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特表2022-533208背側前腸及び前方ドメイン内胚葉細胞の生成
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-21
(54)【発明の名称】背側前腸及び前方ドメイン内胚葉細胞の生成
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/073 20100101AFI20220713BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20220713BHJP
   C12N 5/0735 20100101ALN20220713BHJP
   C12N 5/10 20060101ALN20220713BHJP
【FI】
C12N5/073
C12M1/00 C
C12N5/0735
C12N5/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021568897
(86)(22)【出願日】2020-05-22
(85)【翻訳文提出日】2021-12-15
(86)【国際出願番号】 US2020034201
(87)【国際公開番号】W WO2020237141
(87)【国際公開日】2020-11-26
(31)【優先権主張番号】62/851,348
(32)【優先日】2019-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】595033056
【氏名又は名称】ザ クリーブランド クリニック ファウンデーション
【氏名又は名称原語表記】The Cleveland ClinicFoundation
【住所又は居所原語表記】9500 Euclid Avenue,Cleveland,Ohio,United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】ジェンセン,ジャン
(72)【発明者】
【氏名】ブーキス,マイケル エー.
【テーマコード(参考)】
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029BB11
4B029FA02
4B029GA02
4B029GB01
4B029GB02
4B065AA90X
4B065AB01
4B065AC20
4B065BA02
4B065BB19
4B065CA44
(57)【要約】
本明細書では、幹細胞を形質転換増殖因子ベータ(TGFβ)経路アゴニストに曝露することなく、多能性幹細胞をレチノイン酸シグナル伝達経路アゴニスト及び骨形態形成(BMP)経路阻害剤と接触させることによって、背側前腸内胚葉(DFE)細胞を生成するための組成物、システム、キット、及び方法が提供される。ある特定の実施形態では、DFE細胞を、レチノイン酸シグナル伝達経路アゴニスト及びFGFR経路阻害剤と接触させて、(例えば、背側同一性を有する)膵臓内胚葉(PE)細胞を生成する。他の実施形態では、PE細胞をALK5阻害剤及びNotch阻害剤と接触させて、内分泌細胞(例えば、インスリン発現内分泌細胞)を生成する。ある特定の実施形態では、前方ドメイン内胚葉(ADE)細胞を生成するための組成物、システム、キット、及び方法が提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
背側前腸内胚葉細胞の生成方法であって、
a)多能性幹細胞の集団を、レチノイン酸シグナル伝達経路アゴニスト及び骨形態形成(BMP)経路阻害剤と接触させることと、
b)背側前腸内胚葉(DFE)細胞の集団が生成されるように、前記多能性幹細胞の集団の少なくとも一部分を培養することと、を含み、
前記幹細胞が、前記培養中または前記接触中に形質転換増殖因子ベータ(TGFβ)経路アゴニストに曝露されない、前記方法。
【請求項2】
前記BMP経路阻害剤が、BMP4経路阻害剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記BMP経路阻害剤が、LDN1933189を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記BMP経路阻害剤が、DMH1、DMH2、ドルソモルフィン、K02288、LDN214117、ML347、及びノギンからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記レチノイン酸シグナル伝達経路アゴニストが、i)レチノイド化合物、ii)レチノイドX受容体(RXR)アゴニスト、及びiii)レチノイン酸受容体(RAR)アゴニストからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記レチノイン酸シグナル伝達経路アゴニストが、レチノイン酸、Sr11237、アダパレン、EC23、9-シスレチノイン酸、13-シスレチノイン酸、4-オキソレチノイン酸、及びオールトランスレチノイン酸(ATRA)からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記培養することが、1~5日間または2~4日間行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
c)前記DFE細胞の集団の少なくとも一部分を、レチノイン酸シグナル伝達経路アゴニスト及びFGFR経路阻害剤と接触させることと、
d)膵臓内胚葉(PE)細胞の集団が生成されるように、前記DFE細胞の集団の少なくとも一部分を培養することと、をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記DFE細胞が、工程d)における前記培養中または工程c)における前記接触中に、形質転換増殖因子ベータ(TGFβ)経路アゴニストに曝露されない、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
工程d)における前記培養することが、1~5日間または2~4日間行われる、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記PE細胞が、背側膵臓同一性を有する、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記FGFR経路阻害剤が、PD0325901、アルクチゲニン、PD184352、PD198306、PD334581、SL327、U0126、MEK阻害剤、FGFR阻害剤、MAPK阻害剤、MEK162、GSK1120212、PD325901、CI-1040、TAK-733、セルメチニブ、及びXL518からなる群から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
工程c)における前記接触させることが、前記DFE細胞の集団をソニック・ヘッジホッグ(sonic hedgehog)(SHH)経路阻害剤と接触させることをさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項14】
e)前記PE細胞の集団の少なくとも一部分を、Notch経路阻害剤及びALK5阻害剤と接触させることと、
f)内分泌細胞の集団が生成されるように、前記PE細胞の集団の少なくとも一部分を培養することと、をさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項15】
前記内分泌細胞が、インスリン発現細胞である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記内分泌細胞が、胎児型β細胞である、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記Notch経路阻害剤が、ガンマセクレターゼ阻害剤XXを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記Notch経路阻害剤が、DAPT、MRK-003、MRK-0752、z-Ile-leu-CHO、ガンマセクレターゼ阻害剤、L-685,485、LY411575、化合物E、F-03084014、RO4929097、BMS-906024、Dapt、FLI-06、YO-01027、LY450139、E2012、TC-E5006、アバガセスタット(Avagacestat)、ベガセススタット(Begacestat)、BMS299897、化合物E、化合物W、DBZ、フルリザン、JLK6、L-685,458、MRK560、及びPF3084014からなる群から選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
前記ALK5阻害剤が、A8301を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項20】
前記ALK5阻害剤が、A7701、A83-01、SB505124、SB431542、アラントラクトン、LY2157299、RepSox、R268712、SM16、IN1130、BI4659、SD-208、GW788388、TP0427736HCL、TEW-7197、DMH1、LDN212854、D4476、及びSB525334からなる群から選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項21】
工程f)における前記培養することが、5~15日間行われる、請求項14に記載の方法。
【請求項22】
前記内分泌細胞を対象に移植することをさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項23】
c)前記DFE細胞の集団の少なくとも一部分をEGFと接触させることと、
d)胃内胚葉(SE)細胞の集団が生成されるように、前記DFE細胞の集団の少なくとも一部分を培養することと、をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
c)前記DFE細胞の集団の少なくとも一部分をBMP経路アゴニストまたはBMP4と接触させることと、
d)肝臓内胚葉(LE)細胞の集団が生成されるように、前記DFE細胞の集団の少なくとも一部分を培養することと、をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
細胞を含む組成物であって、前記細胞が、
i)外因性レチノイン酸シグナル伝達経路アゴニストと、
ii)外因性骨形態形成(BMP)経路阻害剤と、を含み、
前記細胞が、i)任意の外因性形質転換増殖因子ベータ(TGFβ)経路アゴニストを含まず、かつii)多能性幹細胞または背側前腸内胚葉細胞である、前記組成物。
【請求項26】
前記外因性BMP経路阻害剤が、LDN1933189を含む、請求項25に記載の組成物。
【請求項27】
前記外因性BMP経路阻害剤が、DMH1、DMH2、ドルソモルフィン、K02288、LDN214117、ML347、ノギン、LDN193189、LDN212854、及びホリスタチンからなる群から選択される、請求項25に記載の組成物。
【請求項28】
前記外因性レチノイン酸シグナル伝達経路アゴニストが、i)レチノイド化合物、ii)レチノイドX受容体(RXR)アゴニスト、及びiii)レチノイン酸受容体(RAR)アゴニストからなる群から選択される、請求項25に記載の組成物。
【請求項29】
前記レチノイン酸シグナル伝達経路アゴニストが、レチノイン酸、Sr11237、アダパレン、EC23、9-シスレチノイン酸、13-シスレチノイン酸、4-オキソレチノイン酸、及びオールトランスレチノイン酸(ATRA)からなる群から選択される、請求項25に記載の組成物。
【請求項30】
前記細胞がDFE細胞であり、前記DFE細胞が、外因性FGFR経路阻害剤をさらに含む、請求項25に記載の組成物。
【請求項31】
前記FGFR経路阻害剤が、PD0325901、アルクチゲニン、PD184352、PD198306、PD334581、SL327、U0126、MEK阻害剤、FGFR阻害剤、MAPK阻害剤、MEK162、GSK1120212、PD325901、CI-1040、TAK-733、セルメチニブ、及びXL518からなる群から選択される、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
細胞培養培地を含む組成物であって、前記細胞培養培地が、
i)レチノイン酸シグナル伝達経路アゴニスト化合物と、
ii)骨形態形成(BMP)経路阻害剤と、を含み、
前記培養培地が、任意の形質転換増殖因子ベータ(TGFβ)経路アゴニストを含まないか、または検出可能に含まない、前記組成物。
【請求項33】
細胞の集団をさらに含み、前記細胞が、多能性幹細胞または背側前腸内胚葉(DFE)細胞である、請求項32に記載の組成物。
【請求項34】
前記細胞が、多能性幹細胞であり、前記レチノイン酸シグナル伝達経路アゴニスト及びBMP経路阻害剤が、前記培地中で少なくとも2日間培養したときに前記多能性幹細胞の少なくとも一部がDFEになるようにする濃度で、前記培養培地中に存在する、請求項33に記載の組成物。
【請求項35】
前記BMP経路阻害剤が、DMH1、DMH2、ドルソモルフィン、K02288、LDN214117、ML347、ノギン、LDN193189、LDN212854、及びホリスタチンからなる群から選択される、請求項32に記載の組成物。
【請求項36】
