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特表2022-533900神経変性疾患、タンパク質ミスフォールディングに関連する障害及び認知機能低下の予防及び/又は治療のためのドナリエラ藻類製剤
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-27
(54)【発明の名称】神経変性疾患、タンパク質ミスフォールディングに関連する障害及び認知機能低下の予防及び/又は治療のためのドナリエラ藻類製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/05 20060101AFI20220720BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20220720BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20220720BHJP
   A61P 25/14 20060101ALI20220720BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20220720BHJP
   A61P 25/02 20060101ALI20220720BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20220720BHJP
【FI】
A61K36/05
A61P25/28
A61P25/16
A61P25/14
A61P21/00
A61P25/02
A61P25/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021560202
(86)(22)【出願日】2020-04-01
(85)【翻訳文提出日】2021-11-22
(86)【国際出願番号】 IL2020050393
(87)【国際公開番号】W WO2020202152
(87)【国際公開日】2020-10-08
(31)【優先権主張番号】62/827,308
(32)【優先日】2019-04-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510077842
【氏名又は名称】テル ハショメール メディカル リサーチ インフラストラクチャ アンド サービシーズ リミテッド
(71)【出願人】
【識別番号】399127603
【氏名又は名称】株式会社日健総本社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】シャイシュ,アビブ
(72)【発明者】
【氏名】ハラツ,ドロール
(72)【発明者】
【氏名】ビーリ,マイケル
(72)【発明者】
【氏名】ルビッツ,イリット
【テーマコード(参考)】
4C088
【Fターム(参考)】
4C088AA15
4C088AC01
4C088MA43
4C088MA52
4C088NA14
4C088ZA02
4C088ZA15
4C088ZA16
4C088ZA18
4C088ZA22
4C088ZA94
(57)【要約】
本発明は、神経保護製剤、具体的には、神経変性障害、タンパク質ミスフォールディング及び認知機能低下の治療及び予防におけるドナリエラ藻類製剤及びその使用を提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それを必要とする対象における、神経変性疾患、タンパク質ミスフォールディングに関連する障害、認知機能低下、及びそれらに関連する任意の病態又は症状の少なくとも1つの発生を予防し、治療し、寛解させ、低下させ、又は遅延させるための方法であって、少なくとも1つのドナリエラ藻類製剤又はそれを含む任意の組成物を有効量で前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項2】
それを必要とする対象における神経変性疾患、タンパク質ミスフォールディングに関連する障害及び認知機能低下の少なくとも1つに関連する少なくとも1つの病態又は症状の寛解又は低下をもたらす、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記病態又は症状が、短期記憶障害、長期記憶障害、認知機能障害、学習機能障害、βアミロイド沈着、不安、抑うつ、又はそれらの任意の組み合わせの少なくとも1つである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
それを必要とする対象における認知機能、短期記憶、長期記憶、捕捉時間及びβアミロイドの排除の少なくとも1つの改善をもたらす、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記神経変性疾患が、アルツハイマー病、パーキンソン病、軽度認知障害(MCI)、MCIを伴うパーキンソン病、ハンチントン病、レビー小体病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、プリオン病、運動ニューロン疾患(MND)、脊髄小脳失調(SCA)、脊髄性筋萎縮(SMA)、フリートライヒ運動失調症、及び任意の他の神経変性関連認知症又は運動失調の少なくとも1つである、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記神経変性疾患がアルツハイマー病である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
認知機能低下の発症を予防し、治療し、寛解させ、低下させ、又は遅延させるためである、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記ドナリエラ(Dunaliella)藻類がドナリエラ・バーダウィル(Dunaliella bardawil)である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記ドナリエラ藻類製剤が経口的に投与される、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
それを必要とする対象における神経変性疾患、タンパク質ミスフォールディングに関連する障害、認知機能低下、及びそれらに関連する任意の病態又は症状の少なくとも1つの発生を予防し、治療し、寛解させ、低下させ、又は遅延させるための方法における使用を意図した少なくとも1つのドナリエラ藻類製剤又はそれを含む任意の組成物。
【請求項11】
前記方法により、それを必要とする対象における神経変性疾患、タンパク質ミスフォールディングに関連する障害、及び認知機能低下の少なくとも1つに関連する少なくとも1つの症状の寛解又は低下がもたらされる、請求項10に記載の使用を意図した少なくとも1つのドナリエラ藻類製剤又はそれを含む任意の組成物。
【請求項12】
前記症状が、短期記憶障害、長期記憶障害、認知機能障害、学習機能障害、βアミロイド沈着、不安、抑うつ又はそれらの任意の組み合わせの少なくとも1つである、請求項11に記載の使用を意図した少なくとも1つのドナリエラ藻類製剤又はそれを含む任意の組成物。
【請求項13】
前記方法が、それを必要とする対象における認知機能、短期記憶、長期記憶、捕捉時間及びβアミロイドの排除の少なくとも1つの改善をもたらす、請求項10~12のいずれか一項に記載の使用を意図した少なくとも1つのドナリエラ藻類製剤又はそれを含む任意の組成物。
【請求項14】
前記神経変性疾患が、アルツハイマー病、パーキンソン病、軽度認知障害(MCI)、MCIを伴うパーキンソン病、ハンチントン病、レビー小体病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、プリオン病、運動ニューロン疾患(MND)、脊髄小脳失調(SCA)、脊髄性筋萎縮(SMA)、フリートライヒ運動失調症、及び任意の他の神経変性関連認知症又は運動失調の少なくとも1つである、請求項10~13のいずれか一項に記載の使用を意図した少なくとも1つのドナリエラ藻類製剤又はそれを含む任意の組成物。
【請求項15】
前記神経変性疾患がアルツハイマー病である、請求項14に記載の使用を意図した少なくとも1つのドナリエラ藻類製剤又はそれを含む任意の組成物。
【請求項16】
認知機能低下の発症を予防し、治療し、寛解させ、低下させ、又は遅延させるためである、請求項10~13のいずれか一項に記載の使用を意図した少なくとも1つのドナリエラ藻類製剤又はそれを含む任意の組成物。
【請求項17】
前記ドナリエラ(Dunaliella)藻類がドナリエラ・バーダウィル(Dunaliella bardawil)である、請求項10~16のいずれか一項に記載の使用を意図した少なくとも1つのドナリエラ藻類製剤又はそれを含む任意の組成物。
【請求項18】
前記ドナリエラ藻類製剤が経口的に投与される、請求項10~17のいずれか一項に記載の使用を意図した少なくとも1つのドナリエラ藻類製剤又はそれを含む任意の組成物。
【請求項19】
それを必要とする対象における短期記憶障害、長期記憶障害、認知機能障害、学習機能障害、βアミロイド沈着の少なくとも1つを改善するための方法であって、少なくとも1つのドナリエラ藻類製剤又はそれを含む任意の組成物を有効量で前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項20】
前記ドナリエラ藻類製剤又はその任意の組成物が、神経変性疾患を患う対象における認知機能、短期記憶、長期記憶、捕捉時間及びβアミロイドの排除の少なくとも1つを改善する、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記神経変性疾患が、アルツハイマー病、パーキンソン病、軽度認知障害(MCI)、MCIを伴うパーキンソン病、ハンチントン病、レビー小体病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、プリオン病、運動ニューロン疾患(MND)、脊髄小脳失調(SCA)、脊髄性筋萎縮(SMA)、フリートライヒ運動失調症、及び任意の他の神経変性関連認知症又は運動失調の少なくとも1つである、請求項19~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記神経変性疾患がアルツハイマー病である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記ドナリエラ(Dunaliella)藻類がドナリエラ・バーダウィル(Dunaliella bardawil)である、請求項19~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記ドナリエラ藻類製剤が経口的に投与される、請求項19~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
それを必要とする対象における短期記憶障害、長期記憶障害、認知機能障害、学習機能障害、βアミロイド沈着の少なくとも1つを改善するための方法における使用を意図した少なくとも1つのドナリエラ藻類製剤又はそれを含む任意の組成物。
【請求項26】
それを必要とする対象における神経変性疾患、タンパク質ミスフォールディングに関連する障害、認知機能低下、及びそれらに関連する任意の病態又は症状の少なくとも1つの発生を予防し、治療し、寛解させ、低下させ、又は遅延させるための組成物の製造における少なくとも1つのドナリエラ藻類製剤の使用。
【請求項27】
前記組成物が、それを必要とする対象における神経変性疾患、タンパク質ミスフォールディングに関連する障害、及び認知機能低下の少なくとも1つに関連する少なくとも1つの症状を寛解又は低下させる、請求項26に記載の使用。
【請求項28】
前記症状が、短期記憶障害、長期記憶障害、認知機能障害、学習機能障害、βアミロイド沈着、不安、抑うつ又はそれらの任意の組み合わせの少なくとも1つである、請求項27に記載の使用。
【請求項29】
前記組成物が、それを必要とする対象における認知機能、短期記憶、長期記憶、捕捉時間及びβアミロイドの排除の少なくとも1つを改善する、請求項26~28のいずれか一項に記載の使用。
【請求項30】
前記神経変性疾患が、アルツハイマー病、パーキンソン病、軽度認知障害(MCI)、MCIを伴うパーキンソン病、ハンチントン病、レビー小体病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、プリオン病、運動ニューロン疾患(MND)、脊髄小脳失調(SCA)、脊髄性筋萎縮(SMA)、フリートライヒ運動失調症、及び任意の他の神経変性関連認知症又は運動失調の少なくとも1つである、請求項26~29のいずれか一項に記載の使用。
【請求項31】
前記神経変性疾患がアルツハイマー病である、請求項30に記載の使用。
【請求項32】
認知機能低下の発生を予防し、治療し、寛解させ、低下させ、又は遅延させるためである、請求項26~31のいずれか一項に記載の使用。
【請求項33】
前記ドナリエラ(Dunaliella)藻類がドナリエラ・バーダウィル(Dunaliella bardawil)である、請求項26~32のいずれか一項に記載の使用。
【請求項34】
前記ドナリエラ藻類製剤が経口的に投与される、請求項26~33のいずれか一項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、神経保護製剤に関する。より具体的には、本発明は、神経変性障害、タンパク質ミスフォールディング及び認知機能低下の治療及び予防におけるドナリエラ藻類製剤及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
背景技術
ここで開示される主題に対する背景として適切と考えられる参考文献が以下に列記される。
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[4] Ono, K. et al., Exp. Neurol. 2004, 189(2): 380-92.
[5] Johnson, E.J., et al. J Aging Res. 2013, 2013: 951786
[6] Bastien, J. Gene. 2004, 328: 1-16. Review.
[7] Levin, A.A. et al., Nature 1992, 355: 359-361.
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[31] Moscovitch, M. et al. J Anat. 2005 207(1): 35-66.
[32] Ohno, M. et al., Neuron. 2004, 41(1): 27-33.
【0003】
本明細書中の上の参考文献への承認は、これらがここで開示される主題の特許性に対して間違いなく適切であるという意味として推測されるべきでない。
【0004】
発明の背景
アルツハイマー病(AD)は、特に脳細胞の損傷及び最終的な破壊が著明であり、記憶喪失並びに認知及び他の脳機能における変化をもたらす進行性神経変性疾患である。ADは、主に高齢者集団(65歳超)の中で起こり、それは認知症の最も一般的な形態であり、認知症症例の60%~80%を占める[1]。
【0005】
ADの主な組織学的特徴は、老人斑(neurotic plaques)(βアミロイド,Aβ)、神経原線維変化(タウタンパク質)、神経血管機能障害に加え、新皮質、海馬及び脳の他の皮質下領域におけるニューロン及びシナプスの喪失である。
【0006】
アミロイドカスケード仮説では、ADにおける神経変性が脳の様々な領域内でのAβ斑の異常な蓄積によって引き起こされることが仮定される。脳におけるこのAβの老人斑蓄積は、Aβの生成と排除との間の不均衡から生じることが仮定されている[2]。さらに、少数のAD症例(<1%)である家族性AD(早期発症型)は、Aβ生成の増加に関連する遺伝子突然変異に関連づけられる[3]。したがって、現在、AD症例の大半がAβの脳からの不完全な排除に起因する場合がある孤発性(遅発症)症例であることが認められている。
【0007】
レチノール及びβカロチンがアミロイドβの形成を潜在的に阻害することが示唆されている[4]。それ故、レチノイドがアミロイドβの形成を調節する機構を理解することは、アルツハイマー病の予防及び治療にとって有望な治療法を開発する場合に重要である。
【0008】
脳カロチノイドは、いくつかの先行試験において、ADにおいて冒される主要な機能である記憶に関連づけられている[5]。βカロチンから切断された一部の異性体が認知に影響し、ひいてはADにおける役割を有することがある一方で、認知に対する効果を有しない他の異性体が前者の有益な効果に干渉するか又はそれを低下させることを示唆する知見がある。βカロチンの産物であるレチノイン酸(RA)は、レチノイドX受容体(RXR)及びレチノイン酸受容体(RAR)のリガンドである2つの主な異性体:9-シスRA及びオールトランスRAを有する[6]。RAR(レチノイン酸受容体)が9-シスRA及びオールトランスRAにより活性化される一方で、RXR(レチノイドX受容体)は専ら9-シスRAにより活性化される[7]。RXRは、RARなどの他の核内受容体とヘテロ二量体を形成し、遺伝子発現を調節するための特異的なDNA配列に結合するリガンド活性化核内受容体である。特にADの脆弱な領域内で発現されるRXR/RARヘテロ二量体[8]は、脳アポリポタンパク質E(apoE)及びコレステロールトランスポーター(例えば、コレステロール流出調節タンパク質(CERP)としても知られる、ATP結合カセットトランスポーター(ABCA1)(ヒトトランスポーターサブファミリーABCAのメンバー1)及びATP結合カセットサブファミリーGメンバー1(ABCG1))の発現を誘導し、コレステロールセンサとして作用し、且つapoE依存性の様式でアミロイドβの細胞取り込みを減少させる[9]。
【0009】
したがって現在、レチノイドシグナル伝達がRAR及びRXRのリガンド活性化によりAD病理の発現に影響することが認められている[10]。APP/PS1トランスジェニックマウスでは、レチノイドは、ADの症状を改善し、アミロイド蓄積及びタウ過剰リン酸化を減少させた[11]。
【0010】
先行試験では、マウスにおけるグローバルなABCA1発現を増強する、LXR及びRXRリガンドによる処置により、アミロイド病理が有意に寛解することが示されている[12]。国際公開第2018/091937号[13]は、RXRリガンド前駆体、並びに中枢神経系疾患、末梢神経系疾患、及び記憶及び学習機能障害の治療におけるその使用にも関する。
【0011】
さらに、RXRアゴニストのベキサロテンが、ABCA1発現の誘導を介して、またADマウスモデルにおけるマウスapoEレベルを増加させることにより、アミロイドβ排除を増強することが示されている。しかし、上のベキサロテン試験において示された刺激的な結果にもかかわらず、この薬剤が異なる他のAZ動物モデルにおける斑負荷に対する影響を有しないことが報告された[14,15]。その上、ベキサロテンが予想された認知機能上の利益を提供しないことがさらに示されている[16]。さらに、ベキサロテンは、高度に細胞傷害性であることが示された。
【0012】
さらに、Grodstein,F.et al.による論文[17]は、明らかに特定の結論をもたらさなかった、男性におけるβカロチン補給及び認知機能の無作為化試験に関する。したがって、神経保護におけるβカロチンの役割及び神経変性障害の治療におけるその潜在的使用は、議論の余地がある。
【0013】
最終的に、塩化アルミニウムによって誘導された、AZのラットモデルにおけるドナリエラ・サリナ(Dunaliella salina)抽出物の効果についても記載がなされた[18,19]。筆者は、ドナリエラ・サリナ(Dunaliella salina)抽出物の生物学的活性が、9-シスβカロチンによって調節され、ADラットにおいて酸化ストレスから脳細胞を保護することがあると結論づけている。これらの結論は、いくつかの生化学的パラメータ、例えば、カルモデュリン(CaM)レベル、パラオキソナーゼ1(PON1)活性、抗アポトーシスマーカー(Bcl2)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、DNA付加物の生成、並びにADラットにおけるアミロイド前駆体タンパク質、β部位APP切断酵素1(BACE1)、及びβ部位APP切断酵素2(BACE2)の発現における改変といった試験に基づいた。しかし、使用されたADラットモデルのタイプ(塩化アルミニウム)、より重要には行動試験の欠如が、さらなる研究を保証する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
