(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-21
(54)【発明の名称】糞便試料中の希少なDNA配列の検出方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/11 20060101AFI20220713BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20220713BHJP
C12Q 1/6886 20180101ALI20220713BHJP
C12Q 1/689 20180101ALI20220713BHJP
C12Q 1/6869 20180101ALI20220713BHJP
【FI】
C12N15/11 Z
C12Q1/686 Z ZNA
C12Q1/6886 Z
C12Q1/689 Z
C12Q1/6869 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021569856
(86)(22)【出願日】2020-05-26
(85)【翻訳文提出日】2022-01-06
(86)【国際出願番号】 US2020034511
(87)【国際公開番号】W WO2020237238
(87)【国際公開日】2020-11-26
(32)【優先日】2019-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518399276
【氏名又は名称】アメリカン モレキュラー ラボラトリーズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】チャン ホンジュン
(72)【発明者】
【氏名】チョウ イ
(72)【発明者】
【氏名】カクトゥル ラジャラオ
(72)【発明者】
【氏名】チョン ザオゾン
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA18
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ42
4B063QR32
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4B063QR55
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS34
4B063QX02
(57)【要約】
本開示は、病原性細菌種または疾患に関連する遺伝的変異体からの低コピー数DNA配列など、糞便試料中の低コピー数DNA配列を同定するための方法および物質を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
糞便試料中の低コピー数DNA配列を同定する方法であって、
対象から糞便試料を取得する工程と、
DNA調製物を得るために前記糞便試料からDNAを抽出する工程と、
ハイブリダイゼーション複合体を形成するために、前記DNA調製物において、標識されたオリゴヌクレオチドプローブを非病原性細菌DNA配列にハイブリダイズする工程と、
前記DNA調製物から前記ハイブリダイゼーション複合体を枯渇させる工程と、
前記DNA調製物中の前記低コピー数DNA配列の存在を同定する工程と
を含み、
前記DNA調製物中の前記低コピー数DNA配列の同定が、前記低コピー数DNA配列が前記糞便試料中に存在することを示す、方法。
【請求項2】
前記低コピー数DNA配列が、ピロリ菌(H. pylori)DNA配列である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記低コピー数DNA配列が、ヒトDNA配列である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ヒトDNA配列が、がん状態または前がん状態と関連している、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記非病原性細菌DNAが、バクテロイデス属(Bacteroides)、クロストリジウム属(Clostridium)、フィーカリバクテリウム属(Faecalibacterium)、またはそれらの組み合わせに由来する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記標識されたオリゴヌクレオチドプローブが、前記非病原性細菌DNAの保存領域に相補的である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記標識がビオチンである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記ビオチン標識されたハイブリダイゼーション複合体をストレプトアビジン被覆基体と共にインキュベートする工程をさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ストレプトアビジン被覆基体が、ビーズ、カラム、または膜を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記ストレプトアビジン被覆基体が、磁気ビーズを含み、前記ハイブリダイゼーション複合体が、磁界を使用して前記DNA調製物から枯渇される、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記ハイブリダイゼーション複合体が、遠心力を使用して前記DNA調製物から枯渇される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記非病原性細菌DNAが、バクテロイデス・フラジリス(Bacteroides fragilis)、バクテロイデス・メラニノゲニクス(Bacteroides melaninogenicus)、バクテロイデス・オラリス(Bacteroides oralis)、またはそれらの組み合わせに由来する、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記標識されたオリゴヌクレオチドプローブが、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、または配列番号8から選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
低コピー数DNA配列を同定する工程が、前記DNA配列を配列決定することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
低コピー数DNA配列を同定する工程が、定量PCR反応を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
低コピー数DNA配列を同定する工程が、前記試料を一つ以上の追加試料と多重化することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記糞便試料から抽出されたDNAが、約0.5グラム~約1.0グラムの重量である、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
