(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-25
(54)【発明の名称】水性樹脂分散体及びこの樹脂分散体を含む水性コーティング組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 79/02 20060101AFI20220715BHJP
C09D 5/08 20060101ALI20220715BHJP
C09D 163/00 20060101ALI20220715BHJP
C08K 5/17 20060101ALI20220715BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20220715BHJP
【FI】
C08L79/02
C09D5/08
C09D163/00
C08K5/17
C08L63/00 C
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021569471
(86)(22)【出願日】2020-04-23
(85)【翻訳文提出日】2022-01-13
(86)【国際出願番号】 EP2020061370
(87)【国際公開番号】W WO2020233939
(87)【国際公開日】2020-11-26
(32)【優先日】2019-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】390008981
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ コーティングス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】BASF Coatings GmbH
【住所又は居所原語表記】Glasuritstrasse 1, D-48165 Muenster,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【氏名又は名称】江藤 聡明
(74)【代理人】
【識別番号】100167106
【氏名又は名称】倉脇 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100194135
【氏名又は名称】山口 修
(74)【代理人】
【識別番号】100206069
【氏名又は名称】稲垣 謙司
(74)【代理人】
【識別番号】100185915
【氏名又は名称】長山 弘典
(72)【発明者】
【氏名】クンツェ,アンドレアス アリアン
(72)【発明者】
【氏名】シェップス,ジビレ
(72)【発明者】
【氏名】ハムゼン,レネ
(72)【発明者】
【氏名】ベンニンク,ディルク
(72)【発明者】
【氏名】ディークマン,ヒルデグント
(72)【発明者】
【氏名】ゴイティンク,マルティン
(72)【発明者】
【氏名】プルツィビラ,ジルケ
(72)【発明者】
【氏名】レセル,イェルク
(72)【発明者】
【氏名】ルムプ,イグナツィア
(72)【発明者】
【氏名】シェムシャット,ダグマール
(72)【発明者】
【氏名】ティール,フーベルト
(72)【発明者】
【氏名】コンドラット,アンナ
(72)【発明者】
【氏名】ローカムプ,ベアテ
(72)【発明者】
【氏名】ティッゲマン,モニカ
(72)【発明者】
【氏名】ヴィンクラー,トルシュテン
(72)【発明者】
【氏名】ニーンハウス,エグベルト
(72)【発明者】
【氏名】ゴシェガー,スフェン
【テーマコード(参考)】
4J002
4J038
【Fターム(参考)】
4J002CD002
4J002CD012
4J002CD052
4J002CM011
4J002DE027
4J002EN036
4J002EN046
4J002EN076
4J002FD141
4J002FD142
4J002FD156
4J002GH00
4J002HA06
4J038DB061
4J038GA07
4J038GA09
4J038HA166
4J038HA466
4J038HA536
4J038JA27
4J038KA03
4J038KA08
4J038PB12
4J038PC02
4J038PC08
(57)【要約】
本発明は、少なくとも1種の二官能及び/又は多官能のモノマー第一級及び/又は第二級アミン(M)と、第一級及び/又は第二級アミノ基を有する多官能のポリマー有機アミンとを含む樹脂成分(R)を含む特定の水性樹脂分散体(AD)に関するものである。本発明は、該樹脂分散体を含む水性2成分コーティング組成物にも関するものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の二官能及び/又は多官能のモノマー第一級及び/又は第二級アミン(M)と、第一級及び/又は第二級アミノ基を有する多官能のポリマー有機アミンとを含む樹脂成分(R)を含む水性樹脂分散体(AD)であって、
前記樹脂成分(R)が、150~400g/モルのNH当量、及び5質量%~15質量%の二官能及び/又は多官能のモノマー有機アミン(M)の質量割合を有し、
第一級及び第二級アミノ基を有する前記多官能のポリマー有機アミンは、
(i) エポキシ化合物が400g/モル未満の平均エポキシ当量質量を有する、少なくとも1種の二官能及び/又は多官能の有機エポキシ化合物と、
(ii) 少なくとも1種のモノマーアミン(M)と、
(iii) 少なくとも1種の化合物X-R(式中、Xはエポキシ基に対して反応性のある官能基であり、そしてRは、ポリオキシアルキレン単位を含有し、且つ如何なるさらなるX基も含有しない有機ラジカルである)
とを相互反応した形態で含み、
そして前記アミン(M)の少なくとも65モル%程度が、アミノ基と炭化水素単位とからなるアミンからなる、水性樹脂分散体(AD)。
【請求項2】
前記アミン(M)が二官能の第一級及び/又は第二級アミン、好ましくは二官能の第一級アミンである、請求項1に記載の水性樹脂分散体(AD)。
【請求項3】
前記樹脂成分(R)が、170~250g/モルのN-H当量を有する、請求項1又は2に記載の水性樹脂分散体(AD)。
【請求項4】
前記化合物(iii)中の前記X基が第一級アミノ基である、請求項1から3のいずれか1項に記載の水性樹脂分散体(AD)。
【請求項5】
前記化合物(iii)が第一級ポリオキシアルキレンモノアミンである、請求項1から4のいずれか1項に記載の水性樹脂分散体(AD)。
【請求項6】
成分(i)の前記少なくとも1種の二官能及び/又は多官能の有機エポキシ化合物が、250g/モル未満の平均エポキシ当量質量を有する、請求項1から5のいずれか1項に記載の水性樹脂分散体(AD)。
【請求項7】
前記ポリマー有機アミンが、成分(i)、(ii)及び(iii)からなる、請求項1から6のいずれか1項に記載の水性樹脂分散体(AD)。
【請求項8】
前記樹脂成分(R)が、前記少なくとも1種の二官能及び/又は多官能のモノマー第一級及び/又は第二級アミン(M)と、前記第一級及び/又は第二級アミノ基を有する多官能のポリマー有機アミンとからなる、請求項1から7のいずれか1項に記載の水性樹脂分散体(AD)。
【請求項9】
前記アミン(M)の少なくとも75モル%程度、好ましくは少なくとも90モル%程度、より好ましくは100モル%程度が、アミノ基と炭化水素単位とからなるアミンからなる、請求項1から8のいずれか1項に記載の水性樹脂分散体(AD)。
【請求項10】
塗料ベース成分(1)及び硬化成分(2)を含む水性2成分コーティング組成物であって、
I) 前記塗料ベース成分(1)は、請求項1から9のいずれか1項に記載の少なくとも1種の水性分散体を含み、そして前記硬化成分(2)は、少なくとも1種のエポキシ樹脂を含み、前記エポキシ樹脂は400g/モル未満の平均エポキシ当量を有する、
又は
II)前記塗料ベース成分(1)は、少なくとも1種のエポキシ樹脂を含み、前記エポキシ樹脂は400g/モル未満の平均エポキシ当量を有し、そして前記硬化成分(2)は、請求項1から9のいずれか1項に記載の少なくとも1種の水性分散体を含む、水性2成分コーティング組成物。
【請求項11】
サーフェイサー又はプライマーサーフェイサーであることを特徴とする、請求項10に記載のコーティング組成物。
【請求項12】
基材上において硬化したコーティングを製造するための方法であって、請求項10又は11に記載のコーティング組成物を前記基材に適用した後に硬化させる、方法。
【請求項13】
請求項10又は11に記載のコーティング組成物を欠陥の領域に適用し、前記組成物を硬化させて硬化したコーティング層を生成し、次いで前記硬化したコーティング層を研摩することを含む、欠陥を有するマルチコート塗装系を補修する方法。
【請求項14】
