(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-22
(54)【発明の名称】出血性脳卒中後の有害な二次神経学的転帰を処置する際に使用するためのハプトグロビン
(51)【国際特許分類】
A61K 38/17 20060101AFI20220714BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20220714BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20220714BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220714BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220714BHJP
A61K 31/4245 20060101ALI20220714BHJP
A61K 33/26 20060101ALI20220714BHJP
A61K 47/46 20060101ALI20220714BHJP
【FI】
A61K38/17
A61P9/10
A61P25/00
A61P43/00 121
A61K45/00
A61K31/4245
A61K33/26
A61K47/46
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021568520
(86)(22)【出願日】2020-05-15
(85)【翻訳文提出日】2022-01-11
(86)【国際出願番号】 EP2020063732
(87)【国際公開番号】W WO2020234195
(87)【国際公開日】2020-11-26
(32)【優先日】2019-05-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2019-07-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】517237735
【氏名又は名称】ウニベルシテート チューリッヒ
(71)【出願人】
【識別番号】501091604
【氏名又は名称】ツェー・エス・エル・ベーリング・アクチエンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】ミカエル・フーゲルズホーファー
(72)【発明者】
【氏名】クリスティアン・シェアー
(72)【発明者】
【氏名】ドミニク・シェアー
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA11
4C076BB11
4C076BB21
4C076CC29
4C076EE57
4C084AA02
4C084AA19
4C084BA44
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4C084CA53
4C084DC50
4C084MA02
4C084MA05
4C084MA16
4C084MA56
4C084MA65
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA011
4C084ZA012
4C084ZA361
4C084ZA362
4C086AA01
4C086BC71
4C086HA11
4C086MA02
4C086MA04
4C086MA16
4C086MA56
4C086MA65
4C086NA05
4C086ZA01
4C086ZA40
4C086ZC75
(57)【要約】
本発明は、血管外溶血および無細胞ヘモグロビン(Hb)の脳脊髄液(CSF)中への放出を伴う出血性脳卒中後の対象において、有害な二次神経学的転帰を処置または予防するための方法であって、ハプトグロビン(Hp)またはその機能的類似体が、無細胞Hbと複合体を形成し、これによりその中和を可能にするのに十分な期間、それを必要としている対象のCSFを治療有効量のHpに曝露する工程を含む前記方法と一般的に関連する。本発明の態様は、Hpを含む人工CSFの組成物およびキットとさらに関連する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血管外溶血および無細胞ヘモグロビン(Hb)の脳脊髄液(CSF)中への放出を伴う出血性脳卒中後の対象における有害な二次神経学的転帰を処置または予防する方法であって、ハプトグロビン(Hp)が無細胞Hbと複合体を形成し、これによりその中和を可能にするのに十分な期間、それを必要としている対象のCSFを治療有効量のHpに曝露する工程を含む前記方法。
【請求項2】
出血性脳卒中は、天然に生じる出血または外傷性出血である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
出血性脳卒中は、脳室内出血またはクモ膜下出血である、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
クモ膜下出血は、動脈瘤性クモ膜下出血である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
有害な二次神経学的転帰は、遅発性虚血性神経障害(DIND)、遅発性脳虚血(DCI)、神経毒性、炎症、一酸化窒素枯渇、酸化性組織傷害、脳血管攣縮、脳血管反応性、および浮腫からなる群から選択される、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
有害な二次神経学的転帰は、脳血管攣縮である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
有害な二次神経学的転帰は、遅発性虚血性神経障害である、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
有害な二次神経学的転帰は、遅発性脳虚血である、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
有害な二次神経学的転帰は、脳実質内の有害な二次神経学的転帰である、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
出血の発現後約21日以内に、CSFをHpまたはその機能的類似体に曝露する工程を含む、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
出血の発現後約2日間~約4日間、CSFをHpに曝露する工程を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
出血の発現後約5日間~約14日間、CSFをHpに曝露する工程を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
対象に、Hpを頭蓋内投与する工程を含む、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
対象に、Hpを髄腔内投与する工程を含む、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
Hpは、脊椎管中に髄腔内投与される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
Hpは、クモ膜下腔中に髄腔内投与される、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
対象に、治療有効量のHpを脳室内投与する工程を含む、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
CSFが治療有効量のHpに曝露される期間は、少なくとも約2分である、請求項13~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
CSFが治療有効量のHpに曝露される期間は、約2分~約45分である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
CSFが治療有効量のHpに曝露される期間は、約2分~約20分である、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
CSFが治療有効量のHpに曝露される期間は、約4分~約10分である、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
治療有効量のHpは、出血後の対象のCSF中の無細胞Hbの濃度に対して、少なくとも等モル量である、請求項1~21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
(i)出血後の対象に由来するCSFサンプルを、CSFをHpに曝露する前に取得する工程;
(ii)工程(i)で得られたCSFサンプル中の無細胞Hbの量を測定する工程;および
(iii)工程(ii)から得られた無細胞Hbの濃度に基づき、少なくとも等モル量のHpを決定する工程
をさらに含む請求項22に記載の方法。
【請求項24】
Hpの治療有効量は、約2μM~約20mMである、請求項1~23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
Hpの治療有効量は、約2μM~約300μMである、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
Hpの治療有効量は、約5μM~約50μMである、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
Hpの治療有効量は、約10μM~約30μMである、請求項24に記載の方法。
【請求項28】
CSF内で形成されたHp:無細胞Hb複合体を除去する工程をさらに含む、請求項1~27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
CSFを、治療有効量のHpに体外的に曝露する工程を含む、請求項1~28のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
(i)出血後の対象のCSFコンパートメントからCSFのサンプルを取得する工程;
(ii)工程(i)のCSFサンプルにHpを添加して、Hp富化CSFサンプルを取得する工程;
(iii)Hp富化CSFサンプルを対象に投与し、これによりHpが対象のCSFコンパートメントにおいて無細胞Hbと複合体を形成することを可能にするのに十分な期間、対象のCSFコンパートメントを治療有効量のHpに曝露する工程;および
(iv)場合により、工程(i)~(iii)を反復する工程
を含む、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
(i)出血後の対象のCSFコンパートメントからある容積のCSFを取り出す工程;
(ii)Hpを含む人工CSFを提供する工程;
(iii)(ii)の人工CSFを対象に投与し、これにより、対象のCSFコンパートメントにおいて、Hpが無細胞Hbと複合体を形成することを可能にするのに十分な期間、対象のCSFコンパートメントを治療有効量のHpに曝露する工程;および
(iv)場合により、工程(i)~(iii)を反復する工程
を含む、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
(i)出血後の対象に由来するCSFを取得する工程;
(ii)CSFにおいて、Hpまたはその機能的類似体が無細胞Hbと複合体を形成するのを可能にする条件下で、工程(i)から得られたCSFをHpに曝露する工程;
(iii)Hp:無細胞Hb複合体を、工程(ii)の後のCSFから抽出して、工程(i)から得られたCSFと比較したときに、それより少ない量の無細胞Hbを有するHb減少CSFを取得する工程;
(iv)場合により、工程(ii)および(iii)を反復して、無細胞Hbを実質的に含まないHb減少CSFを取得する工程;ならびに
(v)工程(iii)または工程(iv)から得られたHb減少CSFを、対象のCSFコンパートメントに投与する工程
を含む、請求項29に記載の方法。
【請求項33】
工程(v)の前に、Hb減少CSFに対して治療有効量のHpを添加する工程をさらに含む、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
Hpは、基材上に固定されている、請求項32または請求項33に記載の方法。
【請求項35】
基材は、アフィニティークロマトグラフィー樹脂である、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
工程(ii)は、CSF中の無細胞Hbが樹脂と結合するのを可能にする条件下で、工程(i)から得られたCSFをアフィニティークロマトグラフィー樹脂に通過させる工程を含み、工程(iii)は、工程(ii)後に樹脂からCSFを溶出させる工程を含み、および工程(iv)は、溶出したCSFを回収する工程を含む、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
場合により、工程(i)後のCSFコンパートメントを、洗浄溶液を用いて洗浄する工程を含む、請求項32~36のいずれか1項に記載の方法。
【請求項38】
洗浄溶液は、人工CSFである、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
人工CSFは、NaCl、KCl、KH
2PO
4、NaHCO
3、MgCl
6・H
2O、CaCl
2・H
2O、およびグルコースを含む、請求項31または請求項38に記載の方法。
【請求項40】
洗浄溶液は、Hpを含む、請求項37~39のいずれか1項に記載の方法。
【請求項41】
洗浄溶液は、約2μM~約20mMのHpを含む、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
洗浄溶液は、約2μM~約300μMのHpを含む、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
(i)出血後の対象に由来するCSFを取り出す工程;
(ii)工程(i)後の対象のCSFコンパートメントを、治療有効量のHpを含む洗浄溶液を用いてリンスする工程;
(iii)場合により工程(ii)を反復する工程;および
(iv)工程(ii)または工程(iii)後の対象のCSFコンパートメントに人工CSFを投与する工程
を含む、請求項1~42のいずれか1項に記載の方法。
【請求項44】
人工CSFは、NaCl、KCl、KH
2PO
4、NaHCO
3、MgCl
6・H
2O、CaCl
2・H
2O、およびグルコースを含む、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
人工CSFは、Hpを含む、請求項43または請求項44に記載の方法。
【請求項46】
人工CSFは、約2μM~約20mMのHpを含む、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
人工CSFは、約2μM~約300μMのHpを含む、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
Hpは、Hp1-1ホモ二量体、Hp1-2多量体、Hp2-2多量体、および上記のいずれかの組合せからなる群から選択される、請求項1~47のいずれか1項に記載の方法。
【請求項49】
Hpは、Hp2-2多量体を含む、請求項48に記載の方法。
【請求項50】
Hpは、組換えタンパク質である、請求項1~49のいずれか1項に記載の方法。
【請求項51】
Hpは、血漿由来である、請求項1~49のいずれか1項に記載の方法。
【請求項52】
対象に、脳室内出血後の有害な二次神経学的転帰を処置または予防するための第2の薬剤を投与する工程をさらに含む、請求項1~51のいずれか1項に記載の方法。
【請求項53】
第2の薬剤は、血管拡張薬である、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
第2の薬剤は、シドノンおよびニトロプルシドナトリウムからなる群から選択される、請求項52または請求項53に記載の方法。
【請求項55】
Hpを含む人工脳脊髄液(CSF)。
【請求項56】
Hpは、約2μM~約20mMの量で存在する、請求項55に記載の人工CSF。
【請求項57】
Hpは、約5μM~約300μMの量で存在する、請求項55に記載の人工CSF。
【請求項58】
Hpは、約5μM~約50μMの量で存在する、請求項55に記載の人工CSF。
【請求項59】
Hpは、約10μM~約30μMの量で存在する、請求項58に記載の人工CSF。
【請求項60】
Hpは、Hp1-1ホモ二量体、Hp1-2多量体、Hp2-2多量体、および上記のいずれかの組合せからなる群から選択される、請求項57~59のいずれか1項に記載の人工CSF。
【請求項61】
Hp2-2多量体を含む、請求項60に記載の人工CSF。
【請求項62】
Hpは、組換えタンパク質である、請求項59または請求項60に記載の人工CSF。
【請求項63】
Hpは、血漿由来である、請求項57または請求項58に記載の人工CSF。
【請求項64】
請求項1~54のいずれか1項に記載の方法に基づき、出血性脳卒中後の対象における有害な二次神経学的転帰を処置または予防するための医薬組成物であって、治療有効量のHpおよび薬学的に許容される担体を含む前記医薬組成物。
【請求項65】
請求項1~54のいずれか1項に記載の方法に基づき、出血性脳卒中後の対象における有害な二次神経学的転帰を処置または予防する際に使用するための医薬組成物であって、治療有効量のHpおよび薬学的に許容される担体を含む前記医薬組成物。
【請求項66】
Hpは、約2μM~約20mMの量で存在する、請求項64または請求項65に記載の組成物。
【請求項67】
Hpは、約2μM~約300μMの量で存在する、請求項66に記載の組成物。
【請求項68】
Hpは、約5μM~約50μMの量で存在する、請求項66に記載の組成物。
【請求項69】
Hpは、約10μM~約30μMの量で存在する、請求項66に記載の組成物。
【請求項70】
Hpは、Hp1-1ホモ二量体、Hp1-2多量体、Hp2-2多量体、および上記のいずれかの組合せからなる群から選択される、請求項64~69のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項71】
Hp2-2多量体を含む、請求項70に記載の組成物。
【請求項72】
請求項1~54のいずれか1項に記載の方法に基づき、出血性脳卒中後の対象における有害な二次神経学的転帰を処置または予防するための医薬の製造における、治療有効量のハプトグロビン(Hp)の使用。
【請求項73】
請求項1~54のいずれか1項に記載の方法に基づき、出血性脳卒中後の対象における有害な二次神経学的転帰の処置または予防で使用するための治療有効量のハプトグロビン(Hp)。
【請求項74】
請求項55~63のいずれか1項に記載の人工CSFまたは請求項64~71のいずれか1項に記載の組成物を含むキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳脊髄液(CSF)コンパートメント中への出血性脳卒中後、特にクモ膜下出血(SAH)後の対象における、有害な二次神経学的転帰を処置および/または予防するための方法および組成物と一般的に関連する。
【背景技術】
【0002】
本明細書で引用されたすべての参照は、あらゆる特許または特許出願を含め、本発明の完全なる理解を可能にするために、参照によって本明細書により組み入れる。それにもかかわらず、そのような参照は、それらの文書のいずれかが、オーストラリアまたは任意のその他の国において、当技術分野における共通一般的知識の一部を形成する、という承認を構成するものと読み取られるものではない。
【0003】
出血性脳卒中は、周辺組織中への出血を伴う、脳内またはその表面における血管の破裂と関係する。出血性脳卒中の例として、i)脳内血管の破裂と関係する脳内出血(本明細書ではICHと呼ばれる);ii)脳室系中への出血である脳室内出血(本明細書ではIVHと呼ばれる);およびiii)脳と脳を覆う組織との間の腔(クモ膜下腔として知られている)における出血と関係するクモ膜下出血(本明細書ではSAHと呼ばれる)が挙げられる。最も高頻度のSAHは、動脈瘤破裂(本明細書ではaSAHと呼ばれる)により引き起こされる。SAHのその他の原因として、頭部傷害、出血障害、および血液希釈剤の使用が挙げられる。
【0004】
IVHのおよそ30%は、対象の脳室系に主に限定され、また脳室内外傷、動脈瘤、血管奇形、または特に脈絡叢の腫瘍により一般的に引き起こされる。残りの70%は本質的に二次的であり、実質内出血またはSAHを問わず、既存の出血の拡大に起因する。IVHは、中程度~重度の外傷性脳傷害の35%で生ずることが判明している。したがってIVHは、大規模な関連損傷がなければ、通常生じない。
【0005】
動脈瘤性クモ膜下出血(aSAH)はSAHの最も一般的な原因であり、また最高死亡率および長期神経学的身体障害と関連している1、2。動脈瘤修復および神経集中医療における進歩にもかかわらず、欧州における院内致死率中央値は44.4%であり、また米国では32.2%である3。生存者の35%が、出血イベントから1年後に、全体的な生活の質の不良を報告しており、83~94%が仕事に復帰することができない4~6。米国内の頭蓋内動脈瘤破裂に起因するaSAHの推定発生率は、10,000人当たり1症例であり、毎年およそ27,000件の新規症例が生ずる。さらに、aSAHは、男性よりも女性において一般的である(2:1);発生率のピークは55~60歳である。
【0006】
過去数十年において、出血性脳卒中患者のマネジメントが改善し、また死亡例も低下したにもかかわらず、この集団において身体障害および死亡率は高止まりしたままである。脳傷害は、SAH後の初日に突然生じる可能性がある。この早期脳傷害は、頭蓋内圧増加、ヘルニア形成、脳内出血、脳室内出血、および水頭症のような、脳に対する物理的効果に起因し得る。後続する有害な二次神経学的転帰が、血管造影脳血管攣縮(ACV)を含め発生し、より重度の症例では、遅発性脳虚血(DCI)および脳梗塞を引き起こすおそれがある。遅発性虚血性神経障害(DIND)の発生を伴う有害な二次神経学的転帰は、初期の出血(haemorrhage)または出血(bleed)後の4~14日目の間に一般的に生じ、またこれらの患者における身体障害および死亡に対する主たる寄与因子である。DINDは脳虚血の特徴的な症候群である。頭痛、髄膜症の増悪、および体温上昇の後に、意識の変動性の衰退および限局性神経症状の出現が後続するのが一般的である。臨床的DINDは、少なくとも2グラスゴーコーマスケール(GCS)レベルの遅発的意識低下、および/または新たな限局性神経障害により定義可能である。遅発性梗塞についてスクリーニングするために、連続したCTスキャンが、手術後、臨床的退行時、およびモニタリング期間後に実施可能である。これは、選択された症例においてMRIにより補完可能である。DINDの病因は部分的理解のみに留まるものの、しかし多因子性であることが幅広く受け入れられている7。例えば、神経炎は、傷害の拡大および脳損傷において重要な役割を演じている。赤血球分解生成物は、血管攣縮および組織傷害のトリガーとなる炎症性サイトカインの放出を引き起こすおそれがある8。末梢免疫細胞は、損傷を受けた組織において動員されると同時に活性化もされる。この細胞は、脳実質に進入し、そして炎症性サイトカインを放出する可能性がある9。さらに、固有のtoll様受容体が梗塞後に上方制御され、広範にわたる神経炎症を引き起こす。神経炎症は、SAH後に生ずる有害な二次転帰ともリンクしている10。脳血管攣縮(CV)を経た管腔は、白血球接着能を増加させ、遅発性の神経学的退行に寄与する15。
【0007】
炎症、脳微小血栓症、皮質拡延性虚血、血液脳関門の破綻、および遅発性脳虚血(DCI)も脳損傷を引き起こすおそれがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
残念ながら、これらのプロセスに狙いを定めた薬理学的処置のいずれも、出血性脳卒中において効能をなおも示せていない。経腸ニモジピンおよびaSAHにおける責任動脈瘤の血管内処置が、患者の転帰を改善するためのランダム化された臨床試験から得られたエビデンスにより裏付けられた唯一の処置選択肢としてとどまる。したがって、出血性脳卒中後の患者において有害な二次神経学的転帰を処置および/または予防するための特別な療法に対する緊急かつ未だ対処されていない必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の1つの態様では、血管外溶血および無細胞ヘモグロビン(Hb)の脳脊髄液(CSF)中への放出を伴う出血性脳卒中後の対象において、有害な二次神経学的転帰を処置または予防するための方法であって、ハプトグロビン(Hp)が無細胞Hbと複合体を形成し、これによりその中和を可能にするのに十分な期間、それを必要としている対象のCSFを治療有効量のHpに曝露する工程を含む前記方法が提供される。
【0010】
本明細書で開示される別の態様では、本明細書に記載される方法に基づき、脳室内出血後の対象において、有害な二次神経学的転帰を処置または予防するための医薬組成物であって、治療有効量のハプトグロビン(Hp)および薬学的に許容される担体を含む前記医薬組成物が提供される。
【0011】
本明細書で開示される別の態様では、本明細書に記載される方法に基づき、脳室内出血後の対象において、有害な二次神経学的転帰を処置または予防する際に使用するための医薬組成物であって、治療有効量のハプトグロビン(Hp)および薬学的に許容される担体を含む前記医薬組成物が提供される。
【0012】
本明細書で開示される別の態様では、本明細書に記載される方法に基づき、脳室内出血後の対象において、有害な二次神経学的転帰を処置または予防するための医薬を製造する際の、治療有効量のハプトグロビン(Hp)の使用が提供される。
【0013】
本明細書で開示される別の態様では、本明細書に記載されるような人工CSFまたは本明細書に記載されるような組成物を含むキットが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】経斜台アプローチ(transclival approach)を通じて、新たに屠殺されたブタからブタ脳底動脈を単離する例証的事例を示す図である。動物1匹当たり5~6個の血管輪(長さ2mm)を、解剖顕微鏡下で、広範にわたる機械的管腔操作を回避しつつ調製した。
【
図2】左側脳室の前角内に進入する外部脳室ドレイン(EVD)、右前頭白質内に埋め込まれたニューロモニタリングプローブ、および後頭下クモ膜下穿刺針を備えた実験構成のスキームおよび手術時の写真を示す図である。
【
