(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-22
(54)【発明の名称】環状テルペノイド部分構造を有するポリアミド
(51)【国際特許分類】
C08G 69/16 20060101AFI20220714BHJP
C08G 69/14 20060101ALI20220714BHJP
【FI】
C08G69/16
C08G69/14
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021568518
(86)(22)【出願日】2020-05-19
(85)【翻訳文提出日】2021-12-22
(86)【国際出願番号】 EP2020063949
(87)【国際公開番号】W WO2020234289
(87)【国際公開日】2020-11-26
(32)【優先日】2019-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】特許業務法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フランク ヴァイネルト
(72)【発明者】
【氏名】フランツ エーリヒ バウマン
(72)【発明者】
【氏名】ジャニナ コスマン
【テーマコード(参考)】
4J001
【Fターム(参考)】
4J001DA01
4J001DB01
4J001EA02
4J001EA17
4J001EB08
4J001EB09
4J001EC08
4J001EC14
4J001EE16D
4J001FA06
4J001FB03
4J001FC03
4J001GA14
4J001GB02
4J001GB03
4J001GB06
4J001JA07
4J001JA10
4J001JA12
4J001JA15
4J001JA17
4J001JB01
4J001JB02
4J001JB07
(57)【要約】
少なくとも1つの環状テルペノイド部分構造を少なくとも10重量%含むポリアミドが特許請求されている。前記部分構造は、好ましくは、モノテルペンに由来する。前記ポリアミドの調製方法および成形材料の製造方法も記載されている。前記成形材料は、これらのポリアミドを10重量%~90重量%含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)少なくとも1つの二環式テルペンラクタムを提供する工程と、
b)前記少なくとも1つの二環式テルペンラクタムを開環重合し、ポリアミド、好ましくはホモポリアミドまたはコポリアミドを得る工程と
を含むポリアミドの製造方法であり、
前記工程b)では、使用される単量体の総質量に対し、リン含有酸を2~100ppmの量で使用し、
前記工程b)では、メディエーターを添加する、方法。
【請求項2】
分子内塩としてのナイロン塩またはα,ω-アミノ酸から選択されるメディエーターを使用することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記メディエーターが、使用される単量体の量に対し、25重量%以下の量で使用されることを特徴とする、請求項1または請求項2記載の方法。
【請求項4】
反応温度が270℃を超えないことを特徴とする、請求項1~請求項3のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
少なくとも1つの環状テルペノイド部分構造を少なくとも10重量%含み、かつリン含有成分を1~100ppm含むことを特徴とするポリアミドであり、
前記部分構造が、好ましくは、請求項1~請求項4のいずれか一項記載の方法に従って製造可能なモノテルペンに由来する、ポリアミド。
【請求項6】
総質量の3重量%~20重量%の残留単量体を含有することを特徴とする、請求項5記載のポリアミド。
【請求項7】
前記環状テルペノイド部分構造に3員環、4員環および/または5員環を有することを特徴とする、請求項5または請求項6記載のポリアミド。
【請求項8】
前記環状テルペノイド部分構造が2つのジェミナルメチル基を有する環を含むことを特徴とする、請求項5~請求項7のいずれか一項記載のポリアミド。
【請求項9】