請求項12又は13に記載の方法によって製造されたコーティング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性樹脂分散体、すなわち、樹脂成分(R)を含む水性樹脂分散体(AD)に関するものであり、樹脂成分は、二官能及び/又は多官能のモノマー有機アミン及び多官能のポリマー有機アミンを含む。本発明は、樹脂分散体(AD)を含む水性コーティング組成物にも関するものである。このコーティング組成物は、樹脂分散体及びエポキシ樹脂の組み合わせを含み、水性研摩サーフェイサー又はプライマーサーフェイサーとして卓越して好適である。よって、基材に適用した後、続いて硬化させることによって、優れた研摩性を有し、そしてそれ故特に補修分野での有用性が優れているサーフェイサー層を得ることが可能である。
【背景技術】
【0002】
最新技術
エポキシ-アミンの組み合わせに基づいて硬化性があり、そしてこのようにして腐食安定性のあるサーフェイサー層又はプライマーサーフェイサー層を形成することができる、水性サーフェイサー及びプライマーサーフェイサーが、原則として知られている。その特性のプロファイルは非常に複雑であり、そして既に述べた腐食安定性、及び鋼、亜鉛メッキ鋼、アルミニウム、電着被覆及び古い塗装系などの様々な基材への良好な接着性という特定の特徴を有する。
【0003】
しかし、特に自動車の再仕上げ分野で構築されるサーフェイサー層は、中程度の温度で硬化した後、及び塗装場において慣例の処理時間内であっても、許容可能な研摩性(sandability)を有するべきであることに留意すべきである。この研摩性は、ベースコート及びクリアコートなどの後続の層のために均質な表面を作り出し、且つ審美的に高品質な塗装表面の外観を最終的に可能にするために、塗装処理手順において非常に重要である。しかし、従来技術から既知の系では、特に研摩性の点で依然として問題があった。
【0004】
WO97/49749A1には、硬化剤として特定のエポキシ-アミノウレタン付加物を含む水性エポキシ系をベースとするコーティング組成物が開示されている。これらは、非常に特定のアミノウレタン化合物をエポキシ化合物と反応させることによって得られる。このエポキシ化合物は、ポリアルキレンポリエーテルを1個以上のアミノ基と反応させることによって得られる。これらの付加物は、水性の2成分塗料、特に自動車用塗料に使用される。それらから製造された塗料又は塗料被覆は、良好な研摩性を有する。EP0387418A2に記載されている塗料は、その研摩性に関して不利な点があると述べられている。
【0005】
EP0387418A2には、エポキシ化合物用の硬化剤と、コーティング及びカバーリングの製造のためのその使用が開示されている。この硬化剤は、ポリアルキレンポリエーテルアミンを、化学量論的に過剰なジ-及び/又はポリエポキシ化合物と反応させ、次いで前記付加物を化学量論的に過剰なアミンと反応させることによって調製される。これらの硬化剤を用いて製造されたコーティング組成物は、良好な貯蔵安定性及び良好な硬化特性を有する。再仕上げについては言及されておらず、コーティングの研摩性についても、サーフェイサーにおける硬化剤の使用についても、言及されていない。
【0006】
EP0610787A2には、ポリエポキシド及びポリアルキレンポリエーテルポリオールから形成される付加物(A)を、アミンとエポキシドとの反応生成物と反応させるか、又はアミン及びそれに続きエポキシドと反応させることによって得られる、水性エポキシ樹脂分散体用の硬化剤が記載されており、アミンはそれぞれの場合において化学量論的に過剰に使用される。対処される課題は、例えば、サーフェイサーを含むコーティング組成物において、良好な結合性及び硬度を得ることである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO97/49749A1
【特許文献2】EP0387418A2
【特許文献3】EP0610787A2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
課題と技術的解決策
よって本発明が対処する課題は、先行技術の欠点を排除すること、及び適用及び硬化後に、特に自動車の再仕上げにおいて、良好な結合性及び防食特性を有するが、それにもかかわらず、低温での比較的短時間の硬化後でさえ非常に良好な研摩性を有する、水性コーティング組成物を提供することである。よってこの組成物は、サーフェイサー及びプライマーサーフェイサーとして、又はマルチコート塗装系におけるサーフェイサー層の製造にとって、特に良好な適合性を有することが求められる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述の目的は、少なくとも1種の二官能及び/又は多官能のモノマー第一級及び/又は第二級アミン(M)と、第一級及び/又は第二級アミノ基を有する多官能のポリマー有機アミンとを含む樹脂成分(R)を含む、新規の水性樹脂分散体(AD)によって達成されることが見出され、
ここで樹脂成分(R)は、150~400g/モルのNH当量、及び5質量%~15質量%の二官能及び/又は多官能のモノマー有機アミン(M)の質量割合を有し、
第一級及び第二級アミノ基を有する多官能のポリマー有機アミンは、
(i) エポキシ化合物が400g/モル未満の平均エポキシ当量質量(equivalent weight)を有する、少なくとも1種の二官能及び/又は多官能の有機エポキシ化合物と、
(ii) 少なくとも1種のモノマーアミン(M)と、
(iii) 少なくとも1種の化合物X-R(式中、Xは、エポキシ基に対して反応性のある官能基であり、そしてRは、ポリオキシアルキレン単位を含有し、且つ如何なるさらなるX基も含有しない有機ラジカルである)と
を相互反応した形態(in interreacted form)で含み、
そしてアミン(M)の少なくとも65モル%程度が、アミノ基と炭化水素単位とからなるアミンからなる。
【0010】
この新規の樹脂分散体(AD)を、本発明の分散体とも呼ぶ。本発明はさらに、本発明の分散体を含む水性2成分(2K)コーティング組成物を提供する。本発明はさらに、このコーティング組成物を用いてコーティングを製造するための方法を提供する。本発明によって少なくとも提供されるのは、欠陥を有するマルチコート塗装系を補修するための方法であり、この方法はこのようなコーティング組成物を適用すること、組成物を硬化させて硬化したコーティング層を生成すること、及びその後にコーティング層を研摩することを含む。本発明は、記載のように製造されたコーティング層及び被覆された基材も提供する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
水性樹脂分散体(AD)
本発明は、第一に、樹脂成分(R)を含む水性樹脂分散体(AD)に関するものである。
【0012】
樹脂分散体などの分散体、相、或いは水性コーティング組成物に関連する「水性」という用語は、原則として知られている。意味することは、溶媒としてかなりの割合の水を含有する分散体又は混合物である。代替的に、水性の系が、例えば、特定の構成成分、例えば樹脂、顔料又は添加剤などを安定化させるための乳化剤の機能を備えた共溶媒として、少なくとも少量の有機溶媒を含有するのも可能であることが、理解されよう。本発明における「水性」とは、好ましくは、問題の系、好ましくは分散体が、各場合において存在する溶媒(すなわち、水及び有機溶媒)の合計量に基づいて、少なくとも40質量%、好ましくは少なくとも50質量%、さらにより好ましくは少なくとも60質量%の水の割合を有することを意味すると理解されるべきである。そして好ましくは、水の割合は、各場合において存在する溶媒の合計量に基づいて、50質量%~99質量%、特に60質量%~98質量%である。
【0013】
樹脂又は樹脂成分も同様に、原則として知られている定義に従って、有機構成成分、すなわち有機反応生成物、オリゴマー及び/又はポリマー、そして適切であれば、樹脂成分(R)のように、モノマーも含有する生成物を意味するものと理解される。樹脂は、多かれ少なかれモル質量の分布が広く、そして一般にコーティング組成物においてバインダーとして使用できる。よって樹脂は、硬化後に存在するコーティング層のポリマーネットワークの少なくともある割合を形成する。
【0014】
本発明によれば、樹脂成分(R)は、少なくとも1種の二官能及び/又は多官能のモノマー第一級及び/又は第二級アミン(M)、すなわち、第一級及び第二級アミノ基の群から選択される少なくとも2つのアミノ基を含む少なくとも1種のモノマーアミンを含有する。無論、第三級アミノ基がさらに存在することも不可能ではない。
【0015】
本発明において、全体的に使用され、それ故水性分散体(AD)中に存在するアミン(M)の少なくとも65モル%程度が、アミノ基と炭化水素単位とからなるアミンからなることが必須である。そうでない場合、研摩性に悪影響が生じる結果となることが見出された。よってこれが意味するのは、特に他の官能基、例えばヒドロキシル基、カルボキシル基又はニトリル基などが少量しか存在しないということである。アミン(M)の少なくとも75モル%程度、より好ましくは少なくとも90モル%程度が、アミノ基と炭化水素単位とからなるアミンからなることが好ましい。最も好ましくは、これらのアミンの割合は、100モル%である。
【0016】
