(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-26
(54)【発明の名称】単為生殖のための遺伝子
(51)【国際特許分類】
C12N 15/29 20060101AFI20220719BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20220719BHJP
C12N 15/82 20060101ALI20220719BHJP
C12N 15/113 20100101ALI20220719BHJP
C12N 5/04 20060101ALI20220719BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220719BHJP
A01H 5/00 20180101ALI20220719BHJP
A01H 5/10 20180101ALI20220719BHJP
A01H 1/00 20060101ALI20220719BHJP
C12N 15/90 20060101ALI20220719BHJP
C07K 14/415 20060101ALI20220719BHJP
【FI】
C12N15/29 ZNA
C12N15/62 Z
C12N15/82 Z
C12N15/113 Z
C12N5/04
C12N5/10
A01H5/00 A
A01H5/10
A01H1/00 A
C12N15/90 Z
C07K14/415
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021563374
(86)(22)【出願日】2020-05-29
(85)【翻訳文提出日】2021-12-10
(86)【国際出願番号】 EP2020064991
(87)【国際公開番号】W WO2020239984
(87)【国際公開日】2020-12-03
(32)【優先日】2019-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2019-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2020-04-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508186875
【氏名又は名称】キージーン ナムローゼ フェンノートシャップ
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】アンダーウッド, チャールズ ジョセフ
(72)【発明者】
【氏名】リゴラ, ダイアナ
(72)【発明者】
【氏名】ファン ダイク, ピーター ヨハネス
(72)【発明者】
【氏名】オプ デン キャンプ, リク ヒューベルトゥス マルティニュス
(72)【発明者】
【氏名】シュランツ, マイケル, エリック
(72)【発明者】
【氏名】ファイフェルベルク, カタリナ, アドリアナ
【テーマコード(参考)】
2B030
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
2B030AA02
2B030AD20
2B030CA06
2B030CA14
2B030CA17
2B030CA19
2B030CB02
4B065AA88X
4B065AB01
4B065AC20
4B065BA02
4B065CA53
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA30
4H045EA60
4H045FA74
(57)【要約】
本発明は、タンポポ属(Taraxacum)の単為生殖遺伝子のヌクレオチド配列及びアミノ酸配列、並びにそれらの(機能的)相同体、断片及びバリアントを提供し、これらは、アポミクシスの一部として単為生殖を実現する。また、単為生殖植物及びこれらを作製する方法が提供され、分子マーカー及びこれらを使用する方法も提供される。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)配列番号1、6又は11のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子;
b)配列番号2、7又は12のヌクレオチド配列を有するプロモーター;
c)配列番号3、8又は13のヌクレオチド配列を有するコード配列;
d)配列番号4、9又は14のヌクレオチド配列を有する3’UTR;
e)配列番号5、10又は15のヌクレオチド配列を有する遺伝子;
f)a)~e)うちのいずれか1つのバリアント又は断片
のうちの少なくとも1つを含む、植物における単為生殖に関連する核酸であって、
好ましくは単為生殖において機能的である
核酸。
【請求項2】
キメラ遺伝子、遺伝子構築物又は核酸ベクターに含まれる、請求項1に記載の核酸。
【請求項3】
a)請求項1に記載の核酸によってコードされる;
b)配列番号1、6若しくは11のアミノ酸配列を有する;並びに/又は
c)a)及び/若しくはb)のバリアント若しくは断片である、
植物における単為生殖に関連するタンパク質であって、
好ましくは単為生殖において機能的である
タンパク質。
【請求項4】
広義のセイヨウタンポポ(Taraxacum officinale)種ではない植物又は植物細胞であって、請求項1に記載の核酸及び/又は請求項3に記載のタンパク質を含み、好ましくは、アブラナ科(Brassicaceae)、ウリ科(Cucurbitaceae)、マメ科(Fabaceae)、イネ科(Gramineae)、ナス科(Solanaceae)、キク科(Asteraceae(コンポジテ(Compositae)))、バラ科(Rosaceae)及びイネ科(Poaceae)からなる群から選択される科由来である、植物又は植物細胞。
【請求項5】
遺伝子改変によって又は遺伝子移入によって請求項1に記載の核酸を含み、好ましくは前記核酸が前記植物又は植物細胞のゲノムに統合されている、請求項4に記載の植物又は植物細胞。
【請求項6】
単為生殖が可能である、請求項4又は5に記載の植物又は植物細胞。
【請求項7】
さらにアポマイオシスが可能であり、好ましくはアポミクシスが可能である、請求項4~6のいずれか一項に記載の植物又は植物細胞。
【請求項8】
請求項4~7のいずれか一項に記載の植物又は植物細胞の種子、植物部分又は植物産物。
【請求項9】
a)単為生殖を誘導することが可能である請求項1に記載の核酸を1つ又は複数の植物細胞に導入するステップと;
b)前記核酸を含む植物細胞を選別するステップであって、好ましくは、前記核酸が前記植物細胞のゲノムに統合されているステップと;
c)前記植物細胞から植物を再生するステップと
を含む、単為生殖植物を作出する方法。
【請求項10】
請求項9に記載のステップa)~c)を含み、ステップa)の前記1つ又は複数の植物細胞はアポマイオシスが可能である、アポミクティック植物を作出する方法。
【請求項11】
a)有性生殖する第1の植物を第2の植物の花粉と他家受精させて、F1雑種種子を生産するステップであって、前記第2の植物が請求項1に記載の核酸を含み、前記第1の植物及び/又は第2の植物はアポマイオシスが可能であるステップ
を含む、アポミクティックF1雑種種子を生産する方法。
【請求項12】
b)好ましくは遺伝子型決定により、アポミクティック表現型を含む前記F1種子から、選別するステップ
をさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
請求項11又は12記載のステップを含み、
c)前記F1雑種種子から少なくとも1つのF1植物を育成するステップ
をさらに含む、アポミクティック雑種植物を作出する方法。
【請求項14】
請求項9~13のいずれか一項に記載の方法によって入手可能な植物、種子、植物部分又は植物産物。
【請求項15】
植物若しくは植物細胞における単為生殖遺伝子をスクリーニングするための、単為生殖向けに植物若しくは植物細胞を遺伝子型決定するための、及び/又は植物若しくは植物細胞に単為生殖を付与するための、請求項1若しくは2に記載の核酸又は請求項3に記載のタンパク質の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はバイオテクノロジーの分野に、特に、植物育種を含む植物バイオテクノロジーに関する。本発明は、例えばアポミクシス及び単数体誘導に関連し且つこれらにおいて有用な遺伝子の同定及び使用に特に関する。本発明は、単為生殖に関連する遺伝子、並びにそのコードされたタンパク質及び双方の断片に特に関する。本発明は、植物及び作物において単為生殖を抑制及び/又は誘導する方法に、アポマイオシス性遺伝子(複数可)と特に組み合わせたアポミクシスのための、又はその染色体を倍加して倍加単数体を生産することができる単数体植物の作出のための、遺伝子及び/若しくはタンパク質又はそれらの断片の使用に、さらに関する。
【背景技術】
【0002】
アポミクシス(無融合種子形成(agamospermy)とも呼ばれる)とは、種子を通しての無性植物生殖である。アポミクシスはおよそ400種の顕花植物種で報告されている(Bicknell及びKoltunow、2004)。顕花植物のアポミクシスは以下の2つの形態で生じる:
(1)配偶体のアポミクシス、この場合、胚は、単為生殖によって、非減数未受精卵細胞から発生する;
(2)胞子体アポミクシス、この場合、胚は、胞子体細胞から体細胞性に発生する。
配偶体アポミクトの例は、タンポポ(タンポポ属の種(Taraxacum sp.))、ヤナギタンポポ(ヤナギタンポポ属の種(Hieracium sp.))、ケンタッキーブルーグラス(ナガハグサ(Poa pratensis))及びイースタンガマグラス(トリプサクム・ダクチロイデス(Tripsacum dactyloides))である。胞子体アポミクシスの例は、シトラス(シトラス属の種(Citrus sp.))及びマンゴスチン(ガルシニア・マンゴスタナ(Garcinia mangostana))である。配偶体のアポミクシスは、2つの発生プロセス:
(1)減数分裂組換え及び減数の回避(アポマイオシス);及び
(2)受精なしでの卵細胞の胚への発生(単為生殖)
が、関与する。
【0003】
アポミクティック的に生産された種子は、親植物と遺伝的に同一である。アポミクシスは植物育種に極めて有用であり得ることはずっと以前から認識されていた(Asker、1979;Hermsen、1980;Asker及びJerling、1990;Vielle-Calzadaら、1995)。作物へのアポミクシスの導入に関して最も明白な利点とは、ヘテロ強勢F1雑種の純粋な育種である。ほとんどの作物では、F1雑種は優良の品種である。しかし、有性作物では、F1雑種の自家受精は、F2後代植物のゲノムにおける組換えによるヘテロ強勢の喪失を引き起こすので、F1雑種は、再度、同系交配のホモ接合型の両親の交配によって各世代で作出する必要がある。有性F1種子を生産することは、何度も繰り返される、複雑な、費用のかかるプロセスである。対照的に、アポミクティックF1雑種は、永続的に純粋種を生み出すと思われる。換言すれば、種子を通してのF1雑種の遺伝的固定及び均一な後代植物の作出が可能となる。
【0004】
アポミクシスによるF1固定とは、その遺伝的複雑さが何であれ、任意の遺伝子型が一段階で純粋種を生み出すことになる、アポミクシスの一般的特性の特例である。このことが意味するところは、アポミクシスを使用して、多遺伝子性の定量的形質を即座固定することが可能であることである。ほとんどの収量形質は多遺伝子性であることに留意されたい。アポミクシスは、多重形質(例えば、種々の耐性、いくつかの導入遺伝子、又は多重量的形質遺伝子座)のスタッキング(又はピラミッド化)に使用可能である。アポミクシスを使用しない場合、そのような一連の形質を固定するためには、各形質の遺伝子座を個別にホモ接合型とし、後に組み合わせる必要がある。形質に関与する遺伝子座の数が増加するにつれて、交配によってこれらの形質遺伝子座をホモ接合型にすることは、時間がかかり、事業遂行上難しい課題となり、それによって費用がかかるようになる。さらに、対立遺伝子間の特定のエピスタシス相互作用は、ホモ接合性によって喪失する。アポミクシスを使用すると、このタイプの非相加的な遺伝的変異を固定することが可能になる。したがって、アポミクシス、種子を通してのクローン繁殖は、植物育種、商業的種子生産及び農業におけるパラダイムシフトを引き起こす可能性を有する(van Dijkら 2016、Van Dijk及びSchauer 2016)。
【0005】
任意の遺伝子型を即座に固定することに加えて、その複雑性が何であれ、アポミクシスのさらなる重要な農業用途が存在する。有性種間雑種及び同質倍数体については、減数分裂の問題に起因する不稔に悩まされている場合が多い。アポミクシスは減数分裂をスキップするので、アポミクシスを使用すると、種間雑種と同質倍数体に関するそういった不稔の問題を解決できる。アポミクシスは雌性ハイブリダイゼーションを防止するので、雄性不稔と組み合わせたアポミクシスは、トランスジェニック作物の野生関連種における導入遺伝子の遺伝子移入を防止する、導入遺伝子の封じ込め向けに提案された(Daniell、2002)。虫媒受粉作物(例えば、アブラナ属(Brassica))では、アポミクティック種子結実は、不十分な受粉媒介者のサービスによって制限されないはずである。これは、受粉ハチの集団の増大する健康問題(ミツバチヘギイタダニ(Varroa mite)感染症、アフリカ系キラービー等)と照らして、より重要となってきている。ジャガイモのような塊茎増殖作物では、アポミクシスは、クローン的に優れた遺伝子型を維持するが、クリーンな生産、封じ込め及び認証におけるウイルス伝染及び関連するコストの現在のリスクを軽減又は排除をもすると思われる。また、アポミクティック種子の貯蔵コストは、塊茎又はその他の栄養繁殖した植物部分の貯蔵コストよりもはるかに低い。観賞用では、アポミクシスは労働集約的で費用のかかる組織培養増殖に取って代わる可能性がある。一般に、アポミクシスは栽培品種の開発と植物増殖のコストを強力に削減すると考えられる。
【0006】
残念なことに、アポミクシスは主たる作物のいずれでも存在しない。有性作物にアポミクシスを導入する試みは数多くある。例をあげると、アポミクシス遺伝子の遺伝子移入、有性モデル種の突然変異、ハイブリダイゼーションによるアポミクシスのデノボ生産、及び候補遺伝子のクローニング。遠縁交配による野生アポミクトから作物種へのアポミクシス遺伝子の遺伝子移入は、これまで成功していない(例えば、トリプサクム・ダクチロイデスからトウモロコシへのアポミクシス - Savidan,Y.、2001;Morganら、1998;国際公開第97/10704号)。突然変異有性モデル種に関して、国際公開第2007/066214号では、シロイヌナズナ属(Arabidopsis)においてDyadと呼ばれるアポマイオシス変異体の使用が記載されている。しかし、Dyadは浸透率が極めて低い劣性突然変異である。作物種では、この突然変異の用途は限定される。2つの有性エコタイプ間のハイブリダイゼーションによるデノボでのアポミクシスの生産は、農業上興味深いアポミクトをもたらさなかった(米国特許出願公開第2004/0168216A1号及び米国特許出願公開第2005/0155111A1号)。トウモロコシにおけるトランスポゾンタグ付けによる候補アポミクシス遺伝子のクローニングが、米国特許出願公開第2004/0148667号に記載されている。アポミクシスを誘導すると仮定される、伸長遺伝子のオルソログが特許請求された。しかし、Barrell及びGrossniklaus(2005)によると、伸長遺伝子は減数分裂IIをスキップし、したがって母親の遺伝子型を維持せず、このことによって、その伸長遺伝子は有用性がかなり低いものとなる。
【0007】
米国特許出願公開第2006/0179498号では、いわゆる逆育種がアポミクシスの代替となると思われることが記載された。しかし、逆育種は、技術的に複雑なin vitroの実験室手順であり、一方、アポミクシスは植物自体によって実行されるin vivo手順である。さらに、逆育種を使用する場合、いったん親系統が再構築されると(倍加配偶子ホモ接合体)、交配をなおも実行する必要がある。
【0008】
天然アポミクトにおけるアポミクシスは一般に遺伝的ベースを有する(Ozias-Akins及びVan Dijkによるレビュー、2007)。したがって、代替法は、天然アポミクティック種からのアポミクシス遺伝子の単離となり得る。しかし、これは容易なタスクではない、その理由は、天然アポミクトは倍数体ゲノムを有することが多く、倍数体でのポジショナルクローニングは極めて困難である。他の複雑な要因とは、アポミクシスに特異的な染色体領域における組換えの抑制、反復配列であり、交配における分離の歪みである。
【発明の概要】
【0009】
本明細書に記載のように、現在の技術水準の限界の少なくとも一部がない、作物においてアポミクシスを誘導するための手順に対するニーズがある。特に、アポミクティック植物及びアポミクティック種子を生産するための方法に対するニーズがある。また、アポミクシスのプロセス、特に単為生殖に関与する遺伝子及びタンパク質を提供するニーズもあり、これら遺伝子及びタンパク質は、作物にアポミクシスを導入する際に使用するのに適しているとともに、アポミクティック経路を実質的に模倣することができる。
【0010】
本発明者らは今回、単為生殖遺伝子座及び遺伝子、単為生殖表現型に関連する対立遺伝子(本明細書では単為生殖対立遺伝子又はPar対立遺伝子として指示される)及び非単為生殖表現型(本明細書では有性若しくは非単為生殖対立遺伝子又はpar対立遺伝子と指示される)、それらの遺伝子配列、すなわちプロモーター又は5’UTR配列、コード配列、3’UTR配列並びにコードされたタンパク質配列を同定且つ単離した。単為生殖は、おそらくランダム又は標的突然変異誘発によって、形質転換によって、又は体細胞ハイブリダイゼーションによって、有性植物に直接導入することができる。有性植物の単為生殖遺伝子座の有性対立遺伝子を遺伝的に改変することによって、例えば、突然変異誘発、遺伝子導入により、又は特定の部位での二本鎖切断の導入及び相同組換えを介した挿入により、Par対立遺伝子を導入されてもよく、植物及び/又はその子孫が卵細胞を胚へと発生させることが可能となってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】コード配列(Par対立遺伝子コード配列のヌクレオチド325~360)、並びに、野生型配列(配列番号23)を示す対照植物からの及び改変配列(配列番号24~27)を示すCas9/RNA-1複合体をコードするベクターを含むトランスジェニック植物からの、アンプリコンのコードされたアミノ酸、の多重整列の図である。ガイドRNA-1の遺伝子特異的部分をボックスで指示する。改変を太字で下線付きで指示する。野生型配列は、アラインメントの理由からスペーシング(-)を含む。
【
図2】発芽実験の図である。上の列;A68対照、発芽する正常な生存可能な黒い種子。中の列;遺伝子164に3bpの欠失を有する植物pKG10821-6の生存不能、ライトグレー、非発芽の種子。下の列;FCH72単数体花粉で受粉した植物pKG10821-6のすべての四倍体、発芽及び生存可能な子孫。各シャーレの種子は、単一のシードヘッドに由来する。
【
図3】シロイヌナズナのEC1.1プロモーターによって駆動されるセイヨウタンポポのPar対立遺伝子の遺伝子を宿すトランスジェニックレタス系統の除雄後75時間での胚を含む透徹化胚珠の例の図である。かかる胚が見いだされた場合は、表3に示すように、観察の合計に当該胚も含めた。
【
図4】シロイヌナズナのEC1.1プロモーターによって駆動されるセイヨウタンポポのPar対立遺伝子の遺伝子を宿すトランスジェニックレタス系統の除雄後75時間での透徹化胚珠における多胚形成の例の図である。各アスタリスクは胚をマークする。
【
図5】APO、PAR及びSEXの各植物におけるPar遺伝子発現の解析の図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
定義
本明細書で使用される場合、「遺伝子座(locus)」(複数形:遺伝子座(loci))という用語は、例えば、遺伝子又は遺伝子マーカーが見いだされる染色体上の特定の1つの場所(若しくは複数の場所)又は部位を意味する。例えば、「単為生殖遺伝子座」とは、単為生殖遺伝子が位置するゲノムの位置、単為生殖表現型に寄与する対立遺伝子、すなわち(単為生殖対立遺伝子若しくはPar対立遺伝子)及び/又はその有性カウンターパート(複数可)、すなわち、非単為生殖遺伝子(複数可)(非単為生殖対立遺伝子(複数可)若しくはpar対立遺伝子(複数可))、を指す。「単為生殖において機能的」である遺伝子、対立遺伝子、タンパク質又は核酸とは、本明細書では、単為生殖表現型に寄与するもの及び/又は卵細胞を胚へと発生させる植物若しくは植物細胞への能力を変換するもの、であると理解されたい。
【0013】
本明細書で使用される場合、「対立遺伝子(複数可)」という用語は、特定の遺伝子座での遺伝子の1つ又は複数の代替形態のいずれかを意味する。生物の二倍体細胞及び/又は倍数体細胞では、所与の遺伝子の対立遺伝子は、染色体上の特定の位置又は遺伝子座に位置し、この場合、1つの対立遺伝子が、相同染色体のセットの各染色体上に存在する。二倍体及び/若しくは倍数体、又は植物種は、特定の遺伝子座に非常に多数の様々な対立遺伝子を含むことができる。
【0014】
本明細書で使用される「優性対立遺伝子」という用語は、1つの対立遺伝子の表現型に及ぼす効果(すなわち優性対立遺伝子)が、同じ遺伝子座での第2の対立遺伝子(すなわち劣性対立遺伝子)の寄与をマスクする、一遺伝子の対立遺伝子間の関係を指す。常染色体(性染色体以外の任意の染色体)上の遺伝子の場合、対立遺伝子と対立遺伝子の関連形質は常染色体優性又は常染色体劣性である。優性とは、メンデルの遺伝及び古典的遺伝学における重要な概念である。例えば、優性対立遺伝子は機能性タンパク質をコードすることができ、一方、劣性対立遺伝子はコードしない。一実施形態では、本明細書で教示の遺伝子及びそれらの断片又はバリアントは、単為生殖遺伝子の優性対立遺伝子を指す。
【0015】
本明細書で使用される「雌性子房(ovary)」(複数形:「子房(ovaries)」)という用語は、胞子が形成される包囲体を指す。雌性子房は、単一の細胞から構成される場合もあり、又は多細胞である場合もある。すべての植物、真菌、及び他の多くの系列が、それらのライフサイクルのある時点で子房を形成する。子房は有糸分裂又は減数分裂によって胞子を生産することができる。一般的に、各子房内で、大胞子母細胞の減数分裂によって、4つの単数体大胞子が生産される。裸子植物及び被子植物では、これらの4つの大胞子のうちの1つだけが成熟時に機能的であり、他の3つは退化する。残っている大胞子は、有糸分裂的に分裂し、雌性配偶体(大配偶体)に生長し、これが最終的に1つの卵細胞を生産する。
【0016】
本明細書で使用される「雌性配偶子」という用語は、正常な(有性)状況下で、有性的に生殖する生物において受精(受胎)過程に別の(「雄性」)細胞と融合する細胞を指す。形態学的に明確に異なる2つタイプの配偶子を生産し、各個体が1つのタイプのみ生産する種では、雌とは、より大きなタイプの配偶子(胚珠(卵子)又は卵細胞と呼ばれる)を作り出す任意の個体である。植物では、雌性胚珠は花の子房によって生産される。成熟すると、単数体胚珠は雌性配偶子を生産し、これが次いで受精に備える。雄性細胞は(ほとんどが単数体)花粉であり、葯によって生産される。
【0017】
「遺伝子マーカー」又は「多型マーカー」という用語は、ゲノムDNA上のある領域を指し、これを使用して染色体上の特定の位置を「マーク」することができる。遺伝子マーカーが遺伝子に密接に連結されているか、又は遺伝子「上に(‘on’)」ある場合、遺伝子マーカーは当該遺伝子が見いだされるDNAを「マークし(‘marks’)」、したがって、(分子)マーカーアッセイにおいて遺伝子マーカーを使用して、例えばマーカー支援育種/選別(MAS)法において、当該遺伝子の存在を選別又は当該遺伝子の存在に対抗して選別することができる。遺伝子マーカーの例は、AFLP(増幅断片長多型、欧州特許第534858号)、マイクロサテライト、RFLP(制限断片長多型)、STS(配列タグ化部位)、SNP(単一ヌクレオチド多型)、SFP(単一特徴多型;Borevitzら、2003を参照されたい)、SCAR(配列が特徴づけられた増幅領域)、CAPSマーカー(切断された増幅された多型配列)等である。マーカーが遺伝子からさらに離れているほど、マーカーと遺伝子の間で組換え(交叉)が起こり、それによって連鎖(及びマーカーと遺伝子の共分離)が喪失する可能性が高くなる。遺伝子座間の距離は、組換え頻度の点で測定され、cM単位(センチモルガン;1cMとは、1%の2マーカー間の減数分裂組換え頻度である)で与えられる。ゲノムサイズは種間で大いに異なるため、1cMによって表される実際の物理的距離(すなわち、2つのマーカー間のキロベース、kb)も種間で大いに異なる。
【0018】
本明細書で「連結された」マーカーに言及する場合、これはまた、遺伝子それ自体「上の」マーカーも包含することが理解される。
【0019】
「MAS」とは、「マーカー支援選抜」を指し、これによって、(エリート)育種系統への、マーカーを含む(及び任意選択で隣接領域を欠く)DNA領域の移入を加速するために、植物が、1つ又は複数の遺伝子マーカー及び/又は表現型マーカーの存在及び/又は非存在についてスクリーニングされる。
【0020】
「分子マーカーアッセイ」(又は試験)とは、植物又は植物部分の対立遺伝子、例えば、Par対立遺伝子又はpar対立遺伝子の存在又は非存在を(直接的又は間接的に)指示する(DNAベースの)アッセイを指す。好ましくは、このアッセイによって、任意の個々の植物において単為生殖遺伝子座にて、特定の対立遺伝子がホモ接合型とヘテロ接合型のどちらであるかを判定すること、が可能となる。例えば、一実施形態では、PCRプライマーを使用して単為生殖遺伝子座に連結された核酸を増幅し、増幅産物を酵素的に消化し、増幅産物の電気泳動的解像度パターンに基づいて、どの対立遺伝子(複数可)が任意の個々の植物に存在し、単為生殖遺伝子座での対立遺伝子の接合性を決定することができる(すなわち、各遺伝子座での遺伝子型)。例としては、SCARマーカー(配列特徴づけ増幅領域)、CAPSマーカー(切断増幅多型配列)及び類似のマーカーアッセイがある。
【0021】
