(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-25
(54)【発明の名称】脳梗塞からの機能回復
(51)【国際特許分類】
A61K 35/28 20150101AFI20220715BHJP
A61P 9/10 20060101ALI20220715BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20220715BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220715BHJP
A61K 31/047 20060101ALI20220715BHJP
A61K 31/4188 20060101ALI20220715BHJP
C12N 5/0775 20100101ALI20220715BHJP
C12N 5/10 20060101ALN20220715BHJP
【FI】
A61K35/28
A61P9/10
A61P25/00
A61K45/00
A61K31/047
A61K31/4188
C12N5/0775
C12N5/10
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021569513
(86)(22)【出願日】2020-05-22
(85)【翻訳文提出日】2022-01-13
(86)【国際出願番号】 EP2020064271
(87)【国際公開番号】W WO2020234450
(87)【国際公開日】2020-11-26
(32)【優先日】2019-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(32)【優先日】2019-06-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516300656
【氏名又は名称】メゾブラスト・インターナショナル・エスアーエールエル
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】シルヴィウ・イテスク
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C086
4C087
4C206
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AB01
4B065BA01
4B065BA25
4B065CA44
4C084AA19
4C084NA05
4C084ZA021
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4C087AA01
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4C206NA05
4C206NA11
4C206ZA02
4C206ZA36
4C206ZC75
(57)【要約】
本開示は、脳梗塞を罹患した対象を治療する方法を提供し、この方法は、刺激によって誘発される皮質活性化を増加させるか、又は梗塞体積を減少させるために、STRO-1+細胞又はその子孫等の間葉系前駆細胞又は幹細胞(MLPSC)が富化された細胞集団を対象に全身投与する工程を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脳梗塞後の皮質の活性化を増加させる、又は梗塞体積を減少させる方法であって、間葉系前駆細胞又は幹細胞(MLPSC)が富化されたヒト細胞集団の治療有効量をそれを必要としているヒト対象に全身投与することを含む方法。
【請求項2】
脳梗塞が虚血性脳梗塞である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
脳梗塞が低酸素性虚血性脳症(HIE)によって引き起こされた、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
脳梗塞が出血性脳梗塞である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
脳梗塞が運動皮質にある、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
罹患体積が投与後に減少する、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
皮質の活性化が投与後に増加する、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
皮質の活性化が梗塞の体積内で増加する、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
運動機能が投与後にヒト対象において改善される、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
皮質活性化の増加が反対側触覚刺激に応答している、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
全身投与が、脳梗塞後の約24時間以内に実施される、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
全身投与が、脳梗塞後の約12時間以内に実施される、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
MLPSCがSTRO-1
+MPCである、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
STRO-1
+MPCがSTRO-1
brightMPCである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
STRO-1
+MPCが組織非特異的アルカリホスファターゼ(TNAP)
+又はCD146
+である、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
MLPSCが間葉系幹細胞である、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
ヒト細胞集団が同種ヒト細胞集団である、請求項1から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
ヒト細胞集団が自己由来のヒト細胞集団である、請求項1から16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
約2×10
6細胞/cm
3罹患皮質から約2×10
7細胞/cm
3罹患皮質を投与する工程を含む、請求項1から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
0.1×10
6細胞/kg体重から5×10
6細胞/kg体重を投与する工程を含む、請求項1から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
ヒト細胞集団が投与前に培養増殖される、請求項1から20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
ヒト細胞集団が、骨髄、歯髄、脂肪、又は多能性幹細胞に由来する、請求項1から21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
ヒト細胞集団が、歯髄にも脂肪にも由来しない、請求項1から21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
ヒト細胞集団が遺伝的に改変されたヒト細胞集団である、請求項1から23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
全身投与が動脈内投与又は静脈内投与である、請求項1から24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
全身投与が動脈内投与である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
血栓溶解剤を投与する工程を更に含む、請求項1から26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
対象にはヒト細胞集団の投与の前後に血栓溶解剤を投与しない、請求項1から26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
マンニトールを投与する工程を更に含む、請求項1から28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
テモゾロミドを投与する工程を更に含む、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
抗炎症剤を投与する工程を更に含む、請求項1から30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
ヒト細胞集団を複数回投与する、請求項1から31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
ヒト細胞集団を4週間以上に1回投与する、請求項1から32のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
ヒト細胞集団を1回投与する、請求項1から31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
ヒト細胞集団の細胞の少なくとも一部がインビボ検出のために標識されている、請求項1から34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
投与後の対象における標識された細胞の位置を追跡する工程を更に含む、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
投与後の梗塞体積の変化及び/又は梗塞体積内の活動の変化を判定する工程を更に含む、請求項1から36のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ヒト対象における脳梗塞を治療する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脳梗塞は依然として先進工業国における罹患及び死亡の主要な原因である。脳梗塞は3番目に多い死亡原因である。脳梗塞とは、脳への血液供給の障害によって急速に発現する脳機能の喪失である。脳梗塞には2つの一般的な種類がある:(i)脳への血流の一時的又は永久的な閉塞によって引き起こされ、脳梗塞の症例の85%を占める虚血性脳梗塞、及び(ii)破裂した血管によって引き起こされ、残りの症例の大部分を占める出血性脳梗塞である。脳梗塞はしばしば神経細胞死を引き起こし、死に至ることがある。虚血性脳梗塞の最も一般的な原因は、中大脳動脈(内頸動脈から下流の頭蓋内動脈)の閉塞であり、大脳(例えば、大脳皮質)、例えば、脳の運動皮質や感覚皮質を損傷させる。このような損傷の結果、片麻痺、片側感覚脱失が生じ、脳半球の損傷に応じて言語障害又は視空間障害のいずれかが生じる。罹患した脳の体積及び支障をきたしたその機能は、罹患脳領域における付随する血流減少を画像化する血液酸素化レベル依存(BOLD)磁気共鳴画像法(MRI)等の機能的画像処理技術によって可視化することができる。
【0003】
脳梗塞は、身体的、精神的、情動的に、又はそれら3つが組み合わさって、対象に影響を及ぼす可能性がある。
【0004】
脳梗塞の結果として生じ得る身体的機能障害の一部には、筋力低下、知覚麻痺、褥瘡、肺炎、失禁、失行症(習熟動作の実行不能)、日常活動の実行困難、食欲喪失、言語喪失、視覚喪失、及び疼痛が挙げられる。もし脳梗塞が充分に重症であるか、又は脳幹の一部等のある特定の場所にある場合には、昏睡又は死亡という結果になり得る。
【0005】
脳梗塞から生じる情動面の問題は、脳の情動中枢の損傷から直接、又は新たな制約に対する欲求不満や適応困難から生じる可能性がある。脳梗塞後の情動面の困難には、鬱、不安、パニック発作、情動の平板化(感情を表現することができない)、躁、無感情、及び精神病が挙げられる。
【0006】
脳梗塞から生じる認知障害には、知覚障害、会話障害、認知症、及び注意力や記憶力の問題が含まれる。脳梗塞の患者は、自身の機能障害に気づいていないことがあり、これは病態失認と呼ばれる状態である。半側空間無視と呼ばれる状態では、患者は、損傷した半球の反対側の空間でのいかなるものにも注意を向けることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2004/85630号パンフレット
【特許文献2】国際公開第01/04268号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2004/085630号パンフレット
【特許文献4】国際公開第01/14268号パンフレット
【特許文献5】米国特許第5,486,359号
【特許文献6】国際出願PCT/US94/05700
【特許文献7】米国特許第5,173,414号
【特許文献8】米国特許第5,139,941号
【特許文献9】国際公開第92/01070号パンフレット
【特許文献10】国際公開第93/03769号パンフレット
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Sambrook, Fritsch & Maniatis, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratories, New York、第2版(1989)、I巻、II巻、及びIII巻の全巻
【非特許文献2】DNA Cloning: A Practical Approach、I巻及びII巻(D. N. Glover編、1985)、IRL Press, Oxford、全文
【非特許文献3】Oligonucleotide Synthesis: A Practical Approach (M. J. Gait編、1984) IRL Press, Oxford、全文、特にGait、l~22頁; Atkinson等、35~81頁; Sproat等、83~115頁; 並びにWu等、135~151頁による論文
【非特許文献4】4. Nucleic Acid Hybridization: A Practical Approach (B. D. Hames & S. J. Higgins編、1985) IRL Press, Oxford、全文
【非特許文献5】Immobilized Cells and Enzymes: A Practical Approach (1986) IRL Press, Oxford、全文
【非特許文献6】Perbal, B., A Practical Guide to Molecular Cloning (1984); Methods In Enzymology (S. Colowick及びN. Kaplan編、Academic Press, Inc.)、全巻
【非特許文献7】「Knowledge database of Access to Virtual Laboratory website」(Interactiva, Germany)におけるJ.F. Ramalho Ortigao、「The Chemistry of Peptide Synthesis」
【非特許文献8】Sakakibara, D., Teichman, J., Lien, E. Land Fenichel, R.L. (1976). Biochem. Biophys. Res. Commun. 73 336~342
【非特許文献9】Merrifield, R.B. (1963). J. Am. Chem. Soc. 85, 2149-2154
【非特許文献10】Barany, G.及びMerrifield, R.B. (1979) in The Peptides (Gross, E.及びMeienhofer, J.編)、2巻、1~284頁、Academic Press, New York. 12.
【非特許文献11】Wunsch、E.編(1974) Synthese von Peptiden in Houben-Weyls Metoden der Organischen Chemie (Muler、E編)、15巻、第4版、1部及び2部、Thieme, Stuttgart
【非特許文献12】Bodanszky, M. (1984) Principles of Peptide Synthesis, Springer-Verlag, Heidelberg; Bodanszky, M. & Bodanszky, A. (1984) The Practice of Peptide Synthesis, Springer-Verlag, Heidelberg
【非特許文献13】Bodanszky, M. (1985) Int. J. Peptide Protein Res. 25, 449~474
【非特許文献14】Handbook of Experimental Immunology、I~IV巻(D. M. Weir及びC. C. Blackwell編、1986、Blackwell Scientific Publications)
【非特許文献15】Animal Cell Culture: Practical Approach、第3版(John R. W. Masters編、2000)、ISBN 0199637970、全文
【非特許文献16】Dayem等(2019)、International Journal of Molecular Science、20(8):E1922
【非特許文献17】Gronthos等、Blood 85:929~940、1995
【非特許文献18】Pollard, J. W.及びWalker, J. M. (1997) Basic Cell Culture Protocols、第2版、Humana Press, Totowa, N.J.
【非特許文献19】Freshney, R. I. (2000) Culture of Animal Cells、第4版、Wiley-Liss, Hoboken, N.J.