図3】デジタルサブトラクション血管造影法(DSA)から得られた管腔径の半自動化された定量を示す図である。左図および右上の挿入図は、前大脳動脈(ACA)、中大脳動脈(MCA)、内頸動脈(ICA)の大槽部分、および脳底動脈(BA)における直線状の対象領域(ROI)について、その代表的な選択を示す。これらの対象領域は、ACA、cICA、およびBAの直線セグメントにおいては、0.5mm間隔で(5箇所)自動的に、ならびにMCAの曲線セグメントにおいては手作業により(3箇所)設定された。すべてのROIについて、Fischerら(2010年)によりこれまでに記載されたように(右下)、管腔径を断面の強度プロファイルから計算し(中段右側)、そして各管腔のすべてのROIにおいて平均化した。
【
図4】単離されたブタ脳底動脈を用いた血管機能実験における無細胞Hbの効果を示す図である。A、MAHMA NONOate(60nM)をバッファーに添加した後、ブタ脳底部から得られた管腔セグメントにおいて、NO媒介式の血管拡張応答が観察可能である(灰色トレース)。10μMのoxyHbを含有するバッファー(黒色トレース)では、MAHMA NONOateを添加した後に血管拡張応答は観測されなかった。トレースは、バッファーおよびバッファー+Hbについて、管腔15個および14個の平均値±SDをそれぞれ示す。B、等モル濃度のHpを、10μMのHbを含有するバッファーに添加した後、MAHMA NONOateに対する血管拡張応答は回復する。トレースは、1群当たり管腔16個の平均値±SDを示す。この実験において、血管応答を、最適なIC1/IC100比まで受動的ストレッチングを行った後の張力(=100%)、およびPF2α添加後の持続的収縮レベル(=0%)と比較して標準化した。
【
図5】HpカラムによりHbを選択的に除去する前(暗色)およびその後(明色)の溶血性患者CSFサンプル(遠心分離後)の画像および吸収スペクトルを示す図である。CSF中に浸漬されたブタ脳底動脈セグメントにおいて、張力記録が一時的に減少することにより示されるように(灰色)、Hbを除去することで、MAHMA NONOate投与に対する血管拡張応答が回復した。拡張性のNOシグナルは、Hbが枯渇する前の同一のCSFサンプルにおいて脱共役したままであった(黒色)。
【
図6】aSAHを有する患者(n=9)から得られたCSF中に浸漬されたブタ脳底動脈において、CSFに対してMAHMA-NONOateを投与した後に、拡張性のNOシグナルが共役することを示す図である。溶血前CSF(左側パネル)、溶血CSF(中間パネル)、および溶血CSFに対してHp添加後(右側パネル)において、動脈を連続して調査した。
【
図7】デジタルサブトラクション血管造影法、解剖試料の写真、およびT1加重MR画像の曲面多断面再構成法(curved multiplanar reconstruction)(曲面MPR)におけるウィリス動脈輪を示す図である。曲面MPR内の明るい(白色)シグナルは、冠状の視野画像において表されるように、後交通動脈(PCOM)および脳底動脈(BA)を取り巻く輸注後のヘムタンパク質(この事例ではHb-Hp複合体)を表す。曲面MPR内の破線(1~3)は、冠状切片の場所を表す。
【
図8】TCO標識されたHb(A)およびTCO標識されたHb:Hp(B)を注射し、核(「Nuclei」)および標識された化合物(「TCO-Hb」または「TCO-HbHp」)について染色した後の、側脳室を通過するヒツジ脳切片の代表的な組織学的画像を示す図である。A、Hbは、脳室系から脳室上皮関門(ependymal barrier)を経由して脳間質腔中(Aの「TCO-Hb」画像内の明るいエリア)まで浸透する。B、脳室上皮関門を経由するHb:Hp複合体の脳間質腔中への浸透は、Hb単独と比較して劇的に低下する。しかしながら、脳室上皮関門の完全性が阻害された場合(例えば、EVD移植後の局所的損傷)、Hb:Hpは、脳組織中に局所的に浸透する(矢印頭部)。スライド全体のスキャンを、10×倍率で取得した単一画像のスティッチングにより生成した。上段パネルは、核染色(Hoechst社)、およびTCO標識されたHbまたはHb:Hp(Tet-Cy5)のオーバーレイをそれぞれ表示する一方、下段パネルは、標識されたタンパク質のみを示す。
【
図9】TCO標識されたHb(A)およびTCO標識されたHb:Hp(B)を注射し、核(「Nuclei」)、および標識された化合物(「TCO-Hb」または「TCO-HbHp」)について染色した後の、中脳を通過するヒツジ脳切片の代表的な組織学的画像を示す図である。A、Hbは、頭蓋クモ膜下CSF腔から、中脳のグリア境界膜を経由して脳実質中に浸透する(Aの「TCO-Hb」画像内の明るいエリア)。B、Hb:Hp複合体の分布は、貫通皮質血管のCSFで満たされた血管周囲腔(Virchow-Robin腔)に限定される。スライド全体のスキャンを、10×倍率で取得した単一画像のスティッチングにより生成した。上段パネルは、核染色および標識された化合物のオーバーレイを表示する一方、下段パネルは、標識された化合物のみを示す。
【
図10】TCO標識されたHb(A~D)またはHb:Hp複合体(E~H)を輸注した後に、ヒツジから得られた中脳の脳室周囲エリア内に位置する小動脈の代表的な共焦点画像を示す図である。120μmビブラトーム切片を、血管平滑筋細胞(aSMA)、アストロサイト終足(AQP4)、およびTCO標識されたHbについて染色した(テトラジン-Cy5)。黒色~白色のグラジエント画像(Hbシグナル)は、対応する画像から得られた標識ヘムタンパク質のシグナルのみを表示する。CSFから血管構造(平滑筋細胞層)および脳実質(アストロサイトエリア)内への無細胞Hbの非局在化は、Hpによりブロックされる。スケールバーは20μmである。
【
図11】Hb(A)またはHb:Hp複合体(B)を輸注した後の2匹のヒツジについて側面投影したときの例証的DSAの比較を示す図である。脳底動脈(矢印)の分節性血管攣縮(segmental vasospasm)は、Hb輸注から60分後に明らかとなった一方、Hb:Hp複合体が輸注された動物では分節性血管攣縮を検出することはできなかった。
【
図12】ベースライン(A)およびHb輸注から60分後(B)における例証的な血管造影図を、側面投影したときの中大脳動脈における分節性血管攣縮(上段パネル、矢印)について、また背腹方向に投影したときの前大脳動脈(下段パネル、矢印)ならびに中大脳動脈(下段パネル、アスタリスク)について示す図である。画像は、すべての主要血管テリトリーに生ずる分節性血管攣縮を示す。
【
図13】上段パネル(A)は、HbまたはHb:Hpの輸注から60分後の大脳動脈の相対的直径変化を示す図である(ACA:前大脳動脈、BA:脳底動脈、ICA:内頸動脈、MCA:中大脳動脈)。ダイヤモンドは平均および95%信頼区間を表す(1群当たりn=4のヒツジ)。下段パネルは、aCSF(B)、HbまたはHb:Hp(C)の輸注から60分後の全分析対象動脈領域の相対的直径変化の累積的分析を示す図である。ダイヤモンドは平均および95%信頼区間を表す。(ACA:前大脳動脈、BA:脳底動脈、ICA:内頸動脈、MCA:中大脳動脈)。
【
図14】(A)表示の通り、Hbおよび(後続する)Hpの脳室内輸注後のクモ膜下腔から収集されたヒツジCSFサンプルの連続したSEC溶出プロファイル。HbおよびHb-Hp複合体の標準的な溶出プロファイルを最上段に示す;および(B)ベースライン、Hb輸注から45分後、およびHp輸注から45分後における中大脳動脈(MCA)のDSAを示す図である。
【
図15】処置後血管造影の前後60分において収集したヒツジCSF中に浸漬されたブタ脳底動脈のNO媒介式の弛緩の共役を示す図である。人工CSFの輸注後(CSF-heme 0μMのHb=対照CSF;左側パネル)、Hb輸注後(CSF-heme 200~240μMのHb;中央パネル):Hb-Hp輸注後(CSF-heme 200~240μM;右側パネル)。中央パネル内の点線は、等モルHpのex vivo添加を通じたNO応答の復旧を示す。拡張性の応答が、すべての実験において、MAHMA-NONOateの単回ボーラスにより誘発された。
【
図16】急性出血後1、4、7、11、および14日目の患者サンプルにおけるCSFタンパク質の分類を示す図である。LC-MSMSにより同定されるタンパク質を、対数変換後の標準化されたイオン強度比のK平均クラスタリングにより分析した。右側パネルは、同定されたタンパク質の主成分分析を示す。クラスター1:不変のまま存続するタンパク質(すなわち、ALB)。クラスター2:経時的に減少するタンパク質(すなわち、HP、HPR)。クラスター3:経時的に増加するタンパク質(すなわち、HBB、HBA、FTH、HBD、CAT、CA1、FTL)。略号:ALB、アルブミン;HP、ハプトグロビン;HPR、ハプトグロビン関連タンパク質;HBB、Hb-β;HBA、Hb-α;FTH、フェリチン重鎖;HBD、Hb-δ;CAT、カタラーゼ;CA1、カルボニックアンヒドラーゼ;FTL、フェリチン軽鎖。
【
図17-1】第四脳室の脈絡膜内細動脈の組織形態計測分析を示す図である。ヒツジ脳の120μm切片をα平滑筋アクチン(αSMA)について染色した。(A)試験された脳切片の解剖学的位置の例証図。処置に対して盲検化された研究者が、脈絡膜内管腔の共焦点画像を記録した。(B)Image Jソフトウェアを用いて、αSMA陽性構造の内周および外周をマニュアル描写することにより、内腔面積(A
inner)、およびセクション毎の管腔面積の合計(A
outer)を管腔毎に数値化し、そして内腔面積率を計算した。この測定を、盲検化された研究者3名により、すべての画像について実施し、そして平均値をさらに分析した。(C)HbおよびHb-ハプトグロビン処置ヒツジの脈絡膜内細動脈の代表的な画像。(D)分析された全管腔に関するプロット後のデータおよび統計分析(n=57)。(E)ヒツジ1匹当たりの平均内腔面積に関するプロット後のデータおよび統計分析(n=3)。ドットは個々の動物を表す。ダイヤモンドは、平均および95%CIを表す。オーバーラップマーク(平均ラインよりも上および下の水平ライン)は、重複しない場合には、群間の統計的有意差を定義する(p<0.05)。
【
図18】10μMのoxyHbを含有するバッファー中に浸漬後の単離された脳底動脈セグメントの、組換えHp1-1または血漿由来のHp2-2をバッファーに添加する前(左側の2つの箱ひげ図)およびその後の、MAHMA NONOate(60nM)に対する応答を示す図である。NO誘発性の血管拡張応答の回復において、Hp1-1およびHp2-2の間で有意差を認めることはできない。1テスト条件当たりN=4の血管セグメント。この実験において、血管応答は、最適なIC1/IC100比まで受動的ストレッチングを行った後の張力(=100%)およびPF2α添加後の持続的収縮レベル(=0%)と比較して標準化した。
【
図19】10μMのoxyHbを含有するバッファー中に浸漬後の単離された脳底動脈セグメントの、等モル濃度の血漿由来Hp1-1(黒色点線トレース)または血漿由来Hp2-2(灰色のトレース)をバッファーに添加する前(上段パネルの「Hbディップ」)およびその後(下段パネルの「Hpディップ」)の、MAHMA NONOate(60nM)に対する応答を示す図である。NOに対する血管拡張応答の回復において、血漿由来Hp1-1およびHp2-2の間で、定性的な差異を認めることはできない。1テスト条件当たりN=6の血管セグメント。この実験において、血管応答は、最適なIC1/IC100比まで受動的ストレッチングを行った後の張力(=100%)およびPF2α添加後の持続的収縮レベル(=0%)と比較して標準化した。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書全体を通じて、文脈から別途必要とされない限り、言葉「~を含む(comprise)」、または「~を含む(comprises)」もしくは「~を含むこと(comprising)」のような変化形は、記載された要素もしくは整数、または要素もしくは整数の群の組入れを意味するが、しかし任意のその他の要素もしくは整数、または要素もしくは整数の群を除外しないものと理解される。
【0016】
本明細書において、任意の先行する公開資料(またはそれに由来する情報)、または公知である任意の事案を参照したからといって、先行する公開資料(もしくはそれに由来する情報)または公知の事案が、本明細書と関連する試みの範囲(field of endeavour)における共通一般知識の一部分を形成するという容認もしくは承認、またはその任意の形態の示唆と受け取られるものではなく、またそうすべきでない。
【0017】
対象とする明細書において使用される場合、単数形「a」、「an」、および「the」は、文脈より別途明確に指示されない限り、複数形の側面を含むことに留意しなければならない。したがって、例えば「ある薬剤(an agent)」という場合、それは単一の樹脂、ならびに2つまたはそれより多くの薬剤を含む;「その組成物(the composition)」という場合、それは単一の組成物、ならびに2つまたはそれより多くの組成物を含む;以下同様。
【0018】
相反する何らかの示唆が存在しない場合、「%」含有量というのは、本明細書全体を通じて、%w/w(重量/重量)を意味するものと解釈される。例えば、総タンパク質の少なくとも80%を占めるハプトグロビン含有量を含む溶液は、総タンパク質の少なくとも80%w/wを占めるハプトグロビン含有量を含む組成物を意味するものと解釈される。
【0019】
本発明は、Hpは、in vivoでの、脳血管攣縮のような無細胞Hb媒介式の有害な二次神経学的転帰を低下させ、さもなければ防止することができる、という本発明者らの驚くべき発見に少なくとも一部において基づく。したがって、本明細書で開示される1つの態様では、血管外溶血および無細胞ヘモグロビン(Hb)の脳脊髄液(CSF)中への放出を伴う出血性脳卒中後の対象における有害な二次神経学的転帰を処置または予防する方法であって、Hpまたはその機能的類似体が無細胞Hbと複合体を形成し、これによりその中和を可能にするのに十分な期間、それを必要としている対象のCSFを、治療有効量のハプトグロビン(Hp)に曝露する工程を含む前記方法が提供される。
【0020】
出血性脳卒中
出血性脳卒中またはCSFコンパートメント中への出血は、本明細書では、脳内出血、脳溢血、または頭蓋内出血とも交換可能に呼ばれる。そのような出血は、局所的出血を引き起こす脳内の血管破裂により一般的に特徴づけられる。出血の場所は変化し得る。例えば、CSFコンパートメント中への出血は、脳室内出血、実質内出血、および/またはクモ膜下出血に起因し得る。
【0021】
出血性脳卒中は、当業者にとってなじみ深いように、異なる自然経過、評価、およびマネジメントを伴う一連の病理学からなる。出血性脳卒中は、病因論に応じて一次または二次として一般的に分類される。
【0022】
一実施形態では、出血性脳卒中は、脳室内出血(IVH)またはクモ膜下出血(SAH)である。一実施形態では、血性脳卒中は、動脈瘤性クモ膜下出血(aSAH)である。
【0023】
対象における出血性脳卒中、特にSAHを診断する方法は当業者にとってなじみ深く、その例証的事例として、脳血管造影法、コンピューター断層撮影法(CT)、ならびに対象のCSF内oxyHbおよびビリルビンの分光光度分析が挙げられる(例えば、Cruickshank AM.,2001,ACP Best Practice No 166,J.Clin.Path.,54(11):827-830を参照)。
【0024】
出血性脳卒中は、天然に生じる出血(例えば、動脈瘤破裂の結果としての)または外傷性出血(例えば、頭部に対する外傷の結果としての)であり得るものと当業者により理解される。一実施形態では、出血性脳卒中は、非外傷性出血としても知られている天然に生じる出血である。一実施形態では、出血性脳卒中は外傷性出血である。
【0025】
用語「脳脊髄液」またはCSFは、脳室、ならびに頭蓋および脊髄クモ膜下腔内の液体を意味するものと理解される。脳室、頭蓋および脊髄クモ膜下腔は、本明細書では、まとめて「CSFコンパートメント」と呼ばれる。したがって、本明細書で開示される一実施形態では、方法は、それを必要としている対象のCSFコンパートメントを治療有効量のHpに曝露する工程を含む。
【0026】
CSFは、主として、ただしこれに限らず脈絡叢により分泌されるが、脈絡叢は、脳室腔(ventricular lumen)中に突き出た髄膜の粒状突起から構成され、その上皮表面は脳室上皮に連なる。試験より、脳間質液、脳室上皮、および毛細血管は、CSF分泌においてもやはり役割を演じ得ることが示唆されている。CSF容積は、ヒト成人において約150mLであると見積もられ、個人間で顕著に異なるものの、頭蓋と脊髄クモ膜下腔内に125mLおよび脳室内に25mLというように、両者間において一般的に分布している。ヒト成人におけるCSF分泌量は、1日当たり400~600mLの間で変化し、CSFの約60~75%は、側脳室の脈絡叢、ならびに第三および第四脳室の脈絡膜により生成される。CSFの脈絡膜分泌は、2つの工程:(i)圧力勾配による、脈絡膜毛細血管から脈絡膜間質コンパートメントへの血漿の受動的濾過、ならびに(ii)カルボニックアンヒドラーゼおよび膜イオンキャリアタンパク質(membrane ion carrier protein)が関与する、脈絡膜上皮を横断する間質コンパートメントから脳室腔への能動輸送を一般的に含む。CSFは、電解質バランスの制御、活性分子の循環、およびカタボライトの除去により、脳間質液およびニューロン環境のホメオスタシスにおいて必要不可欠な役割を演ずる。CSFは、脈絡叢分泌生成物をその作用部位に移送し、そうすることで含浸による脳の特定領域の活性を調節する一方、シナプス伝達は、より迅速な活性変化を生み出す。脳代謝の老廃物である過酸化生成物およびグリコシル化されたタンパク質は、加齢に関連するCSFターンオーバーの減少と共に蓄積する(Sakka et al.,2011,European Annals of Otorhinolaryngology,Head and Neck Diseases,128(6):309-316)。
【0027】
有害な二次神経学的転帰
SAHのような出血性脳卒中から生き延びても、そのような患者は、1つまたはそれ以上の有害な二次神経学的転帰または合併症を発症する有意なリスクに晒されている。用語「有害な二次神経学的転帰」とは、本明細書で使用される場合、出血性脳卒中に後続する有害な神経学的イベント(脳組織に対する二次傷害)を指す。出血性脳卒中後の二次傷害は、一次傷害(例えば、質量効果および物理的破綻)により、血腫に対する生理学的応答(例えば、炎症)により、ならびに/または血液および血液成分の放出により開始されるイベントのカスケードにより引き起こされると考えられる。有害な二次神経学的転帰は当業者にとってなじみ深く、その例証的事例として、遅発性虚血性神経障害(DIND)、遅発性脳虚血(DCI)、神経毒性、アポトーシス、炎症、一酸化窒素枯渇、酸化性組織傷害、脳血管攣縮、脳血管反応性、浮腫、および広汎性脱分極(spreading depolarisation)が挙げられる(例えば、Al-Tamimi et al.,World Neurosurgery,73(6):654-667(2010);Macdonald et al.,Neurocrit.Care,13:416-424(2010);およびMacdonald et al.,J.Neurosurg.99:644-652(2003)を参照)。
【0028】
用語「~を処置すること(treating)」、「処置(treatment)」、「~を処置する(treat)」などは、本明細書に記載されるように、有害な二次神経学的転帰(1つまたはそれ以上のその症状を含む)を緩和し、最小限に抑え、低下させ、軽減、改善し、さもなければ阻害することを意味するように、本明細書では交換可能に使用される。用語「~を処置すること」、「処置」などは、有害な二次神経学的転帰を発症しやすい、またはそのリスクを有するおそれがあるが、しかしそれを有するとはまだ診断されていない対象において、有害な二次神経学的転帰が生ずるのを阻止し、または有害な二次神経学的転帰の発現もしくは後続する進行を遅延させることを意味するように、本明細書においてやはり交換可能に使用される。その文脈において、用語「~を処置すること」、「処置」などは、「予防(prophylaxis)」、「予防上(prophylactic)」、および「予防的(preventative)」のような用語と交換可能に使用される。しかしながら、本明細書に開示される方法は、有害な二次神経学的転帰が処置される対象において生ずるのを完全に防止する必要はないものと理解される。本明細書に開示される方法は、処置が存在しない場合に観察されるはずであった有害な二次神経学的転帰よりもその数が少なくなり、その重症度が低くなりさえすれば、対象内の有害な二次神経学的転帰を単に緩和し、低下させ、軽減、改善し、さもなければ阻害するだけで十分であり得る。したがって、明細書に記載される方法は、出血性脳卒中後の対象における有害な二次神経学的転帰の数および/または重症度を低下させることができる。
【0029】
本明細書で対象と呼ぶ場合、それは対象が出血性脳卒中を有したことがあることを意図するものではなく、出血性脳卒中のリスクを有する対象も含まれるものと理解される。一実施形態では、対象は、出血性脳卒中またはその症状を有する(すなわち、経験している)。別の実施形態では、対象は、処置時に出血性脳卒中をすでに有するものではないが、しかし出血性脳卒中のリスクを有する。例証的事例として、対象は、まだ破裂していないが、しかし破裂のリスクを有する動脈瘤を有する。この事例において、対象は、動脈瘤が破裂するリスクを最小限に抑えるために、外科的介入(例えば、クリッピング術または血管内コイリング(endovascular coiling)により)を受ける可能性がある。したがって、外科的介入の前、その期間中または後に動脈瘤が破裂するような場合には、本明細書に記載される方法が、有害な二次神経学的転帰を最小限に抑え、低下させ、無効にし、さもなければ阻害するために、対象に対して予防上の措置として好適に指定される可能性がある。その文脈において、本明細書に記載される方法は外科的介入の前、その期間中または後に行われる予防上の措置として採用される場合もある。
【0030】
本明細書に開示される方法が、出血性脳卒中後の有害な二次神経学的転帰の数および/または重症度において、主観的、定性的、および/または定量的な低下をもたらす程度は、CSFを治療有効量のHpに曝露する前の有害な二次神経学的転帰の数および/または重症度と比較したとき、例えば少なくとも10%、好ましくは約10%~約20%、好ましくは約15%~約25%、好ましくは約20%~約30%、好ましくは約25%~約35%、好ましくは約30%~約40%、好ましくは約35%~約45%、好ましくは約40%~約50%、好ましくは約45%~約55%、好ましくは約50%~約60%、好ましくは約55%~約65%、好ましくは約60%~約70%、好ましくは約65%~約75%、好ましくは約70%~約80%、好ましくは約75%~約85%、好ましくは約80%~約90%、好ましくは約85%~約95%、または最も好ましくは約90%~100%の低下として表すことができる。
【0031】
有害な二次神経学的転帰の数および/または重症度において、出血性脳卒中後に、主観的、定性的、および/または定量的低下が測定可能である好適な方法は、当業者にとってなじみ深く、また測定される有害な二次神経学的転帰の性質に概ね依存する。例証的事例は本明細書に別途記載される。
【0032】
一実施形態では、有害な二次神経学的転帰は、遅発性虚血性神経障害(DIND)、遅発性脳虚血(DCI)、神経毒性、炎症、一酸化窒素枯渇、酸化性組織傷害、脳血管攣縮、脳血管反応性、浮腫、および広汎性脱分極からなる群から選択される。
【0033】
一実施形態では、有害な二次神経学的転帰は、遅発性虚血性神経障害(DIND)である。SAH後のDINDは、頭痛、髄膜症の増悪、および/または体温上昇により特徴づけられ、その後に意識の変動性の衰退および限局的神経学的症状の出現が一般的に後続する脳虚血の重篤な症候群であり、その理解は十分でない。DINDは、出血性発作後、少なくとも3~4日に認められる神経学的機能の劣化として特徴的に定義される。DINDは、臨床的/症候性血管攣縮または遅発性脳虚血(DCI)とも呼ばれる。DINDは、初期出血からの生存者における疾病率および死亡率の主要原因として存続する。DINDの報告された有病率は約20%~35%であるが、血液負荷がより高い者であっても、有病率は高くて40%であり得る。DINDは、患者のおよそ20%において脳梗塞に、またaSAH後に生じたすべての死亡および身体障害のうちの約13%にその原因がある。DINDを判定する、適する方法は当業者にとってなじみ深く、その例証的事例は、Dreier et al.,Brain,2006;129(12):3224-3237に記載されており、その内容は、参照によって本明細書にそのまま組み入れる。一実施形態では、DINDは、例えば、皮質脳波検査法による広汎性陰性低速電圧変化(spreading negative slow voltage variation)によって証明されるように、広汎性マス脱分極(spreading mass depolarization)により判定される。一実施形態では、DINDは、少なくとも2GCSレベルの遅発性意識低下および/または新たな限局的神経障害と関連する。
【0034】
一実施形態では、有害な二次神経学的転帰は脳血管攣縮である。脳血管攣縮またはCV(「血管造影脳血管攣縮」とも呼ばれる)は、出血性脳卒中後の限局性虚血の最も一般的な原因の1つであり、またSAH関連の身体障害および死亡の最大約23%を占める可能性がある。CVは、クモ膜下腔中への出血性脳卒中後の、特に脳の基底部にある大キャパシタンス動脈(large capacitance artery)(すなわち、大脳動脈)における持続的血管収縮により引き起こされる血管の狭窄により一般的に特徴づけられる。用語「血管攣縮」は、したがって、血管造影的に決定される動脈の狭窄との関連で一般的に使用される。血管の持続的収縮は、遠位脳領域の潅流を低下させ、そして脳血管抵抗を高める。未処置のまま放置すると、CVは、脳組織に対する血液供給量が限定されることに主に起因して、脳虚血および脳梗塞の形態の神経毒性(脳細胞損傷)を最終的に引き起こすおそれがある。CVは、当業者にとって公知の任意の適する手段により検出可能であり、その例証的事例として、デジタルサブトラクション血管造影法(DSA)、コンピューター断層撮影(CT)血管造影法(CTA)、磁気共鳴(MR)血管造影法(MRA)、経頭蓋ドップラー超音波法、およびカテーテル(脳)血管造影法(CA)が挙げられる。一実施形態では、CVはデジタルサブトラクション血管造影法(DSA)により検出される。理論または特定の適用様式に拘泥するものではないが、大脳動脈の血管攣縮は、SAH後の約3日目に一般的に開始し、約7~8日間後にピークに達し、そして約14日目までに消散するが(例えば、Weir et al.,Ω.,48:173-178(1978)を参照)、ただしSAH後4~12日において血管造影を有する患者の少なくとも2/3に、ある程度の血管造影狭窄が生ずる。