前記環状テルペノイド部分構造に4員環を有し、モル質量が少なくとも3,500g/モルであるか、あるいは、前記環状テルペノイド部分構造に3員環を有し、モル質量が少なくとも8,000g/モルであることを特徴とする、請求項5~請求項8のいずれか一項記載のポリアミド。
【請求項10】
請求項1~請求項9のいずれか一項記載の少なくとも1つのポリアミドを10%~90%含む成形材料。
【請求項11】
請求項11記載の成形材料から製造される成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状テルペノイド部分構造を有するポリアミドに関する。
【背景技術】
【0002】
化石資源を浪費せず、温室効果ガスの排出を削減する手段として、従来のプラスチックを再生可能原料から製造可能なプラスチックに置き換えることに大きな関心が寄せられている。ポリアミドは、ジアミンとジカルボン酸の縮合から、そしてアミノ酸またはラクタムから調製できる。後者のアミノ基とカルボキシル基は、結合に必要な両方の官能基が同一分子内に存在することを意味する。
【0003】
カンフルおよびメントンのラクタムは文献に記載されている(非特許文献1)。また、文献からα-ピネンおよび3-カレン由来のラクタムが知られている(非特許文献2)。ロチンスキーらによる出版物(非特許文献3)は、3-カレン由来のラクタムとそれから調製された開環アミノカルボン酸について記載している。
【0004】
特許文献1および非特許文献4は、グリニャール化合物または水素化ナトリウムおよびKOtBuによるアニオン重合を開示している。
【0005】
特許文献2は、ポリアミドの製造における少なくとも1つのテルペンラクタムの使用を開示している。当該出願は、カンフルラクタムから出発する例を開示しており、これはε-カプロラクタムと反応して共重合体を形成するはずである。この方法は、いわゆる触媒として一定量のラクタミン酸ナトリウム、いわゆる活性剤として少量のアシルカプロラクタムを使用する。得られた重合体中の未反応の残留単量体を測定した。残留単量体中のカンフル系ラクタムの質量は、使用されたカンフルラクタム(ラクタミン酸ナトリウムを含む)の量をわずかに超えた。カンフルラクタムを含まない比較例は示されておらず、生成物特性も開示されていない。当業者は、この開示内容から、カンフルラクタムがポリアミド形成に全く関与していないと推測しなければならない。
【0006】
ヴィナッカーによって公開されたメントンラクタムを使用する類似の方法(非特許文献5)は、塩化ベンゾイルとラクタム酸ナトリウムを使用する。MALDI-TOFスペクトルは、メントンラクタムの低分子量オリゴマーの形成を示した。
【0007】
ヴィナッカー(非特許文献6)は、ピネン系イプシロン-ラクタムからの酸触媒(カチオン性)ポリアミド形成を開示している。加水分解重合からの重合体は、低モル質量と低収率しか示していない。
【0008】
ストックマン(非特許文献7)は、カレン系およびピネン系ラクタムのアニオン重合を開示している。単独の酸触媒反応によっては生成物は得られなかった。
【0009】
特許文献2とヴィナッカーに係る反応生成物はすべて、N末端がアシル基で置換されている。特許文献2の場合、アシル基は使用されるアシルカプロラクタムに由来し、ヴィナッカー法の場合、アシル基は使用される塩化ベンゾイルに由来する。
【0010】
フロイド(非特許文献8)は、ポリアミド6(ナイロン-6)の様々な製造方法を公開した。これらの方法の1つにおいて、ナイロン-6,6塩が開始剤のリストに含まれている。この使用の目的または結果は開示されていない。
【0011】
フロイドはさらに、ナイロン-6のセクション(上記文献の9頁)において、ポリアミド6が連続的に製造される場合、生成物の単量体含有量は約10%であることを開示している。単量体は可塑剤として機能し、生成物の機械的特性を変化させて、この形態で使用できないようにする。残留単量体含有量は、追加工程を選択することによって減らすことができる。
【0012】
特許文献3は、過度に多い残留単量体含有量を原因とするポリアミドの低モル質量および低粘度などの不利点を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】中国特許公開公報第10 7129572 A号
【特許文献2】ドイツ特許公開公報第10 2014 221061A1号