したがって、当該技術分野では、神経変性プロセスの行動パラメータに対して有意な予防及び治療効果を示す、最小の副作用を有する有効な治療組成物、並びにそのようなものとして神経変性及びタンパク質ミスフォールディング障害に対する治療的及び予防的適用が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
発明の概要
その態様の第1により、本開示は、それを必要とする対象における神経変性疾患、タンパク質ミスフォールディングに関連する障害、認知機能低下、及びそれらに関連する任意の病態又は症状の少なくとも1つの発生を予防し、治療し、寛解させ、低下させ、又は遅延させる方法であって、少なくとも1つのドナリエラ藻類製剤又はそれを含む任意の組成物を有効量で対象に投与することを含む方法を提供する。
【0016】
いくつかの実施形態では、本開示による方法は、それを必要とする対象における神経変性疾患、タンパク質ミスフォールディングに関連する障害及び認知機能低下の少なくとも1つに関連する少なくとも1つの症状の寛解又は低下をもたらす。
【0017】
他の実施形態では、本開示による方法において、症状は、短期記憶障害、長期記憶障害、認知機能障害、学習機能障害、βアミロイド沈着、不安、抑うつ、又はそれらの任意の組み合わせの少なくとも1つである。
【0018】
さらなる実施形態では、本開示による方法は、それを必要とする対象における認知機能、短期記憶、長期記憶、捕捉時間及びβアミロイドの排除の少なくとも1つの改善をもたらす。
【0019】
さらなる実施形態では、本開示による方法において、神経変性疾患は、アルツハイマー病、パーキンソン病、軽度認知障害(MCI)、MCIを伴うパーキンソン病、ハンチントン病、レビー小体病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、プリオン病、運動ニューロン疾患(MND)、脊髄小脳失調(SCA)、脊髄性筋萎縮(SMA)、フリートライヒ運動失調症、及び任意の他の神経変性関連認知症又は運動失調の少なくとも1つである。
【0020】
具体的な実施形態では、本開示による方法において、神経変性疾患は、アルツハイマー病である。
【0021】
他の実施形態では、本開示による方法は、認知機能低下の発症を予防し、治療し、寛解させ、低下させ、又は遅延させることを意図する。
【0022】
特定の実施形態では、本開示による方法において、ドナリエラ(Dunaliella)藻類は、ドナリエラ・バーダウィル(Dunaliella bardawil)である。
【0023】
さらなる具体的な実施形態では、本開示による方法において、ドナリエラ藻類製剤は、経口的に投与される。
【0024】
その態様のもう一つにより、本開示は、それを必要とする対象における神経変性疾患、タンパク質ミスフォールディングに関連する障害、認知機能低下、及びそれらに関連する任意の病態又は症状の少なくとも1つの発生を予防し、治療し、寛解させ、低下させ、又は遅延させるための方法における使用を意図した、少なくとも1つのドナリエラ藻類製剤又はそれを含む任意の組成物を提供する。
【0025】
いくつかの実施形態では、本開示による使用を意図した少なくとも1つのドナリエラ藻類製剤又はそれを含む任意の組成物において、該方法は、それを必要とする対象における神経変性疾患、タンパク質ミスフォールディングに関連する障害、及び認知機能低下の少なくとも1つに関連する少なくとも1つの症状の寛解又は低下をもたらす。
【0026】
他の実施形態では、本開示による使用を意図した少なくとも1つのドナリエラ藻類製剤又はそれを含む任意の組成物において、症状は、短期記憶障害、長期記憶障害、認知機能障害、学習機能障害、βアミロイド沈着、不安、抑うつ又はそれらの任意の組み合わせの少なくとも1つである。
【0027】
さらなる実施形態では、本開示による使用を意図した少なくとも1つのドナリエラ藻類製剤又はそれを含む任意の組成物において、該方法は、それを必要とする対象における認知機能、短期記憶、長期記憶、捕捉時間及びβアミロイドの排除の少なくとも1つの改善をもたらす。
【0028】
さらなる実施形態では、本開示による使用を意図した少なくとも1つのドナリエラ藻類製剤又はそれを含む任意の組成物において、神経変性疾患は、アルツハイマー病、パーキンソン病、軽度認知障害(MCI)、MCIを伴うパーキンソン病、ハンチントン病、レビー小体病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、プリオン病、運動ニューロン疾患(MND)、脊髄小脳失調(SCA)、脊髄性筋萎縮(SMA)、フリートライヒ運動失調症、及び任意の他の神経変性関連認知症又は運動失調の少なくとも1つである。
【0029】
具体的な実施形態では、本開示による使用を意図した少なくとも1つのドナリエラ藻類製剤又はそれを含む任意の組成物において、神経変性疾患は、アルツハイマー病である。
【0030】
他の具体的な実施形態では、本開示による使用を意図した少なくとも1つのドナリエラ藻類製剤又はそれを含む任意の組成物は、認知機能低下の発生を予防し、治療し、寛解させ、低下させ、又は遅延させるためである。
【0031】
さらなる具体的な実施形態では、本開示による使用を意図した少なくとも1つのドナリエラ藻類製剤又はそれを含む任意の組成物において、ドナリエラ(Dunaliella)藻類は、ドナリエラ・バーダウィル(Dunaliella bardawil)である。
【0032】
様々な他の実施形態では、本開示による使用を意図した少なくとも1つのドナリエラ藻類製剤又はそれを含む任意の組成物において、ドナリエラ藻類製剤は、経口的に投与される。
【0033】
さらにいくつかのさらなる態様では、本発明は、それを必要とする対象における短期記憶障害、長期記憶障害、認知機能障害、学習機能障害、βアミロイド沈着の少なくとも1つを改善するための方法を提供する。いくつかの実施形態では、本発明の方法は、少なくとも1つのドナリエラ藻類製剤又はそれを含む任意の組成物を有効量で対象に投与するステップを含む。
【0034】
さらなる実施形態では、本開示による方法は、それを必要とする対象における認知機能、短期記憶、長期記憶、捕捉時間及びβアミロイドの排除の少なくとも1つの改善をもたらす。
【0035】
他の実施形態では、本開示による方法は、認知機能低下の発生を予防し、治療し、寛解させ、低下させ、又は遅延させるためである。
【0036】
特定の実施形態では、本開示による方法において、ドナリエラ(Dunaliella)藻類は、ドナリエラ・バーダウィル(Dunaliella bardawil)である。
【0037】
さらなる具体的な実施形態では、本開示による方法において、ドナリエラ藻類製剤は、経口的に投与される。
【0038】
さらなる態様では、本開示は、それを必要とする対象における短期記憶障害、長期記憶障害、認知機能障害、学習機能障害、βアミロイド沈着の少なくとも1つを改善するための方法における使用を意図した、少なくとも1つのドナリエラ藻類製剤又はそれを含む任意の組成物をさらに提供する。
【0039】
その態様のさらにもう一つにより、本開示は、それを必要とする対象における神経変性疾患、タンパク質ミスフォールディングに関連する障害、認知機能低下、及びそれらに関連する任意の病態又は症状の少なくとも1つの発生を予防し、治療し、寛解させ、低下させ、又は遅延させるための組成物の製造における少なくとも1つのドナリエラ藻類製剤の使用を提供する。
【0040】
いくつかの実施形態では、本開示による使用において、組成物は、それを必要とする対象における神経変性疾患、タンパク質ミスフォールディングに関連する障害、及び認知機能低下の少なくとも1つに関連する少なくとも1つの症状を寛解又は低下させる。
【0041】
他の実施形態では、本開示による使用において、症状は、短期記憶障害、長期記憶障害、認知機能障害、学習機能障害、βアミロイド沈着、不安、抑うつ又はそれらの任意の組み合わせの少なくとも1つである。
【0042】
さらなる実施形態では、本開示による使用において、組成物は、それを必要とする対象における認知機能、短期記憶、長期記憶、捕捉時間及びβアミロイドの排除の少なくとも1つを改善する。
【0043】
さらなる実施形態では、本開示による使用において、神経変性疾患は、アルツハイマー病、パーキンソン病、軽度認知障害(MCI)、MCIを伴うパーキンソン病、ハンチントン病、レビー小体病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、プリオン病、運動ニューロン疾患(MND)、脊髄小脳失調(SCA)、脊髄性筋萎縮(SMA)、フリートライヒ運動失調症、及び任意の他の神経変性関連認知症又は運動失調の少なくとも1つである。
【0044】
特定の実施形態では、本開示による使用において、神経変性疾患は、アルツハイマー病である。
【0045】
他の具体的な実施形態では、本開示による使用は、認知機能低下の発生を予防し、治療し、寛解させ、低下させ、又は遅延させるためである。
【0046】
さらなる実施形態では、本開示による使用において、ドナリエラ(Dunaliella)藻類は、ドナリエラ・バーダウィル(Dunaliella bardawil)である。
【0047】
さらなる具体的な実施形態では、本開示による使用において、ドナリエラ藻類製剤は、経口的に投与される。
【0048】
図面の簡単な説明
本明細書で開示される主題をより十分に理解し、それが実際にいかにして実施されてもよいかを例証するため、ここで実施形態は、あくまで非限定例を通じて、以下の説明される添付の図面を参照して記載されることになる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
図1】指定された時間枠での野生型(WT)及びTg2576(Tg)マウスの体重(gr.)に対する本発明のドナリエラ藻類製剤による治療の効果を示すグラフ。t検定は、本発明のドナリエラ藻類製剤が与えられたWTマウス(WT Duna.Prep.)と通常食が与えられたWTマウス(WT対照)との有意差を示した(p<0.05)。値は、平均±平均値の標準誤差である。略称:Tg,Tg2576;WT,野生型;Duna.Prep.,本発明のドナリエラ藻類製剤。
図2A】オープンフィールド試験に参加したWT及びTg2576マウスにおいて測定された行動パラメータに対する本発明のドナリエラ藻類製剤による治療の効果を示す棒グラフ。全経路を表す棒グラフである。二元分散分析及び事後検定は、遺伝子型の有意な効果を示した(p<0.05)。値は平均±平均値の標準誤差である。略称:Tg,Tg2576;WT,野生型;Duna.Prep.,本発明のドナリエラ藻類製剤。
図2B】オープンフィールド試験に参加したWT及びTg2576マウスにおいて測定された行動パラメータに対する本発明のドナリエラ藻類製剤による治療の効果を示す棒グラフ。細胞使用の百分率を表す棒グラフである。値は平均±平均値の標準誤差である。略称:Tg,Tg2576;WT,野生型;Duna.Prep.,本発明のドナリエラ藻類製剤。
図2C】オープンフィールド試験に参加したWT及びTg2576マウスにおいて測定された行動パラメータに対する本発明のドナリエラ藻類製剤による治療の効果を示す棒グラフ。活動領域内のマウス移動時間の百分率を表す棒グラフである。値は平均±平均値の標準誤差である。略称:Tg,Tg2576;WT,野生型;Duna.Prep.,本発明のドナリエラ藻類製剤。
図2D】オープンフィールド試験に参加したWT及びTg2576マウスにおいて測定された行動パラメータに対する本発明のドナリエラ藻類製剤による治療の効果を示す棒グラフ。活動領域中央においてマウスが費やした時間を表す棒グラフである。二元分散分析は、遺伝子型の有意な効果を示した(p<0.05)。値は平均±平均値の標準誤差である。略称:Tg,Tg2576;WT,野生型;Duna.Prep.,本発明のドナリエラ藻類製剤。
図3】Y迷路試験におけるWT及びTg2576マウスの交代百分率に対するドナリエラ藻類製剤治療の効果を示す棒グラフ(n=6~10)。値は平均±平均値の標準誤差である。略称:Tg,Tg2576;WT,野生型;Duna.Prep.,本発明のドナリエラ藻類製剤。
図4】バーンズ迷路試験におけるWT及びTg2576マウスの空間学習に対するドナリエラ藻類製剤治療の効果を示す棒グラフ。黒カラムは、最終訓練試験の24時間後(1日目)の参照記憶を表し、白カラムは、最終訓練試験の7日後(7日目)の長期保持を表す。二元分散分析及び事後検定は、7日目のTg2576 Duna.Prep.とTg2576対照との間の有意差を示した(p<0.05)。値は平均±平均値の標準誤差である。略称:Tg,Tg2576;WT,野生型;Duna.Prep.,本発明のドナリエラ藻類製剤。
図5A】インビトロ血液脳関門(BBB)細胞培養系の模式図。モデルは、微孔性膜フィルター培養インサート上で成長されるタイトジャンクションを形成する単層の内皮細胞(管腔側)及びフィルターの反管腔側に播種されたグリア細胞から構成される。健常ボランティアからの低密度リポタンパク質(LDL、100μl 1,600μg/ml)が管腔側に添加される。細胞が24時間インキュベートされ、次いでサンプルが管腔側及び反管腔側から収集され、分析される。
図5B】インビトロ血液脳関門(BBB)細胞培養系の模式図。モデルは、微孔性膜フィルター培養インサート上で成長されるタイトジャンクションを形成する単層の内皮細胞(管腔側)及びフィルターの反管腔側に播種されたグリア細胞から構成される。健常ボランティアからの低密度リポタンパク質(LDL、100μl 1,600μg/ml)が管腔側に添加される。細胞が24時間インキュベートされ、次いでサンプルが管腔側及び反管腔側から収集され、分析される。
図5C】インビトロ血液脳関門(BBB)細胞培養系の模式図。モデルは、微孔性膜フィルター培養インサート上で成長されるタイトジャンクションを形成する単層の内皮細胞(管腔側)及びフィルターの反管腔側に播種されたグリア細胞から構成される。健常ボランティアからの低密度リポタンパク質(LDL、100μl 1,600μg/ml)が管腔側に添加される。細胞が24時間インキュベートされ、次いでサンプルが管腔側及び反管腔側から収集され、分析される。
図6A】バリアの血液側におけるカロチノイドを表す。ヒトLDLが管腔側(血液)に添加され、24時間インキュベートされた。
図6B】バリアの脳側におけるカロチノイドを表す。ヒトLDLが管腔側(血液)に添加され、24時間インキュベートされた。
図7A】指定されたマウス組織内の肝臓9-シスβカロチン及びオールトランスβカロチンレベルを示す棒グラフ。値は平均±標準誤差である。略称:9CBC,9-シスβカロチン;WT,野生型、βC,βカロチン。
図7B】指定されたマウス組織内の脂肪9-シスβカロチン及びオールトランスβカロチンレベルを示す棒グラフ。値は平均±標準誤差である。略称:9CBC,9-シスβカロチン;WT,野生型、βC,βカロチン。
図7C】指定されたマウス組織内の脳9-シスβカロチン及びオールトランスβカロチンレベルを示す棒グラフ。値は平均±標準誤差である。略称:9CBC,9-シスβカロチン;WT,野生型、βC,βカロチン。
図8A】Tg2576対照マウス及びドナリエラ藻類調製食餌(preparations diet)が与えられたTg2576マウスにおける不溶性βアミロイド(Aβ42)のレベルを示す棒グラフ。略称:Duna.Prep.,本発明のドナリエラ藻類製剤;Aβ,ベータアミロイド。
図8B】Tg2576対照マウス及びドナリエラ藻類調製食餌が与えられたTg2576マウスにおける可溶性βアミロイド(可溶性Aベータ)のレベルを示す棒グラフ。略称:Duna.Prep.,本発明のドナリエラ藻類製剤;Aβ,ベータアミロイド。
図9A】ドナリエラ藻類調製食餌又は対照食餌が与えられたWT及びTg2576マウスにおけるIL-1aの計数されたRNA分子を示す棒グラフ。値は平均±標準誤差である。略称:Duna.Prep.,本発明のドナリエラ藻類製剤。
図9B】ドナリエラ藻類調製食餌又は対照食餌が与えられたWT及びTg2576マウスにおけるIL-1bの計数されたRNA分子を示す棒グラフ。値は平均±標準誤差である。略称:Duna.Prep.,本発明のドナリエラ藻類製剤。
図9C】ドナリエラ藻類調製食餌又は対照食餌が与えられたWT及びTg2576マウスにおけるTSPOの計数されたRNA分子を示す棒グラフ。値は平均±標準誤差である。略称:Duna.Prep.,本発明のドナリエラ藻類製剤。
図10】ドナリエラ藻類調製食餌又は対照食餌が与えられたTg2576マウスの海馬におけるTSPOの発現レベルを示す顕微鏡写真。T検定は、ドナリエラ藻類調製食餌が与えられたTg2576マウスと対照群との間で(両群についてn=5)、TSPOタンパク質発現レベルにおける統計学的差異を示した(p<0.05)。略称:Duna.Prep.,本発明のドナリエラ藻類製剤。
図11】ドナリエラ藻類調製食餌又は対照食餌が与えられたTg2576マウス及び上記のように与えられた野生型の血漿中のコレステロール及びトリグリセリドレベルを示す棒グラフ。値は平均±標準誤差である。略称:Duna.Prep.,本発明のドナリエラ藻類製剤、Chol,コレステロール;TG,トリグリセリド。
図12】血液脳関門(BBB)を通過後の食餌性9-シスβカロチンの提起された効果を示す模式図。
図13A】低脂肪固形飼料食餌が与えられた5XFAD対照マウスから得られた脳サンプルの高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)クロマトグラム。
図13B】ドナリエラ藻類調製食餌が与えられた5XFADマウスから得られた脳サンプルの高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)クロマトグラム。
図14A】ドナリエラ藻類調製食餌又は対照食餌が与えられた5xFADマウス又は野生型マウスの肝臓の指定された組織内の9-シスβカロチン量を示す棒グラフ。値は平均±標準誤差である。略称:Duna.Prep.,本発明のドナリエラ藻類製剤、9CBC,9-シスβカロチン、βC,βカロチン、WT,野生型、9-シス,9-シスβカロチン。
図14B】ドナリエラ藻類調製食餌又は対照食餌が与えられた5xFADマウス又は野生型マウスの脂肪の指定された組織内の9-シスβカロチン量を示す棒グラフ。値は平均±標準誤差である。略称:Duna.Prep.,本発明のドナリエラ藻類製剤、9CBC,9-シスβカロチン、βC,βカロチン、WT,野生型、9-シス,9-シスβカロチン。
図14C】ドナリエラ藻類調製食餌又は対照食餌が与えられた5xFADマウス又は野生型マウスの脳の指定された組織内の9-シスβカロチン量を示す棒グラフ。値は平均±標準誤差である。略称:Duna.Prep.,本発明のドナリエラ藻類製剤、9CBC,9-シスβカロチン、βC,βカロチン、WT,野生型、9-シス,9-シスβカロチン。
図15】ドナリエラ藻類調製食餌又は対照食餌が与えられた5xFADマウス及び野生型マウスの血漿中のコレステロール及びトリグリセリドレベルを示す棒グラフ。値は平均±標準誤差である。略称:Duna.Prep.,本発明のドナリエラ藻類製剤、Chol,コレステロール;TG,トリグリセリド。
図16A】5XFADマウスの短期/長期記憶に対するドナリエラ藻類製剤治療の効果を示す棒グラフ。3時間後の新規物体認識を示す棒グラフである。略称:Tg,Tg2576;WT,野生型;Duna.Prep.,本発明のドナリエラ藻類製剤。
図16B】5XFADマウスの短期/長期記憶に対するドナリエラ藻類製剤治療の効果を示す棒グラフ。24時間後の新規物体認識を示す棒グラフである。略称:Tg,Tg2576;WT,野生型;Duna.Prep.,本発明のドナリエラ藻類製剤。
図16C】5XFADマウスの短期/長期記憶に対するドナリエラ藻類製剤治療の効果を示す棒グラフ。通常食が与えられた5XFADマウス(対照)及びドナリエラ藻類調製食餌が与えられた5XFADマウス(Duna.Prep.)の潜伏期間を示す棒グラフである。略称:Tg,Tg2576;WT,野生型;Duna.Prep.,本発明のドナリエラ藻類製剤。