【0035】
CVの発生率は、SAH後の時間に依存する。本明細書において別途指摘するように、発生率のピークは、SAH後の約7~8日(3~12日の範囲)に一般的に生ずる。SAH後の時間に付加して、血管攣縮の有病率に影響を及ぼすその他の主要因子は、クモ膜下血液の容積、密度、時間的持続性、および分布である。CVに対する予後因子として、CTスキャン上でのクモ膜下血液の量、高血圧症、解剖学的および全身的要因、臨床グレード、および患者に対する抗線維素溶解薬投与の有無を挙げることができる。
【0036】
CVの症状は、亜急性的に発現するのが一般的であり、また変動する可能性があり、そして過剰の眠気、傾眠、昏睡、片側不全麻痺または片麻痺、意志欠乏、言語障害、視野欠損、視線障害(gaze impairment)、および脳神経麻痺を挙げることができる。いくつかの症状は局所的であるものの、何らかの特定の病理学的プロセスの診断には役立たないのが一般的である。脳血管造影法が、大脳動脈を可視化および試験するためのゴールドスタンダードとして一般的に利用されるが、ただし経頭蓋ドップラー超音波法も使用可能である。
【0037】
本明細書において別途指摘するように、本発明者らは、Hpが無細胞Hb媒介式のCVをin vivoで低下させ、さもなければ防止することが可能であることを驚くべきことに見出した。本明細書に開示される方法が、Hb媒介式のCVを低下させ、さもなければ防止する程度は、出血性脳卒中後の無細胞Hbにより誘発される血管収縮(管腔狭窄)の程度、出血性脳卒中後の対象のCSF内に含まれる無細胞Hbの濃度、CSFがHpに曝露される期間、および何らかの持続性出血の有無などのようないくつかの因子に依存し得るものと理解される。本明細書に開示の方法が対象におけるCVを低下させ、さもなければ防止したか評価する手段は、当業者にとってなじみ深く、その例証的事例として、デジタルサブトラクション血管造影法(DSA)、コンピューター断層撮影(CT)血管造影法(CTA)、磁気共鳴(MR)血管造影法(MRA)、およびカテーテル血管造影法(CA)が挙げられる。
【0038】
一実施形態では、それを必要としている対象のCSFをHpに曝露する工程は、本明細書に記載されるように、収縮した脳血管の平均管腔径を、60分間の曝露後に、DSAにより決定される場合、少なくとも10%、好ましくは約10%~約20%、好ましくは約15%~約25%、好ましくは約20%~約30%、好ましくは約25%~約35%、好ましくは約30%~約40%、好ましくは約35%~約45%、またはより好ましくは約40%~約50%回復させる。
【0039】
一実施形態では、それを必要としている対象のCSFをHpに曝露する工程は、本明細書に記載されるように、収縮した前大脳動脈の平均管腔径を、60分間の曝露後に、DSAにより決定される場合、少なくとも10%、好ましくは約10%~約20%、好ましくは約15%~約25%、好ましくは約20%~約30%、好ましくは約25%~約35%、好ましくは約30%~約40%、好ましくは約35%~約45%、またはより好ましくは約40%~約50%回復させる。
【0040】
一実施形態では、それを必要としている対象のCSFをHpに曝露する工程は、本明細書に記載されるように、収縮した内頸動脈の平均管腔径を、60分間の曝露後に、DSAにより決定される場合、少なくとも10%、好ましくは約10%~約20%、好ましくは約15%~約25%、好ましくは約20%~約30%、好ましくは約25%~約35%、好ましくは約30%~約40%、好ましくは約35%~約45%、またはより好ましくは約40%~約50%回復させる。
【0041】
一実施形態では、それを必要としている対象のCSFをHpに曝露する工程は、本明細書に記載されるように、収縮した中大脳動脈の平均管腔径を、60分間の曝露後に、DSAにより決定される場合、少なくとも10%、好ましくは約10%~約20%、好ましくは約15%~約25%、好ましくは約20%~約30%、好ましくは約25%~約35%、好ましくは約30%~約40%、好ましくは約35%~約45%、またはより好ましくは約40%~約50%回復させる。
【0042】
一実施形態では、それを必要としている対象のCSFをHpに曝露する工程は、本明細書に記載されるように、収縮した脳底動脈の平均管腔径を、60分間の曝露後に、DSAにより決定される場合、少なくとも10%、好ましくは約10%~約20%、好ましくは約15%~約25%、好ましくは約20%~約30%、好ましくは約25%~約35%、好ましくは約30%~約40%、好ましくは約35%~約45%、またはより好ましくは約40%~約50%回復させる。
【0043】
一実施形態では、それを必要としている対象のCSFをHpに曝露する工程は、本明細書に記載されるように、60分間の曝露の後、収縮した細い実質管腔(small parenchymal vessel)(例えば、脳細動脈)の平均管腔面積を、in vivoでの潅流イメージング(例えば、MRI潅流、CT潅流)により決定される場合、少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、好ましくは少なくとも25%、好ましくは少なくとも30%、好ましくは少なくとも35%、好ましくは少なくとも40%、好ましくは少なくとも45%、好ましくは少なくとも55%、好ましくは少なくとも60%、好ましくは少なくとも65%、好ましくは少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、またはより好ましくは少なくとも80%増加させる。一実施形態では、細い実質管腔は脳細動脈である。一実施形態では、それを必要としている対象のCSFをHpに曝露する工程は、本明細書に記載されるように、60分間の曝露の後、細い実質管腔の収縮を防止することにより、脳微小灌流を、in vivoでの潅流イメージング(例えば、MRI潅流、CT潅流)により決定される場合、少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、好ましくは少なくとも25%、好ましくは少なくとも30%、好ましくは少なくとも35%、好ましくは少なくとも40%、好ましくは少なくとも45%、好ましくは少なくとも55%、好ましくは少なくとも60%、好ましくは少なくとも65%、好ましくは少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、またはより好ましくは少なくとも80%回復させる。一実施形態では、細い実質管腔は脳細動脈である。
【0044】
一実施形態では、有害な二次神経学的転帰は、遅発性脳虚血(DCI)である。DCIは、aSAHを有する患者の約1/3において一般的に生じ、そしてこの患者の半数において死または永久的な身体障害を引き起こす(Dorsch and King,Journal of Clinical Neuroscience,1:19-26(1994))。DCIは、組織虚血に起因する遅発性の神経学的退行として多くの場合特徴づけられ、また片側不全麻痺、失語症、失行症、半盲、もしくは等閑などのような限局性の神経学的障害の発生、および/またはグラスゴーコーマスケールの減少(総スコアまたはその個別コンポーネントのうちの1つ[眼、いずれかの側の動き、言葉])と通常関連する(例えば、Frontera et al.,Stroke,40:1963-1968(2009);Kassell et al.,J.Neurosurg.,73:18-36(1990);およびVergouwen et al.,Stroke,41:e47-e52(2010)を参照)。これは、少なくとも1時間継続する可能性があり、動脈瘤閉塞直後には出現しないが、脳の臨床的評価、CT、またはMRIスキャニングによっても、その他の原因に帰属させることはできない。DCIおよび発性脳梗塞の発現は、とりわけSAH後の不良転帰の最も重要な原因である。
【0045】
脳梗塞は、DCIの結果でもあり得る。例えば、DCIに起因する梗塞は、脳に対する動脈または静脈血の供給不足に起因する脳細胞死のエリアの存在として一般的に定義される。梗塞は、SAH後約6週間以内の脳のCTまたはMRIスキャンにより、または死亡の前約6週間以内に行われた最新のCTもしくはMRIスキャンにおいて検出可能、または初期の動脈瘤閉塞後の約24~48時間の間のCTもしくはMRIスキャンにおいては存在せず、またクリッピング術もしくは血管内処置などのようなその他の原因に帰属可能でなければ、検死時に証明可能である。脳室カテーテルまたは実質内血腫に一般的に起因するCTイメージング上の低吸収域(hypodensity)は、DCI起因の脳梗塞のエビデンスとはみなされない。
【0046】
Vergouwenらにより報告されたように(Stroke.2010;41:2391-2395)、「遅発性脳虚血により引き起こされた臨床的退行」および「脳梗塞」を統一的に定義することで、その病因について仮説を設けずに、形態学的および臨床的特性に関して最も意義のある要素が把握されるはずである。CT/MRI上の脳梗塞は、SAHから3ヶ月後の機能的転帰と強い相関関係を有するので、またそれ(CT/MRI上の脳梗塞)は観察者間で合意形成される割合が高いと期待されること、鎮静化され昏睡状態にある患者においてDCIを検出できること、およびDCIの結果を客観的に定量化できることを前提とすれば、ニューロイメージングにおける脳梗塞の方が、DCI単独で引き起こされた臨床的退行よりも良好な転帰指標であると思われる。DCIのこれまでの定義では、DCIの臨床特性と、血管造影法/経頭蓋ドップラー法の所見、またはニューロイメージングもしくは検死における脳梗塞とが多くの場合統合されたが、著者らは、これらは個別に報告されるべきであることを提案する。著者らは、観察者間での合意形成の割合が低いと疑われることから、DCIにより引き起こされた臨床的退行を、転帰の二次的指標以上に重視すべきでないことも提案する。Vergouwenらによれば、DCIにより引き起こされた臨床的退行の提案された定義は、「限局性の神経学的障害(例えば、片側不全麻痺、失語症、失行症、半盲、または等閑など)の発生、またはグラスゴーコーマスケールにおける少なくとも2ポイントの減少(総スコアまたはその個別のコンポーネント[眼、いずれかの側の動き、言葉]のうちの1つにおける)」である。これは、少なくとも1時間継続するはずであり、動脈瘤閉塞直後には出現せず、また臨床的評価、脳のCTまたはMRIスキャニング、および該当する検査室試験によってその他の原因に帰属させることはできない。
【0047】
SAHを含む、出血性脳卒中後の有害な二次神経学的転帰は、免疫細胞活性化、および/またはCSFコンパートメント中への浸潤、および炎症性サイトカインの放出を含め、炎症と関連することが明らかにされた。Millerら(Biomed Res Int.2014;2014:384342)が考察するように、試験から、炎症はSAH後の神経学的傷害の直接的なメディエーターであり、またSAH後血管攣縮の原因因子であることが明らかとなった。SAHの病態生理学と関わる主要な炎症性分子は当業者にとってなじみ深く、その例証的事例として、セレクチン(L-セレクチンおよびP-セレクチン)、インテグリン(例えば、リンパ球機能関連抗原1(LFA-1)およびMac-1インテグリン(CD11b/CD18))、TNFα、単球走化性タンパク質1(MCP-1)、細胞間接着分子1(ICAM-1)、炎症促進性インターロイキン(例えば、IL-1、IL-6、IL-1B、IL-8)、およびエンドセリン1(ET-1)が挙げられる。本明細書で開示される一実施形態では、有害な二次神経学的転帰は、セレクチン(例えば、L-セレクチンおよびP-セレクチン)、インテグリン(例えば、リンパ球機能関連抗原1(LFA-1)およびMac-1インテグリン(CD11b/CD18))、TNFα、単球走化性タンパク質1(MCP-1)、細胞間接着分子1(ICAM-1)、炎症促進性インターロイキン、およびエンドセリン1(ET-1)からなる群から選択される1つまたはそれ以上の炎症マーカーの差次的発現と関連する。一実施形態では、炎症促進性インターロイキンは、IL-1、IL-6、IL-1B、およびIL-8からなる群から選択される。
【0048】
Nissenらは、DINDを有する患者におけるP-セレクチンの血清濃度は、DINDを有さない患者と比較したとき、それよりも有意に高いことをこれまでに明らかにした(J Neurol Neurosurg Psychiatry 2001;71:329-333)。また著者らは、DINDを有する患者におけるL-セレクチンの血清濃度が、DINDを有さない患者と比較したとき、それよりも有意に低いことも明らかにした。したがって、一実施形態では、本明細書に記載される方法が出血性脳卒中後の有害な二次神経学的転帰の数および/または重症度を低下させる程度は、処置前の対象におけるP-セレクチンの濃度と比較したとき、対象の血清またはCSF中のP-セレクチン濃度における、例えば少なくとも10%、好ましくは約10%~約20%、好ましくは約15%~約25%、好ましくは約20%~約30%、好ましくは約25%~約35%、好ましくは約30%~約40%、好ましくは約35%~約45%、好ましくは約40%~約50%、好ましくは約45%~約55%、好ましくは約50%~約60%、好ましくは約55%~約65%、好ましくは約60%~約70%、好ましくは約65%~約75%、好ましくは約70%~約80%、好ましくは約75%~約85%、好ましくは約80%~約90%、好ましくは約85%~約95%、または最も好ましくは約90%~100%の低下により決定される。別の実施形態では、本明細書に記載される方法が、出血性脳卒中後の有害な二次神経学的転帰の数および/または重症度を低下させる程度は、処置前の対象におけるL-セレクチンの濃度と比較したとき、対象の血清またはCSF中のL-セレクチン濃度における、例えば少なくとも10%、好ましくは約10%~約20%、好ましくは約15%~約25%、好ましくは約20%~約30%、好ましくは約25%~約35%、好ましくは約30%~約40%、好ましくは約35%~約45%、好ましくは約40%~約50%、好ましくは約45%~約55%、好ましくは約50%~約60%、好ましくは約55%~約65%、好ましくは約60%~約70%、好ましくは約65%~約75%、好ましくは約70%~約80%、好ましくは約75%~約85%、好ましくは約80%~約90%、好ましくは約85%~約95%、または最も好ましくは約90%~100%の増加により決定される。P-セレクチンおよびL-セレクチンの濃度が測定可能である方法は、当業者にとってなじみ深く、その例証的事例は、Nissenら(J Neurol Neurosurg Psychiatry 2001;71:329-333)に記載されており、その内容は参照によって本明細書においてそのまま組み入れる。
【0049】
炎症促進性サイトカインIL-1B、IL-6、IL-8、TNFα、およびMCP-1、ならびにエンドセリン-1のレベルもまた、SAH後の患者において上昇していることが明らかにされた(Miller et al.Biomed Res Int.2014;2014:384342)。したがって、本明細書で開示される一実施形態では、本明細書に記載される方法が、出血性脳卒中後の有害な二次神経学的転帰の数および/または重症度を低下させる程度は、処置前の対象における炎症促進性サイトカインの濃度と比較したとき、対象の血清またはCSF中の炎症促進性サイトカインの濃度における、例えば少なくとも10%、好ましくは約10%~約20%、好ましくは約15%~約25%、好ましくは約20%~約30%、好ましくは約25%~約35%、好ましくは約30%~約40%、好ましくは約35%~約45%、好ましくは約40%~約50%、好ましくは約45%~約55%、好ましくは約50%~約60%、好ましくは約55%~約65%、好ましくは約60%~約70%、好ましくは約65%~約75%、好ましくは約70%~約80%、好ましくは約75%~約85%、好ましくは約80%~約90%、好ましくは約85%~約95%、または最も好ましくは約90%~100%の低下により決定されるが、ただし炎症促進性分子は、IL-1B、IL-6、IL-8、TNFα、MCP-1、およびエンドセリン-1からなる群から選択される。炎症性メディエーターの濃度が測定可能である方法は、本明細書に記載されるように、当業者にとってなじみ深い。
【0050】
CSFにおける一酸化窒素(NO)枯渇が、出血性脳卒中後の有害な二次神経学的転帰の病因に寄与することも明らかにされている(Pluta et al.JAMA.2005;293(12):1477-1484を参照)。NOレベルは、(1)動脈の外膜における、ニューロン型一酸化窒素シンターゼ(neuronal nitric oxide synthase)(NOS)を含有するニューロンに対するオキシヘモグロビンの毒性;(2)内皮NOSの内因性阻害;および(3)クモ膜下の血塊から放出されたオキシヘモグロビンによる一酸化窒素の除去に起因して、SAH後のCSFにおいて減少している。したがって、本明細書で開示される一実施形態では、本明細書に記載される方法が、出血性脳卒中後の有害な二次神経学的転帰の数および/または重症度を低下させる程度は、処置前の対象のCSF中のNOの濃度と比較したとき、対象のCSFにおけるNOの濃度における、例えば少なくとも10%、好ましくは約10%~約20%、好ましくは約15%~約25%、好ましくは約20%~約30%、好ましくは約25%~約35%、好ましくは約30%~約40%、好ましくは約35%~約45%、好ましくは約40%~約50%、好ましくは約45%~約55%、好ましくは約50%~約60%、好ましくは約55%~約65%、好ましくは約60%~約70%、好ましくは約65%~約75%、好ましくは約70%~約80%、好ましくは約75%~約85%、好ましくは約80%~約90%、好ましくは約85%~約95%、または最も好ましくは約90%~100%の増加により決定される。CSF中のNO濃度が測定可能である方法は当業者にとってなじみ深く、その例証的事例は、Plutaらの(JAMA.2005;293(12):1477-1484)に記載されており、その内容は参照によって本明細書にそのまま組み入れる。
【0051】
本明細書において別途指摘するように、本発明者らは、治療的Hpは、CSFコンパートメントから脳の間質腔への無細胞Hbの浸透を防止することができることを、驚くべきことに見出した。この驚くべき所見は、無細胞Hbを、Hpとの複合体形成を通じてCSFコンパートメント内に閉じ込めてしまえば、大脳血管系および脳実質に対する、無細胞Hb(主としてoxyHb)の毒性効果を防止することができることを示唆する。したがって、一実施形態では、有害な二次神経学的転帰は、脳実質内の有害な二次神経学的転帰である。
【0052】
ハプトグロビン
ハプトグロビン(Hp)は、ジスルフィド結合によりリンクした2本のα鎖および2本のβ鎖を含む四量体構造を有する。β鎖(アミノ酸245個)は、約40kDaの質量を有し(そのおよそ30%w/wは炭水化物である)、またすべての表現型に共通する。α鎖は、少なくとも2つの形態:α1、(アミノ酸83個、9kDa)およびα2(アミノ酸142個、17.3kDa)で存在する。したがって、Hpは、Hp1-1、Hp2-1、およびHp2-2と呼ばれる3つの表現型として生ずる。Hp1-1は2本のα1鎖を含有し、Hp2-2は2本のα2鎖を含有し、そしてHp2-1は1本のα1と1本のα2鎖を含有する。Hp1-1は、100kDa、またはHbと複合体形成したとき165kDaの分子質量を有する。Hp1-1は、単一のアイソフォームとして存在し、またHpダイマーとも呼ばれる。Hp2-1は、220kDaの平均分子質量を有し、そして線状ポリマーを形成する。Hp2-2は、400kDaの平均分子質量を有し、そして環状ポリマーを形成する。異なる各ポリマー形態は、異なるアイソフォームである。PCR法が、Hp多型を研究するために考案された(Koch et al.2002,Clin.Chem.48:1377-1382)。
【0053】
2つ重要な対立遺伝子、Hp1およびHp2が、第16染色体上に見出されるHp遺伝子について存在する。2つの対立遺伝子が、構造的多型:ホモ接合型(1-1または2-2)およびヘテロ接合型2-1といった、考え得る3つの異なる遺伝子型に関与している。欧米の集団において、Hp1-1の分布は約16%であり、Hp2-1は約48%であり、そしてHp2-2は約36%であると見積もられている。Hpは、2つサブユニットα鎖およびβ鎖(ジスルフィド結合により結びついている)に切断される。両対立遺伝子は同一のβ鎖を共有する。β鎖はHbとの結合に関わり、したがって両遺伝子型は類似したHb結合親和性を有する。
【0054】
無細胞Hbと複合体を形成し、これにより無細胞Hbの生物学的活性を中和する能力を有する限り、天然に存在する、および組換え型Hpが、本明細書に記載される方法に適するものと理解される。Hpの適する天然に存在する形態は当業者にとって公知であり、その例証的事例は、Kochら(2002,Clin.Chem.48:1377-1382)、およびKasvosveら(2010,Chapter 2-Haptoglobin Polymorphism and Infection;Advances in Clinical Chemistry,50:23-46)に記載されており、その全内容は参照によって本明細書に組み入れる。
【0055】
一実施形態では、Hpは、血漿由来のHpを含み、それから構成または実質的に構成される。Hpは好ましくはヒトHpである。天然起源のHp(例えば、血漿)からHpを単離するための様々なプロトコールは当業者にとってなじみ深く、その例証的事例は、米国特許第4、061、735号および同第4、137、307号(Funakoshiら)、ならびに米国特許公報第20140094411号(Brinkman)に記載されており、その全内容は参照によって本明細書に組み入れる。天然起源のHpからHpを単離するためのその他の適する方法は、KatnikおよびJadach(1993,Arch.Immunol.Ther.Exp.(Warz)41:303-308)、Tsengら(2004,Protein Expr Purif 33:265-273)、Katnikら(1995,Eur J.Clin.Chem.Clin.Biochem.33:727-732)、YangおよびMao(1999,J.Chromatogr.B.Biomed.Sci.Appl.,731:395-402)、ならびにBaslerおよびBurrel(1983 Inflammation 7(4):387-400)に記載されている。
【0056】
用語「ハプトグロビン」は、本明細書で使用される場合、Hpのすべての表現型を含む(すべてのアイソフォームを含む)ものと理解される。Hpは、均質(同一アイソフォームのHpから実質的に構成される場合)、または不均質(Hp1-1、Hp1-2、およびHp2-2を含む、異なるHpアイソフォームの組合せを含む場合)であり得る。Hpの組成は、元となるHpの表現型に最終的に依存するものと理解される。例えば、プールされた血漿サンプルが、Hpを抽出/精製するのに使用される場合、Hpの2以上のアイソフォームが単離される可能性がある。単離物中に存在するHpアイソフォームを決定するための適する方法は当業者にとってなじみ深く、その例証的事例は、Shihら(2014,Hematology,89(4):443-447)で議論されており、その全内容は参照によって本明細書に組み入れる。単離物中に存在するHpアイソフォームを決定するその他の適する方法として、高性能粒径排除クロマトグラフィー(HPLC-SECアッセイ)、Hp ELISA、および比濁測定法(turbimetric reading)が挙げられ、Hpの異なるアイソフォームが異なるアッセイにおいて異なるシグナルを一般的にもたらす。
【0057】
一実施形態では、Hpは、Hp1-1ホモ二量体、Hp1-2多量体、Hp2-2多量体、および上記のいずれかの組合せからなる群から選択される。好ましい実施形態では、Hpは、Hp2-2多量体を含み、それから構成または実質的に構成される。Hpは天然に存在するHp(例えば、血漿由来)である場合もあれば、また組換えタンパク質として生成される場合もあり、その例証的事例は本明細書に別途記載される。一実施形態では、血漿由来のHpは、Hp2-2を含み、それから構成または実質的に構成される。別の実施形態では、血漿由来のHpは、Hp1-1を含み、それから構成または実質的に構成される。さらなる実施形態では、Hpは、組換えHpを含み、それから構成または実質的に構成される。
【0058】
別途記載しない限り、用語Hpには、本明細書で使用される場合、天然の、または天然に存在するHpの機能的類似体が含まれる。用語「機能的類似体」とは、天然に存在する(天然型の)Hpの生物学的活性と実質的に同一の生物学的活性を共有する物質(ただし、生物学的活性が、少なくとも無細胞Hbと複合体を形成し、これによりその生物学的活性を中和する類似体の能力である限りにおいて)を意味するものと理解される。「実質的に同一の生物学的活性」とは、機能的類似体は、天然に存在するHpアイソフォーム(例えば、Hp1-1、Hp1-2、およびHp2-2)を含む、天然に存在するHpの結合親和性の少なくとも40%(例えば、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、85%、90%、95%、100%、105%、110%、115%、120%、125%、130%、135%、140%、145%、150%、155%、160%、165%など)である結合親和性を、無細胞Hbに対して有することを一般的に意味する。物質がHpの機能的類似体であるか決定するための適する方法は、当業者にとってなじみ深く、その例証的事例(例えば、無細胞Hb誘発性の脳血管攣縮を低下させる機能的類似体の能力)は本明細書に別途記載される。
【0059】
本明細書で開示される一実施形態では、Hpの機能的類似体は、天然型Hpの機能的断片である。天然型Hpの機能的断片は、断片が無細胞Hbと複合体を形成する能力を保持し、これによりその生物学的活性を中和する限り、任意の適する長さであり得る。
【0060】
別の実施形態では、機能的類似体は、天然に存在する(天然型の)Hp分子とは異なるアミノ酸配列を有するペプチド(すなわち、コンパレーター)である。機能的類似体は、1つまたはそれ以上(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9個、またはそれより多くの)アミノ酸置換により、天然型Hpのα鎖および/またはβ鎖のアミノ酸配列と異なるアミノ酸配列を有する分子を含み得るが、ただし、前記差異は、類似体が無細胞Hbと複合体を形成し、これによりその生物学的活性を中和する能力を無効化しない、または完全には無効化しない。いくつかの実施形態では、機能的類似体は、天然型Hpと比較して、類似体が無細胞Hbと複合体を形成する能力を強化するアミノ酸置換を含む。一実施形態では、機能的類似体は、1つまたはそれ以上の保存的アミノ酸置換により、天然型Hpのα鎖および/またはβ鎖のアミノ酸配列とは異なるアミノ酸配列を有する。本明細書で使用される場合、用語「保存的アミノ酸置換」とは、所与の位置において、アミノ酸の同一性を変化させて、それをほぼ等価なサイズ、電荷、および/または極性のアミノ酸に置き換えることを指す。アミノ酸の天然の保存的置換の例として、下記の8つの置換群(慣習的な1文字コードで表す):(1)M、I、L、V;(2)F、Y、W;(3)K、R、(4)A、G;(5)S、T;(6)Q、N;(7)、D;および(8)C、Sが挙げられる。