本明細書で使用される場合、「ヘテロ接合型」という用語は、異なる2つの対立遺伝子が、特定の遺伝子座に存在するが、細胞の相同染色体の対応するセット上に個別に配置されている場合に存在する、遺伝子状態を意味する。逆に、本明細書で使用される場合、「ホモ接合型」という用語は、同一の2つの(又は倍数体の場合には2超の)対立遺伝子が特定の遺伝子座に存在するが、細胞の相同染色体の対応するセット上に個別に配置されている場合に存在する、遺伝子状態を意味する。
【0022】
「品種」とは、UPOV条約に準拠して本明細書で使用され、最も低い既知のランクの単一植物分類群内の植物のグループ分けを指し、このグループ分けは、特徴の発現によって定義することができ、前記特徴のうちの少なくとも1つの発現によって他の任意の植物のグループ分けと区別を付けることができ、変化せずに(安定して)繁殖させるための適合性に関する単位であると考えられる。
【0023】
「タンパク質」又は「ポリペプチド」という用語は交換可能に使用され、特定の様式の作用、サイズ、3次元構造又は起源と関係なく、アミノ酸鎖から構成される分子を指す。したがって、タンパク質の「断片」又は「部分」は、なおも「タンパク質」と呼ぶことができる。「単離されたタンパク質」とは、もはやその天然の環境にはない、例えば、in vitro又は組換え細菌細胞若しくは植物宿主細胞にある、タンパク質を指すために使用される。
【0024】
「遺伝子」という用語は、適切な調節領域(例えば、プロモーター)に作動可能に連結された、細胞でRNA分子(例えば、mRNAにプロセシングされるプレmRNA)に転写される領域(転写領域)を含むDNA配列を意味する。したがって、遺伝子は、いくつかの作動可能に連結された配列、例えば、プロモーター、例えば翻訳開始に関与する配列を含む5’リーダー配列、(タンパク質)コード領域(cDNA又はゲノムDNA)、及び例えば転写終止部位を含む3’非翻訳配列を含むことができる。
【0025】
「キメラ遺伝子」(又は組換え遺伝子)とは、種においては天然では通常は見いだされない任意の遺伝子、特に、天然では互いに会合してないヌクレオチド配列の1つ又は複数の部分が存在する、遺伝子を指す。例えば、プロモーターは、転写された領域の一部若しくは全部と又は別の調節領域と、天然では会合していない。「キメラ遺伝子」という用語には、1つ又は複数のコード配列に又はアンチセンス配列(センス鎖の逆相補体)若しくは逆方向反復配列(センス及びアンチセンス、それによりRNA転写物が転写の際に二本鎖RNAを形成する)に、プロモーター又は転写調節配列が作動可能に連結している、発現構築物が含まれると理解される。
【0026】
「3’UTR」又は「3’非翻訳配列」(3’非翻訳領域又は3’末端とも呼ばれることが多い)とは、遺伝子のコード配列の下流に見いだされるヌクレオチド配列を指し、これは、例えば、転写終止部位、及び(真核生物mRNAのすべてではないがほとんどにおいて)ポリアデニル化シグナル(例えば、AAUAAA又はそのバリアントなど)を含む。転写の終止後、mRNA転写物は、ポリアデニル化シグナルの下流で切断されてもよく、mRNAの細胞質(翻訳が行われる)への輸送に関与するポリA尾部が付加されてもよい。
【0027】
「5’UTR」又は「リーダー配列」又は「5’非翻訳領域」とは、mRNA転写が始まる+1の位置とコード領域の翻訳開始コドン(通常、mRNA上のAUG又はDNA上のATG)の間の、mRNA転写物の領域、及び対応するDNAである。5’UTRは、翻訳、mRNA安定性及び/又は代謝回転、並びにその他の調節エレメントにとって重要な部位を、通常は含有する。
【0028】
「遺伝子の発現」とは、適当な調節領域、特にプロモーターに作動可能に連結されたDNA領域が、生物学的に活性である、すなわち生物学的に活性なタンパク質若しくはペプチド(若しくは活性ペプチド断片)に翻訳可能である、又はそれ自体が活性である(例えば、転写後の遺伝子サイレンシング若しくはRNAi)、RNAに転写されるプロセスを指す。ある特定の実施形態での活性タンパク質とは、構成的活性型であるタンパク質を指す。コード配列は、センス配向であり、所望の、生物学的に活性なタンパク質若しくはペプチド、又は活性なペプチド断片をコードすることが好ましい。遺伝子サイレンシングアプローチでは、DNA配列は、アンチセンスDNA又は逆方向反復DNAの形態で存在することが好ましく、標的遺伝子の短い配列をアンチセンスで又はセンス方向及びアンチセンス方向で含む。
【0029】
「転写調節配列」とは、本明細書では、転写調節配列に作動可能に連結された(コード)配列の転写速度を調節することが可能であるヌクレオチド配列と定義される。したがって、本明細書で定義の転写調節配列は、転写開始に(プロモーターエレメント)、転写を維持するのに及び調節するのに、例えばアテニュエーター又はエンハンサーを含めて、必要な配列エレメントのすべてを含むことになる。大部分は、コード配列の上流(5’)転写調節配列を指すが、コード配列の下流(3’)に見いだされる調節配列もまたこの定義に包含される。
【0030】
本明細書で使用される場合、「プロモーター」という用語は、遺伝子の転写開始部位の転写の方向に対して上流に位置して、1つ又は複数の遺伝子の転写を制御するように機能する、並びに、それらに限定されないが、転写因子結合部位、リプレッサー及びアクチベーターのタンパク質結合部位、及び直接的又は間接的に作用してプロモーターからの転写量を調節する、当業者に知られるヌクレオチドの他の任意の配列を含めて、DNA依存性RNAポリメラーゼのための結合部位、転写開始部位及び他の任意のDNA配列、の存在によって構造的に同定される核酸断片を指す。任意選択で、本明細書では「プロモーター」という用語にはまた、5’UTR領域が含まれるが(例えば、プロモーターは、本明細書では、遺伝子の翻訳開始コドンの上流(5’)に1つ又は複数の部分を含むことができるが)、その理由は、この5’UTR領域が転写及び/又は翻訳を調節する上である役割を有することができるからである。「構成的」プロモーターとは、ほとんどの生理学的及び発生条件下でほとんどの組織で活性であるプロモーターである。「誘導性」プロモーターとは、生理学的(例えば、ある特定の化合物の外部適用によって)又は発生的に調節されるプロモーターである。「組織特異的」プロモーターは、特定のタイプの組織又は細胞においてのみ活性である。「植物又は植物細胞において活性なプロモーター」とは、植物又は植物細胞内で転写を駆動するためのプロモーターの一般的な能力を指す。このことは、プロモーターの時空間的活性については何ら意味合いをなさない。
【0031】
本明細書で使用される場合、「作動可能に連結された」という用語は、機能的関係にあるポリヌクレオチドエレメントの連鎖を指す。核酸は、別のヌクレオチド配列との機能的関係に置かれる場合、「作動可能に連結されている」。例をあげると、プロモーターは、又はむしろ転写調節配列は、コード配列の転写に影響を及ぼす場合、コード配列に作動可能に連結されている。作動可能に連結されたとは、連結されるDNA配列が通常は隣接しており、必要に応じて、隣接しリーディングフレームにある2つのタンパク質コード領域を接続して、「キメラタンパク質」を生産することを意味する。「キメラタンパク質」又は「ハイブリッドタンパク質」とは、天然においてそのような形では見いだされないが、機能的タンパク質を形成するように接続された種々のタンパク質「ドメイン」(又はモチーフ)から構成されるタンパク質であり、これは、接続されたドメインの機能性を発揮する。キメラタンパク質は、天然に存在する2つ以上のタンパク質の融合タンパク質とすることもできる。本明細書で使用される「ドメイン」という用語は、少なくともドメインの機能的特徴を有する新規なハイブリッドタンパク質を提供するために、別のタンパク質に移すことができる、特定の構造又は機能を有するタンパク質の任意の部分(複数可)又はドメイン(複数可)を意味する。
【0032】
「標的ペプチド」という用語は、色素体、好ましくは、葉緑体、ミトコンドリアなどの標的である細胞内小器官に、又は細胞外空間若しくはアポプラスト(分泌シグナルペプチド)に、タンパク質又はタンパク質断片を送り込む、アミノ酸配列を指す。標的ペプチドをコードするヌクレオチド配列は、タンパク質若しくはタンパク質断片のアミノ末端(N末端)をコードするヌクレオチド配列に融合(インフレームで)していてもよく、又は天然標的ペプチドを置き換えるために使用されてもよい。
【0033】
「核酸構築物」又は「ベクター」とは、本明細書では、組換えDNA技術の使用から得られ、宿主細胞への外来性DNAの送達に使用される、人造の核酸分子を意味すると理解される。ベクター骨格は、例えば、当該技術分野において知られているように且つ本明細書の他の箇所に記載のように、バイナリー若しくはスーパーバイナリーベクター(例えば、米国特許第5,591,616号、米国特許出願公開第2002/138879号、及び国際公開第95/06722号を参照されたい)、同時統合ベクター又はT-DNAベクターとすることができ、こういったベクターへと遺伝子又はキメラ遺伝子が統合され、或いは、適切な転写調節配列がすでに存在する場合、所望のヌクレオチド配列(例えば、コード配列、アンチセンス配列又は逆方向反復配列)のみが、転写調節配列の下流に統合される。ベクターは通常は、例えば、選択マーカー、マルチクローニングサイト等などの、分子クローニングにおけるベクターの使用を容易にする遺伝的エレメントをさらに含む。
【0034】
「組換え宿主細胞」又は「形質転換細胞」又は「トランスジェニック細胞」とは、特に、前記細胞に導入されている、所望のタンパク質をコードする遺伝子若しくはキメラ遺伝子、又は転写されると標的遺伝子/遺伝子ファミリーをサイレンシングするためのアンチセンスRNA若しくは逆方向反復RNA(若しくはヘアピンRNA)をもたらすヌクレオチド配列を含む少なくとも1つの核酸分子の結果として生じる、新たな個々の細胞(又は生物)を指す用語である。「単離された核酸」とは、もはやその天然の環境にはない、例えば、in vitro又は組換え細菌細胞若しくは植物宿主細胞にある、核酸を指すために使用される。
【0035】
「宿主細胞」とは、導入遺伝子で形質転換されて組換え宿主細胞となる、当初の細胞である。宿主細胞は、植物細胞又は細菌細胞であることが好ましい。組換え宿主細胞は、染色体外で(エピソームで)複製する分子として核酸構築物を含有することができるか、又は、より好ましくは、宿主細胞の核若しくは色素体ゲノムに統合された遺伝子若しくはキメラ遺伝子を含む。
【0036】
「組換え植物」又は「組換え植物部分」又は「トランスジェニック植物」とは、遺伝子が発現しない場合があるとしても又はすべての細胞で発現しない場合があるとしても、組換え遺伝子又はキメラ遺伝子を含む植物又は植物部分(例えば、種子又は果実又は葉)である。
【0037】
「エリートイベント」とは、植物の良好な表現型及び/又は農学的特徴をもたらす、ゲノム中の位置に組換え遺伝子を含むように選抜された組換え植物である。統合部位の隣接DNAを配列決定して、統合部位を特徴づけること及びゲノム中の他の位置で同じ組換え遺伝子を含む他のトランスジェニック植物から上記イベントを区別することができる。
【0038】
「選択マーカー」という用語は、当業者によく知られている用語であり、本明細書では、発現した場合、当該選択マーカーを含有する1つの細胞又は複数の細胞を選別するのに使用することができる任意の遺伝的実体を記載するために、使用される。選択マーカー遺伝子産物は、例えば、抗生物質抵抗性、又はより好ましくは、除草剤抵抗性若しくは別の選択可能な形質、例えば表現型形質(例えば色素沈着の変化)若しくは栄養要求性を、付与する。「レポーター」という用語は緑色蛍光タンパク質(GFP)、eGFP、ルシフェラーゼ、GUS等などの可視マーカーを指すために、主として使用される。
【0039】
遺伝子又はタンパク質の「オルソログ」という用語は、本明細書では、当該遺伝子又はタンパク質と同じ機能を有するが、当該遺伝子を宿す種が分岐した時点から配列において(通常は)分岐した、別の種において見いだされる相同な遺伝子又はタンパク質を指す(すなわち、種分化によって共通の祖先から進化した遺伝子)。したがって、タンポポ属の単為生殖遺伝子のオルソログは、配列比較(例えば、配列全体にわたる又は特定のドメインにわたる配列同一性のパーセンテージに基づく)と機能解析の両方に基づいて、他の植物種において同定することができる。
【0040】
「相同」及び「異種」という用語は、特にトランスジェニック生物の文脈において、核酸配列又はアミノ酸配列とその宿主細胞又は宿主生物との間の関係を指す。したがって、相同配列は宿主種に天然に見いだされ(例えば、レタス遺伝子で形質転換されたレタス植物)、一方、異種配列は、宿主細胞には天然に見いだされない(例えば、ジャガイモ植物由来の配列で形質転換されたレタス植物)。文脈に応じて、「ホモログ」又は「相同」という用語は、共通の祖先の配列の子孫である配列を代替的に指す場合がある(例えば、それらはオルソログであってもよい)。
【0041】
「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」を使用して、所与のヌクレオチド配列と実質的に同一であるヌクレオチド配列を同定することができる。ストリンジェントな条件は、配列依存性であり、様々な状況において異なることになる。一般に、ストリンジェントな条件は、定義されたイオン強度及びpHにて、特定の配列の熱融点(Tm)よりも約5℃低くなるよう選択される。Tmとは、標的配列の50%が、完全にマッチしたプローブにハイブリダイズする温度(定義されたイオン強度及びpH下で)である。通常は、塩濃度はpH7にて約0.02モル濃度であり、温度は少なくとも60℃である、ストリンジェントな条件が選ばれることになる。塩濃度の低下及び/又は温度の上昇によって、ストリンジェンシーが高まる。RNA-DNAハイブリダイゼーション(例えば100ntのプローブを使用したノーザンブロット)にとってストリンジェントな条件とは、例えば、63℃での0.2×SSCにおける20分間の少なくとも1回の洗浄を含む条件、又は同等条件である。DNA-DNAハイブリダイゼーション(例えば100ntのプローブを使用したサザンブロット)にとってストリンジェントな条件とは、例えば、少なくとも50℃の、通常は約55℃の温度での、0.2×SSCにおける20分間の少なくとも1回の洗浄(通常2回)を含む条件又は同等条件である。Sambrookら(1989)並びにSambrook及びRussell(2001)も参照されたい。
【0042】
「高ストリンジェンシー」条件については、例えば、6×SSC(3.0M NaCl、0.3Mクエン酸ナトリウムを含有する20×SSC、pH7.0)、5×デンハルト(2%フィコール、2%ポリビニルピロリドン、2%ウシ血清アルブミンを含有する100×デンハルト)、0.5%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)及び非特異的コンペティタとして20μg/ml変性キャリアDNA(一本鎖のサカナ精子DNA、平均長120~3000ヌクレオチドを有する)を含有する水溶液中65℃でのハイブリダイゼーションによって、提供することができる。ハイブリダイゼーションに続いて、0.2~0.1×SSC、0.1%SDS中で上記ハイブリダイゼーション温度での最終洗浄(約30分間)という条件で、高ストリンジェンシー洗浄をいくつかの段階で行ってもよい。
【0043】
「中ストリンジェンシー」とは、上に記載の溶液中のハイブリダイゼーションと同等であるが約60~62℃にての条件を指す。その場合、最終洗浄を、1×SSC、0.1%SDS中で上記ハイブリダイゼーション温度にて行う。
【0044】
「低ストリンジェンシー」とは、約50~52℃にての上に記載の溶液中のハイブリダイゼーションと同等の条件を指す。その場合、最終洗浄を、2×SSC、0.1%SDS中で上記ハイブリダイゼーション温度にて行う。Sambrookら(1989)並びにSambrook及びRussell(2001)も参照されたい。
【0045】
「配列同一性」及び「配列類似性」は、2つの配列の長さに応じて、グローバル又はローカルのアラインメントアルゴリズムを使用して2つのペプチド配列又は2つのヌクレオチド配列のアラインメントによって決定することができる。同様の長さの配列は、配列を全長にわたり最適に整列するグローバルアラインメントアルゴリズム(例えば、Needleman Wunsch)を使用して整列するのが好ましいが、一方、実質的に異なる長さの配列は、ローカルアライメントアルゴリズム(例えば、Smith Waterman)を使用して整列するのが好ましい。次いで、配列は、(例えば、デフォルトパラメータを使用してプログラムGAP又はBESTFITにより最適に整列される場合に)、(本明細書で定義した)配列同一性の少なくともある特定の最少パーセンテージを共有する場合、「実質的に同一の」又は「本質的に類似の」と呼ぶことができる。GAPは、Needleman及びWunschのグローバルアライメントアルゴリズムを使用して、2つの配列をそれらの全長(完全長)にわたり整列し、一致の数を最大化し、ギャップの数を最小化する。グローバルアライメントは、2つの配列が類似の長さを有する場合に配列同一性を決定するのに適切に使用される。一般に、ギャップ作成ペナルティ=50(ヌクレオチド)/8(タンパク質)及びギャップ伸長ペナルティ=3(ヌクレオチド)/2(タンパク質)の条件で、GAPデフォルトパラメータが使用される。ヌクレオチドの場合、使用されるデフォルトスコアリングマトリックスはnwsgapdnaであり、タンパク質の場合、デフォルトスコアリングマトリックスはBlosum62である(Henikoff & Henikoff、1992、PNAS 89、915~919)。配列アラインメント及び配列同一性パーセンテージのスコアは、コンピュータープログラム、例えば、Accelrys Inc.、9685 Scranton Road、San Diego、CA 92121-3752米国から入手可能なGCG Wisconsin Packag、バージョン10.3を使用して、又はオープンソースソフトウェア、例えば、上のGAPと同じパラメータを使用するか、若しくはデフォルト設定を使用するEmbossWINバージョン2.10.0のプログラム「needle」(グローバルNeedleman Wunschアルゴリズムを使用する)若しくは「water」(ローカルSmith Watermanアルゴリズムを使用する)を使用して、決定してもよい(「needle」及び「water」の両方について並びにタンパク質及びDNAアライメントの両方について、デフォルトギャップオープンペナルティは10.0であり、デフォルトギャップ伸長ペナルティは0.5である;デフォルトスコアリングマトリックスは、タンパク質についてはBlosum62であり、DNAについてはDNAFullである)。配列が実質的に異なる全長を有する場合は、ローカルアラインメント、例えばSmith Watermanアルゴリズムを使用するものが好ましい。
【0046】
或いは、類似性又は同一性のパーセンテージは、FASTA、BLAST等などのアルゴリズムを使用して、公共データベースに対して検索することにより決定してもよい。したがって、本発明の核酸配列及びタンパク質配列は、「クエリ配列」としてさらに使用して、公共データベースに対して検索を実施し、例えば、他のファミリーメンバー又は関連配列を同定することができる。このような検索は、Altschul、ら(1990)J.Mol.Biol.215:403~10のBLASTn及びBLASTxプログラム(バージョン2.0)を使用して実施することができる。BLASTヌクレオチド検索は、NBLASTプログラム、スコア=100、ワード長=12を用いて実施して、本発明のオキシドレダクターゼ核酸分子に相同なヌクレオチド配列を入手することができる。BLASTタンパク質検索は、BLASTxプログラム、スコア=50、ワード長=3を用いて実施して、本発明のタンパク質分子に相同なアミノ酸配列を入手することができる。比較の目的でギャップを加えたアライメントを入手するには、Altschulら、(1997)Nucleic Acids Res.25(17):3389~3402に記載のように、Gapped BLASTを利用することができる。BLAST及びGapped BLASTのプログラムを利用する場合、それぞれのプログラムのデフォルトパラメータ(例えば、BLASTx及びBLASTn)を使用することができる。http://www.ncbi.nlm.nih.gov/で、National Center for Biotechnology Informationのホームページを参照されたい。
【0047】
本明細書で使用される「有性植物生殖」という用語は、「大胞子母細胞」と呼ばれる(例えば二倍体)体細胞が減数分裂を経て4つの減数大胞子を生産する発生経路を指す。これらの大胞子のうちの1つは有糸分裂で分裂して、減数卵細胞(すなわち、母親と比較して染色体数が減少した細胞)及び2つの減数極核を含有する大配偶体(胚嚢としても知られている)を形成する。花粉粒の1つの精細胞による卵細胞の受精は、(例えば二倍体)胚を生じ、一方、第2の精細胞による2つの極核の受精は、(例えば三倍体)胚乳を生じる(重複受精と呼ばれるプロセス)。
【0048】
本明細書で使用される「大胞子母細胞(megaspore mother cell)」又は「メガ胞子母細胞(megasporocyte)」という用語は、雌性配偶体へと発生する4つの単数体大胞子を創り出すために、減数、通常は減数分裂によって大胞子を生産する細胞を指す。被子植物(顕花植物としても知られる)では、大胞子母細胞は、大胞子形成(珠心における大胞子、又は大胞子嚢の形成)、及び大配偶子形成(大配偶体への大胞子の発生)を含む異なる2つのプロセスを通して大配偶体へと発生する、大胞子を生産する。
【0049】
本明細書で使用される「無性植物生殖」という用語は、受精なしで且つ配偶子の融合なしで植物の生殖が行われるプロセスである。無性生殖によって、突然変異又は体細胞組換えが生じる場合を除いて、親植物と及び互いに遺伝的に同一である新しい個体が生産する。植物は、栄養生殖(すなわち、当初の植物の栄養片の出芽、分げつ等を含む)及びアポミクシスを含めて、主要な2つのタイプの無性生殖を有する。
【0050】
本明細書で使用される「アポミクシス」という用語は、無性プロセスによる種子の形成を指す。アポミクシスの一形態は以下によって特徴づけられる:1)アポマイオシス、これは子房での非減数胚嚢の形成を指す、及び2)単為生殖、これは非減数卵の胚への発生を指す。数百の野生植物種は、アポミクティック繁殖を特徴とし、無性的に殖える。アポマイオシスとは、母植物の体細胞組織と同じ染色体数と同一又は高度に類似の遺伝子型とを備える、非減数卵細胞の生産をもたらすプロセスである。非減数卵細胞は、非減数大胞子(複相胞子生殖)に又は体細胞の始原細胞(無胞子生殖)に、由来することができる。複相胞子生殖の場合、大胞子形成は有糸分裂に又は改変された減数分裂に代わる。改変された減数分裂とは、組換えなしの第一分裂復旧型のものであるのが好ましい。或いは、改変された減数分裂とは、第二分裂復旧型のものであってもよい。好ましい実施形態では、アポマイオシスとは、第一減数分裂に影響を与える複相胞子生殖型タイプのものである。アポミクシスは、配偶体のアポミクシスと胞子体のアポミクシス(不定胚形成とも呼ばれる)として知られる少なくとも2つの形態を含む様々な形態で生じることが知られている。配偶体のアポミクシスが生じる植物の例としては、タンポポ(タンポポ属の種)、ヤナギタンポポ(ヤナギタンポポ属の種)、ケンタッキーブルーグラス(ナガハグサ)、イースタンガマグラス(トリプサクム・ダクチロイデス)及びその他などが挙げられる。胞子体のアポミクシスが生じる植物の例としては、シトラス(シトラス属の種)、マンゴスチン(ガルシニア・マンゴスタナ)及びその他などが挙げられる。
【0051】
本明細書で使用される「複相胞子生殖」という用語は、非減数胚嚢が、有糸分裂によって又は中断された減数分裂イベントによって、直接的にいずれかで大胞子母細胞に由来する、状況を指す。複相胞子生殖に関して主たる3つのタイプが報告されており、これらのタイプが生じる植物の名を取って命名されており、その植物はタンポポ属、ニガナ属(Ixeris)及びアンテンナリア属(Antennaria)である。タンポポ属タイプでは、減数分裂前期が開始されるが、その後プロセスが中断され、2つの非減数二分染色体がもたらされ、そのうちの1つが有糸分裂によって胚嚢を生じる。ニガナ属タイプでは、8つの核体の胚嚢を生じる核のさらなる2回の有糸分裂は、減数分裂前期の後の均等分裂に従う。タンポポ属タイプ及びニガナ属タイプは、減数分裂の改変を伴うので、減数分裂複相胞子生殖として知られる。対照的に、有糸分裂複相胞子生殖と呼ばれるアンテンナリア属タイプでは、大胞子母細胞は減数分裂を開始せず、直接3回分裂して非減数胚嚢を生産する。複相胞子生殖による配偶体のアポミクシスでは、非減数配偶体が非減数大胞子から生産される。この非減数大胞子は、有糸分裂様の分裂(有糸分裂の変形(displory))又は改変された減数分裂(減数分裂の変形)のいずれかの結果生じる。無胞子生殖による配偶体のアポミクシスと複相胞子生殖による配偶体のアポミクシスの両方では、非減数卵細胞は、胚へと単為生殖的に発生する。タンポポ属のアポミクシスは、複相胞子生殖型のものであり、これは、第一雌性減数分裂(reduction division)(減数分裂(meiosis)I)はスキップされ、その結果、母植物と同じ遺伝子型を有する2つの非減数大胞子が生じることを意味する。これらの大胞子のうちの一方は退化し、他方の生存している非減数大胞子は、非減数大配偶体(又は胚嚢)を生じ、これは非減数卵細胞を含有する。この非減数卵細胞は、母植物と同じ遺伝子型を有する胚へと受精することなく発生する。配偶体のアポミクシスのプロセスの結果生じる種子は、アポミクティック種子と呼ばれる。
【0052】
「複相胞子生殖機能」という用語は、好ましくは雌性子房の中での、好ましくは大胞子母細胞の中での及び/又は雌性配偶子の中での、植物の複相胞子生殖を誘導する能力を指す。したがって、複相胞子生殖機能が導入されている植物は、複相胞子生殖プロセスを行うことが可能である、すなわち、減数分裂I復旧型を介して非減数配偶子を生産することができる。
【0053】
「配偶体のアポミクシスの一部としての複相胞子生殖」という用語は、アポミクシスのプロセスの複相胞子生殖成分を指す、すなわち、複相胞子生殖が無性プロセスによる種子の形成において果たす役割を指す。特に、複相胞子生殖機能の次に、単為生殖機能は、同様にアポミクシスのプロセスを確立する上で必要である。したがって、複相胞子生殖機能と単為生殖機能の組合せは、アポミクシスをもたらすことができる。
【0054】
