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特表2022-533901エキスパートシステムによる、疼痛性障害の評価
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-27
(54)【発明の名称】エキスパートシステムによる、疼痛性障害の評価
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/377 20210101AFI20220720BHJP
【FI】
A61B5/377
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2021560330
(86)(22)【出願日】2020-04-02
(85)【翻訳文提出日】2021-11-29
(86)【国際出願番号】 IB2020053117
(87)【国際公開番号】W WO2020202045
(87)【国際公開日】2020-10-08
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】521440552
【氏名又は名称】セレブラル ダイアグノスティックス カナダ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ドイッジ,マーク エス.
(72)【発明者】
【氏名】ガリンゴ,マリオ
【テーマコード(参考)】
4C127
【Fターム(参考)】
4C127AA03
4C127DD07
4C127KK03
(57)【要約】
疼痛性障害を評価するためのシステムおよび方法が提供される。対象者に刺激が加えられ、対象者の少なくとも1つのエレクトログラムから誘発電位が取得される。脳の領域間の結合性を表す特徴量の集合、形態学的特徴量の集合、時間と周波数を表す特徴量の集合、信号分解の特徴量の集合およびエントロピーを表す特徴量の集合のうちの少なくとも2つからの特徴量を含む特徴量の集合が、誘発電位から抽出される。抽出された特徴量の集合から、機械学習モデルを用いて、疼痛疾患に関連する臨床パラメータが対象者に割り当てられる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象者に刺激を加える工程と、
前記対象者の少なくとも1つのエレクトログラムから誘発電位を取得する工程と、
前記誘発電位から特徴量の集合を抽出する工程と、
機械学習モデルを用いて、前記抽出された特徴量の集合から、臨床パラメータを前記対象者に割り当てる工程と、を含み、
前記誘発電位は、脳の領域間の結合性を表す特徴量の集合、形態学的特徴量の集合、時間と周波数を表す特徴量の集合、信号分解の特徴量の集合およびエントロピーを表す特徴量の集合のうちの少なくとも2つからの特徴量を含み、
前記臨床パラメータは、何らかの疼痛性障害の前記存在、特定の疼痛性障害の前記存在、疼痛性障害の治療に対する予測された応答または実際の応答、疼痛のタイプ、疼痛性障害のサブタイプ、疼痛性障害の重症度、疼痛性障害の前記重症度の経時的な変化、中枢性感作、痛覚過敏、異痛症、痛覚鈍麻のうちの1つの欠落の前記存在、中枢性感作、痛覚過敏、異痛症、痛覚鈍麻のうちの1つの強度、前記対象者に疼痛性障害全般が生じる尤度、前記対象者に特定の疼痛性障害が生じる尤度のうちの1つを表す、疼痛性障害を評価するための方法。
【請求項2】
前記臨床パラメータは、疼痛性障害の重症度を表す、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記エントロピーを表す特徴量の集合は、Petrosianフラクタル次元、Higuchi法によるフラクタル次元、Hjorthパラメータ、スペクトルエントロピーパラメータ、特異値分解エントロピーを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記信号分解の特徴量の集合は、主成分分析、経験的モード分解および離散ウェーブレット変換のうちの1つによって導出された値を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記臨床パラメータは、疼痛性障害の重症度の経時的な変化を表す、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記脳の領域間の結合性を表す特徴量の集合は、ニューロンの振動同期の測定量を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記抽出された特徴量の集合を組み合わせて複合特徴量の集合を提供する工程をさらに含み、前記抽出された特徴量の集合に従って前記パターン認識分類器で前記対象者を前記複数のクラスのうちの1つに分類する工程は、前記複合特徴量の集合に従って前記パターン認識分類器で前記対象者を前記複数のクラスのうちの1つに分類する工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記対象者に前記刺激を加え、対象者の前記少なくとも1つのエレクトログラムから前記誘発電位を得る工程は、
前記対象者に第1の刺激を加えることと、
前記第1の刺激を加えた後に、前記少なくとも1つのエレクトログラムから第1の事象関連電位を得ることと、
前記対象者に第2の刺激を加えることと、
前記第2の刺激を加えた後に、前記少なくとも1つのエレクトログラムから第2の事象関連電位を得ることと、
少なくとも前記第1の事象関連電位と前記第2の事象関連電位とを平均化して前記誘発電位を得ることと、を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記臨床パラメータは、治療が効果的であろうと示している場合に、前記対象者に治療をほどこす工程をさらに含み、前記治療は、行動バイオフィードバック、リラクゼーション技術のトレーニング、心理療法および薬学的介入のうちの1つを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記対象者は、研究プロジェクトの複数の参加者のうちの1人であり、臨床パラメータを割り当てる工程は、前記複数の参加者からなるサブセットの各々についてのデータに前記機械学習モデルを適用することと、前記複数の参加者からなる前記サブセットの各々を、同様の参加者を含むグループに割り当てることと、を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記刺激は第1の刺激であり、前記誘発電位は第1の誘発電位であり、前記エレクトログラムは第1の時刻に取得された第1のエレクトログラムであり、
前記方法は、第2の時刻に対象者に第2の刺激を加え、前記対象者の第2のエレクトログラムから第2の誘発電位を得る工程をさらに含み、