総DNAが前記糞便試料から抽出される、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記DNAを抽出する工程が、溶解緩衝液中で前記糞便試料をビーズ粉砕することを含み、前記溶解緩衝液が、細菌細胞壁を破壊すること、タンパク質を消化すること、タンパク質を変性すること、脂肪を分散すること、多糖類を沈殿させること、またはそれらの組み合わせが可能な成分を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
糞便試料中の低コピー数DNA配列を濃縮する方法であって、
対象から糞便試料を取得する工程と、
DNA調製物を得るために前記糞便試料からDNAを抽出する工程と、
ハイブリダイゼーション複合体を形成するために、前記DNA調製物において、標識されたオリゴヌクレオチドプローブを非病原性細菌DNA配列にハイブリダイズする工程と、
前記DNA調製物から前記ハイブリダイゼーション複合体を枯渇させる工程と
を含む、方法。
【請求項21】
糞便試料中の抗生物質耐性ピロリ菌を同定する方法であって、
対象から糞便試料を取得する工程と、
DNA調製物を得るために前記糞便試料からDNAを抽出する工程と、
ハイブリダイゼーション複合体を形成するために、前記DNA調製物において、標識されたオリゴヌクレオチドプローブを非病原性細菌DNA配列にハイブリダイズする工程と、
前記DNA調製物から前記ハイブリダイゼーション複合体を枯渇させる工程と、
前記DNA調製物中のピロリ菌DNAの領域の多重コピーを生成するために、前記ピロリ菌DNAの前記領域を増幅する工程と、
前記ピロリ菌DNAの前記増幅領域の前記多重コピーを配列決定する工程と、
前記ピロリ菌DNAの前記増幅領域の前記多重コピーの配列を、参照配列と比較する工程と、
前記ピロリ菌DNAの前記領域の前記多重コピーにおける突然変異の存在を同定する工程と、
前記突然変異を有する前記ピロリ菌DNAの前記領域の前記多重コピーの数を決定する工程と
を含み、
前記突然変異を有する前記ピロリ菌DNAの前記領域の前記多重コピーの前記数が所定量を超えるときに、抗生物質耐性ピロリ菌が前記試料中に存在する、方法。
【請求項22】
糞便試料中の低コピー数DNA配列を含む次世代配列決定ライブラリを調製する方法であって、
対象から糞便試料を取得する工程と、
DNA調製物を得るために前記糞便試料からDNAを抽出する工程と、
ハイブリダイゼーション複合体を形成するために、前記DNA調製物において、標識されたオリゴヌクレオチドプローブを非病原性細菌DNA配列にハイブリダイズする工程と、
前記DNA調製物から前記ハイブリダイゼーション複合体を枯渇させる工程と、
前記枯渇させたDNA調製物において一つ以上の単位複製配列を増幅する工程と
を含む、方法。
【請求項23】
ヒト対象においてがんを検出する方法であって、
対象から糞便試料を取得する工程と、
DNA調製物を得るために前記糞便試料からDNAを抽出する工程と、
ハイブリダイゼーション複合体を形成するために、前記DNA調製物において、標識されたオリゴヌクレオチドプローブを非病原性細菌DNA配列にハイブリダイズする工程と、
前記DNA調製物から前記ハイブリダイゼーション複合体を枯渇させる工程と、
前記試料中の一つ以上の希少ながん関連DNA配列の存在を検出する工程と
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は2019年5月23日に出願された米国特許出願第62/852,018号の恩典を主張するものであり、その内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
分野
本開示は、概して、糞便試料中の希少DNA配列を検出するための方法および組成物を提供する。
【0003】
配列表
本出願は、ASCII形式で電子的に提出された配列表を含み、その全体は参照により本明細書に組み込まれる。2020年5月26日に作成された当該ASCIIコピーは、「116110-5005-WO_ST25_Sequence_Listing」と名付けられ、サイズは8キロバイトである。
【背景技術】
【0004】
背景
糞便は容易に入手でき、代謝廃棄物の豊富な供給源である。糞便は、腸管内腔と血液循環との間を遊走するマクロファージおよびリンパ球を含む数百万の宿主細胞と共に、哺乳類の消化管内に常駐する数兆もの微生物を含有する。ヒト腸内微生物叢に関して増えつつある知識は、消化管内の細菌分類群の組成が、神経学、精神医学、呼吸、心血管、胃腸、肝臓、自己免疫、代謝および腫瘍学などの領域の多数の障害を伴う、ホメオスタシスおよび疾患にとって重要であることを示す。さらに、糞便中に存在する異常な宿主細胞は、疾患の遺伝的シグネチャを有する。したがって、糞便は、病原体検出、腸内微生物叢分析、および疾患診断のための貴重かつ非侵襲的な生体材料の供給源を提供し、診断、疾患予測、および治療的介入において貴重な応用の可能性を秘めている。
【0005】
糞便分析の従来的な方法は、生化学的、免疫化学的、遺伝的(DNAまたはRNA)、および/または顕微鏡的分析と組み合わせた微生物培養を含む。しかしながら、一部の糞便微生物は培養が困難であり、糞便中の正常な共生細菌の大部分は、希少な種の検出を妨げうる高いバックグラウンドを呈するため、糞便物質の培養に基づく方法は限定される。さらに、微生物培養は、糞便試料中の少量のホスト物質の分析を促進しない。
【0006】
ある一定の遺伝学的技術は、標的物質を増幅するので、PCR、定量PCR、およびDNA/RNA配列決定を含む培養を必要としない。特に注目すべきは、次世代配列決定(NGS)が、配列レベルで複雑な微生物群を有する試料中の遺伝子およびゲノムの評価を容易にすることである。しかしながら、これらの方法は、試料中に存在する正常細菌のDNAのバックグラウンドが高いことから複雑である。糞便中のDNAの最も多い部分は、正常な腸内微生物叢であり、糞便の乾燥重量の60~70%を表す。したがって、ショットガンNGS法が糞便試料について実施されるとき、膨大な量の有益でないバックグラウンド読取値が正常な腸内微生物叢から生成され、正確な検出および分析を複雑にするかまたは妨げ、コストを上昇させる。さらに、糞便は、DNAおよびRNAを分解する大量のヌクレアーゼ、その後の分子解析を妨げる様々な核酸混入物、およびその後のPCR増幅およびNGS手順を妨げる多くの阻害物質を含有するため、分子解析のための高品質のDNAおよびRNAを得るのが最も困難な生物試料の一つである。
【0007】
したがって、当該技術分野において、糞便試料中の希少な(例えば、低コピー数の)DNA種を検出する方法、およびこれらの方法を実施するための組成物に対する必要性がある。
【発明の概要】
【0008】
概要