【非特許文献20】Larpthaveesarp等(2015)、Brain Science 5(2):165~177
【非特許文献21】Ausubel等(Current Protocols in Molecular Biology. Wiley Interscience、ISBN 047 150338、1987)
【非特許文献22】Sambrook等(Molecular Cloning: Molecular Cloning: A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratories、New York、第3版 2001)
【非特許文献23】Buchscher等、J Virol. 56:2731~2739(1992)
【非特許文献24】Johann等、J. Virol. 65:1635~1640 (1992)
【非特許文献25】Sommerfelt等、Virol. 76:58~59 (1990)
【非特許文献26】Wilson等、J. Virol. 63:274~2318 (1989)
【非特許文献27】Miller等、J. Virol. 65:2220~2224 (1991)
【非特許文献28】Miller及びRosman BioTechniques 7:980~990、1989
【非特許文献29】Miller, A. D. Human Gene Therapy 7:5~14、1990
【非特許文献30】Scarpa等、Virology 75:849~852、1991
【非特許文献31】Burns等、Proc. Natl. Acad. Sci USA 90:8033~8037、1993
【非特許文献32】Lebkowski等、Molec. Cell. Biol. 5:3988~3996、1988
【非特許文献33】Vincent等、(1990) Vaccines 90 (Cold Spring Harbor Laboratory Press)
【非特許文献34】Carter Current Opinion in Biotechnology 5:533~539、1992
【非特許文献35】Muzyczka. Current Topics in Microbiol, and Immunol. 158:97~129、1992
【非特許文献36】Kotin, Human Gene Therapy 5:793~801、1994
【非特許文献37】Shelling及びSmith Gene Therapy 7:165~169、1994
【非特許文献38】Zhou等、J Exp. Med. 179:1867~1875、1994
【非特許文献39】Fisher-Hoch等、Proc. Natl Acad. Sci. USA 56:317~321、1989
【非特許文献40】Wannier等、(2018), PNAS, 115 (48) E11294~E11301
【非特許文献41】De Ryck等、Cerebral infarction. 20:1383~1390、1989
【非特許文献42】Millar等、(2017)、Frontiers in Cellular Neuroscience、11(78):1~36
【非特許文献43】Schaar等(2010)、Experimental & Translational Stroke Medicine、2:13
【非特許文献44】Borlongan等(1995)、Physiology & Behavior、58(5):909~917
【非特許文献45】Remington's Pharmaceutical Sciences、第16版、Mac Publishing Company (1980)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
発症の提示から3時間以内に投与された場合の組織プラスミノーゲン活性化因子(TPA)以外に、脳梗塞のために承認された治療法はない。脳梗塞の治療のための治療選択肢がないことを考えると、再灌流を促進するか又は神経を保護する追加的治療法が強く求められている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示は、ヒト間葉系前駆細胞又は幹細胞(MLPSC)、例えば、STRO-1+ヒト間葉系前駆細胞(hMPC)の全身投与が、機能的画像処理によって評価すると、梗塞に罹患した皮質体積内の機能回復の向上をもたらすという本発明者の驚くべき発見に基づいている。
【0011】
したがって、本明細書に記載した第1の態様は、脳梗塞後皮質の活性化を増加させる、又は梗塞体積を減少させる方法であり、この方法は間葉系前駆細胞又は幹細胞(MLPSC)が富化されたヒト細胞集団の治療有効量の、それを必要としているヒト対象への全身投与を含む。
【0012】
一部の実施形態では、脳梗塞は虚血性脳梗塞である。一部の実施形態では、脳梗塞が虚血性脳梗塞である場合、治療する対象の脳梗塞は、低酸素性虚血性脳症(HIE)によって引き起こされた。その他の実施形態では、脳梗塞は出血性脳梗塞である。
【0013】
一部の実施形態では、脳梗塞は運動皮質にある。一部の実施形態では罹患体積は投与後に減少する。一部の実施形態では、皮質の活性化が増加する。一部の実施形態では、ヒト対象において運動機能が改善される。一部の実施形態では、治療後に増加した皮質の活性化は反対側触覚刺激に応答する。一部の実施形態では、皮質の活性化は梗塞のボリューム内で増加する。
【0014】
一部の実施形態では、ヒト細胞集団の全身投与は脳梗塞後約24時間以内に実施される。その他の実施形態では、全身投与は脳梗塞後約12時間以内に実施される。
【0015】
一部の実施形態では、MLPSCはSTRO-1+MPCである。一部の実施形態では、STRO-1+MPCはSTRO-1brightMPCである。一部の実施形態では、STRO-1+MPCは組織非特異的アルカリホスファターゼ(TNAP)+又はCD146+である。
【0016】
その他の実施形態では、MLPSCは間葉系幹細胞である。
【0017】
一部の実施形態では、投与されるヒト細胞集団は同種ヒト細胞集団である。その他の実施形態では、ヒト細胞集団は自己由来のヒト細胞集団である。
【0018】
一部の実施形態では、本明細書で記載した方法は、約2×106細胞/cm3罹患皮質から約2×107細胞/cm3罹患皮質を投与することを含む。その他の実施形態では、この方法は0.1×106細胞/kg体重から5×106細胞/kg体重を投与することを含む。
【0019】
一部の実施形態では、投与されるヒト細胞集団は投与前に増殖させた培養物である。
【0020】
一部の実施形態では、ヒト細胞集団は、骨髄、歯髄、脂肪、又は多能性幹細胞に由来した。一部の実施形態では、ヒト細胞集団は歯髄にも脂肪にも由来しなかった。一部の実施形態では、ヒト細胞集団は遺伝子改変されたヒト細胞集団である。
【0021】
一部の実施形態では、細胞集団の全身投与は、動脈内投与又は静脈内投与である。
【0022】
一部の実施形態では、本明細書で記載した方法は、血栓溶解剤を投与することを含む。一部の実施形態では、本明細書で記載した方法は、血栓溶解剤の投与を回避する。他の実施形態では、対象は、ヒト細胞集団の投与の前後に血栓溶解剤を投与されない。その他の実施形態では、この方法はマンニトールを投与することを含む。一部の実施形態では、この方法は、マンニトール及びテモゾロミドを単一の製剤として、又は別々に同時投与することを含む。他の実施形態では、この方法は抗炎症剤を投与することを含む。
【0023】
一部の実施形態では、投与されるヒト細胞集団は、複数回投与される。一部の実施形態では、ヒト細胞集団は、4週間以上に1回投与される。
【0024】
他の実施形態では、ヒト細胞集団は1回投与される。
【0025】
一部の実施形態では、ヒト細胞集団の細胞の少なくとも一部は、インビボ検出のために標識されている。一部の実施形態では、標識された細胞が対象に投与される場合、この方法は、投与後の対象における標識された細胞の位置を追跡することも含む。
【0026】
上述の方法のいずれかの一部の実施形態では、この方法は、投与後の梗塞体積の変化及び/又は梗塞体積内の活動の変化を判定することを更に含む。
【0027】
本明細書で記載した方法は、更なる脳梗塞のリスクを低下させるための方法に準用して適用されるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】梗塞のモデルである内側頸動脈閉塞(MCAO)後の様々な時点でのラット群における前肢配置運動行動スコアを表した線グラフである。MCAO治療後の指示した時点で、様々な群に1×10
6個のヒトMPCを静脈内投与した。注意:数値が小さいほど、運動行動が改善されていることを示す。MCAOの6時間後(p<0.01)、12時間後(p<0.01)、24時間後(p<0.001)、48時間後(p<0.01)、及び7日後(p<0.01)にMPCを投与すると、ビヒクル投与と比較して前肢の回復が有意に改善された。
【
図2】MCAO後の様々な時点でのラット群における後肢配置運動行動スコアを表した線グラフである。MCAO治療後の指示した時点で、様々な群に1×10
6個のヒトMPCを静脈内投与した。MCAOの6時間後(p<0.001)、12時間後(p<0.01)、24時間後(p<0.001)、及び48時間後(p<0.001)にMPCを投与すると、ビヒクル投与と比較して後肢の回復が有意に改善された。
【
図3】MCAO後の様々な時点でのラット群におけるボディスイング運動行動スコアを表した線グラフである。MCAO治療後の指示した時点で、様々な群に1×10
6個のヒトMPCを静脈内投与した。MCAOの6時間後(p<0.05)、12時間後(p<0.05)、48時間後(p<0.01)、及び7日後(p<0.01)にhuMPCを投与すると、ビヒクル投与と比較してボディスイングの回復が有意に改善された。
【
図4】MCAO後の体重を表した線グラフである。MPC処置群とビヒクル群とを比較して、体重に有意差はなかった。
【
図5】MCAO後のラットにおける触覚刺激に対する皮質応答性のMRI画像処理研究の概略を示した図である。
【
図6】MCAOラット研究のためのMRI画像処理装置の概略を示した図である。
【
図7】8日目のMRI時の梗塞体積(上部パネル)及び脳全体のパーセントとしての梗塞体積(下部パネル)の測定値(平均±SEM)を示した棒グラフである。MPC処置群は、ビヒクル処置群と比較して統計的に梗塞体積が小さかった(p<0.05)。更に、脳全体のパーセントとしての梗塞体積は、MPC処置群で有意に小さかった(p<0.05)。
【
図8】ビヒクル及びMPC処置群における左(反対側)前足刺激による一次及び二次運動皮質の活性化(下部パネル)並びに一次及び二次体性感覚皮質の活性化(下部パネル)を示した棒グラフである。一次運動皮質における有意に高いレベルの活性化が、ビヒクル処置群よりもMPC処置群で観察された(p<0.05)。
【
図9】ビヒクル処置群及びMPC処置群における反対側触覚刺激に応答した梗塞皮質体積内の皮質活性化のレベルを示した棒グラフである。梗塞内の皮質活性化のレベルは、ビヒクル処置群よりもMPC処置群で有意に高かった(p<0.01)。
【発明を実施するための形態】
【0029】
一般的技術及び選択された定義
本明細書全体を通して、特に明記しない限り、又は文脈上別段の必要がない限り、単一の工程、組成物、工程の群、又は組成物の群に関しては、それらの工程、組成物、工程の群、又は組成物の群の1つ及び複数(すなわち、1つ又は複数)を包含すると解釈されるものとする。
【0030】
本開示の各例は、特に明記しない限り、他のすべての例の各々について準用して適用されるものとする。
【0031】