前記レチノイン酸シグナル伝達経路アゴニストが、i)レチノイド化合物、ii)レチノイドX受容体(RXR)アゴニスト、及びiii)レチノイン酸受容体(RAR)アゴニストからなる群から選択される、請求項32に記載の組成物。
【請求項37】
前記レチノイン酸シグナル伝達経路アゴニストが、レチノイン酸、Sr11237、アダパレン、EC23、9-シスレチノイン酸、13-シスレチノイン酸、4-オキソレチノイン酸、及びオールトランスレチノイン酸(ATRA)からなる群から選択される、請求項32に記載の組成物。
【請求項38】
キットまたはシステムであって、
a)細胞培養容器内に存在する多能性幹細胞の集団と、
b)第1の容器内に存在するレチノイン酸シグナル伝達経路アゴニスト化合物と、
c)第2の容器内に存在する骨形態形成(BMP)経路阻害剤と、を含む、それらから本質的になる、またはそれらからなり、
前記細胞培養容器が、いかなる、またはいかなる検出可能な外因性形質転換増殖因子ベータ(TGFβ)経路アゴニストも含まず、かつ
前記キット及び前記システムが、前記第1の容器内または前記第2の容器内、もしくは第3の容器内に、いかなる形質転換増殖因子ベータ(TGFβ)経路アゴニストも含有しない、前記キットまたは前記システム。
【請求項39】
前記BMP経路阻害剤が、DMH1、DMH2、ドルソモルフィン、K02288、LDN214117、ML347、ノギン、LDN193189、LDN212854、及びホリスタチンからなる群から選択される、請求項38に記載のキットまたはシステム。
【請求項40】
前記レチノイン酸シグナル伝達経路アゴニストが、i)レチノイド化合物、ii)レチノイドX受容体(RXR)アゴニスト、及びiii)レチノイン酸受容体(RAR)アゴニストからなる群から選択される、請求項38に記載のキットまたはシステム。
【請求項41】
前記レチノイン酸シグナル伝達経路アゴニストが、レチノイン酸、Sr11237、アダパレン、EC23、9-シスレチノイン酸、13-シスレチノイン酸、4-オキソレチノイン酸、及びオールトランスレチノイン酸(ATRA)からなる群から選択される、請求項38に記載のキットまたはシステム。
【請求項42】
前記培養容器内の培養培地をさらに含む、請求項38に記載のキットまたはシステム。
【請求項43】
前方ドメイン内胚葉細胞の生成方法であって、
a)多能性幹細胞の集団を、i)Nodalタンパク質及びBMPタンパク質もしくはBMP経路アゴニスト、または前記Nodalタンパク質及び前記BMPタンパク質をコードするベクター(複数可)、ならびにii)ALK5阻害剤に接触させることと、
b)前方ドメイン内胚葉(ADE)細胞の集団が生成されるように、前記多能性幹細胞の集団の少なくとも一部を培養することと、を含み、
前記多能性幹細胞が、前記培養中または前記接触中に、i)BMP阻害剤、及び/またはii)形質転換増殖因子ベータ(TGFβ)経路アゴニストに曝露されない、前記方法。
【請求項44】
前記ALK5阻害剤が、A7701、A-83-01、SB505124、SB431542、アラントラクトン、及びLY2157299からなる群から選択される、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記BMPタンパク質が、BMP4タンパク質である、請求項43に記載の方法。
【請求項46】
組成物であって、
a)Nodalタンパク質、または前記Nodalタンパク質をコードするベクターと、
b)BMPタンパク質もしくはBMP経路アゴニスト、またはタンパク質である場合、前記BMPタンパク質もしくはBMPアゴニストをコードするベクターと、
c)ALK5阻害剤と、を含む、前記組成物。
【請求項47】
前記組成物が、BMP阻害剤、及び/またはii)形質転換増殖因子ベータ(TGFβ)経路アゴニストを含まない、請求項46に記載の組成物。
【請求項48】
細胞の集団をさらに含み、前記細胞が、多能性幹細胞または前方ドメイン内胚葉(ADE)細胞である、請求項46に記載の組成物。
【請求項49】
前記ALK5阻害剤が、A7701、A-83-01、SB505124、SB431542、アラントラクトン、及びLY2157299からなる群から選択される、請求項46に記載の組成物。
【請求項50】
前記BMPタンパク質が、BMP4タンパク質である、請求項46に記載の組成物。
【請求項51】
キットまたはシステムであって、
a)細胞培養容器内に存在する細胞の集団と、
b)第1の容器内に存在するNodalタンパク質または前記Nodalタンパク質をコードするベクターと、
c)第2の容器内に存在するBMPタンパク質もしくはBMP経路アゴニスト、またはタンパク質である場合、前記BMPタンパク質もしくはBMPアゴニストをコードするベクターと、
d)第3の容器に存在するALK5阻害剤と、を含むか、それらから本質的胃になるか、またはそれらからなる、前記キットまたは前記システム。
【請求項52】
前記細胞培養容器が、いかなる、またはいかなる検出可能な外因性BMP阻害剤、及び/または外因性形質転換増殖因子ベータ(TGFβ)を含まず、かつ
前記キット及び前記システムが、前記第1の容器内、前記第2の容器内、前記第3の容器内、もしくは第4の容器内に、いかなる検出可能な外因性BMP阻害剤も、及び/または外因性形質転換増殖因子ベータ(TGFβ)も含有しない、請求項51に記載のキットまたはシステム。
【請求項53】
前記細胞が、多能性幹細胞または前方ドメイン内胚葉(ADE)細胞である、請求項51に記載のキットまたはシステム。
【請求項54】
前記ALK5阻害剤が、A7701、A-83-01、SB505124、SB431542、アラントラクトン、及びLY2157299からなる群から選択される、請求項51に記載のキットまたはシステム。
【請求項55】
前記BMPタンパク質が、BMP4タンパク質である、請求項51に記載のキットまたはシステム。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、2019年5月22日に出願された米国仮出願第62/851,348号に対する優先権を主張する。
【技術分野】
【0002】
本明細書では、幹細胞を形質転換増殖因子ベータ(TGFβ)経路アゴニストに曝露することなく、多能性幹細胞をレチノイン酸シグナル伝達経路アゴニスト及び骨形態形成(BMP)経路阻害剤と接触させることによって、背側前腸内胚葉(DFE)細胞を生成するための組成物、システム、キット、及び方法が提供される。ある特定の実施形態では、DFE細胞を、レチノイン酸シグナル伝達経路アゴニスト及びFGFR経路阻害剤と接触させて、(例えば、背側同一性を有する)膵臓内胚葉(PE)細胞を生成する。他の実施形態では、PE細胞をALK5阻害剤及びNotch阻害剤と接触させて、内分泌細胞(例えば、インスリン発現細胞)を生成する。ある特定の実施形態では、前方ドメイン内胚葉(ADE)細胞を生成するための組成物、システム、キット、及び方法が提供される。
【背景技術】
【0003】
内胚葉は、肺、胃、膵臓、肝臓、及び腸などのほとんどの内臓系内の細胞の大部分を作り出す発生胚葉である。多能性細胞から内胚葉を誘導するためのほとんど全ての努力は、TGFβ経路アゴニスト、最も一般的にはアクチビンA(AA)を、インビトロ原腸形成イベントを通して多能性細胞を押し出すためのNodal模倣物として使用することに依存してきた(D’Amour et al.,2005,Gadue et al.,2006)。これにより、腸管(Spence et al.,2011)、膵臓(Kroon et al.,2008、Rezania et al.,2014、Pagliuca et al.,2014)、及び肝臓(Sampaziotis et al.,2015)を含む複数の子孫運命の生成に使用することができる内胚葉集団がもたらされる。肺などのより前方の内胚葉運命の生成は、その後の段階でパターン化入力を提供することによって達成されている(Green et al.,2011)。しかしながら、最近の研究では、胚体内胚葉(definitive endoderm)の初期パターン化は、その発生中に起こり得ると主張している(Matsuno et al.,2016、Loh et al.,2014)。
【0004】
膵臓は、インスリン産生細胞の欠損を特徴とする糖尿病における細胞ベースの療法に特に興味深い。膵臓は、原腸管の背側及び腹側に生じる2つの空間的に異なる原基から形成され、その後融合する。両方の膵芽は、成人の膵臓の全ての系統を生成することができるが(Matsuura et al.,2009)、腸管の対向する側の膵臓ドメインの初期誘導は、異なる転写プログラムによって制御されている。マウスにおいて、腹側膵芽は、まず、膵臓及び肝臓の二分化能コンピテンスを有する内胚葉の領域からおよそ胎生8.5日(E8.5)に形成される(Angelo et al.,2012、Deutsch et al.,2001、Tremblay and Zaret,2005)。この初期の腹側内胚葉部は、Pdx1/Sox17を一過性に共発現する前駆細胞集団で構成されており、これがE9.5までに分裂してそれぞれ腹側膵臓及び肝胆管外系を形成する(Spence et al.,2009)。腹側膵臓の特異化は、遺伝子アブレーションモデルが背側膵芽形成に影響を及ぼすことなく完全な腹側非形成を示したHHex発現に依存する(Bort et al.,2004)。対照的に、マウスにおける背側膵芽は、およそ胚生9.0日に出現し、外側尾状部から胃前庭部領域までを形成する。マウスを対象とした研究では、腹側器官形成に影響を及ぼさない背側膵臓特異性に関与する因子も同定されている。Mnx1(Hlxb9)ノックアウトモデルは、腹側表現型を伴わずに背側非形成が生じることを示している(Li et al.,1999)。Mnx1発現は、腹側部に観察されるが、Pdx1発現に続いてのみ観察され、一方、背側部では、Mnx1は、Pdx1発現より先に起こる。Raldh2ノックアウトモデルは、背側芽におけるPdx1及びProx1発現の喪失に起因する背側特異的非形成をもたらした(Martin et al.,2005、Molotkov et al.,2005)。さらに、ヒヨコにおける研究では、背側膵臓の初期芽形成が背側中腸内のSHHの選択的阻害に依存していることが示されている(Hebrok et al.,1998)。マウスの系統が種間で保存されているかどうかは不明であるが、レーザーキャプチャーとその後のディープシーケンシング解析を使用した最近の研究では、ヒト発生中の腹側膵臓と背側膵臓との間のいくつかの根本的な違いが記載されている(Jennings et al.,2017)。
【0005】
経路利用の差異と異なる細胞内性因子にもかかわらず、背側及び腹側の膵臓プログラムには多くの共通点がある。HNF1β(Tcf2)は、両方の膵芽における膵臓特異化に必要であり、膵臓発生を通して重要である。Tcf2ノックアウトマウスは、腹側膵臓を生成することに失敗し、分化または増殖することができない大幅に低下した背側芽を有する(Haumaitre et al.,2005)。HNF1βは、前膵臓前腸において発現され、遺伝子は、連続的な転写カスケードの頂点で機能し、Hnf6(Oc1)、続いてPdx1の活性化をもたらす(Poll et al.,2006)。HNF1βの条件付き不活性化は、Glis3及びNgn3発現の損失をもたらし、胆嚢管を特徴とする膵臓及び内分泌促進部の損失をもたらす(De Vas et al.,2015)。ヒト発生において、HNF1βの重要性は、HNF1β遺伝子の変異に起因する病態である「若年発症成人型糖尿病型5」(MODY5)症候群の発生によって強調される。HNF1βのヘテロ接合変異は、マウス研究において表現型を示さないが、ヒトにおいて、HNF1βのヘテロ接合変異は、MODY5または完全な膵臓非形成と関連することが示されており、ヒト膵臓発生におけるHNF1βの役割がマウスよりも重要であることが示唆されている(Body-Bechou et al.,2014)。
【発明の概要】
【0006】
本明細書では、幹細胞を形質転換増殖因子ベータ(TGFβ)経路アゴニストに曝露することなく、多能性幹細胞をレチノイン酸シグナル伝達経路アゴニスト及び骨形態形成(BMP)経路阻害剤と接触させることによって、背側前腸内胚葉(DFE)細胞を生成するための組成物、システム、キット、及び方法が提供される。ある特定の実施形態では、DFE細胞を、レチノイン酸シグナル伝達経路アゴニスト及びFGFR経路阻害剤と接触させて、(例えば、背側同一性を有する)膵臓内胚葉(PE)細胞を生成する。他の実施形態では、PE細胞をALK5阻害剤及びNotch阻害剤と接触させて、内分泌細胞(例えば、インスリン発現内分泌細胞)を生成する。ある特定の実施形態では、前方ドメイン内胚葉(ADE)細胞を生成するための組成物、システム、キット、及び方法が提供される。
【0007】
いくつかの実施形態では、本明細書において、a)多能性幹細胞(例えば、iPSCまたは胚性幹細胞)の集団を、レチノイン酸シグナル伝達経路アゴニスト及び骨形態形成(BMP)経路阻害剤と接触させることと、b)背側前腸内肺葉(DFE)細胞の集団が生成されるように多能性幹細胞の集団の少なくとも一部を培養することであって、幹細胞が、培養中または接触中に形質転換増殖因子ベータ(TGFβ)経路アゴニストに曝露されない、培養することと、を含む、背側前腸内胚葉細胞の生成方法が提供される。
【0008】
