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特表2022-533456糞便試料中のピロリ菌のレベルを検出するための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-22
(54)【発明の名称】糞便試料中のピロリ菌のレベルを検出するための方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6844 20180101AFI20220714BHJP
   C12N 15/10 20060101ALN20220714BHJP
   C12Q 1/6888 20180101ALN20220714BHJP
   C12N 9/12 20060101ALN20220714BHJP
   C12N 15/31 20060101ALN20220714BHJP
   C12N 1/20 20060101ALN20220714BHJP
【FI】
C12Q1/6844 Z ZNA
C12N15/10 100Z
C12Q1/6888 Z
C12N9/12
C12N15/31
C12N1/20 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021569857
(86)(22)【出願日】2020-05-26
(85)【翻訳文提出日】2022-01-06
(86)【国際出願番号】 US2020034508
(87)【国際公開番号】W WO2020237237
(87)【国際公開日】2020-11-26
(31)【優先権主張番号】62/852,016
(32)【優先日】2019-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518399276
【氏名又は名称】アメリカン モレキュラー ラボラトリーズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】チョウ イ
(72)【発明者】
【氏名】チャン ホンジュン
(72)【発明者】
【氏名】カクトゥル ラジャラオ
(72)【発明者】
【氏名】チョン ザオゾン
【テーマコード(参考)】
4B050
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B050CC07
4B050KK07
4B050LL03
4B063QA01
4B063QA13
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR35
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS25
4B065AA01X
4B065BD01
4B065BD02
4B065BD15
4B065BD16
4B065CA46
(57)【要約】
本開示は、試料中のピロリ菌のレベルを検出するための方法および材料を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
糞便試料中のピロリ菌(H.pylori)のレベルを決定する方法であって、
対象から糞便試料を取得する工程と、
前記糞便試料からピロリ菌およびバクテロイデス属(Bacteroides)DNAを抽出する工程と、
一つ以上のピロリ菌DNAセグメントおよび一つ以上のバクテロイデス属DNAセグメントを増幅する工程と、
前記一つ以上のピロリ菌DNAセグメントの量および前記一つ以上のバクテロイデス属DNAセグメントの量を検出する工程と、
前記糞便試料中のピロリ菌の前記レベルを決定するために、前記一つ以上のピロリ菌DNAセグメントの量を前記一つ以上のバクテロイデス属DNAセグメントの量と比較する工程と
を含む、方法。
【請求項2】
前記糞便試料がピロリ菌陽性、ピロリ菌弱陽性、またはピロリ菌陰性であるかどうかを決定する工程
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記一つ以上のピロリ菌DNAセグメントの約5コピー以上の閾値レベルが検出され、かつ前記一つ以上のバクテロイデス属DNAセグメントの約100コピーのレベルが検出された場合に、前記糞便試料がピロリ菌陽性であると決定する工程をさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記一つ以上のピロリ菌DNAセグメントの2~5コピーの閾値レベルが検出され、かつ前記一つ以上のバクテロイデス属DNAセグメントの約100コピーのレベルが検出された場合に、前記糞便試料がピロリ菌弱陽性であると決定する工程をさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記一つ以上のピロリ菌DNAセグメントの2コピー未満の閾値レベルが検出され、かつ前記一つ以上のバクテロイデス属DNAセグメントの約100コピーのレベルが検出された場合に、前記糞便試料がピロリ菌陰性であると決定する工程をさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記一つ以上のピロリ菌DNAセグメントおよび前記一つ以上のバクテロイデス属DNAセグメントが、定量的PCRによって増幅され、前記一つ以上のピロリ菌DNAセグメントの量および前記一つ以上のバクテロイデス属DNAセグメントの量が、定量的PCR反応中にプローブ配列を使用して検出される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記定量的PCRが多重化される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記一つ以上のピロリ菌DNAセグメントが、保存されたDNAセグメントである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記一つ以上のピロリ菌DNAセグメントが、ピロリ菌23S rRNA遺伝子、ピロリ菌16S rRNA遺伝子、またはピロリ菌ウレアーゼA遺伝子を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
ピロリ菌23S rRNA遺伝子、ピロリ菌16S rRNA遺伝子、およびピロリ菌ウレアーゼA遺伝子の各々を増幅する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記バクテロイデス属DNAセグメントが、バクテロイデス・フラジリス(Bacteroides fragilis)、バクテロイデス・メラニノゲニクス(Bacteroides melaninogenicus)、バクテロイデス・オラリス(Bacteroides oralis)、またはそれらの組み合わせ由来のDNAセグメントのうちの一つ以上を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記一つ以上のバクテロイデス属DNAセグメントが、年齢および状態に関わらずヒトに存在するバクテロイデス属種由来である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記一つ以上のピロリ菌DNAセグメントおよび前記一つ以上のバクテロイデス属DNAセグメントを定量的PCRによって増幅する工程が、
前記一つ以上のピロリ菌DNAセグメントを含むアンプリコンを産生するためのPCRプライマー対を選択することと、
前記一つ以上のバクテロイデス属DNAセグメントを含むアンプリコンを産生するためのPCRプライマー対を選択することと、
もう一つのPCRプライマー対によってアンプリコン生成に干渉する一つ以上のプライマーを含むPCRプライマー対を、別個のPCRプライマー対プールへと分離することであって、前記別個のPCRプライマー対プールの各々が、複数のPCRプライマー対を含有する、分離すること
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記一つ以上のピロリ菌DNAセグメントを定量的PCRによって増幅する工程が、
配列番号1、配列番号2、配列番号4、配列番号5、配列番号7、配列番号8から選択されたPCRプライマー対のうちの一つまたは複数、および
配列番号3、配列番号6、および配列番号9から選択されたプローブ配列のうちの一つまたは複数
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記一つ以上のバクテロイデス属DNAセグメントを定量的PCRによって増幅する工程が、
配列番号10および配列番号11を含むPCRプライマー対のうちの一つまたは複数、および
配列番号12を含むプローブ配列のうちの一つまたは複数
