(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-25
(54)【発明の名称】荷電粒子結晶学用回折計
(51)【国際特許分類】
H01J 37/20 20060101AFI20220715BHJP
H01J 37/26 20060101ALI20220715BHJP
G01N 23/20 20180101ALI20220715BHJP
【FI】
H01J37/20 C
H01J37/20 E
H01J37/20 A
H01J37/26
G01N23/20 380
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021569073
(86)(22)【出願日】2020-05-19
(85)【翻訳文提出日】2021-11-18
(86)【国際出願番号】 EP2020063953
(87)【国際公開番号】W WO2020234291
(87)【国際公開日】2020-11-26
(32)【優先日】2019-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521506777
【氏名又は名称】エルディコ サイエンティフィック エージー
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(74)【代理人】
【識別番号】100170184
【氏名又は名称】北脇 大
(72)【発明者】
【氏名】スタインフェルド、グンテル
(72)【発明者】
【氏名】サンティソ-キノネス、ガスタヴォ
(72)【発明者】
【氏名】ホーヴェストライト、エリック
【テーマコード(参考)】
2G001
5C101
【Fターム(参考)】
2G001AA03
2G001BA11
2G001BA18
2G001CA03
2G001DA06
2G001HA13
2G001KA08
5C101AA04
5C101AA16
5C101BB06
5C101EE19
5C101EE42
5C101EE45
5C101FF16
5C101FF56
5C101FF57
5C101FF59
5C101GG19
5C101HH03
5C101HH04
5C101HH23
(57)【要約】
本発明は、結晶サンプル(31)の荷電粒子結晶学用(とりわけ、結晶サンプル(31)の電子結晶学用)回折計(1)に関する。回折計(1)は、荷電粒子光線軸(11)に沿って荷電粒子光線を生成するための荷電粒子源(10)、荷電粒子光線でサンプルを照射するように荷電粒子光線を操作するための荷電粒子光学システム(20)、および、少なくともサンプル(31)を通って移動した荷電粒子の光線に基づいてサンプルの回折パターンを収集するための荷電粒子検出システム(50)を有する。回折計(1)はさらに、サンプルを保持するためのサンプルホルダー(30)、および、サンプルホルダー(30)に作動的に連結された、光線軸(11)に対してサンプル(31)を位置決めするためのマニピュレーター(40)を有する。マニピュレーター(40)は、傾動軸(44)の周りで入射荷電粒子光線に関してサンプルホルダー(30)を傾動させるための回転ステージ(41)、および、少なくとも傾動軸(44)に対して垂直な平面においてサンプルホルダー(30)を移動させるための多軸並進ステージ(42)を有する。多軸並進ステージ(42)は、サンプルホルダー(30)と回転ステージ(41)との間に作動的に連結され、多軸並進ステージ(42)が回転ステージ(41)の回転システムの中にあり、かつ、サンプルホルダー(30)が多軸並進ステージ(42)の可動システムの中にあるようになっている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶サンプル(31)の荷電粒子結晶学用、とりわけ結晶サンプル(31)の電子結晶学用の回折計(1)であって、当該回折計(1)は、
- 荷電粒子光線軸(11)に沿って荷電粒子光線を生成するための荷電粒子源(10)を有し、
- 前記荷電粒子光線で前記サンプルを照射するように前記荷電粒子光線を操作するための荷電粒子光学システム(20)を有し;
- 前記サンプルを保持するためのサンプルホルダー(30)を有し、
- 前記光線軸(11)に対して前記サンプル(31)を位置決めするための、前記サンプルホルダー(30)に作動的に連結されたマニピュレーター(40)を有し、前記マニピュレーター(40)は、傾動軸(44)の周りで入射荷電粒子光線に関して前記サンプルホルダー(30)を傾動させるための回転ステージ(41)、および、少なくとも前記傾動軸(44)に対して垂直な平面において前記サンプルホルダー(30)を移動させるための多軸並進ステージ(42)を有し、前記多軸並進ステージ(42)は、前記サンプルホルダー(30)と前記回転ステージ(41)との間に作動的に連結され、前記多軸並進ステージ(42)が前記回転ステージ(41)の回転システムの中にあり、かつ、前記サンプルホルダー(30)が前記多軸並進ステージ(42)の可動システムの中にあるようになっており、そのことによって、前記傾動軸(44)からの最大側方偏位(31)が最大1μm、とりわけ最大0.5μm、好ましくは最大0.3μm、いっそう好ましくは最大0.1μmである状態で前記傾動軸に関して実質的に軸上に前記サンプルの重心を位置決めすることを可能にし、
- 少なくとも前記サンプル(31)を通って移動した前記の荷電粒子の光線に基づいて前記サンプル(31)の回折パターンを収集するための荷電粒子検出システム(50)を有し、