【特許文献3】欧州特許公開公報第3143069A1号
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】クマール、Medicinal Chemistry Research、2012年、531頁
【非特許文献2】R.E.ガウリイ、Org. React.、1988年、35、1
【非特許文献3】Tetrahedron:Asymmetry、2000年、11、1295
【非特許文献4】ヴィナッカー、Chemical Communications、2018年、841~844頁
【非特許文献5】Macromolecular Chemistry and Physics、2014年(215)、1654~1660頁:(-)-メントン系ラクタムの開環重合による新規の持続可能なオリゴアミドの合成
【非特許文献6】Macromolecular Rapid Communications、2017年(40)1800903
【非特許文献7】Macromolecular Rapid Communications、2019年(38)1600787
【非特許文献8】Reinhold Plastics Applications Series:ポリアミド樹脂、第2版、1966年、59/60頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、環状テルペノイド部分構造を有し、前記部分構造の範囲がアミド基の窒素原子によって制限されるポリアミドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、少量のリン含有酸およびメディエーターを添加する、ポリアミドの調製方法を提供する。
【0017】
本発明はさらに、少なくとも1つの環状テルペノイド部分構造を少なくとも10重量%含むポリアミドであり、前記部分構造が、好ましくは、本発明に係る方法によって製造可能なモノテルペンに由来するポリアミドを提供する。
【0018】
本発明はさらに、本発明の少なくとも1つのポリアミドを10重量%~90重量%含む成形材料を提供する。
【0019】
本発明はさらに、本発明の成形材料から製造される成形品を提供する。当該成形品は、好ましくは、成形体、フィルム、毛材、繊維または発泡体である。当該成形品は、例えば、圧縮成形、フォーミング(foaming)、押出、共押出、ブロー成形、3Dブロー成形、共押出ブロー成形、共押出3Dブロー成形、共押出吸引ブロー成形、または射出成形によって製造されてよい。この種の方法は当業者に知られている。
【0020】
本発明はさらに、本発明の成形品の使用を提供し、これは、例えば、繊維複合材料部品、靴底、スキーまたはスノーボードの外側コーティング、メディア用ライン、眼鏡フレーム、設計品、シーリング材料、身体保護具、絶縁材料、またはフィルム付き住宅部品として使用されてよい。
【0021】
本発明のポリアミド、本発明の成形材料を含む組成物および成形材料、本発明に係る方法、ならびに本発明に係る使用は、例示的な実施形態によって以下に説明されるが、本発明がこれらの例示的な実施形態に限定されることを意図していない。範囲、一般式、または化合物群が以下に記載されている場合、これらは、明示的に言及された対応する範囲および化合物群だけでなく、個々の値(範囲)または化合物を除くことによって得ることができるすべての部分範囲および部分化合物群も含むことを意図している。本明細書の文脈で文献が引用される場合、その全内容は、本発明の開示内容の一部を成すことが意図されている。以下に%値を示す場合、特に明記しない限り、これらは重量%での値である。組成物の場合、%値は、特に明記しない限り、合計組成に対する%値である。以下に平均値を示す場合、特に明記しない限り、これらは質量平均(重量平均)である。以下に測定値を示す場合、特に明記しない限り、これらの測定値は、圧力:101 325 Pa、温度:25℃で測定した値である。
【0022】
保護範囲には、本発明に係る製品の商取引上慣習的な完成品および包装品それ自体とその大きさを縮小した任意の形態との両方が、特許請求の範囲に規定されていない範囲まで含まれる。
【0023】