当業者は、本開示が、具体的に記載されたもの以外の変更及び改変されやすいことを理解するであろう。本開示は、そのような変更及び改変全てを含むことを理解されたい。本開示はまた、本明細書で参照又は指示した工程、特徴、組成物、及び化合物の全てを個々に又は集合的に含み、前記工程又は特徴のありとあらゆる組合せ又は任意の2つ以上を含む。
【0032】
本開示は、例示のみを目的としたものであり、本明細書で記載した具体的な例によって範囲が限定されるものではない。機能的に同等の生成物、組成物、及び方法は、明らかに本開示の範囲内にある。
【0033】
本開示は、別段の指示がない限り、分子生物学、微生物学、ウイルス学、組換えDNA技術、溶液中でのペプチド合成、固相ペプチド合成、及び免疫学の従来の技術を使用して、必要以上の実験を行うことなく実施される。このような手法は、例えば、Sambrook, Fritsch & Maniatis, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratories, New York、第2版(1989)、I巻、II巻、及びIII巻の全巻; DNA Cloning: A Practical Approach、I巻及びII巻(D. N. Glover編、1985)、IRL Press, Oxford、全文; Oligonucleotide Synthesis: A Practical Approach (M. J. Gait編、1984) IRL Press, Oxford、全文、特にGait、l~22頁; Atkinson等、35~81頁; Sproat等、83~115頁; 並びにWu等、135~151頁による論文; 4. Nucleic Acid Hybridization: A Practical Approach (B. D. Hames & S. J. Higgins編、1985) IRL Press, Oxford、全文; Immobilized Cells and Enzymes: A Practical Approach (1986) IRL Press, Oxford、全文; Perbal, B., A Practical Guide to Molecular Cloning (1984); Methods In Enzymology (S. Colowick及びN. Kaplan編、Academic Press, Inc.)、全巻; 「knowledge database of Access to Virtual Laboratory website」(Interactiva, Germany)におけるJ.F. Ramalho Ortigao、「The Chemistry of Peptide Synthesis」; Sakakibara, D., Teichman, J., Lien, E. Land Fenichel, R.L. (1976). Biochem. Biophys. Res. Commun. 73 336~342; Merrifield, R.B. (1963). J. Am. Chem. Soc. 85, 2149-2154; Barany, G.及びMerrifield, R.B. (1979) in The Peptides (Gross, E.及びMeienhofer, J.編)、2巻、1~284頁, Academic Press, New York. 12. Wunsch、E.編(1974) Synthese von Peptiden in Houben-Weyls Metoden der Organischen Chemie (Muler、E編)、15巻、第4版、1部及び2部、Thieme, Stuttgart; Bodanszky, M. (1984) Principles of Peptide Synthesis, Springer-Verlag, Heidelberg; Bodanszky, M. & Bodanszky, A. (1984) The Practice of Peptide Synthesis, Springer-Verlag, Heidelberg; Bodanszky, M. (1985) Int. J. Peptide Protein Res. 25, 449~474; Handbook of Experimental Immunology、I~IV巻(D. M. Weir及びC. C. Blackwell編、1986、Blackwell Scientific Publications); 並びにAnimal Cell Culture: Practical Approach、第3版(John R. W. Masters編、2000)、ISBN 0199637970、全文、に記載されている。
【0034】
本明細書全体を通して、文脈上別段の必要がない限り、「含む(comprise)」という単語、又は「含む(comprises)」若しくは「含む(comprising)」等の変化形は、記載された工程若しくは要素若しくは整数又は工程若しくは要素若しくは整数の群を含むことを意味するが、その他の工程若しくは要素若しくは整数又は要素若しくは整数の群を除外するものではないことが理解されよう。
【0035】
本明細書で使用したように、「脳梗塞」という用語は、脳又は脳幹への血流の障害に起因する、通常は急速に発症する脳機能の喪失を意味すると解釈されるものとする。障害は、例えば、血栓症又は塞栓症(本明細書では「虚血性脳梗塞」と呼ばれる)によって引き起こされる虚血(血液の不足)であるか、又は出血(本明細書では「出血性脳梗塞」と呼ばれる)が原因でありうる。一例では、脳機能の喪失は神経細胞死に伴う。一例では、脳梗塞は、大脳又はその領域からの血液の障害又は喪失によって引き起こされる。一例では、脳梗塞は、24時間を超えて持続するか、又は24時間以内に死亡することによって中断される、脳血管が原因の神経学的欠損である(世界保健機関によって定義されている)。症状が24時間を超えて持続すると、症状の持続が24時間未満である一過性脳虚血発作(TIA)から脳梗塞は区別される。脳梗塞の症状には、片麻痺(体の片側の麻痺)、不全片麻痺(体の片側の脱力);顔の筋力低下;知覚麻痺;感覚の低下;嗅覚、味覚、聴覚、若しくは視覚の変化;嗅覚、味覚、聴覚、若しくは視覚の喪失;眼瞼の垂れ下がり(眼瞼下垂);眼筋の検出可能な脱力;咽頭反射の低下;嚥下能力の低下;光に対する瞳孔の反応性の低下;顔の感覚の低下;バランスの低下;眼振;呼吸数の変化;心拍数の変化;頭を片側に向ける能力の低下又は不能を伴う胸鎖乳突筋の脱力;舌の脱力;失語症(言語の発話又は理解の不能);失行症(自主的な動きの変化);視野欠損;記憶欠損;半側無視(hemineglect)若しくは半側空間無視(hemispatial neglect)(病変の反対の視野側の空間への注意の欠如);思考の混乱;錯乱;性欲過剰な身振りの発症;病態失認(欠損の存在の持続的な否定);歩行困難;動きの調整の変化;眩暈;不均衡;意識の喪失;頭痛;及び/又は嘔吐が含まれる。
【0036】
当業者であれば、「大脳」が大脳皮質(又は大脳半球の皮質)、大脳基底核(又は基底核)及び大脳辺縁系を含むことを承知している。
【0037】
本明細書で使用する「梗塞」という用語は、脳梗塞の過程によって直接損なわれた脳の領域又は体積(volume)を意味する。
【0038】
「脳機能」という用語には、
・ 論理的思考、計画立案、会話の一部分、行動、情動、及び問題解決(前頭葉が関連する);
・ 行動、見当識、認識、刺激の知覚(頭頂葉が関連する);
・ 視覚処理(後頭葉に関連する);並びに
・ 聴覚刺激の知覚と認識、記憶、及び会話(側頭葉が関連する)が含まれる。
【0039】
本明細書で使用するように、「有効量」又は「治療有効量」という用語は、脳梗塞の1つ又は複数の影響、例えば、運動機能の低下を軽減するために、STRO-1+MPC、及び/又はその子孫細胞(同様に、培養によって増殖したSTRO-1+MPCと呼ばれる)が富化された集団の十分な量を意味すると解釈されるものとする。「有効量」の単回用量は、それだけで治療効果をもたらすのに十分である必要はなく、例えば、有効量の集団の複数回の投与が治療効果の向上をもたらしてもよい。
【0040】
本明細書で使用するように、「低用量」という用語は、STRO-1+細胞及び/又はその子孫の、1×106個よりは少ないが、本明細書で定義される「有効量」及び/又は本明細書で定義される「治療有効量」であるのにまだ十分である量を意味すると理解されるものとする。例えば、低用量は、0.5×106個以下の細胞、又は0.4×106個以下の細胞、又は0.3×106個以下の細胞、又は0.1×106個以下の細胞を含む。
【0041】
本明細書で使用するように、「治療する(treat)」、又は「治療(treatment)」、又は「治療する(treating)」という用語は、ある量の細胞を(全身に)投与し、感覚入力に応答した、刺激誘発性皮質活動(例えば、一次皮質活動)を未治療の対象における対応する活動よりも増加させることを意味すると理解されるものとする。
【0042】
本明細書で使用するように、「正常又は健康な個体」という用語は、脳梗塞を罹患していない対象を意味すると解釈されるものとする。
【0043】
本明細書で使用するように、本明細書で使用する「STRO-1+細胞」という用語は、STRO-1+間葉系前駆細胞(MPC)又はSTRO-1+多分化能細胞と同等である。
【0044】
本明細書で使用するように、STRO-1+細胞、STRO-1+MPC、又はSTRO-1+多分化能細胞に関連する「その子孫」という用語は、培養で増殖した後の前述の細胞のいずれかを意味し、そのような培養増殖(子孫)細胞は、開始「初代」STRO-1+細胞の多分化能及び治療特性を保持している。
【0045】
本明細書では、「脳梗塞の影響」という用語は、皮質活動(例えば、一次運動皮質活動)を増加させること、梗塞体積内の皮質活動を増加させること、及び/又は梗塞体積を減少させることの1つ又は複数に関する文字通り支持を含み、提供するものと理解される。
【0046】
間葉系前駆細胞又は幹細胞(MLPSC)
一部の実施形態では、本明細書で記載した方法において投与されるMLPSCが富化されたヒト細胞集団は、骨髄、歯髄、脂肪、又は多能性幹細胞から得られる。一部の実施形態では、ヒト細胞集団は歯髄からも脂肪からも得られない。一部の実施形態では、ヒト細胞集団は歯髄からは得られない。一部の実施形態では、MLPSCが富化されたヒト細胞集団はSTRO-1+細胞が富化されている。STRO-1+細胞は、骨髄、血液、歯髄細胞、脂肪組織、皮膚、脾臓、膵臓、脳、腎臓、肝臓、心臓、網膜、脳、毛包、腸、肺、リンパ節、胸腺、骨、靭帯、腱、骨格筋、真皮、及び骨膜に見いだすことができ、中胚葉及び/又は内胚葉及び/又は外胚葉等の生殖系列に分化することができる。STRO-1+細胞の例示的供給源は骨髄及び/又は歯髄から得られる。
【0047】
一例では、STRO-1+細胞は、脂肪、骨、軟骨、弾性、筋肉、及び線維性結合組織を含むがこれらに限定されない多数の細胞型に分化することができる多分化能細胞である。これらの細胞が入る特定の分化系列決定及び分化経路は、機械的影響、及び/又は成長因子、サイトカイン等の内因性生理活性因子、及び/又は宿主組織によって確立された局所微小環境条件からの様々な影響に左右される。したがって、STRO-1+多分化能細胞は、分裂して娘多分化能幹細胞を生じる非造血前駆細胞である。
【0048】