【0061】
一実施形態では、機能的類似体は、天然型Hpのα鎖および/またはβ鎖のアミノ酸配列に対して少なくとも85%の配列同一性を有する。「少なくとも85%」という場合、それには、例えば、最適なアライメントまたは最良適合分析を行った後の、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の配列同一性または類似性が含まれる。したがって、一実施形態では、配列は、例えば最適なアライメントまたは最良適合分析を行った後に、本明細書において識別された配列と、少なくとも85%、好ましくは少なくとも86%、好ましくは少なくとも87%、好ましくは少なくとも88%、好ましくは少なくとも89%、好ましくは少なくとも90%、好ましくは少なくとも91%、好ましくは少なくとも92%、好ましくは少なくとも93%、好ましくは少なくとも94%、好ましくは少なくとも95%、好ましくは少なくとも96%、好ましくは少なくとも97%、好ましくは少なくとも98%、好ましくは少なくとも99%、または好ましくは100%の配列同一性または配列相同性を有する。
【0062】
用語「同一性」、「類似性」、「配列同一性」、「配列類似性」、「相同性」、「配列相同性」などは、本明細書で使用される場合、アライメント済みの配列内の任意の特定のアミノ酸残基位置において、アミノ酸残基が、アライメント後の配列の間で同一であることを意味する。用語「類似性」または「配列類似性」は、本明細書で使用される場合、アライメント済みの配列内の任意の特定の位置において、アミノ酸残基のタイプが配列間で類似することを表す。例えば、ロイシンは、イソロイシンまたはバリン残基について置換することができる。本明細書において別途指摘するように、これは保存的置換と呼ばれる場合もある。一実施形態では、アミノ酸配列は、改変が、非改変(天然型)Hpポリペプチドと比較したとき、改変後のポリペプチドの結合特異性または機能的活性に対して影響を及ぼさないように、その中に含まれるアミノ酸残基のいずれかを保存的に置換することによって改変され得る。
【0063】
いくつかの実施形態では、ペプチド配列における配列同一性は、相同性の割合(%)が最大となるように、ただし配列同一性の一環として保存的置換を一切考慮しないで配列をアライメントし、そして必要な場合にはギャップを導入した後、対応するペプチド配列の残基と同一である、候補配列内のアミノ酸残基の割合(%)と関係する。NまたはC末端延長部も、また挿入も、配列同一性または相同性を低下させるものとみなしてはならない。2つまたはそれより多くのアミノ酸配列のアライメントを実施し、そしてその配列同一性または相同性を決定するための方法およびコンピュータープログラムは、当業者に周知されている。例えば、2つのアミノ酸配列の同一性または類似性の割合(%)は、アルゴリズム、例えばBLAST、FASTA、またはSmith-Watermanアルゴリズムを使用して容易に計算できる。
【0064】
アミノ酸配列の「類似性」を決定するための技術は当業者に周知されている。一般的に、「類似性」とは、アミノ酸が同一である、または類似した化学および/もしくは物理特性(電荷もしくは疎水性などのような)を有する、2つもしくはそれより多くのペプチド配列の、または好適な場所におけるアミノ酸対アミノ酸の正確な比較を意味する。いわゆる「類似性の割合(%)」が、次に比較されるペプチド配列の間で決定可能である。一般的に、「同一性」とは、2つのペプチド配列のアミノ酸対アミノ酸の正確な対応を指す。
【0065】
2つまたはそれより多くのペプチド配列は、その「同一性の割合(%)」を決定することによっても比較可能である。2つの配列の同一性の割合(%)は、2つのアライメントされた配列間の正確な一致数を、より短い配列の長さで割り算して100倍することとして記載することができる。核酸配列に対する近似的アライメント法が、SmithおよびWaterman、Advances in Applied Mathematics 2:482-489(1981)のローカルホモロジーアルゴリズムにより提供される。このアルゴリズムは、Dayhoff(Atlas of Protein Sequences and Structure,M.O.Dayhoff ed.,5 suppl.3:353-358,National Biomedical Research Foundation,Washington,D.C.,USA)により開発されたスコアリングマトリックスを使用して、ペプチド配列についても使用されるように拡張することができ、またGribskov(Nucl.Acids Res.14(6):6745-6763,1986)により標準化される。配列間の同一性または類似性の割合(%)を計算するための好適なプログラムは、当技術分野において一般的に公知である。
【0066】
比較ウィンドウをアライメントするための最適配列アライメント法が、アルゴリズムのコンピューターによる導入(Wisconsin Genetics Software Package Release 7.0に含まれるGAP、BESTFIT、FASTA、およびTFASTA,Genetics Computer Group,575 Science Drive Madison,WI、米国)、または選択された様々な方法のいずれかにより生み出された検査法および最良アライメント法(すなわち、比較ウィンドウにおいて相同性の割合(%)が最高となる)により実施することができる。例えば、Altschulら(1997,Nucl.Acids Res.25:3389)により開示されるようなBLASTプログラムファミリーについても参考にすることができる。配列分析の詳細な考察は、Ausubelら(“Current Protocols in Molecular Biology”,John Wiley & Sons Inc,1994-1998,Chapter 15)のユニット19.3に見出すことが可能である。
【0067】
一実施形態では、機能的類似体は、類似体の安定性を増加させ、または類似体の溶解度を増加させるために、天然型Hpと比較して、アミノ酸置換および/またはその他の改変を含む。
【0068】
機能的類似体は、天然に存在する化合物/ペプチドであり得る、または当業者にとって公知の方法を使用して、化学合成により合成的に製造することができる。
【0069】
Hpは、微生物内で、組換えタンパク質として好適に生成される場合もあり、それは単離可能、および所望の場合にはさらに精製可能である。組換えHpを産生させるための好適な微生物は当業者にとってなじみ深く、その例証的事例として、細菌、酵母菌、もしくは菌類、真核細胞(例えば、哺乳動物細胞または昆虫細胞)、または組換えウイルスベクター(例えば、アデノウイルス、ポックスウイルス、ヘルペスウイルス、セムリキ森林ウイルス、バキュロウイルス、バクテリオファージ、シンドビスウイルス、またはセンダイウイルス)が挙げられる。組換えペプチドを生成するための好適な細菌は当業者にとってなじみ深く、その例証的事例として、大腸菌(E.coli)、B.サブチリス(B.subtilis)、またはペプチド配列を発現する能力を有する任意のその他のバクテリアが挙げられる。組換えペプチドを生成するための好適な酵母菌タイプの例証的事例として、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、カンジダ属、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、またはペプチドを発現する能力を有する任意のその他の酵母菌が挙げられる。対応する方法は、当技術分野において周知されている。組換えにより生成されたペプチド配列を単離および精製するための方法も当技術分野において周知されており、例えばゲル濾過、アフィニティークロマトグラフィー、およびイオン交換クロマトグラフィーが挙げられる。
【0070】
本明細書に記載されるように、組換えHpの単離を促進するために、融合ポリペプチドを作製することができ、その場合、Hpのペプチド配列またはその機能的類似体は、アフィニティークロマトグラフィーによる単離を可能にする異種ポリペプチドと翻訳において融合している(共有結合的にリンクする)。好適な異種ポリペプチドの例証的事例は、His-Tag(例えば、His6。6個のヒスチジン残基)、GST-Tag(グルタチオン-S-トランスフェラーゼ)などである。
【0071】
組換えHpを製造する場合、例えばコンビナトリアル化学の手段により製造するのに、またはきわめて変動性の構造についてハイスループットスクリーニング技術によって取得するのに、ファージライブラリーおよび/またはペプチドライブラリーも適する(例えば、Display:A Laboratory Manual by Carlos F.Barbas(Editor),et al.;およびWillats WG Phage display:practicalities and prospects.Plant Mol.Biol.2002 December;50(6):837-54を参照)。
【0072】
組換えHpの例証的事例として、受託番号NP_005134(Morishitaら、2018,Clin.Chim.Acta 487,84-89により記載される)、および受託番号P00738を有するペプチドが挙げられる。
【0073】
Hpは、融合タンパク質の一部として、1つまたはそれ以上の異種部分に融合、カップリング、さもなければ連結し得る。1つまたはそれ以上の異種部分は、Hpの活性または安定性を改善、強化し、さもなければ拡張し得る。一実施形態では、Hpは、本明細書に記載されるように、Hpのin vivo半減期を延長するために、異種部分に好適に連結する。好適な半減期延長性の異種部分は当業者にとってなじみ深く、その例証的事例として、ポリエチレングリコール(PEG化)、グリコシル化PEG、ヒドロキシルエチルスターチ(HES化)、ポリシアル酸、エラスチン様ポリペプチド、ヘパロサンポリマー、およびヒアルロン酸が挙げられる。したがって、本明細書で開示される一実施形態では、異種部分は、ポリエチレングリコール(PEG化)、グリコシル化PEG、ヒドロキシルエチルスターチ(HES化)、ポリシアル酸、エラスチン様ポリペプチド、ヘパロサンポリマー、およびヒアルロン酸からなる群から選択される。その他の実施形態では、異種部分は、Hpに融合した異種アミノ酸配列であり得る。
【0074】
代替的または付加的に、異種部分は、Hpに化学的にコンジュゲートする場合があり、例えば共有結であり得る。半減期延長性の異種部分は、当業者にとって公知の任意の適する手段により、Hpに融合、コンジュゲート、さもなければ連結可能であり、その例証的事例は化学的リンカーによる。このコンジュゲーション技術の原理は、Conjuchem LLC(例えば、米国特許第7、256、253号を参照)により事例的に記載されており、その全内容は参照によって本明細書に組み入れる。
【0075】
その他の実施形態では、異種部分は、半減期強化タンパク質(HLEP)である。好適な半減期強化タンパク質は、当業者にとってなじみ深く、その例証的事例として、アルブミンまたはその断片が挙げられる。したがって、一実施形態では、HLEPはアルブミンまたはその断片である。アルブミンまたはその断片のN末端は、Hpのα鎖および/またはβ鎖のC末端に融合し得る。代替的または付加的に、アルブミンまたはその断片のC末端は、Hpのα鎖および/またはβ鎖のN末端に融合し得る。1つまたはそれ以上のHLEPは、そのようなHLEPが無細胞Hbに対するHpの結合を無効化しないことを前提として、Hpのα鎖および/またはβ鎖のNまたはC末端部分(複数可)に融合し得る。しかしながら、融合タンパク質のHpコンポーネントが無細胞Hbと複合体を形成し、これによりそれを中和する能力をなおも有する限り、無細胞Hbに対するHpの結合性の若干の低下は許容することができるものと理解される。
【0076】
融合タンパク質は、Hpと異種部分の間に配置された化学結合またはリンカー配列をさらに含み得る。リンカー配列は、1つまたはそれ以上のアミノ酸、特に1~50個、好ましくは1~30個、好ましくは1~20個、好ましくは1~15個、好ましくは1~10個、好ましくは1~5個、またはより好ましくは1~3個(例えば、1、2、または3個)のアミノ酸からなるペプチドリンカーであり得るが、ただしリンカー配列は、相互に等しい場合もあれば、また異なる場合もある。好ましくは、リンカー配列は、野生型Hp内の対応する位置に存在しない。前記リンカー配列中に存在する好ましいアミノ酸はGlyおよびSerを含む。好ましい実施形態では、リンカー配列は、本明細書に開示される方法に基づき処置される対象に対して実質的に非免疫原性である。実質的に非免疫原性とは、リンカー配列が、それが投与される対象において、リンカー配列に対する検出可能な抗体応答を生じさせないことを意味する。好ましいリンカーは、グリシンおよびセリン残基の交互反復から構成されると考えられる。好適なリンカーは当業者にとってなじみ深く、その例証的事例は国際公開第2007/090584号に記載されている。一実施形態では、Hpと異種部分の間のペプチドリンカーは、ヒトタンパク質において天然のドメイン間リンカーとして働くペプチド配列を含み、それから構成または実質的に構成される。そのようなペプチド配列は、その天然の環境において、タンパク質表面に接近して位置し得るが、またこの配列に対する天然の忍容性が想定可能なように、免疫系に対してアクセス可能である。例証的事例は、国際公開第2007/090584号に提示されている。好適な切断可能リンカー配列は、例えば国際公開第2013/120939A1号に記載されている。
【0077】
好適なHLEP配列の例証的事例は下記記載されている。各HLEPのまさに「N末端アミノ酸」、もしくはまさに「C末端アミノ酸」に対する融合、または各HLEPの「N末端部分」もしくは「C末端部分」に対する融合が本明細書において同様に開示され、これにはHLEPの1つまたはそれ以上のアミノ酸のN末端欠損が含まれる。融合タンパク質は、2つ以上のHLEP配列、例えば2または3つのHLEP配列を含み得る。これらの複数のHLEP配列は、Hpのα鎖および/またはβ鎖のC末端部分に、タンデムに、例えば連続的な反復しとして融合し得る。
【0078】
一実施形態では、異種部分は半減期延長性ポリペプチドである。一実施形態では、半減期延長性ポリペプチドは、アルブミン、アルブミンファミリーのメンバーもしくはその断片、流体力学的容積が大きい溶媒和したランダム鎖(例えば、XTEN(Schellenberger et al.2009;Nature Biotechnol.27:1186-1190を参照)、ホモアミノ酸リピート(HAP)、またはプロリン-アラニン-セリンリピート(PAS)、アファミン、αフェトプロテイン、ビタミンD結合タンパク質、トランスフェリンもしくはそのバリアントもしくは断片、ヒト絨毛性ゴナドトロピン-βサブユニットのカルボキシル末端ペプチド(CTP)、新生児型Fc受容体(FcRn)に結合する能力を有するポリペプチド、特に免疫グロブリン定常領域およびその一部分、例えばFc断片、生理的条件下でアルブミンに対して、アルブミンファミリーのメンバーもしくはその断片に対して、または免疫グロブリン定常領域もしくはその一部分に対して結合する能力を有するポリペプチドもしくは脂質からなる群から選択される。免疫グロブリン定常領域またはその一部分は、好ましくは免疫グロブリンG1(IgG1)のFc断片、免疫グロブリンG2(IgG2)のFc断片、または免疫グロブリンA(IgA)のFc断片である。半減期強化ポリペプチドは、本明細書で使用される場合、Hpの治療活性または生物学的活性を安定化または延長する能力、特にHpのin vivoでの半減期を増加させる能力を有する完全長半減期強化タンパク質、または1つもしくはそれ以上のその断片であり得る。HLEPが存在しない各Hpと比較して、HLEP断片が、少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、またはより好ましくは少なくとも25%の機能的な半減期延長をもたらす限り、そのような断片は、長さが10個もしくはそれより多くのアミノ酸であり得、またはHLEP配列に由来する少なくとも約15個、好ましくは少なくとも約20個、好ましくは少なくとも約25個、好ましくは少なくとも約30個、好ましくは少なくとも約50個、もしくはより好ましくは少なくとも約100個、もしくはそれより多くの近接したアミノ酸を含み得る、または各HLEPの特定のドメインの一部もしくは全部を含み得る。異種部分が機能的な半減期延長を(in vivoまたはin vitroで)Hpに対してもたらすか判定する方法は、当業者にとってなじみ深く、その例証的事例は本明細書において別途記載される。
【0079】
融合タンパク質のHLEP部分は、本明細書に記載されるように、野生型HLEPのバリアントであり得る。用語「バリアント」には、挿入、欠損および/または置換(保存的また非保存的を問わない)が含まれるが、そのような変化は、Hpが無細胞Hbと複合体を形成し、これによりそれを中和する能力を実質的に変化させない。HLEPは、好適には、任意の脊椎動物、特に任意の哺乳動物、例えばヒト、サル、ウシ、ヒツジ、またはブタに由来する可能性がある。非哺乳動物のHLEPとしてメンドリおよびサケが挙げられるが、ただしこれらに限定されない。
【0080】
融合タンパク質は、本明細書に記載されるように、HpおよびHLEPなどのような異種部分をコードする少なくとも2つのDNA配列をインフレーム接合により作り出すことができる。当業者は、融合タンパク質DNA配列が翻訳されると、単一のタンパク質配列がもたらされることを理解する。本明細書で開示される一実施形態に従い、ペプチドリンカーをコードするDNA配列をインフレーム挿入した結果として、Hp、好適なリンカー、および異種部分を含む融合タンパク質が取得可能である。
【0081】
本明細書で開示される一実施形態では、Hpは異種部分に融合している。一実施形態では、異種部分は、アルブミンまたはその断片、トランスフェリンまたはその断片、ヒト絨毛性ゴナドトロピンのC末端ペプチド、XTEN配列、ホモアミノ酸リピート(HAP)、プロリン-アラニン-セリンリピート(PAS)、アファミン、αフェトプロテイン、ビタミンD結合タンパク質、生理的条件下で、アルブミンに対して、または免疫グロブリン定常領域に対して結合する能力を有するポリペプチド、新生児型Fc受容体(FcRn)に結合する能力を有するポリペプチド、特に免疫グロブリン定常領域およびその一部分、好ましくは免疫グロブリンのFc部分、および上記のいずれかの組合せからなる群から選択されるポリペプチドを含み、それから構成または実質的に構成される。別の実施形態では、異種部分は、ヒドロキシエチルスターチ(HES)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリシアル酸(PSA)、エラスチン様ポリペプチド、ヘパロサンポリマー、ヒアルロン酸およびアルブミン結合リガンド、例えば脂肪酸鎖、および上記のいずれかの組合せからなる群から選択される。
【0082】
用語「ヒト血清アルブミン」(HSA)および「ヒトアルブミン」(HA)および「アルブミン」(ALB)は、本明細書では交換可能に使用される。用語「アルブミン」および「血清アルブミン」はより広範囲にわたり、またヒト血清アルブミン(ならびにその断片およびバリアント)、ならびにその他の種に由来するアルブミン(ならびにその断片およびバリアント)を包含する。
【0083】
本明細書で使用される場合、「アルブミン」とは、アルブミンの1つまたはそれ以上の機能的活性(例えば、生物学的活性)を有するアルブミンポリペプチドもしくはアミノ酸配列、またはアルブミン断片もしくはバリアントをまとめて指す。特に、「アルブミン」とは、ヒトアルブミンもしくはその他の脊椎動物由来のアルブミンの成熟した形態、もしくはその断片、またはこのような分子もしくはその断片の類似体もしくはバリアントを含む、ヒトアルブミンまたはその断片を指す。本明細書で開示されるいくつかの実施形態では、代替的用語「FP」は、HLEPを特定するため、特にHLEPとしてアルブミンを定義するために使用される。
【0084】
本明細書に記載される融合タンパク質は、ヒトアルブミンおよび/またはヒトアルブミンの断片の天然に存在する多型変異体を好適に含む場合もある。一般的に言うと、アルブミン断片またはバリアントは、長さが少なくとも10個、好ましくは少なくとも40個、または最も好ましくは70個を超えるアミノ酸である。
【0085】
一実施形態では、HLEPは、FcRn受容体に対する結合性が強化されたアルブミンバリアントである。そのようなアルブミンバリアントは、野生型アルブミンに融合したHpまたはその機能的断片と比較して、Hpまたはその機能的類似体に対してより長い血漿半減期をもたらす可能性がある。本明細書に記載される融合タンパク質のアルブミン部分は、ヒトアルブミンの少なくとも1つのサブドメインもしくはドメイン、またはその保存的な改変を好適に含む可能性がある。
【0086】
一実施形態では、異種部分は、免疫グロブリン分子またはその機能的断片である。免疫グロブリンG(IgG)定常領域(Fc)は、治療用タンパク質の半減期を増加させることが当技術分野において公知である(例えば、Dumont J A et al.2006.BioDrugs 20:151-160を参照)。重鎖のIgG定常領域は、3つのドメイン(CH1~CH3)およびヒンジ領域からなる。免疫グロブリン配列は、任意の哺乳動物、またはサブクラスIgG1、IgG2、IgG3、もしくはIgG4のそれぞれに由来し得る。抗原結合ドメインを有さないIgGおよびIgG断片も、HLEPを含め、異種部分として使用することができる。Hpまたはその機能的類似体は、抗体のヒンジ領域またはペプチドリンカー(切断可能であってもよい)を介してIgGまたはIgG断片と好適に接続してもよい。いくつかの特許および特許出願が、治療用タンパク質のin vivoでの半減期を強化するために、治療用タンパク質を免疫グロブリン定常領域と融合させることを記載する。例えば、米国特許第2004/0087778号および国際公開第2005/001025号は、Fcドメインまたは免疫グロブリン定常領域の少なくとも一部分と、生物学的に活性なペプチド(ペプチドの半減期を増加させ、さもなければin vivoで迅速に取り除かれる)からなる融合タンパク質について記載する。生物学的活性の強化、循環半減期の延長、および溶解度の向上を実現したFc-IFN-β融合タンパク質が記載された(国際公開第2006/000448A2号)。血清半減期が延長され、そしてin vivoでの効力が高まったFc-EPOタンパク質(国際公開第2005/063808A1号)、ならびにG-CSF(国際公開第2003/076567A2号)、グルカゴン様ペプチド-1(国際公開第2005/000892A2号)、凝固因子(国際公開第2004/101740A2号)、およびインターロイキン-10(米国特許第6、403、077号)(いずれも半減期強化特性を有する)とのFc融合体が開示された。
【0087】
本発明に基づき使用可能である好適なHLEPの例証的事例は、国際公開第2013/120939A1号においても記載されており、その内容は参照によって本明細書にそのまま組み入れる。
【0088】
用語「治療有効量」は、本明細書で使用される場合、HpがCSF中に存在する無細胞Hbと結合し、そしてそれと複合体を形成し、これにより無細胞Hbのそうでなければ有害な生物学的効果を中和することを可能にするのに十分な、CSF内のHpの量または濃度を意味する。治療有効量のペプチドは、いくつかの因子に依存して変化し得ることが当業者により理解されるが、その例証的事例として、Hpが対象に直接投与されるか、その投与法(例えば、髄腔内、頭蓋内、または脳室内)、処置される対象の健康および身体状態、処置される対象の分類群、出血の重症度(例えば、出血の範囲)、投与経路、CSFコンパートメント内の無細胞Hbの濃度および/または量、ならびに上記のいずれかの組合せが挙げられる。
【0089】
Hpの治療有効量は、当業者により決定可能な比較的幅広い範囲に及ぶ。Hpの好適な治療有効量の例証的事例として、約2μM~約20mM、好ましくは約2μM~約5mM、好ましくは約100μM~約5mM、好ましくは約2μM~約300μM、好ましくは約5μM~約100μM、好ましくは約5μM~約50μM、またはより好ましくは約10μM~約30μMが挙げられる。
【0090】
一実施形態では、Hpの治療有効量は、約2μM~約20mMである。一実施形態では、Hpの治療有効量は、約2μM~約5mMである。一実施形態では、Hpの治療有効量は、約100μM~約5mMである。一実施形態では、Hpの治療有効量は、約2μM~約300μMである。一実施形態では、Hpの治療有効量は、約5μM~約50μMである。一実施形態では、Hpの治療有効量は、約10μM~約30μMである。
【0091】
一実施形態では、Hpの治療有効量は、出血後の対象のCFS内無細胞Hb濃度に対して、少なくとも等モル量である。別の実施形態では、Hpの治療有効量は、約3μM~約300μMのCSF内の無細胞Hbと複合体形成するのに十分な量である。CSF内の無細胞Hb濃度を測定する好適な方法は、当業者にとって公知であり、その例証的事例は、Cruickshank AM.,2001,ACP Best Practice No166,J.Clin.Path.,54(11):827-830)、およびHugelshofer M.et al.,2018.World Neurosurg.;120:e660-e666)に記載されており、その内容は参照によって本明細書にそのまま組み入れる。
【0092】
治療有効量のHpの実現は、本明細書に記載されるように、Hpまたはその機能的類似体が曝露されるCSFの最終容積に依存し得るものと理解される。例えば、Hpが成人ヒト対象に投与される(例えば、髄腔内に)場合、成人ヒト対象におけるCSFの平均容積が約150mLであることを考慮すると、約310μMのHp溶液、5mLを対象に投与することで、約10μMのHpの治療有効量が実現可能である。別の例証的事例では、本明細書に記載される方法は、50mLの対象由来のCSFを除去すること、および約30μMのHpを含む50mLの人工CSFを用いてそれと置換し、これにより対象のCSFコンパートメントにおいて約10μMのHpの治療有効量を実現することを含む。
【0093】
Hpの投与量は、最適な治療応答を実現するように調整される場合もある。例えば、いくつかの分割された用量が、毎日、毎週、またはその他の適する時間間隔で投与される場合があり、または投与量は、状況の緊急性の示唆に従い、比例的に減じられる可能性がある。
【0094】