本明細書で使用される「複相胞子生殖型植物」という用語は、複相胞子生殖により配偶体のアポミクシスを経る植物、又は複相胞子生殖により配偶体のアポミクシスを経るように(例えば、遺伝子改変によって)誘導された植物を指す。両方の場合において、複相胞子生殖型植物は、単為生殖因子と組み合わせた場合、アポミクティック種子を生産する。
【0055】
本明細書で使用される「アポミクティック種子」という用語は、アポミクティック植物種から、又は、アポミクシス、特に複相胞子生殖による配偶体のアポミクシスを経るように誘導された植物若しくは作物により得られる、種子を指す。アポミクティック種子は、クローンであり、親植物と遺伝的に同一であり、純粋な育種が可能である植物を発芽することを特徴とする。本発明では、「アポミクティック種子」とは、「クローンのアポミクティック種子」も指す。
【0056】
本明細書で使用される「アポミクティック植物(複数可)」という用語は、受精なしで、それ自体、無性生殖する植物を指す。アポミクティック植物とは、アポミクティックとなるように改変された有性植物であってよく、例をあげると、アポミクティック植物又はアポミクティック植物の子孫である植物を得るように本明細書で教示の単為生殖遺伝子のうちの1つ又は複数で遺伝子改変された、有性植物である。その場合、アポミクティック的に作出された後代は、親植物と遺伝的に同一である。
【0057】
細胞、植物、植物部分又は種子の「クローン」は、それらが、それらの同胞種と並びにそれらが由来する親植物と、遺伝的に同一であることを特徴とする。個々のクローンのゲノムDNA配列はほとんど同一であるが、しかし、突然変異が軽微な差異を引き起こす場合がある。
【0058】
本明細書で使用される「純粋な繁殖」又は「純粋な繁殖生物」(純血生物としても知られる)という用語は、その子孫に未変化又はほとんど未変化のある特定の表現型形質を常に伝える生物を指す。ある生物は、当該生物があてはまる各形質について純粋な育種と称され、「純粋な育種」という用語はまた、個々の遺伝形質を記載するためにも使用される。
【0059】
本明細書で使用される「F1雑種」(又は雑種第一代)という用語は、明確に異なる親タイプの子孫の最初の雑種世代を指す。親タイプは、近交系であってもよいが、そうでなくてもよい。F1雑種は、遺伝学において及び選抜育種において使用され、この場合、それはF1交配種として現れ得る。親タイプが明らかに異なる子孫は、両親からの特徴の組合せを伴う新しい均一な表現型を生み出す。F1雑種は雑種強勢などの明確な利点を伴い、したがって、農業の実践で高度に所望されている。本発明の実施形態では、本明細書で教示の方法、遺伝子、タンパク質、それらのバリアント又は断片を使用して、その遺伝的複雑性にかかわらず、F1雑種の遺伝子型を固定することができ、それらによって、一段階で純粋育種を行うことができる生物の作出が可能になる。
【0060】
本明細書で使用される「受粉」又は「受粉すること」という用語は、花粉が植物の葯(雄の部分)から柱頭(雌の部分)に移され、それによって受精及び生殖が可能になるプロセスを指す。受粉は、被子植物、花をつける植物に固有である。花粉粒それぞれが、雄性単数体配偶体であり、雌性配偶体に輸送されるように構成されており、ここで、雄性単数体配偶体は、重複受精のプロセスにおいて、雄性配偶子(又は複数の配偶子)を生産することによって受精を行うことができる。雄性配偶子を含有する成功した被子植物の花粉粒(配偶体)は、柱頭に運搬され、ここで、発芽し、その花粉管は、子房に花柱を下方へと生長させる。その2つの配偶子は、雌性配偶子を含有する配偶体(複数可)が心皮内で保持されているところまで管を下方へ進む。一方の核は極体と融合して胚乳組織を生産し、他方の核は胚珠と融合して胚を生産する。
【0061】
本明細書で使用される「単為生殖」という用語は、受精なしで胚の生長及び発生が生じる無性生殖の形態を指す。本発明の遺伝子及びタンパク質は、複相胞子生殖型因子、例をあげると、遺伝子又は化学因子との組合せで、アポミクティック子孫を作出することができる。
【0062】
本明細書で使用される「ピラミッド化遺伝子又はスタッキング遺伝子」という用語は、望ましい又は好ましい形質(例えば、耐病害性形質、色、干ばつ耐性、有害生物耐性等)の根底にある、異なる親系統からの関連又は非関連遺伝子を、1つの植物へと組み合わせるプロセスを指す。ピラミッド化遺伝子又はスタッキング遺伝子は、従来の育種法を使用して実行することができるか、又は、分子マーカーを使用することによって加速して、所望の対立遺伝子の組合せを含有する植物を同定及び維持し且つ所望の対立遺伝子の組合せを備えない植物を破棄することができる。本発明の一実施形態では、本明細書で教示の単為生殖遺伝子を、遺伝子のピラミッド化プログラム又はスタッキングプログラムにおいて有利に使用して、アポミクティック植物を作出すること又は有性作物にアポミクシスを導入することができる。
【0063】
本文書及びその特許請求の範囲において、動詞「を含む(to comprise)」及びその語形変化は、この単語に続く項目が包含されるが、特に言及されていない項目が除外されないことを意味するよう、その非限定な意義で使用される。加えて、文脈が、1つであること及び要素のうちの1つのみであることを明らかに要求しない限り、不定冠詞「a」又は「an」による要素の言及は、2つ以上の要素が存在する可能性を除外しない。したがって、不定冠詞「a」又は「an」は通常、「少なくとも1つ」を意味する。本明細書において「配列」に言及する場合、一般に、サブユニット(例えば、アミノ酸)のある特定の配列を有する実際の物理的な分子を指すことがさらに理解される。
【0064】
本明細書で使用される場合、「植物」という用語には、植物細胞、植物組織若しくは器官、植物プロトプラスト、植物を再生することができる植物細胞組織培養物、植物カルス、植物細胞塊、及び植物おいてインタクトな植物細胞、又は植物の部分、例えば、胚、花粉、胚珠、果実、花、葉(例えば、収穫されたレタス作物)、種子、根、根端等が含まれる。
【発明の詳細な説明】
【0065】
本発明のヌクレオチド配列
本発明者らは、単為生殖を担う遺伝子、コード配列、プロモーター、3’UTR及びタンパク質を初めて同定した。前記の遺伝子配列、プロモーター配列、コード配列及び3’UTR配列は、Par対立遺伝子上に位置している。本発明者らはまた、Par対立遺伝子の有性カウンターパート上に、すなわちpar対立遺伝子上に位置する遺伝子配列、プロモーター配列、コード配列、及び3’UTR配列を同定した。単為生殖を引き起こす優性対立遺伝子の有性カウンターパートとして、par対立遺伝子の存在は単為生殖表現型に寄与ものではないが、これらpar対立遺伝子は、単為生殖に関連するものとして本明細書でも指示されており、その理由は、par対立遺伝子の存在が有性表現型、すなわち非単為生殖表現型を示すものであり得るためである。Par対立遺伝子は優性対立遺伝子であってもよいので、有性表現型の確認には、par対立遺伝子としてのPar遺伝子座のすべての対立遺伝子の評価が必要な場合がある、及び/又はPar対立遺伝子の非存在の評価が必要な場合がある。換言すれば、「関連する(associated with)」とは、本明細書では、単為生殖又は非単為生殖の表現型を指示すると、及び、任意選択で単為生殖において機能的であることを指示すると、理解されたい。例をあげると、コードされたタンパク質の発現の変化をもたらすプロモーター配列などの当該par対立遺伝子の1つ又は複数の発現調節配列を改変することによるが、par対立遺伝子を改変することで、単為生殖表現型を誘導することが可能なPar対立遺伝子に当該par対立遺伝子を付与することができる。
【0066】
Par対立遺伝子とpar対立遺伝子の両方が、「PARタンパク質」と本明細書で称されるタンパク質をコードするコード配列を有する遺伝子を含み、このタンパク質は、ジンクフィンガーC2H2型ドメイン(IPR13087)、好ましくはコンセンサス配列C.{2}C.{7}[K/R]A.{2}GH.[R/N].Hを有するジンクフィンガーK2-2様ドメインを含むが、このタンパク質は:CXXCXXXXXXX[K/R]AXXGHX[R/N]XH(配列番号37)と注記を付けることもできる(式中、Xは、天然に存在する任意のアミノ酸であってよく、[K/R]は、12位のアミノ酸がリジン又はアルギニンであることを指示し、[R/N]は、19位のアミノ酸がアルギニン又はアスパラギンであることを指示する)(Englbrechtら、2004を参照されたい)。ジンクフィンガーC2H2型ドメイン、好ましくは本明細書で定義のジンクフィンガーK2-2様ドメインに加えて、タンパク質は、コンセンサスアミノ酸配列DLNXXP(配列番号58)又はDLNXP(配列番号59)を有するEARモチーフを含む(式中、Xは天然に存在する任意のアミノ酸とすることができる)(Kagaleら、2010を参照されたい)。好ましくは、タンパク質は最大で400個のアミノ酸であり、ここで、前記タンパク質は、本明細書で指示される1つ又は2つのEARモチーフ及び本明細書で定義のジンクフィンガーK2-2様ドメインを含む。好ましくは、タンパク質は最大で400個のアミノ酸であり、ここで、前記タンパク質は、本明細書で指示される1つ又は2つのEARモチーフのみ、及び本明細書で定義の1つのみのジンクフィンガーK2-2様ドメインを含む、すなわち、本明細書で定義のさらなるEARモチーフ及び本明細書で定義のさらなるジンクフィンガーK2-2様ドメインを含まない。最大サイズ400個のアミノ酸、本明細書で指示される1つ又は2つのみのEARモチーフ、及び定義された単一のジンクフィンガーK2-2様ドメインの特徴に加えて、PARタンパク質は、ジンクフィンガーコンセンサス配列C.{2}C.{12}H.{3}Hを有するさらなる1つのみのジンクフィンガードメインを含むことができ、これは:CXXCXXXXXXXXXXXXHXXXH(配列番号38)と注記を付けることもできるが、より好ましくは、ジンクフィンガーコンセンサス配列C.{2}C.{12}H.{3}H(配列番号38)を有するさらなるジンクフィンガードメインを含まない。
【0067】
したがって、本発明は、植物における単為生殖に関連する核酸を提供し、ここで、前記核酸は、本明細書で定義のPARタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む。本発明はまた、前記PARタンパク質をコードするヌクレオチド配列に作動可能に連結されたプロモーター配列及び3’UTRも提供する。セイヨウタンポポ(Taraxacum officinale)は、単為生殖を誘導可能な1つの優性Par対立遺伝子と、配列番号1、6、又は11のそれぞれアミノ酸配列を有するPARタンパク質をコードする2つの有性カウンターパート、すなわち、par対立遺伝子-1及びpar対立遺伝子-2とを含む。Par対立遺伝子は、配列番号5のヌクレオチド配列を有する遺伝子を含み、par対立遺伝子-1は、配列番号10のヌクレオチド配列を有するpar遺伝子を含み、par対立遺伝子-2は、配列番号15のヌクレオチド配列を有するpar遺伝子を含む。Par遺伝子は、配列番号2を有するプロモーター配列、配列番号3を有するコード配列、及び配列番号4を有する3’UTRを含む。par遺伝子-1は、配列番号7を有するプロモーター配列、配列番号8を有するコード配列、及び配列番号9を有する3’UTRを含む。par遺伝子-2は、配列番号12を有するプロモーター配列、配列番号13を有するコード配列、及び配列番号14を有する3’UTRを含む。したがって、本発明は、
a)配列番号1、6又は11のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子;
b)配列番号2、7又は12のヌクレオチド配列を有するプロモーター;
c)配列番号3、8又は13のヌクレオチド配列を有するコード配列;
d)配列番号4、9又は14のヌクレオチド配列を有する3’UTR;
e)配列番号5、10又は15のヌクレオチド配列を有する遺伝子;
f)a)~e)うちのいずれか1つのバリアント;及び
g)a)~f)うちのいずれか1つの断片
のうちの少なくとも1つを含む、植物における単為生殖に関連する核酸を提供する。
【0068】
表1に、本明細書で使用されるすべての配列番号の概要を提供する。
【0069】
好ましくは、前記核酸は単為生殖において機能的である。
一実施形態では、本発明の核酸は:
a)配列番号1のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子;
b)配列番号2のヌクレオチド配列を有するプロモーター;
c)配列番号3のヌクレオチド配列を有するコード配列;
d)配列番号4のヌクレオチド配列を有する3’UTR;
e)配列番号5のヌクレオチド配列を有する遺伝子;
f)a)~e)のうちのいずれか1つのバリアント;及び
g)a)~f)のうちのいずれか1つの断片
のうちの少なくとも1つを含むか又はそれらからなる。
【0070】
好ましくは、本実施形態の核酸及び/又はそれに由来する生産物、例えばそのRNA転写物又はコードされたタンパク質は、単為生殖を指示し、例えば、前記核酸を含む植物は、前記植物が単為生殖を示すことを指示し、このことは、前記植物は、減数卵細胞又は非減数卵細胞から胚を発生する能力を有することを意味する。好ましくは、前記核酸及び/又はそれに由来する生産物、例えばそのRNA転写物又はコードされたタンパク質は、好ましくは植物又は植物細胞に存在する場合、単為生殖において機能的であり、さらにより好ましくは、単為生殖を誘導する又は誘導することが可能である。
【0071】
別の実施形態では、本発明の核酸は:
a)配列番号6又は11のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子;
b)配列番号7又は12のヌクレオチド配列を有するプロモーター;
c)配列番号8又は13のヌクレオチド配列を有するコード配列;
d)配列番号9又は14のヌクレオチド配列を有する3’UTR;
e)配列番号10又は15のヌクレオチド配列を有する遺伝子;
f)a)~e)うちのいずれか1つのバリアント;及び
g)a)~f)うちのいずれか1つの断片
のうちの少なくとも1つを含むか又はそれらからなる。
【0072】
好ましくは、本実施形態の前記核酸及び/又はそれに由来する生産物、例えばそのRNA転写物又はコードされたタンパク質は、好ましくは植物又は植物細胞にホモ接合状態で存在する場合、単為生殖を誘導しないか、又は誘導することが不可能である。換言すれば、本実施形態の核酸の存在が、非単為生殖表現型又は有性表現型を示すものであってよく、例えば、前記核酸を含む植物は、前記植物が有性表現型であること、すなわち、卵細胞から胚を発生することが不可能であることを示す。
【0073】
Par対立遺伝子は優性対立遺伝子であってもよい。Par対立遺伝子が優性である場合、植物が非単為生殖表現型であることを確認するために、前記植物のPar遺伝子座のすべての対立遺伝子はpar対立遺伝子と評価されることを必要とし、単一のPar対立遺伝子の存在が、上記植物は単為生殖が可能であると指示するのに十分である。
【0074】
本発明の核酸は、スクリーニング及び/又は遺伝子型決定に使用することができる。任意選択で、推定核酸若しくは遺伝子及び/又はその派生物の単為生殖における機能性、又は推定核酸及び/若しくはその派生物が単為生殖を誘導する能力は、発現を低下させることによって、単為生殖植物における前記核酸若しくは遺伝子をサイレンシングすることによって又はノックアウトすることによって、例えば前記遺伝子のコード配列に早期停止を導入することによって、評価してもよい。単為生殖表現型のその後の喪失は、推定上の核酸及び/又はその派生物が単為生殖を誘導することが可能であることを意味する。単為生殖を誘導する能力は、機能喪失型アポミクティック植物を推定核酸及び/又はその派生物(mRNA若しくはタンパク質)で補完することによっても評価することができる。かかる機能喪失型アポミクティック植物は、機能的Par対立遺伝子の発現を減少させることによって(例えば、欠失又はノックアウトによって)アポミクティック表現型を喪失するように改変されたセイヨウタンポポ分離株A68であってもよい。かかる機能喪失型アポミクティック植物は、本明細書で定義の配列番号23が配列番号24~27のうちのいずれか1つに改変された、Par対立遺伝子を含むセイヨウタンポポ分離株A68であってもよい(表2を参照されたい)。セイヨウタンポポ分離株A68の機能的アポミティック植物のかかる喪失は、CRISPR-Cas9/ガイドRNA複合体を使用して標的ゲノム編集によって得てもよく、ここで、本明細書に例示のように、前記ガイドRNA(本明細書ではgRNAとしても指示される)は、配列番号19の標的特異的配列を含む。セイヨウタンポポ分離株A68のPar対立遺伝子の欠失によって、単為生殖喪失型、したがってアポミクシス喪失型、がもたらされる。前記推定核酸又はその派生物が単為生殖を誘導する能力を有する場合、例えば前記核酸を含む及び/又は前記派生物をコードするベクターを前記分離株にトランスフェクトすることにより、前記分離株に前記核酸又は派生物を導入すると、アポミクティック表現型が回復(又はレスキュー)されることになる。かかるベクターは、好ましくは、分離株中のコードされた派生物の発現を駆動するのに適した配列を含む。例をあげると、本発明のPARタンパク質をおそらくコードする推定核酸を、前記ベクター内で、配列番号2によって本明細書で定義のプロモーターに、及び任意選択で配列番号4によって本明細書で定義の3’UTRに、作動可能に連結させてもよい。セイヨウタンポポ分離株A68の場合、他家受粉の非存在下での高い種子結実は、アポミクシスの明確な指標である。この分離株での自家受粉については代替の説明として排除することができるが、その理由は、不均衡な三倍体の雄と雌の減数分裂に起因して、有性生殖した卵細胞と花粉粒は受精能が極めて低いことになるからである。
【0075】
好ましくは、本明細書で定義のバリアント核酸は、本明細書で定義のセイヨウタンポポ分離株A68のPar対立遺伝子又はpar対立遺伝子の遺伝子、プロモーター、コード配列及び/又は3’UTRのホモログ又はオルソログである。好ましくは、前記バリアント核酸及び/又はそれに由来する生産物、例えばそのRNA転写物又はコードされたタンパク質は、好ましくは植物又は植物細胞に存在する場合、本明細書で定義の単為生殖に関連し、任意選択で単為生殖を誘導するか又は誘導することが可能である。上記バリアントは好ましくは、本明細書で定義のPARタンパク質をコードするか、又はPARタンパク質をコードする配列に作動可能に連結されている。他の植物種における、セイヨウタンポポ分離株A68で同定されたPar遺伝子及びpar遺伝子のオルソログを、本明細書で定義のPARタンパク質の特徴に基づいて同定することができる。かかる遺伝子は、それらに限定されないが、以下からなる群から選択されるPARタンパク質のうちのいずれか1つをコードすることができる:パイナップル(Ananas comosus)由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:A0A199URK4)、アポスタシア・シェンゼニカ(Apostasia shenzhenica)由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:A0A2I0AZW3)、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:Q8GXP9、A0A178V2S4、O81793、A0A178V1Q3、A0MFC1、O81801)、セイヨウミヤマハタザオ亜種リラタ(Arabidopsis lyrata subsp. Lyrata)由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:D7MC52又はD7MCE8)、アラキス・イパエンシス(Arachis ipaensis)由来のPARタンパク質(例えば配列番号45又は配列番号49)、ミナトカモジグサ(Brachypodium distachyon)由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:I1J0D9)、ヤセイカンラン変種オルラセア(Brassica oleracea var. oleracea)由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:A0A0D3A1Q6又はA0A0D3A1Q3)、ブラシカ・カンペストリス(Brassica campestris)由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:A0A398AHT1)、ブラシカ・ラパ(Brassica rapa)由来のPARタンパク質(例えば配列番号47)、ブラシカ・ラパ亜種ペキネンシス(Brassica rapa subsp. Pekinensis)由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:M4D574又はM4D571)、ヤセイカンラン(Brassica oleracea)由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:A0A3P6ESB1又はA0A3P6F726)、ブラシカ・カンペストリス由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:A0A3P5ZMM3又はA0A3P5Z1M1)、キマメ(Cajanus cajan)由来のPARタンパク質(例えば配列番号46)、ルベラナズナ(Capsella rubella)由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:R0H2J1又はR0H0C2)、フクロユキノシタ(Cephalotus follicularis)由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:A0A1Q3CSK1)、ヒヨコマメ(Cicer arietinum)由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:A0A3Q7YBZ1、A0A1S2YZL9、A0A3Q7Y0Z6若しくはA0A1S2YZM6;又は配列番号55、56若しくは57)、エンダイブ(Cichorium endivia)のPARタンパク質(例えば配列番号39)、キュウリ(Cucumis sativus)由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:A0A0A0KGW4又はA0A0A0L0X7)、マスクメロン(Cucumis melo)由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:A0A1S3BLF2又はA0A1S3B298)、キュウリ由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:A0A0A0KAW8)、ニホンカボチャ(Cucurbita moschata)由来のPARタンパク質(例えば配列番号43)、アメリカネナシカズラ(Cuscuta campestris)由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:A0A484MGR1)、キバナノセッコク(Dendrobium catenatum)由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:A0A2I0V7N9、A0A2I0X2T2又はA0A2I0W0Q8)、ドルコセラス・ヒグロメトリカム(Dorcoceras hygrometricum)由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:A0A2Z7D3Y1)、ユートレマ・サルスギネウム(Eutrema salsugineum)由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:V4LSH0;又は配列番号44)、ヨーロッパブナ(Fagus sylvatica)由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:A0A2N9E5Y5、A0A2N9HAB9、又はA0A2N9H993)、ゲンリセア・アウレア(Genlisea aurea)由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:S8E1M6)、ダイズ(Glycine max)由来のPARタンパク質(例えば配列番号51、52、53又は54)、リクチワタ(Gossypium hirsutum)由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:A0A1U8LDU9)、ヒマワリ(Helianthus annuus)由来のPARタンパク質(例えば配列番号21)、パラゴムノキ(Hevea brasiliensis)由来のPARタンパク質(例えば配列番号42)、コウリンタンポポ(Hieracium aurantiacum)のPARタンパク質(例えば配列番号40)、ペルシャグルミ(Juglans regia)由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB: A0A2I4E6B1)、レタス(Lactuca sativa)由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:A0A2J6KZF7;又は配列番号22)、ユウガオ(Lagenaria siceraria)由来のPARタンパク質(例えば配列番号48)、タルウマゴヤシ(Medicago truncatula)由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:G7K024)、マルバグワ(Morus notabilis)由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:W9SMY3又はW9SMQ7)、ビロードマメ(Mucuna pruriens)由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:A0A371ELJ8)、ニコチアナ・アテヌアタ(Nicotiana attenuata)由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:A0A1J6IQI6)、ニコチアナ・シルベストリス(Nicotiana sylvestris)由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:A0A1U7VXJ0)、タバコ(Nicotiana tabacum)由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:A0A1S4A651又はA0A1S3YHQ2)、イネ亜種ジャポニカ(Oryza sativa subsp. Japonica)由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:B9FGH8)、オリザ・バルシー(Oryza barthii)由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:A0A0D3FWX3)、キビ(Panicum miliaceum)由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:A0A3L6Q010又はA0A3L6T1D6)、パラスポニア・アンデルソニイ(Parasponia andersonii)由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:A0A2P5BMI5)、ギンドロ(Populus alba)由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:A0A4U5PSY9)、ブラックコットンウッド(Populus trichocarpa)由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:B9H661)、ザクロ(Punica granatum)由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:A0A2I0IBB9、A0A218XB85又はA0A218W102)、セネシオ・カンブレンシス(Senecio cambrensis)由来のPARタンパク質(例えば配列番号41)、モモ(Prunus persica)由来のPARタンパク質(例えば配列番号50)、ウラジロエノキ(Trema orientale)由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:A0A2P5EB04)、ムラサキツメクサ(Trifolium pratense)由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:A0A2K3N851)、ジモグリツメクサ(Trifolium subterraneum)由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:A0A2Z6MYD3又はA0A2Z6MDR7)、ムラサキツメクサ由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:A0A2K3PR44)、ヨーロッパブドウ(Vitis vinifera)由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:A0A438C778、A0A438ESC4又はA0A438DBR4)及びトウモロコシ(Zea mays)由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:A0A1D6HF46、B6UAC5、A0A3L6F4S1、A0A3L6EMC6、A0A3L6EMC6、K7UHQ6又はA0A1D6KHZ4)。