一例では、STRO-1+細胞は、ヒト対象、例えば、治療する対象又は関連した対象又は関連していない対象から得られる試料から富化される。「富化された」、「富化」という用語又はそれらの変化形は、本明細書では未処理の細胞集団(例えば、天然環境の細胞)と比較した場合に、1つの特定の細胞型の割合又はいくつかの特定の細胞型の割合が増加している細胞集団を表すために使用される。一例では、STRO-1+細胞が富化された集団は、少なくとも約0.1%又は0.5%又は1%又は2%又は5%又は10%又は15%又は20%又は25%又は30%又は50%又は75%のSTRO-1+細胞を含む。これに関して、「STRO-1+細胞が富化された細胞集団」という用語は、「STRO1+細胞をX%含む細胞集団」という用語を明示的に支持するものと解釈され、ここで、X%は本明細書で列挙したパーセンテージである。STRO-1+細胞は、いくつかの例では、クローン原性コロニーを形成することができ、例えば、CFU-F(線維芽細胞)又はそのサブセット(例えば、50%又は60%又は70%又は70%又は90%又は95%)はこの活性を有することができる。
【0049】
一例では、細胞集団は、選択可能な形態のSTRO-1+細胞を含む細胞調製物から富化される。これに関して、「選択可能な形態」という用語は、細胞が、STRO-1+細胞の選択を可能にするマーカー(例えば、細胞表面マーカー)を発現することを意味すると理解されるであろう。このマーカーはSTRO-1であってもよいが、STRO-1である必要はない。例えば、本明細書に記載及び/又は例示されるように、STRO-2及び/又はSTRO-3(TNAP)及び/又はSTRO-4及び/又はVCAM-1及び/又はCD146を発現する細胞(例えば、MPC)もSTRO-1を発現する(STRO-1brightであり得る)。したがって、細胞がSTRO-1+であることを示すことは、細胞がSTRO-1発現によって選択されることを意味するものではない。一例では、細胞は、少なくともSTRO-3発現に基づいて選択され、例えば、細胞はSTRO-3+(TNAP+)である。
【0050】
細胞又はその集団の選択については、特定の組織供給源からの選択を必要としない。本明細書に記載したようにSTRO-1+細胞は、多種多様な供給源から選択されるか、単離されるか、又は富化され得る。したがって、一部の例では、これらの用語は、STRO-1+細胞(例えば、MPC)を含む任意の組織、又は血管組織、又は周皮細胞(例えば、STRO-1+周皮細胞)を含む組織、又は本明細書で列挙した組織のいずれか1つ又は複数からの選択の裏付けを与える。
【0051】
一例では、細胞は、TNAP+、VCAM-1+、THY-1+、CD146+、又はそれらの任意の組合せからなる群から個々に、又は集合的に選択される1つ又は複数のマーカーを発現する。
【0052】
一例では、細胞はSTRO-1+(又はSTRO-1bright)及びCD146+を発現する、又は細胞集団は、STRO-1+(又はSTRO-1bright)及びCD146+を発現する間葉系前駆細胞が富化されている。
【0053】
「個々に」とは、本開示が列挙されたマーカー又はマーカー群を別々に包含すること、並びに個々のマーカー又はマーカー群が本明細書に別々に挙げられていない可能性に関わらず、添付の特許請求の範囲はこのようなマーカー又はマーカー群を互いから別々に、及び可分的に定義してもよいことを意味している。
【0054】
「集合的に」とは、本開示が列挙されたマーカー又はペプチド群の任意の数又は組合せを包含すること、並びにマーカー又はマーカー群のこのような数又は組合せが本明細書では具体的に挙げられていない可能性に関わらず、添付の特許請求の範囲は、このような組合せ又はサブコンビネーションを、マーカー又はマーカー群のその他の任意の組合せから別々に、及び可分的に定義してもよいことを意味している。
【0055】
一例では、STRO-1+細胞はSTRO-1bright(STRO-1briと同義)である。一例では、Stro-1bri細胞は、STRO-1dim又はSTRO-1intermediate細胞よりも優先的に富化されている。
【0056】
例えば、STRO-1bright細胞は更に、TNAP+、VCAM-1+、THY-1+、及び/又はCD146+の1つ又は複数である。例えば、この細胞は、前述のマーカーの1つ又は複数について選択され、及び/又は前述のマーカーの1つ又は複数を発現することが示されている。これに関して、マーカーを発現することが示された細胞を具体的に試験する必要はなく、むしろ前もって富化された、又は単離された細胞を試験し、その後使用することができ、単離又は富化された細胞も同じマーカーを発現するものと仮定することは妥当であり得る。
【0057】
一例では、間葉系前駆細胞は、国際公開第2004/85630号パンフレットで定義されたような血管周囲の間葉系前駆細胞である。
【0058】
所与のマーカーに関して「陽性(positive)」であるとされる細胞は、用語が蛍光の強度、又は細胞の選別過程において使用したその他のマーカーに関連する場合、マーカーが細胞表面上に存在している程度に応じて、マーカーの低(lo若しくはdim)レベル又は高(bright、bri)レベルいずれかを表すことが可能である。低(若しくはdim若しくはdull)とbriとの差異は、選別されている特定の細胞集団上で使用されたマーカーとの関連で理解されるだろう。所与のマーカーに関して「陰性(negative)」であるとみなされる細胞は、必ずしもその細胞が全く存在していないわけではない。この用語は、マーカーがこの細胞によって相対的に非常に低いレベルで発現されていること、検出可能に標識された場合に、マーカーが非常に低いシグナルを発すること、又はバックグラウンドレベル、例えば、アイソタイプ対照抗体を用いて検出されたレベルを上回って検出することはできないことを意味する。
【0059】
「明るい(bright)」という用語は、本明細書で使用した場合、検出可能に標識された場合に相対的に高いシグナルを発する細胞表面上のマーカーを意味する。いかなる理論にも拘束されることを望むものではないが、「明るい(bright)」細胞は、試料中の他の細胞よりも多くの標的マーカータンパク質(例えば、STRO-1によって認識される抗原)を発現すると提唱されている。例えば、STRO-1bri細胞は、FITC結合STRO-1抗体で標識された場合、蛍光活性化細胞選別(FACS)分析によって測定すると、明るくない(non-bright)細胞(STRO-1dull/dim)よりも大きな蛍光シグナルをもたらす。例えば、「明るい(bright)」細胞は、標識した細胞強度の分布内で少なくとも約0.1%の最も明るく標識された細胞を構成している。その他の例では、「明るい(bright)」細胞は、開始試料中の少なくとも約0.1%、少なくとも約0.5%、少なくとも約1%、少なくとも約1.5%、又は少なくとも約2%の最も明るくSTRO-1標識された細胞を構成している。ある例では、STRO-1bright細胞は、「バックグラウンド」、すなわちSTRO-1-である細胞に対して、2対数分高いSTRO-1の表面発現を有する。比較として、STRO-1dim及び/又はSTRO-1intermediate細胞は、「バックグラウンド」よりもSTRO-1の表面発現は高いが、2対数分未満、典型的には、約1対数以下である。
【0060】
本明細書で使用したように、「TNAP」という用語は、組織非特異的アルカリホスファターゼの全アイソフォームを包含することを意図する。例えば、この用語は、肝アイソフォーム(LAP)、骨アイソフォーム(BAP)、及び腎アイソフォーム(KAP)を包含する。一例では、TNAPはBAPである。ある例では、本明細書で使用したTNAPとは、ブダペスト条約の規定に基づきPTA-7282の寄託受入番号で2005年12月19日にATCCに寄託されたハイブリドーマ細胞株によって産生されるSTRO-3抗体と結合することができる分子を意味する。
【0061】
更に、本開示のある例では、STRO-1+細胞はクローン原性CFU-Fを生じさせることができる。
【0062】
一例では、かなりの割合のMLPSC、例えば、STRO-1+多分化能細胞が、少なくとも2種類の異なる生殖細胞系に分化することができる。多分化能細胞がコミットし得る系の非限定的例には、骨前駆細胞;胆管上皮細胞及び肝細胞への多分化能を有する肝細胞前駆細胞;乏突起膠細胞及び星状膠細胞へと進行するグリア細胞前駆体を生じることができる神経限定細胞(neural restricted cell);ニューロンへと進行するニューロン前駆体;心筋及び心筋細胞の前駆体、グルコース応答性インスリン分泌膵ベータ細胞株の前駆体が含まれる。その他の系には、限定はされないが、象牙芽細胞、象牙質産生細胞、及び軟骨細胞、並びに以下の前駆細胞:網膜色素上皮細胞、線維芽細胞、ケラチノサイト等の皮膚細胞、樹状細胞、毛包細胞、尿細管上皮細胞、平滑筋細胞及び骨格筋細胞、精巣前駆細胞、血管内皮細胞、腱、靱帯、軟骨、脂肪細胞、線維芽細胞、骨髄間質、心筋、平滑筋、骨格筋、周皮細胞、血管細胞、上皮細胞、グリア細胞、神経細胞、星状膠細胞、及び乏突起膠細胞が含まれる。
【0063】
別の例では、MLPSC、例えば、STRO-1+細胞は、培養時に造血細胞を生じさせることができない。
【0064】
一例では、細胞は治療を受ける対象から採取し、標準的な技術を用いてインビトロで培養増殖し、自己又は同種組成物としてその対象に投与するための増殖させた細胞を得るために使用する。別の例では、1つ又は複数の確立されたヒト細胞株の細胞が使用される。一部の実施形態では、MLPSC、例えば、細胞は、多能性幹細胞、例えば、ヒト誘導性多能性幹細胞(hiPSC)の分化によって得られる。例えば、Dayem等(2019)、International Journal of Molecular Science、20(8):E1922を参照のこと。
【0065】
一部の実施形態では、子孫(増殖した)細胞は、親集団から約2、約3、約4、約5、約6、約7、約8、約9、又は約10回継代した後に得られる。しかし、子孫細胞は、親集団から任意の回数継代した後に得られてもよい。
【0066】
子孫細胞は任意の適切な培地中で培養することによって得ることができる。「培地」という用語は、細胞培養に関して使用される場合、細胞周辺の環境の成分を含む。培地は固体、液体、気体、又は相及び物質の混合物であってもよい。培地には、液体の増殖培地及び細胞増殖を維持しない液体培地が含まれる。「培地」という用語はまた、細胞とまだ接触していない場合でも、細胞培養での使用を目的とした材料を意味する。言い換えると、細菌培養用に調製された栄養豊富な液体が培地である。水又はその他の液体と混合されたときに細胞培養に適するようになる粉末混合物は、「粉末培地」と呼ばれることがある。
【0067】
一例では、本開示の方法に有用な子孫細胞は、STRO-3抗体で標識した磁気ビーズを使用して、TNAP+STRO-1+細胞を骨髄から単離又は富化し、その後、その単離した細胞を培養増殖することによって得られる(適切な培養条件の例については、Gronthos等、Blood 85:929~940、1995を参照のこと)。
【0068】
一部の実施形態では、増殖したMLPSCは、LFA-3、THY-1、VCAM-1、ICAM-1、PECAM-1、P-セレクチン、L-セレクチン、3G5、CD49a/CD49b/CD29、CD49c/CD29、CD49d/CD29、CD 90、CD29、CD18、CD61、インテグリンベータ6~19、トロンボモジュリン、CD10、CD13、SCF、PDGF-R、EGF-R、IGF1-R、NGF-R、FGF-R、レプチン-R(STRO-2=レプチン-R)、RANKL、STRO-4(HSP-90β)、STRO-1bright、及びCD146からなる群から集合的に、若しくは個々に選択される一つ若しくは複数のマーカー、又はこれらのマーカーの任意の組合せを発現することができる。
【0069】
