(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-25
(54)【発明の名称】肝性脳症を評価および処置する方法
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20220715BHJP
A61B 10/00 20060101ALI20220715BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20220715BHJP
A61K 31/198 20060101ALI20220715BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20220715BHJP
A61B 5/11 20060101ALI20220715BHJP
【FI】
A61K45/00
A61B10/00 H
A61P1/16
A61K31/198
A61P25/00
A61B5/11 230
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021566435
(86)(22)【出願日】2020-05-07
(85)【翻訳文提出日】2021-12-24
(86)【国際出願番号】 US2020031854
(87)【国際公開番号】W WO2020227516
(87)【国際公開日】2020-11-12
(32)【優先日】2019-05-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】506164729
【氏名又は名称】オセラ セラピューティクス, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100110663
【氏名又は名称】杉山 共永
(72)【発明者】
【氏名】ブコフツァー,スタンリー
(72)【発明者】
【氏名】ヴィルチェス,レジス
【テーマコード(参考)】
4C038
4C084
4C206
【Fターム(参考)】
4C038VA04
4C038VB12
4C084AA17
4C084NA05
4C084ZA021
4C084ZA751
4C084ZC751
4C206AA01
4C206AA02
4C206FA53
4C206MA03
4C206MA04
4C206MA72
4C206MA86
4C206NA14
4C206ZA75
4C206ZC75
(57)【要約】
本開示は、肝性脳症(HE)を処置または改善する方法であって、HEに罹患している患者におけるHEの重症度を評価するステップ、または顕性肝性脳症(OHE)事象の存在もしくは発生を決定するステップを含む、方法に関する。特に、方法の一部の態様は、HEを異なるステージへと分類するための基準のセットを含み、HEの重症度に基づいた有効な処置の手引きを提供する、新規の肝性脳症段階付け手段(HEST)を使用する。方法の他の態様は、顕性肝性脳症スクリーニング手段(O-HEST)を使用して、OHE事象が生じているかまたはそれが生じたかどうかを決定し、適切な医療および処置の変更の手引きを提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
肝性脳症の処置または改善を必要とする患者において肝性脳症を処置または改善する方法であって:
肝性脳症段階付け手段を使用することにより肝性脳症の重症度を評価するステップであって、前記段階付け手段が第1の基準、第2の基準、第3の基準および第4の基準を含む、ステップ;ならびに
前記患者にアンモニア低下剤の有効量を投与して肝性脳症を処置または改善するステップを含み;
前記第1の基準が事実に関する質問の第1のセットを含み、前記患者が前記すべての事実に関する質問に正しく言葉で回答する場合、または前記患者が1つの事実に関する質問にのみ不正確に言葉で回答する場合に、前記第1の基準を満たし;
前記第2の基準が事実に関する質問の第2のセットを含み、前記患者が2つ以上の事実に関する質問に不正確に回答する場合に、前記第2の基準を満たし;
前記患者において少なくとも1つの症状が観察される場合に前記第3の基準を満たし、前記症状は昏迷、重度の眠気、明らかな混乱および著しい見当識障害からなる群から選択され;
前記患者が昏睡している場合に、前記第4の基準を満たす、方法。
【請求項2】
肝性脳症の処置または改善を必要とする患者において肝性脳症を処置または改善する方法であって:
前記患者における肝性脳症の重症度に関する情報を受け取るステップであって、肝性脳症段階付け手段により前記肝性脳症の重症度が評価され、前記段階付け手段が第1の基準、第2の基準、第3の基準および第4の基準を含む、ステップ;ならびに
前記患者にアンモニア低下剤の有効量を投与して肝性脳症を処置または改善するステップを含み;
前記第1の基準が事実に関する質問の第1のセットを含み、前記患者が前記すべての事実に関する質問に正しく言葉で回答する場合、または前記患者が1つの事実に関する質問にのみ不正確に言葉で回答する場合に、前記第1の基準を満たし;
前記第2の基準が事実に関する質問の第2のセットを含み、前記患者が2つ以上の事実に関する質問に不正確に回答する場合に、前記第2の基準を満たし;
前記患者において少なくとも1つの症状が観察されるかまたは観察されていた場合に前記第3の基準を満たし、前記症状は昏迷、重度の眠気、明らかな混乱および著しい見当識障害からなる群から選択され;
前記患者が昏睡している場合に、前記第4の基準を満たす、方法。
【請求項3】
前記投与するステップが、肝性脳症の評価された重症度に基づく、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
肝性脳症の処置または改善を必要とする患者において肝性脳症を処置または改善する方法であって:
前記患者にアンモニア低下剤の量を投与して肝性脳症を処置または改善するステップ;ならびに
肝性脳症段階付け手段を使用することにより肝性脳症の重症度を評価するステップであって、前記段階付け手段が第1の基準、第2の基準、第3の基準および第4の基準を含む、ステップを含み;
前記第1の基準が事実に関する質問の第1のセットを含み、前記患者が前記すべての事実に関する質問に正しく言葉で回答する場合、または前記患者が1つの事実に関する質問にのみ不正確に言葉で回答する場合に、前記第1の基準を満たし;
前記第2の基準が事実に関する質問の第2のセットを含み、前記患者が2つ以上の事実に関する質問に不正確に回答する場合に、前記第2の基準を満たし;
前記患者において少なくとも1つの症状が観察される場合に前記第3の基準を満たし、前記症状は昏迷、重度の眠気、明らかな混乱および著しい見当識障害からなる群から選択され;
前記患者が昏睡している場合に、前記第4の基準を満たす、方法。
【請求項5】
前記評価するステップが前記肝性脳症処置の有効性を決定する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記肝性脳症処置の有効性に基づいて前記アンモニア低下剤の量を調節するステップをさらに含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記肝性脳症段階付け手段が、羽ばたき振戦の観察または決定を必要としない、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
肝性脳症の処置または改善を必要とする患者において肝性脳症を処置または改善する方法であって:
肝性脳症段階付け手段を使用することにより肝性脳症の重症度を評価するステップであって、前記段階付け手段が第1の基準、第2の基準、第3の基準および第4の基準を含む、ステップ;ならびに
前記患者にアンモニア低下剤の有効量を投与して肝性脳症を処置または改善するステップを含み;
前記第1の基準が事実に関する質問の第1のセットを含み、前記患者が前記すべての事実に関する質問に正しく言葉で回答し、前記患者が羽ばたき振戦を有しない場合に、前記第1の基準を満たし;
前記第2の基準が事実に関する質問の第2のセットを含み、前記患者が前記すべての事実に関する質問に正しく言葉で回答できず、前記患者が羽ばたき振戦を有する場合に、前記第2の基準を満たし;
前記患者において少なくとも1つの症状が観察される場合に前記第3の基準を満たし、前記症状は昏迷、重度の眠気、明らかな混乱および著しい見当識障害からなる群から選択され;
前記患者が昏睡している場合に、前記第4の基準を満たす、方法。
【請求項9】
肝性脳症の処置または改善を必要とする患者において肝性脳症を処置または改善する方法であって:
前記患者における肝性脳症の重症度に関する情報を受け取るステップであって、肝性脳症段階付け手段により前記肝性脳症の重症度が評価され、前記段階付け手段が第1の基準、第2の基準、第3の基準および第4の基準を含む、ステップ;ならびに
前記患者にアンモニア低下剤の有効量を投与して肝性脳症を処置または改善するステップを含み;
前記第1の基準が事実に関する質問の第1のセットを含み、前記患者が前記すべての事実に関する質問に正しく言葉で回答し、前記患者が羽ばたき振戦を有しない場合に、前記第1の基準を満たし;