用語「~を曝露すること(exposing)」は、本明細書で使用される場合、HpがCSF中に存在する無細胞Hb(oxyHbとなる主要な形態)と結合し、そしてそれと複合体を形成し、これによりHb:Hp複合体の形成が、無細胞Hbの脳組織に対する、そうでなければ有害な生物学的効果を実質的に中和することが可能となるように、CSFをHpと接触させることを意味する。「実質的に中和する」とは、治療的Hpが存在しない場合に無細胞Hbが脳組織に及ぼす生物学的効果と比較して、少なくとも10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、80、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99、または100%を含む、少なくとも10%、好ましくは約10%~約20%、好ましくは約15%~約25%、好ましくは約20%~約30%、好ましくは約25%~約35%、好ましくは約30%~約40%、好ましくは約35%~約45%、好ましくは約40%~約50%、好ましくは約45%~約55%、好ましくは約50%~約60%、好ましくは約55%~約65%、好ましくは約60%~約70%、好ましくは約65%~約75%、好ましくは約70%~約80%、好ましくは約75%~約85%、好ましくは約80%~約90%、好ましくは約85%~約95%、または最も好ましくは約90%~100%の低下として主観的または定性的に表されるような、無細胞Hbが脳組織に及ぼす有害な生物学的効果の低下を意味する。無細胞Hbの有害な生物学的効果の低下が測定可能または決定可能である(定性的または定量的に)方法は、当業者によってなじみ深く、その例証的事例は本明細書において別途記載される。
【0095】
やはり本明細書において明記されることとして、本発明者らは、治療有効量のHpは、CSF内の無細胞oxyHbが脳血管NOシグナル伝達を妨害するのを阻止し、血管攣縮およびDINDの発生率を低下させることができることも初めて明らかにした。動的MRIを使用して、本発明者らは、脳室系中に注射後のクモ膜下腔において、HbおよびHb:Hp複合体の迅速で巨視的に同一の分散を確認した。組織学的分析においても、HbはCSFコンパートメントから脳の間質腔中に広範に浸透する一方、Hb:Hp複合体は、クモ膜下腔に概ね限定されることが、思いがけず明らかとなった。これらの驚くべき所見は、Hpとの複合体形成を通じて、無細胞HbをCSFコンパートメント内に閉じ込めることで、大脳血管系および脳実質に対する無細胞Hb(主としてoxyHb)の毒性効果を防止することができることを示唆する。
【0096】
それを必要としている対象のCSFが、本明細書に記載されるように、治療有効量のHpに曝露される方式は、例えば、前記曝露が、それを必要としている対象のCSFコンパートメントにおいて実施されるか(すなわち、in vivo)、または対象から得られたCSFにおいて体外的に実施されるか(すなわち、ex vivo)に応じて変化し得るものと理解される。前記曝露が、それを必要としている対象のCSFコンパートメントにおいて実施される場合(すなわち、in vivo)、Hpの投与経路は、CSFコンパートメント内でHpが無細胞Hbと接触するのが可能となるように選択される。好適な投与経路は当業者にとってなじみ深く、その例証的事例として、髄腔内、頭蓋骨内、および脳室内が挙げられる。一実施形態では、治療有効量のHpは、例えば、出血性脳卒中後の対象内に、CSFを一時的に流出させ、そして頭蓋内圧を下げるために配置される外部脳室ドレイン経由で投与される。
【0097】
一実施形態では、方法は、治療有効量のHpを対象に頭蓋内投与する工程を含む。
【0098】
一実施形態では、方法は、治療有効量のHpを、対象に対して、髄腔内投与する工程を含む。一実施形態では、方法は、治療有効量のHpを、対象に対して、その脊椎管中に髄腔内投与する工程を含む。一実施形態では、方法は、治療有効量のHpを、対象に対して、そのクモ膜下腔中に髄腔内投与する工程を含む。一実施形態では、方法は、治療有効量のHpを、対象に対して、脳室内投与する工程を含む。
【0099】
代替的にまたは付加的に、本明細書に記載される方法は、それを必要としている対象からCSFを取り出す工程、CSF内でHpが無細胞Hbと複合体を形成し、これにより無細胞Hbの中和を可能にするのに十分な期間、CSFを治療有効量のHpに曝露する工程、CSF内に形成されたHb:Hp複合体を除去してHb減少CSFを生成する工程、およびHb減少CSFを対象に投与する工程(例えば、髄腔内または脳室内)を含む。CSFをCSFコンパートメントから除去しても、CSFのまったく存在しないCSFコンパートメントが一般的にもたらされるわけではないものと理解され、少なくとも若干のCSFがCSFコンパートメント内に存続することに留意されたい。場合により、CSFコンパートメント内に存在し得る少なくとも若干量の残留Hbを取り除くために、CSFが取り出されたら、CSFコンパートメントを、薬学的に許容される洗浄溶液でリンスすることができる。さらに複合体を形成させ、これによりCSFコンパートメント内に存在し得る少なくとも若干量の残留無細胞Hbを中和するために、洗浄溶液は、場合によりHpを含み得る。一実施形態では、洗浄溶液は、本明細書において別途記載されるような人工CSFである。
【0100】
一実施形態では、本明細書に記載される方法は、それを必要としている対象のCSFコンパートメントからCSFのサンプルを取り出す工程、HpをCSFサンプルに添加して、Hp富化CSFサンプルを取得する工程、Hp富化CSFサンプルを対象のCSFコンパートメントに投与する工程、それによって、CSFコンパートメントを、治療有効量のHpに、ある期間(Hpが無細胞Hbと複合体を形成し、これにより対象のCSFにおいて無細胞Hbを中和することを可能にするのに十分な期間)曝露する工程、および場合により、上記ステップを反復する工程を含む。好ましくは、CSFサンプルに添加されるHpの量は、対象に投与すると、対象のCSF内に治療有効量のHpをもたらすように決定される。したがって、CSFサンプル内に添加されるHpの量は、取り出され、そして対象に再投与されるCSFサンプルの容積に依存する。
【0101】
一実施形態では、方法は:
(i)出血後の対象のCSFコンパートメントからCSFサンプルを取得する工程;
(ii)ステップ(i)のCSFサンプルにHpを添加して、Hp富化CSFサンプルを取得する工程;
(iii)Hp富化CSFサンプルを対象に投与し、これにより、対象のCSFコンパートメントにおいてHpが無細胞Hbと複合体を形成することを可能にするのに十分な期間、対象のCSFコンパートメントを、治療有効量のHpに曝露する工程;および
(iv)場合により、工程(i)~(iii)を反復する工程
を含む。
【0102】
取り出され、そして対象に再投与されるCSFの容積は、実質的に同一であるのが望ましい。例えば、50mLのCSFサンプルが対象のCSFコンパートメントから取り出される場合、Hpを含むCSFの全50mLの容積が対象に再投与される。しかしながら、容積に違いが生じたとしても、そのいずれもが有意な有害臨床転帰を惹起しない限り、容積は異なってもよいものと理解される。いくつかの実施形態では、対象に再投与されるCSFの容積は、対象から取り出されたCSFの容積よりも少ない。その他の実施形態では、対象に再投与されるCSFの容積は、Hpを単独で、または任意のその他の治療薬と組み合わせて添加することで余分の容積が生まれることから、対象から除去されたCSFの容積を上回る。
【0103】
別の実施形態では、本明細書に記載される方法は、それを必要としている対象のCSFコンパートメントからある容積のCSFを取り出す工程、対象から取り出されたCSFの容積を、Hpを含むある容積の人工CSFと置換する工程、これによりHpが無細胞Hbと複合体を形成し、これにより対象のCSF内の無細胞Hbを中和することを可能にするのに十分な期間、対象のCSFを治療有効量のHpに曝露する工程を含む。好ましくは、人工CSF内のHpの量は、対象に投与されたら、対象のCSF内に治療有効量のHpをもたらすように決定される。したがって、人工CSFに添加されるHpの量は、対象に投与される人工CSFの容積に依存する。
【0104】
一実施形態では、方法は:
(i)出血後の対象のCSFコンパートメントからある容積のCSFを取り出す工程;
(ii)Hpを含む人工CSFを提供する工程;
(iii)(ii)の人工CSFを対象に投与し、これにより対象のCSFコンパートメントにおいて、Hpが無細胞Hbと複合体を形成することを可能にするのに十分な期間、対象のCSFコンパートメントを治療有効量のHpに曝露する工程;および
(iv)場合により、工程(i)~(iii)を反復する工程
を含む。
【0105】
対象に投与される人工CSFの容積は、対象から取り出されるCSFの容積と実質的に同一であるのが望ましい。例えば、50mLのCSFサンプルが対象のCSFコンパートメントから取り出される場合、治療有効量のHpを含む、約50mLの容積の人工CSFが、取り出されたCSFの容積と置換するのに使用される。しかしながら、容積に違いが生じたとしても、そのいずれもが有意な有害臨床転帰を惹起しない限り、容積は異なってもよいものと理解される。いくつかの実施形態では、対象に投与される人工CSFの容積は、対象から取り出されたCSFの容積よりも少ない。その他の実施形態では、対象に投与される人口CSFの容積は、対象から取り出されたCSFの容積を上回る。
【0106】
一実施形態では、本明細書に記載される方法は、CSFを、出血性脳卒中後の約21日以内にHpに曝露する工程を含む。本明細書で開示される別の実施形態では、方法は、CSFを、出血性脳卒中後、約2日間~約4日間、Hpに曝露する工程を含む。なおも別の実施形態では、方法は、CSFを、出血性脳卒中後、約5日間~約14日間、Hpに曝露する工程を含む。
【0107】
本発明者らは、クモ膜下腔内の無細胞Hbを、治療有効量のHpに、少なくとも約2分間曝露することが、CSFにおいて検出可能なHb:Hp複合体を形成するのに十分であることを驚くべきことに明らかにした。したがって、一実施形態では、CSFが治療有効量のHpに曝露される期間は、少なくとも約2分(例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14分など)である。一実施形態では、CSFが治療有効量のHpに曝露される期間は、少なくとも約4分である。別の実施形態では、CSFが治療有効量のHpに曝露される期間は、少なくとも約5分である。なおも別の実施形態では、CSFが治療有効量のHpに曝露される期間は、少なくとも約10分である。一実施形態では、CSFが治療有効量のHpに曝露される期間は、約2分~約45分、好ましくは約2分~約20分、またはより好ましくは約4分~約10分である。
【0108】
用語「対象」とは、本明細書で使用される場合、処置または予防が望まれる哺乳動物の対象を指す。好適な対象の例証的事例として、霊長類、特にヒト、ネコやイヌなどのようなコンパニオン動物、ウマ、ロバなどのような使役動物、ヒツジ、ウシ、ヤギ、ブタなどのような家畜動物、ウサギ、マウス、ラット、モルモット、ハムスターなどのような研究テスト用動物、および動物園や野生動物公園内の動物、シカ、ディンゴなどのような野生捕獲動物が挙げられる。一実施形態では、対象はヒトである。さらなる実施形態では、対象は、(i)出生~約2歳、(ii)約2~約12歳、または(iii)約12~約21歳の小児患者である。
【0109】
一実施形態では、本明細書に記載される方法は、CSFを治療有効量のHpに体外的に曝露する工程を含む。
【0110】
CSFがHpに体外的に(ex vivo)曝露される場合、治療有効量は、Hpに曝露されるCSFの容積に依存すると考えられ、CSFが、溶液の状態にあるまたは基材上に固定化されたHp(例えば、アフィニティークロマトグラフィー)、および上記のいずれかの組合せに曝露されるかを問わない。例えば、無細胞Hbと複合体を形成させ、そしてアフィニティークロマトグラフィーにより無細胞Hbを除去するために、CSFがHpに曝露される場合、基材上に固定化されるHpの量は、初回通過期間中に無細胞Hbの完全な複合体形成を引き起こす必要はなく、複合体を形成させるために基材上を複数回通過させることが必要となり得、これにより実質的にすべての無細胞HbがCSFから取り除かれるものと考えられる。
【0111】
一実施形態では、方法は、(i)出血性脳卒中後およびCSFをHpに曝露する前の、対象に由来するCSFサンプルを取得する工程;(ii)工程(i)で得られたCSFサンプル中の無細胞Hbの量を測定する工程;および(iii)工程(ii)から得られた無細胞Hbの濃度に基づき、少なくとも等モル量のHpを決定する工程を含む。CSFサンプル中の無細胞Hbの量を測定する好適な方法は、当業者にとって公知であり、その例証的事例は、Ohら(2016,Redox Biology,9:167-177)により記載されており、その内容は参照によって本明細書にそのまま組み入れる。
【0112】
本明細書において別途指摘するように、CSF内でのHbと無細胞Hbとの複合体形成は、脳組織上において、無細胞Hbのそうでなければ有害な生物学的活性を中和する。本明細書に開示される方法に基づき形成された無細胞Hb:Hp複合体を抽出し、または取り除くことは一般的に不必要であるが、いくつかの事例では、前記複合体を取り除くことが望ましい場合もある。例えば、本明細書に記載される方法が、対象に由来するCSFを取り出し、そしてその後CSFをHpに体外的に曝露する工程を含む場合、CSF内で形成された無細胞Hb:Hp複合体を、CSFを対象に再投与するに前に取り除くことが望ましい場合もある。したがって、いくつかの実施形態では、方法は、CSF内に形成されたHp:無細胞Hb複合体を取り除く工程を含む。
【0113】
一実施形態では、方法は:
(i)出血後の対象に由来するCSFを取得する工程;
(ii)CSF内でHpが無細胞Hbと複合体を形成することを可能にする条件下で、工程(i)から得られたCSFをHpに曝露する工程;
(iii)工程(ii)の後に、CSFからHp:無細胞Hb複合体を抽出して、工程(i)から得られたCSFと比較したときに、それより低い量の無細胞Hbを有するHb減少CSFを取得する工程;
(iv)場合により、工程(ii)および(iii)を反復して、無細胞Hbを実質的に含まないHb減少CSFを取得する工程;ならびに
(v)工程(iii)または工程(iv)から得られたHb減少CSFを、対象のCSFコンパートメントに投与する工程
を含む。
【0114】
本明細書で使用される場合、「Hb減少CSF」とは、工程(iii)の前の無細胞Hbの量と比較したときに、CSFがそれよりも低い量の無細胞Hb有するように、ある量の無細胞Hbが除去されているCSFを意味する。用語「Hb減少CSF」は、無細胞Hbのすべてが、CSFから除去されていることを示唆するように意図するものではなく、したがって少なくとも若干の無細胞Hbが存在する実施形態を含むものと理解される。一実施形態では、Hb減少CSFは、対象から得られたCSF中の無細胞Hbの量と比較したとき、少なくとも約5%、好ましくは少なくとも約10%、好ましくは少なくとも約15%、好ましくは少なくとも約20%、好ましくは少なくとも約25%、好ましくは少なくとも約30%、好ましくは少なくとも約35%、好ましくは少なくとも約40%、好ましくは少なくとも約45%、好ましくは少なくとも約50%、好ましくは少なくとも約55%、好ましくは少なくとも約60%、好ましくは少なくとも約65%、好ましくは少なくとも約70%、好ましくは少なくとも約75%、好ましくは少なくとも約80%、好ましくは少なくとも約85%、好ましくは少なくとも約90%、またはより好ましくは少なくとも約95%少ない無細胞Hbを含む。一実施形態では、Hb減少CSFは、対象から得られたCSF中の無細胞Hbの量と比較したとき、約5%~約10%、好ましくは約10%~約20%、好ましくは約20%~約30%、好ましくは約30%~約40%、好ましくは約40%~約50%、好ましくは約50%~約60%、好ましくは約60%~約70%、好ましくは約70%~約80%、好ましくは約80%~約90%、またはより好ましくは約90%~約99%少ない無細胞Hbを含む。
【0115】
本明細書に別途記載されるように、Hb減少CSFは、場合により、CSFから追加の無細胞Hbを取り除くために、好ましくは無細胞Hbを実質的に含まないHb減少CSFを取得するために、工程(ii)および(iii)を反復する工程によりさらに処置されてもよい。「無細胞Hbを実質的に含まない」とは、Hb減少CSFが、対象から得られたCSF中の無細胞Hbの量と比較したときに、約70%~約80%、好ましくは約80%~約90%、またはより好ましくは約90%~約99%少ない無細胞Hbを含むことを意味する。
【0116】
一実施形態では、方法は、工程(ii)および(iii)を少なくとも1回(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11回など)反復する工程を含む。一実施形態では、方法は、無細胞Hbを実質的に含まないHb減少CSFを取得するために、必要に応じて、工程(ii)および(iii)を少なくとも1回、好ましくは2回、好ましくは3回、好ましくは4回、好ましくは5回、好ましくは6回、好ましくは7回、好ましくは8回、好ましくは9回、またはより好ましくは10回反復する工程を含む。
【0117】
無細胞Hbを実質的に含まないHb減少CSFを取得するために、工程(ii)および(iii)が反復される必要がある回数は、対象に由来するCSF中の無細胞Hbの濃度、採用されるHbの濃度、抽出方法などを含む(ただしこれらに限定されない)いくつかの因子に依存し得るものと理解される。いくつかの事例では、特に工程(ii)および(iii)の反復が、CSFを細菌、酵母菌、菌類、およびウイルスなどのような汚染物質に曝露させてしまうおそれがある場合、工程(ii)および(iii)を1回のみ実施するのが望ましい場合もある。
【0118】
Hp:無細胞Hb複合体をCSFから抽出する好適な方法は当業者にとって公知であり、その例証的事例として、粒径排除クロマトグラフィーおよび/またはアフィニティークロマトグラフィーが挙げられる。粒径排除クロマトグラフィーは、遊離HbおよびHpに対して複合体のサイズが相対的に大きいことから、Hp:無細胞Hb複合体の同定、およびCSFにおけるその他のコンポーネントからの分離を可能にする。アフィニティークロマトグラフィーは、Hb:Hp複合体と特異的に結合し、遊離Hbとの結合は無視し得る結合剤を使用することにより、Hp:無細胞Hb複合体の同定、およびCSFにおけるその他のコンポーネントからの分離を可能にする。好適な結合剤として、当業者にとってなじみ深いように、抗体またはその抗結合性断片が挙げられる。
【0119】
一実施形態では、工程(ii)は、工程(i)から得られたCSFをHpが固定された基材上を通過させる工程を含む。これは、有利には、CSF中の無細胞HbがHpと結合し、これにより無細胞Hbを基材に固定化し、そしてHb減少CSFが基材から好都合に溶出するのを可能にする。したがって、一実施形態では、工程(ii)におけるHpは基材上に固定されている。好適な基材は当業者にとってなじみ深く、その例証的事例として、粒径排除クロマトグラフィー樹脂およびアフィニティークロマトグラフィー樹脂が挙げられる。一実施形態では、基材はアフィニティークロマトグラフィー樹脂である。
【0120】
一実施形態では、工程(ii)は、工程(i)から得られたCSFを、CSF中の無細胞Hbが樹脂と結合するのを可能にする条件下で、アフィニティークロマトグラフィー樹脂に通過させる工程を含む;その場合、工程(iii)は、工程(ii)を経た樹脂からCSFを溶出させる工程を含む;およびその場合、工程(iv)は、溶出したCSFを回収する工程を含む。
【0121】
工程(v)において、工程(iii)または工程(iv)から得られたHb減少CSFを、対象のCSFコンパートメントに投与する前に、本明細書に別途記載されるように、対象のCSFコンパートメント内に存在し有害な二次神経学的転帰を惹起するおそれのある残留無細胞Hbを除去するために、Hb減少CSFに治療有効量のHpを添加するのが望ましい場合もある。したがって、一実施形態では、方法は、本明細書に別途記載されるように、工程(v)の前のHb減少CSFに対して治療有効量のHpを添加する工程を含む。
【0122】
CSFが出血性脳卒中後の対象のCSFコンパートメントから除去されたとしても、CSFコンパートメント内に残留無細胞Hbが存在し得ることを、当業者は理解する。したがって、少なくとも若干の残留無細胞Hbを取り除くために、CSFコンパートメントをリンスし(CSFが上記工程(i)に基づき取り出されたら)、これにより、そのような残留無細胞Hbが惹起し得る有害な二次神経学的転帰を取り除き、さもなければ低下させるのが望ましい場合もある。したがって、一実施形態では、方法は、工程(i)の後に、洗浄溶液を用いてCSFコンパートメントを洗浄する工程をさらに含む。
【0123】
好適な洗浄溶液は当業者にとってなじみ深い。一実施形態では、洗浄溶液は人工CSFである。
【0124】
人工脳脊髄液(aCSF)は、塩含有量を含め、一般的に天然のCSFを模倣する液体である。CSFの好適な組成は当業者にとってなじみ深く、その例証的事例は、米国特許第2006/0057065号、およびMatznellerら(Pharmacology,2016;97(5-6):233-44)に記載されており、その内容は参照によって本明細書にそのまま組み入れる。aCSFは、当業者にとってなじみ深いように、天然のCSFに見出される濃度と類似した濃度でNaClを含み得るが、また天然のCSF中のNaClの濃度の約15%以内、より好ましくは約10%以内の濃度を一般的に含む。aCSFは、当業者にとってなじみ深いように、天然のCSFに見出される濃度と類似した濃度でNaHCO3を含み得るが、また天然のCSF中のNaHCO3の濃度の約15%以内、より好ましくは約10%以内の濃度を一般的に含む。aCSFは、当業者にとってなじみ深いように、天然のCSFに見出される濃度と類似した濃度でKClを含み得るが、また天然のCSF中のKClの濃度の約15%以内、より好ましくは約10%以内の濃度を一般的に含む。aCSFは、当業者にとってなじみ深いように、天然のCSFに見出される濃度と類似した濃度でNaH2PO4を含み得るが、また天然のCSF中のNaH2PO4の濃度の約15%以内、より好ましくは約10%以内の濃度を一般的に含む。aCSFは、当業者にとってなじみ深いように、天然のCSFに見出される濃度と類似した濃度でMgCl2を含み得るが、また天然のCSF中のMgCl2の濃度の約15%以内、より好ましくは約10%以内の濃度を一般的に含む。aCSFは、当業者にとってなじみ深いように、天然のCSFに見出される濃度と類似した濃度でグルコースを含み得るが、また天然のCSF中のグルコースの濃度の約15%以内、より好ましくは約10%以内の濃度を一般的に含む。あるいは、人工CSFは、aCSFを対象に投与するのに使用される任意のカテーテル内で細菌が増殖する可能性を低減するために、グルコースを省略する場合もある。
【0125】
一実施形態では、人工CSF/洗浄溶液は、NaCl、KCl、KH2PO4、NaHCO3、MgCl6・H2O、CaCl2・H2O、およびグルコースを含む。
【0126】
一実施形態では、洗浄溶液はHpを含む。
【0127】
一実施形態では、洗浄溶液は、約2μM~約20mMのHpを含む。一実施形態では、洗浄溶液は、約2μM~約5mMのHpを含む。一実施形態では、洗浄溶液は、約100μM~約5mMのHpを含む。一実施形態では、洗浄溶液は、約2μM~約300μMのHpを含む。一実施形態では、洗浄溶液は、約5μM~約50μMのHpを含む。一実施形態では、洗浄溶液は、約10μM~約30μMのHpを含む。
【0128】
一実施形態では、洗浄溶液は、出血後の対象のCFS中の無細胞Hbの濃度に対して少なくとも等モル量のHpを含む。別の実施形態では、洗浄溶液は約3μM~約300μMのHpを含む。
【0129】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載されるように、対象のCSFから無細胞Hbを体外的に取り出す工程をなくし、むしろ本明細書に別途記載されるように、対象のCSFを人工CSFと置換するのが望ましい場合もある。したがって、一実施形態では、方法は:
(i)出血後の対象に由来するCSFを取り出す工程;
(ii)工程(i)の後に、対象のCSFコンパートメントを治療有効量のHpを含む洗浄溶液を用いてリンスする工程;
(iii)場合により、工程(ii)を反復する工程;および
(iv)工程(ii)または工程(iii)の後に、対象のCSFコンパートメントに人工CSFを投与する工程
を含む。
【0130】
治療有効量のHpを洗浄溶液中に組み込むことにより、CSFコンパートメント内の残留無細胞Hbは、Hpと複合体形成し、これにより脳組織に対する無細胞Hbの有害な生物学的効果を中和し得る。
【0131】
一実施形態では、人工CSFは、NaCl、KCl、KH2PO4、NaHCO3、MgCl6・H2O、CaCl2・H2O、およびグルコースを含む。一実施形態では、人工CSFはHpを含む。
【0132】
一実施形態では、人工CSFは、約2μM~約20mMのHpを含む。一実施形態では、人工CSFは、約2μM~約5mMのHpを含む。一実施形態では、人工CSFは、約100μM~約5mMのHpを含む。一実施形態では、人工CSFは、約2μM~約300μMのHpを含む。一実施形態では、人工CSFは、約5μM~約50μMのHpを含む。一実施形態では、人工CSFは、約10μM~約30μMのHpを含む。
【0133】
一実施形態では、人工CSFは、出血後の対象のCFS中の無細胞Hbの濃度に対して少なくとも等モル量のHpを含む。別の実施形態では、人工CSFは約3μM~約300μMのHpを含む。
【0134】
補助療法
出血性脳卒中後の対象における有害な二次神経学的転帰を処置または予防する方法は、本明細書に記載されるように、出血性脳卒中後の対象における1つまたはそれ以上の有害な二次神経学的転帰を低下させ、阻害、防止し、さもなければ軽減するように設計された、1つまたはそれ以上の別の処置戦略と共に、連続して、またはそれと組み合わせて(例えば、同時に)好適に実施される可能性がある。したがって、一実施形態では、方法は、脳室内出血後の有害な二次神経学的転帰を処置または予防するための第2の薬剤を対象に投与する工程をさらに含む。脳室内出血後の有害な二次神経学的転帰を処置または予防するための好適なその他の処置戦略または第2の薬剤は当業者にとってなじみ深く、その例証的事例として:
(i)凝固障害の是正-例えば、ビタミンKアンタゴニスト(VKA)、新規の経口抗凝固剤(ダビガトラン、リバーロキサバン、およびアピキサバンなどのようなNOAC)、第VIII因子インヒビターバイパス活性(FEIBA)および活性化組換え第VII因子(rFVIIa)、プロトロンビン複合体濃縮物、活性炭、抗血小板療法(APT)、およびアスピリン単剤療法を使用する;
