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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-25
(54)【発明の名称】双性イオン荷電共重合体膜
(51)【国際特許分類】
   C08F 220/10 20060101AFI20220715BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20220715BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20220715BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20220715BHJP
   B01D 71/40 20060101ALI20220715BHJP
   B01D 71/44 20060101ALI20220715BHJP
   B01D 71/28 20060101ALI20220715BHJP
   B01D 71/42 20060101ALI20220715BHJP
   B01D 71/82 20060101ALI20220715BHJP
   B01D 69/02 20060101ALI20220715BHJP
【FI】
C08F220/10
B01D69/12
B01D69/10
B01D69/00
B01D71/40
B01D71/44
B01D71/28
B01D71/42
B01D71/82 500
B01D69/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021566176
(86)(22)【出願日】2020-05-08
(85)【翻訳文提出日】2021-11-17
(86)【国際出願番号】 US2020032068
(87)【国際公開番号】W WO2020231797
(87)【国際公開日】2020-11-19
(31)【優先権主張番号】62/846,014
(32)【優先日】2019-05-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】319009901
【氏名又は名称】トラスティーズ オブ タフツ カレッジ
(74)【代理人】
【識別番号】100139723
【弁理士】
【氏名又は名称】樋口 洋
(72)【発明者】
【氏名】アレクシーウ,アイシェ アサテキン
(72)【発明者】
【氏名】ローンダー,サミュエル ジョン
【テーマコード(参考)】
4D006
4J100
【Fターム(参考)】
4D006GA03
4D006GA06
4D006MA03
4D006MA07
4D006MA09
4D006MA15
4D006MA22
4D006MA31
4D006MB02
4D006MB11
4D006MB19
4D006MC24
4D006MC36X
4D006MC37X
4D006MC63
4D006MC74X
4D006MC75X
4D006MC78X
4D006MC79X
4D006NA05
4D006NA46
4D006PA01
4D006PB59
4J100AJ02R
4J100AL08P
4J100AL08Q
4J100BA32Q
4J100BA56Q
4J100BB17P
4J100CA05
4J100DA01
4J100JA15
(57)【要約】
3種類の単量体単位:疎水性単量体単位、双性イオン性単量体単位、及び荷電またはイオン化可能単量体単位を含む直鎖状/ランダム/統計共重合体を開示する。また、その分離選択層が本明細書に開示される共重合体からなる複合薄膜、及びその使用方法も提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の双性イオン性単量体単位、複数の荷電/イオン化可能単量体単位、及び複数の疎水性単量体単位を含む共重合体。
【請求項2】
前記共重合体の分子量が20,000g/mol~1,000,000g/molである、請求項1に記載の共重合体。
【請求項3】
前記共重合体の分子量が40,000g/mol~1,000,000g/molである、請求項1に記載の共重合体。
【請求項4】
前記共重合体の分子量が100,000g/mol~1,000,000g/molである、請求項1に記載の共重合体。
【請求項5】
前記双性イオン性単量体単位が、前記共重合体の1~40重量%を構成する、請求項1~4のいずれか一項に記載の共重合体。
【請求項6】
前記荷電/イオン化可能単量体単位が、前記共重合体の1~40重量%を構成する、請求項1~5のいずれか一項に記載の共重合体。
【請求項7】
前記疎水性単量体単位が、前記共重合体の30~80重量%を構成する、請求項1~6のいずれか一項に記載の共重合体。
【請求項8】
前記双性イオン性単量体単位のそれぞれが、スルホベタイン、カルボキシベタイン、またはホスホリルコリン部分を含む単量体から形成される、請求項1~7のいずれか一項に記載の共重合体。
【請求項9】
前記双性イオン性単量体単位のそれぞれが、スルホベタインメタクリレート(SBMA)、メタクリルオキシホスホリルコリン(MPC)、カルボキシベタインメタクリレート(CBMA)、スルホベタイン-2-ビニルピリジン、スルホベタイン-4-ビニルピリジン、及びスルホベタイン-ビニルイミダゾールからなる群から選択される単量体から形成される、請求項1~7のいずれか一項に記載の共重合体。
【請求項10】
前記双性イオン性単量体単位のそれぞれが、スルホベタインメタクリレート(SBMA)から形成される、請求項1~7のいずれか一項に記載の共重合体。
【請求項11】
前記荷電/イオン化可能単量体単位のそれぞれが、メタクリレート、アクリレート、アクリルアミド、またはカルボン酸、スルホン酸、リン酸、もしくはアミン部分を含むスチレン誘導体からなる群から選択される単量体から形成される、請求項1~10のいずれか一項に記載の共重合体。
【請求項12】
前記荷電/イオン化可能単量体単位のそれぞれが、メタクリル酸(MAA)、アクリル酸、2-カルボキシエチルアクリレート、2-カルボキシエチルメタクリレート、スチレンスルホネート、3-スルホプロピルアクリレート、3-スルホプロピルメタクリレート、2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸、2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、2-(ジエチルアミノ)エチルメタクリレート、2-アミノエチルメタクリレート、[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリド、[2-(アクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリド、2-(ジエチルアミノ)エチルアクリレート、2-(ジメチルアミノ)エチルアクリレート、3-(ジメチルアミノ)プロピルアクリレート、N-アクリロイル-L-バリン、(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド、N-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]メタクリルアミド、2-イソプロペニルアニリン、4-[N-(メチルアミノエチル)アミノメチル]スチレン、及び(ビニルベンジル)トリメチルアンモニウムクロリドからなる群から選択される単量体から形成される、請求項1~10のいずれか一項に記載の共重合体。
【請求項13】
前記荷電/イオン化可能単量体単位のそれぞれが、メタクリル酸(MAA)から形成される、請求項1~10のいずれか一項に記載の共重合体。
【請求項14】