当該回折計(1)の特徴は、前記傾動軸(44)が、空間において固定され、かつ、実質的に鉛直方向(Z)に延びることであり、当該回折計(1)がさらに、前記荷電粒子光線に対する前記サンプルホルダー(30)の位置を測定するための、1つ以上の容量性位置センサーまたは干渉測定デバイスを含む測定デバイスを有することであり、かつ、当該回折計(1)がさらに、フィードバックコントローラーを有することであり、前記フィードバックコントローラーは、前記測定デバイスおよび前記マニピュレーター(40)に作動的に連結され、かつ、前記荷電粒子光線に対する前記サンプル(31)の前記位置を制御するように構成され、前記回転ステージ(41)の各傾動角度位置について、前記サンプルの重心が、前記傾動軸からの最大側方偏位が最大1μm、とりわけ最大0.5μm、好ましくは最大0.3μm、いっそう好ましくは最大0.1μmである状態で前記傾動軸に関して実質的に軸上に留まるようになっており、したがって、前記回転ステージ(41)の各傾動角度位置について、前記サンプルの容量が前記荷電粒子光線内に実質的に留まるようになっている、
前記回折計(1)。
【請求項2】
前記光線軸が空間において固定され、とりわけ実質的に水平方向(X)に延びるか、または、前記光線軸(11)の配向が、前記傾動軸(44)に対して調整可能である、請求項1のいずれか一項に記載の回折計(1)。
【請求項3】
前記マニピュレーター(40)がさらに、前記傾動軸(44)に実質的に平行な軸に沿って前記サンプルホルダー(30)を移動させるための単軸並進ステージ(43)を有する、先行する請求項のいずれか一項に記載の回折計(1)。
【請求項4】
前記単軸並進ステージ(43)が、前記多軸並進ステージ(42)と前記回転ステージ(41)との間に作動的に連結され、前記単軸並進ステージ(43)が前記回転ステージ(41)の前記回転システムの中にあり、かつ、前記多軸並進ステージ(42)が前記単軸並進ステージ(43)の可動システムの中にあるようになっている、請求項3に記載の回折計(1)。
【請求項5】
前記回転ステージ(41)が、前記多軸並進ステージ(42)と前記単軸並進ステージ(43)との間に作動的に連結され、前記回転ステージ(41)が前記単軸並進ステージ(43)の可動システムの中にあり、かつ、前記多軸並進ステージ(42)が、前記回転ステージ(41)の前記回転システムの中にあるようになっている、請求項3に記載の回折計(1)。
【請求項6】
前記多軸並進ステージ(42)が、当該回折計(1)のサンプルチャンバー(2)内に配置される、先行する請求項のいずれか一項に記載の回折計(1)。
【請求項7】
前記回転ステージ(41)が、当該回折計(1)の前記サンプルチャンバー(2)の外側または内側に配置される、請求項6に記載の回折計(1)。
【請求項8】
存在する場合、前記単軸並進ステージ(43)が、当該回折計(1)の前記サンプルチャンバー(2)の外側または内側に配置される、請求項6または7のいずれか一項に記載の回折計(1)。
【請求項9】
当該回折計(1)が、前記マニピュレーター(40)を介して前記サンプルホルダー(30)と熱的に接触する極低温冷却源(70)を有する極低温回折計(1)である、先行する請求項のいずれか一項に記載の回折計(1)。
【請求項10】
前記回転ステージ(41)が、参照平面に関して+70°~-70°、とりわけ+250°~-70°または-250°~+70°、好ましくは+360°~-360°の角度範囲にわたって前記サンプルホルダー(30)を傾動させるように構成され、前記参照平面は、前記光線軸(11)を含有し、かつ、前記傾動軸(44)に平行である、先行する請求項のいずれか一項に記載の回折計(1)。
【請求項11】
前記回転ステージ(41)が、0.1°/s~100°/s、とりわけ1°/s~30°/sの範囲の定角速度で前記サンプルホルダー(30)を傾動させるように構成される、先行する請求項のいずれか一項に記載の回折計(1)。
【請求項12】
前記サンプルホルダー(30)と前記光線軸(11)の交点(33)と前記回転ステージ(41)の回転中心との間の距離(80)が、10cm~30cm、好ましくは15cm~20cmの範囲、または、11cm~15cm、好ましくは2cm~10cmの範囲である、先行する請求項のいずれか一項に記載の回折計(1)。
【請求項13】
前記荷電粒子光学システム(20)が、前記サンプルに照射される前記荷電粒子光線が最大1.5μm、とりわけ最大1μm、好ましくは0.5μm~0.3μmの範囲の光線直径を有する荷電粒子の平行光線であるように、前記荷電粒子光線を操作するように構成される、先行する請求項のいずれか一項に記載の回折計(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、結晶サンプルの荷電粒子結晶学用(とりわけ、結晶サンプルの電子結晶学用)回折計に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
結晶学は、化学のほとんどの分野で必須の技術である(とりわけ、結晶サンプルの構造決定のために)。数十年間、X線回折解析が構造決定のための主たる技術であった。しかしながら、X線回折解析は、照射およびデータ収集の最中の放射線障害の悪影響に抵抗するために、大きく、かつ、整列した結晶を必要とする。いっそう小さいサンプル(とりわけ、十分に大きいサイズへと成長させることが困難なもの)の解析については、構造決定のために電子のような荷電粒子を用いることが提案されてきた。X線回折とは対照的に、荷電粒子回折は実質的に、結晶に対していかなるサイズの下限も課さない。例えば、加速電子の光線を用いることは、1マイクロメートル未満であり数ナノメートルに至る直径を有するナノ結晶サンプルの回折パターンを記録することを可能にする。
【0003】