図17】ドナリエラ藻類調製食餌又は対照食餌が与えられた5xFADマウス又は野生型マウスのY迷路試験における再認記憶を示す棒グラフ。グラフは、マウスの選好指数である、マウスが新しいアームにおいて費やした時間とマウスが両アームにおいて費やした時間の比[PI=(新しいアームにおいて費やされた時間-古いアームにおいて費やされた時間)/新しいアーム+古いアームにおいて費やされた時間]を提示する。一元配置分散分析検定は、5xFAD Duna.Prep.(n=14)と5xFAD対照(n=15)との間で有意差を示した(p<0.05)。値は平均±標準誤差である。略称:Duna.Prep.,本発明のドナリエラ藻類製剤。
図18】ドナリエラ藻類調製食餌又は対照食餌が与えられた5xFADマウス又は野生型マウスのバーンズ迷路試験の結果を示す棒グラフ。グラフは潜伏期間を提示する。値は平均±標準誤差である。略称:Duna.Prep.,本発明のドナリエラ藻類製剤。
図19A】ドナリエラ藻類調製食餌又は対照食餌が与えられた5xFADマウス又は野生型マウスにおける不溶性アミロイドβのレベルを示す棒グラフ。不溶性(n=5)Aβレベルにおける統計学的差異は認められなかった。値は平均±標準誤差である。略称:Duna.Prep.,本発明のドナリエラ藻類製剤。
図19B】ドナリエラ藻類調製食餌又は対照食餌が与えられた5xFADマウス又は野生型マウスにおける可溶性アミロイドβのレベルを示す棒グラフ。t検定は、5xFAD海馬から抽出された可溶性(n=3)Aβレベルにおける統計学的有意差を示した(P<0.05)。値は平均±標準誤差である。略称:Duna.Prep.,本発明のドナリエラ藻類製剤。
【発明を実施するための形態】
【0050】
実施形態の詳細な説明
本開示は、アルツハイマー病、D)、タンパク質ミスフォールディングに関連する障害及び関連病態などの神経変性障害に対するドナリエラ粉末製剤の驚くべき効果に基づく。より具体的には、概念の証拠として、本発明は、様々なAD様マウスモデルを使用して、認知機能を示す生理学的及び行動パラメータに対するドナリエラ製剤の効果を実証した。
アルツハイマー病は、認知症症例の60~80パーセントを占める壊滅的な神経変性疾患である。疾患病理学は、経時的に悪化し、記憶喪失及び認知機能の変化をもたらす。
【0051】
以下に詳述される通り、発明者は、マウスモデルにおけるAD様神経病理及び認知欠損の発現に対するドナリエラ粉末製剤の効果について試験している。
【0052】
発明者は、9-シスβカロチン(9βC)及びオールトランスBCが、血液脳関門(BBB)を通過し、脳に蓄積し、且つドナリエラ粉末製剤が血漿脂質レベルに影響したことを見出している。
【0053】
発明者は、試験されたマウスモデルにおいて、ドナリエラ粉末製剤が長期及び短期記憶を改善したことをさらに見出している。さらに、ドナリエラ粉末製剤は、AD神経病理に対する正の効果を有し、且つ炎症に関与する遺伝子及び遺伝子の発現に影響した。
【0054】
本明細書で以下に詳述の通り、発明者は、アルツハイマー様症状を引き起こす異なる突然変異を有する、異なるマウスモデル、即ちTg2576及び5xFADに対するドナリエラ粉末調製食餌の効果を実証している。
【0055】
Tg2576マウスモデルは、Aβ蓄積及び認識機能障害を引き起こす二重スウェーデン突然変異を有する、AD試験で使用される最も一般的なトランスジェニックマウスモデルの1つである。APP及びPESN遺伝子における5つの家族性突然変異を有する、5xFADマウスモデルは、迅速且つ侵襲性のAβ蓄積及び認知障害を特徴とする。
【0056】
さらに、学習及び記憶に対するドナリエラ藻類粉末調製食餌の効果を試験するため、Y迷路自発性交替、Y迷路認知記憶試験、バーンズ迷路及び新規物体認識(NOR)試験(モデルの特徴づけによって設計された)を含む一連の認知試験を実施した。
【0057】
Tg2576マウス及び5xFADマウスに対して、長期記憶及び長期保持の評価用のバーンズ迷路試験を実施した。結果は、ドナリエラ藻類粉末製剤が長期記憶を有意に改善したことを示す。長期記憶改善は、発明者によっても実証された。
【0058】
行動の結果は、ドナリエラ藻類粉末製剤が使用された異なるマウスモデルにおけるほぼすべての認知試験において記憶を有意に改善したことを示す。
【0059】
本発明の別の態様は、マウス海馬におけるAβ沈着に対するドナリエラ粉末製剤の効果を示す。Tg2576及び5xFADマウスモデルは、それらの突然変異によって引き起こされた有意なAβ蓄積を特徴とする。当該技術分野で公知の通り、アルツハイマー病脳は、可溶性及び不溶性Aβを含む。AβがAβの繊維状形態である不溶性の段階まで有毒にならないことが最初に仮定されたが、最近の試験では、可溶性Aβが、記憶に対する毒性効果及び認知症との強力な相関、例えばシナプス構造及び機能の障害並びに海馬LTPの阻害を有することが示唆されている。以下の例に示される通り、治療及び対照トランスジェニックマウスの海馬は均質化され、それらのAβレベルはELISAアッセイを使用して測定された。本明細書に提示される結果は、ドナリエラ藻類粉末調製食餌が両モデルにおいて可溶性Aβレベルを有意に低下させたが、不溶性AβレベルはTg2576マウスモデルに限って有意に低下したことを示唆する。さらに、ドナリエラ食餌は、Tg2576マウスモデル及び5xFADマウスモデルにおいて遺伝子発現に対する効果を有した。
【0060】
より具体的には、マウスモデルの海馬におけるタンパク質レベル発現が試験された。ミクログリア及びアストロサイト活性化マーカーのTSPO及びGFAP、並びにシナプス可塑性のシナプス前タンパク質のシナプトフィジンが注目された。以下に示される通り、ドナリエラ食餌が与えられたTg2576では、未処置マウスと比較して、TSPOタンパク質レベルにおける有意な低下が認められた。TSPOは、主にステロイド合成細胞外部のミトコンドリア膜上に見出される、高親和性コレステロールトランスポーターである。正常な条件下で、TSPOは、ミクログリア細胞内でより低い発現レベルを有する。しかし、神経炎症又は損傷に応答して、TSPO発現は上方制御され、それにより十分なミクログリア活性化マーカーが作られる。
【0061】
まとめると、下の実施例に示される通り、また上に示される通り、本開示のドナリエラ製剤が与えられたADモデルマウスは、種々の有利な神経保護効果を経験した。例えば、ドナリエラ製剤が与えられたTg2576マウスは、通常食が与えられたTg2576マウスと比較して実質的により高い生存率を有した(表1)。さらに、オープンフィールド行動試験によって示された通り、ドナリエラ製剤が与えられたTg2576マウスにおいて不安の減少が認められた(実施例2)。ドナリエラ製剤が与えられたTg2576マウスの学習及び記憶能力における改善が、追加の行動試験であるバーンズ迷路試験において認められた(実施例4)。さらに、ドナリエラ製剤における記憶に対する有益な効果は、実施例13に示される通り、5xFADマウスモデルにおいても実証され、それは新規物体認識試験で得られた結果を実証する。
【0062】
上記の有益な効果に加え、不溶性βアミロイドレベルは、ドナリエラ藻類製剤が与えられたTg2576マウスにおいて、(実施例7に示される通り、通常食が与えられた)対照群よりも有意に低下した。
【0063】
したがって、その第1の態様では、本開示は、それを必要とする対象における神経変性疾患、タンパク質ミスフォールディングに関連する障害、認知機能低下、及びそれらに関連する任意の病態又は症状の少なくとも1つの発生を予防し、治療し、寛解させ、低下させ、又は遅延させるための方法を提供する。より具体的には、本発明の方法は、少なくとも1つのドナリエラ藻類製剤又はそれを含む任意の組成物を有効量で対象に投与するステップを含んでもよい。
【0064】
当該技術分野で公知の通り、本明細書で定義されるような「ドナリエラ(Dunaliella)」は、ドナリエラ科(Dunaliellaceae)藻類の属である。ドナリエラ(Dunaliella)は、海水中によく見られる運動性の単細胞で杆状から卵形形状(9~11μm)の緑藻類である。一部のドナリエラ(Dunaliella)株は、プロビタミンA(レチノール及び他のレチノイド)及び健康食であるβカロチンを非常に大量に蓄積し得る。
【0065】
βカロチンは、本質的にC40炭化水素及び最大15の二重結合からなる疎水性化合物のカロチノイドファミリーに属する。カロチノイドは、2つのタイプ:炭素及び水素のみからなるカロチン、例えばβカロチン及びリコピン;及び酸素も含むキサントフィル(xanthopylls)、例えばルテイン、カンタキサンチン及びゼアキサンチンに分類される。
【0066】
本開示は、当該技術分野で公知の任意のドナリエラ(Dunaliella)藻類及びその任意の組み合わせ、例えば限定はされないが、当該技術分野で公知のほんの数種を挙げると、ドナリエラ・バーダウィル(Dunaliella bardawil)、ドナリエラ・サリナ(Dunaliella salina)、ドナリエラ・アシドフィラ(Dunaliella acidophila)、ドナリエラ・ビオクラタ(Dunaliella bioculata)、ドナリエラ・ラテラリス(Dunaliella lateralis)、ドナリエラ・マリチマ(Dunaliella maritima)を包含する。
【0067】
用語「少なくとも1つのドナリエラ藻類製剤」は、本明細書で使用されるとき、当該技術分野で公知の少なくとも1つ、2つ、3つ、4つ、5つ又はそれ以上のドナリエラ(Dunaliella)藻類が、本開示のドナリエラ藻類製剤、又はその任意の組み合わせを調製するために使用されてもよいことを意味する。
【0068】
下の実施例で示される通り、発明者は、ドナリエラ・バーダウィル(Dunaliella bardawil)の使用を示している。ドナリエラ・バーダウィル(Dunaliella bardawil)藻類は、耐塩性緑藻であり、且つβcをその乾燥重量の10%まで合成及び蓄積し得るβカロチン(βc)の天然供給源である。高光強度及び高塩分下で藻類によって形成されたβcは、約50%のオールトランスβc、40%の9-シスβc及び10%のαカロチンからなる。したがって、この藻類は、天然での9-シスβCの最も知られた供給源である。長期毒性試験がヒト使用の承認前に精製又は合成9-シスBCを用いて実施される必要があることから、合成9-シスβCが非常に高価であり、ヒト使用として容易に利用可能でないことは公知である。本態様において有用なドナリエラ(Dunaliella)のさらに詳細な調製が、本明細書中の後でより詳細に説明されることは注目されるべきである
【0069】
したがって、本発明の様々な実施形態では、ドナリエラ(Dunaliella)藻類は、ドナリエラ・バーダウィル(Dunaliella bardawil)である。具体的な実施形態では、本開示による方法は、ドナリエラ・バーダウィル製剤又はその任意の組成物を治療有効量で対象に投与するステップを含む。
【0070】
当該技術分野で公知の通り、血液脳関門(BBB)は、主として脳内皮細胞、アストロサイトエンドフィート、周皮細胞、血管周囲マクロファージ、及び基底膜からなる高度に選択的なバリアである。毒素及び治療薬の透過性を制限するBBBトランスポーターで最も重要なのが、ABCトランスポーターである[20]。
【0071】
ATP結合カセットトランスポーター(ABCトランスポーター)は、脂質、ステロール及び薬剤を含む多種多様な基質を輸送する膜貫通タンパク質である。トランスポーターは、BBBの脳内皮細胞及び脳実質の表面に局在化される。すべてのサブファミリーを表す20を超えるABCタンパク質は、AD及びアテローム性動脈硬化症を含むいくつかのヒト疾患に関連づけられている[21]。トランスポーターABCA1は、肝臓X受容体(LXR)及びレチノインX受容体(RXR)により転写的に調節される。ABCA1は、脳における主要なコレステロール担体及び遅発性ADにおける確立された遺伝的リスク因子である、apoEを含むアポリポタンパク質に脂質を輸送する。ADマウスモデルでは、ABCA1の欠損がアミロイド形成を悪化させる一方で、ABCA1の過剰発現はアミロイド負荷を減少させ、Aβ代謝におけるABCA1の役割が示唆される[22]。他の試験は、ABCA1の欠損が異なるAPPトランスジェニックマウスモデルにおけるアミロイド沈着及び認知機能低下を増強し、可溶性apoEのレベルにおける有意な低下を伴うことを示している[23]。加えて、脳内でABCA1を過剰発現するトランスジェニックマウスは、減少したアミロイド斑を有する[24]。他の試験は、脳上皮により低いレベルのABCB1を有する年配者が、より多くのプラーク[25]及びより多くの血管Aβ[26]を有したことを示している。ABCトランスポーターは、明らかにアミロイドβ排除における主要な役割を果たし、それ故、それらの機能及びそれらを調節する要素がADに対する新しい治療法の開発につながることがあると理解される。
【0072】
したがって、本明細書で示される神経保護効果のおかげで、本開示のドナリエラ藻類製剤が様々な神経変性疾患又は障害の治療に好適となる。
【0073】
用語「神経変性疾患」は、本明細書で定義されるとき、中枢神経系又は末梢神経系の構造及び機能の進行性変性を特徴とする障害の異種グループを指す。
【0074】
任意の公知の神経変性疾患が、本開示によって包含される。例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、フリートライヒ運動失調症、レビー小体病、脊髄筋肉萎縮、運動ニューロン疾患、シヌクレイン病及びタウオパチーが挙げられる。
【0075】
いくつかの実施形態では、本開示による方法は、具体的には、アルツハイマー病、パーキンソン病、軽度認知障害(MCI)、MCIを伴うパーキンソン病、ハンチントン病、レビー小体病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、プリオン病、運動ニューロン疾患(MND)、脊髄小脳失調(SCA)、脊髄性筋萎縮(SMA)、フリートライヒ運動失調症、及び任意の他の神経変性関連認知症又は運動失調などの神経変性疾患に適用可能であってもよい。
【0076】
以下に示される通り、発明者は、(特に)アルツハイマー病のマウスモデルにおける認知機能に対して種々の有益な効果を実証している。
【0077】
したがっていくつかの実施形態では、本開示による方法は、具体的にはアルツハイマー病を治療する場合に適用可能である。
【0078】
当該技術分野で公知のアルツハイマー病(AD)は、特に、記憶喪失並びに認知及び他の脳機能における変化をもたらす、脳細胞の損傷及び最終的には破壊において現れる、進行性神経変性疾患に関する。より具体的には、ADは、診断後3~9年以内に死亡をもたらす、記憶及び他の認知ドメインの悪化を含む障害を指す。アルツハイマー病における主要なリスク因子は、年齢である。疾患の発生率は、65歳を過ぎると、5年ごとに2倍であるが、疾患を有する人々の最大で5%が、40歳又は50歳で出現することがある(若年発症型としても知られる)早期発症ADを有する。
【0079】
アルツハイマー病では多くの分子病変が検出されているが、データから現れる包括的テーマは、加齢脳におけるミスフォールドタンパク質の蓄積が酸化性及び炎症性損傷をもたらし、次いでエネルギー不全及びシナプス機能障害をもたらすことである。
【0080】
アルツハイマー病は、主にシナプス不全の障害である場合がある。海馬シナプスは、残存するシナプス特性がサイズにおける代償性増加を示す、軽度認知障害(しばしば認知症に先行する限定的な認知欠損)を有する患者において減少し始める。軽度のアルツハイマー病では、シナプス前小胞タンパク質シナプトフィジンにおける約25%の減少が生じる。疾患の進行に伴い、シナプスがニューロンと比較して不釣合に失われ、この欠損は認知症と最も相関が高い。加齢自体はシナプス欠損を引き起こし、特に海馬の歯状回領域を冒す。
【0081】
シナプス前神経伝達物質及びシナプス後グルタミン酸受容体のイオン電流の放出の破壊は、N-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)表面受容体のエンドサイトーシス及びα-アミノ-3-ヒドロキシ-5-メチル-4-イソキサゾールプロピオン酸表面受容体のエンドサイトーシスの結果として部分的に生じる。後者は、高頻度連続刺激後に電流における持続的減少を誘導することにより、シナプス活性をさらに弱める。シナプスにおける増強と低下との間の平衡における類似の変化が正常な加齢とともに生じる。神経細胞内Aβは、これらのシナプス欠損をさらにより早期に誘発し得る。前脳基底部におけるコリン作動性ニューロン内の通常的に高いレベルのニューロトロフィン受容体は、後期アルツハイマー病において著しく減少する。Aβは、特にシナプスプールを冒す、強力なミトコンドリア毒物である。アルツハイマー病では、Aβへの曝露により、脳及び単離されたミトコンドリアにおいて主要なミトコンドリア酵素が阻害される。チトクロムcオキシダーゼが特異的に攻撃される。結果的に、電子輸送、ATP産生、酸素消費、及びミトコンドリア膜電位のすべてが障害されるようになる。アルツハイマー病を有する患者の脳から単離された、構造的に損傷されたミトコンドリア内部でのAβの蓄積。
【0082】
アルツハイマー病を開始させ、駆動し得る事象又は経路の単一の線状鎖は生じない。ADは、認知症の症状が数年にわたり徐々に悪化する場合の進行性疾患である。その初期では、記憶喪失が軽度であるが、後期ADの場合、個人は、会話を続け、彼らの環境に応答する能力を失う。ADを有する者は、彼らの症状が他人に気づかれるようになってから平均で8年生きるが、生存は年齢及び他の健康状態に応じて4~20年の範囲であり得る。
【0083】
ADの最も一般的な早期症状は、ADの変化が典型的には学習に影響する脳の一部において始まることから、新規に学習された情報を記憶することの困難さである。ADが脳を通じて進行することから、それは次第に、失見当識、気分及び行動変化;事象、時間及び場所についての深まる混乱;家族、友人及び専門介護者についての思い過ごし;より重篤な記憶喪失及び行動変化;並びに発話、嚥下及び歩行の障害を含む重度の症状を引き起こす。
【0084】
認知症症状の悪化を一時的に遅くするための対症療法に加えて、ADは現在、治療法がなく、現行の治療は、ADの進行を停止させることができない。
【0085】
ADの診断は、熟練医師により実施され、身体検査及び診断検査(例えば、ミニメンタルステート検査(MMSE))を含んでもよい。アルツハイマー病の早期徴候及び症状は、特に、記憶障害、集中したり、計画したり、又は課題解決することの困難、毎日の仕事をこなすことの問題、混乱、換語障害又は発話若しくは筆記における語彙低下などの言語障害、抑うつなどの気分変化、又は他の行動及び人格上の変化を含む。
【0086】
本発明のドナリエラ藻類製剤、組成物及び方法が、ADの任意のステージを、任意の年齢で、またそれらに関連する任意の病態及び症状において治療することに適することは理解されるべきである。
【0087】
上で示された通り、班及び濃縮体は、ADとともに、他の加齢性神経変性プロセスと関与する。したがって、本発明が、他の加齢性病態を治療するための本明細書で開示される組み合わせ療法の使用をさらに包含することは理解されるべきである。
【0088】
高齢化集団の場合、認識機能障害は、主要な健康及び社会問題である。認知機能低下は、加齢の最も恐れられる局面の一つである。それはまた、財政的、個人的及び社会的負担の観点で最もコストがかかる。認知機能低下が認知症、疾病及び死亡を告知することから、それは重要である。
【0089】
上で示された通り、発明者は、本開示のドナリエラ藻類製剤が与えられたADモデルマウスが、様々な神経変性疾患(例えば、AD及びハンチントン病)に関連する症状の一部である、学習及び記憶能力における改善、並びに記憶能力の改善を経験したことを示している。
【0090】
したがって、いくつかの具体的な実施形態では、本開示による方法において、該方法は、それを必要とする対象における神経変性疾患、タンパク質ミスフォールディングに関連する障害及び認知機能低下の少なくとも1つに関連する少なくとも1つの症状の寛解及び/又は減少をもたらす。
【0091】