前記疎水性単量体単位のそれぞれが、スチレン、メタクリル酸メチル、アクリロニトリル、フルオロアルキルアクリレート、フルオロアリールアクリレート、フルオロアルキルメタクリレート、フルオロアリールメタクリレート、フルオロアルキルアクリルアミド、及びフルオロアリールアクリルアミドからなる群から選択される単量体から形成される、請求項1~13のいずれか一項に記載の共重合体。
【請求項15】
前記疎水性単量体単位のそれぞれが、2,2-トリフルオロエチルメタクリレート(TFEMA)、ペンタフルオロプロピルメタクリレート、ヘプタフルオロブチルメタクリレート、及びペンタフルオロフェニルメタクリレートからなる群から選択される単量体から形成される、請求項1~13のいずれか一項に記載の共重合体。
【請求項16】
前記疎水性単量体単位のそれぞれが、2,2-トリフルオロエチルメタクリレート(TFEMA)から形成される、請求項1~13のいずれか一項に記載の共重合体。
【請求項17】
前記疎水性単量体単位が、その形成されるホモ重合体が室温を上回るガラス転移温度を有することを特徴とする、請求項1~16のいずれか一項に記載の共重合体。
【請求項18】
前記共重合体が直鎖状共重合体であるか;前記共重合体が統計共重合体であるか;前記共重合体がランダム共重合体であるか;または前記共重合体が、直鎖状、統計、ランダム共重合体である、請求項1~17のいずれか一項に記載の共重合体。
【請求項19】
前記共重合体が、ポリ((スルホベタインメタクリレート)-ランダム-(メタクリル酸)-ランダム-(2,2-トリフルオロエチルメタクリレート))である、請求項1~18のいずれか一項に記載の共重合体。
【請求項20】
請求項1~19のいずれか一項に記載の共重合体を含む重合体材料。
【請求項21】
前記重合体材料が、薄膜の形態である、請求項20に記載の重合体材料。
【請求項22】
多孔質支持体、及び請求項21に記載の重合体材料の薄膜を含む複合薄膜であって;前記多孔質支持体の細孔サイズが、前記重合体材料の前記薄膜の細孔サイズよりも大きい、前記複合薄膜。
【請求項23】
前記重合体材料の前記薄膜が、1nm~10μmの厚さを有する、請求項22に記載の複合薄膜。
【請求項24】
前記重合体材料の前記薄膜が、1nm~3μmの厚さを有する、請求項22に記載の複合薄膜。
【請求項25】
前記重合体材料の前記薄膜が、1nm~1μmの厚さを有する、請求項22に記載の複合薄膜。
【請求項26】
前記重合体材料の前記薄膜が、0.1nm~5nmの有効孔径を有する、請求項22~25のいずれか一項に記載の複合薄膜。
【請求項27】
前記重合体材料の前記薄膜が、0.6nm~3nmの有効孔径を有する、請求項22~25のいずれか一項に記載の複合薄膜。
【請求項28】
前記重合体材料の前記薄膜が、0.6nm~2nmの有効孔径を有する、請求項22~25のいずれか一項に記載の複合薄膜。
【請求項29】
前記複合薄膜が、油エマルジョンによる汚損に対する耐性を示す、請求項22~28のいずれか一項に記載の複合薄膜。
【請求項30】
前記複合薄膜が、塩素系漂白剤(例えば、pH4)への曝露時に安定である、請求項22~29のいずれか一項に記載の複合薄膜。
【請求項31】
前記複合薄膜が、高pHの緩衝液に曝露されると、細孔サイズに1回限りの不可逆的な変化を受ける、請求項22~30のいずれか一項に記載の複合薄膜。
【請求項32】
前記複合薄膜が、非荷電有機分子間でサイズに基づいた選択性を示す、請求項22~31のいずれか一項に記載の複合薄膜。
【請求項33】
前記複合薄膜が、荷電した溶質及び塩を除去する、請求項22~32のいずれか一項に記載の複合薄膜。
【請求項34】
異なるサイズの複数の非荷電有機分子を含む溶液を、請求項22~33のいずれか一項に記載の複合薄膜と接触させることを含む、サイズに基づいた選択方法または除去方法。
【請求項35】
複数の塩を含む溶液を、請求項22~33のいずれか一項に記載の複合薄膜と接触させることを含む、電荷に基づいた選択方法または除去方法。

【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2019年5月10日に出願された米国仮出願第62/846,014号の利益を主張し、その内容は、その全体が参照により本明細書に援用される。
【政府の支援】
【0002】
本発明は、国立科学財団によって授与された助成金1508049及び1553661の下で政府の支援を受けてなされた。政府は本発明において一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
ナノ濾過(NF)膜は、有効孔径約1nmで規定される。それらは通常、軟水化などの用途で水及び廃水流から二価の塩を除去するために使用される。今日、市場に出回っているほとんどすべての市販のNF膜は、界面重合によって調製された架橋ポリアミド分離選択層を備えている。この分離選択層の化学的性質は何十年にもわたって使用されており、その結果、これらの市販の膜は非常によく最適化されており、望ましい二価の塩除去とともに適度に高い透水性を提供する。
【0004】
しかしながら、ポリアミド分離選択層には、汚損耐性及び塩素耐性の欠如など、化学構造に固有の重大な制限もある。近年、その親水性と汚損耐性により、双性イオンが膜分野で広範な研究を引き付けている。双性イオン性両親媒性共重合体(ZAC)は、自己組織化して微細構造を作成することが記されている。また、ZACを膜分離選択層として使用すると、有効孔径が約1~2nmの汚損耐性膜を実現することができる。これらの膜は、塩素耐性が高いことも示された。
【0005】
しかしながら、これらの膜の重要な特徴は、膜分離選択層の全体的な中性的化学的性質のために、それらが比較的低い塩除去を示したことであった。したがって、ZACは、有望な汚損耐性及び塩素耐性、ならびにNF膜に近い有効孔径を提供する一方で、それらの除去特性では、ほとんどの応用において市販のNF膜を置き換えるには不十分である。したがって、前述の欠点を有さない高性能膜を開発する必要がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書において、3種類の単量体単位:疎水性単量体単位、双性イオン性単量体単位、及び荷電またはイオン化可能単量体単位のそれぞれを、複数含む共重合体を提供する。好ましくは、共重合体は、直鎖状、統計、もしくはランダム共重合体、またはそれらのすべてである。その分離選択層がこれらの共重合体からなる、複合薄膜も提供する。これらの膜は、水処理、軟水化、廃水処理、ならびに水溶液中の有機分子の分離及び精製を含むがこれらに限定されない、いくつかの水性分離に使用することができる。これらの共重合体の化学的性質により、膜は、塩素による化学的劣化に対する耐性の向上、及び汚損に対する強力な耐性を示す。
【0007】
一態様では、本明細書において、複数の双性イオン性単量体単位、複数の荷電/イオン化可能単量体単位、及び複数の疎水性単量体単位を含む共重合体を提供する。
【0008】
さらに別の態様では、本明細書において、多孔質支持体を含む複合薄膜、及び多孔質支持体の細孔サイズが重合体材料の薄膜の有効孔径よりも大きい、重合体材料の薄膜を提供する。
【0009】
別の態様では、本明細書において、異なるサイズの複数の非荷電有機分子を含む溶液を本明細書に開示する複合薄膜と接触させることを含む、サイズに基づいた選択方法または除去方法を提供する。
【0010】
さらに別の態様では、本明細書において、複数の塩を含む溶液を本明細書中で開示する複合薄膜と接触させることを含む、電荷に基づいた選択方法または除去方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】荷電した双性イオン性両親媒性共重合体(CZAC)、P(TFEMA-r-SBMA-r-MAA)の重合体構造/化学、及びカルボン酸基で裏打ちされた効果的なナノチャネルのネットワークとして機能する約1~2nmの親水性ドメインを特徴とする膜分離選択層を支持体にコーティングして形成させた場合の自己組織化の概略図を示すスキームである。
図2】共重合を示すPTFEMA-SBMA-MAA-B1のHNMRスペクトルを示す。
図3】共重合を示すPTFEMA-SBMA-MAA-B2のHNMRスペクトルを示す。
図4A】コーティングされていないTrisep UE50支持膜のSEM画像を示す。
図4B】PTFEMA-SBMA-MAA-B1 TFC膜のSEM画像を示す。
図4C】PTFEMA-SBMA-MAA-B2 TFC膜のSEM画像を示す。
図5A】PTFEMA-SBMA膜、PTFEMA-SBMA-MAA-B1膜、及びPTFEMA-SBMA-MAA-B2膜による中性(Rib、RH、及びVB12)及び陰イオン(NaSO、MO、AB45)溶質の除去率を示す棒グラフである。
図5B】実施例2Bに記載するように調製した膜による糖及び色素の除去率を示すグラフである。
図6A】PTFEMA-SBMA膜、PTFEMA-SBMA-MAA-B1膜、及びPTFEMA-SBMA-MAA-B2膜による1mM及び5mMの濃度での様々な塩の除去率を示す棒グラフである。
図6B】PTFEMA-SBMA-MAA-B1による様々なpHでのNaSO(CFeed=5mM)の除去率を示すグラフである。
図6C】1mM及び5mMの濃度での様々な塩のPTFEMA-SBMA-MAA-B2での除去率を示す棒グラフである。除去率は、DSPMに適合する(CFeed=1mMの場合:Dpore=1.95nm、δeffective=20μm、及びX=21.4mM。Cfeed=5mMの場合:Dpore=1.95nm、δeffective=20μm、及びX=60.4mM)。
図7A】様々な中性色素の除去率を示す棒グラフである。
図7B】様々な陰イオン色素及びNaSOの除去率を示す棒グラフである。
図8A】PTFEMA-SBMA-MAA-B2膜(Span80中性界面活性剤によって安定化された)の油エマルジョン汚損耐性を示すグラフである。
図8B】PTFEMA-SBMA-MAA-B2膜(DC193中性界面活性剤によって安定化された)の油エマルジョン汚損耐性を示すグラフである。
図8C】BSA及びCaCl混合物(1.0g/L BSA、10mM CaCl2、pH=6.3、及びJ 5.4LMH)に対するCZAC膜の汚損耐性を示すグラフである。市販のNF膜をベンチマークとして使用した。
図8D】フミン酸及びアルギン酸塩混合物(それぞれ1g/L、pH4.5、J=7.0LMH)に対するCZAC膜の汚損耐性を示すグラフである。市販のNF膜をベンチマークとして使用した。
図9】Clorox処理前後のPTSBMA-SBMA-MAAの浸透性を示すグラフである。
図10】PTFEMA-SBMA-MAA-B2の結合の化学的性質に対する塩素処理の影響を示すIRスペクトルである。FTIRスペクトルは、pH4.5、2,000ppmでの次亜塩素酸ナトリウム溶液に16時間浸漬する前後に取得した。
図11】PBS溶液への曝露時のPTFEMA-SBMA-MAA-B1の再構成と、その後に観察された切り替え可能なフラックス挙動を示すグラフである。
図12A】NaOH(水溶液)(pH=11)によるPTFEMA-SBMA-MAA-B1膜の再構成を示す棒グラフである。
図12B】NaOH(水溶液)(pH=11)の濾過中のPTFEMA-SBMA膜の浸透性を示す棒グラフである。
図13】NaOH(水溶液)処理による再構成前後のビタミンB12とNaSOの除去率を示す棒グラフである。
図14】膜の浸透性と濾過IDの関係を示す棒グラフである(表5)。
図15】カルシウムを含有する塩基性溶液に応答して再構成したPTFEMA-SBMA-MAA膜の浸透性を示す棒グラフである。
図16】反応混合物の組成と得られる三元重合体の組成との間の相関関係を示すグラフであり、ランダムな単量体配列に近いことを示している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
ZACの自己組織化特性を活用し、この重合体ファミリーを改変して脱塩率を向上させることにより、NF型の選択性と汚損耐性及び塩素耐性を組み合わせた膜を開示する。具体的には、荷電した双性イオン性両親媒性共重合体(CZAC)及びスケーラブルな製造技術を通じてCZAC分離選択層で調製した膜を開示する。CZACは、疎水性単量体、双性イオン性単量体、酸性/イオン化性単量体の3種類の単量体のランダムまたは統計三元重合体である。好ましくは、共重合体は、直鎖状、ランダム、及び統計共重合体である。共重合体のランダム/統計アーキテクチャと双性イオン-双性イオン引力により、この三元重合体は、1~2nmの親水性(双性イオン/荷電)及び疎水性ナノドメインからなる双連続ネットワークに自己組織化することができる。水及び他の溶質は、親水性ドメインを通過する。親水性ドメインは、荷電した壁を有するナノチャネルの効果的なネットワークとして機能する。これにより、三元重合体は膜分離選択層として機能することができる。親水性ナノチャネルは、組み込まれた官能基のイオン化(例えば、酸性リピート単位の脱プロトン化、アミン基のプロトン化、スルホン酸基の解離)により正味に荷電し、荷電した溶質と塩イオンの除去を促進する。双性イオン基が存在するため、これらの膜は、汚損耐性が高い。新規高分子化学の使用により、塩素耐性を高くすることができ、32,000ppm.時間の塩素に曝露しても性能が変化することはない。
【0013】
少なくとも3種類の繰り返し単位を複数含む重合体材料のファミリーを開示する:
1.双性イオン繰り返し単位、これは、ドメインサイズよりも小さな、好ましくは5nm未満、好ましくは0.6~3nm、より好ましくは0.6~2nmの溶質を含む、水及び水溶液の浸透経路として機能する親水性/透水性ナノドメインの双連続ネットワークの形成をもたらす。
2.荷電またはイオン化可能な繰り返し単位、これは、Donnan除去機構を通じて電荷に基づいた選択性とイオン保持特性を付与する。
3.比較的疎水性の繰り返し単位で、水中での重合体の膨潤を制限し、水性環境での重合体の安定性を付与する。この疎水性繰り返し単位は、好ましくは、同種重合体が水に溶解せず、使用温度より高い(例えば、室温より高い)ガラス転移温度を有する単量体に由来する。
【0014】
「荷電した双性イオン性両親媒性共重合体」(CZAC)と呼ばれる重合体は、周知の重合方法(例えば、フリーラジカル重合)を使用して、ビニル単量体(例えば、アクリレート、メタクリレート、アクリルアミド、スチレン誘導体、アクリロニトリル)から合成してもよい。重合体は、(個々の単量体の大きなブロックではなく)ほぼランダム/統計的な順序で3種類の繰り返し単位を組み込んでおり、20,000g/mol~1,000,000g/mol(好ましくは40,000g/mol、または100,000g/mol~1,000,000g/mol)の分子量を有する。好ましくは、共重合体は直鎖状である。
【0015】
膜選択層について以下に記載する用途/実施形態に適した特定の組成物において、CZACは、-30~80重量%の疎水性単量体、1~40重量%の荷電単量体、及び1~40重量%の双性イオン性単量体を含む。他の用途において、より広範囲の組成物を使用してもよい。
【0016】
各タイプの繰り返し単位を形成するための例示的な単量体を以下に列挙する。
【0017】
双性イオン:スルホベタインメタクリレート(SBMA);メタクリルオキシホスホリルコリン(MPC);カルボキシベタインメタクリレート(CBMA);スルホベタイン-2-ビニルピリジン;スルホベタイン-4-ビニルピリジン;スルホベタイン-ビニルイミダゾール;及びスルホベタイン、カルボキシベタイン、またはホスホリルコリン部分を含む他のいくつか。