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記糞便試料が、約0.5グラム~約1.0グラムである、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記DNA抽出が、溶解緩衝液中で前記糞便試料をビーズ粉砕することを含み、前記溶解緩衝液が、細菌細胞壁を破ること、タンパク質を消化すること、タンパク質を変性すること、脂肪を分散すること、多糖類を沈殿させること、またはこれらの組み合わせが可能な成分を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記DNA抽出が、
前記均質化され溶解された糞便試料を、フィルターおよびシリカ膜を含むフィルターカラムに装填することであって、前記フィルターカラムが、閉鎖された底部と前記フィルターカラムを受容するための開放された上部とを有する収集バイアル内に収容される、装填することと、
前記均質化され溶解された糞便試料の可溶性内容物を強制的に前記シリカ膜に通すことと、
前記シリカ膜から前記DNAを溶出することと
を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
試料中のピロリ菌の存在を決定するための組成物であって、
一つ以上のピロリ菌DNAセグメントを増幅するPCRプライマー対のうちの一つまたは複数と、
一つ以上のバクテロイデス属DNAセグメントを増幅する一つ以上の対照PCRプライマー対のうちの一つまたは複数と
を含む、組成物。
【請求項20】
前記一つ以上のピロリ菌DNAセグメントが、保存されたDNAセグメントである、請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
前記ピロリ菌DNAセグメントが、ピロリ菌23S rRNA遺伝子、ピロリ菌16S rRNA遺伝子、またはピロリ菌ウレアーゼA遺伝子を含む、請求項19に記載の組成物。
【請求項22】
一つ以上のピロリ菌DNAセグメントを増幅する前記PCRプライマー対が、配列番号1、配列番号2、配列番号4、配列番号5、配列番号7、配列番号8から選択される、請求項20に記載の組成物。
【請求項23】
前記バクテロイデス属DNAセグメントが、年齢および状態に関わらずヒトに存在するバクテロイデス属種由来である、請求項19に記載の組成物。
【請求項24】
前記バクテロイデス属DNAセグメントが、バクテロイデス・フラジリス、バクテロイデス・メラニノゲニクス、バクテロイデス・オラリス、またはこれらの組み合わせ由来のDNAセグメントのうちの一つ以上を含む、請求項23に記載の組成物。
【請求項25】
前記複数の対照PCRプライマーが、配列番号10および配列番号11を含む、請求項24に記載の組成物。
【請求項26】
前記一つ以上のピロリ菌DNAセグメントの増幅産物とハイブリッド形成するプローブ配列のうちの一つまたは複数と、
前記一つ以上のバクテロイデス属DNAセグメントの増幅産物とハイブリッド形成するプローブ配列のうちの一つまたは複数と
をさらに含む、請求項19に記載の組成物。
【請求項27】
前記一つ以上のピロリ菌DNAセグメントの増幅産物とハイブリッド形成するプローブ配列が、配列番号3、配列番号6、および配列番号9から選択され、かつ
前記一つ以上のバクテロイデス属DNAセグメントの増幅産物とハイブリッド形成するプローブ配列が、配列番号12を含む、
請求項26に記載の組成物。
【請求項28】
前記PCRプライマー対が、多重化されることができる、請求項19に記載の組成物。
【請求項29】
前記プライマー対が、マルチプレックス定量的PCRに好適である、請求項19に記載の組成物。
【請求項30】
PCR反応緩衝液、ジヌクレオチド三リン酸、および一つ以上のポリメラーゼ酵素をさらに含む、請求項19に記載の組成物。
【請求項31】
試料中のピロリ菌の存在を検出するためのキットであって、
一つ以上のピロリ菌DNAセグメントを増幅するPCRプライマー対のうちの一つまたは複数と、
一つ以上のバクテロイデス属DNAセグメントを増幅するPCRプライマー対のうちの一つまたは複数と
を含む、キット。
【請求項32】
前記一つ以上のピロリ菌DNAセグメントの増幅産物とハイブリッド形成するプローブ配列のうちの一つまたは複数と、
前記一つ以上のバクテロイデス属DNAセグメントの増幅産物とハイブリッド形成するプローブ配列のうちの一つまたは複数と
をさらに含む、請求項31に記載のキット。
【請求項33】
溶解緩衝液中のビーズ粉砕懸濁液をさらに含み、前記溶解緩衝液が、細菌細胞壁を破壊すること、タンパク質を消化すること、タンパク質を変性すること、脂肪を分散すること、多糖類を沈殿させること、またはこれらの組み合わせが可能な成分を含む、請求項31に記載のキット。
【請求項34】
シリカ精製試薬およびDNA結合緩衝液をさらに含む、請求項31に記載のキット。
【請求項35】
以下:
フィルターおよびシリカ膜を含むフィルターカラムであって、閉鎖された底部と前記フィルターカラムを受容するための開放された上部とを有する収集バイアル内に収容された、フィルターカラムと、
洗浄緩衝液および溶出緩衝液と
をさらに含む、請求項31に記載のキット。
【請求項36】
PCR反応緩衝液と、ジヌクレオチド三リン酸と、一つ以上のポリメラーゼ酵素と、をさらに含む、請求項31に記載のキット。
【請求項37】
対象におけるピロリ菌治療の方法であって、
対象から糞便試料を取得する工程と、
前記糞便試料からピロリ菌DNAおよびバクテロイデス属DNAを抽出する工程と、
一つ以上のピロリ菌DNAセグメントおよび一つ以上のバクテロイデス属DNAセグメントを増幅する工程と、
前記一つ以上のピロリ菌DNAセグメントの量および前記一つ以上のバクテロイデス属DNAセグメントの量を検出する工程と、
前記糞便試料中のピロリ菌のレベルを決定するために、前記一つ以上のピロリ菌DNAセグメントの量を、前記一つ以上のバクテロイデス属DNAセグメントの量と比較する工程と、
ピロリ菌が閾値レベルで存在する場合、ピロリ菌治療を施す工程と
を含む、方法。
【請求項38】
前記閾値レベルが、5コピー以上のピロリ菌DNAセグメントである、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
対象におけるピロリ菌治療をモニターするための方法であって、
ピロリ菌治療を施した後に前記対象から糞便試料を取得する工程と、
前記糞便試料からピロリ菌DNAおよびバクテロイデス属DNAを抽出する工程と、
一つ以上のピロリ菌DNAセグメントおよび一つ以上のバクテロイデス属DNAセグメントを増幅する工程と、
前記一つ以上のピロリ菌DNAセグメントの量および前記一つ以上のバクテロイデス属DNAセグメントの量を検出する工程と、
前記糞便試料中のピロリ菌のレベルを決定するために、前記一つ以上のピロリ菌DNAセグメントの量を、前記一つ以上のバクテロイデス属DNAセグメントの量と比較する工程と
を含む、方法。
【請求項40】
前記糞便試料が、治療の少なくとも4週間後に収集される、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記方法が、毎日、毎週、毎月、または毎年繰り返される、請求項39に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は2019年5月23日に出願された米国特許出願第62/852,016号の恩典を主張するものであり、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
分野
本開示は、概して、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)(ピロリ菌(H. pylori))の検出のための方法および材料に関する。
【0003】
配列表
本出願は、ASCII形式で電子的に提出された配列表を含み、その全体は参照により本明細書に組み込まれる。2020年5月26日に作成された当該ASCIIコピーは、「116110-5004-WO_ST25_Sequence_Listing」と名付けられ、サイズは4キロバイトである。
【背景技術】
【0004】
背景
ピロリ菌は、世界の人口の50%が感染すると推定されている、最もよく見られる世界的なヒト病原体のうちの一つである。ピロリ菌は、主に胃の中で見られ、慢性胃炎、消化性潰瘍、粘膜関連リンパ組織(MALT)リンパ腫、胃がん(gastric carcinoma)、および胃がん(gastric cancer)の病因において重要な役割を果たしている。
【0005】
免疫組織化学検査(IHC)、尿素呼気検査(UBT)、および便抗原検査を含む、ピロリ菌の現在の診断検査は、様々な理由から嫌われている。IHCには侵襲的な胃生検が必要とされ、特に治療後のフォローアップが嫌われている。UBTおよび便抗原検査はどちらも忠実性を欠いており、許容できない偽陽性率および偽陰性率を生じさせる。さらに、ピロリ菌感染症に関連付けられた症状を呈する患者のための一般的なレジメンであるプロトンポンプ阻害剤を用いた治療は、UBTの結果および便抗原結果の両方に影響を与え、それらの解釈を複雑にする可能性がある。さらに、UBTは3歳未満の小児、または妊娠中の女性には使用することができない。