前記第2の基準が事実に関する質問の第2のセットを含み、前記患者が前記すべての事実に関する質問に正しく言葉で回答できず、前記患者が羽ばたき振戦を有する場合に、前記第2の基準を満たし;
前記患者において少なくとも1つの症状が観察されるかまたは観察されていた場合に前記第3の基準を満たし、前記症状は昏迷、重度の眠気、明らかな混乱および著しい見当識障害からなる群から選択され;
前記患者が昏睡している場合に、前記第4の基準を満たす、方法。
【請求項10】
前記投与するステップが、肝性脳症の評価された重症度に基づく、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
肝性脳症の処置または改善を必要とする患者において肝性脳症を処置または改善する方法であって:
前記患者にアンモニア低下剤の量を投与して肝性脳症を処置または改善するステップ;ならびに
肝性脳症段階付け手段を使用することにより肝性脳症の重症度を評価するステップであって、前記段階付け手段が第1の基準、第2の基準、第3の基準および第4の基準を含む、ステップを含み;
前記第1の基準が事実に関する質問の第1のセットを含み、前記患者が前記すべての事実に関する質問に正しく言葉で回答し、前記患者が羽ばたき振戦を有しない場合に、前記第1の基準を満たし;
前記第2の基準が事実に関する質問の第2のセットを含み、前記患者が前記すべての事実に関する質問に正しく言葉で回答できず、前記患者が羽ばたき振戦を有する場合に、前記第2の基準を満たし;
前記患者において少なくとも1つの症状が観察される場合に前記第3の基準を満たし、前記症状は昏迷、重度の眠気、明らかな混乱および著しい見当識障害からなる群から選択され;
前記患者が昏睡している場合に、前記第4の基準を満たす、方法。
【請求項12】
前記評価するステップが前記肝性脳症処置の有効性を決定する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記肝性脳症処置の有効性に基づいて前記アンモニア低下剤の量を調節するステップをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記患者においてアセスメントの間に30秒のうち3回以上の不随意的な手の羽ばたきが観察される場合、羽ばたき振戦が存在する、請求項8から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記肝性脳症の重症度が、第1のステージ、第2のステージ、第3のステージおよび第4のステージを含み;前記肝性脳症の第1のステージは前記第1の基準を満たすことにより定義され、前記肝性脳症の第2のステージは前記第2の基準を満たすことにより定義され、前記肝性脳症の第3のステージは前記第3の基準を満たすことにより定義され、前記肝性脳症の第4のステージは前記第4の基準を満たすことにより定義される、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記肝性脳症の第1のステージが2つのサブステージを有する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記事実に関する質問の第1のセットおよび前記事実に関する質問の第2のセットが、各々、前記患者の名前、居住地、誕生日、時間、現位置もしくは一般的かつ広く知られている他の事実、またはそれらの組合せに対する問いを含む、請求項1から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記事実に関する質問の第1のセットおよび前記事実に関する質問の第2のセットが、各々、5つから7つの質問を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記事実に関する質問の第1のセットが前記事実に関する質問の第2のセットと同じである、請求項17または18に記載の方法。
【請求項20】
肝性脳症の処置または改善を必要とする患者において肝性脳症を処置または改善する方法であって:
第1のアセスメントおよび第2のアセスメントを含む肝性脳症スクリーニング手段を使用することにより、顕性肝性脳症事象の存在を決定するステップ;ならびに
顕性肝性脳症事象の存在を示すかまたはそれを生じた場合に、前記患者にアンモニア低下剤の有効量を投与して肝性脳症を処置または改善するステップを含み;
前記第1のアセスメントが、事実に関する質問のセットを使用して、前記患者が時間または場所に対して見当識を失っているかどうかを決定するステップを含み、前記第2のアセスメントが、前記患者の意識のレベルを決定するステップを含み;
前記肝性脳症スクリーニング手段が、羽ばたき振戦の観察または決定を必要としない、方法。
【請求項21】
肝性脳症の処置または改善を必要とする患者において肝性脳症を処置または改善する方法であって:
前記患者における顕性肝性脳症事象の存在についての情報を受け取るステップであって、前記顕性肝性脳症事象の存在が肝性脳症スクリーニング手段により決定され、前記スクリーニング手段が第1のアセスメントおよび第2のアセスメントを含む、ステップ;ならびに
顕性肝性脳症事象の存在を示すかまたはそれを生じた場合に、前記患者に医薬の有効量を投与して肝性脳症を処置または改善するステップを含み;
前記第1のアセスメントが、事実に関する質問のセットを使用して、前記患者が時間または場所に対して見当識を失っているかどうかを決定するステップを含み、前記第2のアセスメントが、前記患者の意識のレベルを決定するステップを含み;
前記肝性脳症スクリーニング手段が、羽ばたき振戦の観察または決定を必要としない、方法。
【請求項22】
前記患者が時間に関する2つ以上の質問に正しく答えられない場合に、前記患者が時間に対して見当識を失っていると考えられ、前記患者が場所に関する1つまたは複数の質問に正しく答えられない場合に、前記患者が場所に対して見当識を失っていると考えられる、請求項20または21に記載の方法。
【請求項23】
前記第2のアセスメントにおける前記意識のレベルが、覚醒および反応性;眠っているが反応性;重度の眠気、無気力または傾眠;昏迷;または昏睡状態を含む、請求項20から22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記患者の意識のレベルが覚醒および反応性;または眠っているが反応性である場合に前記患者が時間または場所のいずれかに対して見当識を失っている場合、顕性肝性脳症事象が存在する、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記患者の意識のレベルが重度の眠気、無気力または傾眠;昏迷;または昏睡状態であり、他の精神状態の変化の原因が除外される場合、顕性肝性脳症事象が存在する、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
顕性肝性脳症事象の存在の決定が、肝性脳症の分類または等級付けの決定に独立である、請求項20から25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記患者が高アンモニア血症に罹患している、請求項1から26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記患者が急性肝不全または慢性肝疾患を有する、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記患者が肝硬変または肝代償不全を有する、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記アンモニア低下剤が、リン酸マグネシウム生成物(MGP)、グリセロールフェニルブチレート(GPB)、フェニル酢酸ナトリウム、フェニル酪酸(PBA)、フェニル酪酸ナトリウム(NaPBA)、安息香酸ナトリウム、L-アラビノース、緩下剤、抗生物質、L-オルニチンL-アスパルテート(LOLA)、フェニルアセテートもしくはフェニルブチレートの少なくとも1つと組み合わせたオルニチン、またはそれらの任意の組合せを含む、請求項1から29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
前記アンモニア低下剤がL-オルニチンフェニルアセテートを含む、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
L-オルニチンフェニルアセテートが経口または静脈内注入により投与される、請求項31に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、医薬品化学、生化学および医学の分野に関する。特に、本開示は、患者における様々なステージの肝性脳症を評価および処置する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高アンモニア血症は肝疾患の顕著な特徴であり、血流中の過剰のアンモニアを特徴とする。肝性脳症(HE)は、多様な臨床状況、例えば急性または慢性の肝疾患および自発性門脈体静脈シャント(spontaneous portosystemic venous shunting)において生じる複雑な神経精神系障害である。