一部のMLPSC、例えば、STRO-1+多分化能細胞の富化した集団の調製方法及びそれらの培養増殖は、国際公開第01/04268号パンフレット及び国際公開第2004/085630号パンフレットに記載されている。インビトロの場合、STRO-1+多分化能細胞は完全に純粋な調製物として存在することはまれであり、一般的には組織特異的分化決定済細胞(TSCC)であるその他の細胞と一緒に存在している。国際公開第01/04268号パンフレットは、そのような細胞を骨髄から約0.1%~90%の純度レベルで回収することに言及している。子孫が由来するMPCを含む集団は、組織供給源から直接回収してもよいし、或いはエキソビボ(ex vivo)で既に増殖した集団であってもよい。
【0070】
例えば、子孫は、それらが存在する集団の全細胞の少なくとも約0.1、1、5、10、20、30、40、50、60、70、80又は95%を含む、回収した、増殖していない、実質的に精製されたSTRO-1+多分化能細胞の集団から得ることができる。このレベルは、例えば、TNAP、STRO-4(HSP-90β)、STRO-1bright、3G5+、VCAM-1、THY-1、CD146、及びSTRO-2からなる群から個々に、又は集合的に選択される少なくとも1つのマーカーが陽性である細胞を選択することによって、達成することができる。
【0071】
STRO-1+細胞開始集団は、国際公開第01/04268号パンフレット又は国際公開第2004/085630号パンフレットに記載されている、いずれか1つ又は複数の組織型、すなわち、骨髄、歯髄細胞、脂肪組織、及び皮膚から、或いは、おそらくより広範に、脂肪組織、歯、歯髄、皮膚、肝臓、腎臓、心臓、網膜、脳、毛包、腸、肺、脾臓、リンパ節、胸腺、膵臓、骨、靱帯、骨髄、腱、及び骨格筋に由来することができる。一部の好ましい実施形態では、STRO-1+細胞が富化した集団は、骨髄、歯髄、脂肪、又は多能性幹細胞に由来する。
【0072】
本開示で記載した方法を実施する場合、任意の所与の細胞表面マーカーを保有している細胞の分離は、いくつかの異なる方法によって達成することができるが、例示的な方法は、結合物質(例えば、抗体又はその抗原結合断片)を、関係するマーカーに結合させた後、高レベル結合、又は低レベル結合若しくは結合無しのいずれかである結合を示すものを分離することに依存していることは理解されるだろう。最も便利な結合物質は、抗体又は抗体をベースにした分子、例えば、モノクローナル抗体又はモノクローナル抗体をベースにしたもの(例えば、その抗原結合部位を含むタンパク質)であり、これらの後者の作用物質には特異性があるためである。抗体は両工程に使用することができるが、その他の作用物質も使用することができ、したがってマーカーを保有している細胞、又はマーカーを欠如している細胞を富化するために、これらのマーカーに対するリガンドも使用することができる。
【0073】
抗体又はリガンドを固体支持体に結合させて粗分離を可能にすることができる。一例では、分離技術は、収集される画分の生存能の保持率を最大にする。異なる効率の様々な技術を使用して、比較的粗製の分離物を得ることができる。使用される特定の技術は、分離効率、随伴する細胞毒性、実施の容易さ及び速さ、並びに高性能機器及び/又は技術的熟練の必要性に左右されるだろう。分離手法には、限定はされないが、抗体コーティング磁気ビーズを使用した磁気分離、アフィニティークロマトグラフィー、及び固体マトリクスに結合した抗体による「パニング」を含めることができる。正確な分別を提供する技術には、限定はされないが、FACSが含まれる。FACSを実施するための方法は、当業者には明らかであるだろう。
【0074】
本明細書で記載したマーカーの各々に対する抗体は市販されており(例えば、STRO-1に対するモノクローナル抗体はR&D Systems社、USAから市販されている)、ATCC又はその他の寄託機関から入手可能であり、及び/又は当分野で認識されている技術を使用して生産することができる。
【0075】
一例では、STRO-1+細胞を単離する方法は、例えば、STRO-1の高レベル発現を認識する磁気活性化細胞選別(MACS)を利用する固相選別工程である第一工程を含む。所望であれば、特許明細書国際公開第01/14268号パンフレットに記載されているようにより高レベルの前駆細胞発現をもたらすために、第2の選別工程を続けることができる。この第2の選別工程には、2つ以上のマーカーの使用を含んでいてもよい。
【0076】
一部の実施形態では、MLPSCは間葉系幹細胞(MSC)である。MSCは、均質な組成物であってもよく、又はMSCが富化された混合細胞集団であってもよい。均一なMSC組成物は、付着性骨髄又は骨膜細胞を培養することによって得ることができ、MSCは、特有のモノクローナル抗体で識別される特定の細胞表面マーカーによって識別することができる。プラスチック付着技術を使用してMSCが富化された細胞集団を得る方法は、例えば、米国特許第5,486,359号に記載されている。従来のプラスチック付着単離によって調製されたMSCは、CFU-Fの非特異的なプラスチック付着特性に依存している。MSCの代替供給源には、限定はされないが、血液、皮膚、臍帯血、筋肉、脂肪、骨、及び軟骨膜が含まれる。
【0077】
間葉系前駆細胞又は幹細胞は、対象に投与する前に凍結保存することができる。
【0078】
MLPSC、例えば、間葉系幹細胞を得る方法はまた、第1の富化工程の前に公知の技術を使用して細胞の供給源を回収することを含んでいてもよい。したがって、組織は外科的に取り出される。次に、細胞を含む供給源組織は、いわゆる単一細胞懸濁液に分離される。この分離は、物理的又は酵素的手段によって達成することができる。
【0079】
適切なMLPSC集団が得られたら、任意の適切な手段によって培養又は増殖させることができる。
【0080】
一部の実施形態では、細胞は治療を受ける対象から採取し、標準的な技術を用いてインビトロで培養し、自己組成物としてその対象に、又は同種組成物として異なる対象に投与するための増殖した細胞を得るために使用する。
【0081】
本開示の方法に有用な細胞は、使用前に保存することができる。真核細胞、具体的には哺乳類細胞を保存及び保管するための方法及び手順は、当技術分野において公知である(例えば、Pollard, J. W.及びWalker, J. M. (1997) Basic Cell Culture Protocols、第2版、Humana Press, Totowa, N.J.; Freshney, R. I. (2000) Culture of Animal Cells、第4版、Wiley-Liss, Hoboken, N.J.を参照のこと)。間葉系幹/前駆細胞、又はその子孫等の単離された幹細胞の生物活性を維持するためのあらゆる方法を、本開示と関連して利用することができる。一例では、この細胞は凍結保存を使用して維持し保管する。
【0082】
改変細胞
一例では、MLPSC及び/又はその子孫細胞は、例えば、目的のタンパク質を発現及び/又は分泌するために遺伝子改変される。例えば、細胞は、運動障害又は脳梗塞のその他の影響の治療に有用なタンパク質、例えば、Larpthaveesarp等(2015)、Brain Science 5(2):165~177に概説されているような血管内皮増殖因子(VEGF)、エリスロポエチン、脳由来増殖因子(BDNF)、又はインシュリン様増殖因子(IGF-1)等を発現するように操作される。
【0083】
細胞を遺伝子改変するための方法は、当業者には明らかであるだろう。例えば、細胞で発現される核酸は、細胞での発現を誘導するためのプロモーターに作動可能に連結される。例えば、核酸は、例えば、ウイルスプロモーター、例えば、CMVプロモーター(例えば、CMV-IEプロモーター)又はSV-40プロモーター等の、対象の種々の細胞中で作動可能なプロモーターに連結される。更なる適切なプロモーターは当技術分野において公知であり、本開示の本例に準用されると解釈されるものとする。
【0084】
一例では、核酸は発現構築物の形態で提供される。本明細書で使用したように、「発現構築物」という用語は、作動可能に連結された核酸(例えば、レポーター遺伝子及び/又は対抗選択可能なレポーター遺伝子)を細胞中で発現させる能力を有する核酸を意味する。本開示の文脈においては、発現構築物は、プラスミド、バクテリオファージ、ファージミド、コスミド、ウイルスのサブゲノム断片若しくはゲノム断片、又は異種DNAを発現可能な様式で維持及び/又は複製することができるその他の核酸を含むか、或いはそれらであってもよいことを理解されたい。
【0085】
本開示の実施のための適切な発現構築物を構築する方法は、当業者には明らかであり、例えば、Ausubel等(Current Protocols in Molecular Biology. Wiley Interscience、ISBN 047 150338、1987)又はSambrook等(Molecular Cloning: Molecular Cloning: A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratories、New York、第3版 2001)に記載されている。例えば、発現構築物の各成分は、例えば、PCRを使用して適切な鋳型核酸から増幅され、その後、例えば、プラスミド又はファージミド等の適切な発現構築物中にクローニングされる。
【0086】
そのような発現構築物に適切なベクターは当業界では公知であり、及び/又は本明細書に記載されている。例えば、哺乳類細胞における、本開示の方法における使用に適切な発現ベクターは、例えば、Invitrogenによって供給されるpcDNAベクター一式のベクター、pCIベクター一式(Promega社)のベクター、pCMVベクター一式(Clontech社)のベクター、pMベクター(Clontech社)、pSIベクター(Promega社)、VP16ベクター(Clontech社)、又はpcDNAベクター一式(Invitrogen社)のベクターである。
【0087】
当業者は、更なるベクター、及び、例えばLife Technologies Corporation社、Clontech社、又はPromega社等のこのようなベクターの供給元を承知しているだろう。
【0088】
単離された核酸分子又はその核酸分子を含む遺伝子構築物を発現用の細胞に導入する手段は、当業者には公知である。所与の生物体で使用される技術は、公知の優れた技術に依存する。組換えDNAを細胞に導入するための手段には、マイクロインジェクション、DEAE-デキストランによって媒介されるトランスフェクション、リポフェクタミン(Gibco社、MD、USA)及び/又はセルフェクチン(Gibco社、MD、USA)の使用等のリポソームによって媒介されるトランスフェクション、PEGによって媒介されるDNAの取り込み、エレクトロポレーション、並びに中でもDNAをコーティングしたタングステン又は金粒子(Agracetus Inc.社、WI、USA)の使用等による微小粒子銃が挙げられる。
【0089】
或いは、本開示の発現構築物はウイルスベクターである。適切なウイルスベクターは当技術分野では公知であり、市販されている。核酸の送達及び宿主細胞ゲノムへの核酸の組込みのための従来のウイルスをベースにした系には、例えば、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、又はアデノ随伴ウイルスベクターが挙げられる。或いは、アデノウイルスベクターは、エピソームのままの核酸を宿主細胞に導入するのに有用である。ウイルスベクターは、標的細胞及び標的組織における遺伝子移入の、効率的で用途の広い方法である。更に、高い導入効率が、多くの異なる細胞型及び標的組織において確認されている。