対応するアミンの割合は、基本的には使用するアミンの量から自明である。しかし市販品などの製品を使用する場合には、製品(製品中でアミンが既に部分的に又は完全に互いに共有結合していることもある)を分析することにより、対応するアミンの割合を、上述の条件が満たされていることが直接明らかになる程度に決定することも、同様に可能である(例えば、ガスクロマトグラフィー(GC)、質量分析(MS)による分析)。
【0017】
好適なアミン(M)の例は、当業者に原則として既知のモノマーの脂肪族アミン、芳香族アミン及び脂肪芳香族(混合された脂肪族-芳香族)アミンである。
【0018】
二官能及び/又は多官能のモノマー第一級及び/又は第二級アミンの例には、以下が含まれる:エチレンジアミン、プロピレン-1,2-ジアミン、プロピレン-1,3-ジアミン、ブタン-1,4-ジアミン、オクタン-1,8-ジアミン、1,3-ジアミノペンタン、ヘキサメチレンジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミン、ネオペンタンジアミン、シクロヘキサンジアミン、2,2,4-(2,4,4-)トリメチルヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミン、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ジプロピレントリアミン、ビス(ヘキサメチレンジアミン)、N,N-ジメチルアミノジプロピレントリアミン、ラウリルプロピレンジアミン、1,2-及び1,3-(m)-キシリレンジアミン、及び1,4-ビス(アミノメチル)ベンゼン。さらなるアミンには、アミノエチルエタノールアミンか、或いは複素環ポリアミン、例えばアミノエチルピペラジン及びビス(アミノプロピル)ピペラジンが含まれる。
【0019】
二官能の第一級及び/又は第二級アミン(M)が好ましく、そしてさらに、二官能の第一級アミンが好ましい。イソホロンジアミン及びm-キシリレンジアミンが非常に特に好ましく、そして樹脂成分は、より好ましくは、前述の2種のジアミンの混合物を含有する。つまり、アミン(M)は、イソホロンジアミン及びm-キシリレンジアミンの混合物である。
【0020】
少なくとも1種の二官能及び/又は多官能のモノマー第一級及び/又は第二級アミン(M)の割合は、樹脂成分(R)に基づいて、5質量%~15質量%、好ましくは6質量%~14質量%、より好ましくは7質量%~13質量%である(試験方法については実施例の項を参照)。
【0021】
樹脂成分(R)は、第一級及び/又は第二級アミノ基を有する多官能のポリマー有機アミンも含有する。既に記載したモノマーアミンからの画定として、これらは具体的には、各分子について一定である分子当たり個別の数のアミノ基を有する低分子量化合物ではなく、ポリマー性を有する付加物又は反応生成物であり、分子当たりのアミノ基の数は、平均によってのみ記述することができる。
【0022】
ここで記載した成分の構造、すなわち第一級及び/又は第二級アミノ基を有する多官能のポリマー有機アミンの構造は、樹脂成分(R)の調製のためのさらに以下で記載する出発化合物から推測することができる。
【0023】
樹脂成分(R)は、150~400g/モル、好ましくは160~350g/モル、より好ましくは170~250g/モルのN-H当量を有する(決定方法については実施例の項を参照)。
【0024】
樹脂成分(R)を含む水性分散体(AD)は、例えば、本明細書中以下に詳述する二段階プロセス(A+B)によって調製可能である。
【0025】
段階A
反応順序の第一段階(A)では、2つの出発成分(Ia)及び(Ib)、すなわち、エポキシ官能性樹脂混合物(Ia)と、少なくとも1種の二官能及び/又は多官能のモノマー第一級及び/又は第二級アミン(M)を含有する成分(Ib)とを互いに反応させる。これにより、アミノ官能性樹脂混合物(I)が得られる。このように、成分(Ia)及び(Ib)の量は互いに釣り合っていて、成分(Ib)のN-H当量が成分(Ia)のエポキシ基に対してモル過剰となっていることが明白である。
【0026】
エポキシ官能性樹脂混合物(Ia)は、本発明中以下に記載する2つの成分(Ia1)及び(Ia2)を相互反応した形態で含有する。樹脂混合物(Ia)は、好ましくは、これらの2つの成分からなる、すなわち、これらの2つの成分のみの反応によって調製される。
【0027】
成分(Ia1)は、少なくとも1種の二官能及び/又は多官能の有機エポキシ化合物である。
【0028】
有用な成分(Ia1)はこのように、原則として既知のエポキシ樹脂である。使用するこれらのエポキシ化合物は、400g/モル未満の平均エポキシ当量質量を有することが好ましい。これに対応してこの成分の平均エポキシ当量質量が低く、それ故エポキシ官能性が高いと、最終的に製造されるサーフェイサー層において、より良好な研摩性が得られることが見出された。より好ましくは、平均エポキシ当量質量は350g/モル未満、好ましくは300g/モル未満、より好ましくは250g/モル未満である。平均エポキシ当量は、使用する全てのエポキシ化合物のエポキシ当量を決定し(試験方法は実施例の項を参照)、そしてエポキシ化合物の合計質量におけるその質量割合を加重することによって得ることができる。同様に、市販品などの既存の製品(製品中でエポキシ化合物が既に共有結合していることがある)を使用する場合には、製品の分析により、平均エポキシ当量質量を、平均エポキシ当量質量が上述の上限値未満であることが直ちに明白になる程度に決定することも可能である(例えば、ガスクロマトグラフィー(GC)、質量分析(MS)による分析)。
【0029】
エポキシ樹脂は、ベースの分子中に統計的平均で1個を超えるエポキシ基を含有する重縮合樹脂として知られている。例えば、ビスフェノールA又はビスフェノールFとエピクロロヒドリンとの縮合によって調製したエポキシ樹脂である。これらの化合物は、鎖に沿ってヒドロキシル基を含有し、そして末端にエポキシ基を含有する。エポキシ樹脂の鎖長に応じて、エポキシ基を介した架橋能に変化がある。それは、正確には、エポキシ基を介した架橋能が、鎖長/モル質量の増加と共に低下するからである。本発明において、それ自体当業者に既知である任意のエポキシ樹脂を使用することが最終的に可能であるが、それらが上述のエポキシ当量質量の範囲内であるのが条件である。例えば、有機溶媒又は水中の溶液又は分散体として得ることができる、さらに以下に後述する市販のエポキシ樹脂を用いることが可能である。
【0030】
そのようなエポキシ樹脂は、例えば、100%の系としてか、或いは有機溶媒又は水中の溶液又は分散体として得ることができる。
【0031】
成分(Ia1)が平均で二官能であるエポキシ化合物であることが好ましい。なぜなら、これが上述の標準的な合成においてエピクロロヒドリンを介して形成されるものであるからである。
【0032】
さらに、エポキシ化合物(Ia1)が、ビスフェノールAベースのエポキシ化合物、すなわち、ビスフェノールAの使用により調製されたエポキシ化合物であることが好ましい。これが意味するのは、より具体的には、エポキシ化合物は、合成により導入された如何なるビスフェノールFも含有しないということである。そしてこの結果、最終的に製造されるサーフェイサー層の研摩性に良い影響がもたらされることが見出された。
【0033】
成分(Ia2)は、少なくとも1種の化合物X-Rであり、式中、Xはエポキシ基に対して反応性のある官能基であり、そしてRはポリオキシアルキレン単位を含有し、且つ如何なるさらなるX基も含有しない有機ラジカルである。成分(Ia2)として、厳密に1種の化合物X-Rを使用することが好ましい。
【0034】
X基は、当業者に既知の基、例えば、第一級又は第二級アミノ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基又はチオール基である。
【0035】
化合物X-Rがちょうど1つのX基を有することは極めて重要である。そうでない場合、最終的に製造されるべきサーフェイサー層の研摩性に悪影響が見られる。
【0036】
好ましいX基はアミノ基であり、そしてその中でも好ましくは第一級アミノ基である。アミノ基のエポキシ基との良好な反応性の他に、第一級アミンはN-H当量2を有し、それ故エポキシドへの連結部位を有する。このようにして、化合物X-Rを、分子の側鎖位置へ組み込むことができる。そしてその全体的な結果として、サーフェイサー層の研摩性が有利となる。
【0037】
R基は、ポリオキシアルキレン単位を含有する有機ラジカルであり、特に好ましくは、ポリエチレン又はポリプロピレン単位、又は混合ポリエチレン/ポリプロピレン単位である。有機Rラジカルは、合成の結果生じる任意の分子単位とは別に、ポリオキシアルキレン単位からなることが好ましい。簡略化のために、そのようなR基はポリオキシアルキレン基とも呼ぶ。合成の結果生じる分子単位は、例えば、ポリオキシアルキレン鎖の形成の開始時に使用される分子の有機ラジカルであり、例えば、エチレンオキシド及び/又はプロピレンオキシドの重合の開始に用いられるスターターアルコールである。好ましくは、R基は、ポリエチレン基、ポリプロピレン基、又は混合ポリエチレン/ポリプロピレン基である。