(ii)血圧降下-例えば抗高血圧剤、その例証的事例として、(i)クロルタリドン、クロルチアジド、ジクロロフェナミド(dichlorophenamide)、ヒドロフルメチアジド、インダパミド、およびヒドロクロロチアジドを含むチアジド化合物のような利尿薬;ブメタニド、エタクリン酸、フロセミド、およびトルセミドなどのようなループ利尿薬;アミロライドおよびトリアムテレンなどのようなカリウム保持性利尿剤;ならびにスピロノラクトン、エピレノン(epirenone)などのようなアルドステロンアンタゴニスト;(ii)アセブトロール、アテノロール、ベタキソロール、ベバントロール、ビソプロロール、ボピンドロール、カルテオロール、カルベジロール、セリプロロール、エスモロール、インデノロール、メタプロロール(metaprolol)、ナドロール、ネビボロール、ペンブトロール、ピンドロール、プロパノロール、ソタロール、テルタトロール、チリソロール、およびチモロールなどのようなβ-アドレナリン受容体遮断薬;(iii)アムロジピン、アラニジピン、アゼルニジピン、バルニジピン、ベニジピン、ベプリジル、シナルジピン(cinaldipine)、クレビジピン、ジルチアゼム、エホニジピン、フェロジピン、ガロパミル、イスラジピン、ラシジピン、レミルジピン、レルカニジピン、ニカルジピン、ニフェジピン、ニルバジピン、ニモデピン(nimodepine)、ニソルジピン、ニトレンジピン、マニジピン、プラニジピン、およびベラパミルなどのようなカルシウムチャネル遮断薬;(iv)ベナゼプリル;カプトプリル;シラザプリル;デラプリル;エナラプリル;ホシノプリル;イミダプリル;ロシノプリル(losinopril);モエキシプリル;キナプリル;キナプリラート;ラミプリル;ペリンドプリル;ペリンドロプリル(perindropril);クアニプリル(quanipril);スピラプリル;テノカプリル(tenocapril);トランドラプリル、およびゾフェノプリルなどのようなアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤;(v)オマパトリラート、カドキサトリル(cadoxatril)、およびエカドトリル、フォシドトリル(fosidotril)、サンパトリラット、AVE7688、ER4030などのような中性エンドペプチダーゼ阻害剤;(vi)テゾセンタン、A308165、およびYM62899などのようなエンドセリンアンタゴニスト;(vii)ヒドララジン、クロニジン、ミノキシジル、およびニコチニルアルコールなどのような血管拡張薬;(viii)カンデサルタン、エプロサルタン、イルベサルタン、ロサルタン、プラトサルタン、タソサルタン、テルミサルタン、バルサルタン、およびEXP-3137、FI6828K、およびRNH6270などのようなアンジオテンシンII受容体アンタゴニスト;(ix)ニプラジロール、アロチノロール、およびアモスラロールなどのようなα/βアドレナリン受容体遮断薬;(x)テラゾシン、ウラピジル、プラゾシン、ブナゾシン、トリマゾシン、ドキサゾシン、ナフトピジル、インドラミン、WHIP164、およびXENOIOのようなα1遮断薬;ならびに(xi)ロフェキシジン、チアメニジン、モクソニジン、リルメニジン、およびグアノベンズ(guanobenz)などのようなα2アゴニストが挙げられる。
(ii-b)血管拡張薬-例えば、ヒドララジン(アプレゾリン)、クロニジン(カタプレス)、ミノキシジル(ロニテン)、ニコチニルアルコール(ロニアコール)、シドノン、およびニトロプルシドナトリウム。
(iii)発作、グルコース、および体温の管理-例えば、抗てんかん薬、血中グルコースレベルを制御するためのインスリン輸注、正常体温の維持および治療的冷却;
(iv)外科的処置-例えば、血腫除去(外科的血栓除去)、減圧開頭術(DC)、低侵襲手術(MIS;基底核出血の針穿刺吸引などのような)、組換え組織型プラスミノーゲンアクチベーター(rtPA)を用いたMIS;
(v)手術の時期-例えば、症状発現後の4~96時間;
(vi)トロンビン阻害-例えば、ヒルジン、アルガトロバン、セリンプロテアーゼ阻害剤(例えば、メシル酸ナファモスタット);
(vii)ヘムおよび鉄毒性の予防-例えば、スズ-メソポルフィリンなどのような非特異的ヘムオキシゲナーゼ(HO)阻害剤、デフェロキサミンなどのような鉄キレート剤;
(viii)PPARgアンタゴニストおよびアゴニスト-例えば、ロシグリタゾン、15d-PGJ2、およびピオグリタゾン;
(ix)ミクログリア活性化の阻害-例えば、タフトシン断片1~3(ミクログリア/マクロファージ阻害因子)またはミノサイクリン(テトラサイクリンクラス抗生物質);
(x)NF赤血球2関連因子2(Nrf2)の上方制御;
(xi)シクロオキシゲナーゼ(COX)阻害-例えば、セレコキシブ(選択的COX2阻害剤);
(xii)マトリックスメタロプロテイナーゼ;
(xiii)TNFαモジュレーター-例えば、CGS21680などのようなアデノシン受容体アゴニスト、ORF4-PEなどのようなTNFα特異的アンチセンスオリゴデオキシヌクレオチド;ならびに
(xiv)血圧上昇-例えば、カテコールアミン
(xv)TLR4シグナル伝達の阻害剤-例えば、抗体Mts510およびTAK-242(シクロヘキセン誘導体);
が挙げられる。
【0135】
一実施形態では、第2の薬剤は血管拡張薬である。好適な血管拡張薬は当業者にとってなじみ深く、その例証的事例として、シドノンやニトロプルシドナトリウムが挙げられる。したがって、本明細書で開示される一実施形態では、第2の薬剤は、シドノンおよびニトロプルシドナトリウムからなる群から選択される。
【0136】
人工CSF
本明細書で開示される別の態様では、本明細書に記載されるように、Hpを含む人工脳脊髄液(CSF)が提供される。
【0137】
人工脳脊髄液(aCSF)は、塩含有量を含め、一般的に天然のCSFを模倣する液体である。CSFの好適な組成は当業者にとってなじみ深く、その例証的事例は、米国特許第2006/0057065号、およびMatznellerら(Pharmacology,2016;97(5-6):233-44)に記載されており、その内容は参照によって本明細書にそのまま組み入れる。aCSFは、当業者にとってなじみ深いように、天然のCSFに見出される濃度と類似した濃度でNaClを含み得るが、また天然のCSF中のNaClの濃度の約15%以内、より好ましくは約10%以内の濃度を一般的に含む。aCSFは、当業者にとってなじみ深いように、天然のCSFに見出される濃度と類似した濃度でNaHCO3を含み得るが、また天然のCSF中のNaHCO3の濃度の約15%以内、より好ましくは約10%以内の濃度を一般的に含む。aCSFは、当業者にとってなじみ深いように、天然のCSFに見出される濃度と類似した濃度でKClを含み得るが、また天然のCSF中のKClの濃度の約15%以内、より好ましくは約10%以内の濃度を一般的に含む。aCSFは、当業者にとってなじみ深いように、天然のCSFに見出される濃度と類似した濃度でNaH2PO4を含み得るが、また天然のCSF中のNaH2PO4の濃度の約15%以内、より好ましくは約10%以内の濃度を一般的に含む。aCSFは、当業者にとってなじみ深いように、天然のCSFに見出される濃度と類似した濃度でMgCl2を含み得るが、また天然のCSF中のMgCl2の濃度の約15%以内、より好ましくは約10%以内の濃度を一般的に含む。aCSFは、当業者にとってなじみ深いように、天然のCSFに見出される濃度と類似した濃度でグルコースを含み得るが、また天然のCSF中のグルコースの濃度の約15%以内、より好ましくは約10%以内の濃度を一般的に含む。あるいは、人工CSFは、aCSFを対象に投与するのに使用される任意のカテーテル内で細菌が増殖する可能性を低減するために、グルコースを省略する場合もある。
【0138】
一実施形態では、人工CSFは、約2μM~約20mMのHpを含む。一実施形態では、人工CSFは、約2μM~約5mMのHpを含む。一実施形態では、人工CSFは、約100μM~約5mMのHpを含む。一実施形態では、人工CSFは、約2μM~約300μMのHpを含む。一実施形態では、人工CSFは、約5μM~約50μMのHpを含む。一実施形態では、人工CSFは、約10μM~約30μMのHpを含む。
【0139】
一実施形態では、人工CSFは、出血後の対象のCFS中の無細胞Hbの濃度に対して、少なくとも等モル量のHpを含む。別の実施形態では、人工CSFは、約3μM~約300μMのHpを含む。
【0140】
一実施形態では、Hpは、Hp1-1ホモ二量体、Hp1-2多量体、Hp2-2多量体、および上記のいずれかの組合せからなる群から選択される。一実施形態では、Hpは、Hp2-2多量体を含み、それから構成または実質的に構成される。
【0141】
医薬組成物
本明細書で開示される別の態様では、本明細書に記載される方法に基づき、脳室内出血後の対象における有害な二次神経学的転帰を処置または予防するための医薬組成物であって、本明細書に記載されるような治療有効量のHp、および薬学的に許容される担体を含む前記医薬組成物が提供される。
【0142】
本明細書で開示される別の態様では、本明細書に記載される方法に基づき、脳室内出血後の対象における有害な二次神経学的転帰を処置または予防する際に使用するための医薬組成物であって、本明細書に記載されるような治療有効量のHp、および薬学的に許容される担体を含む前記医薬組成物が提供される。
【0143】
一実施形態では、組成物は、約2μM~約20mMのHpを含む。一実施形態では、組成物は、約2μM~約5mMのHpを含む。一実施形態では、組成物は、約100μM~約5mMのHp、またはその機能的類似体を含む。一実施形態では、組成物は、約2μM~約300μMのHpを含む。一実施形態では、組成物は、約5μM~約50μMのHpを含む。一実施形態では、組成物は、約10μM~約30μMのHpを含む。
【0144】
一実施形態では、組成物は、出血後の対象のCFS中の無細胞Hbの濃度に対して、少なくとも等モル量のHpを含む。別の実施形態では、組成物は約3μM~約300μMのHpを含む。
【0145】
一実施形態では、Hpは、Hp1-1ホモ二量体、Hp1-2多量体、Hp2-2多量体、および上記のいずれかの組合せからなる群から選択される。一実施形態では、Hpは、Hp2-2多量体を含み、それから構成または実質的に構成される。
【0146】
本明細書で開示される別の態様では、本明細書に記載される方法に基づき、脳室内出血後の対象における有害な二次神経学的転帰を処置または予防するための医薬を製造する際の、本明細書に記載されるような治療有効量のHpの使用が提供される。
【0147】
一実施形態では、本明細書に開示される医薬組成物は、髄腔内投与用として製剤化される。好適な髄腔内送達システムは当業者にとってなじみ深く、その例証的事例は、Kilburnら(2013,Intrathecal Administration.In:Rudek M.,Chau C.,Figg W.,McLeod H.(eds)Handbook of Anticancer Pharmacokinetics and Pharmacodynamics.Cancer Drug Discovery and Development.Springer,New York,NY)により記載されており、その内容は参照によって本明細書にそのまま組み入れる。
【0148】
別の実施形態では、本明細書に開示される医薬組成物は、頭蓋内投与用として製剤化される。好適な髄腔内送達システムは当業者にとってなじみ深く、その例証的事例は、Upadhyayら(2014,PNAS,111(45):16071-16076)により記載されており、その内容は参照によって本明細書にそのまま組み入れる。
【0149】
別の実施形態では、本明細書に開示される医薬組成物は、脳室内投与用として製剤化される。好適な髄腔内送達システムは当業者にとってなじみ深く、その例証的事例は、Cookら(2009,Pharmacotherapy.29(7):832-845)により記載されており、その内容は参照によって本明細書にそのまま組み入れる。
【0150】
好適な医薬組成物およびその単位投与剤形は、追加の活性化合物もしくは原理を伴い、または伴わずに従来の成分を従来の割合で含み得るが、またそのような単位投与剤形は、意図される1日の投薬量について、その採用された範囲と釣り合った任意の好適な有効量の有効成分を含有し得る。
【0151】
キット
本明細書で開示される別の態様では、本明細書に記載されるような人工CSF、または本明細書に記載されるような医薬組成物を含むキットが提供される。本明細書に記載されるような活性な薬剤(Hpを含む)は、活性な薬剤の同時、個別、または連続投与を可能にするために考案された、いくつかのコンポーネントからなるキットの形態で存在し得る。各担体、希釈剤、アジュバント、および/または賦形剤は、組成物のその他成分と適合性を有し、そして対象により生理学的に忍容されるように、「薬学的に許容され」なければならない。組成物は、単位投与剤形で好都合に提供され、そして薬学の分野において周知の方法により製造することができる。そのような方法は、有効成分を担体(1つまたはそれ以上のアクセサリー成分を構成する)と関連付ける工程を含む。一般的に、組成物は、有効成分を、液体の担体、希釈剤、アジュバント、および/もしくは賦形剤、または細かく分割された固体担体、またはその両方と均一かつ緊密に関連付け、次に必要な場合には生成物を成形することにより製造される。
【0152】
本発明は、したがって、特に下記の実施形態[1]~[74]と関連する:
[1]血管外溶血および無細胞ヘモグロビン(Hb)の脳脊髄液(CSF)中への放出を伴う出血性脳卒中後の対象における有害な二次神経学的転帰を処置または予防する方法であって、ハプトグロビン(Hp)が無細胞Hbと複合体を形成し、これによりその中和を可能にするのに十分な期間、それを必要としている対象のCSFを治療有効量のHpに曝露する工程を含む前記方法。
[2]出血性脳卒中は、天然に生じる出血または外傷性出血である、項目[1]に記載の方法。
[3]出血性脳卒中は、脳室内出血またはクモ膜下出血である、項目[1]または項目[2]に記載の方法。
[4]クモ膜下出血は、動脈瘤性クモ膜下出血である、項目[3]に記載の方法。
[5]有害な二次神経学的転帰は、遅発性虚血性神経障害(DIND)、遅発性脳虚血(DCI)、神経毒性、炎症、一酸化窒素枯渇、酸化性組織傷害、脳血管攣縮、脳血管反応性、および浮腫からなる群から選択される、項目[1]~[4]のいずれか1項目に記載の方法。
[6]有害な二次神経学的転帰は、脳血管攣縮である、項目[5]に記載の方法。
[7]有害な二次神経学的転帰は、遅発性虚血性神経障害である、項目[5]に記載の方法。
[8]有害な二次神経学的転帰は、遅発性脳虚血である、項目[5]に記載の方法。
[9]有害な二次神経学的転帰は、脳実質内の有害な二次神経学的転帰である、項目[1]~[8]のいずれか1項目に記載の方法。
[10]出血の発現後約21日以内に、CSFをHpまたはその機能的類似体に曝露する工程を含む、項目[1]~[9]のいずれか1項目に記載の方法。
[11]出血の発現後約2日間~約4日間、CSFをHpに曝露する工程を含む、項目[10]に記載の方法。
[12]出血の発現後約5日間~約14日間、CSFをHpに曝露する工程を含む、項目[10]に記載の方法。
[13]対象に、Hpを頭蓋内投与する工程を含む、項目[1]~[12]のいずれか1項目に記載の方法。
[14]対象に、Hpを髄腔内投与する工程を含む、項目[1]~[12]のいずれか1項目に記載の方法。
[15]Hpは、脊椎管中に髄腔内投与される、項目[14]に記載の方法。
[16]Hpは、クモ膜下腔中に髄腔内投与される、項目[14]に記載の方法。
[17]対象に、治療有効量のHpを脳室内投与する工程を含む、項目[1]~[12]のいずれか1項目に記載の方法。
[18]CSFが治療有効量のHpに曝露される期間は、少なくとも約2分である、項目[13]~[17]のいずれか1項目に記載の方法。
[19]CSFが治療有効量のHpに曝露される期間は、約2分~約45分である、項目[18]に記載の方法。
[20]CSFが治療有効量のHpに曝露される期間は、約2分~約20分である、項目[18]に記載の方法。
[21]CSFが治療有効量のHpに曝露される期間は、約4分~約10分である、項目[18]に記載の方法。
[22]治療有効量のHpは、出血後の対象のCSF中の無細胞Hbの濃度に対して、少なくとも等モル量である、項目[1]~[21]のいずれか1項目に記載の方法。
[23]
(i)出血後の対象に由来するCSFサンプルを、CSFをHpに曝露する前に取得する工程;
(ii)工程(i)で得られたCSFサンプル中の無細胞Hbの量を測定する工程;および
(iii)工程(ii)から得られた無細胞Hbの濃度に基づき、少なくとも等モル量のHpを決定する工程
をさらに含む[22]項目に記載の方法。
[24]Hpの治療有効量は、約2μM~約20mMである、項目[1]~[23]のいずれか1項目に記載の方法。
[25]Hpの治療有効量は、約2μM~約300μMである、項目[24]に記載の方法。
[26]Hpの治療有効量は、約5μM~約50μMである、項目[24]に記載の方法。
[27]Hpの治療有効量は、約10μM~約30μMである、項目[24]に記載の方法。
[28]CSF内で形成されたHp:無細胞Hb複合体を除去する工程をさらに含む、項目[1]~[27]のいずれか1項目に記載の方法。
[29]CSFを、治療有効量のHpに体外的に曝露する工程を含む、項目[1]~[28]のいずれか1項目に記載の方法。
[30]
(i)出血後の対象のCSFコンパートメントからCSFのサンプルを取得する工程;
(ii)工程(i)のCSFサンプルにHpを添加して、Hp富化CSFサンプルを取得する工程;
(iii)Hp富化CSFサンプルを対象に投与し、これによりHpが対象のCSFコンパートメントにおいて無細胞Hbと複合体を形成することを可能にするのに十分な期間、対象のCSFコンパートメントを治療有効量のHpに曝露する工程;および
(iv)場合により、工程(i)~(iii)を反復する工程
を含む、項目[29]に記載の方法。
[31]
(i)出血後の対象のCSFコンパートメントからある容積のCSFを取り出す工程;
(ii)Hpを含む人工CSFを提供する工程;
(iii)(ii)の人工CSFを対象に投与し、これにより対象のCSFコンパートメントにおいて、Hpが無細胞Hbと複合体を形成することを可能にするのに十分な期間、対象のCSFコンパートメントを治療有効量のHpに曝露する工程;および
(iv)場合により、工程(i)~(iii)を反復する工程
を含む、項目[29]に記載の方法。
[32]
(i)出血後の対象に由来するCSFを取得する工程;
(ii)CSFにおいて、Hpまたはその機能的類似体が無細胞Hbと複合体を形成するのを可能にする条件下で、工程(i)から得られたCSFをHpに曝露する工程;
(iii)Hp:無細胞Hb複合体を、工程(ii)の後のCSFから抽出して、工程(i)から得られたCSFと比較したときに、それより少ない量の無細胞Hbを有するHb減少CSFを取得する工程;
(iv)場合により、工程(ii)および(iii)を反復して、無細胞Hbを実質的に含まないHb減少CSFを取得する工程;ならびに
(v)工程(iii)または工程(iv)から得られたHb減少CSFを、対象のCSFコンパートメントに投与する工程
を含む、項目[29]に記載の方法。
[33]工程(v)の前に、Hb減少CSFに対して治療有効量のHpを添加する工程をさらに含む、項目[32]に記載の方法。
[34]Hpは、基材上に固定されている、項目[32]または項目[33]に記載の方法。
[35]基材は、アフィニティークロマトグラフィー樹脂である、項目[34]に記載の方法。
[36]工程(ii)は、CSF中の無細胞Hbが樹脂と結合するのを可能にする条件下で、工程(i)から得られたCSFをアフィニティークロマトグラフィー樹脂に通過させる工程を含み、工程(iii)は、工程(ii)後に樹脂からCSFを溶出させる工程を含み、および工程(iv)は、溶出したCSFを回収する工程を含む、項目[35]に記載の方法。
[37]場合により、工程(i)後のCSFコンパートメントを、洗浄溶液を用いて洗浄する工程を含む、項目[32]~[36]のいずれか1項目に記載の方法。
[38]洗浄溶液は、人工CSFである、項目[37]に記載の方法。
[39]人工CSFは、NaCl、KCl、KH2PO4、NaHCO3、MgCl6・H2O、CaCl2・H2O、およびグルコースを含む、項目[31]または項目[38]に記載の方法。
[40]洗浄溶液は、Hpを含む、項目[37]~[39]のいずれか1項目に記載の方法。
[41]洗浄溶液は、約2μM~約20mMのHpを含む、項目[40]に記載の方法。
[42]洗浄溶液は、約2μM~約300μMのHpを含む、項目[41]に記載の方法。
[43]
(i)出血後の対象に由来するCSFを取り出す工程;
(ii)工程(i)後の対象のCSFコンパートメントを、治療有効量のHpを含む洗浄溶液を用いてリンスする工程;
(iii)場合により工程(ii)を反復する工程;および
(iv)工程(ii)または工程(iii)後の対象のCSFコンパートメントに人工CSFを投与する工程
を含む、項目[1]~[42]のいずれか1項目に記載の方法。
[44]人工CSFは、NaCl、KCl、KH2PO4、NaHCO3、MgCl6・H2O、CaCl2・H2O、およびグルコースを含む、項目[43]に記載の方法。
[45]人工CSFは、Hpを含む、項目[43]または項目[44]に記載の方法。
[46]人工CSFは、約2μM~約20mMのHpを含む、項目[45]に記載の方法。
[47]人工CSFは、約2μM~約300μMのHpを含む、項目[46]に記載の方法。
[48]Hpは、Hp1-1ホモ二量体、Hp1-2多量体、Hp2-2多量体、および上記のいずれかの組合せからなる群から選択される、項目[1]~[47]のいずれか1項目に記載の方法。
[49]Hpは、Hp2-2多量体を含む、項目[48]に記載の方法。
[50]Hpは、組換えタンパク質である、項目[1]~[49]のいずれか1項目に記載の方法。
[51]Hpは、血漿由来である、項目[1]~[49]のいずれか1項目に記載の方法。
[52]対象に、脳室内出血後の有害な二次神経学的転帰を処置または予防するための第2の薬剤を投与する工程をさらに含む、項目[1]~[51]のいずれか1項目に記載の方法。
[53]第2の薬剤は、血管拡張薬である、項目[52]に記載の方法。
[54]第2の薬剤は、シドノンおよびニトロプルシドナトリウムからなる群から選択される、項目[52]または項目[53]に記載の方法。
[55]Hpを含む人工脳脊髄液(CSF)。
[56]Hpは、約2μM~約20mMの量で存在する、項目[55]に記載の人工CSF。
[57]Hpは、約5μM~約300μMの量で存在する、項目[55]に記載の人工CSF。
[58]Hpは、約5μM~約50μMの量で存在する、項目[55]に記載の人工CSF。
[59]Hpは、約10μM~約30μMの量で存在する、項目[58]に記載の人工CSF
[60]Hpは、Hp1-1ホモ二量体、Hp1-2多量体、Hp2-2多量体、および上記のいずれかの組合せからなる群から選択される、項目[57]~[59]いずれか1項に記載の人工CSF。
[61]Hp2-2多量体を含む、項目[60]に記載の人工CSF。
[62]Hpは、組換えタンパク質である、項目[59]または[60]に記載の人工CSF。
[63]Hpは、血漿由来である、項目[57]または[58]に記載の人工CSF。
[64]項目[1]~[54]のいずれか1項目に記載の方法に基づき、出血性脳卒中後の対象における有害な二次神経学的転帰を処置または予防するための医薬組成物であって、治療有効量のHpおよび薬学的に許容される担体を含む前記医薬組成物。
[65]項目[1]~[54]のいずれか1項目に記載の方法に基づき、出血性脳卒中後の対象における有害な二次神経学的転帰を処置または予防する際に使用するための医薬組成物であって、治療有効量のHpおよび薬学的に許容される担体を含む前記医薬組成物。
[66]Hpは、約2μM~約20mMの量で存在する、項目[64]または項目[65]に記載の組成物。
[67]Hpは、約2μM~約300μMの量で存在する、項目[66]に記載の組成物。
[68]Hpは、約5μM~約50μMの量で存在する、項目[66]に記載の組成物。
[69]Hpは、約10μM~約30μMの量で存在する、項目[66]に記載の組成物。
[70]Hpは、Hp1-1ホモ二量体、Hp1-2多量体、Hp2-2多量体、および上記のいずれかの組合せからなる群から選択される、項目[64]~[69]のいずれか1項目に記載の組成物。
[71]Hp2-2多量体を含む、項目[70]に記載の組成物。さらなる項目によれば、項目[70]に記載の組成物は、Hp1-1ホモ二量体を含む。
[72]項目[1]~[54]のいずれか1項目に記載の方法に基づき、出血性脳卒中後の対象における有害な二次神経学的転帰を処置または予防するための医薬の製造における、治療有効量のハプトグロビン(Hp)の使用。
[73]項目[1]~[54]のいずれか1項目に記載の方法に基づき、出血性脳卒中後の対象における有害な二次神経学的転帰の処置または予防で使用するための治療有効量のハプトグロビン(Hp)。
[74]項目[55]~[63]のいずれか1項目に記載の人工CSFまたは項目[64]~[71]のいずれか1項目に記載の組成物を含むキット。
【0153】
当業者は、本明細書に記載される本発明は、特に記載されている形態以外の変形形態および改変形態を採りやすい傾向にあることを認識する。本発明は、精神および範囲に収まるすべてのそのような変形形態および改変形態を含むものと理解される。本発明には、本明細書において参照または表示される工程、特性、組成物、および化合物のすべても個別にまたは全体として含まれ、ならびに前記工程または特性の任意の2つまたはそれより多くのあらゆるすべての組合せもやはり含まれる。
【0154】
例証目的に限定されるように意図されており、そして本明細書にこれまでに記載された一般性を制限するように意図するものではない下記の実施例を参照しながら、本発明の特定の実施形態をここで記載する。
【実施例】
【0155】
材料および方法
A.Ex vivoでの血管機能実験
標的管腔の単離
脳底動脈を、地方の畜殺場から入手した屠殺後のブタの新鮮な頭部から単離した(SBZ、チューリッヒ(Zurich)、スイス)。頭部を特注の保持デバイス内に仰向けに配置し、そして残留軟組織を摘出することにより、斜台を後頭関節丘のレベルから後鼻孔まで露出させた。硬膜を、大後頭孔の前縁(anterior rim)から慎重に引き剥がし、そしてわずかに移動させて開頭術のためのスペースを設けた。斜台の両側傍正中骨切り術(bilateral paramedian osteotomy)およびチゼルを使用する部分的下顎頭切除術を行い、腹側硬膜を露出させた。腹側脳幹の血管周囲のクモ膜下槽を傷つけずに、硬膜を慎重に取り除いた。脳神経III-XIIを切除して脳幹を可動化させた。橋中脳接合部および小脳腕のレベルにおいて鋭く切開することにより脳幹を単離し、そして事前冷却された(4℃)バッファー溶液に移した。解剖顕微鏡を使用して、椎骨動脈を解剖学的ランドマークとして特定し、そして椎骨脳底動脈合流部(vertebrobasilar junction)に近接する2mmを切断した。クモ膜を慎重に調製することで、管腔に対する過剰な機械的操作を回避しながら、脳底動脈の段階的な可動化を可能にした。椎骨脳底動脈合流部と後大脳動脈(caudal cerebral artery)の間の脳底動脈セグメントを、最大6個の血管輪(1輪につき2mmの長さ)を調製するのに使用した(