本開示は、例えば、病原性細菌種からの低コピー数DNA配列を含む、糞便試料中の低コピー数DNA配列を同定するための方法および物質に関する。一部の実施形態では、本開示は、糞便試料中のがんなどの疾患に関連する低コピー数遺伝的変異体の同定に関する。さらなる実施形態では、本開示は、定量的手段もしくは半定量的手段による検出のために、または配列決定による検出のために、低コピー数DNA配列を濃縮する方法に関する。本開示はまた、糞便試料からの低コピー数DNA配列を含む配列決定ライブラリを調製するための方法および組成物に関する。さらに、本開示は、標識されたオリゴヌクレオチドを使用して試料中の十分な細菌種を枯渇させるための組成物およびキットに関する。
【0009】
上述の実施形態または後述の実施形態の各々またはいずれかの一部の実施形態では、本開示は、糞便試料中の低コピー数DNA配列を同定するための方法および組成物を提供し、対象から糞便試料を取得する工程と、DNA調製物を得るために糞便試料からDNAを抽出する工程と、ハイブリダイゼーション複合体を形成するために、DNA調製物において、標識されたオリゴヌクレオチドプローブを非病原性細菌DNA配列にハイブリダイズする工程と、DNA調製物からハイブリダイゼーション複合体を枯渇させる工程と、DNA調製物中の低コピー数DNA配列の存在を同定する工程と、を含み、DNA調製物中の低コピー数DNA配列の同定は、低コピー数DNA配列が糞便試料中に存在することを示す。
【0010】
上述の実施形態または後述の実施形態の各々またはいずれかの一部の実施形態では、本開示は、ピロリ菌(H. pylori)DNA配列などの病原性細菌種から低コピー数DNA配列を同定するための方法および組成物を提供する。その他の実施形態では、本開示に従って同定される低コピー数DNA配列は、疾患関連遺伝的変異体などのヒトDNA配列である。特定の実施形態では、疾患関連遺伝的変異体は、がん、例えば、結腸がんと関連している。
【0011】
上述の実施形態または後述の実施形態の各々またはいずれかの一部の実施形態では、本開示は、糞便試料中に存在する一つ以上の非病原性細菌種のDNA配列を枯渇させるための方法および物質を提供し、非病原性細菌種は、バクテロイデス属(Bacteroides)、クロストリジウム属(Clostridium)、フィーカリバクテリウム属(Faecalibacterium)、またはそれらの組み合わせを含む。一部の実施形態では、非病原性細菌種は、バクテロイデス・フラジリス(Bacteroides fragilis)、バクテロイデス・メラニノゲニクス(Bacteroides melaninogenicus)、バクテロイデス・オラリス(Bacteroides oralis)、またはそれらの組み合わせを含む、バクテロイデス属を含む。
【0012】
上述の実施形態または後述の実施形態の各々またはいずれかの一部の実施形態では、本開示は、DNA調製物において、標識されたオリゴヌクレオチドプローブを非病原性細菌DNA配列にハイブリダイズして、ハイブリダイゼーション複合体を形成することを含む、糞便試料中の低コピー数DNA配列を同定するための方法および組成物を提供する。実施形態では、標識されたオリゴヌクレオチドプローブは、非病原性細菌DNAの保存領域に対して相補的である。さらなる実施形態では、標識されたオリゴヌクレオチドプローブは、ビオチン標識を含む。
【0013】
上述の実施形態または後述の実施形態の各々またはいずれかの一部の実施形態では、本開示は、ビオチン標識されたハイブリダイゼーション複合体をストレプトアビジン被覆基体と共にインキュベートする工程を含む、糞便試料中に存在する一つ以上の非病原性細菌種のDNA配列を枯渇させるための方法および物質をさらに提供する。特定の実施形態では、ストレプトアビジン被覆基体は、ビーズ、カラム、または膜を含む。一部の実施形態では、ストレプトアビジン被覆基体は、磁気ビーズを含み、ハイブリダイゼーション複合体は、磁界を使用してDNA調製物から枯渇される。一部の実施形態では、本開示のハイブリダイゼーション複合体は、遠心力を使用してDNA調製物から枯渇される。
【0014】
上述の実施形態または後述の実施形態の各々またはいずれかの一部の実施形態では、本開示の標識されたオリゴヌクレオチドプローブは、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、または配列番号8から選択される。
【0015】
上述の実施形態または後述の実施形態の各々またはいずれかの一部の実施形態では、DNA調製物中の低コピー数DNA配列の存在を同定する工程は、DNA配列を配列決定することを含む。特定の実施形態では、DNA調製物中の低コピー数DNA配列の存在を同定する工程は、定量PCR反応を含む。さらなる実施形態では、配列決定または定量PCR反応は、複数の糞便試料から調製されたDNAで多重化される。
【0016】
上述の実施形態または後述の実施形態の各々またはいずれかの一部の実施形態では、DNA調製物を得るために糞便試料からDNAを抽出する工程は、溶解緩衝液中で糞便試料を均質化するビーズを含み、溶解緩衝液は、細菌細胞壁を破壊する成分、タンパク質を消化する成分、タンパク質を変性する成分、脂肪を分散する成分、多糖類を沈殿させる成分、またはそれらの組み合わせを含む。一部の実施形態では、総DNAが糞便試料から抽出される。さらなる実施形態では、糞便試料から抽出されたDNAは、約0.5グラム~約1.0グラムの重量である。
【0017】
上述の実施形態または後述の実施形態の各々またはいずれかの一部の実施形態では、本開示は、糞便試料中の低コピー数DNA配列を濃縮するための方法および組成物を提供し、対象から糞便試料を取得する工程と、DNA調製物を得るために糞便試料からDNAを抽出する工程と、ハイブリダイゼーション複合体を形成するために、DNA調製物において、標識されたオリゴヌクレオチドプローブを非病原性細菌DNA配列にハイブリダイズする工程と、DNA調製物からハイブリダイゼーション複合体を枯渇させる工程と、を含む。
【0018】
上述の実施形態または後述の実施形態の各々またはいずれかの一部の実施形態では、本開示は、糞便試料中の抗生物質耐性ピロリ菌を同定する方法および組成物を提供し、対象から糞便試料を取得する工程と、DNA調製物を得るために糞便試料からDNAを抽出する工程と、ハイブリダイゼーション複合体を形成するために、DNA調製物において、標識されたオリゴヌクレオチドプローブを非病原性細菌DNA配列にハイブリダイズする工程と、DNA調製物からハイブリダイゼーション複合体を枯渇させる工程と、DNA調製物中のピロリ菌DNAの領域を増幅する工程と、ピロリ菌DNAの増幅領域の多重コピーを配列決定する工程と、ピロリ菌DNAの増幅領域の多重コピーの配列を参照配列と比較する工程と、ピロリ菌DNAの領域の多重コピーにおける突然変異の存在を同定する工程と、突然変異を有するピロリ菌DNAの領域の多重コピーの数を決定する工程と、を含み、突然変異を有するピロリ菌DNAの領域の多重コピーの数が所定量を超えるとき、試料中には抗生物質耐性ピロリ菌が存在する。
【0019】