典型的には、電子回折解析は、標準的な電子顕微鏡(とりわけ、透過電子顕微鏡(TEM))において実行される。このため、結晶サンプルは、顕微鏡のサンプルチャンバー内のサンプルホルダーに搭載される。顕微鏡の電子源が、エネルギー電子の光線を生成し、該光線は続いて、サンプルホルダーに搭載されたサンプルを電子光線で照射するように、電子光学要素(電子レンズ、偏向器および/または多重極)によって操作される(偏向し、かつ/あるいは、焦点が合う)。サンプルホルダーは、3つの並進自由度および1つの回転自由度に少なくとも沿って光線軸に対してサンプルの位置決めを可能にしてもよい。回転自由度は、入射電子光線に関して傾動軸の周りでサンプルホルダーを傾動させ、したがって、異なる傾動角度でサンプルを照射すること、および、電子撮像システムを用いて各傾動位置についてサンプルを通って移動した電子を収集することによって回折パターンの傾動シリーズを獲得することを可能にするために用いられる。最後に、傾動シリーズの画像は互いに関して位置合わせされて、結晶サンプルの三次元電子回折データセットが再構築される。この手順はしばしば、電子回折断層撮影として示され、かつ、例えば、欧州特許出願公開第2 402 976号公報またはShiら、eLife 2013、e01345、DOI: 10.7554/eLife.01345において説明されている。
【0004】
小さい光線サイズに起因して、かつ、小さいサンプルサイズに起因して、対象の容量(すなわち、サンプル容量)は、別の位置へと傾動角度を変えるときに光線軸から除去されてもよい。この変位はとりわけ、サンプルが傾動軸に関して偏心して配置される場合に起こるであろう。したがって、傾動軸に対して垂直な平面におけるサンプルの再度の位置決めが、傾動シリーズの各画像について必要とされるであろう。しかしながら、この手順は、たとえ可能であっても、煩雑であり、かつ、時間がかかるであろう。
【0005】
したがって、先行技術の解決策の利点を有するが、それらの制限は伴わない荷電粒子結晶学用回折計を提供することが本発明の目的である。とりわけ、荷電粒子光線に関するサンプルのいっそう安定的な位置決めを可能にする(とりわけ、荷電粒子光線に対する再度の位置決めが少なくて済む)荷電粒子結晶学用回折計を提供することが本発明の目的である。
【発明の概要】
【0006】
本発明の説明
これらの目的、および、その他の目的は、独立形式請求項において特定される結晶サンプルの荷電粒子結晶学用回折計によって満たされる。本発明による回折計の有利な実施形態は、従属形式請求項の対象である。
【0007】
本発明によれば、結晶サンプルの荷電粒子結晶学用(とりわけ、結晶サンプルの電子結晶学用)回折計が提供され、当該回折計は:
- 荷電粒子光線軸に沿って荷電粒子光線を生成するための荷電粒子源を有し;
- サンプルを荷電粒子光線で照射するように荷電粒子光線を操作するための荷電粒子光学システムを有し;
- サンプルを保持するためのサンプルホルダーを有し;
- 光線軸に対してサンプルを位置決めするためにサンプルホルダーに作動的に連結されたマニピュレーターを有し、該マニピュレーターは、傾動軸の周りで入射荷電粒子光線に関してサンプルホルダーを傾動させるための回転ステージと、少なくとも傾動軸に対して垂直な平面においてサンプルホルダーを移動させるための多軸並進ステージを有し;かつ、
- サンプルを通って移動した荷電粒子の光線に基づいて、サンプルの回折パターンを少なくとも収集するための荷電粒子検出システムを有する。
【0008】
本発明によれば、多軸並進ステージは、サンプルホルダーと回転ステージとの間に作動的に連結され、多軸並進ステージが回転ステージの回転システムの中にあり、かつ、サンプルホルダーが多軸並進ステージの可動システムの中にあるようになっている。
【0009】
有利なことに、サンプルホルダーと回転ステージとの間に作動的に連結された多軸並進ステージを有することは、サンプルを正確に位置決めすることを可能にする(すなわち、その重心であって、傾動軸に関して軸上)。したがって、軸上の位置に起因して、サンプルは、傾動角度を変えたとき、傾動軸の周りを円形に旋回しない。その代わり、サンプルの重心の並進位置は、傾動軸に対して垂直な平面内で実質的に安定的である。したがって、一旦荷電粒子光線がサンプルの軸上の位置上に集まると、対象の容量(すなわち、サンプル容量)は、各傾動角度位置について荷電粒子光線内に留まる。この理由のため、サンプルの重心は有利なことに、異なる傾動角度について回折パターンをとる前に一回だけ傾動軸に対して位置合わせされる必要がある。したがって、傾動角度が変わる度毎のサンプルの再度の位置合わせは、もはや必要ではない。
【0010】
好ましくは、マニピュレーター(とりわけ、多軸並進ステージ)は、傾動軸からの最大側方偏位が最大1μm、とりわけ最大0.5μm、好ましくは最大0.3μm、さらにいっそう好ましくは最大0.1μmである、傾動軸に対するサンプルの重心の位置決め精度を可能にするように構成される。さらに、以下でもさらに説明されるように、当該回折計は、マニピュレーターに作動的に連結されたフィードバックコントローラーと、サンプルホルダーの位置を測定するための測定デバイスを有していてもよい。フィードバックコントローラーは、荷電粒子光線に対するサンプルの位置を制御するように構成されていてもよい。とりわけ、フィードバックコントローラーは、マニピュレーター(とりわけ、多軸並進ステージ)と組み合わされて、かつ、測定デバイスと組み合わされて、荷電粒子光線に対するサンプルの位置を制御するように構成され、各傾動角度位置について、サンプルの重心が、傾動軸からの最大側方偏位が最大1μm、とりわけ最大0.5μm、好ましくは最大0.3μm、さらにいっそう好ましくは最大0.1μmである状態で傾動軸に関して実質的に軸上に留まるようになっていてもよい。
【0011】
本明細書で用いられるとき、用語「回転ステージの回転システム」は、回転ステージの可動部であって、回転ステージの準固定部に対して回転可能であるものを意味する。後者は好ましくは、回折計の固定参照システムに(すなわち、回折の場所(例えば、実験室)に対して)回転的に固定されている。同様に、用語「多軸並進ステージの可動システム」は、多軸並進ステージの準固定部に対して並進的に移動可能である、多軸並進ステージの可動部を意味する。多軸並進ステージの準固定部は、多軸並進ステージの並進自由度に関して参照システムに対して並進的に固定されている。本件では、多軸並進ステージの準固定部は、少なくとも多軸並進ステージの並進自由度に関して、回転ステージの回転システムおよび回折計の固定参照システムに対して並進的に固定されている。