【0006】
ピロリ菌を検出する従来の方法は、他の欠点を有する。例えば、このような方法は、単一のピロリ菌株を検査することができるのみであり、それ故に、試料中の異なる株の集団の全体像を提供することができない場合がある。これは、患者がピロリ菌の複数の株に感染する可能性がより高い、ピロリ菌感染率の高い領域では特に当てはまる。さらに、これらの方法は、ピロリ菌を培養することを必要とし、これは冗長であり、サンプリングバイアスおよび輸送中の試料保存不良に起因する失敗の頻度が高い。
【0007】
それ故に、患者試料中のピロリ菌の存在を決定するためのより迅速で、より信頼性が高く、非侵襲的な検査に対するニーズがある。
【発明の概要】
【0008】
概要
本開示は、例えば、対象からの試料中のピロリ菌の閾値レベルの検出を含む、試料(例えば、糞便試料)中のヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)の検出のための方法および材料に関する。実施形態では、本開示は、バクテロイデス属(Bacteroides)(健常対象に偏在する腸内細菌の属)のメンバーからDNAセグメントを検出すること、および糞便試料中のピロリ菌のレベルを決定するためにバクテロイデス属DNAセグメントのレベルを内部対照として使用することにさらに関する。さらに、本開示は、糞便試料由来のピロリ菌DNAおよびバクテロイデス属DNAのマルチプレックス定量的PCRのためのPCRプライマー対を含む組成物およびキットに関する。
【0009】
本開示はまた、糞便試料中に存在するピロリ菌のレベルを検出するための方法および材料も提供する。方法は、対象から糞便試料を取得する工程と、糞便試料からピロリ菌およびバクテロイデス属DNAを抽出する工程と、一つ以上のピロリ菌DNAセグメントおよび一つ以上のバクテロイデス属DNAセグメントを増幅する工程と、一つ以上のピロリ菌DNAセグメントの量および一つ以上のバクテロイデス属DNAセグメントの量を検出する工程と、糞便試料中のピロリ菌のレベルを決定するために、一つ以上のピロリ菌DNAセグメントの量を一つ以上のバクテロイデス属DNAセグメントの量と比較する工程と、を含んでもよい。
【0010】
上述または後述の実施形態の各々もしくはいずれかのうちの一部の実施形態では、本開示は、糞便試料中に存在するピロリ菌のレベルを検出し、そして糞便試料がピロリ菌陽性であるか、ピロリ菌弱陽性であるか、またはピロリ菌陰性であるかを決定するための方法および材料を提供する。
【0011】
上述または後述の実施形態の各々もしくはいずれかのうちの一部の実施形態では、本開示は、一つ以上のピロリ菌DNAセグメントの約5コピー以上の閾値レベルが検出され、かつ一つ以上のバクテロイデス属DNAセグメントの約50、約60、約70、約80、約90、約100、約110、約120、約130、約140、約150コピー、またはそれ以上(好ましくは100コピー)のレベルが検出された場合に、糞便試料がピロリ菌陽性であると決定する方法を提供する。
【0012】
上述または後述の実施形態の各々もしくはいずれかのうちの一部の実施形態では、本開示は、一つ以上のピロリ菌DNAセグメントの約2~約5コピー以上の閾値レベルが検出され、かつ一つ以上のバクテロイデス属DNAセグメントの約50、約60、約70、約80、約90、約100、約110、約120、約130、約140、約150コピー、またはそれ以上(好ましくは100コピー)のレベルが検出された場合に、糞便試料がピロリ菌弱陽性であると決定する方法を提供する。
【0013】
上述または後述の実施形態の各々もしくはいずれかのうちの一部の実施形態では、本開示は、一つ以上のピロリ菌DNAセグメントの約2コピー未満の閾値レベルが検出され、かつ一つ以上のバクテロイデス属DNAセグメントの約50、約60、約70、約80、約90、約100、約110、約120、約130、約140、約150コピー、またはそれ以上(好ましくは100コピー)のレベルが検出された場合に、糞便試料がピロリ菌陰性であると決定する方法を提供する。
【0014】
上述または後述の実施形態の各々もしくはいずれかのうちの一部の実施形態では、本開示は、糞便試料中のピロリ菌のレベルを決定する方法を提供し、一つ以上のピロリ菌DNAセグメントおよび一つ以上のバクテロイデス属DNAセグメントが、定量的PCRによって増幅され、かつ一つ以上のピロリ菌DNAセグメントの量および一つ以上のバクテロイデス属DNAセグメントの量が、定量的PCR反応中にプローブ配列を使用して検出される。さらなる実施形態では、定量的PCR反応は、単一の定量的PCR反応で試料中に存在する一つ以上のピロリ菌DNAセグメントの量および一つ以上のバクテロイデス属DNAセグメントの量を検出するために多重化される。
【0015】
上述または後述の実施形態の各々もしくはいずれかのうちの一部の実施形態では、本開示は、一つ以上のピロリ菌DNAセグメントを増幅する工程を含む、糞便試料中のピロリ菌のレベルを決定する方法を提供し、一つ以上のピロリ菌DNAセグメントは、進化的に保存される。
【0016】
上述または後述の実施形態の各々もしくはいずれかのうちの一部の実施形態では、本開示は、一つ以上のピロリ菌DNAセグメントを増幅する工程を含む、糞便試料中のピロリ菌のレベルを決定する方法を提供し、一つ以上のピロリ菌DNAセグメントは、ピロリ菌23S rRNA遺伝子、ピロリ菌16S rRNA遺伝子、およびピロリ菌ウレアーゼA遺伝子を含む。一部の実施形態では、本開示の方法は、ピロリ菌23S rRNA遺伝子、ピロリ菌16S rRNA遺伝子、またはピロリ菌ウレアーゼA遺伝子のうちの二つ以上を増幅する工程を含む。なおさらなる実施形態では、本開示の方法は、ピロリ菌23S rRNA遺伝子、ピロリ菌16S rRNA遺伝子、またはピロリ菌ウレアーゼA遺伝子の各々を増幅する工程を含む。
【0017】
上述または後述の実施形態の各々もしくはいずれかのうちの一部の実施形態では、本開示は、バクテロイデス属DNAセグメントのレベルを決定する方法を提供し、バクテロイデス属DNAセグメントは、バクテロイデス・フラジリス(Bacteroides fragilis)、バクテロイデス・メラニノゲニクス(Bacteroides melaninogenicus)、バクテロイデス・オラリス(Bacteroides oralis)、またはそれらの組み合わせからの一つ以上のDNAセグメントを含む。一部の実施形態では、本開示の方法は、年齢および状態に関わらずヒトに存在するバクテロイデス属種から一つ以上のバクテロイデス属DNAセグメントを検出する工程を含む。
【0018】
上述または後述の実施形態の各々もしくはいずれかのうちの一部の実施形態では、一つ以上のピロリ菌DNAセグメントおよび一つ以上のバクテロイデス属DNAセグメントを定量的PCRにより増幅する工程は、一つ以上のピロリ菌DNAセグメントを含むアンプリコンを産生するためのPCRプライマー対を選択することと、一つ以上のバクテロイデス属DNAセグメントを含むアンプリコンを産生するためのPCRプライマー対を選択することと、もう一つのPCRプライマー対によってアンプリコン生成に干渉する一つ以上のプライマーを含むPCRプライマー対を、別個のPCRプライマー対プールへと分離することとを含み、別個のPCRプライマー対プールの各々は、複数のPCRプライマー対を含有する。
【0019】
上述または後述の実施形態の各々もしくはいずれかのうちの一部の実施形態では、一つ以上のピロリ菌DNAセグメントをPCR反応において増幅する工程は、配列番号1、配列番号2、配列番号4、配列番号5、配列番号7、および配列番号8から選択されたPCRプライマー対のうちの一つまたは複数を使用することを含む。さらなる実施形態では、ピロリ菌DNAセグメントは、配列番号3、配列番号6、および配列番号9から選択されるプローブ配列のうちの一つまたは複数を含む定量的PCR反応で増幅される。
【0020】
上述または後述の実施形態の各々もしくはいずれかのうちの一部の実施形態では、一つ以上のバクテロイデス属DNAセグメントをPCR反応で増幅する工程は、[配列番号]から選択されるPCRプライマー対のうちの一つまたは複数を使用することを含む。さらなる実施形態では、バクテロイデス属DNAセグメントは、配列番号10、および配列番号11から選択されるプローブ配列のうちの一つまたは複数を含む定量的PCR反応で増幅される。
【0021】
上述または後述の実施形態の各々もしくはいずれかのうちの一部の実施形態では、糞便試料中のピロリ菌のレベルを決定する工程は、約0.5グラム~約1.0グラムの糞便物質を対象から取得することを含む。一部の実施形態では、DNAは、溶解緩衝液中で糞便試料をビーズ粉砕することによって糞便試料から抽出され、溶解緩衝液は、細菌細胞壁を破壊すること、タンパク質を消化すること、タンパク質を変性すること、脂肪を分散すること、多糖類を沈殿させること、またはこれらの組み合わせが可能な成分を含む。