ある特定の実施形態では、本明細書において、細胞を含む組成物であって、細胞が、i)外因性レチノイン酸シグナル伝達経路アゴニストと、ii)外因性骨形態形成(BMP)経路阻害剤と、を含み、細胞が、i)任意の外因性形質転換増殖因子ベータ(TGFβ)経路アゴニストを含まず、ii)多能性幹細胞(例えば、iPSCまたは胚性幹細胞)であるか、または背側前腸内胚葉細胞である、組成物が提供される。
【0009】
特定の実施形態では、本明細書において、細胞培養培地を含む組成物であって、細胞培養培地が、i)レチノイン酸シグナル伝達経路アゴニスト化合物と、ii)骨形態形成(BMP)経路阻害剤と、を含み、培養培地が、任意の外因性形質転換増殖因子ベータ(TGFβ)経路アゴニストを含まないか、または検出可能に含まない、組成物が提供される。特定の実施形態では、細胞培養培地は、適切なエネルギー源と、細胞周期を調節する化合物とを含む。ある特定の実施形態では、細胞培養培地は、増殖因子、ホルモン、及び接着因子の供給源として、アミノ酸、ビタミン、無機塩、グルコース、及び血清のうちの大部分または全てを含む。いくつかの実施形態では、組成物は、細胞集団をさらに含み、細胞は、多能性幹細胞(例えば、iPSCまたは胚性幹細胞)または背側前腸内胚葉(DFE)細胞である。他の実施形態では、細胞は多能性幹細胞であり、レチノイン酸シグナル伝達経路アゴニスト及びBMP経路阻害剤は、培地中で少なくとも2日間培養したときに多能性幹細胞の少なくとも一部がDFEになるようにする濃度で培養培地中に存在する。
【0010】
他の実施形態では、本明細書においてa)細胞培養容器内に存在する多能性幹細胞(例えば、iPSCまたは胚性幹細胞)の集団、b)第1の容器内に存在するレチノイン酸シグナル伝達経路アゴニスト化合物、及びc)第2の容器内に存在する骨形態形成(BMP)経路阻害剤を含む、本質的にそれからなる、またはそれからなるキット及びシステムが提供され、細胞培養容器は、いかなる、またはいかなる検出可能な外因性形質転換増殖因子ベータ(TGFβ)経路アゴニストも含まず、かつキット及びシステムは、第1の容器もしくは第2の容器内、または第3の容器内に任意の形質転換増殖因子ベータ(TGFβ)経路アゴニストを含有しない。さらなる実施形態では、キット及びシステムは、培養容器内に培養培地をさらに含む。
【0011】
他の実施形態では、BMP経路阻害剤はBMP4経路阻害剤である。ある特定の実施形態では、BMP経路阻害剤は、LDN193189を含む。さらなる実施形態では、BMP経路阻害剤は、DMH1、DMH2、ドルソモルフィン、K02288、LDN214117、LDN212854、ホリスタチン、ML347、ノギンからなる群から選択される。いくつかの実施形態では、レチノイン酸シグナル伝達経路アゴニストは、i)レチノイド化合物、ii)レチノイドX受容体(RXR)アゴニスト、及びiii)レチノイン酸受容体(RAR)アゴニストからなる群から選択される。特定の実施形態では、レチノイン酸シグナル伝達経路アゴニストは、レチノイン酸、Sr11237、アダパレン、EC23、9-シスレチノイン酸、13-シスレチノイン酸、4-オキソレチノイン酸、及びオールトランスレチノイン酸(ATRA)からなる群から選択される。特定の実施形態では、培養は、1~5日間(例えば、1、2、3、4、もしくは5日間)または2~4日間行われる。
【0012】
いくつかの実施形態では、本方法は、c)DFE細胞の集団の少なくとも一部を、レチノイン酸シグナル伝達経路アゴニスト及びFGFR経路阻害剤と接触させることと、d)膵臓内胚葉(PE)細胞の集団が生成されるように、DFE細胞の集団の少なくとも一部を培養することとをさらに含む。ある特定の実施形態では、DFE細胞は、工程d)における培養中または工程c)における接触中に、形質転換増殖因子ベータ(TGFβ)経路アゴニストに曝露されない。いくつかの実施形態では、工程d)における培養は、約1~5日間(例えば、1、2、3、4、もしくは5日)または2~4日間行われる。ある特定の実施形態では、PE細胞は、背側膵臓同一性を有する。いくつかの実施形態では、FGFR経路阻害剤は、PD0325901、アルクチゲニン、PD184352、PD198306、PD334581、SL327、U0126、MEK阻害剤、FGFR阻害剤、及びMAPK阻害剤からなる群から選択される。ある特定の実施形態では、工程c)における接触は、DFE細胞集団を、ソニック・ヘッジホッグ(SHH)経路阻害剤と接触させることをさらに含む。
【0013】
ある特定の実施形態では、本方法は、e)PE細胞集団の少なくとも一部をNotch経路阻害剤及びALK5阻害剤と接触させることと、f)内分泌細胞の集団が生成されるようにPE細胞の集団の少なくとも一部を培養することと、をさらに含む。いくつかの実施形態では、内分泌細胞は、インスリン発現細胞である。他の実施形態では、内分泌細胞は、胎児型β細胞である。特定の実施形態では、Notch経路阻害剤は、DBZとしても知られるガンマセクレターゼ阻害剤XXを含む。他の実施形態では、Notch経路阻害剤は、DAPT、MRK-003、MRK-0752、z-Ile-leu-CHO、ガンマセクレターゼ阻害剤、L-685,485、LY411575、化合物E、F-03084014、RO4929097、及びBMS-906024からなる群から選択される。いくつかの実施形態では、ALK5阻害剤は、A8301を含む。さらなる実施形態では、ALK5阻害剤は、A7701、A83-01、SB505124、SB431542、アラントラクトン、及びLY2157299からなる群から選択される。さらなる実施形態では、工程f)における培養は、5~15日間(例えば、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、または15日間)行われる。
【0014】
いくつかの実施形態では、本明細書における方法によって生成された細胞(例えば、内分泌細胞)を対象に移植して、治療効果を提供する。いくつかの実施形態では、移植細胞は、対象が糖尿病を有するため、インスリン発現細胞である。
【0015】
ある特定の実施形態では、本明細書における方法は、c)DFE細胞の集団の少なくとも一部をEGFと接触させることと、d)胃内胚葉(SE)細胞の集団が生成されるように、DFE細胞の集団の少なくとも一部を培養することと、をさらに含む。
【0016】
他の実施形態では、本明細書における方法は、c)DFE細胞の集団の少なくとも一部分を、BMP4またはBMP経路アゴニスト(例えば、sb4)と接触させることと、d)肝臓内胚葉(LE)細胞の集団が生成されるように、DFE細胞の集団の少なくとも一部を培養することと、をさらに含む。
【0017】
他の実施形態では、本明細書における方法を用いて、前方胚体内胚葉(ADE)を作り出す。前方胚体内胚葉は、DFE及びDEよりも前方にあり、咽頭内胚葉に対応する細胞を包含する。該ADEは、TBX1、PAX9、及びOSR1などの特異的マーカー遺伝子を発現し、肺、胸腺、及び甲状腺が挙げられるが、これらに限定されない、咽頭領域の細胞系統の前駆細胞を表す。
【0018】
いくつかの実施形態では、本明細書において、a)多能性幹細胞の集団を、i)Nodalタンパク質及びBMPタンパク質もしくはBMP経路アゴニスト、または該Nodalタンパク質及び該BMPタンパク質もしくはBMP経路アゴニスト(それがタンパク質である場合)をコードするベクター(複数可)、ならびにii)ALK5阻害剤と、接触させることと、b)前方ドメイン内肺葉(ADE)細胞の集団が生成されるように、多能性幹細胞の集団の少なくとも一部を培養することと、を含む、前方ドメイン内胚葉細胞を生成する方法が提供される。ある特定の実施形態では、多能性幹細胞は、該培養中または該接触中に、i)BMP阻害剤、及び/またはii)形質転換増殖因子ベータ(TGFβ)経路アゴニストに曝露されない。
【0019】
ある特定の実施形態では、本明細書において、a)Nodalタンパク質またはNodalタンパク質をコードするベクター、b)BMPタンパク質もしくはBMP経路アゴニスト、またはタンパク質の場合、BMPタンパク質もしくはBMPアゴニストをコードするベクター、及びc)ALK5阻害剤を含む組成物が提供される。いくつかの実施形態では、組成物は、BMP阻害剤、及び/またはii)形質転換増殖因子ベータ(TGFβ)経路アゴニストを含まない。ある特定の実施形態では、単一のベクターは、Nodalタンパク質及びBMPタンパク質(またはタンパク質の場合はBMP経路アゴニスト)の両方をコードし、他の実施形態では、別個のベクターが用いられる。他の実施形態では、組成物は、細胞の集団をさらに含み、これらの細胞は、多能性幹細胞または前方ドメイン内胚葉(ADE)細胞である。
【0020】
いくつかの実施形態では、本明細書において、a)細胞培養容器に存在する細胞集団と、b)第1の容器に存在するNodalタンパク質またはNodalタンパク質をコードするベクターと、c)BMPタンパク質もしくはBMP経路アゴニストまたは第2の容器にタンパク質が存在する場合に、BMPタンパク質もしくはBMPアゴニストをコードするベクターと、d)第3の容器に存在するALK5阻害剤と、から本質的になる、またはそれらからなるキットまたはシステムが提供される。
【0021】
特定の実施形態では、細胞培養容器は、いかなる、またはいかなる検出可能な外因性BMP阻害剤も、及び/または外因性形質転換増殖因子ベータ(TGFβ)も含まず、キット及びシステムは、第1の容器、第2の容器、第3の容器、または第4の容器に任意の検出可能な外因性BMP阻害剤、及び/または外因性形質転換増殖因子ベータ(TGFβ)を含有しない。他の実施形態では、細胞は、多能性幹細胞または前方ドメイン内胚葉(ADE)細胞である。さらなる実施形態では、ALK5阻害剤は、A7701、A-83-01、SB505124、SB431542、アラントラクトン、及びLY2157299からなる群から選択される。さらなる実施形態では、BMPタンパク質は、BMP4タンパク質である。
【0022】
特許ファイルまたは出願ファイルは、カラーで描画される少なくとも1つの図面を含む。カラー図面を有するこの特許または特許出願公開のコピーは、要求され、必要な料金を支払うことにより、特許庁が提供する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】背側前腸内胚葉(DFE)細胞を生成するための例示的な方法を示す。
図2】AA/WNTの不在下での効果的な内胚葉誘導の結果を示す。A:前方原始線条(Anterior Primitive Streak)(APS)のアクチビンA誘導対HNF1β誘導を最適化する内胚葉誘導を通した内胚葉遺伝子の概略図。B:APS遺伝子誘導(上の円)対HNF1β誘導(下の円)を満たす条件のための予測条件。C:2つの別々のプロトコルを使用した内胚葉マーカー誘導の検証。D:選択された内胚葉遺伝子の係数プロット(一次エフェクターのみ)。
図3】非APS由来の内胚葉がレチノイン酸及びBMP阻害によって非常に活性化されることを示し、背側前腸特性を示している。A:実施した実験の概略図。B:レチノイン酸及びBMP阻害に応答するいくつかの内胚葉遺伝子の相対的発現を示すグラフ。遺伝子を、YWHAZ、GAPDH及びTBPの内因性レベルの平均発現に対して正規化した。DE-胚体内胚葉、RA-レチノイン酸、LDN-LDN3189、BMP阻害剤及びWIN-Win XXX、ALDH阻害剤。C:多能性培養物由来の主要な内胚葉遺伝子を含有するヒートマップは、古典的な胚体内胚葉分化条件を受けるか、またはHNF1βオプティマイザーで予測される条件を使用して分化した。
図4】DFEが高度に背側化された性質を有する膵臓内胚葉を生成することができることを示す。A:胃遺伝子SOX2、OSR1及び膵臓遺伝子PDX1の最適化のモデリングを示す概略図。B:それぞれ、SOX2、OSR1及びPDX1の予測される最大誘導のための対応するオプティマイザー。C:それぞれの遺伝子活性化を最も担うエフェクターの動的プロファイル。D:PDX1Optの代表的なIHC。E:それぞれのDE及びDFE由来の膵臓内胚葉のKeyGenes予測。F:2つのプロトコル間のいくつかの膵臓遺伝子及び背側特異的膵臓遺伝子の差次的発現を評価するヒートマップ。
図5】小分子を使用した、DFE内胚葉を介した多能性からの膵臓内分泌運命の効果的かつ迅速な誘導の結果を示す。A:膵臓誘導を変化させるために実施した反応の概略図を示す。B:ELISAを通じて決定されるように、異なる実験条件の全体を通して検出されるCペプチドレベル。C:GAPDH、TBP及びYWHAZの平均発現に対して正規化されたいくつかの主要な膵臓及び内分泌特異的遺伝子のQuantStudioベースの発現レベル。
図6】DFE由来の内分泌細胞が未成熟表現型を有することを示す結果を示す。A:内分泌部を生成するために使用される指向性分化プロトコルを示す概略図。B:様々な内分泌特異的因子についてのエンドポイント培養のIHC評価。C:14日間の内分泌誘導を、ELISAを通じてcペプチド生成のために毎日アッセイした。D:凝集体として成長した多能性誘導体によるジチゾンの保持。E:内分泌培養物の内分泌機能のグルコース刺激インスリン放出アッセイ(GSIS)評価。F:グルコース及びカリウムチャレンジに応答する内部カルシウム放出のマイクロ流体解析。
図7】小分子ベースの膵臓内分泌誘導プロトコルの生物学的同等性試験の結果を示す。A:HNF1βOpt及びPDX1Optが、最も高い予測される因子寄与を有するモデリング実験からの因子、それぞれレチノイン酸及びLDN3189、またはレチノイン酸及びPD0325のみで置き換えられた、実施された反応の概略図を示す。B:GAPDH、TBP及びYWHAZの平均発現に正規化されたPE段階(ライトグレーで示される)または内分泌段階(ダークグレーで示される)のいずれかでの4つのそれぞれの反応条件のQuantStudioベースの転写物分析を示す。