【0012】
好ましくは、荷電粒子源は、荷電粒子光線軸に沿って電子光線を生成するための電子源である。x線回折と比較すると、電子と結晶サンプルの原子との間の相互作用が非常に大きく、1マイクロメートル未満であり数ナノメートルに至る直径を有する結晶の回折パターンを観察することを可能にする。さらに、電子を用いるとき、本発明による回折計は有利なことに、電子顕微鏡(とりわけ、TEM)でよく知られたコンポーネントおよび技術を実装してもよい。このことは、荷電粒子源ならびに荷電粒子光学システムおよび荷電粒子光学撮像システムに適用される。後者は、以下でいっそう詳細に説明されるであろう。
【0013】
好ましくは、電子源は、60keV~300keVの範囲のエネルギー(±0.7keV~±1.5keVの範囲または±7eV~±150eVの範囲の許容誤差を伴う)を有する電子光線を生成するように構成される。例えば、電子源は、200keV±1.2keVの電子光線を生成するように構成されてもよい。好ましくは、電子源は、ピーク間で最大80eV、とりわけ最大10eV、いっそう具体的には最大5eVのリップルを有する160keVの電子光線を生成するように構成されてもよい。電子源は、1つ以上の等加速電圧にて作動するように構成されてもよい。代替的には、電子源は、選択可能なエネルギーを有する電子の光線を生成するように構成されてもよい。
【0014】
有利なことに、荷電粒子光学システムは、サンプルに照射される荷電粒子光線が最大1.5μm、とりわけ最大1μm、好ましくは最大0.3μm、例えば0.5μm~0.3μmの範囲または0.3μm~0.15μmの光線直径を有する荷電粒子の平行光線であるように、荷電粒子光線を操作するように構成されてもよい。好ましくは、光線直径は、サンプルの容量に適合する。
【0015】
好ましくは、荷電粒子光学システムは、サンプル上に荷電粒子光線を形成するために、1つ以上の集光レンズを有していてもよい。さらに、荷電粒子光学システムは、サンプル位置において荷電粒子光線の直径を適合させるために、サンプルの上流にアパーチャを有していてもよい。荷電粒子光学システムはさらに、光線軸に荷電粒子光線を集中させるために、1つ以上の位置合わせコイルまたは偏向器(とりわけ、二重偏向器もしくは八重極偏向器)を有していてもよい。例えば、荷電粒子光学システムはさらに、2つの二重偏向器および3つの集光レンズを有していてもよい。
【0016】
好ましくは、検出システムは、サンプルの拡大画像を形成するために、対物レンズを有していてもよい。検出システムはさらに、検出器上にサンプルの拡大画像を形成するために、投影システム(例えば、2つのレンズを含んでいてもよい)を有していてもよい。検出器は、蛍光スクリーンであってもよく、電子検出器であってもよい。例えば、検出器は、二次元混成画素検出器であってもよい。以下でいっそう詳細に説明されるように、荷電粒子検出システムは好ましくは、2つの異なるモード(回折モードおよび撮像モード)で作動してもよい。
【0017】
概して、荷電粒子光学システムは、荷電粒子源の下流に光学軸に沿って配置されてもよい。同様に、荷電粒子検出システムは、サンプル位置の下流に光学軸に沿って配置されてもよい。
【0018】
本発明の一態様によれば、傾動軸は、空間において実質的に固定されてよい。本明細書で用いられるとき、用語「空間において実質的に固定される」は、傾動軸の配向(すなわち、傾動軸の方向)が少なくともユーザーモードまたは作動モードにおいて調整可能ではないことを意味する。このことは、初期の位置合わせのための、または、保守および点検目的のいかなる調整性も排除しない。有利なことに、空間において実質的に固定された傾動軸を有することは、所望の配向に対する傾動軸の望まれない変位についてのリスクを減らす。かかる望まれない変位は、そうでなければ、例えば、傾動軸の配向を変更するための調整手段のクリープに起因して、調整可能な傾動軸の場合に起こるであろう。
【0019】
同じ理由で、荷電粒子光線の光線軸は、空間において固定されてもよい。すなわち、光線軸の方向は、調整可能でなくてもよい。とりわけ、荷電粒子光線の光線軸は、傾動軸に対して固定されてもよい。
【0020】
代替的には、荷電粒子光線の光線軸は、傾動軸に対して調整可能であってもよい。このことは、傾動軸に対して異なる角度の下で(したがって、プローブされるサンプルの結晶軸および結晶面に対する異なる角度の下で)サンプルを照射することを可能にする。有利なことに、このことは、サンプルの結晶構造へのさらなる洞察を得ることを助けるであろう。
【0021】
好ましくは、傾動軸は、実質的に鉛直方向に延びる。傾動軸の鉛直配向の場合、傾動軸、サンプルホルダーおよびサンプルに対するあらゆる重力効果は、各傾動位置について同じである。有利なことに、このことは、異なる傾動角度位置間の傾動軸配向の重力誘導変動を減らすことを容易にする。この理由で、傾動軸の鉛直配向が、全傾動角度範囲にわたってサンプルホルダーおよびサンプルの位置的安定性を改善するであろう。以下でいっそう詳細に説明されるように、傾動軸の鉛直配向がまた、極低温での回折計の作動に関して有利であろう。このことについて、傾動軸の鉛直配向は、マニピュレーターに極低温冷却源を立位で取り付けることを可能にし、このことは次に、冷却源を、その中に含有された液化ガスが溢れることを引き起こすことなしに傾動軸の周りで共に回転させることを可能にする。
【0022】
とりわけ、傾動軸の鉛直配置構成に関して、マニピュレーターは、サンプルホルダーの鉛直方向上方または鉛直方向下方のいずれに配置されてもよい。
【0023】
傾動軸が実質的に鉛直方向に延びる場合、荷電粒子光線の光線軸は好ましくは、実質的に水平方向に延びる。この構成では、傾動軸および光線軸は、互いに対して垂直である。有利なことに、このことは、回折計のデザインを簡素化する。
【0024】