上述の実施形態または後述の実施形態の各々またはいずれかの一部の実施形態では、本開示は、糞便試料中の低コピー数DNA配列を含む次世代配列決定ライブラリを調製する方法を提供し、対象から糞便試料を取得する工程と、DNA調製物を得るために糞便試料からDNAを抽出する工程と、ハイブリダイゼーション複合体を形成するために、DNA調製物において、標識されたオリゴヌクレオチドプローブを非病原性細菌DNA配列にハイブリダイズする工程と、DNA調製物からハイブリダイゼーション複合体を枯渇させる工程と、NGS配列決定ライブラリを形成するために、枯渇させたDNA調製物において一つ以上の単位複製配列を増幅する工程と、を含む。
【0020】
上述の実施形態または後述の実施形態の各々またはいずれかの一部の実施形態では、本開示は、対象におけるがんを検出する方法を提供し、方法は、対象から糞便試料を取得する工程と、DNA調製物を得るために糞便試料からDNAを抽出する工程と、ハイブリダイゼーション複合体を形成するために、DNA調製物において、標識されたオリゴヌクレオチドプローブを非病原性細菌DNA配列にハイブリダイズする工程と、DNA調製物からハイブリダイゼーション複合体を枯渇させる工程と、試料中の一つ以上の希少ながん関連DNA配列の存在を検出する工程と、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】ビオチン化プローブを導入してバクテロイデス属DNAを含むハイブリダイゼーション複合体を形成することによって糞便抽出物からバクテロイデス属DNAを枯渇させ、ストレプトアビジン被覆磁気ビーズを使用して磁界によりハイブリダイゼーション複合体を除去する工程を示す。
【
図2】バクテロイデス属DNAを含むハイブリダイゼーション複合体を形成するビオチン化プローブを導入してバクテロイデス属DNAを枯渇させ、ストレプトアビジン被覆ビーズを使用して濾過カラムによりハイブリダイゼーション複合体を除去する工程を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
詳細な説明
本開示は、例えば、病原性細菌種からの低コピー数DNA配列を含む、糞便試料中の低コピー数DNA配列を同定するための方法および物質に関する。一部の実施形態では、本開示は、糞便試料中のがんなどの疾患に関連する低コピー数遺伝的変異体の同定に関する。
【0023】
本明細書に開示されるように、発明者らは、驚くべきことに、非病原性細菌からのDNAの糞便DNA抽出物を枯渇させることにより、抽出物中の低コピー数DNA配列の同定が可能になることを発見した。そのため、本開示は、定量的手段もしくは半定量的手段による検出のために、または配列決定による検出のために、低コピー数DNA配列を濃縮する方法および組成物を提供する。本開示はまた、糞便試料からの低コピー数DNA配列を含む配列決定ライブラリを調製するための方法および組成物に関する。さらに、本開示は、標識されたオリゴヌクレオチドを使用して試料中の十分な細菌種を枯渇させるための組成物およびキットに関する。
【0024】
本説明および特許請求の範囲において「含む」という用語が使用される場合、他の要素または工程を排除するものではない。本発明の目的上、「から成る」という用語は、「含む」という用語の好ましい形態であると考えられる。以下において、ある群が、少なくとも特定の数の実施形態を含むように定義される場合、好ましくはこれらの実施形態のみから成る群を開示するものとしても理解されるべきである。
【0025】
数値が本開示の文脈で示される場合、当業者であれば、争点となる特徴の技術的効果は、典型的には任意の数値の±10%、好ましくは±5%の偏差を包含する精度区間内であることが保証されることを理解するであろう。
【0026】
別段の示唆がない限り、本明細書および特許請求の範囲で使用される成分、分子量、反応条件などの数量を表すすべての数字は、すべての場合において、「約」という用語によって修飾されていると理解されるべきである。したがって、それに反する指示がない限り、本明細書および添付の特許請求の範囲に記載される数値パラメータは近似値であり、本開示により取得されることが求められる所望の特性に応じて変動しうる。少なくとも、特許請求の範囲の均等論の適用を制限する試みとしてではなく、各数値パラメータは、報告される有効桁の数に照らして、かつ通常の四捨五入法を適用することによって、少なくとも解釈されるべきである。
【0027】
本明細書に別段の示唆がない限り、または文脈によって明らかに矛盾しない限り、(特に以下の特許請求の範囲の文脈において)本開示を記述する文脈で使用される場合、「一つの(a)」、「一つの(an)」、「その(the)」および類似の指示対象は、単数形および複数形の両方を網羅するものとして解釈される。本明細書における数値範囲の列挙は、その範囲内に入る別個の各数値を個別に参照する簡易的な方法としての役割を果たすことを意図しているに過ぎない。本明細書に別段の示唆がない限り、個別の各数値は、本明細書に個別に列挙されたかのように本明細書に組み込まれる。本明細書に記述されたすべての方法は、本明細書に別段の示唆がない限り、または文脈によって明らかに矛盾しない限り、任意の適切な順序で実施することができる。本明細書でのあらゆる実施例または例示的な文言(例えば、「そのような」)の使用は、単に本開示をより良く示すことを意図するものであり、特許請求の範囲での本開示の範囲を制限するものではない。本明細書中のいかなる文言も、本開示の実施に必須である特許請求の範囲以外の要素を示すものとして解釈されるべきではい。
【0028】
本明細書に開示される本開示の代替的要素または実施形態のグループ化は、制限するものとして解釈されるべきではない。各グループの構成要素は、個別に、またはグループの他の構成要素または本明細書に見られる他の要素と組み合わせて言及され、特許請求の範囲とすることができる。利便性および/または特許取得性を理由として、グループの一つ以上の構成要素をあるグループに含んでもよく、またはグループから削除してもよいことが予期される。このような包含または削除が発生した場合、明細書は、修正されたグループを含有するものと見なされ、従って添付の特許請求の範囲で使用されるすべてのマーカッシュ群の記述を満たす。
【0029】
本明細書に開示される本開示の実施形態は、本開示の原理の例示であることが理解されるべきである。採用されうる他の修正は、本開示の範囲内である。したがって、一例として、ただし限定されるものではないが、本開示の代替的な構成を本明細書の教示に従って利用することができる。したがって、本開示は、図示および記載される通り正確に限定されるものではない。
【0030】
別段の示唆がない限り、本発明の実践は、当業者であれば、分子生物学、生化学、微生物学、組換えDNA、核酸ハイブリダイゼーション、遺伝学、免疫学、および腫瘍学の従来的な技術を用いる。そのような技術は、文献で完全に説明されている。例えば、Green & Sambrook, MOLECULAR CLONING: A LABORATORY MANUAL, Cold Spring Harbor Laboratory Press (2012)、Sambrook, Fritsch & Maniatis, MOLECULAR CLONING: A LABORATORY MANUAL, Second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)を参照。