【0018】
荷電/イオン化可能:メタクリル酸(MAA);アクリル酸;スチレンスルホン酸;メタクリレート、アクリレート、アクリルアミド、またはカルボン酸、スルホン酸、アミン、リン酸塩、もしくは他のイオン化可能/荷電基を含むスチレン誘導体。
【0019】
比較的疎水性:2,2-トリフルオロエチルメタクリレート(TFEMA);他のフッ素化アクリレート、メタクリレート、及びアクリルアミド(例えば、ペンタフルオロプロピルメタクリレート、ヘプタフルオロブチルメタクリレート、ペンタフルオロフェニルメタクリレート);スチレン;メタクリル酸メチル;アクリロニトリル;上記の基準に適合する他の単量体。
【0020】
高分子材料の有用性は、特に膜分離選択層としてのそれらの使用に関して、以下で考察する。しかしながら、他の用途(例えば、膜製造の添加剤、相溶化剤)にも役立ち得る。
【0021】
CZACは、膜産業で理解されている方法(例えば、ブレードコーティング、非溶媒誘起相分離(NIPS)、スプレーコーティング)によって多孔質支持体上にコーティングしてもよい。これにより、少なくとも2つの層:粗孔を備え、機械的完全性を提供する多孔質支持体;及び膜の「分離選択層」として機能するCZACの薄層(厚さは好ましくは10μm未満、より好ましくは3μm未満または1μm未満)を含む複合薄膜(TFC)が得られる。この実施形態では、CZAC層は、通常、CZACの連続的な高密度層(すなわち、水浸透のための経路を提供する通常の「貫通孔」ではない(望まなくとも処理中に発生し得る時折の欠陥は除く))を含む;言い換えれば、水は、CZAC中の細孔/穴ではなく、主要な輸送メカニズムとしてCZACを浸透する必要がある。
【0022】
得られる膜は、中性有機分子のサイズに基づいた分離を示すが、中性溶質よりも荷電している溶質の高い除去も示す。この品質は、サイズに基づいた分離では不十分ないくつかの用途に役立つ。例えば、汚染物質の完全または部分的な除去が必要な場合、これらの膜によって提供されるサイズベースと電荷ベースの除去の組み合わせにより、排出の品質を向上させることができる。あるいは、これらの膜は、荷電基の存在が異なる2つの有機溶質(例えば、アミノ酸、薬物化合物)を互いに分離することができる。
【0023】
現在の膜を改変し、調製して、脱塩率を向上させ、逆浸透(RO)/脱塩プロセス及び正浸透(EO)に対処するか、またはわずかに大きい細孔サイズにアクセスして、電荷選択的で厳密な限外濾過(UF)膜とすることができる。
【0024】
市販のNF及びRO/EO膜は、ほぼ普遍的に架橋ポリアミド分離選択層を備えている。そのような膜には2つの大きな問題がある:第一に、汚損が発生しやすく、いくつかの前処理ステップが必要であり、脱塩プロセス全体のコストとエネルギー効率に影響を及ぼす。第二に、膜は、分離選択層と反応する塩素に非常に感受性である。塩素消毒は通常、生物付着を防ぐために淡水化施設に流入する水中の微生物を死滅させるために使用される。市販のNF膜及びRO膜は塩素に感受性であるため、水はNFまたはRO単位に供給される前に脱塩素化され、顧客に送られる前に再び塩素化される。
【0025】
現在の膜は、これらの問題の両方を回避する:双性イオン基は、汚損に対する耐性が高いことが知られており、実証されている。膜は、有機物の流れによる汚損に対する耐性が極めて高いことが示されている。さらに、構成重合体は本質的に塩素による攻撃を受けにくい。膜は、市販の塩素系漂白剤に対して安定であることが示されている。
【0026】
高pH緩衝液にさらされると、膜は細孔の再構成を受ける場合がある。高pH緩衝液にさらされると、いくつかのCZAC分離選択層を備えた膜は、細孔径のわずかな増加とともに、1回限りの不可逆的で安定した浸透性の増加を示す。
‐疎水性単量体TFEMA、双性イオン性単量体SBMA、及びイオン化可能単量体MAA由来のCZACは、複数の単量体比でのフリーラジカル重合によって合成することができる。
‐この共重合体は自己組織化して、水浸透経路として機能する親水性ナノドメインのネットワークを創出する。
‐多孔質支持体としての市販の粗孔膜にこの膜をコーティングして、複合薄膜(TFC)を作成することができる。
‐この膜は、市販のRO膜及びNF膜に匹敵する浸透性(フラックス/印加圧力差として定義される)を示す。これは、コーティングの厚さを薄くし、重合体の配合を変更することでさらに向上させることができる。
‐この膜は、ビタミンB12とβ-シクロデキストリンを含む非荷電有機分子間でサイズに基づいた選択性を示し、約92%の除去率を示す。除去のモデルは、約2nmの推定有効孔径をもたらす。この孔径サイズは、高分子化学及び他の方法により、値をより低く及びより高く調整することができる(1~5nmがアクセス可能な範囲のようである)。
‐この膜は、同様のサイズの非荷電溶質よりも有意に高い荷電溶質の除去を示す。
‐この膜は、約95%のNaSO除去率を含む、有意な脱塩率を示し、これはいくつかのNF膜に匹敵する。
‐この重合体は、塩素系漂白剤にさらされても(例えば、pH4で)安定している。
‐この膜は、油エマルジョンによる汚損に対する耐性が高い。
‐比較的高いpHの緩衝液にさらされると、膜は、脱塩率がわずかに低下すると共に、フラックスにおける1回限りの増加を示す。新規フラックスと細孔径は安定している;変化は非可逆的である。さらに、この膜は、異なるイオン溶液中で、溶液中に存在する陽イオンによって制御され得る切り替え可能なフラックスを達成する。
【0027】
一態様では、本明細書において、複数の双性イオン性単量体単位、複数の荷電/イオン化可能単量体単位、及び複数の疎水性単量体単位を含む共重合体を提供する。
【0028】
いくつかの実施形態では、共重合体の分子量は、20,000g/mol~1,000,000g/molである。いくつかの実施形態では、共重合体の分子量は、40,000g/mol~1,000,000g/molである。いくつかの実施形態では、共重合体の分子量は、100,000g/mol~1,000,000g/molである。
【0029】
いくつかの実施形態では、双性イオン性単量体単位は、共重合体の1~40重量%を構成する。いくつかの実施形態では、荷電/イオン化可能単量体単位は、共重合体の1~40重量%を構成する。いくつかの実施形態では、疎水性単量体単位は、共重合体の30~80重量%を構成する。
【0030】
いくつかの実施形態では、双性イオン性単量体単位のそれぞれは、スルホベタイン、カルボキシベタイン、またはホスホリルコリン部分を含む単量体から形成される。いくつかの実施形態では、双性イオン性単量体単位のそれぞれは、スルホベタインメタクリレート(SBMA)、メタクリルオキシホスホリルコリン(MPC)、カルボキシベタインメタクリレート(CBMA)、スルホベタイン-2-ビニルピリジン、スルホベタイン-4-ビニルピリジン、及びスルホベタイン-ビニルイミダゾールからなる群から選択される単量体から形成される。いくつかの実施形態では、双性イオン性単量体単位のそれぞれは、スルホベタインメタクリレート(SBMA)から形成される。
【0031】