本発明の別態様によれば、マニピュレーターはさらに、傾動軸と実質的に平行な軸に沿ってサンプルホルダーを移動させるための単軸並進ステージを有していてもよい。このことは、傾動軸の方向に沿って荷電粒子光線に対するサンプルおよびサンプルホルダーの位置を調整することを可能にし、したがって、荷電粒子光線内にサンプルを適切に配置する。
【0025】
単軸並進ステージは、多軸並進ステージと回転ステージとの間に作動的に連結されてもよく、単軸並進ステージが回転ステージの回転システムの中にあり、かつ、多軸並進ステージが単軸並進ステージの可動システムの中にあるようになっている。有利なことに、このことは、多軸並進ステージと単軸並進ステージを組み合わせて(単一の)組み合わされた並進ステージとすることを可能にし、該組み合わされた並進ステージは、傾動軸に実質的に平行な軸に沿って、傾動軸に対して実質的に垂直な平面においてサンプルホルダーを移動させるように構成されている。かかる組み合わされた並進ステージは、マニピュレーターの非常にコンパクトなデザインを可能にするであろう。
【0026】
代替的には、回転ステージは、多軸並進ステージと単軸並進ステージとの間に作動的に連結されてもよく、回転ステージが単軸並進ステージの可動システムの中にあり、かつ、多軸並進ステージが回転ステージの回転システムの中にあるようになっている。この構成は、サンプルホルダーと光線軸の交点と回転ステージの中心の回転との間の距離を最小化することを可能にするであろう。このことは次に、所定の参照配向からのサンプルホルダーと光線軸の交点における傾動軸のあらゆる側方偏位を最小化するために有利であろう。
【0027】
本明細書で用いられるとき、用語「サンプルホルダーと光線軸の交点」は、サンプルホルダーに搭載されたときのサンプルの予め定められた場所を意味する。用語「回転ステージの回転中心」は好ましくは、駆動アクチュエーター(回転ステージの一部であり、かつ、サンプルホルダーを傾動させるために回転運動を生成するように構成される)の位置を意味する。すなわち、上記距離は、サンプルの指定位置と回転アクチュエーターの位置との間で測定される。
【0028】
本発明の別態様によれば、多軸並進ステージは、回折計のサンプルチャンバーに配置されてもよい。サンプルチャンバーはまた、カラムとして示されてもよい。電子顕微鏡の場合と同様に、サンプルチャンバーは、サンプルホルダーおよびサンプルを含有する。好ましくは、サンプルチャンバーは、真空操作用に構成される。すなわち、サンプルチャンバーの内部は、荷電粒子光線とサンプル以外の任意の物との望まれない相互作用を抑制するために、空にされてもよく、空にすることが可能であってもよい。サンプルチャンバー内に配置された多軸並進ステージを有することはまた、マニピュレーターのコンパクトなデザインに関して有利である。
【0029】
本発明のさらなる別態様によれば、回転ステージは、回折計のサンプルチャンバーの外側に配置されてもよく、内側に配置されてもよい。サンプルチャンバーの外側の配置構成は、例えば保守または修理作業のための回転ステージのアクセス可能性を改善する。さらに、かかる構成は、技術的に負担が少ない。とりわけ、回転ステージは、真空に適合可能である必要がない。サンプルチャンバーの外側の配置構成は、サンプルチャンバーの中への機械的シャフトフィードスルーを必要とする。対照的に、回転ステージがサンプルチャンバーの内側に配置される場合、機械的シャフトフィードスルーは必ずしも必要ではないであろう。
【0030】
多軸並進ステージおよび回転ステージに対する単軸並進ステージの位置に基づいて、単軸並進ステージは-存在する場合-回折計のサンプルチャンバーの外側に配置されてもよく、内側に配置されてもよい。好ましくは、単軸並進ステージは、回転ステージが多軸並進ステージと単軸並進ステージとの間に作動的に連結される場合または回転ステージがサンプルチャンバーの外側に配置される場合、サンプルチャンバーの外側に配置される。対照的に、単軸並進ステージは、単軸並進ステージが多軸並進ステージと回転ステージとの間に作動的に連結される場合または回転ステージがサンプルチャンバーの内側に配置される場合、サンプルチャンバーの内側に配置されてもよい。
【0031】
本発明のさらなる態様によれば、サンプルホルダーと光線軸の交点と回転ステージの回転中心との間の距離は、10cm~30cm、好ましくは15cm~20cmの範囲であってもよい。これらの範囲内の距離は有利なことに、とりわけ回転ステージがサンプルチャンバーの外側に配置される場合に、傾動軸の十分に大きい位置的安定性を保証する。そうでなければ、回転ステージがサンプルチャンバーの内側に配置される場合、サンプルホルダーと光線軸の交点と回転ステージの回転中心との間の距離は、いっそう短くてもよく、とりわけ1cm~15cmの範囲であり、好ましくは2cm~10cmの範囲であってもよい。
【0032】
本発明のさらなる態様によれば、回転ステージは、+70°~-70°、とりわけ+250°~-70°または-250°~+70°、好ましくは+360°~-360°の角度範囲にわたってサンプルホルダーを傾動させるように構成されていてもよい。所定の角度位置は、参照平面(光線軸を含有し、かつ、傾動軸に平行である)に関して測定される。+70°~-70°、とりわけ+250°~-70°または-250°~+70°の角度範囲は有利なことに、入射荷電粒子光線をサンプルホルダーとぶつからせることを伴わずに、サンプルの無制限、または、ほぼ無制限の照射を可能にする。
【0033】
本発明のさらなる態様によれば、回折計は、継続傾動モードにて回折パターンの傾動シリーズを測定するように構成されていてもよい。このモードでは、傾動角度は、回折パターンのシリーズを獲得している間、継続的に変化する。有利なことに、継続傾動モードで測定することは、データ獲得のための時間を有意に減少させる。とりわけ、継続傾動モードは、別の傾動位置に変わった後、例えば回転加速に起因する振動が弱まるまで、かつ、サンプルホルダーの位置が安定するまで待つ必要がない。この態様によれば、回転ステージは、0.1°/s~100°/s、とりわけ1°/s~30°/s、好ましくは1°/s~6°/sの範囲の定角速度でサンプルホルダーを傾動させるように構成されていてもよい。