【0090】
例えば、レトロウイルスベクターは一般的に、最大6~10kbの外来配列のパッケージング容量を有するシス作用性の長い末端反復配列(LTR)を含む。最小のシス作用性LTRであってもベクターの複製及びパッケージングには十分であり、その後、発現構築物を標的細胞に組み込んで長期発現を実現するのに使用される。広く使用されているレトロウイルスベクターには、マウス白血病ウイルス(MuLV)、テナガザル白血病ウイルス(GaLV)、サル免疫不全ウイルス(SrV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、及びそれらの組合せをベースとするものが含まれる(例えば、Buchscher等、J Virol. 56:2731~2739(1992); Johann等、J. Virol. 65:1635~1640 (1992); Sommerfelt等、Virol. 76:58~59 (1990); Wilson等、J. Virol. 63:274~2318 (1989); Miller等、J. Virol. 65:2220~2224 (1991); 国際出願PCT/US94/05700; Miller及びRosman BioTechniques 7:980~990、1989; Miller, A. D. Human Gene Therapy 7:5~14、1990; Scarpa等、Virology 75:849~852、1991; Burns等、Proc. Natl. Acad. Sci USA 90:8033~8037、1993を参照のこと)。
【0091】
様々なアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター系も核酸送達のために開発されてきた。AAVベクターは、当技術分野において公知の技術を用いて容易に構築することができる。例えば、米国特許第5,173,414号及び第5,139,941号; 国際公開第92/01070号パンフレット及び第93/03769号パンフレット; Lebkowski等、Molec. Cell. Biol. 5:3988~3996、1988; Vincent等、(1990) Vaccines 90 (Cold Spring Harbor Laboratory Press); Carter Current Opinion in Biotechnology 5:533~539、1992; Muzyczka. Current Topics in Microbiol, and Immunol. 158:97~129、1992; Kotin, Human Gene Therapy 5:793~801、1994; Shelling及びSmith Gene Therapy 7:165~169、1994; 並びにZhou等、J Exp. Med. 179:1867~1875、1994を参照のこと。
【0092】
本開示の発現構築物を送達するために有用な更なるウイルスベクターには、例えば、ワクシニアウイルス及びトリポックスウイルス等のポックスファミリーのウイルス、又はアルファウイルス、又は複合ウイルスベクター(例えば、Fisher-Hoch等、Proc. Natl Acad. Sci. USA 56:317~321、1989に記載されている)由来のものが含まれる。
【0093】
一部の実施形態では、投与される細胞の少なくとも一部は標識され、投与後の投与された標識細胞の非侵襲的検出、局在化、及び/又は追跡を容易にする。一部の実施形態では、細胞は、インビボ(in vivo)において非侵襲的に検出することができるレポータータンパク質、例えば、単量体の遠赤色蛍光タンパク質を発現するように遺伝子改変されている。例えば、Wannier等、(2018), PNAS, 115 (48) E11294~E11301を参照のこと。その他の実施形態では、投与される細胞は、例えば、投与される細胞の少なくとも一部に導入され、その後インビボにおいて非侵襲的に検出することができる重要な追跡標識を使用して、非遺伝的手段によって標識される。適切な追跡標識の1例は、Molady ION(商標)ローダミンB(MIRB)(Biophysics Assay Laboratory、Inc.社から入手可能)で、これは細胞標識及びMRI追跡用に設計されており、効率的な細胞標識のためにトランスフェクション試薬を必要としない35nmのコロイドサイズを有する酸化鉄をベースにした超常磁性MRI造影試薬である。追跡はMRI又は蛍光によって可視化することができる。
【0094】
脳梗塞のモデル
非ヒト動物対象において虚血性脳梗塞を誘導するためには、様々な技術、例えば、大動脈/大静脈閉塞、外部からの首への止血帯又は血圧バンド、出血又は低血圧、頭蓋内圧亢進又は総頚動脈閉塞、2血管閉塞及び低血圧、4血管閉塞、一側総頸動脈閉塞(一部の種でのみ)、エンドセリン-1誘導の動脈及び静脈の収縮、中大脳動脈閉塞、自発脳梗塞(自然発症高血圧ラットにおける)、マクロスフェア塞栓形成、血餅による塞栓形成又はミクロスフェア塞栓形成が知られている。出血性脳梗塞は、脳へのコラゲナーゼの注入によりモデル化することができる。
【0095】
一例では、脳梗塞のモデルは、虚血性脳梗塞を生じる中大脳動脈閉塞を含む。
【0096】
脳梗塞の影響を治療する集団及び/又は子孫の能力を試験するために、脳梗塞の誘導後、例えば、脳梗塞後の1時間から1日以内に集団及び/又は子孫を投与する。投与後に、脳機能及び/又は運動障害の評価が、例えば数回にわたって行われる。
【0097】
脳機能及び/又は運動障害を評価する方法は当業者には明らかあり、例えば、ロータロッド、高架式十字迷路法、オープンフィールド、モリス水迷路、T迷路、放射状迷路、運動評価(例えば、ある期間内にわたる領域)、テールフリック又はDe Ryckの行動試験(De Ryck等、Cerebral infarction. 20:1383~1390、1989)が挙げられる。更なる試験は当業者には明らかであり、及び/又は本明細書に記載されている。同様に、HIEのモデルは当業界では公知である。例えば、Millar等、(2017)、Frontiers in Cellular Neuroscience、11(78):1~36を参照のこと。
【0098】
別の例では、感覚刺激誘発皮質活動、梗塞体積、又は梗塞内の皮質活動に対する細胞投与の効果を画像処理技術により評価してもよい。一部の好ましい実施形態では、磁気共鳴画像法(MRI)、及び特に血中酸素レベル依存(BOLD)画像法等の機能的MRI(fMRI)技術は、そのような評価を行うのに有用である。PET及びCTもそのような評価を行うために使用することができる。
【0099】
運動行動アッセイの機能評価を単独で、又は画像処理技術と組み合わせて使用して、本明細書で記載した細胞組成物の治療効果を評価することができる。このような行動アッセイには、四肢の配置、ロータロッド、グリッドウォーキング、及び持ち上げボディスイングが含まれるが、これらに限定はされない。例えば、Schaar等(2010)、Experimental & Translational Stroke Medicine、2:13; 及びBorlongan等(1995)、Physiology & Behavior、58(5):909~917を参照のこと。
【0100】
細胞組成物
本開示の一例では、MLPSC、例えば、STRO-1+細胞及び/又はその子孫細胞は、組成物の形態で投与される。一例では、そのような組成物は、薬学的に許容される担体及び/又は賦形剤を含む。
【0101】
「担体」及び「賦形剤」という用語は、貯蔵、投与、及び/又は活性化合物の生物活性を容易にするために当技術分野において従来使用されている組成物を意味する(例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences、第16版、Mac Publishing Company (1980)を参照のこと)。担体は、活性化合物の任意の望ましくない副作用を低減することもできる。適切な担体は、例えば、安定であり、例えば、担体中のその他の成分と反応することができない。一例では、担体は、治療に使用された投与量及び濃度で、重大な局所的又は全身的な有害作用をレシピエントにもたらさない。
【0102】
本開示のために適切な担体には、従来使用されているものが含まれ、例えば、水、生理食塩水、水性デキストロース、ラクトース、リンゲル液、緩衝液、ヒアルロナン及びグリコールは、特に(等張である場合)溶液のための例示的な液体担体である。適切な医薬担体及び賦形剤には、デンプン、セルロース、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、塩化ナトリウム、グリセロール、プロピレングリコール、水、エタノール等が含まれる。
【0103】
別の例では、担体は、例えば、細胞を増殖させる、又は懸濁する、培地組成物である。一例では、そのような培地組成物は、それを投与する対象においていかなる有害作用も誘導しない。更なる例には、凍結保存培地、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)等の凍結保護ポリオール、トレハロース等の1つ若しくは複数の凍結保護剤、又はそれらの組合せを含む生理学的培地が含まれる。
【0104】
例示的な担体及び賦形剤は、細胞の生存能、及び/又は脳梗塞の影響を低減、防止若しくは遅延させる細胞の能力に悪影響を及ぼさない。
【0105】
一例では、担体又は賦形剤によって緩衝作用がもたらされて細胞が適切なpHで維持され、それによって生物活性が発揮され、例えば、担体又は賦形剤はリン酸緩衝食塩水(PBS)である。PBSは、魅力的な担体又は賦形剤であるが、その理由は、血流又は組織又は組織の周辺若しくは隣接する領域への、例えば、注射による直接的な適用のために、本開示の組成物が液体として生成されるような場合に、PBSが細胞及び因子と最小限にしか相互作用せず、細胞及び因子の迅速な放出を可能にするためである。
【0106】
本明細書で記載した方法に有用な細胞組成物は、単独で、又はその他の細胞との混合物として投与することができる。本開示の組成物と併せて投与することができる細胞には、限定はされないが、その他の多分化能若しくは多能性細胞若しくは幹細胞、又は骨髄細胞が含まれる。異なる種類の細胞は、本開示の組成物と、投与の直前又は少し前に混合することができ、或いは、それらを投与前にある一定期間一緒に共培養してもよい。
【0107】
一例では、組成物は、有効量又は治療若しくは予防有効量の細胞を含む。例えば、組成物は約1×105MLPSC/kgから約1×107MLPSC/kg又は約1×106MLPSC/kgから約5×106MLPSC/kgを含む。別の例では、組成物は約1×105STRO-1+細胞/kgから約1×107STRO-1+細胞/kg又は約1×106STRO-1+細胞/kgから約5×106STRO-1+細胞/kgを含む。投与される細胞の正確な量は、種々の要素、例えば、患者の年齢、体重、及び性別、並びに脳梗塞の範囲及び重症度、並びに/又は脳梗塞の部位に左右される。
【0108】
一部の実施形態では、低用量の細胞が対象に全身投与される。例示的な投与量は、1kg当たりMLPSC約0.1×106から2×106個の間、例えば、1kg当たりMLPSC約0.5×105から2×106個の間、例えば、1kg当たりMLPSC約0.7×105から1.5×106個の間、例えば、約0.8×105、1.0×106、1.2×106、又は1.4×106MLPSC/kgを含む。
【0109】