いくつかの実施形態では、荷電/イオン化可能単量体単位のそれぞれは、カルボン酸、スルホン酸塩、リン酸塩、またはアミン部分を含む、メタクリレート、アクリレート、アクリルアミド、またはスチレン誘導体からなる群から選択される単量体から形成される。いくつかの実施形態では、荷電/イオン化可能単量体単位のそれぞれは、メタクリル酸(MAA)、アクリル酸、2-カルボキシエチルアクリレート、2-カルボキシエチルメタクリレート、スチレンスルホネート、3-スルホプロピルアクリレート、3-スルホプロピルメタクリレート、2-アクリルアミド-2-メチル-1-プロパンスルホン酸、2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、2-(ジエチルアミノ)エチルメタクリレート、2-アミノエチルメタクリレート、[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリド、[2-(アクリロイルオキシ)エチル]トリメチルアンモニウムクロリド、2-(ジエチルアミノ)エチルアクリレート、2-(ジメチルアミノ)エチルアクリレート、3-(ジメチルアミノ)プロピルアクリレート、N-アクリロイル-L-バリン、(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド、N-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]メタクリルアミド、2-イソプロペニルアニリン、4-[N-(メチルアミノエチル)アミノメチル]スチレン、及び(ビニルベンジル)トリメチルアンモニウムクロリドからなる群から選択される単量体から形成される。いくつかの実施形態では、荷電/イオン化可能単量体単位のそれぞれは、メタクリル酸(MAA)から形成される。
【0032】
いくつかの実施形態では、疎水性単量体単位のそれぞれは、スチレン、メチルメタクリレート、アクリロニトリル、フルオロアルキルアクリレート、フルオロアリールアクリレート、フルオロアルキルメタクリレート、フルオロアリールメタクリレート、フルオロアルキルアクリルアミド、及びフルオロアリールアクリルアミドからなる群から選択される単量体から形成される。いくつかの実施形態では、疎水性単量体単位のそれぞれは、フルオロアルキルアクリレート、フルオロアリールアクリレート、フルオロアルキルメタクリレート、フルオロアリールメタクリレート、フルオロアルキルアクリルアミド、及びフルオロアリールアクリルアミドからなる群から選択される単量体から形成される。いくつかの実施形態では、疎水性単量体単位のそれぞれは、2,2-トリフルオロエチルメタクリレート(TFEMA)、ペンタフルオロプロピルメタクリレート、ヘプタフルオロブチルメタクリレート、及びペンタフルオロフェニルメタクリレートからなる群から選択される単量体から形成される。いくつかの実施形態では、疎水性単量体単位のそれぞれは、2,2-トリフルオロエチルメタクリレート(TFEMA)から形成される。
【0033】
いくつかの実施形態では、疎水性単量体単位は、疎水性単量体単位から形成されるホモ重合体が、室温を上回るガラス転移温度を有することを特徴とする。
【0034】
いくつかの実施形態では、共重合体はランダム共重合体である。
【0035】
いくつかの実施形態では、共重合体は統計共重合体である。
【0036】
いくつかの実施形態では、共重合体は直鎖状共重合体である。
【0037】
いくつかの実施形態では、共重合体は、ポリ((スルホベタインメタクリレート)-ランダム-(メタクリル酸)-ランダム-(2,2-トリフルオロエチルメタクリレート))である。
【0038】
別の態様では、本明細書において、複数の共重合体を含む重合体材料を提供する。いくつかの実施形態では、重合体材料は、薄膜の形態である。
【0039】
さらに別の態様では、本明細書において、多孔質支持体を含む複合薄膜、及び重合体材料の薄膜を提供し、その場合、多孔質支持体の細孔サイズは、重合体材料の薄膜の細孔サイズよりも大きい。
【0040】
いくつかの実施形態では、重合体材料の薄膜は、1nm~10μmの厚さを有する。いくつかの実施形態では、重合体材料の薄膜は、1nm~3μmの厚さを有する。いくつかの実施形態では、重合体材料の薄膜は、1nm~1μmの厚さを有する。
【0041】
いくつかの実施形態では、重合体材料の薄膜は、0.1~5nmの有効孔径を有する。いくつかの実施形態では、重合体材料の薄膜は、0.6~3nmの有効孔径を有する。いくつかの実施形態では、重合体材料の薄膜は、0.6~2nmの有効孔径を有する。
【0042】
いくつかの実施形態では、複合薄膜は、油エマルジョンによる汚損に対する耐性を示す。
【0043】
いくつかの実施形態では、複合薄膜は、塩素系漂白剤への曝露時に(例えば、pH4で)安定である。
【0044】
いくつかの実施形態では、複合薄膜は、高pHの緩衝液に曝露されると、細孔サイズの一度限りの不可逆的な変化を受ける。
【0045】
いくつかの実施形態では、複合薄膜は、非荷電有機分子間でサイズに基づいた選択性を示す。
【0046】
いくつかの実施形態では、複合薄膜は、荷電した溶質及び塩を除去する。
【0047】
別の態様では、本明細書において、異なるサイズの複数の非荷電有機分子を含む溶液を本明細書に開示する複合薄膜と接触させることを含む、サイズに基づいた選択方法または除去方法を提供する。
【0048】
さらに別の態様では、本明細書において、複数の塩を含む溶液を本明細書に開示する複合薄膜と接触させることを含む、電荷に基づいた選択方法または除去方法を提供する。
【実施例
【0049】
本明細書に記載の発明をより完全に理解するために、以下の実施例を記載する。本出願に記載する実施例は、本明細書中で提供する化合物、組成物、材料、装置、及び方法を説明するために提供されており、それらの範囲を限定するものとして決して解釈されるべきではない。
【0050】
実施例1.ポリ(トリフルオロエチルメタクリレート)-ランダム-ポリ(スルホベタインメタクリレート)-ランダム-ポリ(メタクリル酸)(PTFEMA-SBMA-MAA)の合成
実施例1A:PTFEMA-SBMA-MAA-B1の合成
本実施例では、単量体のトリフルオロエチルメタクリレート(TFEMA)、スルホベタインメタクリレート(SBMA)、及びメタクリル酸(MAA)のランダム/統計三元重合体(これらの3つの成分からなる三元重合体は、一般的にPTFEMA-SBMA-MAAと呼ばれる)を以下のように合成した。まず、TFEMAとMAAを、塩基性アルミナカラムを使用して精製した。次いで、DMSO(80mL)、精製TFEMA(5.49g)、SBMA(2.61g)、精製MAA(1.11g)、LiCl(0.090g)、及びAIBN(11mg)を250mL平底反応フラスコに加えた後、ゴム製のセプタムで密封した。次いで、混合物を室温で2日間撹拌して、双性イオン性単量体を溶解させた。その後、フラスコをゴム製セプタムで密閉し、Nで40分間パージした後、撹拌しながら70℃の油浴に浸した。20時間後、空気への曝露及びMEHQ(0.5g)の添加により反応を停止させた。次いで、沈殿させるために、粘性のある重合体溶液をエタノールとヘキサンの混合物800mL(1:1の体積比)に注いた。次いで、重合体を小片に切断し、エタノールとヘキサンの混合物800mL(1:1の体積比)中で12時間以上撹拌して洗浄した。この洗浄サイクルを2回繰り返した。その後、重合体をフード下で約1週間乾燥させ、最後に50℃の真空オーブン内で24時間以上乾燥させた。収率は、乾燥重合体の重量による測定で、38%と計算された。この重合体は、PTFEMA-SBMA-MAA-B1と呼ばれる。精製重合体の組成は、H-NMRスペクトル(図2)から、以下の3セットのピークの積分によって計算した:(1)c’’、(2)e’、(3)c,c’。組成は、61.9重量%TFEMA、31.7重量%SBMA、及び6.4重量%MAAと計算された。
【0051】
実施例1B:PTFEMA-SBMA-MAA-B2の合成