【0031】
用語のさらなる定義は、用語が使用される文脈において、以下に示される。以下の用語または定義は、本発明の理解を助けるためにのみ提供される。これらの定義は、当業者によって理解される範囲よりも小さい範囲を有すると解釈されるべきではない。
【0032】
本明細書で使用される場合、「試料」または「糞便試料」または「糞便試料」は、対象から採取された糞便の試料を意味する。試料は、直接試験されてもよく、または試料中に存在する核酸のすべてもしくは一部を試験前に単離してもよい。さらに別の例では、試料は、解析前に部分的に精製されるか、または別の方法で濃縮されてもよい。例えば、試料が、非常に多様な細胞集団を含む限りにおいて、特に関心のある亜集団を濃縮することが望ましい場合がある。それは、例えば、生ウイルスの不活化など試験前に処置される標的細胞集団または標的細胞集団から誘導される分子に対する本発明の範囲内である。また試料は、新鮮に採取されてもよく、または保存(例えば、凍結により)されてもよく、または試験前に他の方法で処理(例えば、培養により)されてもよいことが理解されるべきである。
【0033】
本明細書で使用される場合、ピロリ菌は、例えば、表1に列挙された株を含む、当該技術分野で公知のピロリ菌株のいずれかを意味する。
【0034】
【0035】
変性とは、二本鎖核酸が、その成分である一本鎖に変換されるプロセスを指す。変性は、例えば、高温、低イオン強度、酸性またはアルカリ性pH、および/または特定の有機溶媒の使用によって達成されうる。核酸を変性する方法は、当該技術分野で周知である。
【0036】
ハイブリダイゼーション(アニーリングとも呼ばれる)は、相補的な一本鎖核酸が、二本鎖の相補的塩基間の水素結合によって媒介される二本鎖構造、または二本鎖を形成するプロセスを指す。
【0037】
ハイブリダイゼーション条件は、アニーリングが発生することを可能にする、例えば、温度、イオン強度、pHおよび溶媒の値である。上述の変数の多くの異なる組み合わせは、ハイブリダイゼーションを助けるものである。ハイブリダイゼーションのための適切な条件は当該技術分野で周知であり、概して、中性またはほぼ中性のpHで50mM以上の一価陽イオンおよび/または二価陽イオンのイオン強度を含む。
【0038】
ハイブリダイゼーション混合物は、相補配列の分子共有領域間でアニーリングの発生を可能にする適切な温度、pH、およびイオン強度で一本鎖核酸を含有する組成物である。
【0039】
二重鎖は、二本鎖ポリヌクレオチドを指す。
【0040】
本明細書で使用される場合、「プローブ配列」は、一つ以上のタイプの化学結合を介して、通常は相補的塩基対を介して、通常は水素結合の形成を介して、相補配列の標的核酸に結合することができ、それによって二重層構造を形成する核酸である。プローブは、「プローブ結合部位」に結合またはハイブリダイズする。プローブは、天然塩基(すなわち、A、G、C、またはT)または修飾塩基(7-デアザグアノシン、イノシンなど)を含みうる。プローブは、一本鎖オリゴヌクレオチドであってもよい。オリゴヌクレオチドプローブは、天然のポリヌクレオチドから合成または産生されてもよい。さらに、プローブ中の塩基は、ハイブリダイゼーションに干渉しない限り、リン酸ジエステル結合以外の結合によって結合されてもよい。
【0041】
オリゴヌクレオチドは、短い核酸、概してDNAかつ概して一本鎖である。一般に、オリゴヌクレオチドは、200ヌクレオチドよりも短く、より具体的には、100ヌクレオチドよりも短く、最も具体的には、50ヌクレオチドよりも短い。
【0042】
本明細書で使用される場合、「ハイブリダイゼーション複合体」は、プローブ配列と糞便試料から抽出されたDNA配列との間の複合体である。例えば、ハイブリダイゼーション複合体は、バクテロイデス属DNA配列に相補的なプローブ配列間の複合体であり、プローブ配列は標的バクテロイデス属DNA配列に結合される。実施形態では、ハイブリダイゼーション複合体は、一本鎖DNAにハイブリダイズされたプローブ配列を含む。その他の実施形態では、ハイブリダイゼーション複合体は、二本鎖DNAにハイブリダイゼーションされたプローブ配列を含み、プローブは、相補的である二本鎖DNAの領域を置換する。
【0043】
本明細書で使用される場合、「定量PCR」または「qPCR」または「定量リアルタイムPCR」は、試料中のDNAセグメントの増幅をリアルタイムでモニタリングして試料中のDNAセグメントのレベルを決定する方法を指す。
【0044】
実施形態では、本開示の方法は、対象から糞便試料を取得する工程と、試料からDNAを抽出する工程とを含む。任意の動物の糞便を、本明細書に開示される様々な実施形態で試験することができる。試料は、例えば、医療従事者がポイントオブケア施設において、または対象が自宅での採取キットを使用して、容易に利用可能な手段によって収集されうる。実施形態では、試料は、試験まで冷蔵保存される。実施形態では、糞便試料の調製は、当該技術分野で公知の任意の方法を使用して達成することができる。例えば、試料の可溶性部分は、濾過、遠心分離、または単純な混合とその後の重量沈降を使用して、収集することができる。
【0045】
糞便試料は、様々な方法で収集および調製することができる。例えば、一部の実施形態では、糞便試料は、糞便ホモジネートから調製された糞便上清を含む。一部の実施形態では、方法は、糞便試料を、細菌DNAを抽出する前にタンパク質および核酸を変性させる状態に曝露させることを含む。例えば、一部の実施形態は、核酸を変性させる条件が90°Cでの10分間の加熱を含むよう規定している。
【0046】
一部の実施形態では、糞便試料を溶解して、そのDNA含有量を、Tris-HCl緩衝液、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、NaCl、セチルトリメチルアンモニウム臭化物、ポリビニルピロリドン、およびプロテイナーゼの比例量で製剤化された緩衝液中に抽出する。一部の実施形態では、溶解された試料から抽出されたDNAは、Tris-HCl、EDTA、およびチオシアン酸グアニジンの比例量を含む結合緩衝液中の親和性試薬(例えば、シリカ)に結合される。一部の実施形態では、DNAは、Tris-HCl、EDTA、およびエタノールを含む一つ以上の緩衝液で連続洗浄され、適切な溶出緩衝液を使用して親和性試薬から溶出される。
【0047】
細菌細胞からのDNAの単離には、いくつかの方法が存在する。これらの方法は、基本的に同じ基本手順を利用する。例示的な実施形態では、糞便試料中の細菌細胞は、酵素(すなわち、リゾチーム処理)、機械的(すなわち、ビーズ粉砕法)、または凍結融解サイクルの繰り返し、またはこれらの組み合わせによって溶解され、続いて、アルカリおよびドデシル硫酸ナトリウム(SDS)などの洗剤により細胞膜が溶解される(Maniatis et al., 1989; Tsai et al., Appl. Environ. Microbiol., 57:1070-1074,1991、Bej et al., Appl. Environ, Microbiol., 57:1013-1017, 1991)。次いで、細胞溶解物をプロテイナーゼおよびヘキサデシルトリメチルアンモニウム臭化物(CTAB)で処理して、それぞれタンパク質を分解し、炭水化物を沈殿させる。この処置で最もよく使用されるプロテイナーゼは、プロテイナーゼKである。