かかる遺伝子はまた、以下からなる群から選択されるPARタンパク質をコードすることができる:オニマタタビ(Actinidia chinensis)由来のPARタンパク質(UniProtKB:A0A2R6S2S9)、テンサイ(Beta vulgaris)由来のPARタンパク質(UniProtKB:XP_010690656.1)、ジャガイモ(Solanum tuberosum)由来のPARタンパク質(UniProtKB:XP_015159151.1)、トマト(Solanum lycopersicum)由来のPARタンパク質(UniProtKB:A0A3Q7GXB3)、キイロトウガラシ(Capsicum baccatum)由来のPARタンパク質(UniProtKB:A0A2G2WJR7)、ナス(Solanum melongena)由来のPARタンパク質(UniProtKB:AVC18974.1)、ツルマメ(Glycine soja)由来のPARタンパク質(GenBank受託:XP_028201014.1、XP_006596577.1又はUniprotKB:A0A445M3M6)、ナンキンマメ(Arachis hypogaea)由来のPARタンパク質(UniProtKB:A0A444WUX5)、インゲンマメ(Phaseolus vulgaris)由来のPARタンパク質(UniProtKB:V7CIF6)、ニンジン(Daucus carota)由来のPARタンパク質(GenBank受託:XP_017245413.1)、パンコムギ(Triticum aestivum)由来のPARタンパク質(UniProtKB:A0A3B6RP64)、イネ亜種インディカ(Oryza sativa subsp. indica)由来のPARタンパク質(UniProtKB:A2YH63)、イネ亜種ジャポニカ由来のPARタンパク質(UniProtKB:Q5Z7P5)及びカカオ(Theobroma cacao)由来のPARタンパク質(UniProtKB:A0A061DL63)。本発明は、これらのオーソロガス遺伝子、それらのプロモ
ーター配列、コード配列(cDNA及びmRNAの配列を含めて)及び3’UTRを包含する。
【0076】
本発明の核酸は、それらに限定されないが、ゲノムDNA、cDNAなどのDNA、又はmRNAなどのRNAであってよい。好ましくは、本発明の核酸は、単離された核酸である。好ましくは、本明細書で定義のバリアント核酸は、好ましくは、例えば、デフォルトパラメータを用いてNeedleman and Wunschアルゴリズム(グローバル配列アラインメント)を使用してペアワイズアラインメントを行った場合、それぞれ、配列番号2、3、4、5、7、8、9、10、12、13、14及び15の配列のうちのいずれか1つと、並びに/若しくは、配列番号1、6、及び11をコードする配列のうちのいずれか1つと、又はそれらの相補体と、少なくとも約60%、70%、75%、80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%、99%又はそれ超のヌクレオチド配列同一性を好ましくは含む。例えば、配列番号3のコード配列のバリアントは、配列番号3と、少なくとも60%、70%、75%、80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%、99%又はそれ超のヌクレオチド配列同一性を好ましくは含む:配列番号5のコード配列のバリアントは、配列番号5と、少なくとも約60%、70%、75%、80%、85%、90%、92%、95%、97%、98%、99%又はそれ超のヌクレオチド配列同一性を好ましくは含む、等。
【0077】
好ましくは、バリアントは、1つ又は複数のヌクレオチドの欠失、挿入、及び/又は置換によって、配列番号2、3、4、5、7、8、9、10、12、13、14及び15の並びに配列番号1、6及び11をコードする配列のうちのいずれか1つ又はそれらの相補体、とは異なっており、上記バリアントには、天然及び/又は合成/人工のバリアントが含まれる。「天然バリアント」とは、天然に、例えば他のタンポポ属の種に又はその他の植物に、見いだされるバリアントである。好ましくは、バリアントは、異なる植物種からの、例えば、広義のセイヨウタンポポとは異なるタンポポ属の種、例えば、異なる栽培品種、系統種又は育種系統からのヌクレオチド配列(遺伝子、プロモーター配列又はコード配列)である。前記バリアントはまた、タンポポ属に属する植物以外の植物に見いだすこと及び/又はこれらから単離することができる。
【0078】
本明細書で指示される場合、本発明の核酸はまた、本明細書で定義の、Par対立遺伝子若しくはpar対立遺伝子の定義の遺伝子、プロモーター若しくはコード配列の断片、又はそれらの任意のバリアントを包含する。「断片」は、少なくとも約10、12、15、18、20、30、50、100、150、200、250、300、500、1000、2000若しくはそれ超の連続したヌクレオチドなどの、配列番号2、3、4、5、7、8、9、10、12、13、14及び15のうちのいずれか1つの並びに/若しくは配列番号1、6、及び11をコードする配列のうちのいずれか1つの連続するヌクレオチド配列、若しくはそれらのバリアント、又は、前記配列にハイブリダイズすることが可能であることが好ましいその相補体、を含むか又はそれらからなる。一実施形態では、かかる断片は、本明細書で定義の単為生殖において機能的であるとすることができる(単為生殖を誘導することが可能であることが好ましい)。別の実施形態では、かかる断片は単為生殖において機能的であるとすることはできないが、単為生殖に関連しているとすることができ、その理由は、例をあげると、かかる断片は、単為生殖において機能的である配列にハイブリダイズすることができ、したがって単為生殖を指示することができるからである。かかる断片は、例えば、PCRプライマー又はハイブリダイゼーションプローブとして有用である場合があり、それにより、マッピングアッセイ若しくは分子アッセイで使用するための、並びに/又は他の植物からのPar対立遺伝子若しくはpar対立遺伝子を同定及び/若しくは単離するための遺伝子マーカーとして使用することができる。
【0079】
好ましくは、本発明の核酸は、本明細書で定義のPARタンパク質をコードする遺伝子の、調節配列、好ましくはプロモーター配列を含むか又はそれらからなり、ここで、前記調節配列、好ましくはプロモーター配列は、核酸インサート、好ましくは二本鎖DNAインサートを含み、この場合、前記インサートは、50~2000bpの間、100~1900bpの間、200~1800bpの間、300~1700bpの間、400~1600bpの間、500~1500bpの間、600~1400bpの間、1000~1400の間、1200~1400の間、又は1300~1400bpの間の長さを有する。さらにより好ましくは、前記インサートは約1300bpの長さを有する。好ましくは、インサートは、本明細書で定義の単為生殖表現型に関連しており、任意選択で単為生殖表現型において機能的である。好ましくは、前記インサートの3’末端とPARタンパク質をコードする配列の開始コドンとの間の距離が、50~200bpの間、好ましくは約50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190又は200bp、最も好ましくは約102bp、であるように、好ましくは、前記インサートは、PARタンパク質をコードする配列のすぐ上流(3’)に局在するプロモーター配列内に局在する。好ましくは、前記インサートは、インサートの3’末端ヌクレオチドが、配列番号2のヌクレオチド1798の及び/又は配列番号5のヌクレオチド1798の位置に相同である位置にあるように、局在する。好ましくは、前記インサートは、オープンリーディングフレームがない。さらにより好ましくは、前記インサートは、ミニチュア逆方向反復転位因子(MITE)又はMITE様配列であり、ここで、前記MITE又はMITE様配列は、オープンリーディングフレームがない内部配列を含有しており、内部配列は、小直列反復配列によって次いで隣接されている末端逆方向反復配列(TIR)が隣接する(標的部位の重複)、ことを特徴とする、非自律的エレメントである。MITE、TIR、及び配列の詳細については、参照により本明細書に組み込まれる、Guoら、Scientific Reports.2017年6月1日;7(1):2634、を参照されたい。前記インサート、好ましくは前記MITE又はMITE様配列は、配列番号60と少なくとも約50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%、99%又はそれ超の同一性を有することができる。好ましくは、前記インサートは、本明細書で定義の単為生殖表現型に関連しており、任意選択で単為生殖表現型において機能的である。さらに好ましい実施形態では、本発明の核酸は、調節配列、好ましくは、プロモーター配列を含むか又はそれらからなり、上に本明細書で定義の位置に前記インサートを包含する。好ましくは、本発明の核酸は、前記プロモーター配列に作動可能に連結された、本明細書で定義のPARタンパク質をコードする配列を含むか又はそれらからなり、ここで、好ましくは、前記プロモーター配列は、PARタンパク質をコードする配列の直接上流に局在する。任意選択で、本発明の前記核酸は、1つ又は複数のさらなる転写調節配列を含むことができる。
【0080】
一実施形態では、本発明の核酸は、タンポポ属系統(例えば、広義のセイヨウタンポポ)に又はその他の種に由来することができる。
【0081】
一実施形態では、本発明の核酸は、タンポポ属又は広義のセイヨウタンポポとは異なる起源に由来する。
【0082】
一実施形態では、本発明は、野生植物若しくは栽培植物などの単為生殖が存在する植物に、及び/又はその他の植物に由来する、相同又はオーソロガスのPar対立遺伝子を包含する。かかるホモログ又はオルソログは、提供されたヌクレオチド配列又はその一部をプライマー又はプローブとして使用することによって容易に単離することができる。例えば、本明細書で定義のヌクレオチド配列の断片、又はその相補体を例えば使用して、適度の又はストリンジェントな核酸ハイブリダイゼーション法を使用することができる。バリアントも、他の野生の又は栽培されたアポミクティック又は非アポミクティック植物から(及び/又はPCR、ストリンジェントハイブリダイゼーション法等などの既知の方法を使用して、他の植物から)単離することができる。したがって、配列番号2、3、4、5、7、8、9、10、12、13、14及び15の、並びに/又は配列番号1、6及び11をコードする配列のうちのいずれか1つのバリアントには、他のタンポポ属の植物、系統若しくは栽培品種において天然に(若しくは自然界において)見いだされる、及び/又はその他の植物において天然に見いだされる核酸も含まれる。
【0083】
宿主又は宿主細胞での最適な発現の場合、本明細書で教示のコード配列を、利用可能なコドン使用頻度表を使用して、植物遺伝子において最も好ましいものに、特に、目的の植物の属又は種にとって本来の遺伝子に(Bennetzen及びHall、1982、J.Biol.Chem.257、3026~3031;Itakuraら、1977 Science 198、1056~1063)、コドン使用頻度を適合させる(例えば、目的の植物での発現向けにいっそう適合させる)ことによって、コドン最適化することができる。種々の植物種のコドン使用頻度表が、例えば、Ikemura(1993、「Plant Molecular Biology Labfax」、Croy編、Bios Scientific Publishers Ltd.において)及びNakamuraら(2000、Nucl.Acids Res.28、292.)によって、並びに主要なDNA配列データベース(例えば、HeidelbergにあるEMBL、ドイツ)において、公開されている。したがって、同じ又は実質的に同じタンパク質を、前記合成DNA配列を使用して作製することができるように、合成DNA配列を構築することができる。コドン使用頻度を宿主細胞が好むものに改変するためのいくつかの技法を、特許及び科学文献に見いだすことができる。コドン使用頻度の改変の正確な方法は、本発明にとって極めて重要なものではない。
【0084】
配列番号2、3、4、5、7、8、9、10、12、13、14、及び15の、並びに/若しくは配列番号1、6、及び11をコードする配列のうちのいずれか1つ、又はそれらのバリアントへの少改変は、すなわち、ランダム又は標的突然変異誘発によって(例をあげると、化学的突然変異誘発又はCRISPR-エンドヌクレアーゼ媒介突然変異誘発によって)ルーチンに為すことができる。本明細書で教示の前記配列へのより重大な改変は、利用可能な技法を使用して所望の配列のデノボDNA合成によってルーチンに行うことができる。
【0085】
一実施形態では、本発明の核酸を、前記核酸によってコードされる本発明のタンパク質のN終端が、タンパク質のN末端で1つ又は複数のアミノ酸を付加すること又は欠失させることによって、最適な翻訳開始状況を有するように、改変することができる。多くの場合、植物細胞で発現される本発明のタンパク質は、最適な翻訳開始のために、Met-Asp又はMet-Alaのジペプチドで開始することが好ましい。したがって、Asp又はAlaコドンを、既存のMetに続いて挿入してもよく、又は、2番目のコドンValを、Asp(GAT若しくはGAC)又はAla(GOT、GCC、GCA、若しくはGCG)のコドンに置き換えることができる。ヌクレオチド配列はまた、非正統的スプライス部位を除去するように改変することができる。
【0086】
一実施形態では、配列番号1のアミノ酸配列を有する機能性タンパク質、又はそのバリアント若しくは機能的断片、例えば、別の植物(すなわち、タンポポ属又は広義のセイヨウタンポポ以外)で見いだされるオルソログ又はその断片、を(過剰)発現することによって好ましくは提供される、(遺伝的に)優勢な機能を、本発明の核酸は有することができる。
【0087】
好ましくは、本発明の核酸は、植物で産生される場合、機能的であり、単為生殖を誘導及び/又は増強するタンパク質又はその機能的断片(複数可)をコードする。例えば、配列番号3若しくは5を含む核酸、又はそれらのバリアント若しくは断片が発現(転写及び翻訳)され、適切な量の本発明のタンパク質が適当な植物組織で産生される場合、単為生殖効果は、前記核酸を欠いているという点だけが異なる植物と比較して、有意に増強されている。機能性についても、非単為生殖タンポポ属系統などの適切な宿主植物において本発明の核酸を(過剰)発現させること、及び例えば実施例2に記載のように、バイオアッセイにおいて形質転換体の単為生殖効果を解析することによって、容易に試験することができる。前記核酸の機能性は、これらの核酸の1つ又は複数が(過剰)発現している試験植物を、対照植物は前記核酸の(過剰)発現を欠くという点のみが試験植物と異なる対照植物と比較することによって、評価されるのが好ましい。或いは、単為生殖に関連する本発明の核酸のサイレンシング又は破壊によって、機能喪失型を、すなわち単為生殖の低減を招くことができる。
【0088】
本発明の核酸を使用して、適切な宿主細胞において本発明のタンパク質を発現させるための、又は1つ若しくは複数の内因性の単為生殖遺伝子若しくは遺伝子ファミリーをサイレンシングするための、ベクター又はプラスミドを作り出すことができる。したがって、本発明の核酸を含む構築物、ベクター及び/若しくはプラスミド、並びに/又はサイレンシング構築物も、本発明によって包含される。
【0089】
本発明によるアミノ酸配列
本発明は、本明細書で定義のPARタンパク質を提供する。本発明はまた、植物における単為生殖に関連するタンパク質を提供し、ここで、前記タンパク質は:
a)本発明の核酸によってコードされ;
b)配列番号1、6若しくは11のアミノ酸配列を有し;
c)a)及び/若しくはb)のバリアントであり;並びに/又は
d)a)~c)のうちのいずれかの1つの断片であり、
ここで、好ましくは、前記タンパク質は単為生殖において機能的である。
一実施形態では、本発明のタンパク質は:
a)配列番号3、8若しくは13のうちのいずれか1つの核酸によってコードされており;
b)配列番号1、6若しくは11のアミノ酸配列を有し;
c)a)及び/若しくはb)のバリアントであり;並びに/又は
d)a)~c)のうちのいずれか1つの断片であり、
ここで、好ましくは、本発明のタンパク質は単為生殖を誘導するのに適している。
一実施形態では、本発明のタンパク質は:
a)配列番号3若しくは5の核酸によってコードされており;
b)配列番号1のアミノ酸配列を有し;
c)a)及び/若しくはb)のバリアントであり;並びに/又は
d)a)~c)のうちのいずれか1つの断片であり、
ここで、好ましくは、本発明のタンパク質は単為生殖を誘導するのに適している。バリアントは好ましくは、本明細書で定義のPARタンパク質である。好ましくは、タンパク質又はタンパク質断片は、配列番号3若しくは5の核酸、又はそれらのバリアント及び/若しくは断片によってコードされるか、或いはかかるタンパク質は、配列番号1、又はそのバリアント及び/若しくは断片を含む。好ましくは、前記バリアントは、好ましくは、例えば、デフォルトパラメータを用いてNeedleman and Wunschアルゴリズム(グローバル配列アラインメント)を使用してペアワイズアラインメントを行った場合、それぞれ、配列番号1、6、又は11と、少なくとも約50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%、99%又はそれ超の同一性を有するアミノ酸配列を含むか又はそれらからなる。バリアントは、1つ又は複数のアミノ酸残基の欠失、挿入、及び/又は置換によって、提供された配列とは異なっており、上記バリアントには、天然及び/又は合成/人工のバリアントが含まれる。本発明の核酸によってコードされるアミノ酸を有するタンパク質のバリアントは、好ましくは、配列番号3、5、8、10、13、15のうちのいずれか1つによってコードされるタンパク質のバリアントは、又は配列番号1、6若しくは11のうちのいずれか1つのアミノ酸配列を有するタンパク質のバリアントは、ホモログであってもオルソログであってもよい。本発明によって包含されるかかるオーソロガスタンパク質は、それらに限定されないが、以下からなる群から選択されるPARタンパク質のうちのいずれか1つであってよい:パイナップル由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:A0A199URK4)、アポスタシア・シェンゼニカ由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:A0A2I0AZW3)、シロイヌナズナ由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:Q8GXP9、A0A178V2S4、O81793、A0A178V1Q3、A0MFC1、O81801)、セイヨウミヤマハタザオ亜種リラタ由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:D7MC52又はD7MCE8)、アラキス・イパエンシス由来のPARタンパク質(例えば配列番号45又は配列番号49)、ミナトカモジグサ由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:I1J0D9)、ヤセイカンラン変種オルラセア由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:A0A0D3A1Q6又はA0A0D3A1Q3)、ブラシカ・カンペストリス由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:A0A398AHT1)、ブラシカ・ラパ由来のPARタンパク質(例えば配列番号47)、ブラシカ・ラパ亜種ペキネンシス由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:M4D574又はM4D571)、ヤセイカンラン由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:A0A3P6ESB1又はA0A3P6F726)、ブラシカ・カンペストリス由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:A0A3P5ZMM3又はA0A3P5Z1M1)、キマメ由来のPARタンパク質(例えば配列番号46)、ルベラナズナ由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:R0H2J1又はR0H0C2)、フクロユキノシタ由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:A0A1Q3CSK1)、ヒヨコマメ由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:A0A3Q7YBZ1、A0A1S2YZL9、A0A3Q7Y0Z6若しくはA0A1S2YZM6;又は配列番号55、56若しくは57)、エンダイブ由来のPARタンパク質(例えば配列番号39)、キュウリ由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:A0A0A0KGW4又はA0A0A0L0X7)、マスクメロン由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:A0A1S3BLF2又はA0A1S3B298)、キュウリ由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:A0A0A0KAW8)、ニホンカボチャ由来のPARタンパク質(例えば配列番号43)、アメリカネナシカズラ由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:A0A484MGR1)、キバナノセッコク由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:A0A2I0V7N9、A0A2I0X2T2又はA0A2I0W0Q8)、ドルコセラス・ヒグロメトリカム由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:A0A2Z7D3Y1)、ユートレマ・サルスギネウム由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:V4LSH0;又は配列番号44)、ヨーロッパブナ由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:A0A2N9E5Y5、A0A2N9HAB9、又はA0A2N9H993)、ゲンリセア・アウレア由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:S8E1M6)、ダイズ由来のPARタンパク質(例えば配列番号51、52、53又は54)、リクチワタ由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:A0A1U8LDU9)、ヒマワリ由来のPARタンパク質(例えば配列番号21)、パラゴムノキ由来のPARタンパク質(例えば配列番号42)、コウリンタンポポのPARタンパク質(例えば配列番号40)、ペルシャグルミ由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:A0A2I4E6B1)、レタス由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:A0A2J6KZF7;又は配列番号22)、ユウガオ由来のPARタンパク質(例えば配列番号48)、タルウマゴヤシ由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:G7K024)、マルバグワ由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:W9SMY3又はW9SMQ7)、ビロードマメ由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:A0A371ELJ8)、ニコチアナ・アテヌアタ由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:A0A1J6IQI6)、ニコチアナ・シルベストリス由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:A0A1U7VXJ0)、タバコ由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:A0A1S4A651又はA0A1S3YHQ2)、イネ亜種ジャポニカ由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:B9FGH8)、オリザ・バルシー由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:A0A0D3FWX3)、キビ由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:A0A3L6Q010又はA0A3L6T1D6)、パラスポニア・アンデルソニイ由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:A0A2P5BMI5)、ギンドロ由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:A0A4U5PSY9)、ブラックコットンウッド由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:B9H661)、ザクロ由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:A0A2I0IBB9、A0A218XB85又はA0A218W102)、セネシオ・カンブレンシス由来のPARタンパク質(例えば配列番号41)、モモ由来のPARタンパク質(例えば配列番号50)、ウラジロエノキ由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:A0A2P5EB04)、ムラサキツメクサ由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:A0A2K3N851)、ジモグリツメクサ由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:A0A2Z6MYD3又はA0A2Z6MDR7)、ムラサキツメクサ由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:A0A2K3PR44)、ヨーロッパブドウ由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:A0A438C778、A0A438ESC4又はA0A438DBR4)及びトウモロコシ由来のPARタンパク質(例えばUniProtKB:A0A1D6HF46、B6UAC5、A0A3L6F4S1、A0A3L6EMC6、A0A3L6EMC6、K7UHQ6又はA0A1D6KHZ4)。かかるオーソロガスタンパク質はまた、以下からなる群から選択されるPARタンパク質とすることができる:オニマタタビ由来のPARタンパク質(UniProtKB:A0A2R6S2S9)、テンサイ由来のPARタンパク質(UniProtKB:XP_010690656.1)、ジャガイモ由来のPARタンパク質(UniProtKB:XP_015159151.1)、トマト由来のPARタンパク質(UniProtKB:A0A3Q7GXB3)、キイロトウガラシ由来のPARタンパク質(UniProtKB:A0A2G2WJR7)、ナス由来のPARタンパク質(UniProtKB:AVC18974.1)、ツルマメ由来のPARタンパク質(GenBank受託:XP_028201014.1、XP_006596577.1又はUniprotKB:A0A445M3M6)、ナンキンマメ由来のPARタンパク質(UniProtKB:A0A444WUX5)、インゲンマメ由来のPARタンパク質(UniProtKB:V7CIF6)、ニンジン由来のPARタンパク質(GenBank受託:XP_017245413.1)、パンコムギ由来のPARタンパク質(UniProtKB:A0A3B6RP64)、イネ亜種インディカ由来のPARタンパク質(UniProtKB:A2YH63)、イネ亜種ジャポニカ由来のPARタンパク質(UniProtKB:Q5Z7P5)及びカカオ由来のPARタンパク質(UniProtKB:A0A061DL63)。
【0090】
したがって、本発明によって包含される配列番号1のタンパク質のバリアントは、それらに限定されないが、本明細書で定義のオルソログPARタンパク質のうちのいずれか1つであってもよい。
【0091】
本発明のPARタンパク質、及び/又は配列番号1、6若しくは11を有するタンパク質のバリアントは、植物又は植物細胞に存在する場合、単為生殖を誘導することが可能であってもよい。タンパク質のバリアントは、前記植物又は植物細胞の内因性タンパク質であっても非内因性タンパク質であってもよい。任意選択で、本発明のPARタンパク質及び/又は配列番号1、6若しくは11を有するタンパク質のバリアントは、当該タンパク質の発現が変化した、好ましくは増大した場合に、単為生殖を誘導することが可能である。好ましくは、かかる変化した発現、好ましくは増大した発現は、卵細胞内である。発現の変化又は増大は、植物若しくは植物細胞における前記タンパク質のデノボ発現であってもよく、又は、植物若しくは植物細胞における内因性タンパク質の増大した発現であってもよい。当業者であれば、タンパク質の発現を増大する方法を知っている。植物又は植物細胞における当該タンパク質のデノボ発現は、例えば、タンパク質をコードする構築物若しくはベクターを植物若しくは植物細胞にトランスフェクションすること、タンパク質をコードする遺伝子を植物若しくは植物細胞の後代へと遺伝子移入すること、及び/又は内因性配列を改変して、例をあげると遺伝子改変によって前記タンパク質をコードする配列をもたらすことによって、誘導してもよい。任意選択で、かかる構築物又はベクターは、卵細胞プロモーターに作動可能に連結されたPARタンパク質をコードする配列を含む。当業者であれば、卵細胞プロモーターについて知っている。植物の卵細胞における発現を駆動することが可能である例示的な卵細胞プロモーターには、それらに限定されないが、卵細胞特異的遺伝子ECl.1、ECl.2、ECl.3、ECl.4、又はECl.5のプロモーター(例えば、Sprunckら Science、338:1093~1097(2012);AT2G21740;Steffenら、Plant Journal 51:281~292(2007)を参照されたい)、シロイヌナズナ属DD45プロモーター(Ohnishiら PlantPhysiology 165:1533~1543(2014))が含まれる。好ましくは、本発明の構築物又はベクターは、調節配列、好ましくはプロモーター配列に作動可能に連結されたPARタンパク質をコードする配列を含み、核酸インサート、好ましくは二本鎖DNAインサートを含み、ここで、前記インサートは、50~2000bpの間、100~1900bpの間、200~1800bpの間、300~1700bpの間、400~1600bpの間、500~1500bpの間、600~1400bpの間、1000~1400の間、1200~1400の間、又は1300~1400bpの間、の長さを有する。さらにより好ましくは、前記インサートは約1300bpの長さを有する。好ましくは、インサートは、本明細書で定義の単為生殖表現型に関連しており、任意選択で単為生殖表現型において機能的である。好ましくは、前記インサートの3’末端とPARタンパク質をコードする配列の開始コドンとの間の距離が、50~200bpの間、好ましくは約50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190又は200bp、最も好ましくは約102bp、であるように、好ましくは、前記インサートは、PARタンパク質をコードする配列のすぐ上流(3’)に局在するプロモーター配列内に局在する。好ましくは、前記インサートは、インサートの3’末端ヌクレオチドが、配列番号2のヌクレオチド1798の及び/又は配列番号5のヌクレオチド1798の位置に相同である位置にあるように局在する。好ましくは、前記インサートは、オープンリーディングフレームがない。さらにより好ましくは、前記インサートは、ミニチュア逆方向反復転位因子(MITE)又はMITE様配列であり、ここで、前記MITE又はMITE様配列は、オープンリーディングフレームがない内部配列を含有しており、内部配列は、小直列反復配列によって次いで隣接されている末端逆方向反復配列(TIR)が隣接する(標的部位の重複)、ことを特徴とする、非自律的エレメントである。MITE、TIR、及び配列の詳細については、参照により本明細書に組み込まれる、Guoら、Scientific Reports.2017年6月1日;7(1):2634、を参照されたい。前記インサート、好ましくは前記MITE又はMITE様配列は、配列番号60と少なくとも約50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%、99%又はそれ超の同一性を有することができる。好ましくは、前記インサートは、本明細書で定義の単為生殖表現型に関連しており、任意選択で単為生殖表現型において機能的である。さらに好ましい実施形態では、本発明の構築物又はベクターは、調節配列、好ましくは、プロモーター配列を含むか又はそれらからなり、上に本明細書で定義の位置に前記インサートを包含する。好ましくは、構築物又はベクターは、前記プロモーター配列に作動可能に連結された、本明細書で定義のPARタンパク質をコードする配列を含むか又はそれらからなり、ここで、好ましくは、前記プロモーター配列は、PARタンパク質をコードする配列の直接上流に局在する。任意選択で、本発明の前記構築物又はベクターは、1つ又は複数のさらなる転写調節配列を含むことができる。
【0092】
加えて、又は代替的に、かかる構築物又はベクターは、配列番号2のプロモーターに作動可能に連結されたPARタンパク質をコードする配列を含む。内因性タンパク質の発現の変化又は増大は、コード配列に作動可能に連結された1つ又は複数の調節配列を改変することによって誘導されてもよい。例えば、タンパク質をコードする配列に作動可能に連結されたプロモーター配列は、例えば遺伝子改変によって、改変してもよい。好ましい実施形態では、上に本明細書で定義のインサートは、プロモーター配列に、好ましくは上に本明細書で定義の位置に導入される。単為生殖を誘導することが可能であるかかる機能性は、本明細書に記載のように、前記バリアントをコードする核酸の単為生殖における機能性に適切な試験を使用することによって評価してもよい。本発明のタンパク質は単離されたタンパク質であってもよい。
【0093】
「天然バリアント」とは、天然に、例えば、栽培又は野生のレタス植物及び/又はその他の植物に見いだされるものである。断片、すなわち本発明のタンパク質の非全長ペプチド、好ましくは機能的断片も含まれ、すなわち、この断片は、適切な宿主植物で発現される場合に単為生殖を誘導することが可能である。本明細書で教示のタンパク質の断片には、本発明の核酸によってコードされる少なくとも約10、20、30、40、50、100、150、200、250若しくはそれ超の連続するアミノ酸配列を含むか若しくはそれらからなるペプチド、特に、配列番号1、6、若しくは11の少なくとも約10、20、30、40、50、100、150、200、250若しくはそれ超の連続するアミノ酸を含むか若しくはそれらからなるペプチド、又はそれらのバリアント(本明細書で定義の)、が含まれる。天然に見いだされる配列は、本明細書では「野生型」としても指示される。
【0094】
本発明のタンパク質は、天然源から単離したか、化学合成によってデノボで合成したか(例えば、Applied Biosystemsによって供給されるようなペプチドシンセサイザーを使用して)、又は本発明のタンパク質をコードする本明細書で教示のヌクレオチド配列を発現させることにより組換え宿主細胞によって産生されたものであってもよい。本発明のタンパク質はまた、本明細書で定義の本発明の核酸からの発現によって産生することができる。
【0095】
タンパク質バリアントは、塩基性(例えばArg、His、Lys)、酸性(例えばAsp、Glu)、非極性(例えばAla、Val、Trp、Leu、Ile、Pro、Met、Phe、Trp)又は極性(例えばGly、Ser、Thr、Tyr、Cys、Asn、Gln)のカテゴリー内での保存的アミノ酸置換を含むことができる。加えて、非保存的アミノ酸置換も本発明の範囲に包含される。
【0096】
配列番号1、6又は11のタンパク質のN終端(例えば、タンポポ属(Taxaracum)又は植物種Xから得られた)及び配列番号1、6又は11のバリアントの中間ドメイン及び/又はC終端ドメイン(例えば、タンポポ属又は植物種Y又は別の植物種から得られた)などの、異なる供給源からのドメインから構成されるタンパク質などのキメラタンパク質も、本明細書に包含される。好ましくは、キメラタンパク質は、少なくとも2つのオーソロガスタンパク質由来のドメインから構成される。かかるキメラタンパク質は、例えば、植物宿主で発現される場合に、天然タンパク質よりも単為生殖をより効率的に付与することができるという意味で、向上した機能性を有することができる。
【0097】
また、本発明のタンパク質、タンパク質バリアント又はタンパク質断片をコードするすべてのヌクレオチド配列(RNA、cDNA、ゲノムDNA等)は、本発明によって包含される。遺伝コードの縮重に起因して、種々のヌクレオチド配列が同じアミノ酸配列をコードすることができる。
【0098】
単為生殖植物及びこれらを作製する方法
さらなる態様では、本発明は、植物(例えば、植物細胞、器官、種子及び植物部分を含めて)と、改変された単為生殖を示す植物を、任意選択で、天然の又は未改変の植物と比較して改変された、好ましくは誘導された単為生殖を有するトランスジェニック植物を作製する方法と、に関する。かかる植物は、例えばさらに本明細書で記載のように、様々な方法を使用して作製することができる。好ましくは、本発明の植物は、技術的手段によって、好ましくは本明細書に記載の方法によって得られる。かかる技術的手段は当業者によく知られており、この技術的手段には、例えば、ランダム突然変異誘発、標的突然変異誘発、及び核酸挿入のうちの少なくとも1つなどの遺伝子改変が含まれる。
【0099】
好ましくは、本発明の植物は、本質的に生物学的なプロセスによって得られない。好ましくは、本発明の植物は、本質的に生物学的なプロセスによってだけでは得られない。好ましくは、本発明の植物は、植物に単為生殖を導入するという本質的に生物学的なプロセスによって、得られない、好ましくは直接には得られない。好ましくは、本発明の植物は、植物に単為生殖を導入するという本質的に生物学的なプロセスによってだけでは得られない。好ましくは、本発明の植物は、天然起源の植物ではない、すなわち、天然に存在する植物ではない。
特に、本発明は、単為生殖植物を作出する方法を提供し、以下のステップ:
a)単為生殖を誘導することが可能であり及び/又は単為生殖において機能的である本発明の核酸及び/又はその派生物を1つ又は複数の植物細胞に導入するステップと;
b)任意選択で、前記核酸を含む植物細胞を選別するステップであって、好ましくは、前記核酸が、前記植物細胞のゲノムに統合されている、選別するステップと;
c)前記植物細胞から植物を再生するステップと
を含み、
ここで好ましくは、本発明の前記核酸は、単為生殖において機能的である本明細書で定義のPARタンパク質を、コードする若しくはコードする配列に作動可能に連結されている、及び/或いは配列番号2~5のうちのいずれか1つである、若しくは配列番号1のタンパク質をコードする、又はそれらのバリアント若しくは断片である。
本発明は、アポミクティック植物を作出する方法をさらに提供し、以下のステップ:
a)単為生殖を誘導することが可能である、本発明の核酸及び/又はその派生物をアポマイオシスが可能な1つ又は複数の植物細胞に導入するステップと;
b)任意選択で、前記核酸を含む植物細胞を選別するステップであって、好ましくは、前記核酸が、前記植物細胞のゲノムに統合されている、選別するステップと;
c)前記植物細胞から植物を再生するステップと
を含み、
ここで好ましくは、本発明の前記核酸は、単為生殖において機能的である本明細書で定義のPARタンパク質を、コードする若しくはコードする配列に作動可能に連結されている、及び/或いは配列番号2~5のうちのいずれか1つである、若しくは配列番号1のタンパク質をコードする、又はそれらのバリアント若しくは断片である。アポマイオシスが可能な植物細胞は、アポマイオシスを付与することができる核酸を導入するステップによって入手してもよい。任意選択で、前記核酸を、本発明の核酸の導入の前、導入と一緒、又は導入の後に植物細胞に導入する。
【0100】
本発明の核酸は、形質転換、遺伝子移入、体細胞ハイブリダイゼーション及び/又はプロトプラスト融合によって、1つ又は複数の植物細胞に導入することができる。かかる核酸は、外因性核酸、すなわち、天然で前記植物細胞に存在しない核酸であってもよい。
【0101】
本発明の核酸は、内因性核酸を改変して本発明の核酸を得ることにより、1つ又は複数の植物細胞に導入することができる。内因性遺伝子の改変は好ましくは、内因性タンパク質の発現を変化させるために、コード配列における並びに/又は調節配列及び/若しくはプロモーター配列における、1つ若しくは複数のヌクレオチドのランダム若しくは標的突然変異、又は例をあげると相同組換えによる短い若しくはより大きな配列の挿入若しくは欠失、を含む。かかる方法は好ましくは、本明細書で定義の1つ又は複数の内因性par対立遺伝子のPar対立遺伝子への改変をもたらす。ランダム突然変異誘発は、それらに限定されないが、化学的突然変異誘発及びガンマ線であってもよい。化学的突然変異誘発の非限定的な例としては、それらに限定されないが、EMS(メタンスルホン酸エチル)、MMS(メタンスルホン酸メチル)、NaN3(アジ化ナトリウム)D)、ENU(N-エチル-N-ニトロソ尿素)、AzaC(アザシチジン)及びNQO(4-ニトロキノリン1-オキシド)が挙げられる。任意選択で、TILLING(ゲノム中の標的化誘発局所的損傷(Targeting Induced Local Lesions IN Genomics;McCallumら、2000、Nat Biotech 18:455、及びMcCallumら 2000、Plant Physiol.123、439~442、両方とも参照により本明細書に組み込まれる)などの突然変異誘発系を使用して、本明細書で定義の改変された遺伝子を有する植物系統を作り出してもよい。TILLINGでは、従来の化学的突然変異誘発(例えばEMS突然変異誘発)を、これに続いて、突然変異向けにハイスループットスクリーニングを使用する。したがって、1つ又は複数の所望の突然変異を有する遺伝子を含む植物、種子及び組織を、TILLINGを使用して入手してもよい。標的化突然変異誘発とは、特定のヌクレオチド又は核酸配列を変更するように設計することができる突然変異誘発であり、例えば、それらに限定されないが、オリゴ指向性突然変異誘発、RNA誘導エンドヌクレアーゼ(例えばCRISPRテクノロジー)、TALEN又はジンクフィンガーテクノロジーである。
【0102】
好ましくは、改変とは、本明細書で定義のPARタンパク質をコードする遺伝子のプロモーター配列における改変である。好ましくは、改変は、本明細書で定義のPARタンパク質の発現を導入又は増大する。好ましくは、改変は、卵細胞において本明細書で定義のPARタンパク質の発現を導入又は増大する。
したがって、本発明の方法は、以下のステップ:
a)単為生殖に関連する及び/又は単為生殖において機能的であるタンパク質をコードする配列であるか、又はこの配列に作動可能に連結されている核酸を、1つ又は複数の植物細胞において改変するステップであって、好ましくは、前記核酸が前記1つ又は複数の植物細胞のゲノム内にある、改変するステップと;
b)任意選択で、前記改変された核酸を含む植物細胞を選別するステップと;
c)前記植物細胞から植物を再生するステップと
を含むことができ、
ここで好ましくは、単為生殖に関連する及び/又は単為生殖において機能的である前記タンパク質は、上に本明細書で記載の本発明によるアミノ酸配列を有する。好ましくは、ステップa)で改変される核酸は、内因性核酸であり、好ましくは、本明細書で定義のPARタンパク質及び/又は配列番号1、6若しくは11のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする配列であるか、又はこの配列に作動可能に連結されているヌクレオチド配列、又は、それらのバリアント若しくは断片を、含むか又はそれらからなる。
【0103】
特定の好ましい実施形態では、前記核酸は、本明細書で定義の単為生殖に関連するタンパク質をコードする遺伝子の(5’UTR)プロモーター配列である。好ましくは、前記改変とは、核酸インサート、好ましくは二本鎖DNAインサートの導入であり、ここで、前記インサートは、50~2000bpの間、100~1900bpの間、200~1800bpの間、300~1700bpの間、400~1600bpの間、500~1500bpの間、600~1400bpの間、1000~1400の間、1200~1400の間、又は1300~1400bpの間の長さを有する。さらにより好ましくは、前記インサートは約1300bpの長さを有する。好ましくは、インサートは、本明細書で定義の単為生殖表現型に関連しており、任意選択で単為生殖表現型において機能的である。好ましくは、前記インサートの3’末端とPARタンパク質をコードする配列の開始コドンとの間の距離が、50~200bpの間、好ましくは約50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190又は200bp、最も好ましくは約102bp、であるように、好ましくは、前記インサートは、PARタンパク質をコードする配列のすぐ上流(3’)に局在するプロモーター配列内に導入される。好ましくは、前記インサートは、インサートの3’末端ヌクレオチドが、配列番号2のヌクレオチド1798の及び/又は配列番号5のヌクレオチド1798の位置に相同である位置にあるように導入される。好ましくは、前記インサートは、オープンリーディングフレームがない。さらにより好ましくは、前記インサートは、ミニチュア逆方向反復転位因子(MITE)又はMITE様配列であり、ここで、前記MITE又はMITE様配列は、オープンリーディングフレームがない内部配列を含有しており、内部配列は、小直列反復配列によって次いで隣接されている末端逆方向反復配列(TIR)が隣接する(標的部位の重複)、ことを特徴とする、非自律的エレメントである。MITE、TIR、及び配列の詳細については、参照により本明細書に組み込まれる、Guoら、Scientific Reports.2017年6月1日;7(1):2634、を参照されたい。前記インサート、好ましくは前記MITE又はMITE様配列は、配列番号60と少なくとも約50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%、99%又はそれ超の同一性を有することができる。好ましくは、前記インサートは、本明細書で定義の単為生殖表現型に関連しており、任意選択で単為生殖表現型において機能的である。
【0104】
好ましくは、ヌクレオチド配列の改変は、好ましくは植物細胞から再生された植物の卵細胞において、前記タンパク質の導入された又は増大した発現をもたらす。好ましくは、改変されたプロモーター配列は、配列番号2と少なくとも約75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%の配列同一性を有する配列を含む。
さらに、本発明の方法は、以下のステップ:
a)単為生殖に関連する及び/又は単為生殖において機能的であるタンパク質をコードする配列であるか、又はこの配列に作動可能に連結されている核酸を、アポマイオシスが可能な1つ又は複数の植物細胞において改変するステップであって、好ましくは、前記核酸が前記1つ又は複数の植物細胞のゲノム内にある、改変するステップと;
b)任意選択で、前記改変又は変更された核酸を含む植物細胞を選別するステップと;
c)前記植物細胞から植物を再生するステップと
を含むことができ、
ここで好ましくは、単為生殖に関連する及び/又は単為生殖において機能的である前記タンパク質は、上に本明細書で記載の本発明のタンパク質によるアミノ酸配列を有する。好ましくは、ステップa)で改変される核酸は、内因性核酸であり、好ましくは、本明細書で定義のPARタンパク質及び/又は配列番号1、6若しくは11のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする配列であるか、又はこの配列に作動可能に連結されているヌクレオチド配列、又は、それらのバリアント若しくは断片を、含むか又はそれらからなる。好ましくは、ステップa)で改変される核酸は、内因性核酸である。
【0105】
特定の好ましい実施形態では、前記核酸は、本明細書で定義の、単為生殖に関連する及び/又は単為生殖において機能的であるタンパク質をコードする遺伝子のプロモーター配列である。好ましくは、ヌクレオチド配列の改変は、好ましくは、前記植物細胞から再生された植物の卵細胞において、前記タンパク質の導入された又は増大した発現をもたらす。好ましくは、改変されたプロモーター配列は、本明細書で定義のPARタンパク質のコード配列に作動可能に連結されたプロモーター配列である。好ましくは、前記改変されたプロモーター配列は、好ましくは上に本明細書で定義の位置に、上に本明細書で定義のインサートを含むように、改変される。