図1)。
【0156】
動脈が圧縮または拡張されるのを一切回避するように、すべての外科的調製の間、特別な注意を払った。動物の死亡から切除された管腔をバッファー中に移すまでの時間を90分未満に保った。
【0157】
バッファーおよび化学物質の製造
Krebs-Henseleitバッファー(KHB)を、5リットルのバッチで調製した。2.27MのNaClおよびKCl、ならびに1.00MのKH2PO4からなるストック溶液を調製した。いくつかのコンポーネントのうち、イオン性組成物は最大溶解度近くにあるので、各添加工程を行った後、化学物質について正しい順序に従うこと、および徹底混合することがこのバッファーの調製において重要である;これは特にライム(CaCO3)として沈殿物しやすい傾向を有する炭酸水素カルシウムの他、リン酸カルシウムおよび石膏(CaSO4)に当てはまる。室温で4リットルの蒸留水において、2.27MのKCl(10.35ml)および2.27MのNaCl(138.1ml)を混合した。NaHCO3(10.50g)を添加し、そしてすべての塩が完全に溶解するまでバッファーをかき混ぜた。1.00MのKH2PO4(6.0ml)を添加し、そして溶液を再度かき混ぜた。CaCl2×2H2O(1.84g)、その後にMgSO4×7H2O(1.48g)をバッファー中に溶解した。2.27MのNaCl(121ml)を添加した。バッファーを正確に37℃まで加熱し、そして5%CO2および95%O2を用いて少なくとも1時間バブリングすることにより平衡化した。濃縮オルトリン酸を滴下することにより、pHを7.40に調整した。蒸留水を用いて容積を5リットルに調整した。バッファーを室温で保管した(塩は4℃で沈殿する)。バッファーの微生物学的早期劣化を防止するために、グルコースは、使用直前にのみ、2g/lの濃度になるまで添加した。KHBの最終的なイオン組成は:143mMのNa+、5.90mMのK+、1.20mMのMg2
+、2.50mMのCa2
+、125mMのCl-、25.0mMのHCO3
-、1.20mMのSO4
2+、1.20mMのPO4
3-、および11.1mMのグルコースである。
【0158】
MAHMA-NONOate
MAHMA-NONOate(ENZO Life Sciences社、ラウゼン(Lausen)、スイス)を、10mMのストック濃度となるように20mMのNaOHに溶解し、そして小分けして-80℃で保管した。利用前に、化合物を、5mMのNaOH中、25μMの濃度まで希釈し、そして氷上保管した。生理学的pHでは、この化合物(MAHMA-NONOate)の半減期は、温度に応じてたった数秒~数分の範囲内にあるので、MAHMA-NONOateを使用直前まで高pHで保管することが重要である。
【0159】
PGF2α
プロスタグランジンF2α(PGF2α)(Sigma社、ブフス(Buchs)、スイス)を、10mMのストック濃度となるようにPBS、pH7.4に溶解し、そして小分けして-80℃で保管した。
【0160】
aSAH患者のCSFサンプル
本発明者らのNeurocritical Care Unit、University Hospital of Zurich(学術的三次医療センター)に入院した連続する患者(aSAHと診断され、そして水頭症に起因してEVDが挿入された)について、2017年4月から2018年12月にかけて、治験組入れを目的としてスクリーニングした。治験は現地の倫理審査委員会により承認され、そして文書による同意をすべての患者またはその法定代理人から、治験組入れ前に取得した。
【0161】
除外基準を以下の通り規定した:72時間以内の起源不明の出血、72時間以内の動脈瘤確保の不奏功、未確保動脈瘤からの再出血、ならびに年齢18歳未満および80歳超。
【0162】
動脈瘤修復後、脳室CSFを、0日目(出血イベント当日)~14日目の間、EVDカテーテルから毎日サンプリングした。CSFを、1500Gで15分間遠心分離した(Capricorn CEP 2000 Benchtop centrifuge、Capricorn labs社、英国)。分光光度法用として、上清をさらに希釈せずに収集した。
【0163】
髄液上清の視覚範囲内のスペクトルを、350~650nmの間で、2nmの分解能にて、Shimadzu UV-1800分光光度計(Shimadzu社、日本)上で記録した。これまでに記載されたように、R統計ソフトウェア、バージョン4.2.3(www.r-project.org)12を用いた、非負最小二乗アルゴリズムのLawson-Hanson実装(Lawson-Hanson implementation of the non-negative least squares algorithm)11により、既知濃度のオキシヘモグロビン(Fe2+)、メトヘモグロビン(Fe3+)、およびビリルビンの参照スペクトルを当て嵌めることによって、スペクトルをデコンボリューションした。ソーレーピーク(soret peak)について2.0を超える消衰が認められるサンプルでは、高吸収における分光光度計の直線からの乖離を補償するために、デコンボリューションは、435nmよりも高い波長に限定した。
【0164】
ワイヤーミオグラフィー実験のためのCSFサンプルを、溶血前(1~3日目)および溶血性(4~14日目)として定義した。1日に得られる入手可能なCSF容積には限りがあるので、必要な場合には、連続した複数日のサンプルをプールした。
【0165】
ワイヤーミオグラフィー
血管輪を、温度制御され(37℃)そして連続通気された(95%O2および5%CO2の気体混合物)、Krebs-Henseleitバッファー(KHB)(5ml)を含有する臓器浴に浸漬されたMulti-Channel Myograph System 620M(Danish Myo Technology社、オーフス(Aarhus)、デンマーク)の2つのピン(直径0.2mm)に取り付けた。CSFを用いた実験の場合、臓器浴には、3D印刷された特注インレイ(2.5mlの容積)を装着し、そしてCSFサンプルは、実験1回毎の患者サンプルの必要容積を抑えるために、人工CSFを用いて1:1希釈した。
【0166】
管腔を、これまでの実験において決定された最適なIC1/IC100比まで徐々に引き延ばした。事前収縮剤(pre-contracting agent)として、プロスタグランジンF2α(PGF2α)を、10μMの濃度で使用した。NO媒介式の血管拡張応答は、MAHMA-NONOateを浸漬バッファーに添加することにより誘発した。すべてのデータを、Lab Chartソフトウェア、バージョン7.2.1(AD Instruments社、ヘイティングズ(Hastings)、英国)を使用して記録した。別途記載がなければ、記録されたヘモグロビン誘発性の血管機能応答は、1回の実験毎に、Hbに曝露しない場合の最大NO拡張(=100%)、およびMAHMA-NONOateを添加する前の持続的収縮レベル(=0%)に対してそれぞれ標準化した。プロットにおける応答は、したがって相対的収縮として表される。
【0167】
B.oxyHb誘発性の血管攣縮のヒツジモデル
動物、飼育室、および飼育管理
試験を、動物保護および福祉に関するスイス国の法令要求事項(TschG455)に従い実施し、そして連邦獣医当局「Kantonale Tierversuchskommission Zurich」(許可番号ZH234/17)より倫理承認を受けた。
【0168】
2~4歳のスイスアルプスヒツジ(メス)(Staffelegghof社、キュッティンゲン・バイ・アーラウ(Kuttigen bei Aarau)、スイス)を、チューリッヒ獣医学病院(Veterinary Hospital of Zurich)の実験ユニットに移し、そして新しい環境に環境順化させるために、少なくとも7日間過ごさせた。環境順化期間中に、獣医師を通じて、身体検査および血液検査を伴う標準化されたスクリーニングを実施した。動物を、手術前に、水へのアクセスは自由として18~24時間絶食させた。
【0169】
麻酔
麻酔誘発の30分前に、担当の獣医学麻酔医により動物の身体状態を再度チェックした。次に、各動物に、ブプレノルフィン(0.01mg/kg BW、筋中)およびメデトミジン(0.07~0.1mg/kg BW、筋中)を前投与した。20分後、鎮静化された動物を血管造影室に搬送し、鎮静の程度および健康状態を再度臨床的に評価した。
【0170】
14G、3.5インチの静脈内カテーテルを、滅菌プレコンディショニング下で左頸静脈中に挿入し、そして皮膚に外科的に固定した。麻酔状態を、ミダゾラム(0.1mg/kg BWT)、ケタミン(3mg/kg BWT)の用量固定注射、および効果を得るために、プロポフォール(0.3~1.5mg/kg BWT)の可変用量注射により経静脈的に誘発した。
【0171】
その後、10%リドカインの直接噴霧を使用し、そして喉頭鏡を通じた目視制御を行いながら、各動物の喉頭について除感作した。20~30秒待機した後、次に、内径11または12mmのしかるべき長さを有するシリコーン気管内チューブを使用して動物の気管に挿管した。動物を、次にAllura Clarity血管造影室の診察台上に置かれた可撓性真空マットレス上に、左側横臥位で配置した。
【0172】
動物を、しかるべきサイズの共軸円型呼吸システム(coaxial circle breathing system)とすみやかに接続し、そして1分間当たり呼吸6~8回の速度、および1回の換気量10mL/kg BWTで人工換気を開始した。手順全体を通じて、イソフルランを0.8~2Vol%で酸素中に送達した。手順全体を通じて、パルスオキシメータープローブを動物に接続して、適切なヘモグロビン酸素供給状態を評価および保証した。炭酸正常状態を維持するために、カプノグラフィー(呼気終末CO2)により、および動脈血液ガス測定により、ならびに動脈と肺胞との差異を計算し、そしてBohrの肺胞ガス式を使用し、これにより換気-血流適合(ventilation-perfusion match)の相対的機能性を推定することにより評価しながら、換気を調整した。動脈CO2は、特に4~9kPaの範囲において、脳血管反応性の主要因子を代表することが公知であるので、CO2の動脈分圧(2.5~5.5kPa)を正常かつ一定に維持することがきわめて重要である。
【0173】
手順期間中に尿が流出するのを可能にするため、および尿生産を経時的にモニタリングするために、尿カテーテル(Foley、サイズ9)を膀胱内に挿入した。超音波エコーコントロール下で、後に血管内カテーテルを導入するためのポートとして、8F血管内カニューレを右外頸動脈内に挿入した。配置後、抗凝固を確実にするために、100IU/kg/BWTの未分画ヘパリンを静脈内投与した。これを、手順全体を通じて6時間毎に反復した。次に、最終的な体位として、動物を、その前肢が頸部の下で折り曲げられ、そしてその後肢が前方に折り曲げられた腹ばいに配置し、それを残りの手順においてそのまま維持した。
【0174】
両方の耳介動脈について、動脈圧を直接、連続的にモニタリングするため、および間欠的血液ガス分析用の動脈血をサンプリングするために、20G Surflo Terumo(登録商標)カテーテルを使用してカニューレ処置した。
【0175】
心拍数、心電図、観血的直接動脈圧(invasive direct arterial blood pressure)、酸素ヘモグロビン飽和度、ならびに酸素、二酸化炭素、およびイソフルランの吸気と呼気の濃度を、連続測定(Datex- Ohmeda S3コンパクトライフサインモニター)および記録(ラップトップコンピューターにより)するために、動物を装置に繋いだ。手順の全期間にわたり、動物に、乳酸リンゲル溶液を、3mL/kg BWT/時の標準速度で、静脈内投与し、正常血圧(60~100mMHgの平均動脈圧)および2mL/kg/時の正常な尿生産を維持することが必要とされるときには調整した。
【0176】
麻酔状態を維持し、そして必要な場合には、イソフルラン吸入濃度および/またはシリンジポンプによって静脈内投与されるプロポフォールの可変速度輸注(Perfusor(登録商標)、BBraun社;0.5~2mg/kg/時の速度)を調整することにより、麻酔深度を変化させた。
【0177】
さらに、体動アーチファクトを抑え、そして人工呼吸を促進するために、手順の全期間を通じて、2時間毎に、または筋弛緩度を臨床的に評価し、後者(人工呼吸)が不十分であることが示唆されたときに、0.5mcg/kgの用量でロクロニウムを断続的に静脈内投与した。
【0178】
治験期間の終了時に、すなわち計画されたすべてのデータ取得が終了したとき、ペントバルビタール(150mg/kg)の静脈内投与により、動物を麻酔下で安楽死させた。取り付けられたモニタリング装置ならびに経胸的聴診により死亡を確認した。
【0179】
外科的モデル
麻酔されたヒツジを、特注の保持デバイス内に頭部を強固に固定しながら、真空マットレスにおいてうつぶせに配置した。皮膚のクリッピングおよび殺菌後、滅菌ドレープを術野周囲に配置した。神経外科用ボルトキット(Raumedic社、ヘルムブレヒツ(Helmbrechts)、ドイツ)を使用して、ニューロモニタリングプローブ(Luciole Medicale AG社、チューリッヒ(Zurich)、スイス)を、右側前方傍正中穿頭孔を通じて挿入した。外部脳室ドレイン(EVD)(DePuys Synthes社、オーバードルフ(Oberdorf)、スイス)を、11mmの穿頭孔を通じて左側脳室の前角に挿入した。CSFを放出させ、そして標準的な20Gクモ膜下穿刺針(Dalhausen社、ケルン(Koln)、ドイツ)を用いてサンプリングするための後頭下大槽穿刺を、蛍光透視ガイダンスに従い実施した。CSFサンプルを、1500Gで15分間、すみやかに遠心分離した。上清を、Hb濃度測定および血管機能実験用として収集した。制御された脳室注射を行うために、PHD Ultraシリンジポンプ(Harvard Apparatus社、ホリストン(Holliston)、米国)をEVDと接続した。脳室注射を30ml/時の最大流速で実施した。実験構成の例証図については(
図2を参照)。
【0180】
モニタリング
頭蓋内圧(ICP)、脳温、心拍数、血圧、酸素飽和度、および呼気終末CO2の連続モニタリングを、すべての動物において実施した。さらに、動脈血ガス分析を、全実験手順期間中に30分毎に分析し、そして尿アウトプットをモニタリングした。
【0181】
デジタルサブトラクション血管造影法(DSA)
血管造影を、Allura Clarity血管造影室(Philips社、ハンブルグ(Hamburg)、ドイツ)において実施した。右顎動脈(A.maxillaris)および硬膜外奇網間の最大吻合に、血管造影マイクロカテーテルを、右頸動脈内の動脈ポートを通じて選択的にカテーテル挿入した。バイプラナー斜筋(biplanar oblique)の横方向および背腹方向の投影図を同時に取得した。11mlのイオベルソール(ヨウ素300mg/ml相当)(Optiray300、Guebert AG社、チューリッヒ(Zurich)、スイス)の造影剤ボーラスを、高圧造影剤注入装置(Accutron MR、Medtron AG社、ザールブリュッケン(Saarbrucken)、ドイツ)を用い、マイクロカテーテルを通じて2ml/秒で注射した。
【0182】
DSAから得られた管腔径の数値化
血管造影画像を、ImageJを使用して処理し、そしてImageJ用のプラグインを用いて管腔径を測定した
13。各ヒツジについて、aCSF前、処置前、および処置後(HbまたはHbHp輸注後、60分)の時点における血管造影図を比較した。記載した時点における1回のDSAの画像配列内で、横方向の投影図は、皮質静脈の流入箇所から上矢状静脈洞までの造影剤描写(「静脈Tサイン(venous T sign)」)により、静脈相の始まりを定義するのに役立った。各時点において、動脈相の最後の3画像の重ね合わせについて、その強度を平均化した。aCSF前、処置前、および処置後の血管造影図について、その強度平均化後の動脈相を統合した重ね合わせにおいて、すべての管腔測定を背腹方向の投影図上で実施した(
図3)。ウィリス動脈輪の下記の4つの管腔:前大脳動脈(ACA)、中大脳動脈(MCA)、内頸動脈(ICA)の大槽部分、および脳底動脈(BA)において、測定を実施した。管腔毎に、最も近接する非重畳的セグメントをaCSF前画像上で選択した。解剖学的に直線的な通路(ACA、ICA、およびBA)を有する管腔において、5つの直線状の対象領域(ROI)を、0.5mm間隔で自動的に生成した。湾曲したMCAにおいて、ROIを非垂直に配置した場合、モーションアーチファクトによる測定誤差のリスクが存在するので、3つのROIを手作業により定義した。直線状のROI毎に、管腔径を、ImageJプラグインを使用して決定した
13。1つのROI当たり5回の測定を平均化し、そして直径の平均値の変化を計算した。管腔特異的な平均直径変化を、ヒツジ毎および処置方式(HbとHb:Hp)に関連するセット毎に、マン・ホイットニーのU検定およびクラスカル-ウォリスの検定を使用して、aCSF前、処置前、および処置後血管造影の間で比較した。
【0183】
磁気共鳴画像法(MRI)
in vivoでの磁気共鳴画像法を、臨床用3-Tesla MRIユニット(Philips ingenia、アムステルダム(Amsterdam)、オランダ)において実施した。解剖学的方向づけ、およびカテーテル留置の術後コントロールのために、軸方向および矢状断T2強調画像を取得した。動的3D T1強調画像化を、MnHb輸注の時間をカバーする10分間にわたり、高時間分解能を用いて実施した。動的3DT1強調画像化を、後続する80分間、10分間隔を置きながら、高空間分解能を用いて継続した。画像を再構成および分析するために、DICOMデータを、HOROSソフトウェア(Nimble Co LLC社、d/b/a Purview、アナポリス(Annapolis)、MD、米国)を使用して処理した。
【0184】
ヘモグロビン
精製されたオキシヘモグロビン(oxyHb、Fe2+)は、これまでの記載に従い、タンジェンシャルフロー濾過(TFF)により、期限切れの血液から生成した14。Hb濃度は、本稿全体を通じてヘム等価量として常に表される。
【0185】
組織学的に可視化するためのタンパク質の標識
組織学的分析のために、精製済みのタンパク質溶液(Hb、Hp)を、TCO-NHSエステル(Jena Bioscience社、イェーナ(Jena)、ドイツ)で標識した。TCO-NHSエステルを、精製済みタンパク質溶液(100mMのNaHCO3バッファー中、20mg/mL)に滴下した。室温において1時間インキュベートした後、10%1Mトリス-HClバッファー(pH8.0)を添加して反応を中止し、その後、4000gで30分間遠心分離して変性したタンパク質を取り除いた。その後、ディスポーザブル脱塩カラム(PD-10 Desalting Columns、GE Healthcare社、シカゴ(Chicago)、IL)を使用して過剰の試薬を除去した。必要な場合には、標識済みタンパク質溶液を、限外濾過ユニット(Amicon Ultra 15、10kDa NMWL、Merck Millipore社、ビレリカ(Billerica)、MA)を用いて濃縮した。処理後、すべてのタンパク質溶液を、ポアサイズが0.22μmのポリエーテルスルホンメンブレン(Steriflipフィルター、Merck Millipore社、バーリントン(Burlington)、MA)を通じて無菌濾過し、そして使用するまで-80℃で保管した。
【0186】
人工CSF(aCSF)
aCSFの最終組成は、127mMのNaCl、1.0mMのKCl、1.2mMのKH2PO4、26mMのNaHCO3、1.3mMのMgCl2×6H2O、2.4mMのCaCl2×2H2O、および6.7mMのグルコースであった。
【0187】
ハプトグロビンおよびヘモグロビン-ハプトグロビン複合体
ヒト血漿からの精製済みハプトグロビン(主たる表現型2-2)を、CSL Behring AG社(ベルン(Bern)、スイス)から得た。表現型1-1を有するヒト血漿由来のハプトグロビンも、CSL Behring AG社(ベルン(Bern)、スイス)から得た。主たる表現型2-2を有するヒト血漿由来のハプトグロビンは、国際公開第2014/055552A1号においてこれまで記載されたように精製した。HpのHb結合容量を、HPLCを用いて数値化した。複合体形成後、複合体の純度および遊離Hbの不存在を、HPLCを使用して検証した。
【0188】
組換えハプトグロビン1-1を提供するための潅流式細胞培養
細胞培養プロセスは、バイアルの解凍、細胞増殖、潅流リアクターのイノキュレーション、リアクター内細胞増殖相、その後の産生相から構成される。
【0189】
細胞培養物上清は、細胞セパレーター経由の潅流式採取物として、産生相期間中にリアクターから連続して取り出され、そして新鮮な培地に置き換わる。潅流式採取物は、リアクター稼働期間中に収集される。潅流式採取物のそれぞれには、さらなる中間処理が施される。
【0190】
HISタグを含むヒト野生型ハプトグロビン表現型1を発現するCHO細胞クローンを解凍し、そしてT80フラスコ(37℃、5%CO2)より開始し、3つの2L振盪フラスコまで培養を拡張するシードトレインにおいて培養した。(パラメーター:37℃、120rpm、80%湿度、5%CO2)。50LのBioSepデバイスを装備したSartorius DCU Systemの20Lガラス容器を、3Lシードトレインを用いてイノキュレーションした。3日目まで、バッチ培養を実施し、その後、VVD(1日当たり容器容積交換回数(Vessel Volume exchanges per day))1.0として潅流を開始した。一日置きに、およそ40Lの採取物が生成し、そして採取ライン内で、Pall(登録商標)Kleenpak(商標)Nova NP7 Filter Capsule 0.2μmにより、細胞分解残留物を分離した。発酵期間中の細胞濃度(およそ細胞40×105個/mL)を、2mMの最低グルタミン濃度を維持するように調整した。(発酵パラメーター:37℃、pH7.0、30%のpO2、150rpm、VVD1.0)。全プロセス期間中に使用される培地は、改変されたProCHO5w/8mMのL-Gln、0.25%のPluro(Fa.Lonza社)であった。全体で22の採取物(およそ900L)を生成した。
【0191】
rハプトグロビン1-1-His(rHp1-1)の精製
無細胞採取物を、30kDaカットオフメンブレンを備えたTFFシステム(Pall Centramate 500S、Pall Corporation社、ニューヨーク(New York)、米国)を使用して30倍濃縮した。rハプトグロビン1-1-HISの濃縮物を、20mMのリン酸ナトリウム+500mmol/LのNaCl、pH7.4で事前平衡化したNiSepharoseエクセルカラム(GE Healthcare社、17-3712-02)上にオーバーナイトでロードした。平衡バッファーを用いてカラムを洗浄した後、溶出バッファー(20mMのリン酸ナトリウム+500mmol/LのNaCl+150mMol/Lのイミダゾール、pH7.4)を用いて、rハプトグロビン1-1-Hisを溶出させた。溶出液を、30kDaカットオフメンブレンを備えたTFFシステム(Pall社)を使用して10倍濃縮した。rハプトグロビン1-1-Hisを望ましくない不純物から分離するために、該物質を、PBS、pH7.4を用いて事前平衡化したSuperdex 200pgカラム(GE Healthcare社、ミュンヘン(Munich)、ドイツ)上にロードし、そしてrハプトグロビン1-1-Hisを含有するピーク分画をプールし、そしてUF-PES-20メンブレンを備えたUltrafiltration Cell(モデル402)(Fa.Hoechst社、#FP08085)を撹拌しながらこれを使用して、最終濃度約40mg/mLのrハプトグロビン1-1-HISまで再度濃縮した。
【0192】
Hn-HbおよびMn-Hb:Hp複合体
Mn(III)プロトポルフィリンIXクロリド(MnPP)を、アルカリ性条件下(100mMのNaOH)で、四量体アポヘモグロビン、またはアポヘモグロビン:ハプトグロビン複合体の空の「ヘムポケット」内に挿入した。次にバッファーを生理食塩水に置換した。化合物を4℃ですみやかに保管し、またはさらに処理するまで、抗凍結溶液(1:1:1:1の比のプロピレングリコール、グリセリン、0.1MのPBS、およびddH2O)中、-20℃で保管した。
【0193】
C.組織学的染色およびイメージング
ヒツジを安楽死させた後、脳を採取する前に、EVDを通じて、4%のPFA(10mL)により、30mL/時の輸注速度でCSF腔をフラッシュした。脳全体を厚さ1cmの冠状切片に裁断し、そして4%PFA中、4℃、オーバーナイトで固定した。次にさらに処理するために、スライスの縁を切り落として好適なサイズにし、PBS中、4%アガロースに包埋し、そしてビブラトーム(Leica VT1000S振動式ブレードミクロトーム、Leica Biosystems社、ヴェツラー(Wetzlar)、ドイツ)を使用して120μmの浮遊切片に裁断した。切片を処理したが、その第1の工程では、浮遊切片を透過処理バッファー(PBS中、0.5%トリトンX100を含む2%BSA)中、室温で4時間事前調整し、その後40nMのテトラジン-Cy5(Jena Bioscience社、イェーナ(Jena)、ドイツ)およびα-平滑筋アクチンに対するFITCカップリングモノクロナール抗体(1:10,000、クローン1A4、Sigma社)を含有するブロッキングバッファー(PBS中、2%BSA)(2mL)中、4℃、オーバーナイトでのインキュベートが後続した。次に核を、Hoechst33342(1:2,000希釈、Invitrogen社、カールスバッド(Carlsbad)、CA)を用いて室温で40分間染色した。PBSを用いて15分間、3回洗浄した後、切片を、FluoroSafe(Merck Millipore社、バーリントン(Burlington)、MA)を用いてマウントした。
【0194】
Colibri.2、ApoTome.2システム、およびモーター付きのステージとカップリングしたZeiss Obserber.Z1顕微鏡(Carl Zeiss AG社、フェルトバッハ(Feldbach)、スイス)を用いて取得された、10×倍率の個々の画像を共につなぎ合わせることにより、組織学的切片の全スライドスキャンを生成した。63×倍率の画像を、Leica SP8共焦点顕微鏡(Leica Leica Microsystems社、ヴェツラー(Wetzlar)、ドイツ)を使用して取得した.