【0038】
化合物(Ia2)の質量平均分子量は、大きく変化してよく、例えば、800~2200g/モルの範囲である(サイズ排除クロマトグラフィーと光散乱とを組み合わせた手段によって決定される)。
【0039】
言及した化合物X-Rは、それ自体を調製するか、或いは商業的に入手してもよい。例えば、明らかに好ましいポリオキシアルキレンモノアミンは、Huntsman社から「Jeffamine」の名称で購入することができる。
【0040】
エポキシ官能性樹脂混合物(Ia)は、2つの成分(Ia1)及び(Ia2)を相互反応した形態で含有する。よって成分(Ia1)のエポキシ基と成分(Ia2)のX基が、互いに反応する。対応する反応体制及び条件は当業者に知られており、これ以上言及する必要はない。
【0041】
成分(Ia)は、エポキシ官能性樹脂混合物である。よって記載した原料から、成分(Ia1)及び(Ia2)は、成分(Ia1)のエポキシ基が、X基の反応性単位に対してモル化学量論的過剰になるように使用されることが明白である。反応性単位の数とは、各エポキシ基の潜在的な連結部位の数を意味する。ヒドロキシル基又は第二級アミノ基の場合、例えば、X基あたり1つの反応性単位がある。第一級アミノ基の場合、2つの反応性単位(2つのN-H官能)がある。好ましくは、化合物(Ia1)のエポキシ基及び成分(Ia2)のX基のエポキシ反応性単位のモル比は、10~1.1、より好ましくは5~1.5、特に好ましくは3.5~1.8である。
【0042】
成分(Ia1)のエポキシ基の量は、目的に応じて既知の方法でエポキシ当量質量を決定することにより、適切に得ることができる、又は調整することができる。X基中の反応性単位の量は、官能基Xの量を決定するためのそれ自体既知の試験方法から、例えば、アミン価、OH価又は酸価の決定(DIN53176:2002-11、DIN53240-3:2016-03、DIN EN ISO2114修正1:2006-11)から分かる。
【0043】
成分(Ia)は、好ましくは500~1500g/モル、より好ましくは600~1200g/モルのエポキシ当量質量を有する。
【0044】
成分(Ia)と反応させる成分(Ib)は、少なくとも1種の二官能及び/又は多官能のモノマー第一級及び/又は第二級アミン(M)を含む。好ましくは、成分(Ib)は、少なくとも1種のそのようなアミン(M)からなる。
【0045】
好適なアミン(M)の例は、樹脂成分(R)の構成成分として既に上述したとおりである。上記の事項及び好ましい変形例はすべて、成分(Ib)のアミンにも対応して適用できる。
【0046】
樹脂混合物(I)は、アミノ官能性樹脂混合物であり、よってその調製には、互いに反応させる成分(Ia)及び(Ib)の官能基に関連して、モル過剰のN-H当量が必要である。具体的には、樹脂混合物(I)のNH当量は、50~140g/モル、好ましくは70~130g/モルである(決定方法については実施例の項を参照)。さらに、樹脂混合物(I)は、二官能及び/又は多官能のモノマー第一級及び/又は第二級アミン(M)、すなわち成分(Ib)の割合が17.5質量%~40質量%、好ましくは25質量%~35質量%である。両方の基準は、2つの成分のモル量の好適な選択によって、そして、それ自体既知の条件及び反応体制下でエポキシ基とN-H官能基の定量的な変換があるという知識の下で、当業者が調整することができる。さらに、以下の例では、より具体的な概要を再度示す。可能な反応体制及び対応する条件は、当業者に既知であり、これ以上の言及は必要ない。好ましくは、樹脂混合物(I)は、その製造後、水中に分散しており、その場合は水性分散体である。
【0047】
樹脂混合物(I)は、そのものとして上記のように製造することができ、それ故水性分散体で得ることができる。同様に、樹脂混合物(I)の水性分散体を商業的に購入することも可能である(例えば、Beckopox VEH2849w/80WA(Allnex社製)として)。
【0048】
段階B
反応順序の第二段階(B)では、2つの出発成分(IIa)及び(IIb)を水相中で互いに反応させる。すなわち、アミノ官能性樹脂混合物(I)を含有する成分(IIa)と、平均エポキシ当量質量が400g/モル未満、好ましくは350g/モル未満、より好ましくは250g/モル未満の少なくとも1種の二官能及び/又は多官能の有機エポキシ化合物を含有する成分(IIb)とを反応させる。場合により、使用した有機溶媒を除去した後、これによって、樹脂成分(R)を含む水性分散体(AD)が得られる。上記で既に詳細に記載した樹脂成分(R)の特性から、成分(IIa)及び成分(IIb)の量は互いに釣り合っていて、成分(IIa)のN-H当量が成分(IIb)のエポキシ基に対してモル過剰となっていることが明白である。
【0049】
成分(IIa)として、段階(A)からの直接反応生成物に、単に場合により溶媒又は乳化剤などの助剤を補ったものを使用することが好ましい。なぜなら、樹脂混合物(I)が段階(A)の後に水性分散体として得られ、よって水相で行われる段階(B)で直接使用することができるからである。成分(IIa)は、好ましくは、前述の反応生成物以外に、成分(IIb)と反応することができる如何なるさらなる構成成分も含有しない。
【0050】
成分(IIb)は、好ましくは、上記の前提条件を満たすエポキシ当量質量を有する少なくとも1種、好ましくは厳密に1種の二官能性及び/又は多官能性有機エポキシ化合物からなる。好適なエポキシ化合物の例は、成分(Ia1)として既に上述したものである。上記の事項及び好ましい変形例はすべて、成分(IIb)のアミンにも対応して適用できる。
【0051】
水性分散体(AD)は、例えば、25質量%~45質量%の固形分含量を有する(試験方法については実施例の項を参照)。
【0052】
上述のプロセスは、例えば、既存の市販品(例えば、上述のBeckopox VEH2849w/80WA)の利用も可能にする好ましいプロセスの変形である。例えば、本発明の分散体(AD)は、前述の市販品を利用する場合には、適切なエポキシドを用いた単純な修飾によって得ることができる(この最後の反応を除けば、市販品の製造において、すべてのさらなる反応プロセスが既に実施されているからである)。しかしながら、分散体(AD)、ひいてはその中に存在する樹脂成分(R)を提供する別の形態を選択することも可能であることが理解されよう。よって例えば、アミン及びエポキシドの適切な化学量論を調整することによって、すべての出発成分を一緒に反応させる一段階のプロセスで提供を達成することが可能である。成分(Ia1)及び(Ia2)と上記で呼ぶ成分をまず互いに反応させ、それからこの中間体と、さらなるエポキシド及びモノマーアミン(M)とを同時に反応させることによって、分散体(AD)又は樹脂成分(R)に到達することも可能である。
【0053】
樹脂成分(R)は、少なくとも1種の二官能及び/又は多官能のモノマー第一級及び/又は第二級アミン(M)と、第一級及び/又は第二級アミノ基を有する多官能のポリマー有機アミンとからなることが好ましい。
【0054】
同様に、第一級及び第二級アミノ基を有する多官能のポリマー有機アミンは、反応した形態の前述の出発材料からなることが好ましい。このようにポリアミンは、好ましくは、
(i) エポキシ化合物が400g/モル未満の平均エポキシ当量質量を有する、少なくとも1種の二官能及び/又は多官能の有機エポキシ化合物と、
(ii) アミン(M)の少なくとも65モル%程度が、アミノ基と炭化水素単位とからなるアミンからなる、少なくとも1種のモノマーアミン(M)と、
(iii) 少なくとも1種の化合物X-R(式中、Xは、エポキシ基に対して反応性のある官能基であり、そしてRは、ポリオキシアルキレン単位を含有し、且つ如何なるさらなるX基も含有しない有機ラジカルである)と
からなる。
【0055】
個々の出発成分の量及び比率は無論、当業者は容易に調整することができる。それらはいずれにしても、或る一定の構成の自由度の範囲内で、本発明によって達成されるNH当量、及び本発明によって達成されるモノマーアミン(M)の割合がもたらされるように選択する。
【0056】
上記から、成分(i)は、好ましいプロセスで上述した成分(IIb)に、好ましくは成分(Ia1)及び成分(IIb)に相当し、成分(ii)は成分(Ib)に相当し、そして成分(iii)は成分(Ia2)に相当する。プロセスの範囲内で記載した好ましい実行例は、無論、成分(i)、(ii)及び(iii)の範囲内でも適用可能である。
【0057】
水性2成分(2K)コーティング組成物
本発明はとりわけ、水性分散体(AD)を含む水性2Kコーティング組成物にも関するものである。
【0058】