【0106】
好ましくは、改変されたプロモーター配列は、配列番号2と少なくとも約75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%の配列同一性を有する配列を含む。
本発明はまた、アポミクティック雑種種子を生産する方法を提供し、以下のステップ:
a)有性生殖する第1の植物を第2の植物の花粉と他家受精させて、F1雑種種子を生産するステップと;
b)任意選択で、アポミクティック表現型を含む種子を前記F1種子から選別するステップと
を含み、
ここで、前記第1の植物及び/又は第2の植物は、アポマイオシスが可能であり、前記第2の植物は本発明の核酸を含み、好ましくは、前記選別ステップは、遺伝子型決定によって行われる。好ましくは、前記第2の植物は、配列番号2~5のうちのいずれか1つであるか若しくは配列番号1のタンパク質コードする、本発明の核酸、又はそれらのバリアント若しくは断片を含む。
【0107】
本発明の核酸は、キメラ遺伝子、遺伝子構築物又は核酸ベクターに含まれてもよい。本発明の一実施形態では、本発明の核酸を使用して、核酸の宿主細胞への移入及び宿主細胞において前記核酸によってコードされる機能的(好ましくは、単為生殖を誘導可能である)タンパク質の産生のために、この核酸を含むキメラ遺伝子、及び/又は、ベクターを、作製してもよい。植物細胞におけるかかるタンパク質(又はタンパク質断片若しくはバリアント)の産生向けのベクターは、本明細書において、すなわち「発現ベクター」と呼ばれる。宿主細胞は好ましくは植物細胞である。
【0108】
宿主細胞のゲノムへのタンパク質をコードするヌクレオチド配列の、任意選択で一過性であるが好ましくは安定な導入向けのキメラ遺伝子、構築物及び/又はベクターの構築は、当技術分野で一般に知られている。単為生殖を誘導する及び/又は単為生殖における機能性を改善するためのキメラ遺伝子を作り出すために、配列番号1、6若しくは11のタンパク質をコードするヌクレオチド配列、又はその機能的バリアント及び/若しくは機能的断片を、標準分子生物学的技法を使用して、宿主細胞での発現に適したプロモーター配列に、作動可能に連結してもよい。プロモーター配列は、前記タンパク質をコードするヌクレオチド配列をプロモーター配列の下流にベクターへと単に挿入することができるように、ベクター中にすでに存在させてもよい。次いで、ベクターを使用して宿主細胞を形質転換することができ、本発明の核酸及び/又はキメラ遺伝子を核ゲノムに又は色素体、ミトコンドリア若しくは葉緑体のゲノムへと挿入してもよく、適切なプロモーターを使用して宿主細胞で発現してもよい(例えば、Mc Brideら、1995;米国特許第5,693,507号)。一実施形態では、本発明の核酸及び/又はキメラ遺伝子は、本発明のタンパク質をコードするヌクレオチド配列に、任意選択でこれに続いて、3’非翻訳ヌクレオチド配列に作動可能に連結された、植物細胞又は微生物細胞(例えば、細菌)における発現に適したプロモーターを含むことができる。コード配列の前には、任意選択で5’UTR配列がある。プロモーター、3’UTR及び/又は5’UTRは、例えば、天然の単為生殖遺伝子由来であってもよく、代替的に他の供給源由来であってもよい。
【0109】
本明細書で教示の単為生殖を誘導することが可能であるタンパク質をコードする、本明細書で教示の核酸を、単一植物細胞の核ゲノムへと安定して挿入することができ、そのように形質転換された植物細胞を使用して、ある特定の時間にある特定の細胞に前記タンパク質が存在することにより、変化した表現型を有する形質転換された植物を作出することができる。非限定的な例では、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)において、本明細書で教示の単為生殖において機能的なタンパク質をコードする、本明細書で教示の核酸を含むT-DNAベクターを使用して、植物細胞を形質転換することができ、その後、形質転換された植物は、例えば、欧州特許第0116718号、欧州特許出願公開第0270822号、PCT公開国際公開第84/02913号及び公開欧州特許出願第0242246号に並びにGouldら(1991)に記載の手順を使用して、形質転換された植物細胞から再生することができる。アグロバクテリウム媒介植物形質転換用のT-DNAベクターの構築は当技術分野でよく知られている。T-DNAベクターは、欧州特許第0120561号及び欧州特許第0120515号に記載のバイナリーベクター、又は欧州特許第0116718号に記載のように、相同組換えによってアグロバクテリウムTiプラスミドへと統合することができるコインテグレートベクター、のいずれかにしてもよい。レタス形質転換プロトコルが、例えば、Michelmoreら(1987)及びChupeauら(1989)に記載されている。
【0110】
好ましいT-DNAベクターは、本発明のタンパク質をコードするヌクレオチド配列に作動可能に連結されたプロモーターを含有する;例えば、プロモーターは、T-DNA境界配列の間、配列番号3のヌクレオチド配列又はそれらのバリアント若しくは機能的断片に作動可能に連結されているか、又は右側境界配列の左方に少なくとも位置している。好ましくは、前記プロモーターは、核酸インサート、好ましくは二本鎖DNAインサートを含むプロモーターであり、ここで、前記インサートは、50~2000bpの間、100~1900bpの間、200~1800bpの間、300~1700bpの間、400~1600bpの間、500~1500bpの間、600~1400bpの間、1000~1400の間、1200~1400の間、又は1300~1400bpの間の長さを有する。さらにより好ましくは、前記インサートは約1300bpの長さを有する。好ましくは、インサートは、本明細書で定義の単為生殖表現型に関連しており、任意選択で単為生殖表現型において機能的である。好ましくは、前記インサートの3’末端とPARタンパク質をコードする配列の開始コドンとの間の距離が、50~200bpの間、好ましくは約50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190又は200bp、最も好ましくは約102bp、であるように、好ましくは、前記インサートは、PARタンパク質をコードする配列のすぐ上流(3’)に局在するプロモーター配列内に局在する。好ましくは、前記インサートは、インサートの3’末端ヌクレオチドが、配列番号2のヌクレオチド1798の及び/又は配列番号5のヌクレオチド1798の位置に相同である位置にあるように局在する。好ましくは、前記インサートは、オープンリーディングフレームがない。さらにより好ましくは、前記インサートは、ミニチュア逆方向反復転位因子(MITE)又はMITE様配列であり、ここで、前記MITE又はMITE様配列は、オープンリーディングフレームがない内部配列を含有しており、内部配列は、小直列反復配列によって次いで隣接されている末端逆方向反復配列(TIR)が隣接する(標的部位の重複)、ことを特徴とする、非自律的エレメントである。MITE、TIR、及び配列の詳細については、参照により本明細書に組み込まれる、Guoら、Scientific Reports.2017年6月1日;7(1):2634、を参照されたい。前記インサート、好ましくは前記MITE又はMITE様配列は、配列番号60と少なくとも約50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%、99%又はそれ超の同一性を有することができる。好ましくは、前記インサートは、本明細書で定義の単為生殖表現型に関連しており、任意選択で単為生殖表現型において機能的である。さらに好ましい実施形態では、T-DNAベクターは、調節配列、好ましくはプロモーター配列を含むか又はそれらからなり、上に本明細書で定義の位置に前記インサートを包含する。好ましくは、T-DNAベクターは、前記プロモーター配列に作動可能に連結された、本明細書で定義のPARタンパク質をコードする配列を含むか又はそれらからなり、ここで、好ましくは、前記プロモーター配列は、PARタンパク質をコードする配列の直接上流に局在する。任意選択で、前記T-DNAベクターは、1つ又は複数のさらなる転写調節配列を含むことができる。
【0111】
境界配列は、Gielenら(1984)に記載されている。もちろん、他のタイプのベクターを使用して、直接遺伝子導入(例えば、欧州特許出願公開第0223247号に記載の)、花粉媒介形質転換(例えば、欧州特許第0270356号及び国際公開第85/01856号に記載の)、例えば米国特許第4,684,611号に記載のプロトプラスト形質転換、植物RNAウイルス媒介形質転換(例えば、欧州特許出願公開第0067553号及び米国特許第4,407,956号に記載の)、リポソーム媒介形質転換(例えば、米国特許第4,536,475号に記載の)、及びその他の方法などの手順を使用して、植物細胞を形質転換することができる。
【0112】
さらなる実施形態では、本発明の核酸は、体細胞ハイブリダイゼーションによって導入してもよい。体細胞ハイブリダイゼーションは、プロトプラスト融合によって行ってもよい(例えばHolmes、2018を参照されたい)。
【0113】
本発明の核酸はまた、例をあげると、ゲノムの適当な部位に二本鎖切断を導入するための1つ又は複数の特定のエンドヌクレアーゼ(CRISPR-エンドヌクレアーゼ/ガイドRNA複合体などの)とゲノムに統合するための本発明の核酸を含むドナー構築物とを使用して、ゲノムに統合することができる。当業者であれば、統合に適した二本鎖切断及びドナー構築物を導入するためのかかるCRISPR-エンドヌクレアーゼ/ガイドRNA複合体を設計する方法を知っている(レビューについては、Bortesi及びFischer、2015を参照されたい)。
【0114】
代替的に、植物を、内因性ヌクレオチド配列を変更することによって形質転換してもよく、それにより、例をあげると、例えばランダム又は標的突然変異誘発によって、植物に含まれる1つ又は複数のpar対立遺伝子を1つ又は複数のPar対立遺伝子に変換する。前記突然変異誘発は、コード配列の突然変異誘発を含むことができるが、プロモーター配列、5’UTR及び/又は3’UTRなどの調節配列の突然変異誘発も含むことができる。par対立遺伝子の前記内因性5’UTRプロモーターヌクレオチド配列は、上に本明細書で定義のインサートを、好ましくは上に本明細書で定義の位置に含むように、改変してもよい。
【0115】
同様に、形質転換細胞からの形質転換植物の選別及び再生は、当技術分野でよく知られている。明らかに、様々な種に対して、単一種の様々な品種又は栽培品種に対してさえ、高頻度で形質転換体を再生するように特異的にプロトコルは構成されている。本発明はまた、単為生殖を示し、本発明の核酸及び/又はタンパク質を含む形質転換植物の後代も包含する。
【0116】
核ゲノムの形質転換に加えて、色素体ゲノム、好ましくは葉緑体ゲノムの形質転換も本発明に含まれる。色素体ゲノムの形質転換の一利点とは、導入遺伝子(複数可)の拡散のリスクを低減し得ることである。色素体ゲノムの形質転換は、当技術分野で知られているように実施することができ、例えば、Sidorovら(1999)又はLutzら(2004)を参照されたい。
【0117】
結果として得られる形質転換植物は、従来の植物育種スキームにおいて使用して、導入遺伝子を含有するより多くの形質転換植物を作出することができる。シングルコピー形質転換体は、例えばサザンブロット解析又はPCRベースの方法又はインベーダー(Invader)(登録商標)テクノロジーアッセイ(Third Wave Technologies,Inc.)を使用して、選別することができる。形質転換細胞及び植物は、本発明の核酸若しくはタンパク質及び/又はキメラ遺伝子の存在によって、非形質転換のものと容易に区別することができる。導入遺伝子の挿入部位に隣接する植物DNAの配列も配列決定することができ、それにより、ルーチン使用向けに「イベント固有の」検出方法を開発することができる。例えば、統合された配列及び隣接(ゲノム)配列に基づくエリートイベント検出キット(PCR検出キットなどの)について記載する、例えば国際公開第0141558号を参照されたい。
【0118】
挿入されたコード配列(複数可)が、植物細胞における発現を誘導することができるプロモーターの下流(すなわち3’)にあるとともに、その制御下にあるように、本発明の核酸を植物細胞ゲノムに挿入してもよい。このようなことは、そういったエレメントを含むキメラ遺伝子を、植物細胞ゲノム、特に核又は色素体(例えば葉緑体)のゲノムに挿入することによって行われるのが好ましい。
【0119】
配列番号3に作動可能に連結することができるプロモーター、又はそれらのバリアント若しくは断片は、例えば構成的活性型のプロモーターであってもよく、例としてあげるのなら以下である:各分離株CM1841(Gardnerら、1981)、CabbB-2(Franckら、1980)及びCabbB-JI(Hull及びHowell、1987)のカリフラワーモザイクウイルス(CaMV)の強力な構成的35Sプロモーター又は増強された35Sプロモーター(「35Sプロモーター」);Odellら(1985)によって又は米国特許第5,164,316号に記載の35Sプロモーター、ユビキチンファミリー由来のプロモーター(例えば、Christensenら、1992;欧州特許第0342926号のトウモロコシユビキチンプロモーター;またCornejoら 1993も参照されたい)、gos2プロモーター(de Paterら、1992)、emuプロモーター(Lastら、1990)、Anら(1996)によって記載のプロモーターなどのシロイヌナズナ属アクチンプロモーター、Zhangら(1991)によって記載のプロモーター及び米国特許第5,641,876号に記載のプロモーター又は国際公開第070067号に記載のイネアクチン2プロモーターなどのイネアクチンプロモーター;キャッサバ葉脈モザイクウイルスのプロモーター(国際公開第97/48819号、Verdaguerら 1998)、地下クローバー矮化(Subterranean Clover Stunt)ウイルス由来のpPLEXシリーズのプロモーター(国際公開第96/06932号、特にS7プロモーター)、アルコール脱水素酵素プロモーター、例えば、pAdh1S(GenBank受託番号X04049、X00581)、並びにT-DNAのそれぞれ1’及び2’遺伝子の発現を駆動するTR1’プロモーター及びTR2’プロモーター(それぞれ「TR1’プロモーター」及び「TR2’プロモーター」)(Veltenら、1984)、米国特許第6,051,753号及びEP426641に記載のゴマノハグサモザイクウイルス(Figwort Mosaic Virus)プロモーター、ヒストン遺伝子プロモーター、例えばシロイヌナズナ属由来のPh4a748プロモーター(PMB 8:179~191)、又はその他。
【0120】
代替的に、構成的ではないが、むしろ植物の1つ若しくは複数の組織又は器官に特異的である(発生的に調節されたプロモーターを含めて、組織優先の/組織特異的な)プロモーター、例えば卵細胞特異的プロモーターを利用することができ、それにより、本発明のタンパク質は、特異的な組織(複数可)又は器官(複数可)の細胞中のみで又は優先的に、及び/或いはある特定の発生段階過程のみで、発現される。
【0121】
本発明のタンパク質の構成的生産は、植物の適応度に高いコストがかかる場合があるので、一実施形態では、その活性が誘導性であるプロモーターを使用することが好ましい。誘導性プロモーターの例は、創傷誘導性プロモーターであり、例えば、創傷により誘導される(例えば、昆虫又は身体創傷によって引き起こされる)Corderaら(1994)によって記載のMPIプロモーター、又はCOMPTIIプロモーター(国際公開第0056897号)又は米国特許第6,031,151号に記載のRP1プロモーターである。或いは、プロモーターは、Aoyama及びChua(1997)によって及び米国特許第6,063,985号に記載のデキサメタゾンなどの化学物質によって、又はテトラサイクリン(TOPFREE若しくはTOP10プロモーター、Gatz、1997及びLoveら、2000を参照されたい)によって誘導可能であってよい。
【0122】
「誘導性」という言葉は、必ずしも、誘導因子刺激の非存在下で、プロモーターが完全に不活性であることを必要としない。このことが植物の深刻な収量又は品質ペナルティをもたらさない限り、低レベルの非特異的活性が存在してもよい。したがって、誘導性とは、プロモーターの活性の増大を好ましくは指し、誘導因子との接触に続いて本発明のタンパク質をコードする下流のコード領域の転写の増大をもたらす。
【0123】
一実施形態では、天然の単為生殖遺伝子のプロモーターが使用される。例えば、タンポポ属Par対立遺伝子又はpar対立遺伝子のプロモーターを、単離し、本発明によるタンパク質をコードするコード領域に作動可能に連結してもよい。一実施形態では、前記プロモーター(上流転写調節領域、例えば、翻訳開始コドン及び/又は転写開始コドンの上流、約2000bp以内)は、TAIL-PCR(Liuら、1995;Liuら、2005)、リンカー-PCR、又は逆PCR(IPCR)などの既知の方法を使用して、アポミクティック植物及び/又は他の植物から単離することができる。
【0124】
一実施形態では、天然の単為生殖遺伝子のプロモーター、又はそれに由来するプロモーターが使用される。例えば、配列番号2に由来するプロモーター、又はそのバリアント若しくは断片を使用してもよい。好ましくは、前記プロモーターは、核酸インサート、好ましくは二本鎖DNAインサートを含むプロモーターであり、ここで、前記インサートは、50~2000bpの間、100~1900bpの間、200~1800bpの間、300~1700bpの間、400~1600bpの間、500~1500bpの間、600~1400bpの間、1000~1400の間、1200~1400の間、又は1300~1400bpの間の長さを有する。さらにより好ましくは、前記インサートは約1300bpの長さを有する。好ましくは、インサートは、本明細書で定義の単為生殖表現型に関連しており、任意選択で単為生殖表現型において機能的である。好ましくは、前記インサートの3’末端とPARタンパク質をコードする配列の開始コドンとの間の距離が、50~200bpの間、好ましくは約50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190又は200bp、最も好ましくは約102bp、であるように、好ましくは、前記インサートは、PARタンパク質をコードする配列のすぐ上流(3’)に局在するプロモーター配列内に局在する。好ましくは、前記インサートは、インサートの3’末端ヌクレオチドが、配列番号2のヌクレオチド1798の及び/又は配列番号5のヌクレオチド1798の位置に相同である位置にあるように局在する。好ましくは、前記インサートは、オープンリーディングフレームがない。さらにより好ましくは、前記インサートは、ミニチュア逆方向反復転位因子(MITE)又はMITE様配列であり、ここで、前記MITE又はMITE様配列は、オープンリーディングフレームがない内部配列を含有しており、内部配列は、小直列反復配列によって次いで隣接されている末端逆方向反復配列(TIR)が隣接する(標的部位の重複)、ことを特徴とする、非自律的エレメントである。MITE、TIR、及び配列の詳細については、参照により本明細書に組み込まれる、Guoら、Scientific Reports.2017年6月1日;7(1):2634、を参照されたい。前記インサート、好ましくは前記MITE又はMITE様配列は、配列番号60と少なくとも約50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%、99%又はそれ超の同一性を有することができる。好ましくは、前記インサートは、本明細書で定義の単為生殖表現型に関連しており、任意選択で単為生殖表現型において機能的である。プロモーターは、配列番号2のヌクレオチド配列を有することができる。また、本明細書に記述の配列よりも長い配列も使用してもよい。コード領域の翻訳開始コドンの約2000bp上流までの領域は、転写調節エレメント(すなわちプロモーター)を含むことができる。したがって、一実施形態では、本発明のタンパク質をコードする配列の翻訳開始コドンの2000bp、1500bp、1000bp、800bp、500bp、300bp又はそれ未満の上流でのヌクレオチド配列を単離し、プロモーター活性を試験してもよく、機能的である場合、上記配列を、本明細書で教示の本発明のタンパク質をコードする配列に作動可能に連結してもよい。全配列及びこれらの断片のプロモーター活性は、例えば欠失解析によって試験することができ、それにより、5’部分及び/又は3’部分を欠失させ、既知の方法(例えば、プロモーター又は断片をレポーター遺伝子に作動可能に連結する)を使用してプロモーター活性を試験する。
【0125】
本明細書で教示のコード配列が適切な3’末端非翻訳領域(「3’末端」又は3’UTR)の上流(すなわち5’)にあるように、上記コード配列を植物ゲノムに挿入することが好ましい。適切な3’末端には、CaMV 35S遺伝子(「3’35S」)、ノパリンシンターゼ遺伝子(「3’nos」)(Depickerら、1982)、オクトピンシンターゼ遺伝子(「3’ocs」)(Gielenら、1984)及びT-DNA遺伝子7(「3’遺伝子7」)(Velten及びSchell、1985)の3’末端が含まれ、これらは形質転換植物細胞等において3’-非翻訳DNA配列として作用する。一実施形態では、天然の単為生殖遺伝子の3’UTR、又はそれに由来する3’UTRが使用される。例えば、配列番号4に由来する任意の3’UTR、又はそれらのバリアント若しくは断片を使用してもよい。3’UTRは、配列番号4のヌクレオチド配列を有していてもよい。
【0126】
一実施形態では、配列番号2のヌクレオチド配列、又は本明細書のバリアント及び/若しくは断片を有するプロモーターは、本発明のタンパク質をコードする核酸に作動可能に連結してもよく、好ましくは、タンパク質をコードするヌクレオチド配列は、本明細書で教示の単為生殖を誘導することが可能であり、より好ましくは、配列番号1のアミノ酸配列、又はそのバリアント及び/若しくは断片を有する。好ましくは、前記プロモーター及びコード配列は、配列番号4の3’UTR、又はそのバリアント及び/若しくは断片にさらに作動可能に連結されている。
【0127】
アグロバクテリウムへのT-DNAベクターの導入は、エレクトロポレーション又は三系交雑などの既知の方法を使用して実行することができる。
【0128】
本明細書で教示のコード配列は、ハイブリッド遺伝子配列として植物ゲノムに任意選択で挿入することができ、これにより、コード配列が、選択マーカー又はスコア可能マーカーをコードする遺伝子(米国特許第5,254,799号;Vaeckら、1987)に、例えば、カナマイシン耐性をコードするneo(又はnptII)遺伝子(欧州特許第0242236号)などにインフレームで連結され、その結果、植物は、容易に検出可能である融合タンパク質を発現する。
【0129】
本発明のタンパク質をコードする配列の全部又は一部を使用して、例えば細菌(例えば、大腸菌(Escherichia coli)、シュードモナス属(Pseudomonas)、アグロバクテリウム属(Agrobacterium)、バチルス属(Bacillus)等)などの微生物、真菌、若しくは藻類若しくは昆虫を形質転換することも、又は、組換えウイルスを作製することもできる。このことは、タンパク質、好ましくは単離されたタンパク質の生産及びその後の精製に特に適している。適切なクローニングビヒクルに組み込まれた、本明細書で教示のコード配列の全部又は一部による細菌の形質転換は、従来の方法で、好ましくは、Maillonら(1989)及び国際公開第90/06999号に記載の従来のエレクトロポレーション技法を使用して、実施することができる。原核宿主細胞における発現に関して、核酸配列のコドン使用頻度はそれに応じて最適化してもよい(本明細書の植物について記載のように)。イントロン配列を除去する必要があり、最適な発現のための他の適合を既知の通りに為してもよい。本発明の核酸を含む及び/又はタンパク質を発現するかかる原核宿主細胞は、本発明によって包含される。かかる宿主細胞を使用して、本発明のタンパク質及び/又は核酸を産生させてもよい。
【0130】
本発明の核酸のDNA配列は、翻訳上中立的な方法でさらに変化させて、遺伝子部分に存在するおそらく阻害性であるDNA配列を、及び/又はコドン使用頻度に変化を導入することによって、例えばコドン使用頻度を植物にて、例えば宿主植物として本明細書に記載の、好ましくは特定の関連する植物属にて、最も好まれるコドン使用頻度に適合させることによって、改変することができる。
【0131】
本発明の一実施形態によれば、本発明のタンパク質は、色素体、好ましくは葉緑体、ミトコンドリアなどの細胞内小器官を標的とするか又は細胞から分泌され、その結果、タンパク質の安定性及び/又は発現を潜在的に最適化する。同様に、タンパク質は液胞を標的にしてもよい。この目的のために、本発明の一実施形態では、本発明のキメラ遺伝子は、本発明のタンパク質をコードする領域に連結された、シグナル又は標的ペプチドをコードするコード領域を含む。本発明のタンパク質に含まれる特に好ましいペプチドは、特に遺伝子産物が色素体に標的化される植物遺伝子からの重複トランジットペプチド領域を標的とする葉緑体又は他の色素体向けのトランジットペプチド、Capelladesら(米国特許第5,635,618号)の最適化されたトランジットペプチド、ホウレンソウからのフェレドキシン-NADP+オキシドレダクターゼのトランジットペプチド(Oelmullerら、1993)、Wongら(1992,Plant Molec.Biol.20,81~93)に記載のトランジットペプチド及び公開されたPCT特許出願国際公開第00/26371号の標的化ペプチド、である。また、好ましいものは、ポテトプロテイナーゼインヒビターIIの分泌シグナル(Keilら、1986)、イネのアルファ-アミラーゼ3遺伝子の分泌シグナル(Sutliffら、1991)及びタバコPR1タンパク質の分泌シグナル(Cornelissenら、1986)などの、細胞外でかかるペプチドに連結したタンパク質の分泌をシグナル伝達するペプチドである。本発明による特に有用なシグナルペプチドには、葉緑体トランジットペプチド(例えば、Van Den Broeckら、1985)、又は葉緑体へのタンパク質の輸送を引き起こす、米国特許第5,510,471号及び米国特許第5,635,618号の最適化された葉緑体トランジットペプチド、分泌シグナルペプチド、又は標的である他の色素体、ミトコンドリア、ER、若しくは別のオルガネラにタンパク質を向かはせるペプチド、が含まれる。細胞内オルガネラへの標的化のための又は植物細胞外に若しくは細胞壁への分泌のためのシグナル配列は、天然に標的化又は分泌されたタンパク質に、好ましくは、Klosgenら(1989)、Klosgen及びWeil(1991)、Neuhaus & Rogers(1998)、Bihら(1999)、Morrisら(1999)、Hesseら(1989)、Tavladorakiら(1998)、Terashimaら(1999)、Parkら(1997)、Shcherbanら(1995)によって記載のものに見いだされる。