【0003】
最も一般的な硬変の合併症である肝性脳症(HE)は、急性または慢性の肝不全を併発することのある進行性高アンモニア血症の主な臨床的結果として捉えられることがある。これは、脳機能の変化のわずかな徴候から顕性の精神的および/または神経学的症状の範囲にわたる広範な神経精神系症状を含む、精神状態の変化を特徴とする。HEは、睡眠覚醒異常、認知の変化、運動機能の障害を引き起こすことがあり、昏睡に至ることがある。
【0004】
肝性脳症は、顕性および不顕性肝性脳症にさらに分けられ、術語学、診断基準および重症度分類に関して相当の議論の対象となっている(Bajaj et al., Aliment Pharmacol Ther. 2011;33(7):739‐747;Hassanein et al., Am J Gastroenterol. 2009;104(6):1392‐1400)。不顕性肝性脳症(CHE)は肝性脳症の前臨床ステージとして考えられ、一方で顕性肝性脳症(OHE)は、医療およびおそらく処置の変更を必要とする重篤な事象である。HEアセスメントの一部の態様、および処置効果を臨床試験においてどのように測定すべきかに関しては、総意に達している。
【0005】
West Haven基準は、意識、知的機能および行動の障害に基づいてHEを診断および等級付けするために使用される、標準的な尺度である。主な批判は、神経学的症状はあまり精密ではなく、したがって観察者の解釈を受けることがあり、ステージ間の区別に非特異的な徴候および症状が使用されることが多く、再現性の欠如および矛盾の可能性を生じるため、グレード1と2との間の分別に相当な困難が存在するということである。内科医がHEの重症度を評価するために現在利用可能な手段は、West Haven(WH)等級付けシステムを含め、いずれも規制上の承認のために必要とされる精度のレベルに達していない。したがって、臨床的状況における使用のための、有効なHE等級付け測定手段を開発する必要が依然として存在する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、1つまたは複数の新規の肝性脳症段階付け手段(hepatic encephalopathy staging tools)(HEST)を使用して、肝性脳症(HE)を処置または改善する方法に関する。
【0007】
本開示の一部の実施形態は、患者において肝性脳症を処置または改善する方法であって:肝性脳症段階付け手段を使用することにより肝性脳症の重症度を評価するステップであって、前記段階付け手段が第1の基準、第2の基準、第3の基準および第4の基準を含む、ステップ;ならびに前記患者に医薬の有効量を投与して肝性脳症を処置または改善するステップを含み;第1の基準が事実に関する質問の第1のセットを含み、患者がすべての事実に関する質問の第1のセットに正しく言葉で回答し、患者が羽ばたき振戦を有しない場合に、第1の基準を満たし;第2の基準が事実に関する質問の第2のセットを含み、患者がすべての事実に関する質問の第2のセットに正しく言葉で回答できず、患者が羽ばたき振戦を有する場合に、第2の基準を満たし;患者において少なくとも1つの症状が観察されるかまたは観察されていた場合に第3の基準を満たし、症状は昏迷、重度の眠気、明らかな混乱および著しい見当識障害からなる群から選択され;患者が昏睡している場合に、第4の基準を満たす、方法に関する。一部の実施形態では、肝性脳症を処置または改善するための医薬の有効量の投与は、肝性脳症の評価された重症度により決定される。
【0008】
本開示の一部の他の実施形態は、患者において肝性脳症を処置または改善する方法であって:患者における肝性脳症の重症度に関する情報を受け取るステップであって、肝性脳症の重症度が肝性脳症段階付け手段により評価され、前記段階付け手段が第1の基準、第2の基準、第3の基準および第4の基準を含む、ステップ;ならびに前記患者に医薬の有効量を投与して肝性脳症を処置または改善するステップを含み;第1の基準が事実に関する質問の第1のセットを含み、患者がすべての事実に関する質問の第1のセットに正しく言葉で回答し、患者が羽ばたき振戦を有しない場合に、第1の基準を満たし;第2の基準が事実に関する質問の第2のセットを含み、患者がすべての事実に関する質問の第2のセットに正しく言葉で回答できず、患者が羽ばたき振戦を有する場合に、第2の基準を満たし;患者において少なくとも1つの症状が観察されるかまたは観察されていた場合に第3の基準を満たし、症状は昏迷、重度の眠気、明らかな混乱および著しい見当識障害からなる群から選択され;患者が昏睡している場合に、第4の基準を満たす、方法に関する。一部の実施形態では、医薬の有効量の投与は、肝性脳症の評価された重症度により決定される。
【0009】
本開示の一部のさらなる実施形態は、患者において肝性脳症を処置する方法であって:前記患者に医薬の有効量を投与して肝性脳症を処置するステップ;ならびに肝性脳症段階付け手段を使用することにより肝性脳症の重症度を評価するステップであって、前記段階付け手段が第1の基準、第2の基準、第3の基準および第4の基準を含む、ステップを含み;第1の基準が事実に関する質問の第1のセットを含み、患者がすべての事実に関する質問の第1のセットに正しく言葉で回答し、患者が羽ばたき振戦を有しない場合に、第1の基準を満たし;第2の基準が事実に関する質問の第2のセットを含み、患者がすべての事実に関する質問の第2のセットに正しく言葉で回答できず、患者が羽ばたき振戦を有する場合に、第2の基準を満たし;患者において少なくとも1つの症状が観察されるかまたは観察されていた場合に第3の基準を満たし、症状は昏迷、重度の眠気、明らかな混乱および著しい見当識障害からなる群から選択され;患者が昏睡している場合に、第4の基準を満たす、方法に関する。一部の実施形態では、医薬の投与後の肝性脳症のステージのアセスメントは、肝性脳症処置の有効性を評価することができる。一部のさらなる実施形態では、方法は、肝性脳症処置の有効性に基づいて医薬の量を調節するステップをさらに含む。
【0010】
本開示の一部の実施形態は、患者において肝性脳症を処置または改善する方法であって:肝性脳症段階付け手段を使用することにより肝性脳症の重症度を評価するステップであって、前記段階付け手段が第1の基準、第2の基準、第3の基準および第4の基準を含む、ステップ;ならびに前記患者に医薬の有効量を投与して肝性脳症を処置または改善するステップを含み;第1の基準が事実に関する質問の第1のセットを含み、患者がすべての事実に関する質問の第1のセットに正しく言葉で回答する場合、または患者が1つの事実に関する質問にのみ不正確に言葉で回答する場合に、第1の基準を満たし;第2の基準が事実に関する質問の第2のセットを含み、患者が2つ以上の事実に関する質問に不正確に回答する場合に、第2の基準を満たし;患者において少なくとも1つの症状が観察されるかまたは観察されていた場合に第3の基準を満たし、症状は昏迷、重度の眠気、明らかな混乱および著しい見当識障害からなる群から選択され;患者が昏睡している場合に、第4の基準を満たす、方法に関する。一部の実施形態では、肝性脳症を処置または改善するための医薬の有効量の投与は、肝性脳症の評価された重症度により決定される。
【0011】
本開示の一部の他の実施形態は、患者において肝性脳症を処置または改善する方法であって:患者における肝性脳症の重症度に関する情報を受け取るステップであって、肝性脳症の重症度が肝性脳症段階付け手段により評価され、前記段階付け手段が第1の基準、第2の基準、第3の基準および第4の基準を含む、ステップ;ならびに前記患者に医薬の有効量を投与して肝性脳症を処置または改善するステップを含み;第1の基準が事実に関する質問の第1のセットを含み、患者がすべての事実に関する質問の第1のセットに正しく言葉で回答する場合、または患者が1つの事実に関する質問にのみ不正確に言葉で回答する場合に、第1の基準を満たし;第2の基準が事実に関する質問の第2のセットを含み、患者が2つ以上の事実に関する質問に不正確に回答する場合に、第2の基準を満たし;患者において少なくとも1つの症状が観察されるかまたは観察されていた場合に第3の基準を満たし、症状は昏迷、重度の眠気、明らかな混乱および著しい見当識障害からなる群から選択され;患者が昏睡している場合に、第4の基準を満たす、方法に関する。一部の実施形態では、医薬の有効量の投与は、肝性脳症の評価された重症度により決定される。
【0012】