既知のように、このような2K組成物とは、以下にさらに詳細に定義する成分(1)(塗料ベース成分)及び以下に定義する成分(2)(硬化成分)を、互いに別々に調製及び保存し、そして適用する少し前まで化合させないことを意味する。処理時間又はポットライフ(すなわち、コーティング組成物を室温(15~25℃、特に20℃)で処理しても粘度が上昇せず、室温での対応する架橋反応の結果、例えばもはや適用が不可能となるほど固く(severe)ならない時間)は、既知のように、成分(1)及び(2)で使用される構成成分に依存する。本発明において、コーティング組成物の処理時間は、好ましくは少なくとも2分から最大で60分まで、より好ましくは少なくとも5分から60分である。このような2成分コーティング組成物の特に有利な点は、特に、硬化のために高温を必要としないことである。本発明のコーティング組成物を基材に適用した後、80℃以下、特に好ましくは65℃以下で硬化させることが好ましい。
【0059】
硬化とは、当業者に既知のプロセスを意味し、言い換えれば、フィルムとして基材に適用されたコーティング組成物を、すぐに使用できる状態、従って言い換えれば、該コーティングが施された基材をその意図された使用に供することができる状態に変換することを意味する。本発明において対処される中心的な課題、すなわち良好な研摩性を得ることに関連して、まさにその研摩性及びそれに続くオーバーコート性(overcoatability)は無論、意図された使用のための条件である。硬化は特に、コーティング組成物の異なる成分(1)及び(2)に存在するバインダー構成成分の反応性官能基の化学反応によって行われる。よって本発明において特に言及すべきであるのは、樹脂成分(R)のアミノ基又はN-H官能基と、2Kコーティング組成物のそれぞれの他の主成分(塗料ベース成分又は硬化成分)中にこの場合存在する少なくとも1種のさらなる樹脂成分のエポキシ基との反応である。これらの架橋反応と、これに並行して、存在する任意の有機溶媒及び/又は水が蒸発する結果、コーティングフィルムが形成される、すなわち、硬化したコーティング層(硬化コーティング)が生成される。反応の活性化は熱エネルギーによって可能であるが、本発明の場合、高温を必要としないという上述の利点がある。
【0060】
用語「バインダー」又は「バインダー構成成分」とは、本明細書において、関連するDIN EN ISO4618に準拠して、顔料及びフィラーを除く、コーティング材料の不揮発性画分を指す。よってこの文脈における具体的なバインダー構成成分は、樹脂成分(R)と同様に、N-H官能基と架橋するための官能基を含有する既に上述した他の樹脂成分か、或いはコーティング添加剤である。
【0061】
しかしながら、単に明確化のために、「バインダー」という用語は、フィルム形成に主として関与する塗料ベース成分(1)の樹脂成分に関連して主に使用され、一方で、硬化成分(2)中に存在する樹脂成分は、主として硬化剤か、或いは架橋剤と呼ばれる。塗料ベース成分(1)は、バインダー及び溶媒の他に、組成物のさらなる機能性構成成分、例えば顔料、フィラー及び添加剤の全て又は大部分を含有する一方で、硬化成分(2)は、存在する溶媒及び任意の添加剤の他に、架橋を目的とした樹脂成分のみを含有するのが普通である。2Kコーティング組成物に関連する「塗料ベース成分」及び「硬化成分」という用語は当業者に既知であり、そして本質的に特徴的であり、そしてそれ故、或る構成の範囲内で特徴を画定する。
【0062】
無論、2Kコーティング組成物を完成させるために、少なくとも1種のさらなる追加の主成分が存在することもある。これは、塗料ベース成分(1)及び硬化成分(2)と同様に、溶媒又は添加剤などのさらなる構成成分を、少なくとも1種のさらなる主成分に、例えば2つの主成分(1)及び(2)が添加された後に添加してもよいことを意味する。しかしながらそれにもかかわらず、この組成物は、フィルム形成に関与する互いに架橋する構成成分を含有する成分の数が2つであるので、定義上は2Kコーティング組成物である。
【0063】
2Kコーティング組成物は、サーフェイサー及びプライマーサーフェイサーとしての適合性が優れており、そしてサーフェイサー及びプライマーサーフェイサーとして使用できる。よって2Kコーティング組成物は、好ましくはサーフェイサー又はプライマーサーフェイサーである。サーフェイサー及びプライマーサーフェイサーの機能、構成及び使用分野は、当業者には原則として既知であり、その点において画定された特性を有する。サーフェイサーは一般的に、自動車のOEM仕上げにおいて、(先に硬化した電着被覆の)中間層として適用され、別々に硬化され、それからベースコート及びクリアコートでオーバーコートされる。プライマーサーフェイサーは、特に自動車の再仕上げ分野で使用され、元の塗装系の局所的な損傷区域を埋め、基材に適切な接着性と確実な腐食防止とをもたらす役割を果たす。
【0064】
2Kコーティング組成物は、必須構成成分として、樹脂成分(R)を含む水性分散体(AD)を含有する。ここで分散体(AD)の量は、好ましくは、樹脂成分(R)の割合が、コーティング組成物の固形分含量に基づいて、10~30質量%、より好ましくは15~25質量%となるように選択する。
【0065】
2Kコーティング組成物は、エポキシ基を含有する少なくとも1種のさらなる樹脂成分も含有する。エポキシ基はN-H官能基と反応してネットワーク構造を形成することができ、そしてこのようにして、コーティング組成物から生成されるコーティング層の硬化に寄与することができる。対応するエポキシ樹脂は既知であり、そして成分(Ia1)及び(IIb)に関連して上記でも記載している。好ましいエポキシ樹脂は、400g/モル未満、好ましくは100~400g/モル未満、より好ましくは150~300g/モルのエポキシ当量質量を有する。
【0066】
さらなる樹脂成分の割合は、コーティング組成物の固形分含量に基づいて、例えば、15~40質量%、より好ましくは20~30質量%である。
【0067】
好ましくは、樹脂成分(I)のN-H官能基とさらなる樹脂成分のエポキシ基のモル比は、0.7:1~0.95:1、例えば0.9:1である。
【0068】
上記記述から、樹脂成分(R)と、エポキシ基を有する少なくとも1種のさらなる樹脂成分とを含む水性分散体(AD)は、組成物(塗料ベース成分(1)及び硬化成分(2))中にいずれの場合も存在する成分の異なる主成分中に存在することが、直接導かれる。
【0069】
2Kコーティング組成物は水性である、すなわち、溶媒として少なくとも水を含有する。「水性」の厳密な定義は、既に上述したとおりである。
【0070】
2Kコーティング組成物は、好ましくは、さらなる構成成分、特にサーフェイサー又はプライマーサーフェイサーとしての適合性をもたらすものを含む。この関連で特に言及すべきは、顔料及びフィラーである。
【0071】
好ましい顔料は、黒色及び/又は白色顔料である。よってプライマーは、好ましくは、少なくとも1種の黒色顔料、又は少なくとも1種の白色顔料、又は少なくとも1種の白色顔料及び1種の黒色顔料を含有する。これは、本発明のプライマーが、好ましくは、黒、白、又は(様々なグラデーションの)グレーの色を有することを意味する。無論、さらなる顔料も存在することは、不可能ではない。
【0072】
好ましい黒色顔料は、粉末の形で市販されているような典型的な有機及び無機の、特に無機の黒色顔料である。特に言及すべきは、ピグメントブラック(カーボンブラック)、典型的な合成酸化鉄(例えば、Lanxess社からBayferroxの商品名で入手可能)などの酸化鉄(Fe3O4)顔料、マンガンブラック又はスピネルブラックなどの混合酸化物顔料である。ピグメントブラック(カーボンブラック)及び酸化鉄顔料が非常に特に好ましい。
【0073】
好ましい白色顔料は、典型的な無機白色顔料、例えば二酸化チタン(例えばKronos社製の商品名Kronosで知られるルチル顔料)、酸化亜鉛、硫化亜鉛又は三酸化アンチモンである。二酸化チタン、特にそのルチル修飾したものが非常に特に好ましい。
【0074】
さらに好ましい顔料は、「防食顔料」という包括的な用語で知られる顔料である。ここでは、リン酸亜鉛が特に好ましい。リン酸亜鉛は白色を呈するが、白色顔料には分類されず、その防錆効果から防錆顔料に分類される。
【0075】
顔料の割合は、各場合においてコーティング組成物の固形分含量に基づいて、好ましくは15~25質量%、特に20質量%である。
【0076】
好ましく存在するフィラーは、それ自体既知であり、当業者に周知のあらゆる無機及び有機フィラー、好ましくは無機フィラーである。よってフィラーは、コーティング組成物の特定の物理的特性を達成するために、例えば粒状又は粉末状で使用され、それぞれの使用媒体に対して不溶性である、当業者に既知の物質を特に含む。これらには特に、炭酸塩、例えば炭酸カルシウム又は炭酸バリウム、硫酸塩、例えば硫酸カルシウム及び硫酸バリウム、シリケート及びシートシリケート、例えばタルク、パイロフィライト、雲母、カオリン、沈降カルシウムシリケート、アルミニウムシリケート、カルシウム/アルミニウムシリケート、ナトリウム/アルミニウムシリケート及びムライト、シリカ、例えば石英、クリストバライト、沈降シリカ又は特にヒュームドシリカ(例えば、商品名Aerosil(Evonik社製)で入手可能であるもの)、金属酸化物及び水酸化物、例えば水酸化アルミニウム及び水酸化マグネシウムが含まれる。
【0077】
フィラーの割合は、好ましくは、各場合においてコーティング組成物の固形分含量に基づいて、30~50質量%、特に30~40質量%である。