【0022】
上述または後述の実施形態の各々もしくはいずれかのうちの一部の実施形態では、本開示は、均質化され溶解された糞便試料を、フィルターおよびシリカ膜を備えるフィルターカラムへと装填することであって、フィルターカラムが、閉鎖された底部とフィルターカラムを受容するための開放された上部とを有する収集バイアル内に収容される、装填する工程と、均質化され溶解された糞便試料の可溶性内容物を強制的にシリカ膜に通す工程と、シリカ膜からDNAを溶出する工程と、を含む、糞便試料からDNAを抽出する方法を提供する。
【0023】
上述または後述の実施形態の各々もしくはいずれかのうちの一部の実施形態では、本開示は、一つ以上のピロリ菌DNAセグメントを増幅するPCRプライマー対のうちの一つまたは複数と、一つ以上のバクテロイデス属DNAセグメントを増幅する対照PCRプライマー対のうちの一つまたは複数を含む、試料中のピロリ菌の存在を決定するための組成物を提供する。さらなる実施形態では、本開示の組成物は、一つ以上の保存されたピロリ菌DNAセグメントを増幅するPCRプライマー対を含む。
【0024】
上述または後述の実施形態の各々もしくはいずれかのうちの一部の実施形態では、本開示は、ピロリ菌23S rRNA遺伝子、ピロリ菌16S rRNA遺伝子、またはピロリ菌ウレアーゼA遺伝子を含む一つ以上のピロリ菌DNAセグメントを増幅するPCRプライマー対を含む組成物を提供する。実施形態では、本開示は、ピロリ菌23S rRNA遺伝子、ピロリ菌16S rRNA遺伝子、およびピロリ菌ウレアーゼA遺伝子の各々を増幅するPCRプライマー対を含む組成物を提供する。ある特定の実施形態では、本開示は、配列番号1、配列番号2、配列番号4、配列番号5、配列番号7、および配列番号8を含むPCRプライマー対を提供する。
【0025】
上述または後述の実施形態の各々もしくはいずれかのうちの一部の実施形態では、本開示は、一つ以上のバクテロイデス属DNAセグメントを増幅するPCRプライマー対を含む組成物を提供し、バクテロイデス属DNAセグメントは、年齢および状態に関わらずヒトに存在するバクテロイデス属種由来である。さらなる実施形態では、バクテロイデス属DNAセグメントは、バクテロイデス・フラジリス、バクテロイデス・メラニノゲニクス、バクテロイデス・オラリス、またはこれらの組み合わせに由来するDNAセグメントのうちの一つ以上に由来する。
【0026】
本開示はまた、一つ以上のピロリ菌DNAセグメントを増幅するPCRプライマー対のうちの一つまたは複数と、一つ以上のバクテロイデス属DNAセグメントを増幅する対照PCRプライマー対のうちの一つまたは複数と、を含む、試料中のピロリ菌の存在を決定するための組成物も提供し、PCRプライマー対および対照PCRプライマー対は、多重化されることができる。一部の実施形態では、PCRプライマー対および対照PCRプライマー対は、マルチプレックス定量的PCRが可能である。
【0027】
上述または後述の実施形態の各々もしくはいずれかのうちの一部の実施形態では、本開示は、PCR反応緩衝液、ジヌクレオチド三リン酸、および一つ以上のポリメラーゼ酵素をさらに含む。
【0028】
本開示はまた、一つ以上のピロリ菌DNAセグメントを増幅するPCRプライマー対のうちの一つまたは複数と、一つ以上のバクテロイデス属DNAセグメントを増幅するPCRプライマー対のうちの一つまたは複数とを含む、試料(例えば、糞便試料)中のピロリ菌の存在を検出するためのキットも提供する。さらなる実施形態では、本開示のキットは、一つ以上のピロリ菌DNAセグメントの増幅産物を用いてハイブリッド形成するプローブ配列のうちの一つまたは複数と、一つ以上のバクテロイデス属DNAセグメントの増幅産物を用いてハイブリッド形成するプローブ配列のうちの一つまたは複数と、を含む。なおさらなる実施形態では、本開示のキットは、溶解緩衝液中のビーズ粉砕懸濁液を含み、溶解緩衝液は、細菌細胞壁を破壊すること、タンパク質を消化すること、タンパク質を変性すること、脂肪を分散すること、多糖類を沈殿させること、またはこれらの組み合わせが可能な成分を含む。またさらなる実施形態では、本開示のキットは、シリカ精製試薬およびDNA結合緩衝液を含む。一部の実施形態では、本開示のキットは、フィルターおよびシリカ膜を備えるフィルターカラムであって、閉鎖された底部とフィルターカラムを受容するための開放された上部とを有する収集バイアル内に収容される、フィルターカラムと、洗浄緩衝液および溶出緩衝液と、をさらに備える。実施形態では、本開示のキットは、PCR反応緩衝液と、ジヌクレオチド三リン酸と、一つ以上のポリメラーゼ酵素と、を備える。
【0029】
本開示はまた、対象から糞便試料を取得する工程と、糞便試料からピロリ菌およびバクテロイデス属DNAを抽出する工程と、一つ以上のピロリ菌DNAセグメントおよび一つ以上のバクテロイデス属DNAセグメントを増幅する工程と、一つ以上のピロリ菌DNAセグメントの量および一つ以上のバクテロイデス属DNAセグメントの量を検出する工程と、糞便試料中のピロリ菌のレベルを決定するために、一つ以上のピロリ菌DNAセグメントの量を一つ以上のバクテロイデス属DNAセグメントの量と比較する工程と、ピロリ菌が閾値レベルで存在する場合にピロリ菌治療を施す工程と、を含む、対象におけるピロリ菌治療の方法も提供する。一部の実施形態では、本開示は、対象におけるピロリ菌治療の方法を提供し、治療は、約5コピー以上のピロリ菌DNAセグメントが、対象からの糞便試料中に検出され、かつ約50、約60、約70、約80、約90、約100、約110、約120、約130、約140、約150、またはそれ以上(好ましくは100)コピーの一つ以上のバクテロイデス属DNAセグメントが検出される場合に施される。
【0030】
本開示はまた、ピロリ菌治療を施した後に対象から糞便試料を取得する工程と、糞便試料からピロリ菌およびバクテロイデス属DNAを抽出する工程と、一つ以上のピロリ菌DNAセグメントおよび一つ以上のバクテロイデス属DNAセグメントを増幅する工程と、一つ以上のピロリ菌DNAセグメントの量および一つ以上のバクテロイデス属DNAセグメントの量を検出する工程と、糞便試料中のピロリ菌のレベルを決定するために、一つ以上のピロリ菌DNAセグメントの量を一つ以上のバクテロイデス属DNAセグメントの量と比較する工程と、を含む、対象におけるピロリ菌治療をモニターする方法も提供する。一部の実施形態では、本開示は、対象におけるピロリ菌治療をモニターする方法を提供し、糞便試料は、治療の少なくとも4週間後に収集される。一部の実施形態では、本開示は、対象におけるピロリ菌治療をモニターする方法を提供し、方法は、毎日、毎週、毎月、または毎年繰り返される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】PCR産物のアガロースゲル電気泳動分析であり、レーン1、DNA標準ラダー、レーン2、ヘリコバクター・フェネリエ(Helicobacter fennelliae)(DSM7491)、レーン3、ヘリコバクター・シネディ(Helicobacter cinaedi)(DSM5359)、レーン4、カンピロバクター・ジェジュニ亜種ジェジュニ(Campylobacter jejuni subsp jejuni)(DSM4688)、レーン5、ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)(DSM20016)、レーン6、豚レンサ球菌(Streptococcus suis)(DSM9682)、レーン7、ヘリコバクター・ピロリ(HP26695)、レーン8、テンプレートを有しない対照、レーン9、DNAラダーを含む。
図2】以下に示されたテンプレートコピー数を使用したPCR増幅産物の染色アガロースゲル電気泳動分析である:レーン1、DNA標準ラダー、レーン2、10,000コピー、レーン3、1,000コピー、レーン4、100コピー、レーン5、10コピー、レーン6、2コピー、レーン7、テンプレートを有しない対照。従来のPCRおよびアガロースゲル電気泳動では、2コピー以下のピロリ菌は検出されない。
図3】糞便DNA抽出のためのカラムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
詳細な説明
本開示は、例えば、対象からの糞便物質試料中のピロリ菌の閾値レベルを検出することを含む、糞便試料中のヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)を検出するための方法および材料に関する。実施形態では、本開示は、バクテロイデス属、すなわち、健常対象に偏在する腸内細菌の属のメンバーからDNAセグメントを検出することと、糞便試料中のピロリ菌のレベルを正確に決定するために、バクテロイデス属DNAセグメントのレベルを、マルチプレックス定量的PCR反応において内部対照として使用することと、にさらに関する。さらに、本開示は、糞便試料由来のピロリ菌DNAおよびバクテロイデス属DNAのマルチプレックス定量的PCRのためのPCRプライマー対を含む組成物およびキットに関する。それ故に、本開示の実施形態は、糞便試料中のピロリ菌DNAセグメントのわずか約2コピーの検出を驚くべきことに可能にする、方法、組成物、およびキットを提供する。