【0034】
概して、回転ステージは、サンプルホルダーを傾動させるための回転運動を生成するように構成された、回転アクチュエーターを有していてもよい。同様に、単軸並進ステージおよび多軸並進ステージは、線形運動を生成するように構成された各並進軸についての線形アクチュエーターを有していてもよい。回転アクチュエーターおよびまたは各々の線形アクチュエーターは例えば、各々ピエゾドライブまたはサーボドライブまたはリニアモーターを有していてもよい。
【0035】
本発明の別態様によれば、回折計は極低温回折計である。このため、回折計は、マニピュレーターを介してサンプルホルダーと熱的に接触する極低温冷却源を有していてもよい。有利なことに、このことは、サンプルが極低温(例えば、-150℃より下)である間に回折パターンを記録することを可能にする。かかる温度において、回折計の過酷な環境(高レベルの照射および/または真空)内のサンプルの寿命は、いっそう長い。とりわけ、極低温冷却源は、液化ガス(例えば、液化窒素)を保持するように配置および構成された絶縁貯蔵瓶(例えば、デュワー瓶)を有していてもよい。
【0036】
本発明のさらなる別態様によれば、回折計はさらに、サンプルホルダーの位置を測定するための測定デバイス(とりわけ、1つ以上の容量性位置センサーまたは干渉測定デバイス)を有していてもよい。とりわけ、干渉測定デバイスは、鏡を有していてもよい。鏡は好ましくは、傾動軸に取り付けられる。とりわけ、鏡は、回転ステージと多軸並進ステージとの間に配置されてもよい。さらに、干渉測定デバイスは、コヒーレント光源(例えば、レーザー)、光線分割器および光検出器を有していてもよい。1つ以上の容量性位置センサーに関して、回折計は、マニピュレーターの各軸についてそれぞれのための容量性位置センサーを有していてもよい。このことは、マニピュレーターの種々の軸についての一連の位置測定値を介して(すなわち、マニピュレーターの種々の軸の各々の参照システムにおける一連の容量性位置センサーを介して)、粒子光線の参照システムに対するサンプルホルダーの(したがって、サンプルの)位置を測定することを可能にする。好ましくは、回折計は少なくとも、傾動軸に対して垂直な平面においてサンプルホルダーを移動させるために用いられる多軸並進ステージの各軸について容量性位置センサーを有する。このことは、傾動軸に対するサンプルホルダーの位置およびサンプルの重心の位置を測定ならびに制御すること、したがって、サンプルの重心を傾動軸に関して実質的に軸上に維持することを可能にする。
【0037】
さらに、回折計は、フィードバックコントローラーを有していてもよい。フィードバックコントローラーは、測定デバイスおよびマニピュレーターに作動的に連結されてもよく、かつ、荷電粒子光線に対するサンプルの位置を制御するように構成されていてもよく、とりわけ、回転ステージの各傾動角度位置について、サンプルの重心が、最大1μm、とりわけ最大0.5μm、好ましくは最大0.3μm、いっそう好ましくは最大0.1μmの傾動軸からの最大側方偏位を有して傾動軸に関して実質的に軸上に留まるようになっており、したがって、回転ステージの各傾動角度位置について、サンプルの容量が実質的に荷電粒子光線内に留まるようになっている。このため、フィードバックコントローラーは、少なくとも傾動軸に対して垂直な平面にいてサンプルホルダーを移動させるために用いられる多軸並進ステージに作動的に連結されてもよく、かつ、少なくとも傾動軸に対してサンプルホルダーの位置およびサンプルの重心の位置を測定するための測定デバイス(例えば、1つ以上の容量性位置センサー)に作動的に連結されてもよい。有利なことに、このことは、サンプルの重心を傾動軸に関して実質的に軸上に維持し、したがって、サンプルの容量を実質的に荷電粒子光線内に維持することを可能にする。
【0038】
添付の請求の範囲を含む本明細書で用いられるとき、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(the)」は、文脈が明示的に別のことを規定していなければ、複数形を含む。特定の数値または値の範囲に関して用語「約(abоut)」を用いるとき、これは、文脈が明らかに別のことを規定していなければ、「約」に関して言及された数値が含まれ、かつ、明示的に開示されているという意味で理解されるべきである。例えば、「約」数値A~「約」数値Bが開示されていれば、これは、数値a~数値bの範囲を含み、かつ、明示的に開示するものと理解されるべきである。また、特徴が用語「または(оr)」を用いて組み合わされるときはいつでも、用語「または」は、用語「または」が排他的であるものと理解されなければならないことが明細書から明白でなければ、「および(and)」も含むものと理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図面の説明
本発明のさらなる有利な態様は、図面の力を借りて本発明の実施形態の以下の説明から明らかとなる。
【0040】
【
図1】
図1は、本発明の第1の例示的実施形態による回折計を概略的に示している。
【
図2】
図2は、本発明の第2の例示的実施形態による回折計を概略的に示している。
【
図3】
図3は、本発明の第3の例示的実施形態による回折計を概略的に示している。
【発明を実施するための形態】
【0041】
図1は、結晶サンプル31の荷電粒子結晶学に適した本発明による回折計1の第1の例示的実施形態を概略的に示している。本実施形態では、回折計1の機構は、電子顕微鏡(とりわけ、透過電子顕微鏡(TEM))の一般的な機構に基づく。とりわけ、本実施形態による回折計1は、結晶サンプル31の構造を決定するために荷電粒子として電子を用いる電子回折計である。
【0042】