その他の実施形態では、全身投与は、梗塞の評価された体積に基づいており、例えば、約2×106MLPSC/cm3罹患皮質から約2×107MLPSC/cm3罹患皮質、例えば、3×106、4×106、5×106、8×106、1.2×107、1.5×107、又は約2×106MLPSC/cm3から約2×107MLPSC/cm3までの別の数の細胞/cm3である。
【0110】
本開示の一部の例では、細胞組成物を用いた治療の開始前に患者を免疫抑制することは、必ずしも必要ではなく、望ましいわけではない。したがって、同種MLPSC、例えば、STRO-1+細胞又はその子孫の注入も場合によっては許容されることがある。
【0111】
しかし、その他の場合においては、細胞治療の開始前に、患者を薬理学的に免疫抑制すること及び/又は細胞組成物に対する対象の免疫応答を低下させることは望ましいか、又は適切であり得る。これは、全身又は局所に免疫抑制剤を使用することによって達成することができる。別の方法として、細胞はそれらの免疫原性を低下させるために遺伝子改変することができる。
【0112】
組成物の追加的成分
MLPSC又はその子孫は、その他の有益な薬物又は生体分子(成長因子、栄養因子)と共に投与することができる。その他の作用物質と共に投与する場合、単一の医薬組成物で、又は別個の医薬組成物で、その他の作用物質と同時に、又は連続して(その他の薬剤の投与の前後のいずれかに)一緒に投与することができる。同時投与することができる生物活性因子には、抗アポトーシス剤(例えば、EPO、EPOミメティボディ、TPO、IGF-I及びIGF-II、HGF、カスパーゼ阻害剤);抗炎症剤(例えば、p38MAPK阻害剤、TGFベータ阻害剤、スタチン、IL-6及びIL-1阻害剤、ぺミロラスト、トラニラスト、レミケード、シロリムス、及びNSAID(非ステロイド性の抗炎症薬;例えば、テポキサリン、トルメン、スプロフェン);免疫抑制/免疫調節剤(例えば、シクロスポリン、タクロニムス等のカルシニューリン阻害剤;mTOR阻害剤(例えば、シロリムス、エベロリムス);抗増殖剤(例えば、アザチオプリン、ミコフェノール酸モフェチル);コルチコステロイド(例えば、プレドニゾロン、ヒドロコルチゾン);モノクローナル抗IL-2Rアルファ受容体抗体(例えば、バシリキシマブ、ダクリズマブ)、ポリクローナル抗T細胞抗体(例えば、抗胸腺細胞グロブリン(ATG);抗リンパ球グロブリン(ALG);モノクローナル抗T細胞抗体OKT3)等の抗体);抗血栓形成剤(例えば、ヘパリン、ヘパリン誘導体、ウロキナーゼ、PPack(デキストロフェニルアラニンプロリンアルギニンクロロメチルケトン)、抗トロンビン化合物、血小板受容体拮抗薬、抗トロンビン抗体、抗血小板受容体抗体、アスピリン、ジピリダモール、プロタミン、ヒルジン、プロスタグランジン阻害剤、及び血小板阻害薬);及び抗酸化剤(例えば、プロブコール、ビタミンA、アスコルビン酸、トコフェノール、コエンザイムQ-10、グルタチオン、L-システイン、N-アセチルシステイン)、並びに局所麻酔薬が含まれる。一部の実施形態では、投与される細胞組成物は抗炎症剤を含む。その他の実施形態では、投与される細胞組成物は血栓溶解剤を含む。
【0113】
一部の実施形態では、細胞組成物は、血液脳関門(BBB)を一時的に破壊する作用物質を含む。一部の実施形態では、投与される細胞組成物はマンニトールを含む。或いは、マンニトールは、細胞組成物の投与の少し前又は後に、例えば、約1時間以内に投与される。
【0114】
一部の実施形態では、本明細書で記載されたいずれかの例による組成物は、脳機能を改善するための因子及び/又は脳ニューロンを再生するための因子及び/又は運動機能障害を治療するための因子、例えば栄養因子を含む。
【0115】
或いは、又は更に、本明細書で記載したいずれかの例による細胞及び/又は組成物は、脳梗塞の影響の公知の治療、例えば、理学療法及び/又は言語療法と組み合わせる。
【0116】
一例では、本明細書で記載したいずれかの例による薬剤的組成物は、脳梗塞の影響を治療するのに使用される化合物を含む。或いは、本明細書で記載した本開示のいずれかの例による治療/予防の方法は、脳梗塞の影響を治療するのに使用される化合物を投与することを更に含む。例示的な化合物が本明細書に記載されており、本開示のこれらの例に準用されると解釈されるものとする。
【0117】
別の例では、本明細書で記載したいずれかの例による組成物は、前駆細胞の血管細胞への分化を誘導する又は促進する因子を更に含む。例示的な因子には、血管内皮増殖因子(VEGF)、血小板由来成長因子(PDGF;例えば、PDGF-BB)、及びFGFが挙げられる。
【0118】
医療装置
本開示はまた、本明細書で記載したいずれかの例による方法において使用するための、又は使用する場合の医療装置を提供する。例えば、本開示は、本明細書で記載したいずれかの例による、STRO-1+細胞及び/又はその子孫細胞及び/又は組成物を含む、注射器又はカテーテル又はその他の適切な送達装置を提供する。任意選択で、注射器又はカテーテルは、本明細書で記載したいずれかの例による方法における使用説明書と同梱される。
【0119】
投与
一部の実施形態では、治療する対象は虚血性脳梗塞に罹患している。特定の実施形態では、治療する対象は、低酸素性虚血性脳症(HIE)に罹患している新生児対象である。その他の実施形態では、脳梗塞は出血性脳梗塞である。一部の好ましい実施形態では、治療する対象はヒト対象である。
【0120】
好ましい実施形態では、MLPSC、例えば、STRO-1+細胞、MSC、又はその子孫を全身投与する。
【0121】
好ましい実施形態では、MLPSCは対象の血流に、例えば、非経口的に送達される。非経口投与の例示的な経路には、限定はされないが、動脈内、静脈内、腹腔内、又は髄腔内が含まれる。一部の好ましい実施形態では、MLPSC又はその子孫が富化された細胞集団は、動脈内、大動脈内、心臓の心房又は心室内に送達される。
【0122】
心臓の心房又は心室への細胞送達の場合、肺への急速な細胞送達によって生じ得る合併症を回避するため、細胞は左心房又は左心室に投与することができる。
【0123】
一実施形態では、集団は頸動脈に投与される。
【0124】
治療用製剤の投与計画の選択は、実体の血清又は組織の代謝回転率、症状のレベル、及び実体の免疫原性を含むいくつかの因子に左右される。
【0125】
一例では、MLPSC又はその子孫は、単回ボーラス投与量として送達される。或いは、STRO-1+細胞又はその子孫は、持続注入によって、又は、例えば、1日、1週間の間隔、若しくは週に1~7回の投与によって投与される。例示的な投与手順は、著しい望ましくない副作用を回避する、最大の投与量又は投与頻度を含むものである。週当たりの総投与量は、使用される因子/細胞の種類及び活性に左右される。適切な投与量の決定は、臨床医によって、例えば、当技術分野において、治療に影響を与えると知られている、若しくは疑われている、又は治療に影響を与えると予想されるパラメータ又は因子を使用して行われる。一般的に、投与は適量よりいくらか少ない量から開始され、その後、あらゆる負の副作用に対して所望の、又は最適な効果が達成されるまで、少しずつ増加される。
【0126】
一部の実施形態では、本明細書で記載した細胞組成物(例えば、MLPSC、例えば、STRO-1+MPC、STRO-1brightMPCが富化されたヒト細胞集団)又はMSCは、脳梗塞後約24時間以内、例えば、約1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、7時間、8時間、9時間、12時間、16時間、18時間、又は約1時間から約24時間までの別の時間に全身投与される。その他の実施形態では、細胞組成物は、梗塞後24時間、例えば、約25時間から1カ月、例えば、26時間、28時間、48時間、72時間、96時間、1週間、2週間、3週間、又は治療する対象の脳梗塞後約24時間から約1カ月までの別の時点に投与される。一部の実施形態では、細胞組成物は、24時間後から約48時間後までに全身投与される。その他の実施形態では、細胞組成物は、約48時間から2週間後までに全身投与される。一部の実施形態では、本明細書で記載した細胞組成物が脳梗塞後約24時間以内に投与される場合、治療する対象は、別々に(細胞の投与の前後に)又は細胞組成物自体の一部として、血栓溶解剤を投与されない。
【0127】
一部の実施形態では、本明細書で記載したように、インビボ検出のために適切に標識された細胞の対象への投与後に、1つ又は複数の時点での対象における細胞の分布は、標識細胞の投与後約6時間から1カ月、例えば、12時間、24時間、2日、3日、4日、1週間、2週間、3週間、4週間、6週間、7週間、又は約6時間から約2カ月までの別の時点で判定する。
【0128】
一部の実施形態では、投与後、少なくとも12時間から6カ月、例えば、18時間、1日、2日、3日、4日、1週間、2週間、3週間、4週間、2カ月、3カ月、4カ月、5カ月、又は約12時間から約6カ月までの別の時期までの期間にわたって、治療対象における梗塞の体積及び/又は梗塞の活動の変化を判定する。梗塞内の梗塞体積及び/又は活動は、当技術分野で公知のいくつかの方法のいずれか、例えば、体積判定のための非造影頭部コンピュータ断層撮影法(NCCT)及びfMRI及び梗塞領域内の血中酸素レベル依存(BOLD)シグナルの分析を用いて判定することができる。
【0129】
本開示は、以下の非限定的な実施例を含む。
【実施例】
【0130】
(実施例1)
ヒトMPCによる治療は梗塞の齧歯類モデルの運動機能を改善する。
動物、飼育、及び食餌
250から275gの雄ヌードラット(RNUラット、Taconic社、IBU051001C)84匹は手術の7~10日前に到着した。研究期間を通して食物及び水を自由に摂取させた。動物には、油性マーカーペンを使用して尾に連続した識別番号を割り当てた。手術の前日に動物を観察し、健康状態が悪いと思われる動物は研究から除外した。
【0131】
動物は、ろ過された空気が供給されている21±2℃の温度及び50%±20%の相対湿度の部屋に収容した。部屋は自動タイマーで12時間点灯及び12時間消灯の明暗サイクルとし、薄明かりはなかった。Shepherd(登録商標)(1/4インチ)プレミアムコーンコブを床敷として使用し、Nylabone(登録商標)(3.5インチ、Dura bones Petite)1本を各ケージに入れた。動物にはLab Diet(登録商標)5001固形飼料を給餌した。水は自由に摂取させた。
【0132】
重度の攻撃性若しくは傷害が示されるか、又は同一ケージ動物が死亡して、収容されている動物が単独になった場合を除き、動物は手術の前後にはケージ毎に2匹ずつ収容された。
【0133】
研究計画
動物の準備
上述の成体雄ヌードラット72匹を研究に使用した。ラットは全て、順応の目的のために手術前の7日間は収容され、行動評価のために慣らされた。慣らし期間終了時に、ラットは無作為化され、異なる群に割り当てられた。
【0134】
手術の準備
中大脳動脈閉塞(MCAO)、田村モデル
限局性脳梗塞は、田村等の方法を改変して使用して、近位右中大脳動脈(MCA)の永久的閉塞によって形成された。雄ヌードラット(手術時250~350g)をN2O:O2(2:1)の混合物に入れた2~3%イソフルランで麻酔し、N2O:O2(2:1)の混合物に入れた1~1.5%イソフルランで維持した。側頭筋を二分し、眼と鼓膜管の中間に形成された切開によって反転させた。近位MCAは、顔面神経を切断せず且つ頬骨弓を除去せずに、側頭下頭蓋骨切除術によって露出させた。次に、嗅索のすぐ近位から下大脳静脈までのマイクロ二極式凝固によって動脈を閉塞し、切断した。手順全体を通して、体温は37.0±1℃に維持された。鎮痛剤としてブプレノルフィンSR(0.9~1.2mg/kg、ZooPharm社)、及びセファゾリン(40~50mg/kg、Hospira社)をMCAO手術の前のこの時点で投与した。