用語「寛解」は、本明細書で使用されるとき、それを必要とする対象における神経変性疾患、タンパク質ミスフォールディングに関連する障害及び認知機能低下の少なくとも1つに関連する症状の少なくとも1つを少なくとも約1%、約2%、約3%、約4%、約5%、約6%、約7%、約8%、約9%、約10%、約11%、約12%、約13%、約14%、約15%、約16%、約17%、約18%、約19%、約20%、約21%、約22%、約23%、約24%、約25%、約26%、約27%、約28%、約29%、約30%、約31%、約32%、約33%、約34%、約35%、約36%、約37%、約38%、約39%、約40%、約41%、約42%、約43%、約44%、約45%、約46%、約47%、約48%、約49%、約50%、約51%、約52%、約53%、約54%、約55%、約56%、約57%、約58%、約59%、約60%、約61%、約62%、約63%、約64%、約65%、約66%、約67%、約68%、約69%、約70%、約71%、約72%、約73%、約74%、約75%、約76%、約77%、約78%、約79%、約80%、約81%、約82%、約83%、約84%、約85%、約86%、約87%、約88%、約89%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%又は約100%低下させ、緩和し、軽減し、改善し、又は解放することを意味する。
【0092】
用語「寛解する」及び「低下させる」は、本明細書で互換的に使用される。
【0093】
それを必要とする対象における神経変性疾患、タンパク質ミスフォールディングに関連する障害及び認知機能低下の少なくとも1つに関連する任意の症状(又は任意の病態若しくは症状)は、本開示によって包含される。そのような症状(又は病態)は、限定はされないが、知能低下(例えば、短期記憶及び長期記憶低下、学習機能障害)、行動学的及び精神医学的問題、協調性の欠如、不安定歩行、発声変化、振戦、時間又は場所の混乱、判断力の低下又は不良、気分及び人格の変化を含む。
【0094】
いくつかの実施形態では、本開示による方法において、症状は、短期記憶障害、長期記憶障害、認知機能障害、学習機能障害、βアミロイド沈着、不安、抑うつ、又はそれらの任意の組み合わせの少なくとも1つである。
【0095】
具体的な実施形態では、本明細書で定義される症状は、短期記憶障害である。短期記憶は、学習、推理、及び理解などの複雑な認知的作業を実行するのに要求される情報を一時的に格納し、管理するための系である。短期記憶は、データのコード化、格納、及び検索など、情報処理機能の選択、開始、及び終了に関与する。用語「短期記憶障害」は、新しいエピソード記憶を形成する能力の障害を意味する。短期記憶喪失は、個人の生活の質に対して実質的な負の影響を有し得る。新しいエピソード記憶を全く形成できないことは、個人を永久的な「今の」状態で生きるようにし、ここでは新しい事象が後の想起に対してコードされることが決してない。
【0096】
他の実施形態では、本明細書で定義される症状は、長期記憶障害であってもよい。国立保健研究所(National Institutes of Health)(NIH)は、「長期記憶喪失」(又は「長期記憶障害」)を、過去にさらに生じた事象を記憶するのが困難であることと定義している。長期記憶は、短期記憶、又は非永久的記憶が、内側側頭葉内に位置する脳構造である海馬内で固定されるときに形成される。一旦記憶が固定されると、記憶は、想起可能である場合、新皮質内の海馬に依存せずに利用可能である。患者が長期記憶喪失を有するとき、患者は格納された記憶を想起することの問題を呈し、新しい記憶を創出しない。
【0097】
さらなる実施形態では、本明細書で定義される症状は、認知機能障害であってもよい。「認知機能障害」は、個人が、記憶し、新しい事を学習し、集中し、又は彼らの毎日の生活に影響する決断を下すことに困難さを有するときに生じる。認識機能障害は、軽度から重度に及ぶ。軽度障害の場合、人々は、認知機能における変化に気づき始めるが、依然として彼らが日々の活動をこなせることがある。重度の障害レベルは、物事の意味又は重要性を理解する能力及び、発話又は筆記能力の喪失をもたらし、自立的に生活できなくする可能性がある。
【0098】
さらなる実施形態では、本明細書で定義される症状は、学習機能障害であってもよい。用語「学習機能障害」は、本明細書で定義されるとき、言語又は非言語情報の獲得、組織化、保持、理解又は使用に影響する学習能力における減少又は低下を意味する。学習機能障害は、認知、思考、記憶又は学習に関する1つ以上の過程における障害に起因し、組織化スキル、社会的知覚、社会的相互作用及び視点取得での困難も含むこともある。
【0099】
本明細書で示される通り、本発明は、認知機能障害を治療し、阻害し、且つ低下させ、又は換言すれば改善するための方法を提供する。障害は、本明細書で使用されるとき、認知パラメータ、例えば学習及び記憶機能の、健常対象の認知機能と比較しての、少なくとも約1%、約2%、約3%、約4%、約5%、約6%、約7%、約8%、約9%、約10%、約11%、約12%、約13%、約14%、約15%、約16%、約17%、約18%、約19%、約20%、約21%、約22%、約23%、約24%、約25%、約26%、約27%、約28%、約29%、約30%、約31%、約32%、約33%、約34%、約35%、約36%、約37%、約38%、約39%、約40%、約41%、約42%、約43%、約44%、約45%、約46%、約47%、約48%、約49%、約50%、約51%、約52%、約53%、約54%、約55%、約56%、約57%、約58%、約59%、約60%、約61%、約62%、約63%、約64%、約65%、約66%、約67%、約68%、約69%、約70%、約71%、約72%、約73%、約74%、約75%、約76%、約77%、約78%、約79%、約80%、約81%、約82%、約83%、約84%、約85%、約86%、約87%、約88%、約89%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%又は約100%のあらゆる低下、損傷、遅延、減少、又は減弱を意味する。
【0100】
さらなる実施形態では、本明細書で定義される症状は、βアミロイド沈着であってもよい。βアミロイドは、ADを有する個人において増加様式で、脳内に粘着性のデンプン様プラークの形態で沈着されるタンパク質断片である。それ故、用語「βアミロイド沈着」は、脳内でのβアミロイド凝集体の形成を意味する。有意なアミロイド沈着は、ADを有するすべての患者特有の特徴である。
【0101】
以下の例に示される通り、ドナリエラ製剤は、可溶性及び不溶性βアミロイドの双方を低下させた。より具体的には、アミロイドベータ(Aβ又はAベータ)は、アルツハイマー病を有する者の脳内に見出されるアミロイド斑の主成分としてアルツハイマー病に大きく関与する、36~43アミノ酸のペプチドを表す。該ペプチドは、Aβを生成するため、βセクレターゼ及びγセクレターゼによって切断される、アミロイド前駆体タンパク質(APP)から誘導される。Aβ分子は、凝集し、いくつかの形態で存在することがある柔軟な可溶性オリゴマーを形成し得る。現在、特定のミスフォールドオリゴマー(「シーズ」として公知)が、他のAβ分子を誘導して、やはり神経細胞に対して有毒であるミスフォールドオリゴマー形態をとり得ると考えられている。より具体的には、Aβは、アミロイド前駆体タンパク質と称される前駆体タンパク質のタンパク質分解切断から誘導された4kDaペプチド(主要な種として40及び42アミノ酸残基ペプチドを有する)である。Aβ単量体は、水性媒体中で容易に凝集し、オリゴマー、プロトフィブリル及びアミロイド線維を含む様々なタイプの集合体を生成する。AβOは可溶性であり、脳全体に広がることがあるが、アミロイド線維は、より大きく、不溶性であり、集合してアミロイド斑を構築し、ADの特徴である組織学的病変を形成する。
【0102】
不溶性線維性βアミロイド病変(老人斑として公知)は、必ずしも疾患進行とあまり相関することがなく、直接的な因果関係がないことが示唆される。しかし、アミロイドの可溶性形態は、疾患進行とより相関性があるように思われる。高分子量重量のオリゴマーがシナプス欠損、最終的にはADにおける記憶喪失を引き起こすことがあるように思われる。
【0103】
しかし、それは多くの正常な成人にも存在し、軽度認知障害(MCI)を有する個人に認められる。
【0104】
したがって、本発明は、その特定の実施形態において、年齢関連軽度認知障害(MCI)の発症に対して治療し、予防し、阻害し、低下させ、除去し、保護し、又は遅延させるための方法を提供する。
【0105】
「年齢関連軽度認知障害(MCI)」は、本明細書で使用されるとき、認知変化を引き起こす病態である。主に記憶を冒すMCIは、対象が最近の事象、約束、会話又は最近の出来事に関する情報の記憶における障害を経験する場合の「健忘性MCI」として分類されてもよい。記憶以外の思考スキルを冒すMCIは、「非健忘性MCI」として知られる。非健忘性MCIによって冒されることがある思考スキルは、健全な決断を下し、複雑な作業を完了させるのに必要とされる時間又は一連の段階を判断する能力、又は視覚認知を含む。
【0106】
正常な加齢は、多くの認知的作業における様々な記憶能力の低下に関連し;その現象は、加齢性記憶障害(AMI)、加齢関連記憶障害(AAMI)又は加齢関連認知機能低下(ACD)として知られる。事象又は事実の新しい記憶及びワーキングメモリーをコードする能力は、横断及び縦断試験の双方において低下を示す。エピソード記憶、意味記憶、短期記憶及びプライミングに対する加齢の効果を比較する試験では、エピソード記憶が特に正常な加齢において障害され;短期記憶の一部のタイプも障害されることが見出されている。欠損は、最近処理された情報を更新する能力において見られる障害に関係してもよい。
【0107】
通常、言語能力などのいくつかの精神機能、いくつかの数的能力及び一般的知識において、年齢に関連する低下はほとんど認められないが、他の精神的能力は、中年以降、又はさらに早期から低下する。後者は、記憶、実行機能、処理速度及び推理の局面を含む。したがって、いくつかの実施形態では、本発明が、任意の認知機能低下、具体的には年齢、具体的には、50歳、55歳、60歳、65歳、70歳、75歳、80歳、85歳、90歳、95歳及びそれ以上の年齢に関連する認知機能低下に対する併用治療を提供することは理解されるべきである。
【0108】
他の実施形態では、症状又は病態は、本明細書で定義されるとき、不安である。用語「不安」は、身体的徴候(緊張、発汗、及び脈拍数増加など)により、脅威の現実及び本質に関する疑いにより、またそれに対処する個人の能力についての自信喪失により特徴づけられることが多い、異常且つ圧倒的な懸念及び恐れの感覚を意味する。
【0109】
さらなる実施形態では、該症状又は病態は、本明細書で定義されるとき、抑うつである。当該技術分野で公知の通り、用語「抑うつ」は、個人の思考、行動、性癖、感情、及び幸福感に影響し得る、活動に対しての気分の落ち込み及び嫌悪の状態を意味する。抑うつ気分は、大切な人を失うなどの人生の出来事に対する正常な一時的反応である。それは、一部の身体疾患の症状、並びに一部の薬剤及び医学的処置の副作用でもある。抑うつ気分はまた、大うつ病性障害又は気分変調など、一部の気分障害の症状であってもよい。
【0110】
上で示される通り、発明者は、本開示のドナリエラ藻類製剤が与えられたADモデルマウスが、特に不安の減少並びに学習及び記憶能力における改善を経験したことを示している。さらに、発明者は、本開示のドナリエラ藻類製剤が与えられたADモデルマウスにおいて、不溶性βアミロイドのレベルが(通常食が与えられた)対照群と比較して有意に低下したことを示している。
【0111】
したがって、いくつかの実施形態では、本開示による方法において、前記方法は、それを必要とする対象における認知機能、短期記憶、長期記憶、捕捉時間及びβアミロイドの排除の少なくとも1つの改善をもたらす。
【0112】
用語「改善」は、本明細書で使用されるとき、具体的には、本発明のドナリエラ製剤による対象の治療前に決定された、試験された行動パラメータ、具体的には、長期記憶、短期記憶、認知機能、学習機能、不安及び抑うつのいずれかと比較しての、それを必要とする対象における認知機能、短期記憶、長期記憶、捕捉時間及びβアミロイドの排除の少なくとも1つの少なくとも約1%、約2%、約3%、約4%、約5%、約6%、約7%、約8%、約9%、約10%、約11%、約12%、約13%、約14%、約15%、約16%、約17%、約18%、約19%、約20%、約21%、約22%、約23%、約24%、約25%、約26%、約27%、約28%、約29%、約30%、約31%、約32%、約33%、約34%、約35%、約36%、約37%、約38%、約39%、約40%、約41%、約42%、約43%、約44%、約45%、約46%、約47%、約48%、約49%、約50%、約51%、約52%、約53%、約54%、約55%、約56%、約57%、約58%、約59%、約60%、約61%、約62%、約63%、約64%、約65%、約66%、約67%、約68%、約69%、約70%、約71%、約72%、約73%、約74%、約75%、約76%、約77%、約78%、約79%、約80%、約81%、約82%、約83%、約84%、約85%、約86%、約87%、約88%、約89%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%又は約100%のあらゆる回復、進展又は増強を意味する。
【0113】
いくつかの実施形態では、本発明が、必ずしも神経変性障害を患っていない対象における、上で考察したような認知機能、具体的には学習機能、短期及び長期記憶の改善、並びに不安及び抑うつの減少をさらに提供し、具体的には、本発明が健常対象における認知機能を改善するための方法を提供することは、さらに理解されるべきである。
【0114】
本開示のさらなる特定の実施形態では、用語「改善」は、本明細書で使用されるとき、それを必要とする対象における短期記憶障害、長期記憶障害、認知機能障害、学習機能障害、βアミロイド沈着の少なくとも1つの、上で示されるようなあらゆる回復、進展又は増強を意味する。
【0115】
該方法、使用を意図したドナリエラ藻類製剤、並びに本明細書で定義されるような組成物及び使用は、認知機能低下を予防し、低下させ、又は治療するためにも有用である。
【0116】
したがって、いくつかの実施形態では、本開示による方法は、認知機能低下の発生を予防し、治療し、寛解させ、低下させ、又は遅延させるためである。
【0117】
用語「認知機能低下」は、本明細書で使用されるとき、治療なしに正常な機能が不能になるまでの個人の認知機能の障害を意味する。認知機能低下の一般的徴候の一部が、混乱、運動協調不良、短期又は長期記憶の喪失、同一性混乱及び判断障害である。
【0118】
以下に示される通り、発明者は、不溶性βアミロイドレベルが、本開示のドナリエラ藻類製剤が与えられたTg2576マウスにおいて、対照群(通常食時)よりも有意に低下したことを示している。当該技術分野で公知の通り、アルツハイマー病、軽鎖アミロイドーシス及び海綿状脳症を含む様々なヒト変性病態は、「アミロイド線維」又は「班」として知られる(ミスフォールドタンパク質である)タンパク質性凝集体の組織内沈着に関連する。
【0119】
したがって、いくつかの実施形態では、本明細書で定義されるような使用を意図した方法、使用及びドナリエラ藻類製剤は、タンパク質ミスフォールディングに関連する障害の発生を予防し、治療し、寛解させ、低下させ、又は遅延させるためであり、少なくとも1つのドナリエラ藻類製剤又はそれを含む任意の組成物を有効量で前記対象に投与することを含む。
【0120】
「タンパク質ミスフォールディング及び凝集」は、本明細書で使用されるとき、タンパク質鎖が、迅速な再現性のある様式で、通常は生物学的に機能的である立体構造であるその天然三次元構造を得るような身体的プロセスの障害に関する。タンパク質フォールディングは、ポリペプチドがランダムコイルからその特徴的且つ機能的な三次元構造に折り畳む、身体的プロセスである。各タンパク質は、mRNAの配列からアミノ酸の線状鎖にかけて翻訳されるとき、折り畳まれていないポリペプチド又はランダムコイルとして存在する。アミノ酸は、互いに相互作用し、明確に定義された三次元構造であって、天然状態として知られる、折り畳まれたタンパク質を生成する。正確な三次元構造は、機能するために不可欠であるが、機能タンパク質のいくつかの部分は、折り畳まれていない状態のままであってもよい。天然構造に折り畳まないことで、一般に不活性タンパク質が生成されるが、場合によっては、ミスフォールドタンパク質は、修飾された又は有毒な機能性を有する。いくつかの神経変性及び他の疾患は、ミスフォールドタンパク質によって形成されたアミロイド線維の蓄積から生じると考えられる。
【0121】
より具体的には、一部の条件下で、タンパク質は、タンパク質変性をもたらすその生化学的に機能的な形態に折り畳まれないことがある。完全に変性したタンパク質は、三次及び二次構造の双方が欠如し、いわゆるランダムコイルとして存在する。特定の条件下で、一部のタンパク質は折り畳み可能であるが、多くの場合、変性は不可逆的である。細胞は、他のタンパク質をフォールディング及びフォールディング状態維持の双方において補助する、シャペロン又は熱ショックタンパク質として知られる酵素により、熱の変性影響に対してそのタンパク質を保護することがある。一部のタンパク質は、各タンパク質をそのフォールディングが他のタンパク質との相互作用により中断されないように単離するか、又はミスフォールドタンパク質の折り畳み構造をほどくことを助け、それらに適切に再び折り畳むための第2の機会を与える、シャペロン分子の補助がある場合を除き、細胞内で決して折り畳まれない。この機能は、不溶性非晶質凝集体への沈降のリスクを阻止するのに決定的である。
【0122】
現在、微量の種々のタンパク質の凝集体が特に加齢中に自発的に生じることがあり、且つそのような凝集体が細胞機能のわずかな障害を明確なアミロイド表現型の不在下であっても説明し得ることが知られている。タンパク質ミスフォールディングに関連する障害の一般的パターンは、タンパク質のミスフォールディングの結果として凝集する異常な傾向である。
【0123】
したがって、用語「タンパク質ミスフォールディングに関連する障害」は、本明細書で使用されるとき、臓器又は組織内でのタンパク質のミスフォールド凝集体の蓄積に直接的又は間接的に起因する疾患又は障害を指す。より具体的には、凝集タンパク質は、プリオン関連病、例えば、クロイツフェルト・ヤコブ病、ウシ海綿状脳症(狂牛病)、アミロイド関連病(amyloid-related illnesses)、例えばアルツハイマー病及び家族性アミロイド心筋症又は多発ニューロパチー、並びに細胞質内凝集疾患(intracytoplasmic aggregation diseases)、例えばハンチントン病及びパーキンソン病に関連する。これらの年齢発症性変性疾患は、ミスフォールドタンパク質の不溶性の細胞外凝集体及び/又は細胞内封入体、例えばクロスβシートアミロイド線維への凝集に関連する。凝集が、合成、フォールディング、凝集及びタンパク質代謝回転の間の平衡であるタンパク質ホメオスタシスの低下の原因又は単なる反射であるか否かは、完全に明確ではない。フォールディング及び機能ではなく、ミスフォールディング及び過剰な分解は、アンチトリプシン関連肺気腫、嚢胞性線維症及びリソソーム蓄積症などのいくつかのプロテオパチー疾患を引き起こし、その場合、機能の喪失が障害の根源である。
【0124】
アルツハイマー病(AD)を含むβアミロイドタンパク質凝集に関連する障害のグループも、用語「タンパク質ミスフォールディングに関連する障害」によって包含され、ここで(班と称される)ベータアミロイド蓄積と称されるタンパク質前駆体の沈着は、神経細胞と細胞内部の(濃縮体と称される)タウタンパク質蓄積のねじれた線維との間の空間内に存在する。
【0125】
より具体的には、「βアミロイドタンパク質凝集」は、本明細書で使用されるとき、新皮質末端野でβアミロイドペプチド(Aβ)及び変性神経突起で積層された脳内プラーク、並びにアルツハイマー病の重要な病理学的特徴である、内側側頭葉構造の顕著な神経原線維変化に関する。その後、ニューロン及び白質の減少、コンゴーレッド親和性(アミロイド)血管障害も認められる。
【0126】
Aβペプチドは、36~43のアミノ酸からなる代謝の自然産物である。Aβ40の単量体は、凝集しやすく損傷性のAβ42種よりもはるかに豊富に存在する。βアミロイドペプチドは、ベータ部位アミロイド前駆体タンパク質切断酵素1(BACE-1)、βセクレターゼ、及びγセクレターゼ(その触媒コアでのプレセニリン1とのタンパク質複合体)の連続的な酵素作用による、アミロイド前駆体タンパク質のタンパク質加水分解に由来する。産生と排除との間の不均衡、及びペプチドの凝集は、Aβが蓄積する原因であり、こうした過剰分はアルツハイマー病における開始因子であることがある。
【0127】