本開示の一部のさらなる実施形態は、患者において肝性脳症を処置する方法であって:前記患者に医薬の有効量を投与して肝性脳症を処置するステップ;ならびに肝性脳症段階付け手段を使用することにより肝性脳症の重症度を評価するステップであって、前記段階付け手段が第1の基準、第2の基準、第3の基準および第4の基準を含む、ステップを含み;第1の基準が事実に関する質問の第1のセットを含み、患者がすべての事実に関する質問の第1のセットに正しく言葉で回答する場合、または患者が1つの事実に関する質問にのみ不正確に言葉で回答する場合に、第1の基準を満たし;第2の基準が事実に関する質問の第2のセットを含み、患者が2つ以上の事実に関する質問に不正確に回答する場合に、第2の基準を満たし;患者において少なくとも1つの症状が観察される場合に第3の基準を満たし、症状は昏迷、重度の眠気、明らかな混乱および著しい見当識障害からなる群から選択され;患者が昏睡している場合に、第4の基準を満たす、方法に関する。一部の実施形態では、医薬の投与後の肝性脳症のステージのアセスメントは、肝性脳症処置の有効性を評価することができる。一部のさらなる実施形態では、方法は、肝性脳症処置の有効性に基づいて医薬の量を調節するステップをさらに含む。
【0013】
本開示の一部の追加の実施形態は、それを必要とする患者において肝性脳症を処置または改善する方法であって:第1のアセスメントおよび第2のアセスメントを含む肝性脳症スクリーニング手段を使用することにより、顕性肝性脳症事象の存在を決定するステップ;ならびに顕性肝性脳症事象の存在を示すかまたはそれを生じた場合に、前記患者に医薬の有効量を投与して肝性脳症を処置または改善するステップを含み;第1のアセスメントが、事実に関する質問のセットを使用して、患者が時間または場所に対して見当識を失っているかどうかを決定するステップを含み、第2のアセスメントが、患者の意識のレベルを決定するステップを含み;肝性脳症スクリーニング手段が、羽ばたき振戦の観察または決定を必要としない、方法に関する。
【0014】
本開示の一部のさらなる実施形態は、それを必要とする患者において肝性脳症を処置または改善する方法であって:患者における顕性肝性脳症事象の存在についての情報を受け取るステップであって、顕性肝性脳症事象の存在が肝性脳症スクリーニング手段により決定され、前記スクリーニング手段が第1のアセスメントおよび第2のアセスメントを含む、ステップ;ならびに顕性肝性脳症事象の存在を示すかまたはそれを生じた場合に、前記患者に医薬の有効量を投与して肝性脳症を処置または改善するステップを含み;第1のアセスメントが、事実に関する質問のセットを使用して、患者が時間または場所に対して見当識を失っているかどうかを決定するステップを含み、第2のアセスメントが、患者の意識のレベルを決定するステップを含み;肝性脳症スクリーニング手段が、羽ばたき振戦の観察または決定を必要としない、方法に関する。
【0015】
本明細書において記載されている方法の任意の実施形態では、肝性脳症を処置または改善するための医薬は、アンモニア低下剤(ammonia lowering agent)を含む。一部のさらなる実施形態では、アンモニア低下剤はL-オルニチンフェニルアセテートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本開示の一部の態様は、臨床家が報告するHEステージのアセスメントのための転帰尺度である、1つまたは複数の新規の肝性脳症段階付け手段を使用して、肝性脳症(HE)を処置または改善する方法に関する。HE段階付け手段は、入院する根拠となるのに十分な顕性肝性脳症、すなわちHEの病院グレードの急性エピソードのアセスメントのために使用することができる。これは、標準化された方法における一般的な医学的実践の粋に基づいた具体的な内容を使用し、この状況における簡素で十分に適用可能なHEアセスメントの手法を達成する。
【0017】
本開示の一部の他の態様は、顕性肝性脳症スクリーニング手段(OHESTまたはO-HEST)を使用してHEを処置または改善する方法に関する。OHESTは、患者が不顕性HE(CHE)から顕性HE(OHE)へと転じた場合を特定することが重要である、HEの予防処置を評価する臨床試験において使用することができる。OHEの発生率または再発率を記録することは、予防処置の利益または効果を理解するために重要なステップである。OHESTは、OHE事象の存在または不存在を特定するための、臨床家が報告する手段として使用することができる。
【0018】
定義
使用されている節の見出しは、組織化のみを目的としており、決して説明されている主題を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0019】
別途定義されない限り、本明細書において使用されているすべての技術用語および科学用語は、当業者によって一般的に理解されているものと同じ意味を有する。「を含む(including)」、ならびに他の形態、例えば「を含む(include)」、「を含む(includes)」および「を含んだ(included)」という用語の使用は、限定的ではない。「を有する(having)」、ならびに他の形態、例えば「を有する(have)」「を有する(has)」および「を有した(had)」という用語の使用は、限定的ではない。本明細書において使用される場合、請求項の範囲の移行句またはボディのいずれにもかかわらず、「を含む(comprise(s))」および「を含む(comprising)」という用語は、制限のない意味を有するとして解釈されることとなる。すなわち、上記の用語は、「少なくとも~を有する」または「少なくとも~を含む」という句と同義に解釈されることとなる。例えば、方法の文脈において使用される場合、「を含む(comprising)」という用語は、方法が少なくとも列挙されたステップを含むが、追加のステップを含むことができることを意味する。化合物、組成物、製剤または機器の文脈において使用される場合、「を含む(comprising)」という用語は、化合物、組成物、製剤または機器が少なくとも列挙された特性または構成要素を含むが、追加の特性または構成要素も含むことができることを意味する。
【0020】
本明細書において使用される場合、一般的な略語は以下のように定義される:
CT 信頼区間
GCS グラスゴー昏睡尺度(Glasgow Coma Scale)
HE 肝性脳症
HEST 肝性脳症段階付け手段
MO-log 修正見当識ログ(Modified orientation log)
OTE 全体処置評価(Overall treatment evaluation)
【0021】
「を処置する(treat)」、「処置(treatment)」または「を処置する(treating)」は、本明細書において使用される場合、予防および/または治療目的のための医薬組成物/製剤を投与することを指す。「予防処置」という用語は、疾患を未だ患っていないが、特定の疾患に感受性であるか、またはそのリスクがある患者を処置し、それにより、処置が、患者が疾患を発症する可能性を減少させることを指す。「治療処置」という用語は、既に疾患を患っている患者に処置を施すことを指す。
【0022】
「羽ばたき振戦」という用語は、本明細書において使用される場合、代謝性脳症のために姿勢を維持することができないことを特徴とする運動性障害を指す。これは、診察で、患者に手を可能な限り後ろへと背屈させながら彼らの上肢をまっすぐ前に保持させることにより、顕在化させることができる。羽ばたき振戦を示す場合、手の下方への「羽ばたき」が不規則に生じ、その後に短いが異なる瞬間に背屈位置へと戻るであろう。一部の事例では、両方の手が同時に下方へ「羽ばたく」であろう。患者が彼らの腕を前に保持することができない場合、羽ばたき振戦を顕在化させる代替の手法は、患者に腕をベッドの上に伏せて置かせ、次に彼または彼女に手をベッドから背屈させ、再びその位置を30秒間保持させるステップを伴う。ミオクローヌスは、下方への「羽ばたき」を伴う突然の緊張の消失ではなく、むしろ結果として上方への「反射運動」を伴う突然の緊張の増加を表すという事実により区別される。振戦は、作動筋および拮抗筋の収縮の変化に次ぐ、多少の律動的な揺動運動の存在により区別される(Moore DP and Puri BK, Textbook of Clinical Neuropsychiatry and Behavioral Neuroscience, 2012, 3rd edition. London: Taylor & Francis Ltd.)。本明細書において記載されている肝性脳症段階付け手段(HEST)の一部の実施形態では、30秒のうち3回以上の羽ばたきは、羽ばたき振戦について陽性であると考えられる。
【0023】
「昏迷」という用語は、本明細書において使用される場合、不可欠な精神的機能および意識のレベルの喪失を指し、ここで罹患者はほぼ全体として無反応であり、基本的な刺激、例えば疼痛にのみ反応する。これは外部刺激への反応の障害を特徴とする。本明細書において記載されているHESTの一部の実施形態では、患者が重度の眠気を有するか(中等度の刺激により覚醒することができるが、次にほぼすぐに眠りへと戻る)、または患者が無反応であり、患者が強力かつ反復的な刺激によってのみ目を覚ますことができるか、または患者の発話が理解不能である場合、患者は昏迷状態にあると考えられる。
【0024】
「重度の眠気」という用語は、本明細書において使用される場合、対象が中等度の刺激により覚醒することができるが、次にほぼすぐに眠りへと戻る状態を指す。