【0033】
一部の実施形態では、本開示の方法は、糞便試料中のピロリ菌の存在および相対量を決定することをさらに含む。例えば、本開示の方法は、糞便試料がピロリ菌陽性、ピロリ菌弱陽性、またはピロリ菌陰性であるかどうかを決定する。
【0034】
本開示の実施形態は、概して、対象から糞便試料を取得することと、糞便試料からピロリ菌およびバクテロイデス属DNAを抽出することと、一つ以上のピロリ菌DNAセグメントおよび一つ以上のバクテロイデス属DNAセグメントを増幅することと、一つ以上のピロリ菌DNAセグメントの量および一つ以上のバクテロイデス属DNAセグメントの量を検出することと、糞便試料中のピロリ菌のレベルを決定するために、一つ以上のピロリ菌DNAセグメントの量を一つ以上のバクテロイデス属DNAセグメントの量と比較することと、を伴う。一部の実施形態では、本開示は、リアルタイム増幅検出システムを使用して、ピロリ菌DNAおよびバクテロイデス属DNAセグメントを含むPCR増幅産物の形成をモニターし、そして試料中のDNAセグメントの量を定量化することをさらに含む。
【0035】
「含む」という用語が本説明および特許請求の範囲において使用される場合、他の要素または工程を排除しない。本発明の目的のために、「から成る」という用語は、用語「含む」の好ましい実施形態であると考えられる。本明細書の以降で、ある群が少なくとも特定の数の実施形態を含むように定義される場合、好ましくはこれらの実施形態のみから成る群を開示するものとしても理解されるべきである。
【0036】
数値が本開示の文脈で示される場合、当業者は、問題となる特徴の技術的効果が、精度の間隔内で保証されることを理解することになり、これは典型的に、±10%、好ましくは±5%と考慮される数値の逸脱を包含する。
【0037】
別段の示唆がない限り、本明細書および特許請求の範囲で使用される成分、分子量、反応条件などの数量を表すすべての数字は、すべての場合において、「約」という用語によって修飾されていると理解されるべきである。したがって、それに反する指示がない限り、本明細書および添付の特許請求の範囲に記載される数値パラメータは近似値であり、本開示により取得されることが求められる所望の特性に応じて変動しうる。少なくとも、特許請求の範囲の均等論の適用を制限する試みとしてではなく、各数値パラメータは、報告される有効桁の数に照らして、かつ通常の四捨五入法を適用することによって、少なくとも解釈されるべきである。
【0038】
本明細書に別段の示唆がない限り、または文脈によって明らかに矛盾しない限り、(特に添付の特許請求の範囲の文脈において)本開示を記述する文脈で使用される場合、「一つの(a)」、「一つの(an)」、「その(the)」および類似の指示対象は、単数形および複数形の両方を網羅するものとして解釈される。本明細書における数値範囲の列挙は、その範囲内に入る別個の各数値を個別に参照する簡易的な方法としての役割を果たすことを意図しているに過ぎない。本明細書に別段の示唆がない限り、個別の各数値は、本明細書に個別に列挙されたかのように本明細書に組み込まれる。本明細書に記載のすべての方法は、本明細書に別段の表示がない限り、または文脈によってそうでなければ明らかに矛盾するのでない限り、任意の好適な順序で実施することができる。本明細書でのあらゆる実施例または例示的な文言(例えば、「のような」)の使用は、単に本開示をより良く示すことを意図するものであり、特許請求の範囲での本開示の範囲を制限するものではない。本明細書中のいかなる文言も、本開示の実施に必須である特許請求の範囲以外の要素を示すものとして解釈されるべきではない。
【0039】
本明細書に開示される本開示の代替的要素または実施形態のグループ化は、制限するものとして解釈されるべきではない。各グループの構成要素は、個別に、またはグループの他の構成要素または本明細書に見られる他の要素と組み合わせて言及され、特許請求の範囲とすることができる。利便性および/または特許取得性を理由として、グループの一つ以上の構成要素をあるグループに含んでもよく、またはグループから削除してもよいことが予期される。このような包含または削除が発生した場合、明細書は、修正されたグループを含有するものと見なされ、したがって添付の特許請求の範囲で使用されるすべてのマーカッシュ群の記述を満たす。
【0040】
本開示のある特定の実施形態は、本開示の実施のために発明者に既知の最良のモードを含んで、本明細書に記述される。当然のことながら、これらの記載される実施形態の変形は、前述の説明を読むことに伴い当業者には明らかとなるであろう。発明者は、当業者が、こうした変形を必要に応じて採用することを予想し、また発明者は、本明細書に具体的に記載される以外の方法で本開示を実施することを意図している。したがって、本開示は、適用法により許容されるように、本明細書に添付の特許請求の範囲に列挙される主題のすべての改変および均等物を含む。さらに、本明細書に別段の表示がない限り、または文脈によって明らかに矛盾するのでない限り、そのすべての可能な変形における上述の要素の任意の組み合わせは、本開示によって包含される。
【0041】
本明細書に開示される本開示の実施形態は、本開示の原理の例示であることが理解されるべきである。採用されうる他の修正は、本開示の範囲内である。したがって、一例として、ただし限定されるものではないが、本開示の代替的な構成を本明細書の教示に従って利用することができる。したがって、本開示は、図示および記載される通り正確に限定されるものではない。
【0042】
用語のさらなる定義は、用語が使用される文脈において、以下に示される。以下の用語または定義は、本発明の理解を助けるためにのみ提供される。これらの定義は、当業者によって理解される範囲よりも小さい範囲を有すると解釈されるべきではない。
【0043】
本明細書で使用される場合、「試料」または「糞便試料」または「糞便試料」は、対象から採取された糞便の試料を意味する。試料は、直接試験されてもよく、または試料中に存在する核酸のすべてもしくは一部を試験前に単離してもよい。さらに別の例では、試料は、解析前に部分的に精製されるか、または別の方法で濃縮されてもよい。例えば、試料が、非常に多様な細胞集団を含む限りにおいて、特に関心のある亜集団を濃縮することが望ましい場合がある。それは、例えば、生ウイルスの不活化など試験前に処置される標的細胞集団または標的細胞集団から誘導される分子に対する本発明の範囲内である。また試料は、新しく採取されてもよく、または保存(例えば、凍結により)されてもよく、または試験前に他の方法で処理(例えば、培養により)されてもよいことが理解されるべきである。
【0044】
本明細書で使用される場合、ピロリ菌は、例えば、表1に列挙された株を含む、当技術分野で公知のピロリ菌株のいずれかを意味する。
【0045】
(表1)マルチプレックスリアルタイムPCR用のピロリ菌株
【0046】
本明細書で使用される場合、「DNAセグメント」は、遺伝子、非コード領域、イントロン、エクソン、またはこれらの任意の組み合わせなどのDNAの配列を含む。一部の事例では、DNAセグメントは増幅されてアンプリコンを生成する。DNAセグメントへの参照は、細菌ゲノムDNAなどのゲノムDNAの特定のセクションへの参照として理解されるべきである。これらのDNAセグメントは、遺伝子名または染色体座標のセットのいずれかを参照することによって特定される。遺伝子名および染色体座標の両方は、当業者に周知であり、当業者によって理解されることになる。
【0047】
本明細書で使用される場合、「閾値レベル」は、ピロリ菌DNAセグメントのレベル(例えば、コピー数)を意味し、そのレベルが満たされる時、または超える時、試料(例えば、糞便試料)がピロリ菌の存在に対して陽性であるという決定をもたらす。
【0048】
本明細書で使用される場合、「プローブ配列」は、一つ以上のタイプの化学結合を介して、通常は相補的塩基対を介して、通常は水素結合の形成を介して、相補配列の標的核酸に結合することができ、それによって二重層構造を形成する核酸である。プローブは、「プローブ結合部位」に結合またはハイブリッド形成する。プローブは、天然塩基(すなわち、A、G、C、またはT)または修飾塩基(7-デアザグアノシン、イノシン等)を含んでもよい。プローブは、一本鎖オリゴヌクレオチドであってもよい。オリゴヌクレオチドプローブは、天然のポリヌクレオチドから合成または産生されてもよい。さらに、プローブ中の塩基は、ハイブリッド形成に干渉しない限り、リン酸ジエステル結合以外の結合によって結合されてもよい。
【0049】