【0048】
他の細胞成分(脂質、炭水化物、タンパク質)からのDNAの抽出および物理的分離の後、当該技術分野で公知の方法に従ってDNAが単離または精製される。特定の実施形態では、DNAはシリカベースの方法によって単離され、DNAは、シリカビーズのシリカ膜などのシリカ基体に結合され、洗浄され、次いで単離または精製された形態で溶出される。代替的な実施形態では、DNAは、フェノール/クロロホルム抽出により単離される。
【0049】
一部の実施形態では、本開示は、大量の糞便からDNAを抽出して、低コピー数で存在する細菌種の検出を可能にする方法を提供する。例えば、約0.5g~約1.0gの糞便からDNAを単離し、約2~約5コピー数で試料中に存在するピロリ菌のレベルを検出するための方法が提供される。その他の実施形態では、DNAは、約0.01g~約0.1g、約0.1g~約0.5g、約1.0g~約2gの糞便から単離される。一部の実施形態では、本開示は、試料中に存在するピロリ菌のレベルを、約2コピー、または約10コピー、約15コピー、約20コピー、または20コピー以上で検出するための方法を提供する。一部の実施形態では、本開示は、糞便試料中に存在する総DNAを抽出する方法を提供する。
【0050】
本開示の実施形態は、DNA調製物において、標識されたオリゴヌクレオチドプローブを非病原性細菌DNA配列にハイブリダイズして、ハイブリダイゼーション複合体を形成することを含む、糞便試料中の低コピー数DNA配列を同定する方法および組成物を提供する。一部の実施形態では、標識されたプローブのハイブリダイゼーションは、DNA調製物中でDNAを最初に変性させることを含む。高温および/または低イオン強度および/または中~高濃度の有機溶媒を含む変性を促進する条件は、当該技術分野で周知である。同様に、高いイオン強度および/または低温などのハイブリダイゼーション、再アニーリングまたは再生を促進する条件、ならびにハイブリダイゼーションの厳密さを調節するためのこれらの条件の変化は、当該技術分野で周知である(例えば、Green et al., Sambrook et al.(上記))。
【0051】
実施形態では、本開示の標識されたオリゴヌクレオチドプローブは、非病原性細菌からのDNA配列に対して相補的であり、したがってそれと共にハイブリダイズする。一部の実施形態では、標識されたオリゴヌクレオチドプローブは、バクテロイデス属、クロストリジウム属、またはフィーカリバクテリウム属からのDNA配列に相補的である。実施形態では、標識されたオリゴヌクレオチドプローブは、バクテロイデス・フラジリス、バクテロイデス・メラニノゲニクス、バクテロイデス・オラリスからのDNA配列に対して相補的である。
【0052】
実施形態では、本開示の標識されたオリゴヌクレオチドは、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、または配列番号8(表2)から選択されるオリゴヌクレオチド配列を含む。
【0053】
【0054】
実施形態では、本開示のオリゴヌクレオチドプローブ配列は、デオキシシチジン、デオキシアデノシン、デオキシグアノシン、およびデオキシチミジンから選択される非修飾デオキシヌクレオチドから成る配列を含む。一部の実施形態では、オリゴヌクレオチドプローブ配列は、化学的に修飾されてもよい。これは、例えば、ヌクレアーゼに対するそれらの耐性を強化しうる。例えば、ホスホロチオエートオリゴヌクレオチドを使用してもよい。他のデオキシヌクレオチド類似体としては、メチルホスホネート、ホスホルアミデート、ホスホロジチオアート、N3’P5’-ホスホルアミデート、およびオリゴリボヌクレオチドホスホロチオエート、ならびにそれらの2’-O-アルキル類似体、および2’-O-メチルリボヌクレオチドメチルホスホネートが挙げられる。
【0055】
実施形態では、本開示のオリゴヌクレオチドプローブ配列は、少なくとも5個のヌクレオチド、少なくとも6個のヌクレオチド、少なくとも7個のヌクレオチド、少なくとも8個のヌクレオチド、少なくとも9個のヌクレオチド、少なくとも10個のヌクレオチド、少なくとも11個のヌクレオチド、少なくとも12個のヌクレオチド、少なくとも13個のヌクレオチド、少なくとも14個のヌクレオチド、少なくとも15個のヌクレオチド、少なくとも16個のヌクレオチド、少なくとも17個のヌクレオチド、少なくとも18個のヌクレオチド、少なくとも19個のヌクレオチド、少なくとも20個のヌクレオチド、少なくとも21個のヌクレオチド、少なくとも21個のヌクレオチド、少なくとも23個のヌクレオチド、少なくとも24個のヌクレオチド、少なくとも25個のヌクレオチド、少なくとも26個のヌクレオチド、少なくとも27個のヌクレオチドと、少なくとも28個のヌクレオチド、少なくとも29個のヌクレオチド、少なくとも30個のヌクレオチド、少なくとも31個のヌクレオチド、少なくとも32個のヌクレオチド、少なくとも33個のヌクレオチド、少なくとも34個のヌクレオチド、少なくとも35個のヌクレオチド、少なくとも36個のヌクレオチド、少なくとも37個のヌクレオチド、少なくとも38個のヌクレオチド、少なくとも39個のヌクレオチド、少なくとも40個のヌクレオチド、少なくとも41個のヌクレオチド、少なくとも42個のヌクレオチド、少なくとも43個のヌクレオチド、少なくとも44個のヌクレオチド、少なくとも45個のヌクレオチド、少なくとも46個のヌクレオチド、少なくとも47個のヌクレオチド、少なくとも48個のヌクレオチド、少なくとも49個のヌクレオチド、少なくとも50個のヌクレオチド、少なくとも約55個のヌクレオチド、少なくとも約60個のヌクレオチド、少なくとも約65個のヌクレオチド、少なくとも約70個のヌクレオチド、少なくとも約75個のヌクレオチド、またはそれ以上を含む。
【0056】
本開示のオリゴヌクレオチドプローブは、組み合わせて使用されてもよいことも企図される。例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20個またはそれ以上のオリゴヌクレオチドプローブが、DNA調製物において非病原性細菌DNA配列にハイブリダイズされる。
【0057】
実施形態では、本開示の標識されたオリゴヌクレオチドプローブは、非病原性細菌DNA配列の保存領域に対して相補的である。本明細書で使用される場合、保存領域は、細菌種間で相同性または実質的な配列同一性を示す配列を含む。実質的な配列同一性とは、核酸配列が参照配列と比較して少なくとも約70%の配列同一性を有し、典型的には少なくとも約85%の配列同一性を有し、好ましくは、参照配列と比較して少なくとも約95%の配列同一性を有することを意味する。配列同一性の割合は、合計が参照配列の25%未満である小さな欠失または付加を除外して計算される。参照配列は、遺伝子の一部もしくは隣接配列、または染色体の反復部分など、より大きな配列のサブセットであってもよい。しかしながら、参照配列は、少なくとも18ヌクレオチド長、典型的には少なくとも約30ヌクレオチド長、好ましくは少なくとも約50~100ヌクレオチド長である。