この例では、TFEMA、SBMA、及びMAAのランダム/統計三元重合体を、以下のように合成した。まず、SBMA(2.80g)とDMSO(87mL)を250mL平底反応フラスコに加えた。温度を70℃に上げて双性イオン性単量体を溶解させ、次いで室温に戻した。このクールダウン期間中に、TFEMAとMAAの両方を、塩基性アルミナカラム(VWR)を使用して精製した。これに続いて、精製されたTFEMA(4.49mL)、精製されたMAA(1.86mL)、LiCl(0.10g)、及びAIBN(9.8mg)を反応フラスコに加えた。その後、フラスコをゴム製セプタムで密閉し、Nで30分間パージした後、撹拌しながら70℃の油浴に浸した。20時間後、反応物を空気に曝露し、およそ5mLのDMSOに溶解したMEHQ(0.7g)を加えることにより、反応を停止させた。次いで、沈殿させるために、粘性のある重合体溶液をエタノールとヘキサンの900mL混合物(1:1の体積比)に注いだ。次いで、重合体を小片に切断し、エタノールとヘキサンの混合物900mL(1:1の体積比)で12時間撹拌して洗浄した。この洗浄サイクルを3回繰り返した。その後、重合体をフード下で約1週間乾燥させ、最後に50℃の真空オーブン内で4日間乾燥させた。収率は、乾燥重合体の重量による測定で、60%と計算された。この重合体は、PTFEMA-SBMA-MAA-B2と呼ばれる。精製重合体の組成は、H-NMRスペクトル(図3)から、以下の3セットのピークの積分によって計算した:(1)c’’、(2)e’、(3)c,c’。組成は、52.2重量%TFEMA、34.9重量%SBMA、及び12.9重量%MAAと計算された。
【0052】
実施例2.重合体アーキテクチャ
図16のデータから、三元重合体はほぼランダムな単量体配列を有していると推測することができる。三元重合体の組成は、初期反応条件と同様であり、収率は-70%であった。これは、一般的に自己組織化共重合体に関連するブロックアーキテクチャとは対照的である。三元重合体が真にランダムであるための厳密な速度論的要件があり(6つの反応性比すべてが1に等しい)、三元重合体がいくらか段階的及び/またはブロック状である可能性がある。しかしながら、この分野では、用語「ランダム」は厳密に適用されるわけではない。したがって、重合体アーキテクチャを幅広い対象者に最もよく伝えるために、三元重合体はランダムであると呼ばれる。
【0053】
実施例3.PTFEMA-SBMA-MAA三元重合体分離選択層を使用した複合薄膜(TFC)の形成
実施例3A.PTFEMA-SBMA-MAA-B1からのTFC膜の形成
本実施例では、TFC膜を、実施例1Aに記載の重合体を使用して調製した。共重合体を最初にトリフルオロエタノール(TFE)中に0.11g共重合体/mL TFEで溶解した。次いで、溶液を1μmのガラスシリンジフィルターを使用して濾過し、1時間50℃まで加熱することにより脱気し、冷却して室温に戻した。次に、Gardcoワイヤー巻きロッド(ワイヤーサイズ2 1/2、6μmの湿膜を堆積)を使用して、共重合体溶液をPES限外濾過支持膜(Trisep UE50)にコーティングした。コーティング後、コーティングされた膜をイソプロピルアルコール(IPA)の非溶媒浴に20分間すばやく浸し、続いて脱イオン水に浸した。この手順により、分離選択層が実施例1Aに記載のPTFEMA-SBMA-MAA-B1三元重合体であるTFC膜が得られた。
【0054】
実施例3B.PTFEMA-SBMA-MAA-B2からのTFC膜の形成
本実施例では、実施例1Bに記載の重合体を使用して膜を調製した。まず、共重合体をトリフルオロエタノール(TFE)中に0.11g共重合体/mL TFEで溶解した。次いで、この溶液を、1.2μmのガラスシリンジフィルターを使用して濾過し、1時間50℃まで加熱することにより脱気し、冷却して室温に戻した。次に、ゲート設定が20μmのGardcoユニバーサルブレードアプリケーターを使用して、共重合体溶液をPES限外濾過支持膜(Trisep UE50)にコーティングした。コーティング後、重合体溶液のフィルムを15秒間蒸発させた。次いで、コーティングした膜をイソプロピルアルコール(IPA)の非溶媒浴に20分間浸し、続いて脱イオン水に浸した。この手順により、分離選択層が実施例1Bに記載のPTFEMA-SBMA-MAA-B2三元重合体である複合薄膜(TFC)が得られた。
走査型電子顕微鏡(SEM)を使用して、実施例2A及び実施例2Bに記載のTFC膜の断面を観察し、これにより、選択的な層の厚さ及び膜の形態を分析することができた。試料を調製するために、膜切片を凍結破砕し、金-パラジウムでスパッタコーティングした。膜断面のSEM画像は、5kV設定でPhenom G2 pure tabletop SEMを使用して取得した。図4A、4B、及び4Cは、コーティングされていないTrisep UE50膜(支持体)、実施例2AのTFC膜、及び実施例2BのTFC膜のSEM画像を示す。2つの実施例のそれぞれについて、分離選択層が、密度が高く、厚さが0.5~1μmであることが観察される。
【0055】
実施例4.PTFEMA-SBMA-MAATFC膜の透水性
本実施例では、実施例2A及び2Bに記載の膜の純水浸透性を測定し、PTFEMA-SBMAから調製した膜と比較した。実験を行うために、デッドエンドモードで10mL Amicon8010撹拌セルを使用した。膜小片の面積は4.1cm、撹拌速度は500RPM、圧力はPTFEMA-SBMA-MAA-B1膜で30psi、PTFEMA-SBMA-MAA-B2膜で50psiであった。膜の浸透性を測定するために、コンピューターに接続されたOhaus Scout Proスケールを使用した。時間に対する浸透物の質量の同期測定により、膜の流量の測定が可能になり、これにより、膜の浸透性を計算することができた。PTFEMA-SBMA-MAA-B1膜とPTFEMA-SBMA-MAA-B2膜の浸透率は、それぞれ1.7L/m.h.bar(LMH/barと略記)と2.5LMH/barであった(表1)。
【表1】
【0056】
実施例5.PTFEM-SBMA-MAATFC膜による中性溶質除去
本実施例では、実施例3Bに記載の膜を使用して、様々な中性溶質を濾過した。これらの実験の目的は:(1)実施例3Bに記載の膜が溶液から小さな中性分子を濾過する能力を示し、及び(2)実施例3Bに記載の膜の有効孔径を確立することであった。
【0057】
濾過実験は、デッドエンドモードで10mL Amicon8010撹拌セルを使用して実施した。膜小片の面積は4.1cm、撹拌速度は500RPM、圧力はすべての実験で50psiであった。浸透液の最初の1.5mLを廃棄し、次の0.7mLを浸透液濃度の測定のために回収した。浸透液濃度は、糖については化学的酸素要求量(COD)を、色素についてはUV-vis分光法を使用して測定した。
【0058】
図5Bは、中性糖及び中性色素分子の除去率を示す。サイズ選択性が、試験した中性溶質で観察され、ビタミンB12(1.48nmの水和直径)及びβ-シクロデキストリン(1.54nmの水和直径)の除去率は約92%であった(表2)。糖分子の除去率データを、立体障害境界条件を使用した拡張Nernst Planck式に当てはめることにより、有効孔径は1.95nmと計算された。
【表2】
【0059】
実施例6.PTFEMA-SBMA-MAA TFC膜による塩除去
本実施例では、様々なイオン溶質を、実施例3Bに記載したTFC膜を使用して濾過した。これらの実験の目的は:(1)実施例3Bに記載したように調製した膜が、溶液から塩を濾過する能力を示し、(2)実施例3Bに記載したように調製した膜が、イオン種を選択的に濾過する一方で同じサイズの中性溶質を通過させる能力を示すことであった。
【0060】
濾過実験は、デッドエンドモードで10mL Amicon8010撹拌セルを使用して実施した。膜小片の面積は4.1cm、撹拌速度は500RPM、圧力はすべての実験で50psiであった。浸透液の最初の1.5mLを廃棄し、次の0.7mLを浸透液濃度の測定のために回収した。浸透液濃度は、導電率計を使用して測定した。データを表3に示す。
【0061】