必要に応じて異なるポリアミドの単位は統計的分布に従う。統計的分布は、任意のブロック数と任意の順番を有するブロック状の構成であるか、あるいはランダムである。それらはまた、交互構造を有していてもよく、あるいは重合体鎖上に勾配を形成していてもよい。特に、それらはまた、異なる分布を有する基が任意に連続していてよい任意の混合形態を形成することができる。特定の実施形態は、当該実施形態のために限定された統計的分布となる場合がある。このような限定の影響を受けない領域ではすべて、統計的分布は変化しない。
【0024】
本発明のポリアミドの利点は、それらが透明である点である。
【0025】
本発明のポリアミドのさらなる利点は、相当な質量割合の再生可能原料を含む点である。
【0026】
本発明のポリアミドのさらなる利点は、残留単量体含有量が少ない点である。これにより、さらなる精製工程を省くことができ、方法がより効率的になる。
【0027】
本発明の範囲内の残留単量体は、モル質量が500g/モル未満の低分子量留分を指す。実施例に記載されているように、測定をGPCで行った。含有値は重量%である。
【0028】
残留単量体がポリアミドの特性に悪影響を与えることは当業者に知られている。これらの残留単量体は、例えば可塑剤として作用する場合があり、それにより不十分な機械的特性を生じさせる。
【0029】
さらなる利点は、二環式テルペンラクタム系コポリアミドの特性を調整できる点である。特に、ピネンラクタムの重合生成物は非常に高いガラス転移温度を有している。
【0030】
モノテルペンは、10個の炭素原子を含む炭化水素構造として当業者に知られている。環状テルペノイド部分構造は、必要に応じて二重結合を含む場合がある。本発明のポリアミドは、好ましくは、環状テルペノイド部分構造に3員環、4員環、および/または5員環を有する。より好ましくは、本発明のポリアミドは、それらの環状テルペノイド部分構造に10個の炭素原子を有する。
【0031】
環状テルペノイド部分構造は、好ましくは、2個のジェミナルメチル基を有することが好ましい環を含む。この環は、より好ましくは、1,1-ジメチルシクロプロパン、1,1-ジメチルシクロブタン、または1,1-ジメチルシクロペンタン、そしてさらに必要に応じてこれらの環の混合物である。1,1-ジメチル置換環は、ポリマー形成鎖のαおよびα’位置(すなわち、ジメチル置換環員原子に隣接する2つの位置)にのみ置換基を有し、その末端に、アミド基を形成するための官能基が配置されている。当業者であれば、位置が規定されていない基は、特許請求された部分構造が左右対称に分裂すると、2つの左右対称なイソプレノイド単位となるように配置されなければならないことに気付くであろう。
【0032】
本発明のポリアミドは、好ましくは、リン含有成分を1~100ppm含む。この成分は、本質的に無機または有機であってよく、好ましくは当該無機成分は無機酸であり、より好ましくは次亜リン酸である。より好ましくは、ポリアミドは、その総質量に対し、リン含有成分を2~100ppm、よりいっそう好ましくは5~60ppm含む。
【0033】
本発明のポリアミドは、好ましくは、その総質量に対し、3重量%~20重量%、好ましくは5重量%~15重量%、より好ましくは7重量%~13重量%の残留単量体を含有する。
【0034】
本発明のポリアミドは、好ましくは、モル質量が少なくとも3,500g/モルである。より好ましくは、ポリアミドは、モル質量が少なくとも3,500g/モルであり、4員環を有する環状テルペノイド部分構造の割合が少なくとも50重量%である。より好ましくは、ポリアミドは、4員環を有する環状テルペノイド部分構造を少なくとも60重量%、特に少なくとも70重量%かつ95重量%以下、好ましくは90重量%以下、より好ましくは85重量%以下含む。
【0035】
本発明のポリアミドは、好ましくは、モル質量が少なくとも8,000g/モル、好ましくは少なくとも9,000g/モル、より好ましくは少なくとも10,000g/モルである。より好ましくは、ポリアミドは、モル質量が少なくとも8,000g/モルであり、3員環を有する環状テルペノイド部分構造の割合が少なくとも50重量%である。より好ましくは、ポリアミドは、3員環を有する環状テルペノイド部分構造を少なくとも60重量%、特に少なくとも70重量%かつ95重量%以下、好ましくは90重量%以下、より好ましくは85重量%以下含む。