図8】DFE誘導の動力学を示す。A:HNF1βoptを用いた4日間のインキュベーション期間にわたる、FOXA2、HNF1β、HLXB9及びOCT3/4陽性細胞の相対的割合を示すグラフ。B:分化プロトコルの3日目のHNF1β、FOXA2、及びHLXB9についての代表的なIHC。
図9】DFEのプロトコル入力がDEのパターン化を変更しないことを示す。A:TGFβまたはレチノイン酸応答性遺伝子間の差次的発現を示す代表的なIHC。
図10】DFEのパターン化能力が、DE由来の内胚葉とは異なることを示す。A:HNF1β最適化培養物または胚体内胚葉に分化した培養物のいずれかが、胃、膵臓、または肝臓の運命に向かう分化にチャレンジさせることにどのように反応するかの概略図を示す。B:異なるプロトコル間で示される遺伝子に対する選択マーカーの相対的発現。青色バーは、胃に向かって分化するように設計された条件が提供された培養物を表す。黄色バーは、膵臓を生成するように設計された条件が提供された培養物である。赤色バーは、肝臓を生成するように設計された条件が提供された培養物を表す。C:胃誘導条件でチャレンジしたHNF1βopt培養物からオルガノイドを増殖させた追跡実験の概略図。D:DFE由来のオルガノイドで、23日間にわたって分化及び増殖させたもの。E:PSC由来の推定上の前庭部PDX1+/SOX2+/OSR1+胃の遺伝子マーカーの代表的なオルガノイド染色。
図11】DFEにおいて、DE由来の内胚葉と対比して膵臓能力が増強したことを示す。A:コンピュータモデリングによって最適化し、続いて膵臓コンピテンスのためにチャレンジした4つの異なる初期内胚葉遺伝子を示す概略図。B:一般的な内胚葉遺伝子FOXA2についての4つのそれぞれの培養物のIHC検証。C:膵臓特異的遺伝子PDX1についての4つのそれぞれの培養物のIHC検証。
図12】iPSC及び雌hESCを用いたDFEからの膵臓運命の堅牢かつ均質な誘導の結果を示す。A:対応する主要因子の発現レベルが上方制御された状態の3つの異なる多能性細胞株間のHNF1βoptプロトコルのIHC検証。B:対応する主要な膵臓因子の発現レベルが上方制御された状態の3つの異なる多能性細胞株間のDFEからの膵臓誘導のIHC検証
図13】多能性由来細胞をいくつかの一次組織と比較する階層クラスタリングを示す。R中のKeyGenesデータセット上で階層的クラスタリングを行った。全ての多能性由来試料は、ヒト胎児胃、胎児膵臓、及び成体膵島試料を含む同じクラスター内に入ったため、クラスターのこの領域のみが示されている。
図14】レチノイン酸代謝産物が背側前腸内胚葉を活性化するのに有効であることを示す。A:実施した実験を示す概略図。B:パネルAに記載された実験についてのHNF1βOpt。C:選択された内胚葉遺伝子を活性化する際の異なるレチノイドの示差的効果を示すグラフ。D:元のHNF1βOpt間のタンパク質レベルを現在の実験設計で予測される条件と比較する対応するIHC検証。E:反応条件についての添加化合物は、新旧のHNF1βOptと称される。
図15】オールトランスレチノイン酸がNodalを活性化することを示す。全てのトランスレチノイン酸及びレチノイン酸代謝産物は、原始線条マーカーNodalを活性化するための分化能を有する。A:実施した実験の概略図。B:レチノイドベースの誘導と比較した、選択された内胚葉遺伝子の相対的発現。C:レチノイドベースのNODALopt条件を得るために実施された実験を示す概略図。
図16】原腸形成を開始することによる内胚葉運命空間のパターン化を示す。A:PSC培養物を、原腸形成を開始または阻害するいずれかが知られている化合物のDoEの定義済みマトリックスに曝露した。B:アッセイした内胚葉遺伝子のために得られた全てのオプティマイザーのtSNEプロット。C:tSNEプロットに定義されている示された4つの決定された集団の各々に、どの遺伝子が分離されているかを示す対応するヒートマップ。
図17】原腸形成中の内胚葉のパターン化に対するアクチビンA、BMP4及びレチノイン酸の寄与を示す。インビトロ原腸形成イベント中のアクチビンA、BMP4及びレチノイン酸の効果をアッセイするDoEベースのモデリング実験から得られた相対的な因子寄与を表に示す。
図18】DFEプロトコルの定量化。A:上記画像の概略図に記載されているような4つの異なるDFEプロトコルからの代表的なIHC。A’:パネルAからの異なるプロトコルの対応する定量化。B:上記画像の概略図に詳説されているような、膵臓前駆細胞に向かってさらに分化した4つの異なるDFEプロトコルからの代表的なIHC。B’:パネルBからの異なるプロトコルの対応する定量化。C:分化モデルを通して定義され、上記画像の概略図に詳説されているような、重要なプロセスパラメータのみを使用した膵臓前駆細胞に向かってさらに分化した4つの異なるDFEプロトコルからの代表的なIHC。C’:パネルBからの異なるプロトコルの対応する定量化。
図19】代表的なパターン化された内胚葉集団に対する相対的エフェクター寄与を定義する。A:実験全体を通して使用される異なるエフェクターの相対レベルを示すリッジプロット(ridge plot)。異なるプロットは、オプティマイザーのクラスタリングを参照し、異なるクラスターにカラーマッチングされる。B:元のクラスターは、提示された対応するクラスター番号(0~3)を参照しやすくするために再び表示される。
図20】内胚葉クラスター内の発現パターンを評価する。A:元のクラスターは、提示された対応するクラスター番号(0~3)を参照しやすくするために再び表示されている。B:クラスター0は、背側前腸内胚葉(DFE)からなる。C:クラスター1は、前方から中腸内胚葉(ADE)集団からなる。D:原始線条マーカーNodal及びALDH1A2の発現パターン。
図21】前方及び中腸遺伝子は、AAの不在下で誘導される。選択された内胚葉遺伝子の異なるクラスター全体にわたる相対発現レベルを定義するバイオリンプロット。
図22】前方内胚葉遺伝子は、BMP4及びNodal応答性である。個々のグラフに記載されている各遺伝子のための20個の独立したオプティマイザーは、それぞれの遺伝子の活性化に関与するTGFβファミリーリガンドAA、Nodal、及びBMP4の予測濃度に焦点を当てて示されている。
図23】AA、BMP、Nodal、及びレチノイン酸は全て、独自の応答性遺伝子ネットワークを有する。測定された内胚葉遺伝子に対する全てのそれぞれのオプティマイザーからのエフェクター因子寄与を正規化し、最も応答性の高い遺伝子から最も応答性の低い遺伝子まで順位付けした。
図24】AA刺激された多能性細胞は、いくつかのTGFβファミリーリガンドを活性化する。A:RNA配列データを使用して、DE及びDFE条件の両方で活性化されたTGFβファミリーリガンドの発現パターンを決定した。遺伝子をDE集団内の最も多い転写物から最も少ない転写物まで順位付けし、未検出レベルをヒートマップから除去した。B:AA刺激された多能性細胞におけるNodalの発現を確認するIHC。
図25】前方及び中腸のパターン化は、AAシグナル伝達の非存在下で起こる。前方及び中腸遺伝子の主要制御因子についての代表的なオプティマイザー。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本明細書では、幹細胞を形質転換増殖因子ベータ(TGFβ)経路アゴニストに曝露することなく、多能性幹細胞をレチノイン酸シグナル伝達経路アゴニスト及び骨形態形成(BMP)経路阻害剤と接触させることによって、背側前腸内胚葉(DFE)細胞を生成するための組成物、システム、キット、及び方法が提供される。ある特定の実施形態では、DFE細胞を、レチノイン酸シグナル伝達経路アゴニスト及びFGFR経路阻害剤と接触させて、(例えば、背側同一性を有する)膵臓内胚葉(PE)細胞を生成する。他の実施形態では、PE細胞をALK5阻害剤及びNotch阻害剤と接触させて、内分泌細胞(例えば、インスリン発現内分泌細胞)を生成する。ある特定の実施形態では、前方ドメイン内胚葉(ADE)細胞を生成するためのシステム、キット、及び方法が提供される。
【0025】
膵臓、肝臓、及び腸などの内胚葉ならびに子孫臓器の誘導は、疾患モデリング及び再生医療に影響を与えている。多能性から胚体内胚葉を誘導するための一般的な方法は、必然的に、TGFβシグナル伝達アゴニズム、最も一般的にはアクチビンAの使用を伴う。本明細書に記載の実施形態の開発中に行われた作業は、アクチビンAを必要としなかったが、BMPアンタゴニズム及びレチノイド入力を、背側前腸内胚葉(DFE)の誘導につながるように成功裏に用いられ得ること、ならびにアクチビン誘導内胚葉が、腹側の不均一な特徴を示す細胞をもたらすことを決定した。膵臓同一性は、DFEから迅速かつ堅牢に誘導され得ること、及びそのような細胞が背側膵臓同一性のものであることをそれによって実証した。そのような作業では、DFE集団は、胃オルガノイドと膵臓組織の両方のタイプに分化するコンピテントが高く、小分子ベースのプロセスを通じて、2つの後続の分化によって胎児型β細胞を効果的に生成することができた。そのような膵臓インスリン産生細胞の生成は、例えば、糖尿病患者の細胞ベースの療法に有用である。
【0026】
本明細書における実施形態の発生中に実施された作業は、有効かつ領域化されたパターン化内胚葉が、TGFβアゴニズムを使用せずに多能性から直接確実に分化することができ、そのような細胞から膵臓及び他の内胚葉誘導体を作り出すことができることを実証した。本明細書における実施形態は、腸管の背側前腸領域を代表する特殊なヒト内胚葉を誘導するための堅牢なプロトコルを提供する。このような生成された細胞は、背側膵臓前駆細胞に効果的に変換することができ、背側膵臓前駆細胞は続いて、胎児様ベータ細胞の生成を含む、内分泌の運命を取り入れることができる。
【0027】
本開示は、用いられる培地または培養系の種類によって限定されない。任意の好適な培地及び培養系が用いられてもよい。例えば、当業者であれば、間葉系フィーダー細胞の有り無しで、ならびに完全に化学的に定義された条件、例えば、血清、または他の複雑な完全には定義されていない添加剤の存在下での培養の有り無しで、多能性幹細胞の培養及び増殖のための複数の方法が利用可能であることを理解する。また、複数の、柔軟な増殖培地基剤が利用可能であり、これらは、ハイブリッド培地(例えば、内部で使用されるようなCDM2などの培地混合物)、ならびにEssential-8、Essential-6、TesR培地などの特殊な培地、及びESCまたはiPSCなどの細胞起源に関わらず、多能性幹細胞状態の増殖を支援するために使用されるKOSRなどの様々な補助剤によって例示される。ある特定の実施形態では、一連の継続的、連続的な性質の特殊な培地を用いてもよく、これらの培地は全て、基礎となる基礎培地を有し、これは、RPMI1640、DMEM、F2、及び他のものなどの広範に使用される細胞培養培地の範囲から柔軟に探索されてもよい。次いで、当業者によって一般的に行われるように、そのような培地には、一連の、ピルビン酸塩などの代謝支持分子、グルタミンなどのアナプレロティック剤(anaplerotic agent)、化学的に定義された脂質、グルコースなど燃料源、及び場合によってはB27などの化学的に定義された増殖支持体などが提供される。ある特定の実施形態では、種々の基礎培地、ならびに代謝支持分子が用いられる。
【0028】
ある特定の実施形態では、本明細書における方法及び組成物を用いて産生される細胞は、内分泌膵臓インスリン産生細胞である。特定の実施形態では、そのような細胞は、当該技術分野において既知であるようにマクロカプセル化され、次いで糖尿病を有する患者に移植される(例えば、参照により本明細書に組み込まれる、Hwa et al.,Curr Diab Rep.2018 Jun 16;18(8):50を参照されたい)。他の実施形態では、インスリン産生細胞は、対象の肝臓(例えば、糖尿病を有する対象)に移植される。他の実施形態では、そのような細胞は、臨床治験NCT03163511に記載されているような保護デバイス内に皮下移植される。さらに他の実施形態では、そのような細胞は、臨床治験NCT01739829に記載されるようなマイクロカプセル化球体に移植される。他の実施形態では、そのような細胞は、臨床治験NCT02064309に記載されているような酸素供給デバイスに移植される。他の実施形態では、そのような細胞は、物理的保護はないが、免疫調節剤の存在下で、好適な部位(例えば、皮下、腹腔内、静脈内)に移植され得る。他の実施形態では、そのような細胞は、参照により本明細書に組み込まれるAn et al.,Proc Natl Acad Sci USA.2018 Jan 9;115(2):E263-E272に記載されるような、アルギン酸塩でコーティングされ、腹腔内に埋め込まれる、回収可能なポリマーナノ多孔性ストリングを使用して移植され得る。いくつかの実施形態では、糖尿病患者は、自己免疫の徴候を有さないII型糖尿病患者であり得る。いくつかの実施形態では、細胞は、多能性幹細胞リプログラミングのプロセスを通じて誘導され、レシピエントと同様の遺伝子構造のものであり得る。
【0029】