【0195】
D.HPLC測定
定性的および定量的サイズ排除クロマトグラフィー(HPLC)では、HbおよびまたはHpを含有するサンプルを、BioSep-SEC-s3000(75×7.8mm)Guard Column(Phenomenex社、トーランス(Torrance)、CA)とカップリングし、そしてLKB 2150 HPLC Pump(LKB-Produkter AB社、ブロンマ(Bromma)、スウェーデン)およびJasco UV-970 Intelligent UV/VIS Detector(JASCO International Co.、Ltd.社、東京、日本)と連結した分析用BioSep-SEC-s3000(600×7.8mm)LCカラム上で分離した。20mMのリン酸カリウム、pH6.8を移動相として使用した。吸収を414nmにおいて測定し、そしてLab Chartソフトウェア、バージョン7.2.1(AD Instriments社、ヘイスティングス(Hastings)、英国)を使用して記録した。HPLC曲線を、R統計ソフトウェア、バージョン4.2.3(www.r-project.org)を用いて分析および可視化した。
【0196】
結果
A.ハプトグロビンは、Hbに曝露されたブタ脳底動脈におけるNO媒介式の血管拡張をex vivoで回復させる
10μMの濃度でKrebs-Henseleitバッファーに添加した無細胞Hbは、ワイヤーミオグラフィー実験においてNO誘発性の血管拡張を完全に平坦化させた(
図4A)。等モルのHpを添加すると、20分間のインキュベーション期間後に、NO応答は概ね回復する(
図4B)。Hpは、出血から2日後、溶血が生じる前に同一の患者からサンプリングされたCSFについて観察された程度に、外因性NOに対する血管拡張応答も回復した(
図6)。血管機能実験では、血漿由来のHp2-2と組換えHp1-1(
図18)または血漿由来Hp1-1(
図19)の間で、NO応答の回復に有意差は認められなかった。
【0197】
B.無細胞Hbは、aSAHを有する患者の脳脊髄液における動脈性一酸化窒素シグナル伝達の主要な破綻因子である
DINDの初期臨床特性として、大脳動脈における血管攣縮の発生が挙げられる。無細胞oxyHb(Fe
2+O
2)/deoxyHb(Fe
2+)と血管拡張物質である一酸化窒素(NO)との反応は、血管収縮力側にバランスをシフトさせる可能性がある。この脱調節の機構を調査するために、ヒトCSFサンプル中に浸漬されたブタ脳底動脈のNO媒介式の血管拡張応答を、ex vivoで定量した。多量の無細胞Hbを含有するDIND患者由来のCSFにおいて、短寿命のNOドナー(MAHMA-NONOate)の投与に対して期待される拡張性の応答は抑制された(
図5)。しかしながら、無細胞HbがHp親和性カラムによりCSFから選択的に除去されると、生理学的血管拡張応答は回復した。Hb除去前後の患者CSFのLC-MSMS分析より、溶血性CSF中のタンパク質組成物のバルクは不変のままであったことが実証された。この実験では、aSAHを有する患者の脳脊髄液における動脈性NOシグナル伝達の主要な破綻因子として、無細胞Hbが同定された。
【0198】
C.側脳室内に注射されたHbおよびHb:Hpは、クモ膜下腔中にin vivoで迅速に分布する
動的3D MRIにおいて、側脳室内に注射されたMnHbおよびMnHb:Hp複合体は、第三脳室、水管、および第四脳室を通じて、生理学的内部CSF経路に沿って迅速に分布することが明らかにされた(n=5)(
図7)。数分以内に、MnHbの高いシグナルが、すべての動物において、後頭蓋窩の大脳動脈を浸している大脳基底槽において検出することが可能であった(
図8)。ウィリス動脈輪に続く大脳後頭窩中間部および前方部へのさらなる分布が、注射後20分以内に観察された。予想通り、CSFコンパートメント内のHbとHb:Hp複合体間でその分布に差異を検出することはできなかった。
【0199】
D.ハプトグロビンはCSFコンパートメント内のHbを閉じ込め、そして大脳血管壁および脳実質中への浸透を低下させる
組織学的分析より、TCO標識されたヘモグロビンがCSFから脳間質腔中に、脳室系の脳室上皮関門を通じて浸透する一方、Hpを同時輸注すると、この拡散は劇的に低下することが明らかとなった(
図8)。さらに、Hbが、クモ膜下腔から脳表面のグリア境界膜を通じて間質に強く浸透することも認められた(
図9A)。対照的に、Hb:Hp複合体は、貫通皮質血管のCSFで満たされた血管周囲腔(Virchow-Robin腔)に主に限定された(
図9B)。
【0200】
体循環において、サイズ制限性の関門が、大分子のHb-Hp複合体が、腎臓、心筋層、または抵抗動脈の血管壁などのような脆弱な組織中に非局在化するのを防止する。脳に対するHp保護のこの一般的な概念を説明するために、TCO-HbまたはTCO-Hb-Hp複合体を、ヒツジのCSF中に輸注した。trans-シクロオクテン(TCO)タグ化ヘムタンパク質が、ホルマリン固定組織切片において、蛍光顕微鏡検査により、テトラジンコンジュゲート蛍光色素とのクリックケミストリー反応後に、非常に高いシグナル対ノイズ比で可視化された。前脳および中脳の2つの異なる位置において、ヒツジ脳切片の蛍光スキャンを行い、無細胞Hbは、2時間以内に、内部および外部CSF腔から脳実質中に非局在化し、内部および外部CSF-脳界面に沿って蛍光シグナルの縁部として現れることを実証した。この非局在化のパターンは、TCO-Hb-Hp複合体が輸注されたヒツジの試料には存在しなかった。
【0201】
図8および
図9においてHb-Hp複合体分布を例証するために、EVDカテーテルの先端部が脳実質内部にわずかに配置された前脳の切片を選択した。この場所に、小量のTCO-Hb-Hpを脳組織内に直接注射し、染色およびイメージング手順のための陽性コントロールとした。この他に、唯一際立ったHb-Hpシグナルが、軟膜表面から脳内に貫通する小動脈に沿って認識することができた。ヒツジを犠牲にする前に、SECおよびSDS-PAGE分析用としてクモ膜下腔からCSFを収集した。脳切片内にHb-Hpシグナルが存在しないにもかかわらず、大分子のHb-Hp複合体(Cy5-テトラジンとのTCO反応後にきわめて蛍光性である2-2型Hpポリマーのラダーから構成される)がCSF内で同定された。全体として、これらのデータは、Hb-Hp複合体はCSF腔内に閉じ込められたままであることを裏付ける。血管構造の共焦点顕微鏡では、TCO-HbまたはTCO-Hb-Hpが輸注された動物から得られたヒツジ脳切片を、血管平滑筋細胞(αSMA)、およびアクアポリン-4(AQP4)陽性アストロサイト終足について染色した。
【0202】
図10は、TCO標識されたHbまたはHb-Hp複合体がそれぞれ輸注されたヒツジ中脳の脳室周囲エリア内にある内径の異なるいくつかの小動脈の共焦点画像を示す。画像から、Hb-Hp複合体が、貫通動脈のCSFが満たされた血管周囲腔(Virchow-Robin腔)内に高濃度で閉じ込められたままであることが確認される。この腔は、一方の側にある動脈の最外層(すなわち、外膜)および他方の側にあるアストロサイト終足(すなわち、グリア境界膜)により描写される。Hpが存在しない場合、無細胞Hbはアストロサイト関門を横断して脳組織中に、そしてさらに血管平滑筋層中に非局在化して内皮下腔に達する。この観測から、無細胞Hbが大脳動脈において血管拡張性のNOシグナル伝達を遮断し、これにより血管攣縮を誘発するが、しかし大分子のHb-Hp複合体はそうではない理由を説明することができる。
【0203】
E.クモ膜下腔内の無細胞Hbはin vivoで急性血管攣縮を誘発するが、ハプトグロビンの同時輸注により防止し得る
クモ膜下腔内の無細胞Hbは、すべての動物(4/4)において、急性の血管造影血管攣縮を誘発した。血管攣縮は、Hbの脳室注射から60分後に、後頭および前頭蓋窩の動脈(脳底動脈、小脳動脈、前大脳動脈)において再現的に局在した(
図11Aおよび12B)。しかしながら、血管攣縮は、中頭蓋窩(中大脳動脈、内頸動脈)においても検出可能であり、個体間変動はより大きかった(
図12)。Hpを同時輸注すると、分節性動脈血管攣縮の誘発は完全に阻止された(
図11B)。Hb:Hpを同時輸注された動物1匹が、分析したすべての血管テリトリーにおいてより細い管腔径を示したが、Hb輸注動物において認められた分節性の血管攣縮パターンを有することはなかった(データ図示せず)。血管攣縮の視覚的印象を客観化するために、半自動化された管腔径の定量を、4つの事前に定義された大脳動脈領域のDSA画像上で実施した。前大脳動脈(ACA)および中大脳動脈(MCA)において、脳底動脈(BA)の、ならびに大槽内頸動脈(ICA)の有意な狭窄が、Hb:Hp輸注動物と比較して、Hb輸注動物において認められた(
図13A)。Hb誘発性の血管収縮が、すべての動脈セグメントのプール分析においてよりいっそう明らかとなった(
図13B)。各実験の初期段階において一般的な対照手順として実施したものであるが、Hb-Hp輸注後でも、また同容積の人工CSF輸注後においても、動脈の直径について有意な変化は認められなかった(
図13C)。
【0204】
F.in vivoでHbを輸注した後にHpを連続投与すると、CSFにおいて完全なHbの複合体形成を引き起こす
連続注射されたHpは、in vivoで、クモ膜下腔に分散した遊離Hbと迅速かつ完全に結合する。脳室系へのHp投与後10分経過すると、後頭下から収集したCSFサンプルにおいて、複合体未形成のHbはすでに検出不能であった(
図14)。
【0205】
in vivoでの血管造影血管攣縮の時点で収集したヒツジCSFの血管収縮効果は、ex vivoでの血管機能実験においても、Hpにより中和可能である。
【0206】
G.in vivoでの血管造影血管攣縮の時点で収集したヒツジCSFの血管収縮効果は、ex vivoでの血管機能実験においても、Hpにより中和可能である
単離された脳底動脈をHb注射前に収集したヒツジCSFに曝露すると、aCSF内の管腔のように、NOに対して類似した拡張性の応答を示した。血管造影血管攣縮の時点で収集した出血性CSFに曝露した後、NO応答は大きく低下した。等モルのHp(CSFサンプル中の個々のHb濃度に対応して調整した)を添加することにより、ex vivoで処置を行うと、NO応答性は幅広く回復する。Hb:Hp複合体の輸注から60分後に収集したCSFに曝露しても、NO誘発性の血管拡張は損なわれなかった(
図15)。
【0207】
H.無細胞Hbは、aSAHを有する患者の脳脊髄液における動脈一酸化窒素シグナル伝達の主要な破綻因子である
出血後2~13日目の間に外部脳室ドレイン(EVD)カテーテルから収集した、aSAHを有する患者由来の連続したCSFサンプル上で、定量的LC-MSMSプロテオーム分析を実施した。対数変換後の標準化されたイオン強度比(x日目/2日目)のk平均クラスタリングにより、少なくとも2つの固有ペプチドを用いて同定されたすべてのタンパク質を分類した(
図16)。カテゴリー3には、経時的に不変のままであったタンパク質が含まれる。カテゴリー2には、経時的に増加したタンパク質が包含される。カテゴリー2は、ほぼ赤血球(RBC)コンポーネント、すなわちHbおよびRBC酵素のみから構成され、aSAH後のクモ膜下腔において生ずる遅発性溶血プロセスを例証する。カテゴリー2では、Hpは初期サンプルにおいて豊富に存在したが、しかし経時と共に枯渇し、無細胞Hbの分画が過剰に残ることが判明した。カテゴリー1は、経時的に減少したタンパク質を表し、血漿タンパク質から主に構成された。
【0208】
I.第四脳室の脈絡膜における細動脈の組織形態計測分析
細い実質管腔(直径が50~100μmの範囲)について、その観測された血管周囲Hb曝露を、本発明者らの試験において得られた大脳動脈に対する機能的読取りと結びつけるために、組織形態計測分析を実施した。この目的のために、第四脳室を通過する120μmのヒツジ脳切片を平滑筋細胞について染色した(
図17A)。脈絡膜内の細いα平滑筋アクチン(αSMA)陽性管腔について、その共焦点画像を、処置に対して盲検化された研究者により取得した(1群当たりn=3のヒツジ、Hb処置したヒツジにつき合計25画像、Hb-ハプトグロビン処置したヒツジについて32画像)。脳室内に滴下注入された定着剤に対して非常に迅速に曝露されることから、脳室周囲エリアをこの分析用として選択して、考え得る最良の構造的保存を確実にした。管腔毎に、αSMA陽性構造の内周および外周に基づき内腔および総断面積を数値化した(盲検化された研究者3名によって手作業により決定された)(
図17B)。縮小した外観を有する管腔は、すべてのHb輸注動物において豊富に存在したが、Hb-ハプトグロビン輸注動物ではまったく見出すことはできなかった(
図17C)。
図17Dおよび17Eは、分析したすべての管腔の内腔面積率の定量分析、ならびにヒツジ1匹当たりの平均値を示す。両分析方式のいずれにおいても、差異は統計的に有意であり、Hb-ハプトグロビン処置動物と比較して、Hb処置動物の内腔面積はより小さかった。
【0209】
まとめと結論
aSAH患者では、遅発性虚血性神経障害(DIND)が出血後4~14日目の間で主に生ずる。この時間的プロファイルは、溶解性赤血球からクモ膜下コンパートメント中へのoxyHbの放出量と相関関係を有し、CSF oxyHbは4~14日目の間にピークに達する。小規模の観察的臨床試験では、DINDを発症したaSAH患者とその発症を認めないaSAH患者の間で、累積的CSF oxyHbレベルに有意差が観察された。二次神経学的退行が好ましくない転帰に対する主要な寄与因子であり、またDINDを予防することがaSAH患者の処置における転機となる。
【0210】
この試験では、無細胞Hbを通じてNOが除去されることで大脳動脈が受ける効果、およびハプトグロビンがこの毒性を阻止し、さもなければ低下させる可能性を探索するために、ex vivoおよびin vivoモデルが確立された。無細胞oxyHbを通じた壁内NO枯渇とそれに続く血管収縮の概念を、単離されたブタ脳底動脈においてex vivoで確認した。Hbに曝露された動脈をハプトグロビンで処置すると、NO誘発性の血管拡張が完全に回復した。さらに、aSAH患者から収集された出血性CSFのNO依存性血管作用性の効果が、同一モデルにおいて実証された。出血性CSFにおいて非常に多くの血管作用性分子が知られているにもかかわらず、ハプトグロビン処置によってoxyHbを除去することで、NOに対する血管拡張性の応答が、単離された大脳動脈において、生理学的レベルまで回復した。Hp2-2およびHp1-1(組換えまたは血漿由来)の間で、血管拡張性のNO応答を回復させる有効性について、差異は認められなかった。
【0211】
観測された効果をin vivoで確認するために、高度にトランスレーショナルな大型の動物モデルを確立した。ヒツジのCSFコンパートメント中に無細胞oxyHbを注射すると、すべての動物において再現性のある血管造影血管攣縮が誘発された。予防上の観点からより重要なこととして、ハプトグロビンを用いてoxyHbと複合体形成させることで、この血管反応はin vivoで消滅した。さらに、治療的ハプトグロビンを投与してNO誘発性の血管拡張を回復させるという概念が、血管造影血管攣縮を有する動物から収集された出血性CSFに曝露された動脈において、ex vivoで明らかにされた。これらの結果は、脳血管攣縮やDINDを含む有害な二次神経学的転帰の発生率を低下させるために、aSAH患者に治療的ハプトグロビンを投与して、CSF中の無細胞oxyHbが脳血管のNOシグナル伝達を妨げるのを防止することに対する理論的根拠を強く裏付ける。
【0212】
CSFコンパートメント中に注射した無細胞oxyHbの分布を試験するため、in vivoおよびex vivoでのイメージングのためのいくつかの新規標識法を開発した。動的MRIを使用し、HbおよびHb:Hp複合体が、脳室系中への注射後、クモ膜下腔内を巨視的に同じように迅速に分散するのを確認した。組織学的分析より、HbがCSFから脳の間質腔中に広範に浸透する一方、Hb:Hp複合体はクモ膜下腔内に概ね限定されることが判明した。これらの予期せぬ所見から、ハプトグロビンとの複合体形成を通じて無細胞HbをCSF腔内に閉じ込めることで、無細胞Hbの大脳血管系および脳実質に対する毒性効果の防止に、少なくとも部分的に寄与することが強く示唆され、これによりaSAH患者のCSFコンパートメントにおいてHb除去能力が十分となるように、治療的アプローチとしてハプトグロビンを髄腔内投与することが注目される。
【0213】
あらゆる種類の天然に生じる、または外傷性の頭蓋内出血には、血管外溶血ならびに無細胞HbのCSFおよび/または脳間質腔中への放出が伴うことに留意すれば、ハプトグロビン処置の治療可能性は、aSAH患者に限定されるものではないと考えられる。したがって、無細胞の頭蓋内ヘモグロビンを除去するための治療アプローチが奏功すれば、そのような治療アプローチは、神経疾患患者の大きな集団に対して多大なる潜在的影響を有する。
【0214】
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【国際調査報告】