βアミロイドは、原線維にも成長し得て、それらをβプリーツシートに配列し、進行したアミロイド班の不溶性線維を形成する。可溶性オリゴマー及び中間体アミロイドは、Aβの最も神経毒性の高い形態である。脳切片の調整において、Aβの二量体及び三量体は、シナプスに対して有毒である。実験的証拠は、Aβ蓄積がタウタンパク質凝集に先行し、それを駆動することを示す。
【0128】
「タウタンパク質」は、本明細書で使用されるとき、アルツハイマー病及びタウオパチーと称される他の神経変性障害を特徴とする錐体神経における糸状封入体である神経原線維変化を指す。それらの形成機構の解明は、未来の治療法に対する標的をもたらすことがある。錐体神経における対になったらせん状フィラメントとしての過剰リン酸化タウタンパク質の蓄積は、アルツハイマー病(AD)の主要な特徴である。過剰リン酸化に加えて、架橋など、タウタンパク質の他の修飾は、タンパク質分解に対するそれらの不溶性及び抵抗性を含む、対になったらせん状フィラメント特有の特徴に寄与する可能性が高い。これらの神経原線維変化は、微小管関連タンパク質タウの過剰リン酸化及び凝集形態からなる。
【0129】
非病態下で、タウは、微小管のアセンブリ及び安定性を促進し、それ故、軸索輸送に関与する、発生的に調節されたリン酸化タンパク質である。AD及び他のタウオパチーでは、タウタンパク質は、凝集し、線維性不溶性細胞内封入体、いわゆる神経原線維変化を形成する。イオン相互作用及び共有結合的架橋が、病理学的タウ凝集及び濃縮体形成に寄与することが示唆されている。酸化ストレスの条件下及び加齢下で増加する、反応性カルボニル化合物が、タウ凝集に関与する有望な化合物として提示されている。
【0130】
本発明の方法が、そのいくつかの実施形態において、シヌクレイン病の治療にも適用可能であってもよいことは注目されるべきである。「アルファシヌクレイン病理学的障害」は、本明細書で使用されるとき、主にアルファシヌクレインタンパク質を含有するレビー小体として知られる特定の細胞内タンパク質凝集体(封入体)の存在を特徴とする障害である。アルファシヌクレインタンパク質は、140のアミノ酸からなり、神経細胞シナプス領域内の折り畳まれていない細胞質タンパク質として天然に見出される。
【0131】
アルファシヌクレインの過剰発現は、正常細胞機能を中断し、神経突起伸展及び細胞接着における減少をもたらす。単量体、オリゴマー中間体、又は原線維形態を含むアルファシヌクレイン凝集体は、パーキンソン病(PD)の病態形成における、並びに他のアルファシヌクレイノパシー、例えば多系統萎縮症(MSA)及びレビー小体型認知症(DLB)における決定的ステップに関与すると考えられる。CNSのこれらの慢性神経変性疾患は、アルファシヌクレインタンパク質を含有するレビー小体の発現を特徴とする。オリゴマー及び単量体アルファシヌクレインは、双方ともPD患者からの脳脊髄液及び血漿サンプル中で検出されており、アルファシヌクレインの小凝集体が細胞外空間に接近することが示唆される。
【0132】
さらに、本明細書中の上記の通り、本発明は、本明細書中で考察されるようなあらゆる神経変性、又はあらゆる神経傷害に対する保護において適用可能なドナリエラ藻類製剤、組成物、キット及び方法を提供する。神経変性は、パーキンソン病、アルツハイマー病、ALS、頭部外傷及びてんかんなどの多くの神経系疾患及び障害の一般的テーマである。
【0133】
これらの疾患及び障害の一般的テーマは、神経細胞機能の欠損及び/又は神経細胞死若しくは損傷である。ここで、発明者は、神経保護又はあらゆる神経傷害若しくは神経細胞障害からの保護と、それによる神経細胞の機能悪化及び死滅を引き起こす病理の予防及び治療のため、直接的に又は患者への投与を通じて神経細胞をドナリエラ藻類製剤に曝露することを含む、ドナリエラ藻類製剤、組成物、及び方法を開示する。
【0134】
細胞傷害を参照するとき、用語「傷害」又は損傷は、生理学的細胞機能のあらゆる破壊又は細胞死に関する。生理学的細胞機能の破壊についての非限定例として、酸化ストレス(例えば、脂質過酸化、DNA及びRNA酸化、及びタンパク質酸化)、非特異的糖化、タンパク質ミスフォールディング、DNA突然変異、あらゆる細胞構造完全性の欠損、代謝ストレス、電離及び非電離放射線障害、並びに化学ストレス(例えば、酸又は塩基性物質への曝露)が挙げられる。
【0135】
したがって、「神経細胞機能の悪化及び死滅からの保護」という表現は、神経死を予防若しくは低減すること、又は(例えば、神経伝達物質の分泌、樹状突起及び軸索成長、電気インパルスの伝達、刺激への応答、ミエリン鞘及びランビエ絞輪の構造的完全性の維持などによって例示されるような)神経機能の悪化を予防若しくは低減することのいずれかを意味する。
【0136】
用語「神経細胞機能」は、特定の細胞型に依存する、あらゆる正常な生理学的細胞活性に関する。そのような機能の非限定例として、細胞生存度、神経伝達物質の分泌、樹状突起及び軸索成長、電気インパルスの伝達及びニューロンにおける刺激への応答、オリゴデンドロサイト及びシュワン細胞におけるミエリン鞘及びランビエ絞輪の構造的完全性の維持、並びに栄養分及び酸素の供給、並びに星状細胞内での神経伝達物質の再利用が挙げられる。
【0137】
本明細書全体を通じて、用語「神経細胞」が、中枢神経系のニューロン及びグリア細胞、アストロサイト、ニューロン細胞、オリゴデンドロサイト、シュワン細胞、サテライト細胞、紡錘細胞、コルチ器官の神経聴覚(neuronauditory)内部有毛細胞、コルチ器官の聴覚外有毛細胞、嗅上皮の基底細胞、冷感受性一次感覚ニューロン、熱感受性一次感覚ニューロン、表皮のメルケル細胞、嗅覚受容体ニューロン、疼痛感受性一次感覚ニューロン、光受容体桿体細胞、眼の光受容体青色感受性錐体細胞、眼の光受容体緑色感受性錐体細胞、眼の光受容体赤色感受性錐体細胞、固有受容性一次感覚ニューロン、触覚感受性一次感覚ニューロン、I型頸動脈体細胞、II型頸動脈体細胞、耳の前庭器のI型有毛細胞、耳の前庭器のII型有毛細胞、I型味蕾細胞、自律性ニューロン細胞、コリン作動性神経細胞、アドレナリン神経細胞、ペプチド作動性神経細胞、感覚器及び末梢性ニューロン支持細胞、コルチ器官の内柱細胞、コルチ器官の外柱細胞、コルチ器官の内指節細胞、コルチ器官の外指節細胞、コルチ器官の境界細胞、コルチ器官のヘンゼン細胞、前庭器支持細胞、味蕾支持細胞、嗅上皮支持細胞及び腸管グリア細胞のいずれか1つであってもよい細胞に関することは理解されるべきである。
【0138】
本発明が、それを必要とする対象における神経細胞機能の悪化からの保護、その低下、予防又は阻害のためのドナリエラ藻類製剤、組成物及び方法を提供することから、用語「神経細胞機能」の範囲を明確に定義することは重要である。本明細書中のこの用語は、特定の細胞型に依存する、任意の正常な生理学的細胞活性に関する。そのような機能の非限定例として、細胞生存度、神経伝達物質の分泌、樹状突起及び軸索成長、電気インパルスの伝達及びニューロンにおける刺激への応答、オリゴデンドロサイト及びシュワン細胞におけるミエリン鞘及びランビエ絞輪の構造的完全性の維持、並びに栄養分及び酸素の供給、並びに星状細胞内での神経伝達物質の再利用が挙げられる。
【0139】
本明細書中の上で開示された通り、神経変性は、ニューロンの死滅を含む、ニューロンの構造又は機能の進行性消失に対する総称である。パーキンソン病、アルツハイマー病、ALS及びハンチントン病を含む多数の神経変性疾患は、神経変性プロセスの結果として生じる。神経変性の他の例として、フリートライヒ運動失調症、レビー小体病、脊髄性筋萎縮、多発性硬化症、前頭側頭型認知症、大脳皮質基底核変性症、進行性核上性麻痺、多系統萎縮症、遺伝性痙性対麻痺、アミロイドーシス及びシャルコー・マリー・トゥース病が挙げられる。正常な加齢プロセスが進行性神経変性を含むことは見逃されるべきでない。
【0140】
さらに、本発明が任意の神経病理学的状態を治療又は予防するための方法を提供することは理解されるべきである。用語「神経病理学的状態」は、神経細胞障害、例えば神経細胞機能又は生存度の何らかの悪化によって引き起こされ、又はそれを引き起こし、又はそれに関連する任意の病理学的状態に関する。本明細書で説明された通り、そのような状態は、神経変性障害、脳外傷、神経系を冒す代謝障害、例えばフェニルケトン尿症、脳を冒す免疫学的障害、例えば橋本甲状腺炎、神経細胞を冒す遺伝性疾患、例えばテイ・サックス病、異染性白質ジストロフィー、クラッベ病、ファブリー病、ゴーシェ病、ファーバー病、及びニーマン・ピック病、ビタミンB6及びD欠乏などの栄養素欠乏、並びに神経系を冒す任意の続発症であってもよい。
【0141】
本発明のドナリエラ藻類製剤、方法及び組成物が、神経病理学的障害及び神経変性障害又はそれらと関連する任意の病的状態を治療することに適用可能であってもよいことはさらに理解されるべきである。互換的に使用される用語「関連する(associated)」、「関連する(linked)」及び「関する」は、本明細書に記載される病理を参照するとき、因果関係を共有し、同時発生頻度よりも高く共存し、又は少なくとも1つの疾患、障害、病態若しくは病理が第2の疾患、障害、病態若しくは病理を引き起こす場合の少なくとも1つである、疾患、障害、病態、又は任意の病理を意味することは理解される。そのような病態は、例えば、パーキンソン病、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、頭部外傷、てんかん、脳卒中、神経性筋強直症/アイザックス症候群、下位運動ニューロン病変、ウェルドニッヒ・ホフマン病、筋萎縮性側索硬化症、ケネディ病、有機リン中毒、ベンゾジアゼピン離脱、マグネシウム欠乏、筋痛性脳脊髄炎、脱水、疲労、ライム病、重症筋無力症、狂犬病、線維筋痛症、くも膜下出血、脳内出血、脳実質外動脈の閉塞及び狭窄、脳底動脈の閉塞及び狭窄、頸動脈の閉塞及び狭窄、椎骨動脈の閉塞及び狭窄、大脳動脈の閉塞、脳梗塞の存在下又は不在下での脳血栓、脳梗塞の存在下又は不在下での脳塞栓症、一過性脳虚血、脳底動脈症候群、椎骨動脈症候群、鎖骨下動脈盗血症候群、椎骨脳底動脈症候群、一過性脳虚血発作(TIA)、脳動脈硬化症、高血圧性脳症、脳動脈瘤、脳動脈炎、もやもや病、頭蓋内静脈洞の非発熱性(nonpyogenic)血栓症、アテローム性動脈硬化症、腎動脈のアテローム性動脈硬化症、四肢の固有動脈のアテローム性動脈硬化症、間欠性跛行、大動脈瘤、大動脈解離、頸動脈解離、腸骨動脈解離、腎動脈解離、椎骨動脈解離、紅痛症、及び結節性多発動脈炎を含んでもよい。
【0142】
用語「疾患」、「障害」又は「病態」は、正常な機能の障害がある状態を指す。「疾患」、「障害」又は「病態」との関連での用語「少なくとも1つ」は、本明細書で定義されるとき、本開示のドナリエラ藻類製剤により、少なくとも1つ、例えば、2、3、4、5又はそれ以上の本明細書で定義されるような疾患、障害又は病態において有利な(治療)効果が達成されることがあることを意味する。
【0143】
用語「治療する(treat)、治療する(treating)、治療」は、本明細書で使用されるとき、本明細書で定義されるような疾患又は障害を有する対象において疾患活性の1つ以上の臨床兆候を寛解又は減少させることを意味する。疾患の臨床兆候における寛解又は減少は、軽微又は有意であってもよい。
【0144】
それを必要とする対象における神経変性疾患、タンパク質ミスフォールディングに関連する障害、認知機能低下、及びそれらに関連する任意の病態又は症状の少なくとも1つの発生を予防するか又は遅延させるための方法であって、少なくとも1つのドナリエラ藻類製剤又はそれを含む任意の組成物を有効量で前記対象に投与することを含む方法もまた、本開示により包含される。
【0145】
用語「予防する」は、「予防的治療(preventive treatment)」又は「予防的治療(prophylactic treatment)」を提供する、即ち、何か、特に本明細書で定義されるような病態又は疾患に保護的様式で作用し、それに対して防御し、又はそれを予防することを意味する。
【0146】
本明細書で定義されるような疾患、障害又は病態は、わずかに発現し始めることが多いが、影響を受けた個人の生活の質を有意に妨げるまで進行する。年齢、遺伝及び適切な栄養の欠如などの要素は、疾患の発現に寄与する。本明細書で定義されるような障害、疾患又は病態との関連での用語「発生を遅延させる」は、本明細書で定義されるような疾患又はそれに関連する症状の兆候のあらゆる先延ばし、停止、妨害又は遅延を意味する。
【0147】
「それを必要とする対象」は、本明細書で使用されるとき、温血動物(例えば、ヒト、ラット、マウス、イヌ、ネコ、モルモット及び霊長類など)を意味する。いくつかの実施形態では、対象は、本明細書で定義される疾患、障害又は病態と診断される。本明細書で定義される疾患、障害又は病態の診断は、当該技術分野で公知の通り、熟練医師により実施されてもよい。
【0148】
本開示の「ドナリエラ藻類製剤」又は「ドナリエラ製剤」は、任意の公知の方法により調製されてもよい。いくつかの実施形態では、ドナリエラ藻類製剤は、下の実施例によって説明されるように調製され、ドナリエラ藻類粉末製剤である。
【0149】
いくつかの実施形態では、本開示のドナリエラ製剤は、抽出物として調製される。用語「抽出物」は、抽出用の酵素、有機溶媒又は親水性溶媒を使用し、ドナリエラ(Dunaliella)から抽出された任意の物質又は物質の混合物を意味する。換言すれば、抽出物という用語は、例えば、アルコール(例えばエタノール)、ヘキサン、酢酸エチル若しくはイソプロピルアルコールなどの有機溶媒、又は水などの親水性溶媒のいずれかを使用することによって得られた物質を包含する。或いは、抽出物は、新鮮、凍結又は乾燥ドナリエラ材料のいずれかの切断、分割、粉砕などのあらゆる物理的抽出により調製されてもよい。抽出物は、前記抽出後に乾燥されてもよく、さらに以前の抽出ステップと独立した任意の抽出方法により処理(抽出)されてもよい。そのようなステップは、独立して反復されてもよい。さらに、他の抽出技術が利用されてもよく、その非限定例として、サイズ排除、疎水性相互作用、そしてアニオン及びカチオン交換体を含むクロマトグラフィー、分画遠心、差次的沈降(例えば硫酸アンモニウムを使用)、差次的濾過及び透析が挙げられる。
【0150】
上で示された通り、いくつかの実施形態では、新鮮、凍結、乾燥又は蒸発ドナリエラ材料は、上記調製手順のいずれかにおいて使用されてもよい。
【0151】
いくつかの実施形態では、本開示のドナリエラ製剤は、粉末製剤である。
【0152】
「粉末製剤」は、本明細書で使用されるとき、当該技術分野で公知の任意の方法により調製されてもよい。いくつかの実施形態では、粉末製剤は、米国特許第8,722,057号によって開示された通りである。より具体的には、異なる調製方法により、異なる特性を有する粉末が生成されることになる。特定のサイズ及び形状を有する粒子からなる粉末を調製するため、調製技術の慎重な選択が必要である。粉砕、固体の熱分解及び液相又は気相からの固体の沈着は、粉末を調製するために使用される最も一般的な技術である。任意の薬学的に適合する結合剤、賦形剤及び/又は補助剤は、本明細書で定義されるような粉末製剤の一部として含めることができる。
【0153】
本発明を作製するための方法を実施するために使用されるべき原料は、微細藻類、好ましくは緑藻類の一種としてのドナリエラ(Dunaliella)属に属する藻類である。ドナリエラ(Dunaliella)属に属する藻類は、藻体中で大量のβカロチンを生成し、貯蔵することが知られている。特に、ドナリエラ・バーダウィル(Dunaliella bardawil)及びドナリエラ・サリナ(Dunaliella salina)が藻体中で大量のβカロチンを貯蔵することから、それらが使用対象であることがさらに好ましい。
【0154】
ドナリエラ(Dunaliella)属に属する藻類は、培養装置、例えば培養タンク及び培養プールの外部又は内部で所定期間培養され、次にポンプなどのポンピング手段を使用することにより、そのような培養設備から駆出される。駆出された培養溶液は、所定のメッシュネットを通して濾過されることで、培養装置内の汚染された外来物質が除去される。
【0155】
外来物質が除去された培養溶液は、培養溶液中の固体部分が所定濃度まで濃縮されるように、遠心機により脱水される。遠心分離後の培養溶液中の固体部分の濃度は、培養溶液が濃縮されても流動性を有する観点から、好ましくは10~30重量%である。ここで遠心機が、好ましくはバッチ中又は連続様式で培養溶液の遠心分離を実施可能である装置、より好ましくは作業性及び生産性の観点から連続的に遠心分離を実施可能である装置であることに注目されたし。さらに、遠心機として一般に利用可能な遠心機が使用され、遠心機のローターの回転速度は、特に制限されないが、培養溶液の固体部分の上記濃度を有するように使用される各遠心機に応じて設定される。
【0156】
本発明では、所定濃度まで濃縮された培養溶液が塩基性状態で処理されるように、pH調整ステップが実施される。pH調整ステップでは、塩基性化合物、その水溶液などが所定濃度まで濃縮された培養溶液に添加され、培養溶液は、好ましくは、撹拌機などの撹拌装置により、水素イオン指数、即ちpHが約25℃の温度で9.5以上であるような高度に塩基性の状態で撹拌及び混合され、より好ましくは、pHが10.0以上であるような高度に塩基性の状態で撹拌及び混合され、最も好ましくは、pHが11.0以上であるような高度に塩基性の状態で撹拌及び混合される。ドナリエラ粉末を、1年を通して160mg%以下の全フェオホルビド量及び100mg%以下の既存のフェオホルビド量を有するように安定的に制御することが困難であることから、pHが9.5未満であることは好ましくない。
【0157】
一般に、ドナリエラ粉末の生成ステップにおいて、通常は中性から弱塩基性状態で様々なステップが実施される。本発明などのようにpH調整処理が加えられる場合、別のステップが加えられるだけでなく、必要に応じて以下に述べられるように、中和処理ステップが実施される。そのような理由から、生産性などへの影響が生じてもよい。したがって、通常は、所定濃度まで濃縮された培養溶液を強塩基性にしておくような考えには至っていない。pH調整ステップにおいて使用されるべき塩基性化合物の好ましい例として、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム、水酸化タリウム、及びグアニジンが挙げられる。より好ましい例として、広く使用される水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及び水酸化カルシウムが挙げられる。さらに、それらの2つ以上が一緒に使用されてもよい。さらに、任意の濃度を有するそれらの水溶液を使用することができる。
【0158】
必要な場合、pH調整処理が実施された後、液体特性が25℃の温度でpH7辺りの中性範囲であるようにするため、中和処理ステップが実施される。このステップは、例えば得られたドナリエラ粉末が健康食品又は加工食品として販売されるとき、ドナリエラ粉末をそのような高いpHで分布させることが困難である場合に必要となる。ここでは、加工食品がドナリエラ粉末を使用して生産されるとき、別の中和処理ステップが実施される場合、中和処理ステップが本発明において必ずしも実施されないことに注目されたし。
【0159】
中和処理ステップにおいて使用されるべき化合物として、無機酸又は有機酸が使用される。無機酸の例として、塩酸、リン酸、硫酸、及び硝酸が挙げられる。有機酸の例として、ギ酸、酢酸、クエン酸、及びシュウ酸が挙げられる。さらに、それらの2つ以上が一緒に使用されてもよい。さらに、任意の濃度を有するそれらの水溶液を使用することができる。
【0160】
次いで、ドナリエラ(Dunaliella)培養溶液中に含有された溶解塩又は沈殿塩及び中和処理ステップ中に生成された塩を除去するため、脱塩処理ステップが実施され得る。脱塩処理ステップの場合、周知の方法が使用可能である。例えば、特開1995-000147号に記載されている、キトサン溶液を使用する脱塩処理が使用可能である。