【0025】
「明らかな混乱」および「著しい見当識障害」という用語は、本明細書において使用される場合、質問または指示への不適切な反応;当惑;質問への不注意;またはそれらの組合せのような行動を含むことができる。
【0026】
本明細書において使用される場合、「昏睡」、または「昏睡状態」という用語は、覚醒不能な無反応性の状態と定義される。
【0027】
本開示の一部の実施形態は、患者において肝性脳症を処置または改善する方法であって:本明細書において記載されている肝性脳症段階付け手段を使用することにより肝性脳症の重症度を評価するステップ;患者に医薬(例えば1つまたは複数のアンモニア低下剤)の有効量を投与して肝性脳症を処置または改善するステップを含む、方法に関する。
【0028】
本開示の一部の他の実施形態は、患者において肝性脳症を処置または改善する方法であって:患者における肝性脳症の重症度に関する情報を受け取るステップであって、肝性脳症の重症度が本明細書において記載されている肝性脳症段階付け手段により評価される、ステップ;および患者に医薬(例えば1つまたは複数のアンモニア低下剤)の有効量を投与して肝性脳症を処置または改善するステップを含む、方法に関する。
【0029】
本開示の一部のさらなる実施形態は、患者において肝性脳症を処置または改善する方法であって:患者に医薬(例えば1つまたは複数のアンモニア低下剤)の有効量を投与して肝性脳症を処置するステップ;および本明細書において記載されている肝性脳症段階付け手段を使用することにより肝性脳症の重症度を評価するステップを含む、方法に関する。
【0030】
一部の実施形態では、肝性脳症を処置または改善するための医薬(例えば1つまたは複数のアンモニア低下剤)の有効量の投与は、肝性脳症の評価された重症度により決定されるか、またはそれに基づく。
【0031】
一部の実施形態では、医薬の投与後の肝性脳症のステージのアセスメントは、肝性脳症処置の有効性を評価するために使用することができる。
【0032】
本明細書において記載されている方法の任意の実施形態では、医薬(例えば1つまたは複数のアンモニア低下剤)の量は、肝性脳症の評価された重症度または処置の有効性に基づいて調節することができる。
【0033】
本明細書において記載されている方法の任意の実施形態では、方法は、肝性脳症を患っている患者の処置を選択するステップを含むことができる。一部のそのような実施形態では、肝性脳症スクリーニング手段、例えば本明細書において記載されている顕性肝性脳症スクリーニング手段(O-HEST)を使用して、患者が顕性肝性脳症を患っていたか、またはそれを患っているかどうかを決定することができる。
【0034】
肝性脳症段階付け手段(HEST)
本明細書において記載されている肝性脳症段階付け手段の一実施形態は、4つの基準:第1の基準、第2の基準、第3の基準および第4の基準を含む。第1の基準は、事実に関する質問の第1のセットを含む。患者がすべての事実に関する質問の第1のセットに正しく言葉で回答する場合に、第1の基準を満たす。一部のそのような実施形態では、第1の基準を満たす患者はまた、羽ばたき振戦を有しない。第2の基準は、事実に関する質問の第2のセットを含む。患者が羽ばたき振戦を有する、および/またはすべての事実に関する質問の第2のセットに正しく言葉で回答できない場合に、第2の基準を満たす。昏迷、重度の眠気、明らかな混乱および著しい見当識障害からなる群から選択される1つまたは複数の症状を含む少なくとも1つの症状が患者において観察されるかまたは観察されていた場合に第3の基準を満たす。患者が昏睡している場合に、第4の基準を満たす。
【0035】
本明細書において記載されている肝性脳症段階付け手段の別の実施形態は、4つの基準:第1の基準、第2の基準、第3の基準および第4の基準を含む。第1の基準は、事実に関する質問の第1のセットを含む。患者がすべての事実に関する質問に正しく言葉で回答するか、または患者が1つの事実に関する質問にのみ不正確に言葉で回答する場合に、第1の基準を満たす。第2の基準は事実に関する質問の第2のセットを含み、患者が事実に関する質問の第2のセットからの2つ以上の質問に不正確に回答する場合に、第2の基準を満たす。昏迷、重度の眠気、明らかな混乱および著しい見当識障害からなる群から選択される1つまたは複数の症状を含む少なくとも1つの症状が患者において観察されるかまたは観察されていた場合に第3の基準を満たす。患者が昏睡している場合に、第4の基準を満たす。肝性脳症段階付け手段のこの実施形態では、患者が羽ばたき振戦を有するかどうかの観察または決定は要件とされない。
【0036】
本明細書において記載されている第1の基準の一部の実施形態では、事実に関する質問の第1のセットおよび第2のセットは、各々、患者の名前、居住地、誕生日、現位置、時間、一般的かつ広く知られている他の事実、またはそれらの組合せに対する問いを含む。例えば、事実に関する質問は、「あなたの名前は何ですか」、「私たちはどの市にいますか」、「ここはどのようなところですか」、「何年ですか」、「何月ですか」、「何年に生まれましたか」、「現在の大統領(または国の指導者)は誰ですか」等を含むことができる。一部のそのような実施形態では、事実に関する質問の第1のセットおよび第2のセットは同じであることができる。一部の実施形態では、質問の第1のセットおよび第2のセットは、各々、4、5、6、7または8つの質問を含むことができる。第1の基準は、患者がなんらかの見当識障害を有するかどうかを評価するために設計される。患者がすべての事実に関する質問に正しく回答することが可能であるか、または1つの質問にのみ不正確に回答することが可能である場合に、第1の基準を満たすかまたはそれに沿う。一部の実施形態では、患者においてアセスメントの間に30秒のうち3回以上の不随意的な手の羽ばたきが観察される場合、羽ばたき振戦が存在するか、それと診断される。
【0037】
本明細書において記載されている方法の一部の実施形態では、HESTは、肝性脳症(HE)の重症度を評価するために使用される。肝性脳症の重症度は、第1のステージ、第2のステージ、第3のステージおよび第4のステージに分けられるか、またはそれらに分類される。一部のそのような実施形態では、肝性脳症の第1のステージは、第1の基準を満たすことにより定義される。一部の場合では、第1のステージは、2つのサブステージ、例えばステージ0およびステージ1にさらに分けられる。HEの第1のステージとして分類された患者は、一般的に、見当識障害を有しないか、または非常にわずかなまたは軽度の見当識障害を有する。そのような患者は、一般的には覚醒しており、分別があり、臨床家と会話することが可能である。一部のそのような実施形態では、肝性脳症の第2のステージは、第2の基準を満たすことにより定義される。HEの第2の段階として分類された患者は、眠気があることがあるが、一般的に容易に覚醒可能である。そのような患者は、臨床家と会話することが可能であるが、反応がより遅いことがある。一部のそのような実施形態では、肝性脳症の第3のステージは、第3の基準を満たすことにより定義される。一部のそのような実施形態では、肝性脳症の第4のステージは、第4の基準を満たすことにより定義される。
【0038】
本明細書において記載されている異なる基準は、互いに排他的であるように設計され、これは患者が1つの基準に沿う場合、彼/彼女が他の基準にも沿うことはありそうにないことを意味する。例えば、患者が第3の基準により記載された症状のいずれかを有する場合、彼/彼女が事実に関する質問に反応するか注意を払うことはありそうにないため、そのような患者が第2の基準および第3の基準の両方に沿うことは、ほぼありそうにない。
【0039】
特定の一例では、本明細書において記載されているHESTは、以下に概説される基準を含む:
【0040】
【0041】
別の例では、本明細書において記載されているHESTは、以下に概説される基準を含む。このバージョンのHESTは、HE重症度の決定において、羽ばたき振戦の存在または不存在に依拠しない。
【0042】
【0043】
本明細書において記載されている方法の一部の実施形態では、肝性脳症について処置されている患者は、高アンモニア血症を患っている。一部のそのような実施形態では、患者は、結果として血流中に過剰のアンモニアを生じ、したがって肝性脳症の症状を呈する、急性肝不全または慢性の肝疾患を有することがある。一部のさらなる実施形態では、患者は、肝硬変(例えばChild-Pugh A、BまたはCとして分類された硬変)、または肝代償不全を有する。
【0044】
本明細書において記載されている方法の任意の実施形態では、HESTは、肝性脳症の重症度(例えばグレード2、3または4)を決定するために使用することができる。HESTは、医療従事者(例えば医者、臨床家)、または非医療従事者(例えば介護者)により使用することができる。
【0045】
顕性肝性脳症スクリーニング手段(O-HEST)