ある特定の実施形態では、ある特定の細胞は、処理される細胞の元のセットとして、多能性幹細胞の代わりに置き換わる。そのような細胞としては、EP(参照により本明細書に組み込まれる、Cheng et al.,Cell Stem Cell.2012 Apr 6;10(4):371-84に記載されるような内胚葉の前駆細胞)、Tesar Proc Natl Acad Sci USA.2005 Jun 7;102(23):8239-44(参照により本明細書に組み込まれる)に記載されるようなEPIBLAST幹細胞、または参照により本明細書に組み込まれる、Kimura et al.,Stem Cells.2014 Oct;32(10):2668-78により記載されるような胚性生殖細胞が挙げられるが、これらに限定されない。本開示は、上述の多能性幹細胞または他の細胞が由来する種によって限定されない。全ての脊椎動物種は、前方内胚葉子孫組織を生成する、前方に位置する派生物をその中に形成する同様にパターン化された内胚葉を作り出し、全ての脊椎動物種は、グルコース恒常性を制御するインスリン分子を産生するそのような内胚葉の細胞を生成する。いくつかの実施形態では、非ヒト種由来の膵臓内胚葉、膵臓インスリン産生細胞の生成は、マイクロカプセル化デバイス、マクロカプセル化デバイス、または免疫抑制性薬物レジメンのいずれかと組み合わせた場合、または代替的に、免疫検出の喪失を可能にするように遺伝子改変された場合などに、細胞ベースの療法を誘導する手段を提供するために有利に使用され得る。さらに、このような細胞は、種由来にかかわらず、インビトロ由来インスリン産生細胞の創薬の基礎として使用することができるため、糖尿病状態に影響を及ぼす新規薬物の同定につながる。
【0030】
ある特定の実施形態では、本明細書に記載される方法及び組成物によって産生されるインスリン産生細胞は、以下の会社のいずれかの技術と共に使用される:1)Seraxis(1型糖尿病のための細胞置換療法)、2)Unicyte AG(糖尿病細胞療法)、3)ViaCyte(糖尿病のためのインスリン)、4)Sernova(糖尿病治療のための幹細胞)、5)Betalin Therapeutics(インスリンの産生)、6)AltuCell(糖尿病2型のための幹細胞療法)、7)NextCell Pharma AB(糖尿病1型のための幹細胞療法)、8)Osiris Therapeutics(1型糖尿病の制御)、9)Mesoblast(2型糖尿病治療)、10)Evotec and Sanofi(糖尿病のための幹細胞)、11)Orgenesis(インスリン産生細胞)、12)Semma Therapeutics(1型糖尿病療法)、13)Novo Nordisk(1型糖尿病治療)、14)ベータ-O2(糖尿病のための人工膵臓)、15)Eli Lilly and Sigilon(糖尿病のための幹細胞)。
【実施例
【0031】
実施例1
多能性からの背側膵臓内胚葉の堅牢かつ迅速な誘導条件
本実施例は、多能性幹細胞からの背側前腸内胚葉(DFE)細胞の生成について記載する。本実施例はまた、DFE細胞から背側膵臓内胚葉細胞を生成することについても記載した。
【0032】
結果
内胚葉誘導のための2つの独立した別個の経路が存在する
我々は当初、文献によって示唆されているように、原始線条子孫胚体内胚葉集団を定義するために必要な条件を予測することに着手した。これは、EVX1(後方原始線条マーカー)を最小限に抑えながら、MESP1、EOMES及びBRACHYURY/Tの最大発現についてモデリングすることによって前方原始線条(APS)集団を定義することによって達成された(Loh et al.,2014)。ISPAを通して、この分化イベントを生成すると予測される条件は、Wnt阻害に対する低い耐性(FC=18.65)及び高レベルのアクチビンA(FC=18.85)から構成された(図2A及び2B)。これらの条件は、ノードシグナル伝達に依存する胚体内胚葉(DE)を生成するための現在のプロトコル(D’Amour et al.,2005)と一致する。実際、この条件を使用して多能性培養物を分化させる場合、培養物の大部分は、3日以内にFOXA2+/SOX17+集団に変換した(図2C)。ISPAを通して、COL6A1、HHEX、MESP2、SOX17を含む、多数の他の遺伝子が、これらの条件下で高発現されること予測された(図2D、データ図示せず)。注目すべきことに、POU5F1(OCT4)は高いままであり、ノード様状態と一致した。これらの遺伝子は全て、マウスにおける原腸形成後の直系子孫において上昇することが知られている。しかしながら、ISPAを通して、我々は、既知の初期の内胚葉発現遺伝子が全てAPS条件を通して一意に最大化されたわけではないことに注目した。上述の実験からの既知の空間を検査すると、胚体内胚葉で発現されることも知られているHNF1β(TCF2)発現に焦点を当てて、かなり異なる解集合を得ることができた。HNF1β発現の最大化は、内胚葉の全ての既知のマーカーであるFOXA2、HNF4a、MNX1、CXCR4、MTF1などの付随する遺伝子の発現をもたらしたが、HHEX及びSOX17の発現は低いままであった(ISPA結果は図示せず)。我々は、これらの異なる状態と、それらの誘導の要件を特徴付けることにした。
【0033】
レチノイン酸及びBmp阻害は、相乗的に、アクチビン誘導内胚葉に互いに排他的な内胚葉プログラムを誘導する
我々は、ISPAを用いて、内胚葉遺伝子誘導を支配する基本的な論理を抽出した。APS由来DEについては、多くの初期内胚葉遺伝子がTGFβシグナル伝達の直接制御下にあり、複雑な調節モデルにおいてAAからの強力で正の係数項を示すことが明らかであった。これらの遺伝子としては、SOX17、CXCR4、LEFTY1、MIXL1及びHHEXが挙げられたが、これらに限定されなかった(図2D)。これは、他の複数の既知の内胚葉マーカーについては当てはまらなかった。内胚葉遺伝子のサブグループは、アクチビンAの刺激に応答しなかったが、レチノイン酸シグナル伝達に直接依存し、より低い程度で、BMP経路の阻害を必要とした。これらの遺伝子として、FOXA2、EPCAM、ONECUT1、CDX2及びMNX1が挙げられ(図2D)、FOXA2(RA=24.8、BMPi=25.3でのFC)、HNF1β(RA=30.1、BMPi=31.7でのFC)、MNX1(RA=22.7、BMPi=30.5でのFC)を含む高因子寄与を伴うレチノイン酸及びBMP阻害の相乗効果を通して直接制御されることが予測された(図2B、データ図示せず)。注目すべきことに、アクチビンAは、これらの遺伝子の活性化に寄与しないと予測され、むしろ、TGFβ経路の阻害は、Alk5iの因子寄与が、HNF1βで7.59、FOXA2で8.88、及びMNX1で18.98であり、これらの遺伝子の発現に利益をもたらすと予測された(図2B、データ図示せず)。HNF1β、MNX1、及びFOXA2を全て活性化し、細胞を効果的に変換することができるタンパク質発現に基づく検証のための多能性細胞の分化について、HNF1β最適化のための予測条件(HNF1βOpt)を試験した。HNF1βOpt条件の適用は、細胞の大部分がHNF1β+であることをもたらした(図8)が、一方APS分化細胞は弱いHNF1β発現のみを示した(図2C)。
【0034】
内胚葉活性化への2つの経路は、根本的に異なるものであり、これらの経路が互いに排他的であることを示唆する矛盾した入力ロジックに基づいていた。これを、アクチビンAの存在下でRA及びBMPiの効果をアッセイするハイブリッドプロトコルを作成することによって試験した(図3A)。レチノイン酸をAPSベースのDE生成プロトコルに含めること(D’Amour et al.,2005)は、CDX2(データは図示せず)及びOSR1(図3B)のみがこの方法で顕著に上方制御されているレチノイン酸応答性遺伝子の遺伝子発現を適度に増加させるだけであることが証明された。逆に、既知のTGFβ応答性遺伝子は、レチノイン酸が、HHEX、SOX17、及びGSCを含むAPS型DE生成反応に含まれるときに、著しく下方制御されることが示された(図3B及び補足:図2)。これは、キープロトコルドライバ(AA対RA)のいずれかの存在が、他のプロトコルドライバを抑制することを示す。さらに、ISPAによっても予測されるように、レチノイン酸及びLDN3189の存在下で上方制御された遺伝子は、アクチビンAがこれらの反応から除外されたときにより効率的に活性化された。重要なことに、HNF1βOPT条件のための2つの主要なプロトコル入力、RA及びLDN3189は、分化を効果的に開始するのに十分であった(図3B)。
【0035】
レチノイン酸/BMP阻害誘導型内胚葉は、背側前腸形質のものである
内胚葉集団の異なる性質をよりよく理解するために、RNA配列決定のために培養を行った。両方の集団において発現される共通の内胚葉遺伝子には、CXCR4、FOXA2、EPCAM、GATA4及びGATA6が含まれた(図3C)。しかしながら、パターン化に関連する遺伝子について顕著な差異が観察され、HNF1βOpt誘導型内胚葉が、既知の背側(MNX1及びPax6)ならびに前腸内胚葉HOXA1、HOXA3、HNF4A及びHNF1βの特徴的な遺伝子に濃縮されたことが明らかになった(図3C)。対照的に、APS型DEは、腹側内胚葉NR5A2、HHEX、及びSOX17、ならびにより後方の内胚葉(SOX17及びAFP、ただしCDX1ではない)を代表する遺伝子の濃縮を示した(図3C)。HNF1βOpt培養物は、より多くの背側前腸内胚葉(DFE)表現型を有するように見えたため、胃、膵臓及び肝臓(後方前腸に由来する組織)に向かう分化コンピテンスについて、以前にAPS由来DEからのこれらの運命を誘導することが示され(図3A、補足)APS由来DEと比較した条件を使用して取り組んだ。DFEをAPS-DE集団と比較した場合、コンピテンスの著しい差異が観察された。全ての場合において、APS-DE培養物は、肝臓遺伝子(APOB、HHEX、及びEVX1(補足、図3B))を、DFEよりも効率的に活性化した。しかしながら、胃(OSR1)及び膵臓(PDX1)は、DFE培養物においてより効果的に活性化された。胃オルガノイドを生成するためにDFE培養物に取り組む場合(図10C及び10D、(McCracken et al.,2014))、OSR1及びPDX1の共発現がSOX2及びPDX1の共発現と同様に観察され、胃オルガノイドが優先的に前庭部型の最も後方の胃に変換されることが示唆された(図10E)。
【0036】
背側前腸内胚葉からの臓器部特異化メカニズム
膵臓誘導のために培養物に取り組む場合、DFEパターン化培養物は、従来のDE誘導方法と比較して、PDX1活性化のコンピテンスが大きかった(図10A)。したがって、我々はISPAに戻り、ステージ1で異なる早期内胚葉マーカーを最適化することによって膵臓誘導を調べ、どのマーカーが膵臓変換を最良に可能にするかを決定した。ISPAを使用して、レチノイン酸の制御下での代表的な遺伝子としてのHNF1βまたはOC2の発現を最大化するか、またはTGFβシグナル伝達の制御下での代表的な遺伝子としてのNR5A2またはSOX17の発現を最適化する独立した条件を特定し比較した(図11A)。最初に4つの遺伝子のそれぞれについて多能性培養物を誘導条件に曝露する(3日間)ことにより、次いで以前に定義された条件を使用して膵臓形成を誘導した(Mfopou et al.,2010)。HNF1β、またはOC2に最適化された培養物は、膵臓マーカーPDX1、ならびにFOXA2に対してはるかに均質な誘導を示した(図11B及びC)。DFE培養物が胃と膵臓の両方の誘導にコンピテントであることが観察されたので、次に、DFE培養物で実施された連続的なDoEモデリング実験を通じて、この二分化能の性質を評価した。
【0037】
SOX2、OSR1またはPDX1の発現のISPA最大化からの結果を比較した(図4A及びB)。動的プロファイリング分析(図4C)は、OSR1(胃)とPDX1(膵臓)の両方が、同様の制御機構下にあることを明らかにした。両方の遺伝子は、それぞれFC=30.68及びFC=31.38でRAに強く応答した(図4B及びC)。しかしながら、FGFシグナル伝達に対する差異応答性が予測され、FGF4は、13.45のFCでOSR1(胃)活性化に重要であると予測され、一方で、MEK経路阻害は、小分子阻害剤PD0325901について、29.62の実質的なFCでPDX1活性化に強く寄与することが示された(図4B及びC)。したがって、胃/膵臓の運命の二分化能性は、それぞれFGF/FGFiの入力によって解決される。注目すべきことに、SOX2発現はRAによって強く減少し、SHHによって高度に調節され、それぞれのFCは-28.59及び29.58であった(図4B及びC)。SOX2は、食道及び胃底胃円蓋の継続的なマーカーであり、したがって、げっ歯類におけるPDX1発現胃前庭部部のすぐ前方にある(McCracken et al.,2014)。我々のデータは、レチノイン酸が後方前庭部部を固定し、SHHの能動的阻害がSOX2発現の下方制御に寄与し、それにより胃部から膵臓部への切り替えを可能にすると主張している。この観察は、ヒヨコにおける発生の研究によって裏付けられている(Hebrok et al.,1998)。
【0038】
DFE由来の膵臓は、背側の同一性のものである