【0078】
さらに、コーティング組成物は、少なくとも1種の添加剤も含んでよい。そのような添加剤の例は、光安定剤、酸化防止剤、脱気剤、乳化剤、スリップ添加剤、重合阻害剤、接着促進剤、レベリング剤、フィルム形成補助剤、増粘剤、垂れ制御剤(SCA)又は腐食防止剤である。これらは、慣例且つ既知の量で使用される。同じことが、有機溶媒の可能な使用にも適用されるが、その量はコーティング組成物の水性の特徴を変性させないように選択される。
【0079】
2Kコーティング組成物の固形分含量は、個々の場合の要件に応じて変化させてよいが、好ましくは70~85質量%の範囲である。固形分含量は、主に適用、より具体的にはスプレー塗布に必要な粘度によって導かれるので、当業者が一般的なその技術知識に基づいて、場合によりいくつかの探索的な試験の助けを借りて調整してよい。
【0080】
2Kコーティング組成物は、撹拌タンク、撹拌ミル、押出機、ニーダー、Ultraturrax、インライン溶解機、静的ミキサー、歯付きリング分散機、膨張ノズル及び/又はマイクロ流動機など、コーティング組成物の製造に慣例且つ既知の混合方法及び混合単位を使用して製造することができる。無論、成分(1)(塗料ベース成分)及び成分(2)(硬化成分)は、上述のように、互いに別々に製造及び保管され、コーティング組成物を基材に適用するほんのわずか前に化合させて混合することに留意すべきである。
【0081】
本発明はさらに、本発明のコーティング組成物を基材に適用し、そしてその後コーティングフィルムを形成する、基材上にコーティングを製造する方法を提供するものである。コーティング組成物が使用される本発明の方法において、コーティング組成物に関する上述の特定の及び好ましい実施形態が、同様に適用可能であることが理解されよう。
【0082】
本発明のコーティング組成物の基材への適用は、特に、自動車産業で慣例の層厚、例えば、5~200マイクロメートル、好ましくは10~150マイクロメートル、より好ましくは30~70マイクロメートルの範囲で行うことができる。上記の層厚は、後述する硬化後の乾燥したフィルムの層厚とみなすべきである。ここで例えば、スプレー、ナイフコーティング、塗装、流し込み、浸漬、含浸、トリクル又は圧延などの既知の方法が用いられる。スプレー法を用いることが好ましい。
【0083】
本発明の組成物が適用された後、そこからポリマーフィルム又は硬化されたコーティングフィルムが形成される。適用した組成物はこのように、既知の方法で硬化させる。硬化は、例えば、15~120℃、特に20~80℃、最も好ましくは20~65℃の温度で行う。これらの好ましい比較的低い硬化温度は、特にコーティング組成物が(2K)コーティング組成物であることに起因しており、この場合、特に熱架橋には低い硬化温度のみが必要である。硬化の持続時間は個々の場合で著しく異なることがあり、例えば5分~16時間、好ましくは20分~80分である。これらの好ましい比較的短い硬化時間は、特に、本発明の組成物が、硬化したコーティングの研摩を可能にする十分な硬度を有するために、比較的低い温度で比較的短い硬化時間のみを必要とするという事実から生じる。この点で非常に特に好ましい硬化操作は、40~65℃で20~80分間行われる。
【0084】
個々の場合における硬化は、任意に、例えば室温(約15~25℃)で、例えば1~60分間のフラッシュオフを先行させてもよい。本発明におけるフラッシュオフとは、有機溶媒及び/又は水の蒸発を意味し、その結果、塗料は乾燥するがまだ硬化せず、そしてより具体的には完全に架橋したコーティングフィルムはまだ形成されない。
【0085】
次いで硬化によって、本発明のコーティングされた基材が得られ、これも同様に本発明の主題の一部を形成する。本発明は、組成物から製造されたコーティングを提供するものでもある。
【0086】
使用される基材は、例えば、金属基材であり、好ましくは、自動車産業(車両製造)内で使用されるものである。有利には、合金化されていない及び合金化された鋼及び/又は鉄、亜鉛及びアルミニウムの基材及び対応する合金が使用される。
【0087】
しかしながら、組成物を基材に適用すると上述した場合、これは無論、組成物を金属基材に直接適用しなければならないことを意味するものではない。代わりに、金属基材と組成物によって形成される層との間に、少なくとも1つのさらなる層があってもよい。これは例えば、コーティング組成物がOEM仕上げのサーフェイサーとして使用される場合である。なぜなら、そのような場合、サーフェイサー層と金属基材との間に少なくとも1つの電着被覆層が存在することになるからである。よって言い換えれば、本発明の組成物が適用される基材は、電着被覆層で被覆された金属基材である。
【0088】
しかしながら、上で既に示したように、本発明のコーティング組成物は、再仕上げ分野、特に自動車の再仕上げにおいてプライマーサーフェイサーとして特に有利に使用でき、その場合、中程度の温度でほんの短時間硬化を行った後に、良好な接着性、腐食防止性、及び研摩性などの特性を有する。
【0089】
このように、本発明の特定の実施形態では、基材は、既に完全に塗装された金属基材、特に自動車用マルチコート塗装系で塗装されたものであり、複数のコーティングそれぞれは局所的な損傷(欠陥)を有する。よってより具体的には、これらは、例えばストーンチップ損傷などのような損傷を有する自動車のボディワーク又はその部分である。損傷を受けた領域では、元の多層コーティングが外部の作用によって少なくとも部分的に剥離している。そして本発明のコーティング組成物は、これらの損傷区域の補修、すなわち再仕上げに、プライマーサーフェイサーとして使用される。一般に、再仕上げ操作では、プライマーの塗布に先立って、損傷した元のコーティングした基材の洗浄と研摩が行われる。これによって、存在する元のコーティング及び/又は既に形成された腐食生成物の不十分に付着し部分的に剥離した区域のみを除去し、特に金属基材を局所的に露出させる。よってこれは、多種多様な異なる界面を有する複雑な基材表面となる。ここでの1つの界面は、完全に露出した金属基材との界面である。損傷を受け、洗浄され、研摩された部位と、これらの部位を囲む元の塗装系がそのまま残っている区域にも、さらなる界面及び縁が見られる。これらすべての界面において、1つの及び同じコーティング組成物が、適切な接着性を保証しなければならない。よって本発明の組成物は、この損傷区域においてさえ、優れた接着性、耐食性及び研摩性が得られるので、大きな利点を提供する。
【0090】
本発明の好ましい実施形態では、本発明の組成物から硬化したコーティング、特にサーフェイサー又はプライマーサーフェイサー層を製造した後、さらなるコーティング組成物を適用して、マルチコート塗装系を形成する。これらのさらなるコーティング組成物は、特に、標準的なベースコート及びクリアコートである。
【0091】
本発明を実施例によって以下に説明する。
【実施例】
【0092】
決定の方法
水性分散体中のモノマーアミンの割合
決定は、DIN51405に準拠したガスクロマトグラフィーによって行った:
試料は、炎イオン化検出器を備えたガスクロマトグラフのスプリットインジェクターに直接注入し、極性相(ポリエチレングリコール;ポリエチレングリコール相を備えた50mのフューズドシリカキャピラリーカラム)及び非極性相(ポリジメチルシロキサン;ポリジメチルシロキサン相を備えた50mのフューズドシリカキャピラリーカラム)を備えたカラムの両方で分離した。評価はISTD%法で行った。
【0093】
約100~500mgの試料(アミン含有量による)を分析天秤で0.1mgまで正確に秤量し、5mLのスナップリッドボトルに入れた。約5%のISTDジエチレングリコールジメチルエーテルを0.1mgまで正確に秤量して試料に入れた。試料を5mLのTHFで希釈した(THFに溶解しない試料の場合は、実験により好適な溶媒を見出さなければならない)。
【0094】
このようにして調製した試料を、Agilent7890ガスクロマトグラフで分析した。注入はオートサンプラーを用いて行った。
【0095】
ガスクロマトグラフィーの条件:
オーブンプログラム: 40℃(保持時間5分)(3°/分)→100℃(10°/分)→230℃(保持時間5分)
キャリアガス: 水素
分離用カラム: Agilent Innowax:長さ50m、膜厚0.2μm、直径0.2mm、圧力1.0バール HP-1、長さ50m、膜厚0.33μm、直径0.2mm、圧力1.3バール
インジェクター温度: 250℃(必要な場合これより低温)
注入量: 0.3μL(手動注入0.3~0.6μL)
検出器: 炎イオン化検出器
検出器温度: 275℃
スプリットフロー: 15mL/分
【0096】
アミンは、極性カラム及び非極性カラムの保持時間によって同定した(比較例クロマトグラム参照)。未知の成分については、GC/MS分析を行う必要があった。
【0097】
検出されたアミン及び内部標準を、分析用天秤で試料中のおおよその比率に従い0.1mgまで正確に秤量した。較正液全体におけるアミンの濃度は、調製した試料中のアミンの濃度に対応するようにした(アミンの濃度はGC分析装置のプログラムで計算した)。その後、較正液を試料と同じ条件で分析し、物質特有の補正係数を確認した。