【0132】
一実施形態では、本明細書で教示の本発明のタンパク質は、任意選択で様々なプロモーターの制御下で、単一宿主での単為生殖、アポマイオシス又はアポミクシスを、制御する、好ましくは増強又は誘導する他のタンパク質と、共発現する。かかる他の遺伝子は、例えば、参照により本明細書に組み込まれる、国際公開第2017/039452A1号に記載の、複相胞子生殖などのアポマイオシスを付与するための遺伝子であってもよい。
【0133】
別の実施形態では、本発明のタンパク質は、アポマイオシスを付与するための遺伝子(例えば、複相胞子生殖用の遺伝子)などの興味深い他の遺伝子を好ましくは含む生殖質に遺伝子移入される。交配と選抜を介して、興味深いいくつかの遺伝子をスタッキングすることができる雑種が作出される。
【0134】
共発現宿主植物は、本発明のタンパク質をすでに発現している植物を形質転換することによって、又は本発明の様々な核酸で形質転換した植物を交配することによって容易に得られる。様々なタンパク質を同じ植物で発現させることができるか、又はそれぞれを単一植物で発現させ、次いで、単一植物どうしを互いに交配することによって同じ植物で組み合わせることができることが理解される。例えば、雑種種子生産では、各親植物は、共発現することが望まれるタンパク質のそれぞれを発現することができる。親植物を交配して雑種を作出すると、両方のタンパク質が雑種植物において組み合わされる。両方の遺伝子を含み、及び/又は両方のタンパク質を発現するかかる雑種又はその子孫は、本発明によって包含される。
【0135】
好ましくは、選抜目的向けとともに雑草防除オプション向けにも、本発明のトランスジェニック植物はまた、除草剤に対する耐性を付与するタンパク質をコードするDNAで、形質転換されるが、例をあげるなら、広域スペクトル除草剤、例えば、有効成分としてグルホシネートアンモニウム(例えば、リバティ(Liberty)(登録商標)又はBASTA;PAT又はbar遺伝子によって耐性が付与される;欧州特許第0242236号及び欧州特許第0242246号を参照されたい)又はグリホサート(例えば、ラウンドアップ(RoundUp)(登録商標);EPSPS遺伝子によって耐性が付与される;例えば、欧州特許第0508909号及び欧州特許第0507698号を参照されたい)、をベースとする除草剤である。選択マーカーとして除草剤耐性遺伝子(又は所望の表現型を付与する他の遺伝子)を使用することで、抗生物質耐性遺伝子の導入を回避することができるという利点をさらに有する。
【0136】
代替的に又は加えて、抗生物質耐性遺伝子などの他の選択マーカー遺伝子を使用してもよい。形質転換宿主植物では抗生物質耐性遺伝子を保持することは一般に認められていないので、これらの遺伝子は、形質転換体の選別に続いて再び除去することができる。導入遺伝子の除去については様々な技術が存在する。除去を行う一方法とは、導入遺伝子を、lox部位で隣接させ、選別に続いて、形質転換植物をCREリコンビナーゼ発現植物と交配することによるものである(例えば、EP506763B1を参照されたい)。部位特異的組換えは、マーカー遺伝子の切除をもたらす。別の部位特異的組換え系は、EP686191及び米国特許第5,527,695号に記載のFLP/FRT系である。CRE/LOXやFLP/FRTなどの部位特異的組換え系も遺伝子スタッキングの目的で使用することができる。さらに、一成分切除系が記載されており、例えば、国際公開第97/37012号又は国際公開第95/00555号を参照されたい。
【0137】
好ましくは、本発明の核酸は、単為生殖表現型が増強された、トランスジェニック植物細胞、植物、植物種子等、及びそれらの任意の派生体/後代を作り出すために使用される。単為生殖が増強されたトランスジェニック植物は、本明細書に記載のように、適切なプロモーターの制御下で、配列番号1のアミノ酸配列を有するタンパク質を好ましくはコードする本発明の核酸又はそのバリアント及び/若しくは断片で植物宿主細胞を形質転換することによって、及び前記細胞からトランスジェニック植物を再生することによって、作り出すことができる。好ましくは、本発明のトランスジェニック植物は、非形質転換ベクター又は空ベクターの対照と比較して、単為生殖の増強を含む。その結果、例えば、単為生殖の増強を含むトランスジェニックレタス植物が提供される。こうして、本発明によるタンパク質を発現する形質転換植物は、非形質転換又は空ベクター形質転換の対照と比較して、単為生殖の著明な増大を示す場合、単為生殖の増強を示す。適切な時間及び/又は位置で単為生殖を誘導することが可能な本発明のタンパク質の適切な量を発現させることによって、単為生殖表現型の増強を微調整することができる。最も適当なプロモーターを決定することによって、及び/又は所望の発現レベルを示すトランスジェニック「イベント」を選別することによって、かかる微調整を行ってもよい。
【0138】
本発明のタンパク質の所望のレベルを発現する、及び/又は所望、又は所望のレベルの本発明の核酸を含む形質転換体、雑種又は近交系は、例えば、コピー数(サザンブロット分析)、mRNA転写レベル(例えば、本発明のタンパク質を増幅可能なプライマー対若しくは隣接プライマーを使用するRT-PCR)を解析することによって、又は種々の組織中の単位生殖タンパク質の存在及びレベルを解析する(例えば、SDS-PAGE;ELISAアッセイ等)ことによって、選別される。例をあげると調節の理由から、単一コピーの形質転換体を選別してもよいが、導入遺伝子の挿入部位に隣接する配列を解析して、好ましくは配列決定して、「イベント」を特徴づける。本発明のタンパク質の高度又は中度の発現をもたらすトランスジェニックイベントを、安定な導入遺伝子を有する高性能エリートイベントが得られるまで、さらなる開発向けに選別する。
【0139】
本発明のタンパク質を発現する、及び/又は本発明の核酸を含む形質転換体はまた、他の導入遺伝子、例えば、耐病性を付与する又は他の生物的及び/又は非生物的ストレスに対する耐性を付与する、又は複相胞子生殖を付与する他の導入遺伝子を含むことができる。「スタッキングされた」導入遺伝子を有するかかる植物を得るために、他の導入遺伝子を前記形質転換体に導入してもよく、又は前記形質転換体を1つ又は複数の他の遺伝子で引き続き形質転換してもよく、又は代替的にいくつかのキメラ遺伝子を使用して植物系統又は品種を形質転換してもよく、いずれかでよい。例えば、いくつかの導入遺伝子が、単一のベクター上に存在してもよく、又は共形質転換される様々なベクター上に存在してもよい。
【0140】
一実施形態では、以下の遺伝子が本発明の核酸と組み合わされる:既知の病害抵抗性遺伝子、特に壊死病原体に対して耐性の増強を付与する遺伝子、ウイルス耐性遺伝子、昆虫抵抗性遺伝子、非生物的ストレス耐性遺伝子(例えば耐乾性、耐塩性、耐熱性又は耐寒性等)、除草剤耐性遺伝子等。したがって、スタッキングされた形質転換体は、病原体耐性、昆虫耐性、線虫耐性、塩分、低温ストレス、熱ストレス、水ストレス等に対して、さらに広い生物的及び/又は非生物的ストレス耐性を有することができる。また、サイレンシングアプローチを、単一植物での発現アプローチと組み合わせてもよく、例をあげると、Par対立遺伝子のサイレンシングは、par対立遺伝子の発現と組み合わせてもよく、又はその逆も同様である。
任意選択で、本発明の核酸を使用して、例をあげると、植物又は植物細胞における1つ又は複数のPar対立遺伝子上の単為生殖遺伝子の発現をサイレンシング、ノックダウン、又は低減することによって、単為生殖を抑制してもよい。これは、前記植物又は植物細胞に存在する、Par対立遺伝子(複数可)のコード配列又は1つ又は複数の調節配列(例えば、プロモーター配列)を改変することによって、又はPar対立遺伝子(複数可)の転写物を標的とするRNAiを導入することによって、行ってもよい。したがって、本発明はまた、植物又は植物細胞における単為生殖を低減又は消失する方法を提供し、以下のステップ:
a)1つ又は複数の植物細胞において、本明細書で定義の、単為生殖を誘導することが可能な及び/又は単為生殖において機能的な核酸の発現を低減又は消失するステップと;
b)前記発現が低減又は消失している植物細胞を選別するステップと;
c)前記植物細胞から植物を再生するステップと
を含む。
【0141】
前記核酸は好ましくは、配列番号2~5のうちのいずれか1つを含むか又はそれらからなる核酸、並びにそれらのバリアント及び/又は断片、並びに/或いは配列番号1のタンパク質をコードする核酸及び/又はそのバリアント若しくは断片、である。
【0142】
本明細書に記載の形質転換植物のいずれかの全植物、植物部分(例えば、種子、細胞、組織)、及び植物産物(例えば、果実)及び後代は、本明細書に包含される。上記全植物、植物部分及び植物産物及び子孫については、導入遺伝子の存在によって、例えば、全ゲノムDNAをテンプレートとして使用した及び単為生殖遺伝子に特異的なPCRプライマーペアを使用したPCR解析によって、並びに又はそれらに限定されないが、シーケンスをベースとするジェノタイピング(SBG)やキージーン(KeyGene)(登録商標)SNPSelect解析などのゲノム変異解析を使用することによって、同定することができる。また、「イベント固有の」PCR診断法を開発することもできるが、この場合、PCRプライマーは、挿入された導入遺伝子に隣接する植物DNAをベースとする、米国特許第6,563,026号を参照されたい。同様に、トランスジェニック植物又はそれに由来する任意の植物、種子、組織又は細胞を同定する、イベント固有のAFLPフィンガープリント又はRFLPフィンガープリントを開発してもよい。
【0143】
本発明によるトランスジェニック植物は好ましくは、収量の減少、病害に対する(特に死体栄養性(necrotroph)に対する)感受性の増強、又は望ましくない構造変化(矮化、変形)等の望ましくない表現型を示さないこと、並びに、かかる表現型が一次形質転換体に見られる場合、これらを従来の方法によって除去し得ること、が理解される。本明細書に記載のトランスジェニック植物のいずれもが、導入遺伝子に関して、ヘテロ接合型であっても、ホモ接合型であっても、ヘミ接合型であってもよい。
【0144】
本発明はまた、本明細書に詳述の方法によって入手される又は入手可能な、好ましくは本発明のタンパク質、本発明の核酸及び/又は本発明の構築物を含む、植物、種子、植物部分(例えば、植物細胞)及び植物産物に関する。好ましくは前記タンパク質、核酸及び/又は構築物は、本明細書に詳述のように、単為生殖を誘導することが可能及び/又は単為生殖において機能的である。本発明の植物は好ましくは、適切な宿主植物として本明細書に列記の種のものである。かかる方法は、植物から後代への本発明の核酸の遺伝子移入、及び/又は導入遺伝子としての本発明の核酸による植物細胞の形質転換、及び前記植物細胞からの植物のその後の再生を含む。好ましくは、植物、植物部分及び/又は植物産物は、広義のセイヨウタンポポ種のものではないが、本発明の核酸を含み、ここで、前記植物又は植物細胞は好ましくは、適切な宿主植物として本明細書に列記の種のものであり、好ましくは、アブラナ科(Brassicaceae)、ウリ科(Cucurbitaceae)、マメ科(Fabaceae)、イネ科(Gramineae)、ナス科(Solanaceae)及びキク科(Asteraceae(コンポジテ(Compositae)))からなる群から選択される科由来である。
【0145】
好ましくは、植物、植物部分及び/又は植物産物は、遺伝子改変によって又は遺伝子移入によって本発明の核酸を含み、ここで、好ましくは、前記核酸は植物、植物部分及び/又は植物産物のゲノムに統合されている。好ましくは、前記植物、植物部分及び/又は植物産物は、単為生殖が可能及び/又は単為生殖において機能的である。さらにより好ましくは前記植物、植物部分及び/又は植物産物は、アポマイオシスがさらに可能である。本発明は、本発明の植物の種子、植物部分若しくは植物産物又は植物細胞を提供する。
【0146】
本発明はまた、本発明の植物に由来する植物部分及び植物産物にも関し、ここで、植物部分及び/又は植物産物は、本明細書で定義の本発明のタンパク質、本明細書で定義の本発明の核酸、及び/又は本明細書で定義の本発明の構築物、を含むが、これらは、植物産物の植物部分が由来する植物におけるかかるタンパク質、核酸又は構築物の存在を評価することを可能にする、本明細書で定義の断片であってもよい。かかる部分及び/又は産物は、種子又は果実及び/又はそれに由来する産物(例えば、糖類又はタンパク質)であってもよい。かかる部分、産物、及び/又はそれに由来する産物は、非増殖性材料であってもよい。
【0147】
いずれもの植物が適切な宿主となり得るが、最も好ましくは、宿主植物種は、単為生殖の増強又は低減から利益を得ると思われる植物種であることが求められる。適切な宿主には、いずれもの植物種が含まれる。特に、栽培品種又はそうでなければ良好な農業特性を有する育種系統が好ましい。当業者であれば、適切な対照植物と一緒に、トランスジェニック植物を作り出すこと及び単為生殖を評価することにより、本明細書で教示の核酸及び/若しくはタンパク質、並びに/又はそれらのバリアント若しくは断片が、単為生殖の必要とされる増大又は低減を宿主植物上へと付与することができるか否かを試験する方法を知っている。
【0148】
適切な宿主植物には、例えば、アブラナ科、ウリ科、マメ科、イネ科(Gramineae)、ナス科、キク科(コンポジテ)、バラ科(Rosaceae)及びイネ科(Poaceae)、に属する宿主が含まれる。
【0149】
好ましい実施形態では、宿主植物は、タンポポ属、アキノノゲシ属(Lactuca)、エンゾウ属(Pisum)、トウガラシ属(Capsicum)、ナス属(Solanum)、キュウリ属(Cucumis)、トウモロコシ属(Zea)、ワタ属(Gossypium)、ダイズ属(Glycine)、コムギ属(Triticum)、イネ属(Oryza)属及びモロコシ属(Sorghum)からなる群から選択される植物種であってもよい。
【0150】
好ましい実施形態では、本明細書で教示の植物、植物部分、植物細胞又は種子は、タンポポ属、アキノノゲシ属、エンゾウ属、トウガラシ属、ナス属、キュウリ属、トウモロコシ属、ワタ属、ダイズ属、コムギ属、イネ属、ネギ属(Allium)、アブラナ属(Brassica)、ヒマワリ属(Helianthus)、フダンソウ属(Beta)、キクニガナ属(Cichorium)、キク属(Chrysanthemum)、ペンニセツム属(Pennisetum)、ライムギ属(Secale)、オオオムギ属(Hordeum)、ウマゴヤシ属(Medicago)、インゲンマメ属(Phaseolus)、バラ属(Rosa)、ユリ属(Lilium)、コーヒーノキ属(Coffea)、アマ属(Linum)、アサ属(Canabis)、キャッサバ属(Cassava)、ニンジン属(Daucus)、カボチャ属(Cucurbita)、スイカ属(Citrullus)、及びモロコシ属からなる群から選択される植物種由来である。
【0151】
適切な宿主植物には、例えば、トウモロコシ/コーン(トウモロコシ属種)、小麦(コムギ属種)、大麦(例えば、オオムギ(Hordeum vulgare))、オートムギ(例えば、アヴィーナ・サティヴァ(Avena sativa))、ソルガム(モロコシ(Sorghum bicolor))、ライ麦(ライムギ(Secale cereale))、大豆(ダイズ属種(Glycine spp)、例えばダイズ)、コットン(ワタ属種(Gossypium species)、例えば、リクチワタ、G.バルバデンス(G.barbadense))、アブラナ属種(Brassica spp.)(例えば、セイヨウアブラナ(B.napus)、カラシナ(B.juncea)、メキャベツ(B.oleracea)、カブ(B.rapa)等)、ヒマワリ(ヒグルマ(Helianthus annus))、ベニバナ、ヤム、キャッサバ、アルファルファ(ムラサキウマゴヤシ(Medicago sativa))、イネ(イネ属種(Oryza species)、例えば、オリザ・サティバ(O.sativa)インディカ栽培品種群又はジャポニカ栽培品種群)、イソマツ(forage grasses)、トウジンビエ(pearl millet)(ペンニセツム属種(Pennisetum spp.)、例えば、P.グラウクム(P.glaucum))、樹種(マツ(Pinus)、ポプラ、モミ、オオバコ等)、チャノキ、コーヒーノキ、オイルパーム、ココナッツ、野菜種、例えば、エンドウマメ、ズッキーニ、豆類(例えば、インゲンマメ(Phaseolu)属種)、トウガラシ、キュウリ、アーティチョーク、アスパラガス、ナス、ブロッコリー、ニンニク、ニラ、レタス、タマネギ、ダイコン、カブ、トマト、ジャガイモ、メキャベツ、ニンジン、カリフラワー、チコリー、セロリ、ホウレンソウ、エンダイブ、ウイキョウ、ビート、果肉を有する果物(ブドウ、モモ、プラム、イチゴ、マンゴー、リンゴ、プラム、サクランボ、アプリコット、バナナ、ブラックベリー、ブルーベリー、シトラス、キウイ、イチジク、レモン、ライム、ネクタリン、ラズベリー、スイカ、オレンジ、グレープフルーツ等)、観賞用種(例えば、バラ、ペチュニア、キク、ユリ、ガーベラ種)、ハーブ類(ミント、パセリ、バジル、タイム等)、木質の樹木(例えば、ヤマナラシ属(Populus)、ヤナギ属(Salix)、コナラ属(Quercus)、ユーカリ属(Eucalyptus)の種)、繊維種、例えば、亜麻(アマ(Linum usitatissimum))及び大麻(アサ(Cannabis sativa))が含まれる。
【0152】
マーカー支援選別及び1つ又は複数のPar対立遺伝子の移入又は組合せ
本発明の核酸は、タンポポ属種の及び/又は他の植物種のPar対立遺伝子又はpar対立遺伝子のマーカー支援選別のため、並びに、目的の植物への/目的の植物における、及び/又はPar対立遺伝子又はpar対立遺伝子(又はバリアント)が見いだされる植物との種内又は種間雑種を作り出すために使用することができる植物への/このような植物における、異なる又は同一のPar対立遺伝子又はpar対立遺伝子の移入及び/又はこれらの組合せのための遺伝子マーカーとして使用することができる。
【0153】
これらの配列に基づいて様々な多くのマーカーアッセイを開発することができる。マーカーアッセイの開発には一般に、Par対立遺伝子とpar対立遺伝子の間の多型の同定を伴い、その結果、多型は、特定の対立遺伝子を「マークする」遺伝子マーカーである。次いで、多型(複数可)がマーカーアッセイで使用される。例えば、本明細書で教示のPar対立遺伝子の配列は、単為生殖の存在又は増強と相関している。このことは、特定の対立遺伝子を単為生殖又は非単為生殖と相関させるために、本明細書で教示のPar対立遺伝子又はpar対立遺伝子のヌクレオチド配列(の一部)について単為生殖植物材料及び/又は非単為生殖植物材料をスクリーニングすることによって、例えば行われる。したがって、(非)単為生殖植物材料から得られた試料(例えば、RNA、cDNA又はゲノムDNA試料)中のかかるヌクレオチド配列を検出するPCRプライマー又はプローブを作り出してもよい。配列又はそれらの一部が比較され、単為生殖と相関する多型マーカーが同定される。次いで、Par対立遺伝子又はpar対立遺伝子に連結されたSNPマーカーなどの多型マーカーを、単為生殖対立遺伝子の有無について植物材料をスクリーニングするための迅速分子アッセイへと開発することができる。したがって、これらの「遺伝子マーカー」の有無によって、マーカーに連結したPar対立遺伝子又はpar対立遺伝子の存在が指示され、Par対立遺伝子又はpar対立遺伝子の検出を遺伝子マーカーの検出で置き換えることができる。
【0154】
好ましくは、試料(例えば、DNA試料)中のPar対立遺伝子又はpar対立遺伝子、或いは対立遺伝子の組合せの迅速な検出を可能にする、簡単且つ急速マーカーアッセイを使用する。したがって、一実施形態では、試料中のPar対立遺伝子又はpar対立遺伝子の有無を決定するための、及び/又はこの対立遺伝子のホモ接合性又はヘテロ接合性を決定するための、分子アッセイにおける、本発明の核酸の使用が本明細書に提供される。
かかるアッセイは、以下のステップを例えば含むことができる:
(a)単為生殖及び非単為生殖の植物材料及び/又はその核酸試料を用意するステップと;
(b)(a)の前記材料中の本発明の核酸の全部又は一部のヌクレオチド配列を決定するステップ。
【0155】
一態様では、本発明の核酸、又は関連する若しくは誘導されたRNA配列(転写物などの)を検出するためのPCRプライマー及び/又はプローブ、分子マーカー並びにキットが提供される。試料から本発明の核酸を増幅するための縮重又は特異的PCRプライマー対は、当技術分野で知られているように、本明細書で教示のヌクレオチド配列又はそれらのバリアントに基づいて合成することができる(Dieffenbach及びDveksler、1995;並びにMcPhersonら、2000を参照されたい)。例えば、これらの配列(又は相補鎖)の9、10、11、12、13、14、15、16、18又はそれ超の連続したヌクレオチドの任意のストレッチをプライマー又はプローブとして使用してもよい。
【0156】
同様に、本明細書で教示のPar対立遺伝子又はpar対立遺伝子の配列を含むDNA断片、又はそれらの相補体を、ハイブリダイゼーションプローブとして使用することができる。本明細書で提供の検出キットは、Par(対立遺伝子-)特異的プライマー及び/又はPar(対立遺伝子-)特異的プローブのいずれか、並びに関連プロトコルを備えて、上記プライマー又はプローブを使用し、その結果、試料中の本発明の核酸を検出することができる。かかる検出キットは、例えば、植物が本発明の核酸で形質転換されたか否かを判定するために、又はPar対立遺伝子の存在及び任意選択で接合性決定について、タンポポの生殖質及び/又は他の植物種の生殖質をスクリーニングするために、使用することができる。
したがって、一実施形態では、植物組織、例えば、タンポポ属組織、又はその核酸試料において、本発明のタンパク質をコードするヌクレオチド配列の有無を検出する方法が提供される。本発明の方法は:
a)1つ又は複数の植物からの植物組織試料又はその核酸試料を得るステップ;
b)Par対立遺伝子に連結した1つ又は複数のマーカーの有無について分子マーカーアッセイを使用して核酸試料を解析するステップであって、マーカーアッセイが、単為生殖に関連する本発明の核酸の存在を検出する、解析するステップ、並びに任意選択で
c)さらなる使用のために前記マーカーの1つ又は複数を含む植物を選別するステップ、
を含むことができる。
代替的に又は加えて、本発明の方法は:
a)1つ又は複数の植物からの植物組織試料又はその核酸試料を得るステップ;
b)par対立遺伝子に連結した1つ又は複数のマーカーの有無について分子マーカーアッセイを使用して核酸試料を解析するステップであって、マーカーアッセイが、非単為生殖に関連する本発明の核酸の存在を検出する、解析するステップ、並びに任意選択で
c)さらなる使用のために前記マーカーの1つ又は複数を含む植物を選別するステップ、
を含むことができる。
【0157】
好ましくは、これらの方法のいずれかで使用される1つ又は複数の植物は、本明細書でさらに定義される、宿主植物として適切な植物である。
【0158】
単為生殖の適用
本発明の核酸及び/又はタンパク質は、単為生殖を、スクリーニング(例えば、植物又は植物細胞における1つ又は複数の単為生殖遺伝子座)、遺伝子型決定、付与するために、倍数性を増加させるためのアポミクシスを付与するために、及び/又は倍加単数体の作出のために、使用してもよい。好ましくは、前記使用は、植物バイオテクノロジー及び/又は育種内のものである、すなわち、植物又は植物細胞内/上のものである。
【0159】
単為生殖はアポミクシスのエレメントであり、単為生殖の遺伝子をアポマイオシス(例えば複相胞子生殖)の遺伝子との組合せで使用して、アポミクシスを作り出し、その結果好ましくは、本明細書に列記の適用向けにアポミクシスを使用し得る。これらの遺伝子を、形質転換、遺伝子移入によって、又は内因性の適切な遺伝子を改変することによって有性作物に導入し、それによって単為生殖遺伝子をアポメイオティック(apomeiotic)(又は複相胞子生殖型)遺伝子に変換することができる。アポミクシス遺伝子の構造と機能に関する知識を使用して、内因性の有性生殖遺伝子がアポミクシス遺伝子となるように、これらの遺伝子を改変することもできる。好ましい使用とは、有性生殖が新しい遺伝子型を作り出す場合にアポミクシスをスイッチオフに、エリート遺伝子型を増殖させるためにアポミクシスが必要な場合にスイッチオンにすることができるように、アポミクシス遺伝子を誘導性プロモーターの下に置くことである、と思われる。
【0160】
核酸又はその派生物は、アポミクシスの成分として使用することができる。機能性配偶体のアポミクシスには、アポマイオシスと単為生殖の両方が必要である。アポマイオシスは、減数分裂に影響を与える突然変異の組合せによって行うことができ(Crismaniら、2013)、大胞子において染色体の減数を生じないこと、すなわち減数分裂ではなく有糸分裂の結果を伴う。後成的な変化を通して配偶体の運命をとる体細胞(Grimanelli、2012)は、非減数配偶子(卵細胞)を生じることができる可能性がある、非減数胞子様細胞ももたらす。別の実施形態では、アポマイオシスは、天然のアポマイオシス遺伝子のトランスジェニック又は非トランスジェニック発現によって行われる。どんな手段を用いても、非減数卵細胞が形成され、単為生殖を誘導することが可能な本発明の核酸の適当な時間的及び空間的発現によって、接合子として振る舞い、受精の非存在下で分裂するように卵細胞を誘導することができる。
【0161】