本明細書で使用される場合、「定量的PCR」もしくは「qPCR」または「定量的リアルタイムPCR」は、試料中のDNAセグメントの増幅をリアルタイムでモニタリングして試料中のDNAセグメントのレベルを決定する方法を指す。
【0050】
実施形態では、本開示の方法は、対象から糞便試料を取得する工程と、試料からDNAを抽出する工程を含む。任意の動物の糞便を、本明細書に開示される様々な実施形態で試験することができる。試料は、例えば、医療従事者がポイントオブケア施設において、または対象が自宅での採取キットを使用して、容易に利用可能な手段によって収集されうる。実施形態では、試料は、試験まで冷蔵保存される。実施形態では、糞便試料の調製は、当該技術分野で公知の任意の方法を使用して達成することができる。例えば、試料の可溶性部分は、濾過、遠心分離、または単純な混合とその後の重量沈降を使用して、収集することができる。
【0051】
糞便試料は、数多くのやり方で取得および調製することができる。例えば、一部の実施形態では、糞便試料は、糞便ホモジネートから調製された糞便上清を含む。一部の実施形態では、方法は、糞便試料を、細菌DNAを抽出する前にタンパク質および核酸を変性させる状態に曝露させることを含む。例えば、一部の実施形態は、核酸を変性させる条件が90°Cでの10分間の加熱を含むと規定している。
【0052】
一部の実施形態では、糞便試料を溶解して、そのDNA含有量を、ある量のTris-HCl緩衝液、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、NaCl、セチルトリメチルアンモニウム臭化物、ポリビニルピロリドン、およびプロテイナーゼで製剤化された緩衝液中に抽出する。一部の実施形態では、溶解された試料から抽出されたDNAは、ある量のTris-HCl、EDTA、およびチオシアン酸グアニジンを含む結合緩衝液中の親和性試薬(例えば、シリカ)に結合される。一部の実施形態では、DNAは、Tris-HCl、EDTA、およびエタノールを含む一つ以上の緩衝液で連続洗浄され、適切な溶出緩衝液を使用して親和性試薬から溶出される。
【0053】
細菌細胞からのDNAの単離には、いくつかの方法が存在する。これらの方法は、基本的に同じ基本手順を利用する。例示的な実施形態では、糞便試料中の細菌細胞は、酵素(すなわち、リゾチーム処理)、機械的(すなわち、ビーズ粉砕法)、または凍結融解サイクルの繰り返し、またはこれらの組み合わせによって溶解され、続いて、アルカリおよびドデシル硫酸ナトリウム(SDS)などの洗剤により細胞膜が溶解される(Maniatis et al., 1989; Tsai et al., Appl. Environ. Microbiol., 57:1070-1074,1991、Bej et al., Appl. Environ, Microbiol., 57:1013-1017, 1991)。次いで、細胞溶解物をプロテイナーゼおよびヘキサデシルトリメチルアンモニウム臭化物(CTAB)で処理して、それぞれタンパク質を分解し、炭水化物を沈殿させる。この処置で最もよく使用されるプロテイナーゼは、プロテイナーゼKである。
【0054】
他の細胞成分(脂質、炭水化物、タンパク質)からのDNAの抽出および物理的分離の後、当該技術分野で公知の方法に従ってDNAが単離または精製される。特定の実施形態では、DNAはシリカ系の方法によって単離され、DNAは、シリカビーズのシリカ膜などのシリカ基質に結合され、洗浄され、次いで単離または精製された形態で溶出される。代替的な実施形態では、DNAは、フェノール/クロロホルム抽出により単離される。
【0055】
一部の実施形態では、本開示は、大量の糞便からDNAを抽出して、低コピー数で存在する細菌種の検出を可能にする方法を提供する。例えば、約0.5g~約1.0gの糞便からDNAを単離し、約2~約5コピー数で試料中に存在するピロリ菌のレベルを検出するための方法が提供される。その他の実施形態では、DNAは、約0.01g~約0.1g、約0.1g~約0.5g、約1.0g~約2gの糞便から単離される。一部の実施形態では、本開示は、試料中に存在するピロリ菌のレベルを、約2コピー、または約10コピー、約15コピー、約20コピー、または20コピー以上で検出するための方法を提供する。一部の実施形態では、本開示は、糞便試料中に存在する総DNAを抽出する方法を提供する。
【0056】
ある特定の実施形態では、本開示は、均質化され溶解された糞便試料を、フィルターおよびシリカ膜を備えるフィルターカラムへと装填することであって、フィルターカラムが、閉鎖された底部とフィルターカラムを受容するための開放された上部とを有する収集バイアル内に収容される、装填することと、均質化され溶解された糞便試料の可溶性内容物を強制的にシリカ膜に通すことと、シリカ膜からDNAを溶出することと、を含む、糞便試料からDNAを抽出する方法をさらに提供する。
【0057】
一部の実施形態では、本開示は、定量的PCRによって一つ以上のピロリ菌DNAセグメントおよび一つ以上のバクテロイデス属DNAセグメントを増幅することと、一つ以上のピロリ菌DNAセグメントの量および一つ以上のバクテロイデス属DNAセグメントの量を検出することと、糞便試料中のピロリ菌のレベルを決定するために、一つ以上のピロリ菌DNAセグメントの量を一つ以上のバクテロイデス属DNAセグメントの量と比較することと、を含む、糞便試料中に存在するピロリ菌の量を検出するための方法を提供する。実施形態では、DNAセグメントを増幅することは、定量的PCRを含み、DNAセグメントを増幅することはリアルタイムでモニターされる。
【0058】
増幅産物の形成がモニターされるそれらの方法については、増幅産物を、様々なリアルタイム増幅方法のうちのいずれかを使用してモニターすることができる。例えば、ある特定の方法は、増幅産物に結合する標識を使用して増幅産物の形成を直接モニターして、検出可能なシグナルを作り出す複合体を形成することを伴う。別の方法として、増幅産物の形成は、増幅産物に対して相補的なプローブを使用してモニターすることができる。増幅プロセスの延長段階中に、プローブの改変は、増幅産物の形成と相関する検出可能なシグナルを生成する。「TaqMan」アッセイ(Thermo Fisher)などの蛍光ヌクレアーゼアッセイは、このタイプのアプローチを例示し、増幅産物形成をモニターするためにプローブが使用される。
【0059】
一部の実施形態では、本方法は、ピロリ菌23SrRNA遺伝子、ピロリ菌16S rRNA遺伝子、またはピロリ菌ウレアーゼA遺伝子を増幅することを含む。ある特定の実施形態では、23S rRNA遺伝子、16S rRNA遺伝子、およびウレアーゼA遺伝子の各々が増幅される。したがって、本開示は、マルチプレックス定量的増幅のための方法を提供し、複数のDNAセグメントは、同時に増幅およびモニターされる。マルチプレックス定量的PCRの方法は当該技術分野で公知であり、また複数のフルオロフォア(例えば、FAM、VIC、Cy3)の使用を含む。
【0060】
一部の実施形態では、特定のDNAセグメントを標的とするPCRプライマーの各対は、異なるDNAセグメントを標的とする一つ以上の固有のプライマー対を含有する別個のPCRプライマー対プールへと分離される。それ故に、各プールのPCR増幅は、各プール内の複数のDNAセグメントに特異的なアンプリコンを産生し、かつオーバーラッピングアンプリコン配列内の相同的対形成によって引き起こされるプライマー二量体またはクロスペアアンプリコントランケーションなどの、PCR増幅アーチファクトの可能性を最小化する。
【0061】
一部の実施形態では、本開示は、ヒトに感染することが知られているピロリ菌株(例えば、ヒトに感染することが知られている二つ以上の株)用の一つ以上のピロリ菌DNAセグメントを含むアンプリコンを産生するのに好適なPCRプライマー対を特定することを含む、ピロリ菌DNAの一つ以上の領域を含むアンプリコンの産生に好適なPCRプライマー対を特定することを含む。ある特定の実施形態では、本開示は、表2に提供されるピロリ菌DNAセグメントを増幅するためのPCRプライマー対を提供する。それ故に、実施形態では、本開示は、配列番号1および配列番号2を含むプライマー対を使用して23S rRNAを含むピロリ菌DNAセグメントを増幅する方法を提供する。それ故に、他の実施形態では、本開示は、配列番号4および配列番号5を含むプライマー対を使用して16S rRNAを含むピロリ菌DNAセグメントを増幅する方法を提供する。さらに他の実施形態では、本開示は、配列番号7および配列番号8を含むプライマー対を使用してウレアーゼA遺伝子を含むピロリ菌DNAセグメントを増幅する方法を提供する。
【0062】
(表1)
【0063】