次いで、本発明では、脱塩処理が施され、所定濃度まで濃縮された培養溶液中に含有される、ヒト身体に対して有害なフェオホルビドをさらに低減するため、又は一般的細菌を殺滅するため、熱処理ステップが所定温度で所定期間にわたって実施されてもよい。それを上記のpH調整処理ステップと組み合わせることにより、様々なフェオホルビド量がより有効に低減され得る。熱処理ステップは、好ましくは70℃~140℃の温度範囲、より好ましくは80℃~130℃の温度範囲で実施される。様々なフェオホルビド量を減少させるか又は滅菌を実施するのに長期間を要し、且つドナリエラ粉末中のβカロチンの含量が酸化分解に起因して低下することから、熱処理温度が70℃未満の温度で実施されることは好ましくない。さらに、非常に短い期間で様々なフェオホルビド量を減少させるか又は滅菌を実施することが可能であるが、ドナリエラ粉末中のβカロチンの含量も酸化分解に起因して減少することから、熱処理が140℃を超える温度で実施されることは好ましくない。さらに、熱処理ステップに必要な時間は、好ましくは2~80分の範囲内、より好ましくは5~60分の範囲内である。様々なフェオホルビド量が低減できない、又は健康食品などとして販売するための十分な滅菌が実施できないことから、熱処理時間が2分未満であることは好ましくない。酸化分解に起因し、βカロチンを高い含量で得ることができないことから、熱処理時間が80分より長いことは好ましくない。ここで、熱処理ステップが、必ずしも脱塩処理ステップ後に実施されないが、任意の順序で実施されてもよく、例えばpH調整処理ステップ前に実施されることに注目されたし。
【0161】
次いで、必要に応じて中和処理ステップ又は熱処理ステップ後に得られているペーストは、噴霧乾燥、又は減圧下での凍結乾燥などの周知の方法によりペーストから水を除去することによって、乾燥粉末生成物中に形成される。
【0162】
上記の一連の方法において得られたドナリエラ粉末は、160mg%以下の総フェオホルビド量及び100mg%以下の既存のフェオホルビド量を有し、ドナリエラ粉末100g中に3~20gのβカロチンを含有する。さらに、100gのドナリエラ粉末中に含有されるβカロチンの量は、原料として使用されるべきドナリエラ(Dunaliella)属に属する藻類に応じて異なるが、その量はより好ましくは5~15g、最も好ましくは6~10gである。100gのドナリエラ粉末中に含有されるβカロチンの量が3g未満であることは、その商業的価値が低下していることから好ましくない。さらに、20g以上の含量を達成するため、原料としてドナリエラ(Dunaliella)属に属する藻類は、より多くのβカロチンを含有することが求められる。
【0163】
さらにいくつかのさらなる実施形態では、本開示のドナリエラ製剤は、以下に詳述されるように調製されたドナリエラ・バーダウィル(Dunaliella bardawil)に基づく。ドナリエラ科(Dunaliellaceae)、特にドナリエラ(Dunaliella)属が、他の生物を打ち負かし、高塩環境下で繁栄するその能力を特徴とする、単一細胞の光合成緑藻であることは注目されるべきである。この属の特定種は、高光強度、高塩濃度、並びに限られた酸素及び窒素レベルからなる非常に粗い成長条件下で、比較的大量のβカロチノイド及びグリセロールを蓄積し得る。ドナリエラ・バーダウィル(Dunaliella bardawil)は、主に異性体9-シス及びオールトランスからなる、成長制限条件下で高レベルのβカロチンを蓄積する周知の微細藻類である。
【0164】
いくつかの実施形態では、本発明によって使用されるドナリエラ(Dunaliella)は、任意の成長条件下、例えば任意の塩条件下、並びに任意の光条件下及び任意の温度条件下で成長される。塩条件における非限定例として、1M、2M、3M又はそれ以上、最大4Mの塩濃度のNaClが挙げられる。
【0165】
本発明で使用されるドナリエラ製剤が、任意のドナリエラ(Dunaliella)種、株及び単離物から調製されることは理解されるべきである。いくつかの具体的且つ非限定的な実施形態では、本明細書で使用されるようなドナリエラ製剤は、ドナリエラ・バーダウィル(Dunaliella Bardawil)から調製される。さらにいくつかのさらなる具体的な実施形態では、本明細書で使用されるようなドナリエラ・バーダウィル(Dunaliella bardawil)は、Bardawil Lagoon,North Sinai,,1976近くの塩池から単離されたBen-Amotz及びAvronである。さらにいくつかのさらなる具体的な実施形態では、ドナリエラ・バーダウィル(Dunaliella bardawil)は、本明細書で使用されるとき、ATCC(登録商標)30861(商標)で表されるものである。本発明が、本発明によって記載される態様のいずれかにおいて、ATCC(登録商標)30861として表されるような、ドナリエラ・バーダウィル(Dunaliella bardawil)の任意の子孫、株、単離物、突然変異体又は変異体の使用をさらに包含することは理解されるべきである。
【0166】
ドナリエラ・バーダウィル(Dunaliella bardawil)(以降「Db」)は、約8重量%のβカロチン(以降「BC」)をBCの9-シス及びオールトランス異性体の(重量で)約1:1の比、又はBCの9-シス及びオールトランス異性体の1:1を超える比で含む藻類を得るため、50,000mの大型開放塩水池中で成長され、培養された。遠心機を濃縮ペーストに変更することにより、藻類は収集された。ペーストは洗浄され、塩が除去され、滅菌され、次いで噴霧乾燥され、約8%のBC及び5%未満の水分を含むDb粉末が得られた。粉末は、藻類の天然成分のすべてと一緒に15~20mgのBC各々を含有する250~300mgの藻類のカプセルにパッケージングされた。カプセルのBCは、元の異性体の比を保持する。カプセルは、最大3年の有効期間を有する真空閉鎖ブリスターにパッケージングされた。
【0167】
具体的な実施形態では、本開示のドナリエラ製剤は、カプセル封入される。カプセル封入は、(コア材料又は活性薬剤と称される)1つの物質を別の(コーティング、シェル、又は担体/壁材料)中に封入するために使用されるプロセスである。より具体的には、ドナリエラ(Dunaliella)藻類の乾燥粉末、ドナリエラ(Dunaliella)藻類の乾燥粉末を圧縮及び硬化することによって得られた錠剤、又はドナリエラ(Dunaliella)藻類の乾燥粉末をカプセル封入することによって得られるカプセルは、公知である。任意の状態において、最初に、ドナリエラ(Dunaliella)藻類の培養溶液を乾燥させ、且つそれを乾燥粉末に形成することは必要である。
【0168】
例えば、特開1997-203号は、ドナリエラ(Dunaliella)属に属する藻類の乾燥粉末生成物が、培養されたドナリエラ(Dunaliella)藻体の培養溶液の水含量を、好ましくは簡易乾燥において約50%まで予め減少させることにより、続いて噴霧乾燥、真空乾燥又は凍結乾燥が施されることにより得られることを開示している。
【0169】
ドナリエラ(Dunaliella)属に属する藻類の乾燥粉末生成物は、食品として販売される。所定の安全性基準を満たすため、ドナリエラ(Dunaliella)属に属する収集された藻類から乾燥粉末生成物を生成するステップの中で、ヒト身体に対して有害な場合がある化合物を減少させるステップを実施することが必要である。
【0170】
上で詳述の通り、様々な実施形態では、本開示のドナリエラ藻類製剤は、ドナリエラ・バーダウィル(Dunaliella bardawil)製剤であってもよい。
【0171】
具体的な実施形態では、本開示のドナリエラ藻類製剤は、飲料、固形物、半固形物又は液体食品、食品添加物、栄養補助食品、医療食、植物性薬品、薬剤及び/又は医薬化合物への追加物に適応されてもよい。
【0172】
さらなる特定の実施形態では、本開示のドナリエラ藻類製剤は、機能性食品として使用される。用語「機能性食品」は、定期的に様々な食事の一部として有効なレベルで消費されるとき、必須栄養素(例えば、ビタミン及びミネラル)の供給を超える健康上の利益をもたらす、全体として、栄養強化され、濃縮され、又は改良された食品を意味する。
【0173】
さらなる特定の実施形態では、本開示のドナリエラ製剤は、栄養補助食品として使用される。食品及び飼料安全性についての欧州委員会(European Commission for Food and Feed Safety)によって作られた用語である栄養補助食品、又は米国食品医薬品局(US Food and Drug Administration)(FDA)によって採用された類似用語である健康補助食品は、正常な食事を補助することが目的である、栄養的又は生理学的効果を有する天然又は合成物質のあらゆる種類に関する。この意味では、この用語は、食品添加物及び食物成分も包含する。さらに、US Federal legislationの法令として、1994年のダイエタリーサプリメント健康教育法(Dietary Supplement Health and Education Act)(DSHEA)下で、健康補助食品という用語は、以下の食事性成分:ビタミン、ミネラル、ハーブ又は他の植物性、アミノ酸、総食事摂取量を増加させることにより食事を補助するために人によって使用される食事性物質、又は濃縮物、代謝産物、構成物、抽出物、又は上記成分のいずれかの組み合わせの1つ以上を持つ又は含有する食事を補助することが意図された(タバコ以外の)製品と定義される。
【0174】
栄養補助食品又は健康補助食品は、ピル、カプセル、粉末、飲料、及びエナジーバー及び他の投与形態の形態で市販されるものを意味する。欧州及び米国の法律では、健康補助食品は、「通常の」食品及び製剤を網羅する場合とは異なる一連の規制の下で規制される。それによると、健康補助食品は、そのようなものとしてラベル付けされ、摂取が意図されなければならず、通常食として又は食事若しくは食餌の単体としての使用が表明されてはならない。
【0175】
さらにいくつかのさらなる実施形態では、本開示のドナリエラ藻類製剤は、医療食への追加物として使用されてもよい。「医療食」は、通常食単独では充足させることができない特有の栄養ニーズを有する疾患の食事管理のため、特別に製剤化され、意図された食品を意味する。医療食という用語は、FDAの1988年オーファンドラッグ法修正(Orphan Drug Act Amendments)で定義された通り、全体的に医師の監督下で消費又は投与されるように製剤化され、且つ認識された科学的原理に基づく特有の栄養要求が医学的評価により確立される場合の疾患又は病態の具体的な食事管理が意図された食品である。
【0176】
さらに、植物性薬品が本文脈に関連する。具体的な実施形態では、本開示のドナリエラ藻類製剤は、植物性薬品に対する追加物であってもよい。本明細書で使用されるとき、用語「植物性薬品」は、ヒトにおける疾患の診断、治癒、緩和、治療又は予防における使用が意図された製品を指す。植物性製剤は、植物材料、藻類、巨視的真菌、又はそれらの組み合わせを含んでもよい植物性材料からなる。植物性製剤は、(限定はされないが)溶液(例えば茶)、粉末、錠剤、カプセル、エリキシル、局所用、又は注射として利用可能であってもよい。植物性製剤は、固有の特徴、例えば、複雑な混合物、個々の有効成分の欠如、及び実質的な事前のヒト使用を有することが多い。発酵製品及び高度に精製された又は化学修飾された植物性物質は、植物性製剤と考えられない。工業に対するFDAガイダンス(FDA Guidance for Industry)によると、植物性製品は、(栄養補助食品を含む)食品、(生物学的薬剤を含む)薬剤、医療装置(例えばグッタペルカ)、又は化粧品であってもよい。さらに、植物性薬品は、合成又は高度に精製された薬剤又はバイオテクノロジー由来若しくは他の天然由来の薬剤のいずれかと組み合わせた植物性成分を含んでもよい。同様に、植物性薬品は、動物若しくは動物部分(例えば、昆虫、環形動物、サメ軟骨)及び/又はミネラル又はそれらの組み合わせも含んでもよい。
【0177】
上で示された通り、本開示による方法は、少なくとも1つのドナリエラ藻類製剤又はそれを含む任意の組成物を有効量で対象に投与するステップを含む。
【0178】
用語「有効量」は、選択された結果を達成するのに必要な量を意味する。有効量は、予防又は治療目的、投与経路及び患者の全身状態(年齢、性別、体重及び主治医に認識される他の検討事項)と併せて、疾患又は病態の重症度及びタイプにより決定される。有効量は、動物モデル、例えば実施例中に提示されるこれらに基づいて決定されてもよい。
【0179】
いくつかの実施形態では、本開示のドナリエラ藻類製剤は、組成物中に含められる。
【0180】
本開示のドナリエラ藻類製剤を含む組成物は、当該技術分野で公知のいずれかの方法に従って調製されてもよい。
【0181】
特定の実施形態では、本開示のドナリエラ藻類製剤を含む組成物は、医薬組成物である。
【0182】
本開示のドナリエラ藻類製剤を含む医薬組成物は、一般に、緩衝剤、その容積モル浸透圧濃度を調節する作用剤、また任意選択的には、当該技術分野で公知の1以上の薬学的に許容できる担体、賦形剤及び/又は添加剤を含む。補助有効成分も、組成物中に組み込み可能である。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、及び液体ポリエチレングリコールなど)、それらに適した混合物、及び植物油を含有する溶媒又は分散媒であり得る。例えば、レシチンなどのコーティング剤の使用により、分散の場合に要求される粒径の維持により、また界面活性剤の使用により、適度な流動性が維持され得る。
【0183】
したがって、本発明の医薬組成物及び上記のすべてのドナリエラ藻類製剤が、上で考察された神経変性障害のいずれか、具体的には、βアミロイドの凝集に関連するいずれかの病態、上述したタウオパチーのいずれか及び/又はそれらに関連するいずれかの早期徴候若しくは症状に対して適用可能であってもよいことは理解されるべきである。
【0184】
本開示のドナリエラ藻類製剤又はそれを含む任意の組成物の投与は、当該技術分野で公知の任意の経路、経腸又は非経口により実施されてもよい。いくつかの実施形態では、本開示による方法において、前記ドナリエラ藻類製剤は、経口的に投与される。
【0185】
特定の実施形態によると、本発明のドナリエラ藻類製剤又はその任意の組成物は、経口、静脈内、筋肉内、皮下、腹腔内、非経口、経皮、腟内、鼻腔内、粘膜、舌下、局所、直腸又は皮下投与、又はそれらの任意の組み合わせにより投与されてもよい。
【0186】
具体的な実施形態によると、本発明の組成物は、特に経口又は粘膜投与使用に適してもよい。経口製剤の有用性では、本発明の活性薬剤又は製剤が生体利用可能であることが求められる。経口投与された薬剤のバイオアベイラビリティは、いくつかの要素、例えば、胃腸管全体を通じた薬剤吸収、胃腸管における薬剤の安定性、及び初回通過効果による影響を受け得る。したがって、活性薬剤又は組み合わせの有効な経口送達では、活性薬剤が腸壁を通過するために胃及び腸管腔において十分な安定性を有することが求められる。しかし、多数の薬剤が腸管において迅速に分解するか、又は腸管において不十分な吸収を有する傾向があることから、経口投与は、薬剤を投与するための有効な方法でない。
【0187】
より具体的には、本発明のドナリエラ藻類製剤及び組成物は、粘膜投与、例えば、肺、頬側、経鼻、鼻腔内、舌下、直腸、腟内投与及びそれらの任意の組み合わせに適してもよい。
【0188】
経口投与に適した医薬組成物は、典型的には、固形剤形(例えば錠剤)又は液体製剤(例えば、溶液、懸濁液、又はエリキシル)である。
【0189】
固形剤形は、有効成分の用量の決定及び投与を容易にし、投与、特に対象による自宅での投与を容易にするために望ましい。
【0190】
液体剤形もまた、対象が有効成分の必要投与量を容易に摂取することを可能にする。液体製剤は、飲料として、又は例えば鼻胃チューブ(NGチューブ)により投与されるように調製され得る。液体経口医薬組成物は、一般に、活性薬剤を溶解又は分散し、それにより組成物の対象への投与を可能にするのに適した溶媒又は担体系を必要とする。好適な溶媒系は、活性薬剤に適合し、且つ対象に対して非毒性である。典型的には、液体経口製剤では、水ベース又は油ベースの溶媒が使用される。
【0191】
本発明の経口組成物はまた、任意選択的には、胃腸系による、例えば胃内の胃液による活性薬剤の劣化、分解、又は非活性化を低減又は回避するように製剤化され得る。例えば、組成物は、任意選択的には、胃を改変されないで通過し、腸内で溶解するように製剤化され得る(即ち腸溶性組成物)。
【0192】
経口組成物はまた、賦形剤を使用して調製され得る。薬学的に適合する結合剤、及び/又は補助物質は、組成物の一部として含めることができる。ドナリエラ藻類製剤を含む経口剤形が提供され、ここで剤形は、経口投与時、治療的に有効な血液レベルのドナリエラ藻類製剤を対象に提供する。前記ドナリエラ藻類製剤を含む剤形であって、投与時、治療的に有効な血液レベルのドナリエラ藻類製剤を対象に提供する剤形も提供される。粘膜治療投与を目的として、活性組み合わせ化合物(例えばドナリエラ藻類製剤)は、例えば鼻スプレー若しくは点鼻剤、又は直腸若しくは膣坐剤を介しての吸入又は吸収による投与に適した賦形剤又は担体とともに組み込み可能である。
【0193】
いくつかのさらなる具体的な実施形態では、本開示による方法において、前記ドナリエラ藻類製剤は、少なくとも1つの追加薬剤と組み合わせて投与される。換言すれば、本開示の方法は、治療中の疾患又は病態のタイプに応じた追加治療薬のタイプである少なくとも1つの追加治療薬との併用療法を包含する。
【0194】
用語「併用療法」は、2つ以上の薬剤の同時又は逐次投与を意味し得る。例えば、同時投与は、2つ以上の薬剤が含有される1つの剤形を意味し得る一方で、逐次投与は、様々な時点で、また任意選択的には異なる投与経路により、対象に投与される別々の剤形を意味し得る。
【0195】
その別の態様では、本開示は、それを必要とする対象における神経変性疾患、タンパク質ミスフォールディングに関連する障害、認知機能低下、及びそれらに関連する任意の病態又は症状の少なくとも1つの発生を予防し、治療し、寛解させ、低下させ、又は遅延させるための方法における使用を意図した少なくとも1つのドナリエラ藻類製剤又はそれを含む任意の組成物をさらに提供する。
【0196】
いくつかの実施形態では、本開示による使用を意図した少なくとも1つのドナリエラ藻類製剤又はそれを含む任意の組成物において、前記方法は、それを必要とする対象における神経変性疾患、タンパク質ミスフォールディングに関連する障害、及び認知機能低下の少なくとも1つに関連する少なくとも1つの症状の寛解又は低下をもたらす。
【0197】
他の実施形態では、本開示による使用を意図した少なくとも1つのドナリエラ藻類製剤又はそれを含む任意の組成物において、前記症状は、短期記憶障害、長期記憶障害、認知機能障害、学習機能障害、βアミロイド沈着、不安、抑うつ又はそれらの任意の組み合わせの少なくとも1つである。
【0198】
さらなる実施形態では、本開示による使用を意図した少なくとも1つのドナリエラ藻類製剤又はそれを含む任意の組成物において、前記方法は、それを必要とする対象における認知機能、短期記憶、長期記憶、捕捉時間及びβアミロイドの排除の少なくとも1つの改善をもたらす。
【0199】
さらなる実施形態では、本開示による使用を意図した少なくとも1つのドナリエラ藻類製剤又はそれを含む任意の組成物において、前記神経変性疾患は、アルツハイマー病、パーキンソン病、軽度認知障害(MCI)、MCIを伴うパーキンソン病、ハンチントン病、レビー小体病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、プリオン病、運動ニューロン疾患(MND)、脊髄小脳失調(SCA)、脊髄性筋萎縮(SMA)、フリートライヒ運動失調症、及び任意の他の神経変性関連認知症又は運動失調の少なくとも1つである。
【0200】
さらなる特定の実施形態では、本開示による使用を意図した少なくとも1つのドナリエラ藻類製剤又はそれを含む任意の組成物において、前記神経変性疾患は、アルツハイマー病である。
【0201】
様々な具体的な実施形態では、本開示による使用を意図した少なくとも1つのドナリエラ藻類製剤又はそれを含む任意の組成物は、具体的には本発明の他の態様に関連して定義される通り、認知機能低下の発生を予防し、治療し、寛解させ、低下させ、又は遅延させるためである。
【0202】
様々な具体的な実施形態では、本開示による使用を意図した少なくとも1つのドナリエラ藻類製剤又はそれを含む任意の組成物において、前記方法は、少なくとも1つの追加薬剤の投与をさらに含む。
【0203】
さらには、いくつかの実施形態では、本開示による使用を意図した少なくとも1つのドナリエラ藻類製剤又はそれを含む任意の組成物において、前記ドナリエラ(Dunaliella)藻類は、ドナリエラ・バーダウィル(Dunaliella bardawil)である。
【0204】
特定の実施形態では、本開示による使用を意図した少なくとも1つのドナリエラ藻類製剤又はそれを含む任意の組成物において、前記ドナリエラ藻類製剤は、経口的に投与される。
【0205】