【0058】
一部の実施形態では、本開示のオリゴヌクレオチドプローブ配列は標識を含む。例示的な実施形態では、標識は、試料中に存在する他の核酸からのオリゴヌクレオチドプローブの物理的分離を促進する親和性タグを含む。実施形態では、標識は、オリゴヌクレオチドプローブの合成中または合成後に添加される。一部の実施形態では、標識は、固体支持体に直接結合され、それによって固体支持体上に固定される。その他の実施形態では、オリゴヌクレオチドプローブ上の標識は、例えば、親和性試薬によって、固体支持体上に間接的に固定化することができる。さらに他の実施形態では、標識は、ペプチド、タンパク質、抗体、糖タンパク質、または糖である。
【0059】
実施形態では、オリゴヌクレオチドプローブ配列は、抗体または抗体断片によって認識されるエピトープで標識される。したがって、エピトープで標識されたオリゴヌクレオチド、およびエピトープで標識されたオリゴヌクレオチドを組み込むハイブリダイゼーション複合体は、例えば、フィルターもしくはカラムへの免疫吸着、または免疫沈降などの親和性精製方法によって単離することができる。したがって、当業者であれば、本開示の標識が親和性タグとして機能する能力を有し、親和性タグと同義であることを認識するであろう。なおもさらなる実施形態では、標識は、ペプチド、タンパク質、抗体、糖タンパク質、または糖である。特定の実施形態では、オリゴヌクレオチドプローブ配列はビオチンで標識される。
【0060】
一部の実施形態では、オリゴヌクレオチドプローブ配列は複数のラベルで標識される。したがって、例えば、実施形態は、一つ以上のレポーター基、または検出試薬と併せて親和性標識を組み込むオリゴヌクレオチドプローブを提供する。実施形態では、標識は、蛍光色素(または蛍光化合物)、酵素(例えば、アルカリホスファターゼまたは西洋ワサビペルオキシダーゼ)、重金属キレート、二次レポーターまたは放射性同位元素を含む。
【0061】
本開示の標識は、当該技術分野で公知の方法によってオリゴヌクレオチドプローブに連結することができる。一部の実施形態では、標識は、5’末端リボース位置または3’末端リボース位置のいずれかに共有結合で付加される。実施形態では、標識は、オリゴヌクレオチドプローブを標識に共有結合するのに好適な化学的部分で修飾された5’末端リボースまたは3’末端リボースに付加される。その他の実施形態では、標識は、ヌクレオチド合成中に組み込まれる修飾ヌクレオチド三リン酸を含む。さらに他の実施形態では、標識は、オリゴヌクレオチドプローブの塩基間のヌクレオチド間結合に付加される。
【0062】
実施形態では、本開示は、非病原性細菌種と標識されたオリゴヌクレオチドプローブからDNA配列の間に形成されたハイブリダイゼーション複合体を枯渇させることをさらに含む。実施形態では、枯渇は、標識されたオリゴヌクレオチドプローブおよびDNA調製物を変性すること、およびプローブ配列を相補的な細菌DNA配列にハイブリダイズ(すなわちアニーリング)することを可能にすることを含む。一部の実施形態では、標識されたオリゴヌクレオチドプローブは、プローブをDNA調製物と共にインキュベートする前に、ビーズ、カラム、またはフィルターなどの固体基体に固定化される。したがって、一部の実施形態では、ハイブリダイゼーション複合体は固体基体上に形成される。その他の実施形態では、ハイブリダイゼーション複合体は、溶液中で形成され、次いでオリゴヌクレオチドプローブ上の標識に結合する親和性試薬を有する溶質支持体と共にインキュベートされる。
【0063】
固体支持体上の親和性試薬は、オリゴヌクレオチドプローブ上の標識に依存する。一部の実施形態では、固体支持体は抗原を含み、標識は抗体を含み、ハイブリダイゼーション複合体は、抗体を介して抗原に結合する。その他の実施形態では、固体支持体上の親和性試薬は抗体であり、標識は抗体によって認識されるエピトープである。またさらなる実施形態では、固体支持体上の親和性試薬はストレプトアビジンであり、プローブ上の標識はビオチンである。
【0064】
実施形態では、標識されたハイブリダイゼーション複合体を枯渇させることは、固体支持体上に固定された親和性試薬上に溶液を流すことを含み、溶液中のハイブリダイゼーション複合体は、標識と親和性試薬との間の結合を介して固体支持体上に保持され、溶液中の残りのDNA調製物が収集される。その他の実施形態では、ハイブリダイゼーション複合体を枯渇させることは、親和性試薬で被覆されたビーズへの結合、遠心分離によるビーズの除去、および上清溶液の収集を含む。さらに他の実施形態では、ハイブリダイゼーション複合体を枯渇させることは、親和性試薬で被覆された磁気ビーズへの結合と、磁界を使用したビーズの除去を含む。
【0065】
一部の実施形態では、本開示の標識されたオリゴヌクレオチドは、非親和性標識を含む。例えば、実施形態では、オリゴヌクレオチドは、密度標識、磁気標識、または蛍光標識を含む。
【0066】
その他の実施形態では、オリゴヌクレオチド標識は、固体支持体構造と反応し、それによって固体支持体に物理的に結合される化学的部分を含む。一部の実施形態では、化学的部分は、固体支持体に可逆的に結合される。例示的な実施形態では、オリゴヌクレオチド標識は、オリゴヌクレオチドを固体支持体に連結するのに好適なアミン基、チオール基、アクリル基、または当該技術分野で公知の代替的な化学的部分を含む。X
【0067】
本開示の方法は、非病原性細菌DNA配列を枯渇させたDNA調製物中の低コピー数DNA配列を同定することをさらに含む。一部の実施形態では、低コピー数DNA配列の同定は、定量PCR反応などのPCR反応を含む。一部の実施形態では、低コピー数DNA配列の同定は、配列決定反応を含む。一部の実施形態では、低コピー数DNA配列のライブラリは、Illumina MiSeqまたはThermo Fisher S5などの次世代配列決定プラットフォームを使用して調製され、配列決定される。
【0068】
一部の実施形態では、本開示は、対象におけるピロリ菌感染などの細菌感染を治療する方法をさらに提供する。方法は、対象から試料を取得する工程と、DNA調製物を得るために試料からDNAを抽出する工程と、ハイブリダイゼーション複合体を形成するために、標識されたオリゴヌクレオチドプローブをDNA調製物中の非病原性(すなわち、非ピロリ菌)細菌DNA配列にハイブリダイズする工程と、DNA調製物からハイブリダイゼーション複合体を枯渇させる工程と、DNA調製物中の低コピー数(すなわち、ピロリ菌)DNA配列の存在を同定する工程と、対象に一つ以上の抗生物質を投与する工程と、を含む。
【0069】