さらなる実施形態では、本開示は、対象の年齢または状態に関わらず偏在する糞便試料(バクテロイデス属またはホモ・サピエンス(Homo sapiens)などの同じ種からの対象の、例えば、50%、60%、70%、80%、90%、またはそれ以上を含む大多数からの糞便試料)中の対照DNAセグメントを増幅することを含む、糞便試料中のピロリ菌の量を検出する方法を提供する。一部の実施形態では、細菌性バクテロイデス属からの対照DNAセグメントが増幅される。ある特定の実施形態では、一つ以上のバクテロイデス属DNAセグメントは、一つ以上のピロリ菌DNAセグメントとのマルチプレックス定量的PCR反応で増幅される。それ故に、本開示は、バクテロイデス属DNAのアンプリコンの産生に好適なPCRプライマー対を特定することと、年齢および状態に関わらず対象の糞便試料中に存在する複数のバクテロイデス属種の一つ以上の領域を含むアンプリコンの産生に好適なPCRプライマー対を特定することと、をさらに含む。ある特定の実施形態では、一つ以上のバクテロイデス属DNAセグメントは、バクテロイデス・フラジリス、バクテロイデス・メラニノゲニクス、バクテロイデス・オラリス、またはこれらの組み合わせから増幅される。特定の実施形態では、バクテロイデス属DNAセグメントは、配列番号10および配列番号11を含むPCRプライマー対を使用して増幅される。
【0064】
上述または後述の実施形態の各々またはいずれかのさらなる実施形態では、本開示は、一つ以上のピロリ菌DNAセグメントおよび一つ以上のバクテロイデス属DNAセグメントのレベルを検出するための、マルチプレックス定量的PCR反応で使用するための一つ以上のプローブを提供する。特定の実施形態では、本開示は、配列番号3を含むピロリ菌23s rRNA DNAセグメントの増幅をモニターするためのプローブ、配列番号6を含むピロリ菌16s rRNA DNAセグメントの増幅をモニターするためのプローブ、配列番号9を含むウレアーゼA DNAセグメントの増幅をモニターするためのプローブ、および配列番号12を含むバクテロイデス属DNAセグメントの増幅をモニターするためのプローブを提供する。
【0065】
実施形態では、本開示は、試料中に存在する他の細菌種を増幅することなく、定量的PCR反応においてピロリ菌DNAセグメントを増幅するPCRプライマー対を提供する。このように、本開示の方法は、腸に常在する種であるヘリコバクター・フェネリエ、ヘリコバクター・シネディ、ラクトバチルス・ロイテリ、豚レンサ球菌、カンピロバクター・ジェジュニを含む非特異的細菌DNAを検出または交差増幅しない。例示的な実施形態では、表2は、23S rRNA遺伝子を含むピロリ菌DNAセグメントを特異的に増幅するが、腸内および糞便中に存在する一般的な細菌の宿主を増幅しないPCRプライマー対を示す(表3)。
【0066】
(表3)
【0067】
実施形態では、本開示は、定量的PCRを含む方法を提供し、試料中に存在するピロリ菌DNAセグメントのコピー数と、バクテロイデス属DNAセグメントのコピー数は、サイクル閾値(Ct)から外挿される。コピー数は、試料から得られたピロリ菌ゲノムのコピーの数である。定量的PCRでは、蛍光シグナルの累積によって陽性反応が検出される。Ctは、蛍光シグナルが閾値と交差し、バックグラウンドレベルを超えるために必要とされるサイクルの数である。
【0068】
実施形態では、Ct値は、PCR反応で増幅されたDNAセグメントのコピー数の測定として使用されてもよい。例えば、本開示は、既知のピロリ菌コピー数を有する試料からの参照値を提供し、そして定義されたシグナル閾値が、分析されるすべての反応について決定される。本開示の参照コピー数およびCt値を、表4に提示する。
【0069】
(表4)
【0070】
したがって、本開示の実施形態に従って糞便試料が調製され、定量的PCR反応が実施され、そしてシグナル閾値に到達するために必要とされるサイクルの数(Ct)が試料に対して決定される。次いで、試料中に存在するピロリ菌の量が、表4の基準を参照することによって決定される。
【0071】
さらなる実施形態では、本開示は、ピロリ菌が試料中に存在するかどうかを決定し、そして存在する場合には、試料中に存在するピロリ菌の相対量を決定するための方法を提供する。それ故に、本開示は、驚くべきことに、糞便試料をピロリ菌陽性、ピロリ菌弱陽性、またはピロリ菌陰性として分類するための閾値量を提供する。実施形態では、本方法は、糞便試料から得られ、かつ抽出された総細菌DNAを制御するバクテロイデス属DNAの内部対照レベルを測定することをさらに提供する。したがって、一部の実施形態では、本開示は、約5コピー以上の閾値レベルのピロリ菌遺伝子セグメントが検出された場合、糞便試料がピロリ菌陽性であるかを決定し、約2~約5コピーの閾値レベルのピロリ菌遺伝子セグメントが検出された場合、弱陽性であるかを決定し、または約2コピー未満の閾値レベルのピロリ菌遺伝子セグメントが検出された場合、ピロリ菌陰性であるかを決定する方法を提供する。各事例では、約50、約60、約70、約80、約90、約100、約110、約120、約130、約140、約150、またはそれ以上の(好ましくは100)コピーの内部対照レベルの一つ以上のバクテロイデス属DNAセグメントが、ピロリ菌の結果の内部検証を提供する。
【0072】
一部の実施形態では、23S rRNA DNAセグメントに対して約34以下のCtが検出され、糞便試料(例えば、25mgの糞便試料)中に約5コピー超のピロリ菌が存在し、そして内部バクテロイデス属対照中に約10~約30のCtが検出され、試料がピロリ菌陽性としてスコア化されることを示す。
【0073】
他の実施形態では、23S rRNA DNAセグメントに対して約35~37のCtが検出され、糞便試料(例えば、25mgの糞便試料)中に約2~5コピーのピロリ菌が存在し、そして内部バクテロイデス属対照中に約10~約30のCtが検出され、試料がピロリ菌弱陽性としてスコア化されることを示す。
【0074】
さらに他の実施形態では、定量的PCR反応において23S rRNA DNAセグメントに対して約37超のCtが検出され、糞便試料(例えば、25mgの糞便試料)中に約2コピー未満ピロリ菌が存在し、そして内部バクテロイデス属対照中に約10~約30のCtが検出され、試料がピロリ菌陰性としてスコア化されることを示す。
【0075】
一部の実施形態では、内部バクテロイデス属対照において約10未満または約30超のCtが検出される場合、試料は、報告不能として分類され、そして任意に別の試料が得られ、かつ本明細書の方法は、約10~約30のCtがバクテロイデス属対照に対して検出されるまで繰り返される。
【0076】
本開示の方法はさらに、方法の忠実性を増加させるため、単一のマルチプレックスPCR反応において複数のピロリ菌DNAセグメントを検出することをさらに提供し、各事例においてバクテロイデス属の内部対照をさらに含む。特定の実施形態では、本方法は、ピロリ菌23SrRNA遺伝子、16SrRNA遺伝子、およびウレアーゼA遺伝子のうちの二つ以上を検出することを含み、さらなる実施形態では、前述の遺伝子のうちの三つすべてが、単一の定量的PCR反応(例えば、マルチプレックスPCR反応)において検出される。
【0077】
さらなる実施形態では、本開示は、一つ以上のピロリ菌DNAセグメントを増幅するPCRプライマー対のうちの一つまたは複数と、一つ以上のバクテロイデス属DNAセグメントを増幅する対照PCRプライマー対のうちの一つまたは複数を含む、試料中のピロリ菌の存在を決定するための組成物を提供する。さらなる実施形態では、本開示の組成物は、一つ以上の保存されたピロリ菌DNAセグメントを増幅するPCRプライマー対を含む。実施形態では、本開示の組成物は、ピロリ菌23S rRNA遺伝子、ピロリ菌16S rRNA遺伝子、またはピロリ菌ウレアーゼA遺伝子を含む一つ以上のピロリ菌DNAセグメントを増幅するPCRプライマー対を提供する。特定の実施形態では、本開示は、配列番号1および配列番号2を含むピロリ菌23S rRNA遺伝子を増幅するためのPCRプライマー対、配列番号4および配列番号5を含むピロリ菌16S rRNA遺伝子を増幅するためのPCRプライマー対、または配列番号7および配列番号8を含むピロリ菌ウレアーゼA遺伝子を増幅するためのPCRプライマー対を提供する。
【0078】
一部の実施形態では、本開示は、試料中のピロリ菌の存在を検出するためのキットを提供する。非限定的な実施例では、プライマー、増幅のための酵素、および追加の剤がキットに含まれてもよい。それ故に、キットは、好適な容器手段内にこれらの試薬のうちの一つ以上を含むことになる。キットはまた、糞便試料の収集、DNAの抽出および単離、増幅産物の精製、標識等のための剤も含んでもよい。
【0079】
キットの構成要素は、水性媒体または凍結乾燥形態のいずれかで包装されてもよい。キットの好適な容器手段は、一般的に少なくとも一つのバイアル、試験管、フラスコ、ボトル、シリンジ、または他の容器手段を含み、その中に構成要素を定置してもよく、また好ましくは、好適に等分されてもよい。キット内に二つ以上の構成要素がある場合、キットは一般的に、追加の構成要素が別個に定置されてもよい、第二の、第三の、または他の追加の容器も収容することになる。しかしながら、構成要素の様々な組み合わせは、バイアル内に含まれてもよい。本発明のキットはまた、典型的に、市販用に厳重に密封して試薬容器を収容するための手段も含むことになる。こうした容器は、射出成型または吹込成形されたプラスチック容器を含んでもよく、所望のバイアルがこの中へと保持される。