図6Aは、PTFEMA-SBMA-MAA-B1膜及びPTFEMA-SBMA-MAA-B2膜が、PTFEMA-SBMA膜に比べて、荷電した溶質に対してより大きな除去率を有していたことを示している。中性溶質除去は3つの膜すべてで同等であったため、この発見は、MAAがCZAC膜に陰イオン選択性を付与するエビデンスである。最高の除去率は、NaSOでは93~95%の範囲であった。CaSOの除去率は40~70%の範囲、NaClの除去率は30~60%の範囲であった。
【0062】
脱プロトン化されたMAAが膜に電荷選択性を与えるという仮説を試験するために、NaSOを様々なpHで濾過する(図6B)。脱プロトン化されたMAAが陰イオン選択性の原因である場合、選択性は酸性条件で消失するはずである。予想通り、R(NaSO)がpHの低下とともに減少することが認められ、このことは、脱プロトン化されたMAAからプロトン化されたMAAへの平衡のシフトによって説明することができる。選択性の低下は、pH5.0未満でのみ本格的に開始され、このことは、この系においてMAAの有効pKaが約4.0未満であることを示唆している(ヘンダーソン・ハッセルバルヒの式と組み合わせたDonnan立体細孔モデルを使用して、pKaは3.72に適合した;補足資料を参照のこと)。
【0063】
有効なpKa<4.0は、MAA単量体について報告されているpKa4.78をはるかに下回っている。これは、MAAがCZACナノ構造に組み込まれた場合、遊離溶液の場合に比べておよそ10倍反応性が高いことを意味する。閉じ込めは一般的にMAAの反応性の低下をもたらすことが分かっていることから、これは予想と矛盾していた。
【0064】
図6Cは、荷電した溶質の除去率を示す。まず、図6Cは、PTFEMA-SBMA-MAA-B2膜の以下の2つの注目すべき性能特性を示している:(1)1mM(142ppm)NaSOと1mM(110ppm)LiSO溶液の両方の96%の除去率;(2)5mM(710ppm)NaSO及び5mM(550ppm)LiSO溶液の両方の93%の除去率(表3)。CaSOとMgSOの除去率は40~70%の範囲であり、NaClとLiClの除去率は30~60%の範囲であった。溶質の除去は、供給濃度の増加とともに減少していたが、これは、Donnan除去と一致している。様々な塩種の除去は、輸送の妨害、立体除去、及びDonnan平衡の組み合わせが、荷電膜による溶質除去をどのように決定付けるかを説明する輸送モデルであるDonnan立体細孔モデルに除去率のデータを適合させることによって理解された。イオン種を濾過する一方で同じサイズの中性溶質を通過させる膜の能力は、図5図6Cを比較することで確認することができる。小さなイオン種(硫酸塩の水和直径は0.46nmであり;試験で使用したすべてのイオンの流体力学的直径は0.7nm未満である)は膜によって除去され、一方、水和直径が1.0~1.5nm未満の中性溶質は最小限しか除去されない。
【表3】
【0065】
実施例7.PTFEMA-r-SBMA TFC膜と比較した、PTFEMA-SBMA-MAA TFC膜による色素及びNaSOの除去率
本実施例では、実施例3Aにおいて調製したTFC膜による色素とNaSOの除去率を測定し、PTFEMA-r-SBMA TFC膜(PTFEMA-SBMAと呼ばれる)の除去率と比較した。PTFEMA-SBMAの合成及びPTFEMA-SBMA TFC膜の製造は、他の場所で見つけることができる。本明細書中で、PTFEMA-SBMA膜とPTFEMA-SBMA-MAA膜の主な違いが、PTFEMA-SBMA膜にはMAAがないため、荷電した溶質の除去率が低くなるはずである点に留意されたい。これらの実験の目的は:(1)PTFEMA-SBMA-MAA-B1膜が溶液から色素を濾過する能力(繊維産業での色素除去などの用途に役立つであろう特性)を示し;(2)適切な対照として機能するPTFEMA-SBMA TFC膜を用いてPTFEMA-SBMA-MAA TFC膜で観察される電荷選択性をさらに示すことである。
【0066】
濾過実験を、デッドエンドモードで10mL Amicon8010撹拌セルを使用して実施した。膜小片の面積は4.1cm、撹拌速度は500RPM、圧力はすべての実験で27psiであった。浸透液の最初の1.8mLは廃棄し、その後の0.7mLを回収して浸透液の濃度を測定した。浸透液濃度を、色素についてはUV vis分光法、NaSOについては導電率を使用して測定した。色素分子の直径は、色素分子が体積Vmolarの球であると仮定して取得したが、Vmolarは、色素分子のモル体積であり;色素のモル体積は、ChemSWのMolecular Modeling Proソフトウェアを使用して取得した。
【0067】
図7A及び図7Bは、様々な色素とNaSOの除去率を示す。表4は、PTFEMA-SBMA-MAA-B1膜及びPTFEMA-SBMA膜による溶質の略語、計算された直径、電荷、及び除去率をまとめたものである。中性色素の除去率は、PTFEMA-SBMA-MAA-B1膜とPTFEMA-SBMA膜で類似しており、同様の有効ポアサイズを示している。対照的に、PTFEMA-SBMA-MAA-B1膜による陰イオン溶質の除去率は、PTFEMA-SBMA膜の除去率よりも大きい。このことは、CZACから製造された膜が、双性イオン性単量体と疎水性単量体のみの共重合体から製造された膜よりも、荷電溶質の除去率が大きいというエビデンスを示している。さらに、荷電溶質の除去は、PTFEMA-SBMA-MAA-B1共重合体中のMAAの存在によって説明することができる:MAAは弱酸であり、水溶液中での脱プロトン化時に負電荷を獲得する。MAAが自己組織化PTFEMA-SBMA-MAA-B1分離選択層の双性イオンドメインに組み込まれている場合、膜のナノチャネルに負電荷を与え得る。これは、Donnan除去として知られる十分に立証された現象にもかかわらず、イオン種の除去率の増強をもたらす。
【表4】
【0068】
実施例8.PTFEMA-SBMA-MAA TFC膜の汚損耐性
双性イオンは、現在知られている最も汚損耐性の高い材料の1つである。これは、汚損を構成する汚染物質表面の吸着事象が、双性イオンを囲む強力な水和シェルによって制限されるためである(シミュレーションによると、ΔGhydration 約-500kJ/mol)。以前の試験では、ランダムな双性イオン共重合体からなる膜は、汚損耐性が高いことが示されており、これは、双性イオンが膜ナノ構造の範囲内からでもなお、防汚剤として機能できることを証明している。このルールがCZAC膜にも適用されるかどうかを試験するために、様々なモデル汚染物質を使用したデッドエンドの濾過を実施する。市販のNF膜をベンチマークとして使用した。膜を24時間汚損させたが、CZAC膜の初期フラックスはベンチマークのフラックスと一致していた。
【0069】
本実施例では、実施例3Bに記載のPTFEMA-SBMA-MAA-B2膜の汚損耐性を、水中油型エマルジョンを使用して測定した。この目的は、膜が汚損耐性を有することを示すことであり、これは、汚損が発生しやすい原料に対抗する膜にとって重要な特性である。
【0070】
汚損実験は、デッドエンドモードで10mL Amicon8010撹拌セルを使用して実施した。膜小片の面積は4.1cm、撹拌速度は500RPM、圧力はすべての実験で50psiであった。時間に対する膜の浸透性を測定するために、コンピューターに接続されたOhaus Scout Proスケールを使用した。時間に対する浸透物の質量の同期測定により、膜の流速の測定が可能になり、膜の浸透性を計算することができた。浸透性を、膜を汚染物質に導入する前の平均DIW浸透性で割った、正規化した浸透性を計算した。油エマルジョンは、界面活性剤、油、及び水を<high>上で5分間ブレンドすることによって調製した。安定化エマルジョン中の界面活性剤:油の質量比は1:9であり、油の濃度は1500mg/Lであった。Span80界面活性剤は一方の汚損実験用であり、DC193界面活性剤はもう一方の汚損実験に使用した。