【0098】
ISTD%法により、GC分析装置のプログラムを用いて試料中のアミンの濃度を計算した。
【0099】
エポキシ当量質量
決定は、DIN EN ISO3001に準拠して行った。
【0100】
固形分含量(不揮発性成分)
別段の記載がない限り、固形分含量(固体の割合、固体形態の含有量、不揮発性成分の割合とも呼ぶ)は、DIN EN ISO3251に準拠して、130℃、60分、開始質量1.0gで決定した。
【0101】
水性分散体中のポリマー有機アミン(ポリアミン)の割合
決定は、試料を130℃で(60分ではなく)8時間保持したことを除いて、固形分含量の決定と同様に実施した。このようにして、残っている不揮発性モノマーアミン(M)の割合が無視できるほど小さいことが保証され、測定結果はその結果に割り当てられたパラメータに対応する。
【0102】
水性分散体中の樹脂混合物(I)又は樹脂成分の割合
水性分散体中のモノマーアミンの割合とポリアミンの割合の総合計から、その割合を求めた。
【0103】
樹脂混合物(I)又は樹脂成分(R)中のモノマーアミン又はポリアミンの割合
樹脂混合物(I)又は樹脂成分(R)中のモノマーアミンの割合は、水性分散体中のモノマーアミンの割合を、この水性分散体中のモノマーアミンの割合とポリアミンの割合との総合計で除した値から求めた。ポリアミンの割合は、対応する方法で決定した。
【0104】
N-H当量
樹脂成分(R)及び樹脂混合物(I)のN-H当量は、以下の連続した方法で決定した。
【0105】
a)
まず最初に、水性分散体中に存在する樹脂混合物(I)のN-H当量を決定した。この目的のため、まず最初に、水性分散体中の第一級及び第二級アミノ基の異なる質量割合(それぞれ窒素%として)を、DIN EN ISO9702(1998年10月)に準拠して脂肪族アミンのための方法により決定した。次いで、得られた質量割合を用いて、水性分散体100g中のN-H官能基のモル量を以下の計算により求めた:
n(N-H)=(m(第一級アミノ基からのN)/(14g/モル))*2+m(第二級アミノ基からのN)/(14g/モル)(式中、「m」はそれぞれの場合に測定された質量割合を表す)。
【0106】
N-H官能基のモル量及び試料の質量(100g)から、最終的に、試料(水性分散体)のN-H当量、すなわちN-H官能基が1モル存在する試料の質量を導き出した。
【0107】
次いで試料の樹脂混合物の割合を決定することで、樹脂混合物(I)のN-H当量を計算することができた:
(N-H当量(樹脂混合物(I))=N-H当量(試料)*割合(試料中の樹脂混合物))。
【0108】
試料中の樹脂混合物の割合は、ポリアミンの割合とモノマーアミンの割合との総合計として求めた(上記参照)。
【0109】
b)
次に、先に決定した樹脂混合物(I)のN-H当量、段階(B)で用いた樹脂混合物(I)の質量、段階(II)で用いた成分(IIb)の質量、及び成分(IIb)で用いたエポキシ基のモル量から、樹脂成分(R)のN-H当量を計算した(用いた成分(IIb)の質量及びエポキシ当量質量を介して決定した)。これは、エポキシ基とN-H官能基との定量的反応を仮定している。樹脂成分(R)の合計質量は、用いた樹脂混合物(I)の質量と、用いた成分(IIb)の質量との加算により得られた。
【0110】
本発明の水性分散体(AD)及び比較例の分散体c(AD)
水性分散体(AD1)
683.00gのBeckopox VEH2849W(樹脂混合物(I)の水性分散体であり、樹脂混合物は27.5質量%のモノマーアミン(イソホロンジアミン及びキシリレンジアミン)及び72.5質量%のポリアミンを含有し、さらに108g/モルのNH当量を有する)及び1663.77gの脱塩水を反応容器中で化合させ、連続的に撹拌し、そして95℃で1時間保持した。その後、この混合物を70℃に冷却し、そして平均エポキシ当量質量が186.5g/モルのビスフェノールAジグリシジルエーテルベースのエポキシ樹脂163.44g、平均エポキシ当量質量が395g/モルのポリプロピレンオキシドをベースとするポリアルキレンポリエーテルエポキシド39.46g、エトキシプロパノール81.96g、メチルエチルケトン81.47g及びイソブタノール81.72gを、4時間かけて攪拌しながら連続的に計り入れ、そして混合物を70℃でさらに1時間保持した。こうして得られた反応生成物を45℃に冷却した。生成物の粘度は、25℃で150~250mPasであった。
【0111】
その後のプロセス工程では、プロセス溶媒であるイソブタノール及びメチルエチルケトンを、減圧下での蒸留によって生成物から除去した。得られた水性分散体(AD1)は、0.5%未満のイソブタノール及びメチルエチルケトンの残留含有量を有していた(ガスクロマトグラフィー)。
【0112】
水性分散体中の樹脂成分(R)の含有量は33.4質量%(モノマーアミン2.4質量%、ポリアミン31質量%)であった。よって樹脂成分は、モノマーアミン(M)の含有量が7.2質量%であった。樹脂成分はさらに、171g/モルのアミン当量質量(N-H当量質量)を有していた。
【0113】
水性分散体(AD2)
683.00gのBeckopox VEH2849W(樹脂混合物(I)の水性分散体であり、樹脂混合物は27.5質量%のモノマーアミン(イソホロンジアミン及びキシリレンジアミン)及び72.5質量%のポリアミンを含有し、さらに108g/モルのNH当量を有する)、266.11gのメチルエチルケトン及び1395.96gの(脱塩)水を反応容器中で化合させ、連続的に撹拌し、そして70℃で1時間保持した。その後、平均エポキシ当量質量が186.5g/モルのビスフェノールAジグリシジルエーテルベースのエポキシ樹脂163.44g、平均エポキシ当量質量が395g/モルのポリプロピレンオキシドをベースとするポリアルキレンポリエーテルエポキシド39.46g、エトキシプロパノール81.96g、メチルエチルケトン81.47g及びイソブタノール81.72gを、4時間かけて攪拌しながら連続的に計り入れ、そして混合物を70℃でさらに1時間保持した。こうして得られた反応生成物を45℃に冷却した。生成物の粘度は、25℃で150~250mPasであった。
【0114】
その後のプロセス工程では、プロセス溶媒であるイソブタノール及びメチルエチルケトンを、減圧下での蒸留によって生成物から除去した。得られた水性分散体(AD2)は、0.5%未満のイソブタノール及びメチルエチルケトンの残留含有量を有していた(ガスクロマトグラフィー)。
【0115】
水性分散体中の樹脂成分(R)の含有量は33質量%(モノマーアミン2.4質量%、ポリアミン31質量%)であった。よって樹脂成分は、モノマーアミン(M)の含有量が7.2質量%であった。樹脂成分はさらに、171g/モルのアミン当量質量(N-H当量質量)を有していた。
【0116】
水性分散体(AD3)
段階(A)
平均分子量が2000g/モルのプロピレンオキシド/エチレンオキシドをベースとするポリアルキレンポリエーテルモノアミン1000g(Jeffamine M2070、第一級アミン官能基(=2NH官能価))と、平均エポキシ当量質量が186.5g/モルのビスフェノールAジグリシジルエーテルベースのエポキシ樹脂448.8gを反応容器内で混合し、次いで内温を130℃で1時間、及び80~90℃でさらに2時間保持した。このようにして得られた生成物は、1035g/モルのエポキシ当量質量を有していた。生成物の粘度は、23℃で6734mPasであった。
【0117】
このようにして得られた反応生成物96.43gを、イソホロンジアミン33.9g及びm-キシリレンジアミン27.12gと反応容器内で混合し、次いで内温を60℃で1時間、及び80~90℃でさらに2時間保持した。これを50℃に冷却した後、水で希釈した(固形分含量80%)。分散体中に存在する樹脂混合物(I)は、アミン当量質量(N-H当量質量)が105g/モルであった。生成物の粘度は、23℃で1540mPasであった。
【0118】
段階(B)
段階(A)からの反応生成物683.00gと、(脱塩)水1663.768gを反応容器中で化合させ、連続的に撹拌し、そして95℃で1時間保持した。その後、この混合物を70℃に冷却し、平均エポキシ当量質量が186.5g/モルのビスフェノールAジグリシジルエーテルベースのエポキシ樹脂163.44g、平均エポキシ当量質量が395g/モルのポリプロピレンオキシドをベースとするポリアルキレンポリエーテルエポキシド39.46g、エトキシプロパノール81.96g、メチルエチルケトン81.47g及びイソブタノール81.72gを、4時間かけて攪拌しながら連続的に計り入れ、そして混合物を約70℃でさらに1時間保持した。こうして得られた反応生成物を45℃に冷却した。生成物の粘度は、25℃で150~250mPasであった。
【0119】