本開示の一部の追加の実施形態は、それを必要とする患者において肝性脳症を処置または改善する方法であって:第1のアセスメントおよび第2のアセスメントを含む肝性脳症スクリーニング手段を使用することにより、顕性肝性脳症事象の存在を決定するステップ;ならびに顕性肝性脳症事象の存在を示すかまたはそれを生じた場合に、前記患者に医薬(例えば1つまたは複数のアンモニア低下剤)の有効量を投与して肝性脳症を処置または改善するステップを含み;第1のアセスメントが、事実に関する質問のセットを使用して、患者が時間または場所に対して見当識を失っているかどうかを決定するステップを含み、第2のアセスメントが、患者の意識のレベルを決定するステップを含み;肝性脳症スクリーニング手段が、羽ばたき振戦の観察または決定を必要としない、方法に関する。
【0046】
本開示の一部のさらなる実施形態は、それを必要とする患者において肝性脳症を処置または改善する方法であって:患者における顕性肝性脳症事象の存在についての情報を受け取るステップであって、顕性肝性脳症事象の存在が肝性脳症スクリーニング手段により決定され、前記スクリーニング手段が第1のアセスメントおよび第2のアセスメントを含む、ステップ;ならびに顕性肝性脳症事象の存在を示すかまたはそれを生じた場合に、前記患者に医薬(例えば1つまたは複数のアンモニア低下剤)の有効量を投与して肝性脳症を処置または改善するステップを含み;第1のアセスメントが、事実に関する質問のセットを使用して、患者が時間または場所に対して見当識を失っているかどうかを決定するステップを含み、第2のアセスメントが、患者の意識のレベルを決定するステップを含み;肝性脳症スクリーニング手段が、患者が羽ばたき振戦を有するかどうかの観察または決定を必要としない、方法に関する。
【0047】
一部の実施形態では、患者が時間に関する2つ以上の質問に正しく答えられない場合に、患者は時間に対して見当識を失っていると考えられ、患者が場所に関する1つまたは複数の質問に正しく答えられない場合に、患者は場所に対して見当識を失っていると考えられる。一部のそのような実施形態では、患者が時間に対して見当識を失っているかどうかを決定するための質問のセットは、年、月、日または週および日付についての質問を含むことができる。一部のそのような実施形態では、患者が場所に対して見当識を失っているかどうかを決定するための質問のセットは、国、省/州、市/町または患者が現在いる場所の種類(例えば病院または家)についての質問を含むことができる。一部のさらなる実施形態では、事実に関する質問は、患者が人に対して見当識を失っていたかどうかの決定を必要としない(例えば、自身または家族の名前に関する質問がない等)。
【0048】
特定の一実施形態では、時間および場所に関する事実に関する質問は、以下を含む:
【0049】
【0050】
一部の実施形態では、第2のアセスメントにおける意識のレベルは、覚醒および反応性;眠っているが反応性;重度の眠気、無気力または傾眠;昏迷;または昏睡状態を含む。例えば、患者が覚醒しており会話することができる場合、患者における意識のレベルは、覚醒および反応性であると考えることができる。患者が会話する場合に反応がより遅いことがある場合、患者は眠気があるが反応性であると考えることができる。一部のそのような実施形態では、患者の意識のレベルが覚醒および反応性;または眠っているが反応性である場合に患者が時間または場所のいずれかに対して見当識を失っている場合、顕性肝性脳症事象が存在する。一部の他の実施形態では、患者の意識のレベルが重度の眠気、無気力または傾眠;昏迷;または昏睡状態であり、他の精神状態の変化の原因、例えばアルコール中毒が除外される場合、顕性肝性脳症事象が存在する。例えば、患者が反応を開始するために反復性の言葉でのまたは中等度の身体的刺激を必要とすることがある;容易にまたは急速に眠りへと戻ることがある場合、患者の意識のレベルは、重度の眠気、無気力または傾眠であると考えることができる。患者は強力かつ反復性の身体性刺激によってのみ覚醒することができ;患者が理解不能な発話をするようである場合、患者の意識のレベルは、昏迷であると考えることができる。患者が覚醒不能であり、いかなる言葉での刺激または有害な刺激にも無反応である場合、患者の意識のレベルは昏睡状態であると考えることができる。
【0051】
一部の実施形態では、顕性肝性脳症事象の存在の決定は、肝性脳症の分類または等級付け(本明細書において記載されているHESTの実施形態または従来の等級付けシステム、例えばWest Haven(WH)等級付けシステムのいずれかを使用する)のいかなる決定にも独立である。例えば、医療従事者の介護者は、肝性脳症エピソードの等級を決定する必要がない。
【0052】
本明細書において使用される場合、「対象における顕性肝性脳症事象の存在」という言葉は、本明細書において記載されている方法において使用される場合、対象が顕性肝性脳症エピソードを経験しているか最近経験した場合を含む。
【0053】
本明細書において記載されている方法の任意の実施形態では、O-HESTは、医療従事者(例えば医者、臨床家)、または非医療従事者(例えば介護者)により使用することができる。
【0054】
肝性脳症処置
肝性脳症を有する患者への一般的な治療は、アンモニアの濃度を減少させるための戦略を伴う。これらには、飲食物のタンバク質摂取の制限;ラクツロース、ネオマイシン、L-オルニチンL-アスパルテート(LOLA)または安息香酸ナトリウムの投与;および洗腸が挙げられる。フェニル酢酸(例えばAMMONUL(登録商標))またはフェニル酢酸のプロドラッグ、例えばフェニルブチレート(BUPHENYL(登録商標))またはグリセロールフェニルブチレート(RAVICTI(登録商標))をアンモニアスカベンジャー(結合剤)として含有する、尿素回路障害(UCD)による高アンモニア血症の処置のための、現在発売されている製品が存在する。RAVICTI(登録商標)も、臨床試験において評価され、肝性脳症の処置についての予備的な有効性を示した。例えば、Rockey D. et al., “Randomized, Double-Blind, Controlled Study of Glycerol Phenylbutyrate in Hepatic Encephalopathy,” Hepatology, 2014, 59(3):1073-1083を参照されたい。加えて、L-オルニチンフェニルアセテートは、高アンモニア血症および肝性脳症の有効な処置であると報告された。Jalanらは、L-オルニチンフェニルアセテートがアンモニアの低下に有用であるとデータが示した臨床試験を報告した。Jalan et al., “L-Ornithine phenylacetate(OP): a novel treatment for hyperammonemia and hepatic encephalopathy,” Med Hypotheses 2007;69(5):1064-69を参照されたい。また、その各々がその全体を参照により本明細書に組み込まれる、米国特許出願公開第2008/0119554号明細書、第2010/0280119号明細書および第2013/0211135号明細書も参照されたい。
【0055】
本明細書において記載されている任意の方法において肝性脳症を処置または改善するために使用することができるアンモニア低下剤の非限定的な例には、リン酸マグネシウム生成物(MGP)、フェニル酢酸プロドラッグ(例えばグリセロールフェニルブチレート(GPB)、フェニル酢酸ナトリウム、フェニル酪酸(PBA)またはフェニル酪酸ナトリウム(NaPBA))、安息香酸ナトリウム、L-アラビノース、緩下剤(例えば非吸収性または吸収性が最小限の二糖類、例えばラクツロース、ラクチトール)、抗生物質もしくは抗菌剤(例えば非吸収性または吸収性が最小限の抗生物質、例えばリファキシミン)、L-オルニチンL-アスパルテート(LOLA)、フェニルアセテートもしくはフェニルブチレートの少なくとも1つと組み合わせたオルニチン、またはそれらの任意の組合せが挙げられる。一部の実施形態では、アンモニア低下剤は、フェニルアセテートおよびフェニルブチレートの少なくとも1つと組み合わせたオルニチンであるか、またはそれを含む。一実施形態では、アンモニア低下剤はL-オルニチンフェニルアセテートである。
【0056】
L-オルニチンフェニルアセテートは、米国食品医薬品局により希少疾病用薬のステータスを得ており、高アンモニア血症および結果として生じる肝性脳症の処置のためにファストトラック指定を得た。現在、L-オルニチンフェニルアセテートは、非代償性期肝硬変を有する患者における顕性HEの処置について臨床研究中である。患者は、L-オルニチンフェニルアセテートの連続的な静脈内注入を、肝臓障害のベースラインの重症度に依存して、1、2、3、4、5、6または7日間、1日あたり5g、10g、15g、20gまたは25gの様々な用量で受ける。
【0057】