【0071】
図8A及び図8Bは、実施した上記の2つの汚損実験を示す。いずれもPTFEMA-SBMA-MAA-B2膜が汚損耐性を有することを示している。
【0072】
図8Cは、BSA/CaCl(それぞれ、1000ppm及び10mM)に対するPTFEMA-SBMA-MAA-B1の汚損耐性を、対照として機能するNP30(Microdyne;PES)とともに示す。BSAは一般的なモデルタンパク質汚染物質であり、その吸着傾向を高めるためにカルシウム塩を添加した。PTFEMA-SBMA-MAA-B1は、24時間の汚損実験を通じて、NP30よりも汚損が有意に少ないことがわかった。膜を短時間すすいだ後、PTFEMA-SBMA-MAA-B1はフラックスが完全に回復し、吸着事象が可逆的であったことが確認された。対照的に、NP30は不可逆的に汚損した。
【0073】
図8Dは、フミン酸/アルギン酸塩(各1000ppm)に対するPTFEMA-SBMA-MAA-B2の汚損耐性を、対照として機能するUA60(Trisep;PA)とともに示す。吸着傾向を高めるために、HClでpHを4.5に下げた。PTFEMA-SBMA-MAA-B2は、24時間の汚損実験を通じて、UA60よりも汚損が少なかった。短時間のすすぎの直後に、PTFEMA-SBMA-MAA-B1は初期フラックスの93%の回復を示し、浸透性は5時間後に初期値の96%に戻った。UA60は、初期の低下が大きく(すすぎ直後に82%の回復)、最終的に13時間後に93%の回復に達した。
【0074】
実施例9.PTFEMA-SBMA-MAA-B1 TFC膜の塩素耐性
本実施例では、市販のClorox漂白剤を希釈し、市販の洗浄手順に従ってpHを酸性値に調整することによって調製した塩素化溶液を含有する溶液に、PTFEMA-SBMA-MAA-B1膜を曝露させた。この目的は、PTFEMA-SBMA-MAA-B1膜が塩素に耐性を有することを示すことであり、これにより、膜を一般的な消毒剤である次亜塩素酸ナトリウムで洗浄することができるようになる。NF市場の要であるポリアミド膜は、塩素にさらされると安定せず、この点がこの技術の大きな欠点である。
【0075】
実験を実施するために、デッドエンドモードの10mL Amicon8010撹拌セルを使用した。膜小片の面積は4.1cm、撹拌速度は500RPM、圧力は50psiであった。膜の浸透性を測定するために、コンピューターに接続されたOhaus Scout Proスケールを使用した。時間に対する浸透物の質量の同期測定により、膜の流速の測定が可能になり、膜の浸透性を計算することができた。膜の脱イオン水浸透性を上記のように測定した。塩素化溶液は、市販のClorox洗濯用漂白剤を脱イオン水で希釈し、次亜塩素酸塩の大部分が次亜塩素酸であることを確認するためにpHを4に調整することによって調製した。最終的なHClO濃度は、約15,000mg/Lと推定された。この溶液に膜小片を1~2時間曝露させた。その後、浸透性を再度測定した。
【0076】
図9は、塩素化溶液で処理しても膜の浸透性が変化しないことを示しており、塩素にさらされても膜が安定していることを示している。図10は、PTFEMA-SBMA-MAA-B2結合の化学的性質に対する塩素処理の影響を示している。pH4.5で2,000ppmの次亜塩素酸ナトリウム溶液に16時間浸漬する前後に取得したFTIRスペクトルは、曝露の前後で構造がインタクトなままであることを示している。
【表5】
【0077】
実施例10.PTFEMA-r-SBMA-r-MAATFC膜で観察された塩基の再構成
本実施例では、塩基に対するPTFEMA-SBMA-MAA-B1膜の不可逆的応答(塩基再構成と呼ばれる)を調べた。この目的は、この新規材料に由来する膜のユニークな応答挙動を明らかにすることであった。濾過実験は、デッドエンドモードで10mL Amicon8010撹拌セルを使用して実施した。膜小片の面積は4.1cm、撹拌速度は500RPM、圧力はすべての実験で30~50psiの範囲であった。
【0078】
図11は、PTFEMA-SBMA-MAA-B1膜のアルカリ緩衝系(PBS、pH=7.4)に対する塩基の再構成を示す。10mM PBS溶液への初期の曝露に際して、浸透性は、初期値の約1.8LMH/barから約2.8LMH/barに増加した。膜をDIWと接触させると、浸透性は、蒸留水(DIW)中で約5.1LMH/barに増加した。塩基の再構成後、浸透性は、DIWの5.1LMH/barとPBSの2.8LMH/barの間で可逆的かつ迅速に切り替わり得る。疎水性単量体と双性イオン性単量体のみからなる分離選択層を備えたTFC膜が、PBSに対してそのような応答を示さないというエビデンスが存在する。
【0079】
図11に認められる再構成では、HPO 2-(PBS中で最も強い塩基)による酸性MAAプロトンの脱プロトン化が駆動力であると疑われた。この仮説を検証するために、以下の実験を実施した。最初に、ビタミンB12除去率、NaSO除去率、及び初期のPTFEMA-SBMA-MAA-B1膜の浸透性を測定した。次いで、NaOH(水溶液)(pH11、0.1mM)を膜で濾過し、その間に浸透性を測定した。次いで、膜をDIWに戻し、同じ不可逆的応答が発生したかどうかを確認した。その後、ビタミンB12の除去率とNaSOの除去率を再度測定した。図12A及び図12Bは、この実験の結果を示しており、NaOH(水溶液)が実際にPBSで観察された塩基再構成を引き起こし得ることを示している。PTFEMA-SBMA膜では再構成が観察されなかったことにも留意されたい。図13は、NaOH(水溶液)への曝露後にビタミンB12とNaSOの両方の除去率が減少したことを示しているが、ビタミンB12の除去率はNaSOに比べてより減少していたことに留意されたい。
【0080】
実施例2A及び実施例2Bの濾過実験中の膜の浸透性を、単純な物質収支を使用して一貫して測定した。17種類の異なる非荷電/荷電/色素溶質を捕捉した濾過実験の結果を図14に示す(濾過IDの表については表6を参照)。これらの溶質による濾過中及び濾過後、膜フラックスは影響を受けなかった。このことはさらに、PTFEMA-SBMA-MAA膜の再構成の根本的な原因が、塩基との相互作用であることを意味している。
【表6】
【0081】
また、塩基を再構成したPTFEMA-SBMA-MAA-B1膜が、ナトリウムとカリウム以外の陽イオンを含む塩基性溶液にどのように反応するかを調べた(NaOH(水溶液)は陽イオンとしてナトリウムを含有し、PBSは陽イオンとしてナトリウムとカリウムを含有する)。カルシウム5はカルボキシレートと結合することが知られているため、結合相互作用が膜フラックスに影響を与える可能性があると考えられていた。本実験では、CaSOの塩基性(pH=10)溶液である供給液を使用して、塩基再構成したPTFEMA-SBMA-MAA-B1膜の浸透性を測定した。図15はこの結果を示しており、DIWフラックスの回復時間が長いことを示している。これは、陽イオンと脱プロトン化されたMAAの間の相互作用により、再構成されたPTFEMA-SBMA-MAA膜の浸透性が低下することを示唆している。
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【0082】
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図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B
図8A
図8B
図8C
図8D
図9
図10
図11
図12A
図12B
図13
図14
図15
図16
【国際調査報告】