ISPAが定義したPDX1最適化条件(図4Bに示す)を使用して、PDX1発現DFE由来PE培養物が、真のPE状態が急速に誘導されたことを示すFOXA2、NR5A2、GATA4及びSOX9を含むいくつかの既知の膵前駆細胞マーカーを共発現することが実証された(図4D)。このDFE由来の膵臓誘導は、H9雌胚性幹細胞株、ならびにiPSC培養物で再現可能であることが示された(図12)。RNASeqベースのKeyGenes解析(Roost et al.,2015)を使用して、このDFE由来PDX1誘導が本当に膵臓の運命であることを検証した(図4E)。我々は、以前に公開されたように(Xie et al.,2013)、DFEに由来する膵臓内胚葉(PE)をAPS型DE由来の段階4のPEと比較した。興味深いことに、開始集団DE及びDFE培養物の両方は、最初に、脳への限定されたシグネチャを示し、これは、両方のプロトコルの連続的な段階を通じて失われた(図4E)。これは、両方の集団における連続段階(複数可)中に活性化されたニューロン運命抑制遺伝子の出現発現に起因する可能性が高い(Jennings et al.,2017)(図4F)。公開されたAPS由来DE集団は、肺との類似性を示したが、DFE集団は類似性を示さなかった(図4E)。これは、肺芽が腹側内胚葉のみに由来するためであると推測される。DFE、DE及びそれらに由来するPE集団間の階層クラスタリング比較は、DFE及びDE集団が、DE試料の3つのセットの間にクラスタリングされるDFE集団に非常に類似していることを示し(図13)、腹側及び背側の両方のプロトコルが基本的な内胚葉プログラムを達成することを証明した。しかしながら、DFEまたはDEのいずれかに由来するPEを、ヒトの発生中の背側膵臓で高度に濃縮された遺伝子と比較すると(Jennings et al.,2017)、我々は、DFE集団が、DLL1、CNR1、FRZB、HOXA1、及びARMC3を含むこれらの遺伝子のうちのいくつかを既に発現しているのに対し、APS-DE集団が、CNR1及びFRZBの低い発現しか示していないことを見出した。また、前述の背側マーカーであるMNX1(Hlxb9)の発現は、DFE培養物全体にわたって発現されたが、DE由来のPEは、PFG段階で検出可能なMNX1発現を有するようになっただけであった(図4F)。その後、DFEに由来するPEは、背側特異的遺伝子の大部分を発現し続けた(図4F)。現在の膵臓DDプロトコル(Xie et al.,2013)と比較すると、我々は、DE由来PEが、HHEX、HNF1b、RFX6、HNF4A、PDX1、PROM1及びPROX1の発現を通じて明らかなように、公開された「PGT」段階で膵臓表現型を採用したが、「PFG」段階で培養物がレチノイン酸に曝露されるまで、識別可能な背側同一性を有さなかったと結論づけた。前述のように、ISPAの結果を考慮すると、本発明は任意の特定の機序に限定されず、本発明を理解または実施するために機序の理解は必要ではないが、これは、以前これらのプロトコルに起因する背側表現型が、プロトコルの後期に集団を背側運命にリダイレクトした結果であることを意味する。
【0039】
DFE由来のPEからの内分泌膵臓の効果的な誘導は、時間に依存する
膵臓前駆体の同一性をさらに検証するために、DFE由来のPEを、膵臓系統特異的マーカーを用いて最終膵臓運命に対する前方の分化能について特性化した。内分泌細胞の最終分化のためのNOTCH経路阻害の重要性は周知である(Jensen et al.,2000、Afelik et al.,2012)ので、全てがNOTCH経路阻害剤(g-セクレターゼ阻害剤XX)を含み、単一のSMAD(Alk5阻害剤)及び二重SMAD阻害(Alk5i/LDN)を評価する、内分泌コミットメントに対するNOTCH阻害の時間的効果を、図5Aに概要を示した3つの培地入力を使用して評価した。条件にかかわらず、これらの培地は内分泌分化を誘導することができた。単一のSMAD阻害は、二重のSMAD阻害よりも好ましいように見え、SMAD阻害の非存在は、わずかに増加した腺房分化をもたらした(図5B~C)。複数の発生系(例として、体節形成、神経発達)は、NOTCHシグナル伝達の総持続時間に依存するため、膵臓誘導中、NOTCH経路が活性化するようになる時間の滞在時間を変化させた。顕著なことに、PE誘導の期間を延長すると、内分泌コンピテンスが低下した。これらのデータは、PDX1活性化後に培養がコンピテンスウインドウを通じて進行し、これが延長した場合、許容内分泌誘導条件下であっても内分泌運命の喪失をもたらすことを明らかにした(図5C)。注目すべきことに、PE段階で持続時間を増加させることにより、腺房に向かうコンピテンスが増加し、最終的に、管分化へのコンピテンスが増加した。CPB1、MIST1(BHLHA15)の発現を通じてアッセイしたように、腺房コンピテンスは、PE培養物が、NOTCH阻害を受ける前に5日間NOTCHシグナル伝達に関与することが可能であり続けたときに観察された(図5C)。これは、内分泌系統のコンピテンスが、まず腺胞前で時間的に調節され、続いて最終的に管系統に向かって調節されることを意味する(図14A及び14C)。F3、HNF1β及びPROM1の発現を通して観察されるように、管分化は、PE集団が活性NOTCHのPE状態に留まることを許容する期間が長いほど増加し(図5C)、NOTCHが管運命に対して許容的であることと一致した(Afelik et al.,2012)。
【0040】
背側型PE由来β細胞は胎児様である
内分泌運命への前方分化の条件が主にNOTCHシグナル伝達阻害に依存しており、QbDアプローチを用いて最適化されていないことを認めて、得られた内分泌出力を検査し、成熟状態も決定した。短い持続時間のPE状態(図6A)を用いて、TrPCプロ内分泌細胞を代表する細胞状態であり、機能的β細胞を生成するために必要なPDX1+/NKX6.1+共発現が、培養物全体にわたって生じたことを見出した(図6B)。マウスではないがヒトでは、NKX2.2は、ベータ細胞特異的であり、MPCによって発現されない。NKX2.2をインスリンCペプチドと共に、培養物全体のパッチ内で共発現させた。さらに、INS+/GCG+またはINS+/SST+を共発現する細胞では、複数の内分泌産物の誘導が観察された(図6B)。Cペプチド産生が増加するほど、培養物がNotch阻害に曝露する時間が長くなり、10日後に最大レベルが生じ、その後に安定した(図6C)。細胞集合体は、ジチゾン保持、結果としてZn2+負荷を実証した(図6D)。インスリン分泌をチャレンジさせたとき、KClは、検出可能なCペプチドレベルの4倍の増加を誘導したが、グルコースチャレンジ(2mM>20mM)は、Cペプチド分泌を誘導しなかった(図6E)。内分泌由来培養物のマイクロ流体評価は、約6%の検出可能なカルシウム流入を示し(図6F)、再びグルコース反応の非存在が観察された。古典的なGSIS及びマイクロ流体分析アッセイの結果は、一貫しており、インスリンを合成及び貯蔵することができる未熟なβ細胞生理学を実証したが、グルコース変動に応答するときの機能プロファイルは限られており、これは、APS-DE由来のβ細胞から以前に観察された胎児様β細胞状態の特性である(Hrvatin et al.,2014)。
【0041】
胎児様β細胞の誘導のための小分子法
PDX1Opt条件の検査により、レチノイン酸及びPD0325がそれぞれ31.38及び29.62の最も高い因子寄与度を有し(図7A)、試験した他の全てのエフェクターが低い因子寄与度<10であることが確認された。膵臓内分泌細胞誘導のための複雑性が最小限の方法を達成するために、DFE誘導のためのそのような構成要素(RA及びLDN(R/L))を、PDX1Opt(R A及びPD0325(R/P))の重要な構成要素と組み合わせ、最後に、NOTCH及びALK5阻害を使用した内分泌運命への変換で完了した。まず、HNF1βoptを使用したDFE誘導の後、アッセイした膵臓マーカーのR/Pの有意な増加が観察され、内分泌誘導が続いたときにこの増加が増幅された(図7B)。HNF1βOptを(R/L)工程の使用で置き換えると、膵臓遺伝子のさらなる増加が観察された。R/L工程、続いてPdx1opt条件を使用して、最も高いレベルの膵臓遺伝子INS、GCG、NKX6.1、CHGA、GLP1R、及びPDX1を生成した(図7B)。しかしながら、HNF1βOpt及びPDX1Optの両方がR/L及びR/Pと併せて置き換えられたときに匹敵する変化が観察された。INS、GCG、NKX6.1、CHGA、GLP1R及びPDX1発現のわずかな減少がこれらの条件下で観察されたが、NEUROD1、NGN3、PAX4、MAFA及びSSTの発現において中等度の代償的増加が観察された。我々は、多能性細胞の胎児β細胞への指向分化を、5つの小分子:RA、LDN3189、PD0325901、ガンマ-XX及びA8301を用いた3つの連続した段階を通じて迅速に達成することができると結論する。
【0042】
多能性細胞を領域化内胚葉集団(DFE)に迅速に変換することができる新しいプロトコルを実証した。この内胚葉集団は、背側膵像前駆細胞を形成し、5つの小分子のみの使用に依存する3段階のプロトコルを通じて内分泌変換を受けるコンピテンスを有する。
【0043】
RNA-Seqデータは、DFEが複数の遺伝子に基づく背側形質のものであることを実証した。Jennings et al.は、ヒトの発生中の膵臓の背側と腹側の同一性を調査し、13個の遺伝子の定義されたセットが背側膵臓と腹側膵臓との間を区別できることを示した。我々の解釈の基礎として、DFE集団は背側の運命と一致した。後の段階でのレチノイン酸の投与を用いて、この背側面をAPS-DEに注入した。DFEの場合、背側の同一性は膵臓に持ち越され、この状態は全ての膵臓系統の誘導に許容される。以前の研究では、DEは肝臓迷走運命を被っている(Mfopou et al.,2010)が、DFE由来の膵臓はそうではないことが実証しているが、我々は、DEが前庭部胃誘導に二分化能性であることを指摘している。これは、腹側膵臓が肝臓誘導のための二分化能性のコンピテンスを有するために予想される(Angelo et al.,2012、Deutsch et al.,2001、Tremblay and Zaret,2005、Bort et al.,2004)。初期の側板由来BMPは、この前駆細胞を肝臓運命に向けて指示し(Chung et al.,2008)、BMP4で処置したPEもまた、肝臓遺伝子を誘導した。対照的に、ISPA分析は、SHH及びレチノイン酸が、二分化能性膵臓/胃前駆細胞に影響を与える重要なプロセス入力であることを示唆した。これらの所見は、ヒヨコにおける背側膵臓特異化の以前の研究(Hebrok et al.,1998)と一致する。内胚葉集団の背側/腹側起源にかかわらず、DFE及びAPS-DEの両方は、内分泌細胞を生成することができる膵臓内胚葉を容易に生じる。APS-DE由来細胞について観察されるように、DFE由来内分泌細胞は、完全に成熟したグルコース応答性β細胞よりも、胎児β細胞に機能的に類似している。
【0044】
材料及び方法
細胞培養
多能性培養物をEssential8培地(Gibco A15169-01)に順応化させ、ビトロネクチン(Gibco A14700)コーティングプレート(Corning Inc.3598)上で増殖させた。分化実験は、1cmあたり75,000個の細胞で播種し、分化を開始させる前に培養物が約90%の集密度になるまで、E8培地中で48時間維持した。全ての増殖因子及び小分子を供給元の推奨に従って再構成し、アリコートを-80℃で最長1年間保管した。増殖培地は毎日交換され、DEプロトコルを除き、全ての分化実験で使用された基礎培地はCDM2であった(Loh et al.,2014)。APSOptは、250nMのLDN3189(Sellekchem S2618)、50ng/mlのアクチビンA(Peprotech 120-14)、20ng/mlのbFGF(Gibco 13256029)、100nMのSant1(Sellekchem S7092)から構成された。HNF1βOptに、250nMのLDN3189、500nMのA8301(Biogems 4463325)、12.6ng/mlのWnt3a(R&D5036WN/CF)、25ng/mlのbFGF、250nMのPD0325(Selleckchme S1036)、40ng/mlのSHH(Peprotech 100-45)及び2uMのレチノイン酸(Sigma Aldrich R2625)を補充した。前述の条件(Rezania et al.,2014、D’Amour et al.,2005)を使用して、DEを生成した。PDX1Optは、500nMのA8301、250nMのLDN3189、100nMのSant1、250nMのPD0325、2uMのレチノイン酸及び1% B27補助剤(Gibco 12587)で構成され、テキスト内で異なることが記載されている場合を除き、細胞を分化するのに3日間連続して使用した。内分泌プッシュ培地に、100nMのガンマ-セクレターゼ阻害剤XX(EMD Millipore 565789)及び500nMのA8301を補充した。胃オルガノイドは、修正プロトコルを使用して生成した(McCracken et al.,2014)。簡潔に言うと、HNF1βOpt培養物を、500ng/mlのWnt3a、500ng/mlのFGF4(R&D 7460-F4)、250nMのLDN3189及び2uMのレチノイン酸(RA初日のみ)を補充したステージ2培地で3日間インキュベートした。培養物を、1:4のマトリゲル(Fisher Scientific 354230)/CDM2混合物中で播種を行い、37℃で30分間インキュベートした後、2uMのレチノイン酸、250nMのLDN3189及び100ng/ml EGF(R&D 236-EG)から構成されたステージ3培地を3日間適用することによって3日間適用することによって1:6で継代させた。次いで、培養物を、100ng/mlのEGFで補充したステージ4培地で23日間補充した後、オルガノイドを回収し、切片化のために固定した。
【0045】
コンピュータモデリング