さらに別の態様では、本開示は、それを必要とする対象における神経変性疾患、タンパク質ミスフォールディングに関連する障害、認知機能低下、及びそれらに関連する任意の病態又は症状の少なくとも1つの発生を予防し、治療し、寛解させ、低下させ、又は遅延させるための組成物の製造のための少なくとも1つのドナリエラ藻類製剤の使用を提供する。
【0206】
いくつかの実施形態では、本開示による使用において、前記組成物は、それを必要とする対象における神経変性疾患、タンパク質ミスフォールディングに関連する障害、及び認知機能低下の少なくとも1つに関連する少なくとも1つの症状を寛解又は低下させる。
【0207】
他の実施形態では、本開示による使用において、前記症状は、短期記憶障害、長期記憶障害、認知機能障害、学習機能障害、βアミロイド沈着、不安、抑うつ又はそれらの任意の組み合わせの少なくとも1つである。
【0208】
さらなる実施形態では、本開示による使用において、前記組成物は、それを必要とする対象における認知機能、短期記憶、長期記憶、捕捉時間及びβアミロイドの排除の少なくとも1つを改善する。
【0209】
さらなる特定の実施形態では、本開示による使用において、前記神経変性疾患は、アルツハイマー病、パーキンソン病、軽度認知障害(MCI)、MCIを伴うパーキンソン病、ハンチントン病、レビー小体病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、プリオン病、運動ニューロン疾患(MND)、脊髄小脳失調(SCA)、脊髄性筋萎縮(SMA)、フリートライヒ運動失調症、及び任意の他の神経変性関連認知症又は運動失調の少なくとも1つである。
【0210】
様々な特定の実施形態では、本開示による使用において、前記神経変性疾患は、アルツハイマー病である。
【0211】
さらなる実施形態では、本開示による使用は、具体的には本発明の他の態様に関連して本明細書に記載される通り、認知機能低下の発生を予防し、治療し、寛解させ、低下させ、又は遅延させるためである。
【0212】
様々な実施形態では、本開示による使用において、前記ドナリエラ藻類製剤は、少なくとも1つの追加薬剤と組み合わせて投与される。
【0213】
さらなる実施形態では、本開示による使用において、前記ドナリエラ(Dunaliella)藻類は、ドナリエラ・バーダウィル(Dunaliella bardawil)である。
【0214】
他の実施形態では、本開示による使用において、前記ドナリエラ藻類製剤は、経口的に投与される。
【0215】
さらに別の態様では、本発明は、それを必要とする対象における短期記憶障害、長期記憶障害、認知機能障害、学習機能障害、βアミロイド沈着の少なくとも1つを改善するための方法における使用を意図した、少なくとも1つのドナリエラ藻類製剤又はそれを含む任意の組成物を提供する。さらにいくつかのさらなる態様では、本発明は、それを必要とする対象における短期記憶障害、長期記憶障害、認知機能障害、学習機能障害、βアミロイド沈着の少なくとも1つを改善するための方法を提供する。いくつかの実施形態では、本発明の方法は、少なくとも1つのドナリエラ藻類製剤又はそれを含む任意の組成物を有効量で対象に投与するステップを含む。
【0216】
さらなる実施形態では、本開示による方法は、それを必要とする対象における認知機能、短期記憶、長期記憶、捕捉時間及びβアミロイドの排除の少なくとも1つの改善をもたらす。
【0217】
他の実施形態では、本開示による方法は、認知機能低下の発生を予防し、治療し、寛解させ、低下させ、又は遅延させるためである。
【0218】
特定の実施形態では、本開示による方法において、ドナリエラ(Dunaliella)藻類は、ドナリエラ・バーダウィル(Dunaliella bardawil)である。
【0219】
さらなる具体的な実施形態では、本開示による方法において、ドナリエラ藻類製剤は、経口的に投与される。
【0220】
明確にするため、別の実施形態との関連で説明される本発明の特定の特徴がさらに、単一の実施形態中で組み合わせて提供されてもよいことは理解される。逆に、簡潔にするため、単一の実施形態との関連で説明される本発明の様々な特徴はさらに、別々に、又は任意の好適な部分的組み合わせで、又は本発明の任意の他の説明される実施形態中で好適なものとして提供されてもよい。様々な実施形態との関連で説明される特定の特徴は、実施形態がそれらの要素の不在下で無効でない限り、それら実施形態の本質的特徴とみなされるべきでない。
【0221】
本明細書で用いられるすべての科学技術用語は、特に指定されない限り、一般に当該技術分野で使用される意味を有する。本明細書に提供される定義は、本明細書で頻繁に使用される特定の用語の理解を容易にするためであり、本開示の範囲を限定することを意味しない。
【0222】
用語「約」は、本明細書で使用されるとき、連続範囲を構成する、整数値、同様に適用可能であれば非整数値を含む逸脱範囲である、参照される値よりも1%、より具体的には5%、より具体的には10%、より具体的には15%まで、場合によっては20%高い又は低い値まで逸脱することがある値を示す。本明細書で使用されるとき用語「約」は、±10%を指す。
【0223】
用語「含む(comprises)」、「含む(comprising)」、「含む(includes)」、「含む(including)」、「有する」及びそれらの複合は、「限定はされないが含む」を意味する。この用語は、「~からなる」及び「~から本質的になる」という用語を包含する。語句「~から本質的になる」は、組成物又は方法が、追加の成分及び/又はステップを、専ら特許請求された組成物又は方法の基本的且つ新規な特徴を実質的に変更しない限り、含んでもよいことを意味する。本明細書及び後続する実施例及び請求項の全体を通じて、文脈上他の意味に解すべき場合を除き、用語「含む(comprise)」、並びに「含む(comprises)」及び「含む(comprising)」などの変形は、述べられた整数又はステップ又は整数若しくはステップのグループの包含を意味するが、任意の他の整数又はステップ又は整数若しくはステップのグループの除外を意味しないことが理解されるであろう。
【0224】
本発明の様々な実施形態が、範囲形式で提示されてもよいことは注目されるべきである。範囲形式での記述があくまで便宜性及び簡潔性のためであり、本発明の範囲に対する確固たる限定として解釈されるべきでないことは理解されるべきである。したがって、範囲の記述は、具体的に開示されたすべての可能な部分範囲及びその範囲内の個別の数値を有すると考えられるべきである。例えば、1~6などの範囲の記述は、1~3、1~4、1~5、2~4、2~6、3~6などの部分範囲、並びにその範囲内の個別の数字、例えば、1、2、3、4、5、及び6を具体的に開示するものと考えられるべきである。これは、範囲の幅と無関係に適用される。数値範囲が本明細書で指定されるときは常に、指定範囲内の任意の引用された数字(分数又は整数)を含むことを意味する。第1の指定数と第2の指定数「の間の範囲を有する/範囲である」及び第1の指定数「から」第2の指定数「にかけての範囲を有する/範囲である」という語句は、本明細書で互換的に用いられ、第1及び第2の指定数並びにそれらの間のすべての分数及び整数を含むことを意味する。
【0225】
上で詳述され、下の特許請求の範囲セクションで特許請求されるような本発明の様々な実施形態及び態様は、以下の実施例中に実験的サポートが見出される。
【0226】
以下の実施例は、本発明の態様を実施する場合に発明者によって利用される技術を代表する。これらの技術が本発明の実行における好ましい実施形態を例示する一方で、当業者が、本開示に照らして、本発明の精神及び意図された範囲から逸脱することなく極めて多数の修飾を設けることができることを認識することは理解されるべきである。
【0227】
本明細書及び添付の特許請求の範囲中で使用されるとき、単数形「a」、「an」及び「the」が、文脈上特に明示されない限り、複数の参照対象を含むことは注目されるべきである。
【実施例
【0228】
実施例
ここで、上の説明と一緒に、本発明のいくつかの実施形態を非限定的な様式で例示する、以下の実施例に対して参照がなされる。
【0229】
実験手順
動物
以下のマウスモデルを使用した:
*Tg2576マウス(Taconic Biosciences,Inc.)[27]及び年齢、性別、及び株に適合したC57Bl6野生型(WT)マウス。発明者の動物施設内で、Tg2576マウスを自己飼育(self-bread)した。Tg2576マウスは、ハムスタープリオンプロモーターによって駆動されたスウェーデン二重突然変異(APPswe)を有するアミロイド前駆体タンパク質(APP)のヒト695-aaアイソフォームを発現する。十分に特徴づけられていることから、Tg2576モデルを選択している。さらに、このモデルでは、マウスの病理が比較的緩徐であるが、本質的知見を得るのに十分に迅速に発現することから、このモデルは、将来のヒト適用にとってより妥当である。加えて、これらのマウスは、比較的高い生存率を有する(以前に、12か月までにマウスの約75%が生存することが示されている)。Tg2576マウスが活動的な傾向があることから、Sheba Animal Facility承認のSPF(特定の病原体フリー)でケージあたり動物1匹で動物を収容した。
【0230】
*5XFADマウス。これらのマウスは、ジャクソン研究所(Jackson Laboratory)(Bar Harbor,ME,USA)から購入した。5XFADマウスは、2つのFAD突然変異(M146L及びL286V)を有するヒトプレセニリン1(PS1)突然変異体とともに、スウェーデン(K670N,M671L)、フロリダ(I716V)、及びロンドン(V717I)突然変異を有するヒトアミロイド前駆体タンパク質(APP)突然変異体を過剰発現する。
【0231】
10か月間(2~12月齢)、Tg2576マウスを治療した。2か月ごとに体重を取得した。屠殺の2週前、(探索するための一般的な自発運動活性、不安及び自発性を測定するオープンフィールド、探索及び空間ワーキングメモリーを測定するY迷路自発性交替、並びに長期記憶を測定するバーンズ迷路を含む)行動試験を実施した。12月齢で動物を屠殺した。
【0232】
6か月間(約1~6月齢)、5XFADマウスを治療した。毎月、体重を監視した。屠殺の2週前、(探索するための一般的な自発運動活性、不安及び自発性を測定するオープンフィールド、探索及び空間ワーキングメモリーを測定するY迷路及び新規物体認識、長期記憶を測定する新規物体認識及びバーンズ迷路を含む)行動試験を実施した。7月齢で動物を屠殺した。
【0233】
食餌条件
動物が8週齢に達した時、Tg2576及びWT対照マウスを各々、2群に無作為に割り当て(各群に12マウス)、10か月間、8%ドナリエラ藻類粉末食餌(本明細書中で「ドナリエラ食餌」とも称する)又は対照食餌を与えた。低脂肪固形飼料食餌(18%タンパク質、5%脂肪;TD2018,Harlan Teklad)を基本(対照)食として使用した。食物を調製するため、溶液が清澄になるまで、750mlの蒸留熱水を28gのゼラチンと混合した。次いで、低脂肪固形飼料食餌(対照)又はドナリエラ(Dunaliella)藻類粉末(80g/kgフィード)を有する低脂肪固形飼料食餌の1kg粉末を温かいゼラチン溶液と十分に混合した。凝固後、植物を錠剤に分割し、-80℃で貯蔵した(それにより、ドナリエラ(Dunaliella)藻類粉末含量を除き、2つの食餌が本質的に同じ含量及び生地を有した)。餌を2日置きに交換し、成分の酸化及び分解を最小化した。
【0234】
ドナリエラ藻類粉末製剤
ドナリエラ・バーダウィル(Dunaliella bardawil)(以降は「Db」、株式会社日健総本社)を50,000mの大規模な広大な海水池で成長させ、培養し、約5~8重量%のβカロチン(以降は「BC」)を、BCの9-シス及びオールトランス異性体を(重量で)約1:1の比、又はBCの9-シス及びオールトランス異性体を1超:1の比で含む藻類を得た。遠心機を濃縮ペーストに変更することにより、藻類を収集した。ペーストを洗浄し、塩を除去し、滅菌し、次いで噴霧乾燥させ、約5~8%のBC及び5%未満の水分を含むドナリエラ・バーダウィル(Dunaliella bardawil)粉末を得た。藻類の他の天然成分(例えば、タンパク質、脂質、炭水化物)のすべてと一緒にBC(5~8%)を含有する250~500mgの藻類のカプセルに、粉末をパッケージングした。カプセルのBCは、異性体の元の比を保持する。最長3年の有効期間を有する真空の密封ブリスターに、カプセルをパッケージングした。
【0235】
本明細書で使用されたドナリエラ藻類粉末製剤は、40%~50%の9-シスβカロチン(9βC)及び50%~60%のオールトランスβカロチンからなる約7%のβカロチンを含有する。
【0236】
血液脳関門モデル
血液脳関門(BBB)のインビトロモデルを使用した[28]。モデルは、微孔性膜フィルターの培養インサート上で成長させた、タイトジャンクションを形成する新規に収集したブタ脳から確立した内皮細胞の一次培養物から得た、内皮細胞の単層(図6中の「管腔側」)と、フィルターの反管腔側に播種した新生ラットの皮質から抽出したグリア細胞の単層(図6中の「反管腔側」)とからなる。低密度リポタンパク質(健常ボランティアからのLDL、100μl、1,600μg/ml)を管腔側に添加した。次に、細胞を24時間インキュベートし、その後、サンプルを収集し、HPLCを使用して分析した。最初にグリア細胞をフィルターの反管腔側に播種することによりモデルを調製し、1週後、上記の内皮細胞をフィルターの管腔側に播種し、2日後、上で示したようにLDLをフィルターの管腔側に添加した。
【0237】
本発明のドナリエラ藻類粉末製剤の9βC及びオールトランスβカロチン(βC)の異性体がBBBを通過したか否かを試験するため、上記のTg2576及び5XFADマウスモデルにおいて、血漿、肝臓において、そして異なる脳領域(海馬及び前頭皮質)において、βカロチン異性体レベル、並びに他のカロチノイド及びそれらの代謝産物のレベルも、高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)によりインビボで測定した。
【0238】
いずれが脳のレチノイドの供給源であり得るかを発見するため、レチノール及びレチノイン酸がBBBを通過するか否かも試験する。さらに、βカロチンが脳内でレチノールに変換され得るか否かを試験するため、異なる細胞を脳から単離し(海馬ニューロン及び星状細胞)、βカロチン15,15’-モノオキシゲナーゼ1(BCMO1)の発現(mRNA及びタンパク質)及び該細胞内でのその活性(レチノール形成)を測定する。
【0239】
BBBインビトロモデルにおけるLDL単離
逐次超遠心分離(密度、1.063g/ml)により、LDLを健常ボランティアから得て、濃度をローリー法により測定した。
【0240】
行動試験-学習及び記憶試験
上で詳述した通り、8週齢Tg2576マウス30匹及びC57Bl/6WTマウス30匹各々、2群に無作為に割り当て、2つの異なる食餌:通常固形飼料食餌(対照)及びドナリエラ食餌(1Kgフィード中、8%の9-シスβカロチンがリッチなドナリエラ(Dunaliella)藻類粉末)の上に10か月間配置した。以下の行動試験を実施した:オープンフィールド、Y迷路及びバーンズ迷路。
【0241】
バーンズ迷路
バーンズ迷路は、動物が空間的手がかりを使用し、穏やかに有害な環境からの回避手段を突き止めることを可能にする空間的学習作業である[29]。バーンズ迷路及びモリス水迷路(MWM)は、双方とも空間的記憶を試験するが、MWMと異なり、バーンズ迷路は、水泳によって誘導されるストレスが欠けている。作業中、マウスは、縁辺りに18の穴を有する環状テーブルの中央にある円柱状の暗いチャンバー内に配置する。10秒後、チャンバーを上げ、動物が穴の1つの下部の引き出しにつながっているエスケープ穴を発見するように動機づけるため、動物は、負の強化、例えば、輝線、騒々しいブザー、露出環境、及びエアジェットを受ける[30,31]。動物は、180秒以内にエスケープ箱を発見し、それに入るまで迷路を探索する。マウスが180秒以内にエスケープ箱に入ることができない場合、それを尾の根っこをそっと持ち上げ、手掌に置いて、エスケープ穴側に放す。マウスはエスケープ箱に入り、さらに60秒間そこで留まってから、除かれ、そのホームケージ戻される。
【0242】
各試験後、迷路及びエスケープ箱を10%アルコール溶液で徹底洗浄し、匂いを除去する。エスケープ潜伏訓練の180秒の間、エラーの数及び経路長さを測定する。エスケープ潜伏は、シリンダーの除去と動物のエスケープ穴への侵入との間の時間の持続時間である。動物は、1日4回の試験を4日間受けることになる。5日目、想起試験を実施することになる。エスケープ箱を除去し、同じパラメータを測定することになる。12日目、2回目の想起試験を実施し、長期保持を評価することになり、ここで標的のエスケープ箱を位置づけた。
【0243】
Y迷路
Y迷路自発性交替は、齧歯類が新規環境を探索する自発性を測定するための行動試験である。Y迷路試験は、海馬に依存する空間ワーキングメモリーの評価を可能にする[32]。12月齢のマウスをY迷路の1つのアームの末端に配置し、迷路を自由に6分間探索することを可能にする。交互性は、3つの異なるアームが侵入される場合の重複する3つ組に対する3つのアームへの連続的侵入から判定する。実際の交互性は、3つすべてのアームへの連続的侵入(即ち、ABC、CAB、又はBCAであってもBABでない)と定義する。侵入は、4つすべての足をアームの境界内に配置することと定義する。残留する匂いを除去する作業の間、迷路アームを30%エタノールで洗浄する。
【0244】
オープンフィールド試験
オープンフィールド試験は、一般に使用される、齧歯類における探索するための一般的な自発運動活性、不安及び自発性の定性的及び定量的尺度である。マウスは試験箱の端に配置し、その領域を自由に5分間探索することを可能にする。4種の測定を記録した:(a)一般的活動性及び探索行動を示す全経路;(b)一般的活動性及び探索行動を示す、使用される細胞の百分率;(c)不安及び一般的活動性を示す、移動時間の百分率;並びに(d)不安を示す、マウスが活動領域の中央において費やす時間の合計である中央合計。試験を記録し、分析する。これらの測定の各々におけるより高いスコアは、より低い不安及びより高い自発運動活性を反映する。
【0245】
新規物体認識
マウスに、2つの同一物体を5分間、3時間後に短期記憶のため、24時間後に長期記憶のため、提示し;物体の1つを異なる物体と交換する。新規物体を探索するのにかかる時間の量は、再認記憶の指数を提供する。
【0246】
Aβペプチドの海馬形成の測定
マウス(Tg2576及び5xFAD)を屠殺後、それらの脳抽出物に対して測定を実施した。脳組織を均質化し、それから抽出したタンパク質のサンプルを分析した。ヒトβアミロイド(1-42)ELISAキット(富士フイルム和光純薬株式会社)を使用し、アミロイドベータレベルを測定した。つまり、海馬形成Aβペプチドの定量的評価のため、凍結した微粉砕組織を2ステップ抽出で抽出した。組織を1%トリトンX100で均質化し、137mmのNaCl及びプロテアーゼ阻害剤カクテル(Roche Biochemicals,Indianapolis,IN,USA)を含有する25mmのリン酸緩衝食塩水で希釈し、100,000g、4℃で1時間遠心分離した。可溶性分画を「Aβsol」と名付けた。次に、残存するペレットを、5mグアニジンHClとともに、50mmトリス、PH=8及びプロテアーゼ阻害剤カクテルで超音波処理し、25℃で2時間インキュベートし、13000g、4℃で20分間遠心分離した。後者の(不溶性)画分を「Aβinsol」と名付けた。サンドイッチELISA(富士フイルム和光純薬株式会社、大阪、日本)により、製造業者の使用説明書に従い、Aβ1 42を測定した。
【0247】
ドナリエラ藻類粉末調製食餌を与えた動物におけるRXR及び下流遺伝子の発現-ナノストリングnCounter遺伝子発現分析
ナノストリング法を使用し、9-シスβC(ドナリエラ藻類粉末調製食餌中に存在)が、脳内及び他の組織内のレチノイドX受容体(RXR)を介して、炎症、BBBシナプス可塑性及び脂質化に関連する遺伝子に影響するか否かを試験した。この問いに対して、同じ組織からのRNA及びタンパク質抽出用に設計された、NucleoSpin(登録商標)RNA(Macherey-Nagel)又はPARIS(商標)キット(Invitrogene(商標))を使用し、一方の半球からのマウス海馬から全RNAを抽出した。抽出したRNAにナノストリング遺伝子発現分析を施した。標準ナノストリングプロトコルに従った。RNA(70ng)を使用し、おそらくはアルツハイマー病(AD)に関連し、RXRに影響し、異なる経路:炎症、脂質化、BBB及びシナプス可塑性に分離された、43のマウス遺伝子の発現を評価した。組み入れ基準:1.4より高いか又は0.7により低い比の値及びp<0.05は有意とみなされ、統計分析用に使用した。