前記特徴量の集合は、前記脳の領域間の結合性を表す前記特徴量の集合、前記モルフォロジー特徴量の集合、前記時間と周波数を表す特徴量の集合、前記信号分解の特徴量の集合および前記エントロピーを表す特徴量の集合のうちの少なくとも2つからの特徴量の変化を表し、前記臨床パラメータは、前記第1の時刻と前記第2の時刻との間の前記ユーザの状態の変化を表す、請求項1に記載の方法。
請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記対象者に刺激を加えることは、前記対象者の前記身体の選択された場所に、機械的圧力を加えることを含み、前記臨床パラメータは、何らかの機械的な疼痛性障害の前記存在、特定の機械的な疼痛性障害の前記存在、機械的な疼痛性障害の治療に対する予測された応答または実際の応答、機械的な疼痛性障害のサブタイプ、機械的な疼痛性障害の重症度、機械的な疼痛性障害の前記重症度の経時的な変化、前記対象者に機械的な疼痛性障害全般が生じる尤度、前記対象者に特定の機械的な疼痛性障害が生じる尤度のうちの1つを表す、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
対象者のエレクトログラムから記録された誘発電位を受信するエレクトログラムインタフェースと、
脳の領域間の結合性を表す特徴量の集合、モルフォロジー特徴量の集合、時間と周波数を表す特徴量の集合、信号分解の特徴量の集合およびエントロピーを表す特徴量の集合のうちの少なくとも2つからの特徴量を含む特徴量の集合を、前記誘発電位から抽出する特徴量抽出器と、
前記抽出された特徴量の集合から、臨床パラメータを前記対象者に割り当てる機械学習モデルと、を備え、
前記臨床パラメータは、何らかの疼痛性障害の前記存在、特定の疼痛性障害の前記存在、疼痛性障害の治療に対する予測された応答または実際の応答、疼痛のタイプ、疼痛性障害のサブタイプ、疼痛性障害の重症度、疼痛性障害の前記重症度の経時的な変化、中枢性感作、痛覚過敏、異痛症、痛覚鈍麻のうちの1つの欠落の前記存在、中枢性感作、痛覚過敏、異痛症、痛覚鈍麻のうちの1つの強度、前記対象者に疼痛性障害全般が生じる尤度、前記対象者に特定の疼痛性障害が生じる尤度のうちの1つを表す、疼痛性障害を評価するためのシステム。
【請求項14】
前記対象者の前記エレクトログラムを前記エレクトログラムインタフェースに提供する一組の電極と、
プロセッサと、
前記プロセッサに動作可能に接続され、かつ、機械読取可能な命令を格納する非一過性のコンピュータ読取可能な媒体と、
前記臨床パラメータをユーザに提供する出力装置と、
をさらに備え、
前記機械読取可能な命令は、前記プロセッサによって実行され、前記エレクトログラムインタフェース、前記特徴量抽出器および前記機械学習モデルを提供する、請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
前記特徴量の集合は、前記脳の領域間の結合性を表す前記特徴量の集合、前記モルフォロジー特徴量の集合、前記時間と周波数を表す特徴量の集合、前記信号分解の特徴量の集合および前記エントロピーを表す特徴量の集合の各々からの特徴量を含む、請求項13に記載のシステム。
【請求項16】
前記時間と周波数を表す特徴量の集合は、離散フーリエ変換、自己回帰法および連続ウェーブレット変換のうちの1つで得られる係数を含む、請求項13に記載のシステム。
【請求項17】
前記機械学習モデルは、サポートベクターマシンおよびランダムフォレスト分類器のうちの1つを含み、かつ、前記対象者を複数のクラスのうちの1つに分類し、前記複数のクラスは各々、疼痛性障害の存在、疼痛性障害の治療に対する応答および対象者に疼痛性障害が生じる尤度のうちの1つを表す、請求項13に記載のシステム。
【請求項18】
前記抽出された特徴量の集合を組み合わせて複合特徴量の集合を提供する特徴量削減コンポーネントをさらに備え、前記機械学習モデルは、前記複合特徴量の集合に従って前記対象者に前記臨床パラメータを割り当てる、請求項13に記載のシステム。
【請求項19】
対象者に刺激を加える工程と、
前記対象者の少なくとも1つの脳波図(EEG)から誘発電位を取得する工程と、
前記誘発電位から、脳の領域間の結合性を表す特徴量の集合を抽出する工程と、
前記誘発電位から、モルフォロジー特徴量の集合を抽出する工程と、
前記誘発電位から、離散フーリエ変換、自己回帰法および連続ウェーブレット変換のうちの1つで得られる係数の集合を抽出する工程と、
前記誘発電位から、信号分解の特徴量の集合を抽出する工程と、
前記誘発電位からエントロピーを表す特徴量の集合を抽出する工程と、
前記脳の領域間の結合性を表す前記特徴量の集合、前記モルフォロジー特徴量の集合、前記離散フーリエ変換、自己回帰法および前記連続ウェーブレット変換のうちの1つで得られる前記係数の集合、前記信号分解の特徴量の集合および前記エントロピーを表す特徴量の集合を組み合わせて、複合特徴量の集合を提供する工程と、
機械学習モデルを用いて、前記複合特徴量の集合から、前記対象者が疼痛性障害に対する治療の恩恵を受けそうであるか否かを決定する工程と、
治療が効果的であろうと決定された場合に、前記対象者に前記治療をほどこす工程と、を含む、方法。
【請求項20】
前記誘発電位を取得することは、それぞれの刺激に応答して前記対象者から複数の事象関連電位を取得することと、前記複数の事象関連電位のウッディフィルタ平均として前記誘発電位を生成することと、を含む、請求項19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2019年4月2日に出願され、発明の名称を「DIAGNOSIS OF PAIN DISORDERS VIA EXPERT SYSTEM(エキスパートシステムによる、疼痛性障害の診断)」とする米国特許仮出願第62/828,013号の優先権を主張するものであり、その主題全体を本明細書に援用する。
【0002】
本発明は、エキスパートシステムによる、疼痛症状および疼痛性障害の診断に関する。
【背景技術】
【0003】
対象者が経験した疼痛を測定するのは困難であり、現状では、大半が対象者の行動を観察するのと自己申告に限られている。しかしながら、観察も自己申告も主観的であるので、経験した疼痛を客観的に測定したり、刺激に応答して疼痛が強くなることを測定するのは困難である。残念ながら、多くの障害では初期症状として疼痛が現れるため、介護者が、対象者の疼痛レベル、特に刺激に応答した疼痛レベルの変化を客観的に測定できないと、これらの症状や障害の診断が複雑になる可能性がある。
【0004】