全てのDoE実験設計は、MODDEソフトウェア(Sartorius Stedim Data Analytical Solutions,SSDAS)におけるD-最適インターラクション設計を使用してコンピュータで生成した。Freedom Evo150リキッドハンドリングロボット(TECAN,CH)上で摂動マトリックスを生成した(96回の独立した実験を実施)。各DoE分化実験は、培地を毎日交換して、摂動マトリックスの3日間の適用を使用した。手動での予備的増殖及び播種、ならびに任意のロボット操作を含む全ての細胞培養物は、細胞培養条件のプロセス分析技術(PAT)を提供するモジュール式X-Vivoシステム(Biospherix,NY,USA)に含まれていた(%N、%O、%CO、ならびに実験プロセスの任意の時点での温度制御及びモニタリングを提供する)。エンドポイントデータ収集は、Open Array RT-QPCR法(QuantStudio,Life Technologies、53遺伝子/試料/カード)を使用して行った。QuantStudio遺伝子発現データを、Expression SuiteTM(Life Tech)内で正規化し、標準化し、MODDEにエクスポートした。分化空間の数学的モデリングを、説明される変動(explained variance)を最大化するPLSを使用してMODDEで実行し、その後、遺伝子特異的モデルをQ2最大化によって調整した。応答の最大化または最小化のための適合モデル最適化条件を、ソフトウェア予測ツール「オプティマイザー」及び「動的プロファイル」分析を使用して抽出した。仮想実験は、所望のパラメータに対する経路相対貢献に対処する、実験設計によってカバーされる既知の空間で行った。
【0046】
RNA及びcDNA調製物
モデリング分析用のRNA抽出は、MagMax-96 Total RNA Isolationキット(Life Technologies AM1830)を使用して行い、製造業者のプロトコルに従って行った。RNA試料の逆転写を、高容量cDNA RTキット(Life Technologies 4368814)により提供される反応条件を使用して行った。RNA SeqのためのRNA抽出及びQRT-PCRバリデーションは、トリゾール(Trizol)(Life Technologies 15596018)ベースの方法を使用して生じるRNA抽出を用いて、四通りで行った。次いで、OpenArrayバリデーション(モデリングではない)のために、cDNAをQuantStudio分析に供した。次いで、得られたデータをハウスキーピング遺伝子に正規化し、GraphPad Prism 5.02ソフトウェアを使用してグラフ化した。
【0047】
モデリング分析用のQRT-PCR
試料を、OpenArray AccuFill System(Life Technologies 4471021)を使用してカスタム設計のQuant Studio Cardに装填し、QuantStudio 12k Flex Real-Time PCR System(Life Technologies 4471090)上で実行した。QuantStudioオープンアレイ分析は、オープンアレイ構成ごとに選択された53個の遺伝子の発現情報を提供した。得られたデータは、ExpressionSuiteでQC評価を受け、増幅に失敗した任意の遺伝子を除去し、3つの内部標準に対して正規化した(内部標準は設計間で変更された)。初期の設計には、多能性の下流にある全ての主要なサブ系統の運命に応答する遺伝子が含まれていたが、後の設計は、膵臓の運命に重点を置いた内胚葉系統により焦点を当てていた。使用した全てのオープンアレイ設計について、プラットフォーム当たりのプライマー/TaqManプローブセットは、0.975以上の典型的な信頼性増幅(Cq Conf.)スコアを提供した。各モデリング実験は、約10,000個の個々の遺伝子発現応答データポイントを生成し、MODDE最適化はそれに基づいた。
【0048】
培養物の免疫組織化学分析
細胞培養物を周囲温度で4%パラホルムアルデヒド(EMD30525-89-4)溶液で15分間処理することによって、組織学的特性化を行った。次いで、0.5%の遮断試薬(Perkin Elmer FP1012)及び0.1%のTrintonX-100(Fisher Scientific BP151)を補充した0.1MのTris/HCl(Promega H5123)pH7.5を用いて試料を遮断し、1時間透過させた。全ての抗体溶液を0.1MのTris/HCl(Promega H5123)pH7.5で希釈し、一次抗体を一晩インキュベートし、二次抗体を1時間インキュベートした。全てのインキュベーションは、周囲温度で行った。培養物をVectashieldマウンティング培地(Vector Laboratories H-1200)の1:2希釈液で処理した。使用した特異的抗体及び希釈液を表1に示す。
【0049】
【表1-1】
【0050】
【表1-2】
【0051】
培養物は、一般に、それらが分化したTC培養小胞内で染色され、一方凝集体またはオルガノイドは固定され、OCT(Sakura4583)に埋め込まれ、その後染色前にクリオスタット切片化を行った。
【0052】
内分泌細胞の特性化
2mMのグルコースを補充したKrebs-Ringer緩衝液中の細胞を30分間インキュベートして、基底Cペプチドレベルを決定することによって、GSISアッセイを行った。これに続いて、反応緩衝液を、20mMのグルコースまたは30mMのKClのいずれかを補充したKrebs Ringer緩衝液に交換し、さらに30分間インキュベーションした。緩衝液試料を収集し、ELISA(Mercodia 10-1141-01)を使用して、製造業者のプロトコルに従ってC-ペプチドレベルを定量化した。マイクロ流体アッセイを、前述の通り(Adewola et al,2010、Wang et al.,2012)に行った。
【0053】
RNA Seq及びキー遺伝子解析
RNA試料を、シカゴ大学ゲノミクスコアによって配列決定した。HISAT2バージョン2.0.5ソフトウェアを使用して、FASTQファイルを参照hg19に対してアライメントさせた。アライメントされたリードの遺伝子数は、RefSeqアノテーションファイルを使用してHTSeqバージョン0.8.0によって生成した。差次的発現解析は、100万個あたり4カウントのカットオフを用いてedgeRバージョン3.18.1を使用して行った。KeyGenes解析は、公開されたプロトコルに従って提供されたトレーニングセットを使用して行った(Roost et al.,2015)。階層的クラスタリングは、示される全てのhESC派生物を含有する部分のみを用いて、87個のKeyGenes分類子遺伝子上のRパッケージgplot及びggplot2を有するRStudioソフトウェアを使用して実施した。差次的発現は、EdgeRパッケージを用いて決定し、ヒートマップはMicrosoft Excelソフトウェアを用いて生成した。
【0054】
実施例2
レチノイド化合物を使用したDFE細胞の生成
本実施例は、既知の生物活性を有するレチノイドを使用した、多能性幹細胞からの背側前腸内胚葉細胞の生成について記載する。本実施例はまた、TGFbアゴニズム、TGFb阻害及びレチノイドアゴニズムの協調活性を通じて、原腸形成中に内胚葉がどのようにパターン化されるかを記載する。
【0055】
結果
レチノイン酸は、レチノールをレチナールに変換し、最終的にレチノイン酸に変換する一連の連続的な酵素酸化反応を通じて体内で生成される。オールトランスレチノイン酸が分子の生物学的に関連する形態であることは一般に認められているが、レチノイン酸が長い共役骨格のため、多くの異性体形態で存在する。3つの一般的なアイソフォーム;7-シスレチノイン酸、13-シスレチノイン酸、及びオールトランスレチノイン酸が循環中に観察されており、これらの異なる異性体の血清比は、経時的に一貫していることが示されている。肝臓溶解物を使用した実験では、これらの異なる異性体間の変換が酵素的に調節されていることが示唆されているが、これらの変換に関与する酵素は明確に特定されていない。研究により、これらのアイソフォームは、RAR及びRXRに対する差次的な結合親和性を有することが示されている。レチノイン酸が細胞内に産生される、または細胞に入ると、レチノイン酸を4-オキソ-レチノイン酸に変換する酵素であるCyp26aの産生を誘導する。当初4-オキソ-レチノイン酸の産生は不活性化であると信じられていたが、いくつかの研究により、これらの4-オキソ-レチノイン酸がいくつかのレチノイン酸標的に対する差次的な結合親和性を有することが示された。総じて、これは、異なるレチノイン酸異性体が独自の生物学的活性を有し得ることを示唆する。
【0056】
レチノイン酸が指向分化プロトコルで使用される場合、使用される選択された形態は全てトランスレチノイン酸であるが、この分子は非常に不安定であり、経時的にまたは光に曝されると急速に分解される。時間及び光の両方が、異なるアイソフォームの混合物を作製し、レチノイン酸のエポキシ及びケト形態を生じ得る。これらのエポキシ及びケトレチノイン酸誘導体は、レチノイン酸結合部位に対する生物学的活性及び親和性を有することが示されている。これらを全て合わせると、インビトロ実験でレチノイン酸を使用する際に、異なる分化能を有するいくつかの潜在的な生物学的活性分子を生み出す。どのレチノイン酸アイソフォーム及び誘導体が背側前腸内胚葉を誘導することができるかを確定するために、DoEベースのISPAアプローチを使用した。
【0057】
4-オキソ及び9-シス-レチノイン酸の存在下でのBMP阻害はDFEを誘導する
図14Aに示すように、いくつかの既知の生物学的活性レチノイドを包含するDoE設計を作成した。ISPAベースの最適化を行ったとき(図4B)、試験したいくつかのレチノイドがHNF1β誘導に寄与したことが予測された。13-シスレチノイン酸(FC=24.1609で有意)及びオールトランスレチノイン酸(FC=2.77281で有意性が低い)の両方が、実際に、HNF1β誘導にマイナスの貢献を有していたのに対して、レチノイン酸の酵素分解形態である4-オキソ-レチノイン酸(FC=13.21)は、試験した全てのレチノイドの中で最も高い因子寄与を有していたことが予測された(図4B)。ISPAを検証するために、いくつかの主要なDFE遺伝子の転写物解析実施した。LDN193189の存在下で最も高い寄与因子を有すると予測される2つのレチノイドから構成される新しいオプティマイザーが、元のHNF1βOptと同じレベルまでHNF1βを活性化し得ることが示された(図14C及びD)。この新しいHNF1βOptの表現型は、MNX1、SFRP5、OSR1、ONECUT1、MYT1、FOXA2及びFRZBを含むいくつかの以前に記載されたDFEマーカーの活性化によってさらに確認された(図14C及びD)。4-オキソ-レチノイン酸を新たに再構築されたレチノイン酸で置き換えることにより、DFE遺伝子のいくつかを活性化することができたが、著しく低いレベルまでであった。LDN193189を分化培地配合物から除去したところ、ほとんどのDFE遺伝子マーカーが活性化されなかったことが示されたが、原腸形成遺伝子NODALを含むレチノイドを用いていくつかの内胚葉遺伝子(OSR1、ONECUT1、MYT1、CDX2、データ図示せず)を活性化することができ(図4C及びD)、異なるパターン化された内胚葉が誘導されていることが示唆された。
【0058】
レチノイン酸の全ての異性体は、NODALシグナル伝達を誘導することができる
ほとんどの指向分化プロトコルは、インビトロ原腸形成イベントを誘導するためのNodal模倣物としてアクチビンAを使用して内胚葉を生成するが、正常な胚発生の間、原始線条形成は、NodalではなくアクチビンAで開始される。以前の研究では、NodalとアクチビンAのシグナル伝達は同等ではなく、Nodalシグナル伝達を介して生成される胚体内胚葉は、アクチビンAによって生成される胚体内胚葉とは異なることが示されている。レチノイドシグナル伝達のための我々のISPAモデルは、BMP阻害の非存在下でレチノイド酸がNODALを活性化することができることを予測したため、次に、NODAL誘導内胚葉形成をNODALのレチノイン酸誘導に対して評価した。BMP4、アクチビンAまたはレチノイン酸のいずれかの存在下で、NODAL及びCRIPTO(NODALの結合パートナー)で補充した分化培地を用いた反応を、我々のISPAベースのNODALOptと比較した(図15A)。試験した全ての反応は、早期及び中期の原腸形成マーカーのNODAL及びALDH1A2をそれぞれ誘導することができたが、最も低いレベルがNODALOptに曝露された培養物で観察されたことに留意された(図15B)。以前の観察と一致して、腹側マーカーHHEXは、レチノイン酸を欠く全ての反応において誘導されたが、しかしながら、古典的な胚体内胚葉マーカーSOX17の最高の誘導は、レチノイン酸ベースのNODALOptに曝露された培養物において生じた(図B及びC)。レチノイン酸で補充した全ての分化反応は、DFEマーカーHNF1β、MNX1、SFRP5及びOSR1の最も高い誘導を示したが、得られたレベルは、BMP阻害の非存在下では、より低い桁であった(図15B)。
【0059】