【0135】
投薬
細胞(hMPC、TAN 2178、ロット番号2011CC043)及びビヒクル(Cryomedia、ロット番号2012CC034)は、ドライシッパーによって供給業者から送られ、液体窒素気相中で保管された。凍結保存されたhPMCは、以下の手順の通りに、注射の直前に解凍された。hMPC(0.17mL中1×106個)又はビヒクル(0.17mL)は、MCAOの6時間後、12時間後、24時間後、48時間後、又は7日後に尾静脈注射によって投与された。細胞懸濁液は約20秒かけて送達された。行動試験及び細胞投与が同じ日に行われることになっていた日には、細胞は常に行動試験の後に投与された。
【0136】
無作為化及び盲検化
24時間目に処置された動物は、www.graphpad.com/quickcalcs/randomize2.cfmでオンラインで入手できるquickcalcsを使用して、細胞又はビヒクルを投与するように無作為に割り当てられた。その他の動物は、治療を手術日に均等に分配し、解凍した細胞の単一バイアルからの細胞を投与することができる動物の数を最大にする方法で、処置群を割り当てられた。同一の研究者が、動物の手術及び行動評価を全て実施し、各動物の試験計画及び治療の割り当てについては盲検化されていた。
【0137】
行動試験
機能的活動は、四肢配置及びボディスイング行動試験で評価した。これらの試験は、MCAOの1日前(-1日目)、MCAOの1日後(1日目)、3日後(3日目)、7日後(7日目)、14日後(14日目)、21日後(21日目)、及び28日後(28日目)に実施した(0日目=MCAOの日)。
【0138】
四肢配置
四肢配置試験は、前肢試験及び後肢試験の両方に分けて行った。前肢配置試験では、試験官はラットを卓上に近づけ、頬髭、視覚、触覚、又は固有受容性刺激に応答して前肢を卓上に配置するラットの能力をスコア化した。同様に、後肢配置試験では、試験官は、触覚及び固有受容性刺激に応答して、後肢を卓上に配置するラットの能力を評価した。感覚入力のモード毎に別々のサブスコアが取得され(ハーフポイント指定が可能)、合計スコアが得られるように追加された(前肢配置試験の場合:0=正常、12=最大障害、後肢配置試験の場合:0=正常;6=最大障害)。
【0139】
2.ボディスイング試験
ラットは尾の付け根から約1インチのところで保持した。次に、テーブルの表面から1インチ上に持ち上げた。左側又は右側のいずれに対しても10°以下として定義される垂直軸にラットを保持した。ラットが垂直軸からいずれかの側に頭を動かしたときはいつでも、スイングが記録された。次のスイングがカウントされるためには、ラットは垂直位置に戻らなければならない。合計30回のスイングがカウントされた。正常なラットは通常、どちらの側にも同数のスイングがある。限局性虚血後は、ラットは反対側(左側)にスイングする傾向がある。
【0140】
殺処分
MCAOの28日後、ラットをケタミン(50~100mg/kg)及びキシラジン(5~10mg/kg)の混合物を腹腔内に用いて深く麻酔した。次に、ラットを通常の生理食塩水(2unit/mlヘパリン)、続いて10%ホルマリンで経心的に灌流した。脳を取り出し、10%ホルマリン中で保存した。脳はHistoTechnologies, Inc.社に送られ、梗塞体積を測定するために処理された(H&E染色)。
【0141】
データ分析
データは全て平均±S.E.M.で表した。行動及び体重のデータはANOVAの反復測定によって分析した(処理X回)。全群を含む全体的なANOVAのF統計量の正のp値によって、群間のペアワイズANOVAが可能になった。
図1~
図3において:*=ビヒクル処理群とはp<0.05で異なる
**=ビヒクル処理群とはp<0.01で異なる
***=ビヒクル処理群とはp<0.001で異なる
行動試験では、脳卒中の前日である-1日目を分析から意図的に除外して、データの正規分布を確実にした。
【0142】
結果
図1に示したように、MCAOの6時間後(p<0.01)、12時間後(p<0.01)、24時間後(p<0.001)、48時間後(p<0.01)、及び7日後(p<0.01)にhMPCを投与すると、ビヒクルを投与された動物と比較して前肢の回復が有意に改善された。
図2に示したように、MCAOの6時間後(p<0.001)、12時間後(p<0.01)、24時間後(p<0.001)、及び48時間後(p<0.001)にhMPCを投与すると、ビヒクル投与と比較して後肢の回復が有意に改善された。MCAOの6時間後(p<0.05)、12時間後(p<0.05)、48時間後(p<0.01)、及び7日後(p<0.01)にhMPCを投与すると、ビヒクル投与と比較してボディスイングの回復が有意に改善された(
図3)。MPC処置群とビヒクル群との間の体重に有意差はなかった(
図4)。
【0143】
(実施例2)
脳梗塞のラットモデルの機能的画像化に対する静脈内hMPC又はビヒクルの効果。
梗塞モデル
動物は、N2O:O2(2:1)中の2~3%イソフルランを含む誘導室内で麻酔され、フェイスマスクを介して1~1.5%イソフルランで維持された。麻酔がかかったところで、動物にセファゾリンナトリウム(40mg/kg、i.p.)及びブプレノルフィン(0.1mg/kg、s.c.)を投与した。動物の眼科用軟膏であるLacrilubeを眼に塗布して、眼が乾燥しないようにした。手術の間、動物は全て37.0±1℃に維持した。全動物において、中大脳動脈閉塞(MCAO)によって脳(大脳皮質)の表面の右側に小さな限局性脳卒中(梗塞)を形成した。無菌的手法を使用して、眼と鼓膜管の中間で切開を行った。側頭筋を単離し、二分し、反転させた。
【0144】
MCAを露出させるために、ドリル及びロンガーによって小さな骨の窓を取り除いた(側頭下頭蓋骨切除術)。解剖顕微鏡を使用して、硬膜を切開し、MCAは、嗅索のすぐ近位から下大脳静脈まで(この静脈を破裂させないように注意して)、マイクロ二極式電気焼灼を使用して電気凝固によって永久的に閉塞した。次に、MCAを横切開した。次に、側頭筋の位置を変え、縫合糸を用いて切開部を皮下で閉じた。皮膚切開は外科用ステープルで閉じた(2~3個必要であった)。手術後、動物は麻酔から回復するまで加熱パッド上に留置した。その後、動物を清潔なホームケージに戻した。MCAO手術日(0日目)は動物を頻繁に観察し、その後、8日目に画像処理のためにEkam Imaging、Inc社に送るまで少なくとも1日1回観察した。画像分析は全て、治療に関するいかなる情報も無い状態で盲検化して完了した。画像分析が完了すると、コードは盲検解除された。
【0145】
画像処理の手順-機能的核磁気共鳴画像法(fMRI)
Rowlettヌード(RNU)ラットはTaconic社から入手した。動物の健康証明書は、8日目の輸送時に提供された。動物は、画像処理の各日(15日目)に、温度管理された輸送手段で画像処理施設に輸送された。A及びBとして盲検化された合計2つの群(n=9/群)を研究した。更に、手術を受けていない2匹の動物を含め、最初の画像処理日に画像処理され、比較のための正常対照として使用した。
【0146】
画像処理研究は、Bruker Biospec 7.0T/20cm USR水平磁石(Bruker社、Billerica、MA U.S.A)及び120μsの立ち上がり時間が可能な20G/cm磁場勾配インサート(ID=12cm)(Bruker社)を使用して実施した。高周波シグナルは、動物拘束装置に組み込まれたクワッドコイル電子機器で送受信された。全動物を麻酔し、拘束装置に入れて画像処理して、以下の解剖学的及び機能的スキャンを取得した。
1)パイロットスキャン(RARE Tripilot)
2)脳全体のT2強調参照解剖撮像法。(22スライス;1.2mm;FOV 3cm2;256×256; RAREパルスシーケンス。)
3)fMRI(96×96×22、リフォーカスエコー(RARE)画像を使用したT2強調高速取得;電気刺激による足のショック、0.6mA、3分間のベースライン、続いて左後足での3分間の刺激、更に3分間のベースライン、更に3分間の左前足の刺激。すなわち、刺激は、脳卒中の反対側の足(及び対照の一致する足)に適用された。
4)fMRI(96×96×22、T2強調RARE画像;10%CO2負荷)。
【0147】
画像処理実験手順及び装置の概略図を
図5及び
図6に示す。マルチアニマルモニタリング及びゲーティングシステム(SAII社、Stony Brook、NY)を使用して、画像処理中に呼吸をモニターした。
【0148】
画像分析
この研究は、6つの異なるMR画像処理様式で構成されていたため、様々なソフトウェア及びプラットフォームを使用してデータを分析した。データは、数字が報告された図/画像及び表からなる文書形式に編集された。機能的MR画像(fMRI)は、各対象が分割されたラット脳地図(Ekam Imaging社)に登録された社内ソフトウェアMIVAを使用して分析された。アライメント方法は、双方向グラフィックユーザーインターフェイスによって容易にした。複合統計は、逆変換行列を使用して作成された。[Ti]-1で事前に乗算された各複合ピクセル位置(すなわち、行、列、及びスライス)は、対象(i)のボクセル内にマッピングされた。対象のボクセル値(変化率)の3つの線形補間によって、複合(行、列、及びスライス)位置に対する対象(i)の統計的関与が決定された。[Ti]-1を使用することによって、複合体全一式に対象の関与が確実に読み込まれた。群内の全対象の平均値を使用して、複合値を決定した。特定のROIで複合変化率の値が最も高い活性化されたピクセルの平均数が複合マップに表示された。活性化された複合ピクセルは次のように算出された。
【0149】
【0150】
各領域の時間履歴グラフの複合変化率は、次の通りに各対象の加重平均に基づいた:
【0151】
【0152】
式中、Nは対象の数である。
【0153】
組織試料採取
MCAO後8日目に、画像処理後にラットをCO2で深く麻酔した。心臓を露出し、18G針を挿入し、心臓がまだ鼓動している間に、注入ポンプを介して上行大動脈が接続している上部に向かって左心室に接続した。血液/灌流液が流出できるように、心房に切り込みを入れた。灌流は、約2ユニット/mLヘパリンを含む生理食塩水で40mL/分の速度で5分間開始し、次に10%ホルマリンを同じ速度で5分間行った。断頭後、脳を注意深く取り出し、少なくとも10mLの10%ホルマリンを含有する表示付きチューブに入れた。
【0154】
結果
梗塞体積
図7は、8日目のMRI時の梗塞体積(上部グラフ)の測定値(平均±SEM)及び梗塞体積の脳全体のパーセント(下部グラフ)を示している。MPC処置群は、ビヒクル処置群と比較して統計的に梗塞体積が小さかった(p<0.05)。更に、脳全体のパーセントとしての梗塞体積は、MPC処置群で有意に小さかった(p<0.05)。
【0155】
足刺激による皮質活性化
図8は、BOLD画像処理によって示される、ビヒクル及びhMPC処置群における梗塞の反対側の前足刺激による梗塞と同側の一次及び二次運動皮質並びに一次及び二次体性感覚皮質における活性化を示している。
図8(上部パネル)に示したように、hMPC処置群群の一次皮質(二次運動皮質ではない)で活性化した体積は有意に高かった。体性感覚皮質の活性化については、群間に有意差は示されなかった(下部パネル)。同様に、梗塞の反対側の運動又は体性感覚皮質の活性化に差は観察されなかった(データは示していない)。
【0156】
虚血性中心部及びペナンブラにおける神経活動のfMRI分析
事後画像分析では、解剖学的スキャンを使用して虚血領域を特定した。梗塞の反対側の前足刺激の後、fMRI活性化を測定した。活性化の体積は、MPCで処置した動物で有意に大きかった(
図9)。
【国際調査報告】