例えば、体性感覚神経系に影響を与える損傷または疾患によって引き起こされる疼痛に神経障害性疼痛がある。神経障害性疼痛は、異常な感覚(麻痺および感覚異常)および/または通常は痛くない刺激による疼痛(異痛症)および/または通常は痛い刺激による疼痛の増加(痛覚過敏)を伴うことがあり、これらが継続的および/または一時的に現れる場合がある。また、脊髄損傷、多発性硬化症、中枢神経系の一部での脳卒中の結果として、中枢神経障害性疼痛が生じることがある。痛みを伴う末梢神経障害の原因として、糖尿病などの代謝異常のほか、栄養不足、毒素、何らかのウイルス性疾患や細菌性疾患、悪性腫瘍の遠隔症状、免疫介在性疾患、神経幹に対する物理的外傷、筋肉、関節、骨、歯などの他の組織に対する物理的外傷などが挙げられる。線維筋痛症(FM)は、広範囲にわたる慢性疼痛や圧痛、精神的苦痛、疲労を特徴とする。線維筋痛症は、「機械的疼痛性障害」と呼ばれる疾患の一種であると考えられている。他の機械的疼痛性障害としては、顎関節症、慢性疲労症候群、筋膜性疼痛症候群、慢性広範囲疼痛、湾岸戦争症候群、複合性局所疼痛症候群、ある種の心的外傷後ストレス障害、ある種の腰痛、ある種の膣前庭炎/外陰痛、梨状筋症候群などがあげられると考えられている。FMの病態生理に関する現在の知識は限られているが、ニューロイメージングの研究によって、対象者における実験的な疼痛刺激に対する脳の反応が明らかになった。こうして、FMはもとよりおそらく他の機械的疼痛性障害も、疼痛処理の中枢感作によるものではないかという現在の主張につながっている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
一例では、方法が、対象者に刺激を加える工程と、対象者の少なくとも1つのエレクトログラムから誘発電位を取得する工程と、を含む。誘発電位から、脳の領域間の結合性を表す特徴量の集合、形態学的特徴量の集合、時間と周波数を表す特徴量の集合、信号分解の特徴量の集合およびエントロピーを表す特徴量の集合のうちの少なくとも2つからの特徴量を含む特徴量の集合が抽出される。抽出された特徴量の集合から、機械学習モデルを用いて、疼痛性障害に関連する臨床パラメータが対象者に割り当てられる。
【0006】
別の例では、システムが、対象者のエレクトログラムから記録された誘発電位を受信するエレクトログラムインタフェースを含む。特徴量抽出器が、脳の領域間の結合性を表す特徴量の集合、形態学的特徴量の集合、時間と周波数を表す特徴量の集合、信号分解の特徴量の集合およびエントロピーを表す特徴量の集合のうちの少なくとも2つからの特徴量を含む特徴量の集合を、誘発電位から抽出する。抽出された特徴量の集合から、機械学習モデルが疼痛性障害に関する臨床パラメータを対象者に割り当てる。
【0007】
さらに別の例では、方法が、対象者に刺激を加える工程と、対象者の少なくとも1つの脳波図(EEG)から誘発電位を取得する工程と、を含む。脳の領域間の結合性を表す特徴量の集合の各々が抽出され、形態学的特徴量の集合、離散フーリエ変換、自己回帰法および連続ウェーブレット変換のうちの1つで得られる係数の集合、信号分解の特徴量の集合およびエントロピーを表す特徴量の集合が、誘発電位から抽出される。その後、抽出された特徴量が組み合わせられ、複合特徴量の集合が提供される。機械学習モデルを用いて、複合特徴量の集合から、対象者が疼痛性障害に対する治療の恩恵を受けそうであるか否かが決定される。治療が効果的であろうと決定された場合に、対象者に治療がほどこされる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、対象者に疼痛性障害があるか否かを決定するためのシステムを示す。
図2図2は、疼痛性障害について対象者を評価するためのシステムの一例を示す。
図3図3は、疼痛性障害を診断するための方法の一例を示す。
図4図4は、対象者が治療に応答する可能性が高いか否かを決定するための方法の一例を示す。
図5図5は、ハードウェアコンポーネントの例示的なシステムを示す概略ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書で使用する場合、「疼痛性障害」とは、疼痛を初期症状とする状態をいい、身体表現性障害、神経障害および原因不明の慢性疼痛があげられるが、これらに限定されるものではない。本明細書に記載のシステムおよび方法によって評価される疼痛性障害には、末梢機構によって引き起こされる疼痛(例えば、炎症性、侵害受容性、神経因性、外傷性または代謝性)または中枢機構によって引き起こされる疼痛(例えば、身体にわかっている器質的な原因がない)ならびに、急性、亜急性および/または慢性(すなわち、6ヶ月よりも長く続く持続的な疼痛として)に現れ、神経障害性疼痛として現れる疼痛が含まれる。
【0010】
本明細書で使用する場合、「対象者」とは、医療従事者による医学的な評価や世話がなされているか、研究プロジェクトの参加者である人間をいう。
【0011】
他人が経験した疼痛を客観的に測定するのは、特にその疼痛に明らかな生理学的原因がない場合には困難である。そのため、医療従事者は、自分が担当する患者や臨床試験の対象者を診断したりモニタリングしたりする際に、主観的な申告に頼らざるを得ないことが多い。さらに悪いことに、対象者は、自分が感じている疼痛の種類や、自分が経験するかもしれない様々な疼痛現象を明確に伝えることができない場合があり、診断や治療が複雑になっている。本明細書に記載のシステムおよび方法では、刺激に応答して誘発された電位から抽出した特徴量の組み合わせを使用して、患者が経験した疼痛の存在、性質、原因および重症度のうちの1つ以上を評価する。誘発電位に対する複数の異なる分析を通して得られた特徴量を組み合わせることで、疼痛の存在、性質、原因および重症度の各々を正確に決定し、患者が経験した疼痛を把握することができる。
【0012】
図1に、本発明の一態様に従って対象者を評価するためのシステム100の一例を示す。このシステムは、一実施形態では、プロセッサによって実行されて非一過性のコンピュータ読取可能な媒体に格納される、コンピュータ読取可能な命令として実装されている。システム100には、一組の電極(図示せず)から対象者についてのエレクトログラムデータを受信するとともに、このデータをシステム100での使用に適した形式にフォーマットする、エレクトログラムインタフェース102が含まれる。実際には、誘発電位を提供するために対象者に刺激を加えた後でエレクトログラムデータが記録される。本明細書で使用する場合、「誘発電位」とは、刺激の導入後における1つのエレクトログラムでの結果、あるいは、複数のエレクトログラムから得られる独立した事象関連電位のいずれかをいうことを意図している。
【0013】