【0248】
ウエスタンブロット解析
PARIS(商標)キット(Invitrogen(商標))又はRIPA緩衝液を使用し、マウス海馬を溶解させた。タンパク質溶解物をSDS-PAGEサンプル緩衝液中、95℃で5■分間変性させ、12%SDS-PAGEにより分離した。タンパク質をニトロセルロース膜上に移した。必要に応じた一次抗体:抗GFAP(Abcam ab53554、1:500)、抗シナプトフィジン(abcam [YE269] ab32127、1:10000)、PBR(Santa Cruz,FL-169:sc-20120、1:100)、αチューブリン(Santa Cruze,B-7:sc-5286、1:100)、GAPDH(1:150)とのインキュベーション前に、膜をブロッキング緩衝液とともに1時間インキュベートした。IRDye(登録商標)680CWヤギ抗ウサギ(1:15000)及びIRDye(登録商標)680CWロバ抗マウス(1:15000)、IRDye(登録商標)800CWロバ抗ヤギ(1:15000)、IRDye(登録商標)800CWヤギ抗マウス(1:15000)二次抗体を使用し、タンパク質を可視化した。Odysseyシステム(CLX)により、画像を取得した。Image Studio Ver5.2ソフトウェアを使用し、タンパク質を定量化した。
【0249】
カロチノイド分析
10μMブチル化ヒドロキシトルエンを含有する2mLのエタノールでマウス脳組織を均質化し、続いて、2mLのヘキサン及び1mLの二重蒸留水(DDW)を添加した。サンプルを混合し、1000×gで5分間遠心分離した。ヘキサン層を分離し、N流の下で乾燥させた。乾燥したサンプルを100μLのメチル-tert-ブチル-エーテルに懸濁し、1mL/分の流速の移動相としてメタノール/メチル-tert-ブチル-エーテル/水 1.5%酢酸アンモニウムを有する、YMC C30カラム(CT995031546QT、150×4.6、3μmの粒径;YMC Inc.,Allentown,PA,USA)上の逆相HPLCにより、βc濃度を測定した。βcは、450nmでのその吸光度を監視することにより、また信頼性標準の保持時間との比較により検出した。
【0250】
コレステロール及びTGの測定
比色分析の酵素的手順を使用し、血漿総コレステロール(Chol,Roche/Hitachi,Roche Diagnostics)及びトリグリセリド(Infinity,Thermo Electron Corporation)を測定した。脂質測定の場合、Cobas Mira自動分析計(Roche)又はBeckman coulter AU-480を使用した。
【0251】
統計分析
平均±平均値の標準誤差としてデータを報告した。スチューデントt検定により、結果を分析した。P値が0.05未満であったとき、統計学的有意性が得られた。
【0252】
実施例1
ドナリエラ藻類粉末製剤を与えたマウスの生存及び体重増加
上で詳述した通り、Tg2576マウス30匹及びC57Bl/6 WTマウス30匹を各々、2月齢時に2群に無作為に割り当て、2(食餌タイプ)設計による2(マウスタイプ)で、2つの異なる食餌タイプ:通常固形飼料食餌及びドナリエラ藻類粉末調製食餌(1Kgの固形飼料食餌中、80grの9-シスβカロチンが豊富なドナリエラ藻類粉末)の上に10か月間配置した。
【0253】
以前に示した通り、Tg2576マウスは、WTマウスと比較してより低い生存率を有した。しかし、下の表1に示す通り、ドナリエラ藻類粉末調製食餌を与えたTg2576マウスは、通常食を与えたTg2576マウスと比較して実質的により高い生存率を有した(p=0.052)。
【0254】
【表1】
【0255】
実験中、動物の体重は、2か月ごとに測定した。図1に示す通り、ベースラインで動物は、類似の体重を有したが、以下の測定では、ドナリエラ藻類粉末調製食餌を与えた野生型マウス(WT Duna.prep.)と他群との間で差の拡大が検出された。実験終了時、ドナリエラ藻類粉末調製食餌を与えたWTマウスが平均で12gr増加した一方で、他群は平均で22gr増加した。WT対照マウス(通常食を与えた野生型マウス)と比較して、ドナリエラ藻類粉末調製食餌を与えたWTマウス間で有意差(p<0.05)が示される。
【0256】
脂肪組織がカロチノイド及びレチノール貯蔵の重要な部位であることは当該技術分野で公知であり、レチノイドが肥満において抗脂肪蓄積及び抗炎症作用を有することを示すいくつかの試験がある。したがって、本実験におけるマウス体重に対するドナリエラ食餌の効果は合理性がある。ドナリエラ藻類粉末調製食餌を与えたWTマウスにおいて、対照食餌を与えたWTマウスと比較して効果が異なることの理由は未知である。にもかかわらず、ドナリエラ藻類粉末製剤治療による体重の減少は、以前に実証されていない。
【0257】
興味深いことに、図1に示す通り、Tg Duna.Prep.マウスとWT対照マウスとの間、即ちドナリエラ藻類粉末調製食餌を与えたTg2576マウスと野生型対照マウスとの間で、体重増加における有意差は認められなかった。さらに、明らかにドナリエラ藻類粉末調製食餌は、通常食を与えたTg2576マウスにおいて認められた体重増加を改善した。
【0258】
実施例2
ドナリエラ藻類粉末製剤を与えたマウスにおける自発運動活性、不安及び探索行動
本実施例と後続の実施例では、アルツハイマー病(AD)マウスモデルにおける認知機能に対するドナリエラ藻類粉末調製食餌の効果を、行動試験を用いて試験した。まず、ドナリエラ藻類粉末調製食餌を与えたWT及びTg2576マウスにおける一般的な自発運動活性、不安及び探索行動を、対照マウスと比較して検討するため、オープンフィールド試験を使用した。
【0259】
図2A及び図2Bに示す通り、この行動モデルにおいて、「全経路」及び「使用細胞の百分率」特性に対する、ドナリエラ藻類粉末調製食餌についての有意な効果が認められなかった。しかし、図2C及び図2Dに示す通り、「移動時間の百分率」(図2C)及び「中央合計」(図2D)に対する有意な効果が認められた。Tg2576マウスは、WTマウスよりも長い経路を有したが、活動領域の中央で費やした時間は短く、それは不安がより高いことを示す。図2Cに示す通り、ドナリエラ藻類粉末調製食餌を与えたTg2576マウス(Tg Duna.Prep.)では、不安及び一般的活動性を示す、移動時間の百分率は、WTマウスの場合とほぼ同じであった。さらに、図2Dに示す通り、Tg Duna.Prep.マウスの活動領域中央で費やされた時間がWTマウスの場合よりも低かったが、このスコアは、Tg対照マウスにおいて得られたものよりも高かった。
【0260】
実施例3
ドナリエラ藻類粉末製剤を与えたマウスの新規環境探索への自発性
本実施例では、Y迷路試験を使用した。マウス(Tg2576)が新規環境を探索する自発性を測定し、空間ワーキングメモリーを評価するため、Y迷路の3つすべてのアームへの侵入と定義した交互性の百分率を連続的に計算した。図3から明らかであるように、ドナリエラ藻類粉末調製食餌は、両方のマウスタイプにおいて、マウスの探索及び空間ワーキングメモリーに影響しなかった。
【0261】
実施例4
ドナリエラ藻類粉末製剤を与えたマウスにおける空間的学習及び記憶
次に、空間的学習及び記憶をバーンズ迷路により測定した。WTマウスは、アルツハイマー様マウスモデル(Tg2576)と比較して短い潜伏期間を有することが予想される。図4に示す通り、この進行中の実験からの予備的結果(n=6~10)は、訓練期間後1日目及び7日目、Tg2576対照マウスにおける潜伏期間がWTマウスと比較してより長いことを示した。ドナリエラ藻類粉末製剤群におけるより短い潜伏期間は、ドナリエラ藻類粉末調製食餌がTg2576マウスにおいて認知機能を改善し;7日目、その改善が統計学的に有意であり(p<0.05)、1日目、より短い潜伏への傾向が認められたことを示す。興味深いことに、より短い潜伏期間への傾向は、WT対照群と比較したWT Duna.Prep.群においても検出された。
【0262】
上記結果は、本発明のDuna.Prep.で処置されたTg2576マウスによって実証された通り、ドナリエラ藻類粉末製剤が長期記憶を改善したことを示す。
【0263】
実施例5
9-シスβカロチンが血液脳関門を通過した
βカロチンは、脳に達するため、血液脳関門(BBB)を通過する必要がある。βカロチンは、一旦食品中で消費されると、血流中でカイロミクロン及び低密度リポタンパク質(LDL)により運搬されることが以前に報告されている。
【0264】
上記及び、図5A図5B図5Cで模式的に示された「BBBインビトロモデル」を使用し、グリア及び内皮細胞を(本質的にオールトランス及び9-シスβカロチンを含有する)LDLの存在下で24時間インキュベートし、次にサンプルを収集し、HPLCを使用して、カロチノイドを抽出及び分析した。
【0265】
図6Bに示す通り、9-シスβカロチン及びオールトランスβカロチンはBBBを通過した。図6Aに示す通り、他方でリコピンはBBBを明らかに通過せず、そのモデルの選択性が示唆された。
【0266】
さらに、上記の「BBBインビトロモデル」は、本明細書に記載のドナリエラ藻類食餌が投与された健常ボランティアから抽出されたLDL中のカロチンによりBBBを通過することを評価するためにも使用する。
【0267】
実施例6
ドナリエラ(Dunaliella)の9-シスβカロチンは血液脳関門を通過し、脳及び末梢組織内に蓄積した
ドナリエラ食餌を与えたTg2576マウスの脳組織内のカロチノイドレベルが、対照群と比較してより高いか否かを評価するため、HPLCを使用して、マウス脳カロチノイドを抽出し、次に測定した。図7に示す通り、対照食餌中で9-シスβカロチンが無視できる組織レベルで認められた一方で、ドナリエラ食餌を与えたマウスでは、オールトランス及び9-シスβカロチンの双方がはるかにより高いレベルで認められた。特に、ドナリエラ食餌を与えた群の脳内で、カロチノイドレベルが対照群の場合よりも有意に高かった(図7C)。結果は、カロチノイドが豊富な食餌に対する曝露により、具体的に肝臓(図7A)、脂肪(図7B)、脳(図7C)を含む身体組織内でのその蓄積がもたらされ、それ故、脳カロチノイドにおける供給源であってもよく、次いで脳レチノイドにおける供給源であってもよいことを示唆している。
【0268】
実施例7
ドナリエラ藻類粉末製剤を与えたTg2576マウスにおける不溶性及び可溶性アミロイドβレベル
ADの主な組織学的特徴の1つが、神経症プラーク(アミロイドベータ、βアミロイド)である。上で詳述した通り、レチノール及びβカロチンが潜在的にはアミロイドβの形成を阻害することが以前に示唆されている。次に、発明者は、アッセイ用Tg2576マウスの海馬におけるAβペプチドレベル(不溶性及び可溶性)に対するドナリエラ藻類粉末調製食餌の効果を試験した。Aβペプチドの海馬形成の定量的評価のため、全Aβ1-42を、上で詳述した通り、サンドイッチELISAにより測定した。
【0269】
図8Aに示す通り、ドナリエラ藻類粉末製剤を与えたTg2576マウス(Tg2576 Duna.Prep.)における不溶性βアミロイドレベルは、(通常食を与えた)対照群よりも有意に(p=0.02)低下した。図8Bに示す通り、可溶性βアミロイド画分について、類似の効果が示された。
【0270】
実施例8
ドナリエラ藻類粉末調製食餌を与えたTg2576マウスにおける遺伝子発現の分析
理論によって拘束されることを望まないが、本明細書に記載の治療は、3つの可能な(仮説上の)経路を介して:ACBトランスポーター及び脂質、BBB、可塑性及び炎症を介して、アルツハイマー病に影響することがある。
【0271】
したがって、ドナリエラ藻類粉末製剤リッチ食餌又は対照食餌を与えた動物の海馬におけるRXR及び下流遺伝子、即ち、apoE、ABCA1及びABCG1の発現を評価し、さらに海馬ニューロン培養物における上記遺伝子の発現をインビトロでアッセイした。RT-PCRにより、全RNAを抽出し、分析した。タンパク質発現の分析について、定量的ウエスタンブロッティングにより測定した。
【0272】
具体的には、上で詳述したアッセイに参加するTg2576マウスの海馬に対して、ナノストリング遺伝子発現分析を適用した。上の方法セクション中で特定した閾値基準を満たした遺伝子発現値のみが、統計学的に有意であるとみなされた。本明細書で詳述した治療による影響を有意に受けた遺伝子発現レベルは、Il-1α(1.4の比、P値=0.01)(図9A)、Il-1β(0.54の比、P値=0.04)(図9B)及びTSPO(0.69の比、P値=0.04)(図9C)であった。3つすべてが炎症性遺伝子である。結果は、図9に示す通り、ADと関連した神経炎症に対するドナリエラ藻類粉末調製食餌の考えられる有益な効果を示唆している。さらに、より高い発現レベルが示された、炎症に関与する遺伝子は、IL-6(約1.3)及びMCP1(約1.5)である。
【0273】
実施例9
TSPOタンパク質レベル
ドナリエラ藻類食餌において認められた陽性効果が炎症性遺伝子を含む場合があることを示している上の遺伝子発現結果に従い、ドナリエラ藻類粉末製剤の効果を、上方制御がミクログリア活性化の特徴であると考えられる、TSPOタンパク質の発現について試験した。TSPOタンパク質レベルを評価するため、Tg2576マウス海馬のタンパク質抽出物を、ウエスタンブロット解析を用いて定量化した(図10)。チューブリンで正規化されたブロットは、治療したマウスのTSPOレベルにおける有意な減少(p=0.01)、Tg2576対照マウスと比較して25%の減少を示し、ドナリエラ藻類粉末製剤に対する抗炎症効果が示唆された。
【0274】
実施例10
ドナリエラ藻類粉末製剤を与えたマウスの血漿中のコレステロール及びトリグリセリドレベル
Tg2576マウスモデル動物における血漿コレステロール及びトリグリセリドに対するドナリエラ藻類粉末製剤の効果を試験するため、空腹時血漿脂質レベルを測定した。図11に示す通り、ドナリエラ食餌は、治療したWTマウスにおける血漿コレステロールレベルを有意に(p=0.02)低下させたが、その中のトリグリセリドレベルに影響しなかった。それに対し、Tg2576治療マウスでは、コレステロールレベルに対する効果が認められなかったが、ドナリエラ食餌は、トリグリセリドレベルに対する効果を有した(p=0.07)。
【0275】
まとめると、上記結果は、食餌中9-シスβカロチンがBBBを通過することができ、脳細胞内部で(例えば酵素BCMO1の)酵素活性によりレチノイドに変換されることがあることを示す。食餌中9-シスβカロチンの提示された作用機構を示す模式図を図12に示す。理論によって拘束されることを望まないが、レチノイドのレベルは、Aβの排除を強化し、結果的に認知機能を改善する。本明細書に記載のドナリエラ藻類製剤は、9-シスβカロチン及びその他の異性体又は物質における豊富な供給源のために利用可能であってもよい。
【0276】
実施例11
ドナリエラ藻類粉末製剤を与えた5XFADマウスの脳及び末梢組織におけるβカロチン
次に、5XFADマウスモデルに対するドナリエラ藻類粉末製剤の効果を試験した。第1のアッセイでは、ドナリエラ藻類粉末製剤を与えた5XFADマウスの脳抽出物について実施し、図13に示す通り、9-シスβカロチン及びオールトランスβカロチンがBBBを通過することが示された。図13Bに示す通り、上記のようなドナリエラ藻類食餌を与えたマウスの脳組織は、9-シスβカロチン及びオールトランスβカロチンを、通常食を与えたマウスの脳組織内の上記βカロチン異性体のレベルと比較して有意により高い量で含有した(図13A)。
【0277】
加えて、Tg2576モデルにおいて実施した実験と同様、ドナリエラ藻類粉末製剤を与えた動物において、カロチノイドは、BBBを通過し、より高いレベルで組織内に蓄積することが示された。図14に示す通り、これらの結果は、ドナリエラ食餌群において、ドナリエラ(Dunaliella)藻に由来するオールトランス及び9-シスβカロチンが、BBBを通過し、肝臓、脂肪及び脳組織(各々、図14A図14B図14C)内に、対照群と比較してはるかにより高いレベルで蓄積したことを示唆する。さらに、このモデルにおけるカロチノイドレベルは、Tg2576マウスモデルにおける場合に類似した。
【0278】
理論によって拘束されることを望まないが、インビトロ及びインビボの双方で示した通り、βカロチンがBBBを通過することから、それは脳内でのレチノイドの局所産生のための供給源であり得る。
【0279】
実施例12
ドナリエラ食餌を与えた5XFADマウスの血漿中のコレステロール及びトリグリセリドレベル
血漿コレステロール及びトリグリセリドに対するドナリエラ食餌の効果を試験するため、空腹時血漿脂質レベルを上の方法セクションに記載のように測定した。図15に示す通り、ドナリエラ食餌は、ドナリエラ食餌を与えた5xFADマウスにおける血漿コレステロールレベルを有意に(p=0.04)低下させたが、これらの動物におけるトリグリセリドレベルに影響しなかった。WTマウスでは、ドナリエラ食餌は、コレステロールにもトリグリセリドにも影響しなかった。
【0280】
実施例13
ドナリエラ藻類粉末製剤を与えた5XFADマウスにおける新規物体認識
本明細書に記載の試験では、マウスに2つの同一物体を5分間提示し、3時間後(短期記憶の場合)及び24時間後、物体の一方を異なる物体と置き換える(長期記憶の場合)。新規物体を探索するのにかかる時間の長さは、認知記憶の指数を提供する。この試験は、記憶に対するドナリエラ食餌の効果を探索することを意図して、上記の通り、ドナリエラ藻類粉末製剤を与えた5XFADマウスにおいて実施した。
【0281】
図16Aに示す通り、ドナリエラ藻類粉末調製食餌は、5XFADマウスにおける新規物体認識の最高百分率から推定されるように、ドナリエラ藻類粉末調製食餌を与えた5XFADマウス(5XFAD Duna.Prep.)において短期記憶を改善した。
【0282】
さらに、図16Bに示される通り、ドナリエラ藻類粉末調製食餌は、5XFADマウスにおける長期記憶も改善した。
【0283】
図16Cに示す通り、ドナリエラ藻類粉末製剤(Duna.Prep.)食餌を与えた5XFADマウスは、改善された長期記憶の方へ正の傾向を示した(P=0.051)。
【0284】
実施例14
空間ワーキングメモリーに対するドナリエラ藻類粉末製剤の効果
5xFADマウスの空間ワーキングメモリーを試験するため、Y迷路試験を使用し、新規領域を探索するためのマウスの天然嗜好を測定した。正常な認知を有するマウスが、新規アームにおいてより多くの時間を費やすことが予想された。図17に示す通り、ドナリエラ藻類粉末製剤を与えた5xFADマウスは、対照群(平均PI=-0.18±0.07)と比較して、短期記憶を有意に(p=0.009)改善する(平均PI=0.09±0.05)ことを示した。
【0285】
実施例15
長期記憶に対するドナリエラ藻類粉末製剤の効果
マウスの長期記憶を試験するため、上の方法セクション中に詳述の通り、バーンズ迷路試験を使用した。図18に示す通り、潜伏期間は、実験の1日目と7日目の双方で、5xFAD対照マウスにおいて、ドナリエラ藻類粉末製剤を与えた5xFADと比較してより長い。実験7日目中の2回目の想起試験時、ドナリエラ藻類粉末製剤を与えたマウス(61秒±16)は、対照5xFAD群(114秒±15)と比較して、改善された長期記憶の方へ正の傾向を示した(p=0.051)。
【0286】
実施例16
マウス脳海馬内のアミロイドβのレベルに対するドナリエラ藻類粉末製剤の効果
上の方法セクション中に記載の通り、5xFADマウス海馬からアミロイドβを抽出し、そのレベルを評価し、ドナリエラ藻類粉末製剤の考えられる効果を試験した。図19に示す結果は、図19Aに示す通り、不溶性Aβに対するドナリエラ藻類粉末製剤についての効果が認められないが(p=0.5)、図19Bに示す通り、9CBCを受けたマウス(1.7±0.2)において、対照マウス(3.4±0.4)と比較して、可溶性Aβレベルの有意な低下が認められた(p=0.03)ことを示す。
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図7A
図7B
図7C
図8A
図8B
図9A
図9B
図9C
図10
図11
図12
図13A
図13B
図14A
図14B
図14C
図15
図16A
図16B
図16C
図17
図18
図19A
図19B
【国際調査報告】