【0080】
ある特定の実施形態では、本開示のキットは、一つ以上のピロリ菌DNAセグメントを増幅するPCRプライマー対のうちの一つまたは複数と、一つ以上のバクテロイデス属DNAセグメントを増幅するPCRプライマー対のうちの一つまたは複数と、を含む。実施形態では、キットは、配列番号1、配列番号2、配列番号4、配列番号5、配列番号7、および配列番号8、配列番号10、および配列番号11から選択されたPCRプライマー対を含む。
【0081】
さらなる実施形態では、本開示のキットは、一つ以上のピロリ菌DNAセグメントの増幅産物を用いてハイブリッド形成するプローブ配列のうちの一つまたは複数と、一つ以上のバクテロイデス属DNAセグメントの増幅産物を用いてハイブリッド形成するプローブ配列のうちの一つまたは複数と、を含む。実施形態では、キットは、配列番号3、配列番号6、配列番号9、および配列番号12から選択されたプローブ配列を含む。
【0082】
なおさらなる実施形態では、本開示のキットは、溶解緩衝液中のビーズ粉砕懸濁液を含み、溶解緩衝液は、細菌細胞壁を破壊すること、タンパク質を消化すること、タンパク質を変性すること、脂肪を分散すること、多糖類を沈殿させること、またはこれらの組み合わせが可能な成分を含む。
【0083】
またさらなる実施形態では、本開示のキットは、シリカ精製試薬およびDNA結合緩衝液を含む。一部の実施形態では、シリカ精製試薬は、シリカ膜またはシリカビーズを含む。
【0084】
一部の実施形態では、本開示のキットは、フィルターおよびシリカ膜を備えるフィルターカラムであって、閉鎖された底部とフィルターカラムを受容するための開放された上部とを有する収集バイアル内に収容される、フィルターカラムと、洗浄緩衝液および溶出緩衝液と、をさらに備える。実施形態では、本開示のキットは、PCR反応緩衝液、ジヌクレオチド三リン酸、および一つ以上のポリメラーゼ酵素を含む。
【0085】
本開示はまた、対象から糞便試料を取得する工程と、糞便試料からピロリ菌およびバクテロイデス属DNAを抽出する工程と、一つ以上のピロリ菌DNAセグメントおよび一つ以上のバクテロイデス属DNAセグメントを増幅する工程と、一つ以上のピロリ菌DNAセグメントの量および一つ以上のバクテロイデス属DNAセグメントの量を検出する工程と、糞便試料中のピロリ菌のレベルを決定するために、一つ以上のピロリ菌DNAセグメントの量を一つ以上のバクテロイデス属DNAセグメントの量と比較する工程と、ピロリ菌が閾値レベルで存在する場合にピロリ菌治療を施す工程と、を含む、対象におけるピロリ菌治療の方法も提供する。一部の実施形態では、本開示は、対象におけるピロリ菌治療の方法を提供し、治療は、約5コピー以上のピロリ菌DNAセグメントが、対象からの糞便試料中に検出された場合に施される。
【0086】
本明細書で使用される場合、疾患、障害または状態の「治療」は、少なくとも部分的に、(1)疾患、障害または状態を予防すること、すなわち、疾患、障害または状態の臨床症候が、疾患、障害または状態に曝露されたか罹患しやすいが、疾患、障害または状態を未だ経験していない哺乳動物において発生しないようにすること、(2)疾患、障害または状態を阻害すること、すなわち、疾患、障害または状態、またはその臨床症状の発症を停止させるか減少させること、または(3)疾患、障害または状態を軽減すること、すなわち、疾患、障害または状態または臨床症状の退行を引き起こすことを含む。
【0087】
上述または後述の実施形態の各々もしくはいずれかのうちの一部の実施形態では、ピロリ菌治療を施した後に対象から糞便試料を取得する工程と、糞便試料からピロリ菌およびバクテロイデス属DNAを抽出する工程と、一つ以上のピロリ菌DNAセグメントおよび一つ以上のバクテロイデス属DNAセグメントを増幅する工程と、一つ以上のピロリ菌DNAセグメントの量および一つ以上のバクテロイデス属DNAセグメントの量を検出する工程と、糞便試料中のピロリ菌のレベルを決定するために、一つ以上のピロリ菌DNAセグメントの量を一つ以上のバクテロイデス属DNAセグメントの量と比較する工程と、を含む、対象におけるピロリ菌治療をモニターする方法も提供する。一部の実施形態では、本開示は、対象におけるピロリ菌治療をモニターする方法を提供し、糞便試料は、治療の少なくとも4週間後に収集される。一部の実施形態では、本開示は、対象におけるピロリ菌治療をモニターする方法を提供し、方法は、毎日、毎週、毎月、または毎年繰り返される。
【0088】
本開示は、本発明の理解を助けるために記載されている以下の実施例で例示されるが、添付の特許請求の範囲で定義される本開示の範囲をいかなるやり方でも限定するものと解釈されるべきではない。
【実施例
【0089】
実施例1:qPCR方法の特異性および感受性
図1は、ピロリ菌DNAセグメントを増幅および検出するための本開示の方法の特異性を示す。ピロリ菌と密接に関連する種由来の細菌ゲノムDNAをDSMZから購入した(ヘリコバクター・フェネリエ、ヘリコバクター・シネディ、カンピロバクター・ジェジュニ、ラクトバチルス・ロイテリ、豚レンサ球菌)。ピロリ菌株26695ゲノムDNAをATCCから購入した。細菌ゲノムDNAを、ピロリ菌の23S rRNA遺伝子を増幅するプライマーを使用するPCR反応のテンプレートとして使用した。PCR産物を2%アガロースゲル電気泳動を介して分析した。ピロリ菌ゲノムDNAは効率的に増幅されたが、一方でその他の種はシグナルを示さなかった(図1)。
【0090】
図2および表4は、それぞれPCRおよびqPCR実験における本開示のプライマーを使用したピロリ菌DNA検出の感受性を示す。一連の希釈を実施して、10,000コピー、1,000コピー、100コピー、10コピー、および2コピーでピロリ菌26695ゲノムDNAを調製した。一連の希釈ゲノムDNAを、ピロリ菌26695の23S rRNA遺伝子を増幅する従来のPCRおよび定量的PCRでそれぞれ使用した。従来のPCRについては、PCR増幅の産物をアガロースゲル電気泳動で分析した。従来のPCRおよびアガロースゲル分析は、10コピー以上のピロリ菌DNAの検出限界を示し、一方でリアルタイムPCRは、2コピーのピロリ菌DNAを検出することができる。
【0091】
実施例2:本開示の糞便qPCR方法の精度
表5は、一致した138個の試料における、三つの従来の検査、二つの便抗原検査、および胃生検におけるリアルタイムPCRと比較した、本開示の糞便検出方法の比較検査データを示す。従来の検査の間で一致している結果は、真陽性または真陰性として指定された。番号70は、三つの検査とは不一致の唯一の試料である。糞便検査qPCR検査は陽性であるが、一方で三つの従来の検査は陰性を示す。
【0092】
(表5)
【0093】
表6は、本開示の糞便検査を、三つの従来の検査と比較することによる、138個の一致した試料についての統計解析を示し、感度、特異性、陽性予測値、陰性予測値、および精度は、それぞれ100%、98.97%、97.67%、100%、および99.28%であった。
【0094】
(表6)
【0095】
実施例32:糞便検査PCR増幅効率およびピロリ菌コピー数検出限界
表7は、ピロリ菌コピー数検出の限界に対するマルチプレックス定量的PCR効率およびカットオフを示す。PCR効率: 23S rRNA標的(102%)、内部対照(109%)。100%のPCR効率は、PCRの各サイクルにおけるコピー数の正確な倍加を示す。約80%~約110%のPCR効率が許容可能と考えられる。ピロリ菌検出限界に対するカットオフのCt値は37であり、25mgの糞便中、2コピーのピロリ菌に変換される。
【0096】
(表7)
【0097】
本開示の広範な範囲を記載する数値範囲およびパラメータが近似値であるにも関わらず、特定の実施例に記載される数値は、可能な限り正確に報告される。しかしながら、任意の数値は、本質的に、それらのそれぞれの検査測定値に見られる標準偏差から必然的にもたらされたある特定の誤差を含有する。
【0098】
本開示は、様々な特定の物質、手順、および実施例を参照することによって本明細書に説明および図示されているが、本開示は、その目的のために選択される物質および手順の特定の組み合わせに限定されないことが理解される。こうした詳細の多数の変形は、当業者によって理解されるように暗示されうる。本明細書および実施例は、添付の特許請求の範囲によって示される本開示の真の範囲および精神とともに、例示としてのみ考慮されることが意図される。本出願において言及されるすべての参考文献、特許、および特許出願は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
図1
図2
図3
【配列表】
2022533456000001.app
【国際調査報告】