特徴量抽出器104は、誘発電位からパラメータを抽出する。具体的には、特徴量抽出器は、本明細書では「特徴量」と称する、疼痛性障害のある対象者と疼痛性障害のない対象者との区別に関するパラメータを抽出する。特徴量の例として、5つのカテゴリーすなわち、エレクトログラムデータの選択された波形の形態を表すパラメータを含む第1のカテゴリー、エレクトログラムデータの信号分解で得られる係数を使用する第2のカテゴリー、エレクトログラムデータについての1つ以上のエントロピー測定値を含む第3のカテゴリー、信号の時間と周波数の特性を表すパラメータを含む第4のカテゴリー、脳の様々な領域間の結合性を表すパラメータを含む第5のカテゴリーのそれぞれからの様々なパラメータがあげられる。図示の例では、特徴量抽出器104は、これらのカテゴリーのうち少なくとも2つから特徴量を抽出するが、実施形態によっては、3つ、4つまたはすべてのカテゴリーの特徴量を使用可能であることが理解されるであろう。
【0014】
機械学習モデル106は、抽出された複数の特徴量を使用して、臨床パラメータを対象者に割り当てる。この機械学習モデル106では、1つ以上の分類アルゴリズムまたは回帰アルゴリズムを用いることが可能である。これらのアルゴリズムは各々、疼痛性障害に関連する連続したパラメータまたはカテゴリーのパラメータを割り当てるために抽出された特徴量を分析するか抽出された特徴量のサブセットを分析し、この情報を、ディスプレイなどの適切な出力デバイスによってユーザに提供する。臨床パラメータは、1.)何らかの疼痛性障害の存在、2.)特定の疼痛性障害(例えば、線維筋痛症)の存在、3.)疼痛性障害の治療に対する予測された応答または実際の応答、4.)所定の圧痛点の有無、5.)疼痛のタイプ、6.)疼痛性障害のサブタイプ、7.)疼痛の重症度、8.)疼痛性障害の重症度、9.)疼痛性障害の重症度の経時的な変化、10.)特定の疼痛現象(中枢性感作、痛覚過敏、異痛症、痛覚鈍麻など)の有無、11.)特定の疼痛現象の強度、12.)対象者に疼痛性障害全般が生じる尤度、13.)対象者に特定の疼痛性障害が生じる尤度、14.)疼痛性障害の症状または15.)身体検査での所見のうちのいずれかを表すことができる。図示の実施形態では、機械学習モデル106は、サポートベクターマシンおよびランダムフォレスト分類器の一方または両方を含む。
【0015】
本発明の一態様に従って対象者を評価するためのシステム200の一例を、図2に示す。脳波計(EEG)デバイス202を使用して、対象者から得られる脳波図データを記録することができる。このデータは、疼痛評価システム210に提供される。疼痛評価システム210は、プロセッサ214によって実行されて非一過性のコンピュータ読取可能な媒体230に格納される、コンピュータ読取可能な命令として実装されている。疼痛評価システム210は、脳波図データから特徴値のベクトルを抽出する特徴量抽出器232を含む。特徴量の例としては、脳波図データの選択された波形の形態を表す様々なパラメータ、脳波図データの信号分解、脳波図データについての1つ以上のエントロピー測定値、信号の時間と周波数の特性を表すパラメータ、脳の様々な領域間の結合性を表すパラメータがあげられる。図示の例では、特徴量抽出器232は、これらのカテゴリーからかなりの数の特徴量を抽出し、特徴量削減プロセス234を介して生成された複合特徴量を利用して、検討用の複合特徴量の集合を生成する。
【0016】
一実施形態では、特徴量抽出器232は、対象者に加えられる刺激に応答して取得された個々のEEGから特徴量を抽出することができる。刺激としては、例えば、対象者の身体の選択された場所に加えられる熱、冷たさ、機械的圧力、電気刺激、レーザー刺激のいずれであっても構わない。一例では、対象者の特定された圧痛点のうちの1つ、あるいは、線維筋痛症に伴う標準的な圧痛点としてあげられている1箇所以上に、機械的な力を加えることができる。この機械的な力については、手で加えてもよいし、加わる力を標準化するための機械的な装置を用いて加えてもよい。一実施形態では、表面積が1平方センチメートルのゴム製のストッパーを用いて、毎秒200ミリメートルの速度で2キログラムに相当する力で刺激を加えた。別の実施形態では、それぞれの刺激の後に複数のEEGを取得することが可能であり、EEG信号の平均値から特徴量を抽出して、バックグラウンドノイズを除去し、事象関連電位を分離することができる。一例として、選択した部位に10~14秒間隔で30回の刺激を加え、事象関連電位をWoody Filter Meanとして生成する。別の実施形態では、対象者が痛みを感じている旨を申告するまで刺激の強度を段階的に増すことができ、刺激が疼痛応答を誘発するのに十分な強度になってはじめて誘発電位が得られる。
【0017】
EEGデータの選択された波形の形態を表すパラメータには、検出された波形の形状を記述するパラメータであればどのようなものであっても含むことができる。抽出される特徴量には、N1ピークの振幅または幅、P1トラフの振幅および幅、ピーク間電圧、事象関連電位の持続時間を含むことができる。波形または事象関連電位から計算できるエントロピーを表すパラメータとしては、Petrosianフラクタル次元(PFD)、Higuchi法によるフラクタル次元(HFD)、Hjorthパラメータ、スペクトルエントロピーパラメータ、信号のパワースペクトル密度(PSD)の相対強度比(RIR)を用いてスペクトル領域のエントロピー量をスカラー特徴量として算出するスペクトルエントロピー(SE)、信号が辞書に基づいて分解されて信号を辞書成分の線形和で表現することができる辞書型の解析である特異値分解(SVD)エントロピーなどを含むことが可能である。
【0018】
結合性の特徴量の一例として、ニューロンの振動同期があげられる。ニューロンの振動同期とは、異なるニューロンまたはニューロン群に基づく神経活動の振動変調に何らかの決まった関係が存在することをいう。これらの振動ニューロンまたはニューロン群の位相同期、特に位相同期の時間的および空間的な周波数異常を、マルチチャネルEEG信号に対する周波数帯位相同期アプローチを用いて定量化することができる。具体的には、2つの電極x、yからの2つの信号間の位相差ΔΦxy(t)を、Φ(t)-Φ(t)と定義する。2つの電極に対する周波数帯位相同期特徴量BSxyを、所定の周波数帯(例えば、アルファ、ベータ、ガンマ、デルタまたはシータ)について、定義されたエポック間の位相差の大きさの和として、次のように計算することができる。
【数1】
【0019】
ここで、Nは、定義されたエポックのサンプル数である。
【0020】
周波数帯ごとに可能な電極対の各々について位相同期特徴量を計算することができるが、特徴量の潜在的な数が大きいことは理解できよう。標準的な10-20法などの電極32個を使用するシステムでは、それぞれの周波数帯についてほぼ500対が利用可能となる。したがって、一実施形態では、特徴量の集合を、分類に最も関連する対の数まで減らすことができる。