本明細書において記載されている方法の一部の実施形態では、肝性脳症を処置または改善するための医薬は、L-オルニチンフェニルアセテートを含む。一部のさらなる実施形態では、L-オルニチンフェニルアセテートは、経口医薬組成物の形態で投与することができる。例えば、L-オルニチンフェニルアセテートは、約2g、3g、4g、5g、6g、7g、8g、9gもしくは10g、または先行する値のいずれか2つにより定義される範囲の経口用量で投与することができる。L-オルニチンフェニルアセテートの経口投与は、1日(24時間)あたり少なくとも1回、1日あたり2回または1日あたり3回であることができる。L-オルニチンフェニルアセテートの経口用量は、単一単位剤形(single unit dosage form)または2つ以上の単位剤形、例えば錠剤、カプセル剤、丸剤、ペレット剤、流動性粉末(free-flowing power)または経口の液体もしくは溶液等であることができる。一部の実施形態では、L-オルニチンフェニルアセテートの経口投与は、約2g、1日あたり2回または3回である。一部の追加の実施形態では、L-オルニチンフェニルアセテートの経口投与は、約4g、1日あたり2回または3回である。
【0058】
あるいは、L-オルニチンフェニルアセテートは、静脈内、例えば静脈内(IV)注入として投与することができる。IV注入により投与されるL-オルニチンフェニルアセテートの量は、1日あたり約5g、6g、7g、8g、9g、10g、11g、12g、13g、14g、15g、16g、17g、18g、19g、20g、21g、22g、23g、24g、25g、26g、27g、28g、29g、30g、31g、32g、33g、34gもしくは35g、または先行する値のいずれか2つにより定義される範囲であることができる。一部のそのような実施形態では、静脈内注入は、6時間の連続IV注入による約20gのL-オルニチンフェニルアセテートの負荷用量、続けて次に、最初の負荷用量の直後の18時間の連続IV注入による約15gのL-オルニチンフェニルアセテートの中間用量から構成される。次に、患者は最大4日(120時間)、15gのL-オルニチンフェニルアセテート/24時間の連続IV注入の、維持用量の処置の残りを続けることができる。処置は、標準治療に加えて、例えばラクツロースをリファキシミンを伴うかまたは伴わずに投与することができる。一部の実施形態では、重度の修復された腎機能または肝機能を有する患者は、本明細書において記載されているL-オルニチンフェニルアセテートの減少された用量、例えばL-オルニチンフェニルアセテートの標準用量の約90重量%、80重量%、70重量%、60重量%、または50重量%を受けることができる。
【実施例】
【0059】
以下の実施例は、達成された実験および結果を含み、例示的な目的のみで提供され、本出願を限定するものとしては解釈されない。
【0060】
[実施例1]
この実施例では、肝性脳症のエピソードを有する硬変および関連する高アンモニア血症を有する入院患者におけるL-オルニチンフェニルアセテートの第2B相の安全性、有効性および忍容性試験における、肝性脳症段階付け手段(HEST)の妥当性および反応性の評価。以下に要約するように、様々な統計学的試験を使用して、HESTが妥当であり変化に反応性であることが示された。
【0061】
材料および方法
この試験についてのデータは、ステージ2~4の肝性脳症の急性エピソードを有する硬変および関連する高アンモニア血症を有する入院対象に対して24時間の連続静脈内(IV)注入により投与されるL-オルニチンフェニルアセテートを評価する、第2B相の多施設無作為化二重盲検化プラセボ対照試験からのものである。
【0062】
すべての対象を、無作為化時に、自動音声/ウェブ応答無作為化システム(interactive voice/web-response randomization system)を使用して、1)末期肝疾患モデル(model for end-stage liver disease)(MELD)スコア(30未満またはそれと等しい対30超)、および2)肝性脳症段階付け手段(ステージ2対ステージ3/4)により層化した。第3の層化では、北米の試験施設を、肝臓移植の頻度(年あたり≧70回の移植対年あたり<70回の移植)によって群分けした。北米外では、層化には、上記に述べた同様のMELDおよび肝性脳症段階付け手段閾値を利用した。
【0063】
主要エンドポイントは、HE段階付け手段を使用して、ベースラインステージ3(昏迷)または4(昏睡)の肝性脳症を有する対象についてはステージ2への減少として、およびベースラインステージ2の肝性脳症を有する対象についてはステージ0/1への改善として定義された、確認された臨床反応までの時間であった。
【0064】
HEのアセスメント、具体的にはHE段階付け手段、グラスゴー昏睡尺度(GCS)、修正見当識ログ(MO-Log)を、訓練を受けた試験験責任医師、試験分担医師、診療看護師または内科医助手により行った。最終注入の終了と最終注入の終了後3時間との間の時間間隔で行われる肝性脳症の内科医の全体処置評価(OTE)および内科医順位付けアセスメント(Physician Ranked Assessments)(特定の項目)を、処置前の状態に対する順位付け(同じ、より良好またはより悪い)の精度を保証するために、スクリーニングまたはベースライン評価者と同じ評価者である内科医により行った。
【0065】
以下の表1に、肝性脳症段階付け手段を説明する:
【0066】
【0067】
患者がステージ2のHEとして試験登録に適格となるには、羽ばたき振戦および5つの指標となる質問における少なくとも1つの誤りの両方が存在しなければならない。どちらか単独では、参加を許可するには十分でない。試験処置の間(またはその後)のHE反応の記録について:試験薬注入の開始後のすべての時点について、羽ばたき振戦の回復およびすべての5つの質問への正しい回答の両方がない限り、どの患者もステージ0/1への改善として分類することはできない。
【0068】
GCS尺度は、主に頭部外傷を有する患者において、重病者における意識の程度を定量化し、昏睡の持続期間および最終的な転帰を予測するための、標準化されたスコア付けシステムである。システムは、開眼、言葉での反応および運動反応に関わり、そのすべてを意識のレベルおよび機能不全の程度を示す順位により独立して評価する。スコア付けは、3つの因子:開眼の量、言葉での反応性および運動反応性により決定する。3つの因子についてのスコアを合計し、3(最低)から15(最高)の範囲にわたる総スコアを作製する。グラスゴー昏睡尺度を表2に示す。GCSを使用した頭部外傷の分類は、一般的に以下の通りである:
・重度:GCSスコア≦8
・中等度:9≦GCSスコア≦12
・軽度:13≦GCSスコア≦15
【0069】
【0070】
修正見当識ログ(MO-Log)を開発し、リハビリテーション集団における時間、場所および機会に対する見当識を測定した。これは、自由想起を用いて開始し、これが不正確である場合には次に論理的な手がかりに移行し、それに失敗したら複数の選択肢が提供される系統的な手法(各質問に最大で3点および最小でゼロ点を与える)を使用し、見当識について試験する。MO-Logは、8つの単純な質問および0から24までの範囲にわたるスコア(24が正常である)を有する。5つの質問は時間に対するものであり(時計の時間を読み取る能力を含む)、3つは場所に対するものである。各質問を、患者により提供される反応の種類に基づいて、0から3の尺度で以下のようにスコア付けする:
スコア付け:(標準化された質問を参照されたい)修正見当識ログ(MO-Log)
3点=自発的に、または最初の自由想起の試みの際に正解
2点=論理学的手がかりの際に正解
1点=複数の選択肢の手がかりの際に正解
0点=不可能、不正確、不適切な反応
上記の表のグリッド中の合計スコアは、個別の項目について得られたすべての点数の和(最小0、最大24)である。
【0071】
内科医の全体処置評価(OTE)は、処置前の肝性脳症状態に対してより良好、ほぼ同じ、またはより悪いという順位付けである。†順位付けがより良好かまたはより悪い場合、次に7つの選択肢のうちから選択することにより患者の肝性脳症における変化の程度の全体的アセスメントを続ける:
1.ほぼ同じ、殆どより良好(より悪い)となっていない
2.わずかにより良好(より悪い)
3.幾分より良好(より悪い)
4.中等度により良好(より悪い)
5.かなりより良好(より悪い)
6.大いにより良好(より悪い)
7.非常に大いにより良好(より悪い)
【0072】
この2段階の評点方法は、15点の尺度上で-7(最も悪い等級)から+7(最も良好な等級)までの範囲にわたるスコアを生じ、ここでゼロ(0)は変化なしを表す。
【0073】
内科医順位付けアセスメントは、3つのドメイン:意識のレベル、見当識および羽ばたき振戦の処置前の状態に対してより良好、ほぼ同じ、またはより悪いという順位付けである。意識のレベルの順位付けを、第1に行う。しかし、見当識および羽ばたき振戦は、意識のレベルが改善される場合にのみ評点を付けられる。各構成要素について、全体的な順位付けがより良好かより悪い場合、以下の5つの選択肢を用いるリッカート尺度を使用して、変化の程度のアセスメントを続ける:
1.ほぼ同じ、殆どより良好(より悪い)となっていない
2.幾分より良好(より悪い)
3.中等度により良好(より悪い)
4.かなりより良好(より悪い)
5.非常に大いにより良好(より悪い)