【0036】
本発明におけるモル質量は、数平均モル質量(Mn)であり、先行技術に従って規定されてよい。モル質量は、好ましくはGPCまたは末端基の測定によって測定され、より好ましくはGPCによって測定される。
【0037】
環状テルペノイド部分構造に加えて、本発明のポリアミドは、好ましくは、ポリアミドK、L、および/またはMの単位を少なくとも1つ含み、K+L+Mからなる単位の合計は、少なくとも2である。単位Kはジアミンに由来し、単位Lは二酸に由来し、単位Mはアミノ酸に由来する。このような場合、本発明のポリアミドはコポリアミドである。
【0038】
K、Lおよび/またはMからなるポリアミド構造の割合は、好ましくは、1重量%~90重量%、好ましくは2重量%~75重量%、より好ましくは3重量%~60重量%、よりいっそう好ましくは5重量%~50重量%、特に好ましくは10重量%~30重量%、特に15重量%~25重量%である。
【0039】
本発明のポリアミドは、好ましくは、100℃以上、好ましくは105℃、より好ましくは110℃のガラス転移温度を有する。
【0040】
本発明のポリアミドは、好ましくは、残留単量体含有量が15重量%以下、13重量%、12重量%、11重量%、特に好ましくは10重量%以下である。
【0041】
本発明のポリアミドは、好ましくは、環状テルペノイド部分構造として、4員環を有する環状テルペノイド部分構造を少なくとも10モル%含み、示された含有量は、総ポリアミドに対する量である。本発明のポリアミドは、好ましくは、4員環を有する環状テルペノイド部分構造を少なくとも15モル%、少なくとも20、30、40、50、60、70、80、85、90モル%、特に好ましくは95モル%含む。
【0042】
少なくとも1つの環状テルペノイド部分構造、ならびにポリアミド構造K、Lおよび/またはMを少なくとも10重量%含む本発明のポリアミドは、好ましくは、他のポリアミドを含まない。
【0043】
本発明のポリアミドは、好ましくは、以下の環状テルペノイド部分構造から選択される繰り返し単位を有する。
【化1】
【0044】
部分構造1c’、1c’ ’、1’c’、1’c’ ’、3c’、3c’ ’、3’c’、3’c’ ’、5c’および5c’ ’が好ましい。
部分構造1c’、1c’ ’、3c’および3c’ ’が特に好ましい。
【0045】
本発明のポリアミドは、先行技術に従って、しかし好ましくは、以下の工程:
a)少なくとも1つの二環式テルペンラクタムを提供する工程、
b)少なくとも1つの二環式テルペンラクタムを開環重合し、ポリアミド、好ましくはホモポリアミドまたはコポリアミドを得る工程
を含み、
工程b)では、使用される単量体の総質量に対し、リン含有酸を2~100ppmの量で使用し、
工程b)では、メディエーターを添加する、本発明に係る方法に従って調製されることができる。
【0046】
工程a)では、ラクタム環に加えて、3員環、4員環、または5員環を有する二環式テルペンラクタムが好ましい。
工程b)は、好ましくは、リン含有酸、より好ましくは次亜リン酸を添加することによって実施される。2~100ppm、より好ましくは10~100ppm、特に好ましくは20~100ppm、とりわけ好ましくは30~60ppmの量を使用することが好ましい。含有量は、使用される単量体の総質量に対する値である。
【0047】
工程b)は、好ましくは、「より低い」温度、好ましくは270℃未満、より好ましくは260℃未満、255℃未満、250℃未満、245℃未満、および少なくとも240℃で実施される。
【0048】
少なくとも240℃の温度における工程b)の反応時間は、好ましくは、「長すぎない」時間、好ましくは最大10、8、7、6、5、4時間、最短で2時間維持される。
【0049】
工程b)の反応温度に設定された圧力(「高圧」)は、好ましくは、反応時間の10~90%の間維持され、その後、周囲圧力まで下げられ、残りの反応時間中は1~1.2バールの圧力に維持される。より好ましくは、高圧は、20~80%、より好ましくは30~70%、特に好ましくは40~60%の間維持される。
【0050】
工程b)は、好ましくは、メディエーターを使用して実施され、当該メディエーターは反応時に本発明のポリアミドに組み込まれる。好ましくは、使用される単量体の総質量に対し、2~100ppmの量のリン含有酸が使用される。