【0021】
信号分解の特徴量としては、主成分分析、経験的モード分解、離散ウェーブレット変換または同様のプロセスによって導出される信号を含むことができる。時間と周波数の特徴量については、離散フーリエ変換、自己回帰法または連続ウェーブレット変換で得られる係数として決定することができる。ウェーブレット分解を用いる一実施形態では、信号分解の特徴量に、電極ごとに、スケールに依存する特徴量とスケールに対して不変な特徴量とが含まれる。i番目の電極からの電圧値の時系列xについて、ウェーブレット分解で生成されるウェーブレット係数W(n)を、以下のように定義することができる。
【数2】
【0022】
ここで、Ψはウェーブレット関数であり、Mは時系列の長さであり、aおよびnは係数計算位置を定義する。
【0023】
スケールに依存する特徴量SDについては、以下のように決定することができる。
【数3】
【0024】
ここで、N=M/aは所定のスケールaにおける係数の数であり、Waはマザーウェーブレット関数である。
【0025】
スケールに依存しない特徴量SIは、式3のウェーブレット関数の最大値のq乗の和として計算することができ、異なるスケーリング成分τ(q)での電圧値の時系列の異なるフラクタル特性を表す。
【数4】
【0026】
具体的なウェーブレット関数、スケールaおよびqの値は、用途によって変化し得ることが理解されるであろう。一例では、Morlet関数を使用することができる。
【0027】
自己回帰の特徴量は、有理構造によって特徴付けられる線形系の出力として各電極の電圧値x(n)がモデル化されるスペクトル解析モデルによって導出される。所定のデータ列x(n)からパラメータの集合が推定され(0≦n≦N-1)、そこからパワースペクトル密度(PSD)が算出される。PSDについては、一連の線形方程式を解くことで計算可能であり、これによって、データは、ホワイトノイズを入力とする因果的な全極離散フィルタの出力としてモデル化される。それぞれの電極の自己回帰モデルは、次数pで次のように表される。
【数5】
【0028】
ここで、a(k)はp個の自己回帰係数であり、w(n)は、分散が信号x(n)の分散と等しいホワイトノイズ信号である。
【0029】
一実施形態では、自己相関関数は、赤池情報量規準(AIC)に従って選択された自己相関のための適切な次数pを用いて、Burg法で決定される。スペクトル全体を特徴量として使用するのではなく、EEG分析で用いられる5つの主要な周波数範囲であるアルファ、ベータ、ガンマ、デルタ、シータの各々から6種類の特徴量を抽出することができる。特徴量としては、1)各周波数範囲の平均パワー、2)各周波数範囲の分散パワー、3)各周波数範囲で観測された平均パワーの平均周波数、4)各周波数範囲で観測された平均パワーの分散周波数およびそれらの間の比、5)各周波数範囲の平均パワー、6)各周波数範囲の分散があげられる。しかしながら、信号の周波数成分を表す他の記述統計を用いてもよいことが理解されるであろう。
【0030】
別の実施形態では、第1の時刻に取得された第1のEEGと、第2の時刻に取得された第2のEEGとの間の、上述した特徴量のうちの2つ以上の変化を分類の特徴量としてもよい。これによって、例えば、治療に応答する対象者の状態の経時的な変化をモニタリングすることができるようになる。別の例では、特徴の経時的な変化の割合を追跡するために、特徴量のうちの1つ以上の時間微分を分類の特徴量に含めることができる。いくつかの実施形態では、特徴量として、より高い時間微分も用いることができる。
【0031】
特徴量削減プロセス234は、抽出された複数の特徴量から複合特徴量を生成し、分類用に特徴空間の次元を削減する。適切な複合特徴量を、Lasso、ElasticNet、Randomized PCA、ISO MAP、SPECTRAL Embedding、Random Projections、Tree Based Methods、Recursive Feature Selection、Multivariate feature reductionなどの特徴量削減アルゴリズムによって生成することができる。一実施形態では、相互情報量測定などの単変量法が、分類器において使用するために実質的に独立している特徴量を識別するために用いられる。これらの特徴量を重み付けされている項と線形結合して複合特徴量を形成し、それを分類に使用することができる。上記に代えてまたは上記に加えて、主成分分析を採用して、抽出された特徴量から分類用の複合特徴量の集合を生成することも可能である。これにより、分類器の複雑さが軽減され、既知のトレーニングサンプルに分類器がオーバーフィッティングされる尤度が低減される。
【0032】
パターン認識分類器238は、生成された複合特徴量を使用して、複合特徴量に基づき、対象者を複数のクラスのうちの1つに分類する。これらのクラスは、各々が疼痛性障害全般または特定の疼痛性障害(例えば、線維筋痛症)の存在、疼痛の種類、疼痛性障害に関連する身体検査で得られた所見または症状、疼痛性障害のサブタイプ、疼痛の重症度、疼痛性障害の重症度、疼痛現象の有無、疼痛性障害に対する治療への応答、患者の状態の変化、所定の圧痛点の有無、対象者に疼痛性障害全般または特定の疼痛性障害が生じる尤度のうちの1つを表す。一実施形態では、分類は、「疼痛性障害」クラスと「非疼痛性障害」クラスの二元的なものであるが、例えば、対象者に疼痛性障害が生じる尤度の範囲を表すクラスなど、追加のクラスが含まれていてもよい旨が理解されるであろう。別の実施形態では、クラスは、例えば、「改善」、「変化なし」、「悪化」のクラスや、変化度を表すクラスなど、治療の有無にかかわらず対象者の状態の変化を表すものであってもよい。
【0033】
複合特徴量に加えて、元の抽出された特徴量や、特許を表している他の臨床データからの特徴量を用いることも可能である旨が理解されるであろう。臨床パラメータとしては、人口統計学的パラメータ(例えば、年齢、性別)、生理学的パラメータ(血圧、血糖値、心拍数、酸素飽和度など)、様々な状態の有無を表すカテゴリー変数などを含む対象者の病歴、対象者が服用している薬ならびにこれらの薬の投与量があげられるが、これらに限定されるものではない。
【0034】