一部の実施形態では、本開示は、ピロリ菌感染などの細菌感染を治療する方法を提供し、ピロリ菌DNAの領域を増幅して、ピロリ菌DNAの増幅領域の多重コピーを生成する工程と、ピロリ菌DNAの領域の多重コピーを配列決定する工程と、ピロリ菌DNAの領域の多重コピーの配列を一つ以上の参照配列と比較する工程と、ピロリ菌DNAの領域の多重コピーにおける突然変異を検出する工程と、突然変異を有するピロリ菌DNAの領域の多重コピーの数を決定する工程(ここで、抗生物質耐性ピロリ菌は、突然変異を有するピロリ菌DNAの領域の多重コピーの数が所定量(例えば、突然変異を有するピロリ菌DNAの領域が、ピロリ菌DNAの領域の配列決定された多重コピーの約5%、約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%であり、約90%、約95%、約98%以上)を超えるときに試料中に存在する)と、抗生物質耐性ピロリ菌が試料中に存在するときに、ピロリ菌が耐性を欠く一つ以上の抗生物質を対象に投与する工程と、をさらに含む。
【0070】
抗生物質耐性ピロリ菌は、マクロライド、メトロニダゾール、キノロン、リファマイシン、アモキシシリン、およびテトラサイクリンのうちの一つ以上に対して耐性でありうる。
【0071】
本明細書で使用される場合、疾患、障害または状態の「治療」は、少なくとも部分的に、(1)疾患、障害または状態を予防すること、すなわち、疾患、障害または状態の臨床症候が、疾患、障害または状態に曝露されたか罹患しやすいが、疾患、障害または状態を未だ経験していない哺乳動物において発生しないようにすること、(2)疾患、障害または状態を阻害すること、すなわち、疾患、障害または状態、またはその臨床症状の発症を停止させるか減少させること、または(3)疾患、障害または状態を軽減すること、すなわち、疾患、障害または状態または臨床症状の退行を引き起こすことを含む。
【0072】
本開示は、本発明の理解を助けるために記載されている以下の実施例で説明されるが、添付の特許請求の範囲で定義される本開示の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【実施例】
【0073】
実施例1 低コピー数ピロリ菌抗生物質耐性遺伝子のNGS解析
本明細書に開示される方法の実施形態に従った低コピー数DNA配列の検出の実現可能性を決定するために、NGSに基づく配列検出アッセイを実施した。ピロリ菌株26695のゲノムDNAをATCCから購入した。ピロリ菌抗生物質耐性に関連する6つの遺伝子の突然変異を検出するための次世代配列決定の感受性を試験するために、26695ゲノムDNAを、100万コピーから0.1コピーまでの一連のコピーに希釈し、次いでライブラリ調製物に使用した。各コピー数の希釈を3回実施したが、100万コピーおよび10万コピーの試料は例外で、2回ずつ実施した。得られたライブラリを、Illumina(登録商標)MiSeq(登録商標)プラットフォームを使用して配列決定した。
【0074】
配列決定データを、ピロリ菌26695参照配列とのアライメントにより、NGS解析ソフトウェアNextGene(登録商標)(SoftGenetics、ペンシルバニア州ステートカレッジ)で解析した。結果は、100万コピーの試料から10コピーの試料までが、100%正確な配列アライメントを生成したことを示す(表3)。配列誤差は、5コピーから0.1コピーの試料において観察された(表4)。例えば、5コピーのゲノムDNAの配列決定については、gyrA遺伝子、AAT(wt)~ACC、GCG(wt)~GCAに配列決定エラーが見られた。ピロリ菌抗生物質耐性解析における次世代配列決定の感度は、10コピー以上のピロリ菌DNAであるべきである。
【0075】
(表3)低コピー数ピロリ菌抗生物質耐性遺伝子のNGS解析:テンプレートコピー数 = 1×10
6~10
【0076】
(表4)低コピー数ピロリ菌抗生物質耐性遺伝子のNGS解析:テンプレートコピー数=5~0.1
【0077】
実施例2 糞便ゲノムDNAおよび細菌対照のNGS解析
サルモネラに感染(Luminexにより検出)した糞便試料と、対照細菌(カンピロバクター菌(Campylobacter)、サルモネラ菌(Salmonella)、赤痢菌(Shigella)、ビブリオ菌(Vibrio)、エルシニア・エンテロコリチカ菌(Yersinia enterolitica)、および志賀毒素産生大腸菌)を接種した緩衝液を含む対照から、総ゲノムDNAを抽出した。抗生物質耐性株を含む、微生物群における細菌、ウイルス、真菌、原生生物などを検出するために、分析したすべての配列の相対存在量情報を評価するため、試料中のすべてのDNA物質を標的とするショットガンメタゲノミクス法を実施した。ショットガンメタゲノミクス法は、ゲノムの塩基対レベルの分解能を提供し、抗生物質耐性解析および株同定のための単一のヌクレオチド変異体解析を可能にする。
【0078】
ショットガンメタゲノミクス法によるライブラリ調製物には、DNA断片化、末端修復、Aテーリング、アダプターライゲーション、酵素段階とビーズベースのクリーンアップを組み合わせたライブラリ増幅が含まれる。得られたライブラリを、Illumina MiSeqプラットフォームを使用して配列決定した。
【0079】
ショットガンメタゲノミクス法に基づくデータ解析を、アセンブリを用いて実施し、このアセンブリでは、同じゲノムから読取値を単一の連続配列にマージした。配列アセンブリング後、遺伝子が予測され、機能的に注釈付けされる。
【0080】
糞便試料のショットガンメタゲノミクス法は、合計7,624,876の読取値を生成し、そのうち1,627,952の読取値が細菌と合致した。対照は949,199の読取値を生成し、そのうち31,030の読取値が細菌と合致した(表5)。さらなる解析により、細菌293個、真菌2個、原生生物4個、ウイルス97個、呼吸器系ウイルスおよび毒性因子4個、ならびに糞便試料中の抗生物質耐性突然変異が検出された。緩衝液対照では、スパイクされた細菌すべてが検出され、細菌45個、真菌4個、原生生物4個、ウイルス63個、毒性因子161個、および抗生物質耐性突然変異64個が合致した。
【0081】
(表5)糞便ゲノムDNAおよび細菌対照のNGS解析
【0082】
本開示の実施形態は、本開示の原理を例示するものであることが理解されるべきである。採用されうる他の修正は、本開示の範囲内である。したがって、一例として、ただし限定されるものではないが、本開示の代替的な構成を本明細書の教示に従って利用することができる。したがって、本開示は、図示および記載される通り正確に限定されるものではない。
【0083】
本開示は、様々な特定の物質、手順、および実施例を参照することによって本明細書に説明および図示されているが、本開示は、その目的のために選択される物質および手順の特定の組み合わせに限定されないことが理解される。こうした詳細の多数の変形は、当業者によって理解されるように暗示されうる。本明細書および実施例は、以下の特許請求の範囲によって示される本開示の真の範囲および精神と共に、例示としてのみ考慮されることが意図される。本出願において言及されるすべての参考文献、特許、および特許出願は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【配列表】
【国際調査報告】