤ2とワークWとの間の短絡における電圧の崩壊(the breakdown of the voltage)を評価することにより行われる。その後、溶接ワイヤ2は、ワークWから再び離れるように初めの逆行速度VSRで移動する。ワークWの表面Oの位置Pは、各時刻tに測定され、溶接電源4に記憶される。
【0029】
従来の走査方法では、これらの位置値Pは、マニピュレータ3に転送される。このことは、溶接電源4とマニピュレータ3との間で高レベルなデータの交換が行われることを意味し、走査工程を遅くする。本発明によれば、最新のワークWの表面Oの位置Pが、記憶された以前のワークWの表面Oの位置Pi-nの少なくとも1つに対して予め決められたしきい値Sより上に位置するときに、ワークWの表面Oの縁Kが判定される。指定されたしきい値Sを超えたときに、縁検出パラメータKPが設定される。最も単純な場合、1ビットのみが“1”に設定されて、最新の位置値Pと共に出力される。従来の方法とは対照的に、最新の位置値Pと共にマニピュレータ3に転送される必要のある値は、縁検出パラメータKPのみである。そのため、前記の方法が極めて迅速になったり、精度が向上したりする。溶接トーチ1は、走査工程中に、ワークWの表面Oに対して60°~90°の角度βに向けられていることが好ましい。
【0030】
図2は、走査工程における金属のワークWの表面Oに沿った溶接トーチ1の取り得る経路を、ワークWに面して示す図である。例えば、通常の直線状の縁Kの場合、縁Kの位置を一意に測定するには、ワークWの上方における溶接トーチ1の蛇行経路Xが適している。よって、溶接トーチ1は、縁Kの予期される位置の周囲の蛇行経路を始点Aから終点Eまで導かれる。溶接ワイヤ2は、当該溶接ワイヤ2とワークWとの物理的な接触(短絡)が溶接電源4によって検出されるまで、ワークWに向かって移動する。このことにより、走査方法は、指定された経路Xに沿って指定された時刻tに実行される。その後、溶接ワイヤ2は、ワークWから離れるように移動する。搬送装置5の駆動部を介して測定された値は、ワークWの表面Oの位置Pとして定義される。
【0031】
縁Kが検出されたとき(説明の図3参照)には、例えば1に設定された縁検出パラメータKPと各位置Pとが記憶される。図示した例示的な実施形態では、縁検出パラメータKP=1である縁Kに沿った3箇所において、位置値P,P,Pが記憶される。そのため、全ての時刻tに測定された全ての位置値Pを記憶してマニピュレータ3に転送する必要はもはやない。最も単純な場合に1ビットのみを有する縁検出パラメータKP及び対応する位置値Pのみが、記憶される。このように、直線状の縁Kを一意に定めるには、3つの縁パラメータKPを位置値Pと共に転送すれば十分である。溶接トーチ1の位置は、予期される縁Kの位置に応じて調整され得る。その結果、溶接トーチ1が縁Kを上部から底部に移動しているのか、又は、逆に底部から上部に移動しているのかを考慮することができる。
【0032】
図3は、縁Kを検出する目的で金属のワークWの表面Oを走査する本方法を説明するための概略図である。当該図は、溶接ワイヤ2を用いて指定された時刻tにワークWの表面Oの位置Pを検出する、本発明に係る走査方法を示す。最新のワークWの表面Oの位置Pが、記憶された以前のワークWの表面Oの位置Pi-nのうち少なくとも1つに対して予め決められたしきい値Sより上に位置するとき、縁検出パラメータKPが設定され、最新の位置値Pと共に出力されて、縁Kの存在が示される。
【0033】
このことは、本事例では、しきい値Sを超えた位置P15の場合である。平滑化のために、最新の位置Pとの比較値として、複数の記憶された以前の位置P1-nの平均値、好ましくは、2個から100個の記憶された以前の位置P1-nの平均値を使用することができる。適切な平均化が行われることにより、緩やかに連続して上昇する表面Oの場合、縁Kが検出されることも、縁検出パラメータKPが設定されることもない。縁Kの終わりは、縁Kの始まりと同様に、最新のワークWの表面Oの位置Pが、記憶された以前の位置Pi-nのうち少なくとも1つに対して本質的に一定のままであることが検出されたときに、位置Pを介して判定され得る。図3における位置P17では、位置が前の値P16と本質的に同じであるので、縁Kの終わりが定められ得る。
【0034】
図4は、ワークWの表面Oの位置値Pから縁Kの高さhを測定することを説明するための概略図である。縁の高さhは、位置Pの差、すなわち、判定された縁Kの終わりにおけるワークWの表面Oと縁Kの検出前に最後に記憶された位置とによって、測定することができる。本実施例では、縁の高さhは、位置P16と位置P13との差として測定される。
【0035】
図5は、ワークWの表面Oの位置値Pから縁の傾きαを測定することを説明するための概略図である。縁の傾きαは、測定された位置値Pと縁Kの始まり及び終わりの検出とによって、より確実に測定され得る。
【0036】
図6は、ワークWの表面Oの位置値Pから縁の半径Rを測定することを説明するための概略図である。縁Kの半径Rは、縁Kの検出の始まりから縁Kの検出の終わりまでに測定された位置値Pから推定することができ、対応する値が決定される。縁の半径Rの設定値からのずれは、溶接パラメータ、特に、溶接電流I、溶接電圧U、又は溶接ワイヤ2の搬送速度Vを溶接工程中に調整することにより、補償することができる。
【0037】
実行される溶接工程の間、アーク長、スティックアウト長さ、ワイヤの搬送速度、トーチの速度等の溶接パラメータを、縁検出工程中に事前に測定された縁パラメータ(縁の高さ、縁の傾き、縁の半径)に適合させることができる。実際の縁の状態によって、例えば、溶接ワイヤの直径が小さ過ぎることによって、溶接工程を行うことができないときには、エラーメッセージを表示することができる。
【0038】
最後に、図7は、本発明に係る走査方法の変形例を示す図である。当該変形例では、溶接ワイヤ2の搬送速度VがワークWの表面Oの位置値Pに応じて異なる。図7の上部には、2つのワークWの間の縁Kの断面が再び示されている。時刻tに検出される、ワークWの表面Oの位置Pは、時刻tにおける位置Pに始まり、時刻tにおける位置Pに及ぶ。走査工程中には、溶接ワイヤ2は、時刻tに、短絡が検出されるまで、ワークWに向かって、予め決められた初めの進行速度VSVで移動する。その後、溶接ワイヤ2は、ワークWから離れるように、予め定められた初めの逆行速度VSRで移動する。このことは、始めの5箇所P~Pに示されている。
【0039】
時刻tにおける位置Pの場合のように、縁Kによってより長い短絡が検出されたときには、溶接ワイヤ2を、ワークWの表面Oから離すように、初めの逆行速度VSRよりも速い逆行速度VSR`で移動させることができる。このことにより、走査工程をさらに迅速且つより高精度に行うことができる。速い逆行速度VSR`での走査ステップの後、進行速度VSVは、短絡が更に検出されない限り、初めの進行速度VSVよりも速い進行速度VSV`に速められる。このことは、図示した例示的な実施形態では、時刻tにおける位置Pの前の状況である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【国際調査報告】