パターン認識分類器238では、1つ以上のパターン認識アルゴリズムを利用することができる。これらのパターン認識アルゴリズムは各々、抽出された特徴量を分析するか抽出された特徴量のサブセットを分析して対象者を複数のクラスのうちの1つに分類し、この情報をディスプレイ240に提供する。複数の分類モデルまたは回帰モデルを用いる場合には、アービトレーション要素を用いて複数のモデルから一貫した結果を提供することが可能である。所定の分類器のトレーニングプロセスは、実装ごとに異なるが、トレーニングでは一般に、出力クラスに付随する1つ以上のパラメータにトレーニングデータを統計的に集計する必要がある。トレーニングプロセスは、リモートシステムおよび/またはローカルデバイスやウェアラブル、アプリケーションで達成することができる。決定木などのルールベースモデルでは、抽出された特徴量を用いてユーザを分類するためのルールを選択する際に、トレーニングデータの代わりに、あるいはトレーニングデータを補完するために、例えば1人以上の専門家によって提供されるものなどのドメイン知識を使用することができる。分類アルゴリズムには、サポートベクターマシン(SVM)、回帰モデル、自己組織化マップ、ファジーロジックシステム、データフュージョンプロセス、ブースティングおよびバギング法、ルールベースシステムまたは人工ニューラルネットワーク(ANN)をはじめとする様々な技術を用いることが可能である。
【0035】
例えば、SVM分類器は、超平面と呼ばれる複数の関数を利用して、N次元の特徴空間内の境界を概念的に分割することができる。ここで、N次元は各々、特徴ベクトルの付随する特徴量1つを表す。境界は、各クラスに付随する特徴量値の範囲を定義する。したがって、境界に対する特徴空間内の位置に応じて、所定の入力特徴ベクトルに対する出力クラスと付随する信頼値とを決定することができる。一実施形態では、線形カーネルまたは非線形カーネルを用いたカーネル法によってSVMを実装することができる。
【0036】
ANN分類器は、複数の相互接続を有する複数のノードを含む。特徴ベクトルから得られる値は、複数の入力ノードに提供される。入力ノードは各々、これらの入力値を1つ以上の中間ノードからなる層に提供する。所定の中間ノードが、前のノードから1つ以上の出力値を受け取る。受け取った値には、分類器の学習中に確立された一連の重みに従って重み付けがなされる。中間ノードが、そのノードの伝達関数に従って、受け取った値を1つの出力に変換する。例えば、中間ノードは、受け取った値を合計し、その合計値をバイナリステップ関数にかけることができる。複数のノードからなる最終層が、ANNの出力クラスに対する信頼値を提供する。これらのノードは各々、分類器の付随する出力クラスの1つに対する信頼度を表す、付随する値を有する。
【0037】
多くのANN分類器は、全結合型フィードフォワードである。しかしながら、畳み込みニューラルネットワークには、前の層からのノードが、畳み込み層のノードのサブセットだけに結合される畳み込み層が含まれる。再帰型ニューラルネットワークは、ノード間の結合が時間的順序に沿った有向グラフを形成するニューラルネットワークの一種である。フィードフォワードネットワークとは異なり、再帰型ニューラルネットワークは以前の入力によって生じた状態からのフィードバックを取り入れることができるため、所定の入力に対する再帰型ニューラルネットワークの出力は、その入力だけでなく、1つ以上前の入力の関数にもなり得る。一例として、再帰型ニューラルネットワークの改良版に長短期記憶(LSTM)ネットワークがあり、これによって、過去のデータをメモリに記憶しやすくなる。
【0038】
ルールベースの分類器は、抽出された特徴量に一組の論理的ルールを適用し、出力クラスを選択する。一般に、ルールは順番に適用され、各工程での論理的な結果が後の工程での分析に影響する。具体的なルールとその順序については、トレーニングデータ、過去の事例からの類推、既存のドメイン知識のいずれかまたはすべてから決定することが可能である。ルールベースの分類器の一例として、決定木アルゴリズムがある。決定木アルゴリズムでは、特徴量セットに含まれる特徴量の値を、階層的な木構造の対応する閾値と比較して、特徴ベクトルのクラスを選択する。ランダムフォレスト分類器は、ブートストラップ集計すなわち「バギング」方式で決定木アルゴリズムを改良したものである。この手法では、学習セットのランダムなサンプルに対して複数の決定木が学習され、複数の決定木の平均的な結果(平均値、中央値、最頻値など)が返される。分類タスクの場合、各ツリーからの結果は分類的であろうから、最頻値の結果を使用することができる。
【0039】
一例では、抽出された特徴量を用いて、教師なし機械学習モデルを適用することができる。この例では、対象者を割り当てることができるカテゴリーのアイデンティティと数は、事前には知られていない。例えば、疼痛性障害の新たなタイプやサブタイプの研究では、教師なし学習プロセスを利用して、特性が類似した対象者のセットや、予想されるパラメータから逸脱した対象者のセットを識別することができる。この目的のために使用することができる教師なし学習アルゴリズムの例として、k平均法や階層型クラスタリングなどのクラスタリングアルゴリズム、自己組織化マップ、異常検出システムがあげられる。
【0040】
上述した構造的特徴量および機能的特徴量を考慮すると、図3および図4を参照して、例示的な方法がより一層理解されるであろう。説明を簡単にするために、図3および図4の例示的な方法については連続的に実行するものとして図示して説明したが、これらの例は、図示の順序に限定されるものではないことを理解されたい。なぜなら、他の例では、いくつかのアクションが本明細書で図示して説明したものとは異なる順序、複数回および/または同時に発生する可能性があるためである。さらに、ある方法を行うのに、説明されているすべてのアクションを実行する必要はない。
【0041】
図3に、疼痛性障害を診断するための方法300の一例を示す。302では、対象者に刺激を加える。304では、対象者の少なくとも1つのエレクトログラムを取得し、誘発電位を提供する。複数のエレクトログラムを取得する場合には、それぞれのエレクトログラムに先行して302での刺激を加えることが可能である旨が理解されるであろう。エレクトログラムは、複数のエレクトログラム信号を含み、それぞれが対象者の頭皮に配置された電極から取得される。一例では、加えられる刺激に応答して複数のエレクトログラムを取得し、複数の事象関連電位を提供することができる。その後、これらを平均して事象関連電位を分離する。
【0042】
306では、脳の領域間の結合性を表す特徴量の集合、形態学的特徴量の集合、信号分解の特徴量の集合としての時間と周波数を表す特徴量の集合、エントロピーを表す特徴量の集合のうちの少なくとも2つからの特徴量を含む、特徴量の集合を、誘発電位から抽出する。一実施形態では、5つのタイプすべての特徴量を抽出する。形態学的特徴量の集合には、例えば、誘発電位におけるN1ピークの振幅、誘発電位におけるN1ピークの深さ、誘発電位におけるP1トラフの振幅、誘発電位におけるP1トラフの深さ、ピーク間電圧、事象関連電位の持続時間のいずれかまたはすべてを含むことが可能である。エントロピーを表す特徴量の集合には、Petrosianフラクタル次元、Higuchi法によるフラクタル次元、Hjorthパラメータ、スペクトルエントロピーパラメータ、特異値分解エントロピーのいずれかまたはすべてを含むことが可能である。