【0051】
(分子内塩としての)ナイロン塩またはα,ω-アミノ酸をメディエーターとして使用することが好ましい。メディエーターは、好ましくは、使用されるモノマーの量に対し、特に好ましくは使用される二環式テルペンラクタムの量に対し、25重量%以下、20重量%以下、15重量%以下、10重量%以下、5重量%以下、特に好ましくは5~17重量%、8~15重量%、9~13重量%の量で使用される。
【0052】
ナイロン塩は、α,ω-ジアンモニウム化合物とα,ω-ジカルボキシレート化合物からなり、ナイロン塩は好ましくは脂肪族である。ジアンモニウム化合物は好ましくは非直鎖状であり、より好ましくは6個より多くかつ25個以下の炭素原子を有する。少なくとも1つの環構造を有するジアンモニウム化合物が好ましい。PACM(4,4’-メチレンビス[シクロヘキサンアミン])構造を含むジアンモニウム化合物が特に好ましい。6個より多くかつ25個以下の炭素原子を有するジカルボン酸化合物が好ましい。少なくとも1つの環構造を有するジアンモニウム化合物と、6個より多くかつ25個以下の炭素原子を有するジカルボン酸化合物とが特に好ましい。
【0053】
本明細書の文脈において、用語「テルペンラクタム」は、少なくとも1つの二環式系を有し、かつアミド結合-NH-CO-を含む1つの環を有する化合物を意味すると理解される。
【0054】
分子/分子フラグメントが1つまたは複数の立体中心を有するか、または対称性によって異性体に分化し得るか、または他の効果(例えば、回転運動の制限)によって異性体に分化し得るすべての場合において、可能性のある異性体はすべて本発明によってカバーされる。
【0055】
異性体は当業者に知られている。特に、ザールラント大学のカズマイヤー教授の定義(例:http://www.uni-saarland.de/fak8/kazmaier/PDF_files/vorlesungen/Stereochemie%20Strassb%20Vorlage.pdf.)を参照する。本発明の範囲内で天然物、例えばピネンに言及する場合、これは一般に、すべての異性体を意味すると理解されるべきであり、それぞれの天然に存在する各異性体が好ましく、これは本明細書中で言及される場合にはα-ピネンである。
【0056】
天然物は、「天然物辞典(Dictionary of Natural Products)」、Chapman and Hall/CRC Press, Taylor and Francis Group(例えば、2018年以降のWeb版:http://dnp.chemnetbase.com/)の範囲を参照して定義される。
【0057】
テルペン誘導体は、本質的に合成物もしくは半合成物であってもよく、あるいは生物圏の生体からもしくは別のソースから天然物として区別されていてもよい。セルロース生成の残留物から得られ、次いで対応するラクタムに合成的に転化される出発物質が好ましい。
【0058】
特に、立体規則性の立体化学的定義から生じるすべての可能性、例えば、イソタクチック、シンジオタクチック、ヘテロタクチック、ヘミイソタクチック、アタクチックがカバーされている。本明細書の文脈では、少なくとも部分的にアタクチック置換基配列を有するポリアミドが好ましい。
【0059】
二環式テルペンラクタムは、複数の立体中心を有する。
【0060】
特に好ましい二環式テルペンラクタムは、ラクタム環に加えて、3員環、4員環または5員環を有する。
【0061】
二環式テルペンラクタムは、好ましくは、対応する二環式テルペンケトンから調製される。
【0062】
二環式テルペンケトンは、好ましくは、対応する二環式一不飽和テルペンまたは対応する二環式ヒドロキシル化テルペンから調製される。特に好ましくは、ケトンは以下の前駆体分子から調製される。
【化2】
【0063】
特に好ましい二環式テルペンケトンは以下である。
【化3】
【0064】
特に好ましい二環式三員環テルペンラクタムは以下である。
【化4】
【0065】
特に好ましい二環式四員環テルペンラクタムは以下である。
【化5】
【0066】
特に好ましい二環式五員環テルペンラクタムは以下である。
【化6】
【0067】
特に好ましい二環式テルペンラクタムは、以下の式のものである:
1b’、1b’ ’、1’b’、1’b’ ’、3b’、3b’ ’、3’b’、3’b’ ’、5b’および5b’ ’。
【0068】
本発明に係る方法では、金属ラクタメートを使用しないことが好ましい。
本発明に係る方法では、N-アシルラクタムを使用しないことが好ましい。
金属ラクタメートおよびN-アシルラクタムを使用しないことが特に好ましい。
【0069】
工程a)で提供されるすべてのラクタムおよび二官能性化合物の重合は、好ましくは、工程b)で行われる。より好ましくは、少なくとも95%、好ましくは少なくとも90%、特に好ましくは少なくとも85%の転化が起こる。転化率は、本発明のポリアミドの残留単量体含有量から測定される。
【0070】
本発明はさらに、本発明に係る方法によって調製されるポリアミドを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【
図1】
図1は、カレン由来の部分構造単位を含むポリアミドの反応時間6時間での数平均モル質量(Mn)に対する温度の影響を示す。少なくとも95モル%のラクタムが3R、4S、6R-カレンラクタムで構成されていた。
【
図2】
図2は、
図1で説明したように、反応時間6時間での残留単量体含有量に対する温度の影響を示す。
【0072】
方法
示差走査熱量測定(DSC):
すべてのDSC測定は、特に明記されていない限り、アルミニウム製オープン型るつぼ内においてメトラー・トレド(Mettler Toledo)DSC1機器で実施された。重合体には、加熱を2回行う方法を使用する。ガラス転移温度の測定には、2番目の加熱曲線のみを使用する。ダイアグラムでは、1番目の加熱曲線を黒、冷却曲線を赤、2番目の加熱曲線を青で示す。単量体の場合、加熱は通常1回だけ行う。
【0073】
核磁気共鳴分析(NMR)
すべての1H、13C{1H}、13C DEPT-135および2D-NMRスペクトルをBruker Avance III HD500装置で記録した。標準として各共鳴でロックして様々な溶媒を使用する。シグナルの多重度は次のように略す。s:シングレット、d:ダブレット、dd:ダブレットのダブレット、ddd:ダブレットのダブレットのダブレット、t:トリプレット、td:ダブレットのトリプレット、tt:トリプレットのトリプレット、q:カルテット、m:マルチプレット。13C DEPT-135スペクトルを用いて、第4級炭素核、メチン基、メチレン基、およびメチル基を割り当てた。
【0074】
相対溶液粘度(ηrel)
試料を30℃でm-クレゾールに溶解し(0.005g/mL)、25.00℃で粘度測定システム(LAUDA PVSまたはSchott AVS Pro)で測定する。
【0075】
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)
モジュラー構造のアジレントシステムを使用してGPC分析を行った。これには、ポンプ、オートサンプラ、および集合カラム(PSGカラム)が含まれる。使用した検出器はRI検出器であった。試料をヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)に5g/Lの濃度で溶解し、0.05モル/Lのトリフルオロ酢酸カリウムを添加する。RI検出によって0.8mL/分の流量でHFIPと0.05モル/Lのトリフルオロ酢酸カリウムを用いて測定を行った。狭い範囲(M
p:505g/モル~4*106g/モル)に分散された12個のPMMA標準に対してキャリブレーションを行った。
ベンジルアルコール中でのカルボキシル末端基のアルカリ測定、およびm-クレゾール中でのアミノ末端基のアルカリ測定をメトローム 809 タイトランド(Metrohm 809 Titrando)を使用して100℃で行った。
末端基の数は鎖長に反比例するので、末端基の測定からモル質量を推定することができる。末端基はミリモル/kgで表される。これらの値は、次の式に従って数平均モル質量を計算するために使用される。
【数1】
【0076】
単量体含有量を測定するためのガスクロマトグラフィー分析(GC):
極性の異なる2つの分離カラムを備えた二段組カラムシステムでガスクロマトグラフィー分析(GC)を行った。特に明記されていない限り、試料についてはトルエンに溶解する。水素炎イオン化検出器(FID)を使用して検出を行った。ガスクロマトグラフィーで検出可能な画分は、100面積%に正規化して評価した。
ガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS):
アジレント GC 7890/アジレント MSD 5977システムでGC-MS測定を行う。
GC/FID分析での分離を、質量分析検出(GC-MS)を備えたGCシステムにおいて同等のカラムで再現した。シグナルは、GC/FID分析と同様の方法でクロマトグラフィーで検出した。イオン化は、電子衝撃イオン化によるものであった。
【0077】
実施例1:カレンラクタムの重合の一般的手順
厚肉試験管に10g(0.0598モル)のカレンラクタムを投入した。これに、30重量%の水(4.3mL)、57ppmのH
3PO
2、さらに指定されている場合はPACM20とDDAの塩を添加した。圧力計を備えた鋼製ボンベ管内に前記試験管を置いた。前記装置をしっかりと閉じ、窒素で15分間フラッシュした。次に、前記装置が密閉されていることを確認するために、1バールの窒素圧力で前記装置を閉じ、圧力が安定しているかどうかを見るために5分間観察した。しっかりと閉じた鋼製ボンベ管を、ウッドメタルで満たされた金属浴に入れ、30分間にわたって反応温度まで加熱した。反応時間の半分の間、温度と圧力を維持した。この時間の終わりに、前記装置を30分間にわたって標準圧力まで減圧し、窒素でフラッシュし、残りの反応時間の間、温度を維持した。次に、鋼製ボンベ管を金属浴から取り出し、室温で窒素流中に一晩放置した。
表1:実施例1の反応条件と分析結果、T=温度、MAmt=使用したカレンラクタムの量に対するモル%単位のメディエーターの量、Mono=単量体画分(残留単量体含有量)
【表1】
【0078】
実験C28、C29およびC30とメディエーターを添加しない類似の実験との比較;C16、C5、およびC6は、明らかに減少した残留単量体含有量を示している。また、5時間および6時間の反応時間では、メディエーターの添加によりモル質量が増加する点も有利である。
ガラス転移温度はモル質量と相関している。
反応時間を比較すると、同じ温度では、反応時間が長くなるとモル質量が急激に減少することが分かる。最適な反応時間は、反応温度の上昇とともに短くなる。
【0079】
実施例2:ピネンラクタムの重合の一般的手順
厚肉試験管に10g(0.0598モル)のピネンラクタムを投入した。これに、35重量%の水(5.4mL)、57ppmのH
3PO
2、およびメディエーター(表2に示す)を添加し、圧力計を備えた鋼製ボンベ管内に前記試験管を置いて。前記装置を窒素で15分間フラッシュした。次に、実施例1のように気密性を確認した。実施例1に記載したように反応温度への加熱を行った。温度および圧力を2.5時間維持した。この時間の終わりに、前記装置を30分間にわたって減圧し、窒素でフラッシュし、窒素流下でさらに3時間温度を維持した。次に、前記鋼製ボンベ管を金属浴から取り出し、室温で窒素流中に一晩放置した。
メディエーターを添加しないと、NMR法またはIR法のいずれによっても重合体への転化を検出できなかった。
メディエーターとしての塩については、等モル量のジアミンをエタノール中でジカルボン酸と加熱し、必要に応じて少量の溶媒を蒸留除去し、水を共沸的に除去することによって調製した。
表2:実施例2の反応条件と分析結果、T=温度、MAmt=使用したピネンラクタムの量に対するモル%単位のメディエーターの量、Mono=単量体画分(残留単量体含有量)
【表2】
【0080】
PACM20:トランス-トランス含有量が約20%である4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)
DDA:1,12-ドデカン二酸
12-ADA:12-アミノドデカン酸、アミノラウリン酸
AH:ヘキサメチレンジアミン+アジピン酸
生成物P2については、ベンゼン溶液中でNMR法によって調査した。
ピネンラクタムを単量体として使用する実施例2は、メディエーターを使用する必要性を示している。
また、最も立体的に要求の厳しいメディエーターを使用すると、最良の結果が得られることが分かった。
ガラス転移温度は、ポリアミドの場合、異常に高くなる。
【国際調査報告】