図1に見られ得るように、回折計1は、光線軸11に沿って電子の光線を生成するための荷電粒子源10を有する。荷電粒子源は、約200keV±1.2keVの電子光線を生成するように構成される。典型的には鉛直下方に延びる電子光線軸を有する鉛直配置構成を有する標準的な電子顕微鏡の一般的な構成とは対照的に、本実施形態による回折計1は、水平方向Xに沿って延びる光線軸11を有する水平配置構成を有する。
【0043】
荷電粒子源10の下流で、電子の光線は、サンプル31に衝突する平行光線電子を形成するように荷電粒子光学システム20によって操作される。このため、荷電粒子光学システム20は、2つの集光レンズ21および22ならびにアパーチャ23を有し、サンプル位置における電子光線の直径は、アパーチャ23の直径によって管理される。荷電粒子光学システム20はさらに、光線軸11に電子の光線を集中させるために位置合わせコイル(図示せず)を有していてもよい。好ましくは、荷電粒子光学システム20は、電子光線が、サンプル位置において、最大1.5μm、とりわけ最大1μm、好ましくは0.5μm~0.3μmの光線直径を有するように構成される。
【0044】
回折計1はさらに、サンプル31を通って移動した電子の光線に基づいてサンプル31の回折パターンを収集するための荷電粒子検出システム50を有する。検出システム50は、サンプル位置の下流に光学軸11に沿って配置される。本実施形態では、検出システム50は、サンプル31の拡大画像を形成してもよい対物レンズ51を有する。検出システム50はさらに、検出器54上にサンプルの拡大画像を形成してもよい2つのレンズ52および53を有する投影システムを有する。検出器54は、蛍光スクリーンであってもよく、電子検出器であってもよい。とりわけ、検出器54は、例えばDETRICS Ltd.社から市販されているような直接電子検出器(例えば、DECTRIS QUADRO検出器、画素数514×514、画素サイズ75μm×75μm、最大フレームレート18’000フレーム/秒、エネルギー範囲30~300keV)であってもよい。
【0045】
原則として、荷電粒子検出システム50は、2つの異なるモード(回折モードおよび撮像モード)で作動してもよい。回折モードでは、サンプルは、好ましくは荷電粒子の平行光線で照射され、その結果として対物レンズ51の後焦点面に回折パターンが形成される。投影レンズ52および53は、検出器54の画像平面上に後焦点面の拡大画像を形成するように配置される。撮像モードでは、サンプルは、回折モードの場合と同様の様式で照射されてもよい。しかしながら、このモードでは、投影レンズ52および53は、回折モードのように撮像平面上に対物レンズ51の後焦点面を映さないが、撮像平面上にサンプル平面を映す。撮像モードでは、サンプルを妨げられずに通過する荷電粒子と干渉するサンプルにおいて吸収された荷電粒子およびサンプルにおいて回折した荷電粒子から生じる強度放射線によって、サンプルの画像が形成される。
【0046】
サンプル31を保持するために、回折計1は、サンプルホルダー30を有する。典型的には、サンプル31は、グリッド32(次に、サンプルホルダー30上に搭載される)上に搭載される。グリッド32は例えば、典型的には結晶学プローブに用いられる約3mmの直径および50μmの網目サイズを有する銅グリッドであってもよい。
【0047】
サンプルホルダー30(したがって、サンプル31)は、回折計1のサンプルチャンバー2内に配置される。サンプルチャンバー2はまた、荷電粒子光学システム20および荷電粒子検出システム50を含有する。典型的には、サンプルチャンバー2は、電子光線とサンプル31以外のあらゆる物の望まれない相互作用を抑制するために真空条件下にある。
【0048】
サンプルホルダー30は、光線軸11に対してサンプル31を位置決めするためのマニピュレーター40に作動的に連結される。本実施形態では、マニピュレーター40は、入射電子光線に関して傾動軸44の周りでサンプルホルダー30を傾動させるための回転ステージ41を有する。サンプル31の傾動は、しばしば電子回折断層撮影として示され、かつ、例えば欧州特許出願公開第2 402 976号公報において説明されている手順を実行するために用いられる。電子回折断層撮影は、異なる傾動角度においてサンプルを照射すること、ならびに、各傾動角度についてサンプルを通って移動した散乱電子および非散乱電子を収集することによって獲得される回折パターンの傾動シリーズから結晶サンプルの三次元電子回折データセットを再構築することに基づく。
【0049】
入射荷電粒子光線とサンプルホルダー30との衝突を回避または最小化するため、回転ステージ41は好ましくは、+70°~-70°、とりわけ+250°~-70°または-250°~+70°の角度範囲にわたってサンプルホルダーを傾動させるように構成される。所定の角度範囲は、参照平面(光線軸11を含有し、かつ、傾動軸44に平行である)に関して測定される。さらに、回転ステージ41は好ましくは、0.1°/s~100°/s、とりわけ1°/s~30°/sの範囲の定角速度でサンプルホルダー30を傾動させるように構成される。有利なことに、このことは、例えばNannengaら、Nature Methods、Vol. 11、No. 9、2014年9月において説明されているように、継続傾動モードで電子回折断層撮影を採用することを可能にする。
【0050】
本実施形態では、回転ステージ41は、回折計1のサンプルチャンバー2の外側に配置される。有利なことに、この配置構成は、例えば保守または修理作業のための回転ステージ41のアクセス可能性を改善する。さらに、かかる構成は、例えば回転ステージ41が真空に適合可能である必要がないため、技術的に負担が少ない。
【0051】
電子光線に対してサンプル31を位置決めするため、本実施形態によるマニピュレーター40は、2つの並進ステージを有する:少なくとも傾動軸44に対して垂直な平面x-yにおいてサンプルホルダー30(したがって、サンプル31)を移動させるための多軸並進ステージ42、および、傾動軸44と実質的に平行な軸zに沿ってサンプル30を移動させるための単軸並進ステージ43。