【0043】
信号分解の特徴量の集合には、主成分分析、経験的モード分解、離散ウェーブレット変換のうちの1つによって導出された値を含むことが可能である。時間と周波数を表す特徴量の集合には、離散フーリエ変換、自己回帰法および連続ウェーブレット変換のうちの1つで得られる係数を含むことが可能である。脳の領域間の結合性を表す特徴量の集合には、上述したように、ニューロンの振動同期の測定量を含むことが可能である。一実施形態では、例えば機械学習モデルのトレーニング中に適用される特徴量削減アルゴリズムに従って、特徴量の抽出された集合を組み合わせ、特徴量の抽出された集合の一部またはすべてとして複合特徴量の集合を提供することができる。
【0044】
308では、機械学習モデルで、特徴量の抽出された集合から疼痛性障害に関連する臨床パラメータを対象者に割り当てる。「疼痛性障害に関連する」とは、臨床パラメータが、疼痛性障害全般または特定の疼痛性障害の存在、対象者の状態の予測される変化または実際の変化、疼痛性障害、所定の圧痛点の有無、疼痛のタイプ、疼痛性障害のサブタイプ、疼痛の重症度、疼痛性障害の重症度、特定の疼痛現象の有無、特定の疼痛現象の強度、対象者に疼痛性障害全般が生じる尤度または対象者に特定の疼痛性障害が生じる尤度のうちのいずれかを表すことを意味する。一例では、対象者は、抽出された特徴量に従って、例えば、付随するクラスが既知である対象者から取得された既知のトレーニングサンプルで訓練されたサポートベクターマシンまたはランダムフォレスト分類器によって、複数のクラスのうちの1つに分類される。対象者が治療の恩恵を受けると判断された場合は、行動バイオフィードバック、睡眠障害に焦点を当てた心理療法(例えば、認知行動療法)、リラクゼーション技術のトレーニング、薬学的介入などの治療を行うことができる。
【0045】
図4に、本発明の一態様に従って、対象者が治療に応答する尤度が高いか否かを決定するための方法400の一例を示す。402では、対象者に刺激を加える。404では、対象者の少なくとも1つのエレクトログラム(EEG)から誘発電位を取得する。一実施形態では、それぞれの刺激に応答して対象者から複数の事象関連電位が得られ、複数の事象関連電位のウッディフィルタ平均として誘発電位が生成される。
【0046】
406では、誘発電位から、脳の領域間の結合性を表す特徴量の集合を抽出する。408では、誘発電位から、形態学的特徴量の集合を抽出する。410では、誘発電位から、離散フーリエ変換、自己回帰法および連続ウェーブレット変換のうちの1つで得られる係数の集合を抽出する。412では、誘発電位から、信号分解の特徴量の集合を抽出する。414では、誘発電位から、エントロピーを表す特徴量の集合を抽出する。416では、脳の領域間の結合性を表す特徴量の集合、形態学的特徴量の集合、離散フーリエ変換、自己回帰法および連続ウェーブレット変換のうちの1つで得られる係数の集合、信号分解の特徴量の集合、エントロピーを表す特徴量の集合の各々を組み合わせ、複合特徴量の集合を提供する。機械学習モデルのトレーニング中に適切な特徴量削減アルゴリズムを適用し、分析用の適切な複合特徴量を決定することができる旨が理解されるであろう。
【0047】
418では、機械学習モデルにおける複合特徴量の集合から、対象者が疼痛性障害に対する治療の恩恵を得る尤度が高いか否かを決定する。機械学習モデルは、対象者が疼痛性障害であるか否か、あるいは疼痛性障害がある可能性が高いか否かを表す出力を提供し、ある治療が成功する尤度が高いか否かを決定し、あるいは、現在進行中の治療が疼痛性障害の治療に有効であるか否かを決定することができる旨が理解されるであろう。その治療が対象者に恩恵をもたらす尤度が低いと判断された場合(N)、本方法は終了する。そうでなければ(Y)、420で対象者に治療をほどこす。図示の例では、この治療には、行動バイオフィードバック、心理療法、リラクゼーション技術のトレーニングおよび/または薬学的介入を含むことができる。
【0048】
図5は、本明細書で開示するシステムおよび方法の例を実施することができるハードウェアコンポーネントの例示的なシステム500を示す概略ブロック図である。システム500は、様々なシステムおよびサブシステムを含むことができる。システム500は、パーソナルコンピュータ、ラップトップコンピュータ、ワークステーション、コンピュータシステム、アプライアンス、特定用途向け集積回路(ASIC)、サーバ、サーバBladeCenter、サーバファームなどであっても構わない。
【0049】
システム500には、システムバス502、処理装置504、システムメモリ506、メモリデバイス508および510、通信インタフェース512(例えば、ネットワークインタフェース)、通信リンク514、ディスプレイ516(例えば、ビデオスクリーン)、および入力装置518(例えば、キーボード、タッチスクリーン、および/またはマウス)を含むことができる。システムバス502は、処理装置504およびシステムメモリ506と通信することができる。また、ハードディスクドライブ、サーバ、スタンドアロンデータベースまたは他の不揮発性メモリなどの追加メモリデバイス508および510も、システムバス502と通信することができる。システムバス502は、処理装置504、メモリデバイス506~510、通信インタフェース512、ディスプレイ516を相互に接続する。いくつかの例では、システムバス502は、ユニバーサルシリアルバス(USB)ポートなどの追加のポート(図示せず)とも相互接続する。
【0050】
処理装置504は、コンピューティングデバイスであってもよく、特定用途向け集積回路(ASIC)を含むことができる。処理装置504は、本明細書で開示する例の動作を実装するための一連の命令を実行する。処理装置には、処理コアを含むことができる。
【0051】
追加のメモリデバイス506、508および510は、データ、プログラム、命令、テキスト形式またはコンパイルされた形式のデータベースクエリ、コンピュータを動作させるのに必要となり得る任意の他の情報を格納することができる。メモリ506、508、510は、メモリカード、ディスクドライブ、コンパクトディスク(CD)またはネットワークを介してアクセス可能なサーバなど、コンピュータ読取可能な媒体(一体型またはリムーバブル)として実装することができる。ある例では、メモリ506、508、510は、テキスト、画像、映像および/または音声を含むことができ、その一部は、人間に理解可能なフォーマットで利用可能である。
【0052】