単為生殖遺伝子は、まったく新しい方法で、例えば、アポミクシスのツールとして直接ではなく、使用し得る。例えば、アポミクシスでは単為生殖とアポマイオシスの両方が単一植物で組み合わされるが、一方、1つの世代でアポマイオシスを使用し且つ次世代で単為生殖を使用すると、アポマイオシスにより倍数性レベルが上昇し単為生殖により倍数性レベルが低下することによって、二倍体で及び倍数体レベルで作物の有性遺伝子プールが、結びつくと思われる。このようなことは非常に有用であり、その理由は、倍数体集団は、より多くの突然変異を許容することができるので、突然変異誘導にとってより良好であり得るからである。倍数体植物はより強壮であるとすることもできる。しかし、二倍体集団は選別にとってより良好であり、二倍体の交配は遺伝的マッピング、BACライブラリーの構築等にとってより良好である。倍数体の単為生殖は二倍体と交配することができる単数体を作り出すことができる。二倍体の複相胞子生殖は、倍数体由来の花粉によって受精して、倍数体の子孫を作出することができる非減数2n卵細胞を作り出す。こうして、異なる育種世代におけるアポマイオシスと単為生殖の交代は、二倍体と倍数体遺伝子プールとを結びつける。
【0162】
アポマイオシスを伴わない核酸及びその派生物(転写物又はコードされたタンパク質)の別の使用とは、単数体子孫の作出であり、これは、単数体の作出にとって且つ倍加単数体(DH)のゲノム倍加(例えば、自発的ゲノム倍加、コルヒチン、アジドナトリウム又はその他の化学物質)によって、使用し得る。倍加単数体を両親として使用して、有性F1雑種を作出することができる。倍加単数体は、植物をホモ接合にするための最速の方法である。倍加単数体によれば植物をホモ接合型と為すことができるが、一方、2番目に速い方法、自家受粉によれば、二倍体植物でホモ接合性が有意に高いレベルに達するには、5~7世代かかる。倍加単数体を作出するいくつかの方法がある。一部の植物種では、小胞子培養によって単数体を作り出すことができる。他の方法とは、照射された花粉(メロン)での受粉、又は特定の受粉媒介者ストック(トウモロコシ、ジャガイモ)での受粉による、単数体胚の生産(雌性発生)である。これらの方法には、コスト、遺伝子型の不応性、労働集約性等などの制限がある。一部の作物では、単数体作出の方法が存在しない(例えばトマト)。単為生殖遺伝子の優性対立遺伝子によれば、雌性発生の頻度が著明に向上し、単数体作出のコストが削減される可能性がある。
【0163】
以下の非限定的な実施例では、本発明の様々な実施形態を例示する。実施例に別段の記載がない限り、すべての組換えDNA技法は、Sambrookら(1989)、及びSambrook及びRussell(2001);並びにAusubelら(1994)の巻1と2、に記載の標準プロトコルに従って実施される。植物分子研究の標準的な材料及び方法が、R.D.D.CroyによるPlant Molecular Biology Labfax(1993)、BIOS Scientific Publications Ltd(英国)及びBlackwell Scientific Publications、英国による共同出版、に記載されている。
【0164】
【0165】
【実施例】
【0166】
実施例1
材料及び方法
植物材料
野生型アポミクシス三倍体セイヨウタンポポA68及び有性二倍体セイヨウタンポポFCH72。
【0167】
DNA構築物
バイナリーベクターを、T-DNA領域上にコードされた以下のコンポーネントを用いて構築した;35Sターミネーターを備えるCas9遺伝子(配列番号17)を駆動するパセリユビキチンプロモーター(配列番号16)、及びTTTTTTターミネーター配列を備えるガイドRNA-1(配列番号19の標的特異的配列を有する)を駆動するトマトU6プロモーター(配列番号18、Nekrasovら.2013)及び選別用のグルホシネート耐性遺伝子。ガイドRNA-1の配列をガイドRNA-2の配列(配列番号20の標的特異的配列を有する)で置き換えている類似のバイナリーベクターを構築した。かかるバイナリーベクターを作り出すのに適した技術は、ゲートウェイ(Gateway)(登録商標)、Golden Gate、又はギブソンアセンブリ(Gibson Assembly)(登録商標)である(例えば、Maら、2015を参照されたい)。対照構築物として使用されるT-DNA領域上の35S-GUSをコードするベクター。
【0168】
植物の形質転換法
アグロバクテリウムの形質転換を、Oscarsson(Oscarsson,Lotta. 「Production of rubber from dandelion-a proof of concept for a new method of cultivation.」2015)のプロトコルの改変版に従って実行した。0.8%寒天を含む半強度MS20培地で育成した、継代培養のin vitro繁殖種子由来植物から得たセイヨウタンポポA68外植片を、植物形質転換の出発材料とした。バイナリーベクターを備える株C58C1などのアグロバクテリウム・ツメファシエンス(リゾビウム・ラジオバクター(Rhizobium radiobacter))のLB培地での一晩培養物50mlを、共培養用に10×希釈(液体MS20で再懸濁及び希釈)で使用した。外植片を概0.5cm2の小片に切断し、2~3日間共培養した。次いで、外植片を、カルス誘導培地(CIM;スクロース20gl-1、ミクロ栄養素及びマクロ栄養素を含むMS 4.4gl-1、寒天8gl-1、BAP 1mgl-1、IAA 0.2mgl-1、植物選別用のグルホシネート3mgl-1、バンコマイシン100mg1-1及びセフォタキシム100mgl-1、pH5.8)に移した。外植片を毎週新しいCIMに移した。カルスが現れたとき、カルスを茎葉誘導培地(SIM;スクロース20gl-1、ミクロ栄養素及びマクロ栄養素を含むMS 4.4gl-1、寒天8gl-1、ゼアチン2mgl-1、IAA 0.1mgl-1、GA3 0.05mgl-1、植物選別用のグルホシネート3mgl-1、バンコマイシン100mg1-1及びセフォタキシム100mgl-1、pH5.8)に移した。最終的に、直径数cmの形成シュートを発根培地(RM;;スクロース20gl-1、ミクロ栄養素及びマクロ栄養素を含むMS 2.2gl-1、寒天8gl-1、バンコマイシン100mg1-1及びセフォタキシム100mgl-1、pH5.8)で発根させた。発根シュートを、鉢植えの土壌に温室に移した。
【0169】
結果
アグロバクテリウム形質転換から得られた発根植物について、PCRによって植物ゲノム中のCas9及びガイドRNA-1又はガイドRNA-2をコードするそれぞれのT-DNAの存在に関して遺伝子型決定を行った。この試験に陽性であった植物(トランスジェニック植物として本明細書では指示される)を、結実するまで生育した。これらの構築物のうちのいずれか1つを含む個々のカルスに由来する個々のトランスジェニック植物は、正常な生存可能なダークブラックグレーの種子を有し、かかる植物の一部は、異常なライトグレーの種子を有した(表2を参照されたい)。こういったライトグレーの種子は空であることが見いだされ、胚を欠き、生育不能であることがわかり、発芽しなかった。対照植物(T-DNAに陰性であるか、35S-GUS対照構築物で形質転換)は、同様の異常なライトグレーの種子を決して有さず、対照植物はすべて、肥沃なブラックグレーの種子を含む正常なシードヘッドを有した。次に、すべてのトランスジェニック植物について、Illumina MiSeq System上のガイドRNA-1標的ゲノムDNA領域のアンプリコンシーケンシングによって遺伝子型決定を行った。異常なライトグレーの種子を示したすべてのトランスジェニック植物は、単為生殖遺伝子に、より特には、gRNA-1が標的とするDNAのストレッチ内に、小欠失又は少挿入を有することが見いだされた。A68は三倍体植物である。他の2つの対立遺伝子上のこの遺伝子の配列を同定したが、配列番号10及び15によって本明細書では表される。これらの2つの対立遺伝子の配列は、Cas9/ガイドRNAがDSBを誘導するのに必要なPAM配列を欠く。
【0170】
正常な黒い種子を有したトランスジェニック植物はいずれも、遺伝子の配列に変化がなかった。表2に、観察された小欠失又は少挿入及びコード配列のタンパク質配列への翻訳に及ぼす影響をまとめており、
図1に、アンプリコンの多重整列を示す。
【0171】
配列番号5の遺伝子に小欠失を有するトランスジェニック植物について観察された結実については、アポミクティック表現型の喪失(アポミクシス喪失型又はLoAと本明細書で称される)、さらには単為生殖表現型の喪失(単為生殖喪失型又はLoP)の指標として解釈された。アポミクティック植物は優性Par対立遺伝子を常に有する。
【0172】
他家受粉の非存在下での三倍体タンポポの種子結実が高いことは、アポミクシスの明確な指標である。自家受粉は代替の説明として排除することができるが、その理由は、不均衡な三倍体の雄と雌の減数分裂に起因して、有性生殖した卵細胞と花粉粒は受精能が極めて低いことになるからである。Par対立遺伝子が欠失すると、LoPに、したがってLoAという結果となる。しかし、LoAは、他の発生プロセスの乱れによっても引き起こされる場合もある。したがって、LoP植物はLoA植物のサブセットであり、観察された表現型をLoP欠失表現型として同定するには、さらなる試験が必要である。
【0173】
観察されたライトグレーの種子表現型の性質をさらに調査するために、交配を行った。三倍体トランスジェニック植物におけるLoPを、三倍体トランスジェニックA68植物を有性FCH72二倍体植物からの単数体花粉と他家受粉することによって検出した。これら交配の種子を収集し、播種し、子孫の倍数性レベルをフローサイトメトリーによって測定した。均一に四倍体の子孫が見いだされ、このことは、LoA植物が複相胞子生殖型であり、種子繁殖が可能であるが、単為生殖を欠くことを示した。
【0174】
対照として、アポミクシス三倍体A68植物の種子を播種したが、これらはすべて三倍体であることが見いだされた。同じ播種で、ライトグレーの表現型を示すガイドRNA-1を含むT-DNAを有する種々の植物からの種子も取ったが、これらの種子で発芽が見られることは決してなかった(
図2)。FHC72との交配後の同様の発芽試験結果は、ガイドRNA-2を含むT-DNAを有し、粃の表現型を示す植物で予想される(発芽実験は実施しなかった)。まとめると、セイヨウタンポポA86は、単為生殖に必須である配列番号5の配列を有する優性Par対立遺伝子と、それぞれ、配列番号10及び15の配列を有する2つの劣性有性対立遺伝子を有すると結論付けられた。
【0175】
実施例2
単為生殖に必須な遺伝子を使用して、アポミクシスを伴わない又は単為生殖を伴わない植物に、単為生殖形質を移すことができる。単為生殖に必須な遺伝子若しくは配列番号5を有する遺伝子のコード配列又は相同遺伝子のいずれかを使用して、そのような単為生殖形質の移入を行うことができる。その天然プロモーター又は雌性配偶子特異的プロモーターによって駆動される、バイナリーベクターを、少なくとも配列番号5の遺伝子又は相同遺伝子を有するT-DNAで調製する。この遺伝子構築物を、アグロバクテリウム媒介形質転換によって、単為生殖のない植物、例えばレタス又はシロイヌナズナに形質転換する。導入遺伝子の存在について陽性と試験された植物を、単為生殖の発生について評価する。形質が優勢であるので、試験は一次形質転換植物(T0)で行う。単為生殖については、サリチル酸メチルで透徹化した胚珠のNomarski Differential Interference Microscopy(DIC)によって、顕微鏡的に非アポミクティック植物において検出することができる(Van Baarlenら 2002)。他家受精又は自家受精の非存在下では、単為生殖卵細胞は胚へと発生する。上述のT-DNAを宿す植物では、かかる胚の少なくともいくつかが見いだされる。
【0176】
植物材料
本実験では、野生型レタス:Iceberg型、レガシー、タキイ種苗株式会社及びRed Romaine型、Baker Creek Heirloom Seedsを使用した。
【0177】
DNA構築物
バイナリーベクターを、T-DNA領域上にコードした以下の成分で構築した;セイヨウタンポポのPar対立遺伝子CDS配列(配列番号3)の発現を駆動するシロイヌナズナのEC1.1プロモーター(Sprunkら 2012のように)とこれに続く3’UTRの最初の250塩基(配列番号4の最初の250塩基)、これに続く35Sターミネーター及び選別用ネオマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子(nptII)。このようなバイナリーベクターを作り出すのに適した技術は、ゲートウェイ(登録商標)、Golden Gate、又はギブソンアセンブリ(登録商標)である(例えば、Maら、2015を参照されたい)。このT-DNAを宿すトランスジェニック系統には、コードpKG10824で番号付けした。
【0178】
植物の形質転換法
アグロバクテリウムの形質転換を、アグロバクテリウム・ツメファシエンスを使用してレタスの遺伝子型非依存性形質転換によって実施した。かかる方法は当技術分野でよく知られており、例えばCurtisらに教示されている。Michelmoreら(1987)又はChupeauら(1989)に記載されているなどの、レタスの遺伝的形質転換に適した他の任意の方法を使用して、所望のT-DNAを宿す植物を作出してもよい。
【0179】
結果
上の「DNA構築物」のセクションの下で記載のように、導入遺伝子の存在について陽性と試験された植物を、単為生殖の発生について評価した。形質が優勢であるので、試験は一次形質転換植物(T0)で行った。他家受精又は自家受精の非存在下では、単為生殖卵細胞は胚へと発生する。導入遺伝子を宿す任意の植物の受精を防止するために、植物を温室で育成し、顕微鏡観察に先立ち、すべての花を手で除雄した。除雄については、花冠が生長する前に、総苞をクリップすることによって実行した。単為生殖については、透徹化した胚珠のNomarski Differential Interference Microscopy(DIC)によって、顕微鏡的に非アポミクティック植物において検出することができる。ここでは、抱水クロラールを使用した透徹化方法を適用した、これは、顕微鏡イメージング用に植物の胚珠を透徹化するのに一般に使用される方法である(例えばFranksら 2016)。除雄後75時間で、花芽を収穫し、抱水クロラールで胚珠を透徹化した。評価した7つのトランスジェニック系統すべてにおいて、複数の胚がこれらの透徹化胚珠中に観察された(これらの系統のうちの5つについてデータを示す表3を参照されたい)。
図3に、かかる観察された胚の例を示す。一部の単一胚珠では、複数の胚が観察された(多胚形成)。
図4に、観察された多胚形成の例を示す。しかし、多胚形成は単一胚よりもはるかに低い頻度で観察された。非除雄のトランスジェニック系統では、雄性配偶子形成が完了する前、したがって受精前に、胚をすでに観察することができた。また、これらの非除雄のトランスジェニック植物では、一部の稀な事例で多胚形成が観察された。非形質転換対照植物では、これは同一方法で除雄及び画像化されたものであるが、胚はまったく観察されなかった。
【0180】
【0181】
これらの結果が実証するところは、セイヨウタンポポのPar対立遺伝子の遺伝子がそれ自体でレタスの胚形成を誘導するのに十分であることである。このことは、他家受精又は自家受精の非存在下で、卵細胞が胚へと発生したように、セイヨウタンポポのPar対立遺伝子の遺伝子によりレタスにおいて単為生殖を誘導する、明確な例である。レタス相同体(配列番号22)を、同じ方法で植物の形質転換に使用する場合、例えば、レタスホモログ(配列番号22)をコードする配列の発現を駆動する(Sprunkら 2012におけるような)シロイヌナズナのEC1.1プロモーターを含むT-DNA領域を、35Sターミネーター及び選別用のネオマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子(nptII)と一緒に含むベクターで前記レタス植物を形質転換する場合、同様の結果が期待される。
【0182】
実施例3
配列番号5の遺伝子は、単為生殖及び非単為生殖の植物種において相同体を有する。かかるすべての配列を、5’及び3’調節配列を含めて、多重整列及びバリアントコールによって比較した。これは、配列番号5の遺伝子の単為生殖植物種バージョンでどの差異が専ら表されるかを決定するように行った。
【0183】
本発明者らは、開始コドンの102bp上流(3’)の距離にてPar対立遺伝子のプロモーター配列(配列番号2)中に、1335bpのミニチュア逆方向反復転位因子(MITE)配列又はMITE様(配列番号60によって本明細書では定義の)を同定したが、この配列は、有性カウンターパート(配列番号7及び12)では存在しないことが同定された。このMITE又はMITE様配列は、例をあげるとコード化したタンパク質の発現レベルの変化を担うことによって、単為生殖表現型を指示するとものと期待されるとともに、そういった単為生殖表現型の原因であるとすることができる。
【0184】
これらの単為生殖対立遺伝子の特異的多型、挿入又は欠失は、非単為生殖植物に、本発明の単為生殖遺伝子の有性対立遺伝子相同体の化学的突然変異誘発又は標的遺伝子編集によって導入することができる。例をあげると、PAR遺伝子のプロモーター配列を、タンポポ属対立遺伝子のプロモーター、すなわち配列番号2によって置き換えてもよく、上に示したように、タンポポ属Par対立遺伝子のMITE配列に相同な位置で非単為生殖植物のPAR遺伝子に、MITE配列を導入してもよい。こういった単為生殖対立遺伝子の特異的多型、挿入又は欠失を導入すると、植物は単為生殖形質を獲得することになる。単為生殖については、サリチル酸メチルで透徹化した胚珠のNomarski Differential Interference Microscopy(DIC)によって、顕微鏡的に非単為生殖植物において検出することができる(Van Baarlenら 2002)。他家受精又は自家受精の非存在下では、単為生殖卵細胞は胚へと発生する。上述の特異的多型、挿入又は欠失を宿す植物では、かかる胚の少なくともいくつかが見いだされる。
【0185】
実施例4
三倍体及び四倍体のタンポポ属アポミクトを、花粉ドナーとして二倍体のロシアタンポポ(Taraxacum koksaghyz)植物と交配した。花粉ドナー自体は、有性ロシアタンポポをアポミクティックゴムタンポポ(Taraxacum brevicorniculatum)花粉ドナーと交配することによって得た。したがって、アポミクシス遺伝子はゴムタンポポに由来した(Kirschnerら 2012)。三倍体後代植物を、PCRマーカーを使用して、Par対立遺伝子及び複相胞子生殖(Dip)対立遺伝子(国際公開第2017/039452A1号を参照されたい)の存在について、及びアポミクティック種子の生産について、試験した。アポミクティック種子結実を、他家受粉なしで三倍体植物上での生存可能な種子の生産として定義した。
【0186】
プライマーDIP_F(配列番号33)及びDIP_R(配列番号34)を、Dip対立遺伝子を特異的に増幅するために複相胞子生殖遺伝子VPS13上で設計した。これらのプライマーを使用すると、Dip対立遺伝子が存在するとPCR 829bpのPCR産物がもたらされ、一方、この対立遺伝子が存在しないとPCR産物はもたらされなかった。
【0187】
プライマーPAR_F(配列番号35)及びPAR_R(配列番号36)を、Par、par1、及びpar2対立遺伝子のうちのいずれか1つを増幅するために、配列番号2及び配列番号4上で設計した。表4に示すように、Par対立遺伝子の存在はPCR産物の長さによって区別することができた。
【0188】
【0189】
下に本明細書で報告する表5に示すように、56の後代植物を試験し、Par対立遺伝子の存在と単為生殖の間に100%の相関関係が観察された。アポミクティック種子を生産し且つDIP及びPARのマーカーが陰性である植物は、観察されなかった。
【0190】
【0191】
したがって、セイヨウタンポポのPar遺伝子座から開発したマーカーは、異なる種ゴムタンポポにおける単為生殖の存在も同定し、この存在は、Par対立遺伝子が単為生殖を引き起こすことのさらなる証明である、と結論付けることができる。
【0192】
実施例5
アポミクティックA68のガンマ線照射欠失集団の構築
クローンA68からの概3×2000の種子を、異なる3線量:3分の1を250Gy、3分の1を300Gy及び3分の1を400Gy、でガンマ線照射した。照射種子からの合計3075の植物を温室の鉢で育成した。10℃未満で2か月の春化処理期間の後、植物を加温温室で再度育成した。植物のうちの90%超が開花し、種子を生産した。植物は、アポミクシス喪失型表現型(LoA)を示すか否かで分類した。アポミクシスA68植物は自発的に種子を生産し、暗褐色の中心部を有する、白色で大きいシードヘッドを形成し、そこでは、種子(痩果:1つの種子を持つ果実)が花托に付着する。アポミクシス喪失型表現型では、シードヘッドの中心部はより軽く、多くの場合、シードヘッドは直径が減少する。最終的に102の植物を、アポミクシス喪失型表現型を有すると同定した。
【0193】
単回投与優性マーカーを、Wuら(1992)の方法を使用して、同質倍数体植物にマッピングすることができる。Par遺伝子座に連結したAFLPマーカー(Vosら 1995)を見いだすために、分離群解析アプローチを使用した(Michelmoreら 1991)。対照的な2つのDNAプール、10の三倍体PAR植物からのDNAによるプールAと10の三倍体非PAR植物からのDNAによるプールBを構築したが、すべてTJX3-20(二倍体有性)×A68の交配からの後代である。非Par植物を、Nomarski DIC顕微鏡を使用して、単為生殖の非存在について注意深く表現型決定した(Van Baarlenら 2002)。Parプールの場合、アポミクティック植物を使用した。147個のAFLPプライマー組合せ(Vosら 1995)を、プールAでは断片の存在について、プールBでは断片の非存在についてスクリーニングした。両プール中の対照的な断片について両プールからの個体で検証した。17個のAFLPマーカーを使用して、TJX3-20×A68交配(76植物)に基づいてPar-遺伝子座染色体領域の遺伝子マップを構築した。17個のAFLPマーカーのうち14個を、Par表現型とともに厳密に同時分離した。これは、Par遺伝子座近傍での組換えの抑制の指標である。
【0194】
3つの相同染色体のうちの1つが部分的に欠失されると、欠失領域に位置する単回投与AFLPマーカーが喪失することになる。LoA植物のAFLP解析は、いくつかのLoA植物がPar遺伝子座に遺伝子的に連結した1つ又は複数のAFLPマーカーを喪失していたことを示した。Par連結AFLPマーカーを欠いたLoA植物によって、二倍体の花粉ドナーと交配した後、四倍体の子孫が作出された。このことは、これらのLoA植物は、アポミクシス表現型を喪失していたが、依然として複相胞子生殖型であり、非減数卵細胞を生産したことを示した。これらのLoA植物は、それらが欠いたParの遺伝子的連結AFLPマーカーの数に基づいてランク付けすることができた。喪失AFLPマーカーの数は、欠失のサイズの指標である。LoA植物で最も頻繁に喪失したAFLPマーカーは、Par遺伝子座に最も近いと考えられた。植物i34は、最も少ないPAR連結AFLPマーカーを喪失しており、したがって、最も小さい欠失を有すると考えられた。
【0195】
実施例6
アポミクトタンポポ属植物対Par欠失及び有性植物における大配偶体中のPar遺伝子の遺伝子型及び対立遺伝子特異的発現
配偶体の様々な発生段階からの細胞と組織を、Wuestら(2010)及びFlorez-Ruedaら(2020)に記載のように、組織を切断するために固体UV-Aレーザー(波長概350nm)を使用するSL μCut機器を使用して(2001、Medical Micro Instruments、Glattbrugg、スイス)、レーザー支援マイクロダイセクション(LAM)によって分離した。続いて、トランスクリプトーム解析を実行した。製造元(Thermo Fisher Scientific)の取扱説明書に従ってピコピュア(PicoPure)(商標)RNA分離キットを使用して、RNAを抽出した。試料間の当初の発現の差異を維持するために、DNAへの逆転写後に、Hashimshonyら(2012)及びHashimshonyら(2016)に記載のように、CEL-seq及びCEL-seq2のプロトコルを使用してmRNAを線形増幅した。
【0196】
3つの植物系統を比較した:1.オランダに起源を持つ三倍体アポミクトA68(省略形:APO)、2.三倍体欠失系統i34(A68に由来するPAR欠失系統、上の実施例5を参照されたい)と二倍体花粉ドナーFCH72との交配からの四倍体PAR欠失子孫(省略形:DEL)及び3.フランスに起源を持つ二倍体有性植物FCH72(省略形:SEX)。
【0197】
植物系統毎に、異なる5つの発生段階/組織タイプをサンプリングした(表6)。非常に若い段階の場合、単一試料を解析した。成熟胚嚢から、中央細胞と卵母細胞装置(卵細胞と助細胞)を3回重複でサンプリングした。まとめると、これらは、植物系統毎に9試料を表す(表6)。
【0198】
【0199】
線形増幅DNAを、Illumina Hiseqプラットフォームで配列決定した。個々のリードをPar遺伝子の配列にマッピングした(
図5)。Par遺伝子の発現は、PAR欠失又はSEX植物(すべての段階及び組織)のいずれにも検出されなかった。APO系統では、Par遺伝子に特異的なリードが、卵細胞装置及び中央細胞の両方で、成熟配偶体のすべての試料で見いだされた。一部の転写リードが、アポミクトのより若い発生段階のうちの1つでも検出された。この方法の3’末端増幅バイアスにより、ほとんどのリードがコード配列の3’末端と遺伝子の3’-UTRにマッピングされた。
【0200】
したがって、Par遺伝子は、アポミクトの7つの試料で発現するが、一方、同等の発生状態である、欠失系統の7つの試料でも有性系統の7つの試料でも発現しない。このことのよって、中央細胞及び卵細胞装置における遺伝子の異所性発現が、卵細胞停止の喪失、及びその結果として、胚の単為生殖的発生の原因であることが、さらに強調されている。
【0201】
実施例3にも示されているように、これらの細胞のアポミクトにおけるPar遺伝子の発現は、おそらくプロモーター領域のMITE配列の影響に起因して、有性の場合のようには抑制することができない。MITEは大きいので、Par遺伝子の転写因子の結合を物理的に妨げる可能性がある。
【0202】
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