次に、研究されているインビトロで産生された内胚葉集団がどのようにパターン化されているかをよりよく理解するために、フォローアップのDoEベースの原腸形成モデリング実験を行った(図16A)。次いで、測定した全ての個々の内胚葉遺伝子に対するISPA最適化を、Seurat Rパッケージを使用してクラスター分析に供した(図16B)。この分析は、レチノイン酸及びLDN193189によってパターン化された、DFEを含有する単一のクラスターからなる4つの異なる群に全てのオプティマイザーを分割した(図16C及び図17)。別のクラスターは、Nodal/Bmp4によってパターン化され、主に前方及び中腸の運命に向かってパターン化された内胚葉から構成されたが、後腸マーカーCDX2は、このクラスター内で上昇した(図16C及び図17)。Nodal/アクチビンAによってパターン化されたクラスターは、腹側及び後方の運命に向かってパターン化された内胚葉からなった(図16C及び図17)。この実験全体を通してアッセイされた個々の遺伝子に対する因子寄与を考慮すると、(GSCを除く)前方及び背側の遺伝子は、一般的に、アクチビンAの存在下では活性化されないことに留意されたい(図17)。またこれらの前方または背側内胚葉遺伝子のうちのいくつかは、Nodal/レチノイン酸またはNodal/BMPの相乗効果を通じて活性化されることが予測されるが、DFE、HNF1b、MNX1、HNF6、OSR1及びSFRP5の遺伝子マーカーは、Nodalの非存在下でレチノイン酸を使用して誘導されるのが最適であることに留意することが重要である。
【0060】
結論
NODALOptは、レチノイン酸の全ての生物学的に関連する異性体(9-シス、13-シス、及びオールトランス)に強い寄与因子を有するが、cyp26a1阻害剤タラロゾールにも重要な因子寄与を有し、それらのそれぞれの4-オキソ形態への触媒変換が生じないことを保証する(図15A)。これは、レチノイン酸の13-シス形態もオールトランス形態も許容されないが、4-オキソ代謝産物及び9-シスが必要であるHNF1βOptとは対照的である(図14B)。これらを総合すると、レチノイン酸は、レチノイン酸の異性体が使用される場合にはNodalに依存して、または4-オキソ-レチノイン酸が使用される場合にはNodalとは独立に、DFE表現型を誘導することが可能であるが、レチノイン酸が4-オキソ-レチノイン酸に酵素的に分解された後にDFEの最適な誘導が行われることが示唆される。これは、元のHNF1βOptが不要な一過性NODAL誘導を介して生じ得ることを意味するが、レチノイン酸がcyp26a1を誘導すると、いかなるNodal産生も停止する。これらを総合すると、最適なDFE誘導は、Nodalシグナル伝達の非存在下で生じることが示されている。
【0061】
実施例3
免疫組織化学を用いたDFEオプティマイザー条件の検証。
【0062】
DFEマーカーの誘導条件をさらに検証するために、免疫染色を行い、続いてハイコンテントイメージングを行い、変換効率を評価した。レチノイン酸経路の代替アゴニストを試験することにより、4-オキソ-レチノイン酸と9-シスレチノイン酸との混合物を利用することが、完全なHNF1βOpt条件と同様に有効であることが示される。また、光安定性RAアゴニストのEC23は、RA及び4-オキソ/9-シス条件と同等に動作する。
【0063】
実施例4
nodal、BMP、及びレチノイン酸からの相対的な入力に基づいて、内胚葉誘導及び多能性から派生する複数の内胚葉運命の特定に関連する重要なプロセスパラメータの評価。
【0064】
アクチビンA(AA)、BMP4、NODAL、レチノイン酸及びそれぞれの阻害剤を組み込んだHD-DoE設計を多能性培養物に使用し、主要な内胚葉遺伝子を監視した(図16)。得られたデータを解析ソフトウェアにインポートし、モニタリングした全ての遺伝子を活性化するための最適な培養条件を予測するコンピュータモデルをクラスター化した(図19B)。全てNODALを許容する4つの明確な内胚葉集団が予測された。対応するリッジプロット(図19A)は、レチノイン酸シグナル伝達が、クラスター0及びクラスター1(それぞれ赤色及び緑色クラスター)によって定義される内胚葉集団の誘導に寄与することを実証している。クラスター0は、以前に特性化されたレチノイン酸及びBMP阻害のCPPを伴う背側前腸内胚葉であり、クラスター1は、Nodal、BMP及びレチノイン酸の組み合わせ効果を通じて生成され、パターン化される、以下に記載される前方内胚葉集団である。クラスター2(青色クラスター)のみが、AAに依存することが見出され、なぜなら、AAの濃度がクラスター1及び3(緑色クラスター及び紫色クラスター)の両方において非常に可変であり、AAシグナル伝達を特異的に標的とするAlk4/5/7阻害剤A8301は、クラスター0、1及び3において高レベルで存在するためである。A8301は、非阻害シグナル伝達を可能にする提案されたAA駆動型クラスター2(青色クラスター)には本質的に存在しない。同様のパターンは、クラスター1(緑色クラスター)のみが、選択的経路阻害剤(この場合、ALK2/3阻害剤LDN193189の不在)を提供することなく高レベルのBMP4の両方を有するBMP4シグナル伝達で観察されている(図19)。ALK1/2/6阻害剤K02288は、クラスター1内で許容され、BMP4シグナル伝達が、この内胚葉集団内のALK3受容体を介して生じることを示唆する。Nodalは、提案されたAA及びBMP4駆動型クラスターのそれぞれで、クラスター2(青色クラスター)及びクラスター1(緑色クラスター)の2つの最強の寄与を有する全てのクラスターに存在することが示された。Nodalは、Nodalシグナル伝達に古典的に起因するSmad2/3媒介AA経路のいずれかを介してシグナル伝達することができ、Nodalがより最近活性化することが示されたSmad1/5/8BMP駆動型シグナル伝達形質導入経路で役割を果たす可能性があることを示唆する。また、クラスター0及び3は共に、エフェクターAA、BMP4及びNodalならびにそれらのそれぞれの阻害剤の有意な寄与を有することが示されたことを考慮すると、内胚葉パターン化は、非カノニカルTGF-βシグナル伝達から強力な寄与を有し得ることを意味する。
【0065】
実施例5
領域特異的遺伝子の解析による前方ドメイン内胚葉集団の特定。
【0066】
我々は、図16及び図19Bで同定した特定のクラスターの表現型をさらに明らかにしようとした。図20は、4つの主要なクラスター内の特異的遺伝子の位置を明らかにしている。まず、クラスター0が以前に特定されたDFEを表すことを示している。図20B及び図21で見ることができるように、腹側マーカーHHEXはほとんど存在せず、背側マーカーMNX1は、クラスター0で排他的に発現される。SFRP5及びHNF1βは共に、クラスター0を超えてより広い発現を有し、クラスター1内にも存在する。これは、SFRP5及びHNF1βは腸管の背側部に限定されず、前方領域全体及び中腸全体にわたって発現するためである。クラスター1は、DFE及び標準的な文献で誘導されたDE(クラスター2によって表される)とは異なる内胚葉集団を表す。特異的なマーカー発現により、前方遺伝子TBX1、PAX9及びOSR1の発現パターンに起因して、クラスター1は腸管の前方/中腸領域を代表する内胚葉集団を表す、と我々は判断した(図20C及び図21)。ここでは、この集団を前方ドメイン内胚葉(ADE)と呼ぶ。発生において、TBX1及びPAX9の両方が前方咽頭領域で発現され、OSR1が咽頭全体を通して及び中腸で発現される(図20C及び図21)。
【0067】
ADEの重要なプロセス入力は、リッジプロット分析によって調べられる(図19A)。ADEの誘導は、BMP阻害の非存在下でのNodal、BMP及びALK5の阻害の提供に最も依存する。これは、RAシグナル伝達の入力に耐性がある。この入力セットは、他のタイプの内胚葉にはない明確なBMP依存性特徴を明らかにする。リッジプロットは、ADEの誘導のためのレチノイン酸及びNodalの明確な寄与を示すが(図19A)、酵素ALDH1A2を生成するRAは発現せず、Nodalは、クラスター1全体を通して変化した発現を有する。ALDH1A2の欠如は、レチノイン酸産生がより後方の中原腸形成において始まるため、より前方部を表すこの集団の一貫性がある。したがって、前方内胚葉のパターン化のいずれの関与も、胚内のレチノイドの拡散を通じて達成することができる。Nodal発現の欠如は、原始線条の最も前方の領域が最初に原腸形成を終了していると考えられるという事実に起因し得るが、これは、この集団が既に原始線条表現型を終了しているが、Nodalに対する応答性を保持していることを暗示する。結論として、我々は、新規の内胚葉型を定義し、その誘導は、根底にあるその発生を入力する。
【0068】
実施例6
特異的内胚葉発現遺伝子に関連する重要なプロセスパラメータの比較
前方/中腸内胚葉集団の生成におけるNodal及びBMP4シグナル伝達の重要性をより深く理解するために、TBX1、PAX9及びOSR1の最適化のための全ての予測モデルを編纂した(図22)。TBX1及びPAX9オプティマイザーを通じて示されるように、Nodal及びBMP4の両方とも、前方内胚葉の活性化に対する等しい平均累積寄与を示した。一方、より広く発現されたOSR1(中腸の前方)は、BMP4は依然として有意な寄与を有していたが、Nodalシグナル伝達に対してはるかに強い応答を示した。これは、腸管パターン化がより遠位で起こるほど、BMPシグナル伝達寄与が減少することを意味する。咽頭または胃の子孫を生成する全ての以前の努力はAAの初期使用に依存していたため、AAはTBX1、PAX9またはOSR1を誘導することにほとんどまたはまったく貢献しなかったことに留意することが重要である(図22)。今度は、AAが、APOB、CDX2及びSOX17の選択された例示的なオプティマイザーを通じてそれぞれ示されるように、中腸、後方及び腹側内胚葉の運命を表す選択された遺伝子において増加したエフェクター寄与を有したことが留意された(図22)。これは、文献で通常遭遇するAA入力がより後方の内胚葉部を作り出す役割を果たすことを示している。
【0069】
次に、我々は、測定された内胚葉遺伝子のうち、どの遺伝子がそれぞれのTGFβアゴニストに応答したかを直接定義するために、腸管に沿った別個の領域を定義することができる測定された全ての主要な内胚葉遺伝子に対してISPAを行った。次いで、それぞれのエフェクター因子寄与を正規化し、AA、Nodal、BMP4及びRAについて、最も応答性の高い遺伝子から最も応答性の低い遺伝子まで順位付けした(図23)。RAがDFEの生成に中心的な役割を果たすという我々の以前の知見は、HNF6、HNF1β、SFRP5、及びMNX1が全てRAによって高度に調節され、AAによって阻害されることが示されたことで再度検証された(図23)。ADE、Nodal、BMP4及びRAを生成するための条件と一致して、全て、AAから高度にマイナスの寄与、それぞれ-0.59、-0.85及び-1.0の正規化された因子寄与で、TBX1、PAX9及びOSR1の活性化に関与することが示されている。AA及びNodalが重複する機能を有するという現在の仮説と一致して、入力ロジックが重複するいくつかの遺伝子が2つのエフェクター間で観察された。これらには、原始線条遺伝子GSC及びNODAL(NODALは、図23には示されていないが、図21に示されている)、中腸遺伝子NR5A2、CDX2及びPROX1、ならびに腹側局在化遺伝子BMP4及びSOX17が含まれた。
【0070】
BMP4及びNODALの両方がAAによって活性化されることが示されているので、我々は、次に、RNA Seqデータを使用して、どのTGFβファミリーリガンドが古典的DE及び新規のDFEプロトコルの両方で活性化されるかを評価した。AAとの多能性培養物のインキュベーションにより、TDGF1、LEFTY1/2、NODAL、BMP1/2/4/7、及びTGFβ1を含むいくつかのTGFβファミリーメンバーの内因性発現を誘導することが示され、AA内胚葉誘導のためのより広い効果に起因する以前の所見をおそらくは説明する(図24A)。DEの生成による高レベルのNodalのこの誘導は、IHCベースのタンパク質検出によって確認された(図24B)。一方、多能性細胞のRA/LDN処理は、BMP1/2/4/7、GDF11、AMH及びTGFβ2の選択的活性化をもたらした(図24)。このレチノイン酸媒介性BMP誘導は、DFEプロトコルの背側化におけるLDNの重要性を説明する。総じて、前方から中腸管に沿ったNODAL及びBMPパターン内胚葉ならびにAA応答性遺伝子が、原始線条、腹側中腸及びより後方の領域をより代表することを、我々は実証する。AAに応答しないいくつかのNodal/BMP/RA応答性遺伝子の選択的活性化のためのオプティマイザーを、図25に例として挙げる。
【0071】
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【0072】
本明細書で言及される、及び/または以下に列挙される全ての刊行物及び特許は、参照により本明細書に組み込まれる。本発明の記載された方法及びシステムの様々な修正及び変形は、本発明の範囲及び精神から逸脱することなく当業者に明白であろう。本発明は、特定の実施形態に関連して説明されてきたが、請求される本発明は、そのような特定の実施形態に過度に限定されるべきではないことを理解されたい。実際に、関連分野の当業者にとって明白な、本発明を実施するための記載されたモードの様々な修正は、本明細書に記載される範囲内であることが意図される。
図1
図2-1】
図2-2】
図2-3】
図2-4】
図3
図4-1】
図4-2】
図4-3】
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
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図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
【国際調査報告】