【0052】
図1に見られ得るように、多軸並進ステージ42は、サンプルホルダー30と回転ステージ41との間に作動的に連結され、多軸並進ステージ42が回転ステージ41の回転システムの中にあり、かつ、サンプルホルダー30が多軸並進ステージ30の可動システムの中にあるようになっている。有利なことに、この構成は、傾動軸44を用いて軸上にサンプル31の重心を正確に位置決めすることを可能にし、サンプル容量が各傾動角度位置について電子光線内に実質的に留まるようになっている。とりわけ、この構成は、傾動角度が約5°または10°だけ実質的に変化するときにほぼ毎回サンプルの再度の位置合わせを行う代わりに、サンプル31の重心が一度だけ傾動軸44と位置合わせされることを必要とする。好ましくは、多軸並進ステージ42は、傾動軸44から半径方向に測定された最大1μm、とりわけ最大0.5μm、好ましくは最大0.3μm、いっそう好ましくは最大0.1μmの最大許容誤差範囲内で傾動軸44に対するサンプル31の重心の位置決めを可能にするように構成される。
【0053】
図1に示されている実施形態では、単軸並進ステージ43は、多軸並進ステージ42と回転ステージ41との間に作動的に連結され、単軸並進ステージ43が回転ステージ41の回転システムの中にあり、かつ、多軸並進ステージ42が単軸並進ステージ43の可動システムの中にあるようになっている。この構成は、マニピュレーターの非常にコンパクトなデザインを可能にする。代替的には、回転ステージ41は、多軸並進ステージ42と単軸並進ステージ43との間に作動的に連結され、回転ステージ41が単軸並進ステージ43の可動システムの中にあり、かつ、多軸並進ステージ42が回転ステージ41の回転システムの中にあるようになっていてもよい。
【0054】
サンプルの位置は、能動的に安定化されてもよい。このため、回折計1は、干渉法の様式でサンプルホルダー31の実際の位置を測定するための、マニピュレーター40のシャフトに取り付けられた鏡60を含む干渉測定デバイスを有する。測定された実際の位置は、フィードバックコントローラー(図示せず)へと供給されてもよく、該フィードバックコントローラーは、マニピュレーターに作動的に連結され、かつ、荷電粒子光線に対してサンプル31の位置を所望の位置へと制御するように構成される。
【0055】
サンプル31の寿命を増大させるために、本実施形態による回折計はさらに、マニピュレーター40を介してサンプルホルダー30と熱的に接触する極低温冷却源70を有する。極低温冷却源70は、液化ガス72(例えば、液化窒素)を保持してサンプルホルダー31およびサンプル30を極低温(例えば、-150℃より下)へと冷却するために用いられる、カップのような絶縁貯蔵瓶71(例えば、デュワー瓶)を有する。
【0056】
図1にさらに見られ得るように、マニピュレーター40は、傾動軸44が実質的に鉛直方向Zに延びる状態で、サンプルホルダー30より鉛直上方に配置される。このことに起因して、傾動軸44、サンプルホルダー30およびサンプル31に対するあらゆる重力効果は、各傾動位置について同じである。有利なことに、このことは、異なる傾動角度位置間の傾動軸配向の重力誘導変動を減らし、したがって、全傾動角度範囲にわたってサンプルホルダー30の位置的安定性を改善する。さらに、傾動軸44の鉛直配置構成は有利なことに、マニピュレーターの上部にある極低温冷却源70が、全傾動角度範囲にわたって、液化ガス72が貯蔵瓶71から溢れることを引き起こすことを伴わず、かつ、作動の最中の突然の重力関係の影響を許容する状況を引き起こすことを伴わずに、サンプルホルダー31とともに回転することを可能にする。
【0057】
図2は、
図1による回折計1に類似する、本発明による回折計1の代替的実施形態を示している。この理由で、同一または類似の特徴は、同じ参照記号で示されている。
図1による回折計1とは対照的に、
図2による回折計のマニピュレーター40は、サンプルホルダー30より鉛直下方に配置される。さらに、回転並進ステージ41は、サンプルチャンバー2の内側に配置される。この構成は、マニピュレーター40のいっそうコンパクトなデザインを可能にする。とりわけ、サンプルチャンバー2の内側に配置された回転並進ステージ41を有することは、サンプルホルダー30と光線軸11の交点33と回転ステージ41の回転中心との間の距離80を減少させることを可能にする。有利なことに、このことは、
図1による回折計と比較して、傾動軸44の位置的安定性を増大させる。
図1では、距離80は、10cm~30cm、好ましくは15cm~20cmの範囲である。対照的に、
図2における距離80は、1cm~15cm、好ましくは2cm~10cmの範囲である。
【0058】
図2にさらに見られ得るように、第2の実施形態における回折計はまた、極低温冷却源70を有する。ここで、極低温冷却源70は、熱伝導回転アーム73を介してサンプルホルダー30およびマニピュレーター40と熱的に接触する。有利なことに、回転アーム73は、液化ガス72が溢れることを引き起こすことを伴わずに、貯蔵瓶71の直立した配置構成を可能にする。
【0059】
図3は、
図2による回折計1に類似する、本発明による回折計1の別の代替的な実施形態を示している。この理由で、同一または類似の特徴は再度、同じ参照記号で示されている。
図2による回折計1とは対照的に、
図3による回折計1の回転ステージ41は、多軸並進ステージ42と単軸並進ステージ43との間に作動的に連結され、回転ステージ41が単軸並進ステージ43の可動システムの中にあり、かつ、多軸並進ステージ42が回転ステージ41の回転システムの中にあるようになっている。
図2の場合のように、回転ステージ41は、サンプルチャンバー2の内側にある。代替的には、回転ステージ41は、サンプルチャンバー2の外側に配置されてもよい。
【国際調査報告】