上記に加えてまたは上記に代えて、システム500は、システムバス502および通信リンク514と通信可能な通信インタフェース512を介して、外部のデータソースまたはクエリソースにアクセスすることができる。
【0053】
動作時、本発明による疼痛評価システムの1つ以上の部分、特に、特徴量抽出器104および機械学習モデル106を実装するのに、システム500を使用することができる。疼痛評価システムを実装するためのコンピュータで実行可能なロジックは、ある例のシステムメモリ506、メモリデバイス508および510のうちの1つ以上にある。処理装置504は、システムメモリ506、メモリデバイス508および510に由来する1つ以上のコンピュータで実行可能な命令を実行する。本明細書で使用する場合、「コンピュータ読取可能な媒体」という語は、実行用に命令を処理装置504に提供することに関与している媒体をいう。この媒体は、すべてが共通のプロセッサまたは関連する一組のプロセッサに動作可能に結合された複数の離散的なアセンブリに分散されてもよい。
【0054】
上記の説明では、実施形態を完全に理解できるように詳細を具体的に示してある。しかしながら、これらの実施形態は、こうした具体的な詳細がなくても実施可能であることが理解される。例えば、不要な細部によって実施形態が不明瞭にならないよう、物理的なコンポーネントをブロック図で示すことができる。他の例では、実施形態が不明瞭になるのを避けるために、よく知られている回路、プロセス、アルゴリズム、構造および技術を、不要な細部なしで示すことができる。
【0055】
上述した技術、ブロック、工程および手段については、様々な方法で実装することができる。例えば、これらの技術、ブロック、工程および手段を、ハードウェア、ソフトウェア、またはそれらの組み合わせで実装することができる。ハードウェア実装の場合、処理装置を、1つ以上の特定用途向け集積回路(ASIC)、デジタル信号プロセッサ(DSP)、デジタル信号処理装置(DSPD)、プログラマブルロジックデバイス(PLD)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、プロセッサ、コントローラ、マイクロコントローラ、マイクロプロセッサ、上述した機能を実行するように設計された他の電子ユニットおよび/またはそれらの組み合わせのうちの1つ以上の中に実装することができる。
【0056】
また、複数の実施形態を、フローチャート、流れ図、データ流れ図、構造図またはブロック図として図示されるプロセスとして説明し得る点に注意されたい。フローチャートでは、動作をシーケンシャルなプロセスとして記述することができるが、これらの動作の多くは、並行してまたは同時に実行可能なものである。また、動作の順序を変更することも可能である。プロセスの動作が完了した時点で、そのプロセスは終了するが、図示しない追加の工程が存在する場合もある。1つのプロセスを、メソッド、関数、プロシージャ、サブルーチン、サブプログラムなどに対応させることが可能である。プロセスが関数に対応する場合、その終了は、関数を呼び出し元の関数またはメイン関数に戻すことに対応する。
【0057】
さらに、ハードウェア、ソフトウェア、スクリプト言語、ファームウェア、ミドルウェア、マイクロコード、ハードウェア記述言語および/またはそれらの任意の組み合わせによって、実施形態を実装することができる。ソフトウェア、ファームウェア、ミドルウェア、スクリプト言語および/またはマイクロコードで実装する場合、必要なタスクを実行するためのプログラムコードまたはコードセグメントを、記憶媒体などの機械読取可能な媒体に格納することができる。コードセグメントまたは機械で実行可能な命令は、プロシージャ、関数、サブプログラム、プログラム、ルーチン、サブルーチン、モジュール、ソフトウェアパッケージ、スクリプト、クラス、あるいは、命令、データ構造および/またはプログラムステートメントの任意の組み合わせを表すことができる。コードセグメントは、情報、データ、引数、パラメータおよび/またはメモリコンテンツを受け渡しすることで、他のコードセグメントやハードウェア回路と結合することができる。情報、引数、パラメータ、データなどは、メモリ共有、メッセージパッシング、チケットパッシング、ネットワーク伝送などを含む任意の適切な手段を介して、受け渡し、転送または伝送することができる。
【0058】
ファームウェアおよび/またはソフトウェアの実装では、本明細書に記載の機能を実行するモジュール(例えば、プロシージャ、関数など)で本方法論を実装することができる。本明細書に記載の方法論を実装する際に、命令を明示的に具体化する任意の機械読取可能な媒体を用いることが可能である。例えば、ソフトウェアコードをメモリに格納することができる。メモリについては、プロセッサ内に実装することも、プロセッサの外に実装することも可能である。本明細書で使用する場合、「メモリ」という用語は、長期、短期、揮発性、不揮発性またはその他の任意のタイプの記憶媒体をいい、特定のタイプのメモリまたは複数のメモリ、あるいはメモリが格納されている媒体のタイプに限定されるものではない。
【0059】
さらに、本明細書で開示するように、「記憶媒体」という用語は、データを記憶するための1つ以上のメモリを表すことができ、これには、リードオンリーメモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、磁気RAM、コアメモリ、磁気ディスク記憶媒体、光記憶媒体、フラッシュメモリデバイスおよび/または情報を記憶するための他の機械読取可能な媒体を含む、データを記憶するための1つ以上のメモリを表すことができる。「機械読取可能な媒体」という用語は、ポータブルまたは固定の記憶装置、光学記憶装置、無線チャネルおよび/または、命令および/またはデータを含むまたは保持することができる、格納可能な他の様々な記憶媒体を含むが、これらに限定されない。
【0060】
上記の説明は例である。もちろん、構成要素や方法論の考えられるすべての組み合わせを説明するのは不可能であるが、当業者であれば、さらに多くの組み合わせや順列が可能であることを認識するであろう。したがって、本開示は、添付の特許請求の範囲を含む、本願の範囲内にある、そのようなあらゆる変更、改変よび変形を包含することを意図している。本明細書で使用する場合、「含む」という語は、含むがそれらに限定されるものではないことを意味する。「基づく」という表現は、少なくとも部分的に基づくことを意味する。さらに、本開示または特許請求の範囲に「a」、「an」、「第1の」、「別の」要素またはそれらの等価物が記載されている場合、2つ以上のそのような要素を必要とすることも除外することもなく、1つ以上のそのような要素を含むと解釈されるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】