【0074】
この2段階の評点方法は、各ドメインについて、11点の尺度上で-5(最も悪い等級)から+5(最も良好な等級)までの範囲にわたるスコアを生じ、ここでゼロ(0)は変化なしを表す。
【0075】
統計分析
HESTの妥当性を実証するために使用された方法は、収束的妥当性、弁別的妥当性および予測的妥当性である。これらの方法の各々は、概念的に関連する基準変数の使用を伴う。収束的妥当性は、同じ特色を測定することとなる異なる手法により得られた、同じ特色の測定間での合致度であり、通常、尺度と基準変数との間の相関として評価される。弁別的妥当性は、尺度が、事前仮説(priori hypotheses)により測定された特色の異なるレベルを弁別することができることを意味する。予測的妥当性は、基準変数を同時にではなく後の時間に測定することを除き、収束的妥当性に類似している。
【0076】
第2B相試験の一部として収集したいくつかの基準値を使用して、HE段階付け手段:MO-Log、GCS、内科医OTEおよび内科医順位付けアセスメントの妥当性を評価した。
【0077】
反応性は、測定されている特色における臨床的に意味のある変化を検出するための尺度の能力を指す。HESTの反応性を評価するために、内科医OTEおよび内科医順位付けアセスメント(意識のレベル、見当識および羽ばたき振戦)を、臨床的に意味のある変化の指標として使用した。2つの手法、相関分析および分散分析を使用して、反応性を評価した。
【0078】
HEステージの変化を、OTEおよび順位付けアセスメントが完了した対応する時点(処置後3時間)でのHEステージからベースラインのHEステージを減じることにより計算した。この目的のために、HEステージ0/1は1の値を使用した。例えば、患者がベースラインでステージ3、および処置後にステージ0/1と決定された場合、HEステージの変化=1-3=-2である。
【0079】
OTEおよび順位付けアセスメントスコアの両方が2ステップを使用して決定されるという事実を生かし、相関分析を2つの方法で行った。第1のステップでは、患者は、処置前の肝性脳症に対してより良好、ほぼ同じ、またはより悪いとして評点を付けられる。スピアマンの順位相関係数を使用して、HEステージにおける変化と以下の内科医のアセスメントにおけるより良好、ほぼ同じ、またはより悪いという全体的アセスメントとの間の関係の強さを測定した:
1.OTE
2.意識のレベルの順位付けアセスメント
3.見当識の順位付けアセスメント
4.羽ばたき振戦の順位付けアセスメント
【0080】
結果
結論として、収束的妥当性は優秀であり、HESTおよびすべての3種の基準測定との間の相関は0.3を優に上回り(絶対値で)、(絶対)相関係数は0.62と0.76との間の範囲にわたった。さらに、HE段階付け手段およびMO-Logの4つの一般的な項目にわたる一致のレベルも非常に良好であり、カッパは、これらの4つの質問にわたり、実質的(0.73)からほぼ完全(0.84~0.88)な一致を示した。
【0081】
HESTは優秀な弁別的妥当性も示し、グラスゴー昏睡尺度およびMO-Logの両方についての平均スコアは、HEステージが0/1から4へと増大するにつれて有意に低減した。
【0082】
反応性分析は、内科医の全体処置評価(OTE)と、意識および見当識の順位付けアセスメントと、HEステージの変化スコアとの間の、有意な関連度を示した。相関は、-0.69から-0.40の範囲にわたった。羽ばたき振戦の順位付けアセスメントについては、関連度の強さはおよそ0.22でより低かった。ANOVA分析はこれらの結果と似ており、HEステージ変化分類にわたり、すべての4種の内科医アセスメントの平均スコアにおいて予測された方向に変動した有意な差が存在することを示した。
【0083】
[実施例2]
この実施例では、ウェブに基づく調査を開発し、表1に説明したHESTの検者間および検者内の信頼性を評価するために、臨床家からのデータを収集した。参加者に対して、実施の間を約1週間として、調査を2回行った(第1ラウンドおよび第2ラウンド)。HEの様々なステージにおける患者を描写した(俳優)5つの映像の場面を開発し、各調査の実施について無作為な順序で提示した。臨床家は、各調査ラウンドにおいて、HEST等級付けシステムを使用して場面に評点を付けた。第1ラウンドの調査は、HESTの有用性および明確性に対する参加者のフィードバック、彼らの羽ばたき振戦の解釈、およびHESTの指示に対する彼らのフィードバックも求めた。第2ラウンドの調査は第1ラウンドの調査と似ていたが、制限のないフィードバックの質問は含まれなかった。よって、第2ラウンドの調査の参加者には、同じ5つの患者の場面(再び、無作為な順序で提示した)を見て、次に評点を付けることのみを依頼した。この報告は、この信頼性調査試験の方法および結果を説明する。
【0084】
98名の臨床家の参加者に、試験の参加を依頼した。合計50名(38名は米国内、および12名は米国外)が第1ラウンドを完了し、彼らに第2ラウンドの調査の完了を依頼した。42名(31名は米国内、および11名は米国外)が第2ラウンドを完了した。
【0085】
ほぼすべての参加者が、第1ラウンドにおいて5つの患者の場面のうち4つに正しく評点を付け、49名の参加者(98.0%)が場面A、CおよびEに正しく評点を付け、一方で50名すべての参加者(100%)が場面D(ステージ4;昏睡)に正しく評点を付けた。33名の参加者(66.0%)が、ステージ2のHEエピソードとなるように設計した場面(場面B)に正しく評点を付けた。この特定の脚本は、待合室で眠り、看護師が優しく彼をたたき彼の名前を呼ぶときにゆっくりと起きる患者を伴った。参加者の3分の1(n=16、32.0%)が、患者の傾眠のためにこの場面にステージ3と評点を付け、1名の参加者がこれにステージ0/1と評点を付けた。臨床家の参加者からの質的なコメントでは、HESTステージ3の定義の曖昧さが報告され、これにより明確性のためにステージ3の定義の修正に至った。
【0086】
全体として、HESTは優秀な検者間および検者内(試験-再試験)の信頼性を示した。質的には、臨床家の参加者は一般的にHESTに肯定的な見解を有し、その羽ばたき振戦の運用上の定義(すなわち、30秒のうちに3回を超える羽ばたき)ならびにステージ2、3および4についてのその定義に広く賛同した。
【0087】
結論として、HESTは優秀な検者間および検者内の信頼性を示し、経験豊かな肝臓専門医の大規模なグループにより肯定的に捉えられた。HESTのステージ3の定義に対する修正(以下の表に示す)を、場面Bに対する臨床家の評点付けおよび質的な反応ならびに調査の後の3名の臨床家からの追加のフィードバックに基づいて行った。これらの修正は、さらなる臨床試験での使用のためのHE評点付けの精度を強化するであろう。
【0088】
【0089】
[実施例3]
この実施例では、顕性肝性脳症スクリーニング手段(OHEST)を開発し、顕性肝性脳症(OHE)事象の存在または不存在を記録した(表3を参照されたい)。患者は、時間もしくは場所に対して見当識を失っている場合、または意識のレベルの変化のために評価することが不可能である場合、OHE事象を有する(または有した)と考えられる。他の可能性のある精神状態の変化の原因(例えばアルコール中毒)は、OHE事象を確認する前に合理的に除外しなければならない。
【0090】
OHESTを使用する場合、OHEST記録についての情報の供給源を特定することが求められる(例えば、臨床家の観察、介護者の入力、外部の医療従事者による観察、医療記録の再検討または仮想来院(virtual visit)等)。他の可能性のある精神状態の変化の原因(例えばアルコール中毒、睡眠不足)は、OHE事象を確認する前に合理的に除外しなければならない。一部の事例では、臨床所見は、OHE事象と考えるためには少なくとも1時間示されるべきである。
【0091】
【0092】
【0093】
患者が4つの「時間の」質問の2つ以上に不正確に回答する場合、患者は時間に対して見当識を失っていると考えられ、OHE事象を有するとして記録されるであろう。患者が4つの「場所の」質問の1つまたは複数に不正確に回答する場合、患者は場所に対して見当識を失っていると考えられ、OHE事象を有するとして記録されるであろう。場所に対して見当識を失っている人々(典型的に時間に対する見当識障害よりも重篤であると捉えられる)は、一般的に、既に時間に対して見当識を失っている。患者が「覚醒および反応性」または「眠気があるが反応性」のいずれかと特定される場合、OHE事象は、患者が時間または場所のいずれかに対して見当識を失っている場合にのみ生じた。肝性脳症のより重度のステージ(すなわちステージ3または4)を経験している患者は、なんらかの意味のある会話をしそうにないか、または見当識の質問に対して反応することが可能でありそうにない。したがって、これらの患者は、主に彼らの意識のレベル(「重度の眠気、無気力または傾眠」、「昏迷」または「昏睡状態」)に基づいてOHE事象を有すると記録されるであろう。OHESTは、HE重症度の決定において、羽ばたき振戦の存在または不存在に依拠しない。
【国際調査報告】