その後のプロセス工程では、プロセス溶媒であるイソブタノール及びメチルエチルケトンを、減圧下での蒸留によって生成物から除去した。得られた水性分散体(AD3)は、0.5%未満のイソブタノール及びメチルエチルケトンの残留含有量を有していた(ガスクロマトグラフィー)。樹脂成分はさらに、177g/モルのアミン当量質量(N-H当量質量)を有していた。
【0120】
c(AD2)
平均分子量が1200g/モルのエチレンオキシドをベースとするポリアルキレンポリエーテル1200g(1.2モル又は2.4OH当量)と、平均エポキシ当量質量が186.5g/モルのビスフェノールAジグリシジルエーテルベースのエポキシ樹脂1984.62g(10.67エポキシ当量)を反応容器内で混合し、次いで連続的に撹拌しながら内温を120~130℃に上昇させた。その後、Anchor1040(BF3-モノエチルアミン触媒)6.5gを加え、温度をさらに160℃まで上昇させ、エポキシ当量質量が417g/モルに達するまで160℃でさらに4時間保持した。この後、55℃に冷却し、82.549gのジ-n-プロピルアミンを加えた。EEWが482g/モルに達するまで、55℃で撹拌を続けた。この後、60℃に加熱し、さらに174.11gの(脱塩)水を加えた。
【0121】
1605.22gのイソホロンジアミン(9.4モル又は37.77NH当量に相当)と575.96gのm-キシリレンジアミン(4.2モル又は16.91NH当量に相当)を反応器内で混合し、そして内温60℃まで加熱した。その後、30分かけて、3447.78gの上記反応生成物を連続的に混合しながら加えた。これにより、内温が約75℃に上昇し、そして撹拌をこの温度で90分間続けた。その後、n-ブチルグリシジルエーテルを20分間にわたって撹拌しながら加えた。これにより、内温が約80℃に上昇し、そして撹拌をこの温度で60分間続けた。その後、さらに1374gの(脱塩)水を加え、これにより生成物を40℃に冷却した。
【0122】
反応混合物中に存在する樹脂混合物は、125g/モルのアミン当量質量(N-H当量質量)を有していた。
【0123】
c(AD3)
897.41gのc(AD2)と、1868.00gの脱塩水を反応器中で攪拌しながら95℃に加熱した。その後70℃に冷却し、そして平均エポキシ当量質量が186.5g/モルのビスフェノールAジグリシジルエーテルベースのエポキシ樹脂163.44g(0.437モル)、平均エポキシ当量質量が395g/モルのポリプロピレンオキシドをベースとするポリアルキレンポリエーテルエポキシド39.46g、エトキシプロパノール81.96g、メチルエチルケトン81.47g及びイソブタノール81.72gを2時間かけて計り入れ、そして混合物を約70℃でさらに1時間保持した。
【0124】
こうして得られた反応生成物を45℃に冷却した。生成物の粘度は、25℃で150~500mPasであった。
【0125】
その後のプロセス工程では、プロセス溶媒であるイソブタノール及びメチルエチルケトンを、減圧下での蒸留によって生成物から除去した。得られた水性分散体は、0.5%未満のイソブタノール及びメチルエチルケトンの残留含有量を有していた。
【0126】
分散体中に存在する樹脂混合物は、203g/モルのアミン当量質量(N-H当量質量)を有していた。
【0127】
c(AD6)
分散体c(AD6)は、イソホロンジアミン及びm-キシリレンジアミンの混合物ではなく、m-キシリレンジアミンのみを使用したこと以外は、分散体(AD3)の段階(A)と同様に製造した。同じモル量のモノマーアミンを確実に使用するために、m-キシリレンジアミンの割合を対応して増加させた。
【0128】
分散体中に存在する樹脂混合物は、アミン当量質量(N-H当量質量)が100g/モルであった。
【0129】
表Aに、製造した水性分散体の別の概要を示す。さらに、水性コーティング組成物においてさらなる比較例の分散体c(AD)として用いられる、購入した市販品であるさらなる分散体を記載する(以下参照)。
【0130】
【0131】
本発明のコーティング組成物及び比較例のコーティング組成物
異なる本発明のコーティング組成物及び比較例のコーティング組成物を、以下の一般的な製造方法によって製造した。
【0132】
コーティング組成物の塗料ベース成分(1)及び硬化成分(2)を、それぞれの構成成分を化合させ、溶解機及び任意にビーズミルで密に混合することによって製造した。構成成分及びその量を、以下の表B及びCに見出すことができる。
【0133】
このようなコーティング組成物の製造のために、塗料ベース成分をそれぞれ硬化成分及び任意にさらなる水と混合した。組成物は、完成後1時間以内に以下に記載のように使用した、すなわち、基材に適用し、そしてその後に硬化させた。
【0134】
【0135】
【0136】
【0137】
【0138】
【0139】
【0140】
【0141】
【0142】
コーティング組成物を用いたコーティングの製造
研摩性
コーティング組成物のプライマーサーフェイサーとしての適合性を試験するため、又は研摩特性を確認するために、以下の製造方法によりコーティングを製造し、次いでその研摩性を調べた。
【0143】
用いた基材は鋼板(60cm×50cm)であった。これらは次のように前処理/洗浄した:360-4Glasuritメタルクリーナーで洗浄、Mirka社製のP80、ゴールドタイプで研摩、360-4Glasuritで研摩ダストを除去するために再度洗浄。15分間の通風。
【0144】
コーティング組成物を撹拌し、標準的な塗装ガン(例えばSATA100B F1.6mmRP、2.0バール)を用いて薄く連続的なスプレー操作で基材上に塗装し、5分間フラッシュオフし、さらに完全なスプレー操作で塗装し、10分間フラッシュオフし、それからオーブン内で60℃の温度で、又は室温で14~16時間、異なる時間(35~60分)で硬化させた。層厚は、各場合において60~80マイクロメートルであった(Fischer社製Dualscope MP40、ED10プローブ)。
【0145】
硬化後、コーティング又は被覆された基材を20℃で20分間保存し、それから性能特性を調べた。
【0146】
この目的のため、09560黒色コントロールパウダー(3M社製)を被覆された表面に適用し、Excenter(FESTOOL LEX3)により、5mmのストロークで、及びRODIM社製紙やすり、Standard P400タイプにより、黒色コントロールパウダーが完全に除去されるまで、乾いた状態で研摩した。
【0147】
研摩性は以下のように評価した。
【0148】
研摩性の評価:
紙やすりの評価
0→目詰まりなし(非常に良好な研摩性)
1→最小の目詰まり(許容できる研摩性)
2→目詰まりあり、小さな「塊(nodule)」の形成(研摩性が悪い)
3→重度の目詰まり、「塊」(スペーサー)の形成(非常に悪い研摩性)
【0149】
紙やすり上のコーティング材料の目詰まりは、黒色コントロールパウダーを使用することで非常に簡単に識別できる。目詰まりがないということは、研摩された材料が微粉末として得られ、それ故紙やすりが目詰まりせず、コーティング表面に除去が困難な残留物が生じないことを意味する。
【0150】
結果を表D及びEに示す。それぞれのコーティング組成物の前にある文字「B」は、そのコーティングが硬化したコーティングであることを示す。
【0151】
【0152】
この結果は、本発明のコーティング(本発明のコーティング組成物から製造されたもの)が、明らかに改善された研摩性を有することを示している。特に、本発明の系とCC1系との比較は、Beckopox VEH2849市販品のエポキシによる後修飾(epoxy postmodification)及びそれに伴うN-H当量の増加(それ故分子量も増加)が、研摩性の明確な改善につながることを示している。N-H当量が低すぎるBeckopox EH613市販品(c(AD4))の使用も、満足のいく研摩性の結果が得られない(CC3)。同じことが、アミン成分にアクリロニトリルを含有するBeckopox EH623w(c(AD5))の使用にも当てはまる。エポキシ当量が450g/モルと高すぎるエポキシ樹脂の使用により研摩性が悪くなることは、少なくともCC4系では示されていない。
【0153】
【0154】
この結果からも、本発明の系が改善された研摩性をもたらすことが明らかに示されている。系I4及びI5は、乾燥時間がほんの40分であった場合、既に最適な研摩性を有しているが、系I6は、少なくとも乾燥時間が50分であった場合に、許容できる研摩性を有している。あらゆる比較例の系は、絶対的には、乾燥時間が50分の場合に、研摩性が不十分であるか、又は悪い。
【0155】
さらなる研究
さらに、コーティング組成物を用いて、マルチコート塗装系も製造し(標準的なベースコート及びクリアコート材料を使用)、そして、さらに、欠陥を有する以前に製造したマルチコート塗装系も、コーティング組成物をプライマーサーフェイサーとして使用して補修した。後者の場合、コーティング組成物は、金属基材上に配置された欠陥のあるマルチコート塗装系の、欠陥のある領域に適用し、硬化させ、そして研摩した。これに続いて、ベースコート及びクリアコートを適用した。本発明の系は、構造全体に優れた接着性をもたらし、それ故最適な有用性を有する。
【国際調査報告】